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【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第9巻【燃え】
- 1名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/02/11(金) 23:42 ID:sV8EWIcc
- このスレは、萌えスレの書き込みから『電波キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』ではない萌えな自作小説の発表の場です。
リレー小説でも、万事OK。
・ 萌えだけでなく燃えも期待してまつ。
・ エロ小説は『【18歳未満進入禁止】みんなで作るRagnarok萌えるエロ小説スレ【エロエロ?】』におながいします。
・ 命の危機に遭遇しても良いが、主人公を殺すのはダメでつ
・ 感想は無いよりあった方が良いでつ。ちょっと思った事でも書いてくれると(・∀・)イイ!!
・ 文神を育てるのは読者でつ。建設的な否定を(;´Д`)人オナガイします。
▼リレールール
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リレー小説の場合、先に書き込んだ人のストーリーが原則優先なので、それに無理なく話を続かせること
・ イベント発生時には次の人がわかりやすいように
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※ 文神ではない読者各位様は、文神様各位が書きやすい環境を作るようにおながいします。
前スレ【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第8巻【燃え】
http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi/ROMoe/1096969800
スレルール
・ 板内共通ルール(http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi?bbs=ROMoesub&key=1063859424&st=2&to=2&nofirst=true)
▼リレー小説ルール追記--------------------------------------------------------------------------------------------
・ 命の危機に遭遇しても良いが、主人公を殺すのはダメでつ
・ リレーごとのローカルルールは、第一話を書いた人が決めてください。
(たとえば、行数限定リレーなどですね。)
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- 2名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/02/12(土) 02:20 ID:R3ecnFEk
- 2Getしつつ。
保管庫座標をぺぺっとな。
ttp://cgi.f38.aaacafe.ne.jp/~charlot/pukiwiki/pukiwiki.php
ttp://moo.ciao.jp/RO/hokan/top.html
- 3名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/02/12(土) 03:22 ID:xUbBYLDY
- 初のカキコ&3げとぉぉぉぉぉ!
- 4名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/02/12(土) 22:28 ID:CMgT353.
- 4get
……ひとすくねぇ;;
- 5名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/02/13(日) 00:08 ID:q8xGmUVk
- まだ埋まってないからさ!
と、いうわけで5GET!
- 6名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/02/13(日) 00:52 ID:7ygId0T6
- アラームスレといい、何か一つの終わりを感じる俺が6get
- 7名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/02/13(日) 01:23 ID:GkKrG/Bw
- まだリレー…はともかく、('A`)氏の連載が続いている以上俺の中では終わっていない。
ええ、全然終わっていませんとも。
- 8名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/02/13(日) 01:51 ID:LxeVFkK6
- 転生前でゲームをがんばってる人とかもいるんじゃないですか?
- 9名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/02/13(日) 02:18 ID:7ygId0T6
- だといいな。
あちこち見て回って寂しくなった俺の感想。スルーしてくれい。
ところでリレーは終わっちまうのか。
- 10名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/02/13(日) 02:40 ID:mQgiaWhw
- >>9
たぶんみなさん続けようとは思ってらっしゃるかと。
書き手以外見てないのかとか密かに思ってたので人がいたようで嬉しい今日このごろ
新スレ一発目いただきます。
出遅れましたが宿題投下です。
- 1110@宿題sage :2005/02/13(日) 02:42 ID:mQgiaWhw
- 「あ、あのっ!」
騎士のマントを夕暮れの風に靡かせて遠ざかっていく青年の背中にそう声を投げかけ、深紫の法衣を着た娘は僅かばかり顔を俯かせた。さらさらとした長い黒髪はたったそれだけの動きでも繊細に揺れる。頬に落ちる影が深くなり、白い肌に仄かに浮かんだ朱を隠した。
日々冒険者で溢れかえるここ、ルーンミッドガッツ王国の首都プロンテラでは、中心部から程遠いこの区画でも完全に人通りが途絶えることは無く、黄昏時の今の時間にも露店に精を出す商人や談笑しながら通り過ぎる人々の姿がちらほらと見られる。
しかし娘にとっては、彼らは全くの意識の外の住人であった。確かに聞こえているはずの露店主の客引きの声よりも、カップルの楽しげな笑い声よりも、自分の心臓の立てる微かな音の方がよほど大きく感じられる。言葉を続けようと小さく唇を開くものの形にはならず、口からは心情を表したかのような震える吐息だけがこぼれた。
青年が呼びかけに振り向いて歩いてくるのは、目を伏せていてもコツコツと石畳に刻まれる足音が教えてくれる。視線を落としているため確認はできないが、おそらくは怪訝な表情をしているのだろう。呼び止めた相手が用件も何も話そうとしない状況では、それが一番自然な反応だと思われた。先の展開について予想できるような勘の鋭い人間であればまた別なのかもしれないが。
いずれにせよ、彼が何を考えているのかは今はあまり関係がない。相手の思惑が読めようが読めまいが、やるべきことは既に決まっていて、後はできるかできないかという単純な問題でしかないのだから。
「何かな? 一応聞くけど、俺に用なんだよね?」
手を伸ばしてもギリギリで娘に届かない程の距離で、騎士の青年は歩みを止めた。頭一つ分ばかり低い位置にある法衣の娘の顔を、若干見下ろし気味に見つめる。
「はい。あの、私……」
小さく頷き、娘は再び口篭もった。実際に口に出そうとすると緊張よりも羞恥に駆られてどうにも躊躇われる。気が付くとひどく頬が熱かった。
幾度目かになる声にならない吐息を洩らし、静かに一呼吸する。向かい合ったお互いが一言も喋らないというのはあまり居心地の良い物ではない。無理に先を促さない青年をありがたく思う一方、強引に後を押して欲しい気もしていた。そうしてもらえれば嫌でも先に進むことができる。とは言え、これは自分から告げることに大きな意味がある――そういう類のものに違いなかった。受身の姿勢であっては、たとえ成就したとしてもさほどの価値を持たないのである。
自分から行動しなければならない。何度も己に言い聞かせたそのことをもう一度反芻し、娘は意を決した。
俯き加減のおもてはそのままに、瞳だけを上に向かせる。視界の中心に収めた青年の顔は、良い意味でも悪い意味でも一見しただけでは記憶に残りそうにない、十人並みの造りをしていた。ただ、誠実な人柄を窺わせるまっすぐな眼差しだけは印象的に映る。気圧されないよう、意識して腹から息を吸い、はっきりと言い切る。
「私、大きなリボンが欲しいんです」
「はぃ?」
青年は腑抜けたような半分裏返ったような、なんとも情けのない声を発した。娘の言葉はかなりの不意打ちだったらしい。唯一の特徴とも言えた瞳に宿る真摯な光は一瞬で姿を消し、今やその視線は星のまばらに輝き始めた空を頼りなくさまよっている。
「いや、えーと……」
しばらくの間そうすることで一応の落ち着きを取り戻したのか、青年は正面に立つ娘の顔に目を戻した。先ほどまでは見られなかった訝るような色を表情に浮かべて、整った容貌をまじまじと注視する。
「ごめん、ちょっと思い出せないんだけど、どこかで会ったことあったっけ? キミみたいな綺麗な人なら、あぁいや、これはナンパしたいとかそういうつもりじゃなくて、ほんとに忘れられそうもない女性だから。あぁなんだか歯の浮くようなセリフだな。ほんとにそういうつもりじゃないんだけど」
要領を得ない話し振りだが、言いたい事はわかる。出会ったばかりの相手に唐突に欲しいものを告げるという行為は、彼の考える常識の範疇には含まれていないのだろう。だから自動的に面識があるものと見なしてしまっている。
娘にしてみてもそれは同じことで、自分のとっている行動が常識的なものだとはおよそ思えてはいなかった。立場が逆であればきっと似たような状態に陥っていたに違いない。
結論を言ってしまえば、彼のことは名前から素性に至るまで何一つ知らないのである。
非常識な振る舞いをそうと自覚して行う羞恥は相当に甚だしいものではあるが、ここで逃げてしまってはこの辛さが完全に無意味なものになってしまう。そう考えると今更やめるわけにもいかない。
上目遣いの表情を崩さないままかわいらしく小首を傾げ、法衣の娘は可憐な声できっぱりと断言した。
「いえ、初対面だと思いますよ」
激しくざわつく心を押し隠し、何分の一かだけ、潤む瞳と赤らむ頬に、その本心を滲ませて。
- 1210@宿題sage :2005/02/13(日) 02:43 ID:mQgiaWhw
- エリスは足の長いグラスを指で弄びながら、中程まで注がれている果実酒を見るともなく眺めた。照明を点けていないため本来の色合いからは若干離れているものの、窓から差し込む淡い月の光以外に光源の無い部屋でも、その色はしっかりと赤く、そして赤といえば連想してしまうものがある。
装飾品としての他にはほとんど値打ちのない、大きな赤色のリボン。
「それで、どうなったの? もらえたの?」
「無理すぎ」
どこか楽しそうな響きを帯びた友人の問い掛けに、エリスは気だるげな声で即座に答えを返した。あまり機嫌がよろしくない。いっそのこと率直に悪いと言ってしまった方が正確かもしれない。よく知る者からはトレードマークにも近い認識をされ方をしている、一種独特なまでの美しさを持つ艶やかな黒い髪の下で、端整な相貌が苦々しく歪められる。
「思いっきし可哀想な人を見るような目で見られたわ。やってること自体は物乞いと変わんないんだからわかんなくもないけどさ」
「あはは。そりゃそうよね」
「予想通りというかなんというか、そういうオチ。結局、私にはできなかったわけだけど、サキならできると思う?」
エリスは発散する不穏な空気を取り繕おうともせず、二人掛けの小さなテーブルを一つ挟んだ向かいでグラスを傾けている娘に目を移した。慣れているのか図太いのか、彼女は向けられる不機嫌な視線にも、にやにやとしたからかうような笑みを崩そうとしない。
呼びにくいのでエリスは『サキ』と呼んでいるが、室内の闇に溶け入りそうな夜色の衣服に身を包んだこの娘は、本当は名前を紫(むらさき)と云う。肩に軽く掛かる程度の長さの、限りなく白に近いスミレ色をした髪と、同じく色素の薄い白い肌。外見だけならひどく儚い印象のあるこの友人の方が、初対面の相手を誑かすには適役なのではないだろうか。
「へ? 私? 無理無理。取巻き盛りだくさんの『エリス様ー』にできないことが私なんかにできるはずないでしょうに。大体そういうのは私みたいな血生臭ーいイメージのあるアサシンがやるんじゃなくて、清らかなプリ様がやるからこそ釣れるんでしょ」
「まぁ、そういうもんかもね」
短く同意し、エリスは心の中で自嘲気味に笑った。一般論のつもりで話したのであろう、サキの言った『清らかなプリースト』と自分とは、決してイコールで結べるものではない。口にした本人に他意の無いことがわかっていても、エリスの耳にはほんの少しばかり苦く響いた。
かすかに生まれた胸を刺す痛みを紛らわそうと、果実酒を口に含む。鼻腔をくすぐる芳醇な香りと舌の上で広がる深みのあるブドウの味わいは、強烈な存在感で意識を引っ張ってくれる。わずらわしい想念はすぐに奥深くへと沈んでいった。
「しっかし、あんたもよくそんなアホなことやったわね。無茶だと思わなかったの?」
「思った思った。すんごい思った。恥ずかしすぎて泣きそうになったし」
「じゃあ何でしたのよ?」
正直、夕方のあの一件に関しては実行に移す前から無謀な試みだと思っていたし、死ぬほど恥ずかしい思いをしながら断行した作戦は、実際にも失敗に終わった。それでもエリスにはやらねばならない理由があったのである。いや、理由と表現できるほど確かなものではなく、『そうしなければならない気がした』というくらいの曖昧な衝動に突き動かされた、がより正しい。
「それは、アレだ。これを見なさい」
グラスを置いて立ち上がったエリスは、ベッドの脇に置いてあった荷物袋から一冊の本を取り出すと、疑問符を浮かべる友人に放った。器用に片手で受け取り、サキは表紙に目を落とす。
「『これで貴女も姫! 素敵な姫ライフを送るための50の課題』。なにこれ?」
夜目の利くアサシンは薄暗い部屋でも問題なく文字が読めるものらしい。タイトルを読み上げるサキの声に、エリスは照明を点けようと伸ばしていた手を戻した。何か、月の光がとても優しく感じられる夜だった。
「別に読んだからどうなるってもんでもないだろうけど、どんなバカなこと書いてあるのかと思ってさ、気になって買っちゃったんだわ。ページ折ってあるとこあるから、とりあえずそこから読んでみて」
言われるままにページを繰って読み始めるサキを横目に、エリスは自らの境遇を顧みた。実のところ、愚かな行為に走る事となった細かな理由については、未だに良くわかっていない。サキに読ませている本が関わりを持っていることは間違いないが、それだけでは上手い具合に説明することはできないだろう。『その本を読んだら何となくそんな気分になった』としか言いようの無い漠然としたそれは、我が身と照らし合わせることで輪郭くらいは掴めるものになりそうな気がしていた。
- 1310@宿題sage :2005/02/13(日) 02:44 ID:mQgiaWhw
- ミッドガルドで活動する冒険者の中には、全体から見ればごくごく少数ではあるが、『姫』と呼ばれる者たちがいる。本当に高貴な身分である必要は無い。生まれも育ちも関係なく、『他人にかしずかれる』、その事実一点のみを拠り所として、人々は彼女たちを『姫』と位置付ける。
当人が望んで人を周りに置くこともあれば、いい顔をしない姫を周囲が祭り上げるように取巻いていることもある。どちらにしても、魔物の討伐や冒険を効率良く行うために便宜をはかってもらえたり、もっと直接に、高価なプレゼントを贈ってもらえたり、と姫の受ける恩恵は小さくない。もっとも、小さくないというのは一般から見た場合にすぎず、姫と姫とで比べてみれば、そこには歴然とした格差が存在していた。
単純に考えて、より多くの人数を侍らせた方が――姫自身が欲しているかは別問題として――得られる利益は大きい。しかし、かしずく側の理由は様々で、姫個人に非常な魅力を感じて側に仕えたいと願うケースや、姫の人脈を利用しようと取り入るケース、果ては知人との話の種にするために姫と呼ばれる人物と近づくこと自体を目的とするケースまで、挙げていけばきりがない。そんな中でいかにして多くの取巻きを得るかというのが、自ら姫であろうとしている者にとっては、最大の腕の見せ所であった。
エリスは疑う余地が無いほど明白に、姫に分類される冒険者である。エリスを知る者は誰でもそう見なしているだろうし、自分でもそうだと思っているし、そしてそうあろうとしてきた。物的に欲しいものは大概手に入れ、冒険者としてのレベルも既に最高の水準に達している。労力はほとんど使っていない。ほぼ全部が取巻きの努力の賜物である。
当然のことながら、初めからこうだったわけではない。ここまでの姫振りを発揮するに至るまでには、本当に色々なことを必要とした。
世の中はギブアンドテイクだが、ギブとテイクが等価では姫稼業は成立しない。自分にとって無価値に等しいもので他人を動かす、それが極意だとエリスは考えている。自分の容姿、自分の表情、自分の言葉、自分の振る舞い――他人を通して以外では全く価値を持たないそれらを、エリスは最大限に活用した。より大きなものを得るためには、自分の目から見ても価値がある、しかし人によってはその何十倍何百倍の価値を見出す、そういったもの――体さえも大いに利用した。心の痛みと天秤にかけて益のほうが重いのであれば、人を陥れることも厭わなかった。自らを『清らかなプリースト』と称することができないのはそれのせいである。
表立っては人に話せないような経験を幾度となく積み重ね、エリスの姫として地位は、いつしか取巻きたちを『使ってあげている』と表現して差し支えないほどに揺るぎのないものとなっていた。後悔は無い。他の姫がどうなのかは知らないが、少なくとも自分にとっての姫としての成功とはこういうことである。根底にある無償で金品その他を手に入れようという魂胆自体が既に汚い。その自覚はあるのだから、清らかであろうと願うことには、それこそ一片の価値もなかった。
そのはずだった。
エリスが自分の生き方についての確認を終えても、サキの読書の時間は続いていた。簡潔に書けば親切なものを、教本の類にはさして意味のあるとも思われない過剰な装飾の付けられた長文が延々と並んでいるその項を読破するのは、割合に骨が折れる。
待ちがてらに、エリスは記憶を探って内容を脳裏に浮かべた。細部の文面はともかく、概要は頭に入っている。肝心な部分は単純で、まとめれば、『真の姫たるものは上目遣いのおねだり一つで見知らぬ人からも貢物を頂けるものです。貴女もまずは大きなリボンあたりで試してみましょう。』その程度のことしか書かれていない。以下十数ページにわたって、その挑戦が実現不可能でないことの証明として、著者自身の実体験が記されている。ただ、それはあまり現実的ではなかった。
