【自己犠牲】クルセ娘を愛でる会 その2【神々の守護】
[47:ある少女の物語 2(2005/03/03(木) 01:01 ID:UehViPsU)]
【1】
どこまでも続く白い空間。またこの風景かと周囲に目をやろうとしたその矢先にどこからか声が聞こえてきた、どことなく懐かしい感じのする声色とともに・・・。
『あらあら、困りましたわね。また、傷だらけでお帰りですか。あらまぁ、綺麗な肌が傷だらけですわ。こんなに傷だらけでは折角のお肌も、お顔も台無しになってしまいしますわ。』
『確かに貴方は剣士ですがそれ以前に一人の女性なのですよ。このことは頭の片隅にとどめて置いてくださいませ・・・といっても貴方はまた傷だらけになって帰ってくるのでしょうけれど。』
声のした方を見ると一人の女司祭が無表情の剣士風の服装をした少女の傷の手当てをしながら語りかけた。
「何故、そこまで強くなろうとなさるのですか?さしさわりがなければ教えてくださいませんか?」
そう言って声の主は苦笑した。
「・・・・。」
しかし少女は相変わらず無表情のままじっと手当てが施される己の手を見続けるだけで質問に答えようとしない・・・。
あれは私だ。・・・幼い頃の私が手当てを受けている。ではこれは夢なのか・・・。
恐らく夢だろう、あの人はもうこの世にはいない・・・。私や修道院の世話を受けている子供達、そしてプロンテラに住む町の人を庇うために自らの命を代償に神聖魔法でも禁断とされた戦女神の降神を発動させたのだから・・・。
あの日からすでに5年の月日が流れている。
「相変わらず教えてくれないのですか?今日ぐらい教えてくださってもよろしいのではないでしょうか?」
そう苦笑しながらも手当てをする手を止めようともせず彼女は微笑みながら少女の言葉を待った。
大きめ傷には軽く消毒してからヒールの魔法を、かすり傷程度の傷には消毒をといった感じに手際よく手当てをしている。
この人は私が幼い頃から面倒を見てくれた孤児院の院長で教会内でもかなりの地位のある方だった。確か枢機卿の座とそれ以上の実力と功績を持っていたはずだし実に秘めた魔力はプロンテラ、いやルーンミッドガルド王国や隣国のシュワルツバルド共和国でも並ぶものがいないほどのものだといわれていた・・・。
だが教会上層部からも何度となく中枢への召喚命令がでていたにもかかわらず彼女は自ら命令を断り続けていた
その理由は彼女の死後に遺書で分かったが彼女自身が過去に犯した大罪を償うために孤児院を開き、私たちのような孤児の面倒を見続けてきたということだった・・・。
その罪がなんだったのか、彼女が命を落とした原因はなんだったのかを思い出そうと傍観者としての私が思考をめぐらしていると唐突に過去の私が呟いた。
「・・・私が強ければ孤児院の皆を・・・司祭様を守ってあげられるから・・・。」
突然の私の告白に彼女は大きく目を見開き、「あら・・・そういうことでしたの。」といいながら微笑を浮かべた。
そう、あの頃の私が力を追い求めてきたのは剣士としての自分が出来ること、即ち育ててもらったお礼にこの人と孤児院の皆を守りたいというものが心のどこかにあったからだ。
「お気持ちだけでも本当にうれしいのですよ。でも、貴方が焦ってしまう必要はありませんわ。貴方は貴方のペースでゆっくり実力を蓄えるべきなのですから。さて手当ては終わりました、他にまだ痛い所とかありませんか?」
彼女はそう尋ねてきた。
「・・・ありません。」
そうそっけなく私は答えそのまま扉を開けて外に飛び出していった。
そんな私の後ろ姿を見て彼女はよく苦笑を浮かべて見送るのだった。
【2】
あの頃は彼女がいつもそういう風に笑っているのはその性格からだと思っていた。
