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【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第7巻【燃え】

1名無しさん(*´Д`)ハァハァage :2004/08/10(火) 15:24 ID:9R4GWfc2
このスレは、萌えスレの書き込みから『電波キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』ではない萌えな自作小説の発表の場です。
・ リレー小説でも、万事OK。
・ 萌えだけでなく燃えも期待してまつ。
・ エロ小説は『【18歳未満進入禁止】みんなで作るRagnarok萌えるエロ小説スレ【エロエロ?】』におながいします。
・ 命の危機に遭遇しても良いが、主人公を殺すのはダメでつ

・ 感想は無いよりあった方が良いでつ。ちょっと思った事でも書いてくれると(・∀・)イイ!!
・ 文神を育てるのは読者でつ。建設的な否定を(;´Д`)人オナガイします。

▼リレールール
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・ リレー小説の場合、先に書き込んだ人のストーリーが原則優先なので、それに無理なく話を続かせること
・ イベント発生時には次の人がわかりやすいように
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※ 文神ではない読者各位様は、文神様各位が書きやすい環境を作るようにおながいします。

前スレ【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第5巻【燃え】
http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi/ROMoe/1084461405/

スレルール
・ 板内共通ルール(http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi?bbs=ROMoesub&key=1063859424&st=2&to=2&nofirst=true)

▼リレー小説ルール追記--------------------------------------------------------------------------------------------
・ 命の危機に遭遇しても良いが、主人公を殺すのはダメでつ
・ リレーごとのローカルルールは、第一話を書いた人が決めてください。
  (たとえば、行数限定リレーなどですね。)
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2名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/10(火) 15:29 ID:9R4GWfc2
_| ̄|○ <・・・


前スレ 【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第6巻【燃え】
http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi/ROMoe/1087126244/
3名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/11(水) 04:56 ID:.399x9Rc
3ゲットついでに保管庫の場所
http://cgi.f38.aaacafe.ne.jp/~charlot/pukiwiki/pukiwiki.php
4名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/11(水) 10:50 ID:RW.Dc08Q
4get

俺はこっちの保管庫が好き
ttp://moo.ciao.jp/RO/hokan/top.html
5名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/11(水) 11:04 ID:yL3LsAyE
5get

ついでに投下
65getsage :2004/08/11(水) 11:05 ID:yL3LsAyE
 普段はミルクを売るし、矢も薬も揃えてる。
 必要とあらば武器も防具も店頭に出す。
 どちらかと言えば(そう!どちらかと言えば!)お喋りは苦手だ。
 しかし、その場の雰囲気が何よりもまず会話を求めてくれば私の舌は三枚ほど増え、意思とは関係なく流暢に動き出す。
 所謂この自動的で積極性を欠いた性分が私を町の隅に追いやっている。
 他の誰でもなく私が、である。

「すいません。・・・・・・ここお店、ですよね?」
「いかにも。アルケミストの店へようこそ、お若いお嬢さん。」
75getsage :2004/08/11(水) 11:06 ID:yL3LsAyE
「えーっと、銀矢を3万本ほどと……、あとその瓶に入った白いお薬ください。」
「はいよ。銀矢はどこへ運びますかな?」
「ちょっと待ってくださいね。昼頃、メモに書かれた場所まで送って頂ければ結構ですので・・・・・・。」
 彼女はそう言うと手を口元へ持ってゆき、長く甲高い口笛を一度吹き、その後短く鋭い音に変えた。
 すると屋台の中を大きく黒い影が風の如く走り、その影は彼女の肩にのった。───口に大きなリンゴをくわえて。
「あっ、こら!なんでそんなことするの!・・・・・・ごめんなさい、商人さん。この子、まだ幼くてやんちゃなんです。もう食べてしまってるけど、リンゴおいくらでしたか?」
 シャクリシャクリと小気味いい音でリンゴを食べる鷹を撫でつつ彼女は言った。
「サービスしますよ。色々買って頂きましたし。」
 銀矢を梱包しながら相手の顔を見ずにそう言うと、さらに萎縮した様子が感じられた。
 どうも私の低い声はよくないらしい。
「本当に申し訳ないです・・・。それなら、この緑色のボトルとそっちのボトルも下さい。商人さん、これ売り物ですよね?」
「もちろんです。ここにあるものは全て売り物ですよ。」
「では纏めて買わせてもらいます!場所はこの子の足に括りつけてある紙に書いてありますから。」
 そう言って紙を渡された。場所はここからまだ近いらしい。配達に丸一日かかることもある町外れのこの店にしては珍しいことだった。
 よくよく見るとその紙はフェイヨン近くのものであることがわかった。花粉がついており森の香りもした。
 ふと顔を上げるとまた彼女が不安げにこちらの様子を窺っていた。
 どうやらこの皺くちゃだらけの顔がよくないらしい。
「転職祝いですかな?」
 そう言うと彼女は驚いた顔をした。
「すごい!良くわかりましたね、商人さん。友人の子が私と同じハンターに転職したんです。あまり高価なものは買えないけど気持ちだけでも、と思って。・・・・・・そうだ!花束あります?一緒に送ろうと思うんですけど。」
「残念ながら花束はないね。」
 すると今度は大きく肩を落とした。
 その感情表現の豊かさを私は羨ましく思った。彼女は誰からも好かれるだろう、という予測が私の中で生まれたからだ。
 リンゴを食べ終わった鷹も彼女の頭をつついて励ましているようにさえ見えた。
「私が何とかしますよ、お嬢さん。安心しなさい。」
 そう言うと彼女を帰した。
 私はすぐさま荷造りを終え、カートを引きつつ目的地を目指した。
85getsage :2004/08/11(水) 11:07 ID:yL3LsAyE
 彼女の仲間たちは既に盛り上がっていた。
 それは私がもう長いこと経験していない光景であった。
 皆が転職を祝い、贈り物をしていた。
 一人は古い宝箱を、一人は立派な武器を、一人は立派な防具を。
 仲間の輪の中心に彼女を見つけたが、その様子は確かに仲間たち同様おおいに祝福していたがどこか気後れしていた。
 私と彼女は少しの間目が合ったが、彼女は苦笑いをしてまた仲間の話の中に溶け込んでいった。
 次の瞬間、私は自然と大きく息を吸い込んでいた。
「さぁ!みなさん!ご清聴を!ご熟覧を!」
 いきなり響いたその声に彼らは一様に驚き、静まった。
「本日は転職、誠におめでとうございます。私からも大いに祝福をいたしたいと思います。さて、彼女からの贈り物を私めが承っております。どうぞ、皆様の時間をお少しだけ頂きたい。」
 私はマントの中に手をいれ、両手に三本ずつボトルを指で挟みこんで頭上に掲げた。
 ボトルをまず軽く横に揺らし、すぐ大きく縦に振った。ボトル内の液体から気泡が発生し、それぞれ赤色やら緑色やらに変色している。最後に腕を交差させるように大きく背後まで振り切るとボトルが熱くなってきた。
 皆が固唾を呑んで注目しているのが分かった。このような状況は初めてらしい。
 私は彼らに微笑むとボトルを大きく弧を描くように投げつけた。
 ボトルの割れた場所からは様々な植物が次から次へと生え、華麗な音と花の強い芳香が漂った。
「この花畑が彼女からの贈り物です。どうかこれからも、これらの植物達のように人を惹きつける素晴らしい人物であってください。本日は誠におめでとうございます。」
彼らの喧騒を尻目に私は元いたところへ帰ることにした。
95getsage :2004/08/11(水) 11:07 ID:yL3LsAyE
「すごい!ありがとう商人さん!転職した子だけじゃなく、皆もすごく喜んでました!」
 私がいつもの場所に戻り、店じまいをしていると興奮冷めやらぬ、といった感じの彼女が駆けてきた。
 どうも私の行動はよかったらしい。
 私は彼女に向けて言った。

「前にも言いましたでしょう。ここにあるものは全て売り物なんです。無論私もですよ、お嬢さん。
それとね、これは重要なことですよ。
私は商人ではありません。私はアルケミストです。
そしてここはアルケミストの店です。またのご来店を、お若いお嬢さん。」
10名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/11(水) 15:51 ID:zPN6qqtY
>>5get氏
アルケミストかっこええーー!
大道芸人っぽい気もするけどそこがまたGood!
11名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/12(木) 00:12 ID:7p8sC7eQ
>5getさん
お喋り苦手と言いつつ、エンターテイマーなケミさんに惚れました。
12('A`)sage :2004/08/12(木) 00:13 ID:7p8sC7eQ
Ragnarok Online Side Story "Confrontation of fate"


 混沌とした世界の中で。


 
 かつて満ちた祝福の歌は失われ、新緑に溢れた大地には邪悪が蔓延した。
 それは人であり、恐怖であり、憎悪であり、絶望。
 心と魂を失った、人の形を借りる別の者。

 かつて賛美を謳歌した街は失われ、人々は穢れた刃の取引に没頭した。
 それは剣であり、欲望であり、敵意であり、破壊。
 正義と信念を失った、武器の形を借りる別の物。


 かつて歩んだ戦いの記憶は失われ、世界は再び過ちへと動き出した。
 それは刻であり、未来であり、災禍であり、運命。

 
 始まりと終わり、理由と目的、来た道と行くべき道を失った、聖戦の名を借りる別の、何か。


 『廻り始める歯車 2/2』



 まるで一睡も出来なかった剣士の少年は、頭から冷えた井戸水を被り、朝日の下で悶絶した。
 想像以上に水が冷たかったのと、あちこちに残った擦り傷が痛んだのと、両方で。
 水に濡れ、ヘロヘロになった黒髪を布で思い切り拭い、目を開ける。
 初夏の陽光が、滲んだ。
「寝なきゃ、夢も見ない・・・当たり前だ・・・」
 ナハトは、同年代の若者と比べると女顔とさえ言える面立ちを強張らせ、呟いた。
 確かめるように、言い聞かせるように。
 勿論、寝ずに何日も持つ筈がない。それは分かっていたし、ちゃんと理解していた。
 やはり疲れてもいた。
 けれど、その前に。
 また夢を見てしまうかもしれない、その前に。
 現実と、向き合わなくてはならない。
 確かめなくてはならない。
「サリア=フロウベルグ・・・」
 顔を上げた。
 ナハトの生活の場、イズルートにある陳腐な宿の二階。少女が寝ている筈の部屋。その窓を、見た。
 プロンテラに住んでいるルイセも、今は部屋のソファーで寝ている。事情が事情だけに、泊まってくれたのだ。
 ナハトにとって、これは心強かった。
 今や、ルイセは教師であり、恩人だ。
 そして、それ以上に、これから自分が進むべき道を示してくれる様な気がしていた。
 それに、
「・・・父さん」
 誇るべき、父の剣は腰の鞘の中で朽ち果てていた。
 ちゃんとした手入れもせず、粗野な扱いを続けていた割に、この何の変哲も無い剣は良くやってくれた。
 昨夜、半魚人との戦いに耐え、ウィザードの雷を受けて無事だったのも、この剣が代わりに帯電したお陰だ。

 ――強く、生きろ。ナハト。

 成すべき事、成さなくてはならない事へ巻き込まれていくだろう少年にとって、父のその言葉は偉大だった。
 どんなに辛く困難な道だったとしても忘れないでいようと、思わせる程に。

 今更ながらに、少年は父に感謝した。

 

 宿に戻るなり、そんな悲愴な決意を固めた少年の目に、異様な光景が飛び込んで来て、彼は凍り付いた。
 ブラウス一枚の少女が、食堂で飯を食らっている。
 そして、その勢いが、半端ではない。
 食らっては頬張り、食らっては頬張る。
 何処へ納まるのか到底分からぬ量の食料が、吹き荒ぶ暴風の如く振るわれるフォークに駆逐されていく。
 宿の女将は、その食べっぷりを複雑な面持ちで眺めているだけだ。他に客もおらず、二階に住んでいるのは人畜無害そうな
女顔の少年剣士だけなのだから、これといって困る事も危ない事もないのだろう。
 とはいえ、これはさすがに、恒久的な草食性の少年、ナハトにも刺激の強い格好だ。
 慌てて、少女から目を逸らす。
 それでも、視界の端にチラチラと白い綺麗な肌が目に入り、ナハトは自分でも分かるほど、顔を赤くした。
「・・・あ、リーゼンラッテ君」
 少女は何を思ったか、ナハトを見て微笑みかける。
 訳も分からず、目のやり場にも困っていたナハトは、少女の顔をようやく直視し、気付いた。
「・・・先生!?」
「あはっ、おはよう」
 金髪の少女―――ルイセ=ブルースカイはフォークの先に目玉焼きを突き刺したままで、少年にウインクする。
 軽い、眩暈がした。
「な、何てカッコしてんですか・・・!?」
 掠れた声で、なんとか、そんな言葉を搾り出す。
「もう暑い季節でしょ?だって私、暑いの苦手だし」
「そんなの知りませんよ!」
 何となく悔しい様な気分になって、ナハトは地団駄を踏んで喚き立てた。
 昨夜のルイセは、彼にとってヒーローの様なものであり、ウィザードを一撃の下に撃退した時に至っては、正に女神に見えた
くらいだ。そのルイセが、あられもない格好で呑気に朝食を摂っている。
 嫌な現実だった。
「朝から元気だねー・・・ほら、いいから、君も座って食べる」
 ぽんぽん、と隣の椅子を叩いて言うルイセ。
 テーブルには言うまでもなく、胸焼けがする程の食事が並んでいる。とても、相席する気分にはなれない。
「僕は朝からそんなに食べれません!」
「・・・そう?」
「普通はそうですっ!」
「遠慮しなくていいのに・・・」
「してませんよ!っていうか、元気なのは先生の方じゃないですか!」
「え?元気なわけないじゃない。だって私、朝弱いし」
「そんなの知りませんって言ってるでしょう!?」
 のらりくらりとナハトの抗議をかわすルイセ。
 食堂の奥で大口を開けて笑う女将に、二人も顔を見合わせて顔を綻ばせる。
 安穏としていた。
 あまりに、平和なやり取りだった。
 それだけに、ナハトは先程までの自分の思考が、哀しいものに思えてならなかった。
 何故、自分はこれほどまでに、サリア=フロウベルグに囚われているのか。
 少年の顔に浮かぶ、微かな憂慮を見て取った金髪の少女は、フォークを取り敢えず置いてから、口を開いた。
「リーゼンラッテ君・・・あの子には、あんまり関わらない方がいいんじゃないかな」
 ナハトの黒い瞳が、ルイセを見る。
「昨日の・・・あのウィザード。多分、軍人ね。相当の使い手じゃないかしら」
「・・・サリアも言ってました。少佐だとか、何とか」
 思い出したくもない城での出来事に、眉をひそめるナハト。
「分かってるなら、いいけど・・・かなう相手じゃないよ。君の」
「それも、分かってますよ。先生」
 気遣うルイセに、ナハトはそれだけ答えて歩き出した。
「でも、やらなきゃいけないって・・・何故か、そう思ったんです。今も・・・思ってます。出来るかどうかは、別として」
「・・・そっか」
 二階の自室へ向かっていく教え子を見送ってから、ルイセは再びフォークを取った。
 食べれるうちに食べておく。これは、いかなる時も重要だ。
 ・・・いつ、忙しくなるかも分からないのだから。

13('A`)sage :2004/08/12(木) 00:14 ID:7p8sC7eQ
 サリア=フロウベルグは戸を開けて入ってきた少年を見るやいなや、驚いたような顔になった。
 お世辞にも立派とはいえないマントを羽織った少年は、手近に置いてあったソファーへ腰を下ろし、ベッドの上のサリアへ弱々し
い笑みを浮かべる。気遣いのつもりなのだろうが、そんな余裕が無いのがサリアにもはっきりと見て取れた。
「・・・よく眠れた?」
「あ・・・すみません、いつの間にか寝てしまって・・・」
「いや・・・いいって。なんか僕が足を引っ張っちゃったみたいだし」
 少年は言うだけ言って、頬を掻く。
 根が純朴なのかもしれなかった。
 それが、剣士に向くのかどうかは別として、そんな彼に、サリアは安堵した。
 もっとおっかない人間だったなら、どうしようもなかっただろう。
「ここ、僕が借りてる部屋だから、全然気にしなくていいよ。下でご飯も食べれるし、お金はかかんないからさ」
 身振り手振りで不器用な説明をする少年。
「た、立ち入った話も聞かないよ。僕なんかじゃ役に立たないのは分かってる。でも・・・」
「・・・」
 サリアは、首を傾げて少年の言葉を待った。
 言うべき事は、彼に先に言われてしまっていた。
「一つだけ、質問があるんだ」
 黒髪の少年が、真っ直ぐにサリアを見つめた。
「前に・・・何処かで、会った気がするんだけど・・・覚えは無い?」

 夢の中で会ったかどうか。
 そんな風に聞ける筈もなく、ナハトは遠回しな質問をした。
 しかし、少女はゆっくりと首を振る。それから、申し訳なさそうに口を開いた。
「すみません」
 半ば、予想は出来ていた答えだった。
「そう・・・僕の勘違い・・・みたいだね」
 そこで、ナハトはサリアから視線を外し、踵を返した。
「・・・ゆっくり休んでって。出る時に、声はかけなくていいから」
「・・・え?」
 戸惑うサリアを後に、ナハトは自室を出ると、後ろ手で戸を閉めた。
 瞬間、どっと疲れの波が押し寄せる。
 やはり、単なる偶然だったのか。
 たまたま、夢に出てくる女性と、似ていただけか。
(考えすぎだ・・・)
 それに、サリアは助けを必要としているようには、思えない。
 休み、回復すれば、一人でもちゃんと事を成すように見えた。
(・・・大丈夫だ、きっと)
 ナハトは一度だけ自室の戸を振り返ってから、階段を下りた。
 食堂には既にルイセの姿もなく、彼はそのまま宿を後にし、眩しく照らされる夏のイズルートへ繰り出した。
 どろどろとした思考が、嘘のように払われ、消える。
 伴って、ようやく眠気がやってきたものの、寝ようにも自室は使えないのだと思い出し、溜息を吐いた。
 自分は一体、何をやっているのか。
「・・・よう」
「・・・!?」
 唐突に、声がかかった。少年のものとは思えないドスの利いた低い声。
 振り返れば、逆毛の剣士が立っていた。
「何だ・・・ガルディアか。脅かさないで欲しいな」
 裏路地から半身だけを出し、ガルディア=ルーベンスはナハトへ鋭い眼を向ける。
「どうしたんだよ。授業は」
「昨日の今日で授業だって?・・・はっ!脳味噌呆けてんのかよ、テメェは?」
 それは、そうだ。言ったナハト本人も剣士ギルドへ顔を出す気はさらさら起きない。
 ただ、目の前の逆毛の剣士は、別の理由だったのだが。
「・・・あの女は何処だ?」
「あの女、って?」
 ガルディアの問いに、訳も分からず問い返すナハト。ガルディアは、
「テメェが城から連れ出した女だ」
「サリア?彼女なら・・・僕の部屋に・・・」
 答えながら、ナハトは、絶句した。
 ガルディアは隠した手に抜き身のカトラスを握っていたのだ。
「・・・ガルディア!お前!」
「悪ぃな。一晩考えたんだがよ・・・通報させてもらったぜ」
 ――逆毛の剣士が動く。
 咄嗟に、ナハトは腰からソードを抜いた。
 路地裏から飛び出したガルディアのカトラスが振るわれ、ナハトのソードへ強かに打ち下ろされる。
 火花と金属音。
 なんとか初太刀を受けたナハトへ、ガルディアが言う。
「知ってるか!?軍の兵隊の間じゃテメェは誘拐犯だぜ!ルイセも共犯だってよ!」
「僕と先生が・・・誘拐犯だって!?」
「はっ!俺は御免だね!テメェとあの化け物を突き出して、とっととオサラバしてぇんだよ!」
 あの化け物?
 それがルイセを指す言葉だとは知らず、ナハトは歯噛みする。
「ガルディア、やめろ!どう考えても、悪いのはプロンテラ軍だろ!」
「んなこたぁしらねぇなぁ!」
 逆毛の剣士は、一瞬で刃を返し、ナハトの剣を流す。巧みに切り結び、飛び下がった。
「物の善悪なんざ、関係ねぇ!テメェだってテメェの命は惜しいだろうが!」
「・・・くそっ!お前って奴は!」
 ガルディアが凄烈に振るったカトラスが、刹那に爆炎を思わせる気配を帯びる。
 そのまま、地面へ叩きつけるや否や、衝撃が広がった。
 マグナムブレイク。
 剣士の使う技の中で、唯一、広範囲に渡る剣技だ。
 ナハトもこの技は一応使えたが、この剣士、ガルディアほど熟練はしていない。
 何とかマントで闘気の炎を防いだものの、ナハトは全く勝機が存在しない事を悟る。
 迷わずハエの羽――転移の魔力を帯びたアイテムを握り潰し、殺気立った逆毛の剣士の前から消えた。





 to be continued  『旅立つ日』

14('A`)sage :2004/08/12(木) 00:17 ID:7p8sC7eQ
時間がないなぁ、という悩みと、絵の勉強と。
今晩は。とりあえず投下です。

では、また。
15名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/12(木) 15:49 ID:nlDXFaEA
スレ立て乙
15get氏、ドクオ氏、乙
んで、過疎ってるな
16名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/12(木) 17:07 ID:pP7XuYpU
ちょうど帰省シーズンだから皆帰省中じゃないのか?

今がチャンスですか、神様。
17名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/13(金) 11:04 ID:8G6gz5Fk
帰省じゃなくて夏祭りで戦闘中だろ、きっと。
18名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/13(金) 15:21 ID:v4wTfzFg
>>('A`)氏
ナハトYOEEEE!!

夏祭りいきTeeee!!
19名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/13(金) 15:34 ID:72HjP5u.
壁|ω・`)ROやる気がでなくて執筆中なんですけど…
壁|ω・`)どうしても主人公格の人間が死んでしまうのしか思いつかないわけで…
壁|ω・`)「主人公の一人」が死ぬのもNGなんでしょうか
20名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/13(金) 17:24 ID:puDBW3fE
>>('A`)氏グッジョブ!
自分は前作よりこっちのが好きだったり・・
21名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/13(金) 21:23 ID:FrPm8nns
>5get氏
アルケミ茶目っ気ありすぎ惚れちまうぜ……
アルケミスキーとしてはうれしい限り。

>('A`)氏
wWw<いいぞガルディアもっとやれ
( ゚д゚)<逆毛様あーいった奴がお好みでしたか
22名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/14(土) 12:25 ID:8YIBudEM
>>19
死について主人公を含め回りまでちゃんと書けているならば読んでみたいけど、
ただ主人公が死ぬだけのSSなら読む価値も無い、と個人的には思う。
23名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/14(土) 12:56 ID:PkIXrH5c
>>22
レスthx
ふむ…もう少し練って、大丈夫そうならうpしまする…
24ある鍛冶師の話16-1sage :2004/08/15(日) 12:55 ID:WezR.o7U
 「世界なんてものの曖昧さは、貴女が一番良く知っていたはずだろう」

 首都プロンテラにある大聖堂、その廊下を回り込んだ裏手にある懺悔室で、
 一人の魔導師(ウィザード)が、魔術師(マジシャン)の白い法衣を着て、
 誰かに向けてそう諭すように言葉を放っている。

 壁一枚隔てた向こうで、貴女と呼ばれたのは誰だったのか。
 だが誰かが居るような気配はまるでしない。
 誰も居ないその懺悔室の中へと語りかけるこの青い銀髪の少年は、
 されど至極真面目に言うのだ。

 「貴女は世界を救おうとしたのか、
  それともただあの閉ざされた空間の魂たちを浄化したかったのか。
  今ある世と、かつて守りたかったもの、両方をとる事は出来なかった。
  貴女はただそれを守ろうとしていた、
  その同胞達もまた同じ意思だったに違いない。

  今の世を取るのか、かつての仲間を取るのか。

  ・・・・・・、貴女は結局選べずに」

 愛しいものへと語りかけるような優しくも厳しくもある声は、
 まだ変声期を迎える少年のような声をしている。
 高く通る声は、少年に中性的な印象を与え、
 それがこの少年をひどく異質でありながら魅力ある生き物に変えていた。

 「僕は貴女を救いたかった。
  貴女の居る世は、ありとあらゆる増悪に満ちていた。
  貴女はこの世で生きるには清らか過ぎたんだ、
  だから、そこで見ていて。

  僕は世界を変える。
  変革を、この世界に、貴女の守りたかったものを解き放つ、
  迷わなくていい、罪悪感を持つ必要など無い、
  下したのは僕だから、貴女はただ新しい世界で、
  また笑って?

  大丈夫、僕は貴女を取り戻す。
  ・・・・・・・、フラウ、・・・・・・」

 大聖堂の昼を知らせる鐘が鳴り響く。
 それと同時に少年は顔を上げて、懺悔室の本来なら聖職者が座る席から腰を上げる、
 懺悔室に掲げられた十字架を振り返り、見つめながら苦々しく少年は小さく呪文を唱えた。
 余りにも小さく早く唱えられた呪文は、白い光の玉となり少年の背に位置していた壁に、
 掲げられていた白い十字架を音もなく粉砕する。
 きらきらと室内の明りに照らし出されて、白い破片は床へと降り注ぐ。

 少年は、ひどくあどけない表情で、ひどく邪気のある笑みを浮かべた。
 悪戯を思いついたような笑みを、きっと誰もが軽く口端を緩ませるに違いない。
 そんな子供の表情だ、されど吐き出された言葉はこの場所に不釣合いであった。

 「神など居ない」

 一つ否、と吐き出された言葉が響く。
 ただその言葉が音を持ち、力を持ったように、
 懺悔室へと響き渡った。

 「神など居ない、ありもしない。それは人々の偶像だ、
  ありもしない神にすがってはいけない、
  ではその愚かなる人々に何をすればいいか、
  ・・・・・フラウ、僕は神に一番近い場所へと行くよ」

 白く照らされた光の中、少年はいっそ少年こそが聖職者であるような、
 そんな邪気を含ませたような言葉だと言うのに、
 まるでそれを感じさせない、

 あるいは。

 「・・・・・・、グローリアス、グローリア」

 聖歌の一部を高らかに歌い上げると、
 少年は扉を開け放ち部屋を後にした。
25ある鍛冶師の話16-2sage :2004/08/15(日) 12:57 ID:WezR.o7U
 フェイヨンにある小さな宿では、今日もひっきりなしに患者の足が途絶えない。
 その二階に随分と長いこと居座っている、闇を染め抜いたような紫色の髪の聖職者が居る。
 名前をスピカ、星の名前を持つその聖職者の胸には05という刺青のような数字があった。

 時折の着替えにそれを見ていた、スピカを慕う桜花(オウカ)、花の名前を持つ暗殺者は、
 何度かその数字について問いかけようとしたものの、何時もその問いかけを迷っていた。

 この先生とフェイヨンの人たちに慕われる聖職者は、
 何十年か前にふらりと来たきり、その頃から姿変わらずここに居るのだと言う。
 初めは誰もが魔物ではないかと言っていたが、
 この青年の人となりのおかげか、今ではすっかり街に溶け込んでいる。

 「先生、次の患者さん来てます」

 疲労のためか少し息をついた桜花の銀髪の頭を、スピカが軽く撫でる。
 子供を諌めるような行為に、桜花が眉を寄せるがそれもかまわず、
 小さく室内の時計へと視線を目配せして、昼である事を教えた。

 「お前は私の分のお昼も買ってきておいてくれないか。
  三つ角向こうの、お弁当で頼むよ」

 「・・・・・いつものスか」

 あつあつの卵焼きが美味しいと以前話していたのを思い出しながら、
 桜花が頷くのにスピカは苦笑いした。
 小腹を押さえたスピカを見て、桜花はよし来たとかばかりに窓へと歩み寄ると、
 戸を開け放つと同時に近くの枝に飛び移る。

 「こら、猫じゃないんだ。ちゃんと入り口から」

 「・・・、いってきまぁす」

 悪びれもせずに笑みを向ける桜花を見て、スピカは笑う。
 片手をひらひらと振りながらその少年から青年となりかけの背を見送る。

 「・・・・あともう少ししたら、背を追い抜かれるな」

 初めて会った時の、血まみれの小さな暗殺者の事をふと思い出した。

 雨の中買出しに出かけた帰りに、初めての任務で返り討ちにあった小さな少年は、
 まだまだ親に甘えなくてはならないほど幼い年端の体つきで、
 けれど慌てて片手で抱き寄せてみれば、小さく、任務失敗、ごめんなさいと、
 震える唇でそう言ったのだった。

 アサシンギルドの方針は知らない。
 けれどこの小さな子供を放っておいて、何が聖職者だと思い立ったスピカは、
 後の事を考えずに介抱したのだ。

 その後アサシンギルドから使者が来て、
 あの小さな暗殺者の事を頼まれたのだった。

 面倒を見て欲しいと言った暗殺者ギルドの使者は、
 海賊頭巾をかぶったまだ若い暗殺者で、
 ひどく沈痛そうな面持ちをしていた。

 だからと言うわけではないが、放っておけずにそのまま共に過ごして来たあの暗殺者は、
 今ではあと数年すればすぐにでも背を追い抜きかねないほど成長している。

 「・・・長い休暇だった」

 目を閉じれば広がるは何か。
 目を閉ざし室内に佇む聖職者は赤と黒を主とした男のそれではあるが、
 どうにも男にしては体つきが細く、女にしては骨ばった感がある。

 「・・・・・・グローリアス、グローリア」

 小さく星の名前の聖職者が唱えた瞬間。

 世界は暴発した熱を解き放つような勢いで、
26ある鍛冶師の話16-3sage :2004/08/15(日) 12:57 ID:WezR.o7U
 鈍い爆発音が聞こえた時、暗殺者桜花は丁度弁当を買って戻るところだった。
 お釣りをもらおうと伸ばされた手が一瞬止まると、店の主人はどうしたのと問いかけようと、
 次の瞬間桜花はお釣りも弁当も受け取らず駆け出していた。

 ひどく、嫌な予感が胸を満たしていた。
 あの人の笑みが遠ざかった気がした。

 取り残されたような感じがした。

 それはただの勘だ、人を殺したりする命のやり取りで覚えた、ただの、
 だからこそ確実性があった。そうではあって欲しくはなかった。

 鈍くあがった爆発音の中、燃え上がる火の中からあがる悲鳴がある。
 誰がそんな事をしたのかは知らない、ただいつも出入りする小さな宿は今、
 燃え盛る炎の中にあった。

 「先生!先生は!」

 慌てて宿の中へと走り出した暗殺者を止めようとする声と手が伸ばされる、
 その合い間をすり抜けて一階の扉を開け放つと、あまりの熱と爆発で吹き飛んだらしい、
 誰かの手を見つけた。

 思わずその手を見つめるが、ひどくゴツゴツとした年のいった手である事に、
 桜花はほっと胸を撫で下ろした。と、同時にそれを嫌悪した。

 こんなんじゃ先生に怒られる、眉を寄せて二階へとあがる階段を見つけ出すと、
 徐々に強まる炎も気にせず突っ込んでいく。
 二階へとついた同時に廊下を一気に駆け抜け、一番奥の部屋へと走りこむ。
 扉は粉々に粉砕されていて、どうやら直撃はここだったらしい、

 「せんせェ、せんせ!!」

 悲鳴混じりにあげた声と共に走りこんだ室内には数人が居た。
 一人は愛しの先生、背を向けていたが桜花を確認するなり慌ててその暗殺者の体を、
 庇うように立ちはだかる、先に二人。一人は吟遊詩人だろうか、
 もう一人はそれと対の踊り子。

 スピカとは違う淡い紫色の髪を、高く一つに結い上げた吟遊詩人は、
 頭の上の羽のついた帽子を一つ撫でると、小さく笑みを浮かべた。

 「君の大事なものか、それが」

 スピカはただその吟遊詩人を睨みつけると、叫んだ。

 「この子に手を出すな、協力なら幾らでもしてやる、
  もう誰も関係のない人たちを巻き込んだりするな!」

 「別に協力をしてもらわずとも結構。
  君の力を奪い取る事が可能になったからさ、
  大人しく死んでくれ、かつての友よ、星の名前の聖職者スピカ」

 隣に立つ踊り子は金の長い髪が艶かしく腰まで彩りを添えている、
 真っ直ぐに切りそろえられた前髪から覗く目は意志の強さを知らせるように、
 隣りの吟遊詩人へと注がれていた。

 「・・・・・・、先生、誰、こいつら」

 「桜花、逃げなさい。早く、早く!」

 叫ぶスピカの声に、桜花は首をゆるゆると横に振る。

 「どうして、どうして、先生、オレは」

 「・・・・・・スピカ、私はね、時計塔の守り手なんだ。
  御伽噺にあるだろう、かつてあったグラストヘイムの王国と人間との戦争の、
  私はグラストヘイムに居たんだ。

  見た目よりもずっと年を取っている、
  そのグラストヘイムの守りとして作られた時計塔の守り手なんだ。

  私は人間なんかじゃ」

 「そんな事はどうでもいいよ!オレはアンタが好きなんだ、
  アンタしかもう」

 声をあらげスピカの背へと抱きついた桜花に、スピカが眉を寄せて目を閉ざす。
 吟遊詩人はそれを見て、ひどく幸せそうな笑みを浮かべた。

 「スピカ、幸せだったんだな」

 「・・・・・そりゃぁ、な」

 相槌を返したスピカに吟遊詩人は片手をすいと前に突き出す、と、
 一直線にスピカへと駆け寄る。それを見てスピカは何かを早口で呟くと、
 電気の走るような音とともに白い空間を展開する。
 足元に広がるのはそれは結界だ、今の世の聖職者達が手にする事のできない、
 失われた世代の力、バジリスカと呼ばれるその空間は、
 かつてグラストヘイムにあった国で使われていた術であった。

 その結果に阻まれたと同時に、吟遊詩人が唇を開く。
 矢のように前に突き出された手の平は、白い空間に阻まれて進む事ができない。
 開いた唇からは甲高い音が漏れ出した、ひどくゆったりと流れてくる旋律は、
 アカペラでありながら眠りの女神でも引き寄せたらしい、
 結界の中に居るはずのスピカの瞼が一瞬閉じかけて、
 瞬間弾ける様に結界の威力が失せた。

 「今の世で、かつてと同じように一人で失われた術を使えた事は、
  感銘に値する。ただ、君は少し戦闘には向いてはいなかったようだね」

 弾けた瞬間、桜花の体は突き飛ばされていた、
 廊下へと突き飛ばされ咄嗟に受身を取って衝撃を逃がす、
 慌てて体を起こして室内を見れば、

 聖職者の黒の法衣から白く手の平が伸びている。
 手で貫かれたのだと理解したと同時に、がたがたと桜花の体が震えた。
 振り返るスピカは小さく唇だけで逃げてと告げる。
 吟遊詩人は何事か唱えると、その手を回転させながら抜き取った。

 支えを失ったようにぐらりと倒れこむスピカの体に、
 桜花は廊下を駆け抜けて抱き止めようとする。
 その目の前に、走る風を感じて慌てて後ろへとステップを踏むと、
 踊り子が赤い鞭を片手に冷たく見下ろしていた。

 「どけ、・・・・・・」

 小さく震えた声で言われた言葉に踊り子は言った。

 「崩れ落ちるわ、早く行きなさい。
  死んでしまう、君も」

 冷ややかな目線だと言うのに嫌に沈痛そうな言葉の響きだった、
 桜花が違和感に眉を寄せる、と、

 「っつ、まだ動けるのか、君は!」

 吟遊詩人の驚いた声と共に踊り子が振り返る。
 今だとばかりに踊り子を突き飛ばし、懐から愛用のダマスカスを取り出して、
 一閃させる。踊り子の悲鳴と共に赤い色が炎の中さらに彩りを添えた。
 片目を押さえて床に膝をつく踊り子に小さく、ごめん、とだけ告げると、
 桜花は一気に室内へと踏み込む。

 「・・・・・・・・・、おう、か」

 体に穴を開けたまま、風を震わせるような音で声を洩らすスピカを抱き上げると、
 唇端から血を零す吟遊詩人を見返しながら、
 桜花はその年端の少年には不釣合いな暗い目を叩きつけた。
 小さな体からは信じられないほどの殺気が、吟遊詩人に叩きつけられる。

 吟遊詩人は僅かに肩を震わせ、腰をあげようとした。

 「わーぷ、・・・・たる」

 掠れる様に途切れ途切れに零れた言葉と共に青い石が地面へと光を放ち落ちた、
 スピカを抱き上げた桜花の体はそのまま光の渦へと吸い込まれて行く。

 「・・・・・!」

 目を見開いて血にまみれた腕を振り上げた吟遊詩人の姿が遠くなる、
 再び光が晴れて視界がはっきりとした時、鼻に潮の匂いがついた。
 足元にはちゃぷりと水が満たされている、

 「・・・・・・・スピカか、お前ェ」

 その木で覆われた室内の中央にある、古びた机の上に腰かけている男が、
 唇を開いた、青い古びた金の刺繍の縁取りのコートに、青の海賊帽子(コルセア)、
 桜花がはっと顔を上げると、右目に黒の眼帯をかけた海賊船長が小さく笑みを浮かべた。

 「ドレイク!?」

 慌てて周囲を見回せば、確かにそこはかの幽霊船の中か。
 とすればここはアルベルタの近郊近くのはずだ。
 右足のない船長は、机に腰をかけて唇に煙草の煙を揺らせながら、
 血にまみれた聖職者へとニヒルに口端をあげて笑みを返している。

 呼ばれた名前に眉を下げると、

 「呼び捨てはねェだろうがよ。船長とまでつけてくれねェーとなァ、
  こちとら長い間この船の主人やってンだ」

 「・・・・・、ひさし、ぶりです、・・・・・、時計塔の守りが崩されました、
  ・・・・申し訳ない、また・・・・・・迷惑を」

 咳き込むと同時に急に力を無くしたようにぐったりとなるスピカに桜花が、
 先生と泣きじゃくりだす。それを見ながらドレイクは眉を寄せると、
 右足の義足をゆらりと軽く揺らした。

 「誰かに似てると思ったら、キリアの奴か。
  まァいい、坊主、この船の船医を呼びつけてやっから、
  安心しろ、・・・・・・・・・・この船に乗った以上、お前らは私の客人だ。
  指一本触れさせねーよ」

 そう言って不敵に微笑む海賊船長の揺れる煙が、天井へと消えた。
27ある鍛冶師の話16-4sage :2004/08/15(日) 12:58 ID:WezR.o7U


 胸元をぐるんぐるんに包帯に巻かれた聖職者に抱きついたまま、
 離れようとしない暗殺者が居る。
 海賊船の中の一室で、それを見届けながら黒衣に黒髪長髪の聖職者と、
 海賊船長は顔を見合わせて安堵の溜め息をついた。

 「お前が呼びつけると言うから、何事かと思ったが」

 そう言って口を開いたのは、黒衣の聖職者である。
 通称ダークプリーストと呼ばれる彼は、本来は封じられたグラストヘイムの何処かで、
 監視者も兼ねてのんびりとやっているのだが、血にまみれた手の平をぬぐう彼の左手の甲には、
 07と言う刺青のようなものがある。

 同じ時計塔管理者なのだと船長に紹介されて、
 桜花は警戒心は解いてはいるものの、スピカの傍を離れる気配が無い。
 そんな桜花を宥めるように背中を撫で続けながら、少し潮臭い室内の木製のベットの上で、
 スピカは溜め息をついた。

 「クロウ、久し振りです」

 「あぁ、久しいな、スピカ」

 クロウと呼ばれた黒衣の聖職者は、何処か異国の王族のような堂々とした風貌がある。
 普通の聖職者の衣服さえ着て教会を出入りすれば、さぞかし信徒達から慕われたに違いないが、
 クロウは苦いものを潰したような表情をして、黒衣の法衣の裾を上げた。

 「・・・・・この海水はどうにかならんのか」

 言われて船長は煙を揺らしながら、そっぽを向く。

 「どうにもならん」

 簡潔に述べられた言葉にクロウは絶句した。
 暫くしてお前らしいと言って苦笑すると、スピカへと黒い眼差しを向ける。

 「ところで残念だが君の力はもうない」

 言われた言葉にスピカがやはりそうですか、と相槌を返す。

 「アルトが誰かの協力を得て、
  封印破壊を始めたのはグラストヘイム内部に居ても聞いていたが、
  これほどとはな。まだ襲われた話は君しか聞かないが、
  なにせあの中に留まって封印の監視者を努めると言うのも楽ではない。

  アリスが言っていたが、冒険者どもの出入りが多すぎて、
  魔力の循環が激し過ぎるそうだ。
  遠い未来、どちらにせよ封印は壊れるかもしれん」

 ドレイクがそれを聞いてげんなりと溜め息とともに、煙を吐く。
 義足で慣れた様に立ったまま、腰に手を当てて船室の天井を見上げた。

 「・・・・・・・、・・・・・・桜花君が取り残されてるぜ?
  まず、説明をしねーと」

 指摘された言葉にスピカが口を開く。

 「・・・・あぁ、すいません。
  桜花、ええとな、二人とも私の友人なんだ。
  こちらがクロウさん、あちらがドレイクさん。
  クロウさんは時計塔の守り手の代表として、グラストヘイムに留まって、
  定期的に私達守り手に内部の状況を知らせてくれる。

  ドレイクさんは幽霊というか」

 「・・・・・まぁ、そんなところだ」

 照れくさそうに煙を揺らす船長に、桜花は瞬きを繰り返して話を聞く。

 「アルトと言うのは、私を貫いたあの吟遊詩人さんで、
  隣に居た踊り子は・・・・・、私も知らないが、多分彼の相方だと思う。
  力を奪われたと言うのは、ただの人に戻ったと言う事で、
  まぁ私の場合それでも人と言うには少し外れているんですが」

 「・・・・どういうこと、先生」

 「・・・・ホムンクルスなんだ」

 ぽかーんと唇を開いた桜花の顔を見ながら、
 ドレイクが遠慮なしに噴出す。
 それを横にしながらやれやれとばかりにクロウが額に手を当てて、頭を横に振る。

 「・・・・・・アルケミの?」

 「ええ」

 問い返された言葉に即答すると、スピカが尚も言う。

 「性別というか、生殖器が両方あるんですよ」

 「・・・・・・せいしょくき」

 生々しい言葉をカタコトに口にしながら、スピカをおずおずと見返す桜花。
 それを見返しながら、何を思ったのかスピカが見るか?と問い返すが、
 慌ててドレイクとクロウが止めに入り、事なきを得る。

 「・・・・・・・、元々グラストヘイムに居た人々は、
  巨人族と呼ばれる人と少し大きさの違う種族なんだが、
  人との交流を重ねる内に、完璧な生き物と言うのを作り出そうとして、
  一人で生殖行為のできる生き物を作ろうとしたある実験があったんだ。

  ・・・・その試作品というより、成功作品の一つが私、というわけだよ、桜花」

 「・・・・・・・相当大きな国だったんですね。
  グラストヘイム、今の失われた技術の一つじゃないですか、ホムンクルスなんて」

 「確かにね、元は隣りの国の技術だし、今はあちらの首都ジュノーでやっと、
  その研究を許可したところだろう、実現はまだ先らしいけれど」

 「・・・・・、そう、なんですか」

 「ところで、桜花。君顔が赤くないか」

 スピカに突っ込まれて、桜花が慌てて取り繕うようにわたわたと両手を振る。
 それを見てドレイクがにやにやと口端をあげる、煙が揺れた。

 「・・・、やらしいがきんちょめ」

 桜花が顔を見る見るうちに真赤にすると、
 スピカが小首を傾げながら背中を撫で続ける。
 嫌な感じの笑みを浮かべる海賊船長の頭を、帽子ごと黒衣の聖職者が殴りつけた。


28ある鍛冶師の話sage :2004/08/15(日) 12:59 ID:WezR.o7U
気が付いたらもう残暑ですね。
残暑お見舞い申し上げます、話の最後が見えそうになる度に、
書くのを躊躇するのは書いてて楽しいからなんだろうなぁとかぼんやり
ヾ( ・w・)ノ゛
29名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/17(火) 15:37 ID:g46PddDw
やらしいがきんちょめ!

(*´д`)っд`)
30|゜ω゜)sage :2004/08/17(火) 22:36 ID:g46PddDw
うpするときに感想に対する返事も……と思っていたら次スレにまで 遅い遅すぎるorz
感想を下さった皆さんにはほんと失礼なことをしました。

>前135氏
ごめんなさいひとえに自分の筆力不足です。

>93
あいつ出したらいっぺんにキャラ食われるので出せない、自分には御せねぇっす。
自分の代わりに解説までして下さって感謝の念に耐えません。

>('A`)氏
言い回しは元ネタに寄るところが大きいので、ぜひともご確認ください。
絶望的におっそいですけどハヤカワSF文庫です。

>138
似たようなものです?

143氏
説明を入れる場面が作れませんでした。明らかに構成ミス。
精進します。ご指摘感謝です。

>鍛冶師の人
すいません説明を入れるところがなかtt(ry
明らかに構成ミs(ry
あとあわてんぼさんなところに逆毛的愛情を注ぎたい。
31|゜ω゜)sage :2004/08/17(火) 22:37 ID:g46PddDw
 インスタント・バタフライ型瞬間移動術を繰り返し、地下三階へ三分で移動。崩れ落ちた橋が海水に飲み込まれ、その海水は先の神殿を守る天然の城壁となっている、そんな場所。
 数少ない足場を守るかのように、水際から際限なく登り、また朦朧と実体化する水魔たちと切り結ぶ冒険者たちの姿があった。
 クアッアはひゅうと口笛を吹き、
「こいつはいい。どこに向かって打っても的にあたるぜ。鴨撃ちだ」
「馬鹿野郎人間もいるだろうが。ちょっとは気を使え」
「その心は?」
「人間の肉ってまずいんだよ」
 言ってダラートは足元に落ちている烏賊の切れ端を裏返してみる。身が腐って死ぬほどまずそうだった。うえぇと遠くに放り投げる。
「ここからは走るぞ、ダラート。ダイエットだ」
「おれのスマートな身体に無駄な脂肪なんかついてねぇよ」
 クアッアは一挙動でハンター・ボウを構え、疾風の属性が備わった矢を番え、実体化しようとしていた人魚の水魔を打ち抜く。
 そして走りだす。苦戦しているような連中には援護を送り、目の前に現れる水魔には矢を叩き込む。
 ダラートも全身のバネを使い、俊敏で且つ獰猛な、まさに野生を思わせる走りでクアッアの前を行く。鋭利な爪がすれ違いざまに烏賊の水魔を五枚におろし、凶悪な顎と牙が貝魔をがっちり捕らえ、
「かてぇ! ふざけんな叩き割ってやるッ」
「今度にしろ蹴っ飛ばすぞ!」
 一気に四階、海底の天然城壁へと進む。海水に入り込むと同時に適応暗示がかかり、人の生息域外である水中を"無視する"状況が発生。行動域へと欺瞞させる。
「っ! ひょう」
 潜ったとたんに突き出された銛を紙一重でさけ、頭が認識する前に両腕が弓を構え番え放ち番え放ち番え放つ。三本の突風を纏った矢が人型の亜種、半漁人の顔面をごっそり吹き飛ばす。吹き飛ばす前に横合いと正面からさらに三本の銛が突き出される。クアッアは前進して銛と魚人の間に入り、一瞬のうちに三体に対して六本の矢を放つ。しかしそのさらに外側から八体の魚人が銛を構え――
「うざってぇダラート手伝えっ」
 突き出される前にその八体に対しそれぞれ二本ずつの矢が突き刺さる。異常なほど正確且つ高速の射撃である。
 ダラートも忙しかった。なぜか自分を見るとそそくさと下がっていく魚類達に目を輝かせながら飛び込んでいたからだ。クアッアはその尻に向かって神速の射撃。
「うっほーごっちそうごっちそうおいこら逃げるなよフェンちゃーんってウニャアア」
 駆け寄って尻を押さえて跳ね回っている黒猫の尻を蹴り飛ばす。ぎゃん。
「いてぇ! ちょっとまてよクアッア今の本気だろ本気で撃っただろ!?」
「じゃかましい俺は常に本気だ。アホ丸出しな事してないでとっとと下に降りるぞ!」
「あーくっそマジいてぇまだヒリヒリするーこのやろーお前らが悪いんだぞあったまきた全部切り刻んでやるぁー」
 異常に発生する魚人達の包囲の輪を数瞬で全滅させて突破。全速力で走り海底神殿の残骸を超えながら襲い掛かってくる雲霞のような魚人、人魚、魚類、もろもろの水魔に対し射撃と残撃を加えながら駆け抜けていく。クアッアは狩人の特性である極限の集中を見せているわけでもなく、ラダートにいたっては見た目ただニャーニャー言いながら爪を振り回しているだけのようである。
 狩人のこの異常なまでの精緻さはともかく、属性としては同じ魔であるはずのワイルドローズがなぜ自分達を攻撃するのか、未だ魚類としての属性が強い水魔たちには、ついぞわからなかった。
 魔物の巣と化した第三階海底神殿入り口を、天意局の二局員は無人の荒野を行くがごとく駆け抜けた。


    *   *   *


「はて、さて、はて」
 ケイオス群体の一部が消えた場所、そこに再び人影が現れる。
 黒衣――黒い肌の、黒い目の、黒い帽子の、黒い人。口元にうっすらと哂いを浮かべ、黒の人はとん、とん、と、水中を階段でも上るかのように飛んでいく。
「ケイオスの発生か。いやはや全くあいも変わらず完全無欠の予測不能、徹頭徹尾の無軌道端子。
 しかし実際問題愉快なことになったのは言うまでも無い。なかなか味な事をしてくれるじゃないか、ケイオス――いや、これも我々の意思と言う奴かな? ふふふ全く、全く、この場に叫奏者が居ないことが悔やまれるよ。是非とも一曲奏でて貰いたいものだ」
 とんと水中に立ち止まる。かつてイズルートの地に降り立った一柱、カレを祭った荘厳壮麗なる大海底神殿、忘れ去られた忘却の神殿、もはや静寂と崩壊を供に、その永遠の身を静かに横たえる久遠の寝床、そは永久に横たわる死者にあらねど――
「おっと」黒の人は思考を閉じ、「これはまた違う『存在』だった。いけないねいけないね混同はいけない。たとえそれが、否、私が、同じ存在だとしても。さて」
 神殿から目を逸らし、神殿を回る回廊、水上より降り行く道筋に意識を集める。
 一人の狩人と一匹のワイルドローズが、海神の眷属を吹き飛ばしながら第五階層へと降りたのが見えた。
「天意局――ふむ! 愉快な世界、激動の時代を均一化しようとする地ならしの運行者……しかしその実態はやはり世界の稼動因子……こういうのは私の役割だったはずだが、しかしそれもまた我々の必然、だろう!」
 仰ぐように謡うように両手を広げ、
「さあ封じたまえ天意局! なに、君たちには決してその意味を理解することは叶うまい! そう、たとえ、君たちが天の密使だとしても、だ!」
32Q/Rsage :2004/08/17(火) 22:38 ID:g46PddDw
 ドウ――と、海底が激震した。
 体勢を崩して地面に伏したクアッアはそれでも腕を止めない。霞のように両腕がぶれると同時、無数の矢が周囲の敵に対してあやまたず突き刺さる。ラダートは驚いて背びれを食いちぎっていたソード・フィッシュを離してしまい泣きそうな声を上げる。
「うわああ、お、おれの刺身がぁー。きっとテスラの呪いだぜクアッア、そうに違いないー」
「本気で泣くなボケ猫、喋ってないで突っ込めッ」
 足元の岩盤にひび割れが走り、海底の奥から現れた毒々しい色彩の蛇が無数の鎌首を二人に向ける。クアッアは横っ飛びしながら自分に向かってくる蛇を打ち落とし、ダラートはひょいひょいと俊敏に避け、逆に蛇の一匹に喰らい付く。
「ぎにゃ?! おいおいマジかよーしびれちゃったよ」
「なんだ、喰えなかったのか? よし、こいつ一匹もって帰ろう。お前と暮らさせる」
「ひ、ひどい。いや、喰えるよ、蛸みたいな味だった」
 しょうがなくダラートは爪で切り裂く。緑色の粘液を噴出しながら、蛇の一匹が力を失って海底に落ちる。その蛇の死体が、しかし動く。ずるずると後退していく。ダラートはいぶかしげに蛇の尾のほうを見、
「クアッア! 固まってるところをふっとばせ!」
 聞こえたのか聞こえないのか、クアッアの矢を番える右手が一振りされ、ハンター・ボウが甲高い音を立てていっそうその撓った身を震わせる。と、九本の矢が一斉に放たれる。アローシャワー。撃ち終えた後の僅かな隙の間に、蛇の一匹がわき腹に絡みつくが無視。九本の矢はそこだけ何故か折り重なるように密集した蛇たちの居所に、まるで砂かけを撒き散らすように襲い掛かる。物騒な砂かけだ、とクアッアは思った。衝撃。蛇がのたうち、大半が崩れ落ちる。その奥から、これもまた毒々しい色をした壺のようなものがのったりと出てくる。
「うひょーペノメナじゃん。わはは、巨大ペノメナだ。干物にしても、三日は持つなぁ。じゅるり」
 一層の激しさをもって襲い掛かる蛇、ペノメナの触手。通常のペノメナより五倍近い大きさを誇る、ヒュージ・ペノメナ。一体ではない、二体、三体――と、海底を割り、または岩陰から這い出ながら、計五体のそれらが姿を現す。リンドウが察知した大型の水魔とはこのことだろう、とダラートはあたりをつける。
 クアッアは腹に巻きついた触手に手こずっていた。足が海底から離れ、引き摺りあげられている。矢では断ち切ることはできない。予備の装備であるマインゴーシュは腰裏にあるが、それを抜くことは矢を手放すのと同義である。クアッアの狩人としての特性上、それはあってはならないことだ。ダラートに切ってもらえばいいが、そんな借りを作るようなことはしたくない。なにより、この程度で死に絶える自分ではない、とクアッアは一人肯く。そんなことをするぐらいなら、このイソギンチャクもどきを全部打ち殺す。
「おいクアッア、一人だけ遊んで酷いじゃないか!」
「ダラート、いいか、急いで祭壇に行け! こいつらは俺がぶっ殺す」
「な、なんだって。クアッア、おれの獲物を横取りする気か! そんなことはさせないぞ。降りて来い勝負だー!」
「極潰し猫、ボケ、シリアスな話だ! 囮になるって言ってるんだよ! お前以外に誰がこんなもん食うかッ」
「うー、しょうがないなあ。判ったよ。あいつの触手、本当に旨かったのに」ぶつぶつぶつ。
 四足で駆け出す。触手の幕をあっという間にすり抜け、神殿敷地内に入る。
 クアッアは既にダラートのことなど気にしていない。触手が本体に引き寄せられ、その巨大な口内にクアッアを運ぼうとしている。そのグロテスクな口内にハンター・ボウを向ける。幻影の射撃。一瞬ではなく、口内に運ばれる間それは続いた。クアッアがぽいっとヒュージ・ペノメナの体内にほうり込まれた瞬間、その巨躯が分裂する。引き千切られた、と表現してもいい。クアッアの矢が猛烈な牙となり、顎となって、その弾力性のある体を引き裂いたのだ。無論、それには矢の破壊力となにより膨大な量の手数が必要で、それを数秒でやってのけたその実態は、かれの戦術にあった。
 実のところ狩人クアッア・ラインドは、各種属性を付与した矢を、それぞれ一本ずつしかもたない。そして、彼は一度たりともその矢を、物理的にだが、撃った事がない。矢を媒体に己の念を二重三重に乗せ、幻想と現実の境目の中で打ち出す。弓を引くものたちに一般的に伝えられるこの大威力だが精神力を削る技を、クアッアはより速く、より強力に、より効率よく、より日常的に、呼吸をするかのように使う。
 彼が『二重弓手』――ウィスパ・マンと呼ばれるゆえんである。
 海水に盛大に混じったヒュージ・ペノメナの体液で、クアッアの姿は隠された。四体の巨大水魔が触手を迷わすように振り上げ、思い出したかのように出現した魚人たちが、その周囲を取り囲む。先の狩人の行動を知らないからこそできる包囲の仕方。
 キィン、と、金属を叩いたような甲高い音が響いた。幻聴である。統一された意識が実際の空間に歪を生んだ、そのための幻聴。
 コマ落としのように、二重三重に包囲した魚人たちに穴が空く。その穴は明らかに前よりも大きい。
 幾分か近くにいたヒュージ・ペノメナの触手が、焦った様に血煙の中へ殺到する。殺到しようとした。
「――シッ」
 海水を裂くように一息を吐き出す。やはり一瞬で触手の先が破裂する。ヒュージ・ペノメナの巨体が、怒りによってか震えだす。それに呼応するように、他のペノメナ達が触手をうねらせる。
 毒々しい紫色の体液の奥で――黒目を針のように収束させ、クアッアは血を吐いていた。口内に入ったとたんに毒液を流し込まれていた。そうでなくても最初の触手が内臓に圧力を加えている。あばらが数本持っていかれていた。
「丁度いいハンデだ」
 精神統一され、錐のごとく鋭利になった思考がそれでも軽口を呟く。『圧倒する』という意思の元に組みなおされた仮想神経体系は、しゃべるという事を無駄と判断する。精神力がやすりをかけたように磨り減っていくのが判る。長くはこの状態でいられない。だが、こうしないとダラートが帰ってくるのに間に合わない可能性がある。それは駄目だ。あの黒猫に汚らしく笑われてしまう。そんな事態、自分の尊厳に関わる。
 クアッアは己のアイデンティティにかけて、血煙の煙幕から飛び出した。
33保管庫"管理人"sage :2004/08/18(水) 11:47 ID:RzoxzPYk
 こんにちわ。前スレで看板募集した後のドクオさまの>>14の書き込みに期待を膨らませている93です。
暑さがうだうだな今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。
 実は、知人より突っ込まれました。結構前の移行時に失敗したっぽく、保管庫のスレ検索が壊滅して
居た様子です(特に古いスレ)。利用時、ご不便をおかけしました...orz
 現在復旧中ですが、aaacafeの重さにてこずってます。気長にお待ちくださいませ。お手伝いも歓迎…。

 あ、あと。前スレで過分なお言葉を頂いた皆様に厚く御礼申し上げます。保管ガンガルヨ-
34('A`)sage :2004/08/19(木) 01:09 ID:zkiIZ9NE
 Ragnarok Online Side Story "Confrontation of fate"
 

 
 黒髪の剣士が閉めたドアを見ながら、サリアは呆けていた。
 何か悪い事をしたのかもしれなかったが、何が悪いのか、分からない。
 庭園で手を引いてくれた少年の必死な顔が浮かび、
 何故か、悪い気がした。
(でも・・・あの方のような人を巻き込む訳にも・・・いかない)
 だからといって、一人で何かが出来るわけもなく。
 強い悲嘆に暮れるだけで、結局は、城を逃げる前と何も変わっていない事に気付く。
 少年の部屋は、目立った調度品もなく、絵も花もなく、がらんとしていた。
 その隅のベッドで、ぽつんと佇む自分が小さく思え、
 今度は、泣きたくなった。
 窓の外で、黒い雲がかかり始めたのも、目に入らない程に。

 

 幼稚な魔法構成の転移を果たしたナハトは何処か別の空中に投げ出され、民家の屋根に激突し、
 もんどりうって地面に落ちた。
 吐血しないのが不思議なくらいの衝撃と痛みに耐え、起き上がる。
 不吉な空模様と供に、雫が降りだした。
「・・・また濡れ鼠か・・・」
 痛めた足を引き摺って、自分の宿を目指す少年の眼には、もう迷いは無い。
 やはり、自分は行くべきなのだ。


 夢の中で聞いたあの声が、「来るな」と言ったその場所へ。

 


 『旅立つ日』



 突如として立ち込めた暗雲の下、剣士ギルドの前で、ルイセ=ブルースカイは足を止めた。
 行く手に、質素な神父服を丁寧に着こなした男が立っていたからだ。
 ルイセは常から身に着けているスーツに、全くそぐわない太刀を帯剣していた。加え、何処か殺気立った様相で、凡庸な人間
が見れば、怯んで道を開けてしまうだろう。
 好戦的な冒険者に、街の人間が被害に遭う事も少なくないからだ。
 しかし、男は穏やかな顔を、微かに憂慮の色で固め、ルイセを正面から見ていた。
「洋介神父」
 ルイセが、その名を呼んだ。
 洋介と呼ばれた神父は、静かに頭を振り、目の前の少女に向けて言葉を紡ぐ。
「ルイセ=ブルースカイ。中には、入らない方がいい。ギルドは貴女の助けにはなりません」
 洋介は顔に違わない、優しげな声色で言った。
「剣士ギルドはプロンテラ軍の要請を受け、貴女を除名、及び即時の捕縛を決定しました」
 その言葉を聞き、ルイセが少し落胆した顔になるのを見るや、洋介はふぅ、と溜息を吐き、
「・・・いい加減、"髭"や私でも庇いきれませんよ、全く・・・」
「それは・・・どうも」
 顔を見合わせ、二人は苦笑した。
 洋介の背後で、剣士ギルドの中から争うような怒声と剣激の音が聞こえ、
「ああ、貴女の生徒達がギルドの意向に"反抗"しているんです。どうにも、先が思いやられる子達です」
 洋介が笑いながら言った。
「あと、ルイセ。貴女も段々、"彼"に似てきました」
 言われ、金髪の少女は照れたような顔になって、頭のリボンを触った。それから、
「憧れの人ですから」
 惚れ惚れするような笑顔で、答えた。
 そして、今度は、ルイセの背後で音が発生した。
 今しがた彼女が渡った橋を、十人前後の兵士が駆け抜けて来ようとしていた。
「・・・手伝いましょう」
「・・・いえ、大丈夫です」
 一歩を踏み出す洋介を制し、赤いリボンの少女は音一つ立てず、腰の太刀を抜く。
 その双眸は、既に戦いの気配に満ちていた。
 洋介は十字を切り、
「風の騎士に、加護を」
 それだけを言った。


 軍帽を被った兵士が錯綜する。
 白昼のイズルートに緊張が走り、道行く人々の姿が消える。
「女はあっちだ!おら、急げよ!」
 燃える様な赤い逆毛の剣士が、兵士を怒鳴りつけた。
(クソが・・・・・・ルイセが来る前にケリつけねぇと全員死ぬぞ・・・)
 ガルディア=ルーベンスの脳裏に、ルイセ=ブルースカイの尋常ならざる戦いが蘇る。
 一晩空けた今でも、震えが起こった。
 アレを相手にして勝てるわけが無い。今、イズルートに来ているプロンテラ軍全員でかかっても、無理だ。
 ガルディアは兵を引き連れ、ナハトの宿の前に立ち、数人に中の様子を探らせた。
 兵士達はガルディアのほのめかす"手柄"に釣られ、勇敢に突入していく。
 ガルディアは既に軍との取引を済ませていたのだ。
 ナハト達の情報と引き換えに、仕官を果たす。条件は、無事にサリア=フロウベルグを奪還する事、だ。
(この機会をモノにして、俺はのし上がるぜ、ナハト・・・!)
 野心に燃えるガルディアの前で、宿に突入した兵士達の悲鳴が響き渡る。
「ルイセか・・・!?」
「・・・貴方は、あの方のお友達ではなかったのですか?」
 反射的にカトラスを抜くガルディアへ、宿から静々と出てきた人影が言った。
 細身の身体を僧衣に包んだ少女。
 サリア=フロウベルグ。
(コイツ・・・)
 中へ入った兵士は五人。生半可な冒険者とは違い、正規の訓練を受けた兵士だ。
 それを、この少女が片付けた?たった一人で?
 ・・・有り得ないとは言い切れなかった。冒険者達の中には、外見と実力が噛み合わない者も多いからだ。
 ルイセも然り、このサリアという少女もそうなのだろうか。
 驚愕の中に喜びを見出す自分に気付き、ガルディアはこの上ない程の興奮を覚えた。
 血が沸く。肉が躍る。
 ルイセの戦いぶりを見た時は、恐怖しか感じなかった。だがしかし、敵として相対して、初めて感じる。
 戦いへの衝動。純然な歓び。
 剣士ギルドでの生ぬるい毎日とは違う。
 思えば、このガルディアという少年の箍は、昨夜のうちに壊れてしまったのかも知れなかった。
「いいね・・・くっく・・・いいねぇ・・・」
 ゆらり、と逆毛の剣士はカトラスを垂直に構える。
「手足の二、三本でも切り落としてやらぁ!それからでも軍に引き渡せるだろうしよぉ!」
 純粋な邪悪。
 ナックルを手に、サリアは逆毛の剣士に畏怖した。
 鬼気迫る、などというものではない。
 鬼そのものだ。
 咆哮を上げ、剣士は雨を浴びながら猛進して来る。
 サリアは拳を少しだけ動かし、剣を振り上げた逆毛の少年の鎧に軽く当てた。
 気勢はとにかくとして、この剣士の動きは直線的過ぎる。
 黒髪の少年よりは熟練してはいるが、まだ、未熟。
「道を誤らなければ、いい騎士になれたでしょう・・・」
 少女の拳に、不可視の力が収束した。筋力とは無関係に、拳を介して物理的な衝撃を生み出す。
 ガルディアは剣を振り下ろす事が出来ずに、吹き飛んだ。
 衝撃が波紋を広げ、鎧の内側から彼の胴体を襲う。
 鋼鉄の鎧が容易く弾け飛び、逆毛の少年は雨の中へ血を吐き出した。
「・・・ゲハッ!?」
「如何なる堅牢な防御も貫く、発勁」
 ガルディアの耳に届く、平淡でいて、悲しげな言葉。
「俺が…この俺が…?」
 雨溜まりに投げ出されたガルディアが呻く。その口から、一層の血が噴き出し、動かなくなった。
 終わった、筈だった。
 サリアが少年から視線を外した直後、低い男の声が響く。
「バニ=ランダースが命じる」
 サリアが、振り向いた。雨の中に立つ黒衣の男へ。
「主の御手を取り、全能なる癒しの元に再び立て。汝、脆弱なる者。卑小なる者」
 詠唱。
 黒衣の男は静かに、手の内の本のページに指をかける。不思議な事に、降りしきる雨の中でもその本は
一向に濡れず、黒衣の男もまた、雨など意にも介さない様子で言葉を紡ぐ。
 男の面は、白くのっぺりとしていた。白磁を思わせたが、遠目と雨のせいで、よく見えない。
 ただ、目の部分に黒い穴がポッカリと開いているように見えた。
「新手ですか」
「…いや」
 男は端的に言い、ページを捲った。
「僕は人命救助に来ただけさ」
 男の手が澄んだ青の小石をかざし、砕ける。
「汝に数多の祝福あれ―――"リザレクション"」
 光が満ち、地に倒れた剣士が微かに動いた。血反吐を吐きつつも、意識を取り戻す。
「今更、殺める事を咎めはしない。だけど、目の前で人が死ぬのは気分が良くないな」
「…やらなくてはならない事が、ありますので」
「…へぇ…話が、違う」
 男が僅かにサリアを見た。そこで、サリアは男の貌を直視し、仮面に気付く。
 口元以外は白い面に隠れてしまっていた。
「聖堂の勅使、神官のカルマです。枢機卿の要請を受け、サリア=フロウベルグを保護しに来ました」
 間が空き、やがて、カルマと名乗るプリーストが黒塗りの本を閉じる。
「貴女が、サリア様ですね」
「はい」
「誘拐されたと聞いています」
 また間が空いた。雨音だけが響き、今度はサリアが、ナックルで固めた拳を構えた。
「違います」
「はぁ…そうですか」
 カルマが、肩をすくめた。くすんだ栗色の髪の毛を触り、仮面の下で笑って、言った。
「じゃぁ、まぁ…僕は役目を果たしますので…」
 カルマの言葉より早く、サリアが動いた。ナックルを真っ直ぐにカルマへ向け、雨の中を駆ける。
 黒の神官はゆったりとした動作で本を開き、詠唱した。
 瞬間、今度はサリアが地面を転がった。カルマが驚き、本をたたむ。まだ何も仕掛けていないというのに。
 だが、カルマがその事を考える時間は無かった。
 剣を抜いた黒髪の少年が、眼前に躍り出たからだ。
35('A`)sage :2004/08/19(木) 01:10 ID:zkiIZ9NE
「サリア!」
 ナハトはソードを抜きざまに、妙な本を携えたプリーストの胴を薙ぎ払った。
 寸での所で、神官が身を引く。剣は空を切ったが、ナハトはそれよりもモンクの少女の無事を確認し、
 倒れているのを見るや、叫んだ。
「…大丈夫!?」
「は、はい…」
 息も絶え絶えに、亜麻色の髪の少女は答える。加速度的に、黒髪の剣士の怒りが増した。
 何故か、ガルディアも倒れていた。死んではいない様だったが、分からない。
 敵は、神官一人だ。
「君が城に乗り込んだっていう剣士か…国を相手に、一体、何をするつもりなんだい…君達は」
 神官、カルマの問いに、ナハトは考える。知らない上に、どうでも良い事だ。
 ただ、サリアのしたい事を…まだ何も知らなかったが、それを助けたい。
 たったそれだけで、自分は何か、
 そう、満たされるような気がする。
 彼女を守れるだけの力は、ないのだけれど。
 ガルディアのようには、なりたくはなかった。絶対に。
「答えないか…ひたむきって事なのかな…迷いがない」
 いきり立つ少年に、黒の神官は苦笑し、本を下げる。
 ナハトとサリアが意外な顔をした。苦境だったが、あくまで戦うつもりでいたのだ。
 雨の中、カルマはガルディアの傍へ寄り、
「そんな君達に、懐かしい匂いがした…だから、今日は退こう」
 青い光が満ちた。
 カルマとガルディアの姿が消え、残されたナハトとサリアは、呆然と顔を見合わせる。
 途端、ナハトは気恥ずかしくなって目を逸らした。
 朝、ああ言った手前、のこのこ戻って来て今更、何を言えばいいのか。
 途方に暮れる少年に、サリアが優しく微笑む。
「また、助けてくださいましたね…」
 嘘偽りのない笑顔だった。ナハトは嬉しくなりつつも、早くこの街を離れなくてはならない事を思い出し、
 サリアの手を引こうと手を伸ばす。が、それより早く、少女の身体が傾き、ナハトの腕の中で収まる。
「…サ、サリア?」
 思いのほか軽い重みと、激しい動悸に狼狽するナハト。しかし、すぐにそれが、自分の期待するものでは
ないのだと気付いた。サリアは、完全に意識を失っていたのだ。
 思えば、もっと早くに気付くべきだった。
 半魚人の時、サリアは身体つきからは想像できない戦闘能力を発揮した。だからといって基礎的な体力を
カバー出来るとは限らない。消耗は激しい筈だ。
 人間は所詮、人間でしかない。どんなに強かろうと、基本的な部分では同じだ。
(ましてや、女の子だしなぁ)
 相当、頑張ったに違いない。
 ナハトは足の痛みを無視し、サリアを背負って歩き出した。
 こんな事でしか役に立てない自分を思うと情けなかったが、それでも少しは、充足した。
「何度でも助けるよ。僕で良ければ、何度でも…」
 事情は後で良い。今は、休んで欲しい。
 剣士の少年は、雨の上がった空を見上げ、呟き、
 橋の向こうからやってくる愛らしい師の姿を見て、足を速めた。


 泣かないで。


 泣かないで欲しい。


 どうすればいい?どうすれば、貴女は笑ってくれる?