「あー疲れた。面倒だったけど一応ちゃんと読んだよ」
「お疲れさん」
「けど、これ何? 貴族さまが書いたの?」
「そ。ふざけてるでしょ。ホントのお姫様と平民出の冒険者じゃ、そんなの同じ話になんないに決まってんのに」
そう、同じ話になるはずがない。お姫様と『姫』とは明らかに別のものであり、お姫様の周りにいる『見知らぬ人』と姫の周りにいる『見知らぬ人』では根本的に指すものが違う。姫はどこまで行っても冒険者の延長上の存在でしかないのだから。
「性格のよろしいどこぞのご令嬢が、姫に当て付けて書いて下さったんでしょうよ。姫姫言っててもあんたたちにはできないでしょう、私にはこんなに簡単にできるのに。ってさ。そんなのわかってるっての」
「……余計わかんなくなったわ。わかってるなら何でしたのよ?」
「私もあんまよくわかってないんだけどさ、その本書いたお姫様が格の違いを教えてくれようとしたのとそんなにかわんないと思うんだよね、きっと。私はお姫様じゃないんだってのを見せつけたかったっていうか、あーいや、違うか。別に誰に見せるってわけじゃなくて、自分がお姫様じゃないってことを自分で確かめたかったのかな。てか、あー……」
ぐるぐると渦巻く想いを並べ立てていると、ふっと一つの予想に辿り付いた。腹立たしいほどしっくりくる。思考の終着点で見つけたこの解答は、たぶん、間違っていない。
「なんかさ、アレかな」
半ば独白のように言い、エリスは残っていた丁度一口分ほどの果実酒を一気にあおった。愚痴っぽくなってきたのを察したのか、取巻きどもの前では絶対にできないような乱暴な仕草にも、サキは黙って口を挟もうとしない。悪戯な笑みも収めて、今は聞き役に徹するつもりのようだった。
空になったグラスを置くと、深い溜息が洩れた。
「――私、お姫様になりたかったのかな」
ぽつりと呟く。
初めて口にした願望は、案の定、自分のものとして違和感なくすんなりと胸に落ちついた。
「気にしないようにしてただけで、こんなの、ホントはすごく嫌だったのかな。こんな、詐欺みたいにお金とか巻き上げるんじゃなくてさ、ホントに、全部、身も心もキレイなままで、そんな風で、いたかったのかな」
意図せず、声が震えた。無理に笑おうとして、できなかった。歪んでしまった表情を俯いて隠す。
「それで、こんな本見つけちゃって、自分で痛めつけるみたいに、あんなことしてさ。自分が汚れてるって確認して、それで、何だってのよね。馬鹿だなぁ、私」
途切れ途切れに話す言葉には、自然と嗚咽が混じっていた。いつの間にか視界が滲んでいる。
気づかないうちに、無意識に自分で自分を責めたくなるほどに、自分の心は傷ついていたのだろうか。他人を騙して、自分を偽って、そうして得てきたものに、自分は苦しんでいたのだろうか。だとしたら、本当に救いようがない。
「馬鹿だよね……」
湧き上がってくる感情に任せ、エリスは声を殺して泣いた。
- 1410@宿題sage :2005/02/13(日) 02:45 ID:mQgiaWhw
- 十分とはいえないものの、ひとしきり泣いて気持ちに整理をつけ、エリスは顔を上げた。二人っきりで飲んでいるのに、この調子でいては申し訳ない。
「ごめんちょっと、顔洗ってくる」
「ストップ」
立ち上がりかけたエリスを、例のからかうような表情を復活させたサキが止めた。何がそんなに楽しいのか、にやにやとしながら空いたグラスを指先で爪弾く。カンカンカンと、乾いた音が静かな夜の空気を揺らした。
「ねぇエリスさ、これ何杯目? あんたかなり酔ってるでしょ?」
「うん?」
「あんたが何を感じて泣いてたのかは知らないよ、私はエリスじゃないから。でもね、あんたは酔ったせいでこんなになってる。いや、本当に凹んでるのかもしれないけど、私の見たところアルコールが大きいわね。だからとりあえず落ち着いてくれない? あんたそのまま顔洗いに行ったらまたそこで泣くでしょ。それでなかなか戻ってこないの。『ごめん』って言ったんだからわかってるわよね? 楽しいお酒の席で一人ほっぽり出されると非常に困るんだけど?」
一瞬気抜けしたようにぽかんとなってから、エリスは泣き腫らした顔に中途半端な笑みを作った。予想外で、しかしよく考えてみればサキらしい言い草だった。どれだけ気落ちしていようが知ったことではない、自分がつまらないのが嫌だから元気を出せ、と。泣き終わるまでは声を掛けてこなかったのだから、気遣ってくれてはいる。その上でのあの言葉である。
たまらなく、暖かかった。
サキがエリスのご機嫌取りをすることはない。彼女はエリスが取巻きとして側に置いた人間ではないのだから。彼女にしてみれば、エリスが姫だからどうということもなく、まず友人としてのエリスがいて、それが姫であるというのは後付けの事象でしかないのだろう。だから姫としての自己に疑いを抱いたエリスを見ても、特に何か変わった様子もない。
周りのものが全て崩れたような喪失感の中でも、サキだけはいつもと変わらず、隣にいてくれる。相手の都合を完全に無視しているとも取れる先ほどの台詞は、その証明のように、力強くエリスの心に響いていた。
数分前とは正反対の気持ちで溢れそうになる涙を、笑顔で堪える。
「だいじょぶ。落ち着いた。すぐ戻るよ」
「なら許すわ。いってらっしゃい」
「あい、いってきます」
洗面所までのそれほど長くない道を歩きながら、エリスは友人の指摘の正しさを認めた。すっかり酩酊してしまっている。にしても、出した結論までもが検討違いなのだとは思えなかった。苦しくて、苦しくて、心の底から苦しくて、それで泣いてしまったのである。酔いだけではここまでには至るまい。
「もう駄目かな」
今日までと同様にしてこの先もずっと他人を騙して生きていける自信は、今のエリスには無かった。それによる利益についても得尽くしてしまった感がある。今更彼らが何をもたらしてくれようとも大した魅力は感じないだろう。
「潮時かもなぁ」
顔を洗う冷たい水が、アルコールに侵食された頭を少しだけ明瞭にしてくれる。未だ落ち着き切っていない心と相談してみるが、動揺を差し引いてもやはり無理そうだった。
顔を拭き、鏡を見る。どのように映っているのか、明かりが無いためエリスにはほとんどわからない。目を痛めないように魔力灯を最小出力で点けてみる。涙の痕跡は腫れた瞼と充血した瞳、そこくらいにしか残っていなかった。これなら戻っても問題ない。
「よし、決めた!」
照明を消したエリスは張り切った声で独り宣言し、洗面所を後にした。
エリスが部屋に戻ると、気配でわかるのか、背を向けて座っていたサキはすぐに振り返った。
「おかえり。早かったね。泣かなかった?」
「ただいま。泣かないよ。表情操れないようじゃあ姫はやってらんないって。まぁ、もうやめようかと思ってるんだけどね。つーかやめる。さっき決めた」
酒のせいか涙のせいか、或いは両方か、妙に重くなってしまっている体をベッドに座らせ、エリスは決定を告げた。姫生活は惰性で続けていたといっても過言ではない。その他に要因があったにしても、ちょっとしたきっかけで打ち切れるくらいには飽いていたし、疲弊しきっていた心も発見してしまった。それが最善と思われる。
「やめるの?」
「うん。なんかさ、無理だわもう」
「へぇー、エリス様もついに一般人ですか。いいんじゃないの? 私はいいと思うよ。けど、そう簡単にやめられるもんなの?」
取り巻きの中には、最早エリス教信者とさえ言えそうな異常なまでの心酔振りの者が何人もいる。サキの危惧はもっともだった。
「どうだろうね。でも、できないもんはできないし。なんとかするよ。――と、かっこよく言いたいんだけど、私支援しかできないからさ、一人じゃ色々無理あるじゃん? 力で押されたりしたらきっついし。んでさ、物は相談なんだけど」
エリスは一旦言葉を切り、面白そうに聞いているサキに笑いかけた。取巻きに向けるときはここに何らかの意図を込めて細かに表情を作るのだが、これはそうではない。純粋に、友人に相談を持ちかける、そのこと自体が楽しくて、それで笑ってしまう。
彼女との関係はギブアンドテイクではない。対価を期待して何かを与えたことはないし、おそらく逆もない。彼女は欲しいものもくれるが、欲しくないものだって押し付けてくる。自分にしても彼女に対してはきっとそのように接しているのだろう。
だからこの笑顔に意味など込めなくてもいい。彼女は彼女の意思でイエスかノーかを言う。彼女はエリスの表情に微塵の価値も見出さない。泣いても笑っても怒っても、滅多なことが無い限りサキはサキ自身を優先する。彼女のその身勝手な性格を、エリスはよく知っていた。だからこそ、本音の自分で向き合える。友人でいられる。
エリスは口を開いた。もちろん声に狙って色を付けることなどしない。
「一緒に逃げない?」
「どうしようかな。姫の最後の上目遣いの視線でも貰える? それで決めるわ。真の姫は上目遣いのおねだりで欲しいものを勝ち取るんでしょ?」
思わずエリスは吹き出した。突っ込みどころが多すぎて笑いが止まらない。姫をやめるというのに『真の』などと付け加えられても嬉しくない。そもそも件の本から持ってきたフレーズであれば、それは本物のお姫様のことであって、エリスを指すものにはなりえない。さらに姫は主導権を握る側でなければならない。催促されてから与えるのでは遅いのである。
そして、サキは『上目遣い』に心を動かされるような人間ではない。ここで要求を飲んでは笑いの種にされるだけだろう。気を抜くだけで引きつりかける腹筋を抑えつつ、エリスは返した。
「馬鹿じゃないの? 価値のわかんないやつにくれてやってどうなるってのよ? つーかいいから、どうなのよ? しない? 駆け落ち。するなら一緒に寝たげるよ、ほれ」
冗談めかして言いながら、ぽんぽんとベッドを叩く。サキはふっと鼻で笑って肩を竦めた。
「上目遣いよりいらないわよ、そんなの。――言っとくけど、あんたまだ酔ってるよ? 明日になって撤回するとかは聞かないからね。いい?」
こんなに早急に物事を決めてしまうのは自分のやり方ではないと、エリスも感じていた。アルコールに背中を押されているのは間違いない。それでもこの決断には絶対に後悔しない確信がある。サキの口ぶりから、答えは聞かずともわかっていた。
欲しいものを全て手に入れたつもりで全く逆のものを積み重ねていたとは、どうしようもない馬鹿な話ではあるが、サキが隣にいてくれた。愚かな自分にとっての、これは唯一にして最高の救い。後悔などするはずがない。
「撤回なんてしない。一緒に来て、お願い」
エリスは実に数年ぶりになる『お願い』というものをした。
サキに対してするお願いなどに何の意味もないことはわかっていたのだけれど。
自分なりのけじめとして、はっきりと口に出して――エリスは姫という生き方と、決別した。
- 1510@宿題sage :2005/02/13(日) 02:50 ID:mQgiaWhw
- 実際に姫プレイをされている方に対して何らかの意図をもって書いた物ではありません。
ということを明記しておきます。
上目遣いから話作ったのに上目遣いの方が後付けっぽくなってしまいました∧‖∧
キャラ作るのがあまり得意でないので自由に動かせるキャラが一つくらいあると楽だなぁ
と思いましてこんな感じに。
競作のネタ出されたらそれにあわせてコイツら動かそうとかそんな卑怯なヤツです。
反則だったり不評だったりしたらやめますが、ほっとかれたら続けます、たぶん。
- 16名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/02/13(日) 03:27 ID:7ygId0T6
- リレーも見てるし保管庫の人のも('A`)氏のもずっと見てる。
文才も電波も無縁なんでROMだが。
新スレ早々面白かった。色々と期待している。
- 17名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/02/14(月) 00:53 ID:imbeehlQ
- 久々にROのチケットを買ったので、徒然に時事ネタなぞを。
何はともあれ前スレ読みに行ってきます。
- 18名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/02/14(月) 00:53 ID:imbeehlQ
- 気配。足音。それがオレの意識を覚醒させる。体が瞬時に戦闘体勢を整える。いつでも寝台から跳ね起きれるように四肢を撓める。
がちゃりと鍵が回って、それでオレは力を抜いた。
気配も足音も女のもの。そしてオレの部屋に合鍵で堂々と乗り込んでくる女なんて、あいつの他に居る筈もなかった。
「まだ寝ていたのか。もう日は高いぞ」
ソプラノが告げる硬質の台詞。ずかずかと大股に歩いて、彼女はカーテンを大きく開いた。陽光がオレの目を灼く。
「眩しい」
「黙れ」
「君の美貌が眩しい」
「黙れと言ったぞ、たわけ」
こいつは変な奴だ。まず美人の癖に男言葉を喋る。慣れるとそれもまた魅力だが、慣れない奴は面食らう。
そして聖職者の癖に不親切だ。二日酔いの人間に優しくない。だが司祭だというのに「私に信仰はない」などと言い切る女だから、
それはある意味当然かもしれない。
加えて主義主張も変だ。「法術も魔術と同じく学問だ。神の御業などではない。見ろ、証拠にこの私が行使できる」なんて嘯く。
奇跡と名付けて判った気になって、どういう原理かを追究しないのは怠惰に他ならないのだそうだ。
そして一等おかしいのは男の趣味だ。なんせこのオレと付き合っている。
実は最後の一点を除いて一度意見した事がある。お前は相当変だからその辺り考えて直してみたらどうだ、と。が、馬鹿を言うな
と切り返された。
「お前にまともな渡世をしろと言うようなものだぞ?」
なるほどそりゃあ確かに無理だ。
オレは性根から腐れたヒトゴロシ。その技を更に腐らせたところで、真人間に立ち返れる筈もない。
「大概に起きろ。今日がどういう日が知っているのか」
陽光から逃れんと頭から布団に潜り込んだら、容赦のない蹴りが飛んできた。掛け布団を引っぺがされる。抵抗を諦めてされるに
任せ、仕方なくオレは寝台の上に胡坐をかいた。
「――ふ、服を着ろ、破廉恥漢」
「気にするなよ。もう見慣れたろ?」
「そ、そういう問題ではない!」
顔を真っ赤にして奪ったばかりの上掛けを投げつけてきたので、オレはそれに包まる事にする。
「で? 何の日だっけ?」
逸れた話を矯正する。む、とそっぽを向いていた彼女が、咳払いした。
「聖バレンティヌスの祝祭だ」
「なにそれ?」
「バレンタインデー、という奴だな」
「ああ、運と顔のいい男がチョコを貰える日か」
「そうだ。お前には到底縁のない日だ」
尊大な口調で腰に手を当て胸を張る。
「だから、その…だからだな。哀れみを込めて持って来てやった」
「くれるのか!?」
「なんでそこまで嬉しそうなんだ。…まあ、いい。受け取れ」
渡されたのは高級品だった。趣味のいい包装紙に色鮮やかなリボン。こういう時分にしか売れないような値段の特別製なのだろう。
けれど、市販品だった。
「――なんだ、その不満そうな顔は」
「だってさー、こういうのは『愛しいアナタの為に頑張って作りました』とか言って手作りが出てくるもんだろ?」
「作り声を出すな、気色の悪い」
本日二発目の蹴りをオレが回避すると、彼女は腕組みをしてねめつけた。
「だいたいだな、湯煎して形を固めただけで手作りも何もあるまい。物は所詮物だ。そこに籠められた気持ちが在ればよかろう。どう
せただの儀式儀礼なのだから、味と形が良いもののを渡した方がよいはずだ。いや、進物としてはむしろそれこそが正しい。合理的だ」
ぴんと来た。
「作ったんだ?」
「…」
「で、失敗したと思ってんだ?」
「……」
「そっちがいいなー」
見交わす視線。見詰め合う、というよりも、睨み合うと表現した方が適切な雰囲気。やがて根負けしたように、
「…こ、後悔しないな?」
「勿論」
頬を紅潮させたまま、彼女は小さな包みを取り出した。シンプルな包み。飾り気も何もなくて、けれどその分彼女らしい。
開けていいかと訊いたら頷いたので中を見る。不揃いのサイズの、でこぼこした茶色の塊。小さく笑いが込み上げた。実は不器用
なのだ、こいつは。家事一切を苦手としているのを、オレは知っている。
「すっげー嬉しい」
「せ、世辞は要らん」
「お世辞じゃなくて、本音。冗談は言うが嘘は言わない」
オレが告げると、緊張したように法衣の裾を握っていた拳がほっと解けた。ああもう、可愛らしいなぁ。
「その、まあなんだ、見てくれは悪いし味だって知れたものじゃない。返却するなら今のうちだぞ? なんだ、何を笑っている! だ
から嫌だったんだ。だがお前が寄越せと言うから――きゃ!?」
照れて視線を外す彼女の腕をオレがぐいと引いた。膝の上、横抱きに抱きすくめた格好。極上の抱き心地。
「ちょ、ちょっと待て! 何をする気だ!?」
残念。今更じたばたしたってもう遅い。
「感謝の意思表示」
「そんな感謝などいらんっ! こんな時間から、わ、や、やめ…ん…ぁっ」
オレは性根から腐れたヒトゴロシ。死線ででしか命を実感できない。けれど、自分にとって何が大切かは判る。自分が何を欲しが
っているのかはちゃんと判る。
神様よりも日の光よりも、オレはこいつが欲しくて。決して手放す事をしたくないから、手練手管で絡めとる。わざと嫌がられる
ような事をして、甘えるように愛されていると確認せずにいられない。
難解で不可解な思いの丈も、言葉にするならほんの五文字。耳元で囁くと、彼女の体からそっと力が抜けた。
- 19なんぼか前の201@宿題sage :2005/02/14(月) 21:25 ID:MPiW534s
- 部屋で新しく購入して来た魔術書を読みふけっていると、ノックの音がした。
相手は一人しか居ない。妹のクオンだ。あ…妹と言っても血が繋がっている訳じゃないけど。
双方の両親が冒険者仲間で家が隣という関係だった為、多少年は離れてるが殆どセットで育てられた。
何年か前、ある冒険に失敗して彼等が帰らぬ人となるまでは。
その頃の僕はサボってばかりの落第生マジシャンをのんべんだらりとやっていた。
僕はそれでも何とか一人立ちできるだけの能力はあったけれどまだ幼いクオンはそうはいかなかった。
心を入れ替えて修行を積み、ウィザードになって周囲に一人前と認めさせて彼女を引き取った。
それから暫く経て、初等教育課程が終了したクオンが選んだのは聖職者への道だった。
今はまだ成り立てのアコライトでしかないけれど…僕としては先行きが不安だ。
「なに?」
「ねね、兄さん。ちょっとこっち向いて〜」
ドアを開けて入って来たクオンに言われて本から目を上げてその顔を見てのけぞった。
うつむき加減で前髪が顔にかかり、その前髪の隙間から吊り目がちの大きな目が覗く。
ちょっと眉間に皺が寄ってたりもする…こ、これは…
「…怒ってるの?」
「え、なんで〜?」
…どうやら怒っている訳では無い様だが…はっきり言って睨まれているとしか思えない。
「いや、最近は睨まれる様な事はしてない筈だけどなー、なんて思って」
