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【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第12巻【燃え】
- 1白い人sage :2006/01/09(月) 16:43:23 ID:DMByeGLg
- このスレは、萌えスレの書き込みから『電波キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』ではない萌えな自作小説の発表の場です。
リレー小説でも、万事OK。
・ 萌えだけでなく燃えも期待してまつ。
・ エロ小説は『【18歳未満進入禁止】みんなで作るRagnarok萌えるエロ小説スレ【エロエロ?】』におながいします。
・ 命の危機に遭遇しても良いが、主人公を殺すのはダメでつ
・ 感想は無いよりあった方が良いでつ。ちょっと思った事でも書いてくれると(・∀・)イイ!!
・ 文神を育てるのは読者でつ。建設的な否定を(;´Д`)人オナガイします。
▼リレールール
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リレー小説の場合、先に書き込んだ人のストーリーが原則優先なので、それに無理なく話を続かせること
・ イベント発生時には次の人がわかりやすいように
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※ 文神ではない読者各位様は、文神様各位が書きやすい環境を作るようにおながいします。
前スレ【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第11巻【燃え】
http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi/ROMoe/1130601019/l50
スレルール
・ 板内共通ルール(http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi/ROMoe/1063859424/2n)
▼リレー小説ルール追記----------------------------------------------------------------------
・ 命の危機に遭遇しても良いが、主人公を殺すのはダメでつ
・ リレーごとのローカルルールは、第一話を書いた人が決めてください。
(たとえば、行数限定リレーなどですね。)
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保管庫様
ttp://cgi.f38.aaacafe.ne.jp/~charlot/pukiwiki/pukiwiki.php
ttp://moo.ciao.jp/RO/hokan/top.html
- 2凍ってる人sage :2006/01/09(月) 23:45:23 ID:Ty6BfKek
- スレ立てお疲れ様です。
- 3名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2006/01/11(水) 14:04:29 ID:05xFcGhk
- 3get
スレ立て乙
- 4SIDE:A 動乱の王都sage :2006/01/14(土) 23:51:34 ID:xH2JDRng
- よーし、パパ空気も読まずに長編で新スレ最初を取っちゃうぞー。
http://f38.aaa.livedoor.jp/~charlot/pukiwiki/pukiwiki.php?%C4%B9%A1%CBDouble-Sides%2F%C6%B0%CD%F0%A4%CE%B2%A6%C5%D4
なお、以前にとあるモンクの偉い人には「どうキャラ使って書いてもいいよ!」とのありがたいお言葉を頂きましたが、
今回の中身に関してもなんら了解を得た物では無い事を読者諸兄にはお知らせしておきます。
モンクの人が実はまだオシリスとの決着を持ち越しているなどというのはこの作品の話です。
宜しければ番外編でその辺保管してくださいなどという図々しい意図が込められているとかいうのは
全然気のせいではありません。
前スレの新作長編ラッシュをようやく全部読みました。時々名無しで感想はさせてもらってますが、
コテつきではスルーしているご無礼をお許しくださいませ。
- 5名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2006/01/16(月) 00:28:48 ID:32VfeOAI
- >>4氏
不覚にもフデレリックの「悪魔が友情パゥワァだとぉ!!??」に笑ってしまいました。笑い所でなかったらすみません(・ω・`)
そしてやはりBOSSはこうでなくては、的な強さですね。素晴らしく燃えさせてもらいました。
この後のこじょ…げふんげふん、ミッドガルド放送局の動きに期待をよせてみる。
- 6花月の人sage :2006/01/17(火) 01:46:01 ID:fnjPI9Vc
- 今回は短めなのでオマケつき。
…しっかし、何処で路線を間違えたのか。
今回もシリアス全開です。
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花と月と貴女と僕18
生き物の焼ける酷い臭いが漂っている。
体中が酷く痛く目を開ければ真上に太陽がある。
それで、ロボは自分が地面に仰向けに倒れ、何秒かは判らないけれども気を失っていた事に気づいた。
手放していなかったツルギを杖に、よろめきながらも立ち上がる。
彼は遠くに陣取った敵と、塹壕から這い出してきている味方と。自らの傍ら──否、自らの前に立つ炭色の人形を見た。
男は、静かに墨色の人形──御堂だったものを前に瞑目する。
言葉は無い。悲しみなど不要の筈。感謝とて僅かにしなければならない。交わされた闘争こそが彼らの全て。
Ifの枝を広げれば彼とこの男は元々戦友でなければならぬ筈であり、今の状況はロボの異質性を端的に示していた。
しかし今は二人の男に共通の敵などある筈も無く。
彼は勝者として、そして騎士としての役割を果たさねばならない。
それが今彼に出来る唯一にして絶対だった。
軋む体を振り絞る。この戦で初めてその両手でツルギを握る。
──斬。
振るう刃は鈍く。
彼は落とした首を、ツルギを地面に突き立てて空けた両手で天に掲げる。
「兜首──」
表情は固く。言葉なぞ口にすれば折れた胸骨が痛む事ぐらい解りきっている。
今にも血を噴出しそうな口は、しかしそんなモノで勝者としての義務を汚す事を許さない。
男の姿に気づいたのだろうか、塹壕から疎らに声が上がる。
「討ち取ったり──!!」
──男の叫びにより、この戦の第二幕はここに開幕を告げる。
- 7花月の人sage :2006/01/17(火) 01:46:28 ID:fnjPI9Vc
- 新たに派手な武闘着の男が現れてから、互角とも言えた状況は一変していた。
前線の指揮官たるロボがそいつとの一騎打ちにもつれ込まされた結果、事実上まともな指揮官が不在の状態に陥っていたのである。
先程までとて、唯一多少の戦術知識があるあの少年と、それからクオが大まかな指示だけを飛ばしているという有様。
それも今となっては、ここからでも十分視認出来る程の閃光でかき消されてしまった。
黒服の男の生死は不明。殺しても死にそうに無い印象の男ではあったけれど。
全く予想外の事態だ。ギリギリで脱出していた前線からの伝令がほうほうの体で走りこんで来るまで夢にも思っていなかった。
そもそも、本来からすれば黒服の男の役割は錬度の足りない前衛の補助であり、前線の指揮官であった。
ミホは溜息を付きつつ、彼の言葉を反芻する。
いざと言うときには指揮を頼む、と。
──もしかしたら、こうなる事を薄々予感してたのかもしれないわね。
ミホは正直に白状してしまえば、こうした集団戦術の知識はまるで無かった。
だから、彼女とそれから村人達には黒服の立てた策を信頼するしかなかったし、それを無闇に乱さない程度には賢かった。
それにどんなにかあの黒服が強いのかは理解していたし、現に訓練時や王都での彼は複数人を相手にする事も多々あった。
だが、彼の言葉は的中してしまったのだ。
彼女の脳裏にはここまでの道中で黒服の男が戦ったという戦闘狂のぼんやりとした想像図が思い浮かぶ。
もしや、男はロボと闘う為だけにこの場所にやって来たのだろうか?
それは余りにヒロイックに過ぎる考えかもしれないが、
彼が一時撤退も叶わず釘付けにされていた時点で、ただ事ではない事だけは確かだった。
その上、あの大爆発だ。
それがロードオブバーミリオン、と呼ばれるものである事を彼女と村人達は教えられていた。
だからこその塹壕を幾重にも掘りぬいた陣地であるのだが、果たして何人が生き残っている事か。
前線で戦っているだろう彼ら、そして昔から顔も性格も良く知っている彼らそれぞれへの不安と心配で思わず眩暈を起しそうだった。
だが、ミホ達はミホ達で、儀式準備の為に全く余裕が無いのも確かだった。
月夜花の祭儀、とは一口に言っても実際のそれは魔導師達の魔術開発のそれに近い。
築かれた伽藍は方陣の外縁。禍無く整えられた調度、それから巫女の吟ずる嘆願が古びた女神を呼び覚ます。
要する悉くは酷く慎重さを必要とする作業であり、なおざりにしようものなら前線の奮戦は瞬く間に水泡と化す。
そして、今は眠り儀式に備える月夜花──否、ツクヤと呼ばれる少女の事を思った。
はっきりと、それは迷いであると自覚できた。
もしも、ロボがこの場にいて、かつ健在ならばこの時のミホの考え──戦場の真っ只中に迷いを持ち込む事を
口に出すか否かは別にしても一人の戦人として非難めいた感情を覚えただろう。
だが、彼女はツクヤと名づけられた月夜花の事を知らず儀式の為の道具ではなくて、一人の少女として考えるようになっていた。
ミホの記憶の中に打ち込まれた楔を鑑みれば。そして、結局は彼女もまた冒険者やロボや御堂やイノケンティウスの様ではなく、
極々ありふれた、それから数日前に最愛の妹を失ったと遅まきながら知ったばかりの一人の平凡な女性でしかなかった。
付け加えるならば、最愛の妹に他の村人達よりも高い優先順位を与える程度にはエゴイストだった。
だから、彼女はそれが卑しいとは知りながらも、そしてそもとても難しい事だとは理解しながらも
出来る事ならあの無垢な少女が少年の言葉の通り、彼と平凡ながらも幸せな日々を手に入れて欲しい、と思ったのだ。
彼女は自らの軽率さで盆の水を返してしまったから。
ある結論を言おう。
残念ながら、『月夜花』そのものになればツクヤと呼ばれた少女は少女で無くなる。
率直に言えば、『ツクヤ』が死んで『月夜花』が生まれる。
喩えて言えば海の水全てで器に溜まった僅かばかりの色水を押し流す様なものである。
それ程に『月夜花』や数多の魔王達『そのもの』とは強壮だ。
勿論、そんな事はミホとて知っている。だが、故にあの日少年がどもりながら口にした言葉を咎める事は出来なかった。
それは彼女がかつて抱いていた願いでもあったから。
別に自らを囲った因習と、それ故にツクヤと言う少女を知らぬ内に消そうとする村人を彼女が恨んでいた訳では無い。
この村は確かに彼女と言う一人の人間を形作るモノの一つであったし、それ故に遥かの望みは輝いて見えた。
ミホはかつて自らの妹と共にこの村を出る事を、否、全く新しい境遇に至る事を望んでいた。
平たく言えば、夢と呼ばれるモノがあった。
だが、出来る事と出来ない事がある。
結局それは叶わず、ツクヤと呼ばれた少女を消す作業を行いながらも身勝手な一縷の望みを少年に託している。
迷って。迷って迷って迷って。結局、思い切りが足りないのか、それとも今はまだ時間ではないかのどちらかだと思い。
ミホはどうしても、自らに課せられたロールを振り切る事が出来なかった。
『月夜花』を降ろす事と『ツクヤ』を行かせる事は結果として全く水平な天秤の上であり──中断。
今下すべき決断は、それでは無い。これは逃避である。
彼女は決断を迫られていた。
…まだ日は高く、執行が始まる宵までは遠い。
自分が居なければ進まない事項も多々あるが、それでも戦闘の混乱を放置したツケで全ての崩壊を招くわけにはいかない。
何しろ、自分は託されたし託したいのだ。
そして魔女の鍋底で、彼らはのた打ち回っているのだ。
不安げに自分を見つめている別の神祇に凛とした顔を向け、ミホは決断を下す。
「解りました。直ぐに向いますから、案内を」
儀礼的な巫女の服装の裾を手繰り上げて、彼女は走り出した。
坂道にさしかかり、泥や土ぼこりで汚れるのも構わずに急ぐ。
辿り着くまでは、全力で走って数分ほど掛かるだろうか。
──それが彼女にとってこれまでの人生で最も長い数分になるだろう事は間違いなかった。
もどかしい。胃がキリキリと痛んで吐き出しそうだ。
無意味だと解ってはいても、そう思わずには居られない。
それも、これはディナー、と言う形式で言えばまだ前菜の段階なのだ。
自分達が相手どった敵がどれだけ強大であるのかが良くわかる。
無理も無い話である。
聞け。そして恐れよ。神罰の代行者たる異端審問官の名を。
未だ世界の半ば以上が暗黒に閉ざされた過去より、彼女等の様な異端者を滅ぼし続けてきた王国最強の神の剣を。
彼らと真正面から敵対した悪魔達で生き残った者達の少なさとその恐れを知れ。
騎士団よりも聖堂騎士(クルセイダー)達よりも冒険者達よりも古くから異端と魔物を滅ぼし続けた。
故に、最強の剣。抜けば異端を斬らずにはおれない神の剣である。
「けどね、だからって負ける訳にはいかないじゃないの」
焼け焦げた戦場が近づいてくる。破綻の音が近づいてくる。
呟いた彼女の言葉は一体誰の為なのか、彼女自身、判然としなかった。
- 8花月の人sage :2006/01/17(火) 01:47:14 ID:fnjPI9Vc
- 御堂が死んだ。
老人は跨ったペコペコの上から彼方の戦場で、その首を掲げる黒服の姿を見てはっきりとそれを理解できた。
けれど、イノケンティウスは自分がまるで悲しんでいない事にも気づいていた。
当然だった。遠く勝鬨を上げる異端共を前に、しかし彼の心は揺るげない。
代わりに兜を被る。僅かに頭の奥底が疼いた。
戦場の臭いは目前にまで迫っている。
細い視界の向こうに、ほうほうの態でどうにか離脱する事の出来た傭兵達の姿が映っていた。
あのプリーストの娘──レティが駆け出してきて、何度も何度もヒールを唱えている。
娘の横顔は今にも泣き出しそうで、それでも彼女は優秀なプリーストであったのだろう。
流れる血に手を。突き刺さった矢を抜いた途端噴出す血しぶきに顔を染める。
目の前の傷つき、斃れた傭兵達を少しでも救おうと老人の部下達に──治癒を行える者だけではない、
少しでも手空きの者達に手伝えと怒鳴りながら、足りぬ人手で必死に動き回っている。
全員が助かる訳など無いのは明らかだった。
老人にとっては、そして教会にとっては傭兵など最初から捨て駒に過ぎない。
二束三文で命を売り渡し、好きで死地へと足を運ぶような連中なのだから。
だが。それでも誰も笑わない。連中を生かそうと足掻く娘を嘲笑ったりなど出来ない。
深く刻まれた傷の痛みに呻く者が居る。切り開かれた刀傷に、突き立った矢傷に脂汗を浮かべ耐える者がいる。
救われたある者は異端共を憎み、ある者は助からずに仲間の涙を受けながら逝く。
差し伸べられた手を握り締め、ありがとうと名前も知らぬ誰かに呟き、娘は何時しか涙を流す。
人としてあるべき姿とはそれなのだろう、とだけは老人にも理解できた。
「枢機卿──予想よりも抵抗が頑強でしたね。どうします?」
「敵の本陣目掛け一気に駆け抜ける。傭兵の生き残りは治療が終わった者から再編成したまえ。
傭兵達の被害も甚大とは言え──彼らは十分によくやってくれた。
見たまえ。騎兵突撃に邪魔極まりなかったモノは今やただの荒地だ。これなら予定を繰り上げても構うまいよ」
「しかし枢機卿。月夜花を降ろしてからの方が宜しいのでは?」
「問題は無い。敵の戦力は把握し削減し理解したのだ。
それに異端共にはアレを降ろさせるだけでよい。──解るだろう?」
「喉元に刃を向ければ彼らに拒否権は無い、ですか。了解。
こちらは先程の如き雑兵ではありませんし、唯一月夜花以外でマークすべき黒服の男は健在ながら戦力低下。
空虚な美酒に溺れる異端を積み上げて、夕の茜が理解出来ないぐらい──我々の意思を理解させてやるとしましょう」
「君がその様子なら他の者達の士気も十分なようだな。完璧だ、ネメシス君」
そこまで老人が静かに口にしたところで、ネメシスと呼ばれた神父が不意に顔を曇らせた。
「……枢機卿、申し訳ありませんが……いいですか?」
「何かね?」
言葉に、イノケンティウスは僅かに頷きながら答える。
「悲しくは、ないのですか?その……あの男、いえ御堂は──」
「私にも悲しむ事ができたのなら良かったのだろうな」
そして、何でもないことの様にその言葉を口にした。
面頬の下の表情すら、うかがい知れない老人の言葉に神父は言葉を詰まらせる。
老人の事を親爺、と呼んでいた男は死んだと言うのに。
ましてや、現状など口にするまでも無いのに。
憎むでもなく、嘆くでもなく、怒るでもない、凪の様な声はとてもとても静かで。
「す、枢機卿」
けれども。それが彼の隣で離していたネメシスにとっては、言い様も無いほどに恐ろしかった。
乾ききった喉に唾を飲み下す。
「だが、私は悲しめない」
イノケンティウスが口にした言葉は、一体只人からどれ程かけ離れていたのか。
凍て付かせている訳ではあるまい。そも、それは狂人か、邪法の奴隷か、さもなければ不幸のそれ。
無い、のだ。声に乗る筈の感情も何も。
人間性の欠落。人なる存在として片端。
それは一体どれ程の異常か。
異端審問官とは異端を狩る異端であると言う。
即ち──彼の目の前の老人は。
──そもそも彼とその同類がそんな孤独な存在である事は存在の定義からして決まりきっている事。
人では彼らの役目を負うには不十分。
それは例えば苦難、だとか。巨大な敵、だとか。或いは世界の危機、だとか。
だからこそ、転生を繰り返しながらも役割から外れない英雄(人でなし)が居ないといけない。
人ではあまりに弱くて、悩んでばかりで、躓いて苦しむ。
歩みは何処までも遅く、その生は短く、辿り着くべき場所は遥かに遠く異端外道には敵わない。
だから、今そこにある異端外道を狩るのは何時だってそこまで辿り着いたその同類共なのだ。
──中断。そこまではネメシスと言う神父は勿論、イノケンティウスと言う老人も知らぬ事実である。
ああ、けれども彼は悲しめないだけなのだ。
幾ら部下を大切に思おうと、様々苦心する事はあろうと、彼らに敬愛される事はあろうとも。
「今の内に君も用意したまえ。突撃には私も出陣する」
複雑な表情で彼を見る神父にも、傭兵達を生かそうと苦しむ娘にも目を向ける事無く、
乗騎の轡を引き控えていた部下達の方を向けて、静かに老人はそう言った。
next
- 9花月の人sage :2006/01/17(火) 02:00:54 ID:fnjPI9Vc
- ここからオマケ。
始まるに当たって注意点。
1つ、いろんな意味でパクリます。
2つ、ヤバめのネタ使います。
3つ、前スレ121さんのネタ採用です。
4つ、スレが凍り付いても俺は知らん!!