 
 答えを見付けた少年は旅立つ。
 追われる道、困難が目に見える遠い道程を。
 今、一歩ずつ。
 歩き出す。
36('A`)sage :2004/08/19(木) 01:27 ID:zkiIZ9NE
今晩は、週刊化してる気がする人です。投下していきます。
次はエスリナの話。その次からは戦闘なしのマッタリ話に。


>>93さん
勉強と言うからには人に見せられるレベルではないのです。ええ。
なんか、もうね、おさっしください。('`)


>>18さん、20さん、21さん
感想ありがとうございます。前作DOYとはまた趣旨の違う…というか、
あんまり重いのはお腹一杯なので、軽いテイストで書いてます。
ナハトが弱いのは、簡単に言うと、
「今のナハトは戦闘で主役になる子じゃないですよ」
ということなのです。分かり難いですね、はい。うまく説明できません。
ガルディアは戦闘狂ですね。ベタなキャラ作りですね。すみません。

>>|゜ω゜)さん
一ヶ月ぶりですね。情報ありがとうございます。
本屋へGO!
また今度のも濃い、というか、何というか。
私のような量産型似非物書きには羨ましい、個性の溢れる作品ですね。
ペノメナ食べたいです。

では、また。
37名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/20(金) 02:05 ID:05GciGG2
誰もイナイ…初投下するならイマノウチ?(・ω・)

書きあがったら投下してみます、誰も居なさそうな時間に。
38名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/20(金) 14:30 ID:mtv5YwAA
>ドクオ氏
おk、簡潔に。
生きとったんかいバニーーー!!ヽ(`Д´)ノ

>37
初投下期待sage
3937sage :2004/08/21(土) 04:00 ID:8SeGOJ/.
「2年ぶり、か?…そりゃ街並みも変わるよなぁ」
プロンテラ大聖堂下の騎士、クルセイダーの鎧に身を包んだ青年が感嘆の声をあげる。
背には斬り突き両方に柔軟に対応すべく作られた斧槍、ハルバードを担いでいる。
「つーか2年で、ここまで拡張されるとはなぁ…」
首都プロンテラの大通りの真ん中でそんな感想を零した青年は……端的に言うと、おもいっきり周りの迷惑になっていた。

RagnarokOnline/ShortStory.01 「2年ぶり」

「あの、通行の邪魔になってるようですし、とりあえず脇によけるなりした方がいいんじゃないんでしょうか」
横から若いハンターの女性に声をかけられて、周囲を見回す。
周りの人間は不機嫌そうな視線で青年を見、そして彼を迂回して歩いていく。
「うわっ、す、すいません!」
あわてて道の脇に避ける青年、そして横から小さな笑い声。
見ると、先ほど彼に声をかけてくれたハンターなのだろう、彼が慌ててよける様があまりにおかしかったのだろうか。
銀色の髪を揺らし、どこか優雅とさえ思える笑い方である。
「あ、ありがとう、おかげで自分が大通りの真ん中で迷惑かけてるって気付いたよ」
「いえ、そこまで感謝されるほどの事じゃ…それにしても、プロンテラは初めて…ではないですよね、クルセイダーですし」
「ええ、実は2年ぶりに訪れたので…その、ちょっと変化の多さに呆けてしまいました」
「そうですか、それは…では、次からは通りの真ん中で呆けないように、いいですね?」
悪戯っ気のある、それでいてどこか親しみの篭った顔で注意されてしまう、そんな事をされれば、黙って頷くしかあるまい。
「よろしい。あっと、それじゃ、私はこれで」
「あ、わざわざ親切にありがとう」
手を振りながら、これも世の為人の為、等と言いつつ彼女は人ごみの中に消えていった。
「うーむ、親切な人もいるもんだ…さて、そろそろこっちもネンカラスに行くとしよう」
そして青年は歩いていく、旧友のいる首都随一を誇る宿屋ネンカラスへ…
「……さて、どっちにいけばネンカラスに行けるんだ」
ソッコーで迷っていた。

「オイコラ、随分と遅い到着だな、エイルよ?」
「いや、それはなんというか俺の不手際だ、スマン」
エイルと呼ばれた青年、先ほど大通りで呆けていたあのクルセイダーの青年である、が目の前の旧友に頭を下げた。
「ふむ、素直でよろしい」
結局あの後、暫く首都をさまよい、城門前に居た兵士に道を聞いてようやくネンカラスにたどり着いたのだ。
で、現在、ネンカラスの一室で、懐かしの旧友と顔をあわせているわけであるが…。
「2年ぶりか、エイル、達者だったようだな」
「君こそ…まだ、蒼穹と呼んでいいのかな?」
「ああ、後にも先にも、もう俺の名はそれのみと決めた」
蒼穹と呼ばれたアサシンの青年が答える。
2年前に分かれた時と変わらない、暗殺者とは思えない温かみの有る目で、向いに座るクルセイダーの青年を見つめる。
「お前は随分と変わった、背もずいぶん伸びたな」
「まだギリギリ10代だからね、そろそろ伸び止めって感じもするけど」
ふむ、と神妙に頷く蒼穹を見据え、
「で、例の情報は本当なのか?」
「ああ、間違いない、プロンテラ騎士団経由の話だからな、団員を正式に傭兵として派遣の手配もしていたぞ」
「そうか……なぁ、蒼穹」
ん?と顔をあげ返事を返す蒼穹。
「ずっと疑問に思ってたんだが、どうやって潜入するんだ、貴族の為の武器オークション会場なんかに」
貴族の為の武器オークション、これが蒼穹の言う情報であり、
エイルがこの2年間探していた物が出品されるオークションであるのだが。
このオークション、貴族が趣味で武器を蒐集している事も少なくなく、
その利益を見込んだ人間が正規のルート外などからも多数物品を持ち込む為、
ソレ系のゴッツイおにーさんとかも満載であり、当然警備も険しい。
「確か、他の貴族の推薦状か、顔パスできるほどの常連じゃないと参加できないはずだが」
「ふっふっふ…」
不敵な笑いをこぼす蒼穹、背後に変なオーラが漂っている辺りちょっと怖い。
「これを見たまえ、エェェイルくぅぅーん」
やけにニヤニヤしながら広げたのは一枚の羊皮紙と、そして…
「署名:アーノルデ…いや、アーノルド…アーノルド・エルロンドだと!」
勢い立ち上がるエイル、ふふん、と得意そうに鼻を鳴らす蒼穹。
「どうだ、すげぇだろ、しかもそれ本物だぜ」
「すげぇとか以前にどうやって手に入れたんだこれ、ゲフェンウィザードギルド長の署名入りなんて」
「そりゃ企業秘密、しかし、これで正々堂々正面から入れるだろう?」
…やられた、こりゃ貸しイチなんてものじゃない。
そう思いながら、エイルは久しぶりに再開した旧友の顔を見て、2年前のあの日と変わっていない事にいまさらながら噴き出してしまった。
4037sage :2004/08/21(土) 04:02 ID:8SeGOJ/.
ダレモイナイノデ ハツトウカシテミル(・ω・)

因みに続き物です、続き書いてるけど上手く纏められなくてながくなりそorz
初めてなのに長いもの書くとか無謀でごめんッ…

#内容はこのスレの文神様の影響をうけまくっておりますが、生暖かく見守ってやってください
41SIDE:A そして、夜は明けてsage :2004/08/23(月) 04:16 ID:JbMhv6JQ
|ω・`)ジー

|ω・`)ノ誰も居ない。駄文置くなら今のうち

----
 いつもの時間に目を覚ます。マント越しの床の固い感触が、俺を一瞬だけ疑問符の海に突き落としたが、
ベッドの上の人影が身じろぎするのを見て昨日の事を思い出した。
 依瑠は、まだ寝ているらしい。ほんの少しだけ、寝顔を覗いてみたい衝動に駆られたが、ぐっと堪えて
使い慣れた愛剣をそっと手にする。起こさないようにゆっくりと階下へと下りると、俺は日課の剣の鍛錬を
はじめた。

「…せいっ…。ふんっ…はぁっ…!」
 振り上げ、下ろし、薙ぎ上げ、払う。俺の持つ両手剣は防御にも攻撃にも適した幅広剣だ。騎士の間では
属性クレイモアを揃える方が主流だが、俺はあえてこの鈍重で無骨な剣型を愛用している。製造依頼を
受けてくれた鍛冶師も珍しがっていたが、この剣にもクレイモアに勝る点があるのだ。
 それを生かすためには、剣の重さに負けぬ腕力を維持しなければいけないのが難点だが。

「…朝から精が出るのう?」
 気が付くと、日はすっかり昇っていた。二階の窓枠に両肘をついた依瑠が珍しい物を見るように、俺を
見下ろしている。連れが居るという事は、俺一人の都合で時間を自由にできるというわけではないのだ。
シーツを羽織るようにしているということは、今起きたところなのだろうか。彼女の事をすっかり
失念していた俺は、迂闊さに内心赤面した。

「…ああ、すまん。飯か」
「宿の亭主殿が呼びに参ったのでな。お主に客が来ておるらしい」
「そうか、じゃあ水を浴びてから行くと伝えてくれ」
「わかった」
 俺の返事を確認してから、依瑠はひょい、と引っ込んだ。俺は、彼女の様子が昨日と変わらないのを
少し安堵して見送り、依瑠が部屋で身支度を済ませられるように井戸端で身を清めてから、普段用のジャケットに
袖を通す。本当なら昨晩できなかった剣の手入れをするつもりだったのだが、人を待たせていては仕方がない。
愛剣は鞘に入れたまま、俺は裏口をくぐると宿の食堂へと向かった。

「…おはようございます、ブレイドさん」
「旦那、昨日の分。もろもろ入れて500kだ。受け取ってくれ。で、今日もまたどうよ? 今度は騎士団とか」
 いつものように礼儀正しい女聖職者のテスラと、相棒とは対照的に馴れ馴れしい詩人エルメスがそこにはいた。
ダークロードを倒したときの分配に来たのだろう。昨日は色々ありすぎて、正直今の今まで忘れていたが。
「…ああ、すまんな」
「どうなさったんですか? 上の空のようですけれど」
「ブレイドさんも隅に置けないという事ですよ、ねぇ? あたしゃ何も聞いてませんでしたが」
 テスラが怪訝そうに尋ねてくるのには、朝食のトレイを持った宿の主が勝手に答える
「旦那、どういうことです?」
「……昨日、女を拾った。それだけだ」
 余計な事を言い出したオヤジを恨みがましい目で見ると、てっきり俺をからかっていると思った亭主の顔は
どちらかというと青い。
「…今度から女性を上げる時は教えてくださいよ…。変なところに踏み込んじゃって酷い目にあいましたよ、
 まったく」
「……あら」
「……ほほう?」
 オヤジの奴、俺に恨みでもあるのか。妙な言い方をされたお陰で俺を見る二人の目が痛い。俺はとりあえず
二人の誤解を解くべく、依瑠との出会いとか、彼女が記憶を失っていることとか、そういう事情だから
二人の勘ぐっているような事はないことを丁寧に説明した。

 ……説明するたびに、二人の目の中の面白がるような光が強くなっていくのはなぜだ…。
42SIDE:A そして、夜は明けてsage :2004/08/23(月) 04:17 ID:JbMhv6JQ
「じゃあ、今日の狩りには…」
「そういうわけで、今日はちょっとな。その子を首都やら案内するつもりだった」
「…ほほー」
「どんな女性なのかしら?」
 エルメスの相槌の向こう側から、テスラが興味津々といった口調で聞いてきた時に、ちょうど依瑠が階段を
降りてきた。とんとんとん、と軽い足音が聞こえると、何故か俺の口元が勝手に緩む。それを隠すように、
「主人、彼女にも適当に朝飯を」
「へ、へいっ。すぐにっ」
 気をつかってくれたのか、離れて座るイリューに会釈すると、俺は二人に改めて侘びを入れようと向き直った。
「…ブレイドさんのお連れ、その方ですか」
「旦那、そういう趣味だったとはネェ…」
 …もう弁解するのもアホらしい。

「そういう理由でな。今日は狩りには付き合えん」
「…そうですか」
「しょうがねぇ。旦那抜きでもやってみるさ」
 二人は勢い良く席を立った。内心、今日はこの二人にも一緒に回ってもらおうと思っていた俺は少し焦る。
エルメスはともかく、女性のテスラには同性でないと分からない諸々とかを案内してもらいたかったのだ。
「…待てよ。何をそんなにあせってる? 明日なら付き合えると言っているだろう?」
 背中にかけた声で、二人の足は止まった。振り向いた表情は、どこか俺の知らない…そしてよく知っている顔。
「俺とテスラと、二人でも拾ってくれるっていう砦持ちギルドがあったんでね。ただ、その条件が」
「一人当たり加入金20Mzenyだったので、…少々手元不如意なのです」
 その襟に輝くのはこの世界で最強といわれるあるギルドのエンブレム。意匠は、銀の地に流麗な筆致で黒く
“不破”の二文字。ギルドの成立当初から掲げるこの文字に触発された当時最大級のギルド連合が潰しにかかり、
そして返り討ちにあった時から。そのエンブレムは知らぬものとてない存在となった。

 こいつらも、か。

 俺は少し落胆しながら二人を見送った。己の鍛えた技を、人間の敵にではなく同胞同士の権力争いに使う連中。
手に入れた権力には、国公認の砦を構えることと、そこからの収益による金とが付随する。その魔力に酔わされ、
殺人剣の使い手となった騎士も数多い。
 彼等の選んだ道だ。とやかく言うべきではない、と思いながらも。

 俺は、また旧知を取られたような気がして、恨みがましい目で北を見た。その視線の先、宿の壁や城壁を越えた
その先に、人同士の戦いの商品がある。権力の象徴にして、頂点を極めし者たちの砦が。

 目を返すと、食事の手を休めて俺のほうを見ていた依瑠と目が合った。
この少女も、単身グラストヘイムにいた位だから、かなりの高位聖職者なのだろう。記憶が戻れば、どこかに
あったはずの居場所に戻るはずだ。
 そこがあの砦の中だとしたら、俺は何事もなかったかのように笑って送り出せるだろうか?

「さ、早く食っちまえ。それから出かけてお召し物を調えないとな?」
 それでも今は。俺は、依瑠に笑いかける。今は今、先は先だ。たとえその先が別れ以外になかったとしても。
彼女の記憶を取り戻すために、今日という日を進もう。
4393のひとsage :2004/08/23(月) 04:17 ID:JbMhv6JQ
 再開してみたり。だらだら書いたり書かなかったりしてます。ROやってないな…(遠い目

感想。
5get氏
 古い映画に出てくる紙芝居のおじいさんみたいな枯れた雰囲気と粋なあれこれが素敵です。少年少女や青年淑女が主役は数あれど、落ち着いた年の方が主役は初? ごちそうさまー。

('A`) 氏
 バニきゅんキター。黒に仮面とは…オペラ座の人みたいな装束ですか。
逆毛狂戦士…。私の脳内では(読んだ事もないのですが)原作のイカス人の絵がガルディアくんの外見になってます。でも、サリアさんにやられちゃって次回登場時に「うはwwwおkwwっうぇ」とか言い出したらMy脳内外見は別のものに差し替えますケド。
 お願い。またあの方をお借りしていいですか?  駄目なら…今ならなんとでもなるっ。たぶん。

鍛冶氏
 どんどん話が膨らむ今日この頃。キャラが一杯出るのはきっとこれからばたばた死んでいく前触れかな…とか推察し、死んでしまいそうなお気に入りさんの将来に戦々恐々。蘭さん、性格といい、立ち位置といい死にフラグ立ってますよね…(遠い目
 鍛冶師さんの作品を見て、ろくに知らないのに砦持ちギルドを話に出すことに決めてみました。GvGって…、っていうか対人戦ってとっても難しそうですねぇ。研究のために騎士子で突っ込んであっさり返り討ちにあってきました。

|彡サッ
4493のひとsage :2004/08/23(月) 14:04 ID:JbMhv6JQ
そして新作を読んだのでそれにも感想。順番前後してますが。
|゜ω゜)氏
 原作の雰囲気を損ねない文体にGJのひとこと。よーめいさまは出てこないのか…(´・ω・`)。
原作知らなくても文書き的には掛け合い調子を眺めるだけでも楽しめそう。
ソウイフ書キ手ニ 私ハナリタヒ。

|37氏
 初投稿おつであります。さらさらと読んで続きマダーになる微妙な間合いの区切り方がいいですね。
昔の(私的に)最初の文神さまみたいです。続きを首を長くして待ちますね。
45ある鍛冶師の話17-1sage :2004/08/23(月) 21:34 ID:yy9gsDVw
 ここに失われた風景がある。
 そこに居た人々が居る。

 グラストヘイムの門の手前で、襲い掛かる翼を持つ竜の子を地面に叩き落しながら、
 淡い茶色の髪を揺らして、聖職者の女が一人今にも泣き出しそうな表情でその門を見上げた。

 かつてそこに暮らしていたのだと言った聖職者の後ろから、
 赤い髪の鍛冶師がカートを引いてやって来る。
 二人は並んでその門を見上げると、背を向けて逃げるようにその場を後にした。




 ゲッフェンに居るという赤き鼓動という名の異名を持つ魔導師は、
 連絡が取れないままであった。されど数日前の騒ぎのおかげかどうにか、
 あちらから連絡を取ってきてくれた。

 雲の下の猫亭というゲッフェンでも指折りの宿の食堂にて、
 赤い髪に黒い目の魔導師が大げさに溜め息をついた。
 別に宿の食事が不味いわけではない。
 事実彼の隣りでは、彼の連れである銀髪の聖職者が美味しそうに料理を口にしている。

 問題は目の前の騎士である燃えるような赤い印象の髪をもつ少女の口から出た言葉、だ。

 「リツカ、もう一度聞く。そいつは確かに、俺を名指しにしたんだな?」

 「あぁ、お前の事を言っていた」

 「・・・・・・ここ最近吸血鬼どもの動きが盛んだとは思ってたが、
  ついに封印が動き出したか・・・・・・」

 リツカと呼ばれた少女の隣りには、銀色の髪の鍛冶師と、
 黒い髪を高く一つに結い上げ髑髏印のバンダナをした暗殺者が座っている。
 その二人の合い間に居る少女と言えば、事情が解せないらしい眉を寄せたまま、
 赤き鼓動、レッド・ビートを見返していた。

 「・・・・封印の話、シャイレンから聞いてねーのか」

 「・・・・・封印?」

 問われ、レッドは一旦沈黙をする。
 隣りの銀髪の聖職者セシアは、口出しもせずに料理を味わいながら成り行きを見守っていた。

 「・・・・・・・、ゲッフェンとアルデバランに時計塔があるのは知っているか?
  その役目と意味を」

 「グラストヘイムの魔力を拡散させるため、だったか」

 リツカの答えにレッドはそうだと頷く。

 「その二つの時計塔を守るために十二人、正しくは十三人の贄が居る。
  人である事をやめる代わりに、人ではない力を時計塔から得て、
  その力の楔となる。

  所謂守り手と言う奴だな。
  俺はその守り手の一人、元吸血鬼のレッド・ビート」

 「・・・・・・・そういう類だとは思ったが、その守り手がどう関係していると言うんだ?」

 「イリノイスが関わっている」

 短い言葉にリツカが腰を上げた。

 「リツカさん」

 止めるようにジェイが声を上げるが、もうその声は届いていない。

 「どう言う事だ、レッド・ビート。
  詳しく教えてくれ」

 その様子にレッドは溜め息をつくが、話を続ける。

 「・・・・・・・、ここじゃ不味い。
  場所を変えよう」

 レッドの言葉にリツカは重苦しく頷いた。
46ある鍛冶師の話17-2sage :2004/08/23(月) 21:35 ID:yy9gsDVw
 ギルドに来ている客人は吸血鬼だと言う。
 春先に咲く花の色をした髪の聖職者は、隣りを歩く金髪長髪の暗殺者に視線を向けた。
 彼女の名前はマチカと言う、シーナとアーセンという幼馴染の三人で立ち上げたこのギルドに、
 暗殺者の兄妹が行動を共にしたのはつい数日前のことのように覚えている。
 兄の名前を無夜(むや)、黒い短い髪に髑髏印のバンダナをした暗殺者、
 妹の名前をマチカ、月の色を溶かしたような金髪の持ち主の暗殺者、
 二人とも平均より背は低く、マチカとこの聖職者リシュリューが一緒に並んで歩けば、
 兄妹か、あるいは親子に間違えかねられない。

 無論、マチカ、無夜共に童顔である事も原因ではあったが。

 昼の買出しにと放り出された事はいいのだが、
 自分達を巻き込みたくないというシルクハットの聖職者サーティンスと、
 小さな弓手の少女マミィの言い分はよく理解できない。

 ギルドを出て行った幼馴染のアーセン・ヒルデハイトが、
 自分達の目的に関わっているとあの二人は言っていた。
 あまり付き合いが長い訳ではないサーティンスとマミィの二人の事だったが、
 ギルドを通して付き合う限りそう悪いようには見えない。

 そもそも二人は自分達の目的については一切話してはくれなかった。
 そんな二人ですらもギルドへと招き入れる親友であるギルドマスターの鍛冶師は、
 いささかお人よし過ぎるきらいがあったが、そこが彼たる所以なのだろうと、
 リシュリューは相槌を打った。

 「・・・・リュー」

 呼ばれてリシュリューが隣りの小さな背を見下ろす。

 「どうかしたのかい」

 「・・・・・・・、あれ」

 指差す先に居たのは、二本の角のある帽子を被った赤い髪の背中だ。
 道具屋から出てきたところらしい、服装からして鍛冶師だろうか、

 「・・・・アーセン?」

 記憶の中の姿とかぶるその背中は、名前を呼ばれるとゆっくりと振り返った。
 あぁ、なんという偶然だろうか。
 赤い瞳に赤い髪の鍛冶師は、昔馴染みに合うとひどく困惑気に視線を彷徨わせた。

 「・・・・・なん・・・だ、近くに居たんだな、結構」

 リシュリューがマチカと共に歩み寄ると、
 アーセンは目線を反らしたまま黙り込む。
 そんな仕草に眉を下げて笑うと、リシュリューは小さく咳払いをした。

 「別に怒ってないさ、シーナも僕もお前は理由がなきゃ出て行かないって事ぐらい、
  とっくにわかってる。・・・・ただその理由を話してもらえないのが、
  ちょっと寂しいだけだよ。

  僕ら友達だろう?仲間だろう?
  水臭い事言わず、話してもらえないかな」

 あくまでもおおらかな態度で接するリシュリューに赤い髪の鍛冶師アーセンは、
 頑なに言葉を発さない。それに痺れを切らしたマチカが小さく睨みつけると、
 視線に根負けするようにアーセンが口を開いた。

 「・・・・・・、巻き込みたくあらへん。
  今すぐ、ウンバラかどっか遠い国に行ってもらえんかな」

 「・・・・・ウンバラって、またそんな南国に。誰が行くかっての」

 「冗談や」

 アーセンの言葉のあと、リシュリューが少し間を開けた。
 目を瞬かせたあと鈍い苦笑いとともに、笑い声が響く。

 「・・・・・・良かった、元気そうだ」

 「そりゃ勿論。
  戻るつもりはあらへんけどな」

 笑うリシュリューを見て、アーセンが肩をすくませた。

 「・・・・絶対?」

 「・・・・・・絶対」

 「・・・・ならせめて理由を言え」

 「・・・・・・、今日は珍しく引かんのやね」

 二人の合い間でマチカが二人の顔を交互に見やっている。

 両者共に譲る気配がない。
 ただお互い視線を交わしたまま僅かに笑みを浮かべていて、
 決して敵意だとか悪意だとかでのやり取りがこの後に行われる気配はなかった。

 「・・・・・・、日、暮れる」

 動こうとしない二人の間でマチカが声をあげた。
 その声にお互い我に返ると、溜め息混じりにアーセンが言った。

 「今夜、九時頃ゲッフェンタワーの前で待っとるから、
  一人で来ィや。マチカは連れて来たらあかんで」

 「・・・・・いかにも危ないじゃないか。フェアじゃないね、そっちは複数かもしれない」

 「・・・・・・同行者を一人だけ認める。
  けどマチカ以外で頼むわ、あとシーナも駄目やで」

 シーナ、とギルドマスターの名前を口にした事に、リシュリューは眉を寄せる。

 「何故あいつが来ちゃいけない?」

 「・・・・・お前と違って、シーナは頑固やからな」

 「・・・あぁ確かに、意地でも連れて帰りそうだからな」

 カートを軽く引いて背を向けて歩き出すと、
 アーセンが背中越しに手を振った。

 「夜にまた」

 振られた手の平にリシュリューが手を振り返す。
 赤い髪の鍛冶師の背中を見送りながら、ふいにその眉が寄せられる。

 「・・・・・・、戻らないつもりなんだな、絶対」

 簡単には動きそうもない友の心根をひしひしと感じながら、
 参ったなと呟いたきり、リシュリューが空を見上げて暫く動かずに居た。


 ゲッフェンの街に闇が下りてくると、
 雲の下の猫亭と書かれた宿の看板の下に灯りが点った。
 町並みを次々に淡い彩りが沿えて、昼間とはまるで違う雰囲気をかもし出す。

 その猫亭の宿から出ようとする聖職者の背中に向って、
 銀髪に悪魔の羽を頭部に添えている暗殺者が声をかけた。

 「何処へ?」

 「・・・・友人のところへ」

 短く答えた淡い髪の聖職者に、暗殺者烏(カラス)は瞬きを静かに繰り返す。
 フェイヨンの出だと言うこの聖職者は、
 どこか飄々としている風が見えたがそれでいて笑みを絶やさず、
 確かにそこに存在感がある。

 「何も情報くれてやる事が出来ず、悪かった。
  ・・・・・・・サーティンとマミィが私を殺そうとしたのは、
  教会の教えに沿ってだろう。昔からそういう関係だ」

 慣れた事のように言いながら、そう吐き出す暗殺者に聖職者リシュリューは、
 小さく息を吐く。

 「・・・・何が言いたいんだ、君は」

 「・・・・・・・アーセンに会いに行くのだろう君は」

 指摘された言葉にリシュリューの表情は変わることなく、
 ただ静かに笑みだけが烏を見返す。

 「その友を思う心は、人間ならではだな。
  感動すら覚える、だが、・・・・・・一人で行くには危なくはないか」

 「・・・・・君は見ていたのか」

 笑みを浮かべたまま小さく問い返した声に、烏は罰が悪そうに目線を反らした。
 無言の肯定にリシュリューは笑みを消すと、小さく、

 「なら頼もうかな、サーティやシーナに話せばややこしくなるだろうし」

 肩を竦めて背を向けてリシュリューは歩き出すと、
 後から付いてくるであろう暗殺者にそう言葉を返した。
47ある鍛冶師の話17-3sage :2004/08/23(月) 21:35 ID:yy9gsDVw
 夜に浮かび上がる聖職者の法衣は、
 赤に金の縁取りがいやに夜の灯りに色が鮮やかに照らし出される。
 その後ろを足音もなく続く暗殺者は気配もか細く、
 闇に紛れてしまえばそこに人が居る事などわかりそうにもない。

 待ち合わせの場所であるタワーの前には、
 先客が一人。
 使い古されたカートとと、その隣りに佇む赤い髪の鍛冶師が一人。

 「アーセン」

 名前を呼んだリシュリューへと赤い髪の鍛冶師は振り返ると、
 ほんの小さく片手をあげると緩く左右に振った。

 「リュー、には話しておこうと思って、な」

 途切れるような言葉の合い間にまだ迷いのようなものが感じ取れる、
 視線がふいに反らされては明後日を向いた友の横顔を見ながら、
 リシュリューはゲッフェンタワーの前で足を止めた。

 夜でも冒険者の出入りのある事があるタワーの前には、
 まだ少しだけ人の通りがある。
 後ろから付いて来ていたはずの暗殺者を振り返ると、
 リシュリューは全くそこに存在感を感じさせない烏の石畳の上に少し伸びた影を見て、
 緊張を張り詰めるようにアーセンへと向き直った。

 「何故、遠ざける」

 問い掛ける聖職者の声に鍛冶師は瞬きを返す。
 髪と同じ色の赤は、赤い月のエンブレムを模したギルドのかの騎士と印象は似ていたが、
 何処か違っていた。

 「・・・・・・・好きな人が出来たんや」

 「・・・すきな、ひと」

 リシュリューのゆっくりと繰り返された言葉にアーセンは大きく頷く。
 照れると言うよりは何処か自嘲気味な様子に、リシュリューの目が細められる。

 「その人の目的はグラストヘイムに居る婚約者にもう一度会う事。
  せやから、うちはそれに協力したいねん」

 赤の眼差しが街の灯りを燈して、鈍く光ったように見えた。

 「・・・・・・それ、で?」

 その光を見つめながら、リシュリューは眉を寄せる。そして尚も問いかけた。

 「・・・、そのためにはグラストヘイムの封印を解く必要がある」

 「そんな事をすれば・・・・・、結界に捕えられている魔物達は皆、
  街を襲うと思う、が?」

 「・・・・、」

 彼の迷いはそこにあったらしい。
 目的を果たすために解いた封印から溢れ出るのは、魔物達だ。
 そして一番最初に襲われるであろう場所は、ここゲッフェンである。

 問われて言葉を途切れさせる様子に、リシュリューは苦く笑みを浮かべた。

 「そんな覚悟で、その誰かの為に封印を解くと?」

 友の覚悟を後押しするようなそんな風にすら聞こえる言葉。
 ただの問いかけだと言うのに、アーセンは僅かに眉を寄せた。

 「・・・・・・・・、リュー」

 「・・・・・・覚悟を決めろ。お前がそうすると言うのならきっと、
  僕はお前の敵になる」

 覚悟を、そう言ったリシュリューの眼差しはここではない何処かを見ているようだった。




 今から少し昔のルティエでその彼と別れた。
 リシュリューの隣りにはまだその頃二人の暗殺者が居た。
 綺麗な月の色の髪の女暗殺者と、その兄の闇を切り取ったような髪の暗殺者が、
 居たのは今から大分前の事になる。

 当時世界は混沌としていて、まだ隣りの国である首都ジュノーとの国境も閉ざされたままだった。
 ただ、世界は何時とも知れない終わりに怯えるように、ただ静かに。

 ベータと呼ばれる大戦より少し前に、
 そのベータのきっかけとなったルティエにおける魔力の磁場は、
 雪降る静かなあの街を一瞬にして白と黒の、そして赤の、何もない死の街へと色を変えた。
 灰色の雪が降り注ぐ街に佇みながら、続いて訪れたあのベータによって、
 ルティエという街は事実上、その存在を一度は消されていた。

 今でこそ有志の手によって復旧し、冬にはサンタ爺の手によってプレゼントが届けられるが、
 当時の事を知る者は今のルティエを見ては、恐らく過去のあの街と違う箇所を見つけて、
 その度に昔を懐かしむに違いなかった。


 兄の暗殺者の名前は、無い夜と書いて、ムヤ、と言う名前であった。
 マチカと言うまるで顔の似つかない少女を妹と呼ぶ無夜は、
 僕達は人を殺すために暗殺者になったのだとリシュリューに話していた。

 ベータ、そう呼ばれた世界の混乱の中で、
 きっとその出会いもただの偶然に過ぎなかったには違いないが。

 彼らが出会ったのは、まだ白い雪の降り注ぐルティエで、
 幼い暗殺者二人に手を差し伸べたのは、教会の慈善活動でしかなかった。
 手を引いて歩く二人が後ろから怯えと警戒の色をなして付いて来るのを、
 なんだか借りてきた猫みたいだなとリシュリューは笑っていた。

 親代わりに、と教会に言われた事に意味があったのなら、
 きっとそれは守るために用意されていたのだろうか。

 とにかく幼い暗殺者はこの聖職者の手によって、
 その少年少女次第を過ごす事になった。
 親を殺されたのだと無夜は言った。
 その横でマチカは静かに笑みを浮かべていた。

 何処か似つかない二人の暗殺者と居た時間は、
 不思議と心温まるものだった。

 その終わりが訪れたのは、
 ・・・・・・・果たして必然だったと言えるだろうか。




 覚悟を決めるためにそう言って、
 まだ使い立てのカタールをリシュリューにつきつけた無夜の顔が、
 数年経ても尚、リシュリューには忘れられない。

 その覚悟が、敵(かたき)のためだと言った彼の、
 泣きそうな顔が、忘れられないのだ。

 「・・・・・・例えばお前が、僕を殺そうとしても、
  お前は僕の友達に変わりはないさ。
  だから胸を張って行けばいい、その覚悟があるなら」

 つきつけられたカタールに突かれてもきっと、
 リシュリューは笑っていたに違いない。
 当時の三人の親子のようなやり取りを見ていたアーセンは、
 そう小さく苦笑いを浮かべた。
 つまりここでアーセン・ヒルデハイトが友であるリシュリューを斧で叩き伏せても、
 きっと次に会うとき彼は笑っているに違いないのだ。

 「・・・・・・うちはリューの事を殺すなんて、できへんよ」

 小さく、けれど確かに。

 その言葉を聞いてほんの少しだけリシュリューは笑うと、
 馬鹿だなぁと小さく赤い髪の鍛冶師を睨み付けた。


 
48ある鍛冶師の話sage :2004/08/23(月) 21:45 ID:yy9gsDVw
29様>(*ノノ)

|゜ω゜)様>逆毛的愛情を注がれちゃいました、責任をとってください。
      とまぁお久し振りですー、そそっかしいところがあるかもしれません。
      続く、・・・・のでしょうか。キニナル(*ノノ)

93様>お久し振りです。管理等大変だとは思いますが、
   かげながらエールを!・・・・エールだけじゃダメですか、そうですか。
   そう、ですねー、幾らか話を進めるうえでのフラグはあるかもです。
   人間関係の複雑化が進んでしまっているので、
   あれですが。勧善懲悪にはならないようにしたいですなぁ、
   Gvッスか。知り合いがぎりぎりに駆け込んで砦を一度取ったらしいですが、
   あれはサバイバルだと思っています、サバイバル。
49|゜ω゜)sage :2004/08/26(木) 02:44 ID:zvTbcbXk
ダラートじゃなくてラダートだ……orz


>('A`)氏
・個性的というか読みにくいだけという説も。

・何で居るんだバニーーーー! おれはお前が大好きだったんだーーーー!


>93
・あんな感じが出せていれば幸いです。ツザキィの旦那は単体で書いてみたいものです。
 あともっと自信を持っていいと思うぞ! ヽ(`Д´)ノ

・あーなんだかGv関係で疎遠になったギルメン思い出した。武器を捨て兵を封じればそれが平和だというのは間違っている! なんか違うな。
 それにしてもブレイドさん、立派に騎士してるなぁ……。イリューたんは慧眼だわ。


>鍛冶師の人
・よ、よし、嫁になってくれ!
 あはははこいつぅーきゃっきゃ   ごめんなさい

 ……あー続きます。なんだか割とデカい話になりそうです。そうならない可能性も。


・なんだか収束してきた感が。でもまだ13人全員でてるわけじゃないのよね……。
 一つ。人間多すぎて個々がイマイチ薄れているような気が。物語の性質上仕方が無いんでしょうけれども。


>37
するっと読める文体でステキです。初めなんでなんとも言えませんが、個人的にハルバ装備というだけで萌えます。
パルチザンには負けるけどなっ
50名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/27(金) 19:52 ID:0NpSqH9g
地下水道リレーマッダァ〜?
51SIDE:A 遠駆け(1/3)sage :2004/08/28(土) 18:30 ID:qfQXnJLA
93です。下水脳が死んでるようでこれでごめんなさい。
----

 依瑠を拾ってから、そろそろ一週間になる。もうすっかり占拠されてしまったベッドの上では、
家主の俺に代わって小さな少女が今も寝息を立てていた。かなり朝の早い俺とかなり寝起きの悪い
依瑠は、湯浴みだの身繕いだので水を使ったり着替えたりといった時間もずれているので、その
意味ではやりやすい。

 彼女の記憶は、まだ戻らない。出会った翌日から、記憶に残る何かがあるのではないかと方々を
連れて歩いたのだが、首都の大聖堂、アマツ、それに修行中のアコライトの行きそうなポリン島や
クワガタ峠など、何処を通っても少女は物珍しげにするだけだった。
 その顔を見ているのが楽しかったのは否定しない。それに、記憶が戻らずにいることを喜んで
いる事も。共に時を過ごせば過ごすほどに、必ず来る別れが辛くなるだろうけれど。

「…今日はカピトリーナにでも行くかねぇ…」
「……それはどこじゃ、ナイト…いや、ブレイド卿」
 物凄く眠そうな依瑠の声に、俺は苦笑する。それにしても、俺を呼ぶのにナイトと言いかけるのは、
彼女が寝起きの時に、何度か聞いた事がある。見えない過去のどこかに、彼女のためのナイトがいたの
だろう。それに嫉妬するほど、俺は餓鬼ではないつもりだ。
「のんびりしたところさ。修行僧が瞑想したりしてる」
「そうか」
 興味があるのか無いのかわからない口調で答えると、依瑠は満足したように再び目を閉じる。
大体、この調子で三度寝くらいするのが彼女の日課だった。俺はその間に鍛錬と雑用を済ませようと、
階下へと向かうことにした。


 カピトリーナへ続く森の道を、いつぞやナッツにしたように依瑠を鞍の前に横座りさせてのんびりと
歩く。愛鳥は増えた重さなど何処吹く風と言った風に快調に足を進め、立ち止まるのは道筋に繁茂して
いる食人植物を刈り取る時位だった。
 アコライトに転職希望のノービスも通る道だから、障害物は少ないほうがいい。そんなことを説明
すると、両腕の間の依瑠は不思議そうな顔をして手綱を取る俺を見上げてくる。
「自分達以外の者のために、何故に斯様な手間をかけるのじゃ?」
「……何故って言われてもな」
「誰に礼を受けられるわけでもあるまい。妾のために道を明けてくれておるのならば、この程度の
 敵に気遣いは無用じゃぞ?」

 時折、依瑠から受ける質問で返答に困るものがある。上っ面だけではなく、根元のところで理解の
ズレがあるようだ、と最近俺は理解した。
「…なんというか。ここで修行するアコ候補達はこいつらを倒せない。ここが塞がってたら、ずっと
 転職の試練を果たせんわけだ。そうすると、いつまでもアコライトにはなれないだろ?」
「ふむ。わかった。それは遠い将来にお主と手を組めるようになるやもしれぬ聖職者を今のうちに
 育てておくということじゃな? 深謀遠慮、さすがじゃな」
 等と感心したように言われると、俺としては盛大にため息をつくしかなく。
「………いや、そういうわけでもないのだが」

 一週間もこんな感じで話を重ねるうちに、俺は依瑠が本当に姫様育ちだったのかもしれないと
思うようになった。今日の行き先も、半分はそれが理由で選んだのだ。カピトリーナから出奔して
行方知れずの枢機卿令嬢がいるとかいう話をテスラから聞いたのは半年ほど前だったが、存外、
こいつがそうかもしれない、と。どことなく…、いや、かなり自然に偉そうだしな。
「…なんじゃ。じろじろ見るでない。しっかり前を見るがよいぞっ」
 そんな事を言って、ぷい、と横を向く少女を驚かせたくて、俺はペコの横腹を軽く蹴る。
「くぇっ!」
「……っ!?」
 長いストライドのゆったりとした歩調は、鳥なりに揺れないように注意して走っているのだろう。
徐々に、徐々に速度を上げていく。高い視界と、過ぎゆく景色。吹きすぎる風。ペコを駆る騎士達にのみ
味わうことを許された世界。海の潮風と森の薫風が混じるこの場所は、俺と愛鳥の“とっておき”の
コースだった。
 少女の過去を俺は知らない。その分だけ俺の知っていることを刻めば、彼女と共にいられる時間が
増えるように感じていた。俺に依瑠がくれたもの、俺の中の騎士を蘇らせてくれたあの一言の返礼には
ならないだろうけれど。
52SIDE:A 遠駆け(2/3)sage :2004/08/28(土) 18:31 ID:qfQXnJLA
「どうだ? 気分は」
「……悪くはないぞ」
 風になびく黒髪が時折俺の頬を撫でる。走り始めた時にはあざが残りそうなほど握られた手も、
今は軽く俺の腕に添えられているだけだ。
「もっと早くしたければ、この先の直線で速度増加をかけてみな。見た事のない世界につれてって
 やるぜ? もっとも、怖かったら止めないけどな」
 にやつきながら言った俺に、依瑠は振り向きもせず。
「……速度増加」
「わ、ちょ…まだカーブが残っ…」
 半分本気の悲鳴を上げる俺の腕の中から、依瑠の笑い声が流れていく。積荷を落とさないように
必死の俺と、その辺が分かっているのか居ないのか加速しても変わらぬ走り方で飛ばす愛鳥と。
「……妾が見た事のない世界など」
「あ? しっかり捕まってないと落ちるぞ! 舌噛むぞ…いてっ!?」
「………もう、連れて行って貰っておるぞ、ブレイド」
 きゅ、と力の込められた細い手の乗った上腕が暖かく。俺は、カピトリーナの門が見えるまで、
何も聞こえない振りをした。

----

「あ、依瑠。悪いがペコを修道院の方に預けてきてくれ」
「…構わぬが、何かあるのか?」
 あれだけはしゃいだのに汗一つかいていない少女が鞍から下りるのに手を貸しながら、俺は修道院の
前にいる男に顎をしゃくってみせた。
「知り合いがいるんでね。挨拶をしてこようと思ってな」
「わかった。先に行っておるぞ」
「ああ。暇なら先に見て回っているといい。中の連中は概ね親切なはずだからな」
 依瑠に手綱を投げると、ペコは胸毛を逆立ててふんぞりかえりやがった。嬉しそうにしやがって、
誰が餌をやっていると思ってるんだ、この裏切りものめ。一人と一羽が門をくぐるのを確かめてから、
俺は門の脇に立つ男に片手を上げた。

「久しぶりだな、ルバルカバラ神父」
「君も壮健そうだ。…少し痩せたかな?」
 そう言って穏やかに笑む壮年の神父に、俺はリンゴを放り投げた。いつからか、神父と俺の間で
できた、つまらない約束事。遠駆けの時には、俺が必ず持ってくるものがこのリンゴだった。
「…うむ、旨い」
 しゃく…、と音を立てて齧る姿を見てから、俺はにやりと笑う。
「一週間ものなんだがな、実は」
 手の中の齧りかけを、複雑そうな表情で眺める味音痴の神父の横に、俺はどさりと音を立てて座り
込んだ。ややあって響きだしたしゃくしゃくという音が終わるまで、目を閉じて待つ。
「……それでも、旨かった」
 目の前をちょろちょろするヨーヨーに残った芯と種を放ると、神父は満足げな吐息をはいた。
53SIDE:A 遠駆け(3/3)sage :2004/08/28(土) 18:32 ID:qfQXnJLA
「…今日はちょっと聞きたい事があってきた」
「うむ。あの少女のことだな」
 なんでわかった? と、俺の顔には書いてあったに違いない。神父は変わらぬ微笑を浮かべたまま。
「君がここに人を連れてくるのは、道に迷ったノービス以外ではあの娘さんが初めてだ」
「……そうか。実は、あの子は記憶をなくしている。転職を済ませているようだから、あんたの所に
 来たことがあるんじゃないか、と思ったんだが…」

 一応、聞いてはみたのだが。俺はその質問の答えは大体予想できていた。ルバルカバラ神父は、
自分の下に訪れた聖職者の卵達を決して忘れない。もしも、依瑠に会ったことがあったなら、
神父はきっと、先ほど声を掛けただろうから。そして、神父は俺の予想に違わず、首を横に振る。
「君は聖職者の事情に詳しくないようだ。アコライトの転職試験で私の元を訪れるのは三分の一。
 プリーストの転職試験では各地の修行者を全て訪れる…というのは建前でな。実際は、筆記試験と
 書類のみで済ませる者が多い」
「やはり、な」
 彼女のためを思うならば、手がかりが見つからずに残念だ、というべきなのだとわかってはいても、
俺は少しだけほっとした。そんな俺の内心を読んだような神父が、そっと呟く。
「……好きなのだな、あの子が」
「まぁ…、妹みたいなものだろうけどな。月並みだが、依瑠には幸せになって欲しい。そう思う」
「それは良かった。人を愛する事は幸いだ。たとえその先に何があろうと。神が与えてくれた今、
 この時を楽しむといい」
 神父が微笑んでいるのは、見ないでも分かる。俺も、多分同じような顔をしているんだろう。
俺は両腕を頭の後ろで組んで、勢い良く背を倒した。ゆっくりと流れる白い雲を、ぼーっと
眺める。

「実は、あいつが噂の行方不明のカピトリーナの聖女様か、とも思っていたんだが…、あんたの
 その様子だとそっちも外れだったようだな」
 俺の呟きに答えた神父の反応は、思いの外厳しい声。
「……その話は、あまり大きな声で言わない方がいい」
 怪訝そうな顔をする俺に、神父は微笑みの消えた表情で続けた。
「彼女は、僧院の兵と共にジュノーに攻め入り、そこで亡くなったそうだ。君も知っているだろう?
 半年前のあの事件の事は。フェーナ様はその首謀者の一人…だったらしい。もっとも、彼女の遺体は
 行方不明だし、その時の押収品も報告書ともども火災にあって無くなったそうだ」
 一拍おいて、神父は彼には似合わないような皮肉気な口調で一言付け足した。
「彼女のお父君の枢機卿殿も、この事故にはさぞかしほっとされているだろうが、な」
「…そうか」
 そう気の無い生返事を返したその時の俺には、その事件の残滓が俺たちに関わってくることなど、
予想できるはずもなかった。
5493のひとsage :2004/08/28(土) 18:41 ID:qfQXnJLA
 ドクオさまに断りも無くジュノーの事件を使う私。
今のシリーズでフェーナ様が奇跡の復活を遂げた場合に備えて、生死はぼかしてみますた。
むしろ奇跡の復活を遂げてください。オネガイシマス

 あと、シメオンたん利用に関してのご許可も頂かずに見切り発車しちゃいましたが…。
その、何ですか。若さ…はないので愛ゆえの暴走として見過ごしてくださいっ。

|彡サッ

|つ【つけたし】

 鍛冶さん、ありがとうございます。励みになるわぁヽ(´ワ`)/

|゜ω゜)さん、ブレイドくんはへたれです。私が書くのだから間違いない。イリューたんも
  苦労するでしょう。多分。いやむしろさせるでしょう(私が(悪)

|彡サッ
55名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/29(日) 00:04 ID:F94U00VM
>>93の人
( ・ω・)・・・びっくりしたなぁもう
フェーナ様復活きぼんの一人ですが、ちょっと無理があるかなぁ(つД`)
56('A`)sage :2004/08/29(日) 23:26 ID:iBUgjpcw
>93さん

返事が遅れて申し訳ないです。
シメオンはご自由に使って下さい。得体の知れない彼だからこそ、何でも
アリなのです。
あ、設定やなんかも基本的に自由ですのでお気遣いなく。


>55さん

ちょっと無理、ではなくてかなり無理なんですが、面白そうですね。
話のネタゲット。
…とはいっても忙しくて遅筆気味なのですが。


では、また。
57('A`)sage :2004/09/01(水) 01:29 ID:l1gbPX3o
 Ragnarok Online Side Story "Confrontation of fate"


 ルーンミッドガッツ首都、プロンテラの北に広がる森を進む兵の中に、まだ若い女ウィザードの姿があった。
 行く手を阻む木々と魔物の群れをかいくぐり、進軍していく兵達の消耗は激しく、
 僅か、数えるほどの人数しか残ってはいなかった。
 ウィザードは引き裂かれた兵達の血煙と腐気に満ちた空気の中で、ひたすらに魔術を操り、戦っていた。
 いつか終わる、やがて終わる、と、
 涙も悲鳴も枯れた、機械の様な心へ言い聞かせながら。

 気付けば、仲間は皆死んでいた。
 ウィザードの少女だけが残され、巨大な蟲の群れに囲まれていた。鈍い赤の甲蟲達は、その顎と爪の餌食となった
兵の亡骸を貪り、やがてウィザードへ、爛々と光る無数の眼を向ける。
 精も根も尽き果てて、彼女はその場に崩れ、見るも無惨に食い荒らされる自分の姿を想像した。

 それは、ごくごくありふれた光景に思えた。
 そうして果てた大勢の仲間の上に自分は生き残り、戦い、同じように死ぬのだ。
 損害一名、これだけ記されて、葬られもせずに朽ち果てるだけだ。

 では何故、戦わなくてはならなかったか。
 ウィザードはそれを思い出そうとして、思い出せなかった。そもそも、理由など無かったのかもしれなかった。
 生まれた世界は、戦いの世界だった。それだけだ。
 或いは、親もなく、兄弟もなく、頼れる物も何一つない、そんな境遇で、
 戦う以外に何があったか。
 もっと別の、選択肢はあったのだろうか。
 蟲に群がられ、暗転する視界の中で彼女は思う。自らへの疑問。果てしない、自問。
 同じく戦いに身を置く者達が、幾度と無く直面しただろう、嘆き。


 何故、この世界は、戦いを強いるのだろう。


 『追い討つ者 1/2』


 貴族達の談笑の声が聞こえる。
 政治的な策略が大半を占めるであろう会話に、エスリナ=カートライルは眼を閉じていた。
 プロンテラ軍による北伐遠征から四日が経ち、間に入ったサリア=フロウベルグの誘拐事件を経て、ようやく催され
た戦勝の宴である。
 城のホールを丸ごと埋め尽くす人の山。
 赤毛の魔術師は深い溜息をついた。
 彼女は、人の多い場所と貴族が苦手だった。
 北伐の立役者の一人として、話しかけられることもしばしばだったが、エスリナは黙って瞑目するだけでやり過ごす。
 実際の所、プロンテラ軍の威厳などというものは、とうに消えてしまっていた。
 現状は冒険者や騎士団の方が、世間に支持されてしまっている。特に、次々と遺跡や迷宮を攻略し強力な魔物を討ってい
く冒険者達の活躍は、昨今の異変で疲弊したルーンミッドガッツに活気を与えていた。
 その裏で、軍は軽く見られている。貴族や豪商の間では軍を頼るより、冒険者を雇った方が確実だと認識されていた。事
実として、冒険者の勢力は騎士団や軍のそれを上回っているのだ。
 だからこそ、エスリナはすぐに掌を返す貴族達が嫌いだった。
 冒険者達も同等の害悪であると言えた。富と名声を求める彼らの行いは、悪戯に治安を乱し、安易に戦いを起こす。
(…下衆め)
 もっとも、サリア=フロウベルグの件はおろか、冒険者達の悪行さえも一般の民にはあまり知られていない。
 うんざりした様子で貴族達の顔を見回すが、エスリナの意気は消沈するばかりだった。
 いない。
 下卑た笑いを浮かべる中年の男達の中に、彼女が慣れ親しんだ男の顔は無い。
 北伐の最大の功労者にして、プロンテラ軍を束ねる男。
 ヌーベリオス=カエサルセント。
(忙しいのだろうな…やはり)
 術衣の下で指を絡めながら、エスリナは苦笑する。
 思えば、一介の術士に過ぎない自分に、そんな男が構うわけがなかった。
「ぃょぅ」
 声をかけてくるのは、つまらない者ばかりだ。
 丁度、軽薄そうな騎士がにこやかに手を振っていた。覚えのない顔だったが、身なりは騎士団のナイトそのものだ。
 あまり位は高くないらしく、簡素なマントに飾り気のない鎧を着込んでいる。
 どちらかと言えば、それは儀礼的な印象を持っていた。とても実戦で役に立つとは思えない防具だ。
「…」
 例の如く、エスリナは答えなかった。少し間を開けてから、冷たい眼差しを向けてやる。
 そうすれば大概の軍人や貴族は追い払えるものだ。
 しかし、その騎士は笑みを崩さないまま、手にしたグラスをエスリナに差し出すと、言った。
「…飲めよ。めでたい席なんだ。しかめっ面してても、疲れるだけだろ」
 意外な事を言う。エスリナは眼を丸くしていた。
 大抵の人物は、つまらない社交辞令を延々を続けるものだ。異様に堅い口調で、心にもない讃辞を並べる。
 ところが、この騎士はストレートに物を言った。銀のかかった白い髪に隠れた瞳は、相も変わらず不純な色が見えたもの
の、言い知れない度量の大きさを感じさせる。
 今までの誰とも違う、不思議な目をしていた。
「それとも、俺みたいな血生臭い男の杯は受け取れないか?少佐殿」
 騎士は笑い、自分のグラスを煽る。
「あ…いや、貰おう」
 気付けば、エスリナは男の差し出した杯を受け取っていた。
 その様子に周囲の貴族達は微かにざわめき、すぐに興を削がれて散っていく。
「ふっふん…敗者は哀れなもんだぜ」
 白髪の騎士は面白そうに呟くと、グラスを掲げる。
「んじゃ…乾杯だ、ウィザードのお嬢さん」
「ああ…」
 面白い騎士だと微笑みながら、グラスを男の杯と鳴らして一口、呑んでみる。
 甘い。
「…これは」
 鼻腔をくすぐる柑橘の香り。間違いない。まさかとは、思っていたが。
 オレンジジュースだ。
「酒ではないのか」
「子供に酒は早い」
 気持ちのいいくらいの即答で返し、喉を鳴らして酒を飲み干す騎士。
「もう十七だ」
 鋭く、出来るだけ畏怖させるような声色で言ってみるエスリナだったが、騎士はまるで意に介せず、寝惚けた様な顔で
やはり即答する。
「ガキはガキだろう、少佐殿。分不相応な席に居るもんじゃないぜ」
「…なんだと?」
 無礼極まりない台詞を吐き捨てた騎士は、少し屈み込んで、いきり立つエスリナに目線を合わせ、また言う。
「ここはな、汚いオッサンの巣窟なんだ。少佐殿みたいな綺麗な娘には、相応しくない」
 騎士は断言した。皮肉かとも思ったが、案外にそうでもないらしく、エスリナの顔から怒りが消える。
「だから俺と一晩過ごさないか?夜景の綺麗な展望台で愛を語り合おうじゃないか。そう、たっぷりと小一時間」
 代わりに、戸惑いの色が濃く浮かんだ。
「…汚いオッサンで悪かったな、アル…いや、ルーク」
 今度は正装の騎士が現れた。上向きに跳ねた髭に、僅かに白髪の混じった中年の騎士だ。
 こちらはそれなりに位のある騎士に見えた。もっとも、ルークと呼ばれた若い騎士と同様に、さほど手練れた印象は無い。
「いくら少佐が若くてピチピチだからといって、いきなり口説くのはどうかと思うがな…相手は仮にも軍人だろう」
 髭の騎士は苦笑混じりにルークを咎める。当の本人は素知らぬ振りで、空のグラスを回して遊んでいる。
「チッ…もう少しで落とせた所だったのにな」
 ニヤニヤして呟くルーク。
「正気か?」
「いや、全然」
 耐えきれず発したエスリナの疑問に、酩酊状態で即答する。
 彼はグラスを手近なテーブルに置くと、不意に真面目な顔になり、おずおずと会釈して見せた。
「俺はルーク=インドルガンツィア。アルベルタ騎士団から派遣されて来た。で、こっちの髭野郎が…」
「プロンテラ中央騎士団のクリスレット=カーレルヘイムだ」
 あくまで不遜なルークとは対照的に、カーレルヘイムは髭を撫でつつも腰のクレイモアの柄を掲げて見せる。
 柄に描かれた紋章は、紛れもなく中央騎士団のものだ。
 しかし、それ以前にエスリナはカーレルヘイムの名は勿論、顔も知っていた。
「マスターナイト・カーレルヘイム…」
 アルベルタから来たというふざけた騎士と騎士団最高クラスの騎士はその"号"を聞くや、苦笑する。
「はは、有名だな、オッサン」
「ま、それなりだよ」
 カーレルヘイムはあまり語らず、剣を収めた。それから祝宴の席を見渡し、
「それよりも、エスリナ少佐」
 困惑気味のエスリナへ顔を向ける。彫りの深い髭面が、やけに印象的だった。
「…少し、話があるんだが」
「話?」
 ほぼ初対面の騎士二人が頷く。
 全く身に覚えのない指名だった。
 カーレルヘイムの名は、軍や騎士団で知らぬ者が居ない。それ程までの実力者が、何の用事なのか。
「ここじゃ…ちょっとな。先にルークと騎士団へ行っててくれないか。俺もすぐに行く」
 何度か考えたが、結局、エスリナは黙って頷いた。

 どうであれ、この吐き気のする祝宴よりはマシな筈だったからだ。
58('A`)sage :2004/09/01(水) 01:30 ID:l1gbPX3o

 吹き抜けの天井の下で、銀色の円卓が鈍く光っている。
 冷たさを感じさせる暗い空間の中央に、そこだけ月明かりが差し込んでいるらしかった。
 騎士団の中でも、限られた者しか使用を許されない場所。
 その席で、ルークと名乗った騎士が目を瞑って座っている。
 エスリナは、困惑気味に立っていた。
「ま…座れよ」
 白髪の騎士が呟く。しかし、エスリナは珍しげに視線を這わし、
「そこは騎士の席だ」
 深く、遠慮した返事を返す。
 ルークはせせら笑うと、整った顔を崩して渋い顔をした。
「堅いな…肩書きがそうさせるのか?少佐殿」
「皮肉か?ルーク=インドルガンツィア」
 まさか、と笑うルーク。
「ヒネてるんだな……ルークでいいぜ、少佐」
 やや投げやりな物言いだったが、何処か柔らかな口調で言う。
 よくよく考えてみれば、この騎士が自分に皮肉を投げつける理由など何もない。
 邪推しか出来ない自分を呪いながらも、エスリナは黙って円卓に座る。
 謝罪は口にしなかった。
 代わりに、ルークがその言葉を口にする。
「悪いな」
「何がだ」
「宴会、途中で抜けさせちまっただろ」
 目を瞑ったまま言う。
「気にするな。大体、似付かわしくないと言ったのはお前だ」
「ん…てっきり楽しんでるもんだと思ったが」
 少しだけ、ルークが意外な顔をした。
「いいや…全く。反吐が出そうになってた所さ…カーレルヘイム殿とお前が来なくても、早々に帰っていたよ」
「へぇ」
 本音だった。ルークはニヤニヤと笑みを零し、
「意外だ。勝利の美酒に酔ったりしないんだな」
「北伐で私が活躍したのなら別だ。私は何もしていない。ついて行っただけだ。それに…」
 ―――好きで戦っている訳じゃない。
 出かけた言葉を飲み込み、エスリナは目を伏せる。
 軍の中でも上位に立つ魔術師。
 人も大勢殺したし、魔物に至っては数え切れない程、葬った。
 そんな自分が、口にして良い事ではないように思えた。
「…そうか」
 ルークは何やら一人で納得すると、ようやく眼を開ける。
 それから、冷たい椅子に座るウィザードの少女へ、緩んだ顔を向けた。
「"魔女"だなんて聞いてたからどんな奴かと思ったが……刺々しいだけで、普通の子じゃないか」
「ふん…田舎騎士風情に言われる筋合いはない」
 神経を逆撫でする言葉に、顔を上げるエスリナ。
 僅かな敵意を含んだ視線を、余裕で受け止めるルーク。
「やれやれ……こんなんじゃ先が思いやられるな」
「…先?」
「……僕や貴方達は目的の下に呼ばれた"仲間"って事だよ」
 不意に、暗がりから声がかかった。
 微かな光に照らされる白い仮面に、対照的な黒衣を纏った人影。
 背と声からして、若い男。
 黒衣は、基調とする色こそ違えどプリーストの僧衣と同じデザインだった。
「カルマ、とでも名乗っておくよ。聖堂の神官だ」
「!…お前が三人目か…」
 驚きと、明らかな嫌悪が混じった声色で、ルークが言った。
 黒のプリーストは闇から歩み出ると、エスリナとルークの向かいの席に座り、
「そういう訳だから、仲良くしよう」
「無理だな。素性を隠したまま、かつての敵と仲良くできるほど俺は器用じゃない」
「さすが…気付いたのか…でもそれは、お互い様じゃないかな?」
 ルークと黒いプリーストの間に走る緊張。
 エスリナだけが、事情が飲み込めずに居た。
「…大聖堂のプリーストに騎士団のナイト…それも、敵同士だと?どういう面子なんだ、これは」
「分からないかな?少佐さん」
 彼女の疑問を、仮面のプリーストが一蹴する。
「ミッドガルドの国家機関全てから、それぞれ一人…って事だよ」
 言われて、気付く。
 これで十字軍―――クルセイダーが来れば、確かに、冒険者ギルドを除いた国家勢力の一員が揃い踏みする。
「でも、冒険者ギルドは勿論、十字軍も関与しないだろうね。事が事だし」
 カルマは肩をすくめ、円卓に肘をついた。
「どういう事だ?」
「四人目は来ないって事だろ」
 説明するのも面倒臭そうに、ルークが吐き捨てる。
 カルマが来た時から、ルークは目に見えて機嫌を損ねていた。
 というよりは、エスリナの目には何かへ落胆したように見えた。
 それが何なのかは、やはり分からなかったが。


 誘拐犯の追跡。可能ならば首謀者の逮捕、若しくは抹殺。
 かなり遅れて円卓にやって来たカーレルヘイムの第一声は、そんなものだった。
「…サリア=フロウベルグの件か」
 苦虫を噛み潰した様な顔をするエスリナ。集められた三人の中で、この件を最も把握していたのは彼女だった。
 みすみす取り逃がしてしまった剣士と、女ナイト。
 つい数日前のことだ。
「合点がいったか、少佐」
「ああ」
 何故自分が呼ばれたのか、分かった気がした。
 実際に追撃し、相手の顔を見たのはエスリナとその部下の兵の数人だけだからだ。
 ルークとカルマも説明を受けて来ているらしく、特に変わった様子もなく、聞き耳を立てている。
「魔物とは勝手が違うぞ。相手は冒険者だ」
「だから騎士団と大聖堂が動く、と?」
 カーレルヘイムは首を振る。確かに、理由としては貧弱だった。
「相手が冒険者だというだけならまだいい。問題は、騒ぎが大きい事と、"誘拐された事になっている"サリア=フ
ロウベルグ自身が、自分の意思で動いている事だ」
「それが公になれば、結果は一つ…」
 混乱、というよりは、一種のスキャンダルだ。
 聖堂に携わる人間の娘なのだ。それも、枢機卿という立場にある人物の、息女。
 そんな事が知れ渡れば、大きな騒動になるのは目に見えていた。
 これには前例があった。
 数ヶ月前にあった、フェーナ=ドラクロワという女性の造反だ。
 彼女も枢機卿の娘で、大聖堂でも知る者の多い人物だった。優れたプリーストで、ある種の"奇跡"を行使出来た
 という。エスリナは直接会ったことはなかったが、何度か名を聞いた事があった。
 彼女は、公には魔族による侵攻とされている戦いで聖堂と国を裏切り、死んだとされている。
 一般には知られていないが、騎士団や聖堂の内部ではかなり騒がれた事件だ。
 これがきっかけで聖堂を離れた者も多かったようだ。
 もし知れ渡れば、今度も同じような結果になるだろう。
「我々はそれを防ぎ、かつ、サリア様を無事に取り戻さなくてはならない」
 何処か含んだ言い方をして、カーレルヘイムは髭を撫でる。
 ルークが皮肉めいた笑いを押し殺し、カルマはただ黙って肘をついている。仮面の向こうでは、やはり笑ってい
るのかも知れなかった。
「何故だ?自分の意思で城から逃げたのだというのなら、無事でなくてはならないという理由はないだろう」
 あまりやる気が無さそうな二人は置いておき、エスリナは感じていた疑問をぶちまける。
 最悪、サリア=フロウベルグは殺してしまっても構わないと考えていた。仮に、彼女に何らかの反逆の意思があ
るとすれば、それは何よりも優先して潰さなくてはならないだろう。
 城から逃げた日以降に、軍は一度、イズルートでサリア=フロウベルグ一行と交戦している。
 本来ならとっくに手配されてもおかしくない状況だ。
「色々とあるんだよ、エスリナ少佐。貴殿の上司、カエサルセント公からも要請が来ている」
「…公が?」
 言われてみれば、あの日エスリナにサリアの護衛を命じたのも、カエサルセントだった。
 まるで逃亡を予測していたかのような命令に、絶妙なタイミングで起こった城下でのテロ。
 これも、釈然としない。
 しかし、その不透明な疑問は、すぐに消えた。
「カエサルセントは、サリア=フロウベルグの婚約者なんだ」
「…え?」
 うんざりしたようなルークの呟き。
「婚礼は二週間後。要するに、俺達は多分、盛大な痴話喧嘩に付き合わされるために集められたのさ」

 
59('A`)sage :2004/09/01(水) 01:33 ID:l1gbPX3o
間隔が空きすぎて、読み続けてくれていた方々も忘れ去ってしまったと思われ
る今日この頃…投下して行きます。

では、また。
60名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/02(木) 02:56 ID:PXHbvgas
さびしくなったね…orz
('A`) のひと、GJだよぅ
61名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/02(木) 14:45 ID:HfODcqxY
>>ドクオ氏
 忘れ去ってない奴がここに一人。60氏も勝手に合わせて二人。
 いつかはもっと少なかったじゃないか。じゃないか。
 頑張ってくれ!
62ある鍛冶師の話18-1sage :2004/09/02(木) 22:11 ID:N2edtTmg
 例えば明日世界の終わりが来るなら、
 何をしようか。

 小さな問いかけをされた銀色の髪の銀の目の聖職者は、
 そう問いかけた目の前の英雄と呼ばれる騎士に小さくこう答えた。

 「皆にさようならを言いに行くよ」

 それ自体にきっと意味などはなかったに違いない、
 少なくとも聖職者の答えには。
 金色の髪に碧眼という物語の主人公のような風貌の騎士は、
 答えを聞いて少し笑ったように見えた。

 「そうか、イリらしい答えだな」

 イリ、と言う愛称で呼ばれる聖職者はイリノイス・ルーファンと言う。
 年であればもう数年もせずに成人するであろうと言うのに、
 その表情は今も何処か幼い。
 この不安定な印象を与える聖職者が、世界の鍵を握るなどと言ったら、
 大概の者が笑うに違いなかった。
 こんな儚い少女に何ができる、と。

 「・・・・・・シャイレンは、どうするの?」

 逆に問われ、騎士は少し言葉を濁らせた。
 答えに困ると言うよりは、答えたくないと言った様子の、
 けれど目の前の聖職者の表情が不安に彩られるよりも早く、
 英雄は短い間の後にゆっくりと笑った。

 「どうもしない」

 「・・・・・・・どうも、?」

 繰り返される言葉に英雄は笑みを絶やさない。
 何一つ不安などないと言うように。

 「いつもと変わらず、常と変わらず、ただ在り続ける」

 「・・・・・・、」

 「死ぬのが怖いのなら、イリ、お前の手を握っていてあげよう。
  眠りにつくその時まで」

 「・・・・・・・怖くなんかないよ、怖くなんか」

 幼い子供が意地になって否定するように、
 反射的に出た言葉だった。意識せずに出た言葉の意味など、
 恐らくはそう重い意味などないと言うのに。

 けれど英雄は隣に立つ聖職者の手を握ると、
 ただ静かに笑うのだ。

 「・・・・・お前だけは守ると誓った、だから誓おう。
  悲しい夢などもう見させやしないと」

 「・・・・・私、悲しくなんか」

 ないよ、皆が居るからそう言い掛けたイリノイスは言葉を閉ざす。
 英雄のただ何処までも真っ直ぐな眼差しに、
 誓いは決してイリノイスに向けられた訳ではなかった。

 ここには居ない誰かに向けて、この少女を守ると誓うそのただその誓いの、




 その言葉の意味を知る者は、まだ誰も居ない。


 地面が揺れているような気がした。

 視界が鈍く歪んだ事よりもカートの中味が零れてしまいやしないかと、
 錬金術師見習のルードは恐る恐る揺れる首都の町並みを眺める。
 教会の上層部とジュノーの錬金術師学校の理事会だとかが、
 何かでもめていると引率の教師がそう零していた。

 そのせいで足止めをくらい、未だに首都に居る錬金術師一行は、
 多分この間の僧兵とのやりとりのせいで残されているに違いないと、
 生徒達の合い間ではそう会話のやり取りがされているのだが。

 あの時の一件以来、ジェイとは連絡を取っていないものの、
 教会の様子がおかしいとの話にはルードも言いようの無い不安を感じていた。

 「・・・・・・空」

 誰かがそう零した声に、ふいに街中の人が顔を上げた。
 カートが気になりつつも、ルードが顔を上げると、
 まだ昼間だと言うのに空は夕暮れのように赤く染まり、
 遠く恐らくはゲッフェンの方角で何かが割れるような勢いで光が空へと一筋放たれた。

 「・・・・、」

 思わずルードは唇を開いたが、音は出なかった、
 放たれた光の後、途方もなく不安が押し寄せる。
 あの光はなんだ、そう口々に言葉が上がるが、誰一人答える者は居ない。

 ただざわめきと、人々の震えるような声の後、
 光はやがて空へとその筋を残して消えていき、
 空は青空の下、地面の揺れは何事もなかったように静まっていった。
63ある鍛冶師の話18-2sage :2004/09/02(木) 22:12 ID:N2edtTmg
 ゲッフェンの真上を通り過ぎていく光を見上げながら、
 赤い髪の少女は僅かに身震いした。
 騎士装束に真新しい剣の鞘を提げてはいるものの、
 どうにも表情が頼りない。

 昨晩聞かされたばかりの言葉が耳の中で繰り返される。

 『世界の鍵を握るのが、イリノイスなんだ』

 絵空事のように吐き出された言葉は未だに現実感が沸かない。
 自分とは一歩関わりの無いところで回る世界を見つめているような、
 途方もなく取り残された気分だ。

 世界の終わりが来るかもしれないと呟いた街の人の言葉に、
 いつもならそんな事があるわけがないと苦笑いすら浮かべられたと言うのに、
 言われてみれば何時からか英雄の背中はそこにあった。
 目に見えない沢山のものから、自分達を庇うように、
 その背中は常に前に立ちはだかっていた。

 その背があるから、何時か追い抜こうとあがく事ができたし、
 だからこそ、その背中の向こう側の世界は知らなかった。

 「・・・・・守られていたのか」

 意識する前から当たり前のように用意されていた環境は、
 今も変わらずきっと自分を待っていてくれる。

 石畳の上に置かれた自分を支える金属製の鉄板で守られた、
 革靴は思ったよりも頼りなく見えた。
 あの英雄と言われる騎士は、もっと言いようの無い安心感をあたえてくれる、

 「・・・・・・父親」

 ぽつり声に出した言葉が一番イメージに合っていた。
 まさか声に出してそうは呼ばないだろうけれど、
 思い出した記憶の中に居た兄と呼んでいた人の、
 そういう絶対的安心感を与えてくれるものなのかもしれない。

 「・・・・・・・、」

 首都を離れて少し立つ。
 ふいに、あの背中に振り向いて欲しくなった。
 消えていった光の先は首都だったかもしれない。

 「・・・・・・一度帰るか」

 妙に胸を締め付けるような感情がこみ上げてきて、
 居ても立っても居られなくなる。

 空はもう青い色を取り戻し、
 日の暑さは重ねるごとに熱を生む。

 目に見える熱くなった石畳の石からあがるゆらゆら揺れる向こうの景色を見つめて、
 赤い髪の少女リツカは宿への足を急がせた。
64ある鍛冶師の話18-3sage :2004/09/02(木) 22:14 ID:N2edtTmg
 青い空を一つ駆け抜けていった光を見つめながら、
 昨晩宿を抜け出てから連絡の取れない淡い花びらのような髪の聖職者の姿を探す。
 一緒に出かけたらしいギルドの客人の事をギルドメンバーの弓手の少女と、
 紫の髪の女聖職者はあまりいい顔をせずに無事だといいんだけどと小さくもらしていた。

 ギルドマスターである雪色の髪の鍛冶師は、
 大丈夫ですよ、と根拠の無い言葉を返す。
 だと言うのに、不思議と落ち着きを取り戻すのには、
 何故だか笑えた。

 アルベルタへと足を伸ばしたのは、居なくなった聖職者、リシュリューが、
 よくここの港で一人アイスクリームをほうばっていた事も関係しているものの、
 どちらかと言えば別の目的があったからだ。

 蜂蜜を溶かしたように日の光を返す髪は、
 昼間の日差しの下であればいやでもその姿を際立たせる。

 ギルド「ヒトヒラ」の騎士キリアは、
 知人に会いにアルベルタから船を乗り継ぐところであった。

 波の合い間を切って進む船の先端には、白い光が見える。
 迸る水飛沫に日の光が照り返しているのだ、
 僅かに眩しいと頭端で考えながら目を閉ざす。

 次の瞬間広がる小さな島に打ち上げられた、古い海賊船。

 俗に冒険者達からは「沈没船」と呼ばれている、
 かの彷徨える幽霊船船長ドレイクの住処である。

 ザワザワと風が島の入り口の葉を揺らす。
 差し込む光の合間に、船に打ち寄せる波が見えた。

 「・・・・・、。」


 申し訳程度に立っている小屋の窓口から中を覗くと、
 眠り込んでしまっているカプラ嬢が見る事ができる。
 遠い昔にここへと流れ着いた船の住人達は、
 長い事アルベルタの人々と対立状態にあった。
 それをカプラ本社が仲介し、今の半ば観光地のような状態に仕上げたのだった。

 何時来ても変わる事の無い船の様子は、
 そこだけ世界から切り取られたように時間の概念がまるでない事が知れる。

 幼い頃キリアはここにハロウィンの際町に訪れた奇術師のちょっとした手違いで、
 飛ばされた事がある。まだノービスにすらなっていない子供を、
 海賊船長は見捨てることなく保護したのだった。

 理由と言えば冒険者であれば敵であるが、
 ただの民間人は興味が無い、だとか。
 青い色の抜けた襟立て外套に、青い海賊帽子。
 刺繍の色は色あせてはいるものの、さぞかし昔は素晴らしいものであったのだろうと知れた。

 腰に下げた真新しい剣を引き寄せる。
 騎士になったのは、つい数ヶ月前の事だ。
65ある鍛冶師の話18-4sage :2004/09/02(木) 22:14 ID:N2edtTmg

 自分がノービスになった時も、
 剣士に転職を無事迎えた時も、
 騎士になり対峙した時も、
 海賊船長はわが子を見守るような面で嬉しそうに笑っていた。

 船に居る骸骨達は夜になれば昔の姿を取り戻す、
 昼間は冒険者達と剣を交え、
 夜になれば歌声と共に酒を振舞う彼らの、
 終わる事なき宴は、グラストヘイムに居る彷徨える魂たちと似ていた。

 眠るカプラを横目にして、
 船の中へと続く階段を下りていく。

 きしむ音はするものの、毎日彼らが綺麗に磨き上げて補修された階段は、
 見た目よりも傷んではいない。

 「・・・・・・・・・・きたよ」

 身震いを少し、床に響く音に歯を噛み締めて、
 傍らの剣をすらりと抜く。
 足元は進むごとに水に満たされていき、
 動きをとることが難しくなる。

 不思議と顔を覗かせる何の心残りなのか魚の不死生物達が、
 道をあけていく。この騎士だけは別物だと言うように、
 一番奥の階段へと駆け上がる手前、群生しているヒドラ達の動きがピタリと止まる。

 そして。




 足元に満たされた水の水面が、波紋を広げる。
 奥の部屋よりのんびりと歩いてくる姿は、あの青い色だ。
 待ち焦がれた、そう言わんばかりの表情で海賊船長ドレイクは笑う。

 「遅かったじゃねェか」

 ひどく嬉しそうに、笑うその表情にキリアの剣を持つ手が震えた。

 「さァ、思う存分叩き伏せてやる」

 キリアの見開かれた青の目は、船長にとっていつか初めて見た海の色に似ている。
 この海賊船に囚われて長い事、空の青さもきっとこの船長は忘れてしまったに違いない。
 けれど、この少女の青い目を見る度に心のどこかが震えるのだ。

 あぁ、外へ。

 「あ、あああああああああああああ!」

 声にならない声と、ただ一歩進んだ足は以前よりも格段にその速さを増している。
 いつか、この娘は手の届かないところに行くに違いない。
 ただその事は寂しくもあったが、

 「水よ!」

 ドレイクの呼びかけとともに、船室内に風が吹く。
 海賊船長の周りを囲むようにして、水面からあがる水球は大きさは様々に、
 ドレイクの指がパチリと鳴らされると、騎士キリアの元へと叩きつけられた。

 元々魔法に関する事についてはあまり得意ではない、
 ただ己の動きの速さだけを追及したためにその面では脆い部分があった。

 されど、幾度も剣を重ねてその対抗策を練らないほど、
 キリアは単純でもなければ、愚かでもない。
 たまたま潜り込んだイズルートの海底洞窟で、面白いものを手に入れる機会があったのだ。

 「っはァ!」

 剣の刃でもって力任せに水球を斬り下げる。
 ドレイクが馬鹿、と小さく呟いて思わず一歩前に出る。

 完全に相手にされていないのは、この過保護なまでの動きでキリアにも知れていた。

 それが悔しいのではない、
 ただ何時までたってもそこに立ちはだかる彼の背中は、
 初めて会った時よりも幾分小さく見えた。

 パァン、という鈍い音とともに鎧に水球がぶつかる。
 普段であれば魔力による衝撃で、鎧が凹みそうなところなのだが、
 今回は違った。その鎧の内側に込められたたった一枚の護符の魔力のおかげで、
 少々衝撃を感じる程度で済んだ。

 ドレイクの目が軽く見開かれる、
 水の勢いを諸共せずに少女の振り上げた刃が海賊船長へとせまる。

 「っこの、」

 一呼吸を吸い込んで腰に下げている刃を引き抜く、
 すらりと伸びた刃は一点の曇りもなく錆びている気配もない、
 かと言って真新しい風を感じさせるわけでもなく、
 言いようのないほどただ海賊船長の刀なのだと知れた。

 せまりくる少女の刃の勢いは、
 抜かれた海賊船長の刃でもって押さえられる。
 刃でのせめぎ合いをするでもなく、ドレイクはキリアの刃を横へと流した。

 相手の刃の上を滑るようにして反らされた自身の刃に、
 目を瞬かせながらキリアが数歩退いた。
 海賊船長はそれを眺めながら、たまらないと小さく呟いた。

 「・・・・・何時手を合わせても、お前は強くなる。
  それが嬉しいゼ・・・・・・?」

 ただ強い相手を目前にして、喜びに打ち震えるように、
 そういう純粋さを海賊船長は持ち合わせている。
 それは単純に剣士としての、魂がそこにあるのだ。

 「・・・・・ドレイク・・・・・ッ」

 名前を呼ぶ、呼ばれ海賊船長が笑う。
 嬉しそうに笑う彼との、何時までたっても縮まらないこの差は、
 なんだと言うのか。

 キリアが唇を噛み締めて、ドレイクを睨みつける。
 青い眼差しは僅かに震えていた。

 されどそれに気づく事もなく、
 ドレイクは剣を振り上げる。

 「・・・・・・・・!」

 普段であれば、そのまま勢いよくぶつけられるはずの刃は、
 だらりと落ちたままドレイクには向わない。
 慌てて刃の勢いの方向をずらせば、叩きつけられた水飛沫だけが宙を舞う。

 「・・・・・キリア、ッぶねェだろうが」

 視線を向ける先の騎士は、
 ただ肩を落としてその眼差しも先ほどまでの勢いがまるでない。

 「だって、」

 そう呟かれた言葉の後、小さく肩が震えた。

 な、と息を飲み込んでドレイクが眉を寄せる。

 「僕はアンタに追いつきたくてたまらないのに!
  何時になっても僕は、僕は!」

 剣を握り締めて、泣いているのだと海賊船長が気づいた時、
 キリアは踵を返して走り出すところだった。
 慌てて追いかけてその手の平を掴もうと走り出せば、
 なかなかこの騎士は足が速い。

 義足では追いつくには限界があるのか、
 ドレイクはやや眉を寄せたまま追いつこうと足を急がせる。
 階段を上り、廊下を走り抜けて一歩、手を掴めば届くという位置に来た時、
 指先が何か強い力で弾かれた。

 「!」

 一歩あと一歩あがれば、そこは船の外だった。

 止まったらしい気配にキリアがはっとなり振り返る。
 船の木の板に設けられた扉の壊れた入り口から、
 ドレイクの顔が見えた。
 けれど伸ばされた指先は、外の空気に出る手前で止まっている。

 それはカプラ本社と交わした契約のようなものだ。
 自分達は何時までもここに好きなだけ居る事が出来るが、
 その代わり外へ出ることは許されない。

 そのための結界、そのための。

 人間と魔物が共存するだなんて事は、
 元人間であるドレイクが考えてもまず無理だろうと思っていた。
 けれどこういう形で生きていける場所を得たと言うのに、

 あぁ今も尚立ちはだかるというのか。

 「キリア、また来いよ」

 騎士へとそう言葉を向けて、海賊船長は背を向ける。
 向けられた背中にキリアは咄嗟に手を伸ばした、

 「行っちゃやだ!」

 子供の我侭みたいだと己自身でも思いながらも、
 伸ばされた手が振り返り不敵に微笑む海賊船長に取られた時、
 例えそうされるよう促されたのだとしても、
 嬉しかった。

 上から下の世界へと手を引かれ、
 体がふいに空中へと放り出される。
 海賊船長はその体を受け止めるべく両腕を差し出す。

 鈍い衝撃が船板に走り、
 それでもこの騎士に傷などつかないようにと、
 海賊船長の腰が水に沈んだ。

 すっかり海水に座り込んでしまいながら、
 同じように抱き抱えられて水につかる少女の顔を見返す。

 その繋がれた手の平の、まるで生きているみたいに通う仮初の温かさを、
 キリアは泣きたいほどの思いで迎えた。


 「・・・・・あんまり泣くな、どう扱っていいか困っちまう」

 眉を下げて海賊帽子を照れ交じりに深くかぶる海賊船長は、
 時を経ていると言うには少々幼い表情を見せて笑う。

 それにキリアが泣き出しそうな笑みと共に繋がれた手の平を少し強く握り返すと、
 海賊船長はますます海賊帽子を深くかぶってしまった。



66葛藤・苦悩・猪突猛進(♀視点)・1 :2004/09/02(木) 22:19 ID:ZS5jc7l6
「またグラストヘイムに遠征ですって?」
「あぁ」
私の声と彼の声が室内に響く。
「今度こそ連れて行ってくれるんでしょ?ほら、ここに申請書だって・・・」
彼が首を横に振る。
「だめだ、エレノア。お前には危なすぎる」
「なんでよっ!私だって自分の身くらい守れるし、5.6人程度の支援だってできるわ!」
「確かに支援はできるだろう。だが、エレノアには早すぎる」
「それ、これで何回目?確か、私達が付き合い始めてからずっとよね?」
「何回目かは覚えてないが、1年くらいは立ってそうだな」
さらっと言ってくれるし・・・
「アラウス、そんなに私は頼りないの?そんなに私は役立たず?」
「そういうことじゃないんだ、わかってくれエレノア・・・」
「わからないわよ!」

彼は私を決してグラストヘイムに近づけようとしない。
仲間内・ギルドにまで張り巡らすほどの周到さ。
でも、それはグラストヘイムへの聖十字軍遠征が行われる度、
私のプライドに傷を刻む。

「いつか、いつか必ず一緒に行ける日が来るから・・・な?」
彼が腕を回してくる、毎回拒もうとするけど奥深くにある感情が受け止めてしまう。
「もう、その台詞も聞き飽きたわよ・・・」
「すまない」
彼の抱擁が、それ以上の追及を許さなかった。


−翌日−
「エレノアエレノア、またおいてけぼり?」
「ほっといてよ、しょうがないじゃない」
「さっき、大司教の娘さんだっけ?と一緒にグラストヘイムに向かってるの見たよ」
「・・・」
「前回も一緒にいたような気がするなぁ」
「ぇ・・・」
今の一言で、色々とよからぬ空想が浮かんじゃったんだけど・・・
「なんか隠し事でもされてるんじゃないの?」
「・・・ごめん、そういえば夜の食材まだ買ってなかったからいってくるね」
「あら、そ?いってらっしゃい」
微妙にアクセントが違う声で、友人のクレファが見送ってくれた。
おそらくこの後の行動にも気づいたんだろうなぁ。
「・・・そろそろ、アラウスも立ち直ってくれないと・・・ね」
背後で、クレファが何か言ってたような気がした。
67葛藤・苦悩・猪突猛進(♀視点)・1sage :2004/09/02(木) 22:20 ID:ZS5jc7l6
「アラウス、これはヤバイぜ!」
「わかってる・・・っ!神よ、我の魂を以って魔族に制裁を!グランドクロスッッッ!」
実体無きレイドリックや、古き剣の時代の亡霊・彷徨う者が断末魔の悲鳴をあげる。
「ヒ〜ルっ」
「いつ見ても派手だなぁ、おっと!」
「デルナート、しゃべる暇があったら俺に楽させろ!」
「これでもがんばってるんだけど、なっ!これでも浴びて苦しみやがれ、ベノムダスト!」
「ケンカはやめてよぅ、神さまあの人に祝福あげて〜ブレッシング〜」
「ケンカじゃない、戯れだ!力よ剣に集え、バッシュ!」
「わかってんじゃん、っつ!死に晒せソニックブロウ!」
「なんだかな〜、天使よ幸運を分けてね〜グロ〜リア〜♪」
「それよか、その腑抜けた詠唱はどうにかならんのか・・・っ!」
「力が抜けるぜ・・・」
「もう慣れたでしょ〜?と、もう近くの敵は倒しきったみたいね〜」
「そうだな・・・そろそろ第5隊の到着するころだ、俺は入口に戻る」
「一人で戻れるのか?」
「一掃した後の道を戻るだけだ、雑魚が1.2匹来たところで問題は無い」
「んじゃ、コロンとデートとしゃれこむか」
「やぁよ〜、カズだけだと支援大変なんだもん〜」
「ぐ・・・容赦ないな」
「あはは、冗談よ〜行きましょ〜」
「・・・仲のいいことだ。さて、敵に見つかる前に戻らなくては・・・」


「さて・・・と。どっちにいこうかな・・・」
音の聞こえる方に・・・と、あっちから斬撃音が
「腕慣らしといきますかっ」
と、勢い込んで通路を進んでいると
「がふっ・・・!」
ズドンッ!鉄の塊が地に落ちる重量音
「ってええぇぇ!?」
目の前で騎士が崩壊した!?
「テ、テレポートッ!」
間に合うかっ・・・!?