「睨んでる訳じゃないよう…おかしいな〜、この本の通りにしたんだけどな〜」
確かにその手には何やら雑誌が握られている。上目遣いで微笑んでいる少女のアップと題が見える。
『カプラ出版 月間Moe ヴァレンタイン特集、男をモノにする手法』
…
……
………
タイトルだけでもツッコミ所が満載な気もするんだけど。そういえばあの祭りは二日後だったっけ。
こいつは何だってまたこんな代物に影響されるのか。一瞬散らばりかけた思考を纏め直して声にする。
「ちょっとそれ、見せてくれないかな…?」
「ん?兄さんにはモノにしたい好きな男の人がいるの〜?」
「激しく違う」
どこか焦点のずれた物言いはいつもの事。軽く流してその本を受け取り軽く流し読む。
『男は二種類。明るく元気な女の子が好きなタイプと大人しい物静かな女の子が好きなタイプ』
『相手がどちらのタイプか見極めたならそんな自分を演出しましょう。具体的には〜〜』
〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜
『上記の部分が実践出来ない、そんな恥ずかしがりな貴女にとっておきのテクニックを伝授!』
『上目遣いに、少し恥ずかしそうに差し出しましょう。これはどちらのタイプでも有効な方法です』
『その時にタイミングを見計らって「好きです」と言うだけで男のハートをがっちりキャッチ!』
1ページ目で頭痛がして2ページ目には目眩がして3ページ目にはやるせなくなって来たがまぁ良い。
なんというか…中身の無い文章を延々と書き連ねられるのもある種の文才なのだろうな、等と思った。
大体において二種類しかいないと断言するその根拠がわからない。筆者の世界は随分と狭いらしい。
僕は、本を閉じながら溜息を一つ吐いてクオンに問いかける。
「チョコレートを渡してモノにしたい男なんて居るのか?」
「わたしだって女の子だよ〜、格好良い人にわたしを好きになってもらいたいって思うよ〜?」
ふぅ…やっぱりこいつはまだまだ子供だ。けれどもまぁ…無茶も馬鹿も若者の特権。
僕だって今のクオンと同じ年齢の頃は色々とやったんだし、あれこれ口を挟むのも野暮だろう。
クオンだって、いつかは自分が『恋に恋してる』事に気付く…筈、だよな、多分、きっと…
い、いささか不安が残るけどそれには目を瞑って。こういう時、兄としては…
「…で、僕は上目遣いの練習相手をすればいいのかな?」
「さすがは兄さん、その通り〜」
「僕で試す前に鏡で確認してからにする事をお勧めするけど」
「え、どうして〜?」
「いいからほら、さっきの顔して。はいもうちょっと顎引いて、そのまま洗面台いってらっしゃい」
顔の維持で一杯一杯なのか何やらぎこちない足取りで洗面台に向かうクオン。
少しして、世にも情けない悲鳴が轟いた…当人が怖がってどうするんだか…
泣き出しそうな顔で戻って来た所で、改めて練習開始。
「あぁ、ほら…眉間に皺寄せないで」「こ、こう〜?」
「今度は口元が引きつってる。もっと自然に」「わわ…こうかな〜?」
「頭の角度が急過ぎ。白目が見えるまで上目にしない方が良いって」「うん〜」
「前髪はヘアピンで止めるなりしなさい」「わかったよ〜」
「これえぇぇぇ…受け取ってえぇぇぇ」「…ビブラートかけてどうするの。それじゃお化けだよ」
「これ♪受け取って♪」「歌うなって…恥ずかしそうってかクオンが恥ずかしいから、それ」
「あ、ああああの、これ、受けとって下さいいいいい」「恥ずかしがるっていうかどもってるだけ」
そしてその晩は練習…というより特訓に明け暮れましたとさ。
翌日、珍しく朝から台所に立って鼻唄を歌いながらチョコレートを準備しているクオン。
昨晩の特訓の成果はそれなりで、まぁ普通に悪くないんじゃないの?という程度にはなったと思う。
少なくとも『睨みつけられてるよ!?』という最初の状態は脱している筈だ。
少しぎこちなく微笑みを浮かべ、とても目線は合わせられず、それでも想いを抑え切れない。
そして、はっきり聞こえる程度でけれど小さいと相手に思わせる音量の声で。
ほんの僅か、ためらいがちに『あの…これ、受け取って下さい』から『好きです』の連携。
一番最後の完成形では僕も思わずその気になる程…というのは冗談だけれど。
…僕も大概ノリやすい性格だ。そこまでする気はなかったんだけど。
「兄さんたすけて〜…うまくラッピング出来ないよ〜」
「…そのあたりは自分でやらないと意味が無いんじゃないかな…」
こんな会話をしながらも僕は別の事を考えていた。
今回の告白とやらは失敗するとは思うが、万が一を考えた方が良いかも知れない。
成功率を高める手伝いをしておいて何を言っているんだ僕は?と思うかもしれないが…
クオンは顔もスタイルもまだまだ発展途上だけれど、素材は悪くない。(一応、兄の欲目を引いて)
人を見る目ははっきり言ってイマイチ。何が言いたいかと言うと、悪い男に引っかかる可能性だ。
僕にはクオンが幸せになるのを見届ける義務がある。それは双方の両親の墓前に誓った事だ。
万が一告白が成功して、相手が悪い虫であった時だけは僕も手を出そう…そう決めた。
そして、当日。
足取りも軽く出掛けていくクオン…軽いっていうか地に足がついてないっていうか。
転びやしないかと心配になりながらも見送って、僕も家を出る。
…一応念の為言っておくけれど、こっそり後をつけたりする訳じゃない。
堂々と後をついて行く!…いや冗談だから本気にしないで。仲間に誘われて狩に行くだけだから。
で、あっという間に時間は過ぎて。
夜になって戻って来た。狩は上手くいってレアも出た。当面の生活費には困らないだろう。
分配でちょっと時間を取られて、家に戻ったのは日付が変わってからだった。
普段ならクオンはもう寝ている時間だ。家の灯も消えている。結果発表は明日だろう。
そう考えながら静かにドアを開けて居間に入ると暗がりの中にクオンが居た。
「あ…兄さん、お…帰りなさい…」
それは明らかに泣いている声で。やはり駄目だったのかと内心思いながらも優しい声で問いかける。
「ただいま…何があったんだ?」
「…それがね…」
クオンの話を要約すると。
『渡そうと駆け寄っている最中にすっ転んで泥だらけになった挙句、
渡したハート型チョコレートは綺麗に真中で割れていて大爆笑。コイゴコロも見事にまっぷたつ』
という事らしい。
…おいクオン。僕を笑い殺すつもりか。
という言葉は泣き濡れた眼でおずおずと上眼遣いに見上げて僕の様子を窺うクオンには言えなかった。
僕は、あまりといえばあまりにらしいオチに笑い転げたい衝動をそれこそ必死で堪え、慰めつつ。
やっぱり演技と自然な仕草には天と地の差があるな、等と考えていた。
他の奴に見せるのはいかにも惜しい。こんなに可愛らしい様を見られるのは兄である僕の特権な訳で。
それは、いつの日か、他人のモノになってしまうのだろうけれど。そんな事はわかっているけれど。
クオンの幸せを願うかたわら、その日が一日でも遠くあればいいのに、と。
矛盾した事を思う僕もちょっとどうかしてる。
まぁいいじゃないか。この調子ならその日はまだ当分こないだろうから。
それまでは良き…かどうかは知らないけど、兄としてこの妹を見守っていくさ。
…ちなみに、クオンから僕へのチョコレートは慎んで辞退させてもらった。
前日の失敗作の山を全部腹の中に処分する羽目になったんだからさ…当分は見たくもないよ…
- 20なんぼか前の201sage :2005/02/14(月) 21:37 ID:KAnqityY
- 座談会から一週間でもう一度座談会やるのか!?
というペースで皆投下しているから正直ビビっていたのは内緒だ!
では、板汚しすまなかった
新スレが賑わいますように
- 21名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/02/15(火) 03:38 ID:sre8.8BI
- 「おかえりー」
ドアを開けるなりそう声をかけられて、不覚にも動揺した。声の主が彼女だったから。そして俺の手には、義理とはいえ手渡
されたばかりのチョコレートがあったから。
「勝手に入るな」
「いいじゃん。いつもの事だよ」
ネンカラスの宿屋。その二階部屋に俺は長逗留している。ギルドの面子が階下を溜まり場にしていて、何かと便がいいからだ。
当然個室を取って鍵もあるのだが、盗賊技術を修めた彼女の前ではないも同然だった。いくらガキの時分からの付き合いとは
いえ、俺のプライバシーはないに等しい。シーフギルドも盗みですらないこんな些細な罪悪を関知はしないし、全く以て性質が
悪い事この上ない。
今だってどこにいるのかといえば、俺のベッドに勝手気ままに寝転がって、手をひらひらさせているのだ。
「また義理ばっか?」
俺の手荷物を認めて、どこか猫を思わせる大きめの瞳が楽しそうにこちらを見た。一挙動で体を起こして座り直す。やはり猫
科の獣を連想させるしなやかな身ごなし。
「うるせェ。ひとのベットを勝手に使うな。襲うぞ」
「そんな甲斐性ないクセに」
くすくすと笑ってから止めを刺すように、
「やっぱ義理ばっかなんだ」
「…お前はどうなんだよ」
その仕草が妙に癇に障って、俺は八つ当たり気味に口にした。
「は?」
「そういうお前には居るのかよ。本命のチョコレート渡すような相手はよ」
止まらなかった。うっかりと出た言葉だったが、それは答えを得たい問いでもあったから。
「ん、居るよ」
さらりと応答されて、俺はぐらりとした。そうか。居るのか。それでもなんとか踏みとどまったところに追い打ちが来た。
「毎年あげよっかな、って思うんだけどね」
かすかに寂しそうな目をして、そして彼女は目を閉じる。ずきりと胸が痛んだ。
「でも今までの関係とか壊れちゃいそうで、面倒になってやめちゃうわけよ。こんじょーなしだね」
誰かを想う横顔。そんなものは見たくない。唇を噛んで俺は背を向けた。数個の菓子包みを卓上に置いて、
「着替えるから出てけ」
「どうしたの?」
声の棘が伝わったのだろう。彼女が不思議そうな声を出した。
「どうもしねぇよ」
「…」
即座に切り捨てると、気まずい沈黙が落ちた。しまった、語気が強すぎたか。
「あ、判った」
「なんだよ?」
自省したところに軽い声。渡りに船と聞き返す。
「チョコ、欲しかったんでしょ? 私から」
「…阿呆かお前。いらねぇよ」
一瞬詰まったのに気付かれただろうか。顔を背けていた事をありがたく思う。表情を読まれずにすむ。胸を撫で下ろしていると、
「意地張っちゃってー」
するりと、背中越しに細い腕が絡みついた。何事だと首を捻ると、背伸びした彼女の顔が目の前にあった。
あっと思う間もなく、やわらかな感触が唇を塞ぐ。驚きを漏らしかけた口中に、何か甘ったるいものが押し込まれた。思わず
嚥下してから今の行為を反芻して、俺は頭が沸騰するかと思った。
「お、お前、何考えて…」
「だってさー、だって鈍いじゃん。わかんないじゃん、これくらいしないと」
耳までも真っ赤にして、それでも余裕を気取って彼女は微笑む。
「それで――どう? 甘かった?」
そして口元を拭って、嫣然と。味なんて判るはずもない。酸欠の魚のように口を開閉する俺を余所に、彼女は新しいチョコレー
トの包みを剥いた。二本指で挟んで艶やかな唇に添える。悪戯っぽい、けれど真剣な上目遣い。
「もうひとつ、要る?」
「…本命なら貰ってやる」
「うん。じゃ、受け取って」
二度目は。一度目よりも長くて、そして甘かった。
- 22PBsage :2005/02/16(水) 02:44 ID:NkDBhXM2
- バレンタイン少し過ぎちゃいましたが、時事ネタいっきまーす゜`( ・ω・)ノ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
暴走恋愛十字聖戦
「店長店長ぉ! 聞きやしたぜ聞きやしたぜ!!」
「ふが?」
晴天のもと、王都の市に立つ露店看板の下。
その主の鍛冶商人アルが緑ポーションの瓶に口をつけながら味わう束の間の休息を、そいつらは邪魔しにやって来た。
「姐さんとのケコーン、もとい結婚の話でやんすよぉ!」
「悔しいけどオレも男、ここは涙を飲んで祝福してやるじゃん」
「うーむ、挙式は一体何時なのだ?」
黄、緑、赤の頭髪を揺らして肩を並べるシーフルックの若者達は、鼻息荒く勝手なことを口走る。
ちなみに彼らはアルの相方の廃シーフ・カリンの後輩――というわけではない。過去にソグラド砂漠で徒党を組んで職名宜しく由緒正しき追い剥ぎ稼業に精を出していたところを、まとめて彼女に締め上げられた挙句、正道に戻されたついでにその熱烈な追っかけと化してしまった義理の三兄弟である。
その縁で、当初はアルのことを何かと敵対視していた三人だが、アマツ温泉イベント〜湯けむりタシーロ旅情変〜やココモビーチ海水浴イベント〜悪戯タマちゃんの水着泥棒大作戦〜など数々の修羅場を通して、いつしか男の浪漫の名の下に意気投合。ごく稀にだが露店の売り子の手伝いをさせるぐらいの間柄にはなっていた。
「おい、落ち着けおまいら。さっぱり話が読めないんですが」
あからさまに頭にクエスチョンエモを浮かべながら、鍛冶商人アルは緑ポの瓶をカートに放り込む。
「まぁたまた、とぼけちゃってからにのお人は〜。この前開かれた、なんとか言うSSコンテストで店長と姐さんも出品したでやんしょう?」
「その時にプロポーズしたってギルドの人から聞いたじゃんオレたち」
「ぷっ、ぷろぽおずっ? 俺が? うそぉん!?」
「確かに聞いたのだな、二・五メガゼニー溜めるとか言ってたのだな」
「……はて、そんなこと言ったっけかなぁ?」
アルは暫し顎に手を当てて何やら思い出すと、はたと手を打った。
「おお! それはきっと、これだよこれ」
会心の笑みでカートの中から取り出したるは、手入れを済ませたばかりの一振りの巨大なハンマー。その柄には三枚の魔力結晶が封入されていることを示す、三つのスロットが見受けられた。
「トリプルクリティカル……ハンマー?」
「そうそう! これがあの時ニ・五メガで売りに出されててだな! 自分で作るよりずっとお得だろう!? それが一昨日ようやく買えたんだ。すっげ欲しかったんだよこれ〜」
至福の表情でソルジャースケルトンカードの三枚刺さったハンマーに頬擦りするアル。
「えー、ソルスケ三枚挿しってすっごくびみょーな……」
「使いどころ無さそうじゃん……」
「いわゆる一つの趣味武器なのだな……」
「うるへー!! つべこべ言うなー!! このピコピコな外見でクリ連発が浪漫なんだいっ!!」
ヽ( `Д´)ノという顔文字そのままに、辛辣な評価を払拭しようとラウドボイスを張り上げるアルはとっても必死。
「だいたいなぁ、この俺様が結婚なんてした日にゃあ、ルーンミッドガルド中の女の子たちが悲しむだろう?」
一転、前髪を掻き上げながら白い歯を光らせて嘯くアルに、三兄弟は一様にげんなりとした顔をした。
「いっつも思うんすけど、その根拠の無い自信一体どこから受信して来やすんで?」
「アンテナつけてないのに感度良好ビンビンじゃん?」
「フハハハ、デムパと天才は紙一重なのだよボーイズ」
「それは絶対に破れない特殊合成繊維製の紙なのだな」
「じゃあプロポーズしたっちゅうのはガセネタってことで?」
そこが問題よぉ、とアルは殊更大仰に思案顔を作る。
「ガセというより、ひょっとしてあいつの願望だったりしてな。モテる男ってのも楽じゃないねぇ。まあ、向こうがどうしてもって言うならこちらとしても鬼じゃなし、ちっとは考えてやらんではないが――」
腕を組みながら一人うんうんと頷き、何様だよと突っ込み入れたくなるほど大上段に構えてのたまうアルの露店の前に、マントと三度笠で素性を隠した一人の来客の姿。
「ちょっとBSさん、これ良いかしら?」
「お、はいはいいらっしゃーい!」
快活そうな女性の声で指差されたのはカート上の販売展示用スペースの一番下に置かれたハンマー。
露店で取引される最高値が付けてある。例の趣味武器だ。
「――ってごめんね、お嬢さん可愛いからおまけしてあげたいのは山々なんだけど、これ展示用なんですよ〜。見ての通りかなり割高でしょ?」
「構わないわ」「Why?」
客は被っていた笠をおろし、ぼろマントを脱ぎ捨てる。その下からアルのよく見知った姿が現れた。
「相方が立て替えてくれるみたいだからね」
「げぇっ! 張飛――じゃなくてカリン!? い、一体いつからこちらへ?」
「『うそぉん!?』のあたり?」ハイディングはシーフの十八番である。
アルの背筋に寒気が走る。カリンは笑ってはいるが、このパターンはヤバい――そう本能が警鐘をジャンジャン鳴らしていた。
「いやいやいやいや、何か不幸な誤解があるようですが!? ほら、おまいら説明し――」
冷や汗と共に振り返ったその先にいた筈の三人組の姿は、忽然と掻き消えていた。繰り返すがハイディングはシーフの十八番である。
「それじゃあ、ゆっくりとその誤解とやらを説明していただこうかな?」
額の血管が見えてしまいそうな彼女の作り笑顔の前に、アルの必死のスマイルは蛇の前の蛙のように凍りつき――。
結局カリンは、アルの売り物でそのオーナーを対象にクリアサ気分を少しだけ堪能した。
げに難しきは乙女心かな。
- 23PBsage :2005/02/16(水) 02:52 ID:NkDBhXM2
- 「やってきましたっ! バレン! タイン! デイッ!!
即ち菓子会社のプロパガンダに乗っかる形で女性から男性へ公然と告白しても許される日っ!
というわけで先輩、突然ですけど貰ってください!!」
「えっ、何を……?」
「この鎧、――実は全部チョコ製なんです!」
「な、なんだってー!?」
「いただいて下さい! わたしごと!!」
「嗚呼、レナ、かわいいよレナ……」
「ハリー先輩……、すてk
ガゴン!!
「うきゃん!?」
「人の留守中にカートの中でなに淫夢を見腐ってやがりますかこの暴走妄想色呆け娘わ」
露店用のカートから真っ逆様に道端へと放り出されたクルセイダー姿の少女・レナータは、
涙目で腰を摩りながら白昼夢から強制的に覚醒させられた。
「ひどいやリネっち、女の子の夢を勝手に覗くなんてっ!」
「やたら感嘆符の多い恥ずかしい寝言を、延々と聞かされるこちらの身にもなってみろ」
そんな珍獣をカートに詰めていたところで商売の邪魔にしかならない。
「だからってエロティカルドリーマー呼ばわりはないですよ!
そう、あれは愛し合う男女が互いの愛情の深さを確かめ合う神聖な儀式で――」
手を合わせて恍惚に浸る乙女に、友人は容赦なく突っ込みをかます。
「そういうことはそのよだれを拭いてから言うんだなレナ太郎君」
「――はっ!? うわあああん!!」
カートの女主人であるミニグラスをかけた錬金術師・リンネは、何かまだ泣き喚きながら
言い繕っている相手に目もくれず不機嫌そうに煙草に火を点けた。
「だいたい、寝不足でうたた寝するのは仕方ないとしても、準備はもう済んでいるんだろうな?」
「モチのロンですとも! 片眉剃るほど山に篭ってお猿さんたちをしばくこと一週間、
見てくださいこのわたしの輝かしき血と汗と涙と先輩への愛の結晶を!!!」
彼女が掲げるのは、ヨーヨーが持つカカオを原料として作った、名前入りの手作りチョコの入ったケース。
「これをあの愛しのハリー先輩に渡すことを考えただけでもー、わたしの早鐘ハートは千々に乱れるというものですよ!
