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【自己犠牲】クルセ娘を愛でる会 その2【神々の守護】

[46:ある少女の物語(2005/03/03(木) 01:00 ID:UehViPsU)]
【プロローグ】
 遥か昔の対戦の折に廃城となったグラストヘイム。その修道院の中にあるカタコンベでは一人の女聖堂騎士が彼女を取り囲んだ異形と剣を交えていた。
まだ顔には少女らしいあどけなさが残るがその目は研ぎ澄まされた刃の如く鋭く、獲物を探す鷹のようにもみえた。遠くで壁の一部が崩れ落ちる音が響いたのと同時に少女めがけて何匹かの異形が痺れを切らせて踊りかかった。次の瞬間、少女の放った凛とした裂帛の声が響き、飛び掛った異形たちのあげた断末魔の叫びが静まり返ったカタコンベに響き渡った。切り裂いた異形たちの返り血で紫色に染まりながらも少女はなおも愛剣を振るい周囲の異形を次々に葬り去って行く。しばらくするとカタコンベに普段の静けさが戻った。先ほどの少女以外は全て原形をとどめていなかった。しかし少女は油断無く臨戦態勢の構えを解くことも無く虚空をにらみ続けていた。その視線の先の空間が歪んだと思った瞬間、空間の歪みの中心より魔界の支配者の一人であるダークロードが現れた。
 ダークロードは周囲を見渡し、そして目の前に立つ少女に目を向け、「汝か、わが眷属を倒せし強者は?」っと問いかけた。
その問いかけに対する少女の答えは剣撃。ギリギリで避け、中に浮かんだダークロードは再び問いかけを発した。
「汝がわが眷属を倒せし強者か?」
「そうよ、私が貴方の眷属を倒したわ。貴方を呼び出すためにね。」
そう答えると少女は軽い助走の後に跳躍し、一瞬でダークロードの肩の高さまで達した。
その人間離れした身体能力に一瞬スキを見せた瞬間を少女は見逃さなかった。
愛剣を王の肩に突き刺し、何か祈りのような歌を発した瞬間、ダークロードと少女は眩いばかりの光に包まれた。

【1】
どこまでも続く白い空間。またこの風景かと周囲に目をやろうとしたその矢先にどこからか声が聞こえてきた、どことなく懐かしい感じのする声色とともに・・・。
『あらあら、困りましたわね。また、傷だらけでお帰りですか。あらまぁ、綺麗な肌が傷だらけですわ。こんなに傷だらけでは折角のお肌も、お顔も台無しになってしまいしますわ。』
『確かに貴方は剣士ですがそれ以前に一人の女性なのですよ。このことは頭の片隅にとどめて置いてくださいませ・・・といっても貴方はまた傷だらけになって帰ってくるのでしょうけれど。』
声のした方を見ると一人の女司祭が無表情の剣士風の服装をした少女の傷の手当てをしながら語りかけた。
「何故、そこまで強くなろうとなさるのですか?さしさわりがなければ教えてくださいませんか?」
そう言って声の主は苦笑した。
「・・・・。」
しかし少女は相変わらず無表情のままじっと手当てが施される己の手を見続けるだけで質問に答えようとしない・・・。
あれは私だ。・・・幼い頃の私が手当てを受けている。ではこれは夢なのか・・・。
恐らく夢だろう、あの人はもうこの世にはいない・・・。私や修道院の世話を受けている子供達、そしてプロンテラに住む町の人を庇うために自らの命を代償に神聖魔法でも禁断とされた戦女神の降神を発動させたのだから・・・。
あの日からすでに5年の月日が流れている。
「相変わらず教えてくれないのですか?今日ぐらい教えてくださってもよろしいのではないでしょうか?」
そう苦笑しながらも手当てをする手を止めようともせず彼女は微笑みながら少女の言葉を待った。
大きめ傷には軽く消毒してからヒールの魔法を、かすり傷程度の傷には消毒をといった感じに手際よく手当てをしている。
この人は私が幼い頃から面倒を見てくれた孤児院の院長で教会内でもかなりの地位のある方だった。確か枢機卿の座とそれ以上の実力と功績を持っていたはずだし実に秘めた魔力はプロンテラ、いやルーンミッドガルド王国や隣国のシュワルツバルド共和国でも並ぶものがいないほどのものだといわれていた・・・。
だが教会上層部からも何度となく中枢への召喚命令がでていたにもかかわらず彼女は自ら命令を断り続けていた
その理由は彼女の死後に遺書で分かったが彼女自身が過去に犯した大罪を償うために孤児院を開き、私たちのような孤児の面倒を見続けてきたということだった・・・。
その罪がなんだったのか、彼女が命を落とした原因はなんだったのかを思い出そうと傍観者としての私が思考をめぐらしていると唐突に過去の私が呟いた。
「・・・私が強ければ孤児院の皆を・・・司祭様を守ってあげられるから・・・。」
 突然の私の告白に彼女は大きく目を見開き、「あら・・・そういうことでしたの。」といいながら微笑を浮かべた。
 そう、あの頃の私が力を追い求めてきたのは剣士としての自分が出来ること、即ち育ててもらったお礼にこの人と孤児院の皆を守りたいというものが心のどこかにあったからだ。
「お気持ちだけでも本当にうれしいのですよ。でも、貴方が焦ってしまう必要はありませんわ。貴方は貴方のペースでゆっくり実力を蓄えるべきなのですから。さて手当ては終わりました、他にまだ痛い所とかありませんか?」
彼女はそう尋ねてきた。
「・・・ありません。」
そうそっけなく私は答えそのまま扉を開けて外に飛び出していった。
そんな私の後ろ姿を見て彼女はよく苦笑を浮かべて見送るのだった。


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