それではドゾー
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「勝負はついたぜ?寝とけばよかったのによ」
驚き半分、呆れ半分で呟いた御堂の目に再び炎の綾が灯る。
塵の様な無様を曝しておきながら、黒服の男の目からは未だ光が失われては居ない。
見れば、御堂とて無傷ではない。
顔面は焼けただれ見る影も無い。嵌めていた篭手も、爆風に殴られ屑鉄と見紛うばかり。
負った傷など既に数える気も起こらぬ程。
だが、発する鬼気だけは、断じて死人のそれではない。
真っ赤な体は血だけではない。
それは爆裂波動による強化の印。紫電が迸る程の気功。
もしも黒い男が人である前に騎士だと言うならば、彼も又、人である前に英雄である。
「なぁに、まださね。お互い、『奥の手』ってのはまだだろ?」
言葉と共に、男の構えたツルギが唐突に、まるで来訪する力に歓喜するが如く震え始めた。
誰が、彼が成そうとしているそれを知ろうか。
それこそは、男が呼ぶ騎士の無二たる剣。
風が巻く。風が巻く。名も無き剣の外装を吹きすさぶ烈風が剥ぎ取っていく──!!
名も無きツルギの下より現れたのは金に輝く大いなる剣。
定められたプロットも、己に与えられたロールも飛び越えて黒服の騎士はそれを執る。
即ち、『約束された(ry』(エクスカリ(ry))
余りにも有名なそれを内側に隠す為のツルギであったのだ。
勇壮なBGMをバックに彼は──
「──って作品違うぅぅぅぅぅ!!?」
「往くぞ、英雄。金剛の準備は十分か?」
「人の話を聞け!!そんな真似をしたら各方面から苦情間違い無しだろうが!!」
「メタな発言は止める事だ」
「それ以前だっつの!!」
応える御堂は慌てた顔で、全身を真っ赤に染めたまま世界に逆らう黒服を非難する。
されど、その程度華麗にスルー出来ぬならば、この黒服は黄死では無い。
何故だかセクシーコマンドーとか言うどこぞの魔技を思い起こさせる動き──例えば腰を高速で前後させるようなものや、
体を海老反らせた後、地面に刺したままのエク(ryの前で
ズボンのチャックを下げる様なもの──に御堂は知らず、「め、めそ…」と呟いていた。
対峙するものよ知れ。セクシーコマン(ryこそは正に世界を寝食する武術だと言う事を!
そして彼が手にする剣こそは放射能にも匹敵する危険物だと言うことを──!!
My name is a ROBO.(我が身は所詮紛い物)
──もう、いろんな意味で呆然とする男の前でロボ?は詠唱を開始。
御堂には全く理解できぬその構造を喩えるならば異界系。
サンプルの確保は反転。パロディとブロークンにて包み込みその癖を排除。
How are you? I am fine, thank you?(心は空虚で 誓いは唯一)
何故だか突っ込みを入れたい気分で一杯になるけれども、御堂には一体何から言うべきかすら解らなかった。
This is my strongest perforemace!(幾度の戦場を超えて不敗)
What time is now?(ただの一度も敗走は無く)
It is twelve oclock.(ただの一度も理解されない)
一方の黒服の男は本編そのままに牙を剥く。
Oh,I must have lunch.(かの者は常に独り 死人の丘で勝利に酔う)
This is the my strongest performance!!(故に、その生涯に意味は無く)
そして今現在これを書いている筆者だけはやっちまった感で一杯になっている。
彼のintは僅か一に違いあるまい。彼は麻薬をうってかわってしまったやうに。
なればこそ脳内麻薬もマキシマムな妄想に、ただ筆を進めていく──!!
Ahhh----unnnn excalipur!!(なれどその身は騎士だった)
「約束された(エクス)──」
黒が手にした金色が終わりを引き連れてやって来る。
じばく覚悟の一撃は、相対する者達へ微妙な感慨を送り込む。
おおバリアチェンジよ、最後の安楽を守護する者よ、この理不尽をいかんせん。
愚を案ずる太古の悲劇には似てもにつかぬこの愚かさよ。
状況的には、『お前を殺して俺も死ぬ!!』。
「笑利の剣!!(カリパー)」
ロボがそれを告げた瞬間、全てが消え去った。
何やら妙に豪華な音を立てて金色の剣が御堂の頭に激突する。
──過ぎ去る為に要した時間は、僅かに一瞬。
誰かがその間に、お前はしっかり英語を学んでおくべきだった、と呟いた。
1、と言う数字の幻視の後で全てが再び動き出す。
見れば、塹壕からも異端審問官の陣からもいたたまれない顔をした集団が二人をじっ、と見つめていた。
ごほん、と咳払いを一度。御堂は眼前の不届き者を成敗すべく、腰を落とした。
叫ぶ言葉は只一つ。生み出すは地上にて輝く光の塊。
彼は神罰の代行者。ならば眼前の黒を赦す理屈などありはしない。
ア シ ュ ラ ハ オ ウ ケン
「スレどころか板違いだっつーのこの黒馬鹿っ!!」
地より走る箒星が一つ。
遥か彼方に黒服のばか者は吹っ飛んでいった。
end
- 10名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2006/01/17(火) 11:45:08 ID:oJ/h14G2
- 馬鹿な。投げれば最強の武器なのに!w
- 11凍った心エピローグ(1/11)sage :2006/01/19(木) 01:06:10 ID:kD3S48DU
- ギィ─
そんな音と共にプロンテラ騎士団の一角にある部屋の扉が開かれる。
入ってきたのは赤い髪を持ち、騎士団指定の制服を着ている。
この部屋の、いや、プロンテラ騎士団の長、ミストラルである。
「おかえり〜、ミスト」
そしてミストに銀髪のプリーストが話しかける。
プロンテラ騎士団副団長兼プロンテラ教会治安部主任のルカである。
「で、どーだった?」
「強かったな、確かに。お前の情報が無ければきつかった」
「で、エリカどうしたのー?連れてきてないようだけども」
「死んだ」
「ん、了解、予想通りで書類作成楽でいいわー♪」
は淡々と事実を答え、女は書類作成が楽だと喜ぶ。
これは別に二人ともエリカが死んだということに何も感じていないわけではない。
単にルカがミストの性格を把握しているだけである。
ミストが『死んだ』と言えばその存在が死んだということであるし、『殺した』と言えば死刑を自分の手で執行したということである。
要は長い付き合い、ということだ。
そしてその通り、ルカは報告書にエリカの詳細を死亡、とする。
「で、事後処理は?」
報告書を書き終えたルカはミストに尋ねる。
「ああ、書置きを残しておいた、ゲフェンの魔術ギルドにも協力してくれるよう頼んだ」
「あんたねぇ…あの子が読み書きできなかったらどうするつもりだったのさ…」
「気にするな」
「このあほぉ!」
そう言うやいなや、ルカが後ろに置いておいたチェインを手にし、思いっきり振るう。
それを新しい書類に目を通しつつミストは避ける。
「それで次の仕事なんだが…」
「あーんーたーはーーー!ちっとは当たれえええ!!」
いつもの毎日がまた始まるプロンテラ騎士団であった。
──6ヵ月後
「はぁ…今日もまた逃げたペットの捜索…うぅ…私何の為にここで働いているんだろ…」
そう言い、騎士団の自分達の仕事場に戻ってくるルカ。
「文句言うな、減給するぞ。」
「うわああああああん、ミストの馬鹿ああああ…せめて捜索するのをバフォ子とかデビとか可愛いのにー…オークはいやなのー…」
そう悲しい声をあげる横では3匹のオークがハァハァと声を上げている。
「うう…新しい人がほしいよう」
そう言いながら、オーク達をペット専用宿舎に連れて行き、書類作成に取り掛かる。
ちなみにこの部署─騎士団長直属部隊─は入隊に条件がある為、志願しただけでは入れない。
その為、隊員はミストとルカ、二人だけなのである。
直属部隊と言ってもよっぽどのこと、例えばルカの件のように普通の部隊じゃ解決できないことがない限り基本は雑用である。
しかも直属なのでいろいろ団長が騎士団自体を担う為の雑務も多いわけである。
「ん〜…終わったぁ」
そう言い、ルカは万歳をするようにのびをする。
ひとつの書類がルカの目に留まる。
〜新人〜
それだけが表紙に書かれている。ミストが作成したことはそれで一目瞭然だった。まぁそもそも二人しかいないからルカでないならミストなわけだが。
別にこの書類はさっきのルカの愚痴を聞き入れたわけではない。
単に騎士団自体の新人、つまりは各ギルドで修練を積んだ者達の中の志願者が騎士団員として就職するわけである。
別に騎士団と言っても昔、まだ戦乱が激しかった頃の名残であり、今は国の警察・軍機構として機能している。
なので騎士だけではなく、アサシン、魔術師、プリースト等、広く受け入れている。
ただ当然犯罪歴があると入れないが。
そしてルカは特に仕事も無いのでいずれ後輩になるであろう名前を見ておくことにした。
今年は10職60名の新人がいるらしい、多いのはやはり騎士、基本的に正義の熱血漢が多いのだ。
その次に多いのがプリースト、こちらは元々プロンテラ教会に全員所属しているのだが、教会に治安の実権は無い。
それ故に正義感の強いプリースト達がより犯罪者を罰せる場所に身をおくのだ。
ルカ自身も元々はそれが理由でここに入った。
「で、私は何やってるんだろうなぁ…」
と呟きつつ書類に目を戻す。
「む…これ…」
そして、一人気になる名前がリストにあった。
「おーい、ルカー、ちょっとこれ見てくれ」
「あ、うん、今行くー」
しかしミストに呼ばれたのでその書類をその場においてミストのほうへ向かう。
そして、そのことは忘れてしまっていた。
- 12凍った心エピローグ(2/11)sage :2006/01/19(木) 01:06:51 ID:kD3S48DU
- ──1ヵ月後
プロンテラ騎士団、入団式の日。
場所はヴァルキリーレルムの噴水前、1000人近い騎士団員が一同に集っている。
最前列には各々のギルドの正式な制服を着た者達が緊張した面持ちで並んでいる。
総勢60人、全員各ギルドの規定従事年数を過ごし─特例を除き─、今日プロンテラ騎士団という職(?)に就く者たちだ。
彼らの後ろには既に団員の者達、約900人が各部隊毎に並んでいる。
そして彼らの前には二人、一人は赤髪の騎士、一人は銀髪のプリースト─ミストとルカがいた。
「それでは、プロンテラ騎士団、団章授与式を執り行います」
ルカが厳粛な声と共に告げる。
「騎士・ルイス=クラスト、前へ!」
「は、はっ!」
ルカが名前を告げ、呼ばれた騎士が前へと進み出る。
騎士の顔にはいかにも舌をかみましたというような後悔の念が表れている、ルカはその初々しさに少し笑いそうになってしまった。
そしてその騎士、ルイスがミストの前に跪く。
「汝、守りし物は」 「我が信念」
「汝、背負いし物は」 「友の背よ」
「汝、手にすべきは」 「護る剣」
「汝、護るべきは」 「正しき者よ」
「汝、ルイス=クラストに、護る力を与えよう、我等プロンテラ騎士団の名の下に!」
約1分半をかけてミストが問いかけ、ルイスが答える。
これはプロンテラ教会教典の騎士に関する記述の一部をなぞっているだけである。
12職全て問いかけが違い、答えも違う。
それが60人分、はっきり言って見てる者もやっている者もグダグダになる。
しかしミストもルカもそれを顔には出さずにそれぞれの担当職に団章を授与していく。
そして、1時間20分をかけ、最後の一人になった。
「魔術師・エリー=スノードロップ、前へ!」
「はい」
あまり大きくない返事、だが1ヶ月前の疑問はルカの中で確信に変わっていた。
そして列の中から小柄な、魔術師の正装を身につけた少女が出てくる。
真っ白な雪を連想させるような髪には鮮やかなオレンジ色のリボンが踊っている。
その頭のリボンはこのような儀式では異例の格好だろう。
しかし少女は悪びれた風もなく、今までの者同様にミストの前に跪く。
「汝、その身に秘めしは」 「友の思い」
──答えが違う─そんな声がルカに一瞬聞こえたような気がした。
が、流石にこの場を止めることなどミストにしかできない。しかし、ミストは続ける。
「汝、世界を知りて」 「我を知る」
そして、ミストの問いかけまでも変わる。列の後ろのほうでほんの少しどよめきが起こる。
新入団員達も固唾を呑んで見守っている。
「汝、自分を知りて」 「我、帰する場所を知る」
「汝、在る場所」 「友在りし」
「汝、エリー=スノードロップに、在りし場所を与えよう、我等プロンテラ騎士団の名の下に!」
まるで打ち合わせたかのような滑らかな問答、終わった後もその異様な状況に一瞬の静寂が訪れる。
そして少し遅れて盛大な拍手と友に60人の新団員はプロンテラ騎士団に迎えられた。
「えー、明日は、新入の方も古参の方も楽しみなイベント、部隊編成試験を行いまーーーす!
我こそは、と思う方、自分のアピールを考えておいてください!