きゃー、今日のわたしってばダ・イ・タ・ン!! カームヒアァァ!!」
そのヨーヨーたちの血と涙の結晶を抱きしめて、栗色の髪を振り乱しつつ一人身悶えして盛り上がっている友に向けて、
リンネはぶっきらぼうに指摘した。
「それはそうと、こんなところでのんびりしてていいのか?
お目当ての王子様はえらい大勢の女性陣に追われて逃げ惑っていたが」
「あ、あんですとー!?」「あ、ほら向こうに」「マジすか!」
その指差す先では赤毛紅顔の青年騎士が、女性陣と思しき妙な黄色い声と砂煙を上げている群集に追いかけられながら、
必死の形相で全力疾走していた。
「街中で大トレインとはなんともノーマナーな」
「あ……あんなにライバルいっぱい……」
暢気な感想を吐くリンネに向けて、レナータは黒いオーラを纏いながら身をぷるぷる震わせて言う。
「……リネっち、古木の枝の在庫ある?」
「テロなら却下だぞ」
「じゃあ無料露店で足止めとかどうですよ?」
「何がどうですよ、だ。ええい、他力本願しとらんと、聖堂騎士なら正々堂々と当たって砕けてこんかいっ!」
リンネはガッシとレナータの襟首を掴み、カートに放り込むとその入れ物ごとぶん回す。
「おきゃあっ、まだ心の準備があああああぁぁぁぁぁ!!」
勢いつけて回転するカートの柄をリンネが思い切り踏みつけると、
梃子の原理と遠心力の相互作用をその小さな体で受けたクルセ娘は、
その悲鳴にドップラー効果を発生させながら思い人の騎士の駆ける方向へと飛ばされていった。
騎士ハリーはその駿足だけを頼りに、死に物狂いで駆け続けていた。
今日はどうしたということか、やけに特徴的な女性に声を駆けられるなと思ったら、
しまいにはこんなことになるなんて――。
「待って〜ん」「ハリーきゅんはアタシのモノよ〜」「ああん、足速すぎ〜ん」「焦った顔もきゃっわい〜」
後方から迫る豪奢な――もとい、けばけばしい衣装を身に着けた人々の異様な嬌声と地響きを思わせる無数の足音。
捕まったら下手すりゃ嬲り殺されるかもしれないと思えてくるほど、この状況は異常だ。
街中だからとペコペコを厩に置いて来たのが今になって悔やまれる。
――欲しいのはコロン姉さんの気持ちだけなのに……、そう思うことですら罰当たりということでしょうか神様。
青空に、同じギルドの先輩である天然気味な女司祭のお日様のような笑顔を浮かべると、
切羽詰った状況に弱った心では思わず落涙してしまいそうになる。
だがその隙こそが命取りだった。
「ハリーきゅんつぅかまえた〜」
「うわっ、しまった!!」
足元にスライディングしてきた追っ手の一人の野太い腕が、
アンクルスネアの如くがっちりとハリーの脚を掴んで離さない。
「フゥハハハーハァー! 約束通りワタシと天国に行こうぜベイべー」
「や、やめて下さい! 俺約束なんてしてません!」
“ハート”エモを出しながら濃い化粧と硬そうな産毛に包まれた、歴戦を潜り抜けし最強国家の前線兵士の如き強面が、
構わずハリーの唇めがけて近づいてくる。その先に待つのは多分、地獄だ。
あまりの気色悪さに思わず目を瞑ったその後、すぐ側で響く何かの落下音に驚いて目を開ける。
「わちゃっ! またさっきと同じとこ打ったー……って、あーっ! こやつわたしの先輩に何するですかーっ!!」
目の前で、片側に三つ編みを作っている栗色のセミロングの髪の上に鎮座まします、小さなリボンのヘアバンドが揺れている。
その持ち主、後輩のレナータは自分の下敷きになって目を回している厚化粧の強面女をふん捕まえると
容赦なく右フックを叩き込んだ。
「れ、レナ?」
「先輩っ! 逃げてくださいっ!! ここはわたしが!」
「でもそれじゃ君が危険に――」
レナータはハリーの言葉を遮り早口で捲くし立てた。
「わたしのことをそんなに大事に思って下さるんですね、うれしいですっ!! でも大丈夫、
あの人たちの目当てはわたしじゃなくて先輩なんです。先輩は誰にも渡しはしません!!」
レナータは、あれ、こんな筈では……他にするべきことがあったような?、と頭の隅で思いつつも、
この緊張感特盛りのシチュエーションに呑まれるに任せていた。
目をキラキラ輝かせてやる気に燃えるその姿に、ハリーはもはや通用しそうな言葉を見つけられない。
「ここから先は、なんぴとたりとも通しはしませんからっ!!」
少女は愛用のサーベルをスラリと抜き放って、戦地に赴く騎士の顔をした。
「あ、ありがとう。でも本当に無理しないで」
「安心してください。これでもわたし、あの“氷壁の重騎士”の妹弟子なんですよ?」
ウィンクしながら強引にハリーの背中を押してその後ろ姿を見送ると、喚声を挙げて迫り来る群集を
眼前に見据えながら大きく息を吸い込んだ。
- 24PBsage :2005/02/16(水) 02:53 ID:NkDBhXM2
- 「ここまで来れば……、とりあえず、大丈夫かな」
ハリーが辿り着いたのは衛兵の詰めている王城の正門近く。
自分を落ち着かせるために吐いた台詞だが、現実問題足の方が限界に来ている。
今ここであの人達に見つかったら王手確定、完全に投了だ。
幸い、レナータの足止めが功を奏したのか、追っ手の迫る気配はなくなったように見えた。
が、そうなると気がかりになってくるのは彼女の安否。
極限の緊張状態で盾にして置いてくるような形になってしまったが、こうして冷静に考えると先輩として、
騎士として、いや男としてあそこは踏みとどまるべきではなかったのか、という思いが心を責め立てた。
やっぱり戻ろう、そう思って腰を上げた時だ。
「いや〜、モテる男は大変ですねぇ」
突然かけられた声に驚いて顔を上げる。
そこには藍色の髪を後ろでおさげにした咥え煙草のアルケミストが、やにさがった笑みで紫煙をくゆらせていた。
過去に一度だけ挨拶したことのある彼女の名前を、ハリーは記憶の引き出しから探し当てる。
「君は……レナの友達のリンネさん?」
「どーも、愚友がお世話になってます」
飄々と頭を下げる後輩の親友を前に、ハリーは幾分か緊張を解く。
「それにしてもすごいもんですねぇ。いくらバレンタインデーとはいえ、あんな百鬼夜行を髣髴とさせる
モテっぷりは初めて見ましたよ。もしかして何かの撮影とかでした?」
「いや、俺だってこんなの始めてだよ。午前中はなんとも無かったのに……」
渡されたポーションを口にしながら、納得いかない様子で目を落とす。
「ふむ――お昼はどこで食事しました?」
「え? えーと、騎士団からの帰りだったから西区の“蜘蛛の巣亭”で軽く済ませたんだけど――」
リンネは少し何かを思案すると、ミニグラスの端をキラーンと光らせながら、顰めていた形の良い眉を上げて言った。
「失礼、少しマントを見せていただけませんか?」
レナータはその華奢な体を、リンネにカートで飛ばされたときに一緒に落下した、
彼女には不釣合いなほど大きいフルプレートで覆うと、眼近に迫った群集の進路上の街路に気合一閃、
その愛剣を付きたてる。
「ストップすとぉぉっぷっ! 目晦まし程度だけど、グランドクロス!!」
群集のきゃあきゃあといった嬌声は、大地から十字を象って立ち昇った聖なる白光によって
一時的に視界を遮られてぎゃあぐわーといった叫び声に変わる。
今のこの人たちなら、悪魔種族扱いで暗闇効果を与えられてもおかしくなさそう、
とレナータは失礼なことを考えた。
低レベルのグランドクラスでは所詮焼け石に水の筈。だが群集の混乱の度合いは想定していた以上に大きかった。
よく注意してみれば、群集の周り各所で火炎瓶や爆発巨大イクラ、人食い向日葵に似た魔法合成生物がばら撒かれ、
混乱に拍車を駆け効率的に足止めの役目を果たしている。
――流石わたしの心の友、リネっちGJ! とレナータは心中親指を立てて友に感謝した。
そうこうしているうちにハリーの姿を見失ってしまった群集の一部は、激昂の声を挙げる。
多勢に無勢、しかもまだ新米クルセイダーの自分に到底勝ち目はないが、
それでも女同士の戦いでは一歩も退かない覚悟だった。
――先輩のこと一番好きなのは、わたしなんだから!
しかし対峙しているうちに、憤懣やるかたない群集の発する激しい怒号の含む違和感に、
レナータに生じた疑念の大きさも正比例していく。
「この人達、もしかして――」
「アンタたち、みっともない真似はおよし! ここはアタシたちの負けよ!」
前に進み出た、体格の良い馬面の女性が一喝すると、群集の怒りは段々と静まっていった。
胸を大きくはだけた、客商売の女将のような扇情的な服装とは裏腹に、その顔つき、
肉付きはあまりにも精悍で逞しい。
「失礼あそばせ。アタシは小さなバーをやっているキノっていうの」
自己紹介したキノはさも残念そうに睫毛過多のその目を伏せると、わざとらしく首を横に振って呟いた。
「かわいらしいお嬢ちゃん、年恰好に似合わず大した根性じゃない。アナタには負けたわ。
未練は残るけどハリーきゅんは諦める……けどね」
意味ありげにちらと流し目を送って息を吸うキノの姿に、レナータは激しい悪寒を覚えた。
「は、はい?」
「アタシたちニューハーフって――かわいい女の子も大好きなのよぉぉぉおおお!!!!」
「お、おとこのひとー!!?」
思い切り拳を振り上げて彼女――いや、彼がシャウトすると、女性の格好をした数寄者たちが
思い思いに甲高い歓声を上げて、混乱しているレナータを取り囲んだ。
“蜘蛛の巣亭”は西区における一番大きな酒場である。
モロク出身者の多く住む住宅街が近場にあるため、自然とシーフやローグが客層の多くを占めるこの店では、
まだ日も落ちていないと言うのに、三人のシーフの若者たちがある話題で盛り上がっていた。
「いや〜、今日は本当に傑作だったじゃん! なあデニーロ!」
「久しぶりに、良い仕事をしたのだな」
「ローグの先輩に貰ったこの落書きペン、壁に掛かってたマントに試し書きしたら、あのナイトの兄ちゃん、
気づかずに着ていくんだもんよぉ」
金髪を逆立てたシーフ・アンドレがくるくるとペンを弄んでへらへらと笑うと、他の二人も相槌を打つ。
「アンドレ、なんと書いたんだっけな?」
「『バレンタインにカミングアウト! ニューハーフの恋人先着一名様☆ミ さあ、僕を捕まえてごらんよ><』
だっぜ! どうよ俺の文才!?」
「馬っ鹿じゃん、こいつ大馬鹿野郎じゃん?」
緑の下ろした前髪で片目を隠したシーフ・ピエールが卓をバンバン叩くと、
「アンドレらしく知性の欠片も無い落書きなのだな」
赤い髪をオールバックにした渋面のシーフ・デニーロが頷く。
「でもよぉ、なんであのナイトのマントを狙ったんだ?」
「どこかで見たことあるような騎士だったのだがな……」
「決まってるぜピエール、オレよりイケメンだったから!」
「そんな理由かよー! かわいそすぎだろ! オレらもピンチじゃん!」
「安心しろてめーらはセーフだ。――けっ、どうせああいうイケメン野郎は女どもからチョコ貰いまくって
鼻の下伸ばしてるような奴だから、このぐらいしたって罰は当たらないんだよ」
心底羨ましそうに顔をゆがめたアンドレに、ピエールも膝を打って同調する。
「それもそうだよな! オレたちは女の子から逃げられてばっかだってのに不公平じゃん!」
「それよりさっきすごいテロを撮ってきたのだな」
赤髪のデニーロが出したSSには街中を逃げ回るハリーと、
それを狩猟者の目つきで追っかけるニューハーフご一行の姿が写っていた。
「うは、ありえねー! トレインしすぎだぜ!」「騎士サマモテモテじゃん!」
自分たちの悪戯の大成果に溜飲を下げて、手を打ちながら馬鹿笑いするシーフたち。
「チョコなんかスティールする以外無縁の俺たちの恨み、思い知ったかって奴じゃん?」
「バレンタインなんかで浮かれてるような軟弱な野郎にはいい薬だっぜ!」
三人はまた顔を見合わせてぶひゃひゃひゃと転げまわった。
- 25PBsage :2005/02/16(水) 02:54 ID:NkDBhXM2
- 「えーと……あの人たちが犯人?」
「ええ、まずそう見て間違いないでしょうね」
蜘蛛の巣亭の二階席から、一階の三人の盛り上がりを観察していたハリーとリンネである。
遠くから見る程よく目立つ特殊なペンで落書きされていたマントは既に外してあるので、
もう街中で追いかけられる危険性は無かった。
「安心していいですよ。彼らの素性は割れてるので、責任者筋に全て事情は連絡しときましたから」
Wis送受信機能付きの冒険者用多目的携帯端末の蓋を閉めると、リンネは相変わらず落ち着いた声で伝えた。
しばらくすると、ニヨニヨ笑みを浮かべている鍛冶商と不機嫌そうな女シーフが連れ立って
三人の卓のもとにやってきた。
「あの人たちは――アルさんとカリンさんじゃないか」
その姿を見た三人は先程の威勢はどこへやら、言い訳も空しくカリンに叱咤されると、
金髪と緑髪はずるずると襟首を掴まれて店外へと連行され、赤髪のシーフも大人しく後に続いた。
「ああ、確かに同じハリーさんと同じギルドの方たちでした」
「まだβの時代だった頃からの先輩なんだ」
「それは奇遇ですねぇ。では、あの三人との面識は?」
「うーん、会ったことあるかもしれないけど覚えてないなぁ。アルさんたちって割と人脈広いから」
ハリーの携帯が点灯し、ギルドチャットの着信を告げる。カリンからだ。
『もしもし、ハリー君? ごめんね。このトンチキどものせいで大変なことになったって。大丈夫だった?』
「いえ、別に怪我したわけじゃありませんし、全然平気っすよ」
『そう? なら良かったわ。けど、こいつらの処遇はどうする?』
カリンの声の背後から、「ご・う・問! ご・う・問!」などと小学生のようにコールを叫ぶ
とっても楽しそうなアルの声と、バルバルバルチュミミ〜ンという謎の擬音、
そしてシーフ三人組の「それヤバイって、マジ死んじゃいやすって!」といった悲痛な叫びが漏れ聞こえてくる。
「……すみません、おまかせします」
ハリーは携帯の蓋を閉じると、思い出したように真剣な顔をして行った。
「さっきも聞いたけど、本当にレナは大丈夫なの?」
リンネは意味ありげにニヤリと笑うと、意地悪そうに質問を質問で返す。
「そんなにあの子のことが気になります?」
「そりゃあ、俺の身代わりになったようなもんだし、気にならないわけ無いよ」
その糞真面目な答えぶりに、こりゃ聞きしに勝る朴念仁だわ、と溜息をつくとリンネは言った。
「って、そういうことじゃなくてですね。あの子の好意を貴方はどう思っていますか、ってことですよ」
「それは……気づいてないってわけじゃないけど、同じ剣士の先輩として好きとかそういう意味じゃあ――」
「残念ですが大はずれ。どこの世界に先輩として好きなだけの相手に命まで張る女の子がいますかね」
自分でその死地に追いやったことは綺麗に棚の上にあげつつ、リンネはミニグラスを中指で押し上げる。
ハリーは自分の身代わりに残して来た後輩の少女のことを思うと、眉を顰めて口をつぐんだ。
「あの子、うちの露店邪魔しに来ては貴方のことばかり喋ってますから。おかげで貴方のことに関しての予備知識、
無駄に仕入れさせてもらっちゃってるんですよ?」
リンネの全てを見透かすような意地悪っぽい笑みに、赤面したハリーはやりにくそうに目線を外す。
「レナは頭よくないし不器用で直球しか投げられないから、あっちのことに関しちゃ本気と書いてマジなんですよ。
ダチの私としては危なっかしいわ、惚気て五月蝿いわで見てらんないんですけどね〜」
ハリーもなんとなく共感して、二人で苦笑する。
「ま、そういうわけですが――かといって無理にハリーさんに押し付けようってわけもありませんので、
その気が無かったらあの子のためにも余り気をもたせんといてやって下さい。後のフォローはこっちでやりますんで」
考えさせられるところがあるのか、すっかり言葉少なになったハリーを見て、リンネは切り上げ時を悟る。
「っと、らしくもなく他人の恋路に踏み込みすぎましたね。ハリーさんにもハリーさんの考えがおありでしょうし。
不躾なこと言ってすみませんでした」
「いや、気にしてないよ」
「あ、噂をすれば本日のMVPのご帰還ですよ」
「せんぱ〜い、リネっち〜、レナータ=ローウェルただいま帰還しました〜っ!」
へろへろに間延びした声を上げながら、二階に上がって来た少女の扮装を見て、二人は目を丸くする。
いつもの動きやすそうな軽装用の簡素なメイルではなく、黒を基調としたドレスの表面を凝った薔薇や十字架の刺繍
であしらった物を、更に過剰なほどフリルやリボン類でデコレーションした、敢えて表現するならば
フルアーマーゴシック・ロリータカトキVer.ともいうべき、目を見張らせる珍妙な代物であった。
「おやおや、これまた面白いラッピングをされてきたもんだなレナ太郎君」
「あの人たち人当たりはいいのに、わたしのことおもちゃにしまくるからめっちゃ気疲れしたっすよおおおお!」
邪魔なデコレーションをかなぐり捨てて目の幅の涙を流しながらも、しっかりとかわいらしい洋服やお菓子類の
入った袋をお土産に貰って帰るあたりちゃっかりしているな、と二人は冷静に観察した。
「おかえり。そしてごめん、俺のせいで……大丈夫だった?」
おもちゃにしまくる、という件を聞いて柄にも無くとんでもない場面を想像して赤面しまったハリーは、
咳払いで動揺を誤魔化しながら尋ねた。
「あ、先輩! 先輩のためならあのぐらい全然余裕っす! あんなのマネキンのバイトみたいなもんですよ!」
何故かびしっと軍隊式の敬礼で返すレナータ。そんなアルバイトがあるのかどうかは知らないが。
よく聞けば、あれからニューハーフたちの溜まり場になっているキノの経営する
バー“ダイアリーオブトサ”に有無を言わさず連れて行かれた彼女は、意外にも手厚い歓待を受けたという。
『あら、思ったとおり! レナちゃんこのお洋服とぉっても似合ってるわよ〜』
『まっ、かわい〜わ〜。姉さんそろそろどいて! 今度はアタシが見繕ってあげるの!』
『あうう、そろそろ帰してくださ〜い!』
かわいいものに目が無いニューハーフのおネエさんたちに着せ替え人形扱いされた、というのが実情に近いか。
レナータの苦労をねぎらいながら丁度良い時間だしと夕食を三人で摂ると、店を出た頃にはすっかり外は暗くなっていた。
「私は買い物していきますんで、この辺で失礼」
リンネはレナータの脇を肘で小突き、しっかりやるようにとにやけながら目で合図すると、
後ろにパンダの縫いぐるみを乗せたカートを牽きながら宵闇に林立する露店通りに消えていった。
- 26PBsage :2005/02/16(水) 02:54 ID:NkDBhXM2
- 「きれいな星空ですね〜」
どこか音程のずれた鼻歌混じりに、空を仰いで先を歩くレナータの栗色の髪の上で
、お気に入りの小さなヘアバンドのリボンがぴこぴこと揺れている。
「今日は、本当にごめんね」
二人きりになるとまた、彼女を捨て置いて自分だけ逃げたという罪悪感がハリーの心を苛んだ。
「も〜、やだなぁ先輩。そのことは大丈夫って言ったじゃないですか〜」
彼女は振り返るとばつが悪そうに手をひらひらと振って苦笑する。
「先輩のお役に立てるんだったら、わたし喜んでなんでもしちゃいますよ!」
小さくガッツポーズを作って明るい笑顔を見せるレナータ。
その無邪気で真剣な視線が苦しくて、薄笑いで誤魔化しながらつい目を背けてしまう。
レナータが自分のことを慕っているということぐらいは、リンネに指摘されずともわかっていた。
しかし、今所属しているギルドが小さなパーティーだった時代から胸に抱き続けてきた一つの思いが、
その事実から目を反らさせていたのだ。
駆け出しの剣士時代に窮地を救ってくれた、ハリーにとっては姉のような存在のアコライト――今は
プリーストであるコローナへの慕情。
誰にでも優しく、たまにドジをして、そしてどこか儚げなその笑顔が自分だけに向けられているのではないことに、
切なさで胸を掻き毟った夜もあった。
だが、その思いはおそらく遂げられることはないであろうことも、彼は薄々感づいていたのだ。
何度か告白を試みたこともあったが、天然な性格のなせるわざか、それとも確信犯か、
とにかく結果的にていよくいなされ続けてきた。
わかっている。畢竟自分は彼女にとって仲のよい弟の一人みたいなものなんだろう。
しかし、拒絶の言葉を投げかけられたわけではないという、一縷の消極的な光明のみに望みを見出して、
今も思いを捨てきれずにいる。
そしてそんな自分の女々しさが、慕ってくれている後輩の彼女の思いから不誠実に向き合うことを避けていたのだ。
ふと顔をあげると、レナータが怪訝そうな顔をして振り返っていた。
どうやら自分は考え込む余り、足を止めてしまっていたようだ。
「どうしたんですか先輩、さっきから元気ないですよ? あ、もしかしてまだお腹いっぱいになってないとか!」
「ああ、別になんでもないよ。気にしないで」
今は弱弱しく笑いを帰すことしか出来ず。
止めていた歩みを進める。と、すぐ前を歩いていたレナータが立ち止まる。
辺りは露店通りを抜けて、人通りも灯りも少ない住宅通りへと差し掛かっていた。
「わたし、知ってるんです」
「――えっ?」
向こうをむいたまま紡ぐ言の葉は、先程の彼女のものとは打って変わって真面目な口調。
「先輩がコロンさんをずっと好きだっったってことも、どうやって二人が出会ったかってことも――」
唐突に胸を突かれたような思いをして、ハリーは息を飲む。
「正直適わないなーって思いました。先輩の後ろを追っかけてるだけの今のわたしじゃあ、
勝ち目どこにもないですもん」
壊れかけた街頭がチカチカッと彼女の影を明滅させる。
「でも、わたしって見ての通りわがままなんです。理屈じゃ駄目だってわかってても、
そんなに簡単に諦めたることなんて、できなかった……」
ハリーは俯いて静聴しながら、またもや押し黙るしかない自分の気の回らなさに歯噛みする。
その隙を狙いすましたかのように、レナータは振り返ると小さい声で何かを唱えた。
「えいっ」
ピロンという独特の効果音とともに、ハリーの体が温かい癒しの光で包まれ、ごく僅かではあるが活力を取り戻させた。
「……これは?」
「えへへっ、驚きました? まだレベル低いですけど、ゆくゆくはどんな傷も治せるまでになるつもりなんですよ!」
月明かりの下、癒しの力を行使する、闇より黒きドレスを身に纏った少女が静々と歩み寄ってくる。
いつもやかましいぐらいに自分の名を呼びながらタックルで飛びついてくる、まだまだ幼いと思っていた後輩だ。
「わたし、先輩が好きです」
だがその表情は、いつもふざけたり、甘えてきたりする顔とは全く違った真摯なものだった。
「ですから、コロンさんにも他の女の人にも、負けないぐらい先輩に相応しい子になります。なってみせます!
