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【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第8巻【燃え】

1名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/05(火) 00:50 ID:6/iKH5h.
このスレは、萌えスレの書き込みから『電波キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』ではない萌えな自作小説の発表の場です。
・ リレー小説でも、万事OK。
・ 萌えだけでなく燃えも期待してまつ。
・ エロ小説は『【18歳未満進入禁止】みんなで作るRagnarok萌えるエロ小説スレ【エロエロ?】』におながいします。
・ 命の危機に遭遇しても良いが、主人公を殺すのはダメでつ

・ 感想は無いよりあった方が良いでつ。ちょっと思った事でも書いてくれると(・∀・)イイ!!
・ 文神を育てるのは読者でつ。建設的な否定を(;´Д`)人オナガイします。

▼リレールール
--------------------------------------------------------------------------------------------
・ リレー小説の場合、先に書き込んだ人のストーリーが原則優先なので、それに無理なく話を続かせること
・ イベント発生時には次の人がわかりやすいように
--------------------------------------------------------------------------------------------
※ 文神ではない読者各位様は、文神様各位が書きやすい環境を作るようにおながいします。

前スレ【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第7巻【燃え】
http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi/ROMoe/1092183870/

スレルール
・ 板内共通ルール(http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi?bbs=ROMoesub&key=1063859424&st=2&to=2&nofirst=true)

▼リレー小説ルール追記--------------------------------------------------------------------------------------------
・ 命の危機に遭遇しても良いが、主人公を殺すのはダメでつ
・ リレーごとのローカルルールは、第一話を書いた人が決めてください。
  (たとえば、行数限定リレーなどですね。)
--------------------------------------------------------------------------------------------
22スレ52sage :2004/10/05(火) 00:52 ID:6/iKH5h.
自分ので前スレ完全に埋まってしまったので立てました。
とりあえず、ノビと悪クルセぶつけてみましたが……
なんかいつもにもまして滅茶苦茶な気が _| ̄|○
ツッコミどころ満載ですが、よろしくお願いします。
3名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/05(火) 01:43 ID:KWKzvW6Q
>>魔剣戦争記
続きキタァアア!!
新キャラふたり。また個性的なやつですね。
楽しみにしてますよ続き。ファルカたんのサービスシーンにハァハァ
>>2スレ52
むちゃくちゃどころかかっこいいですよ。
ここならよし、の所で往年の傑作、寄生獣のあのシーンを思い出した…
4上水道リレーSSsage :2004/10/06(水) 01:26 ID:Z5L5SzOM
「などど本気で思うような輩は狂信者とカテゴライズされるわけだが……」
 もとの淡々とした口調に戻って、男は喋りつづける。
「せいぜい『かわいそう』と思わせるくらいが関の山だ。違うか? むしろ『自分じゃなくて
良かった、助かった』と思わせられる者が大半だろう」
 彼は何か、嫌な感じがした。後ろめたいような、目をそらしてしまいたくなるような、居心
地の悪さ。男は言葉を切って、すべてを見透かすような透徹した目をもって、彼を見据えてい
る。
「なにが……、言いたい?」
 こらえきれずに、彼は訊いてしまった。
「私は君を『スカウト』しているのだよ。なるほど、確かに君は私の敵ではない。だが、人間
の到達できる限界点に居た聖騎士を晩餐に並べられる鳥類のように屠殺した私に立ち向かって
きた、君の精神力とでもいうべき『力』を、私は欲しいのだ」
「なに……?」
「果たしてこれ以上、私と敵対することにメリットはあるだろうか?」
「……」
 唇を噛んで、暗殺者は呪った。納得しかけていた、自分を。
「あの聖騎士に対する義理立てならばもう済んだじゃないか。君自身、ぼろぼろになるまで戦
った。彼も満足して成仏できるに違いない。むしろ自分の死に殉じるように君が死ぬようなこ
とは、あの聖騎士殿自身、望んでなどいないはずだ。何故、君だけが聖騎士殿の命に感化され
なければいけない? 素直に『助かった、自分じゃなくて良かった』と思ってしまえばいいじ
ゃないか。私は有能な人材に対しては寛容だぞ? 既存の世界を打ち倒すまではいいが、私だ
けで新たな世界を再構築するのはさすがに骨が──」
「……うるさい」
 金髪の男の言葉を遮って、暗殺者は吐き捨てた。眉をあげて、男は彼の肩に手をおいた。
「おや、なにかお気に召さないことでも言ったかな? 君にとっても魅力的な、悪くない話だ
と──」
「うるさい、黙れ」
 男は手をどけて、肩をすくめた。やれやれ、とでも言いたげに。
「やはり理解に苦しむな。どうして君たちは、私に『敵対しつづけた』のか……」
「黙れ!」
 暗殺者が叫ぶ。
「てめーの御託なんざ関係ねえ! 俺が戦うのはてめーみてえなクソ野郎があいつを殺したか
らだ! 許せないんだよ! てめーが存在していることがムカつくんだ!」
 暗殺者の怒号に、金髪の男は満足げに微笑んだ。急に喉を動かしたものだから、呼吸に血の
味が混じっていた。それでも彼は、言わずにはいられなかったのだ。
「あいつを……、俺らを……、過去形で語ってんじゃねえっ!!」
「……君の言いたいことは、よくわかった」
 跪いた姿勢の暗殺者に、男の手が伸ばされた。彼が精一杯振り払ったジュルも、届くことな
く地に落ちた。
「もはや私がすることはひとつだけしか残されていないようだ」
 そして冗談のように、金髪の男は膝を折った。口の端から垂れる紅の、一筋の流れ。
「……んん?」
 不可解なことに遭遇して困惑しているように、男はおそるおそる口元に手をやった。 途端
にごぶりと、男は真っ赤な液体を吐瀉した。
(まさか……)
 わずかな希望を、暗殺者は感じた。
「ば、馬鹿な……っ!」
 金髪の男はうめき声をあげながら顔に片手をあてた。顔面を握りこむように指を食い込ませ
ながら、周囲に漂う紫煙の残滓を振り払おうとするように、闇雲にもう片方の腕を振り回す。
5上水道リレーSSsage :2004/10/06(水) 01:27 ID:Z5L5SzOM
 軋む頭蓋の音すら聞こえそうな、凄絶な苦悶。先刻までの、ある種の畏敬すら抱かせるほど
の威圧感も、消失している。金髪の男は見えない何者かと戦っているようにローブを振り乱し
て、闇をつんざくような呪詛を吐いた
「……おのれえええっ!」
 暗殺者はパイプに寄りかかりながら立ち上がって、ポケットを漁った。確か、いくつか残っ
ていたはずだ。震える指が、数枚の白いハーブをつかみ出す。一気に口に含んで、彼は必死に
咀嚼した。彼の目は、おぼつかない足取りでふらふらと彷徨う金髪の男を見据えている。まる
で盲いた狂人のようだと彼は思った。
(ざまぁみやがれ、クソ野郎)
 確か、スペードの3だったか。
 どうやらジョーカーに、カウンターを喰わせることができたらしい。暗殺者は男の狂態に幾
ばくかの溜飲を下げながら、硬い葉筋ごと白ハーブを飲み込んだ。いくぶん、身体に力が戻っ
てくる。
 間違いなく、状況は逆転していた。しかし相手は、あの聖騎士ですら敵わなかった人外だ。
まだ、油断してはいけない。
 暗殺者は右手に対人用のグラディウス、左手に命中精度向上用のマインゴーシュを構えた。
放っておいても、心筋や呼吸器系が麻痺すれば事は終わる。だが暗殺者の勘が告げていた。こ
の場で確実に、容赦なく、完膚なきまでに、この手で──息の根を止めなければならない。
 紫煙の猛毒は、布石にすると彼は決めた。二刀を構えたのも斬殺するつもりではなく、一撃
で仕留めるため。男の一挙一動を鋭く観察しながら、暗殺者は必殺の機をうかがう。
「ぐううっ……、この……、私がっ!?」
 遂に、というべきか。ようやく、というべきか。いや、効きはじめるまでの時間を考えれば、
ようやくなどという言葉では足りないほど、彼は待っていたのだ。全身を小刻みに震わせる男
から、隙間風のような呼吸音が聞こえてきた。
 金髪の男の膝が、がくりと地に落ちた。
 先刻と真逆。ちょうどひざまずいた体勢で、金髪の男はげひげひと咳きこみつづけていた。
赤い液体が汚水に混じる。首の付け根の透けるような白い肌を見て、暗殺者はらしくもなく唾
を飲んだ。
(てめーのようなクソ野郎は……)
 暗殺者は注意深く、逆手に握った短剣を引いた。
 毒に汚染された目標、それ自体を触媒として発動させる、毒使いの奥義。その毒に汚染され
たものは絶命の瞬間、毒を撒き散らしながら弾け飛ぶ。
(粉微塵になって──)
「死ね」
 ずびゅ、と腹の底に響くような感触がした。
 何度体験しても決して慣れることのなかった、嫌な感触だ。
「……?」
 びくりと身体を痙攣させて瞳を見開き、視線を動かして傷口を見る。
 暗殺者の腹部に、金髪の男の腕が突き立っていた。眼前の男が、自信たっぷりの悪魔的な笑
みを浮かべている。短剣の切っ先を見ると、二本の指に挟み込まれて止まっていた。
 吐き気がした。
「なかなか演技派だっただろう? んん?」
 体内で男の手が捻られる感覚。こみあげる吐き気。内臓が引っ張られるような気色の悪い感
触。真っ赤に染まった男の腕。
 こらえきれずに、暗殺者は吐いた。
 腹に刺さっていた支えを失って、暗殺者はびちゃびちゃと吐血しながらくたりと崩れ落ちた。
奥歯を噛み砕きそうなほどに食いしばって、彼は痛恨の失策に打ちひしがれた。
「ちなみにこれは」
 男は口元の赤い液体を指さした。
「赤ポーションだ」
「っンの……、野郎ぉぉぉ……!」
 暗殺者は取り落とした短剣に手を伸ばそうと、腕に力を込めた。
 しかしまったく動かない腕。
 すがるように伸ばされた指の先で、短剣が踏み砕かれた。見開かれる彼の目から、力が失わ
れて、どんよりと濁った。
「残されたひとつのこととは、こういうことだ。すなわち、希望を抱かせてそこから突き落と
すこと。その方が、味がよくなるのでね」
「畜生……、畜生……」
 金髪の男は腕の汚れを気にするように払いながら、優越感を隠そうともせずに暗殺者を見下
ろした。
「さて、そろそろ融合の時が迫ってきたようだ。君との語らいはなかなか楽しかったよ」
 男はふたたび手を伸ばして、暗殺者の頭部を掴んだ。抵抗しようにも、彼の腕も、脚も、ぴ
くりとも動かなかった。やすやすと暗殺者を吊るし上げらた男は、手の甲を眺めながらつぶや
いた。
「凡て、暗澹たるが如く」
6えべんはsage :2004/10/06(水) 01:32 ID:Z5L5SzOM
残り容量も考えず誘導もせず、前スレ消費してしまってごめんなさい。

今回投下分は以上です。
あんまりうろつかれるとミスリルが届く前に 遭遇→全滅 の憂き目を見かねないかと思いまして、
DIO様にはひとまず退場していただきたく。
7名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2004/10/06(水) 03:35 ID:qkkqyZcE
「凡て、暗澹たるが如く」
金髪の男は黙祷をささげるかのごとく目を伏せる。

ぼちゃりと足元に水音を立てて落ちた。

「・・・・・・・・なに?」

一瞬何が起こったのかわからなかった。
目の前から暗殺者が消えた。
正確に言おう。目の前からずり落ちたのだ。
自分の腕ごと・・・・・・・・・・・・。

なにがおきた?
暗殺者をつかんでいた腕が切り落とされた。つまりはそうゆうことだ。
考えて一瞬。
金髪の男は背後に跳んだ。
視界の端で白いものを見たからだ。

烈風。

それだけで服は切り裂け。胸は浅く斬られた。別段どうとゆうことではないが。

「ワーオ、すごい。よくよけたね」
白いものはそう言った。
それは白い衣服を着た人影で、
手には柄のついた鉄塊・・とゆうべき槌が握られていた。


なんだあれなんだあれなんだあれなんだあれなんだあれなんだあれなんだあれなんだあれなんだあれなんだあれなんだあれなんだあれなんだあれなんだあれなんだあれなんだあれなんだあれなんだあれ
金髪の男は戦慄を覚えた。本能と呼べるものから来る戦慄を。
私がおびえている打と、この私が・・・・・・・
一息つく。そしてその戦慄を隠すように今までどうりの口調で言う。
「なにものだね」

「あ・・・・・・こちら、GM0x8.hena。現地で変なもの見つけましたどーぞ」
その問いをもう思いっきり無視してどっかに報告を入れる白い服を着た人影。
彼女は光に纏っていて、五つの光球が周りに浮いていた。

「おい」
何か内より沸き出でるものがあった。これはたぶん怒りとゆうやつだろうか。

「・・・・・はい、・・・・はい・・・え〜」
「私を無視・・・・・」
次の瞬間視界が傾いた。
そして吹き飛ばされる男。

何が起こった?


「とりあえず。あなたを抹消させていただきます。そうゆう指令ですんで・・・・・・・・・・・ごめんなさい!」
そしてぺちゃりと音がした。

音のする方向を見れば、壁に何か赤いものが付着していた。
そして自分の腹を見ると・・・・・・・・・・・・・・・・抉れていた。

そして烈風が3回。
ぺちゃ、びちゃ、びち

続けて4回の烈風
肩が、腹が、腕が、抉られ、体から切り取られてゆく・・・・・・。

彼女の持つ槌があまりにも速く振るわれるがゆえに視認できず、
その重さと速さと威力で持って、触れるもの皆、粉砕され、抉り、切り取られてゆくのだ。

さらに一撃。
何が起きているのか、どうしてこうなっているのか、理解できぬまま金髪の男は吹き飛び後ずさる。


「光に・・・・・・・・・・・・・・・・なれ〜」
そういって振るわれた槌は金色に見えたかもしれない。

そして、地震。
揺れる大地。
波立つ水面。

そして、その場で仁王立ちでいる女。
彼女の周りには光の弾はない。


「えっと、とりあえず、そこのアサシンさん・・・・は、生きてるね」
女はそうゆうと、アサシンに光が包む。
ヒール。
それも最高クラスの癒しの力を持つヒールだ。

目を覚ます暗殺者。
「おれは・・・・・・・」
「はい、よく聞いて、アサシンさん」
死んだと思ったはずなのに、生きていて、混乱真っ盛りの暗殺者の唇に
指を当ててその白い服の女はそういった。

「要点だけ言います。ここから退避して頂きます。
もう少しいけば民間の有志で組織された救出隊がこっちに向かっているようですので、そこまでいかれれば大丈夫かと。
よろしければポタを出しますが」
「あんた・・・・・管理人か」
「はい。管理人がんばってます」
ふざけたくらいな笑顔だった。スマイルマスク真っ青なくらいに。
8名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2004/10/06(水) 04:04 ID:qkkqyZcE
「とりあえず、この場から離れましょうか」
管理人GM0x8.henaそういって暗殺者を起こす。

「その前に・・・・・・・・・・・・・・・」
さっき金髪の男を粉砕した場所に、無数の氷の柱が立つ。
「封鎖完了。これでしばらく持つかな?」

この氷の壁の向こうには誰もいない。
あるのは死体だけ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・終わったのか?」
「いいえ。たぶんまだ」
暗殺者のつぶやきに即答する女。

あいつのことだ。たぶんさっき自分がやったときのように影だったのかもしれない。
あるいは復活を果たすのかもしれない。
なんにせよ、あいつは常識外れで、何があっても不思議じゃないんだ。
また再来る。

「さて、どうしますか?ポタで一気に地上に行きますか?それとも歩いて帰りますか」
「歩いてゆく・・・・先に逃がした奴が気になる・・・・」
「では私はこの辺で・・・・・・・・・・・・・・・」
そういって彼女は圧断した奴の腕を拾った。もって帰る気なのか?

「管理人、がんばってます
・・・・・あ、ヒールしたこととか私が助けたこととかは内緒にしといてください。
特定個人へのえこひいきは私たちの規約ではホントはやっちゃいけないんで・・・・・」


「じゃあ何で助けたよ」
「それは・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
暗殺者の問い、管理人はこう答えた。
「結構好みだったから」
そういって、いたずらっぽく笑った彼女の顔は、結構魅力的たっだ。

「では」
そして管理人は消えた。
テレポートでもしたのだろう。

「いつの間にかけたんだよ」
気がつけば、速度増加と祝福の魔法が暗殺者にかかっていた。

そして暗殺者は、数十分前のよりもはるかによくなった状態で走り出した。


「おぼえたぞ」
何かがつぶやいた。
9名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/06(水) 14:48 ID:G0Ur6vyg
滑り込みの一桁ゲットしつつ、保管庫座標を貼り付けだ。

ttp://cgi.f38.aaacafe.ne.jp/~charlot/pukiwiki/pukiwiki.php

ttp://moo.ciao.jp/RO/hokan/top.html
10名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/06(水) 17:50 ID:DQYqY/SU
あたかも子供が玩具を落として壊した時の如く、あたりに広がる肉片。
各部自分そっくりのモノを見下ろしながら、金髪の男は可笑しくてたまらないといった
表情をうかべて、傷一つない身体でピンと立っている。
マントのすそで清潔な手を、習慣でぬぐうと彼はそのままかがみこみ、
バラバラ死体の上に手をかざすと、もう耐え切れなくなったのか
上水道中にに響き渡るような大声で笑いはじめた。

「アハハハハハハハハハ!・・・はあ・・・ハハハハハハハハ!
これが笑わずにいられるかね!?・・・ねえ・・・バラバラになった私!私だよ!ワタシイイイイイ!
・・・アハハハハハハハハ!」

涙を流して笑いながら、途切れ途切れに死体に話し掛けると
また堪えきれずに肩を震わせ、金髪の髪がそれにつられてふわりと左右に流れる。
普通ならばその光景は美しいと表現してもよいのだろうが、彼の
笑みの裏に張り付いた残忍さが、辺りをつつむ禍々しい気が
その場所魔界の入口のごとき冷たさに変え、男はそのまま
しばらく笑いの発作をつづけると、ようやく可笑しさが薄れたのか
笑みを浮かべたままで足下の肉片と・・・自分そっくりの水に半分浸かった首にむかって、
噛んでふくめるように何が可笑しいのかを説明しはじめた。

「なあキミちょっと耳が浸かって聞きづらいかも知れないが
聞いてくれたまえ・・・クククッ、GMってのは暢気だよなあ、
肉人形だって感知できるその存在を私が感知できないとでも思うのかねえ?
しかも制約を超えた力をこちらに向かって使用した---
こちらが、私があの存在に対する対処方法を知らないとでも?
そんなものは“世界制服マニュアル”の一ページ目に既に
記載させてもらったよ、キミ・・・。」

指先で落ちた顔をつつっと撫ぜる。
愛撫のような手つきが、玩具をもてあそぶ指先に変化し、突付いて顔を転がす。
首は半回転し、男から首をそむける格好になった。彼はそれを
濡れた髪の毛を掴んで持ち上げると、こちらに正対させ
話を続けた。

「あのちっぽけな存在をそこまでして救いたかったのかね?、でも彼女は
オツムが足りないと思わないかね?キミ、昔お母さんに
「外で変なものひろってきちゃだめです!」って怒られた事がないのかねえ?
しかもこちらは決定的瞬間を記録させてもらった・・・もしかしてそれを公表すれば
彼女は“BAN”かね・・・クックックックッ。」

背中を震わせながら、立ち上がり通路の壁に寄り掛かると彼は足元の自分の顔を軽く蹴って転がす。
出来事を回想しているのだろうか?目を瞑るとまた一息、吐き出してこめかみを叩き、
男は子供の質問に答えるように下を向くと、無口な兄弟に講義をはじめた。

「え?、GMがBANしてきたらどうするって?、ふむ・・・・・・いい質問だ兄弟
特定の命令にはそのコマンド特有の現象、転移による空間の歪み、生体抹消による
根源物質(マナ)量の一時的増加といったことが起こる、そこでだ・・・私のような存在を
ソコラにいる肉人形と同じように抹消しようとした場合は。。。わかるだろう?兄弟、
エネルギー量が多すぎるのだよ、難しいことは省略するがまず間違いなく
この大陸は人間が住める場所ではなくなるだろうな・・・。」

「え?じゃあ私が無敵かだって?・・・とんでもない、私は公平な人間でありたいと思うのでネ、
人とは思えないかもしれないが・・・クク、もしも正々堂々と冒険者が向かってくるのなら
討てないことはないのだよ、“出切れば”だがね。」

そこで言葉を切ると----彼は笑みを引っ込め唇をかんだ、まるで過去を思い出すように
額の中心を人差し指でこつこつ叩くと、眉間に皺をよせ、どうも思い出せないといった
表情、腕をくみうなったまま言葉をつなぐ。
「考える魔人」----とでも言おうか。

「昔私を戦闘不能にした者も居たしな・・・フフッ、兄弟よ今度はどうなるかね?占ってみるかね?
そうだな、キミの首を蹴って顔が上を向くか下を向くかで決めよう、上なら“大吉”・・・下なら
“凶”だ、さて行くぞ・・・・・・・・・それ!ククッ・・・。」

首は蹴られ金髪の髪は吸った水をはね散らかしながら壁に当る。
首は再度壁に当り間抜けな音をたてて転がる。
首は水溜りに入りぐぐもったボコッという音をたてて転がり、転がり・・・。

---------そして顔は横を向いて止まった。

「ア---------ッハッハッハッハッハッハッハ!」
11名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/06(水) 22:24 ID:hyIQQJ/Y
 すぐに夢を見ているのだと判った。
 登場人物はいつもと変わらない。僕と先輩、そして大量の本、本、本。
 先輩は結構な実力の魔導師だ。才女だとかなんとか言われているが、言葉から連想されるような冷たさはない。
 悪戯好きなのを除けば面倒見のいい、とても親しみやすい人柄をしている。
 ほっそりした体躯に、さっぱりとしたショートカット。本を読む時――つまり大抵は眼鏡をしてるけれど、外すと童顔で
可愛らしい。
 ロケーションもいつもと変わらない。
 ゲフェン塔の談話室。書庫から出て来たばかりの先輩。
 魔術師以外は立ち入り禁止のこの一角で、僕は先輩とよくくつろいでいるから、ここまではいつもと変わりはない。
 夢と判った決め手は先輩の笑顔。その悪戯っぽい微笑みが僕の肩の上、顔の真横にあるからだ。
 いうなれば後ろから抱きつかれた密着状態。
「何赤くなってるのかなー?」
 背中に触れるやわらかな感触。明晰夢だと悟っているというのに、馬鹿みたいに僕はガチガチになっていた。
 確かに僕と先輩は仲がいい。だけれど、ここまでの仲って訳じゃないのだ、残念ながら。そりゃ固くだってなる。
「年上ってキライかな」
 頬に手を添えられて、横向きにされた。真正面からお互い見詰め合う格好。
「――キス、したことある?」
 問うておきながら、答えも待たずに額に額がこつんと押し当てられた。吐息がかかる。
「おしえてあげる」
 唇がゆっくり迫ってきて。


「あいてっ!?」
 がつん、と後頭部が冷たい石畳にぶつかった。頭を抱えてしばらく声が出ない。それくらい痛かった。
 夢というか妄想に驚きすぎ挙句、僕は思わず仰け反って、居眠りしていた席から床に落っこちたのだ。それも痛烈な勢いで。
 原因と結果があまりに情けなくて、転げたまま憮然としていると、くすくすと忍び笑いが聞こえた。
「なーにしてんの、君」
「う、うわっ、先輩!?」
 慌てて跳ね起きる。ところは夢と同じ談話室。先輩は丁度書庫から出てきたばかりみたいだった。
「…寝惚けたんですよ、ちょっと」
 顔が赤いのが自分で判る。先輩の夢を見て、なんて口が裂けても言えやしない。
「へぇ。珍しいね。カタブツの君が寝惚けなんて」
 先輩は抱えていた紙束を卓に置く。専念していると言っていた論文だろう。
 僕が憮然としながら立ち上がって裾を払うと、一層おかしそうに笑った。…まったく、このひとは。
「やーれやれ、書き物って肩凝るよねー」
 テーブルを挟んで僕の正面に腰掛けると、首をぐるぐる回して肩をほぐす。
「あのさ、お茶、入れてくれない? 君の、おいしーんだよね」
「はいはい」
 紅茶をおいしく淹れるのは僕の趣味でもある。褒められれば素直に嬉しい。
 薬缶を取り出し水を入れ、小さく発火の魔法を唱呪。これや他者に思念を届ける“囁き”は、魔術師や冒険者でなくても使い
こなせる、便利な魔術の代表格だ。
「いいよね、君、器用で。私なんか不器用でさー」
 ぐーっと手を組んでのびをしながら、先輩。
「いいお嫁さんになるよー」
「僕は男です」
 お茶っ葉の用意をしながら言い返すけれど返事がない。ちらりと覗くと、いつの間にか紙片に書きつけをしていた。集中して
いるみたいだし、邪魔するのは止めておこう。そんな事を思った矢先、
「ところでさ、年上ってキライ?」
「…何を言い出すんですか、いきなり」
 狼狽を押し殺して返答。あんな夢を見たせいで、おかしな方向に想像が行く。不自然な間が空いたかもしれない。
 先輩には気付かれないように深呼吸を繰り返して、それから振り向く。
「んーん、何でもない何でもない」
 卓の上で組んだ腕に顎をのせて、先輩もこっちを見ていた。視線がばっちりぶつかる。先輩はこちらへ手を振ってみせた。
 一体何を書いているのだろう。どうやら論文ではないようだし。


「で、何を書いてるんですか?」
 湯気の立つカップを差し出して、僕。ありがとー、と受け取る先輩。
「ん、手紙」
「また古風な事をしますね。“囁き”でも送った方がよっぽど早いでしょうに」
「でもさー、直接言いにくい事を伝えるのには、これ以上無い手段だよ」
「先輩でも、言いにくい事なんてあるんですか」
 このひとなら誰にでも何でも言ってのけそうな気がするけれど。
「そりゃ私にだってあるよー。君だってない?」
 問われて考える。大抵の文句や注文は口頭だ。それが出来ない相手なら、最初から付き合おうなんて思わない。
 それが交友の少ない理由なのかもしれないけれど、まあそれはそれとして。
「あまりありません。それに手紙なんてまだるっこしい事するなら、直接言いに行きますよ」
 確かに重要な事柄には書面が用いられる事もある。だけれど時間やら料金やら何やらを考慮したら、断然直接か“囁き”の方
がいい。それが即時でやり取りできるのに比べ、手紙なんて届くまでだけで1日2日はかかるのだ。
「ふぅん。思ったよりも行動派なんだね」
 そこで先輩は意味深く沈黙。
「…本当に、どうしたんですか?」
「あー、いや、だからなんでもないって」
 慌てたみたいに先輩は首を振り、その後はいつもみたいになんて事のない話に終止した。

「それじゃそろそろ帰ります」
 いい加減夜も深い。僕がそう告げると、
「あ、おつかれさま。引き止めちゃってゴメンね」
「いいえ、そんな事ないですよ。こっちこそ、書き物の邪魔してすみません」
 僕は一礼して、先輩は頬杖で手を振って。
「――明日も明後日も、私はこっちにいると思うから」
 別れ際、脈絡なく先輩が呟いた。何故か緊張したような雰囲気。なんで予定をいちいち僕に告げるのだろう?
「オッケーだったら、またお茶を淹れに来てよ」
 …どうやらそういう事らしい。

 先輩が何を書いていたのか判ったのは、翌々日の事。僕のところへ手紙が届いたから。
 とにかく、急いで家を出よう。オッケーだったらお茶を淹れに来いと、彼女はそう言っていたのだから。
12名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/06(水) 23:45 ID:8zbyAUSc
____________
    <○√
     ‖
     くく
早く!俺が支えてるうちに先輩のところへ!!

何で読後こんなの思いつくかな、俺_| ̄|○
13名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/07(木) 01:29 ID:PfhhNiWA
>11で萌えて
>12で激しく笑ってしまった
14('A`)sage :2004/10/07(木) 01:45 ID:3/Jo7FlE
 Ragnarok Online Side Story "Confrontation of fate"



 
 日が暮れるまで立ちすくんでいた少女はやがて、白い墓石に背を向けて歩き出した。
 黄昏に沈むプロンテラの街並みは静かで、時折駆け抜けていく子供達の嬌声だけが聞こえる。
 そうして、世界はささやかに、しかし、確実に一日を終え、明日を迎えるだろう。
 それを繰り返し、繰り返し。
 長い時間が過去から未来へ、少女を導いていく。
 哀しい思い出が色褪せ、深く抉られた傷の痛みが和らぐまで。
 この時点で、少女は確かに上を向いていた筈だった。
 そう、"筈だった"。この時点では。
 少女が沈痛な面持ちで使い慣れた台車に手をかけた瞬間、異変があった。
『…を…する』
 風に乗って、途切れ途切れな低い声が響く。
「…?」
 少女は何気なく、振り向いた。
 そこに待つものを知らず、漠然とした気味の悪さに、振り返った。それだけだった。
 そして、たったそれだけで、少女の未来は潰えた。
 鈍く、僅かに少女の上半身が仰け反る。
 錆び付いて腐りかけた肉厚の刃。一振りの古ぼけた大斧が、少女の胸に深く打ち下ろされていた。
「…あ…れ…」
 焦点の合わない瞳で、少女は斧を見た。
 全く現実感が無かった。人気のない墓場で、どうして斧が自分に突き刺さっているのか。
 痛みも、一滴の血の飛沫さえも、無かった。
 ぐずり、と湿った嫌な音を立てて斧はめり込む。
 やはり痛みは無かった。ただ、自らの身体に何かが入り込む――というよりは、内側から取って
変わろうとしている感覚があった。不快だった。
 今度は、音を立てて何かが潰れた。何も分からなかった。
 もう、分からなくなっていた。


 現在と過去と、現実と夢想が境界を無くす―――


 哀しかった。
 死んでしまった、愛しい人。
 でも、その反面で、嬉しかった。安堵していた。

 自分は死ななかったのだ。

 助かったのだ。何処の誰かも分からない剣士の少年に、救われたのだ。
 死にたくなかったのだ。死んだ方がマシだ、などと考えたこともないのだ。
 生きていたいのだ。生きていたかったのだ。それが、叶ったのだ。
 感謝してもしきれない。もしもう一度あの少年に会えば、自分は絶対に、一生のうちに知る
であろう謝辞の麗句を全て並べ立て、無心に愛するかも知れない。
 彼を失ったのは悲しいけれど、助けてくれてありがとう?
 そう言って同情でも誘って、関心を引くだろうか?
 違う。それは違う。チガウ。
 これは純粋な感謝だ。そんな不純なものではない。生きたいと思うのも至極当然だ。
 誰だって死にたくはない。私もそうだ。あの少年もきっとそうだ。
 彼も?そう、彼も。死んだ彼も。もう死んだ。もう居ない。
 そう、もう居ないのだから、別の誰かを愛してもいいではないか?
 チガウ。それはチガウ。今でも彼を愛している。でも救われたいとも思う。楽になりたい。
 生きていたい。死にたくない。
 シニタクナイ。

 
 なのに、何故―――


 見えぬ血を滴らせ、斧は完全に狂った少女の中へ埋没した。
15('A`)sage :2004/10/07(木) 01:45 ID:3/Jo7FlE
 『死んでも永遠に 2/3』


「そこの剣士もそれなりには面白いのですが、生憎と重要なのはそちらのお嬢さんでして」
 魔術師、シメオンはあくまで真剣な顔で言った。
 ナハトは完全に肩透かしを喰らった形になり、ほっと胸を撫で下ろす。が、すぐにその意味を
理解――もとい、誤解して叫んだ。
「じゃあ、やっぱり軍の…!?」
「違います」
 勇む少年に、魔術師は即答する。
「私は誰の配下につく事もなく、誰の命も聞き入れませんよ…二度と、ね」
 淡々と言ってのけるシメオンの顔には、まだ若いナハトには想像も付かない凄烈さがあった。
 堪らず、少年は怯む。人間としての格が違いすぎた。
 しかし、大人しく聞き手に回っていたルイセとサリアの顔色に変化はない。これは当然だった。
むしろ、この状況で未だに迷いを捨て去れずに居る剣士の少年の方が、異常なのだ。
 一人取り残された形になったナハトからつまらなそうに視線を外し、シメオンは華奢なモンクの
少女を見る。
「噂には聞いていたんですよねぇ…よくこんな事が出来たものだと感心してしまいますが…」
「シメオン…要点だけを言いなさい」
 カップを煽るルイセが、ぴしゃりと言い放った。
 その言葉に、陰鬱な魔術師は曖昧でシニカルな笑みを取り戻すと、
「おや、貴女は気付いているものかと」
 気付いていない訳がない。魔術師は暗にそう言っていた。
「どういう…事ですか」
 またも取り残された黒髪の剣士は、呻くように呟く。
 ルイセがサリアの事で何か知っていたかもしれない。それだけで、ナハトの、唯一の心の支えが
崩壊しようとしていた。
 絶対的な信頼が、綻びかけていた。
 ナハトはルイセを信頼している。心から頼れる。
 しかし、彼女にとって自分はそうではなかったのか。
 少年は決して優秀ではなかったが、いつだって彼女を裏切ろうとしたことはない。
 それなのに。
 ルイセは何も語らず、ナハトの疑念を払拭しようともせず、黙って茶を愉んでいる。
「先生!」
 …警告は既にしていた。
 少年が、得体の知れない少女を助けると口走った時に。
 彼は答えた。「分かっている」と。その言葉の重みも知らずに。
 あの瞬間から――少年の甘い理想など通用しない――"現実としての戦い"は始まっていたのだ。
 サリアが身の上を語らないことに対し、ルイセは確かに『困って』はいた。
 自身の口から語らせるのが最上であり、第三者に過ぎない彼女がナハトに告げたところで、何
の進展にも繋がらない。むしろ、逆効果だっただろう。
 間接的に知れば、ナハトは絶望し、後悔するだろう。
 しかし、直接的に知れば、諦めるだけで済むかもしれない。それさえも、甘い観測でしかない
のだが…。
「…ごめんね」
 思考を無理矢理終わらせ、ルイセはカップを置く。
 シメオンを見る蒼い双眸に、明確な戦意を宿して。
「そう、気付かない筈がないわ。貴方もよく知っている通り、私の半分は人間じゃない」
 纏った強大な気配を隠さず、人外の少女は淡々と言い放つ。
「シメオン…くだらない事を言いに来たのなら、そろそろ帰って頂こうかしら」
「…おやおや…独り占めするつもりですか…何もかもを、敵に回して…」
「"保護"してるだけよ。貴方とは違う」
「それは…残念だ。私としては貴方とは出来るだけ争いを避けたかった」
 魔術師は席を立ち、手近に置いていた帽子を被った。
 既に安穏な空気は霧散し、魔術師は何処までも黒い、凶悪なまでの魔力をその身に宿している。
「やっぱり敵か!」
「軍ではないと言っただけですよ?」
「屁理屈を!」
 迷わず剣を抜くナハト。
 この間合いなら、剣の方が速い――筈だった。
 次の瞬間、彼の身体は易々と宙を舞っていた。
 シメオンが軽く手をかざしただけで、ナハトはまたも吹き飛び、リビングの壁に突き刺さる。
「…愚鈍な」
 魔術師は壁に張り付いた剣士を一瞥し、魔力を操る。
 一般的な"魔法使い"は魔術――魔法回路の起動に少なからず予備動作と詠唱を必要とする。
 単純な構成の魔術でさえ、起動に要する時間は零にはならない。熟練し、それを短縮出来る者も
居るが、決して、無には出来ない。
 未熟であれば未熟であるほど、それは顕著に表れる。
 それが魔術師にとってのウィークポイントであり、最大の隙だった。
 しかし、シメオン――この陰湿な魔術師はそんな"隙"をほぼ無に近づけていた。
 複雑な呪文を口走る必要性も、大仰な予備動作も必要ない。
「三人も相手に酔狂で挑んでいる訳ではないのですよ」
 魔術師の掌に、拳ほどの炎が出でる。
 難なく放たれたそれを、ナハトは絶望的な面持ちで眺め――
 炎が爆ぜた。
 ただし、少年に直撃したのではなく、僧衣を纏った少女の拳が、叩き割ったのだ。
「…ナハト様、大丈夫ですか?」
 サリアは振り抜いた拳をさりげなくシメオンに向けたまま、優しく尋ねる。
 割と非常識な芸当を見せてくれたのにも関わらず、綺麗な笑顔。
「あ、ありがとう…大丈夫だよ」
 剣士もそれに応え、ソードを構えて起き上がる。
 魔術師は想像以上の使い手だ。ナハトの想像では、そこらのマジシャンに毛が生えた程度の認識
だった。しかし、現実には、城で遭遇したウィザードよりも、恐らく――
(…強い…とんでもない奴だ…)
 初撃で受けたダメージは「大丈夫」で済ませられるレベルでは無かった。
 不可視の衝撃波。恐ろしく速い一撃はナハトの全身を強打し、完膚無きまでに関節を破壊した。
 まだ立てたのは、直後にサリアがかけた癒しの術のお陰だ。間に合わなければ、激痛にのたうち
回っていただろう。
 それこそ、死んでいたかも――
(…あれ?)
 違和感を覚えた。
 何故、死ななかったのか。
 初撃の衝撃波。もう一度あれを貰えば、確実に死んでいた。
 なのに何故、シメオンはわざわざ手間のかかる炎の魔術を使ったのか。
「手加減してるでしょう」
 黙して座っていたルイセがようやく口を開く。
「サリアちゃん以外は、殺す気がない…そういう事かしら」
「殺生が好きなわけではないんですよ。そこの剣士には、ちゃんと言った記憶がありますがね?」
「…く、くそっ!ふざけるな!」
 嘲笑うシメオンに、激昂するナハト。
 しかし、身を乗り出した少年はそのままの勢いで床に転がった。
 児戯に等しいその抵抗を、魔術師は冷ややかな目で見やる。
 紛れもなく、遙か格下の相手を侮蔑する眼差し。
「…ここまで、かな」
 静観していたルイセが、遂に席を立った。シメオンは目だけを動かし、モンクの少女から警戒を
解くことなく、"この場で唯一の絶対的な脅威"を見やる。
「何がでしょう?」
 滑稽そうに問う魔術師。金髪の少女は緩やかな動きで、椅子にかけていた刀を取る。
「人間の真似事が、よ」
 ずん、と場の空気が重みを増す。
「く…!?」
 刹那、魔術師の身体が家具を粉砕し、窓を突き破って外へ吹き飛んだ。
 いとも、あっさり。
 けたたましい音を上げて撒き散らされる家具の破片の向こうに、少年は見る。
 緋色の目をした、美しい化け物の姿。
 が、或いは錯覚かも知れなかった。
 次の瞬間には、いつもと変わらない愛らしい教師の姿があったのだから。
 錯覚であって欲しかった。
 流れる重い空気。しかし、当の本人は軽い口調――装ったものかもしれなかったが――で、
「あー、二人とも。ちょうどいいから、私、あの研究キチガイを徹底的にぶちのめして来るね」
 そんな台詞を笑顔で言ったものだが、言われた方は内容の迫力に閉口するしかない。
 ナハトが立ち直るより早く、ルイセはひょいひょいと粉砕されたテーブルを器用に飛び越え、
そそくさと外へ去って行く。
 残されたナハトは、やはり困り顔のサリアと目を合わせ、深く溜息を吐いた。
16('A`)sage :2004/10/07(木) 01:56 ID:3/Jo7FlE
今晩は。コッソリ駄文投下。
新スレお疲れ様です。


>>前スレ296さん、297さん、298さん

確かに潰れてます。つっこまれるとは思いませんでしたが…。
その辺りはカルマの"生身じゃない部分"みたいなもので、
外見的には普通に完治してる脳内設定です。
いつか色々書きそうですね。

では、また。
17名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/07(木) 17:34 ID:o1IuGj0A
 なんか今回のドクオ氏のやつ、最初の文章が怖い・・・
 本編はおおっとシメオン君ふっとんだー!なんだけど・・・
18名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/07(木) 20:57 ID:k2Zw6RHQ
>>17 こうですか?(ry
        ┼─┐─┼─  /  ,.          `゙''‐、_\ | / /
        │  │─┼─ /| _,.イ,,.ィ'    ─────‐‐‐‐ゝ;。←>>1シメオンタン
        │  |  │     |  |  | イン ,'´ ̄`ヘ、   // | \
                          __{_从 ノ}ノ/ / ./  |  \
                    ..__/}ノ  `ノく゚((/  ./   |
        /,  -‐===≡==‐-`つ/ ,.イ  ̄ ̄// ))  /   ;∵|:・.
     _,,,...//〃ー,_/(.      / /ミノ__  /´('´   /   .∴・|∵’
  ,,イ';;^;;;;;;;:::::""""'''''''' ::"〃,,__∠_/ ,∠∠_/゙〈ミ、、
/;;::◎'''::; );マ剣___       @巛 く{ヾミヲ' ゙Y} ゙ >>1ルイセタン
≧_ノ  __ノ))三=    _..、'、"^^^     \ !  }'
  ~''''ー< ___、-~\(          ,'  /
      \(                 ,'.. /
19名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/07(木) 20:59 ID:k2Zw6RHQ
うは、>>1とか残ってる_| ̄|○
ドクオ氏は密かに表現の裾野が広がってるようで相変わらず目が離せません!!
20名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/07(木) 21:25 ID:F.s8kcuI
ええ、ええ。本人がいなくなってからドクオ氏マンセーしてたなんて言いませんとも。
芸風が明らかに増えてますよね。ギャグ畑の
21名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/07(木) 23:31 ID:I3Etclwo
やっぱりドクオ氏は文章がうまいですね・・・
ルイセってホムンクルスなんじゃなかったっけ・・・化け物?
うーん・・・シメオン君とルイセが本気で戦ったらどっちが強いんだろうなぁ・・・
個人的にシメオン君を応援したい。
22名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/08(金) 00:07 ID:MMZgi3hA
ルイセもシメオンもどちらも応援したい・・・・
大爆発で関係者全員アフロとかの辺りで手打ちになって欲しいかなあ。
23どこかの166 上水道リレーsage :2004/10/08(金) 06:43 ID:WAtZl31M
 かつてママプリは武装し邪悪なる魂を救済する妹たちにこう言った。
「人の力とは何か?
 力では動物に劣り、
 魔力では魔族に劣り、
 生命力では植物に劣る。
 それでも我等はこの大地の覇者として君臨している。何故か?
 答えは一つ。
 個では無く群をもって環境に適応したからに過ぎない。
 簡単に言えば、人は群れた時にその力を最大限に放出するのよ」
 その言葉の実証が今、バフォに抱えられた彼女の眼下に現出していた。
「……これが人の力か……」
 バフォメットの言葉にも覇気が無い。
 当然だろう。
 イズルードに到着している各国艦隊の数は二百では収まらない。
 イズルード港縁部に停泊していた数十隻の船団が艦隊を組みイズルードを離れてゆく。
「そういえばアルベルタが襲われたとか言っていたわね……」
「救援……違うな。こっちに来るであろうドレイクを潰すつもりなのだろう」
 高高度を飛びながらイズルードを俯瞰するバフォメット。寒気がするのは高高度を飛んでいるからだと思いたかった。
 次々と上陸しているペコ騎兵。
 盾を構えて隊列を組む戦士達。要所にモンクが配され前線を支える緩衝材の役目を負っている。
 彼らに守られたアーチャー・ハンター達も大量の矢を持ち待機している。
 アコ・プリ・マジ・ウィズも今までバフォメットが見た数では収まらない程多い。
「これが我等を包囲して潰す罠の正体か……」
「人はここまで力を持った。
 さて、魔族はこの罠を逃れる事ができるのかしら?」
 おしゃべりはここまでだった。
 バフォの姿を見た者達が一斉に空に向けて弓矢や魔法を打ち込んで退避しなければならなかったからだ。


 ママプリが『クルセイド』の詳細を知らせてくれた事もあり、プロンテラ南門にはジョーカー・ダークフレーム・ジェスター部隊が撹乱工作を行い、撤退支援という事でパンツァーゴブリン機甲師団が出張ってきていた。
 撤退の支援と敵援軍の偵察、場合によっては遅滞戦闘まで考慮して最強戦力の一端を配したオークヒーローの指揮は正しかったといえる。
 だが、決定的に間違っていた事がある。
 敵の援軍の規模だった。
「左右両翼にペコ騎士団展開!両方とも師団規模ですっ!!」
「中央敵主力なおも増大中!イズルードの橋から敵が尽きませんっ!!」
「大量の船団を確認!プロンテラ内部にも情報が伝わった模様!敵士気が回復していますっ!!」
 次々と押し寄せる情報の全てが人間の軍隊としての力を見せ付けていた。
 パンツァーゴブリン機甲師団を指揮するゴブリンリーダーはもはや汗エモを隠せなくなるほど汗をかいていた。
「支え……きれるのか?」
 ゴブリンリーダーとて魔族のエリートとして栄達の道を歩み、野心も才能も結果も十分過ぎるほど出している。
 その彼が怯えているのだ。
 何に?人に?いや、群れた人に?
 組織され統率された人の凶悪なまでの暴力の意思に。
 指揮官の怯えは兵に伝染する。
 ゴブリンリーダーは必死に怯えを隠そうとするが隠し切れていおらず、声のトーンが否応なしにあがってしまう。
「主力の撤退状況は?」
「全戦力を動員しての総攻撃だけにまだ準備が整っていません!!」
 ゴブリン通信兵の声も上ずっている。
「戦闘準備!
 主力が撤退するまで我等が人間どもの攻勢を支えるのだ!」
「おぅ!!!」
 よく訓練された部隊はこういう時に差が出る。
 そして、最精鋭部隊の一つであるパンツァーゴブリン機甲師団もまたよく訓練された部隊らしく戦闘準備に入ると同時に士気を回復させてゆく。
 何もせずに怯えるならば、それと戦う為の準備をしている方がまだ落ち着くものである事をゴブリンリーダーは長い戦場経験から知っていた。
「ジョーカー・ダークフレーム・ジェスター部隊を左右に展開させろ!
 南門から西門へ人間どもを一歩も通すな!!」
(だが……無理だろうな……)
 できるだけ沈着に振舞うよう気をつけながらもゴブリンリーダーの思考は別の事を考えてしまう事をやめられなかった。
(数が違う……我等だけでは敵全てを抑えきれない……南門から街中を通って西門に出られたらどうしようもない……
 いや……南にペコ騎士で迂回されたら主力ごと包囲殲滅……まずい……)
 沈痛な面持ちでゴブリンリーダーはゴブリン通信兵に最後の命令を告げた。
「作戦参加全部隊にこの情報を緊急伝で遅れ!!!
 このままでは我々は援軍とプロンテラ守備軍に挟撃されて殲滅されると!!!」
(……やるべきことは全てやった……後は戦士の責務を果たすだけ)
 パンツァーゴブリン機甲師団は最精鋭の一つだった。
 彼らは刀折れ、矢尽きてもなお、ここを死守するだろう。
 魔族が悲壮な覚悟を決めている今でも人間の陣はあふれる人で膨張し、狩の獲物たる魔族達にその凶悪たる暴力の意思を膨張させつづけていた。
24どこかの166 上水道リレーsage :2004/10/08(金) 06:44 ID:WAtZl31M
 だが、ゴブリンリーダーは致命的なミスを犯した。
 いや、ママプリが危惧した魔族の組織行動の欠陥がここにきて致命的に露呈した。
 同格司令官が多く、誰が最終権限を持っているか分からない為にゴブリンリーダーは全参加部隊にこの緊急伝を伝えてしまったのだ。
 かつての魔族たちならば各個に対処し撃破されてしまうが、それは結果として難を逃れる部隊も存在していた事の裏返しでもある。
 それを情報によって縛ってしまったならば、一つの意思が全部隊崩壊の危険を孕んでいる事をママプリ以外の魔族側で誰も知らなかった事がこの致命打を決定的にした。
「イズルードに人間の援軍到来!その数は圧倒的!プロンテラ守備軍と挟撃されたら我等は殲滅される!!」
 全部隊に最大限に発信された緊急伝が各部隊指揮官の交戦意思を奪うのにかかった時間はたったの数秒。
 情報が恐怖を呼び、恐怖が混乱を呼び、混乱が壊走に変わるまで時間も数秒で済んだ。
「人間の援軍が来た!!」
 最前線で戦ったオークはその情報を聞いてどどめをささずに去らざるを得なかった。
「敵の圧倒的な援軍が来た!後退しろっ!!」
 前線に出て情報と後退命令を出した深遠の騎士は自分の言葉が味方士気の崩壊と人間達の士気回復に繋がっている事すら気づかずに、被害を少なくしようと前線に出で味方に声をかけ続けた。
「プロンテラ守備軍と挟撃される!!我等は殲滅されるぞ!!!」
 レイドリックとカーリッツ達はプロンテラ西門側が人間達に圧倒的劣勢かつ戦線崩壊寸前までいっていたのに、誰もが西門から現れるであろうまだ着いていない幻の援軍に怯え西門から離れようとした。
『つまるところ、魔族は戦争が下手だったのよ』
 後日ママプリがこう吐き捨てた魔族の一大壊走劇はこうしてはじまった。
 隊列を崩し、われ先にと後退する魔族達。
 オークヒーロー直属のハイオーク親衛隊など一部の精鋭部隊はまだ隊列を整えて後退しようとしていたが、味方の大混乱に巻き込まれて動くことができない。
「何をしているっ!!それでも闇より生まれし恐怖の代行者たる魔族の名を名乗る者達かっ!!!」
 後方で様子を見ていたブラッディナイトもこの醜態に怒りで我を忘れて手に持っていた"カッツバルゲル"を地面に刺して怒鳴る。
『すまぬ……少し遊びが過ぎた……』
 通信機の向こうからオークヒーローの悪びれてない声がまたブラッティナイトの怒りを誘うが、通信機に"カッツバルゲル"を叩きつけるような愚かな行為を必死になって自制していたにすぎない。
「……とにかく無事で何より。
 彷徨う者遊撃隊、深淵騎士隊を後方に待機させている。
 必要なら、後詰としてそちらに回すが?」
『大丈夫だ。我らとてこのまま無様にやられはせぬ。
 南門派遣部隊と合流して撤退しきってみせようぞ』
「……」
 傍目から見ても、数の多いオーク部隊が突出したまま混乱しているように見えるのだが、通信機向こうでオークヒーローが大見得をきって言っている以上、それに逆らってまで増援を出すつもりはブラッティナイトには無かった。
 幸いかな、追撃をかける余力は人間側には無いようで、魔族の一方的な大壊走を見るがままにしている。
 元々偵察に対する陽動作戦として始められた魔族のプロンテラ攻撃"ダインスレイフ"は圧倒的に優位に立っていながら、あと一歩で騎士団を殲滅できるチャンスでありながら、千載一遇のチャンスを逃す羽目になった。
 無事に上水道に偵察部隊を送り込んだ以上その成果は十分以上ではあった。
 だが、その高すぎる代償として大壊走中の部隊に大規模の敵援軍という最悪の取り立てを何とかしなければならない。
『ウィスパー隊より伝令!
 聖騎士団が動きました!
 プロンテラ各所を制圧しています!!』
 悪い時には悪い事が重なるとブラッディナイトはたまらずに頭を抱える。
「……聞いたか?」
『……聞いた。大丈夫だ。無事に……』
『撤退できるわけないでしょうがっ!!この猪武者っ!!!』
 よほど我慢できなかったらしい。バフォメットの通信機から女の怒声が聞こえてくる。
『だから、こんなことになるんじゃないかと思っていたら案の定!
 何処の馬鹿よ!偵察支援がこんな大合戦になって挙句の果てに部隊壊走?
 『よーし、パパ見栄張って味方壊走させちゃうぞ〜』って、小一時間ほど問い詰めたいわっ!!
 あんたら、本気で人間に勝ちた……んぐっ!!ん〜〜〜!!!ん〜〜〜〜!!!!』
 ぽかんと通信機を見るブラッティナイトとオークヒーローの前に馴染みの声が聞こえてきた。
『あ……迷いの森のバフォメットだ。
 少し、何か訳のわからない声が聞こえたような気がするが気のせいだと思ってくれ。
 というか思ってください』
 何か哀愁漂うほど下手なバフォメットの声に二人とも毒気を抜かれて、必死に笑うのを堪える。
『……いや、通信機の故障だろう。何か言ったか?バフォメットよ?』
「……私も何も聞こえなかったぞ。
 とりあえず、そっちに彷徨う者遊撃隊、深淵騎士隊を送るから使ってくれ」
『……援軍感謝する。正直、困っておったのだ』
『彷徨う者遊撃隊、深淵騎士隊の抜けた穴は迷いの森で塞ぐ。ブラッティナイトは混乱して壊走している前線を建て直してくれ』
「分かった。あと、聖女に言ってくれ。小一時間ほどの問い詰め、私もオークヒーローも楽しみにしていると」
『……伝えておく』

 バフォメットが通信機を切ってママプリの方に向くと小バフォ達に口を抑えられてもごもごしているママプリがいた。
「……一応、ごまかしたつもりだが、しっかりばれているぞ……」
「ごめん。つい口を出しちゃった」
 ミョルニル山脈からこの混乱を脱出したバフォとママプリは再編された迷宮部隊と共に見ていた。
 ママプリは本来政治的威圧の為だけの援軍要請なのに大戦闘に拡大してしまったこの大失態を高位魔族達に小一時間ほど問い詰めたい為、怒っている表情を隠そうともしない。
「そう怒るな。われらとてこのままやられるほど落ちぶれてはおらぬ」
「やられないのは分かっているわ。プロンテラ騎士団は動かない……」
 静かな怒りと共にママプリは近くの木にソードメイスを叩きつけた。
 轟音と共に綺麗に切られた木の年輪が露出し周りが怯えた顔でママプリを見てもママプリは相手にしなかった。
 彼女が今相手にしていたのは上水道の地下にいる学者先生だったのだから。
25どこかの166 上水道リレーsage :2004/10/08(金) 06:51 ID:WAtZl31M
今日のプラグ処理

地上 人間側援軍到着 魔族優位>魔族大壊走
   ドレイク迎撃艦隊出撃
   魔族側、聖騎士団が動いた事を知る


 地上編は結構収束に向けて動いています。
 地下上水道にいる文神様ふぁいと!!
 文神の技が切実に羨ましいと思う今日このごろ。
26名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/08(金) 12:51 ID:YSNpPdWw
>>18
激しくワロタ
2793@下水りれぃsage :2004/10/08(金) 15:19 ID:sO0H06hk
 とりあえず、久々に書いてみる。え? 昼休みは13時まで? 上司には内緒だよ…。
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 恐ろしい速度で部下を皆殺しにした少女に、ヤコブは戦慄を禁じえなかった。魔族の気配は感じない。
しかし、これこそが、魔物というに相応しい。おそらくは、この少女は暗殺者ギルドの使い手なのだろう、
とヤコブは思った。それ以外にこのような魔物を飼っている組織があるとも思えない。
「…あなたは一体どこの…」
 問い掛けたヤコブに微笑を返すと、聖騎士団の精鋭をいずれも一撃で葬った少女は、抜く手も見せずに
手にした長剣を投げつけた。
「くっ…神よ、救い給え! オートガード!」
 がきん、と長剣を盾で叩き落した聖騎士の視界で、初めて攻め手を防がれた少女が驚いたように目を
丸くし…。それから、嬉しそうに笑うのが見える。捕食者の笑み。例えるなら、ネズミを嬲る猫の表情。
それは、つい数分前に南西の酒場を前にヤコブ自身が浮かべていた笑みだった。
「…く」
 少女と目が合う。彼女の目は若き聖騎士に語りかけている。ぺロリと小さな舌が可憐な唇を割り、
滴っていた返り血を舐めた。
『次は二本…その次は…全部投げ終わったら、もっと楽しい事をしよう』

「おのれバケモノめぇ!」
 さながら弓手の秘技の如く、重なって飛んできた二本の長剣を盾で受けながら、ヤコブは突進する。
その次の攻め手は微妙に時間差をつけて投じられてきた。
「神、よ!」
 掲げた盾に衝撃を感じ、僅かに盾が正面からずれる。まさにその位置に、二つ目の殺気が剣の形を
為すのを、手にしたサーベルで弾き飛ばし、そのままの勢いで、ヤコブは武器を投じ切った少女に迫った。
「バケモノめっ! …バケモノめぇ!」
 常のよく回る舌はどこへいったか、同じ言葉をオウムのように繰り返すヤコブの正面で、徒手空拳に
なった少女は、にぃっ、と歯を見せる。無垢な幼子のような、邪気のない笑顔。

 ……三本目っ!?

 瞬時、右に身を投げたヤコブの、つい先刻まで頭部があった場所へ、一振りのツルギが落ちる。
刀身を下にまっすぐに垂れた剣は、聖騎士の左の肩口を貫いた。
「ぐが…ぐ…神…、よ」
 自らの血で、白皙の面の左半を染めたヤコブの正面で、少女が天使のような微笑を見せ、肩口に
突き刺さった剣の柄に手を伸ばす。
「げぼっ…が…」
 そのまま、柄を水平に引きおろしながら、少女は剣を抜き去った。ぶつり、と切れた白い腱が
真紅に染まる。ヤコブは、笑った。深手とはいえ、即座に死に至る傷ではない。だが、敵を前に
片手が使えぬ状態では、既に命運は尽きていた。
 彼に後悔はない。既にクルセイドは綿密な計画通りに進んでいる。彼が死しても、神の名の下の
浄化は間違いなく行われるだろう。今更暗殺者ギルドや騎士団が動いたところでどうなるものでも
ない。大局は、少数では覆せない局面に進んでいるのだ。
 クルセイドの完遂を自らの目で見れずとも、ヤコブは自らの勝利を知っていた。だから、いつもの
薄い笑顔を浮かべて、彼は歌う。
「…おお、神、よ。御許に…いざ、我、往かん。おお、神よ…」
2893@下水りれぃsage :2004/10/08(金) 15:19 ID:sO0H06hk
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( ゚Д゚)ポカーン
 蒼穹に消えていった彼らの主とその伴侶を、ゴーストリングと端末たちは揃って見上げていた。
『…我ハ隠密哨戒ヲ命ジラレテイタト思ッタガ…』
「魔王め…! ええい、ここまで進入を許すかっ。警戒を密にしろ! これ以上魔族を通すな!」
 ダラダラ流れる血を拭いもせずに怒鳴る聖堂騎士を冷静に眺めながらも、ゴーストリングはため息を
禁じえない。と、その背に老人の声がかけられた。
「久しいの、小さな魔族よ」
 もともと彼の隠形は彼を“敵”と認知するものにのみ、その姿を知覚できぬように働く。範囲魔法を
多用するものが多い魔族の偵察隊がこのような技を磨いたのは、同士討ちを避けるために当然といえる
だろう。とはいえ、この敵地の真っ只中で彼を見る事ができる者がいるのは完全に予想外だったため、
ゴーストリングの返答は常よりも半秒ほど遅れた。
『……我ヲソノ様ニ呼ブハ、アノ者ノ流レカ』
「いかにも。その節は世話になった」
 かつてバフォメットと聖女追討の指揮を執り、凄惨な殺し合いをした老人はゴーストリングの横で、
既に小さな粒にしか見えぬ聖女と魔王を目で追う。あの折よりも、老人は少し太ったのではないか、と
ゴーストリングは埒もなく思った。

「……予想よりも少し早かったが、まぁ、あの娘の性格からしてよく辛抱した方じゃな」
『………』
 あの娘、というのはゴーストリングの主の伴侶のことであろうか。彼の知る限りでは、辛抱、とか我慢、
といった単語とは非常に遠いところにいるような日々の聖女の姿を思い、ゴーストリングもややあってから
また、ため息をついた。隠密作戦に従事している彼の苦労など、主達には分かるはずもなかろう。
『コノ上ノ偵察モ無意味…。ドウシタモノカ』
「……ちと予定よりも早くなったが。せっかくゆえ、お主にも手伝ってもらうとするかの。魔族を救う為に」
『魔族ヲ…? 人間、ヒトヲ裏切ルカ?』
「裏切るのではない。人と魔族、滅ぼしあう事が定めというわけではないと、ワシはあの時に学んだのだよ。
 あの淫乱馬鹿娘のお陰での。……説明する時間はないが、ワシの言うとおりにしてくれれば悪いようにはせん。
 ……どうじゃ?」
 にんまり、と笑った老元司教の声を聞いて、ゴーストリングはどことなく懐かしさを感じた。生れ落ちて
八百年、人と手を組んだのはあの時が初めてだったが、一度も二度も大差はない。
『…足手マトイは勘弁願イタイゾ。モウ滅ビノ手前マデ行クノハコリゴリダ』
「安心せい。ワシは魔族に庇われるほど落ちぶれては居らぬ」

 プロンテラ市街。西門の戦闘に多くの冒険者達は出て行ったとはいえ、力に自身のない者、そもそも
戦う力のない者たちが、そこにはまだ大勢残っていた。そこに、どこからともなく声が響く。
『魔族だ! 魔族が城内に!』
 男の声が聞こえ、店の扉に釘を打ち付けていた小太りの酒屋の主人は怯えたようにプロンテラ城を見た。
旨い飯を作るのは得意だし、金勘定もそれなりにはできる彼も、こんな時にどうしたらいいのかは全く
知らない。それでも、彼は安心させるように店内の従業員達に笑い掛けた。大丈夫、大丈夫だ、と。

『城は既に落ちたわ! 北のギルド砦もダメ!』
 突然外で響いた女の声に、宿で二人、身を寄せ合っていた駆け出し戦士いの少女と見習い聖職の少年が、
お互いの顔を見やる。そこに見えたのは、自分の物と同じ不安。ややあってどこか遠くから響いた叫び声に、
彼らは手を堅く握り合ったまま、不安そうに窓の外に目をやった。

『…魔王だ! バフォメットが大聖堂を…上を見ろ!』
 市内を奔走していた自警団の青年は、その声にはっと目を上げる。彼の視界の隅を、緋色の何かが
かすめた。青年はごくりと唾を飲み込んでから、同じように固まっている僚友たちを叱咤する。
彼らの放った矢は、宙を舞う緋色の魔王の遥か下で力を失い、落ちていった。

『…南から敵が来る! 南門を封鎖しろ!』
 戦慣れした太い男の声に、首都南の衛兵は反射的に槍を構え、それから南門の向こうを眺めた。見える
のは喧騒、そして砂煙。明らかに大軍がそこにいるのがわかる。不幸にして、“クルセイド”の全容どころか
一端も知らなかった下級兵士の少女は、同じくそこに配されたままのカプラ職員と目を合わせると、
慌てて手近な人に声をかけ始めた。
2993@下水りれぃsage :2004/10/08(金) 15:19 ID:sO0H06hk
『…コレデイイノカ?』
 かつて相棒と呼んだ少女の師の頼みは、ゴーストリングにとっては容易なものだった。
「いや、まだだ。最後にもう一つ」

『西へ向かえ! 首都を一時放棄する!』
 男の声に、酒屋の主人は驚いたように金槌を取り落とした。もう一度その声が聞こえると、彼も
後ろを向いて店内に大声を張り上げる。
「おい、急いで荷物を纏めろ! 重いものは置いていっていい!」
「は、はい。マスター!」

『西に行きましょう! 西には騎士団がいるわ!』
 不安に震える少女の肩を抱いていた少年は、少女の吐息を耳元に感じた。
「逃げよう…。ここにいても、きっと」
「そうだね。…大丈夫、僕についてきて!」

『総員、西へ! 持ち場を放棄せよ。民間人の誘導が最優先だ。総員、西へ!』

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 青年は、突然聞こえた声に祈りを忘れた。
「西へ…だと? 馬鹿な…誰がっ」
 吼えた衝撃で血が吹き出るのを構いもせず、ヤコブは周囲を見回した。クルセイドは首都に敵を
引き入れるのと同時に南方の増援を引き込まねばならない。そして、浄火。全てのタイミングは
完璧だった。それが、崩れる。
 市内には指示を飛ばせるような指揮権の持ち主はいないはずだ。そのように細部を運んだのは、
他ならぬヤコブ自身なのだから。にもかかわらず、声は方々から告げる。西へ、と。一人二人では
ない。統一した意思の元、何かが指示を出しているのだ。暗殺者ではない。高く低く、押して引いて
民衆をアジテートする語り口は、彼らのやり口ではありえない。騎士団には、その余力はない。
「止めねば…、止めなければ…私が……止めねば」
 呻く青年の肩口から、力が抜け出していく。彼は、寸刻前とは違い、生きたかった。そういえば、
何故、自分はまだ生きているのか…? 止めを刺されていない事の不思議に思い当たり、聖騎士は
虚ろだった目の焦点を苦労して眼前にあわせた。

 彼の死神たる少女は怪訝そうな表情を、彼の頭上に向けている。
「……見つけた」
 ヤコブがはじめて聞く少女の声は、想像していたような無機質な声ではなかった。むしろ、
日向で遊ぶ幼子のような、無邪気な喜びを声に乗せて、彼女はヤコブの傷ついていない方の肩を
蹴り、その勢いで宙に舞った。
「あが…っ」
 衝撃に顔を歪めたヤコブの眼前を、アコライトの姿をした少女が跳ぶ。裾の乱れも気にせず、
目にも留まらぬ速度で振り上げたツルギを、跳躍の頂点で振り下ろした。そのまま反動でくるりと
回り、膝で衝撃を抑えながら着地する。
『……ッ!?』
 その頭上で、巨大な白い幽霊が一瞬姿を現し、消えた。聖騎士には気配さえ感じられなかった
存在を一瞬で看破した少女は、不思議そうに首をかしげる。
「…今のは、何?」
 その表情のまま、彼女は唇をへの字にする。見えない動くものが、ここには大勢居る。どこか、
気にいらない。ふぅっ、と息を吐くと、少女は見えない者を追って地を蹴った。

 気にいらないものは、倒せばいい。そうすれば気分が晴れると、彼女は知っている。

 振り返りもせずに走り去った少女の後ろで、神の名の下に全てを滅ぼそうとした男は意識を手放し…、
自らの作った真紅の池の中に沈んでいた。
30名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/08(金) 15:20 ID:sO0H06hk
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「……団長! 敵が引きます」
「何?」
 既に戦列は崩され、下水前のフリッシュ将軍からの音信も途絶えた今、敵が引く理由はヘルマン
団長には思い当たらなかった。眼前のレイドリックを既に切ることのあたわぬ剣で叩き伏せてから、
周囲に目を回す。
「……何だというのだ?」
「援軍です! …助かった…」
「…馬鹿な。聖騎士団は動かん。他の方面軍もあと半刻はたどりつけんはずだ」
 そしてその半刻を持ちこたえる事は、既に絶望的だとヘルマンは思っていた。戦局は最悪だったはずだ。
気力と体力と、全てを賭けて一秒でも長く敵を食い止めるのが、自分達の最期の使命だと腹を据えた矢先に、
事態の急変を聞いた団長は、奇妙なことだが死に所を取り上げられたようで僅かに憤りを感じていた。
「で、ですが背後に…」
 指差す部下の目を追って振り返ったヘルマンは、背後の西門を埋め尽くす人の群れを見て、絶句した。
彼らが護るべき市民達、弱者達がそこにいる。
「……何故。…そうか、ニノ達がやったか。きわどい真似をする」
 呟いたヘルマンはきっと頭を上げ、朗々たる声を響かせた。
「……伝令兵!」

「…敵が引く、だと? 何故だ」
「後方に民衆。…敵は消耗戦を避けたと思われます」
 アサシンマスターの疑問には、音もなく姿を現した鋭い目の男が答えた。激戦の渦中を抜けたとは
思えぬ静かな声だが、ところどころ裂け、血の滲んだ衣装と、根元から折れた片手の武器が彼の奮戦を
物語っている。
「違うな。いいタイミングだ。理由は知らんが敵の士気は緩んだ。その一瞬に新手を見れば、歴戦の兵以外
 踏みとどまれん。それを狙ったのだろう。ヘルマンめ…いい指揮だ」
 微かに笑ってから、ニノは部下達へ指示を与えるために念を凝らす。
『…市街の隊は現状を維持、市内の隊は引き続き情報を取れ』
『了解!』『お任せあれ』『あいあい』


「全軍に告ぐ。敵は引いた! ……深追いはするな、負傷者の回収を優先せよ!」
 告げながらペコを駆る伝令兵達の目は、疲労の中にも歓喜の色を帯びていた。今は、まだ。

 今はまだ、全ての敵が何者で、何処にいるかすら、彼らは知らない。

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 とりあえず、人間戦力が今過剰になってると追撃できちゃうので、これ以上の追撃(=地上での
人魔戦争)を続けない理由をくっつけてみたり。力のない人の群れが最後に何かの展開のためにも、
DIO様が暴れるであろう付近に民間人の団体を用意してみたかったデスヨ
個人的には伊豆方面の増援部隊が完全に到着したところでDIO様が地上にドッギャーンと現れて
「ふはははっ ヒトがゴミのようだ!」
 という展開を期待。

 遥か昔に偵察任務を仰せつかって以来、誰も使っていないので、ゴーストリングをつかってみました。
ついでに拙前作で暴れた元大司教を再び。どうでもいいのですが、聖体降福とマグヌスの両立は
激しくありえない選択のようで…。まぁ、ROニメクルセのようなものと割り切ってクダサイ。

 聖騎士隊作戦参謀のヤコブ君退場…。まだ使いたければ、死んだとは書いてないので不死鳥のように
復活させてもらっても結構です。倒れてるのは南西酒場付近でしょうから、某ポンコツアコに拾われても
面白いかも…? 後、地上の悪い大物は聖騎士団長かー。
3193@下水りれぃsage :2004/10/08(金) 16:23 ID:sO0H06hk
追記説明
177氏の戦闘報告に付随して、南方面は伊豆方面軍の圧倒的優勢。ただし首都内での士気高揚は
家々から溢れる人々を見た偵察隊の誤報ってことで。
増援来るの報を受けて警戒していた西門方面Mob軍が、西門から溢れる人の群れを伊豆からの増援と
誤認し、壊走。されど、実情は西門人間軍はボロボロのままゆえ、追撃はナシ。痛み分けで抑えられる
ように考えてみました。

個人的には、ROのPCの分布バランスとかを考慮するに、首都兵力≒他の全ての都市兵力、位だと
思ってたんですが、177氏のを見ると実は首都以外に物凄い大兵力があったんですね…。今まで
悲壮に書きすぎましたか。
32名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/08(金) 19:27 ID:Zd4MFweQ
ノビは喋れなかったはzゲフンゲフンゲフン
3393@下水りれぃsage :2004/10/08(金) 20:23 ID:sO0H06hk
げふっ・・・読み返しました。喋らないんじゃなく、喋れないんでしたね…。
何時ぞやの狗といい、だめだめぽ。しばらく釣ってきます・・・。
34名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/09(土) 21:20 ID:/9DDVZUo
丸一日書き込みがないだけで何か寂しくなるな。
35了解! :2004/10/10(日) 10:27 ID:lXuMH69Q
 駄文ですが、出来るだけ頑張って書いてみる_〆(・・)

 「了解・・・おいスコ。敵が後退をはじめたそうだ」魔物の血肉が混ざり合った辺りを怪訝そうに見回しながら冥がつぶやくように言った。

 「こっちも伝令係からWisが来たよ」ホッとしたような表情でScorchが言う。
辺りには二人が殺傷した大量の魔物の残骸で血生臭い空気が漂っていた。返り血を浴びすぎたせいかプレートが赤く染まっているのをScorchは気にしていた。
 「これじゃ錆びちまうよ・・・(TT」Scorchがさも深刻そうに嘆いた。

 「俺は布製で良かったぜ(フフリ」冥が意地悪そうにつぶやく。昔一緒に狩っていた頃に戻ったように二人はお互いの健闘を讃え合っていた。その頃NEEZは・・・。


 「辺りが急に静かになったでござるな・・どうかしたのかのぅ?」NEEZが不思議そうに言う。

 「どうやら敵が後退をはじめたようだなw」フリッシュ将軍安堵の表情で答える。

・・・(魔物が後退をはじめた・・。これで一様の終結は迎えるだろうか?まだ何か・・そう何かとてつもない奴が残っているような・・・。)
 「フリッシュ殿。ヘルマン騎士団長とは連絡はまだ取れぬのか?」

 「うむ。こればっかりは俺でもどうしようもないぜ・・」

 「ふむ・・・。ならば拙者がヘルマン騎士団長に報告してくるでござるよ」
NEEZがフリッシュ将軍の返事も聞かずにその場を離れようとしたとき。
 「にずっちー!ドゲシッ!!」モロにドロップキックを喰らったため彼は2bほど吹っ飛んでしまった。
フリッシュ将軍が含み笑いをしている。
 「あたしを置いていこうなんて随分薄情じゃないのさ(フフリ」透がニヤニヤしながら言っているのをNEEZは吹っ飛ばされた状態のまま聞いていた。土埃を払いながら不機嫌そうに彼は言った。

 「・・・。ではフリッシュ殿拙者はこれにて失礼候。」何事も無かったかのように彼は歩き始めた。

 「了解。御武運を祈るぞ武士さんよw」先ほどのことがよっぽどおかしかったのかいつまでも笑っていた。


プロ西から聞こえてくる衝撃音が少し弱くなったのを聞きつつ彼は歩き始めた。
 「ぁー!シカト?シカトデスカー?」透がふざけながらついてくるのを内心ホッとしてはいたがあえて表情には出さなかった。
なぜなら常に気を引き締めていなければいつおそわれてもおかしくはないのだから・・・。
 「・・・しまった!スコの事をすっかり忘れていたでござるよー!!」そう言い終わらないうちに全速力で走り出した。
透はブーブー文句を言い続けていたので、唐突に彼が走り始めたのを逃げようとしているのと勘違いして・・・
 「ぁー!待てばかにずー!!」などと言いながら走り出すのであった・・・。


 「なぁ・・・誰か忘れてないか?」Scorhがつぶやく。

 「あぁ俺も今言おうとしてたところだ。」冥も思案しながらつぶやく。
・・・しばらく立ってから二体分の足音が聞こえてきた。
 「誰かお客さんだぜ?」冥がカタールを構える

 「そのようだなっと。」Scorchもツーハンドソードを前に尽きだし腰に重心を置いて構えた。
足音はドンドン迫ってきた。冒険者ならこういう事態はよくあることなので多少の慣れという物はあるが、
先ほどの戦闘で消耗が激しい二人にとってはどんな魔物でも驚異になるであろう・・・。いよいよ肉眼で確認出来る距離まできたようだ。
心臓の鼓動が速くなり口の中が次第に乾いていく
来るならこい・・。とScorchが心の中で言った瞬間にその二つの影は草陰から飛び出した!

