全部 1- 101- 201- 最新50
【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第13巻【燃え】
- 1名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2006/08/11(金) 16:16:20 ID:w7lzpoa6
- このスレは、萌えスレの書き込みから『電波キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』ではない萌えな自作小説の発表の場です。
・ 共通ルール(http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi/ROMoe/1063859424/2n)
・ リレー小説でも、万事OK。
・ 萌えだけでなく燃えも期待してまつ。
・ エロ等の18禁小説は『【18歳未満進入禁止】みんなで作るRagnarok萌えるエロ小説スレ』におながいします。
▼リレールール
--------------------------------------------------------------------------------------------
・ リレー小説の場合、先に書き込んだ人のストーリーが原則優先なので、それに無理なく話を続かせること
・ イベント発生時には次の人がわかりやすいように
・ 命の危機に遭遇しても良いが、主人公を殺すのはダメでつ
・ リレーごとのローカルルールは、第一話を書いた人が決めてください。
(たとえば、行数限定リレーなどですね。)
--------------------------------------------------------------------------------------------
※ 文神ではない読者各位様は、文神様各位が書きやすい環境を作るようにおながいします。
前スレ【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第12巻【燃え】
http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi/ROMoe/1136792603/l50
保管庫様
ttp://f38.aaa.livedoor.jp/~charlot/pukiwiki/pukiwiki.php
- 2前スレ230sage :2006/08/11(金) 18:08:58 ID:ULnFMEbE
- |-`)<期待に応えられるかわかりませんが…
|-`)<初めて一人称風に書いてみたので、読みづらいかもしれませんがご容赦を。
|-`)<騎士嬢が主人公の、殴りプリ燃え話です。
- 3武装神官(1/4)sage :2006/08/11(金) 18:11:25 ID:ULnFMEbE
- 「寒いなぁ…」
目的地に着いてボクの発した第一声がそれだった。
しょうがないじゃない。遺跡の外は暑いんだから。
ここはルーンミッドガッツ王国から遠く離れた地、アユタヤ。
島国であるアユタヤの端に位置する、地元の人は決して近づかない遺跡。
そのままアユタヤ遺跡と呼ばれているここは、多くの不死族が彷徨っている。
「こんなに寒いんだったら防寒着持ってくればよかったよ…」
太陽の光がまったく届かないので、吐く息が白くなるほど寒い。
ミニスカートから伸びている足が微かに震える。
「団長も不親切だよなぁ…。現地の情報くらい教えてくれてもいいのに」
新米騎士であるボクがこんな辺ぴな所に来ている理由。
それは、王立騎士団の団長からの命令だった。
『アユタヤ遺跡で消息を絶った武装神官を探して来い』
普通、武装神官なら所属している教会が探すだろう。
だけど、このアユタヤ遺跡は修練を積んだ武装神官でないとあっという間に命を落とす。
元々戦闘力に乏しい教会の連中には厳しい。だから騎士団に白羽の矢が立った。
しかし、騎士団も人員にそれほど余裕があるわけじゃない。
だから新米であるボク一人に命が下された。ってワケ。
『発見次第護衛をし、帰還せよ』という任務。
―神官なら転移魔法もあるでしょうし、放っておいたら帰ってくるのでは?
というボクの意見は
―どうも連絡がつかないらしい。悠長に待ってる暇は無い。
団長の一言で却下された。くそぅ、あのヒゲめ。
「まぁ、たくさん給金もらえるらしいから頑張るけどねー」
それにしても最近独り言が多いような気がする。無敵のソロ軍団街道まっしぐらかも!
少し切なくなりながら、とぼとぼと遺跡の奥へと歩き出した。
* * *
通路の奥から飛び出してきたのは、全身から腐汁を滴らせる不死の魔物。グール。
剣士時代はてこずっていたけど、騎士になったボクの敵じゃない。
「ハァッ!!」
気合の言葉と共に、愛刀のファイヤカタナを居合いの要領で振りぬく。
薄暗い空間に紅い線が走る。
緑色の腐肉を、炎を帯びた鋼鉄が切り裂いた。
―ゴアァァァ…
グールが断末魔の悲鳴を上げて、溶けるようにして消えた。
目を保護するために着けていたゴーグルを上げて視界を確保したボクの前に
広場のような空間が現れた。
「ここかなぁ…」
何体ものグールを斬り捨てて進むこと半時。
広場の奥に、更なる奥に続く階段を見つけた。
びっしりと生えている苔で滑らないように気をつけて降りる。
「うわぁ…」
長い段差を降りきると、そこは広いドームのような場所だった。天井は大聖堂の屋根よりも高そう。
薄暗くてよく見えないけど、壁には松明が点いていて、奥には祭壇のような物がある。
もしかしたら、昔はここで何かの儀式が行われていたのかもしれない。
「さてさて、目的の人物は〜?っと」
来る前にもらったメモを広げる。
そこには、探すべき人物の特徴が書かれていた。
・目は鳶色
・髪は薄茶色
・黒い神官服
・黒い奇術師帽
・名前は――
「変な名前。アマツの人かな」
アマツ語で書かれている文字の下に、共通言語でフリガナが振ってあるその名前は
口慣れない響きだった。
「さて、どこから探そうかな――あれ?」
メモをしまおうとした時、足元に影がさした。
動かない松明の明かりしかないこの場所で影が動く。つまり
ゆっくりと振り向いた。
そこには鎧を着込んだ、身長が人間3人分はありそうな大きな石像が。
その石像は丸太みたいな右腕を振り上げた。
腕の先には銀色に鈍く輝く大きな刃。
あぁヤバイ。死――
―ゴシャッ!!
死を覚悟した時、石像は脇から飛んできた黒い物に吹っ飛ばされた。
金属が地面と擦れる嫌な音を立てながら、石像は横倒しに滑っていった。
- 4武装神官(2/4)sage :2006/08/11(金) 18:14:30 ID:ULnFMEbE
- 「な?なになになに!?」
へたり込んで、わけがわからず慌てるボクの前に
黒い物――黒衣の男が着地した。
年齢はボクより少し上くらい。
少しやつれているけど、かっこいい部類に入る顔。
鋭い鳶色の瞳。薄茶色の髪。黒い奇術師帽。
黒い神官服に身を包んだ男。
「あなたは――」
思わぬところで名前を呼ばれた彼は、おや?という顔をして
「どうして私の名を?」
と、聞き返してきた。
「あ、あのね。実は任務で…って後ろ!」
彼の後ろに、さっきの石像が迫っていた。
当たったら真っ二つになりそうな刃を振り下ろした。
それを、まるで見えているかのように避ける。
「離れてください。ヒール!ブレッシング!速度増加!」
まだ尻餅をついてへたり込んでいるボクに
あっという間に3つの神聖魔法がかけられた。って無詠唱!?
驚いている間に、石像に一瞬で詰め寄った彼は、手に持っている銀の鎖を一閃させた。
「マグナムブレイク!」
自らの武器を核に、周囲に爆発を起こす剣技。
本来は剣士の技だけど、修練を積んだ武装神官も使うことができる。
轟音と共に炎に包まれた石像の古ぼけた鎧が粉々に砕け散る。
落ちてくる鎧の破片を払いのける彼の口から、詠唱が流れる。
―水の神よ。御手の加護を我が元に。聖なる水の力を刃に。
アマツ語の力強い詠唱。
唱えながら懐から聖水のビンを取り出す。
「アスペルシオ!」
ビンを割り、鋭く唱えると、彼の鎖が白く輝く。
その鎖を、体全体を回転させて叩き込んだ。
叩き込んだ場所がひび割れ、白い光が弾ける。
彼は容赦なく何度も同じ場所を叩く。
―ギイィィィィ!
奇妙な鳴き声が石像から漏れた。
「すごい…」
武僧ではない。聖騎士でもない。
神を味方につけた圧倒的な力。
これが
「武装…神官…」
―英知の神よ。偉大な力の欠片を此処に。聖なる領域を展開せん。
「サンクチュアリ!」
すばやく詠唱を完成させた彼の足元から光が現れ、床を伝って広がる。
その光は、ボクの足元にも広がりボクを癒す。そして、石像には…
―善には癒しを。悪には裁きを。
光が、まるで炎のように揺らめき、石像を襲う。
―ギイァァアァァァ!!
聖なる光に焼かれて苦しむ石像から、動物のうめき声のような物が漏れた。
そして、ゆっくりと石像の体が崩れ、消えていった。
崩れ去った石像の方を向いている彼。
サンクチュアリの光を浴びてたたずむ姿は、一枚の絵のように綺麗で…
はっ!今ボク、初対面の男にときめいてる!?
「大丈夫ですか?」
ぶんぶんと頭を振っているボクに、彼が声をかけてきた。
「あ…だいじょうぶ…ありがと…う?」
彼の様子がおかしい。
よく見たら顔を真っ赤にしてそっぽを向いて…
「あのー?どうしたの?」
首を傾げて聞いてみると
「…前…」
そっぽを向いたまま、ぽつりと言った。
「前?」
自分の体の前を見てみる。
途端に顔が熱くなった。
ボクは今、尻餅をついていて
スカートは剣士の時とは比べ物にならないくらい短くて
彼のほうに向かってあられもなく足を開いていて
しかもサンクチュアリの光で床からライトアップされていて
きわめつけに今日のは少し子供っぽいやつで…
「見るなああぁぁぁぁ!!」
石像の攻撃を見事に避けていたにもかかわらず
ボクの放った拳は彼の頬に綺麗にめり込んだ。
- 5武装神官(3/4)sage :2006/08/11(金) 18:17:13 ID:ULnFMEbE
- 「プロンテラ大聖堂所属・ギルド未加入・武装神官…」
わざと事務的に、トゲを含んだ口調で淡々と言う。
「間違いない?」
「間違いないです。ハイ」
赤く腫れ上がっている頬をさすっている彼の返事。ちなみに姿勢は正座。
「定時連絡が無いので教会の代理で捜索に来ました。護衛しますので帰還を…」
そこまで言って気がついた。
「よく考えたら護衛いらないくらい強いよね?」
むしろ護衛のボクのほうが弱い。
「どうして教会に連絡しないの?端末壊れちゃったなら貸すけど。」
そう言って冒険者に支給される携帯用通信端末を出そうとしたボクを、彼の言葉が止めた。
「いや、壊れてませんよ。」
「ほえ?じゃあなんで?」
規律に厳しい教会のことだから、規律を破れば減給、もしくは降格させられるかもしれないのに。
「あ、もしかして自殺志願者とか?」
まさかと思って軽く言ったが
「そんなところです」
軽く返された。
このときのボクの驚き顔は、人様には見せれないくらいひどかったと思う。
「な!?なんで!?」
「あ、いや。ちょっと違いますね。」
慌てて訂正する彼。
「しばらく帰りたくない。と言ったところでしょうか」
そう言う彼の横顔は、とても寂しそうに見えた。
「ふーん。何かあったの?」
「ありましたねぇ」
またもや軽く言うが、その声には隠しきれない悲哀が混じっている。
「じゃあ、ボクが話を聞いてあげるよ。人に言うと楽になるって言うでしょ?」
「しかし、ここでのんびりしてるとタムランが襲ってきますよ」
タムランというのはさっきの石像の名前らしい。
「その時はほら、また君に守ってもらうよ」
そう言って微笑むと、彼は一瞬目を丸くし、観念したかのように首を振った。
「面白くも無い。馬鹿な男の話ですよ」
そう言うと、ゆっくりと話し始めた。
* * *
俺には妻がいるんです。
―うそぉ!?
…
―あ、あはは、ゴメン。続けて。
武装神官になった頃に出会った人で、その時はまだ商人でした。
私が武装神官だと知ると、相性のいい戦闘鍛冶師になってくれた、とても優しい人です。
その時から、私はどうしようもなく彼女に惹かれていたんでしょう。
相方志願をし、彼女が新しく立ち上げたギルドにも入りました。
そして1ヵ月後、式を挙げました。
それからは毎日が楽しく、この幸せな日がずっと続けばいい。そう思ってました。
―普通のノロケ話じゃない。
でも、その日々は突然終わりました。
ギルドの解散という形で。
―えっ…
集まりの悪くなってきたギルドの管理に疲れた彼女は、自分の手でエンペリウムを砕きました。
冒険にも嫌気がさしていたんでしょう。彼女はしばらく冒険から離れると言いました。
そして、彼女は最後にこう言いました。
『今は、冒険する気は起きない。
けれど、冒険を再開したとき、そのときは、また一緒に冒険してくれますか?』と。
私は『もちろんです』。そう答えて、彼女を見送りました。
それから、私は残っていたギルドメンバーが新しく立ち上げたギルドへの誘いを断り
次に彼女との冒険をする時に備え、自身を鍛えることにしたんです。
―それで、アユタヤ遺跡に?
ええ。
無茶をして、死線を彷徨うこともありました。
だけど、彼女とまた冒険することを考えると耐えることができた。
でも、ある日プロンテラに食料を買いに行ったとき、見てしまったんです。
彼女が、愛する妻が、知らない人たちと揃いのエンブレムをつけて、楽しそうに話をしているのを。
―…それって…
結局、私は彼女にとって疎ましいものだったんです。
そう考えると、何もかもどうでもよくなって、その場を去りました。
気がつくと、ここに戻っていてひたすらにタムランを倒す日々を送っていました。
そして、時々こう思うんです。いつかここで死ぬのも悪くない――と。
* * *
「これで終わりです。面白くなかったでしょう?」
そう言う彼の声は、重く沈んでいた。
「それって…そんなのって…」
「勘違いしないでください。私は彼女を責めているわけじゃないんです。
ただ、彼女を満足させることができなかった自分に疲れただけです。」
自嘲ぎみにつぶやく彼。
「というわけで、私はここに残ります。あなたは帰っていいですよ。」
「でも、残るってことは君は…」
彼は何も言わずに微笑むと、空間転移魔法の詠唱を始める。
―光の神よ。貴方の子らに慈しみを。闇から光への回帰の道を。
「ワープポータル」
静かに詠唱を完成させた彼の前に、光の柱が現れた。
「王立騎士団の本部前に繋がっています。
向こうに着いたら私は無事だと伝えてください。それであなたの任務は完了するでしょう。」
お気をつけて。と手を振る彼。
そんな彼を見ていたボクは
「うん。わかった…」
と、殊勝に頷いた。
フリをして
「えい」
彼の手を引っ張って光の柱に飛び込んだ。
「な!?」
彼の驚きの声が聞こえたけど、もう知らない。
光の濁流に身を任せた。
- 6武装神官(4/4)sage :2006/08/11(金) 18:18:29 ID:ULnFMEbE
- 変な体勢で飛び込んだので、もつれあいながら着地した。
「いたたた…」
着地した時に石畳で打った膝をさする。
すっかり日が落ちているプロンテラ
周りを見渡してみると、そこには見慣れた建物が。
王立騎士団本部。
その時
「どうして…」
という声が体の下から聞こえてきた。
ちょうど四つんばいの姿勢になっているボクの体の下に、彼が大の字で転がっていた。
「どうして…放っておいてくれなかったんですか…」
非難するような目でボクを見てくる。
「どうして…じゃないよ!」
彼の顔を見つめて大声を上げる。人のことでこんなに大声を出すのは久しぶりだ。
「君、最近奥さんと話したことは?」
「ありませんが…」
「だったら愛想つかされたかどうかわかんないじゃない
それに、君だってまだ奥さんのこと諦めたわけじゃないんでしょ!?」
「わかりますよ」
諦めたような表情で、ボクから目をそらす。
「わからない!」
その表情が嫌で、また大声を出す。
「だって…だって…」
そこで1回深呼吸する。
そして
「まだ結婚指輪つけてるじゃない!」
ハッとした顔で自分の左手を見る彼。
そこには、空のように澄んだ青色の指輪が。
「聞いたことあるよ…離婚すればその指輪は消えてしまうって…
だから奥さんは君を嫌ってなんかいない!
それに、指に着けてるってことは、君もまだ奥さんを愛してるんでしょ!?」
そこまで一息で言うと、荒くなった息を整える。
「…だから…死ぬなんて考えちゃだめだよ…」
少し声が震える。
だって、心からの言葉だから。
大声でそんなことを言うボクを驚いた顔で見ていた彼は
何かを考えるかのように目をつむり、そして
「ふっ…ははははは…」
いきなり笑い出した。
「なっ、なに?」
「あぁ、すみません。あなたの言うとおりだなぁと思って、つい…」
そう言うと、指輪が光る左手を顔の前にかざす。
「そうですよね。私は独りよがりな悪い妄想で、死のうなんて考えていた…
まだ彼女と話もしてないのに…」
彼の左手が邪魔で、表情はわからない。
「一度、彼女と話をしてみます。考えるのは、それからでも遅くない。」
そこまで言うと、左手を降ろしてバツが悪そうな顔で言う。
「そろそろ…退いてくれると嬉しいんですが…」
「え?あ…ひゃっ!?ごめんね…」
慌てて彼の上から飛び退く。
「じゃあ、行ってきます。」
身を起こした彼は、自分に速度増加をかけた。
きっと、奥さんの所へ行くんだろう。
「あ、教会に無事っていうことを連絡しないとダメだよ!」
すでに走り出している彼に向かって言う。
振り向かずに手を上げてボクの声に答えた彼は、数歩走った時
ふと立ち止まると、振り返って
「ありがとう」
笑顔で言った。
* * *
「ありがとう…か…」
彼の走り去った方向を見て、つぶやいた。
笑顔…初めて見せてくれたな…
「な〜にニヤニヤしてんだ」
「うひゃあぁぅ!?」
思わず変な声を上げて跳び上がる。
慌てて振り返ると、そこには騎士団の同僚がニヤニヤとした表情で立っていた。
「任務はどうしたんだよお前」
「お、終わったよ。あとは団長に報告するだけ。」
「ふ〜ん…」
相変わらずニヤニヤ。
「何よ」
「いやいや、俺はてっきり任務を放り出してラブロマンスに走ってたのかと…」
「な!?何の話よ!」
するどい…違う。とんちんかんなことを言う同僚に向かって怒鳴る。
「おいおい、そんな大声出したらあのプリースト様に嫌われるぞ〜」
言いながら同僚は懐から数枚の写真を取り出した。
それは、ちょうどワープポータルから出てきたときのボクの写真。
見ようによっては、彼を押し倒しているようにも見える。
角度的にも…その…キスしてる…みたいな…
「いやぁ、見物だったぜぇ。お前がプリーストの上に馬乗りになって…っておぉい!」
ボクがゆっくりと居合いの構えになっていることに気がついた同僚が慌てた声を上げる。
「こ…こんなところで抜刀したら団長に怒られ…」
「バカーーーー!!!」
「ああぁぁぁぁぁ!!」
この後、騒ぎを聞きつけた団長に怒られたのは言うまでも無い。ボクは悪くないのに。
- 7武装神官(あとがき)sage :2006/08/11(金) 18:21:08 ID:ULnFMEbE
- |-`)<某武装でアルケミーな漫画とは関係ありません。響きが似てるだけです。
|-`)<IAが無詠唱で塩が詠唱アリなのはただの趣味ですゴメンナサイ。
|-`)<1、殴りプリのかっこいい所
2、慌てる騎士娘
3、アマツ籠りはキツイ
この3つのことを書きたかっただけの駄文です。あ、あとサンクの光で(強制終了
|-`)<己の未熟さが随所随所に表れていますが
少しでも皆様に燃え萌えしていただければ本望です。
|-`)ノシ<それでは
|
|<コノモノガタリハフィクションデス。ジッサイノデキゴト、ジンブツトハカンケイアリマセン。ホントデスヨ。
- 8名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2006/08/11(金) 18:30:54 ID:w7lzpoa6
- 読んだよヽ(・∀・)ノ
こういうお話、ひさびさだから楽しかったー
サンクいいね、サンク。
- 9名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2006/08/11(金) 18:31:09 ID:w7lzpoa6
- 読んだよヽ(・∀・)ノ
こういうお話、ひさびさだから楽しかったー
サンクいいね、サンク。
- 10名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2006/08/11(金) 20:30:13 ID:ULnFMEbE
- あとがきのアマツ→アユタヤです(素で間違えたorz
サンクいいよサンクヽ(・∀・)ノ
- 11名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2006/08/12(土) 15:21:49 ID:wr4XKjg.