ですから、だから――」
咄嗟の告白に返答することの出来ない男に不満を見せるでもなく、少女は切々と思いの丈を夜風に乗せた。
「いつか先輩がわたしのことを一番好きになってくれるまで、待たせていただいてもいいですか?」
ハリーが正気づいたときには、目の前に彼女の姿は既に無かった。
結局自分は、年下の彼女の勇気を賭した告白に対して、情けないことに最後まで何も答えてやれなかったのだ。
告白とともに手渡されたハート型の包みに目を落とす。
プラスチックケースの上をリボンで包装したそれは、月明かりを通して透明な蓋越しに、
手作りで入れたのであろうどここかいびつな送り主と渡し主の白い名前が見て取れた。
この辺でいいですから、と大きく手を振って、顔を見せないように手を振って、
住宅街へと消えて行った彼女の後姿を、熱に浮かされたような頭で思い返すと、
青年の胸に切ない痛みが去来した。
- 27PBsage :2005/02/16(水) 02:55 ID:NkDBhXM2
- 「おっはよーリネっち」
「おお、レナ太郎君。昨日はあの後どうだった? ん?」
露店の品出しを中断したリンネが朝っぱらからエロ親父のようなノリでからかうと、
レナータは疲れきった顔でカートにもたれるようにして地べたに座った。
「いやはやなんとも、乙女の聖戦第一段階はなんとか遂行してきたとですよ。
今は“人事を尽くして天命を待つ”ってやつっすねー。あ、リンゴジュースちょうだい」
昇りきらない太陽が、まだ眠たそうなレナータの横顔を照らす。
「うむうむ、よく頑張った、ご苦労さん。練習の甲斐はあったようで良かったじゃないか。
オカマさんたちのことは流石に想定外だったけど」
「でも、肝心のお返事はもらえなかったんだよね……。やっぱりわたしじゃ駄目ってことかなぁ」
気落ちするレナータのヘアバンドの上のリボンのまわりを、リンゴジュースの匂いに誘われたのか、
慰めるように黄色い蝶が飛びまわっていた。
「大丈夫だ気にするな。それも台本の想定範囲内だ。
そもそもあの手強い朴念仁がそう簡単にOK出すようならここまで綿密に下準備することもないわけで。
あとは第二段階のホワイトデーまでじっくりと作戦を煮詰めよう」
リンネは気分が沈みがちな友を元気付けながら、飲み終えたニンジンジュースの空き瓶をカートに放り込んだ。
「まあ、芝居っ気ゼロのお前がとちらなかっただけでもたいしたもんだよ」
くしゃりと栗色の髪の上に手を置くと、リボンの先に止まっていた蝶は驚いて飛び去っていった。
「リネっちにわざわざ付き合ってもらった手前、失敗するわけにはっ! ってこっちも必死だったから」
「こらこら、お前のための告白練習じゃないか。それじゃ本末転倒だ」
ペシンと平手で突っ込むと、リンネはレナータの横に腰掛けた。
「あはは、リネっちには本当に感謝してるよ? ハリー先輩に会ってなかったら、
好きになっちゃってたかもってぐらい」
「おいおい、レナ太郎君。そういう軽はずみな言動はよくないと思うぞ?」
そう言いながらリンネはミニグラスの端を光らせると、レナータのメイルの両脇の隙間に両手を入れて、
その発達途上な膨らみの上をまさぐった。
「私はノンケでも構わず食っちまうような女なんだぜ? うりうり」
「ひぁっ! ちょっやめっ……うひゃぁ……リネっちくすぐったいよ……っ……」
レナータは身悶えしつつ半分笑いながら抵抗の声を上げるも、リンネは更に嵩にかかって責めの手を強める。
「ほれほれぇ、毎晩告白の練習なんて付き合わせるから、おかげで私も変な気分になってしまったじゃないか。
どれ、責任とらせてもらうとするかな?」
「やぁっ……、ちょっとタンマ……ギブギブ……苦し……うひゃあん……っ!?」
二人がじゃれあっているそのすぐ近くで、突如無粋な声が木霊した。
「ムッハー!! 眼鏡ケミ子たんとロリクルセ子たんのレズSSゲットー!!
こいつは朝から激レアなお宝画像だぁ!」
オークのような鼻息を立ててパシャッパシャッとSS撮影のシャッターをきりまくる鍛冶商に向けて、
リンネは吐息とともに一閃、その白いおみ足をあられもなく見舞う。
「お兄さん、撮影は事務所の許可をとってからにして下さいね〜」
寸止めでファインダーの視界を塞がれた鍛冶商のアルは、
「Oh! ファンタスティック足技! 姉ちゃん俺と世界を狙わないか?」
「はぁ……?」
全く懲りた様子を見せていなかった。
「アルさん、すいませんけどちょっとだけ静かにしててくれませんか? 話がすすまないっす」
後ろからその肩を押しのけるように現れたのは、騎士のハリー。
後輩から露骨に邪魔者扱いされたアルはしゅんとなって、背中を丸めながら
地面に鬱の字をすごい速度で書き殴る。
「おはようリンネさん」
「おや、ハリーさん昨日はどーも」
「いえいえ、こちらこそ。ちょっとレナいいかな?」
「ほら、レナ太郎。お前のナイト様が会いに来てくれたぞ」
カートにもたれながら、まだ肩で息をしつつ先刻の責めの余韻に浸っていたレナータを、
リンネが意味深な笑みを浮かべながら手をとって立たせる。
「へ……? はえぇっ? 何故に先輩がっ? わかったこれはわたしの願望が像を結んだ幻覚って奴ですね!
しっかりしてわたし! ウェイクアップレナータ!」
いつもハリーのもとに押しかけるのはレナータの方からで、その逆のパターンなど全く前代未聞の出来事だったので、
女は頭を両手で挟みながら軽く混乱をきたしていた。
「ごめんなさいハリー先輩、この子少し弄くりすぎちゃったかも」
「あはは、もしかしてお邪魔だったかな?」
「いえいえ全然、どうぞご自由にお持ちになってください」
ハリーはまだ目を回しながら何かを口走っている後輩の肩に手を置いて優しく諭す。
「おはようレナ。俺は本物だよ」
「おお、おはようございますっ!! 今日はなななぜこちらへ?」
「うん、レナを狩りでもに誘おうと思ってね。
昨日のお礼とか、色々と話したいこともあるし――。だめかな?」
「めめめ滅相もないですっ! 地の果てまででも付いていく所存でっ!!」
いつもの後輩として甘えた態度や、昨夜のどこまでも女の子らしい告白とはうって変わって、
緊張でフロストダイバーをかけられたようにガチガチに固まっている彼女の様子に、
ハリーはどこか安堵を覚えてくすりと笑った。
「それじゃあよろしく」
レナータの顔は朝の光の下、咲き誇る向日葵の花のように明るい。
「よろこんでっ!!」
「第2ラウンドはホワイトデーと見積もっていたんだけど、
流石に翌日早々反攻をかけられるとは思わなかったわー……。あの彼氏もなかなか侮れませんなぁ」
仲良く去っていく二人を見送ると、リンネは煙草の煙を盛大に吐き出した。
「ともあれお二人さん、お幸せにー――っと。あー、私も男作るかな〜」
その後ろで立ち上がって、頻りに自分を指差してポーズをつけながらセックスアピールする何かがいる。
「眼鏡の似合うケミたん。俺だよ俺、ここにうってつけのいい男がいるじゃあないか!」
「あ、まだいたんだ」
「くぅーっ! その冷たい目つきもクールでイイっ!
さあ、俺たちもめくるめくアバンチュールとしけこもうじゃないくぁっ!!」
リンネは別段物怖じするわけでもなく、いつもどおり据わった目つきで眼鏡越しにアルを見定めると呟いた。
「んー、悪いけどコブつきに手を出すほど必死じゃないんでパスしときますわ」
「そんなこと言わずにちょっとだけでもお試しで――って。ん? コブつき?」
背後に漂うWARNINGのロゴと警告音。危ないアル。逃げるんだ。
「♪迷子の迷子の鍛冶屋さん、あなたのおうちはどこですか〜」
妙な替え歌と共にアルの後ろから、爆裂波動のような闘気を纏ってお仕置きシーフが現れた。
「はうあっ!? き、気難しい仔猫ちゃん、どこ行ってたんだよ探してたんだぜ?」
「へーえ、よその子口説くことであたしが見つかると思ってたんだ」
近寄るカリン、後ずさるアル。
「HAHAHA、この通り感動の再会を果たせたじゃないかぁ」
「じゃあ感動ついでに――愛のスキンシップといきましょうか」
指の関節が威勢良く鳴らされる。
「お、お手柔らかにっ!! っていうか何とかなりませんこのワンパターン!?」
リンネはそのシーフの頭上に、さながらナイトメアの如く鎌を構えた死神が生えているのを見た。
「ワンパターンなのは」バキッ!「ユベシッ!」
「あんたのっ」ドコッ!!「キンツバッ!?」
「馬鹿さ加減でしょうがっ!!」ズガン!!!「クルミモチッ!!!」
本職も驚くほど見事な三段掌を決められてぷすぷすと煙を上げながら、
死神に『まだ立てるんか? それとも宿屋戻っとくか? ん?』と鎌先で小突かれているアルを尻目に、
カリン彼のSS撮影機からフィルムを引っこ抜きながらリンネに謝った。
「うちの馬鹿が迷惑かけてごめんねー」
「いえいえ、色々と興味深い物を見せていただきましたよ」
リンネは動かなくなったアルをずるずると引きずって退場するカリンを見送ると、
「男と付き合うのも良し悪しだねぇ」と一人ごちた。
傍らから一冊の手作りの小冊子を取り出してパラパラと捲る。
十字章聖堂騎士団団員手帳の装丁を真似して作られたその小冊子には、
レナータが集めた情報をもとにリンネが立てたありとあらゆるハリー攻略作戦の手立てがびっしりと書き込まれていた。
「予想外に早くこれ、要らなくなったな」
パタンと閉じたその表紙には、レナータの筆でディフォルメされたどこか稚拙な自画像が
『恋は女の子の聖戦なんだよ!』と懸命に主張していた。
「やっぱり私はまだ、その時機じゃないみたいだ」
ふっと微笑してそれをカートの中に放り込むと、既に高く昇った日の光に目を細めつつ、
午後の売り出しの場所取りの為に歩をすすめた。
あの子が帰ってきたら、思いっきり今日の結果を突っついて酒の肴にしてやろう、とほくそ笑みながら。
- 28PBsage :2005/02/16(水) 02:55 ID:NkDBhXM2
- 夜の酒場は今日も賑やかだ。
「ようアルフレート、一年で最も荷物が重くなる日が今年も来てしまったぜ。全く困ったもんだ」
ニヤケながらテンガロンハットの吟遊詩人は、本日の戦果でパンパンに膨れたザックを誇示する。
「ふはははは、今年こそは負けんぞホークアイ! とくと拝みやがれこん畜生め!!」
嘯きながらアルがバサッと覆いを外すと、そこには色とりどりのハート型のチョコで満杯になったカートが姿を現す。
ホークは口笛を一つ吹いて感嘆の意を表すが、そこへやってきた一人の女聖堂騎士がアルの肩を叩く。
「アル、まだこれ捌いてなかったのか?」
一瞬にして固まるアル。すかさず抜け目の無いホークは問いを発した。
「失礼。聖堂騎士殿、これは貴方の所持品で?」
「ああ、もとはな。同性にこんなに貰ったところで正直迷惑だし、とても処理しきれないので彼に処分を頼んだのだ」
「なーるほどね。まあ、こんなことだろうとは思っていたが。お粗末だったなアルフレート」
口許にあからさまに蔑んだ笑みを浮かべながら、勝ち誇って去っていくホークと対照的に、
アルはがっくりと地面に手をついた。
「ん? 私、もしかして何かまずいこと言ったか?」
状況が読めずに当惑するセリアに、アルはただ力なく首を振った。
「なにを人が来る前からたそがれてるのよ」
遅れてやって来たカリンを前にして立ち上がると、アルは持ち前の調子を取り戻してのたまう。
「そういえば今日は二月十四日だっけか! 何か俺に渡したい物があるんじゃないかなハニー?」
白々しいその物言いに、怪訝な顔で眉を顰めたカリンはポケットから何かを取り出す。
「そうそう、それでこそマイハ――」
「はい、借り部屋の家賃と光熱費の請求書預かって来た。今月はあんたの番だからね」
「NOOO! 違くって!!」
「ん? ああ、この間借りた小説? まだ読み終わってないからちょっと待ってよ」
「それも違ーう!!」
「もー、じゃあなんなのよ。はっきり言いなさいよ!」
「あるでしょうが、今日限定で渡すこー、愛のこもった黒っぽくて甘い食べ物が!!」
「ああ、わかった! あれね!」
「そう、それ! おろろーん、やっとわかってくれたかセニョリータ!」
感涙流すほどテンション上がっているアルにぽん、と手渡されたのは――、
おいしい焼き芋。
高い回復力を持っているが、飲み物と一緒にゆっくり食べなければのどに詰まる。
「わーい、甘くておいしいけどすっごくぽそぽそしてゆー」
「満足した?」にっこりと尋ねるカリンに、
「うわああん、どうせ俺なんてぇぇぇ!!」
アルは人騒がせな泣き喚き声を発しながら、酒場を駆け抜けて夜空の下へと飛び出していった。
傍らで見ていたセリアが、頬杖をつきながら苦笑い。
「ちょっといじめすぎじゃないか?」
「いーのいーの。いつかの仕返しなんだから」
「?」
そう笑いながら、結局渡しそびれた手作りチョコのケースを弄ぶカリンの右手の薬指には、
古ぼけた花の指輪が遠慮がちに光を放っていた。
(暴走恋愛十字聖戦 了)
- 29丸いぼうし@リハビリテイションsage :2005/02/20(日) 05:21 ID:XrcR9Ff6
- ROも文章書くのもここをみるのも久しぶり。
使わないと技能というものは低下する一方で困ってしまいました。
面白いお題が出ていたようなので、遅くて短くて萌えないものではありますが書かせていただきました。
--
「上目遣いか、うーん、そうだね、上目遣い。」
教授は何度も何度もウワメヅカイと口の中で繰り返した。まるで言葉を味わっているかのように。
そして一つ指を鳴らすと、教授はびしりと僕の顔を指さした。
教授の行動に意味があるかのようには思えなかったが、指差されると背筋が伸びて
指を凝視してしまうのが僕の性分だった。
教授はゆっくりと指を動かしていった。前へのめるようにして僕の顔も指と等距離を保つ。
すっ、と指が視界から上に消えた。その行為に抗議するようにして僕が顔を上げるとそこに教授の
意地悪な笑顔があった。
「ほぅら、上目遣い。上目遣い。はははは。」
- 30名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2005/02/20(日) 13:16 ID:J39E9ZoA
- ワラタ
- 31名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/02/20(日) 13:19 ID:VK.VkORY
- バギワロス
- 32150sage :2005/02/22(火) 01:35 ID:s4Ln5BJo
- スープとは、料理の基本だと思う。
つまり、こいつからいくらでも料理を派生できるのだ。
ソレもひとえに、多くの食材の織り成す豊かな風味と、土台となるスープのお陰だ。
「で、コレはなんですか」
「サベージのバラ肉でシチューです」
「……シチュー?」
火に掛けられている目の前の鍋を見る。
良い香りだ……何の香りかはわからんが非常に食欲をそそられるのは確かだ、認めざるを得ない。
が、そのシチューと呼ばれた液体は紫色をしており、香りを乗せているはずの湯気は緑色だ。
「はいどうぞ、熱いので気をつけてくださいね」
シチューと呼ばれた液体が入った皿を渡される。
おかしいな、手が震えている。
なんだろう、この眼前の女性は俺に何か恨みでもあるんだろうか……いや、いっそあったらどんなに楽か。
「(……ゴクリ)」
たまった唾液を嚥下する音が響く。
女性は笑顔だ、料理中から一貫してひたすら笑顔だ。
「……いただきます」
「はい、どうぞ」
笑顔に負けて、一口、口に含む。
――――ああ、カイラス、我が友よ。
すまん、俺、死んだわ。
RagnarokOnline ShortNovel [Re:Member For...]