「だーかーらーふざけることができるほどまだ事態は落ち着いてはござらぬと言っておろうg・・・」激しい金属音が響く。
NEEZが草陰から飛び出した瞬間にツーハンドソードが眼前まで迫ってきたので、反射的にヘルムに当てて防いだのだった。しかし、衝撃が激しくフラフラとそこに倒れてしまった。
 「にずっち!?大丈夫!?」透がそこにのびているNEEZを起こしながら言った。
・・・一瞬の刹那
 「ってNEEZかYO!バッシュ思いっきり打っちまったぞ!?」Scorchが倒れている彼の元へかけよった。
冥はのびているNEEZと必死に彼を起こそうとしている透を見てScorchの不注意にあきれていた。
 「ったく・・。ちょっとは確認してから打てよな・・・」そう言うと冥もNEEZの所へかけよった。
こうして昔の仲間は集ったのだった。

駄文投下だ〜・・OTZ。取りあえず自分の使う人は集めておきました。次からは聖騎士団団長と対決or和平の流れにしようかと思ってます。
36名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/11(月) 00:28 ID:6PpcLVho
・・・下水道リレーネタなら、そう書いて欲しいな・・・
37接近に失敗しました。接近に失敗しました。 :接近に失敗しました。
接近に失敗しました。
38名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/11(月) 09:45 ID:dAnXJX32
↑なんじゃこりゃ?
39名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/11(月) 09:59 ID:Jy4rT39s
>38
チャHかチャオナかは知りませんがそれ+名前の晒しによる荒らしでしょう。
無視して削除依頼が一番かと。
40義を持つ者 :2004/10/11(月) 16:12 ID:OJCwU51I
36殿すみませぬ・・OTZ書き忘れますた( ´・ω・`)

追伸 荒らしイクナイ
41sagesage :2004/10/12(火) 00:03 ID:UmP8CxxE
>>7
GM専用装備ってミョルニルじゃなくてバルムンクじゃなかった?
強さから言えばどっこいかもしれないけど。
42名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/12(火) 15:37 ID:.sQQSsOw
>>42
俺に記憶が正しかったらバルムンクじゃ無くてバルムンだったかも。
どっちも変わらん?
あの公式ガイドに自慢の為に載ってる全職業装備可能のやつな;;
4341sage :2004/10/12(火) 19:46 ID:UmP8CxxE
某情報サイトではバルムンクだった。
重力語かなとか思ったけど、
実物なんかお目にかかれるはずも無いから真偽は不明。

ていうか俺すっごい間違いしてるのな_| ̄|〇
名前欄にまでsage入れとった。
44名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/12(火) 23:41 ID:YaAQP1hI
 月が好かったので、秘蔵のを引っ張り出して飲む事にした。
 無論あいつにも連絡を入れる。聖職の癖に無類の酒好きだから、バレたらいつまでもぐちぐち煩いに決まっているのだ。
「こんばんはーっ」
 夜空が一番大きくなる見える窓の脇に座を整える。席を設けられるような庭もないから、せめて空に近い場所がいいだろう。
 グラスを出してさて肴でも、と思ったところにあいつが来た。
「遅くに一体何かと思っちゃったよ」
 言いながら俺に紙包みを押し付ける。洗い立てなのだろう。まだ少し濡れている長い髪から、香料が香った。
「何だ?」
「おつまみ詰め合わせ」
 さすが呑み助、用意がいい。

 グラスを彼女のものと触れ合わせる。ちん、と澄んだ音。左隣の彼女はそれから、いただきます、と口に含んだ。
 酒好きにもピンキリがある。憂さ晴らしのように流し込む酒場の連中とは違って、こいつは実に大事そうに、味わって飲む。
「おいしいねぇ」
 こくりと喉を鳴らしてひと呼吸。心底嬉しそうな顔で微笑む。多分こういうのが本当の酒好きなんだろう。
「秘蔵のヤツだからな。感謝しろよ。あと月も見ろ」
 月は変わらず好い風情だ。少しばかりある雲が上空の早い風に流されて、空の高さがよく知れる。
「うん、見てる見てる」
 嘘つきめ。
 思ったが言わずに、俺はつまみに手を伸ばす。出がけにさっと作ってきた、と言っていたが、なかなかしっかりしたものだ。
 程よいサイズにスライスされたチーズに魚肉のマリネ、セロリとニンジンのサラダ。
「おいしい?」
「ああ」
「ん、よかった」
 空になったグラスに注ぎ足してやる。ありがとー、と細めた目元が紅潮して艶っぽい。
「でもね」
「ん?」
「フェイヨンの月の方が、絶対綺麗」
 そういやこいつ、生まれはそっちだったな。
「何言ってんだ。月なんかどこで見たって同じだろ」
 要は誰と見るか、だ。
「違うよ」
「違わない」
「違うってば」
「違わねぇよ」
 むーっと不満げに口を尖らし、
「じゃあ、今度うちまで見においでよ。竹林からの眺望ってかくべ…」
「――それは『両親に挨拶に来い』って事か?」
 言い募る彼女を遮って言うと、ぽかんと口が開きっぱなしになった。
 やがて意味が沁みてきたのか、その顔が酒精ばかりでなく真っ赤になる。
 ことん、と肩に預けられる重み。
「わたしは嬉しいよ、挨拶だと」
 丁度月は雲に隠れた。俺は彼女を抱き寄せる。
「泊まってくか?」
「ん」
 かすかな虫の音。夜はとても静かだった。
45名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/13(水) 01:23 ID:NTL6uTy.
>44
あぁ……いいなぁ。
二人を祝福して、一杯あおりたい。
46名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/13(水) 18:35 ID:w8zfXao6
>44
なんだかとてもいい雰囲気の二人に自分も幸せな気分になりました。
彼女の親御さんにいつ挨拶に行こうかと悩んでる所だったので
背中をそっと押して貰えたような、そんな勇気を貰いました。
ありがとう
47名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/13(水) 19:34 ID:8tQfIk7o
>46さん
頑張ってください
48名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/15(金) 23:28 ID:ZeYk7xhw
止まってるなぁ
49丸いぼうし@がんばれ異端審問官sage :2004/10/19(火) 00:07 ID:vsOSWOIQ
2スレぶりに続きを投下。忘れられても仕方ない間があいてしまった。
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落ち着いてはいたもののやはり警戒態勢の街、日が暮れると街のあちこちには篝火がたかれた。
木と土で出来た建物が怪しげに揺らめき、街はなんとも不思議な様相を呈していた。

亡霊でも出そうと言えば出そうかもしれない。アリシアが人通りの少なくなった通りを歩いていると、
向こうから誰かが歩いてくる気配がした。篝火で黄昏れ色の街の中、具足が地を打つガシャガシャと
いう金属音を響かせて角から一人の長身の男が現れた。
 くすぶったような銀の鎧に漆黒のマント、鎧には黒い十字架が染め抜かれ、男が聖騎士であること
を示していた。黒くて長い前髪は、憂いのある貌を半分隠し、どこか陰鬱で幽鬼じみた印象をアリシアに抱かせた。

「あ、あの…」

書類によれば先に派遣されているのは聖騎士、酒場で待っているはずだが、何しろ時間には多少遅刻している。
酒場を出てきた帰りという可能性もあるため声を掛けざるを得ない。
が、男の恐ろしさにあてられたのかアリシアは声を掛けるタイミングをはかり損ねた。
そのため、すれ違った後に呼び止めるような形になってしまった。

「なんだ?」

退屈そうに男は振り向いた。振り向くとき前髪が揺れ、隠されていた貌の半分を露わにした。
醜い傷痕が、男の額から頬に走り、その左目を完全に潰していた。

「ケネス・ディアフィールドさんですか?」

震える声で先に来ているはずの聖騎士の名を口にする。
だが、黒い男の声は素っ気なかった。

「いや、人違いだ」

「そうですか、失礼しました」

人違いであったことに少々ホッとしながらアリシアは街を歩き、酒場ののれんをくぐった。
この地方では扉の代わりに布を使うのか、という新鮮な感動とともにアリシアの目に飛び込んできた
光景は、アリシアの想像していた酒場とは違った。昨日彼女がご乱心に及んだ酒場と違って
落ち着いた雰囲気、いや、ムーディーであるというよりはむしろ事務的であった。

机の上には整然と書類が積まれ、奥の席ではなにやら眉間に皺を寄せた男達が額を付き合わせて
話し合っている。
本来ならタペストリーでも掛かっていそうな壁には急ごしらえの黒板が下げられ、白墨で様々なことが
箇条書きになっていた。

そう、これは酒場と言うより…

「オフィスみたい…」

「そりゃそうですよ、ここ、臨時の対策事務所ですからね。」

突然背後から声を掛けられ、アリシアは危うく荷物を取り落としそうになった。
振り向くとそこには金髪を真ん中で分けた、いかにも柔和そうな顔立ちの男が立っていた。
特にその男の背が低く、アリシアと同じ位置に顔があったのでアリシアは二度ビックリした。
50丸いぼうし@がんばれ異端審問官sage :2004/10/19(火) 00:08 ID:vsOSWOIQ
「わ、わわ…」

「遅かったですね。アリシアさん。」

突然名前を呼ばれた状況が飲み込めないまま、アリシアは男の頭からつま先までをまじまじと見つめた。
足にはいかにもな編み上げ靴を履いているのに、男は鎧でなくうす紫色の長衣を羽織っていた。
握手でも求めようかと半端な角度で差し出された手はいかにも華奢で太さも白さもアリシアと同程度。
いかにも都会風の顔の上には気取っちゃったメガネみたいなものを掛けている。
 まるで、騎士のお父さんからもらった靴を履いている学生(しかも相当のおぼっちゃま)がごとき風貌
のこの男、はたしてその首にかかった金色の教皇十字を見たときのアリシアの驚きがいかなるものであった
かは想像に難くない。それこそ、思わず声がスクラッチっぽくなってしまうほどであった。

「も、もももしかして、あなたががが」

「ええ、僕が聖騎士ケネスです。宜しくお願いします。」

 ここで、それこそ将来を考える審問官なら態度を一変させ、もみ手をして、あるいは急に姿勢を正して
上官に向かうものだが、アリシアには残念ながらそのような器用さはかけらもなかった。
 驚きを隠せないまま、二の声が接げずにいるアリシアに、ケネスは軽く笑いながら問い掛けた。

「うーん、さては僕のこと、頼りないとか思っていませんか?」

「あ、いえ、そんな、ははは」

「事実ですよ。よく言われます。デスクワークが主ですから戦闘は得意じゃありません。」

そう言えば大聖堂で十字架を掛けてくれたオッサンはとても強そうには見えなかったじゃないか、
それもこれもデスクワークが主だというなら割り切れる。妙に納得しながら、アリシアはケネスの後について
隣の部屋に移った。

部屋、と言ってもそれほど高くないついたてで隔てられただけのコンパートメントだ。
そこを通りかかったとき、辛らつな一言がアリシアを捕らえた。

「最近の若い子…じゃなかった、臨時採用の田舎者は、上官と会ったときに挨拶さえ出来ないのかしら?」

何事ぞ、と横を見たアリシアの視線の先に、こんな寂れた町など似合わぬような美女が挑戦的な目つきをして
座っていた。各パーツが黄金比を維持しつつ配置されたような顔は、百人のうち九十八人は美しい、と感じる
だろう。彼女の長い髪は深海のごとき深いブルーでつやつやと光り、その頭上には純白の羽を戴いていた。
 すっ、といすから立ち上がる動作もきわめて洗練されていて、この酒場がまるで一流の社交場であるかのよ
うに見えた。
 いすから立ち上がった彼女の姿に、同じ職なのにどうしてここまで違うのかとアリシアは圧倒された。
かぎ裂きなど認められようもないビロードの艶を持った法衣、それに包まれているのは豊満なプロポーション
をもつ体。首下に下げられた白金の教皇十字も、権威の象徴のみならずアクセサリとして機能し、彼女の美し
さをさらに高めていた。
5193@生存報告sage :2004/10/21(木) 01:12 ID:fc.tXKpU
えーと、万が一待っていてくれる人の為に。
現在リアル多忙が半分、ROでレベル上げしなきゃいけなくなったのが半分で
執筆とまってます。つーか、保管作業も止まってます。ごめんなさい。

書くのをやめたわけじゃないので、気長に見ていてください…orz

シメオンたんの足がひょっとして不随で滑るように動いてるのかっ!? と疑心暗鬼で
自分のの続きが書けなくなってるのも2割くらいはありますがががっ
52名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/21(木) 21:14 ID:dsn9Mb9c
ROでもしながら気長に待とう。
53名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/26(火) 23:43 ID:3nV23YrU
最近よく止まるなぁ
てか、こんな書き込みするぐらいならなんか書いた方がいいな、自分。
54名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/27(水) 08:15 ID:OUjSu9oQ
うーむ。
カプラさんを目指す話を読んでみたいとか言ってみる。
55名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/27(水) 16:26 ID:SfTYX8iQ
ヽ(`Д´)ノ長編の続きマダー!?
56名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/27(水) 18:04 ID:hHQCOCPc
最近、鍛冶屋の話がなくてさびしい(;つД`)
催促したらダメなんだろうけど、執筆中かどうかだけでも知りたいなぁ・・・
57保管庫「腰低商人×鼻高WIZ子」後日譚sage :2004/11/03(水) 03:15 ID:hG8OmMRc
 かん、かん、かん。雷神の子が振るう鎚の音が、石造りの室に轟く。炉にて盛る業火に当てられ、
灼熱を宿す刀身を一心に見詰める男の額からは、大粒の汗が幾筋も垂れていた。仏心が疼いたのか、
鍛冶に精出す男から一歩退いたところに佇み、腕を組んでいた魔導師然たる女は、懐の拭布に手を触れ
近付こうとした。が、鬼気すら帯び始めた今の男に近寄ることは、何人たりにも許されぬ所業であるように
感じられた。暫し女は軽く唇を噛むと、再び腕を組み直した。
 時は、流れた。不乱に鎚を振るい続ける鍛冶師の男の名はオズワルド、その様を魂なき眼で見詰める
魔導師の女の名はヴァルトルート。

 正しく雷の如き金の音を背に、女は暫し魅入る。その碧玉の先には、今や鍛冶師となった男の横顔があった。
 女は思う。早すぎたのだ。商人ではなく、鍛冶師として魔導師たる己と並んだ今、想いを告げられていたのなら、
女は笞を振るう先をなくしていただろう。向きは異なるとは言え、同じ一道を直向に歩む同士として男を認め
 果たして、そうだろうか。魔導師たる己の矜持が驕慢と化して自らを縛り上げる限り、幾等でも笞を振り下ろす
先を定められたに相違ない。
 要は、愚かだったのだ。今も尚。

「……よし」

 女の思考を遮るかの如く発せられた呟きと共に、男は額の汗を拭った。目前の金敷には、今正に形を成した
ばかりの一振りの剣が置かれ、鋭い光を放っていた。ブレイド。威力こそ少ないものの癖なきこの剣ならば、
冒険者の道を選びて日がない者でも容易に扱える。
 己の銘が柄に彫られた剣を手に取ると、男は右手で柄を握り、額の上から振り下ろした。と、刃の軌跡をなぞる
かのように、真白の冷気が虚空を裂いた。唯の剣ではない。材である鋼に氷を封じた石を加えこしらえた作である。
その刀身は冷気を宿し、水を天敵とする数多くの魔物にとって、絶大なる驚異と化す。

「良かったわね」
「ああ。……けど、未だだ」

 静かなる女の労いを受けつつも、熱を帯びた男の眼は霜を宿した刀身に向けられていた。

「今はたった四種しかないけど、いつか全ての属性を制するのが夢なんだ」

 まだ熱を帯びる剣を手に大それた夢を語る男を、凍れる笑みすら浮かべず女は鼻先であしらう。

「所詮は夢ね」
「酷いなあ」

 取り付く島なき言に男は眉を下げれども、女の手は緩まない。

「聖や毒なら、今でも付与出来るじゃあないの」
「あれは一時的なものに過ぎないさ。それに闇や念は未だ誰も達成してない。だからこそ、やり甲斐がある」
「呆れた。とんだ道楽ね」

 当然ながら、鍛冶は如何せん材を要する。随分と物要りな夢に肩を竦めた女は、ふと口を開いた。

「……如何すれば、魔力を武具に封じられるのかしら」
「やっぱり、属性石だろうね。術はあるんだ、その魔力を結晶化さえ出来れば……」
「聞いたことがないけれど」

 首を傾げる、だがその瞳は真剣に何かを思案していた。
 やがて顔を上げた女は、一つの案を呈ずる。

「今度、ゲフェンの魔術師ギルドの書庫を当たってみたら?ただ、一般人でも閲覧出来る書物は限られているけど」
「成る程……如何するかな」
「……手伝ってあげても、いいわ」

 唐突なる驕慢な申し出に、男は俯いていた顔を上げた。心なしか頬を恥に染めているかのように見えた女の様を
知ってか知らずか、剣を金敷に置き男は笑んだ。

「そうか、有り難う」

 なれど相も変わらずの悪癖で、女は礼物を受け取れぬ。恥を隠すべく即座に言の笞を振り上げた手が、止まった。

「丁度研究課題が欲しかったところなの」

 ともすれば早まる舌と情を懸命に抑える、されど視線のみは未だ交わすこと叶わず、つい逸らしてしまう。
 常ならば、もう二、三は雑言を加え、戯言を抜かす男を容赦無く笞で打ち据えていた筈だ。自身の変化に戸惑いつつも、
女は更なる言葉を紡ぐ。

「ジュノーにも文献があるかも知れないわ。時間もあるし、……付き合ってあげなくもないけれど」
「本当!?助かるよ」

 夜、寝台の上、もしくはすべやかな足の下で女を崇める不気味さを露とも感じさせぬ屈託なき笑みを浮かべる男を
見遣るにつれ、女の心に仄かな火が灯る。
 それでも、微笑む男に手を伸ばせぬ。今手を伸ばせば、巻き起こるであろう風が、女の細い指先ほどの火を消して
しまうやも知れぬ。
 その手を以って、女は弱々しい火をそっと胸に抱いた。長い睫に縁取られた両の碧玉を伏せる。


 日が沈めば、望むがままの嬌態を演じて見せよう。なれど、せめて、日が沈むまでは。
58ある鍛冶師の話sage :2004/11/04(木) 18:08 ID:taRZydWc
 ふいに、街中で名前を呼ばれたような気がして振り返る。
 賑やかな声、沢山の人、行き交う波の。
 ただ一人街の片隅で立ち尽くして、声の主を探す。

 昼下がりの首都噴水広場前には、ひしめき合う露天商達の威勢のいい声で、
 活気に満ち溢れている。この場所は俺のものだ、誰のものだと争う声が稀に聞こえては、
 その仲裁に入る首都警備兵達もそれがいつものことだと言わんばかりに笑い声が聞こえる。

 平和、そのもの。

 その中で聞こえたような気がした声は、忘れられるものではなく。

 咄嗟に、探してしまった。

 「・・・シャイレン?」

 赤い髪を肩につかない程度にまっすぐと切りそろえ、几帳面に前髪も直線にしている、
 年のころならまだ成人になるかならないかの、騎士装束に身を包んだ少女がそう小さく声に出した。

 その名前を呼ばれ振り返るはずの人は今目の前には居らず、
 かわりに少女の身に付けている少しだけ使いふるされた甲冑には、
 それよりも尚使い古された赤い外套が翻る。
 外套の、丁度少女の背の部分にあたるところには赤い月が金糸の縁取りで刺繍されており、
 ところどころに解れた様な跡を幾つも手直ししているのが窺えた。

 夏終わりに空へと白い光を放った俗に言う「グラストヘイムの解放」により、
 多くの死者が街へと溢れかえった。それというのも、グラストヘイムの魔力の解放により、
 活発化した各地の魔物・・・特に首都北に位置する迷いの森経由での攻撃には、
 一時首都陥落かとまで言われたほど凄惨たるものがあった。

 秋を経て、まだ生々しい跡が残るものの、
 人々は逞しく日々の生活へと戻ろうとしている。


 呼んだ名前の返事がないことにリツカ、そう呼ばれている赤い髪の騎士は苦笑いを浮かべた。
 眉を寄せて、少し空を見上げ、もう一度だけ街中を見回して、
 小さくさらにもう一度だけ名前を呼んで。

 返事がないということ、もうそこには居ないということ。





 ギルド赤月華(せきげつか)の創設者であり、英雄と言われたかの騎士は、
 夏終わり秋初め、首都での攻防戦においてその命を落とした、

 そう記録には書かれている。


 「・・・・・嘘だ、この世界は全て」

 否定する言葉を誰にも聞こえないほど消え入るような声で、
 リツカは口にする。失われたものが帰るはずもないのに、
 ただその一言で否定してみせると、昼間の喧騒から逃げ出すように、
 リツカは赤い外套を翻し駆け出した。
59ある鍛冶師の話sage :2004/11/04(木) 18:09 ID:taRZydWc
 カンカンカンと響き渡る音は、熱い熱を持ち刃へと形作っていく。
 赤い色を放つどろどろに溶けた金属は、鍛冶師の手によって新たな命を与えられていく。

 ゲッフェンの街外れにある工房に、白い髪の鍛冶師がいる。
 街の指折りに数えられるその鍛冶師の名は、ジェイ、という。
 製造工として鍛えた体はとてもではないが実戦向きとは言い難い、
 とは言え彼がついこの間のグラストヘイムの一件でただ一人の騎士を守るためだけに、
 作り上げた剣の噂は尾ひれがついて今ではちょっとした伝説になっている。

 その騎士というのは、今彼の目の前で苦笑いをうすらと浮かべたまま、
 年には不釣合いの疲れた表情をしてみせる赤い髪の少女だ。
 彼女の腰に下げられている鞘は二本、一つはひどく細身の僅かに湾曲しているもの、
 もう一つは真っ直ぐと伸びている幅広のもの。

 前者は体力、持久力特化の彼女には僅かに扱いずらい型のもの、
 ・・・・かの英雄の剣だ。

 もう一方は折れてしまった彼女の元々の剣の代わりにジェイが作り上げた、
 彼にとっては初めての闘うための剣。

 あの頃とは違い、短く切りそろえられた白い髪が汗でべたりと額にはりつく。
 その度にジェイは手の甲で額を拭いながら、目の前のリツカには一瞥もくれずにただ、
 ひたすら槌を下ろす。

 甲高い金属の響く音の中、金属を水につけた際蒸発する勢いであがった、
 水蒸気が何度目かのジュゥという悲鳴のような音を響かせる。

 やがて、一段落ついたとばかりにジェイがふらふらと壁ごしまで歩くと、
 溜め息とともに壁ごしにずるずると座り込む。

 訪れるのは沈黙だ。



 「リツカ・・・・・、」

 敬称をつけず名前を呼ぶのは付き合いが深くなったからではない。
 ただ帰る家をなくした子供のように、ギルドマスターの印である赤い外套を羽織る少女は、
 酷く頼りなく今にもどうにかなってしまいそうだったからだ。

 彼女は、あの後、亡き英雄の代わりにギルドを引き継いだ。

 そうせざるを得なかったと言うのが事実なのかもしれないが。

 「ジェイ、俺は、まだシャイレンが死んだとは思えないんだ」

 水につかる真新しい誰かの為の刃を見つめながら、
 リツカは一歩壁ごしへと振り返る。

 ジェイは言われた言葉に瞠目しながら、
 かの英雄のことを思い出す。

 風変わりな、けれど確かに英雄といわれるに足りる、
 酷く人間的な人であったと思う。
 弱さを兼ね備えていたということを知ったのは、
 惜しくも死ぬ間際だったのかもしれないが。

 振り返った少女がゆっくりとした足取りで鍛冶師の下へと辿りつく。
 座り込む自分へと向けられた赤い目が酷く暗い色をしていることに、
 ジェイは居たたまれなくなったように目線を反らした。

 「俺は、英雄にはなれんし、
  ・・・・せやかてどうにも、」

 できないと叫ぶように言葉を飲み込んで、
 リツカが苦笑いばかりを深めて、大丈夫だよ、俺はとジェイの目の前に座り込む。
 鍛冶師が作った剣は、少女を騎士にはしたし、
 英雄にすることがあるかもしれないが、
 こうやってその代わりに何かを奪うのかもしれなかった。

 「初めてシャイレンから剣をもらったとき、
  剣を振るうことで誰かの何かを奪うことで、
  その逆もあるということを覚悟はしていた。

  ・・・・だから、否定をしたのは逃げじゃない、
  ただシャイレンが、死んだなんてことは絶対に」

 少女の唇が、ないと言いかける前に、強引に顎に指をかけて引き寄せて、
 塞ぐ、音が意味となり響く前に。
 先ほどまで振るっていた槌の熱にあてられたまま、常よりは体温の高い指が赤い髪へと伸ばされる。
 指先に赤い毛を巻き取りながら、少し強く引き寄せて。

 苦笑いを浮かべていた少女の瞳に、
 戸惑いの色が揺らぎやがてそれが諦めへと変わる頃には、
 鍛冶師ジェイが唇を離し、立ち上がり、
 頭一つほど下にある少女の背を遠慮なしに抱き寄せる。

 「英雄はもう、何処にもいない」

 言い切る鍛冶師の言葉に、リツカは小さく否、と答えた。

 「だって、死体が見つからないじゃないか」

 「それは」

 「あの状況で、あの場所で見つからないなら生きているかもしれない」

 「けれど死んでいる可能性のほうがたか」

 「言い切れるのか?」

 「・・・・、リツカ」

 「言い切れないだろう、言い切れるわけがない、言い切れるわけが」

 首を横に振りながら、口から出るのは英雄の死を否定するただ一人の少女の言葉だ、
 きりきりと引き絞られた糸のように張り詰めた、
 今にも泣き出してしまいそうな。

 もし少女に逃げ切れるだけの、捨てられるだけの強さがあれば、
 きっとこの鍛冶師の元へと来たまま、騎士装束を捨てることだってできただろう、
 もし少女に立ち向かうだけの勇気があれば、
 きっとかの英雄が死んだ事実を受け止めて、騎士であることもできただろう。

 少女は強く、されど勇気もあり、
 けれど決して勇敢ではなく、英雄でもなかった。

 リツカという少女は何処までもかの英雄の背を追いかける少女のままであり、
 英雄にはなりきれないままの、ただの騎士でしかなかった。

 ・・・・それを証明するのは今の彼女の状態であろう。

 「・・・探しに行きましょうか」

 ジェイに言えたのはただそれだけの言葉。
 少女の全てを受け止められるほど、鍛冶師とて万能ではなかった、
 さりとて少女を見捨てられるほど、そんな生易しい感情のやりとりではなくて。

 「・・グラストヘイム解放の影響で、イグドラシルへの道が開かれたそうです。
  その先に、天国に一番近い場所の先があるという話を聞きましてね、
  ・・・・・もしかしたら、死者の国へいけるかもしれない」

 御伽噺のような言葉を、ジェイは真剣にリツカへと話し掛けた。
 死者の国といわれ、リツカは僅かに視線にかつての赤い光を宿しながら、
 ジェイの目を見返す。

 この目は、鍛冶師の好きだった彼女の目だ。

 「面白そうだな」

 好奇心と、その奥に見える希望を見つけたときの、表情。
 少し幼さを残す表情が凛々しくも見える。

 「・・・・せや、ろ?俺もそろそろ工房篭りの日々は飽きてたところやから、
  一緒に、・・・・・行ってみますか」

 子供に言い聞かせるように、優しく鍛冶師は言葉を向けてみせて。
 リツカはそのことに気づいたのだろう、鍛冶師を小さく睨みつけると、

 「お前がどうしてもと言うならな」

 唇を尖らせそう言って目線を明後日へと反らす。
 無論、このやりとりは英雄が居なくなったあの日以来何度も繰り返したものだ。

 「ええ、どうしてもお願いします」

 強がりを強さへと変えて、ただ前へと歩こうともがこうと。

 「・・・・・わかった、喜んで一緒させてもらおう」

 照れ交じりの表情を交えて言葉を聞いた鍛冶師は笑う。
 失うものが多すぎたけれど、この腕の中の温かさだけは確かで。



 秋終わり、赤い髪の騎士と白い髪の鍛冶師の二人きりの旅の話がはじまる。
60ある鍛冶師の話sage :2004/11/04(木) 18:11 ID:taRZydWc
拝啓、皆様お元気デスカ?

久方ぶりにお邪魔をしてみたら、なんだかピタリと止まっているようで。
お久し振りです、知りきれトンボ逃げるように話をまとめきれず、
あのような終わり方をしてしまいましたが、四苦八苦しつつ続きを書こうと。
少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。
61保管庫のひとsage :2004/11/09(火) 21:20 ID:ch6IA5H.
お久しぶりです。先日生存報告をした後で身内が倒れてネット巡回どころじゃない! といいつつ、
PCが繋げる少ない時間はROってる保管庫の中の人です。いかがお過ごしですか。
先日、aaacafeさんより通知があったりしまして、保管庫のアドレスが
http://f38.aaa.livedoor.jp/~charlot/pukiwiki/pukiwiki.php
になったので告知っ。

なんか、続きをかけるほどまとまった集中力が維持できない環境です。当方の作品をお待ちの方は
もしもいたらごめんなさい…orz。いえ、年を越してくれる方が嬉しいんですが。
62名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/11/10(水) 05:01 ID:fZieqPVc
ああ久々に来てみれば、鍛冶師のお話が。ジェイ君は優しい奴だな。
空白の間に何があったのか、それが埋まるのを楽しみにしています。
63名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/11/10(水) 05:05 ID:fZieqPVc
「よし、行こうか」
 立ち上がった彼がズボンの後ろをぱんぱんと払って、休憩の終りを告げた。
 場所はゲフェンの北東。獰猛な魔物も危険な魔物もそうそう居なくて、私達のような駆け出しのいい修行場になっている。
「ええっ、もう大丈夫なの?」
「ああ。剣士は回復力が売り物だからな」
 そう言ってガッツポーズを作る彼の体には、最前の傷なんてどこにも見当たらない。
 私が治癒術を施したのもあるのだろうけれど、それは彼の言うように、剣士達が身に宿す超恒常性に負うところが大きい。
 本来なら喜んで安堵すべき事なのに、私の心にはかすかな不満が生まれてしまう。それを鋭く読み取ったのか、
「どうかした?」
「なら施術しなければ良かった、って」
「うわ、そりゃひどいな」
 思わず零れた言葉に、大仰に仰け反ってみせる彼。私は慌てて言い募る。
「あ、違うの。怪我が治らない方がいいって事じゃなくて。えと、それならもっと休憩してられたから…」

 ――もっとあなたと、話していられたから。

 でもそんな事、とても言えない。口に出来ない。
「冗談だよ。わかってる。そんな必死にならなくても大丈夫だって」
 なおも弁解を続けようとした私に手を振って微笑み、それから真顔になって、
「きついなら、もう少し座っていこうか?」
 こちらの気力を案じてくれる瞳に、私は首を振って応えた。
「ううん、大丈夫。わがまま言ってごめんね」
 私も裾を払って立ち上がる。頷いた彼が、数歩先で私を待っている。
 旅路は長い。時間はきっとずっとある。だから。
 小走りに追いついて、横顔をちらりと盗み見る。

 ――いつか、言えたらいいな。

 歩調を合わせてくれる彼の隣に、私は幸福な気持ちで並んで歩いた。
64名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/11/10(水) 05:06 ID:fZieqPVc
 不変のものなどありはしないと。そう知っていながら。
 私はそれを永遠のように思っていた。


 あの頃は、世界にふたりきりみたいな気がしていた。貴方と、私と。
 ふたりだけで閉じていて、他に何も要らなかった。
 少しだけ年上のひと。優しくて、とても優しくて。私はただその優しさに溺れていた。甘えていた。
 きっとそれが負担だったのだろう。彼にだって疲れた日はあったのだ。
 けれど私はその腕にぶらさがるばかりで、少しも心を汲まなかった。
 ふたりの心の距離はいつのまにか遠くなって、現実の距離がさらにそれを押し広げた。
「俺は子守じゃない」
 そう告げて、彼は去ってしまった。ふたりだけの世界から、貴方はいなくなってしまった。だから。
 だから私は、世界にただ独りだけになったのだ。
 それでも。

「どうした? おいて行くぞ?」
 どこかへ出かけようという時、いつも言われた台詞。
 支度の遅い私は、いつも貴方を待たせてしまって。貴方は微笑みながら、私を待っていてくれた。
 今でも夢に見てしまう。聞いてしまう。その笑顔を。その声を。
 夢が記憶を呼び覚ます度、私は飛び起きて、そして泣くのだ。この世界に独りきりなのだと思い出して。

 闇の中、私を抱く腕。すすり泣く私を包む腕。

 ――どうして、貴方ではないのでしょう?

 軋む寝台。陽光に思い返せば後悔ばかりが身を裂く行為。
 それでも夜が訪れれば、どうしようもない空虚を埋めたくて誰かを求めてしまう。
 知らず涙が零れる。それすらも闇の底に飲まれて消えた。


 不変のものなどありはしないと。そう知っていながら。
 私はそれを――永遠のように思っていた。
65名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/11/11(木) 02:37 ID:duASIQ8c
 それまでの調査は順調だった。
 彼――ジュノーを出てから知り合った騎士だ。フィールドワークが好きなわりに自衛能力の低い私の護衛に、いつも
付き合ってくれる――は「暑ぃ、蒸し暑ぃ、くそ暑ぃ」と愚痴ってばかりいたけれど。金属鎧こそ避けてきたものの、
湿気と熱気がやりきれないらしい。
 少し悪い気はするけれど、対して私は涼しい顔でいる。魔術師には便利な術がある。エナジーコート。私の体を包む、
青白い光。これのお陰で、ウンバラの亜熱帯めいた気候も、さほど気にはならない。身の回りに魔力による防護壁を張
り巡らせるこの術は、害虫や湿気など、鎧では防げないようなその他を遮断してくれるのだ。
 予想外のアクシデントが起きたのは、もうすぐウンバラの町に着くという頃になってだった。
 ぽつぽつと密林の葉が鳴ったかと思った直後、篠を突く様な激しく重い雨粒が落ちてきた。
 とんでもなく、急で激しい雨だった。
 ウンバラは熱帯だから、こういった夕立も考慮には入れていた。けれどこの激しさは、正直私の想定外。
「おいおい、こりゃすげーな」
 掌を天へ向けて、彼も思わずそう漏らす。
「どこか、雨宿り出来そうな場所を探しましょう」
「おうよ」
 と言っても、視界は黒く遮られている。獰猛な猿人も凶暴な甲虫も、今ばかりはなりを潜めているようだった。

 そうして数十秒後。よい具合に張り出した崖下に潜り込んで、私達は雨宿りをしていた。
 驟雨は待てばそうかからずに止むだろう。けれど荷物は思いの他に濡れてしまった。
 書き物の類は用意の油紙に包んだから、多分大丈夫だろう。でも流石に多少は滲んでしまうかもしれない。
「あーくそ、こりゃダメだな。帰ったら全部分解して手入れだ」
 時間潰しとばかりに愛用の両手剣の具合を見ていた彼が、盛大にため息を吐き出した。
「――すみません」
 武具の構造なんてまるで判らないけれど、それはきっと大層面倒な事なのだろう。
 調査だなどと言ったところでそれはどこからの依頼でもない。ただ私の知的好奇心充足の為であって、一銭にもならない。
 メリットなどないだろうに、頼めば嫌な顔ひとつしないで同行してくれる。都合良く利用してしまっている罪悪感があっ
たから、私は思わず頭を下げた。
「いいって事よ」
 すると彼は微笑んで、ぽんぽんと軽く頭を叩く。身長差が意識されて若干悔しいので、この癖は止めて欲しいと思う。そ
れからなんとなくで私の装束の輪を引っ張るのも。
「でも…」
「だから気にすんなって。好きだからやってるんだ」
「――」
 …このひとは大らかで、それで私にも付き合ってくれているのだから。誤解しないようにしないと。
 自分に言い聞かせたその時、轟音が轟いた。落雷だ。
「っ――!」
 思わず両耳を押さえてしゃがみこむ。雷は大の苦手なのだ。昔から。
「…」
「…」
 そろそろとおっかなびっくり目を開けて、そしてはっと気付く。
 彼が愉快そうにこっちを眺めていた。面白い玩具を見つけた時の、子供の表情。
「べ、別に雷なんて怖くないですからっ!!」
 意地を張って立ち上がって、そういった途端。視界が真っ白く染まった。
 今度のはかなり近かった。私は悲鳴を上げて彼に飛びついてしまい――慌てて離れようとした腰を抱かれて引き戻された。
「いいい」
「『いきなり何をするんですか!?』、か?」
 抱き寄せられた勢いで、自然体が密着する。彼の腕の中で、私はただこくこくと頷く。
「こここ」
「『これじゃまるで恋人同士じゃありませんか』?」
 こくこくこく。
 雷鳴よりも、鼓動がうるさい。また、近くに落ちた。再び白く染まる視界。
 びくりと震える私の体を、強い腕が包み込んだ。髪をそっと撫でられた。
 ふっと私を護る青光が失せた。護りが解けた。
 かっと顔に血が昇るのが分かった。気を緩めたのが、心を許したのが、ばれてしまう。
「大丈夫だ。オレが守ってやるよ、お姫様」
「――はい」
 いつものからかう調子だったけれど、低い囁きは真摯だった。だから、素直に頷けたのだろう。
 頬が熱い。動悸が早い。でも心は、不思議なくらい穏やかだった。
 彼が鎧を着けていなくてよかったと思った。温度だけではない何かが伝わってくる気がして。
 雷はまだ遠くならない。もうしばらくは、このままでいられるようだった。
66名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/11/13(土) 22:52 ID:OSluORQw
なんでこのスレすぐ止まるの?
67名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/11/14(日) 00:01 ID:V28LitwQ
神様がね、去っちゃったからだよ(´∀`)
68名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/11/14(日) 19:42 ID:Y6ndsjII
本スレの(下水道リレー以外の)作品を保管庫におさめさせていただきました。
タイトルのない作品には、漏れなく私のセンスないタイトルがついております。
作者様には、ぜひご確認いただけたら幸いです。

>保管庫の中の人様
不備等ございましたら、適宜訂正、変更をよろしくお願いいたします。
かえってお手を煩わせることになりましたら申し訳ありませんでした。
69どこかの166sage :2004/11/16(火) 03:36 ID:EefOvV8w
|∀・) 駄文だよ〜
|∀・) 今回は本気で駄文だよ〜
|∀・) けど本人は三ヶ月かけてなんとか形にしたのでけっこう満足している。

壁|つミ[ヤンマーニなママプリ]

|彡サッ
70どこかの166sage :2004/11/16(火) 03:38 ID:EefOvV8w
 まぁ、えてして悲劇というのは些細な事から始まるものである。
 そして、喜劇というのは悲劇が拡大する過程で生ずるものである。

 だから、こんな喜劇…もとい悲劇も生ずる訳で……
 そして、関係者が口を閉じて忘れようとするから、喜劇ですら伝説となる。
 今日はそんな伝説の喜劇を語ろうと思う。


「前々からお主に聞きたかったのだが、お主の奥方はどう強いのだ?」
 GH某所。みかんの皮が敷き詰めた和室の真ん中でコタツに入りみかんをひたすらほうばる魔族の二大巨頭二人。
 ダークロードが何気に尋ねた一言に、バフォメットは顔をしかめて答えた。
「分からぬ」
「分からぬって、お主、何度か戦っているのだろう?
 それで、分からぬというのはどういう事だ?」
 意外そうな顔をするダークロードにバフォメットは考え顔をしたままみかんを口に入れる。
「いや、本当に分からぬのだ。
 考えても見ろ。今こそ人ではないが、あの当時人であったあいつに完膚なきまでに負けたのだ。
 我らの力を持ってすれば我らを仕留める力を持つ人間はまだ少ないし、神の力を使うプリ―ストとて直接攻撃で我を沈めるのは神の力あってこそ。
 あいつに負けた時、あいつは神の力を使っていなかったのだ」
「……むむ。なんか聞けば聞くほどお主が負けた理由が分からぬぞ」
「分かっていれば苦労はせぬ。
 そもそも、あいつの強さが分かればもう少し夫婦喧嘩の勝率が向上するのだが……」
 駄目親父ぷりを暴露するバフォメットがため息をついてみかんを口にほうばる。
 興味深そうに聞いていたダークロードの頭に電球のエモーションが出てきたのはそんなときだった。
「どうだ?秋のレクレーション企画を考えてくれとアリスに言われていたのだが、GH武闘会なんぞを開いてママプリの強さを研究しては?」
「この間、二人で考えた『どきっ♪女だらけのブルマー運動会』は没になったのか?」
「提出前に娘に見つかって小一時間説教をくらって出せなかったのだ。
 これならば、イリューも『父の尊厳が無くなるから止めてくれ』と泣いて説教する事もないだろう」
「……」
 まぁ、こんな果てしなく軽い感じのノリでGH武闘会は企画され、真相を知らないイリュー達も「たまには真面目な事を言うものだ」と感心してGOサインを出したのだった。
 それがどれほどの衝撃を呼ぶかをまだ誰も知らずに……
71どこかの166sage :2004/11/16(火) 03:44 ID:EefOvV8w
 というわけでGH武闘会はめでたく休日であるメンテナンスの日に開催されたのだが……
 当初の予定どおり、特別ゲストというか対抗チームを作ろうという話となりバフォが迷いの森のモンスターを引き連れて参戦。
 ここにママプリをメンバーとして放り込んだ。
 舞踏会は個人戦でトーナメント形式。
 当然各個人の力量が試されるのだが、この手の武を争うものに深淵の騎士達や彷徨う者達のやる気まんまんさ加減に対し、迷いの森のモンスターの面々はその力量を知っているだけに参加者すらいない。
「なんだなんだ?誰も出らぬのか?」
「父上。格が違います」(あんたが出ろよ<内なる声)
 子バフォの声は迷いの森のモンスター全員を代弁していた。これもバフォの予想の内。
 ママプリ自身はただの応援要因としか考えていないのだが、そこは萌え奸智に長けた魔族二大巨頭。
「頼む。迷いの森チームの協力をしてくれぬか?」
 と、旦那に頭を下げられ、
「まぁ、子供ばかり作って戦場に出ていないので無理を言っては駄目だぞ。バフォよ」
 とダークロードに挑発されては引っ込みがつかず結局出る羽目になった。

 一戦目 VS アリス

「貴方も大変ねぇ……」
「お相手よろしくお願いします」
 ほうきとソードメイスを構えて相対するママプリとアリス。
 アリスとて彷徨う者に稽古をつけてもらっているゆえ、自信はあるつもりだ。
 ほうきを構えたままアリスは目の前のママプリを見る。
(……普通に戦えば負けるとは思えない……けど、あのお方はバフォメット様を沈めた御方……)
 アリスは考えるのを止めた。
 ほうきを持つ手に力が入る。
 彼女の戦闘スタイルはあくまで「掃除する」に固執する。
 その結果、「はく」事が中心となる。要するに人間をゴミと認識する事が大前提となっている。
 結果、彷徨う者から抜刀術を覚えたアリスは下段から神速で相手を「はいて」しまう事が戦闘スタイルとなる。
「行きます」
「どうぞ」
 勝負は一瞬だった。
「きゃあ!!!」
 黄色い悲鳴をあげてエプロンで体を隠すアリス。
 ママプリはたった一閃でアリスの服を切り裂いて見せたのだ。
 それでいて、下着とエプロンは残すという高等芸術。
「もっ萌え〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
 素直に口に出した剣と弓を深淵の騎士子がいつものように封じたが内心動揺が隠せない。
「速い……」
「うはwww速すぎwwwみえないwwwwwww」
「バフォ殿を沈めたという話、あながち嘘では無いのかもしれん」
 深淵の騎士・内藤・騎士子は皆、一応に感心するが、所詮はプリとたかをまだ括っていた。
「おい?見えたか?」
「アリスのほうきが下段から突き出される前に飛んで、そのほうきのえに手をかけて一回転、背後に落ちる時にソードメイスで一閃」
 流石に付き合いの長いバフォの解説に納得行くダークロード。
「あの速さが強さなのか?」
「いや、あれだけならば勝てるよ……」
 興奮気味のダークロードに目が真剣となるバフォメット。
(あいつ……まだ全力をだしていないな……)
72どこかの166sage :2004/11/16(火) 03:47 ID:EefOvV8w
 二戦目 VS 彷徨う者(禿)

「今日は負けないよ」
「私も負けませんから」
(……勝ってからいえよ)
 と、GH二階所属の面々は心の中で一致して突っ込んでいたが、禿と馬鹿にされようとその能力は禿の同僚がアリスに武道を教えるぐらいだから優れているはずである。
 妖刀村正の柄に手をかけ抜刀術でママプリを葬る体制に入る彷徨う者(禿)。
 構えは中段抜刀。しゃがむにも飛ぶにも対処が難しい位置からの攻撃にママプリは速度増加の呪文をかけてソードメイスを中段に構える。
「あのメイスで村正の斬撃を防ぐつもりか!?」
「うはww禿w舐められてるwwwww」
「たいした自信だ。抜刀術は初手が全て。それを防いで見せたら彷徨う者には勝利は無い」
「…流石に温厚な僕でも怒っちゃうよ」(ぷんすか)
「お気にせずに全力でどうぞ」
 場が凍る。ママプリの回答では無く、そのママプリの声の低さに。
 喘ぎ声が高く甘いママプリの声では無く、冷徹な人(魔族)殺しの声に。
「いくよ〜」
 怒っているのにふぬけた彷徨う者(禿)が攻撃を宣言。姿が消える。
 流石に禿はげ馬鹿にされても彼とて彷徨う者の一人。その速さは抜刀術を行うにあたり十分な脅威になるはずだった。
「アマツの剣の達人の言葉をご存知?」
 コマ送りに迫る彷徨う者(禿)の耳に低く聞こえるママプリの言葉の意味など考えない。
 ただ、己の修練の果てに会得した人切りの極意、無心でママプリとの間合いを確認して妖刀村正を叩きつけ……
 彷徨う者(禿)の思考が止まる。それは修練の果てに会得した極意の中に含まれていないファクター。
 村正を鞘から出す為の右手の小手に踊るソードメイス。ママプリとの間合いは変わっていない。
(????馬鹿な?彼女の中段の構えは、村正を受けるためでは無くて、ソードメイスを投げる為に!?)
 ママプリが中段の構えから押し出すように投げ出されたソードメイスは重力に従い垂直で彷徨う者(禿)の小手のあたりで踊っていた。
(よけても弾いてもタイムラグが出る!!)
 完全にパニックに陥った彷徨う者(禿)はこの一瞬でママプリが彼の間合いに入ったことに気づかなかった。それが決定的な敗因となる。
 速度増加で加速したママプリの肘撃ちが大きすぎる彷徨う者(禿)の顎に直撃。
 ゆっくりと彷徨う者(禿)の巨体が崩れ落ちる。ついに抜かれることが無かった妖刀村正とそれを邪魔したソードメイスと共に。
「刀に拘る様では、剣とは言えぬって…聞いてないか……」
「ぴ…ひっちゃ〜でに〜〜」
 誰もがあまりにも速く圧倒的な勝負で言葉を出さない中、
「倒れる前に言えよ……」
 謎の言葉を残して昏睡する彷徨う者(禿)に突っ込んだのはお約束を忘れない剣と弓のレイド兄弟だった。
73どこかの166sage :2004/11/16(火) 03:56 ID:EefOvV8w
 三戦目 VS 深遠の騎士子

「貴方と戦える事を誇りに思います」
「試合とて遠慮はいりません。その剣、遠慮なく私に突き刺しなさい」
 もはや、レクレーションとは言えないほどの大番狂わせを起こして会場は興奮の坩堝に落ちていた。
 その伝説のヴェールを脱いで「バフォを沈めた」力をGHの武人達に解放したママプリ。
 そしてGHの武人としてその力量で誰にも負けぬ深遠の騎士子。
 興奮しないわけが無い。
「ママプリにエル塊5つ!!」
「深遠の騎士子たんに妖刀村正一つ。今度は負けないよ」
「もういやだ…この禿……」
 かくしてなし崩し的に賭けが始まり、エル石、村正、アリスのエプロン、バフォ秘蔵ぷりたんSS集「聖女達の微笑み」等の商品が乱れ飛ぶ。
 ゆっくりと持っている槍を構える深遠の騎士子。かえって邪魔になると考えて徒歩姿で槍をママプリの心臓に構える。
 流石にママプリも本気らしく、速度増加だけで無くグロリアとキリエエレイソンにエンジェラスまでかける。
 槍は突く為にある。
 その攻撃線は先端を中心に直線に動く形となるからかわしやすい事は否めない。
 それでも槍が武器として進化を続けてきたのはそのリーチの長さにこそある。
 更に馬上槍ともなれは馬のスピードが加速され破壊力は桁違いに上がる。
 馬から降りても深遠の騎士子の槍は何度もレイド兄弟のおしおきに利用された事からも分かるとおり威力が衰えるという事は無い。
 だが、確実に馬から降りたデメリットとメリットを深遠の騎士子は自覚していた。
(馬上からのリーチ、馬上突撃による威力増加は惜しいが……彷徨う者(禿)戦で見せたママプリのあの速さ……馬上で突いてそれをかわされたら懐ががらあきになるデメリットを考えたら徒歩姿の方がまだやりやすい)
 既に深遠の騎士子の頭の中ではいくつものママプリとの仮想対戦が繰り広げられている。
 己の槍の一撃に自信があるが、それが外されたら?その疑念をどうしても深遠の騎士子は振り払う事ができなかった。
 徒歩での槍の一撃。かわされても槍を手放して剣に持ち込むのならば、鎧をつけている分最終的な打撃戦ではこちらが勝つ自信があった。
 ましてや彼女は殴りプリ。いくらヒールで回復してもその回復量が全快になるとは思えない。その回復量との差が埋まる前に剣での連続攻撃で仕留めるつもりだった。
(…まてよ…槍の攻撃が外れる事を想定?……しまった!!)
 仮面の中で己の愚かさを呪う深遠の騎士子。ママプリの策に既に捕われている事に気づいてしまったからだ。
 ママプリが避けたかったのは馬上からの槍のリーチ。いくら彼女が槍を交わしてもそのリーチ内に入るのは馬上姿である限り難しかったのだ。
 ソードメイスを捨てて速度増加の肘撃ちで彷徨う者(禿)を沈めた事すら今思えば策なのだろう。
 彼女は己の武器を捨てて何をしてくるか分からないというイメージこそが最大の武器だったのだ。
 いまさら馬に乗るなどプライドが言い出せない。
(考えろ……深遠の騎士子…お前はGHを守る為に戦うのだろう?ママプリに負けるようではGHなど守れぬではないかっ!)
 失った優位を埋めるため、己のプライドを守るため、GHを背負う誇りの為に必死にママプリに勝つ策を考える。
 ほぼ確信があった。
(ママプリは私の槍をかわす。もしくはかわす何かを準備している。
 そうでないと私を馬から降ろした理由が見つからない)
 はたと気づく深遠の騎士子。つまり、私もママプリも槍の一撃が外れた次で決める腹なのだ。
(一撃で決めないと、馬上攻撃なみに槍の威力を増す手は……)
 一個だけあった。槍の威力を挙げる禁じ手が。
 ゆっくりと心を集中させてゆく。手が決まれば迷いは不要。
「参ります」
「来なさい」
 瞬間の勝負。二人の姿がぶれた。
 観客の目に映った瞬間の映像にはママプリの左肩に深遠の騎士子が投げた槍が根元まで突き刺さり、仮面が外された深遠の騎士子の呆然とした姿がさらけ出されていた。
 からんと乾いた音が響く。
 深遠の騎士子の仮面が彼女の後方で音を立てて割れた音で皆がわれにかえる。
 深遠の騎士子には全て見えていた。
 ママプリが深遠の騎士子が投げた槍をよけずに自らに突っ込んできた事を。
 投げられた槍の進行方向とは逆に速度増加で突っ込んでくるママプリ。
 血と肉が飛び散り、肩の骨が砕けてもなお前進を止めず、そのソードメイスを繰り出してきた。
 驚き、呆然として、いや、正直に言えば深遠の騎士子は平然と命をかけて突っ込んで来るママプリ本当に恐怖したのだ。
 だから、その対処が遅れた。ほんの少しだけかわし切れずに仮面がソードメイスに捕らえられたのだ。
 槍を投げた後に次手として用意した剣も柄に手が残ったまま動けない。
 肩に槍で貫かれた藍色のプリ服は深紅に染まり、噂として聞こえていたハイプリーストを想像させ、ママプリの視線は殺意を残したままソードメイスをまっすぐ深遠の騎士子に向けている。
 どこにそれだけの意思があるのだろう?己の命すら賭けて獲物を仕留めるだけの意思。
 深遠の騎士子は恥ずかしかった。心のどこかにあった「たかが試合」という意識。それがママプリに対する最大の侮辱であるという事に気づかずに。
「私の……負けだ……」
 絞るように声を出したのは深遠の騎士子だった。
74どこかの166sage :2004/11/16(火) 03:58 ID:EefOvV8w
 GHの控え室、ママプリはベットにその体を横たえていた。
 槍の傷は己のヒールで治せるが、失った血に再生した体細胞の活性化にともなう貧血から次試合を棄権せざるをえなかったのだ。
「傷はどうか?」
「深遠の騎士子たんは凄いわ。
 久しぶりよ。血肉はおろか骨まで持っていかれたなんて……ね……」
 横たわったままバフォに向けて微笑んでみせるママプリ。血を大量に失ったこともありその笑みは妙に青白かった。
「ポーションはもう飲んだのか?」
「まだだめ。体が受け付けきれない。
 少し眠ってから飲むわ」
 そのまま、心地よい沈黙が続いたが、口を開いたのはママプリだった。
「で、分かった?」
「何が?」
「私の強さ?」
「な、なんの事だ?」
 バフォの笑みが凍る。汗エモが出ているかもしれないと思いながら必死に話を逸らそうとするバフォにママプリは微笑むばかり。
「一つだけ、教えてあげる。
 男は女には絶対に適わないのよ」
「そ、そうかもしれないな……」
 その狼狽ぶりがおかしいのだろう。微笑んだままゆっくりとママプリは瞳を閉じて安らかに寝息を立て始めた。

「で、結局分かったのか?」
 部屋の外で待ち構えていたダークロードがバフォに問いただす。
「『男は女には絶対適わない』だそうだ」
「なんだそりゃ」
 たまらず笑い出したダークロードにバフォは憮然として吐き捨てた。
「知るか」

 
 結局何も分からずに、おおいにGHと迷いの森を盛り上げたこのお祭りはとりあえずこういう形で終わった。
 後にママプリは子バフォにこっそりと語っている。
「『強い』ってのは誰でも出来る事なのよ。
 何か守る者があるのならば生命(いのち)はいくらでも強くなれる。
 私は、ちょっと他の人より守る者が大きいだけ」と。
75どこかの166sage :2004/11/16(火) 05:21 ID:EefOvV8w
というわけで、今回はただ「ヤンマーニなママプリ」を見たいがために作った駄文をやっと投下。
色々足りないところがあるけれど、最近スレそのものが停滞気味なのでこれを機に、「お前の駄文なんぞ俺が超えてみせる」という文神さま光臨祈願。

で、いつものように参考スレを。
彷徨う者と共に苦難を乗り越えるスレ
http://enif.mmobbs.com/test/read.cgi/livero/1100390337/l50
深遠の騎士子たんスレ
http://enif.mmobbs.com/test/read.cgi/livero/1089828659/l50

で、これの製作途中に知った巷で大流行の某「ねこみみもーど」で受信した電波。

ママプリ「バフォ角も〜ど♪」

誰か絵神様が書いてくれないかなぁ……そうしたら喜んでえろえろに……

【18禁スレ】д・)ノシ
76SIDE:A 城に集う者達(1/2)sage :2004/11/17(水) 03:07 ID:PgNrTDoI
時間ができたからスレ纏めせにゃーと思ったら、既にこちらも有志の方がして下さっていたり。
ホント、ありがとうございます。

お詫びにもならねど、昨日から無い知恵しぼって書いてみました。

----

 ギルド“黄金の暁”が保持している砦は2つある。一つは首都プロンテラの北面にあり、王城の守りの一端を
担っていた。そしてもう一つは、ブリトニアにある。首都にあるそれがギルドの表の顔だとすれば、ゲフェン
郊外にあるそれは、ギルドの裏の顔であった。
「……こっちに来るのは久しぶり、だな」
 左右を見ながら、フレデリックは感慨深げに呟いた。国家に反逆し、隣国までも巻き込んだ騒乱を起こした
あるギルドの持ち城であったここは、若き聖騎士が初めて手に入れた城砦でもあった。城門へと歩を進めると、
門衛が直立不動のまま、彼の来訪を大声で告げる。
「『皇帝』フレデリック卿、帰城!」
 そして、その声にあわせるように観音開きに開いた大扉の向こうには、車椅子姿の男がいた。白髪白髯の、
一見して老人に見まごう容貌だが、よく見ればまだ壮年といえる年齢だとわかるだろう。芝居がかった仕草で
大きく両手を開き、男は満面の笑みをたたえて青年を迎えた。
「ようこそ、『皇帝』。我等がギルドマスター。『吊られし男』は心より歓迎いたしますぞ」
「そんな言い方はよしてくれよ、ラオ」
 フレデリックはこのモンクが好きではなかった。好きではない、というのは言い過ぎとしても、苦手だった。
とはいえ、ギルドが大所帯になっても問題なく動いているのはこの男の尽力によるものだと、彼にもわかっては
いる。この男が回復し、ギルドに加わってから“黄金の暁”は明らかに強くなった。
 しかし、かつて「仲間」だったギルドメンバーがいつしか互いを「同志」というようになったというような、
微妙な変化がフレデリックには寂しかった。聖騎士は、ギルド内ではラオと名乗っている彼の前歴を知らない。
ここを落城させた後、数日して庭に倒れていた瀕死のモンクを見つけた時には、素性など詮索する気も無かった
から。
 そして今は、詮索するのが恐ろしい。何かに憑かれた様にギルドの為に尽くす彼からは、何か異質な物を
感じるのだ。時々、フレデリックは思う。この修道僧の言葉はいつも、彼を別の“誰か”、…あるいは
“何か”を基準に試しているのではないか、と。

 じっと見つめる若者の視線に、モンクは落ちつきはらったままでまた、笑った。
「…はて、私に何か?」
「いや。シメオンさんはいるかな?」
 言って、フレデリックは手にしていた剣を鞘ごと男に見せる。そこからはもう、受け取った時にあった禍々しい
妖気は失せている。鞘から軽く引き出して見せた刀身は赤錆がうっすらと浮いていた。
「……失敗、ですか?」
「そのようだね。魔剣は魔が去ればただの剣、ということかな…」
「ふむ。残念ですな。彼は先ほど戻りましたが…」
 そこで言葉を切ったモンクの口調に、聖騎士は心得たように首肯した。
「研究室にいるのか。じゃあ、また寄らせて貰うよ。これは…」
「は、何かの資料にするのかもしれませぬからな。お預かりいたしましょう。ファナ」
 修道僧の声にあわせて、小柄な少女が手を伸べてくる。魔法使いに良く似た、それでいて動きやすいように洗練
された服装はジュノー学院の賢者のものだった。見覚えない顔だ。青年の物問いたそうな様子がわかったのだろう、
ラオは受け取った剣を抱えるようにして下がろうとした少女を引き止めた。
「…? 何?」
 怪訝そうにラオを見る少女の髪からは、ぴょこりと猫のような耳が突き出ている。明らかに飾り物のそれは、
年端も行かない少女には良く似合っていて、フレデリックは微笑した。
「君は、誰かな。ギルド名簿には目を通しているはずなんだけど…」
「ああ、“金”に昇格したのはつい先ごろでして。私の娘でございます」
 ラオの何気ない口調の返事に聖騎士の微笑がこわばる。
「娘…? あなたの?」
「まぁ、実の娘ではないのですが。“金”への昇格試験に手心は一切加えておりませぬゆえ、ご心配なく」
 まだ、目をぱちくりさせている若者に、少女は勢いよく頭を下げた。
「ファナでス。よろしくおねがいしマス」
77SIDE:A 城に集う者達(2/2)sage :2004/11/17(水) 03:07 ID:PgNrTDoI
 その奇妙な魔術師と、“黄金の暁”の関係は、一般的な構成員とギルドの関係とは異なっていた。構成員という
よりは、むしろ協力者というべき立場のその青年は、加盟に際していくつかの条件をギルド側に課している。その
ひとつが、彼が研究室に篭っている間…、研究中には一切の邪魔をしない事であった。週に一度、国王の名のもとに
行われる砦の所持権利を巡る模擬戦にも、彼はこの特権を思う様に活用して参加してはいない。ただ一度だけ、ここ
ブリトニア砦の彼の研究室まで攻め側が踏み込んだ折に侵入者をまとめて叩きだした事があるだけだ。
 古参、新参を問わず、その青年の特権を知る者は、彼を快くは思わない。ギルドというものに関わる奉仕の義務と、
参加の恩恵のうち、魔術師は恩恵のみを享受しているようにしか見えないのだから。青年が“黄金の暁”に負って
いる義務は唯一つ。砦地下に残されていた魔法装置の管理と維持のみであった。
 シメオン=E=バロッサというその若い魔術師が、どれほどの力をこのギルドにもたらしているかは、22名の
上位ギルドメンバーの中でもごく一部にしか知られていない。

 “砦”に通常もたらされる収穫は、その砦に本来ある魔法的価値…、すなわち、かけられた豊穣の呪力の蓄積に
のみ依存する。週に一度、宝物の間と言われる部屋に、その成果がもたらされる仕組みは、この機構が利用される
ようになってずいぶん経つ今となってもなお、多くの者にとって未知の物であった。
 かの魔術師は、その秘密を知る少数の側にいる。地下の魔法装置から汲み出された魔素は宝物の間へと送り込まれ、
ここ、ブリトニア砦の収穫をおそらくは国家全体に匹敵する規模にまで高めていた。

「ククク…私の居ぬ間にまたネズミが入りましたか。懲りない連中だ」
 細い廊下を滑るような足取りで歩んでいた魔術師は、彼の研究室の扉の数歩手前でぼそりと呟いた。呟いただけで、
青年はそのまま歩みを止めない。規定では砦を攻めるのは週末のみ、となってはいるがそれは所有権の移動が目的の
大規模な戦に限ってのこと。それ以外の日々が平穏かといえばそうでもない。アサシンやローグといった連中に
とっては、むしろ平日の方が戦だ。城につき物の隠し通路や、防衛での人員配置などを探るために、この砦にも
しばしば身の程を知らない連中が潜り込んでいる。

 軽くかざした手の動きにあわせるように、扉は軋みもなく開いた。目深に被ったフードを取りもせず、室内を
見回した青年の口元がへの字に歪む。
「…私は荒っぽいことが嫌いなんですがねぇ」
 彼の視線の先には、三本足の丸椅子の上に何故か正座をし、落ち着き無く前後にゆすっている小柄な姿がいた。
薄い茶色の髪の上には、可愛らしい猫の耳。凹凸の少ない体を薄い衣装に包んだ少女は、青年の声に顔を上げると、
にぱーっと笑う。その仕草にあわせて動く肩口の金の紋章が青年の目に映った。刻まれた名は『魔術師』。

「おかえりなさい、センセ」
「…どちら様で?」
 読めない表情で問う青年に、少女は笑みを絶やさずに答えた。
「ボクはファナ。よろしク。センセが血生臭いことは嫌いだって聞いたから、頑張ったヨ。褒めて褒めて」
 とんっ、と椅子から降りた少女は音を立てて両手を打ち鳴らした。青年は、首だけを少女の右へと回し、やや
あってため息をつく。彼の視線の先にあったのは、恐怖の表情も濃い、盗賊風の男達。魔法のみが生み出しうる
巨大な氷塊の中に埋もれた彼らはまだ生きているような生々しさで、しかしながら、明らかに事切れていた。
 その死体をわざわざ目に付くところに並べて、その猫のような少女は明らかに褒められるのを期待した視線を
青年に向けている。
「3人だヨ。懲りないよねェ」
「…貴女はどうも理解力が足りないようですね。私は血の匂いが嫌だといったわけではありませんよ」
「…うン?」
 きょとんと首を傾げる少女に、青年は相も変らぬつまらなそうな声音で続ける。彼を知っているものでなければ
気づかぬ程度に、フードの奥の目が微かに狭まっていた。
「私は、無駄な人殺しは好かない、と言っているのですよ」
「……でも、ここに入ってきて嗅ぎ回った人はやっつけてもいいんでショ?」
「そういう事になってますね、確かに。単なる私の好みですよ…」
「………? わかった、今度から追い払うヨ」
 今度から、と自分の研究室にいつくかのように言う少女に、青年は小さくため息をついた。目線は少女に
向けたまま、室内の暗がりにいる、もう一人の影に問う。
「で、彼女はどちら様で?」
「私が苦労して探してきたお望みの助手を、どちら様とは心外だな、シメオン」
 声と共に暗がりから姿を現したのは、車椅子に乗った僧服の男、ラオだった。

 ジュノー学院の教授、そしてあの市井の錬金術師から提供されたデータをもとに“ある目的”を果たすために、
自分以外にもう一人の詠唱者が必要とわかったその時から、彼はラオに一つの要求をしている。彼が要求したのは、
シンプルではあるが実現はきわめて難しいことだった。すなわち、青年と同調して儀式を遂行できる助手、である。
 しかし、彼と同じ速度で正確に術式を練ることのできる術者など、そうはいない。いたとして、青年の助手と
しての立場に甘んじ、目的を詮索しようとしない者となると更に少ないだろう。実力と野心は大方において、
不等号で結ばれた片思いの関係にしかなりえない。彼がそうであったように。
 フードから覗く青年の口元が皮肉っぽく歪んだ。
「……試してみても?」
「構わんよ」
 モンクの返事を聞くか否か。青年の足下に巨大な魔方陣が現れる。屋内であれ、室外であれ場所を問わず、無数の
雷で目標を打ち据える、彼の得意とする魔法だ。その破壊力は絶大。
『緋色の魔王バフォメットの名において…』
 もしも目の前の少女が彼の要求した基準に満たない実力しか持っていなかったならば、研究室はおろか砦自体にも
被害が出るであろう。おそらくは人間として速さを極めた青年の詠唱が、暗く湿った地下室に響く。

 そして。

 少女がちろり、と上唇を舐めた。
「ごちそうさま、センセ」
78SIDEの中の人sage :2004/11/17(水) 03:20 ID:PgNrTDoI
ぷはー。こんな時間ですがおやすみなさい。

作中でシメオンたんの名前を出したのは、いつまでもせこく逃げを打っているのもなんだと思ったからです。
はい。番外のintermissionと、これで連続二回ほど主役サイドが顔を出していなかったりしますが、
以前、主役にスポット置けよ! って意見があった鍛冶師さんとことちがって主役に存在感がないから
きっと脇固めしても平気…! かなぁ、とドキドキものです。

新キャラ二名出すのは今更ですが、ラオの人は前からというか、書き始めから構想にいたので省けず。
ファナの方は、あれです。シメオンさんの助手兼、(私の思うところの)彼のYmirの時からの変化を浮き出させる
役を作りたくなったので…。若者の才能に嫉妬しつつ歯噛みする老人とか、ごっついフランケンの怪物風大男とか
妖艶な謎めいた美女、とかイロイロなキャラ候補の中からこれにしてみました。
老人が実は脳内最有力候補だったのですがラオと被るので…orz

以上。らいなーのーと風味にいらん作者のあれやこれやを書いてみたり。
いつもなら書く他の皆様への感想は、まだ未読なのでごめんなさい。明日にでも印刷してって読みます。
79名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/11/17(水) 13:21 ID:JBkR9K4s
>>69-75

|・・・・・・・

|・`)ニョキ

|´・ω・)ノミttp://nekomimi.ws/~asanagi/cgi-bin/ragnarok/source/20041117131752-mamapuri2.jpg

|ω・`)ばふぉ角モードじゃなくてごめんね

|ミ
80名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/11/17(水) 23:18 ID:vxtRMSM2
上水道リレー保管してるHP閉鎖しちゃったけどこれからは何処が保管場所
になるの?
81名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/11/18(木) 00:20 ID:oKlHBlJw
>>80
マジだ、まいったなぁ……
とりあえず、倉庫から引っ張り出せることは出せるけど、自分のページ持ってないからなぁ
82名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/11/18(木) 03:03 ID:rt/LJt.w
>>68
63-64です。保管作業お疲れ様です。
えと、作業をしておいていただいて少々申し上げにくいのですが、頂戴したタイトルを拝見しに行った折に気付いた事が。
実は63と64はまるで無関係な別話だったりするのです。
ただ小さい話をふいと思い付いたので、肩慣らしがてらにまとめて書き上げただけの代物でして。
判別しにくい真似をしてしまって、申し訳ありません。
そしてPukiWikiの知識がまるでないので、付け焼刃でページいじるのを躊躇してしまう俺。チキン野郎と蔑んどいてくれ。

>>70-74
GH側の戦闘術色付けが良いな、と思いました。特にアリス。正に掃き捨てる訳ですな。
コミカル一色で終わらせないところもまた流石、と。

>>76-77
ファナ嬢萌え。
っつーか最後二行によからぬ想像というか妄想を繰り広げやがったのは俺だけですかそうですか。
ご多忙の様子ですけれど、季節柄風邪には十分ご注意くださいませ。
83(1/3)sage :2004/11/18(木) 03:07 ID:rt/LJt.w
 その日、私はモロクに居た。
 手には青白く冷たい気を漂わせたフィスト。水の属を宿すそれは、頑張って貯蓄してようやく購った念願の品だ。
 現在地はスフィンクスダンジョン4階。ここで十二分に戦う為には、私の力量ではまだ足りない。だがここに棲息する魔
物は皆、火性を強く身に纏う。火を克すのは水。つまり新しい武器を試すには最適の環境というわけだ。
 ぴりぴりとした緊張感。私は深く吸って、吐く。集気法。周囲の気を取り込み、練り上げたそれを球に変えて巡らせる。
「――いと尊き御名において」
 そして祝福儀礼。筋力を高め、精神を研ぎ澄まし、五体を精密に制御する。我が身を加速させ、歩法を速める。
 これら戦闘能力の自己増幅は、いうなれば私達修行僧の基本的技術だ。
 そうして戦闘準備を整えたところに、地響きが届いた。軽く上げた視線の先に、鎚を振り上げた巨大な雄牛。
 無論、二足歩行する牛などいない。それは魔物。紛う事なき殺意を宿したひとの敵。
 視線の交錯は一瞬だった。互いに互いを敵と見做した瞬間、雄牛は凄まじい勢いで突進してくる。
 人間の体など軽く粉砕する勢いで振り下ろされた魔物の得物を、私はするりと見切ってみせた。強張った筋肉、目線、足
の位置。それら全てが、どこにどう打ち込んでくるかを教えてくれる。
 武とは単純暴力じゃない。理だ。
 牛の間合いよりさらに深く、今度は私が踏み込む。
 捻った足、腰、肩、肘、手首。全ての回転の力を乗せた打突。インパクトの瞬間に膝を落とす。一瞬自重を増加させ、打
撃の威力を増す勁だ。一打では終わらない。力を殺さず、勢いを殺がず、流れるように。それこそが武技。
 打ち込んだ拳を引き様に、右腹へ蹴りを放つ。狙いは章門。拳と掌を打ち合わせて送りだした肘を、さらに同箇所に叩き
こむ。
 魔物は武具を取り落とし、苦痛に吼えた。
 いける。手応えが違う。この属性武器は、確実に私の戦闘能力を増している。
 がむしゃらに振るわれた巨大な拳を掻い潜り、低く鷂形から虎形。即ち六合拳。稲妻を痛烈に打ち抜かれた魔牛は尻餅を
つくように倒れ込み、それを更に私が追う。人の腰よりも低い位置に来た頭部へ向けて、床へ打ち降ろすように正拳。
 角がへし折れる。土煙を上げ、雄牛は伏して寂滅した。
 本来、連技にはまだ先がある。けれど私はまだ未熟で、そこまでは修めてはいない。でも。私は新しい拳具に目を落とす。

 ――うん、上々だ。

 殺劫を犯しておいて、満足感というのはおかしいのかもしれない。けれど自分が強くなれた事に対する充実は、確かにあ
った。
84(2/3)sage :2004/11/18(木) 03:08 ID:rt/LJt.w
 調子に乗って、というわけではないけれど。私はもう少しここに留まってみようと決めた。当然足取りは慎重になる。
 この迷宮の王直属護衛であるパサナは、的確にこちらの急所を狙い強打を振るう、かなりの強敵。また神官であるマルド
ゥークも嫌らしい相手だ。拳の届かぬ遠い間合いから或いは視覚を奪い、或いは火を降らせる。先のは楽に倒せたとはいえ、
ミノタウロスも油断はならない。大地を操る魔術に人間の意識を消し飛ばす大鎚を用いた衝撃波。加えて痛烈極まる火性の
打撃をも繰る。複数を相手取る事になればひどく危うい。
 自分でもそれは重々承知の上だった。
 魔物にも光は必要なのだろう。あちらこちらに篝火が焚かれ視界は悪くない。空気が濁りそうなものだが、それもない。
某かの換気措置が取られているのだろうか。目と耳は油断なく配りながら、頭の片隅でそんな事を考える。
 敵はいない。安堵と若干の落胆。
 だがその通路の先に、戦いの気配があった。
 対峙しているのは数体の魔物とひとりの騎士。私が恐れた、多勢に無勢の戦い。
 援護しようと思って、けれど私は見蕩れてしまった。
 それは知っている相手だった。同じギルドに所属していて、幾度か話した事があった。口数は決して多くなくて、いつで
も穏やかにふんわりと笑うひとだった。線の細い印象ばかりがあった。
 ――彼の戦いを見るのは、これが初めてだった。
 水の属を宿したクレイモア。その青く輝く軌跡の残像。金色の風を身に纏って、そのひとは舞いを舞うようだった。
 真正面の神官を唐竹割りに切り捨てるや、地から擦り上げるように横薙ぎの強撃を雄牛に見舞う。振り抜かれて流れる両
手剣を渾身で引き止め、引き戻す形で逆側からもう一太刀。絶息した仲魔の横脇から振り下ろされる鎚を横っ飛びに躱し、
追いすがるパサナの足を切り払って牽制、体勢を立て直すとその二体を相手にわずかも退かずに斬り結ぶ。
 武は理。そしてそれは確かに理を備えていた。私達のものとは異なるけれど、だが練られ鍛えられた戦技だった。武具の
重量と筋力を最大限に利した舞踏だった。
 そう――それは正しく剣舞だった。
 呆れた事にふたりがかりの魔物達よりも、彼の方が手数が多い。
 そこではっと我に返った。何をぼうっとしてるんだ、私は。
「いと尊き御名において」
 自分に施したのと同じ祝福儀礼。支援法術を感知した彼が、一呼吸の間だけ両手剣の柄を離して片手を上げてみせる。戦
闘時の略式の礼ではあるけれど、私はますます感心した。余裕があるのだ。
 それ以上の援護は必要なかった。戦力を増加させた彼は存分に技量を揮って、その二体を斬り伏せてしまったから。
「ありがとうございました」
 剣をひと振りしてから、私に礼を告げる。ふと向き直った目が、少し驚いたように見開かれた。
「へへ、こんばんは」
 上げた片手を振ってみせる。元々私は人懐っこいとも物怖じしないとも、ついでに図々しいとも言われる性格。
「あの、ちょっといいですか?」
「はい?」
 彼の戦い方にすっかり興味を持ってしまった今、切り出すのに躊躇はなかった。
 技量は近いはずだから、一緒に戦ってみませんか、と。


 結論から言うと、私達のペアはかなり結構相性が良かった。
 単体相手なら私の連撃が。数が来たら騎士の武技が。それぞれの受け持ちを的確に葬った。
 お互いが俊敏を旨としていたのも良かったのだろう。手傷を受ける回数が少ないのと、剣士騎士に特有の超恒常性とのお
陰で、私の気力でも十二分に回復法術を行使する事が出来た。
 そして二時間ほど。体調は万全に近くても、集中力はそうはいかない。そして常に命懸けの戦闘において、気の緩みなど
一瞬であっても許されるはずがなかった。
「そろそろ戻ろうか?」
「そろそろ帰らない?」
 口にしたのは殆ど同時だった。なんだかおかしくて、ふたり顔を見合わせて微笑む。
 お互いの呪的固定がギルドの溜まり場である事を確認してから、私は転移の術を唱え、彼は同様の力を織り込んだ呪具を
用いた。
85(3/3)sage :2004/11/18(木) 03:08 ID:rt/LJt.w
「お、おかえり」
 いつもの場所には、退屈そうに煙草を吹かしているブラックスミスがひとりだけ。
 やはり彼女も同じギルドメンバーで、魔物から得られる収集品を高く売り払ってくれる彼女に、私はいつもお世話になっ
ている。
「ただいまー」
「こんばんは」
 気軽に返す私と律儀に頭を下げる彼。へぇ、と彼女は驚いたような顔をする。
「めずらしいね、あんたらがペアなんて」
「たまたま行き先で顔をあわせたんですよ」
「それでちょっと組んでみない、って誘ったわけ」
 横から補足すると、なんか息があってるわね、と鍛冶師は笑った。
「あの、すみませんが、代売りをお願いできますか?」
「へいへい、便利に使われてあげるわよ。手間賃はいただくけどね」
 ええ、と即答する彼。既にふたり分をひとまとめてにしておいたから、それを手渡すだけで済む。
 そんなやり取りを半ば聞き流して、緊張を緩めた頭の中で、私は彼の戦い方を反芻していた。
 急所を狙い意識を刈り取る強打。相手の心の平衡を奪う呪的挑発。自身の剣速を著しく増す闘技。全身全霊の撃ち込みで
跳ね飛ばし、敵の体それ自体を得物と変えてしまう剣術。いずれも並外れた技術だ。
 けれど私が一番術理を知りたいと思ったのは、交差法だった。相手の攻撃を無効化し、紙一重でこちらの斬撃を叩き込む、
攻防一体の至芸。
「ねえねえ。あれ、教えてよ」
「え?」
 手を引いた私を、彼がきょとんと見返した。私も全然言葉が足りないのに気付く。
「オートカウンターっていうの? あの技。すごい興味があるんだけど、どうしてるの?」
 問われて彼は腕組みをした。
「どうやるの、って言われても。相手の動きに合わせて動く、くらいかな…?」
 ちょっと説明し難いよ、と呟く彼。それは判らないでもない。私だって身躱しの技を口で説明しろと言われても困る。あ
れは体に染みつくまで反復した修練の結果。自分の腕を動かす時にどの筋肉をどう動かして、なんて考えるひとがいないの
と同じように、反射的に体が動いている代物なのだ。
「あ、うん、それならちょっと実践。私もあれを修得できるとか思ってるわけじゃなくて。
 ただ、動き方の参考にしたいな、って」
 ああなるほど、と彼はふんわりと微笑んだ。
「じゃあ、ゆっくり打ってきてみてください」
 言われるまま、私は鳩尾へ向けて拳を繰り出す。
「こう来た場合はこう返すから」
 半身になりながら斜めに入り身。私の拳は空を切る格好でなり、反対に彼は万全の体勢で必殺の間合いに入り込んでいる。
「え? よくわかんないよ」
「えーと…攻撃の角度と方向で、返し方も変わるんだよ。僕は大体決めた形で反撃するけど、中には状況に応じて自在の返
しをする人もいるし。そうだね、幾つか受け方流し方を見せるから、角度を変えて仕掛けてきてもらえるかな?」
「うん、わかった」
 彼はしゃらりとクレイモアと抜くと、刀身を地面に置く。差し出された鞘を受け取って、私は言われるがままに打ち込む。
「これをこう、捌いてこっちで」
「あ、そうか。こういう場合はこう受けんだ」
 勢いを流して崩すか、それとも利用して返すか。ただ身を躱すだけが全てではない。受け止め、逸らし、弾いて捌く。物
凄く勉強になった気がした。と、そこにこほん、と咳払い。
「お邪魔だったかなー?」
 帰ってきた鍛冶師は若干困った様な、随分楽しそうな表情で。
「あ」
 はっと気付く。軽い運動で汗ばんで、互いに上気した頬。親密な男女がとるような体勢。
「いや、これは…」
「違うよ、そうじゃなくてっ」
「はい、売り上げ。ふたりで仲良ーく分けなさいね?」
 ぽんと金銭を押し付けてから、彼女はよっとカートを持ち直した。
「んじゃ、露店でもしてくるわ。できるだけ遠くでね」
 妙なところを強調して言い置くや、さっさと出て行ってしまう。
 後にはひどく微妙な沈黙だけが残された。なんか、すごく意識してしまう。それは彼も同様みたいだった。
「…あの」
「は、はいっ」
 声が裏返ってしまって、ますます頬が熱くなる。
「と、とりあえず、これ。等分したお金」
「あ、うん、ありがと」
 差し出された分配金を受け取る時に、かすかに互いの手が触れた。それだけで動悸が早くなる。落ち着け、どうしたんだ私。
「ね、ねぇっ!」
 頭の中がかっとなって、気が付いたら大声を出していた。
「何、かな?」
「あ、その、つまり、えと…また、一緒にどこかへ行こう?」
 微笑んで頷いてくれた彼に、
「約束だよ?」
 おずおずと小指を顔の前に出す。彼も慌てて同様にする。
「うん、約束」
 わたしたちは、そっと互いの指を絡めた。
8668sage :2004/11/18(木) 09:29 ID:abYHFeT.
>>82
>実は63と64はまるで無関係な別話だったりするのです
大変失礼しました!
私自身悩みつつ、IDが同じだったことから、これはこれで切ない・・・と、
ひとつの話だと思い込んでしまいました。思い込みイクナイ・・・・・・orz
保管庫のほう訂正させていただきました。ご確認いただければ幸いです。

でも別の話だとお聞きしてちょっと安心もしたり。
>>63のアコさんには幸せになってほしいです。

やはり慣れないことはするものじゃないな。
萌エロスレ|| λ.......カエロウ
87どこかの166sage :2004/11/18(木) 14:42 ID:/R558tKM
>79
見て最初の感想が「そっちかい!」でしたw
……左手吹き飛ばさなくて良かったと今ごろになっておもったり。はい。実はこのシーンは本来もっとグロかったんです。

>82
 今回、最初に「駄文だよ〜」と自ら宣言した理由に実はGHの面々全員とママプリをぶつける予定だったんです。
 はい。イリューが出てきていませんね(汗)。バフォともやらせるつもりだったのですが……(滝汗)
 己の文才の無さにほとほと呆れるばかりですが、なんとか形にしたものをこう言って貰えて嬉しさでいっぱいです。

萌エロスレ||д・)ノシ バフォ角も〜どは募集中(まて)
88名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/11/18(木) 17:24 ID:TBM7EqIQ
88get

