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【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第6巻【燃え】

1名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2004/06/13(日) 02:30 ID:PLOYwC1U
このスレは、萌えスレの書き込みから『電波キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』ではない萌えな自作小説の発表の場です。
・ リレー小説でも、万事OK。
・ 萌えだけでなく燃えも期待してまつ。
・ エロ小説は『【18歳未満進入禁止】みんなで作るRagnarok萌えるエロ小説スレ【エロエロ?】』におながいします。
・ 命の危機に遭遇しても良いが、主人公を殺すのはダメでつ

・ 感想は無いよりあった方が良いでつ。ちょっと思った事でも書いてくれると(・∀・)イイ!!
・ 文神を育てるのは読者でつ。建設的な否定を(;´Д`)人オナガイします。

▼リレールール
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・ リレー小説の場合、先に書き込んだ人のストーリーが原則優先なので、それに無理なく話を続かせること
・ イベント発生時には次の人がわかりやすいように
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※ 文神ではない読者各位様は、文神様各位が書きやすい環境を作るようにおながいします。

前スレ【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第5巻【燃え】
http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi/ROMoe/1084461405/

スレルール
・ 板内共通ルール(http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi?bbs=ROMoesub&key=1063859424&st=2&to=2&nofirst=true)

▼リレー小説ルール追記--------------------------------------------------------------------------------------------
・ 命の危機に遭遇しても良いが、主人公を殺すのはダメでつ
・ リレーごとのローカルルールは、第一話を書いた人が決めてください。
  (たとえば、行数限定リレーなどですね。)
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2どこかの166 :2004/06/13(日) 02:35 ID:PLOYwC1U
と、言うわけで新スレです。
多くの文神様の降臨を祈って。
降臨祈願(-人-)〜†
3保管庫"管理人"sage :2004/06/13(日) 02:49 ID:BP/Rn5ns
スレ立ておつ&3ゲットっと

保管庫の場所、おいておきますね
http://cgi.f38.aaacafe.ne.jp/~charlot/pukiwiki/pukiwiki.php
4名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/13(日) 07:51 ID:AkUzJJhE
げっつ
5名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/13(日) 08:23 ID:RLzwT4/6
さようなら、5巻
こんにちは、6巻

そして・・・5ゲッツ
6名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/13(日) 10:00 ID:mVI1T26k
6ゲット、そして今だ書きあがらない漏れ/BAN
○)))).... | ̄|_

そういえば全スレって一ヶ月の命だったんですね。
回転速くナリマシタネ。
7名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/13(日) 13:16 ID:v4wTfzFg
読み専としては充実したペースだったよ>前スレ
ともかくスレ立て乙>1
8名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/13(日) 13:36 ID:q8xGmUVk
やっと6巻目に突入ですな。
というわけで記念の8(σ・∀・)σ ゲッツ!!!

>>1
すれ立て乙
9名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/14(月) 09:45 ID:PAipbeiY
9ゲット

……リレーの地上方面の話…書いてる途中だけど投下して良いものかいな
なんか戦線拡大しそうな感じになっちゃってるけども…
まぁ、書きあがってから考えよう

魔物サイド|  λ............ドウニカキレイニマトマランモノカ
10下水リレー(地上sage :2004/06/14(月) 16:54 ID:oiXf8r/I
 10をゲットしつつ、ママプリを大聖堂に侵入させてみるテスト
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 王都プロンテラの西の城壁沿いを、走る女の顔には常に無く苛立ちの影が濃かった。
「…ここも塞がれている? …手回しが良すぎる」
 神出鬼没と言われるプロンテラの聖女だが、彼女とて生身の人間であり、常に雲を霞と消えられるわけではない。
教会に追われる身である彼女は、今日のように城外への転送結界が張られた時に備えて常に首都への出入りの
ルートを複数確保していた。それが、今はことごとく封じられている。

「あとは…一箇所。あそこが駄目なら、西門を強行突破するわよ」
「了解した。義母上」
 が、駆け出そうとした二人の足を、横手からかけられたしわがれ声が止めた。
「無駄じゃ。首都から西に抜けるルートは全て封じさせてもらった」
「……そう、貴方が手を回していたとはね…“元”大司教様。モロクからわざわざご苦労様」
 油断無く声の出た路地の暗がりを見る聖女の目に入ったのは、最後に別れた時から一回り小さくなったような
僧服の老人。その手には彼女の持つのとよく似たソードメイス。それに気が付いた瞬間、彼女の目が微かに
細められた。
「…真のクルセイド計画完遂の為、お主には死んでもらおう」
「義母上…ここは我が」
「貴方の相手できる人じゃないわ。さがりなさい」
 打ち鳴らされる鋼の音がリズミカルに夜の闇を裂く。
「真の…と言ったわね。それが貴方の戻った訳!?」
「二年前、聖堂騎士団を全滅させた例の件の失態で首都を追われたが…計画完遂の暁には再び中央に返り
 咲くことができる」
「そんな理由でっ」
 一際大きく打撃音が響き、二つの影が僅かに離れた。子バフォが鎌を構えたまま、身動きもできぬ程の応酬
だというのに、交わされる二人の言葉は息一つ乱れていない。まるで、型通りの演舞をしているかのように。
「引くなら引くがいい。首都にとどまる限り、お主も魔族共とまとめて灰になるのだからな。そして…首都から
 出る間道は既に無い」

 この老人がそういうのならば、確かにそうなのだろう。魔族の子バフォならば仮死に陥ることで魔界への転移が
可能だが、彼女が逃げる道はない。…しかし、それは逆に言えば。
(魔族の進入路もコントロールできる…ということ。考えたわね)
「…お主は知るまい。聖堂地下にある偉大な存在を。魔族、そして背徳の都に住まいし神の意に沿わぬ愚者を
 GameServer01ごと灰に化す…それが真のクルセイド」
「…真の? じゃあ、首都防衛の為に来るゲフェンやモロク、アルベルタの兵力は…」
「神の威に背く金銭亡者、暗殺者……。全て諸共に砕くのだ…そして、お主もな!」
 横薙ぎに振るわれる司教のソードメイスを、聖女が立てた己の武器で止めた。
「外敵に地上の聖堂が攻められれば、自動的、かつ即座に発動する其れは神の意なり。もはや誰にも止めら
 れぬ!」
「地上の…」
 聖女が口を動かさずに小声で念を飛ばす。
『伝えて。首都を攻めるな…いや、攻める振りだけ見せて、引き込まれるなって。時間を稼いでくれれば、後は
 どうにかするわ』
『…義母上? 何を』
「色々と…口ばかり達者になったわね!」
「お主は修行を怠ったようだな!」
 振り下ろされた一方の武器は、老人の肩を砕き、薙ぎ上げた他方の武器は、聖女の顎を叩き割った。頭蓋を
揺さぶられた聖女の視界が崩れる。彼女に見えた最後の情景は、老人が放ったホーリーライトが子バフォを
吹き飛ばす姿だった。

 ぱちぱちぱち…、と乾いた音が路地に響く。

「いや、さすがですね、“元”大司教様。あのプロンテラの聖女を一騎打ちで仕留めるとは。私の気遣いは無用
 でしたか」
 若い聖騎士が、微笑を浮かべたままで手を上げると、聖騎士団の紋を身につけた兵士達が彼の背後から
現れた。彼等が、横たわる聖女に向かいかけるのを、老人が制する。
「…生きているならば…、いや、死んでいても、この女の取調べは私が行おう。地下を借りるぞ?」
「尋問でしたら我等にお任せいただければ」
 しどけなく横たわる女をちらりと見てから、若き狂信者は糸のように細めた瞼の奥より、老人を試すように睨む。
老人は、唇を嘲りの形にゆがめた。
「…己は若い。この女、色欲を絶った者、魔族すら落とす色魔ぞ。それとも、お主はこの女が欲しいか?」
 口を開き掛けた自分の口腔が乾いているのに気づき、聖騎士は唾を飲んだ。すぐ後ろで、いくつも同じ音が
聞こえる。ごくり…と。
「……任せましょう、“元”大司教様」
「己の分を弁える事だな。それと…、いつまでも“元”などと呼び続けていると、後で後悔するやも知れぬ、と
 忠告しておこう」
 老人は辛辣に言い捨てると聖女を抱え、短距離転送門へと消えた。聖騎士が姿の消えた老人に向かって
呪詛の如く呟く。
「……地位に拘る俗物めが…だからこそ利用できるというものだが。クルセイド後に貴様の居場所などある
 ものか」
 その口元は常の微笑を消していた。

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 ママプリ負けてみせたのは八百長ですからね? 顔に傷つけたのは、八百長と監視者に見破られない為
ですからね?
 と言い訳しつつ、久しぶりに駄文を放置。とりあえず、意図としてはクルセイドの全容を、悪党がボタンポチッ
とな、の止めやすいものに変えて、止める際に押さえるべき場所に強そうな方を放り込んでみる。
 あ、老司教はコラボの老残の人です。使用済みなので煮ても焼いてもいいですよ…。
11下水リレー(地上sage :2004/06/14(月) 17:10 ID:oiXf8r/I
 で、なんとなく書いてしまったものの、プロレスなんて詳しくないので続きがかけない物をおいていく…。

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 下水道入り口南の橋。南西からの亜種族の群れを食い止めるための最後の防衛線である。防衛戦の為に
前線に戻ったフォン=フリッシュ将軍の指揮下にあるのは決して精兵ではなく、場所柄防衛に手を貸してくれて
いる冒険者達も集団戦慣れをしているとはいえない。
 だが、彼は弓兵を主体とした巧みな戦線構築で猪突猛進を主策とするオーク達を翻弄していた。自らは橋の
中央で仁王立ちとなり、群がる亜人をある者は斬り、ある者は川へと叩き落す。

「よし、お前等…俺の名前を言ってみろ!」
『レオ=フォン=フリッシュ! レオ=フォン=フリッシュ!』
 降り注ぐ矢の雨がオークの足を止める。
「そうだ。俺がいる限り、ここは陥ちん。ほれ、バナナ食え」
『レオ=フォン=フリッシュ! レオ=フォン=フリッシュ!』

 その様を彼方から見やったオークヒーローは、地に唾を吐き、立ち上がった。
「糞…気に入らぬ。奴一人のために橋を抜けぬとは」
「…駄、駄目ですよ。ロード様もいらっしゃらないのですから、貴方まで…」
 その口調に剣呑な物を感じたオークレディが、慌てて前に回ろうとした、が。
「小言は後で聞こう! 我がオーク族の血が命じるのだ。己より強いかも知れぬ者…見過越しには出来ぬ
 とな! …親衛隊、続けぃ!」
 オークヒーローの巨体の周囲に、青灰色の精鋭部隊が集う。オークレディはため息をつくと、別の婦人
兵に太鼓の用意を命じた。

 オークの兵の波が引いた。そして、低い太鼓の音が響く。オーク族の村に響く太鼓は、村の中ではそこを
守る守護者を称える音。外部では戦に挑む勇者を称える音色。フリッシュ将軍はまばらな木の向こうに、
一際巨大なオークの姿を認めると、弓兵達を制し、一人橋の真ん中で待った。
「我はオーク族英雄。戦士の中の戦士! 人よ…名誉ある一騎打ちを所望する」
「オークヒーローか。俺の名は…」
『レオ=フォン=フリッシュ! レオ=フォン=フリッシュ!』
「……いや、聞かずとも分かる。それに名など戦士には無意味」
 オークヒーローの周囲から、親衛隊がさっと下がる。橋を覆うように立つ巨体と、其れを迎え撃つ一回り
小さな…しかし、人間としては十分に大きな男が目を合わし、どちらともなくニヤリと笑った。

 それが、戦いの合図だった。

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 という感じで下水前も膠着させようと試みるテスト…。動かしたければ一騎打ちに水を差せばイイし。
ほっといても害はないよね?

 そして、9氏が「書いている途中」とあるのをみて血を吐いてみる…。これから書くんじゃないのか…。
ごめんよ、なんかまずかったらごめんよ
129/上水道リレー 魔物サイドsage :2004/06/14(月) 20:36 ID:PAipbeiY
とりあえずGH騎士団の動きっとね
_______________________________________

「前衛のレイドリック隊、カーリッツ隊それぞれ戦闘に入りました。レイドリック・アーチャー隊、援護に入ります」

「GH騎士団の西に展開中の、オークD駐留部隊オークヒーロー副司令が動かれました。現在ハイオーク親衛隊とともに前線に向かって進行中」

「北西方面より進軍中のゲフェン隊、プロンテラ騎士団遊撃部隊と戦闘が開始されました」

「赤の司祭殿より入電。強行偵察作戦"ダインスレイフ"発動。部隊は上水道へ侵入完了」
ライドワード達が淡々と戦況を報告する中、ブラッディナイトはじっと前線を見つめていた。

「おかしい…我らがここまで出てきておるというのに、聖騎士団が未だ動かぬとは…何か策があるというのか?
くそっ、獲物を目の前にして動けぬというのも腹立たしい!!」
キリキリと歯軋りをしながら、ブラッディナイトはGH騎士団に命令を下す
「彷徨う者遊撃隊、深淵騎士隊は後方にて待機。ジョーカー隊はプロンテラ南まで偵察。ウィスパー隊はハイド状態でプロンテラ内に侵入。何かあれば即報告。
なおウィスパー隊の戦闘は厳禁、見つかったら即逃げろ。報告が最優先だ。よいな」

「「「「Sir Yes,Sir」」」」
ライドワード通信兵達が、所定の部隊に通信をしている中、通信兵長のアリスが声を上げる。
「血騎士様、プロ北迷いの森部隊からの入電です。取り急ぎ報告する事があるそうですが、如何致しましょう」

「バフォメット閣下からか?よし、繋いでくれ」

「了解しました」
パタパタと通信機を操り、迷いの森部隊からの映像をブラッディナイトの前に出す。

「戦闘中失礼します。こちらプロ北迷いの森部隊所属バフォメットjr。取り急ぎ報告したい儀がございます」

「構わんよ。まだ戦闘は始まったばかりだ。それよりも急ぎの報告とは何だ?」

「ハッ、それでは報告を…」
バフォメットjrは、ママプリから聞いた対魔族殲滅計画『クルセイド』の詳細を話す。

「………」
報告を聞いたブラッディナイトの沈黙に、バフォメットjrが怪訝な顔をして問いかける。
「いかがなされましたか、血騎士候?」

「クックックックック…ハァッハッハッハッハッハッハ!」

「血、血騎士様?どうなされたのですか?大丈夫ですか?」
驚いたアリスが、ブラッディナイトに声をかける。だがその言葉に答えずに、笑い続けるブラッディナイト。
ひとしきり笑った後で、いきなり怒りの形相に表情を変え、手に持っていた"カッツバルゲル"を地面に刺して、言葉を吐き捨てる。

「腐ったヒトの聖職者共の思う通りにさせて堪るか!!ジェスター隊、ダークフレーム隊出撃準備!!
両隊はジョーカー隊に合流後、プロンテラ南で撹乱行動!!ウィスパー隊に連絡!!大聖堂付近にハイド状態で部隊を展開!!
聖騎士団の動きを逐一報告せよ!!聖騎士団が動いたら即撤退!!戦闘は極力避けるように!!」

「りょ、了解しました!!」
慌ててWIS装置に向かうアリスにむかい、さらに命令を続けるブラッディナイト。
「オークD駐留部隊に連絡!とっととオークヒーロー殿を呼び戻せとな!!
このままプロンテラ騎士団だけに戦線を展開しておっては、我らは壊滅するぞと言ってやれ!!」

「オークD駐留部隊より返信!現在オークヒーロー様へ報告の為、通信兵が前線へ移動中、間もなく繋がる。との事です!!
…あのぉ、ゲフェン隊に連絡はしないのですか?」
そう恐る恐る聞いてくるアリスに、ブラッディナイトが答える。

「ゲフェン隊の背後はゲフェンタワーの魔術師連中のみだ。そいつらの大半はGHに向かうだろう。
強行偵察隊が潜入した後に動き出してもどうにかなる。それにプロ北部隊から連絡もいっておろう。ドラキュラもアホゥではない、どうにかするさ。
問題なのはプロンテラ南に集まる各国軍の動きだ。動かなければならぬ"時"を逃すと、後は我らと騎士団で揃って殲滅されるのみだ」

「りょ、了解しました!!」

WIS装置に向かい、必死で操作しているアリスを視界の端に収めつつ、ブラッディナイトが嘆息と共に呟く。
「幾ら司令官級が同格だと言っても、私より古くから戦っている者に命令など出来るものか…
血の気が多いとはいえ、あまり前線に出られても困るのだよ、ヒーロー殿…」
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超兄貴とレオ=フォン=フリッシュの一騎討ちは、こちらの考えと一緒だったり…
けどとりあえず今日はここまで。
13リレー地下577・皆様のご意見入れてsage :2004/06/14(月) 22:32 ID:TpitmTuE
お久しぶりです
では・・・

------------------------

俺はなにかに貫かれたような刺激を受けて、
いきなり起き上がると・・・そのまま凍り付いてしまった。
丁度100歩先に金色の野郎が黒い空気と共に佇んでいる!、
そしてその間から微かなオーラーが漏れている、
あいつだ、
あいつが大変なことになっている、
だが俺がなにをするまもなく、金髪の男が
さらにオーラーにむかって進んで・・・。

そこでぷっつりと光は失われた。

『け…けがをしているだけに決まっている…かるいけがさ…。』
俺は心の中で必死にそう思い込もうとするが、
奴の向こうに見える白い篭手をはめた手はピクリとも動かず、
水に侵され、白く洗われてゆく・・・。
そして男の声が

「おやおや・・・お目覚めかね、ねぼすけ君。
残念だ、君に見せたかったよ、私の勇姿をね・・・フフフ。」

「・・・く・・・クッ・・・。」

「如何した?見えなかったのがそんなに残念なのかい?
安心しろ、君にも見せてあげよう・・・命と引き換えにな。」

俺は
俺は・・・。
俺は自分の服の前を両手でぎゅっと握り締めると、
これからやることに向けて精神を集中し始めた・・・。

---

俺は自分のこの「仕事着の紫」を着る時、いつも思い出す。

レオ=フォン=フリッシュ
『アサママさん、お宅のアサシンくんは、固定PTをまったく作ろうとしません。
 そう、嫌われているというより、まったく人とうちとけないのです。
 初心者教師としてとても心配です。』

アサママ
『それが…恥ずかしいことですが…親である…わたしにも…なにが原因なのか…』

ノービスの時から思っていた。臨時広場に座っていると、それはたくさんの人と出会う。
しかし、普通の人たちは、一生で真に気持ちが通い合う人が、いったい何人いるのだろうか…?

大聖堂の女プリのともだち欄は、友人の名前でいっぱいだ。
50人ぐらいはいるのだろうか? 100人ぐらいだろうか?

騎士にはペコがいる。ハンターには鷹がいる。
自分はちがう。
ギルドエンブレム背負っている人とか、ひゃっくたんはきっと何百人といるんだろうな。
自分はちがう。

「自分にはきっと一生、誰ひとりとしてあらわれないだろう」
「なぜなら、この「仕事着の紫」が見える仲間はだれもいないのだから…
 見えない人間と真に気持ちが通うはずがない」

オーラ聖騎士や死んでいた踊り手、女クルセの姉ちゃんにブラックスミスの自称弟、震えていたアコに
出会うさっきまではずっとそう思っていた。
目の前で殺されていった奴のことを考えると、背中に鳥肌が立つのはなぜだろう。
それは、目的が一致した初めての仲間だったからだ。後ろに続く者の為にという、この戦い!
数十分の間だったが、気持ちがかよい合っていた仲間だったからだ。

俺は「仕事着の紫」を見て考える!
こいつを昔のように目覚めさせてやろう・・・。
紫の衣は毒の衣、尽きることの無い毒の恐ろしさを奴に味合わせよう、
悪魔にだって効くはずだ、
周囲から絶え間なく浴びせかけられる
「操られるモノ」よる毒のシャワーなら・・・。

---

「いくぞおああああああ!!!」

「フン、雑魚がなにをするというのかね?」

奴の構えに向かって50歩の距離をまで詰め寄ると、
そのまま右回りに回転しながら服の力を解放する、
びちょびちょとたまらなくおぞましい感覚が俺の肌の上をなでまわすが、
こちらは歯をくいしばって奴の周りをくるくる回りながら
蛇のように波打つ「仕事着の紫」に命令を与え・・・。

そして布は一瞬にして、俺だけに見える
蛇のようなケーブルを展開して
ターゲットを囲みに入れた!。

「くらえッ!! 金髪野郎ッ!! 半径20mベノム・スプラッシャをーーーッ!!」

「ヌウッ!?」

何も無い空間から毒が強力な勢いで噴出していくその光景に、
完全に虚をつかれたのか、奴は一歩も動くことなく
毒を全身に浴びていく。
ジュッジュッと響くその音から与えたダメージをはかりながら、
俺はカタールを握りなおして、
奴がその中心から出てきたときに
首を刎ねてやろうと待ち構えていたのだった・・・。
14名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/15(火) 06:19 ID:1m4pjJT6
半径20mキターーーーーーーーー!
15名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/15(火) 23:41 ID:AFA9X80c
リレーは面白いんだが中途半端で切れてる所や難しい伏線とか放置されてる気味なのでその辺りが気になるなぁ。
スレ汚しスマンかった。
16名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/17(木) 12:06 ID:vUbuX2y6
下水小説続きが読みたいです(´・ω・)ノ
17ある鍛冶師の話(3-1)sage :2004/06/17(木) 12:07 ID:vUbuX2y6
 まだ、その熱が離れない。

 触れた瞬間の記憶などは覚えていやしなかった。
 渡されたマインゴーシュはいつもの剣と一緒に腰にさしてはあるが、
 実戦に使うなと言われた手前切れ味を試す機会がない。
 駄目元で銀髪の聖職者である義姉に声をかけたら、彼女は悪びれずに笑顔で、

 「お肉でも切ったら、切れるし焼けるで一石二鳥?」

 要約すればつまり火の魔力をこめてあるのなら、生肉を切ると同時に焼くことが
 できるのではないかと彼女は言っているのである。常に何処か言葉足らずな事を承知し
 ていれば、大体の会話はいつも成り立つ事ができた。

 誰かに編みこんでもらったらしい銀髪にかかる淡い色づいた花びらの輪は、彼女に
 はよく似合っていた。ふいに自らの髪に手をあてながら、僅かにリツカは目を伏せた。

 騎士であることは少女の誇りであった。
 そしてそれは生きる理由でもあった。

 今自分の肩によりかかりながら眠る義姉は、自分にとっての主であり永遠の人だ。
 初めて見たときにそう決めた、ただひとつだけの約束。

 自分は何があってもこの人の傍に居よう、と。


 先の世界大戦において首都に侵攻してきた魔物をねじ伏せた英雄が、彼女達の父であり、
 兄であり、師匠でもあった。金髪の髪に碧眼という絵に書いたような英雄は、それでいて
 飄々としているところがあり、周囲が気づけば何時の間にか彼は英雄になっていたのである。

 とはいえかの騎士は英雄であるという肩書きを好まなかった。
 そのせいか、今ですらあまり首都に居る事が無い。
 自由気侭に生きたいのだそういう、男だった。

 リツカが、イリノイスに会ったのはその大戦のあとだ。

 リツカが記憶を辿る限りでは、自分には家族というものがあったような気はしている。
 優しい声で自分の名前を呼ぶのは、恐らくは母親。
 少しぶっきらぼうに自分の頭を撫でるのは、恐らくは父親。
 けれど思い出す事を拒否するように、それ以上の事はひどい頭痛とともに思い出す事が、
 まるで、できない。

 気が付いたら握っていた刀を杖がわりにしながら、通りを歩いていたら。
 自分よりも少し年齢が上と思われるやたらふわふわとした雰囲気の少女に、
 いきなり声をかけられた。それが今の義姉である。

 彼女の後ろに居た金髪の騎士は連れの少女が声をあげたと同時に、思わず剣をかまえていた。
 それと同時にリツカはただ殺されないがために、杖にしていた刀を振るえる足で地面を踏みしめ、
 その騎士へと向けたのだった。それが気に入った原因だっというから、騎士の頭の中はまるで
 今も理解することができない。

 けれど、途方もなくあの騎士の背中を追いかけるように、自分も騎士になったのは。
 少なからず焦がれる存在なのだろうと、リツカは自分の中で位置付けていた。

 ひどく怯えていた自分を、まるで幼い子を守るように背にかばい立ったのは、
 この銀髪の聖職者である。このこは違うのと言う連れの少女の言葉を聞きながら、
 確か騎士は安堵ともに大笑いしたのだったか。

 初めはただのお節介な女。
 次になんて弱弱しい存在。
 そして、そのくせに何故守ろうとするのか。

 だから、リツカはイリノイスを守ることを決めざるをえなかったのだ。




 「・・・・・あれも戦闘には向かなかったな」

 鍛冶師のことをぼんやりと思い浮かべる。
 全体的にやたらと人のよさそうなイメージは変わらない。
 ただ少し、彼は男であるから、指先の作りも体の大きさも、つまりは性別の差が全てであった。

 思ったより、しっかりしている作りだった。

 そんなことを思いながら、ふいにまたあの鍛冶師のことを考えていることに苦笑いを浮かべた。

18ある鍛冶師の話(3-2)sage :2004/06/17(木) 12:08 ID:vUbuX2y6
 雨上がりの空を見上げるとふいに虹が見えた。
 鍛冶師はぼんやりとそれを見上げながら、手にしている斧を振り上げた。