03:王都プロンテラへ
「……すいません」
「気にするな……ああいや、やっぱりちょっとは気にして欲しいです、はい」
ぐったりとした顔で返答する。
やっぱりあの紫色の液体は飲むべきではなった…彼女には悪いが、あれはイリアのポーションより強力かもしれない。
今度勝負させてみたいものだ…いや、やめておこう。
どうせ、俺とカイラスが被害にあうだけだ。
「つ、次はがんばってちゃんとしたの作りますから!」
「……いや、次から俺が作るから」
半分泣いている彼女を制して、我ながらなんともどうしようもないセリフを吐く。
職業柄、毒に慣れる訓練をしていたお陰か、気分が良くなってきた。
こんな時に発揮されるとは、なんとも悲しいことだが。
「まあ、アレだ。人間だれしも最初は失敗ばかりするもんだ、いつか見返せるようになればそれでいいさ」
「…………」
無言。
いまさらフォローしてもダメか?
「俺だって最初は塩と砂糖間違えたりとか、香辛料の類をだな……」
「…………」
さらに無言。
なんか本格的に俺が悪人になってきたような気が……。
「あー、ええと、アレだ。そんなに落ち込むことは無いような……あの、えーと、なんか色々すいません」
「…………Zzzz」
「寝てるのかっ?!つーかそこで寝るのか、寝ないよな普通!オイッ!起きろ、起きろよこらあああああ!!」
「うーん、そんなに食べれませんよー……うふへへへー」
「ああっ!テメェ一人で何夢一杯幸せ満腹極楽な夢みてやがる!起きろ、起きやがれええぇェェェエ!!」
激しく前後にゆする、今にも頭がもげそうだが気にするのはやめた。
「くそっ、このこのー!起きろおぉぉぉぉ!」
ゆするだけでは起きそうに無いので両頬もつねる、それはもう激しく、ギューっと。
ここで寝られたら俺の存在が全否定されてしまいそうだ。
- 33150sage :2005/02/22(火) 01:35 ID:s4Ln5BJo
- 「ただいまー」
戸を開け、宿屋の一室へ。
「お、帰ってきたか放浪暗殺者」
「やめんかその宿無し根性剥き出しのような呼び方は」
部屋にはカイラスしか居ない。
「あれ、イリアと謎ライトは?」
「ああ、シャワー浴びてる」
「ぬ、謎ライト起きたのか」
「ああ、イリアがドドメ色のポーションを」
「……なぁ、カイラス」
近づき、肩にそっと手を乗せる。
そして、出来うる限り最高の笑顔と、そしてほんの少しの哀れみをこめて。
「殺人は犯罪だぞ」
「うるせえぇぇぇぇぇぇ!殺してネェよ!!」
激しく否定された上に殴りかかられたので華麗なステップで後方へ退避する、我ながら完璧だ。
「分かった。実は、ドッキリ!謎ライトは女装した男でドキッ!イリア惚れちゃった、とかそういう展開になったんだな!」
「なるかこの馬鹿ユイスー!!」
後頭部に鈍い激突音。
振り返ると開け放った扉の向こうに、イリアと謎ライトの姿が見える。
あと、後頭部が痛い。
「……なぁ、この石鹸後頭部に刺さってるんだけど」
「黙れこの精神異常暗殺者ッ!今日こそその頭を最適化してくれる!」
シャワーに行ったはずなのに、着替えを入れていたバッグからドドメ色のアレを数本取り出すイリア。
しかもスリムポーション瓶に入ってる、ていうか両手に構えてる。
「スイマセン僕がわるかっ」
「しねぇー!!」
まっすぐに額目掛けて飛翔したポーション瓶が割れる音と、じゅわっ、という肉の焼ける音がした。
「で、お嬢さん。できれば名前を教えてもらいたいんですがどうでしょうか」
「はい、ノヴィアと言います、ノヴィア・ローゼンヘイム。見てのとおりアコライトです。よく分かりませんが助けていただいたそうで、ありがとうございます」
「いやいや、困った人が居れば助けるのが人の情ってもんだ、なぁ?」
「そうよ、最近物騒なんだし、困ったときはお互い様ってね」
ハハハ、と笑顔で笑うカイラスとイリア……と、部屋の隅で包帯だらけでぐったりしているユイス。
「くそっ、偽善者共め……これだから上流階級の人間は民主主義の底辺で困っている労働者に対する正当な扱いを…」
「「なんか言ったか」」
「イエ、ナンデモアリマセン」
無表情で返す、これ以上地獄を見たくは無い。
「ふふっ…あ、あの。ここまでお世話になっておきながら、まだお名前をお伺いしていませんでした」
ああ、という顔するカイラスが紹介をする。
「俺がカイラス・フウゲツ、一応アマツの出身だ。ナイトをやっている。で、隣のがイリア・エーデルレート。マーチャントだが、五日後にはアルケミストになる予定だ」
「予定は余計。ちゃんと試験通ったから、あとは申請書類を出すだけよ」
「で、そこの隅にいるのが」
「ユイスだ、ユイス・フリューゲル。しがないアサシン。ついでに言えばあんたの尻にしかれた」
ズビシ!とノヴィアを指差す。
「まぁ、それはそれは……すいません、ご迷惑おかけしました」
椅子から立ち上がり、律儀に頭を下げてくる。
いまどき律儀な人だ。
「で、えーとノヴィアさん。できれば空から降ってきた理由なんか説明してもらえると助かるんだが」
ストレートに問うカイラス。
普通はもっと回りくどく聞くもんじゃないのかしら、とツッコミを入れるイリアは無視する。
「えーとですね、実は私」
「空が飛べる、とかいう話は却下な」
「……ダメですか?」
「ダメ」
ええー、という顔をする。
そんな顔をされても困るのはこっちなんだが……。
「正直申し上げますと、自分の名前以外思い出せないんですよね」
「……記憶喪失?」
「に、なるんでしょうか、やっぱり」
- 34150sage :2005/02/22(火) 01:36 ID:s4Ln5BJo
- 「はぁ……それで、なんで俺は君と二人でこう森の中を歩いてるんだろうな」
「それは、プロンテラの大聖堂へ行くためです」
胸を張って答えるノヴィア。
アコライトの事なら大聖堂、というイリアのもっともな意見により、プロンテラ大聖堂で身元の照会をすることにした。
しかし、ジュノーからプロンテラといえば、徒歩で10日以上の道程。
加えて強力な魔物も生息している。
女一人放り出すわけには行かないと、プロンテラまで送っていくことにしたわけだが。
「ごめんねぇ、どうしても書類申請が前倒しできなくて。とりあえずユイスに送らせるから」
というイリアの爆弾発言によって、なぜかユイス一人でプロンテラまで送っていくことになってしまった。
カイラスはイリアの護衛とか訳のわからん事を言うし……くそー、そもそも見知らぬ男の護衛なんてあっさり承諾するか普通。
「あの、ユイスさん?」
「ん?」
「ユイスさんは、なんでアサシンになろうと思ったんですか」
「はぁ?」
「いえ、その……なんていうか、戦い方がアサシンというより、ソードマンやナイトに近いような気がして……」
参った。抜けているようでこの娘、意外と鋭い。
普通はバレないんだけど……なんだかなぁ、修行不足か俺も。
「いや、まぁな…戦い方を教えてくれたじーちゃんとばーちゃんがナイトやってたんだ」
「お爺様とお祖母様が?」
「ああ……まぁ、結局じーちゃん死んだし、亡き意思をついで、ってのもなんか性にあわなくて、それでな」
自嘲し、ふとこれまでの自分を思い起こす。
……ロクな事ねぇなぁ。
「……すいません、余計なことを聞いてしまいました」
「別に謝ることじゃないよ、それにばーちゃんが生きてるし。信じられるか、そろそろ齢80になろうかと言うのに素手でサスカッチを倒すんだぜ?しかも一撃で」
「デンジャラスなお祖母様ですね」
「ああ、デンジャラスだ……何度か殺されかけたな」
更に幼少の頃を思い出し……思い出すのをやめた、あれは悪夢だ。
「さて、見えてきたわけだが」
「え?」
「もうちょっと……ほれ、見えるぞ」
森を抜ける。
開けた視界の先は小高い丘になっており、そこから眼下を一望できる。
「わぁ……」
小さく感嘆の声を漏らすノヴィア。
プロンテラを見慣れた人間でも、ここにくれば皆同じような反応をする。
ユイスも、祖父に引き取られた幼少のその時、同じだったのだから。
「あれが、ルーンミッドガルド王国首都プロンテラ。オーディーンを信奉する、大陸最大の都市だ」
風が吹き抜ける、春の心地よい、新緑の息吹ともいえる風が。
眼前に見下ろす、街並みと共に。
二人を歓迎しているようだった。
- 35150sage :2005/02/22(火) 01:38 ID:s4Ln5BJo
- 後期考査・国家試験対策・知り合いへの技術提供・集団製作課題と、なぜか立て続けに忙しいことが重なって今更な今日このごろ。
死にそう……_○□=
そして今回も駄文投下でございます。
ああああ、なんか良い言い回しが出てこねぇぇぇ。
- 36SIDE:A 臆病者(1/4)sage :2005/02/24(木) 18:48 ID:lRcHxH6w
- 酒場から出たときから、俺の足は段々とゆっくりになり、宿が見える頃にはのんびりした散歩位のペースに成っていた。酒で昂ぶった気持ちが夜風と微かに舞う粉雪に醒まされるうちに、臆病さが胸のうちにとぐろを巻き始める。
「…まぁ、相手がどうするかは向こうの自由だよな」
誰にともなく声に出すと、俺は市内に流れるお祭騒ぎの音曲にあわせて適当に口笛を吹き始めた。いつも笑いものになる赤鼻のトナカイでも、誰かが認めてくれる…。なんのことはない、ただの景気付けだ。それでも、俺の足は再び前へ進みだした。角を一つ曲がればすぐに、俺の宿の裏手だ。
階下から見えた部屋の窓は暗く、聖夜を彩る街の灯りに外から照らされていた。そこから、長い髪の小柄な影が見下ろしている。軽く手を振ってから宿に入り、きしむ階段をゆっくりと上がると、部屋の扉は内側から開いた。
「遅かったの…、ブレイド」
ちらりと廊下から見えたのは、法衣に包まれた細い腕だけ。彼女がどのような表情でそう言ったのかは俺にはわからなかった。ただ、いつもよりも抑えたような細い声。
「すまんな。いい子にしてたか?」
わざとらしくおどけた口調にも、彼女は目を落としたまま答えない。普段の遠慮のなさとは違う、どこかおどおどしたような依瑠の様子に、俺は何故か安心してしまった。年に一度の特別な日に、緊張しているのはどうやら俺だけではなかったらしい、と。俺が部屋に入るよりも早く、窓際へと移っていた依瑠の表情は影になって読めなかった。ただ、その襟元にきらりと輝く小さな飾りが目に入る。そして、その飾りに目を取られて、平板な口調で彼女の口から漏れた声に気づくのが一瞬遅れた。
「……のか」
「すまん、もう一度言ってくれないか?」
微かなため息とともに、少女はいま少しはっきりした口調で言い直した。しかし、彼女の襟の飾りがまだ、俺の意識を半分以上ひきつけている。
「…妾は、お主に謝らねばならぬ事がある」
あれは、つい先ごろに吟遊詩人の胸元に見たのと同じものだ。この世界でも有数のギルドの、選ばれた少数だけが身につけるという証。まだそれに目を向けながらも、俺は少女のささやきに返事を返していた。自然に、なめらかに。
「そうか、記憶が戻ったのか。…おめでとう」
「妾は去らねばならぬ。ようやく厄介払いができるの、ブレイド」
ああ。いつか、そんな日が来るのはわかっていた。不幸中の幸いというべきだろう。何度も、寝る前に言う準備をしていた台詞は、怖れていたように緊張感でつかえるような事もなかった。まさか今日…、聖夜がその日だったとは、神様とやらも面白い計らいをする。
「そうか。急だな…。まぁ、厄介ってこともないが…、今日は世間じゃ愛する者同士が過ごす日だ。待ってる相手がいるなら行くといい」
その日が来た時、彼女を笑って見送れるだろうか、それがずっと心配だったが、今日の俺は、笑える。あの髭の騎士との会話が、俺の何かを剥ぎ取ったから、陽気にではなく…、穏やかに俺は笑った。そんな俺に、依瑠は一度大きく頭を振る。
「…違う。お主はわかっては居らぬ」
「……違う? 何が」
俯き加減の彼女の声は、いつものようには通らない。俺は彼女の声を聞きとろうと、一歩だけ彼女に向かって足を進めた。その気配に依瑠がびくり、と身を竦める。まるで叱られるのを恐れる子犬のように。
「…どうした」
彼女は、まだ下を向いたまま、大きく息をするように肩を上下させた。その一挙動で気持ちを落ち着かせたのか、続く台詞はよどみなかった。
- 37SIDE:A 臆病者(2/4)sage :2005/02/24(木) 18:49 ID:lRcHxH6w
- 「妾はずっと、嘘をついておった。妾は…、記憶を失ってなどいなかったのじゃ」
「……」
彼女は、それをほとんど一息で言った。そして、綺麗な前髪の向こうに見える口元の端が、震えながらも上を向く。
「この嘘をつき続けたかった。叶うならば、ずっと」
その嘘が何のためにか、それがわからないほど俺は馬鹿ではない。そして、何者か知らぬ彼女の影と俺とを、少なくとも同じくらいには気にかけてくれている事も。だから、俺はさっきよりも笑みを深くした。
「本当ならば、世話になった礼もしっかりしたかった。じゃが、すまぬ…。妾を必要としている者が…あっ!?」
少女を抱き寄せる。恋人を引き寄せるようにではなく、家族をそうするように。自分の心中を相手に伝えるために。少女は一瞬だけ身をよじってから、胸の中で力を抜いた。俺が普段着代わりに着込んでいた皮鎧に軽く頬を当てたまま、彼女が何かを呟く。多分、それは謝罪だろう。
彼女が俺を、偽っていたことの謝罪。俺が、彼女にとって…、記憶を失ったと偽っていたこの数週間の間ですら、一番大切な相手ではなかったことへの謝罪。そして、自分がどういう人間なのか、それを俺に告げようとしているのだろう。罪を犯したと思った聖職者は、すべからく懺悔の前に己の行いを告げ、全てを示してから許しを請う。
そんな馬鹿げた儀式は、俺たちには必要ないだろう。第一、彼女のしたことは罪でもなんでもないのだから。
「気にするな。俺も楽しかった。お前が何処の誰であっても、関係ない。今日はそう言おうと思ってきたんだ」
僅かな身じろぎを腕の中に感じて、俺は少女を見下ろした。俯いていた依瑠が少しだけ上向いて俺を見ている。薄く開いた唇は、声もなく、しかし赤みがかった瞳が雄弁に問いを発していた。俺は、彼女の肩をそっと前にやると背にした長剣の柄に手を掛ける。
俺の中の騎士を見出した少女に剣を捧げるために。
「……っ」
良く手入れされた鋼同士が擦れる微かな音と共に、ゆっくりと剣を抜いた。厳しい目をしているだろう今の俺を、目を見開いたまま追っていた少女は、何かを言いかけてから目蓋を閉じてうなだれた。俺はその前に一歩踏み出すと、ゆっくりとひざまずく。
「……依瑠。俺はこれくらいしか、君への気持ちを表す術を知らない」
俺の声に、彼女はうっすらと笑みをうかべたまま顔を上げなおした。膝立ちの少女の顔は跪いた俺が僅かに見上げる位置にある、こわばった笑顔。俺は彼女の前に剣を掲げた。依瑠の手に取れる高さへと両腕で捧げながら、俺は頭を垂れ、口を開く。
「ブレイドこと、ファーウェイ=ブレイドウッド。依瑠、君に俺の剣を捧げよう。いついかなる時であっても、俺は君の為に剣を取る。そして、時が来れば君の為に果てよう」
口から流れ出た台詞は騎士の誓いというには余りに軽い口語だが、正しい形式は実のところ知らない。それに、刃物を持つことを禁じられたプリーストの、しかも小柄な少女とあっては正式な手順は踏めないだろう。
そう考えた俺の両腕から、不意に重みが消えた。それと同時に肩口に軽く当てられる硬質な何か。皮鎧越しに感じる冷え冷えとした感触は、それが使い手次第で人を殺すことも出来る存在であると主張している。
「…我が名は依瑠。我が名において、汝の誓いを受けよう。我と共に永久を歩み、我と共に死すべし」
力強く、剣の平が俺の肩を打った。少女の声は、その響きが俺の頭に染み込むまでの合間、僅かに止む。
「………我が手より剣を取られよ、騎士。それで契約は完了じゃ」
ゆっくりとあげた顔の先で、少女が両刃剣を俺に差し出していた。毅然とした声とは裏腹の、まだ何かを怖れるような目。俺は、彼女を安心させるように頷くと、剣に手を添えた。
- 38SIDE:A 臆病者(3/4)sage :2005/02/24(木) 18:49 ID:lRcHxH6w
- 軽い。俺のブロードソードと、形は似ているが別物だった。
「これ…は…?」
「お主に渡そうと用意したものじゃ。妾が世話になった礼としての」
世の中には名剣といわれる剣がある。世界に幾本かしか存在しない魔剣や聖剣のことではない。刀匠が一生涯かけて数本打てるかどうかという物だ。例えば、ある瞬間に偶然生まれる配合と炉の火勢が相まって産み落とされる千に一つの奇跡。そして月日を渡る中で磨かれる剣格。その剣は、その両者を兼ね備えていた。
「……気に入って、貰えたか?」
手に馴染む、と言う様な物ではない。まるで己の手の延長のようなその剣肌に目を落とすと、鋭い切れ味を秘めた輝きと共に、歩んできた年月を思わせる渋みが見て取れる。
「……素晴らしい剣だ。これを、俺に…?」
高かっただろう、と言い掛けた台詞を、俺は口の中に飲み込んだ。そもそも、金で買える様な物ではない。それに、前の持ち主がこの剣をこよなく愛していた事は、一目でわかる。それを、俺の為に譲り受けてくれるまでにどのような遣り取りがあったのか。想像もできない。彼女の頼みでこの剣を手放したという相手は、それだけ依瑠のことを大事に思っているのだろう。
それが、彼女の真実の騎士か。
剣の平に手を当ててから、少女が差し出してくれた鞘へと納める。吸い込まれるように刀身は消えていき、鍔がカツン、と音を立てた。心中に沸きあがる暗い何かも、その音とともに消えうせる。依瑠を待つもう一人の騎士がどこかの“砦”にいるのだとしても…、俺は彼女の騎士だ。それが唯一のである必要など、ない。
「ありがとう」
床の上に座り込んでいた少女は、俺のたった一言の礼に小さく微笑むと疲れたように目を閉じた。いや、実際に疲労していたようだ。ぐら、と揺れた肩がベッドにあたってそのままずるずると床にへたりこみ、すぐに、聞きなれた静かな息を立て始める。
「……依瑠? まさか…?」
返事はない。
「眠って、るのか…?」
揺すると起こしてしまいそうだが、床で眠らせる訳にも行かない。もしも後で起こさなかったと詰られようとも、俺は、今彼女を起こす気にはなれなかった。音を立てないように立ち上がり、少女の細い体を抱き上げる。微かに香る花の匂い。香水か…。普段はそんなものをつけていたことはないはずなのに。
俺は、少女の胸元にそっと上掛けをかけた。彼女が今、俺を求めてくれているのだとしても、それが一時の迷いではないかと思ってしまう。…この剣の持ち主は、どのような男なのだろう。俺よりも、彼女を幸せに出来る男だろうか。
「…彼女の一番傍で居たい癖に、意気地がないな、俺は…」
窓の外を仰ぎ見ると、雪は、いつの間にかやんでいた。
- 39SIDE:A 臆病者(4/4)sage :2005/02/24(木) 18:59 ID:lRcHxH6w
- 3で終わったとは計算違い…orz
とりあえず、続きを書く前に8スレをまとめないとねー。
>アルカリンなひと
ひゃっほうな感じでみなぎってらっしゃいますね。思わず笑いそうになるので周囲に
人がいると読めませんですよ。
洒脱な台詞回しでポンポン応酬するのって楽しそうですよね。難しそうですがっ。
そういう人も書いてみたい、そんな風に思っていたことが私にもありました(AAry
>150のひと
リアルがんがれっ蝶がんがれっ。
アコは空が飛べそうな気がするのは、修練所ネタですね。とりあえず、ケミ万歳!