ただし、団長直属の部隊に入りたい人は覚悟してくださいね!!」
ルカが拍手に負けないよう叫ぶ、それと共に各部隊で歓声があがる。
そうして、最後に一波乱を交えた入団式はその幕を閉じた。
「ふぅー…一時はどうなることかと、この馬鹿」
「あれは俺のせいじゃない。エリカ、いや、エリーに言え」
「あ、ん、た、も、台詞変えてたでしょーがー」
「しょうがない」
「な、に、が、しょうがないんだ、この…」
ルカがその手の物を振り上げようとしたその時。
「ルーカー」
横から声が飛ぶ。いつの間に入ってきたのかエリーが机に座って足をぶらぶらさせている。
「あぁっ、エリー!!久しぶり!!元気してた〜?」
「うん」
「それでそれで、どうしてたの?今まで、えーと、半年ちょい」
そう聞かれ、エリーは生き生きとした目をしながら話し出した。
ふとルカは、そのエリーが7ヶ月前とは別人だな、と思った。
- 13凍った心エピローグ(3/11)sage :2006/01/19(木) 01:07:31 ID:kD3S48DU
- ─────────────────────────
ゲフェンの街─
地下にある古代の遺跡を封じた塔を中心に発展した魔法の街。
紫を基調とした町並みは、そのほとんどに封魔術建材を使用している為、耐火・耐水・耐震性に優れる。
それ以外にも照明、動力、暖房、冷房、ほぼ全てのシェアがここに集まっている。
ミッドガルド王国屈指の歴史たる由縁だ。
その街の一角をエリーは歩いていた。
その風貌は秋のこの時期に全く似合っていない。
何故なら、真っ白なワンピース一枚なのだ。
更には真っ白な髪にオレンジ色のリボン、それはまるで冬を先取りした雪の精が舞い降りたかのよう。
少女は手に持った紙と周りを交互に見ては、トテトテと歩いていく。
その妙な風貌と美しい白とオレンジと紫のコントラストに地元の人間とそこを拠点としている冒険者達の目を引いた。
当然、ガラの悪い者達の目も。
そして、エリーが少し人気の無い場所まで来ると、数人のシーフがエリーに声をかける。
「お嬢さん、何処行くの?この先は胡散臭い魔術師ギルドしかないからさ、それより楽しいことしない?」
エリーは無視して歩いて行く。
「ちょ、ちょっと待て、シカトかよ」
「まぁ、そうキレるな、相手はガキだぜ?それにいざとなったら、コレ、な?ww」
そう言って宥める一人のシーフがキレかけたシーフに腰の物を見せる。
「あ、あぁそうだな」
そしてシーフ達はエリーを囲むようにエリーの進む道を塞ぐ。
「まぁまぁ、お嬢ちゃん、一緒に遊ぼうぜ?それとも、痛い目見てみる?w
まぁ痛いのは最初だけだけどなwwwwwwww」
そう卑しい声で言う、エリーは少しだけ不快感を顔に出し、
「どいて」
そう小さいがはっきりとした声で言う。
エリーの周りでは空気が少し渦巻いているがシーフ達は全く気づいていないようだ。
「おや、どいてだってー、どうするー?お前らww
とりあえずまぁどいてあげようか、楽しんだ後wwwww」
そんな風に下品に笑うシーフ達にむかって、エリーがその手を上げ…ようとした時、
エリーを中心に轟音が響き渡る。エリーは思わずその音に耳を塞ぎ、目を瞑る。
そして目を開けると、シーフ達は黒こげであり、手足を痙攣させて何か呻いている。
エリーは何が起こったか分からなかった、突然の轟音と共に自分の周りの者が黒こげで倒れているのだ。
「大丈夫?」
その声は、横から聞こえてきた。
その方向を見ると、ファー付の黒い外套、その内側には白くきわどいラインの服を纏っている女がその左手を掲げ、立っていた。
「全く、これだから男ってやつは…」
そのシーフ達を足蹴にしつつエリーの元へやってきて言う。
「そう思わない?可愛い魔法使いさん?」
そう言いつつエリーのほうにその薄い藍色の目を向け、ウィンクをしてくる。
エリーは少し驚いた。何がと言うと自分のことを魔法使いと呼ぶことを、だ。
あれだけ離れていながら、雪が降っていたならともかく、この快晴の状態で、空気の流れ、魔力の流れを読み取っていたことにではない。
そもそもエリーはまだ魔力の流れがどうだのということは全く知らない。
「誰…?」
「あら…聞いてないの?ミストから」
「ミスト…ミストラル?」
「そうそう、そいつがね、貴方に協力してくれ、だって」
「…?」
分からない、という顔をエリーは浮かべ、思いついたように懐にあった紙を差し出す。
「相変わらず汚い字…何々、この場所へ行け…」
その場所とはゲフェンの魔術ギルドの位置を示していた。
それだけである。それだけを頼りにエリーはルティエからはるばるここまで来たのだ。
まぁ道中はアルデバランで既に金額を払われていたカプラ職員が丁寧に送ってくれたのだが。
「ほんと…男ってのは…」
女は頭を抱える。そして、エリーに向かって微笑み、言う。
「それじゃ…行きましょうか、目的の魔術ギルドはあそこよ」
「ん」
そう返事し、一緒に魔術ギルドまで歩く。
その中には何人かの魔法使い候補生と受付嬢がいる。それと大きな、5mにはなるかという装置があった。
「お帰りなさいませ、ユリ様」
受付嬢がエリーの横に立つ女にペコリと頭を下げる。
「そうそう、申し送れたけど私、ここのマスターをしているユリ=クォート、よろしく」
「私…エリー。エリー=スノードロップ」
お互いに簡単な自己紹介を済ませる。
エリーはユリがここのマスターだということにそれ程驚いてはいなかった。何故なら、先ほどの一件のおかげだ。
「貴女は強くなれる。ただそのためには当分ここにいてもらうことになるけど、いいわね?」
エリーは無言で頷いた。
- 14ペットの人sage :2006/01/19(木) 01:07:42 ID:iSSHQhG2
- ども、1/20の座談会に楽しみにしています。出れるか不明なのですが(泣
------------------------------
「だからご主人様をいじめないで下さい。首をぎゅうってしたまま前後左右に激しく振らないで下さい。あぁぁそんな首が曲がらない筈の向きに、角度が、角度がっ」
瞳を潤ませ必死に訴えかける、健気なムナック。
その叫びもむなしく、INT ・ DEXの2極ウィザードが素手でvitクルセーダーを沈めるという、前代未聞の展開が発生する。
「五月蝿い。マスターは頑丈だから、首が60度くらい変な方向に稼動しても大丈夫なのだ」
「頑丈って物じゃないんですから。その、ご主人様は大きくてたくましいですけど、こんな首の向きはやっぱり不味いです、しかも60度以上変な方向です。ああ白目、白目です、ほら」
「ええぃ、それよりさっきから、ご主人様、ご主人様と、何処ぞのメイドみたいに呼びおって、その呼び方は辞めぬか」
「ご主人様はご主人様なんです。優しくて、格好良くて、大好きなご主人様なんです」
「……くっ」
自分では恥ずかしくて、決して言うことのできない台詞の数々。
それを連呼するムナックを前にして、サララは自分の歯止めが効かなくなっていると自覚する。
そう…自覚はしている。
けれども、押さえ切れない感情は加速を求める。
腹の底にゆらゆらと昇る、重油質な正体不明の気持ちが急き立てる。
段々と、段々と、自分でも解るくらいに感情が加速していく。
一歩も怯むな。
容赦など不要だ。
奪われてなるものか。
ついにサララは、ガルデンの発言の真偽とは関係無しに、無意味に力の篭った視線をムナックに投げ下ろした。
「いい加減にせぬか、何が大好きなご主人様だ、所詮は“スリコミ“ ではないか」
ああ、言ってしまった。
加速する感情の後の方で、比較的冷静だった部分が罪悪感を触媒に後悔する。
とたんその部分は冷たく、重く、暗く、震えだしている。
今頃になって、ここまでムナックを敵視するのは、嫉妬なのだと気が付いても遅い。
「スリ……コ…ミ? 」
「ああそうだスリコミだ。卵から孵化した生き物は、自分より大きく、動き、音を出す物を親だと認識するように出来ているのだ。たとえそれが、ゼンマイ仕掛けの玩具でもな」
「え、ぁぇ、…と、…うぇ」
目の前のムナックは、剥き出しの怯えを涙と一緒に瞳からあふれ出している。
なのに、サララの感情の一番先頭で熱く加速する部分は、止まってなどくれなかった。
ガチョウを使った生物学の実験を引き合いに出したり、キューペットサービスの技術的な講釈、孵化前の段階の声紋登録など、敵意と嫉妬で武装した理屈の刃を振り回してしまう。
……サララ自身がもう止めたいというのに。
容赦なく切り付けてくる言霊の群に、ムナックは俯き肩を細かく震わせ懸命に耐えている。
ただでさえ、目深に被った独特の帽子と顔の半分を覆う御札で、彼女の表情は判りづらい。
それが俯かれてしまっては、サララには窺い知ることはできない。まるで夜闇が満ちたガラスの森の向こうを探るみたいだ。
…恐い。
もしこれでムナックが泣き出したとして、サララは自分を止めることが出来るだろうか。感情の最後尾で萎縮している罪悪感が、この暴走を止めてくれるだろうか。
無理だ。
泣いている魔物を見た途端、過虐な理屈はその速度を増し目的を履き違え、何処にもない最後まで踏み込んでいく。自分がどれだけ嫌な女であるか周囲に撒き散らしながら。
嫌だ、誰かとめてくれ。お願い……助けて、お願い…
助けは直ぐ目の前から訪れた。
「黙れ貧乳オトコ女。ご主人様は守ってくれるって言ったんです。ご主人様は何処に行きたいか訊いてくれて、アルベルタって場所に海を見に行きたいって言ったら、コレが終ったら行こうって、言ってくれたんです」
ムナックは泣いていた。
大粒の涙を流していた。
けどそれ以上に、熱く、強く、怒りと決意を解き放っていた。その放たれた怒りと決意に、何故かサララの感情が後ろの方から解きほぐされていく。
「ひん……にゅ…う? 」
「ええそうです、貧乳です。10代前半の頃は発展途上と言訳できたかも知れませんが、その齢でそのサイズは、貧相この上ないんです。ロリ担当とかも不可能なんです」
ムナックは泣きながら、さら熱くガルデンへの想いを主張してくる。
物同然に扱われてもしょうがない魔物の自分に、ガルデンは人間みたいに接してくれる。だからスリコミなんかじゃない、自分はガルデンが大好きで、ご主人様と呼んでいるんだ。
ああ、解きほぐされた感情の先頭で、今まで世話しなく加速していた部分も、もう恐がることは無いのだとゆっくりと立ち止まってくれた。
サララが望んだ助けが来たのだ。
なんてことは無い。
目の前のムナックもまた、一人の人間と思えて、相手の気持ちが理解できれば恐くない。陰湿な敵意を抱く必要なんてない、と。
後にのこるのは、少々の気恥ずかしさと、陰湿じゃない競争心や対抗心だけだった。
「そちらがありすぎるのだろう。童顔のわりにそのサイズなんて反則だ。私よりある、というより巨乳過ぎる。どうせ服の下に外付け拡張だろうて」
「ふふ、残念でした。ご覧の通り私は拡張なんてしてません。貴方の負けなんです」
「な、羞恥心は無いのか。服をそんなふうに、はしたない。これは挑戦か、挑戦なのか、我ら微乳派にたいする宣戦布告か、あ?!いま微乳ではなくて貧乳の間違いだろ、とか思ったな、思ったであろう。ここ、ここの不必要な皮下脂肪の双丘がおもったのか?! それともその頂上の、ぷっくりとしたしこりが思ったって言うのか?!」
「きゃ、あぅぅ、ちょっと何をいきなり、ひっ、嫌です。ダメダメ、でも、にゃぅあ?、え、激しっん…。えぇい反撃です。小さい人は感度が高すぎるのが命取りっ、あぅぁ、も、もっ、あ、あゅ」
二人とも何故だか解らないが、何やら文章で表現してはイケナイやり取りが始まってしまった…………
- 15凍った心エピローグ(4/11)sage :2006/01/19(木) 01:10:20 ID:kD3S48DU
- 翌日はユリが直々にエリーの魔力の測定をした。
まずはじめに基礎魔力チェック、その次に魔力安定度チェック、更には潜在魔力チェック、魔法威力チェック、詠唱速度チェックと次々にこなしていく。
普通、一日にこれだけのチェック項目をこなすと修練を積んだ魔法使いでもへとへとになり、その晩の食事には手をつけられない程消耗する。
しかし、エリーは終わった後もケロッとしており、相当暇だったらしく、ユリに色々聞いていた。この街のこと、ユリ自身のこと。
その質問のお茶を濁す為にユリがゲフェンの街を案内して回るはめになった。
そしてその晩、テストの結果が出たと言うので、エリーは嬉々としてユリの部屋へ行った。
扉を開けると、ユリの他に4人、丸机を囲むように座っている。
「来たわね、まぁそこに座りなさい」
そうユリに促され、扉から一番近い席にエリーが座る。
「結果から言うわね。基礎魔力はA+、これは近年稀に見る数値ね。
次に潜在魔力、特Sクラス、伝説級の魔力、私もコレは敵わない。
その次、魔法威力、Sクラス、魔術ギルド全体で上位15位に入れるわ。
詠唱速度も申し分無い、A-。
…で、ここまで見るとほんとに申し分の無い才能。
ただ、一つだけ。魔力安定度が…ね、D。この意味、分かる?」
魔術ギルドの格付けには[L,特S,S+,S,S-,特A,A+,A,A-,B+,B,B-,C+,C,C-,D+,D,D-]の18段階で表される。
正確には86段階あるのだが、クラス分けや各期末ごとにあるテストの為にS〜Dで表示するだけだ。
この格付けはL─過去最高の能力を持った者の値─を基準として下向きに作った物である。
「これは、貴女がその類稀なる才能を、間違った方向に使ってしまう可能性も示唆しているの」
エリーの答えを待たず、ユリが静かに続きを告げる。
「私達、魔術ギルドでは優秀な魔術師を育成し、その力を正しいことに使わせる為の機関。
そして、貴女の力は凄く大きいの。貴女は、この力をどう抑えて、どう使う?そこを聞かせてほしいのだけれど」
静かに、そして淡々とエリーに向かって問いかける。
そして、エリーはそれに答える為、静かに顔を上げ、答える。
「私は…大きな力を持っています。
持ってるから…一人で…ずっと逃げてた。
それで…んと…傷つけた、色んな人」
部屋の空気が少し、修練を積んだ者でもその変化を感じるのは難しいくらいに、ほんの少しだけ重く、凍りつくような冷気を帯びる。
少し動揺するユリ以外の4人をユリが眼で制し、エリーに続きを促す。
「色んな人…傷つけて…ずっと…
でも…でも…ルカが、ミストラルが、来て、変われた。
一人が寂しいって…死ぬの…怖いって…
だから、私は…ルカみたいに…ミストラルみたいに…私…
だから…えっと…ん…」
「OKOK、分かったわ、合格」
軽くOKを出すユリ。目尻を潤ませていたエリーは目を少し見開いてユリを見つめる。
「ユリ様、しかし、この子は…」
「あんた達…今の聞いて分からなかった?とにかく責任は私が持つからこの子を明日からコースB-2受講ね」
「は、はぁ…」
何がユリに分かったのかが残り4人は分からないまま、渋々承諾する。
ちなみに、コースB-2は『☆らくらく魔力マスター☆〜これで君も魔法使い!〜』である。
「それじゃ、今日はお開き、エリー、明日からビシバシと講座があるから覚悟しといてね。当然指導員は私」
そう言ってニッコリと微笑むユリ。エリーはその微笑に笑顔で返し、他の4人はと言うと、目を伏せ、エリーのこれからを哀れむようでもあった。
魔術師ギルドの長、ユリ=クォートは鬼教官としてその名を各ギルドに轟かせている程の魔教官だ。
そして更にはここ数年間、ユリの目に適う生徒がいなかった為、ユリ自身ウズウズしているから、この訓練がどれ程厳しい物となるか想像もつかない。
4人はエリーのことを可哀想だと思うのだが、エリーを訓えられる者等ユリを除いていないのだ。
「がんばってな…」
「何とかなるから、頑張れ」
「まぁ…うん、これも運命だから…」
「諦めて…受け入れるの…」
四者四様の励ましを残し、ユリの部屋から去っていく4人。
そしてエリーもユリにおやすみ、とだけ言い、自分の部屋に戻って行った。
- 16凍った心エピローグ(5/11)sage :2006/01/19(木) 01:10:59 ID:kD3S48DU
- その翌日、エリーに対する講義は始まった。
「まずはじめに、魔法という物は魔力を媒体とし、空中や水中、土中に存在する精霊に呼びかけて発動してもらう物なの。
ここで大事なのは、自分で発動する物ではなく、発動してもらう物。つまりは精霊に呼びかけることが必要なわけですね。
そしてこの呼びかけが一般的に詠唱、と呼ばれる物。その詠唱は人によって違います。
何故かと言うとこれは私達一人一人が個人同士の付き合いにおいて、好き嫌いが生じるように、精霊との間にもそれは生じます。
つまり、精霊に呼びかけるにはそれぞれ自分にあった呼びかけでないと精霊は見向きもしてくれません。
精霊を呼びかけるにあたって、自分にあった言の葉、それは自分の頭の中に浮かんできます。
正確に言うと元々自然との調和を重んじた人間、それが───」
ユリの講義は図を使い、手書きの絵とテキストを使い、分かりやすく解説してくれる。
だが、初心者にはきつすぎる内容であるので、いくら分かりやすいとは言っても普通は情報の過流入で頭がパンクする。
この講義内容は昨日ユリの部屋にいた4人が聞いても疲れる内容だろう。大抵の魔術師は習うより慣れろで魔術を使いこなしているからだ。
だが、本物の才能はこの仕組みの真の理解によって開花するのが魔法の特徴だ。それを完璧に一つの流れと体得し、理解することでより自然と一体になり、魔法を発動しやすくなるからだ。
「──なので、えー、詠唱とは人に聞いてそれをなぞって言えば魔法が使えるわけではありません。
一部スクロール等は除外して、魔法というのは自分を知り、世界を知ること。この世の理を知ること。
そして知れば知るほど自然との結びつきが強くなり、自身の魔力は高まります。
そして、これから言うことは精霊達の手助けを得る上で──」
エリーはただ黙ってユリの講義を聞き、偶に聞かれたことを答え、自分の見解を示す。
知識の奔流をエリーは屈することなく聞き、取り入れていく。吸収力もエリーは並大抵ではなかった。
それというのも元々エリーは何も知らない状態で魔法を使っていた。
その為か、何となく今話されている内容は分かるのだ。
魔法を使う時、エリーは腕を振るう。それは一つの詠唱のような物だ。
空気の振動で精霊に呼びかけるのが詠唱であるとすれば、エリーの動作は精霊を指揮しているのだろう。
そうした仕組みを漠然と理解していたからここまで吸収力も高いのだ。
エリーはそうして講義をいくつもいくつもこなし、尋常でないペースで講義を進めていった。
この優等生っぷりにユリも満足そうで、鬼教官としての名にそぐわない程、穏やかな授業だったとたまに覗き見た生徒は口々に言った。
単に鬼教官にユリがなる理由というのはユリの講義に比べて生徒の頭がついていかないので、ついついきびしめになってしまうだけなのだ。
そうしてエリーは普通では4年かかる魔術師までの過程をわずか4ヶ月で終え、立派な魔術師と認定された。
─────────────────────────
「へぇ〜、エリー凄いね、あのユリの講義をそんなペースで…」
話し終わったエリーにそうこぼすルカ。
「ルカ、受けたことある?」
「うん、アレは一回体験授業受けてみたけどほんと、もう、頭から湯気が立ってたもん」
「わ、大変」
「そうそう、しかもさー、ユリってば分かってないと見るや否や凄い 丁 寧 に教えてくれるんだもん。」
丁寧、という言葉をかなり強調し、昔の思い出にひたるルカ。苦い表情がその時の丁寧さを物語っているのだろう。
「あとあと、色んなとこ行った…」
「あ、ギルド出た後って色んなところ見て回ったんだってね?どうだった?」
その後、夜遅くまでエリーの思い出話で盛り上がっていた。
イズルードからアルベルタまで初めて乗った船の話。
フェイヨンは緑の木ばっかりだったという話。
蟻地獄が凄い深くてびっくりしたという話。
モロクが凄く暑かったという話。
モロクで出会った双子の話──
「寝ちゃった、話し疲れたのかな」
そう言ってスヤスヤと寝息を立てているエリーに毛布をかぶせるルカ。
「さあな」
二人が盛り上がっていた横でずっと書類を読んでいたミストが応じる。
「何にせよ、今日は疲れたねぇ、明日も疲れるけど…」
「そうだな、早く寝ておけ」
「はーい、じゃ、おやすみー」
そう言ってルカはエリーを背負い、部屋を出て自分の家に戻る。
翌日にはこの部署にも新しい仲間が入るかもしれない。
もしかしたら背中で静かに寝ているエリーが、試験に合格して入ってくるかもしれない。
そんな新しい日常を想像して少し頬が緩むルカだった。
- 17凍った心エピローグ(6/11)sage :2006/01/19(木) 01:11:40 ID:kD3S48DU
- ─翌日
朝っぱらから鳴り響くブラストマインの爆発音、その音と共に司会進行のルカの声がプロンテラ演習場─プロンテラPvエリア─に響き渡る
「えー、みなさあーん、今日はこれから一年、自分の行く先を決める大事な日!
隠し芸をする皆さん、ちゃーんとネタは仕込みましたか?
演奏をする皆さん、楽譜は頭の中に叩き込みましたか?
競技に出場する皆さん、体は暖まっていますか?