- いいね、おもしろかったよ!
冒頭にあった「ミニスカート」の記述を頭から締め出してしまってて
サンク来るまでウホッ展開だと勝手に勘違いしておりましたw
>>前スレ239
百合モノのかほりがっ!ご飯三杯はいけますごちそうさま
と言いますか続くんでしょうか。続くの?続くの?
ハァハァ(*´Д`*)ハァハァ
- 12名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2006/08/14(月) 15:51:13 ID:YN5fJahE
- むほっ!
面白かったヽ(・∀・)ノ
次の文神様の降臨を期待してます。wktk。
- 13遠き夢、叶わぬ願い4(1/15)sage :2006/08/16(水) 02:13:59 ID:ku6zD42g
- ギィ─
そんな音と共に扉が開かれる。
その音でナナはハッと我に返り、すぐ音のしたほうを見て言う。
「あ、す、すぐに夕ご飯用意…あ…大丈夫…ですか?」
慌てて台所のほうへ向かおうとしたナナの目に飛び込んだのは鮮やかな赤。
その鈍く輝く赤髪に負けないくらいの色量を持った血がミストラルの肩や腕、脚のいたるところから流れ出ている。
「あぁ、見た目程じゃない」
そう言い、自分が使っている部屋へ戻ろうとする。
そうは言ってもあれだけ出血していたらかなり辛いだろう。
「え…でも…止血くらい…」
そう言って引きとめようとする。
「それよりも飯にしてくれ、美味い物を食べれば止まるさ」
その言葉を聞いた途端に思考が止まってしまった。
そしてミストラルがリビングから出て行くのを無言で見守った。
数秒後、その言葉を心の中で反芻してみる。
─美味い物を食べれば
─美味い物を食べれば
─美味い物を食べれば
これは…その…自分の料理が美味しいということなのだろうか…
それとも…不味かったから皮肉を言われたのだろうか…
でも…うん…むぅ…
無駄にナナの頭が混乱し始める。
そしてそんな葛藤をするくらいなら、と袖もないのに腕をまくる仕草をしつつ台所へ入っていった。
ミストラルは自分の部屋で止血を終え、リビングのほうに戻ってきた。
台所を縦横無尽に駆け回るナナ。
忙しそうだったので何度か手伝うことはないかと声をかけてみるが、「んと…座って待っててください」とつきかえされるばかりだった。
「お、お待たせ致しました…」
50分後、食事が完成しそれを食卓に並べるナナ。
「食事が豪華になってないか…?」
「え…えっと…こちらがアンドレの串焼き、これがフェンのホイル焼き、これがマルクのムニエル若芽添え…これが─」
ミストラルの素朴な疑問を華麗に無視し、料理の説明をはじめるナナ。
確かに料理が明らかに豪華になっている。そして食材も何処から入手したのやらコモド以外のモノばかり。この一回の夕食だけで3kZenyはくだらないだろう。
ちなみに一般家庭(4人暮らし)の一回の食事にかけるお金は平均400Zeny程度だ。
「─で…えと…これがデザートのペコ卵シャーベットになります。それではどうぞ、お食べください」
「そうだな…いただきます」
別に疑問に思っても仕方ないことなのでナナに感謝しつつ食べ始めるミストラル。
ミストラルは黙々と食べる。その途中、ふとナナのほうを見やる。
ナナは朝と同様、食べずにミストラルのほうを見ているだけだ。
「もう食べたのか?」
ふとミストラルが聞く。
「あ…はい…すいません、ご一緒できなくて」
「いや、しょうがないさ。腹が減った時に食べるのが一番いい」
「はぃ…」
少し俯き気味になるナナ。ミストラルはそれに気づいてはいたが、指摘することも無粋だと思ったので気づいていない振りをしていた。
ミストラルはそのまま淡々と食事を続け、やがて食べ終えて一言。ごちそうさま、とだけ言って食卓を立つ。
そして部屋へ向かおうとした時、ナナが呼び止める。
「あの…ミストラル様…」
「なんだ?」
ミストラルは立ち止まって振り返る。ナナは続ける。
「えっと…明日…お暇ですか?」
「満月は明後日だろう、今日洞窟は調べた。だから明日は暇だが…」
「あ…それじゃあ…見せたい場所と…お話したいことがあるので…付き合ってもらえます…でしょうか?」
そう聞くナナの声は小さく、必死で紡ぎだしているような印象を受ける。
また、何か決意と後悔を含んだような響きを秘めていた。
「あぁ、分かった。何時ごろだ?」
「あ…あの…そうですよね…ダメなら…ってあの…いいんです…か?」
「暇だと言っただろう」
「ぁ…ぇ…そ、そうですね…えっと…じゃあ…午後3時頃、コモドカプラ職員さんの前で…いいですか?
えと…午前中は仕事があるので…それに…───…」
ナナの声の最後のほうはほとんど何を言っているか分からない程声が小さくなっていた。
「了解だ。それじゃあお休み」
「あ…はい、おやすみなさい。よい夢を…」
だが気にもとめずそう約束し、ミストラルは部屋に入っていく。
ナナは昨日と同じように、ミストラルがリビングを出て行った扉のほうを見て、溜息を一つ。
そして昨日と同じように、そのサングラスから覗かせた赤い瞳を天井にやり、目を瞑る。
- 14遠き夢、叶わぬ願い4(2/15)sage :2006/08/16(水) 02:14:47 ID:ku6zD42g
- ────────────────────────
いつものように朝起きて、予約されている依頼をチェックする。
自分の記憶と依頼内容に確認が無いことを確認し、カートにいっぱいの細長い瓶を詰め込んでいく。
その全てに白い液体が入っている。白スリムポーションと呼ばれる回復剤だ。軽い割に高性能なのだが、相当費用が嵩む高級品だ。
普段、こんなに大量の白スリムを一回に発注する財力のある依頼主はそうはいない。
また、依頼されてもこれだけの量を用意できる運び屋もそうはいない。
カートにそれを満載した上で、更に自分のバック、ベルトに括り付けた収納場所に赤・暗緑・黄・青の液体が入った瓶を入れていく。
ナナは極力荷物を持つために身を守るための鎧・外套・盾は身に付けておらず、唯一の装備は腰のベルトに吊られたレイピアと簡素にアレンジされたアルケミストの制服だけである。
この軽装備、というよりも薄皮一枚羽織っただけの制服でどんな所にもナナは依頼品を届けに行く。
線の細い少女には似つかわしくない大きな荷物を軽々と抱え、重量満載のカートを難なく引き始める。
本日の依頼主はプロンテラ騎士団。今までにも何回か依頼されたことがある。
毎回、演習が行われる度に大量の回復剤・増強剤等が必要となる為、何人かの運び屋が同時に依頼される。
人件費や調達費を考えると運び屋に依頼するのが一番なのだ。
ナナは家を出て、南のカプラ職員のところへ向かう。
「あら、ナナちゃんおはよう。今日もお仕事?偉いよねー」
そう、カプラ職員の一人──リカと言う──が、自分も毎日毎日ここで立って仕事をしていることを棚に上げて声をかけてくる。
「あ…リカさんおはようございます。リカさん達、カプラサービス程大変でもないですよ…」
先に声をかけられ、挨拶を返すナナ。
「そうでもないよ、カプラサービスは。6時間交代だしねー。成績がいいとまた違うんだろうけど」
そうやって言うリカ。6時間交代とだけ言えば確かに楽なほうではあるのだが、カプラサービスは勤務時間よりも質が重いのである。
倉庫システムの管理、転送呪文の使用、カートの保管、冒険者ベース登録等々。しかもそれをかなりのペースで行わなければならない。
新人の中にはデビュー一週間以内に過労で倒れる者もいる始末である。
まぁコモドとなるとそこまで忙しくはないのだろうが、それでも大変であることは確かである。
「それで、今日は何処へ」
「あ…えっと…プロンテラなんですけど…」
「オッケー、それじゃあモロクの子にも伝えとくからとりあえずモロクに飛んでねー」
「はい、分かりました…えっと…おいくらですか?」
「3kzになりまーす。モロクからの分も一括ね」
「えっと…はい、3kzです」
「はいはい、それじゃあ開始しまーす。それでは良い旅を」
お金を受け取るとリカは転送呪文を紡ぐ。それと共に淡く、青い光がナナを包む。
すぐに景色は砂浜から町並みへ、耳に飛び込んでくるのは波の寄せては引く音から人々の喧騒へと変わっていく。
あちこちで客引きをする露天商達、その商品を目当てにいろいろな場所から足を運ぶ冒険者達。
至る所で値段交渉が行われており、その賑やかさは夜になっても変わらない。
そんな光景を横目で見つつ、ナナは目的の場所へ向かっていく。
プロンテラ騎士団ではなく、宿屋。Pvエリアの案内員がいる場所だ。
騎士団の演習は街の住民に迷惑をかけないよう、Pvエリアにて行われる。
Pvエリアとは、各街の地下に、その街とほぼ全く同じ作りの街があり、そこを指す。
ミッドガルド王国の法律で唯一お互いに思う存分争うことを許されている場所だ。その中にいる限り攻撃をされても文句は言えない。
ただ、実際の戦闘とは違い、基本的には大事に至らない。
昔々の神々の加護のおかげと言われているが実の所詳しいことは分かっていない。
攻撃を喰らえばそれ相応の痛みは感じるが、決して死なないのだ。
そして受けた傷もそこを出れば不思議と消えていく。まぁ戦闘のけだるさ、体力の消耗、そんな精神的なものは消えないわけだが。
ナナは静かに宿屋の扉を開き、宿屋の中に入る。
「おうーっす、ナナちゃん、お久しぶり!」
ナナを見るやいなや、一人の男が陽気な声をかけてくる。
Pvエリア案内員の一人、ブルーノだ。ちなみにPv案内員も(株)カプラサービスの職員である。
「ぁ…お久しぶりですブルーノさん」
「元気してるかー?運び屋は大変だろうからなー、はっはっは」
微妙に発言の前後が繋がっていないブルーノだが、ナナは気にせず答える。
「はい、おかげさまで…」
「よしよし、元気そうでなによりだ。それじゃあ送ってあげよう」
「お願いします」
そう言うとすぐにブルーノは後ろにあった壁に鍵のようなものを差込み、回す。
回した瞬間、低い音を壁があげて、横にスライドする。
奥は階段になっていて地下に続いている。照明はあるのだが薄暗く、まるでその先には監獄でもあるのではないかと思う程の無骨さである。ある意味その照明が雰囲気をかもしだしている。
降りていくと段々明るさが増してくる。そして階段が終わる頃には地下とは思えない程の明るさが満ちている。
階段を抜け、出てみるとそこにはもう一つのプロンテラ。先ほどの喧騒は無く、露天商も一人もいない。
聞こえる音は遠くであがる金属音だけだ。演習は既に始まっている。ナナはその音が聞こえる方─噴水前へと歩いて行った。
- 15遠き夢、叶わぬ願い4(3/15)sage :2006/08/16(水) 02:15:36 ID:ku6zD42g
- 噴水の周りには戦いの旋律が流れていた。
至る所で剣と剣を弾く音が響き、それにあわせるように魔法の轟音が響き渡る。
痛い痛い、と呻く声、それを必死に励まし癒しを与える声。戦況にあわせ指示を出す笛の音に太鼓の音。
そこはさながら本当の戦場である。死がすぐそこに有り、常に気を抜くことができない空間。
これがプロンテラ騎士団の演習である。この演習こそが、昔から続くプロンテラ騎士団の練度が高い理由である。
そんな戦場の中をナナは特に気にせず歩いていく。
流れ矢や吹き荒れる広域殲滅魔法、敵と勘違いして斬りかかって来る者。
一つでも貰ったらその薄い布一枚着ているだけの細い体は吹き飛ぶか、あるいは致命傷を得るだろう。いずれにせよ一撃でその身は崩れ落ちるだろう。
しかしそれらをナナは全てひらりひらりと、花びらが空中を舞うように、いや花びらが風に吹かれるように軽快な動きでかわす。
難なく噴水に到着したナナはその周りにいるはずの人物を探す。
燃えるような赤い髪、夜の闇よりも深く黒い瞳、そしてナナより頭二つ程背の高い騎士─今回の依頼主、プロンテラ騎士団団長ミストラルである。
「あの…ご注文の品をお届けに参りました」
「あぁ、いくらだ?」
「ぁ…えっと…ひーふーみー…手数料込みまして…4,150,000Zになります…」
「分かった」
そう言ってミストラルは懐から財布を取り出し、紙幣を取り出していく。
「確認してみてくれ」
「ぁ…はい。………合ってます。えっと…領収書は」
「前と同じ、『プロンテラ騎士団演習用』で」
「は、はい…」
ナナは腰のベルトに下げた収納からペンを取り出すと、さらさらと丸っこい文字で書いていく。
「どうぞ…えっと、持てる…ってことはないですよね…」
「流石にな…悪いが前と同じ様に居てくれるか?」
「ぁ…はい」
基本的に運び屋が持てる限りの品物を同業以外で保持できる者は居ない。
その為、運び屋は依頼主とその後数時間行動を共にすることが多い。
「あー、ナナちゃーん、来てたんだー」
そこに、腰まで届くのではないかという長い長い銀髪と、僅かに緑青を帯びた瞳を持つ女プリースト、ルカが現れる。
ルカはナナより少しだけ背が高い。そんなルカがナナの後ろからナナの肩にもたれかかるようにして覗き込んできた。
「ぁ…ルカさん…ご無沙汰してます」
「ん、お久しぶり。今日はどれくらい持ってきたのー?」
ルカはそう言うと、ナナの後ろの噴水の横に止めてあったカートを覗き込む。
「わぉ、相変わらず凄い量だわー…んしょっ…動かない…おーもーいー」
「ぁ…それは…車輪止めが…」
「はぅあっ!そ、そんなものが。。。だ、騙されたぁ…」
「ぁ…えと…ごめんなさい…」
別に誰も騙していないのだがそんなことを口走るルカと、別に何も悪くないのだが謝るナナ。
そんな二人を横目で見つつミストラルは、僅かに、誰にも気づかれない程度の微笑みを浮かべる。
「ルカ、ナナ、漫才は程ほどにな。そろそろ演習の終了時間だ」
そしてその笑みを隠すように言葉を発する。
「ぁ…は、はい…」
「む、漫才ってなにさー、漫才ってー」
ナナは少し肩をすぼめ俯き、対照的にルカは不満そうな表情を浮かべてミストラルに詰め寄る。
「本当の事を言ったまでだ。気にするな」
「ミストの目が節穴なのー、それは。ねー、ナナちゃん?」
「ぁ…ぇ…は、はい」
ナナは話を聞いていたのかいないのか判断のつかない呆けた声をあげる。
そんなナナの様子を気にした風でもなく言葉を続けるルカ。
「ほらー、ナナちゃんだってそう言ってるじゃんか。と、言うことで謝罪と賠償を…って聞けーー!!」
「聞いてる聞いてる、他の運び屋も来始めたからあんまり面倒かけるなよ」
ミストラルはそう言いつつ今到着したばかりの運び屋と言葉を交わし、代金を支払う。
「む、そ、そうだね」
もっともな事を指摘され、シュンとするルカ。
そんな二人をナナは遠いところでも見るような目で見つめていた。
窓から差し込む朝日が眩しい。また記憶を思い返しているうちに朝になってしまったようだ。
今日は午前中は運び屋の仕事、午後は…あの人との待ち合わせだ。
言わなければいけない。そう、言わなければ…いけない。
どう思われるだろう。何て言われるだろう。どんな顔されるだろう。
あの人なら…冷静に返してくるだろう。それがあの人だから。
それを言えば…終われるから。
言えば…終わらせてくれるから。
明日の夜…満月の夜……──────
ナナは考えることをやめて、いつものようにご飯と運搬物資の準備をはじめていく。
朝日の作る影の中、カチャカチャと食器や瓶の音が鳴り響いていた。
- 16遠き夢、叶わぬ願い4(4/15)sage :2006/08/16(水) 02:18:21 ID:ku6zD42g
- いつものようにカプラ職員の人に挨拶をし、いつものように指定の場所へ向かう。
いつものように依頼人と会い、いつものように清算する。
その時何か会話しただろうか。覚えていない。
何か答えていたような気もする。でも思い出せない。
時間は刻々と過ぎていき、約束した時間まであと1時間も無い。
どうしてあんな約束をしたのだろう。後悔の念が頭をよぎる。
けどいずれは言わなければいけないことであり、また言わなければまた多くの人を殺めてしまうから。
けれど
どうして私はこんな風になったのだろう。
どうして私は抗えないのだろう。
どうして私はこうやって生き永らえていなければならないのだろう。
どうして私なのだろう。
どうして─……
何度も何度も繰り返し、それでいて答えの出ない質問を自分に投げかける。
当然答えは出ないし、答えてくれる者も居ない。
答えを出すより簡単な解決法があるから、今これからソレを実行しようとしている。
自分がもっと自由ならば…あるいは、別の方法があっただろう。
例えば…海の底でただ何もせずに海面から降りてくる光に思いを馳せ、誰もいない孤独の中一生を終える。
そう思って、自嘲する。何だ、今の自分がまさにソレじゃないか、と。
運び屋をして、知り合った人や依頼人は光だ。自分がここに存在していると確認できる程度の極僅かな明かり。
そして、ここは海だ。誰も傍にいない海の底。ただ潮流に翻弄されて抵抗もできない石ころみたいな自分。
ぴったりじゃないか。
本当はそんな自分は嫌だ。でもそう生きるしかない。
今までずっと繋がれていた枷。これからも繋がれていく枷。
断ち切れるのだろうか?あの人は断ち切ってくれるのだろうか?