「ふぅ・・・間に合った・・・」
「エレノアっ!?」
「あ・・・」
あちゃー、見つかった・・・
「なんでここにいるんだ!」
「えー・・・と」
こんな剣幕のアラウスは初めて見たなぁ・・・なんて思ってる場合じゃない
「早く出よう、ほら行くぞ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ。任務はいいの?」
「いいから早く!」
「はぅ・・・あ。そうもいかないみたいよ?」
「とにか・・・ん?この道はあらかた倒したはずだったんだが・・・」
「一人じゃ5体はつらいでしょ、支援するわよ?」
ナイスタイミング。この状況だと、流石に意地張ってられないでしょう?
「これを抜いたらさっさと外に出るんだぞ!」
「わかったわよ・・・」
マニピ・ブレス・速度・キリエ・グロリアと矢継ぎ早に支援を繰り出す
「下がってろよ!うおぉぉぉぉ!」
いつもとは違う気迫がある・・・そっか、私アラウスの本気を知らなかったんだ
「神よ、我の魂を以って魔族に制裁を!グランドクロスッッッ!」
「ヒール!」
「これならす・・・ぐにはいかないようだな」
「何あれ・・・」
ふと先を見れば、出口には不自然にモンスターの群れができていた
きっと誰かが撤退を強行したのだろう
「きついな・・・はぁっ!」
グランドクロスで弱った敵を次々と切り伏せる
「俺が敵を引き付ける、その間に外に出るんだ」
「そんなことできないわよ!」
「俺の後からすぐ行くから、わかったな?」
「あ、ちょ・・・」
反論する暇も無く彼が突撃をかけていってしまった
68葛藤・苦悩・猪突猛進(♀視点)・1sage :2004/09/02(木) 22:21 ID:ZS5jc7l6
「・・・もう!」
私一人逃げられるわけが無い。私は一冊の本を取り出し、速度増加をかけた足で彼の背後まで追いつく。
「ちょっとは耐えてよ!?」
「何をする気だ、かまわず早く出ろ!」
その声にかまわず詠唱を始める
「別世より現われし我が神の意思に背く悪魔達よ、私が現身と成りて神の意思を成す!
 この者達を己が世界へと還せ、マヌグス・エクソシズム!!」
叫んでいる、というのだろうか?徐々に小さくなって、姿諸共消えていく
「後は本だけよ、頑張りなさい!」
「あ・・・あぁ」
彼は驚いたような、ほっとしたような表現の難しい顔で私を見つめていた
「ぼーっとしてると噛み付かれるわよ!」
「おっと、そうだな。バッシュ!」
その後、難なく本を3冊(?)倒して城の外に出た
「エレノア・・・すまん」
「何よ、置いて行かれた事なら、私も来ちゃったんだしもういいわよ」
「そうじゃなくてだな・・・なんだ、その今までのことも含めて、だ」
「ふーん、ヤケに素直になったじゃない?その素直ついでに今までの置いてけぼりの訳も聞かせてくれれば嬉しいんだけど?」
「まぁ・・・だな」

彼が言うには、前に付き合っていた彼女がここでマグヌスを唱えている間に攻撃されて逝ったらしい
彼は持ち前のタフさでなんとか生き延びたがそれ以来トラウマになってしまった、とのこと。

「で、今は?」
「俺が過保護すぎただけだったみたいだ」
ハハ、と少し申し訳ないような顔で笑う。
「そうね・・・」
パン! 思いっきり彼の頬を叩いた。
「・・・っ、効いたな」
「これで、今までのことも許してあげる。ただし、もう昔の彼女の事は忘れて、私を置いていかないこと!」
「・・・あぁ、わかった」
その時、きっと彼も私も最高の笑顔だったと思う。
69ある鍛冶師の話sage :2004/09/02(木) 22:21 ID:N2edtTmg
秋です。久方ぶりに時間ができたのでのぞいてみれば!
(´・ω・)・・・

|゜ω゜) さま>次の回で一度一段落します。
        一番書きたいところはまだ先なので、十三人全てはデテキマスヨ。
        キャラがかぶる、・・・・・・ですか、はうあ、
        そうならないように立ち回りきをつけてみたいと思います。
        続きお待ちしてます!・・・嫁ーですか、嫁。
        鯖はどちry

93様>季節の変わり目ですが、引き続きエールをばヽ(`Д´)ノ

('A`) 様>前作のキャラだとかが見え隠れするたびにどきどきです。
     話がこうリンクしていくのって面白いですよねー。
     読者はここに合わせて三人ですよ(`・ω・´)

季節の変わり目です、風邪にお気を付けください。へっくしょい。
70葛藤・苦悩・猪突猛進(♀視点)の人sage :2004/09/02(木) 22:24 ID:ZS5jc7l6
連番1のままやった上にageた〜・・・_|\○_
素人丸出しスミマセンヾ( ・w・)ノ゛
71ある鍛冶師の話sage :2004/09/02(木) 22:24 ID:N2edtTmg
66-68様>Σ(゚Д゚;)!!書き込んだらびっくりです。
     男の子が女の子を叱咤するという状況に身もだえしちゃうわけですが。
     守られてばかりではない関係がいいですなぁ。
72名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/03(金) 12:37 ID:DGHEUMAU
鍛冶士の人の話、話の規模が大きくなるにつれて、
主役の書き込みが露骨に手が抜かれてる感じでつまらん・・・。
脇役のはずの英雄なんて個人的にはどうでもいい、のだけど。
73名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/03(金) 20:15 ID:UkwH9ZDg
>>72
鍵がイリノリス嬢にある以上仕方ないかな、と思うけど鍛冶師スキーなのでちょっと寂しいのも事実。
苦言させてもらえば最近まとまりがないかな、と。場面転換が唐突な印象です。

この先、あの場面があったからここが面白い!ってなると思うので自分がそこに気付くまでゆっくり待ってます。
楽しませてもらってますよ〜(`・ω・)ノシ
74ある鍛冶師の話19-1sage :2004/09/03(金) 20:48 ID:8NzZkwIY
 目を塞がれて呼ばれる声に、懐かしいものを感じた。
 多分、知り合いだった誰かだ。

 ゲッフェンの街で赤い髪の鍛冶師アーセン・ヒルデハイトと落ち合ったのは覚えている、
 後ろから付いて来た銀髪の暗殺者烏(カラス)が、唐突に姿を現したのも覚えている。
 青い光が見えた、一人で来ていたと思っていたら、
 夜照らされる光の元、紫色の法衣が目に入る。
 同業の人間だと認識した時、鈍い衝撃を感じ、
 ぐらりと視界が歪むのを感じた、

 記憶はそこからない。

 恐らく姿を現した聖職者・・・・・、の女と他に誰かが居た。
 それも動きの素早い、暗殺者あるいは盗賊系の職業の人間のはずだった、

 「リュー」

 短く愛称を呼ばれ、やはり何処かで聞いた事のある声だと思い出すと同時に、
 途方もなく付き合いの親しかった者だろうと考える。
 リューと呼ぶのは一部の親しい人間達だけで、大抵はリシュリューと名前を呼んでくれる。
 そもそもの愛称を呼ばせるような相手に、こうして囚われている時に話し掛けられるような
 覚えはまるでないのだが。どういった訳か、この呼ぶ声は途方もなく懐かしいのだ。

 「・・・・・・リュー、僕だよ」

 少し低くなった声に誰かの印象が重なる、
 あぁ、君は。

 淡い花びらのような色の髪に誰かの手が触れる、
 まだ頼りなさを残す手の平が撫でるように。

 「・・・・む、や」

 記憶の中の最後の彼は、自分にカタールをつきつけて確か言った筈だ。

 『アンタが敵(かたき)だったなんて』

 教会の、一番暗い部分に居た事がある。
 その事実を隠していたのは、別に聞かれなかったからだ。
 リシュリューは別にこの暗殺者兄妹の親がなんであるか知らなかったし、
 罪の意識を軽くするために育ててきたわけでもない。

 ただ、確かに、

 「・・・・・・・言ったよね、次はアンタを殺せるように強くなるって」

 ツツツと顎の下をなぞられる感覚がある、
 刃を寝かせているのだろうか痛みはないが、ひやりとした冷たさに背筋が強張る。




 ただ、確かに。

 異端審査会、そう言われる組織で、
 ジュノーから来た移民達を裁いた事があった。
 錬金術は神の存在を否定する異端であり、認める事が出来なかった。
 今も尚国境はあるものの、首都ジュノーとの折り合いは悪いままだ。
 協会側は頑なに錬金術を否定し、けれど錬金術協会は、神の存在を否定した。

 国境が開かれる前、
 政治状態が不安定だったかの国からこの国へと逃げてきた人々を、
 国はその判断を当時も大きな力を持っていた教会に頼った。
 その結果が、

 浄化であった。


 神の名の元に、死んでいった、殺された人達が居た。
 つい数年前の事だった。

 その場に居て、その場を仕切っていた聖職者の息子がリシュリューであった。
 彼自身はその処分に疑問を覚えた、何故?
 錬金術と言うのは決して邪悪なものではない、人のためになるものだ、
 そう彼は考えていたのだ。
 だがまだ見習いから一人前になったばかりの彼の言葉を大人たちは受け入れなかった、
 止められなかった事実を、決して直接手を下したのが彼ではないとしても、

 この暗殺者が果たそうとする復讐の思いがここで終わるのなら、
 リシュリューはそれでいいと何処か苦笑いした。

 諦めと、自嘲の交差する笑みに、
 無夜(むや)の目が細められる。

 彼の事を捕まえてくれる代わりに、
 自分が手を貸そうと言ったのは間違いではなかったはずだ。
 彼は、・・・・・・彼は自分達に嘘をついて、
 偽って、

 あの日々の全てが。

 「・・・・ッ!」

 この刃を返し、ただ横へと引けば。
 この聖職者は死ぬ。
 今自分がこの命を握っている、だと言うのに。

 手が動かなかった。

 まるで凍りついたように、動かない。
 ただ殺す事だけを焦がれ、唯一思い続けた、
 執着心。

 「・・・・・・・・私がやろうか、殺せないのなら」

 暗い室内、牢の扉の向こうで協力を持ちかけた聖職者が声をかける。
 暗闇にでもよく響くこの聖職者の声は、
 ひどく透明な何かを持っていてうすら寒かった。

 無夜に言わせれば、この聖職者こそ違和感だ。
 彼女達はただ死者への弔いと言うが、
 そのための犠牲は何だと言うのだろう。

 されど自分も人のことは言えない、
 この聖職者を殺すの、だから。

 「・・・・断る。この人は僕が」

 「・・・・・・・・・できるのか?手がまるで動かないようだが?」

 馬鹿にすると言うよりは冷ややかにいっそ、
 所詮子供だとそう叩きつけるように、
 人を殺した事がないわけではない。

 そうだと言うのに手が動かないのだ、
 指先一本すら動かせずにいると、
 リシュリューが小さく息を吐いた。

 「・・・君の、好きにしたらいい」

 聞こえた声に無夜が手にしている刃を思わず返しそうになる。
 ふつ、と僅かに赤く走る線に、その手が勢いよく引かれ、
 皮膚一枚斬った跡だけが残った。

 「・・・・・・あ、あ、あ、」

 刃を落として無夜が頭を抱える。
 首を傾けるリシュリューがじゃらりと繋がれた手を持ち上げて、
 手探りで暗殺者の姿を探す。

 「・・・・・・・・・あー・・・・大丈夫、そんなに痛くなかった」

 指先に触れた感触を力任せに引き寄せる、
 がくがくと肩を震わせるまだ幼い暗殺者を宥めてやれば、
 しゃくり上げる様な声と一緒に小さくごめんなさいと繰り返す、言葉の雨。

 苦笑いと溜め息と共にリシュリューが無夜の背中を軽くぽんぽんと叩いてやる、

 「・・・・・・大丈夫、・・・・・・おかえり、無夜」

 向けられた言葉に暗殺者は声をあげて泣いた。
75ある鍛冶師の話19-2sage :2004/09/03(金) 20:49 ID:8NzZkwIY
 牢の外、古びた石作りの壁を背にしながら、
 聖職者ティティシア・コールドは眉を寄せたまま冷ややかに吐き捨てた。

 「飛んだ茶番だな」

 あの聖職者は彼女の鍛冶師、アーセン・ヒルデハイトの親友らしい。
 何処かおっとりとしている印象を与える顔立ちをしているが、
 育ちが良さそうだと言う以外に悪い印象はない。
 世間知らずという風にも見えないのは、
 何処か影のさす表情のせいだろうか。

 どちらにせよ、あの暗殺者はもう帰る場所を見つけてしまった。

 「・・・・・・・あれで殺していたら、貴女があの暗殺者を殺してたでしょう」

 横から聞こえた声に顔を上げると、僅かな光の中に赤い髪が見える。
 彼女の、鍛冶師。

 「・・・・・・私は別に手助けをしようとか、」

 「うちも殺せない方に賭けてましたしね」

 安堵の声が室内に響く。
 アーセンの声を聞いて、ティティシアは声をあげて笑った。

 「・・・・・・・どうせ沢山死ぬんだ、ちょっとぐらいイイ事をしても罰はあたらない」

 自嘲のようなその言葉が室内に響く、
 けれど牢の中の二人には届いていないらしい、

 アーセンは隣りのティティシアの肩を抱き寄せるなり、
 うちは、と言葉を小さく口にした。

 「例え世界の全てが敵になったとしても、うちは守ったる。
  最後まで、傍に」

 それは誓いだ、誓う神などきっと彼には居ないのだろうけれど。
 向けられたその言葉にティティシアが苦く笑う。

 「・・・・・・ありがとう」

 苦笑いと共に吐き出された言葉こそ、
 きっと真意に違いないと言うのに、
 次の瞬間ティティシア・コールドは冷たい光をその眼差しに秘めると、

 「さぁ、行こう」

 隣りの鍛冶師の手をそっと緩く掴んで、
 歩き出す、暗い闇の中。
 その先に光のようなものは見えなかったけれど、
 けれど繋いだ手を鍛冶師は強く握り返し、
 決して離す事はなかった。


 光が見えたという日から、数日。
 ゲッフェンの街には号外が出回り、やれ世界の終わりだ、
 やれ神々の黄昏が来るのだとそういった類の話で満ち溢れていた。
 首都とではそこまではいかないものの、やはりグラストヘイムを間近にするこの魔法都市では、
 あの魔力の開放のような波動を持っている光が放たれた事は、
 かなりの衝撃があったらしい。

 「・・・・・・・うるせェな」

 思わず呟いた声に、隣りの席の銀髪の聖職者が顔をしかめた。
 自宅に篭りどうにかして綻んだ結界を治める事はできないかと、
 方法を探しているのだが。やはり既存の本にはそれらしい事は書いてあっても、
 肝心な事はぼかしてしまっている。

 窓の外見つめるゲッフェンはいつもと変わらぬ景色を見せてはいるが、
 その行き交う話題は光の話ばかりなのだ。
 首都のシャイレン・ナハトムジークかの英雄に首都の様子を聞いてはみたものの、
 今これと言って動きはないらしい。
 ただ数日前にフェイヨンで火災があった事、
 そしてスピカという名前の聖職者が行方不明になっているとの情報に、
 赤き鼓動の異名を持つ魔導師は、苦く苦く唇を噛み締めた。

 死んでは居ないと願うしかなかった。
 事実一つ解き放たれたのだから、無論それだけで今すぐに綻ぶような事はない、
 今すぐには、だが。

 時間が過ぎていけばあの綻びから魔力が溢れ返り、
 時計塔へと通じる魔力の循環システムがイカレルに違いなかった。

 そうなれば。

 本当に。

 「・・・・・・畜生」

 レッド・ビートが赤い前髪をぐしゃりとやって、唇を噛み締める。
 傍の椅子に座って一緒に本を読んでいたセシアは、眉を寄せたまま溜め息をついた。

 「焦っても仕方ないと思う、よ?」

 宥めるように言われた言葉にレッドはそうなんだが、と口篭る。

 「・・・・・・そう言うときは息抜き、しましょ?」

 両手をパチリと合わせてセシアが席を立つ。
 それを横目にしながらレッドが壁にかけてある時計を見上げた。

 丁度、昼少し前になる。
 これぐらいで休みをとっても支障はないかもしれない。

 「小腹も空いた事だしな」

 眉を下げてレッドが笑い返すと、セシアがほっとしたように笑みを返す。
 あまり、根を詰めて欲しくはないのだ。
 確かに事は急ぐのかもしれないけれど、
 こうして緩やかに時を過ごすことを忘れて欲しくないと、
 セシアは考えていた。

 お茶にしようか、もう完全にご飯を作ってしまおうか、
 そんな事を考えながら書斎を出る。
 扉の閉まる音を背中にしながら、
 ふ、と息をついて前を向いた。




 「・・・・・・・え」


 漏れた声に、目の前の顔が少ししかめられた。

 「すまない」

 よく通る少し低い声で、淡い茶色の髪が軽く下げられた。
 何が、と問いかけようとした時、腹部に衝撃を感じた。
 嫌な感覚だった、腹の中から勢いよく別の何かに作り変えられるような、

 「すまない、すまない」

 繰り返される言葉と共に、目の前の、恐らく聖職者であろう女を見返す。
 金色がかった茶色の瞳が涙に濡れていた、
 どうしてそんな悲しそうな顔をするのか、
 セシアには理解できなかった。

 やがて視界に揺れる花びらを見つめて、
 セシアの悲鳴が上がった。
 淡い桃色の花びらを色づかせながら咲き乱れる花の先に、
 ドリアードと呼ばれる主に南国で生息している寄生植物の姿があった。
 綺麗に笑みを浮かべるドリアードは、
 一瞬その異常な状態を忘れてしまえるほど、美しかった。

 あげられた悲鳴に扉が勢いよく開かれる、
 赤き鼓動が目にしたのは、
76ある鍛冶師の話19-3sage :2004/09/03(金) 20:49 ID:8NzZkwIY
 細い体から綺麗な花が咲いている、その先の女のような姿をした生き物が、
 レッドへと視線を向けて微笑んだ。
 いっそ街中で見かければ手を振りたくなるような、
 銀髪の聖職者は幸いな事に痛みはないらしい、
 ガタガタと肩を震わせたまま腹部から伸びる蔦に顔を覆っている。

 「・・・・・何を、したァ!ティティシアぁ!」

 ごうと室内に熱い空気が満ちる。
 意識せずともレッドの魔力が引き寄せるのだ、火の気配を。
 ざわざわとレッドの黒の眼差しが徐々に赤い色へと変貌していく。
 その様子を見ながら、ティティシアは力なく笑って言った。

 「・・・・・見ての通りだ、呆気ないことにもうゲームオーバーだ、レッド・ビート」

 レッドが笑うティティシアへと片手に熱の魔力を集めながら走り出す、
 と、ティティシアが体を震わせているセシアを指差し叫んだ。

 「今火を焚けば、このお嬢さんも燃えるが?」

 ピタリと止まる足にティティシアが尚も高笑う。

 「おかしなものだな、夢がかなうと言うのに、まるで嬉しくない」

 「・・・・・・ティティシア、今ならまだ」

 帰れると言ったレッドの方へとティティシアが首を傾けながら、
 笑いながら言う。

 「今更どこへ?今更どこへ?
  今更あの場所以外に何を欲しろと言う、この気の遠くなるような時間、
  ただずっと焦がれていた、あの場所を!

  ・・・・・彼を、スレイを、・・・・・・やっと、会える」

 「・・・・・・何をするつもりだ?」

 問いかけに対する返答はなかった、
 ただその代わりに花びらの先に微笑を浮かべていたドリアードが唇を開いた。

 何処かで鐘の音が鳴った気がした。
 かん高い音だ。
 懐かしい気もしていた、
 レッドの耳を震わせるように響くその歌声は、
 反響するように世界中に響いて行った。


 その時、首都ではイリノイス・ルーファンとかの英雄達が何時もと変わらず談笑していた、
 その時、その街角では錬金術師学校の生徒達が露店の見学をしていた、
 その時、フェイヨンでは弓を片手になり立ての弓手の子供達が競って的に矢を射っていた、
 その時、アルベルタでは初めて手にするカートに喜ぶ後輩を見守る鍛冶師の姿があった、
 その時、


 世界のありとあらゆる場所で、
 沢山の人達が笑みを浮かべて、
 涙を浮かべたり、怒り、時に絶望し、




 光が放たれたような気がしたと、
 その時の事を誰かが言った。




 その日、世界は光に満ちた。



77ある鍛冶師の話sage :2004/09/03(金) 20:54 ID:8NzZkwIY
二夜連続失礼。
72様>手を抜いてるというよりは停滞していたり。
   面白く読ませられるようここからが勝負ドコロカナ。
   確かに描写が少ないかもしれません。精進します。

73様>まとまり、ですかぁ。本当に二人だけの話でいいなら、
   小さくまとめるべきなのでしょうけれど。
   書きたいことをまとめるのも大変ですな・・・・、
   お待ちいただけるという言葉だけで嬉しいです。ありがとう。

言葉受け止めて推敲します(`・ω・´)
78名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/03(金) 21:05 ID:iOkPtg3g
活気付けてくれてありがとう。ガンガレいってくれたのに放置でごめんなさい。
某スレで忙しくて………。絵神様がボクの萌え腺を刺激するんだっ。・゚・(ノ∀`)・゚・。

 確かに、最近読みにくいですね。場面転換後は、ちょびっと情景と人物描写とかを重めにするのを
お勧めします。これ誰? ってなってるうちに話が進むと寂しかったり。
多分、作者の人的にはくどすぎるかな? って思うくらいでいいと思います。リシュリューさんが
気が付くあたりとかの描写とか。
気分転換に短編を書いてみるのもいいかもです(本人の事かーーーーーっ!)
楽しみにしておりますよぅ。
79義を持つ者 :2004/09/04(土) 19:37 ID:1AagH2sQ
酒場でアコライトが必死にけが人を癒していたとき大聖堂では、ある朱髪の異端者が最後の抗議をしていた。

「親方!主がどう言おうと拙者は民を友を愛しき者を護るために戦へ行く!」

「まだそんなことを言っているのか・・。貴様・・聖騎士の理を忘れたのか?偉大なる父への忠誠をどこに置いてきた!」

鈍い音と共に吹っ飛ばされ口の中に血の味が広がる。

「効かぬ・・な」
やっとのことで体を起こし今度は殴った者のほうへ歩み出した、眼前まで来たときに呟くようにいった。

「主には散々しごかれてきた・・苦しい転職試験に耐えた時にも何もいわず。毎日の鍛錬で生傷がないことはなかった・・。この眼になったのも貴様のせいだ・・。だがなそのおかげで拙者は強くなれた。その面では感謝もしている・・。だが!民を粛正するなど馬鹿げたことを言うとは思わなかったでござるよ!拙者は!」
するどい拳が溝打ちに入り床にひざまづいた衝撃で金属音が響いた。

「どうした?さっきまでの威勢のよさはどこにいった?立ってみろ!!」

胸板を蹴られた衝撃で後方に飛ばされフルプレートの鈍い金属音が広がった。ヨロヨロと立ち上がるとこう言い放った。

「や・・はり拙者は主とは相容れぬようでござる・・・なもうお目にかかることもなかろう・・拙者は・・友を救いに行く誰にも邪魔はさせぬ!」

虫けらを見るような冷たく鋭い目で言い捨てた。

「ふ・・・くだらぬ・・くだらぬぞ汚れきった愚民共を救って何になる今このときが最大の粛正のチャンスなのだということが何故わからんのだ!たわけがぁ!!・・もういい貴様には何も期待せんだがな・・逃げ出せるとでも思ったのか?」

親方が指をならした瞬間にかなりの数の聖騎士が隻眼を取り囲んだ。長年の経験を積んだとはいえ同じ聖騎士を相手にしたことは数少なかった。どうみても隻眼に勝算はなく嬲り殺しにされるだろうと思われたその時。

「NEEZ!大丈夫!?」突如現れたプリーストにクルセイダー達はしばし驚いていたが次の瞬間には彼女に襲いかかろうとしていた。・

「透!?よせ透に手を出すな!!逃げろ!!主を巻き込むわけにはいかぬ!」

その瞬間にNEEZは聖騎士の群れに突貫しマグナムブレイクで道をあけ、透に接近した。

「邪魔だ!下がれ!けがをしたいのか雑魚がぁー!!」

NEEZが鬼神のように群れを吹き飛ばしながらやっと透のところまで辿り着き透の腕をひっつかむと脱兎のごとく駆けだした。透はマグナムブレイクを連発してクルセイダー達の攻撃をかろうじて止めていた。

「たった2人になにをモタモタしているんだ!殺しても良いから捕まえろ!」

親方が怒り狂いながら叫んでいた。しかしその瞬間透が青石と呼ばれる魔法の触媒を取り出し、呪文唱えるとゲートが現れた。

「はやくこの中に!」そういうとNEEZをゲートに押し込み透も転がるように入った。

ゲートを抜けた先は臨公広場と呼ばれ冒険者達が普段なら数多くいるはずだったしかし、今日の下水道事件のせいで人はおらずただひっそりと静まりかえっていた。大聖堂からは遠く離れてはいるが時期に追っ手が来るかもしれない。プロンテラ西から聞こえる剣と剣の衝撃音が遠く離れたここまでも聞こえていた。
「時期に追っ手が来る・・いけるか?透」
ちょっとだけ疲れたような声しかし、しっかりとした声で透が言った。
「えぇ・・NEEZは大丈夫?どこか痛くはない?」
NEEZはちょっとだけ強がってみせた。透はそんな姿を見ながら微笑していた。しかし、そんな事をしている余裕はないのだ。すぐにでも大聖堂から追っ手が来るやもしれぬ状況・・。しかも他のプロンテラはモンスターに四方を囲まれつつあったため脱出も困難だった。
これからの事を考えると不安で仕方なかった。
「ま〜た眉間にしわ寄せてる〜。」透がデコピンをしたことにすらNEEZは気づかなかった。
「ムー・・にずっちのバカ!」ドガッ 今度は頭をはたかれたため流石の彼でも気づいた。
「あいたっ・・・なんだよ考え事してんだからほっといてくれ、それと・・。その呼び方はやめてくれんか?対応に困る」
相変わらず笑いながら透はNEEZを小馬鹿にしたような事を言っている。それが励まそうとしていることをNEEZは知っていたがそれ以上に今の状況は深刻なのだいますぐにでも行動しないと・・。と決心をしたその時
戦友である騎士からWisと呼ばれるものが届いた。
「NEEZ無事か?今騎士団総出で今プロンテラ西のモンスターを殲滅してるんだが・・・いかんせん数が多すぎるしかもバフォメットもいるしな。聖騎士団は動かないが何かあったのか?」
「あぁ・・一応な今は状況を説明している暇はないプロンテラ西でござるな?今から向かう故にちと待っておれ」
そういって心の通信を切りNEEZは歩き出した。
(今Scorchに事実を言うのは得策ではない・・・。今は目の前の敵に集中してもらわねば・・聖騎士団が裏切ったなどとは言えぬしな・・。)
「いいじゃ〜ん別にー夫婦なんだしさ私がどう呼ぼうと私の勝手で・・あちょっとまってよ!」
歩きながらNEEZはこれからの事を透に話していた。下水道に起きた事件のこと、今も多くの冒険者が下水道に取り残されていること、それを救おうとする者がいること、そしてこの騒ぎを利用して聖騎士団と大聖堂が不穏な行動を取ろうとしていること・・・。
「主を巻き込んですまんと思っている。だがこれからの戦は必ず主の力が必要だ一緒に来てはもらえぬか?」
歩きながら透は微笑みながらはっきりと言った。
「いいよ別にwにずっちとならどこでも行くよ夫婦だしね〜」
なんの羞恥心もなくこういう事が言えるのは透だけだなと思いつつNEEZは歩みを早めた。
「あっれ〜?wもしかして照れてたりするの?にずっちは純情というか単純というかだからね〜ニャハハハw」
・・・(透には緊張感という物がないのか・・全く・・まぁそういう所に惚れ込んだのもあるが・・)
さらに歩みを早めて先を急いだ。透がずっと小言を言っていたがほとんど無視していた。
(速くいかねば・・一人でも多く救わねばならぬ・・真の聖騎士として・・。)
何かを思いつき突然NEEZは歩みを止めたそのせいで透はもろにNEEZにぶつかってしまった。
「いったぁー・・・いきなり止まんないでよね!」ぶつけた鼻をさすりながら透がいった。
「そうだ・・・それがあったんだ・・・。」それだけ言うと彼は脱兎のごとく走り出した。
「あー!ちょっとまってー!速度かけるよー!いきなりなんなのよー!」透が走りながらそう言っていた。
二人が走り出した後をじっと見つめる者がいた、
「・・・ふー・・相変わらずだなあの二人は・・・。」
「ふふwでも良いコンビだと思わない?w」
「俺たちくらい?」片方の影が思いっきりこづかれた。
「イテテテ・・。そんなにこづかなくても・・じゃなくて、速く追うぞ!速度よろ〜」
「了解」
その頃プロンテラ西ではアサシンギルド員とプロンテラ騎士団が魔物と死闘を繰り広げていた。
四肢が飛び、血の池ができ、人間であったものがそこかしこに飛び散っていた。
「ちぃ!数が多すぎる!そっち頼んだぞ!」ボーリングバッシュで一掃したあとにすばやくペコペコで回り込みマグナムブレイクをたたき込む
(NEEZまだか!援軍が一人でも欲しいってのに!)そんな事を考えつつ高速バッシュ打ち込む!彼はNEEZと同期に冒険者として出発した騎士のScorch
長年NEEZとは組んでいたが最近は慣れない書類に眼を通す役に回ったようだったが、緊急事態で駆り出された。
「騎士の底力・・見せてやる!」
その頃NEEZが所属するGのメンバーはアサシンと騎士がGに駆り出されたため各地に散らばっていた。
皆をまとめる役の団長や駿殿はプロンテラ北のバフォメットの足止めに駆り出され、アサシンである月影やポテロングはScorchと同じ場所で大量の魔物を殲滅していた。
Gで唯一NEEZと同じ聖騎士の神奈殿は団長と一緒にいってしまったため指揮系統はすっかり狂っていた。
「ちっ・・だめかGチャットにも反応がない。しょうがない拙者達だけでプロンテラ西に向かうぞ」
わかっていたことだったが落胆した様子でNEEZが言った。
「しょうがないよ皆忙しいんだよそれににずっちと私だけで十分だよ!」と透が意気揚々と言うのを眺めながら、
(ここまで来ると励まされる物があるな・・・)とか思いつつ全速力でプロンテラ西へ向かったのだった。
80義を持つ者 :2004/09/04(土) 19:49 ID:1AagH2sQ
すみませぬ(つAT)地下下水道リレー投稿作品death(↑
書き忘れたー・・・|||OTZ
81名無しさん(*´Д`)ハァハァdame :2004/09/04(土) 20:16 ID:WHNBcwSo
ん、ギルドの皆様のお名前拝借とかでしょうか? ほほえましいです。
でも、もしもそうなら、ちゃんとご当人には断ってあるのかが気になったり…。
577氏サイトで保管する際にお名前がぐぐるでひっかかったりすると嫌な人も
いるかも、ですから。

あと、台詞の中に句読点が無いのが読みにくいかな。
下水リレーの設定を読み込んで書いているな、というのはよくわかるので、
一度改行とかを見直すと宜しいかと。あとsageも忘れるなっ
                             偉そうでごめんよう
82名無しさん(*´Д`)ハァハァageなおし :2004/09/04(土) 20:17 ID:WHNBcwSo
……ってsage進行じゃなかったヨ・・・
反省してきます。
83名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/04(土) 21:21 ID:kDyYIu26
地下水道キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
84名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/05(日) 11:34 ID:V07AvWcE
下水道リレー、新しい話もいいけど一度最後まで締めてみては。
最近、中だるみのようだし、
とりあえずラストまでの流れを作っておいて
その上で分岐していくってのもありじゃないかなぁ、と。
この話の裏にはこんな話もあった!みたいな。

っつー、一意見でした。いや、俺は書けませんので|ω・)ノシ
85名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2004/09/06(月) 01:23 ID:fJTNDa9k
も〜だれだれでどう収拾つけていいのかわかんなくなっちゃってるなぁ。
86上水道リレーSSsage :2004/09/06(月) 01:57 ID:sY94AHZs
 神罰の夜


 それまで厳粛な雰囲気に包まれていた大聖堂は一転、騒然となっていた。
 隻眼の聖騎士が離反した際に起こした小競り合いと、その後始末のせいだ。十数名のクルセ
イダーが床に倒れ伏したまま、動かない。隻眼の聖騎士の走り去った方角を忌々しげに睨みつ
けながら、その聖騎士に『親方』と呼ばれていたクルセイダーは指示を飛ばした。
「騒ぐんじゃない、気絶しているだけだ。プリーストを呼べ」
 以前から、なにかと衝突の多かった二人だった。しかし、まさか離反するなどとは微塵も思
っていなかった。思わず舌打ちする親方のもとに、プリーストを呼びにやらせた部下と入れ違
いに、数名のクルセイダーが駆け寄ってきた。しかもフルプレートとグリーブに身を固めた、
完全武装で。
「中隊長! ただちに追っ手を差し向けましょう! ポータルの具象時間から、おそらく首都
近辺に飛んだものと思われます! 異端者めに神罰を!」
 先頭の、リーダー格と思われるひとりのクルセイダーが気焔をあげた。親方はその勢いに若
干うんざりしながらも、彼の献策は妥当であると考えた。確かにあれだけ差し迫っていた状況
で、遠くのポータルを開いたとは考えにくい。空間を渡る際に、一番指定しやすいのはセーブ
地点なのだ。そして、離反したのは十字軍に所属していた聖騎士とプリースト。ほぼ間違いな
く、セーブ地点は首都内だろう。
「よし──」
「中隊長!」
 親方は追撃の指示を出そうとして、突然の呼びかけに口をつぐんだ。
「なんだ」
「はッ、恐れながら申し上げます! まずは怪我人の救護を最優先するべきかと!」
 数名のクルセイダーがひざまずいて、親方を見上げていた。十字軍内でも治癒能力に長けた
者が所属する、衛生部隊の腕章を彼らはつけていた。
「いいえ! まずは異端者を始末し、規律を正すべきです!」
 リーダー格の完全武装クルセイダーが、衛生部隊員の発言に異をとなえる。
「いいえ! まずは怪我人を!」
 負けじと大声をはりあげる衛生兵に、武闘派の重装クルセイダーが激して叫んだ。
「ええい、黙れ黙れ! まさかお前、臆したのではあるまいな!」
「ぶ、無礼を申すな! ……貴殿こそ、彼奴とよからぬ謀をしていたのではあるまいな! そ
して証拠を掴まれるのを恐れて、消しておきたいのであろう!」
「馬鹿を言うな、考えすぎだ! だいたい、あいつは前から気に入らなかったんだ!」
 頭が痛くなってきた親方は、隻眼の聖騎士に対する憎しみを新たにしていた。十字軍にいて
はならない存在──異端者がいた。その事実は、部隊全体に少なからぬ動揺を与えていたのだ。
「……とりあえず鎮まれ。騒ぐなと言っただろう」
 親方は幾分の焦燥を感じながら、ふたつの集団を叱責した。
「中隊長! ご決断を──」
 しかし完全に頭に血が昇ったふたつの集団は、なおも親方に食い下がろうとして──祭壇の
奥へとつづく扉が開いた、重厚な音に沈黙した。喧騒を遠巻きに眺めていたクルセイダー達も、
一斉に口を閉ざす。右手にヤコブと呼ばれていた若いクルセイダー、左手に初老のクルセイ
ダーを控えさせて、十字軍団長が扉から姿をあらわしたからだ。
 団長の目配せを受けて、ヤコブが数歩前に出た。
「これは、いったいどうしたことか」
 薄気味の悪い微笑みを貼りつけたヤコブは、身体の芯に響くような声を発した。聖堂内に詰
めていたクルセイダー達に、一様に緊張がはしり、そして、沈黙がおりた。畏怖と萎縮が混ざ
りあった、奇妙な沈黙だった。
 大聖堂内を睥睨してから、ヤコブはふたたび声を発した。
「私の質問が、聞こえなかったのかね」
 まるで語りかけるように落ち着いた口調だったが、クルセイダー達は気圧されたように息を
飲んだ。
「神罰の執行者たる諸君らがいかなる理由でかような醜態を晒していたのか──」
 ゆったりとした足取りで、ヤコブは親方へと歩み寄る。もとより音響効果のある聖堂内に、
グリーブの硬質な金属音と、抑揚のない言葉が殷々と木霊する。そして親方の眼前に立ち止ま
ったヤコブは、おもむろにサーベルの柄に手をかけた。静まりかえった聖堂内に、鞘鳴りの音
が嫌味なほど大きく響きわたった。
「私は君に訊いているのだよ、中隊長殿」
 親方は、ためらうように息をのんだ。ちらちらとヤコブの右手を盗み見るその眼には、明白
な恐怖の色が浮かんでいた。
「いえ……、こ、これは……、その……」
「──事と次第によっては」
 親方の言葉を遮って、おもむろにヤコブは抜刀した。
「責任問題にも発展しうる。質問には、謹んで答えたまえ」
 恫喝するような言葉と、水に濡れたようにてらてらと剣呑な輝きを放つサーベルが、親方に
突きつけられた。不気味なことに、鬼気にも似た気配を発していながら、しかしヤコブの微笑
みはまるで崩れる様子がない。
「ハッ……! クルセイダーとプリーストが一名づつ……、その……」
 そこまで言って、親方は言葉に窮した。
 事実が判明すれば、殺される。クルセイダー達の動揺も、それを理解してのことだった。
「どうしたのかね。まさか、言えないようなことでも起こったのかね? たとえば……、部隊
から離反者が出たとか」
 剣を引いて、ヤコブはいたぶるように言った。うつむいて唇を噛んだ親方は、傍目にも憐れ
なほど萎縮していた。
「いえ……、そういうわけでは……」
「では、どういうわけかね」
「その……、いえ……」
 親方の心臓が拍動する音さえ聞こえそうだった。クルセイダー達は皆、惨劇から眼をそらす
ようにうつむいていた。ヤコブはさも面白そうに眼を細めて、斬撃の体勢をとった。
「残念だ」
 親方は眼をつむって、震えを噛み殺すように歯を食いしばった。
 それでも歯の鳴る音は収まらず、かちかちと聖堂にその硬質な音が響いた。
 耳元で、血が逆流したかのような轟音が聞こえる。
 耳鳴りがする。
 脂汗がいやらしい感触を残してしたたり落ちた。
 冷たい鋼が熱い液体を冷やして。
 果てのない闇の深淵がまぶたに広がる、落ちてゆく──
87上水道リレーSSsage :2004/09/06(月) 01:57 ID:sY94AHZs
「──その辺にしておいては如何かな、ヤコブ殿」
 弾かれたようにまぶたを開いた親方は、初老のクルセイダーがヤコブの右手をおさえている
のを見た。かくしゃくたる声色のクルセイダーを、細められた眼が射抜く。
「誰しも落ち度というのはあるもの。ましてこの重大事を控え、常のごとく振る舞えぬのも道
理ではないか。むしろ戦力を削ぐような真似こそ、慎まれたほうがよいのではないかな?」
 しかし臆することなく、毅然とその視線を見返す初老のクルセイダー。ヤコブはさらに眼を
細めると、相変わらず感情のこもらない声を発した。
「しかし規律を正すことも肝要かと存じますが……」
 今にも張り裂けそうな緊迫感が、場の空気を一変させた。親方の喉がごくりと鳴る。このま
ま両者の斬り合いにも発展しそうな一触即発のにらみ合いは、しかし割って入った団長の声に
よって霧散した。
「クリストフ卿の言うとおりだ。ヤコブくん、その辺にしておきたまえ」
 ほとんど突き刺すようだった眼と殺気が、その言葉にやわらいだ。
「はッ」
「恥じているからこそ、彼も言えないのだろう。恥をそそぐ機会を与えてやりたまえ」
 ヤコブはサーベルを収めて団長に敬礼すると、何事もなかったかのようにもといた場所にさ
がった。親方もさがらせた団長が、初老のクルセイダーに薄っぺらい笑みを向ける。
「クリストフ卿も、よく止めてくれた」
「いえ……。出過ぎた真似をしてしまい、申し訳ありません」
 苦々しいものを感じながら、クリストフは丁寧な敬礼をした。
「よし、これにて落着だな」
 満足げに微笑んで、外套をひるがえして祭壇へ向かう団長。付き従うヤコブとクリストフは
対照的な表情を浮かべていた。
(いかがなされました? ご気色が優れぬように見受けられますが)
 唐突に、クリストフにWhisが届いた。声の主はにやついた微笑を貼りつけて、うすら寒い視
線を向けていた。
(……年甲斐もなく緊張を感じているのでな。なんの、心配には及ばぬ)
(それはなにより)
 クリストフには、口の端を歪めるヤコブが悪魔のように見えた。
「なにやら一騒動あったようだが、これより示される『神威』の前には些細な事──」
 祭壇に戻った団長は、まるでオペラ歌手のように演技くさい仕草で両のかいなを掲げた。水
を打つような聖堂内に、朗々たる団長の声が響きわたった。
 今の十字軍は、間違っている。
 クルセイドの名を借りた大量虐殺で、なにが成せというのだろうか。迎合を拒む者を異端者
と断定し断罪し殺戮し──その結果、なにが残るというのだろうか。
 神意を借る狂信者どもが跋扈する世界を、クリストフは浄化された世界と認めるつもりはな
かった。しかし狂信者どもは、知らぬ間にあまりに強大な力を携えていたのだ。
 クリストフと同様、今の体制を是と認めないクルセイダーもいる。今、この場で彼らととも
に異をとなえるのはたやすい。ヤコブのような手合いを道連れにすることも、それほど難しい
ことではないだろう。
 だが今ここで、散るわけにはいかないのだ。
『一時の満足で後の事を考えぬのは、愚か。残される彼らの事を第一に』
 先刻クレアと名乗ったアコライトに、クリストフはそう言った。だが──
 無様なものだと、クリストフは自嘲する。所詮言い訳ではないか、と。
 何度繰り返したかもわからない刹那の煩悶から浮上したクリストフは、団長の宣言を死刑宣
告にも似て聞いた。
「これより神罰を執行する!」
 大聖堂を揺るがして鬨の声が湧きあがり、各部隊員が慌しく動きはじめた。
 黙示の惨状にも似たその様に、白髪の目立ちはじめたクルセイダーは十字架を仰いで、小さ
く祈りを呟いた。
「Kyrie eleison──」

 かくしてクルセイドは、発動した。
88えべんはsage :2004/09/06(月) 02:17 ID:sY94AHZs
上水道リレーSS参加の作者様方に確認というか、質問のようなものがひとつ。

ダインスレイフな御三方および、
プロンテラ周辺に展開している血騎士・ドラキュラ・ヒデヲ等、
ニブルパッチで大幅強化されてしまったBOSSクラスキャラクタの扱いについてです。

パッチにならって強化しちゃっていいものか、
SS中の時間軸を重視してそのままでいいものか。
支障がない範囲で統一したほうがいいのかなー、などと考えまして、
不肖ながら提起させていただいた次第。

ちなみに今回投下分は以上です。
誤字脱字誤謬批評等、なにかしらありましたら遠慮なく指摘してくださいませ。
89義を持つ者 :2004/09/06(月) 17:36 ID:gCW5EYG2
81様>ご指摘有り難うございます。名前等はG内で許可をお取り申し上げ
    個人のキャラを壊さぬよう気を付けております(^^;改行などは、
    これから努力して精進します(つAT)ご指摘有り難き次第で候。

82様>sage様等とも絡ませたい次第なので駄文ながらに精進します(・A・)ノ!ご指摘有り難き次第で候

83様>気づいてもらい有り難き次第で候(^^

84様>なるほど・・・。そういう展開は気づけませんでした御免(m_m)クルセイドの
    発動を最優先にすべきかと思いましたので(つAT)繋げてみようかと( ・ω・)
    ご指摘有り難き次第で候。

85様>そうですね〜・・・。最初から呼んでみても分岐が多いのでわかりにくくなってますね(^^;
    しかし、キャラも少しづつ集まってきているので、これからわかりやすくなると思います。(^^
    ご指摘有り難き次第で候。
90義を持つ者 :2004/09/06(月) 17:37 ID:gCW5EYG2
上水道SSにスパノビ様が出てきていらっしゃるので、
強化しても良いという意見に一票(・A・)ノ!
91名無しさん(*´Д`)ハァハァdame :2004/09/06(月) 17:49 ID:JIJ.Ifrw
上がってるのでdame
92名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/06(月) 19:04 ID:DKGfaxK6
上水道連作SS、ところでこれまでの簡単なあらすじをまとめたものを作れば需要はあるのかな?
話がややこしくなりすぎているのなら一度整理してみればいいかと思うんだが。
新規に書く作者さんもやりやすくなると思うんだがどうよ?
93背徳の花香炉(0)sage :2004/09/06(月) 19:32 ID:i4DfxanI
 聖堂の鐘が鳴る。
 たくさんの列席者に囲まれて花嫁と花婿が、祝福のフラワーシャワーの中を歩いている。
 片眼鏡をかけて栗色の長髪を一つにまとめた線の細い花婿。
 普段はウィザードのローブを身につけているせいか、タキシードにはかなり違和感が
あるらしくガチガチに緊張している。
 その隣で、カラスの濡れ羽色の長い髪にヴェールをつけ、濃紫の法衣ではない白く輝
くウェディングドレスを着た彼女の姿は、とてもきれいで幸せそうに見えた。

 私は渡せなかった花束を持ったまま、それを遠くから見つめていた。






 私の名前は、アルリナ。俗にMEプリと呼ばれる退魔術を極めたプリーストだ。
 詠唱の速さと知識を極めたものにしか使いこなせない退魔術の最高峰のマグヌスエク
ソシズムと物理攻撃無効化の結界を武器に、魔物を粛清して回っている。
 元々、他人に奉仕する崇高な精神など持ち合わせていなかった私がプリーストになっ
たのにはわけがあった。

 私には8歳年上の姉がいる。

 名前はサリカ。
 厳格で生真面目だが優しい性格の敬虔なる支援プリースト。

 私がプリーストになったのはこの優しい姉に憧れたからだ。

 その姉が 今日結婚した。
 相手は、姉が所属するギルドのウィザード。

 二人はそのギルドでは公認の仲だったらしく、二人の結婚はそれはそれは祝福された。

 支援型プリーストの彼女とは良い組み合わせだと思うかもしれない。
 だが、それは体力もある耐えるプリーストの場合だ。

 ……姉は詠唱の技巧を追うプリースト。

 前衛との組み合わせなら最高だが、ウィザードとのペアには全く向かない。
 それどころか、逆に死の危険性すら見える。
 それでも、結婚相手として彼を選んだということは愛がいかに深いか如実に表してい
るけれど。

 今時、詠唱の技巧を追うプリーストといえば、私のようなMEプリぐらいだから、
MEを持っていない完全支援だと言うと大抵の人間に驚かれるらしい。
 一度だけ、体力もつけたらどうかと諭したが、彼女は首を振ってそれだけはしないと
言った。
 「どうして?」という、自分の言葉に彼女は笑いながら「パーティの人に詠唱するた
びに待たせてストレスを与えたくないし、詠唱速度を極めたいから」と言っていた。

 だが、私は知っている。
 彼女は愛する人のために、あえて詠唱技巧を追う支援型のプリーストになったのを。

 それは、今日の結婚相手のウィザードではない。
 アコライトのころに出会って、ずっと慕い続けていたとある騎士のためだ。

 今……その騎士は、もうこの世にはいない。

 その死に様は無様なものだった。
 プロンテラの裏路地にある連れ込み宿で、背後から刺されて殺されたのだ。

 もちろん、公式の記録にはそんなことは一つも書かれてはいないけれど……。

 なぜ自分がそれを知っているかって?

 

 

 それは………

94背徳の花香炉(1)sage :2004/09/06(月) 19:34 ID:i4DfxanI
 私はゲフェニアダンジョンに向かう為に、いつもゲフェンを拠点にしている。
 プロンテラに帰れば、実家もあるし宿代も浮くのだけれど優等生な姉と顔をあわせた
くないため、宿屋住まいをしているのだ。
 数少ないけれど、露店を開いてくれる商人もいるし困ることもない。

「白ポーションを20個と青ジェムを100個くださいな」

 中央カプラ横のいつもの定位置で露店を開いているアルケミストに、私は声をかけた。

「毎度あり! リナさん、いつも大量に買ってくれるから助かります」

 微笑を浮かべて、品物を手際よく紙袋に入れて渡してくれる。

「お互い様。貴方の露店がないと、私赤字が出てとてもじゃないけどやっていけないのよ?」

 彼の名前は、ジュダ。
 濃紺色の髪を肩で切りそろえて、ミニグラスをかけている。
 たぶん私よりも年上……姉のサリカと同い年くらいだと思うが、正確な年を聞いたこ
とは無いからわからない。
 彼の少し貧弱そうな雰囲気がいかにも研究している錬金術師といった感じで、恐らく
彼は製薬型のアルケミストなんだろう。

「あはは、そういってくれると嬉しいですよ。これは、おまけ」

 そう言いながら、彼は別の紙袋を私に投げてよこした。
 慌てて受け取って中を開けて見ると、高価な青ハーブから作られた青ポーションが三
個入っていた。

「貰っていいの?」
「無理しない程度に、一休み一休みでね。それでも、疲れたら飲んで下さい」

 彼、ジュダの作るポーションは手作りだから市販品よりも遥かに安い。
 青ジェムにしても、その他の消耗品にしても他の露店よりも格安で売っていて、この
街を拠点としている私は本当に彼に感謝している。
 そして、露店で買い物をするので彼とは顔見知りになり、こうやっておまけと称して
度々、高価な青ポーションや珍しい宝石までくれるようになっていた。

「いつも、貰ってばかりよね……何かお礼しないと」
「ああ、気にしないで。これからも贔屓にしてくれればいいんですから」

 いつもの笑みを浮かべて、露店の商品を補充しながらジュダは言う。

「何でもいいんですよ、何か欲しい物とか……して欲しいこととか」

 自分でできることなら、彼に何かしてあげたい。
 その言葉に、ジュダはカートから出したポーションを持ったまま少し考え込むと口を
開いた。

「んー……じゃあ、今度一緒にどこかに遊びに行きましょう」

 ミニグラスの向こう側から、サファイアのような濃紺の瞳で見つめてくる。
 真顔でそう言われるとは思わなくて、思わず私は鳩が豆鉄砲を食らったような表情を
浮かべてしまった。

「……えーと……あー、そっか……狩のお誘いね。うん、それならアコライトレベルの
支援しかできないけどがんばるよー。非公平でもかまわないからー」

 レベルを聞いた事はなかったけれど、たぶん公平は組めないはず。
 ソロが主体のMEだけど、たまには支援の真似事も良いかな。

「いや、狩の誘いじゃないですよ。観光地や展望台とかを二人で見に行きたいなと思い
まして」
「……からかってる?」

 自慢ではないが、私は生まれてこの方、男性の誘いなど受けたことがない。

「いいえ、リナさん。からかっても面白くは……いや面白いかもしれませんが、今回は
真面目に言ってますよ」
「……冗談でしょ?」

 いつも誘われるのは姉の方で、私は本当に同じ親から生まれたのだろうかとよく思っ
たものだ。

「冗談でも嘘でもないです。本気です」

 慌てる私。
 対照的にいたって冷静なジュダ。

「それとも、リナさんは一度言ったことを破るような人なんですか?」

 クスクスと悪戯っぽい笑みを浮かべて、彼は更に私を困惑させる。

「いいわ、わかったわよ。いつが良いの?」
「じゃあ、明日。朝、宿まで迎えに行きますよ」

 唐突すぎる提案は、やっぱり唐突な日程。

「……わかったわ。約束ね」
「ええ、楽しみにしてますね。じゃ、狩に行ってらっしゃい」

 手を振るジュダに見送られて、私はGDに向かった。

 ……しかし。

 その日の狩は明日のことで頭がいっぱいで、ろくに魔物を狩ることもできずに終わっ
たことは秘密にしておきたい。
95背徳の花香炉花のHBの人だったりします sage :2004/09/06(月) 19:41 ID:i4DfxanI
木陰から、こんばんは。

書きかけがいっぱいあるんですが、どうしても書きたい題材が
できてしまったので、書き始めてしまいました。

書き上げてから投稿しようかと思ったのですが……
そうするといつ完結するのやらになるので……決意表明をかねて。

数日中に続きを書きに来ます。

ではまた……
___ __________________________________________________
|/
||・・)ノ
96名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/06(月) 21:48 ID:Z/NQKsig
>書きかけがいっぱいあるんですが、
この発言と氏の作品の現状を鑑みるに、ちゃんと完成させてから投下して
欲しいと考えるのは自分だけだろうか…。
97名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/06(月) 22:01 ID:1E6TJd0k
同意。
9837sage :2004/09/07(火) 22:24 ID:w279cosU
|ω・)…
|)ミ<よっしゃ投下。
9937/1sage :2004/09/07(火) 22:25 ID:w279cosU
「月は昔から人を狂わす…なぜだろうな」
「美しさ故に…いや、人の狂気を映す鏡となりえるからか」
「私は……一体誰なんだ?」
一人月下に問う。
―――答えるものなど居ないというのに。

RagnarokOnline/ShortStory.02 「夜を駆ける」

カプラサービスの空間転送を利用しアルベルタまでやって来たエイルと蒼穹。
夜の帳が下り、月は煌々としている。
オークションの会場は、南側のカプラサービスが駐在している広場を貸しきって行われるという話だった。
「しかし、2年も探し回った挙句がオークションでひょっこり出てくるとか、正直どうよ」
そこはかとなく疲れた声のエイル、背には愛用のハルバードを背負っている。
「それは仕方あるまい、むしろ見つかったことを感謝すべきではないかな?」
隣を歩く蒼穹は、きわめて平然と返す。
「そりゃぁそうだけどさ…なんかこう、神様信じる気とかうせねぇ?」
「元から信仰する神など俺には居ないぞ」
なるほど確かに、と納得するエイル、それでいいのかッ!?
「しかし、こんなに遅くていいのか、もうオークション始まってるはずだぞ」
「名目上、エルロンド伯推薦の補充警護ということになっているからな、巡回しにきたと言えば問題なかろう」
「結構ずさんだなぁ…っと、あれかな?」
広場とおぼしき所から喧騒が伝わってくる、が―――
「おい、なんか変だぞ」
「ああ…そして俺の目が見間違いでなければ」
「なんかあったのか」
「指名手配中の過激派革命軍のリーダーらしき奴が見える」
「なっ…」
「ついでに言えば参加者にも負傷者が多数見えるな」

「聞け、この場は我々"聖域革命軍"が制圧した!抵抗すればそこいらに転がっている貴族共のように血だるまになるぞっ!!」
リーダー格の男騎士が悠然と、演説に近い喋り方で、確実に恐怖を煽っている。
歩くたびに帯刀したクレイモアがグリーブとあたり、カチャリカチャリと音を立てる。
騎士団から派遣されている守備隊はといえば、下手を打てば貴族が危険にさらされると言う事で動けない。
完全に後手に回ってしまっている。
「我々の目的はある品を頂くことだ、市民に殺戮の限りを尽くすわけではない!」
「そこの所を理解していただければ、我々も早々に引き上げよう!」
ステージ上では、仲間と思しき者達が既に捜索を始めている。
目的の物を発見できれば危害は加えられないと言われた為、貴族達は守備隊に下手に手を出すなと喚き散らしている。
誰だって死ぬのは怖いのだ。
その時、ステージ上から声があがった。
「隊長、ありました!」
そういって一人の女騎士が右手に細長い棒状のものを掲げる。
長さは2メートル近い、先端に鋭利な刃が付いているそれは、遠目にでも槍と分かる代物だった。
「ふむ、首尾は上々、では引き上げるとしようか」
そういって男は、一番近い位置にいた、太った貴族を一瞬で両断した。
切られたものは自分がどうなったかすら分からないであろう速度だ。
その太った体がゆっくりを前に倒れ……中身をぶちまけた。
「一つ言い忘れていたが、我々が手を出さない、といったのは市民に対してだ。貴様ら腐った貴族を助けてやるとは一言も言ってない」
男が笑みを浮かべる、それはとても楽しい事を見つけた子供のような微笑みと言えるほど。
「ひ…ひぎゃぁぁあああああああ!!」
近くに居た為、大量の返り血を浴びたものが悲鳴を上げる。
それが引き金となり、恐怖という病気が伝染する。
10037/2sage :2004/09/07(火) 22:25 ID:w279cosU
「っくそ、人が多すぎるぞ!」
広場から逆流してくる人の流れにエイルは立ち往生していた。
「大体守備隊はなにやってんだ!安々と敵の侵入を許すなってのどわっ!」
誰かの裏拳が顔面にクリーンヒットした勢いで壁際まで移動するハメになる。
「だーもう!どうにか手はないのか蒼穹!…ってあれ?」
横を見ると蒼穹の姿が無い、はぐれたのかと思ったが
「おいエイル、俺は先に行くぞ」
頭上から声、よく見れば屋根を伝って走っていく蒼穹の姿が見えた。
「あー!てめぇそんな裏技隠してないで最初から言えよ!!」
罵声をあげつつも一息で壁の上に飛び乗り、そこから手近な屋根に乗り移るエイル。
アルベルタは屋根をテラスにしている家も多い為、飛び乗りやすい。
蒼穹に負けず劣らず、屋根を飛び移っていくエイル。
ゴールはすぐ見えた、広場北側の建物の屋根に飛び移る、が。
「クソッ!」
飛び移った勢いそのままに右に飛ぶ。
着地した地点に突き刺さる投擲槍。
「そこまでだ、何者かは知らぬが此処を通すわけにはいかない」
前方を見やれば、深い藍色をした髪を風に揺らす女騎士がいた。
「あんたらがこの騒ぎの首謀者か?」
「そうだとしたらどうする?」
「悪いが、押し通るまでだ」
エイルのセリフに女騎士が笑いをこぼす、まるで上等の獲物を見つけた狩人のような笑みだ。
「お前よりこっちのアサシンの方が歯ごたえがありそうだ」
一閃、振り向きざまに蒼穹と女騎士が刃を交える。
「…ッ!」
カタールの刃を引き戻し後退する蒼穹、奇襲は失敗した。
「なぜ分かった、という顔をしているな、アサシン」
「―――エイル、先に行け」
「了解、死ぬなよ親友」
「そう簡単に死ぬかボケ」
右手の縁から飛び込むエイル、広場にいた数名が気付いたらしい声をあげる。
「ふむ、お前一人で私を止めるというのか、随分と舐められたものだなアサシン」
「それはこっちのセリフだ、なんでお前がこんな所にいる、アルエナ・クリストファ」
「…何故、貴様が私の名前を知っている?」
「何故?ちょっと待て、とぼけているつもりか?」
「私を侮辱するつもりかッ!アサシン!!」
強い怒気を含む声とともに右手から殺気が迫る。
「ックソ、どうなってんだ!」
ツーハンドクイッケンによって高速化された斬撃を全て受け流しつつ、蒼穹は毒づいた。

「侵入者だ!殺せ!」
「うわっ短絡的すぎだよあんたら!ていうか弁明というか情状酌量の余地とかないのかっ!!」
使い方が無茶苦茶な言葉を散らしつつ、迫ってきた多種多様な相手の武器をひらりひらりを回避するエイル。
(ナイトにローグ、ハンターまでいるよオイオイ、勘弁してくれよ…)
流石に回避し続けるばかりでは打開策はない。
「ええい、あんまやりたくないけど仕方ないかッ!!」
背負っていたハルバードを抜き放つ、と同時に金色のオーラを纏う。
「疾く速く 我は貫き穿つ スピアクイッケン!!」
眼前に迫ってきたローグを槍の柄で素早く打ち据える。
「悪いが通してもらうぞ!」
一閃、点の突きから線の斬撃へ、迫ってきたナイトを切り伏せる。
目指すはこの騒ぎの中央、ふざけた革命ヤローの居る場所だ。
10137と愉快な台風sage :2004/09/07(火) 22:27 ID:w279cosU
>>38
期待させてすまんかった○| ̄|_
しかも正直レス遅いし、漏れ /y=-( ゚д゚)・∴∵ターン

>>93の人
Σ(゚д゚;)
もすぬごい人に感想もらっちゃった(*ノノ)
昔の文神様みたいなんて…ヘタレかつ3流以下の私にはもったいないお言葉であります。

>>|゜ω゜)氏
するっと読める文体だったでしょうか?
中の人湾曲した日本語使ってると指摘されたことがあってかなりビクビクしていたのですが(苦笑)。
そしてハルバ萌え同士発見(´∀`*)
いいですよねハルバ、ごついしごついしごついし(何)。

そして02の投稿が遅くなったことにお詫びを○| ̄|_
台風の影響で停電→UPS炎上→ラプタン死亡焼き豚完成という素敵なお土産を貰いました。
記憶の断片を集めて02復旧させてみましたが、なんか詰めが甘い…精進足りませんでまったくお詫びのしようががが。
    || ||
    || |
    ||  自棄になってワイルドアームズ AlterCode:Fを友人から借りて来たのは秘密です、ぜったいに。
  ∧||∧
 (∩ ⌒ヽノ    モウダメポ
  \   _⊃
    ∪  Σ ______
        ≡| ファルガイア |
102('A`)sage :2004/09/08(水) 02:21 ID:4kj5RnTI
 Ragnarok Online Side Story "Confrontation of fate"


 アルギオペの群れを蹴散らし、剣を振るう男の姿が目に焼き付いた。
 それは、弱いウィザードの少女にとってあまりにも鮮烈で、恐怖さえ覚えるほどに、衝撃的だった。
 男が剣を振り下ろすたび、地が割れるかの様な凄まじい轟音が響き、光の軌跡を描く。
 巨大な赤い蟲を、いとも容易く持ち上げ、断ち割る。
 そして、目にも止まらぬ早さで、次の敵へ。次へ、次へ。
 まるで戦神の如き戦いだった。
 仲間達を引き裂き、貪った魔物達が怯え、死に絶えていく。
 奇跡か、救いか。
 何でもいい。この機を逃してはならない。
 ―――死にたくない。
 男の攻勢に混じり、エスリナは無我夢中で魔法を詠唱した。

 全てが終わった後には、暗い森に残された男とエスリナの周りに見果てぬ死骸の山が出来ていた。
 精神力を使い果たし、荒い息をする少女へ、男が向き直る。
「戦え」
 どんな麗句を並べるのかと考えていたエスリナは、一瞬、何を言われたのか分からなかった。
 男は蟲の体液に濡れた剣を虚空に一閃させ、拭い、歩き出す。
「死にたくなければ戦え。死ぬまで諦めるな」
 ざわざわと魔の気配が蠢く森へ、男は向かっていく。怯みもせず、剣を構え、立ち向かっていく。
 光を湛えた剣は闇を裂き、魔を討ち滅ぼす。
 エスリナは彼の背中を追った。戦う力など残ってはいなかったし、身体のあちこちの傷が痛んだ。
 だが、彼女はこの男と共に戦う事を選んだ。
 それは運命にも思えたし、必然のようでもあった。

 

 男は後に、軍の英雄として称えられることになる。


 『追い討つ者 2/2』


 カーレルヘイムの説明が終わった後で、エスリナはプロンテラ城の自室で支度を終えると、テラスに出て遠い城下街を
眺めていた。
 深夜のプロンテラに、数百の灯火が見えた。それは、まさしく人々の生活の光で、エスリナにとって最も遠い存在だ。
 軍人であり、城の宮廷魔術師。巷では"魔女"と呼ばれる少女には、全く縁の無い物だった。
 しかし、明日にはそこへ――城や戦場以外の場所へ、出立する手筈になっている。
(どうにも…気乗りしないな)
 テラスの柵に肘をついてみるも、重い気分は一向に晴れなかった。
「…結婚、か」
 ヌーベリオス=カエサルセントとサリア=フロウベルグの関係を知り、少なからずショックを受けていたのかもしれない。
 カエサルセントはエスリナにとっての目標であり、恩人であり、上司であり、憧憬の対象だった。
 命を救われた日以来、彼の下で働く事が充足に繋がっていた。
 少しでも強くなり、役立てるならばそれが最上だと思っていた。
 だが、カエサルセントはエスリナを褒めた事がない。ただの一度も、労いの言葉さえかけた事がない。
 会話も数えるほどで、それも軍務や戦いについての話だ。
 それさえ、最近では全く無くなっていた。
 そのカエサルセントの命で、彼の婚約者を連れ戻さなくてはならない。
「何だ、この滑稽な任務は…」
 エスリナは乾いた笑みを浮かべ、自分の歩んできた、険しく殺伐とした日々を振り返る。
 敵を殺した。部下も沢山死なせた。戦いの日々。
 城で戦ったあの日も部下が一人、死んだ。
 あの時、あの女騎士に敗北しなければ、こんな惨めな思いをしなくても済んだのか。
「そんな筈もない、か…」
 柵にもたれて突っ伏す。
 俗っぽい、いじけた様子を演出して見せる。指で『の』の字を書き、ひたすら自虐的になってみた。
 そこに、周囲から畏怖されるウィザードの姿は無い。
「可愛いよエスリナ、エスリナ可愛いよ」
「そ、そうか…?」
 何処からともなく聞こえる囁きに、つい顔がニヤけてしまう。が、すぐに我に返り、
「…だ、誰だ!?」
 喚き立てながら、室内を振り返った。
 白い髪に、へらへらとした笑みを貼り付けた顔。普段見かける精悍な騎士達とは違った、優男。
 それでも彼は騎士の格好をしていた。
 ルーク=インドルガンツィア。
「うっす。何かしょぼくれてるな、少佐殿」
 先程出会ったばかりの青年は、軽く右手を挙げて馴れ馴れしく挨拶をする。
「貴様には関係ない」
 不快そうに目を逸らし、エスリナはまたプロンテラの街並みに視線を戻す。
 肩透かしを喰らったルークは、少しつまらなそうに笑い、エスリナの部屋からテラスへ歩み出た。
「もっと怒れよ。勝手に入ってくるな!…とかさ」
「…貴様はマゾか?私を怒らせて何が楽しい」
 ふん、と鼻を鳴らす。
「ハァハァ、もっと罵って…ぶぁ!?」
「黙れ」
 ローブの下から取り出したアークワンドでルークの顔を強打する。
 ルークは激痛に悶えながらも、ずるずると背を柵に任せ、やがて何事も無かったかのように、眼下に広がる夜景を振り返る。
「ん、良い夜だ」
 そう言う彼の目は、明日から追撃に出るというのに、何処か楽しげだった。
 アルベルタの騎士だという青年。
 ――強いのだろうか。
 漠然とした疑問が沸いた。エスリナはルークの爪先から髪の毛までしげしげと観察する。
 ふと、腰に下げた剣に違和感があった。カーレルヘイムは立派なクレイモアを下げていたが、ルークは古い軍刀…サーベルを
帯びている。問題は、それが左右で二本、用意されている事だ。
「…一振りあれば十分だろう」
「ん…あぁ、これは何て言うか…予備って奴だよ」
 ルークはエスリナの指摘に曖昧に笑い、二本のサーベルをマントで覆い隠した。
「俺はあんまり強くないから、こういうとこはキッチリしとこうかと思ってな」
 あまり強くない?
「弱いのか」
「ああ」
 きっぱりと断言するルーク。聞いたエスリナが、呆れを通り越して悲しくなる程だ。
「どれくらいだ」
「ゴブリン二匹に勝てないくらいだと思ってくれて良い」
 真顔で言った。ゴブリンというのは森に住む亜人の一種だ。よく魔物と混同されているが、基本的には独自の言語と文化を持つ
知的種族である。とはいえ、人間に比べると知能も低く、体格も決して大きくない。
 むしろ、弱い種族だ。
 具体的には、ゴブリン一匹とノービス上がりの剣士やらが大体同じくらいの実力だろう。
 それを考えれば、ルークの喩えは程度が低すぎた。
「…何でお前みたいなのが…」
 溜息混じりに言うエスリナに、ルークは肩をすくめて「さあ?」といったポーズをとって見せる。
「でも、あのプリースト…カルマの実力は保証する。あいつは強い」
「敵同士だとかと言っていたな」
「昔…ってほど前でもないが、戦った事がある」
 ルークはそれ以上は語らず、夜景へ視線を戻した。エスリナもそれ以上は聞かず、
「だが、戦力は多い方が良い。もう一人…弓手を連れて行く」
 淡々と告げる。エスリナは追う相手の実力を、身を以て思い知っていた上に、イズルートで戦った部下からも報告を受けていた。
 例えカルマが強くても、たかが三人で事を構えれる相手ではないのだ。
 特に、あの金髪の女騎士は。
「…酷い顔だな、少佐」
「…え?」
「鏡見ろ」
 ぼやついた口調で言うルークの目に、底冷えのする光が見えた。
 そんなに自分は醜い顔をしていたのだろうか。
「気合い入れるのは良い。どんなツラしようと勝手だ。でもな…」
 不愉快そうに吐き捨てるルーク。続く言葉を飲み込み、溜息をついてから、また言った。
「…ちっとは笑えよ。敵しか寄ってこないぜ、そんなんじゃ」
103('A`)sage :2004/09/08(水) 02:21 ID:4kj5RnTI
 広いプロンテラ城内を駆ける影があった。
 兵卒ながらも、弓の腕には一目置かれる女兵士。
 レティシア=アイゼンハート。
 やや小柄で、腰まで伸びた蒼い髪。ズレた軍帽が、激しい歩調に合わせて上下する。
 彼女は今、敬愛するウィザードの姿を探していた。
 祝宴の席から消え、詰め所にも顔を出していない。情報の早い兵士の話では、明日何処かへ出立するという話だ。
 いつもの彼女は、そういった話があればレティシアの所へきちんと挨拶に来る。
 先の北伐による長期遠征でも、ちゃんと一声かけてくれたものだ。
 それが、今回は何も聞かされていない。
 冗談じゃない。
 レティシアは目に見えて憤慨していた。
 自分と"少佐"の絆は、他人には想像もつかない程に深く、固い。
 少なくとも、レティシアはそう信じていた。
 任務だか何だか分からないが、危ないかもしれない場所へ、黙っていかせる気はさらさら無い。
 廊下の角を曲がる。その先に"少佐"の部屋がある。
 彼女はそこに居るはずだ。
「ぶふっ」
 が、目的地に着く前に、レティシアの視界は暗転した。
 柔らかい、とはいかないまでも、さほど苦にならない程度の衝撃と、布の擦れる音。
 視界は真っ黒だった。
 それもその筈で、レティシアは角の向こうに立っていた黒服の人物の胸板に顔を埋めていたのだ。
「…」
 レティシアは、ゆっくりと、ごく慎重に顔を上げて相手の顔を見上げる。
 普通、ぶつかった相手は咎めたり心配したりする言葉を発するだろう。
 だが、それがない。全くの、無言。
 相当に怒っているか、或いは呆れて物が言えないか、だ。
 刺激しないよう、控えめに相手の顔を見た。いや、見ようとして、見れなかった。
 白くのっぺりとした白磁の仮面。色素の薄い栗色の髪は、何処か色褪せて見える。
 仮面の人物はレティシアを見下ろしていた。仮面に開いた穴の向こうの目と、見上げる少女の目が交錯する。
 どちらも視線を逸らさなかった。
 逸らせなかった。少なくとも、レティシアは逸らす事が出来なかった。
 体格からして若い男。いでたちはプリーストに見える。しかし、受ける印象は聖職者とは程遠い。
 暗いのだ。この男は。
 根が暗そうだとか、そういった性格のものではなく、まるで世界中の虚無を一身に宿したかのような、
 救いなど与えそうにない、むしろ救われない、死して打ち棄てられた者のような。
 意思も精気も感じられない、何もない、男。
「…や、やあ」
 プリーストが困ったように声を発した。
「僕の顔に何かついてるかな」
「い、いふぇ、ぶぇつに」
「そう…それじゃ、離れてくれると…助かるかな」
 仮面の下に覗く口元が、ふっと柔らかい笑みを浮かべる。
 それでもレティシアは動かない。プリーストの胸から、仮面を見上げている。
 何かついているかだって?
 とんでもない。ついているに決まっている。
 仮面の下が無性に気になって仕方がなかった。
 恐らく困り顔であろう、仮面の下は、どんな顔なのだろう―――
「…だああああああああああ!貴様はぁぁぁっ!!」
 不意に、奇妙な出会いを果たしたレティシアとプリーストは、何処からともなく響く怒声を聞いた。
「ま、マテ!少佐!ときに落ち付けってぇぇぇ!?」
「大体貴様は言うこと成すこと全てが不快なんだっ!初対面でズケズケと部屋に来ておきながらぁっ!」
 悲鳴に似た叫びと、ヒステリックな咆哮。
 続いて、雷鳴。
 呆気にとられたレティシア達の前に、ぶち破れたドアから焦げた騎士が転がり出る。
「お、俺は可愛い顔が台無しだって言おうとしただけだっ!」
 こんがり焦げた白髪の騎士が怒鳴った。
 途端、雷撃で粉砕されたドアから出てきた長身の少女が硬直する。
 が、すぐに真っ赤な顔で烈火の如く怒りをぶちまけた。
「そ…そういう所が不快だと言っているんだっ!!」
 ぶん、と振り下ろされるアークワンド。
「なんの!」
 騎士は白羽取りでそれを止め、体力勝負の鍔迫り合いに持ち込み―――
「カ、カルマ…ちょっと助太刀頼む…殺され…」
「レティシア!この男を射殺せ!許可す……」
 そんな二人が同時に横目で見たのは、傍目には密着して乳繰り合っているようにしか見えない女兵士とプリーストで。


 旅の面々は、嫌な沈黙の元に集ったのだった。


「―――で、彼女達は」
「支度中」
「行かないのかい?」
「マジで殺されちまうよ。兵士の子が着替えてる」
 月下。
 黒いプリーストと騎士。
 騎士は苦笑し、プリーストは仮面を取る。
 深夜の、城の庭園。
「お前こそ、何か用事があって少佐の部屋の前に居たんだろ」
「…いくつか確認したかっただけだよ」
 月明かりに映える、プリーストの素顔。
「やはり…そうか」
「色々とね、あったんだ」
 穏やかな少年の顔に、苦渋の色が見え隠れしていた。
「だから、出来れば、僕の過去を知る人に会いたくはなかった。特に、あの戦いで戦った人達には」
「…死んだと聞いた」
「死んだよ。だから、今の僕は"カルマ"だ」
 カルマは言い切ると、異形の仮面を戻し、月を仰ぐ。
「貴方はどうなんだろうね、"ルーク"」
「はぐらかすんじゃない!俺のことはどうでもいい!」
 騎士は偽りの名を呼ぶプリーストへ、厳しい眼を向けた。
「あの子は…セシルは知ってるのか!?」
 カルマは答えず、戯れる様に踊って見せる。
「答えろ…カルマ!あの子は…!」
 怒鳴り、気付く。
 くるくると回るカルマの動きが、ぎこちない。
 ルークは、何も言えなくなった。
 思えば、"カルマ"が"死んだ"状況を考えれば、全くの無事で済む筈が、無かったのだ。
「…右半身」
 プリーストは動きを止め、告げる。
「生身じゃないんだ」
 滑稽そうに、カルマは笑った。
「こんな姿で…会えるわけないじゃないか」
「…そう、か」
 沈黙が流れる。
 かつて対峙した青年と少年は見つめ合い、
 やがて、どちらともなく視線を闇夜の空へ向けた。
「目的は同じと思って良いのか、カルマ」
 プリーストは頷く。
「あの人を助ける。今更、赦されはしないだろうけど、僕が死ななかった理由は、それくらいしか思い付かないから」
 再び大きな流れに巻き込まれていく少女を想い、"罪"の名を持つ少年は言った。
 仮面の向こうの表情を隠したまま。


 いそいそとアーチャーの衣装に着替えたレティシアは、ご機嫌だった。
「やっぱりエスリナ様が黙って私を置いていくなんて、あり得ないですよねー」
「浮かれるなよ、レティシア。日が昇る前に出る。あまり眠れない旅になるぞ」
 青い衣装に、レティシアの青い髪がよく似合った。
 厳しい事を言いながらも、エスリナは眼を細めて僅かに笑みを溢す。
 自分ではこうはいかないだろう、と。
 しかし、すぐに憎たらしいルークの顔が思い浮かび、考えを打ち消した。
 戦いに生きる魔術師に、愛らしさなど不要だ。
「あの人達と一緒なんですよね?」
 レティシアがテラスから庭園を指さした。見れば庭園にルークとカルマの姿があった。
 遠目には何を話しているのかは分からなかったが、恐らくは、少しでもわだかまりが解けたのだろう。
「ああ、そうだ」
 答えてから、エスリナはこれが冒険者でいうところの"パーティ"なのだろうかと考えた。
 ナンセンスだった。
 これは任務だ。好き好きでやっているのとは、違う。
 けれど。
(何だ、この安心感は)
 必死で戦ってきた。これからも、そうだ。
 自分が死なない為に。部下を死なせない為に。
 今回もその延長線上にあり、イコールの筈だった。筈だった。
「あのカルマって人、どんな顔してるんでしょうねー。気になるなー」
 揚々と、レティシアが黄色い声を上げる。
 あの黒いプリーストが気に入ったらしかった。
 何故か、そこでまた憎たらしい白髪の騎士が思い浮かぶ。
(…まぁ、いいか…)
 信頼、とまではいかなくとも、どのみち戦いは近いのだから。
104('A`)sage :2004/09/08(水) 02:30 ID:4kj5RnTI
今晩は。投下していきます。


>>60、61さん
滅茶苦茶嬉しいです。ありがとうございます。
忙しい上に遅筆なもので…すみません。でも、頑張ります。

>>鍛冶師さん
前作のキャラはあくまでサブキャラですが、何か情が移ってしまって割り切れてないのです。
ダメダメですね。はははorz


では、また。
105名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/08(水) 02:37 ID:VW0CXAc6
>えべんはさま
戦争ダッ! 自分の作ったアフォ悪役が人様の手にかかるとかっちょよくなるのが不思議です。
ヤコブくん、いい死に方できないね…。ケケケ。あと、クリストフ氏命名ありがとうですー。

で、BOSS格ですが、私のnounaiでは連中は普段は激しく手を抜いていたか、デッドコピーを
人間界に放り投げて本体は魔界でのほほん、としてたことになってます。なので、個人的には
どんなに強くなっても可でつ。

でも、名のある登場人物でもそれに匹敵する人間がいてもいいかな、と。例:ままぷり。
そういう英雄様は、現実RO鯖のオーラより希少であってほしいですが、いないとツマンナイ。

以上、読み手としても書き手としても、こうだといいなな希望ですタ。


>HBさま
おひさしゅう。私はあなたのファンなので、読めるだけで幸せです。好きなように投稿して頂ければ
いいとは思います。人それぞれなペースがあるし、書き込むこと自体が励みになることもあると思うし。
でも、ながいこと待つのはつらいです(´・ω:;.:...

