【自己犠牲】クルセ娘を愛でる会 その2【神々の守護】
[48:ある少女の物語 3(2005/03/03(木) 01:03 ID:UehViPsU)]
ふと視界がぼやけているように見えた。しかし、頬を流れる熱い雫を感じそれが涙と分かった。その瞬間目の前で司祭様は青い輝きに包まれ視界全体が青い輝きに覆われた。光が去ると司祭様がいた場所には小さな青い宝珠がはめられたロザリオが一つ転がっていた。
その場で私は崩れ落ち初めて心の奥底から声を上げて泣き続けた。漸く涙も枯れたのかはたまた泣き疲れたのか、泣くことをやめた私はそれをスカートのポケットにしまい、ゆっくりと孤児院へ泣き腫らした顔で戻り、私にあてがわれた部屋に入ると部屋の数少ない机の上に一通の手紙が置かれていることに気がついた。差出人の名を見て驚き慌てて開封し中に目を通した私の目から枯れたはずの涙が再びあふれ出た。手紙にはこう書かれていた・・・
『貴女がこれを見ている時、私はもうこの世にはいないということでしょう・・・。ご存知の通り、私は今日まで修道院で孤児だった子供達を引き取っては面倒を見てまいりました。
貴女は以前、私に聞かれましたね?何故私が孤児院を開いたのかと・・・。その時は私が過去に犯した大罪を償うためだと答えたと思います。
これから私は貴方に本当のことをお話します。以前、私は一人の聖騎士と共に時間をすごしていました。しかし、彼は魔族との間に勃発した大戦で私を庇い帰らぬ人となってしまいました。彼を失った喪失感と悲しみにくれた私は様々な方法を試して彼を蘇らせようとしました。
でもどんなにがんばっても彼は戻ってきません・・・、ついに私は禁断の闇魔術に手を染めかけました・・・。その時、私を救ったのは大戦前に彼との間に出来た赤ん坊だったあなたの浮かべた無垢な笑顔でした。
その笑顔を見た瞬間、私は自らの愚かさと犯した大罪を知りました。その日以来、私は孤児院を開き、子供達の世話を始めました。少しでも自らの犯した大罪を償うためにも・・・。
今としてはそれも自らの罪への意識を誤魔化す為の行為だったのかもしれません。でも毎日が本当に楽しかった・・・。貴方達の取る行動一つ一つが私の罪を消してくれるようでした。貴方達がいたから私は道を間違えずにすみました。そして、禁断の秘術である『戦乙女降臨』を使う決意を固められました。
私がいなくなっても年長組が中心になって孤児院の皆をまとめて下されば運営できるように教会に対して手配しておきました。
最後になりますが本当に楽しく充実した15年間をありがとうございました。どうか愚かな母を許してください。そしていつまでも・・・いつまでもお元気で・・・。』
最後の部分は字が涙で滲んでしまいよく読めなかった。
その後、数年間司祭様のいない、慣れぬ生活に四苦八苦した。いつも司祭様がしてきたことを独学で行うのだ・・・、当然ながら失敗も多かった。だが徐々に孤児院経営も軌道に乗り一段落が着いたように思えた頃、私はマスタークルセイダー率いる聖堂騎士団に歴代のクルセイダーの中でも類稀な才能を持つ者いう肩書きをもって迎えられた。その後はクルセイダーとして各地の様々な魔物の討伐に赴き、ユミルの書に目を通すことが出来る資格を得た。
転生の日を向かえた私はヴァルキリーの間へと進んだ。そこで私が目にしたのはヴァルキリーの姿をした司祭様の姿だった。彼女は今、転生者として資格を得た者が進むべき道を示す役目を負っているということ。そして私がクルセイダーとして転生する資格を得たことを喜ばしく思うということも・・・。再会の喜びに浸りながらも告げられた事実に驚く私を転生の間へと案内した。そして魔法陣の真ん中に私を立たせ、転生の儀の呪文を詠唱し始めた。その声を聞くや否や私の意識は徐々に薄れていった。最後に見たのは優しい母親としての微笑みを浮かべた生前の司祭様と写真でしか見たことの無い彼女の恋人、即ち私の父の姿と母に抱かれた赤ん坊の私の姿だった。
【3】
気がつくとプロンテラの孤児院のベッドに私は横たわっていた。頬には涙の跡が残り、目は泣き腫らした跡のように真っ赤だった。周囲には司祭様や孤児院に身を置くものが集まり心配そうに私を見つめていた。転生の儀式は成功だった・・・。
唯一、時間軸がずれてしまい、私が剣士の頃、司祭様健在だった頃に降り立ってしまったこと意外は・・・。
司祭様が私に意識が戻った事に気がつき、幼い子達を宥めながら部屋から連れ出した。一人になったことを確認してからベッドから出て、寝間着を脱ぎ、全身を清めた。それからベッドの傍に立てかけてあった剣と畳まれてあったいつの剣士の制服を纏い、部屋の外へと出た。食堂に出ると既に昼食の準備で司祭様や年長組が大忙しだった。そんないつもの光景を見ながら「何か手伝うことは無いですか?」と司祭様に尋ねると「昼食が出来るまで年少組のお世話をお願いしますね。」と言われた。
正直、私は職務柄子供の扱いに慣れていない。ならばこれは司祭様からの私への寝坊に対する罰なのだと割り切った。それからしばらく子供達の相手をしていると昼食の準備ができたとの知らせがきたので彼らを食堂まで連れて行き皆で食事を取った。それから業務の魔物討伐に出かけるために孤児院から出ると空は良く晴れ渡り、既に太陽は中天より少し西寄りにあった。絶好の狩り日和なのだがなぜか脳裏を2週間後に起こる惨事の記憶がよぎった・・・。だがそんな自分に対して今の自分はあの時の自分では無いと自嘲しつつ、本日の狩場であるプロンテラ北部にある迷宮の森へと足を向けた。・・・あの時の誓いを得るために・・・。
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