 先日のモンクギルドでの一件以来、明らかに避けられている自分に鍛冶師は自嘲した。
 そもそも煽ればああやって行動をしてみせるなどとは、皆目検討もつかなかった。

 「・・・・・・あれは可愛かった」

 ぼんやりと言葉を口にしてしまってから、鍛冶師は四百五十六個目の鉄鉱石を拾い上げた。

 途中雨に阻まれながらも、こうして砂漠で緑の影を見つけては必死に殴りつけること数時間。
 カートの中身にあったプロンテラ直輸入の牛乳は、もう大分へり。
 かわりに冷たい色をした鉄鉱石がカートの中で揺られていた。

 考える事がありすぎるときは考えないほうが、かえって楽だったのかもしれない。

 目と閉じればすぐさま浮かぶ赤い色にどうしたらいいのか、いまだに鍛冶師はわからない。
 作ろうとしていた剣と言えば、途中で打つことが怖くなり、
 ようやくできたマインゴーシュですらも実戦に使うには少し不安があった。

 過去の事を気にするほど、足がすくむ。
 指先から冷たくなるように、震えが広がるのだ。

 あの赤は彼女の髪や目の色と少し似ているかもしれない。

 暗殺者の死体は直後アサシンギルドに引き取られたようで、
 あのまま冷たくなっていく彼は今は冷たい土のしただろうか。

 今ですら震えるというのに、彼女のために剣を作るなどと言うのは到底無理そうだ、
 そう思いながらまた斧を振り上げる。

 鈍い音とともに切断された緑の残骸からも、こぼれ出るのは赤い色。

 「・・・・・・ごめんな、せやけどどうしても変わりたいんや」

 同じ色だなと認識しながらも、そうせざるをえなくなる。
 それこそ自分が武器を作るなどと言う行為をやめれば、いいのだろうか。
 そうしたら、俺はあの人を忘れられるだろうか。

 失わずにすむだろうか。

 些細な事だきっと、俺が居なくとも世界は回る。

 たった、それだけのことだった。
 鍛冶師が居なくなろうともあの騎士はかの聖職者のために剣をふるうであろうし、
 武器を手に入れる事もできるだろう。そう考えて、その武器たちに何を思ったのか。

 不思議と震える指先から震えが消える。
 かわりに溢れるものがある。

 作らなくては。
 作るのだ。

 かの騎士にふさわしいものができるまでは、諦めきれない。

 「せやないと絶交らしいしな」

 友人である商人を思い出しては、鍛冶師はまた斧を振り上げた。


 狩が終わりゲッフェンへと戻ってくると、
 緋色の髪の見覚えのある聖職者がこちらに向って手を振った。
 袖口にある赤い月のエンブレムからして、赤月華の人なのだろう。

 「・・・・・・ジェー、ジェニーだっけ?」

 聖職者は悪びれず名前を間違えてみせると、カプラ嬢が差し出すマフラーを首に巻いて、
 軽くカプラ嬢に頭を下げた。大通りを左にいったところにあるカプラ保管所は、
 中央から外れているとは言えまだ人が多い。

 ジェニーだなんて呼ばれた自分の名前に鍛冶師は、やや眉を寄せた。
 
 「ごめんごめん、えーっと」

 「ジェイ、です」

 少し寄せられた眉のまま言う鍛冶師の言葉に、聖職者があぁと相槌をうつ。

 「あたしの名前はわかる?」

 「コーリアさんでしたっけか」

 「そうそう。偉いなぁ、やっぱ商人さん系だと人の名前覚えるの早いのよね」

 感心したようなコーリアの物言いに少し眉を鍛冶師はゆるめる。

 「貴方階級幾つだっけ?」

 「82です」

 「お。あたし78なんだけどさ、それでよければちょっと付き合ってくんない?」

 冒険者の強さの位を述べてみせると、コーリアはなんだか口端をつりあげながら言う。

 「そら折角のゲッフェンだし?ゲフェニアダンジョンに行くに決まってるでしょ」

 わかってないなぁとコーリアが肩をすくめると、
 鍛冶師は僅かに青ざめた。

 「俺、完全製造なんやけど、いけるん・・・・・かな」

 「大丈夫。こちとら神速の退魔師だし」

 神速。
 口にしてから初めて出会ったときの事を鍛冶師は思い出す。
 あの白い羽の魔法は聖職者によるものだった。
 正式に言うと魔法とは部類が違うのであるが、それでも神の力を借りて行う業は、
 どう考えても鍛冶師には未知なるものの部類である。

 「無理せぇへんで居てくれるなら」

 折角の聖職者の誘いである。
 ここで誘いを見逃せば、また暫くソロであることはわかっていた。
 どこまでいけるか不安ではあるものの、鍛冶師の了承の言葉に聖職者は思ったより、
 子供じみた屈託のない笑顔で、

 「オーケィ。さー気合入れていくっわよー!」

 コーリアの振り上げたグーの拳を見つめながら、このひとは殴り向きなんじゃないだろうかと、
 鍛冶師はふと、思った。

19ある鍛冶師の話(3-3)sage :2004/06/17(木) 12:08 ID:vUbuX2y6
 ゲフェニアダンジョンの一階には赤い色の神速といわれる蝿がいる。
 蝿の王もしくは、赤い星のなんたらと物語のそれに例えられては、
 冒険者達に恐れられているその存在。

 一歩踏み出すだけで空気が違うのだ、
 紫色の瘴気のようなまとわりつく空気。

 ここには死者がいる。
 ここには魔物がいる。

 そうして生きとしいけるものに向けられる増悪の感情の渦は、
 冒険者達をさらに奥へと誘い込む。

 とびかってくる赤い蝿にうんざりという表情をみせながら、
 コーリアが聖なる十字架をふりかざす。

 「ホーリーライト!」

 鈍い音ともに落ちた赤い蝿を見つめながら、
 自分が叩くよりもよっぽど強かった威力に少し目線をそらした。

 「ん、どうかした?」

 小首を傾げられて問われると、鍛冶師ジェイは慌てていや、と言葉を濁す。
 まさか攻撃力の違いに項垂れてましたなどとは、口が裂けても言えやしない。
 そこのあたりジェイにも男のプライドとやらはあるようで。

 「・・・・・・・・いや」

 言葉にごす今の狩の相方を見ながら、コーリアは肩をすくめて笑った。
 そんな調子で歩みを進めていくと、どうにか赤い蝿にたかられることもなく、
 なにやら鈍い瘴気をはなつ階段の元へとたどり着く事ができた。

 そのふちから覗く世界は暗い、世界。
 一寸先は闇という言葉はこのために用意されているようであった。

 二階へと下がる階段の手前でコーリアが深呼吸をする。

 先に踏み出したコーリアの後ろでジェイも同じように僅かに息を吸い込む。
 長く息を吐いてからかわりに吸い込んだ空気に混じり、
 暗い不安がこみ上げてくる。
 肺を満たした瘴気が恐らくはそう思わせるのか。

 沈みがちになる意識を古い立たせるように鍛冶師が声をあげる。
 響き渡るジェイの声にコーリアは僅かに肩をびくりとさせる。

 「・・・・・あ、すんません」

 思わず謝るジェイを見ながらコーリアはまた笑みを浮かべる。

 なんだか年上の女性を相手にしているような気分になりながら、
 ジェイは少しくすぐたかった。

 降りていった先で彼らを待ち受けているのは、
 うす暗い世界。

 よく響く蹄の音をたてながら一匹の人面馬が足をとめる。
 こちらに狙いを定めたように視線を馬が向ける、それを見返しながらジェイは斧をぎゅうと
 握り締める。後ろでコーリアが短く何かを唱え始めたのを感じた。

 人面馬がその詠唱に気づきこちらへと駆け出してくるのを睨みつけながら、
 兄の作った水の魔力がこもる斧を思い切り叩きつけると、ジェイの手には鈍い感触が走る。
 びりびりと痺れる様な手のひらに、押し負けないように押し返す。

 「お前の相手は、俺や」

 カートを数歩後ろにひいてから、間をあける。
 せせら笑うようなあがる甲高い馬の嘶き。
 ひくりっとジェイの眉が寄せられると、ジェイは押し返した斧ごと軽く体を低くする。

 「・・・・・・・・!」

 一瞬のつめるような息のあと、人面馬が駆け出してくる。
 ジェイはかけてくる馬の蹄のほんの僅かな合い間を縫って、
 横へと斧を両手で一閃させる。

 紫色の帯を引きながら落ちるのは、人面馬の前右足。
 しめたとばかりに口端をつりあげるのを見て、
 直後その人面馬の表情が苦痛に歪む。

 「さぁ悪夢にもがきなさい」

 後ろから響くいやに邪気をはらんだ声にジェイが振り返る。
 白い天使の羽が魔物の意識を深い眠りへと引きずり込む。
 そんな舞う羽の中でコーリアはそれこそ悪魔のように微笑む。

 この聖職者やはり何か違う、とジェイが思わず眉を寄せると、
 コーリアと目が合った。彼女とは違う淡い赤い目だというのに、
 そこだけは印象が重なった。

 引きずりこまれるような赤い意識は、
 赤月華皆がもつというのか。

 「・・・・・どうか、した?」

 その目に見返されてジェイが僅かに怯んだ。
 慌てて首を横に振れば、コーリアは何も言わずに歩みを進め始めた。


 繰り返し寄って来る魔物たちを白い羽が多い尽くせば、
 そのたびにあの赤いイメージが鍛冶師の意識を取り込もうとする。
 騎士の、イメージだ。

 「あぁ大分奥まで来たみたいね」

 疲れたーと声をあげながらコーリアがカートの横に腰を下ろす。
 どうにか一息つける間があいたところで、ジェイはカートの中身をちらりと確認する。
 残り三割ほどにまで減った牛乳を見つめながら、コーリアとふと視線が合う。

 「そろそろ戻る?」

 そんな問いかけにジェイが頷くと、目の前を蝙蝠の影が覆い尽くす。

 ファミリアだろうかと慌てて斧を振り回せば、
 コーリアの短い悲鳴。

 咄嗟にカートを振り回して視界の蝙蝠をなぎ倒せば、
 目の前にあるのは黒い外套をまとった人影。
 バサバサと舞う回りの蝙蝠を見れば、ジェイは一瞬絶句し。

 「ヴァンパイア!」

 出会うことすら稀な彼らだが、時折こう現れては冒険者を奇襲する。
 度々見つかるグールの群れの中に彼らに殺された冒険者が居るという噂は、
 あながち嘘ではないようだった。

 女性を好んで襲うというヴァンパイアがコーリアの体を後ろから羽交い絞めにしながら、
 鍛冶師ジェイの銀色の目を鈍い目で見返した。
 瘴気をはらんで黒くにごった赤い目は、凄惨な印象を与える。

 「・・・・・・ッ、ジェイ、どうにかして!」

 どうにかと言われても、そう口にしかけてジェイは唇を噛む。
 ここで逃げる訳には、いかない。

 水の匂いをはらみ青く光る斧を見つめながら、ジェイがカートごと斧を叩きつける。
 ヴァンパイアは一瞬怯みコーリアから離れるものの、
 すぐして離れた場所から勢いよくその闇のような外套を広げて、
 彼らの視界を覆い尽くす。

 「・・・・・・応援を呼ぼないとダメかも」

 コーリアの小さな声にジェイが頷きを返す。
 それまでは持ちこたえないと。
 ジェイの決心をした横でコーリアはギルドへの連絡を飛ばそうとする。

 と、そこを狙うように蝙蝠達がコーリアのもとへと集まり始める。
 そして響き渡る馬の嘶き。

 あぁ、まずい。

 数の差どころか力の差でも危ういと言うのに。
 響いてくる馬の蹄の音を聞きながら、ジェイはズボンのポケットから一枚だけの蝶を取り出すと、
 コーリアに握らせようとした。

 「・・・・ちょ、アンタ何考えて」

 コーリアがその蝶を押し返そうと鍛冶師を見返す。
 ジェイはコーリアの先輩にあたるあの聖職者と同じ銀色の目をしながら、
 それよりも幾分強い眼差しで言った。

 「いいから、逃げて」

 その眼差しに何か言おうとコーリアが間をあけると、
 鍛冶師は無理に蝶を握りつぶし。聖職者は慌てて鍛冶師に手を伸ばしたものの、
 それは届くことなく空をかいた。

 再び目を開けたとき、コーリアの目に入ったのは、
 波の音を響かせるアルベルタの港であった。


20ある鍛冶師の話(3-4)sage :2004/06/17(木) 12:09 ID:vUbuX2y6
 「死ぬ気は、ないで?」

 苦く唇をかみ締めながらカートをひきつつ、ジェイは後退する。
 どうにか牛乳がある限りはギリギリ生きてはいけそうだったが、
 それも時間の問題だ。
 人気の居ない場所で息をつこうとしたのが間違いだった。

 まだ他に居れば助けを求めようもあるものの。

 生憎と響くのは己の斧の音のみ。
 僅かに喉を鳴らして腹に無理矢理流し込めば、
 意識だけは保つ事もできる。

 「・・・・・・・ッ、らァ、どけやァ!」

 斧を振り上げて蝙蝠を蹴散らし、ほんの少しの間が開く。
 いまだ、っとばかりにカートごと走り出せば、
 あぁなんたることか、そのカートに鈍い重み。
 ヴァンパイアがカートにへばりつきながらニタ、と白い乱喰歯をのぞかせた。

 背筋からぞわりと広がる感情に、声をあげそうになる。
 カートを引きずることもままならず、ジェイが目を閉じる。

 蝿買っとけばよかった。
 などと灰色の羽を思い浮かべれば。

 「フラストノヴァッ!!」

 いやによく通る声で突然世界が冷たさをなす。

 「セシア、ヒールを彼に!」

 向けられた声にどこかで聞いたような声がはい、っと声をあげる。
 突然軽くなる体に大急ぎで後退すれば、
 かの騎士の焦がれる聖職者に似た、まさに瓜二つの聖職者が、
 ジェイの目の前でにこりと笑みを返した。

 「イリノイス・・・・・さん?」

 問い返した声にセシアと呼ばれた銀髪の聖職者は、
 僅かな間の後声をあげる。

 「イリちゃんを知ってるの!?」

 「セーシーア、話はあとにしてくれィ。
  とにかくこれを片付けねェと今日の飯もくいっぱぐれるぞ」

 べんらべェ口調であんまり切羽詰ってなさそうに無邪気に笑う声がする。
 見れば燃える様な色の赤い髪に片目をかくした魔導師が口端をつりあげているのが見える。
 年端もいかない少年のような赤い唇を見つめてから、ふいにその唇から、
 白い長い牙が伸びるような感覚をジェイは覚えた。

 呼ばれたセシアが魔導師に視線を向けながら、
 言われなくてもわかってると言わんばかりに不貞腐れて魔導師へとヒールをかける。

 「・・・・・・俺の名前はレッド・ビート。こっちの聖職者はセシア。
  赤月華の人だろう、お前ェ。追われてるようだから助太刀したが、
  迷惑だったらすまなんだ」

 そう言いながら魔導師ビートは冷えた空気をなぎ払うような勢いで、
 片手を横へと思い切りふるう。と、同時に汗をじっとりとかくような熱気が辺りを覆えば、
 氷の塊となりもがいていた吸血鬼の姿は見る影もなく炭となっていた。

 「・・・・ざまァねェな」

 消し炭となった地面に残る影を見つめながら、
 ビートがせせら笑うように口をつりあげる。

 「・・・・・・、」

 その横顔をかの聖職者によく似た銀髪の聖職者は、
 何故か途方もなく泣き出しそうな眼差しで見つめていた。


21ある鍛冶師の話sage :2004/06/17(木) 12:11 ID:vUbuX2y6
一つ質問です。
作中ウィザードというのを魔導師とかいてみたのですが、
魔術師のほうがいいんですかね。それと、だとするとマジシャンは、
どう表記すればいいのか。

そんなところで悩んでました(´・ω・)
22ある鍛冶師の話sage :2004/06/17(木) 12:21 ID:vUbuX2y6
そしてゴメンナサイ。べんらべェじゃないですよね、べらんべェ口調。
なんだかご好評はいただいているようで、素で嬉しくて泣きそうでした。
楽しんでくれれば幸いです。|ミ
23名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/17(木) 13:04 ID:.X3HdlQc
いいところに来ました。ワーイワーイ
で、他にも誤字とか、ちょっとしたひっかかり(二重で〜したら とか)がちょみちょみあるので
投下前に一度見直すの推奨。書いたら即投げたくなって書き込んで後悔したこと多数な奴より。
24名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/17(木) 17:29 ID:jCyUKuRE
個人的な意見というか小言を。
下水リレーママプリには適当なところで撤退してもらいたいなぁ・・・
せっかくここまで来たリレーを急に出てきてそのまま決着までつけていきそうな勢いが嫌なんだよね
キャラ特性的に確実に勝つキャラだからそういうキャラに最後の場にはあまり居て欲しくない
膨らみすぎた伏線つぶしくらいでとどまっておいて欲しい

あくまでも小言。聞き流してください
25名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/17(木) 17:34 ID:.X3HdlQc
意見も多いし何書いていいかもわかりません。そんな貴方に
つ 「座談会」
26名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/17(木) 18:05 ID:6h0cSW06
壁|ω・)座談会…行きたいな…いつやるんだろ…。
27保管庫"管理人"sage :2004/06/17(木) 20:49 ID:aMN5VzBM
 半放置の保管庫連絡用掲示板にリレー進行相談用のスレを立てたら利用してもらえるかな?
○○殺していい? とか、ここの伏線はこんな感じで使うよ? とかみたいなことを聞くのに…。
相談なしの出たとこ勝負も好きなんだけど、今はそれでお見合い感が出てるようだから。
>>26
座談会は、日時切って待ってますって書き込んだら2名様来てくれたから、募集しちゃえ…とか。
28名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/17(木) 21:12 ID:8iy9hdpg
>>21
ジ ェ イ 大 好 き (*´Д`)=3
続きを楽しみにしております。

で、MagとWizの表記ですが、ある鍛冶士の話氏の好きでいいと思うのですよ。
作品ごと、作者様ごとに解釈や書き方は違うわけですし。
ポピュラー(?)なところでは魔法士、魔術士、魔導士、辺りではないでしょうか。
個人的なイメージでは魔法士=魔術士<魔導士だったりしますが、あくまで個人的。
29名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/17(木) 21:15 ID:85j5j9wQ
>>21
自分の場合はWiz=魔導師、Magi=魔法士 に当ててますが、
ぶっちゃけ訳語としてはどちらも「魔法使い」なんで、
貴方の望むように定義されればよろしいかと。

あと、「べらんべェ口調」でもなくて「べらんめえ口調」だと思うのですよ (´ω`)
30名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/17(木) 21:28 ID:a1HPnQPk
ままぷり、あきた〜
31どこかの166sage :2004/06/18(金) 02:58 ID:x4rPhqaE
「にゅ?」
 背後から、凄く聞きたくない声が聞こえてきた。
 ここはGH。人と魔族が己の命と名誉と欲望をかける世界の園。
 背後の剣戟も飛び交う大魔法も戦場の嗜み。いつもと変わらない日常。
 それに変化が生じている。
 いや、変化などという生易しいものではあるまい。
 壁の一面が黒い。いや、元々GHは闇なのだが、たとえて言うなら夜出したゴミ袋ぐらいに黒い。
 最近は透明袋が広がっているから古着等は細かく切っておかないとあの二人あたりが漁りに来るので要注意。
 閑話休題したがとりあえずそのゴミ袋みたいなのものを私は思いっきり掴みあげた。
「にゅう〜〜〜〜〜!!」
 じたばたするゴミ袋もどきを掴んだまま、私は日常が変わるうめき声を聞きながらため息をついたのだった。


『しんぶちたん』


「ついてきたら駄目って言っただろう!!」
「にゅ……だって……」
 GH秘密の控え室。見物高い魔族達に囲まれて私はごみ袋に説教をする。
 当然、しゃべるゴミ袋等では無く私の妹だったりする。
 身長など私の1/3しかないくせに私のマントを着て、ぶかぶかの兜をつけて私の後をつけてきたという訳だ。
 そりゃ、ゴミ袋にしか見えない。
「いい?私は遊びでここに来ているんじゃないの。
 お仕事でここに来ているんだから、ついてきちゃ駄目って言ったでしょ!」
「やだやだやだぁ!わたしもおねーちゃんと一緒にお仕事をするもん!」
「馬だって乗れないくせに!剣も持てないでしょ!」
「馬だって乗れるようになるもん!剣だって持てるもん!!」
 そう言って私が持っていた剣を持とうとして……そのまま固まる妹。重くて持ち上げられないのだ。
「もてるもん……もてるんだもん……」
 気まずい空気の中、第三者のまったく空気の読めない声が響く。
「おおっ!剣のっ!これが騎士殿の妹者かっ!」
「そうみたいだな弓の。見よ!全身から萌えがみなぎっているぞっ!!」
「そのまま萌え尽きてしまえっ!!」
 とりあえず、剣と弓の二人をBdsで沈めておく。
 どくじゃからんと音を立てて床に骨を散乱させる二人。これぐらいでやつらが消えるとは思っていないし、いや、消えてくれたら私としてもかなりうれしいのだが。
「どうした!警備が手薄になって……」
 と入ってきて怒鳴りつけようとして、妹を見て途端に好々爺の顔を見せるカーリッツ老。いかん。老人はとにかく子供に弱い。
「おじいちゃん……持てないの……」
「よしよし。わしが手を貸してやろうかのぉ。たしか人間どもが落とした『ひとくちケーキ』が……」
「カーリッツ老!警備の件で来たんでしょう!!」
「あ、構わん構わん。どうせ人間どももここを落としに来ている訳ではないのだから少しばかり休憩してもよいじゃろう」
「そんないいかげんな……」
「あぁぁぁぁぁっ!!深淵様の妹様ぁぁぁ!!」
 ずさぁぁぁぁ!!とドムなみの床走行で休憩室に現れた「GHの夢見るメイド」もとい「GHのアイドル」アリス。
 なぜか知らないが、最近なつかれて困る。
「すっごい可愛いですぅ♪ああ、深淵さまの面影がこのっていますね」
 私の苦渋に満ちた顔を見た妹はにこりと微笑む。
 やばい。あの笑みは悪戯を考えたときの笑みだ。
「みなさまこんにちわぁ。しんえんのきしのいもうとですぅ。
 きょうはおねーちゃんのおしごとをけんがくしたいとおもいやってきましたぁ♪
 よろしくおねがいしますぅ」
 ぺこりと皆に頭を下げる妹。勝負はついた。
 かくして今日一日、私は妹の面倒を見ることになった。
32どこかの166sage :2004/06/18(金) 03:02 ID:x4rPhqaE
 流石にGH最前線は危険という事で今日の私は枝勤務という事になった。
 要するに人間どもが使う枝に呼ばれる為の待機役だ。
 まぁ、枝で呼ばれるのはランダムなのではやい話待機という事だ。
 何故かというか、当然と言うか剣・弓二人とアリス、カーリッツ老もついてきてのGH外壁散歩という事となった。
「にゅう♪お馬さんだぁ」
「気をつけろよ。こいつは時々後ろにいるやつを蹴るからな」
 私の言葉に何故かひそひそくすくす笑う同僚達。
「な・に・をはなしているのですか?」(にこり)
「いいえ何も」(×4)
 仲良く首を振る四人。まるで申し合わせたかのような動きで凄く不愉快だ。
「ほら。私の背中に掴まれ」
「はぁい」
 よいしょと妹が私の背中に捕まる。
「おうまさん。おうまさん。わーい♪」
「はしゃぐんじゃない!馬が驚くっ!」
 照れ隠しの為、大声で叫びながらすごくゆっくりと私は馬を前に進めた。
 かっぽかっぽと闇の中、私達6人の珍道中が続く。
 揺られてはしゃぐ妹。
 その姿に萌え転がる剣と弓。
 ひそひそ話しながらくすくす笑う、アリスとカーリッツ老。
 顔は不機嫌だけど、心のどこかで「悪くないかも」と思う私。
 だが、そんな散歩も不意に打ち切られる事になる。

「ほう。こんな所にも魔物が沸くか」
 目の前に不意に現れたのはベコに乗った人間の騎士。テレポートで跳んだ所に私達がいたという事だろう。
 私達を見てベコを突進させる。
「剣の」
「弓の。分かっている援護を」
「お下がりください。ここは防ぎます」
「深淵さま。お引きください!」
 皆が私の前に立ちはだかり私を守ろうとする。
 私も手綱を引っ張って後方に下がろうとした。
「にゅうっ!」
 それを拒否したのはぎゅっと背中にしがみつく妹。
 背中越しに震えながら一生懸命恐怖と戦いながら妹は私にだけその決意を告げた。
「だめ。いっしょにたたかうの」
 騎士は敵に背中を見せてはいけない。
 守るものを守るために戦うこそ私は騎士なのだから。
「しっかりつかまっていろ!」
「にゅう!」
 私は馬を駆ける。前に。