>37
HBしに続いて氏もおひさしゅう。今回は苦言を呈しちゃうぞ! 代名詞を使ってくれるとうれしいです。
2になって、文内でずっとエイル、蒼穹と書かれていたのですが、たまに“暗殺者は”、とか“騎士は”とか
書いてもらえると、前を参照しなくて読みやすくなるなぁ、とか。

……希望ですよ。強制じゃないデスヨ?
106名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/08(水) 02:48 ID:VW0CXAc6
>('A`) さま
リアルタイムキタ━━━━ヽ(゚∀゚ )ノ━━━━!!!!
サブキャラでも( ・∀・)イイ! 読者にも作者にも愛されるキャラを作れるのは素晴らしいことだと思います。
そんなひとに、私もなりたい。

バニくん、踊れなくなっちゃったのか…。幸せになれるといいねぇ。・゚・(ノД`)・゚・。
107名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/09(木) 00:22 ID:y5ca6Fsg
そうやって、何度目の空を見上げたろうか?
 いつかは魔界の長と呼ばれたモノは、暗い森の奥から、その上に広がってるであろう空を見上げる。
 その昔、施された封印は彼をこの森の奥へと追いやった。以来、何年の月日が経っただろう。
「おっさん」
 振り向くとそこには、何度か手合わせをしたことのあるクルセイダーの姿があった。
 『・・・お前か。また今日も懲りずに倒れに来たか?』
 クルセイダーは静かに首を横に振ると、彼、バフォメットの近くに座った。
 「なんか、アンタがそういう気分じゃないらしいな」
 バフォメットは再び空を見上げると、そのまま話しかけた。
 『人間、お前は自由か?』
 クルセイダーはしばらく考えると、同じく空を見上げて答えた。
 「かも、しれない。だがそうでもないかもな」
 「人にはしがらみが多いからな・・・金、異性、信条、価値、誇り・・・」
 「それらを捨てて、完全に自由な生き方を出来る人間なんざ、数えるほどしかいねぇよ」
 二人は、空を見上げる。暗い森の上に必ず広がってるであろう青い空を。
 『ならば人間、我は自由か? この暗い森の奥につながれた我は?』
 クルセイダーは再び考える。しばしの沈黙の後、彼は静かに答えた。
 「考えよう、だな」
 『我の考えによっては自由、ということか?』
 うなずくと、クルセイダーは続けた。
 「今のあんたは、確かに行動は封印されたことによって不自由だな」
 「だが、あんたは魔界の統治者としては解放されてる。その過程はともかくな」
 「ならば、それを自由と呼ぶことはできるんじゃねぇか?」
 再び沈黙が落ちる。
 やがて、静かに立ち上がったのはバフォメットだった。
 『人間、今日は気が進まないが、またいつか手合わせしてやる』
 森の奥へと、彼は去ってゆく。
 「なあ!」
 森の奥へと進ませた足を止め、バフォメットはクルセイダーの言葉を待つ。
 「いつか普通に逢える日が来るさ。あんたの女と、子供と」
 その時のバフォメットの表情は分からない。だが恐らくは笑っていたのだと思う。
 『・・・貴様が我を気遣うなど、百年早い・・・』
 そのまま去っていくバフォメット。一人、クルセイダーが残された。
 「・・・違いねぇ」
 クルセイダーは一人つぶやくと、その場から背を向けた。
 (だがな、おっさん)
 (俺は信じてるんだよ。魔物が人と生きられる世界ってやつを、さ)
 強い思いを胸に、クルセイダーは森を去る。
108名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/09(木) 02:27 ID:ch6IA5H.
>>107
バフォだー。GJデス。
個人的には同じような路線の話であるところの3スレ122氏の騎士とバフォの会話から、4スレを経て、
バフォの立ち位置も色々変わったなぁ、と感慨がひとしおですね。保管庫からあわせて見てみると
面白いかも(下のアドレスです)。
ttp://cgi.f38.aaacafe.ne.jp/~charlot/pukiwiki/pukiwiki.php?%A5%D0%A5%D5%A5%A9%A5%E1%A5%C3%A5%C8%A4%C8%B5%B3%BB%CE
109名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/09(木) 13:32 ID:BuV8WGWo
>ドクオ氏
今回、氏にしては珍しい展開っすね。楽しめました。
ルークにキレるエスリナ萌え(´∀`*)
110名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2004/09/09(木) 19:45 ID:y/lN3Wjo
にゅ缶のみんなで作る小説ラグナロクより。
小説スレの座談会があるそうです。
よろしければ、ここの文神様もいかがでしょうか。

791 :(New) (^ー^*)ノ〜さん [sage]:04/09/07 19:12 ID:eQ+o+yCa sage
780の中の人じゃないけど、座談会立案に便乗。
急な話なんで集まる人いないと思うけど一応。

9/9木曜日 20:00 鯖:Idun

合場所:プロ南MAPの左下の微妙な閉鎖空間。
行き方はプロ↓↓の砂漠マップはいって左にいくと↑にいける。

微妙な曜日なのは立案者が次の日が仕事休みだからです。
立案者の権限乱用しまくり。
立案者はリンゴ鯖にキャラがいないのでノビで参加します。
誰もこなかったら一人寂しくポリンとガチンコの予定です。
リンゴ鯖を選んだのはただ一番上にあるからです。深い意味はありません。
111名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2004/09/09(木) 20:32 ID:QX0WRBYo
↑の続きと言うか現状報告らしいが。

>現時刻でお一人いらっしゃったので感激にうちふるえている最中ですが
>どうにもこれ以上人がくる気配がないので、22時あたりに再度
>集まるという方向でお願いします。

>あやうく寂しくて死んでしまう所でした。
>ポリンと戯れてもヤツは簡単にハジけるし。

だそうですよー。
とりあえずポリン南無。
112('A`)sage :2004/09/10(金) 00:49 ID:9R4GWfc2
今、ノビ作り終わったんですが…遅いですよねorz
113道(1/7)sage :2004/09/10(金) 03:28 ID:FcpbYYsM
 ここに、ひとりの老人が居る。
 身なりは悪くない。だが王都の酒場のいつも決まったテーブルで、朝から飲んだくれていた。
 払いも悪くない。だが、その目は死んでいた。
 彼の酒はいつだって、追悼と悔恨のものだった。
 良い奴ほど早く逝くというのは本当だ。かつての仲間は皆天寿を終えて、こうして自分だけが老醜を晒している。

 ひとりは暗殺者。
 寡黙だが気のいい男だった。決して賑やかな性質ではないのに、彼と飲む酒は旨かった。
 沈黙が不思議と穏やかだった。好ましかった。

 震える手で杯を満たす。

 ひとりは魔術師。
 注意には二種類ある。己の知恵知識を誇示したいが為のものと、相手の身を慮ってのものと。
 口うるさいが、後者の注意しかしない男だった。いつでも。

 呷る。一息に。

 ひとりは司祭。
 お祭り好きで騒がしい女だった。いつかそれを口にすると、笑って答えた。
 祭りを司るから司祭と言うのよ。
実際いつでも生気に満ちて、ひどく魅力的だった。

 今はもう――誰もいない。彼以外は。

 それはその日の夕刻、突然に訪れた。
 酒場の喧騒を突き破り、轟音が響いた。びりびりと壁やテーブルが揺れる。
 既に出来上がって酔漢達が思わずを止めるほどに、それは激しく長く続いた。
「…」
 誰よりも早く異変を察した老人は、しかしやはり誰よりも早く酒杯に再度手を伸ばす。何が起ころうと知った事ではない。関
わる気などない。けれどその手を遮るように、さらに外から悲鳴が届いた。
「おいおい、なんだよ?」
 客のひとりが顔を出し、そして蒼褪める。
「悪性召喚だッ!」
 古木の枝、と呼ばれる呪具がある。簡単な魔法儀式を施すだけで魔物を召喚できる品で、主に魔術師達の研究素材として需要
が高い。だがそれには悪質な使用法も存在する。町中で複数の魔物を呼び出し、それが撒き散らす阿鼻叫喚を愉悦する。そうい
う使い方が。今回の騒ぎも、その手の不逞の輩の仕業なのだろう。
 知った事か、と老人は繰り返す。酒以外とは関わりたくもない世の中だ。腐り切っている。それに騒ぎはいずれ、腕に覚えの
ある冒険者達や城兵が鎮めるに違いない。俺の出る幕などあるものか。
 だが、違った。
「…おい、こりゃヤベぇぞ。皆逃げろ!」
 外を覗いていた客のひとりが、酒場中に触れる。
「首都中魔物だらけだッ!」
 後は、大騒ぎだった。外を覗いた者からパニックを起こし駆けていく。食い逃げだと叫ぶはずの店主は真っ先に裏口から逃げ
た。
 老人が腰を上げたのは、店に誰一人いなくなってからだ。するりと立った体躯は、齢を思わせない圧力を持っていた。強いき

臭さを感じた。だから彼は、黙って酒が抜けるのを待っていた。
 着の身着のまま、彼は酒場の戸口を抜ける。
 確かに、戦場の匂いがした。

 ――懐かしいな。

 夕日に染まった顔が、わずかな笑みを刻んだ。騎士として駆けた、遠い昔の顔だった。
114道(2/7)sage :2004/09/10(金) 03:29 ID:FcpbYYsM
 街はひどい有様だった。逃げ遅れた露天商が、喉笛を噛み破られて倒れている。何かと争い敗れた剣士が、両手足と頭をひし
ゃげさせて転げている。
 本来の棲息区域外に召喚された魔物は、皆凶暴性を増す。視界に入った人間全てに襲いかかるようになるのだ。
 それは、或いは恐怖の裏返しなのかもしれない。だが齎す結果は同じだった。
 ノービスの娘が恐怖の相を凍らせていた。首だけで。その体はどこにも見当たらない。炎術を受けたと思しき、四肢の焦げた
魔術師の死骸。哀れな事に、それで死ねなかったのだろう。顔には苦悶。命尽きるまで嬲られた形跡があった。
 魔物達は皆去った後と見えた。そうした惨劇の痕跡ばかりが延々と続いている。
 老人の体が震えた。恐怖に、ではない。

 ――これは。

 ぐっと拳を握り締める。

 ――この感情は、何と呼ぶものであったか。

 その時、小さな悲鳴が聞こえた。はっと見やれば居たのは花売りの娘。どこかに隠れて第一波をやり過ごし、死体の仲間入り
を避けたのだろう。だが、それも一時凌ぎにしか過ぎなかた。隠れていた彼女を見つけ出したのは黒犬。マーターと呼ばれる痩
身のその魔犬は、恐ろしい速度で人を噛み裂く。少女の命はまさしく風前の灯火だった。
 躍りかかる魔犬の顎。彼女は身を竦めて目を瞑り――。

 ――知った事か。

 そう呟きたかった。だが思い出してしまった。胸に燻るこれの名を。それは怒り。理不尽なるものへの怒り。
 老人の体は自動反応していた。矢のような速さで踏み込み、勢いをそのままに、中空の魔犬へ拳を叩きこむ。ぎゃんと鳴いて
犬が転がった。彼は自嘲する。老いたものだ。筋力も体重もないから踏み込みが甘い。ひと打ちですませられぬとは。
「無事か」
 唇は自然にそう紡いだ。口を出れば慣れた響きだった。固く閉じていたまぶたを開けて、少女は信じられない、といった顔を
する。
 けれど彼女を安堵させている暇はなかった。先の一撃の恨みを込めて、標的を変えた猟犬が、老人の喉笛目掛けて襲い来る。
 その牙を、老寄りは辛うじて回避した。おじいちゃん、と子供の悲鳴。
 かすかに。微かに老人の目が微笑んだ。もうひとつ、思い出した。
 疾風の速さで続く第二撃。だが、彼はそれを待っていた。見事なカウンターだった。腰の捻りと腕の力。それだけで繰り出さ
れた拳だが、魔物自身の速度と体重がその威を倍化させる。今度こそ、犬は動かなくなった。
「あ、ありがとうございますっ」
 礼を言われて老兵は笑った。思わず吸い込まれるような、大きな笑顔。
「花を」
「え?」
 そう、彼は思い出した。それ故に、これより駆けねばならない。この街に残る者達を無事逃すべく。だからそれが済んだら。
「済んだら、花を買いに行く」
 ぱっと満開の笑顔になって、少女は頷く。
「待ってます。おじいちゃんが来るの」
 恐怖は払拭されたと見えた。その頭をひとつ撫でて、彼は示す。
「行け。西門までの道に魔物は見なかった」
115道(3/7)sage :2004/09/10(金) 03:30 ID:FcpbYYsM
 その剣士は若かった。経験も何も足りなかった。唯一の自慢は、苦労してやっと購ったその盾だった。けれど。
「逃げろ! もう持たないッ」
 そんなものは、なんの役にも立たなかった。眼前には牛頭人身の魔物。異常な膂力を誇るミノタウロス。振り上げる鎚は容易
く人の体を押し潰し破壊する。彼が持ち堪えられたのは、背中のふたりのお陰だった。侍祭と商人の少女。
 友人らしいふたりが震えているのを彼が見つけて、一緒にこの地獄の底から逃げ出す事にしたのだ。
 ふたりは彼の目的を明確にしてくれた。元より誰かを護る力が欲しくて、剣士を志したのだ。だから自分が倒れても、彼女達
は逃がし切ると、彼はそう決めていた。だというのに。
「出来ません! 見捨ててくなんてできるわけないですっ!!」
 商人が悲鳴じみた声で拒絶する。支援法術の多用で顔を白くしたアコライトも、黙って首を横に振る。
 気持ちは嬉しい。でも、このままじゃ。
 消耗戦、そして全滅。そんな思考が焦燥を生み、それが判断の誤りに繋がった。彼は大鎚の一撃を避け損ねる。
「ぐッ…!」
 防いだというのに。辛うじて盾で受けたというのに、喉の奥で血の味がした。がくりと膝が折れる。
「くそ!」
 自分が倒れたら。耐久力のない二人はあっという間に殺されるだろう。いや、それならばまだいい。おそらく嬲り殺される。
ゆっくりと時間をかけて。そんな事だけはさせない。させたくない。けれど。
「――くそッ!!」
 足が思うように動かない。太刀に縋ってようやく起きる。癒しが施術されない事を思えば、背中の彼女ももう気力切れなのだ。
 もっと。もっと力があれば。
 ふらつく彼をあざ笑うように、ミノタウロスは鼻息を吹き出す。ゆっくりと鎚を持ち上げる。彼にもう避ける力は無い。
 その時。
 老騎士は影のように現れ、躊躇わずに踏み込んだ。

 最前幼子を背に庇って、己が何故に剣を取ったか、それを思い出した。
 彼の手にはなんの武器もなかった。しかし。
 拳を見る。これは己が生き様。万人の護り。然り。ならば然り。この拳は、史上最強の拳骨である。
 どん、と大地が鳴った。足下で首都の石畳が割れた。
 一撃。無手の人間のただ一撃で、巨躯を誇る魔物の体は二つ折りになった。いい位置に鼻面が来る。
 右。左。右。さらに加えられた振り降ろしの拳が、ミノタウロスの命を終わらせる。魔物を肉の塊へと変える。
「あ…ありがとうございます!」
 呆然の体から我に返って、剣士が一礼する。老騎士は笑んだ。思わず笑み返したくなるような、大輪の笑い。
「いい覚悟だった」
「…え…あ」
 何を讃えられたかを悟った剣士は、かっと赤面する。
「西だ。宿の通りを抜けて行け。その近辺の魔物は駆逐した」
 救うべき者はまだ多い。それだけを告げて騎士は再び走り出す。
 剣士は背筋に奮えを感じた。男を目で追う。ああいうふうに年を取ろうと思った。ああいう背中になりたいと思った。
 生涯、この日を忘れまい。
116道(4/7)sage :2004/09/10(金) 03:30 ID:FcpbYYsM
 両の拳は血に塗れていた。返り血ばかりではない。硬い鎧の魔物を素手で砕けば、何者だろうとそうなる。
 だが、男は笑っていた。戦場には場違いなほどの笑顔。

 俺はお前を裏切った。だが。
 彼は己の肉体に言う。
 お前は、俺を裏切らないのだな。
 当たり前だろう。遠い日の自分が笑った。
 ――どちらも、俺自身だ。

 がらん、と硬い物の転げる音がした。老騎士が視線をやれば見れば力尽きた騎士。全身に矢を受けて、それでも彼は倒れてい
なかった。見事な立ち往生だった。その手が握り締めていた両手剣が、丁度地に落ちたのだ。まるで老騎士の到着に合わせたよ
うに。
 彼は歩み寄り、剣を手に取った。クレイモア。使い込まれ鍛え抜かれた武具だった。そして武具を見れば判った。その主もま
た、良い戦士だった。
「戦友。魂を借り受ける」
 矢風。呟きざまに飛んで彼はそれを避ける。路地の角に、鎧の魔物達。それらレイドリックと総称される、古城に在る具足に
憑いた実体を持たぬ魔物であった。
 弓を使うものが2体。剣を扱うものも2体。前者は走り来る老騎士を射止めようと躍起になり、後者はその進路を阻むべく立
ちはだかる。
「――散れ」
 だが、一太刀だった。彼の刃が先陣の魔物に叩きこまれ、それを爆砕する。砕けたその破片が弾丸に数倍する速度と威力とを
以て背後の者たちに襲い掛かり、彼らの拠り代を活動不能なまでに打ち砕く。粉砕する。
 いい剣だ。老騎士は笑う。一度たりとも言葉を交わさなかった戦友を思って。
 同時にすまなくも思う。己が朽ちさせた、かつての相棒に。あの剣もまた、良い剣だった。
 そして最後に、今の己を思った。
 酒の毒で手が震える。齢は隠せず息が乱れる。往時とは比すべくもない。俺は弱い。
 だが。
 だが、と騎士は続ける。
 俺は最初から強くはなどなかった。足りぬ技量を、及ばぬ力量を。いつだって必死の思いで埋めてきたのだ。
 若さで。気力で。時間で。武具で。
 けれど、老いた。体力も筋力も衰え、気力とて長くは続かない。援軍の当てがある訳ではないから、戦いを引き延せば不利に
なる。
 そして、武具は錆びた。技と同じく。
 ならば救えぬか。何者をも救えぬか。

 ――否。断じて否。

 それは在る。短所を補い覆し、さらに足るものが在る。ここに、この胸に。
 誇りは蘇ったのだ。

 俺は振り向いてばかりいた。あの日から。
 だが、判った。お前達は後ろなど居なかったのだな。
 この道程の先にこそ、再会は待っていたのだ。

 微笑んだ気がした。遠く、去ってしまった仲間達が。
 騎士は駆けた。金色の旋風を纏って。
117道(5/7)sage :2004/09/10(金) 03:31 ID:FcpbYYsM
 そこが、最大の戦地だった。無数の騎士達の屍。冒険者達の骸。それらから流れ滴った血が池を成して、比喩ではない屍山血
河を築いていた。
 魔物はそこに佇む。深淵の騎士とは、それへの恐怖と敬意を織り交ぜて囁かれる呼称だった。巨躯の不死族を従者として従え、
或いは大剣を以て断ち切り、或いは剛槍を以て薙ぎ払う。破壊の具象。そして武技の、ひとつの極みの形。
 その魔の前に立ちはだかったのもまた、騎士だった。
 老いていた。だが衰えてはいなかった。胸に再び燃え上がったものがその背を伸ばし、瞳を蘇らせていた。
 闇の騎士が人を屠り続けてきたように、彼もまた背後に幾多の魔を葬ってきていた。
 両者の視線がひたりと合った。瞬間に互いが相容れぬ存在だと知った。不倶戴天の敵と解った。
 ゆらりと深淵の騎士が馬首を向ける。歴戦の騎士が唇を舐める。
「推参」
 呟き、彼は駆けた。目は一度も足元を見なかったが、亡骸を踏みしだくような無礼無様はしなかった。
 蹄の下に骨と肉とを砕きながら、黒馬が歩む。従者――カーリッツバーグがその前に進み出た。本来ならば2体で番をなして
従う存在だが、先の人間達との交戦で、片割れは打ち砕かれていた。
 勢いをそのままに騎士が飛ぶ。加速と体重を乗せた斬撃が、進路を遮った魔物の巨体を揺らがせる。けれどカーリッツバーグ
もまた、最強の一角に座する魔物の従者。容易く倒れはしない。それまでの鈍重さが嘘のような速度で、魔物は刃を振るった。
老騎士が受ける。斬り結ぶ。
 深淵の騎士は、じっとそれを眺めていた。
 如何な達人であろうと、確実に攻撃をかわし続ける事はできない。人であろうと魔であろうと物理存在である以上、動きには
限界が付きまとう。手足の関節が逆に曲がる人間は存在しないし、そういう具合に生まれついていなければ、やはり魔物とて背
中に目は存在しないのだ。バランスを崩したりフェイントに惑わされたり、そうして死に体になってしまえば、どうしようと打
撃を受けざるを得ない。
 けれど。
 眼前の男は、ただ一撃も許さなかった。避け得ない筈の剣を捌く。それも一度や二度ではない。
 まるで数秒先の未来までを読み通すかのように。強いて言うならば、それは勘や先読みと呼ばれる類の何かであった。技を越
えた技量、潜り抜けた幾多の死線の産物だった。深淵の騎士。その魔がこの地に生じた戮界の王であるならば、彼は戦場の王だ
った。
 数十合に渡る打ち合いの果て、ついにカーリッツバーグが崩れた。死肉が砕け土に還る。
 老騎士は打ち倒した魔には目もくれず、眦鋭く深淵の騎士を見据える。その体に、ある変化が起きていた。全身の傷が癒えて
いた。荒い息が整っていた。心的な疲労すら拭いさられたようだった。それは世界の祝福。新たな力を宿した者へのささやかな
奇跡。
 魔物は、闇の騎士は、幾度か見た事があった。こうして人が限界を越える様を。
「――」
 しかし、この光は知らなかった。騎士の周囲を巡る、白く眩い光は。
 老人は懐かしそうに、己を包むそれへ手を伸ばした。光の粒は掌をすり抜け天へと昇って行く。
「そうか」
 深く息を吐き、瞑目する。再び開いた瞳は、戦士のそれに戻っていた。
118道(6/7)sage :2004/09/10(金) 03:31 ID:FcpbYYsM
「何故抗う。何故逃れぬ、人間」
 深淵の騎士は静かに問うた。齢の測れぬ、錆を含んだ深い声だった。
「俺との力量差は読めるだろう。俺に挑む無謀は知れるだろう。それでありながら、何故退かぬ」
 老騎士は笑った。大輪のあの笑顔で。そして言った。幼子を諭すように。
「知れた事。お前を一時でも長くここに留める為に。より多くがお前から逃れ、お前に備え、そしてお前を打ち倒す為に、だ」
「――心意気や良し」
 黒騎士はひとつ頷き、抜刀した。幾十幾百の人を斬って捨てて、尚刃毀れひとつしない魔界の利剣。
「付き合おう。お前の命が尽きるまで。お前の心力が果てるまで」
 彼は抜き身を眼前に立てて返礼した。略式だが、非礼を咎めはすまい。
「いざ」
「応ッ」

 しかし、言葉の通りだった。鎧のひとつも纏わぬ老人の体は、瞬く間に朱に染まった。
 技量云々を問う前に、身を護る術がただ身かわしの他にないのだから話にならない。加えて魔物が自在に繰る闇色の衝撃。如
何に先読みの技を持つ彼であろうと、無形の刃を迎撃する事は適わない。
 老騎士は血を吐いた。斬撃の余波だけで全身の皮膚に裂傷が生じ、骨は数本どころでなく折れていた。吐血したのだから、内
臓にも損傷があるだろう。だが、止まらなかった。裂帛の気合と共に振るわれた剣が、騎馬の前脚を刎ねる。返す刃は馬防具を
切り裂き、崩れた魔界の馬の首を高く舞わせた。
「見事」
 が、黒騎士は落馬するような愚は犯さなかった。老騎士の初撃と同時にその狙いを見抜き、既に磐石の体勢で地に降り立って
いる。
 そして、そこまでだった。老人はがっくりと膝をつき、剣を支えにようやく倒れずにいる。大量の失血と駆け続けた疲労とが、
ついに気力を根こそぎした。もう立てまい。しかしその目は、その瞳だけは死なずに、近付いてくる敵手を見据えていた。
「続けるか?」
「既に託した」
 深淵の騎士の言葉は憐れみからではなく、友誼に近い情から出たものだったろう。だが、老兵は首を振った。
「俺がこの剣を託されたように、希望は既に託したのだ」
「…愚かだな、お前は」
 むしろ讃えるように闇色の騎士は呟き、老騎士は静かに頷いた。
「そうだ。そして違う」
 そこに苦悶はなかった。悲愴も後悔も存在しなかった。あるのはただ道だった。己が定めた、騎士として全うすべき道。
「人間は愚かだが、愚かなばかりではないぞ。時にひどく崇高で、ひどく美しい。それを俺は思い出した。それを俺は知ってい
る」
 魔物は、仮面の奥でかすかに笑ったようだった。深淵の騎士。その魔もまた、かつては人であったから。
 両名は共に騎乗していない。だが、彼らは変わらずに騎士だった。貫くべき道をその胸に抱く限り。
「叶う事ならば」
 刀礼。それは好敵手にへの、最大級の賛辞だったろう。
「――お前の全盛に出会いたかった」
 構えなおし、深淵に棲む騎士は、その刃を閃かせた。
119道(7/7)sage :2004/09/10(金) 03:32 ID:FcpbYYsM
 そして数日。首都は何事もなかったかのような賑わいを取り戻していた。一事は町中を蹂躙した魔物達も、各地からの援軍に
よって無事打ち払われた。傷は確かに残ったけれど、無事逃げ延びた者達にとって、それはもう過去となっていた。
 あの酒場にも、もういつもの喧騒が戻っていた。
「なぁマスター、ここ、空いてんのだろ?」
 入って来た常連のひとりが、目聡く空席見つけて問う。だが酒場の主人は目を瞑って首を振った。
 そして常連も気付いた。そのテーブル席は、いつもある年寄りが占めていた場所だった。卓上には色とりどりの花が飾られて
いる。凡その意味が知れようというものだ。
「こないだの、あれか?」
 折り良く空いたカウンター席に陣取るや、常連は訊く。主人は注文の酒を準備しながら頷いた。
「そうか。ありゃひどかったからな。逃げ遅れたのか」
「いや、戦って死んだのだと」
 別の常連が会話に割って入る。最初の男が信じられない、といった顔をした。
「嘘だろ?」
「オレも最初はそう思った。だけどな、次から次へと来るんだ。ここによく居たあの方に命を助けられました、って連中が、さ」
 花売りの少女が来て、卓上の花が増えた。彼女はぼろぼろと泣いていた。ただ一度言葉を交わしただけの老人のために。
 剣士が来た。あなたのようになりますと、それだけ言って後は言葉にならなかった。連れのふたりも深く頭を垂れていた。
 その後も続いた。彼らだけではなく、幾人も、幾人も。
 店のさして多くはない花瓶は、全てその卓の上に出張してしまった。
「…大したもんだな」
「ああ、大したもんだ」
 酒が来た。男達は杯を打ち合わせて、追悼を示した。


 そうしてさらに時は流れる。
 その酒場のその席に、いつも陣取る一団が居た。
 常に喧々諤々のやり取りをする剣士と魔術師。
 瞳を楽しそうに煌かせて双方を応援する侍祭に、困ったような微笑で見守る盗賊。
 今日も仲がいい事だな、とからかう常連へは、決まって侍祭の娘が答えた。
「そりゃそうよ。だって、生まれる前からの付き合いですもの」
120名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/10(金) 10:26 ID:PCtdcyqA
>>113-119さん
泣きました。
ただ一言、GJ。
121名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/10(金) 11:24 ID:zUa/yh/Q
道を貫き通した老騎士と、生まれ変わった新たな命に……乾杯。
122名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/10(金) 11:51 ID:5fMXnS3w
>>113-119
読んでいて、体が打ち震えました。
。・゚・(ノД`)・゚・。
123名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/10(金) 14:10 ID:EvMpQ9LE
グッジョブ!ただひたすらにグッジョブ!
新文神の予感。
124名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/10(金) 15:41 ID:2AUo9FBM
GJ、良い読み物をありがとう。・゚・(ノД`)・゚・。
125名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/10(金) 16:22 ID:20jbLVnE
やばいな、これは。渋い老獪はモロ好みだ。

こういう一つのテーマを貫いてる短めのSSは胸をうつ。
読む側としても伝えたいことが明確に解って共感できる。
他人の心を動かせるものを書けるという事は、まぎれもなく貴方は文神だ。

俺的にはテロ枝系のSSでトップクラスと認定するっ!
126丸いぼうしsage :2004/09/11(土) 04:49 ID:OdLbcfek
--秋桜--

「しかし、十年前の今日、忌まわしい事故が起きました」

まるで俳優みたいだ、と僕は思った。
壇上の司会進行係は、眉間にしわを寄せ、しきりに目をしばたかせては涙をこらえている風な
表情を作り出していた。

「再帰型魔法回路の実験中、暴走した魔力によって爆発事故が起き、四人の若い研究者が命を落としたのです。」

 しかし、彼らの尊い犠牲を元に我々人類は再帰型魔法回路の設計、製作に成功しました。それが如何に魔法科学の、
いや人類の発展に大きな影響を与えているかは自明でありましょう。

 彼らの十回忌たる今日に、第341回魔法学会が開かれたことに対し、我々は研究における安全の大切さ、そして魔法に
殉じた彼らの尊さをもう一度かみしめなければならないでしょう。」

壇上に掲げられた、四人の肖像。その前には大きな白百合の束がいくつもいくつも置かれていた。
十年前、研究中の事故で亡くなった四人の英雄に対して一分間の黙祷が捧げられ、その後満場の拍手とともに
魔法学会は幕を開けた。

「教授、開会のスピーチをどう思います?」

僕は隣で眠っている賢者の袖を引っ張りつつ、尋ねた。
彼はゆっくりとうなだれていた首をあげ、充血した三白眼を半分まぶたで隠しながらも答えた。

「少々感傷的に過ぎるね。実験で犠牲者が出たのはその理論や安全対策が不十分だったからだ。その犠牲者は
憐れまれこそすれ、称えられるべきではないだろう。ま、安っぽいヒロイズムさ。」

式が終わり、これから議論や発表が行われる大学の各施設へと散っていく人々。秋の日差しは黄色くて、
白亜の研究都市に暖かみを添えていた。
 そんなジュノー大学の構内を、僕と教授は歩いた。教授の長衣はずるずると、色とりどりの落ち葉と、
コスモスの花びらと、砂を巻き込みつつも、石畳の上を掃いていく。その後ろを鞄持ち兼助手たる僕は資料満載
のカートを引き引き、ついて行くわけだった。

「ねぇケミ君。僕の発表はいつだったかな?」

「明日の午後1時からです。自分の分ぐらい覚えといてくださいよ。」

「ふーむ、そうか。じゃ、これからシュレーカー教授の発表を見に行こう。彼は増幅型魔法回路の権威だからね。
楽しみにしていたんだ。場所は?」

「第4講堂ですね。」

 四つ辻でぐるりと九十度向きを変え、教授は歩き出した。名前さえいえば場所などはすぐにわかるらしかった。
それもそのはず、教授は十二年前までここをねぐらに研究活動を行い、その後も毎年数回は学会で立ち寄っていた
からだ。

 大きさの割に人の入りがまばらな第4講堂で新型の両手杖の研究発表を聞いた後、僕たちは宿へと向かった。
長旅と時差ぼけ、おまけに難解な話を聞いていたこともあって、僕は食事もそこそこにベッドへと突っ伏し、
突っ伏した姿勢のままそこで意識が落ちた。
127丸いぼうしsage :2004/09/11(土) 04:50 ID:OdLbcfek
「♪ピロリピロリロリロリロ〜」

どんな楽器よりも平坦な音とカーテンの隙間から差し込む日差しで、僕は目を覚ました。とっさに音の出所を
確認すると、やっぱりというか、なんというか、教授の杖だった。

「なんです、これ?」

むくり、と上半身だけを起こし、ナイトキャップとパジャマ姿もまぶしい教授は、僕の質問に目をこすり
ながら答えた。

「それは昨日、シュレーカー教授にもらった魔法回路を組み込んでみたんだ。特定の時刻になると音楽を
発して所有者を起こす。どうだい?実用的だろう?」

「はぁ、まぁ、そうですね。」

 曖昧な返事をしつつも僕は懐中時計を確認した。学生に毛が生えた程度の研究職でしかない僕。そのほぼ
全財産とも呼べるこの時計は家を出るときに貰った物だ。
 何もここは僕のホームタウンなんだから、学会で寄ったときぐらい宿屋に泊まらず実家に帰れば
良かったじゃないか。別に姉夫婦と仲が悪いわけでもないし、両親に勘当されて出てきたわけでもないんだから。

時計を見てふとそんなことを思い出した。しかし、時計の短針は僕の想像よりもかなりずれた位置にあった。

「教授、はやいんですね。」

「ああ、散歩しようと思ってね。ケミ君も付いてくるかね?」

「へぇ、散歩とはインドア派の教授らしくないアイディアですね。いいですよ。起きてしまったし、付き合います。」

--

 広場は思ったよりも多くの人が闊歩していた。思えば今日は日曜日、うきうきする気分で人々が街に繰り出す日曜日だ。
特に学術研究都市であるジュノーにおいては学生の数が非常に多い。通りには日曜だけのフランクフルトやアイスクリーム
の露店が建ち並んでいるが、その脇には古書店の入り口がのぞく。生活よりも本のにおいがする街、でも僕はこの町が
大好きだった。

 教授は何事か考えながらもてくてくとよどみなく歩いていく。僕は今日は手ぶらでその横に肩を並べた。歩調が合い、
ずれ、そしてまた合って。そんなことを何回も繰り返しながらも僕たちは街の中を歩いていった。

 やがて、公園へとさしかかったとき、遠くから風に乗って鐘の音が十回聞こえた。アルデバランの大時計の鐘は、
こんな遠くの空中都市まで届く。もちろん、音の速度と距離から計算された分は遅れるのだが、日曜はそう神経質
になっても仕方ない日だ。
公園内にある花畑ではコスモスが咲き乱れ、鮮やかな色の花びらを見せていた。その脇には家族連れなどが座り込む芝生が
あり、仲の良い男女のペアがベンチに、芝生に、ボートにと散見された。
あるものは楽しそうに語らい、あるものは信じ切った安らかな顔を相手の肩にもたせかけていた。


「うわー、変わってませんね、ここも。特にカップルがたくさんいるあたりとか。」

「そうだな。十二年前もこんな感じだったかな。ただ、僕はこうして観測する側じゃなかったがね。」
128丸いぼうしsage :2004/09/11(土) 04:51 ID:OdLbcfek
「そ、それは教授にもあのような青春時代があったということですかぁっ!!?」

正直、ショックだった。教授は研究一筋で浮いた話が全く出ない人だ。晩婚化が進む昨今とは言え、そろそろ
しかるべき決断を迫られる年齢である。しかし恋愛どころか見合いの噂さえ聞かない。
 だいたい、あれはバレンタインの翌日、教室の隅で女子学生が「あの教授、義理チョコ以外絶対もらえないよね」
というひそひそ話(にしては声が大きかった)をしていたぐらいだ。
 もてない男子学生の間では「たとえもてなくてもあの人のようになればいい」とまで慕われる教授。それが、
こんな背信行為とも言える過去を暴露するとは…。

「失礼だな、ケミ君。そういう青春時代がないのは君ぐらいだよ。」

「…ぐ……教授、差し支えなければ、その話、してくれませんか。」

「そうだな…まぁ、今日は追憶の許される日だから、良いかな。」

少し立ち止まると、ふっ、と口元に笑みを浮かべて教授は話し出し、ゆっくりと歩き出した。

「そう、あれは十三年前。僕はちょうどケミ君みたいな成り立ての研究者だった。激務の割に薄給、やることは
多いけれど名前は出ない。名誉も金銭もなげうち、ただ、知る楽しさのためだけに下宿と大学を往復する毎日だった。
 でも、苦痛じゃなかった。研究が楽しかったから、というのもあるけれど、研究室に行けばある女性に会え
たからだ。最初は綺麗な女性だな、としか思わなかった。茶色のつややかな髪は背中まで伸びていたし、
目は丸く、愛嬌があった。

 だけれど、話していくうちに彼女が綺麗なだけの人じゃないことがわかってきたんだ。彼女は意志が強く、
ねばり強く、体力もあって…そしてなにより聡明だった。二回三回の徹夜明け、目の下に青黒い隈を
作りながらも僕からふんだくった魔法回路を瞬時に組み立て、実験を出来る人だったよ。
 まぁ、彼女も僕の能力には目をとめてくれたらしい。魔法回路の組み立てにおいては他の追随を許さなかった
彼女も、魔法回路の設計においては僕に敵わなかった。
 最強の設計者と最強の実装者。僕らは、自然と一緒に研究を行う相方になっていった。

プラトニックラブ、というのは辞書的な意味としても実践的な意味としても、僕らの関係を指していたようだったよ。
 暇さえあればコーヒー片手に議論し、魔法、哲学、国家、人生、噂話、何だって議論の俎板にのせた。
そうしている時間が一番楽しかった。
 知識だけを目指して異性なんかには脇目もふらず突っ走り、十代で青春を経験してこなかった僕らにとっての、
ずいぶんと遅い青春だったよ。」

「普通にいい話じゃないですか。」

「彼女は僕のプライドの高さを許容してくれた。いや、同じプライドの高い人間だったからこそ、認めあえた
面があったのかもしれない。
 そう、今でも覚えているよ。僕はそこの芝生で彼女に思いを打ち明けたんだ。
好きだといった僕に対し、彼女は僕に、本当に好きなのか、と問うた。
 僕が『出来るだけ長時間一緒にいたい、一緒にいるのが楽しいと思っているのだから、その源泉がどんな感情で
あるかを問うことに意味はない』と答えると、彼女は『いかにも君らしいね』といって微笑んだ。

それから一年ぐらいは、たぶん幸せだった。研究はうまく進み、二人の関係も良好だった。」
129丸いぼうしsage :2004/09/11(土) 04:52 ID:OdLbcfek
公園の中を歩きながら、教授は歩みを止めた。木陰で、花売りが花を売っていた。教授はポケットから
財布を出すと何枚か札を取り出し、花を購った。一束のコスモスだった。
 そのコスモスの花束を左手で下に向けながら教授はまた、公園内を歩き始めた。

「だけれども、僕らは人付き合いの点において未熟に過ぎた。ほんのわずかな諍いを、わだかまりを残したまま
時は進んだ。そして、あれは再帰型魔法回路の研究の時、二人の意見の違いは決定的なものになった。
 研究に私情を挟むなんて馬鹿げてる。今でもそう思うし、当時もそう思っていた。だけれども、そんな取るに
足らない私情でも、幾筋もの細かい亀裂の入った関係を壊すには十分すぎた。

 何とか二人で意見をまとめて書き上げた日の夕方、ここの芝生で彼女は僕に別れを切り出した。
まず、彼女は自分に新たなポストが用意されていることを告げ、一緒に研究できなくなる旨を告げた。
次に僕の彼女に対する態度を非難した。

 どうして君は私の気持ちをわかってくれないのか、君は私の態度を見て一番良い返事をしているだけじゃないかと。

僕は何故彼女が怒るのかわからなかった。だってそれが正しいと思っていたからだ。人の感情なんて、態度から読む
ことしかできない。だから、僕は彼女の態度に応じて理論的に最適な応答をしていた。もちろん、彼女が好きだった、
愛しかった。だからこそ、その関係を壊したくなくて、僕は最善の応答を心がけた。
 それが、そもそも間違っていたんだ。

今はわかる。人付き合いは理論じゃないなんて事ぐらいはね。
でも、当時の僕はわからなかった。そして、何がなんだかわからないまま、僕はプロンテラ大学からの求人
にすがるようにして、ジュノーを去った。
 つまりは、僕は僕がくみ上げてきた理論に、初めて裏切られたんだよ。」

「そうだったんですか…」

僕は、歩いているうちに周りの風景が公園からはずれていることに気が付いた。人影はどことなくまばらになってい
たが、芝生には公園と変わらず秋の日差しが降り注いでいた。

「でもね、彼女とは別れたけれど学会であったときは旧友として夜が明けるまで研究について話し合ったよ。
そういう意味では、最高の友人の一人だった。

 ただ、自分の理論に裏切られたのは僕だけじゃなかったんだ。
彼女が引き抜かれたポストは、再帰型魔法回路の実験チームの責任者だった。
 再帰型魔法回路というのは、魔法子による湾曲効果でつながった亜空間に存在する魔法子を利用する技術さ。
これを使えば、一定量の魔法子だけで永遠に空間湾曲を実現できる。いわば魔法界の永久機関、夢の技術だよ。
 現在はこれを利用して魔力灯などが作られ、生活の役に立っているけど、開発当初は非常に危険な技術だった。
何たって、亜空間を利用して結果的に無制限の魔法子を利用するんだ。少しでも魔力を流すパスを間違えば
その力は暴発、とんでもない事故が起こる。」

教授はふと足を止めた。緑の芝生の所々、真っ白な石がのぞいている場所に来ていた。
白い石には、人の名前が刻み込まれ、前に置かれたコップには追憶が湛えられていた。
ここは、そう、ジュノーの公共墓地だった。

「そして十年前の昨日、彼女は自分の設計ミスで四人の同僚を喪った。昨日聞いただろう?。あの事故だよ。
あの事故を起こした魔法回路は、彼女が設計したものだったんだ。しかし、彼女は事故の現場にはいなかった。
もちろん彼女は責任者だ。おまけに設計者だ。この未曾有の魔法事故に対し、責任を問われるはずだった。
 彼女は、十年前、どんな気持ちだっただろうね…僕にはわからないが、ひどく辛かったことは確かだろうな。


そして彼女は翌日、自分のアパートで首を吊って死んだよ。」
130丸いぼうしsage :2004/09/11(土) 04:53 ID:OdLbcfek
ひゅう、と秋風が吹いた。教授の手に持ったコスモスの花束から、幾ひらかの花びらが飛んだ。
僕は無言で教授の横顔を眺めていた。その目は潤んでいたような気がした。


「彼女は死んだ。たった一人、追及の視線から逃げるように自分の命を絶った。

『魔法科学の殉教者』『未曾有の災害』などと大々的な見出しで事故を報ずる新聞の中、小さな囲い記事で
僕は彼女の死を知った。『責任者自殺』とただそれだけの小さな見出しとその下に記された事実を見たよ。

 どうして、彼女は死を選んだんだろうね。研究者なら、犯した間違いを改めるよう努力すべきじゃないか。
罪を犯したならば償わなければならないだろう?それと同じじゃないか。そう思うだろう?」

教授は、一つの墓石の前で足を止めた。簡素な、いかにも同じ設計図に従って作られた量産品の墓石。
管理するものもいなかったのだろうか、墓石はすすけ、墓碑銘を読みとることも難しかった。

「だけどね、今はわかる気がするんだ。彼女は自分の理論に裏切られたんだって。僕はプロンテラに戻って彼女を
忘れるがごとく必死に研究し続けた。し続ける環境があった。だから死ななかった。死ねなかった。
 でも、彼女にはそれがなかったんだ。待っているのは追及の日々、非難の視線。挫折の中でそれらに
耐えることは、きっと無理だと思ったんだろうね。

 そうとも、世間は僕みたいに割り切ってくれない。彼女のミスを理論の過ちとして訂正できるものだとは思わない。
彼女に挽回のチャンスを与えようとは思わない。彼女に要求されるのは、反省という名の沈黙だ。
理不尽なんだ。同じ研究を行い、形は違えど同じ研究で死んだ。なのに、彼らは英雄になるし、彼女は戦犯になる。
見ただろう、昨日犠牲者の霊前に捧げられた白百合を。見ただろう、皆が犠牲者に捧げた黙祷を。
そうだよ、理不尽なんだ。理不尽なんだよ。

 今日は、彼女の命日なのに、一輪の花だってない。」

ちょっと目に手を当ててからゆっくりと教授はしゃがみ込み、墓石をぬぐった。乾いた石に、指の跡が
濡れて付いた。

――コスモス・ネテスヘイム ここに眠る


あまりに簡素な墓碑銘の下には三十年に満たなかったある研究者の時間が刻まれていた。
教授は、墓石の元に花束を置いた。ピンクと白の花びらが秋風に揺れていた。

「…彼女は、自分の名前と同じこの花、コスモスが大好きだったんだ…。
 …ピンクと白の可憐なこの花が大好きだったんだ。
 コスモスの咲き乱れるジュノーの街が、この街の秋が大好きだったんだ。

 でも、それより何より、彼女は自然から見いだされる秩序(コスモス)が一番好きだったんだよ。」


僕は教授にならって目を瞑り、志半ばで死を余儀なくされた研究者のために祈りを捧げた。
一分ほどもしたころ教授は急に立ち上がった。

そのまま、数歩小走りになって僕に背を向けて教授はいった。涙声でなく、どこかこの高くて
真っ青な秋の空みたいに突き抜けた声で。

「ケミ君、散歩に付き合ってくれてありがとう。さぁ、戻って発表の準備をしなければならないな。
 この国の学者どもに、世間に、僕らの研究を、いや真理を知らしめよう!。」
131丸いぼうしsage :2004/09/11(土) 04:58 ID:OdLbcfek
読み切りを書いてみた。少し人間よりの。

--感想

>>113-119
一度読んで涙し、二度読んで深さに気付き、三度読んで巧さに唸りました。

転生に関することがここまで正確に織り込まれているなんて…。
しかも、それに気づかせないほど自然な描写だなんて…。
おまけに、その自然な描写さえ気づけないほど胸を打たれる話だなんて…。

神だ、神がいる。
132名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/11(土) 05:48 ID:lAbrRs/6
昨夜読んで感動。
丸帽子様の書き込み見て改めて読む…。

深ぇ、その奥の描写には最初気付けなかったです。

113作者様、GJ。
忘れてた何かを思い出させて貰った気持ちです。
133名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/11(土) 10:44 ID:CUxGeo1o
>丸いぼうしさん

切なさと、寂しさと、クリアな清涼感を覚える作品ですね。

まるで自分が教授の立場に立ったかのように錯覚してしまい、
自然と涙が溢れました。
もし教授が、恋人との関係をもっとうまく続けていられたのなら、
事故の時に彼女のそばに居てあげられたのなら……、彼女も、
縋る相手が居れば、自ら命を断つ事もなかったのかも……。
134名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/11(土) 16:11 ID:ZgMyniqI
>>113
ジィィィジェェェ!! 播(;ω;´)
135背徳の花香炉(2)sage :2004/09/11(土) 18:30 ID:AJshFO1.
「……本当に、迎えに来るとは思わなかったわ」
「約束しましたからねー。それにそんな格好をしてるってことは、リナさんも楽しみに
していてくれたんでしょう?」

 迎えに来たジュダは、悪魔のヘアバンドをつけていて、普段の時とは違う印象があった。
 私も精錬した対魔物特化の実用本位の装備ではなく、着心地の良い真新しい法衣と
赤いリボンをつけている。

「ち、違うわよ! これだって、実用装備よ」

 実用本位で装備を揃えているために、私はかわいらしい装備などほとんど持っていない。
 唯一、赤いリボンだけは魔法防御力が高いから持っていた。

 ……垂れた猫の方が防御力が高いのは確かだけど、私にはそれを買う資金はない。

「でも、亜麻色の貴女の髪に良く似合いますし、とてもかわいいですよ」
「ありがとう。ジュダも悪魔のヘアバンドなんて持ってたのね。普段もつければいいのに」

 褒められるのに慣れていない私は、内心の照れを隠して逆に話を振る。
 これ以上褒められたら、慣れていないから狼狽するみっともない姿を見せることに
なってしまうから。

「ああ、これは露店のときはつけないことにしてるんですよ。特別な時だけです」
「そうなの? 似合うのに……もったいないと思うけど」
「いいんですよ。そんなことより、行きましょうか」

 ジュダが何気なく差し出した手を取って、二人で歩き出した。
136背徳の花香炉(3)sage :2004/09/11(土) 18:31 ID:AJshFO1.
 ゲフェンの観光名所の展望台は二箇所ある。
 一箇所は、西門から出てグラストヘイム城跡に行くために通る橋の上辺りにある。
 もう一箇所は北門を出て少し北に行かなくてはいけないけれど、風車が見える素晴ら
しく景色が良い所で。
 どちらにしても、デートスポットとしては有名な場所なので、知らない者は極一部だろう。

 手近な場所で……ということで、西にある方の展望台に来たのだが。

 遥か雲の上まで続く飛び石のような階段。この階段がどうやって宙に浮いているのか
はわからないが、下部に支えのようなものが無い所から魔法が作用していることだけは
確かだ。
 空中都市のジュノーの心臓部にあった浮遊石でできているのかもしれない。
 もっとも、そんな学術的なことを考えるのは一部の人間で、大多数の人間からすれば
飛び石の階段の謎なんてどうでもいいことらしい。
 周囲を見れば、恋人同士や観光で周っているらしいツアーの人たちが展望台で話をし
ていた。

「ここは来るのが楽な場所ですから……人が多いみたいですね」

 人の多さに少し辟易したように、ジュダはつぶやいた。

「まあ仕方ないんじゃない? でも折角だから見ていきましょう」

 私も少しだけ同意しながら、展望台からの光景を見る。

 雲が手を伸ばせば届く位置にあって、眼下に広がるのはキラキラと日の光を反射する川面。
 向こう岸にはゲフェンの街壁が見え、本当に美しい。

 そう言えば、ゆっくりと観光なんてした事などなかったかもしれない。

 一刻も早く、姉に追いつくために……と休暇も返上して教会の教えを学び、技術を習
得して異例の速さでプリーストの地位を手に入れた。
 しかし、PTにもギルドにも所属したことがない私には、共に喜ぶ仲間などなく……
あったのは姉からの祝福だけ。
 ソロのまま……退魔師としての力を着々とつけ……気が付けばレベルだけは姉を追い
抜いていた。

 ”ある意味では、お姉さんよりも優秀なのでは?”

 そう言う人もいる。
 でも、私には姉のような優しさを持つ事などできないし、真面目に謙虚に……などと
いう生き方は無理だ。
 そういう意味では、姉の方が優秀でその傍にいることを私はためらってしまう。
 だから、両親が亡くなった今では、姉と顔を会わせるのは命日の日くらいでしかない。

「……何か考え事ですか?」
「ちょっと……ね」

 シスターコンプレックスのようなものだから、ジュダに話をするまでもない。

「……そんなことより、ここってこんなに綺麗だったのね。気分転換に最高。ありがとう」

 頭を切り替えてジュダに微笑む。
 暗い気持ちも、美しい風景で癒されるのがありがたいから。

「ね、北のミョルニールの方の展望台にも行こう? 風車も見てみたい」
「もちろんですよ。行きましょう」

 展望台から降り、ゲフェンに向かって歩いていると同じように、ゲフェンの方から橋
を渡ってくる人々とすれ違う。
 この先にあるコボルトの集落に向かう者と、グラストヘイム城跡に向かう者達だ。
 中には行商人などもいるが、やはり護衛が付いているし、一般人は展望台に行く者く
らいだ。

 ふと、その人々の中に見知った顔を見つけた。
137背徳の花香炉(4)sage :2004/09/11(土) 18:32 ID:AJshFO1.
「あら? 久しぶり、リナ」
「サリカ姉さん……その様子だとグラストヘイムの騎士団にでも行くの?」

 姉の装備はすぐに狩用の装備だとすぐ判断できた。
 鉄線入りの精錬された法衣とビレタ、普段はかけていないミニグラス。
 オペラマスクが嫌いな姉は、狩に行く時には必ずこのミニグラスをつけている。

「ええ。ところで、リナがその姿と言うことは……ああ、デートなのね」

 隣に立っていたジュダに気が付いて、姉は微笑んだ。

「違うわよ、気晴らしに観光してるだけ。彼はジュダって言って、ゲフェンでお世話に
なってる人で……」
「おや、デートでしょう?」

 私の否定の言葉にジュダは肩を抱いて来たので、無言で肘打ちを彼の鳩尾に入れた。

「ぐはっ……うぅ……リナさん…そこまでして、否定しなくても」
「クスクス……こんにちは。リナの姉のサリカです。妹のこと、大切にしてあげてね」
「だから、違うって言ってるのにっ」

 そんな風に三人で話していると、先に走っていたらしいペコ騎士がこちらに戻ってきた。

「なかなか来ないから、何をしているかと思えば……」

 威圧的な物の言い方。
 ヘルムの端から見える髪は流れるような美しい金で、瞳の色も珍しい金色の騎士。

「あ……ごめんなさい、久しぶりに妹に会ったものですから。ちょっと雑談していました」
「……さっさと切り上げてくれ。時間の浪費だ」
「はい、ごめんなさい……」

 恐縮して小さくなる姉を置いて、騎士はまた先に行ってしまった。

「今の何? ……ずいぶん、勝手なヤツね」
「ん……お世話になっている人なの。優しい所もあるのよ……それに、私が今こうある
のもあの人のおかげだから」

 何か思いを秘めたような複雑な表情を姉は浮かべて、先に行く騎士の後姿を見つめている。

「姉さん……?」
「と、ごめん。そういうわけだから、また後でね」

 そう言って手を振って、姉は騎士を追いかけていった。

「……あんな表情する姉さん、初めて見た」
「あの騎士……どこかで見たことあると思ったら……」
「ん? 知ってるの?」
「……確か……栄光の獅子の騎士だったと」
「栄光の獅子?!」

 私は、その名前に衝撃を受けた。

 それもそのはずで、栄光の獅子は知らない者はいないくらい、良い意味でも悪い意味
でも有名なギルドであり、臨時等に来る様な輩ではない。

「……なんで、そんな騎士と……?」

 残された私は、姉が去っていった方向を見ながら思わずつぶやいた。
138背徳の花香炉花のHBの人 sage :2004/09/11(土) 18:46 ID:AJshFO1.
木陰から、こんばんは。
続きを投稿しに着ました。

>96-97さま
ごめんなさいorz
書きたいものができると他の物をほうってしまうのが悪い癖ですね(´・ω・`)
他のものもちゃんと完成させますので。・゚・(ノД`)・゚・。

それではまた、後ほど
___ __________________________________________________
|/
||・・)ノ

>('A`) さま
9ヶ月もかけずに今回は、すぐに完結できそうです(目指せ、今月中に完結)

それはさておき、いつも楽しませて頂いています。
文章力があってうらやましくて……いつか貴方のような、人に愛されるキャラを
生み出せたら良いなと思っています。

>113さま
感動しました。
老騎士の生き様というか、最期が……泣けます。
オーラ→転生という流れでもあったのですね。
転生が実装されたら……。・゚・(ノД`)・゚・。
139名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2004/09/11(土) 21:13 ID:N6Aog.2M
かみさまへ

みんなで作る小説ラグナロク Ver4
http://gemma.mmobbs.com/test/read.cgi/ragnarok/1048842760/

たまにはこっちにもいらしてください
廃れちゃっててみんな悲しんでます
140名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/12(日) 10:22 ID:wl5Mjdlk
>113-119です。過分の評価をいただき感涙の極み。
時間がとれたら、またこの手の話のプロットを練ってみようかと思います。
でも構成だけ作ってあって放置されてるブツも結構あったりするので、まずはそれを消化せねば…。

>>126-130
コスモスの多重の意味がけが鮮やかでした。
してしまった事への後悔よりも、知らなくて何も出来なかった後悔はより強く悔いが残る気がします。
前者が原因で後者を引き起こしてしまって、それでも研究者でいる教授は尊敬に値すると思うのです。
そしてもし死者の魂なんてものが残留し続けるなら、どれほど大きい白百合の花束よりも、ひと束の秋桜を喜ぶに違いないとも。

>>135-137
続きを心待ちにいたしますと、今はそれだけしか書けません。
最後まで読まなければ物語の真価は解らないと思うので。
…うわ、なんか字面だけ追うと偉そうだ。不快に思われたら申し訳ない。
141名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/12(日) 10:23 ID:wl5Mjdlk
 彼女が早足のまま歩き続ける理由が解らなくて、彼は途方に暮れていた。
 きっとそれが解らない事も腹立ちの訳のひとつなのだろう。だから彼は、問わずに黙ってついていく。
 生来性分が明るくて誰とでも親しむ彼女と違い、彼は少しばかり人付き合いを苦手にしている。口もうまくない。
 だから、というだけでもないのだろうけれど、彼女が――恋人が何を望んでいるのか察する事も不得手だった。
 早足でずんずんと歩く弓手の娘のその後を、暗殺者の独特の歩法で軽やかに追う。どこか忠犬めいた風情。
 首都の人込みを通り抜け、南門を潜り抜け、平原を殆ど横断して、やっと彼女は足を止めた。
「そりゃプリーストさんの方がいいよね。傷だって治せるし、支援だってしてくれるしっ」
 彼に背中を向けたまま、拗ねたように。それでやっと、彼にも事情が飲み込めた。
「あの人には以前世話になっただけだ」
「以前でだけなのに、随分楽しそうだったよね!」
 思わず声を大きくしてから、彼女は深くため息した。
「…ごめんね」
 目元を腕でごしごしと擦る。
「君は全然悪くないのに。やだな。どうして君の事になると、僕、こんなにぐらぐらしちゃうんだろう」
「…」
 彼は答えられない。彼女を笑えないし、咎められない。
 例えば他の男と彼女が話している時。押し殺し覆い隠してはいるけれど、自分だってひどい妬心を抱くから。
「でも、でもね」
 泣いた後の顔を見られるのが嫌なのか、彼が怒っていると思っているのか。彼女は振り向かぬまま俯いて、小さく続ける。
「僕は君のなんだから…他のコに優しいの、反則だと思います」
 彼は口下手だから、上手く言葉で応えられない。だから。
「わぁっ!?」
 背中側から、華奢な体を抱き締める。そして囁く。
「俺は、お前のものだよ」
 見る見るうちに彼女は耳まで赤くなる。桜色に染まる。
 腕の中で向き直って、ふたりは正面から抱きあった。互いの背に腕を回して、固く。
「あんまり言ってくれないから、不安だよ」
 解るだろう、と返すと、それでも、とせがまれた。
「愛してる」
 彼の胸に頭をあずけて、彼女は幸福そうに息をついた。
「僕もだよ」

 あの時。
 それまで向けられたどんな刃よりも、伸べられたあたたかな手が恐ろしかったのを憶えている。
 そして今ではこの微笑みを失う事を、何よりも耐え難く思う。

 髪を撫でて抱擁を解く。本当は、いつまでだってこのままでいたいけれど。
「戻ろう」
「あ――うん!」
 そっと手を差し伸べる。彼女がきゅっと握った。手を繋いで、ゆっくりふたりは歩き出す。
 このぬくもりは、きっと生涯手放さない。
142壁]ω・`)sage :2004/09/12(日) 23:23 ID:w8sbEG3o
こそこそ・・・
上水道リレーSSに短い上にショボイ駄作投下・・・
|)ミ
143壁]ω・`)sage :2004/09/12(日) 23:24 ID:w8sbEG3o
魔族による「ダインスレフ計画」が進む中、他の魔王達に引けを取らない
配下を持ちながら動かない者がここに一人。

かつて世界の海を制覇した男、その名はドレイク。
朽ち果てた船の船長室で彼は思考する。

・・・今、世界中の目がプロンテラに向いている。
かつての栄光を取り戻すには今しかない、と。
しかも、人間、魔族達は彼の軍を「残っているのは朽ち果てた船一隻」と思っている。

もう一度思う
「今しかない・・・」
思わず口に出てしまったようだ。
側にいたパイレーツスケルトンが彼を不思議そうな目で見ている。
彼は立ち上がり、副官たちーデッドリーレイスーを呼び出し、配下を呼び集める。

「時は来た
 今こそ我等が再び海を支配する」
一瞬の間をおき・・・

「「「ウオオオォォォオォ!!!」」」
咆哮が上がる。

「総員、戦闘準備だ!」
「「「ヤー!」」」
・ ・ ・ ・
30分ほどの時間をおき、彼の耳に全ての船の準備が終わったとの報告が入る。
彼は副官達にWisを送り、各船内の水を排水するよう命じ、バフォメットにもWisを入れる・・・

「これより我等は貴公らを援護すべく、アルベルタ、イズルード、ファロス灯台等の港町を強襲し、人間共の海路を叩く」
一方的なWisだが、問題無い。これはたてまえに過ぎないのだから―――

盛大な水しぶきがあがり、巨大な船体が姿をあらわす。
・・・その数、実に50隻以上。
大艦隊を率い、彼は配下に命じる。

「野郎ども!これからアルベルタを強襲する!!
 本能の赴くままに・・・」

「奪え!」
「犯せ!」
「殺せ!」

「「「ウオォォオォォォォオ!!!」」」

「さぁ、往くぞ人間共
 今!この瞬間から!世界の海は再び我等の物に!!!」
144壁]ω・`)sage :2004/09/12(日) 23:26 ID:w8sbEG3o
うはw点(・←コレ)がずれてるよ・・・_ノフ○
145143sage :2004/09/13(月) 23:33 ID:ZgMPXNK.
続き投下してみる。
反応無くて((((゚д゚;))))してますが・・・
がんばってドレイク君を上水道に押し込みます!
146143sage :2004/09/13(月) 23:35 ID:ZgMPXNK.
そこは戦場だった。

響きあう剣戟。
唸る魔法。
悲鳴と怒号。
流れ出る血液。
砕け散る白骨。

今、母なる海は血と死体によって穢されている。
ドレイク率いる海賊と、アルベルタ海軍との戦いは1時間ほど前に始まった。

ーアルベルタ港、見張り台にてー

「おい、知ってるか?今プロンテラ上水道でGHのモンスターが出てるんだってよ」
小太りの男が隣にいる中肉中背の男に話しかけている。
「はぁ?何言ってるんだよ、今はそれどころじゃないらしいぜ。」
「あ?どうなってるんだ?」
「なんでも魔族達が結集してプロンテラに攻め込んでいるらしい。」
「そいつはやべぇな・・・ でもまぁ大丈夫だろ。なんたってプロンテラには精鋭の騎士団g・・・」
「? どうした?」
「おい、アレ見ろ!北北東の海面だ!」
「・・・なんだよ? ・・・!!! アレは・・・ 海賊船か!?」
「すごい数だ!急いで警鐘を鳴らせ!」

カーンカーンカーンカーン・・・

「海賊だ!海軍を呼べ!!」

ー時は現在、アルベルタ港沿岸部ー

「ゲェハハハァハハハァハ!!弱い!弱すぎる!」
ドレイクは高笑いを浮かべて戦場を見る。
戦いはほぼ海賊の圧勝だった。
接舷し、海軍の船に乗り移っていくスケルトンたち。
海賊の船に乗り移ろうとするものたちはヒドラ、ペノメナの触手によって海に叩き落され。
あるものはレイス達に噛み砕かれ。
あるものは彷徨う者に両断され。
海軍の被害は計り知れず、海賊の被害は船3隻が沈没、4隻が軽微の損傷。

この瞬間、アルベルタは魔族の手に陥落した。
147143sage :2004/09/13(月) 23:40 ID:ZgMPXNK.
さらにキャラ増やしてごめんなさい、といまさら言ってみるテスツ
しかも地下水道でした_ノフ○<吊ってきます
148名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/13(月) 23:56 ID:7q8xd1PM
広げるのはいいけど、責任持って 閉 じ よ う ぜ ?
149名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/14(火) 00:21 ID:1kCTCzjo
>下水リレー
ゆっくり待ってます。
終わりも見たいけど、終わらないならそれはそれでも楽しめるのかなとか
無責任に言ってみたり。
「ゲェハハハァハハハァハ」に萌えますた。


当方普段18禁♀×♀スレに駄文を投げてる者なんですが、前後編二部構成のSSを考えまして
しかも百合モノなのに前編のえちシーンには男女の絡みしかないとかそんな怪しげなモノでして
どこに投げたらいいのかとか考えてるうちに、えち抜かせばいいやとか逆転の発想(?)に至って
ここに投下することにしました。

本来が♀×♀スレ住人なんでそういう百合的なのが嫌いな人はスルーをよろしくお願いします。
適当に題名↓
っ[GuardianSpirit(前編)]
150149sage :2004/09/14(火) 00:24 ID:1kCTCzjo
一.

 多い――。
 突如聞こえてきた悲鳴に昼食後の紅茶を中断した騎士服の女が、酒場からプロンテラの街に出てまず思ったことはそれだった。
 逃げ惑う人の数も多ければ召喚された魔物の数も多い。相当に規模の大きいテロのようだった。規模が大きくなれば自らに降りかかる危険もそれだけ大きくなる。脳裏を掠めるそんな事実も女にとっては瑣末な問題にすらなりはしなかった。
 思い描く騎士の理想像は『護る者』であり、この職を志したのは人を護る力を得たいがためだったのだから。いかに危険であろうとも目に映る範囲の人間は全力で護る。
 代金の硬貨を店主に投げ渡し、店先に停めた愛鳥に勢いよく飛び乗る。肩の高さで切りそろえられた赤色の髪がふわりと踊った。面頬のある兜をかぶることはしない。護るべき対象と屠るべき対象が入り乱れるこの状況下、視界は広く取っておきたかった。
 徒歩視点ではただ多いとしか思わなかった人と魔物の分布状態も、鳥上に上がればおぼろげながら把握できる。一見した限り、屋内から出たばかりの騎士の女を標的として捉えている魔物はまだいないようだった。聖職者とは違い、襲われている人間を直接に救う技能は騎士には無い。魔物の密集した地点に鍛え上げた槍の絶技を叩き込み、注意を引きつけることで間接的に人々を護る。それがこの赤毛の騎士が己に与えた役割だった。
 最も効果の上がる一点を見定めるべく素早く視線を走らせる。
 しかし、騎士の琥珀色の瞳がその目的を達することはなかった。代わりに、視界の端に捉えた一人の人物に吸い寄せられ、そしてそのままそこに釘付けにされる。

 大量の魔物に蹂躙され、混乱の極みにある雑踏にあって、紫の聖衣に身を包んだその少女は明らかに人々から浮いて見えた。
 腰まで伸ばされた白銀色の頭髪は、陽光を受けて穏やかに光を湛え、微かにそよぐ風の中で絹糸のようにしなやかに揺れる。染み一つない白皙の肌は、無骨な金属製の盾と濃紫の衣に映え、輝いているかのような錯覚すら抱かせる。すっと通った鼻梁とふっくらとした唇、長い睫毛に縁取られた深海を思わせる深い青色の瞳――個々に見ても美しいそれらのパーツが、自然の産物とは思えないほど一分の隙も無く整った相貌を形作る。
 手に握る髑髏を模した飾りつきの杖の不気味さとの対比で、滲み出る清廉な雰囲気は一層強調され、その前では、頭上に煌めく最高級の装飾品であるはずのティアラさえも俗っぽさの目立つただの金色の髪飾りとして以外では存在し得なかった。
 神々しいとまで言える、非の打ち所の無い美少女である。
 凄絶なまでの美しさもさるものながら、それ以上に赤毛の騎士の目を引いたのは、その表情だった。過剰なまでの高価な装備品に反して、凍りついたように立ち尽くす司祭の少女が瞳に湛えた怯えは、その場にいる他の誰よりも色濃い。なけなしの矜持を振り絞って必死に仲間を庇う新米の剣士よりも、傷つき伏した友人を介抱する服司よりも、財産の詰まったカートを放り出して逃げる商人よりも。
 恐怖に彩られてなお色褪せるところの無い少女の美貌も、この襲撃の最中では全くと言っていいほど意味が無かった。自分のことで手一杯の人々が他人にまで気を回せるはずもなく、魔物が獲物にする人間の美醜などに頓着するはずもない。例え目に留まったとしても、それは死ぬまでの苦しみを引き伸ばす結果を生み出すだけだ。

 小さく舌打ちし、赤毛の騎士の女は再び周囲に目を配る。近場で一番危険そうなのは間違いなく白銀色の髪をした例の少女だった。あの様子では自らに生命の危機が迫っても癒しの奇跡一つ起こせないかもしれない。司祭の位を与えられているというのに。
 敵を引きつける前にやらねばならないことができたようだ。
 使い込んだ槍を握り締め、掌で感触を確かめる。
「行くよ」
 そう一言囁きかけるだけで、意を汲んだ相棒は目標に向けて走り出した。魔物の標的になっていないのをいいことに少女の下まで一気に駆け抜ける。
 あと数歩という位置にまで迫ったところで、赤毛の騎士は自分の判断が正しかったことを悟った。視界の中心に映る、大きく目を見開いて体を掻き抱く銀髪の少女と、その眼前で巨大な槌を振り上げる牛頭人身の魔物の巨躯。
 凶悪な武器が振り下ろされる直前に、槍を逆手に持ち替える。
「ブランディッシュ――」
 極限まで練られた精神力が青白い燐光という目に見える形で槍身全体を包み込み、先端に収束していく。
「――スピア!」
 裂帛の気合と共に突き出された槍先が牛魔の脇腹を穿ち、淡い光が物理的な衝撃波となって爆散した。ごっそりと肉を抉られきりもみしながら弾き飛ばされる魔物を確認すると、愛鳥ごと少女に向き直り、怒声を叩きつける。
「貴女は! 貴女は何をしているの! 貴女には力があるのでしょう! プリーストの力が! 人を助ける力が!」
「っ……わ……たしは……」
 色を失った唇から零れる場違いなほど涼やかで耳に心地良い声は、震えながらも確かに意味のある言葉を紡いでいた。
 思ったよりも良い反応だった。言葉を返せるだけの余裕があるのならばまだ大丈夫だ。この子はまだ闘える。
「そうでしょう? 何のためのプリースト? 何のための神の力?」
「何の……ため……?」
「少なくとも助けを求める人々を見殺しにするためのものではないでしょうね。聖職者じゃない私に言えるのはそこまで。あとは自分で答えを出しなさい」
 蒼白のまま何かを考えるように視線を彷徨わせる少女を横目に、抉れた脇腹から臓物を覗かせてにじり寄ってくる牛の魔物に体を向ける。目に見える肉体の損傷が激しい分、怒りの雄叫びをあげて大槌を振りかぶるその姿には異様な迫力があった。
 大地にぶつければ地面が震動するだけの威力を持つ牛魔の渾身の一撃を、怯むことなく盾で受け止める。
 赤毛の女は騎士になると決意した瞬間から避けることを放棄した。騎士とは『護る者』だ。背後に護るべき対象がいる局面で避ける技術など何の役に立つ。
 全てを受け止める。そのための技術は何よりも優先して磨き上げ、そのための武具は何よりも先に鍛え上げてきた。魔王の振るう死の大鎌とて受け止めきる自信がある。
「温いわね。ピアース!」
 大槌から加えられる重厚な衝撃を最小限の動きで吸収し、ニ撃目が振るわれる前に三連の刺突を見舞う。胸部に三つの穴を穿たれた魔物は仰向けに倒れこみ、今度こそその生命活動を停止した。
 僅かに乱れて顔に掛かった数条の毛髪を片手で梳き退け、地に伏した巨体から視線を外す。
「答えは出た?」
 顔だけを向けて問い掛ける。銀髪の少女は血の気の失せた面で、しかし深海色の瞳には確固たる意志の光を浮かべ、しっかりと騎士を見詰め返した。
「私も……連れて行ってください。傷ついた方々を、助けます」
 声音は未だに震えていたが、怯えに混じって決意の響きが感じ取れる。騎士の顔に満足げな笑みが浮かんだ。
「それが貴女が自分で出した答えなのね? いいわ。付いてきなさい」
 言葉も無く強張った面持ちで頷く少女の様子に、小さく苦笑して一つ付け加える。
「そんなに堅くならなくても大丈夫」
 笑みを消し、騎士の表情に戻る。どこまでも力強く、対峙するものには威圧感を、庇護されるものには安堵感を与える、『護る者』の表情。
 そして赤毛の騎士はその一言を言った。
「この槍と、騎士の誇りに誓って――貴女は私が護る」
151149sage :2004/09/14(火) 00:26 ID:1kCTCzjo
ニ.