ついでに小説の途中まで投下
8988getsage :2004/11/18(木) 17:25 ID:TBM7EqIQ
「馬鹿だね、やめたまえ」
「何が馬鹿だというんですか!」

 私が立ち上がると彼もまたゆっくりと立ち上がった。彼、といっても正確な年齢を聞いたことはないが、顔の皺やしゃがれた声が初老の男性だということを認めさせた。
 いつも腰を曲げて座っているため、いつも同じ視線で喋っているのだが、彼が立ち上がると私の身の丈よりかなり大きく、またその体躯も岩のようにどっしりとした重量感を漂わせている。
 私は見上げるように彼を睨みつけ、テーブルに手を叩き付けた。

「……何が馬鹿だというんですか」
「私たちが狩りの編隊の中に組み込まれ、そしてその中で彼らを助けようとすることが、だよ。我々アルケミストにはアルケミストとしての領分がある。他の人たちだってそうなんだよ。騎士、狩人、聖職者、魔道士……、魔物退治は彼らの領分だ。我々の出る幕じゃないんだよ」
「私にだって魔物を倒すことだって出来る!それにその場で薬剤調合やあらゆる状況に適した道具、魔物を召還し戦い合わせることだって出来る!」
「それらが彼らについて行って必ずついてまわる負担を上回る事が出来ますか?私たちでなければならない理由は?……我々は彼らの束の間の休息をより充実させるために働く、それでいいじゃありませんか。薬剤を彼らに受け渡し、道具を補給し、魔物を召還して楽しませる。十分じゃありませんか」
「私たちは大道芸人じゃない!私はそんなことをするためにこの道を…アルケミストを志したんじゃない!貴方がなんと言おうと私は彼らについていく。そして、素晴らしい結果を持って貴方のその捻じ曲がった信念を叩き潰してやる!……貴方はこんなところで燻っているべき人間じゃないんだ……。私は貴方に憧れてアルケミストになったんだ……。私は師匠である貴方にもっと輝いていてほしいんだ……。私は……」

 俯いた顔を上げると、彼が困った様子でこちらをみていることに気づいた。目に浮かんできた涙を気取られたくなく、目元を拭きたい衝動を抑えてまたじっと机の木目を睨みつける。
 すると彼が椅子を引き、歩き出すのが分かった。

「……言っても無駄なようですね。仕方ないですが多少、私の道具を貸し出しましょう。…古いですけど文句を言わないでくださいね」

 彼は諦めたようにそっと溜息をつくと奥の部屋に入り、年季の入った武具とお金を貸してくれた。手渡すとき、彼の顔を気づかれないように覗いたとき、彼が子供をあやすような優しい、それでいて寂しそうな表情をしているのが目視できて悔しい思いが胸のうちから沸き起こり、下唇をかみ締めた。

「きっと辛い思いをすることになりますよ」

 私が彼の工房(そして、私の教室)を出るときに漏れでた声が聞こえた。
9088getsage :2004/11/18(木) 17:25 ID:TBM7EqIQ
 女の体に彼の大柄な体躯用に作られた武具が合うとは思えなかったが、予想外にもそれらは女性用のものであった。確かに使い込まれて所々に傷がついているものの、しっかりと修繕、管理が行き届いているようで盾などはほぼ新品のそれであった。
 いささか驚きつつもそれらを装着し、動きを試してみる。胸の辺りがわずかばかり無駄な空間があるがそれ以外は満足のいく出来であった。
 ただ、サーベルとマントには閉口した。サーベルには立派すぎる装飾が施され、あらゆる所に鍛冶師の技巧が目に付き、確かに素晴らしい一品だと分かるのだが、私が持つとアンバランスであった。そしてマントは、これだけは彼の装備していたものらしく、余りのも大きすぎて私がつけるとマントの裾がずるずると情けなく地を這い、歩くと時たま踏んづけてしまう。
 しかし、ないよりはましであろう。そう思い、私はズルリズルリと子供のように、あるいは新婦のように布を引きづりつつ目的の場所へと向かった。
 何より彼の薬品が混ざり合った匂いが染込んでいるのがこれだけで、それが嬉しかった。

「えっと……君も討伐隊に参加したいの?」
「そうですが何かおかしいところでも?」

 私が鋭い口調でそう言うと受付をしていた商人は黙り込み、配属される部隊とその集合場所が書かれたメモを手渡された。
 そこに着くまで、私は好奇の目に晒された。行く先々で私の姿を見ると小声で囁きあうのが分かった。それもそのはずで周りを見渡してもアルケミストの姿は中々見当たらず、私のように重武装に身を包まれたものなど皆無であった。
 私は顔を真っ赤にしてどしどし音を立てながら歩く。マントの裾を踏み転びそうになったときなど回りから失笑が漏れ、更に顔を紅潮させて辺りを睨んだ。
 部隊が集まっているであろうテントを見つけると、そこにカートが壊れるかと思うぐらいに置き
「ここに配属されたアルケミストです!よろしくお願いします!」
と怒鳴りつけた。
 メンバーを見渡す。騎士が二人、魔道士、女性陣は聖職者と狩人。皆が皆、呆けたようにこちらを向き驚いて作業を止めていた。

「あ、……あの、よろしくお願いします」

 自分が礼を欠いて何をしたのかが分かり、恥ずかしくなって俯きながらそう言い直すと彼らは大笑いをした。
9188getsage :2004/11/18(木) 17:30 ID:TBM7EqIQ
   @, , , ,, , , ,, , , ,, , , ,, , , ,, , , ,, , , ,, , , ,, , , ,, , , , ,, , , , ,
  '' "    今 日 は                    " '' ,,
 ミ       こ こ ま で 書 い た           ∧,,∧
⊂, , , ,, , , ,, , , ,, , , ,, , , ,, , , ,, , , ,, , , ,, , , ,, , , ,, , , ,, , , ,, , , ,,,つ,,゚Д゚ミつ
92名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2004/11/19(金) 15:51 ID:DssH3gfQ
作品も増えてるし、勿体無いからage。
93名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/11/21(日) 13:52 ID:Td77yyyY
ここの管理人です→ http://moo.ciao.jp/RO/hokan/top.html

リレーまとめサイトさんが閉鎖ということでこっちのサイトに臨時で置いておこうかと思ったのですが、
あちらでDLフリーになってるファイルを(暫定で一時的に)そのまま上げるのってやっぱイカンですかね・・?
本来ならR氏のBBSで聞くべき内容なんだけど、ここで需要がなければ向こうで許可をもらう必要もなく・・
(需要:こちらでHTMLを編集する期間にリレー小説がweb上にあったほうがいいかどうか)
ファイルが160もあるので全部の作業が終わるまでには結構かかると思われます。
一人でも需要があれば、R氏のBBSでお伺いを立ててみます。
9493sage :2004/11/23(火) 22:19 ID:jpZ7tZYc
↑とりあえず急な需要はナシということで。のんびりやります。
スレストップの要因になっちゃったかな、ごめんなさい。
(93っていう番号が嬉しいけどかの物書きさんではありません)
95名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/11/25(木) 00:46 ID:pwwTlLSU
>>93
そういえばそこのHPドクオ氏の小説の中の「渡せない指輪」リンク
ミスってるんだけど直してもらえませんか?
9693sage :2004/11/25(木) 09:34 ID:A/Jevm9c
>95
直しておきましたー教えてくれてありがとうございます。
97名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/11/27(土) 11:14 ID:X/m62JK.
>>83-85
涼しげな文章の流れと無駄のない構成に激しくGJ!(´∀`)b
戦闘場面も緊張感があっていいし、
後半の日常場面もほのぼのと描かれていていいなぁ、と感じました
98りんごの味は(4/1)sage :2004/11/29(月) 01:12 ID:mLprygCI
 フェイヨン東の森。
 そこで俺は本日数十回目のエルダーウィローの断末魔を聞いた。
 崩れ落ちる古木の化け物の残骸。
 飛び散るは古木の露と木目の細かい木屑。
 手応えの反動でしびれる右腕に顔をしかめながら俺は残骸の中からあるものを探す。
 古木の枝。
 それを折ると無条件でモンスターを召喚する事が出来る魔法のアイテム。
 だがその効果からロクなアイテムじゃない事は確かだ。
 その名前を聞いて良い顔をする者はほんの一握り程度だと思う。
 街中で枝を折り、生まれた一時の混乱を楽しむ心無い冒険者たちくらいだろう。
 ―――とはいえ今それを捜し求めてる俺もそんな一握りの中の一人なんだろーなぁ。
 とか、少し背徳的な事を考えながら俺は残骸の中から目的のものを見つけ、それをカートに放り込む。
 Wisが届いたのはまさにその時だった。
「青年、成果はどうかね?」
「今ちょうど11本目。会長の方こそサボってないだろーな?」
 Wis主の気と間の抜けた声を聞いて、疲れがどっと込み上げてきた。
 俺はカートの中からリンゴジュースを取り出すと、最寄の木にもたれるカタチで腰を下ろす。
「あふぉ!我輩たちは人生そのものがかかってるんだ、不眠不休不屈の精神で―――」
「でもさっき会長が寝てたってウヌーから報告があったけどな」
「……不屈の精神をなめるなよ青年!」
 なんて調子の良い精神論なんだか。
 目標本数と所持本数、そして今の調子を考えると軽く眩暈がする。
 本当に作戦遂行ができるかどうかすら怪しくなってきた。
「とにかく一度みんなで集合して合計本数を数えるとしようか」
「了解。ウヌーとサヌーの方には会長から伝えてくれ」
 言って、途切れるWis。
 俺は口内に広がるリンゴジュースの心地よい甘味を味わいながら、これからの事を少し考える。
 残り時間の事、会長たちの事、姉貴の事。
 そして今の自分の事。

 出てくるのはただため息だけ。
99りんごの味は(4/2)sage :2004/11/29(月) 01:13 ID:mLprygCI
 姉貴はおせっかいである。
 なにかというと姉という立場から、なんでも世話を焼きたがる。
 例えばお金に困ってるのならお小遣いあげるよ、とか。
 例えばハーブとポーションを交換してあげるよ、とか。
 例えば自分のお下がりの装備を貸してあげるよ、とか。
 ひどい時になると街中の公衆の面前でそんな事を言い出したりする。
 当然、周囲からはクスクスと笑い声やヒソヒソと話し声が聞こえてくる。
 今年で俺も成人となった。
 もう一人前のBS―――以前に一人前の人間だ。
 にもかかわらず、いつまでも半人前の弟としてしか見ない姉貴。
 知り合いからは仲のいいBS姉弟じゃないかと冷やかされるが。
 俺はそれがうざくて仕方なかった。
 そしていつからか俺は姉貴を避けるようになった。
 そりゃ連絡は取ってはいるけども。
 それでもいつも連絡を入れてくるのは姉貴の方。
 俺は俺でとにかく必要最低限の連絡を伝え、さっさと切る。
 そういった薄い関係を続けてもう1年ほど経つ。
 そんな姉貴の話を聞いたのはつい先日の事だった。


「姉貴が結婚する!?」
 日がやや西よりの傾いた午後、首都の一角で俺は隣の同業者の話に思わず声を上げてしまった。
 勢いで自露店商品のポーションが数本、倒れて割れる始末。
 一瞬何事かと周囲の時間が止まる。
 俺は慌ててムナック帽子を深くかぶり直し、声のボリュームを下げて続ける。
「いや聞いてねェよそんな話」
 御札の隙間から、再び何事も無かったかのように歩み始める冒険者たちを確認しつつ。
 隣の昔からの悪友に視線を戻して。
「ありゃ。これ話しちゃマズかったのかな」
 俺の意外な反応を見てか、少しばつが悪そうに赤髪を掻き揚げるケイゴ。
 本当に困ったような表情を作りながらも、ゆっくりと紫煙を吐き出しつつ。
「でもここいらじゃ結構有名な話だぜ?特に商人ギルドじゃ鏡とまで言われてるし」
「……鏡?」
「そ。鏡。ほらお前のアネさん、結構有名ギルドに所属してるだろ」
 摘んだタバコの先で宙に何かをなぞるケイゴ。
 なぞった先にあるのは目の前の噴水付近に立てられたギルドフラッグ。
 姉貴の所属するギルドのエンブレムだ。
 俺もその名前は商売上、職業上よく耳にする。
 ここらじゃ“資産家ギルド”ってな事でも知られている。
「結婚相手はそこのギルドマスターだって話だし」
「ま、マスターとかよ!」
 あやうくすっ転んでカートの中身をぶちまくところだった。
 だがお構いなしにケイゴは少しうっとりしながら話を続ける。
「しかも話だとマスターの方からプロポーズされたらしいぜ」
「……けど、なんでお前が知ってて弟の俺は知らないんだよ?」
「そんなん俺が知りてぇっつの。
 しかしさっすがカンナさん、玉の輿とは人生の勝ち組だよなぁ」
 なるほど。
 それで商人の鏡って事なのか。
 と、思ったのは落ち着いたずいぶん後の話で。
 いきなりの話に俺の頭はついていけてなかった。
 で、焦りの汗混じりに相手も構わず出た台詞はといえば――――――
「……ってまぁ、あの姉貴の事だしおせっかいが過ぎてすぐに離婚するだろ」
 我ながら動揺してると感じれる声色。
 おまけに自分に言い聞かせるようにも感じられる発言。
「いや。そいつはどーかな、まつり君」
 身の毛のよだつケイゴの含み笑い。
 俺の心境を察しての事であるのはまず間違いない。
 この野郎。
「お前の知ってるカンナさんはあくまでアネさんとしてのカンナさんだ。
 ただ、他の男から見たカンナさんはお前と同じように見えるとは限らないんだぜ?
 それに知ってるか?カンナさんってミス・プロンテラってここいらじゃちょっと有名なのとかよ」
「でも姉貴は姉貴だ。必要以上のおせっかいを受ける事の苦しみを知らないからお前は―――」
 言って、ケイゴの次の言葉に黙らざるを得なくなった。
 ……怒りで。
「俺だったら喜んで一発OKだけどなww優しいし胸もでかいしwww」
「ガッ」
「うわ、なにすんだお前!」
 とりあえず。
 隣のケイゴの露店商品を一蹴しとく。
 ケイゴといえば悲鳴を上げながら慌てて散々になった商品をかき戻す。
 転がって人ごみの中へ姿を消すリンゴ。
 専用の壷が割れてバラバラに散らばった古木の枝。
 倒れて横に並べてあったカードが引っ付いてしまったブーツ。
 フン、自業自得だ。いい気味だ。
 俺はそれを横目に自露店をさっさと片付け、商売エリアを去ることにした。
 できれば今の話を聞かなかった事にしたいかの様に。


「……そろそろ親離れな時期だぜ、まつり」
 その場を去る俺のカートを引く後ろ姿を見、少し苦笑を浮かべながらケイゴはつぶやく。
 もちろん、俺にその言葉が届くことも無く。
100りんごの味は(4/3)sage :2004/11/29(月) 01:14 ID:mLprygCI
 気づけば俺はプロンテラから離れた、平原を歩いていた。
 先程のケイゴの言っていた、姉貴の結婚話を頭の中で巡らせながら。
 もちろん、考えたって結論が出るはずも無い。
 なによりあの話口調からは決定前提の話なのだろうし。
「……やべ、気づかないうちにフェイヨンの迷いの森近くまで歩いてたのか俺……」
 誰に言うでもなく。
 ポツリ零すは事実確認の言葉。
 なにやってんだかな、俺は……。
 無意識だったとはいえ自分の歩いた距離を改めて想像すると、疲れが遅れて沸き起こってくる。
 同時にここぞとばかりに情けない腹の音も響く。
「そういや、露店中で昼飯食べてなかったな」
 違和感を訴える腹をさすりながらそのままその場に腰を下ろす俺。
 そして自然とカートへと手を伸ばし、なにか食べ物を手探りで探して。

 姉貴が結婚する。

 それはあまりに唐突だった。
 ってまぁ俺から極力避けるようにしてたから当然っちゃ当然なんだが。
 小さい頃の思い出の中には必ず姉貴がいた。
 手を握ってたり。飯を作ってる背中を見てたり。一緒に泣いてたり。笑ってたり。
 なにをする時も必ず隣には姉貴がいた。
 いつくらいから、それが煩わしく思えてきたのかは憶えてない。
 ただ、姉貴の中の俺はいつまでもガキであり弟であり足枷であり。
 何かをきっかけにそう思い始めてからだという事はしっかりと憶えてる。
 だからこそ姉貴にギルドに一緒に入ろうって誘われた時、俺は首を横に振ったんだっけか。
「なに勝手に結婚なんて考えてんだ……」
 本日何度目かのため息。
 掴んだリンゴを怒り任せに齧りながら、モヤモヤイライラを言葉にして。
「相手のギルドマスターもなにOK出してんだよ、もぉ!」
 止まる事をしない口はどうしようもない苛ついた言葉を吐き。
 そして齧ったリンゴを飲み込んでいく。
 今の俺にとって甘酸っぱいリンゴの味すらも怒りの糧になって。
「つか酸っぱいんだよ!このクソリンゴ野郎!」
 そして勢い任せに目の前で仲良く戯れてたポリンに向かって投げつける。
 突然の奇襲に驚いたように引き離れるポリンたち。
 が、その正体がリンゴだと知ると、俺の様子を伺いながらおずおずと転がったリンゴの場所に集まり
 そしてなかよく食べる。
 のどかで微笑ましい光景。
 けれどもやっぱりイライラは修まるわけも無く。
 再び俺の口は怒りの言葉を吐き続ける。
 ……はずだった。
「大体そういうのはまず身内やらに相談するのがスジ――――」
「その通りだ青年ッ!」
「う、うわーっわっわわうわわっ!!」
 突然の背後の草木を掻き分ける音と共に返って来た同意の声。
 そして情けない驚き声を上げてしまった俺。
 先程のポリンたちの気持ちがなんとなく分かった一瞬でもあった。
「青年よ、君は今ものすごく良い事を言った」
「は?」
 慌てて振り向いた先には、腕を組んで深々と頷くプリーストがいた。
 その足元の茂みからはサングラスをかけた、いかにも怪しい片膝をついたハンターとアサシンの姿。
 三人ともあちらこちらに草木で引っ掛けたと思われる傷を残して。
「結婚するのは確かに当人たちの自由だな。うん。自由だ」
「……いや、あの」
「でも残された、人生をそれだけに捧げた我々一同はどーしてくれようか!あぁん!?」
 突然見知らぬ人が現れて。
 その見知らぬ人にいきなり怒声で迫られて。
 なおかつその見知らぬ人は何故かマジ泣きしてて。
 そして俺は腰を抜かしてその場から逃げられなくなって。
 で、情けない格好で出た言葉はといえば。
「誰?」
 一時の間。
 あたりにポリンの跳ねる音が響いて。
 数秒後、突如変態三人組の頭上に出現する“!”エモーション。
「OH!こいつぁは失礼、つい君の独り言にエキサイトリアクションしてしまったヨ」
 てへっ☆メンゴメンゴ
 てなウィンク&舌をちょこっと出して、鼻先で片手を垂直に立てる変態。
 腰を抜かしてなかったら間違いなく逃げるか殺してるところだったんだが。
「青年よくぞ聞いてくれました」
「いや……よくぞもなにも誰でも普通は聞くぞ」
「失礼ながら君の独り言を聞いてしまったんだが、それは多分カンナ様の事じゃないかね?」
「え……」
 なんだこいつら。
 予想外の変態の話に顔をしかめ、思わず身構える。
 そんな俺の様子に変態プリーストはなぜか満足そうに見ていた。
 少しの間をおき、再び変態は口を開く。
 それも嬉々として。
「我々は故郷を捨て、家庭を捨て、冒険する意味を捨てた!」
「は?」
「そして、残りの人生すべてをカンナ様に捧げた非公認組織!」
 そこで一旦区切って三人は茂みから大股でガサガサ出てきて。
 そして決めポーズ。

「会員No0、会長!」
「会員No1、ウヌー!」
「会員No2、サヌー!」


「我ら、カンナ様を見守る会!」
101りんごの味は(4/4)sage :2004/11/29(月) 01:15 ID:mLprygCI
 突然が突然の上に重なっていく今日。
 だがそれを処理・理解するにはあまりにも“次の突然”のペースが速すぎた。
 だから結局何も理解できていないまま、次々に訪れる突然に対峙して行かざるを得なかった。
 結果。
「カンナ様を……見守る会?」
 言われた事をオウム返しするくらいが精一杯だった。
「押忍!」
 無駄に高いテンションで応えてくる変態プリ。
 いちいち声量が高いので軽い眩暈を覚えるほどだ。
「青年も知っているだろう。プロンテラを拠点とするギルドの中の1つに居られる美しきBSの事を。
 あまりの美しさに卒倒する輩も多く、一部では誘惑のミス・プロンテラとも呼ばれているスンゲェお方ぞ!」
 興奮交じり、悦交じりに語る変態。
 一部の呼ばれ方は知らないが、あきらかに姉貴の事であることは間違いない。
 つか、まず名乗った組織名があきらかに……。
「……いや、カンナは俺の――――」
「ガッ!」
 いきなりの飛び膝蹴り。
 平野の斜面を力の法則でごろごろと転がり落ちていく俺。
 まじで意味が分からねぇ。
「いってぇな、何すんだこの野郎!」
「我々の前でカンナ様を呼び捨てにするとは何事さ!?あぁん!?」
 じんじんと痛みの残るアゴを片手で抑えながら、当然殴り返そうと起き上がる。
 が。
 目の前には腕を組み、えらく鋭い眼つきで見下ろす変態プリとサングラス兄弟。
 不覚ながらも少し腰が引けた。
「それに俺のじゃない。俺たちの、でしょ?」
「……うるさいよ、変態」
 気分の悪くなるテンションについていけず、もううんざり気味で。
 けどもちょっとこのまま呆れてるのも悔しくて。
 とりあえず精一杯の反撃を口にする。
 そう、例の話だ。
「ハッ。見守る会だかなんだか知らないが残念だったな。そのミス・プロンテラは近々結婚するんだぜ」
「うん知ってるよ」
 ケロリと言っちゃった変態。
 予想と180度違う答えに再び呆気に取られる。
 え、結婚しちゃったらファンクラブも熱が冷めるんじゃないのか……?
「青年。我々の組織をあまく見てもらっては困るぞ」
「……」
「先刻も言ったろう。我々は自分の人生をすべてカンナ様に捧げてるんだぞ?
 それ即ちいつ何時もカンナさまを見守り続けておるのだ」
「ぇ」
 ぇ。
 まさかこいつら……
「雨の日も!風の日も!サーバーメンテナンスの日以外、そりゃもう24時間態勢でッ!」
「それって犯罪じゃねーか!!!!!!」
 サーバーメンテナンス?
 じゃない、じゃない。
 マジでプロンテラ騎士団に叩き出してやろうか。
 とか、この時本気で思ったのは言うまでもないな。
「それ故我々は当然その結婚話はすでに耳に入っているのだよ青年」
 偉そうに言える事じゃないだろ。
 と言いたかったが、先ほど以上に疲れが出てもはやリアクションするのもおっくうだった。
 つかなんで俺はこんなのに絡まれてるんだろうか。
 呆れ果てた末に、もはやため息すら出ない。
「だからこそ我々はこうして―――――」
 言って、変態の言葉が一瞬途切れる。
 何かを取り出そうと腰の道具袋に手を伸ばしていた。
 この時俺はちょうど腰を下ろしてる状態から変態を見上げるカタチ。
 そして変態の後ろには先ほどよりも大分傾いている日の光。
 何を取り出そうとしているのかは分からない。
 だが後光効果により、目の前のプリーストの半笑いの表情が今でもえらく印象的だった。
 そして男が取り出したものは……
「その我々から大切なものを奪おうとする者に天誅を下そうとしているんだ」

 俺の中で何かが切れる音がした。
 今思えば俺にとって、まさにこの変態の言葉が転機の訪れだった。
 良い意味でも、悪い意味でも。
 そして思った。
 何かを失いそうになった時、ただただ悩んでいるだけじゃ何も解決しない。
 むしろ俺は悩んで頭の中で何かを解決する力なんざ持ち合わせてはいない。
 そんな馬鹿がこの時、出来ることはと言えば――――

「でも、まだ実際は4本しか集まってないのが現実なんだよねwwwwwwwww」
 姉貴はおせっかいである。
「……100本」
 なにかというと姉という立場から、なんでも世話を焼きたがる。
「は?」
 今年で俺も成人となった。
「100本で足りるかっつってんだよ」
 もう一人前のBS―――以前に一人前の人間だ。
「え、いや……100本もあれば小さい街だったら半壊すら出来るが……」
 にもかかわらず、いつまでも半人前の弟としてしか見ない姉貴。
「じゃあ俺が枝を100本集めてやる」
 俺はそれがうざくて仕方なかった。
「だから―――」

 
 だが、それ以上に。

 

「――――俺も仲間に入れろ」

 
 姉貴が誰かに取られるのはもっとうざくて仕方なかった。
102名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/11/29(月) 01:16 ID:mLprygCI
先方の筆者様方の小説に刺激を受けまして初投稿させて頂きます。
とはいえ少しはしゃぎ過ぎたか、思った以上に長くなりすぎて_| ̄|〇
挙句に終わりきってない始末。
さらには物語中盤まで来て♀キャラがまだ一人も……(;´Д`)
しかし今まで読者側として楽しませてもらってましたが
実際に自分が書いてみる側になると色々な事が発見できるのですねぇ。

もうちょっと書き続けながら、色々と勉強させてもらいます(`・ω・´)
103名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/11/29(月) 17:22 ID:7d4u/iMw
>>102
楽しく読ませていただきましたよ!
まつり君のカンナ姉に対する複雑な気持ちがすごくよく伝わってきて良かったです〜。
更にカンナ様を見守る会の面々が濃すぎて…こういうキャラ大好きですw
続きが気になる!続編、楽しみに待ってますね!がんばれ〜(`・ω・´)
104名無しさん(*´Д`)ハァハァsage♂BSと♀モンク :2004/12/01(水) 18:15 ID:YzqzDshs
プロンテラの街中は、今日も冒険者で溢れかえっている。
その喧騒から離れた所に建つ、少し背の低い石壁の上に、女モンクが座り込んでいた。
わざと人通りの少ない方を向いて、背中を丸めて座る姿は、
お世辞にも楽しそうとはいえなかった。
彼女は退屈そうに足をぶらぶらとさせると、
自らの膝を見つめるように視線を落として、唇を尖らせた。
「嘘吐き」
「だーかーら、悪かったってば!」
彼女の声に答えるようにして、壁の裏側から男の声が上がった。
ブラックスミスの青年が、壁に背を預け、モンクの傍に立っていた。
その顔には謝罪の色がありありと浮かんでいるのだが、モンクは気にも留めない。
彼女はちらりと彼を見ると、また視線を膝へと向けてしまった。
「クリスマス飾り、楽しみだったのになぁ…」
ぶらぶらとさせた足の踵で、彼女は石壁をぽんぽんと蹴ると、
ブラックスミスを睨み付けた。
「アンタが今週だって言うから信じてたのに」
「だって、この時期に何か祭りがあるって聞いたら、クリスマスだって思うじゃんか!」
「思うよ。だから騙された」
「騙したんじゃねえってば…」
イライラとした様子でブラックスミスは頭を掻いた。
105名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/12/01(水) 18:17 ID:YzqzDshs
カプラサービス主催のイベントがあるという話を、ブラックスミスが知ったのが数日前。
時期的にクリスマスだろ、と早合点した彼は、
その日にある蚤の市にも顔を出さない事にして、
モンクとあちこちの町のデコレーション、イルミネーションを見に行く約束をしたのだが。
「来週だったなんてなー…」
ブラックスミスがそう言うと、
モンクはまた膝に目を落とし、小さな声で嘘吐き、と呟いた。
「つまんない」
「駄々っ子かテメエは」
大人しくしていたブラックスミスもいい加減頭にきたのか、
眉間に皺を寄せてモンクを見上げた。
「大体、来週になりゃ見れるんだからいいだろ」
すると、モンクはぱちぱちと瞬きを繰り返した後、泣きそうな顔になってしまった。
ブラックスミスが慌て出す。
「んな、泣くような事じゃねえだろって…」
「ヤダ」
彼を無視して、モンクは呟いた。
「ヤダヤダヤダ、今がいい!」
その途端、ガンガンという音と共に、
壁に寄りかかるブラックスミスの背中に硬い衝撃が響いた。
「何やってんだよ!」
ブラックスミスが覗き込むと、
モンクはそれこそ子供が暴れるように、石壁を踵で激しく蹴りつけていた。
彼女の靴はそれなりに丈夫に出来ているが、もちろん踵落し特化というわけではない。
「馬鹿っ、踵痛めるぞ」
「そんなやわじゃないわよ!」
「じゃあ壁壊れるから止めろって…」
「そんな馬鹿力でもないわよ!」
「あーもうどうでもいいから止めろってば!」
ブラックスミスが怒鳴りつけると、モンクの足がぴたりと止まった。
モンクはしばらくブラックスミスの顔を睨み付けていたが、やがてぷい、と顔を背け、
ブラックスミスがいる側とは反対の壁向こうに飛び降りた。
「お前な…」
その先に何を続けて言いのか分からなくなり、ブラックスミスは口を閉じた。
106名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/12/01(水) 18:18 ID:YzqzDshs
モンクは壁に寄りかかると、大きく息を吐いた。
「…今日が良かったのに」
「…何でさ」
彼女と背中合わせになるようにして、ブラックスミスも壁に寄りかかる。
背中に触れているのは冷たい石壁なのだが、
そうすることで、仄かにモンクの体温を感じられるような気がした。
「だってアンタ、来週は蚤の市に行っちゃうんでしょ?」
唐突な問い掛けに、ブラックスミスが首を傾げる。
「今日行かなかった分、楽しんでくるつもりだけど…」
ブラックスミスがそう答えると、
モンクはしばらく黙り込んだ後に、そしたら、と呟いた。
「そしたら、私一人で見に行く事になるじゃない」
彼女はそう言って、その場に座り込んだ。
「そんなのつまんない」
そのままモンクは黙り込んでしまった。
ブラックスミスはしばらく考え込んだ後、がりがりと頭をかき、
あー、と困ったような声をあげた。
「つまり、それはあれだな。俺と一緒に見に行きたいって訳だ」
「一人で行くのがつまらないって言ってるだけじゃん」
「素直じゃないねー…」
そう言いながら、ブラックスミスは壁から背中を離すと、
壁越しにモンクの頭を覗き込んだ。
ブラックスミスの胸元辺りまでの高さしかない壁だから、
背伸びせずとも、モンクの姿を見ることが出来た。
子供のように体を丸めた彼女を見て、ブラックスミスは微かに笑みを浮かべた。
107名無しさん(*´Д`)ハァハァsageおしまい :2004/12/01(水) 18:18 ID:YzqzDshs
届かない事を分かった上で、ブラックスミスはモンクの頭に手を伸ばした。
「いいよー、俺来週も蚤の市行かない事にするから」
モンクは険しい顔でブラックスミスを見上げた。
「別にそんな事頼んでないじゃない」
「違うって。俺があちこち見たいだけ」
だからさー、とブラックスミスはモンクの鼻先で手をひらひらと動かす。
「付き合ってよ、一人じゃつまんないからさ」
だから、とブラックスミスはひらひらとさせてた手を止めた。
「こっちおいで。こんな状態じゃ話も出来ない」
彼は優しく微笑むと、モンクに向けていた手を、差し伸べるような形にした。
モンクが困ったような顔をして、おずおずと手を掴みかけた。
「化け物が出たぞー!」
ブラックスミスの背後で、怒声が上がった。
「って、イベントってこれかよ!」
良いところで邪魔を、とブラックスミスは内心で舌打ちした。
「ほら、お前もさっさと…」
ブラックスミスが壁の反対側を覗き込むのだが、そこにモンクの姿は既にない。
彼女は軽々と跳躍して、一気に壁に乗りあがると、
ブラックスミスの脇に飛び降りて走り出した。
「ほら、さっさと来る!」
「へいへいっ!」
投げやりに叫んで、ブラックスミスも後を追う。
「援護はよろしくね」
「冗談。俺が主戦力、お前が援護」
「言ってくれるじゃない、転んだって知らないから!」
そう叫んで怒声の上がった方に走り出すモンクは、
既に艶やかな闘志に彩られていた。
「…転んだら、ただで起きちゃ勿体ないよな」
移動資金でも稼ぐか。
そう呟いて、ブラックスミスは斧の柄に手をかけた。
108りんごの味は(7/5)sage :2004/12/07(火) 01:58 ID:2XLfiWLk
 仲間に入れろ。
 一時の沈黙の中、やけに自分の言った台詞が頭の中に残る。
 だがそれは別に未だ迷いがあるからという訳じゃない。
 かといってヤケクソになっている訳でもない。
 おそらく生まれて初めてだったからだろう。
 自分でなにかをする為に、なにかを決断したのが。

「あ、いや……仲間になってくれるのはこちらも大助かりなんだがな、青年」
 沈黙を破ったのは未だ呆気にとられた表情で俺を見る変態プリ。
 俺が会員になりたいと言ったのがそんなに驚いたのか。
 それとも俺の勢いに飲まれたのか。
 とりあえず元々弛んだ表情がより弛んでいる。
「入会するにも順序ってのがあってだな、入会テストを受けてもらう事となっとるんだ」
「テスト……?」
 入会テスト、だ?
 これまた奇想天外な展開になんともいえない汗が一滴頬を伝う。
 その様子にやっとこさ調子を取り戻したのか、またいつもの表情に立ち直る変態。
 そして喉を鳴らせて笑いながら一つの日記帳を取り出す。
「カンナ様を愛する者ならば、最低限知っておかなきゃならない基礎問題から
 自称カンナ様マニアもご満足できる超難問まで幅広く扱っている入会テストだ」
 俺の鼻先に突きつけられる、汚れてボロボロになった日記帳。
 その見出しにはこれまた汚い字で『カンナ様の秘密100題』の文字。
 思わずそのまま奪い取って破り捨ててやろうかという衝動をぐっと堪えて。
「まぁ見たところ青年のカンナ様愛してる度は大体ピッキ程度だと思う。
 だから本来は80%正解で合格のところをサービスで40%正解で入会を許可しよう」
 ピッキ……
 いまいち理解に苦しむ単位だ。
 とりあえず深く考えるのはやめ、やめ。
 とにかく俺はこの入会テストをクリアすればいいんだ。
 このテストさえクリアすれば、俺は―――――
「どうでもいいからさっさと始めてくれ。俺もあんたらも時間もないんだろ」
「え……予習も無しにいきなり始めちゃってもいいんですか?」
 わざともったいぶる様な口調の変態。
 だがタイムリミットの事、これからの枝集めに費やす時間を考えると
 少しの時間も惜しいように感じてしまう。
 もう俺は自分の選んだ道の前に立っているんだ。
 そう考えると尚更に焦りとイライラが生まれてくる。
 だから俺はもう一度変態に言う。
「いいからはよ始めろっつの!」

 *********************

 数十分後。
 その場は一時騒然となった。
 んまぁ騒然としてるのはたった3人だけだが。
「ぜ、全問……正解……」
 当然の結果。
 っていうのもなんだか気が引けるが。
 とりあえず弟だしなぁ……。
「我々がやっとの事で入手した右胸のホクロの問題も正解してるぞ!
 それだけじゃない!カンナさんの趣味、好物、好きな色もすべて正解!?
 何よりスゲェのが3サイズが我々の調査数(完璧)と誤差わずかに1mm!!」
 なぜか盛り上がる変態3人組。
 入会は確実となったものの、なんだか複雑な気分で俺はその様子を眺める。
 しかし。
 ホクロやら趣味好物といった問題は別として。
 3サイズの問題に関してだけはケイゴにお礼を言っておくべきか。
 ……すっごい複雑だが。
「すごいな、君すごいよ!かなりのカンナ様マニアだね!!
 ここまでくるとあれかい、ストーカーかい!?キモいな君は!!」
 絶対に言われたくないヤツに言われるとこうも腹が立つものなのか。
 言われ放題に殺意を抱きながらも改めて本題を口にする。
 俺の選んだ道へ、一歩を踏み出す為に。
「―――とりあえずテストは合格、なんだな?」
 その言葉を待っていたかのように変態プリは改めて俺に向き直る。
 そしてゆっくりと俺との間にその腕を差し出す。
「いいだろう。我輩の名を以って入会を許可しよう」
 握手……ってことなのか?
 その差し出された腕の意味を考え、理解し、俺もゆっくりと腕を差し伸べる。
 こうして俺は手に入れた。

「互いの敵を討つ為に――――」


 ……会員No.3の権利を。
109りんごの味は(7/6)sage :2004/12/07(火) 01:59 ID:2XLfiWLk
 昔まだ姉貴と一緒に首都で露店を並べてた頃の話だ。
 なかなか客が来なくてウトウトしてた俺と姉貴に飴をくれた商人がいた。
 隣で同じくして露店を開いていた、歳もそこそこなヒゲを生やした商人。
 一時の出会いとはいえ、俺ら姉弟の暇そうな様子に声をかけてくれたらしい。
 商人は言う。
 暇つぶしに面白い話を聞かせてあげよう、と。
 突然声をかけられて少しとまどっていた俺と姉貴だったが。
 もらった飴を口の中に転がしながら、いつしか商人の話に聞き入っていった。
 話の内容はもうあまり憶えてないのだが。
 ただ、アルベルタよりももっと東の国アマツの昔話だったと思う。
 豪邸に住んでいた金持ちがどうとか。
 そこに仕えていたメイドが皿を割ったとか。
 井戸がどうとか。

 俺がカンナ様を見守る会会員No.3の資格を得てから数時間後。
 俺たち4人は集まり、個別に集めてきた枝をじっと見つめていた。
 何度数えても、地面に並べられた古木の枝の本数は25本。
 数え間違いは絶対にない。
 なにせかれこれもう10分近くも数え直しているわけだし。
 最後の1本、25本目を数え終わってからしばしの沈黙。
 全員の視線は真っ直ぐ、だた足元の枝に向けられて。
 そして俺は静かに口を開く。
「……会長」
「んぁ?」
「さっき俺と会った時会長は何本所持してたっけ」
 もちろん俺は知っている。
 だがあえて会長の口から確認がしたかった。
「えっと、たしか6本だったっけか」
「4本だったよな」
「……そうだっけ?」
「で。俺が今日集めた本数は11本だ。続いてサヌーが5本、ウヌーが4本集めたらしいな」
 サングラス兄弟のコクコクと耳には届かない返事が返ってくる。
 俺はそれを横目で確認する。
 そして一息ついてから、大きく息を吸い込む。
 腹いっぱい空気を吸い込んだ後、俺は――――――
「あんだけ時間かけて、なんで1本しか拾ってないんだよ!!!」
 とにかく出せる限りの大声で目の前の変態に怒声を浴びせる。
 静かな森の中の澄んだ大気が一瞬震えた瞬間。
「違うの、ちーがーうーの!」
「何が違うんだっつの!」
「青年と会う昨日からずっと枝探し続けてたから、ちょっと一休みしてたの!」
「昨日から探してても5本かよ!」
 不眠不休の精神はどこにいったんだか。
 散々偉そうに大口叩いてたのはこの口か!この口か!
 と、言わんばかりに目の前の変態プリのアゴに砕けんばかりの握力を見舞う。
「我輩は聖職者だ!青年やウヌー、サヌーのような戦闘職じゃないのだよ!」
 アゴにギリギリと力を込められる腕を必死に振り払おうと一生懸命抵抗する会長。
 だが自分でも認めるように聖職者。
 所詮は俺の力を込めた腕を振り解けるわけもなく。
 変態が泡を吹くまでにあまり時間もかからなかった。
「ったく、本当にギルドマスターに天誅を下す気あるのかよ……」
「それはあるぞ青年。だからこうして我々は不眠不休不屈の精―――」
「ガッ」
「あぁん」
 本日何度目かのため息。
 転機より現れた道へ勇み足を踏み入れたが一寸先は闇。
 さらに不安と焦りしか存在しない獣道だった。
 もうあれから大分日も傾いてしまってきている。
 静かな森だった為もともと肌寒い透き通った空気だったが、さらに冷えてきた気がする。
 こんな調子じゃ残り75本をかき集めるのは骨が折れる事は必至。
 だがモタモタしているわけにはいかない。
 タイムリミットは刻一刻と迫っているのだから。
「青年よ」
「……まつりだ」
「うむ。青年よ、愛しきカンナ様の事が気になって焦る気持ちも分かる」
 こいつ、流しやがった……
 というかなんで馴れ馴れしく俺の肩に手を置いてえらく男前な顔してるんだ?
「だがそれ以前に気持ちだけが先走りすぎて、作戦遂行前に己の体調を崩してしまったら元も子もないだろう?」
「ま……まぁ、な」
 急にまともな事を言い出したりする変態。
 どうにもそのテンションの切り替えについていけずにいる俺。
 まぁ、まだ会って間もないのだから仕方ない事もあるんだが……。
 とりあえず俺はジト目を向けたまま頷いて応える。
「――――なわけで、だ。青年」
 が、また表情を一変させる変態プリ。
 そして同時に辺りに響く下品な腹の音。
 もちろん腹の主は俺じゃない。
「今日は遅いしメシを食べに行こう。うん行こう。さぁ行こう。やれ行こう」
「はぁ!?」
 え、この変態はいきなり何を言い出すんだ?
 思わぬ展開にまたしても呆気にとられる俺。
 だが気づいた時は寡黙なハンターとアサシンに両脇をしっかりと押さえられていた。
「ちょ、ちょっとおい!枝は……作戦遂行準備はどーすんだよ!」
「うはwマジ久しぶりフェイヨン料理wwwつかイモじゃない夕飯自体超久しぶりwwww」
 変態プリはいつの間にやら片手にパンフをしっかり握って歩き出す。
 舐め回すように紹介されたフェイヨン料理を探し始める始末。
 そしてその後に続くように俺を引きずって歩いていくサングラス兄弟。
「さぁ新しい同志との出会いを祝って今夜はパァーっと行こうじゃないかね!」
「お前ら愛しのカンナ様はどーすんだよ!こんな事やってる間にも―――」
「青年。ちなみに我輩たちは今まさに食べ盛り真っ最中だ、しっかり財布の中身を膨らませておけよ」
「何で俺が奢らなきゃいけないんだよ、おい!」

 結局この日は散々フェイヨン料理を食べれる店という店をはしごさせられた。
 おかげでコツコツと貯めていた生活費を丸ごと持っていかれる最悪の日だった。
 あまりの悔しさに途中から俺も自棄食いを始めるくらいに。
 だが。
 それは俺の中にまだ“ゆとり”があったからだと思う。
 確かに時間がないことは事実だ。
 けれども、俺にはまだ作戦遂行実現にあてがあった。
 昼間の悪友の露店商品を思い浮かべながら。
 だから地酒を飲みすぎて倒れてしまってもその表情はニヤけていたんだと思う。

 ただ。
 ニヤけてた理由はそれだけじゃなかったかもしれないが。
110りんごの味は(7/7)sage :2004/12/07(火) 02:00 ID:2XLfiWLk
「……」
「……」
「……」
「……え?」
 昨日に続き、雲ひとつない快晴。
 今日もまた首都プロンテラはいつものように冒険者たちの会話や喧騒で賑わっていた。
 そんなプロンテラの、あるカフェテリアの片隅。
 そこから聞こえてきたのはなんとも間の抜けた返事だった。
 コダマはテーブルを挟んだ目の前の♀BSのそんな反応には慣れていた。
 慣れていたが。
「またボーっとしてたのアンタ!?」
 やっぱり性格上キレるのだった。
 あまりにも両手を強くテーブルに叩きつけたせいか、並んだ二人分のコーヒーカップが一瞬宙に浮く。
 怒声と騒音。
 そして到底♀聖職者とは思えないコダマの様子に周囲の客の視線が集まるのは当然の事で。
 だが、どこぞのBSの様にムナック帽子を深くかぶってやり過ごす程コダマは温厚ではなかった。
 むしろ威嚇をするような目つきで視線を払い除ける。
「あぁごめんごめんコダマちゃん。結婚の話だったね」
 ♀BSはそんなコダマをなだめる様に話題を元に戻す。
 あくまでニコニコ顔のマイペースで、だが。
「だからアンタ結局マスターと結婚するかどうかって聞いてるんでしょーが!
 仲人係(面倒役)の私の身にもなってよ!!」
 興奮そのままで視線を♀BSに戻しつつ。
 いつまでもハッキリしない様子に後ろ髪を掻き揚げて。
 こぼれてくるのは深い、深いため息。
「ねぇカンナ」
「うん?」
「とりあえずOKなりNOなりいい加減返事をあげなよ……プロポーズからもう4日も経ってるよ?」
「……うん」
 尚も相変わらずなカンナの反応を見ながら、コーヒーを口にする。
 そして口内に広がる独特の苦味に眉をひそめる。
 砂糖はすでに5杯は入れてるのにまだ苦いらしい。
「カンナだってマスターの事は好きなんでしょ―――ていうか、そりゃみんなもう知ってるし」
「や、やさしいし、いい人だしね。マスターさんは」
「じゃあ早く返事する!」
「う……」
 コダマのストレートな質問に少し困ったような表情を浮かべるカンナ。
 でもやっぱりニコニコ顔は崩さない程度に。
 ただ。
 少し落ち着かないのか、意味もなく摘んだスプーンでコーヒーをかき混ぜる事は止めない。
 進展なし、か。
 さらに砂糖を入れ何とか飲めるようになったコーヒーをすすりながら、コダマはしばらくそんなカンナの様子を見ていた。
 正直コダマも焦っていた。
 返事を今か今かと待つ幼馴染のギルドマスターの、日を追うごとにやつれていく姿。
 気の弱い性格だからこそ、気が気じゃないのだろうと思う。
 かといって肝心のプロポーズした相手もこんな調子だ。
「まつりクンだっけ?」
「え?」
 突然自分の弟の名前が出た事に驚くカンナ。
 スプーンを動かす手が止まった事をチラッと確認しつつ、コダマは続ける。
「アンタの弟よ」
「あ、うん。まつりだよ」
「どーせブラコンなアンタの事だから彼が原因でしょ?」
「ブラコンて、そんなんじゃないってば」
 おいおい。
 思わずツッコみそうになるのを堪えて。
 口をつけていたカップをゆっくりと受け皿に下ろす。
「彼、確か今年でハタチでしょ?
 もうアンタが面倒見なくてもやっていける歳じゃない」
「……」
「それにね。男の子ってぇのはいつまでも身内の世話を受けるって事が
 あまり気分のいいものじゃないって、アンタ知ってる?」
 一瞬寂しげにコダマから視線を下ろすカンナ。
 カンナの中では、やはりまつりはいつまでも可愛い弟なのだろう。
 だが結果的にカンナの結婚の決断を鈍らせているのは、まつりが原因である事は間違いない。
 酷な言い回しをすれば“枷”となっているのは明らかである。
「……でもねコダマちゃん」
 ゆっくりとカンナは口を開く。
 目を閉じながらひとつひとつ言葉を選ぶように。
「まつりは私のたった一人の家族なのね。
 だからやっぱり、まつりを置いて私だけ幸せにはなれないのね」
「だったら―――」
「だから。
 せめてあの子が先に幸せを見つけられてから返事をしようって考えてるのだけど……」
 言って、静かにカンナの口は閉じる。
 もちろん相変わらずのニコニコ顔で。
 そしてコダマの深いため息がそれに応えて。
 進展を望んだコダマのストレートな話の持ちかけだったが、相変わらずの模範的解答にふりだし戻り。
 そのまま聖職者は頭を抱えてテーブルに突っ伏す。
「あぁ……一体何年かかる事やら……」
「ごめんね、コダマちゃん」
「アタシに謝ってどーする、マスターにでしょ」

 『本日も進展なし』
 すっかり冷めてしまったコーヒーに砂糖を入れ、無気力にスプーンでかき混ぜながら
 コダマは今日の日記の見出し文を頭に思い浮かべていた。
 せめて“協力者”の方は上手くいっている事を切実に祈りながら。
111102sage :2004/12/07(火) 02:15 ID:2XLfiWLk
またしてもお目汚し申し訳ございません;
やっとこさカンナさんを……というか♀を登場させられたのですが。。
もう少しだけ続く事になりそうです。
もうしばらく電波のお付き合いよろしくお願いします(;´Д`)
>>103
よもやこれに感想レスを頂けるとは思ってもいませんでした(ノ∀`)
初投稿ってな事もあって凄く励みになります;
コケない様に頑張らなくては……

物語をまとめる文章力がほすぃ_| ̄|〇
112どこかの166sage :2004/12/07(火) 04:58 ID:ny.k3g0o
|∀・) 覚えているでしょうか?
|∀・) 運命の糸が見えるアコきゅんとモンク師匠の事を。
|∀・) 今日はモンク師匠のお仕事のお話です

壁|つミ[駄文]

|彡サッ
113どこかの166sage :2004/12/07(火) 05:00 ID:ny.k3g0o
 仕事をするとタバコが吸いたくなる。
 こんな星の綺麗な夜は特にだ。


「師匠ぉ〜。また仕事サボったでしょう!
 今日、教会の人が怒鳴り込んできましたよ!!」
 家に帰るなり、弟子たるアコきゅんがエプロン姿で説教を始める。
 いつもならたかが弟子と師匠面できるのだが、エプロン装備時の時だけは逆らわないようにしている。
 ……忘れるものか。塩と砂糖を意識して間違えたパンなんぞを食わされた教訓はしっかりDNAに生きている。
「いや、忘れた訳じゃない。
 ただ、教会での慈善活動なんて面倒くさいから頭から消去しただけなんだ」
「なお悪いじゃないですかぁぁぁぁぁ!!!」
 あ、声が一オクターブあがった。ちょいと危険信号。
「待て待て。今日は仕方なかったんだ」
「師匠の「仕方ない」ってのは一体何なんですか!?
 いつもいつもいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっも教会の善意で教会から食べ物を分けて貰っている僕の身にもなってくださいよぉ!!」
 あ、本気でやばい。涙目になっている。
「ちょいと、運命の糸をいじってきた。
 その後での慈善活動をするのは相手に悪いだろ」
「……」
 最近少しは運命の糸についての仕事をやりだしたこいつも今の言葉で冷静さを取り戻したらしい。
「どんな仕事だったんですか?」
 アコきゅんが尋ねてきたのでタバコを咥えてゆっくりと火をつけて答えた。
「前から言っているだろ。基本的に俺たちの仕事は運命の糸に手を加える。
 だからいいも悪いもない。
 それがまた救いにならないんだけどな」
114どこかの166sage :2004/12/07(火) 05:07 ID:ny.k3g0o
「……ここで問題なのは、彼女達の方向性だ」
 同期のクルセはさして重要でない口調で平然と大問題を言う悪癖がある。
 おかげで、何度も騙され痛い目を見てきたからこそその陽気な口調に潜む違和感に気づいた。
「方向性?
 ものすごく分かりやすいと思うが?人と魔の共存だろ?
 俺達が海水浴をする羽目になったあの聖女様とどう違うんだ?」
「だからその聖女の二番煎じが出てきたという事の方が問題なんだ」
「なるほど」
 人という群は敵を作る事によりこの大地に共に住まう他者を蹴落としてきた。
 魔族を「狩り」、神を「滅ぼす」。
 大地は人間のものという暗黙のエゴイズムがここまで人間を強大にしたといえよう。
 だが、その血塗られた方向性を嫌う同族も確かにいる。
 最初は強者の哀れみからだろうが、本気で共存を望む輩は跡を絶たない。
 それに対して人が打った手は『魔族のペット化』だった。
 温厚で恭順的な魔族を手始めに調教した魔族をペットとして飼う事がブームとなり、誰もが人の優越と愛護心を満たし己の正当性を確認する事ができたこの政策は図に当たり、人は平然とさらに苛烈に魔物を狩り続けた。
 だが、その政策に騙されなかった輩も少なからず存在していた。
 最初は愛護の視野から、そして「ペット」と「狩る」魔族が同じ存在である事に気づいた者達。
 それが今回のターゲットだった。
「しかし、何でそんな輩を相手にしないといけないんだ?」
「人は核となる人間を中心に群れる傾向があるだろ。
 そうやって作られたギルドが今回砦の一つを奪った。
 それだけの力をつけてきたという事だ。これ以上力をつける前に潰す」
 もはや、魔族を狩る甘みに慣れてしまった王国はその政経システムを砦を有する彼らギルドに牛耳られて久しい。
 その砦に彼ら「魔族保護」を訴える勢力が踊り出たという事実は他のギルドに衝撃以上の何かを伴って伝わり、こうして俺が呼ばれる羽目になる。
「ああ、聞き忘れていた。
 そのギルドの名前はなんて言うんだ?」
 目の前のクルセは苦々しそうにその言葉を俺に向けて吐き捨てた。
「『緑の平和』だそうだ」

 日曜日のギルド戦はある意味で、王国国政を担う代表を決める選挙ではないのかと思うときがある。
 砦を持つギルドの発言力は王国政経に多大な影響力を及ぼす。
 だからこそ、その蜜の味を知る者達はその奪取の為、維持の為に手段を問わずにありとあらゆる手を出してくる。
「……おぅ、いるいる……連中本気だな……」
 砦を囲む外壁から砦を眺めると、ある一つの砦に向けて多くのギルドが進撃している。
 その砦には緑色の生地に平和の象徴たる鳩の絵が描かれている紋章が風に揺れていた。
 砦内部には同盟ギルドか傭兵だろうか、赤い旗のギルドが防衛準備をしている。
 今回、この地区の砦戦は「緑の平和」以外の所は停戦協定を結んでいる。外部からの砦攻撃にも各砦から兵力を抽出して防衛にあたる取り決めまでしているから、部外ギルドもターゲットを「緑の平和」一本に絞っているはずだ。
「始まったか……」
 時間と共に大魔法の爆音が轟き、「緑の平和」の砦だけで攻防戦がはじめられた。
 入り口あたりで始まった衝突は「緑の平和」側が防衛になれていない事もあり防衛線を突破され、今は内部通路が主戦場となっていた。
「さてと……そろそろ行くかな……」
 外壁から降り、攻撃側の本部となっている砦入り口に向かう。
「何者だ!」
 警戒していた騎士が剣の柄に手を当てて威嚇するが、クルセが持たせてくれた書類を見たとたんに騎士は頭を下げる。
「失礼しました」
「かまわねぇよ。成れている事だ。ギルマスに会いたいんだが?」
「……こちらです」
 案内される間、作戦本部内を軽く見るが戦況はあまり良くないというか悪い。
 負傷者が続出し、回復役のプリが必死に青ポーションを飲んで回復させるのに追いついていない。
「予想以上の抵抗で苦戦している」
 攻砦側のギルマスのプリーストはあっさりと苦戦を認めた。
「狭い回廊内に主戦場が移ってからは、敵は味方をも巻き込んでの大魔法連発をしかけてきやがった。
 多大な被害を受けたのに、向こうは大魔法を食らった傷など気にせずに追い討ちをかけて来やがる。
 何なんだ!?……まるであの……」
 流石に教会にいた人間だけに、その言葉を言うのを躊躇ったのだろう。俺の目は奴の唇が「狂信者」と動いたのを見逃さなかった。
「あんたの想像どおりだよ。
 だから、俺が来た」
「以前、噂に聞いた事がある。
 教会に取って邪魔な者を消す暗殺者がいるという話だったが……」
「消すのは人だけじゃないさ。
 俺が消すのは運命という可能性さ」
115どこかの166sage :2004/12/07(火) 05:11 ID:ny.k3g0o
 砦の回廊での戦いは完全に攻守が逆転していた。
 組織だった攻勢をしかけていた攻め手が今は逆に後退しないように防衛線を張らないといけない。
 誰もが、当初の楽観的予想など忘れて今は必死になって自分の中から湧き上がる恐怖を抑えないといけない。
「なんでやつらは引かないんだっ!!!!」
 たまらずに、ハンターの一人が矢を放ちながら叫ぶ。
 防衛側は倒れても傷ついても後退しない。
 既に敵味方による血で回廊は黒赤く染められており、それでも防衛側は味方の大魔法で傷つきながら攻撃側に迫ってきた。
 大魔法が飛び交う中引かない防御側。
 それは攻撃側が大兵力で押しているのに主導権を完全に失っていた証明でもあった。
「退きな。こいつらは俺が相手をする」
 既に浮き腰の攻撃側を押しのけて俺は前線に出張った。
 周りの蒼白した顔達が、気弾の数を見て無傷の援軍と気づき歓喜の笑みを一斉に俺の方に見せる。
「ひゅう♪やるもんだ」
 軽く口笛を吹きながら、防御側を見据える。
 まだ起きて戦闘意欲があるのは、騎士二人のみ。
「いくらでも来い!!ここは我等の理想にかけて何人たりとも通さんっ!!」
 血塗られた剣を俺に向けて騎士が突進してくる。
 瞬間的に剣がゆっくりと俺の方におりてくるのを確認もせず、その剣の振り下ろすスピード以上に騎士の脇をすり抜ける。
「しまったっ!!残影使いかっ!」
「違うな。運命切りさ」
 振り向きざまの発勁を背中に一撃。それで騎士は起き上がってこなかった。
「おのれぇぇぇぇ!!」
 逆上した騎士が同じく切り付けて来ようとするが、もはや動きは見切るまでも無く疲れ・乱れ・恐れていた。
「あんたの運命、終わっているよ」
 そのまま指弾を騎士に叩き込む。
 それが合図となって、周りのハンターやアーチャー達が矢を騎士に刺し続けて彼もまたその動きを止めた。
「あとはあんたらの仕事だ。遠距離攻撃のマジ・ウィズの掃討は任せた」
 歓声が上がる。攻撃側の士気が回復し、次々と前衛職が奥に突貫してゆく。
 あの時あの二人の騎士を打ち倒すのが遅れていれば、回復した防御側増援によって回廊封鎖が続いて守りきられる可能性が高かった。
 だが、その危ういバランスを俺が崩した事により、攻撃側は数で押し切れる場所まで攻勢点を移動させる事ができた。
 それも運命なのだろう。
 砦中心部まで戦闘に巻き込まれたらしく煙と剣戟の響きが聞こえてきた。
 だが、俺の仕事はこれで終わりではない。

 戦というのは敗者には厳しい。
 ましてや、一時とはいえ砦を奪取したギルドがそのギルドを失ったとなると利害目的で協力していた輩は既に逃げ出し、残った輩も傷が深くて戦える状況にない。
 そんなギルド『緑の平和』はもはや失った砦を取り返すだけの意思も力も持ってはいなかった。
「まだです!まだ負けてはいません!!」
 ギルマスの女プリーストが必死に皆を鼓舞している。
「例え、ここで砦を失ったとしても砦を攻め落とした事実は消えません!
 いつか、私達の理想が主体になる日がきっと来ます!!」
「いや、来てもらったら困るんだよ」
 GMを含め、『緑の平和』のメンバーが一斉に俺の方を見る。
「あんたらはよくやった。いや、やりすぎた。
 人と魔物の共存、その実現に向けて費やした意思は運命を確かに動かしているよ」
 誰もが武器を構えて俺を阻もうとするが、もはやまともに抵抗すら出来ない。
 一人、また一人と俺の拳によって崩れ落ちてゆく。
「だが、それは間違いなく人全体の運命に悪影響を及ぼすんだ。
 だから……あんたらの運命の糸、切らせてもらう」
 もはや立っているのはギルマス一人のみ。
 彼女は動かない。狂ったように笑うのみ。
「あははっ…私達は正しい!私達は間違っていない!!
 なのにどうして……世界は私達を排除するのっ!!」
 俺の阿修羅覇凰拳が彼女の腹を貫いた時も彼女の顔から狂った笑みが消える事は無かった。
116どこかの166sage :2004/12/07(火) 05:15 ID:ny.k3g0o
 弟子たるアコきゅんは俺の話を聞き終わった後も何も言ってこなかった。
 最近はやつにも本格的な修行として仕事の内容を包み隠さずに話す事にしている。
「色々言いたい事があるだろうが、一つだけ言っておく」
「……なんですか?」
「かつて、はるかな昔に言われていた言葉だ。
 『テロで歴史は変わらない』。人を殺す事で人の営みは変わらないという為政者が考え出した究極の嘘だ。
 お前にも分かるだろう?
 テロどころか人を殺すだけでも運命というものは大きく変わる。
 それは運命の糸によって紡がれた世界が紡ぐ本人の死によって変化するからだ」
「……はい」
 だまってアコきゅんは聞いている。おそらくは今の話と自分の良心を秤にかけているのだろう。
「俺たちの仕事は今を見てはいけない。
 10年、いや100年先の運命の紡ぎを見て、その紡ぎを人に、人という種族全体にとってよい方向に導かないといけない」
「……そのために自分の行いを正当化するのですか?」
 こいつは本当に俺とよくにている。だから弟子にしたのだが。
 だからかつての俺が言った言葉に対して、受け継いだ言葉を返してやることにした。
「だからこそ自らが切り捨てた運命の糸を絶対に忘れるな。
 己が切ってしまった可能性だからこそ、その可能性最後の受け取り手である自分が責任を持て。
 そして、いつかその切った可能性がまた紡がれる時の為にその糸は絶対に離すんじゃないぞ。
 その時は、紡ぎ手として糸を結んでやれ」
 アコきゅんはしっかりと俺の言葉を受け取ったらしい。
 力強く、そして内なる決意を発露して「はい」と頷いたからだ。

 俺の血塗られた切れた糸もいつかはこいつに渡す日が来る。
 その時、こいつがその糸を結びなおすのか、さらに糸を切りつづけるのかは知らないがそれが俺の責任。
「それはそれとして……師匠?明日教会に行って小麦粉もらってきてくださいね。
 きちんと神父さんに今日のお詫びをしてくださいよ」
「なんで俺がそんなことしなきゃならんのだ?」
「自業自得ってやつです。明日の食事が塩水だけていいんならばそれも構いませんが?」
「悪かった。ごめんなさい。きっちり小麦粉もらってきますからだから明日はほかほかのパンが食べたいです」
「約束ですからね!
 じゃあ、テーブルについててください。今日の夕食は肉の青ハーブ蒸しですよ」
 そういってアコきゅんは台所に飛んでいってしまう。おおかた、俺の話が長かったから肉が冷めたか心配だったのだろう。

(あははっ…私達は正しい!私達は間違っていない!!
 なのにどうして……世界は私達を排除するのっ!!)

 最後まで笑っていた彼女の叫びが頭にリフレインする。
 ゆっくりと椅子に体を預けて紫煙を宙に漂わせた。
 ああ、君達は正しいのだろう。
 そして、人の存在そのものが間違っているのだろう。
 けど、間違っていようが生まれた以上は生き続けたいというのが命というものだ。
 たとえ、多種・神・魔族すら滅ぼしていずれは大地を血で汚しても。
 人は過ちに気づいて滅びるのか?それとも気づかずに人以外を滅ぼしてしまうのか?
 運命使い永久不滅の問題がこんなときに紫煙と一緒に出てしまう。
「俺は答えを出せなかった……あいつは出すのかな?」
「師匠?何か言いましたか?」
「いや、何も言ってないぞ。
 はやくめしもってこい」


 仕事をするとタバコが吸いたくなる。
 こんな星の綺麗な夜は特にだ。
 紫煙の煙に己の罪を乗せて、俺は贖罪をする。
 そして己の糸を次なる紡ぎ手に渡す為にまた己の手を血で汚す。
117どこかの166sage :2004/12/07(火) 05:40 ID:ny.k3g0o
「忘れた頃にシリーズ物を出すなよっ!!」
はい。すいません。こればっかりは私のできそこないの脳に文句を思いっきり言ってくださいませ。(平謝り)

ちなみに、このモンクとアコきゅんは3スレの14様からネタを頂戴し、勝手にシリーズ化しております。
ママプリを含め私、人様のネタを勝手にシリーズ化しすぎです(滝汗)
……オリジナルってゴキちゃんだけかも?<しょーとしょーとです


>84、88、102、104様
 新たな文神さまようこそいらっしゃいました。
 やっぱり書いてくれる人がいてこその小説スレですから。これからもどんどん書いてください。
 皆様が書く物語も誰かに繋がっているのですから。
 ……いえ。そこからネタを拾おうとはまったく考えて……前科ありすぎ?(滝汗)
118名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/12/08(水) 20:44 ID:dJwkHCFY
>>112
うわ、いい意味で吐き気のする内容ですね。
神だの何だの言いつつ所詮教会なんざ神の名の求心力を
利用した連中 って感じがしてもうね・・・・
標的側も怖いし・・・・人間の身勝手さが良く描かれてると思います。
119名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/12/12(日) 20:01 ID:pdVH3f7Q
最近リレーないねぇ(´ω`)ショボン
120どこかの166sage :2004/12/20(月) 03:29 ID:dj9FZlCU
リレーだけど、全部終わらせる用意はあるのですが……小説の途中参加者の私が終わらせていいのかとちょっと皆様の反応待ちです。
地上魔族サイドの片付けに絡んでくるので現在、終わりに向けて皆様の意見が聞きたいと。

リレー参加者の方および読者の方、ちょっと質問ですかどのような終わりを望みますか?
私が用意した終わりは一応、ハッピーエンド方向です。
121名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/12/20(月) 20:20 ID:.ViabJ4g
雑食なのでどんな結末でも大丈夫です。
個人的には序盤の地下が大好きでした。

って、もし終るのなら、の意見です。
ただ読むだけしかしない一読者の本心としては、

続きを期待したい、

これに尽きます。(わがままですね、はい
122名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/12/21(火) 01:10 ID:2of4jh1M
以前書いた者として、終わりに協力したいと思います
123名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/12/24(金) 22:15 ID:OTDCnTLU
なんだか電波受信。。。


「良いのですか?」
「はい?」
「せっかくのクリスマスだというのに…私と一緒に居てもつまらないでしょう?」

突然、彼女は立ち上がるとゆっくりとうたうように祝詞をつぶやく。
目の前を漆黒のタキシードと、純白のウェディングドレスを纏った二人組みが通り過ぎる。
「メリークリスマス!…おめでとうございます!!」
通り過ぎる際に、その二人に祝福の言葉と聖杯の奇跡を送りまた、私の隣に腰を下ろした。

「せっかくの聖夜だからこそこうして愛する人と一緒に過ごしていたいのですよ」

にっこりと笑うと彼女は私の身体を包み込むように、腕を伸ばした。
あぁ、私に腕があれば!彼女を抱きしめてあげる事が出来るのに…!!

「…わたしが、抱きしめてあげます。だから、あなたもわたしにずっと、ずぅっと笑顔を見せてくださいね」


・・・・・・という訳でスノウノウのお話です…
スノウノウ初見からかなりツボに入ったお気に入りのキャラなのです。
それこそもう「私は心に決めたNPCがいる!」デスよ(´ー`)y--~~
電波なのでまとまり無いかもですがご勘弁を。。。
124名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/12/24(金) 22:50 ID:b.HAesKs
魔剣戦争記書いてた人って漫画も描いてたんだな。
125名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/12/25(土) 10:05 ID:LQhvlbc.
どうでもいいけど。123氏が猫鯖の人ではないかと気になってならない。
スノウノウの隣で座っていた、彼とよく似た名前のプリさんは
幸せだったのでしょうか…。
126123sage :2004/12/25(土) 20:26 ID:kVA2Cz9.
あーハイ、猫鯖在住です。。。
最近、おもちゃとか知り合いの結婚式観にいくとかで何度か通るんですけど
よく見かけるあの人をちょっとお借りしました。
   …(・ω・`)ソノポジションワタシニクダサイー
スレ本編とはあまり関係ない話でスミマセン。
127('A`)sage :2004/12/30(木) 05:59 ID:6sM1UJaw
 Ragnarok Online Side Story "Confrontation of fate"


 黄昏れたプロンテラの一角で、嵐の様な破壊が生じた。
 一人は魔術師の男。一人は騎士の女。
 壁を突き抜け、火の術を繰る魔術師は更に魔力を練り、掌をかざす。
 女は金の髪を振り乱し、身を低く構えてそれを迎撃する。
 弱い風の術で唯一安全な"空中"に浮きつつも、魔術師は対峙する相手の実力を見誤っていた事を呪う。
(まさに化け物ですね…)
 眼下で深紅の目を光らせる女騎士。
 彼女の纏った風の壁は、魔術を弾く。
 魔術師、シメオンはそれを知らず――己の攻撃の術が魔術のみなのにも関わらず――喧嘩を売ってし
まった。これは、いくら魔術を高速で詠唱した所で意味がない。
(魔法防御力…或いは対抗魔術の一種でしょうが…厄介な)
 シメオンが宙に一閃させた杖から、無数の炎の弾が放たれる。
「…ファイヤーボルト」
 彼は超人的な技量でそれらの軌道を集中させ、風の防壁に叩き下ろす。
 直撃すれば人間程度は消し炭も残さない火力。しかし、渦巻いた風は僅かに火の粉を透過させただけで、
その攻撃の殆どを吹き散らしてしまう。
「っ!あっついわね!」
 コミカルに、自慢の髪に降りかかった火をはたき落とす女騎士。
 シメオンは言葉を失い、渋い笑みを浮かべて額を押さえる。
「ああ、それはすみませんね…」
「すみませんじゃない!この○○○野郎!正々堂々、降りて来なさい!」
 無茶苦茶を言うものだ。
 一度、地に降りて彼女の間合いに入ってしまえば、腕や首は軽く持って行かれてしまうだろう。
 無論、この根暗で利口な魔術師はそんな愚行を選ばない。自殺のようなものだ。
 が、"浮遊"の術も永続するわけではない。彼が独自に開発したこの魔術は、酷く使い勝手が悪かった。
 消費する魔力の量もさることながら、第一に、自由に動き回れるものではないのだ。
 戦闘に用いるレベルに洗練されていない魔術。要するに、手品である。
 彼は今、そんなあやふやな術でなんとかその場を凌いでいるに過ぎない。相手は優位に立たれているとで
も思っているだろうが、とんでもない程に、劣勢なのが現状である。
「まぁ…そろそろ失礼させて頂きましょうかね…」
 もう負けは確定しているようなもので、大体、勝利に固執する理由もない。
 シメオンは易々と杖を振るい、先程とは比較にならない量の炎を生み出す。
「うわっ!?」
 女騎士の目が驚愕に見開かれる。それが「こいつ、こんなに強い奴だったのか」といった眼差しで…、
(これでも死なないでしょうね…貴女は…)
 シメオンは露骨な嫌そうな顔で、文字通り全力のファイヤーボルトを…。

 
 ―――契約を執行する

 
「…ん?」
 生温い風に乗って、響く。
 或いは、鼓膜を直接振るわせたかの様な重い声。
 シメオンは言い知れない気配に振り返り、無人の路地の向こうに立つ、小さな人影を見た。
 防寒に優れていそうな厚手の服。柔らかい素材で作られた、素朴な衣装。
 下げた鞄の中には、薬瓶でも詰まっているのだろうか。
 何処にでもいる、若い、商人の娘だ。
 見れば、金髪の女騎士も商人の少女に視線を注いでいる。魔術師が作り出した炎よりも、嫌な存在感を
放つ、その存在へ向けて。
 緋色の街で、未だ陽光の息づく世界で、闇が堆積したかのような黒。
 少女に纏わりついた瘴気が、明確に視覚化されている。
「…シメオン」
「ええ」
 女騎士が、澱みの無い澄んだ声で命じた。言われるまでもなく、魔術師は生み出した炎を商人の少女へ
撃ち出す。
 一発、二発。半ば爆発に近い熱量が、凝り固まった瘴気に激突し、弾ける。
「何なのか知りませんが、のこのこ帰してはくれなさそうですね…貴女の熱烈なファンですか?」
「馬鹿。あんなの見といてホントに帰ったら、殺すわよ」
 毒づく魔術師に、女騎士はあくまで真剣な顔で返す。
「おや怖い……―――来ますよ」
 即興の同盟を組む二人の目の前で、瘴気の渦から"何か"が浮上する。
 それは血塗られた騎士のようであり―――巨大な甲冑と、剣と盾。
 ブラッディナイト。
 魔術師がその名を呼ぶよりも早く、生まれ出でた禍々しい騎士は怨嗟の咆哮を上げた。
128('A`)sage :2004/12/30(木) 06:00 ID:6sM1UJaw
 『死んでも永遠に 3/3』



 剣士の少年は椅子だった木片…あくまで過去形だが…を拾い上げ、薄暗くなった室内を見回し、
「もう…掃除する気にもなれないね…ははっ」
 木片を、ソファーだった瓦礫に投げつけた。
 この上なく散らかったルイセの隠れ家は、既に住居としての最低水準を大幅に下回っている。
 窓も割れ、宵闇のかかった空に星が見えた。風通しは良さそうだ。
「ルイセさんは大丈夫なんでしょうか」
 部屋の隅の暗がりに座り込んだモンクの少女が呟く。
 黒髪の少年、ナハトは壊れた椅子に座り、安定しない姿勢のまま、答える。
「分からない」
 気休めは言えたかも知れなかったが、取り繕ったそれが、この聡明な少女に通じるとも思えない。
(大体、僕は何をやってるんだ)
 箸にも棒にもつかない役立たず。
 未熟な剣士だというのに、武装も貧弱。
 盾にすら、ならない。なれない。
「……くそっ…」
 先程の、魔術師・シメオンとの僅かながらも、一方的だった攻防。
 思い出すだけで、目頭が熱くなった。
 悔しさだけがあった。
 あの男の、遙かな高みから見下ろしたような目が、瞼に焼き付いて離れそうもない。
 いや、違う。
 彼だけではない。
 分かっていた。分かっていて、敢えて、考えないようにしていただけだ。
 部屋の隅にうずくまる、モンクの少女を見た。潤んだ視界に写る彼女は、ああ、やはり。
(何で…何でだよ)
 少なからず、憐憫を含んだ眼差し。かける言葉を探しつつも、何も言えず、悲しそうな顔だった。
 弱い剣士へ向けて、失望しているのか。いや、違う。元々、自分には何も望んでなどいないのだ。
 そうだ。そうに、決まっている。
 ルイセも同じだろう。
 一人で魔術師を追ったのは、貧弱な剣士など足手まといになるからだ。あの時はただ呆気に取られ
ていたが、今なら分かる。冷静に考えれば、当然だった。
(本当に…僕は…)
 握り締めた剣の柄が軋む。
 刹那、空気が揺れた。ナハトとサリアは同時に顔を上げ、朽ちかけた室内に視線を巡らせる。
 それは、少し前までの少年では感知出来なかったであろうほどの僅かな変化だ。
「ナハト様、何かが…」
 僧衣の少女が警告を発するより早く、少年は静かに彼女の傍へ駆け寄っている。
 サリアはそれに少々意外そうな顔をしてみせたが、「スイッチ」の切り替わった少年は気付かない。
「先生じゃないよね?」
「は、はい。あの方ならもっと堂々と帰って来ると思います」
 気配を殺してやってくる『何者か』。当然ながら、歓迎出来る相手であろうはずがない。
 ナハトはプロンテラの構造図は頭の中に広げ、思案する。
 隠遁生活に入ってからの彼は、金銭や装備がない分、修練と学習を怠らなかった。
 戦略――こと、逃走戦略に関しては珍しく自信がもてるほど学んだ。
 その知識を総動員し、『サリアを逃がすための』戦いを仮想的に展開する。
 彼自身の渇望する『勝つ戦い』ではなく、『負けない戦い』を。
 無論、少年がその矛盾に気付くことは無かったが。


「気付かれた…かな?」
 宵の闇がさしかけた路地に、若者の自嘲めいた呟きが漏れた。
『構わん。外から燻り出せばいい』
 呟きに答えた念話の相手に、漆黒の僧衣を纏ったその若者は軽く額を押さえた。
 額といっても素肌ではない。顔を覆った白磁の仮面だ。
 色褪せた栗毛はそれでいて整えられ、中背で華奢な体格からしても、彼が冒険者だと気付く人間は居
ないだろう。
 或いは、この異様な仮面さえなければ。
 若者はそのまま細い指先で異形をなぞる。仕草に意味はなく、目を細めて見やった先も、もしかする
とさしたる興味もない対象だったのかもしれない。
 窓の割れた民家。二階建ての、ごく平凡な建物だ。
『レティシア、本当にあそこで間違いないんだな?』
 念話の冷たい少女の声が問う。
『はい!アサシンギルドの情報が確かなら間違いないです!』
 答えた声は打って変わって明るいものだ。
『そうか…しかし、まさかまだプロンテラ内に居たとはな…』
『軍だけが相手なら誤魔化せただろう。しかし少佐、本当に俺達だけでやるのか』
『そ、その為のお前達だろうが!ここでやらずにいつやると言うんだ!?』
 溜息混じりに怒鳴る冷たい少女の声に、聞き手に回っていた若者は思わず苦笑した。
 分かっている。『少佐』を躊躇わせる――本人は気付いていないが――その相手が、誰か。
 誰よりも強く、気高い騎士の少女。
 若者は仮面の奥で目を閉じ、深く息を吸う。
 そして、口を開く。
「エスリナさん、レティシアさん、手筈通りにお願いします。タイミングはそちらで」
 少佐――エスリナ=カートライルとその従者で弓手のレティシアは若者が背にしていた建物の屋上に居た。
 万象を繰る魔術師。
 まだ若く、少女と言って差し支えないウィザードは夜風に吹かれながら身を起こす。
 その隣には華奢な体つきとはおおよそかけ離れた弩弓を抱えるアーチャーの少女。
『任せろ』
『はい』
 端的な返事の後に、二人の少女が各々の獲物――杖と弓――を構えるのを見上げてから、プリーストは念話
を続ける。
「ルーク、そっちはどう?」
『いつでも行ける。バックアップは任せたぜ、カルマ』
 若い男の声が返ってくる。プリーストの若者は仮面の下の口元を緩め、
「出来ればこれっきりにしたいけどね・・・」
 念話の向こうでルークが笑う。姿は見えない。
 プリースト――カルマは背後の壁に張り付き、手にした厚手の古書に指をかける。
(居るのか・・・セシルさん・・・)
 屋上から聞こえてくる詠唱を聞き、彼は目を閉じた。
 脳裏に焼きついた、あの遠い日の眩しい笑顔を思い浮かべながら。

129('A`)sage :2004/12/30(木) 06:01 ID:6sM1UJaw

 果たしてうまく行くのだろうか。
 口ずさむ呪文も、術の発動手順も一点の曇りもない。
 生み出されていく魔力の結晶。具現化した稲妻は周囲の空気を灼き、激しくのたうつ。
 傍で見ていた弓手の少女、レティシアもその激しい魔力の本流に少なからず恐怖を覚えているらしく、いつ
ものような軽々しい感嘆を浴びせては来ない。
 無理もない。直撃すれば並の生き物は消し炭になる。
 我ながら見事なものだとも思う。
 エスリナも魔術には絶対的な自信があった。幾度となく死地を乗り切った自分の技だからだ。
 しかし、
 果たしてこれであの女騎士が倒せるのか。
 保険はあった。万が一、相手がエスリナの術を凌いだとしても、
 レティシアの弩弓による狙撃と待機するルークとカルマによる直接攻撃が待っている。
 戦略としては十分の筈だった。向こうの戦力が実質一人なのだという事も考慮すれば、オーバーキルと言って
良い。
(そこまでさせる相手だとむざむざ認めているようなものだが・・・今は・・・!)