あの人でも無理だったら、もうこの海の底で何も考えずにいよう。それがいい。
海の底もずっと居れば居心地がよくなるだろう。
一人もずっとならば何も感じないだろう。
今までもそうだったんだから。これからもそうなっていくだけだろう。
物思いにふけっているうちに40分も過ぎた。待ち合わせ場所に行かなくては。
ナナは立ち上がり、歩をカプラ職員のいるほうへ向ける。
そして視線もカプラ職員の居るほうへ向ける…と、目に飛び込んできた影はミストラルのもの。
ナナは大慌てで駆け出した。
持ってきていた本もほとんど読み終わり、手持ち無沙汰なので少し早めにカプラ職員前に来てしまった。
まぁたかが30分くらいなので別にどうということは無いが。
それにしても一体何の用だろうか。洞窟に関する新たな何か噂を知ったのか。いや、それなら家で話すのが一番手っ取り早い。
ではなんだろうか、特に思い当たる節は無い。
何かあるとしたら運び屋で自分が依頼した時のことだろうか。それも全く予想がつかない。
ミストラルが待ち合わせの理由を考えていると遠くから土煙が上がって、コモドの真ん中にある丘からこちらに近づいてくる。
その移動速度は丘から駆け下りているせいか相当速く、まるでサベージの突進を思わせるような猪突猛進ぶりである。
土煙の中心に居るのは…青い髪、鈍く光を反射するサングラス、アルケミストギルドの認可制服。
どう見てもナナです、本当にありがとうございました。
ナナはそのままこちらに向かってくる。重いはずのカートを引き、下り坂をものともせずに。
「大丈夫なのかアレは…」
思わず出る独り言。まぁその光景を見た者は誰でもそう思うか、呟くことだろう。
とりあえずその様子をのんびりと見守るミストラル。そうこうしているうちにナナの声が聞こえてくる。
「み、ミストラル、様!少、々…お待ち…を…は、はぅぅぅぅぅぅ」
息が切れ切れなのか言葉を途切れ途切れに発するナナ。そして既に結構近いのだがスピードが衰える気配が無い。
「大丈夫…か?」
一応聞いてみる。その間にも見る見るうちに距離が狭まっていく。もう20メートルもないだろうか。
「は、はいぃぃ。だ、大丈夫、です…はぅっ!」
そう返した瞬間にナナの身体は大きく前につんのめる。そして、そのまま地面にダイブ…するかと思いきや絶妙なバランス感覚で逆の足を前にたたきつける。
ズドォンッ!
地鳴りかとも疑う程の轟音が響く。
華奢な身体の何処から響いたかと思う程の音と同時に、ナナはまた走り出した、ように見えたが違う。
勢いを殺しきれずに飛んでいた。前方、つまりミストラルに向かって。
何故そんなことをしたのかは全く分からない、だがその瞬間ミストラルの目が捉えた物は本当に目を疑いたくなるような動作だった。
地面につけた足でまた次の足を出そうと思ったのかは分からない。その脚力が不幸だったのかもしれない。
とにかく地面に着いた右足を伸ばしたようだった。当然身体が前のめりになったまま。
言うなれば飛びでんぐり返しをするような感じで飛んだ。だがでんぐり返しとは違い、完璧に地面に頭から突っ込もうとしている。地面は砂浜だが、頭からあのスピードで突っ込めば悲惨な事態になるだろう。
はぁ、と溜息を一つつきつつミストラルは反射的に身体を動かしていた。
腰に吊り下げてあった槍・盾のついていたベルトの留め金を指ではじき、落とす。
それと同時に前方へ跳躍。それだけでは距離が足りない。そう判断し、左肩を右に落とし込むように着地。
前方に一回転し、ナナが飛んでくる方へ向きなおす。
コ゛ッ
…正面衝突。それもお互い頭で。
バサッ、とミストラルの外した装備が地面へと落ちる音が寂しく辺りに響き渡った。
- 17遠き夢、叶わぬ願い4(5/15)sage :2006/08/16(水) 02:18:54 ID:ku6zD42g
- 「えーと…お二人とも、大丈夫ですか?」
その様子を見ていたカプラ職員の人がおそるおそる声をかける。
「だ、大丈夫…だ」
頭を片手で抑えつつ答えるミストラル。しかしその声も見た目も大丈夫には見えない。
一方ナナのほうは砂浜に突っ伏したまま動かない。
「あ、はぁ…そちらの…ナナさんは大丈夫でしょうかねぇ…」
「どうだろ…な。まぁ大丈夫だろうが介抱はしておくから自分の仕事に戻ってくれ。あー…いてぇ…」
「は、はぁ」
そう言われ、職員は倉庫利用の順番待ち兼野次馬の応対をする。
「ぐぅ…いてて…また面倒なことを…こいつが起きたら文句を言わなきゃな…相変わらずな石頭め…」
ブツクサ言いつつミストラルはナナの身体を仰向けにする。
そしてペチペチと頬をたたきつつ声をかける。
「おい…起きろ。ここで寝てると迷惑だぞ…」
別にこんなところで寝ていようと誰も文句は言わない。ただ少し変な目で見られるだけであって。
しかしそんな呼びかけをしてもナナは目を覚ましそうにない。
「全く…面倒くさいな…まぁ待ち合わせ時間までまだ25分か…寝かしとくか」
そんな独り言をぼやき、目を覚まさないナナを見やる。
深海のような青い髪、まだ少女のような顔立ち。いつも着けていたサングラスはぶつかった時に落ちたのだろうか、数メートル離れた砂浜に埋もれている。
その身体は華奢で、いつも物資満載のカートを引いているとは思えない。
ギルド正規のアルケミストの制服とは違い、全体的に露出を抑えたデザイン。民間の仕立て屋の物だろう。簡素だが機能性に富んているように思える。
しかしアーマーのような類はつけていない。極力物資を持とうとしているのだろうが、これでは重い攻撃を喰らったらひとたまりもないだろう。
腰にはレイピアを下げている。冒険者でレイピアを下げている者はかなり珍しいだろう。
何故ならば、天津のほうのただ切ることを目的とした刀や、他の力で叩き切ることを目的とした剣とは違うからだ。
レイピアとは多少薙ぐことは出来るが、基本的には突き刺す為に作り出された剣だ。
その為、実戦に使えるほどの技量を持つものはほぼいない。
一部の貴族の坊ちゃま達は見た目が良い、と愛用している者も多いが…アレはまぁ、置いておこう。
ナナが倒れている後ろには重そうなカートが止まっている。そういえば先ほどのスピードからどうやって止まったのかが不思議でしょうがない。
カートには色とりどりの花が散りばめられている。しかしミストラルにはそのほとんどの名前が分からなかった。
「しっかし…何度見ても、ほんとよくこんなもん引くよな…」
そうぼやくミストラル。だが、そう言うのももっともである。何せカートは大人二人が入れる程の容積があり、重量にいたっては何も乗せていなくともペコペコ2匹分くらいはある。
ナナに限らず商人系の者達はよくもまぁ、こんな物をほぼ常に引いてるものだ、と感じるのも無理はない。
「ん…ぅ…」
そう思っていると、ナナが少し声をあげる。どうやら目を覚ましたようだ。
「ぅ…はぅ…ミストラル…様?」
「あぁ、大丈夫か?」
「ぁぅ…ダメ…みたいです…ぅぅ…」
そう言って寝たまま、頭を抑える。
そして眩しそうにその眼をゆっくりと開ける。
瞼の合間から覗いたその瞳は燃える様に赤く、血の様に紅い。
その二つのアカの合間には黒い、違和感を覚えざるをえないスジといおうか、ラインが走っている。
「…」
ミストラルにはその眼が何を示すかは知っていた。そしてそれが彼女の常にサングラスをつけている理由だ。
幸い、カプラ職員周辺の者たちはこの眼に気づいていない。気づいていたらまた面倒くさいことになったろう。
「ミストラル様…ぁ…えっと、今何時でしょう…」
唐突に思い出したのか、ガバッと起きて体を起こしつつ、慌てた声で聞いてくる。
「3時…5分だな」
「はぅ」
自分が30分程気を失ってたことが恥ずかしいのか、ナナは俯いてしまった。
「まぁそれはいいんだが…頭は大丈夫か?」
「ぇ…ぅーんと…はい…きっと」
「怪しい答えだな」
ミストラルは言いながら立ち上がり、少し離れたところまで歩く。
そして砂浜に半ば埋まっていたサングラスを拾い上げ、ナナに向かって投げる。
「ほら、つけろ。話はそれからだ」
「え?あ…ぅ……はぃ…」
それを受け取ってようやく自分がサングラスをつけていないことを理解したのか、すぐにそれをつける。
その顔は何処か諦めたような、それでいて何処か晴れ晴れとしているような気がした。
少しの沈黙。そしてナナが切り出す。
「ぇ…っと…見て、欲しい物があるんです」
「眼、か?」
「あの…それもそうなんです…が、もう一つ…ついてきてください」
そう言って、先ほど駆け下りてきた丘のほうへ向かって歩き出すナナ。ミストラルは無言でそれに続く。
- 18遠き夢、叶わぬ願い4(6/15)sage :2006/08/16(水) 02:21:42 ID:ku6zD42g
- 「はぁ…着きました…」
ナナが丘の頂上につくと、そう言う。
そんなに小高い丘ではないのだが、登ろうとするとぐるぐるとその外周を回っていかねばならないので、結構登るのには時間がかかる。
既に時間は5時近くになっており、日ももう沈もうとしている。
「間に…あいました…」
そう沈みかける日を見ながらこぼす。
「ここからの夕日…綺麗なんです…人もほとんど来ないし…」
言いつつも、沈み行く日から目を逸らさない。よっぽどこの情景を見ていたいのだろう。
「…」
確かに、この夕日は綺麗だ。
西に沈んでいく日。日の右側には今調べている洞窟カルがある山。その海側は断崖絶壁で、日の光を受け黒光りしている。
左側には海。蒼い海が日の紅と混ざり、美しい調和を持つ紫となっている。空には藍から橙へのグラデーションで飾りつけがなされている。
時が経つごとに黒光りする崖・調和を保つ海への光具合が変わり、一瞬前とは全く違った情景がそこに生まれる。
さながらそここそが神話に語られる楽園・アールヴヘイムではないかとも思う程の景観である。
ミストラルはここまで美しい場所を今まで長い間生きてきた中で見たことがなかった。
その聖域に言葉は無意味で、発せないことこそが本当にその美しさを表している。
「…凄いですよね…ここ…好きなんです…」
「あぁ…」
「これ…見せたかったんです…その…なんで…かは分からないんですけど…」
「ありがとう」
素直に、そう答える。本当に感動のできる光景を見せてもらったのだ、それ以外に言葉はない。
「見てると…忘れられるんです…いつも…色々考えて…いつも…」
「…」
「…ほんとは…眼…ここで言おうと思ってたんです…けど…
待ち合わせの前…やっぱり色々考えて…それで、また、言おうか迷って─
何度も何度も、考えました。
でも結局…悩んだまま…時間になって…
それで…結局、考えてたことも意味なくなって…
馬鹿みたい、ですよね」
自嘲気味に語るナナ。話ながらそのサングラスを外し、放り投げる。
「でも…言わなくて…ほっとしてるんです…
自分で…言わなくて…」
赤い夕日の光の中、その紅い眼は何処を見ているのだろう。この美しい情景か、果てしなく広がる海か、星が煌き始めている黄昏の空か。──もしくは…そこに佇む自分自身か。
「言って…それを言って何を望む?お前の利になることはないだろう」
「…」
「俺がそれに気づいたところで何も出来はしない。治してやる知識もないし、制裁する権利もない」
「…でき…ます。…殺してくれる…だけで…いいんです…」
「それはできない注文だな。それだと俺が殺人に問われる。そうなったら騎士団の連中はどうなる?権利を奪われ、路頭に迷う者が何人出ると思う?」
そう言いつつ、ミストラルは少しナナに同情していた。
自分がこの立場だったらどうだろうか。
そんな風に。自分がそんな立場にあったかもしれない。そしてそれは決して低い確率ではなかっただろう。
- 19遠き夢、叶わぬ願い4(7/15)sage :2006/08/16(水) 02:22:22 ID:ku6zD42g
- 「──できます…貴方はできるんです!」
そんなナナの悲痛な叫びにすぐ現実に引き戻される。今問題なのは自分ではない、目の前にいるこの少女だ。
「私は…私は…B.O.Tです。眼を見たなら…分かってる…でしょう…」
B.O.T─Bee of Tradingの略で、昔はその意味のまま、寝る間を惜しんで狩りをし、金稼ぎに勤しむ働き蜂のような者達を馬鹿にした言い回しだった。
年月を経て古代の魔術が研究され、人が胎児の時に特殊な魔術を施すことで特定の言霊に反応し、その命令通りに動く人によく似たモノを作れるようになった。
そうして出来たモノは古代の書物に記されるROB0Tというものと、前述のことをもじり、B.O.T.と呼ばれるようになっていった。
その技術は倫理を無視したものとされ、すぐに禁術とされた。
だが簡単な処置で自分の言いなりとなるモノができるとあって、利益に目の眩んだ商人・企業がその術を知るものを買収し、開発させていった。
初期の頃のそのモノは人とは明らかに違う部分─例えば、瞳─があるので見分けがついた。
しかし今ではそんな痕跡があるモノも珍しいほうだ。どのように消して行っているかは分からないが、見分けが難しくなってきている。
「それに…私は…今、貴方が調べている事件…行方不明事件の犯人…なんです…お願い…します…」
切れ切れに、切なる願い、悲しい願いを言葉にするナナ。
いつもほのかな笑顔を浮かべ、丁寧に、そして朗らかにしているナナとは明らかに違う。
「お前がB.O.T.なのは確かに分かった。だが、処罰をするかどうか決めるのは俺じゃない、無能な上の奴等だ。
それに、お前がこの事件の犯人かどうかは分からない。ここでお前を殺してまだ事件が発生したら意味がない」
ミストラルの言っていることは事実である。ミストラルではB.O.T.だからと裁けないのである。
また、この世界の司法はほとんどそれを裁こうとしない。例え一般人が見て明らかにB.O.T.だという証拠があっても、だ。
裁いたとしてもすぐに飽きて全体の数%くらいしか排除されない。
警察権を民間に任せてはいるものの、司法が動かなければ刑は執行されない。
特例はあるが、基本的にB.O.T.関係の処理はそう取り決められている。そんなもどかしい世界なのだ。
「お前が犯人であるかどうかは明日…あの洞窟に行けば分かる。違うか?」
そう言い、西に位置する洞窟を指差す。
「そう…です。でも…」
「お前の気持ちは俺には分からない。そして法は今この場でその願いを聞くことを許さない」
「…はぃ…」
「分かったなら俺は戻らせてもらう」
そう言ってミストラルは元来た道を戻っていく。
紅い瞳でその後姿を見送り、視線を海と絶壁の境目に戻す。
既に日は落ち、辺りには月と星の光が降り注いでいる。
ナナは溜息を一つ。そしてその場に座り込む。
ずっと溜めていた想い。
明日、やっと叶う。
空を見上げる。満天の星空。
そして自分の下げた剣を見て呟く。
「お願い…します」
ミストラルを信じていないわけじゃない。けれど不安になる。
先ほど、待ち合わせの前に…明日殺されようと決めたばかりなのに、早く殺してほしいと取り乱してしまった時と一緒だ。
胸が締め付けられる。苦しい。
何故こんなに苦しいのだろう。ようやく望んでいたことが叶うと言うのに。
そんなの、分かっている。願いが、叶わないからだ。
私が死んでも、あの人が負けても。
結局、叶うはずはないのだ。
だって、自分は所詮B.O.T.