 紛うことなく、銀髪の少女は司祭だった。それも身に付けた装備品に見劣りしないほどに高位の。
 守護の奇跡は赤毛の騎士への魔物の攻撃を悉く弾き、癒しの奇跡はほんの数回の詠唱で重傷者の傷口を完全に塞ぎ、蘇生の奇跡は死の縁にある者を無傷の状態にまで回復させた。
 にも関わらず――。
 魔物どもを駆逐し終えた街で救護活動にあたる少女を、赤毛の騎士は訝しげに見やる。
 そう、にも関わらず、始めは恐怖のためかとも思ったものだったが、魔物の脅威の消えた今に至っても、その優れた力に反して神の奇跡を施す少女の姿からは自信というものが全く感じられなかった。
 恐る恐る治癒の奇跡を起こしては、自らが救った人々を見て顔を綻ばせる。そのあどけない笑顔には駆け出しの服司の表情にも似た雰囲気があった。まるで力を行使するのが初めてでもあるかのように。
 もっとも、赤毛の騎士以外にはそこまで深い部分に気を向ける人間はおらず、奇跡を施された者はその人間離れした美しさにただただ目を奪われるばかりだった。死の縁から帰還した者は、この世のものとは思えない美貌に迎えられて自分が死んだものと誤解し、やがて生きて現世にあるのだという事実に気付いたときには、祈りを捧げるように指を組み、むせび泣いてさえ見せた。
「まるで女神さまね……」
「? 何か仰いました?」
「いえ、なんでもないわ」
 呟いた独り言を聞きとめられ、騎士は小さく首を振って誤魔化した。
 癒しを受けた人々が少女に向けた崇拝の眼差しを思い出す。罪を犯した女神が本来の力を封じられ、神界から放逐されるという神話があった。人々の少女を見る目はその話を想起させる。ありえないとは思っているが、そのような幻想的な空想を巡らすのは嫌いではなかった。
「お嬢さまあぁぁぁぁ……」
 遠く響いてきた男性の声に愚にもつかない妄想を打ち切る。どこをどう見回してみても『お嬢さま』などと呼ばれそうな人物は一人しか見当たらない。やはり銀髪の少女は女神の化身などではなく、出自の確かな一人の人間だったようだ。
 本当に少女が魔物と対峙することの無いような深窓の令嬢だとすれば、余計にその大きな力の異常さが際立つのだが、騎士は出会ったばかりの人間の背後を詮索するような旺盛な好奇心を持ち合わせていなかった。
 テロからここまで少女を護り抜いた。その結果だけで充分だ。このまま身内の保護下という安全圏に無事に引き渡せば成すべき仕事は終わる。
そう結論付け、見納めとばかりに美しい『お嬢さま』当人に視線を向ける。
 銀髪の少女は、顔面を真っ赤に染めて何度も頭を下げる商人の少年を振り切り、赤毛の騎士の下へと歩き着いたところだった。表情は硬く、僅かに伏せった睫毛の落とす影が深海の瞳に憂いの色合いを添えている。たおやかな指先がきゅっと騎士の外套を掴んだ。
「……どうしたの? お家の方なんでしょう?」
「ええ……、いえ、あ、はい」
「歯切れの悪い返事ね。違うの?」
「いえ……せっかく知り合えたのに、お別れするのは寂しいと……思いまして」
「……光栄だわ」
 すり替えられた話題について触れることはしなかった。本人が話したがらないことを無理に追及する趣味は無い。そして尋ねるまでも無く、はっきりと姿を見て取れる距離にまで近づいた迎えの一団を見れば、彼らが少女の屋敷の使用人という身分の者ではなく、ましてや肉親などでは絶対にあり得ないことは一目瞭然に判明した。
 職は様々だったが、集団を構成する数人の男たちの胸には一人の例外もなくエンペリウムの輝きがある。少女の胸には見ることのできない金属の輝きが。
 ブリトニアに居を構えるその有力ギルドの紋章は、赤毛の騎士の記憶にも存在していた。ただし、あまり良い印象を持って覚えていたわけではない。どちらかと言えば悪い噂の多いギルドだった。
 騎士は小さく眉を顰める。己の出した結論に疑問が生じ始めていた。
 少女の帰る先は本当に安全圏なのか。本当に背後を詮索しなくても良いのか。
 ここで引き渡して――本当に少女を護ったと言えるのか。
 もしこれが正しいのであれば、なぜ外套を引く手に力が篭るのか。なぜ顔から表情が消えるのか。
 銀髪の少女には、負傷した人々を救って嬉しげに笑っていたときの面影は、もはやほとんど残されていなかった。感情豊かな愛らしさがあった場所には、魂の篭らない彫像のような無機質な美が居座ろうとしている。
 赤毛の騎士は、最後の一線を守ろうとするかのように心の動きを直截に映し出す深海色の瞳を覗き込んだ。
 怯えと、恐れと、そして確かな拒絶。この子は帰りたいなどと思ってはいない。
 一度出した結論に対して抱いた疑惑の正しさを確信する。
「あれは、貴女のお迎えなのよね?」
「……ええ」
「帰りたい?」
 一言でも口に出して拒むのなら、あの男たちは何としてでも阻んでみせる。護り抜くと誓ったのだ。
 真摯な騎士の眼差しで見詰めながら、答えを待つ。
 しかし、清冽なまでに静やかな声が紡いだ言葉は、予想とは違ったものだった。
「帰りたくはありません。ですが、帰ります」
 騎士は目を見開いた。
 少女の瞳に浮かぶ決意の光。テロの最中に司祭の力で人々を助けると、そう己の在り方に答えを出したあのときよりも遥かに鮮烈な輝きがそこにはあった。
 雑踏の中に見付けた青ざめ震える弱弱しい少女はどこにもいない。
「帰って、清算してきます。ですから――」
 銀髪の少女は、敢えて困難な道を選ぼうとしている。安易に他人に縋ろうとしない強い意思が、赤毛の騎士には酷く好もしく思えた。
「ですから、戻ったら――また、会って下さいますか?」
 戻る。有力ギルドの本拠地に単身乗り込み、戻ってくる。無理だと諭すことも、馬鹿馬鹿しいと笑うこともしない。少女の決心に水を差すようなことはしたくなかった。間違いなく無謀で実現不可能なその挑戦を後押ししてやりたい。
 なぜならば――。
 二十余年の人生において、これほどまでに真っ直ぐな意力を見せた人間は他にいなかったのだから。
 赤毛の騎士は側に立つ少女に体を向け、琥珀色の瞳で真正面から深海の双眸を見据えた。
「いい決意だわ。もちろん会ってあげる」
 気丈な振舞いの裏側で、法衣の袖口から覗く白い手指が震えているのを騎士は見逃してはいなかった。
 小さな体で精一杯の虚勢を張るこの銀髪の少女を、その歪み無き魂を、護りたい。
 『護る者』としての生き方ゆえにではない。心の奥底から湧き上がる想いを、騎士は感じていた。
「戻ってきたらなんて言わない。いつでも。私は貴女に会う」
 騎士の表情は作らない。何に誓うなどということもしない。
 そんなことをするまでもなく、この想いは何にも曇らず、何にも曲がらず、何にも折れはしない。
 絶対に。
「私の名はリシア。いつでも呼びなさい。貴女が許す限り、私は貴女の騎士であり続ける」
 目に見える範囲の人間を全力で護ることを信念としてきた赤毛の騎士は、初めて視界の外にまでその手を伸ばした。呼ぶことを許した。
 それは、騎士が仕えるべき主を見付けた瞬間だった。
「……リシア、様」
「様は要らない。リシアでいいわ。呼びにくかったらさん付けでも」
「リシア……さん……。ありがとう、ございます……っ」
 囁くように喉を振るわせる銀髪の少女の眼には、光る雫が溢れんばかりに湛えられていた。合わさる上下の長い睫毛に押し出され、零れて頬を伝い落ちていく。
 少女の瞼が上がったとき、そこには先ほどまでと変わらない、強い意志を秘めた瞳があった。涙はもう、浮かばない。
「私は、レティリアと申します」
「レティリア。……レティで良いかしら?」
「はい」
「頑張って、レティ。待ってるわ」
 優しく微笑みかけ、赤毛の騎士は紫衣を纏う小さな主を送り出した。
152149sage :2004/09/14(火) 00:31 ID:1kCTCzjo
三.

 銀髪の少女に宛がわれた豪奢な一室に、くすんだ金色の髪をした魔術師の男が入って来たのは、夕食を取り終えてしばらくしてからだった。この男はいつでも、扉を叩いて合図をすることなどしない。無遠慮に侵入してくる。この部屋もこの砦も、そしてこの居室の仮の主人となっている少女すらも、魔術師の男の所有物なのだ。
「ご機嫌麗しゅう、お嬢さま。どうでしたか? 初めてのテロは」
 落ち着いた声で問いかけてくる男を、銀髪の少女は無表情に見詰め返した。
 まだニ十年にも届かない人生の、その半分以上を傍らで過ごしたはずの男に向ける己の視線は、これ以上無いほどに冷え切っている。今朝までは気にも留めなかったその事実にふと気付いて、少女は内心で苦笑した。今日出会ったばかりの赤毛の騎士とはあんなにも温かな会話ができたというのに。
 今まで思考の端にすら上らせることはなかったが、魔術師の男を無感情な目でしか見ることができなかった理由は、考えてみれば明らかだった。そうなるように育てられていたのである。

 非合法に行われている人身売買の商品と客。それが少女と魔術師の男との最初の関係だった。ひたすらに酷い扱いを受けていた檻の中から救い出し、育てあげてくれたことには少女は感謝していたが、それだけでしかなかった。
 高価な装身具も、豪勢な食事も、上等な部屋も、全てこの男から与えられた。上流階級の教養も、聖典の知識も、この男が連れてきた高名な教師から教わった。そして同じように、この男当人を含む数人の男女から、最高級の娼婦の技巧を叩き込まれた。
 少女が抱かされた相手を数えていたのは両手と両足の指を使って足りるところまでだった。何十人という人数になってしまっては、正確な数を言えるのよりも、多すぎてわからないとしか答えられない方がまだ良いと、そう考えた結果だった。そこにさしたる差が無いのだとしても、その些細な違いは少女にとっては大きかった。昼間には何も知らない家庭教師がやって来て、貞操観念の大切さと姦淫を良しとしない神の教えを何度も説いて聞かせるのだ。罪の意識を和らげるには、相手をした人間の数は一人でも少ないに越したことは無かった。
 そうやって緩和しながらも、その重みに耐え切れなくなったとき、少女は昼の自分と夜の自分を切り離す術を覚えた。意識が別物になるという類のものではない。突然、本当に突然に、罪悪の感だけがぷっつりと無くなった。どういう理屈なのかはわからない。ただ、何かが壊れてしまったのだということはわかった。
 それから先は、昼も夜も、少女は従順で優秀だった。日中は一国の王女も斯くやという気品と、聖女と見紛う程の清廉さを漂わせ、ひとたびその段になれば、ゲフェニアの奥地に住まうという淫魔を思わせる淫蕩さを見せた。寝台を共にする者はその余りの落差に劣情を煽られ、その様を見ては少女もまた興奮を昂ぶらせる。しかし翌朝には、記憶はそのままに無垢な乙女のように振舞う。そういう存在になってしまった。
 魔物狩りに連れ出されるようになったのはその頃だった。これもまた魔術師の男がどこからか連れてきた数人の団体に混ぜられてのことだった。少女は一切の行為を禁じられた。危険だからという理由で唯一許されていたのは、狸の魔物の魂を封じた装飾品の魔力を借りて身を隠すことだった。それだけでも、魔物の討伐に参加したとその功績は神に認められ、少女の位階は天の使いによって確実に上げられていった。
 気が付けば、傷ついた人間を見て隠れるしかできないことに対しても、何の感慨も抱かないようになっていた。昼夜を切り離すようになったのと同じ過程で、いつしかそこに至っていた。
 そうして、何を要求されることも当たり前に受け入れる、人形のような少女が出来上がった。
 それでも――そのように成り果てた自己を自覚しても、少女は人生に絶望することだけはしなかった。
 物心付いた頃から片親だった母が口癖のように語っていた『世界は素晴らしいのよ』という言葉が、消えることなく少女の中に残っていた。信じていたわけではない。自らの食費を削って娘に食事を与え、衰弱してそのまま冷たくなった母親は、生前も具体的な世界の素晴らしさなど何一つ感じさせてはくれなかった。
 ただ、母は、少女を一個の『人間』として見てくれた、たった一人の存在だった。同時に、ただ一つの遺産であるその言葉は、自分が人間なのだと確認できる、少女にとっての唯一の財産であり、宝物だった。
 ゆえに、少女は信じてもいない言葉を何度も反芻し、まだ見ぬ素晴らしい世界を夢想した。いつかはこの境遇から抜け出せるのだと、人並みに人生を謳歌する日が来るのだと、そう言い聞かせながら。
 そして――。
153149sage :2004/09/14(火) 00:32 ID:1kCTCzjo
 半生の回想を魔物に蹂躙される街にまで進めた銀髪の少女の頬に、小さく笑みが浮かぶ。あのときまでは、奥底で渇望する心を知りつつも、表面では全てに無関心だった。歳相応に笑うことなどこの先ずっとできないのだと諦めていた。
 憧れつづけたその笑顔が、今はほんの少し記憶を振り返るだけで手に入る。
「どうしました……?」
「いえ、何でもありません。テロの話でしたね」
 忌み嫌う男に意識を向けると、頬の緩みは自然と収まった。
 少女の二倍ほどの実年齢の割に二十代ほどにも歳若く見える魔術師の顔は、不審げに歪められている。無理も無い。感情の伴った表情を作ってみせたことなど、ここ数年では一瞬たりとも無かったのだから。
 自分を縛りつづけてきた男の淡い青色の瞳をしかと見据え、銀髪の少女は己の半生を綴った本の最後の頁をめくった。
「騎士様に、会いました」
 初めて独りで対峙する魔物の群れの中で、少女は真に恐怖を覚えていた。死に瀕していること自体が恐ろしかったわけではない。
 いつもと変わらず、襲われる人々を客観的に見ていた無感情なはずの少女に、竦むほどの恐怖を与えたのは、その生だった。魔術師の道具のままで、自分を『人間』と見るものが一人もいないままで終わろうとしている生こそが、たまらなく恐ろしかった。
 母の遺言に縋って生きてきた人生は虚構だったのか。あの言葉は狂った心が生み出した妄想だったのか。
 死ぬまで人間たり得ないのか。
 身の上に悲観しながらも、空想で己を慰めることしか知らなかった少女は、眼前に死を突きつけられ、かつてない激情に胸を満たされても、やはり嘆く以外の術を持たなかった。
「騎士様は救って下さったのです。私を」
 そこへ突如やって来たその騎士は、一切怒りを隠さない声で、震える少女を怒鳴りつけた。
 怒り。それは紛れもなく一人の『人間』に対して叩きつけられた感情だった。商品にも、道具にも、ましてや美しい偶像に対してなど絶対に向けられるはずのないもの。
 騎士は確かに少女を『人間』として扱っていた。
 求めて止まなかった物が突然与えられた。
「私に人としての生を下さいました」
 混乱しないのが不思議なほどの胸の高鳴りを覚える少女に、次いで騎士は、考えろと言った。
 流されることに慣れたせいだったのかもしれない。興奮にも邪魔されることなく、言われるままに考え、答えを出し、――不意に、自分には物事を決める力があるのだと、自由な意思があるのだと気付いた。
 そして同時に、どれだけ待っても素晴らしい世界が目の前に広がってこなかった理由を知った。
 認められていなかったのだ。悲嘆に暮れるばかりで思考することを放棄していた自分を、世界は認めていなかった。意思というものを持たない存在を、世界は『人間』とは認めなかった。
 簡単なことだった。自らを人間たらしめる道は己の中にあったのだ。幼き日々の思い出に浸るのでも、他人に人と扱われるのを待つのでもない。人間であると、強固な意志で己の在り方を定めれば、自分は人間であることができた。
 騎士に怒りをぶつけられても――人として扱われても、まだ色褪せたままだった世界は、司祭の力で人々を救うと少女が決意した瞬間、その前に真の姿を現した。見えなかったものが見え、気にも留めなかったものが強く存在を主張する。
 そう――。
 果たして、世界は素晴らしかった。本当に光り輝いていた。
 人間となることができた自分は、この美しい世界でこの先の人生を紡ぐのだ。
 誰にも邪魔はさせない。
 銀髪の少女は、魔術師を睨みつける深海の瞳に更なる力を込めた。昨日までにはあり得なかった意思の光を、眩いばかりに宿らせる。
「私はもう、貴方の道具にはならない」
 人間としてこの世に生まれ出でることを阻みつづけてきた男に、決意の言葉をぶつける。
 自らの在り方を。
「――私は、人間です」
 凛とした声が室内の緊迫した空気を揺らした。響き、反響し、溶け消える。
 喉を震わせれば、言葉は風に乗る。静寂が満たした部屋で、銀髪の少女はそんなささやかな事実に気付き、そして実感した。
 生きている。世界に祝福されている。
 この男に屈する理由など何も無い。
「……お嬢さま。言いたいことはそれだけですか?」
 魔術師の男は小さく嘆息し、僅かにしかめていた表情を解いた。所有物である少女が初めて見せた、静かながらも強烈な反発に対しても、何ら心を動かした様子はない。
「騎士様とやらに何を吹き込まれたのか知りませんが、馬鹿なことは言わないで頂きたい。価値が下がってしまいます。何を言ったところで、貴女に選択の自由はありません。いいですか。人間である以前に貴女は私の道具です」
 男が淡々と述べる言葉は紛れも無い真実だった。銀髪の少女が何を想おうが、強大なギルドの長でもあるこの魔術師から逃れることはできない。だからこそ全てを諦めるようになりもした。
 それでも、男の前で口に出して誓わねばならなかった。そうすることこそが、過去と決別するためにと、少女が他人に要求されるのでなく下した初めての決断だった。
 自らに課した任務を終えた銀髪の少女は、瞳から力を抜き、顔から表情を消した。好きでもない相手に不必要に感情を見せる気にはなれない。
「わかっています。貴方にとっては、私はただの道具でしかないのでしょう。選択の自由もありません。逃げることなどできないのですから」
 赤毛の騎士に『戻ったら』と言った少女には、始めから戻る方策など無かった。本当は戻れるとも思わなかった。ただ、少女の美しい容姿にも目を曇らせることの無かった騎士と――自分の『人間』を認める唯一の存在と、一つでも多くの繋がりを持っておきかった。
 それなのに。
 それだけのことでしかなかったはずなのに、赤毛の騎士はいつでも会うと、そう答えた。おそらくは、いや間違いなく、戻る気の無い少女の心中を察した上でのことだった。そうでなければ、一つ頷くだけで事足りたのだから。
 それは、つまりはこういうことだ。
「確かに私には逃げることはできません。ですが、連れ出してくれる方はいるのです」
 傲慢だとは思わない。騎士たる人間の発言なのだ。その重みくらいは知っている。
 銀髪の少女は、深海色の瞳を閉じた。そして念じた。心の中で強くその名を呼んだ。
 まるで御伽噺の英雄のように颯爽と現れ、そして囚われた少女を色褪せた世界から救い出してくれた、その赤毛の騎士の名を。
154149sage :2004/09/14(火) 00:33 ID:1kCTCzjo
幕間.

 昼間に味わい尽くせなかった紅茶を今度こそはと楽しんでいた夕食後に、赤毛の騎士は己を呼ぶ念話を聞いた。我知らず、笑いがこみ上げる。よくよくお茶の時間を潰される日だった。
 一日に二度も慌しく出て行く非礼を詫びながら、店主に硬貨を手渡す。
 外に出ると、街には夜の帳が降りきっていた。昼間のテロなど無かったかのように、商売熱心な者たちが声を張り上げている。
「みんな元気なものね」
 自分も含めて。
 愛鳥に飛び乗り、いつもの声を掛ける。
「行くよ」
 主と定めた少女の初めての呼びかけに応えるべく、赤毛の騎士は夜の街を駆け出した。
155149sage :2004/09/14(火) 00:37 ID:1kCTCzjo
このスレに投下するのガクガクです。お目汚し失礼ですた。
えちシーン補完は気が向いたらどこかに投げるかも。
後編は気長にお待ちください。

というか、改行ってするべきなんでしょうか。
個人的に全画面表示しない方なので改行あると読みにくい派なんですが。
さらにノートパッドに書いてて改行の仕方がわかりません!
皆さんどうやって改行してるんですか?良ければ教えていただけると助かります。
ほんとに知らないのです。
156('A`)sage :2004/09/14(火) 01:03 ID:V28LitwQ
>149さん
今晩は。読ませて頂きました。
レベルが、高い。それしか言えないです。
ガクガクなんてdでもないですよ…。
こんな掘り下げた表現が出来る方がガクガクだったら、私は…orz

よし。今書いてた奴は書き直し。決定。私ももっと頑張れる筈。


ノートパッド、というのが何なのか分からない私は論外ですね…orz
157('A`)sage :2004/09/14(火) 02:03 ID:V28LitwQ
誤変換…五行目の「奴」はひらがなに脳内修正を…。
奴って…人じゃないんだから…orz
158名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2004/09/14(火) 02:38 ID:u9TFmwHI
下水道リレーどーすんだよ。
もうキャラ増えまくって、ストーリーごっちゃになって収集つかねぇじゃねぇかよ。
どーやってかたつけるんだよ。これ。
159名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/14(火) 02:57 ID:XRzq9Lk6
>149
ベクター辺りでフリーのテキスト整形ツールを落として使うとか、
フリーのエディタで桁数指定のある物を調達するぐらいかね。

Win標準のノートパッドはお手軽だけど機能的にはお察しなんで、
この際自分に使いやすいエディタorツールを探すのがよろしいかと。

>158
下水道リレーの収集つけるには、まず登場人物の整理からだな〜。
さすがにここまで続くと何処にどのキャラがいるかも把握が難しい。
キャラの位置、今後の行動予定(話の中で判る範囲で)ぐらいを
一旦まとめないと、収拾つけるのは_ぽい。
他の人が使ってるキャラには手出しにくいしね。

…私じゃまとめるの_です_| ̄|○
160どこかの166 上水道リレー魔族ルートストーリー予定sage :2004/09/14(火) 06:08 ID:bgv1GN4U
 地上(魔族)サイドで茶々を入れて話を拡大させたのが私なので、最悪責任として地上(魔族)サイトは、私が責任をもって話を閉じます。
 ただ、私も実際に絡んでおらずに内部の把握ができていない、上水道本編ルートを誰が統括して話を進めるのかが見えていないのが最大の問題かと……

 地上(魔族)ルートについては基本的に方針は「サイドストーリー」(別名時間つぶし)である事は開始時から言っており、地上(魔族)編は実は基本プラグは一つです。
 つまり、「魔族側はいつ、どのような形で、上水道で起こっている事を知るか?」これにつきます。
 危機が拡大しても、戦闘が激化しても、他所に戦闘が拡大するもの結局は魔族側が上水道で何が起こっているのかを知らないからです。
 上水道で何が起こっているのか魔族が知った途端、「人間同士の潰しあい」と判断してその戦意と継戦意思は大幅に削がれ、あとは偵察部隊の脱出へと話を進めれば地上編は話を閉じれます。
 リレーSS参加者で地上編を書きたい皆様。人魔の大戦にはしません(というか本編から逸脱しすぎです)。『トータルフィアーズ』よろしく危機で留めるよう考慮願います。

 私が把握している魔族ルートのプラグです。
 各作者の皆様参考にどうぞ。また、足りないものがありましたらお願いします。

 プロンテラ内部での教会の動き(ママプリ)<教会に対する冒険者達の不信
 教会主導のプロンテラ城壁の爆薬装備。プロンテラ炎上・煙と酸欠による上水道浄化処分計画
 アルベルタからの大船団の出航>到着(まだ未記入) <ドレイク侵攻(>143
 プロンテラ西口の戦闘(バフォ部隊待機)
 オーク部隊橋を挟んでの一騎打ち。
161名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/14(火) 16:50 ID:6QluaxYs
>>141さん
こういうふんわりとしたショートショートが大好きです。
些細なすれ違い。通じる気持ち。触れ合う気持ち。
けして饒舌なキャラクター達ではないのに、読んでいてほんのり幸せな気持ちになりました。
わずか1レスのお話で二人の関係がすんなり納得できる書き方も素晴らしく。
参考にしたいです。

113〜のお話とはまたがらりと趣の違う・・・というか、この書き方はもしかして前スレの・・・?
いえ、名乗ってらっしゃらない作者さまを特定するのは無粋ですね。スルーしてください。
162名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/15(水) 00:15 ID:Keuk3njM
上水道リレー、足早にするとDIO様をとっとと融合させて
上水道破壊→地上に出現→DLの異変を感じたBOSS&人間軍団と対決
とか。

どうも魔族側に対抗できる人間側が少ないのがネックなのでは。
やっぱBOSS出過ぎじゃないっすかね_| ̄|○
完全に魔族側にキャラ食われてるようですし…(´・ω・)

軽く状況まとめてみるかな…
163名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/15(水) 00:25 ID:xUFNANMo
>>162
時系列順にまとめるといいかもしらん。
私は挫折した。
164名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/15(水) 01:41 ID:ivifKyDs
教授と助手、特務の二人、姉プリ&その相方位かな?
オーラクルセは逝っちゃったしなあ・・・
後は思いっきり地上に居るけどヘルマン、ニノ、ママプリ位か。

先遣隊の面々はどっちかというと一般的な冒険者っぽいし、
元々のストーリー的にはむしろ彼らにこそがんがって欲しいトコロだけど、
敵がデカくなり過ぎて(鉤やら悪モンクやら)彼らがマトモに立ち回れる余地はもう無さそう。

地上編が拡大しすぎてるのは確かだとは思う。書きやすそうだし。
うやむやにするには既にキャラが立ち過ぎているため放置も出来ず、
出てきた時点で人間と魔族がどーたらこーたらになるのはキャラ特性みたいなモンだし、
こーなったらもうママプリ復活させて暴れさせちゃっていいんじゃね?
もう剣士君やらBS君じゃあ力不足過ぎるし・・・
165名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/15(水) 01:44 ID:ivifKyDs
後、すごーく簡単だけど今現在の状況を書き出してみたり。
箇条書きでもこんだけの分量あるし、多分書き出し漏れもあるだろうし、
これ以上ストーリーを広げないためにも足早になるしかないかもなあ、と思った。

・地上(人間側)
ママプリ→大聖堂で司教と一緒
ハンス→プロ西に到達
ニノ→直属の部下と一緒に十字軍の動向観察
ヘルマン→騎士団を率いて魔族と交戦中
クレア→南西酒場で看護。教授の便宜でヒルクリ持ちマジ君が大挙してやって来るかも
船団→イズルードに向かっている……はず。
十字軍→クルセイド発動。大聖堂を発ったかも?

・地上(魔族側)
ヒーロー→橋でレオとタイマン。放置でいいかも
血騎士→十字軍の動向を察知、ウィスパ隊に探らせた。可能な限り交戦を避けている。
その他→騎士団と交戦中
ドレイク→アルベルタ制圧したらしい

・地下(DIO様側)
DIO様→オーラクルセを始末。現在暗殺者と交戦中?
鉤・悪モンク→鉤は先遣隊とかと交戦中。悪モンクはどちらに付くか決めかねている様子
ダークロード→捕縛中

・地下(notDIO様側)
特務隊→進行中。ミスリルはこのPTのアコ君が所持。
先遣隊ズ→とにかく人がいっぱいいる。教授もここのはず。鉤と交戦中。
ダインスレイフ→メンバーはオークロード、ドッペル、深淵の三体。進行中。
166名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/15(水) 03:29 ID:Keuk3njM
>165さんのを踏まえて、場所区切りでまとめてみますた。

【地上編】

●首都内部
・“元”大司教様がママプリを捕らえ大聖堂の地下へ(ママプリは擬態中)
・ニノ直属のアサシン、十字軍の動向観察
・NEEZ・透プロ西へ進行中

◇大聖堂
・周辺にはハイドしたウィスパ。
・内部は十字軍が占拠。クルセイド(首都浄化計画)発動
  団長・ヤコブ・クリストフ等(クリストフ謀反する予感)
  別働隊が南西城壁の爆破準備中?(魔物を引き入れるため)

◇南西酒場
・クレアと負傷者達。教授の便宜でヒルクリ持ちマジ君が大挙してやって来るかも。
・ママプリに一旦殺されクルセイドの進行を聞くために蘇生させられたクルセ(長い…)

●首都周辺
◇西側でほとんど戦闘中。
・ヘルマンの騎士団とニノのアサシン部隊。
・Scorch、月影、ポテロング。
・ハンス合流。
・スパノビ、ハンスにストーカー中
・血騎士部隊は十字軍の動向を察知、可能な限り交戦を避けている。
・ふたりはドラキュア。どっかにいると思います。
・窓手(?)合体のジャミラ。南西の森から再び上水道へ向かう。

◇上水道入り口付近の橋
・レオ=フォン=フリッシュVS超兄貴。ほれ、バナナ食え。

◇北側
・バフォ。少しづつ後退しながら、魔物を集めている模様。

◇南側
・ジョーカー・ダークフレーム・ジェスター部隊が撹乱中?(人間側まだいないっぽ(・ω・`)

●伊豆
・そろそろ援軍着くみたい?

●アルベルタ
・ドレイク隊により陥落。無意味なような…_| ̄|○

【地下編】
上層部と思われるのから順に。

・道兄貴・DOP・深淵
・シニョンアコ(だっけ?)・ケミ子・アチャ子・VIT-AGI極騎士
・特務隊 マナたん・紫苑・プリ・プリアサ姉妹・切り札は一つだけミスリル所持アコ。運命と戦え。
・鉤VS先遣隊fact 姉御アサ・逆毛ローグ・変態プリ・逆毛モンク・WIZ子・姉プリ・相方ハンタ・バード・教授と助手(withストーキング悪モンク)
・生存者's(戦闘・半製造BS・♀アコ・♀クルセ・ダンサー・片手剣士・片足マジ)
・VSデイオ様 アサシンがくらえっ、半径20mベノムダスト!中。オーラクルセ死亡?


こんなもんかな_| ̄|○ヘトヘトダ
眠くて変な電波も混じってますが気にしないでください。
後何となく

>ただ、以下の二点だけは押さえておいて下さい。
>・初級冒険者達は非力な能力を知力と勇気で補って必死に脱出しようとしている
>・漠然としていた「死」という存在が身近に存在することを知って恐慌+燃え状態である
>彼らがギリギリの環境に追い込まれている、ということだけは把握しておいて下されば幸いです。
>それでは皆さん、絶体絶命の中で颯爽と活躍してくれることを期待しつつ。

2スレ17さんの言葉置いておきます。
もはや過去ですが…_| ̄|○
167162=166sage :2004/09/15(水) 03:32 ID:Keuk3njM
デイオ様って誰だよウワーンヽ(`Д´)ノ
1682スレ52sage :2004/09/15(水) 05:20 ID:GZoj9bgQ
首都、プロンテラを囲む城壁。
普段は魔物から街を守るその壁は、今日もまたその役目を忠実に果たしていた。
この非常時には、この壁はまさに最後の砦であり、もしこれを破壊されれば街に魔物がなだれ込んでくるだろう。
普通ならば、そんな状況を回避する為多くの兵を用いて城壁を守る事になっている。
しかし、拡大した戦闘により城壁の防衛に幾つもの穴が生まれていた。
その穴に、聖騎士団は目を付けた。
首都浄化作戦『クルセイド』の第一段階……城壁の破壊。
その任務のため、聖騎士団から数名が城壁南西側に急行した。

「爆薬の設置が完了するまで何分ぐらいかかる?」
「そうですね……1時間弱と言った所でしょうか?」
「遅すぎる、30分で完了させろ」
「了解」
部下に指示を出した後、隊長である彼は大きく息をつく。
西側からは絶えず怒号が聞こえ、大規模な戦闘が行われていることをいやがおうにも確認できた。
これだけ大きな戦いならば、数名程度の動きはそう分からないだろう。
教会の上層部も、そして彼もまた、そう考えていた。
首都を焼く、と言う作戦に疑問を隠せない兵もいる。それは当然のことだ、と彼は考える。
誰だって生まれ育った街を破壊したくはない。だが魔物はそこまで迫ってるのだ。
このままでは首都は魔物の手に落ち、さらにここを足がかりにして大陸全土が魔物の手に落ちる危険も考えられた。
それだけは、どうあっても避けねばならない。そのためには街の一つや二つ焼き払うのは仕方のないことだ。彼はそう考えていた。
彼は視線を城壁の方に戻し、部下達の仕事を観察する。
部下達は彼が思っていた以上に優秀で、後10分ほどで爆薬の設置も完了するだろう。
安心した彼は再び西側に目を向ける。
と、遠くから誰かがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
最初は魔物か何かだと思ったが、すぐにそれが人間であることが分かった。
嫌なタイミングに来てくれたものだ、彼は小さく舌打ちをする。
例え、誰であろうと計画に支障をきたすような人物は排除しろ。彼等はそう命令されていた。
人影が近づく、どうやらやって来たのはアコライトの少女のようだ。
これ以上近づかれるのはマズい、と判断した彼は部下にあの少女を斬れ、と命令する。
最初は嫌な顔をしていたが、強く命令すると仕方なしに少女の方へと向かった。
これもまた、必要な犠牲の一つだ。彼はそう考えた。
彼の部下が少女の前に立つ、少女は不思議そうな顔をしてその男を見ていた。
男は剣を抜き、少女の首を落とそうと大きく振りかぶった。
1692スレ52sage :2004/09/15(水) 05:21 ID:GZoj9bgQ
『へんなおじさん』を追っていたはずの彼女だったが、早々に彼を見失ってしまった。
とりあえず、『へんなおじさん』を探す為に辺りをあてもなく歩き始めた。
と、遠くに何人かの人間が見えた。
別にこの場に人間がいてもおかしくはない。しかし、彼等は西で戦っている人達とは明らかに違うことをしていた。
それが何かは彼女には分からなかった。もっとも考えようともしなかった。
今の目的は、『へんなおじさん』……しいてはマナを見つけることなのだから。
彼等のすぐ横を通り抜けようとした彼女だったが、その前に一人の男が立ちはだかった。
『へんなおじさん』やマナとは違い、大きな鎧と盾を身につけている。
不思議そうにその男を眺めていると、男は彼女に向かってこういった。
「すまんな……お嬢ちゃん」
剣が鞘から引き抜かれ、大きく振りかぶられる。

殺す理由なんて それで十分だった
1702スレ52sage :2004/09/15(水) 05:22 ID:GZoj9bgQ
彼は見た、今まさに少女を斬ろうとしていた男の腕が飛ぶのを。
続いて、男の首が宙を舞う。胴体から離れた頭部は血の筋を空中に描き、ぼとりと地面に落ちた。
一瞬、彼には何が起きたか分からなかった。
自分たちは厳しい訓練を積んだ兵士であり、それがアコライトに負けるなんてことは考えもしなかったからだ。
負ける……誰に負けるって? 彼は20mほど先にある部下の死体を見る。
その死体を踏みながら、アコライトの少女がこちらに向かってくる。
固まっていた彼の思考が再び動き出す。
何をしている、斬れ、斬るんだ。作業をしている部下に向かって彼は怒鳴り散らす。
同僚の死体を見て、色めき立った彼等は素早く少女を包囲する。
10人からの武器を持った男に包囲されても、彼女は顔色一つ変えなかった。
彼女の腹部目掛け、槍が突き出される。
それを彼女はまるで蜘蛛のように体を低く落として回避する。
そのまま、地面を這うように疾走。槍を持った聖騎士の足首を切り落とす。
ぐぁ、と言う叫び声をあげ、彼は倒れる。そこにとどめとして剣を突き立てる。
血しぶきが舞い、彼女の服を濡らす。
他の男達が体勢を立て直す前に、彼女は素早く次の攻撃を開始する。
低い体勢から一転、彼女は空に向かって飛び上がる。
上昇中に一人の顔を縦一文字に断ち割る。
その男の体を蹴り、方向転換。もう一人の男の喉を突く。
喉に突き刺した剣を横に払う。首を皮一枚残して切断された男はその場に崩れ落ちる。
仲間を3人も失い、怒り心頭に発した男達が少女に躍りかかる。
一番彼女に近い位置にいた聖騎士が盾を構え、彼女に向かって突進する。
それを回避する為、彼女は空中に飛び上がる。そこに別の男が投げた盾が迫る。
彼女は剣を盾に掠めるように振るう。わずかながらも軌道を逸らされた盾は彼女の2cm脇を通り過ぎる。
続け様に彼女は剣を投擲。盾という防御手段を失った男にはそれを防ぐ手だてはなく、剣は男の胸を貫いた。
彼女はそのまま真下にいた聖騎士の首を掴み、体をひねった。
鈍い音がして、男の首が180度ねじ曲がる。
着地、同時に倒れる男の腰から剣を引き抜き、別の男に向けてもう一度投擲。
それに対し、聖騎士は防御の為、盾を構える。そのため、一瞬だが彼の視界が遮られた。
盾に衝撃が走る。防御したことを確認した聖騎士は、攻撃に転じようと剣を引き抜く。
が、それよりも速く、少女が弾かれた剣を掴み、三度投擲する。
がら空きになった男の頭に剣が突き刺さる。まるで石像のように剣を引き抜いたポーズのまま、男は倒れた。
1712スレ52sage :2004/09/15(水) 05:22 ID:GZoj9bgQ
最後に残った男は半ば恐慌状態に陥りながら槍を振るう。
それを彼女は上体を逸らして回避。そのままバク転し、倒れている男から剣を奪い取る。
そして、男に向かって疾走する。男もそれに対向すべく槍を引き、一気に突きだした。
少女は跳躍。そしてその槍の上に着地する。
呆気にとらている男の顔に、剣を突き立てる。
これで少女を包囲した聖騎士は全て倒された。残っているのは隊長ただ一人。
彼はこの状況を知らせる為、大聖堂へwisを繋ぐ。
「こちら第一小隊、現在敵の攻撃を……!!」
しかし、その声は最後まで発せられることはなかった。
少女の振り上げた剣が彼の頭頂部から口の辺りを切り裂いていたからだ。
崩れ落ちる彼の体を少女は冷ややかに見つめる。

あぁ――どうしてこんな楽しいことを忘れていたんだろう

返り血にまみれながら、彼女はそう思う。
彼女の頭から最初の目的は半ば消えつつあった。彼女にとっての現在の最優先事項は"この状況を楽しむこと"だった。
剣を拾い集め、手に付いた血液を舐め取る。
その時の少女の表情は娼婦よりも淫靡なものであった。
彼女は軽い足取りで城門をくぐる。
狩りを楽しむ為に……
1722スレ52sage :2004/09/15(水) 05:24 ID:GZoj9bgQ
久し振りに書いてみました。
一応クルセイド阻止要員としてノビを派遣。微妙に問題ありですが。
寝起きに書いたので文法がメチャメチャかもしれませんが、許してください。
173SIDE:A 魔封の儀sage :2004/09/15(水) 12:42 ID:LXdYQsjw
流れを無視して投下。
妄想が膨らむ今日この頃。某座談会で前作を読んでくれてた方に、自分の味はオリジナルの
キャラクター造形にはないと指摘を受けて、またもコラボ風味にすべく試行錯誤中。
('A`)様のように表現力には自信が無いので書き直しても書き直してもお察し…。

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 結局、ルバルカバラ神父からは依瑠の身元に繋がるような情報は聞けなかった。次の機会には、
彼女を紹介すると約束してからようやく解放された俺は、カピトリーナの門をくぐる。門番の
差し出す名簿に記名してから一歩踏み出すと、眩しい日差しで一瞬目がくらんだ。
「…おっと、失礼」
 ぶつかりそうになったフード姿の男を慌てて寸前でよける。男はちらりとこちらを見てから会釈を
返してきた。
「いえいえ、こちらも別の事に気を取られていましたからね。お互い様、という奴ですよ…クックック」
 何が楽しいのか、妙な笑いを浮かべながら、男は酔っ払ったような足取りでふらふらと歩いている。
「…おい、あんた。大丈夫か?」
「…さすがはカピトリーナ修道院といったところですねぇ。ジュノーの田舎から出てきた身としては、
 歩くだけでふらふらですよ…。けれども、いい物を見せていただきました。…ククク」
「……観光か? 体調が悪いなら日を改めても建物は逃げんぞ?」
「いえいえ。ご丁寧に。私の用事はもう済みました。……どうも、私一人での再現は…難しいかも
 しれませんねぇ…。思った以上に、奥が深い」
 観光に来た巡礼…、にしては少し奇妙な男だったが。何が面白かったのか、彼はまた妙な笑い声を
発しながら、門を出てふらふらと歩んでいく。更に追って手を貸すべきかどうかと考えていた俺の耳に、
聞きなれたペコの鳴き声が聞こえた。普段の声ではない。あれは、切羽詰った時の鳴き声だ。
 俺は、目の前にいた魔術師のことを忘れて、ペコの声のした方角へと走り出した。

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「……遅かったではないか」
 依瑠の力ない声は、予想もしていない形で俺の前に現れた。
「ああ、お連れの方とは…、あなたですか」
 彼女を横抱きにした若い聖騎士がにっこりと笑う。少し長めの金髪と同じくらいに眩しい笑顔には、
どこかで見覚えがあった。……どこでだったか。いや、それよりも、依瑠はどうしたのか。

「…離すが良い。もう歩ける」
「そうですか? では」
 恭しいと言ってもいい程の慎重さで、男は依瑠をおろした。具合が悪くなったのかと案じたのだが、
立って服の皺などを伸ばしている様子からすると、どうということも無かったようだ。と、いうより
むしろ、少女自身が自分の様子に怪訝そうな雰囲気ですらある。
「どうしたんだ、一体」
「…いや、先刻、急に眩暈がして倒れたのじゃが…。妙なことに今は、なんともない」
「そうか。…連れが世話になったようで、感謝する」
「いえ、お礼ならそのペコに」
 聖騎士が目を向けた先には、ふんぞり返らんばかりにくちばしを上げているペコがいた。
わかったわかった。後でにんじんでも食え。
「お嬢さんのところまで、私を引きずらんばかりにして連れて行ったんですよ」
「…それはすまなかった」
「いえ。お陰で多少恩返しができましたよ。ブレイドさん」
 また、笑って、男は前髪をかきあげるようにした。その拍子に、羽織っていたマントの胸元からきら
きらした物が見え、俺は必死に頭の中を検索する。プロンテラ騎士十字章に司祭聖騎士章、あまつさえ
国王綬褒章に、ミッドガッツ商店組合名誉組合員章を並べてつけるような知り合いは、俺には多分いない。
「……ああ、これはその。ちょっとお偉いさんに話をしなくちゃいけなくって…箔付けに」
 俺の視線に気づいたのか、男は照れくさそうにまた笑う。その顔が、記憶の中のどこかに引っかかった。

「…オーク村の剣士か!」
「思い出してくださいましたか」
 今度は嬉しそうに笑う、その表情が2年前のそれに重なる。あれは、騎士叙勲がはじめて民間冒険者に
適用されたばかりの頃。この剣士のPTがオークヒーローに追い詰められていたところを、たまたま
通りがかった騎士なりたての俺が助けた…、というだけの、あれはよくある話だった。
 この剣士が他と違っていたのは、その後だ。助けて、街に戻ったあとで、こいつは俺に挑んできたのだ。
最初は、仲間を護れなかった辛さからきた逆恨みかとも思ったのだが。
「そうか、聖騎士になったのか」
「はい。ブレイドさんには申し訳なかったのですが…」
「いや。お前はおのれの道を自分で選んだだけだろう? 詫びることはない」

 彼は、俺の強さを見たい、と言った。自分の大事なものを護れる強さを目標として、明日から励む
ために俺の太刀を受けておきたいのだ、と。
「あれから、色々な敵と戦いましたけれど…、あの時のブレイドさんの剣よりも痛い思いはしたことが
 ない」
 狩場で再開して声を交わしたときにそう言っていたのは、一年前だったか。初めて会ったときよりも
一回りたくましくなっていた後姿を見送りながら、なんとなく自分と同じ騎士になるものだと思っていた。
 けれども、今思えば、彼には聖騎士のほうが相応しいという気はする。
174SIDE:A 魔封の儀(2/3)sage :2004/09/15(水) 12:42 ID:LXdYQsjw
「……この者と、知り合いなのか、ブレイド」
 懐かしさに口元を緩めていた俺を、依瑠がつついた。それに俺が答えるよりも早く、
「……呼び捨て? ブレイドさん、お嬢さんじゃなかったんですか?」
 聖騎士の驚いたような声。俺と依瑠が彼の勘違いの内容に思い至るまで、一秒ほど。
「……俺はまだ28だ」
「…妾はこやつの血など引いておらぬわ」
 憮然とした口調の俺たちを目をぱちくりさせて眺めてから、男はまた、楽しそうに笑った。

 聖騎士の名前はフレデリックというらしい。彼と腰を落ち着けて話すのは初めてだった。というより、
俺は青年の名前すら聞いたことがなかった。受けている勲章の数からして結構な活躍をしているはずだ。
そう思ってその辺も聞いてみると、俺と狩場で会わなくなった最近は、テロの鎮圧やモンスターの退治
などをこなしていたらしい。
 騎士十字章と商店会組合員章は、先年の首都とアルデバランの同時テロの鎮圧に功績があった故とか。
「たいしたもんだな」
「仲間が、いてくれますから。こんなのも全部、私一人じゃなくて四人で貰えればいいんですけど…」
「国も民衆も、英雄には剣士を求めるからな。にしても、そんな有名人になっていたとは。サインでも
 貰っておくべきだったか」
「サイン会を開く時には整理券をお送りしますよ。……ところで」
 済ました顔で、フレデリックは切り返すと、声を真面目な調子に戻した。
「お嬢さんが調子を崩された件ですが、私たちが修道院で行ってもらっている儀式が原因だと思うのです」
「…は?」
「僧院長に伺ったのですが、魔物封じの儀式は、時に魔力の強い人間にも悪い作用があるそうなのです。
 魔法使い達には、門のところでお待ちいただくように門衛には指示が出ていたと思うのですが、まさか
 聖職の方まで副作用があるとは…。すみません、私たちの手落ちです」

 すまなそうな謝罪の言葉と共に、埋め合わせに何ができるかと尋ねるフレデリックに、依瑠は首を
振った。
「謝罪などいらぬ。それよりも、聞きたい。魔物を封じるなどとは聞いたこともないが…、一体何物を?」
「その法を会得しているのは、ここの老師のみと聞きます。滅多なことではお願いできないのですが…、
 実は、この間“魔剣エクスキューショナー”を手にしたので、依頼いたしました」
「…エクスキューショナーか! …本物か!?」
 世に魔剣と言われるものはあまたあれど、真実魔を宿すという剣は滅多に歴史に姿を表さぬ。そして、
それが表に出るときにはあまたの流血が地を染める。戦慄を込めた俺の問いに、聖騎士は肩をすくめた。
「まさか。ですが、紛い物であってもあれは他の魔剣とは違います。人の手にあれば人を切りたくなる。
 まさか売りに出すわけにもいかず、処分に困っていた折に、老師のことを紹介してくださる方が
 いまして」
「……なるほどの。人の世とは広いものじゃな…。そのようなことができる者が居ろうとは」
「まったくだ。説明すまなかったな、フレデリック」
「…飛び飛びとはいえ結構長い縁なのに、今までずっと『おい、剣士!』とか呼ばれていたので…。
 あなたの口から自分の名前が出るのを聞くと、何か変な気分がしますね」
 苦笑しながら、聖騎士は腰を上げた。それを見送るために立ち上がりながら、俺はふと、さっきの
事を思い出す。
「待て。魔法使いは…門で待たせているといったな?」
「そのはずですが、なにか?」
「さっき、魔法使い風の男に会ったぞ。この中で」
 フレデリックは、少し考えるような顔をした。
「……おそらくは勘違いでしょう。もしかしたら、似たような服装をした聖職の方かもしれませんね」
「そうならいいんだが…。妙にふらふらしてたからな。一人で歩いて出て行けたようだから、大丈夫だ
 とは思うが…」
「では、私はもう少し見回ってみましょう。儀式は夕方までには終わるはずですが、お二人には一応、
 今日のところは観光を切り上げてゆっくり休まれるのをお勧めしますよ」
「ああ、重ね重ねありがとう。また縁があれば会おう」
「…ええ。その時には一献傾けたいものですね。できればブレイドさんよりもお嬢さんと」
 本気なのかわからない笑顔で依瑠に一礼すると、フレデリックは来た方角へと歩み去った。俺が
ちらりと隣を見ると、同じようにこちらを見ている依瑠と目が合う。何かを期待するような、そんな
目で、彼女は俺に問い掛けた。
「……なんじゃ? じろじろと。何か言いたいことでもあるのか?」
「い、いや。なんでもない」
 そうか、と。どこかつまらなそうに答えて横を向いた依瑠を、俺は彼女よりも少しだけ長く、
見つめていた。
175SIDE:A 魔封の儀(3/3)sage :2004/09/15(水) 12:43 ID:LXdYQsjw
 首都には、俗に穴場といわれる店がいくつもある。なんのことはない、その店を愛している常連達が
他人を連れて行く折の、常套句のようなものだ。だから、魔術師は旧知の相手から待ち合わせ先に
指定されたその店にはまったく期待してはいなかった。が。
「……ほう。これは…」
「どうだ。うまいだろう? 僕が知っている中では一番の店だよ」
 魔術師の前で得意そうな笑みを浮かべたのは、ポケットの多い錬金術師独特の服装をした男だった。
かけている小さな眼鏡の向こうの目は意外と澄んでいる。まだ若いのだろうが、自慢げにふんぞり返ると
後退のきざしを見せている前髪のラインがますます後ろに見えた。
「今日は何の用事で僕を呼び出したの? 君には借りがあるから来たけれど、ホントは彼女とデートの
 約束だったんだよ?」
 魔術師の知っている頃よりも幾分強くなったのか、二杯目の杯を乾しながらさりげなくない自慢を
口にする青年に、魔術師は口の端を軽く上げて見せる。
「ククク…。昔はホムンクルス一筋だった貴方が人間の女性に興味を示すようになるとは、人間としては
 ともかく、研究者としては堕落ですね。…それとも、生命誕生の研究の一環ですか? ククククッ」
「ひ、人聞きの悪いことを言ってはぐらかさないでくれよ! それより、用件はなんなの、用件は!」
「失敬」
 口調とは裏腹に、欠片も詫びる気配のない魔術師は、すまし顔で指を鳴らす。心得た様子の店員が、
さっきから彼がつまんでいるアマツ産の塩茹で豆を皿に追加した。ついでに緑色の殻が山積みになった
皿を言われる前に下げていく。
「……ははぁ。さては女の子の話題だね? 人のことばかり突付いておいて、君も魔法装置だのよりも
 気になる相手ができたんじゃないの? 昔と違ってお酒も飲むようになったみたいだし」
「さて。どうでしょうねぇ…。ククク…」
 やはり酒精には慣れないのか、もう顔を赤くしているアルケミストを、いつも被っていたフードを
下ろしたウィザードはどこか懐かしそうに眺めていた。


「……アルコールを摂るような店に人を呼びつけておいて、さっさとはじめているとは失礼な人だな、君は」
「教授、約束の時間より一時間遅れたのはこちらなんですし…って、あああ!?」
「うるさいなぁ、なんだい、君は…」
 待ち合わせ相手の隣の男を指差して絶句している助手をちらりと見てから、学会帰りらしく学者帽を
小脇に抱えた賢者は、魔術師に説明を求めるように顎をしゃくった。
「ククク…紹介の労を取らねばならないようですね。こちらは私の旧知で、人造生命研究に魂を売った
 研究者…」
「…おい」
「から、堕落してそろそろ所帯を構えようかという錬金術師ですよ」
「それはそれは、はじめまして。で、僕の貴重な時間を君が費やす理由は? かつての同僚君」
 一瞥だけ新顔に向けてからは、もっぱら魔術師に文句を言いながらも、賢者は杯をとりあえず受け取った。
その学会用の礼服の袖を、こちらは普段どおりの格好の助手がつんつん、と引っ張る。
「…教授、この人ですよ」
「何がかな? ケミ君」
「以前、教授の生命構造における魔素蓄積循環理論の載った学会報を赤線付きで送り返してきたのは」
「………ほう。彼が?」
 今度はまじまじと錬金術師を眺める。その記憶は、見られる側にも残っていたらしく、アルケミストは
軽く頷いた。
「ああ、あの論文を書いたのはあなた? ふーん…」
「ククク…どうやらそっちの紹介はいらないようですねぇ。狭い世界とはいえ、書面で知り合いでしたか」
「本人に会うのは初めてだが。ふむ。発達した頭脳は時に他の栄養分を搾取する、といういい事例だね」
「きょ、教授ぅ…それは禁句ですって」
 錬金術師はかけていたミニグラスを直すとしばし酒精に浸かった頭をひねり、言われた内容を吟味する。
それからじろりと新参の年長者を睨んだ。その口が開くと速射砲のように言葉が流れ出す。
「僕はいい加減そのネタでからかわれるのは飽きたの。あの論文を書くくらいだからどんなにスゴイ奴かと
 思ったら、期待はずれだね。ウィットの欠片も感じないよ。そんなんじゃ彼女もできないんじゃない?
 だいたい、あの時の論文だって基礎実験からずれてるし。植物と動物だけサンプルにして魔法生物を
 含まないなんて抜けすぎ。せめてキメラの細胞くらいで実験するべきでしょ?」
 口調では飽きたといいつつ、その実、顔を真っ赤にしてまくしたてる錬金術師を他所に、賢者は盃を
乾すと空いている席を引いた。
「…どうやら、楽しめそうだね。酒の最高のつまみは知性の放つ輝きだよ。ケミ君、君もその辺に座ると
 いい」
17693のひとsage :2004/09/15(水) 12:44 ID:LXdYQsjw
丸い帽子さま、遠い過去の『教授を私の筆で動かしてみる』というお約束、下水じゃないところで
果たしてしまいました。お許しください。というか、教授はアルコール摂らないような気もします。
そういうポリシーだったらごめんなさい。その場合は…多分、杯を受け取りつつ中身は泡の出ない
麦ジュースなのです。ところで、教授作品をつらつら読み返して思ったのですが…北森茂さんって
どなたですか?(笑

('A`)様、シメオンたんをエダマメ好きーにしてすみません。酒場のシメオンというと、ジュノーの
時のあれですが、本編に欠片も書いてないのに私の脳内ではエダマメをちびちびと噛む姿が沸いて
おりました…。つまみにはやはりエダマメです。違いの分かる男、シメオンたん(黙れ。

どこかのモンクの方様。某会社のように予想の斜め45度をついてケミさんを借りてみました。
かわいいですよね、おでこ君。私はどっちかというとBSスキーですけど(黙れ

と、いうわけで、(私的に)夢のコラボレーション学者三人衆を書けたので、今日のごはんはとても
おいしそうです(謎

たっぷり溜めてしまったので、以下感想をつらつらと。飛ばしてる人は、ななしで感想投げてたり。
17793のひとsage :2004/09/15(水) 12:44 ID:LXdYQsjw
66さま。台詞多用での場面展開は私にはできないことなので羨ましいです。恋人同士ならこういう
のも二人だけの空間っぽさの演出になるなあ、とか。参考にはできてませんけどorz

113さま。時を置いていたので、丸い帽子さまの感想を見てから読んだ私は幸福だったのか、それとも。
テーマを絞ってから書かれた作品は作者様のお力も相まって、見ごたえがあります。保管庫に入れる
ため、たくさん読んできましたけど、この長さの作品で一つのテーマ、一人の主人公を抑えて
飽きずに眺め終えるのは素晴らしい。……GJ!

丸い帽子様。教授の過去、知性と洒脱さと愛嬌を兼ね備えた人が抱えるつらい過去って奴デスね。
教授ラブレベルが1アップ! でも。ケミ君バレンタインにちょっとだけいい思いしてるだろうに
青春時代なしとあっさり切り捨てられるケミ君にも萌え。

HBさま。(前略)私はラブラブコメコメした話が私の現実のもやもやを吹き飛ばすのが好きだ。
気の強い娘さんと包容力のある男性の話が読めた時など心が躍る。素直になれない娘さんの心の
障壁をあまあまな雰囲気が撃破するのが好きだ。(後略)……猫車も忘れないで書いてね…(笑

141さま。言うのが恥ずかしい愛してるですが、たまに言われないと花も枯れてしまうようです。
…などと思ったり思わなかったり。あまあまー。私もこの長さで綺麗に纏める甘い作品の人。
見たことがあるっ! ……でも、脳内リストには二人いる罠。

149さま。ようこそいらっしゃいまし。改行は物凄く適当なので何もアドバイスできません。大体の
気分でENTER入れてます…。あと、作品を読ませていただいてからお姉さまという単語が脳内に
ふよふよ漂っています。どこかに影響が出ていたら責任をt(ry

下水の皆様。整理とかいろいろありがとうです。私も地上をややこしくした責がありますorz。
そしてえべんはさん、2-52さんなど懐かしい皆様、お久しぶり?
なんか、6-78で悪モンクが姐御を浚っちゃう話を書いたような、そんな記憶が漂っている私ですが、
>>164そんなにDIOさまの部下って強いのかな…? 鉤(間違えて狗と書いたけど)は余裕こいてて
ずたぼろだし、悪モンクも先遣隊の愉快な仲間達にぼこぼこ殴られてる感じに書いちゃったよ…。
まぁ、あれです。愛と正義と友情と努力、そして数の暴力で主人公側はきっと勝てるのです。
…今書いてるのを先に終わらせないと…。
178保管庫"管理人"sage :2004/09/15(水) 13:42 ID:LXdYQsjw
そして連書き。
37の方。
RagnarokOnline/ShortStory がシリーズタイトルだと思うのですが、何か他のがいいっ!
とかわがまま言っていいですか?
実は、まとめやってて、他と被りそうなものは結構独断で題名を変えてしまっているのです。
例えば「♀騎士×♂ハンタ」とかの題名だと、被る恐れが多分にあるので…。
保管始めたばかりの頃は、その辺気づかなかったのでいい加減なのですが。

短編なら題名をこちらで考えてもそんなに的外れにはならないかな、とか思えるのですが、
長編だとそうも行かず。ということで、ひとつオネガイシマス!
179143sage :2004/09/15(水) 16:59 ID:NURNieLA
>160、165、166氏
良く考えてみると制圧は無意味だし、そんなことされたら人魔大戦まっしぐらですね_ノフ○

本当に申し訳ありませんが>146の最後の一行を脳内削除願います

何分初めてのことでして行き当たりばったりの文盲でゴメンナサイ・・・
大目に見てもらえると助かります(´・ω・`)
180丸いぼうし@リレー「鉤vs先遣隊」sage :2004/09/15(水) 19:00 ID:Q2RfdUaQ
「ヒィ…ア…ヒィ…」

今、四つめの首が飛んだ。

 死術師にとって最も恐るべきは、慣れ親しんだはずのものである死であった。
魔を受け入れ、己を群体として組織化し、その結果永遠に近い生と力を授かったとしても、
その恐れは消えることはなかった。

だから、狩りをした。圧倒的な力で獲物を嬲り、屠るとき、少しばかり空虚は満たされた。
猛って、怯えて、諦めて、獲物の一連の表情が種として優れているという愉悦をもたらした。
だが、獲物が腹の中におさまり、彼の一要素となると恐れが一段大きくなって襲ってくる。

「彼」は幾百もの命、意思、体を吸収した。力、魔力、知識、寿命、確かにそれらは人間の
数百倍になった。だが、それはまた数百の死への恐れを内包することに他ならない。

弱いものを嬲る戦いでなければ、死への恐れが出てきてしまう。
多数を取り込むが故に、死を背負った真剣勝負が不可能になる。

群体とはいえ、それを統括するのは一つの人格。一つの人格が背負いきれる死は、せいぜい
一つしかないのだ。
「強くなればなるほど弱くなる」奈落の端に引っかかった「鉤」故のジレンマだった。

だからこうして、獲物が彼の想像以上の反撃をしていると、たまらなく彼は不安になるのだ。
一気にけりを付け、咀嚼し、食い潰さねば彼は負ける。
嬲って嬲って、空虚を満たしている時間はない。

油断をさせ、一気に食い潰す。

先ほどはなった幾百もの仮体。冒険者達の反撃を逃れ壁の中に残っている仮体はまだいくらでもある。
矢にその身を穿たれ、剣戟にその身を削られるたび、ちぎれとんだ肉が壁へと溶け込んでいく。
 幸いにして冒険者達はそれに気づいていない。彼はやられているのではない。やられているように見せかけて
移動しているだけなのだ。

 そして、頭だけ残して彼は壁の向こう側への移動を完了した。

「カハハハァァ終わり終わり終わり、すべて終わりダァァァァ」

首が断末魔を上げる。それは同時に鬨の声でもあった。
銀の矢が爆ぜ、残った頭がはじけ飛ぶ。本来なら飛び散ったそれは目玉であり脳みそであったのだろうが…
生憎と頭の断面はのっぺりとしていて…一様な血液の水面を湛えていた。

壁の向こうの「鉤」は、もう人間の形をとっていなかった。犬でもない、蝙蝠でもない、幽霊でもない。
第一、そんなものは捕食するのに不向きな体だ。余分なものが多すぎる。
捕食する側として最も効率的な体といえば、それは多分アメーバのような食胞だろう。
大きな大きな顎だけの狼が、壁の向こうをじっと見据えていた。その口吻の先っぽに、死術師の顔が
ひょっこりと出ていた。

「このまま壁を通り抜け、全てを食らうのみィッ」

その時、轟音と共に目前の壁が弾けた。崩れ落ちる破片の中を腕に何かを抱えた男がこちらに飛び込んできた。
それを追うようにして矢と、魔法と、それから冒険者達がなだれ込んできた。
181丸いぼうし@リレー「鉤vs先遣隊」sage :2004/09/15(水) 19:02 ID:Q2RfdUaQ
「黒い奴め約束が違う裏切ったな裏切ったな裏切ったな」
「旨そうな若い女がいるぞ食わせろ食わせろ食わせろ」
「なぁに構うものかみんなコロセコロセコロセ」

通路全体程度の幅はあろうかという口から、三重四重に重なって声が漏れだした。
声は十重二十重に響き、ざわめき、打ち消し、一つの咆吼になった。

「い、いやぁぁぁぁぁ!!!!」

魔術師の悲鳴があがった。
死術師の容姿と咆吼は異様すぎた。人間の原初からの感情を呼び覚ますには十分に異様だった。
人間が動物時代から抱く本能、DNAに刻みつけられた「捕食される恐怖」が二重螺旋から
解き放たれて見る物を束縛する。その力はもはや精神攻撃の域を超えた束縛魔法(バインドスペル)と
言ってよかった。

立ちすくむ冒険者達に、噛(ごう)、と顎が迫る。咆吼に立ちすくんだ全員が、自分の頭の上を通り過ぎていく
顎の内側を、呆然と眺めていた。
上下から押し潰そうと迫る、床と天井。いや、下顎と上顎。しかし、その顎は閉じきることがなかった。
一瞬の後に皆が一人の人間を見た。

「まるで…ヴィーダル…」

呆、と女プリーストが呟いた。神々の黄昏においてフェンリル狼を顎ごと上下に引き裂いた神、
それこそが彼の仕える神性であったのかもしれない。
 顎の先の方では神話のそれのように、一人の偉丈夫が両手を上に突き出し、仁王立ちしていた。
サイズが合わず、ベストにしかなっていない法衣、はだけられた胸にははちきれんばかりの大胸筋。
下顎を踏みしめる足にも、上顎を支える腕にも、ふくれあがった筋肉が震えている。
斬魔の使命(デーモン・ベイン)と神の加護(ディバイン・プロテクション)を受けたその肉体
は砕けることなく、ひしゃげることなく、「鉤」の顎を押し返す。

「チクショー、このだんまり坊主め、美味しいトコもってきやがって!」

仲間のファインプレーを見て、ローグは嬉しそうに悪態をついた。
今やんのよ、とばかりに暗殺者の女が目配せをする。同時に、人間つっかい棒になっている筋肉聖職者が
太い首の上についた頭で頷いた。
 静止した空間の中、ゆらり、と格闘家の影が揺らぐ。直後、鋭い靴音が床を踏みしめた。
右足、左足、と交互に床を踏みしめるモンク。震脚と呼ばれる一種の予備動作である。
彼ら独特の概念である「気」。万物を巡るそれを蓄え、調和させ、拳が触れ合う一瞬のみに
解放する特殊格闘、それが、発勁。

「破!」

低い姿勢から流れるような動作で揺らめいた拳は、瞬時にトップスピードまで加速され、内壁、すなわち
「鉤」の顎内部に突き立った。

ずん、という重低音の響きを、「鉤」は自分の口内で聞いた。
万物の本質は、波動。特にすりつぶした肉片で構成される部分の多い「鉤」などは水分が多く、波動をよく伝える。
「鉤」の持つ気の巡り…すなわち固有振動数と完全に同調した一撃は、彼の体内へと放たれた。
 一拍あって、激痛が急ごしらえの神経を走り、同時に袋状になっていた「鉤」の袋の底が勢いよく裂けた。

放たれた波動は、引き裂くにとどまらない。反響し、強め合い、一つ一つの細胞をばらばらにすべく
凶暴に体内を駆けめぐる。圧縮率が高く強度が高いとはいえ、所詮は死肉の集合体…いわば動くコンビーフである
「鉤」に内部からの崩壊を止める術などあろうはずがなかった。
182丸いぼうしsage :2004/09/15(水) 19:37 ID:Q2RfdUaQ
下水内部に進展がないので、すすめてみました。発勁したのは逆毛モンクっぽいですが、
黒モンクにしても繋がります。鉤の生き死にも伏せてあるので併せてご利用下さい。

 教授を合流させてしまった辺りで「うん、やるだけのことはやったよね」と思ってましたが、
大間違いだったようです。有界かどうか怪しくなってますけど、収束頑張ります。

>>165氏、166氏、及び保管庫管理人諸氏
本当に助かりました。ありがとうございます。

>>93のえらいひと
私が書くよりもそれらしく動いている教授を見られて凄く嬉しいです。

教授の名前を和訳しちゃうと北森茂になりますが、北森さんという方は私の知人にはおりません。
由来は職名のもじりと、CPUの開発コード名です。ケミもウィズ子もアリシアも、だいたい同じ
方法でフルネームを設定しました。
183丸いぼうしsage :2004/09/15(水) 19:45 ID:Q2RfdUaQ
…姐御って黒モンクに攫われてるんだっけ。
不整合のある部分は削除して下さいませ_| ̄|○
「鉤」がとにかくドカーンてなった、ということが多分今回の進展です。
184上水道リレーSS 「主よ憐れみたまえ」sage :2004/09/15(水) 19:58 ID:RLK93jJY
 軍靴のざわめきが王都を揺らす。

 十数の小隊に分けられた十字軍は、王都の街路という街路を埋め尽くしつつあった。
 整然と横隊を組んで、進行方向の障害をあまさず刈りとりながら。

 翼を持った魔物と剣を交える、数人の冒険者がクルセイダー達に叫んだ。
「分が悪いっ、加勢してくれっ!」
 王都の外に展開している魔族の斥候だろう。
 戦力差は大きく、冒険者は押され気味だった。
 歳若いクルセイダーが、大声で部下に命じた。

「掃討せよっ!」


 転がり込んだ建物は、どうやらヴァルハラだったらしい。
 昨日はきっと笑い声が満ちていたのだろうが、今となってはその面影などどこにもない。
 床には人間や元人間が立錐の余地もないほど敷き詰められ、
 吹きすさぶ風に木の葉が触れあうように絶え間なく、苦悶と怨嗟の声が響いていた。

「水……、水を……。頼む、一口でいいから……」
 テーブルを組みあわせて設えられたベッドに寝かされた騎士が、
 何もない空間に手を伸ばしていた。
 腹腔にのたうつ赤黒い内臓がよく見える。
 プリーストの奇跡でも受けなければ、助からない傷だ。
 騎士の眼は既に焦点というものを忘れているようで、
 天井の先を見透かすようにどんよりと濁っていた。
 神様とやらが見えているのかもしれなかった。

 死斑の浮きはじめた元人間に頬ずりをする者。
 ぶつぶつと祈りつづける者。
 ひたすらに涙を流す者。
 この場にいる人間は、すべからく現実逃避に忙しそうだった。
 吐き気を感じながら、彼は視線を動かすのをやめた。

「ったく、いつからヴァルハラになったんだか」
 目深にかぶったフードの下で、彼がぽつりとつぶやいたときだった。
「旅人さま」

 疲労を滲ませながらも凛とした、咎めるような響きの声。
 気配は背後。
 意識は自分に向けられている。
 羽織っている暗緑色の外套を思い出すに至って、ようやく彼は合点がいった。

 振り返って見ると、まるで死人のような顔色のアコライトが彼を見据えていた。
「オレのこと?」

 こくりと頷いて、彼女は言った。
「生きる意志を否定するような言動は慎みくださるよう、お願い申し上げます」
 口笛のひとつも吹きそうになったが、彼は神妙な顔をして言った。
「すまない。そんなつもりで言ったんじゃないんだ」

 アコライトははたと気付いたような顔をして、頭を垂れた。
「ごめんなさい……、私、なに言ってるんでしょう……。ごめんなさい」
 彼は憐れみにも似た感情を抱いた。
 経験したことがあるから、彼にはわかった。
 彼女は精神力が尽きかけている。
 血の気の引いた肌、小刻みな呼吸、微妙に焦点の合わない視線。
 それらすべてが、彼女の状態を如実に語っていた。もう限界であると。

「どこかお怪我はありませんか、旅人さま」
 それでも彼女は、慈しむような笑みを浮かべてそう言った。
 彼は首をふった。

「んや、気にしないで。ひーひー逃げ回ってたおかげで傷んではないからさ。
 休ませてくれるだけで充分。しばらくここで座っててもいいかい?」
「ええ……、それは構いませんけど……。なにかあったら、遠慮なく言ってくださいね?」

 頷いて、彼は言った。
「ところで聖女様のお名前をお教えいただけるかな?」
 アコライトは苦笑を浮かべた。
「クレアといいます。……けれど、私は聖女などではありませんよ」
「クレアさんみたいな行動ができる人を聖女って呼ぶんだろうな、って思っただけだよ。
 別に他意はない」

 クレアと名乗ったアコライトはあいまいに会釈をすると、
 新たに転がりこんできた旅人風の男のもとへ駆け寄っていった。
 しばらく、彼は髪を手持ち無沙汰に整えながらその男とクレアの方を向いていた。

 まともに動けそうな者は、五指にも満たないだろう。
 しかも言い方は悪いが、溢れるばかりに足手まといがいる。
 実際の戦闘になれば、なにもできないものと考えてよかった。

「やれやれ……」
 不意に彼は、腰にさげていた長剣を抱きかかえるようにして座り込んだ。
 かちゃかちゃと、外套の内側から金属質の音がした。
 彼は抱えた膝に頭を置いて、再びぽつりとつぶやいた。

「ずいぶんとヘヴィな状況ですねえ、ニノさん」
185上水道リレーSS 「主よ憐れみたまえ」sage :2004/09/15(水) 19:58 ID:RLK93jJY
「あ、あなた達……、なにを……」
 声は恐怖で震えていた。

「僭越ながら、神罰を代行している最中でして……。
 ただ、時間があまり無いもので、詳細な説明はご容赦いただけませんか?
 まあ……、冒険者であってもプリーストである貴女ならば、
 無論ご理解いただけることかとは存じますが」

 歳若いクルセイダーは、微笑を浮かべて彼女の目線までおりてきていた。
 聞き分けのない酔客をやり過ごすような、慇懃で、しかし鼻につく言動。
 へたり込んだ彼女を見下ろすクルセイダー達は、まるで一枚岩のように立ちはだかっていた。

「理解!? わかるわけないじゃないっ!
 あなた達、自分がなにをしているのかわかっているのっ!」
 金切り声をあげて、彼女は涙をこぼした。
 座り込んだ彼女の周囲には、先ほどまで戦っていた者の死体が転がっていた。
 ガーゴイル、ロータージャイロ、パンツァーゴブリン──そして騎士と魔導士と。
 魔導士と彼女の指には、揃いのリングが通されていた。

「神罰を代行、すなわち神意の代行者としてあるべき行動をしていると言っているのですよ」
 歳若いクルセイダーは、
 それだけ見たならば好青年のようにも見える『困った』表情を作りあげた。
 頬に飛んだ血が、いやに赤みを帯びて彼女の目に映る。

「神意? こんなのが神意だっていうの!? ふざけないでっ、こんな神なんか……っ!」
 最後まで言葉を紡げずに、彼女は詠唱を強いられた。

「Kyrie eleison!!」
 きん、と澄んだ高い音がして、振り下ろされたサーベルが中空で制止した。
 わずかに見えたのは光の皮膜。
 プリーストが行使可能なスキル、キリエ・エレイソンだった。
 歳若いクルセイダーは舌打ちをすると、顎をしゃくった。
 すると壁のように控えていたクルセイダー達が、いっせいに抜刀し、
 彼女にサーベルを振るいはじめた。

「Kyrie eleison!!」
 連続して光の膜が顕現しては、サーベルに切り払われ高音を残して散っていく。

「Kyrie eleison!!」
 怯えながらも、プリーストは詠唱しつづけるしかなかった。

「Kyrie eleison!!」
 それはまるで、死体をついばむために群がった烏の群れ。

「Kyrie eleison!! Kyrie eleison!! Kyrie eleison!!」
 サーベルが風を切る音、光の皮膜が飛び散る音、クルセイダーの息づかい。

「Kyrie──」
 プリーストはひたすらに訴えていたに違いない。
 主よ、憐れみたまえ──と。

 そして地面に落ちた彼女の頭部を、
 歳若いクルセイダーは唾でも吐きかけそうな調子で睨みつけた。

「神を侮辱するとは……。とんだ腐れプリーストめ。
 糞、無駄な時間を使ってしまったではないか」
 忌々しげに血糊を払った歳若いクルセイダーのもとに、
 数名のクルセイダーが駆け寄ってきた。

「隊長っ!」
「なんだ」
「まだ一般民衆が残っているようです!」
「だからなんだ」
「いえ……、異端者どもとどのように判別すればよろしいのかと……」
「なんだ、そんなことか」

「簡単だよ。視界に入った者はみな、殺せばいい。
 異端者であるか否かの判別は、あの世で主がなしたもうであろう。
 我らはただ神意を示せばよい。主の御許に送ることで、な」

 歳若いクルセイダーはそして、
 マントをひるがえしながら南西の方角へ向かうよう、部下に指示を出した。

「これより我が隊は本来の任務より離れ、
 神の家を踏み荒らした者、聖女を名乗る不届き者、
 すなわち神威を解せぬ異端者どもの掃討任務に就く!
 Kyrie eleison──進めぇいっ!」

 十字軍が立ち去ったその場で、
 真っ赤な切断面を晒したまま、悲しそうな表情のプリーストが、満月を見つめていた。
186えべんはsage :2004/09/15(水) 19:59 ID:RLK93jJY
今回投下分は以上です。
BOSS強化云々についてレスをくださった方々、ありがとうございます。
ダインスレイフの三名を書くようなことがあれば生かしたいと思いました。

>>165氏と>>166
ほぼ完璧に網羅されているのではないでしょうか。
まとめお疲れさまでした。
自分の脳内配置図の齟齬が判明したりして大助かりです。

そして2スレ17氏の言葉を某大佐の如く目がぁぁ目がぁぁになりつつ刻みなおし、
5スレにまたがって続いてるんだなあ、と感慨深かったりして。

>>183
どちらでもOK(攫っても救っても)的なことを93氏が書いていたように記憶してます。
187とあるモンクの人sage :2004/09/15(水) 20:11 ID:5TLTg8GQ
呼ばれて、板超え、ヌルッと参上。

>173さん
デコケミがっ。ひとさまの手で動くケミもいいなぁ(*´Д`)
ぶっちゃけすげぇ嬉しいです(*ノノ)使ってくださって有り難う!
188名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/16(木) 00:25 ID:UktXduCY
これからの展開、どうしよう?
189名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/16(木) 00:30 ID:n8H7znTI
えーっと、前々スレ辺りでダインスレイフを発動させたものです。
ただいま、地上魔物部隊の展開の収束を画策しております。
もうちょっとお待ちください…orz
190名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/16(木) 01:25 ID:ukeuOVJ.
みんな悩むなら
つ[座談会]
191どこかの166 リレーsage :2004/09/16(木) 03:00 ID:hpi4eE5.
「ふん。起きているのだろう?魔女が?」
「気づいていたのね。しかしかつての緋色の衣つけていたお方が一平卒とは……落ちぶれたもので…」
 手には手錠。足には足鎖。マタの首輪は……元々装備だが、上から光るロザリオ鈍く地下室の灯りを反射していた。
「落ちぶれたのはお前の方だろう?魔女よ。
 いや、『プロンテラの聖女』様か?
 貴様が魔に堕ちなければ、クルセイドはもっと速くに発動していたのだ。14年前に」
「14年前……?」
 ママプリが聞こう続きを聞こうとした時に伝令のクルセイダーが地下室に入ってくる。
「伝令です!アルベルタがドレイク達により陥落……」
「うろたえるなっ!!ドレイク達は囮に過ぎぬ!アルベルタの船団が引き返した所で間に合わぬのは分かっている!
 プロンテラに集まった魔族達を叩けば、もはや彼らを指揮できる高位魔族は殆ど消えうせて魔族は組織抵抗などできぬっ!!
 ……そうだろう?聖女さま?」
 獰猛な獣の笑みを投げかける。
「100点満点。『クルセイド』はその作戦根幹さえ変えなければ、この戦は人の勝利に終わるわ。
 プロンテラを贄に差し出して魔族に滅ぼさせ、磨り減った魔族戦力を聖堂騎士団で討ち取って人は完全に魔を滅ぼしうる力を組織的に持つ事ができる」
 淡々とママプリは語ってみせる。
「ふん。だが、作戦立案者である貴様が魔に堕ちた後『クルセイド』は枢機卿会議で永久封印されたわ。
 その後、14年前の騒動の果てにこうして蘇った!
 聞こえるか!戦いの宴が!
 聞こえるか!!神を呼ぶ民達の苦しみの声を!!
 これを神の奇跡と呼ばずして何を奇跡というのだ!!!」
 冷酷な声はそのままガチャリというソードメイスを持つ音に繋がった。
「後は、事実を知る者を全て消せば終わりだ……」
「歴史は勝者のみによって語られる……真言ですわね」
「まずはお前だ。
 次に上水道の異端者。お前の愛した魔族達もプロンテラの住民も後を追わせてやるっ!
 プロンテラという薪に焚かれた浄化の炎によって神の裁きを受けるがよい!!!」
 ソードメイスを振り下ろそうとしてその手が止まる。
 彼女が楽しそうに笑っていたから。
 そして彼女の口から出たのは彼女の声なのに、彼女とは完全に違う口調。
「……なるほど。どうりで、あのぽんこつアコが私に助けを求めたわけだ。
 教会内部が腐っていたとはね。ケミ君。覚えておくといいよ。
 絶対的権力は絶対的に腐敗する。これはその実例だ」
「きっ!貴様っ!!誰だっ!!」
 楽しそうにママプリは笑っている。
「貴方の失敗は2つ。まずは、情報統制をするのなら末端まで監視する事ね」
「あ、あのアコライトかっ!!」
「二つ目。私を無力と侮った事。切り札は隠しておくものよ」
 ザシュッ!!
 ママプリの胸に深くソードメイスが刺さっているのにママプリは血を流しながら笑って話続ける。
「貴様っ!何で死なぬっ」
 やっと気づいた。ママプリの左手の薬指にはめられている指輪に。

 ママプリが血を吐きながら口を開く。
「ア・ナ・タ・ニ・ア・イ・タ・イ」
 地下室に闇よりも濃い影が現出して爆発と同時に魔王が光臨した。

「何が起こった!」
「地下室が崩壊してっ……」
「バフォメットですっ!!バフォメットが大聖堂の裏庭にっ!!」
「討ち取れっ!!奴を討ち取って名をあげろっ!!」
 地上の聖堂騎士団達の喧騒など気にせずにバフォはママプリを抱えて蒼穹に飛翔する。
「東側から、西は戦場だから遠回りで逃げるわよ」
「しかし気に食わぬ。
 お前の肌に傷をつけおって……あの男を八つ裂きにしてやりたい所だ」
「時間がないでしょ……っ……肺に血が入ったか……」
 ヒールをかけて胸の傷を癒すママプリ。
 声は出にくいが会話はできる。
(魔族側で話ができる者よ。教えて……14年前に上水道で何が起こっているの?)
 その返事を聞いてもママプリは返事を返す事ができなかった。
「……これが人の力か……」
 バフォが呟く。イズルードに続々到着している無数の大船団を眼下に見ながら。
 イズルードにプロンテラに歓呼の声が響く。
 人の反撃が始まろうとしていた。
192どこかの166sage :2004/09/16(木) 03:08 ID:hpi4eE5.
いくつかのプラグ収束を兼ねて、投下。
以下プラグ消化&変更をお願いします。

学者先生とママプリがコンタクトをしました。
魔族側は14年前の上水道の事を、学者先生は地上で何が起こっているか知ってしまいます。
アルベルタ陥落プラグを処理。イズルードに援軍を到着させました。
人側は兵力・戦力で魔族を圧倒できます。
学者先生と魔族上水道偵察部隊が会えるプラグを置いておきます。