「来いっ!深淵の騎士よっ!」
「どけぇぇぇぇぇぇえ!!!」

 互いにすれ違いに一閃。
 倒れたのは人間の騎士だった。
33どこかの166sage :2004/06/18(金) 03:05 ID:x4rPhqaE
「眠ったか?」
「ええ。ぐっすりと。泣きつかれたのでしょう」
 休憩室から出てきたアリスは私に微笑む。
 あの後恐くなった妹が急に泣き出し、みなであやすのに一苦労だったのだ。
 いずれ、妹も私みたいに血で汚れる事になるのだろう。
 分かってくれるのだろうか?
 私の返り血はこのGHを守るためという事を。
 このGHの皆を守るためという事を。
「分かってくれるじゃろう」
 心配してアリスと共に妹をあやしていたカーリッツ老が私の心を読んで笑った。
「幼くとも騎士は騎士じゃ。
 何より、彼女は逃げなかった。
 お主と同じぐらい、よい騎士になるじゃろうよ」
 そう言って寂しそうに笑うカーリッツ老。
 皆、言わない事がある。
 そう。妹は戦う定めにある。この人と魔族が争うかぎり。
 それは定められた運命。
「できれば……」
 ぽつりと出た言葉を飲み込む。言わなくてもこの二人には伝わっただろうから。
「おおっ!騎士殿の妹者の寝顔げっと」
「ライドワード製パソコンに保管とは流石だな!剣の!」
「何を保存しているかぁぁぁぁぁ!!!」
 とりあえず、剣と弓の二人をBdsで沈めておく。


(できれば……妹が騎士となった時には、戦う事無いように……)
 その私の願いを知る事無く、妹はすやすやと眠りについていた。
34どこかの166sage :2004/06/18(金) 03:19 ID:x4rPhqaE
【GH】深淵の騎士子たんに萌えるスレ【騎士団】 で今話題のしんぷちたんを早速ネタに使ってみました(ごめんなさいっ)。
そのスレはこちら

ttp://www25.big.or.jp/~wolfy/test/read.cgi/livero/1078220631/l50

リレーの方ですが、当初から魔族のプラグとしての参加なのでママプリはあくまで脇役です。
リレー地上は合戦模様で時間が進めやすいので地下の進捗状況を見てプラグを消すため少しずつ投下する事にします。

ところで地下編の作者皆様に質問。
地下編の主軸キャラは誰を想定しているのですか?
私は学者先生に色々説明してもらおうと彼に情報が集まるように仕向けたのですが。
35名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/18(金) 10:40 ID:Uc.EYF56
>31
ほのぼのいいですね。
ゴキの話もですが、あなたのほのぼのは好きです。
ついでにゑロはもっと好

          ⌒ ヽ、     wWw
         / fノノリハ)) ─ ;,(   )
         f || ゚ -゚ノ| ,,-   ;;'フ  )
         | (|]-†',,, =.. ─;,, ノ ノ
         リノ/);;::::::|    ̄ -,,;'(  )
         //|.:.::::i  ガスベスゴキャ
         ';'ノ''::::''
(バフォ帽は私の技量不足により断念)


           л
     <||   / ̄ ∈
     /__ヽ   || ̄    166者、最初がしん「ぶ」ちになっておるぞ。
     | | ||  /    |⌒ i
   /|   |\     | |
   /    < ̄ ̄ ̄ ̄/| |
 __(__ニつ< ライドワード/__| |____
     \<____/ (u ⊃
3693@NGワード用sage :2004/06/18(金) 10:42 ID:8YoMileU
おはようございます
さっそくしんぷちたんが…(笑

で、リレーですが、ママプリが活躍しすぎなのは私も思ったので、ちっと隔離部屋に引っ張らせていただきました。
地上で魔族を止めて、地下の学者先生からの情報を流してを一人でやっちゃいそうな勢いに見えたので…。
(違ったらゴメンナサイ

多分、地下の学者先生から情報ゲットは魔族侵入部隊の仕事じゃないかなぁ、とか。それがないと、ただ突っ込んで
戦うだけのキャラになりそうだし。バフォ様と語るのもクレセントサイダーもちのハンスくんあたりがやりたいんじゃ
ないのかなぁ? とか。
ママプリはなんでもできそうな人だからこそ、落穂拾いでよいんじゃないかなー、思ってます。斯く言う私はママプリ
好きですよ?
37名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/19(土) 15:50 ID:bfPKYAt2
電波受信したので初投下(*ノノ)

1/3

「俺、しばらく旅に出ることになったわ」
ぼんやりとした月が空に昇った頃、工房で彼がそう切り出したとき、私は何も訊かなかった。
紺色に染まりはじめたプロンテラの街では、明日、新世界に移住する者達を送り出す宴の音が
あちらこちらから響いていた。

「そう」
私は彼には目を向けず、熱い鋼鉄の塊を打ちながら心の奥底に湧き上がってくる想いを抑え込んだ。
「出発は今夜なんだ。急な依頼でさぁ、プリーストが足りないんだとよ」
まったく、もっと早くに言えよなとぼやきながら、彼は私の傍までやってきて耳元で囁いた。
「多分、ひと月位で戻れるよ。山ほど土産持って帰ってくるからさ、楽しみにしてろよ、な?」
「アルフ…近づくと火傷するわよ」

――嘘が巧いわね。
でも私は知っているの、貴方がもう戻らないことを。
いつまでも私の隣にいさせてくれと言ったのは貴方だったのに。
その言葉を信じていたのに。
でも、言わない。言ったら私の負けだ。
脳裏に、昼間見た、流れるような金髪を持つ蠱惑的な魔法使いの姿が浮かぶ。
移住希望者の受付所で、貴方と腕を組み『私と一緒に行くのよね』と笑っていた、あのひと。
唇をかみ締めて、ハンマーを振り下ろす。熱い火花が幾筋も弾けて散る。
胸が痛い。心が何かに?まれているよう。
苦しい。息が出来ないくらい。

「…もう時間がないな」
ちらりと棚の上においてある小さな置時計を見て、彼は私の頬に手をやり自分の方に向けた。
大きい温かい手。いつも私を護ってくれた手。顔が上に向けられる。
金敷に置かれた打ちかけの鋼鉄がジジッと音を立てた。ハンマーがごとり、と床に落ちる。

口付けは、いつもより少し、長かった。

「行ってくる。体に気をつけろよ」
吟遊詩人の歌う別れを惜しむ唄が、風に乗って開いた窓から流れてくる。
揺らめくカンテラの明かりが、彼の蒼い瞳と銀の髪をオレンジ色に染めていた。
――いや…嫌…!行かないで…!私の傍にいて…!!
「いってらっしゃい。気をつけて」
転移の聖句を唱えると、彼は軽く私に手を上げて光の環の中に入った。
その姿に、にっこりと微笑みかけて、手を胸元で振る。――いつものように。

彼が、姿の消える前に私の名を呼んだ、気がした。
3837続きsage :2004/06/19(土) 15:57 ID:bfPKYAt2
2/3

不思議と、涙は出なかった。こんなに苦しいのに。こんなに胸が痛いのに。
私はのろのろと、床に落ちたハンマーを拾い上げて金敷の上をぼんやりと見る。
聖職者のための、ソードメイス。

何かが、私を動かした。
ハンマーを握り直し、ペンチで打ちかけのそれを?み、燃えたぎる炉の中に入れる。
ほの赤く熱せられたソードメイスには星の欠片を2個仕込んである。
ハンマーを振り下ろすたびに、火花が、白く明るく散る。汗が頬を伝う。
慎重に、優しく、刃を打ち上げ、何度も炉に入れ、作業を繰り返す。
さらに、炎の心と呼ばれる鉱石をソードメイスに仕込む。
火の属性を持つハートの形をしたその石は、奥底に燃える炎をちらちらと揺らめかせた。

これは私の心。貴方に捧げた私の全て。

窓を閉め、カンテラの明かりを消す。工房の中に明るく炉の姿が浮かび上がった。
息を深く吸い込み、炉に再びソードメイスをくぐらせる。
炉の赤。星の煌き。炎の心の紅。全てが混じり合い、熔けて、あかく輝く。
――まだだ…もう少し…3…2…1…!
手を素早く引き上げ、足元に置いてある水桶に一気に突っ込む。


――口では上手く言えないから。
私はこれでしか、語れないから。
声にならない言葉。
私の想い。
この一本に全てを込めて――。


「…出来た…」
濛々と上がる蒸気の中に混じる、炎の息吹。
柄には武器の強さを示す星が二つ輝き、その刃には炎が宿る。
炉の明かりに照らされたそれは、息を呑むほど美しかった。

見つめる目に涙が溢れた。喉が震え、嗚咽が漏れる。
まだ熱いそれを両手で握り締めたまま、私は声を上げて泣いた――。
3937続きその2sage :2004/06/19(土) 16:08 ID:bfPKYAt2
3/3

「――今もそれは工房の片隅に眠っている。もう二度と戻らない恋の墓標として――と。あっあっあっ!なにすんのよっ!」
机に向かってペンを走らせていた私の手から、紙が抜き取られた。
「何が恋の墓標だー?なんだこれ?」
傍らには銀髪のプリーストが立っていた。いつのまに工房へ入り込んだのか、私の傑作を取り上げて読み始める。
「ちょっとアルフ、見ないでよっ!」
私は必死になって紙を取り返そうとするが、奴のほうが女の私よりも背が高い。
アコライトの時には私より低かったくせに、いつの間にか無駄にデカくなって、頭半分ぐらい抜かれている。
手を伸ばしてもひらひらと頭上でかわされてしまって、取り返すことが出来ない。悔しいったらない。
「かーえーしーてったらっ!」
おまけにひとの頭を押さえ付けて、じたばたする私を尻目に奴は勝手に読み始めてるし!
「うはははは!なんだよ!?この、こっぱずかしい話は!?つーかナンカお前別人だぞ!?」
読み終わったらしいプリーストが遠慮なく笑い声を上げる。
ああ、もう!だから見られたくなかったのに!鍵をかけときゃよかった…。と、後悔するも後の祭り。
頭上の手をかい潜り、まず奴の顔に拳骨を一発喰らわせて、私は棚に手を伸ばして時計の脇に置いてあった
『Kapla2004 5月号』をポンッと机の上に、放り投げた。

―― 貴女の切ない体験談大募集!『涙の失恋物語』採用者にはなんと100kゼニーが!――

大体、あの時はお前が勝手に勘違いしてだなぁ…とか何とかごにょごにょ言いながら、
見開き2ページにわたる広告の大文字を見て、鼻血を垂らしたプリーストの蒼い目が呆れたように私を見た。
その隙に、私は奴の手から素早く原稿をひったくって取り戻した。
「嘘は書いていないもの。コレは絶対、採用間違いなしよ!失恋してないけど実体験だし!100kゼニーは私のものよー♪」
「…さてはお前、また製造失敗したな?あれほど俺がいないときにはやるなと言ってあるのに?」
詰め寄られて、私は視線をはずし、後ずさった。
ふっ…さすが我が相方、アルフレッド。その洞察力は侮れないわね。しかし、まだ甘い。
「今度は何を壊し…って…お前に預けといた、お、おお、俺の+6火ソドメはどうしたっ!?」
「いや、あのー、オリデオコンが余ったからね…えーっと…こ、怖いよ?その顔…」
アルフは鼻から火を吹きそうな勢いで、私の肩を?み、ガクガクと揺さぶりながら、片手で部屋の片隅を指した。
「そこにある強い火ソドメをよこせ、カーラ!!使いもしねぇ、売りもしねぇ…新品だろ?!俺によこせ!」
「あ、それだめ。あんたが浮気したらそれで殴るつもりなの」
「なんだそりゃあああ!よこせ!よーこーせーっ!!」
「だぁーめ☆」

街の喧騒が遠く聞こえる、プロンテラの昼下がり。
窓辺に差し込む陽光が、壁に掛けられ、美しく磨き上げられたソードメイスを照らした――。


                                            ― happy end?


なにか最初のほう文字化けしてますね・゚・(ノД`)・゚・
>なにかに?まれるよう→なにかに掴まれるよう です

お見苦しかったら読み飛ばしてください
壁|ω・`)ノ
40名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/19(土) 18:29 ID:2lu7ReTg
37>すごい好きです。オチもよかったですよ!この二人の別の話も読んでみたいヽ(`Д´)ノ
41名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/19(土) 18:57 ID:9WJmpdGE
>>37
1/3から2/3の(´・ω・`)な雰囲気から一転、
3/3(特にKapla2004 5月号以降のやり取り)にやられました。
小粒(文章量的に、ですよ。内容的に、ではありません)ながら場面展開が巧いなあ、と。
リレーSSがハードでシリアスなため、
こーゆー日常のひとコマ的なほのぼのするお話を読むと和みますね。
読後の清涼感とでもいうのでしょうか、雰囲気が秀逸でありました。
ごちそうさまでしたー。
42丸いぼうしsage :2004/06/20(日) 02:50 ID:sYMwVP/g
--魔法論 第一講

ずるる、ずびー

鼻をすする音が一際高く階段教室に響いた。隣で本を開いていた女魔導師はあからさまに不快な顔をした。
三割ぐらいしか人の入っていないがら空きの教室。その全員からの非難の視線を一身に受けても、
壇上の賢者は表情を変えなかった。鼻の頭は赤く腫れ上がり、まぶたも腫れて眼は人相の悪い三白眼…
もとい充血して三赤眼。この人こそがプロンテラ大学にその人あり、と言われた魔法物理学の権威
であろうとは、誰も思うまい。

「えー、僕が一年次の魔法論を担当する…」

鼻声でそう言いかけた彼の鼻から、たらり、と鼻水が垂れた

ずびび

「失敬。僕が魔法論担当のシーゲル・ノースウッドだ。あー、花粉症は辛い…」

ずるる

十秒前後の間隔で、彼は定期的に鼻をすすった。話は中断されるし、鼻声は通りにくい。
開始一分、彼が常春気候と花粉症との関連性について言及する間に、聴衆の5%が夢魔とお友達に
なっていた。

耐えかねたのか、彼はこめかみに手を当て、Whisの構えをした。

「アローアロー、学務部ですか?ちり紙と目薬下さい。オーバー。」

言い終わると同時に、彼の頭上遙か上、教室の天井に二重の円が描かれ始めた。
ルーン文字に彩られ、緑に赤に点滅する円は、空間制御の魔法陣だ。

二重の円がぴったり重なると、ちり紙の束が、どさり、と教壇上に落ちた。教壇上、彼の頭の上に。
教室中を笑いが包み込んだ。彼はちり紙を教壇の横に置くと、一枚を手に取った。
 構えたところに、忘れたように目薬が降ってきた。コツン、と硬質な音を立てて目薬は彼の頭蓋骨
に当たった。
 この狙ったようなタイミング、教室内に広まった笑いはおさまらなかった。だが、意に介せず
彼はちり紙を鼻にあてた。

ズビー

用済みになったちり紙を横に置いて点眼をすませ、彼は一時だけのよく通る声で言い放った。

「そろそろ私語の時間は終わりにしよう。」

水を打ったように、という比喩が適切だろう。放射状に配置された階段教室の座席。
そこに同心円状に沈黙が伝播していく。ものの数秒で、あれほど蔓延していた笑い声はぴたりと
止まってしまった。
43丸いぼうしsage :2004/06/20(日) 02:51 ID:sYMwVP/g
「第一回の今日は、魔法の定義について話そうと思う。まぁ、君らは魔法学校出の
人間だろうから知っているだろうけれど、これからここで四年間…あるいはそれ以上、
魔法を学んでいくとしたら、その定義は出来るだけ共通したものでなくちゃならない。
異なった定義は議論に齟齬を起こす。そんなことで時間を食っていては、進む研究も
進まなくなってしまう」

途中から、もう鼻声に戻っていた。彼は二枚目のちり紙を使うと、それを一枚目の隣に置いた。

「では、魔法とは何か。これは非常に根元的な問いだ。時代によってその定義は二転三転しているし、
今でも一つにとどまっているかどうかはアヤシイものだ。でも、僕らの視点としては
『とりあえずこれが正しそうで、これといって間違いもない』のなら、それが真理になる。
だから、現在これが正しそう、とされている説について言及すると、
魔法とは『意思世界と現実世界の間で起きる界面現象』ということになる。」

彼は、白墨を手に取ると、慣れた手つきで黒板に大きく「意思世界と現実世界の間で起きる界面現象」
と書いた。そして、「意思世界」「現実世界」「起きる」「界面現象」の四つのワードにアンダーラインを引いた。

「さて、用語の解説と行こう。まず意思世界。これは誰もが内面に持っているともされるし、客観的存在
として独立に存在するともされるものだ。意思世界の持つこの性質を『意思世界の二重性』と言う。
 意思世界はこの世界に対し、平行している。何次元のレベルで平行なのかは、まだ分かっていないけど、
六次元以上であることは確実だね。
 で、この中では、君らの考えたことは、現実としてヴィジョンを持ちうる。ドーナツ食べたいと思えば
君の眼前にドーナツが出現するし、何かを燃やしたいと思えば、炎が立ち上る。
 でも、重要なのは、平行していると言うことだ。平行していると言うことは交わらない。だから、
僕が今ここでドーナツが食べたいと思っても、ドーナツは出てこない。」

彼は「意思世界」と書かれた文字の下に「二重性-duality」と書き、三枚目のちり紙をつかった。

「二重性についてもう少し詳しく行こう。現在主流とされている学説では、意思世界は客観的に存在するんだ。
これは少し難しい話になるけれど、世界はものすごくたくさんの分岐の上に成り立っている。君らも考え
てみたまえ。数秒で、あのときああしていれば、というifがいくつもいくつも列挙されるだろう?。
そして、細かく細かく物事を見ていけば、どんな状況だって分岐しだいで起こりうる。もし、そのifの世界が
僕らと並列に存在するとしたら…それは、もう、星の数だけあって、そのうちには君の想像したifの世界だって
あるだろうね。つまりそれが君の『意思世界』…と言う論法なんだ。これが『客観的存在性』。
 だけれども、反面、君が想像しなければ、その世界は誰にも知覚されたり干渉されることなく消えていく。
だから、意思世界は、君の意思に依存しているとも言えるわけで、これが『主観的存在性』になる。」

なんだか難解な話になってきた。隣の女魔導師は一生懸命にノートをとっているが…眉間に皺が寄っている。
見回してみると、腕を組んで悩んでいるもの、かぶりをふるもの、寝ているもの、みんなそれぞれだ。

「次に現実世界を説明しよう…って、説明するまでもないか。僕らが生きてるこの世界だ。どういう世界かは
認識で変わってくるだろうけれど…多分みんな同じ現実を生きてるはずだ。僕らが殴ったり蹴ったり喋ったりで
物理的に干渉できるこの世界さ。

 これで、半分説明が終わったね。次は『起きる』についてだが、君らのうち六割以上が、なんでこんな所に
傍線を引くのかと怪訝に思っているはずだ。そう思った六割以上は、僕の説明を聞いてほしい。残りの四割未満
は優秀だから、僕はその人達に期待してる。
 傍線を引いた理由は、自動詞と他動詞の問題だよ。僕らが日常行使する『魔法』は、どちらかというと
界面現象を『起こす』ものなんだ。反して、神聖魔法や一部の魔法の類は界面現象が『起きる』んだ。
 僕ら魔法畑の人間は直接起こすことが可能な界面現象を『魔術』、間接的に起こすタイプの界面現象を
『奇跡』なーんて呼んでる。もっとも、日常的な神聖魔法を『奇跡』なんて呼称するのは聖職者を増長させる
だけだと思うんだがね。」
44丸いぼうしsage :2004/06/20(日) 02:53 ID:sYMwVP/g
こんなこと、町中で口走ったら血相を変えた聖職者や騎士がダース単位で押しかけてくるだろう。
押しかけてきたのが前者なら数時間にわたって説教され、後者なら数時間にわたってボコボコにされるだろう。
でも、ここはプロンテラ大学。トリスタン三世の庇護の元、自治が与えられたここには、言論の自由がある。
だから、みんなフフフ、と小さく笑っているのだ。

何枚目かのちり紙を屑に変え、壇上の賢者は時計を見やった。

「ん、最後まで話せそうだ。それでは最後。今日のメイン、界面現象についてだ。
 今までの話で、現実世界と意思世界が平行にあることは分かったと思う。魔法というのは簡単に言えば、
その二つの世界を重ねてしまうことなんだ。紙を二枚重ねると、ほら、面と面がくっつくだろう?」

彼は二枚のちり紙を目の前で重ねてみせた。

「もし、世界と世界がくっつけば、くっついたところが干渉する。例えば、向こうの意思世界で炎が燃えていれば、
こっちの世界でも炎が燃える。これが、意思世界の投影。だから、魔法は僕らの意思を具現化できるのさ。

 ところが…制約もなく世界と世界がくっついてしまったら、それは大変なことになる。みんながドーナツ食べたい
と思ったら、街がドーナツであふれてドーナツ屋が失業してしまう…っと、これは巫山戯た例えだけどね。
 まぁ実際、世界というのはよくできたもので、そうはならない。それは、界面現象に制約条件があるからだ。
その制約条件は広さ、距離、時間の三つだ。」

彼は、三つのワードを板書した。

「まず、広さからだ。こうして僕は二枚のちり紙をくっつけているわけだけど、全面がくっついてる訳じゃない。
くっついてるところとくっついていないところとがある。全面くっつけようとすると、凄く骨が折れる。
 魔法も同じ。広範囲で世界を重ね合わせようとすると、莫大な力が必要になる。魔法というのは
意思世界と現実世界をある次元軸に沿ってひん曲げることで重ね合わせるわけだから、広い範囲を
くっつけようとするなら、それに必要な力が増えるのは当たり前だ。
これが広さの制約。

 次に距離。一般的に、現実離れしたものすごい妄想ってのは、意思世界にあっても、現実世界とその意思世界
との距離が大きいんだ。距離が大きいものをくっつけようとしたら、そのひずみは自然と大きくなり、ひずみを
発生させるのに必要な力は大きくなる。だから、魔法というのは現実に近ければ近いほど、少ない力で実行できる。
これが、距離の制約。

 最後に時間。さて、二枚のちり紙をくっつけている手がそろそろしびれてきた。これだよ。長い間
ひずませておくのは凄く大変だ。だから、長時間現象を起こそうとすれば、力もまた大きくなる。
そうして、維持する力が切れると、こうして世界は離れて元に戻る。だから、魔法で生み出された
火は消え、ドーナツは味わうまもなく消える。
これが、時間の制約。」

彼は、二枚のちり紙を机の上に戻した。

「こうやって、界面現象に時間の制約があるからこそ、僕らは後腐れなく魔法が使えるってこと。
これで、制約の三条件の話は終わり。いったい何の役に立つのか…と思うかもしれないけれど、
これは重要だ。さっきも言った、世界のひずみを維持する力…これは実は魔法力と言ってしまうわけだけれど、
魔法力は発動した魔法の距離・時間・広さに従って大きくなる。

 距離の制約の例を挙げるならば、ボルト魔法の矢の数だね。一本作るよりも九本作るほうが非現実的だから、
たくさん矢を作れば作るほど魔法力は必要になる。
 広さの制約の例は、大魔法。大魔法は広範囲を書き換えるから、魔法力がかなり必要だ。
 時間の制約の例はファイアウォールが適当だね。狭い範囲の簡単な制御だけれど、あれだけの時間
持続させるとなると、結構な魔法力を食うものだよ。」
45丸いぼうしsage :2004/06/20(日) 02:53 ID:sYMwVP/g
彼は二枚のちり紙をもう一度重ねると、それで鼻をかんだ。時計の針は、講義終了の時刻を指していた。

「おや、もうオシマイの時間か。それじゃ、今日のまとめだ。今日の内容は魔法の定義。
『魔法とは意思世界と現実世界の間で起きる界面現象である』だ。
意思世界の二重性はさておき制約の三条件はこれからもよく使うから、覚えておくように。
 次回は、どうやって界面現象を起こすことが出来るのか、という魔法の発生過程についての話を
する予定だ。それじゃ、おつかれさま。」

彼はぺこり、と頭を下げた。彼がパチン、と指を鳴らすと机の上にあった使用済みちり紙は紫色の炎を上げて燃え、
跡形もなくなってしまった。そして、黒板消しが自動で動き出し、丁寧な往復運動で黒板に書かれた文字を
消去していく。教室の後ろのドアからは、多数の学生がぞろぞろと出て行った。がやがやと喋っているが、
お昼時な事もあってか、出てくるのは食べ物の話題ばかりだ。隣にいた女魔導師も、ノートを
チャッチャと片づけて、早々に出て行ってしまった。教室に残っている人間が十人ちょっとになったとき、
僕は気づいた。


ノート、とってなかった。
46丸いぼうしsage :2004/06/20(日) 03:09 ID:sYMwVP/g
どうも私の世界観はファンタジーからずれてしまうし、何よりキャラクターの
かき分けが微妙なので、登場人物を絞ってプロットも決めて書いた方が
いいようです。

 魔法がこの世界にあったら、どんな風な論理で扱われるのか…
というのがここ半年ほどマイブームになってます。
現代&未来もので、魔法を扱った作品を買ってきては読んでいますが
空の境界とウィザーズブレインは面白かったです。

そのうち、金枝篇とかに走りそうですが、学がないのできっと読めないん
じゃないかと思います。
4737sage :2004/06/20(日) 13:17 ID:QeYvEElo
おはようございます。
一晩明け、投下した文を眺めて再びミス発見しました・゚・(ノД`)・゚・

3/3 10行目 奴は勝手に読み始めている→奴は読み続けている に脳内変換お願いします。うぅ。
もうひとつ、【掴む】 を旧字で打ってしまった為、3箇所ほど【?】で表示されています。読みにくくてスイマセン…orz

>>40さま この話を好きと言ってくださってありがとうございます(*ノノ)
      一応これで完結していますが、電波が来たらまた書くやも知れません
>>41さま この拙い文章にそのお言葉、嬉しくて言葉もありません。
      小説というもの自体初挑戦でしたので、かなり勇気付けられました。ありがとうございます。