どんなにつらい時も、苦しい時も笑顔だったし子供達が悪戯をして苦情をいいに来た人にも笑顔で迎えていた。
あの忌わしい日が起こらなければ恐らく私は彼女の笑顔しか知らなかっただろう、その笑顔に隠された真実を知りもしなかっただろう。
あれは私がクルセイダーとしての資格へ挑戦する実力がついた日だった。
その日は珍しくモンスターカードやスロットの着いた防具がたくさん出て私は少し浮かれていた。
狩りを切り上げ町に戻り収集品やいらない装備を清算し、修道院に戻ろうとプロンテラの中央にある噴水そばを通り抜けようとした矢先、噴水の少し上の所に突如威圧的な存在を感じ振り返った瞬間、周囲に大量のモンスターが現れた。後にバフォメット襲撃事件と呼ばれた大惨事の始まりだった。
名のある冒険者達がバフォメットや奴が呼び出した魔物と戦っている姿を横目に私は急いで修道院へと急いだ。
もう少しで修道院というところで目の前に巨大な黒い影が立ちはだかった。
漆黒の武具を身に纏い、夜の闇のように黒い巨大な馬に跨り、無慈悲な刃で人々の命の灯を摘み取る者、深淵の騎士そのものだった。
そしてその背後には見たことも無い魔物達。両手剣を手にしたリビングアーマーや己の信ずる邪神にその身を捧げた司祭、そして両手に錆びついたサーベルを持った重騎士姿の死人。
それらは具現するや否や周囲の人々に襲い掛かってきた。
彼らの怒涛の攻撃を辛うじて受け流しながらも徐々に傷ついていく私の脳裏には死の恐怖がよぎり、ついに恐怖を耐え切れずに目を閉じた。そんな私を見て歓喜の笑みを浮かべ、止めの一撃を咥えようとした深淵の騎士が突然現れた青い光に包まれ消滅した。
一瞬、時が止まった様にその場が静まった。誰しもが戦うことを忘れ、光を放った人物を見つめた。
私はゆっくりと目を開き、まだ自分が生きているという事に気がついた。人の気配を感じはっと背後を振り返ると目の前に美しい羽根飾りをつけたサークレットを戴き、手には見たことも無い魔石がたくさん埋め込まれた槍を持ち、白い戦衣を着ている以外はいつも通りの司祭様が優しい笑顔を称えてそこにいた。
そのままの体勢で一瞬にしてその場にいる全てのモンスターを消滅させて彼女は私に修道院に向かうようにいうと中央の噴水へと向かっていった。
普段の私なら彼女の言うとおり、修道院に向かっただろうがそのときは嫌な予感がしたのでしばらくの躊躇の後、噴水の方に走り出していた。
頭の中では剣士としての勘が盛んに警鐘を鳴らしていたがあえて無視した。
噴水前についた私の目に飛び込んできたのは噴水の前に倒れているたくさんの冒険者の亡骸と愛用の鎌を杖にしても立っていられるのがやっとという状態のバフォメット、そしてその前で彫像のように立っているいつもの司祭様だった。
私の姿を見るやバフォメットは新手と勘違いしたのか空間転移の術を使い何処かへと消え去った。
ほっとしたのも束の間、嫌な予感が消えていないことに気がつき急いで司祭様の許に駆け寄ると司祭様はこちらを見ずに私に対して話しかけてきた。
「まもなく私の魂は大神オーディン様の御下に旅立ちます。そしてこの身は滅びるでしょう・・・。ですが心は常に貴方達の傍にあり、貴方達を護り続けるでしょう。ですから、どうか己の心を折らずに目標を果たして下さい。」
その言葉を聴いた時、私は何を言われたのか最初理解できずにいた。しかし、徐々に青く輝きだした司祭様を見ているうちに止まっていた時間が動き出すように言葉を理解し、そして悟った。私の夢はもう果たせないということを・・・。
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