 ―――…ちっとは笑えよ。敵しか寄ってこないぜ、そんなんじゃ。


 青白い稲妻を撒き散らしながら、エスリナは両手を開く。
 束ねた魔力が一つの術式を形作り、彼女の足元に描かれた陣を介して発現した。
「撃ち漏らすなよ、レティシア!ルークをアテにするな!」
「・・・は、はいっ!」
 冷たい激励を受け、弓手の少女は身を強張らせる。
(そうだ、今はこれでいい。あの女騎士を討ち、任務を果たし・・・あの男を見返す!)




 まず、世界が変わった。
 或いは、それを捉え、伝達する自分の眼が変わった。
 溢れ出んばかりの、身体の内から生じる何かが、変えてしまったのか。
 少女はそれを形容する言葉を知らない。
 ただ、変わってしまった世界があった。
 炎の花が咲き、プロンテラの町並みが変型する。焼けた家屋の破片が降り注いでは、逃げ惑う人々の混乱を加速
させる。
 悲鳴。
 恐怖。
(これは、何?)
 少女は思う。
 吼える巨大な血の騎士。対峙する勇猛な美しい騎士は、強力なその剣戟を避けながらも、打ち出された盾によっ
て吹き飛ばされる。
 脆弱すぎる。
 少女は思う。
(これは、何?)
 力だ。
 圧倒的な、力だ。
 戦火の中で、商人の姿のまま、少女は思う。
 術を解き、舞い降りる魔術師。
「その魔力・・・実に興味深いんですが・・・いささか、やり過ぎというもの」
 言われ、少女は路地の向こうで思う。
(やり過ぎ?何が?)
 こんなに簡単なのに?
「シメオン!」
 魔術師の背後に迫る血騎士を見止めるや、吹き飛ばされた騎士が叫ぶ。まだ壊れていなかったのか。
 魔術師が振り返る。手には魔術の光。
「くっ・・・"ヘブンズドライブ"!」
 恐らくは少女に向けて放つ筈だった魔力を、ウィザードは石畳の地面に叩き落ろす。
 血騎士の足元が盛り上がり、生み出された頑強な岩石の槍が物言わぬ血塗られた鎧を縫い止める。
 それでも、血騎士は剣を横薙ぎに振るった。魔術師はそれを瞬時に見極めるや、右腕でその凶悪な剣を受ける。
 腕の一本程度、容易く両断される筈だった。しかし、高く澄んだ音が響き、血騎士の剣は止まる。
 沈黙が落ちる。闘争本能以外の自我を持たない血騎士が、怯んだ様にも思えた。
 闇の中で、ウィザードの帽子の下の片眼が鈍く輝く。
「・・・木偶がっ!」
 刹那、魔術師が不可視の力を解き放つ。
 プロンテラの地に縛られた古き魂達が、ウィザードの術式と意思に服従する。それは一つの形となり、眼に見え
ない力、衝撃を伴って発現した。
 ソウルストライク。
 さほど高度な術ではない。血騎士にとってさしたる打撃にはならない筈だ。
 "数が少なければ"。
 膨大な量の魂を、ウィザードは掻き集め、練り上げる。意識さえ間に合わない速度で次々とそれらを強引に撃ち
出し、また練り、撃ち出す。
 血騎士の鎧が、存在そのものが悲鳴を上げる。
 そして、僅か瞬きほどの間に血騎士の頭部が破裂した。
 存在の中枢を砕かれ、"こちら側の世界"に実体化していた血騎士の全身が弾けるように崩壊する。
 集っていた瘴気が霧散し、辺りに静寂が戻っていく中で、シメオン=E=バロッサは軽やかに着地した。
 しかし、その表情に勝利の喜びは無い。
「・・・逃げられましたよ」
 いつの間にかダメージから立ち直った金髪の女騎士に、彼は低く呟く。
 見れば、路地に佇んでいた少女の姿は何処にもない。
「・・・そう。何なのかしら、あの子」
「さぁ・・・分かりませんが・・・」
 シメオンは目を鋭く細め、濃厚に漂う"その匂い"に頬を緩ませる。
 即ち、大きな戦いの匂い。
「非常に、興味深い」


 雷撃が踊る。
 視界を埋め尽くす稲妻に、ナハトはまるで動じず、サリアの手を引く。
 触れれば火傷では済まないだろう。腕くらいは軽く持っていかれるかもしれない。
「こ、これは・・・」
(風の魔法だ・・・城門で会った女ウィザードか・・・シメオンとかって奴じゃ、ないよな)
 屋外から屋内へ魔術を発動させる。それが並みの力量では実現できない事だとは、魔術に疎いナハトでも察しが付く。
「いや・・・大丈夫・・・これなら・・・」
 剣士の少年はうわ言の様に呟いた。彼の中では既に、つい先程交戦した陰惨な魔術師が一定の基準となっている。
 この攻勢は、シメオンのそれに比べれば術の発動速度も練度もまるで及ばない。
 サリア=フロウベルグは先程とは打って変わって冷静に策を練る少年に、ある種の戦慄を覚えた。
 恐らくは、まだ未熟な剣士である彼より、自分は遥かに熟練している。
 そのサリアでさえ、屋外からの魔術による攻撃は脅威でしかない。
 それなのに。
「・・・これなら切り抜けられる」
 黒髪の少年は断言した。
「ごめん、サリア。逃げるのは反撃の後だ」
「この状況で反撃を・・・!?無茶です・・・裏口から逃げましょう!」
「ダメだ。ここで敵の戦力を削がなきゃ、追撃される」
 どの道、裏口にも何かしろの手が打たれているのは明白だ。
 ナハトはソードを杖に立ち上がる。既に、その刃はまともに傷を負わせられるとは思えないほどに損傷し、ナハト
自身もまた、シメオンとの攻防による疲労の色が濃い。
 身体は重く、チャンスも多いとは言えない。
 しかし、やはり少年は断じる。少女が想像も付かない程の、確固たる信念を以って。
「僕は役立たずにはなりたくない・・・絶対に、君を守るよ、サリア」
 ――何故?
 ――どうして?
 雷の満ちる中、モンクの少女は俯き、問う。
 少年には届かない、小さな声で。それは、もう少女にとってこのナハトという少年の存在が不可欠になってしまった
からかもしれなかった。
(私は貴方に、何も伝えていないのに・・・)
 剣を取る少年の背中は、まだ小さく、頼り甲斐など微塵も無い。
「僕が術を突き破る」
 なのに、頼ってしまうのはどういう事だろう。
 城を出た時も。
「任せて」
 今も。
「―――はいっ」
 しっかりと頷く少女の顔を見るや、少年は笑みを溢す。
 握り締めた剣に、迷いは無い。

130名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/12/30(木) 13:41 ID:hCIf7FeU
忘れてなどいないし、続きを楽しみにしている人間は最低でもここに一人居る。
だから遠慮無く投下し続けて欲しい、と先読み気味にレス。
131名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/12/30(木) 15:18 ID:90JvNlrA
続きを楽しみにしているのはここにも居ますよ。
ナハト燃えな展開に('*A*`)
132名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/12/30(木) 15:51 ID:Z4kMrbLA
やっぱ悔しいけど面白いぞーとレス。
ナハトかっこいいよナハト。
133名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/12/30(木) 20:56 ID:RcDUVbr.
おいおいー
急に成長しやがってコノヤロウ!!( ´∀`)b がんばれ!
134('A`)sage :2005/01/01(土) 05:43 ID:mI4/rHd.
 Ragnarok Online Side Story "Confrontation of fate"



 
「行くぞ―――吹き荒れろ!"サンダーストーム"!」
 声高に魔術を解き放つエスリナ=カートライル。それを合図に、それぞれ、身を隠していた路地から走り出す騎士とプ
リースト。
 目指すは、一点。
 エスリナの放った雷撃の嵐が、標的の潜む家屋にぶち撒けられた。
 万物を灼く恐るべき雷は、ただの民家に過ぎない建築物の大部分を吹き飛ばし、内部に入り込む。
「カルマ!ルアフを焚け!」
 疾駆する騎士、ルークが叫ぶ。
 言われるや、プリーストの青年は家屋から適度な距離を取った位置に立ち止まり、僅か数瞬の間に青白い炎を掌から打
ち上げる。炎はプリーストの無機質な仮面を照らし出し、夜の闇を裂き、頭上へ。
 プリースト、カルマの立ち位置は絶妙だった。突入するルークへの援護が届くギリギリの間合いである。
 雷の暴れる民家から、影が躍り出た。ルークは立ち止まり、マントを翻すや、腰のサーベルを抜く。
「騎士団のルーク=インドルガンツィアだ!武器を捨てろ!」
 無駄と分かってはいたが、この白髪の騎士は警告を発した。
 そんな彼に、向かいの建物の屋上で見下ろしていたエスリナは舌打ちする。
 投降などしない。それは、エスリナ自身が実を持って知っている。
 躍り出た影は止まらず、石畳の地を蹴り、二手に分かれる。
 "別々の方向へ"。
「!・・・二人か!?」
 虚を突かれ、動きを止めたルークの胸・・・丁度、メイルの中央の辺りに白く小さな手が添えられる。
 ごく、静かに。そして、
「・・・発勁」
 澄んだ声と、轟音。
 騎士の鎧の内側で、膨大な量の"何か"が暴れる。
「ちっ・・・!?」
 僅かに仰け反りながらも、ルークは飛び下がり、ルアフの光に照らされた襲撃者を見た。
 一瞬、修道士――アコライトの様に見えた。しかし、そんな筈も無い。
 ルークは知っていた。魔力と似た性質を持つ"気"を操り、拳という独特の戦闘スタイルを持つ職を。
 そしてそれが、修道士の流れを汲むものであると。
「モンク・・・サリア=フロウベルグか・・・」
 宵闇の向こうで、少女は美しい姿をしていた。
 宿した強い意志と共に突き出された拳が、無言でルークに向けられる。
「私を追ってきたのですね」
 どこまでも落ち着き払った声色の少女に、騎士は剣を抜いたままで頬を緩ませる。
「ああ・・・どんなお嬢様かと思えば・・・ヤンチャが過ぎるな、君は」
 笑みを浮かべながらも、ルークは初撃で受けたダメージを軽視してはいなかった。現に二、三本の骨が悲鳴を上げて
いる。
 この少女は、強い。
「ルーク、大丈夫なのか!?」
 駆け寄るプリーストを手で制し、ルークは低くサーベルを構え直し、平然と言った。
「問題無い」




 『憎悪の血斧 1/2』
135('A`)sage :2005/01/01(土) 05:44 ID:mI4/rHd.
 けたたましい音を立てて、ナハト=リーゼンラッテは扉を粉砕し、向かいの建物の中に転がり込んだ。
 形容しがたい痛みにうめきながら、身を起こし、一目散に階段を駆け上がる。
 時間はあまり無い。身体が弱いサリアが戦っていられる時間は、ごく僅かなのだ。
 彼女が目をひきつける間に、最も恐ろしい相手―――遠距離から無条件に攻撃を加える事が出来る――魔術師を潰さな
くてはならない。
 そんな相手を放っておけば、逃亡もままならなくなるからだ。
 サリアと別れる寸前、ナハトは雷撃をマントで防ぎながらも、はっきりと闇夜に佇む女ウィザードの姿を見ていた。
(この屋上・・・見通しも良いし、確かにうってつけだ・・・だけど!)
 勢い良く窓を蹴破り、屋上へ這い上がるナハト。
「他に逃げ場の無いここなら、未熟な僕でも距離を詰める必要は無い!そうだろ!」
 ウィザードの少女は居た。冷たい表情を顔に張り付かせ、夜風に吹かれながら、立っていた。
「まさか・・・この状況で反撃に転じるとは」
 多少、面食らった様な言い回しで、ウィザードが言った。淡々と、忌々しげに。
「つくづく私の神経を逆撫でするのが上手いな、剣士」
「寝言を言うな!僕らの勝ちだ!」
 ナハトはソードを抜く。良くてあと数回振り下ろせば壊れるであろう剣を。
「退けよ!サリアは城には戻らない!」
「私とて、好きでフロウベルグを追う訳ではない!不服なら上に言って欲しいものだ!」
「っ・・・退かないなら!」
 剣士の少年は駆け、ウィザードに剣を振るう。甘い太刀筋の一撃を、ウィザードは易々と杖で受け、競り合う。
 至近距離で、ナハトは気付く。
 顔立ちがまだ幼い。
「こ、子供・・・女の子!?」
「どうした!自分と歳の違わない女は斬れないか、剣士!」
 思わずソードにかける力を緩めるナハトに、ウィザードの少女は嘲笑を浴びせる。
「とんだお笑い種だな!尻の青い子供が、一人前を気取って私の前に立ちふさがるとは!」
 少女は飛び下がり、脱力したナハトの頭目掛けて勢いを利用した蹴りを見舞う。洗練された体術に、少年は成す術もなく
よろめく。
 手から剣が転がりそうになり、少年は脳を揺さぶられ、朦朧とした意識の中で思う。
(違う)
 一人前が気取りたいわけではない。ましてや、剣士など、なりたくてなったものでもない。
 出来れば戦いなんて御免だった。飛び出した際に受けた雷による火傷も、蹴りを受けた頭も、泣き叫びたくなるほど痛い。
 単純に、痛いのはイヤだった。
 級友――ガルディアの様に、戦いが楽しいと思った事も無い。
(僕は違う)
 剣を取るために戦うわけじゃない。
(守りたいんだ。倒したいわけじゃない)
 サリアの泣き顔を見たくない。
 脳裏に焼きつく夢の記憶。あの情景。全てが嫌で、許容できない。
 守らなくては。
 半ば呪いと化した想いの鎖が、少年を踏みとどまらせ、剣を振るわせる。
「くっ!?」
 振り下ろされた父の剣は、咄嗟に防御に回ったウィザードの少女の杖を断ち切り、左手のガードを割って、
 ようやく、甲高い音を立てて分解した。
 少女はその勢いで屋根を転がり、勝利した少年は柄だけになった誇るべき父親の剣を取り落とす。
「や・・・やった・・・」
 一瞬、ナハトは自分が勝利した事に気付かなかった。消耗した身体は重く、やはり―――いつものように、ボロボロだ。
 それでも、少年は転がったウィザードを見下ろし、確かに勝利していた事を知る。
「僕が・・・やったのか」
 ウィザードの少女は屋根にうつ伏せになったまま、動かない。
 途端、激しい後悔が少年の胸に飛来した。
 人を――それも、自分と同じくらいの年頃の少女を、殺してしまった。
「・・・勝手に殺すな」
 無意識のうちに口に出していたのか、想像もしなかった返事が返って来た。
 足を挫いたのか、それとも負傷したのか。ウィザードの少女はごろりと仰向けになるだけで、立ち上がろうとはしない。
「だが・・・殺そうと思えば可能だった筈だろう」
 仰向けのまま、少女が言う。
「何故、殺さない」
 火傷を押さえながら、ナハトは目を伏せる。
「戦いたいわけじゃないんだ。僕らを追ってこなければ・・・」
「甘いな、剣士」
 言い淀むナハトへ、少女は断じる。
「勝つか負けるかの戦いで、相手の命を奪わないなどという甘さは死を招く。無意識に加減するなど、言語道断だ」
 まだ幼く、愛らしささえ残る綺麗な顔に、凄烈な闘志を張り付かせて。
 何故そんな顔が出来るのか、少年は知らない。少佐、と呼ばれるこのウィザードの少女が辿って来た道を、知らない。
 同様に、サリア=フロウベルグの事も、ナハトは何一つとして知らない。
 この少女を殺してまで、サリアを守らなくてはならないのか?
 そこまでしなくてはならないのか?
「ぼ、僕は・・・」
 投じられた疑問に、少年は揺れる。
 やがて、その葛藤は終焉を迎える。ナハトの背後に生まれた気配と声。
「それ以上、少佐に攻撃を加えるなら撃ちます。両手を挙げて、投降してください」
 弩弓を彼の背に向けるアーチャーの少女の介入によって。
 事務的な警告によって、勝利が敗北に変わる。
 ナハトは自らの甘さに歯噛みした。最初から、このアーチャーはウィザードとの攻防を伺っていたのだろう。何故、気
付かなかったのか。冷静さを欠いていたせいか。
 ナハトは武器を失った両手を上げ、赤毛のウィザードの少女に視線を戻した。
「言ったとおりだろう?甘かったな、お前は」
 案の定、少女は冷たい笑みを浮かべ、既に起き上がっている。
 踊らされたのだ。
 最初から、この少女の掌の上だったのだ。
「・・・っ」
「ふ・・・まあ、殺しはしない。地力もあるし、それなりの機転も利く・・・死なすには少々、惜しい」
 大仰な口調で、ウィザードが言う。
 紛れもなく、勝ち誇った台詞だった。
 背後に弓手。正面に魔術師。どちらも女だ。もしも万全の状態であったなら、逃げる事も可能だったかもしれない。
 屋根の上という限定された範囲の中でならば、遠距離を得手とする二人を力任せに張り倒す事も可能だ。
 "もしも万全の状態であったなら"。
 少年は文字通り、これ以上ないほどに消耗していた。武器も無い。
(・・・終わり・・・か)
 諦めが少年の中で頭角を現す。しかし、念話でサリアに失敗を告げ、逃走を促す事くらいは・・・出来る。
 二人に気付かれれば、殺されるかもしれなかった。第一、この状況で逃げ切れるものとは思えない。
 しかし、少年は迷いなく意識を眼下の路地で戦う少女へ集中させた。
 万が一、この二人がサリアを追撃しようものなら、喰らい付いてでも止める覚悟がある。
『サリア・・・失敗した。君だけでも逃げて』
 幸いにも自己犠牲の覚悟を持って発せられた念話は二人の少女に気取られなかった。
 返事は無い。しかし、確かに伝わった筈だ。
「レティシア、案の定、ルーク達が手こずっているらしい。私は下に降りて奴らを援護する」
 路地を見下ろしていたウィザードの少女が、こめかみの辺りを手で押さえながら言う。余程呆れているのか、冷徹な
表情は消え失せ、苦虫を噛み潰したような――それでいて何処か嬉しそうな――面持ちである。
「その剣士は任せたぞ」
「へ?・・・あ、はい。お気をつけて」
 背後のアーチャーが少々戸惑ったような、上擦った声で返事をするや、赤毛のウィザードはぶつぶつと小言を呟きな
がら屋根から飛び降りる。
 残されたのは、ナハトとアーチャーの少女の二人だけである。
「・・・」
 気まずい沈黙が流れる。先程まで戦っていたのだから無理も無いし、先日の城での一件もある。
 和やかに談笑とはいかない。
136('A`)sage :2005/01/01(土) 05:44 ID:mI4/rHd.
 軽やかに踏み込んだ少女の髪が、宵闇に柔らかな流線を描く。
 しかし、美しさとは裏腹に宿した気の息吹は力強い。対峙していた白髪の騎士、ルーク=インドルガンツィアは
軽く溜息を吐きつつ、半身を僅かに逸らす。直後、少女の掌打から放たれた衝撃が、彼のすぐ脇を掠めた。
 マントの端が千切れ、散る。
「ひゅう・・・危ないな」
 逸らした半身を戻し、ほぼ密着で少女にサーベルを振り下ろす。少女はそれを手に着けたナックルで受けるや、太刀筋
をずらし、受け流す。そのままの動きで、彼女は打ち上げるように拳を振り上げた。
 顔面を狙ったその一撃を、ルークは易々と上体を仰け反らせて回避し、流された剣を左手に持ち替え、刃を返す。
 傍で見ていたカルマは、その僅か数秒の攻防に目を見張った。
 サリア=フロウベルグの動きは、熟達していた。肉体的なハンデ――小柄な少女である点――を補って余りある"気"による
戦闘スタイルは、既に完成の域に達している。前に出て戦う事に長けていないカルマでさえ、それが脅威になりうると理解
出来る程だ。
 だがルークが押されているわけではない。彼は実力の半分も"出せていない"だろうし、何より相手を"殺してはならない"。
 これらの要因が、実力を拮抗させ、戦いを膠着化させているに過ぎない。
さらに言えば、そもそも"ルーク=インドルガンツィア"にはこの少女を傷付ける気がさらさら無い。
 捕まえてしまえば良いだけなのだから。
(でも、単なる貴族の娘がここまでやるとはね・・・驚いた)
 二人の高速戦闘に介入も出来ず、カルマは油断なく構えたまま周囲を睥睨する。
 エスリナ達の方へ向かった少年剣士とは別に、敵はあと一人、居る。
 正直に言えば、サリア=フロウベルグがここまでやるとは予想外だった。彼女を容易く捕縛出来れば、"あと一人"もルーク
と束で説得すればどうにか出来る筈だったのだが・・・。
(さてと・・・あの人は・・・僕だけで止めなきゃいけないな)
 カルマはしばし思案した後、仮面の下で苦笑した。絶対に、無理だ。
 対策を練りながら視線を闇夜に巡らせる。
 が、彼が闇の中で捉えたのは目当ての相手ではなかった。
 いつのまにか少し離れた路地の上に、妙にぼんやりとした少女が立っていた。
 若い、というよりは少々幼い印象さえ抱く、商人風の少女。ルアフの光からも影になり、顔は伺えない。
 しかし、髪の色も背格好も年の頃も、目的の人物とはかけ離れている。
「一般人・・・いや・・・」
 語尾が疑問形になったのは、彼の優れた退魔の素質のせいだろう。カルマの目には、少女を取り巻く何かの"気配"が"視えて"
いた。それも、尋常なモノではない。
 彼は即座に頭を切り替え、ルーク達の戦いを意識から外す。
 徐々にカルマの方へ歩み寄って来る少女に、彼は容赦なく神力を宿した掌を向けた。
「止まれ。僕はプリーストだ。意識が残ってるなら返事を」
 黙々と歩む少女。
 返事は、無い。
 聞こえていない筈も無く、カルマは躊躇いもせずに力を解き放つ。
 白光が闇夜に咲いた。
「ホーリーライト!」
 誓言を受け、光は収束し、ただ一点目掛けて位相を揃えて発射される。
 その先を歩む少女は、それを全く意識した様子もなく、正面から受けた。
 直進するはずの閃光が捻じ曲がり、散らされる。少女を取り巻く黒い影が、まるで壁の如く硬質化している。
 少女の身体から爆発的な勢いで、変質した魔力・・・瘴気が吹き上がった。
「祓えない?何か・・・とんでもないものが憑いてるみたいだけど・・・」
 偶然に?
 有り得ない。
 ここに来て、カルマはようやく事態の不自然さに気付いた。
 たまたまサリア=フロウベルグを捕縛している最中に、たまたま尋常ではない何かに憑かれた人間が乱入してきた。
 これ程疑わしい状況もそうそう無い。第一、あんな目立つ瘴気の塊が移動していて、大聖堂や騎士団、それに市井の冒険者
が気付かない訳が無い。
 アレは明確な目的を持ってここに来たのだ。
「そういう、カラクリか!」
 少女から伸びた黒い塊が見る見るうちに剣の形を具現させる。自分の立っていた地面に突き刺さるその剣を、カルマは飛び
下がりながら回避する。とてもではないが、まともに受けれる大きさでも威力でもない。
 その先に。
 少女の前に姿を現した、血塗られた巨大な騎士の甲冑。
 燃える双眸をプリーストに向け、数多の怨嗟を上げる魔性の者。
 そう、数多。
(まさか・・・何体憑いてるんだ!?)
 尋常ならざる状況に、プリーストは目を見開き、戦慄した。
 増殖していく血塗られた騎士を、カルマはただ呆然と見上げるしかなかった。
137('A`)sage :2005/01/01(土) 05:52 ID:mI4/rHd.
コッソリ、あけましておめでとうございます。('A`)です。
ちょっとずつ駄文投下していきますので、よろしくお願いします。

リアル多忙の為、間隔が空いてしまい、忘れ去られたかと思って覗いてみると・・・
何だかスレが寂しくなってたのでションボリです。
途中で止まってる作品の続きが是非読みたいところですが・・・('`;)

まだ読んでくださる方が残っていて感涙です。頑張ります。

では、また。
138名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/01/01(土) 18:53 ID:aZmwWw7s
>>('A`)たん
一言。
おかえりこんちくしょうGJだ゜+.(・∀・)゜+.゜
139名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/01/01(土) 18:53 ID:aZmwWw7s
うは、IDが逆毛wWw

ガルディア…○| ̄|_
140名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/01/03(月) 23:08 ID:hPrl95JU
>>('A`) さん
何時見てもうめぇなぁ、くそぅ。GJだこのやろう!
141('A`)sage :2005/01/04(火) 08:10 ID:.MvjUras
 Ragnarok Online Side Story "Confrontation of fate"




「なあ、聞いてくれよロッテ!俺、やっと軍に登用されたんだ!」
「えぇ・・・?」
「ははっ、まだまだ兵卒だけど、なんかのし上がれそうな気がしてきたよ!」
「そ、そうなんだ・・・おめでとう・・・」
「あ、あれ・・・?あんまり喜んでくれないんだな?」
「だって・・・軍って危ない仕事もするじゃない。普通の冒険者より危ない事だって・・・」
「大丈夫さ。任されたのは単なる城の警備だし、危ない任務なんて新米の俺に回ってくるわけない」
「でも・・・」
「ロッテ・・・ちゃんと勤めれば給金も出る。そうすれば、半端者の俺でも結婚資金が用意できるんだ」
「お金なら、少しずつだけど私が・・・っ」
「こうやって毎日ポーションを売って?それで一体、どれだけ頑張れば貯まるって言うんだ?」
「でも・・・でも、貴方に何かあったら・・・私・・・」
「大丈夫だってば!俺にも少しは甲斐性の有る所を見せさせてくれよ!な!」


「あ、いらっしゃいませ!どちらになさいますか?」
「いや・・・ロッテ=コールウェルだな」
「は、はい・・・そうですけど・・・何か・・・?」
「私はプロンテラ軍のエスリナ=カートライルという者だ。君の恋人から手紙を預かっている」
「アシュレイから?」
「そうだ」
「今まで一度も手紙なんて書いてくれなかったのに・・・」
「・・・」
「えっと・・・その、それで彼は今何処に・・・」
「死んだ」
「――――・・・え?」
「彼は任務中に魔物との戦闘に遭遇、戦死した。入隊時に彼が指定した受取人に従い、君に彼の遺言状と特別功労金を
渡しに来た。受理して貰いたい」
「せん・・・し?」
「そうだ」
「・・・どう、して・・・」
「軍務規定に違反する。詳細な説明は出来ない」
「・・・」
「受理するか否か、返答を」
「・・・お金は・・・要りません」
「その場合、この功労金は軍に返還される事になるが、それでも・・・」
「手紙だけ・・・ください」
「・・・協力に感謝する」


 『憎悪の血斧 2/2』


142('A`)sage :2005/01/04(火) 08:10 ID:.MvjUras
 血塗られた巨躯が、また現れた。
「三体目・・・凌げるのか!?」
 闇に飲まれた少女の虚ろな目が、召還されたブラッディナイトの剣尖を回避するプリーストの姿を映す。
 "人間"だ。それ以上の意味合いを持たない存在へ、少女は漠然とした破壊の衝動を向ける。
 その意思は喚び出された三体の血騎士へ伝播し、"彼ら"は忠実にそれに従う。
 聳え立つ山の様なシルエットが迫る。カルマは素早く神力を行使し、来る一撃へ抗する結界を張り巡らせた。
「キリエエレイソン!」
 仮面のプリーストの前に、緑がかった光の壁が生じる。
 神の加護を得た強力な結界。
 しかし、血騎士達の剣があっさりとそれを打ち砕く。
 プリーストの仮面の下に、焦燥の色が見えた。
 ・・・脆い。
『どいて・・・ください』
 俯いた少女の口が、初めて意味のある言葉を紡いだ。
「っ!?・・・君、意識が・・・!?」
 一瞬の隙を見せたカルマへ、横薙ぎにブラッディナイトの剣が振るわれる。
 彼は咄嗟に左手に仕込んでいたバックラーでそれを受けるが、あまりの威力にそのまま横っ飛びに吹き飛ばされ、傍の家屋に
叩きつけられた。バックラーはその一撃で割れ、仮面の下から一筋、血が流れ落ちる。
 少女は薙ぎ倒したプリーストから視線を外し、更に向こう―――戦っていた騎士と戦闘僧侶の少女の姿を見止めた。
 向こうは既に戦いの手を止め、敵意をこちらへ向けている。
 しかし、その二人も"人間"である以外の何の意味合いも無い存在だ。
 壊すか。
 少女がそんな事を曖昧に考えた刹那、初めて意味を持った"モノ"が視界に飛び込んできた。
 傍らの民家の屋根から下りてきた、赤毛の少女。ウィザードの衣装を身に纏った、その人物は――
『エスリナ・・・カートライル・・・』
 少女の内側で、どす黒い何かが脈動する。
 騎士の隙を突いてその場を走り去る僧衣の少女に何の関心も持たず、ウィザード目掛け、闇を宿した少女は血騎士を率いて歩み
出す。


 走り去るサリア=フロウベルグを追わず、ルーク=インドルガンツィアは降り立ったウィザードの少女目掛けて走り出した。
 乱れた長い赤毛を手で払いのけ、何故か状況を理解出来ていない風な無防備な体勢で、少女はルークに指をさして笑う。
「こっちは捕らえたぞ、ルーク!どうだ!これで私の実力を認める気に・・・」
 ウィザードの背後で、血騎士が刃を振りかぶる。
「馬鹿言ってんじゃない!伏せろ、エスリナ!」
 ルークは一際大きく速い一歩を踏み出し、
 ようやく背後を振り返った赤毛の少女を抱えて石畳の地面を転がった。
 遅れて、すぐその傍の地面をブラッディナイトの剣が深く抉り取る。
「な・・・いきなり何だ!?この私を呼び捨てにして・・・しかも貴様、何処を触っている!」
「五月蝿いぞ少佐。助けてやったんだから少しは可愛らしくしてろ」
 腕の中で暴れるエスリナを、今度は一転して突き飛ばすルーク。次の瞬間、二人の間を巨大な刀身が割って入る。
 打ち下ろされた剣が撒き散らす地面の破片に、エスリナはようやく"襲撃者"に気付く。
 その巨躯の全体を把握には、少々「見上げ」なければならなかったが。
「・・・ブラッディナイトか!?誰が喚んだ!?」
「知るか。サリア=フロウベルグじゃなさそうだが、無関係でもないだろうよ」
 うろたえる少女に、ルークは何かと邪魔なマントを払いのけながら、怒鳴る。
「作戦は中止だ!こいつらを片付ける!」
「ちぃ・・・カルマはどうした!?」
「潰された」
 端的に答え、巨大な甲冑に向けて地面を蹴るルーク。迎え撃つブラッディナイトの双眸に炎が灯る。
 甲高い怨嗟の咆哮を上げる甲冑の眼前で、白髪の騎士の姿がまるで闇に溶け入るかのように消滅した。
 次の瞬間には、騎士は既に血騎士を背後から睨んでいる。
「・・・遅いな」
 振り向きざまに巨大な刃を振るうブラッディナイトの頭上へ、ルークは跳躍する。
「んなっ!?」
 彼の見せる曲芸のような動きに、エスリナは援護の術の起動を思わず止めてしまう。
 剣技とパワーで敵を粉砕する騎士の動きと、彼のそれとはあまりにかけ離れていたからだ。
 サリア=フロウベルグとの戦いでも思った事だったが、今度は輪をかけて常識を無視している。
 ルークは空中で姿勢を正すと、おもむろに"二本目"のサーベルを左手で腰から引き抜く。追いすがるように切り上げてくる
血塗られた刃を双刃で受けるや、重力に身を任せ、滑る様に太刀筋を受け流す。
 ブラッディナイトの頭部が眼前まで迫るや、彼は手にした二本のサーベルを振るった。
 目の位置にある炎を切り散らされ、堪らず後退する巨躯。彼は息つく暇も与えず再度踏み込み、追撃を加える。
 ―――援護はまだか?
 ちらりとエスリナを横目で見やるルークの目には、そんな非難の念が濃い。笑みさえ浮かべている。
「こ・・・この・・・っ」
 頭のてっぺんまで血が上るのを感じながら、エスリナは口早に詠唱を再開する。
 ・・・ブラッディナイトを蹂躙する騎士を目掛けて。
「貴様は一度死ね!」
 彼の背中目掛け、雷の華が咲く。撃ち出された相当量の雷球は、周囲の大気を巻き込んで収束する。
 風の上級魔法、ユピテルサンダーである。
 一度とは言わず五、ないしは六回は死ねそうな威力だったが、ルークは当然かのようにその奇襲をあっさりと横跳びに回避
した。そのまま雷球は血騎士に直撃し、巨躯を盛大に弾き飛ばす。
「いい援護だ」
 吹っ飛んでいくブラッディナイトを後目に、端的に言うルーク。
 一瞬、本気で殺そうかと迷ったエスリナだったが、
 二体目、三体目のブラッディナイトが回り込んできた事で、くだらない思考を中断せざるを得なかった。
 二体目はルークとエスリナの間に割り込み、三体目はあろうことかエスリナの後方に陣取る。
 "魔物が連携をとっている"。
 これは、今まで数多くの魔物と対峙してきた中でも未経験の事象だった。
「どういう事だ、これは・・・!?」
 白髪の騎士へ問うエスリナに、恐ろしい質量を持った血騎士の刃が叩き落される。
 それを受けようと構えるエスリナだったが、先の少年剣士との戦闘で盾も杖も失っていた事を失念していた。
「・・・受けるな!避けろ!」
 間に割り込んだ血騎士と刃を交えながら、ルークが叫ぶ。
 まともに受ければ、どうなるかは想像に難くない。
 左右に真っ二つなどという生易しいものではなく、地面ごと粉々にされるだろう。
 しかし、もう回避が間に合うタイミングでもない。
「う、うわ・・・!?」
 死を覚悟した刹那、真横から放たれた閃光がエスリナに迫る刃を吹き飛ばした。
 見るや、満身創痍で術を放ったプリーストが、ゆっくりと地面に倒れこんでいく。
 なんとか踏みとどまり膝をつくも、相当の重傷なのか、すぐには復帰しない。
「カルマ!!・・・あぁっ!?」
 突如として自分の身体が浮き上がるのを感じ、締め上げられる苦痛の中で、エスリナは自分の状況を把握した。
 剣を飛ばされた血騎士の手が、エスリナを掴んでいた。
「放せ、この・・・!」
 憤怒の形相で彼女を締め上げるブラッディナイト。何とか指の間から滑り出させた右手で風の術を放つも、血騎士は一向
に手を緩めない。どころか、更に力を加える。
 骨が軋む嫌な音がし、呼吸が困難になる。
「ぅ・・・ぁ・・・っ・・・」
 華奢なウィザードの少女など、こうなってしまっては何の抵抗も出来ない。只の小娘だ。
 脆い。
 闇の向こうで、影を宿した少女が嘲笑を刻む。
 壊せると確信した。エスリナ=カートライル。少女が個人的に調べた範囲では、軍でもかなりの術者だという事だったが、
 それさえも凌駕する力が、今の自分にはあるらしい。
 殺せる。
 殺せるのだ。

 ―――殺せ。

 少女の意思が伝達される。
143('A`)sage :2005/01/04(火) 08:11 ID:.MvjUras
 足場である屋根を揺るがす振動に、ナハトと弓手の少女は咄嗟に向かい合った。
 お互いがお互いの攻撃だと思い込んだ結果である。自分の背丈の半分はあろう自動弓を向ける少女に対し、ナハトは徒手空
拳である。その間抜けさに、少年は拳を構えてから気付き、やるせなく笑ってから両手を挙げた。
 今更、勝ち目は無い。
 弓手の少女も理解したらしく、安堵ともとれる溜息をついて、言った。
「馬鹿な事、考えないでくださいね」
 癖の全く無い、綺麗な青い髪を耳にかけつつ、口を尖らせる。
 年相応の、可愛い仕草だ。
 殺伐としていた空気を吹き飛ばされ、ナハトは少し吹いた。それでもすぐに、サリアからの念話の返事が無い事、そして先程
からの振動・・・まるで、巨大な物体が動き回っているかのような異変へ、思考を巡らせる。
 がちゃり、と再び自動弓が持ち上げられた。
 鈍感なのか敏感なのか、アーチャーの少女はその様子が逃亡の手段を思案しているように見えたらしい。
 ナハトはやはり必死になって両手を天高く上げて見せるが、少女の鋭い目つきは変わらない。
(弱ったな・・・)
 逃げれなくはないのだろうが、撃たれるのは目に見えている。第一、面と向かってしまい、少女の顔をはっきりと直視した事
で・・・もう張り倒すなどという選択肢は失われていた。
 もしかすると甘いのかもしれなかったが・・・少なくとも、目の前の少女に暴力を振るうというのならば、自分は大人しく死を選
ぶであろう事は、間違いない。
 軟弱な少年の戯言である。自覚もしていた。目の前の少女は自分よりも強いだろうし。
(・・・弱ったな)
 ルイセは例によって念話が通じない。まだシメオンという魔術師と交戦中なのかもしれなかった。
 いつまで生殺し状態なのか。

 一向に将来性の閉塞した状況が続く中、変化があった。

 轟音と共に、天地が傾いたのだ。
 激震。そして、後ろのめりになる視界に、天高く、赤い満月が見える。
「うひゃあぁっ!?」
「んっきゃぁぁぁ!?」
 間抜けな悲鳴が交錯する。踏みとどまったナハトの視界は、今度は真っ青になった。重くも軽くも無い重圧がかかり、彼は咄嗟
にそれを受け止める。
 ・・・まず、良い匂いがした。
 香油か何かなのだろうが、甘い匂いだ。
 サラサラした何かが頬を優しく撫でる。くすぐったくもあり、心地よくもある。
 ・・・次は柔らかかった。
 抱き止めた"何か"は細く、小さく、柔らかい。抱きしめたら壊れそうだ。
 無論、そんな勇気はない。この時点で、少年は"何か"が何なのか大体、把握していた。
 ・・・次は怖かった。
 下腹部の辺りだろうか。いかんせん、見るのが恐ろしい。やたら硬い感触が服の上から当たっている。
 突き刺さらなかったのが幸運としか言えなかった。鋭い矢の先端が絵に描けるほどリアルに想像できる。
「あ・・・あの・・・」
「・・・」
「・・・だ、大丈夫・・・だよね?」
 背中に冷や汗の流れるままに、ナハトは訊いてみた。撃ち殺されるんじゃないかと気が気では無いが、幸い、"腕の中の"少女は
微動だにせず、終始無言である。いや、幸いとは言えない。無言が逆に恐怖をかき立てる。
 何せ腹に弓。タイミングを知らされないで焦らされている死刑囚の様なものだ。もっとも、そんな状況が実在するのかは疑わし
いのだが。というか、実在しないで欲しいものだ。これは、辛過ぎる。
 何も語らない少女へ、ナハトは再び口を開こうとした。しかし、少女が何かを凝視している事に気付き、彼女を捕まえたまま、
 振り返った。
 そして戦慄する。
「・・・なっ!?」
 先程、路地へ降りて行ったウィザードの少女が、巨大な赤い甲冑の手に握られていた。
 屋根が傾いたのは、その手が、ウィザードの少女を掴んでいる巨大な手が、この建物を殴打した結果だったのだ。
 その証拠に、建物を突き破り、半身を建物にめり込ませた甲冑が、まるで獲物を自慢するハンターの様にその手を天に掲げて
見せていた。
 ・・・生きてるのか?
 状況の非常識さをさて置いて、ナハトはそんな事を思った。恐らくは建物の壁に叩きつけられたであろうウィザードの少女は、
掴まれたまま微動だにしない。むしろ、死んでいない方がおかしいのだが、ナハトの目では確認できなかった。
 見回せば、崩れかけた屋根からは数体の甲冑を確認できた。どれも大きく、赤い。燃える、焔の双眸。
 化け物だ。
 ナハトは思考を切り替える。スイッチを入れ、永遠とも言える瞬間の終わりに・・・屋根を突き破った甲冑が身体を引き抜き、撒き
散らされた破片からアーチャーの少女を庇う。それは、半ば無意識の行動であった。
「っ・・・あああああっ!」
 直後、少女がナハトの傍を離れた。突き放すように距離を取り、残骸を支えにして身体に不釣合いな弩弓を構える。
 錯乱した様子だったが、挙動に狂気は無い。戦うつもりなのだと、ナハトは冷静に分析する。
 少女は素早く、涙ぐんだ目で照準を合わせ、放った。
 凄まじい反動を伴って撃ち出された矢は、ウィザードを掴んだ甲冑の表面で弾かれる。澄んだ音がし、折れ飛ぶ。
「少佐を放して!放してよ!!放しなさいよぉっ!!」
 ニ射、三射、と繰り返す。しかし、血に濡れた甲冑は止まらない。放たれる矢など、気にも留めない。
 ウィザードの少女を掴んだ手が、今度は向かいの建物――ナハトがしばらくの間、生活の場にしていたルイセの隠れ家――に、
容赦なく突き立てられた。凄まじい勢いで、家は倒壊していく。
 ナハトは崩れていく、自分がよく座っていたあの屋根を、見た。よく見張りをしたものだった。
 あそこで、サリアとサンドイッチを食べたのは――つい今朝の事だったのに。
 甲冑は暴れ狂っていた。見れば、他の二体の甲冑も周囲の街並みを徐々に変化させていく最中だ。地図が書き変えられてしまう
かもしれない。破壊は、それ程のレベルに到達しようとしている。
「・・・う・・・うあぁ・・・」
 必死に抱えられていた弓が、落ちる。揺れる屋根に、アーチャーの少女が泣き崩れた。
「少佐が・・・死んじゃうよ・・・少佐ぁ・・・少佐ぁっ」
 少佐、というのが誰かは知っている。あの赤毛のウィザードの少女だ。高慢で、強く、どちらかと言えば憎い、あの少女だ。
 ナハトは知っている。彼女は敵であると。助ける義理など何処にも無いと。得策ではない、と。
 少年は知らない。あの甲冑が、どれ程の力を有するモノなのか。敵の強大さを、彼は知らない。
 でも、何故か。
 それは冒険者の宿命なのか。それ程、陳腐な理由でなければ、単なる正義感から来る蛮勇か。
 国に、軍に刃を向けた剣士は、眼前の殺戮と破壊にゆっくりと目蓋を開く。
 否。否だ。
 思えば、自分が戦いに身を投げんとしているのは、最初から何かを守るためではなかったか。
 轟音。
 また一つ、家屋が粉砕される。
 撒き散らされる瓦礫。その家の人間だったのだろうか。宵闇に紛れ、人の形をした影が宙に放り出された。
 生きている筈もなく。
(・・・守らなきゃ・・・いけない)
 内なる何かが囁く。
(守らなきゃいけない・・・その為に、僕は・・・)
 それは衝動。同時に、力。
 ナハトの中で、その想いが爆発する。サリアは居ない。にも関わらず、彼は踏み出し、屋根の上から暴れる三体の甲冑を見据える。
 足元で、アーチャーの少女がナハトのズボンの裾を握った。こんな状況でも、逃がすつもりはないのか。
 それとも単に、心細いのかも知れない。
 考えてから、少年はひきつりながらも笑った。自分は罪人らしい。そんな奴が、頼られる訳がない。
 でも。
「・・・何とか、やってみるから。泣かないで」
「・・・え」
 申し訳なさそうに笑う少年を、アーチャーの少女は泣きはらした目で呆然と見上げる。
「上手くいったら・・・見逃がして」
 軽く、剣士は一歩を踏み出す。傷だらけの身体に鞭を打ち、敵を助ける為に。
 これであっさり殺されたら良い笑いものだろうな、と考えてから、少年は未だ裾を掴んだままのアーチャーの少女を見た。
「僕はナハト=リーゼンラッテ。君は?」
 ぽかん、とする少女。やがて、それが名前なのだと気付き、
「・・・レ、レティシア・・・アイゼンハート」
 思わず、普通に返していた。完全に、意図するところが分からない、といった感だ。
 ナハトは必死に恐怖を抑えて苦笑し、赤い目で見上げるレティシアを正面から見た。
 やはりサリアが一番なのだが、可愛いな、とは思う。
 最期を看取られたとしても、悪くはない。
「レティシアさん・・・か・・・出来れば、もう会わずに済めばいいね」
 正直にそう言い、ナハトは今度こそ屋根から跳んだ。
144('A`)sage :2005/01/05(水) 07:25 ID:uc0aUCHw
 Ragnarok Online Side Story "Confrontation of fate"


 プロンテラ西城門の上。瘴気の混じった風と、走り、行き交う人、逃げ惑う人々を眼下に、
 サリア=フロウベルグは立っていた。
 炎が遠目に見えた。揺らめく緋色の光の下に、彼はまだ、居るのだろう。
 途切れ途切れに届いていた念話が無くなり、少しだけ彼の身を案じた。しかし、自分の立場はそれを許さない。
 背後に誰かの気配を感じた。あまりに唐突だったので、恐らくは転移して来たのだろう。
「・・・この混乱なら、首都を離れるのも容易だね!」
 ぱっ、と明るい声だった。無邪気な少年を思わせる口ぶりは、それでもやや、年齢を感じさせる。
 明るい青年だ。心当たりはあり、サリアは振り返らなかった。
「あれぇ・・・急いでここを離れないと、すぐにヌーベリオスの息のかかった騎士が殺到しちゃうよ?」
 クスクスと、背後の人物は笑う。
 逃げないのか、と。
「ねぇ?・・・僕は君に直接の手助けは出来ない・・・分かってるんだよね?そこのところ、さ」
 男が、わざとサリアの視界に入る位置まで移動した。
 軽装の術衣を纏い、人の良さそうな顔に、嘲るかのような笑みを浮かべて・・・男は言う。
「あの剣士・・・使えるものを利用するのは良い事だけどね・・・あまり情を移しすぎると、ヤバイよ?」
 例えるならば、その言葉は汚濁した沼の水に似ている。
 ――汚らしい。消えろ。
 しつこく言いすがる男に向けて、そう叫んでやりたかった。
 しかしそれも、自分の立場が許さない。
 代わりに、サリアはわざと関係のない・・・それでいて、男が絶対に乗ってくるだろう話を振る。
「・・・"あれ"は、何ですか」
 男はその問いを聞くや、にやりと口元を歪め、歓喜の色を瞳に宿した。
 心底嬉しそうではある。上手く引っかかった。男は得意げに喋りだす。
「僕が手塩にかけて編み出した術さ。人間が媒体なのは初めてだけど、ブラッディアックスに籠められた怨念は予想以上
に発現、具現化してる。ちゃんと媒体を選んだ甲斐はあった」
「・・・媒体?」
「ヌーベリオスが差し向けた追っ手・・・エスリナ=カートライルを潜在的に憎む要因があった人間さ」
 勿体ぶって言う男だったが、そこはサリアの興味を引く部分ではなかった。
 彼女は呆れたように、言う。
「そんな手の込んだ事をして・・・何がしたいのですか、貴方は」
 非難にも似た問いだ。
 男は一層、楽しげに答えた。
「嫌がらせだよ。君への手助けなんて、普通にやったんじゃ楽しくないからね」
 そこで間髪入れず、少女は満面の微笑を作って見せた。表面だけの笑みで、言う。
「・・・それは良い趣味ですね」
 聞くや、そうだろうそうだろう、と男は笑う。無邪気に笑い転げる。
 が、モンクの少女は打って変わって、冷たい眼を能天気に笑う男へ向けた。
 それは、愚者へ向ける侮蔑の視線に他ならない。自分よりも遥かに劣る存在へ向ける、嫌悪の目。
 男は気付かずに、愉快に笑い続ける。話題を逸らすには成功したようだった。
 サリアは視線を風の向こうの戦火へ戻し、恐らくは戦うであろう少年の事を思う。
 生き残るか、死ぬか。
 どちらにせよ、自分の進む道には関与しないのだが、しかし、彼女は確かに、剣士の身を案じる。
 それは利害によってのみ得られる感情では、決して、無かった。
 かといって、穢れた自分が、純粋たるに値する感情を抱くはずも、無かったのだが。





 『今、その手に無垢なる断罪を 1/2』


145('A`)sage :2005/01/05(水) 07:25 ID:uc0aUCHw
 怒号と共に、ルーク=インドルガンツィアの双刃がブラッディナイトの右腕を切り落とす。
 返す刃で威嚇し、怨嗟の声を上げる血騎士を振り払い、彼は闇と炎が溢れ出す街で、捕らえられたウィザードの少女を
見上げた。
 握られた彼女の身体には、既に意思は認められない。幾度にもわたる攻撃と、握り潰されかねない圧力で・・・死んでしまったの
かも知れなかった。
 不味い。非常に、不味い状況だった。
 腕を飛ばした筈の血騎士が、再びその腕を左手で付け直し、剣を振り上げてて猛進してくる。
 ルークは舌打ちし、その突進を跳び下がって回避する。が、今度は後方から現れたもう一体が、盾を鈍器の如く振るって襲い掛
かって来る。
「このままじゃ・・・やばいな・・・」
 白髪の騎士は唸り、やはり受けるのは危険な一撃をなんとか半身だけをずらして凌ぐ。
 限界が近かった。
 打開する策が無い事もない。彼は先ほどから、この三体を操作していると思しき少女の影を、視界に捉えていた。
 商人風の、一見すればごく平凡な少女だ。
 ただし、この惨状で平然と佇み、そして、その身に強大な闇を宿していなければ、だったが。
 あの少女を討てば、恐らくはこの非常識な巨大甲冑の群れは統率を無くす。上手く行けば、魔界に叩き返せるのではないか。
 しかし、出来るなら既にやっている。
 今のルークに、血騎士二体を相手にしながら少女を討つ余力は無い。
 カルマは何とか動こうとしているが、自己の治癒さえままならない状態である。
 ジリ貧だった。このままでは、間違いなく全滅する。
(どうする・・・・・・呼ぶか?・・・いや・・・ダメだ)
 脳裏に最後の手段が過ぎる。しかし、彼は即座にそれを却下した。出来れば"彼女"を危険な目には遭わせたくない。二度と。
 そう誓った。その上での、今の戦いだ。それを否定するわけにはいかない。
 緋色に照らされる巨躯が、ルークの前に立ち塞がる。何処までも邪悪な意思を湛えて。
 歯噛みしてサーベルを構える彼に、突如、届く声があった。
「でぇぇぇやぁぁぁ!!」
 バラけた家屋の残骸の一部だろうか。
 角材だ。
 まず角材が見えた。違う。角材を振り上げた少年だった。妙に体格に釣り合わないマントを着込んだ、剣士風の少年。
 目の覚めるような黒髪。何処か女々しい顔立ち。必死の形相で、ブラッディナイト目掛けて駆けて来る。
(アレで戦う気なのか・・・?)
 正気を疑うような光景だった。もしかすると錯乱しているのかもしれないが、さすがに見殺しには出来ない。
 振り下ろされる剣戟を掻い潜り、ルークは無謀な突貫攻撃をする剣士を転がり込むように抑える。
「死にたいのか!?そんな木材で・・・どっから沸いて出やがったんだ、お前は!」
「こんなでも無いよりはマシじゃないか!」
 剣士は錯乱などしてはおらず、真っ直ぐな目で反論する。
 白髪の騎士は、それだけでこの剣士の決断を理解した。止められるものではないのだと。
 しかし、かといって自殺に等しい行いを黙認出来るものでもない。第一、戦いを望む人間が、戦いをせずに死ぬのは順当ではない。
「ち・・・まぁ、戦る気なら止めんが・・・」
 剣士を羽交い絞めにしたまま、ルークは背に負っていた三本目の剣を抜く。
 両刃の長剣である。磨かれた刀身にも柄にも無駄な装飾は無い。
「使え」
「うわっ」
 言われるがままに、剣士はあたふたとその剣を取る。
 手に馴染む重みである。あまり強そうに見えない剣ではあったが、不思議な力強さを感じさせる。
「海東剣だ」
 何の説明もない。端的に告げるや、ルークはサーベルを構える。
「本来なら死ぬ所だが、今回はうまく立ち回って生き延びてもらう。その為にも、それを使いこなせ」
「・・・はい」
 剣士も海東剣を握り直し、構える。
 ――良い目をしている。
「俺はルークだ。お前は?」
 地響きをあげながら、ブラッディナイトが前進する。
 剣士はそれを恐怖の目で見やりながら、答える。
「ナハト・・・リーゼンラッテ」
 間合いを詰められながらも、ルークは続ける。
「そうか。ナハト、今から言う事を良く聞け」
 二体の甲冑は示し合わせた様に、二人の前後から挟撃をかけてくる。
「奥にこいつ等の"本体"が居る。時間を稼ぐから、お前がやれ」
「でも、それじゃ・・・ルークさんが」
「あのな?はっきり言うが、お前じゃ五秒ともたん。だが俺は違う。それが理由だ。不服か」
 異議を唱えるナハトに、ルークは断じる。
「それに、本体がどんな能力を持ってるのかは分からん。いざって時に立て直せる体勢も考慮してある。やばかったら遠慮なく逃げろ」
「っ・・・・・・分かりました。それで行きましょう」
 眼前まで迫る敵。あくまで冷静に言うルーク。頷くナハト。
 作戦が、決まった。
146('A`)sage :2005/01/05(水) 07:26 ID:uc0aUCHw
「・・・ニ分だ。それ以上はもたない」
 白髪の騎士は呟き、跳んだ。前後から襲い来る血騎士の猛攻へ。ナハトは前から駆けて来た甲冑の股下を、滑り込んで抜ける。
 危ない賭けではあったが、彼はそれに勝った。体勢も整えられぬままに、前方の血騎士をクリアする。
 背後で剣戟の音を聞きながら、ナハトは走った。
 確かにルークという騎士の言う通り、勝機があるとすれば、それは頭―――指揮者、もしくは術者を倒す以外に無い。
 絶対的に勝る力を振るう相手が敵ならば、打ち破るにはその力を無効化する以外に有り得ないからだ。
 冷静に、正確に戦況を把握した自分を意外に思いながらも、少年は戦火の下を駆ける。
「本体って・・・あれかっ!?」
 やがて見えた人影に、彼は立ち止まり、剣を向ける。
 そこには闇が在った。闇と、人。ごちゃ混ぜになった何らかの思念と、その中核を成す、細い人影。
 炎の中にあって、身じろぎ一つしないその"少女"は、ゆっくりと顔を上げる。
「・・・あの子・・・は」
 ナハトは少女の顔を知っていた。あの夜、そう、忘れもしない、サリア=フロウベルグと出会ったあの晩に半魚人に襲われていた、あの。
 海東剣を携え、自分を討ちに来た少年の姿を、少女は色の無い瞳で見た。
 微かな感情が過ぎる。しかし、ナハトを待っていたのは感謝の言葉でも、微笑でもない。
 少女が全身を仰け反らせる。周囲の闇が弾け、黒から赤へ、血の紅に変わる。
 細い手が、渦巻く血から何かを引き抜いた。太く、大きい、刃。それが斧であると、誰が想像し得るだろうか。
(魔術・・・なわけない!普通じゃない!こんなの・・・!)
 浮き足立つ少年へ、血に濡れた斧を手に、少女が顔を向けた。
(僕を覚えているわけがない、けど・・・)
 ナハトは海東剣を下げ、明確な敵対行動をとる少女へ、叫ぶ。
「もう止めるんだ!僕は君と戦いたくない!」
 甘いだろうか。
 奇麗事だろうか。
「何でこんな・・・」
『退いて・・・ください』
 少女が、言葉を発した。意味のある単語の羅列。そして、それ以上のものは籠められていない、単語。
 退かなければどうするのか。何故、退かなくてはならないのか。それらを飛躍した、一方的な通告。
 黒髪の剣士はそれを聞くと、もう何も言わず、剣を構え直す。
 退けるわけが無かった。あと一分弱だろう。過ぎればルークという騎士は死に、エスリナという憎い敵も死に、レティシアも恐らくは。
(どうする・・・どうする!?)
 自問するナハトへ、少女が凄まじい速度で突進する。退かぬと見るや、巨大な斧を振りかぶり、打ち下ろす。
 受けれない一撃ではなかった。逆毛の剣士・・・ガルディア=ルーベンスや、魔術師シメオン・・・彼が今まで相対した"敵"と比べれば、速さ
も威力もまるで足りない。着実に実を結んでいく経験が、ナハトを防御へ導く。
 切り上げた海東剣の刃が、斧と激しく衝突した。火花が散り、少年の身体の傷が悲鳴を上げる。
 それでも、彼は競り負けたりはしなかった。気力で傷を沈黙させ、渾身の力を振り絞って斧を押し返す。
 が、尋常ではない少女の力に押され、鍔迫り合いに持ち込まれる。
「・・・こ、この・・・っ」
 ナハトはぎりぎりと力任せに剣を握った。息のかかるほど近くに来た少女が、色の無い目を動かし、剣士を見る。
 ――まただ。
 ナハトはその目に宿る僅かな感情の色を見逃さなかった。意識は、ある。
 可能性はある。
「僕の声が聞こえるか!?」
 斧にかけられた力が、呼びかけと同時に緩む。その隙を突き、少年は出鱈目に斧を弾き返した。
 信じられない距離を跳び下がり、少女が口を開く。
『・・・どうして邪魔をするんですか?』
 今度は疑いようも無く、少女の目に感情が戻っていた。
 それは哀しみ。深い悲哀の色であり、ナハトが最も嫌悪する感情。
『貴方には関係ない・・・のに』
 見たくない。
 こんなものを見たくないから、自分は剣を取り、戦うのだ。
 理屈なんてどうだっていい。
 甘い幻想と罵られ、多くを敵に回してさえ、その願いを、叶える為に。
 そうだ。守るべきものを、守る力を手にする。それはサリアであり、唯一つではない、多くのもの。
「僕が、僕だからだ!」
 海東剣の刀身に手を沿え、解き放つ。その技を。忘れていた多くの事を。
 自分は何であったか。望む望まないに関わらず、生きる為に学び、選んだその道を、思い出す。
 後ろに確かな命を背負い、この戦いの場に立つ今なら、自信と誇りを持って言える。
「僕が、剣士だからだ!!」
 かつて未熟と言われた少年の闘いの意思が、気となり、炎を具現させる。衝撃が生まれ、マントが翻った。
 少女も弾かれたように後退を始める。自らの意思なのか、何らかの干渉があるのか、ナハトには分からなかった。
 速い―――これでは、届かない。
「バニ=ランダースが命じる!」
 焦燥に駆られるナハトへ、言葉が届く。
「かの鈍き地に住まう者に!流転の時を刻む風よ、あれ!――――"Increase Agility"(速度上昇)!」
 気高き祝福の声。そして、爆発的な加速力を得たナハトは少女との距離を一瞬で詰める。
「邪気の本体は斧だ!あの斧を!」
 イズルートで会った仮面のプリーストだ。ナハトは横目でそれを確認し、すぐに少女へ向き直る。
 後退さる悲しげな少女。その目は、やはりナハトへ問う。
『ドウシテ邪魔ヲスルノ』
 少年は躊躇わなかった。海東剣が纏った爆発的な闘気を、少女へ――少女の手の斧へ、叩きつける。
「マグナムブレイク!!」
 炎が狂乱の少女を吹き飛ばし、振り抜いた海東剣の刃は異形の斧の柄を断ち切り、刃を飛ばす。
 間髪入れず、光芒が奔った。
 仮面のプリーストが放った白光は、呪われし斧を貫き、浄化する。
 膨大な瘴気が灼かれ、飛散した。


 その瘴気の飛散は、物理的な圧力さえ生むほど強力であった。
 ナハトはその衝撃の只中で、崩れ落ちる少女を抱きとめながら、沢山の思念の欠片に触れる。
 少女の恋人が死んだ事。
 その事で、彼女自身が自覚できない程深い心の奥で――プロンテラ軍を逆恨みしていた事。
 漠然としながらも、それは少女の記憶なのだとナハトは理解する。
 触れる思念は、殆どが憎悪に満ちたものであった。
 崩壊していく醜い斧。どれほどの歪んだ力を秘めていたのか。


「・・・こんなもの!」
 左手に少女の重みを受け止めながら、ナハトは海東剣を一閃させた。おぞましき斧は真横に断ち割られ、砕け散る。
 ―――同時に、三体のブラッディナイトは糸の切れた人形のように崩れ、霧散する。
 黒髪の剣士は少女を抱えたままその場に膝をつき、戦いの終わりを悟った。
147('A`)sage :2005/01/05(水) 07:35 ID:uc0aUCHw
主人公が主人公らしき働きぶりを始めて見せた今日この頃、
他の方々の作品がめっきりないので投下を躊躇う('A`)です。
おはようございます。

・・・長ったらしい戦闘が終わったので一息つけそうです。
次の話は遥か記憶の彼方にすっ飛んでしまいそうな程、引き伸ばしてしまった座談会での
キャラ使用契約を断固行使しようと思います。


では、また。
148名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/01/05(水) 11:50 ID:/3HaQ4cE
熱いなぁ・・・じつに熱い!GJ!
なんか、ナハトが実にいい漢に成長したね
149とあるモンクsage :2005/01/05(水) 20:25 ID:Oj1GlpDU
実に興奮を禁じ得ません!
こんなに熱い展開の後に使って頂けるなんてっ!

むしろ伏してお願いします。使ってください(゚Д゚)!!
やべぇめっさ楽しみだー。
もう、好きなようにいじくってやってください!!!111!!

9日、お時間が許されるならば是非ご参加ください。
また熱く語りましょう(゚Д゚)!!
150名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/01/06(木) 02:22 ID:zykvkvJA
ウホッ、('A`)たん二日連続で投下しとる。
今回もGJだこんちくしょう゜+.(・∀・)゜+.゜

さて、触発されたので何か書くか、課題はもう諦めたし。
151('A`)sage :2005/01/06(木) 07:37 ID:rtFUJgfY
 Ragnarok Online Side Story "Confrontation of fate"


 

 少女、ロッテは力の消失を感じた。
 身の内に宿った強大な力は、途方もない多くの怨念と、莫大な憎悪を巻き込んで四散していく。
 取り残された少女はちっぽけなものであった。身を焦がす憎しみは跡形も無く消え失せ、慈愛や良心――少なくともそういった表現
でしか形容できない感情達を、取り戻す。
 同時に、自分の行った暴挙の罪深さを、知る。
(アシュレイ・・・)
 狂い、力を得ても仇を取れなかった恋人の名を、呼んだ。ひたすらに空虚だった。
 いっそ、憎悪に狂ったまま死ねたらどんなに幸せだったか。
 プロンテラに住まう大勢の命を奪い、沢山の者を傷付けた。それは決して許される行いではない。
 捕まれば死罪は免れないだろう。しかし、それさえも少女は厭わない。自分は罪人であり、当然の事だ。
 ・・・そして、救いの声は来る。

 我は契約を果たした―――代価を与えよ。

 数百の命を刈り取り、自我を持った斧が言う。
 力の代償を払えと。
 分かっていた。それは自分の命であり、生への執着を捨てた・・・もとい、生きる事を放棄した少女は、それを拒まない。
 願ってもいない事だ。
 飛散する瘴気の中に、斧は在った。柄を断ち切られ、聖光に撃ち抜かれてさえ、まだ在った。
 勝手に持って行けば良い―――ロッテは死を願う。脱力した身体を投げ出し、何もかもを―――
 が、地面に倒れる前に、彼女は誰かの腕に収まる。ロッテはその人物の顔を見た。
 女と見間違えそうな、弱々しい少年・・・"剣士"を。

 代価を―――

 斧は繰り返す。崩壊する自己の存在を保つために、ロッテの命は必要不可欠なのだ。
 少年にその声は届かない。
 しかし、彼は強い意志を以って剣を振るう。閃いた刃は禍々しき斧を見事に断ち割ってみせるだろう。
 斧が、砕ける。


 全てが終わる。


 『今、その手に無垢なる断罪を 2/2』



152('A`)sage :2005/01/06(木) 07:37 ID:rtFUJgfY
 元凶である斧が消し飛ぶや、瘴気の渦は光芒を成し、一度高く舞い上がってから、戦場となった街へ降り注いだ。
 蛍火に似ている。
 ナハトはそんな事を思い、幻想的な光景に傷の痛みさえ忘れた。
「変質していた魔力が浄化されて・・・あるべき姿に還っていくんだ。そうやって、万物に再び宿り・・・風や大地を循環する」
 白磁の面を被った神官が、立ち上がるや否や、呟いた。
 剣の事は多少学んでいたナハトだったが、そういった魔力の話は全くの初耳である。
「アレは・・・やっぱり不自然なモノだったって事ですか」
「こちらの世界では、そうなるね。魔界やその中間にあたる魔窟でならともかく、瘴気なんてものは自然には生まれない」
 燐光を手の平に乗せ、プリーストは言う。
「あれは更に怨念まで乗せていた。そういう不自然なモノを浄化し、元の大きな流れに戻すのは僕ら聖職者の仕事なんだけどね」
 ナハトは振り返り、笑う。
 とてもではないが、仮面を被り素顔を隠すこの神官は、どうひいき目に見ても悪人にしか見えない。
「・・・僕を・・・僕らを捕まえに来た人達の一人ですよね」
「そう・・・なるね」
 プリーストは肩をすくめ、小声で治癒の術を詠唱し、自分の身体にあてがう。
 傷を負っているらしい。
「でも生憎、僕は今立っているのもやっとだ。君を逃がしてしまってもしょうがないよね?」
 何を言っているのかは分かる。不可解だったが、追わないから逃げろと言っているのだろう。
 ナハトは時間を稼いでいた白髪の騎士を目で探したが、彼の姿は無かった。恐らくは、捕まっていたウィザードの少女を介抱しに
行ったのだろう。
 間に合っただろうか。
 自分は、何かを守れただろうか。
 そこでようやく、ナハトは抱き止めたままの少女を思い出し、見て、顔をしかめた。
 酷く衰弱した身体が、小刻みに震えていた。血の気の失せた顔は、まるで死人のようにも見える。
 無理も無い事なのかもしれなかった。
 あんなモノに憑かれ、あまつさえ意識を残され――結果として大勢の人間を殺し、生き残ってしまった。
 もし自分が同じ目にあったとして、平然としていられるだろうか?
「・・・平気?」
 努めて優しく訊き、ナハトはマントを脱ぐと、それを少女に羽織らせる。
 海東剣は父のソードの鞘にちょうど納まり、ほっとする。長さが合わなかったら途方に暮れていただろう。
 ふらつく少女に合わせ、彼は身を屈め、膝をついた。抱き合うような格好だったが、傷を負った状態では他にどうしようもない。
 ばつが悪そうに苦笑する剣士へ、少女は呻く様に呟いた。
「・・・死なせて・・・ください」
 ナハトは一瞬、言葉を失った。
 それは殺せという意味なのか。それとも、打ち捨てて行ってしまえと言っているのだろうか。
 どちらにせよ論外である。
「そんな事は出来ない」
 強く、彼は言った。曖昧にではあったが、斧が滅びの寸前に彼へ見せた思念により、ナハトは大体の事情を知っている。
 恋人への想いと、やり場のなかった微かな憎悪。
 彼女はそれに付け込まれただけだ。仮にそこに罪があるというのならば、全人類が罪を背負っていると言って良い。
 誰が何と言おうが、この少女は悪くない。ナハトはそう決め付けた。この意志の弱かった少年にしては、あまりに強引な解釈である。
「・・・君は覚えていないかもしれないけど、僕は君を一度、助けた事があるんだ」
 少女が泣き腫らした目をはっと上げた。忘れもしない。
「覚えて・・・ます」
「・・・覚えてたんだ・・・」
 そう、全てが始まったあの夜に。
 ナハトに剣を取らせたのは、他ならない、この少女なのだ。
「ねぇ?こんな事になるくらいなら、あの時・・・君を見捨てていればよかったのかな」
「・・・」
 困ったように言うナハト。少女は何も言わず、今にも泣き出しそうな顔で彼を見つめる。
「そうじゃない・・・そうじゃないよね。君は、死にたがってなんかいなかった筈だから」
 今でも覚えている。半魚人の銛に突き刺され、倒れていたこの少女の顔を。はっきりとした死への恐怖が浮かんでいた、あの顔を。
 そして、今も、すぐにでも儚く消え失せそうな顔をしている。
「僕は後悔したくない。絶対にしない。もう決めたんだ。無責任かもしれないけど、折角怖い思いをしてまで助けた・・・僕が生まれて
初めて助けた君を、こんな事で・・・死なせたりはしない」
 多分、それは本当に無責任な台詞だったのだろう。
 世間的に見れば彼女は罪人であり、許されるものでもない。それを、あろうことか、庇う発言である。
 少女は目を見開き、愕然とした面持ちでナハトを見た。
 呆れられてしまったか、と彼が消沈するより早く、少女はナハトの胸にすがり付く。
「どうしたら・・・どうしたら・・・いいんですか・・・」
「・・・」
「人を・・・人を沢山・・・それでも・・・・・・生きて・・・っ」
 プリーストがようやく自分の治癒を終え、ナハト達へ手をかざす。
 それから、酷く穏やかな声で訊いた。
「君の命は・・・君が奪った多くの人達の命と、等価なのかい?」
「そ・・・それ・・・は・・・」
「違うだろ。君一人が何処まで尊い存在であったとしても、命の重みは同じだ。君の命が、殺した沢山の人と釣り合うなんて事は絶対に
ない。そもそも、死ねばそれで償えるなんて・・・甘ったれた逃げ道にしか聞こえないね」
 プリーストの指が動き、書物のページをめくる。
「君は生きて贖罪の道を探さなくちゃいけない。君が殺した多くの命を背負って、生きるんだ。償いを終えるその瞬間まで」
 淡い光が、ナハトと少女を包み込む。傷が癒え、生命に活力が蘇る。
 癒しの力は、一度魔性に身を少女さえも等しく癒す。
 望んだのか、そうでないのか。少女が分からないままに、プリーストは告げる。
「僕の権限に於いて・・・君は、今この瞬間から、永遠に"修道士"だ」
 目を白黒させるナハトの目の前で、少女の身体を淡い緑の光が包んだ。
 言うが早く、既にプリーストはいずこかに消えている。少年は訳も分からず、腕の中で変容を遂げる少女に見入っていた。
 まず、血の汚濁にまみれた服が、純白の僧衣に変わった。
 次に生気の無かった肌には色が戻り、冗談よろしく、頭には小さな帽子が乗っかる。
(転職の・・・儀!?)
 本来なら、各ギルド、各機関の高位執行者のみが扱える秘術だ。
 称号と共に、長い時を経て培われた多くの技と知識を継承させる・・・少なくとも、そうそうお目にかかれるものではない。
(あのプリースト・・・一体・・・何を)
 思案に暮れるナハトの手の中で、光が収束した。
 そして、彼はそれが杞憂なのだと知る。
 別人とも言える変貌を遂げた少女が、ゆっくりと目を開いた。
「あ・・・」



 罪人として追われる事は変わりないだろう。

 その罪が消える日も、恐らくは永遠に訪れないだろう。

 それでも、新しく生まれたアコライトの姿に目を奪われた少年は思わず、祝福の言葉を口にする。


 あまりに多くの命を背負い、生きていく少女へ。
153('A`)sage :2005/01/06(木) 07:39 ID:rtFUJgfY
 Ragnarok Online Side Story "Confrontation of fate"
 
 Chapter 1  "Dream and boy of grief"
 


 Epilogue


 走る人影が二つ、あった。
 酷く暗い顔をした魔術師風の男と、目の覚める様な金髪が目を引く少女である。
 二人は首都、プロンテラの城壁にある四つの門のうちの、西の城門を目指していた。
「・・・やっぱり念話は通じないわ・・・急がないと、リーゼンラッテ君が危ないわね」
「だから・・・彼にあの娘の正体をさっさとバラしておくべきだったんです。もしあの娘の狙いがグラストヘイムにあるのだとしたら、取
り返しのつかない事になりますよ」
 やや上気した顔で、魔術師の男がぼやく。
 激しい運動に慣れていないのか、走るペースは少女に比べ、やや遅い。
「貴女が邪魔をしなければ、もっと早くカタをつけられたというのに・・・まったく・・・これだから学の無い人は嫌だと・・・」
「・・・ごめんって言ったでしょ!いつまでもグチグチ言わない!」
「・・・いつ言いました?」
 あくまで冷静に返す男。少女は舌打ちし、わざと走るペースを上げる。
 が、それが災いした。少女は突如として路地の闇から放たれた光に、足を取られる。
「っ!?」
「―――これはっ!?」
 それは一瞬の出来事だった。
 魔術師の男は咄嗟に足を止め、魔力を行使して空中へ難を逃れたが、第二波の直撃を受けた少女はもんどりうって路地を転がった。
 少女の意識は既にない。外傷はないように見えた。
 魔術師は空中で杖を掲げ、魔術の灯りで周囲を照らす。
「・・・どこのどちら様でしょうか?その娘は私の貴重な"実験材料"です。傷付けて欲しくはないものですが」
「あぁ・・・そうなの?早く言ってよ。そういう事は、さ」
 ズルリ、と闇から這い出るようにして生まれる青年の姿。
 術衣を纏い、一見フレンドリーにさえ見える笑顔の術者は、しかし、明確な敵意を以って言う。
「でもどうせ君もここでこうやって倒れる。そういう予定なんだから・・・大人しく落ちてよ、シメオン=E=バロッサ」
 青年の手に、術式の刻まれた光芒の陣が描かれる。
 名を知られている事に驚きもせず、魔術師は嘲笑を刻んだ。
「面白い!この私と魔法戦闘ですか!」
「そうさ・・・ウィザード如きの力で天才と名乗る君の鼻をへし折って見せようじゃあないか!」
 刹那、青年の足元の地面が激しい炎を噴き上げる。
「僕の名はエスクラ!ジュノーの三賢者が一人、エスクラだ!」
 熱気に顔を覆うシメオンへ、青年は高らかに名乗ってみせた。



「・・・で、逃がしたのか、カルマ」
 全身を包帯で巻かれた少女が、口を尖らせて言う。
「そりゃ、僕だって怪我してたから」
 戦闘が収束してから数時間後。
 プロンテラの一角にある、小さな病院の、小さな病室。
 リンゴをひたすら剥き続ける弓手の少女を仮面の奥から見守りながら、窓辺に座り込んだ神官は投げやりに言った。
「それに・・・あの剣士君も、その商人の子も、僕らが追いかけてる標的とは大した繋がりはないよ」
 それを聞くや、包帯でぐるぐる巻きになったウィザードの少女・・・エスリナ=カートライルはベッドが軋む勢いで怒り狂う。
「だが!それでは初陣だというのに何の成果も上げられなかったというのか!?この私が!?」
「少佐、傷が開いちゃいますよ」
 リンゴを剥きつつ、ニコニコと笑う青い髪の少女。
「レティシア!リンゴはいいから杖を持って来い!この程度の傷で寝てなどいられる・・・」
「・・・馬鹿言ってんじゃない」
 それまで黙っていた、部屋の隅にもたれかかった白髪の騎士がようやく口を開く。
「あの剣士が手を貸したから生きていられるんだ。少しは自粛しろよ、少佐」
 そんな事を言う。が、あくまで締まりのない顔で、にやつきながら言われる言葉に、果たしてどれ程の説得力があろうか。
 否。恐らく、ない。
「ルーク!大体貴様、私が捕まった後何をしていた!」
「何って・・・そりゃ戦ってたにきま・・・おべぇ」
 エスリナの手から凄まじい勢いで放られた純白の枕が、騎士の顔面に直撃する。
「日頃私に暴言を吐く癖に、いざという時には役に立たんのか!?」
「そ、そりゃ筋違いだろ。少佐があんなにアッサリやられるとは思って・・・」
 再び枕が放られる。が、ルークはその剛速球を軽く掴み取り、
「・・・助けて欲しかったなら素直にそう言えばいいじゃないか」
 にやにやと笑みを浮かべながら、軽く投げ返す。
「あまり素直じゃないと嫁の貰い手がなくなるぞ、っと」
「な、何を言って・・・もあっ」
 枕を顔面でキャッチしたエスリナの顔が、見る見るうちに真っ赤に染まる。
「き、貴様ぁーーーっ」
 怒声。そして、騎士の情けない悲鳴と雷鳴。
 レティシアは構わずリンゴを剥き続け、カルマは喧騒溢れ出す病室から視線を外し、夜が明け始める外の光景を見やる。
 こんな騒ぎにもいい加減、慣れている。
 ―――あの剣士達はちゃんと逃げれただろうか。
 かつて道化と呼ばれ、数多・・・そう、数多。それこそ、あの血斧に憑かれた少女とは比べようもない程多くの血を、ジュノーに
流した少年は、かつての自分を、あの少女の中に見る。
 死を以って終焉を望み、償うために生かされた自分を。
 そうした経緯を経て、今の"カルマ"が在る。
 しかし、それは正しい事なのか。多くの罪を背負い、生きる事は、本当に正しいのだろうか。
 彼自身も今、その答えを探している最中ではあったのだが。
(何処へ消えたんだ・・・セシルさん)


 ナハトは、少女の手を引き、白み始めた空を見上げながら走っていた。
「頑張るんだ!日が昇ると逃げ切れなくなる!」
「は、はい・・・っ」
 懸命に息を切らして走る少女を励ましながら、一連の騒ぎのせいで騎士団がうろつき始めた街を駆け抜ける。
『・・・ナハト様、聞こえますか?』
「サリア!?今何処に居るんだ!?」
『西門です。ご無事ですか?』
「・・・ああ、ピンピンしてる!少し遅れそうだけど、そっちに向かうよ!」
 はっきりと念話に答え、ナハトは嬉しくなった。サリアも無事だったのだ。
『それは何よりですが、急いでください。じき騎士団が来ます・・・首都を出るには今しかありません』
「了解。あ、先生は?見なかった?」
『見ていません・・・もう間に合わないかと・・・』
「そう・・・先生なら自力でなんとか出来るし、大丈夫かな」
 走りながら、ナハトは手を引くアコライトの少女を横目で見やり、
「一人連れて行くけど、いいかな」
『?・・・どなたでしょう』
 訊かれ、まだ名前を聞いていない事を思い出す。
「あ、名前なんていったっけ」
「・・・ロッテ・・・コールウェル・・・です」
 顔を合わせるなり、赤面して俯くアコライトの少女。ボソボソと呟くように喋るのは、癖なのかもしれなかった。
「ロッテって女の子。少し事情があるんだ」
『・・・私は構いませんが』
「良かった」
 念話で告げるや、サリアは曖昧に頷き返す。ナハトは満足げに笑い、再び念話を解いた。
 走る二人の視界に、やがて西門の姿が映り始めた。
 それを見て、ナハトはロッテに笑いかけ、ロッテも少しだけ微笑を浮かべて言った。
 万感の意を込めて。
「ありがとう・・・ございます」
 と。