普通に生きて
普通に遊んで
普通に友達と笑いあって
普通に家族とずっと居る
そんなこと───
ナナはその場に寝転がり、星空を眺めつつ
「やっぱり…泣けないです…よね…」
涙…B.O.T.には──狩ることだけに生まれ、心を持つ必要の無いものにはいらない、除外された機能。
心が悲鳴をあげる。持たなくてよかったはずの心が。
頭はそれでも考えて。
心をずっと、締め付けて。
気持ちがいっぱい溢れてて。
それでも涙は溢れない。
こんな鎖、なければよかった。
こんな…こんな───
少し丘を下ると、先ほどナナが投げたサングラスが転がっている。
全く壊れてないところを見ると、少し頑丈なつくりなのだろう。
それを拾い上げ、後でナナに渡そうと懐にしまいこむ。
空を見上げると丸々と太った小望月。今日もコモドでは花火が打ち上げられ、静寂とはほど遠い。
しかしミストラルの心はそんな喧騒とは離れ、静かだった。しかし思考は速く、色々な事を考える。
考える。ナナのこと。
自分のことをB.O.T.と言った少女。他人に自分がB.O.T.と告白する覚悟はどれ程の物だろう。
自分のことを負い目に感じ、自分を殺してくれと願った少女。その苦しみはどれ程の物だろう。
自分の目をサングラスで隠し、運び屋として暮らしてきた少女。そのサングラス一枚通して普通の人はどう見えただろう。
その華奢な体に、どれだけの想いが詰っていたのだろう──
考える。自分のこと。
自分があの少女に勝てるだろうか。
自分にあの少女を殺すことが──救うことができるのだろうか。
自分ももしかしたら、ああなっていたのかもしれない。
いや、なれなかっただろう。自分はそこまで強くはないのだから──
考える。
考えているうちにナナの家の前についた。
まだナナは帰っていなく、明かりはついていない。
おそらく帰ってこないのだろう、そんな気がした。
自分の使わせてもらっている部屋に戻り、携帯用の食料詰め合わせを取り出す。
適当に選び、食べる。
別に美味しくなかった。
分かってはいたが今日の朝までの食事がそれを際立たせる。
結局、ナナは帰ってこなかった。
- 20遠き夢、叶わぬ願い4(8/15)sage :2006/08/16(水) 02:23:05 ID:ku6zD42g
- ────────────────────────
洞窟の中は薄暗く、明かりといえば点在する篝火だけだ。
その篝火を頼りに奥へ、奥へとミストラルは進んでいく。
奥へ行けば行くほどに壁や天井、地面に埋まっている鉱石の割合が大きくなるのか、篝火に照らされ幻想的な雰囲気をかもしだす。
しかし普段は幻想的に思えるソレも今は嫌というほど不気味に思える。
静かなのだ。
普段は洞窟の中にいるモンスター達の鳴き声やらが反響し、それはそれで不気味な空間なのだが、今は自分の立てる足音と、薪がときたまはじけるだけである。
カツ、カツ、と洞窟内に響き渡る足音。
篝火により壁に大きく映し出される影。
時に紫に、時に蒼く光る鉱石。
普段気にしない程の音・光の存在感の大きさを感じる。
モンスターがいないだけでこれほど違うのか。そう心の何処かで感心する。
そんな暗がりの中を進んでいった。
やがてカプラWが水の中に突っ込んだ場所に到達した。
つまりはこの洞窟の最奥──だった場所にだ。
その場所は海水が入り込んできていてそれ以上は進めなかったはずだ。少なくとも世間に知られているうちでは。
しかし今ではどうだろう?そこにたっぷりと在ったはずの海水は何処かへ消え、奥へと続いている。
「なるほど…満月、か」
そう呟くミストラル。
満月の日、その日は空に浮かぶ月からの引力が最大になり、大潮となる。
その現象をどのようにかは分からないが利用し、満月の日の夜に水が引いていく仕掛けとなっているのだろう。
ミストラルは警戒しながら、水が引いて新しく現れた空間に踏み入れていく。
少し歩いていくとやけに障害物が多くなってくる。
「…たく…面倒くさいな…」
そこに並ぶ障害物──それは石。石化した冒険者達の亡骸であった。
結構な数の灰褐色のモノ。
それらの顔、あるものは何も気づかずに石化していったような間の抜けた表情。
あるものは自信に満ちた表情。
あるものは迫り来る死の恐怖に怯える苦悶の表情。
あるものは目を瞑り、死を受け入れたかのような表情。
多種多様な表情を持つソレ。
酷いモノには藻が生えていて、表情が伺えなくなっている。
その藻の群生具合、石の劣化状態から、そのほとんどが長い間放置されていたことが見て取れる。
そんなに長い間、人を石にしてしまえるだけの魔力を持つモンスターは今現在存在しない。
モンスターは、だ。
一つだけ可能にする程の力を封じられた物がある。
それがミステルティンのオリジナル。
元はただ一本の枝だったに過ぎないソレが、神を殺した凶器として神の力をその身に宿した。
その魔力は絶大で、レプリカとは比べ物にならない程の石化能力を持つ。
一突きされただけで勝敗が決することだろう。
目の前にある石像が事実を物語っている。余りにも強い魔力と、その存在。
ミストラルはその石像一つ一つを見ていきながら、歩を進める。
やがて、少し開けた場所に出る。その瞬間何かが飛んできた。
ヒュッ
確実に顔を狙ってきたその切っ先を右に倒れこむようにしてかわす。そして跳躍して距離をとる。
襲ってきた相手もすぐに飛び、元いたと思われる位置まで戻る。
「…こんばんは、満月が…綺麗な…夜ですね」
「ああ、いい夜だ」
紅い眼が暗い洞窟の中に浮かぶ。
昨日丘の上で別れた少女がそこにいる。
いつもと同じ口調で。
いつもと同じ装いで。
ただ一つ。サングラスをかけていないことを除いて。
- 21遠き夢、叶わぬ願い4(9/15)sage :2006/08/16(水) 02:23:44 ID:ku6zD42g
- そこは先ほどまでの狭い通路とは異なり、結構な広さがあった。障害物─"元"冒険者達が無いことも広く見える原因だろう。
天井は遠い昔に崩れたのか、ゴツゴツの岩肌の間にはまぁるい満月が姿を見せている。
その下に立つ少女。瞳は赤く、それと対照的に肌は月光に照らされ青白い。
左手にバックラーを着けている。その表面は盾自体を使うことがほとんどなかったからなのだろう、殆ど傷がない。
右手には体と不釣合いな黒塗りの長剣が握られている。
刀身からは新たなる刀身が無数に枝分かれしており、剣というよりは"樹"と呼ぶほうが相応しいだろう。
まだ幼さの残る顔立ち、それでいてその顔は、幼さとは無縁と思える静かな微笑を浮かべている。
「ようこそ…ミストラル様…ここが…私の生まれた場所です」
ナナは微笑を浮かべたまま、淡々と語りだす。
「ここで…何人もの人が犠牲になって、何匹ものB.O.T.が生まれました。
私は…7匹目、だったんです。造られたのが。
だから今は…ナナ…そう名乗ってます」
ヒュッ
シャッ
話ながらも、ナナは剣を突き出してくる。
「随分初期のほうに造られたみたいで…色んな所に行かされました。
色んなことをさせられて…色々なモンスターを倒しました。
大体データがとれてくると毎日毎日同じモンスターを狩って、5日に一度くらい、稼いだお金を全て主人に渡してました。
しばらくして性能のいいB.O.T.も造れるようになってきたらしくて、私は集めた財産のお守としてここに来ました。
でもある日、体が動かなくなったんです。多分禁術の処罰委員会が重い腰をあげたんでしょうね。
そこで…死ぬと思ったんです。意識が薄れて…それでも怖くなくて…」
ヒュォッ
キンッ
ナナの突きは正確に避け辛い位置を狙ってくる。
それを盾ではじき、あるいはギリギリでかわして距離をとる。
「でも…もうすぐ死ぬんだな、って分かった時に声が聞こえてきて…
死んではいけない、って…
コレを持っていなさい、って…
それで…私、何人もこの剣で…殺しました」
「そうか」
「何度も…死にたかったけど…刃を自分に向けることもできなくて…
…助けて…ください」
「あぁ…」
ナナの押し殺すようにした悲痛な訴え。
ミストラルは一つ、頷くと跳躍。距離を十分にとる。
盾と槍をその場に置き、目を瞑り両手を前にかざす。
─祖の血肉、生まれし時は既に無く。祖の瞳、禍々しかれど透き通る。
ミストラルが唱える間にナナは距離をつめ、"樹"を逆手に持ち、刺す体制に入る。
─護りし物は、祖の心。護りし力を今ここに─
ヒュッ
ガキィンッ!!
ナナが突き出してきた瞬間、間一髪でミストラルはその"樹"を弾く。
ミストラルの手に現れた、カッツヴァルゲルによって。
黒く、太い刀身。何か古代の文字のようなものが刻まれている鍔。
その大剣に弾かれた勢いに逆らわず、ナナは元居た場所に戻る。
ナナはこちらを見据え、話しかけてくる。
「なる…ほど…貴様…ちの…もの…」
たどたどしく喋るナナ。いや、正確にはミスティルティンがナナに"喋らせている"のだろう。
その顔は、自分の意思で自分を動かせないことへの苦痛で歪んでいる。
「まったく…やっぱり本物か、面倒だな…」
と、誰に言うでもなし、愚痴をこぼすミストラル。
「キサ…ま…殺す……血…もら…ウ」
はぁ──と一つ、ミストラルは溜息をつく。
「ま…しょうがない、やるか…」
けだるそうなミストラルのあげたその声と同時に両者は跳躍した。
- 22遠き夢、叶わぬ願い4(10/15)sage :2006/08/16(水) 02:24:16 ID:ku6zD42g
- あの人との初めて出会ったのはお仕事中。
あの人はまだ一介の騎士団員で、私はやっと名前を覚えてもらえる程度に至ったかけだしの運び屋だった。
何でだろう、不思議と目が行った。不思議と気になった。雰囲気、そう、あの人そのものが気になった。
けれと、声をかけても迷惑なだけだろうから別に何もしなかった。ただちょっと目で追ったくらい。
自分より頭二つ程背が高く…自分が低いだけか、少し切れ長な印象を与える目。
その瞳は遠めから見ても分かるくらい黒い。まさに漆黒という言葉が似合う。
赤い髪、紅い紅い髪。
他の誰よりも紅いその髪。地毛なのだろうか?鮮血を思わせるその紅さを見れば一目でその人だと分かる。
何処かで見た漆黒の。何処かで見た血赤の。
気のせいだろう。きっとデジャヴだ。
だって私は今まで、何も見てはこなかったから。
ここにいる他の人とは違うから…。
気持ちが俯く。心が軋む。
一回深みにはまりかけるとそのままずるずると沈んでいく。
なんでだろう。なんでなんだろう。
なんで「…いてるか?」
「え、は、は、はいっ」
誰かに呼ばれたことに気づいて慌てて顔を上げる。
「…っ!」
危うく間抜けた声をあげるところだった。だってまさか、目の前にあの人がいるなんて…。
「あーと…いいか?」
「は、はい」
「配給分のスリム白ポーションなんだが、俺の分はあそこで死んでるのにやってくれ」
「えと…あそこにいるアコライトの人…でいいんですか?」
「あぁ、よろしく頼む」
「は、はい…えと、貴方と彼女のお名前は…?」
「俺がミストラル、でアレはルカ」
「えと…分かりました、確認しましたので…」
頼まれたことは配給分─10分後に始まる休憩の時一人一人に渡されるものだ─の渡す量を変えるらしい。
それよりもこの人…ミストラルって言うんだ、覚えた。
それで…ミストラルさんの分の物を…あそこの、うわほんと死んでる…ルカさんにまわす、と。
「お、ミストってばにくいねーwwそうならそうと言ってくれりゃあいいのにw応援するよ?w」
「何を応援するかは知らないが…勝手な思い込みはごめんだぞ」
「はっはっは、何だこの、照れやがってwww」
「それより貴方もいらないんだろう、言っておいたらどうだ」
「そうだなー、じゃあお嬢ちゃん、そーゆーことでwあ、俺はちなみにヴェルニクス、ヴェルって呼んでくれて構わないからw」
「あ、は、はい…」
何処から出てきたのかこのヴェルニクスとかいう男。ローグギルド公認の服を着ているからトンネルドライブでもしていたのだろうか?
妙に馴れ馴れしいというか軽い口調のこのヴェルニクス。実は現プロンテラ騎士団団長。
今日ここに来た時は副団長と会計の人によって迎えられたので団長がどんな人か分からなかったがまさかこんな人とは…。
世の中って奇妙。でも楽しいなぁ、と思う。
他人って予測し辛くて、だからこそその反応がおもしろくて、人と人のつながりを感じれる。
純粋に、いいなぁと思う。
純粋に、うらやましいと思う。
純粋に、悲しいと思う。自分のこと。
- 23遠き夢、叶わぬ願い4(11/15)sage :2006/08/16(水) 02:24:43 ID:ku6zD42g
- キィンッ
ガキャンッ!
ガガッ ガァンッ!
金属と金属が弾きあう音。剣が壁を削る音。二つが洞窟の奥に木霊する。
二つの影は互いに場所を入れ替え。交じり合い離れる。
それが何回か、二桁の回数しようかしまいか、というところで両者は対峙し、動かなくなる。
最初とは逆─ナナは入り口近くに、ミストラルは奥のほうに移動していた。
ミストラルは正直なところ、結構辛い状況にあった。
ナナの持つ"樹"は無数の"枝"が生えている。その"枝"は全て刀身と同じ向きに折れ曲がっている。
その為、下手に剣で"樹"を受けようものなら立ち並ぶ"枝"のどれか一本は腕や体のどこかに刺さることだろう。
そうなったら決着だ。体が瞬く間にミストレスの魔力を注ぎ込まれ、石になって動けなくなるだろう。
石化が解けるのは何十年後か、あるいは何百年後か分かりはしない。
仕方がないので先ほどから切り払っているがラチがあかない。
こちらの攻撃はひらりひらりとかわされ、盾に防がれ、まともには全く当たらない。
懐に飛び込もうにも無数の"枝"がそれを邪魔してくる。きわめて微妙な状況だ。
ナナもナナでらちがあかないと判断したのか、距離をとったことで様子を見ているようだ。
しばらくそんな状態が続く。だが動くに動けない。動いたとしても先ほどの状況が繰り返されるだけだから。
月の光は二人を照らし、また広場を青く染めている。
動く物は無く、かすかな音も聞こえない。耳を澄ませば相手の呼吸音でも聞き取れるのではないかと思う程である。
そんな膠着状態が15分も続いただろうか?ナナが少し動きを見せる。
右手は剣を構えたまま…盾を持っている左手を下ろしていく。ゆっくり、ゆっくりと。
注視しなければ気づかない程の速度。
その手が、腰の辺りに差し掛かった瞬間、ミストラルは飛んでいた。
次の瞬間、ミストラルのいた位置に激しい炎が立ち上る。
「く…火炎瓶か…」
そう呻くミストラル。
飛んでいなければ今頃火あぶりだったろう。
こちら目掛けて下手から放られた炎を宿した瓶。それを恐ろしいまでの直感でかわしたミストラル。
─かわしはした…だが、ろくに着地を考えずとんだので肩を少し打ちつけた。支障はそれほどないのだが少し痛む。
ナナは無表情で…いや、表情を消した表情で、こちらを見ていた。
一体何を考えてるだろう。その表情からは読み取れない。
だが彼女は言った。殺してくれ、と。
実際に殺せるかは分からない。何故ならナナは強いから。
その華奢な身で幾多もの場所へと物資を届けに行き、死線をくぐっているのだ。弱いはずがない。
しかしやらなければならない。それがナナとの約束だから。
ナナは再び左手を腰のベルトの辺りに持っていく。腰のベルトから下がっている瓶を手に取る為に。
神経を研ぎ澄ませる。今度のは奇襲ではない。とすると物量で押してくるだろう。むしろ何故一発目に投げたのが一つだけだったのかが不思議なくらいだ。
距離は十メートル程度、先ほどと然程変わらない。つまりはいつでも火炎瓶等が飛んでくる可能性がある、ということ。
じっとナナを見つめる。しかしナナは先ほどとは違い、指と指の間に何本もの瓶をはさんでベルトのホルダーから取り出していく。
先ほど炎柱をあげたのと同じ瓶、変な物が入っている瓶が二種類、更には液体─透明ではあるが何か凄く嫌な予感のする─の入った瓶、計4種類を左手の指と指の間にはさんでいる。
種類は4種類なのだが…少なくとも10本は持っている、ように見える。どうやったら指と指の間にあれだけの数を挟めるやら…乙女の神秘ってやつか。
そんな余計なことを考えて苦笑しそうになる。こんな状況でも笑える自分がいるんだな、とも少し思った。
まぁ…とりあえずは目前の状況をなんとかしないとな、と。
ナナは体勢を変えずにこちらを見据えている。相変わらず"樹"はこちらに向けたまま。
再び静寂に還る広間。たまにカチャ、と瓶同士が当たる音が響き渡る。
1分
2分─
3分──
オオオ オオオオ オオオオオオオ オオオ
ゥウォオオオ オオオオ オオ オ オオオオオオオオオオオオ オオ
オオオオオ オオオ オオオオ オオ オオオ
「っ!?」
─全身の血液という血液が凝固したかのような錯覚。背筋を昇る寒気。
異様なる音に全身が凍る。何だこの声は。やめてくれ、やめろ、やめろ。
「!?」
瞬間、導火線に火のついた瓶が目の前に迫っていた。
- 24遠き夢、叶わぬ願い4(12/15)sage :2006/08/16(水) 02:25:21 ID:ku6zD42g
- ガシャアンッ
─けたたましい瓶の割れる音とともにあの人に向かって投げた火炎瓶が炎をあげる。
あの人は避けなかった。避けれなかったのだろうか?それともあえて避けなかったのだろうか。
避けれなかったのだとしたら…直撃ではただじゃすまないだろう。避けれず、防いだのだとしたら運がいい。
避けなかったとしたら…流石としか言い様がない。あの人の周りにはジオグラファーが15匹程ひしめいている。
普通は1匹までしか出せない。法律的にもそう定められているし、何より一匹出すので瓶にこめてプラントを育てる分のマナがいっぱいいっぱいなのだ。
それ以上は瓶から出したとしてもすぐに枯れてしまう。
そんな物を10匹以上。もしかしたらもっと出せるのかもしれない。一体この剣の魔力はどれ程の物なのだろう。
そしてジオグラファーだけでは飽き足らず、手に持った塩酸の瓶と火炎瓶を投げる準備までしていた。
私の"カラダ"はあの人が避けると思っていたらしく、意外にも避けなかったあの人の様子を見るために煙が晴れるのを待っている。
やがて音もやみはじめ、その火力は勢いを弱める。あの人なら大丈夫、きっと…大丈夫。
─ようやく炎の勢いが弱まってくる。それと同じように耳障りだった音も衰える。
どうやらあの声のような音の原因は風だったようだ。それがここの入り口にある人だったモノの間を抜ける時に凄まじい音─あたかもそれは恨みを込めた呪詛のような─がしたのだ。
そしてそれが炎をすごい勢いで立ち上らせた一つの要因でもあるのだろう。
しかしそれにしても危なかった。その音に惑わされている隙に火炎瓶を投げられ、それをすんでのところで剣で受け止めた。
太い刀身が幸いし、少しアルコールはかかったが火は抑えられた。自分でも運がいいと思った。
視界が開けてきて、周りが凄い数のジオグラファーに囲まれていることに気づいた。火炎瓶を避けたらどうなっていたことやら。
そしてあと数秒もたたないうちに次の攻撃が来るだろう。それを避けるとジオグラファーの海。おそらくはそこに追撃も来ることだろう。さてどうしたもんやら。
はぁ、全く…面倒くさい。
視界が晴れていく。天井にぽっかりと開いた穴へと今まで吹き荒れていた風が煙を運んでいく。
ナナは油断なく手に持った塩酸瓶を投げる態勢のままミストラルの様子を窺っている。
そして、ようやくお互いがお互いを確認できる程度まで煙が消えた。
刹那、ナナは塩酸瓶をミストラルに向けて投げる。すぐさまベルトのホルダーから取り投げる。投げる。その数9本。
ミストラルはそれを一瞬だけ確認し、すぐに動作に移る。
両手に持つ大剣を大きく振りかぶり、振る。その刀身の"面"の部分が当たるように。
第一波の三つがその"面"に叩き割られ、そのまま下方へ薙ぎ払われる。
第二波、その三つはそれぞれジオグラファーの輪の外、ミストラルから見て右、左、前の位置にピンポイントで落ちる。
ミストラルがジオグラファーを飛び越えた時への予防策だろう。その三つを横目で見送り、ミストラルは次に備える。
