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【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第7巻【燃え】

1名無しさん(*´Д`)ハァハァage :2004/08/10(火) 15:24 ID:9R4GWfc2
このスレは、萌えスレの書き込みから『電波キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』ではない萌えな自作小説の発表の場です。
リレー小説でも、万事OK。
・ 萌えだけでなく燃えも期待してまつ。
・ エロ小説は『【18歳未満進入禁止】みんなで作るRagnarok萌えるエロ小説スレ【エロエロ?】』におながいします。
・ 命の危機に遭遇しても良いが、主人公を殺すのはダメでつ

・ 感想は無いよりあった方が良いでつ。ちょっと思った事でも書いてくれると(・∀・)イイ!!
・ 文神を育てるのは読者でつ。建設的な否定を(;´Д`)人オナガイします。

▼リレールール
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リレー小説の場合、先に書き込んだ人のストーリーが原則優先なので、それに無理なく話を続かせること
・ イベント発生時には次の人がわかりやすいように
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※ 文神ではない読者各位様は、文神様各位が書きやすい環境を作るようにおながいします。

前スレ【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第5巻【燃え】
http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi/ROMoe/1084461405/

スレルール
・ 板内共通ルール(http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi?bbs=ROMoesub&key=1063859424&st=2&to=2&nofirst=true)

▼リレー小説ルール追記--------------------------------------------------------------------------------------------
・ 命の危機に遭遇しても良いが、主人公を殺すのはダメでつ
・ リレーごとのローカルルールは、第一話を書いた人が決めてください。
  (たとえば、行数限定リレーなどですね。)
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2名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/10(火) 15:29 ID:9R4GWfc2
_| ̄|○ <・・・


前スレ 【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第6巻【燃え】
http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi/ROMoe/1087126244/
3名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/11(水) 04:56 ID:.399x9Rc
3ゲットついでに保管庫の場所
http://cgi.f38.aaacafe.ne.jp/~charlot/pukiwiki/pukiwiki.php
4名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/11(水) 10:50 ID:RW.Dc08Q
4get

俺はこっちの保管庫が好き
ttp://moo.ciao.jp/RO/hokan/top.html
5名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/11(水) 11:04 ID:yL3LsAyE
5get

ついでに投下
65getsage :2004/08/11(水) 11:05 ID:yL3LsAyE
 普段はミルクを売るし、矢も薬も揃えてる。
 必要とあらば武器も防具も店頭に出す。
 どちらかと言えば(そう!どちらかと言えば!)お喋りは苦手だ。
 しかし、その場の雰囲気が何よりもまず会話を求めてくれば私の舌は三枚ほど増え、意思とは関係なく流暢に動き出す。
 所謂この自動的で積極性を欠いた性分が私を町の隅に追いやっている。
 他の誰でもなく私が、である。

「すいません。・・・・・・ここお店、ですよね?」
「いかにも。アルケミストの店へようこそ、お若いお嬢さん。」
75getsage :2004/08/11(水) 11:06 ID:yL3LsAyE
「えーっと、銀矢を3万本ほどと……、あとその瓶に入った白いお薬ください。」
「はいよ。銀矢はどこへ運びますかな?」
「ちょっと待ってくださいね。昼頃、メモに書かれた場所まで送って頂ければ結構ですので・・・・・・。」
 彼女はそう言うと手を口元へ持ってゆき、長く甲高い口笛を一度吹き、その後短く鋭い音に変えた。
 すると屋台の中を大きく黒い影が風の如く走り、その影は彼女の肩にのった。───口に大きなリンゴをくわえて。
「あっ、こら!なんでそんなことするの!・・・・・・ごめんなさい、商人さん。この子、まだ幼くてやんちゃなんです。もう食べてしまってるけど、リンゴおいくらでしたか?」
 シャクリシャクリと小気味いい音でリンゴを食べる鷹を撫でつつ彼女は言った。
「サービスしますよ。色々買って頂きましたし。」
 銀矢を梱包しながら相手の顔を見ずにそう言うと、さらに萎縮した様子が感じられた。
 どうも私の低い声はよくないらしい。
「本当に申し訳ないです・・・。それなら、この緑色のボトルとそっちのボトルも下さい。商人さん、これ売り物ですよね?」
「もちろんです。ここにあるものは全て売り物ですよ。」
「では纏めて買わせてもらいます!場所はこの子の足に括りつけてある紙に書いてありますから。」
 そう言って紙を渡された。場所はここからまだ近いらしい。配達に丸一日かかることもある町外れのこの店にしては珍しいことだった。
 よくよく見るとその紙はフェイヨン近くのものであることがわかった。花粉がついており森の香りもした。
 ふと顔を上げるとまた彼女が不安げにこちらの様子を窺っていた。
 どうやらこの皺くちゃだらけの顔がよくないらしい。
「転職祝いですかな?」
 そう言うと彼女は驚いた顔をした。
「すごい!良くわかりましたね、商人さん。友人の子が私と同じハンターに転職したんです。あまり高価なものは買えないけど気持ちだけでも、と思って。・・・・・・そうだ!花束あります?一緒に送ろうと思うんですけど。」
「残念ながら花束はないね。」
 すると今度は大きく肩を落とした。
 その感情表現の豊かさを私は羨ましく思った。彼女は誰からも好かれるだろう、という予測が私の中で生まれたからだ。
 リンゴを食べ終わった鷹も彼女の頭をつついて励ましているようにさえ見えた。
「私が何とかしますよ、お嬢さん。安心しなさい。」
 そう言うと彼女を帰した。
 私はすぐさま荷造りを終え、カートを引きつつ目的地を目指した。
85getsage :2004/08/11(水) 11:07 ID:yL3LsAyE
 彼女の仲間たちは既に盛り上がっていた。
 それは私がもう長いこと経験していない光景であった。
 皆が転職を祝い、贈り物をしていた。
 一人は古い宝箱を、一人は立派な武器を、一人は立派な防具を。
 仲間の輪の中心に彼女を見つけたが、その様子は確かに仲間たち同様おおいに祝福していたがどこか気後れしていた。
 私と彼女は少しの間目が合ったが、彼女は苦笑いをしてまた仲間の話の中に溶け込んでいった。
 次の瞬間、私は自然と大きく息を吸い込んでいた。
「さぁ!みなさん!ご清聴を!ご熟覧を!」
 いきなり響いたその声に彼らは一様に驚き、静まった。
「本日は転職、誠におめでとうございます。私からも大いに祝福をいたしたいと思います。さて、彼女からの贈り物を私めが承っております。どうぞ、皆様の時間をお少しだけ頂きたい。」
 私はマントの中に手をいれ、両手に三本ずつボトルを指で挟みこんで頭上に掲げた。
 ボトルをまず軽く横に揺らし、すぐ大きく縦に振った。ボトル内の液体から気泡が発生し、それぞれ赤色やら緑色やらに変色している。最後に腕を交差させるように大きく背後まで振り切るとボトルが熱くなってきた。
 皆が固唾を呑んで注目しているのが分かった。このような状況は初めてらしい。
 私は彼らに微笑むとボトルを大きく弧を描くように投げつけた。
 ボトルの割れた場所からは様々な植物が次から次へと生え、華麗な音と花の強い芳香が漂った。
「この花畑が彼女からの贈り物です。どうかこれからも、これらの植物達のように人を惹きつける素晴らしい人物であってください。本日は誠におめでとうございます。」
彼らの喧騒を尻目に私は元いたところへ帰ることにした。
95getsage :2004/08/11(水) 11:07 ID:yL3LsAyE
「すごい!ありがとう商人さん!転職した子だけじゃなく、皆もすごく喜んでました!」
 私がいつもの場所に戻り、店じまいをしていると興奮冷めやらぬ、といった感じの彼女が駆けてきた。
 どうも私の行動はよかったらしい。
 私は彼女に向けて言った。

「前にも言いましたでしょう。ここにあるものは全て売り物なんです。無論私もですよ、お嬢さん。
それとね、これは重要なことですよ。
私は商人ではありません。私はアルケミストです。
そしてここはアルケミストの店です。またのご来店を、お若いお嬢さん。」
10名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/11(水) 15:51 ID:zPN6qqtY
>>5get氏
アルケミストかっこええーー!
大道芸人っぽい気もするけどそこがまたGood!
11名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/12(木) 00:12 ID:7p8sC7eQ
>5getさん
お喋り苦手と言いつつ、エンターテイマーなケミさんに惚れました。
12('A`)sage :2004/08/12(木) 00:13 ID:7p8sC7eQ
Ragnarok Online Side Story "Confrontation of fate"


 混沌とした世界の中で。


 
 かつて満ちた祝福の歌は失われ、新緑に溢れた大地には邪悪が蔓延した。
 それは人であり、恐怖であり、憎悪であり、絶望。
 心と魂を失った、人の形を借りる別の者。

 かつて賛美を謳歌した街は失われ、人々は穢れた刃の取引に没頭した。
 それは剣であり、欲望であり、敵意であり、破壊。
 正義と信念を失った、武器の形を借りる別の物。


 かつて歩んだ戦いの記憶は失われ、世界は再び過ちへと動き出した。
 それは刻であり、未来であり、災禍であり、運命。

 
 始まりと終わり、理由と目的、来た道と行くべき道を失った、聖戦の名を借りる別の、何か。


 『廻り始める歯車 2/2』



 まるで一睡も出来なかった剣士の少年は、頭から冷えた井戸水を被り、朝日の下で悶絶した。
 想像以上に水が冷たかったのと、あちこちに残った擦り傷が痛んだのと、両方で。
 水に濡れ、ヘロヘロになった黒髪を布で思い切り拭い、目を開ける。
 初夏の陽光が、滲んだ。
「寝なきゃ、夢も見ない・・・当たり前だ・・・」
 ナハトは、同年代の若者と比べると女顔とさえ言える面立ちを強張らせ、呟いた。
 確かめるように、言い聞かせるように。
 勿論、寝ずに何日も持つ筈がない。それは分かっていたし、ちゃんと理解していた。
 やはり疲れてもいた。
 けれど、その前に。
 また夢を見てしまうかもしれない、その前に。
 現実と、向き合わなくてはならない。
 確かめなくてはならない。
「サリア=フロウベルグ・・・」
 顔を上げた。
 ナハトの生活の場、イズルートにある陳腐な宿の二階。少女が寝ている筈の部屋。その窓を、見た。
 プロンテラに住んでいるルイセも、今は部屋のソファーで寝ている。事情が事情だけに、泊まってくれたのだ。
 ナハトにとって、これは心強かった。
 今や、ルイセは教師であり、恩人だ。
 そして、それ以上に、これから自分が進むべき道を示してくれる様な気がしていた。
 それに、
「・・・父さん」
 誇るべき、父の剣は腰の鞘の中で朽ち果てていた。
 ちゃんとした手入れもせず、粗野な扱いを続けていた割に、この何の変哲も無い剣は良くやってくれた。
 昨夜、半魚人との戦いに耐え、ウィザードの雷を受けて無事だったのも、この剣が代わりに帯電したお陰だ。

 ――強く、生きろ。ナハト。

 成すべき事、成さなくてはならない事へ巻き込まれていくだろう少年にとって、父のその言葉は偉大だった。
 どんなに辛く困難な道だったとしても忘れないでいようと、思わせる程に。

 今更ながらに、少年は父に感謝した。

 

 宿に戻るなり、そんな悲愴な決意を固めた少年の目に、異様な光景が飛び込んで来て、彼は凍り付いた。
 ブラウス一枚の少女が、食堂で飯を食らっている。
 そして、その勢いが、半端ではない。
 食らっては頬張り、食らっては頬張る。
 何処へ納まるのか到底分からぬ量の食料が、吹き荒ぶ暴風の如く振るわれるフォークに駆逐されていく。
 宿の女将は、その食べっぷりを複雑な面持ちで眺めているだけだ。他に客もおらず、二階に住んでいるのは人畜無害そうな
女顔の少年剣士だけなのだから、これといって困る事も危ない事もないのだろう。
 とはいえ、これはさすがに、恒久的な草食性の少年、ナハトにも刺激の強い格好だ。
 慌てて、少女から目を逸らす。
 それでも、視界の端にチラチラと白い綺麗な肌が目に入り、ナハトは自分でも分かるほど、顔を赤くした。
「・・・あ、リーゼンラッテ君」
 少女は何を思ったか、ナハトを見て微笑みかける。
 訳も分からず、目のやり場にも困っていたナハトは、少女の顔をようやく直視し、気付いた。
「・・・先生!?」
「あはっ、おはよう」
 金髪の少女―――ルイセ=ブルースカイはフォークの先に目玉焼きを突き刺したままで、少年にウインクする。
 軽い、眩暈がした。
「な、何てカッコしてんですか・・・!?」
 掠れた声で、なんとか、そんな言葉を搾り出す。
「もう暑い季節でしょ?だって私、暑いの苦手だし」
「そんなの知りませんよ!」
 何となく悔しい様な気分になって、ナハトは地団駄を踏んで喚き立てた。
 昨夜のルイセは、彼にとってヒーローの様なものであり、ウィザードを一撃の下に撃退した時に至っては、正に女神に見えた
くらいだ。そのルイセが、あられもない格好で呑気に朝食を摂っている。
 嫌な現実だった。
「朝から元気だねー・・・ほら、いいから、君も座って食べる」
 ぽんぽん、と隣の椅子を叩いて言うルイセ。
 テーブルには言うまでもなく、胸焼けがする程の食事が並んでいる。とても、相席する気分にはなれない。
「僕は朝からそんなに食べれません!」
「・・・そう?」
「普通はそうですっ!」
「遠慮しなくていいのに・・・」
「してませんよ!っていうか、元気なのは先生の方じゃないですか!」
「え?元気なわけないじゃない。だって私、朝弱いし」
「そんなの知りませんって言ってるでしょう!?」
 のらりくらりとナハトの抗議をかわすルイセ。
 食堂の奥で大口を開けて笑う女将に、二人も顔を見合わせて顔を綻ばせる。
 安穏としていた。
 あまりに、平和なやり取りだった。
 それだけに、ナハトは先程までの自分の思考が、哀しいものに思えてならなかった。
 何故、自分はこれほどまでに、サリア=フロウベルグに囚われているのか。
 少年の顔に浮かぶ、微かな憂慮を見て取った金髪の少女は、フォークを取り敢えず置いてから、口を開いた。
「リーゼンラッテ君・・・あの子には、あんまり関わらない方がいいんじゃないかな」
 ナハトの黒い瞳が、ルイセを見る。
「昨日の・・・あのウィザード。多分、軍人ね。相当の使い手じゃないかしら」
「・・・サリアも言ってました。少佐だとか、何とか」
 思い出したくもない城での出来事に、眉をひそめるナハト。
「分かってるなら、いいけど・・・かなう相手じゃないよ。君の」
「それも、分かってますよ。先生」
 気遣うルイセに、ナハトはそれだけ答えて歩き出した。
「でも、やらなきゃいけないって・・・何故か、そう思ったんです。今も・・・思ってます。出来るかどうかは、別として」
「・・・そっか」
 二階の自室へ向かっていく教え子を見送ってから、ルイセは再びフォークを取った。
 食べれるうちに食べておく。これは、いかなる時も重要だ。
 ・・・いつ、忙しくなるかも分からないのだから。

13('A`)sage :2004/08/12(木) 00:14 ID:7p8sC7eQ
 サリア=フロウベルグは戸を開けて入ってきた少年を見るやいなや、驚いたような顔になった。
 お世辞にも立派とはいえないマントを羽織った少年は、手近に置いてあったソファーへ腰を下ろし、ベッドの上のサリアへ弱々し
い笑みを浮かべる。気遣いのつもりなのだろうが、そんな余裕が無いのがサリアにもはっきりと見て取れた。
「・・・よく眠れた?」
「あ・・・すみません、いつの間にか寝てしまって・・・」
「いや・・・いいって。なんか僕が足を引っ張っちゃったみたいだし」
 少年は言うだけ言って、頬を掻く。
 根が純朴なのかもしれなかった。
 それが、剣士に向くのかどうかは別として、そんな彼に、サリアは安堵した。
 もっとおっかない人間だったなら、どうしようもなかっただろう。
「ここ、僕が借りてる部屋だから、全然気にしなくていいよ。下でご飯も食べれるし、お金はかかんないからさ」
 身振り手振りで不器用な説明をする少年。
「た、立ち入った話も聞かないよ。僕なんかじゃ役に立たないのは分かってる。でも・・・」
「・・・」
 サリアは、首を傾げて少年の言葉を待った。
 言うべき事は、彼に先に言われてしまっていた。
「一つだけ、質問があるんだ」
 黒髪の少年が、真っ直ぐにサリアを見つめた。
「前に・・・何処かで、会った気がするんだけど・・・覚えは無い?」