154('A`)sage :2005/01/06(木) 07:53 ID:rtFUJgfY
おはようございます。ようやく一段落してノホホンな('A`)です。

>>148さん
133さんの指摘にもあるように、少々急成長しすぎな感もありますが・・・
この辺りは彼の素性にも関与します。そのうち本文に出ます。
ようやく気持ち的にライバルの逆毛君に追い付いた、くらいに思っていただければ。

皆様、毎回ながらご感想ありがとうございます。一行でも感涙の極みで御座います。


>>とあるモンクの文神様
お久しぶりです。あの座談会から随分経ってしまいました・・・スミマセン('`;)
大変有り難く、使わせて頂きます。とはいえ、既にプロットに練りこんでおりますが。
あと九日ですが、少々遅れるかもしれませんけど参加させて頂きますね。


>>150さん
今、全人類の希望が貴方の双肩にかかっています。


それでは、また。
155名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/01/06(木) 13:36 ID:XqJ1fKqw
>>154
怒涛の連続更新GJです。
バニ君が素敵で(・∀・)ニヨニヨ
156名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/01/06(木) 15:41 ID:NdM9Ypkk
エスリナ様萌えすぎなんですがどうしてくれますか
GJだぜコンチクショウ
157名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/01/06(木) 16:28 ID:zykvkvJA
>>('A`)たん
レティシアがいつまで林檎むき続けるのか興味が(ry
とりあえず一段落でお疲れ様です、今回もGJだコノヤロー( ´∀`)σ)A`)

というかナハトがさりげなく海東剣を持って行っちゃってるあたりはちゃっかりしてr(ry
158名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/01/06(木) 19:13 ID:LWzjUVxw
>>154
キター。怒涛のような更新速度ですね。
シメオンたんの術勝負にも超期待して待ってますぜ旦那。
159名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/01/06(木) 19:25 ID:mJYx4fPo
きっとお正月スペシャルなんですよ。

俺も文才があったらなぁ。
頭の中には何かがあるんだけど…

書けもしないのにほざくのもコレぐらいにしときますねorz
16093@たまにはこの名前sage :2005/01/06(木) 21:06 ID:45J1mVsM
お久しぶりです。空気を読まずに投下…。

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 少女には、記憶が無かった。気がつくと、自分はそこにいたのだ。
 目の前にいた人に話しかけると、案内された先で当たり前のように冒険者としての心得を教えられた。
 そこで学んだのは、自分が人よりも優れていると言うこと。異能、と言ってもいい。
 誰よりも正確に教官の講義を暗唱出来た。誰よりも正確にナイフを振るってファブルを解体できた。
 そして、弓を持ったこともないうちから、自分が同期の誰よりも正確に的を射抜く事も知っていた。

 彼女は優秀で、それ故に孤独だった。だからだろう。
 初心者修練所を出た彼女が、優しい言葉をかけてくれた相手についていくことを決めたのは。

「…君が報告書のお嬢さんか。引き取り手がいないと聞いたが…」
「…おじさん、誰ですカ?」
「とある方の使いだよ。良ければ君の当座の世話をしたいと思ってね…。カピトリーナは君のような子を歓迎する」
「かぴとりーな?」
「君のような子供が大勢いるところだよ。さぁ…行こう」

 暖かい手。いつかどこかで出会いたいと思いながら、長い長い時間、得られなかったもの。
 長い時間…、そう、記憶が途切れる前も、確かに自分が孤独だった事を少女は知っていた。
 そうでなければ、そんな当たり前の誘いで涙が止まらないわけが無い。
 いつも旅に出ているけれども、たまにお土産を持って帰ってきてくれる藍色の髪の美しい修道女と聖騎士と。
 そして自分と同じように集められていた“どこかが普通ではない”子供たち。
 厳しいけれども、根は優しかった修道僧達。初めて手に入れた、家族のようなもの。

 だから、その楽園の危機を、少女は座視できなかった。
  「あの二人が…反乱の首謀者だと!」
   「騎士団の査察官が来る。痛くも無い腹を探られるのは…」
 「修道院長…、このままでは貴方のお立場も危うくなりますぞ?」
   「枢機卿猊下とていつまでも庇ってくださるわけではない!」
  「あんな孤児院など即刻閉鎖してしまえ! 異能者は処…」

「我々の…いや、私の戦いはまだ終わったわけではない」
 再会した男は、変わってしまっていた。黒かった髪は白くなり、力強かった四肢は折れていた。
 だが、折れていなかったものもある。人はそれを狂信というだろう。
「神の声を聞けぬなら…神を頼らずに、人の力で世を変えればよい。あの時の我々にはその力があった。
 騎士団にも、教会にも手出しを許さない力が」
「…力?」
「…一度、彼が手に出来た力だ。もう一度力を束ねる事は人に不可能なことではない…。聖戦を遂行するのは我等人間なのだから」
 憑かれたようにまくしたててから、蒼髪の聖職者の下でかつて修道僧達を束ねていた男は、少女に手を伸ばした。
「さぁ…行こうか、ファナ」


 魔法は高度になればなるほど意識を凝らさねばならず、それを強制的に中断されれば、いかなる術者といえど自失せずにはいられない。
 それは、ほんの瞬きするほどの一瞬。
 しかし、集団戦なら知らず、一対一の戦いでは“一瞬”と言えど命取りだ。
 故に、スペルブレイカーでシメオンの詠唱を“砕いた”ファナは自分の勝利を確信していた。
 その痩せた魔術師がどれほどの実力かは知らない。だが、少女にも譲れない物があった。
「ボクの方が…こんな奴より役に立てるンだからっ!」
 砕けて形を失っていく魔方陣の中心で、よろめいたように半歩前に出た魔術師は、霞を振り払うかのように軽く首を振る。
「ククク…先生の次はこんな奴、ですか。遠慮がないですねぇ…」
「Unッ!」
 ファナはしなやかな踊るようなステップで一歩踏み出した。その勢いのまま腰を捻り、青年の前で一回転する。
 回し蹴りの要領だが、遠心力を存分にのせて繰り出されるのは少女の右手だった。
 握られているのは傍目にはただの黒い本だが、纏っている黒いオーラと、何よりもその重量自体が十分な凶器である。
「…くっ!?」
 それは狙い過たず、青年の左手を痛打し、杖を弾き飛ばした。
 衝撃で上体を左に開かされた魔術師のマントがあおりを受けたように広がる内側へと、ファナは姿勢を低くして滑り込む。
「Deuxッ!」
 甲が外に向くように手を回しながら、右肩を前に押し出すと、後ろまで回っていた黒い装丁の本が再び弧を描いた。
 今度の軌跡は縦。
 それは狙い過たず、魔術師の顎の位置を捕らえて真上まで振りぬかれた。
 薄い胸を張るように伸び上がったファナの頭上を、くたびれた黒い帽子が宙に舞う。

「……避けタッ!?」
 少女の計算違いは、青年の身のこなしだった。正確には、避けたのではない。その逆である。
 多くの戦いをこなしてきた者は、たとえ魔術師といえども、一定の“避ける”体捌きを身につけるものだ。
 しかし、この貧弱な魔術師は、ファナの一撃を余りにも綺麗に食らい、結果として手ごたえが感じられなかった。
 武術家の言う、“技を殺された”状態。
「少々、驚きましたかねぇ…、ですが、Troisは無しでお願いしたいものです」
 予想と違う手ごたえにうろたえた少女の胸に、シメオンの左手が当てられる。
 一対一の戦いで命取りの“一瞬”を、歴戦のこの魔術師は無駄にしなかった。
 慌てて身を引こうとした少女の背中には右手が回っている。
 そして、零距離からのナパームビートの閃光がファナの意識を刈り取った。
161SIDE:A 理由(2/3) :2005/01/06(木) 21:07 ID:45J1mVsM
「…クククク。黙示録ですか。剣呑な物を」
 腕の中でぐったりと力を失ったファナの体を興味なさげに石造りの床に投げると、シメオンは彼女が手にしていた本をぱらぱらと広げ、これも興味なさげに机に置いた。
「まず血をぬぐったらどうかね」
「…ああ、失敬」
 気がつかなかった、という風に口元を拭う青年に、車椅子の修道僧が治癒魔法を唱える。
「クククク…これが、例のカピトリーナの出身者ですか」
「君の情報収集力には感服する」
 彼にしてみれば、情報収集などしているわけではないのだが、興味本位に“研究対象”を探しているうちに余禄として耳に入るものがある。
 噂話の断片を繋ぎとめるのが優れた頭脳であれば、世の中で今起きている事の大概は簡単にわかるものだ。
 この世界の謎は、むしろ過去にある。
「アウルが、戦力を集めるのに孤児院という隠れ蓑を使ったと言うのは皮肉ですかねぇ」
「彼には、この子達に戦力などという事を期待するつもりはなかった。…と、私は思っているのだが?」
 裏切られてなお、かつての盟主を庇う男に、皮肉げに口元をゆがめたシメオンは何かを言いかけてから、口をつぐんだ。
 アウルという名の聖騎士は、結局、ラオやシメオン、あらゆる同志を欺き、世界を破滅させようとして自分以外の全てと戦う事を選んだ。
 しかし、それと同じ青年が、罪なく追われる子供を見捨てられないというだけの理由で組織を動かすということも、ありそうなことだったから。
 人間というのは矛盾の塊だが、それが人間性の基準だとすれば、異形者たるあのホムンクルス達は、つくづく人間的だった。
 ある意味では、この部屋に生き残った二人よりも。
 思考の過程で室内にもう一人いた事を思い出したシメオンは、再び少女に目を向けた。
 先の短い戦いで、何かが彼の意識に引っかかっていたのだ。その何かはすぐに見つかった。
 彼女の指を飾る小さな指輪。
 使い古されたそれは、指貫といわれる物だった。熟達した弓手達が愛用するものだと言う。
 目にした情報を組み立てる頭脳は動き出すと最後、不幸なことに本人ですら止められなかった。
 生まれながらに強い力を持つ異能者。そして、指貫。踊るような身のこなし。
「…なるほど、お嬢さんが魔法戦闘に慣れていないわけです。とすると、このお嬢さんの以前の弓は、私のために折られたわけですか」
「そういう見方もあるだろうな」
 不機嫌そうに黙り込む青年の前を、修道僧の車椅子がからからと耳障りな音を立てて横切った。
 倒れた少女の脇につくと、黙ってその顔を見下ろす。髪を止めていた猫の耳を模したヘアバンドがずれていたのを、以外と器用な手つきで直すラオを、シメオンは黙然と眺めていた。
「私は結局、象牙の塔から出なければ良かったのではないかと思うときもありますよ」
「アウルに誘われて戦いに身を投じ、その結果私は体の、君は心の自由を失ったというわけだ」
 あの事件の渦中に身を置くまでは、自分の目的だけを目指すという意味で彼は純然たるエゴイストでいれた。
 それが今は不自由極まりない。シメオンは、彼なりの基準でだが、まだアウルの事変の贖罪を果たし終えていなかった。
 失った人命をあがなえるなどとは思っていない。彼の負債は、あくまでも生者に対するものだ。
 ジュノー市民に対する借りは、復興への貢献といくつかの研究を講義という形でさりげなく譲り渡すことで果たした、と考える。それらを活かせなかったとしても、それは彼らの責任だ。
 ラオや、他にいたとしてアウル一党の生き残りへは、貸し借りはないだろう。それはドッペルゲンガーやあのアサシン、それに彼の仲間へも、借りは返したはずだ。
 ただ一人を除いて。
 彼が押した歯車で、それまでとはまったく違う自分と相対さなければならなかった少女。
 他の者は、既に異常な…あるいは特別な…人生を送っていた。しかし、その少女は、彼の手でゲフェンの封印が緩まなければ、今も普通の少女でいられたのかもしれない。
 それを、彼だけが知っている。
「君は理由は知らないが、ここの力を必要としている。その為に私に借りを作っても…ね」
「この装置を動かしていることと、この私が貴方の敵に回らないことで貸し借り無しでしょう?」
「では、助手はいらないかね。シメオン=E=バロッサ」
 返すべき借りが大きすぎて、それを整理するまでに真の自由は味わえず、一つの借りを清算する間にまた新しく負債がのしかかる。若き魔術師は、疲れたようにため息をついた。
「世の中と言うのはつくづく正直者に住みづらいようにできていますねぇ」
 車椅子の上の男は、笑った。
「それが君のつかんだ真理だというなら、君はゲフェンを出て正解だっただろうな」
162SIDE:A 理由(3/3)dame :2005/01/06(木) 21:10 ID:45J1mVsM
「なんだ、その品揃えは…」
「お、あんたか。なんだってお前、街はクリスマス商戦一色だからな。お前さんもどうだい?」
 俺が来ていたのは、いつもの行きつけの露店の前。普段ならば地震がおきようが火事が起きようが、テロで市内にモンスターが溢れかえろうが、商品を変えない頑固鍛冶屋の露店が様変わりしている。
 思わず俺は頭を抱えそうになった。プレゼントの入った箱、金銀ダイヤの指輪、などなど…。
「いらん。白ポーションを50と、狂気薬を2つくれ。あと、売ってもらいたい物がいくつかある」
 幸いにも、俺のような客もそこそこいると見え、在庫は持ってきていたらしい。注文を聞いた店主はカートの中から手際よく薬品を取り出していく。
 その間手持ち無沙汰なので、隣の商人の子からバナナジュースを一本買い、喉を潤すことにした。
「毎度っ! ありがとです」
「ふん…。あんたが色気づいたって聞いたんで、お勧めしたんだがな。他の娘に色目を使うって事は何か、もうふられたのかい?」
 歴戦の騎士たるもの、いかなる不意打ちにもうろたえたりはしないものだ。が、いまだ未熟者の俺は、盛大にバナナジュースを吹いた。
「…おいおい、汚ねぇなぁ…」
 商人の少女がクスクス笑いながら、店主に布切れを渡している。その胸元に光る紋章と、店主の肩口の紋章が同じであることに気づいて、俺はもう一発不意打ちを食らったような気分になった。
「あんた、ギルドに入ったのか?」
 聞きたいのはどちらかというと、別の事なのだが。直球で聞くのは聞くほうも気恥ずかしい。
「…あ? ああ。すまんなぁ。ま、成り行きでな…。あんたとのソロ軍団の誓いは守れんかったよ」
 そういえば、彼の所で買いはじめたのは、自分と同じく一匹狼だった店主に親近感を覚えたからだった。
 しかし、彼がギルドエンブレムを身に纏ったという事は、ポリシーを曲げるだけの何かを見つけたということだろう。…その理由は、二人の様子を見ていれば聞かなくても分かる。
「結婚するのか?」
「ああ、まぁ…。金が溜まったら結婚しようとは思ってるんだけどね。それより先に、何か証が欲しいってねだられたもんでねぇ」
「おめでとう」
 照れもせず、にかっ、と笑った店主のギルド名は隣に店を出している少女と彼の名前を繋げただけの単純な名前だった。
「あ、そっちが何か気に触る事をしちゃったんでしたら、次からウチを贔屓にしてくださいっ」
「おいおい、俺の客を取るなよ」
「……ごちそうさま。急なことで手元不如意でな。お祝いは何も出せないが…、結婚ってのはそんなに金がかかるのか?」

 いや、委託しようと思っていたカードを売ったらそれなりになるから、足し位にはなるはず、か…。
「ふ…辛いぞ…。あまつさえ、財布を握られたら小遣いもロクにもらえな…あいたたっ!?」
「ありがとうございますっ! 気持ちだけで嬉しいです」
 満面の笑顔で言った少女の横で、踏まれた足を押さえて渋い顔をしている店主。
「白に狂気、他には何もいらないか? 蝿とか蝶は?」
「いや、羽はいい。それよりも、…情報を教えてもらおうか」
「情報だと?」
「ああ。…俺と依瑠のこと、誰に聞いた?」
「ほう。依瑠さんってのか? あんたのコレは」
「……」
 ポーション他、薬剤をつめた袋を差し出しながら、器用に小指だけ立てた店主はにやにやと笑っている。
 俺は、受け取りながらさっき奴が少女に踏まれていたあたりに一発、蹴りを入れた。
「うがっ!?」
「あははは…。ほら、あの茶色い髪の吟遊詩人さんですよ」
「おう、時々裏手の酒場で歌ってるぜ? 孤高の騎士様とょぅι゙ょの禁じられた愛の歌って奴をな。あんた、騎士団に検挙されないように気をつけろよ?」
 俺の二撃目の蹴りは、警戒して下がっていた店主には届かなかった。まぁ、犯人はわかった。
口元に不穏な笑みを浮かべて、俺は踵を返す。
「ああ、売った代金はそっくり持ってってくれ。俺からの祝いだ」

 そのまま歩き出そうとしたところで、さっきの少女の声に呼び止められた。
「…待ってください。カード、その…貰っちゃうわけにはいかないです」
「ん? あいつに何か言われたか?」
「いえ。そうじゃないけど…。ごめんなさい…私の、わがままなんですけど…ね」
 もじもじとする少女。ああ、そうか。商人には商人の仁義がある、とは店主の鍛冶屋に聞いたんだっけな。
一つ、施さず、施されず。一つ、他人に恥じず、他人に媚びず…だっけか。奴から聞いたときには、商売の道も、剣と大差ないものだ、と思ったのを覚えている。
「気にせずに持っていってくれ。あいつには、それくらいの恩はある」
「あはは、…お金も欲しいのも本音です。だから…、これと交換でお願いします」
 目の前に出されたのは、さっきあいつが露店に出していたプレゼントボックスだった。
「そうか、あんたもあいつも商人だったな…。恵むような真似をしてすまん」
「その…いつか、お金を溜めて必ず恩返しします。ありがとうございました」
「ありがとうよ」
 最後に一言だけ礼を言った店主の顔は、少しにやけている様に見えた。はいはい、お似合いだよ。
「ああ、お幸せに」
 綺麗に包装された箱を受け取った俺は、朝の狩りに行く前に宿に戻ることにした。今の時間なら、依瑠も寝ているはずだ。箱を潰さないように、すぐには見つからないようにしまえる場所…。

 そういえば、彼女が拾ってきた変な箱があった。あの中に入れて鍵を閉めておこう。そのうち、依瑠が開けて見つけるだろう時の事を考えて、俺は少しだけ顔を綻ばせた。……多分、少しだけ。
 道行く人には怪訝な顔をされていたようだけれども、な。
16393@たまにはこの名前sage :2005/01/06(木) 21:23 ID:45J1mVsM
久しぶりの投下で脳が腐れていたようです。最初は題名入れ忘れて、途中ではageてしまいました。orz
今ここをROMしているであろう皆様の欲しいものじゃなくてゴメンナサイ。
ドクオさまの本家シメオンたんvs偉いさげの戦闘が控えているとあって、紛い物の戦闘は短く書き直してきました。

にしても、これ書く前(正月帰省中)にユミルのシリーズ読み直したんですけど、やっぱし大作デスネェ…。
というか、私の↑、戦闘前に回想入れてる構成が激しくパクr(ry

>('A`)さま
当方の思ってたシメオンたんの内心はこんな感じなのですが、アレです。
全然違ったらごめんなさいっ!
とりあえず、年初から作品のお年玉がいっぱいで幸せです(笑
164なんぼか前の201sage :2005/01/06(木) 23:27 ID:VK8KrVMc
『森の奥には魔物が居るから決して行ってはいけないよ』

その言葉を忘れて森に入っていったのは両親が病に倒れたからだった。
解熱効果がある薬草が無くなっていたから、採取に向かったのだ。
それほど奥に入らなくても探せば見つかる筈なのだが、その時に限っては見つからなかった。
ようやく見つけて我に帰ると既にかなり奥深くにまで来ていて帰り道がわからなくなっていた。
木に寄りかかり荒い息を吐いている魔族とおぼしき青年を見つけたのはそんな時だった。
酷く深い傷を受けているその青年が険しい顔でこちらを向いた。

「人間が…私に止めを刺しに来たのですか?」

その気迫に押されて体が思う様に動かなくなったが、辛うじて動いた首を横に振る。
青年から発せられていた圧迫される様な空気が霧散する。

「あぁ…冒険者では無いのですね。ここは普通の人間が立ち入るべき場所ではありません。
早々に引き上げるのがよろしいでしょう。私の仲間には人間全てを憎む者も居ります故。
そういった輩に見つかって殺されてしまう前に…」

そこまで言って力尽きて倒れる青年。
その言葉の内容から、この人にしか見えない青年こそが、森に居る魔物の事なのだとわかった。
恐る恐る近付いて見ると、まだ生きてはいるが放っておけばすぐにでも死んでしまいそうだった。
自分にわざわざ忠告してくれたのだから、悪い魔族ではないのだろう。
それに、ひょっとしたら村への道を知っているかもしれない。そう判断した。
人の使う薬草が効くかどうかはわからなかったが一緒に摘んだ化膿止めと体力回復の薬草を準備する。
地面に仰向けに寝かせて、服をずらして傷口を露出させる。
服の裾を裂き何枚かの布に分け、水筒の水で傷口と布を洗いながら薬草を柔らかくなるまで噛み砕く。
化膿止めの薬草を傷口に当てて布で固定し、体力回復の薬草を口に含ませ、血と汗で汚れた体を拭く。
徹夜で両親の看病をし、その足で薬草を取りに来て、迷って歩き回っていた為に疲れていたのか。
少しだけ様子を見て、目を醒ましそうになかったら立ち去るつもりが何時の間にか眠りに落ちていた。

「治療をして頂いたのですか」

声がして目覚めた。青年が穏やかな目でこちらを見ている。
周囲の様子からさほど時間は経過していない事が確認できた。

「助けて頂いたお礼をしなければなりませんね。何か願いはありますか?」

その問いに自分は、住む村までの道を教えて欲しいと答えた。
青年はそれに答え、転移法を用いて森の入口まで瞬時に送ってくれた。
思えばこの時に青年に惹かれたのかも知れない。
青年も、この時には自分に好意を抱いてくれていた、らしい。
両親が無事に回復した後も、特に用が無くても森に向かう様になっていた。
青年は森の中で自分を待っていてくれた。許されないと知りつつも、恋に落ちた。
そうして、自分は彼の子供を身篭った。
大騒ぎをして相手について尋ねる両親。だが、自分はそれに答えられない。
相手が魔族だとは口が裂けても言えない。
彼が言った。

「仲間とは離れて、貴方と共に生きる」

それを聞いて自分も決心した。生まれ育った村と、両親と決別し、親子三人で暮らす事を。
けれど、身重であった自分は遠くには行けない。
言い伝えもあって、村の人間は森の奥深くにまでは来ない。
魔族にも集落はあるらしく、逆に森の奥から出てくる事は殆ど無い。
双方共に来ない狭間の位置に小屋を建て、誰にも知られずに村を出てそこに移り住む。
森の中での生活に慣れた頃、自分は女の子を出産した。
そして、それから何年もの時が流れた。


『森の奥には魔物が居るから決して行ってはいけないよ』

俺はガキの頃から腕白で、物心が付いた頃には親の言う事全てに反発していた様な気がする。
駄目だと言われた事は敢えてやってみる。それが癖の様になっていた。
だから、森の奥深くまで入り込んでいったのは、ある意味必然だったのかも知れない。
食料である肉と水の入った水筒、それからナイフだけ持って、探検気分で進んでいく。
魔物がいると言われる森の奥深く、サラサラと音を立てて流れる川辺で。
俺は、小鳥と戯れる一人の美しい少女と出会った。
少女は嬉しそうに微笑んで、俺に言った。

「お父さんとお母さん以外の方とお会いしたのは初めてです」

俺はその笑顔一発で参った。いわゆる一目惚れという奴だった。
彼女は両親に友達だと紹介したいからと俺を自宅まで引っ張って行った。
森の中の小さな小屋、彼女の家。そこには彼女の両親と、俺と同じくらいの年齢に見える少年がいた。
彼女が、森の奥の魔族の男とかつて村を飛び出したという女の間に出来た娘だとその時に知った。
しかし一目惚れの前に、そんな事実は些細な事だった。
そして少年。彼女の父親の遠い親戚だとかで、要は魔族なのだが…
やけにヒョロヒョロしていて力も弱く、世に言われる魔族というイメージからはかけ離れた奴だった。
相談したい事があって隠れ住んでいた彼女の父親を探し歩き、この日ようやく辿り着いたらしい。
彼女は奴にも屈託無く接しすぐに仲良くなり、友達が二人も出来たと喜んでいた。
彼女が喜ぶのは俺も喜ばしい。それは、奴も同じだったらしい。それが互いに面白くなかった。
…つまりは、奴も彼女に好意を寄せたのだ。
奴は体力が無い事を自覚していて、それを補う様に頭の回転が早く、知識も豊富だった。
対するは手先の器用さと素早さには自信があるが頭の中身が空っぽの俺。
…奴には負けられない。その日から俺は足繁く森に通い彼女と遊んだ。
奴もそう考えたらしく、結果として俺達は三人揃ったまま大きくなっていった。
嫌な奴だが、悪い奴ではなかったのが救いか。
165なんぼか前の201sage :2005/01/06(木) 23:29 ID:VK8KrVMc
『外には人間がいるから森を出てはいけない』

僕は昔から気になる事が出来ると納得するまで他の事に手がつかなくなる性格をしていた。
今、気になっている事は人間という種族について。その発端は父から聞いた言葉。

「この集落はある大事な物を護る為に存在している」

森の近くに人の里が出来て久しい。父が生まれた頃からそこに人が住みついたらしい。

「ならば尚更、すぐ近くに人が住まうのを無視するのはどうかと思いますが?」
「確かに、人は脆弱で儚い。あの村を滅ぼす事は簡単だろう。
だが…人というものはな、一度自分の所有と定めた物を他に奪われる事が許せないものなのだ。
その執着が個としてでなく種としての共通認識になると、団結して恐ろしいまでの力を発揮する。
つまりあの村を滅ぼすと、他の地に居る人間が大挙して押し寄せて我々を滅ぼそうとするやも知れん」

他の了承を得る事無く、自分が定めたから、それだけを根拠に他を排除しかねない生物なのだと。

「つまり、人というのは…傲慢で自分勝手な生物なのですか?」
「どうだろうな…彼等は我等以上に個としての分岐が激しい。そういう者もそうでない者も居る。
我等は直接関わりを持たんから何とも言えんな。あやつなら或いは明確に答えられるかも知れんが」
「…どなたの事です?」
「我等と共に在る事を捨て、人の娘と生きる事を選んだ者が居た。丁度、お前が生まれる頃の話だ」
「その方は、今はどこに?」
「集落と村の狭間に居を構えておるよ」

僕は翌日から何日かかけてそこに辿り着いた。森の中、まるで木々に隠れる様にその小屋はあった。
玄関を叩くと話に聞いていた男性が顔を出した。僕は自己紹介をしてからここに来た理由を説明した。
男性は少し驚いた顔をしてから、『一緒にお茶でも飲みながら話そうか』と笑った。
テーブルにつくと、人間の女性がやはり楽しそうな表情を浮かべて僕に言った。

「ここにお客様が来るのって初めてなのよ。ゆっくりしていって頂戴ね」

そして三人で色々な話をした。人について、魔について、その習性、習慣。
そうして話に熱中していたら、玄関から同年代の少年少女が入って来た。

「お父さん、お母さん、お友達を紹介しますね…あら、お客様ですか?」

少女のその言葉で二人の娘なのだとわかった。
活発そうな少年は舌をもつれさせながらどこか変な挨拶をした。
(当人としては一生懸命丁寧に挨拶しているつもりのだろうが)
その後、年齢が近いからという理由で僕は彼等と共に遊んだ。
やる事は普段とさして変わりばえしていない筈なのに、妙に楽しく感じた事を覚えている。
日が暮れる頃、彼女の自宅に戻った僕等に二人は言った。
この場所、この家族の事は決して他人に話してはいけない、と。
少年はそれが不思議であったらしく、何故かを尋ねていた。
二人は顔を見合わせて暫く黙り込んでから、真面目な顔で向き直り事情を説明した。
何か感じる所があったのか、軽い調子で話していた少年の態度は打って変わった様に真剣になった。
そして最初の約束を破らない事を誓い、去っていった。
僕も帰り道を歩きながら、何故いつもより楽しかったのかを考えていた。
だが、その結論は出せなかった。結論を出す為にはまだあそこに行く必要がありそうだった。
それから、僕はそこを頻繁に訪ねる事になり、少年も何故だか入り浸り、当然そこには彼女が居て。
最初に感じた通り、少年ははっきり言って馬鹿で頭の出来で僕の敵にはならなかった。
馬鹿と付き合うと馬鹿が移ると信じていた僕にとっては邪魔な存在でしかなかった。
だがその器用さと敏捷性に関しては目を見張る物があり、正直に言って少し妬んでもいた。
けれど少年とは仲が良い振りをした。仲違いすると彼女が悲しむから。
彼女が悲しむと何故か僕も楽しくないから。
その点では調子を合わせてくれた少年にも感謝していると言えるだろう。
僕等はそうして大きくなっていった。少年については馬鹿だけれど悪い奴じゃないと妥協した。


それは、いつもの様に三人で日が暮れるまで遊んで、別れてから後の事。
自宅に到着し、夕食を食べている最中にドオン、と遠くから響いてきた振動と音。
父が険しい顔でその方向を向く。

「今のは…集落の方向からだ…」
「あなた…まさか…」
「あぁ、どうやらそうらしい。私は行かなければ」
「では、私はここで待っています」

私には、二人が何を話しているのかわからなかった。

「あなたはお母さんと一緒にお留守番よ」
「一体、何が起こっているのですか?」
「今から、それを確かめに行くんだ。危険かも知れないから、お前はここに居るんだぞ」
「お父さんも危険ではないのですか?」
「私は自分の身くらい護れるぞ。だからいいんだ。」

それだけ言って父は飛び出して行った。
暫く経ち、玄関を叩く音。普段なら先に開ける母が、慎重に問いかける。

「どなたですか?」
「僕です。開けて頂いてもよろしいでしょうか?」

魔族の友達の声。状況が分からず不安な私は、何か言いかけていた母に気付く事なく扉を開けた。

「あなた以外に、誰か居ますか?」
「安心して下さい。ここに居るのは僕一人です」

いつもより慌ただしく入って来た所に母が問う。友達はその問いがわかっていたのか、すぐに答えた。

「至急お話しなければならない事が出来たので夜分遅く申し訳無いですがお邪魔させて頂きました。
おじさんは、いらっしゃいますか?」
「そう…入れ違いになったのね。あの人は先程、集落の方へ向かいましたよ」
「では、重ねてのお願いで大変恐縮なのですが、こちらで待たせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「そうね、その方が安全でしょう…人間が襲撃したのね?」
「はい。応戦する者も逃げる者も居ましたが、僕は長の命で、ここに来ました」

話していると、父がぐったりとした人間の友達を抱えて戻って来た。

「間に合わなかった…村の人間には関わりの無い事だろうに…済まない」
「おじさんのせいじゃない…おじさんは、俺を護ってくれたじゃないか…
要するに、どっかの人間がおじさんの故郷を襲ったが何人かは生き延びた。
その数名が人間全体に対して憎しみを抱いて、一番身近だった村を襲った。そういう事なんだろう?」
「そうだ。私はそれは筋違いだから止めようと思ったのだ…」
「正直に言えばさ、なんで関係ない俺らが殺されなきゃいけないんだって、ちょっと思う。
けどさ…それは、あっちにだって言える事だろう?
人間に危害を加える訳でもない。ただひっそりと暮らしていただけなのに。
ある日いきなり襲われて家族を殺されたりしたら恨んだって仕方ないじゃないか…」
「…恨むなら、私を恨んでくれ」
「恨む…俺みたいに何の力も持たないガキにはそれ位しか出来っこないもんな。
だからって、関係ないおじさんを恨むのが筋違いだって事も、わかってるつもりだぜ?」
「…ありがとう。君は、強いな。きっと、将来立派な男になる」
「よしてくれよ…俺は弱いから、逃げてるだけなんだよ…」

母に頭を下げる父。

「…お前の故郷でもある…村を、護る事が出来なかった…」
「私は、もう村を捨てた人間ですよ。私に謝る事ではありません」

そうして、魔族の友達に向き直る。

「…ここに来たと言う事は、あれを預かったね?」
「はい。貴方に渡す様に、と…あの、僕の親は…?」
「…私が辿り着いた時には、誰も居なかった…」
「そう…ですか…」

懐から何かを取り出そうとする友達を制する父。

「いや…それは、君が持っていなさい。ここに、来た様だ」

地下の貯蔵庫に私達三人を連れて行く。

「お前も、ここに…」
「いいえ、私は貴方と共にあります」
「…そうか」
「お父さん、お母さん…何を…?」
「子供達だけは…何があっても、護らなければな。ストーンカース!」

ずしん、と体が重くなる。体を蝕む魔力を振り解こうと抵抗する私達三人。
けれども石化の魔力は容赦無く体を石に変化させていく。

「どうか…君達は、互いに憎み合う事無く…」
「私達や、この子の様に…互いを認めて、慈しんで…お願いね…」

両親のその言葉を最後に、私達の時間は停止した。
私が意識を取り戻した時、目に入ったのは崩壊した家…そして冷たくなって横たわる両親。

…私達は、そうして、大事な物をなくした…
166なんぼか前の201sage :2005/01/06(木) 23:36 ID:VK8KrVMc
『私は未だ動けぬ。剣と種を携え、私に代わり奴を討て。そして娘を連れて来い』

与えられた任務を遂行する為、人形は戦った。
だが、一度目は敗北し、二度目に傷を負わせる事は出来たものの、討ち漏らして逃げられてしまった。
任務は遂行されなければならない。
対象を死に至らしめる事が出来ないのは、人形が剣を使えていないからであるらしい。
剣を使いこなせれば勝つ可能性があるかも知れない。だが剣を使いこなすには魂が必要だという。
魂とは何か。
わからない。
知識を検索する。魔族には魂を持つものと持たぬものが居る。
持つものと持たぬもの、その差は何か。
人形の知識においては、前者は自ら思考を行い、後者はただ誰かに従う存在である。
では、自ら思考するものに魂があるのか?
否、人形は思考する。任務を遂行する為に必要な機能として与えられているからだ。
しかし魂を汚染し、力に変換する魔剣が反応しなかった以上、そこに魂はない。
即ち、思考する事と魂に関連性はないと判断出来る。
知識に無い魔も数多く居る。それらで確認したい所ではあるが、人形にはそれは出来ない。
この人形が魔族にとり裏切者であるが故に。
人形には裏切ったという思考はない。自らを目覚めさせたものを主人と認識した。
主人が魔族の敵であったが為に現在自らも敵対している、それだけの事。
だが、確認に魔族の根城に向かえば魔族は容赦なく人形を破壊するだろう。
破壊されてしまえば任務遂行が出来なくなってしまう。それは避けなければならない事態だ。
魔族は敏感だ。多少姿形を変化させた所で直ちに見破られてしまう。
ならば、例外無く魂を持ち、且つ相互理解に乏しい人間種族で確認すべきだろう。
人間は鈍感だ。見た目と行動が集団からかけ離れていなければ疑う者もいない。
現に今まで何度も人の集団に身を置いたが、人形は未だ無事に活動を続けている。
魂とは何か、その答えを見つけ出す為に…人形は人の街へと足を向けた。

考える事は、思う事は、願う事は、たった一つ。
あの幸福であった日々に帰る事。
けれどそれは最早適う事のない夢。
ならば、何も考えたくない。ならば、何も思い出したくない。
思考は過去へと回帰し、辛い記憶が再生される。
楽しかった筈のそれ以前の過去は悲しみに塗り潰されてしまう。
胸に、ぽっかりと穴が開いている。私のココロは、その穴から全て外へ漏れ出して消えていく。
或いは、両親を失った時に、私のココロも一緒に死んだのかもしれない。
だというのに、生きていても辛いだけの世界に私は居る。

『…行こう。いつまでもここに居たって仕方無い』
『いやです…私、ずっとここに居ます…』
『…二人の墓を作っていた間も飯食ってないだろう。餓死するまで墓の前でそうしてるのか?』
『そうすれば…お父さんとお母さんの所に行けます』
『…何で、何で俺達が生き残ったと思ってるんだ!お前の両親が俺達をかばってくれたからだろう!?
お前の両親はな、お前に生きて欲しいからそうしたんだ。それを放棄しようだなんて許さない。
お前と一緒に俺達までかばってくれたあの人達の恩に報いる為にも…
俺達は、あの人達に代わってお前を護んなくちゃいけないんだ。だから…こいつが一緒でも我慢する』
『酷い言い草ですが…僕もそう思います。よりにもよって僕達以外、全滅だなんて質の悪い話です』
『ですが…何処へ行けば良いのですか…行く宛があるのですか?』
『そんなのねぇよ。お前は?』
『この森の奥から出た事の無い僕に言われましても…ある筈ないじゃないですか』
『ちっ…役立たずめ。けど俺達しか残っていない廃墟に残ったってどうにもならないのは確かだ』

死ぬなと言われたから…それを理由にするのは逃避なのだろう。
けれども考える事を止めてしまった私はそれをすんなりと受け入れた。

『街へ行って、それから考えよう』
『へぇ…ここがプロンテラか』
『でっけぇ…村とは大違いだな。お…何々、冒険のススメ?…そうだ!冒険者をやろうぜ!』
『僕達の年齢で定職に付いて部屋を借りてお金を稼ぐのが難しいと聞いた事があります。
選択肢としては悪くないのではないでしょうか?』

『本名を名乗るのは危険なので、僕は偽名を使わなければなりませんね』
『いや、俺達もお前に付き合うから、名前を揃えようぜ。俺達は運命共同体だ』

名前を変える。今までの私が消えてしまいそうな気がする。けれども、それで良いのかもしれない。

『…お任せします…』
『では…レイン、スノウ、クラウド…なんてどうです?』
『いいな、それ。俺はクラウドがいいかな』
『僕はレインにしておきましょう』

そして、私の名前はスノウになった。

『合宿の後、希望する職のギルドがある街に転送されるのか。天職は何だって?』
『僕は魔術師向きだそうですよ。順当と言えば順当ですね』
『私は…聖職者だそうです…』
『俺は盗賊だってさ。まぁ手先は器用な方だしな。
何々…プロンテラ、ゲフェン、モロクか。プロンテラは最初の街で…ゲフェンとモロクって何処だ?』
『まぁ…僕達ははっきり言って田舎者ですからねぇ…誰かに尋ねるしかないでしょう』
『じゃあ、修練場卒業したらプロンテラ南側城壁外のベンチで待ち合わせて合流しよう』
167なんぼか前の201sage :2005/01/06(木) 23:39 ID:VK8KrVMc
言われた場所で待つ。
白く眩しかった太陽が赤い光に変わりながら西の空に落ちていく。
赤から紫へ、そして紺色。月が輝き、星が瞬く。
昼は大勢の人々で賑わっていたこの広場も一人、また一人と姿を消し、残るのは私一人。
両親が死んでしまった時に時間を止めてしまった私には時間の経過は意味を持たない。
夜、外に一人で待ち続ける事に不安を覚える事も無い。
血走った目で荒い息使いの男性が私に近付いて来ていても、何も。
アルコールと体臭の混じった臭いと、おぼつかない足取り。

「お、おじょおちゃあん…こ、こおんな夜中にひ、一人でどうしちゃったのかなぁ〜?」

それは風景と同じ。全く反応を返さずにただ時間の経過を待つ。
男性は暫く話しかけていたが、やがて怒り出した。怒りながら私の顎を掴み目線が合う位置に動かす。
また、何か喋っている。呂律がまわっていないから聞き取り難いのだけれど。

「ノービスの癖にお高くとまってんじゃねぇ!」

それだけは聞き取れた。叫んで、私の頬を張る男性。かかる力に抗わずに私は倒れる。
男性は私の体に馬乗りにまたがって更に頬を撃つ。二発、三発。
それで少し落ち着いたらしい。手が止まる。
自分の態勢を改めて認識したのか、荒い息を吐きながら私の顔を見ていた男性の視線が少し下がる。
ごくり…と喉を鳴らし、周囲を窺って誰も見ていない事を確かめてから私を林の奥に引きずって行く。
人目につかなさそうな場所まで来てから私を放り出し、覆い被さって来た。
酒の為か、興奮の為か、ためらいの為か…震える男性の手が私の服の胸元を掴む。
そして、力任せに引き裂こうとした時。

「あぁ…まぁ、人の事は言えねぇが…傍から見ると格好悪いってのがよく判るもんだな」

そんな声と共に男性の後ろに一人の青年が現れた。男性の体が硬直する。
男性の首には短刀の刃が押し付けられている。

「そのままゆっくりと体を起こしな」

青年に言われるままに体を起こす男性。

「なんか気が乗らねぇから殺すのは勘弁しといてやる」

ガツ、と鈍い音が響く。倒れた男性を踏み越えて近付いて来た青年が私の顔を覗き込む。

「動かねぇから気絶でもしてんのかと思ったが…起きてんじゃねぇか。動けねぇのか?」

首を横に振る。動けない訳ではない。動く気にならないだけで。

「はぁん…?余計なお世話だったってーのか?」

それも、否定する。助けられたのは事実。

「…ま、いいけどよ。夜一人でブラブラするから絡まれたりすんだ。わかったらさっさと家に帰んな」

更に、否定。帰る家があるのなら、私はここに居たりしない。

「…」
「…」

青年は、ふんっ…と一つ鼻息を吐くと、そのまま立ち去っていった。
動く気にならない私はそのまま地面に横たわっていた。
暫くすると眠くなってくる。私はそのまま眠りに落ち…

「おら、こんな所で寝てると風邪引くぞ…ってか、やっぱり襲って欲しいのか?」

声と共に、ばさりという音、体を包む布の感触で目覚めた。先程の青年が戻って来たらしい。
体に掛けられたのは毛布。その暖かさで初めて自分の体が冷えきっていた事に気付いた。

「…んだよ。こっちも転がしたままかよ…仕方ねぇな全く…」

呟きながら、今はいびきをかいて寝ている酔った男性を片手で軽々と持ち上げて歩いて行く。
男性をどこかに放り出して来たらしい。少しして戻って来て私の隣に腰を降ろす。
そうして、夜空を見上げながら私に話しかける。

「自分自身さえどうでもいいって感じだな…覚えが無い訳じゃない。大切なもん、無くしたのか?」

その通りだったから首を縦に振り、肯定する。
青年の言葉を聞く気になったのは、凍った心を毛布の暖かさが少し溶かしたせいなのかもしれない。

「それで自暴自棄になるのもいいけどな、無くしたもんがお前の全てだったのか?」

久しぶりに、少し考える。家族が、私の全部なのだろうか…?
私にとって、父と母は何より大事だった。だからこそ、二人の居ないこの世界に私は絶望している。
二人の事を思い出すだけでも辛いから、考える事を放棄したのに…また、思い出してしまった。
世界から色と音が消える。無音の、白黒の視界の中で青年の顔がすぐ近くにまで迫った。

「…」

何か言っている。聞こえない。
あぁ…ほら、早く考えるのを止めないと…世界が端からガラガラと音を立てて崩れていく…
けれど、一度考えだしてしまったら簡単には止まらない。
青年の唇が動いている。声は聞こえないけれど、その動きで何を言っているのかは理解出来た。

『なら、なんでおまえはここにいた?』

その意味が理解出来た瞬間、世界が元に戻った。聞こえなかった音も聞こえる様になった。
ここに居た理由。ここで待ち合わせよう、と友達が言ったから。
…そう、友達。家族以外の、大切な者。どうして、どうして忘れていたのだろう。
両親を亡くして辛い想いをしているのは私だけではなかったのに。
二人とも、私と同じ…いや、私以上に悲しい想いをしている筈なのに。
『俺達は運命共同体だ』今更、この言葉の意味が理解出来た。
だから、二人と合流したら、まず謝らないと。もう大丈夫だと、迷惑をかけてごめんなさい、と。
そうだ。この、目の前の青年にも、お礼を言わないといけない。
思い出させてくれた事を。そして助けてくれた事を。

「ありがとう…ございます」

青年がそっぽを向いた。

「あん?何だいきなり」
「大切な事を…思い出せました。それに、先程助けて頂いたお礼もしておりませんでしたので…」
「礼が欲しくて助けた訳じゃねぇ。それに何を思い出したのか知らねぇがそんなの知った事じゃねぇ」
「ここで、お友達と待ち合わせをしているのです」
「待ち合わせって…一緒じゃねぇのか?」
「希望する職種の協会がある街にそれぞれ転送されましたので…」
「…どこだって?」
「ゲフェンと、モロクだそうです」
「…あー…えーとな。まず、その街に転送しなきゃいけない訳じゃねぇぞ?
んで、一人で転職しようと思ったら3〜4日程度かかるのが普通だぜ?」
「え…そうなのですか?」
「冒険者に知り合いが居て手助けして貰えんだったらもっと早く転職できるけどな。
そこからカプラ転送使うならすぐだが歩きだったらやっぱり3〜4日かかるぜ。
その間ずっとぼけーっと待ってるつもりだったのか?」
「…何も、考えていませんでした…」
「ちっ…これだから初心者は…まぁいい。待ち合わせの相手が来るまで見ててやる」
「…どうして、貴方はそんなに優しくして下さるのですか?」
「優しい…?そうか、こういうのが優しいってのか。だが勘違いしてんじゃねーぞ。
別にお前じゃなくても良かったんだ。これはな…本番前の予行演習なんだよ」
「?」
「あー…気にすんな。要するに俺自身の都合ってだけだ」
「そうですか…よろしくお願いいたします。ありがとうございます」
「だ…!だから礼なんざいらねぇって言ってんだよ!」
「貴方のご都合でも、それが私にとってありがたい事である以上、お礼はしなければなりません」
「だぁ!…わかったもういい…明日からビシビシ鍛えるから今日はもう寝ておけよ!」
「はい」

そして、一週間の時が流れ、私はノービスからアコライトに転職した。
けれど、それから更に一週間が経過しても、二人が待ち合わせ場所に来る事はなかった…
168なんぼか前の201sage :2005/01/06(木) 23:45 ID:VK8KrVMc
ゲフェンの地に降り立った僕、レインが最初にした事は懐に収めてある瓶の無事を確かめる事。
…なんだか、癖になってしまった気がしなくも無い。
集落が滅びる直前に長から託された、集落の存在意義であったもの。
僕の故郷のそもそもの発端であり、滅ぶ原因となったもの。それが今僕の懐にある。
集落を滅ぼした連中は、きっとまだこれを探している。
元より僕の外見は人間と変わらない。気配を抑えれば僕が人間ではないと思う者はそうは居ない筈。
つまり、『敵』が僕という存在を特定出来る筈はないのだ。
けれども、その軽い瓶には一族の全てが乗っているのか、僕にはとても重たい。
だから、こうして確かめてしまう。端から見たら挙動不振なんだろうけど、慣れるまでは仕方無い。
さて、魔術師協会によると、マジシャンになる為にはちょっとした経験が必要らしい。
戦闘の初歩を知っておく程度の事だと言っていたから、ちょっと外に出てポリンとでも戦ってみよう。
街の外に出てすぐの所にちょうどポリンを見つけた。
周囲にはやたら強そうな人達が何組か居るが、誰もポリンの事など見向きもしていない。
初心者修練場で支給されたナイフを腰だめにかまえて突進。衝突の瞬間に固く目を閉じる。
自殺行為かもしれないけれど、殺生は好きじゃない。他の生物をこの手で殺す現場を見たくなかった。
バターにナイフを差しこんだ時の様な感触。その直後に顔面を殴打されて、慌てて目を開ける。
怒ったポリンが反撃して来たらしい。僕の一撃で傷ついては居るがまだまだ元気そうだ。
ほっとして良いのやら悪いのやら。
…少し戦ってみて、どうやら悪いらしい事を悟った。
僕の攻撃は当たらない。ポリンの攻撃は僕の生命力を確実に削っていく。
このままだと負けるなぁ…とぼんやり考えながらも取りあえず必死に戦っていると。

「ヒール!」

という声と共にあちこちに出来ていた怪我が一瞬で癒される。そのおかげで、何とかポリンに勝てた。
誰が僕を助けてくれたのだろう。周囲を見回すと、こちらに近付いて来る一人の騎士と目が合った。
その騎士は、僕から視線を逸らし、僕の足元辺りを見る。
つられてそこを見ると、複雑な紋様が刻まれた小瓶。はっとして懐を確認する。無い。
ポリンと戦っている内に落としてしまっていたらしい。
慌てて拾い上げた時、男は僕の目の前に立っていた。

「…その小瓶をよこしな」
「い、いやですよ。これは大切な物なんですから…」
「大人しくよこせば命だけは助けてやるぜ。抵抗するなら斬り捨てて貰って行くまでだがな…」

目に、声に、体に、威圧感を乗せて僕に詰め寄る。けれど、これだけは渡す訳には行かない。
僕の一族はこれを護る為に存在していたのだし、僕もその使命に殉ずるつもりだからだ。
男は、僕に渡すつもりが無い事を悟ったのか、剣を抜きながら言った。

「…じゃー、悪いがさよならだなぁ…」

剣を振り上げつつにやりと笑う男。自慢ではないけれどこうした直接的な荒事は僕には不向きだ。
目を瞑って体を強ばらせる。ざんっ…という音。けれども痛みは無い。
恐る恐る目を開いて見る。男の、剣を持った腕が地面に落ちていた。一拍遅れて噴き出す血液。

「…へ?あ、あれ…お、おれの…腕?う、うわああぁぁっ!?」
「その腕、急いで治療すればまだ繋がるから、ぼんやりしてないで早く行った方が良いよ?」

さっき、僕を回復してくれた人の声が、男の背後からかけられた。男が振り返る。僕もそこを見る。
そこには、一人の少女が立っていた。
年齢は僕より少し上くらいだろうか?人間の美醜判断で言えば多分、可愛い部類に入る。
けれどそれよりまず一番目を引いたのは、少女の持っている武器だった。
少女自身の身長より遥かに長い棒と、その先端から横に緩く曲線を描きながら伸びる青い刃。
その巨大な鎌の切っ先を男に突き付けながら言った。

「それとも、腕だけじゃ物足りない?なら、首も落としとこっか」

我に返った男が落ちた右腕を拾い小脇に抱え、肩口の切断面を押さえながら走り去っていく。
僕は、何が起こったか全然把握出来なくて、ただへたり込んでいた。

「キミ、ぼんやりしてないで!ほら、立って!走る!おかわりが来たら面倒でしょ!?
これ、ただでさえ目立つんだから!」

僕の腕を掴み引っ張り上げて立ち上がらせる少女。鎌をポンポンと叩いてから走り始める。
僕も、少女の後を追いかけて走り出した。
少女は街の中をぐるぐると走り回って、人気の無い路地裏で足を止めた。
周囲の気配を一通り探ってから一つ息を吐く。
実際には汗一つかいていないのに、汗を拭う仕草をしているのは僕への気遣い…なのだろうか?
僕はといえば息も絶え絶えで全身汗だく、足はガクガクと震えていてもう一歩たりとも動きたくない。

「ふぅ…ここなら大丈夫かな。ねぇ、キミ…さっきの小瓶…」

僕は反射的に懐の小瓶を手で押さえながら一歩下がって少女から離れた。
相手が命の恩人でもこれだけは誰にも渡してはいけない。
…もし、この少女が本当に小瓶を狙っているならそんな動作には何の意味もないのだろうけれど。
現在の状態で比べてもそれは明らかだ。僕と少女の体力差は歴然としている。
少女は少しだけ目を丸くして、それから不服そうに口を尖らせた。

「…そんなに警戒しなくてもいいよ。別に欲しい訳じゃないから」
「…そう、ですか…」
「なーんか信用出来ないって返答だねー。警戒するに越した事は無いんだから良いんだけどね。
人を見極める事も重要だよ。欲しかったらこんなまどろっこしい事しないでとっとと奪ってるよ?」

それはその通りなのだろうけれど…何か、釈然としない。

「貴方は…何を知っているのですか?」

それは確認の問いかけか確信の問いかけか。自分でもわからなかったが、僕はそんな質問をしていた。

「その小瓶の中身がエリクサーだって事と、それを護るキミが人間じゃないって事くらいかな」
「…その二つで充分ですよ…貴方は、何者なのですか?」
「あたし?あたしは、その小瓶を狙っている連中に喧嘩を売ってるって感じかな。
あたしは向こうを敵だと思ってるけど…正直、向こうにしてみればあたしは敵に成りえてないからね。
せいぜいああやって邪魔をするのが精一杯なんだけど。
だから、キミの敵じゃないよ。というか味方だと思ってくれると嬉しーんだけど」
「…貴方の、目的は…?」
「んー…それは…別の機会にねー」
「はぐらかさないで下さい!」
「いや…そうじゃなくってね…っと!」

少女が僕の腕を強く引っ張る。僕は足がついていかなくて前のめりに地面に突っ込んだ。
ズシャ、と地面を滑る音。それに混じってキィンッと甲高い金属音。

「つまり、悠長にお喋りしてる時間はなくなったって事!」

顔を上げると、両手にカタールを装備した暗殺者と少女が斬り結んでいる。
ギギギィン、ガンガンガンガキンッ…と立て続けに金属音が鳴り響き、火花を散らす。
起き上がる事も忘れてその戦いに魅入っていたら、少女が怒鳴った。

「こいつだけとは限らないから、警戒しててね!」

慌てて立ち上がって周囲を見渡す。人の気配はしない、と安心しかけた僕の視界の隅にそれが映った。
建物の上でこちらに向けて弓を構える、狩人の姿が。
ヒュオッと風を切る音と同時に僕としては自分を誉めてやりたい位の速度で体を投げ出す。
地面をごろごろと転がって、壁に激突して停止。飛び起きて、射線から外れる位置に転がり込む。
左の腕が痺れた様に動きが悪い。見ると、袖が裂けてじわりと血が広がっていく。
矢が刺さっている訳ではないから、掠めただけで済んだらしい。

「建物の上に狩人が…!」

居ます、とまで叫ぶつもりだったのだが、いきなり脱力感に襲われて声が出せなくなる。
目の前が真っ暗になって、地面と接している筈の足や膝の感覚も無くなる。

奈落の底まで落ちていきそうな落下感。
僕は、それに抵抗する事も出来ずに意識を手放した。

・・・それから10日の時が流れてようやく、僕は目を覚ました。
169なんぼか前の201sage :2005/01/06(木) 23:48 ID:VK8KrVMc
俺、クラウドは、モロクに転送後なけなしの金で装備を整えようと街を巡る内に裏路地に迷い込んだ。
そこには4人の男。盗賊や強盗特有のやさぐれた雰囲気をまとっている。
何か気に食わない事でもあったのだろう。どうでもいい事で難癖を付けられて絡まれた。
片手で簡単に持ち上げられて、壁に叩きつけられ、腹に拳がめり込む。
肺から空気が残らず吐き出される。痛い。苦しい。

「ここはテメェみてぇなガキの来る所じゃねぇよ。さっさとおうちに帰ってママのお乳でも飲んでな」

壁に寄りかかっていても体を支え切れず、その場に崩れ落ちる。
地に倒れ伏している俺に更に容赦無く振りかかる奴等の蹴り。
無我夢中でその一本にしがみつき、力一杯歯を立てて脛に噛みつく。

「ぎゃああっ!」

…へっ…ざまぁみろってんだ…

「っのやろぉ…つけ上がるんじゃねぇ!」

他の奴の足が俺の頬を捉え、引き剥がされる。口の中でぶつっと何かが切れる嫌な音。
固い舌触り。吐き出すと所々赤く染まった奥歯。
噛みついてやった奴が逆上して更なる暴力を振るう。少しでも耐えられる様に体を丸める。
暴行は止まらない。そろそろ死を覚悟しようかという頃になって漸く満足したらしい。
少ねぇな…とか言いながら全財産を剥ぎ取り去って行った。
何度か嘔吐し、激痛で失いそうになる意識をねじ伏せて起き上がり、歩きはじめる。
こんな事で挫ける訳にはいかない。待たせている少女が居るのだから。寝てなんかいられない。
あいつに彼女は任せられない。一刻も早く、あいつより早く、彼女の元へ辿り着かなければ。
…本当は悔しくて堪らない。出来るのならあいつら全員細切れに刻んでやりたい程、憎い。
絶望で心を閉ざしたあの少女は今、意思が希薄になっている。傍にいてやらないといけない。
…俺に力があれば、こんな思いをせずに済んだ。力があれば、彼女を護ってやれる。
表通りに出た。現在無一文だからカプラ転送は使えない。この世界に頼れる知り合いがいる筈もない。
…力があれば金を取り返しカプラ転送を利用できる。力があればあいつに劣等感を感じなくて済む。
つまり歩くしかない。まずは転職。次に砂漠を渡る。そうすればプロンテラに到着する。
…力があれば、こんな事にはならなかった。力があれば、故郷と呼べる場所が滅ぶ事だって無かった。
ほら、言葉にすればこんなにも簡単な事だ。さぁ、行こう。
…力が欲しい。
ぐらりと視界が揺れる。蹴られ過ぎて三半器官がおかしくなっているのかも知れない。
…俺を取り巻く運命をねじ伏せる、力が。
ここは石畳じゃないから倒れても痛くはないだろう…

『その願い叶えてやろう』

「きゃんっ」

ほら、柔らかい…体の下からは悲鳴…悲鳴?
意識が覚醒する。ぼやけた焦点を合わせる。俺は丁度通りかかった女性を巻き込んで倒れたらしい。

「あ、す…すんません。すぐどきますんで…」

喋ると痛い上に少し呂律が回っていない。急に恥ずかしさがこみ上げて来た。
慌てて下敷きにしてしまった女性の両脇の地面に手を突こうとして。
…ドクン…
女性の持っていた鞄からこぼれ出た物の上に手を置いてしまった。
…ドクン…
手触りからすると短剣の柄だろうか?
…ドクン…
ならとりあえず力をかけても大丈夫だろう。俺はそのまま立ち上がった。短剣の柄を握ったまま。
…ドクン…
そんなつもりはなかったのに…何で俺は短剣を握ったままなんだ?
…ドクン…
握っている短剣から鼓動が聞こえる。
…ドクン…
少しずつ、俺の鼓動と重なっていく。
…ドクンッ…
鼓動が完全に一致した瞬間、俺は理解した。これが願いを叶えてくれる…力なのだと。
体の痛みが消えていく。その代わりとばかりにやりたい事が俺の中で膨らんでいく。
俺はその衝動に背中を押される様に走り出した。だが…遅い。まだるっこしい。
何で俺はたった二本で地面を蹴っているんだ?俺はもっと速く動けるんじゃないか?
短剣を口で挟んで両手を地面につけて一緒に動かす。ほら、走りやすくなった。速くなった。
さて…何処へ行けばいい?
もう一つの目が開く。建物を、距離を、全ての障害を無視して見渡す第三の眼が。そして見つけた。

「ぶっ殺してやる…」

俺の望みが聞こえる。当然、剣を口にくわえている俺が喋った言葉ではない。
それは第三の眼と同じく、短剣の刃の上に生じた口から発せられた俺の望み。
邪魔な人間を、建物を跳び越えて、上空から奴等に襲い掛かる。
何気なしに上を向いた奴等の内一人と目が合った。俺が噛みついてやった奴だ。
信じられない物を見た目であんぐりと口を開けて俺を指差す。
くわえていた短剣を改めて手に握り、落下速度を加えて振り降ろす。
刃が伸び…いや、刃の口が膨らむ。
左肩から右脇腹に切り裂きながら間抜けな顔のついた頭と胸、右腕を丸呑みした。
足と腹と左腕しかなくなった体が地面に叩きつけられベシャッと汚らしい音を立てた。
そして着地。俺の脚からボキ、と音が聞こえた。見ると左の膝から骨が飛び出している。
あぁ…損傷したのか。だが今はそれどころではない。

「…あ?」

目の前で起きた事を理解出来ないのか、残る三匹が呆然と俺を見る。
俺はそれにも構わずに今食らった物をゴグリ、ガギリ、と噛み砕き咀嚼する。美味い。
今まで様々な肉を食ってきたがやはり人間…その中でも頭が一番美味い。
だがまだ足りない。この程度では俺の飢えは満たされない。
もっと、もっと!本当の敵を滅ぼす力を蓄える為に!
快感に震える体を抑えつけて残る三匹に向き直る。
上手く動けない。そうだった。脚が一本壊れていたな。飛び出た骨を掴み、元在った位置に押し込む。
そして試しに動かす。思い通りに動く。問題無い。さぁ、次の肉を食らおう。
見苦しく後ずさりをはじめた三匹を悠々と追いかけていると自然に笑いがこみ上げてくる。
もう抑える必要も無い。この興奮をそのまま世界に伝えよう。


高笑いと咀嚼音が響く路地裏。建物の上に立ち、惨状を見下ろしながら呟く人形。

「…あれが魔剣の本当の力、ですか…確かに、あれなら討ち漏らす事もないでしょう」

モロクという名の人の街に来た時、魔剣が何かを訴える様に振動したのを人形は見逃さなかった。
剣と宿主は互いに求め合い、そして出会った。
魔剣は使い手の魂と、敵対する者の血肉を食らい尽くして力を増すと言われている。
しかしあの使い手は未熟に過ぎる。あのままではすぐに剣に全てを食われてしまうだろう。
あれは魔剣がようやく選んだ宿主だ。
あの少年を食らって後、次の宿主を選ぶのにどれほどの時間を必要とするのか、人形には判らない。
判らない以上、あの少年は貴重な観察対象だ。易々と魔剣に食わせる訳にはいかない。
魔剣が合計4人の犠牲者を食らい尽くしたのを見計らい、人形は少年の前に降り立った。


体中から力が抜けてその場にへたり込む。けれど短剣はしっかりと握って放さない。
夢を見ていたみたいに記憶は曖昧だ。
だが、俺が先刻俺を痛めつけた連中を軽く凌駕する力を発揮したのは実感として残っている。
全身が痺れる様な、体の奥底から力があふれ出る様な…とにかく、言葉で説明なんて出来っこない。
それほど、堪らない快感だった。この世のどんな快楽だってあの快感に勝てやしないだろう。
俺がその余韻に浸っていると、カツン…と後ろから足音が聞こえた。
振り向くとそこには先程押し倒してしまった女性の姿。
…この剣を取り返しに来たのか?それは嫌だ。なら…こいつも、食ってしまおうか?

「その剣が欲しいですか?」
「あぁ…欲しいね」
「差し上げても構わないのですが…一つ条件をつけてもよろしいですか?」
「どんな?」
「私を同行させる事、です。そして明日から一週間だけ私の言う事を聞いて下さい。
それ以降は貴方の邪魔はしません…恐らくお役に立てますし」
「…例えば、どんな?」
「例えば、この様に」

女が手をかざす。俺の全身が柔らかい光に包まれ、至る所に受けていた傷が一つ残らず直っていく。

「一週間付き合えばこの剣は俺の物で、それ以降は口出ししない。回復もしてくれるか。ならいいぜ」

そこまで答えて、ふと引っかかった。何か、何か大切な事を忘れてる気がする…
そんな気がしてならない。けれども逆に言えば忘れる程度の事が大切な筈も無いのだ。
それよりも今はこの剣を正式に俺の物にする事。それで俺は強くなれる。キモチヨクなれる。
それが一番大切な事。何も間違えていない…何だ、問題などない。俺は何も忘れてなんかいない。

女は一週間で俺を徹底的に鍛えた。正直、殺されると思った事も一度や二度では無い程厳しかった。
だがその甲斐があってか、翌日俺はシーフに転職し、約束の日が終わる頃にアサシンに転職した。
それは、史上最年少で最速の転職とギルドでも評判になる程だった。
170なんぼか前の201sage :2005/01/06(木) 23:55 ID:VK8KrVMc
誰だよお前、折角の大作に駄文割り込ませるんじゃねぇよ!と言われる事を覚悟しつつ投下。

久しぶりにネットに繋げられる環境に帰って来たんで舞い上がってた。今は後悔している。

主人公の出番が少ねぇ・・・orz
171名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/01/07(金) 00:16 ID:0mSD4Pak
大量に作品が投下される……こんなに嬉しいことはない……
172('A`)sage :2005/01/07(金) 05:50 ID:e5esXCLs
果てしなくGod Job!敢えてひとつoを抜きます。
ばっちり目が覚めました。('A`)です。

>>155、156、157、158さん
ご感想、ありがとうございます。色んなキャラを入れてちょっと詰め過ぎな感がありますが、
楽しんでいただければ幸いです。ありがとうございます。

>>159さん
その何かを文章にぶつけてみませんか。

>>163さん
目から汗が・・・お久しぶりです。あと多方面での活動、お疲れ様です。
なんというか・・・語りだすとキリがないのですが、自分の作品世界が掘り下げられて、
また新しい物語を紡ぐというこの感覚は・・・なんとも言えない至福です。
愛されてるねシメオン。良かったね。(つAT)
そしてああ、なんかもうラオお爺さん大好き。結婚してください。

>>なんぼか前の201さん
骨がっ、骨がっ・・・痛いです。
ネットご帰還おめでとうございます。続きを楽しみしております。


随分人が減ったものだと思っていましたが・・・全然そんな事ないですね。
あぁ、電波が来ました。はい。ちょっと自分を解き放ってきますね('A`)ノシ

では、また。
173なんぼか前の201sage :2005/01/08(土) 22:25 ID:h/E.Arqs
>('A`) 氏

ありがとう
現在はネットのある生活を貪る様に満喫している
つくづく自分がネット依存症なのだと自覚させられている今日この頃orz

座談会で新たなるネタを発見出来る事を祈っている

座談会といえば、あの時のネタがいよいよ公表されるとか
あんなので良ければ存分に使い潰して欲しい

そういえば久しぶりでいつもの台詞を吐くのを忘れていたから今言っとくか
・・・以上。板汚しすまんかった
174名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/01/09(日) 13:27 ID:Mm2yOlvA
座談会告知を見た記憶があるが、告知レスが見当たらない。
どこいったんだ・・・・・。OTL
175なんぼか前の201sage :2005/01/09(日) 13:42 ID:nw0Q0gnw
>174

正確には萌板ではない
だから萌板在住の俺は躊躇う・・・
176保管庫のひとsage :2005/01/09(日) 14:27 ID:ch6IA5H.
>174氏 下記のスレです。
みんなで作る小説ラグナロク Ver5
ttp://gemma.mmobbs.com/test/read.cgi?bbs=ragnarok&key=1100771866

あちらも面白い作品が多いけど、進行がゆっくりめ。
こないだ飛込みで遊びに行ったときは、先方の作品を殆ど読んだことがなかったけど
応対してもらえました。(その節はご迷惑を…
今から予習していけば楽しいと思うよー。
でも、今回の座談会がSesじゃなかったのをプチ悲しんでおりますが。色々仕込んだのにっw
----
今日はここまで読んだ。

>201たん
長編スタートおめー。そしてがんがれー。
石化使えてフィールドの森在住なMobを探して
 人間のママ=フェアリーフたん 魔族のパパ=下の樹
 クラウドくん=実はうんばばうんばー語使い
とかいう恐ろしい結論に達したのは内緒だっ
177なんぼか前の201sage :2005/01/09(日) 14:51 ID:nw0Q0gnw
>176

Σ(’ ’ノ)ノ
ど、どっか知られてない地方の出来事だとでも思っといてくれ・・・

実は座談会の時のログ読み直して、一人急遽登場人物が変更されていたりするのは内緒だっ
そしてやった後で気付いた・・・この組み合わせ別スレで既にやってるじゃん俺orz

座談会、Sesでなかったのがプチ悲しいならSesで萌板小説座談会を計画すれば良いジャマイカ
・・・俺が計画すればいい?俺だと開催場所がおでんになっちまうぜー

って、張り付いてますな俺・・・いやほら空白の時期を埋める為に読んでるって事で勘弁してくれ・・・
178名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/01/12(水) 00:36 ID:BIohJTmE
 空を見上げると、彼は静かにその場に腰を下ろした。
 プロンテラ中央通りのベンチ。昼下がりの街は騒がしい。
 喧騒に身を任せるように、ゆっくりと目を閉じた彼の横に、いつものように子供が座っている。
「おじいさん」
 子供の言葉にゆっくりと目を開ける。
「なんだ、また来たのか。学校はどうした?」
「今日はお昼で終わり。お昼も食べてきたよ」
 子供はベンチで足をぶらつかせながらも、老人へ期待に満ち溢れた顔を向ける。
「今日も話してくれるんでしょ? おじいさんの冒険の話」
 老人は目を細めると、子供の頭をゆっくりと撫でた。
「そうかそうか・・・。また話を聞きに来てくれたか」
「うん、今日は何の話をしてくれるの?」
 老人は子供の頭から、自分のあごへと撫でる対象を変えた。
「ふむ・・・そうだな」
 空を少しだけ見上げると、老人は思いついたように子供の顔へと視線を変えた。
「タートルアイランドの話、なんてどうかな?」
「うん!」
 子供の元気な返事に満足そうな顔を見せると、老人は腰に下げた剣を撫でながら話始めた。
「そう、あれは確か、本格的な調査を始める前だったな・・・」
179名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/01/12(水) 00:56 ID:BIohJTmE
 その日、俺は特にどこかへ行くまでも無く、イズルードから船に乗ったんだ。
(アルベルタじゃなくて?)
 あぁ、今でこそアルベルタから近い、ってことが分かってるがね。当時はそんなものの存在すら分からなかったからな。
(じゃあ、おじいさんが始めてタートルアイランドに着いたの!?)
 違う違う。伝説ではあったのさ。亀の形をした、移動する島の伝説がな。そこから生還した者の残した書物もあった。
だが、遠い昔の話で、誰も信じちゃいなかったのさ。
(ふうん・・・)
 その時、俺は知り合いに作ってもらったクレイモアを持ってた。属性がついてるやつだな。当時、属性剣はようやく
普及したくらいでな。そりゃもぅ、大切に持っていたのさ。
(今はそんなに珍しくないよね?)
 技術の進歩ってやつさ。皆腕が良くなった、とも言えるかもな。とはいえ、クレイモアともなると未だに高級品だが。
(そうだね)
 話を戻すぞ。その時俺の乗った船にはプリーストとその相方であるハンター、アサシン、ペコペコに乗った騎士が居た。
(少ないね?)
 海が荒れはじめていたからな。その日最後の定期便になるはずだった。
(なるはず?)
 俺たちは嵐に巻き込まれてしまったのさ。
(うわ! 大変!)
 あぁ、大変だった。皆必死に船を沈没させまいと頑張った。ペコペコまで自ら帆を張るロープをくちばしで引っ張ってた
からな。
(そんなに大変だったんだ・・・)
 あぁ・・・。あの時は生きた心地がしなかった。流石にもうだめかと、何度思ったか分からん。
(それで?)
 うむ。沈没はなんとか免れたんだが、船は予定の航路を大きく外れてな、漂流して、流れ着いたのが・・・。
(タートルアイランド!!)
 そうだ。さすがの俺たちも驚いたよ。なんせ伝説でしか聞いたことの無い場所に、自分が立っているのだからな。だが、
感動している暇は無かったよ。
(どうして?)
 今まで見たこともない怪物達に襲われたからな。
(ドラゴンフライとか?)
 良く勉強してるな。そうだ、あの当時やつらはこっちまで出没してはいなかったからな。
(始めてみる怪物か・・・。おじいさん達はどうしたの?)
 そりゃ襲われれば戦ったさ。
(冒険は?)
 人が沢山居たわけじゃない。俺たちだけじゃ危険と考えたのさ。船を修理し、食料を探す
以外の遠出はしなかった。
(なーんだ、じゃあおじいさんは船を直してすぐに帰っちゃったんだ?)
 ところが、事はそう簡単に済まなかったのさ・・・
180名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/01/12(水) 01:08 ID:BIohJTmE
(?)
 船は思いのほか損害が酷いわけじゃなくてな、修理は直ぐに終わった。俺たちは意気揚々と帆を揚げて、タートルアイランドから
引き上げようとしたんだが・・・それは出来なかった。
(どうして?)
 何度船を出しても、嵐に阻まれた。ようやく嵐を抜けたと思っても、そこはタートルアイランド、つまり戻されてしまったのさ。
伝説に残っても、発見できない理由が、俺たちにもようやく分かった。辿り着いたものがいても、帰ることができなかったのさ・・・。
(じゃぁ・・・おじいさんはどうやって帰ってきたの?)
 うむ。嵐はタートルアイランドから脱出しようとすると現れる。つまり、何者かが俺たちを外へださせまいとしているに違いない。
そういう結論に達した俺たちは、島の最深部へと向かうことにした。
(冒険したの!?)
 冒険、というより・・・死に物狂いの決死行だな。だがおかげであの島の怪物達が、俺たち人間と同じように生活してることが分かった。
(そうなんだ・・・おうちとかあったの?)
 家、というよりは、あの島そのものが家だな、ありゃ。一番奥には玉座があった。亀の王様の住んでるとこだな。
(亀の王様・・・)
 まぁ、ありゃ王様じゃなくて将軍らしいがな。
(やっつけたの?)
 違う違う。そんなもんとやりあうほど戦力などありゃせんよ。ウィザードやらがいるわけでもなし。
(じゃあ・・・どうしたの?)
 隙を見てな、嵐を起こす装置とやらを壊したのさ。その後は尻尾巻いて逃げた。
(・・・逃げたって・・・かっこわるいなぁ)
 否定はせんよ。だがな、かっこわるくたって、死ぬよりはマシってもんだ。
(なんか、冒険っていうより、すたこらさっさと逃げました、って話だね)
 まぁ、そういうな。冒険者は格好の良いことばかりしてるわけじゃあるまいて。
181名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/01/12(水) 01:16 ID:BIohJTmE
 老人は静かに子供を見ると、剣を撫でていた手を再び子供の頭に乗せた。
「生きて帰った俺たちは、そのことを報告。そして本格的な調査が始まったわけさ」
 子供は眉間にしわを寄せて老人を見上げた。
「おじいさん、すごくかっこ悪いよ、それ」
 老人は目を細めると、子供の頭を少し乱暴にくしゃくしゃと撫でる。
「何を言う。あの時俺たちが将軍に戦いを挑んでたら、死んでたぞ、間違いなく」
 老人は手を止めると、子供をじっと見つめた。
「生きていてこそ、だ。冒険者は命を捨てずに、かっこ悪くても生き残ることが大切なんだよ」
 子供は分かったような、分からないような、複雑な表情で老人を見上げた。
「いつかは分かるかもしれん。今は分からんでも良いさ。だがな」
 老人は真剣な顔になった。子供の瞳をじっと見つめて次の言葉を紡ぐ。
「どんなことがあっても、死のうと思っちゃいかん、どんな危機が訪れても、生き延びようとすることが大切なんだ」
「うん・・・」
 老人の表情に押されるように、子供は頷いた。
「よし、俺の話は終わりだ。友達がいるだろ? 一緒に遊んで来い」
「はーい」
 ベンチから飛び出すように遠くへと去っていく子供。老人は目を細めてそれを見送った。
182名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/01/12(水) 11:32 ID:rMO4yU9g
その子供が、成長してゲフェン魔法学校の扉をあけるのは、また別の話。
ウィザードさえいれば、老人は臆病な冒険者にはならなかったはずなのだ。

しかしマジシャンになった彼は、間もなく彼の言葉を理解することになる。


「うはwww本なんざハエで余裕wwwっうぇwww」
183('A`)sage :2005/01/12(水) 20:28 ID:UCN9/CaY
 Ragnarok Online Side Story "Confrontation of fate"



 黙して座る赤毛のウィザードの少女は、やや困っていた。
 春。
 士官学校を出た軍正規兵の候補達が一斉に各地へ配属される季節。
 それは、この冷たい少女にとってはあまり好ましくない季節でもある。
「・・・」
 卓上に散乱した書類を捲る。そこには、首都第二駐屯軍――つまるところ、プロンテラに配属される若い女兵士達の個人情報
が赤裸々に記載されている。その精度はプロンテラ軍諜報部のお墨付きだ。
 だが、目を通すなり、やはり少女はこめかみを押さえて呆れ果てる。
「・・・使い物になるのか?」
 ほぼ全員の面接を終え、疲れ果てた身体を椅子に任せながら、彼女はぼやいた。
 どいつもこいつも若い。皆、揃って華奢であり、とてもではないが軍務には向いていない。
 ただでさえ魔術はともかくとしても、武芸に於いては女は男に劣るというのに。
 ルーンミッドガッツが冒険者達の国とさえ呼べるほどになった今、中央の首都プロンテラを初めとして、ルーンミッドガッツ
王国軍全体を致命的な人員不足が襲っている。
 その点、騎士団や聖堂は近年の冒険者にまつわる制度に乗じ、優れた人材を吸収、徴用しているのだが・・・反面、いい加減とさ
え思えるほどの陳腐な執政によって、軍はその波に乗り遅れた。
 結果として、士官学校を出てくる者も少なくなり、その質は「街頭での道案内がせいぜい」な程度に落ち込んでいる。
 ――もはや王国軍に力はない。
 そしてそれを憂慮する者も、軍には数える程しかいないのが現状であった。
「・・・今や騎士団と比較するのが間違いという事か・・・」
 憂うこのウィザードの少女も、多分に漏れず若いのである。下手をすれば、書類に書かれた少女達よりも、若い。
 年齢にすれば十六と少し。少女は燃え上がるような紅い髪と、同じ色の眼をしていた。
 得意とする風の大魔法、"ロード オブ ヴァーミリオン"にちなみ、つけられた呼び名は"クィーン オブ ヴァーミリオン"。
 巷では"魔女"だの"緋色の悪魔"などとも呼ばれる、エスリナ=カートライル少佐その人である。
「早くカエサルセント公に立って頂きたいものだが・・・・・・ん」
 エスリナは即席の面接会場となった自分の書斎の壁の時計を見るや、眉をひそめた。
 最後の一人が残っているというのに、軽く三十分近く思考の海に沈んでいたらしい。
 無理矢理、再び沈みかけていた思考を中断させ、エスリナは凛として口を開く。
「・・・次、入れ!」
 待たせた申し訳なさなど微塵も表に出さず、言ったものだ。
 しかし、ドアの向こうからの返事は無い。
「・・・居ないのか?」
 怪訝な顔をしてみる。もしかすると、待たされすぎて帰ってしまったのかもしれない。
 軟弱極まりない。
 エスリナは勝手にそう断言すると、確認の為にドアまで歩き、ノブに手をかけた。
 瞬間。
(―――・・・何だ・・・この音は・・・?)
 耳に届く、微かな"音"。ロッダフロッグの鳴き声を彷彿とさせる、非常に耳障りな音だ。
 迷わず、エスリナはノブを引く。
 彼女の目の前で、ドアにもたれていた"何か"が倒れてくる。見るまでもなく、それは人間だった。
 エスリナとは対照的な、青いストレートロングの髪。そして、彼女より更にいくつか年下なのだろう、幼い顔立ち。
 ひどくだらしのない、弛緩しきった顔で眠る少女は、バランスを崩し、立ったまま床へ傾いていく。
 エスリナはその一部始終を、敢えて黙って見守った。
 やがて、ごきん、とそれなりに良い音が響く。
「・・・ほう」
 人間が顔面から床に着地してそういった音が出るとは、さすがの"魔女"も驚きを隠さなかった。
 それだけではない。床に転がった少女はまだ寝息を立て続けている。
 どうやら、先ほどの「音」はいびきだったらしい。
「・・・・・・・・・何処の阿呆だ?」
 うつ伏せの少女を蹴って仰向けにする。見事な一撃が突き刺さり、眠りこける少女は何回転かして、仰向けになった。
 しかし、幸せそうな寝顔は揺るがない。微かによだれさえ垂らしている。よほどの神経の持ち主なのだろう。
 忌々しげに一瞥をくれてやると、エスリナは手にした一枚の書類を見る。
「・・・弓手か」
 緋色の魔女は口元を吊り上げ、眠りこける少女へ邪気に満ちた笑顔を贈った。
 そして、言う。