>宿題なみなさま
お久しぶりの人も、裏で別スレに書いている人もお疲れさまです。
なんか、活気付いて楽しいデスネ。またそのうち集まりましょうのココロ。
で、雑談会のログが大体まとまっているのですが、欲しい人はいます?
- 40名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/02/25(金) 19:47 ID:wg0JcOFQ
- >39投下乙であります。
8スレ目224までWikiに移しました。
勝手にタイトル付けたりと、好き勝手しましたがお役に立てれば幸いです。
リレーの扱いが良くわからなかったので放置しました。お察しください。
では、ちょっと眼精疲労気味なので休ませて頂きます。
- 41倉庫のひとsage :2005/02/25(金) 20:53 ID:iqd/AwZ6
- >40
ありがとうございます。とても助かりました。ちょうど同じ位の時間に自分も少しだけ保管したりしましたです(笑
リレーに関しては実は元来別のまとめサイト様がいらしたのでまったくノータッチだったのです。
どうしたらいいかわからんぽんで、現在も触ってなかったり…。
- 42縛る者、縛られる者(1/5)sage :2005/03/06(日) 00:32 ID:jjV/jETw
- 不覚をとった。
「ふぇっきし!」
そう、風邪。
支援プリーストともあろう者が、この様だ。
最近は頻繁に狩りに行っていたから、その疲れもあったのだろう。とは言え、冒険者たる者、健康管理も実力
のうちだ。そんな事、言い訳にもなりはしない。
『どうしたの? 待ち合わせ場所に来てないみたいだけど』
家のベッドに転がって唸っていると、wisが飛んできた。
このwisの主が、頻繁な狩りの理由。最近やっと出来た、狩りの相方だ。
彼女に合わせた支援にも慣れてきた矢先だっていうのに、我ながら不甲斐ない。
『悪い、どうも風邪ひいたみたいだ。今日は狩りにいけそうもない』
『風邪!? 大丈夫なの?』
ただの風邪なのだが、それでも心配してくれるのが、妙に嬉しい。
『一日寝てればたぶん持ち直すよ。とりあえず今日は休みって事で』
『ん、わかった。じゃ、今からそっちに行く』
『へ?』
『寝込んでるようじゃ、身の回りの事とか食事とかできないでしょ』
『いや、そこまで……』
『いやなら拒絶しなさい。でなきゃ勝手に押しかけるわよ。カウント5、4、3……』
『……』
彼女もたいがい有無を言わせない物言いだが、俺もとっさに断れなかったのは、内心来て欲しいという気持ち
があったからだろう。
『……0。じゃ、後でね』
切れるwis。俺は期待とも自分への情けなさともつかない気持ちのまま、再びベッドに転がった。
- 43縛る者、縛られる者(2/5)sage :2005/03/06(日) 00:33 ID:jjV/jETw
- 程なくして、相方が訪ねてきた。
「私。勝手に開けるわよ」
かちゃかちゃという音の後、ドアの開く音。鍵は一応かけてあったはずだが、シーフ上がりのアサシンである
彼女にとって、普通の扉の解錠なぞ、造作もないのだろう。
やがて部屋に入ってきた彼女。露天で買ってきたのだろう、何やら食材の入った紙袋を抱えている。ベッドに
転がっている俺の顔をのぞき込んでくると、生まれつき色素が薄いらしく、紅い瞳と視線がぶつかる。髪も真っ
白で、その頭が動く度にウサギHBの耳がぴこぴこ揺れる。
「……意外と深刻でもない、普通の風邪みたいね」
よかった、と小さく呟いて台所に向かう。
「でも、早く治すにこした事も無いでしょ。食事、用意する」
「ああ、悪い」
「そう思うんなら、栄養とってさっさと元気になる事」
台所の間口で振り返って俺を指さし、ぴしゃりと言う彼女。厳しいんだか優しいんだか。どっちもか。
彼女が作ってくれたのはアマツの料理で「オカユ」。ゆるく炊いた米に薄く味をつけた物で、むこうでは病人
によく出されるものらしい。たしかに、弱った胃袋には優しそうだ。
「へえ、料理も上手いんだな。器用なもんだ」
「悪かったわね、カタール使いとしては育ち方微妙で」
回避職故にソロ生活が長かったせいか、たまに彼女はすれた事を言う。
「なんでそういう物言いをするかな。……うぁっち!」
最初の一口をろくに冷まさないで口に入れたせいで、危うく口の中を火傷しかけた。慌てて強引に飲み込むと、
食道から胃袋まで熱が染み通ってゆく。熱いがこれはこれで。
「ばかね、出来たてで熱いんだから」
「はは、いや、でも美味いよ」
「そう。……冷まして食べさせてあげようか?」
俺が食べる様子を眺めて微笑みながら曰う相方の台詞に、内心そうしてもらおうかと揺らいだのは内緒だ。
- 44縛る者、縛られる者(3/5)sage :2005/03/06(日) 00:34 ID:jjV/jETw
- 自分でも気付かないうちに空腹だったようで、熱さに苦戦しながらも全部平らげてしまった。
ようやく人心地ついていると、食器を片づけていた相方が今度は湯を張った桶とタオルを持って戻ってきた。
「さ、今度は身体、拭くわよ」
「あ、いや、そこまでしてもらわなくても……」
「べつに男なんだから恥ずかしい事も無いでしょ。ほら、さっさと脱ぐ」
風邪でふらついている身ではろくな抵抗も出来ず、俺は上半身を剥かれてしまった。
半身を起こした俺の背後、ベッドの上に上がり込み、相方は湯を絞ったタオルで丁寧に背中を拭いてくれる。
ちなみに、家事をしやすくする為なのか、彼女は肩当てとそこから伸びるサラシ、そして腰に巻いた布を外し
ていた。そのくせウサギHBはそのままなので……正直その姿はアサシンというより別のものに見えてしまう。
いや男として嬉しくなくもない姿なのだが。そんな格好でこうもかいがいしく世話をされると、妙な気持ちにな
ってしまういそうだ。
「はい、背中終わり」
「ああ、ありがとうな」
「……今が、いい機会かもね」
「へ?」
「こんどは前ね」
タオルをすすぎ直すと、相方は俺の背後に回ったまま、俺の胸板に手を廻してきた。……つまり背後から抱き
つかれるような体勢なわけで。彼女の程良いサイズの胸が背中に当たったりしているわけで。
「あのな、いくら俺が聖職者でも、そういう格好でこういう事をされるとな……」
「……いいよ」
「!?」
「あなたが、私を強さじゃなく外見で拾ったのは知ってる」
……その通りだ。臨時広場で落ち看板を出すでもなく座っていた彼女。当時転職したての俺はその姿に一発で
目を奪われ、レベルすら確かめずに声をかけた。組めるレベルだったのは幸運だったとしか言いようが無い。
「私、あなたに拾われてから弱くなった。
あなたが行けないときも、一人で狩りに行った事もあった。けど、狩り場のランクを落としても、全然戦えな
くなってたの」
いつのまにかタオルは落ち、彼女の腕は俺の背中を抱きしめてきている。
「……だから、私を目当てに拾ったあなたに身を委ねることで、あなたを、縛るの」
そう言い終えて、彼女は俺の前に廻り、胸板に頬を寄せてきた。俺も、その背中に腕を廻し、抱き寄せる。
そんな事を考えていたのか。彼女は、今までもそうして、身体で男を繋いできたのだろうか。
……いや、違う。もしそうなら、抱きしめ返した彼女の身体は、どうしてこんなに震えているんだ。
「そうか」
「うん……」
「それじゃ、俺は、君を手に入れる。……君に……縛られる」
そう、宣言して。俺は、彼女を抱きしめる腕に力を込めた。
- 45縛る者、縛られる者(5/5)sage :2005/03/06(日) 00:35 ID:jjV/jETw
- ……ふたり、シーツに包まって寄り添う。心も身体も熱く、熱に浮かされて見た夢ではないかと思えてしまう
ような。それでも、触れ合う肌から伝わってくる温もりは、抱きしめた華奢な身体から鼻をくすぐる彼女の香り
は、これが現実であると実感させてくれる。
「俺は、支援だけなのか? 俺を縛るのは、強くなる為、戦っていく為か?」
俺の腕の中で、彼女は力無くかぶりを振る。
「道具扱いって思われても仕方ないかもしれない。
……でもね、私が弱くなったのは、支援が無かったっていうのもある。
でも、そうじゃ、それだけじゃなかった。
守りたい相手がいない。支えてくれる相手がいない。
……寂しかったの。ひとりは、もう、いやなの」
湿った、震える声での、独白。彼女は、自分の目的を、望みを話した。
……今度は、俺の番だ。
「道具扱い、か。それはむしろ、俺の方だよ」
「え……?」
顔を上げる彼女。その紅い瞳と視線が絡み合う。
「君と組める事が解った瞬間に、俺は習得する支援を決めた。
事故を防ぐ為にキリエを取り、
攻撃力を底上げする為にイムポジを取り、
クリティカル攻撃が出やすいようにグロリアを取り、
悪魔に対抗する為にアスペを取った。
リザも、弓・魔法職の為のエーテルナも、サフラも後回しにして、ね。
自分の為なのは、マグニくらいかな」
「……!」
「君が、俺の支援無しでは居られなくなるように、そう、今君が話してくれたような事になるように。
俺は、君を縛っていたんだ。自分の支援をもって。支援を、君を縛るための道具にして」
彼女の貌に浮かぶ驚き。その表情は徐々に崩れ、瞳の端に涙が盛り上がる。
「私で、いいの? ひとりじゃ何もできない、私で」
「君がいいんだ。君の方こそ、俺みたいな奴でいいの?」
「うん。私も、あなたがいい……。もう、ひとりに、しないで……」
こうして、俺達は狩りの相方としてだけでなく結ばれた。
紅い瞳、白い髪の、寂しくなると死んでしまうウサギさんのような彼女。
それを包み込んで、抱き留めて離さない俺。
お互いに、縛って、縛り合って、二度とほどけないように絡み合って。
一緒に居よう。ずっと……。
- 4642sage :2005/03/06(日) 00:40 ID:jjV/jETw
- と、言う訳で一本投下させて頂きました。
ちなみに(4/5)は欠番です。補完するとスレが違ってしまいます故。
当初の構想からは少し削りましたが、そのシーンを抜いてもテーマを
語ることができる様、話を整えたつもりでいます。
……要望を多く頂ければ、向こうで補完するかもしれません。
それでは、失礼をば。
- 47('A`)sage :2005/03/07(月) 09:00 ID:e5esXCLs
- 『滅びの賢者 3/3』
賢者を切り裂いた筈のサーベルは、確かに彼の身体を貫いてはいた。
血の一滴も出ず手応えもない事を覗けば、ごく自然に勝利を確信できるシチュエーションだった。
エスクラに振り下ろしたサーベルを凝視し、ルークは自分が罠にはめられた事を自覚する。
明らかな嘲笑を刻む賢者。
その右手が動き、白髪の騎士は凄まじい衝撃を受けて吹き飛ぶ。
地面を転がり、口内に血の味を覚えながらも、ルークは賢者の纏った術衣の正体を察知する。
念――実体を透過する属性――を付加する術符を仕込んだ防具。
実物を相手にするのは初めてだった。第一、そうそう遭遇するほどありふれた物でもない。
先程、エスリナが放ったナパームビートが最大の威力を示したのも当然と言える。念の属性に対して効果的なのは、同じく念での攻撃魔
術。そして、ナパームビートは念属性の基本の魔術だ。
「・・・まずったな・・・」
口の中のぬめった物を吐き捨て、ルークは起き上がる。
あくまで実体でしかない剣は通じない。魔力属性を秘めたものならば別としても、今は持ち合わせていなかった。
対抗できるのは魔法だけだ。ウィザードであるエスリナと分断されたのは、恐らくそれが理由なのだろう。
「驚いた・・・ただの騎士かと思ってたら、動きも戦術もアサシン・・・少し興味が沸いたよ」
エスクラは可笑しそうに言う。
「だけどね、その程度じゃ僕にとって何の脅威にもならない。いくら速く動こうが、君の攻撃は僕には通じないんだ」
「時間を稼ぐ事は出来るさ・・・少佐達が合流すれば、さすがに捌ききれなくなるだろ。スペルブレイカーを使っても同じ事だ」
それが唯一の現実的な打開策だった。
少々脆い面があるものの、エスリナは決して弱い術者ではない。むしろ強い部類に入る。
「・・・でも、それまで君が持ちこたえられるのか・・・僕には疑問だけど?」
エスクラは片眉を持ち上げ、指先で宙に魔法陣を描く。
「俺もそう思うよ」
ルークは不敵に血の滲んだ口元を笑みに変えた。
- 48('A`)sage :2005/03/07(月) 09:01 ID:e5esXCLs
- 目の前に躍り出た人物にレティシアは突き飛ばされ、地面を転がる。
振り下ろされる深遠の騎士の刃。同じ漆黒の僧衣を纏ったその人物はバックラーで正面から剣撃を受け止める。
「いきなり深遠の騎士、か…趣味の悪い冗談だね」
左手の盾で剣を受けたその神官は、そのまま驚異的な判断力で太刀筋をずらし、右手に生み出した白光を騎士の腹に撃ち込む。
爆ぜる騎士を尻目に、彼は悠々と尻餅をついたレティシアを振り返った。
白い仮面が宵闇に映える。
「…カルマさん!」
「遅れてごめん、霧を抜けるのに少し手間取った。でも、パーティには間に合ったみたいだ」
聖書を小脇に抱えて微笑む栗毛のプリースト。レティシアもつられ、少しだけ頬を緩ませる。
「カルマ!まだだ!」
叫ぶエスリナの目の前で、ホーリーライトを受けた筈の深遠の騎士が起き上がる。
既に仮面はひび割れ、鎧は熱で所々が溶解している。明らかに深手ではあるのだが、人型とはいえやはり魔族である。
「ちっ…簡単にはいかないか…!」
カルマは聖書を広げ、口早に詠唱を始める。
レティシアにもエスリナにも聞き覚えのない詠唱文が流れ、復活した深遠の騎士が再度、剣を振り上げる。
「カルマ!」
「・・・数多なる祝福と聖堂の光、魔を退けよ!"バジリカ"!」
手を翻すカルマの周囲に閃光が広がり、深遠の騎士を押し返す。
未知の術を凝視するレティシアとエスリナを振り返り、栗毛のプリーストは叫んだ。
「タイミングを計って術を解く!合わせて!」
右の手で聖書を持ったまま、彼は左手を忙しなく動かし、いくつかの十字を切る。
意図を読んだエスリナは術の詠唱を始め、レティシアもクロスボウを構え、狙いを定めた。
カルマの結界に縛られた深遠の騎士が怨嗟の声を上げ、光を引き裂くべく剣を振るう。カルマはそれと同時に結界を解き、左の指先
を差し向ける。
「レックスエーテルナ!」
光芒が閃き、深遠の騎士の前に無数の剣の形を借りて具現化する。
そこへ、カルマの背後から転がり出たレティシアが光の短剣に向けて矢を放つ。
「ダブルストレイフィング!」
放たれた矢はけたたましい音を立てて深遠の騎士の鎧を砕き、身を貫く。
絶妙なタイミングで完成したエスリナの雷が更に追い討ち、稲妻の尾を引いて深遠の騎士は路地の向こうへ吹き飛ばされた。
もはやまともに立つ事も出来ないのか、深遠の騎士は割れた仮面を押さえて霧の中に消えて行く。
油断なく弓を向けていたレティシアもそれを見届けるとようやく矢を筒に戻し、安堵の息を漏らした。
「行ったか・・・?」
「・・・はい」
レティシアほど夜目の利かないエスリナの問いに、レティシアは疲労を隠さずに頷いた。
自分でも分かるほど憔悴している。無茶をしたという自覚もあったのだが、死ぬ気だったなどとエスリナには言えたものでもない。
カルマは術の手に纏わりついた光の残滓を振り払い聖書を閉じると、仮面を押さえながら呟いた。
「運が良かっただけだよ」
恐らくは誰に言ったというわけでもないのだろうが、レティシアは肩を落とし、エスリナは渋い顔をする。