 夢の中で会ったかどうか。
 そんな風に聞ける筈もなく、ナハトは遠回しな質問をした。
 しかし、少女はゆっくりと首を振る。それから、申し訳なさそうに口を開いた。
「すみません」
 半ば、予想は出来ていた答えだった。
「そう・・・僕の勘違い・・・みたいだね」
 そこで、ナハトはサリアから視線を外し、踵を返した。
「・・・ゆっくり休んでって。出る時に、声はかけなくていいから」
「・・・え?」
 戸惑うサリアを後に、ナハトは自室を出ると、後ろ手で戸を閉めた。
 瞬間、どっと疲れの波が押し寄せる。
 やはり、単なる偶然だったのか。
 たまたま、夢に出てくる女性と、似ていただけか。
(考えすぎだ・・・)
 それに、サリアは助けを必要としているようには、思えない。
 休み、回復すれば、一人でもちゃんと事を成すように見えた。
(・・・大丈夫だ、きっと)
 ナハトは一度だけ自室の戸を振り返ってから、階段を下りた。
 食堂には既にルイセの姿もなく、彼はそのまま宿を後にし、眩しく照らされる夏のイズルートへ繰り出した。
 どろどろとした思考が、嘘のように払われ、消える。
 伴って、ようやく眠気がやってきたものの、寝ようにも自室は使えないのだと思い出し、溜息を吐いた。
 自分は一体、何をやっているのか。
「・・・よう」
「・・・!?」
 唐突に、声がかかった。少年のものとは思えないドスの利いた低い声。
 振り返れば、逆毛の剣士が立っていた。
「何だ・・・ガルディアか。脅かさないで欲しいな」
 裏路地から半身だけを出し、ガルディア=ルーベンスはナハトへ鋭い眼を向ける。
「どうしたんだよ。授業は」
「昨日の今日で授業だって?・・・はっ!脳味噌呆けてんのかよ、テメェは?」
 それは、そうだ。言ったナハト本人も剣士ギルドへ顔を出す気はさらさら起きない。
 ただ、目の前の逆毛の剣士は、別の理由だったのだが。
「・・・あの女は何処だ?」
「あの女、って?」
 ガルディアの問いに、訳も分からず問い返すナハト。ガルディアは、
「テメェが城から連れ出した女だ」
「サリア?彼女なら・・・僕の部屋に・・・」
 答えながら、ナハトは、絶句した。
 ガルディアは隠した手に抜き身のカトラスを握っていたのだ。
「・・・ガルディア!お前!」
「悪ぃな。一晩考えたんだがよ・・・通報させてもらったぜ」
 ――逆毛の剣士が動く。
 咄嗟に、ナハトは腰からソードを抜いた。
 路地裏から飛び出したガルディアのカトラスが振るわれ、ナハトのソードへ強かに打ち下ろされる。
 火花と金属音。
 なんとか初太刀を受けたナハトへ、ガルディアが言う。
「知ってるか!?軍の兵隊の間じゃテメェは誘拐犯だぜ!ルイセも共犯だってよ!」
「僕と先生が・・・誘拐犯だって!?」
「はっ!俺は御免だね!テメェとあの化け物を突き出して、とっととオサラバしてぇんだよ!」
 あの化け物?
 それがルイセを指す言葉だとは知らず、ナハトは歯噛みする。
「ガルディア、やめろ!どう考えても、悪いのはプロンテラ軍だろ!」
「んなこたぁしらねぇなぁ!」
 逆毛の剣士は、一瞬で刃を返し、ナハトの剣を流す。巧みに切り結び、飛び下がった。
「物の善悪なんざ、関係ねぇ!テメェだってテメェの命は惜しいだろうが!」
「・・・くそっ!お前って奴は!」
 ガルディアが凄烈に振るったカトラスが、刹那に爆炎を思わせる気配を帯びる。
 そのまま、地面へ叩きつけるや否や、衝撃が広がった。
 マグナムブレイク。
 剣士の使う技の中で、唯一、広範囲に渡る剣技だ。
 ナハトもこの技は一応使えたが、この剣士、ガルディアほど熟練はしていない。
 何とかマントで闘気の炎を防いだものの、ナハトは全く勝機が存在しない事を悟る。
 迷わずハエの羽――転移の魔力を帯びたアイテムを握り潰し、殺気立った逆毛の剣士の前から消えた。





 to be continued  『旅立つ日』

14('A`)sage :2004/08/12(木) 00:17 ID:7p8sC7eQ
時間がないなぁ、という悩みと、絵の勉強と。
今晩は。とりあえず投下です。

では、また。
15名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/12(木) 15:49 ID:nlDXFaEA
スレ立て乙
15get氏、ドクオ氏、乙
んで、過疎ってるな
16名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/12(木) 17:07 ID:pP7XuYpU
ちょうど帰省シーズンだから皆帰省中じゃないのか?

今がチャンスですか、神様。
17名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/13(金) 11:04 ID:8G6gz5Fk
帰省じゃなくて夏祭りで戦闘中だろ、きっと。
18名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/13(金) 15:21 ID:v4wTfzFg
>>('A`)氏
ナハトYOEEEE!!

夏祭りいきTeeee!!
19名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/13(金) 15:34 ID:72HjP5u.
壁|ω・`)ROやる気がでなくて執筆中なんですけど…
壁|ω・`)どうしても主人公格の人間が死んでしまうのしか思いつかないわけで…
壁|ω・`)「主人公の一人」が死ぬのもNGなんでしょうか
20名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/13(金) 17:24 ID:puDBW3fE
>>('A`)氏グッジョブ!
自分は前作よりこっちのが好きだったり・・
21名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/13(金) 21:23 ID:FrPm8nns
>5get氏
アルケミ茶目っ気ありすぎ惚れちまうぜ……
アルケミスキーとしてはうれしい限り。

>('A`)氏
wWw<いいぞガルディアもっとやれ
゚д゚)<逆毛様あーいった奴がお好みでしたか
22名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/14(土) 12:25 ID:8YIBudEM
>>19
死について主人公を含め回りまでちゃんと書けているならば読んでみたいけど、
ただ主人公が死ぬだけのSSなら読む価値も無い、と個人的には思う。
23名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/14(土) 12:56 ID:PkIXrH5c
>>22
レスthx
ふむ…もう少し練って、大丈夫そうならうpしまする…
24ある鍛冶師の話16-1sage :2004/08/15(日) 12:55 ID:WezR.o7U
 「世界なんてものの曖昧さは、貴女が一番良く知っていたはずだろう」

 首都プロンテラにある大聖堂、その廊下を回り込んだ裏手にある懺悔室で、
 一人の魔導師(ウィザード)が、魔術師(マジシャン)の白い法衣を着て、
 誰かに向けてそう諭すように言葉を放っている。

 壁一枚隔てた向こうで、貴女と呼ばれたのは誰だったのか。
 だが誰かが居るような気配はまるでしない。
 誰も居ないその懺悔室の中へと語りかけるこの青い銀髪の少年は、
 されど至極真面目に言うのだ。

 「貴女は世界を救おうとしたのか、
  それともただあの閉ざされた空間の魂たちを浄化したかったのか。
  今ある世と、かつて守りたかったもの、両方をとる事は出来なかった。
  貴女はただそれを守ろうとしていた、
  その同胞達もまた同じ意思だったに違いない。

  今の世を取るのか、かつての仲間を取るのか。

  ・・・・・・、貴女は結局選べずに」

 愛しいものへと語りかけるような優しくも厳しくもある声は、
 まだ変声期を迎える少年のような声をしている。
 高く通る声は、少年に中性的な印象を与え、
 それがこの少年をひどく異質でありながら魅力ある生き物に変えていた。

 「僕は貴女を救いたかった。
  貴女の居る世は、ありとあらゆる増悪に満ちていた。
  貴女はこの世で生きるには清らか過ぎたんだ、
  だから、そこで見ていて。

  僕は世界を変える。
  変革を、この世界に、貴女の守りたかったものを解き放つ、
  迷わなくていい、罪悪感を持つ必要など無い、
  下したのは僕だから、貴女はただ新しい世界で、
  また笑って?

  大丈夫、僕は貴女を取り戻す。
  ・・・・・・・、フラウ、・・・・・・」

 大聖堂の昼を知らせる鐘が鳴り響く。
 それと同時に少年は顔を上げて、懺悔室の本来なら聖職者が座る席から腰を上げる、
 懺悔室に掲げられた十字架を振り返り、見つめながら苦々しく少年は小さく呪文を唱えた。
 余りにも小さく早く唱えられた呪文は、白い光の玉となり少年の背に位置していた壁に、
 掲げられていた白い十字架を音もなく粉砕する。
 きらきらと室内の明りに照らし出されて、白い破片は床へと降り注ぐ。

 少年は、ひどくあどけない表情で、ひどく邪気のある笑みを浮かべた。
 悪戯を思いついたような笑みを、きっと誰もが軽く口端を緩ませるに違いない。
 そんな子供の表情だ、されど吐き出された言葉はこの場所に不釣合いであった。

 「神など居ない」

 一つ否、と吐き出された言葉が響く。
 ただその言葉が音を持ち、力を持ったように、
 懺悔室へと響き渡った。

 「神など居ない、ありもしない。それは人々の偶像だ、
  ありもしない神にすがってはいけない、
  ではその愚かなる人々に何をすればいいか、
  ・・・・・フラウ、僕は神に一番近い場所へと行くよ」

 白く照らされた光の中、少年はいっそ少年こそが聖職者であるような、
 そんな邪気を含ませたような言葉だと言うのに、
 まるでそれを感じさせない、

 あるいは。

 「・・・・・・、グローリアス、グローリア」

 聖歌の一部を高らかに歌い上げると、
 少年は扉を開け放ち部屋を後にした。
25ある鍛冶師の話16-2sage :2004/08/15(日) 12:57 ID:WezR.o7U
 フェイヨンにある小さな宿では、今日もひっきりなしに患者の足が途絶えない。
 その二階に随分と長いこと居座っている、闇を染め抜いたような紫色の髪の聖職者が居る。
 名前をスピカ、星の名前を持つその聖職者の胸には05という刺青のような数字があった。

 時折の着替えにそれを見ていた、スピカを慕う桜花(オウカ)、花の名前を持つ暗殺者は、
 何度かその数字について問いかけようとしたものの、何時もその問いかけを迷っていた。

 この先生とフェイヨンの人たちに慕われる聖職者は、
 何十年か前にふらりと来たきり、その頃から姿変わらずここに居るのだと言う。
 初めは誰もが魔物ではないかと言っていたが、
 この青年の人となりのおかげか、今ではすっかり街に溶け込んでいる。

 「先生、次の患者さん来てます」

 疲労のためか少し息をついた桜花の銀髪の頭を、スピカが軽く撫でる。
 子供を諌めるような行為に、桜花が眉を寄せるがそれもかまわず、
 小さく室内の時計へと視線を目配せして、昼である事を教えた。

 「お前は私の分のお昼も買ってきておいてくれないか。
  三つ角向こうの、お弁当で頼むよ」

 「・・・・・いつものスか」

 あつあつの卵焼きが美味しいと以前話していたのを思い出しながら、
 桜花が頷くのにスピカは苦笑いした。
 小腹を押さえたスピカを見て、桜花はよし来たとかばかりに窓へと歩み寄ると、
 戸を開け放つと同時に近くの枝に飛び移る。

 「こら、猫じゃないんだ。ちゃんと入り口から」

 「・・・、いってきまぁす」

 悪びれもせずに笑みを向ける桜花を見て、スピカは笑う。
 片手をひらひらと振りながらその少年から青年となりかけの背を見送る。

 「・・・・あともう少ししたら、背を追い抜かれるな」

 初めて会った時の、血まみれの小さな暗殺者の事をふと思い出した。

 雨の中買出しに出かけた帰りに、初めての任務で返り討ちにあった小さな少年は、
 まだまだ親に甘えなくてはならないほど幼い年端の体つきで、
 けれど慌てて片手で抱き寄せてみれば、小さく、任務失敗、ごめんなさいと、
 震える唇でそう言ったのだった。

 アサシンギルドの方針は知らない。
 けれどこの小さな子供を放っておいて、何が聖職者だと思い立ったスピカは、
 後の事を考えずに介抱したのだ。

 その後アサシンギルドから使者が来て、
 あの小さな暗殺者の事を頼まれたのだった。

 面倒を見て欲しいと言った暗殺者ギルドの使者は、
 海賊頭巾をかぶったまだ若い暗殺者で、
 ひどく沈痛そうな面持ちをしていた。

 だからと言うわけではないが、放っておけずにそのまま共に過ごして来たあの暗殺者は、
 今ではあと数年すればすぐにでも背を追い抜きかねないほど成長している。

 「・・・長い休暇だった」

 目を閉じれば広がるは何か。
 目を閉ざし室内に佇む聖職者は赤と黒を主とした男のそれではあるが、
 どうにも男にしては体つきが細く、女にしては骨ばった感がある。

 「・・・・・・グローリアス、グローリア」

 小さく星の名前の聖職者が唱えた瞬間。

 世界は暴発した熱を解き放つような勢いで、
26ある鍛冶師の話16-3sage :2004/08/15(日) 12:57 ID:WezR.o7U
 鈍い爆発音が聞こえた時、暗殺者桜花は丁度弁当を買って戻るところだった。
 お釣りをもらおうと伸ばされた手が一瞬止まると、店の主人はどうしたのと問いかけようと、
 次の瞬間桜花はお釣りも弁当も受け取らず駆け出していた。

 ひどく、嫌な予感が胸を満たしていた。
 あの人の笑みが遠ざかった気がした。

 取り残されたような感じがした。

 それはただの勘だ、人を殺したりする命のやり取りで覚えた、ただの、
 だからこそ確実性があった。そうではあって欲しくはなかった。

 鈍くあがった爆発音の中、燃え上がる火の中からあがる悲鳴がある。
 誰がそんな事をしたのかは知らない、ただいつも出入りする小さな宿は今、
 燃え盛る炎の中にあった。

 「先生!先生は!」

 慌てて宿の中へと走り出した暗殺者を止めようとする声と手が伸ばされる、
 その合い間をすり抜けて一階の扉を開け放つと、あまりの熱と爆発で吹き飛んだらしい、
 誰かの手を見つけた。

 思わずその手を見つめるが、ひどくゴツゴツとした年のいった手である事に、
 桜花はほっと胸を撫で下ろした。と、同時にそれを嫌悪した。

 こんなんじゃ先生に怒られる、眉を寄せて二階へとあがる階段を見つけ出すと、
 徐々に強まる炎も気にせず突っ込んでいく。
 二階へとついた同時に廊下を一気に駆け抜け、一番奥の部屋へと走りこむ。
 扉は粉々に粉砕されていて、どうやら直撃はここだったらしい、

 「せんせェ、せんせ!!」

 悲鳴混じりにあげた声と共に走りこんだ室内には数人が居た。
 一人は愛しの先生、背を向けていたが桜花を確認するなり慌ててその暗殺者の体を、
 庇うように立ちはだかる、先に二人。一人は吟遊詩人だろうか、
 もう一人はそれと対の踊り子。

 スピカとは違う淡い紫色の髪を、高く一つに結い上げた吟遊詩人は、
 頭の上の羽のついた帽子を一つ撫でると、小さく笑みを浮かべた。

 「君の大事なものか、それが」

 スピカはただその吟遊詩人を睨みつけると、叫んだ。

 「この子に手を出すな、協力なら幾らでもしてやる、
  もう誰も関係のない人たちを巻き込んだりするな!」

 「別に協力をしてもらわずとも結構。
  君の力を奪い取る事が可能になったからさ、
  大人しく死んでくれ、かつての友よ、星の名前の聖職者スピカ」

 隣に立つ踊り子は金の長い髪が艶かしく腰まで彩りを添えている、
 真っ直ぐに切りそろえられた前髪から覗く目は意志の強さを知らせるように、
 隣りの吟遊詩人へと注がれていた。

 「・・・・・・、先生、誰、こいつら」

 「桜花、逃げなさい。早く、早く!」

 叫ぶスピカの声に、桜花は首をゆるゆると横に振る。

 「どうして、どうして、先生、オレは」

 「・・・・・・スピカ、私はね、時計塔の守り手なんだ。
  御伽噺にあるだろう、かつてあったグラストヘイムの王国と人間との戦争の、
  私はグラストヘイムに居たんだ。

  見た目よりもずっと年を取っている、
  そのグラストヘイムの守りとして作られた時計塔の守り手なんだ。

  私は人間なんかじゃ」

 「そんな事はどうでもいいよ!オレはアンタが好きなんだ、
  アンタしかもう」

 声をあらげスピカの背へと抱きついた桜花に、スピカが眉を寄せて目を閉ざす。
 吟遊詩人はそれを見て、ひどく幸せそうな笑みを浮かべた。

 「スピカ、幸せだったんだな」

 「・・・・・そりゃぁ、な」

 相槌を返したスピカに吟遊詩人は片手をすいと前に突き出す、と、
 一直線にスピカへと駆け寄る。それを見てスピカは何かを早口で呟くと、
 電気の走るような音とともに白い空間を展開する。
 足元に広がるのはそれは結界だ、今の世の聖職者達が手にする事のできない、
 失われた世代の力、バジリスカと呼ばれるその空間は、
 かつてグラストヘイムにあった国で使われていた術であった。

 その結果に阻まれたと同時に、吟遊詩人が唇を開く。
 矢のように前に突き出された手の平は、白い空間に阻まれて進む事ができない。
 開いた唇からは甲高い音が漏れ出した、ひどくゆったりと流れてくる旋律は、
 アカペラでありながら眠りの女神でも引き寄せたらしい、
 結界の中に居るはずのスピカの瞼が一瞬閉じかけて、
 瞬間弾ける様に結界の威力が失せた。

 「今の世で、かつてと同じように一人で失われた術を使えた事は、
  感銘に値する。ただ、君は少し戦闘には向いてはいなかったようだね」

 弾けた瞬間、桜花の体は突き飛ばされていた、
 廊下へと突き飛ばされ咄嗟に受身を取って衝撃を逃がす、
 慌てて体を起こして室内を見れば、

 聖職者の黒の法衣から白く手の平が伸びている。
 手で貫かれたのだと理解したと同時に、がたがたと桜花の体が震えた。
 振り返るスピカは小さく唇だけで逃げてと告げる。
 吟遊詩人は何事か唱えると、その手を回転させながら抜き取った。

 支えを失ったようにぐらりと倒れこむスピカの体に、
 桜花は廊下を駆け抜けて抱き止めようとする。
 その目の前に、走る風を感じて慌てて後ろへとステップを踏むと、
 踊り子が赤い鞭を片手に冷たく見下ろしていた。

 「どけ、・・・・・・」

 小さく震えた声で言われた言葉に踊り子は言った。

 「崩れ落ちるわ、早く行きなさい。
  死んでしまう、君も」

 冷ややかな目線だと言うのに嫌に沈痛そうな言葉の響きだった、
 桜花が違和感に眉を寄せる、と、

 「っつ、まだ動けるのか、君は!」

 吟遊詩人の驚いた声と共に踊り子が振り返る。
 今だとばかりに踊り子を突き飛ばし、懐から愛用のダマスカスを取り出して、
 一閃させる。踊り子の悲鳴と共に赤い色が炎の中さらに彩りを添えた。
 片目を押さえて床に膝をつく踊り子に小さく、ごめん、とだけ告げると、
 桜花は一気に室内へと踏み込む。

 「・・・・・・・・・、おう、か」

 体に穴を開けたまま、風を震わせるような音で声を洩らすスピカを抱き上げると、
 唇端から血を零す吟遊詩人を見返しながら、
 桜花はその年端の少年には不釣合いな暗い目を叩きつけた。
 小さな体からは信じられないほどの殺気が、吟遊詩人に叩きつけられる。

 吟遊詩人は僅かに肩を震わせ、腰をあげようとした。

 「わーぷ、・・・・たる」

 掠れる様に途切れ途切れに零れた言葉と共に青い石が地面へと光を放ち落ちた、
 スピカを抱き上げた桜花の体はそのまま光の渦へと吸い込まれて行く。

 「・・・・・!」

 目を見開いて血にまみれた腕を振り上げた吟遊詩人の姿が遠くなる、
 再び光が晴れて視界がはっきりとした時、鼻に潮の匂いがついた。
 足元にはちゃぷりと水が満たされている、