他の文神さま方に触発されて書いてはみたものの、流れを無視しての投下。気になりましたら申し訳ありません。
リレー小説楽しみにしています〜(^o^)ノシ
48名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/20(日) 18:38 ID:BFshZBp2
触発され触発して、いいものを沢山書ければそれほどいい板はないですな!
鍛冶師と聖職者の話に萌え殺されました。
週末ですので特攻しますヽ(`Д´)ノ
49ある鍛冶師の話4-1sage :2004/06/20(日) 18:40 ID:BFshZBp2
 赤い鼓動という名の魔導師は、少し目を細めたあとすぐに声を上げて大笑いした。
 セシアという名前の聖職者は人助けをしようとする度にこの、レッド・ビートに毎回
 先走るなと小言を食らう。

 今回のことにしてもそれは同じだった。

 とはいえ幸運な事にこの鍛冶師が件の鍛冶師であることのほうに意識のいっているビートは、
 セシアがまた先走って人助けをしたことには小言を言う風はなかった。

 「・・・・はっはー、リツカがなァ」

 目を細める魔導師の目は暗い闇の色を秘めている。
 ゲッフェンダンジョンで感じた彼の唇から牙が生えていそうな雰囲気は、
 こうして鍛冶師が手当てもかねて連れて来られた宿の一室ですらも変わりそうはしない。

 パーティ会話の機能を使ってコーリアと連絡をとろうとしたものの、
 どうにも磁場が悪いようでうまく機能はしてくれないようだった。

 「お前ェ、あいつ好きになるのはいいが恐らく苦労するぞ」

 今だって相当苦労はしていると言いかけた台詞を飲み込んで、
 鍛冶師ジェイは魔導師を黙って見返した。

 二人部屋でとってあるベットの一つに腰をおろしながら、目の前で得意でない斧を振り回した
 両手にセシアのヒールが温かく触れる。淡い光に視線を落とすと、セシアが少し笑ったように
 見えた。

 「リツカさんってイリちゃんの事しか見えてなかったからね」

 昔から、と言うセシアが青い目をジェイに向ける。
 あぁ、これが違うとジェイが認識してみれば、確かにこの聖職者とかの聖職者では、
 なるほど目の色が違っていた。

 それでも印象ですらも似通う二人を双子だろうかとジェイが思えば、
 ビートはのんびりと部屋の中央にある机の横で椅子にゆるり腰かけながら、
 午後のお茶を楽しんでいる。

 「ビート」

 セシアの呼ぶ声にビートは黒い目を前髪からちらりとこちらへ向ける。
 ほんの僅かな視線があう合い間に、一瞬セシアが何かを言いかけるのだが。
 ビートは苦笑いのような笑みで眉を下げると、お茶が美味しいと笑った。

 何か含まれる二人のやり取りを見ながら、ジェイは随分とやわらいだ手の痛みに握ったり
 開いたりを繰り返してみる。

 「ジェイさん、手のほうはそこまで酷くはないけど。
  思ったより体酷使してるみたいだから、きをつけてあげてね?
  自己管理できない鍛冶師は、いい鍛冶師にはなれませんから」

 お終いそう言われて離れていく手のひらから、淡い光が消えていく。
 どうやら完全支援型らしい彼女の癒しの能力は、半端ではなかったようだ。
 軋む様な気配もなく動く手のひらに、安堵したようにセシアが言葉を続ける。

 「私とイリちゃんは、同じジュノーの出身だから。
  正確に言うとルティエなんだけど」

 雪景色になら尚、映えるであろう銀色はここでもその色を失わない。
 冬ならば景色に溶け込みそうな、そういうはかなさを二人は持ち合わせているように、
 ジェイには思えた。

 「随分前だけど。世界大戦があったでしょう、ベータと呼ばれるあれのおかげで、
  私もイリちゃんも両親を失っていく当てがなかったの」

 セシアは思い出すようにして、窓の外を見た。
 外は雪など降るような気配はないが、今にも降りそうな錯覚をジェイは覚える。

 「雪の降る中、私たちの街は閉ざされたのと同じ。
  そこにきたのが、」

 「俺とシャイレンの率いるプロンテラ聖騎士団だ」

 ビートが口を開くのに視線を向けながら、ジェイは黙って耳を傾けた。

 「そもそもの始まりは、随分と昔にあったグラストヘイムの崩壊による。
  当時グラストヘイムにはプロンテラと同じ規模以上の王国があったんだが、
  王が呼び寄せた国家の安泰を祈るための神って奴が、生憎と悪魔って部類だった。
  そのおかげでグラストヘイムは陥落。まだ小さな王国だったプロンテラに、
  グラストヘイムから溢れかえる魔物が押し寄せるのを防ぐため、
  ゲッフェン、アルデバランの両都市に塔を建てて封印をなしたんだ。

  あれらは二つで対だったんがな、前の大戦はこの塔のバランスが崩れたことが原因らしい。
  位置的に見て」

 ビートは一度息をつくと、紅茶の入ったカップを軽く回す。

 「・・・・・・ルティエってのはその崩れた封印の歪む磁場の真中にあった。
  今でこそ行き来はあるものの、当時まだジュノーとは正式な国境ができてなくてな。
  下手をすれば一触即発、かつジュノーの奴らからすればこっちがつぶれれば自分たちの番だ。
  それで向こうからルティエの救出の要請もあって、俺たちが出た。

  酷いもんだったなあれは」

 目を閉ざすまでもなく今もセシアの銀色を見ていれば、
 ビートはあの日の事を思い出すことができる。

 彼にとってそれは、喪失でありまた、得がたいものを得た瞬間であった。

 「雪が一面赤だった。
  赤月華のエンブレムはお前さんの持つ通り、赤い月がそうなんだが。
  あの状況じゃそれも異質にしか見えねェ。どっちが悪魔なんだかわかりゃしねェ」

 「イリちゃんと私は母親が姉妹でね、家も隣だったし。
  イリちゃんは私を庇って頭に大怪我をしたから、多分昔の事とかはあんまり覚えて、ないと、
  思う。私の事を見ても、初めは何処の誰って顔してたし。

  ・・・・・・・あれはもう二度とおきて欲しくない、な」

 セシアはビートをちらりと見てから、また窓の外を見つめる。
 先の戦いと言えばジェイ達家族にとっては、ゲッフェンの塔から溢れ出す魔物を見た。
 ただその程度の記憶である。鍛冶師であった彼らの家は、表立って戦闘をすることはあまり
 なかった。とは言え両親は子供達を守るためにやはり魔物に殺されていたし、
 あの記憶というものは皆が皆封印したくなる、そういうものだった。

 「だから私とイリちゃんは友達なんだけど、友達じゃないの」

 小さく笑うセシアにビートが黒い目を伏せるように向ける。
 傷を隠しあうような二人のやり取りに、ジェイは何か深いものを感じた。

 「リツカちゃんはそういうイリちゃんの、たった一人の騎士なんだ。
  シャイレンさんは彼女達の父親みたいに振舞ってるけど、
  いつも傍には居れないし。初めリツカちゃん、イリちゃんの事すごい嫌ってたんだよ」

 「そう、なんや」

 相槌をうつジェイにセシアが信じられないでしょうと苦笑いする。
 イリノイスであればしそうにないその表情は、この聖職者の影をうかがわせた。

 「女であること多分リツカちゃんは、すごくコンプレックスなんじゃないかな。
  リツカちゃんの初恋も、イリちゃんだし」

 苦笑いを浮かべるセシアにジェイも苦く笑みを返す。

 「・・・・・・だから障害は、すごく、あるけど。
  貴方がリツカちゃんを好きなら、がんばって」

 後押しされるような言葉を受けながら、ジェイはやんわりと相槌を返す。

 「話が長くなったな、宿まで送ろう。
  すまなんだ、セシア、首都行きのポタを」

 頷くセシアが青ジェムを手荷物から取り出す。
 ジェイが腰をあげてカートまで歩み寄ると、タイミングを見計らっていたらしい、
 足元の床がすぐ光の渦をまく。

 光にまかれながら遠ざかる景色を見てジェイが咄嗟に声をあげる。

 「助けてくれておおきに!」

 「気にしねェでくれ。こっちはただのお節介にすぎねェ」

 手を降る魔導師と、そのとなりで小さく微笑む聖職者は次の瞬間消えうせていた。
 かわりに目の前に広がる景色と、突然現れた人間に驚いている人たちに軽くジェイは頭を
 下げる。人通りある首都のど真中に放り出された鍛冶師は、カートを鈍くひきながら、
 改めてパーティ会話を試してみる。

 ジジジ、という鈍い音ともに繋がったそれの向こうで、
 コーリアの泣き叫ぶような声を聞いてジェイは少しだけ笑った。

 「大丈夫、俺は無事です」

 そういったジェイの言葉にコーリアは罵詈雑言を容赦なく、浴びせたのだった。
50ある鍛冶師の話4-2sage :2004/06/20(日) 18:41 ID:BFshZBp2
 合流した先で清算をすませれば少しだけ重くなった自らの懐に、
 ジェイは僅かに口端をつりあげた。
 コーリアと別れてからやってきた先には、露店が建ち並んでいる。
 そこでつい先ほど見つけたのは、いつだったか送ろうとたくらんだそれである。

 淡い桃色の花びらを輪にしている仮初の恋は、本来は少女が少年へとおくるものらしいのだが。

 「・・・・・・・、すいません、これを」

 差し出した花輪に店の主人がニヤリと口端をつりあげる。

 「彼女にプレゼントですかね、お兄さん」

 向けられた言葉にジェイは柄にもなく頷いてみせると、冷やかしを受けながら代金を払った。

 赤いリボンの包みにくるまれた頭飾りを片手に、
 ジェイの足取りは軽く大通りを過ぎていく。
 東人形屋前あたりまでやってくると、人形屋が目に入りなんとはなしにぬいぐるみを手にして
 しまう。少しうかれているかもしれない。

 そう思いながらも買ってしまったのだから、どうしようもない。

 カートに手荷物をのせて歩いていけば、目当ての相手は只今留守とのこと。
 折角やってきたプロンテラ近くの騎士団詰め所前で座り込めば、
 空は悔しいほどに晴れていて。

 「そういやあわせる顔もないん、やった」

 唇辺りに指を伸ばせば、感触を僅かに思い出せる。
 小さくそんな動作をやらしいと呟いて、鍛冶師は僅かに目元を赤らめた。

 「阿呆らしィわ・・・・」

 のんびりと呟いた言葉の横から、ぬ、っとオレンジ色の嘴が飛び出す。
 慌てて顔をあげると、赤い髪の少女は今日はペコペコに乗って遠出をしていたらしい。
 ヘルムから戸惑うような赤い視線を、鍛冶師に向けていた。

 「何が阿呆なんだ?」

 問われて鍛冶師はわたわたとした手つきで包みを差し出した。
 それを受け取ろうとした少女の目の前で、オレンジの嘴がカプリと噛み付く。

 「あ!」

 思わず声を上げたジェイにペコペコは我関せずと言った調子でむしゃむしゃと。
 少女が慌てて嘴から包みを救い出せば、びりびりになった包みの中から花びらが零れ落ちる。

 「・・・・・・・花束か?」

 わざわざ包みに花束を突っ込む物好きもいないであろうにぼやきながら、
 少女が出てきた花輪に一瞬言葉を飲み込む。

 それから少し目線を彷徨わせてから、ありがとうというと、
 早速ヘルムを両手で外してペコペコの鞍にぶらさげて、
 淡い花輪をかぶってみせてくれた。

 高さはあるもののこちらを見下ろす視線は、何処か照れているようで。
 鍛冶師は思わず嬉しくなり、少女に向って手招きをした。

 「・・・・なん、だ?」

 僅かにペコペコから身を乗り出した少女へと、ジェイが背伸びをすれば。
 軽く掠めるような感触。途端、少女、リツカはペコを引き寄せて後退しながら、
 ジェイのことを睨みつける。

 「おま、えなっ」

 それでもリツカの表情が赤い事が知れれば、鍛冶師はなぜか笑みを浮かべるばかりで。

 「セクハラで訴えるぞ!」

 叫ぶように声をはりあげて言うのに、ジェイが少しだけ調子にのって口端をゆがめる。
 その笑みはいつもは弱気の鍛冶師にしては、少しだけ不敵な笑みに見えた。

 「してみれるなら、してみィ?二度と、キスせェへんで」

 調子にのるなと殴られる事を覚悟してみたのだが、
 リツカは本気で考え込んでいるらしい。
 妙な間がそこにあった。

 ペコの上の少女を見上げながら、ジェイが苦笑いを浮かべる。

 「・・・・・・じゃぁ今度は同意の上でしましょう」

 そんな言葉を聞かされるとリツカは、はっと我に返り。
 ふざけるなと言葉を残してペコペコを走らせてしまう。

 それでも頭の花輪が風に揺れているのを見れば、
 鍛冶師ジェイはまた嬉しそうに頬を緩めるのだった。
51ある鍛冶師の話4-3sage :2004/06/20(日) 18:41 ID:BFshZBp2
 オレンジのペコの上の少女の赤い髪には、最近淡い花びらが揺れている。

 いつもは銀色のヘルムが彼女の頭を守っているというのに、
 その淡い花びらをしていると少女は何処か騎士である凛々しさを兼ね備えた別の誰かにみえる。
 ペコが一歩進めば、また少し揺れる髪の上を見つめながら、
 暗殺者蓮は、さてはあの鍛冶師がと思い当たり少し口はしをつりあげた。

 隣を歩く銀髪の聖職者が幾分も背の高い蓮を見上げる。

 「どうか、したの?蓮ちゃん」

 ぼんやりとした銀色の目が蓮の姿をうつしている。
 この少女に同じものを送れば喜ぶだろうか、とぼんやり考えてから、
 暗殺者はふいに途方もなく頼りない聖職者を抱き上げた。

 「お姫様、貴方の騎士をそろそろ離してあげてはくれませんか」

 お姫さまと呼ばれれば、銀髪の聖職者は僅かに目を細める。
 本当に何の事だか思い当たらないらしいイリノイスに、蓮が苦く笑う。

 この聖職者にうつるのはこのギルドの長であるあの騎士の後姿、ただそれだけなのだ。
 リツカちゃんは大切な妹、そう言うであろう言葉を思っては、
 先に歩くオレンジの背姿を見つめる。

 「蓮ちゃん、最近リツカちゃん可愛いんだよ。
  今度スカート着せてあげたいなぁ」

 小さい子のように笑う姿を見ながら、蓮も小さく笑みを返す。

 「そうだね、きっとよく似合うだろうな」

 そう言いながら蓮が顔を傾けて、腕の中の聖職者の額に恭しく触れようとすれば、
 気配で気づいたのか。オレンジのペコの上の少女は、足を止めて剣を抜かんばかりの
 勢いの殺気。

 これは侮れない、そう口にしようとして蓮は言葉を閉ざし、
 かわりに少女の頭上を見上げた。

 「可愛い頭飾りじゃないか」

 「・・・・・・、もらいものだ」

 自分が望んでつけている訳ではないのだとでも言うような、
 無愛想な口調。そのくせひどく嬉しそうに笑みを浮かべるのを見て、
 蓮は可愛いものだなと苦笑いを浮かべる。

 きっと、この少女はあの鍛冶師に心惹かれているのだろう。

 二人が肩を並べるのを思い浮かべては、蓮はまた笑みを深めていく。

 「何がおかしい」

 「・・・・・・いや、リツカにいい加減お姉さん離れもして欲しいものだなと」

 言われた言葉にリツカがきょとりと瞬きを繰り返す義姉に、視線を向ける。
 永遠に叶わないであろう想いを思えば、ふいにあの鍛冶師の顔が義姉に重なる。
 穏やかそうな頼りないところが、本当によく似ている。

 困惑気に視線を彷徨わせるリツカを見ながら、イリノイスが小首をかしげた。

 「リツカちゃん、最近可愛くなった?」

 さ、っとリツカの表情が変わる。僅かに赤らめる表情のあと、
 即否定の言葉。

 「そんなことはない」

 「でも可愛いリツカちゃん、すき、だよ?」

 言われ、鍛冶師の表情を浮かべる。受け取っただけであんな風に嬉しそうに笑う彼を。
 そして、聖職者のことを想う。ただ自分を好きだと笑うこの表情を。

 印象が似すぎて、いるのだ。
 だからきになるだけ。

 自分は何処へも行かない、そう誓ったではないか。

 だと、言うのに。

 鍛冶師のことをふと、考えた。
 ただ好きだというその言葉一つだけで自分を締め付けるようにするのは、
 この聖職者の言葉だけであるというのに。

 同性?それがなにか?
 義姉妹?それがどうした?

 それでも鍛冶師の笑みが頭の中をぐるぐると回る。リフレイン、ただそれだけを。

 「リツカちゃん?」

 「あ、あ、すまない。先に戻る」

 本当にすまなそうに目線を下げるリツカを見ながら、イリノイスはうんと不思議そうな表情
 で見上げながら頷く。蓮は苦い笑みを浮かべながら、年相応の表情を行き来させる少女を見
 守っていた。


 プロンテラのいつもの道を行けば、いつもと違うのはその頭の重さ。
 ヘルムがないのだ、それだけだというのに。
 視界が開ける、いつもは僅かに斜めに上がふさがれている視界は、
 今は揺れる花びらを髪に感じる程度で、青い空も町並みも広く見る事ができる。

 「・・・・・・・、」

 ふいにすれ違う鍛冶師の姿を認めて思わず振り返る。

 これは、なんだ。
 この感情は。

 思わず口元に手を当てる。
 全くと言っていいほど似つかない真っ黒な髪だというのに、
 ただ服装が似ているだけで振り返った己の行動に、少女リツカはペコの首後ろに突っ伏した。

 乗る主人がどうもおかしい様子に、ペコペコが首をキョロキョロと動かす。
 途端ペコの首後ろに顔をしずめていたリツカの鼻先に、オレンジ色の羽毛がかすめる。

 勢いよくくしゃみをすれば、回りの視線を集めるわけで。

 「・・・・・・クソ」

 少女らしからぬ言葉を口に出すと、リツカはペコの速度をあげて逃げるようにそこを後にした。
52ある鍛冶師の話sage :2004/06/20(日) 18:48 ID:BFshZBp2
23様>お言葉慎重に受け止め、できるだけ見直してみましたがどうだろう。(´・ω・)

28様>そう言って頂けると幸いです。一応のことレッドビートに関しては、魔術「師」
   という書き方にしたのは彼の立場的設定が元なのでこれはこのままにするつもりです。
   魔法使いだとどうしてもウィズ、マジをまとめた言い方のような気がしてしまうので。
   魔術士<魔道士にしていこうかなと、お答えいただき有難うございました。

29様>Σ(゚Д゚;)!!べらんめェ口調なのディスカ。
   ずっとべらんべェ口調だと思ってましたー;
   はい、自分の設定に合わせて変えていこうと思っています。

話の設定上、公式に忠実とはいかないものになりそうですががが。
面白くできたらいいなぁと思っています。いつもありがとうございます。

でわノシ
5323だったり保管庫の人だったりする人sage :2004/06/20(日) 19:03 ID:v3fELmvA
 なんか、いいところにまた来てて嬉しい。ワーイワーイ
今回は読んでいてひっかかるところがなかったです。偉そうな物言いにもかかわらず、
取り入れてくれてありがと。

 辞書によると、Magicianは魔術師、魔法使いどっちでもみたい。Wizardは魔法使い、だそうです。
かと思えばWizardryの訳が魔術だったりするし、まだ訳語は一定してないんじゃ? と思ったり。
魔道士とか魔術士っていう言い方は辞書にはないみたいです。
 以上を踏まえてフィーリングで決めてしまえばイイ! とか。
54名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/20(日) 22:24 ID:A.jNQ6Ic
神作品に触発されて書いてみました。
思い切って投下します。
拙作ですが皆さんに楽しんで頂ければ、幸いです。
5554sage :2004/06/20(日) 22:25 ID:A.jNQ6Ic
 錬金術において、その属性として「熱く」「乾いた」モノを、火の属性である
と表現することがある。
だとすれば、このモロクという土地は間違いなく「火」の属性だろう。
 太陽は地上に生き物が存在することを許さない。そこに河川はなく、草原もない。
荒々とした乾いた砂丘がただ広がっているだけの大地。その砂漠の中に、
生物が自然に対してせめてもの抵抗を見せるが如く、点々とオアシスがあった。
 水がある所に動物が集まり、植物が繁茂する。生き物があつまる場所には、
当然、人も集まる。水は生き物を呼び、生き物は人を呼び、人は人を呼ぶ。
 このモロクの街はそういった積み重ねによって、できた街であった。
ルーンミッドガズ王国の勢力下におかれ、歳月が流れた今現在。無能な太守の怠慢に
よってこの街はならず者が集う街として、また職人の業による染料を扱う交易が
盛んな街として栄えていた。
 そして、近年ピラミッドやスフィンクスをモンスターが徘徊する様になると
モロクには商人やならず者の他にも冒険者が多く訪れるようになっていた。
5654sage :2004/06/20(日) 22:26 ID:A.jNQ6Ic
 交易商人の近くのヤシの木の下でぼんやりと佇むその悪党も、一応は
そういった冒険者の内の一人だった。
 悪党は自由である。騎士の様に騎士団や国家の為に戦うわけでもなく、
また司祭や十字騎士の様に教会の権威と布教の為に戦うわけでもなく、
暗殺者の如くギルドから厳しい支配を受け、職業として生き物を殺すのでもなく、
商売もせず、研究もせず、武器も薬も作らず、なにをするかは本人の自由。
 それは裏返せば。
「暇だ…」
欠伸一つ。ローグは大きく開いた口を掌で隠した。
 豊かな赤い頭髪は見るものに不快な印象を与えない程度に無造作にまとめられ、
ギルド指定の赤いジャケットは前で大きく開いている。
 露わになった薄い黄色の肌の肉体は、酒と女にしか興味がなさそうな服飾に反して、
その実、無駄なく引き締められていた。
 シーフから転職した後も日々の鍛錬を欠かしていない証拠である。
「さてはて、どうしたもんかね」
半ば砂の中に埋もれている公道を数多くの人々が通る様はとても賑やかだ。
 墳墓の深奥に潜む魔物から奪った金品を掲げて意気揚々と凱旋するどこかのギルド。
見知らぬ土地と人を物珍しそうにキョロキョロと眺めながら、
おっかなびっくり歩く初心者。
冒険者としての生活にも慣れ、自分の価値を磨く事を覚えた中級者のPT。
 楽しそうに会話を交わしながら目の前を通り過ぎる、黒髪の剣士と
青い女アコライトのペアを一瞥して、ローグは再び大きなあくびをした。
5754sage :2004/06/20(日) 22:27 ID:A.jNQ6Ic
 治安の悪いと言われるこの街もそうそう大きな事件があるわけではない。
「ま、帰って寝るか」
 ローグは誰にともなくそう呟いた。両手をズボンのポケットに入れ、背筋を緩めて、
頼りない足取りでねぐらの方向へ歩いていく。
 と。脚に何か大きなものが当たった感触。視線を下ろすと、石畳の上には、
尻餅をついた、まだ年端もいかない少女がいた。
 くすんだ金髪に薄汚れた肌。着ている、というよりは被っていると言ったほうが
より適切な衣服はぼろ雑巾の様。
「あ、わりいわりい。大丈夫か?」
頭をかきながら、少女へ手を伸ばす。少女は初め呆然とローグを見ていたが、
やがてローグの手をとり、ゆっくりと立ち上がった。
「…あ、ありがとう」
「ん、怪我はないみたいだな。俺も気をつけるから、お前様もちゃんと前見て歩けよ」
手前勝手な事を言うだけ言って、ローグはその場を立ち去ろうとした。
が、それを見た少女はローグのズボンをひっぱり、彼を押し留めた。
「ん、まだ何か用か」
「…おはな」
「ん?」
「お花…要りませんか」
「あぁ、なる」
どこの街でも貧富の差と言うものは、残念ながら、ある。だが、プロンテラとモロクは
特にその差が顕著であり、スラム街が存在した。この少女もそういった貧しい家庭の
子供なのだろう。
 親を少しでも助けるため、子供なりに精一杯働いている、といった所か。美談だねぇ、と
ローグは思った。幸か不幸か、持ち合わせは充実している。本来の仕事、
姉に言わせればただの道楽だそうだが、の経費も別に確保してある。
 花を買わない理由は特に無かった。
「一本もらおうか。いくらだ?」
「…あ、はい、どうぞ…」
名前も知らない小さな花だったが、彼は気にいった。
5854sage :2004/06/20(日) 22:29 ID:A.jNQ6Ic
 彼のねぐらは、冒険者を優待するギルド指定の宿屋である。
花を両の手でもてあそびながら自分に割り当てられている部屋の前に立った時、
ローグはねぐらの異変に気付いた。中に誰かいる…。愛用のダマスカスを抜き、
身体の陰に巧妙に隠す。さらに、ドアの脇の壁に身を押しつけるようにして、
ゆっくりと扉を開いた。
「おかえりなさい」
透き通るような女声。彼はその声に聞き覚えがあった。西日が、開いたドアの隙間から
薄暗い部屋の中に差し込む。質素な椅子の上に佇んでいたのは、流れるようなカラスの濡れ羽色の髪を腰まで伸ばし、ミニグラスを目立たぬ様にかけた若い女ウィザード。
 可愛いというよりは、美しいという形容が似合う知性と気品と妖艶さが漂う女性だ。
「姉さん…」
ローグはハイドを解き、部屋の中に足を踏み入れた。
「おかえりなさい、どうしたのそんな物騒なものをもって?」
「姉さんが勝手に部屋に入るから…」
あたふたとダマスカスを懐に納めた所でローグは、ようやく気付いた。
「姉さん、なんでこんなところにいるんだ!?」
「あら、愛する弟の居場所くらい知っていてもおかしくないわ」
「そう言うことじゃない…」
「なら、どういうこと?」
柔らかく、それでいて鋭い魔女の言葉。
「いつまでも臍を曲げてないで、いい加減家に帰ってきたらどうかしら?
お父様も今更、貴方に魔法の修行をしろなんて仰らなくてよ」
「俺が帰らないのは別にそう言うわけじゃない。今の生活が気にいってるんだ」
「今の生活というのは、正義を振りかざして暴力を振る事かしら」
「そんなんじゃない!俺は自分の信じた道を行きたいだけだ!」
「そんな事をしても罵声を浴びせられる事さえあれ、誰にも感謝される事なんてないわ。暇人の道楽よ」
「誰にどう思われようと関係ない。俺は自分のやりたいようにやる」
「そう、なら好きになさい。でも辛くなったらいつでもお姉ちゃんの所へいらっしゃい。可愛がってあげるわよ」
右手を口許にやり、魔女はくすりと薄く笑った。ひどく蠱惑的な仕草だった。
「いい。姉さんに関わってろくな目にあったことない」
「あら、残念。でも気が変わったらいつでも声を掛けてね。お姉ちゃん、お仕事でしばらくモロクにいるから」
「仕事?塔の?」
「そうよ。こないだの地下の騒ぎの間に誰かが禁呪を持ち出したみたいなの。人を魔物に変える邪法。結構前に、ある魔法使いが作った失敗作だから、実行すればリバースオーキッシュより悲惨なことになるわね」
 何故姉は自分にそんな機密事項を漏らすのか。姉はああ見えて、冷血だ。
公私を混同する様な真似は愚か、自分に得になるようなことしかしない。
話の内容よりも姉の姉らしかぬ態度をローグは訝しく思った。
「どういうつもりだ、姉さん」
「どうもこうもないわ。それより、もうそんな堅い話は抜きにしましょう」
睨みつけるローグを妖しい笑みでかわし、魔女は素早くローグの後ろに回り込んだ。
ローグである彼が簡単に背中を許してしまうほどの鮮やかな身のこなし。
 手早くミニグラスを外して、黒髪の魔女は赤毛の悪党の首筋にかじりついた。
「私、今日こっちに着いたばかりだから部屋が取れてないの。今夜はここに泊めてね」
「待て!姉さんは一体何を企んで…」
ローグの詰問は耳に吹き掛けられた魔女の吐息に中断させられた。
「最近ごぶさたなんでしょう?可愛がってあげる」
「お、おい…」
不意に姉が顔をローグの肩に埋めた。
「不思議ね。お父様が拾ってくださらなかったら、私も貴方も別々の場所で一人、
誰に知られることもないまま死んでいたわ。そんな私達が今こうして二人一緒に
いられるのは…とても不思議な事なんじゃないかしら」
「…お義姉ちゃん…」
後ろから首元にまわされた義姉の腕に、ローグは両手を優しく重ねた。
5954sage :2004/06/20(日) 22:30 ID:A.jNQ6Ic
 翌朝、既にもぬけの空となっていたベッドから抜け出すと、ローグは狩りに出かけた。
帰りがけにあの花売りの少女から花を買った。