「いいだろう。貴様を使ってやる」

 少女の名はレティシア=アイゼンハート。
 優れた弓の技術を持つこの少女は、ほどなく、エスリナ=カートライル直属の兵となる。


 『緋と蒼の円舞曲 1/3』
184('A`)sage :2005/01/12(水) 20:29 ID:UCN9/CaY
 それから一年と数ヶ月。
 エスリナ=カートライルは真昼の首都の往来を疾駆していた。
 ぶつかる通行人達が罵声を上げたり、或いは恨みがましい眼を向けてくるのを完全に無視しつつ、ウィザードの少女は声を張り
上げた。
「ルーク!ちゃんとついて来てるのか!」
 甲高い、ヒステリックとも取れる声に、すぐ後ろに続く白髪の騎士ルーク=インドルガンツィアが眉をひそめ、
「はいよ」
 そんな微塵のやる気もない返事を返す。走る速度こそエスリナと同じだったが、全身に纏った倦怠感が決定的な違いを生んでい
る。大体、走る彼の姿勢には芯がない。
「私は正面から追い込む!お前は回り込め!」
「・・・りょーかい」
 走りながら振り返り、鋭い眼を向けて命じる"少佐殿"。
 厳密に言えば、彼女にはルークに命令する権限はないのだが、ルークは肩をすくませ、大人しく脇道へ入る。
 エスリナはそれを見届けると、足を止め、遥か前方に見える男の背中へ掌を向けた。
 そして、
「大気震わし、風に惑う光彩――其は霹靂――」
 エスリナの広げた掌と足元の地面に描き出された光芒の陣が、紡ぐ言葉に呼応し、廻旋を始める。
 途端、露店を出していた商人や、行き交っていた通行人達が眼を喚き、逃げ出した。
 突如として通りの真ん中で攻撃魔術を詠唱されたのだ。巻き込まれる側からすればたまったものではない。
 流動する魔力にローブをはためかせた少女の手に、青白い雷花が咲く。
「――弾けろ!サンダーボルトォ!!」
 雷鳴と閃光を伴い、術が起動した。
 エスリナの右手から伸びた雷が、空気を灼きながら男の背中に迫る。
「ひっ・・・ひぎぇっ・・・!?」
 眼を丸くした男に雷撃が突き刺さった。
 彼女程の魔力を以ってすれば、本来なら男は消し炭になっていてもおかしくはない。
 しかし、死なない程度に加減された雷は、男の全身から力を奪うに留まる。
 これで終わればそれで良しとしていたエスリナは、男が踏みとどまった瞬間に認識を改める事になる。
 そう、彼は踏みとどまり、腰に忍ばせていた短剣を引き抜くや、手近な通行人を羽交い絞めにしたのだ。
「ぐ・・・そ、それ以上変な術唱えっとコイツをバラすぞ!?えぇ!?」
 血走った眼で、男は怒鳴る。
「・・・ちっ」
 舌打ちして手を下げるエスリナ。直後、男の背後にルークが躍り出る。しかし、彼も人質を見た途端、剣を抜く手を止めた。
 捕まった老人はあたふたするだけで、抵抗する気も力も持ち合わせていないように見える。
「それでいいんだよ"クソガキ"め・・・ちょっと魔術が使えるからっていい気になってんじゃねーぞ」
 調子付いた男のそんな台詞に、ぴくり、とエスリナの片眉が引きつる。
 魔女は目の覚めるような赤の髪を掻き、ゆっくりと頭を振った。
「ほう・・・一般人を盾にするとはな・・・やはり、半端な加減などしない方が良かったか」
「な、なんだとぉう!?」
「たかがスリ如きに全力を出すのは少々どうかとは思ったのだが・・・」
 ヒートアップする盗賊崩れに、冷ややかな眼をくれてやるエスリナ。
 表面的には冷静だったが、内心では烈火の如く怒り狂っている。
 ――具体的には"クソガキ"の辺りに。
「被害の拡大を防ぐ為には人質や通行人の一人や二人が蒸発した所で些細な問題という事か!」
『ちょっと待てぇい!!』
 断じる緋色の魔女に、スリの男と人質、そしてルークの抗議の声が綺麗に重なる。
「何処が些細だ!人として間違ってるぞ、少佐!」
「いいや!これは的確な判断だ、ルーク=インドルガンツィア!」
 更に論理的破綻を含んだ断言をする。
「鬼神じゃ・・・あの娘っ子は鬼神じゃ・・・」
「お、俺よりよっぽど大物の悪人じゃねぇか・・・」
 嘆く人質の老人。当のスリは震えながら小声で何かを呟いているが、聞こえない。聞こえない事にした。
「くく・・・よりによってこの私の財布に手をかけた事を、ニブルヘイムでたっぷりと後悔するが良い!」
 眼が、据わっている。
 そんなだから魔女だの何だのと言われてしまうのだが、本人に自覚は無いらしい。ルークは眉間を押さえ、スリと人質に深い同情
の念を抱いた。まさか本当に殺しはしないだろうが、凄惨な目に遭うのはもう避けられまい。
 が、次の瞬間にはスリの男の手から短剣が消えていた。硬質の金属音を響かせ、何かに射抜かれた短剣は呆れ返るルークの前に転
がる。次いで、スリの男の上体が大きく仰け反った。
「おげぇっ!?」
 低いくぐもった音と共に、スリが倒れた。気勢を削がれたエスリナは、その様を呆然と見つめる。
「へぇ・・・こりゃまた・・・やるもんだねぇ」
 ルークだけは、事前に聞こえた風切り音を聞き、そして落ちた鏃の無い矢を見て状況を把握している。
 すかさず昏倒したスリを引きずっていくエスリナを後目に、白髪の騎士はあらぬ方向を見つめて笑った。

 バレた。
(ど、ど、どうしよう・・・)
 常に携行している小型の自動弓を後ろ手に隠し、更には身を縮ませて人ごみの中に紛れる。
 濃い青み帯びた長い髪。合わせる様に着込んだ青い弓手の装束。もしかすると、自分で思っているより目立っていたのかもしれない。
 でなければ、よりにもよってあの鈍そうな騎士に気付かれる筈がないのだが・・・。
 レティシア=アイゼンハートは思わず事態に介入した事を後悔した。
 偶然その場に居合わせ、さすがに人質を不憫に思い手を出してしまったのだが・・・知れれば、エスリナに怒られる。
 それこそ小一時間はたっぷりと絞られるだろう。
「ひ、ひぃ・・・」
 脳裏に浮かぶ光景。出来れば、それは避けたい。
「レティシア」
「ひぃぃっ」
 雑踏から不意に呼びかけられ、弓手の少女はいよいよ小さくなった。このまま消えてしまえればどんなに楽か。
 しかし、声は思い描いていたエスリナの冷たい声ではなく、最も意外な人物のものであった。
「・・・何をそんなに怯えてるんだ」
 ふと、気付いて振り返る。人の往来の中に立っていたのは、何とも言えない脱力気味の青年。
 一応は騎士の格好――鎧やマント、あと剣――をしているものの、威厳や誇りなどとは到底無縁な雰囲気を持った男。
 白髪の――
「・・・ルークさん?」
「ぉぅ。元気か」
 白髪の騎士は頬を緩ませ、割とノリの軽い挨拶を返した。

「立て貴様。私の財布は何処へやった」
 がつん、と気絶したスリの男の腹に蹴りを見舞うエスリナ。しかし、男は一向に起きようとしない。
 五、六回試してみたものの、やはりぐったりと動かない男へ痺れを切らし、
「仕方が無いな・・・ルーク!コイツを詰め所まで引っ張って行く。手伝・・・」
 そう言いながら、彼女は先程まで居た筈の騎士が消えている事にようやく気付く。
「・・・ルーク?」
 見回す。が、やはり遠巻きに事態を見守る人ごみの中にも、彼の姿は無い。
 あるのは未だスリへ虐待を続ける少女への、大勢の恐怖の視線だけだ。
「・・・」
「ぉ・・・た、たすけ・・・」
 男が意識を取り戻すや、地面を引っ掻いて這い逃げようとする。
 エスリナは引きつった顔で目を細め、黙って再び蹴りを入れた。
185('A`)sage :2005/01/12(水) 20:29 ID:UCN9/CaY
 何だかよく分からないけど、いい加減で変な奴。
 レティシア=アイゼンハートの、ルーク=インドルガンツィアへの評価はそんなものだ。
 というより、一般常識でそれが通用してしまいそうに見えるのが、ルークという男の普段の態度なのだ。
「俺は"抹茶ゼロピーエスプレッソ"なんてものは多分一生飲まないぞ」
「・・・そんなのいちいち言わなくても分かります」
 メニューを片手に真顔で言い放つ白髪の騎士に、レティシアは適当に相槌を打つ。
「・・・"ホットチョコレート・べと液風味"も飲まないぞ」
「ええそうですね!そうでしょうね!だから何なんですか!?」
 もう黙ってくれと言わんばかりに、言った。ルークは向かいの席で口を尖らせる。とてもいい年した青年には見えない。
 と、この男はいつもこうである。少なくとも城で出会ったときから、見ている限りずっとそうだ。
 ――プロンテラのやや西寄りにあるカフェテラス。
 洒落た雰囲気と流行の甘味で人気の店だ。レティシアの首都勤務になってからのお気に入りで、ほぼ毎日足がよく通っていた場所で
ある。
 エスリナ達と現在の任務についてからそれなりに忙しかった反動もあり、久しぶりにやって来たのだが・・・、
「・・・」
 向かいの席に座るルークを、無言で睨む。当の本人はこういう店が珍しいらしく、しきりに見回したり感心した様に頷いている。
 ・・・なんでこの男はここまでついて来ているのだろうか。どうにも無神経である。
 ぶすっとした態度のレティシアに気付いたのか、ルークはにへら、と緩く笑って見せた。
 元々顔の作りは悪くない男である。むしろ良い方だと言って良い。
「ぅ・・・」
 笑顔に気圧され、レティシアはチーズケーキをフォークですくって口に運んだまま動作を止めた。
「はっはっはっは」
 そんな彼女を面白そうに観察しながら、ルークはコーヒーをすする。実に堂の入った風体である。
 ――見透かされているような、気がした。
 カップを置き、一息の間を置いてから、不意にルークは口を開く。
「・・・九間の距離から短剣を射抜き、続けざまに急所に当てて昏倒させる・・・か」
 白髪の騎士は緩い顔のままで肩をすくめて見せた。
「ま、言うほど簡単な芸当じゃないんだろうなぁ」
 評価というよりは感想に近い言葉だった。恐らくは弓の心得があまりないのだろう。
 レティシアは目を逸らし、渋い顔をする。
「・・・何が言いたいんですか?」
「俺が見るに、君は有能過ぎるって事だな。少なくとも、一兵卒に収まる器じゃない」
 今度は評価だった。
「純粋に腕だけで食っていく事も出来るだろう。軍という組織の中では上手く立場を上げる事は出来なくても、望めば雇ってくれる
ところはいくらでもある。わざわざ今の軍に居る理由が見当たらない」
 ルークは淡々と事実だけを言った。現に、現在の軍には権威も誇りも何もあったものではない。
 相応の実力を持った者が所属するという性質の組織ではないのだ。それはむしろ冒険者ギルドの中にあるというのが、今のミッド
ガッツの現状である。
「何か理由でも?」
 今度は明確な質問だった。
「・・・」
 レティシアは答えない。大体、ちょっと任務を一緒にしているくらいで、そんな事をペラペラ喋るわけがない。
 この男は不快だった。憎めないのに、ぶしつけで遠慮がない。エスリナがルークに対していつも不機嫌なのも分かる。
 それなのにエスリナはルークを傍に置く。不可解なこの任務を受けてから、ずっとだ。自分ではなく、この男を。
 不快感は、突き詰めればそこにもあった。要するに嫉妬しているのだ。
 ・・・だが、それ以上に。
「・・・っ・・・」
 レティシアは震える右手を、フォークを持たない左手で押さえた。ルークに悟られないよう、必死に隠す。
 怖いのだ。
 どうしようもなく、恐ろしいのだ。
 薄々気付いてはいた。この白髪の騎士が纏う、違和感に。表面には全く出さない、内に秘めた何かに。
 エスリナは"これ"に気付いているのだろうか。
 そもそも、只の"人間"が風切り音だけで距離と方角を把握し、矢の放たれた位置を特定出来る訳が無い。
 ルークはほんの少し・・・そう、その領域を僅かに今、解放したのだ。それだけで、凡人よりも鋭利な感覚を生まれ持ったレティシア
は直に影響を受けている。今までフィルターを通されていたノイズが、直接脳内に響いているかのような感覚に陥った。
 目を合わす事さえ叶わない。どころか、畏怖してしまった事さえ気付かれれば殺されるような気がした。
 音もなく、背後から自分が脳天から両断されるビジョンしか描けない。
 しかし、殺気とは違う。
 そこに殺人の意思は存在しない。
 "それが当然のように"、あくまで自然に殺される気がしてならないのだ。
「・・・少し、試したんだが」
 悪魔の声がした。
 思わず身を強張らせる。が、顔を上げると、そこには既にいつもの気の抜けた騎士の顔がある。
「悪かった。そこまで怖がらせるつもりじゃなかったんだ」
 そう言うルークの顔は、心底申し訳なさそうであった。
 気付けば、周囲を"支配"していたその"存在"も嘘のように霧散している。勘の良い市井の冒険者が怪訝な顔でうろついたりしては
いたが、ただの騎士であるルークに視線を向ける事は無い。
「・・・場所を変えよう」
 レティシアだけに聞こえる声で、ルークは呟く。まだ恐れから戻れないレティシアは人形のようにコクコクと頷く。
 ふと、ルークは彼女のケーキが残っているのを見るや、
「勿体無いぞ」
 それをおもむろにつまむ。
 そして、一気に食べた。
「・・・あ」
 ぽかん、と口を開けるレティシア。ルークはぺろりと舌なめずりする。それから一言。
「・・・甘ぇ」
186('A`)sage :2005/01/12(水) 20:35 ID:UCN9/CaY
こんばんは。駄文投下です。

先日の某座談会、楽しかったです。
コタツに入りすぎたせいか風邪ひきましたけど。
機会があればまた参加したいものです。

次回はいよいよモンクさん登場。

それでは、また。
187名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/01/12(水) 20:46 ID:LlppcerQ
|・) ……

|ω・) <オカラダニ キヲツケテ ガンガッテ クダサイ

|゚≡ サッ

|

| (「華奢で」のところでマッチョな案内要員たんを想像)

| <ウハwwwwwオkwwwww
188150sage :2005/01/14(金) 01:19 ID:qeFkB5U.
>>('A`)たんキツァ。
とりあえず極悪非道なエスリナ様に僕もしばかれたいですハァハァ(ギャー
ルークだめだよ、だめだよルーク、レティシアに手を出したらエスリナ様に殺されるよ。
ああっ、けど爛れた三角関係とかも見てみたい…。

さて、ようやく書きあがった…んが。
初めてなので勝手がわからず微妙だ…。
と、とりあえず駄文初投下っ。
そして課題やらなかった罰で補修漬けだったのは死んでもくぁwせdrftgyふじこlp
189150sage :2005/01/14(金) 01:20 ID:qeFkB5U.
RagnarokOnline ShortNovel [Re:Member For...]

- 01:賢者の街の喧騒

 「さぁさぁ!よってらっしゃい見てらっしゃい!特売のポーション各種、豊富に取り揃えてますよー!!」
その露店の主であろうマーチャントの女性の威勢のよい声が、通りにこだまする。
ここはシュバルツバルド共和国首都ジュノー。
ルーンミッドガルド王国首都プロンテラに負けず劣らずの賑やかな街である。
先だってのジュノー騒乱による復興作業で、各地から物資や人員が大量に流れ込んできているのも、その活気の一因だろう。
そんな喧騒の一角、さきほどの女性の店にも大勢に客が押しかけている。
そしてその露店の隣、というか隅のほうには、二人の青年。
どうやら店主の手伝いらしい二人の格好は、このシュバルツバルドではとりわけ珍しい。
一人は黒装束に身を包むアサシン、もう一人はルーンミッドガルド王国の紋章が入った鎧を着ているナイトだ。
 「ゴルァ、ユイス!お客様を待たせないでちゃっちゃと商品をお渡しする!あーほらカイラス、それは割れやすいから注意してよ!」
 「へーへー…ったく、なんで俺がこんな手伝わにゃならんのだ……」
 「ボヤくなユイス、アレを飲まされるよりはマシだろう……」
先程のアサシン、ユイスと呼ばれた青年のボヤきを、ナイトのカイラスが諭す。
そこはかとなく泣きそうな顔で。
 「そりゃまぁな、っておいイリア!もうポーションないぞ!」
 「あっれー?おっかしーなーもっと仕入れたと思ったのに……ごめんねぇ、そーいうワケで売り切れ、また今度ヨロシクッ!」
マジかよー、ついてねぇー、くそー他の店をさがせぇぇぇ!等と落胆を示しつつも去ってゆく客。
実はこの店の店主、イリアと呼ばれた女性は仕入れ値ギリギリで販売していると、最近ちょっとした評判なのである。
 「あーやれやれだぜ…アサシンからマーチャントに転職したくなるわ、まったく」
 「あら、労働には正当な対価、ちゃんと払ってるじゃない」
 「それが割にあわねーんだ…ったく」
文句を言いつつ露店の撤収作業をこなすユイス。
 「っておいカイラス、手伝えよ、このポール無駄に重くて…くそー、ジョイント邪魔だぁ!たたっきってやる!」
 「やめんかこの阿呆!私の店に何するのよ!」
 「なら自分で撤収作業しろと小一時間――!」
 「なんですって――!」
ギャーギャー喚く二人を、いつもならカイラスが止める……止めるはず、あれ?
 「どーしたんだカイラス?」
 「いつもなら止めてくれるのに、というか私を熱く抱擁して愛を語ってくれると今すぐ大サービスよ」
 「いや、非常に魅力的なプランだが今は却下。お客さん襲来…」
言い終わらぬうちに、ユイスの上に何かが重いもの落ちてきた。
 「ぐぎぇ」
190150sage :2005/01/14(金) 01:20 ID:qeFkB5U.
――追っ手。
捕まれば殺される。
いや、殺される前に慰み物として精神が壊れるまで犯され続けるのだろう。
走りながらそんなことを考える。
息は上がって、体は貪欲に酸素を欲している。
無駄な思考で酸素を消費すべきではない。
□たぞ!□□り□め!
遠くから声が聞こえてくるが途切れ途切れでよく聞こえない。
耳を澄まそうとして、自分の行動の馬鹿さ加減に気がついてやめた。
再び走ることに意識を集中する。
□の□□!もう逃が□ねえ□!!
左右から追っ手と思しき男が飛び出してくる。
右手を一閃、握っていたモーニングスターの鉄球が右手から飛び出してきた男の頭を吹き飛ばす。
飛び散った脳漿が地面に飛び散る音がする、と同時に鼻腔を満たす血の匂い。
(臭い……)
そのまま返す手で左手の男が飛び出てきた位置へ向かい、モーニングスターで薙ぐ。
□ゃあ□ああ□□!
悲鳴、どうやら仕損じたらしい。
同時に左足に鋭い痛みを感じ、バランスを崩す。
どうやら男が投げたナイフらしい、傷が深いようだ、出血が酷い。
□、この□□!
先程の男がのしかかってくる、モーニングスターは右手を離れてどこかへいってしまったようだ。
□□□をよく□!手□な□似は□□といわれ□が□さ□ぇ!!
ノイズが酷い、のしかかってきている男が何を言っているのか判らない。
だが状況から判断して、あまり好ましくない自体の様だ、現に男はこちらの服を引きちぎろうとその手を伸ばしてくる。
 「触るな、下種」
自分の発した言葉で、ノイズが消え、思考がクリアになる。
右手を一閃、抜き手のまま目の前の男の眼球を貫く。
 「あ、嗚呼亜ア阿蛙唖吾ああ嗚!!!」
(みっともない叫び声…)
彼女はクスリと笑う、無邪気で幼い子供のように。
その笑顔のまま、右手に魔力を送り込む。
刹那、男の頭が爆砕する。
首から上が消失した男の体をどけ、立ち上がる。
……いつの間にか囲まれている。
 「観念しろ、このアマァ!」
 「よくも兄貴を!兄貴は…兄貴はナァ!!」
口々に喚く男達にうんざりした顔をする。
 「悪いけれど、貴方達との追いかけっこはおしまい…歪め 異次元の扉 誘え 我が行く先に ワープポータル」
空間を歪ませ跳躍する。
行き先は指定しない、そもそも彼女にはこの法術を行使する力など"元々"無いのだから。
 「な…!ちょっと待て、そんな、空間転移だと…聞いてないぞそんな話!」
 「くっ、逃がすな!追え!」

 「さ よ う な ら」
彼女はクスリと笑う、無邪気で幼い子供のように。

――悪魔のように
191150sage :2005/01/14(金) 01:21 ID:qeFkB5U.
 「……ーぃ、おーい起きろ、起きろユアン」
 「……ああ、天国のじっちゃんばっちゃん、俺この若さで死んだっぽいよ」
 「ぇ?!死んだ!?死んだ?!じゃあこのドッキリビックリイリアさん特製ポーション!ゴゴリ☆ドドメ色の素敵ポーションγ君でリザレクションしちゃうよ!」
 「やめんか!」
驚異的な反動をつけ起き上がる、まるでゴムのようだ。
 「あらやだ、生きてたの?」
 「死んでない!むしろそんな失敗作の殺人ポーションなんぞ飲んだら確実に死ぬわ!」
 「あら失礼ね、これでも一応製薬アルケミスト志望ですよ」
 「ああああ!無免許薬剤師の分際でえええええ!!」
地団駄を踏む、ついさっきまで死んだ祖父母の影を見ていたとは思えないハッスルっぷりである。
 「って、オイ。そういや俺の上に何が落ちてきたんだ」
 「ああ、コレ」
我関せず、といった顔をしていたカイラスが、ここでようやく話に入ってくる。
そして、カイラスの指差す先には……。
 「……人は空を飛ばないぞ」
 「具体的にはアコライト、しかも女性だ、女アコたんハァハァってトコか」
 「いや、空から降ってくるような奇特なアコライトには関わり合いたくないな…電波?you can flyとかか?」
 「あ、ユアン、今のセリフは女性に対して失礼よ、女性は誰でもメルヘンなのよ」
 「君は頭のネジが外れてる」
 「ぇぇ!なんでカイラスまでそんな事言うのよ、酷いわ!」
大袈裟に泣きずれるイリア、なぜかよよよよよという効果音付きだ。
 「うーむ、つーかマジか?なんで降ってくるんだよ人が」
 「あ、さりげなく無視してるし」
 「おーい、起きろ嬢ちゃん、とりあえず誠意ある謝罪を求めるぞ。あと具体的に飯奢れ」
意味不明の俺理論を展開しつつ、アコライトの女性の頬をぷにぷにと突付くユアン。
ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに……。
 「だあああ!起きろゴルァァー!!!」
ブチ切れた。
 「ああっ、落ち着いてユアン!いくらなんでも気絶している女性を襲うのは関心しないわ!」
 「そうだぞ!幾ら飢えているからってお前はそこまでプライドのかけらも無い奴だったのかっ!」
 「じゃかましい!誰が襲うと言った!」
 「「いや、なんか雰囲気が」」
ハモる二人、あああくそーこいつらぁぁぁ、と呻きながら頭を抱えてへたり込むユアン。
 「飢えてるって所は否定しないのね」
 「昼飯時だしな、アイツがいらだつのは判る」
 「そーいう意味じゃないわよ……」
と、その頭上を二本の矢が掠め、背後の壁に突き刺さった。
 「っ!何よ何よ!」
 「気をつけろ、囲まれているぞ!」
腰に下げたバスタードソードを引き抜き、イリアの前に立つカイラス。
ユアンも、両手に振り抜き、嵌めている篭手から刃を出す、特注のカタールである。
 「ええい、なんか厄介事に巻き込まれた予感をひしひしと感じるぞ!」
 「そのようだ…さしずめそのお嬢さんが目当てってトコか…っく!」
立て続けに二射、二人の頭を正確に狙ってくる。
 「うぉおおお!?ちょっとまて、無茶苦茶狙い良いぞ相手!」
 「っこの!」
飛来してきた矢を叩き落す二人、どっちにしろ無茶苦茶だ。
 「ユイス、グリムトゥースで蹴散らせないか?」
 「ギリギリ射程外」
 「ちっ…仕方ない、イリア!"アレ"を貸してくれ!」
 「ダメ!あれは使用禁止!とりあえず私をお嫁にもらうのが先!!」
 「いや、この状況でそれを言うな!」
 「言います!使用禁止!後左手90度、全力疾走!いくよ!!」
と、いつの間にか商人専用のカートに先ほどのアコライトを乗せたイリアが叫ぶ。
 「いけぇ!イリアさん特製以下略!!」
 「「略すのかよ!自分の作ったものに愛情とか無いのか!!」」
 「あんな怪しい物体に愛なんて無いっ!」
ハモるユアンとカイラスに、きっぱりと言い捨てるイリア。
その左手から放物線を描いて飛んでいくドドメ色の殺人ポーション。
 「くぁwせdrftgyふじこlp;@:?!#$%&☆」
何も無いところから悲鳴と思しき絶叫が上がる。
頭からドドメ色の以下略をかぶったローグの男が現れる、ハイディングで潜んでいたらしい。
 「カイラス!」
 「承知……ボーリングバッシュ!!」
魔力を乗せたバスタードソードを目の前のローグに叩き付ける。
ありえない方向へ腕を折り曲げ吹き飛んでいくローグを尻目に三人は一路、逃走を開始する。
とりあえず、宿屋へと。
192150sage :2005/01/14(金) 01:26 ID:qeFkB5U.
やべぇー!深夜に書いたから一部キャラ名が今製作中の同人のキャラ名になっちまってるー!
orzモウダメポ

修正〜
191のキャラ、ユアンになってるのは全部ユイスの誤植です。
ウボァァー…欝すぎる、もうだめだ。
   ||
 ∧||∧
( / ⌒ヽ 工業用の100M LANケーブルで吊ってます
 | |   |
 ∪ / ノ
  | ||
  ∪∪
   ;
 -━━-
193(ノ´_`)ノsage :2005/01/14(金) 18:13 ID:mytrNAlA
ここはゲフェンダンジョン3階、最終転職直前の冒険者が多く集う場所
そこに、プリーストの少女と、見慣れない剣士と思しき少年がいた。
近寄るデビルチを切り捨てた少年に少女は、
幾度目かの質問を投げかけた
「貴方強いのね、転職したらりもっと強くなれるよ、なんで転職しないの?」
少年は、その質問には答えず、新たに現れたマリオネットにその剣先を向けるのであった
「何か答えなさいよ!!」
その度に少女は、そう怒鳴るの行為を繰り返してた。


ここはプロンテラ南、固定のパーティーを持たないもの達が、
同じような仲間とパーティーを組むための場所である。
そこに最近、剣士と思しき強い冒険者が現れると噂を聞いたので、
何故剣士と思われしきなのかと言う理由は、
彼はいつも、全身を丈の長いフードで覆っていた事と、
狩が終わると、全ての収集品をその場に置いて去って行く為、
誰も彼のレベルを確認する事が出来ないと言うのが真相であった。
そんな友人達の噂話から興味本位で、とあるプリーストの少女は、
この少年と探していたのである。
「あの人かな?」
視線の先には、噂どうりの服装の少年が1人城壁を背に座っていた。
少女は少年の直前まで歩寄った。すると
「・・・・何か用か?」
殺気を含んだ目で、少年はそう一言呟いた。
突然の反応に少女も一瞬躊躇したが、落ち着き話しかける。
「貴方が噂の剣士くんかな?少しお姉さんも、お手並み拝見させてもらおうかな?」
そう話すと少年は公平パーティーが組めるかを確認し、
「・・・・・いいだろう」
と短く答えるのであった。
こうして二人はパーティーを組む事になったのである。
194(ノ´_`)ノsage :2005/01/14(金) 18:15 ID:mytrNAlA
ハンターフライを切り捨てた少年に向かい少女は再び話しかける。
「わたし、レミットって言うんだけど、貴方の名前は?」
そう話レミットは話しかけた。
「もう〜何か答えなさいよ」
度重なるレミットの尋問に、ついに少年も諦めたように一言。
「名前なんてない・・・・」
そう告げるのであった。
レミットは質問を諦め、一人思考を巡らせた。
わたしと組めるって事は、わたしが89だから79か80前後くらいよね。
この人ただの廃剣士さんかな?スキルも剣士スキルしか使えないみたいだし
そんな思いを巡らせていたその時、少年が一言ぽつりと呟いた。
「沸きが激しくなってきた・・・・・奴が来る!!」
そう呟くと少年は突然走り出すのであった。
「待ちなさいよ・・・突然どうしたのよ?」
レミットも慌てて少年の後を追う。
暫くすると、大量の負傷した冒険者の姿が、視界に飛び込んで来た。
「これは?!」
レミットは驚きながら、混乱する思考を整理して一つの結論に達した。
「・・・・ドッペルゲンガー」
そう呟き、レミットは少年の姿を探し、驚愕した
「?!」
レミットの視界にはこの惨状の元凶であるドッペルゲンガーと対峙している少年が
目に飛び込んで来たのである。
「お前の役目は終わった今のうちこの場より去れ」
少年はそう告げる
「何よ廃剣士だからって、かっこつけるつもり、あなたこそ早く逃げなさいよ」
そう言い放つとレミットは少年に近づいて行こうとしたが、
突然周囲に大量のモンスターが現れ行く手を遮るのであった。
高レベルプリーストと言っても多勢に無勢、瞬く間にSPが枯渇し、
回復の手段を失ったレミットの膝は地面に付いた。
「・・・・あたしも、ここで死んじゃうのか、お姉ちゃんと同じように」
そう思い瞳を閉じて、最後の一撃を待ったが、その時は訪れなかった。
不思議に思い瞳を開くと、自分が青い光に包まれている事に気が付く
「これはディポーションでも誰が・・・!?」
自分から伸びる青い光の先端そこにはさきほどの少年がいた。
度重なる攻撃で少年のフードは千切れ飛び、ところどこに、白金光る鎧が見えていた。
「グランドクロス!!」
そう少年は叫び、レミットの周りのモンスターを一層して行く、
それが終わると再びドッペルゲンガーに向かって行くのであった。
「早くこの場より去れ!お前がいては足手まといだ」
そう叫びながら、続けざまにグランドクロスを放つ。
「貴方一人じゃ無理でしょう、何強がってるの」
そう言いながら、レミットは少年に支援を行った。
硬い金属の割れる音が響き、少年の鎧は砕け散った。
しかし少年は尚も攻撃の手を緩めない
「もう無理だよ、逃げようよ、貴方このままじゃ死んじゃうよ」
そうレミットは泣きながら叫んだ。
「俺は昔、こいつから大切な人を守れなかった、
だから、この身が果てようとも絶対に退く訳には行かないんだ!!」
「わが名は「セシル」その昔、慢心から大切な人を傷つけ守ることが出来なかったクルセイダーだ」
その名を聞いた、レミットは一瞬驚きの表情を見せる
しかし直ぐに落ち着き、ある決断を下した。
「ふふふふ・・・・・回復も尽きたようだな・・我に歯向かうとは身の程知らずな、
よくやった、もう少しで我を倒せたかも知れぬが、爪が甘かったな、
我に歯向かったその愚行をあの世で悔いるがいい」
そう言い放ち、ドッペルゲンガーはセシルに最後の一撃を放つ
その直後、レミットが叫んだ
「マグヌスエクソシズム!!」
「ぐおおおおおおおおおおおお・・・・・
まさかプリーストめこの技が使えるとは、しかしこの一撃は避けれまい」
そう言い放ちドッペルゲンガーはレミットに剣を振り下ろす。
「ばかな・・・・・・何故斬れぬ」
その一撃はセシルとレミットを結ぶ青い光によって阻まれた。
「今度は殺せないぜ、このこは・・いやレミットは俺が守る、この命尽きようとも!!」
そう断末魔の叫びを残してドッペルゲンガーは消滅した。
195(ノ´_`)ノsage :2005/01/14(金) 18:16 ID:mytrNAlA
静寂の戻ったゲフェンダンジョン3階、
「俺は昔ここで、自分の慢心で相方を殺してしまった・・・
その日以来クルセイダーであることを捨て、復讐の為に生きてきた」
そうセシルは語り出した。
それを聞いたレミットも自分の過去を語り始めた。
「わたしの姉はマグヌス使いで、ここで亡くなりました。
その日以来わたしもマグヌスは使わないと決めました。」
「当時に、その直後に姿を消した姉の相方を憎みました。なんて卑怯な人なんだと」
その話しが終わるのを待ちセシルはレミットに聞きました
「その姉の名前は?」
「姉の名はミリィといいました。」
セシル自分の予想通りの回答に、あまり驚いたそぶりは見せずに
レミットに自分の剣を差し出し
「俺の目的はこれで終わった・・・・俺はお前の言う通りの卑怯な人間だ・・・好きにしてくれ」
しかしレミットはその剣を受け取らず話しはじめました。
「確かに姉の相方を恨みました・・・・理由も告げづに消えてしまったのですから」
「でも、今その誤解は解けました。貴方も姉の死で苦しんでいたんだと」
「それが解かったから、わたしもマグヌスを使うことが出来たんです」
「だって・・・・・・貴方はあの時命がけで、見ず知らずのわたしを守ってくれた・・」
「わたしなんか無視すればいいのに、命がけで・・・・・・」
「だから、わたし姉が貴方を好きになった理由がわかりました・・・・」
レミットは涙ながらに言いました。
「ありがとう、すまなかった」
そう言って、セシルはレミットを抱きしめました。
しばらく抱き合い、どちらかともなく離れた後、
「では、戻りましょうか」
「ワープポタール!!」
光に包まれて戻ってゆく二人

ポタールの先はプロンテラ大聖堂前
「そうそう・・・・わたしを傷物にした責任は取ってもらいますからね♪」
そう微笑みながらレミットが話し出す
「責任・・・・・」
流石のセシルも突然の事に驚きを隠せない
レミットはセシルに背を向け
「わたしセシルの事が好き・・・・・いきなり恋人とは言いません、せめて相方になってください」
そう真っ赤になりながら、セシルに向き直り告白するレミット
「やっぱダメですよね・・・・・・・わたし支援もへたっぴだし、マグヌスプリだし」
そううな垂れるレミットにセシルは、初めて微笑み
その口に口付けをするのであった。
「オーディンの神に誓おう、この命ある限り、レミットを傷つけさせないと」
そう、レミットの耳元にささやき、レミットにミストレスの王冠を被せた。

その日、プロンテラ大聖堂に一組の夫婦の結婚式が密やかに行われた。

Fin
196(ノ´_`)ノsage :2005/01/14(金) 18:17 ID:mytrNAlA
なんとなく書いてみた
197('A`)sage :2005/01/15(土) 03:21 ID:YafG9r6k
 Ragnarok Online Side Story "Confrontation of fate"


「・・・我々のような者は、いつか戦えなくなれば、ゴミのようにうち捨てられるのだろうな」
 雪の中で、冷たい笑みという仮面を被った少女が言った。
 人は無限ではないと。
 対峙する魔の者達が無限を持つのに対して、自分達はあまりに弱いと。
 人は所詮、有限なのだと。


「少佐・・・私達、まだまだ若いです!すごく考えすぎですよ!」
 続く戦場で、くたびれた弓を抱えた少女が言う。
 二人は戦いの中で多くの死と直面した。
 敵も味方も、大勢が死ぬ世界で。
 お遊びの冒険者ごっこではない、花もなければ救いもない、神さえ居ない、戦場で。


「ふふ・・・レティシア、お前だけは何があってもたくましく生きていけそうだ」
「えへへ・・・よく言われます」
 ジュノー。
 二人の周りには、数十の骸が転がっていた。
 味方だった者へ、敵だった者へ、分け隔て無い、平等な死が訪れていた。
 二人の少女は傷付いた身体を寄せ合い、背中合わせに立つ。互いの無事を確認するように。
 やがて遠くで騎士達の歓声が沸き上がり始め、二人は勝利を確信した。
 自然と、どちらともなく座り込んで空を見上げる。もう動ける気がしない。
 降下を始めた空中都市と、まばらな雲から降りしきる雪。
 その幻想的な景色が、生き延びた実感をもたらした。
「・・・昇格は間違いないだろう」
 ふと、ぼろぼろになったウィザードの少女が言った。
「この機に広報へ回してもらうと良い・・・私からも言っておく。今まで、ご苦労だったな」
 同じくぼろぼろになった弓手の少女は口を尖らせ、抗議する。
「わ、私に広報官になれって言うんですかぁ?」
「不服なのか?最初の頃は散々喚いて逃げたがっていた癖に・・・」
「昔の話ですっ!大体、少佐ったら私が居なきゃ危なっかしい事ばかりするじゃないですかっ!」
 指を立てて言ってみせる。
「それに・・・今更、少佐以外の人の下で働く気はありませんよ、私」
「・・・強情な」
「お互い様です」
 ふう、と溜息を吐く少女へ、弓手の少女も溜息を吐く。
 ややあって、弓手の少女は満面の笑みを作り、
「もし少佐が戦えなくなったら、私がお守りしますから!」
 そう言った。



 遠い日。
 支える事が、生きる意味になると信じた。
 他に何もない、その少女は。


 今も、誓いのままに。



 『緋と蒼の円舞曲 2/3』
198('A`)sage :2005/01/15(土) 03:22 ID:YafG9r6k
 ぷんぷん怒った赤毛のウィザードが部屋の戸を蹴って開けるのを見て、静かに読書を楽しんでいたプリースト・カルマは目を丸く
して彼女を迎えた。
 嫌な空気をひしひしと感じる。だから、
「お、おかえり・・・エスリナさん」
 カルマは出来るだけ神経を逆撫でしないように、気を付けて言ったものだ。
 城を出発してから宿の備品を壊したのは一度や二度ではない。その度に経費を請求しているのは他ならぬカルマだった。
「・・・ルークは戻っているか」
 腹の底から搾り出すような声で、エスリナは訊いた。尋問に等しかった。
「え、いや・・・僕は見てないけど・・・」
 ルークと相部屋であるカルマが見ていないという事は、戻っていないのだろう。
 エスリナは勝手にそう解釈すると、夕日でオレンジ色に染まった窓の外に、据わった目を向けた。
「城を出てから一週間・・・先の戦闘から三日・・・いい加減、手がかりを得て首都から出立したいものだよなぁ?カルマぁ?」
「そ、そうだね・・・」
 背中に吹き出す汗の嫌な感触を意識しながら、カルマは頷く。
 それ程に、エスリナは迫力を持っていた。
「だから私は役立たずのルークを連れて情報収集を敢行したのだ。これは英断と言っていいだろう」
(そんなに役に立たないなら連れて行かなきゃいいじゃないか・・・)
 かなり深刻なレベルで愚痴をこぼしそうになったが、我慢する。口に出したら間違いなく電撃が来るだろう。
「だが、だが!奴はよりにもよってこの私を置いて行った!これは許しがたい裏切りだ!」
 胸に拳を握り、ローブをなびかせてみせるエスリナ。
(いや、だから何でそんなに回りくどいんだろう・・・構って欲しいならそう言えばいいじゃないか・・・)
 仮面で覆われた額を押さえて苦悩するカルマ。
 前の戦いから、目に見えてエスリナはルークに接近している。恨み言を言ったり、散々ルークを卑下したりしているが、それは彼女な
りに彼を認めた証なのだろうとカルマは勝手に解釈している。
 だが、ルークはエスリナに露ほどの関心も抱いてはいないらしい。表面上の会話はともかくとして、だ。
 現にエスリナは振り回そうとして振り回されている。それはそれで見ていて痛快なのだが、愚痴られる方はたまったものではない。
「なあ・・・あんた、見かけによらず苦労してるんだな」
 呆気に取られていた"客人"の男が、ようやく口を開いた。エスリナはそこでやっとその存在に気付き、カルマはしみじみと頷く。
「これでも一番常識を残してる自信はあるからね・・・」
「・・・カルマ、誰だその男は」
 部屋の隅に佇んでいたその男は、一歩踏み出すとエスリナの前に立った。
 大柄で、鍛えられた無骨な身体に、深い眉目。強者という言葉がこれほど当てはまる男もそうはいないだろう。
 黄色の頭巾を巻いた、モンクである。
「カピトーリナの方の人だよ。名前は・・・」
「・・・"黄巾の武闘家"か。実物は初めて見るが・・・」
 カルマが言うより早く、エスリナは感心したように呟いていた。男はニンマリと笑ってみせる。
「俺って有名なのか」
「うむ。素手で魔剣を叩き折っただの、邪神と化したピラミッドの主を嬲り殺しただの、三人の妻がいるだのという噂を耳にした」
 真顔で言ってのけるエスリナ。黄巾の武道家は笑顔のまま凍りついた。
「事実なら一度実物を見てみたいと思っていた。どうだ、軍に来ないか」
「え、遠慮する・・・これでも妻子持ちでね・・・」
「・・・そうか」
 モンクは引きつった顔で言うが、赤毛の少女は全く気にせず、本気で残念そうに肩を落とす。
 何処までも残念そうなのが恐ろしい。
「え、エスリナさん、彼はカピトーリナからわざわざ情報を持ってきてくれたんだよ」
 慌ててフォローを入れると、エスリナは訝しげな視線を武闘家に送る。
 未だ不透明な敵の存在――初まりの日に半魚人を暴れさせ、次に血騎士を使役した、漠然とした敵。
 もし本当なら、どんな些細な事でも情報は集めておきたい。
 ルークの事はさて置き、エスリナは言った。
「そうか・・・なら、話してくれ。情報とやらをな」


 夕暮れの城壁の上を、這う様にして駆ける影があった。
 腰に二本の剣を下げた白髪の騎士と、青い弓手の少女である。
 騎士は手近な壁に張り付くと、奥の詰め所の中を覗き込むように身を乗り出す。
 そんな彼のマントを、少女は思い切り引っ張った。
「・・・ちょっと!ルークさん!」
「ん、どうかしたか?」
「どうしたもこうしたもないですよ!何で私達がこんなコソコソして軍の詰め所に入り込まないといけないんですか!」
 大きな瞳をギラギラさせて、騎士・ルークを睨む。
「これじゃやましい事をしに行くみたいじゃないですか!」
「まぁ、落ち着けレティシア・・・」
 ルークはレティシアの方を振り返り、頭を掻く。
「落ち着いていられますかっ!大事な話があるみたいに引っ張って来てこれはないですっ!」
「・・・何か期待してたのか」
 あくまで不遜な態度で言うルーク。わざとらしく、レティシアに顔を近付けてみせる。
「え、いや、あの・・・そういうわけじゃないですけど・・・」
 迫られ、咄嗟に言葉を濁して俯くレティシア。それを見て、いよいよルークの悪戯心が動き出す。
「はは、少佐と違って反応が可愛いな」
「ひっ・・・だ、だって・・・」
 カフェテラスでの恐怖が蘇り、レティシアは身を縮ませる。
 徐々に免疫が付いてきはいたが、それでもやはり怖いものは怖い。
「君を取って食う訳じゃない。少し手伝ってもらうだけだ」
 そこでルークは急に真顔になり、再び壁に張り付く。からかわれたのだと気付き、レティシアは脱力してその場にへたり込んだ。
「手伝う・・・って」
「三日前のアレ・・・おかしいとは思わないのか?」
 そこでレティシアは先日の戦闘を思い出す。
 三日前、サリア=フロウベルグを捕縛する為に展開した作戦は、途中で乱入したブラッディナイトによって失敗に終わった。
 エスリナが重傷を負い、敵である筈の少年剣士・ナハト=リーゼンラッテの助力で何とか事態は収束したが、
 その後、彼はサリア=フロウベルグらと逃走している。
「変と言えば・・・」
「全部変だ。血騎士が狙いを澄ましたかのように現れ、作戦を叩き潰し、肝心の標的は楽に逃走?はは、おかし過ぎるよな」
 ルークは詰め所を睨んだまま、笑う。
 レティシアも顎に手を当てて考え込む。
「あれは、敵の妨害だったんでしょうか」
「一番自然に考えれば、こっちの作戦が相手に漏れていて・・・わざわざあんなもんを仕向けてきたって事だな」
「でも、それだとあの剣士の行動に説明がつかなくなります」
「ナハトって剣士が何も知らないまま巻き込まれてると考えれば筋が通る。それはそれで異常だが、肝心なのはそこじゃない」
 そこで、勘の良いレティシアは下げていたクロスボウを静かに抜いた。
「内通者・・・ですね」
「そういう事だ。この三日で目星を付けたが、さすがに俺一人だと逃がしてしまう恐れがある」
 ルークは淡々と告げ、詰め所を指で示す。
「四人だ。殺すのは論外。敵の全容を吐いて貰う必要がある」
 軍の詰め所に居るという事は、即ち、内通者は軍の人間であるという事だ。
 レティシアは愛らしい顔に似合わない、苦い顔をする。
「それで私を試して・・・これを手伝えるかどうか見極めたんですか・・・」
 白髪の騎士は、はっきりと頷く。
 恐らく、ルークは他にも何人かの内通者をこの三日で始末したのだろう。
 普段はボケた振りをしていながら、誰にも気付かれないように、だ。
「やれるか?」
 様々な問いを兼ねて、ルークは尋ねる。
「勿論です!」
 レティシアは即答した。
 内通者のせいで、エスリナは死にかけたのだ。
 放置すればその危険は増す。
 それを潰す役を他の誰かに譲るつもりはない。

 ―――支える事が、生きる意味になると信じた、その誓いのままに。
199('A`)sage :2005/01/15(土) 03:22 ID:YafG9r6k
 機械の様な正確さで射抜かれた兵士達が、無様に床へ転がった。
「・・・手を出す暇も無かったな」
 騎士はポツリと呟き、疾風の如く詰め所を制圧してみせた少女を、振り返る。
 ルークの襲撃に対して逃げようとした四人を、彼女は冷静に撃ち抜いた。例の鏃の無い矢で、額に一発ずつ。
 驚嘆すべき腕である。
 城壁に吹き付けられる風の中で、蒼い髪の弓手は自動弓を手に、瞑目して佇む。
 未だ、増大させた集中力の中に居るのかも知れない。普段、変化に富んだ表情も、嘘のように無機質な美しさを帯びている。
 年頃の男なら、例外なくその姿に見惚れるであろう。
 白髪の騎士はそう確信する。
 しばらくして、レティシアは静かに目を開いた。
 それから不意に、きっ、と愛らしい顔を怒りに染め、ずかずかと歩いて行くと、
「ふん!・・・少佐の仇ですっ!」
 ガシガシと昏倒した兵士達を蹴り、踏み躙った。遠慮無しに顔面である。
「あー・・・死んじまうって・・・」
しかし、ルークの心配とは裏腹に蹴られた兵士が微かに呻き声を上げた。レティシアは跳ねる様にして離れ、ルークはサーベルの
柄に手を置く。殺すつもりは微塵も無かったが、もう少し痛めつけた方が良いのかも知れない。
「ひっ・・・ま、待て、待ってくれ・・・頼む・・・殺さないでくれぇ・・・」
 苦痛に呻きながらそれを見た兵士が、悲壮そのものといった顔で哀願した。
「なら騎士団で洗いざらい吐け。何の事かは分かるだろう」
 それこそ死人のような顔で、兵士はひたすら頷いたものだ。
 
 

 すっかり日の暮れてしまった宿への帰路を歩く。
 ルークはあっさりと終わってしまった捕物劇に不満そうなレティシアを振り返り、やや複雑な笑みを浮かべ、
「これで嫌でも状況は進展するさ」
 含みを込めて言った。取調べなどは騎士団で秘密裏に行われる事になっている。軍内部に別の内通者が存在するかもしれないという
懸念があった為だ。もっとも、騎士団に居ないという保証もないのだが、いくらかマシの筈である。
「せっかくの暇を潰して悪かった」
 全然悪びれずに言うルークに、レティシアは全力で呆れた。
 が、それでいてやはり憎めないのは得体の知れない恐怖ではなく彼の人格による所が大きい。
 何よりルークは影ながらきちんと任務のサポートをしていたのだから、評価を大幅に上方修正してあげてもいいかもしれない。
「あ、さっきの事は少佐には内緒にした方がいいぜ」
「・・・何でですか?」
「怒り狂うからだ。騎士団やら聖堂ならともかく、軍からスパイが出たってなると尚更だな」
 成る程、とレティシアは納得してはにかんだ。いかにもエスリナらしい。反応が目に浮かぶようだ。
 しかし・・・それでは二人揃って凱旋する事への言い訳はどうするのだろうか。


 レティシアのその心配は、ある意味で正しかったのかもしれない。
200('A`)sage :2005/01/15(土) 08:49 ID:YafG9r6k
うーあ、寝ちゃってましたよ。こんばんは、というかおはようございます。
駄文投下です。
時間的余裕が出来て再開したつもりなのに寝不足なのはどうしてでしょうね。


>>187さん
お気遣いありがとうございます。がんがっちゃいますよ。
NPC案内要員、際立ってます。イメージ的にはレティシアはあんな感じです。


>>150さん
ドタバタの中に光る台詞がたまりません。
特に、

>「あ、ユアン、今のセリフは女性に対して失礼よ、女性は誰でもメルヘンなのよ」

この辺。メルヘン。蝶素敵です。


では、また。
201sage :2005/01/15(土) 11:46 ID:GT5B.aos
とりあえず赤毛のウィザードが逆毛のウィザードに見えた。
それだけ怒ってるという表現だと無理やり解釈した俺が馬鹿でした。
寝てくる('A`)ノシ
202とあるモンクsage :2005/01/15(土) 18:53 ID:FXK3bMTA
ぬふぁっ!!(ドーパミンとエンドルフィンが過剰分泌しました)

瞬時に脳内会議が勃発し、総勢108人(煩悩の数だけ)のマイ小人が
一斉にアリアを大合唱しました。Hallelujah!! Hallelujah !!
全員が、主【('A`)】よ哀れみ給え!!(キリエエレイソン)と叫びました。
憧れの偉い人にキャラを使って貰えるなんてっ…!!

生きたまま天国に行ける方法は存在したようです。
プッチ神父に教えてやりたいくらいです。

もう、なんつーか、一読者としてもうドキドキです。
通行人Aくらいかなぁと思ってたら台詞まであるしっ(*ノノ)
ありがとう。ありがとう。こんなに嬉しいことはないです。
今日はいい酒が飲めそうだ…。
203名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2005/01/16(日) 03:19 ID:B9OOeN3.
初めて、カキコさせてもらいますが・・。
かなり、良作でGJな物ばかりでないですか!。
いやはや、なんともすごい!としかいいようがないですな。
204('A`)sage :2005/01/17(月) 05:12 ID:HADaUw5I
 Ragnarok Online Side Story "Confrontation of fate"




 歌が聞こえる。
 夜、書斎で執務を終えて惚けていたエスリナは、半分だけ顔を動かしてテラスの方を見た。
 確かに聞こえる、美声。
「これは・・・レティシアの声・・・」
 眠気で重たくなった目蓋を擦り、引き出しに仕舞っていた資料を手に取る。
 レティシア=アイゼンハートの最大の特徴として記載されていたのが、"歌"だ。
 本音を言えば、エスリナがレティシアを傍に置いた本当の理由はそこにあった。ただ弓の腕に優れているだけではなく、そういった
普通の特技を持っているレティシアに、少なからず好奇心を抱いたのだ。
 そして、戦いや任務を通じて確信した。
 彼女はエスリナが持っていない―――或いは永遠に得る事の出来ない何かを持っているのだと。
 立場上での上下など関係ない。
 それは憧憬であり、嫉妬であり、寵愛でもある感情。
「・・・何だアレは」
 テラスに出てみれば、見下ろした庭園に兵達の集団が出来ていた。
 呆れた事に当直の衛兵やら交代要員の少女達も、全員残らずその光景に見入っている。
 中心に立ち、軍帽を抱きかかえて歌う蒼い髪の少女を。
「やれやれ・・・こんな時間だというのに」
 エスリナの呟きとは裏腹に、集団はどんどんと数を増していく。静かに聴き入る者も居れば、思わず口ずさむ者も居る。
 城に駐屯している騎士や十字軍の青年達の姿もあった。エスリナと同じように、テラスから拝聴する者さえ現れ始める。
 さすがに持ち場を放棄してまで聴きに来る者は居ないだろうが、居たとしても不思議ではない。実際居るかもしれない。しかし、エスリ
ナは彼女達を解散させる気にはなれず、柵に肘をついて傍観を決め込む事にした。
 それほどまでに、良い歌だったからだ。
「楽隊、集合!」
 バード上がりの音楽隊長が楽器を片手に部下を引き連れて駆けて来た。
 普段、あまり出番がないせいか、かなりの勢いでレティシアの周囲に展開する音楽隊。
 聖歌隊による即興のコーラスまで入り、いよいよ大騒ぎの様相を示し出す。
 当のレティシアは困ったような笑顔で照れまくっている。
(私では、ああはいかんな)
 そもそも歌が歌えないのを棚に上げて、エスリナは自嘲気味に苦笑した。
 途切れる事なく続く歌を聴きながら、彼女はくるりと髪を翻し、夜空を仰ぐ。
(いつか、戦いを捨てる事が出来たら・・・あんな風に笑えるのだろうか)


 響く歌声は、しばらく頭から離れてくれそうにはなかった。


 『緋と蒼の円舞曲 3/3』
205('A`)sage :2005/01/17(月) 05:13 ID:HADaUw5I
 帰還したルークとレティシアを待っていたのは、いつになく深刻な顔をした面々であった。
「よう、ルーク」
「・・・オッサン?どうしたんだ、突然」
 戻るなり、髭面の騎士と対面したルークはその場で立ち止まる。
 レティシアはその隙を見てこっそりと部屋の隅に逃げようとするが、見知らぬモンクの男が陣取っていて、諦めた。
「今、マスターナイト殿と今後の方針について話し合っていたところだ」
 補足する様に、ベッドに腰掛けていたエスリナが言った。カルマは相変わらず仮面を被って窓の外を眺めている。
「全く・・・お前達はこんな時間まで何処へ行っていたんだ。一応は任務中なのだぞ」
 やや厳しい口調で、エスリナは二人に問う。ルークは咄嗟に頭を掻きながら、
「あ、いや・・・ちっとデートしてた」
「・・・な、なっ・・・!?」
 恐らくは二秒前後で考えたであろう言い訳に、ウィザードの少女が戦慄し、目を剥いた。
 レティシアはしばし呆然としていたものの、すぐに顔を真っ赤にして抗議しようとし・・・やはり諦めて俯く。
 我関せず、という態度で窓に向いているカルマの肩が小刻みに震えているのは・・・笑っているのかもしれない。
 深刻な空気は一撃で霧散した。クリスレットはニヤニヤと笑みをこぼしつつ、髭を撫でる。
「お盛んだな、ルーク」
 よしてくれ、と言わんばかりにルークは髭面を小突いた。
 彼は事情を知っているのだ。
「で・・・いつになったら真面目な話が出来るんだ?」
 傍観していた頭巾のモンクが呆れ顔で言う。
「誰だ?」
「ある有名な冒険者だ。サリア=フロウベルグの件で情報を提供しに来てくれた」
 無感動な声色でエスリナが簡単に説明した。あからさまに不機嫌で口をへの字に曲げている。
 ルークは「へぇ」とだけ答えてモンクを見る。いつもの緩い顔だったが、僅かに目の色が違う。
「カピトーリナ寺院の一部勢力が挙兵したらしい。そこの彼は友人だか家族だかを人質に取られ、そいつらと戦っている最中なんだそうだ」
「あんたらが追ってる枢機卿の娘とかってのの名前を、奴らが話してるのを聞いた。無関係って訳じゃないだろ」
 クリスレットの説明を補足し、頭巾のモンクは頭を振りながら言う。
 しかし、彼が浮かべた表情は失望そのものである。
「場合によっちゃお互いの為にあんたらと手を組むってのもアリだったんだけどな・・・軍だかなんだか知らないが、やっぱやめとくわ」
 モンクは言うだけ言って部屋を立ち去った。
 足音が遠ざかるのを確認してから、ルークは白い頭を掻く。
「少佐・・・何言ったんだ」
「ルーク・・・貴様は何処までも失礼だな。私が人の機嫌を損ねる達人のように言う」
 ふん、とエスリナは鼻息荒く、再びベッドに座り込む。
「・・・君達がとても役に立ちそうに見えないのはしょうがない」
 無駄にやたら偉そうなウィザードと軟派な騎士、それに華奢な従者のアーチャー少女と、何処から見ても悪人にしか見えないプリーストの
集団を見回し、人選した本人であるクリスレットはこの上ない苦い笑みを漏らす。
 "黄布"の目から見れば、何処にでも居るおちゃらけた冒険者のパーティにしか見えなかったのだろう。
「実際、まだ戦果ゼロだし・・・ま、あのモンクの事は置いておこう。奴なら一人でもなんとか出来そうだ」
「・・・彼はそんなに強いのか」
「だいぶな。戦力的には惜しかったが、諦めよう」
 ルークは相変わらず緩んだ顔で淡々と言う。無関係ではないにせよ、人質救出などやっている余裕はないのだ。
「さしあたっての問題は僧侶の挙兵ですね・・・」
 やや不安そうな面持ちでレティシアが言った。
 無理も無い。兵を挙げるというのは、冒険者が徒党――ギルドとも言う――を組むのとはワケが違う。
 確立された一個の軍団を作って戦うというのだから、規模はおろか戦術的な水準も遥かに上になる。
 寺院だから、という理由で軽視は出来なかった。カピトーリナは戦闘僧侶の比率が国内でもずば抜けて高いのだ。
 何より、カピトーリナはプロンテラの目と鼻の先である。
「まだ実害がない以上、鎮圧も出来ん。戦闘が始まれば別だが・・・カルマ、寺院は誰の管轄だ」
「あ、いや・・・それは」
「護法騎士団長のリチャード=ドラクロワ枢機卿だ」
 言いよどむカルマの代わりに、ルークが平坦な声色で言う。
 護法騎士団とは、城に常駐する十字軍とは全く別の、大聖堂の直下に位置する教会の騎士団である。
 大聖堂に属し、それでいて独自の判断で動く事を許された唯一の戦闘組織でもある。大聖堂の実働部隊――カルマや他の戦闘司祭がプリース
トやモンクで構成されるのに対し、聖堂騎士団はクルセイダーを主軸に構成されているのが特徴である。
 主な使命は異端者討伐、教会内の不穏分子の排除。十字軍や大聖堂が退魔を主眼に置くのとは違い、あくまで対人を主にした組織だ。
 規模こそ小さいものの戦力的には上級冒険者ギルドに匹敵するだろう。
「・・・ドラクロワ・・・ジュノー事変の、あのドラクロワか?」
 呟くエスリナに、
「そう。あの事件の首謀者の一人、フェーナ=ドラクロワの実の父親だ。対外的な問題であれは"無かった事"にされたが、処罰は免れず奴は
教会内でも立場が危うくなっていた。次期枢機卿会での除名は確実とされていたんだが・・・」
 教会でも知る者が限られている情報をまくし立て、ルークは壁に寄りかかって頭を抱えた。
 同じく苦い顔で、クリスレットも髭を撫でている。
「まさか、貴族出身の奴が強行手段に出るとは思わなかった」
「護法騎士団も動くというのか」
「動かん筈がないだろう。奴等は元々、あの事変に参加しなかったのが不思議なくらいだ。半年前に決まってた次期団長の名前が知りたいか?」
 言いながら、クリスレットは苦笑する。
 懐古しているような、それでいて忌々しげに。
「・・・アウル=ソン=メイクロン」
 クリスレットの、そしてルークとカルマの重い呟きだけが室内に響いた。
206('A`)sage :2005/01/17(月) 05:13 ID:HADaUw5I
「そんなに大きな事件だったんですね・・・あれ」
 クリスレットが騎士団に帰り、ルークとカルマも何処かへ出かけた後で、レティシアはぽつりと呟いた。
 エスリナはベッドに寝転んだまま、天井を見上げている。
 俗に言う"ジュノー事変"に、プロンテラ軍――エスリナとレティシアは偶然にも参戦している。
 事件の発端であるゲフェンから隣国のシュバルツバルド共和国の首都ジュノーまでを巻き込んだ、あるクルセイダーの引き起こした内乱である。
 一般には魔族が首謀であると報道されたものの、軍や騎士団、聖堂の人間でそれを信じているものは少ない。
 ジュノー周辺での大規模戦闘で、彼らは確かに"狂気をはらんだ人間"とも戦ったのだから。
 戦闘は騎士団主動で行われ、たまたまアルデバランに訪れていたエスリナ率いるプロンテラ魔法師団も参加し、多数の戦死者が出た。
「叛意を持つ者は珍しくないが、あの戦いは特別だ。どこにとっても後味の悪い終わり方だった」
 アウル一派の本人を含めた中核メンバーは、最終的に行方不明、あるいは死亡したとされている。
 誰の死体も発見されてはいない。
 多くの混乱だけを振り撒いて、その張本人は捕縛される事も裁かれる事も無く、事件自体が無かった事にされたのだ。
「思い出すだけで滅入るな」
 心底気だるげに呟き、エスリナは枕に突っ伏す。
「あの事件がまだ尾を引いてたって事ですか」
「ドラクロワがアウルというクルセイダーの信奉者だったわけではないだろうが・・・これも因果だろう。いずれ戦わなくてはならんかも知れん」
 重苦しい空気に耐え兼ねてか、レティシアは手近に投げてあったポリン人形を抱えて座り込んだ。
 軽く抱きしめられる度、人形は『プー』とも『ピー』とも聞こえる異音を発する。お気に入りである。
「そのアウルって人、どんな人だったんでしょうね・・・」
「・・・どうだろうな」
 人形をぷーぴー言わせながらぼやくレティシアに素っ気無い返事をしてから、エスリナは寝返りを打つ。

 ―――実の所は、他に懸案事項があったのだ。

 昼間、ルークが姿を消した後に騎士団へスリの男を突き出しに行った時の事である。
 "役立たず"のルークに対しての愚痴を騎士達にまくし立てようとしたのが、返って来た答えは予想だにしないものだったのだ。
『ルーク=インドルカンツィアなどという騎士はアルベルタはおろか、ルーンミッドッガッツ騎士団自体に存在しない』
 間の抜けた騎士たちの顔が今でも思い出せる。
(・・・では、あのルークは何者だ?)
 ふざけた男ではあったが、悪人には思えない。
 実力も確かだ。真っ当な訓練を受け、修練を積んだ動きをする。賊やその類ではない。
 しかし、何故偽名を名乗っているのか。
(・・・馬鹿馬鹿しいが・・・)
 仮説が浮かび、しかし、エスリナはそれを自分で否定して頭から放り出す。

 ―――ルーク=インドルカンツィアがアウル=ソン=メイクロンである可能性だ。

 教会でも制限された情報に詳しく、優れた能力と観察眼を持ち、並みの騎士とは一線を画した動きをする、謎の男。
 考えられなくもない事なのだ。噂ではマスターナイト・・・クリスレットとアウル一派は過去に懇意にしていたという話もある。
 あくまで憶測の域を出ない。
 しかし、そうであっても何一つ不思議はない。
(いや・・・まさか・・・な)
 やはりエスリナはその仮説を放棄した。
 枕に顔を押し付けたままで、弱い笑みを作る。
(あの男にそんなカリスマ性があるわけがないし、大体、あいつはお調子者で性根が腐っている。現に今日も私を置いて・・・)
 ふと、思い当たる。
 重い話をしたせいでうやむやになってしまっていたが、ルークは戻ってきた時に、
『ちっとデートしてた』
 と、確かにそう言った。言ったではないか。
(レ・・・レティシア・・・!?)
 びきり、と顔面の筋肉が引きつるのを感じつつ、枕から顔を上げ、横目で座り込んだ蒼髪の少女を見る。
(いつの間に・・・そんな関係に・・・)
 相変わらず人形をぎゅうぎゅうに握ったりしてぴーぷー言わせて遊んでいる。気付かれないように観察するエスリナの目は、まるで生まれて
初めて人間を見ましたと言わんばかりの目つきで、だが本人には自覚はない。
 人形を弄ぶレティシアは心なしか楽しげに見えた。
 気のせいかも知れなかったが、やけに頬が赤いようにも見える。
 それはあくまでエスリナの主観でしかないのだが、やはり本人に自覚は全くない。
(何だ・・・さっきまで頭痛を催す話をしていたというのに・・・何だその笑顔は・・・)
 現実にレティシアは笑顔など浮かべてはいないのだが、錯覚というフィルターを通したエスリナの目には輝かんばかりの微笑みが映っている。
 ルークとの間に何があったというのか。
「・・・な、なあ、レティシア」
 気付けば、口が開いていた。

「はいー?」
 不意に声をかけられ、レティシアは人形を手近に置いて振り返り・・・、
「わ、わああっ!?」
 ベッドから顔を上げたエスリナを見て、恐怖の叫び声を上げた。
 いつもの冷静沈着な"エスリナ少佐"は何処にも居なかった。常に無感動な表情を貼り付けていた赤毛の少女の冷たい美貌は、それはもう見事に
崩れ去っていたのだ。
 まず頬が紅潮している。これはレティシアが一年弱ほどエスリナに仕えてきて、ただの一度も見た事がない状態だ。
 いつだったか、他の下士官達とエスリナが頬を赤らめている様を妄想しあって悦に入った事がある。それはあくまで想像であり、冗談で済んだ
のだが・・・いざ目の当たりにすると驚きを通り越して不安、或いは恐怖を覚える。
 次に、瞳が微かに充血し潤んでいた。普段、無表情の時も僅かに釣り上がっている眉目も、少しばかり垂れている。
 凛とした態度など何処か遠くにぶん投げて捨ててしまったかのような、おどおどした挙動。俯き加減の視線。小さく結んだ唇。
(なんか凄い事になってますが・・・!?)
 滝のような冷や汗を流しつつ、尋常ではない苦心の末に、レティシアはなんとか口をこじ開ける。
「なな、な、なんですか少佐」
 思い切り上擦った声だった。
「い、いやっ・・・あ・・・その・・・なんだ・・・・・・」
 凄まじい変貌を遂げたエスリナも、異様にトーンの高い声から、異様にボリュームの小さい声になり、最後には黙り込む。
 誰だろうこれは。
 思わずそう口にしたくなるほどに、レティシアは混乱していた。
 自分が何か取り返しのつかないことをしてしまったのか、或いは言ってしまったのか・・・恐らくは人生最速だろう思考速度で考える。
 思い当たる事はない。
「な・・・なんでもない」
 答えるより早く、エスリナは再び枕に顔を埋めてしまう。
 急な変化に目を白黒させるレティシアだったが、まさか訊くわけにもいかず、結局その件はうやむやになってしまったのだった。
207('A`)sage :2005/01/17(月) 05:25 ID:HADaUw5I
微妙な時間にこんばんは。駄文投下です。
次は戦闘に入っていく感じです。あるモンクの話さんに続いて、有名どころのネタ
を織り交ぜ、キャラを引用する予定。某FAがないスレッドです。

>>201さん
怒ったら逆毛になる・・・素敵なアイディア。
おやすみなさいませ。

>>あるモンクの話さん
dでもないです。ありがたく使わせて頂いてます。
一応準レギュラー的な位置でプロットに入ってますが・・・脱線するかもしれません。
色々とエピソードを妄想して楽しんでるのはヒミツです。


では、また。
208SIDEの中の人sage :2005/01/17(月) 15:54 ID:HnuQTFkM
('A`)たんのを読んだ。最近萌え萌え路線を強化しているようでウマー。
で、唐突に今気がついたこと。
>162は次回にまわす部分だった…何やってるんだ自分orz
209どこかの166 上水道リレーsage :2005/01/22(土) 05:01 ID:UjjZfY0s
 多分それは幻想のはずだ。
 多分それはありえない事のはずだ。

「……つまり、ダークロード誘拐は人間側の挑発じゃない?」
「……つまり、魔族侵攻はあの男の要請を受けた訳ではない?」

 瞬間的にお互いが同時に言葉を叫んだ。

「騙されたっ!!」

 瞬間、世界は暗転した。


「ようこそ。人の最高の頭脳と人に仇なす婦人よ」
 ママプリと学者先生はwisで話していたはずだ。
 お互いの姿が見えるはずがない。
 ましてや、一人は上水道。もう一人はミョルニル山脈にいるはずなのに視野に見えるのは暗闇とお互いの姿だけ。
 そして、この暗闇の主が己の黄金色の髪をかきながらゲスト二人に至福の笑顔を見せた。
「いかがかな?
 私が作り出したシナリオの感想は?」
 二人とも気づいた。こいつが今回の元凶。
「……素晴らし過ぎて涙が出るわ」
 とママプリが吐き捨てれば、
「三流の悪役のやる事です。真相を話すなど」
 と学者先生も毒を吐きつける。
 どうせ効かない毒だというのは叩きつけた二人が分かっていることなのだが。
「で、私たちを呼んだ理由は?」
「決まっているじゃないですか!
 もうすぐ我が願いが成就するその瞬間を誰かに見せたい。
 たとえそれが三流悪役の役回りとはいえ、その真意を知って欲しいという欲望が抑えられないのは貴方ならば分かるだろう」
 金髪の男はまっすぐ学者先生を見据え、学者先生もそれが肯定であるかのように何も言わなかった。
「で、この茶番の結末をどう考えているわけ?」
 ママプリの投げやりっぽい言葉に眉をしかめながら、本当はその答えを言いたくて言いたくて仕方ないのが分かるようのに答えてしまう。
「私は最強の力を手に入れた。
 もはや管理者ですら私を消すことはできないっ!
 何をする?違いますよ。
 何でもできるんですよ。私は。
 あははははははははははは………」
 耐え切れずに笑い出す金髪の男。
 背後に広がるのは彼の力の源泉である原始の海。
 見せたかったのだ。力を。
 見せたかったのだ。神亡き世界に新たに降臨した神を。
 見せたかったのだ。神が与えし絶望を。
 存在しうる最高の頭脳と存在外の存在に対して自ら神として崇めよと暗に言っているのだ。
 だが、彼の願いは小さな声によって否定された。

「くすっ♪」

 囁くようにもれた軽蔑の嘲笑はママプリから発せられたものだった。
 その顔は見事なまでに彼を不快にさせた。
「何かおかしいっ!」
 不安…焦り…落ち着け。私はすでに神の力を手に入れた。たかが存在外の女の蔑みなど跳ね返せるだけの力は持っているはずだ。
「え?顔にでてたかしら?ごめんなさい。私って嘘つけない性格だから」
 こういうときの女には男は一生勝てない事を一生の全てを研究室で過ごしていた彼は知らない。
「人に仇なす先輩として忠告してあげるわ。
 あなた…どうあがいても人間には勝てないわよ」
 嘲笑の笑みの中に真実を包み込んでママプリは告げた。
「馬鹿なっ!何を言っているっ!!
 私を傷つける存在などあるわけが無いっ!
 私に勝てる力などあるはずが無いっ!
 それでどうやって私は敗北するというのだっ!!!」
 初めて見せた金髪の男の焦りを見てママプリは確信した。
「勝てるわ。
 貴方こそ愚かにも人を捨てて力なんかに縋って……オーク以下ね」
 金髪の男はママプリの挑発に辛うじて堪える事で己の絶対性に傷をつける事無く冷静に息を吐き出した。
「いいだろう!
 そこまでいうのなら私の力をお見せしよう!
 人も魔も全てを飲み尽くして私の新しい世界の創造の糧にしてくれるわ!!!
 貴様ら二人が愛し守りし者を私が飲み込むざまを元の世界で見ているがいいっ!!」
 その脅迫に対しママプリは平然と別の言葉で返して見せた。
「責任は魔族が取る」
「?」
「?」
 金髪の男に対する答えにすらなっていないこの言葉に対して気づいたのは学者先生だった。
「ああ、そうですか。魔族でしたら仕方ないですなぁ」
 まるで、ご飯の後にお茶を一杯といわんばかりの穏やかな声で。
 その学者先生の穏やかな声を聞いてママプリは学者先生に己の意図が伝わった事を確信した。
「では、失礼しますわ。
 貴方が人を滅ぼすのを先輩としてとても楽しみにしているから♪がんばれ♪」
 最上級の笑みで最大級の嘲りを残してママプリはこの世界から消えていった。
「私も失礼しよう。
 君がこれからどれだけ足掻くのか私も楽しみだよ」
 おなじく学者先生もこの世界から平然と消えていった。
 そして、この世界には原始の海の上で佇む金髪の男が残った。
 原始の海に写った横顔には怒りと困惑が波で歪みながら。


「先生っ!
 大丈夫ですか?」
「ああ、すまない。少しぼぉっとしていた。
 ところでケミ君、質問だが『ライオンと鯨と鷹』の中で一番強いのはどれだと思う?」
 ケミ君は即座に言い返した。
「何寝ぼけているんですか!教授。
 ライオンは飛べない。鷹は泳げない。鯨は歩けない。
 どんな力であれその使用環境こそ大事だといつも言っているじゃ……!!」
 ケミ君の言葉が止まった事で彼がしっかりと言わんとする事に気づいた事を学者先生は確認してケミ君にこう囁いた。
「上水道から全員を非難させる。
 上水道とプロンテラ攻撃の責任を魔族に押し付けてしまおう。
 上水道そのものをぶっ壊してやつを巣穴から追い出して総力戦で仕留める」
210どこかの166 上水道リレーsage :2005/01/22(土) 05:09 ID:UjjZfY0s
という訳で、リレーのターニングポイントを投下。

私以外の人が終わらせる事ができるように方向を先に書いておきます。
上水道に部隊が投入した理由は偵察と隠密処理にあるわけで、上が人魔大戦よろしくやわくちゃになってしまったらそれも意味がないと。
ならば他国の増援が来て大軍が展開できて、しかも魔族に全ての責任を被せられるのならば学者先生が一番最初に言った大魔法集中砲火が一番割がいいと。
金髪の男を仕留める事を考えた上での私なりの解答がこれです。
というわけで皆様、退避をお願いします。
あと、人質を助けたい方はお早目に。
211名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/01/24(月) 20:38 ID:DpdaENCg
 ミスリル銀所持アコ、収束しつつある地上の戦乱、聖騎士団と暗殺+騎士団っぽい状況
 vs金髪の部下数名、数名の書き手がリレーしながらゆっくりと進んでいた下層への侵入。

 の流れを、全部放棄して、いつもの如く「私は全部わかっている」風味のママプリがおさめる方向・・・? とりあえず、そこまで方針が固まってると、書けといわれても続きを書くのは難しい(モチベーション)。
 方向性についてとやかく言う程読み込んでないのですが、いつもママプリが解決策を閃いて、Bossモブとか学者先生とかが「な、なんだってー!」という役なのは黄金パターンですか? と感想。
 たまには、他のキャラより間が抜けているママプリも見てみたいものですが。

 とりあえず学者先生の大魔法同時展開は、以前は準備時間が間に合わないゆえに計画放棄だった気がします。同時魔力展開・・・は、バフォとデビルチあたりならLoVとJTでやれるんでしょうかね。
212名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/01/25(火) 02:06 ID:/LRAFsfY
>>211

軽く同意

それまでの威厳やら不気味さやら一切合財を、せせら笑い一発で吹き飛ばされ
三下化というか雑魚化しちゃった金髪くん南無、という感想です。

ただ、地下は現状だと先発隊メンバーを動かし辛いのではないでしょうか
だからこの流れになっても仕方ないのでは、とも思います

一度、作家さん達で話し合う場を設けてみてはいかがでしょう?
213どこかの166 上水道リレーsage :2005/01/27(木) 04:29 ID:YmJINEhI
「先輩。今戻りました」
「遅いな。削除してきたのか?」
「ええ。しっかりと……」
 後輩の言葉が消える。先輩が指した画面の中では事態は更に悪化していた。
「何で消えていないんです!?」
 バグ?ウイルス?」
 削除したはずの情報が更に暴れ、世界を歪めている。
「先輩、どうしましょう?」
「巻き戻すしかないだろう」
 タバコの煙を宙に漂わせながら先輩がシステムの巻き戻し復旧をあっさりと言ってのける。
「はい。早速告知を出して巻き戻す用意を」
「待て。まだいい」
「なんでですか?」
 きょとんとしていたのだろう後輩の顔に先輩は何かを悟ったかのように言ってのける。
「時間を巻き戻す行為そのものは我々にとっては楽だろう。
 だが、その世界の住人にとっては?
 尊厳ある死や、永遠を誓った愛、新しき命の眩しさや日々の営みの中の成長すら消してしまう」
「だから、アイテムや経験値のボーナスイベントをやって後の苦情はサポートに回して……」
「それで、また彼らが同じ日常を繰り返すと思うのか?」
「……」
「お前の言わんとする事は分かる。
 事態がここまで深刻になっているのなら、さっさと巻き戻すべきだろう。
 だが、意図したものかしないものかは知らないがこの騒ぎは十分大きなお祭りになっている。
 それを止めてまで貫ける管理者としての正義を我々は持っているのか?」
「……」
「巻き戻しはする。
 だが、それはこのお祭りが終わってからだ。
 俺達の手をすり抜けた化け物が勝つのか、彼ら冒険者達が化け物を打ち倒すのかそれを見てみたいんだよ。俺は」
「恨まれますよ。ユーザー達から。対応の悪さを」
「ふん。悪行は既に何度地獄に落ちても仕方ないぐらい積んでいるさ。ここの管理は。
 だからこそ、今回は悪役に徹して最後まで手を出さずにいるさ」
(……そんな覚悟が上にあったなら、ここまで俺達も恨まれなかっただろうな……)
 後輩はここの管理が何をしたか知らない。
 それを知らせる必要も無い。
「分かりました。けど、巻き戻すタイミングだけは教えてくださいね。
 あと、これ終わったらキムチパーティですからね」
 先輩はちょっとだけ苦笑したあとで、
「そうだな。キムチパーティでもするか」
 と笑った。
214どこかの166 上水道リレーsage :2005/01/27(木) 05:04 ID:YmJINEhI
 まずは211、212様に感謝を。
 と、同時にママプリを使わざるを得なかった己の文才の無さに激しく後悔orz。