>リレーSS投下した皆様&プラグ整理をした皆様
ご協力本当にありがとうございます。
地上は何とか収束させます。無事にこのリレーを完結させましょう。
193189sage :2004/09/16(木) 04:08 ID:n8H7znTI
こんな深夜に密かに駄文投下
あいも変わらずオークヒーローが動いております
とりあえず収束に向けての第一歩
194上水道リレー 魔物サイドsage :2004/09/16(木) 04:11 ID:n8H7znTI
「おらぁっ!!」
裂帛の気合の声を吐き、レオ・フォン・フリッシュがオークヒーローの胸板に連続して水平チョップを叩き込む。

「むぉっ…」
それを受けて、オークヒーローの上体がグラリと揺れる。

「今だ!チャンスだ!必殺のぉ!!」
素早くオークヒーローの背後に回り込み、がっちりとウエストをホールドしてレオ・フォン・フリッシュが叫ぶ。

「超!!ジャーマン・スープレックスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
オークヒーローのウエストをホールドしたまま、思い切り上体をそらす。

「「「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」

下水道側の一団から歓声が、オーク隊からは悲鳴が上がる。

ズズシィィィィィン……

橋のど真ん中で、さらにもう一つの人間橋がきれいな形で出来上がる。
ホールドを解き、ゆっくりと腹筋のみの力で起き上がるレオ・フォン・フリッシュ。

「ふっふっふ、このレオ・フォン・フリッシュ48の必殺技の一つを喰らって立ち上がった者は今だかつて一人も居ない!!これで、貴様もおねんねの時間だ!!ハァッハッハッハッハッハ、ほれ、バナナ食え」

腕組みをし、オークヒーローに背を向けたままレオ・フォン・フリッシュは言い放つ。

「……その程度か?レオ・フォン・フリッシュとやら」

逆しゃちほこの状態になったオークヒーローがそうポツリと呟き、ダンッと勢いをつけて起き上がり、首をコキコキと鳴らしながら、一歩一歩レオ・フォン・フリッシュに迫る。

「貴様の攻撃は受けきった。ならば次は我の番だな」

「「「「「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」」」

今度はオーク隊から歓声が、下水道側の一団から悲鳴が上がる。

「ちっ、一筋縄ではいかん相手だったか。だがそれもまた良し!!いずれにせよ、正義は我にあり!!さぁ、来るがいい、オークヒーロー!!」

「ならば逝け!!世界の果てまで!!」
対峙したレオ・フォン・フリッシュに、オークヒーローは無数の鉄拳を叩き込む。

「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉらああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

無数の鉄拳を叩き込んだ後、見えない角度からハイキックをレオ・フォン・フリッシュの側頭部に叩き込む。

レオ・フォン・フリッシュは、しばらくフラフラと上体を揺らして、そしてゆっくりと仰向けに倒れる。

「まだまだぁ!!」

オークヒーローが、レオ・フォン・フリッシュの体を逆さまに持ち、頭の上に掲げる。

「うおらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

頭の上に掲げたレオ・フォン・フリッシュを、そのまま頭から橋に叩きつける。

ズズウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン

橋の真ん中に、一本の人間塔が立つ。その人間塔はしばらく直立した後、ゆっくりと傾いて倒れる。

「ふん、ヒトごときがいきがって、我の前に立ちはだかるからこうなるのだ。しかし、その蛮勇だけは誉めてやろう」

バサッっとマントを翻し、レオ・フォン・フリッシュに背を向けるオークヒーロー。

「よーし、敵部隊の指揮官は倒した!後は烏合の衆だ!!全部隊進g…」

「ちょぉっと待ったぁ!!」

「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」」
勝利を確信し、全軍に号令を掛けようとしていたオークヒーローが、掛けられた声と敵部隊の歓声を受けて、ゆっくりと振り向く。

振り返ったそこには、顔をボコボコに腫らせ、足元がおぼつかなくフラフラになってもまだファイティングポーズを取っているレオ・フォン・フリッシュの姿があった。

「ふん、馬鹿が…それ以上やったら貴様、死ぬぞ?いや、我が責任を持って貴様を殺してやろう」

オークヒーローは表情から感情を消し、見下すような感じでレオ・フォン・フリッシュに声を掛ける。

「なんとでも言え。俺もここで引き下がる訳にはいかんのだ。俺らの肩にはプロンテラ市民全ての命が掛かってるんだ。この命に代えても、貴様らをここから先に通す訳にはいかんのだ!!」

気丈にレオ・フォン・フリッシュが言い放つ。

「それが貴様の騎士道か…いいだろう!ならば我らは貴様を殺し、貴様らを殺し、プロンテラ全ての人間を殺し、今夜この時をルーンミッドガルズ終焉の時としてやろう!!貴様は地獄のそこからその様を見て、歯軋りをするがいい!!」

そうオークヒーローが吼えて、レオ・フォン・フリッシュに突進する。
その瞬間、レオ・フォン・フリッシュの目がキラリと輝く。

「魅せろ!今こそ!超カウンター!!」

突進してきたオークヒーローの頭をジャンプして両足ではさみ、突進の勢いそのままに頭を地面に叩きつける。

「フランケン・シュタイナァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

バキャッッッッッッ ズズズウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン

「むぐぅっ」
今度はオークヒーローの頭が、橋に突き刺さる。

「ピンチの後にはチャンスあり!これで最後だ!」

ササッと橋の欄干に登り、オークヒーローに背を向けて立つレオ・フォン・フリッシュ。

「絶!ムーンサルト・プレェェェェェェェェェェェェェス!!」

そのままオークヒーローに向かってバク宙を打って、レオ・フォン・フリッシュが天から振ってくる。

「甘いわぁ!!」

バキバキッと橋の板を砕きつつ、オークヒーローが頭を上げる。
そしてそのまま、レオ・フォン・フリッシュに右の上段回し蹴りを放つ。
195上水道リレー 魔物サイドsage :2004/09/16(木) 04:12 ID:n8H7znTI
ドゴオッ……

オークヒーローの回し蹴りが、レオ・フォン・フリッシュの脇腹に見事に決まる。喰らった勢いのまま吹っ飛ぶレオ・フォン・フレッシュ。

ドサッ、ゴロゴロゴロ…


「「「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」
「「「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」
橋の両端、下水道側からは絶望と落胆の声が、逆側からは歓声と勝利を称える声があがる。
絶望の声が聞こえた時、レオ・フォン・フリッシュの体がピクリと動く。

「ぐうっ…ま、まだだ…まだ倒れる訳にはいかんのだ…俺たちの勝利を信じて戦っている仲間の為にも…俺たちが守るべき人達の為にも…俺はまだ…倒れる訳にはいかんのだぁ!!」

倒れ付したまま、どうにか立ち上がろうともがくレオ・フォン・フリッシュ。

その様を黙って眺めていたオークヒーローが、ポツリと口を開く。

「貴様の負けだ、レオ・フォン・フリッシュとやら。貴様の健闘を称え、苦しまずに殺してやろう」

そして、オークヒーローはゆっくりとレオ・フォン・フリッシュに歩み寄っていく。

その間、どうにか立ち上がろうともがくレオ・フォン・フリッシュ。だがその足掻きも弱々しいものでしかない。

「アスタ・ラ・ビスタだ、蛮勇の騎士よ。地獄で貴様の仲間と貴様が守るべき者どもが殺される様を見るがいい」

レオ・フォン・フリッシュを片手で目の高さまで持ち上げ、その鼻っ面に指を突きつけ、そう言い放つオークヒーロー。

と、その時。

「オークヒーロー様!赤の司祭様、血騎士卿からの入電です!しかも至急なんです!いい加減、遊びはそこまでにしといてください!!」

ようやく追い付いた通信担当のオークレディから、横槍が入る。

「興が乗ってきたところで無粋だな。後にしろ、今忙しい」

レオ・フォン・フリッシュをそのままに、オークレディに答えるオークヒーロー。

「そういう訳にもいかないんです。とりあえず報告しますからね。まず赤の司祭様から『ミッション・フェイズ1完了 引き続きフェイス2に移行』そして血騎士卿から『聖堂騎士団が動きを見せてる。どうでもいいからとっとと連絡しろ、流石にそろそろやばい事になりそうだ』以上です!伝えましたよ!伝えましたからね!!」

金切り声で通達するオークレディ。それを聞き、オークヒーローが顔をめぐらせ、ちょっと渋い顔をする。

「どうやら、事態の展開が迫ってるらしいな。ふむ、これはこうして遊んでおる訳にもいかんか」

「えぇ、そうですよ。それとこれは未確認の情報なんですけど、プロンテラ救出の援軍も迫ってると聞きます。だからこんな事に関わってる暇は無いんですよ!」

ハァァァァァァと大きく溜め息をつき、オークレディが言葉を続ける。

「それでは以上の事を踏まえて、ご命令を」

手に持っていたレオ・フォン・フリッシュを、下水道側の橋の袂に投げ捨て、ノシノシと逆側に降りてゆくオークヒーロー。
そして、橋の袂に突き立てていた”オーキッシュソード”を抜き放つ。

「野郎供!!ハイオーク親衛隊、パンツァーゴブリン機甲師団以外は撤退準備!!ゴブリンリーダーは撤退する部隊の指揮を取れ!!ケツ持ちは俺がやる、全員一人も欠ける事無く村に帰れると思え!!以上!!」

「「「「Sir Yes,sir」」」」

「それから通信兵!今すぐ血騎士卿との回線を開け!直通通信だ!それと赤の司祭殿に連絡!展開している全ての部隊に先ほどと同じ連絡を!5秒以内だ!!」

「Sir Yes,Sir!!」

指示を出し終えたオークヒーローが振り返ると、レオ・フォン・フリッシュが人の方を借りて立ち上がっていた。

「蛮勇の騎士よ!決着はまた後日だ!命拾いしたな!」

そしてそのままレオ・フォン・フリッシュの返答も聞かず、背を向けて歩き出す。その時…世界に風が吹いた。死者の町の門が開き、闇に属する者達の力が増す、一陣の風が…
196189sage :2004/09/16(木) 04:15 ID:n8H7znTI
え〜と、素手での一騎打ちというか、プロレスというか…表現力無くてごめんなさいorz
そして、ボスたちの強化ってのを最後に盛り込んでみました
ぶっちゃけ、ボス達がどんな強化をしたのかいまだに詳しく知らないので…

とりあえず、どうにか収束への一歩目ってことで…
197166sage :2004/09/16(木) 04:37 ID:0M3yoxfY
文神様ご苦労様です。
まとめたかいがありました(つД`)
とかいいつつ実は書き漏れがあったんで一応追加しておきます_| ̄|○

・GM0x8.hena現地で隠密に調査中?
・GM0x1.json世界率関係(システム)のほうとか、GM0x8.henaのバックアップとか

以上です。後独り言。
(・ω・`).o(上水道の大崩壊&大脱出読みたいなぁ
198577sage :2004/09/16(木) 21:46 ID:4CMNVXwM
え・・・と・・・
進んでいるのに触発されて投下
アサVSDIO様
-------------------------------

「ジ・エント・オブ・ソニックバイブレーションッッッ!!!」

俺の八連撃をまともに受けた、毒で自慢の金髪まで焼きただれたそいつは
最期の一撃で首を刎ねられて薄い水溜りに倒れこんだ。
並みのモンスならこの一撃だけで昇天しただろう・・・
それほどの攻撃を受けて、奴はついにその嫌な笑い声を止めた。

「・・・(疲れた・・・)」

その場でどっと膝をついた俺の傍には、
もう生きていたことすら信じられないほど、冷たくモノのように転がった
奴の死体があった。
冷たく光る鎧・・・そして転がる槍、
暗い中うつ伏せに倒れていて、ソレがはっきりと見えないのは
むしろ感謝すべきことなのだろう。
ややあって俺はいつものように、だが少し荷が重かったせいで可笑しいほどブルブル震える
腕を叱りつけながら、ポケットからタバコを取り出して
軽く咥えると、紫煙を吸い込み虚空に視線を投げ出す。

「終わった・・・のか・・・」

俺の戦いは終わった、
だが心はまだ、その現実を受け入れられないようだ。
勝てたということがまだ信じられない、
現にまだ体の震えは止まらないし、奴のゾッとするような
冷たい声はまだ聞こえるような気がする。
そう、まだ耳の中に残っているその声が・・・。

・・・

(・・・パチ、パチ、パチ)

「・・・いやはや・・・まさに『死力を尽くす』といった感じだな・・・、
いや、感心感心・・・」

「!!!!?、き、キサマなぜ・・・」

はじかれたように飛び上がった俺は、
すぐに目の前の死体に視線をやった。
目の前に倒れた・・・金髪の男は確実に首をおとされて絶命している、
手ごたえ十分、間違いない・・・
しかし少し離れたところにいるそいつも、またさっきのアイツと
そっくり同じ奴だ。
夢だったらどんなにいいことかと、カタールを握り締めて眼をつむった
俺だが、頭を振ってからまた眼を開けると其処には、
こちらを馬鹿にしたような笑みを浮かべる金髪の魔術師が、消えずに
その血塗られた赤い唇を開いて・・・。

「私が誰の力を吸収したか判っていないようだね、君・・・
君が倒したのは、私の影、そして私が倒すのは・・・本当の君だ(ニヤリ)」

「・・・あ・・・」

おかしい
自分の体が言うことをきかない、
スネークに睨まれたロッダフロッグというのはこういう気持ちになるのだろうか?
暗殺者になって長い間忘れていた、「狩られる」恐怖が俺を支配する。
俺はまたそいつに狙いを定めて飛びかかったが、
「ヤラれるだろう?なに無駄なことやってるんだ?」
という意地悪な心の問いかけが、
骨の髄まで俺を怖がらせていた。

飛び掛ったのは・・・まあ「義務」みたいなもんさ。

次の瞬間、サラリと流した指先から放たれた青い光が、
ありえないスピードで吹雪を散らし、たちまち冷気を浴びて
俺の体が震え、皮膚が切り裂かれ、精神が萎み衰えていく。
痛みが神経をズタズタに引き裂くその中で、奴が俺に向かって囁くことは・・・。

「『ストームガスト』・・・なあ、君・・・魔法使いはなぜ
その力を使う寸前に無防備になるんだろうなあ?、
今の私のようにキチンと準備しておけば、そんな弱点を晒すこともないのになあ?、
このように魔法を『準備』しておけばいいのになあ?、
なあ?・・・『ロード・オブ・ヴァーミリオン・・・』。」

「や・・・やめ・・・ヤメロオオオオオオオオオ!!!!」

無詠唱のまま、心底だるそうな様子で振り下ろされた指先から放たれた光は、
しかし恐るべき稲妻を魔方陣の中に張り巡らし、
凍っていた俺は・・・俺はその光を見つめて震えながら、
意味のない言葉を吐くだけで・・・。

「ぐあああああああああああああああ!!!」

上水道に響き渡る悲痛な調べを最上の音楽のように聴きながら、
男は、眼前で繰り広げられる燃焼実験をちょっとだけ興をそそられたかのごとく、
片方の眉をぴくりと持ち上げて、見入っていたのでした・・・。

「グアアアアアアアアアアアアアアア!・・・アア・・・アア!!!」

-------------------------------

注)アサ君死んでませんよ
紫の衣は避雷針になるのです
と一応・・・

|ω;`) マタカイテイイデツカ…
199上水道リレーSSsage :2004/09/16(木) 23:51 ID:4BF.laTY
 光ってやつが嫌いだ。
 なぜって、光は影をつくってしまう。
 影をつくらないためには、照らされる光に負けないくらい光っていなければいけない。
 できてしまう影を打ち消せるほど、強く光らなくてはいけないのだ。
 けれど、闇が光ることは叶わない。
 光れないから、闇なのだから。
 闇が深ければ深いほど、影は暗くなってしまう。
 輪郭すらもまざまざと、光に照らしだされてしまうのだ。

 だから、光は嫌いだった。


 影へと移ろい、姿を消した暗殺者が喉をならす。けわしい視線の先には、まるで暗闇自体が
変質したかのような密度で、紫色の霧が漂っていた。ぱっくりと開いた汗腺からいやな汗が滲
み出して、かがんだ彼の背筋をつたう。こらえきれずに、彼は小さく喉をならした。「化け
物」なんてふざけた形容が、これほどしっくりくる相手は初めてだった。
 大方のハンターが弓の扱いに精通しているように、彼も短剣はもちろん、特にジャマダハル
系統の武器の扱いに精通していた。そしてハンターに罠の扱いに特化したタイプが少数ながら
存在するように、暗殺者にも毒の扱いに長けた者が存在する。
 彼の服に仕込まれた触媒によって、瞬時に生成された即効性の麻痺毒。それが現出している
紫煙の正体で、毒使いとしてこそプロフェッショナルな、彼の切り札だった。
 吸入後わずか30秒程で過呼吸のような症状が起こり、30〜45秒程で痙攣が始まる。
 そうなればもう終わりだ。3分程度で呼吸が止まり、その後数分で心停止──死に至る。
(──ハズなんだが)
 切り札の条件が、脳裏をよぎる。それは、あまりに高い拡散性。仮に屋外で使用したとして
も、致死量に達する数秒のあいだに拡散してしまい、すぐさま効果を減じてしまう。閉じられ
た空間でなければ、十全に効果を発揮することができないのだ。
 もっとも、彼はそんなことくらい把握している。彼がかつて息をしていた世界では、自分の
手札程度も把握していないような甘い奴は、勝負するまでもなく消えることになるからだ。
 上下左右の四方位がリンクしている閉鎖空間を見やりながら、彼はおのれの失策を悔いた。
 見通しが甘かったのだ。唇を舌で湿らせて、彼はジャマダハルの柄を握りこんだ。
 まったく衰えない禍々しいプレッシャー。発生源である金髪の男が視認できない今、それは
恐怖そのものにも似て、彼のなかでわがもの顔に肥大していくばかりだった。
 暗殺者としての本能が警鐘を鳴らす。これ以上関わってはいけない、ここに留まってはいけ
ない、──敵対しては、いけない。勝負事で一番重要なのは、引き際である。彼はそう考えて
いた。コールか、ドロップか。十数秒にも満たない短い時間で、幾度となく繰り返した自明の
自問。今も、考えている。
 しかし繰り返す煩悶を遮ったのは、答えでもなく、彼が起こした行動でもなく、
「覚悟を秘めたような行動には、ひさしく緊張を感じたが……」
 怒りを含んだ声だった。
「なにをするかと思えば、『目をくらませた隙に身を隠す』──か。若干なりとも期待した私
がマヌケだった、といったところかな?」
 暗殺者をつつむパイプが、こつこつと靴の音をつたえる。
 なかば自嘲気味に、暗殺者は口を歪めた。
(やっぱり効かねえのかよ)
 そうだった。相手は、あの聖騎士ですら敗北した強大な敵だった。勝ち目なんか、はじめか
ら無いじゃないか。それに、あの聖騎士とはたかが数時間いっしょにうろついただけ。エース
でジョーカーと勝負するようなバカな真似を、どうして自分がしなければいけないのだろう。
別にあいつが好きだったわけでもなし。女剣士の姿をした魔剣と対峙したときにも、自分で言
ったじゃないか。
『これだから騎士ってのは好かねぇんだ』
 自分はこんな状況で喜べるような、キチガイでも、マゾでも、騎士でもない。大切なのは生
き延びることだ。どうでもいい人間の生き死にで、自分の生き死にを決めるのなんかナンセン
ス。そんな陳腐な感情なんか自分には無い。
 そう、無いはずだ。聖騎士と暗殺者。光と闇に、接点なんか無い。
 男が、紫煙をまとったまま姿をあらわした。相変わらずの嫌味ったらしい薄笑いを浮かべた
まま、悠然と無防備に、腕を組んで。
「だが、行動としては的確だ。少なくとも……」
 男は笑みを深めた。おかしくてたまらない。なんて憐れなのだろう。そんな、表情だった。
「ゼロピー目掛けて愚鈍に突き進むポリンのように私に敵対し、そして気まぐれな一撃に屠ら
れる憐れなルナティックのように散った、かの聖騎士殿よりは──狩られる者がとるべき行動
としては、な」
 耳の奥で、ぎしりとなにかが軋むような音。顔に手をあて背をそらし、高笑いをはじめた男
の姿に、彼はようやく自問を終えることができた。
 ふざけるなと思った。
 自分が今、成すすべきことは、名を体現すること。そのために全身の力、否、全身の細胞の
ひとつひとつの力さえ、彼は要求した。
「さて」
 笑うのをやめた男が右肘を左の手の甲で支えながら、指を三本、だしぬけに立ててみせた。
「膝をかかえてあわぬ歯の根を必死にあわせようとしている君に、ここで今、いったいなにを
するべきか、私が三つほどアドバイスしてあげよう。なに、ひさしぶりに緊張というものを感
じさせてくれた御礼だよ、遠慮することはない」
 男は暗殺者に、背中を見せてすらいた。
「ひとつ。畏怖そのものである私から恥も外聞もなく逃れるべきだ」
 立てられた三本の内の一本がしなやかに曲がった。
「ふたつ。敵わぬことを認めて保身のみを考え私に降伏するべきだ」
 残された指の、片方が曲がった。
「みっつ。君は私に見つかっていない、感知されていないと思い込んでいるようだが──」
 何気なく、男はふり向いた。ゆったりとした、しかし一分の隙もない動きだった。交わった
男の眼が、赤く輝いて細められた。
「初めから見えていたのだよ」
 楽しげに口を歪めた金髪の男は、残された一本の指を振ってみせた。まるでリズムをとるよ
うに、軽やかに。
 暗殺者は一瞬で理解していた。しかし受け入れるわけにはいかなかった。
 ゆえに、瞬発した。
「なめんじゃねえっ」
 一閃。追い越せとばかりにもう一閃。
 ほぼ同時に薙ぎ払われた凶刃は、慣れ親しんだ感触とともに、切っ先を受け止めた男の指を
斬り飛ばした。
「ほう、これがクリティカルというやつかね。これは驚いた」
 どす黒い切断面を眺めながら、男は軽くステップを踏んで距離をおいた。
 全霊の一撃で奪えたものが、人差し指一本。事実と事態は、ひどく暗殺者に冷徹らしかった。
しかし、止まらない。
「驚いたまま死にやがれ」
 諦念を拒むように、彼は再びジュルを走らせた。たとえ魔王であろうとも、クリティカルを
受けとめることは不可能だ。男の指だって切り飛ばせた。狙うは首。防がれようと、避けられ
ようと、何百回でも、何千回でも、動けなくなるまで切り刻んでやる。
200えべんはsage :2004/09/16(木) 23:54 ID:4BF.laTY
リロードし忘れました…。
577氏ごめんなさい。

レス番199は脳内にゅぼーんなりあぼーんなりしてください。
今度はちゃんと確認します。
すみませんでした。反省。
;y=-( ゚д゚)・∵:.
201名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/17(金) 01:43 ID:Z4932vu.
199→198の順番にすれば素晴らしく流れが合致すると思います(・ω・)/
202577sage :2004/09/17(金) 06:13 ID:neEVe1PE
>>201

|ω・)フムフム

あ・・・ほんとだ、そうしましょう
何たる偶然・・・
203何個か前の201@リレー乱入sage :2004/09/17(金) 16:37 ID:Aa5wUjbk
意識が、現界へと浮上する。
また、私が必要となる状況になったのだろうか。
諦めの悪い、かつての私の男の手綱を握るのが今の私の主な役割だ。
私という存在が彼の方の傍にあればあの男は彼の方に従う。
・・・少々、複雑な心境ではある。今の私にはあの男は邪魔でしかない。
だが、彼の方があの男を使い続けるからこそ、私は彼の方の傍に在る事が出来る。
邪魔な男が居なければ私は必要とされない。私は彼の方にとりその程度の存在でしかない。
・・・認めるのは業腹ではあるが、私より彼の方に気に入られているあの男に嫉妬している。
だからこそ、私は彼の方のお役に立ち、私の価値を認めて貰う為にあの男の手綱を握る。

目を開ける。捕われたダークロードと、それを見張る役目の彼の方の僕達。
彼の方も、あの男も居ない。
魔力を解放し、触手状に展開、周囲数kmを走査する。
上位反応が一つ、これは彼の方。同等反応、二つ。魔力を放出しているのが『鉤』。
もう一つがあの男の反応。
さして遠くはない・・・が空間の歪みが激しい。直接転移する事は出来そうも無い。
他にも数体の同等反応が覚醒に向かっているのを感じる。この場を離れても問題はないだろう。

「仕方ありませんね。久々に、歩く事に致しましょうか」


・・・何やら誤解がある様子だが。
あの下衆の名前など覚えてやる必要が無いから狗と呼んでいるだけで、俺は脳筋ではない。
・・・閑話休題。

恐らくは致命傷になったであろう、若き格闘家の下衆への一撃が決まった瞬間、女に隙が出来た。
俺はその隙を逃さず水月に拳を繰り出す。瞬時に我に返り、回避運動を行おうとする女。
悪くない・・・が、所詮は人間の器。

「・・・遅い」

一つ呟き、一歩踏み込む。加速された拳が女の腹を撃つ。
下半身が浮き上がり九の字に曲がる女の体。そのがら空きの後頭部に手刀を落とす。
意識を刈り取られた肉体をそのまま片手で抱える。
人を越えた力を有しても、限界は確かに存在する。
それなりの腕を持つ集団が連携攻撃を仕掛けて来たならば敗北する事も有り得る。
ここは敵対者達を分断しつつ退くべき場面だ。
いや、正直に言おうか。俺はこの女と話してみたくなったのだ。静かで、邪魔の入らない場所で。

「あ、姉御ぉっ!」
「てめぇっ!!」

飛び散った下衆の残骸に足止めされた状態の悪漢と格闘家の声を背で受け止めながら開けた穴を潜る。
気功球を展開し、空間転移を行った瞬間。

「黒い奴め約束が違う裏切ったな裏切ったな裏切ったな」

後ろから体を引かれる様な感覚。転移干渉、力場が歪む。まだ滅びてはいないらしい。しぶとい奴だ。

「五月蝿い。報告したいならすれば良かろう。だがあいにくと了承済みだ。咎められる筋合ではない」

絡みつく不愉快な波動を力尽くで振り払うが、目標とした地点から誤差が生じた。
生物の気配が存在しない場所を選んだ筈が、目の前には何者かが居た。

「ちっ・・・面倒な・・・」

強力な生体波動を有する三体の高位魔族。オークロード、ドッペルゲンガー、深淵の騎士。
転移して来た俺を見て瞬時に戦闘態勢に入る、だが襲いかかっては来ない。
一見人間だが人間とは異なる気配を放つ俺という存在を警戒しているのだろうか。
一体二体であれば相手をしても良いのだが、女を一人抱えた上で三体同時となると如何にも分が悪い。
それに・・・こいつらは、使えるかもしれない。

「貴様・・・何だ?」

ドッペルゲンガーが一歩進み出て俺に問いかける。微塵も隙を見せないのは流石と言ったところか。

「なるほど・・・捕われて力を奪われ続けているダークロードをわざわざ救出に来たのか。
ご苦労な事だが、まもなく儀式は終了し奴は完全体となる。そうなれば誰も奴には勝てん。
今からでも遅くはない、即刻この地より立ち去り一目散に逃げるが良かろう。
そうすれば・・・一日か二日程度は他の者より生を謳歌出来るだろう」

俺が人であった頃の経験から言えば、高位魔族というのは総じて高い誇りを持っている。
ここまで言えば引き下がる事は無い。
そうして、奴の元に到達したとしてもこの者達では勝てないだろうが奴の力を削ぐ役には立つだろう。

「待て!一体何の事を言っている!?」
「・・・何だ、知らなかったのか。魔族というものは知能も能力も高いと聞いていたが・・・
存外だらしのない。その程度の情報すら未だ持ちえずにここに居るとはな。
成程、1000年の時を経ても人間に遅れを取り続けているのも納得できると言うものだな。
知りたくば最下層まで来い。ダークロードがお前達に状況を説明してくれるかも知れんぞ」
「貴様、我等を侮辱するか!」

ドッペルゲンガーが大上段に剣を構えて跳びかかって来る。俺はそれを体を捌いてかわす。
ニヤリ、とドッペルゲンガーが笑い、剣を地面に叩きつける。俺の背中を悪寒が走る。

「ハンマー・フォール!」
「残影!」

俺はその場所から届くぎりぎりの範囲まで残影で跳びすさる。
それを追いかけて地面をえぐりながら走る魔力。衝撃が俺の体を貫く。

「くっ・・・」

ほんの刹那、俺の動きが止まる。ドッペルゲンガーはその瞬間で俺への距離を詰める。
そして、突進を乗せた突き。回避できるタイミングではない。

「貰った!・・・な、なにぃ!?」

勝利宣言を放つドッペルゲンガー。だがその刃は差し出した俺の掌を貫通して止まっている。

「本来は両手で行うのだが・・・今は片手が塞がっているのでな。片手で掴ませて貰った。
・・・そう、これは白羽取りの応用だ。あぁ、見た事がないのか?
人間の格闘家ではお前の剣速を見切る事は不可能だろうからな」

俺の掌から滴り落ちる青い血液を凝視しながらドッペルゲンガーが呟く。

「・・・き、貴様・・・何者・・・」
「名などとうに捨てた。今の俺は・・・そう、『亡者』とでも呼ぶが良い。
最下層で待っているぞ・・・我が奥義、その身で知れ。『羅刹魔皇拳』」

そうして、大地の気を吸い上げて自らの気と併せて練り上げ、どす黒い気をまとった足で蹴りを放つ。
剣を手放す暇も無く胸にその一撃を受けたドッペルゲンガーが吹き飛んで壁にめり込む。
駆けつけて来るオークロードと深淵の騎士を後目に転移を行う。今度こそ誰も居ない場所に行く為に。
その俺の背中にドッペルゲンガーの声が届いた。

「い、今のは・・・蹴りではないのか・・・どこが『拳』だ・・・」

転移を行いながらそれに答えておいた。

「何だ、些細な事を気にするのだな。あれは・・・そう、軽い冗談だ」

ドッペルゲンガーの罵声が聞こえた様な気がしたが、恐らく気のせいだろう。
204何個か前の201@リレー乱入sage :2004/09/17(金) 16:46 ID:Aa5wUjbk
俺も収束に向けての努力を・・・結局アサ姉さんさらっちまったがorz
今回はディオ側の戦力が少なすぎると思ったので最下層の防衛力増強(らしきシーン)と
地下の魔族三人組に少しだけ情報漏洩。
これで魔族側が行動しやすく・・・なるといいな・・・
205141sage :2004/09/17(金) 22:40 ID:.z62S7vc
リレーがまた盛り上がってきましたねぇ。
気力と時間と脳許容量の都合で俺は混ざれませんが、一読者としてこの物語の進展を楽しみにしています。

>>150-154
ひと向きに志を貫く人間に惹かれます。とても。
各個々人の描写も鮮やかでイメージがしやすいですし、キャラクターの心の動きも細やかで素晴らしく。
後編とこの主従の幸福な結末を、期待してお待ちしています。

>>161,177
感想ありがとうございます。意図したふんわり風味が出ていたのなら、喜ばしい限りです。
あと別段隠しだてしている訳ではありませんので、「これこれ書いてた?」と訊かれれば、なんて事なく答えるのです。
蛇足気味に申し述べておきますと、前スレにも投稿させていただいておりましたし、その時もあまあま言われておりました。
あ、さらに付け足しのようで恐縮ですが、保管いつもご苦労様です。
206looking for the rainbowsage :2004/09/17(金) 22:41 ID:.z62S7vc
 雨音が聞こえた気がした。
 そっと上体を起こして、薄く窓のカーテンを捲くる。寝台脇の窓から覗けば、やはり細い雨が降っていた。
 まだ朝は早い。小さく息を吐いてから、音を立てないよう気をつけながら再びベッドに身を戻す。
 秋雨を見ると思い出す。昔、虹を探しに行った事。

 幼い私にとって、虹はわくわくするもの、幸福なもの、素敵なもの全ての象徴だった。
 けれどあの時は、お別れが嫌でそれを探しに出かけたのだ。
 私には友達が居た。幼馴染みの男の子。
 少し年を経ると男の子は男の子、女の子は女の子で別れて遊ぶものだけれど、私と彼は仲良しのままだった。いつも一緒だった。
 その子が越してしまう事になって、別れたくなくて。こんな秋雨の日、朝早くふたりで家を抜け出した。
 雨が止んだらきっとかかる、虹を探しに。
 町を出て平原を抜けて、遠く遠くどこまでも遠く。ふたり手を繋いで。
 今思えば、それが初恋だったのかもしれない。ううん、だったのだろう。
 けれど結局子供の足。随分遠くまで歩いた気がしたけれど、夕暮の頃にはそれぞれの親に見つかって、揃ってひどく怒られた。
 その後は予定通り、その子は遠くへ越してしまって、私は数日を泣いて過ごした。

 子供は嫌だと思った。
 早く大きくなりたかった。早く大人になりたかった。どうしようもない事をどうにかしたくて。
 でも。
 寝転んだまま天井へ手を伸ばす。指を広げる。
 私は――随分大きくなった。でも代わりに、色んなものを落っことしてしまったような気もする。
「どうした?」
 そんな事を思っていると、隣から声がかかった。
 起こさないように気をつけていたつもりだけれど、眠りの浅い彼は目を覚ましてしまったらしい。
「うぅん、なんでもない」
 私は頭を振る。さらさらと髪とシーツが衣擦れを立てる。そっと抱き寄せられた。
「ねぇ」
「ん?」
「雨が降ってる」
「そうだな」
 触れ合う素肌のぬくもり。撫でられた髪が心地良くて、私はうっとり目を閉じる。
「止んだら、虹を探しに行かない?」
 彼の胸へ身を寄せて囁く。いつもここで揺れている十字架はない。神様なんかと分け合わないでいい。今は私だけのもの。
「あの時みたいに、か?」
「うん」
「判った」
 感傷を笑いも面倒がりもせずに、彼は微笑んで頷いてくれた。
 思う。そんなところを好きになったのだろう、と。このひとを好きになってよかった、と。
「でも秋雨は長雨だからな。止むまで、もう少し眠ろう」
「うん」
 交わすくちづけ。しとしとと雨は降る。
 本当は探しに行くまでもない。私の虹は、ここに在る。
207名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/18(土) 00:13 ID:2Kia69/s
>206
あぁぁ……こういう話、良いなぁ〜。
すごく、絵になりますね。
ちょっぴり切なくて、ほんのり温まる、
そんな、秋の夜長にぴったりなお話ですね。
208名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/18(土) 22:04 ID:48q7vGOA
>206
良いなぁ…2人の間でゆっくりと時間が流れている様子が伝わります。
2人の職業が明らかになってないところも、2人の(PTプレイ時などの)関係をいろいろ考えられていいなぁ。
彼の包み込むような愛と、彼女の幸せが短い文章からも伝わってきました、素敵だ〜

彼はプリなのかなぁ、にしては眠りが浅いっていうところが戦闘職のようにも取れる…
209どこかの166 しょーとしょーと劇場sage :2004/09/19(日) 06:23 ID:6F55ljKo
『イリューたんもてもて計画』

 ダークロードの娘ことダークイリュージョンの事をもっと知ってもらいたい親ばかダークロード。
 本音は、「知名度上がる>絵神・文神が萌え燃料投下>ウマー」だったりするが、それは秘密。
「と、いう訳で、イリュー萌え萌え人気者大作戦を考えたいのだが……」
 当然のごとく呼ばれる、剣と弓の二人コンビ。
 実にかしこまって二人同時に発言をする。
「簡単でございます。冒険者達にイリュー様の容姿を二言の形容であらわしてやればもはや人気者間違いなしです」
「そのとおりです。イリュー様の世界を革命すべき二つの言葉で萌えライバルたるバフォメット様の子女たる悪ケミ様を上回る力を得ることが出来ます」
「ほほう。素晴らしい。どのような言葉なのだ」
 ダークロードの問いに魔族のくせに神々しくさえ萌えを乗せた二人の真言は綺麗にハミングしていた。
「ひんにゅう」
「ようじょ」
「おおっ!!!すばらしいっ!!!!これこそ世界の心理っ!!!!!!」

「な に を の た ま わ っ て い や が り ま す か こ の 萌 え 馬 鹿 ち ち う え !!!!!」

 ちゅどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんんんんん!!!!!!!

 今日もGHは平和でしたとさ。


『元祖』

 時代は「ひんにゅう」と「ようじょ」という事で、元祖(何しろ年齢が12歳とまさにストライク)なアラームたん。
「がくがくぶるぶる……最近の冒険者……私をみて「はぁはぁ」するの…こわい……」
「野郎どもっ!お嬢を泣かす奴は俺ら荒武隊がゆるさねぇ!!」
「冒険者の最先端ペット(予定)アラームたんをげっとだぜぃっ!!」

 かくしてもはや地楽委の事等忘れて大戦闘……
 萌えとはかくも恐ろしい最終兵器だったんだ!!!(MMR風)


『プリンセス』

 常春の迷宮ことプロ北では子バフォ達が今日も勤務をしていました。
 それぞれが人間との死闘を潜り抜けで成長した魔族のエリート達でこんな会話がひそかに囁かれていました。
「思うのだが……我が父上は魔族の王」
「それがどうしたのだ?当たり前ではないか??」
「いや、ふと考えたのだ。最長兄で継承候補の兄上は今何処にいる?」
「父の勅命を受けて、我が義妹たる悪ケミのペット兼護衛として人間の街に降りているのではないか。それがどうした?」
「いや……兄上がお守りするという事は、兄上が護衛につかねばならぬほど我ら魔族の力が巨大なのではないか?
 しかも母親が聖女と今でも呼ばれているあの義母上だ。
 どのような力を持っているのか分からぬぞ……」

悪ケミ 「マジカルダークプリンセス♪悪ケミ参上♪
     正義も悪にも一日一悪っ♪」
子バフォ「主よ……意味分かって言っておるのであろうな……」(ため息)


『女の戦い』

 当然、子供の性別は男女二つある訳で……子バフォにも女性系…妹も存在する。
 ましてや、最長兄はかっこよく、苦労人で、料理も完璧の子バフォ。妹の母親があのママプリ。
 うん。おにーちゃんの事を考えると、Hな妄想を働かせるいくない妹の一人ぐらいいるかもしれない。

妹バフォ「おにーちゃんどいて!悪ケミ殺せないっ!!」
悪ケミ 「……ラリアットしていいの?」
子バフォ(何かに疲れ果てたように)orz
210どこかの166 しょーとしょーと劇場sage :2004/09/19(日) 06:31 ID:6F55ljKo
と、いうわけで萌え電波を受信したはいいけどSSにするにはちと短いものをまとめて投下。

で、最低限の義務として説明の為のスレ紹介を。

イリューたん
ttp://enif.mmobbs.com/test/read.cgi/livero/1089828659/l50
アラームたん
ttp://enif.mmobbs.com/test/read.cgi/livero/1081615161/l50
おにーちゃんどいて……
ttp://yuni_ford.at.infoseek.co.jp/tukimiya/tukimiya.html

壁】ダレモツッコンデクレナカッタ トコハルハコレ
壁】ttp://pata8823.at.infoseek.co.jp/marineraroku.htm
壁】ボスノトリマキガタマネギニミエルノハワタシダケ???
21193のひとsage :2004/09/19(日) 19:00 ID:6QmfuMUQ
>166さん
 ……おにいちゃんどいてですかっ(w
短い中に元スレの雰囲気とキャラの特徴を出していて、さすが元祖コラボの人の
面目躍如な感じですね

ところで隊長!
 下水関係で以前、某帽子氏と2-52氏と私で座談会したログが発掘されましたっ
ネタ元として利用できそうなら(キャラ名など伏せた上で)アップいたしますが
どうでしょうか? >帽子氏、2-52氏
212名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/19(日) 20:37 ID:hCZ5k8c2
SIDEの人で出てきたイリューたんはひんにゅうようじょだったのか!Σ(゚д゚)


ttp://www3.to/romoe/hokan/a/b/c/d/iryu.jpg
|<萌え馬鹿ちちうえ!
.oO(こういう…?)

(小説スレなのにごめんなさい、あとあぷろだとか分からなかった_| ̄|●)
(転送の有効期間二日だしいいかなとか)
21337sage :2004/09/20(月) 01:58 ID:/jf42gsc
|∀゚)<・・・
|ミ <ラヴィ!!
21437sage :2004/09/20(月) 01:58 ID:/jf42gsc
泣き声が聞こえる。
悲鳴があがる。
罵声に包まれる。
怖くなって目を閉じる。

5歳の時、何でも在る、だけど欲しい物は何もない部屋をもらった。
話し相手はいつも決まって一人だけ。
何でも知っているけど何も教えてくれなかった人。
ちがう。
ひとつだけおしえてくれた。
「自分を捨てる事は、死ぬことより辛いのだ」と。

ここにはなにもない、だけどなんでもある、じぶんという世界の果て。
だから目を開ける。
この世界はまだ果てに到達していない、まだやりなおせる。

RagnarokOnline/ShortStory.03 「月下の逃走劇」

月夜に煌く三つの剣閃。
二つは、青空を切り取ったような髪と銀の目を持つ暗殺者の操るカタール。
一つは、深い海の藍を思わせる髪と黒の目を持つ騎士の操る両手剣。
お互いに求めるように打ち合い、夜の闇に溶け、再び打ち合う。
「おいアルエナ!お前、自分が何やってんのか分かってるのか!」
「当然だ…そして貴様に軽々しく呼び捨てにされる筋合いも、無いッ!!」
踏み込んで一撃、高速の斬撃を上回る速度で必殺の一撃が放たれる。
「ボーリングバッシュ!!」
「こんのぉおおおおお!!」
正面でカタールを交錯させ無理やり防ぐ、が。
「ぐぁっ!」
衝撃を逃がしきれずに吹き飛ばされる。
「くそっ、反則だぞこの威力…一体どうなってるんだってんだ」
目の前の女騎士を知らないわけではない。
いや、よく知っている。
そして、彼がエイルの用件とは別に個人的に探していた人でもある。
「ふむ、まだ起き上がるかアサシン、その戦意だけは敬意に値するな」
「うるせぇ…ったく、以前とは大違いだな、お前」
目の前の彼女を明らかに知っている口ぶり。
「しかし、マズったな…こりゃ」
先ほどの一撃を受け止めた所為だろう、カタールの刃が砕けている。
後が無い、とはこのことだ。
「さて、観念してもらおうかアサシン…ああ、悪いが命乞いされても助ける気は無いからな」
両手剣を正眼に構える、次の一撃は確実に彼の命を奪いに来るだろう。
「うーむ…悪いがここで死ぬわけにはいかんのでな、悪いがひとまず退散するわ」
「何?」
言うやいなや、右手を振り上げる。
同時に目を潰しかねない程の閃光と炸裂音、大量の煙が撒き散らされる。
「くそっ…卑怯な、逃げるのかアサシン!」
「アホか!この状況で卑怯も糞もあるか!」
そう言い残し、彼は屋根から飛び降りた。

「ふっ!」
一閃、迫ってきたブラックスミスの右肩を強打する。
「ええいちくしょー!数が多いんだよこのやろー!」
文句を言いながらも、迫ってくる相手を殺さない程度になぎ倒し進むエイル。
加減できているということは、まだ余裕があるということなのだが…。
「だーもう!ちょっと黙ってろ!」
掛け声と共に、振り回していたハルバードを地面に打ち付ける。
「マグナムブレイクッ!!」
迫ってきていた敵を吹き飛ばし、道を開く。
「そこのお前!なんか剣が真っ赤に染まってるお前だ!」
引き抜いたハルバードでビシッ!と相手を指し示すエイル、なんか生徒を名指しする教師のような勢いだ。
「くっく、これはこれは聖堂騎士様、この腐れ貴族でも助けにいらっしゃいましたか」
持っていたクレイモアを下ろし、嫌な笑みを浮かべるナイト。
そしてその後ろの広がる惨劇の跡と、かろうじて生き残っている数名の貴族達。
「うーん、正直そこいらの腐れ貴族を助けるつもりは毛頭ないんだよな」
と、ハルバードを引き戻しつつ言って見る。
「ほぅ?」
驚愕の表情を浮かべる貴族と、眼前のクルセイダーに興味を示すナイト。
「ふ、ふざけるな!貴様も国に使えるものなら早くわれらヴぉっ……」
不平の声を上げた貴族に対し、振り向くこと無く、ナイトが両断する。
「つまり、お前は我らの同士に加わりたいというのか」
「いんや、正直革命とかも興味ない、めんどそーだし。どっちかっつーと本読んでる方が好きだな」
あくまで冷静なエイル、それを興味深そうな目で見つめるナイト。
「ふむ、この状況で自己を失わぬか…面白い、貴様にその気は無いだろうが、我が同士に加わってもらうぞ」
「冗談、悪いけど男に無理やりされるのは趣味じゃないんでね」
ハルバードを下段に構えるエイル。
「そうか…それでは死ね」
21537sage :2004/09/20(月) 01:58 ID:/jf42gsc
ハルバードとクレイモアが打ち合い、火花を散らす。
「高速剣の使い手かッ!!」
「そういう貴様こそ、高速の槍技を使うではないか!!」
常人ならば、一度打ち合っただけなのに五度打ち合う音が聞こえる、という怪奇現象に見えただろう。
高速の剣技と槍技、小細工無しで競り合う。
「はははははっ!我の剣とここまで打ち合えたのは貴様が二人目だぞ!クルセイダー!」
「やかましい!それに俺はエイルだ、エイル・アーヘンハイム!」
「我はアルト・クレードゥル、冥土の土産に我が名、持ってゆくがいい!」
突如、アルトの剣閃が跳ねる。
常人ではありえない動き軌跡を描き、その刃がエイルの右胸に突き刺さり…
「…んな訳あるかぁ!」
そのままハルバードを横薙ぎに払い、勢いで体を捻り凶剣を避そうと試みる。
「「グッ!」」
エイルのハルバードはアルトの脇腹をかすり、血が滲んでいた。
アルトのクレイモアは、エイルの右肩を貫いていた。
「さらばだ、エイル・アーヘンハイム!!」
迫ってくるエルトの手には、帯刀していた二本目のクレイモアが握られている。
一本目のクレイモアが刺さっている所為で右腕は使えない、ハルバードは握れない。
「クソッ、こうなりゃヤケだっ!」
残った左腕を頭上にかざし、骨でクレイモアを受け止めようとする。
永遠とも思える一瞬、風景がゆっくりと流れていく。
見切りの境地とはこのようなものだろうか、と考えてしまったほどだ。
そして、風に乗って聞こえてきた声とともに唐突に現実が戻ってくる。
「二条の光 風の如し ダブルストレイフィング!!」
どこからか女の声、そしてアルトの足元に刺さる2本の矢。
「ッ、何者だ!」
声のした方を見やる。
広場の南、武器屋の屋上に、彼女は居た。
「申し訳ありませんが、その人を殺される訳にはいかないのです」
「黙れ女風情が!男の勝負に割って入るな!」
本気で憤慨しているアルト、しかし屋上の女性は
「男の勝負というなら、手下などけしかけずに最初から正々堂々一対一で戦ってこそ、貴方にはとやかく言う権利はありません!」
「貴様ァ…」
その時、広場を閃光が覆った。
「グッ…閃光弾か、小癪な!」
「せいっ!」
うろたえているアルトに向かって再び矢が射掛けられる。
「ええいっ!」
この状況を不利と判断し、下がるアルト。
「エイル!撤退だ!」
どこからか蒼穹の声が聞こえる。
立ち上がりかけて、刺さっていたクレイモアを思い出す。
今は痛みをあまり感じないが、時間がたてば地獄の苦しみを味わうであろうそれを、一息に抜き放つ。
「いってぇー!…くそっ、まぶしくて前みえねーよこのバカー!!」
「こっちです!」
先ほどの女性の声が聞こえる。
とりあえず手がかりはソレしかないので、クレイモアを放り投げて声の方に走る、もう自棄っぱちだ。
急速に光が薄くなる、閃光弾の効き目が切れてきたらしい。
「おいどーすんだ蒼穹!」
なんとか視界が戻ってきたので、追いついてきて左隣を走る蒼穹にとりあえず聞いてみる。
「無論、逃げる!」
「ああそうだな!つーか今も逃げてるしよ!じゃなくてどこに逃げるのかと!この先、塀・崖・海のFin風味だぞ!」
「普通は海に逃げ込みませんか?」
いつの間にか右隣を走っている先ほどの女性、どうやらハンターだったらしい。
「ハァ!?ちょっと待て!ていうかアンタダレ!つーか俺右腕今にもぶち切れそうなんすけど!」
「「そこらへんは自分でどうにか!」」
ハモる蒼穹と女ハンター、ついでに言えば女ハンターの方はこれでもかと言わんばかりの笑顔だ。
目の前には塀、終点は近い。
「ああもう!オマエラあとで覚えてろよー!!」
絶叫、気合いで塀を飛び越える。
目の前には黒々とした夜の海。
数秒の浮遊感、そして着水する衝撃。
あ、そーいや俺鎧着てるじゃーん、と、どこかで冷静な判断をしている自分に驚きつつ、
エイルは浮かぶことなくブクブクと夜の海に沈んでいった。

「くそっ、逃がしたか…しかし、我とまともに打ち合うとは…何者だあのクルセイダー」
足元に転がるハルバードを見つめる。
「…なるほど、道理で…これは楽しめそうだ」
狂気の笑みを浮かべるアルト。
その目線の先には、背に月を背負う藍色の髪をした女騎士が映っていた。
21637sage :2004/09/20(月) 02:08 ID:/jf42gsc
流れを無視して書き込んだ、今は反省している。
どうも、37な人です、(゚∀゚)ラヴィ!!が頭から離れてくれません…orz

>>105
ありがたいアドバイスをありがとうございます(つд`)
実際見てみると私のって代名詞少ないですね…。
精進致しますorz

>>保管庫"管理人"様
(´д`;)
す、すいません、そういえばタイトル考えてませんでしたorz
文中のRagnarok〜はサブタイって事でスルーしてやってください。
…す、すいません!次までに考えてきます!!(だめぽ)

>>下水リレー参加者様方
( д ) ゚ ゚ Sugeeeee
参加できるほどの力はないんで、ニヨニヨと楽しませてもらってます。
|<負けないでアサたん!むしろ愛してr(ゴキャッ)

ちなみに前回パーツ取り替えたPCが完全死亡したため、新PCに。
…懐が寒いよ……。
217姉弟sage :2004/09/20(月) 07:35 ID:Eoxwz9Ns
出会い、ってのは意外なところに転がってる。そう思い知ったのは、いつだったか。
…季節は冬。クリスマスが過ぎ、晦日の準備へ向かい始める頃だった。


「さて、今日も頑張るかな。…転職まであといくらもないし、気合入れてこう」

バイラン島にある海底洞窟。今日も俺はそこへ赴く。転職間近なこの時期、本来なら臨時PTでも組んでゲフェンタワーの地下ダンジョンでも行くのが一番望ましいのだろう。
だが、俺はそれをしない…いや、できなかった。

ゲフェンダンジョンは、亡霊の巣食う場所だ。彼らに対抗するには、星の加護を受けた武器や、属性石を混ぜて作った武器がなければいけない。
生憎、俺はそんな高価なものは持ち合わせていない。だから、今日もこのウルヴァリンダブルサハリックスティレットを持って、カニやクラゲの亜種と戦う。

いつもの狩場、第2層につくと、覚醒POTを飲み干す。
途端、感覚が研ぎ澄まされていく…さぁ、狩りの時間だ。
硬い殻に覆われたバドン。緩慢で、やわらかい…しかし、粘りのあるマリナ。遠くからすばやい動きで攻撃してくるヒドラ。素早くアイテムを食い逃げしていくククレ。そして、一番の難敵であるタラフロッグ。
どれも、もう俺の敵ではない。

「ふぅ…」
「お、今日も精が出るね、おにーさん」

3層と2層を繋ぐ階段の前、腰を下ろすといつもの商人が話しかけてくる。
ここはよく冒険者たちの憩いの場になっていて、いろいろな人が休んでいる。時には、更に下層で戦う人もここで体を休めている。

「ま、転職も近いしね。…早くアサになりたいし」
「なるほど。…だったらGDでも行けばいいのに」
「前も言ってるだろーが。属性ないんだってば」

他愛もないやり取り。暗殺者志望の盗賊である俺が言うのも変かもしれないが、こういうやりとりがとっても好きだ。
いつものように、何人かで歓談しながら時々出てくるモンスターを狩る。そんなふうにやっていると、収集品が道具袋いっぱいになってしまった。

「ん…重くなってきたし、一旦戻るとするよ。いつものくれ」
「あいよ。300zね」

代金と引き換えに蝶の羽を受け取り、挨拶もそこそこに羽を握りつぶす。
すると、羽に込められた魔力で一瞬にして首都、プロンテラへ飛ばされる。
商人に収集品を売ると、なんとなく狩りをする気がなくなってしまったので、ぶらぶらすることにした。
自分には手の届かない露天の商品を見ながら、当てもなく歩く。気がつけば、南門の前だ。

(一人で狩るのも飽きたしなぁ…GD以外の臨時でもさがしてみよっと)

そして俺は門をくぐり、冒険者たちの集まる広場へと足を運んだ…。


プロンテラの城下町を南に出たすぐの所に、様々冒険者たちがたむろしていた。それこそ、ノービスから威厳のある光を放った2次職まで十人十色、といった感じだろうか。
それぞれが立てている立て札を見て回る。…残念ながら、俺の望む立て札はないようだ。
どうしようか、と考えていると…なんとなく気になった立て札が目に入る。

落)66プリ

臨時PTに欠かせない支援職であるプリースト。それが落ちているというのは…まぁ、さほど珍しいことでもない。
だが、拾われない、ということは滅多にない。
…にも関わらず、目の前のプリーストは暇そうにぼーっとしていた。ずっと、そこに居るとでもいうように。

「こんばんは」
「あ、こんばんはー」

…なんで、声をかけようと思ったのだろう。なんで、壁をしてもらおうなんて思ったのだろうか。
認識のない人も多いが、初対面の人に壁を頼むなんて、失礼にも程がある。…わかっていたはずなのに、俺の口から出た言葉は。

「もし、お暇でしたら壁をお願いできませんか?」

恐らく、「手伝ってもらえればラッキー♪」くらいにしか考えていなかったのだろう。…後になってみれば、我ながら情けなさ過ぎるが。
そして、そのプリーストの答えは…。

「いいですよ」

彼女は、快く了解してくれた。
…あぁ、この人はいい人だなぁ…と漠然と思う。初対面の人間の壁請いにも笑顔を崩さず、やさしく対応してくれる。
そして、これが…こういう言い方は好きじゃないが、正に「運命の出会い」ってやつだった。


少しの雑談の後、比較的安全なルティエのおもちゃ工場へ行くことになった。これといって凶暴なモンスターもおらず、クルーザーの攻撃は無効化できるからだ。唯一の危険、ストームナイトも出会う確率は非常に低い。
彼女が言うには、壁をしやすいため、そういうPTがよく訪れる場所らしい。
初めて訪れる雪の国。そこは…。

「…寒い」
「あはは、工場に入ればあったかくなるから…急ぎましょうか」
「はい」

二人分の速度増加をかけ、走り出す彼女。それを追って俺も駆け出した。
途中、白熊の群れと氷の狼のようなモンスターに追いかけられたが、速度増加の効果もあり、なんなく振り切ることが出来た。

そして、おもちゃ工場での狩が始まる…。
基本的にはクルーザーをメインに倒していき、たまにミストケースを叩く。…俊敏性に重きを置く俺は、あまり器用な人間ではない。ミストケースが相手では、かなり攻撃を外してしまうためだ。
…狩りはゆっくり進んだ。俺は彼女を金で雇ったわけじゃない、そんな大金は持ってないから…だから、せめて。
彼女も楽しめるよう、会話をたくさんした。どうでもいい話、今までの話、夢の話。できるだけ楽しめるように、冗談とジョークをたくさん混ぜながら。…これでもユーモアには自信があるのさ。
そんな折、彼女がこんなことを言った。

「なんだか、弟みたい」

俺は、冗談で返す。

「じゃ、姉弟にでもなる?」

そう、冗談のはずだった。
なんて返してくるのか、楽しみにして待つこと数秒…。

「そうだねー、そうしよっか?」
「え?」

思わず、素っ頓狂な声を上げてしまう…それくらいに意外な答え。
適当に冗談で流されるものと思っていたし、俺もそのつもりでいたのに…。
ふと、彼女の顔を見る。…まぶしいくらいの笑顔、それが決め手だった。冗談でした、なんて言えない…なんとなくそう思った俺は、なんとなくこう言っていた。

「そうだね…これからよろしく、姉さん」

そうして、俺たちは姉弟になった。
218名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/20(月) 07:43 ID:Eoxwz9Ns
むしゃくしゃして書いて上げた。
書ければなんでもよかった、今はあんまり反省してないかもしれない。


正直駄文すぎてごめんなさいorz
一応、続きはあるんですけど、そのあたりは皆様の反応次第、ってことで。
評価が芳しくないのに上げるなんて度胸ないので…。

なんとなくスノースマイル聴いてたら昔のこと思い出してしまいまして(汗
勢いって怖いですねっ!っていうか萌えも燃えも何にもないし!

ROM|   λ<オレニハマダハヤカッタ
219名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/20(月) 09:07 ID:0BTtW1YA
>217-218
気になります。是非。
220名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/21(火) 19:55 ID:S72r1cwY
「ちょっと季節はずれだけど、花火でも見にいってみる?」
アイツの言葉に、私はいちもにもなく頷いた。
ギルメンのアイツとは、もうずっと長いこと行動をともにしているけど、一緒にいる時間のわりに
色気の「い」の字もない関係が続いている。
私としてはいい加減気づいて欲しいところだけど、とぼけてるのか本当に気づいてないのか、
とにかくアイツの鈍さはミッドガルド1だと思う。

アルベルタから船に乗って、一路期間限定で祭りの行われているアマツへ。

『おっす。今どこだー?』
『アマツ』
『アマツ?なんかあったけ・・・あ、花火か。なるほどデートだな?』
『おぅ、邪魔すんなよ?』
『そんな暇人じぇねぇや』

ギルメンからのからかいの通信に笑いながら応えるアイツ。
デート?とからかわれるくらいには一緒にいることがあたりまえになっているらしい。
そんなからかいの言葉には、けして否定ではなくネタまじりのジョークで返すアイツ。
それを受けるギルメンも、軽く流してそれ以上につっこみも確認もしてこない。
アイツもギルメンも軽く流してるお決まりのネタに、真面目に反応するのもばからしいし・・・
というか、真面目に否定なり肯定なりの反応を返して「は?なにネタにマジになってんの?」なんて言われたら
私はきっとその場でギルド脱退して、その場でポータル出して飛び乗って、
もう二度とアイツの顔も見えないところにひっこんで出てこれないに違いない。恥ずかしくて。
そんなのは私のキャラじゃないから。だから。
だから、私はいつも曖昧な笑いでその場をやりすごすことにしている。

「お、寿司屋か・・・ここで徳盛りでも買ってくか」
「おいしそうだね。あ、じゃあお酒もいるでしょ?カートあるんだからケチケチせずに買い込んじゃえ」

アイツと私の関係は、もっぱら色気より食い気・・・いや、色気なんかもともと選択肢にないわけで。
かと言って私からそういうことを言い出すのも、なんていうか・・・今さらっていうか
プリーストってのは職だけで、実は徳も高くないしどっちかっていうと不死モンスターを
浄化させるよりも、どんな敵だろうと殴り倒して再起不能にするほうが得意な私だから、その・・・
柄じゃないもんね、色恋沙汰なんて。
そもそもアイツは私がそんなふうに思ってるなんて夢にも思ってないだろうし。
寿司屋のおやじと笑顔で話しながら、二人分の盛り合わせを注文してるアイツに気づかれないように
私は小さく息を吐いた。
221名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/21(火) 19:56 ID:S72r1cwY
「なあ・・・」
「んーなにー?お寿司はうまいし花火はきれいだし夜桜もあって、こりゃ極楽ね〜」
ひかれたござの上に両足を投げ出して、両手を後ろについて夜桜越しの花火を見上げる。
ムードは満点だけど、アイツと私の間に置かれた握り寿司の残骸と転がっている酒瓶が、
その手の雰囲気ってものを台無しにしている。
まぁアイツと私らしいっちゃらしいのかな。
「いや・・・やっぱなんでもない」
「へ?」
いつになく歯切れの悪い言葉に、くるんと首だけアイツのほうに向けると、アイツはなぜか慌てて目をそらした。
特別饒舌なヤツじゃないけど、何かを言いかかけてやめる、というのは珍しい。
「どしたの?なんかあった?」
アイツとの間に転がってた酒瓶を片付けながら、アイツの様子を窺う。
間隔をあけてあがる花火に照らされたアイツの横顔は、なんか・・・・・・変な顔。
あ、いや、アイツの顔が変ってわけじゃなくて、なんていうか今まで見たことない種類の表情。
困ってるような何か決心したような悩んでるような・・・・・・?
「いや・・・・・・」
そう言ったきり押し黙ったままのアイツ。
普段からわりとぼーっとしてるとこがあって、こっちが話してることを聞いてないのかと思って話をやめてると
5分くらいたって、「あれ?それでどうなったの?」なんて聞いてくることのあるアイツだけど、
こういう間の開き方ってのは初めてだ。
なんとなくバカを言う雰囲気でもないこの空気をなんとかしたくて、私はない頭で話題を探す。
こんな時、恋人同士なら、そっと寄り添っちゃったりなんかして、それだけで気まずい空気も
なくなっちゃったりしちゃうんだろうか。
そんなことを思いながらふと周りを見ると・・・・・・暗くて気づかなかったけど、なんとなく一定以上の距離をおいて
カップルがそこここの桜の下や池にかかる橋の上などに座っている。
ときおり何か囁くように、口を耳元によせ、それに頷き微笑みあって。
・・・・・・・・・いいなぁ・・・・・・。
「・・・どうかしたか?」
アイツの声に、私は慌てて首を振った。
いけないいけない。にぶいアイツと私であんなふうになれるわけもないじゃない。
「ううん!なんでも・・・・・・あ、今の大きいんじゃない!?きれいだよねぇ」
タイミングよくあがった花火を見上げて指差す。それはそれまでにあがったものより一回り大きくて
ゆっくりと降る火の粉がきらきらと幻想的だ。さやさやと吹く風に、ときおり桜の花びらが目の前を舞っていく。
昼間見る景色とはまた違うし、コモドの花火もきれいだけど、桜と花火って組み合わせもまた雰囲気が違って見とれてしまう。
「桜と花火もいいよね?ね?」
「気に入った?」
「うん」
「そうか。なら来てよかった」
・・・え?
花火を見上げたまま、思わず固まってしまう。なんか、やっぱりいつもと違う。
今の会話って、なんか私のために連れてきてくれたっぽい言い方に聞こえたけど・・・気のせいだよね?
「ぁー・・・っと、みんな遅いねぇ?」
「は?」
ギルドの通信で、私たちがアマツに来ていることは、みんな知ってる。
狩りでも観光でも、誰かがどこそこにいるって言ったら、なんだかんだ言いながら
いつのまにかみんな集まってくるのが、うちのギルドの常だった。
もちろんアイツと二人きりって状況は私にとっては嬉しいんだけど、でもなんだか
いつもと違うアイツの雰囲気にどぎまぎしてしまう。
こそばゆいような気まずいような・・・どうすればいいかわからない。
「いやほら、くる時ギルドの通信で・・・・・・」
「みんなは来ないよ」
「え、でも・・・・」
不思議そうに見た私に、アイツはちょっと息を飲んで。そして何かを決めたような顔でそっぽを向いた。
「俺が、邪魔すんなって言ったじゃん」
えっとえっと・・・・・・・ちょっと待ってーーーーーー!!!
それってどういう意味?っていうか、ひとつの意味にしかとれないんだけどでも
それはとっても私に都合のいい解釈で・・・・・・。
「なに?」
いつのまにか、私はアイツの顔を凝視していたらしい。
「あのさ、あの・・・えっと、それっていつもの冗談じゃ・・・・」
あぁ、私のバカ。こんなこと言ったら冗談であってほしいみたいじゃないの。
「・・・俺は思ってもないことは言えない」
ちょっと憮然とした風にそっぽを向いてアイツが言う。
そう、アイツはけして饒舌じゃない。だけどいつもまっすぐなことしか言わない。
冗談の言い合いもするけど、それもけっして人を貶めるようなことは言わないヤツで。
そんなアイツだからずっと一緒にいたいと思ってた。アイツもそうならいいなと思ってた。
思ってたけど、でも・・・・・・・!
こんな状況は想定外で、何を言えばいいのか何をすればいいのか、わからないわからないわからない。
頭の中が真っ白で、アイツの顔見つめることしかできなくて。
そっぽ向いてたアイツが、私の反応がないからか、ちらっとこっちを見て
ひとつ息をつくと、いきなり身をのりだして片手を私の肩に置いた。
驚いて身動きもできないうちに、何かが私の唇をかすめた。
何か・・・・・・アイツの、唇。
「・・・お前・・・にぶすぎなんだよ」
困ったような、怒ったような、窺うような、アイツの表情。
顔が熱い。これはさっきのお酒のせいじゃない、うん、絶対。
鏡はないけどわかる。きっと真っ赤になってる。
今までのギルメンのからかいの言葉と、それに応じるアイツの言葉を思い返しながら。
「うん・・・私、にぶいみたい」
アイツが私を見る。
何を言い出すんだ私の口!だけどもう止まらない。止められない。
「だから、さっきのよくわかんなかった。にぶい私にもわかるように・・・」
もう一回、して。
最後小声になった私に、アイツはちょっと驚いたように目を開いて、
直後、ふっと肩の力を抜いたように笑った。
しょうがないな、とかなんとか呟きながら近づいてくるアイツの顔に、私はゆっくり目を閉じた。


ミッドガルド1のにぶいヤツは、どうやら私のほうだったらしい。
222220sage :2004/09/21(火) 19:58 ID:S72r1cwY
思いっきり季節外れを不法投棄。
お目汚し失礼。
223149sage :2004/09/21(火) 20:33 ID:.k7RPf2o
>>217-218
続き読みたいです。(2/20)
この先の展開が全く読めないので、気になって仕方ありません。

>>220
萌 え た 。
キスされてからのプリさんがすごいかわいいだすよ!
こういうの好きです。


実は149です。ぐりぐり後編書いてきますた。投げていきまする。

※注意
前編よりもさらに百合百合しているというか、むしろ百合一直線なので
♀×♀カップリングが苦手な方はスルーをお願いします。
では投下。
っ[GuardianSpirit(後編)]
224149sage :2004/09/21(火) 20:35 ID:.k7RPf2o
四.

 ごく短い一呼吸ほどの間でありながら、その濃密な瞑目の時間は、銀髪の少女に何よりも静穏な安らぎを与えた。
 赤毛の騎士の力強い声を確かに心に聞いた。
 必ず来る。必ず会える。
 温もりを胸に瞳を開いた少女の視界に、小馬鹿にするように鼻を鳴らす魔術師の男の姿が映る。道具として作り上げてきた存在の落ち着いた面持ちを冷めた視線で見下ろすと、男は口端を歪めて嘲弄の響きに満ちた声を発した。
「連れ出す? 誰が? ここをどこだと? 私を誰だと? この砦の警備を掻い潜って私の前から貴女を連れ去る? 馬鹿は言わないで頂きたいとさっき言ったはずです」
「馬鹿ではありません。騎士様は……リシアさんは私に会うと仰いました」
「リシア……。それが貴女を誑かした人間の名前ですか」
「そうです」
 誑かす。誑かされる。あまり耳に感触の良くないその単語を、少女は頷いて肯定する。
 昔に見た演劇に登場した王は、姫君を恋の虜にした卑しい家柄の詩人を魔術師の男と同じ言葉で貶めた。今ならわかる。あの舞台が王ではなく、姫君と詩人を主人公として成立するのは、誰かに心を奪われるという感覚が一つの幸せの形として万人の認めるところとなっているからに他ならない。
 ほんの一瞬の念話の後、物語の主題となり得るほどの至福を感じている自分を、少女は見付けていた。
 色彩豊かな世界の中で初めて目にした人物は、くすんだ世界に見ていた者たちと同じ種族に分類するのが失礼に思えるほど、美しく、強く、魅力に溢れていた。強烈な存在感で心に焼き付いた気高い姿があればこそ、少女は己の人生を押し留めてきた男の前で自らの在り方を宣言できると判断した。消しようも無いほど鮮明に記憶に宿った『人間』たる自分を知る存在に支えられてこそ、今後二度と魔術師の男に世界を閉ざされることは無いという自信を持つことができた。
 出会った時から既に離す気などありはしなかったのだ。肉体は遠く離れても、精神で想い、馳せる。
 生まれたばかりの時点で、離したくとも離せないほどに心を奪われてしまっていた。他の人間に会う前にそうされたのだから、それはある意味では誑かされたと言えるのかもしれない。
 しかし――。
 その感覚を知ってしまった。己の心を捕えて離さない相手を、ただ想う、それだけで得られる充足感を――その温かな幸福感を知ってしまった。
 なぜ否定する必要がある。
 鮮やかな世界に来て更に忌まわしさを増した男を前にしても、この感情だけは隠すことはできない。隠したくもない。正直でありたい。
 寸分の狂いも無く正確に思い描くことのできる赤毛の騎士の英姿を胸に蘇らせ、銀髪の少女は誇らしげに言い放った。
「誑かされたのです。私はあの方に、リシアという名前を持つ方に誑かされました」
 人として、人に心を寄せることができた。その相手は素晴らしい世界にあってなお何よりも輝いて見える、何よりも素晴らしい存在だった。
 そう。これは誇るべきことなのだ。
「……そこまで酷く洗脳されていたんですか」
 魔術師の男は眉間に皺を寄せた。
「これは……失敗でしたね」
 薄く開いた口唇から、忌々しげな溜息と、少女の耳に微かに聞こえる程度の小さな呟きが洩れる。嘲りの色は消え、代わりに声と同じ程の微弱さで悔恨の念を滲ませていた。
「……失敗? 何がです?」
「失敗ですよ、お嬢さま。貴女はなぜ騎士様に会うことができたかわかりますか? なぜ危険なテロの中で独りで放って置かれたかわかっていますか?」
 銀髪の少女は、はっと大きく瞼を上げた。
 なぜかと問われてもすぐには答えは出てこなかったが、それが極めて異常な状況だったということには刹那で思い至った。この男の下に来てからというもの、生命に危機が迫ることはおろか、砦の外で独りになった経験すら無い。
 ――まさか。
 唐突に、その可能性に気付く。
 まさか、あの出会いは――。
 人生で一番の、大切な、あの思い出の時が――。
 この男に、こんな最低の男に――。
 喉がひりついていた。
 気温が零下にまで下がったような錯覚に襲われる。身体が震えて止まらない。
 それだけは絶対に、嫌だ。
「仕組まれて……いたのですか……?」
 搾り出すようにしてしか、空気を震わせることができない。
 答えを聞くのが、恐ろしくてたまらない。
 端整な相貌を戦慄で仄かに青白く彩った銀髪の少女の耳に、起伏に乏しい調子で話す魔術師の声が届いた。
「あのテロは私が起こしたんですよ。正確に言えば、私が部下に命じてやらせました。貴女を天の遣わした聖女として祭り上げるために。来たるべきラグナロクに備えて人心を纏め上げるための象徴としての聖女に、貴女はなる。国も教会も了承済みです。貴女が懐柔しました。その身体で」
 少女の問いに明快な答えを与えないまま一旦言葉を切り、この場にいない何者かを侮蔑するかのように薄く笑って、男は続ける。
「これ以上に無いというほど清純でありながら、同時にこの上なく淫乱でもある貴女が聖女になる。そしてその聖女を抱く。一度でも貴女の夜の姿を見た者は、国の高官も教会の幹部も、例外なく背徳への期待に目を血走らせました。数十という人数でしかありませんでしたが、それだけの推薦があれば充分でした。貴女は外面だけ見れば、本当にこの世のものとは思えないんですから。異常気象、魔壁の轟音、魔物の凶暴化――終末の日は、ラグナロクはもうそこまで来ていると、国の上層部は考えています。混乱を最小限に抑えるために、団結して激動に立ち向かうために、人心を纏める術が必要だとも。彼らは推薦された貴女を一目見て、すぐに飛びついた。ですが――」
 道具としての存在意義を滔々と告げる魔術師の様子を青ざめながら見ていた少女は、慄きに震える意識の中、次第に悟り始めていた。
 この男には――何も無い。
「ですがそれを操るのは私です。貴女を通して国を、教会を、全ての人間を操る。こんなに心躍ることが他にありますか?」
 目の前の男は空虚に満たされている。何をすることにも喜びを感じられる今の自分と対照的に、壮大な、おそらくは人生最大であろう野望について語るときでも、男の様は喜悦の類の感情を微塵も伝えてこない。
「本当にそう思うのなら、少しは楽しそうに話したら、どうなのです……」
 震える唇でそう返しつつも、それが絶望的なまでに実現する可能性の低い相談だということには気付いていた。
 この男が真に悦楽を感じることなどあり得ない。全てを操ると言ってのけた男は操られていた少女と同じなのだから。何も持たない少女が世界で己を殺していたのと真逆に、何をもを手に入れつつある男は世界で己以外の何者をも殺している。何一つ認めていない。しかし、導き出される結果は両方とも変わらなかった。
 この魔術師の男は、世界で独りきりだ。
「楽しくなどありませんよ、今はまだ。貴女のその騎士様のせいで計画に狂いが生じたんですから。全てが達成されるまではそんなに愉快な気持ちにはなれません」
「……達成されれば、この世の全ての人間が貴方に従うようになれば、それで満ち足りると、貴方はそう思っているのですか……?」
「何を悟ったようなことを言うんですか。当然でしょう。私は全てを手に入れる」
 やはり詰まらなげに紡がれたその言葉に、確信する。
 この男の渇きが癒えることは絶対に無い。この男が人の心のもたらす温もりと充足を知ることは一生無い。自ら世界を閉ざすこの男を、世界は認めない。
「……貴方は、そうなのでしょうね」
 憐れみの情など湧いては来なかった。
 薄情だとは少しも思わない。魔術師の発する不快感を全く薄めずに感じ取る自分を、銀髪の少女はむしろ好もしく思った。例えどんな過去があっても、何がここまで歪めたのだとしても、半生をも超える永い時を縛り付けてきた憎むべき男に掛ける情愛など、あるはずがない。あるとすれば、それを持つ者はもはや聖人や、或いは神といった存在である。ただの人間には持ち得ない。
 自分は――。自分は人間なのだ。
 聖人ではない。忌むべき相手に憐憫など覚えない。
 男の言う聖女になどなるものか。人として人の情の中で生きたい。ただの一人のちっぽけな人間として在りたい。
 そして人間として――あの赤毛の騎士に想いを捧げたい。
 そうだ。
 何を恐れていた。思い出に縋るよりも大切なことがあると、既にわかっていたはずなのに。
 あの出会いが仕組まれた物だったとしても、この情に、想いに、嘘偽りなどありはしない。
 人間たる意志も、感情も、揺るぎなくここに在る。
225149sage :2004/09/21(火) 20:36 ID:.k7RPf2o
 血の気を退かせていた銀髪の少女は、その頬にほんのりと華やかな朱を戻した。深海色の瞳に真摯な光が優しく灯る。強い意志と、温もる心を映し出す、穏やかな光。
「これだけは聞かせて下さい。あの出会いは貴方が仕組んだのですか? さきほどの話はリシアさんとどこで繋がるのですか?」
「仕組んでなどいませんよ。誰かが貴女に会うという場面は作りましたが、それがその騎士様で、さらにそこまで貴女を誑し込むなどとは思ってもみませんでした」
 仕組まれてはいなかった。
 確認する前に心の平穏をあらかた取り戻していた少女は、それでも小さく安堵しながら、思考の隅に引っ掛かるものを感じていた。
 なぜ魔術師の男はこの話をしている。過去にも様々な場面で暗躍をしてきたこの男だったが、その全貌を明かしたことは一度も無い。仕組まれていたという真実で絶望を与えるためでないのなら、なぜこの話は始まった。
「さっきの話の続きですが、上から与えられるものを人間は受け入れにくい。どこかに反発心が生まれるものです。貴女が完璧な聖女として認められるためには、人々に自然と見出される必要があった。民衆の熱い要望を受け入れるという形で、教会が貴女を聖女と認定する。それが最善でした。そして、貴女が人々の前に姿を現す最初の舞台として整えられたのが、今日のテロです」
 真相の説明を再開した魔術師の男は、今や少女に向ける関心を完全に失っているようだった。事務的な作業のように、せねばならないからしているのだと言わんばかりに平坦に言葉を並べる。
「連れ戻す時は別として、それ以外では、貴女を知るごく僅かな者は直接には貴女と接触しないことになっていました。サクラでない――煽動と疑われない自然な反応が欲しいということで。心構えがあるのと無いのとでは全く違う対応になってしまう。二度目に見る者は初めて見たように振舞うことができない。それほどまでに貴女の美しさは異質です」
「なぜ――」
 ――この話をするのですか。
 一瞬途切れた間に尋ねるという試みは、喉を出尽くす前に被せられた男の声によって阻まれた。
「貴女は見張られていました。私の部下のハンターの男が、遠くから、或いは身を潜めて近くから、護衛し、かつ監視していました。その男から貴女が女騎士と会い、共に戦い、人々を癒したと、そう報告を受け、これは成功したのだと思いました。貴女は使ったことはなくとも司祭の力は持っており、そして使えと要求されれば使う、そういう存在でした。道徳感覚自体は人並みにあるんですから、一度使えば後は止まらない。誰でもいい、貴女の側に行った人間が要求するのでも、道に倒れた人間がそうするのでも、とりあえず誰かが貴女に『ヒールをくれ』と言えば始まる。たどたどしい奇跡が力の大きさとの差で貴女の非人間的な印象を煽り、元々の容姿と雰囲気とに併せて誰からともなく貴女は神の眷属や聖人の類として見倣され始める。そういう計画でした」
 語りを止めない男に話し掛けるのを諦め、少女は黙って男の言葉を自らの記憶と照らし合わせる。一点を除けば、その二つに食い違いは無かった。一度奇跡を使った少女がその後何度も覚束ない素振りで力を行使したのも、癒しを受けた人々の少女を見る目が人間に向けられる眼差しでなかったことも、男の語った計画のままだった。
 ただ一点、癒しを求める人々よりも先に一人の騎士に会ったこと、その一点だけが違っていた。癒せとも闘えとも助けろとも言わずに、ただ己の心で在り方を決めろと言った、あの高潔な騎士の存在だけがそこには無かった。
「計画は確かに完璧に成功しました。国も、教会も、大成功だと連絡を寄越しました。しかし私にとっては、これは失敗です。貴女は心など持たないただの私の道具だったはずだ。ですが目の前にいる貴女は何です? その騎士は何者です? 貴女に何をしました?」
 さほど興味も無いという風に淡泊な口調で疑問を並べ立て、男は漸く言葉を切った。
 自分が何か。あの騎士が何か。騎士が何をしたか。
 考えるまでも無く、その単純な解答は出た。
 自分は人間で、赤毛の騎士も人間で、そして――人を人として認め、人としての自由な意思を尊重した。
 本当に単純なことだった。
 そう、本当にただただ当たり前のことだった。
 ただ――。
 たったそれだけの、当たり前のことが――。

 当たり前のことをしてくれる人が――。

 眩しくて、仕方が無かった。
 眩しすぎて魅せられた。魅せられずにはいられなかった。
 魅せられた。
 心を惹かれた。引っ張られた。
 強引に奪われた。縛り上げられた。逃げられなくなった。
 でもそれが嬉しかった。嬉しくて仕方なかった。
 嬉しくて嬉しくて、離したくなかった。
 ずっとそうしていたかった。
 この先ずっと、一生、生涯、離したくなかった。

 意志を得た。
 何より強い意志を得た。

 人間として赤毛の騎士を想い続けたい。
 レティリアとしてリシアを想い続けたい。

 ――リシアを想うために、レティリアで在りたい。

 意志には力があった。
 人の心は無限の力を秘めていた。
 世界に祝福されない男には永遠にわかり得ない力を。
「貴方には絶対にわかりません」
 人間たる己を支える意志と感情を確かに胸に感じながら、銀髪の少女はただそうとだけ答える。いかにして今の自分があるか、その根源となる温かで清浄な気持ちに汚い手で触れられたくない。
「そうですか。では聞きません。別になぜこうなったのかは問題ではないんです。どうであれ、貴女には私の道具として以外の道は無い。完全に、どんな細い道も見付けられなくなるために、貴女はこの話を聞いた。今ここに在る理由も、聖女として操られる今後も――全てを知った。その上で貴女は人形に戻る。全てを知って絶望すれば、もう希望を持つことなど無い」
「絶望……私が人形に戻る……? なぜです?」
「――マスター」
「……何ですか?」
 唐突に扉の外から響いてきた控えめな男の声を受けて、魔術師は怪訝な顔をする少女に冷笑を向ける。何だと問い返しながらも、落ち着き払ったその態度は聞かずともわかっていると雄弁に語っていた。
「――女騎士が来たとの報告が」
 返答はせず、部屋の中でやはりというように一つ頷き、魔術師の男は口を開く。
「貴女の騎士様は、死にます。私の部下が、私が、殺します。ですがそれは元はと言えば貴女が悪い。貴女が殺すようなものです。貴女と関わらなければ、貴女が心を寄せなければ――貴女が心を持たなければ、死ぬことは無かった」
「……そういう事ですか」
「ええ。これから貴女の前に騎士様の亡骸を晒して見せます。そうすれば、何が正しいか貴女にもわかるでしょう、私のお嬢さま」
 恋い慕う相手の死を宣告されても、深海色の瞳は優しい光を僅かにも翳らせなかった。
 銀髪の少女は砂粒程の疑いすら入り込む余地が無いほどに堅く信じている。
 あり得ない。人の心を支配するべき『もの』としか見ていない男に――意志の、心の与えてくれる力を知らない男に、できるわけがない。
 人を護る。いかに異質な人間でも人間と認め、その尊厳までをも護る。他の全ての者が目を奪われた美にすら惑わされなかった強靭な意志と確然たる在り方が、誰よりもつよい心が、赤毛の騎士にはあった。その人物が『会う』と言ったのだ。
 ならば。
「リシアさんは死にません。生きて私と会います」
226149sage :2004/09/21(火) 20:38 ID:.k7RPf2o
五.