 その次の日、ローグは少女の姿を見つけることはできなかった。

 さらにその三日後、ローグはヤシの木の陰で立ち尽くしていた。
 その表情は険しく、指先や脚が世話しなく動いているところを見るとひどく苛立っているように見える。時刻は昼前あたりか。
 ローグは昼食をとらずに、花売りの少女が現れるのを待つことにした。
何故かひどく嫌な予感がした。
 その時だった。
「〜〜」
傍らの年老いた商人が何かつぶやいた。雑踏が賑やかな町中では、
ほとんど口の中でつぶやかれたような言葉は常人には聞こえない。
しかしローグはローグであった。狩人ほどではないにしろ、その感覚の鋭さは
常人の及ぶところではない。
「おい、じいさん。いまなんつった?もういっかいいってもらおうか」
ローグは、年寄り商人の胸倉を掴み上げ、粗暴な態度で質問した。
「…ゲフッゲフ、離せ、離さんかい!…わかった、話す、話すから…」
ローグは老人を下ろし、おどけた調子で、しかし目は笑っていない、言った。
「ものわかりのいい年寄りに出会えて俺は嬉しいよ。おい、じーさん、
命がおしけりゃ…」
「あの子供はもういない、とそう言ったんじゃ」
「どういう意味だ?」
「どうもこうもあるか、売られたんだろうよ」
「何?」
「なんじゃ知らんのか」
 老人はそっぽを向き不貞腐れたように言葉を吐き捨てた。
「お主も噂くらいは聞いたことあろう。近ごろ、この町に質の悪い人買いがやってきおった。なんでも、スラムの子供を買い叩いているらしい」
「知らねぇな、そんな話」
「そんななりをしていて、世事に疎いとは情けない話じゃな。
儂はそういう話を聞いたことがある、というだけのことじゃ。
信じるかどうかは、お主次第。じゃが、まわりの人間に聞いてみぃ。
知らんのは…お主ぐらいのものじゃろうて」
「何故そんなことを?」
「さぁな、儂ゃあ、人買いになったことがないからわからん。じゃが、噂では東の天津に奴隷として売るだとか、怪しい儀式の生け贄にされてるとか、色々言われておる」
「…」
急に黙り込んだローグは、射抜くような視線を老人の方へ向けた。
鋭利に研がれたダマスカスの瞳に老人は畏怖する。
やがて年老いた交易商人は、ローグが睨めつけているものが自分ではない事に気づいた。
「世話になったな、じぃさん」
そう言って、ローグは半ば無理やり老人に1kゼニーを握らせると、その場から立ち去っていった。
6054sage :2004/06/20(日) 22:33 ID:A.jNQ6Ic
 日が西の稜線に沈むと、町は昼間とはまた少し違った喧騒に包まれる。
行き交う人々はどこか慌ただしく、商店も先を争うようにして店仕舞いを始める。街全体を何か焦燥感の様なものが覆うのだ。一日のつらく、だが同時に充実してもいる仕事を終えると、人々は一刻も早く、愛する家族の、あるいは大切の仲間の下へ帰ろうとする。
 その心情を思えば、こういった雰囲気が現れるのは至極当然のものだろう。その一方で、この時間帯になってようやく活気づく場所もある。飯屋を兼ねた酒場がそれだ。ローグが今探しているのは、まさにそんな酒場の一つであった。

 老人と別れた後、ローグはその足でローグギルドに向かった。老商人の言っていた噂の真偽を確かめるためである。
 果たして、人買い組織は実在した。ここモロクの街でギルドに紹介料も払わずないまま
「商い」を始めたその組織はかなり強引な商売を展開している様だった。
また腕の立つ冒険者を雇っているのか、警告のつもりで送った使者が返り討ちにあった、と
ローグギルドの人間もぼやいていた。
 とにかく。ギルドは今組織への対処に手を焼いているらしい。
独断先行が十八番の赤毛のローグに情報が下りたのも、ローグが何をしようとしているか承知の上で、
黙認しようとしているからだろう。
 そういった政治にローグは興味はない。上納金を納めている以上、見返りとして
情報を貰うのは当然だし、ローグの行動をギルドがどう利用しよう
と、それはローグの関知する所ではない。
道を踏み外さない範囲で、自由に振る舞うことこそがローグの
ローグたる由縁なのだ。
6154sage :2004/06/20(日) 22:35 ID:A.jNQ6Ic
 目指す店は、表通りから脇に逸れ、路地裏に入った知る人ぞ知るといった感じの場所に
立っていた。ギルドの情報が正しければ、このうらぶれた酒場が人買い組織の拠点である。
 ローグは物陰に隠れ、しばらく店の様子を伺うことにした。
店には煌煌と明かりがついているが、今がかき入れ時だと言うのにもかかわらず店に出入り
する人間はいない。中での酒宴の様子は伝わってくるのだが。
 ローグが攻めあぐねていたその時、ひときわ大きな笑いが店の中で沸き上がり、
小さな影がドアから飛び出してきた。いや、飛び出したのではなく、突き飛ばされて
出てきた、と言った方がより正確か。その小さな人影は、店から漏れる光に照らされ、
ローグの視線を捉えた。
 黒い砂の上に尻餅を付いたくすんだ金髪にぼろい服の少女。その姿は、ローグの記憶の中の
花売りの少女と重なる。
 少女はよろよろと起き上がり、酒場の中から出てきた騎士とシーフに食ってかかった。
「弟を返して下さい!」
ローグはその声を聞いて違和感を感じた。
「しつけーな。いねぇもんはいねぇんだよ」
人相の悪いシーフが声を荒げ、凄む。すると、脇の身綺麗な騎士がシーフを諫めた。
「相手は小さいとは言えレディですよ。乱暴はいけません」
アルカイックスマイルを浮かべたまま、騎士は少女に手を差し出す。
「失礼しました、。我々は、日頃から荒くれ者とばかり関わっております故、
レディの様な麗しい花の扱いには長けておりませぬ。非礼をどうか御容赦いただきたい」
6254sage :2004/06/20(日) 22:36 ID:A.jNQ6Ic
 腰を落とし、少女の目線に自らの視線を合わせる騎士。場にそぐわないその態度に
瞳を丸くした少女であったが、やがて自分を取り戻すと刺のある口調で要求を繰り返した。
「お、弟を返して」
「それは先程この者が申し上げたとおりです。我々は貴方の弟様を存じませぬ。私どもも
情報が入りましたら、レディにお伝えしますので、今日の所はどうかお引き取り下さい」
「でも…私見たの!」
「もう夜も更けてきました。この辺りは荒事も多い。レディを狙って賊がどこかの物陰に
隠れているとも限りません。…そう、例えばそこにいるローグの様に」
「どんな荒事がおこるのか、詳しく話を聞かせてもらいたいな」
ハイドが解かれる。目つきの悪いローグと笑顔を顔に張り付けた騎士が、正対した。
「名も名乗らず、覗き見をする様な輩にお教えすることは何もごさいませぬ」
あくまでも、にこやかに平然と言ってのける騎士の言動に、ローグは鼻を鳴らした。
「話せないんじゃなくて、話したくないだけだろう」
「これは異なことを。何を根拠にそんなことを?」
「自分の胸に聞いてみろ」
 一瞬だけ、騎士の表情が仏のものから修羅のものへと変化する。
だがローグの挑発に乗ったのは騎士ではなく、シーフの方であった。
「おい、てめえ。さっきから聞いてりゃ、勝手なこと言いやがって!調子に乗ってると、
ぶっころすぞ!」
「俺が嘘を言ってるかどうか、そこのガキにききゃ、わかるだろ」
そういって、ローグは傍らの少女を顎で示した。月光を浴びて、鮮明になった彼女の姿形は…
「!?」
花売りの少女とは違っていた。あの少女よりも、背格好は一回り大きく、瞳は理性的だ。
「私、見たの!この人たちが子供をいっぱい連れてこの店に入っていくところを!
私の弟もその中にいたの!私、おいかけて、ちゃんと見たんだから!」
ローグという味方を得た為か。少女は大声で、一気にまくし立てた。ローグは己の勘違いを
内心恥じながらも、そ知らぬ顔で言い捨てた。
「だとよ」
「ク…」
騎士の筋肉に緊張が走った。
 一触即発。研ぎ澄まされた鋼鉄の眼と、ダマスカスの瞳がしのぎを削る。空気が平衡に
達した。その均衡を破ったのは、またも突如として開かれた酒場の入り口と、飛び出してきたまだ年端もいかぬ少年だった。
「お姉ちゃん!」
「アレン!」
 血相を変えた騎士が幼い男の子に駆け寄ると、その少年を小脇に抱え、旋風の如く店の中に
引き返す。同時に、ローグも動いていた。事態の展開についていけずに呆然としていた
シーフに強烈な峰撃ちを背後から見舞うと、店の中に飛び込んでいった。
6354sage :2004/06/20(日) 22:37 ID:A.jNQ6Ic
 煙草の煙が渦を巻く様にして視界を塞ぐ靄となり、酒の匂いが滝を登る様にして
嗅覚を妨げる香料となる。店の中はひどく乱雑であった。酒で顔を真っ赤にさせた
ごろつきが大勢だべっている。
 板張りの床には埃と砂が堆積し、人が四、五人かけられる大きさの円卓が
幾つか無造作に置かれている。奥の方に見えるカウンターも同じようにまるで手入れが
なされておらず、さらにその奥の酒棚には蜘蛛が巣を作っていた。
 やはり、この店は普通の「店」ではない…
 ローグはそう確信しつつ、奥の部屋に消えていった騎士を追う。
跳躍したローグの眼前に円卓が迫った。ごろつき達は闖入者を敵と判断したようだ。
 きりもみするような勢いで身をひねり、ローグは蹴飛ばされた円卓をかわす。
腹の出た剣士の蹴りを、右足を軸とした回転で避けざま、その剣士に
峰うちを喰らわせる。横から突き出されたシーフの匕首を肘と膝で止め、手の甲で
その鼻っ柱を叩き、弾き飛ばす。頭上から切りかかってきた暗殺者の一撃を
その場で転ぶようにして前転し、やりすごす。背後の床に暗殺者が突き刺さった。
さらに正面から大上段に斧を振りかぶった鍛治師が現れる。その強力無比な斧が
振り下ろされる前に、ローグは床を蹴り、鍛治師の腹に膝を突き建てた。
「Fire Bolt!!」
足元に炎の矢が炸裂した。足元だけでなく、酒場の中一帯に魔法が行使される。
まだ未熟な魔術師が錯乱して、見境無く攻撃し始めた様だった。
「馬鹿野郎!何考えてんだ!?」
ローグが毒づいている間に、火は店に散乱していたアルコール類に引火し、
木製の床は炎の海と化していた。
 飛んでくる炎の矢を、手近にいた同業者を盾にして防ぎながら、ローグは騎士が入っって
いった扉の前にたどり着いた。ノブを回すのも煩わしく、ドアを蹴破る。
6454sage :2004/06/20(日) 22:37 ID:A.jNQ6Ic
 扉は裏口だった。背後に迫った炎から抜け出すようにして外に飛び出す。
辺りを油断無く且つ素早く窺ったローグは闇に包まれた通りの向こうを走る、例の騎士を
発見した。反射的にローグの利き脚が地を蹴る。その矢先、
「おっと、まちな」
ローグは後ろから声をかけられた。やむなく、振り返る。燃え盛る酒場を背景にして、
表で張り倒したシーフが少女の首元にナイフを突きつけた状態で立っていた。
「何か用か、三下」
ローグはゆっくりと身体をシーフの正面に向けた。
「…く、て、てめぇ。いいか、少しでも抵抗してみろ。このガキの命はねえぞ」
ローグは答えない。少女の事を遂、忘失してしまった自分を責めながら、ローグは沈黙した。
「…ま、まずは武器を捨てろ!早く!」
右手のダマスカスをしげしげと見つめた後、ローグは得物から手を離した。
糸の切れた人形の様に、ダマスカスはローグの掌から砂の上へと落ちる。
酒場を貪る炎の影が、砂上の短刀を覆った。大小、左右に揺れる影はまるで魔物の様。
「声が震えてるぜ」
その余裕に、シーフは彼我のレベルの差を悟った。だが、もう後には退けない。
「よ、よし!うごくんじゃねえぞ! もし、おかしな真似しやがったら…」
「わかってる。早くしろよ」
この程度の相手ならば、ローグの敵ではない。ほんのちょっとした隙さえできれば
この状況を覆すことなど容易である。
 その隙を作り出すべく、ローグはシーフに捕らえられた少女の眼を見つめた。
わずかに暴れてくれるだけで良い。それをローグは少女に伝えようとしたのだが、残念な事にアイコンタクトは失敗した。
 少女は当然の様に救出されるのをただ待っているだけだったのだ。
ローグの顔に初めて狼狽の念が表れた。その変化に気を良くしたシーフは少女の頭を
鷲掴みにしたまま、ローグに襲い掛かろうとした。
 その時。
「マジかよ!?」
シーフと少女の間に突如として氷壁が出現した。気を取られたシーフは焦り、その焦りが
シーフの行動を遅らせた。
 その機を見逃すローグではない。咄嗟に足元の砂と、得物を蹴り上げる。
舞い上がった砂がシーフの眼を眩ませ、その間にローグはダマスカスを掴んだ。
 勝負は決まった。
6554sage :2004/06/20(日) 22:38 ID:A.jNQ6Ic
 「三日前にはアンナが。その次の日にはマリン。昨日はジャン。いつの間にか
みんないなくなってて…。おじさんやおばさんに聞いても何も教えてくれないし…。
それで、昨日の夜、眼を覚めたら、家に知らない人がいて。知らない人がいて、
お父さんとお母さんが。お父さんとお母さんがアレンを、弟をその人たちに…」
少女は肩を震わせながら、溢れ出てくる何かを押さえ込むようにして言葉を紡いだ。
「私、後をつけたの。でも恐くなって、帰ってきて…。眠って起きたら、いつもみたいに
アレンはいると思ったのに。いないの。どこにも弟がいないの!」
最後の方は悲鳴だった。押さえ込んでいた感情が爆発したのだろう。少女の目の端からは、
涙がとめどめもなく流れていた。
 俺が皆に黙って家を抜け出した時も、姉さんはこんな風に心配したんだろうか。
不謹慎だ、と心の隅で思いながらも、ローグは優しかった義姉を思わずにはいられなかった。
「あの人達は一体何なんですか…?」
「人身売買をしている、ろくでもない連中だ」
そう、人身売買は、このならず者の街モロクでも御法度だ。
「…それじゃあ、貴方は?」
「見ての通りだ。俺はあいつらと戦ってる」
淡々と告げるローグに、俯いていた少女は顔を上げ、そして叫んだ。
「どうして、どうして、戦ったりなんかしたんですか!? 争うのは悪いことだって、
お父さんもお母さんも言ってた! さっきだって、ちゃんと話し合いをすれば弟を返して
もらえたかも知れないのに!」
違う、とローグは言いたかった。戦う事が許されない事だと言う事はわかっている。
人を傷つける事は罪だとわかっている。それでも、それでも話し合ってもわかりあえない
奴はいくらだっているんだ、と、そうローグは叫びたかった。だが。
「返して!弟を! 弟を返して!」
 自分に拳を振り上げて泣き喚く少女。その姿に、いなくなった自分を思って毎夜毎夜泣いていたに違いない義姉を重ねてしまったローグは、少女に何か言えるはずもなく。
 代わりに口を衝いて出てきたものは、そんな甘い自分を冷笑して、追い越していくかの様な乾いた言葉。
「お前、何か勘違いしてるみたいだな」
「え?」
「俺は騎士でもなければ、プリでもない。俺は―――――」

 酒場を完全に呑み込んだ炎は天を舐めるフリルドラの舌の様に揺れ、
ローグの顔の半面に深い影を落とす。少女には、その表情が鬼の形相の様に思えた。
「俺は、ローグだ」
6654sage :2004/06/20(日) 22:41 ID:A.jNQ6Ic
流れぶったぎりで申し訳ないです。。。
感想やらご指摘などを頂ければこんなに嬉しい事はありません。
今回はこの辺で失礼します。
67名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/20(日) 23:04 ID:zLQYKkzI
>54
うわあ…むちゃくちゃ格好良かったです。
ローグの生き様がステキ。
68名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/21(月) 00:48 ID:7NQXKkDA
>>54
うぉ、燃えローグキタワァ─wwヘ√レvv~(゚∀゚≡゚∀゚)─wwヘ√レvv~─!!
むしろお姉さんと夜中に何やったのか小一時間(ry
69名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/21(月) 16:41 ID:ZfR2rI4U
かっこいいアウトローがいるスレはここですか?

チンピラ風騎士様がかなり好みです。ピンチになったら下衆の本性をさらけ出してくれるのを
激しく期待。55の「黒髪の剣士と青い女アコライト」にドキドキしたりしたのは内緒です。
70名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/22(火) 21:47 ID:isbtK92g
リレーマダァ〜(AA略
7154sage :2004/06/22(火) 21:52 ID:mWoMO7rQ
>>67
そういってもらえると、とても嬉しいです。
>>68
夜は、おそらくご想像の通りかと(^^
>>69
実は自分もドキドキしてます。

というか、スレの進行止めてしまったみたいでスミマセン
以下何事も無かった様に、
文神様方のSSとリレーをお楽しみくださいm(--)m
72名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/23(水) 11:37 ID:yy9gsDVw
リレー小説(´・ω・)
かっこいい男の人をかけるようになりたいなとしみじみ。
正義の味方ではないところに哀愁を感じます。
何故か某魔都を髣髴とさせるものがありました。
なんとなくその後が気になります。
73ある鍛冶師の話5-1sage :2004/06/23(水) 11:38 ID:yy9gsDVw
 気づけば姿を探している。

 鍛冶師ジェイがその騎士に出会ったのは、
 初めての事だった。

 赤い髪の少女が人ごみの中自分に気づいたのだと思い、
 こちらに向って手を振ったのに手を振り返した。
 けれどその横から駆け出す銀髪の聖職者を認めて、
 人違いであると知った。

 街を通る人たちが走り出す聖職者を不思議そうに見つめる。
 そしてその走り出した先にいる一人の、騎士を見て、数人が頭を下げた。

 「シャレイン!」

 いつも何処か捕らえどころのない聖職者の声は、
 ただただその名前を慕いながら呼ぶ。
 響きが違うのだ、声に色がついたと言わんばかりの。

 赤い髪の少女は、頭の上にのせているヘルムをとると、
 鍛冶師ジェイの横を通る騎士に恭しく頭を垂れる。

 騎士は同じように頭を覆うヘルムを外してペコペコから飛び降りると、
 走ってくる聖職者を抱き上げて勢いのままくるくると回った。

 「留守にしていてすまなかった」

 少し低いが男のものにしてはやや高い通る声が響く。
 物語にでもでてきそうな金髪長髪の騎士は、絵から抜け出たような端正な顔立ちで、
 花が咲いたようにふわりと微笑んだ。
 屈託のない子供のような笑みだと言うのに、何処かほっとするようなそういう笑みを。

 これが赤の長であり、英雄かとジェイが思えば、
 ふ、っと背に気配を感じる。
 慌ててカートを引き寄せながら振り返ると、暗紫色の装束がそこに一人。

 今までそこに居たらしい、気配をふつりと現せば、
 蓮は暗色紫の瞳が僅かに感情の色をなしている。
 暗殺者が感情を露にするのを見ながら、ジェイは小さく問い掛けた。

 「あれが、赤の長なん、ですか?」

 「・・・・・あぁ、あれがそうだ。
  英雄だ、あれが」

 陶酔、しているようでもあった。
 暗殺者は膝を折り、そのまま頭を垂れる。

 何もかもが自分から遠のいていくように感じながら、
 自分の隣に居る蓮に気づいたらしい、シャイレンの歩みがこちらに向けられる。
 イリノイスを降ろしてから、ペコペコを彼女に任せたらしい、
 ペコの手綱をひきながらそのあとを銀髪の聖職者が続く。

 「蓮、留守を任せていたすまなかった。
  ・・・・、とー・・・君は新入り君かな」

 頭を垂れた蓮に声をかけながら、英雄は隣のカートひくジェイに気づいたようだった。
 袖口に縫われている刺繍は赤い月のエンブレム、声をかけられたジェイと言えば、
 唐突に向けられた言葉にただ瞬きを繰り返していた。

 すぐ、して。
 英雄が苦く笑うのを見ると慌てて、鍛冶師は頭を垂れた。

 「鍛冶師見習として、一月ほど前より、ジェ、ジェイと言います」

 「ジェイ、か。私の名はシャイレンだ。適当にシャイレンで構わん」

 「・・・・・は、はい」

 裏返るような声を抑えて、答える。
 思ったより若く見える英雄は、鍛冶師の答えを聞くとまた、あとでと小さく答えを返し、
 その言葉を聞いて頭をあげてすぐ後ろに続く蓮を引き連れて白に赤い月のエンブレムの入った
 マントを翻すと、颯爽と通りを歩いていく。

 足取りは速くもなければ、遅くもなく。

 ただただ遠ざかるその背姿が見えなくなれば、ジェイはふと、
 自分の足に全く力が入らないことに気づいた。


74ある鍛冶師の話5-2sage :2004/06/23(水) 11:39 ID:yy9gsDVw
 英雄と会ったその緩い足取りで、通りを歩いていつもの牛乳即売所までいくと、
 今日は珍しく錬金術師の集団が買い物にきているようだった。
 鍛冶師とは全く別方向に通じる彼らは、物理的ではなくもっと未知の分野にまでその手を
 伸ばしている。

 原価の値段でカートに入りきるだけ牛乳を詰め込むと、鍛冶師は少し遠巻きにその集団を
 眺めていた。彼らの性別も年齢もまばらではあったが、皆ジュノー錬金術師学校のバッチ
 を胸につけている。
 つまり彼らは学生達の集まりらしい。

 楽しそうに会話をする様子を見ながら、そのうちの一人がこちらに視線を向けるのを見返
 す。何処かで見たような顔をしていることに気づいたのは、その錬金術師が駆け寄ってき
 てからだ。