そして、戦闘競技に参加する皆さん、武器・防具の手入れはすみましたか?」
「「「おおおおおおおおーーーーーー!!!」」」
色んな位置で歓声があがる。新入団員はその異様な雰囲気にびっくりする者、ノる者、無関心な者に分かれた。
こんな異様な雰囲気になるのも、今日と言う日が騎士団員にとって特別な日だからである。
入りたい部隊を指名し、そこの隊長が指定するアピールをこなし、隊長以下5名が審査をするというPE方式。これは、不合格の場合は他の部隊も勧誘可能である。
例えば第一音楽隊、ここに入るには一流の楽団に劣らない管楽器のセンスが必要だ。
または、競技をこなし、その上位に入賞することをアピールとして、部隊に指名してもらうことができるというGI方式。
これは新入、古参、男女、年齢、階級に関係なく参加でき、一種のお祭りだ。
PE方式の指名した以外の部隊の勧誘、及びGI方式の指名に関してはその部隊に入るのを拒否することもできる。
なので部隊長などはGI方式に遊び半分に参加する者が多い。
「それでは、まずはPEから参りましょう。それでは最初の方、どうそ!」
─4時間後
「えー、GIも終わり、いよいよ最後の、そして今日のメインイベントの出番です。
それでは我等が団長、ミストラルから説明をしてもらいましょう。どうぞ!」
そう言って横に立っているミストラルに振るルカ。
「去年以前に体験した者はもう分かってると思う。
が、一応新入の為にルールを言っておく。
俺かルカ、その二人のどちらかを選んで1対1で戦ってもらう。
俺達のどちらかがKOする前に一撃でも入れたら合格だ。
スキルは自由、回復剤も使いたければ使え。使える暇があるなら、だがな。
尚、職によって格差を少なくする為に魔法職は5回魔法を使うまでこちらは攻撃をしない。
ただし、広範囲魔法、つまりストームガストやメテオストーム、ロードオブヴァーミリオンは当たってもカウントされない。
支援職に関しては打撃系の場合は措置無し。支援系に関してはある一定時間耐え切れたらそれで合格とする。
ちなみに、一撃入れるだけじゃなく返り討ちにした場合、そいつが新しい団長となる。以上だ」
「はい、ありがとうございましたー。それでは開始したいと思います。
参加希望者は武器屋前に整理番号のクジを用意したので一人ずつ、押しあわないようにして引いてくださいね」
そしてすぐに武器屋前は腕に自身のある新人、古参、各部隊長等でごった返す。
参加者は、新人50人、他古参、部隊長等合計112人、総計162人である。当然エリーもその中にいる。
次々に参加者はクジを引いていき、その順番を確定していく。
一番手は新人の騎士であり、知り合いだろう同じく新人に自慢していた。そしてその光景を古参達は同情するような目で見ていた。
ちなみにエリーは113番目となった。
「えー、それでは順番も出揃ったことですし、ちゃっちゃとはじめましょう。
めでたく一番を引き当てたのは、えー、なんと新人の方です。それでは、イクス=ローレンス君、前へどうぞ!」
噴水周りには戦闘から観客席を守る為に魔術柵が敷かれている。そして噴水前にはルカとミストラル、そして一番手だという新人のイクスがいた。
「それでは、どちらと戦いたいですか?今のお気持ちはー、DOCCHI!?」
何処かで聞いたような台詞で聞くルカ。
「えー…じゃあ…ルカさんで…」
「いきなり私かよ、ひどいー、ということでミストはとっとと退避しといてね。それではいきましょう。レディー、GO!!」
「え、ちょま」
いきなり開始を宣告され、イクスがうろたえる、が先制の一撃は来ない。
そればかりかルカはチェインをその左手にだらりと下げ、盾も構えずに、
「んー、えーと、イクス君だっけ、どうぞお先に」
その天使のような微笑を浮かべて、侮辱ともとられかねないことを言う。
しかし、イクスは切り込まない。その言葉の裏にどんな罠があるとも分からないからだ。
別にルカからしたらそんなつもりは無い。ただ単に実力を見たかっただけであるのだが…。
そしてジリジリとイクスは間合いを詰める、がある一点で止まり、それ以上進もうとしない。
「むー、慎重すぎると思う。そっちからこないならこっちから、いい?」
そう言った瞬間、イクスの答えを待たずにルカは飛ぶ。
「な!?」
イクスの視界から一瞬でルカは消え、既に後ろに回っている。
「ほらほら、後ろにも気を配らないと、ね」
観客からしてみたらイクスに軽くチェインを振るっただけ。なのだが…
コ゛ッ
そんな鈍い音と共にイクスの体は噴水から遥かに離れた柵にたたきつけられている。
「が…はっ…げほっ…」
「むー、手加減はできないから、ゴメンね」
いつの間に移動したのか吹っ飛ばしたはずの張本人が倒れているイクスの傍でチェインを後手に右手でゴメンのポーズをしている。
「それじゃ、おやすみ」
チェインを振り下ろす。それが命中し、イクスは気絶した。
「えー、第一試合、私の勝ちぃ!」
と、司会の役目も忘れていないルカ。その声と共に静かだった会場から大音量の拍手と口笛が響き渡った。
「えー、次の方は─
- 18凍った心エピローグ(7/11)sage :2006/01/19(木) 01:13:36 ID:kD3S48DU
- そうして試合が進んでいく。その圧倒的な試合を見る度に棄権をする新人の数が増えていく。
古参の者は既に覚悟していたらしく、棄権者はいない。しかし、合格者も全くいない。
ある者はミストラルに槍であしらわれ、ある者はルカにボコボコにされた。
そのほとんどが開始30秒以内に終わらされ、残りの者も1分以内には勝敗が決している。
そして整理番号は112まで終わり、次は113、エリーである。
「それでーは、私もそろそろ疲れてきましたが、まだまだ出場者は残っています。
今回入団した中で最年少、なんと若干15歳の女の子の登場です。エリー=スノードロップさーん、前へどうぞ」
そしてその紹介と共にエリーが噴水にむかう。
会場がどよめく。最年少ということと、昨日の一件のことである。
既に根も葉もない噂─ミストラルかルカのどちらかとエリーは血縁なのではないか、とか国王の隠し子だからあんな年で魔術師なのだ、とか─が多少流れていたせいでもある。
「えー、それではエリー、どっちと戦う?」
「ミスト」
微妙にエリーもルカも親しげな口調なのもその噂を後押ししているわけだが。
「はい、じゃあ私は観戦席にお邪魔して、さてさて、それでは、レディー、GO!!」
その開始の合図と共に二人とも飛びのき、20mくらい離れ対峙する。
「ミスト、本気で」
「じゃないと…団長の座を奪われそうだな」
そう言い、ミストラルは槍と盾を柵の後ろに投げ捨てる。
それが観客席を更にどよめかせる。今まで部隊長等を全く物ともしなかったミストラル本気を出すと言う。しかも少女相手に。
観客席はシンとなり、その場に紡がれるミストラルの言の葉。
─我が血肉、注ぎて生まれし者があり。祖の心、産まれて何を想うのか。想いは護りの力となる故に、我、祖の力を導かん──
その言の葉と共に表れる黒い刀身。その美しさに観客の誰もが見とれ、言葉を失う。
そしてミストラルはその剣を握り締め、構える。
エリーはカッツヴァルゲルの表れる様子を懐かしそうな目で見つめ、そして腕を広げる。
両者、その構えのまま凍りついたように動かず、相手の様子を伺っている。
観客も息を飲んでその様子を見守り、どちらが先に動くかをほとんど瞬きせずに凝視していた。
- 19凍った心エピローグ(8/11)sage :2006/01/19(木) 01:14:09 ID:kD3S48DU
- 今回も火蓋を切ったのはエリーのほうだ。
腕を振り上げ、言葉を紡ぐ。
─我奏でるは輪舞曲。舞うは凍てつく氷柱なり──
その言葉と腕の動きにあわせ、氷柱がミストラルの周りを荒れ狂う。
コールドボルトの変形版、とでも言えばいいだろうか、いくつもの氷柱がミストラルを四方八方から狙う。
つい7ヶ月前、ルティエの時とは比べ物にならない大きさ、鋭さを持った氷柱である。
が、ミストラルはことごとく避け、起動を逸らし、切り落としてそれを防ぐ。
そしてそれに間髪入れずに詠唱を続けるエリー。
─我奏でるは輪舞曲。舞うは深淵なる雷なり──
今度は雷の玉が一つ。
ユピテルサンダー、なのだがエリーの潜在魔力のせいで極端にその直径が大きい。
それがミストラルに向けて凄まじい速度で飛び迫る。
その球体を横っ飛びをし、更にカッツヴァルゲルを棒高跳びのように地面に刺し、それを利用し更に横に飛ぶ。
雷の弾は噴水に直撃し、莫大なエネルギーの塊を受けた噴水は耐え切れずに砕け散った。
「むー…」
不満そうな顔のエリー、それはそうだろう。普通はかわせないのをミストラルは思いもよらない回避方法で切り抜けるのだから。
「どうした、こないならこっちからも行くぞ」
そう言って姿を消す。と言っても実際には消えているわけではないがアサシン顔負けの速度で移動し、エリーの死角に常に位置取っているだけのことだ。
エリーは周りをキョロキョロとし、ミストラルを探す。
しかし見つけられないと悟るとすぐに次の動作に移る。
─我奏でるは綺想曲。飛び回るは氷の刃。全てを凍らせる氷の刃。我が前にて荒れ狂いたまえ──
詠唱の完了と共にエリーを中心に吹雪が起こる。ストームガストだろう。別にエリーはルールを忘れて出したわけではない。
その吹雪は範囲内の障害物に当たる。そう、いくら速く動いてもコレが当たればその場所が分かる。
おまけにその吹雪の中に入り、あまりにも速く動きすぎると体が切り刻まれるオマケつきだ。
そして、エリーの右手6mの辺りで雪がはじかれる。
エリーはその方向を見ずに右手を振るう。
吹雪の中、先ほどよりは小さいが鋭く、当たれば大怪我はするだろう氷柱が10本形成され、飛んでいく。
そして飛んでいった氷柱は、その雪がはじかれていた所に殺到し、対象を貫く。
ミストラルの"マント"を。
エリーはそれを見た瞬間、いや、見る前に予知とも言えるような直感でその場を飛び退く。
その瞬間、エリーのいた場所の真上から黒い剣が落下してきて、地面に突き刺さる。
「っ!?」
飛び退いたエリーはそれを見て、すぐさま手を自分に当てて魔力の障壁を作る。障壁と言っても衝撃を軽減する程度の物だが。
そしてその直後、エリーの鳩尾にミストラルの拳が深く突き入れられる。
エリーは倒れず、すぐさま飛び退く。だが、ダメージが無いわけではない。
「げほっ、げほっ…うー…」
咳き込み、恨めしそうな目でミストラルを見るエリー。
「どうした、周りに雪が無いと何も出来ないのか?」
「そんなこと…」
「じゃあやってみせろ」
そう言い、ミストラルは先ほどまで吹雪が吹き荒れていた中心に飛び、自分の剣を抜き、またエリーの死角に潜り込む。
「むー」
エリーは不満そうな声を上げ、考える。勝つ方法を。
──ミストラルは思いもよらない方法でこちらの攻撃をかいくぐり、反撃してくる。
それならばどうすれば勝てるのだろう。接近戦に持ち込まれたら勝てない。それは当然。
何故ならこちらの攻撃は詠唱を基本とする。いくら威力が高くても詠唱出来なければ発動さえしない。
避けつつ詠唱できれば発動はするだろうがそれも望みは薄い。ミストラルの攻撃をそれほど避け続けれるとは思えない。
万が一避けきって、詠唱を完了したとしてもその発動した魔法は当たらないだろう。それは既に7ヶ月前体験したから。
と、なると、んー…
- 20凍った心エピローグ(9/11)sage :2006/01/19(木) 01:14:42 ID:kD3S48DU
- ヒュッ
振られる剣、それをエリーは体を左足を中心に回転させるようにしてかわす。
すぐに右足を地に下ろし、今度は右足を軸にして回転、それによって追撃の肘打ちをかわす。
右手を反射的に振り上げると、氷の柱が地面から突き出て二人の間に壁となる。その氷の壁がそれ以上のミストラルからの追撃を防ぐ。
──こんな壁すぐに壊されるか融けるか、どっちでもほんの時間稼ぎにしかならない。
ミストラルに勝つ為には生半可な攻撃じゃダメ…。
訂正、勝つ必要は無いのだ。一撃を入れる。それで勝ち。
一撃、それを入れるのが難しい。
魔法は軽く避けられ、砕かれ、逸らされる。
詠唱の長い物は唱える暇なんてないから…。
一撃…一撃…んー…
ヒュオッ
頭をめがけて振られる黒い剣。
それを上半身を仰け反らせてかわす。そして次の瞬間、その剣が一回転して足を狙ってくる。
エリーは少し足に力をこめ、足を地面から離す。刃はその足スレスレを通過していき、もう一回転してこようとする。
エリーはほとんど頭から落ちるような状況から手を地面につけ、ミストラルのほうへ腕の力だけで飛ぶ。
ミストラルの懐に飛び込んだエリーは振られてきた剣の鍔よりも内側に入り、その体でミストラルの腕を受け、その衝撃を利用し離脱する。
ミストラルはすぐに反撃を警戒し、飛び退く。エリーはすばやく体勢立て直し、詠唱を始める。
─我奏でるは協奏曲。氷、雷、土、その和音複雑となりて我が前の敵を打ち払え──
細かい雪の飛礫、小さな落雷、地面の隆起によりミストラルの動きを制限するような細かい魔法である。
先ほどまでと比べたら威力は低いだろうがそれでもまともに当たればただではすまない。
その雪・雷・地の力の流れをミストラルは全て避け、少しずつだがエリーに近づいていく。
まるで誘導でもされるようにゆっくりと。
ミストラルは近づきながらも違和感を覚えている。この攻撃はおかしい、と。
──この濁流は当てようとしてはいるものの、逃げ道があるのだ。それがおかしい。
今までの攻撃は逃げ道を作らなければ無理だろう状況だった。
しかしこの攻撃は明らかに逃げ道がある、いや、用意されていると言うのが正しいだろう。
それならば新しい逃げ道を作れば、いや、それはダメだ。
この濁流は全てが小さな粒子で構成されているから氷柱等とは違い切ることも逸らすこともままならない。
かと言って逃げるのは無しだ。逃げ道がある方向の力をよりその他の方向の逃げ道を塞ぐことに使っているのだろう。
どんなに剣を使い、その刀身を利用して逃げても二、三撃は貰うだろう。そしてこの魔法は範囲が半径8m程、ヘブンズドライブが6m程度、ストームガストが12m程度。
審査員はおそらくこれを広範囲魔法と認定しないだろう。つまりコレを喰らったらそれで負けなのだ。試合においては勝てるかもしれないが勝負に負けることになる。
今必要なのは確実に避けること。肉を切って骨を断つことじゃない。
だとしたら今はこの逃げ道に従って避けていくしかないだろう。
この先にはどんな罠が待っていることやら…。
雪のような氷の刃が舞い、その合間を縫うように雷が荒れ狂う。そしてその足元は泥沼と化している。
ミストラル目掛けて雷が迸り、それを剣の刀身で地面に受け流す。
舞う氷は不規則にその軌道を変え、ミストラルに迫る。
それを泥にまみれるのもかまわず前転の要領でかわす。
既にエリーとミストラルの距離は3m程しかない。
そしてミストラルが次の回避動作に移ろうとした瞬間、変化は起きた。
- 21凍った心エピローグ(10/11)sage :2006/01/19(木) 01:15:17 ID:kD3S48DU
- ─────────────────────────
──思いついた。うん、これなら。
んー…何がいいかな…ガストダメだし…んー…
ん、そうだ、ガストとボルト、クァで、うんうん。
エリーは心の中で呟きつつ、ミストラルの攻撃を紙一重で避ける。
そしてその必要な詠唱を頭の中で組み立て、それを腕を振りつつ、口でそのまま発音させる。
─我奏でるは協奏曲。氷、雷、土、その和音複雑となりて我が前の敵を打ち払え──
その言の葉と共に集まる冷気、空気が擦れあい発する雷、噴水の残骸より覗く地面から水の様に湧き出る土砂。
それらがミストラルを中心として凝縮し、雪と雷が絡み合い、地面は融けた雪と泥で泥沼になった。
決して範囲が広がらないように慎重に一部を除いて隙間を埋め、ミストラルの周りを囲む。
ミストラルは当たり前のように残した隙間に逃げ込む。
それはつまり、この後のエリーの罠も予想していることだろう。
エリーにとってそこまでは予想通りなのだが、何処までの攻撃を予想しているかが勝敗の鍵となる。
そしてミストラルが少しずつ、少しずつ近づいてくる。既に距離は5m程度だろうか。
ある程度その場の空気をかき混ぜ、雪、雷がもう少しの間飛び交うようにする。
そして新たな言の葉を紡ぎ出す。
─我奏でるは小夜曲。甘い響きは氷の誘い。凍てつく夜の、恋の唄。美しく、暖かく、やわらかいその音色は珠なりて。我が敵を押しつぶせ──
それは7ヶ月前の最後にエリーが、いや、エリカが放った技であった。
雪がミストラルの周りを回転し、美しい"珠"と化す。
ミストラルはその"珠"の攻略法を既に知っている。"珠"が出来上がり、間髪いれずにミストラルのボウリングバッシュが放たれる。
それと共に"珠"に亀裂が入り、割れた。そして、ミストラルがその剣を構え、エリーに向かって跳躍しようとしたその瞬間。
割れたはずの"珠"の破片が回転の勢いを失わず、再び連結をはじめ、廻りはじめる。
再びミストラルはその"珠"に向かってボウリングバッシュを撃ち込むと、また四散し、ほんの少ししてまた"珠"の形を作り始める。
「く…」
初めてミストラルの声に焦りの色が混じる。それもそのはずだ、7ヶ月前の欠陥がもう今は無い、つまり新たな打開策を限られた時間で思いつかねばならないのだ。
そしてその打開策をたてるべく、頭をフル回転させ考える。
──これは7ヶ月前と同じ技か?いや、違う技と考えたほうがいいだろう。
何しろあのユリの元で学んだのだ、きっとユリもこれにアドバイスし、更に改良が加わっているのだろう。
それならば、どうすれば破れる?どうすればこの状況を打破できる?
ボーリングバッシュは一瞬珠を四散させるが、その後すぐに戻ってきてしまう。
となると何だ、大人しく負けるのを待つのか?いや、それはありえない。
しかしどうする、どうすればいい?考えろ、考えれば何とかなる。
落ち着け、心を落ち着けろ。この"珠"の迫る速度は遅い。そうだ、落ち着け。
しかし持っている技でこの状況を切り抜けられるとは思えない。
バッシュでは雪は切れない。マグナムブレイクで融かすことはできるだろうが多くの熱量が自分に返ってくるだろう。
そんなことになったら最悪の場合自爆だ。
かと言ってボウリングバッシュをしてもすぐに戻ってくるだけ…戻ってくる?