 「・・・・・・・スピカか、お前ェ」

 その木で覆われた室内の中央にある、古びた机の上に腰かけている男が、
 唇を開いた、青い古びた金の刺繍の縁取りのコートに、青の海賊帽子(コルセア)、
 桜花がはっと顔を上げると、右目に黒の眼帯をかけた海賊船長が小さく笑みを浮かべた。

 「ドレイク!?」

 慌てて周囲を見回せば、確かにそこはかの幽霊船の中か。
 とすればここはアルベルタの近郊近くのはずだ。
 右足のない船長は、机に腰をかけて唇に煙草の煙を揺らせながら、
 血にまみれた聖職者へとニヒルに口端をあげて笑みを返している。

 呼ばれた名前に眉を下げると、

 「呼び捨てはねェだろうがよ。船長とまでつけてくれねェーとなァ、
  こちとら長い間この船の主人やってンだ」

 「・・・・・、ひさし、ぶりです、・・・・・、時計塔の守りが崩されました、
  ・・・・申し訳ない、また・・・・・・迷惑を」

 咳き込むと同時に急に力を無くしたようにぐったりとなるスピカに桜花が、
 先生と泣きじゃくりだす。それを見ながらドレイクは眉を寄せると、
 右足の義足をゆらりと軽く揺らした。

 「誰かに似てると思ったら、キリアの奴か。
  まァいい、坊主、この船の船医を呼びつけてやっから、
  安心しろ、・・・・・・・・・・この船に乗った以上、お前らは私の客人だ。
  指一本触れさせねーよ」

 そう言って不敵に微笑む海賊船長の揺れる煙が、天井へと消えた。
27ある鍛冶師の話16-4sage :2004/08/15(日) 12:58 ID:WezR.o7U


 胸元をぐるんぐるんに包帯に巻かれた聖職者に抱きついたまま、
 離れようとしない暗殺者が居る。
 海賊船の中の一室で、それを見届けながら黒衣に黒髪長髪の聖職者と、
 海賊船長は顔を見合わせて安堵の溜め息をついた。

 「お前が呼びつけると言うから、何事かと思ったが」

 そう言って口を開いたのは、黒衣の聖職者である。
 通称ダークプリーストと呼ばれる彼は、本来は封じられたグラストヘイムの何処かで、
 監視者も兼ねてのんびりとやっているのだが、血にまみれた手の平をぬぐう彼の左手の甲には、
 07と言う刺青のようなものがある。

 同じ時計塔管理者なのだと船長に紹介されて、
 桜花は警戒心は解いてはいるものの、スピカの傍を離れる気配が無い。
 そんな桜花を宥めるように背中を撫で続けながら、少し潮臭い室内の木製のベットの上で、
 スピカは溜め息をついた。

 「クロウ、久し振りです」

 「あぁ、久しいな、スピカ」

 クロウと呼ばれた黒衣の聖職者は、何処か異国の王族のような堂々とした風貌がある。
 普通の聖職者の衣服さえ着て教会を出入りすれば、さぞかし信徒達から慕われたに違いないが、
 クロウは苦いものを潰したような表情をして、黒衣の法衣の裾を上げた。

 「・・・・・この海水はどうにかならんのか」

 言われて船長は煙を揺らしながら、そっぽを向く。

 「どうにもならん」

 簡潔に述べられた言葉にクロウは絶句した。
 暫くしてお前らしいと言って苦笑すると、スピカへと黒い眼差しを向ける。

 「ところで残念だが君の力はもうない」

 言われた言葉にスピカがやはりそうですか、と相槌を返す。

 「アルトが誰かの協力を得て、
  封印破壊を始めたのはグラストヘイム内部に居ても聞いていたが、
  これほどとはな。まだ襲われた話は君しか聞かないが、
  なにせあの中に留まって封印の監視者を努めると言うのも楽ではない。

  アリスが言っていたが、冒険者どもの出入りが多すぎて、
  魔力の循環が激し過ぎるそうだ。
  遠い未来、どちらにせよ封印は壊れるかもしれん」

 ドレイクがそれを聞いてげんなりと溜め息とともに、煙を吐く。
 義足で慣れた様に立ったまま、腰に手を当てて船室の天井を見上げた。

 「・・・・・・・、・・・・・・桜花君が取り残されてるぜ?
  まず、説明をしねーと」

 指摘された言葉にスピカが口を開く。

 「・・・・あぁ、すいません。
  桜花、ええとな、二人とも私の友人なんだ。
  こちらがクロウさん、あちらがドレイクさん。
  クロウさんは時計塔の守り手の代表として、グラストヘイムに留まって、
  定期的に私達守り手に内部の状況を知らせてくれる。

  ドレイクさんは幽霊というか」

 「・・・・・まぁ、そんなところだ」

 照れくさそうに煙を揺らす船長に、桜花は瞬きを繰り返して話を聞く。

 「アルトと言うのは、私を貫いたあの吟遊詩人さんで、
  隣に居た踊り子は・・・・・、私も知らないが、多分彼の相方だと思う。
  力を奪われたと言うのは、ただの人に戻ったと言う事で、
  まぁ私の場合それでも人と言うには少し外れているんですが」

 「・・・・どういうこと、先生」

 「・・・・ホムンクルスなんだ」

 ぽかーんと唇を開いた桜花の顔を見ながら、
 ドレイクが遠慮なしに噴出す。
 それを横にしながらやれやれとばかりにクロウが額に手を当てて、頭を横に振る。

 「・・・・・・アルケミの?」

 「ええ」

 問い返された言葉に即答すると、スピカが尚も言う。

 「性別というか、生殖器が両方あるんですよ」

 「・・・・・・せいしょくき」

 生々しい言葉をカタコトに口にしながら、スピカをおずおずと見返す桜花。
 それを見返しながら、何を思ったのかスピカが見るか?と問い返すが、
 慌ててドレイクとクロウが止めに入り、事なきを得る。

 「・・・・・・・、元々グラストヘイムに居た人々は、
  巨人族と呼ばれる人と少し大きさの違う種族なんだが、
  人との交流を重ねる内に、完璧な生き物と言うのを作り出そうとして、
  一人で生殖行為のできる生き物を作ろうとしたある実験があったんだ。

  ・・・・その試作品というより、成功作品の一つが私、というわけだよ、桜花」

 「・・・・・・・相当大きな国だったんですね。
  グラストヘイム、今の失われた技術の一つじゃないですか、ホムンクルスなんて」

 「確かにね、元は隣りの国の技術だし、今はあちらの首都ジュノーでやっと、
  その研究を許可したところだろう、実現はまだ先らしいけれど」

 「・・・・・、そう、なんですか」

 「ところで、桜花。君顔が赤くないか」

 スピカに突っ込まれて、桜花が慌てて取り繕うようにわたわたと両手を振る。
 それを見てドレイクがにやにやと口端をあげる、煙が揺れた。

 「・・・、やらしいがきんちょめ」

 桜花が顔を見る見るうちに真赤にすると、
 スピカが小首を傾げながら背中を撫で続ける。
 嫌な感じの笑みを浮かべる海賊船長の頭を、帽子ごと黒衣の聖職者が殴りつけた。


28ある鍛冶師の話sage :2004/08/15(日) 12:59 ID:WezR.o7U
気が付いたらもう残暑ですね。
残暑お見舞い申し上げます、話の最後が見えそうになる度に、
書くのを躊躇するのは書いてて楽しいからなんだろうなぁとかぼんやり
ヾ( ・w・)ノ゛
29名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/17(火) 15:37 ID:g46PddDw
やらしいがきんちょめ!

(*´д`)っд`)
30|゜ω゜)sage :2004/08/17(火) 22:36 ID:g46PddDw
うpするときに感想に対する返事も……と思っていたら次スレにまで 遅い遅すぎるorz
感想を下さった皆さんにはほんと失礼なことをしました。

>前135氏
ごめんなさいひとえに自分の筆力不足です。

>93
あいつ出したらいっぺんにキャラ食われるので出せない、自分には御せねぇっす。
自分の代わりに解説までして下さって感謝の念に耐えません。

>('A`)氏
言い回しは元ネタに寄るところが大きいので、ぜひともご確認ください。
絶望的におっそいですけどハヤカワSF文庫です。

>138
似たようなものです?

143氏
説明を入れる場面が作れませんでした。明らかに構成ミス。
精進します。ご指摘感謝です。

>鍛冶師の人
すいません説明を入れるところがなかtt(ry
明らかに構成ミs(ry
あとあわてんぼさんなところに逆毛的愛情を注ぎたい。
31|゜ω゜)sage :2004/08/17(火) 22:37 ID:g46PddDw
 インスタント・バタフライ型瞬間移動術を繰り返し、地下三階へ三分で移動。崩れ落ちた橋が海水に飲み込まれ、その海水は先の神殿を守る天然の城壁となっている、そんな場所。
 数少ない足場を守るかのように、水際から際限なく登り、また朦朧と実体化する水魔たちと切り結ぶ冒険者たちの姿があった。
 クアッアはひゅうと口笛を吹き、
「こいつはいい。どこに向かって打っても的にあたるぜ。鴨撃ちだ」
「馬鹿野郎人間もいるだろうが。ちょっとは気を使え」
「その心は?」
「人間の肉ってまずいんだよ」
 言ってダラートは足元に落ちている烏賊の切れ端を裏返してみる。身が腐って死ぬほどまずそうだった。うえぇと遠くに放り投げる。
「ここからは走るぞ、ダラート。ダイエットだ」
「おれのスマートな身体に無駄な脂肪なんかついてねぇよ」
 クアッアは一挙動でハンター・ボウを構え、疾風の属性が備わった矢を番え、実体化しようとしていた人魚の水魔を打ち抜く。
 そして走りだす。苦戦しているような連中には援護を送り、目の前に現れる水魔には矢を叩き込む。
 ダラートも全身のバネを使い、俊敏で且つ獰猛な、まさに野生を思わせる走りでクアッアの前を行く。鋭利な爪がすれ違いざまに烏賊の水魔を五枚におろし、凶悪な顎と牙が貝魔をがっちり捕らえ、
「かてぇ! ふざけんな叩き割ってやるッ」
「今度にしろ蹴っ飛ばすぞ!」
 一気に四階、海底の天然城壁へと進む。海水に入り込むと同時に適応暗示がかかり、人の生息域外である水中を"無視する"状況が発生。行動域へと欺瞞させる。
「っ! ひょう」
 潜ったとたんに突き出された銛を紙一重でさけ、頭が認識する前に両腕が弓を構え番え放ち番え放ち番え放つ。三本の突風を纏った矢が人型の亜種、半漁人の顔面をごっそり吹き飛ばす。吹き飛ばす前に横合いと正面からさらに三本の銛が突き出される。クアッアは前進して銛と魚人の間に入り、一瞬のうちに三体に対して六本の矢を放つ。しかしそのさらに外側から八体の魚人が銛を構え――
「うざってぇダラート手伝えっ」
 突き出される前にその八体に対しそれぞれ二本ずつの矢が突き刺さる。異常なほど正確且つ高速の射撃である。
 ダラートも忙しかった。なぜか自分を見るとそそくさと下がっていく魚類達に目を輝かせながら飛び込んでいたからだ。クアッアはその尻に向かって神速の射撃。
「うっほーごっちそうごっちそうおいこら逃げるなよフェンちゃーんってウニャアア」
 駆け寄って尻を押さえて跳ね回っている黒猫の尻を蹴り飛ばす。ぎゃん。
「いてぇ! ちょっとまてよクアッア今の本気だろ本気で撃っただろ!?」
「じゃかましい俺は常に本気だ。アホ丸出しな事してないでとっとと下に降りるぞ!」
「あーくっそマジいてぇまだヒリヒリするーこのやろーお前らが悪いんだぞあったまきた全部切り刻んでやるぁー」
 異常に発生する魚人達の包囲の輪を数瞬で全滅させて突破。全速力で走り海底神殿の残骸を超えながら襲い掛かってくる雲霞のような魚人、人魚、魚類、もろもろの水魔に対し射撃と残撃を加えながら駆け抜けていく。クアッアは狩人の特性である極限の集中を見せているわけでもなく、ラダートにいたっては見た目ただニャーニャー言いながら爪を振り回しているだけのようである。
 狩人のこの異常なまでの精緻さはともかく、属性としては同じ魔であるはずのワイルドローズがなぜ自分達を攻撃するのか、未だ魚類としての属性が強い水魔たちには、ついぞわからなかった。
 魔物の巣と化した第三階海底神殿入り口を、天意局の二局員は無人の荒野を行くがごとく駆け抜けた。


    *   *   *


「はて、さて、はて」
 ケイオス群体の一部が消えた場所、そこに再び人影が現れる。
 黒衣――黒い肌の、黒い目の、黒い帽子の、黒い人。口元にうっすらと哂いを浮かべ、黒の人はとん、とん、と、水中を階段でも上るかのように飛んでいく。
「ケイオスの発生か。いやはや全くあいも変わらず完全無欠の予測不能、徹頭徹尾の無軌道端子。
 しかし実際問題愉快なことになったのは言うまでも無い。なかなか味な事をしてくれるじゃないか、ケイオス――いや、これも我々の意思と言う奴かな? ふふふ全く、全く、この場に叫奏者が居ないことが悔やまれるよ。是非とも一曲奏でて貰いたいものだ」
 とんと水中に立ち止まる。かつてイズルートの地に降り立った一柱、カレを祭った荘厳壮麗なる大海底神殿、忘れ去られた忘却の神殿、もはや静寂と崩壊を供に、その永遠の身を静かに横たえる久遠の寝床、そは永久に横たわる死者にあらねど――
「おっと」黒の人は思考を閉じ、「これはまた違う『存在』だった。いけないねいけないね混同はいけない。たとえそれが、否、私が、同じ存在だとしても。さて」
 神殿から目を逸らし、神殿を回る回廊、水上より降り行く道筋に意識を集める。
 一人の狩人と一匹のワイルドローズが、海神の眷属を吹き飛ばしながら第五階層へと降りたのが見えた。
「天意局――ふむ! 愉快な世界、激動の時代を均一化しようとする地ならしの運行者……しかしその実態はやはり世界の稼動因子……こういうのは私の役割だったはずだが、しかしそれもまた我々の必然、だろう!」
 仰ぐように謡うように両手を広げ、
「さあ封じたまえ天意局! なに、君たちには決してその意味を理解することは叶うまい! そう、たとえ、君たちが天の密使だとしても、だ!」
32Q/Rsage :2004/08/17(火) 22:38 ID:g46PddDw
 ドウ――と、海底が激震した。
 体勢を崩して地面に伏したクアッアはそれでも腕を止めない。霞のように両腕がぶれると同時、無数の矢が周囲の敵に対してあやまたず突き刺さる。ラダートは驚いて背びれを食いちぎっていたソード・フィッシュを離してしまい泣きそうな声を上げる。
「うわああ、お、おれの刺身がぁー。きっとテスラの呪いだぜクアッア、そうに違いないー」
「本気で泣くなボケ猫、喋ってないで突っ込めッ」
 足元の岩盤にひび割れが走り、海底の奥から現れた毒々しい色彩の蛇が無数の鎌首を二人に向ける。クアッアは横っ飛びしながら自分に向かってくる蛇を打ち落とし、ダラートはひょいひょいと俊敏に避け、逆に蛇の一匹に喰らい付く。
「ぎにゃ?! おいおいマジかよーしびれちゃったよ」
「なんだ、喰えなかったのか? よし、こいつ一匹もって帰ろう。お前と暮らさせる」
「ひ、ひどい。いや、喰えるよ、蛸みたいな味だった」
 しょうがなくダラートは爪で切り裂く。緑色の粘液を噴出しながら、蛇の一匹が力を失って海底に落ちる。その蛇の死体が、しかし動く。ずるずると後退していく。ダラートはいぶかしげに蛇の尾のほうを見、
「クアッア! 固まってるところをふっとばせ!」
 聞こえたのか聞こえないのか、クアッアの矢を番える右手が一振りされ、ハンター・ボウが甲高い音を立てていっそうその撓った身を震わせる。と、九本の矢が一斉に放たれる。アローシャワー。撃ち終えた後の僅かな隙の間に、蛇の一匹がわき腹に絡みつくが無視。九本の矢はそこだけ何故か折り重なるように密集した蛇たちの居所に、まるで砂かけを撒き散らすように襲い掛かる。物騒な砂かけだ、とクアッアは思った。衝撃。蛇がのたうち、大半が崩れ落ちる。その奥から、これもまた毒々しい色をした壺のようなものがのったりと出てくる。
「うひょーペノメナじゃん。わはは、巨大ペノメナだ。干物にしても、三日は持つなぁ。じゅるり」
 一層の激しさをもって襲い掛かる蛇、ペノメナの触手。通常のペノメナより五倍近い大きさを誇る、ヒュージ・ペノメナ。一体ではない、二体、三体――と、海底を割り、または岩陰から這い出ながら、計五体のそれらが姿を現す。リンドウが察知した大型の水魔とはこのことだろう、とダラートはあたりをつける。
 クアッアは腹に巻きついた触手に手こずっていた。足が海底から離れ、引き摺りあげられている。矢では断ち切ることはできない。予備の装備であるマインゴーシュは腰裏にあるが、それを抜くことは矢を手放すのと同義である。クアッアの狩人としての特性上、それはあってはならないことだ。ダラートに切ってもらえばいいが、そんな借りを作るようなことはしたくない。なにより、この程度で死に絶える自分ではない、とクアッアは一人肯く。そんなことをするぐらいなら、このイソギンチャクもどきを全部打ち殺す。
「おいクアッア、一人だけ遊んで酷いじゃないか!」
「ダラート、いいか、急いで祭壇に行け! こいつらは俺がぶっ殺す」
「な、なんだって。クアッア、おれの獲物を横取りする気か! そんなことはさせないぞ。降りて来い勝負だー!」
「極潰し猫、ボケ、シリアスな話だ! 囮になるって言ってるんだよ! お前以外に誰がこんなもん食うかッ」
「うー、しょうがないなあ。判ったよ。あいつの触手、本当に旨かったのに」ぶつぶつぶつ。
 四足で駆け出す。触手の幕をあっという間にすり抜け、神殿敷地内に入る。
 クアッアは既にダラートのことなど気にしていない。触手が本体に引き寄せられ、その巨大な口内にクアッアを運ぼうとしている。そのグロテスクな口内にハンター・ボウを向ける。幻影の射撃。一瞬ではなく、口内に運ばれる間それは続いた。クアッアがぽいっとヒュージ・ペノメナの体内にほうり込まれた瞬間、その巨躯が分裂する。引き千切られた、と表現してもいい。クアッアの矢が猛烈な牙となり、顎となって、その弾力性のある体を引き裂いたのだ。無論、それには矢の破壊力となにより膨大な量の手数が必要で、それを数秒でやってのけたその実態は、かれの戦術にあった。
 実のところ狩人クアッア・ラインドは、各種属性を付与した矢を、それぞれ一本ずつしかもたない。そして、彼は一度たりともその矢を、物理的にだが、撃った事がない。矢を媒体に己の念を二重三重に乗せ、幻想と現実の境目の中で打ち出す。弓を引くものたちに一般的に伝えられるこの大威力だが精神力を削る技を、クアッアはより速く、より強力に、より効率よく、より日常的に、呼吸をするかのように使う。
 彼が『二重弓手』――ウィスパ・マンと呼ばれるゆえんである。
 海水に盛大に混じったヒュージ・ペノメナの体液で、クアッアの姿は隠された。四体の巨大水魔が触手を迷わすように振り上げ、思い出したかのように出現した魚人たちが、その周囲を取り囲む。先の狩人の行動を知らないからこそできる包囲の仕方。
 キィン、と、金属を叩いたような甲高い音が響いた。幻聴である。統一された意識が実際の空間に歪を生んだ、そのための幻聴。
 コマ落としのように、二重三重に包囲した魚人たちに穴が空く。その穴は明らかに前よりも大きい。
 幾分か近くにいたヒュージ・ペノメナの触手が、焦った様に血煙の中へ殺到する。殺到しようとした。
「――シッ」
 海水を裂くように一息を吐き出す。やはり一瞬で触手の先が破裂する。ヒュージ・ペノメナの巨体が、怒りによってか震えだす。それに呼応するように、他のペノメナ達が触手をうねらせる。
 毒々しい紫色の体液の奥で――黒目を針のように収束させ、クアッアは血を吐いていた。口内に入ったとたんに毒液を流し込まれていた。そうでなくても最初の触手が内臓に圧力を加えている。あばらが数本持っていかれていた。
「丁度いいハンデだ」
 精神統一され、錐のごとく鋭利になった思考がそれでも軽口を呟く。『圧倒する』という意思の元に組みなおされた仮想神経体系は、しゃべるという事を無駄と判断する。精神力がやすりをかけたように磨り減っていくのが判る。長くはこの状態でいられない。だが、こうしないとダラートが帰ってくるのに間に合わない可能性がある。それは駄目だ。あの黒猫に汚らしく笑われてしまう。そんな事態、自分の尊厳に関わる。
 クアッアは己のアイデンティティにかけて、血煙の煙幕から飛び出した。
33保管庫"管理人"sage :2004/08/18(水) 11:47 ID:RzoxzPYk
 こんにちわ。前スレで看板募集した後のドクオさまの>>14の書き込みに期待を膨らませている93です。
暑さがうだうだな今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。
 実は、知人より突っ込まれました。結構前の移行時に失敗したっぽく、保管庫のスレ検索が壊滅して
居た様子です(特に古いスレ)。利用時、ご不便をおかけしました...orz
 現在復旧中ですが、aaacafeの重さにてこずってます。気長にお待ちくださいませ。お手伝いも歓迎…。