 「お久しぶりです。ジェイさん」

 暫く姿を見ないと思っていたら、あの商人どうやら学校受験をしていたらしい。
 ゴーグルから覗く表情は、自分のことを何かと手助けしてくれたあの商人の顔だ。
 服装が違うだけで随分と印象が変わるものだと鍛冶師が感心していると、
 錬金術師は相変わらずですねと言いながら屈託なく笑った。

 「流石に受験落ちてたらあわせる顔はありゃしませんが、
  あっしも受かることができたんで、明後日ぐらいには赤に顔を出しにいこうかなと。
  いやぁ、風の噂ですが、リツカさん花飾りをつけている、とか?」

 ルードの居ない合い間に手渡された花びらは、赤い騎士の頭を彩っている。
 常からヘルムで動き回っている彼女が、そういったものをしていれば嫌でも噂になるらしい。
 ジェイは少しばかり眉を寄せて難しい顔で照れを押し隠すと、
 錬金術師ルードの真新しいゴーグルを見返した。

 「受かってよかったやん」

 照れ笑い交じりを堪えているような妙な表情を見ながら、
 ルードは擽ったそうに頷いた。
 と、後ろからルードの名を呼ぶ声がする。

 「あ、暫くはこっちに居るんで、また」

 慌てて走り出したルードを見送りながら、ジェイは大きめに手を一度振る。
 同じ服装の生徒達に混じりながらルードは振り返ると、大きく手をぶんぶん振り返す。

 「・・・・俺も負けてられへん、な」

 牛乳の入ったカートをぐいと引き寄せると、遠ざかる錬金術師達を見つめながら、
 鍛冶師ジェイはそう小さく呟いた。
75ある鍛冶師の話5-3sage :2004/06/23(水) 11:40 ID:yy9gsDVw
 チリチリするような胸の感覚に、騎士リツカは眉を寄せた。
 義姉は久々に帰還をはたした英雄にじゃれついたまま離れようとしない、
 はたから見れば年の離れた兄妹にみえる二人だがその関係は親子によく似ている。

 そのくせイリノイスは決してシャイレンの傍を離れようとしないし、
 そしてその状況を許しているかの英雄といえば、始終笑みを浮かべながら話を聞いている。

 「妬けるのかい」

 横から向けられる暗殺者の言葉にリツカの眉が釣りあがった。

 「別に、そういうんじゃ、ない」

 ちょっとした火傷のように痛むのは単にいつものように義姉がじゃれてこないからだ、
 ただ少し、寂しい、だけ。

 唇を噛んでから歩き出すリツカを見送りながら、蓮は苦く口元を歪めた。

 「リツカが居たのか」

 視界端に入った暗殺者の装束に視線を向けると、シャイレンの目には赤い髪の少女の背姿
 が見えた。反抗期かなと英雄は呟くと、親馬鹿丸出しなとろけた笑みを浮かべる。

 「・・・・・・相変わらずだな、シャイレン」

 昔馴染みの仲間でもあり主人でもある騎士を見返す暗殺者の眼差しは、
 あくまで冷ややかに言いながらも温かく注がれている。
 まだ話をしたいらしいイリノイスにまた、あとでなと言い聞かせながら、
 シャイレンは腰をあげる。

 「あとで、また部屋に来てくれる?」

 あどけなく笑みを浮かべる聖職者を見返しながら、シャイレンは大きく頷く。
 ただそれだけでイリノイスは嬉しそうに約束、と小さく声を出してまた笑う。
 笑顔が途切れない様子を見ながら、自然蓮も笑みが浮かぶ。

 そういう空気を作る事のできる英雄は、大切な愛娘の部屋の扉をしめると同時に、
 表情を消した。暗殺者は次に遠慮もなしに叩きつけられる殺気に、全身の毛が総毛立つ。

 背中の背骨の上を冷たい汗が伝った。

 ガキィン

 抜く動作も素振りも見せずに英雄は剣を暗殺者の取り出したダマスカスに叩きつける。
 カタールとは違い直に受け流すこともできずにくらった力の勢いは、
 暗殺者の左手をビリビリと電気が通ったように痺れさせる。

 「手加減が、ない、な」

 暗殺者は口端をつりあげながらも、手の痺れに眉を寄せる。
 恐らく僅かであろうが、数秒は感覚がまともに動かないであろう利き手を放って、
 腰に下げているカタールを右手でとる。

 大きめの刃を滑らせるようにしながら英雄の真横へと叩きつけると、
 彼は僅かに数歩足を下がらせて、寸ででその刃先を避ける。

 「当たり前だ。お前に手加減をしていては、私が負けるからな」

 ただ純粋に楽しそうに口はしを歪める英雄、騎士を見返しながら、
 暗殺者は左手に握るダマスカスをもう一度握りなおす。
 そうして指の痺れがないのを確認すると、暗殺者は利き手にダマスカスを逆手に持ちながら、
 肘を曲げて自分の前に垂直にかまえる。それから避けられたカタールを下にかまえると。

 騎士が剣を構えなおしたその瞬間を合図に、石畳の廊下をかん高い音一つ残して、
 前へと飛び出す。

 音にもならないような息一つでもって間合いをつめれば、
 騎士が僅かに目を閉じた。

 と、違和感。

 蓮はあと少しであたるダマスカスの刃先をそのままにしながら、
 脈一つ大きくうつのを感じた。

 ふ、っと息を呑んで一つ分の鼓動を逃せば、真上に気配。
 振り下ろされる刃はいやに重い音をならしながらダマスカスへと叩きつけられる。
 鈍いうめき声とともに蓮が後方へと倒れるように床すれすれに飛べば、

 「まだ、動ける、か」

 騎士の途方もなく安堵したような声が響く。

 「シャイレン?」

 暗殺者が友の名前を呼べば、シャイレンは何事もなかったように笑みを浮かべて言った。

 「動きが鈍ったんじゃないのか、蓮」

 そういった表情を見返すと、蓮は。

 「・・・・・・・・ほう、そう言うか」

 再度ダマスカスをかまえる暗殺者を見て、騎士は言った。

 「全力で来い」




76ある鍛冶師の話5-4sage :2004/06/23(水) 11:40 ID:yy9gsDVw
 かの英雄の話で持ちきりである通りを通り抜けると、
 少しだけ入り組んだ住宅街へと出る。
 カートの牛乳を時折心配そうに振り返る鍛冶師は袖口の赤い刺繍を見て、
 目を細めた。

 「・・・・英雄」

 そう言われている騎士は気さくな人物であるように見えた。
 よく笑う、そういう印象をもたせるような笑みの。

 いい人なのだろうなと思えば、少しだけまた会いたくなった。

 「さて、露店の位置や・・・」

 冒険者向けに安く牛乳を売る露店は割りと多いのだが、見落としがちなのが一般市民に売る
 という事。なにも首都プロンテラは冒険者とその回りの人間達がいるだけではない。
 ひしめき合う建物には沢山の職業の人々、年齢、性別で溢れかえり。

 今日会った人とまた会えるという保障はどこにもない。
 それだけ広い街の中で商人たちが一番の金ヅルにするのが冒険者。

 一般市民ももちろん食物や最低限の自衛用の武器などを買いにはくるのだが。

 そのせいであまり露店を見かけることのない家々の合間を歩いていけば、
 十字路の真中へと足が出る。辺りを見回して見れば、小さな宿屋が数店連なるだけでどうや
 ら先客は居ない模様。これ幸いとばかりにカートの中身を広げていくと、すぐして宿から出
 てきた店の人たちが安めに設定してある値の牛乳を買い占めていく。

 「お兄さん、これも頂戴」

 カートの右から伸びてくる腕に答えれば、今度は左から。

 「これもこれも!」

 気が付けば一時間もたたずに売り切れたカートの中身を見つめれば、
 上からふいに聞こえてくる声。

 聞きなれたそれに咄嗟に顔をあげると、赤い髪の少女がペコの上から顔をのぞかせていた。

 「すごい勢いで売れていたな。話し掛けようと思ったんだが、忙しそう、で」

 目線を彷徨わせる様子にジェイがふいに笑う。
 どうやら客が引くのを待っていてくれたらしい。

 「シャイレンさんて、なんやキラキラしとる人やったね」

 視界の奥でちらつく金髪を思い出しながら言うと、リツカが目を瞬いてから大笑いする。

 「きらきらって、なんだそれは」

 「せやって、なんていうか、王子様とかそんな」

 「アイツが王子様、なぁ・・似合わないだろうな」

 「そう、なんや?」

 想像でもしているらしいリツカにジェイが小首をかしげて返す。

 「そりゃそうさ。アイツは騎士だからな」

 言い切るリツカにジェイはほんの少しだけ苦笑いを浮かべた。



 ペコペコから降りてカート整理を手伝いだしたリツカを見ながら、
 ふと腰に下げてある短刀を見つける。よくよく見ればジェイの名が刻んであり、
 そのこともまたジェイには嬉しかった。

 「姉さんはシャイレンの事が好きなんだ。というより、それしか見えていない」

 唐突に聞こえた言葉に緩んでいた表情をジェイは引き締める。

 「俺は、あの人の剣であり盾でありたい。
  あの人の何かでさえあれば、いい。
  けれど多分俺は一生、その存在にすらなりえないかもしれん。

  ・・・・・・ジェイは、そういう思いをしたことはないか?」

 問われると同時に向けられる赤い瞳は、僅かに感情の色に揺れているようだった。
 戸惑いがまず鍛冶師を支配したが、次にふいにこの少女が自分を頼りにしていることに、
 何処か安堵した。

 「せや、な。
  俺は、」

 話を続けようと口を開けば、思わず音が出ない。
 そういえば面と向って好きだとか、鍛冶師は口にしていなかったのだ。
 答えるにも答えられない自らの返答に、鍛冶師の表情が固まる。

 「・・・・・・ジェイ?」

 「あ、え、・・・・・あー・・・えと、な」

 「おう」

 カートの隅っこに視線を伏せながら、必死に言葉を向ける。

 「俺、リツカさんのこと好き、なんよ」

 「そうなのか・・・・・・、・・・・・・、・・・・・・・・・は?」

 一瞬納得して流されかけた言葉にジェイの目が遠くなれば、
 リツカはぽかーんとした調子で唇を開いている。

 「あぁ、だからな、その結婚とか違うんよ。
  なんやろ、貴方を守る防具も武器も俺が作りたい。
  そうやって俺が貴方の糧になれれば、ええなぁっていうか。

  いや、好き、やけど」

 「・・・・・・そ、そうか」

 お互いの言葉がしどろもどろになる。
 その中で鍛冶師が尚も言葉を紡ぐ。

 「あんな、でも全部が全部俺が貴方を守るものを作れるわけや、ない。
  俺が作れるんは武器や、し?防具はせいぜい不備がないか見ることしかできへんし。
  せやかて全部できればそりゃ嬉しいで?

  けどそうは、いかんし。
  そういうことなん、ちゃうんかな。

  その人のこと、全部が、全部な、手に入れることなんてできへんし。

  せや、ろ?」

 逆に問われてリツカが瞬きを繰り返しながら首を縦に振る。

 「だから、イリノイスさんの何処かにシャイレンさんのことがあっても、
  決してリツカさんのことを嫌いなわけやないし。

  気にすることあらへんのと違います?」

 「・・・・・・・、そう、か。・・・・すまない、ありがとう。落ち着いた」

 「せやったら、ええんのやけど」

 ぽてっと軽い音を立てながら鍛冶師の肩にリツカが頭を預ける。
 好きにさせながらジェイが大人しく座っている。

 その横でペコが大あくびするのを壁からこっそり覗きながら、
 錬金術師ルードは、進展してるようで微妙にすれ違っている二人を拳一つ握り
締めながら見守っていた。

77ある鍛冶師の話sage :2004/06/23(水) 11:42 ID:yy9gsDVw
23様>Σ(゚Д゚;)!!
78下水リレー(93・地下)sage :2004/06/23(水) 16:30 ID:ttSNOT1k
 よーしパパリレー進めちゃうぞー。
----

「…よりにもよって…奴か」
 男はその姿を見て、そう口にするのが精一杯だった。彼の敵にして今の主たる
存在の数ある手駒の中でも品性においては最低の下衆。戦う相手に対する敬意も
礼儀もなく、ただその圧倒的な魔力によって己より弱い敵を嬲ることしかでき
ない屑。『狗』とは良くつけた名前だと男は思う。
 彼が『狗』に気づくのと同様に、『狗』も男が自分の領域に足を踏み入れた事に
気が付いたらしい。男のすぐ横の壁面から、小さな青黒い肌の生首がぬぅっと生えた。
その面はしわがれた老人の如く、高く突き出た鼻梁とこけた頬は生前にも異相に分類
される物であったろうことは間違いない。今は、黒目の中に赤光を浮かべる瞳という
取り合わせが更に魔的な風貌を強調していた。この小さな皺首が『狗』の本体だ。
 生前は有能な死霊術師だったというが、今はその影すらもない。
「邪魔はダメッ絶対ッ」
「……」
 無言で頷く男の姿に満足したのか、皺だらけの老顔を綻ばせて『狗』は男の脇に
漂う。これから始まる「遊び」への期待で緩んだ『狗』の口元から滲んだ涎が地面を
打った。

「弓技も使えるんでしょ?」
「まぁ、人並みには」
 楽士と思しき姿が楽器を弓に持ち変えるのを待ってから、女狩人は弦を弾いた。ほう、と
男の口が感嘆の息を漏らす。
「HYAAAAAAA! HAAAAA!」
「「ダブルストレィフィング!」」
 気合の声が不快な金切り声を裂く。それでも甲高い叫びを上げ続ける『狗』の首に、
炎を纏った矢が四本突き立った。苦悶の声とともに、仮頭がぼとりと落ち、新しい頭が
空白を埋める。しかし、それも『狗』が敵を欺く常套手段に過ぎない。一番大きな分身の
変容に敵が気を取られているうちに、無数の分身で壁を、床を、天井を抜けて周りを
包囲する。数で嬲ることこそ、奴の戦い方だ。
「ひゃはははははっ みぎぃぃぃ!」
「↑ダヨォ〜」
「シィィタァァーーー!」
 複数の方向から、連携の取れた同時攻撃が前にいる敵対者達を襲う。狩人と楽士が
幽霊を打ち抜き、かつての男同様鍛えた肉体を武器とする男達が素早い動きで蝙蝠を
叩き落とすが、それも数という暴力の前には無意味。
「くそ…きりがねぇぇ!」
「………」
 男は、『狗』の分身で埋め尽くされた視界の向こうから聞こえる悲鳴に落胆の表情を
浮かべた。この者達も奴を倒す力はないだろう。『狗』の仮体が無数の蝙蝠と死霊の
乱れ飛ぶ向こうで勝ち誇ったように狂笑する。その、刹那。

「HYAAAHAAA…GYAAAAAAA!?」
 ばしゃっ、と男のすぐ脇で水を叩くような音がした。老人の頭の形をしていたモノが
至近距離から銀の矢を打ち込まれて爆ぜる音だ。そして、男の首筋に鋭利な刃が当たる
感触。
「不意打ちで盗賊の上前はねるなんざ…」
「十年早いっての」
 男女二人分の声は、完璧に気配を絶っていた筈の男の背後から聞こえた。男に刀を
向けているのは、どうやら女らしい。賞賛に値する技量だ…。素直に男は認めた。
だが、ツメが甘い。男は既に人ではないのだから。
 内なる声が囁く。切るのではなく突きつけるに止めた甘さの代償は支払ってもらえと。
首に食い込む刃を気にも留めず、踵を中心にくるりと回る。人ならば頚動脈を自ら切断
するような速度と動きにカタールの持ち手は虚を突かれたように後ずさった。男は、
青い血を首から引きながら、間合いをつめ、女の首を掴もうとする。
 その手が、空を切った。壁を背にした女が、あまりにも
「…似ている」
「え?」
 その一瞬で、逆襲の機は消えた。男は、己の油断を内省しつつ、足に力を込める。
「クァグマイアを」
「あ、はい。クァグマイア!」
 後ろから響いた声が、撤退しようとした男の目論見を砕いた。
「ECと原理は同じ、かな。精神波動を纏うことで、空気摩擦を限りなくゼロに減らし、
 高速移動を可能にする…、たいした手品だけれども種が推測できれば対処は簡単だよ」
 得意げな声。泥濘の魔法を唱えた女の声とあわせて、八名。これだけの腕の持ち主が
揃えば…。僅かに沸く希望を冷たい理性の声が否定する。ありえぬ。奴に勝てるなど。
永劫に彼女と共に。…今のままでいればいいのだ。

 そ れ が 惨 め な 負 け 犬 に で き る 最 善 の 事 だ。

「……屠所のブタのように…青ざめた面にしてから、おまえらの鮮血のあたたかさを、
あぁぁ味わってやる!」
 足元で、上半分がほとんど消し飛んだまま叫ぶ老顔の声が男を我に返らせた。
「絶望ォーーーに身をよじれィ虫けらどもォオオーーーッ!!」
 跳ねるように飛び上がった首を、女狩人の矢が射抜いた。しかし、狂ったような
大声は注意を引く為の物。ならば、『狗』の本体は別の場所に移ったということだ。
「おい! 動くな! …クソッ」
 男の背を強矢が貫いた。遅れてほぼ無詠唱の雷呪が彼を撃つ。しかし、彼の拳を止める
事はできなかった。男の知る女に似すぎている女に向かって、叩きつけるように振り下ろす。
男の強靭な拳は、目を開いたまま避けようともしない女の横の壁を砕いた。

----
 壁をぶち抜いてアサ姐御をサラって逃げるもよし。壁向こうに狗がいたってことにして
共闘してもよし。後ろで見学の魔族連を出してもよし。
 なんでもいいから続けよー。へいへい。
79名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/23(水) 17:07 ID:yy9gsDVw
キター!パパステキ(*ノノ)オヨメサンニry
80二個前の201sage :2004/06/24(木) 02:36 ID:pCM3vQEM
うおぉ、出方を待っていたら悪モンクが活動してる!
しかも俺がイメージした通りに、俺が書くより格好良く!
・・・駄目じゃん俺orz

・・・ちなみにさ・・・俺の勘違いだったら申し訳ないんだが・・・
「狗(イヌ)」じゃなくて「鉤(カギ)」じゃなかったっけか?
いや、激しく今更なんだが
8193@NGワード用sage :2004/06/24(木) 10:43 ID:OS8lKGy2
Σ( ゚Д゚) ………>>80

   ||   ----
 Λ||Λ  ホテルのスィート風の寝室。気だるげな金髪イケメン曰く。
( / ⌒ヽ  「あの男を捨てて私についてきた理由は何かね?」
 | |   |  美女、煙草に火をつけて一服してから曰く。
 ∪ 亅|  「あいつ、脳みそまで筋肉で漢字も覚えられないんですもの」
  | | |  ----
  ∪∪      201様、246様、大変申し訳ありませんでしたっ。漢字馬鹿は私ですっ
8237だった人sage :2004/06/24(木) 22:38 ID:VdGFWVAY
 鍛冶屋の朝は、早い。
 夜明け前から炉を起こし、相方の祈りの言葉と共に、製鉄をするところから私の一日は始まる。

 閉め切った工房に浮かぶ炉の明かりが、その前に立つ、私と銀髪のプリーストを照らした。
 篭る熱気の中、タンクトップに短パンという、およそ聖職者らしからぬ姿で彼が聖句を紡ぐ。
 鉄鉱石を炉に入れ、鞴で炉に空気を送り込んでやると、赫く熔けた鉄鉱石が沸々と動きだす。
 明るく輝くその色を見つめ、その時を待つ。

「アルフ、祝福を」
 彼の唱える聖句に応えて、神の祝福が私の体を包む。神を讃える彼の声は胸に低く響いて心地よい。
 額から落ちる汗が炉の縁に落ちてジュッと煙を上げる。隣にいる彼の端正な横顔にも汗が流れる。

 ――Ehre sei dem Vater und dem Sohn und dem heiligen Geist
    wie es war im Anfang so auch jetzt und alle Zeit in Ewigkeit――

 鍛冶師は火と鉄の温度をその色で測る。どんなに暑くても工房を閉め切るのは、暗い方が判断しやすいからだ。
 祝福が私の感覚をより鋭くし、成功を祈る聖歌が勇気をくれる。いい感じだ。
 炉から熱い鉄を一気に受け口に流し入れ、私は大きく息をついた。

「ありがと、アルフ。残りは夕方でも大丈夫」
 依頼があれば続けて武器の焼入れに入るところだが、生憎とこの小さな工房にはそう客は来ない。
 毎日少しずつ、鉄を作り、鍛えて鋼鉄にして売ったり、それが貯まったら武器を打つ、そんな生活だ。

 彼は、ロザリオを手に私の言葉に頷き、そのまま跪いて朝の祈祷を続ける。
 彼の祈りを後ろに聞きながら、私は閉め切っていた部屋の窓を開け放し、扉を開いて熱い空気を逃がした。
 東の空はうすく染まり、日の出が近いことを告げている。ひんやりとした、朝の涼やかな風が流れ込んで、
 汗ばんだ肌を冷やしてゆく。窓に背を預け、髪を解き、シャツの胸元に風を送りながら見やれば、
 まだ薄暗い部屋の中、片膝をつき、ロザリオを繰る彼の銀髪を風がなびかせ、窓の淡い光に揺れる。
 その姿は厳かというより艶っぽい感じで、私はこの朝の光景を密かに気に入っている。
 気付かれないようにくすりと笑い、目を閉じて、私も覚えてしまった祈りの言葉を彼と共につぶやく。


 ――O mein Jesus verzeih uns unsere Sunden bewahre uns vor dem Feuer der Holle,
    fuhre alle Seelen in den Himmel,besonders jene die deiner Barmherzigkeit am meisten bedurfen.
    Im Namen des Vaters und des Sohnes und des Heiligen Geistes――

    嗚呼、主よ、我らの罪を赦し給え。我らを地獄の業火より守り給え。
    すべての霊魂、ことに主の御憐れみを心より求める霊魂を、天上に導き給え。
    父と子の聖霊の御名によって――。


 プロンテラに、大聖堂の鐘が朝の訪れを告げる。牛乳を仕入れに行く商人のカートの音が遠くに響く。
 まどろむような朝靄に光がきらめく。――街はいま、ゆっくりと動き始める。

 
                                                       To be continued?


下水リレーが久々にキタ―!!と喜びつつ、怪電波の産物を投下。
短いので読み飛ばし可能です。では。(`・ω・´) ノ
83名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/25(金) 00:42 ID:5tOE2Sls
リレーの続き書きたいけど、好きなように進めていいものか悩むなぁ……
84名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/25(金) 01:04 ID:Jv20tBhE
キャラを殺す以外の選択は、後の人がリカバーできるから何してもいいんじゃないかなぁ、とか
殺してもいいよって生みの親が言ってる人もいるし。

かいちゃえー
85丸いぼうしsage :2004/06/25(金) 02:15 ID:xOgGsOoM
--魔法論 第二講

「遅刻だ遅刻!!」

僕が急いで教室に飛び込むと、既に講義は始まっていた。賢者は後から飛び込んできた僕には気もつかず、
滑舌もなめらかに講義を続けていた。彼の花粉症は治ったのだろうか。

「…で、ここまでが前回の復習。それでは、今日は何故平行なはずの二つの世界がくっつくのか、これを説明しよう。
端的に言ってしまえば、現実世界と意思世界をねじ曲げてくっつける役割を果たすのは『魔法子』と呼ばれる
物質だ。『魔法子』と書いて『まほうし』あるいは『マジコン』と読む。『まじこ』と間違えないように
くれぐれも注意したまえ。」

彼は一人でククク、と含み笑いを漏らした。どうやら彼なりの冗談のつもりだったらしい。
皆が講義を聴くのに必死…という訳ではないのだが笑う人間は一人もいなかった。
一対多の一方的な講義において、多の側がする愛想笑いなんてものにはこの上なく意味がないからだ。
賢者はちょっと視線を伏せて咳払いをすると、いつものように白墨を手に取り、「魔法子-Magicon」と板書した。

「えー、魔法子は魔法力を媒介する粒子だ。第五要素だとか、賢者の石だとかよんでいる人間もいる。
魔法力というのが空間をねじ曲げる力だとは、前回にちょっぴり触れたね。
まとめると、魔法子存在するところに魔法力あり。魔法力あるところに空間湾曲あり。
空間湾曲あるところに界面現象あり。界面現象あるところに魔法あり…。
 つまり、魔法子があればそこに魔法が存在しうる。

 それでは魔法子の各論に移ろう。魔法子の特質は二つ。まず魔法子は人間の意思である程度まで操れる。
どういう訳かはわかってないけれど、魔法子は人間が意識を集中すると、その方向へと動く。
めちゃくちゃなようだけれど、実際そう確かめられているわけだから、ここの説明は勘弁願いたい。
…うさんくさそうな目で見ないでほしいな。一応、魔法力学の公理として要請されてることなんだ。
もう一つの特性はさっきも言ったけれど、魔法力の媒介。魔法子密度が高いほど、生じる魔法力も大きくなる。
つまり、魔法を使うと言うことは、魔法子を操って一カ所に集めることに他ならない。

 まぁ、実際は、空間が歪んで魔法が発生するとくっついた先の意思世界の方へ魔法子が漏れだしてしまう。
歪みを大規模にしようとすればするほど流出の速度は大きくなるわけだから、魔法子を集めるのは大変になる。
いってみれば穴の空いたバケツに水をくむようなものだよ。しかも、水を入れれば入れるほど穴は大きくなる。
まぁこのあたりのことが前回の制約の三条件に繋がってくるわけだ。」
86丸いぼうしsage :2004/06/25(金) 02:16 ID:xOgGsOoM
制約の三条件…時間・広さ・強度…だっただろうか。ノートを取り忘れていたので、何分よく覚えていない。
 幸い、前の人間のノートを見られる位置だったので、肩越しにのぞき込んでみた。
結果として字が汚すぎて読めなかった。汚いと言うより、別の言語体系を成す文字と言った方が近いだろう。
信じられるのは己のみ、という事を確信しつつ、僕は教壇に注意を向けた。
賢者は大きく身振り手振りを交えながら檻の中のクマみたいにうろうろしている。
その様子は、講義をする学者よりもむしろ演説をする指導者を連想させた

「これで、君たちが何かを想像し、精神を集中させれば魔法が使える…ということはなんとか証明できた。
だけれども、君たちは念じただけでは魔法は使えないだろう?。実際には詠唱という君たちが魔法学校で
何年も叩き込まれてきた煩雑なプロトコールが必要なわけだよ。

 それはひとえに、意思世界を作り出すことの難しさに起因するんだ。
意思世界とはその名の通り、一つの世界だ。まぁ、そう広い範囲について想像をして世界を作り上げる必要は
ないんだが、想像で世界を作り上げるというのは非常に難しい。

 そう、一つ実験をしてみよう。まず手元に何か一つ見慣れたものを用意したまえ。そして、じっと目をこらして、
見つめるんだ。拡大して拡大して…。そうすると、非常に細かいディテールに至るまで分かるだろう?。
次に、目を閉じてさっき見つめたものを思い出してごらん。そして、頭の中で見つめる。拡大して拡大して…
どうだい?細かいディテールに至るまで再現できているだろうか?