一つの疑問が心に浮かび、それを試すべく今一度剣を構え、ボウリングバッシュを放つ。
"珠"が四散し、エリーの姿が一瞬見える。珠が戻る前に横に跳躍する。周りから見たら戻ってくる"珠"から逃れようという行動に見えることだろう。
しかし、それは意味が無く、"珠"は再びミストラルを中心に廻り始める。
──やっぱり…これは俺を中心に廻る。つまりは吹っ飛ばした一瞬ならば何処へでも移動できる。
と、いうことはだ。
もう一回、ボウリングバッシュ。四散する"珠"。観客の目にはそれが最後の足掻きに見えることだろう。
"珠"が四散し、エリーの姿をミストラルが見た瞬間、ミストラルは飛んでいた。
エリーにミストラルが肉薄し、その剣を振るう。
エリーはその斬撃を体を捻ってかわし、飛び退こうとして気づく。
既に"珠"が閉じている。エリーはこちらを観念した様子で見上げ、言う。
「むー…はやく、終わらせよ」
ひざをつき、腕をダランと下ろす。
「そうだな…」
ミストラルはそう言い、剣を振る。その瞬間、血が滴り落ちる。
- 22凍った心エピローグ(11/11)sage :2006/01/19(木) 01:15:33 ID:kD3S48DU
- ミストラルの剣はエリーを切り、その血で刀身を赤く濡らしている。
また、エリーの手も血で濡れている。そして、エリーの手の先には短剣のような物、氷で作ったナイフが握られてた。
「な…」
「わーい…せいこ…う」
そして微かに笑いながらエリーは倒れ、周りを廻っていた"珠"もその勢いを失う。
その雪が全て落ち、観客からも結果がはっきりした。
「え…あ、えーと…ミスト、喰らってる?」
ルカは恐る恐る聞いてみる。
「あぁ、最後に一発貰った。俺の負けだ」
そう、エリーは最後の最後、自分が近距離では何もできないという先入観を利用し、瞬時に氷のナイフを作ってミストの腕に刺したのである。
「な、な、なんとおおおお、最年少魔術師、エリー=スノードロップ、合格です!!」
そう叫ぶルカ、会場は激しい剣と魔法の応酬で静まり返っていたが、その声ではっとしたように大歓声、大拍手の嵐。
「あ、と、その前に、衛生部隊いいいい、ひーるー、ひーるーーーー!」
更に叫ぶルカ、すぐに医療部隊がやってきて、処置をする。いくらPvマップで加護を受けているとは言え、怪我は怪我だ。放っておくと死にはしない物の後遺症が残ることがある。
その凄まじい戦闘に残りの新人は戦意を喪失し、残った古参達も自身を失い、果敢に挑戦はするが、すぐに負傷したミストや何故か機嫌の悪くなったルカに負けていった。
そして、全ての挑戦者が終わった後、結果発表という名の部隊編成が発表された。
「えー、第一徒歩騎士部隊合格者───」
「─最後に、騎士団長直属部隊、編成はミストラルが隊長、副隊長が私、ルカ、そして新たな仲間がエリー=スノードロップとなります。
以上で、本日の日程の全てを終わります。お疲れ様でした!各自部隊長の指示に従い、解散!」
そう言い、各々の部隊に集まり、帰っていく。
肩を借りて帰るもの、急いで帰るもの、駄弁りながら帰るもの、それらを見ながらルカは複雑な気分だった。
エリーが部隊に入ってくれるのは嬉しい。いろんなことを話したいし、色々聞きたい。
しかし、一方で、これからはミストラルと二人きりじゃなくなるのだなぁ、という微かな寂しさがあった。
ついでに、エリーのラストネームのスノードロップ、花言葉は確か『希望』
それと、もう一つ。『初恋のまなざし』
「まさか…ねぇ…」
根拠も無しに不安になる。寂しくなる。そしてルカは思う。自分は嫌なやつだな、と。
─────────────────────────
翌日から、騎士団長直属部隊の部屋の人口密度が上がった。
エリーが正式に配属されたのだ。
「ルカー」
「ん?なーにー、エリー。何か困ったことでもある?」
「ん、お話しよ」
「そうねー、じゃあ何はなそっか」
「お前ら、働かないと給料はやらないからな?」
「「むー…」」
そして、賑やかさも一段と上がった。
「あ、そうだ、エリー、これからも改めてよろしくね」
「ん」
素っ気無い挨拶。しかしこれがエリーの心を開いている証拠なのだとルカは思った。
そしてまた違うことも思う。別にこの子がミストを好きなのだとしても、私は私、エリーはエリーなのだと。
そもそも、エリーに恋をしろと言ったのは自分なのだし。
そう思い、ポジティブに考えることにしたルカであった。
「あぁ、そうだルカ、この書類見てくれ」
「はーい、ちょいまって」
そうして、今日も今日とて新しく、変わらない毎日が始まるのだった。
- 23ペットの人sage :2006/01/19(木) 01:27:14 ID:iSSHQhG2
- Ragnarok Online SideStory「ペットイーター 〜路地裏の捕食者〜」
数分後なんとか蘇生したガルデンにより、彼女たちの暴走は取り押さえられた。
二人とも、衣服が乱れ、所々に引っかき傷があったりと、ひどいありさまだ。
それでも、勝敗というものが決まりかけていたらしい。
被害状況が幾分軽いサララに対して、ムナックは息も絶え絶えに路面に横倒しに伏している。
なぜか彼女の吐息は微熱がこもり、汗ばんだ頬とうなじにはほつれ髪が張り付いている。密やかに光るのは、焦点の定まらない眼と、唇端の少しだけの唾液。
東方風の上着の止め紐がすべて外れ、インナーのシャツも肩からずり落ちるばかりか、下からも大きくめくられていた。
線の細い鎖骨と二の腕がはだけ、つるんとしたお腹がむき出しになり、呼吸に合わせ上下している。
仰向けに寝返りでもすれば、サララの闘争本能に火を付けた、たわわな膨らみが見えてしまう。
もしガルデンの蘇生が遅かったら、ある年齢に達していない者にはお見せできない事態が起きていたかもしれない。
そんな事態を招きかけるほど暴れたサララだが、今は神妙なほど大人しくなっている。
たった一枚の上質の羊皮紙のもつ大きな力によって。
……それはプロンテラ騎士団の正式な依頼書。
「本当に仕事だったのか……。それにしても、どうせまたキョーツが持ち込んだ、ろくでもない仕事なのだろ?」
「確かにそうだけど、キョーツは悪くないからせめないでよ」
ギルドの会計係を勤めるキョーツという女言葉をつかう男セージがいる。
彼はどういう伝手があるのか知らないが、時より各種の”依頼”をギルドに持ち込んでくる。
頼まれ事やお役所からの任務など、”依頼” をこなして報酬をもらう現金収入。大概は人には言えない内容ばかりだ。
まして『不正は見逃してこそ金になるのよ』 が持論というキョーツが持ち込むだけに、今までろくな依頼だったためしが無い。
確か先月は、「アルベルタで凶暴化したポリンを殲滅してちょうだい……中央の役人にバレる前に」 という依頼だった。
今回も『街を騒がす都市伝説、ペットイーターのおとり捜査をしてね』 というありさまだ。
「なぁマスター、おとり捜査と言ってもペットイーターが直ぐかかる訳ないであろう。釣は詳しくないが、餌を用意しただけで、直ぐに魚や熊が釣れるものではないだろうて。それと同じで、いくら待ってもペットイーターなんてかかる訳が無い」
「………それがかかるんだ」
声のトーンを落とし、何故か視線をムナックに向けてガルデンは語りだした。
「この仕事は、かかるように仕組まれているんだよ。依頼の出所はプロンテラ騎士団になっているけど、実際はプロンテラ教団の上層部、それもかなり上からの依頼なんだ。そしてペットイーターはモンスターなんかじゃなくて、教団の出家信者数名らしいんだ」
「内部告発……いや違うな。あれは下や真ん中から発せられるものだ。となると、秘密粛清の外部委託???」
「僕にはよく解らないけど、そういうことらしい」
教団側でも、ペットイーターに潜入捜査官を潜り込んでいるとのこと。
その上で大体の日時と場所は騎士団を通して、『偶然に現行犯逮捕』 されるように打ち合わせてあるとのことらしい。
秘密粛清の外部委託。この珍妙な図式にサララは解せない。
教団上層部は何を隠したいのだろうか。
ペットイーターの存在を隠すなら内輪で処理すればいい。
「ふむ、察するに『ペットイーター』という都市伝説な噂にしても、連続ペット襲撃犯を隠すために教団が広めたという考えるべきだ。無論確証はない。だが妥当な線はいっていると思うぞ」
じゃあ、そのわざわざ隠したペットイーターの始末を外部、騎士団に依頼する必要があるのか?
なぜ委託先が騎士団なのか? なぜ偶然を装うのか? サララは思考する。
「なぜ騎士団なのか、この点は直ぐに解ける。他に頼める場所など無いのだからな」
「え、何で?」
「はぁマスター、最近の情勢くらい把握しておいてくれ。プロンテラ市内の勢力は主に4つ、騎士団に教団、王室、そして私たち冒険者だ。4つめの冒険者に依頼するとなると不特定多数に接触しなければならない。そうすると情報の機密性なんてありえないだろう。全然秘密ではなくなってしまう」
今回のように最終的には冒険者が関与するにしても、一度、騎士団というフィルターを通して情報のろ過をしなければならない。
じゃあ、残りの王室は……無理な話だ。なにしろ教団と王室は国政レベルで対立しているのだから。
保守派の教団と改革派の王室、というのが簡単な図式だろう。
トリスタン3世はなかなかの改革家だ。
『来たるべき人と魔の戦争』 に対して正規軍以外の軍事力の確保のために、冒険者をギルド単位で束ねてのGvGを導入。
民兵組織として機能させるだけでなく、各種回復剤の消費拡大や公営鍛冶場の利用者増大などで、経済の建て直しも成功している。
「確かにみんな白ポーション、がぶ飲みだからねぇ。装備も人もお金かけてるし」
「なんだかんだ言ったところで、一番経済が発展するのは、管理された軍需産業だからな。模擬戦であろうと、戦争は技術と経済にカツをいれる」
外交面でも、シュバルツガルド共和国、天津、崑崙などなど、いくつもの国交を樹立させ大きな成果を残している。
が、国内の貧民層の救済には何もしていないのが現状だ。
一方教団は、村々の教会を繋いだネットワークを使い、国内、特に地方の福祉に力を注いでいる。
外交面では、ホムンクルス全面禁止条約などで存在感を示すものの、王室に差をあけられっぱなしである。
しかも本来教団が取り仕切っていた結婚式をトリスタン3世に横取りされた痛手がある。
故に、国政に関して教団は王室の意見には真っ向から対立している。
「これくらいの知識は私でも持っているぞ。もっと専門的なことは、エンデさんあたりに聞いて勉強しておいてくれ」
「ごめん、あんまりintふってないから」
「そういう事ではない。情報量を増やして欲しいということだ。あるていど情報があれば、こんな胡散臭いばかりか危ない仕事を、請け負うこと無いないだろうに。もう」
「この仕事、危ないかな?」
「危ないに決まっているであろう。アルベルタで狂暴化したポリンを殲滅すのとはわけが違う。最悪、マスターがペットイーターだったと言う濡れ衣で始末されるかもしれないぞ。そこまで考えたか? 考えていないであろう」
「えっ、うん。そういう事は考えてなかった。そういう事は」
まったく、この男は……。サララは深くため息をついて隣のクルセーダーに、困った視線を送る。バカというか、深く物を考えないというか。タフだけが取り柄というか。
さらに性質の悪いことに付け加えれば、そんな男をサララは放っておけないということだ。
それは、この男のことが好きなのではなく、単に放っておけないだけなのではないだろうか。
忘れかけていた不安がまたも滲み出てくる。
踏み込めないのは、仲間意識とか正義感とか………
「………では、その“偶然” 襲われるまでに作戦を立てておくとするか。マスターは前衛と献身を頼む。相手が何人かわからないが、ここよりもっと細い路地に移動するべきだな。ありきたりな戦術だが、一度に何人も相手にしないですむようにしたい」
やっぱりダメだ。
サララには、これ以上自分の内面なんか考えられない。
出てくるのは不安ばかり、ならば無理やりにでも考えないようにしなければ、身がもたない。
だから彼女は、使い古しの対処療法とわかっているが、具体的な作戦を口にして自身の感情も事態の流れも、持って行きたい方向に持っていく。
なのに、こちらを散々焚きつけたガルデン本人は、明らかに驚きと拒否を表す。
「っ!! 。そんな、サララさんも残る気なの? ダメだよ。僕一人でいいよ」
「マスター、仕事の危険性を気づかなかったくせに気づいたとたんに、それは無いであろ。従えない台詞だぞ」
「危ないとか、そういうんじゃなくて、僕は、依頼内容を破るつもりだから……」
- 24凍った心エピローグ(12/11)sage :2006/01/19(木) 01:27:39 ID:kD3S48DU
- えー、エピローグを細々と書くつもりが本編に匹敵する長さになったとかいうオチがが
もうちょっと上手く纏められるようにならないと(´・ω・`)
ということでちょっと強くなったエリーとミストラルの対決シーンとエリーの騎士団入団エピソードです。
大してその5の戦闘シーンと変わってないとかいう突っ込みは無しの方向でお願いしますorz
>>座談会
行きたいけれども行けません…。(ノд`)
また企画していただければその時はきっといかせていただきます。
>>感想関係について
私も感想は名無しですることにしました。
文章の感想・批評をしてくれた人には毎回の後書きでレスします。
それくらいいいよね?(´・ω・)
- 25ペットの人sage :2006/01/19(木) 01:28:28 ID:iSSHQhG2
- Ragnarok Online SideStory「ペットイーター 〜路地裏の捕食者〜」
依頼内容を破る……。いったいこの男は何を考えているんだ。
タフだけが取り柄とか、深く物を考えないとかいう事はもうどうでも良い、バカだ。絶対バカだ。
「何考えているのだマスター、それでは報酬がもらえないではないか」
「サララさん僕は言ったよね。ペットイーターを現行犯で捕まえる囮だって、ペット襲撃未遂の囮じゃなくて、ペット襲撃の現行犯逮捕だって。この仕事は、このムナックを守ることじゃないんだ。犯人に抵抗したふりをして、このコを見殺しに……」
「…………」
サララは何も言葉が出なくなる。
再びムナックに向けられるガルデンの視線。
それに引かれてサララも、自身の処遇も末路も理解できていないであろう、牙を抜かれた魔物に目を向けた。向けたが最後、離すことが出来ない。
納得できないのではない。
そんな許せない計画が納得できなくて、言葉が出ないんじゃない。
そんな当たり前の計画が納得できてしまって、言葉が出せなくなっていた。
わざわざ潜入操作と外部への協力要請、で最後は偶然を装って無関係の冒険者に囮までやらせたのだ。
どうせ容疑をかけるなら、未遂ではなくヤッてしまったほうが良いにきまっている。
器物破損。
確かペットを殺しても罪状は器物破損であり、殺人にはならない。
まして相手は犬猫じゃないムナックだ。フェイヨンダンジョンに潜れば、いくらでも湧いている。人を襲う魍魎亡者だ。殺したところで誰が咎めようか。
「でも僕はこのコを守る。だから、僕が引き受けたんだ。仕事を持ちかけたキョーツ自身が乗り気じゃなかったけど、僕は引き受けたかった」
「どうしてこんな、……汚いというか、ひどい仕事を」
「……見殺しにはできないから」
「見殺しに出来ないというなら、最初から受けなければいいではないか。こんな後味の悪くなるのがわかっているのに、その上で無茶して依頼内容と違うことしようなどと」
「それじゃ一緒だよ。僕がやらなかったら、誰かがこの依頼を受けて、依頼通りに見殺しにする。そうしたら僕も、見殺しにしたのと一緒だよ」
だから彼は依頼をうけたのか。そんな青臭い理由で依頼を受けたというのか。
いや違う。
このガルデンというクルセーダーは依頼を受けたのではない。逃げ出さなかったのだ。
知ってしまった些細な事実と、避けて通れる無関係な厄介ごとから逃げ出さなかった。
「だから僕は、このコを依頼通りに見殺しにするんじゃ無くて、守りぬいてやるって決めたんだ。騎士団が駆けつけても、このコが生きていたのなら、もう誰もコを傷つけられないからね」
バカだ。
この男はバカもバカ、大バカだ。ついでに言えば、こんな大バカがこんなにも愛おしいと、胸の奥が悶える自分も大バカだと、サララは痛感した。
「では、なおの事作戦練らねばならん。ギルドのメンバー呼び出すしかあるまい? 戦力的にイリジウムさんがいたら百人力であるが、相手がプリーストだったらニュマが厄介か」
「そうしたいところだけど、そうはさせてもらえないみたいだよ、ほら」
まだ路面に横たわるムナックから視線を外し、ガルデンは暗く闇の積もった路地を見据える。
ゆっくりと何かが近づいてくる。
数は4人。姿は見えないが、その足音と、声を合わせ朗々と紡がれる、聞きなれぬ台詞から判断可能。
「「「「汝(なれ)には黙秘権は無い。
弁護官を呼ぶ権利も無い。
主神オーディンは全知であられるから、裁判にて供述する必要は無い。
ただ汝に許されるのは、神々の御前に跪き、その罪を悔い改めることのみ」」」」
もう一つこの台詞から導き出せる答えがある。……それは、
「「「「さあ、我ら異端審問官が代行者として、この鉄槌をもって神々の御前に送り出そう」」」」
--------------------------------------------------
はわわっ(TwT 新参者が粗相をしてしまい、ごめんなさい。
エリーの新たな門出を、おバカな文でぶった切ってしまって・・・
これを防ぐ方法ってあるのでしょうか?
- 26名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2006/01/19(木) 01:38:23 ID:dgQ6cEOs
- リアルタイムに遭遇!