 あ、あと。前スレで過分なお言葉を頂いた皆様に厚く御礼申し上げます。保管ガンガルヨ-
34('A`)sage :2004/08/19(木) 01:09 ID:zkiIZ9NE
 Ragnarok Online Side Story "Confrontation of fate"
 

 
 黒髪の剣士が閉めたドアを見ながら、サリアは呆けていた。
 何か悪い事をしたのかもしれなかったが、何が悪いのか、分からない。
 庭園で手を引いてくれた少年の必死な顔が浮かび、
 何故か、悪い気がした。
(でも・・・あの方のような人を巻き込む訳にも・・・いかない)
 だからといって、一人で何かが出来るわけもなく。
 強い悲嘆に暮れるだけで、結局は、城を逃げる前と何も変わっていない事に気付く。
 少年の部屋は、目立った調度品もなく、絵も花もなく、がらんとしていた。
 その隅のベッドで、ぽつんと佇む自分が小さく思え、
 今度は、泣きたくなった。
 窓の外で、黒い雲がかかり始めたのも、目に入らない程に。

 

 幼稚な魔法構成の転移を果たしたナハトは何処か別の空中に投げ出され、民家の屋根に激突し、
 もんどりうって地面に落ちた。
 吐血しないのが不思議なくらいの衝撃と痛みに耐え、起き上がる。
 不吉な空模様と供に、雫が降りだした。
「・・・また濡れ鼠か・・・」
 痛めた足を引き摺って、自分の宿を目指す少年の眼には、もう迷いは無い。
 やはり、自分は行くべきなのだ。


 夢の中で聞いたあの声が、「来るな」と言ったその場所へ。

 


 『旅立つ日』



 突如として立ち込めた暗雲の下、剣士ギルドの前で、ルイセ=ブルースカイは足を止めた。
 行く手に、質素な神父服を丁寧に着こなした男が立っていたからだ。
 ルイセは常から身に着けているスーツに、全くそぐわない太刀を帯剣していた。加え、何処か殺気立った様相で、凡庸な人間
が見れば、怯んで道を開けてしまうだろう。
 好戦的な冒険者に、街の人間が被害に遭う事も少なくないからだ。
 しかし、男は穏やかな顔を、微かに憂慮の色で固め、ルイセを正面から見ていた。
「洋介神父」
 ルイセが、その名を呼んだ。
 洋介と呼ばれた神父は、静かに頭を振り、目の前の少女に向けて言葉を紡ぐ。
「ルイセ=ブルースカイ。中には、入らない方がいい。ギルドは貴女の助けにはなりません」
 洋介は顔に違わない、優しげな声色で言った。
「剣士ギルドはプロンテラ軍の要請を受け、貴女を除名、及び即時の捕縛を決定しました」
 その言葉を聞き、ルイセが少し落胆した顔になるのを見るや、洋介はふぅ、と溜息を吐き、
「・・・いい加減、"髭"や私でも庇いきれませんよ、全く・・・」
「それは・・・どうも」
 顔を見合わせ、二人は苦笑した。
 洋介の背後で、剣士ギルドの中から争うような怒声と剣激の音が聞こえ、
「ああ、貴女の生徒達がギルドの意向に"反抗"しているんです。どうにも、先が思いやられる子達です」
 洋介が笑いながら言った。
「あと、ルイセ。貴女も段々、"彼"に似てきました」
 言われ、金髪の少女は照れたような顔になって、頭のリボンを触った。それから、
「憧れの人ですから」
 惚れ惚れするような笑顔で、答えた。
 そして、今度は、ルイセの背後で音が発生した。
 今しがた彼女が渡った橋を、十人前後の兵士が駆け抜けて来ようとしていた。
「・・・手伝いましょう」
「・・・いえ、大丈夫です」
 一歩を踏み出す洋介を制し、赤いリボンの少女は音一つ立てず、腰の太刀を抜く。
 その双眸は、既に戦いの気配に満ちていた。
 洋介は十字を切り、
「風の騎士に、加護を」
 それだけを言った。


 軍帽を被った兵士が錯綜する。
 白昼のイズルートに緊張が走り、道行く人々の姿が消える。
「女はあっちだ!おら、急げよ!」
 燃える様な赤い逆毛の剣士が、兵士を怒鳴りつけた。
(クソが・・・・・・ルイセが来る前にケリつけねぇと全員死ぬぞ・・・)
 ガルディア=ルーベンスの脳裏に、ルイセ=ブルースカイの尋常ならざる戦いが蘇る。
 一晩空けた今でも、震えが起こった。
 アレを相手にして勝てるわけが無い。今、イズルートに来ているプロンテラ軍全員でかかっても、無理だ。
 ガルディアは兵を引き連れ、ナハトの宿の前に立ち、数人に中の様子を探らせた。
 兵士達はガルディアのほのめかす"手柄"に釣られ、勇敢に突入していく。
 ガルディアは既に軍との取引を済ませていたのだ。
 ナハト達の情報と引き換えに、仕官を果たす。条件は、無事にサリア=フロウベルグを奪還する事、だ。
(この機会をモノにして、俺はのし上がるぜ、ナハト・・・!)
 野心に燃えるガルディアの前で、宿に突入した兵士達の悲鳴が響き渡る。
「ルイセか・・・!?」
「・・・貴方は、あの方のお友達ではなかったのですか?」
 反射的にカトラスを抜くガルディアへ、宿から静々と出てきた人影が言った。
 細身の身体を僧衣に包んだ少女。
 サリア=フロウベルグ。
(コイツ・・・)
 中へ入った兵士は五人。生半可な冒険者とは違い、正規の訓練を受けた兵士だ。
 それを、この少女が片付けた?たった一人で?
 ・・・有り得ないとは言い切れなかった。冒険者達の中には、外見と実力が噛み合わない者も多いからだ。
 ルイセも然り、このサリアという少女もそうなのだろうか。
 驚愕の中に喜びを見出す自分に気付き、ガルディアはこの上ない程の興奮を覚えた。
 血が沸く。肉が躍る。
 ルイセの戦いぶりを見た時は、恐怖しか感じなかった。だがしかし、敵として相対して、初めて感じる。
 戦いへの衝動。純然な歓び。
 剣士ギルドでの生ぬるい毎日とは違う。
 思えば、このガルディアという少年の箍は、昨夜のうちに壊れてしまったのかも知れなかった。
「いいね・・・くっく・・・いいねぇ・・・」
 ゆらり、と逆毛の剣士はカトラスを垂直に構える。
「手足の二、三本でも切り落としてやらぁ!それからでも軍に引き渡せるだろうしよぉ!」
 純粋な邪悪。
 ナックルを手に、サリアは逆毛の剣士に畏怖した。
 鬼気迫る、などというものではない。
 鬼そのものだ。
 咆哮を上げ、剣士は雨を浴びながら猛進して来る。
 サリアは拳を少しだけ動かし、剣を振り上げた逆毛の少年の鎧に軽く当てた。
 気勢はとにかくとして、この剣士の動きは直線的過ぎる。
 黒髪の少年よりは熟練してはいるが、まだ、未熟。
「道を誤らなければ、いい騎士になれたでしょう・・・」
 少女の拳に、不可視の力が収束した。筋力とは無関係に、拳を介して物理的な衝撃を生み出す。
 ガルディアは剣を振り下ろす事が出来ずに、吹き飛んだ。
 衝撃が波紋を広げ、鎧の内側から彼の胴体を襲う。
 鋼鉄の鎧が容易く弾け飛び、逆毛の少年は雨の中へ血を吐き出した。
「・・・ゲハッ!?」
「如何なる堅牢な防御も貫く、発勁」
 ガルディアの耳に届く、平淡でいて、悲しげな言葉。
「俺が…この俺が…?」
 雨溜まりに投げ出されたガルディアが呻く。その口から、一層の血が噴き出し、動かなくなった。
 終わった、筈だった。
 サリアが少年から視線を外した直後、低い男の声が響く。
「バニ=ランダースが命じる」
 サリアが、振り向いた。雨の中に立つ黒衣の男へ。
「主の御手を取り、全能なる癒しの元に再び立て。汝、脆弱なる者。卑小なる者」
 詠唱。
 黒衣の男は静かに、手の内の本のページに指をかける。不思議な事に、降りしきる雨の中でもその本は
一向に濡れず、黒衣の男もまた、雨など意にも介さない様子で言葉を紡ぐ。
 男の面は、白くのっぺりとしていた。白磁を思わせたが、遠目と雨のせいで、よく見えない。
 ただ、目の部分に黒い穴がポッカリと開いているように見えた。
「新手ですか」
「…いや」
 男は端的に言い、ページを捲った。
「僕は人命救助に来ただけさ」
 男の手が澄んだ青の小石をかざし、砕ける。
「汝に数多の祝福あれ―――"リザレクション"」
 光が満ち、地に倒れた剣士が微かに動いた。血反吐を吐きつつも、意識を取り戻す。
「今更、殺める事を咎めはしない。だけど、目の前で人が死ぬのは気分が良くないな」
「…やらなくてはならない事が、ありますので」
「…へぇ…話が、違う」
 男が僅かにサリアを見た。そこで、サリアは男の貌を直視し、仮面に気付く。
 口元以外は白い面に隠れてしまっていた。
「聖堂の勅使、神官のカルマです。枢機卿の要請を受け、サリア=フロウベルグを保護しに来ました」
 間が空き、やがて、カルマと名乗るプリーストが黒塗りの本を閉じる。
「貴女が、サリア様ですね」
「はい」
「誘拐されたと聞いています」
 また間が空いた。雨音だけが響き、今度はサリアが、ナックルで固めた拳を構えた。
「違います」
「はぁ…そうですか」
 カルマが、肩をすくめた。くすんだ栗色の髪の毛を触り、仮面の下で笑って、言った。
「じゃぁ、まぁ…僕は役目を果たしますので…」
 カルマの言葉より早く、サリアが動いた。ナックルを真っ直ぐにカルマへ向け、雨の中を駆ける。
 黒の神官はゆったりとした動作で本を開き、詠唱した。
 瞬間、今度はサリアが地面を転がった。カルマが驚き、本をたたむ。まだ何も仕掛けていないというのに。
 だが、カルマがその事を考える時間は無かった。
 剣を抜いた黒髪の少年が、眼前に躍り出たからだ。
35('A`)sage :2004/08/19(木) 01:10 ID:zkiIZ9NE
「サリア!」
 ナハトはソードを抜きざまに、妙な本を携えたプリーストの胴を薙ぎ払った。
 寸での所で、神官が身を引く。剣は空を切ったが、ナハトはそれよりもモンクの少女の無事を確認し、
 倒れているのを見るや、叫んだ。
「…大丈夫!?」
「は、はい…」
 息も絶え絶えに、亜麻色の髪の少女は答える。加速度的に、黒髪の剣士の怒りが増した。
 何故か、ガルディアも倒れていた。死んではいない様だったが、分からない。
 敵は、神官一人だ。
「君が城に乗り込んだっていう剣士か…国を相手に、一体、何をするつもりなんだい…君達は」
 神官、カルマの問いに、ナハトは考える。知らない上に、どうでも良い事だ。
 ただ、サリアのしたい事を…まだ何も知らなかったが、それを助けたい。
 たったそれだけで、自分は何か、
 そう、満たされるような気がする。
 彼女を守れるだけの力は、ないのだけれど。
 ガルディアのようには、なりたくはなかった。絶対に。
「答えないか…ひたむきって事なのかな…迷いがない」
 いきり立つ少年に、黒の神官は苦笑し、本を下げる。
 ナハトとサリアが意外な顔をした。苦境だったが、あくまで戦うつもりでいたのだ。
 雨の中、カルマはガルディアの傍へ寄り、
「そんな君達に、懐かしい匂いがした…だから、今日は退こう」
 青い光が満ちた。
 カルマとガルディアの姿が消え、残されたナハトとサリアは、呆然と顔を見合わせる。
 途端、ナハトは気恥ずかしくなって目を逸らした。
 朝、ああ言った手前、のこのこ戻って来て今更、何を言えばいいのか。
 途方に暮れる少年に、サリアが優しく微笑む。
「また、助けてくださいましたね…」
 嘘偽りのない笑顔だった。ナハトは嬉しくなりつつも、早くこの街を離れなくてはならない事を思い出し、
 サリアの手を引こうと手を伸ばす。が、それより早く、少女の身体が傾き、ナハトの腕の中で収まる。
「…サ、サリア?」
 思いのほか軽い重みと、激しい動悸に狼狽するナハト。しかし、すぐにそれが、自分の期待するものでは
ないのだと気付いた。サリアは、完全に意識を失っていたのだ。
 思えば、もっと早くに気付くべきだった。
 半魚人の時、サリアは身体つきからは想像できない戦闘能力を発揮した。だからといって基礎的な体力を
カバー出来るとは限らない。消耗は激しい筈だ。
 人間は所詮、人間でしかない。どんなに強かろうと、基本的な部分では同じだ。
(ましてや、女の子だしなぁ)
 相当、頑張ったに違いない。
 ナハトは足の痛みを無視し、サリアを背負って歩き出した。
 こんな事でしか役に立てない自分を思うと情けなかったが、それでも少しは、充足した。
「何度でも助けるよ。僕で良ければ、何度でも…」
 事情は後で良い。今は、休んで欲しい。
 剣士の少年は、雨の上がった空を見上げ、呟き、
 橋の向こうからやってくる愛らしい師の姿を見て、足を速めた。


 泣かないで。


 泣かないで欲しい。


 どうすればいい?どうすれば、貴女は笑ってくれる?