たった一匹の魔族相手に太刀打ち出来なかったのだ。反論の余地はない。
「この間の血騎士も今回も・・・この敵は、僕や貴方達には荷が重過ぎる。まともに戦ったら勝てない」
「なら逃げていればよかったというのか!?」
信じられない、といった顔でカルマを見るエスリナ。カルマは彼女の顔を正面から見据え、答えた。
「そうだね」
仮面の下の口元は、何故か自嘲気味に歪んでいた。
「その結果、ルークが死んでもか!?」
「ルークは・・・貴方が思ってるほど弱くない」
カルマは言葉を切り、霧の向こうを見つめる。
「自分達の心配をした方が、彼も喜ぶと思うけど?」
どういう根拠でそんな事を言うのかエスリナには理解出来ず、彼女は遂に怒りを爆発させる。
何に苛立っているのかも分からず、やり場のない怒りを目の前のプリーストに向け、手を振るった。
乾いた音が響き、カルマの色褪せた髪が揺れる。
霧の中で、一際澄んだ音がした。落ちた仮面が割れたのだ。
今まで隠されていた素顔を露にし、カルマは皮肉めいた笑みを浮かべて立っていた。
エスリナもレティシアも、彼の顔を凝視していた。想像していたよりもずっと若く、まだ少年と言っても差し支えない。
何より彼女達を驚かせたのは、顔の右半分に縦に刻まれた傷だった。
上から下へ、目を挟んで引かれた線のような傷。そして右目は不自然な色に染まり、何も見ていない。
義眼だ。精巧だったが、生身の眼ではない事は分かる。
しかし、この少年が今まで眼が不自由だと誰が気付いただろう。そんな素振りさえ見せず、先の戦いでは距離感も視力も常人より発揮
していた。むしろ、眼の利く方だとエスリナ達がずっと思い込んでいた程だ。
カルマは笑う。
初めて会った時と同じ笑み。困ったような声で、中身のない笑み。何の意味もない表情。
壮絶な過去を思わせる風貌に、レティシアは声も出せず、エスリナは固まったままだ。
「エスリナさん・・・貴方は何も分かっちゃいない」
彼はそこで、レティシアを見た。
「貴方の為にレティシアさんは死ぬ気だった。気付いてないわけないよね」
「・・・」
エスリナも弓手の少女を振り返る。レティシアは黙ったまま視線を逸らす。
「僕は何でそこまでするのかなんて知らないし興味もないけど、二人とも少しはちゃんと周りを見て欲しい。いつまで経ってもそれじゃ、こ
の戦いでは通用しない。はっきり言えば、足手まといだ」
「たっ、たかがプリーストが何を・・・!」
カルマは反論しかけたエスリナの前に立ち、左手のバックラーのベルトを解き、落とす。
深遠の騎士の剣を受けて歪んだ盾。そして、露になった彼の左腕はいびつに曲がっていた。
「・・・おい、その腕・・・折れて・・・」
「・・・ああ、いや・・・折れたというより"壊れた"って表現の方が正しいと思う」
プリーストは静かに言い、黒い僧衣の袖をまくる。しかし、現れたのは痛々しい痕が刻まれた腕ではなく、やけに無機質な鉄色の腕だった。
何度か指を曲げ、動かす。やはり黒い手袋に覆われた指先がぎこちなく可動し、カルマは苦笑すると、袖を元通りに戻した。
「生身だとバックラーごと持って行かれてたんじゃない?」
事も無げに言うカルマ。エスリナもレティシアも、その迫力に飲まれ、もはや何も言えなくなっていた。
「まぁ・・・二人も相当な目に遭ってきた人なんだろうし、腕も良いし判断力も悪くないと思うけどね」
何かを思い出すように目を閉じ、栗毛のプリーストは言う。
「・・・取り敢えず、少し頭を冷やしなよ。この中から死人は出したくないんだ」
- 49('A`)sage :2005/03/07(月) 09:02 ID:e5esXCLs
- 飛び交う氷塊を避け、ルークは霧の中を飛び回る。
不意に眼前に現れた炎を素手で叩き落とし、迫る雷を地に突き立てたサーベルで受け、飛来した岩礫を蹴り壊す。
ダメージはゼロではなかったが確実に魔術の威力を軽減し、受け流している。
まるで曲芸である。
「非常識だ!」
「はっ!随分狭い常識だな。器が知れるぜ」
悲鳴に似た賢者の喚きに軽口で答え、再び放たれた氷塊をサーベルで叩き斬る。
(とは言え・・・)
酷使を続けたサーベルの刀身が澄んだ音を立てて折れ飛ぶ。稲妻を地面に逃がしたサーベルも焼け、使い物にならなくなっている。
ウィザードが大掛かりな魔術を用いるのに対し、この賢者は小威力ながらも十分な殺傷能力のある魔術を小出しにしてくる。
その方が小回りが効く分、少数相手には効果的なのだろう。
分かっていてやっているのであれば、相応の場数を踏んだ術者という事だ。
(少佐達と合流しても退いた方がいいな、これは)
装備と奇抜な術に溺れた愚か者だと読んでいたルークは、自分の判断の甘さに歯噛みする。
恐らく単独ではないだろう。背後にはそれなりの戦力が居るに違いない。
方向感覚と気配を完全に遮断する霧を睨み、賢者に向き直る。
「どうした!もう武器はないのかい!?」
エスクラは両手を広げ、挑発的なポーズを取ってみせる。
わざと隙を作っているのだろう。自分の詠唱が早いと確信しているのだ。
ルークはそれを敢えて無視し、背中を向けて跳躍する。大きく弧を描くように跳ね、宙で一回転してエスクラの背後に降り立つ。
そして懐から毒瓶を取り出し、エスクラが振り向くよりも早く、彼の背中に叩き込む。
衝撃はエスクラのローブに吸収されてしまったものの、飛散した毒液は彼の目と肌に降りかかり、壮絶な苦痛を与えた。
「ど、毒・・・小癪な!」
次の瞬間にはルークは飛び下がり、霧の濃い場所へ逃げ込もうとしている。
エスクラは毒で霞む眼を凝らし、それを追撃するべく魔力を宿した掌を向ける。
ルークが思っていたよりもずっと早い詠唱速度で術が構成されていく。
(・・・駄目か)
間に合わない。ルークがそう確信した時、エスクラを背後から止める影があった。
怪訝な顔をする賢者の青年の足元に、肉切り包丁を思わせる異形の短剣が突き刺さる。
「これは・・・ポイズンナイフ・・・ヴェノムか!」
音も無く、霧の中に黒装束の女性が立っていた。エスクラは彼女を見止めると、烈火の如く怒りを露にする。
「何故戻った!?僕の邪魔をするな!」
「ですがエスクラ様、そのまま放っておけばその目は失明します。すぐに毒を抜きましょう」
激昂するエスクラを後目に、ヴェノムと呼ばれた女性は抑揚のない瞳をルークへ向ける。
(・・・?)
意味の込められた眼差しだった。知らない顔だったのだが、妙に心にひっかかった。
とはいえ折角の機を逃すわけにも行かず、ルークは霧の中へ飛び込む。
遅れて術を放つも外れ、彼を取り逃がしてしまったエスクラは毒のかかった顔を抑えて喚きたてた。
「くそ!何者なんだ!あの騎士は・・・この僕を・・・くっ・・・眼が・・・!!」
ヴェノムは追わず、ナイフを石畳から抜いて腰に収め、エスクラを振り返って呟く。
「彼は騎士ではありません」
「何!?」
「・・・いえ、何も。それより例のマスターナイトの件ですが・・・」
さて、解毒用の薬瓶はどこだったか。
ヴェノムは長い前髪に隠れた顔を少しだけ緩めた。
- 50('A`)sage :2005/03/07(月) 09:03 ID:e5esXCLs
- Ragnarok Online Side Story "Confrontation of fate"
深夜。
髭面の男は終始、酒を飲んでいた。
酒場を取り巻く空気が一変しようと、他の客や店の主人まで逃げ出そうと、お構いなしに酒を飲んでいた。
「・・・大体、暗殺者ってやつはもっとこう、静かに戦うもんだろ?それを最近の若いのは勘違いしてるんだよ。正面きって戦う奴は利口
じゃない。技も速さも、単純な力比べになると案外脆いもんだからな・・・ヒック」
赤味がさした顔で、うわ言の様に呟く。
適当に相槌を打っていたマスターが既に居ないのも、やはりお構いなしだ。
酒場が無人になってから三度、グラスを傾けようとした彼は手を止め、不意にグラスを取り落として席を立ち、腰に下げていた両手持
ちの大剣を一気に振り抜くや、背後の壁ごと"何か"を斜めに両断する。
大輪の血の華が咲いた。
上下に裂かれた女アサシンが、疑問を顔に張り付かせたまま崩れ落ちる。何が起きたのか、彼女は完全には理解しないまま絶命した。
同情はしない。男は椅子に引っ掛けたマントを掴んで一気に羽織り、クレイモアを店内の気配全てに向ける。
「中央騎士団のクリスレット=カーレルヘイムだ!死にたい奴からかかって来い!」
先程、背後から襲いかかろうとした女暗殺者の死体を踏み越え、髭面の騎士は何も無い酒場の壁にクレイモアを突き立てる。
かなりの重量があるクレイモアの刀身が壁とクリスレットの間に潜んでいた不可視の襲撃者を貫く。
再び鮮血が吹き荒れた。
返り血に構わず、彼は大剣を振り抜き、術の解けた死体を判別する間もなく返す刃を一閃させる。
瞬く間に五人斬ってから、彼は倒した暗殺者達を見回した。
「・・・女ばかりだな・・・そういう集団なのか、単に俺の趣味を見抜いているのか・・・ウィ」
若い女アサシン達は、一様に一刀で絶命している。
練度はまずまず。悪くなかったが、質より数に任せた襲撃なら少々厚みが足りない。
「見くびられたもんだぜ・・・ヒック」
カウンターに置きっぱなしだった蒸留酒のボトルを煽り、酒場を出てから髭騎士は前言を撤回する事に決めた。
酒場の外の路地のあちこちに、隠遁の術で潜んでいると思しき気配が無数に感じ取れたからだ。
少々不味い事になっているらしい。
抜き身のクレイモアを宙に振るって血を落としつつ、クリスレットは周囲を睥睨する。
何とかギリギリで片付けられる数だろうか。
それだけを確認すると、彼は念話に意識を集中させた。
『予感』
- 51('A`)sage :2005/03/07(月) 09:04 ID:e5esXCLs
- 霧。
そう、濃い霧だ。
何処までも続く白い視界。エスリナは疲労で低下する思考力を保とうと手近な柱に額を強打させる。
痛い。
カルマとレティシアが物言いたげな顔をしているのを自然に無視し、ルークと謎のセージの戦いの跡が残る路地を見回した。
魔術による破壊と、折れたサーベル。痕跡はそれだけで、血痕の一つも見つからない。
「・・・レティシア、繋がったか」
「あ、いえ。さっきから呼びかけてはいるんですが、返事は・・・」
念話で連絡を取ろうとしていた蒼髪のアーチャーの少女はゆっくりと首を振ってうな垂れる。
「そうか」
エスリナは短く返事を返すと、顎に手を当てて考える仕草をした。
考える事と言っても、そう多くはない。要ははぐれてしまったルークをどうするのかと、これからの行動についてだ。
寝静まった首都が霧のせいか一層静かに思える。不気味な静けさではあったが、襲撃された直後とあっては気のせいだと流す事も出来な
い。早急に手を打つべきだ。確実に。
時間を置いたお陰で冷静さは戻っていた。
「ルークにウィスパーも繋がらないんじゃ、一度プロンテラ城に戻った方がいいんじゃないのかな」
周囲を警戒しながら、栗毛のプリーストが言った。しかし、エスリナは首を振る。
「一人はぐれたからといって逃げ帰って城に篭るわけにもいかんだろう。何の解決にもならない」
「じゃ、じゃあ、部隊か騎士団に応援を・・・」
ルークへ呼びかけていたレティシアが恐る恐る提案する。
「駄目だ」
しかし、レティシアの無難と思える提案にも赤毛のウィザードは首を縦に振らなかった。
「例の僧侶達の反乱でどこも人手不足の筈だ。今はそちらが優先されるべきだろう」
「この件に人員を割く訳にはいかない・・・ですか」
「恐らくカエサルセント公も同じ事を言う。最初からこの任務には我々だけであたると決まっていたしな」
毒吐き、渋い顔をするエスリナ。少女というにはあまりに深い表情である。
カルマは苦笑し、霧に覆われた街を振り返った。術者が解かない限り、この霧も晴れないと見るべきだった。
「じゃ、エスリナさん。具体的にどうしようか」
「何?」
「ルークが居ない今、その判断が下せるのは貴方だけだよ。僕はそういう経験がないし、レティシアさんはそもそも貴方の部下だしね」
先程とは打って変わって穏やかに言うカルマに、エスリナは少しだけ面食らってから、やはり苦い顔で、
「そうか・・・そうだな」
何かを確かめるように、頷く。
これは自分にしか出来ない。これだけは。
分かっていた事だ。そう、薄々は分かっていた。
単純な戦闘能力では、カルマやルークは自分の上を行っている。経験も生まれ持った力も、彼らには及ばない。
現に、二度にわたる戦闘でもエスリナはさしたる戦果を上げられなかった。
それどころか、二度とも足手まといになってしまっている。
実際にはその差は殆ど無かったかもしれない。自惚れて先走った結果が彼らとの差を広げてしまったのだ。
冷静にならなくてはならない。冷静に。
(出来る筈だ、エスリナ・・・お前はそれほど弱くはなかった筈だ・・・)
少なくとも、あのふざけた騎士に守ってもらうなどと言語道断の筈だ。
無意識に、強くそう言い聞かせる。洒落っ気のないカットの赤毛を掻きあげ、意識を研ぎ澄ませた。
それから鋭く言い放つ。
「・・・我々を襲ってきたというのなら、相手の狙いはやはりサリア=フロウベルグにあると見て間違いない。ならば追撃をやめるのは愚行だ。
ここで引き下がっては奴らの狙いも分からなくなってしまう」
エスリナは一歩踏み出し、
「そして・・・もし我々を襲った敵と兵を挙げた僧侶達に繋がりがあるというのなら、ますます猶予はない。サリア=フロウベルグを何としてで
も確保し、反乱の芽を事前に、かつ早急に摘み取る。異論は?」
問いかけるエスリナに、カルマもレティシアも頷く。その様子に安堵し、彼女は僅かに肩の力を抜いた。
「とはいえ、サリア=フロウベルグの行き先の手がかりもない状況だが・・・」
「あ、それなら騎士団に捕虜が居る筈ですよ。もう尋問も始まっていると思います」
思い出したように言うレティシア。それにはエスリナもカルマも怪訝な顔をして視線を集中させる。
「捕虜?」
「そ、そんな話は聞いていないぞ!いつ捕まった!?」
「・・・ハッ」
問われ、口を塞ぐレティシア。あからさまに怪しげな言動であるが、どうやら事情があるらしい。
エスリナは鼻息荒く「後で詳しく聞かせてもらう」とだけ告げ、クリスレットへ念話を繋げた。
- 52('A`)sage :2005/03/07(月) 09:05 ID:e5esXCLs
- 「マスターナイト殿、今何処に?」
『―――おぉ、エスリナちゃんか。ちょうど連絡しようと思ってたところだ・・・ヒック』
念話の向こうで、今や聞き慣れた声が言う。
エスリナちゃん。
「・・・・・・」
『今は酒場だが、来るかね?手伝ってくれるとオジサン助かるなぁ』
飲んでいるのか。
何を手伝えというのだろう。まさか酌をしろと言うのだろうか。
「・・・・・・・・・行くわけがないだろう!?捕虜とはどういう事だ!私は何も聞いていない!」
思わず五秒ほど思考を停止させ、しかしすぐに立ち直り、エスリナは怒鳴り散らした。
念話の向こうで苦悶の呻きが聞こえる。大音量で伝えたせいだろう。
ルークといい、クリスレットといい、騎士というのは不真面目な生き物なのだろうか。思わず本気で国の行く末を案じてしまう。
『っ・・・もっと静かに喋ってくれないかね。こっちは一応、襲われてる最中だよ』
「どこぞの軽い女にか」
『はは、確かに軽い。しかもハーレム状態だが、そろそろ遠慮したいね』
クリスレットはやけに乾