第三波はまたミストラル目掛けて飛んでいく。その一つ目をミストラルは体を捻ってかわし、二つ目を剣の面で防ぐ。それが限界だった。
三つ目はミストラルの右肩をかすめて割れ、中に入った塩酸が辺りにぶちまけられる。
「がっ…」
高濃度の塩酸が鎧の隙間からしみこみ、ミストラルの肌を焼く。その痛みは半端ではないだろう。
だが不幸中の幸いか、かすめて少しかかっただけですんでいる。直撃コースが二つ目の瓶だけだったのも幸運だったろう。
ミストラルは何とか痛みに耐えつつその体が倒れないよう足を踏ん張る。
その時点でナナはカートからの弾の装填をすませ、再び投げる態勢を作っている。
ミストラルに逃げる暇を与えず、再び瓶を投げるナナ。数は変わらず9本。しかし今度は火炎瓶も混ざっている。
第一波、塩酸二本に火炎瓶が一本。それを先ほどと同じ要領でなぎ払う。ある程度スピードを出して潰せばそれほどの火力は起きないからだ。
第二波、先ほどと同じく塩酸瓶が3本、周囲に放たれる。
第三波、火炎瓶が3本。ミストラルは一本目を口の辺りで切り払い、引火させないうちに処理。剣の勢いを殺さず、地面に突き立てる。
次に迫る瓶を避け、剣をつきたてたことで空いた左手で三本目を無理やり掴む。そしてそれを勢いそのままで体を一回転させて投げ返す。
「っ!?」
ナナはまさか投げ返されるとは思っていなかったようで、咄嗟に体を投げ出してなんとかかわしている。
ミストラルはその隙を見逃さず、剣を引き抜き棒高飛びの要領でジオグラファーの密集地帯に剣をつき、乗り越えようと、した。
その瞬間、何故だろう。第6感とでも言うのだろうか、恐ろしい程の不安に駆られた。
そして、瞬間、世界がスローになる。
ジオグラファーの一匹一匹がニタっと、おぞましく笑った、ような気がした。
ジオグラファーの一匹が口にナニカ、ナニカ。何だ、アレはナンダ。
認識する前にジオグラファーが火を噴く。いや、噴いたのではなく、燃え上がった。
何匹ものジオグラファーが、その身から炎を吹き上げ、それぞれの炎が繋がりあい、立ち上ってくる。
何だ、何が、起こった。既に地面は紅く染め上がり、炎が迫る。何故、こっちに来るんだ。
その瞬間、一瞬だけ天井が、空が見えた。そして、気づいた。
ここは───
「ぐああああああああ!!!」
耳をつんざくような悲鳴があがる。
ジオグラファーから立ち上った火は瞬く間にあの人を包む。
悪魔…そう思う。"自分"で仕掛けた─正確には自分とは言えないのだが─とはいえ。
"自分"はジオグラファーを設置した際、その口の中に火炎瓶を仕込んでおいた。
その火炎瓶はこちらで細工しておいた場所に火をつけると一瞬で燃え上がる。
そして一度炎が燃え上がるとその炎は天井に空いた穴から逃げていく気流に乗り、上へ上へと登る。
当然ジオグラファーを飛び越そうとしていた者に炎は襲い掛かることになる。
そしてジオグラファーの細工を気づかれない為のブラフ…それが二セット18本投げたうちの第二波の3本ずつ。
そこに投げておけば飛び越えることが状況脱出の策だ、と思わせることができる。
あの人なら…疑ってくれると思ってたけど…。ダメだったみたい。
あの人を見やると、炎に包まれてはいるが、鎧はそれほど燃える素材じゃないのか、それとも祝福を受けているのか、あまり燃え広がっていない。炎が消えるのも時間の問題だろう。
後、やることはあの人にこの"樹"を刺すだけ。それで終わる。そしたら…あの人は石になって…ずっと…ずっとココに居る。
それも…いいのかもしれない。だって、こうなった以上、もう、希望なんて…。
そう、それで、いいんだ。
あの人は、すぐそこで苦しんでる。そうだよ、助けて、あげなきゃ。
楽に…してあげなきゃ。
一歩、一歩、あの人に近づいていく"自分"
あと三歩、これで…いいんだ。
「もう…楽になれますよ」
あの人に言い聞かせるように。
あと二歩。もう…決めたもの。
「して…あげますから」
自分に言い聞かせるように。
あと一歩。
「ごめん…なさ…」
これが、本音。
もうあの人の鎧についた火はほとんど消えている。だが火傷が結構酷い。この状態動くとしたらかなりの激痛を伴うだろう。
"自分"は"樹"を僅かな動作で構え、あの人の胸に狙いをつける。
そして…極小さな、極静かな動作で、突き刺した。
- 25遠き夢、叶わぬ願い4(13/15)sage :2006/08/16(水) 02:25:51 ID:ku6zD42g
- イタイ。皮膚が焼け爛れている。痛い。
朦朧とする意識の中、すぐ傍までナナが寄ってくるのが分かる。
これで…終わりか…そんなことが頭をかすめる。
ナナが動作を始める。それが凄くゆっくりと見える。まぁ見えると言っても霞んで、だが。
結構、短かったな。退屈ではなかったと思うが。
ヴェル…貴方のとこへあとちょっとで行くよ。と言っても二人とも地獄か、はは。
エリーは今何処で何をしてるだろうか…ユリにしごかれてるんかね。
ユリはいつまであのままでいる気だろうなぁ、大変な生活だ。
ルカ…は大分丸くはなったが…戻らないといいんだがな。
そしてナナ…すまない。
"樹"が近づいてくる。いよいよか。
死ぬ時はゆっくり、ってのは本当なんだな。
切っ先がゆっくり、ゆっくりと胸へと近づいてくる。実際には何秒程度だったのだろうか。
ガッ
…ガッ?なんだ?おかしい。いや考えるな。
ヒュッ
驚いた。今の自分にコレが片手で振れるとは。
「…え?」
ナナの驚愕の声。それを皮切りに急激に世界が加速し始める。
痛む左手で振り切った剣はナナの右肩の辺りを鈍い刃応えと共に通過する。
支えを失ったナナの右腕は"樹"と共に傾き、地面に落ちる。
落ちた腕ごと"樹"を蹴り、なるべく遠くに追いやった、念のため。
意識が朦朧とする。が戦える。
体中に焼けた金属を当てられているようだ。が耐えられる。
ナナは少し後ろに飛び、逃げようとする。だが、遅い。そして驚愕から来る躊躇なのかは分からないが。飛ぶ距離が短い。捉えられる。
これくらいの火傷、と体に言い聞かせ。無理やり体を起こし、更に無理やり跳躍。体が軋んだ。
返す刀で一薙ぎ。今度はナナの右足が飛ぶ。そして着地…は無様に転げた。もんの凄く痛い。
そして着地の時気づいたが、右手が動いていない。先ほどの塩酸を貰ったせいか、はたまた火炎瓶での火傷か。まぁ色々絡み合っているんだろう。
起き上がってナナを見ると…切られた部分からの出血は無い。
足を切られた為、這って"樹"の元へ進もうとしている。
そこまでして──
「もうやめろ」
つい、口に出てしまう。余りにも痛々しいのだ。
「無理…です。両手両足落とさない限りは…」
その声に応え、呻くように、搾り出すように更に痛々しいことを言うナナ。
「お願い…です。動けなくなれば…安心してお話が…できます」
そう…はにかんだ笑顔で言う…何故そんなことが笑顔で言える。
それしか…ないのか。
それだけなのか…。
考える。朦朧とする頭をフル回転させ、他に助かる方法は無いのか、と。
…無い。
助かる方法なんてナナがB.O.T.である以上無いのだ。ナナの意思とは関係無くナナの体はは動こうとする。
何をためらう。既に右手足を落としている。それなのに何故ためらう。
同情…か、それとも同一化か。何にせよ昔の自分と比べたらずいぶんと丸くなっている…。
これしかないんだ。そしてこれをしないとナナにうらまれるだろう。
「すまない」
そう言って。剣を静かにかざして、振り下ろす。
鈍い音と共にナナは動けなくなる。
「ありがとう…ございます」
うつ伏せになったままそう言うナナ。
自分が目を伏せることはできない。自分でやったことなのだ。
だから、せめてもの謝罪─いや偽善か、のつもりでナナを仰向けにして、しゃがみこんだ状態で抱えてやる。
せめて苦しくないように。
せめて辛くないように。
どちらかと言えば、自分がそうならないように。そうする。
ナナは笑っていた。
「ありがとう…ございます…すみません」
そう、謝る。
「何で…謝るんだ。お前は何も悪くない」
「…いえ…ご迷惑…おかけしちゃいました…それに…殺そうとしました」
自分の意思ではないのに、殺そうとした、と言う。
「お前がそうしたかったわけじゃないだろう…」
「…やさしい…ですね…やっぱり」
そう言うナナの笑顔は少しだけ曇る。
「私…やっぱり血出ないんですね。暑くても汗も出なかったし…嬉しくても…悲しくても涙も出なかったから…そうかな、って思ってたんですけど」
苦笑い。その、泣きそうな笑顔にどんな言葉をかけていいか分からず、ただ頷いた。
「そんな顔…しないでください…大丈夫です…」
どんな顔…していたのだろう。それでも言葉はでてこない。
「えと…あの…あの…」
会話が途切れないよう、何か消えてしまうものを繋ぎとめておきたい、と思っているかのように、ナナはなんとか言葉を捜す。
しかしそれに答えてやる言葉は自分に見つからない。歯がゆい。
「あ…あの…ミストラル…さま」
「ん…」
呼びかけにもこのザマだ。申し訳なくなってくる。
「今…思っただけなんですけど、間違ってたらごめんなさい…。えと…以前…そうですよね、騎士団の…」
言いたいことは何となく分かった。だから
「あぁ…そうだ」
「え…あう…やっぱり…納得…です。だから…うん…ありがとうございます」
何かを納得したようで、満面の笑みに戻る。
- 26遠き夢、叶わぬ願い4(14/15)sage :2006/08/16(水) 02:26:24 ID:ku6zD42g
- これは大分昔の話。
今から5年?いや10年近く前かもしれない、細かくは覚えていないが、俺はナナと会っている。まさか覚えているとは思わなかったが。
場所はグラストヘイム騎士団。俺はいつもどおりそこに居て退屈な時間を過ごしていた。
襲い掛かってくる者がいればそれを排除し、かなりグダグダだった。
その折、一人の少女がこちらに向かってかけて来ていた。
何体ものレイドリックやカリツバーグの連中を引き連れ、爆走している。
その少女は華麗に攻撃を避け、盾で受け流し、まるで空中を舞う花びらのようだった。
そして暇なのでその少女の動きを目で追っていた。
少女の動きは正直な話そこいらのアサシンと同等、もしくはそれ以上に避け、そこいらの騎士と同等、もしくはそれ以上に受け流しが上手い。
だが攻撃はしない。あくまで右に左に上に下に避け、必要があれば盾や身に着けた防具で受け流す。腰から下げているレイピアにはまったく触れていない。
やはり見立て通りなのだろう。
まぁ自分には関係の無いことだ。
だがやることも特に無いし、襲ってくる者も無かったのでとりあえず見ていることにした。
避ける。流す。避ける。避ける。走る。避ける。走る。流す。流す。流す。避ける。そして走る。
6~7匹を相手によくあそこまで立ち回れるものだ。自分がまともに戦っても攻撃は当たるのだろうか、怪しいところだ。
いつまで持つだろう。少し興味がわいた。
少女は追いついてきたレイドリックを振り向きざまに踏みつけ、横に跳ぶ。違うレイドリックが少女めがけて大剣を振れば少女はその剣と自分のスピードを合わせ、剣を蹴って更に跳ぶ。
跳んだ先にカリッツバーグがサーベルを構え、薙ぐ。が少女は左手に持ったバックラーをサーベルの刃とほぼ平行に持っていき、軌道をずらしてかわす。その際に発する甲高い金属音はまるでカリツバーグやレイドリックの苛立ちの叫びのようでもあった。
そして剣戟をそらした少女は着地と同時にまた跳ぶ。
跳んだ少女の先…あぁ、詰みだ。
その先には漆黒の刃、漆黒の兜、漆黒の鎧。深淵の騎士がその大剣を既に構えていた。先ほどまで姿が見えなかったことを考えると何処かでやられて戻ってきたのだろう。
深淵の騎士は間合いが十分になったのを確認し、大剣を振る。
風切り音が離れているこの位置でも聞こえるという馬鹿力。じゃない、速度。
少女は先ほどの要領で盾を構える。が、先ほどとは威力が段違いだ。受け流せる程やわな一撃じゃない。
衝突。
今までにないくらいの高い音が響き、その衝撃を殺しきれなかった少女は空中に弾かれる。
そこにまた一撃、大槍を大降りでつきこむ黒き騎士。そこでブランディッシュ使うとは、えげつないな…。
吹き飛ばされる少女の体。それがぐんぐん大きくなって、って、ん?大きく?
コ゛ッ
「〜〜〜〜〜っっ」
痛すぎて声がでない、喉の奥から空気だけが出て行く。
手に持っていたカッツヴァルゲルが床にカラン、と落ちた音が聞こえた。
「あ〜…いて…何だこの石頭は」
頭突きを貰った。それも相当いい角度・速度で。
しかし痛すぎだ。とりあえず角度等もひどかったがこの石頭もひどい。
で、事故とはいえぶつかってきた当の本人はまだぐったりしている。まぁ当たり前と言えば当たり前だが…。
肩まで切り揃えられた深青色の髪。その顔はサングラスをかけているため分かりづらいが、大分整っているほうだ。
それにしてもこんな暗いところでサングラスとは。しかもそれで先ほどの動きだ。かなり修練を積んでいるのだろう。
だがまだ実践の勘が足りないような気がした。確かにまともに避けることや受け流すことはかなりの域だとは思うのだが…。
汚く避ける…というと違うか、転がってギリギリの攻撃を避けることや多少の犠牲を払って大きな犠牲を防ぐことや、相手の攻撃を利用して違う相手を潰す等。そんなものが足りない気がした。
と、そんなことを考えてるうちに目覚ますかもしれんな…ここは危ないから入り口まで運んでやるか。
まぁそんな義理は無いのだがなんとなく暇というのと、こんなところで命を落とされたら少女の戦闘技術が勿体無いな、と。
いつかは勝負してみたいもんだ。そうふと思った。
「ん…ぅ…」
とと、そんなことを思ってるうちに目覚ましそうだな…とっとと入り口に置いとくか。
そう思い、少女を抱きかかえる。決してやましい理由は無い。
最短ルートで入り口のほうへ向かい、安全性の高い場所へ寝かせておいた。
まぁそれだけのことだ。会ったとは言っても、一方的な面識だと思っていた。
おそらくは移動中、もしくは移動前に既に目を覚ましていたのだろう。
そんな些細なことを覚えていたのだろうか。そしてそんな些細なことで満面の笑み、か…女は分からん。
「そういえば…なんで…大丈夫だったんですか」
ふいにそう聞かれ、疑問が浮かんでくる。確かに何故あの時石化せず、無事だったのか。
「何で…かな」
そう言って刺された辺り。鎧の内側に手をのばす…
カチャ、そんな音と共に出てきた物は──フレームがひん曲がり、レンズもぼろぼろに割れたサングラス───
「ぇ…それ…」
「なるほど…"ナナ"が助けてくれたんだな」
「え…あ…ぅ…嘘…だぁ…あは…あはは…こんなこと…えへへ…そっか…」
ナナはくすぐったそうに、それでいてとても照れくさそうに笑い、そのサングラスを眩しそうに見つめる。
今までにないくらい嬉しそうに微笑むナナ
「あはは…はは……ふぅ…」
少し笑った後、ため息をひとつ。そしてまた微笑んで。
「ミストラルさま…そろそろ…限界みたいです。この体も…あの"樹"がなかったら…維持できなかったみたいです。短かったですけど…お話できて…嬉しかったです」
その微笑は先ほどそれとは違い、明らかな決意の色が見え隠れしている。
最早黙って見守るしかできなかった。
「ほんとは…ほんと…は…もっと……貴方や…ルカ……ん……達…と…………
……で…………ありが……ぅ……まし…た…
…んと………き……した…」
そう言ってナナは目を閉じた。
- 27遠き夢、叶わぬ願い4(15/15)sage :2006/08/16(水) 02:26:50 ID:ku6zD42g
- 「ミスト〜、今回の報告書マダー?」
「うっさい、こっちは怪我人なんだ。少しくらい待て」
いつものようなルカ、こっちは全身火傷だと言うのに。
「待てって言ってもう5日経ってる…だれるのもいい加減にしろー!手は動くんだから書くくらいできるでしょ、ホラ」
「たく…面倒くさい…」
正論を言われたので悪態をつきつつ報告書を書く。
・コモド西洞窟失踪事件とその真意・
コモド西洞窟の北西側最奥に満月と共に作動する仕掛けがなされて
おり、その周辺には近隣住民及び冒険者と思われる死体を多数発見。
その後ある場所を守るようにして動く数人を発見。戦闘状態に入る。
尚、この戦闘は正当防衛に基づく物であり、なんら破壊・殺人の意
は無い物であることをここに記す。
戦闘終了後、件の数人は撤退。調査を継続。数人が守っていたと思
われる場所を調査したところ隠し扉を発見。中を照らしてみると不
正資産と思しきゼニー、宝石類が大量に見つかった。それらは埃を
かぶっており、放棄されて数年〜十数年経つ物だと思われる。よっ
て資産の持ち主の特定は非常に難しいと思われる。
押収したゼニー・宝石は時価総額300M。現在は魔法科学技術班が捜
査を継続中。
「と…こんなもんでいいか?」
「んー」
と、ルカが報告書に目を通す。
「日付とか書いてー…まったく、毎度毎度私が書いてる気がする、ぶつぶつ」
「すまんな」
そう言いながらも、いや言い切る前に持っていたペンでさらっと書いてしまった。
流石にもう慣れっこ、って感じだ。
「じゃ、私これ出してくる〜、無茶しちゃだめよ?」
「お前じゃないんだから」
「どーゆーことっ!?」
そう言いつつルカは部屋を出て行って監査事務室に判子を貰いに行った。
一息ついて、あの時のことを考えた。
あの後、俺はとりあえずミスティルティンを折った、無理やり。
アレは存在していいものではない。レプリカならまだしも、オリジナルなぞ。
そして部屋の周囲をよく調べてみた。そうすると壁の一箇所に扉となるところがあり、そこを開けてみると埃をかぶり、クモの巣が張られた金銀財宝があった。
つまり、"使われていない"財宝が。
ナナはつまりその資産を使わず、運び屋をやっていたのだろう。
資金源は分からないが並大抵のことでは運び屋の基金を築くのは難しい。また相当資金が無いと運び屋になってからやめていく者も少なくない。
「まったく…面倒くさい事件だったな…」
つい、そうごちた。
「ミスト〜、終わった〜」
「じゃあこれやってこい」
「え゛〜…他の仕事がいいよ〜」
ルカが戻ってきて、そんな考えも頭から消える。そしてまたいつもの日常に戻っていく。
「じゃあちょっと過去の事件のリストアップ頼めるか?特に行方不明・殺人等重い物を中心に、いつ、何処で起こったか、だ」
「ん、分かった〜、でも何に使うの?」
「ちょっとな」
今回の事件で感じた一つのわだかまりと共に…
- 28遠き夢、叶わぬ願い4(16/15)sage :2006/08/16(水) 02:36:52 ID:ku6zD42g
- どうも約半年ぶり…?の投下となります。こんばんはorはじめまして。
正直1日50バイトも書いていない計算に…遅筆にも程がありますね、スミマセンorz
前回言われたことを踏まえて結をつけてから投稿しようと思ったら、最後まで結がつきませんでした。
どうも纏める能力がないようで悲しい次第です(ノω;)
その為無駄に長くなってしまいました。休み休み読んで頂ければ幸いです…って最後に書くのも何なんですけどね。
それはそうと前スレ232氏とかすってるテーマが…やっぱり危ないネタでしたかね(´-`;)
>>前スレ238-241、現行>>1氏
埋め&スレ立てお疲れ様です
- 29名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2006/08/16(水) 08:07:57 ID:rY1fdr1s
- >>28
偶然にもたまたま暫くこのスレを読んでなくて、前作を読んだのが1ヶ月前でした。
うーん、なんとなくそんな気はしていたんですがやっぱりハッピーエンドはなかったんですね。
ミスティルティンに魅入られたのが彼女でなければまた違う結末だったんでしょうか。
いい話を読ませてくれるんですから謝っていただくには及びませんよ、寧ろこちらこそありがとう。
- 30名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2006/08/23(水) 19:52:39 ID:4CAZKOOw
- テレビで稲川順二さんを見かけたので思いついたのですが、
お題で「怖い話」なんてのはどうでしょ?