 
 答えを見付けた少年は旅立つ。
 追われる道、困難が目に見える遠い道程を。
 今、一歩ずつ。
 歩き出す。
36('A`)sage :2004/08/19(木) 01:27 ID:zkiIZ9NE
今晩は、週刊化してる気がする人です。投下していきます。
次はエスリナの話。その次からは戦闘なしのマッタリ話に。


>>93さん
勉強と言うからには人に見せられるレベルではないのです。ええ。
なんか、もうね、おさっしください。('`)


>>18さん、20さん、21さん
感想ありがとうございます。前作DOYとはまた趣旨の違う…というか、
あんまり重いのはお腹一杯なので、軽いテイストで書いてます。
ナハトが弱いのは、簡単に言うと、
「今のナハトは戦闘で主役になる子じゃないですよ」
ということなのです。分かり難いですね、はい。うまく説明できません。
ガルディアは戦闘狂ですね。ベタなキャラ作りですね。すみません。

>>|゜ω゜)さん
一ヶ月ぶりですね。情報ありがとうございます。
本屋へGO!
また今度のも濃い、というか、何というか。
私のような量産型似非物書きには羨ましい、個性の溢れる作品ですね。
ペノメナ食べたいです。

では、また。
37名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/20(金) 02:05 ID:05GciGG2
誰もイナイ…初投下するならイマノウチ?(・ω・)

書きあがったら投下してみます、誰も居なさそうな時間に。
38名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/20(金) 14:30 ID:mtv5YwAA
>ドクオ氏
おk、簡潔に。
生きとったんかいバニーーー!!ヽ(`Д´)ノ

>37
初投下期待sage
3937sage :2004/08/21(土) 04:00 ID:8SeGOJ/.
「2年ぶり、か?…そりゃ街並みも変わるよなぁ」
プロンテラ大聖堂下の騎士、クルセイダーの鎧に身を包んだ青年が感嘆の声をあげる。
背には斬り突き両方に柔軟に対応すべく作られた斧槍、ハルバードを担いでいる。
「つーか2年で、ここまで拡張されるとはなぁ…」
首都プロンテラの大通りの真ん中でそんな感想を零した青年は……端的に言うと、おもいっきり周りの迷惑になっていた。

RagnarokOnline/ShortStory.01 「2年ぶり」

「あの、通行の邪魔になってるようですし、とりあえず脇によけるなりした方がいいんじゃないんでしょうか」
横から若いハンターの女性に声をかけられて、周囲を見回す。
周りの人間は不機嫌そうな視線で青年を見、そして彼を迂回して歩いていく。
「うわっ、す、すいません!」
あわてて道の脇に避ける青年、そして横から小さな笑い声。
見ると、先ほど彼に声をかけてくれたハンターなのだろう、彼が慌ててよける様があまりにおかしかったのだろうか。
銀色の髪を揺らし、どこか優雅とさえ思える笑い方である。
「あ、ありがとう、おかげで自分が大通りの真ん中で迷惑かけてるって気付いたよ」
「いえ、そこまで感謝されるほどの事じゃ…それにしても、プロンテラは初めて…ではないですよね、クルセイダーですし」
「ええ、実は2年ぶりに訪れたので…その、ちょっと変化の多さに呆けてしまいました」
「そうですか、それは…では、次からは通りの真ん中で呆けないように、いいですね?」
悪戯っ気のある、それでいてどこか親しみの篭った顔で注意されてしまう、そんな事をされれば、黙って頷くしかあるまい。
「よろしい。あっと、それじゃ、私はこれで」
「あ、わざわざ親切にありがとう」
手を振りながら、これも世の為人の為、等と言いつつ彼女は人ごみの中に消えていった。
「うーむ、親切な人もいるもんだ…さて、そろそろこっちもネンカラスに行くとしよう」
そして青年は歩いていく、旧友のいる首都随一を誇る宿屋ネンカラスへ…
「……さて、どっちにいけばネンカラスに行けるんだ」
ソッコーで迷っていた。

「オイコラ、随分と遅い到着だな、エイルよ?」
「いや、それはなんというか俺の不手際だ、スマン」
エイルと呼ばれた青年、先ほど大通りで呆けていたあのクルセイダーの青年である、が目の前の旧友に頭を下げた。
「ふむ、素直でよろしい」
結局あの後、暫く首都をさまよい、城門前に居た兵士に道を聞いてようやくネンカラスにたどり着いたのだ。
で、現在、ネンカラスの一室で、懐かしの旧友と顔をあわせているわけであるが…。
「2年ぶりか、エイル、達者だったようだな」
「君こそ…まだ、蒼穹と呼んでいいのかな?」
「ああ、後にも先にも、もう俺の名はそれのみと決めた」
蒼穹と呼ばれたアサシンの青年が答える。
2年前に分かれた時と変わらない、暗殺者とは思えない温かみの有る目で、向いに座るクルセイダーの青年を見つめる。
「お前は随分と変わった、背もずいぶん伸びたな」
「まだギリギリ10代だからね、そろそろ伸び止めって感じもするけど」
ふむ、と神妙に頷く蒼穹を見据え、
「で、例の情報は本当なのか?」
「ああ、間違いない、プロンテラ騎士団経由の話だからな、団員を正式に傭兵として派遣の手配もしていたぞ」
「そうか……なぁ、蒼穹」
ん?と顔をあげ返事を返す蒼穹。
「ずっと疑問に思ってたんだが、どうやって潜入するんだ、貴族の為の武器オークション会場なんかに」
貴族の為の武器オークション、これが蒼穹の言う情報であり、
エイルがこの2年間探していた物が出品されるオークションであるのだが。
このオークション、貴族が趣味で武器を蒐集している事も少なくなく、
その利益を見込んだ人間が正規のルート外などからも多数物品を持ち込む為、
ソレ系のゴッツイおにーさんとかも満載であり、当然警備も険しい。
「確か、他の貴族の推薦状か、顔パスできるほどの常連じゃないと参加できないはずだが」
「ふっふっふ…」
不敵な笑いをこぼす蒼穹、背後に変なオーラが漂っている辺りちょっと怖い。
「これを見たまえ、エェェイルくぅぅーん」
やけにニヤニヤしながら広げたのは一枚の羊皮紙と、そして…
「署名:アーノルデ…いや、アーノルド…アーノルド・エルロンドだと!」
勢い立ち上がるエイル、ふふん、と得意そうに鼻を鳴らす蒼穹。
「どうだ、すげぇだろ、しかもそれ本物だぜ」
「すげぇとか以前にどうやって手に入れたんだこれ、ゲフェンウィザードギルド長の署名入りなんて」
「そりゃ企業秘密、しかし、これで正々堂々正面から入れるだろう?」
…やられた、こりゃ貸しイチなんてものじゃない。
そう思いながら、エイルは久しぶりに再開した旧友の顔を見て、2年前のあの日と変わっていない事にいまさらながら噴き出してしまった。
4037sage :2004/08/21(土) 04:02 ID:8SeGOJ/.
ダレモイナイノデ ハツトウカシテミル(・ω・)

因みに続き物です、続き書いてるけど上手く纏められなくてながくなりそorz
初めてなのに長いもの書くとか無謀でごめんッ…

#内容はこのスレの文神様の影響をうけまくっておりますが、生暖かく見守ってやってください
41SIDE:A そして、夜は明けてsage :2004/08/23(月) 04:16 ID:JbMhv6JQ
|ω・`)ジー

|ω・`)ノ誰も居ない。駄文置くなら今のうち

----
 いつもの時間に目を覚ます。マント越しの床の固い感触が、俺を一瞬だけ疑問符の海に突き落としたが、
ベッドの上の人影が身じろぎするのを見て昨日の事を思い出した。
 依瑠は、まだ寝ているらしい。ほんの少しだけ、寝顔を覗いてみたい衝動に駆られたが、ぐっと堪えて
使い慣れた愛剣をそっと手にする。起こさないようにゆっくりと階下へと下りると、俺は日課の剣の鍛錬を
はじめた。

「…せいっ…。ふんっ…はぁっ…!」
 振り上げ、下ろし、薙ぎ上げ、払う。俺の持つ両手剣は防御にも攻撃にも適した幅広剣だ。騎士の間では
属性クレイモアを揃える方が主流だが、俺はあえてこの鈍重で無骨な剣型を愛用している。製造依頼を
受けてくれた鍛冶師も珍しがっていたが、この剣にもクレイモアに勝る点があるのだ。
 それを生かすためには、剣の重さに負けぬ腕力を維持しなければいけないのが難点だが。

「…朝から精が出るのう?」
 気が付くと、日はすっかり昇っていた。二階の窓枠に両肘をついた依瑠が珍しい物を見るように、俺を
見下ろしている。連れが居るという事は、俺一人の都合で時間を自由にできるというわけではないのだ。
シーツを羽織るようにしているということは、今起きたところなのだろうか。彼女の事をすっかり
失念していた俺は、迂闊さに内心赤面した。

「…ああ、すまん。飯か」
「宿の亭主殿が呼びに参ったのでな。お主に客が来ておるらしい」
「そうか、じゃあ水を浴びてから行くと伝えてくれ」
「わかった」
 俺の返事を確認してから、依瑠はひょい、と引っ込んだ。俺は、彼女の様子が昨日と変わらないのを
少し安堵して見送り、依瑠が部屋で身支度を済ませられるように井戸端で身を清めてから、普段用のジャケットに
袖を通す。本当なら昨晩できなかった剣の手入れをするつもりだったのだが、人を待たせていては仕方がない。
愛剣は鞘に入れたまま、俺は裏口をくぐると宿の食堂へと向かった。

「…おはようございます、ブレイドさん」
「旦那、昨日の分。もろもろ入れて500kだ。受け取ってくれ。で、今日もまたどうよ? 今度は騎士団とか」
 いつものように礼儀正しい女聖職者のテスラと、相棒とは対照的に馴れ馴れしい詩人エルメスがそこにはいた。
ダークロードを倒したときの分配に来たのだろう。昨日は色々ありすぎて、正直今の今まで忘れていたが。
「…ああ、すまんな」
「どうなさったんですか? 上の空のようですけれど」
「ブレイドさんも隅に置けないという事ですよ、ねぇ? あたしゃ何も聞いてませんでしたが」
 テスラが怪訝そうに尋ねてくるのには、朝食のトレイを持った宿の主が勝手に答える
「旦那、どういうことです?」
「……昨日、女を拾った。それだけだ」
 余計な事を言い出したオヤジを恨みがましい目で見ると、てっきり俺をからかっていると思った亭主の顔は
どちらかというと青い。
「…今度から女性を上げる時は教えてくださいよ…。変なところに踏み込んじゃって酷い目にあいましたよ、
 まったく」
「……あら」
「……ほほう?」
 オヤジの奴、俺に恨みでもあるのか。妙な言い方をされたお陰で俺を見る二人の目が痛い。俺はとりあえず
二人の誤解を解くべく、依瑠との出会いとか、彼女が記憶を失っていることとか、そういう事情だから
二人の勘ぐっているような事はないことを丁寧に説明した。

 ……説明するたびに、二人の目の中の面白がるような光が強くなっていくのはなぜだ…。
42SIDE:A そして、夜は明けてsage :2004/08/23(月) 04:17 ID:JbMhv6JQ
「じゃあ、今日の狩りには…」
「そういうわけで、今日はちょっとな。その子を首都やら案内するつもりだった」
「…ほほー」
「どんな女性なのかしら?」
 エルメスの相槌の向こう側から、テスラが興味津々といった口調で聞いてきた時に、ちょうど依瑠が階段を
降りてきた。とんとんとん、と軽い足音が聞こえると、何故か俺の口元が勝手に緩む。それを隠すように、
「主人、彼女にも適当に朝飯を」
「へ、へいっ。すぐにっ」
 気をつかってくれたのか、離れて座るイリューに会釈すると、俺は二人に改めて侘びを入れようと向き直った。
「…ブレイドさんのお連れ、その方ですか」
「旦那、そういう趣味だったとはネェ…」
 …もう弁解するのもアホらしい。

「そういう理由でな。今日は狩りには付き合えん」
「…そうですか」
「しょうがねぇ。旦那抜きでもやってみるさ」
 二人は勢い良く席を立った。内心、今日はこの二人にも一緒に回ってもらおうと思っていた俺は少し焦る。
エルメスはともかく、女性のテスラには同性でないと分からない諸々とかを案内してもらいたかったのだ。
「…待てよ。何をそんなにあせってる? 明日なら付き合えると言っているだろう?」
 背中にかけた声で、二人の足は止まった。振り向いた表情は、どこか俺の知らない…そしてよく知っている顔。
「俺とテスラと、二人でも拾ってくれるっていう砦持ちギルドがあったんでね。ただ、その条件が」
「一人当たり加入金20Mzenyだったので、…少々手元不如意なのです」
 その襟に輝くのはこの世界で最強といわれるあるギルドのエンブレム。意匠は、銀の地に流麗な筆致で黒く
“不破”の二文字。ギルドの成立当初から掲げるこの文字に触発された当時最大級のギルド連合が潰しにかかり、
そして返り討ちにあった時から。そのエンブレムは知らぬものとてない存在となった。

 こいつらも、か。

 俺は少し落胆しながら二人を見送った。己の鍛えた技を、人間の敵にではなく同胞同士の権力争いに使う連中。
手に入れた権力には、国公認の砦を構えることと、そこからの収益による金とが付随する。その魔力に酔わされ、
殺人剣の使い手となった騎士も数多い。
 彼等の選んだ道だ。とやかく言うべきではない、と思いながらも。

 俺は、また旧知を取られたような気がして、恨みがましい目で北を見た。その視線の先、宿の壁や城壁を越えた
その先に、人同士の戦いの商品がある。権力の象徴にして、頂点を極めし者たちの砦が。

 目を返すと、食事の手を休めて俺のほうを見ていた依瑠と目が合った。
この少女も、単身グラストヘイムにいた位だから、かなりの高位聖職者なのだろう。記憶が戻れば、どこかに
あったはずの居場所に戻るはずだ。
 そこがあの砦の中だとしたら、俺は何事もなかったかのように笑って送り出せるだろうか?

「さ、早く食っちまえ。それから出かけてお召し物を調えないとな?」
 それでも今は。俺は、依瑠に笑いかける。今は今、先は先だ。たとえその先が別れ以外になかったとしても。
彼女の記憶を取り戻すために、今日という日を進もう。
4393のひとsage :2004/08/23(月) 04:17 ID:JbMhv6JQ
 再開してみたり。だらだら書いたり書かなかったりしてます。ROやってないな…(遠い目

感想。
5get氏
 古い映画に出てくる紙芝居のおじいさんみたいな枯れた雰囲気と粋なあれこれが素敵です。少年少女や青年淑女が主役は数あれど、落ち着いた年の方が主役は初? ごちそうさまー。

('A`) 氏
 バニきゅんキター。黒に仮面とは…オペラ座の人みたいな装束ですか。
逆毛狂戦士…。私の脳内では(読んだ事もないのですが)原作のイカス人の絵がガルディアくんの外見になってます。でも、サリアさんにやられちゃって次回登場時に「うはwwwおkwwっうぇ」とか言い出したらMy脳内外見は別のものに差し替えますケド。
 お願い。またあの方をお借りしていいですか?  駄目なら…今ならなんとでもなるっ。たぶん。

鍛冶氏
 どんどん話が膨らむ今日この頃。キャラが一杯出るのはきっとこれからばたばた死んでいく前触れかな…とか推察し、死んでしまいそうなお気に入りさんの将来に戦々恐々。蘭さん、性格といい、立ち位置といい死にフラグ立ってますよね…(遠い目
 鍛冶師さんの作品を見て、ろくに知らないのに砦持ちギルドを話に出すことに決めてみました。GvGって…、っていうか対人戦ってとっても難しそうですねぇ。研究のために騎士子で突っ込んであっさり返り討ちにあってきました。

|彡サッ
4493のひとsage :2004/08/23(月) 14:04 ID:JbMhv6JQ
そして新作を読んだのでそれにも感想。順番前後してますが。
|゜ω゜)氏
 原作の雰囲気を損ねない文体にGJのひとこと。よーめいさまは出てこないのか…(´・ω・`)。
原作知らなくても文書き的には掛け合い調子を眺めるだけでも楽しめそう。
ソウイフ書キ手ニ 私ハナリタヒ。

|37氏
 初投稿おつであります。さらさらと読んで続きマダーになる微妙な間合いの区切り方がいいですね。
昔の(私的に)最初の文神さまみたいです。続きを首を長くして待ちますね。
45ある鍛冶師の話17-1sage :2004/08/23(月) 21:34 ID:yy9gsDVw
 ここに失われた風景がある。
 そこに居た人々が居る。

 グラストヘイムの門の手前で、襲い掛かる翼を持つ竜の子を地面に叩き落しながら、
 淡い茶色の髪を揺らして、聖職者の女が一人今にも泣き出しそうな表情でその門を見上げた。

 かつてそこに暮らしていたのだと言った聖職者の後ろから、
 赤い髪の鍛冶師がカートを引いてやって来る。
 二人は並んでその門を見上げると、背を向けて逃げるようにその場を後にした。




 ゲッフェンに居るという赤き鼓動という名の異名を持つ魔導師は、
 連絡が取れないままであった。されど数日前の騒ぎのおかげかどうにか、
 あちらから連絡を取ってきてくれた。

 雲の下の猫亭というゲッフェンでも指折りの宿の食堂にて、
 赤い髪に黒い目の魔導師が大げさに溜め息をついた。
 別に宿の食事が不味いわけではない。
 事実彼の隣りでは、彼の連れである銀髪の聖職者が美味しそうに料理を口にしている。

 問題は目の前の騎士である燃えるような赤い印象の髪をもつ少女の口から出た言葉、だ。

 「リツカ、もう一度聞く。そいつは確かに、俺を名指しにしたんだな?」

 「あぁ、お前の事を言っていた」

 「・・・・・・ここ最近吸血鬼どもの動きが盛んだとは思ってたが、
  ついに封印が動き出したか・・・・・・」

 リツカと呼ばれた少女の隣りには、銀色の髪の鍛冶師と、
 黒い髪を高く一つに結い上げ髑髏印のバンダナをした暗殺者が座っている。
 その二人の合い間に居る少女と言えば、事情が解せないらしい眉を寄せたまま、
 赤き鼓動、レッド・ビートを見返していた。

 「・・・・封印の話、シャイレンから聞いてねーのか」

 「・・・・・封印?」

 問われ、レッドは一旦沈黙をする。
 隣りの銀髪の聖職者セシアは、口出しもせずに料理を味わいながら成り行きを見守っていた。

 「・・・・・・・、ゲッフェンとアルデバランに時計塔があるのは知っているか?
  その役目と意味を」

 「グラストヘイムの魔力を拡散させるため、だったか」

 リツカの答えにレッドはそうだと頷く。

 「その二つの時計塔を守るために十二人、正しくは十三人の贄が居る。
  人である事をやめる代わりに、人ではない力を時計塔から得て、
  その力の楔となる。

  所謂守り手と言う奴だな。
  俺はその守り手の一人、元吸血鬼のレッド・ビート」

 「・・・・・・・そういう類だとは思ったが、その守り手がどう関係していると言うんだ?」

 「イリノイスが関わっている」

 短い言葉にリツカが腰を上げた。

 「リツカさん」

 止めるようにジェイが声を上げるが、もうその声は届いていない。

 「どう言う事だ、レッド・ビート。
  詳しく教えてくれ」

 その様子にレッドは溜め息をつくが、話を続ける。

 「・・・・・・・、ここじゃ不味い。
  場所を変えよう」

 レッドの言葉にリツカは重苦しく頷いた。
46ある鍛冶師の話17-2sage :2004/08/23(月) 21:35 ID:yy9gsDVw
 ギルドに来ている客人は吸血鬼だと言う。
 春先に咲く花の色をした髪の聖職者は、隣りを歩く金髪長髪の暗殺者に視線を向けた。
 彼女の名前はマチカと言う、シーナとアーセンという幼馴染の三人で立ち上げたこのギルドに、
 暗殺者の兄妹が行動を共にしたのはつい数日前のことのように覚えている。
 兄の名前を無夜(むや)、黒い短い髪に髑髏印のバンダナをした暗殺者、
 妹の名前をマチカ、月の色を溶かしたような金髪の持ち主の暗殺者、
 二人とも平均より背は低く、マチカとこの聖職者リシュリューが一緒に並んで歩けば、
 兄妹か、あるいは親子に間違えかねられない。