しかし読むのは後日としてとりあえず
>>25
食い込まないようにするには、別窓や専用ブラウザ等で
スレの最新情報を確認できるようにした上で
1.リアルタイム投下中っぽい話のタイトルの数字が、埋まっているかどうか(4/6とかが6/6になっている)
2.最近のコテハン連作の人は大抵最後に後書きレスがつくのでそのレスを待つ
3.1も2も適用されない場合、食い込みたくなければ後発はとにかく待つ、むしろ後日にする
防ぐ方法はあなた(投下する人)が慎重になるしかありません。
危機回避と快適閲覧に専ブラ導入お勧めです。
- 27名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2006/01/20(金) 01:13:34 ID:UrDlthhA
- こんばんわ。明日って言うかもう今日の為に全部読み直しました。
凍ってる人が来れないらしいので、直接言おうと思った事をここにだらだらとメモ。
※偉そうに何を言ってるんだこいつ、というもっともな意見は御容赦ください。
まずお詫びから。最初に見たときは読みにくかったのでざっくりスルーしてました。
句読点が無いだけで○| ̄|_な私のような読み手もいるのです。百合の偉い人、アドバイスGJ。
で、通しで読んだら、綺麗に纏まっていてイイお話でした。大きく始まった話を小さく終わらせるのは、
難しいと思うのです。
すごいっぽい事件->エリスさんの過去、心情掘下げ->一騎打ち、大きな事件から個人レベルへの「ストーリー」の纏め方。
個々のシーン構成は、ルカさんとの対峙のシーンが、戦闘->お風呂とか、と時間の経過も長かったし、
前半の交戦シーンも主に遠距離の打ち合いで空間を感じさせる雰囲気? だったのに対して、終盤のミストラルさん戦は
スピーディな戦闘シーンが主、描写を双方の内面と動作だけの狭い世界で済ませていたっていうのが対比っぽくて上手だなぁ、と。
意識して書いていたのなら凄いし、意識して無かったならもっと凄いと思いました。
とりあえず、初投稿でこれだったら、先の方向が楽しみですネ。
>5 その騎士さんはフレデリック君ではなく、同盟ギルド[ジャスティスヒーローズ(仮称)]の騎士ろ○んますくさんです。
………っていうか、それはタダのネタ台詞です。ごめんなさいごめんなさい。
- 28「後ろを向いている間に済ませること」(1/4)sage :2006/01/22(日) 23:48:46 ID:f5HlbtYE
- 通りを行く人々は、それに気付くと次々に足を止めた。
彼らの視線が向かう先は一人の少女。肌も露な格好をした踊り子。
賞賛の声を小さな身に受けながら、彼女は一心に踊り続ける。
顔を上げ、花のような笑顔を振り撒けば、老若男女、その誰もが魅了されてしまう。
だが俺は知っている。
その表情は彼女にとって、心からの笑顔ではないことを。
「ありやとっしたー」
プロンテラの大通りに、俺の威勢だけはいい声が響く。
最後のお客を見送り、手早く露店をたたんでいく。
傍らで愛想よく手を振っていた少女は、人の視線がなくなると同時に笑顔を消した。
そのまま小さな身体を隠すように、俺のカートの後ろに屈み込む。
先ほどまでとは明らかに変わってしまった顔色が見えて、俺は心配から声を掛ける。
「大丈夫か?」
「……頑張る」
見たところ、あまり大丈夫じゃないようだ。
俺は片付けた荷物をカートに押し込むと、彼女の手を取り、急ぎその場を離れた。
つい最近、首都の大通りで名を売り始めた二人組。それが俺たちである。
俺はようやく自作武器を店に並べられるようになった、駆け出しの鍛治士。
彼女はすでにその才能を花開き始め、人々の期待を受ける踊り子の卵。
歳はいくらか離れているが、俺たちは幼馴染であった。
一流の鍛治士と踊り子になるという夢を持ち、別々に故郷の村を離れた二人。
俺がなんとか鍛治士の称号を受け、ようやくスタートラインに立てたその直後だ。
それを巡り合わせの妙というのだろうか。
やはり踊り子となっていた彼女と、この首都で再会を果たした。
初めて見た彼女の舞に、俺は一瞬で心を奪われた。
踊り子としては幼すぎる顔立ちの少女は、しかし踊り始めると誰よりも光を放った。
同時に、才能の存在を見せつけられてしまった。
いまだにまともな武器が打てない俺に比べて、彼女はずっと先を歩んでいる。
気付くと寂しくなった。けれど誇らしい気持ちもあった。
複雑な感情を持ったまま、その日は別れた。
それから、俺たちはちょくちょく会っては話すようになった。
互いを励まし合い、グチを言い合い。それは楽しい毎日といえた。
だが彼女と別れる度に、言いようのない不安が俺を襲っていた。
口に出すことはなく、逃げるように煙草を覚えたのもその頃だ。
- 29「後ろを向いている間に済ませること」(2/4)sage :2006/01/22(日) 23:49:20 ID:f5HlbtYE
- ようやくまともな武器が打てるようになってきた俺に、新しい悩みの種が出てきた。
せっかく作った武器がちっとも売れてくれないのだ。
冒険者は、より良い武器を欲している。命を預けるに値する武器を。
だから彼らは皆、名声を受けた職人の手による業物を求める。
駆け出しの俺が作った武器なんぞには、誰も見向きもしない。
ちくしょう、こんなんじゃいつになったら……
焦りを誤魔化すように、俺は煙草をくわえたまま酒場のテーブルに突っ伏す。
すると目の前に影が差し、形の良いヘソが姿を現した。
「どうしたの……?」
聞きなれた、か細い声が頭上から降ってくる。
見上げれば、あいつの不安そうな顔があった。
ぐだぐだと悩んでいる間に、もう待ち合わせの時間になってしまったらしい。
「ん、いや……なんでもねーよ」
身体を起こし、煙草を灰皿に押し付ける。
心配ないと軽く手を振ってみせ、彼女に椅子を勧める。
煙草を覚えちまってからわかったことだが、彼女は煙が苦手である。
わかっていながらも煙草をやめられない自分が情けないが。
「でも、悩み事があるんじゃないの……?」
「ん……」
隠そうとしてもバレてしまう。そのくらいは分かり合える仲ではある。
幸いにして「武器が売れない」ことについては、どうやっても自分の責任だ。
だから俺は気兼ねなく、いつものようにグチをこぼしてみせた。
すると、彼女は思いがけない言葉を口にしてみせた。
「えっと……、じゃあ、こういうのは、どうかな……」
「お前……、それ本気なのか?」
彼女が出した案に、俺は驚きを隠せなかった。
“俺が露店を開いているその横で、彼女が踊る。”
彼女の魅力的な舞を知っているだけに、それは願ってもいない提案と思えた。
武器を求める数多の冒険者に対して、名声を受けた職人はほんの一握り。
実はほとんどの冒険者は、その他の鍛治士が打った武器を使っている。
俺が打った武器だって需要がないわけではない。
人の目に触れさせることができれば、売れない道理はないのだ。
だが、俺のチャチなプライドがわめき出した。許されるのかと。
彼女ほどの一流の舞を、こんな駆け出しの鍛治士の作った武器と共に並べることが。
足踏みする俺に、しかし彼女は引かなかった。
一度だけでもいいから、と願う彼女に、俺は渋々ながら承諾する。
なぜ彼女がそこまでしてくれるのか、その時の俺は少しもわからずにいた。
彼女の踊りは、当然のように人目を引いた。
その日の売上は武器を除いてさえ、それまでの倍以上の額を叩き出した。
嬉しさと情けなさが入り混じったような表情で、俺はその計算をしていた。
やはり明日からまた一人で頑張るよ。そう告げようと彼女を振り返ると
そこに彼女の姿がなかった。
「なんだ……どこに行ったんだ、おい」
あいつの性格からして、俺に何も言わずにいなくなるなんてありえない。
なのに周囲を見回してみても、彼女の姿を見つけることができない。
そして建物の間に出来た小さな路地へと至る入り口、
見慣れた靴が落ちていることに気付いて、俺は慌てて駆け出した。
半ば頭に血を昇らせて路地を覗き込み、一瞬にして冷えた。
俺は知ってしまった。
同年代の誰よりも抜きん出ている、踊りの才能に愛された少女。
そんな彼女が、踊り手として致命的な問題を抱えていることに。
そのことにずっと悩んでいたことに。
あの日感じた二人の距離など、俺の勝手な思い込みでしかなかった。
彼女は俺と、何も違いはしなかった。
路地の先に、彼女のあられもない姿が合った。
彼女がきっとひたすらに隠し続けてきたものを、俺は見てしまった。
俺にはもう、彼女が露店の手伝いをすることを止めることはできない。
彼女が俺に何を望んでいたのか、気付いてしまったのだから。
彼女を助けてやりたいと、俺が思ってしまったのだから。
- 30 「後ろを向いている間に済ませること」(3/4)sage :2006/01/22(日) 23:49:57 ID:f5HlbtYE
- 「……ごめん、もうダメ……」
繋いだ手の先にあった彼女の唇が、そうぽつりとこぼす。
なんとか宿の部屋にまで連れて行きたかったのだが、どうやら限界のようだ。
幸い、露店を開いていた場所からはいくらか離れることができた。
素早く辺りをうかがい、俺たちに注視している相手がいないことを確認する。
「よし、こっちだ」
俺は彼女の手を引いて、人気のまったくない路地裏へと駆け出した。
可憐な踊り子を伴った俺の露店は、瞬く間に街中の噂となった。
客足はうなぎ昇りとなり、俺の製造が追いつかないくらいに売れ始めた。
観る者を惹きつけて離さない彼女の舞は、日を追うごとにさらに磨きが掛かる。
巷では非公認のファンクラブらしきものまで出来たらしい。
彼女に直接言い寄る男もいないことはなかったが、滅多になくなった。
俺が文句を言った訳じゃない。他の観客が黙ってはいなかったのだ。
負けじと俺も腕を磨いた。上級冒険者向けの高等な武器も作れるようになった。
傍からは、俺たちは成功への道を順風満帆に進んでいるように見えるだろう。
彼らは知らない。知ってもらおうとも思ってはいない。
踊りを舞い終える度に、彼女がある衝動に苛まれてしまうことなんて。
彼女が抱えた爆弾は、今なお彼女を苦しめ続けている。
だから俺が側にいる。傷つきながら踊る彼女を慰めるために。
運の良いことに、そこは袋小路になっていた。
これならば通りの先から誰かが来ることを心配しなくてもよい。
彼女を壁の側へと座らせると、路地の入り口を見張るため俺は踵を返す。
それに気付いた彼女が声を寄せる。
「どこ……行くの……」
「どこって、お前。決まってるだろ。誰かがこないように見張るんだよ」
「やだ……」
「は?」
「行かないで……」
苦しげに呟く彼女の、その言葉が持つ意味を俺は必死に考えた。
そこにあるのは不安だ。
これから始まる彼女の行為は、他人に見せるわけにはいかない。
誰もこないとわかってはいても、ここは屋外だ。独りになるのは怖いのだろう。
しかし俺だって、他人であり一人の男だ。
彼女にとっての俺は、気の許せる幼馴染なのかもしれない。
だが俺はそうはいかない。もう昔のように彼女に接することはできない。
再会したあの晩に、俺は魔法に掛けられてしまっていたのだから。
村にいた頃は、仔犬のように俺の後を追いかけてくる妹分でしかなかった。
そんな彼女をいつの間にか女性として意識している自分を、俺は否定できないのだ。
「無茶、言うなよ……」
「ごめん、でも……んっ、は、ぁ……」
彼女の上擦った声が俺を急かし立てる。
どちらを選ぶにせよ、俺が決めなくては彼女を苦しませ続けてしまう。
「お願い……そばに……」
「わかった」
一言だけ返し、怯えた顔を見せる彼女の髪をそっとなでてやる。
俺は彼女を傷から守るために側にいるのだと決めた。
彼女が安心してくれるなら、それが一番正しいことだと思える。
俺は彼女から手を離すと、わずかに数歩、意識的に足音を立てて遠ざかる。
陽の光が届かない路地裏は、昼間でもとても暗い。
この距離でさえ、俺からは彼女がほとんど見えない。そして彼女からは
「ここにいる。けど、ただ待ってるだけじゃ暇だから」
煙草を取り出し火をつけて、一度大きく紫煙を吐き出す。
彼女は煙が苦手だ。だからこの瞬間だけ、二人の間にはっきりと距離が生まれる。
風に流されて消えてしまう、在って無いような距離。
必要だから生まれて、決して互いを傷つけない優しい壁が二人を遮る。
煙草のささやかな光を見つめながら、背中越しに俺は彼女に言ってやる。
「俺が後ろを向いている間に済ませること」
「うん……」
彼女の声がどこか安心した色を含んでいたことだけが、俺の救いだった。
- 31 「後ろを向いている間に済ませること」(4/4)sage :2006/01/22(日) 23:50:17 ID:f5HlbtYE
- 彼女の漏らす小さな声が俺の背中へと届く。ここにきて俺は自分のミスを悟った。
この路地裏は静かすぎた。この距離では、息遣いまでもが伝わってしまう。
今さら場所を替えようなどとは言えない。事が終わるまでは、彼女に声も掛けられない。
やがて聴こえてくる切なげな呼気が、俺に彼女の様子をありありと想像させてしまった。
濡れそぼった朱色の唇に、彼女のしなやかな指先がそっと触れる。
そのままゆっくりと口を開くと、二本の指が無防備な彼女の内部へと侵入していく。
異物をくわえ込む感覚に、彼女はびくりと肩を震わせ、その衣擦れの音が――
想像と刹那も変わらぬタイミングで、音が俺の耳に響いた。
やばい。俺の中の何かが激しく警鐘を鳴らす。
だが彼女は止まらない。俺の想像も留まりはしない。
彼女にとっては、幾度となく繰り返したことであっても慣れるものではない。
かと言って我慢ができるものでも、やはりないのだ。
だから彼女は、意を決して指を一気に根元まで沈める。
カギ状に形を変えて、熱い体液に守られた粘膜を強く刺激すれば、それだけで
ひぅっ、と彼女の小さな嘶きが俺を現実へと引き戻した。
後に続く声にならない悲鳴が、彼女が果てへと辿り着いたことを知らせる。
俺はたまらず額に手を当て、かぶりを振った。
「う、ぁ……うげぇぇぇぇぇぇ……」
こりゃ今日の昼飯が台無しだな……
口元をハンカチでぬぐい、ふらふらと戻ってくる彼女に渡すべく
俺はカートから水袋を取り出した。
「落ち着いたか」
子供をあやすように髪を梳いてやりながら訊ねる俺に、彼女は小さく頷いて見せた。
ベンチに肩を寄せて座り、二人は言葉も無く夕闇に染まって行く街並を眺めていた。
「ごめんね、いつもいつも……」
「ばーか、んなこと気にしてんじゃねーよ」
謝ろうとする彼女に、俺はそっけなく応える。
極度の緊張症で、人前で踊るとストレスから体調を崩してしまう彼女。
胃の中のものを全て戻してしまわないと、まともに立って歩くことさえできなくなる。
そんな体質を持っているにも関わらず、彼女は踊ることをやめない。
俺が一流の鍛治士になりたいと思った理由を持つように、彼女にもそれはある。
直接訊ね答えてしまえるほど、俺たちは赤裸々にはなりきれないてはいない。
再会したあの日、俺の前でだけ踊った彼女には症状が出なかった。
俺に対してだけは、何の緊張も持たずに舞うことができるらしい。
それが意味するものは複雑なところではあるが、そのお蔭で俺は彼女の側にいられる。
だからどんな理由であっても構わない。彼女が俺を頼ってくれている限りは。
何もかもまとめて、俺は彼女を助けてやるだけだ。
「うん、ありがとう……」
小さく呟いて、彼女が身体をさらに俺へと傾ける。
ふいに、故郷の村にいた頃もこんな風に二人で話していたな、と思い出す。
いつになっても、こいつの甘えたがりは直らないのかもしれない。
それを嫌だと感じることはもちろんないが、気になることがひとつある。
「なあ、そんなに俺にくっついて、タバコ臭くないか?」
なんだかんだと禁煙できずにいる俺が言うことじゃないのかもしれないが。
匂いに当てられて、また気持ち悪くなられたりしても大変だ。
「ん、大丈夫。平気だよ」
「そうか? 無理はするなよ」
大丈夫といわれても素直に納得することが出来ず、心配になってしまう。
そんな俺に、彼女は目一杯の微笑みを向けてみせた。
「タバコの煙は苦手だけど、この匂いは嫌いじゃないよ……、だって」
踊っているときに見せる、傷を隠して強がる笑顔とは明らかに違っていた。
それは今このとき、世界で俺だけに許された幸福。
「私の一番大好きな人の匂いだもん」
彼女の心からの笑顔が、そこにあった。
- 3228-31sage :2006/01/23(月) 00:03:23 ID:Rop0jOIs
- ここに投稿させていただくのは多分、二年以上振りになると思います。
初めまして。もしくは、ただいま、でしょうか。
先日の座談会に普段はROMの者として参加させていただきました。
自分でもまた書きたいなあ、と思っていたので
「お題」が出たのをよいことに、拙筆と共にお邪魔させてもらった次第です。
お題は「後ろを向いている間に済ませること」、内容は「台無し」です。
どう見ても台無しです。本当にありがとうございました。
ではまたの機会がありましたら。
- 33ある雨の日のルカさんsage :2006/01/23(月) 01:05:26 ID:Lb25Kcsg
- プロンテラ、古くからこのルーンミッドガルド王国の首都として栄えてきた街。
それ故に、常に多くの冒険者と多くの商人が集まって賑わっている。
しかし、首都のいつも人で溢れる通り、そこが今日は土砂降りにより閑散としている。
いる者と言えば急いで自分の家や宿に戻ろうとする人だけだ。
そんな中、プロンテラ騎士団に一人のプリーストが走りこんでくる。
「あー、もう、雨が降るなんて聞いてないー…」
そして誰も居ない騎士団裏口を入ったところでそうぼやく。
その銀髪は雨に濡れ、艶やかに輝いている。それに加え、見る者をはっとさせるようなその容姿。
しかし口を開けば無邪気な少女のような印象を与えるその喋り。それでいて教会一の戦闘能力を持つ。
何とも不釣合いな女プリースト。それがプロンテラ騎士団副団長のルカである。
「むー…ただいまぁ」
そう言って自分達の仕事部屋に戻る、がそこに部屋の主はいない。
「んー、ミストはお仕事中かぁ」
そう言いつつ、その部屋を横切り、自分のロッカーを開けて、着替えを取り出す。
「うー、ほんと代えの服用意しといてよかったぁ…徹夜の時だけじゃないのね、役立つのは」