- 31丸いぼうし@お題sage :2006/08/25(金) 13:03:02 ID:f44qNefg
- 窓の外の生暖かい風は止み、黄昏時は夜へと変わりつつあった。ジージージー、ジージージー。虫がどこかで鳴いている。僕は寒気を感じた。アマツには虫の鳴声を愛でる風習があるというが、僕には信じられない。誰がこんな昏くて気味の悪い音を愛でるというのか。この国では古来から虫の鳴声は悪魔の呼び声とされ、「虫の声」という意味の単語を名に冠した忌むべき魔道書さえ存在するぐらいなのだ。
その暗く沈んだ夜に僕らの研究室は今まさに溶けようとしていた。軽く口ごもったつぶやきが聞こえ、僕の後方が唐突に明るくなった。羽虫と同じく闇の中では人も明るい方に引き寄せられる。僕が光の方に顔を向けると蝋燭の明かりに照らされた教授の顔がそこにあった。相変わらずの不敵な笑いも陰影がきつくなると恐ろしい笑みに見えるから不思議だ。教授は歩きながら呪文を唱え、僕ら三人の机のそれぞれに火のついた蝋燭をおいていった。
魔力灯があるこのご時世に僕らがこんな事をやっているのは、魔力灯のコアにある魔法回路が切れたことによる。特に夜型指向な我がノースウッド研究室においてコアの消耗は速い。しかし、切れた日が悪かった。折しも学内は夏休み真っ盛り。学生はおろか厚生課の人間さえ休みを取っている。おまけに夜間であるからして、替えのコアをもらいに行くことは不可能だった。
「教授、どうしましょうね……どこかの研究室から抜いて来ちゃいます?これじゃ何も出来ませんよ」
「ケミ君、どこもかしこも施錠してあるだろう」
オレンジ色の光が、ウィズ子さんの白い頬に落ちていた。教授は蝋の溶ける臭いに鼻を鳴らした。
「まったくその通り。それに無断で借りるのはそもそも窃盗だよ。昔から蛍の光何とやらというじゃないか。勉学というのはいつでもどこでもだれとでも出来るものだ。今だって実験は出来ずとも本を読むには十分だろう。さぁ、働いた働いた」
僕は手元の本に目を落とした。紙に鉛筆を走らせ数式をたどっていく。著者の理論を自分でトレースするいつもの作業。慣れ親しんだ行為であるから、手元だけ見ていればこの環境も大して苦にはならない。
ただ、僕は虫の声が気になって仕方がなかった。空調もどうにも調子が悪く今日は窓を網戸にしてあるのだ。
ジージージー、ジージージー、ぎぃ
僕の耳は虫の声に紛れた妙な音を聞き取った。遠くでドアが軋むような音だ。この時期に研究室に出てくるリサーチホリックが僕ら以外にもいるということだろうか。ご苦労なことだ。休みくれ。僕は首を振って煩悩を払い、鉛筆の先に視線を移した。ああ、だめだ、どこまで微分したんだっけ。
- 32丸いぼうし@お題sage :2006/08/25(金) 13:06:58 ID:f44qNefg
- ジジジジジ、ぎぃ、ぎし、ジジジ
まただ。随分と人の出入りが激しいようだ。熱心な研究室だ。
僕は廊下の方に目を向けて遠くの同業者たちに思いをはせた。
廊下に面した磨りガラスの窓は暗い。暗くなっても魔力灯をつける人がいなかったのか。
っと、また数式の頭に戻ってしまった。第二項までは積分したから、次は……ここをこうか。
きぃぃ
だめだ、気になって仕方がない。
「教授、何なんでしょうね、さっきから遠くで何度もドアを開け閉めするような音
がするんですが。妙ですよね。こんな日に。」
妙な沈黙が流れた。ゆらり、と蝋燭の炎が揺らいだ。
「それは、あれかもわからんね」
「な、なんです?」
ふぅー、と大きく息を吐く音が聞こえた。それに重なって、また例の軋み音がした。
「ケミ君、この大学ではだいたい毎年一人から二人が自殺するそうだ」
唐突な話に僕は顎を引いた。僕の脳裏に嫌な記憶がよみがえった。散乱した机、
こぼれた土と折れた鉢植え、そして……。僕は手元の紙に目をとめていられなくなって
顔を上げた。
「まぁ、先日の事件もそうだが、五年ほど前の今頃、そこの並木で首を吊った奴がいたらしくてね。」
「は、はぁ、それがどうしたってんです?」
虫の声はいつの間にか小さくなっていた。だから、遠くの軋みが近づいたように僕には聞こえた。
ぎぃ、ぎぃ、ぎしぎし。
「これは学生の間の噂に過ぎないんだが、その木が軋む音が聞こえるそうだ。
まるで死体がぶら下がって風に揺れてるような音がするってね。」
風が出てきた。蝋燭の炎がはためいて消えそうになった。それに合わせて音はいっそう
激しさを増した。繊維が伸びて擦れ合う音。葉のざわめく音。僕は首の後ろにうすら寒さ
を感じて首をすくめた。
- 33丸いぼうし@お題sage :2006/08/25(金) 13:07:55 ID:f44qNefg
- 「ああ、私もその話は聞いたことありますね。七不思議の2番目だってティナが
騒いでました。五年前、人間関係に悩んだ院生が並木の東から五番目の木で
首を吊った、以降夏の夜になるとその木が死体の重さに耐えかねたように揺れる、
って聞きましたが。」
ウィズ子さんがいつもよりちょっと弾んだ声で言った。部屋には蝋燭の明かり一つ、
外はもうすっかり暗くなっている。否応なしにこの手の話が信憑性を増す環境だ。
これは良くない。
「バカバカしい。どこかの研究室がきっと荷物の出し入れとかしてるんですよ」
言い返した僕の声は震えていたかもしれない。蝋燭の向こうでウィズ子さんが
いたずらっぽく笑ってドアの方を指さした。
「じゃあ確かめてみたら?」
僕は早足でドアに向かい、勢いよくドアを開けて廊下をのぞき込んだ。
廊下は灯りこそついていなかったが窓からはいる月明かりに照らされていた。
所々に闇がわだかまっているが、向こうの向こうまで見通すことが出来た。
外に面した窓からはいる光はあったが、部屋に面した窓から漏れる灯りは、
先の先までなかった。
ぎぃ、と音がした。
じとり、とノブを持つ手が汗ばんだ。背中にじわりと嫌な汗がしたたった。
「どうだった、ケミ君?」
僕の笑いきれていない笑顔が結果を雄弁に物語っていたことと思う。
研究室の窓から差し込む光に雲の影が映り、ゆっくりと光度を落としていった。
風が強まったのだろうか、雲が月を隠してしまったらしい。
ぎぎぃ
足の裏に汗を感じながら僕は自分の席までとって返した。椅子の肘掛けをつかむ手に
力がこもった。恐怖を払うにはいつもどおりのことをやるのが一番。
僕はぎこちないまま数式に目をやった。そのとき、風が吹きこんで蝋燭の炎が強く揺らめいた。
僕の手元の頼りない光源は独特の臭さと白い油煙を残して吹き消えた。
「おや、風が出てきたな。ケミ君、悪いが窓を閉めてくれ」
僕はゆっくりと震える脚で窓の方に歩みを進めた。二人は手元の蝋燭の光に照らされた
ままうつむいて机に向かっていた。考え込むために息を止め、書くと同時に吐くリズムが
感じられた。風が強くなって軋む音は大きくなった。何かが擦れるような音だ。
ロープ、という単語が脳裏にひらめいたので僕は打ち消すように頭を振った。
一体僕は何を気にしているというのか。歩け、歩け、そこの窓だ、親指に力を入れろ。
窓にたどり着いて僕はガラス窓を引いた。そのとき雲が流され、すっ、と
研究室から見える並木道に月明かりが差した。
無意識に僕は並木道の木を数えていた。
一本、二本、三本、四本……
- 34丸いぼうし@お題sage :2006/08/25(金) 13:08:31 ID:f44qNefg
- ギギィッ!
「きょ、教授、さっきの話ですが……そ、その木、どうなったんです……?」
「ああ、縁起が悪いし変な噂も立ったから三年前に伐ってしまったそうだ」
並木道の東から五本目、ぽっかり空いた空間には月明かりに照らされた切り株があっただけだった。
--end
- 35丸いぼうし@お題sage :2006/08/25(金) 13:10:41 ID:f44qNefg
- うわぁぁぁ、改行ミスったぁぁ。
読みにくい人はお手数ですが画面幅を縮めてください。申し訳ない。
お題?で「怖い話」がでてたので書いてみました。
元ネタは「首縊りの木」です。短編ホラーは好きですが、書くと難しさを痛感します。
そう簡単には怖くならないなぁ。
- 36名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2006/08/26(土) 09:45:45 ID:vYPIUmSs
- >>7 武装神官の人
ボク属性強いわぁ……。ガツンと来ました。
簡潔な描写で生き生きとした会話が伝わってくるところは、とても見習いたい。
>>28の人
前作みたいにハッピーエンドになるよね!?と淡い期待を抱きつつ読んでたら、うわああああああ
サングラスのとこで、泣きかけた。
三点リーダとダッシュの用法が少し気になりました。
>>35 丸い帽子の人
怖い怖い怖い怖い怖い! 真相わからないまま終わっちゃうとか、怖すぎる。
怖いけど、贅沢を言うともう一歩踏み込みたいところ。雰囲気の出る怖さって難しいですね。
時間がなくて全然書き進められないんだけど、夏休みのある学生さんが羨ましいぜ!orz
- 37凍ってる人sage :2006/08/26(土) 13:43:09 ID:0EZx7t2o
- また次が長くなりそうなのでレスだけ
>>29様
そう言って頂けるとまた見て頂くなるので凄くありがたいです。
魅入られた、という表現はどうなのでしょうね?これ以上はネタバレになるので言いませんがw
>>36様
恐らくこの後ハッピーになるのは極僅か…とかネタバレはよくないね、うん。
用法についてなんですが今しがたちょっと調べてみたらダッシュはあんな用法があったのですね。これから気をつけます('-`;)
三点リーダについても使いすぎはどうかなぁ、とか思ったのですが話の間を空ける手法をそれ以外知らなかったんですね。
もうちょっと違う手法があるか今度は調べておきます('д`)
- 38神の人・前編0/12sage :2006/09/08(金) 23:54:16 ID:j67SbRI.
- この作品は、燃え小説第9スレ『我が名は…』と11スレ『我が名は〜』の続編ではありません。
そちらの方を先に読むことを強くお勧めいたしますが、あまり関係はありません。
この作品は、燃え小説第12スレ『槍の人』の続編となります。
そちらの方を先に読むことを強くお勧めいたします。
それではお目汚し失礼しますね。
- 39神の人・前編1/12sage :2006/09/08(金) 23:55:13 ID:j67SbRI.
- 1
「――えない。――こえない。今日もあなたに――かない…」
深々と雪の降り積もる、ミッドガルドのとある路地裏で。
「神よ…。今日もあなたの御心に反し、罪人が町を歩きます…」
さくっさくっと、雪の上に足跡を残しつつ歩みを進める人影が一つ、胸元で十字を切って白く染
まった吐息を漏らす。
「ああ…、悲しきかな砂のごとき道徳…。守られはしない、夢の世界の美徳…」
呟きの主の目前には、己の腹からこぼれる臓物を抱えるように蹲る、年若い少年の姿。そして、
少年を囲むように立ち、手に手に血の滴る凶器を持った男達。
「我が神よ…、お許しください…」
呟きは…、少年の早すぎる旅立ちへか、男達の愚行へか…。
「あん?」
その呟きが届いたのか、男達の内の一人が胡乱気に振り返り、つづいて男達全員が呟きの主に向
き直る。
「おやおや、見られちまったねぇ」
「あーあぁ、お可哀相に」
呟きの主に向けられる、嘲りに満ちた笑みの顔達が並ぶ。新しい獲物を前に各々が手に持つ凶器
を構え直す。仕草には、明らかに侮りを含んだ余裕が窺える。舐めている。嘲ている。
「見られたからには、あんたにも消えてもらうよ」
言って男達の内の一人が主に向かって歩み出た。手に持つ曲刀のナイフ、マインゴーシュが翻る。
空を裂き翻った刃は、的確に首筋を撫で頚動脈を両断してみせ、薄く降り積もった雪にぱっと朱の
花が咲く。
「はい…、おしま…」
マインゴーシュの血糊を払う、その男の首が鷲掴みにされた。
「いぃぃぃっ!?」
首を掴まれた男は語尾を疑問詞に変えながら、自らの頚椎がごきりとひしゃげる音を聞く。ほか
の男達が異変を感じた時には、驚きに歪んだ男の顔が雪積もる路面に頽れた。
「貴様…」
「よくもやりやがったな!」
男達の中から新たに二人、自分達の事を棚に上げて主に襲い掛かった。路地裏に怒号が長く響く。
それと共に繰り出された刃はそれぞれ、首と左胸に切っ先を向けている。
最初に斬り付けた男は油断していた。だから思わぬ反撃を受けてくたばった。襲い掛かる二人は
そう思い、確実を期して急所を二つ同時に襲う。
「んっ…」
気だるげな声と共に肉に刃が飲み込まれていく。切っ先は狙い違わず心臓と喉を貫いていた。
そして、改心の一撃に顔を綻ばせる男達の喉を、無造作に両の腕が握り込む。五指を大きく開き
まるで擦る様に喉に当てられ、男達が気づく頃には頚椎が破滅する。雪降る町にまた二つの壊れた
人型が落ちて、手足を捻じ曲げながら蹲る。
「気をつけろ…、こいつは見た目通りじゃないようだ…」
男達がそれを悟る頃には、群れていた男の数がちょうど半減していた。遅すぎる教訓だ。その教
訓は、男達の中で一人だけ違う衣装を身に着けていた男を動かした。青紫の衣装に身を包んだその
男の職はアサシン――シーフの上位職で人殺しを生業とする暗殺者だ。
「シーフレベルで敵う相手ではない。俺が隙を作る、お前達は二人で足を潰せ」
両手に固定する形の刃、ジャマダハルを構えて異彩の男が残りの二人に指示をする。残りの二人
は逃げ腰ながら提案に頷いた。
ふっ…――と息を吐くが早いか、異彩の男が駆け込んだ。音もなく主へと駆け寄り刃の着いた両
腕を振り上げ、迷うことなく両の首へと振り下ろす。これがあたれば斬れるだけでは済まない。首
が胴体と泣き別れることは必至だろう。非業の別れを防ぐために、主の両手が刃の両手を掴みとる。
掌を傷つけながら、それでもがっちりと刃を掴んで進行を阻止して見せた。
「もらった!」
すかさず、刃を受け止めて動きを止められた主の二つの足首を、残りの二人が滑り込むようにし
て切り裂いていった。二人は会心の笑みを浮かべながら、思うよりもよく滑る雪の路面を流れて壁
に激突してようやく止まる。二人は痛みを堪えて仲間に向き直り、親指を立てて賛辞を送り。目に
映った光景に、そろって顔が青ざめた。
「…嘘だろ…?」
異彩の男は残りの二人の異口同音の呟きを聞き取ることができなかった。異彩の男はその両手を
無理やりに背中側にたたまれるようにして、主に力強く抱きすくめられていた。苦悶の顔の口元か
ら血の泡を零し、悲鳴すら上げられずに両手を絞られ肋骨を粉砕されていた。計り知れない痛みと
苦しみの中での悶死であった。
「ば、化け物…」
震える声で呟き、残り二人の片割れが声の主に背を向けて走り出す。逃れたい。助かりたい。そ
れだけを思い、ひたすらに走る。走り去るその後姿を、残る一人は呆然と眺め。続いて視線が声の
主へと移る。化け物と目が合った。
「あ…ひ…」
男が見た声の主の姿は、この国ではよく見られる神に仕えるもの、プリーストの姿に相違なかっ
た。教会支給の男子用祭服に身を包み、首からは鎖で繋がれた銀のロザリオを下げている。身体つ
きも背は高い方の様だが腕もそう太くは見えず、成人男性を4人も縊り殺したとはとても思えない。
髪型はぴっちりと撫で付けられたオールバックで額に何本かの束ね毛が垂れ下がっている。色は聖
職者には似つかわしくは見えない薄紫だ。華奢と言うわけではないが締まった体つきに、ぴっちり
と身を包む法衣が嫌に神聖味を帯びている様に見えた。体を汚す流血の跡さえなければ、別人の犯
行といわれても殺されたもの達ですらも納得してしまえそうである。
「罪には罰を…」
掠れる様な声で、司祭の男がまた呟きだす。
「罪人は逃がさず…、許さず…」
- 40神の人・前編2/12sage :2006/09/08(金) 23:56:01 ID:j67SbRI.