 三日の月が照る静かな星空の下、草原の緑が覆うブリトニアの地に築かれた不釣合いに厳めしい砦の、その開け放たれた門扉の前で、赤毛の騎士は思案していた。
 悠然と愛鳥を歩かせながら、油断無く視線を這わせて周囲の様子を探る。人影は見当たらず、また気配も感じられない。しかし、わかっている。砦側は気付いていながら放置しているのだ。堅牢を誇る有力ギルドの本拠地に監視要員がいないとはまず考えられなかった。
「……誘ってるのかしらね」
 呟いた赤毛の騎士の頬に、不敵な笑みがにやりと浮かぶ。
 誘いなら乗ってやる。主を得た自分を誰が止められる。
「行くよ」
 弓弦を放たれた矢を思わせる様で巨鳥が走り出した。
 門を抜け、高い城壁に囲まれた砦の敷地を疾風の如く駆ける。踏み固められて点々としか草を生やさない荒れた土を足下に、道の複雑を成す内壁と崖とを視界に流し、小規模ながらも堂々と聳えた石造りの城を目指して疾走する。
 ――主の囚われる壮麗な牢獄を目指して。
「待ってなさい……!」
 『護る者』としての真の生はここから始まる。
 主たる銀髪の少女を想いながら、赤毛の騎士は歓喜に震える魂を感じていた。


 城内に侵入しても、赤毛の騎士を阻む者は何も現れなかった。
 整然と板石が敷き詰められた、大人が悠に十人並べるほどの道幅の通路を、騎鳥はゆっくりと歩く。左右に幾つか扉が見えるが、おそらくそれらの部屋には求める少女はいない。
 単発的な襲撃が無いということは敵戦力の一点集中を意味する。侵入者は一人しかいないのだから分散させる意味は無い。絶対に通らねばならない地点に結集して待ち構えるのが一番効率的な方法である。同時にそれは、その先にこそ少女がいるということでもあった。
 それはどこなのか。
 方向感覚を頼りに奥へ奥へと進み、やがて岐路も見られなくなってしばらくしたところで、赤毛の騎士はその答えを得た。
 まさに集中。
 足元にある石畳にも劣らない丁寧さで並べ置かれた、延々と続く虎挟みの絨毯。その先にひしめく、何十という、数える気さえ失せるほどの人の群れ。武力の山が、そこにあった。
 歩みを止め、弓の射程外から怒鳴る。
「レティリアを出しなさい!」
 朗々とした声が石廊に響き渡った。こだましながら伝播し、そのまま冷たい空気に吸い込まれて消える。
 いらえは無い。
「やっぱり駄目ね……」
「――当然だ」
 独白のはずだった小さな呟きに返答する、低い声があった。僅かに顔を緊張させる赤毛の騎士の数歩先の石壁から、狩服を身に纏った男の姿が染み出るように現れる。首に巻かれた襟巻きが奇妙な色合いで存在感を主張していた。自然にはあり得ないその色彩を見れば、身隠しの力を与える魔物の魂を封じた物だと自ずと知れる。
「騎士よ。できれば貴女は生かして捕らえるようにと命を受けている。これを見ても怯まぬような愚直な者ならどうにもならなかったが、ここで立ち止まった貴女はそうではないだろう。無駄な血は流したくないのだ。大人しく武器を収めてもらえぬか?」
 襲い掛かる素振りを見せない男の様子に顔の緊張を緩め、首を横に振る。
「それは無理ね。レティがここにいたいって言うなら大人しく帰るけど、あの子はそんなこと思ってないもの」
「……抵抗など無意味だとわからぬのか? 貴女のことはテロの時に見ていた。貴女は強い。おそらくはここにいる誰よりも強いだろう。それは認める。しかしこの人数を前に単騎で何ができる?」
「何ができる?」
 単騎。その言葉に、赤毛の騎士は何か熱いものがこみ上げるのを胸に感じた。
「確かに私は単騎だわ。でも何だってできる」
 銀髪の少女は呼んでくれた――仕えるべき主と定めた相手はそれを許してくれた。
 今の自分には何からも護るべき、主がいるのだ。
 あの少女を、あの子を護るためなら、できないことなど何もありはしない。
「――私は単騎だけど、一人じゃない」
 力強く言い放った赤毛の騎士に、狩服の男は憐れむような視線を投げかけた。
「何でもできるだと? 愚かな。己の力に溺れて気が狂ったか……。身の程を知らぬのも度を越さぬ程度にしておくのが良いぞ。もっとも、死に行く者にする忠告など何の意味も持たぬのだがな。――選べ。貴女にある道は二つに一つ。ここで死ぬか、ここで捕らわれてマスターの前で死ぬか」
「それは何とも魅力的な二択ね。選ぶ前に一つ確認させて。あの子を解放する気も、私を通してくれる気も無いのよね?」
「無論」
「そう……」
 低く返し、相棒の首筋を宥めるように撫でさする。
「じゃあ、無理矢理にでも通ってやるわ……!」
 槍を、握る。強く。握り締める。
「――行くよ!」

 石の地面を巨鳥が蹴った。
 駆ける。
 狩服の男を巨体で弾き飛ばし、罠の道に向かって一直線に駆ける。
「掛かれ!」
 怒号と共に射掛かる矢を、盾で弾き、槍で払い、体で受け止め、単騎で駆ける。

 心に想いながら。

 少女の姿を――護るべき、主の姿を想いながら。

 主を護る。
 あの子を護る。
 あの子の魂を、在り方を、あの子の全てを護る。

 銀髪の少女を護る。

 ――レティリアを、護り抜く。

「ブランディッシュ――」
 騎士の体が閃光を放った。
 暴力的なまでに眩い青白色の光。
 練り上げるまでもなく、堰を切ればそれだけで現界に影響を与えるほどの、それは精神力――意志の力の具現だった。
 巨鳥が跳ぶ。石床を蹴って跳躍する。
 赤毛の騎士は身体を捻り、空中にある愛鳥の下の床を見据る。
「――スピア!」
 小太陽とも言うべき鮮烈な輝きを宿す長槍の穂先が、騎士の見極めたその一点に突き立てられた。
 青白の光輝が空間を満たす。
 爆音と共に衝撃波の炸裂が大穴を穿つ。
 降り注ぐ矢は軌道を逸らされ、並べ置かれた虎挟みは吹き飛ばされる。
 そして騎士を背に乗せた巨鳥の体躯は――爆発する空気に押し出さて宙を飛んだ。
 引き剥がされた罠を飛び越え、薙ぎ倒された敵勢の上を更に舞う。
 爆風の収まった静かな石廊に着地した騎士は、一言小さく呟いた。
「……元から人に向ける槍なんて持ってないのよね」
 主を得て優劣ができたとは言え、人間とは、やはりその全てが護るべき対象であることに違いないのだから。
 敵戦力を後方に捨て置き、赤毛の騎士は振り返ることも無く奥へと走り出した。


 程なくして行き着いた通路の終端には、道幅とほとんど変わらない大きさの鉄扉があった。
 この先に銀髪の少女が、主が待っている。
 湧き上がる柔らかな笑みを抑えられないまま、赤毛の騎士はその重厚な扉を押し開いた。
227149sage :2004/09/21(火) 20:39 ID:.k7RPf2o
終幕.

「会いに来たわ、レティ。元気にしてた?」
 ギルドの核となる黄金色の金属の湛える淡い光が照らす、さほど広くもない四角い部屋の中、銀髪の少女は深海色の瞳に涙を浮かべながらも、惜しみなく喜びを乗せた笑顔で赤毛の騎士を迎えた。
「リシアさん……っ」
 来てくれた。本当に会いに来てくれた。
 来るとは信じていたけれど、それがどれだけ嬉しいことなのか全くわかっていなかった。
 はっきり覚えていたはずなのに、記憶と全然違っていた。
 こんなに眩しいと思わなかった。
 こんなに胸が一杯になると思わなかった。
 想うだけでもう一杯になっていたはずの胸がもっと一杯になる。それでも足りなくて目から零れていく。
 涙が止まらない。気持ちが抑えられない。
「……リシア……さん……っ」
 顔をぐしゃぐしゃにして駆け寄る銀髪の少女を、赤毛の騎士は優しく愛鳥に引きあげた。
「元気そうね。良かった。じゃあ行こうか」
「はい……っ」
「まっ待て! 貴女はっ……あの人数を、一人で……っ!」
 胸に抱いた少女の艶やかな白銀色の髪を梳いて頭を撫でながら、騎士は驚愕に表情を凍りつかせた魔術師の男に顔を向ける。
「貴方がレティの保護者? 待たないわよ。親は子の独り立ちを祝福するものでしょう。男親だから嫉妬してるなんてそんな言い訳は聞かない。この子は私が連れて行くわ。――あと、私は一人じゃない」
 銀髪の少女は誑かされた相手の胸で、その慕わしい声を、聞いていた。
「――レティがいたから来れたのよ」
 やっぱり、涙が止まらない。
 どうしても止まってくれない。
 でもすごく、――すごくそれが嬉しい。
 こんなに泣けるなんて思わなかった。
 こんなに気持ちがあるなんて思わなかった。
 こんなに――。
 こんなに人を好きになるなんて、思わなかった。

 愛しい人の声が聞ける。顔が見られる。温もりを感じられる。

 すごく、すごく、すごく、――幸せだった。


 ブリトニアの小高い丘を曙光が照らす。
 腰を地に着けて眠る巨鳥を背もたれにして並んで座り、ふたりは幻想的な夜明けの風景を眺めていた。
 どれだけ美しい情景を見るのよりも、隣に一番大切な人がいる――それを感じられる。そのことの方が何倍も幸せだと、思いながら。
「あの男が言っていました。私といれば、あの男だけでなく、国にも教会にも追われることになります。リシアさんは、それでもよろしいのですか?」
「決まってるでしょう。国だろうが教会だろうが魔王だろうが神だろうが、何が来ても関係ないわ。貴女を害そうとする全てのものから、私は貴女を護る」

 私には、レティリアがいる。
 私には、リシアがいる。
 この先、ずっと、一緒にいる。

 それは、愛の誓いにも似た、ふたりのためだけの、永遠の言葉。

「私はレティの騎士なんだから」


了.
228149sage :2004/09/21(火) 20:42 ID:.k7RPf2o
前回読んでくださった方、今回読んでくださった方、お付き合いありがとうございました。

えーと、色々と無茶苦茶ですけど、要は百合百合らヴぱわーがあれば
何でもできるってことですよ!百合萌え〜(*´Д`)ハァハァ

誰も求めてないと思いますが、前回あんなこと書いちゃったので一応言っておきます。
えちフラグは全部潰したので、そんなシーンはどこにも投下されません。そーりー。

レスしてくださった方々に感謝と共に返信を。

>>改行のアドバイスくださった方々
改行した方がいいよ!って直接的な話は出てなかったようなので
そのまま投下しました。今度ツールとか探してみます。

>>('A`)様
ノートパッドってメモ帳のことです。ていうかガクガクしてしまいます。小心者かもしれません。
('A`)様のSSスキーがここにいます。前のシリーズの初回からずっと楽しませて
いただいてました。でも今やってるのの方が当方は好きですよ!
納得行くまで頑張ってくださいませ。いつまでもお待ちしております。

>>93のひと様
あれってやっぱり適当にENTER入れるものなのですか。目からウロコです。
責任取りませんけど影響は出してください。お姉さま百合百合ーな作品を書いt(ry
ていうかシメオンたんはぁはぁすぎです。犯罪です。続き楽しみにしておりまする。

>>205
ハッピーエンドにしたつもりでいます。お気に召していただけたら幸いです。
老騎士の話でぼろぼろ泣きました。ほんわり系も好きです。
短い中にもひとの温かみみたいなのが伝わってきて
ちょっとくすっと笑顔が浮かぶような、そんな気持ちになりました。

ではでは、名無しに戻ります。別れの挨拶。萌え小説スレ万歳!
229149sage :2004/09/21(火) 22:01 ID:HkbTi9e6
うぅぅ・・・。名無しに戻るとか言っておいて・・・
読み返したら尻すぼみ感がヤバイ;; 冗長だと思って切り捨てた対決シーンが恋ちぃ。
書いてすぐ投げるのやめようと思いました・・・ あんまりがくがくきすぎたので
心の平静を保つためにちょっと愚痴らせてもらいました、失礼。
230名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/22(水) 01:08 ID:VQJfqVeI
>>149

SUGEEEEEE。参考にしつつ精進して行こうと思います。
っていうか自分のが霞んで見えるぜ…。

>>220
萌えた。最高に萌えますた。

118の続きは明日の午前には終わる…かも。
231149sage :2004/09/22(水) 06:57 ID:OSX5wbWw
そして朝になると>>229の書き込みを異様に後悔する私・・・orz
見苦しいところをお見せしましてすみませんでした。
できればこの書き込みごとスルーしていただけると。

>>230
ありがとうございます。参考になるのであればいくらでもしてくださいませ。
続き書いていただけるようで、楽しみにしております。
232姉弟 Asage :2004/09/22(水) 12:11 ID:j827/zzc
「そうだね…これからよろしく、姉さん」

自然と、そんな言葉が紡ぎだされていた。
…きっと、寂しさも手伝ったのだろう。以前所属していたギルドは空中分解し、俺は宙に投げ出されたままで。
以来、ずっとソロで生活していたが、もともと独りを嫌う俺がそんな生活を続けるのもそろそろ限界だった。
盗賊であるシーフが孤独を嫌う、というのもなかなか滑稽ではあるが。

「こちらこそ、不束者ですけれど」

ぺこり、と丁寧にお辞儀をする姉。仕草や言葉に人柄がにじみ出ていると思う。
…これでも、人を見る目はあるつもりだ。2時間も話ていれば、相手がどんな人間かくらいは見抜ける。

「あはは、姉さんそれちょっと違う」

それじゃ、新婚の夫婦みたいじゃないか、とからかうと彼女はあはは、と照れながら笑う。
…笑顔にちょっとどきっ、としたのは内緒だ。
そして、一つ重要なことを忘れていた。…名前。

「そうだ…まだ、お互いに名乗ってなかったね」
「そういえば…」

名前も知らない姉弟って…と俺が苦笑いすると、彼女もそうね、と頷いた。その顔は、どこか楽しそうで。

「俺は…皆川。皆川毅(たけし)ってんだ。好きに呼んでくれ」
「私は莉理。これからよろしくね、毅君」

弟に君づけかよ、と内心思ったが…まぁ、どうでもいいことかもしれない。
彼女の性格なのだろうし、ね。
ともかく、目標が出来た。彼女と公平PTを組めるようになること。…後10Lvは少々遠いけれど、気合を入れていこう。


翌日。
俺はまた海底洞窟へ脚を運ぶ。いつもの装備t、いつもの荷物で、いつものようにもくもくと狩り続ける。
ただ、一つだけ違うことがある。
…いわゆる、モチベーションとかやる気だとかいう類の…メンタル的な面だ。
急いで彼女に追いつかなければ。そういう思いが、自然とペースを上げていく…しかし、不思議と焦りは感じない。

「…っせい!」

左手のウルヴァリン ダブルサハリック スティレットを振るい、モンスターを屠っていく。
そう、まるで禁術で操られた人形たちのように…ただひたすら切り裂いていく。
…気がつけば、もうかれこれ3時間は狩り続けている。…流石に疲れたし、いつもの場所で体を休める。

15分ほど、休んだだろうか。突然、だれかが意識に介入してくる感覚がする。

『いますか?』

…姉さんだった。俗に言うWis、という力を使い、俺に話しかけてきているようだ。
ちょっとだけ、意外だった。俺から連絡しないと、音沙汰ないものだとばかり思っていたから…。

『いるよー。…どしたの?』

内心の動揺を隠しながら、なるたけ平生とかわらぬように答える。
姉さんはううん、と頭(かぶり)を振ってから…といっても、実際には見えないけれど。

『お手伝いしようかな、って思ったの』

…なんというか…生粋の善人なんだと、改めて思った。
いくら、姉弟になろうという話になったとは言え、昨日知り合ったばかりの人間にそこまで出来るものか…。
とりあえず、折角の好意だけれど断ることにした。そう言ってくれるのは有難いけれど…連日つき合わせるのは気が引けたからだ。
もっとも、初対面の人間に壁頼んだやつが何を今更、というのも否めない。

『うーん…それじゃあ、こうしましょう』

断る旨を伝えたが、姉さんは落胆する風もなく、こう言った。

『お話…しませんか?』

…正直、そのまま卒倒しそうだった。自慢じゃないが、俺は女性慣れしてないんだよ…。
でも、誰かに求められる、というのは気分の悪いものじゃない。
どんな形であれ、一緒にいよう、と言ってくれるのなら、そうしようと思う。
最初にあった場所…プロンテラ南門。そこのベンチで待ち合わせることにし、帰路を急ぐ。
まぁ、お約束といえばお約束なんだが、こういう時に限って、いつもの商人がいなくて蝶の羽が仕入れられなかったりする。
この洞窟は意外と入り組んでおり、出口までが結構遠い。こうなったら…。


数分後、ほうぼうの体で首都プロンテラに投げ出される俺。…どうやって戻ったかは秘密だ。
とりあえず、急いで南門へ向かう。
途中、辻ヒールしてくれた人がいたようだったが、急いでいたので「ありがとー」と言うだけで精一杯だった。
…早く姉さんの所へ行かなきゃ。
ベンチまではすぐだった。人ごみをすり抜け、人の多い広場から外れた待ち合わせ場所に辿り着く。…しかし、姉さんの姿はない。

「あれ…急ぎすぎたかな…」

プリーストには転移の法がある。だから、俺よりも先についてると思ったが…。
まぁ、なにはともあれ、待つことにした。
233姉弟 A-2sage :2004/09/22(水) 12:11 ID:j827/zzc
「…遅い」

あれから30分ほど経ったが、姉さんの姿は未だに見えない。
もしかして、からかわれたのだろうか、と邪推してしまう自分が嫌いだ――人を信じきれない自分が。
以前のギルドのことが、何かトラウマにでもなっているのだろうか…。俺は医者じゃないから、そんなことは判断できないけれど。
…更に30分。…まだ見えない。
流石に不安になって、Wisを送ってみることにした。――姉さんに意識をシンクロさせてみる。

『姉さん、今ドコ?』

返事は、ない…やはり、からかわれただけなのだろうか。昨日言ったことも全部冗談で…などと考えてしまう。
と、不意に視界が暗転する。目の辺りには、暖かい感触…おそらく、目隠しされているのだろう、と思った。

「!?」

声にならぬ悲鳴をあげ、飛び退こうとするが…腕力のない俺では、その手は振り切れなかった。
(…どうする、何が目的だ…?)
殺される?…いや、俺は別段名があるわけじゃない、俺を狙う理由があるやつなんて、いるとは思えない。
…否、この世界では、逆恨みだとかそんなもの、日常茶飯事だ。職が職だし、どこかで恨みを買っていてもおかしくないか。

「誰だ?」

半ば諦めて、後ろの誰かに問う。殺すつもりなのなら、せめて呪詛くらいは残していこう。

「だーれだ」

落ち着いていて、それでいて子供のように無邪気な声。…しかも、これは昨日聞いた声だ。…昨日、初めて聞いてこれからも毎日のように聞き続けていくであろう声。
これは…。

「姉さん…?」
「せーかいっ♪」
「はぁ…」

手を離すと、俺の横に座る姉。…今まで頭の中で回っていたことが馬鹿みたいに思えてきて、思わずため息をついてしまう。
人をさんざ待たせた挙句それかよっ、と目で訴えてみた。…伝わるわけないんだけどね。
とか思ったら。

「びっくりさせてごめんね。…でも、貴方が悪いんだからね?」
「え、なんで俺…」
「さっき、私のこと無視したじゃない」

ぷく、と頬膨らませて、そっぽを向いてしまう。…可愛いと思ってしまう俺はダメな奴なんだろうか。
いや、それはともかくとしてっ、無視したとかわけわからんのですが…。
声をかけられた記憶はないし…。ん?待てよ…もしかして…。

「あ、ヒール…」
「ようやく気づいた…」

頬を膨らませたまま、むー、と唸っている。…だからその顔はやめてくれって…。
どうやら、先ほどの辻ヒールは姉さんだったらしい。ちょうど、俺が放りだされた所に居合わせたんだとか。
それなら声かけてくれればよかったのに…いや、ヒールで気づかない俺も悪いんだろうけど…。

「ごめんなさい…」
「ううん、いいの…私も変なこと言ってごめんね」

謝らなくてもいいのに、姉さんも頭を下げてくれた。…それで、このことは終わりにした―いつまでもぐだぐだやってもしょうがないし、ね。
そして、それから話し込んだ。身の回りの小さな出来事、狩場でのこと、いろいろ…。

「今日はオボンヌに挑戦してみたんだけど…」
「宿でさー」

本当に他愛もないことばかり。だけど、それをこうやって談笑し続けられること。…とても幸せだな、とふと思う。
まだ、騎士として生きていた頃の記憶が蘇ってくる。…騎士としての全てを忘れ、盗賊になってからはこんな時間は過ごしていない。
ひたすらに己を磨き、陽の当たらない道――暗殺者への道をわき目も振らずに走ってきた。
人に裏切られて、一人で生きてきたけれど…この人と一緒なら――。

「どうしたの?」

ぼーっとしていたらしく、姉が心配そうに顔を覗き込ませているのに気がつかなかった。

「のあぁぁっ!?」

ぼーっとしていて視界に入っていなかったものが突然視界に現れる、というのはとってもびっくりするわけで。
…思わず後ろに飛び退いてしまう。…足元にはポリン。

ずるっ。

軟体…というかジェルっぽいポリンの体はよく滑る。つまり、そんな場所に着地してしまえばどうなるかといえば…。

ごんっ

「あqwせs;lきjふぁswふじこ@;lg。!?」

木の根に思いっきり後頭部をぶつけ、意味不明な言語を吐き出して昏倒するのだった・・・。


「――赤く染まる街の影はもうすぐ消えてしまうけど 青い大地僕らの住む世界に咲いた花を届けたいよ―」

…?
綺麗な歌声が響いている。
ちょっとだけ、切なそうな声で――昨日初めて聞いたはずなのに、もう聞き慣れてしまった声。
瞼を上げる。…そこには、一面の青空と――。

「姉さん…」

歌の邪魔にならないように…姉さんに聞こえないように呟く。
とても気持ちよさそうに歌っているのに、野暮な真似はしたくなかったから。
ふと、後頭部にやわらかさを感じていることに気づく…どうやら、膝枕をされているようだった。
心地いい感触を味わいながら、目を閉じる。
――感じるものは、一面の青空と、そこへ融けていく歌声と――そして、人の温もり。
なんとなく、安らぐ気がした。
声は空に融け切って、静寂が訪れる…風に揺れる草と、木の葉の擦れる音だけが全てで。
ずっと、このままでいたいと思えるくらいに心地よくて。

すっ、と何かが近づいてくる。…けれど、俺は身じろぎもしない。
なんとなく、安心感があった…そして――。

ちゅ…

何かが、唇に触れた。
――それが何なのか、しばらく理解できなかった。理解できたのは、「それ」が離れて暫くしてからだ。

「キス…しちゃった…」

姉のその一言で、ようやく理解する。…俺って鈍いなぁ…。
そんな俺でも、今は起きてはいけないと思った。…理由は特にない。
まぁ、今しばらくは心地いい膝枕の感触と風と木々と草の奏でる音楽を味わうとしよう。
234姉弟の人sage :2004/09/22(水) 12:19 ID:j827/zzc
あうー…たったこれだけ書くのに半日近くもかかってしまったorz
やっぱ、書くときはBBSとか見てないでサクっと書かないとだめですね。

とりあえず、2本目。…まだまだ続くんですけどね、実は。
展開がちょっち早いかもしれませな、そのあたりはご容赦をば。
まぁ、この後の展開はおおかたの予想通りだとは思います。あんまり期待しないでくださいね。してないと思うけどっ。
後、本文(書き方、表現とか)で気になるとこあったら、遠慮せず言っていただけると助かります、今後のためにも。

余談
投稿してから直したいとこいっぱい出てくるのは仕様でしょうかっ(爆
全部書き上げたら修正版でも上げますね…。そしてROMってる人も何かあれば言っていただけると嬉しいです…。
では、駄文長文失礼!
235名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/24(金) 00:43 ID:hR3pOfRE
577氏
ttp://www.geocities.jp/rumiham/
の復帰を願う奴(1/20)
236('A`)sage :2004/09/24(金) 00:51 ID:5gC0gHqc
 Ragnarok Online Side Story "Confrontation of fate"



 花束が差し置かれた墓前に、少女は立ち尽くしていた。
 ささやかながらも、首都で冒険者相手の商売を生業としている少女は、知っていた。
 冒険者達が身を置く戦いの苛烈さを。命が、どれだけ簡単に散るのかを。
 知っていた。理解していた。
 だからこそ、認めることが出来なかった。
 墓に名を刻まれた彼が、もう、いつものように傷薬を買いに来る事は無いのだと。
 困ったような笑顔を、自分に向ける事は無いのだと。


 呆然とする少女の頬を伝い、涙が、落ちる。

 

 癒えぬ傷と、帰らぬ者。
 幸せだった日々は、二度と、戻らない。


 『死んでも永遠に 1/3』



 
 雲一つ無い、突き抜けるような青空が在った。
 ルーンミッドガッツの首都、プロンテラ。
 国中の冒険者が集い、旅立っていく街。そして、やがて、いつかは帰ってくる街。
 その広大な街の片隅で、マントの少年は座っていた。
「…今日も…暑いや」
 屋根の上に。
 並ぶ街並みを見下ろし、強い日差しに眼を細めて見るも、うだるような暑さと、雑多な往来の喧噪
が今朝から気になって仕方がない。
 暑いのであればマントを脱げばいいのだし、それ以前に、日光の当たる屋根に出ていなければいい。
 ひんやりとした書庫にでも籠もって、他愛もない伝承をつらつらと書き綴った本を読みふけるのが
良い。きっと気分が良いだろう。絶対、寝れる。熟睡だ。
 大体、どちらかと言えば自分はインドア派だし、こういう役には向いていない気がする。
「…っていうか、何で僕が見張りなんだ…」
 屋根の下。涼しい室内でまだ眠っているであろう恩師を睨む。
 彼女は自称、朝が弱い。
 哀しくもそれは事実であり、この黒髪の少年の悩みの種でもある。
 超人的な戦闘力を持った恩師に対して、世界中の剣士の中でも五本の指に入るであろう弱小剣士。
 ナハト=リーゼンラッテ。
 そんな彼が、見張りなどという大役を任せられてしまう、この矛盾。
「ご苦労様です、ナハト様」
 ナハトが現実逃避を始める寸前、声がかかる。
 少年が苦労して上がった屋根に、もう一人、簡素な僧衣を纏った少女が上がってきていた。
「あ、おはよう、サリア」
 歳はナハトと同じか、さほど変わらないだろう。
 肩で短めに切り揃えられた亜麻色の髪。線の細い身体に比べると、やや無骨な僧衣。
 背は高くない。一般的な剣士の中では背の低い部類に入るナハトよりも、更に低い。
 血筋なのか、顔立ちは息を呑むほど美しい。同じ年頃の娘と言えば、むしろ"可愛らしい"のが妥当
だったが、それとは違う、"美しさ"があった。
 サリア=フロウベルグ。
 ナハトとは奇異な形で出会い、共にプロンテラ軍から追われる境遇の少女である。
 もっとも、公にはナハトは彼女を誘拐した一味という事になっているし、サリアが追われる事情を
知っているわけでもない。
 数日前までは赤の他人で、それぞれ別の世界に生きていた。
「あり合わせで簡単に作ったんですけど…」
 手にしたバケットからサンドイッチを取り出し、少女が言う。
「良かったら食べませんか?」
 暑さが吹き飛ぶ眩しい笑顔と共に、差し出されるサンドイッチ。
「…丁度、起きてから何も食べてなかったんだ」
 ナハトは照れ隠しの笑顔を返し、受け取った。
 乱れる感情を悟られまいと、そのまま一気に、パンと野菜とハムのコラボレーションにかぶりつく。
 旨い。
「ふがっふっふ、もふが」
 美味しさを伝えようと苦心しながら、物凄い勢いで平らげる。
 サリアはそんなナハトを柔らかい眼差しで見つめながら、彼の隣に座った。
 咀嚼し、飲み込んでから、ナハトもゆっくりとサリアが見る方向を眼で追う。
 プロンテラ城。
「…」
 少女は、複雑な面持ちをしていた。
 哀しげでいて、安心しているような。
 寂しげでいて、満ち足りているような。
 ナハトには分からない、表情。
 少年は食事の手を止め、吹き始めた風を振り返る。
 本当は、何か言えたのかも知れなかった。
 しかし、言えない。
 何も言えない。

 何かを言えるほど、関わってはいないから。
237('A`)sage :2004/09/24(金) 00:51 ID:5gC0gHqc
 屋根を降り、窓から質素な室内へ滑り込んだ少年を、眠そうな金髪の少女が迎えた。
 寝癖というには少々度が過ぎる跳ね加減の長髪が、剣山の如く逆立っている。
「おはよう…」
 大きな青の瞳は眠気たっぷりに目尻が下がり、瞼は半開きでかろうじて上下している。
「お、おはようございます…先生」
 ナハトはやや戸惑いながらも、挨拶を返した。
 この少女、ルイセ=ブルースカイと生活を共にするようになって数日経つが、やはり、彼女の寝起き
はいつ見ても、普段のイメージとかけ離れすぎていて、慣れそうにない。
 ルイセはまるで子供のような欠伸をして、自分よりずっと高い位置にあるナハトの頭を撫でる。
「ご苦労様。どう?様子は」
「…監視とか、見つかってる感じはしませんでした。プロンテラ軍にとっては、灯台もと暗しなのかも…」
「そっか」
 ルイセは曖昧に微笑んで、それから、
「でも、聞きたいのはそっちじゃない…かな」
 唐突に、そう切り返した。
 ナハトは一瞬言葉に詰まり、気まずそうに視線を宙に這わせた。
 この金髪の少女の言わんとする言葉は、大体、分かっている。
「相変わらずです」
「…やっぱり、何も話してくれない?」
 ナハトは頷き、まだサリアが居るであろう屋根の方を向き直る。
 ルイセに助けられ、彼女の隠れ家に転がり込んでからの数日間、サリアは何も語らず、
 結局、ルイセもナハトも事情を聞けないでいた。
「あは…困ったね」
 全く深刻そうに見えない、困ったような笑顔のルイセ。
「…そうですね」
 この少女が居なければ、恐らく、もっと以前にナハトは挫折していただろう。
 経験も実力も、ずっと自分より上の、愛らしい教師。
 思えば、何故助けてくれるのか、分からない。
 得になる事など全くないというのに。
 いくら教師だからといって、普通、教え子の為に命を賭けるだろうか?
「じゃ、交代ね。ゆっくり休みなさい」
 やはり、笑って言うルイセ。
 釈然としないまま、ナハトは頷いた。
 頷く位しか出来なかった。

 頷くしか出来ない自分が、
 他人に立ち入ることの出来ない、弱い自分が、
 少年には、堪らなく、情けなかった。


 友達と言える友達は居ない。
 代わりに、一方的に喧嘩を売ってくる級友が居た。
 自分と違って、優秀な剣士だった。
 才能もあっただろう。
 弱い自分に、喧嘩を売っては、結局、何もせずに呆れたような侮蔑の言葉を投げかける、赤毛の剣士。
 しかし、何だかんだで、割とよく話していた気がした。
 友達だったのかも知れない。
 ナハトは何となくそんな事を思いながら、プロンテラの雑踏を歩く。
 ルイセには危ないから外へ出るなと言われていたが、そんな事は言われなくても分かっている。
 実際、危険だ。
 もし軍にナハトの顔を知っている者が居れば、捕まるのは目に見えている。一人では逃げ切る自信もない。
(でも、このままじゃ…いざとなった時、本当に役立たずになる)
 腰のソードを見る。
 度重なる無理に耐えた誇るべき剣は、もう、使い物になるかどうか分からない程に刃こぼれしていた。
 元々、未熟な腕で剣を振るっているのだから当然の結果と言える。
 剣の腕は仕方がない。これは日々の積み重ねと才能だ。すぐにどうにかなるものではない。
 せめて武器を、剣を手に入れなければならない。
 プロンテラは冒険者を兼業している商人がよく集まる街でもあった。首都という事もあってか、イズルー
トでは考えられないほど強力な武器を扱う露店も多い。
 と、誰かが言っていた気がする。自分で見るのは初めてだ。
 とにかく、数分もあれば、満足のいく装備が整うに違いない。
(よし…いくぞ…!)
 気合十分、少年は十字路の露店の列に向かって走り出した。

 ――甘かった。

 数時間後、ナハトは噴水の傍のベンチでうな垂れていた。
 露店に並ぶ、きっとナハトが一生かかっても手にすることの無いだろう立派な武器にかけられた値札は、
 桁が三つか四つくらい違うんじゃないか?と、少年を疑わせるに十分な額が書き込まれていたのだ。
 剣どころか、盾さえ買えない。
「学校じゃ物価なんか教えてくれなかったもんなぁ…」
 心なしかしょんぼりしたように見える自分の財布を懐に仕舞い、背もたれに身を投げ出す。
 見上げた空が、青い。
 流れていく、浮き雲。
 黒髪の少年の黄昏など知る由もなく、世界はゆっくりと時を刻む。
「帰ろうか…な…?」
 ナハトは一瞬、自分は幻覚でも見ているのではないかと心配になった。
 何せ、空中に白い『手』が見えたのだから。
「ひ、ひぃぇっ!?」
 混乱するナハトをよそに、手は腕を露わにし、やがて頭が出現する。
 よく見れば、それは男だった。淡い光で描かれた魔法陣から、ゆっくりと身体を這い出し、
 見事に頭から地面に激突すると、戦慄する少年の前に立ち上がった。
「おや…これは痛いですねぇ…」
 額から血の筋を垂らした男は、ウィザードハットを取り出すや、ひどくゆったりとした動作でそれを被る。
 朽ちかけたマントと、小汚いローブ。貧乏な魔術師にしか見えない男は、割に整った顔をナハトへ向けた。
「…何か?」
 男を凝視するナハトは震えながら、ぶるんぶるんと首を横に振る。
 無理もない。こんな現れ方をする人物を、ナハトは未だかつて見たことがなかった。
 まだ、取り敢えずは綺麗な青い光を発生させるテレポートの方が、マシである。
 不審な男は懐中時計を取り出すや、微かに皮肉めいた安堵の表情を浮かべた、
「いやぁ、良かった。てっきり今度は戻れないかと思いましたが、ちゃんと帰って来れたようですねぇ…いや
ぁ、やはり私は運が良い…クック」
「は、はぁ?」
 やはり今のは転移魔法だったのだろうか。
 ナハトは"そういった術"として何とか納得しようと試みたが、やはり、想像だけで挫折した。
 仮にそうだったとしても、そんな術があちこちで常用される光景は絶対に見たくない。
「"時の回路"…思ったより厄介な術法の様です」
(?…何言ってるんだ…この人…)
 不審者は訳の分からない事を呟き、またナハトを見る。
「ところで、そこの剣士」
「はい!?」
「今、見ましたね?」
 男が浮かべた背筋が冷たくなるような微笑に、身を強張らせるナハト。
 否定も肯定も出来ず、ただ後退る。
「困るんですよぉ…見られてしまうとねぇ…クック…口を封じなくてはならなくなる…」
 ゆらり、と魔術師の身体が前に出る。足を微動だにさせず前進する、人間離れした動き。
 ナハトは反射的に剣の柄を握った。しかし、男の力量が分からない上に、周りは人通りも多い。
 追われている身で、騒ぎを起こすわけにもいかなかった。
 しかし、男は臨戦態勢に入るナハトを見るや、意外そうな顔をして前進を止める。
「おや?別に戦う訳ではないんですが…」
「へ?」
「いや、私も最近は殺生が嫌いになりましてね」
 しゃあしゃあと物騒で嫌な言葉を並べる魔術師。
「だから要はアレです。貴方について回れば、嫌でも先程の術を他言出来ないでしょう?そういう平和的かつ、
合理的な解決手段を取らせて頂こうかと」
 魔術師はニヤニヤしながらナハトの背後に回る。
 ――この男が、これからずっと後ろについて来るだって?
(い、嫌すぎる…!)
 おもむろに駆け出すナハト。
 心臓が破れんばかりに、全力疾走する。
 あまりの恐ろしさに振り返れず、人混みを掻き分け、一心不乱に逃げた。
 プロンテラ大聖堂の後ろに回り込み、何重にも迂回して、無意識のうちに墓場に逃げ込んだ。
「はぁ…はぁ…ここまで、来れば……」
「クック…」
 かかった声に、振り向く。
 息一つ乱さずに、ニヤリと口元を釣り上げた魔術師の顔が、そこにあった。
238('A`)sage :2004/09/24(金) 00:52 ID:5gC0gHqc
「それで連れて帰っちゃったんですか!?」
「うん…しょうがない…事もないような気もするけど…」
「何処の誰かも分からないのに?」
「うん……悪い人には…いや、見えるけどね…」
「ま、まぁ……少なくとも軍人には見えませんが…」
 居間で異様な存在感を醸し出す魔術師を後目に、途方に暮れ果てたナハトとサリアは互いに顔を見合わせ、
「クック…良い茶葉ですねぇ…物の価値が分かる人間が居るようだ…」
 サリアの煎れた茶を啜り続ける、問題の不審者の言動に怯えていた。
 魔術師は既に帽子を脱ぎ、素顔を露わにしている。
 意外に整った顔立ちだった。むしろ、美形とさえ言えた。
 若干、人格の破綻を感じさせる言動を除けば、善人に見えなくもないだろうか。
「ふむ…そう構えなくても良いじゃありませんか…別に取って食いはしませんよ…」
 男は静かに言うと、カップを置いた。
「まぁ……私としては、あなた方よりもこの懐かしい波動の持ち主に興味があるのですが…」
「…懐かしい?」
 男の目線を追い、ナハトとサリアは視線の先に居た人物、
 今し方、屋根から降りてきた金髪の少女を見た。
「シメオン、貴方の言葉を借りるなら…私としては貴方に興味は全くないんだけど」
 男の顔を見るやいなや、少女・ルイセ=ブルースカイはうんざりしたような口調で言い放つ。
 シメオンと呼ばれた男は一層、暗い笑みを深め、
「ククッ…それは残念ですねぇ」
 全然、残念そうに聞こえない声色で呟く。
「せ、先生の知り合いですか?」
 ナハトはシメオンとルイセの顔を交互に見てから、訳が分からないまま訊いた。
 当のルイセはさっさとテーブルに着き、サリアの煎れた茶の残りを自分のカップに注いでいる。
 ナハトには、その背中が「聞くな」と言っているように見えた。
「知り合いと言いますか…戦友と言いますか…クック…曖昧な所です…」
「そんな上等なものだったかしらね」
 あくまで冷たく言うルイセ。
 シメオンは肩をすくめると、再びカップを手に取る。
「…あ、ナハト君、サリアちゃん。ソレ、基本的に無害だからそんなに警戒しなくても良いよ」
「無害って…」
「人間にはあんまり興味がないらしいから」
 細められたルイセの青い瞳が、シメオンを見た。
 本人はあまり気にしていない様子で、黙々と茶を啜っている。
「どーいう風の吹き回しなんだか…実験だの何だのには付き合わないって、前から言ってると思った
けど?」
 そのルイセの口調は、シメオンからの熱烈なスカウトがあったことを思わせたが、ナハトとサリア
の知る所ではない。とはいえ、大体の想像は出来た。
「…その件は保留にしましたよ。私だって年中、同じ研究をしているわけじゃないですから」
「ふーん…じゃ、何の用なの。まさか、本気でナハト君を付け回そうって訳じゃないでしょう。こっ
ちだって色々立て込んでるんだから、用事がないならとっとと帰って欲しいんだけど」
 一蹴され、シメオンは静かに口からカップを離すと、
 ゆっくりと顔を上げる。
「用事ならありますよ。色々立て込んでいると仰る…そこのモンクのお嬢さんの件でね」
 その陰惨な顔に、もう笑みは無かった。
239名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2004/09/24(金) 00:55 ID:8HAPpFoA
復帰するとA577(アンチ577と読もう。嫌577でもいいか・・・・)達との
叩き擁護合戦が再発する。
だから無理にここへの復帰は望まない。
スレ荒れるし、577氏にも負担がかかる。
577氏が自サイトでUPしたらそれを報告するぐらいはええやろうけど。
240名無しさん(*´Д`)ハァハァdame :2004/09/24(金) 00:59 ID:4wc59oaw
>>235>239
スレ間違ってないか? というわけでdameとく。
241('A`)sage :2004/09/24(金) 01:08 ID:5gC0gHqc
今晩は。凄く間が空いた割に、特に何でもない展開ですが、
今夜もコッソリ投下です。以下は物凄い遅レスです。

>>93さん
枝豆…いいですね。よく分かりませんが、何か良いです。凄く。
シメオン、おじさん臭い嗜好の持ち主だったんですね。でも、それがまた生き生きとして、良い。
どんどん食わせちゃってください。


>>149さん
初回から読んでる方って物凄く少ないと思われます。猛烈に多謝。ああ、嬉しい。
今の文は、七転八倒しながら書いてます。の割にやっぱり大したものは書けません。
時間も無ければ文才もないので、辛いです。でも諦めない。懲りない私。
駄文ですが、よろしければこれからも読んでやってください。


それでは、また。
242名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/24(金) 02:28 ID:IFjfYnjU
寝る前にコソーリ覗きにきたら。オリジナルのシメオンたんだー。
でも、あれですね。私が書くのよりも何倍も奇人しててカッコイイデスね。
エダマメ、おじさんくさいですかそうですか…。orz
243名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/24(金) 16:09 ID:titfI2PI
奇人っつか、変質者だよな。
だがそれがいい。GJ!
244名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/24(金) 18:57 ID:IFjfYnjU
|-`) ……577氏に駄文を捧げてみる。

----
 その日も彼女はいつもの溜まり場で、トレードマークのカウボーイハットを目深に被ったまま、
壁を背に座り込んでいた。
「…どうするんですか? マスター」
 俺の問いの後も、彼女はしばらく左手を見つめていた。その小さな指輪は、かつて彼女と共に
歩むと誓った騎士からの、別れの品。些細な事で、去った幸せの残滓。それを微笑を浮かべながら
見つめる彼女の心中は、俺には見えない。
 おそらく、彼女の耳にはまだ、彼の声が聞こえているのだろう。マスターからもう手の届かぬ
場所へと去った、彼女の騎士。俺も、未だに彼の声、彼の叱咤が二度と聞けないとは信じられない
のだから、彼女を笑えるはずもない。あの人は、そういう人だった。

 …だから。

「……いくよ。アイツとの約束だったしね」
 よいしょ、と年寄りくさい声をあげて立ち上がると、彼女は壁に立てかけていた大斧を手に取る。
並の男ならば手に取っただけでよろめくような重さの武器を、彼女は軽々と振った。一度は素早く
縦に、それから、風を切る音を楽しむように二度、宙を薙ぐ。
 何かの余韻に浸るように目を閉じた口元は、微かに両脇が上がっていた。
「これを、預かってくれないかい?」
「……俺は、斧は使えませんよ」
「馬ー鹿。使えって言ってるんじゃないよ。預けるって言ってるのさ」
 にっ、と笑って、彼女は俺の胸を指で突いた。
「アンタとは古い付き合いだしね。…もしもアタシが戻ってこなかったら、そいつは適当に処分して
 くれよ」
「馬っ…、馬鹿なことを言わないで下さい!」
 慌てる俺をからかうように、彼女はまた笑った。そして、いつも被っている帽子を取る。始終被りっ
ぱなしの割りに変な癖もついていない紅毛。俺は不覚にも彼女に見とれてしまった。
「……これも、預けとくよ。アンタなら似合うだろ…?」
「マスター…本当に?」
「馬鹿だね。何度も同じ事を言わせるんじゃないよ」
 その表情に、胸が詰まった。遠い昔に、まだ俺が侍祭だった頃に助けられた時も、初めて一人で
オークを倒して『オーク戦士の証』を見せびらかしに来た時も、ゲフェン塔にいつもの武器しか
持っていかずに泣きながら戻ってきた時も。彼女はいつもひまわりが咲くように笑って迎えてくれた
ものだった。そして、その隣にはいつも、どこか暖かな空気のようだったあの騎士。
 あのときの、輝くような笑顔はもうない。あの時にはもう、戻れない。黙り込む俺の手に、そっと
マスターの帽子が載せられた。はっと上げた目に、俺に背を向けて歩いていく彼女の姿が映る。
 いつものように、大股に歩むその背は、思っていたよりも細く。俺はその背に手を伸ばしかけて…、
ゆっくりと、下ろした。俺では、彼女の空白を埋めることはできないとわかっていたから。

「……わかりました。いつかまた、会えることを信じてますよ。マスター」

----
|-`).。oO(……さよならは、いわない)

|-`).。oO(…コレ、元は18禁に投げようとした序章部分だけど、今はあっちには…ね)

|彡サッ
245名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/24(金) 22:47 ID:hR3pOfRE
>>241氏の小説全部保管してるところない?

>>244
感動しました!
特に後半の部分がかなり。
246名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/24(金) 23:06 ID:8OZ29K9A
>>245
('A`)氏のってと

連)Daughter_Of_Ymir/---

コレかしら?
保管庫にあるよん。
247名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2004/09/24(金) 23:12 ID:.c19Alvc
活性化期待age
248名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/25(土) 01:31 ID:pwwTlLSU
>>246
うわ・・・マジだ・・
つまらん事聞いてしまった・・こんな下らん質問にわざわざ答えてくれてありがとう;;
orz
249名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/25(土) 01:57 ID:LQhvlbc.
単語検索> 「('A`)氏」 マジお勧め
250名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2004/09/25(土) 18:07 ID:MVCEh6Go
小説関係座談会10/3開催キボンにゅ
251名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2004/09/26(日) 19:58 ID:NW7olzGE
しょーとしょーとすとーりー
ありきたりな視点じゃなくて逆の視点で・・・
一ヶ月前・・・
♀剣士、フレイは♀のアコライト、セインを相方として選んだ。

プロンテラ、清算広場にて。
「なぁセイン、今日はフェイヨンダンジョンにいかないか?」
フレイはさりげなくセインに言った
「んー、いいですねw今、プロンテラで開発中のツインリボン買いたいから
お金欲しいしソヒーを浄化しにいきましょう」
セインは少し生き生きとした笑顔で言った
「んじゃ、フェイヨンポータル頼める?」
「らじゃ、それじゃフェイヨンでまーす」

そして二人はFDに行きソヒーを狩りSマフラーを出した。
「あ、Sマフラーだぁwやったねw(キスエモ」
セインは喜んでSマフラーに駆けて行きそれを拾った
「ん、ツインリボンだっけ?欲しいの。それじゃそれあげるよ」
フレイは出たばかりのSマフラーをセインにあげることにした
「え・・・・ありがとうっフレイちゃんっ(キスエモ」
フレイはこの時思った・・・自分が強くなり、セインにツインリボンを
どうにかしてあげれないものか・・・・と
そしてある日フレイはBOTと言われる技を知り、裏の人間からその技を
教えてもらった。一時的に意識がなくなり、アイテムが自由に使えて狩を続けられるというのだ
だが、GMと呼ばれる神にとってはその技は禁断であり、使った者は次々と罰せられて行った

そしてフレイはついに、BOTという技でビタタを7日間狩り
ビタタカードを二枚出して売り、開発されたばかりのツインリボンを購入した

BOTという技を使っている最中にセインの声が聞こえた気がしたが
これでセインの喜ぶ顔が見れるのだ、なかなか安いものだ。
そしてセインと会った。
「セイン、久しぶり、これ欲しがってたろ・・・あげるね・・・」
フレイはそう言いツインリボンを差し出した
「フレイちゃん・・・ありがとう^^っ」
セインは喜びフレイに抱きついた
これがフレイにとっては嬉しかったのである

「こんにちは?フレイ殿。貴女はBOT使用の経歴があるようだ。」
二人の前にGMが姿を現した
「数多くのアリ達から報告を受けている。
意識のない者に殺された。特徴はゴーグルを被った赤髪の剣士だと。
その上アリ達はドックタグにまで目をつけて教えてくれた」
「よって貴女をこの世界から削除したい。」
黙って聞いていたセインがフレイに問い詰める
「フレイちゃんっ!!このリボンまさか・・・BOT使って・・・?」
セインが問い詰めてくる
「違うよ、BOT使ったのは私のLv上げのためなんだ・・・」
フレイはセインが理由でフレイがいなくなったとしればセインが悲しむと思ったのだ
「それでは、剣士フレイ、貴女をこの世界から抹消する」
「はい・・・」
フレイが緩い声で言う
そしてフレイの体が少しずつ薄くなっていく・・・
「フレイちゃんっ!・・・ごめんなさい・・・私のために・・・」
「いーよ・・もう別に・・・感覚もなくなってきたし・・・」
「じゃぁね、セインちゃん、お元気で。」
一年後
その後セインは立派な支援オーラプリとなり(ツインリボンをつけている)ノービスの壁をしようと
募集をしていた
フレイ「セインちゃん・・・」
それはノビ姿の・・・


んーダメだ・・・駄文で終わっちゃった・・・
そもそも最初からだめだったんかねぃ・・・
252名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/27(月) 17:54 ID:B6wcWkhw
>>250
開催されるなら参加したい香具師の数(1/20)
253名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/27(月) 18:05 ID:VOE39oNc
>>250

開催されるなら参加したい香具師の数(2/20)

時間、場所等については言った者勝ちですか?
254名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/28(火) 01:10 ID:B2z8J1VE
>>250
開催されるなら参加したい香具師の数(3/20)
しかし検定試験がなんかあったはずなので参加できない。
よってorz<誰か後日レポート提出よろしく
255名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/28(火) 02:37 ID:e435ORb.
今日もいつもの場所に座り、騎士は愛用のクレイモアを抱えて壁に背中を預けた。
 思えば、随分長い間この場所に座っていた。沢山の人が来て、沢山の人が去っていった。
 そして自分はまだここにいる。ここを見続けている。
 愛用のヘルムを深くかぶり、騎士は眠った。うたた寝だったが、懐かしい夢を見ていた。

 「ここ、空いてる?」
 懐かしい声。随分前に亡くなった赤い髪のプリーストだった。
「そこは昔からお前の場所だろ? 遠慮するなよ」
 静かに笑うと、彼女は騎士の隣に座る。
「あれからどう? 皆は元気?」
 いつもどおりの会話。
「いろんなヤツが去って行ったよ。新しく来たやつもいる」
 それが返って自分の夢だと思い知らされる。
「そう」
 風が流れる。
「あなたはどこか行かないの?」
 騎士は少し考えると、首を横に振った。
「俺はここ以外行く場所が無いよ。それに・・・」
 彼はゆっくりとプリーストのほうを向きながら返事をする。
「見ていたいから。この場所を。最後まで」
「あまり無理するものじゃないよ? 私はあなたが縛られるのを望まない」
 騎士の言葉にかぶるように、彼女が返事をする。また風が吹く。
「・・・良いんだ。俺は別に、無理してるわけじゃない。何かしたいわけでもないしな」
 騎士は深くヘルムを被り直す。そろそろ夢が終わると分かった。
「そうかぁ・・・。それじゃ私は行くよ」
 彼女は来たときと同じように立ち上がると、いずこかへと去っていこうとした。
「もう」
 騎士は後姿へ声をかける。
「もう、会えないな」
 プリーストは足を止めず、振り返らずに返事をした。
「でも、見てる。いつでも、どこでも」

「・・・さん、起きてください」
 騎士が目を覚ますと、新人のプリーストがいた。
「あぁ・・・すまない、寝てたよ」
 プリーストはクスっと笑みを漏らした。
「どうした? 何かあったか?」
 新人は少し意地の悪そうな顔をしながら言った。
「笑ってたので。楽しい夢でも見てたんですか?」
 騎士は、ゆっくりと立ち上がると辺りを見回す。見慣れた景色。だが彼の心には沢山の思い出が刻まれている。
「あぁ・・・懐かしい夢だった。だから・・・」
「だから?」
 新人の先を促す問いかけに、騎士は歩きながら答える。
「まだ歩いていける。きっと、な」
 愛用のクレイモアを腰に挿すと、ヘルムの位置を直しながら、騎士はどこかへと歩いていく。
 きっと、彼はどこまでも行くのだろう。思い出を、その心に刻み込みながら。
256名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/28(火) 08:50 ID:PVr/PDVE
言ったモン勝ちと言う事なのでのっけて見る?

小説系スレ・創作系座談会

日時:【10月3日 22時00分より】

場所:Ses鯖ゲフェン塔2階

内容:みんなで作るRagnarok萌え小説スレ、みんなで作る小説ラグナロクスレ、
   等の小説・創作系スレッドの座談会です。
   創作話でいろいろと盛り上がりましょう。

補足:未成年の方が参加される可能性も考慮して、18禁系の話は自粛いたしましょう。
257あの世へのご招待だ! :2004/09/28(火) 12:19 ID:JTAee6rQ
 「大丈夫か?透」NEEZが息が切れて苦しそうな彼女に声をかけた。

 「大丈夫・・・。」透が言葉とは裏腹に肩で息をしている。
・・(ちとムリをさせすぎたな・・透はあんまり体力があるほうではござらぬからな・・。)

NEEZがそんなことを考えている時に大量の足音が聞こえてきた。
(人?・・いや違うこれは・・・)
 「まずいぞ透!そこの茂みに隠れろ!」というのと同時に透をしげみに押し込み自らも一緒に飛び込んだ。

 「アイタタタ・・何よ突然!」透が不満そうに大声を上げたのでとっさに手で口を塞いだ。

 「馬鹿!そんな大きな声出したら感づかれるでござるよ!」NEEZがちいさい声で強く言った。

 「ムガモガガガ!」口を塞いでいるため反論も出来ず透はじたばたしていた。

 「ほら見ろあれ・・・」NEEZが指を指した方向には大量のオーク族とゴブリン族が隊列を成して移動していた。しかし透はじたばたしていて全くそれを見る気がない。

 「・・・・プハッ!死ぬ死ぬ死んじゃうよ!息できなかったよ!」透が大声を上げた瞬間オーク族の隊列がピクリと動きこちらの方向を睨んだ。

 ・・・(刹那の沈黙・・・。

その刹那にオーク族の腐兄貴部隊がこちらをめがけて突貫してきた!透はやっと事の重大さに気づきただオロオロとしている。

 「まずい!!透逃げるぞ!!」それだけ言うとNEEZは透の腕を大聖堂の時のようにわしづかみにすると一目散に逃げ出した。幸いにも腐兄貴の足は鈍足なので速度をかけた人間に追いつけるはずがなかった。
そしてその場を離れようと二人が無我夢中で走っているとプロンテラ南西の橋に人影が見えたのでそちらへ向かった。近づくに連れてそれが武装した冒険者達とわかり少しだけ安心した。
橋の周りは大きく砕けオーク族の血が川に垂れ流しになっていたため先ほどの部隊と交戦したということが即座に判断出来た。冒険者達の話によればオークの部隊はなんらかの理由でこの場を立ち去ったらしい。
撤退した理由がクルセイドの計画だとNEEZは直感で理解した。

(魔物にも頭が切れる者はおるものだな・・・。ならば魔物といえど結託して奴らに対抗することが出来るのではないか・・)NEEZがいつも以上に眉間に皺を寄せて考え込んでいた。
透は傷ついた冒険者と酷い怪我を負った初心者講師を癒した後疲れて座り込んでいた。とりあえずこの部隊を率いていた初心者講師とNEEZで現状打破についてアレコレ話し合いをし始めた頃・・・。

 「これ多すぎだっての!」ボーリングバッシュを打ち込みながらScorchは愚痴をこぼしていた。流石の彼でもそろそろ精神力が尽きてきたらしい。
持ち込んでいたほとんどの回復剤を使い切り、精神力も果てようとしていた。その最悪の状況で奴が現れた。

 「なんだってこんな時にー!!」後退しつつ彷徨う者にバッシュを当てようとする。しかし、そのほとんどを見切られ避けきられていた。
ペコペコで逃げようにも奴は足が速すぎるためすぐ追いつかれてしまう。精神はもう限界に来ていた。銀白色に光る村正はその切れ味を自慢しているようだった。

 「くっ・・こんな・・こんな所でやられるわけには・・・」村正がペコペコを切り裂いた衝撃で地面に落とされ、その刃がまじまじと見える距離まで詰め寄られた。その時!

 「あの世へのご招待だ!」
目にもとまらぬ速さの八連の斬撃が彷徨う者を八分割にした。血糊がScorchの顔面にかかり一瞬何が起こったかわからなくなった。

 「だらしないぞ・・スコ」ウェスタンハットに奇妙な仮面を被った暗殺者がつぶやいた。

 「冥!?」スコが驚ろくのもムリはない彼は元同Gの仲間でNEEZ・Scorch・冥闇月のトリオでよく狩りにいったり、腕試しをする仲だった。とある事情でGを離れて以来一切連絡を取っていなかったため行方知れずだった。

 「でっでもなんでこんな所に?」血糊を拭きながらスコが聞いた。

 「最初はNEEZを追っていたんだが・・・はぐれてなニノの大将に呼ばれたから西に推参したってわけさ」

 「そうか・・・所で一人でここまで来たのか?」Scorchが現在の状況にそぐわないいぶかしげな表情で聞いた。

 「いや・・かみさんと一緒だ。戦場に行く前に別れて今は傷ついた者をいやしていることだろう。ってこんな話してる暇なんてなかったな!」
周りを見渡すとすっかりモンスターに囲まれていた。
 「ちっ・・・俺としたことが、油断した」冥が舌打ちをしながらつぶやいた。自然と二人は背中合わせで戦闘状態の構えに入っている。

 「まぁ・・・どうってことないだろ俺とおまえならな」この状況を楽しむかのようにScorchが笑う。先ほどまで死にかけていた者とは思えない顔をしながら・・。

 「そうか・・それもそうだな」冥が冷静に答える。

 「俺たちは・・一人じゃない!」二人の声が申し合わせたかのように同時に口から出た言葉だった。

 そして二人の戦いは幕を開けた。


駄文ですみません・・・(つAT)新しい人出しちゃったし・・OTZなんとか収集をつけようと和平(?)な展開の雰囲気をかもしだしたのですが・・。
というかNEEZがサブキャラになりつつある・・((((・A・;))))
追伸 NEEZを追っていた二人の影は冥とその奥さんです。











258名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2004/09/28(火) 12:59 ID:Rm790uXs
http://hentai.minkmail.com/?uid=ayu03
259名無しさん(*´Д`)ハァハァdame :2004/09/28(火) 20:12 ID:CHnDFBcA
( ゚Д゚)<dame!!
260名無しさん(*´Д`)ハァハァsage♂BSと♂クルセ、♀商人 :2004/09/28(火) 21:33 ID:b2NPkk0A
ブラックスミスの青年が、ゲフェンの町を歩いている。
その足取り、顔つきともに、機嫌が良いのがよく分かるようなものであった。
年下の、幼なじみの少女から、転職する旨を聞いたのがつい先程。
もし暇だったら、という控えめの誘い言葉に、ブラックスミスは二つ返事で答えた。
普段なら歩くかポタ屋に頼む、首都からゲフェンまでの道程も、
今日はカプラ転送サービスに頼ってしまった。
それ程に、彼は幼なじみの転職を楽しみにしていたのだ。
ブラックスミスの記憶の中で、幼なじみの少女はいつもふわふわとした笑みを浮かべている。
あちこちで悪戯したり、喧嘩したりしていた幼少のブラックスミスや彼の友人達の中に、
少女はいつの間にか紛れ込み、馴染んでいた。
おっとりのんびりな性格の彼女は、苛められたりからかわれたり、
時には泣かされることもあったのだが、
ブラックスミス達が遊びに呼ぶと、いつだって嬉しそうな顔をしてついてくるのだった。
時折、彼らとは違うグループの子供達に本気で泣かされたりするのを見ると、
年上年下お構いなく、彼らはあだ討ちと言わんばかりの盛大な喧嘩を仕掛けたものだ。
口では酷い事も沢山言っていたが、大切な友達の一人に違いなかった。
そんな少女が、冒険者になったのは、
ブラックスミスがノービスとしての修行を終え、やっと商人になったという時だった。
261名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/28(火) 21:34 ID:b2NPkk0A
ブラックスミスを目指して家を飛び出した彼の前に、
ノービス姿の少女が現れた時は心底驚いたものだ。
製造ブラックスミスを目指す、という彼女に、
口では頑張れと言いつつも、内心で無理だと思っていた。
彼女のような、ぼんやりした子が冒険者になれるはずが無い。
しかし、彼の期待は見事に裏切られた。
彼女はあちこちを旅し、色々な人々と知り合い、ギルドにも入ったという。
その間、誰かに頼るという事もなく、少女は製造ブラックスミスを目指して修行を続けた。
ブラックスミスが旅先で昔からの友人に会うと、彼らは大抵少女の話をした。
――あの子、本当に製造BSになるのかしら。
――まさか、無理でしょ。
――でもさ、泣き言一つ言わないで修行してるっていうじゃない。
――……いつまで続くかねえ。
無責任な会話を交わしつつも、いつしか彼らは、
少女が製造ブラックスミスになれると信じ始めていた。
そして、少女はやり遂げてしまったのだ。
転職出来ると知った彼女は、喜んで幼なじみ達に声をかけたらしい。
ブラックスミス以外にも、子供時代の友人を何人も呼んだそうだ。
そのほとんどが、喜んで見に行くと答えたらしい。
そりゃそうだ、とブラックスミスは内心で呟く。
誰もが彼女の事を心配し、誰もが彼女の転職を楽しみにしていたに違いない。
勿論、自分も。
「お、来たか」
不意に声を掛けられ、ブラックスミスは回想を中断した。
少し離れたところに、
懐かしい悪友の面影を持つ青年が、クルセイダーの装束をまとって座っていた。
262名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/28(火) 21:34 ID:b2NPkk0A
ブラックスミスは傍に寄ると、へえ、と感心したような声を上げた。
「お前、クルセになってたんだ」
すると、クルセイダーは渋い顔をして見せた。
「転職ん時呼んだじゃん」
「……あれ、そうだっけ?」
「だけどお前、忙しいとか言って来なかったんだよな」
「あー……性格の歪んだウィズ様と狩りの真っ最中だったもんで」
すると、クルセイダーは表情を明るいものにして、目を輝かせた。
「それ美女?」
「お察しください」
「OK察した」
軽く流すブラックスミスに、クルセイダーは笑って返した。
クルセイダーの横に立つと、ブラックスミスは辺りを見回した。
少女との待ち合わせ場所は、ゲフェンの噴水広場だった。
ちらほらと人の姿はあるものの、彼らの見知った顔は他に無さそうだ。
ふと、クルセイダーが呟いた。
「アイツ、マジでBSになっちゃうんだな……」
「やっぱ、実感湧かねえ?」
ブラックスミスが問い掛けると、クルセイダーは、まあな、と答えた。
「だって俺らの後ろついて回ってたハナタレ娘が、だぞ。実感湧かなくて当たり前だろ」
「まあ、その頃のハナタレ小僧も、こんなにでっかくなっちまった訳だし」
ブラックスミスがクルセイダーの鎧をがんがんと叩くと、二人は一緒になって笑い出した。
「ほんっと、おっそろしいよな」
「うんうん、アイツもさぞかしでかくなったんだろうな」
ブラックスミスが笑いながらそう言うと、クルセイダーの動きがぴたりと止まった
263名無しさん(*´Д`)ハァハァsageちっこいまーちゃん好きの方ごめんなさい_| ̄|○ :2004/09/28(火) 21:35 ID:b2NPkk0A
ブラックスミスは少し不思議そうな顔でクルセイダーを覗き込んだが、
やがて、意地の悪い笑みを浮かべた。
「実は寂しかったりする?」
すると、クルセイダーはいや、とかその、とか口篭った後、困ったように額に手を当てた。
「寂しいってか、会った時の違和感ってかね……」
「何、お前もう会ってるの?」
驚いた様子のブラックスミスに、クルセイダーはああそうか、と呟いた。
「お前、ノビ時代にしか会ってないんだっけ」
「そそ。それもなりたての」
ブラックスミスが答えると、クルセイダーは小さく溜息を吐いた後、
ぽん、とブラックスミスの肩に手を置いた。
「先南無」
「いきなり何だよそれは!」
「俺にはそれしか言えないわ……」
「いやそれだけじゃ分かんねえって!」
ブラックスミスが更に問い詰めようとしたその時だ。
「来てくれたんだ!」
彼の後ろで、少女の声がした。
紛う事無い、ぼんやりとした幼なじみの、ブラックスミスを目指していた少女の声だ。
ブラックスミスは振り向いた。
久しぶりだな、元気にしてたか、とうとう転職だな。
言いたい言葉は色々あった。
が、彼の口から声は出ず、代わりにぱくぱくと意味の無い動きをするだけとなってしまった。
「どうかしたの?」
商人姿の幼なじみが、不思議そうな顔をしてブラックスミスの傍まで寄ってきた。
「……や、随分大きくなったなあ、って……」
どうにかしてそう呟くと、ブラックスミスは商人の少女を「見上げた」……。
264名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/28(火) 21:36 ID:b2NPkk0A
ブラックスミスの記憶の中では、幼なじみの少女は彼よりも頭一つ半以上も小さかった。
しかし、今目の前にいる商人は、
顔立ちも声も、紛れも無く懐かしいものなのに、身長だけはブラックスミスよりも高いのだ。
ブラックスミスの呆然とした様子に気付かないのか、商人の少女は嬉しそうな顔をした。
「冒険者になって、牛乳沢山飲むようになったでしょ? そしたらどんどん大きくなって」
そう言って笑う彼女の顔は、彼らの後ろをついてきていた頃と何も変わらないのだが、
呆然とするブラックスミスと頭を抱えるクルセイダーには、何の慰めにもならなかった。
「……あ、そうなの、それは……凄いな、うん」
何とも間抜けな顔でブラックスミスがそう呟くと、商人はえっへんと胸を張って見せた。
その胸も、身長同様、かなり成長している。
「今いるギルドでも二番目に背が高いんだー」
自慢げに言った商人に、ブラックスミスが質問、とおずおずと手を上げる。
「そのギルドって、男一人、とか……?」
「ううん」
「じゃあ全員女とか……」
「大体半々ぐらいだよ」
つまり、かなりの男性の身長も超えているという事だ。
男二人が何も言わないでいると、商人のポケットの中で、鈴が転がるような音がした。
彼女は慌ててポケットから何かを取り出して呟くと、ブラックスミス達の方に向き直った。
「ギルメンが探してるから、もうちょっと待っててね」
商人はそう言うと、カートを引きずって軽快に駆け出していった。
後に残されたブラックスミスは、しばらく呆然と立ち尽くしていたが、
やがてよろよろとクルセイダーの隣に座り込んだ。
頭を抱え込んでいたクルセイダーがようやく顔を上げて、ブラックスミスを見た。
「抜かれた?」
「……抜かれた」
何がなんて聞き返す必要もない。
「まあ、その、あれだ……南無」
「……南無あり」
そう答えて、ブラックスミスは溜息を吐いた。
265名無しさん(*´Д`)ハァハァsageおしまい :2004/09/28(火) 21:36 ID:b2NPkk0A
まさか、そこまで大きくなってるとは思わなかった。
自分より身長の低かった者、しかも女性に身長を抜かれる事が、
これほどまでに衝撃的なことだとは想像もしなかった。
「なんつーかさ、こんなのは男の勝手な妄想だとは思うんだけどさ……」
もぞもぞと、ブラックスミスは口を動かした。
「育ちすぎるのも、複雑だよな……」
「……だな」
クルセイダーはそう答えると、大きく息を吐いた。
「これじゃ父親の心境だよな」
「止めてくれ、冗談じゃねえよ……」
頭を抱え込んだブラックスミスに、クルセイダーは笑って言った。
「まあ、俺はまだ抜かれてなかったぞ」
ブラックスミスは軽く舌打ちした。
「へいへいそりゃー良か……って、『まだ』?」
聞き返すブラックスミスに、クルセイダーの表情が強張る。
「あの、それはまさか……?」
ブラックスミスが心配そうに問い掛けると、クルセイダーはしばらく黙り込んでいたが、
やがて乾いた笑い声を上げて呟いた。
「……まだ成長止まってないんだとさ」
「マジっすか……」
「マジマジ」
クルセイダーがそう答えたのを最後に、二人の会話は止まってしまった。
噴水広場で大人の男二人が並んで座り込む様子はかなり窮屈そうなのだが、
彼らは自分達が随分と小さな生き物のように思えて仕方が無かった。
「俺もまだ、伸びる……と、いいな……」
ぼんやりとしたブラックスミスの呟きは、余計に虚しくさせるだけであった。
266名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/28(火) 22:38 ID:erGGKAHw
なかなかネタが浮かばなくてYABEEEEっておもってたら上水道進んでない・・・

ドレイク君を少しだけプロ近辺に進ませて見ました。
267名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/28(火) 22:39 ID:erGGKAHw
まるでゴーストタウンのようにひっそりと静まり返った町。
海賊達に見つからないよう息を潜める住人達。

(・・・おかしい いくらなんでも弱すぎる・・・)
アルベルタ港を制圧したドレイクは今まで戦場だった場所を見る。
そのとき

ガランッ・・・
「!」
瓦礫が崩れる音が響く
音を立てずに忍び寄るドレイク。
半壊した見張り台の影に一人の男が隠れていた。
小奇麗な服から察するに小心者の司令官が負けるのを感じ隠れていたのだろう・・・

「ヒッ・・・」
「オイ貴様・・・ 他の船はどうした。 まさかこれで全部というわけではあるまい?」
「う、薄汚い魔族に語ることなどない!」
「ほぅ・・・ さすがその『薄汚い魔族』に負けたゴミ以下の人間様は言うことが違いますな!」
「「「ゲハハハァハハ!!!!」」」
部下達が笑いだす・・・が
「殺れ」
ドレイクの一声によって笑い声は消え、あたりは殺気に包まれる。
「ま、ままま待て!何でも答えるから殺さないでくれぇ!」
「ならば答えろ。他の船はどうした」
「ぷ、プロンテラの教会からの命令で、ほとんどの船団はイズルードに向かった!」
「何!?」
「そ、そうだ!あの数はお前達なんかじゃ無理だぞ!プロンテラに攻めてきた魔族はそれで全滅だ!
 アヒャヒャヒャヒャ!そうだ!お前達は負けるんだよ!ざまぁみr・・・」

ザシュッ・・・
男は、ドレイクのサーベルに首を断たれ絶命した。

「急げ!イズルードに着く前に奴等の船団を襲う!すぐに出航するぞ!!」
268名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/29(水) 08:03 ID:rEVOcql6
>260-265
ははは、こういうの良いねー。
妹みたいに思ってた子に身長を抜かれたらショックだろうね〜。
ほのぼのしてて好きです、こういうお話。
269名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/01(金) 04:53 ID:X.OEw/MI
 僕と彼女とは、修練場で知り合った。蜂蜜色の髪がさらさらと陽の光できらめいていたのを憶えている。
 修練場は、冒険者を志す者達が基本的な訓練を受ける場所だ。
 同じようなペースで同じ講義を受けていくうちに、僕達はぽつぽつと、やがて親しく会話をするようになった。
 初心者訓練課程を終了すると、各々が望んだ職業施設にもっとも近い町へと送られる。
 彼女は剣士を志していて、僕は魔術師になる事を希望していた。だから、本当ならそこでお別れ。
 でも、僕は一世一代の勇気で切り出したんだ。
 もうしばらく一緒に頑張りませんか、って。

 それで、僕と彼女はまだ一緒に居る。
 いつも決まりの場所で待ち合わせして、身の丈にあった魔物相手に修練に励む。剣士の卵だけあって彼女の動きは僕よりずっと
洗練されていて、少しだけそれが悔しい。
 今の彼女のお気に入りは、この間手に入れた装飾用卵殻。僕は彼女の蜂蜜色の髪がとても好きで、それが隠れてしまうのは残念
なのだけれど――でも、その格好はすごく可愛いらしいと思う。
 大バッタのロッカー相手に悪戦苦闘したり、しばらくのつもりの休憩でついつい話しこんでしまったり、道に迷った挙句にオー
クの出る森に迷いこんだり。最後のは本当にぞっとした。運良く通りがかった先輩冒険者がいなかったら、僕らは死んでしまって
いたかもしれない。
 振り返ればあっという間のそんな日々を過ごして、僕達は順当に腕を上げた。
「今日頑張れば、お互い明日は転職試験だね」
「そうだね」
 これでもう殻つきのひよこじゃないよ、なんて冗談を言っていた彼女が、ふっと真顔で僕を見る。
「――しばらくって、いつまで?」
「え?」
「言ってくれたじゃない。もうしばらく一緒に頑張りませんか、って。あのしばらくって、いつまで?」
 僕は咄嗟に答えられない。あれは思わず口をついて出た言葉で。
「一次職になるまで? 二次職になるまで? それとも、お互いの技を極めるまで?」
 そんな僕の様子も見ずに、彼女は畳みかけてくる。
 どう答えればいいのだろう。この難問には、どんな難解な魔法理論だって裸足で逃げ出すに違いない。
「…ねぇ、いつまで?」
 背は少しだけ僕が高い。上目遣いに僕を見る瞳が、不安そうに揺れていた。
「4番目」
「え?」
「もっと長く一緒に居たい。できれば、ずっと」
 言葉がまた、すいと口をついて出た。
 彼女はすごく嬉しそうに微笑んで、目を伏せてこくりと頷いた。今までに僕が見た中で、一等綺麗な笑顔だと思った。
「一緒にいようね。これからも、ずっと」
「うん」
「じゃあ――約束」
 彼女はじっとこちらを見つめて、そうして目を閉じた。上向いた頬が桜色に染まっている。
 人通りはまるでない。いつもはうるさい位に辺りを跳ね回るロッカーなのに、どうした事か今はまったく姿を見せない。
 永遠とも思えるふた呼吸の間逡巡して、僕はそっとその額に口づけた。
 顔が熱い。火が出そうだ。
「…もうっ」
 少しだけ不満そうに彼女は頬をふくらませ――それを見ながら僕は、女の子の方が早く大人になるというのは本当なんだな、な
んて考えていた。
270名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/01(金) 07:27 ID:GKUpJevo
>>269
朝からいいもん読ませてもらいました!
なんていうかもう・・・思わず読みながら顔がにやけてしまいました(*´∀`)
271名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/01(金) 15:59 ID:TQPPNGlY
>270
最後の一文がたまらなくGJだ!!!
272名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/01(金) 16:00 ID:TQPPNGlY
>269だったぜ!!!orz
2736-170@上水道リレーsage :2004/10/01(金) 21:33 ID:tpGuKF6.
 西門近くに転がっていた聖堂騎士たちの死因は奇妙なものだった。
 内一人は強い力で首を圧し折られていたが、他は全て刀傷。しかしその太刀筋があまりに異様なのだ。
 傷の深さ、進入角度、間違いなく襲撃者は短躯である。それも成人女性の平均に満たない少女程度しかな
いことが傷口の様相からは見て取れる。
 魔物の中には体格に相応しからぬ膂力を持つ者も少なくない故その類でもあろうか。それでも死体の状況
から交戦時間はものの数分。相手は単体であろうと推測された。