誰もいないがつい声に出してしまう。
「んー…誰もいないし、ここで着替えちゃうか」
そう言い、服についている帯をはずしていく。
シュルシュル、そんな衣擦れの音と共に腰の締め付けを緩めていく。
そしてその身に纏っていた藍色の法衣を脱ぎ、その白い肢体をあらわにする。
「うー…ショーツまでぐしょぐしょだぁ…夏でもないのにひどい雨だよ、ほんと」
「全くだ」
「だよねぇ、ほんと、いきなり振り出すとか有り得ないよねー…え?」
ルカがその首を油の切れたブリキ人形のような動作で声のしたほうに向ける。
そこにはいつの間に戻ってきたのか、赤髪の騎士、プロンテラ騎士団長のミストラルが自分の椅子に座り、書類に目を通していた。
ルカは空気を求める魚のように口をパクパクと開閉させ、手をわななかせている。顔はまるでトマトのように赤く熟れている。
「み、ミスト…いつから…?」
やっとのことで頭がスパークする中、その疑問を投げかける。
「帯を外した辺りからだ」
そうミストラルは書類に目を向けたまま軽く答える。
「う、うー…後ろ向いてて!!すぐに着替えるから!」
「ああ」
「み、見ないでよ!?絶対見たらダメだからね!?」
赤い顔で必死にそうミストラルに言うルカ。心の中では死んでしまいたい程恥ずかしいのだろう。
「安心しろ、興味無い」
ビキッ
「ががああああああああああああああああん、ががーん、がーん……」
実際には音がしていない擬音と共にルカの悲痛な叫び…というよりも心の奥底から響く擬音がそのまま口から出たのだろう。
そしてルカの周りには黒い雲のような物が立ちこめ、その悲痛な見た目に拍車をかける。
「どうせ私の体なんて魅力がないですよ、ええ。別にこのスタイルがいいなんて思ってないし。そりゃ確かに他の人と比べて少しくらいはプロポーションがいいかなー、なんて思ったりなんかもしちゃったことはあったけど。でもそれは別にそれを見てほしいとかじゃなくてただ単に客観的に見てそう思っただけだし。それでも胸とか控えめで、はっ、やっぱり男なんて胸しか見ていないんだ。うわああああああん。そうだよ、そうに違いない、うわあああん。そりゃ私は胸はCしかないけどさ、それでも他にいいところだって…ないようわああああああん。ガサツで乱暴で暴力女で、きっといつも私がチェインで殴ることをうらんでるんだ、きっとそうだ、そうだよ、嫌われてるよ私、うわああああん。でもさでもさ、少しは感謝してくれたって──」
そんな風に途切れなく自虐をしつつ、泣きながら着替えを続行するルカ。
ブツブツと何か念仏のように唱えるルカを気にする様子も無くミストラルは報告書を作っている。
別にコレはいつものことなのである。だからミストラルもほおっておく。
「じゃあ俺はこの仕事してくるから留守任せた」
そう言い、報告書を作り終えたミストラルは部屋を出て行く。
─15分後
相変わらずルカは何かをブツブツと唱えるというか呟いている。
「──だけどさだけどさ…私はやっぱりそれでも、ミスト…」
先ほどまでミストラルがいた椅子のほうを振り返り、心に決めた言葉を言おうとしてやっと気づく。
既にミストラルは居ないということに。それで我に返ったのかルカは叫ぶ。
「ミ ス ト の 馬 鹿 あああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
今日もプロンテラ騎士団は賑やかだ。
- 34凍ってた人sage :2006/01/23(月) 01:17:44 ID:Lb25Kcsg
- えー、お題に沿って書いてみました。
「後ろを向いてる間に済ますこと」
これで思い浮かんだことが着替えしかないというのはエロ脳だからなのか何なのやら。orz
>>ペットイーターの人
食い込みについてはお気になさらずに(´Д`;)
このような場所だとある程度しょうがないことですしね。
>>27のお人
わざわざ読んで頂いてありがとうございます。
読みにくかったらスルーされるのは仕方ないことだと思うのでお詫びに関してはむしろこっちがごめんなさい。(´・ω・)
意識に関しては何も意識せず出来るだけ世界観が伝わればいいな、と思って書いています。
- 35凍ってた人sage :2006/01/23(月) 01:20:18 ID:Lb25Kcsg
- 付け足しごめんなさい
>>ペットイーターの人
ただあくまで、私は、なので出来るだけかぶらない努力は惜しまないべきだと思います。
>>26のお人が言うように注意すれば基本的にはかぶらないはずです。
十秒単位まで同じとかなら防ぎようはないんですけどね…
- 36お題っぽい何かsage :2006/01/24(火) 18:13:09 ID:xZe6uXUA
- 死者の国ニブルヘイム。今更言うまでもないが、聖なる力を戦う術とする退魔師やら聖騎士にとっては絶好の狩場だ。退魔法術使い
の端くれの私と、いわゆるGXクルセのエルにとってもお馴染みの場所といえる。今も、慣れた足取りでちょこちょこと先を走ってい
た小柄な甲冑姿が坂下の角を曲がり、そしてすぐに戻ってくるとブンブンと私に剣を持った方の手を振った。
「先輩、あいてますよ! やりましたね!」
その後ろにぬうっと巨大な人影が追い縋る。もういい加減見慣れた筈なのに、私はついつい焦って大声をあげた。
「エル、こっち向かなくていいから、敵に集中しなさい!」
ここ、死者の谷の北東の小さな森は絶好の狩場だ。普段は大概先客で埋まっているここに敵がごっそり溜まっていたのは、まだ狩場
に人がいない時間だったせいか、それとも誰かが大量の沸きに圧死した後だったのか。そう考える間にも、エルが聖騎士の奥義を放つ
。私がそれに合わせて回復法術を使う間に、まだ残っていた敵は彼女のお得意の十字斬りにバタバタと倒されていった。
「これで……、終わりっと!」
体積で言えば何倍なのか考えたくも無いような怪物が地響きを立てて斃れる。得意そうに振り向いた少女の息が、さすがに少しだけ
上がっていた。スキルの使いすぎだろう。
「お疲れ様、エル君。とりあえず休憩しましょうか」
そう言って私が座ると、彼女も嬉しそうに笑って腰を落とす。
「はい、先輩」
いつも思う。あの身体のどこにあんな戦闘力があるんだろうと。大概の連中はこの人懐っこい笑顔と小柄な体格に騙されて、エルの
実力の程を見誤る。そして、外見に騙されてはいけないもう一つの面がこの少女にはあった。素直な子のようなフリをして、大人をか
らかうのが大好きなのだ。
「先輩……。私、疲れちゃったなぁ。SP補給したいなぁー」
ちろっと上目遣いでこっちを見てから少女は目を閉じる。
「またその冗談ですか。普段からちゃんとSP管理しないと駄目だと言ってるでしょう」
ちなみに、彼女と私は結婚などしていない。というか、恋人ですらない。もともと、ここでソロ狩りをしていた私の前で、同じギル
ドエンブレムの彼女が何度も死に掛けていたのを見るに見かねて指導を買って出ただけの事だ。エルが私の事を先輩と呼ぶのも、ギル
ドの先輩後輩というだけで、それ以外のつながりはない。というか、冒険者になる前にエルがいたのは女子しかいない教会の寄宿学校
だったらしいから、世の中という奴は終わっている。
「まったく……。早く一人立ちしてください。それまでは面倒見てあげますから」
「ちぇ。先輩のツンデレ。いいじゃないですか、キスくらい。減るもんじゃなし」
ぷぅっと頬を膨らませる彼女の顔を見ていると、怒るのが馬鹿馬鹿しくなるのだから、女の子というのは得に出来ている。意外に整
っていて、可愛いというよりも美人になりそうな雰囲気だ。あと5年後だったら私も吝かではなかったのだが。……いや、2〜3年か?
「って、そんなにじっと見つめられると、照れちゃいますよ。せめて目をつぶってください」
「馬鹿いってないで、とっとと回復すませてください」
内心によぎった迷いを戒めるように、私は立ち上がって周囲を見回した。こういう時に限って一匹のMOBも沸かないのは空気を読
まないことに関しては定評のある重力乱数というやつだろうか。
「ごめーん、先輩。もうちょっと」
私の背後で笑うエルには緊張感の欠片もない。だから、いつまで経っても最初に会ったときと同じように危なっかしいのだ。実力的
には出会った頃に比べると格段に成長しているし、この精神面の甘ささえなければ彼女はとうの昔にここで一人立ちできている。
「……何を笑ってるんですか。本来、狩場で休む時には余裕など無いんですよ」
「あはは、先輩が守ってくれてますもんね。感謝感謝!」
ため息交じりに呟いた私の愚痴にも、屈託のない笑い声が帰ってくる。それを聞いた瞬間、自分の中で遠慮とか何かそういった感じ
の物が音を立てて切れるのを私は感じた。
「いい加減にしてくださいよ、全く」
思わず出た語気の強さには、自分の方が驚いた。驚いたというか、後悔したような今の表情を少女に見られなかった事を神に感謝し
よう。そんな顔を見られたら、ますます甘く見られかねない。
「え? 先輩……、怒って、ます?」
おずおずとしたエルの声に、萎えかける覇気を私は必死で呼び起こした。ここで甘い顔をしたら、彼女の為にもならないし、引いて
は私も困るのだ。嫌な仕事は思い立ったとき、背中を向けたまますませる事……。
「怒ってなどいません。呆れているだけです。君のあまりの進歩の無さに」
早口で言うと、エルに反論をされる前に私はパーティを解散した。即断即決。それが私のいいところだ。タブン。
「今日は分かれて行動しましょうか。本来、君も私もソロ狩りしていた方が効率がいいんですから」
自分にブレッシングと速度増加をかけると、振り向いてエルにもおざなりに支援を飛ばしておく。ポカンと口をあけた少女の顔。私
は目を閉じてそれを視界外に追い出すとテレポートの法術を実行した。
- 37お題っぽい何か2sage :2006/01/24(火) 18:13:29 ID:xZe6uXUA
- 「先輩…、ちょ、冗談だよね?」
ギルド会話で慌てたようなエルの声が追いかけてくる。
「冗談なものですか。一度、君には自分に何が出来るかを教えなければいけないと思っていたんです。いい機会ですよ」
降り立った先が、北東広場からそう遠くない場所なのを確認しつつ、私は冷たくギルドチャット越しに彼女を突き放した。というか
今回の件は衝動的極まりなかったが、いざ実行してから省みるにそもそも計画的にはできない事な気がする。親離れをさせるには、思
い立ったが吉日という事だろう。もっとも、テレポートして出た先が同じ北東広場だったら、恥ずかしさで再起不能になりかねない諸
刃の剣で素人にお勧めできないのは言うまでもない。
「でも、だからってこんな急に! ……うわっ!?」
おそらくは敵が沸いたのだろう。隙丸出しでギルドエンブレムに向かって喋っていた所を背後から殴られたのが目に見えるようだ。
私は頭を抱えながら声を飛ばした。
「何を慌てているんですか。オートガードやリフレクトシールドは何の為にあるか分かってるでしょう?」
「そ、そうですよね。……っ。また何か来た! 何か一杯来ました、先輩!」
二匹、あるいは三匹か。その程度のうちにグランドクロスを打つようにしないと、絡まれて大変な事になる。何度も口を酸っぱくし
て言ってきた事だから大丈夫だと思うのだが……。
「報告しろとか言ってないから。自分でどうしたらいいか考えなさい」
「うぅ…。先輩、いじめないで下さいよ。見てるんでしょ?」
その声が、予想以上に緊張しているのにようやく私は気づいた。二匹や三匹ではないのだ。その懸念を裏付けるように、エルの声が
トーンをさらに上げる。
「うあ、ちょ、もう無理だって! 先輩、助けてくださいー!」
……甘かった。彼女が立ち回り未熟なのを知っているのに狩場で放置して学習させようだなんて、実戦を甘く見ていたのは私の方か
。
「見なくても声だけ聞けば、どうなってるか位分かります。どれだけ一緒にいたと思ってるんですか」
「……先輩、ちょっと嬉しい、です」
こんな時だというのに、それを口にした時の彼女のはにかんだ様な笑顔が頭にくっきりと浮かんで、私も微笑をもらしかけてから、
慌ててそれを振り払った。馬鹿馬鹿しい。彼女をいつまでも守る必要など無いのだ。何故、エルの挙動が見ないでも分かる位に馴染ん
でしまった事を喜んでいるのだろう。頭を振ったその拍子に、私はソロ時代なら当然即座に思いつくべき解決法にようやく思い当たっ
た。
「じゃあ飛びなさい。緊急用のは持ってるんでしょう?」
「はい、飛んじゃいま…すっていうか、ハエ、こんな事に、なるとは…、思ってなかったから、持ってきてません、よ!」
今までの自分の言った事を一体どう聞いていたのだろう。必ずハエは持っておくようにと言ってあったのに。教育者としての自覚な
ど元から無かったが、先達としてのなけなしの自負までが完膚なきまでに崩れ去る音を聞きながら、私は駆け出した。この距離だと、
テレポートを使うよりも走るほうが速い。
「私も行きますから、それまでなんとか我慢しなさい。それと、話している余裕があるなら身体を動かしなさい」
北東は行き止まりだが、せめて四つ角まで自力で動けば通りすがりのPTに支援を貰えるかも知れない。その方が私とも早く合流で
きる。
「わわ、先輩、重なって……。ヤバいですっ」
「インデュアを! 位置をずらして」
言いながら四つ角を全力疾走で駆け抜けると、広場の中央で何かにたかる様に群れているMOBどもが目に入った。自分にヒールを
打って何とか時間を稼ごうとしているエルが小さく見える。そして、その背後で腕を大きく振りかぶった血塗れの屠殺者。
「……っ!」
鈍重そうな外見に似合わぬ速さでブラッディマーダーの包丁が振られ、少女の小さな身体が私の目の前で崩れた。
「ごめんね、先輩。ちょっと、持たなかったや……」
力ない声が耳に響く。私は自分の体温が上がるのを自覚した。目の前の光景が、ほんの少しだけ少女のわがままを我慢できなかった
おとなげない自分のせいであるとは分かっている。甘く見ていたのは、やはり私だ。
「……責任は取らねばならないですね。だが、まずは目先の処理から……」
目の前の怪物たちが新しい獲物、つまり私の方へと視線を向けるのを、私は微笑で迎えた。右手には青い魔法石。
「逝け!」
久しぶりに唱えた退魔法術。マグヌスエクソシズムの輝きが全てを浄化していく。そういえばエルを引き受けてから、私が牽制以外
で攻撃法術を唱える必要は無くなっていた。久しぶりに使うとはいえ、ありがたいことに腕は錆び付いていなかったようだ。
「……うわぁ、先輩のコレ。白く光って綺麗」
斃れたまま、呑気極まりない事を言う少女に何か言おうとした私の後頭部を、何か重い物が殴りつけた。
首都南門近くにある、通称清算広場。買い取り商人が多くいるここで、狩りの最後を纏める冒険者は数多い。レアを手にして大はし
ゃぎのPTやら、またの再開を約して手を振る連中に混じって、戦場で全滅した冒険者が傷だらけで回収されてから真っ先に来るのも
大概ここだ。私は、そこで気まずい思いをしながらエルと顔を突き合わせていた。私たちの死に戻りをどうやって気づいたのか、ギル
ドメンバーが責めるような目で見ているのが居たたまれなさを更に増大させる。
「……あー、あの。先輩?」
「皆まで言わなくて結構。怖い思いをさせてすみませんでした」
深々と頭を下げる私。結局、ペア狩りに慣れて鈍っていたのは私もだったらしい。ブラッディマーダーが混ざっている敵の群れでバ
ックサンクも敷かないとは。あるいは、格好つけてさっさとあのモンハウを処理する事で、自分の強さを見せ付けたかったのかもしれ
ない。
「……まだ口調、怒ってますよ?」
「怒ってるとしたら、自分の不甲斐なさにです。何を言われても我慢するべきでした。相手は子供だというのに」
正面から覗き込んでくるエルの目から逃れるように、私は目線をそらす。その視界の先に彼女はあっさりと回りこんできた。
「うー、酷いですよ。もう16なんですから! 子供子供いわないで下さい!」
「貴女がもう少し大人になるまでは、危なっかしくて一人では狩場にやれませんね……。私も心配ですし」
「あ、じゃあ子供でいい。よろしくね、先輩」
何故だろう、別にこのままでもいいような気がしてくるのを私は必死で顔に出さないようにする。やれやれ、彼女にツンデレなどと
言われるのも仕方が無い事かもしれない。
あれ? 最初は「キスをせがむクルセイダーの十字架をうらっかえしにして『神様が後ろを向いてる間にすませる事』」というネタ
のはずが、蓋を開けてみるとキスするにも何年かかるかわからない様子ですよ? あと、「私」の性別がわかりにくいのは仕様です。
っていうか、スレ違いになりそうだったので急いで修正し ;y=ー( ゚д゚)・∵. ターン
- 38名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2006/01/24(火) 19:32:34 ID:8WFO3bBQ
- >>36
他のレスでも言われてることと思うので恐縮なのですが。
改行がもの凄く、読み難いです…ウィンドウサイズ最大に
合わせてあるのは分かるんですが、いくらなんでも
「。」だけしかない行があるのはどうかなーと。
で、二人の関係に異常に萌えました。
エルが凄くかわいいです。先輩は男前な女性かと思っていたら
ツンデレややヘタレな男性でびっくりしたけどそれもまた(´∀`*)エエワァ
文章も読みやすくて面白かったです。
「神様が後ろを〜」のネタなんか聞くだけで萌えました。
キスするのに数年を要するなら数年後を書けばいゴハッ
- 39名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2006/01/24(火) 21:52:50 ID:.dDNnPvI
- >38
今ご指摘を受けてエディターの設定に気がつきました。大変申し訳ない。
とりあえず、裏話? としてエロスレに落としてきた分は改行直してあると思うので、許してやってください。
- 40名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2006/01/24(火) 23:06:01 ID:rXG44S2w
- お題「後ろを向いている間に〜」って、座談会参加してない人間も書いていいの?