 無論、マチカ、無夜共に童顔である事も原因ではあったが。

 昼の買出しにと放り出された事はいいのだが、
 自分達を巻き込みたくないというシルクハットの聖職者サーティンスと、
 小さな弓手の少女マミィの言い分はよく理解できない。

 ギルドを出て行った幼馴染のアーセン・ヒルデハイトが、
 自分達の目的に関わっているとあの二人は言っていた。
 あまり付き合いが長い訳ではないサーティンスとマミィの二人の事だったが、
 ギルドを通して付き合う限りそう悪いようには見えない。

 そもそも二人は自分達の目的については一切話してはくれなかった。
 そんな二人ですらもギルドへと招き入れる親友であるギルドマスターの鍛冶師は、
 いささかお人よし過ぎるきらいがあったが、そこが彼たる所以なのだろうと、
 リシュリューは相槌を打った。

 「・・・・リュー」

 呼ばれてリシュリューが隣りの小さな背を見下ろす。

 「どうかしたのかい」

 「・・・・・・・、あれ」

 指差す先に居たのは、二本の角のある帽子を被った赤い髪の背中だ。
 道具屋から出てきたところらしい、服装からして鍛冶師だろうか、

 「・・・・アーセン?」

 記憶の中の姿とかぶるその背中は、名前を呼ばれるとゆっくりと振り返った。
 あぁ、なんという偶然だろうか。
 赤い瞳に赤い髪の鍛冶師は、昔馴染みに合うとひどく困惑気に視線を彷徨わせた。

 「・・・・・なん・・・だ、近くに居たんだな、結構」

 リシュリューがマチカと共に歩み寄ると、
 アーセンは目線を反らしたまま黙り込む。
 そんな仕草に眉を下げて笑うと、リシュリューは小さく咳払いをした。

 「別に怒ってないさ、シーナも僕もお前は理由がなきゃ出て行かないって事ぐらい、
  とっくにわかってる。・・・・ただその理由を話してもらえないのが、
  ちょっと寂しいだけだよ。

  僕ら友達だろう?仲間だろう?
  水臭い事言わず、話してもらえないかな」

 あくまでもおおらかな態度で接するリシュリューに赤い髪の鍛冶師アーセンは、
 頑なに言葉を発さない。それに痺れを切らしたマチカが小さく睨みつけると、
 視線に根負けするようにアーセンが口を開いた。

 「・・・・・・、巻き込みたくあらへん。
  今すぐ、ウンバラかどっか遠い国に行ってもらえんかな」

 「・・・・・ウンバラって、またそんな南国に。誰が行くかっての」

 「冗談や」

 アーセンの言葉のあと、リシュリューが少し間を開けた。
 目を瞬かせたあと鈍い苦笑いとともに、笑い声が響く。

 「・・・・・・良かった、元気そうだ」

 「そりゃ勿論。
  戻るつもりはあらへんけどな」

 笑うリシュリューを見て、アーセンが肩をすくませた。

 「・・・・絶対?」

 「・・・・・・絶対」

 「・・・・ならせめて理由を言え」

 「・・・・・・、今日は珍しく引かんのやね」

 二人の合い間でマチカが二人の顔を交互に見やっている。

 両者共に譲る気配がない。
 ただお互い視線を交わしたまま僅かに笑みを浮かべていて、
 決して敵意だとか悪意だとかでのやり取りがこの後に行われる気配はなかった。

 「・・・・・・、日、暮れる」

 動こうとしない二人の間でマチカが声をあげた。
 その声にお互い我に返ると、溜め息混じりにアーセンが言った。

 「今夜、九時頃ゲッフェンタワーの前で待っとるから、
  一人で来ィや。マチカは連れて来たらあかんで」

 「・・・・・いかにも危ないじゃないか。フェアじゃないね、そっちは複数かもしれない」

 「・・・・・・同行者を一人だけ認める。
  けどマチカ以外で頼むわ、あとシーナも駄目やで」

 シーナ、とギルドマスターの名前を口にした事に、リシュリューは眉を寄せる。

 「何故あいつが来ちゃいけない?」

 「・・・・・お前と違って、シーナは頑固やからな」

 「・・・あぁ確かに、意地でも連れて帰りそうだからな」

 カートを軽く引いて背を向けて歩き出すと、
 アーセンが背中越しに手を振った。

 「夜にまた」

 振られた手の平にリシュリューが手を振り返す。
 赤い髪の鍛冶師の背中を見送りながら、ふいにその眉が寄せられる。

 「・・・・・・、戻らないつもりなんだな、絶対」

 簡単には動きそうもない友の心根をひしひしと感じながら、
 参ったなと呟いたきり、リシュリューが空を見上げて暫く動かずに居た。


 ゲッフェンの街に闇が下りてくると、
 雲の下の猫亭と書かれた宿の看板の下に灯りが点った。
 町並みを次々に淡い彩りが沿えて、昼間とはまるで違う雰囲気をかもし出す。

 その猫亭の宿から出ようとする聖職者の背中に向って、
 銀髪に悪魔の羽を頭部に添えている暗殺者が声をかけた。

 「何処へ?」

 「・・・・友人のところへ」

 短く答えた淡い髪の聖職者に、暗殺者烏(カラス)は瞬きを静かに繰り返す。
 フェイヨンの出だと言うこの聖職者は、
 どこか飄々としている風が見えたがそれでいて笑みを絶やさず、
 確かにそこに存在感がある。

 「何も情報くれてやる事が出来ず、悪かった。
  ・・・・・・・サーティンとマミィが私を殺そうとしたのは、
  教会の教えに沿ってだろう。昔からそういう関係だ」

 慣れた事のように言いながら、そう吐き出す暗殺者に聖職者リシュリューは、
 小さく息を吐く。

 「・・・・何が言いたいんだ、君は」

 「・・・・・・・アーセンに会いに行くのだろう君は」

 指摘された言葉にリシュリューの表情は変わることなく、
 ただ静かに笑みだけが烏を見返す。

 「その友を思う心は、人間ならではだな。
  感動すら覚える、だが、・・・・・・一人で行くには危なくはないか」

 「・・・・・君は見ていたのか」

 笑みを浮かべたまま小さく問い返した声に、烏は罰が悪そうに目線を反らした。
 無言の肯定にリシュリューは笑みを消すと、小さく、

 「なら頼もうかな、サーティやシーナに話せばややこしくなるだろうし」

 肩を竦めて背を向けてリシュリューは歩き出すと、
 後から付いてくるであろう暗殺者にそう言葉を返した。
47ある鍛冶師の話17-3sage :2004/08/23(月) 21:35 ID:yy9gsDVw
 夜に浮かび上がる聖職者の法衣は、
 赤に金の縁取りがいやに夜の灯りに色が鮮やかに照らし出される。
 その後ろを足音もなく続く暗殺者は気配もか細く、
 闇に紛れてしまえばそこに人が居る事などわかりそうにもない。

 待ち合わせの場所であるタワーの前には、
 先客が一人。
 使い古されたカートとと、その隣りに佇む赤い髪の鍛冶師が一人。

 「アーセン」

 名前を呼んだリシュリューへと赤い髪の鍛冶師は振り返ると、
 ほんの小さく片手をあげると緩く左右に振った。

 「リュー、には話しておこうと思って、な」

 途切れるような言葉の合い間にまだ迷いのようなものが感じ取れる、
 視線がふいに反らされては明後日を向いた友の横顔を見ながら、
 リシュリューはゲッフェンタワーの前で足を止めた。

 夜でも冒険者の出入りのある事があるタワーの前には、
 まだ少しだけ人の通りがある。
 後ろから付いて来ていたはずの暗殺者を振り返ると、
 リシュリューは全くそこに存在感を感じさせない烏の石畳の上に少し伸びた影を見て、
 緊張を張り詰めるようにアーセンへと向き直った。

 「何故、遠ざける」

 問い掛ける聖職者の声に鍛冶師は瞬きを返す。
 髪と同じ色の赤は、赤い月のエンブレムを模したギルドのかの騎士と印象は似ていたが、
 何処か違っていた。

 「・・・・・・・好きな人が出来たんや」

 「・・・すきな、ひと」

 リシュリューのゆっくりと繰り返された言葉にアーセンは大きく頷く。
 照れると言うよりは何処か自嘲気味な様子に、リシュリューの目が細められる。

 「その人の目的はグラストヘイムに居る婚約者にもう一度会う事。
  せやから、うちはそれに協力したいねん」

 赤の眼差しが街の灯りを燈して、鈍く光ったように見えた。

 「・・・・・・それ、で?」

 その光を見つめながら、リシュリューは眉を寄せる。そして尚も問いかけた。

 「・・・、そのためにはグラストヘイムの封印を解く必要がある」

 「そんな事をすれば・・・・・、結界に捕えられている魔物達は皆、
  街を襲うと思う、が?」

 「・・・・、」

 彼の迷いはそこにあったらしい。
 目的を果たすために解いた封印から溢れ出るのは、魔物達だ。
 そして一番最初に襲われるであろう場所は、ここゲッフェンである。

 問われて言葉を途切れさせる様子に、リシュリューは苦く笑みを浮かべた。

 「そんな覚悟で、その誰かの為に封印を解くと?」

 友の覚悟を後押しするようなそんな風にすら聞こえる言葉。
 ただの問いかけだと言うのに、アーセンは僅かに眉を寄せた。

 「・・・・・・・・、リュー」

 「・・・・・・覚悟を決めろ。お前がそうすると言うのならきっと、
  僕はお前の敵になる」

 覚悟を、そう言ったリシュリューの眼差しはここではない何処かを見ているようだった。




 今から少し昔のルティエでその彼と別れた。
 リシュリューの隣りにはまだその頃二人の暗殺者が居た。
 綺麗な月の色の髪の女暗殺者と、その兄の闇を切り取ったような髪の暗殺者が、
 居たのは今から大分前の事になる。

 当時世界は混沌としていて、まだ隣りの国である首都ジュノーとの国境も閉ざされたままだった。
 ただ、世界は何時とも知れない終わりに怯えるように、ただ静かに。

 ベータと呼ばれる大戦より少し前に、
 そのベータのきっかけとなったルティエにおける魔力の磁場は、
 雪降る静かなあの街を一瞬にして白と黒の、そして赤の、何もない死の街へと色を変えた。
 灰色の雪が降り注ぐ街に佇みながら、続いて訪れたあのベータによって、
 ルティエという街は事実上、その存在を一度は消されていた。

 今でこそ有志の手によって復旧し、冬にはサンタ爺の手によってプレゼントが届けられるが、
 当時の事を知る者は今のルティエを見ては、恐らく過去のあの街と違う箇所を見つけて、
 その度に昔を懐かしむに違いなかった。


 兄の暗殺者の名前は、無い夜と書いて、ムヤ、と言う名前であった。
 マチカと言うまるで顔の似つかない少女を妹と呼ぶ無夜は、
 僕達は人を殺すために暗殺者になったのだとリシュリューに話していた。

 ベータ、そう呼ばれた世界の混乱の中で、
 きっとその出会いもただの偶然に過ぎなかったには違いないが。

 彼らが出会ったのは、まだ白い雪の降り注ぐルティエで、
 幼い暗殺者二人に手を差し伸べたのは、教会の慈善活動でしかなかった。
 手を引いて歩く二人が後ろから怯えと警戒の色をなして付いて来るのを、
 なんだか借りてきた猫みたいだなとリシュリューは笑っていた。

 親代わりに、と教会に言われた事に意味があったのなら、
 きっとそれは守るために用意されていたのだろうか。

 とにかく幼い暗殺者はこの聖職者の手によって、
 その少年少女次第を過ごす事になった。
 親を殺されたのだと無夜は言った。
 その横でマチカは静かに笑みを浮かべていた。

 何処か似つかない二人の暗殺者と居た時間は、
 不思議と心温まるものだった。

 その終わりが訪れたのは、
 ・・・・・・・果たして必然だったと言えるだろうか。




 覚悟を決めるためにそう言って、
 まだ使い立てのカタールをリシュリューにつきつけた無夜の顔が、
 数年経ても尚、リシュリューには忘れられない。

 その覚悟が、敵(かたき)のためだと言った彼の、
 泣きそうな顔が、忘れられないのだ。

 「・・・・・・例えばお前が、僕を殺そうとしても、
  お前は僕の友達に変わりはないさ。
  だから胸を張って行けばいい、その覚悟があるなら」

 つきつけられたカタールに突かれてもきっと、
 リシュリューは笑っていたに違いない。
 当時の三人の親子のようなやり取りを見ていたアーセンは、
 そう小さく苦笑いを浮かべた。
 つまりここでアーセン・ヒルデハイトが友であるリシュリューを斧で叩き伏せても、
 きっと次に会うとき彼は笑っているに違いないのだ。

 「・・・・・・うちはリューの事を殺すなんて、できへんよ」

 小さく、けれど確かに。

 その言葉を聞いてほんの少しだけリシュリューは笑うと、
 馬鹿だなぁと小さく赤い髪の鍛冶師を睨み付けた。


 
48ある鍛冶師の話sage :2004/08/23(月) 21:45 ID:yy9gsDVw
29様>(*ノノ)

|゜ω゜)様>逆毛的愛情を注がれちゃいました、責任をとってください。
      とまぁお久し振りですー、そそっかしいところがあるかもしれません。
      続く、・・・・のでしょうか。キニナル(*ノノ)

93様>お久し振りです。管理等大変だとは思いますが、
   かげながらエールを!・・・・エールだけじゃダメですか、そうですか。
   そう、ですねー、幾らか話を進めるうえでのフラグはあるかもです。
   人間関係の複雑化が進んでしまっているので、
   あれですが。勧善懲悪にはならないようにしたいですなぁ、
   Gvッスか。知り合いがぎりぎりに駆け込んで砦を一度取ったらしいですが、
   あれはサバイバルだと思っています、サバイバル。
49|゜ω゜)sage :2004/08/26(木) 02:44 ID:zvTbcbXk
ダラートじゃなくてラダートだ……orz


>('A`)氏
・個性的というか読みにくいだけという説も。

・何で居るんだバニーーーー! おれはお前が大好きだったんだーーーー!


>93
・あんな感じが出せていれば幸いです。ツザキィの旦那は単体で書いてみたいものです。
 あともっと自信を持っていいと思うぞ! ヽ(`Д´)ノ

・あーなんだかGv関係で疎遠になったギルメン思い出した。武器を捨て兵を封じればそれが平和だというのは間違っている! なんか違うな。
 それにしてもブレイドさん、立派に騎士してるなぁ……。イリューたんは慧眼だわ。


>鍛冶師の人
・よ、よし、嫁になってくれ!
 あはははこいつぅーきゃっきゃ   ごめんなさい

 ……あー続きます。なんだか割とデカい話になりそうです。そうならない可能性も。


・なんだか収束してきた感が。でもまだ13人全員でてるわけじゃないのよね……。
 一つ。人間多すぎて個々がイマイチ薄れているような気が。物語の性質上仕方が無いんでしょうけれども。


>37
するっと読める文体でステキです。初めなんでなんとも言えませんが、個人的にハルバ装備というだけで萌えます。
パルチザンには負けるけどなっ
50名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/27(金) 19:52 ID:0NpSqH9g
地下水道リレーマッダァ〜?
51SIDE:A 遠駆け(1/3)sage :2004/08/28(土) 18:30 ID:qfQXnJLA
93です。下水脳が死んでるようでこれでごめんなさい。
----

 依瑠を拾ってから、そろそろ一週間になる。もうすっかり占拠されてしまったベッドの上では、
家主の俺に代わって小さな少女が今も寝息を立てていた。かなり朝の早い俺とかなり寝起きの悪い
依瑠は、湯浴みだの身繕いだので水を使ったり着替えたりといった時間もずれているので、その
意味ではやりやすい。

 彼女の記憶は、まだ戻らない。出会った翌日から、記憶に残る何かがあるのではないかと方々を
連れて歩いたのだが、首都の大聖堂、アマツ、それに修行中のアコライトの行きそうなポリン島や
クワガタ峠など、何処を通っても少女は物珍しげにするだけだった。
 その顔を見ているのが楽しかったのは否定しない。それに、記憶が戻らずにいることを喜んで
いる事も。共に時を過ごせば過ごすほどに、必ず来る別れが辛くなるだろうけれど。

「…今日はカピトリーナにでも行くかねぇ…」
「……それはどこじゃ、ナイト…いや、ブレイド卿」
 物凄く眠そうな依瑠の声に、俺は苦笑する。それにしても、俺を呼ぶのにナイトと言いかけるのは、
彼女が寝起きの時に、何度か聞いた事がある。見えない過去のどこかに、彼女のためのナイトがいたの
だろう。それに嫉妬するほど、俺は餓鬼ではないつもりだ。
「のんびりしたところさ。修行僧が瞑想したりしてる」
「そうか」
 興味があるのか無いのかわからない口調で答えると、依瑠は満足したように再び目を閉じる。
大体、この調子で三度寝くらいするのが彼女の日課だった。俺はその間に鍛錬と雑用を済ませようと、
階下へと向かうことにした。


 カピトリーナへ続く森の道を、いつぞやナッツにしたように依瑠を鞍の前に横座りさせてのんびりと
歩く。愛鳥は増えた重さなど何処吹く風と言った風に快調に足を進め、立ち止まるのは道筋に繁茂して
いる食人植物を刈り取る時位だった。
 アコライトに転職希望のノービスも通る道だから、障害物は少ないほうがいい。そんなことを説明
すると、両腕の間の依瑠は不思議そうな顔をして手綱を取る俺を見上げてくる。
「自分達以外の者のために、何故に斯様な手間をかけるのじゃ?」
「……何故って言われてもな」
「誰に礼を受けられるわけでもあるまい。妾のために道を明けてくれておるのならば、この程度の
 敵に気遣いは無用じゃぞ?」

 時折、依瑠から受ける質問で返答に困るものがある。上っ面だけではなく、根元のところで理解の
ズレがあるようだ、と最近俺は理解した。
「…なんというか。ここで修行するアコ候補達はこいつらを倒せない。ここが塞がってたら、ずっと
 転職の試練を果たせんわけだ。そうすると、いつまでもアコライトにはなれないだろ?」
「ふむ。わかった。それは遠い将来にお主と手を組めるようになるやもしれぬ聖職者を今のうちに
 育てておくということじゃな? 深謀遠慮、さすがじゃな」
 等と感心したように言われると、俺としては盛大にため息をつくしかなく。
「………いや、そういうわけでもないのだが」