 出来ている人間は、生まれついた魔法の天才と言っても過言ではないだろうね。でも、普通は出来ない。
それは人間の映像記憶の一つの限界とも言える。我々は見た物全てを写真のように記憶するわけではなく、
抽象的なパーツの集合として記憶する。
だから、抽象的なパーツにディテールという具象はない。しかし、意思世界は抽象的なパーツの集まりではなく、
細部まで具体的に定義された存在でなければいけない。

一つの世界を完全に想像するというのがいかに難しいことか分かってくれたかな?。
 これを克服するのが魔法回路と詠唱の存在なんだが…これは話すと結構長い。
残り時間を考えると半端になってしまうな…。よし、では今日はこれまで。また次回にでも詠唱と魔法回路に
ついて話すことにしよう。
 残った時間は有効に使ってくれたまえよ。それじゃ、おつかれさま。」

そういって賢者はさっさと退出していってしまった。規定の時間まであと二十分はたっぷりあった。
次回は相当長い話になるのだろうか。あまりこの教科が好きではない僕はそれを考えるとなかなかだるい気分
になれる。

…だが、次回はどうあれ昼の学食ラッシュを避けられた意義は大きい。
久しぶりに人にまみれず昼食が取れそうだ。
ちょっと得した気分をまといながら荷物を片づけると、僕は教室を飛び出した。
8793@魔術師の憂鬱前編(1-1) :2004/06/26(土) 12:33 ID:Wr3eoClQ
某所より電波受信…

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「今日の狩りは結構儲かったなぁ」
「そうですね。ウィドさんのお陰ですよ」
 にこにこという妹の声に、照れたようにそっぽを向く相棒。いや、もう元相棒なのかしら。私は、数えればもう何度目かわからないようなため息をつきながら、自分の分の分配金を手に取ると立ち上がった。
「それじゃあ、お先に」
「お、おい。フィリー?」
 後ろからかけられる声にも振り返らない。振り返るとみっともないところを見せてしまいそうだから。かなり歩いたのに、風のいたずらか二人の声がまだ聞こえてくる。
「あいつ、付き合い悪いなぁ…。まぁ、ちょうどいい。こないだの話だけど、今日は空いてる?」
「指輪のサイズあわせ、ですか? わかりました。じゃあ、行きましょう」
 足早に、宿に向かう角を曲がったところで目元を拭った。

 ウィドと初めて会ったのは、私がまだ魔法使いの卵だった頃。やっぱり聖騎士の卵だったあいつは、横湧きのクモの牙やらで日々傷だらけになりながら赤芋峠に向かっていた私を突然口説いてきたんだったっけ。
『君を守らせて欲しい』
 っていうのは、あいつ的には口説きじゃなかったのかもしれないな、ひょっとしたら私が勝手に勘違いしていただけかもしれない。なんて最近思うようになったんだけど。…いかんいかん。目元がまた潤んできている。
 気分を落ち着かせるために深呼吸一つ。俯いた目の先でちょっぴり大きめな…と、自分では思っている双球が膨らんで、元に戻った。
 そういえば、会ったばかりのときには良く胸のことでからかわれたっけ。
『お前、胸ないよなー』
『るっさいわねぇ。魔法使いの制服がきっついんだからしょうがないでしょ!?』
『口ではどーとでもいえるよなぁ?』
『……焼くわよ』

 私が高等魔術師の試験に受かった時は、あいつは自分の時よりも大喜びだった。でも、ゲフェン塔の前で待っていたあいつに、誰よりも先に真新しい魔術師の服を見せた時のあいつの第一声と来たら。
『……本当にでかかったんだなぁ。騙された気分だ…』
『騙されたってどういうことよっ』
『パッド入れてるんじゃないのか? 触っ…』
『とりあえず、燃えときなさい!』
 そういえば、私はいつもからかわれては怒る役だったな。本当はそんなに嫌じゃなかったのに。どこかで、素直になっていればよかったのかもしれない。そんな気もする。

 私たちは、おおむね良いコンビだったと思う。妹が私の後を追ってミッドガルズにやってくるまでは。妹のミルフィが聖職に就いて、一生懸命に修行して…私たちと肩を並べられるようになった時から、“良いコンビ”は“最高のトリオ”に変わった。
『どーして、こう。姉妹でこんなに違うかなぁ。ミルは清楚って感じなのに、お前はこう、なんというかさぁ…』
『しょうがないでしょ。違うという現実を直視なさい』
『どれ、じゃあ失礼して直視させてもら…』
『燃え尽きてしまえ!!』
 思い出すと、口元が緩む。本当に、私はいつもあいつにからかわれてばかりだった。たまには、あいつの童顔をからかってやればよかったかな。
8893@魔術師の憂鬱前編(2)dame :2004/06/26(土) 12:36 ID:Wr3eoClQ
「あー、ウィドさんも見る目がないねぇ」
 …こいつは誰だっけ。
「俺なら、フィリーさんをこんなぐでんぐでんに酔いつぶれるまで悲しませたりしないけどなぁ」
 ああ、そうだ。ちょっと飲みたくなって立ち寄った酒場で久しぶりに会った魔術師ギルドの後輩だ。ミルフィが、私たちに追いつくまでの間、世話になったのが縁で、私たちともちょくちょく狩りに行ったりしている、気のいい奴。名前は、カサイとかいったっけ。
「あー、もう。この辺でやめときましょうよ」
「うっさいな。黙って飲ませろ」
 酒瓶に伸ばした手を、男の手がぐっと押さえる。私は、その感触に少しどきりとして、それを隠す為に乱暴に立ち上がった。マントはイスにかけてあるので、露出の多い魔術師の服のおかげでプロポーションが丸分かりだ。視線を感じて横に目を転じれば、隣の席から、批難するような目。
「どーせ私の胸はでかくて見苦しいですよっ」
「お、おい。やめろって」
 呆れた様にこっちを見る隣の卓の客に、見せ付けるように胸を突き出す。あいつと同じ聖騎士の男は、耳の先まで赤くなった。連れらしい隣の女が、少し眉をひそめているけど、男は私の胸元を見たまま目を逸らせない。いい気味だ。
「これでもまだ押さえてるんだから。窮屈なのよねー。取っちゃおうかな」
 背中に手を回す。でも、酔っ払ってるせいで留め金がうまく外せない。
「フィリーさん、やめ…」
「カサイくん? 悪いんだけど、外してくれない?」
 ひょいっと、カサイに背中を向ける。つもりだったんだけど足元がふらついて、もたれかかるような格好になってしまった。
「やん…」
「やん、じゃないでしょう! まったく…」
 カサイは私の背中を抱いたまま、周りの席に頭を下げ回っている。いったいなんで、こいつはこんなにお節介な…
「フィリーさんのこと好きだからですよ。ボクは」
「え?」
 一気に酔いがさめた私を支えながら、カサイは微笑を浮かべたまま見下ろしている。
「……え」
「今のままのフィリーさんが一番ですよ。ミルフィも、ウィドさんも多分そう思ってます」
 今のままの…か。カサイも、それにウィドも気に入ってくれてたのは、無理に型にはめた私。何があっても軽く笑い飛ばして、怒ってみせる私。妹のように、清楚でおしとやかにだってなれたのに。もう、全部手遅れなのかもしれない。
 魔法を使えたって、こんな悩みには何の役にも…
「…いや、そういえば…」
「フィリーさん?」
 私は、口元を拭うとカサイに預けていた背を伸ばす。酔いはまだ抜けていないけれども、酔っていなければ、こんなことをできるとも思えない。
「お勘定、置いておくわ。それじゃあ…さよなら。妹とウィドにもよろしくね」
「さよなら? あ、待ってくだ…」
 カサイの声を振り切るように、髪留めに差したクリーミーの魔力を発動させる。目指すのは魔術師の塔、ゲフェン。そこの書庫に、私の望む力があるはずだから。

 その日を境に、フィリアーナ・ダネルという名前の魔術師は、姿を消した。

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 前編つけて1-1もないだろうに。馬鹿だな、私。しかも上げてるしorz
……>>23ですって? 学習能力など遠い昔に消えました。
8993@魔術師の憂鬱後編(1)sage :2004/06/26(土) 14:22 ID:Wr3eoClQ
「今日の狩りは結構儲かりましたねぇ」
「そうですね。カサイさんもお疲れ様」
 アルデバランの塔の下。三人の冒険者達が机の上のあれやこれやを見定めながら、お互いの労をねぎらっている。いつもの風景。
「……でも、時計塔にも手がかりはなかった、な」
 聖騎士が沈痛な表情で呟くと、残りの二人も唇を噛んだ。女聖職者の姉、魔術師フィリーが姿を消してから、今日で一ヶ月になる。
「姉さんのことですから、修行とかで一人でどこかに…」
「そう思って探した赤芋峠、時計塔、監獄まで入ったけれども、フィリーはいなかった」
「…残念ですが、大手ギルドや臨時パーティにも、彼女らしい姿は無かったようです」
 ふらりと姿を消し、二度と戻らない者がいることは、彼等も知っていた。世界に倦んだ者や、世界律に反する行いをした者など。そうだとしたら、彼等の知る女性はもう、戻らない。
「…認めたくはないですが、フィリーさんはもう…」
「それ以上言うなよ、カサイ」
 カサイは、聖騎士の険しい眼光に言葉を途切れさせた。ややあって、聖騎士が寂しげに笑う。
「あいつ抜きで、式を挙げる気はないってミルフィも言ってたしな。もう少し…、もう少し、待て」
「少し、っていいますけれど、もう一ヶ月ですよ! 姉は…」

「こんにちは。どうしたんですか? 大きな声で」
 いつもの場所に、あいつらはいた。私は微かに鼻にかかったような声で、彼らに話し掛ける。
「…あなたは?」
 カサイがこちらにちらりと目を向けた。その声に跳ねるように近づいても、前ならば邪魔だった胸は弾まないし、肉付きの良かった足もほっそりとして動かしても恥ずかしくない。
「リーアって呼んでください。はじめまして、皆さん」
「…あ、はじめまして」
 妹がわずかに怪訝そうな顔をしながらも、立ち上がってから挨拶をする。その左手薬指に銀の指輪を見つけて、私の心が少し痛んだ。一ヶ月は、長すぎたのかもしれない。けれども。
「結婚、されるんですね。おめでとうございます」
 軽く膝を曲げて、優雅に微笑んでみせる。それが今の私の型だから。着ているのは白い服。膝上までしか丈は無いけれども、汚れない無垢の白の私。せめて、私を見て欲しい、そう思って、私はあいつの方にくるりと向き直る。
「…おい。ふざけるなよ?」
 どん、と肩を突き飛ばされて、私はよろめいた。否、そのまま尻餅をついてしまった。軽くなった体の扱いが難しい。
「わ、どうしたんですかヴィドさん!?」
 カサイの声にも、あいつは振り向きもしなかった。私のほうに向けられたあいつの童顔は、はじめて見る表情を浮かべている。
「…何を、怒っているんですか?」
「何をじゃないぞ! 今まで何処ほっつき歩いてた?」
 あいつが私の胸倉を掴む。細く軽くなった私の体は、軽々と持ち上がってしまった。
「痛い…痛いですよ、ヴィドさん」
「何がヴィドさん、だ。フィリー、お前何考えてるんだ」
 私の目が、驚きに丸くなり、それから横を向いた。髪の色も、服も、体格も…、全て変えたのに。無駄だったんだ。こいつには…、一目で見抜かれた。喜んで良いのかそれとも悲しむべきなのか。色んな苦労が無駄になったのだから、多分悔しがるべきなんだろうケド…、ちょっと、ううん…、とても嬉しい。
9093@魔術師の憂鬱後編(2)sage :2004/06/26(土) 14:24 ID:Wr3eoClQ
「フィリー…姉さん?」
「……はぁい」
 信じられないような目でこちらを見る妹に、軽く手を上げてみせる。宙吊りにされたままなので、様にならないことこの上ない。
「はぁい、じゃないだろう! 一体どれだけみんな心配したと思ってる」
 がくがくとゆさぶられる度に、私の足がプラプラ揺れて、時々あいつの足に当たる。当たり前だけど、あいつの足は鎧靴でがちがちだから、ちょっと痛い。
「…足、痛いんですけど」
「……足?」
 目線を下に向けたあいつの顔が、少し呆けた。
「……フィリー、お前、少し縮んでないか?」
「気がついていなかったの?」
 こういう奴だった。とりあえず、足がつくくらいの高さに手を下ろしてはくれたけれど、まだ胸倉に掴んだ指はそのままだ。
「でも…姉さん、その格好は一体…」
 妹の疑問に答えたのは、私じゃなくカサイだった。信じられない、というように首を振りながら
「……転生の秘儀ですか。高位の者のみに開かれた扉の向こうに新たな道がある、と聞いたことがあります」
「そう。私は生まれ変わったの」
 転生術を実行する際に、再構成される肉体の年齢を抑え気味に、妹くらいの年にとどめたのだ。契約する際の戦乙女も、乙女というだけあって理由を話したら二つ返事で了承してくれたし。
「…転生。でも、それならばどうして私たちに黙って!」
「そうだ、理由だ。俺達をこれだけ心配させた理由を話すまで離さんからな!」
「……理由って…」
 素直に話せるわけがない。そう思った私の脳裏に、姿を消した日のことがよぎった。

『今のままのフィリーさんが一番ですよ。ミルフィも、ウィドさんも多分そう思ってます』

「…前のままの私じゃ…駄目だったじゃない」
 ぽつり、と口に出した言葉はもう止まらない。きっと上げた目線にヴィドがたじろぐのが分かる。もう、遠慮もやめた。自分の惨めさに泣くのは後でいい。
「私は…ヴィド、あなたが好きだったのに。私より、ミルフィのほうをあなたは見てた」
「……あ?」
「私よりも可愛くて、おとなしくて、胸も無いほうが好みだったんでしょ? だからそうしたのよ!」
 思考停止、といった風なヴィドに、私は思いの丈をぶつける。今日を逃せば言う機会もないだろうし、それに、もう言っても手遅れだし。
「……えーと?」
「遅かったみたいですけどね! 結婚おめでとう! 妹を泣かせたら三種混合大魔法でボロボロにしてあげるから、覚悟なさい!」
 矢継ぎ早に叩きつける私の言葉をさえぎったのは、ちょっと湿った柔らかいもの。
「…え」
「とりあえず、誤解があるようだから順を追って解決しよう。俺も君が好きだ」
 頬を染めた童顔の聖騎士は、私の唇から離れると、照れたように笑った。今度は私の思考が鈍っている。事態が把握できていない。
「で、姉さん。私も誤解を訂正したいんだけど…、私の結婚相手はカサイさんなんですけど」
「あー、そうなんです。すみません」
「そこで謝らなくてもいいです」
 そういう二人の手元には、揃いの銀の指輪。
「じゃあ…あの日、ミルフィと指輪を見に行くって言ってたのは…」
「な、なんで知ってるんだ!?」
 慌てるあいつを、じっと見つめる。前は同じ目線の高さだったのに、ちょっと見上げるような形になるのが新鮮。鈍い私にも、もう答えはわかったけど。一ヶ月泣いた分のお返しをしたい気分で意地悪をする。
「お、お前に…その」
「私に?」
「これを、受け取って欲しい。サイズ合わせにミルフィに付き合ってもらったんだ」
 あいつの手に乗っていたのは、小さな宝石箱。中にはきっと、今の私には大きすぎる指輪。
「…馬鹿。指のサイズくらいいつでも教えたのに」
 照れ隠しに呟きながら、私はあいつの胸にもたれかかった。


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「で、転生職のテスターからの意見だが、女ハイウィズの衣装は…」
「は、テスターからは最高だと返事が返ってきています」
「そうか、じゃあそれでいこう。次は…」

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電波を頂いた萌えスレ360様に捧げます。返品は受け付けません(嘘 是非お納めください。こんな出来ですが…orz
91名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/26(土) 18:39 ID:2McxbOms
書き込みって週末に集中するようですね。
下水が再開してくれたようなので、先が気になりつつ投下ヽ(`Д´)ノ
92ある鍛冶師の話6-1sage :2004/06/26(土) 18:40 ID:2McxbOms
 大聖堂に鳴り響き渡る声の連なりに、
 銀髪の聖職者は僅かに耳をふさぐ。
 その歌声は確かに何処か聞いた事があるように思えた。

 なんとなく見かけたリツカちゃんのお気に入りの鍛冶師を連れ出して、
 向ったのは大聖堂。月に三度は顔を見せに行かなくてはならないのだが、
 蓮はその職業上行く事が許されていない。

 かと言って彼女の保護者であるかの騎士が共に行けば、
 恐らくは騒ぎになりかねない、か。
 結局身近な出入りをしてもよさそうで、頼りになりそうな人といえば、
 今日はこの鍛冶師しか居なかったのである。

 「ジェイさん、は五月蝿くないですか?」

 聖職者に問われて視線を向けると、イリノイスが両耳をふさぎながら響き渡る聖歌を
 ひどくつらそうに聞いている。聖職者にあるまじき行動だというのに、周りのものは
 とがめる気配がない。

 ジェイが一つ首を傾けながら、いいえと言葉短く返すと、イリノイスは髪と同じ色の
 睫を伏せながら眉を寄せた。


 重なる声が遠ざかりやがて最後のオルガンの音が一つ響き渡る。
 礼拝に参列した人々が散り散りになる中、合唱に参加していた男性の聖職者がこちら
 へと足を向けてくる。

 「イリノイスさん、来て頂けたようで」

 金髪に青い目という誰かを彷彿とさせるような風貌の聖職者は、軽く頭を下げた。
 イリノイスが小さく唸りながら頭を下げるのに習い、同じく頭を下げると、
 短く切りそろえられた金色の髪を片手でかきあげながら、聖職者が頭を上げる。

 「失礼こちらは、初めてでしたね。
  私はシュイ・グランドール。プロンテラ聖歌隊の隊員の一人です。
  週に三度ほど懺悔室に居ますので、御用の際はどうぞご遠慮なく。
  迷える子羊たちを神は誰一人分け隔てなく、手を差し伸べます。

  よろしければその胸のうちを・・・・・と、失礼」

 営業文句のようにすらすらと出てくる言葉に苦笑いしながらシュイは、
 再度今度は恭しく礼にならって頭を深々と垂れる。
 けれどイリノイスは今度は頭を下げることなく、この聖職者にしては珍しく不快感
 をあらわにしてそれを見ていた。

 「・・・・・随分と嫌われたものですね。
  まぁ、貴方は神を信じてはおられないようだから」

 シュイが肩をすくめると、イリノイスがぱっと唇を開く。

 「シュイちゃんだって神様信じてないじゃない」

 それにはすくめた肩をそのままに、周りを見回しながら幼い子に言い聞かせるように
 シュイが言う。唇に人差し指を一つ立てながらしーっと言ってのけてから、

 「神は居らずとも、それに近いものが聞いているかもしれない」

 そのいい様にジェイが眉を寄せる。
 この聖職者も普通ではないらしい。

 「いい、ですか」

 聖職者シュイ・グランドールは僅かに形のいい眉を寄せながら、苦く笑みを深めた。

 「今日はそういう建前の話はよしましょう。
  貴方も保護者なのであれば、話しておいたほうがいいでしょうし」

 「・・・・・・たて、まえ」

 「ええ、建前」

 もろに表と裏の二面性を覗かせながら、シュイ・グランドールは綺麗に笑みを浮かべる。
 皆のあげる聖職者像であればこのような笑みを浮かべるのであろうか。
 違和感がおかしいほどにない聖職者は、イリノイスの頭を撫でてやると、

 「行きなさい。庭で子供達が貴方を待っていますから。
  遊んであげてください」

 「・・・・はぁーい。シュイちゃん、あとであいすくりん」

 アイスをねだる後姿にはいはいと答えながらシュイが手を振る。
 そうして二人きりになると、シュイは笑顔をふいに解く。

 冷たい青い色が鍛冶師の銀色の目を見返す。

 「同じ、なのですね。目の色が」

 「そう、みたいやね」

 一歩だけ顔を覗き込まれるようにされて、ジェイの足が一歩後ろに下がる。

 「懺悔室の方にお願い致します。鍛冶師殿。
  ここではまだ人の出入りがありますから」

 「・・・・・承知・・・・・」

 鍛冶師の様子を見ながらシュイは綺麗な笑みを浮かべる。
 その綺麗な聖職者の笑みを見ながら、ジェイはまた少し後ろへと下がった。
93ある鍛冶師の話6-2sage :2004/06/26(土) 18:41 ID:2McxbOms
 教会の裏手へと回りこむ廊下を進むと、
 小さな個室の立ち並ぶ一角がある。
 古びた木の扉の一つを開いて招くようにシュイが片手を揺らした。

 「ここでお待ちください。すぐに私が裏側に回りこみますから」

 そう残して板に囲まれた部屋に一つだけ置かれた丸椅子に鍛冶師を座らせると、
 きしむ扉を音を立てないようにしながらガチャリと外側より閉める。
 妙な圧迫感を覚えてジェイが室内を見回すと、それを見透かしたように、
 正面にある丸い小さな穴からシュイの笑い声が聞こえた。

 「・・・・さて、失礼。本題、ですが」

 シュイの咳払いにジェイは背もたれのない椅子の上に、背筋をピンと伸ばす。

 「イリノイス嬢は一種の欠落があります。
  随分と昔に、脳に大きな怪我をしまして、その後遺症で少々記憶が」

 「ルティエ・・・・・ですか」

 「む、話を聞いているのですか?あの時の事を」

 「え、っとレッドさんっていう魔術師さんに話を聞いて」

 「・・・・・彼、か」

 やや相槌をうつようにシュイがぽつりと。
 何か不味い事を言ったのかと鍛冶師が額に手をあてれば、
 シュイの小さく笑う声が。

 「そうか、なら話は早い。
  記憶がないのと同時に、そのせいで記憶を記録することをあの子の脳は拒む。
  それ故に多くの物事を覚える事ができないのです、彼女は。
  おかげでプリーストであるというのに覚えている術は一部のみ。
  彼女の母がそれは見事なグロリアを歌い上げる方だったのですが、
  亡くした反動でしょう。グロリアや聖歌を聞くだけで頭痛を覚える、と」

 「・・・・・なら無理に聞かせる必要はないんとちゃいます?」

 「ですがこれはたった一つの解決口でもあるかもしれない。
  いいですか?あの子はこれ以上多くは記憶することはできません。
  されど、過去に残るあの音律さえ叩き込み続ければ、もしかしたら、
  彼女は一介のプリーストとして復帰できるかもしれない。

  我々は同胞を助けたいのです」

 ジェイはその言葉を聞いて、眉間に皺を寄せる。

 「無理させること、ないやん」

 鍛冶師の言葉に聖職者は冷笑を浮かべたようだった。
 壁一枚向こうでひんやりとした温度を伴ったように、

 「・・・・・鍛冶師ふぜいに何がわかる」

 それは、鋭利なナイフをつきつけられるのと同じくらい、あるいはそれ以上の、
 拒絶の意思である。

 「・・・・・・・・貴方はただあの聖職者をここに連れて来さえすればいいのです」

 「・・・・・・・・断る」

 「・・・・・・・・・教会の権限を甘く見ないでもらいたい。
  私はただの聖職者ですが、上にかけあえば」

 「それでも、断る。
  あの子が望んどらんようなつらいこと、本人に了承を得ないでやるんは、
  俺は納得いかん。せやから、否。断固拒否したる、絶対に、な」

 ここは教会だ。
 だと言うのに聖職者の言葉に否と答えると、鍛冶師は話は終わったとばかりに席を立とうと
 しているではないか。シュイ・グランドールは僅かな間のあと、また笑った。
 けれどその笑い方は、先ほどまでのような上品なそれではなく。
 声をあげて笑う、笑いであった。