- 2
足首の怪我をものともせずに、逃げ出した男に体の向きを変える。いや、怪我はもう既に癒えて
いて痕跡はただ衣服の裂け目のみ。そこからは軽く血で汚れた肌が見えているだけだ。
「罰は、速やかに執行されなければならない…」
宣言と共に、両手が地面につきそうなほど身を屈め、司祭は高々と冬の空に跳躍した。静まり返
る路地の空気を裂いて主は放物線を描き、砲弾となって逃げた男の背に着地した。
「ぐえっ!?」
潰れた蛙の様な声を出して路面に倒れる逃げた男の背に馬乗りになり、司祭は男の両肩を腕で優
しげに包み込む。ぎりぎりと指が食い込んで、壮絶な力が男の両肩に加わっていく。
「まずは…、両肩…」
みしり…――そんな乾いた音に続いて、肩を砕かれた男の絶叫が辺りに響く。司祭の指は獣の顎
の様に獲物を探し、次に触れるのは手首だった。解体作業が始まった。
「手首…、肘…、肋骨…」
「あっ!? ぎっ! ぐぇぇぇ!!」
叫びに伴い、男の体に次々と隙間が生まれていく。四肢が末端からゆっくりと力を失っていき、
がくがくと骨を失った筋肉が激しく痙攣して痛みを訴える。
「足首…、膝…、股間節…」
「だっ、だずげ…、やべ…で…」
司祭はただただ無表情で、機械的な作業を繰り返すように間接を外していく。愉悦もなく嗜虐も
なく、だが昆虫をばらす子供の様にただ純粋に行為に没頭する。唇から漏れる声は、作業の確認に
過ぎない。
「最後に…、な・ま・く・び…」
「ぐべっ!」
うっとりと陶酔しながら呟いて、両手で首の骨を丁寧に砕き。止めとばかりに首を百八十度真後
ろに回されて、ようやく男は痛みを感じなくなった。鼓動が止まるまでの短い時間に、司祭は唇の
中で短く祈りの言葉を囁く。主よ、この者の罪を許したまえ、と。
「……」
取り残された男は、程よく解された男の髪を掴んでこちらに向かって来る司祭をぼんやりと眺め
ながら思考を濁らせていた。
勝てない。殺せない。桁が違う。格が違う。あれは何んだ? 人間? プリースト? いやただ
の化け物だ。逃げたい。逃げられない。ばらされる。解体される。折られる。殺される。負ける。
「…る…される…わされる…壊される…」
濁った思考が声になり、それが意味を成す頃には主は再び男の前に立っていた。
じっと、司祭の藍の瞳が見下ろしてくる。目が合っているだけで、男の膝が、肩が、体中が震え
る。歯の根が打ち合わされてがちがちと音を立てている。
司祭が紫の前髪を揺らしながら男の顔を覗き込み、唇がそっと歌うように言葉を紡ぎ出す。
「あなたは…、神を信じますか?」
唐突に上から降ってくる問いかけ。優しく慈愛のこもった声色で、司祭は見下ろした男にしんこ
の有無を聞き質す。男が何も言わず――言えずに震えていると、再び問いが降ってくる。
「あなたは…、ほんの少しでも神を信じていますか?」
「信じ…る…」
仄かな期待を込めて、震える声が同意を唱えた。否定したら何をされるかわかったものではない。
そんな判断からの言葉だったが、司祭はその言葉に強く反応した。
「そう…、信じていますか…」
そこで、司祭の顔に笑みが浮ぶ。見るものに安らぎを与え、全てを許す様な慈悲に満ちた笑顔だ。
一瞬だが男は震えを止めて、場違いにもその笑顔に見ほれてしまった。
「我等が父、全能なる主はおっしゃいました。全てのものは平等であれ。全てのものは平等に祝福
されねばなりません」
「あ…、ああ…」
突然また何を言い出すのか。驚きつつも男は話を合わせるために頷いた。
「信じる…、信じてるよ」
嘘をついてでもここは話をあわせるべきだ。機嫌を損ねれば、すぐにでも解体される。むしろ機
嫌をとれば生き残れるかもしれない。淡い期待が歯の根の合わない口を突き動かした。
「神様…信じてるよ。信じてるさ。毎日拝んでるよ。祈ってる。マジだよ? 心のそこから敬愛し
てます!」
最後のほうは殆ど泣き叫びになっていたが、男は今だけは心のそこから神に祈っていた。できる
ことなら、この悪魔のような神の使いから逃れたい、と。
「そう…、それはよかった…」
声と共に、男は優しく抱きしめられた。
「全てのものは平等に愛されねばなりません…。平等に愛し、愛され、喜びの野に放たれる…。そ
れこそが敬愛なる父の御心…」
幼子を扱うように優しく、母のように暖かく、抱擁と共に後ろ髪を撫でられる。
「あなたが神を信じていてくれてよかった…。あなたは他の罪人に比べると年若かったから…」
体を包む暖かさに、言葉に含まれる底の無い優しさに、男の意識は溶かされそうになっていた。
男が思ってみればこんなにも優しく扱われたことなど今までの人生で二度在ったかどうか。人を斬っ
た事はあっても、人に慈しまれた事など一度といえど無かったかもしれない。生まれてはじめて肉
欲意外で感じた人の暖かさに、男は動かずに抱きすくめられ続けていた。
「あ…、あ…、俺…俺は…」
「そう…、神を信じているならばもう大丈夫…」
- 41神の人・前編3/12sage :2006/09/08(金) 23:56:41 ID:j67SbRI.
- 3
心の奥で生まれた感情が外に出ようとするのだが、うまくいかずに言葉がつまり。暖かさの主が
また耳元で囁いた。
めきり――と…何かが軋む。
「安心して…旅立ちなさい…」
みしみしと、肉が歪む、骨が軋む、体が悲鳴を上げている。司祭の両腕が抱きすくめる男の体に
ぎりぎりと食いこんてせいる。
「大丈夫…、神を信じるあなたの心があれば、きっとあなたは幸せになれます…。恐れることなく、
旅立ちなさい…」
男の体が次第に仰け反り始め、腰を支点に二つに折れていく。悲鳴は無い。肺が圧迫されて声が
出ない。息ができない。
「願わくば…、来世では貴き神の僕とならんことを…」
ばきんと背骨が大きく音を立てて折れ、続いて臓腑が破裂し肺も破れた。そして神経を走る猛烈
な痛みが男の意識をかき消し、二度と目覚めることの無い深い眠りへと誘う。
男の顔には、苦悶は浮かんではいなかった。引きつった笑みの様な表情が浮かび、目を白くして
舌を唇からはみ出させていた。司祭にはその表情が幸福に満ちているように見えていた。
「生まれ変わったら…、きっと幸せになれますよ…」
亡骸を無造作に路面に寝かせ、司祭は男達に囲まれていた青年へと歩み寄った。足元にも亡骸。
抑揚も無く首筋に手をかざし、あるとも思わない脈を確認して――
「ほう…」
少年にはまだ脈があった。良く見れば苦しげに白い吐息を小刻みに吐いている。臓腑をはみ出さ
せ、消える寸前ながらも、少年は命の灯火を宿していた。
「低気温での血管収縮で出血死を免れた…か?」
なんにせよ、血まみれの司祭は少年の腹部へと手を伸ばした。腹に開いた切れ込みの中に、臓物
をぐいぐいと粗雑に押し戻し、また血にまみれた掌を傷口に当てる。
「癒しを…」
呟きが掌に輝きを生み、その輝きが意思あるかのように傷口に降り注ぐ。光に触れた患部は、ま
るで時を戻すかのように見る間に塞がって行った。神に仕える者の得意とする魔法、魔力によって
傷を癒す治癒呪文ヒールだ。
「あなたの命は神の御技によりて救われました…」
力の無い体をそっと抱き上げて、血濡れの司祭がまた雪の中を歩き出す。さくさくと薄い雪に轍
を踏んで、横抱きにした少年の顔に視線を這わせる。幼い顔立ちに浮かんでいた死相は消えていて、
目を閉じたまま浅い呼気を繰り返す。吐き出される白い吐息を確認し目を細めると、司祭は遠く寒
空に鳴り響きだした鐘の音に向けて歩みを進めた。
「ああ…、また一つあなたの元へと近づくことが出ましたね…」
吐き出す言葉には恍惚が満ち満ちて、至福の時を重ねた事に身を震わせる。最早その目は腕の中
の少年を見てはいない。司祭の唇が愛しい人の名前を呼ぶ。
「神よ…。私の愛しい神よ…」
瞳の濁りが強くなり、頬が軽く上気する。唇が三日月を描いてケタケタと笑い出しそうだ。三日
月を舌が一舐めし、目を閉じて気を落ち着かせる。腕の中の少年をきゅっと抱きしめ、意識して歩
む足を速めていた。
ふと、空を見上げる。雪の振る曇り空は、まるで天上の神の住む場所まで届く様に高く――
「何時…何時になれば…私はあなたのお声が聴けるのでしょう」
呟きは雲の上に向けられて、誰の耳にも届かずに淡く消えていく。淡い期待に身を震わせて、届
かない祈りへの哀愁にまた身を震わせる。想い人は遠く、果てしなく遠く…。
「……見えない、聞こえない。私は未だ貴方に、届かない…」
寒空に消える呟きは、想い人には届きはしない。
*
「さみい…、だりい…、めんどくせえ…」
深々と雪の降る街角で、青髪のBSは何時も通りの薄着で蹲り縮こまっていた。がちがちと歯の
根を震わせて、身を切る寒さに両手で半袖の二の腕を撫で擦る。サングラスに隠された青い瞳がど
んよりと、まるで頭上の雲のように濁り。陰鬱の表情を浮かべて、頭の上には薄く雪が積もってい
た。一際異彩を放つ膝から下がない木製の棒が突き出ただけの義足が、カタカタいうのもせんない
と言う物だ。
本日は曇り空。ルーンミットガルドの首都プロンテラの通りの一つ。中央噴水から東門にかけて
伸びる宿屋ネンカランスのその宙吊りの渡り廊下で繋がれた二屋の建物に挟まれた石畳の道の上に、
BSは寒さに耐えながら待ち合わせの時間に焦がれていた。二つ目のトレードマークの咥えタバコ
は、唇に乗ったまま煙を上げる事もなく鎮座して、ただ哀愁のみを濛々と燻らせている。むしろ凍
て付いてさえいた。
「俺はここで死ぬのか…」
大都会の寒空の下、孤独にも今一つの生命が燃え尽きようとしている。傍らに置かれたカートの
中に雪が入らないようにと持っていた傘を立てかけてしまったのが死に繋がるとは、世の中は何が
あるかわからない。カートの中には防寒具代わりになりそうな装飾品や、着込めば寒さなど物とも
しなくなる様なコート等が入ってる。しかし、この男はそれを拒んだ。曰く、商品が濡れて価値が
下がるくらいなら死ぬ。その宣言の元、今彼は永久の旅路へと片足を踏み出していた。
そんな男の肩がゆさゆさと軽く揺さぶられる。自らの頭髪ほどとは言わないが蒼白になっていた
顔ががくがく縦に揺れて、向こう側の世界を見ていたサングラス越しの瞳が肩を揺らす人物を見据
えた。と、言うよりも睨み付けた。
「ああん…? やっと来やがったのか…無口女…」
睨まれた人物はびくっと体を震わせて、掴んでいた手を肩から離す。唯でさえ小さな体を更に必
死にちぢ込ませて、小さな人影はオドオドとBSの態度を伺い見ている。
「んだよ…、おせえじゃねぇかよ…。危うくこっちは凍死しかけたぞ…、殺す気か? ああ?」
「……(ふるふる)」
- 42神の人・前編4/12sage :2006/09/08(金) 23:57:40 ID:j67SbRI.
- 4
首が横に振られる。舞い散る雪の中で厚手のスカートにBSのよりも小さめなカートを引き摺っ
て、肩から提げた大きな鞄が特徴的な小さな人影は商人の女の子であった。緑色のショートヘアに
ニットの帽子を被せ、両手は大き目の手袋に包まれ首には毛糸のマフラーまで巻かれている。凍え
るBSとは対照的になんとも暖かそうな出で立ちだった。嫉妬の視線が華奢な体に絡みつく。
「ちきしょう、暖かそうな格好しやがって…。で、指定したものは揃ってるんだろうな?」
「……(こくこく)」
首が縦に振られる。徐に両手を鞄の中に差し込んで、ゴソゴソと弄り細長い物を取り出す。それ
をBSの首に巻きつけて、にぱっと曇り空の代わりに太陽の様な笑みを見せる。首に巻かれたのは
おそろいの毛糸のマフラーであった。
「わぁ、あったかーい――じゃねぇよ! 装備だよ、注文した装備品だよ! 何の為に今日ここで
寒い想いまでして待ち合わせしたと思ってる! まさか持って来てないとか言わないだろうなぁ!
ああ!?」
「……(ふるふる)」
首が横に振られる。一気にまくし立ててぜえぜえ肩で息をするBSは、その様子に安堵と疲れを
覚えてぐったりと壁に体を預けた。湿気たタバコを道端に履き捨てて、新しいタバコを箱から直接
唇に乗せる。同時に取り出したマッチでタバコに火を点けていると、地面に落ちたタバコを商人が
拾い顔の前に突き出してきた。暫し絡み合う視線と視線。
「……(じーっ…)」
「……ああ、判った判った…判りましたよ…」
しぶしぶとタバコを受け取って、シャツの胸ポケットから若草色をした袋を取り出す。それは携
帯用の灰皿で、少々デザインが可愛くBSには合っていない様に見える。だが同じ色の髪を持った
商人の少女は満面の笑みだ。
「ちゃんと使えばいいんだろうが、判ってるよまったく…」
「……(こくこく)」
首が縦に振られる。続いて小さなカートから布袋を取り出して、BSの目の前にぶら下げて見せ
た。タバコを咥えた唇が釣り上がって、BSも同じ様に自前のカートから巨大な布袋を取り出す。
両者の手がそれぞれに布袋を掴み合い、BSは軽々と商人は重たげに交換を果たした。
早速と袋の中身を確認しBSが感嘆の声を上げる。
「ほお、しっかり四枚刺さってるし精錬も完璧だな。大金叩いただけの事はある仕上がりだ。そっ
ちも一枚たりとも誤差はねぇはずだぜ。この俺に金勘定じゃへまは在り得ない」
「……(こくこく)」
再度、首が縦に振られる。満足満足とホクホクした笑みを浮かべて、不自由な足で淀みなく歩ん
でカートを引き出す。目指すは西通りの内壁を辿って北へ真直ぐ。リンゴンと寒空に響き渡る鐘の
音の元へとだ。
「うーっし、後はこれを犬野郎に届けるだけだな。ごくろーさん、もう帰って良いぞー。次は遅刻
するんじゃねぇぞ、判ってんのか? ああ?」
「……(こくこく)」
再三、首が縦に振られる。BSが壁の向こうに消えるのを見送って、商人の少女は重たい布袋を
カートに乗せて町の中央へと向かう。するとその背後から控えめに声が掛けられる。少女が小首を
かしげて振り向くと、BSが頭だけ内壁の出入り口の影から覗かせていて――
「あー…、そのなんだアレだよ…。暖かいぞこのマフラー、…ありがとな」
それだけ行って直ぐに顔を引っ込める。壁の向こうで雄叫びが上がり、物凄い勢いでガラガラと
カートが引かれ、やがてその音は遠ざかっていった。
暫し呆然とする少女は、次第にその表情に満面の笑みを浮かべ出して。
「……うんっ!」
力強く頷いて、中央広場の噴水目指して小さなカートを引きずって行った。
*
「いらっしゃいませ、プロンテラ教会へようこそおいでくださいました。本日はどのようなご用件
でしょうか?」
それはまるで少女の様な顔立ちの少年であった。栗色の髪を少し長めに耳や額に掛けて、襟足は
涼しげに刈り込んでいる。少年らしさの中に中性さを漂わせ、男子用の侍祭の服に華奢な体を包ま
せる。その手の趣味の人間が見れば、思わず押し倒しそうな独特の色気を放っていた。
まあ、生憎とこの青髪隻足の上に黒眼鏡まで掛けたBSにはそんな趣味はなかったが。変わりに
頭の先から爪先まで、じろじろと睥睨して幾らで売れそうか算段している。そんな男だった。
「うん、一晩三百万」
「はぁ?」
「ああ、いやいやこっちの話だ。今日は人に会いに来たんだよ、寄付金の話でちょっとな。日々の
人々へ与えられる精神的繁栄への貢献と、冒険者への献身的支援に対するお礼にとでも言いますか。
孤児までも集めて育てるほほえましい教会へ、微々たる助力でもと思いましてね」
思わず肩に手を置いて本音が先に口から出た。慌てて取り繕い、建前をすらすらと吐き出す。相
手の背が小さいので、やや見下ろすように上から。
「で、背の高い罰当たりな紫の髪したのが一人居るだろ。呼んで来てくれ、なるべく早目に」
流石に神聖な建物の中でタバコを燻らせる訳にも行かず、トレードマークは黒眼鏡だけになって
いる。だが、それでも小さな少年には脅しが効いたのかビクっと肩を震わせ、ぺこりと頭を下げる
と慌てて走り去っていった。脅す心算も無いのに脅えられると、そこはかとなく傷付くな。そんな
感傷に浸る。
暫く教会の正面扉の脇でしゃがみ込んで居ると、程無くして長身の男が赤絨毯を渡って歩み寄っ
てきた。傍らには縋り付く様にして、先程の少年も共に向かって来ている。余程BSの事が怖いの
か、隣の司祭の服をきゅっと握り締めて引っ付いていた。
「どうもお待たせしました。寄付金の事についてのお話とか、奥に席を用意させますのでそちらで
お伺いいたしましょう」
「これはこれはご丁寧に、アリガトウゴザイマス司祭サマ」
にっこりと完璧な笑顔に迎えられた。包み込む様な柔らかな声音で話しかけてくる司祭の男に、
BSが内心舌打ちをして唾を吐きたくなるのを制止する。何とか口元だけを引きつらせて笑い、
促されるままに赤絨毯の上を歩み行く。正面玄関から真直ぐに進み祭壇までたどり着き、その脇に
ある一室に通された。重厚な造りの木戸を潜ると、流石は首都なのかそれなりの高級感のある調度
品が揃った応接間であった。
司祭が勧める大きなソファーの真ん中に腰を下ろし、木目も鮮やかなテーブルを挟んで司祭も対
面に座るのを確認する。少年は部屋に備え付けのティーセットを盆に載せ、静々と頭を下げて退出
していった。司祭がテーブルに両肘を突いて指を組み、その上に唇を添えてまたにっこりと微笑む。
- 43神の人・前編5/12sage :2006/09/08(金) 23:58:19 ID:j67SbRI.