 ――ぞっとする話だ。


「怖いねぇ」
 今しがたクレアが歩み去った方向にちらと視線だけを送りながら、アサシンが小さく呟いた。
「どこもかしこも魑魅魍魎。花も果実も棘ばかり」
 最初にアサシンへと向けられていた避難住民達からの注視が遠のいたのを確認すると、足音もさせず立ち
上がり部屋の隅、撤去された机や椅子が積み重ねられた一角へともう一度隠れるように蹲る。行動を制限さ
れる場所は苦手なんだがと内心の不快が映されたのか、声は思ったより低くなった。
「そろそろ出てきたらどうだ?」
 抱き寄せた氷の刃が、只人の耳には届かぬ音を放ってアサシンの意思を代弁する。
「ご不快でしたら謝罪します」
 言葉と共に空気を震わせて気配が散った。
 隠身術《クローキング》解除。
 魔力の籠められたマントの裾を出現の余波に揺らしながら、誠意の篭らぬ侘びが寄こされる。
 壁に寄りかかる己の横へ滲み出た人影に、一瞬周囲へと注意を払ったが目を向ける余裕のある者はいない
ようだ。気を張らせた対価とばかりにアサシンは検分する視線を相手に走らせた。
「それで、そちらはどこのどなた様?」
 物言いに含めた警戒を読み違えることなく、相手も声を落とす。
「聖堂騎士団の理性、とでも名乗らせて頂きましょう」
「まだ正気が残っているとでも?」
 嬲るようなアサシンの口調もさして気には止めず――あるいは止める余裕もないのか――クルセイダーは
一人口早に会話を進めた。
「話を聞いて頂きたく参上しました」
「キチガイはさっさと殺すのが一番被害が少ないけどね」
「こちらの持てる限り情報は流します。貴方はそれを外に伝えてさえくれれば良い」
 噛みあわない会話は、すでにアサシンがどこの何者であるか知っている口ぶりだ。
「……いつから見ていた?」
「失礼ながら、鴉の真似事される所をお見かけしました」
 思わず舌打ちが出る。
 大量の爆薬に火が放たれた様子はなかったが、すぐ外で高速詠唱型の魔術師達が大魔法を連続発現させて
いる余波は確実にプロンテラ内部まで届いている。足跡を残すことになってもそのままにしておく訳にはい
かなかった。
 火縄を外して手持ちのポーションをその根元に流し込むだけの簡易な処理だったが、その時頂戴した多少
の現物がアサシンの隠しポケットに入っている。火薬の調合を調べれば出所が知れるはずだ。そこから辿っ
て教会にたどり着ければ御の字、駄目でも多少の脅し道具にはなるだろうとの算段だったが、どうやら冷静
なつもりで戦場の喧騒に引きずられていたらしい。場の揺らぎに注意力を削がれたのはアサシンの失態だ。
 隠し立てするのも無意味と判断し、外套の中で右手を柄に添える。最悪、ここには死体が一つ増えること
になるだろう。
「アンタたちに利益のない取引は信用ならない」
 なに、先程の少女はまだ復活の奇跡を使える位にはないから、一撃で仕留めれば問題ない。これだけ混乱
した場だ。刃傷沙汰の一つや二つはおかしくもあるまい。後は騒ぎに乗じて雲隠れすればいいだけだ。
「利益ならあります」
 乗るか反るかの大博打とは気付きもしないのか、クルセイダーは変わらず喋喋と言葉を放つ。
「今回の事態は一部高位司教、枢機卿を中心とした検邪聖省の暴走であり、教会は総意としてこれを重大な
 錯誤であると考えています」
 アサシンは応えない。
 深く被る影の下から掬い上げるような白眼でクルセイダーを精察する。値踏みのそれは冷淡だ。
2746-170@上水道リレーsage :2004/10/01(金) 21:34 ID:tpGuKF6.
 一瞬、喚く声が端の二人にまで届いた。
 思わず逸らしたクルセイダーの視線の先には、壁に寄り、床に伏す人々の体と躯が転がっている。悲嘆の
声はその中から上がったようだった。老いた母親らしい女性が壮年の男に縋って揺さぶっている。今しがた
事切れたのだろう。
 しかしその嘆きも、今会話する二人にとっては人目を避ける絶好の隠れ蓑となっている。
 クルセイダーは何者かに許しを請うよう瞑目すると再び口を開いた。
「信じる者のいない神に存在意義がありますか?」
 疑問の形を取りながら、それは断言だった。
 応えるように吹かれたアサシンの口笛は、嘲りと賞賛の混じった響きで相手の耳を撫ぜる。
「まぁ、魔族に侵入されたんでプロンテラごと焼き落としましたー。これで魔族も異端者も減って万々歳
 でーす。と単純には行かないだろうね」
 誰がどう見てもこれは同族殺しだ。
 まともな判断力などいらない。人間が、一度に、大量に、特定の意思の下で殺された事実があれば良い。
民間における個人レベルのネットワーク、チャットやWisの発達を考えれば情報統制の限界など端から見えて
いる。根源的な不信感は必ず人々の間に芽生えるだろう。
 いかに神だ教えだと言っても現世利益を無視した宗教は一定の貧困層や社会の欺瞞とやらに手前勝手な理
屈で苦しむ人間にしか受け入れられないものだ。遠謀深慮とは程遠いアサシンにも未来予想図は容易に想像
できる。
 教会も金や人がいなければ立ち行かぬ身、それらの不信と不興を買ってただで済む訳がない。特にプロン
テラは大陸の政治、経済の要。各ギルドやカプラ社が事態を把握すれば、必ず機に乗じて教会の既得権益を
剥ぎ取るべく動き出すだろう。すでに状況は切迫している。
 頭の狂った奴らはいい。どうせ死ぬし、生きているなら丁度良い怒りの矛先として殺せばいい。問題は残
される者たちの方だ。
 どう言い繕った所で、少なくとも「この世」における教会の立場が悪くなるのは火を見るより明らかな状
況になっている。これ以上後手に回れば、教会は本当に終わる。
「キチガイの天国より、この世の安寧を望んでる聖職者もいるってことか」
「どう受け取られても構いません。しかし私達はお互い熟慮している暇がない。違いますか?」
「それには賛成」
 即答したアサシンに、ようやく安堵のため息をついてクルセイダーが先を続ける。
「では、貴方の方から市外へ――」
「情報は入れる。しかしそこから先はマスターの判断だ」
 遮って言い切られた言葉に、一瞬クルセイダーが瞠目してアサシンを見つめた。しかし受け止める瞳はな
い。閉じられた瞼の下に押し込められた眼光の刃先だけがその喉に突きつけられている。
「……分かりました」
 振り切るように言い置いて扉へと向けば、マントの裾が所作に揺れた。血肉の放つ生臭さが充満する室内
に懐かしい祈祷香が混じる。誘われてアサシンがふとその香気を追った。
 開かれた視界には立ち塞がるようなクルセイダーの背中。その首筋を窓からの月が青白く染めている。
「一度帰らせて頂きます。あまり長く本営を離れる訳には行きませんので」
「名前」
 単語を理解しかねたクルセイダーが振り返ると、座り込んだままの位置から今度は真っ直ぐ視線が返され
た。
「こっちの話がついたらWisを入れるから、とりあえず連絡用。発音はしなくていい」
 言われた通り一音づつを区切る形で唇を動かすと、応じてアサシンが小さく頷きを繰り返す。二度反復し
てから、クルセイダーは今度こそ顧みることなく扉へと向かった。
 残されたアサシンはもう一度目を閉じる。
『さて、これからどうする?』
 音ではなく骨を伝う振動で自問した。仲間内では寂しい独り言と笑われる癖の一つだ。
 先程の会話から推測すると、すでに教会の行動は抜き差しならない所まで来ているようだ。このまま探索
を続けても恐らく計画の発動には間に合うまい。
 陽動、破壊工作程度なら不可能ではないだろうが、少なく見積もっても数百の単位で動いている臨戦態勢
の聖堂騎士たち相手ではその立ち回りにも限度がある。正面切った多対一の危険は冒せない。
 では、己の講ずるべき手段は何だ?
『……考えても分からないことは、人生経験豊富な大人の男にお任せ、ということで』
 諦めが早いのも美徳の内と、言い終えぬ最中にニノへWisを送る。
 集中して二度、三度セッションを確立しようとするが、こちらからの呼びかけに反応はない。
『っち――混線してるのか』
 恐らく城壁の内外で何千何万の怒号とWisが飛び交っているのだろう、アサシンにとっては慣れたはずの方
法が上手く繋がらない。
 しかし悪態をついている暇とて今は惜しい。周囲に張り巡らせていた知覚の糸を一部、志向性を持った形
で縒り上げていく。五感のうちでは主に聴覚と呼ばれる部分だ。注意が散漫になる危険を最小に押さえるべ
く皮膚感覚による空気の振動捕捉を行いながら、意図的に周囲の音を意識外に置き、望む相手を強くイメー
ジしてその存在を掴み取る。

 ――お応えを、マスター・ニノ。
2756-170@上水道リレーsage :2004/10/01(金) 21:38 ID:tpGuKF6.
このまま教会組織全体が計画に加担してしまうと事後処理がかなり面倒になると
思われたので、強硬派を切り捨てることが可能なように教会の内部情報をニノ―
ヘルマンラインへ流せるようフラグだけ立てておきます。

現時点での情報流出が問題なら、混線の継続、乱入者等よる場の混乱の方向で。

追記:
改行は大体何文字程度にするのが一番見易いものでしょうか?
276269sage :2004/10/02(土) 01:48 ID:l1ODZxhA
>>270-271
感想ありがとう。やっぱり反応いただけると嬉しいですよ、とても。
特に今回のは最後の一文から練り上げたような話なので、一入です。サンクス。
277名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/02(土) 01:51 ID:l1ODZxhA
 随分と久しぶりに母から連絡があった。音信がなくなってから、もう十数年になっただろうか。
 あいつが死んだと伝えられた。

 夏の王都は熱い。石畳の輻射熱が身を炙って、ジュノーの涼やかさを恋しくさせる。
 風があるのがまだ救いだ。俺は額の汗を拭って、歩みを速めた。
 ここに立ち寄る事にしたのは、別にあいつの為じゃない。墓くらいは見てやってくれと、母に泣いて頼まれたからだ。
 やがて墓に辿り着く。真新しい墓石。色とりどりの献花。仰々しく刻み込まれた数々の業績。
 葬儀には参列しなかった。死んでしまえば、どうせただのものだ。
 母も含めた何人かは、本気で泣くだろう。だが参列の殆どは大して悲しくもないに違いない。そんな茶番に混ざる気はし
なかった。
 だから俺は日をずらして帰省して、人が退いたその後に、ただひとりで墓を参る事にしたのだ。

 あいつは、ひどく優秀な騎士だった。
 独創的な戦術理論と天才的な技量で、数限りない賞賛と名声とを勝ち得ていた。
 あいつと俺とは反りが合わなかった。最後には憎みあったと言ってもいいかもしれない。
 あいつは俺を剣士にさせたかったが、俺は魔術の方に興味があった。仕立てられたレールを蹴り飛ばして、俺はあの日ゲ
フェンに向かった。魔術師になる為に。
 そうして俺は家を出た。勘当同然だった。

 墓前に佇み、他愛も無い回想を巡らせる。
 ジュノーで本格的な魔術研究に携わり始めてから、思い返す事もなかった。暇も無かった。
 いや。敢えてそういう時間を作らないようにしていたのかもしれない。振り返れば胸が痛むから。

 ――供物も何も持ってこなかったな。

 思い至って苦笑する。親類縁者には薄情者と罵られたが、それも故なき事ではないらしい。
 そう、悼む気持ちはない。だから涙など出る筈もない。悲しいなどと思わない。思うほどの懐旧もない。けれど。
 家を出る前、母に言われた。
 あいつはいつも嫌味なくらいに冷静で怜悧だった。礼儀を重んじ作法にやかましかった。自分の正しさを疑った事などた
だの一度もなかっただろう。間違えるのはいつだって他人だった。あらゆる決定権を自分が持っていると確信していた。
 その冷静さを崩せるものなんて、何一つないように思っていた。

 けれど、二度泣いたのだという。
 俺が生まれたその時と。俺が家を出たその後と。

 あんたに逆らって選んだ生き方が、どこまで辿り着けるか。そいつを楽しみに見てるがいいさ。
 瞑目して、渦巻いた感情を殺す。揺れを微かも表に出さない冷静さ。それは冷たさに通じて見える代物だと、俺はよく知
っている。
 きっとこういうところは、あんたにそっくりなんだろうな。
 見開いた視界は、何故かじんわり滲んで揺れた。背を向けて片手を挙げる。静かに告げる。

 ――じゃあな、親父。

 青嵐が草を揺らす。随分と、高く吹くようだった。
278名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/02(土) 09:34 ID:CwDcKoEk
>277
ああぁもうっ! 小粒な故にか、ビシっとまとまっている良作を立て続けに読めて幸せだっ。
漢の涙って良いなぁ……。

ID見てなくって269さんっぽい?と思って確認したらどうやらそのとおりだった模様。
269に続き、277もまたGJ!!ですよ。
279SIDE:A Intermission〜学者達の宴〜(1/7)sage :2004/10/02(土) 12:36 ID:MNTz9Ob2
お久しぶりです。……はじめに。
今回のは読まなくても本編にはそれほど影響がありません。というか、個人的萌えのためだけに
書きなぐられたものです。自らの描写力のなさに封印して投げ捨てようかと思ったのですが、
全国に散らばるシメオンたんハァハァ、教授ハァハァな人のお役に立てればと。そうじゃない人は
読んでも面白くないかもです…。

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「……意外性というのは常に常識の殻の中に潜んでいる、ということかな。こんな所の店にしては意外にも
 おいしい」
 店の名物のカナトゥスのつぼ焼きを時間をかけて味わいながら、賢者は呟くように口にした。雰囲気が微妙に
険悪だったのも、メインディッシュの一皿目が机に並ぶまで。その後、再び食卓にまともな会話が戻ったのは、
彼らの胃袋がその欲求を適度に満たしてからであった。つまるところ、頭脳こそが存在価値のような四人の男達は、
小一時間の間、非常に肉体的な欲求にうつつを抜かしていたわけである。(約一名は現在進行形で交際中の相手が
いるようだが、こと食事に関して、彼は義兄夫妻のような幸せはとうに諦めているようであった)

「ククク…。そうですね、そろそろ本題に移りましょうか…。今日お二人をお呼びしたのはコレのためです」
 とりあえず、酒とちょっとしたつまみの類を残して大皿が片付けられると、魔術師は古そうな文書をばさり、
と乱暴に机に広げた。王立図書館の館員が見たならば卒倒しそうな蛮行だが、この場にいる面々はその史料
価値ではなく資料価値にしか目をやらない者達である。先ほどまで飲み食いしていたままの手で図面をなぞり、
文字を追い、遠慮会釈無しに古文書にシミを付けていく。
「……なんだい、これ?」
 首をかしげた錬金術師に図面から目を離さずに答えたのは賢者だった。
「これは、古代の魔素抽出装置だね。修復不能な残骸がグラストヘイムの下層に残っている事は知っているが、
 こんな大規模な装置の設計図を見るのは僕もこれが初めてだ」
「魔素抽出装置…、ですか? 教授。魔素というのは魔法子とは違うんですか?」
「魔法子は遍在する。魔素はそれが偏在した物質を差す、俗語だね。同じように聞こえるけど大きな違いだよ。
 まぁ、魔法子が集中している存在を魔素と呼ぶ、という方が分かりやすいか。具体的には、そうだな…、
 ジェムストーンなんかが魔素の固まりだ。それに、各種属性石も魔法回路としてだけではなく、魔素としての
 特性も持っている」
「……はぁ」
 賢者はまだ疑問符を頭に浮かべた助手を突き放すように肩をすくめ、椅子を少しだけ引くと足を軽く組んだ。
飲食の時間は終わり、頭脳をトップギアで回転させる事を自らの体に教えるために、くつろいだ姿勢をとる。
「それより、今はこの不完全な設計図で何をするのかを彼に聞こうじゃないか」
 それを聞いて、残りの面々も現れ方は違えど似たように居住まいを正した。まだ酒が抜け切れていなさそうな
錬金術師は、何やら試験管のなかの妙なにおいのする緑色のものを飲み下している。
「ククク…流石に分かりますか。これはこのままでは私の望むような成果に繋がらないのですよ。欠けている
 部分を補うために貴方達の手を借りたいと。そう思いましてね」
 緑の液体がよほど苦かったのか、顔を顰めたままだった錬金術師は意外そうに魔術師を見た。
「横槍を入れてすまないけどね。…君が、僕の手を? 他のことじゃなく研究のことで? ……どういう
 風の吹き回しだい」
「学会での名声や評判はともかく、私の知る限りでそれぞれの分野で最高の人材だとお二人を買っているの
 ですが。その説明では不満ですか?」
 と、わざとらしい口調で主張する魔法使いに、錬金術師も大げさに頷いて答える。
「ああ。不満だね。利用じゃなくて協力だなんて君らしくもない。唯我独尊でそれこそ自分の興味のある
 テーマにしか目もくれなかった奴とは思えない」
「ククッ…、酷い言いようだ、とは言えませんねぇ…。まぁ、人は変わりうるものだと思っていただければ」
280SIDE:A Intermission〜学者達の宴〜(2/7)sage :2004/10/02(土) 12:37 ID:MNTz9Ob2
 どこかぎこちなく笑いあう二人の若者を腕組みしながら眺めていた賢者は、黙考から覚めたようにゆっくりと
口を開いた。
「僕を頼る理由は分からないでもない。学会には業績と知識で僕を凌駕する人材がいないわけじゃあないが、
 こと柔軟性と応用力、それに…」
「そう、必要と在らば学会に隠れてでも真理を探ろうとする気概において、貴方は第一人者だ。クククク…、
 違いますか?」
 学舎では若き俊英とその名を知られる賢者よりも、更に若い異才が向き直って挑発の笑みを浮かべる。
年長者は軽く肩をすくめてそれをいなした。
「事実であったとしても世辞や追従はいらない。僕が知りたい事は一つ。その事が君の良心にとって負担で
 あるか否かだ。国だの教会だのの下らない制限条項ではなく、ね。僕にも一応良心はあるからね。悪事に
 加担させられるのは勘弁願いたい」
「…ククク。私の良心にとって、が基準ですか。後悔しませんかねぇ? 私は…」
 口元を歪めながら、魔術師は話し出す。しかし、賢者は彼に指一本を突きつけてその声を遮った。
「“あの事件”に君が関わっていたのは僕も知っているよ。だがそれは君の頭脳の価値にはいささかの傷にも
 ならない。だから、君の知性を僕は評価している」
「…ククク、しかしながら…」
「それに、事件への最後の関わり方を吟味すれば君の…そうだな、こういう言葉は好きではないけど、人間性と
 いう奴の価値にも大して傷が付くとは思わないね。だから君の良心も信頼する」
「……」
「以上、何か質問はあるかな?」
「……それはどうも」
 何かまずいものを食べてしまったような微妙な表情でそれだけを答えた青年に、賢者は椅子の背もたれに
寄りかかって腕組みをしたままで、問う。
「では、改めて聞こう。その件は、君にとってフードを被らずに語れることなのかな?」
「……見ての通りですよ」
 いつものように声を出して笑うのではなく、青年は口元だけをゆがめて苦笑する。それを見た賢者は小さく
頷いた。
「ケミ君、僕の性格ーは知っているね? 難問を…、それも解けるかどうか自分でも判別が付かない難問を
 見たら、出す答えは一つだ。ただ、君はここで帰っても構わないよ」
「い、いえ。僕は…」
 助手の台詞を最後までは言わせずに、背もたれから身を起こし、賢者は机にひじをついた。
「結構。じゃあその問題もクリアだ。後は心置きなく、純粋に技術的な側面に限って話をしようじゃないか」
281SIDE:A Intermission〜学者達の宴〜(3/7)sage :2004/10/02(土) 12:37 ID:MNTz9Ob2
「まず、設計書自体は不良品ではありません。クク…これ自体の動作は、私一人でもどうとでもなります。
 実際に、これとほぼ同程度の装置を動かしたこともありますから」
「なら、一人でやればいいじゃない」
 渋い顔の錬金術師が口を挟むのを、魔術師は目もくれずに片手を振って否定した。
「…装置は問題なく動かせますが、稼動させた後の処理が問題なのですよ」
「抽出した魔素の制御、だな…。この規模の装置で得られる高濃度の魔素は、必ず暴走するはずだ。ケミ君、
 遍在する魔法子を人が利用するための方法は覚えているかい?」
「あ、はい。意識を集中すること…ですよね」
 ついこの間、自分も助手として延々聞いていた講義とあって、青年は迷うことも無く即答した。賢者は
頷くと、話し続ける。
「正解だ。強い意思のあるところに魔法子は集中する。…そして、余り知られてはいないが、この法則は
 逆もまた真なんだよ」
「……魔法子の集中したところに意思が生まれる?」
 ぼそり、と口をはさんだ額の広い錬金術師に賢者はじろりと視線を飛ばした。
「君は人の話を最後まで聞くようにしたほうがいい。だが概ね正解だ。…意思といえる程に高度なものではない
 かもしれないがね。僕ならそう…。魔法子の集中はなんらかの機能を付随させようと自ら働く、と言う」
 おそらくは分かりやすいように説明しているのだろうが、錬金術師の広い額に刻まれた皺は、賢者の一言
ごとに深さを増していく。
「ククク…まぁ、集まりすぎた魔力は危険だ、ということですよ…。錬金術でも、魔法的素材を不用意に
 混合すると爆発することもあるでしょう?」
「…まぁね」
「より正確には、魔法子が不自然に集中したところには、なんらかの魔法回路が生成されるのさ。ある時は、
 それが爆発を生むし、またある時は雷を生む。そういうことだな」
 この二人からかわるがわる解説を受けるというのは、その筋の人間には例えようもなく為になることなのだろうが、
いかんせん、この場にいる聴衆の魔法学の素養は大してなかった。
「……わかるの? 君」
「…まぁ、その。大体はわかりますよ。…理論部分だけなら」
「……そう。がんばったんだね、君も」
 本来専門外の錬金術師二人は、お互いの健闘を讃えるように頷きあう。その間も、興が乗ったらしい賢者は
とうとうとまくし立てていた。もしも黒板があったら、数式やら公理やらを片っ端から書きなぐって、更に
二人を混乱させていただろう事は間違いない。
「…まぁ、ある時はひょっとしたら魔法子の塊が意識を持つこともできてしまうのかも知れないが、僕は寡聞にして
 聞いたことがないね」
「クク…」
 困惑する錬金術師を見ていた魔術師が何かを知っているかのような耳障りな含み笑いを杯の中に漏らす。
「…とにかく、世界というのはそうやって増えすぎた魔法子を勝手に消費することで、周囲との魔法子の均衡を
 なるべく保とうとするんだ」
282SIDE:A Intermission〜学者達の宴〜(4/7)sage :2004/10/02(土) 12:38 ID:MNTz9Ob2
「……とりあえず、その装置が危ない事は分かったけど、一度は動かしたんでしょ? その時はどうしてたのさ」
「あの時は魔素を溜めはせずに、魔素を抽出した先からどんどん別の物に流していましたからねぇ。クク…、
 あなたも知っているでしょう? ジュノーを攻めたスタラクタイトゴーレムの群れを。あれはすべて、この
 装置で抽出した魔素で起動させたものです。クックク…」
 自慢げに笑う魔術師に、賢者が呆れたような目を向けた。
「せっかく人がぼかしてあげたのに、気の配り甲斐がない男だな、君は」
「……ちょっと待ってよ! そういえば聞いてなかったけど、君、今まで一体何をしてたわけ?」
 正面の錬金術師が机を叩く音が、賢者の小声の呟きをかき消した。
「やはり、君は知らなかったようだね。…彼は先年のジュノーが魔族に攻められた事変の、魔族側にいたんだよ」
「……へ!?」
 静かに語る賢者。わずかに俯いたままで薄く笑う魔術師。その二人を穴の開くほど見つめてから、錬金術師の
青年はずりおちかけた眼鏡を片手で抑えた。魔術師の笑いが少し昏くなる。
「ククク…隠すのは性に合いませんからね」
「……君の事を知らなかったら、大暴れしてるところだけど」
「私を詰ろうと、暴れてもらおうと結構ですよ?」
 しかし、錬金術師は首を振って呆れたように笑う。
「人望の欠片もない君が? 大事件の首謀者? 冗談でしょ。僕は事件の事は詳しくないけど、君の事はそれなりに
 知ってるからね。君さぁ、敵には容赦しないけど、ああいう風に無目的にゴーレムを暴れまわらせて高笑いする
 タイプじゃないでしょ? まぁ、キレちゃったら街中で大魔法とか打ちそうだけどさ」
「……ククク…あの時の私は貴方の知っている私とは」
 暗く笑う魔術師を、錬金術師は突きつけた指先一つで沈黙させ、物凄い早口でまくしたてる。
「大方、ゴーレム起動準備までさせたところで勝手に持ち出されたんじゃないの? 君、得意になると相手に
 構わず色々見せびらかすし。利用してるつもりがされてるんだよね。君みたいなのを学者馬鹿っていうんだよ」
 やれやれ、といわんばかりにため息をついてみせる錬金術師を、全然可愛げのない上目遣いで見ていた魔術師は、
やや沈黙してから、溜息と共につい先刻と同じ台詞を呟いた。
「………それはどうも」
「もう、隠し事はないね? じゃあちゃっちゃと話を進めようよ」
「……」
 どうやら時間を気にしているらしい錬金術師は、微妙にしおれている魔術師にはかまわずに、場を仕切る。
その様といえば、ジュノー大学コンペの伝説の司会者モンタミノもかくや。やや、気圧されたようにしていた
助手が、おずおずと片手を上げた。
「…一つ質問があるんですが…」
「遠慮せずに言いたまえ、ケミ君」
 自分が問われたわけでもないのに、賢者が無責任に後押しする。
「はぁ。どうやらその装置が魔素抽出をするパートは問題なく、それを安定した状態で蓄積するという点がネック
 だという話のようですけど…」
「まぁ、その辺は僕とケミ君でかかれば基礎部分はすぐにでも設計できるだろうね」
「…僕はいらない気がしてたけど、ほんとにいらないんじゃない?」
 あっさり言ってのける賢者に、錬金術師がぼやく。それには取り合わずに、助手は首を傾げて手元の
メモ書きを一同に示した。
「一体、そんな魔力を何に使うんですか? 試算してみたんですが、ジュノー侵攻で使われたゴーレム40体の製造に
 必要だった魔力を推算合計すると、それだけでジュノー本島を3日は浮かせていられますよ」
「ああ、それは単純な目的ですよ。この間の事件で見た魔剣というものを、私も作ってみたくなりまして、ね。
 ククク…」
 さらっと口にした内容に絶句する面々を見て、魔術師は面白くもなさそうにまた、笑った。
「かつてコモドの魔女が手にすることができた技術です。我々に出来ない理由はないでしょう? 違いますか」
「……技術的には不可能じゃないだろうね」
 技術的には、を強調する賢者の声は、それに関わる膨大な困難を思ってのことだった。しかし、その口元は不敵に
笑う。賢者もまた、凡百の言う不可能を可能にすることに喜びを感じる類の偏屈学者であった。
「ええ。私自身の魔力でも紛い物の魔剣ならば製造できましたからね。今度はその規模を少し大きくするだけの
 ことです。クッククク…」
「…それにしても、少し派手過ぎませんか? 予備を見込んでも、この装置で蓄積できる魔力子の量は…。
 必要ないと思うんですけど」
 助手が手元に書き連ねた自分の数式を何度も眺めて検算しながら、おずおずと疑問を口にした。
283SIDE:A Intermission〜学者達の宴〜(5/7)sage :2004/10/02(土) 12:38 ID:MNTz9Ob2
「魔剣と名の付くものを作るだけならば、そうでしょう。しかし私はコモドの魔女を超え、制御できる魔剣が
 作りたいのですよ」
「…制御って何さ?」
「馴らすと言ってもいいですね。その過程で使う魔力は製造のときと同等かそれ以上必要なようです。ククク…
 つまり、倍、ですね」
 何が楽しいのか、倍、と口にするときの魔術師は妙に嬉しそうな笑みをたたえている。
「……実際に魔法剣を作成する事は方法論からして賢者の学会でも長年の検討事項だが、糸口も見つかっていない。
 高濃度の魔素を用いてどうすればそれが可能になるのか、…僕にも興味があるな」
「それについてですが、賢者の学会は確かに偉才揃いです。それゆえに近視眼になっているところもある…、
 とは思いませんか?」
「それについてはノーコメントだ。それより、ケミ君の質問に答えたらどうかな」
 ノーコメント、といいつつ賢者の肩をすくめる仕草は何よりも雄弁に魔術師の問いに答えていた。

「ククク…失敬。私は今日、カピトリーナ修道院で面白いものを見てきましてね…。それが、それだけの魔力が
 必要な理由ですよ」
「面白い? なんだよ、もったいぶらないでよ」
 聞きたいか? と言わんばかりに得意そうに声を切る魔術師を、錬金術師がつっつく。もともと話したくて仕方が
なかったであろう魔術師の舌は、滑り出すとなめらかだった。
「あそこの老師が、魔剣を馴らす儀式です。ククク。逆転の発想というのでしょうかね。魔術師は自らの意識に
 魔法発動の過程を刻み込んで回路化することができる、というのが魔術の初歩なのはご存知ですか?」
「…魔法回路のことだろ? 知ってるよ、それくらい」
「では、魔剣をはじめ、物品に宿る擬似意識が魔法回路の一種に過ぎないこともご存知ですか?」
「……僕をなんだと思ってるわけ? ホムンクルスに思考を持たせる研究の初歩だよ、それ」
「ククク…結構。修行僧の老師が魔剣を折伏…、まぁ、誰でも使えるように馴らすというのは、魔法学的には
 その応用なのですよ。いや、私もこの目で見るまでは信じられませんでしたが、世の中は広い」
 と、いう割には驚きの色など見せもせず、魔術師は渇いた喉を琥珀の液体で潤す。

「……そんなことが可能とはすぐには信じかねるが、証明される前に不可能と切り捨てるような固定観念からは僕は
 自由なつもりだ」
 魔術師は、回りくどい言い方で説明を要求する賢者に向き直った。
「実際に見た過程を説明しましょうか? 魔剣を老師の…気、というのですかね? 意思力、即ち膨大な魔法子を
 ぶつけることで叩きのめす、のが折伏の第一段階です」
「たたきのめ…」
 あまりに乱暴な描写に、実際の様子を想像して絶句する賢者に、魔術師は面白くもなさそうな声で説明を続ける。
「そうやって、意思の力でそれを己の意識に同化する。モンク達は森羅万象すべてと一体になる修行をしていますが、
 それには魔剣のような尋常ならざる物も含むようですねぇ。そうしてから、自分の存念で好きなように回路を刻めば
 いい…と。そういうことのようです。ある段階を超えれば、魔法を覚えるという単純な行為と大差ないののかと」
「なるほど…。剣の達人は、剣を己の体の一部とする、とかいうのと同じか。乱暴すぎて好みじゃあないけどね。
 恐ろしいまでの集中力があれば、……確かに不可能ではなさそうだ」
「クククク、意志の力だけならば魔剣を凌駕する人物はこの世界に何名かいますからね。我々のように難しい事を
 考えない分、集中力だけで魔剣を押さえ込む連中が」
「………鍛冶師ギルドの精錬師達か。なるほど…」
284SIDE:A Intermission〜学者達の宴〜(6/7)sage :2004/10/02(土) 12:39 ID:MNTz9Ob2
 納得顔の賢者の横では、アルケミスト二人が難しい顔を並べて唸っていた。
「……よくわからないんだけど」
「教授…僕も少々ついていけません」
 魔術師は、やれやれ、と言わんばかりにため息を付いて見せたが、それでも声色は淡々としていた。
「つまり、作り出した魔剣を制御する技術があり、それを私は解析してきた、ということです。暴れぬように押さえ
 込んだ後で魔剣を馴らす手順自体はホムンクルスを生育する際の教育課程に酷似しています。方法論は分かりましたが、
 実践には不慣れゆえ、そのために貴方に助力を願いたいのですよ。まさか、できないとは言わないでしょう?」
「へぇ。剣の意識構築かぁ。確かに面白そうだし、まぁ、やれることならやってみるけどね。でもやっぱりまだ
 わかんないな。一体どうやってやるのさ?」
「……まぁ、その話は今日の招待状のように書面で送りますよ。あなたは私や彼とは違って、理解するまでに
 時間がかかるタイプですからね」
「今日は一同の同意が得られたと言うことで、お開きで構わないかな?」
 同類扱いされたのが心外なように顔をしかめつつ、、賢者は席を立った。どう見ても暑そうなコートに手を通し
ながら、魔術師を見る。
「…面白い話だったよ。最後に一つ聞かせて欲しい」
 それまでの、どこか余裕のあった表情とは違い、そう問いかけた賢者の視線は真剣だった。
「何でしょう?」
「君が魔剣を作りたい事はわかった。その理由をまだ聞いてなかったな」
 ふむ、といわんばかりに問われたものは口元に片手を当てて、言葉を選ぶような素振りをした。
「…先人を越えたい、というのは理由にはなりませんかね? コモドの魔女が手にした魔剣は、彼女自身では
 扱えずに…、結局魔剣を使うための存在を生まざるを得なかった。使い手を道具の波長に合わせると言うのは
 人と道具のあるべき関係とは逆にもかかわらず、です」
「なるほど。判ったような気がするよ。納得もいく」

「…それに。道具に選ばれる人生など、つまらないとは思いませんか?」
 ぽつり、と付け足すようにつぶやいた青年の口はへの字。そして、それが一点して歪んだ笑いに変わる。
「だから、使い手を選ぶ魔剣ではなく、使い手に選ばれる魔剣を作りたいのですよ、私は。クククク…、
 コレがうまくいけば、いずれ世界の名だたる剣士が血眼になって求める剣の事が貴方達の耳に入るでしょう。
 その名は…」
 一瞬の、沈黙。
「…名前は?」
「考えてなかったんじゃないの?」
 かたや唾を飲み込みながら、かたや興味なさげに、二人のアルケミストが問う。魔術師は、この日初めて、
ほんの少し自信のなさそうな顔をした。
「……そうですね。まっぷたつの剣とか」
「いや、君の命名センスについては期待していない。それについては再提出」
「教授、もう少し言い方って言うものが…」
 まだほんの少し机の上の食物に未練がありそうな助手を従え、立ち去り掛けた賢者が、ふと足を止める。
「僕は正直なところ、君が少し羨ましい。僕もいい加減、因習や常識には縛られなかったつもりだけれど、
 君のように完全に枠の外にいる事ができれば、と思わなかった事もない」
「いや、こいつみたいなのは一人で十分ですよ」
「…そうだね。その通りだ」
 頷いた賢者がその顔を上げた時には、声に見えたわずかな翳りは残ってはいなかった。そのまま、振り返りも
せずに酒場の戸へと歩み去る痩身を、慌てたように助手が追う。肩越しに小粋に片手を振ると、賢者は戸外の
喧騒へと消えた。
285SIDE:A Intermission〜学者達の宴〜(7/7)sage :2004/10/02(土) 12:44 ID:MNTz9Ob2
「……やれやれ、君はスゴイ人と知り合いなんだねぇ」
「そうですか? ククク…これも人徳と言う奴で」
 何故か自分の口から出た言葉が懐かしそうに、魔術師は笑った。
「…あ! もうこんな時間かっ」
「おや、なにか?」
「何か、じゃないよ! ああああ、彼女を待たせてるんだ、失敬!」
 微妙に、“彼女”を強調して言うあたりが青年の自慢なのだろうか、しかしながら自然にではなく、酔いだけ
ではない赤みが頬に上るあたり、まだ口にしなれていない初々しさがある。
「それじゃあ、僕はいくけど。ま、たまには連絡してよ?」
「善処しましょう」
「ま、遊びに来ても歓迎はしないけどね」
「ククク…」
 曖昧な笑いで、魔術師は慌しく席を立つ旧友を見送った。それから、懐に手をいれ、無造作に金塊を取り出す。
「ご主人、なかなか楽しかったですよ? クククク…これで払いは足りますかねぇ?」
 目を白黒させる酒場の主と、それを見て笑う常連らしい客達とを後に、魔術師も夜の街に消える。賢者達の去った
華やかな本通りではなく、錬金術師の去った、古くからあるがっしりとした石畳の旧道でもなく。
 彼は誰も通らない道を行く。今までも、これからも。

----
最近活躍中のシメオンたん、教授の本物を読んだ後では見劣りするのはお察しください。
あと、最初期のシメオンたんはひらがなでくくくっ と笑っていたのに最近気が付いたのですが、
今更なのでカタカナで…どくおのひと、ごめんなさいっ。
…と思ったら、最近はシメオンたん、カタカナでクククだ。結果オーライ!

おでこのケミさんとシメオンたんを勝手に昔馴染みと捏造してしまったのは、接点を作るのが
難しかったゆえの逃げです。ごめんなさいっ。
あと、魔素とかいうのは私の勝手な造語です。体内にもともとある魔力子が多いと、魔法詠唱も早くならん
かなぁ、と教授の講義を見て思ったので作っちゃいました。人間には不可能な速度で詠唱する大魔族とかの
説明になるといいなー、とか。

とりあえず、解説キャラが二人並ぶとどっちに語らせたらいいのか悩んでしまってイクナイですね。
某、魁なんたらの月○と○電は偉大だったんですねぇ…。
286SIDE:A Intermission〜学者達の宴〜(8/7)sage :2004/10/02(土) 13:20 ID:MNTz9Ob2
1のあとに・・・

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 まだ何か言おうとしていた錬金術師は、魔術師の声から何かを感じ取ったかのように、椅子に浅く腰掛け直すと
口をつぐんだ。魔術師と最後に顔をあわせてから今までの自分の変容振りも、彼は自覚していたから。あれから
色々な人との出会いが無く、あの頃の自分のままだったならば、そもそも今日の魔術師からの呼び出しになど
応じはしなかっただろう。
「…あいつなら、士別れて三日なれば刮目して相待つべし…とでも言うのかな」
「ククク…それを言うならば、朋有り遠方より来る亦楽しからずや、であって欲しいですねぇ」
----
これを脳内補完してやってくださいっ
287名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/02(土) 15:29 ID:V09tIu4o
ふぉーふぉーふぉー、GJ!!

あれですか、この魔剣の流れがどくおたんのSSに繋がってセシルたんと魔剣再び!!
を想像したのは俺だけじゃないはずだ。(1/20)
288名無しさん(*´Д`)ハァハァage :2004/10/02(土) 23:39 ID:yUyJUOsE
ギアをageる。
そして現在のリレーの状況説明を希望。
289名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/02(土) 23:41 ID:8XAot59U
そういや明日座談会か・・・
290名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/03(日) 01:09 ID:aa7LzjzM
>>288
>>165>>166にまとめてあるから参照のこと。
それ以降の流れくらいはご自分で。
291魔剣戦争記・外伝二話(1)sage :2004/10/03(日) 19:50 ID:2bqasCEk
RAGNAROK ONLINE SIDE STORYS

――RECORD OF DEMONIC SWORD WAR  EXTRA SAGA――

魔剣戦争記・外典

     グン グニ ー ル
第ニ話 烈風纏う神槍


/0/

 簡潔に。
 シズマは、道に迷った。


/1/

 イズルードから、首都プロンテラへの道は、街を出てから北西に進み、徒歩でおよそ三日の道のりである。
 露店で地図を買い、準備を整えていざ出発――そして、すでに一週間が経過していた。
 食料は、多めに買い込んでいたから、心配はない。
 問題は、水。
 何故問題かというと、現在彼が居るのは――――

「――あぢぃ」

 砂漠、なのであった。
 太陽は容赦なく灼熱の光で照らし、乾いた空気は水分を奪い取る。広大な砂は一歩進むたびに体力を枯れさせる。
 もうどれほど歩いたのか。
 巨剣を杖代わりに、意識も半分朦朧としながら、シズマはただ歩いた。
 空にはコンドルが旋回している。
 ここで倒れたら力尽きて、そのままシズマは美味しくいただかれること請け合いだろう。
 そう考えて、シズマは必死に頭を振る。
「くそ…なんだってこんなメに会うんだ…畜生。
 みずのみてぇ…ふ、ここでみ…みず、とか言ったらホードあたり出てきたりしなかったりするんだろぅなあ」
 脳がやられているかもしれない。
 バカになりそうな思考で、前を向くと――
「――ぁ?」
 前方に、ゆらゆらとゆらめく、緑色と青色。
「――まさ、か」
 どこにそんな力が残っていたのか、足が速くなる。
「夢か、いや違うこの匂いこの空気、まちがががいねぇみみみみみみみ、水だゥオーターだオアシスだっ!!」
 走る。
 走りながら、上着を脱ぐ。リュックを投げ荷物を放り、そのまま一気にオアシスの水場へと飛び込んだ。
「〜〜〜〜〜っ!!」
 生き返る。
 盛大な音を立てて頭から潜り、うつぶせのまま水を飲む。
 飲む、飲む。喉ばかりか、肺まで水を満たさんばかりに、とにかくシズマは 水を貪った。
「――っぷっはぁ!!」
 息が続かなくなるギリギリまで水を飲み、勢いよく顔を上げる。
 先刻まで恨めしかった太陽の日差しも、空の青さも今となっては心地よい。
 太陽の日差しも――――。
「?」
 よく見ると、その日差しがなにかで遮られている。水面に影。
 水の中を見る。
 白い、肌色の棒が、二本。
 視線をずらしていく。
 ただの棒じゃない。なだらかな曲面。やわらかそうに、上にいくにつれてゆるやかに膨らんでいる。
「――――」
「――――」
 さらに視線を上。
 ふたつ、丘がある。
 弾力のありそうな柔らかそうな丘。
 ……。
 いや、流石にここまで来たら、馬鹿でも判る。
 硬直。
 なにがあったのか、何がおきているのか。理解が追いつかずに、双方ともしばし固まり――。
 視線が、ぶつかる。
 見下ろす少女と見上げる少年。
「――――――――」
「――――――――」
 たっぷり、無言。
 風が、木々を揺らす。
 雲が流れ、日差しを隠す。
 やがて。

「きゃあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 砂漠を越えてモロクの都市まで届いたのではないかという、悲鳴が砂漠に激しく響き渡った。
 ついでに、なにかを殴りつけるようないい音も響いたのも、追記しておこう。
292魔剣戦争記・外伝二話(1)sage :2004/10/03(日) 19:51 ID:2bqasCEk
 数刻後、砂漠。

「――もしもし、ファルカさん。おーい、ファルカ・アーヴィス・マクネイルぅ」
「ん? 何?」
 顔面に拳骨の跡をつけ、二人分の荷物を抱えて目の前を歩く騎士…
 というかペコペコの上の騎士に、シズマは話しかける。
「なんで俺がこんな大量の荷物を持っているんでしょうか。君のぶんまで?」
「見たでしょ。その御代。その程度で済んだだけ感謝しなさい」
「つかな。それは確かに悪かったし謝る、不可抗力だが俺が悪かった。
 だけどそれで何で俺が荷物もちしなきゃなんねーんだっ。んなもんペコペコに乗せろっ」
「道に迷ってどっちにいったらいいかわかんないくせに」
「――う゛…」
 その言葉に、シズマは一歩後ずさる。
「だいたい何。首都を目指していたらどこをどうやってこの砂漠に迷うのよ、君」
「いや、それは」
「旅するのだって甘くみてるからそーなるの。食料や水とかの危機管理もなさすぎよ」
「だから…」
「そんな君を。わざわざ私の旅に同行させてあげて、モロクまで案内してそこから、
 わ・ざ・わ・ざ親切にも! プロンテラまでの空間転送代金まで貸してあげるっていう、
 そんな優しいこの私に対してそのクチの聞き方はなんなのかな、キミわ!!」
「――はい、ごめんなさい。俺が悪かった、です」
 詰め寄るファルカに、その勢いにシズマは負けてつい謝る。
「わかればいいのよ、わかれば」
 ぷい、とそっぽを向く。
「とにかく。あたまわるいキミのためにもう一度説明するわ。
                       ギル ド
 騎士団から任ぜられた私の任務、モロクでの違法組織摘発に付き合うこと。
 別に剣士のキミにそんなすごい働きなんか期待してないから。盾になって少しでも敵ひきつけてくれる程度でいいし。
 とにかく、私のサポートをしっかりしてくれたら、プロンテラへのカプラ転送料金ぐらいは貸してあげる」
「……わかった、わかりましたって騎士様。
 で、ちょっと質問があるんだけど」
「何よ。くだんない質問だったらぶっとばすわよ」
「いや、そんな大層な仕事、なんでお前一人なのかなー、って」
「――う」
 一瞬、ファルカは表情が微妙に引きつる。
「ま、まあそれは…私が信頼されてる、ってこと、かな? 私ひとりでじゅーぶんだし」
「いや、それならなんで…『そんなすごい働きなんか期待してない』俺を手伝わせたりするんだ?」
「そ、それは…な、なりゆきよっ」
「――――」
「――――」
 しばし沈黙。
「あと、さ。
 なんでそんな任務なら、カプラ転送使わないで歩いてモロクまで行ってんだ?」
「……のよ、…い?」
「ん? 聞こえない、もう一度頼む」
 ぼそ、と喋るファルカ。シズマは耳に手を当て、言葉を促がす。
 少しの沈黙の、後。
「……転送代金や人雇うために出された資金使い込んだのよ、悪い!? っていってんのよっ!!」
「      のわっ!!?」
 耳元で、商人もかくやという大声で怒鳴る。
「み、耳がぁー、耳がぁあー…って、やっかましいだろうがっ!!
 つか、なんだよその使い込んだって…犯罪だろそれっ!?」
「いいのよ、ただの必要経費で消費前提なんだからっ」
「――で。何買ったんだよ…」
「――――耳」
「…は?」
「耳よ、これ…天使の、耳」
 えらヘルムの代わりとばかりに、ヘルムの横に飾り付けられた、天使の翼をかたどった頭飾り。
 ファルカは顔を赤らめて、いいでしょ、ずっと欲しかったんだから、と付け加えた。
「――何百万ゼニーするんだよ、それ……」
「首都で超格安で売ってたのよ。結婚を機に冒険者をやめる、って友達だけどさ。
 それで、光の速さで手に入れないと絶対にやばいし、友達だからって少し待っててもらったけど、
 でも手持ちのお金だと他のレア品を交換に出しても…ちょっと足りなくて……それ、で」
 ごにょごにょ、と語尾が小さくなる。両手の人差し指をからめながら、ますます顔を赤くする。
「――――ぷ」
 その仕草に、思わずシズマはふきだした。
「な、なによその反応っ!! ひ、ひとを馬鹿にするのも――」
「いや、わり。馬鹿にしたわけじゃねぇ。ま、そういうこともあらあな、うん」
「――なんかむかつく。その態度。キミ自分の立場わかってる?」
「ああ、わかってます騎士様。
 つまり、それで経費払って雇うはずだったのが衝動買いで駄目になったから、俺を雇――って、ちょっとまて」
「何?」
「モロクからの転送代貸すって…金、あんのか…?」
「――――あ」
 たっぷり、沈黙。
「――是非とも仕事成功させましょ。どうせあいつら違法組織の犯罪者どもだし、
 たぶんきっとたんまりと溜め込んで――」
「――をい」
「……………………。」
「……………………。」
「どうにか、なるわよ?」
「お前が言うなぁあああっ!! この無計画頭装備マニアがっ!!」
「な、なによそんなこというわけ、この変態覗き魔っ!!」
「なんだとぉっ!?」
「なによっ!!」
 お互い、火花を飛ばして睨み合う。


 その時、二人はふと小さな地響きな気づいた。
「ん?」
 砂漠の地面が揺れる。
「なんだ、こりゃ…」
「地震?」
 地響きが少しずつ大きくなっていく。
 そして、シズマは砂が大きく流れていることに気づいた。
「お、おい、あれ…流砂ってヤツか!?」
「――いや、違う、あれは…!」
 ファルカが、咄嗟に槍を構えた。

 ――それは。
 まるで大海原を泳ぐ海獣のように、砂の海を泳ぎながら突進してくる。
 巨大なひれが砂上に姿を現す。

「ななななな、なんじゃあこりゃあっ!?」
「あれは砂漠に棲む、謎の巨大生物――」

 巨大な体躯が、砂の海の上に躍り出た。

 不気味に動く四つの眼球。
 頭部に突き出た、珊瑚のような突起物。
 大きな、その胴体そのものが口かと言わんばかりに裂けた口。
 エイのようなヒレを不気味にはためかせ、ありえないスピードで飛び出たそれは、
 まさに怪獣だった。

「――フリオニ――!!」


 巨躯が太陽の光をさえぎり、砂漠に巨大な影を作る。
 砂が大きく飛沫をあげ、フリオニの巨体が砂に潜り込んだ。
 シズマとファルカの姿は、
 その砂の波紋に呑まれ、消えていった。
293魔剣戦争記・外伝二話(3)sage :2004/10/03(日) 19:51 ID:2bqasCEk
/2/


 そこは、廃墟だった。
 忘れられ、朽ち果てた廃墟の古城。
 少女は、いつのころからか、ただそこにいた。
 身体を濡らす鮮血は、漆黒へと変わり往く。
 永劫の時間の中、ただ少女はそこにいた。
 今日も、敵が来る。
 少女は何の感慨も無く、剣と槍をその手に取る。
 手には冷たい鉄の感触。
 肌にも冷たい鉄の感触。
 空気すらも、鉄のように、氷のようにただ冷たい。
 ただ、時折流れる、戦いの血の温もりがだけが、空気に温かみを持たせていく。
 鉄と血の臭い、闇と死。それだけが、少女の昏い真紅の瞳に映る全てだった。


 ――――それまでは。


/3/


「――――ん」

 夢を、見ていた。
 ファルカは、ゆっくりと目を覚ます。記憶の糸を辿り、自分がどうしたのかを確認する。
 乗騎のペコペコが、自分の頬に頭を寄せて嬉しそうに唸っている。
「お、起きたか」
「――!」
 思い出した。
「ここは…! 私たち、たしかフリオニに襲われて…」
 上半身を起こす。所々軋むが、骨や器官に異常はないようだ。
「――いや、ビビった。あんなバケモン、いるもんだな…」
「なんで生きてんの、私たち」
「俺が知るか。まあ、俺たちを襲ったというより、単にアレが暴れてたのに巻き込まれただけ、みてーだな…
 しかしなんだよ、砂漠の地下にこんな巨大空洞って」
「――――」
 ファルカは周囲を見る。
 赤黒い岩。巨大な洞窟。所々に地上から砂が滝のように落ちている。
「――なによ、ここ」
「察するに、砂漠の地下だな。ほら、あそこの穴…あっこの流砂から巻き込まれて落ちてきたんだな。
 潰されなくて運がよかった。もう少し砂の量が多かったら、あるいは流されてる時間が長かったら――
 死んでたな、俺たちゃ」
「そうね、本当に運がよかったかも。…いや、運が悪かったのかしら」
「なんでだ?」
 砂をはたきながら、ファルカは立ち上がってため息をひとつ吐く。
「――地下だという想定はつくけど、実際にここがどこだか判らない。
 加えて、アレで荷物もほとんど流されてる。幸い、身につけてる装備品とかは無事だからいいけど……
 食料も水もなくなってるのよ? このままじゃ、下手したらじっくりと飢えて死ぬか、渇いて死ぬかよ」
「お前、案外悲観的なのな」
「現実を言ってんのよ! どこかわからない場所で食料も水も無くて何しろっていうのよ、キミは!!」
「じゃあ諦めてこのまま心中でもするってのか!?」
「そうは言ってないでしょ!!」
「言ってるだろ!!」
「言ってないわよ!!」
「言った!!」
「言ってない!!」

 ふたりが再び睨み合う。
 すると、

「おーい。ご両人ー、埒あかないからそん位にしとけー。」

 と、上の方から声が聞こえた。

「!?」
 あわてて、その声の方向を振り向く。
 そこには、オレンジ色の髪の毛を逆立てた、盗賊が岩に腰掛けていた。
「よ。」
 そう手を挙げて会釈すると、軽いステップで飛び降りる。
「な、なんなのよ貴方は」
「他人に名を聞くときはまず自分からじゃないですか、騎士様。ま、いーや。先に声かけたん俺だしな。
 聞いて驚け見てビビれ、この俺様はいずれモロクを背負って立つ未来の盗賊王!
 その名はモロクはおろかサンダルマンの彼方まで度々ロク、盗賊ジャンクたぁ…俺様のことだ!!」

「ごめん、知らない」
「聞いたことねぇや」

「ズコー!!」

 口で擬音を言いながらこけるジャンク。
「まてまてまてまて待ってーい!! お前らな、そういう場合知らなくても反応ってあるだろ。
 ほら、「な、なんだってー!?」とかさ。ちゅうか空気読め」
「いや空気って言われても…」
「ねえ…?」
「かはー。お前ら付き合い悪すぎ。そんなことだと人付き合い大変だぞー。
 飲み会でひとりで空気読まずにいて周囲のふいんき悪くするタイプだ、ちがいねー」
「ふいんき、って何だよ。雰囲気だろ」
「はいそこのバンダナ、細かいこと気にするなー。ハゲるぞ。ムレて」
「な…っ」
「ともあれ自己紹介はしたんだ。お前らこそ神妙に名を名乗れーい」
 なんだこいつ。
 はあ、とため息をひとつついて、ファルカとシズマは互いに名を名乗った。
「うむ、そか。つまりお前さんたちは道に迷ったってぇーわけだ。
 よしなら話は早えぇ、行くぞシーちゃんファーちゃん」
「おい行くって…つーかシーちゃんってやめろよ、おい」
「気にくわね? じゃあ…しずっぺ」
「呼び捨てでいい。シズマで」
「私も呼び捨てでいいわよ。妙な愛称で呼ばれるより遥かにマシだわ」
「そか。じゃあ、出口へヒァウィゴウ!!」
 そういうや否や、ジャンクはずんずんと突き進む。
「ち、ちょっとまてジャンク! 出口って、わかるのか!?」
「お前な。俺様を誰だと思ってる。一ヶ月間もこの蟻地獄で過ごしたジャンク様だぞ。
 出口の場所まで把握済みよ」
「蟻地獄…!? そっか、ここが」
「ん? 聞いたことあるのか、ファルカ」
「ええ…砂漠の奥に、アンドレやデニーロ、ビタタといった蟻の魔物たちが巣を作っている、って。
 蟻の女王、マヤーを筆頭に封建社会を築いているとか」
「流っ石は騎士様、博識ーぃ。ま、マヤーたんのいる場所はもっと地下。
 んで、出口は上のほーだからマヤーに会うことはないだろ。ちゅーか会ったら死ぬ。死ぬ死ぬマジで死ぬ」
 肩を抱えて震えるジェスチャーをするジャンク。
「んで、だ。お前らも会ったんだろ、あの珍妙生命体に」
「珍妙生命体…あのフリオニ、ってヤツのことか」
「ああ。あいつはやっかいだぜー、ナニ考えてるのかわかんねぇ。ただ暴れるまさにかいじゅーだ。
 んで、だ」
 急に、神妙な顔をして、足を止める。そして、
「ぢつはフリオニの棲家はここだったりするのだーん!! うっわ驚きーい!?」
 振り返って叫ぶ。
「な、なにぃ!?」
「ちょっと、それ本当なの!?」
「当然。んで、上で暴れていてお前らが落ちてきた。つまり、今こそがここを脱出するチャンスなのだ」
「上で暴れてたから、巣にはいない、ってことか」
「そのとーり。早く行くぞ、見つかったらアウト。
 あんなかいじゅー相手にしてられるほど俺様はヒマじゃないのだ…っと、ほらあそこだ」
 ジャンクが指をさす方向には、上へと開いている穴があった。
「あそこを登っていけば、地上に出られるはずだ。
 おお、愛しの地上、麗しき太陽の光よ、俺様は今まさに帰ってきたのだー!!」
 そのジャンクの声と共に。

 ずず…ん。

 地響き。


「――はい?」

 三人は、背後に現れた巨大な気配に硬直し、ゆっくりと振り向いた。

 そこには、
 フリオニの巨体が、
 よだれを垂らしながら笑っていた。


「なんっじゃあああ、こりぁあああああああっ!!!?」
294魔剣戦争記・外伝二話(4)sage :2004/10/03(日) 19:52 ID:2bqasCEk
 巨体が踊る。
「散れぇ、ファルカ、ジャンクっ!」
 シズマが叫ぶ。その声と共に、三人はそれぞれ別方向に散る。
 三人がいた場所を、フリオニの爪が砕いた。
「マぁジかっちゅーの!! くそ、やっと逃げ出せると思ったのに、ちゅーか来んなっ」
 騒ぎながら走るジャンク。その姿を四つの目がぎろり、とにらみ、舌をべろん、と躍らせる。
「うわキモっめっちゃキモっ! 俺美味しくないぞー、いやーん!!」
 盗賊の技を使い、高速で後ろに跳びながらわめくジャンク。
 それを追い、フリオニは巨体を揺らし、岩を砕き砂を散らして移動する。
「ジャンクっ!」
「ばっきゃろー、何やってんの! 俺様はいいからホラ、とっとと行けーい!
 今なら出口がお前らを大歓迎だぞー、ホラ早くーぅ!」
 叫びながら、必死にバックステップを繰り返す。
 だが、岩に足を引っ掛け、ジャンクはひっくり返る。
「いってー! 誰だこんなとこにゴミ置いたの…って、どわー、うわうわうっわーっ!?」
 顔をあげたそこには、フリオニの巨体が大きく口を開いていた。

「バァッシュッ!!」

 シズマの叫びと共に、フリオニの脳天にツヴァイハンダーが突き立てられる。
 フリオニが叫ぶ。その一瞬の機を逃さず、ファルカがペコペコで駆け寄り、ジャンクを掴みあげる。
「ちょ、ちょっとまていお前ら、なんで行ってねーの!?」
「馬鹿いわないでよ馬鹿、行きずりとはいえパーティー組んだ仲間を放って逃げられるわけないでしょ!」
 ファルカが叫ぶ。
「ああもう、とにかく黙ってなさいっ! シズマ君、そっちも早く離れなさいっ」
「お、お前ら…さては二人とも、俺に惚れた?」

「「誰が惚れるかっ!!」」

「ないすこんぴねーしょん。つかもう大丈夫だ、降ろせ。
 おいシズマ…って早く逃げろぉっ!」
 ジャンクが叫ぶ。
「え?」
 その声と同時に、フリオニが跳んだ。
「うわああっ!?」
 砂に潜る。シズマは突き立てた剣ごと、巻き込まれる。
「シズマ君っ!?」
「だぁ、言わんこっちゃねぇっ! くそっ」
 ペコペコから飛び降り、ジャンクは走った。


(――――っ!!)
 圧倒的な速度で、砂の中を泳ぐフリオニ。
 突き立てた剣が想いの外深く刺さり、抜けないのが不幸か或いは幸いか。
 シズマは剣に捕まり、なんとか耐えていた。
 ここで手を離そうものなら、あるいは剣が抜けようものなら、砂の中に取り残されて死ぬだろう。
(――左手の握力、鍛えてて助かったぜ…!)
 右手の力が半減してもなお剣を振れるように左手を鍛えていた、そのおかげでシズマは振り落とされずにすんでいた。
 だが、それもあとわずかで――
「――ぶ、あっ!」
 時間との勝負に、とりあえずは勝ったようだ。フリオニは再び空洞に躍り出た。
 だが。
 豪快な音を立て、フリオニは岩壁に体当たりをする。岩が砕け、石片がシズマを直撃する。
「い、いでででっ!」
 まるで暴れ馬のように、洞窟内をフリオニは駆ける。
「くそ、また砂に潜る前に――ふんっ、だぁくそ、抜けねぇっ!!」
 ツヴァイハンダーはビクともしない。
「ばっきゃろー、剣を棄てて逃げろ、シズマーっ」
 ジャンクが走りながら叫ぶ。
「駄目だ、それだけは…駄目だっ!」
「あほかおめー、武器なんか幾らでも金ためりゃ買い直せるだろうが、命がイチバンだっちゅーの!!」
「駄目だ、こいつは兄さんの形見なんだ、だから…俺はこいつを棄てねえっ」
 シズマは叫び返す。
「死ぬ気かーっ!?」
「死なない、この剣と共に、生きて戻る・・・うばっ!?」
 再び、フリオニが砂に潜る。
「あんの、馬っ鹿が…ええいくそ、ファルカー、そっちの位置はどうだーっ!? こうなりゃヤケだ、
 絶対あの馬鹿助けるぞっ!!」


「わかってるわよ、言われなくとも…!」
 ペコペコを走らせ、足場の悪い岩場を飛ぶ。
「くっ、これ以上はペコじゃ無理…ここで待っててっ」
 ペコペコから飛び降り、槍を背に、ファルカは岩場を登る。
「まったく、どいつもこいつも…馬鹿なんだから、ああもうあったまきた!」
 崖になっている場所に立つ。
 ここからは、洞窟内部がよく見える。
 崖下には、ジャンクが待機しているはずだ。
「ていうか、なによあの馬鹿。武器と命を共にするなんて、ほんっと何考えてんのよ…」
 でも。
 ジャンクを助けるために躊躇無く飛び込んだシズマの姿を思い出す。
 相手は怪獣だ。歴戦の勇士でもなければ倒せる相手ではない。
 あの破壊力を目の当たりにすればそれは判っている筈、いや。判らないはずが無い。
 だが、あの馬鹿は何の躊躇も無くフリオニに向かった。
 助ける方も馬鹿なら、助けられる方も馬鹿だ。
 一ヶ月。外に出る機会を心待ちにしていたはずだ。
 なのに、あの馬鹿もまた何の躊躇も無く、自分を囮にした。
 助かる算段があったとしても――普通はそんなことは出来ない。
 結論。
 どっちも、馬鹿だ。
「――でも」
 背中に収めた槍を取り出す。
「――私も、馬鹿かしらね。まったく」
 そういうのは、嫌いじゃ、ない。
(早く出てきなさい。死ぬんじゃないわよ、あんたにはまだ私の裸見た恨み、晴らしてないんだから――)


 フリオニが砂の中に潜って泳ぐのも、時間制限がある。
 当然だ。砂の中では息が出来ない。
 そしてさらに、今は脳天に剣が刺さっている。巨体からすると小さな針に過ぎないが、
 その重さと鋭さはフリオニの体力を確かに消耗させていた。
 やがて。
 空気を求めて、再びフリオニはその身を砂から躍らせた。


 砂が爆発のごとく、飛沫を上げる。
 フリオニの巨体が酸素を求め、大きく開かれる。

「きたきたきたきた、大口きたーっ!!」
 ジャンクが走る。
「頼むぞ、宝剣ちゃんっ!!」

 ジャンクは、腰の剣を抜く。
 小ぶりだが、豪華な意匠と強力な炎の魔力を編みこまれたその剣の名は、

     ファイアーブランド
 ――炎召喚す宝剣=@。

 伝説に名を連ねる、炎の力を秘めた宝剣である。
  ファイアー
「火炎の…」
 剣に精神を集中させる。
  ボルト
「…弾撃ぉっ!!」
 ジャンクの言葉と共に、炎の弾丸が生まれ、フリオニの口に飛び込む。
 そしてフリオニが口を閉じ――

 四つの目と鼻、耳、歯の間から炎と煙を噴いた。

「今だファルカぁっ!!」


 フリオニの巨体が火を飲み込み、口腔内で爆発する。
 外から引っ張れないのなら、内部から圧し出す。
 ジャンクの作戦はこうだった。
 確かに、それは効果を多少は発揮したかに見える。だが、まだツヴァイハンダーは未だ突き立ったまま。
「もうひと押し、ってところね…」
 ファルカは、槍を構える。
 身を沈め、視線はフリオニの頭頂部、シズマの立つ、突き立てた剣の下。
「距離…遠いな。180…いや、190、か」
 無茶である。
 届くはずが無い。いかな槍騎士とはいえ、この距離から槍を当てることなど、出来はしない。
「普通の槍なら――ね」
 槍を持つ手に力を入れる。
 全身のバネを連動させ、限界まで引き絞り、一気に放つ。
 そう、当たるはずが無いのだ。
 ――彼女の持つ槍が、普通の槍ならば。
 ファルカがその手に携える槍、その銘は――

    と
「――飛翔べ!!
 グン グニ ー ル
烈風纏う神槍=\―!!」


 神話にて主神オーディンが手に携えたと言われる、風の力を秘めた、必中の神槍。

 槍騎士の技、スピアブーメランによって放たれた神槍は、烈風の一撃を以って、フリオニの脳天に直撃した。
295魔剣戦争記・外伝二話(5)sage :2004/10/03(日) 19:52 ID:2bqasCEk
/4/


「あー、死ぬかと思った。ちゅーか死んだぞ、俺のデリケートなハートわ。え、どうしてくれる」
「あーすまんすまん。つーか俺だって死ぬか思ったって」
 シズマとジャンクが言い合いを続ける。
 ツヴァイハンダーを弾き飛ばしたグングニールの一撃は、フリオニにも深いダメージを与えたのだろう。
 その後、フリオニが砂の中から出てくることはなかった。
「死んだのかな、あの怪獣」
「当然だろう、俺様の華麗なる一撃でヤツはすでに瀕死だったのだ。俺様なんちゅーかMVP?」
「そんなわけないでしょ。あのフリオニがあの程度で死ぬのなら話はもっと簡単よ」
 ファルカがため息ながらに突っ込む。
「ま、みんな無事でなにより、ってことか」
「うるせい。元はといえばお前がぜんぶ悪りいんだぞ、え、シズマ」
「なんでだよ」
「俺様が逃げろと言った時に逃げなかったからだ。
 本当ならあの後、豪華なる俺様の反撃、いや逆転撃が起こっていたのだ。
 それを邪魔したお前の罪はぁ、重いぞ? このノーマナー野郎」
「へいへい」
「返事は一回ー!」
「キミたち、コント程々にしなさい。誰もみてないから。
 ――と、出口、見えたよ」

 光がさす。
 太陽の光、青い空。
 無事、蟻地獄から抜け出してきたのである。
「おお、やっと出れた…」
「あ、ねえシズマ君、ジャンク。あれ…モロクの街が見える」
 地平に。熱気でゆらめくモロクの街並みが、確かに見えた。
「おおー、我が故郷っ! モロクよ私は帰って来たのだっ!! ぅいむしゅー、あいらーびゅんっ」
 ジャンクがはしゃぎ、岩場から飛び出して砂漠を転げまわる。
 熱い、熱いー、と叫びまわるジャンクを見て、シズマとファルカは苦笑した。
「なんか、すっげー遠回りした気分だぜ…」
「めげないの。キミたちにはこれから働いてもらうんだから」
「あ、そっか…げげー、気が重いぜ…」
「文句言わないの。じゃ、行くわよ」
「はいはい、判りましたよ、騎士さま」
 ファルカがペコペコを走らせる。その後ろを、シズマが追いかける。
「ん? なんで俺様の脚にロープが…ってぎゃーす!?」
 そして引きずられる謎の盗賊・ジャンク。


「やれやれ。ま、こういう賑やかな寄り道もいいもんかな……」


 シズマは苦笑し、それを追いかける。


 砂漠都市・モロク。

 この街で、彼らの運命を大きく変える出会いが待っている事を、彼らはまだ知るよしもない。
296名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/04(月) 01:51 ID:PhuzddG2
一つ疑問に思ったんだが、今のシメオンは両目があるのか、それとも隻眼
なのか?Daughter Of Ymirの最後あたりで左目がつぶれたと記憶してるんだが。
詳しい人解説plz
297名無しさん(*´Д`)ハァハァsage 私信:ポリンげっとしました :2004/10/04(月) 08:08 ID:qdSMA.nE
 シメオンたんファン倶楽部会員NO1こと93がいい年こいて徹夜の廃テンションで予想します。
我等がシメオンたんは237で素顔を出しているわけですが。もしも隻眼異相だとしたらナハトくんがもっと怯えると
思うのですよ。同じく前作ラストでぼろぼろだった手足系も治ってるようですし、なんとかしたんでしょう。
というか、それくらいなんとかできるシメオンたんであってほしいなぁ…とか。
いや、もちろんドクオさまが隻眼ダッ! とおっしゃればそれがFAなわけですが。

報告。座談会、面白かったです。遅れていきましたけど…。
幸い、今日は休日なのでたっぷり寝ます。これから。
298名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/04(月) 10:42 ID:XH/oD.TA
手足の一本や二本くらい屁でもなさそうじゃないか(マリー
目玉も然り・・・ってか座談会orz
2992スレ52sage :2004/10/05(火) 00:45 ID:6/iKH5h.
普段なら露天商達が軒を連ねる街角。しかし、今は露店ではなく、死体がその場所を占領していた。
そんな街角に、一人の少女がいた。
彼女は落ちている生首をつま先で弄びながら、次の標的を探すため五感をとぎすませていた。
と、どこからか濃密な死の匂いが漂ってきた。その匂いに惹かれ、彼女は走り出した。
匂いの元は、街の南西にある酒場からだった。そう、一人のアコライトと、数え切れないほどの負傷者がいるあの酒場である。
そこから漂う死の匂いは、この少女にとってはどんな匂いよりも甘美なものであった。
標的を見つけ、嬉々として走り出す少女。しかし、彼女の前に一つの障害が現れた。
先程から街をうろついている奴等と同じ格好をした集団である。彼等もまた、酒場へと向かっているようだった。
邪魔者が現れた、と不快に思った彼女だが、その不快感もすぐに消えた。
――邪魔者がいるのなら――消してしまえばいいのだから――

鎧から金属音を響かせながらクルセイダー達は進む。
神の意志を表す為に、神の名の下に異端者を殲滅する為に。
先頭に立つ若いクルセイダーは、自分の正義を信じて疑わなかった。
神の家である大聖堂を踏み荒らし、果ては聖女とまで呼ばれているあのアコライトを殺すことこそが、神の意志だと信じていた。
何が聖女だ、そんな幻影も消えてしまえばただの傷の舐め合いに過ぎない。
絶望の淵に立たされた時のあのアコライトの表情を想像すると、体が震えた。
目標の酒場が見えてきた。彼は部下に突入準備をしろと命令を出す。
それと共に、彼の後ろに控えていたクルセイダー達が一斉に剣を「ぎゃあっ」
――突然聞こえた断末魔。若いクルセイダー、そして彼の部下達も後ろを振り返る。
だが、そこには何も無い……いや、あるはずのモノが『無かった』。
そこにいたクルセイダーの首が、そっくりそのまま消失し、その切れ目からは鮮血が止めどなく迸っていたのだ。
続けて聞こえてきた断末魔、見ると隊列の中央にいた男の首に剣が突き刺さっていた。
敵襲――そう即座に判断した若いクルセイダーは、部下達に防御隊形を執れと命じる。
全方向からの攻撃に備える為、円陣を組むクルセイダー達。しかし、隊形を整えている間にも一人が飛来した剣の餌食となった。
姿の見えない襲撃者に焦るクルセイダー達。そんな彼等を嘲るかのように、次々と剣が飛来し、彼等に襲いかかる。
盾を構え、何とか凌ぐものの、このまま耐えていたのでは損害は大きくなるばかりである。
若いクルセイダーは、部下に命令を出し、首都の中心にある広場へと移動を始めた。
隠れる場所が多い市街地よりも、開けた場所のほうが有利だと判断したからだ。
だが、移動を続ける間にも敵の攻撃は続けられた。背後から聞こえてくる絶叫を黙殺し、若いクルセイダーは広場へと急いだ。
息を切らしながら、広場に駆け込んだ彼は振り返って部下に命じる。
「散開しろ! ここなら『よし』だ!」
……しかし、それに答える者はいなかった。
遠くには点々と部下の死体が並んでいた。そして、彼の背後には部下達の代わりに一人の少女がいた。
服装から見るとアコライトだが、それ以外はアコライトとは遠くかけ離れていた。
白を基調としているはずの法服は血で真っ赤に染まり、短く切りそろえられた黒髪も、血でべったりと額に張り付いていた。
手にはアコライトが使うことは禁忌とされている剣が握られている。
しかも一本や二本ではない、両手に三本づつ、計六本もの剣を持っている。
目はまるで悪鬼のようで、とても年端もいかない少女のものだとは思えなかった。
少女のただならない雰囲気を察し、若いクルセイダーは思わず後ずさる。
それに合わせ、少女も彼に向かってゆっくりと歩み寄る。
若きクルセイダーは一瞬、なりふり構わず逃げようと考えた。
しかし、少女に背を向けた瞬間、部下と同じ運命を辿ることは火を見るより明らかであった。
ならば……戦うしかない。彼は剣を引き抜く。
目の前の少女はそれを冷ややかな眼差しで見つめていた。

彼は祈る。神よ――我に力を――
300上水道リレーSSsage :2004/10/06(水) 01:24 ID:Z5L5SzOM
 感じたのは、途方もない大きさの圧力だった。際限なく叩きこまれる衝撃に、全身から彼の
意思は放逐された。
 風の魔力に打ちのめされて、暗殺者は無様に倒れ伏した。
「いやはや、驚いたよ」
 しかし汚水に顔面を浸しながらも、暗殺者の目から力は失われていなかった。他が動かない
ならば、せめて目だけでも抵抗しようとしているかのようだった。
 悠然と佇む男を見上げながら、彼は辛うじて口を動かした。
「しぶとく……、生きるってのが、モットー、……でな」
「君は勘違いをしている。その程度の力──たかだか最低レベルのLoVで戦闘不能になる程
度の力で、私に敵対しようなどと考えることが驚きだと言っているのだよ。まったく、理解に
苦しむな」
「……クソ野郎が」
 暗殺者の殺気もどこ吹く風と、男は人差し指を悠然とこめかみに当てた。
「ところで、君ら人間がBOSSと呼称する存在があるな。あれらは倒しても倒しても時間が
経過すれば復活するだろう? 何故だと思うね? 魔族だから? 不死身だから?」
「繁殖力が旺盛なんだろ」
 身を起こすだけで精一杯だ。彼はようよう起き上がると、口に溜まった唾を吐いた。ぴちゃ
りと汚水に混じったそれは、赤い色をしていた。
「やれやれ……。頭を使ったらどうかね。まあ、わずか一太刀で瀕死の重傷を負った君の脆弱
さに免じて教えてあげよう。それは『力』を持っているからだ。膂力、知力、魔力。それらす
べてを統合した、純然たる『力』を持っているからだ」
 粘りつくような笑みを浮かべて、朗々と語る金髪の男。癖なのだろうか。人差し指がリズム
をとるように、こめかみを叩いている。
「だから……、なんだってんだ」
「Q&Aというやつだ。何故、君の毒は私に効かなかったのか? 答えは簡単だ。BOSSに
──すなわち純然たる『力』を持つ存在に、毒なぞが効くわけがない。君とて、まさか本気で
通じるなどと思ってはいなかったのだろう?」
 にやにやしながら、男は続ける。
「むしろ今現在、既に私は神にこそ近しい。人間風情の扱う武器やら毒が通じるわけがなかろ
う。どうしても、というのなら……。チェーンソーでも持ってくるのだな。バラバラになって
死ぬかもしれん」
「なに、言って、やがる」
「いや失敬。こちらの話だ。──さて、くだらないお喋りはこの辺にしよう」
 近づいてくる男を見据えながら、暗殺者は各所の具合を確かめていた。立ち上がることはど
うにかできそうだったが、戦えるかというと微妙なところだった。それに戦えても、どうしよ
うもないことがすでに証明されている。
「問おう。命の価値とはいったいなにか、君にはわかるかね?」
「命の価値、だと……?」
 脈絡のない質問に、彼はつい答えていた。
「いやむしろ……、命に価値などというものが本当に存在すると思うかね? 生命とはかけが
えのないもので、尊ぶべきものである。そんなのは幻想に過ぎないと、君は思わないかね?」
 こいつはなにを言ってるんだ?
 てっきり、このまま殺されるものとばかり思い込んでいた彼は、男の饒舌に混乱していた。
「──たとえば、プロンテラの上水道でひとりの聖騎士が死んだとしよう。彼は長いあいだ研
鑚してきた『力』の持ち主で、生前の彼は、相当に慕われるか利用されるか疎まれるか尊敬さ
れていたに違いない。さて、彼が死んだことで消費された『かけがえのない命』とやらは、な
にかを変えることができるのだろうか?」
 淡々と言葉を紡いでいた金髪の男は、ここで唐突に身振り手振りを加えだした。
「かけがえのない生命が無慈悲にも奪われてしまった! おお、主よ! 憐れみたまえ!」
 そして金髪の男は、ぴたりと動きを止めた。目だけを動かして、暗殺者を見る。
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