バイト夜勤→帰宅、卒倒→インフルエンザ、で隔離されててようやく追いついた(ノд`)タハー
- 41名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2006/01/25(水) 01:21:09 ID:BVJbex9M
- >>後ろを向いている〜関連の書き手様
指輪も、雪も、極度の緊張も、ツンデレプリ♂も、ドレもコレも楽しませて読ませて貰っています。
どの方の文章も上手くて私もこんな風にかけるようになりたいなorz
短編のお題という案出した人マジGJ
>>花月様
レティの健気さに心を打たれます。
そしてイノケンティウス卿のクールさ?にもなんというか燃えというか。
オマケには激しく笑わせていただきましたw
>>ペット様
サララのツンっぷりとムナ子のピュアさに乾杯。
そして意味ありげな異端審問官に期待。
- 42名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2006/01/25(水) 01:29:53 ID:YtMSfvpc
- 保管庫管理人@読者もーど がスレ住人の総意を勝手に代弁するぜ!
というか、遠い昔の座談会で提案したときとタブン方向性は変わんないさ!
>40
是非お願いします。
- 43遠き夢、叶わぬ願い1(1/4)sage :2006/01/26(木) 00:59:04 ID:lhpVWsTQ
- 運び屋─それを志したのはいつだったか。もう覚えていない。
しかし依頼をこなす度に依頼主は喜んでくれる。
こんな自分でも役に立てている、そう思えることが誇らしかった。
こんな自分ではそれくらいしか出来ることがないから余計に。
ずっとこうしていれば自分は自分でいられる。
そう、信じてる…。
────────────────────────
商人、それは冒険者に無くてはならない存在である。
ある時は消耗品を安く買い叩き、ある時は色んな収集品をそれぞれの専門業者に高く売りつける。
またある時は希少な装備等の仲介売買をして冒険者の必需品を供給する。
そして、数ある商人の仕事の中でも最も難しいと言われる物がある。
通称〔運び屋〕。依頼主の指定した時間、指定した場所まで大量の回復剤や強化剤、サポートアイテムを輸送する。
輸送する、と言っても基本的にその依頼で指定される道具の量は生半可な量ではない。
それ故に、重い鎧やグリーブ等の類など装備できない。その身を守る防具はそのほとんどが繊維製品である。
そんな装備で指定される場所─基本的にはグラストヘイム等の補給がしにくい場所─まで運ばなければならないのだ。
時にはジョーカー、時にはカリッツバーグ、また時には深淵の騎士の攻撃を受け流しつつ依頼主の元へ指定された数量を届ける。そんな辛い仕事だ。
その〔運び屋〕はこのルーンミッドガルド王国には20人程いて、それぞれが毎日毎日戦場に命を届けている。
その中で一番人気なのがナナ、と呼ばれる女アルケミストである。
ナナの輸送は成功率が高い上に場所制限が無い。つまりどんな場所であっても行ける、と言っているのと同じである。
おまけに手数料が限りなく安いのだ。移動費や手間賃を考えたらほとんど得をしていないのではないか、と噂される程である。
これはそんなナナのとあるお話。別に誰が語るわけでもなく、誰が覚えているわけでもない、悲しいお話。
- 44遠き夢、叶わぬ願い1(2/4)sage :2006/01/26(木) 00:59:56 ID:lhpVWsTQ
- エリカの件が片付いて3ヶ月、相変わらずプロンテラ騎士団に舞い込んでくる事件報告、目撃、行方不明捜索依頼の数々。
最近特に多いのが冒険者の行方不明。別にこれ自体はそれほど珍しくない、むしろ冒険者がのたれ死ぬことなどしょっちゅうだろう。
普通はそうだ、だから今までも特に捜査が行われなかった。
だが、ここ2ヶ月以内でのほとんどの行方不明者に共通する項目がある。
それは、行方不明者の知人等によるとその全員が全員コモドへ行く、と言って姿を消しているのである。
そのことと関連しているかどうかは不明だが、ここ最近冒険者の間で『コモド西の洞窟の奥には凄い宝があるらしい』などといういかがわしい噂が飛び交っている。
おそらくこの噂は何かに尾ひれがついた物ではあるだろうが、その元がこの行方不明の原因であるのだろう。
「ルカ、コモドに行きたくないか」
「行きたくない」
ミストラルの質問に即答するルカ。質問が何を意味するか分かっているからこその返答だろう。
「そうか…」
あっさりとミストラルは引き下がり、また書類に目を落とす。
「コモドってアレでしょ、どうせ。あのー、行方不明」
「そうだ」
「じゃあやだ。知ってるでしょー、私そーゆーの苦手なの」
そーゆーの、とはいかがわしい類の話での行方不明のことである。この手の話を聞くとルカはどうしても幽霊を連想してしまうとか。
「そうだな、それじゃあ俺が行ってくる」
「ん、いってらっしゃー。ミストが行方不明になっても私が団長してあげるから安心しといて」
「大丈夫だ、お前が団長になったらここは潰れる」
そう言い、扉の外へ出ていくミストラル。扉の向こうからは何か怒声、というか奇声が聞こえてくるが特に気にもせずにスタスタと転送の間へと歩みを進めていった。
- 45遠き夢、叶わぬ願い1(3/4)sage :2006/01/26(木) 01:00:37 ID:lhpVWsTQ
- 幻想の島コモド─
夜でもたくさんの篝火が焚かれ、空には毎日絶えることなく花火が打ち上げられる。
洞窟で囲まれたその街は、賭場の経営や踊り子の育成で発展してきた。
その賭場では毎日多くの客が数十万単位のゼニーを注ぎ込み、ある時は勝ち、ある時は負けて街の潤いの一端を担っている。
そこの一角の、とある酒場にミストラルは来ていた。情報を集める為に。
ほとんどが酔いどれである。マスターは話を聞こうにも、クルセ子たんがどうの言っている酔っ払いの話を頷きながら聞いている為、割り込めない。
仕方が無いのでそこら辺の冒険者らしき者達に聞いてはみたが知らないと口を揃えて言う。しかし知らないと答えた後には洞窟の事についてそれぞれの仲間内で話し合っている。
ただ単にミストラルに横取りされるとでも思ったから知らないと答えたのだろう。
他の酒場にいる冒険者達も街中にいる冒険者達も同じようなもので、特にいい情報は無かった。
情報が得られなかった以上、やる事は決まっている。西の洞窟を隅々まで調べる、それ以外に無い。
そしてミストラルが西洞窟─カルと称された洞窟の前にやってきた。そしていざ中に入ろうとした時。
「あ…」
横から、か細い声が聞こえてきた。
ミストラルはその声のした方向を見る。そこには錬金術師ギルド公認のアルケミストのアレンジ制服をその身に纏った少女が立っていた。
肩までで切り揃えられたその髪はコモドに広がる海のように深い青。
その顔にはサングラスをかけており、その触れたら折れてしまいそうなか細い声の主とは思えない。
その少女にミストラルは見覚えがあった。何故なら、何度か騎士団全体で演習の時に使う物資を依頼したり、個人的に狩りの時に回復剤の輸送を依頼したことがあるからだ。
「久しぶりだな、運び屋の調子はどうだ?」
「あ…まずまず、です」
戸惑うように答える少女。何処か小動物を思わせるようなその仕草とサングラス、始めて会う人だったら思わず目と耳を疑うだろう。
「そうか、今日は何でコモドに?」
「え、あの…私、コモドに住んでるんです…それで…運び屋もここをベースに…」
「そうか」
ミストラルが質問し、少女はおずおずと答える。
「えっと…本日はミストラル様は…何故コモドに…?」
「仕事だ」
「そう…ですか」
吹いたら消えてしまいそうな声で尋ねる少女に簡潔に答えるミストラル。
「その…もしご迷惑でないなら…お仕事を手伝わせていただけませんか?」
少女は少し俯きながらそうミストラルに尋ねる。
「あぁ、情報が少なくて困ってた。この洞窟の噂について少し教えてくれないか、ナナ」
ナナ─自分の名前を呼ばれ、少女は少し肩をビクッと震わせた。
「はい…私でお役に立てるなら」
少女─ナナはそう言って、最近のこの洞窟についての噂等を話し出した。
- 46遠き夢、叶わぬ願い1(4/4)sage :2006/01/26(木) 01:01:05 ID:lhpVWsTQ
- ─30分後、話は終わった。
この話をかいつまんで言うと─
この洞窟に冒険者が集まり始めたのは1年程前からだという。
そしてほぼ全ての冒険者が同じようなことを知っている。
『月満ちたる時、扉は開かれん。中にあるは永久の命、悪し富なり』
その言葉通り、冒険者達は満月の夜にカル洞窟に入っていく。
最初はその富とやらを独り占めしようと単独で入っていく者が。
何かあると分かり、ある程度纏まって入っていく者が。
その失踪の謎を解決しようとする名のある冒険者達が。
その全てが満月の夜、洞窟に入ったが最後、戻ってはこなかった。
それ以外の日に調査した者は普通に戻ってくる。
─ということだ。
「今日は…まだ満月じゃないな」
天を仰ぎ、そう言うミストラル。暗い夜空には上弦の月を3日ばかり過ぎた小太りな月が浮かんでいる。
「旅館か…空きがあるといいが、ナナ、ありがとう。おかげで助かった」
そう言われ、ナナは少し俯く。その感謝の言葉に照れているのだろうか。
そしてミストラルは旅館の方に歩みを進めようとした時。
「あ、あの…私の家なら…空きの部屋…ありますけど…」
必死に押し絞るような声でそう言うナナ。ミストラルはその意外な申し出に少し驚いたような表情を見せる。
「あ…いえ、迷惑ならいいんです…」
すぐに付け足すナナ。それはまるで捕食者におびえる小動物のようにも見える。
「お前がそれでいいなら厚意にあやかろうと思うが…いいのか?」
ミストラルは縮こまるナナをなるべく刺激しないように聞く。そうでもしないと今にも壊れてしまいそうな印象があったから。
「あ…はい、大丈夫です…私の家、広いですから」
ナナはそう答え、何処か遠くを見るように視線を逸らす、ように見える。サングラスをかけているから本当の視線は何処を向いているか分からないのだが。
「世話になる」
「は、はい…。何もないところですけど…ゆっくりしていってください…」
そうして、二人はナナの家に向かった。
- 47遠き夢、叶わぬ願い1(5/4)sage :2006/01/26(木) 01:09:14 ID:lhpVWsTQ
- えー、凍った心の続編、というかなんと言うか。
時間軸的には凍った心5とエピローグとの間のお話です。
今回は運び屋ケミ、ナナとミストラルのお話。
基本的に男キャラがミストラルしか出ないのは仕様です(・ω・)
>>36-37,39様
ごめんなさい、ちょっと個人的ツボだったのと色々で酒場に登場させてしまいました。
お叱りでも何でもお受けいたします。orz
- 48丸いぼうしsage :2006/01/26(木) 03:33:40 ID:59aBxm8A
- 拙作「再びケミ君のクリスマス」と並行した時系列のお話です。
きっかけとなる一言を下さった93さんに感謝いたします。
--
手に取った一枚の紙切れを見つめ、少女は鼓動を抑えきれず胸を押さえた。
これを、一体どう渡せばいいものか、と。ただの長方形の紙。印刷という手段で
マスプロダクションされたチケット。心を込めた恋文で無し、万金の価値がある有価証券で無し。
なのにどうしてそんな紙切れ一枚さえも自分は闊達に渡すことが出来ないのか。
少女は紙をコートにしまった。そして二度三度、ポケットに手を入れて紙の感触を確かめたあと、
コートの襟を立てた。冬の風が少女の頬を通り過ぎ、飴色の髪を揺らした。
少女は「Prontera University」と威厳ある文字で刻みつけられた門へ、震える足で
一歩を踏み出した。
--
「さぁ、みなさん、チケットができあがりましたよー。五枚ずつ取って回してくださいね。
独り占めしてはいけませんよ……する意味もないですけどね。ご家族とか、お友達とか、
お世話になった人とか、出来るだけたくさんの人に渡してくださいねー。」
慣れきった柔和な声で呼びかけると、シスターは最前列の机に座った子供にチケットの束を渡した。
子供達は歓声を上げながらチケットを手に取り、後ろへ回していった。その横で、侍祭の少女が
チケットを数えてはシスターに渡していた。
「さて、みなさん、行き渡りましたか?。それじゃ今日はここまでです。明日から冬休みですが
気をつけて過ごしてくださいねー。」
別れの挨拶が終わると、子供達は先を争うように部屋を出て行った。その笑い声が部屋と廊下に
響き渡って消えたころ、残ったのはシスターと侍祭の少女だけだった。
「お疲れ様、シスター・クレア」
シスターは少女にほほえみかけた。クレアと呼ばれた少女は顔を輝かせると二回お辞儀をした。
「お疲れ様です。シスター・システィナ」
「シスター・クレア、あなたが手伝ってくれたここ数日、本当に楽でしたよ。
こんなに私ばっかり楽をしては神様に申し訳が立たないぐらい。」
「いえ、そ、そんな…これも奉仕ですし…」
褒め言葉に少女は少しうつむき、照れくさそうに語尾を濁した。そんな少女の手元の箱に
シスターは目をとめた。厚紙で出来たトレー、その底に先ほど配られたチケットが一枚、
貼り付くようにして残っていた。
「あら、チケット余ってしまいましたか?」
「え…ホントだ…私数間違えちゃいましたか!?」
今気づいた、とでも言わんばかりにクレアは視線を巡らせ、頬をポリポリと人差し指だけでかいた。
そんな彼女のささやかな嘘を咎めることもなく、シスターは空っぽの教室の後ろへと目を向けた。
それからクレアの方へと振り向き、変わらぬほほえみ――しかし先ほどに比べるとややいたずらっ
ぽい色を含んだほほえみ――で首をかしげた。
「うーん、もしかしたら頑張ってくれたあなたへのご褒美なのかもしれませんね。
神様は本当によく見ていてくださいます。だから、シスター・クレア、それは差し上げます。」
「あ、はい、ありがとうございます」
クレアは答え終わると目をつぶり、手を胸の前で組んで感謝の祈りを捧げた。
このあたりの変わり身の早さ、というか如才なさが彼女が優秀で篤信なアコライトと評価される
所以であった。
「それではまだ、クリスマスという山場を控えていますけど、あなたも頑張ってくださいね」
励ましの言葉をかけるとシスターは教室をあとにした。クレアは残された紙の箱からチケットを
取り出すと、人差し指と中指でつまんでひらひらさせた。チケットは綺麗に印刷され、裁断
されていたが、そのデザインはクリスマスという単語から連想される全てをつめ込んだみたい
なもので、とても洗練されているとは言えなかった。
「どうしよっかな……これ…」
遠ざかる靴音を聞きながら、クレアは口の中でつぶやいた。
- 49丸いぼうしsage :2006/01/26(木) 03:34:34 ID:59aBxm8A
- --
「本当に、どうしよう」
クレアは自分のベッドに横になって、魔力灯にチケットを透かしてみた。
「大聖堂クリスマス聖歌演奏会ペアチケット」という文字が逆写しになって見えた。
「どしたのー、クレア?」
ベッドの下、つまるところ二段ベッドの下の段から、妙に間延びした疑問文が上がってきた。
「ううん、いやね、聖歌演奏会のチケットがシスティナ先生のとこで余ってさ、
もらっちゃったのよ」
「ふぅーん、好きな人にでもあげたらー?クレアはあちこちにお手伝いにいってるしー
一人ぐらいあてあるんじゃないのー?」
クレアはチケットを枕元に置くと、胸まで掛けていた布団を首まで引き上げた。
心臓を布団で隠しておかないと、心を読まれてしまうかもしれない、と直感的に感じたからだ。
そして、口をとがらせるとちょっと情けない反駁をした。
「そんなのいるわけないよ……シンシアの意地悪……」
言い終わらぬ内に消灯の鐘が鳴った。ふっ、と明かりが消え、んじゃおやすみー、という
声が聞こえた。クレアは返答だけすると天井の模様を見つめた。
--
好きな人にでもあげたら、というシンシアの言葉が、何度もクレアの頭に浮かんだ。
年齢柄、誰かに恋をしている友達は多いし、彼女も誰かに恋することに憧れていた。
でも、彼女がチケットを渡す候補として思い浮かべた顔はそういった恋とかとは違う気がしたのだ。
その人物はある事件の時、騎士団で手伝いをしていた彼女の前に現れた。
彼女はその人物に褒められたことはなかった。貶された。馬鹿にされた。笑われた。
ずっと正しいと信じてきたことを述べただけなのに、愚かなことだと詰られた。
今でも、その人物が言っていることが真実だとは欠片ほどにも思ってはいない。
クレアは目を無理に閉じた。フンと鼻をならし、皮肉げな目で見ているそいつの顔がまぶたの
裏にうつったので彼女は目を開けて天井をにらみつけた。
しかしながら、あのときクレアを詰った言葉は、彼女を詰るためにかけられた言葉ではなかった。
厳しい言葉ではあったけれど、誰かを助けるための言葉だった。その証拠に、彼女が窮地に陥った
ときあの人は助けてくれた。
Whis越しに感じ取った存在感。絶対的とも言える安心感。それはどこか父親を思い出させた。
プロンテラの大聖堂で寄宿生活をすることが決まって別れた故郷の父親。父親もあの人ぐらい
の年齢だろうか。もうちょっと上だろうか。クレアは天井の模様に父親とその人物二人の顔を重ねた。
「好きとかとは……絶対違うよ」
クレアは布団の隅を噛み締めた。鼻から吐く息が蒸れて暑苦しかった。
ベッドの下からは彼女と違って何も思い悩むことのない、安らかで規則的な寝息が聞こえてくる。
あの人を、とても遠いあの人を一度驚かせてやりたい、とクレアは思った。
相手の言ってることは真実とはほど遠いけれど、それでも弁論で勝つのは無理かなと感じていた。
でも、一度ぐらいは驚かせたい。私はあの人に認められたい、と思ったところで彼女は思考を止めた。
布と肌がこすれるのも気にせず、クレアは布団の中で首を振った。
「認められたいんじゃない……」
そう、その人物は異端者みたいなものだ。異端審問はなされていないので異端者ではないが……
不信心者には違いない。そんな人物に