 私自身は7巻162様の意見が一番やりやすかったので、とにかく上水道から金髪の男を出してしまいたかっただけなのです。
 散々、今までママプリと学者先生の会話を書かなかったのはここが地上編魔族サイトの締めに直結したからです。
 地上はこれで魔族側は引かせ魔族側偵察隊も撤収させて締めてしまおうかと。

 正直、上水道内部で冒険者が金髪の男と戦わせるのはきつ過ぎます。
 というか金髪の男強すぎです。冒険者各個撃破され気味です。大魔法使うと水道そのものが崩壊しかねない(5巻118のシーンより)んで魔法制限まで考えないといけません。
 で、問題の209で何がしたかったかと言えば、ただ1個だけなんです。

「上(地上)もめちゃくちゃになっているから、下も気にせずめちゃくちゃにしても責任どうこう問われないよ。
 それでも何か文句が出たら『魔族のせい』にしちゃえ」(by後藤課長風)

 これを誰も人間側が気づいていないんです。
 おかけで話を進めようにも進まない……
 このまま何も出ないなら次回からは上水道崩壊と冒険者大脱出を書く予定です。

 とりあえず、大枠だけ209と213で固めました。
 GMサイトのプラグ処理。
 最悪、金髪の男が大願成就しても冒険者が打ち勝っても巻き戻しでなかったことにできます。
 ただ、これはリレーを終わらせる保険のつもりです。
 駄文でもチラシの裏でも終わらせてこその評価だと私は考えます。
 リレーは終わらせて見せます。
 ですから読者の皆様、文神の皆様どうか意見や批判をもっと言ってください。できれば参加してください。
 できれば作品をいいものにしたいですから。

 見ている読者、文神様に不快な続きを出した事をお詫びします。
215名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/01/27(木) 10:48 ID:afYtYLLY
DIO様地上に引きずりだして決着、だと
>>211,212も言ってるけど
ママプリ様の言う通り〜に加えて今まで積み上げたDIO様の強さ崩壊及び
上水道にいるキャラ達の動きも何だかなぁになりかねん。
ってことなら、上水道崩落中に決着をつけざろうえない展開にしたらどうだろうか。

これならママプリ、学者先生の計画も破綻してDIO様も威厳少しは復活だし
崩落のどさくさにまぎれてアコ君ミスリルさせるかもだし、
同じくどさくさまぎれにBOSS側&地上人間部隊から助太刀入れれるかも出し
何より、元々の流れである上水道でのサバイバル&脱出をメインにおけるかと。

こんな一意見でした。
|ω・)ドウカナー
21693@りれーsage :2005/01/27(木) 18:21 ID:PqeCvZCc
こんにちわ。某自作の入ったUSBメモリをコーヒーに漬けてしまったSIDEの人です…orz
地上のぐだぐだを作った原因の一人として、猿のように反省します。

せっかく下水内部には数グループいるので、誰かを中枢に連絡を取れるようにしつつ
指揮官学者先生、伝令にゴスリンでも借りるとか、せっかく幻影の魔王が現地にいるので
白昼夢とか電波とか飛ばしてもらうとかして、一つの目的っていうか作戦の元に共闘態勢を
とらせると、別の場面を書いてても書きやすいのではないかな、と。

  DIOさまの強さの大元は原始の水ぱわーである

という点から、DIOさまの部下と本人を囮(ローグさん隊、ボス隊)とかと
ドンパチさせて、戻るタイミングを逸しさせたりする目的。
(昨日今日下水で狩り始めたバケモノに地理で冒険者が負けるものか!)
という感じで誰かに案内されてアコ君こっそり最下層進入
→ミスリルを原始の水に投げ込む。パワーソースとしてはあぼーん(ってことにするっ)
→無限再生能力がダウン。もう無敵じゃないぞ!
→ぼこすかぼこすか
→DIOさま「ば、ばかなーこの私(ry うぼあー」
とかはどうでしょう。

せっかくママプリが最終解決つけてくれたわけですし、その辺をタイムリミットっぽく搦めて…
前回のノビ子たんに喋らせてしまうという大ポカを心の棚に置いて続きを書きます。
21793@りれーsage :2005/01/27(木) 18:22 ID:PqeCvZCc
「…まってくださ」
「待てよ!」
 助手の声を遮るように、より強く、そしてより重い声がした。賢者はそれあるを予期していたように、ゆっくりと頭をその声の主に向ける。
 先発の集団の中にいた高位女司祭が張った青い聖域の向こうから、その声は聞こえた。ついさっき、命からがら駆け込んできて助かったという小集団。隻眼の魔法使いと剣士、凛々しい女聖騎士と、疲労の色の癒えたアコライトの少女、そして踊り手と反骨的な目をした鍛冶師が、同じ色の目で彼を見ている。
「ここには、まだ大勢いる。そいつらが逃げ切れるわけがないだろ? わかってるのかい、あんたは」
「…そうでしょうね」
 賢者とて、その事は考えなかったわけではない。この下水内には、彼らの突入までに安否不明であった人数が200人を超える。そのうち何割が救助されたのか。そしてどれだけが屍を横たえ、そして…
 何名が、いまだに救いを求めているのか。

 しかし、考えた上で彼は決断したのだ。この場で災厄を止めねば、もはや悪の芽を絶つ術はない。彼らに先行して突入した先遣隊との連絡も取れない今、唯一の対抗手段である“ミスリル”もまだ人間側の手に残っているかすら期待薄だった。少なくとも、不確定な手札に乗せるには、世界一つは重すぎる。
「…大のために小を捨てるっていう顔だな? へっ…さすがはお偉い学者先生だ」
 吐き捨てるように言ったブラックスミスの声が、賢者の胸のどこかを刺した。しかし、ここが溢れれば、事はミッドガルズだけでは終わるまい。ジュノーの研究室で鼻歌でも歌っているだろうあのウィザードの少女も巻き込まれるのだろう。
「…そうだ。世界を救うために、少数は切り捨てる。それが賢いやり方というものだ」
「先生。…それはそうかもしれません。ですが…」
 横でうなだれる助手。そして冷え冷えとした沈黙でそれを受け止める生存者達を、彼は目の中から追い出すかのように横を向いた。
「駄目だ。君たちは敵を見たわけじゃないだろう? 私は見た。そして、この場の人間がどうやってもアレには勝てないんだ」
 意識してかせずか、片手で髪の毛をかきむしる。
「つまらない理想論で現実を直視しないのは愚かだよ。下水道への魔法攻撃は、行わなければならない」
「それがあんたの結論なら…」
 正面に戻した賢者の視界の中で、ぼろぼろの生存者達は、再び鎧を、杖を、剣を身に着けていた。何よりも、行動で賢者の言う正論を否定している。それは、愚かで、かつ美しい姿だ、と彼ははなはだ論理的でない事を思った。
 脳裏に浮かぶ姪は、鼻歌など歌ってもいない。それどころか鼻の頭に皺を寄せて彼を睨んでいた。成功率が高く、理性的な方法と、夢のような奇跡を追う方法と。多分、どちらを選んでも、結局怒られるような気はする。学者先生は、もう一度ジュノーの彼女の研究室で怒られるならば、それも悪くないと思った。
21893@りれーsage :2005/01/27(木) 18:22 ID:PqeCvZCc
 ふと笑い、遠くに念を凝らす。雑音が多いが、活動的で特徴のありすぎる精神はすぐに捉えられた。
『先の件、時間は?』
 一言、それだけで知性のある人間同士は意思が通じるものだ。
『二時間といったところね』
 一瞬の間のあとに、鈴のような声がもう一度頭に響いた。
『………貴方の選択は尊敬する。けれども、私は私の最善を尽くすわ。幸運を』
 魔女の幸運、か。賢者は苦笑しながら口を開いた。
「………魔法攻撃のための準備には、人間と一部の魔族が一枚岩で展開したとしても最短で2時間はかかるはずだ。それまでは我々には何もできない」
「……」
「逆に言えば、為すべき事をする自由がある」
 為すべきこと。偽善ですよ、とどこかで知り合った顔が呟くのが聞こえたような気がする。それを、彼は頭を振って追い払った。
「いいだろう。出来るだけの事をしようじゃないか。生存者の救助、それから…」
「奴の排除だな、人間」
 声は、賢者のすぐ後ろから聞こえた。

「お初にお目にかかる。我が名はドッペルゲンガー。話し合いを所望する」
「……閣下。ずいぶんと思い切った…ああ、失敬。私は深淵の騎士、と言えばわかりますかね?」
「オーク族長」
 口にされた剣呑な名前と外見が一致するのは、最初に声を掛けたドッペルゲンガーくらいのものだろう。しかし、力を抑えることを止めた三体の高位魔族は、その圧倒的な魔力でその正体を明らかにしていた。
 反射的に武器を向けようとする数名を片手で制すると、賢者は逆の手で杖を手にしたまま、闖入者と他のものの間に立った。崩落した壁の向こうの戦いの物音はやんでいるが、あのバケモノを追って飛び込んだ6名はまだ戻らない。
 男女のローグ、それに筋骨隆々の聖職者と修道僧、言葉を交わす間もなかったが、飄々とした詩人と、今この場にいるプリーストの相棒のハンター。彼らが戻ればともかく、今この場にいる怪我人と後方支援では、この怪物達に戦いを挑むなど不可能だった。
「…とりあえず、状況は理解した。我々は協力できるのではないか? 人間よ」
「状況を…理解ですか」
 女プリーストの擦れ声に、金髪の剣士は、人間そっくりに笑った。どこか、ついさっきの幻影の男とうわべは似ており、それでいて明らかに異質な存在。
「あの男、この我の前で幻話などをして気づかれぬと思ったか…? 我はドッペルゲンガー。幻魔の王なり。すべては横から見せてもらった」
「………なるほど。ではあの女性の提案も聞こえたはずですね」
「あの女が理解していない要素が一つある。それゆえに、この地下水道をこのまま破壊する事は魔壁を砕き、最悪の場合、即座に魔戦の引き金となろう。……いや、人間は聖戦というのだったか?」
 青年剣士の姿をまとった悪魔は、笑顔のままで肩をすくめた。
21993@りれーsage :2005/01/27(木) 18:23 ID:PqeCvZCc
「どういうことです」
 学者先生よりも早く反応した女僧侶の厳しい声音にも、魔王と呼ばれる悪魔は動じなかった。
「先の映像の外に、ダークロードが囚われているのが見えたのだ。その辺に沸いて出る写し身ではなく、本体がな」
「…映像の、外?」
「深淵を覗き見るものは深淵からも見られていることに気づくべし。そして幻を写すものは常にドッペルゲンガー公から覗かれているのですよ」
 くくく…、と癇に障る笑い声をあげながら、漆黒の騎士が補足した。ドッペルゲンガーは深く頷くと言葉を続ける。
「言うまでもないが、奴は魔界を支える巨頭の一人、そして魔壁を魔界側から維持している一人でもある」
 一度声を区切り、彼はその言葉の意味が聴衆に浸透するのを待った。めまぐるしく飛び交う思考の片隅で、賢者はこの魔王が良い教師の素質を持っている、と評してから苦笑した。
「……笑うな、人間。我等とて、原因がわからなんだのだ。何ゆえ闇の王が本体を縛られるような真似をしたか。しかし、現実はかくの如し、だ」
「…聞いたことがあります」
 考え込むようにプリーストがあごに指を当てた。
「何を、ですか」
「数年前、闇の王が首都やアルデバランを襲い、人間と、なぜか魔族の混成隊に撃退されたことがある、と」
 ドッペルゲンガーは問うように左右を見た。が、オークロードは既に長話に飽き飽きした風情であくびなどしている。逆側の騎士は、僅かに思案するような表情を見せていたが、視線で重ねて促されると口を開いた。
「…閣下が先代ドッペルゲンガー公からその座を継がれる以前のことですが、確かにそのような事が在りました。魔王同士の抗争など、特秘扱いとなっておりますゆえ、ゲフェンまでは聞こえておらずとも不思議はないかと」
「…セクショナリズムですか。人間も魔族も大差はないということだね」
 彼らの内輪の会話で状況をつかんだらしい学者先生が辛辣にコメントするのにも、ドッペルゲンガーは苦笑いを向けたのみであった。
「口で応酬する暇はあるまい。それよりも、返事を聞かせてもらおうか。協力できるというならば、我も出来る限りの事をしよう。例えば、この回廊の中にいる人間の生存者の居場所を教える、だとか」
「わかるの!? あなた、それが! 私のいもう…」
 掴みかからんばかりに迫った女性の前に、黒の騎士が立ちはだかった。剣を手にしてこそいないが、そこからにじむ殺気に、プリーストは一歩後ずさる。騎士の黒いマントの向こうで、魔王が笑うのが見えた。
「返答はいかに? それが先だ。言っておくが、君の返事を人間という種の総意として判断させてもらう。どうやら、さきの会話からすると君は重要人物のようだからな、学者殿」
22093@りれーsage :2005/01/27(木) 18:26 ID:PqeCvZCc
ここまで。
返事は他の人に投げてみる(邪笑
こういうのがリレーの楽しさだと思う私はひねくれもの。
22193@りれーsage :2005/01/30(日) 20:02 ID:tcmtWfdc
見事にスレストかけちゃいましたね。
前の拙長編の悪役にDL様を起用していて、最後はボコスカに負けてご退場〜だったので、
ちょろっとそっちと絡めてみたのですが、独りよがりだったかな。
うまく繋がらないようならすっ飛ばしてください。

まとめっぽく。

別行動
 悪モンク+ローグ姐御(どこか二人っきりで話せるところ?

狗交戦(撃破?)
 ローグ+筋肉プリ+漢モンク
 バード+姉プリの相棒ハンタ娘

後方待機
 姉プリ+学者先生+助手
待機隊の
 女クルセ+戦闘BS+女アコ+復活ダンサー
 俺マジくん+剣士くん

そのちょい後ろ辺り
 DOP、深淵、道兄貴のダインスレイブ隊

最下層
 DIOさま(高笑い中
 悪モンクの元恋人(原始の泉をガードのため残留

マナ隊(ハンス地上へ
 マナ、ムラサキ、ミスリルアコ、先輩プリ

地上からの進入冒険者たち
 V=A騎士、おじさんプリ、アチャ子+ケミ子+アコ子他

見落とし補完お願いします
222150sage :2005/02/01(火) 01:16 ID:UN9z7/zc
RagnarokOnline ShortNovel [Re:Member For...]

- 02:Intermission

 「あーもう、サイッテー」
 「まったく、サイッテーだな」
 「ねー」
 「ねー」
 「やかましいわ!」
キレた。
 「何よカイラス、そもそも私を投げるってどういうつもりよ!上着が破けちゃったじゃない!」
 「そうだぞカイラス、女性は優しく時に激しく、適度にエロス」
わなわなと拳を震わせるカイラス、今にも掴み掛りそうな様子である。

あの後、追いかけてきた奴らを捲くために、町中走り回り、時には塀を飛び越し、時にはドドメ色のポーションを投げたりしながら逃避行を続けたのだ。
 「しっかし、この眠り姫はいつまで寝てるんだろうねまったく。」
話題をそらす。
いや、逸らした所で、空から降ってきたこの謎ライトという問題もあるのだが。
 「おいイリア、本当に生きてるんだろうなこの謎ライト」
 「ええ、脈拍も呼吸もちゃんと確認したし安定しているわ。危険な状態でもないし…」
 「イグドラシルの薬あっただろ、アレでも飲ませりゃいいんじゃないのか」
 「生きてる人間には強すぎるわよ、ショック死しちゃう」
イグドラシルの薬、イリアのお手製ポーションをひとつで、唯一の成功例である。
イグドラシルの葉・実・種を独自の分量で配合した粉末を、フェイヨンの清流から汲み上げた水で調合したポーションだ。
かなり怪しいが効果は身をもって体験しているので、なんともいえない。
 「まぁアレだ、ベッドに寝かせておけばそのうち起きるだろ」
 「そうねぇ、どうしても起きなきゃプロンテラの大聖堂までいけばなんとかなるだろうし」
楽天的である。
 「まぁいいや…おいカイラス、いつまで怒ってるんだ、スマイルスマイル」
 「誰のせいだ誰のっ!」
 「まぁまぁ……さて、俺はちょっと出かけてくる」
 「ああ、どこいくんだよ」
ドアノブに手を掛け、顔だけ向け、
 「買出し」
その顔は、不敵に笑っていた。

 「くそっ、なんなんだアイツら…」
 「おい大丈夫か…あーあ、だめだなこのシーフクロス、殆ど溶けてるぜ」
ドドメ色以下略ポーションをかぶったローグと、仲間と思しき数人である。
 「マジかよ……畜生!もうちょっとだったっていうのに!!」
声を荒げ、壁に拳を叩きつける。
握りこんだ拳からは血が滲んでいる。
 「おい、落ち着け……お前がここで暴れたって」
 「わかってるよ!…………いや、わかってる、すまない」
謝罪の言葉を残し、奥へと消えていくローグ。
 「……見てられんな」
 「ああ……」
重いため息をつく、と。
 「おい、さっきのアイツラ、確かユイスとカイラスって呼ばれてたよな」
 「ああ、確かそう呼んでたな…どうかしたのか」
 「これを見ろ」
そういって、右手に持っていた厚めの本を投げて渡す。
 「445ページだ、しおりが挟んである」
促され、しおりが挟まっているページをあける。
 「……イレイザー?」
疑問を発した男の声が、壁に溶け込む。
223150sage :2005/02/01(火) 01:16 ID:UN9z7/zc
 「よう、オッサン、景気はどうだい」
 「へっ、見てのとおり大繁盛だ!」
 「だろうな……」
雑多な店内を見回す。
こじんまりとした店内、雑多に置いてある商品、探したらご禁制の品の一つや二つはありそうだ。
 「で、何しにきやがった。なんでも昼間は派手にやったそうじゃねぇか」
 「げ、もう出回ってんのか」
 「当たり前だ、お前はこの界隈じゃちょっとした人気者だからな」
カウンターの奥に居る隻眼の男に視線を移す。
 「それなら話はえーな、ちょっと聞きたいんだけど」
 「お断りだ」
カウンター横の椅子座ろうとして、引き寄せていた手を止める。
 「……お断りだと言った、流石にこの俺でも今回ばっかりはな」
 「どういう意味だ」
カウンターの正面に椅子を引き寄せ、座る。
目の前の隻眼の男は黙して語らない。
 「……そういやぁ、今日はイリアのヤツが怪しいポーションを通りすがりのローグになげつけちまってなぁ」
 「………」
 「いやぁ、本当大変だったぜ?なんか服は溶けるし変な悲鳴があがるし、臭いし」
 「……そりゃあ服を弁償してやらなきゃならねぇな」
 「ああ、まったくだ…けどそのローグ、走り去っていってさぁ、居場所とかさっぱりわかんないんだよ」
ニヤニヤと笑いながら話す。
目の前の隻眼の男もニヤニヤと笑っている。
こういう時は、こうと決まっている。
 「だからもう、どうしようもなくてなぁ、いやぁ残念だ」
 「残念だなぁ、ソイツはソグラドの鷹だぜ」
 「ソグラドの鷹?あの義賊集団の?」
ソグラドの鷹。
主にソグラド砂漠中央部のオアシスを中心に活動する義賊集団だ。
周辺の貧しい村や集落に、救いの手を差し伸べるとして、モロクではちょっと評判の集団だ。
 「正しくは、ソグラドの鷹というのは、頭目の男の通り名だな」
 「……で、なんでその鷹がここまで来てるんだ、観光か?」
 「さぁなぁ……まぁ、早く服弁償しろよ」
ニヤニヤと笑う隻眼の男を尻目に、立ち上がり、店内を物色する。
 「ああ、てめぇ買い物に来たのかよ」
 「当たり前だ、さっきしたのは世間話だ馬鹿野郎」
 「カーッ!かわいくねぇやつだなぁオイ」
ガハハ、と豪快に笑う。
この裏表のない男とは、一緒に居て飽きない。
久しぶりなので酒の一杯でも酌み交わしたいが、どうもそうはいかない雲行きだ。
 「オッサン、俺の短剣、返してくれ」
顔を硬直させる、笑った顔のまま大口を開けて。
 「…………マジか」
 「マジだ、どうもただでは帰れそうにない」
 「……ふぅ、何を拾ったかはしらんがな」
そういいながら、背後の戸棚をあさりだす。
 「お前さんがあれを使うってことは、よっぽど本気なんだな……む、どこやったかな」
 「……空から降ってきたアコライトから、人の血の臭いがすれば嫌でも、な」
 「ん?なんか言ったか」
いいや何も、と目で返答し、店内を物色する。
 「おー、あったあった。錆付いてなきゃいいんだけどなぁ」
 「魔力を帯びてるんだからそう簡単にはサビねぇよ……っと、いいものあるじゃないか」
謎の仮面やら織物やらで隠れた奥にあった木の箱。
その箱を肩に担ぐ。
 「オッサン、こいつも貰っていくよ」
 「ああ、かまわんさ……ほれ、鞘にいれといたぞ」
そういって、二本の短剣を投げてくる。
ソレを器用に片手で受け止め、
 「すまんな、世話を掛けた」
 「いいって事よ……まぁ、ひとつだけ」
ん?と振り返り、向き合う。
 「目に見えるものだけが真実とは限らんぞ、ユイス・フリューゲル」
その瞳は、切実だった。
その言葉は、辛かった。
だからその先は、予想できた。
 「大丈夫……次は、諦めないよ」
短剣を腰に差し、空いた片手を振り、店を出る。
仰ぎ見た空は、どこまでも蒼かった。

 「諦めない、か……無理だな、お前は何も理解できてない」
カウンターの奥で、一人つぶやく。
その声が聞こえる事は、もう、ない。
224150sage :2005/02/01(火) 01:19 ID:UN9z7/zc
プレゼンなやらなんやらで忙しいことが重なってしまった上、初めてで遅筆です。
ダメだ漏れ('A`)ウボァァ

こんばんわ、150です。
なんとかどうにか二回目投下。
一応最後まで考えはあるので、これから先どう肉付けつるか悩みつつ書きます。
書いてる間は楽しいんだよなぁ…さぁて、レポート書かないとorz
225150sage :2005/02/01(火) 01:22 ID:UN9z7/zc
いかん、書き忘れてた。
もう死にたいウボァァア_○□=
('A`)たんの、ジュノー騒乱の設定をお借りしてます。
といってもジュノーが復興途中、という事実だけなので、本編に人たちは出てきませんのでご安心を。

ところで、萌え板に書き込みにくい&読み取りエラー多発するんですけど、なんかあったんですか('д`;)
2264-93sage :2005/02/03(木) 01:10 ID:.YKP8hSI
スレストかけたのに、懲りずに活性化させるべくなんかもくろんでみる

〜萌え小説スレ転生目前座談会〜
 日時:2/5(土) 20:00〜参加者がはけるまで
 場所:ゲフェン塔2F

 できるだけギルドを抜けてきてください。
(中途参加者がいても自己紹介やりなおさなくていいように
 座談会用ギルドを作って、役職に簡易紹介を割り振ります)

 作者さまがたにここぞとばかりに質問をぶつけましょう。
 拒否権は当然ありですけど。
2274-93sage :2005/02/03(木) 01:10 ID:.YKP8hSI
追加。
  鯖:Ses
228名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/02/03(木) 01:47 ID:cthw3dXw
2日後って流石に唐突すぎやしませんか(;´Д`)
229名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/02/04(金) 01:22 ID:pCdrA1cA
あや。そうか、日付変わってたから二日しかないんだ…。
でも、その次の週は3連休だから、お出かけの人も多そうだし、
それ以後は転生待ちしてた人がしばらく忙しそうだしで…。

まぁ、明日に来れる人だけでも集まれると嬉しいのココロ。
急すぎて都合がつかなくい方にはごめんなさい。

というか、人がいなくなったんじゃないかと心配になったとですよ。
230150sage :2005/02/04(金) 04:15 ID:MOyIqjpg
別に無理に5日にやらんでも、19日とかにやりゃよかったんじゃ……。
というか、正直今の時期は学生さん考査中でROどころじゃないと思うんですがどうでしょうか……。
231名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/02/04(金) 04:16 ID:MOyIqjpg
       ___r'⌒ヽ_
     /  l、__,/}::\  ok名前残ってた。
     (T´ | ゝ_ィ>};;_.」
       ! `''ァ、. \__}    すいません、続き書くときにしかレス番名乗らないようにしようと思ってたのに…。
     〈`^`¬ノ . :〔
 ,... -- |__イ-、_j|_: . ヽ、--.,,__
´     rニト,  フ ,ゝ__ 〉   `
    └-'´  '.-”
232なんぼか前の201sage :2005/02/04(金) 15:37 ID:n0jAPc0M
「レディ・クイン。特異点反応が出ました。現在はまた沈黙していますが…これが現場の映像です」
「プロンテラ郊外付近ね。映っているのは二人…このどちらかが特異点で間違いないのね?」
「はい。その確率は極めて高いと判断します」
「前回の実験体である可能性は?」
「顔や体格は資料に該当しません」
「捕獲は可能なの?」
「現段階では何とも言えません」
「手の空いている者は?」
「現在は出払っていまして…動かせる者は極少数です」
「では…ならず者でも雇って、分断して襲わせなさい。危機的状況に陥ればまた反応が出るでしょう」
「承知致しました」


黒い、大きな玉が上にある。下には白い小さな玉が無数にある。
小さな玉はちまちまと動く。
玉は、他の玉と柔らかく接触すると1つ増える。強く衝突すると片方が消える。
残った玉は少し黒ずみ、少し大きくなる。衝突を繰り返してより大きく、より黒くなっていく。
ある程度大きく、黒くなった玉は宙を飛び、上にある大きな玉に吸い込まれて行く。
育った玉を吸い込んだ大玉が、ほんの僅か大きくなる。
良く見ると大玉は放っておくと少しずつ萎んでいくのがわかる。
けれど下から吸い込まれる玉の方が数が多く、結果として大玉はより大きくなっていく。


他愛の無い、けれど非常に不快な夢を見た。なんで不快なのかって?んなの知るか。
とにかく、何かメチャクチャ腹が立ってそんで目を醒ましたの確かだ。
で、がしがしと頭を掻きながら改めて周囲を見ると…
オレを中心として竜巻でもあったかの様に草木が斜めにかしぎ、ついでにその範囲内に霜が降りてる。

「あー…またやっちまったか…どうも寝起きは制御が甘くなっていけねぇなぁ…」

…っと、自己紹介が遅れちまったな。俺はベック。しがない…とはちょいと言えねぇローグだ。
同業者達の弛まぬ努力の賜物か、最近は盗作した技を自らに固定する方法が進んできた。
だからローグが魔法を使う光景も珍しいものでは無くなりつつある。
つまり俺が寝ぼけてストームガストをぶっ放しても奇異の目で見られる事が無くなってきたって事だ。
それは非常に有難いんだが、目を三角にして怒り出す宿屋の親父もいい加減見飽きてなぁ…
ここ暫くは郊外で野宿してたのさ。そのせいで変なモノ拾う事になったのは計算外だったけどな。
と…そういや、その『変なモノ』が見当たらねぇな。
まさかストームガストで消し飛ばしたって事も無いだろう…多分な。
意識が薄い時にちょいと漏れ出した程度の発動だから消し飛ばすなんて威力にはならねぇ。
余程ひ弱でもなけりゃ死んだりもしない筈…なんだが…
一抹の不安が拭い切れないのは…まぁ、俺の日頃の行いって奴があまりよろしかねぇからだろうな。
なんて考えているオレの背後に近付いて来る気配。振り返るとアコライトの服を着た一人の小娘。

「ベックさん、おはようございます…何かあったのですか?」
「ちょうど離れた所に居たみたいで良かったな。なぁに少しばかり寝ぼけただけだ」

これがその『変なモノ』…確かスノウとか言ってたな。
気に入らない男はぶちのめし、気に入った女は襲い掛かる。欲しい物は力尽くで奪ってきた。
犯罪と呼ばれる行為は何だってやってきた悪党のこのオレをよりにもよって『優しい』等と抜かす。
確かに結果としてこいつを助けてやった事にはなるんだが…
人が寝てるすぐ隣で鼻息を荒くして女に襲いかかってる男が耳障りだったから排除しただけだぜ。
んでその時のこいつの反応を見てたら昔のオレ自身を思い出してな。ちょいと共感しちまったらしい。
話をしたら別れてお終い、のつもりだったのが…面倒を見てやるなんて言っちまった。
まぁ十日かそこら程度だしこちとら急ぐ用事もねぇからいいか…なんて思ってな。
そうしたらそのさっきの背中が痒くなるような台詞を貰った訳だ。
こっちにはそんなつもりは全く無かっただけに驚いたぜ。で、何か知らんがどうもなつかれたらしい。
確かに今の時期夜は結構冷えるが…だからってオレに抱きついて寝るってーのはどういう了見だよ。
これがなぁ…妙齢の女だったりしたらオレも喜んでその気になるんだが。
まぁ…今オレが欲しいと思ってる女だって発育からいきゃーコレに毛が生えた程度でしかねーけど。
オレがアレに求めてるのは…体じゃなくて…安心感?言葉にゃし辛いんだがそういった類の物だから。
傷ついて拒絶され気弱になってた時にアレだけがオレを理解した。理由はそれで充分だろう。
とと…話が逸れてるな。とにかく…こいつは変な奴だ。警戒心ってもんが欠落してるとしか思えねぇ。
オレにしがみついて熟睡こくのもそうだし、どんな与太話を聞かせても真に受ける。
信用ってのは長い時間をかけてそいつの人と成りを見極めてからするもんじゃないのか?
どうして会ったばかりの奴を信用出来るんだ?わざわざ騙してくれっつってる様なもんだろ?
オレ?やらねぇよ。金持ってねぇ帰る家ねぇ色気ねぇ小娘を騙したってゼニーにゃならねぇだろうが。
あー…女郎小屋にでも連れてきゃそれなりの値で売れるだろうけどな。
今は小便臭いガキでも何年か経てばかなりイイ見てくれになるだろう。
ただ…なんつーか、こう…間近で呑気な寝顔を見てたら馬鹿らしくなってその気が失せちまった。
後もうひとつ。こいつからはアレと似た臭い…気配?がしたからやりづらかったってのもあるな。

「トモダチとやらはまだ来てなさそうか?」
「はい…もう二十日になりますのに…何事もなければよろしいのですが」
「案外、そのトモダチとやらは示し合わせてお前を捨てていったんじゃないのか?」
「そうかも…知れません。思い返せば…私…怒らせる事ばかりしていました」

小娘の眼からぼろっと涙が落ちてオレは眼を剥いた。当然考え得る可能性の一つを述べただけだぜ?
なんでいきなり泣き出すんだよこいつは…あぁ冗談じゃねぇ面倒臭ぇ何でオレはこんな事してるんだ?
十日かそこらのつもりが二十日経ってもまだサヨナラできる状況になってねぇってのはよぉ…

「仮にそうだとしてもだ。大人しく捨てられてねぇで食らい付いていきゃーいいだろうが」

ぼすっ…と音を立てて小娘の顔に毛布が当たる。オレが使っていた毛布を投げつけたからだが。
あいにくとオレはハンカチを常備してるジェントルメェンなんぞじゃねぇもんでな。
使い込んで薄汚れた手拭いよかマシだろ…あ?霜が降りてんじゃねぇのかって?
先に水分は飛ばしておいたさ。オレの手にかかればその程度ちょろいもんだ。
もそもそと涙を拭きながらきょとんとした顔でオレを見る小娘。

「来たくても来れねぇ状況になってる可能性はあるだろ。こっちから出向いて確かめればいい」
「は…はい。そうですね…」
「じゃ、腹ごしらえしたら出るぞ。適当にメシ買って来い」

小銭を詰めてある巾着袋を放り投げる。慌てた様子で捕ろうとする小娘、その手は中空を掴む。
胸の辺りに当たって地面に落ちる袋。硬貨が散らばる。
座り込んで一枚ずつ拾っては袋に戻していく様を眺めながら思った。こいつ…やっぱりどんくせぇ…
全て拾い集めて胸の前で両手でしっかりと袋を握りしめながら言う。

「それでは、行って参ります」

オレは手をひらひらと振ってそれを見送った。あ?さっきと言ってる事が違わねぇかって?
オレの弁で言うなら会ったばかりで信用もしてない奴に金を預けられるのか?って事か。
別に大した額じゃねぇから持ち逃げされた所で困んねぇよ。
それにオレを裏切ったなら必ず追いかけて追い詰めてそれ相応の報いもくれてやるだけだしな。
さて、小娘が戻ってくるまでの間に少し寝直しておくか…どうも最近疲れ気味だ。
233なんぼか前の201sage :2005/02/04(金) 15:41 ID:n0jAPc0M
そう思ってうつらうつらしていたんだが、誰かが近付いて来る気配で目を醒ました。小娘じゃない。
何やら剣呑な気配を発してはいるものの殺気は感じない。こういう時に跳ね起きたりはしない。
オレが相手を認識した事を相手に知らせる事になりかねない。
殺気込みだったらそうも言ってられないが…とりあえず今すぐどうこうってな空気じゃねぇ。
緊張を含んだ静けさにゾクゾクする。思えばこの所平和で安穏な生活が続いていたからな。
口元に浮かぶ笑いはそのままに、薄く目を開いて周囲を探る。とりあえず視界に動く影はない。
寝返りをうつ振りをして体の向きを変えてもう一度探る。ほんの僅か、空気が乱れる。
それで相手の位置が分かった。姿は見えないが…この気配には覚えがある。同業の知り合いだ。
なんの目的でオレを探ってる?とっ捕まえて口を割らせるには…今は態勢が悪い。
本気を出せば不可能じゃないが、出来ればやりたくねぇ。下手をしたらあの時の二の舞になる。
動く機会を窺っている所に、もう一つの気配が割り込んだ。
気配を消す事とは無縁の、ガサガサと草をかき分けて歩く素人の歩き方…あの小娘だ。
ヤバイ。オレに向かって直進するその進路上に奴が居る。
奴の狙いが判らない以上…いや、待てよ。オレが狙いとは限らない。
小娘が狙いだったなら…オレには何の害も無いな。そうとも、今ヤバイのはあいつでオレじゃない。
とりあえず、このまま様子見だな。
小娘がガサガサとオレに向かってくる。奴は動かない。距離が縮んで…接触。

「きゃっ…んっ…やっ…べ…ッ…ク…さ…!」

暴れながら悲鳴を発している小娘。口を塞がれているのかくぐもっていて微かにしか聞こえない。
奴に気付いていなければ聞き逃したかも知れねぇ。それも更に小さくなってやがて聞こえなくなった。
奴の気配も完全に消えた。唐突な消失だからインティミデイトで離脱したって所か。
さて…どうするかね。奴の狙いはどうやらオレじゃなかったらしいが。
丁度良いんじゃねぇか?面倒臭かったんだろう?これで晴れてオレは自由の身に戻れたじゃねーか。
最初に見てやるっつった期間以上は実際面倒見てやったんだし、これ以上関わる必要はないだろう?
…なのに何故、オレの体は起き上がって、オレの足は動き出してるんだ?
…何故、あのガキの脳天気な寝顔が脳裏から消えない?何故オレを呼ぶ声が耳から離れない?
二人が揉み合っていた場所まで来る。そこに転がっているのは…

『オレはサベージベベの激辛燻製肉が好物で、薄塩味は好きじゃねぇんだ』
『あ…そうだったのですか。では、取り替えて来ますね』
『おい待て本当に行くんじゃねぇっ!…まぁいい。最初に言っておかなかったんだから仕方ねぇ』
『ですが…よろしいのですか?』
『食えねぇ訳じゃねぇんだ。構わねぇ。だが次ベベの肉を買う時はぜってぇ激辛だからな』
『ふふ…はい。わかりました』

そう、大量に買い込んで来たらしいサベージベベの燻製肉激辛味が包まれた包み。
あまりの辛さに一口毎に水を含んでは涙を拭っていた様子が思い出される。
文句を言うなり自分の分は別の味にすりゃいいものを、やせ我慢してオレに合わせて。
しかもバレバレだってのにこっそりやりやがって、言っても惚けやがるし。
…イライラする。何に?わからない。オレは一体どうしたいんだ?
暫く前まではオレにも仲間が居た。もし仲間だったならオレは考える事なく助けに向かっただろう。
そしてそれ以外の他人だったらどうなろうと知った事じゃねぇ、と切り捨てて憶えてもいないだろう。
あの小娘は仲間ではない。何より住んでいる世界が違い過ぎるし、仲間と言える連帯感なんかもない。
仲間ってのは対等でなきゃならねぇ、そういうもんだろ?あの小娘がオレと対等である筈もない。
ならば他人か?けれど他人と言い切るにはオレはあの小娘を知り過ぎちまった。
殆ど無意識の内に包みを裂き、肉を一切れ頬張る。恐らくは強烈であろう辛味が程良く舌を刺激する。
ちなみに、元々激辛が好きだった訳じゃない。つーかどっちかといやぁ嫌いだった。
…あの時以来、どうも味覚が鈍くなったらしくて半端な味だと感じられなくなっててな。
強烈に甘いのやら強烈に酢っぱいのやら強烈に辛いのやらばかり食うようになっていたのさ。
もう一切れを口の中に放り込む。あの小娘の事を考えると落ち着かないから奴の事を思い浮かべる。
奴の名はダム。この辺りを縄張りに活動しているローグ。
実力は確かで、ここ最近は会ってなかったが以前のオレより腕は上だった。
ダムは…簡単に言うなら、まず変態だ。丁度あの小娘程度の色気も何も無いガキを弄ぶのが趣味。
そして守銭奴。金さえ積まれれば何でもやる。外道な事も残虐な事でも。
多分、あの小娘は奴の好みにばっちりハマる。奴に捕まったのならあの小娘は唯じゃ帰れない…
ってか、生きて帰れるかどうかも怪しいな。
確かに、オレだってやってきた事は大差ない。
オレはその時その時のやりたい事をやり、奴は常に金の為に動いてきた。それだけの差だ。
似た者同士といえばそれまでだが、それだけにオレと奴は反りが合わなかった。
ちょいと違うが…近親憎悪みたいなものだったんだろうな。近いからより嫌な部分が見えちまう。
そういや、奴はいつもオレを見下して馬鹿にしていたっけか。
オレに仲間が出来た時も奴は一匹狼を気取り続けていた。
三対一で勝ち目がないからってんでちょっかいは掛けられなくなったが。
ふん…考えていたら腹が立ってきたな。奴の自尊心をぶち壊しに行くのなら悪くない。
手足をへし折って床に転がして血溜りに顔を埋めて命乞いをさせてみようか。
すかっとするだろうな。よしその線で行こう。胸のつかえも無くなった気分だ。
包みの中身はあらかた腹の中に消えている。残った二切れを包み直した時、複数の気配を感じた。
その中にダムは居ない。居たらこんな笑っちまう位直線的な殺気にはならねぇ。
方向とどこを狙ってるかまでモロにばれる様じゃ三流もいいところだ。
殺気が弾けた瞬間に頭を軽く振って射線から外す。ヒュッ…という音と額に感じる風。
ビィィン…と近くの木に刺さり震える矢。

「外してんじゃねーよヘタクソ。ただでさえこっちはつまんねぇんだ。とっとと片付けちまえよな」
「おいおい、さっさとしてくれよなぁ。俺も向こうに行って遊びたいんだからよぉ?」
「うるせぇならテメーで狙えってんだ」

そして現れる三人の人影。三対一だからと油断しきっているのか堂々と姿を現そうとした。
それじゃあ、オレにとってはただつっ立っている案山子と何ら変わらない。
瞬き一つの時間で連中に詰め寄り、最初の奴の腹に一発。放物線を描いてすっ飛ぶ。
一人目がすっ飛んでいる間にもう一人の顔面に裏拳。
「ぷぎゃっ」と屠殺される豚の様な声を出してひっくり返る二人目…少し顔がひしゃげたか?
三人目はまずまずの反応だった。オレが放った蹴りに反応して盾で受け止めたのは悪くない。
けれど受け流さなかったのは失敗だったな。止まった足に軽く力を篭め直すとあっさりと盾が砕ける。
そのまま振り抜く。脇の下にオレの爪先がめり込む。伝わった感触からアバラの何本かは折ったな。
三人目が倒れるのと同時に一人目が木の幹にぶち当たって派手な音を立てた。
戦闘所要時間三秒…ま、こんなもんだろ。準備運動には少し足りねぇけど丁度良い具合に目が覚めた。
さっきの台詞から考えてもこいつ等とダムには何らかの関係があると思って間違い無いだろう。
さて…何の目的で襲ってきたのかと、ダムの居場所を吐かせる事にするか。
と思ったんだが…一人目は吐捨物はき散らしながら痙攣してるな。ばっちぃから近寄りたくないぜ。
三人目は折れたアバラが肺にでも刺さったか、血反吐をはいたままぴくりとも動かねぇ。
二人目は鼻が陥没したあげくに前歯が全滅しているが意識はある様だ。
多少不明瞭かも知らんがこいつに口を割らせる事にするか。
転げ回っているそいつの肩口を踏みつけて動きを封じる。少しずつ体重をかけながら尋ねる。

「う…うあぁっ…」
「『向こう』ってのはどこの事だい?ん?」
「た…たすけてくれよぉ…頼まれただけなんだよぉっ!」
「たすけてやってもいいぜ?オレの質問にちゃんと答えればな。誰に頼まれたっていうんだ?」
「スーツ着てサングラスかけた奴だった…わかるのはそん位だよぉ」
「まぁそれはそれでいいや。で…最初の質問は無視こいちゃってくれるつもりなのかい?」
「あ…ぽ、ポリン島から南に行った所にある森の中の小屋!話したぜ、たすけてくれよ!?」
「そうだな。命だけはたすけてやるぜ」

とりあえず喚かれるのも面倒なんで腹に一発捻じ込んで気絶させる。運が良ければ助かるだろう。
とどめを刺さなければ見逃したって事でたすけた事になるだろう…多分な。
オレは気絶した三人をそのまま放置して現地に向かった。
234なんぼか前の201sage :2005/02/04(金) 15:43 ID:n0jAPc0M
気絶している少女を小屋に連れ込んだ男が、粗末なベッドに少女を放り投げる。
小屋の隅に丸めて置いてあった縄で少女の手首を縛り、余りの部分ををベッドの足に結わえる。
そうして身動きを封じてから、乱れて顔に掛かっている少女の艶やかな髪を左右に払う。
人形めいて整った容貌を暫く見つめてから、下卑た笑いを浮かべる。
その時、小屋の周辺に糸を巡らせて切れた時に落ちるよう仕掛けられていた鈴が音を立てて落ちた。
少女に伸ばしかけていた手を止め、目を閉じて気配を探る男。ふ…と薄く笑い、閉じた目を開き呟く。

「わざわざ来たか…ベック。俺より劣ると知っていて尚来るとは、相変わらず愚かだな」

そして気配と共にその姿を消して移動し、必勝の位置を確保する。敵を迎え討つ為に。


目指す小屋とやらはすぐに見つかった。粗末な小屋が見えた所で姿を隠し、こっそりと接近する。
壁を背にし、窓の端から中を覗く。見える範囲ではベッドに縛りつけられている小娘しか見えない。
姿を隠したまま移動し、扉の前に立つ。罠が仕掛けられていないかどうか調べる。
無い。しかし出入り出来るだけの空間はこの扉しかない。窓は小さくてちょっと使えそうにない。
中にダムが居たら(十中八九居るだろうが)見咎められずに中に入る事は不可能だな、これは。
…仕方ねぇ、待ち伏せ上等で踏み込むか。そう決めて扉を蹴り破る。
小屋の中に踏み込んで素早く室内を見渡すが、ダムの姿は見えない。
地面を影が過る。はっとして上を向こうと思った次の瞬間にドンッと首に衝撃。
どうやら扉の上の天井に張り付いていたらしい。蜘蛛みたいな奴だ。
あの時とは立場が逆になっちゃいるが、実はさっきから既視感がひしひしとしてたりしたんだよな。
だからこの展開も何となく予想出来てたぜ。自分の喉から生えた刃を見下ろす。中々不気味だ。

「くくっ…油断大敵って奴だなぁベック!」

必殺の一撃が決まると一瞬動きが止まるのは人の性なんだろうか?思えばオレもそうだった。
オレは首の後に手をまわして、短剣の柄を握っているダムの手を掴み、力を篭める。
ベキョッという音と共にダムの手が潰れる。一旦手を離す。

「へ…ぎゃああああああ!!」

耳触りな絶叫。跳び離れるダム。オレと奴の血が混ざり合ってぬめる短剣の柄をもう一度掴む。
一気に抜く。景気良く噴き出す血。オレは力をほんの少し解放し、傷口周辺だけを変化させる。
皮膚が銀色に硬質化し、傷口を埋めていく。それとともに噴出する血液の量は減少し、やがて止まる。
一息つきかけた所で、体がギシリと悲鳴を上げる。これは…マズイ、体型が変化する前兆だ。
少し力を解放し過ぎたらしい。発散させれば良いんだから大した問題じゃないんだが。

「よぉ、ダム。暫く見ない内にエラク格好良い手になったじゃねーか」
「お…お前…ベック…だよな…?」
「おいおい、ボケるにゃまだ早ぇんじゃねーか?オレの顔を忘れちまったってのかよ。
オレ一人相手なら負ける筈がねぇ、とか考えてたんだろ?確かにちょいと前まではそうだったろうな」
「な…なんで…喉…」
「あぁこれか?ちっとばかし便利な手品を身につけてな…ついでだ。あと二つ、手品を見せてやるよ」

オレの正面で風が巻き、その中央に氷の粒が生じる。氷は急速に大きくなっていき、大剣の形を取る。
何、別段難しい事じゃない。空気中の水分を集めて魔力を混ぜて凍らせて剣の形にしただけの物だ。
氷の剣を掴み、高く掲げる。風は今度はオレを中心として膨らみ、破裂する。

「我は疾く掛ける風となる!トゥーハンド・クィッケン!」

溢れそうになった力はこれで大半を使い切った。もう変化しなくて済みそうだ。
目を剥いて言葉も、動く事も忘れてオレをただ見ているダムめがけて剣を振る。一閃、二閃、三閃。
避けるどころか見えてもいないらしい、棒立ちのダムの両の肩と大腿部を切り裂く。
両腕がごとりと音を立てて落ちる。次いで、胴体が両の脚からごろりと転がり落ちる。
盛大に噴き出す血液で床が赤く染まっていく。
ちょいと予定とは違ったが、大筋で違っていないから構わないだろう…とか、思ったんだが。

「どうだ、面白い手品だったろう?見物料は少し高いぜ。具体的にはお前の命だ」
「ば…バケモノ…」

一言、そう言ってダムは息絶えた。くそっ…命乞いする前にくたばるんじゃねぇよ根性の無い奴だな。
苛立ちの原因はそれだけじゃない。ダムの最後の台詞がやたら頭の中で木霊する。
オレは口にするだけ空しい言葉を、それでも、敢えて…口にしなければいけない様な気がして。
もはや聞いてはいないダムに吐いて、小娘の手首を縛る縄を切り、剣を捨てる。

「そうさ…オレは人間をやめた癖に人間の振りを続けている…まさしく化物さ」

オレという魔力の供給源を失った剣は単なる氷になり、床に落ちて砕けた。
気を失っている小娘を抱き上げて小屋を後にし、何気なく歩きながら僅か残しておいた力を解放する。

「風よ敵を焼く光となれ!ライトニング・ボルト!」
「…」

ズガン…と派手な音を立てて小屋から少し離れた木に落ちる雷光。
芯までこんがり焦げたらしくゆっくりと倒れる木。
あ?やつあたり?ちげーよ。覗き見していた趣味の悪い奴を狙っただけだ。
かすかな気配の揺らぎだけを残してもう消えちまってるが。逃げ足の早い…まぁ人の事は言えねぇか。
多分、ダムとその他大勢をけしかけてこっちを襲わせた奴なんだろうが…何が目的だったんだろうな?


「『薬』が完成しました」
「今回は内部のみで実験を行いなさい。五年前と同じ過ちを繰り返したくはありませんから。
そうね…戦闘要員から被験者を募りましょう。精神的な要素が重要ですから無理強いはしない様にね」
「…名乗り出る者が居りますでしょうか?」
「強くなれるという部分を強調して説明なさい。欲しがる者は必ず居ます」
「かしこまりました。それと、特異点の特定できました。ローグで間違いありません。
また、こちらのアコライトですが…僅かながら防人の反応を有しています」
「成程…両方とも確保しておきたい所ね。『剣』は使える状態?」
「いえ、調整にはもう少し時間が必要です」
「そう。なら『剣』か『薬』、先に投入可能になった方を使います。それまでは対象を監視し続けて」
「承知致しました」
235なんぼか前の201sage :2005/02/04(金) 15:59 ID:n0jAPc0M
仕事をサボって駄文を投げる俺・・・大丈夫なのか?ちょっと不安だ

おかしい。こいつは脇役な筈だったのに準主役級になってるじゃないか・・・という独り言

>>231

前回も(参加していないが)前前回も結構唐突だったと記憶している
なもんで萌板小説座談会は唐突に行われるのが常なんだと思っていた
・・・俺が間違ってるのか、そうかそうなのか・・・

では次は座談会で。板汚し済まなかった
236名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/02/05(土) 23:00 ID:nm5eEIkM
現在6名、続行中〜
237名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/02/06(日) 00:25 ID:9LqvdPCE
座談会途中経過。
お題を決めて競作風味に萌え燃えなSSを書こうじゃないか
という企画が持ち上がりました。

ということで告知。

萌え小説スレ競作小説の会。
第一回お題は『上目遣い』です。
長さ、期限、その他特に制限は無しで、お題に添ったSSを書いてください。

スレ住民の方で私も書いてみたい!という方いらっしゃいましたら
是非是非ご参加くださいませ。


座談会はまだ続行中です。
238どこかの166sage :2005/02/06(日) 01:02 ID:LbHmQFHo
今、仕事が終わったので座談会に出ようと思うのですが……イルカナ?カナ?
239('A`)sage :2005/02/06(日) 01:05 ID:rtFUJgfY
 Ragnarok Online Side Story "Confrontation of fate"


(ふぅん・・・"魔女"とかっていうのも、思ってたほどじゃないなぁ・・・)
 プロンテラの一角。
 つまらなそうに簡素な宿を見つめていた青年は、路地の影から姿を現すや、そそくさと来た道を歩き出した。
 術衣のポケットに手を入れ、夜更けのプロンテラの街を進む。
「あの自称天才魔術師の方が強い魔力を持ってるね・・・彼に逃げられたのは大失敗だった」
「エスクラ様、どうなされますか」
 いつの間にか付き従うように現れた黒装束の女性の問いに、さほど驚きもせず、青年は明るく言った。
「うん、そうだなぁ・・・全員殺しちゃおうか。借りもあるし」
 まるで愉快な悪戯を思いついた少年のような、弾んだ声色である。
「・・・と、言いますと?」
「僕が手持ちの札を使うよ。君達の手はわずらわせないから、そんな怖い顔しないでね」
 整った笑顔で言う。
「最近、新しい手札が増えて気分がいいんだ。さすがに君達じゃ骨が折れるだろうし」
「・・・」
 にこやかに言うエスクラだったが、黒装束の女性は一礼しただけで闇夜に消えていく。
 随分と愛想の無いものだ、と肩をすくめつつも、エスクラはもののついでと言わんばかりの適当な動作で指を振るう。
「丁度良い"化け物"は・・・ふふ、コイツかな?少し制御が難だけど・・・」
 エスクラの指先が、円と簡単な魔術回路を描いた。
 彼はその軌跡が青い光を帯びて展開するのを見届けると、さも満足げに頷いてその場を歩き去る。残された魔方陣から漆黒の鎧が出現するのも、それ
が膨大な魔力を有していた者であることも、既に関心外の事かのように。
 自我に反した行動を拒むかのように身をよじらせながら、その存在は"こちら側の世界"に喚び出される。
 何処までも黒い鎧に、黒い衣を纏った騎士。
 剣というにはあまりに巨大な刃を携えたまま、頑強な篭手に覆われた手で顔を覆う仮面を押さえつけ、苦悶に全身を曲げる。
 そうして、自身を蝕む賢者の魔力にしばらく抵抗していたものの、やがて漆黒の騎士は陥落し、命に従って歩き出す。
 すぐ向こうに建つ、標的達の宿へ向けて。
「待て」
 そこで、短い声がかかった。
 エスクラは立ち止まり、余裕の笑みで顔を上げる。彼に同調するかの如く、漆黒の騎士も足を止めた。
「何か変な空気がすると思ったら・・・魔族だろ、それ」
 太く低い声と共に、街路樹の陰から現れる頭巾のモンク。
 鋭い視線を向ける精悍な男を、エスクラは笑みで細めた目を向ける。
「・・・全然気付かなかったなぁ。君、何者?」
「・・・生憎、下衆に名乗る名はない」
 モンクは目の前の術者の狂気を読み取り、断然と言う。
「テロ屋だか誰だか知らないが、俺は機嫌が良くない。悪いがその化け物、始末させてもらうぜ」
 戦闘の意思をみなぎらせ、バグナウを拳に装着するモンク。
 対して、エスクラはゆっくりと首を回し、両手をポケットから出すと、
「へぇ・・・やってみなよ」
 小首をかしげて、まるで女のような笑顔を作った。

 


 『滅びの賢者 1/3』
240('A`)sage :2005/02/06(日) 01:05 ID:rtFUJgfY
 髪の毛先が異様にチリチリする。
「・・・ん」
 エスリナは長く伸びた自分の赤毛をつまみ、眺めてみた。
 枝毛はない。
 相変わらず床に座り込んでウトウトしているレティシアに視線を戻し、それから室内を見回した。
 おかしな所は何もない。宿は静まり返っており、階下からも、向かいのルーク達の部屋からも物音はしない。
 明日に備えて眠ったのだろうか。
(こっちもそろそろ休むとするか・・・)
 色々と気がかりはあったものの、考えて解決するものでもない。
 エスリナは早々に思考を切り上げ、レティシアに消灯を促そうと口を開こうとした。
「レティ・・・」
 が、再び見たレティシアの向こう。
 ベランダが見えるガラス戸に、黒い影が映っていた。
 濃密に増していく確かな攻撃の気配。
 影は何かを振りかぶるように見えた。
 不味い。
「伏せろ!」
 エスリナはベッドから飛び跳ね、半分寝ていたレティシアに背後から抱きついて床に押し付ける。
 衝撃で覚醒したレティシアが戸惑いの声を上げるより早く、衝撃が彼女達の頭上を通過した。
 それは、巨大な黒い剣に見えた。
 ベランダからほぼ真横になぎ払われた刃が、ガラス戸も壁も切り裂いて、嵐の様な破壊をもたらす。
「な、何ですかこれぇ!?」
「知らん!」
 吐き捨てるエスリナとレティシアに、頭上から細かく砕けたガラスと壁の破片が降り注ぐ。
 驚くべき事に、剣は部屋の三分の一ほどを横に断ち切りながらも最後まで降り抜かれた。過ぎ去ったのを確認し、舌を巻きつつもエスリナは素早く
起き上がり、ベランダへ向けて起動させた魔力を収束させる。
 夜空に、漆黒の甲冑を纏った騎士が舞っていた。
 ベランダに立っていたのではなく、最初から跳躍のみで滞空し、手にしたおよそ人間用とも思えない刃を振るったのだ。
 その通り、人間用ではないだろうと目星はついた。そんな事が出来る人類は存在しない。
 ここは"二階"だからだ。
「・・・魔族!?」
 クロスボウを抜きざまに、レティシアが悲鳴を上げる。
 最初の攻撃で灯りが吹き散らされ、はっきりとは目視できなかった。
 ただ、紅く光る無数の眼と、醜い容貌だけが目に付く。
 エスリナは特に各地の遺跡や迷宮を巡っているわけではなかったが、そんな彼女でも知っている・・・冒険者ならば知らない者の居ない、古城がある。
 グラストヘイム。
 かつて、国王トリスタンの提唱した探査命令によってその古城へ赴いた冒険者達をことごとく葬り去ったと言われる恐怖の象徴が、
 今、目の前に居た。
「大気震わし、風に惑う光彩――!」
 騎士が動く。
 二度目の斬撃――というよりも、爆撃に近い――を繰り出すべく、全長だけで身の丈の三倍はある剣を振り回す。
「ライトニングボルト!」
 エスリナの放つ雷が僅かに早く、黒の騎士は剣を振りかぶったまま夜の街並みへ見事に吹き飛ぶ。
 地に足をつけていない為に雷は行き場を失い、威力が倍加したのだろう。
「・・・仕留めました?」
 追いすがってベランダに出ようとするレティシアを制し、エスリナは手近に置いていたマントを羽織りながら、
「いや、奴に・・・"深淵の騎士"に術は効かん。今のはただ運が良かっただけだ」
「深淵の騎士・・・知ってるんですか」
「ああ。あれとは別の個体と戦った事がある・・・しかし、ブラッディナイトといい、深淵といい・・・いつから首都はグラストヘイムになったんだ」
 赤毛の少女は苦渋の顔で身を翻し、ほぼ半壊した部屋のドアに手をかけた。
 だが歪んでいるらしく、開かない。
 ベランダから出る、という選択肢もあったが・・・手っ取り早く壊す事にした。
「・・・ふっ!」
 術衣から伸びたしなやかな足が一回転、歪んだ木製の扉に突き刺さる。
 扉は綺麗に蝶番ごと引き千切れて開いたのだが、運悪く、向こう側で駆けつけようとしていた白髪の騎士が扉の下敷きになった。
「ゲフッ!?」
「ん?ああ・・・何だ、ルークか・・・すまないな」
「謝る前にその足をどけろ!」
 潰れたルークを外れた扉の上から踏みにじりつつ、エスリナは今気が付いたと言わんばかりの顔をする。いつもの冷笑も忘れない。
 丁重に足をどけてやると、白髪の騎士は憤怒の形相で起き上がった。
「心配して飛んで来てやったのに、足蹴にするか、普通!?」
「心配、だと?」
 エスリナの紅い眼が、ぎょろりとルークを見上げる。
「どっちをだ?」
「・・・は?」
 真顔で問われたものの、ルークは全く意味が分からずに目を白黒させた。
241('A`)sage :2005/02/06(日) 01:06 ID:rtFUJgfY
「はああああっ!」
 岩さえ軽く破砕する黄布の拳が、重い踏み込みと共に突き出される。
 唸りを上げるその一撃を賢者の青年は軽いバックステップで避け、およそ人間離れした距離を一歩でとり、笑う。
「あははっ、頭の中まで筋肉なのかな!?そんな攻め方じゃかすりもしないよ!?」
「・・・ふんっ!」
 不遜な挑発を無視し、モンクは更に一歩を踏み込み、練った気を掌に収束させて撃ち出した。
 流れるような動作で放たれた光弾は、初めて笑みを崩した青年の右肩を抉り取るように着弾する。
「・・・ぐあっ!?」
 セージの身体が苦悶に曲がる。
 黄布がその隙を逃す筈もなかった。全身の気をたぎらせ、一気に間合いを詰める。
 そして、渾身の掌底を青年の鼻面に叩き込んだ。回避・防御の隙さえ与えない。
 更に、軽く浮き、仰け反った身体へ熟練の右手が繰り出される。
「三段掌!」
 眉間・喉・鳩尾に突き刺さる拳。
 常人ならば、骨ごと脳や内臓を破壊する威力はある。
 たかが一介のセージに、それを凌ぐ体力がある筈もない。
 しかし、
「・・・手応えが・・・?」
 衝撃で浮いた青年の身体に突いたままの拳は、もう引く事さえ叶わない。
 威力を相殺されたのとは違った。まるで形のないものを殴ったかのような、柔らか過ぎる感触。
 そして、その感触に黄布の拳は完全に絡め取られていた。
「指弾・・・モンクも馬鹿に出来ないものだ」
 浮いたままで、青年はニタリと笑う。
「・・・名の知れた冒険者か、それとも何処か高位ギルドの子飼いか・・・まあ、どっちでもいいけど」
 敢えて形容するならそれは、人の目には形のない粘液にしか見えなかった。
 賢者の身体から吹き上がる青白い、粘着質の光。魔力とも気とも異なる、不定形な力。
 黄布はほぼ反射的にセージの身体を蹴り上げる。
 瞬間、黄布の足は大腿のあたりまで青年の身体に"めり込んだ"。
 セージが嘲笑を深める。既に狂気のレベルに突入しつつあった。
「僕を・・・このエスクラを傷つけた罪は、重いよ?」
「くそ・・・ふざけんな!」
 唯一手応えのあった頭部を左手で殴り飛ばし、黄布は反動で飛び下がった。
 飲み込まれていた手足が千切れないかと心配していたが、無事である。
 セージの身体にも穴はない。不死の化け物とは違う。どちらかと言えば、あれは。
「念の属性・・・ローブに何か施してあるのか・・・!?」
「ご名答だ!及第点をあげよう!」
 何事も無かったかのように着地した青年が、身を翻し、異様なオーバーアクションで両手に術を構築していく。
 速い。
「原初の炎、地を舐める紅き舌となりて――我が敵を焼き尽くせ!」
「させるかよ!」
 エスクラの詠唱と黄布の怒号が交錯する。
 黄布の指弾が早く、セージを貫く。しかし、エスクラの身体は今度は指弾さえも透過させた。
「・・・馬鹿め!」
 賢者は詠唱途中の火属性魔術を解体、別の、未知の術を構築する。
「風と水の白き呪縛、霧の壁よ!全てを包み惑わせ!―――ウォールオブ・・・!」
「馬鹿は貴様だ!ナパームビート!」
 指を鳴らす音と共に、不可視の衝撃で賢者の身体が吹っ飛ぶ。
 黄布のモンクの背後に展開した三人の先頭に立ち、エスリナ=カートライルはゆっくりと術を放った手を下ろし、こめかみを押さえる。
「誰だ?」
 自分が吹っ飛ばした相手をろくに確認もせず、彼女は呆れたように言った。
 賢者はといえば、路地脇に置いてあった水樽の山に突っ込んで動かない。
「・・・さあな」
 酷く疲れた様子のモンクと樽に突っ込んだ賢者を交互に見やり、エスリナはやはりこめかみを押さえる。
「早々に引き上げていれば巻き込まれなかっただろうに・・・何故残っていた」
「近くの宿に泊まってるだけだ・・・深い意味はねえよ」
 モンクはぶっきらぼうに言うと、くるりと背を向けて歩き出した。
「協力に感謝する」
 エスリナは賢者の方を見たままそれだけを言い、モンクは黙って手を上げて答え、去っていく。
 そんな二人を横目で見ながら、ルークは肩をすくめ、倒れた賢者を見る。
「少佐、殺ったのか?」
「まさか。そんな怪しすぎる奴、さっきの深淵の騎士と無関係な筈がないだろう。叩き起こして吐かせろ」
「・・・成る程、それもそうだ」
 それなりに不穏当なやり取りを済ませ、ルークは倒れた賢者の傍まで歩み寄る。手に抜き身のサーベルを持っているあたり、カルマが見たら
どんな顔をするだろうとレティシアは考え、そこでようやく仮面のプリーストの姿がどこにもない事に気付いた。
 ルークが合流した時にも顔を見せていない。彼が唯一の良心だというのに。
「ま、どこのどなた様だか知らんが、多勢に無勢。運が悪かった・・・な・・・!?」
 ぶち割れた樽の山の前で、ルークが足を止める。
 一瞬前には居た筈の賢者の姿が、そこに無かったのだ。
「テレポート・・・起きてやがったか!」
「ルークさん?どうしたんですか?」
「少佐、レティシア!散開しろ、仕掛けて来るぞ!」
 急いで飛び下がる白髪の騎士の背中が、レティシアとエスリナの視界から消える。
 突然沸いたように出現した霧が、彼を飲み込んだのだ。
「ルーク・・・っ!?」
 追って霧に飛び込もうとしたエスリナの前を、黒い刃が掠める。
 大剣だ。エスリナは反射的に刃を左手のガードで受け流し、身を捻らせて捌く。
 黒い大剣はそのまま斜めに振り下ろされ、地面を割って止まった。
 相手は・・・見るまでもない。
「昼間のコソドロといい、コイツらといい、今日は厄日か!?」
 石畳を軽く突き破った大剣を黒い全身甲冑の騎士は易々と構え直し、エスリナとレティシアの前に立つ。
 先程の雷撃で損傷したのか、甲冑も仮面もひび割れている。だが、その動きには微塵の鈍りもない。
「やはり魔術は決定打になりえん!撃て、レティシア!」
「は、はい!」
 言われるが早く、レティシアはクロスボウを連射する。正確に急所を狙った矢は、例え致命傷にならなくとも足止め程度にはなる筈だった。
 しかし、深淵の騎士はそれらの矢を手にした剣を両手で振るい、一太刀で弾き散らしてしまう。
 矢が、火花と共に折れ飛ぶ。
 返す刃で薙ぎ払われた剣を二人は左右に散って避け、各々の武器を深淵の騎士に向けて構える。
「矢も通じないだと・・・!?」
「少佐、下がりましょう!私達だけでは!」
「駄目だ!ルークを残して行くわけにはいかん!」
 叫びつつ、エスリナは魔術を構築させながら漆黒の騎士に杖の先端を向ける。
 騎士は大剣を振り上げ、エスリナとの距離を詰めるべく駆け出す。人間のそれとはかけ離れた、本来は騎乗兵である事を思わせな
い俊敏さである。
 そこへ飛び下がりながら放ったレティシアの矢が襲い掛かり、迎撃の為に足を止めた騎士にエスリナの術が炸裂する。
 激しい攻防が、夜の街に轟音を響かせた。
242名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/02/06(日) 01:07 ID:GWaf0o9Y
いますー>166たん
243('A`)sage :2005/02/06(日) 01:16 ID:rtFUJgfY
座談会参加しながら投下というのもアレですがこんばんは。
駄文投下です。

>>150さん
驚愕の事実が!・・・と言うほどでもないですが、やはり嬉しいものです。
続きも頑張ってください!

では、また。
244某所のおにごっこsage :2005/02/06(日) 05:23 ID:XPgvT5.6
うららかな陽気が世界を包む頃、プロンテラの西の草原、小高い丘。其処に俺たちはいた。
あたりは生命の息吹で包まれ、色とりどりの花が咲く。
丘の上にいるためか風が良く通り、頬を撫でていく。
プロンテラでは今頃桜が満開になっているはずだ。
「…………」「…………」
言葉無く、遠くの鳥の声を聞きながら酷くゆっくりした時間が流れる。
不意に彼女が立ち上がった。
桜の花びらに良く似た、綺麗な桃色の髪を風に揺らしながら伸びをする。
「あのね、今日お弁当作ってきたの」
「お、まじか」
「うん」
ごそごそと横に置いたカートを漁り始めた。いつの間に入れたんだ。
「サンドイッチと、紅茶」
再び俺の横に腰を下ろして大き目の木の皮で編みこんだバスケットの蓋を開けると、この季節に似合う色

とりどりのサンドイッチが入っていた。
「くっていいのか?」
「他に誰が食べるの」
「それもそうか。いただきます」
「どうぞ、召し上がれ」
恥ずかしそうに笑う彼女からひとつサンドイッチを取って口に入れる。
俯いたまませわしなく動いていた彼女の瞳が、俺を捉えて訊く。
「……どう?」
「いつもどおり、うまい」
俺の言葉を聞いてぱっと顔を上げて、嬉しそうに水筒の紅茶を注ぎ始めた。
随分、表情豊かになった。それが嬉しくもあり、寂しくもあり。
「どうぞ」
「ん」
これも程よく温かくてうまかった。
二人して、とんでもなく近場にピクニック。
こういう時間が好きなのはお互い様だが。
245某所のおにごっこsage :2005/02/06(日) 05:23 ID:XPgvT5.6
再び無言の時が流れる。
「…………」
紅茶を啜りながら遠く、桜の木をみていると彼女がもそもそと、俺の投げ出した足と足の間に移動してく

る。
「…………」
ちょこんと座ったそのままに、自分の分の紅茶を入れて飲み始めた。
何がしたいんだろう。
持ってきた弁当と紅茶もなくなって、ぼーっと二人で桜を眺めることが続いた。
「ねえ」
折っていた足を俺と同じように投げ出して、もたれる。
髪の匂いがやわらかくて、気持ちいい。
そんなことを考えていると彼女は首を俺の方に向けて言った。
「私がこうなれたのは、あなたのお陰なんだから」
恥ずかしいのか、ちらちらと俺のことを上目遣いで見ながら言う。
「それに、こんなに表情が作れるのも、あなたの前だけなんだから」
「…………」
「だから……」
ぼそりと何かを言ったが、聞こえない。
想像はつくけど、あえてもう一度言わせたいのが男心。
彼女を支えやすいように身を少し乗り出して腰に両手を回し、顎を彼女の肩に乗せる。
「だから?」
「だから……ありがとう」
えへへ、と桜色に頬を染めて笑う彼女は、俺が好きになった彼女そのものだった。
「こちらこそ、ありがとう」
その体勢のまま、日が暮れるまでそうしていた。


「マスターえろい! ももちゃんに腰を!」
「羨ましい……」
「お姉さん……かわいい」
覗きがいたことに気づいたのは、帰る頃になってからだった。
246某所のおにごっこsage :2005/02/06(日) 05:24 ID:XPgvT5.6
某所でおにごっこのお話を書いた人です。
宿題が出来上がったのでUPさせていただきました。
しょんぼり、萌えるかどうかも怪しいですが、読んでいただければ大変喜びます。
感想なんかもらえたら踊ります。
247('A`)sage :2005/02/06(日) 20:16 ID:rtFUJgfY
 世の中には、どうにもならない事が多々ある。
 今日の俺の夕食がペットフードだったりするのも然り、寝る場所もロクに用意出来てないのも然り。
 人情というものを何処か遠くに置き忘れてしまったこのミッドガッツという国では、貧富の差が生む様々な軋轢が、もはや
日常茶飯事になっている。
 物乞いやら身売りに身を落とす冒険者も多く、そのうち俺もそうなるんじゃないかと思いながらも、ただひたすらに朽ちか
けた看板を担いで露店に精を出す俺。
 既に日は落ちかけ、ただでさえ冒険者の少ないアルベルタでは、俺の並べた武器道具類を手に取る奴が居ない。
 この腐れた港町じゃ売れるものも売れやしない。首都辺りに行けば捌くのは難しくないが、いかんせん、俺の財布には驚く
べき事に船代すら残っちゃいない。

「あーぁ、やってらんね・・・」
 ささくれ立った木製のボロい看板を持ったまま、俺はカートの上に思い切り座り込み、潮風で湿気た煙草を咥える。
 やる気なんぞとうに吹っ飛んでしまっている。
 仮にやる気を出した所で、そもそも商売の相手が居ないのだから当然だ。
 俺は年季の入ったジーンズのポケットを探り、マッチを取り出した。
 ラスト一本。
 咥えたこの一本を吸い終えると、アルデバランに買えるまで煙草はお預けになる。
 血液の代わりに全身を煙が循環している俺にとって、致命的だった。恐らく、帰り着くまでマッチ棒を齧り続けるだろう。
 実に貴重な一服である。
 マッチを台車の側面で擦り、火を点す。
 夕暮れの港町に生まれた小さな聖火だ。俺はめくるめく恍惚に至るべく、それを煙草の先端に近付け・・・、
「ふぅーっ」
 突如として火が消えたのを見て、仰天する羽目になった。
 潮風とは明らかに異なる生温い風が、俺の聖火を木っ端微塵にしてくださったのだ。
 なんかこう、錆付いた金属音を発しそうな動きで、俺の首が横を向く。
「こんばんわ!」
 そこには女が居た。いかに夏場と言ってもうすら寒くなってきた時間に、やたらと布の少ない衣装を着た女だ。
 水着とさほど差異がない。俺はその衣装を見る度思うのだが、マジシャンギルドは何を考えてこんな術衣をデザインしたの
だろうか。誰かの趣味か。いや、それはどうでもいいが、まあ、良い趣味だと思う。
 ・・・とにかく、その女はマジシャンだった。
 プラチナブロンドと言うのだろうか。白銀に近い色の髪が、肩の辺りまで伸びている。
 澄んだ翡翠の様な瞳は悪戯っぽく細められ、やけに整った白い顔はやはり寒いのか、やや上気していた。
 文句のつけようがない美女ではある。正確に表現すれば、将来に美女になりそうな娘、という辺りか。
 残念ながら射程外である。俺はもっとミステリアスで大人な女性が好みだ。
「って・・・おい!」
「はい?」
「消すな!吸わせろ!」
 俺の第一声は、そんなものである。半ば、魂の叫びだ。
 すると娘は満開のヒマワリを思わせる笑顔で、言いやがった。
「煙草は嫌いです!」
 ・・・俺はきっと、みっともない顔をしていたに違いない。
 肉が食べたいと喚いている子供が、何の脈絡も無しに果物のジュースを突き出された時に同じ顔をするんじゃないかと思う。
 コイツは何を言っているんだ。
 何故、コイツが嫌いだからといって俺が喫煙してはならないのか。
 どこの誰が強行手段に出る権利を与えたのか。
 そもそも、コイツは誰なのか。
 どうでもいい、の一言に尽きるそれらの疑問を、俺は一切合財省略して言葉を搾り出す。
 相手をするのが面倒だし、腹が減っていた。

「・・・何か用か・・・?」
 疲労も言葉に滲み出るというものだ。
 一服を阻害されて腹立たしいのもある。が、それ以前に今日一日鬱憤だらけだったのが大きい。
「え、えと、売って欲しいものがあるんですけど!」
 世界中の不幸を一身に背負ったような俺の態度を毛ほども気にしていないかのように、マジシャンの娘は明るくさえずる。
「・・・ほお」
 何処からどう見ても大金を持っているように見えない娘である。冒険者を始めて日も浅いだろう。
 何を買うと言うのか、少し楽しみではあった。
「あのですねあのですね!・・・・・・これなんですけど!」
 いちいち叫ぶように喋るのは耳障りだ。
 そんな事を思いつつ、俺は力無く垂れた自前の蒼い髪を掻きながら、カートから立ち上がり、娘が手にしていた物を見る。
 それは、安っぽい風呂敷の上に並べた品の中で、群を抜いて小さな商品だった。
 貴金属製の耳飾だ。夕陽を反射して緋色に輝くそれは、いかにも年頃の娘が欲しがる物に見える。
「・・・イヤリングか」
 言ってしまえば、安くない。少なくとも、まだ何も知らなそうなヒヨッコ魔法士に買える物ではない。
 ただの装飾品ならいざ知らず、冒険者の間で流通している耳飾には特殊な魔力が篭っている。二つで一般的な結婚資金が
まかなえる位だ。
 多少の哀れみを込めた視線を向ける俺を、マジシャンの少女は期待に満ちた顔で見つめ返す。
 ・・・どうやら、価値を知らないらしい。
「お前、これが欲しいのか?」
「はいっ!」
「それより・・・こっちはどうだ?ポリンちゃんプープー人形だぜ」
 俺はおもむろにカートからポリンの人形(お世辞にも可愛いとは言えない)を取り出し、マジシャンの前でプープー言わせ
てみる。お子様に大人気の商品だ。
「・・・要りません!」
 マジシャンの娘は一瞬、なんとも言えない嫌な顔をしたが、すぐに思い切り笑顔で断言しやがった。
「これ、大人気なんだぜ・・・」
「これが良いんです!」
 あくまで人形を薦める俺に、マジシャンはイヤリングを突き出す。最近の若い娘は我侭でいかんね。
「やれやれ・・・それ、いくらか分かってんのか・・・?」
 ぶるんぶるんと首を振るマジシャンの少女。それから、馬鹿みたいに上気した笑顔を俺に向ける。
 というか、馬鹿なんだろうな、この子。
 よく今まで生きて来れたと感心する。よほど魔法士として優れているのか、単に運が良いのか。驚嘆に値する。
 背の高い方である俺の見下ろす視線と、まだゴミチビの少女の上目遣いな視線が交差する。
 しばし考えた末に―――俺は、イヤリングの値段を告げた。
 途端、マジシャンの少女の笑顔が凍り付き、徐々に崩れて、この世の終わりを思わせる悲壮な顔になっていく。
 無邪気に、純粋にただ欲しかったのだろう。これくらいの年頃の娘にはありがちだ。
 ・・・世の中には、どうにもならない事が多々ある。
 ポリンちゃんプープー人形があまりに売れないのも然り、この少女がイヤリングを買えないのも然り。
 世の中は決して甘くない。ギブアンドテイク。見合う代価を払わなければ、ペットフードで、野宿なのだ。


 俺はしょんぼりしながら去っていくマジシャンの背中を見送りつつ、そんな事を思い、咥えたままの煙草に火を点けるべ
く、よれたワイシャツの胸ポケットを探る。そして、
「・・・ふぬあ!?」
 思わず間抜けな声が出た。
 マッチ箱の中身が、空だったからだ。
 煙草だけでなく、マッチも吹き消されたのがラストだったらしい。
 周囲に人気は全くなく、一刻を争った。
「悪ぃ!そこのマジっ娘!」
 俺は煙草を咥え、やはりみっともない顔をしていたんだろうと思う。
 マジシャンの少女は涙目で俺を振り返った。何も泣く事は無いと思うが、まあいい。今はそれどころじゃない。
「火ぃ貸してくれ!!ファイヤーボルトくらい使えるだろ!!」
 両手をぶんぶん振って叫ぶ俺に、少女はなんとも阿呆な泣き顔を見せてくれたものだ。
 マッチ代わりにされるとは、普通は思わないだろう。それでも、冷やかした負い目があるせいか、それとも根が真面目なの
か、マジシャンの少女はトボトボと引き返してくる。
 俺はといえば、世の中はギブアンドテイク。タダで火を借りるつもりはない。代価を手にし、少女の方へ歩き出す。

 
 分かりきっていた事だったが、
 夕暮れの中でイヤリングを着けたマジシャンの少女は、軽く惚れそうなくらい綺麗だった。


 まあ、ポリンちゃんプープー人形は買ってくれなかったが。
248('A`)sage :2005/02/06(日) 20:18 ID:rtFUJgfY
今晩は、宿題を提出します。
何か色々と反省点がありますが・・・短編初投下なのお許しを。

では、また。
24993@宿題sage :2005/02/06(日) 21:36 ID:GWaf0o9Y
 それは一見すればただの商売…、単なる商品と代価の遣り取りのように見える。違うのは、それが日の当たる表通りでは決して出来ない商いだということ。そう、実の所、ミッドガルズ広しといえど、それは組織の手を通してこの街でしか扱われていない特別な“商品”だった。
 青年は眼鏡にかかった前髪を物憂い仕草で払うと、俯いたまま手元の金を数える。たったいま、私が渡したばかりの端金だ。それが、彼の労働への代価。組織をその見えざる手で覆う、冷たい経済原理という怪物に弾き出された彼の値段だ。それはたったの800z。
「……毎度ありがとうございます。もう、お帰りですか?」
 私はすぐには答えない。ただ眺めているだけの私にとってはそうでなくとも、働く当人にとってはさぞ辛いだろう奉仕から、慈悲深くも青年を解放してあげるべきかどうか。解放してやれば、彼は私がまるで慈愛に満ちた女神であるかのように目を輝かせて感謝するだろう。あるいは、笑顔で一言告げるだけで、青年に同じ苦行を課し続けることも出来る。彼は女主人に従う家僕のように諦めきったため息をついて、今まで同様、払った金額の間だけ私の意のままに奉仕するだろう。どちらにせよ、すぐに決断を見せるのは、面白くなかった。ちょっとだけ、彼を待たせてやっても悪くはない。
 誰がこの場の支配者かを示すべく、無言のまま彼だけを避けて周囲を見渡す。そうすると、嫌でも彼以外の別人物が目に入り、すぐに、私はその“女王様のような”気取りを後悔した。
「…なにか、彼のサービス以外に組織へご用命ですか?」
 口の端に嫌な笑いを浮かべた女。青年と揃いの眼鏡をかけた女は、まだ若い。冬場、運河沿いに立つこの石造りの建物は冷え込むのだが、そこで膝上までの短い長衣一枚で過ごして平気なくらいには。あるいは、平気な振りをできるくらいには若い、というほうが正確だろうか。女の私にとっては何の意味もないが、その肉感的な脚線は、組織で彼女が階段を駆け上るためにはさぞ有力な武器だったことだろう。
 この女が青年の上司だ。つまり、青年の収入はこの女の組織での評価に繋がる。私の払う金はこの女を潤すわけだ。そして、未来永劫…、私が欲するものを得るためには、この女に支払い続けねばならない。青年が私の下僕だとすれば、私は組織の奴隷だった。
 そんなことはわかっているのに、私はこの組織から逃れられない。もっとも、逃げ出すつもりも無いのだけれども。組織の与える苦い毒と甘い毒は、アルベルタの田舎育ちだった私もたった数年ですっかり染め上げてしまった。青年の助けを求めるような上目遣いが私の背筋をぞくぞくさせる。意識して、思い切り甘ったるい声を出した。一縷の望みに縋った彼の絶望の表情を賞味するために。そして、自分も組織の定めから逃れる術などないのだと諦めるために。
「いえ…、もう少しお願いしようかしら?」
 もうすっかり御馴染みになった遣り取りに、青年はため息をつきながらも細い指先を優雅に操る。すっかり見慣れた手つき。このためだけに特別にしつらえられた薬品棚と私の前を、青年は幾度も幾度も往復する。彼の触れた指先で、触れられたモノが擦れてかすかな音を奏でるのを、私はうっとりと聞いていた。別の夜には、他の誰かにも彼はそうやって奉仕するのだろう。けれども、今だけは私のもの。私の支払う端金が彼の主人だ。
「いつものように?」
 ため息交じりの彼の声。私はそれに意識して軽く頷く。組織の定めた決まりは覆せないのだから…、諦めてどうにか楽しみを探すしかない。そうでしょう?