- 5
「で、何の用だしみったれた金の亡者め」
「神の犬風情が、相変わらず口ぎたねぇな。まったく、人が居なくなった途端本性剥き出しかよ」
「貴様に言われたくは無いな。それより用もないのに堂々と正面から入ってきたのか? 何時から
BSギルドの守銭奴代表は、偉大なる教会に顔が利く様になったのかね?」
「その偉大な所で薄ぎたねぇ事やってる犬畜生の代表に言われたくはねぇな。用なら売るほどある
が、今日はとりあえず三つ程だな」
口調が変わった。片やにこりとした笑顔のままで、まるで表情を崩さずに罵りを口にして。片や
漸くと堅苦しさが取れたと首を回し、タバコの箱を取り出して一本を口に咥える。ちなみにカート
は無理矢理室内に運び込まれて、今はBSの座るソファーの裏に鎮座していた。何度も小さな侍祭
や長身の司祭に入り口で預かると言われても、頑なに拒み通した成果である。
「ふぅ…、ではその用件とやらをさっさと済ませて帰れ。私は組織同士が協力関係にあるといって
も、個人間で馴れ合う心算など更々無いのだからな」
「その組織が何処の金を使って動いてると思ってやがる…。まあいい、まずは今月の分のガキ共の
飯代と『あいつ』の維持費だ」
ソファーに踏ん反り返ったままカートに手が伸びて、商人の少女に渡した物よりは幾分小さめの
布袋をテーブルの上に投げつけた。太目のペンで寄付金と書かれた布袋は、ジャラリという金属の
細かい悲鳴を上げる。目の前に届いた大金を前にしても司祭の笑みは崩れず、しかし肩を大きく竦
ませてこれまた大きな溜息を吐いた。
「やれやれ、孤児院への寄付は嬉しい事この上ないのだが、これにあの死体の餌代が入っているか
と思うと…。思わず捨てたくなるな、あの死体と一緒に生ゴミにでも」
「金を粗末にするんじゃねぇ。ついでに『あいつ』は一応仲間だろうが」
「生前は良い男だったよ。死体同然の今ではカスに等しい。大嫌いだね、私よりも神の傍に居るあ
んな死体等…」
司祭の頑なな態度にやれやれと肩を竦め、続いてカートから取り出したのは例の大金と引き換え
にした小さな布袋だ。これは投げ捨てず直接に司祭へと差し出す。司祭の方もこればかりは丁重に
両手で受け取り、藍の目を少しだけ潤ませて袋の中身を覗き込む。
「おお…、これは素晴らしい。注文よりも二つほどランクが上だな」
「何時も通り大量にぼられたからな。今回は完全な注文品だが、俺の見立てでも不備は無かったぞ。
完成度は保障する、使い込んだ金に賭けて」
それはそれは頼もしい――等と呟いて布袋を閉じ、懐にゴソゴソとしまい込む。司祭服の開いた
胸元から除く胸板は、ぴっちりと服を押し上げ硬く逞しい様相を見せていた。着やせするのか以外
に筋肉の量は多い様だ。
「それで、三つ目の用件はなんだ?」
「ああ、それは依頼の話になるんだが…ん?」
――コンコン。
BSが口を開きかけた時、部屋の戸が控えめに叩かれた。続いて静かに戸が開かれ、ティーセッ
トを片手に先程の侍祭が一礼と共に入室する。テーブルの脇に立ち比較的音を立てない様に給仕を
進めて、予め暖められていたカップにポッドから琥珀色の液体を注いで行く。無味乾燥だった部屋
の中に、花開く様な鮮やかな香りが満ち満ちた。
「ふん、質素倹約が基本の教会にしては中々上等な葉を使うじゃないか」
「この子は優秀でしてね。ご褒美を一つ買ってあげたら、この茶葉を強請られたのですよ。それを
こうして時折振舞ってくれるのです。本当に良い子なんですよ」
再び柔らかな笑顔に戻った司祭に褒められて、少女の様な少年がはにかみを見せる。本当に性別
を疑いたくなる可憐さだが、BSの中では性別の真偽など当にどうでも良くなっていた。些細な事
など捨て置いて、脳内競売上では先程の三百万よりも次々に値段が釣り上がっている。今や冷静な
理性と儲けへの誘惑が両天秤。危うい所で侍祭拉致換金計画は発動寸前のままで留まった。
向かい合う両者が共にカップを手に取り、香りを楽しんでから一口啜る。盆を胸に抱えてじっと
反応を窺う侍祭の少年に司祭が微笑みかけてみせ、BSも指で挟んでいたタバコを咥え直して親指
をぐっと立ててみせる。今度は脅えられる事も無くはにかみを返してもらえた。お茶の事を褒めら
れるのは何より嬉しい事の様だ。
「ここはもう良いです。それよりも、このお金を神父様に預けて来て下さい。それが終われば、今
日はもう自由にしていいですよ」
司祭の言葉に判りましたと素直な応答を残して、侍祭が布袋を重たげに抱えて退出して行く。見
送る二人は扉が閉まりきるのを確認し、足跡の遠ざかるのを待って漸くと外に向けていた意識を室
内に戻す。
「躾も行き届いているし中々上玉だな、軽く見積もって八百万は行きそうだ。あんなのが良く教会
に残ってたもんだな。普通はさっさと外に出て、冒険ごっこの仲間入りでもしそうなものをよ」
「道で拾った。ゴミ掃除の現場で見つけて、腸ぶちまけてたのを直したら懐いた」
「そりゃ良い、今度俺にもあんなのが落ちてるポイントを教えてくれ。五,六匹も見つけたら一財
産になりそうだ。犬畜生の馬鹿話はマッタク面白すぎるなぁ…。ああ?」
「相変わらず金のことしか考えていないな。あまり欲の皮を突っ張らせていると神様の意向で、全
身解されて寒空に晒されるぞ。金の亡者ちゃまは普段から行いが悪いですからねぇー…」
ハハハハハハハハハハ!!――二人同時にソファーの背凭れに寄りかかり、天井を仰ぎながら口
を大きく開けて笑い声を上げる。BSはひいひいと腹を抱えながらカートの中に手を居れ、司祭は
ビクビクと体を痙攣させて片手を前に掲げ出す。鉄の刃がカートから引き出され、唇が聖言を滑ら
せて掌に光を収束させる。がたんと両者がソファーから腰を浮かせ、テーブルに足をかけて各々の
得物を突き付け合う。司祭の首筋に触れる寸前で振るわれた斧の刃が止まり、聖言を言い切った唇
が楽しげに歪んで輝きがBSの鼻先で凶暴に煌いていた。刃が引かれ頚動脈が断たれるのが先か、
聖光が頭を吹き飛ばすのが先か。
「…っの野郎、やっぱりあの寒空の下蛸人間殺人事件はお前の仕業だったのかコラァァ!」
「大声を出すな…。社会のゴミを片付けただけだろう」
「アレの死体処理に俺が借り出された上に、揉み消しにいったい幾ら掛かったと思ってやがる!
無計画に死体作りやがってお前は猟奇殺人者か!? ああ!?」
「神罰の代行者としての殺人は罪にはならない。むしろ殺せば殺すほど主の身元へと近づく事が出
来る。今もこうして…金の神なんかを信奉しているクソ異教徒の命を掴んでいる事だしなぁ…」
ゾクリと背筋が粟立ち、過去に培った戦士としての勘が刃を引ききれとBSに警告する。だが、
現在の知識が目の前の男を通常ではないと訴え、衝動的な行動を阻害していた。
「どうした…クソ異教徒君、私を殺して見せるんじゃないのかね?」
「はっ…、個人的には首がぶっ飛んでもばっさり行きてえ…。プライドに賭けて手前をぶっ殺して
やりてえ!!」
両者の顔が壮絶に歪んだ笑みを見せ、死の手前に居る感覚に全身を甘美な快楽で震わせる。色違
いの瞳が視線を絡ませ、伝えるものは共に殺意と闘志だ。
「だが……、今の俺は組織の駒だ…。死ぬわけにもいかねぇし、商品を壊すわけにもいかねぇ…」
「虫唾が走る。貴様こそ犬だな…」
「何とでも言え…」
- 44神の人・前編6/12sage :2006/09/08(金) 23:59:01 ID:j67SbRI.
- 6
しゅんと炎が消え去るように、BSの目から殺意も闘志も消えて詰まらなそうな怠惰な目付きに
豹変してしまった。斧を持つ手からも力が抜けて、だらんと締まりなく両手が垂れ下がる。対する
司祭の顔には瞬間憤怒が宿り、次いで侮蔑の表情に変わり掌の輝きが霧散する。どちらとも無く突
き合わせていた体を離し、ソファーにどっかり座り込む。同時にティーカップへ手を伸ばし、テー
ブルに足をかけた拍子に倒してしまった事に気がつく。行方を見失った掌がばつが悪そうに倒れた
カップを元に戻して、黙々と後片付けに没頭する。
「雑巾とか無いのか、なんか布よこせ」
「集めて飲むのか?」
「ふざけんな、馬鹿かテメエ。善意には誠意だろうが」
「判っているさ…、冗談だ」
ズボンのポケットから灰色のハンカチを取り出して、司祭が毀れた液体を拭いていく。BSは面
倒そうにティーセットを脇に寄せてから、義足の膝に頬杖を突いて目の前の作業を眺めていた。自
然に憮然とした視線同士が絡み合い、視線で第二の鍔迫り合いが始まりかける。
「……はぁ…、ただの運びの筈なのになんて苦労してるんだ俺は…クソッ…クソクソ…」
「ふぅ…、さっさと三つ目を話せ。組織がらみの仕事なのだろう?」
流石に不毛と感じたのか視線を反らし合う。ソファーに踏ん反り返るBSを尻目に、司祭は転倒
を免れていたポットから二つのカップに紅茶を注ぐ。促されて漸く表情を引き締め、今回の用件の
中で最重要の説明が始まった。
「組織からの指令は二つ、異常気象の調査と原因の排除だ」
「…異常気象の調査だと?」
司祭は怪訝そうに聞き返しながら、二杯目の茶を手前に進める。受け取る側は気持ち程度に唇を
つけると、直ぐに詳細を語りだした。
「異常気象ってのは、今この町にも降っている超季節外れの雪の事。六月の雨の変わりに町を埋め
尽くす白い悪魔の事さ。このまま都市機能が麻痺する程に雪が降り積もれば、組織の商売に影響が
出ると判断された。既に幾つかのルートで『薬』の流通が止まり、一部の馬鹿が横流しやら勝手な
行動やらを始めている」
「ああ…、もしかしてあのゴミたちはそういう手合いだったのかな…」
唐突な呟きに話の腰を折られ、サングラス越しの目が不機嫌そうに細められる。差し出された新
しい茶を一啜りして、溜息を吐きながら補足を加えた。
「そうでなきゃ後始末を組織がする筈もないだろう。まあ裏切りを画策した馬鹿達は既に『槍』と
『斧』…俺が処理する事になっている。槍の方は今も、真っ赤になって勢威掃除中だろうな」
「調査等は本来『本』の得意分野だろう。実働が中心の私に廻る仕事ではないと思われるが?」
大仰に肩を竦めて見せて、記憶の中の金色の髪をした優男の仕事ぶりを思い浮かべる。今頃全身
返り血で汚れ、泣きながら飴でも舐めている事だろう。脳裏に浮かんだ共通の思考に苦笑いして、
司祭は疑問を差し挟みBSはそれに面倒そうに応答する。
「あいつは少し厄介な事になっててな…。たぶんまだ動けないだろう。理由は聞くな、思い出した
だけで頭が痛くなる」
「うん…、何か機密に引っかかるのか?」
「そう言うもんじゃねぇ…。が、まあゆっくり話すことでもねぇな」
そんなに知りたけりゃ暇を見て話してやる――と続きを断ってから、カップの中身を一気に空け
火の点いていないタバコをまた大事そうに咥え直す。それに今はそんな事はどうでも良いのだ。
「とにかく俺達六人の内、手の空いてる即戦力はお前だけなんだよ。『本』は調査には向いてるが
原因の排除となると力不足だろうから、元々の適任でもお前だろうしな。俺も『槍』も忙しいし、
『屍』と『弓』は論外だ。残るは『神』の司祭様ただ一人というわけだ」
屍の単語の部分で、一瞬司祭の表情が不快そうに歪む。ティーカップを口に当て目を閉じながら
傾けて、気持ちを落ち着かせてから思い付きを口にする。胸中の蟠りを消そうと、自分と相手の気
持ちを関係の無い所へ向けさせる為に。
「『弓』は相変わらず行方不明か」
「……。あのボウフラは俺が必ず見つけ出して過去の清算させてやる。たまりにたまった大量のツ
ケと一緒にな!」
「そんなにアレが嫌いかね」
「借りた金を返さないで逃げる奴は悪魔だ!!」
唐突さに怪訝な顔を見せたが、直ぐに不機嫌さを噴出して声を張り上げる。それを見ながら司祭
は察しの良さに軽く感謝し。同時にお互いどうしようもなく嫌いな物はあるのだなと、三杯目のお
茶を注ぎいれながら感慨に耽っていた。
フゥ――と諦め気味に息を吐いてカップをソーサーに戻す。表情を引き締めて目を閉じ、聞いた
話を反芻しながら仕事内容について思案する。本来、司祭の仕事の多くは力任せの任務が多かった。
調査・潜入などは担当が違う上に、性格的にも得意とは言えない。何よりも興味が無い。
「フーム…、行きたくはないが断れもしないのだろうな」
「オーバーワークになるが、無理をすれば俺と槍でも対応できるだろう…。能力対応外の任務だ、
拒否権ももちろんある。…どうする?」
「……行き先の目星は?」
質問に質問を返して無駄な抵抗を続けてみる。とっくに腹積もりは決まっていたが、確認と楽し
みを兼ねて会話を続けたくなったのだ。ぴりぴりとした緊張と画策を嗜むのは、司祭にとって心地
良い物だった。それに、まだまだ見ていたいものもある。司祭の美的感覚を刺激する物…。
「天候の悪化が慢性的に続く地域は主に北部。首都プロンテラからミョルニール山脈に掛かり、発
生の原点は雪の町ルティエの付近だろうと推測された。俺個人の筋からの情報だから、信じても損
はないだろう。不備があれば血と金で購わせてやる」
「永遠の冬の町ルティエか…、年がら年中聖誕祭をしている敬虔なのか罰当たりなのか判らない町
だったな。さて…どうしたものか…」
「……」
「……」
三杯目の紅茶からは既に湯気も消え、カチカチと鳴り続ける置時計の鼓動のみが室内を支配する。
BSはもう寛ごうともせずに、じっと対峙者の反応を見守っていた。流石に答えを急かされ始めて
は楽しむ事も出来なくなり、両手を組んで反対からも相手の反応を見守り返す。先に焦れたのは、
やはり性格上BSの方だ。
「そろそろシンプルに答えて欲しいんだがな。お前の趣味の悪い楽しみに付き合うのも嫌いじゃな
いが、今は何より忙しい。槍にも指示が必要だし、俺の休憩ももう十分だ」
義足の足を軽く撫でて気持ちを落ち着け、何時の間にか緩んでいた精神を仕事時の冷たさに戻し
ていく。サングラスを指で押し上げて視線を強め、目の前の仮面の笑顔を睨み据える。視線を受け
る側はあくまでも涼しげに、また組んだ指の上に唇を乗せて微笑みを返す。
「ふっ、そうだな。何時までも私の個人的趣味の為に、返事を先延ばしにする訳にも行かないか。
いや、片足になってからも衰える事の無いその逞しい筋肉に見惚れてしまってね」
「そっちかよ!!!」
- 45神の人・前編7/12sage :2006/09/08(金) 23:59:35 ID:j67SbRI.
- 7
再びカートから斧が引き出され、殺意も露に唐竹割りに脳天へ振るわれる。唸りを上げて迫る刃
を二本の指が挟み、軽々と受け止めながら司祭の笑みが深くなった。
「はっはっはっ、緊張感のある悪巧みも楽しいがやはりこれに勝る見物は無い。連絡係に退いたと
は言え見事な隆起…、惚れ惚れする程の鍛え具合だな」
「うおおぉぉぉおおおお俺のことをそんな目で見ていやがったのか!!」
「嫌いじゃ