 一週間もこんな感じで話を重ねるうちに、俺は依瑠が本当に姫様育ちだったのかもしれないと
思うようになった。今日の行き先も、半分はそれが理由で選んだのだ。カピトリーナから出奔して
行方知れずの枢機卿令嬢がいるとかいう話をテスラから聞いたのは半年ほど前だったが、存外、
こいつがそうかもしれない、と。どことなく…、いや、かなり自然に偉そうだしな。
「…なんじゃ。じろじろ見るでない。しっかり前を見るがよいぞっ」
 そんな事を言って、ぷい、と横を向く少女を驚かせたくて、俺はペコの横腹を軽く蹴る。
「くぇっ!」
「……っ!?」
 長いストライドのゆったりとした歩調は、鳥なりに揺れないように注意して走っているのだろう。
徐々に、徐々に速度を上げていく。高い視界と、過ぎゆく景色。吹きすぎる風。ペコを駆る騎士達にのみ
味わうことを許された世界。海の潮風と森の薫風が混じるこの場所は、俺と愛鳥の“とっておき”の
コースだった。
 少女の過去を俺は知らない。その分だけ俺の知っていることを刻めば、彼女と共にいられる時間が
増えるように感じていた。俺に依瑠がくれたもの、俺の中の騎士を蘇らせてくれたあの一言の返礼には
ならないだろうけれど。
52SIDE:A 遠駆け(2/3)sage :2004/08/28(土) 18:31 ID:qfQXnJLA
「どうだ? 気分は」
「……悪くはないぞ」
 風になびく黒髪が時折俺の頬を撫でる。走り始めた時にはあざが残りそうなほど握られた手も、
今は軽く俺の腕に添えられているだけだ。
「もっと早くしたければ、この先の直線で速度増加をかけてみな。見た事のない世界につれてって
 やるぜ? もっとも、怖かったら止めないけどな」
 にやつきながら言った俺に、依瑠は振り向きもせず。
「……速度増加」
「わ、ちょ…まだカーブが残っ…」
 半分本気の悲鳴を上げる俺の腕の中から、依瑠の笑い声が流れていく。積荷を落とさないように
必死の俺と、その辺が分かっているのか居ないのか加速しても変わらぬ走り方で飛ばす愛鳥と。
「……妾が見た事のない世界など」
「あ? しっかり捕まってないと落ちるぞ! 舌噛むぞ…いてっ!?」
「………もう、連れて行って貰っておるぞ、ブレイド」
 きゅ、と力の込められた細い手の乗った上腕が暖かく。俺は、カピトリーナの門が見えるまで、
何も聞こえない振りをした。

----

「あ、依瑠。悪いがペコを修道院の方に預けてきてくれ」
「…構わぬが、何かあるのか?」
 あれだけはしゃいだのに汗一つかいていない少女が鞍から下りるのに手を貸しながら、俺は修道院の
前にいる男に顎をしゃくってみせた。
「知り合いがいるんでね。挨拶をしてこようと思ってな」
「わかった。先に行っておるぞ」
「ああ。暇なら先に見て回っているといい。中の連中は概ね親切なはずだからな」
 依瑠に手綱を投げると、ペコは胸毛を逆立ててふんぞりかえりやがった。嬉しそうにしやがって、
誰が餌をやっていると思ってるんだ、この裏切りものめ。一人と一羽が門をくぐるのを確かめてから、
俺は門の脇に立つ男に片手を上げた。

「久しぶりだな、ルバルカバラ神父」
「君も壮健そうだ。…少し痩せたかな?」
 そう言って穏やかに笑む壮年の神父に、俺はリンゴを放り投げた。いつからか、神父と俺の間で
できた、つまらない約束事。遠駆けの時には、俺が必ず持ってくるものがこのリンゴだった。
「…うむ、旨い」
 しゃく…、と音を立てて齧る姿を見てから、俺はにやりと笑う。
「一週間ものなんだがな、実は」
 手の中の齧りかけを、複雑そうな表情で眺める味音痴の神父の横に、俺はどさりと音を立てて座り
込んだ。ややあって響きだしたしゃくしゃくという音が終わるまで、目を閉じて待つ。
「……それでも、旨かった」
 目の前をちょろちょろするヨーヨーに残った芯と種を放ると、神父は満足げな吐息をはいた。
53SIDE:A 遠駆け(3/3)sage :2004/08/28(土) 18:32 ID:qfQXnJLA
「…今日はちょっと聞きたい事があってきた」
「うむ。あの少女のことだな」
 なんでわかった? と、俺の顔には書いてあったに違いない。神父は変わらぬ微笑を浮かべたまま。
「君がここに人を連れてくるのは、道に迷ったノービス以外ではあの娘さんが初めてだ」
「……そうか。実は、あの子は記憶をなくしている。転職を済ませているようだから、あんたの所に
 来たことがあるんじゃないか、と思ったんだが…」

 一応、聞いてはみたのだが。俺はその質問の答えは大体予想できていた。ルバルカバラ神父は、
自分の下に訪れた聖職者の卵達を決して忘れない。もしも、依瑠に会ったことがあったなら、
神父はきっと、先ほど声を掛けただろうから。そして、神父は俺の予想に違わず、首を横に振る。
「君は聖職者の事情に詳しくないようだ。アコライトの転職試験で私の元を訪れるのは三分の一。
 プリーストの転職試験では各地の修行者を全て訪れる…というのは建前でな。実際は、筆記試験と
 書類のみで済ませる者が多い」
「やはり、な」
 彼女のためを思うならば、手がかりが見つからずに残念だ、というべきなのだとわかってはいても、
俺は少しだけほっとした。そんな俺の内心を読んだような神父が、そっと呟く。
「……好きなのだな、あの子が」
「まぁ…、妹みたいなものだろうけどな。月並みだが、依瑠には幸せになって欲しい。そう思う」
「それは良かった。人を愛する事は幸いだ。たとえその先に何があろうと。神が与えてくれた今、
 この時を楽しむといい」
 神父が微笑んでいるのは、見ないでも分かる。俺も、多分同じような顔をしているんだろう。
俺は両腕を頭の後ろで組んで、勢い良く背を倒した。ゆっくりと流れる白い雲を、ぼーっと
眺める。

「実は、あいつが噂の行方不明のカピトリーナの聖女様か、とも思っていたんだが…、あんたの
 その様子だとそっちも外れだったようだな」
 俺の呟きに答えた神父の反応は、思いの外厳しい声。
「……その話は、あまり大きな声で言わない方がいい」
 怪訝そうな顔をする俺に、神父は微笑みの消えた表情で続けた。
「彼女は、僧院の兵と共にジュノーに攻め入り、そこで亡くなったそうだ。君も知っているだろう?
 半年前のあの事件の事は。フェーナ様はその首謀者の一人…だったらしい。もっとも、彼女の遺体は
 行方不明だし、その時の押収品も報告書ともども火災にあって無くなったそうだ」
 一拍おいて、神父は彼には似合わないような皮肉気な口調で一言付け足した。
「彼女のお父君の枢機卿殿も、この事故にはさぞかしほっとされているだろうが、な」
「…そうか」
 そう気の無い生返事を返したその時の俺には、その事件の残滓が俺たちに関わってくることなど、
予想できるはずもなかった。
5493のひとsage :2004/08/28(土) 18:41 ID:qfQXnJLA
 ドクオさまに断りも無くジュノーの事件を使う私。
今のシリーズでフェーナ様が奇跡の復活を遂げた場合に備えて、生死はぼかしてみますた。
むしろ奇跡の復活を遂げてください。オネガイシマス

 あと、シメオンたん利用に関してのご許可も頂かずに見切り発車しちゃいましたが…。
その、何ですか。若さ…はないので愛ゆえの暴走として見過ごしてくださいっ。

|彡サッ

|つ【つけたし】

 鍛冶さん、ありがとうございます。励みになるわぁヽ(´ワ`)/

|゜ω゜)さん、ブレイドくんはへたれです。私が書くのだから間違いない。イリューたんも
  苦労するでしょう。多分。いやむしろさせるでしょう(私が(悪)

|彡サッ
55名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/29(日) 00:04 ID:F94U00VM
>>93の人
( ・ω・)・・・びっくりしたなぁもう
フェーナ様復活きぼんの一人ですが、ちょっと無理があるかなぁ(つД`)
56('A`)sage :2004/08/29(日) 23:26 ID:iBUgjpcw
>93さん

返事が遅れて申し訳ないです。
シメオンはご自由に使って下さい。得体の知れない彼だからこそ、何でも
アリなのです。
あ、設定やなんかも基本的に自由ですのでお気遣いなく。


>55さん

ちょっと無理、ではなくてかなり無理なんですが、面白そうですね。
話のネタゲット。
…とはいっても忙しくて遅筆気味なのですが。


では、また。
57('A`)sage :2004/09/01(水) 01:29 ID:l1gbPX3o
 Ragnarok Online Side Story "Confrontation of fate"


 ルーンミッドガッツ首都、プロンテラの北に広がる森を進む兵の中に、まだ若い女ウィザードの姿があった。
 行く手を阻む木々と魔物の群れをかいくぐり、進軍していく兵達の消耗は激しく、
 僅か、数えるほどの人数しか残ってはいなかった。
 ウィザードは引き裂かれた兵達の血煙と腐気に満ちた空気の中で、ひたすらに魔術を操り、戦っていた。
 いつか終わる、やがて終わる、と、
 涙も悲鳴も枯れた、機械の様な心へ言い聞かせながら。

 気付けば、仲間は皆死んでいた。
 ウィザードの少女だけが残され、巨大な蟲の群れに囲まれていた。鈍い赤の甲蟲達は、その顎と爪の餌食となった
兵の亡骸を貪り、やがてウィザードへ、爛々と光る無数の眼を向ける。
 精も根も尽き果てて、彼女はその場に崩れ、見るも無惨に食い荒らされる自分の姿を想像した。

 それは、ごくごくありふれた光景に思えた。
 そうして果てた大勢の仲間の上に自分は生き残り、戦い、同じように死ぬのだ。
 損害一名、これだけ記されて、葬られもせずに朽ち果てるだけだ。

 では何故、戦わなくてはならなかったか。
 ウィザードはそれを思い出そうとして、思い出せなかった。そもそも、理由など無かったのかもしれなかった。
 生まれた世界は、戦いの世界だった。それだけだ。
 或いは、親もなく、兄弟もなく、頼れる物も何一つない、そんな境遇で、
 戦う以外に何があったか。
 もっと別の、選択肢はあったのだろうか。
 蟲に群がられ、暗転する視界の中で彼女は思う。自らへの疑問。果てしない、自問。
 同じく戦いに身を置く者達が、幾度と無く直面しただろう、嘆き。


 何故、この世界は、戦いを強いるのだろう。


 『追い討つ者 1/2』


 貴族達の談笑の声が聞こえる。
 政治的な策略が大半を占めるであろう会話に、エスリナ=カートライルは眼を閉じていた。
 プロンテラ軍による北伐遠征から四日が経ち、間に入ったサリア=フロウベルグの誘拐事件を経て、ようやく催され
た戦勝の宴である。
 城のホールを丸ごと埋め尽くす人の山。
 赤毛の魔術師は深い溜息をついた。
 彼女は、人の多い場所と貴族が苦手だった。
 北伐の立役者の一人として、話しかけられることもしばしばだったが、エスリナは黙って瞑目するだけでやり過ごす。
 実際の所、プロンテラ軍の威厳などというものは、とうに消えてしまっていた。
 現状は冒険者や騎士団の方が、世間に支持されてしまっている。特に、次々と遺跡や迷宮を攻略し強力な魔物を討ってい
く冒険者達の活躍は、昨今の異変で疲弊したルーンミッドガッツに活気を与えていた。
 その裏で、軍は軽く見られている。貴族や豪商の間では軍を頼るより、冒険者を雇った方が確実だと認識されていた。事
実として、冒険者の勢力は騎士団や軍のそれを上回っているのだ。
 だからこそ、エスリナはすぐに掌を返す貴族達が嫌いだった。
 冒険者達も同等の害悪であると言えた。富と名声を求める彼らの行いは、悪戯に治安を乱し、安易に戦いを起こす。
(…下衆め)
 もっとも、サリア=フロウベルグの件はおろか、冒険者達の悪行さえも一般の民にはあまり知られていない。
 うんざりした様子で貴族達の顔を見回すが、エスリナの意気は消沈するばかりだった。
 いない。
 下卑た笑いを浮かべる中年の男達の中に、彼女が慣れ親しんだ男の顔は無い。
 北伐の最大の功労者にして、プロンテラ軍を束ねる男。
 ヌーベリオス=カエサルセント。
(忙しいのだろうな…やはり)
 術衣の下で指を絡めながら、エスリナは苦笑する。
 思えば、一介の術士に過ぎない自分に、そんな男が構うわけがなかった。
「ぃょぅ」
 声をかけてくるのは、つまらない者ばかりだ。
 丁度、軽薄そうな騎士がにこやかに手を振っていた。覚えのない顔だったが、身なりは騎士団のナイトそのものだ。
 あまり位は高くないらしく、簡素なマントに飾り気のない鎧を着込んでいる。
 どちらかと言えば、それは儀礼的な印象を持っていた。とても実戦で役に立つとは思えない防具だ。
「…」
 例の如く、エスリナは答えなかった。少し間を開けてから、冷たい眼差しを向けてやる。
 そうすれば大概の軍人や貴族は追い払えるものだ。
 しかし、その騎士は笑みを崩さないまま、手にしたグラスをエスリナに差し出すと、言った。
「…飲めよ。めでたい席なんだ。しかめっ面してても、疲れるだけだろ」
 意外な事を言う。エスリナは眼を丸くしていた。
 大抵の人物は、つまらない社交辞令を延々を続けるものだ。異様に堅い口調で、心にもない讃辞を並べる。
 ところが、この騎士はストレートに物を言った。銀のかかった白い髪に隠れた瞳は、相も変わらず不純な色が見えたもの
の、言い知れない度量の大きさを感じさせる。
 今までの誰とも違う、不思議な目をしていた。
「それとも、俺みたいな血生臭い男の杯は受け取れないか?少佐殿」
 騎士は笑い、自分のグラスを煽る。
「あ…いや、貰おう」
 気付けば、エスリナは男の差し出した杯を受け取っていた。
 その様子に周囲の貴族達は微かにざわめき、すぐに興を削がれて散っていく。
「ふっふん…敗者は哀れなもんだぜ」
 白髪の騎士は面白そうに呟くと、グラスを掲げる。
「んじゃ…乾杯だ、ウィザードのお嬢さん」
「ああ…」
 面白い騎士だと微笑みながら、グラスを男の杯と鳴らして一口、呑んでみる。
 甘い。
「…これは」
 鼻腔をくすぐる柑橘の香り。間違いない。まさかとは、思っていたが。
 オレンジジュースだ。
「酒ではないのか」
「子供に酒は早い」
 気持ちのいいくらいの即答で返し、喉を鳴らして酒を飲み干す騎士。
「もう十七だ」
 鋭く、出来るだけ畏怖させるような声色で言ってみるエスリナだったが、騎士はまるで意に介せず、寝惚けた様な顔で
やはり即答する。
「ガキはガキだろう、少佐殿。分不相応な席に居るもんじゃないぜ」
「…なんだと?」
 無礼極まりない台詞を吐き捨てた騎士は、少し屈み込んで、いきり立つエスリナに目線を合わせ、また言う。
「ここはな、汚いオッサンの巣窟なんだ。少佐殿みたいな綺麗な娘には、相応しくない」
 騎士は断言した。皮肉かとも思ったが、案外にそうでもないらしく、エスリナの顔から怒りが消える。
「だから俺と一晩過ごさないか?夜景の綺麗な展望台で愛を語り合おうじゃないか。そう、たっぷりと小一時間」
 代わりに、戸惑いの色が濃く浮かんだ。
「…汚いオッサンで悪かったな、アル…いや、ルーク」
 今度は正装の騎士が現れた。上向きに跳ねた髭に、僅かに白髪の混じった中年の騎士だ。
 こちらはそれなりに位のある騎士に見えた。もっとも、ルークと呼ばれた若い騎士と同様に、さほど手練れた印象は無い。
「いくら少佐が若くてピチピチだからといって、いきなり口説くのはどうかと思うがな…相手は仮にも軍人だろう」
 髭の騎士は苦笑混じりにルークを咎める。当の本人は素知らぬ振りで、空のグラスを回して遊んでいる。
「チッ…もう少しで落とせた所だったのにな」
 ニヤニヤして呟くルーク。
「正気か?」
「いや、全然」
 耐えきれず発したエスリナの疑問に、酩酊状態で即答する。
 彼はグラスを手近なテーブルに置くと、不意に真面目な顔になり、おずおずと会釈して見せた。
「俺はルーク=インドルガンツィア。アルベルタ騎士団から派遣されて来た。で、こっちの髭野郎が…」
「プロンテラ中央騎士団のクリスレット=カーレルヘイムだ」
 あくまで不遜なルークとは対照的に、カーレルヘイムは髭を撫でつつも腰のクレイモアの柄を掲げて見せる。
 柄に描かれた紋章は、紛れもなく中央騎士団のものだ。
 しかし、それ以前にエスリナはカーレルヘイムの名は勿論、顔も知っていた。
「マスターナイト・カーレルヘイム…」
 アルベルタから来たというふざけた騎士と騎士団最高クラスの騎士はその"号"を聞くや、苦笑する。
「はは、有名だな、オッサン」
「ま、それなりだよ」
 カーレルヘイムはあまり語らず、剣を収めた。それから祝宴の席を見渡し、
「それよりも、エスリナ少佐」
 困惑気味のエスリナへ顔を向ける。彫りの深い髭面が、やけに印象的だった。
「…少し、話があるんだが」
「話?」
 ほぼ初対面の騎士二人が頷く。
 全く身に覚えのない指名だった。
 カーレルヘイムの名は、軍や騎士団で知らぬ者が居ない。それ程までの実力者が、何の用事なのか。
「ここじゃ…ちょっとな。先にルークと騎士団へ行っててくれないか。俺もすぐに行く」
 何度か考えたが、結局、エスリナは黙って頷いた。