 私が彼を解放したのは、青年の手が超過労働に引き攣りだしてからだった。乳鉢を一つづつ棚に保管し、百単位でなければ販売を許さない、などという馬鹿な決まりを、ギルドの誰かが作った理由は知らないけれど。
 私という商人が支払う時間と金銭以上の物を得られない商売下手だ、などとは誰にも言わせない。
25093@宿題sage :2005/02/06(日) 21:44 ID:GWaf0o9Y
燃えでも萌えでもない気がする。改行してないから醜い。ごめんなさい。
某ケミギルドにむしゃくしゃしてやった。いまもむしゃくしゃしている。

>追いかけっこ、('A`)さん
 早いですね…。こうして並べると、描写量の多い少ないは脳内妄想で保管できるのだなぁ、と実感。
追いかけっこの人の方は、少ない情報で脳内に情景を描く楽しみが。('A`)さんのは、一人称での
視点描写で、間接的に主人公自身も描写しているテクニカルさが。
 わが身に照らして非才を嘆きつつ、企画を承諾してくれた皆様に多謝。

 座談会のログは、関係者からの異論が無ければ、整理してどこかに置きます。
25193@宿題sage :2005/02/07(月) 01:32 ID:v0HsIlSE
ものすごく遅れて、ケミつくったこと無い人向けに補足。
ケミギルドで、ポーション製造に必ず使う「乳鉢」というアイテムを売ってくれるのだが、
アイスと同じように個数指定で、100までしか一度に買えないのです。
正直、足りません。というお話です。
252PB@宿題sage :2005/02/08(火) 01:31 ID:7AMxehcI
宿題、いっきまーす。゜`( ・ω・)ノ
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
シャッター・ウォーズ 〜SS帝国の逆襲〜

「HEY、そこの黒髪がチャーミングなスイーツハニー! そのままこちらを向いておくんなまし」
 呆れ返るほどセンスに欠けた台詞。今時街中でこんなことを言う知人は一人しかいない。
 頭にバンダナを巻いた男のファインダー越しに、身軽そうなシーフ装束の彼女が近づいてくる。
「そうそう、いーねいーね〜。あー、ちょっと近……って近すぎ! 寄りすぎ! 何をすポアッ!?」
 王都住宅街境界の塀の上に腰掛けていた、鍛冶師特有のラフな服装をした男は、塀の内側にド突き落とされてしたたかに腰を打つ。
「昼の日中仕事中に呼び出しておいてなーにをするのかと思ったら……説明してくれるわよね?」
 男の開襟シャツの襟首を掴んで起した彼女は、案の定ひきつった笑顔。
「OK落ち着け姐者。そもそも古今東西美しいものの姿を永久に留めたいと言うのは人間誰しもが抱く自然な欲求だろう? そこで! 誰もが振り返る君の美貌を後世に伝えるためにここは心機一転、名SS師を志そうと――」
 歯の浮くような台詞を抜け抜けと並べ立てる、それがこの男クオリティ。
 だがそんなものに頬を染めて懐柔されるようなウブな相手でもなく。
「言っておきますけど、お世辞やウソが通じるほど浅いつきあいしてきたとでも思ってるの?」
 お空は良く晴れ渡っているのに、彼女の周りは魔剣でも『こんにちは♪』して出て来そうなほど暗黒空間。
 浮いた奥歯をケツから手突っ込んでガタガタ言わされそうな凄味を出されては、流石の男も二の句を失うというもの。
 ふと地面に目を落とすと、男のポケットから落ちたのであろう、一枚のカラフルなパンフレットが落ちていた。
 そのパンフレットには、上目遣いでこちらを覗き込む可憐な少女のイラストの上に、豪快且つハイテンションな筆致でこう大書されていた。

  『第一回萌えSSコンテスト、満を持して大・開・催!!』

  『真実を写す俊才達よ! 世紀の萌えの瞬間を見逃すな!!』

  『お題:「上目遣い」 一等賞はなんと壱〇〇M!!』

「なにこれ……」
 限りなく胡散臭いそれを見て、今度は彼女が言葉を失った。
「あー、それそれ、それね。ゲフェン塔で会合する変人たちの中に、モ・エイターSS委員会というマイナーなSS(スクリーンショット)愛好家組織があってだな」
 SS(スクリーンショット)とは、冒険者に登録された者が標準で装備している専用機器によって撮られる、ぶっちゃけて言えば写真のことである。
 しかし萌えの瞬間などと煽りながら、お題は『上目遣いSS』限定――嗜好が偏りすぎである。偏向しすぎて政治家に怒られてしまいそうな内容だ。
「百メガもありゃ借金返して店舗付きの家を買ってお釣りが来る金額だろ? ましてやニ・五メガなんて言うにゃ及ばねえってもんだ。そーこでコケティッシュさでは専門家の間でも定評のある姐者に是非協力を仰ごうと――」
「信じちゃったんだ」
「What?」
「こんな誰でも作れるようなチラシの、金額に単位も書いてない賞金に目が眩んじゃったんだー」
 顔を上げたその表情は、もうあまり怒っていないように見えた。むしろ哀れみすら含んだような苦笑いを浮かべている。
 どうやら怒っていなさそうなことに調子をとり戻して男は続ける。
「そりゃまあ、確かに胡散臭いのは俺だってよ〜くわかる! けどまあ元手はロハみたいなもんだしここは一発ダメモトで――」
 “元手はロハ”のくだりで、何かがプツンと切れる音がした。

「ダメモトで――――晒し者にされてたまるもんですかこのごっついバカァァーーッ!!」
「スマンロハ違うぷらいすれニブルッ!?」

 カートごと空を舞いながら、男は死者の国を見たそうな。
253PB@宿題sage :2005/02/08(火) 01:31 ID:7AMxehcI
「というわけで見事につむじ曲げちゃったわけなんだわ、カリンのやつ」
 いつものように騒がしい夜の酒場の席で、タハー参った参ったと管を巻く鍛冶商人アルに、ギルドメンバー達の非難が集中した。
「それは、流石にアルさんが悪いですよ」とは今や神速剣を以って鳴らす赤毛の騎士ハリー。
「先輩のいうとーりですよ! お兄さん女心わかって無さすぎ!」その剣士時代後輩の聖堂騎士見習い、レナータが栗色の髪を揺らしながらむきになって続けた。
「随分軽率な振る舞いをしたもんだな。怒られて当然だ」その美しく長い青髪の見た目どおり、冷静沈着を以て知られる聖堂騎士のセリアですら、節目がちにアルをたしなめる。
「いつものことじゃないか。まあ、お前ららしいっちゃお前ららしいが」ウィザードにして放浪癖持ちギルドマスターのレイズが、他人事のように言い放つ。確かに他人事ではあるが。
「ますたー、コロンさんもう少し遅れるって」「あいよ」
 その差し向かいに腰掛けたのは、頭に黒猫を乗せた、でこ出しプリーストのクリストフ。話題には乗り遅れたようだ。
 彼の寄越した報を聞いてハリーはかすかに落胆して杯を置き、逆にアルから例のパンフレットを見せられていたレナータはリンゴジュースをぐい飲みしながら勢いづいた。
「うわっ、本当に胡散臭すぎですけど確かに駄目元で出してみたい金額かもッ! ねえせんぱーい、ここはお一つわたしをモデルにどうですかぁ?」
 無い胸を某海賊名の乳タレント二人組(古)のように強調しながら、鬼ならぬ恋仇の居ぬ間に洗濯とばかりに、隣のハリーに上目遣いで品を作る。
「ちょ、ちょっと、お酒こぼれちゃうよ。それに俺はそういうの興味ないから、ゴメン」
 えー、うそー、いけずーと悪酔いして絡みつくレナータを、潮時だと判断したセリアは首根っこを掴んで引き離した。
「はれ、姉上さま? わらしと一緒に応募しまふかー? 優勝まちがいなしれすよー」
 根拠の無い自信できゅふふふと笑うその右手の杯からは、強いアルコールの匂い。
「――すまん、ちょっと頭冷やさせてくる」「おつー」
「ああんせんふぁい、おいてかないれ〜」
 呂律の回らない後輩をずるずると引きずりながら、セリアは一時退場を余儀なくされた。

 すかさず空いた席に、遠慮を微塵も見せずにどっかと座り込んだ者を、残された男たちは一斉に注視する。
 つば広のテンガロンハットをかぶり、風雨に擦り切れたそのマントはまさに吟遊詩人の物。
 オリデオコン・コーティングを施された年代物のギターを抱えながら、やにさがった笑みを浮かべる。
「いよう、話は聞かせてもらったぜアルフレート=ラメロウ。こいつは物語的に俺様捲土重来チャンス到来って展開だな。違うかい?」
「あーっ、お前は――」
「ホークさんおひさー」「ややっ、こりゃどーも」「駆けつけ一杯いっとけ」「かたじけない。ああ、これコモド土産の貝殻チーズケーキね」「いつもすまんな」「フッ、お気になさらず」
 アルは自分以外のギルメンと溶け込んで談笑する男――かつてカリンを巡った恋仇(といっても一方的な物であったが)であるバードに向かって指差した。
「何しに来やがったホークアイ!」
 闖入詩人はおもむろに振り向くと、形の良い口ひげを捻りながら余裕たっぷりに微笑んだ。
「ご挨拶だなアルフレート。何をしに来たって? 決まっている、君を笑いに来たのだ」
「そんなに俺って面白いか!?」
「ああ、お前さんの振られ姿を見下すのは最高だね、プゲラッチョ南無 括弧 笑い 括弧閉じ」
「まだ振られてねぇぇぇッ!!」
「ジャスタモーメン、時間の問題ってところだな」
「ウハハハハのハ、な〜にを仰いますことやら? このミッドガルド一のイイ男にそんなことあるわけが――」
「ではいいものを見せてあげようか」
 脂汗を流しながら抗弁するアルを相手にせず口笛を一つ吹くと、ホークは指を高らかにパチンと鳴らす。
「冷水をお願いしたいのだが」
「はーい、ただいまー!」
 満席を占める客の殺到する注文の嵐の中を掻い潜って、くるくると働いていたおさげのかわいらしいウェイトレスは、ホークの前に並々と水に満たされたグラスを運んできた。
 が、その席にあと三歩ほど近づいたところで、壁に立てかけられたギターに躓いてあわや前倒しに転びかけたところを、ホークに抱きとめられて大事に至ることは無かった。
「怪我はないかい、レディ?」
「はいっ、あ、ありがとうございま――ああっ! 申し訳ございません! お客様のお召し物に水を……」
「ノープロブレム、君が無事ならば大したことじゃないよ」
「そっ、それでも申し訳がつきません、せめて弁償を……」
「そうだな、どうしてもというなら弁償の替わりに、SSを一枚撮らせてくれないかい?」
「え、ええっ!?」
「ああ、別に変な意味じゃない。そのままの姿でいいんだ」
「こ、こうですか……?」
「そう、ああ思ったとおり良い絵だ。ご協力感謝するかわいらしいレディ」
 ホークが俯き加減にこちらを見上げているウェイトレスをSSに撮り終えると、彼女は熱に浮かされたような顔をしながら、頻りに頭を下げてカウンターに戻っていった。
 アル以外の三人はその気障過ぎて鳥肌の立ちそうな一部始終を、呆気にとられた顔をして見守っていた。
「どうだ、わかったか? アルフレート、見ず知らずの彼女からさえこうして『上目遣い』SSをゲット出来る俺と、連れ合いからそれ一つ取らせてもらえない今のお前の差を」
「くっ! なんでえそのぐらい! 俺だって!! おーい、姉ちゃんお水プリーズ!!」
 アルが真っ赤な顔をしてカウンターに喚き散らすと、時をおかずしてオークレディが盆を持って現れた。
 いや、失敬。どうやら少々体格がよろしいだけの人類、しかもこの店のウェイトレスのようである。
 彼女は飛沫が散るぐらい勢いよくアルの前に水を置くと、ギョロリと見下ろしざまに睨みつけた。
「……他にご注文は?」
「あ、ああ、これだけで結構……サ、サンクス健康美に満ちたレデイ。奇遇なことに俺って安産型も超タイプ」
「アンタみたいなのは趣味じゃないよ。女口説くならよそ行ってくんな」
 “ふん”エモを出しながら、大股で不機嫌そうに去っていくウェイトレス。
 無理して吐いた台詞をけんもほろろにあしらわれ、精神的に叩きのめされて頭を卓にぶつけるアル。
「アルさん、しっかり!」
「こりゃ積んだな」
「どう見ても勝負はあきらかですねぇ」
 ニヨニヨと勝者特有の笑みを浮かべながら、ホークはアルコールで舌を潤しながら続ける。
「所詮女心もわからず技巧も持ち合わせないお前さんは、カリン嬢と出会ったのが早かったと言う事実のみに胡坐を掻いているのに過ぎないのだよ」
 しばらくはその事実に打ちのめされ、卓に両手を突きながら俯いていたアルであったが、
「まだだっ! まだ勝負は終わっちゃいねぇッ!!」
 がばっと起き上がるとホーク目掛けて指をさした。
「聞けぃホークアイ!! コンテストの期限は明日の正午! それまでに必ず目当ての物をゲットしてくるぁあ!!」
「さっすがアルさんだ!」
「往生際の悪いところが、な」
「ほー、まだやりますか。若いっていいですねぇ」
 ギルメン達の無責任な感想に目もくれず、アルは卓上の全てのビールを胃の腑に流し込むと、わけのわからない雄叫びを上げて勢い良く酒場から飛び出していった。
「OKOK、骨は拾ってやる。せいぜい頑張んなー」
 ホークはそれに追い討ちを掛けながら、運ばれてきた料理に舌鼓を打っていた。
「――敵に塩を送るのがあんたの流儀ってやつか?」
 レイズが窓越しに夜空を眺めながら問いかける。
「んん? 何やら誤解があるようだが、俺はそこまで回りくどい性格はしていないんでね。今やりたいことがやるべきこと、それだけが漂泊の渡り鳥の信条だ。だから今回もあいつを笑いに来た以外に他意はない」
「そういうもんかね」
「そういうことにしておいてくれると助かります」
 渡り鳥は幾許かの紙幣を卓に置いてひらひらと手を振ると、バーボン片手に他所の卓に乱入していった。
254PB@宿題sage :2005/02/08(火) 01:32 ID:7AMxehcI
「だーかーらー、あいつってばあたしのこと一体何だと思ってるのかっての!」
 いつものように騒がしい夜の酒場の席で、管を巻く女の怒号が木霊する。といっても先ほどの舞台の店ではない。
「わかったわかった。わかったから少し落ち着こう、な」
 あの後、結局酔って泥酔してしまったレナータを宿に運んだ際に捕まってしまったのが、クルセイダーセリアの運の尽きである。
 普段は滅多なことで愚痴ることのないカリンであるからして、珍しく火を噴くような剣幕で鬱憤を捲くし立てる彼女の姿に、“氷壁の重騎士”の異名をとる流石のセリアも圧倒される一方だ。
「だいたいあいつは、かっこつけてるくせにいーっつもムードもへったくれもないのよ! 馬鹿でスケベで単純で軽薄で――」
 矢継ぎ早に放たれる酷い言われ様に、セリアは苦笑いしながらただ聞いているしかないが、とどのつまりはのろけの裏返しに他ならない。
「デリカシーはないし、親父ギャグばかり言うし、クサい台詞は外すし、金儲けは下手だし、胸フェチだし――」
「おいおい」
「布団は上げないし、服は畳まないし、灯りは消さないし、穴開いた靴下でも履くし――」
「そんなに嫌なら別れたらどうだ?」
「はぇっ!?」
 それまで大人しく相槌を打っていたセリアが反撃をしてきたことに驚いて、カリンは目を丸くする。
「別れるって――ふ、ふん、あたしは別に構わないよ? ただあいつがどーしてもって言うから付き合って上げてるだけで」
「ほーう。……ならば私が彼を戴いても構わない、というわけか?」
「えええっ!? セリアあんなのが趣味なわけ!?」
 自分が付き合ってる男に対してあんなのとはないだろう、とセリアは思わず噴き出した。
「お前の評価の本当のところは知らないが、彼は言うほど人気がないわけでもないぞ? この間もそわそわした様子の商人の子から彼について色々聞かれたしな」
「うそ……」
 先ほどの調子はどこへやら、所在無げに視線を落とす相手を見て、セリアはらしくもなく悪戯な笑みを浮かべた。
 今まで散々惚気た愚痴を聞いてあげたのだ。これぐらいしても罰は当たらないだろう。
「そういうことだから、そんなに嫌だったら安心して別れてくれ」
「ちょ、ちょっとあんたらしくないじゃない。冗談でしょ? もしかして酔ってる?」
 普段気丈なギルメンが慌てふためくのを見るのもなかなか趣があるな、と、
「ご存知の通り、私はウソが大嫌いで酒は一滴たりとも口にしていないが?」
 心の中で冗談と嘘を意図的に取り違えたことを神に謝しながら、それでもこうやって相手を弄るのはやめられないものだ。
 あーとかうーとか言葉にならない呻きを発しながら頭を抱える逃げ道を失ったシーフに対して、鉄壁の聖堂騎士はここらへんでいいかと矛先を変える。
「だいたい、ムードやロマンチックを相手に求めているようだが、そういう自分はどうなのだ? 魚心あれば水心とは言わんが、端から見ててお前も相当、はすっぱな跳ねっ返りだぞ?」
 なまじっか容姿やスタイルは良いだけにな――と自分の職装とは正反対にボディラインの露出した衣装を見つつ、同性ながらも沈着な評価を下しながら顎に手を当てる。
「死語で言うとお転婆」
「お転婆っていうなっ!」
 たしかに言われた通りだとはカリンも自覚してはいるのだ。
 しかもそれを言われた当の相手が、男装と余り変わらないと言われるほど重装備で身を固め、男言葉を使っているにも限らず、その立ち居振る舞いと気品で性別問わず一定の人気を集めているのだから更に気が滅入る。
「まあ、それは置いておくとしても、彼だって理由が無くああいう行動に出たわけじゃないだろう。お前を被写体に選んだのだってそうだ」
「そうかな……、ただ単にお手軽だからじゃあ」
「この金額ならば駄目元で出してみようという気持ちもわからんでもないし、何より彼は目的を持って挑戦しようとしていた節があるじゃないか。詳しくは知らんが」
 目的――そういえばなにか言っていた。

『百メガもありゃ借金返して店舗付きの家を買ってお釣りが来る金額だろ? ましてやニ・五メガなんて言うにゃ及ばねえ』
『ましてやニ・五メガなんて言うにゃ及ばねえってもんだ』

「それだ」セリアは手を打った。
 ニ・五メガ。ある冠婚葬祭の儀に必要とされる総額費用と同じ金額。
「えっ、えっ! ええっ!? ちょっと待って。それってどういう?」
「ふむ、それでは吉日に教会の開いている日を調べておこう。そうだ、祝儀に欲しい物などあるか?」
「ちょ、ちょっと待ってよぉ〜」
 心の中で舌を出しながら淡々と事務的に言葉を放つセリアの前に、カリンはさながらオーバートラストしたかの如き顔色をしながら情けない声を上げた。
255PB@宿題sage :2005/02/08(火) 01:32 ID:7AMxehcI
 応募締め切りの正午は過ぎ、コンテスト第一回発表の日がやってきた。
 ここは四大属性に深い関わりを持つ魔法と冶金の街、ゲフェンの中央に聳え立つゲフェン塔の二階。
 普段の日中ならば、ウィザードギルドに用のある者ぐらいしか通らないこの階層は、壁に飾られたSSを見に訪れた人々によって賑わっていた。
 イベントの内容からして当然成人男性が客層の多くを占めるが、中にはカップルで来て楽しんでいる者達も見受けられる。
 彼らの一番の注目は何より、正午に予定されている一等賞獲得者の発表だ。
 当然、アル達の所属する古株冒険者ギルド『浮雲旅団』の面々も、それを目当てにこの数寄者イベントの会場に訪れていた。
「アルさん、壁に張り出されていないってことは、入賞してる可能性もあるってことですよね!?」
「チッチッチ、かつて“アルベルタのシノヤマ=テンメイ”と呼ばれたこの俺様にかかれば朝飯前のことだよハリー君」
 相変わらず出まかせに裏打ちされた根拠の無い自信で天狗になりながら高笑いするアルに、すかさずレナータがしがみ付く。
「シノヤマなんとかってのは知りませんけど、受賞したら何か奢ってくださいねお兄さん♪」
「取らぬ狸の皮算用だぞ、レナ」セリアがそれをひょいと猫の子のように摘み上げたところに、クリストフが戻ってきた。
「しかし本当に壁に展示された中にアル氏の作品はありませんねぇ。こりゃひょっとしたらひょっとするかも」
「あー、気分悪い。ちょっと外の空気吸ってくる」
「あ、私もご一緒します」
「じゃあ僕も――」「先輩! あっちにすっごいのありますよ! 来て来て早くっ」「あああ…」
 レイズとコロンが出て行った後を追おうとするハリーは、敢えなく軽装鎧娘に捕捉されてしまう。
 正午近くなるとさらに会場の人数は増え、ただでさえ狭い会場はイモ洗い状態だ。
「アル、間に合ったということは、あの後撮影の許可をもらえたということだよな?」
 セリアが確認するように聞くと、アルは何故か少し間を置いて答えた。
「―――あたぼうよ。そうでなければわざわざここいらまで来るわけないでわないか」
「それもそうだが、な」
 そう聞かされても、当のカリンの来ていない現状に、セリアは一抹の不安を拭えなかった。
「発表始まりますよー」
 発表は順次呼び出し形式ではなく、中央正面に設けられたブースに五位以上の正規賞とユーモア賞等の特賞が展示される。一等賞だけは特別に授賞式があるとのこと。
 そして時計の針が正午を指す。
 会場にいる者たち全員が揃って固唾を飲んで見守る中、発表ブースにかかっていた幕が取り払われる。



「もー、だから出したくなかったのに〜」
 ここはギルドの集会場になっている郊外の空き地。既に夕日が地平線にさしかかろうとしている。
 カリンが頭を抱えているその後ろで、アルを囲んだギルドメンバーたちが腹を抱えて笑っていた。
 結局三位以上にアルの提出した作品はなく、特賞の中の『バカップル賞』の上にその名は並んでいた。
 それもその筈、SSに写っているのは、ぎこちなく俯きがちにこちらを見つめているカリンの姿と――
 その隣、いかつい形相で目を三白眼にしながらこちらを覗きこんでいるアルの姿が写しこまれていたからだ。
 やや首を傾げて粋がるその様子は、上目遣いなどより『ガンを付ける』『メンチを切る』と言ったローグの得意とする威嚇姿勢に近い。今にも「やんのかゴルァ!!」という啖呵が聞こえてきそうである。
「アル、お前明らかに邪魔。てかウザッ」レイズが汚いものを追っ払うように返却されたSS上のアルに対し手を払う。
「お兄さんたら本当に出たがりなんだから〜」レナが横目でつんつん肘打ちする。
「うーん、作品の価値を一人で台無しにしていますねぇ。嗚呼勿体無い」あとで除去作業しますか、などとぶつぶつ呟くクリストフ。
「え、えーと、これはこれで男らしくてかっこいい……と思いますよ?」コロンの言ってくれるお世辞もなかなかに無理があって辛そうだった。
「アルさん……なんでこうなっちゃったんすか?」
「だって仕方無かろ〜!? 一人で衆目に晒されるのは嫌という恥ずかしがり屋さん♪なあいつの意を汲んだこの俺様の広大無窮な愛の証とも言うべき代物じゃまいか!!」

「「「こっちの方が一人より絶対恥ずかしいわ!!!」」」

 一人を除いたその場全員の心が一つになった、記念すべき瞬間である。

「期待の大型新人発見しやしたぁ!」
 唐突に背後の無人空間から声がした。
 立ち上がったレイズがサイトの呪文を唱えると、魔法の灯火の下、Wis発信機を手にした一人のローグが燻り出されて姿を現す。
 しかし同時に、Wisを聞きつけたであろう悪漢風の男たちが次々と黄昏始めた広場に踏み込んできた。
「おいおい、穏やかじゃないな。なんだお前たちは」
 一応リーダーを押し付けられているレイズが上げる誰何の声に対し、悪漢たちは口々に奴だ、拉致っちまえ、ヒャッハーなどと物騒なざわめきで答える。
 さては例のイベントでカリンを見初めたどこかのローグギルドが強硬勧誘手段に出たものと推測し、アルはカートから取り出した相棒の大金槌を構え、カリンを護るように立ち塞がった。
「ドントウォーリー、お前は誰にも渡しゃあしないぜ」
 ちらと振り返り際に臆面もなく颯爽と言い放つ、男の言葉のスタン効果は夕風に乗せた奇襲攻撃にも似て。
「アル……?」
 乙女心は思わずもうキュンキュン。
「ぃよーう鋲付き革ジャンの似合う兄貴たち!! 遊ぶなら私も混ぜてくださいな!!」
 アルが大見得を切って擬似プロボックの効果を狙うと同時に、各々武器を構えたギルメンたちから、各種能力向上スキルの発動音が木霊する。
 多勢に無勢とあれば単体における俊敏戦闘を得意とするカリンやハリー、レナータには分が悪い。
 耐久力一番のアルに狙いが集中し、ポーションがぶのみで持ちこたえている間に、レイズが大魔法詠唱を完了を済ませればまずこちらの勝ちだ。
 が、しかし。
「ウッース!!」「こちらこそ!!」「夜露四苦ゥゥッ!!」
 アルに向けて口々に返答したローグたちは、
「……へぁ?」カリンには目をくれず、
「のわぁっ!? ななな何ですかー!? いくら俺がシンジョー似だからって満塁ホームラン打者と人違いはないでしょおぉっ!!?」
 アホ、いやアルを胴上げ状態にすると、わっしょいわっしょい言いながら意気揚々と引き上げていく。
 ポカーンと開いた口が塞がらない面々に対して、その場に一人残っていたリーダー格であろう、貫禄と威風を備えた中年ローグが慇懃に口を開き、豪快に言った。
「いやいや、スカウトにご協力頂き感謝する。彼のような気合の入ったメンチの切り手は昨今ではなかなか貴重でしてな。なあに、鍛冶師でも悪党業は出来ないこともなし。どうしてもというなら初心者からやり直させますよグワーハハハハハッ!!」
「あー……、まあいっか。でもあんまり嫌がるようなら帰してあげてね」
 レイズのやる気の無い言葉に親父ローグは快諾すると、うろついていた野良ポリンを抱えてどこかにインティミワープしていった。
「何なの、この展開――」
 カリンは肩を落とし、一番星がケタケタ笑っている宵空を力無く見上げた。
256PB@宿題sage :2005/02/08(火) 01:33 ID:7AMxehcI
 ちなみに一等は誰だったかというと――。
「『浮雲旅団』所属のクルセイダー、『セリア=ラファール』さんでSSタイトルは“たまにはいいでしょ猫気分”。おめでとうございます!!」
 ブース中央に掲げられたそのSSには確かに青く艶やかな髪をたなびかし、普段つけているヘルムの替わりに黒い猫耳のヘアバンドをつけながら、おずおずとこちらを見上げているセリアの姿が映っていた。
「だ、誰だっ!! 私に無断で撮って応募した奴は!!?」
 満場の拍手と口笛とギルメン達の驚きの中、セリアが怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら怒鳴ると、そのすぐ横で手が上がった。
「ほいほーい」のほほんとした顔のクリストフだ。
「一体何時の間に!? 全く気づかなかったが!!」
「以前レナータさんに無理矢理つけられた時にですねー。わかりやすくお見せしますと、ぽちっとな」
「ナぁ〜ゴ」 ウィーン……ジー……カシャ!
 彼が頭上の黒猫の、後頭部に垂れた尻尾を引っ張ると、間の伸びた調子で一声鳴いたその口の中から丸いレンズが露出した。
「高級頭装備は伊達じゃない、なんてね。ああ、安心してくださいな。賞金は貴方のものですから。ぐらっちぇ」
 公衆の面前で、糸目に猫口な邪気のない表情でサムアップされては怒りをぶつけようにもぶつけきれず、そんな折も折。
「えー、それでは一等賞品、“百M(ミート)”を受け取っていただきましょう!」
 司会の言葉に、注視していた観客たちが一段とざわめいた。
「受け渡しはプロンテラからわざわざお越しいただいた肉商人こと“お肉マン”さんにお願いしています」
 司会の横に現れた金髪の髭親父が、巨大な肉切り鋏をばっつんばっつん開け閉めしながら怒鳴り散らした。
「くぉら冒険者なら乳ばかり飲んどらんと肉食え肉ぅー!! この媚肉どもがぁぁっ!!」
 さらに百個分の肉入りカートが乱入してきて会場はギャーワーヒーの阿鼻叫喚。
「……逃げていいか?」
「仕方ありませんね。私が代わりに受け取っておきますよ、おにく」クリストフがマイペースに答えた。
「いや要らないから」
 女聖堂騎士は廃一次職をいぢめすぎた罰なのかもしれん、と空しく天を仰いだ。


 〜エピローグ〜

 それから数日後、相変わらず良く晴れたプロンテラの大通りに、よれよれにやつれた一人の男が帰ってきた。
「はひぃ、ほひぃ……、プ、プロンテラよ、私は帰ってきたぁっ! あー腰痛ぇ」
 その声はローグギルドに文字通り拉致されていた鍛冶商のアルのものだ。
 着ていた白いシャツは破れ過ぎて原形を留めておらず、ジーパンも膝から下が無くなっており、足にはペコペコから奪ったサンダルを辛うじて履いている程度。目には防砂用のダイバーゴーグルをつけている。
 薄茶けた黒色をしていた髪は赤焼けし、砂漠の熱風に揉まれてぐしゃぐしゃに逆立っていた。
 そのあまりに酷い変わり果て具合に、元はブラックスミスの格好だったと誰が判別できようか。
 王都に帰り着いて人心地を取り戻した彼が、一服しようと煙草に火を付けたのが命取りだった。
「ひーっ、チンピラだーっ!」
「うはwwww誰だよwww婚なとこでwww江田折ったのwwwwww」
「この野郎! いつもオットー狩り邪魔してウゼえんだよ!」
「sリング落としやがれっ!!」
 案の定モンスターと勘違いした冒険者達が、殺気を伴いながら詰め寄って来た。
「ノオォッ!! BOTじゃなくてモンスター違う! 話せばわカニニッパッ!?!」
 弁明も、空しく響く打撲音。
 “どうする、バイブル”とばかりに哀れみを乞う子犬のように見上げた目線も、砂で汚れたゴーグルのせいで全く無意味でしたとさ。なむ。


―おまけ―

 こんばんは、シャオアです。
 お久しぶりに皆さんにお会いできたと思ったら、何やらとんでもないことになっているようです。
「「「シャーオアさーん!!!」」」
 “ハート”エモを出しながら地響きを蹴立てて迫る殿方たちの叫ぶ声―それもとても五人や六人ではありません―がこの教会近くまで迫っているようです。
 どう考えても非常事態なので他の聖職者たちは避難させましたが、この教会を預かる身として、この懺悔室を離れるわけにはいきません。
 バリケードを張った正面の扉が可哀想にミシミシと音を立てて軋んでいます。突破されるのも時間の問題でしょう。
 嗚呼、主よ。なにとぞ哀れな子羊たちをお守りください。
 私の祈りも空しく扉は打ち破られ、お行儀の悪い殿方たちが勢いよく一斉に教会内に乱入して来ました。
「「「お願いです、上目遣いでこっちを見てくださ〜いハァハァ!!」」」
 嫌です、と返事をする間もなく、大勢の闖入者の重みに耐え切れない床が快音を上げてすっぽ抜けてしまいました。
 ドボドボドボーンと盛大に音を立てて水を張った地下室に落ちてゆく殿方たちの悲鳴を聞きながら、はたと膝を打って主の寛大な計らいに感謝の祈りを捧げます。
 だって、今日のおしおき地下室用びっくりどっきりモンスターのメニューは、オボンヌだったのですから。
 思う存分、白い上目遣いを堪能していって下さいね。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
こんばんは、RO板「みんなで作る小説ラグナロク」スレの方でたまに書いてた者です。
今回はこの萌え板では初の本格的投下なのでお手柔らかにお願いします。
書き終えた頃に「ああ、このお題って一シーンで書くようなものなんだ」と悟って愕( ゚Д゚)然、としたバカです。
無駄に長くてすみません。それではお目汚し失礼ノシ
257名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/02/08(火) 23:52 ID:PXqn2YNg
βの人たちがパワーうpして帰ってきやがった。いや、やってきやがったのか?
258SIDE:A 守る者と守られる者と(1/5)sage :2005/02/11(金) 17:26 ID:bTWT.sm.
「……あれ? ボク…」
 少女は、自分がじめじめした床に倒れている事に気がつくまでに瞬きほどの時間を必要とした。
「目は覚めたようですか。では…そのお嬢さんをつれてお帰りください、ラオさん」
「不足、ということかね、シメオン」
 目に映る光景と、耳に入る声がファナに現状を認識させた。シメオンという魔術師に彼女は完膚なきまでに
負けたのだ。
「不…足…? ボク、失敗…しちゃったノ?」
「いえ? 必要にして十分な実力ですよ。お嬢さん。ただ、怪我と服装を直してから出直してきて頂きたく」
 その言葉に、少女は視線を自分の胸元に落とす。それなりに頑丈なはずの胸当てには、大きくひびが入っていた。
「うひゃあ。割れそうだネ…」
「助手がそんな格好では、不意の来客に失礼に当たりますからね…、ククク」
「ここはブリトニアで…いや、ルーンミッドガルズで最も堅い砦の最深部だ。不意の来客などあるはずもないだろう」
 車椅子の男がコツコツ、と肘掛けを叩く。この砦、いや、いまやギルドを実質的には指揮している男の自尊心…、あるいは不安を笑うように、シメオンは片頬を歪めた。
「貴方も私も知っているはずです。この世界にはバケモノがいると、ね」
「わかっている。その為の組織だ」
「…そして、その為の私の研究です。いかな存在とはいえ…人知を超えるという事はないと、コレが証明して見せますよ。クククク…」
 魔術師は片頬だけで笑いながら、壁際にそそり立つ、巨大な魔法装置の表面を撫でた。


 本来はここに入るものを>162 に投げてしまった。お陰で時系列がおかしくなってしまった。今は反省している。
ファナがシメオンさんとこに顔を出したのは、クリスマスより前なのです。orz
259SIDE:A 守る者と守られる者と(2/5)sage :2005/02/11(金) 17:26 ID:bTWT.sm.
 帰宅する前に、寄り道をしたのは他でもない。ついさっき噂に聞いたばかりの、俺的指名手配第一級の男の声が、遠慮なく開かれた扉の中から聞こえてきたからだ。その扉の中は、俺も良く知っている店だった。聖夜でも国王聖誕祭でも変わらない、飲んだくれのための天国があるとしたら、おそらくはここだろう。
「……まだ日も暮れて短いってのに、ご機嫌だな」
「おお、ブレイドの旦那。来てくれると思ってましたよ」
 奴は、広くざわめく酒場の中央テーブルの上にだらしなく胡坐をかき、我が物顔に俺を手招きしていた。上機嫌な男の片手には、携帯用にコンパクトに作られたハープ風の楽器。反対の手には、当然のように酒の湛えられた杯が握られていた。俺は、とりあえず奴に逃げられないようにゆっくりとテーブルに歩み寄る。
「……人のいないところでなかなか面白い話を触れ回っているそうじゃないか」
 ドスを効かせた声でにやり、と笑った俺の顔を映す奴の目は、半瞬遅れてから二つ瞬きした。
「……おやぁ?」
「おや、じゃねえ! このイカレ詩人! 好き勝手言いやがって!」
 言いながら、手を上げて店の娘を呼ぶ。
「店の奴全員に、こいつの奢りで飲み放題食い放題な」
「……え? エルメスさんの奢りですか?」
「おう」
 ニヤリと笑った俺に、酒場づとめにはまだ若すぎるその娘は怪訝そうに問い返した。
「もう伺ってますよ? ああ、騎士さんもどうぞ」
 多分、俺は結構間抜けな顔をしていたに違いない。唖然としながらもタダ酒を断るのも忍びなく、俺は彼女が差し出すエールのジョッキを受け取った。エルメスがにやけたまま、俺の前で左右に指をふる。というか、常には珍しく、かなり回っているようだった。詩人はいつ歌をせがまれてもいいように、決して潰れるような飲み方はしない、と聞いたのはこいつの口からだったはずだが。
「…ま、飲んでください飲んで下さい」
「一体どういう風の吹き回しだ。金、必死に溜めてたんじゃなかったか?」
「へへへ、そいつが必要なくなりましてね」
 ニヤリと笑って片手でずらしたマフラーの下には、例のギルドの紋章があった。この間、宿で見かけたときと違うのは、その色が銀から金になっている点。そのギルドが噂どおりの構成ならば、銀色の紋章が二軍としたら、金は限られたメンバーしか所属できない一軍。もちろん、一軍の方が二軍よりも待遇もいいはずだ。
「どうやら、俺みたいなのは結構特殊だそうで。しばらくしたら、あっちから頭を下げてきましたよ。砦を護るのには、結構俺の働きが必要なんだとか?」
「ほう」
 確かに、打たれ強い詩人などと言うのはめったにはいるまい。怪物を狩るには決して向いているとはいえまいが、それが幸いするとは、世の中不思議なものだ。
「…で、必死に集めてた加盟金もいらなくなったんでね。前祝いを兼ねて、ぶあーっと使っちまおうと」
「前祝い?」
 そういうと、照れたように奴は頬をかいた。
「あー、その。収入も固まったし、いつまでも待たせるのもなんだし、で…」
260SIDE:A 守る者と守られる者と(3/5)sage :2005/02/11(金) 17:27 ID:bTWT.sm.
「テスラちゃんに、ようやく結婚を申し込んだんだそうだ」
 ごにょごにょと言うエルメスの後ろから、ここでは見かけない髭の男が小粋に指を上げていた。髭にしっかりと泡がついていなければ、結構さまになったかもしれない。…どこかで会ったことがありそうな気もする。なんとなく、どんな酒場にも一人くらいいそうな男だった。
「へぇ…ま、返事は聞かなくてもわかるが」
「あら、そうですか? 私、半分くらい断るつもりだったんですけど」
「うおわっ!?」
 酒盃を手にはしているが、飲んでいるのかいないのかわからないような顔色をした僧衣の娘が、いつの間にか俺の脇にいた。よく見ると、ほんのり目の下が赤いような気もする。
「ギルドから戻ってきたと思ったら、その紋章を見せて『金の心配は要らなくなった。遠慮なく子供作ろう』ですもの…。殴り倒そうかと思いました」
「……」
 なんともいえない沈黙を紛らすように、俺と髭の男は酒を煽る。
「ま、殴り倒される前に俺が押し倒したわけですがね。はははあwせdrftgyふじこlp;」
 青い魔法石を握った手で、こめかみをぐりぐりされながら奇妙な声をあげているエルメスを他所に、俺と髭は更に大きく杯の底をあげた。
「……こりゃ確かに、犬も食わんな」
「まったくだ。こういうときは一人身を寂しく思うよ。君はまだ若くて羨ましいな」
 そういえば、身なりも悪くないし、顔立ちも良いが、目の前の男からは今ひとつ家庭の匂いがしない。冒険者というのとも少し違うような気がした。軍隊か、聖騎士団か、ひょっとしたら騎士団か。だとすれば、ここにいるのはエルメスよりも、テスラの人脈からだろう。
 彼女も冒険者になる前にはプロンテラ所属の退魔師団で将来を嘱望された戦闘司祭だったらしいと聞いている。
「旦那もさっさと身を固めたらどうです? イロイロ聞いてますよ?」
 そのテスラの手をどうやって逃れてきたのか、エルメスがにやにやしながら俺を覗き込んできた。
「うるさい」
 裏拳一発で、既にだいぶ出来上がっていた詩人は幸せそうに沈んだ。
「でも、方々の噂ですよ? ブレイドさんが年端も行かない娘さんと同じ部屋で、昼まで出てこないって」
「ほう。君もやるもんだな」
 入れ替わりに出てきたテスラと髭がエルメスの話の穂を引き継いだ。というか、その噂は一体どこが出所なのか問い詰めたい。小一時間どころか丸一日でも問い詰めたい。問い詰めるまでも無く犯人はわかってはいるが、気分の問題だ。
「…依瑠の事を言っているなら、俺はただの保護者ですよ」
「…つまらないですね」
「ものすごくつまらないな」
 妙に息のあった二人の返答に、に口の端が引きつるのを感じながら、俺はおかわりを求めて店の娘を呼んだ。忙しそうな少女がこちらに来るまで、杯の底を眺めながらしばし考える。
 保護者でないとすれば、なんだというのだろう。これまでも何度も考えた疑問を、俺はまた思い返していた。正直、俺は、自分が依瑠に抱いているのは恋愛感情ではないと思っている。彼女が喜ぶのを見るのは嬉しい。あの娘が誰かのせいで泣くようなことがあれば、涙の代償を払わせるにやぶさかではない。しかし、自分が彼女の隣に立つ、というのはどこか違和感があった。
261SIDE:A 守る者と守られる者と(4/5)sage :2005/02/11(金) 17:27 ID:bTWT.sm.
「……声に出てますよ」
「うぉ!?」
「若さという奴だな」
 したり顔で頷く髭に、拳を打ち込もうとして…、俺は、その男に不自然なほど隙が無いのに気付いた。酒場で飲んでいるのに、全く感じない生活臭さ。俺の目の色が変わったのに気がついたのだろう、髭は他意がないことを示すように両腕を左右に広げた。
「仕事中に飲酒はしても、気は抜かないのがモットーでね。だが、さっきの様子ならば君は大丈夫だな。…呑まれた訳ではなさそうだ」
「……あ?」
 髭の男が静かに席を立つ。かすかに金属のこすれる音で、俺は彼が上質の鎧を纏ったままだったのに気がついた。その紋章はプロンテラ中央騎士団。あの頃は髭こそ生やしていなかったが、確かに俺はこの男を知っている。俺の騎士昇格試験を担当したのは、彼だった。
「やはり、私の目に狂いはなかっただろう? 君は騎士団にいるよりも市井の騎士であるほうが向いている」
「……それには同感ですが、こんなところでお会いするとは思わ…」
「ああ、敬語はやめてくれ。自分が年寄りになった気がして酒がまずくなる」
 どっと疲れた俺の前で、どこか嬉しそうなテスラが一礼した。
「ご足労ありがとうございました。マスターナイト」
「いや。若い奴と話すのは嫌いではない。また寄らせてもらうさ。今度は子供の名前をつけさせてくれるのを期待しているよ」
「………っ」
 いつも冷たい印象のテスラが、火がついたように赤くなるのを俺は初めて見た。いや、多分俺も似たようなものだろう。
「それにしても、近頃の魔族はおとなしくなったものだ。そうは思わんかね」
「…は」
「前例もある。個人的な色恋にはいちいち騎士団は関与せんよ。…まぁ、例の聖女殿のように、はっきり人間に敵対してこない限りはな」
 何を言っているのかいまいちわからない俺の様子に、男はもう一度破顔した。
「あの時、君は、騎士とは何か、という質問に落第したわけだが…。答えはわかったかね?」
「……俺は何と答えましたっけ…?」
「護る者、と答えたのさ。集団戦で騎士が取る位置としては間違っちゃいない。だが、俺が何を、と問い返したら…」
 そうだ。その質問には覚えがある。そして、俺はその時、その答えがわからなかった。だから、適当に奇麗事を答えたんだったな。
「…ああ、全てを、と答えたんでしたっけ。良く覚えてますね」
「面白い答えをした奴は全員、美人で優秀な秘書が書き留めているものでね」
 にっ、と笑う髭の顔はどうみてもただの冗談を言っている様子だったが、俺は突然理解した。何故、俺があの時騎士団に…、いや、この男に必要とされなかったのか。
262SIDE:A 守る者と守られる者と(5/5)sage :2005/02/11(金) 17:28 ID:bTWT.sm.
 テスラやエルメスと行った最後の狩りでも、分担どおりの動きをしながら、俺は何もわかってはいなかった。あの時のダークロードの嘲笑が目蓋によみがえる。あれは俺の実力を笑ったのではなく…、ただ、機械的に目の前の状況に対処するだけの俺を笑ったのだろう。戦うことの意味を見出せず剣を振っていた俺を。
 戦う間に後衛を守る、敵をひきつける、それは俺じゃ無くても、他の騎士でもそれはできることだ。俺が必要とされているわけではない。そう、思っていた。そうではない。俺しかあれは出来ないことだった。あの二人に仲間として頼られ、共に敵に対したのは他の騎士では無く、俺なのだから。あの時、俺にしかあの二人は守れなかった。考えれば簡単なことだ。
 全てを守る騎士、というのは存在し得ない。守る事ができるものは俺の力の及ぶ範囲だけだから。あの赤毛の魔法使いが、ダークイリュージョンに襲われた相棒を救うために助けを求めたのは、俺だ。他の誰でも無く。彼女があの時に通りすがりの俺を選び、信用してくれた事を感謝しよう。騎士にとって、それが、それこそが存在意義なのだから。
 それに、同じ日に出会ってから、ずっと信頼を俺に向けてくれている赤い瞳。俺のことを強いといった、黒髪の少女。

 俺は向けられる信頼の中から何を守るのか選ぶ事ができる…。いや、選ばなければならない。騎士として、剣を捧げるべき相手を。捧げた剣が受け入れられるかどうかは、その時の問題だ。
「感謝します、マスターナイト」
 俺は席を蹴るように立ち上がった。髭の向こうから、テスラが穏やかな笑みを向けている。そして、床の上からエルメスが親指を立てている。彼らと同じように、かつて共に戦った大勢の連中も、俺が気づかなかっただけで、俺を騎士と認め、俺が騎士の務めを果たす事を期待してくれていたのだろう。
「何か、気づいたようだな。昔話をした甲斐があった。が…、惜しい」
「…は?」
「その目をあの時にしていたら、向いていなかろうが無理にでも入団させたんだがなぁ…」
 やはり、冗談か本気かわからない大げさなため息をつく髭の騎士に、俺はもう一度向き直った。
「俺は、国のためとか、国王陛下のためとか…、みんなのために剣を振れるほど、でかい人間じゃないってことがわかりました。そんな大きすぎる期待は俺には重過ぎる。俺はここで、気のあう奴等と一緒にいるのが似合いなんですよ」
 僅かに一息おいて。
「そして、俺は今なら…、今ごろになってようやく、誇りを持って騎士だと言えます。自分を」
 正面から見返す髭の目は、笑っていなかった。
「ああ。そして、そういう連中が市井にいるからこそ、俺達は上だけ見ていられるのさ。……がんばれよ」
「はい。貴方もご壮健で。…急用を思い出したので、失礼します」
 駆け出しかけてから、ふと思い出したように振り返り、俺はかつんと踵を鳴らして足を揃えると胸に手を当てた。多分、まともに訓練を受けたことも無い俺の敬礼はどこかおかしかっただろう。だが、髭の騎士は微笑したまま杯を置くと、見事な答礼を返した。騎士としての礼を。

 酒場の扉をくぐった向こうに広がる夜のプロンテラは、いつの間にか昇った三日月に照らされていた。そして、目の前を横切る白い欠片。雲も無いのに降る雪は、天気雪というのだろうか。作為じみたものまで感じるほど、聖夜だった。
263SIDE:Asage :2005/02/11(金) 17:31 ID:bTWT.sm.
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ようやくここまで書いた。スレの保管さぼっててすみませぬ。
シャオアさんに懺悔してきます。

「シャオアさ〜ん! 漏れに文才をくだs」
「最初から無理なお願いをする人はこうです」
(どぼーん…
264('A`)sage :2005/02/11(金) 23:36 ID:sV8EWIcc
 『滅びの賢者 2/3』


 霧の中でルーク=インドルガンツィアは二本目のサーベルを抜き放ち、周囲を見回した。
 数歩先でさえろくに視認できない濃霧である。無論、街中でそんなものが自然発生する筈もない。
 そもそもプロンテラは霧の出る気候ではないのだ。
「こりゃ、何かの魔術だな・・・」
 例によってルークは眉をひそめ、白い頭を掻く。彼はあまり魔術の類には詳しくないのだが、戦闘魔術に関しては別である。
 だが、彼が今まで相対したどの魔術師達が見せた術にも「霧を発生させる」効果を持つものはない。
 背後で魔術の炸裂音が響く。
 エスリナのものと思しき詠唱の声と澄んだ金属音が、戦闘の始まりを告げる。
 言うまでもなく状況は劣悪であった。恐らくは現在進行形で。
 それでも、ルークは後退しない。正確には、霧の中心に背を向ける事が出来なかった。
 下がれば―――背後から撃たれる。
 彼は直感でそれを察知していた。そして最善の策として、彼は霧の中心に在る気配へ剣を向ける。
「・・・エスクラとか言ったか。お前は何者だ」
 短く吐き捨てた。
 気配を潜めるのが無駄と悟ったのか、エスクラは霧の中から姿を現す。
 いかにも魔学を修める学者、といった風貌である。
 怪しげな術衣を纏った細身の身体は、疲労も消耗も見た限りでは感じられない。
「ブラッディナイト、ブラッディアックス・・・今度は深淵の騎士か。魔族をどうやってけしかけてるのかは知らんが、やる事がえげつな過ぎ
る。最近のセージってのはそんな芸当もするのか?」
 ルークの弾劾にエスクラは口元を歪め、意味深な笑みを浮かべる。
「大体、何故サリア=フロウベルグに手を貸す」
「・・・何の事かな」
「惚けるな。ドラクロワが兵を挙げたのも無関係じゃないだろう」
「知らないね。自分で考えなよ」
「・・・そうか」
 淡々としたやり取り。そしてルークは、やれやれと肩をすくめ、言った。
「なら、実力行使と行かせてもらう」
 白髪の騎士が、凄まじい勢いで加速した。霧と大気を切り裂き、エスクラの前まで疾駆する。
 時間にして、僅か数秒。
 エスクラも無言でそれを見過ごす筈もない。その僅かな間に術式を構成、詠唱を始める。
 その速度に、ルークは目を見張る。明らかに直接攻撃の方が早い筈の距離で、それを上回る速度で練り上げられる魔法。
(・・・間に合わないな)
 瞬時に思考を切り替え、ルークは身を捻り、エスクラに背を向けて跳躍した。
 直後には、受けるエスクラの盾と斬り下ろしたルークの剣が火花を散らしている。
「バックステップ・・・!?」
 無意識に防御したのか、エスクラはルークの動きに驚愕していた。
 彼が見せた速度、身のこなしは騎士のそれとは別のものだったからだ。
 もっと別の、そう。これはまるで、アサシンの―――
「零距離」
 ルークはエスクラの呟きを無視し、冷ややかに告げる。
「俺の間合いだ」
 同時に左手で二本目のサーベルを抜き放ち、凄烈に一閃させた。

 
 一向に功を奏さない矢による攻撃を繰り返しながら、レティシアはルークが消えた霧を振り返る。
 見れば、エスリナも魔術を詠唱しながら何度も霧の中を見ていた。心配しているのか、それとも単に"役立たずのルーク"に苛立っているのか。
 レティシアは逆に、全く心配などしていなかった。
 昼間のカフェで確信した、彼の実力。アレは途方もない"化け物"だ。人間ではない。
 少なくとも、あの時の彼は。
 だからこそ恐ろしいものがある。
 霧に飲まれて数分。相手が単なる術者・・・普通の、何処にでも居るセージなら、とっくにカタがついている。
 なのに、ルークは未だ霧の中で、目の前に立ち塞がった深淵の騎士は健在だ。
 前のブラッディナイトの時とは状況が違う。エスリナが捕まってもいなければ、敵が無尽蔵に出現する訳でもない。
 ならば簡単な事だ。深淵の騎士を使役しながら、ルークと戦い、渡り合う、あのセージは強いのだ。
 そもそもセージなのかさえ疑わしい。それらしい格好だっただけで、その実は、もっと異質のものなのかもしれない。
(愚痴って変わるわけじゃないけど・・・せめてカルマさんが居れば・・・)
 レティシアはカルマが居ると思しき宿を振り返ろうとして、彼が来ない理由を知って硬直した。
 霧だ。
 いつの間にか周囲を、プロンテラの一角だけを、不自然な濃霧が囲っていたのだ。
 何故気付かなかったのか。強大な力を持った魔族を易々と従事させる程の未知な相手だ。一般的な戦いの常識など通用する訳がないのに。
(私がやるしか・・・ない!)
 エスリナの魔術は深淵の騎士には効果的なダメージを与えられず、
 カルマが来れないという事は、この霧を抜けて逃げる事も出来ないという事だ。
 漆黒の騎士の斬撃の剣圧に、エスリナが苦悶の声を上げた。泥沼を発生させる術で深淵の動きを鈍らせしのいではいるが、猶予はあまりない。
 レティシアは石畳を蹴り、走った。霧の壁に沿うようにして、深淵の騎士の背後に回りこむ。
 正面からでは矢が切り払われてしまう。
 死角から、一気に撃ち込む。それがベストに思えた。
 神経を研ぎ澄まし、集中力を高める。闇が溶けた様な黒のマントへ目掛け、走りながら狙いを定めた。
 感覚的に時間が引き延ばされる。一秒が永遠に似た長さになり、自分の呼吸と心臓の鼓動が、酷くゆっくりに感じられる。
 狙いは頭と、体の中心。
 攻撃の気配に、深淵の騎士が振り返る。手には大剣。横に薙ぎ払ってくる。
 エスリナのクァグマイアで動きが僅かに遅い。それでも、位置関係と距離で、避けれる軌道ではなかった。
(でも・・・私の方が早い!)
 更に踏み込む。致命的な一撃を与える為。エスリナの為に。仮に仕留められなくとも、後は何とかしてくれる。
 レティシアは刺し違えるのを覚悟で矢を二本、クロスボウに装填し、深淵の騎士目掛けて駆けた。
 もっと近くで、確実に当てる為に。
265('A`)sage :2005/02/11(金) 23:37 ID:sV8EWIcc
 レティシアは知らなかった。
 ずっと、エスリナは誰よりも冷酷で誰よりも強く、誰の助けも必要としない少女だと思っていた。
 軍に居る同期の兵士達も、市井の冒険者達も、皆そう言っていたし、半ば常識でもあった。
 だから彼女自身もそう信じていたし、そんな人物の下―――自分と一つしか歳が違わない小娘――に配属されて、不快にこそ思えど、嬉しくなど
無かった。お互いにそうだと思っていたし、劣等感ばかりが募った。
 平たく言えば嫌いな上司だった。いっそ軍を辞めてしまおうかとも何度も考え、いつか、せめてエスリナの下からは逃げようと決めていた。

 そんな頃、大きな作戦が始まり、レティシアは戦場に赴く大勢の同僚を見送った。
 エスリナの隊は参加せず、彼女の唯一の直属の部下であるレティシアは城に残されたのだ。
 そして数日後、会議室の前を通りかかった時、伝令を聞いて知った。
 シュバルツバルド国境付近に派遣された兵達が、騎士団主体によるタートルジェネラル掃討作戦に於いて、全滅したのだ。
 かねてから国内での立場の弱かったプロンテラ軍部は、魔族によって起こされたその事件を利用し、騎士団を出し抜こうとした。
 突出した戦力のない部隊編成で、騎士団と冒険者を待つ事無く突撃させ、
 結果、後続の騎士団・冒険者が合流する前に全滅した。
 誰の目にも明らかな―――犬死だった。
 震える拳を握り、レティシアは会議室に殴り込もうとした。
 許せなかった。全滅した隊にはあの日、一緒にエスリナに面接を受けに行った少女達も居たのだ。
 扉を蹴破る寸前、一際大きな怒声が響き渡った。
「貴様らは・・・貴様らは兵を何だと思っている!?まやかしの平穏に脳髄まで腐ったか!?」
 よく知った声だった。
「カートライル!陛下の前だぞ!?口を慎め!」
「黙れ!自分達では何もせず喚き立てて命を下し、前線に送る兵を捨て駒にするとは・・・それが同じ人間だと思うと吐き気がする!」
 ズン、と重い音がした。
 エスリナが魔術を使ったのだ。恐らく、命を下した将校の一人でも焼いたのだろう。
「いや、違うな!貴様らは魔物以下の卑しい豚だ!!」
「な、なんという・・・」
 反抗の声を遮り、再び床が震えた。
 焦げ臭い。誰か死んだかもしれない。
「私は隊を率いて国境に向かう!貴様らは豚らしく鳴いているがいい!!」
 勢い良く目の前の扉が開かれ、レティシアは呆然としたまま出てきたエスリナと鉢合わせた。
 あまりの剣幕と意外な言葉にひたすら混乱するレティシアをよそに、エスリナは立っていた彼女のを肩を掴み、
「何をしている!国境へ出撃するぞ!」
 鬼気迫る形相で言い放つ。
「え・・・でも・・・全滅って・・・」
「僅かな可能性はある。それとも、震えて泣いているのが好みか。ならそうしているがいい。他の者を連れて行くまでだ」
 言われ、レティシアは初めて自分が泣いているのに気付いた。
 会議室から出てきた他の将校の鼻面にあられもない蹴りを見舞い、エスリナは鋭い紅の瞳をレティシアへ向ける。
「イエスか、ノーか・・・答えろ、レティシア=アイゼンハート」
 返答を待っているのだと気付き、レティシアは涙を拭い、答える。
「・・・行きます。いえ、行かせてください!」

 しかし、結局はエスリナとレティシアの隊が国境に到着した時は、既に騎士団と冒険者が敵を鎮圧した後で、
 先発隊の生存者など残ってはいなかった。

 レティシアは知っている。
 その夜に、エスリナが自室で一人、泣いていた事も。
 誰よりも怒り、悲しんでいるのは彼女なのだと、知った。
 冷酷な仮面の下に秘めた激情。それは、魔女と呼ばれるにはあまりに人間臭いものだった。
 過去に酷い戦いがあったのだと、後に人づてに聞いた。エスリナはその反動で強さを装っているに過ぎないのだ。
 本当の彼女は脆く、弱い。

 レティシアも同じだった。
 大抵の身寄りのない子供が冒険者になるように、レティシアも弓を習い、弓手を生業として生きる筈だった。
 アーチャーとしては異例の速さで腕を上げ、ハンターの転職試験を受けに行った。
 その道すがら、彷徨う者と呼ばれる魔物に遭遇し、右腕を斬られた。
 傷は神経にまで達し、レティシアから右手の自由―――特に指先の細かな動きを奪った。
 通常の長弓を扱う上で、それは大きなハンデとなる。
 今は右手でトリガーを引くだけの半自動弓などを使い、騙し騙し戦っている。
 しかし、植え付けられた恐怖とハンデが、レティシアを冒険者に戻さなかった。
 彼女のハンターとしての道は閉ざされたのだ。
 それから軍に入るまで、恐怖から逃げるだけの生が続いた。出来れば、街角の案内要員がやりたかった。

 けれど、エスリナはそんな自分でも必要としてくれるのではないか。
 一介の兵卒に過ぎないレティシアを傍に置き、重用した意図は今でも分からない。
 ただそれに答え、エスリナを支える事が生きる意味になるのではないか。
 レティシアには他に何も無かった。冷たい現実の中で、生きていくだけの理由が他になかった。
 だから、支える事が、生きる意味になると信じた。
 他に何もない、その少女は。



(こんな所で、少佐を死なせるわけにはいかない・・・)
 震えるクロスボウを左手でしっかり支え、完璧な狙いをつける。同時に、漆黒の大剣はもはや回避不能なまでに迫っていた。
 当てても外しても死ぬ。分かってはいた事だったが、少し怖かった。
 しかしそれ以上に、エスリナが死ぬ事が恐ろしい。
 前も危険な目に遭い、レティシアはただ手をこまねき、泣いていただけだった。
(もう二度と・・・あんな風には!)
「!・・・レティシア!?」
 エスリナが気付く。深淵の騎士が振り返り、横薙ぎに剣を繰り出した時点で、レティシアは危険な位置にまで接近している。エスリナの
位置からでは走っても間に合わない。
「ここなら!」
 深淵の騎士の懐に飛び込み、レティシアは矢を放つ。
「ダブルストレイフィング!!」
 絶妙な距離で発射された矢が、振り向きざまの深淵の騎士の仮面、そして胴体を貫く。
 しかし、その剣は動きを止めず、そのままレティシアへ薙ぎ払われた。
266('A`)sage :2005/02/11(金) 23:49 ID:sV8EWIcc
こんばんは、駄文投下です。
埋まりそうなので立ててきました。

【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第9巻【燃え】
http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi/ROMoe/1108197722/l50

>>252
最初のシーンで吹き出しました。GJですよ!

>>SIDEの偉い人様
髭のおじさまが・・・!私が書くよりナイスミドルです!
ところでファナは本当に可愛いですね。(何を唐突に


では、また。
267sa名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/03/07(月) 14:46 ID:bHakxkrg
「ふうぅ…」
物悲しくて、ふと言葉がこぼれる。
いや、言葉はこぼさない。ため息だけ。
ため息からつながるものは、寸前で飲み込む…

こんなときは、軽くお酒でも入れようか
私だってお酒くらいは嗜む。
蝶の羽を握りつぶし、地下水道の入り口まで戻る。
ガラガラと収集品ばかりの詰まったカートを引きながら向かったのは首都プロンテラ。
世界中の賑わいが集まる街。

実に久しぶりの酒場。
以前はすぐに伝染した酒場の熱。
其れが今は鬱陶しい。
多くの冒険者が顔を赤らめ、上機嫌で騒いでいる。
其れが今は鬱陶しい。
『ごめんなさ〜い。見ての通り混み合ってて、合い席でもいいかな?』
私は童顔だと言われる。
私は商人という職についている。
私の顔には、営業スマイルが張り付いている。
だからウエイトレスが、砕けた接し方をしたくなるのも分からなくは無い。
其れが今は鬱陶しい。

合い席したのは独りの騎士だった。
そう、私と同じ、独りの…
私の外見は前に挙げたとおり。
気さくに声をかけてきた騎士は、出来上がると同時に愚痴をこぼした
『守るべきモノを見失った…』
其れは長く感慨の沸かない、拷問のようだった。
商人の私に“片手剣Vit型の行方”など語られても興味も涌かない。
技の話などされてもピンと来ない。
それでも私は、笑顔の仮面のまま話しを聞く。やはり拷問なのだろうか?
おかげで私も出来上がってしまう。
ふと騎士と目が合う。
ぎょっとした表情。
…あぁそうか、出来上がったせいで、仮面が剥がれ落ちたのだろう。
剥がれた其れは、別に拾う必要も無く、また、私の顔に張り付く。
「それでも、貴方は前を見つめて歩んでいる。それは立派なことですよ。
 守るべきモノは、貴方ならきっと、見つけられますよ。」
偽りの笑顔で、私が感じた真実を言う。
守るべきモノなど、自分の心の内にしかありようが無い。
だから、自分を見つめることを繰り返すこの騎士はきっと…

「貴方の長い愚痴に付き合ったせいで、酔ってしまいました。
 私の愚痴にも少々、お付き合いいただきますよ?」
笑顔のまま軽く首をかしげて言う。
騎士も笑顔を返してくる。
愚痴を並べる為自分の心を覗き込む。
私の顔に本当の表情が浮かぶ。
また驚くのだろうと思っていた騎士は、
私の予想を裏切り、私の冷たい表情を、真摯に見返してきた。

うつむき、独白を始める



ソロ。
そう呼ばれている活動がある。
今私がやっている其れも、そう呼ばれている。

地の底。整備されてはいるが、日の射さないそこ。
本来飲み水として扱われるはずの、そう冷たくない水が流れるそこは、
プロンテラの地下水道。
私のほかにも冒険者はいるが、皆一様に、無言で蟲の駆除に当たっている。

PTMも持たない。
ギルドにも所属していない。
たった一人で、ある高みを目指そうと決めたときから私は、一人で活動している。

物言わぬうつろな瞳の人形が、私の獲物に斬り付ける。
当然、レアと呼ばれるものだけを拾っていく。
物言わぬうつろな瞳の人形が、蝙蝠を率いてすれ違う。
当然、蝙蝠の狙いは私に向く。
しゃがみ込み傷を癒しながら、当の人形を見る。
当然、私の存在にすら気付いてはいない。
…たまに殴りたくなる。

人形で無い人も見かけるには見かける。
ただ、人形達と同じように、私を見てくれてはいない。
血走った目で次の獲物を捜し求める者
冷えた目で淡々と、作業のように獲物を狩る者。

私自身は、どの目をしているのだろう?
人形などではないが、うつろな目をしているのだろうか?
効率を求めているつもりは無いが、知らずと目を血走らせているのだろうか?

目標を高みに定めたときの、たぎる様な情熱は、既に無くしている。
あと二回り半がどうしても必要だ。
叶うなら三回り欲しい。
情熱が冷めるのが、いささか早すぎると思う。
ただ、仕方ないと思う。…思いたい。
私の心は弱いのだ。
強い貴方は、口を開かずに、ただ聞いていて欲しい。
…席を立ってくれても構わない。
口を開く機会を与えてくれたのだから、十分…
あとは誰が聞いていても、聞いていなくても…
言葉をこぼすだけ…

そう、仕方が無いのだ。
独り倒れ、カプラの緊急帰還サービスを利用する。
傷ついた身を癒し、また温もりの欠片も無い地下へと降りて行く。
そんな中で、温もりを見かけてしまったのだから。
私はつくづく弱いと思う。
知り合いのプリーストの庇護の下、瞬く間に力を付けていく。
そして、瞬く間にこの地を去っていく。
そんな彼ら彼女らを、羨ましいと思ってしまう。
そう、私の見かけた温もりは、私を包んではくれない。
まるで雪の降る夜に、窓から覗いた家の中の風景。

数字の上では半分を回った私。
一度も温もりや加護は受けたことの無いこの身。
武器も無く
防具も無く
お金も無く
力も無く
友も無く
ただ己が身のみで戦い抜いてきたときに見た、暖かな風景…
求めちゃダメ?
焦がれちゃダメ?
すがっちゃダメ?
声もかけないくせに、
「気付いて」
なんておこがましいのは分かってる。
でも、私には何も無い
頼れる者も
癒される場所も
安心できる温もりも
だからせめて、気付いて…

…己で立てた、やすい、目標など
とうに崩れて、何も無い
せめて、貴方は、憐れんで貰えますか?



ひぐっ

耳障りな音がした
なに身を硬くしているのだろう?
なに顔を赤くしているのだろう?
なに歯を食いしばっているのだろう?
…惨めだ
…愚痴るだけ惨めだ
愚痴?
愚痴ですらない。
ただの泣き言ではないか
あまりに憐れだ
もう、部屋で横になりたい
もう、何もしたくない
もう…

不意に騎士の手が、顔に添えられた
びくりとする
体が痺れたように動かない
その手の親指が目元をなぞり、透明な熱い雫を拭っていく
わけの分からない感情が沸き上がってくる
私の体はますます硬くなる
拳を硬く握り、膝に押し付ける
引力があるわけではないのに
顔も、手も……体ごと、そのゴツゴツとした騎士の手に吸い寄せられそうになる。
酷く歪んだ表情をしているのだろうと思う。
ぎり
と歯がきしむ音
ずっと我慢していた涙。
抑えていた涙。
其の分も含めたかのように、後から後から湧いてくる

「力を抜いて。強いばかりでなく、弱いときもあったって良いんだから」
騎士の其の言葉に、湧き出す涙の量が増えた気がした
…ダメ
「今が其のときだから」
なおも全身に力を込めている私を、騎士は優しく諭す
…ヤメテ
「整理できないほど抱え込んだものは、吐き出さないと体に悪いから」
言葉に出来ない胸の内など伝わるわけも無く、騎士は続ける
…ヤサシク シナイデ
「僕じゃ頼りないかもしれないけど」
それとも言葉に出来ないから、本音が伝わっているのだろうか?
…ソンナコトナイカラ ダマッテ
「今日ここで合い席になったのも、意味があるかもしれないから」
弱々しく微笑む騎士の顔は、更ににじんだ薄膜の向こう側
…イイカラ ダマッテ
「今だけは、我慢しないで」
う…ぐっ……ぅ…ハァ……ぅう……ギィィ…
俯いて、身を丸めて、小さくして、力いっぱい硬くなって
歯を食いしばって必死に我慢して
取り繕いようが無いほど弱さをさらして
それでも…

騎士の手が頬を離れる。
名残惜しい…
いや、そんなことは無い
決して無い
反応を返す余裕は無いが、おかげで耐えられる。
最後の、本当に最後の砦は、崩れない。
数分で平静を取り戻せる。

圧迫感を感じ、咄嗟に顔を上げる。
目の前にいたはずの騎士はいつの間にか私の横にまわり
私はその騎士に抱きしめられていた。
騎士は黙って私の頭に手を沿え、冷たいプレートメイルに押し付ける
私の頭を撫でる騎士の手は、なぜかとても安心できて
冷たいはずの鎧は、なぜかとても暖かくて気持ちよくて…
あ…限界だ…
……大声で泣き喚いたのなんて、いったいいつ振りだろう………
268sa名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/03/07(月) 14:47 ID:bHakxkrg
ソロ。
そう呼ばれている活動がある。
今私がやっている其れも、そう呼ばれている。
今私がいる場所は、地下水道。
パンダの乗ったカートを振り回し、緑色の盗蟲退治と毒茸狩りに夢中だ。
…いや、毒茸ご飯なんて食べないから

『こんにちは。今、時間大丈夫?』
Wisと呼ばれる特殊な連絡方法で誰かが呼びかけてきた。
とある酒場で知り合った騎士だ。
収集品を拾い上げながら返事をする。
「ええ。ちょうど集団を壊滅して、休もうと思っていたところですので」
道(?)の端に移動して座り込み、続きを待つ。大体予想は出来ているが、
『今晩、時間があったら会えないかな?』
“いつもの酒場で”と。そういう彼とはあれから何度か会っている。
初めてWisを受けた際には「同情なんて要らない!」と突っぱねたものだが
今ではこちらから連絡することもある。
初めてのお友達…だろうか?
言葉にすると照れくさい。
『緊急では無いんだけど、できるだけ早く会いたい』
彼が言うには渡したい物があるらしい。
ちょうど良い…私も渡したい物がある。
+7強い属性海東剣4種。私の銘が刻まれたそれ
片手剣でスキルを駆使して戦う彼に、似合えば良いと思うけど…
「今からでも良いですよ?」
何を貰えるのかという期待もあるが、海東剣を渡したときの彼の表情を想像すると表情が緩んでしまうのが分かる。

剣を渡したとき、やはり彼は
「こんな高価な物は貰えない」
そう言った。でも、貴方が使わないなら潰すだけ、と言う私の言葉に受け取らざるを得なくなった。
その割に、その顔はすごく嬉しそうで、私も嬉しかった。
ちなみに私が貰った物は……実に痛い、痛い出費に関わる物だった…
その出費の痛さに私はまた、泣いてしまった。
そう、出費が痛くて、泣いたのだ。

−後日談−
その丘に鎧を着ていない騎士の男と、動きにくそうなワンピースを着た鍛冶師の女がいた。
狩りに出る装備には見えない。別件だろう。
そして2人は、何かを探しているようだった。
「なー、この石なんてどうだ? 結構質が良さそうだけど」
あの騎士の声がする。
「そうね、一応ストックかな? よーし、他のとこにも行ってみよう!」
あの鍛冶師の声がする。
「その前にちょっと休憩。俺の鉱物を見る目なんてたいしたこと無いから、こういう作業は疲れる…」
小高い丘の上、岩陰に入り、その岩に寄りかかる騎士。
あれ以来、言動が子供っぽくなっている鍛冶師を手招きする。
「仕方ないなー。ちょっとだけだよ?」
鍛治氏は騎士の隣に腰を下ろすと、その騎士の肩に頭を預け、上目遣いで彼を見る。
薄く頬を染めたその仕草に温かいものを感じ、騎士はその頭に頬を寄せる。
風の穏やかな、空がとても高い日。
互いに触れる左手に輝く、銀色の幸せの輝き

「…でもな、ハネムーンで鉱石探しってのはどうかと思うぞ?」
騎士の言葉にスウスウと寝息だけが返ってきた。
柔らかく微笑む騎士は彼女の頭に、そっと、手を載せる。
「「…愛してるよ」」
独白と寝言が重なった
269名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/03/07(月) 18:15 ID:zxvDnhAs
GJデス 上目遣いの宿題デスカ? ニヨニヨ
270sa名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/03/07(月) 21:08 ID:bHakxkrg
あー、その宿題…今日知った(え

なんにせよ、レス感謝。GJ言ってくれてありがとう。
…無愛想でスマン(ナラナオセヨ
271SLOT☆TIMEの裏側sage :2005/03/08(火) 08:58 ID:2D4yFBbg
彼女は対峙していた。
その凶悪とも思われる上目遣いと。
彼女は自分の額や、腋に冷や汗の流れを感じた。
重い沈黙がこの場を支配する。
体力でも体格でも自分は相手より勝っている。
それにも拘わらず、まるで相手の視線が、まるで相手の存在が、
質量を持って彼女に向かい圧し掛かる。
それは行く手を阻む強風のように捕え所なく、
巨大な岩の下敷きになったかのように彼女を押し潰す。
彼女の体は震え、脈打つ心臓はより速くより強くなる。
対する相手は依然とその姿勢を崩さない。
対峙して未だ5分ほど。
だが彼女にはそれが1時間にも、2時間にも感じられた。
こんな時間が永遠に続くのだろうか。
続きそうな気がした。そんなの堪えられる訳がないと彼女は思った。
沈黙を切り裂き、その相手――彼は喋った。

「あ、あの……ぼ、ぼ、僕の…ペペ、ペットに…なっ……なって下っ、さぃ」

彼女の頭の中を、色々な思いが巡る。
今、過去、これから、自分自身、相手、その後――
数え切れない程の思考の断片が、彼女の頭を駆け巡り、通り過ぎる。
冷や汗は止まらず、震えも止まらない。
しかし彼女は、一つの決断を下した。

――モロク、ピラミッド地上。
あるイシス――彼女はこの日、ある少年アコライトのパートナーとなった。


//|ω・`) <ヨシ、ダレモイナイナ?
//容量オーバーをいい事に、駄文を(初)投下。
//「上目遣い」とか入ってますが、例の宿題とは関係ないです。
//|≡サッ
272名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2005/06/06(月) 14:10:44 ID:5/UTS2hE
>>252
超が付く遅レスだが……まだシャオアさんって覚えてる人が居る事にビビタ
遙かな昔良く来ていた時に、にみんなで散々色々書いた記憶があったが……
と、これだけでは何なので宿題をば……

一人の男モンクがどうしても見たい物があると言ってギルメンの女プリーストを呼び出した
「ねえ、私の……見たいって……何?」
男モンクよりも頭一つ小さい女プリースト、こういう場面は初めてなのか頬を赤らめてそう問いかける。
男モンクは無言で肯き、腰を落して構える。
「いくぞっ! 三段掌! 連打掌!」
有無を言わさずぼっこぼこに女プリーストを殴る男モンク。
「上をっ! 向けーーーー!! 猛龍拳っっっっっっ!!」
顎を突き上げるような拳の一撃。
まともに全弾喰らった女プリーストは空を見上げる体勢になる。
『あ……空が綺麗ですね〜……』
その視界に男モンクが割り込んできて言った。
「よしっ! 上目遣いゲット!」
そのまま後ろに倒れながら女プリーストは思った。
『……顔が上向いてたら全然上目遣いじゃないです……』
世の不条理に一人心の中で涙しながら女プリーストは意識を失った。
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