 どうであれ、この吐き気のする祝宴よりはマシな筈だったからだ。
58('A`)sage :2004/09/01(水) 01:30 ID:l1gbPX3o

 吹き抜けの天井の下で、銀色の円卓が鈍く光っている。
 冷たさを感じさせる暗い空間の中央に、そこだけ月明かりが差し込んでいるらしかった。
 騎士団の中でも、限られた者しか使用を許されない場所。
 その席で、ルークと名乗った騎士が目を瞑って座っている。
 エスリナは、困惑気味に立っていた。
「ま…座れよ」
 白髪の騎士が呟く。しかし、エスリナは珍しげに視線を這わし、
「そこは騎士の席だ」
 深く、遠慮した返事を返す。
 ルークはせせら笑うと、整った顔を崩して渋い顔をした。
「堅いな…肩書きがそうさせるのか?少佐殿」
「皮肉か?ルーク=インドルガンツィア」
 まさか、と笑うルーク。
「ヒネてるんだな……ルークでいいぜ、少佐」
 やや投げやりな物言いだったが、何処か柔らかな口調で言う。
 よくよく考えてみれば、この騎士が自分に皮肉を投げつける理由など何もない。
 邪推しか出来ない自分を呪いながらも、エスリナは黙って円卓に座る。
 謝罪は口にしなかった。
 代わりに、ルークがその言葉を口にする。
「悪いな」
「何がだ」
「宴会、途中で抜けさせちまっただろ」
 目を瞑ったまま言う。
「気にするな。大体、似付かわしくないと言ったのはお前だ」
「ん…てっきり楽しんでるもんだと思ったが」
 少しだけ、ルークが意外な顔をした。
「いいや…全く。反吐が出そうになってた所さ…カーレルヘイム殿とお前が来なくても、早々に帰っていたよ」
「へぇ」
 本音だった。ルークはニヤニヤと笑みを零し、
「意外だ。勝利の美酒に酔ったりしないんだな」
「北伐で私が活躍したのなら別だ。私は何もしていない。ついて行っただけだ。それに…」
 ―――好きで戦っている訳じゃない。
 出かけた言葉を飲み込み、エスリナは目を伏せる。
 軍の中でも上位に立つ魔術師。
 人も大勢殺したし、魔物に至っては数え切れない程、葬った。
 そんな自分が、口にして良い事ではないように思えた。
「…そうか」
 ルークは何やら一人で納得すると、ようやく眼を開ける。
 それから、冷たい椅子に座るウィザードの少女へ、緩んだ顔を向けた。
「"魔女"だなんて聞いてたからどんな奴かと思ったが……刺々しいだけで、普通の子じゃないか」
「ふん…田舎騎士風情に言われる筋合いはない」
 神経を逆撫でする言葉に、顔を上げるエスリナ。
 僅かな敵意を含んだ視線を、余裕で受け止めるルーク。
「やれやれ……こんなんじゃ先が思いやられるな」
「…先?」
「……僕や貴方達は目的の下に呼ばれた"仲間"って事だよ」
 不意に、暗がりから声がかかった。
 微かな光に照らされる白い仮面に、対照的な黒衣を纏った人影。
 背と声からして、若い男。
 黒衣は、基調とする色こそ違えどプリーストの僧衣と同じデザインだった。
「カルマ、とでも名乗っておくよ。聖堂の神官だ」
「!…お前が三人目か…」
 驚きと、明らかな嫌悪が混じった声色で、ルークが言った。
 黒のプリーストは闇から歩み出ると、エスリナとルークの向かいの席に座り、
「そういう訳だから、仲良くしよう」
「無理だな。素性を隠したまま、かつての敵と仲良くできるほど俺は器用じゃない」
「さすが…気付いたのか…でもそれは、お互い様じゃないかな?」
 ルークと黒いプリーストの間に走る緊張。
 エスリナだけが、事情が飲み込めずに居た。
「…大聖堂のプリーストに騎士団のナイト…それも、敵同士だと?どういう面子なんだ、これは」
「分からないかな?少佐さん」
 彼女の疑問を、仮面のプリーストが一蹴する。
「ミッドガルドの国家機関全てから、それぞれ一人…って事だよ」
 言われて、気付く。
 これで十字軍―――クルセイダーが来れば、確かに、冒険者ギルドを除いた国家勢力の一員が揃い踏みする。
「でも、冒険者ギルドは勿論、十字軍も関与しないだろうね。事が事だし」
 カルマは肩をすくめ、円卓に肘をついた。
「どういう事だ?」
「四人目は来ないって事だろ」
 説明するのも面倒臭そうに、ルークが吐き捨てる。
 カルマが来た時から、ルークは目に見えて機嫌を損ねていた。
 というよりは、エスリナの目には何かへ落胆したように見えた。
 それが何なのかは、やはり分からなかったが。


 誘拐犯の追跡。可能ならば首謀者の逮捕、若しくは抹殺。
 かなり遅れて円卓にやって来たカーレルヘイムの第一声は、そんなものだった。
「…サリア=フロウベルグの件か」
 苦虫を噛み潰した様な顔をするエスリナ。集められた三人の中で、この件を最も把握していたのは彼女だった。
 みすみす取り逃がしてしまった剣士と、女ナイト。
 つい数日前のことだ。
「合点がいったか、少佐」
「ああ」
 何故自分が呼ばれたのか、分かった気がした。
 実際に追撃し、相手の顔を見たのはエスリナとその部下の兵の数人だけだからだ。
 ルークとカルマも説明を受けて来ているらしく、特に変わった様子もなく、聞き耳を立てている。
「魔物とは勝手が違うぞ。相手は冒険者だ」
「だから騎士団と大聖堂が動く、と?」
 カーレルヘイムは首を振る。確かに、理由としては貧弱だった。
「相手が冒険者だというだけならまだいい。問題は、騒ぎが大きい事と、"誘拐された事になっている"サリア=フ
ロウベルグ自身が、自分の意思で動いている事だ」
「それが公になれば、結果は一つ…」
 混乱、というよりは、一種のスキャンダルだ。
 聖堂に携わる人間の娘なのだ。それも、枢機卿という立場にある人物の、息女。
 そんな事が知れ渡れば、大きな騒動になるのは目に見えていた。
 これには前例があった。
 数ヶ月前にあった、フェーナ=ドラクロワという女性の造反だ。
 彼女も枢機卿の娘で、大聖堂でも知る者の多い人物だった。優れたプリーストで、ある種の"奇跡"を行使出来た
 という。エスリナは直接会ったことはなかったが、何度か名を聞いた事があった。
 彼女は、公には魔族による侵攻とされている戦いで聖堂と国を裏切り、死んだとされている。
 一般には知られていないが、騎士団や聖堂の内部ではかなり騒がれた事件だ。
 これがきっかけで聖堂を離れた者も多かったようだ。
 もし知れ渡れば、今度も同じような結果になるだろう。
「我々はそれを防ぎ、かつ、サリア様を無事に取り戻さなくてはならない」
 何処か含んだ言い方をして、カーレルヘイムは髭を撫でる。
 ルークが皮肉めいた笑いを押し殺し、カルマはただ黙って肘をついている。仮面の向こうでは、やはり笑ってい
るのかも知れなかった。
「何故だ?自分の意思で城から逃げたのだというのなら、無事でなくてはならないという理由はないだろう」
 あまりやる気が無さそうな二人は置いておき、エスリナは感じていた疑問をぶちまける。
 最悪、サリア=フロウベルグは殺してしまっても構わないと考えていた。仮に、彼女に何らかの反逆の意思があ
るとすれば、それは何よりも優先して潰さなくてはならないだろう。
 城から逃げた日以降に、軍は一度、イズルートでサリア=フロウベルグ一行と交戦している。
 本来ならとっくに手配されてもおかしくない状況だ。
「色々とあるんだよ、エスリナ少佐。貴殿の上司、カエサルセント公からも要請が来ている」
「…公が?」
 言われてみれば、あの日エスリナにサリアの護衛を命じたのも、カエサルセントだった。
 まるで逃亡を予測していたかのような命令に、絶妙なタイミングで起こった城下でのテロ。
 これも、釈然としない。
 しかし、その不透明な疑問は、すぐに消えた。
「カエサルセントは、サリア=フロウベルグの婚約者なんだ」
「…え?」
 うんざりしたようなルークの呟き。
「婚礼は二週間後。要するに、俺達は多分、盛大な痴話喧嘩に付き合わされるために集められたのさ」

 
59('A`)sage :2004/09/01(水) 01:33 ID:l1gbPX3o
間隔が空きすぎて、読み続けてくれていた方々も忘れ去ってしまったと思われ
る今日この頃…投下して行きます。

では、また。
60名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/02(木) 02:56 ID:PXHbvgas
さびしくなったね…orz
('A`) のひと、GJだよぅ
61名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/02(木) 14:45 ID:HfODcqxY
>>ドクオ氏
 忘れ去ってない奴がここに一人。60氏も勝手に合わせて二人。
 いつかはもっと少なかったじゃないか。じゃないか。
 頑張ってくれ!
62ある鍛冶師の話18-1sage :2004/09/02(木) 22:11 ID:N2edtTmg
 例えば明日世界の終わりが来るなら、
 何をしようか。

 小さな問いかけをされた銀色の髪の銀の目の聖職者は、
 そう問いかけた目の前の英雄と呼ばれる騎士に小さくこう答えた。

 「皆にさようならを言いに行くよ」

 それ自体にきっと意味などはなかったに違いない、
 少なくとも聖職者の答えには。
 金色の髪に碧眼という物語の主人公のような風貌の騎士は、
 答えを聞いて少し笑ったように見えた。

 「そうか、イリらしい答えだな」

 イリ、と言う愛称で呼ばれる聖職者はイリノイス・ルーファンと言う。
 年であればもう数年もせずに成人するであろうと言うのに、
 その表情は今も何処か幼い。
 この不安定な印象を与える聖職者が、世界の鍵を握るなどと言ったら、
 大概の者が笑うに違いなかった。
 こんな儚い少女に何ができる、と。

 「・・・・・・シャイレンは、どうするの?」

 逆に問われ、騎士は少し言葉を濁らせた。
 答えに困ると言うよりは、答えたくないと言った様子の、
 けれど目の前の聖職者の表情が不安に彩られるよりも早く、
 英雄は短い間の後にゆっくりと笑った。

 「どうもしない」

 「・・・・・・・どうも、?」

 繰り返される言葉に英雄は笑みを絶やさない。
 何一つ不安などないと言うように。

 「いつもと変わらず、常と変わらず、ただ在り続ける」

 「・・・・・・、」

 「死ぬのが怖いのなら、イリ、お前の手を握っていてあげよう。
  眠りにつくその時まで」

 「・・・・・・・怖くなんかないよ、怖くなんか」

 幼い子供が意地になって否定するように、
 反射的に出た言葉だった。意識せずに出た言葉の意味など、
 恐らくはそう重い意味などないと言うのに。

 けれど英雄は隣に立つ聖職者の手を握ると、
 ただ静かに笑うのだ。

 「・・・・・お前だけは守ると誓った、だから誓おう。
  悲しい夢などもう見させやしないと」

 「・・・・・私、悲しくなんか」

 ないよ、皆が居るからそう言い掛けたイリノイスは言葉を閉ざす。
 英雄のただ何処までも真っ直ぐな眼差しに、
 誓いは決してイリノイスに向けられた訳ではなかった。

 ここには居ない誰かに向けて、この少女を守ると誓うそのただその誓いの、




 その言葉の意味を知る者は、まだ誰も居ない。


 地面が揺れているような気がした。

 視界が鈍く歪んだ事よりもカートの中味が零れてしまいやしないかと、
 錬金術師見習のルードは恐る恐る揺れる首都の町並みを眺める。
 教会の上層部とジュノーの錬金術師学校の理事会だとかが、
 何かでもめていると引率の教師がそう零していた。

 そのせいで足止めをくらい、未だに首都に居る錬金術師一行は、
 多分この間の僧兵とのやりとりのせいで残されているに違いないと、
 生徒達の合い間ではそう会話のやり取りがされているのだが。

 あの時の一件以来、ジェイとは連絡を取っていないものの、
 教会の様子がおかしいとの話にはルードも言いようの無い不安を感じていた。

 「・・・・・・空」

 誰かがそう零した声に、ふいに街中の人が顔を上げた。
 カートが気になりつつも、ルードが顔を上げると、
 まだ昼間だと言うのに空は夕暮れのように赤く染まり、
 遠く恐らくはゲッフェンの方角で何かが割れるような勢いで光が空へと一筋放たれた。

 「・・・・、」

 思わずルードは唇を開いたが、音は出なかった、
 放たれた光の後、途方もなく不安が押し寄せる。
 あの光はなんだ、そう口々に言葉が上がるが、誰一人答える者は居ない。

 ただざわめきと、人々の震えるような声の後、
 光はやがて空へとその筋を残して消えていき、
 空は青空の下、地面の揺れは何事もなかったように静まっていった。
63ある鍛冶師の話18-2sage :2004/09/02(木) 22:12 ID:N2edtTmg
 ゲッフェンの真上を通り過ぎていく光を見上げながら、
 赤い髪の少女は僅かに身震いした。
 騎士装束に真新しい剣の鞘を提げてはいるものの、
 どうにも表情が頼りない。

 昨晩聞かされたばかりの言葉が耳の中で繰り返される。

 『世界の鍵を握るのが、イリノイスなんだ』

 絵空事のように吐き出された言葉は未だに現実感が沸かない。
 自分とは一歩関わりの無いところで回る世界を見つめているような、
 途方もなく取り残された気分だ。

 世界の終わりが来るかもしれないと呟いた街の人の言葉に、
 いつもならそんな事があるわけがないと苦笑いすら浮かべられたと言うのに、
 言われてみれば何時からか英雄の背中はそこにあった。
 目に見えない沢山のものから、自分達を庇うように、
 その背中は常に前に立ちはだかっていた。

 その背があるから、何時か追い抜こうとあがく事ができたし、
 だからこそ、その背中の向こう側の世界は知らなかった。

 「・・・・・守られていたのか」

 意識する前から当たり前のように用意されていた環境は、
 今も変わらずきっと自分を待っていてくれる。

 石畳の上に置かれた自分を支える金属製の鉄板で守られた、
 革靴は思ったよりも頼りなく見えた。
 あの英雄と言われる騎士は、もっと言いようの無い安心感をあたえてくれる、

 「・・・・・・父親」

 ぽつり声に出した言葉が一番イメージに合っていた。
 まさか声に出してそうは呼ばないだろうけれど、
 思い出した記憶の中に居た兄と呼んでいた人の、
 そういう絶対的安心感を与えてくれるものなのかもしれない。

 「・・・・・・・、」

 首都を離れて少し立つ。
 ふいに、あの背中に振り向いて欲しくなった。
 消えていった光の先は首都だったかもしれない。

 「・・・・・・一度帰るか」

 妙に胸を締め付けるような感情がこみ上げてきて、
 居ても立っても居られなくなる。

 空はもう青い色を取り戻し、
 日の暑さは重ねるごとに熱を生む。

 目に見える熱くなった石畳の石からあがるゆらゆら揺れる向こうの景色を見つめて、
 赤い髪の少女リツカは宿への足を急がせた。
64ある鍛冶師の話18-3sage :2004/09/02(木) 22:14 ID:N2edtTmg
 青い空を一つ駆け抜けていった光を見つめながら、
 昨晩宿を抜け出てから連絡の取れない淡い花びらのような髪の聖職者の姿を探す。
 一緒に出かけたらしいギルドの客人の事をギルドメンバーの弓手の少女と、
 紫の髪の女聖職者はあまりいい顔をせずに無事だといいんだけどと小さくもらしていた。

 ギルドマスターである雪色の髪の鍛冶師は、
 大丈夫ですよ、と根拠の無い言葉を返す。
 だと言うのに、不思議と落ち着きを取り戻すのには、
 何故だか笑えた。

 アルベルタへと足を伸ばしたのは、居なくなった聖職者、リシュリューが、
 よくここの港で一人アイスクリームをほうばっていた事も関係しているものの、
 どちらかと言えば別の目的があったからだ。

 蜂蜜を溶かしたように日の光を返す髪は、
 昼間の日差しの下であればいやでもその姿を際立たせる。

 ギルド「ヒトヒラ」の騎士キリアは、
 知人に会いにアルベルタから船を乗り継ぐところであった。

 波の合い間を切って進む船の先端には、白い光が見える。
 迸る水飛沫に日の光が照り返しているのだ、
 僅かに眩しいと頭端で考えながら目を閉ざす。

 次の瞬間広がる小さな島に打ち上げられた、古い海賊船。

 俗に冒険者達からは「沈没船」と呼ばれている、
 かの彷徨える幽霊船船長ドレイクの住処である。

 ザワザワと風が島の入り口の葉を揺らす。
 差し込む光の合間に、船に打ち寄せる波が見えた。

 「・・・・・、。」


 申し訳程度に立っている小屋の窓口から中を覗くと、
 眠り込んでしまっているカプラ嬢が見る事ができる。
 遠い昔にここへと流れ着いた船の住人達は、
 長い事アルベルタの人々と対立状態にあった。
 それをカプラ本社が仲介し、今の半ば観光地のような状態に仕上げたのだった。

 何時来ても変わる事の無い船の様子は、
 そこだけ世界から切り取られたように時間の概念がまるでない事が知れる。

 幼い頃キリアはここにハロウィンの際町に訪れた奇術師のちょっとした手違いで、
 飛ばされた事がある。まだノービスにすらなっていない子供を、
 海賊船長は見捨てることなく保護したのだった。

 理由と言えば冒険者であれば敵であるが、
 ただの民間人は興味が無い、だとか。
 青い色の抜けた襟立て外套に、青い海賊帽子。
 刺繍の色は色あせてはいるものの、さぞかし昔は素晴らしいものであったのだろうと知れた。

 腰に下げた真新しい剣を引き寄せる。
 騎士になったのは、つい数ヶ月前の事だ。
65ある鍛冶師の話18-4sage :2004/09/02(木) 22:14 ID:N2edtTmg

 自分がノービスになった時も、
 剣士に転職を無事迎えた時も、
 騎士になり対峙した時も、
 海賊船長はわが子を見守るような面で嬉しそうに笑っていた。

 船に居る骸骨達は夜になれば昔の姿を取り戻す、
 昼間は冒険者達と剣を交え、
 夜になれば歌声と共に酒を振舞う彼らの、
 終わる事なき宴は、グラストヘイムに居る彷徨える魂たちと似ていた。

 眠るカプラを横目にして、
 船の中へと続く階段を下りていく。

 きしむ音はするものの、毎日彼らが綺麗に磨き上げて補修された階段は、
 見た目よりも傷んではいない。

 「・・・・・・・・・・きたよ」

 身震いを少し、床に響く音に歯を噛み締めて、
 傍らの剣をすらりと抜く。
 足元は進むごとに水に満たされていき、
 動きをとることが難しくなる。