 「あはは、あは、・・・・・・言い切りましたか。
  前ゲッフェン鍛冶師ギルドの長の末息子、ジェイ君?」

 立ち上がり開きかけた扉の手前で、ジェイがすっ転びかける。

 「・・・・・・・・人の身元まで調べるんか、プライバシーもあらへんな?」

 かろうじて扉に手をかけながら体勢を持ちこたえると、
 尚も笑い声があとを追う。

 「・・・・・・正式に頼みましょうか」

 「・・・・・・・・・何を、や?」

 「あの聖職者を、守り抜いて欲しいのです」

 「・・・・・・・・・・・、?」

 「シャイレンが貴方にあの子を預ける事を許したのであれば、
  貴方には見込みがあるという事。私は、僕はここを離れる事ができない。
  あの子の歌うグロリアは決して取り戻してはいけない」

 「意味がわからんし」

 ガタガタとシュイが慌てて椅子を立ち上がる音。

 「頼みます。詳しい話が聞きたければ、シャイレンにお聞きなさい。
  さぁ、そして早く、ここを去りなさい」

 「・・・・・・・・承知」

 釈然としないながらも、シュイの慌てる声を聞けば何か嫌な予感を覚えて、
 ジェイは慌てて外へと出る。元きた廊下を走るように歩いていくと、
 数人の聖職者達とすれ違う。

 聖職者とは言っても、皆驚くほどに体つきのいいものばかり。

 あれが聖拳士か。
 神につかえながら拳を振るうものとして、刃をもたないかわりに己の体を鍛えたも
 のたちがいる、それを聖拳士、モンクと言う。
 カツカツという数人の足音のあと、鈍い音。

 何かが割れるような音がしたものの、ジェイは振り返らずに廊下を走り出していた。
94ある鍛冶師の話6-3sage :2004/06/26(土) 18:43 ID:2McxbOms
 庭に出て遊んでいなさいと言っていた聖職者の言葉を頼りに、
 表口から出ると裏手の墓地の建ち並ぶ中庭へと足を急がせる。
 教会に行くからと言って置いてきたカートのことを悔やみながら、
 鍛冶師は銀髪の聖職者の名前を呼んだ。

 「イリノイスさんっ」

 ジェイが何か急ぐように名前を呼ぶのを、イリノイスは不思議そうな眼差しで見た。
 小さな聖職者見習の白い装束に身をくるんだ子供達は、突然現れた鍛冶師に驚いて
 いる。その大声に、だろうか。

 「・・・・え、っと急いで帰れ、とリツカさん、から」

 「・・・・ほえ。リツカちゃんがですか、・・・・・・ごめんね私帰る」

 子供達一人一人に馬鹿丁寧に頭を下げながらイリノイスは詫びると、
 鍛冶師の元へと足を向ける。

 見習の子供達がえーと口々に声をあげるのに鍛冶師も軽く頭を下げる、
 そうして振り返りながら手をずっと振り続ける銀髪の聖職者の手を引きながら、
 急ぎ足で赤の本拠地のある城へと足を急がせる。

 握った彼女の手が、ひどく頼りない細さであることにまた不安に心を押されて。



 


 午前に行われる礼拝に行ったという話を聞いて、
 蓮は顔をしかめた。シャイレンが行くつもりではなかったのか。
 そう問われてかの英雄は、小さく首を横に振った。

 昼を知らせる鐘がプロンテラに響き渡れば、皆仕事の手を休めて一旦昼食をとりに戻る。
 そんな中、とある宿屋の食堂でシャイレンが言う。

 「誰がために鐘は鳴るのか。考えた事はあるか?」

 「・・・・・・いや、鐘に縁がない」

 憮然と蓮が答える。そのまえに置かれるのは仕入れたばかりの牛乳に、焼き立てのライ
 麦パン。お皿が届いたと同時に両手を出して小さくいただきます、というとシャイレン
 はバターをパンの上に乗せながらとろけていくバターを視線にのせて、柔らかく口元を
 緩める。

 「・・・・・・・・鐘は死者がために鳴るというな確か」

 「死者、か」

 ライ麦パンにとろけていく黄色い固形を見つめながら、ふいに蓮が腹部を抑える。

 「そうだ。だが、人をやって聞きにいかせてはならない。
  ・・・・・例え自分に関係ない赤の他人が泣こうとも、
  私は涙するであろう。何故なら私は人類という一つの全てに属するからだ。
  それが故に問うことなかれ、鐘は汝がために鳴る・・・・・・食べるかね?」

 蓮のなんとも切なそうな視線を見返すと、シャレインは屈託なく笑みを返す。
 ライ麦パンを片手に唐突にそう語りだした英雄は、少しそうして昼食に意識を集中しは
 じめた。

 「シャイレン、つまり何が言いたいんだ?」

 ライ麦パンを口にほうばりながら、始終幸せそうに笑みをこぼす英雄を見ながら、
 蓮はなんともいえない表情をしている。回りくどい切り口から話始められると、
 答えを導き出すまでには途方もない徒労がある。

 「・・・・・・まぁつまりだな、お前の人生はお前のためにある。
  私の人生は私のためにある、なら昼飯ぐらい好きにさせてくれ」

 英雄が至極真面目に言うのを聞きながら、蓮は額に手をあててから好きにしろと苦笑いした。


 昼飯の勘定を支払い終えて街の通りへと出ると、
 呆れるほどに晴れた空が二人を出迎える。

 「何故あの鍛冶師を向わせたのか、教えてくれないか」

 「・・・・・・、」

 シャイレンが僅かに目を細めてから、小さく指を振る。
 と、蓮の耳元に囁きと呼ばれる伝言魔術で直接英雄の声が届けられる。
 なるほど、人に聞かれては不味い話のようだ。

 「なんとなくだな」

 唇ではそう言いながら、飄々と笑いながらも、
 蓮の耳元へは直接、いやに淡々とした音が響く。

 『あの鍛冶師は前ゲッフェン鍛冶師ギルドの長の息子さんだったな。
  ・・・・・・今は少しでも後ろ盾が欲しい。できるだけ多くの味方を持つ必要がある』

 『何をするつもりだ?・・・・・・・英雄』

 英雄と呼ばれてシャイレンが苦く笑みを浮かべる。

 『教会を潰す』

 蓮のそう変わる事のない表情に、一瞬呆然としたものが広がる。

 『・・・・・・・・・お前は国を敵に回すつもりか』

 『いや?ただ今の協会の幹部を潰したいだけだ。
  ・・・・・・・・・・ルティエで約束をした、必ず守ると、友に』

 『・・・・ローランドさんのことか。
  確かに惜しい人を亡くした、お前の師匠のようなものだものな。
  剣によって殺すことしかできないお前に守る事を教えた、
  イリノイスがお前の枷であるのは知っている。

  だがな、今、教会を敵に回したところで何ができる?

  ゲッフェン、アルデバランにおける塔の守りはあの子の声が取り戻されない限り、
  解かれる事はない。なら今のままでも』

 口笛をふくようにしながら英雄が通りを歩く。
 その後ろを暗殺者が付き従う。

 「蓮、何かあっても彼女の事を頼む。
  私はあの子がこの世で一番大切だ」

 英雄は英雄の顔をして、笑った。

 『シャレイン、人の話を』

 『時間がないんだ、それにあの子が最近歌を口ずさむのを知っているか?
  表上は教会に従うというのも限界なんだ、シュイに頼んで事情を話すようには
  言ってある』

 『・・・・・・・・シャイレン、お前』

 英雄が笑う。
 それだけのことで周りのものは皆心から安堵する。
 そういう笑みの男だった。

 シャイレン・ナハトムジークという男は生まれながらにして英雄になるために、
 生まれてきたようなそういう男なのだ。

 影のない笑みは常に進む先に光があることを教え、
 剣をふるえば負けることはなく、なによりこの英雄の下には光があった。

 だというのに、英雄が笑う。

 「大丈夫だ、蓮。何も心配は要らない」

 そう言うのに、何なのだろうか。
 この言いようもない不安は。

 蓮の体中を駆け巡るどうしようもない不安。
 英雄が笑うというのに、何故笑えない。

 「大丈夫だ、さぁ戻るぞ。きっと皆が待っている」

 指先が少し震えた。
 付いていこうと決めた背中は今近いというのに、何故か暗殺者の足取りは重かった。


>>>>>>>>>>>>>>>>>>>

 モンクを漢字にするとどうなるのかよくわからず、
 結局聖拳士なる造語を作り出してしまいました。いささかセイント○イヤみたいで、
 雰囲気ぶち壊しのようなきがしてなりません。
 他に何かいい単語はないものでしょうか。
95名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/26(土) 18:51 ID:Wr3eoClQ
 あはははは。リロードしたら91の書き込みと92の間だった。妙に縁があるなぁ…。ワーイワーイ
モンクは…修道僧? 造語にするなら僧兵…だとまんまだから僧院兵とか…わかりませんっ
蓮さんと蘭さんは、名前似てるけど関係ない人だったのかな…いらんとこ深読みしすぎだね。ショボーン
96名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/28(月) 00:03 ID:qfMlKnS.
まったりムードですな
97名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/28(月) 02:39 ID:3ZLAp5Yg
こうゆう時もあるさ。
98名無しさん(*´Д`)ハァハァhane :2004/06/29(火) 00:16 ID:1wnYnAQk
下がりすぎなので跳ね
99名無しさん|Д゜)コソコソsage :2004/06/30(水) 00:15 ID:k/RKAHFY
 パキン。
 何処からか『クホホ』と声が聞こえてきそうなSEと共に、目の前の斧の柄が中心から綺麗に折れた。
 斧として機能する部分も、刃は所々欠け、重量が変に偏ってしまっている。 もう使えそうに無いな、これ。

「………」

 小さく溜息を吐き、目の前に散らばる鉄屑を掃除する。
 そんな切ない気分全開で部屋に篭っている俺は製造型ブラックスミス。
 たった今、属性入りツーハンドアックスが綺麗に折れて凹んでいる19歳の若造さ。
 ちなみに名前はリート。 覚えてなくても損は無い。

「……俺の戦闘参加すら認めてくれませんかね、カミサマは」

 製造型とは言え、相方や他のギルドメンバーからの支援だけで生きる訳には行かない。
 ポリンを叩いて空き瓶収集などと、二次職として余りに哀れな姿も晒したく無い。
 少し前に知り合いに目撃されたばかりだし。
 だから、相方や皆の負担を減らすために、製造型の底力を見せ付けようとして、出来上がったのは。

「……フレイムハート、高かったんだぞ」

 ズタズタに切り裂かれた俺の心。
 似合わない表現だと思うが、それ以外何とも言えない。
 惨めさ抜群だよ、俺。

 だから、自分を理解してくれそうな恋人がいて、本当に良かったと思う。
 ……こんな事理解して貰っても、情けないだけだけど。

「ただいま!」

 噂をすれば。
 肩までの髪をリボンで纏めた女の子が、ドアから元気良く入ってきた。

「よう、お帰り。 今日も大した怪我は無いな」
「うん。 早さには自信有るからね」

 ニコニコと擬音が聞こえそうなくらい明るく笑うガールフレンド。
 名前はシェリナ。 これは覚えとけ。 俺の脳内試験に出るから。

「ま、お前の取り柄なんてそれだけだしな」
「……殲滅力だって、ちょっとはあるよ」
「ちょっと、だろ?」
「……そうだけど」

 少々ムッとしたような声が響く。
 ああ、こう言うじゃれ合いっていいなぁ。
 愛する恋人の言葉に、今までの切なさ惨めさが蝶々になって飛んでいくぜ。

「あ、リート君こそ、朝から頑張ってたツーハンドアックスは?」

 そして即行で戻って来たぜ。

「……お察しください」
「……あはは、次は大丈夫だよ」

 ポンポンと肩を叩かれて慰められる。
 あ、畜生、理解されちまったぜ。 情けなさ急上昇だ。
 一番辛いよな、こう言うのってさ。


 ブラックスミスとなり、恋人も冒険者…と言った状況になったからには、夢見た事がある。
 自分の銘の入った武器で、彼女に戦って貰うのだ。

『ほら。 俺の魂と愛と汗とその他諸々が込められたクレイモアだぜ!』
『ありがとう! これさえあれば、百人力よ!』
『はっ、俺の愛だぜ? 百人どころか、千人くらいの力を生み出すって』
『ふふ、頼もしいわね』

 なーんて。
 商人時代、そんな下らない妄想を浮かべて、客に不審に思われる事もあったっけ……。
 ただ、その頃には下らない妄想だったが今は違う!
 俺には恋人がいる! しかも贔屓目無しで可愛い、これは恋人とか関係無しに! 別に夢と関係無いけどな!
 つまり、夢が実行可能なんだよ!


 彼女が弓手じゃなかったら、の話だけどな。
 作れませんよ、手作り武器。


「大体、なんでお前はハンターなんだ!」
「……えっと……そんな事言われても困るよ」

 彼女はハンター。 DEX>AGI>INTの完全弓矢型。 鷹? 知りません。
 短剣型だったらまだ希望は持てたが……はい、弓ですよ。 使ってるの。
 だから、俺が装備してホルグレン大先生の所で高確率過剰精錬……なんてのも不可能。
 つまり、俺の夢は彼方へと消え去った。
 前に友人に『くだらない夢』とか言われた夢だけどな。

「こうなったら無理矢理作ってやる! ああ、鉄製の引き絞れる弓をな!」
「む、無理だよ。 それに、そこまで作らなくてもいいと思うけど……」
「俺の夢だ! 離れてても繋がってる感とかあるじゃないか!!」
「……そ、そうかなぁ」
「そうだ! それをチミって奴ぁ弓だと!? せめて、ステ振りが似てるような気がするアサシンならば!」
「……それだと、使うのはカードが差せる武器になるんじゃないかな」
「…………」

 仰るとおりです。
 俺はガックリと項垂れ、無意味に属性石を指で弄ぶ。

「…………ね」
「うん?」

 小さく呼びかけられて、属性石を机の上で転がしていた俺の指も動きを止める。

「ブラックスミスって、武器作るだけじゃないよね」
「なんだそれは! 戦闘型じゃない俺への嫌がらせか! そうなんだな!」
「ち、違うよ! そうじゃなくて!」

 慌てて自分の着けていたマフラーを外す。
 そして、それを鼻の頭に触れるほどこっちに近づけた。

「これ、凄く役に立ってるんだよ」

 それは過剰精錬しまくった+7木琴マフラー。
 もはや何か憑いてるとしか思えないほど立派な出来だ。 ありがとうホル先生。
 あの時から、俺はホルグレン大先生を尊敬している。
 ……もしかして、属性武器失敗しまくるのその所為か?

「作ったのホルグレン大先生だしなぁ。 オマケに、お前回避しまくるから意味ないしなぁ」
「……根っからネガティブ思考だね、リート君」

 要するに、精錬の時ブラックスミスなら成功率高い…って言いたいのだろう。
 高レベルの過剰精錬なんて、たった一割の成功率上昇でも有難く思えるもんだ。
 だけど結局、最終的に求められるのは運な訳で。

「……だから、お前が精錬しても俺が精錬しても一緒だって」
「そんな事ないよ……」
「大体、俺の友達なんか+8のフルプレート持ってんだぞ? やっぱり運だよ」

 この言葉を言ってしまえば全て終わりな気がするが、結局運だ。
 完全回避やクリティカル上昇なんて運じゃなくて、もっと神がかり的な。
 世の中そんなものだろう。

 つまり、俺要らない子?
 あ、畜生、言ってて悲しくなってきたぜ。

「…………それでも、だよ」

 シェリナの声が響く。
 俺は悲しい気分を撒き散らしながら振り向いた。

「…リート君が作ってくれたってだけで、離れてても守られている気がするんだよ」
「…………」
「ま、前に…リート君が着けてたモノだし……」
「…………」

 うわ、凄い恥ずかしいセリフだ。
 悲しい気分とか一瞬で塗りつぶされたぞ。
 何かもう、言った方も聞いた方も顔が真っ赤だ。
 って言うか、作ったのはホルグレン様であって……なんて言いたくもなったけど、言えない。
 俺は思わず顔を逸らした。 気恥ずかしいから。

 でも、それ以上に嬉しかったから。

「ま、まぁ……それくらいの事だったら、いつでもやってやるよ」
「……うん!」

 例え、武器が作れなくても、彼女と自分を繋げる物はあるんだよな。 幾らでも。
 今更だが、わかった気がする。

「な、シェリナ」
「何?」
「ありがとうな」
「え? 何? 何が?」

 頭にハテナマークを何個も出し、混乱するシェリナ。
 それを見ていると、思わず吹き出しそうになる。

 ああ、やっぱり。
 自分を理解してくれる恋人がいて、良かった。
10099sage :2004/06/30(水) 00:21 ID:k/RKAHFY
間違って改行確認せずにメモ帳コピペそのまま投下……読みづれぇ……
しかも、やたらと長いし……orz


ま、まぁ、少しは燃料になってくれれば幸いです。
101名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/30(水) 13:51 ID:cw.TTa2A
あまあまー。ごちそうさまですた。
102名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/30(水) 16:14 ID:B2t8GpgQ
ごちそうさまでしたっ(゚∀゚)人
確かに製造で弓とかも作れればいいのになぁとは思います。
多分弓手の人たちというのは、自分で弓の手入れからなにまで
しているのではないでしょうか。と、いうことを考えてました。
鍛冶師がステキデス。
103ある鍛冶師の話7-1sage :2004/06/30(水) 16:15 ID:B2t8GpgQ
 響き渡る二人分の足音がある。
 通りを走り抜けるように歩く一方は銀髪の鍛冶師。
 そのもう一方はこれもまた雪のような銀髪の聖職者。

 目立つ風貌の二人が通りを進んでいくのを人々の視線が向う。

 僅かに鍛冶師が息切れをしているのを見咎めて、聖職者が足を止める。

 「どうして逃げるの?あの人たち教会の人だよ」

 後ろから来るのはいかつそうで恐持ての強そうな、僧兵のお兄さんたちだ。
 数は三人ほどではあるものの、武器もないという状態では話にならない。
 向こうは戦闘を得意としこちらはただの鍛冶師。

 「二度と、教会には行っちゃあかん」

 「・・・・・・・ジェイさん何か隠してる」

 眉を寄せながらイリノイスが見返す、ジェイは深呼吸を繰り返してから、
 また聖職者の手をひいて走り出した。

 「戻ったら話します、とにかく」

 とにかくあの英雄の顔を見たかった。
 赤い髪の少女の顔を見たかった。
 いつも笑顔ばかりの暗殺者の顔を見たかった。

 「バイオ・プラント!!」

 響き渡る声にふいに鍛冶師の視線が向く。
 見えたのは、錬金術師の服装とその背中。
 露店でも開いていたのだろうか、周りの通行人達が声をあげる中、
 錬金術師ルードは不敵にその笑みで振り返る。

 「さぁ早く!」

 「お、おおきに!」

 道端に突如現れた毒々しい花々の一群は、なんともいえない表情を示しながら、
 真紅の唇をかっぷりと開く。僧兵たちも足をとめると、目の前をとうせんぼする
 花たちを見つめて困惑気に視線を合わせる。

 「教会が一般冒険者を追いまわすってのは、いただけませんなァ」

 ルードが走っていく二人を振り返ることもなく、カートをひきながらふんぞり返る。
 その胸元にはシュバルツバルト共和国の国章と、その首都ジュノーの錬金術師学校
 のバッチがついている。

 僧兵達はその二つの身分証明証をみて、数歩あとずさる。
 ここで教会が手を出そうものなら、国を交えた問題になりかねないからだ。
 あくまでも冒険者は冒険者だが、目の前の錬金術師は学生。
 正式な身分では、シュバルツバルト共和国からの国賓にすら値する。

 やっとつながった国境だというのに今もめては。

 「説明を頂きたいのですが、教会のお兄さんたち?」

 問い掛ける錬金術師の周りに、同じバッチをつけた錬金術師達が数名集まってくる。
 こうなれば分はこちらのほうが悪い。
 聖拳士たちは顔を見合わせると、一目散に踵を返して走り出す。

 教会のやり方に不満でもあるのだろうか、
 周りに居た露店商たちから歓声の声。

 ルードはゴーグルを深めにかぶりながら、照れをごまかすと、
 走り去った二人の事を思うように通りの先を見つめた。
104ある鍛冶師の話7-2sage :2004/06/30(水) 16:16 ID:B2t8GpgQ
 教会へ行った、との話に午前中プロンテラ西上水道の蟲退治に行っていたリツカは、
 僅かに眉を寄せたあと鍛冶師の部屋にあったカートの事を思い出していた。
 今日はほんの少し礼をしたく、夕飯でも誘おうかと思っていたのだ。

 部屋に入れば主は居らず、かわりにいつも傍らにおいてあるカートと武器一式が置いてある。
 何処か知り合いのところにでも出かけたのだろうかと思いながらも、
 教会へと聞いて納得が行ったところではあるが。

 鍛冶師の部屋から出てきたところを呼び止めた蓮は、
 彼にしては珍しくひどく不安そうな表情をしていた。

 「・・・・・・・何かあったのか?」

 暗殺者はその感情の色を隠す事ないまま、言いかけた言葉を飲み込もうとして、
 リツカの赤い瞳を見るなり僅かに眩しそうに目を細めた。

 「教会へ行ったというのはそういうわけだ。
  あの鍛冶師の事だから問題はないとは思うが・・・・な」

 「蓮、質問の答えになっていない。
  暗殺者らしからぬ態度だと思うが?何に動揺している」

 かえって、言い聞かせるように言いながらいつもとは逆だなとリツカは思った。

 「・・・・・・、動揺、この俺が?
  少なくとも動揺は、ああ・・・・・ああ、しているかもしれない。
  俺は恐れているのかもしれない」

 「・・・・・・・蓮?なにをだ?」

 暗色紫の瞳がふいに別の色をなす。

 「シャイレン・ナハトムジークは英雄だ、だが人だ。
  終わりはいつか、必ず訪れる」

 暗色紫の瞳が述べた言葉に、リツカの赤い瞳に火が灯ったようであった。
 ふいに風を凪ぐような一閃がある。
 赤い帯をひきながら暗殺者の首へと伸ばされたのは、マインゴーシュだ。
 ジェイと銘をうたれたその短刀は、暗殺者の首元にうすらと淡い火傷の跡を残す。

 されど赤い髪の騎士の瞳は、燃えるようですらある。

 「・・・・・・・・蓮、言葉を訂正しろ。
  あの騎士に終わりは、ない。
  訂正しろ、蓮、今言った事を取り消せェッ!!」

 それは本質的な恐れだ。
 この赤い髪の少女にすら、刻まれている絶対と言う名の二文字。
 だからこそ、英雄は英雄でなければならなかった。

 「・・・・・・・リツ、カ」

 叩きつけられる怒りの気配に蓮が眉をひそめる。
 僅かに跡の残る首元まで首の赤い襟巻きをあげると、
 暗殺者は首元から細身のナイフを取り出す。
 ナイフとは言え過剰に鍛錬されたそれを急所に叩き込めば、
 それなりの傷にはなるだろう。

 「俺に、殺気をぶつけるな」

 少しだけぶれる手つきで、蓮がナイフを垂直にかまえる。
 怖気もせず、赤い髪の少女が言う。

 「蓮、お前は赤月華の影だろう?
  何に怯えている、何を恐れる必要がある。
  あの騎士に終わりなどない、終わりなど、否定しろ、否定を、否定を、」

 本当に怯えているのは恐らくは二人とも同じであるのだ。
 それほどまでにかの騎士の存在は大きい。

 瞬きをしたあと、蓮は小さく言う。

 「・・・・・・・・すまな、かった。英雄は永久に英雄だ」

 ナイフをまた首元へと隠しながら、蓮が目を伏せる。
 それと同時にリツカもまた腰元の鞘へと短刀をおさめる。

 「わかれば、いいんだ」

 目線を泳がせながらリツカが言うと、蓮はふいにいつものように笑った。

 「お互い依存しすぎているな、シャイレンに」

 その指摘にリツカも苦く笑う。

 「かもしれない。いい加減俺も、騎士として一人立ちしないとならんな」

 「・・・・・・・・その言葉しかと聞いたぞ」

 「上等だ、何れ俺は姉さまを守る剣となる」

 そして、その赤い瞳に迷いがない事を認めると、暗殺者蓮は苦笑いを交えながら
 常の笑みを浮かべ続けた。僅かにその指先を震わせながら。
105ある鍛冶師の話7-3sage :2004/06/30(水) 16:16 ID:B2t8GpgQ

 後悔をしていると言えば嘘になる。
 本当は何処かであの瞬間あの子供に自分を残せればいいと、思っていた。
 そう、暗殺者は風に向けて言った。

 黒い髪を一つ頭の上に結わえて、海賊の印の入った髑髏のバンダナを頭に巻いている。
 男の名前は少年であれば知っていたかもしれない。

 「・・・・・今更戻れと言われても、なぁ」

 夕闇に見えるのはオレンジ色に彩られたアサシンギルドだ。
 砂漠の砂の上に映えているその建物を見つめながら、暗殺者は苦く苦く笑みを刻む。

 「もう戻るつもりなどなかった、もう帰るつもりもなかった。
  そうせざるをえないと言うなら、私は帰らねばならないか?

  ルーチェ」

 黒髪短髪の女暗殺者がその声とともに気配を現す。
 今まで砂ばかりであった風景に、また紫の装束が一つ。
 砂埃にあおられる前髪を抑えながら、女暗殺者は暗殺者を見上げた。

 「流石、ですね」

 「これぐらい当然さ。腐っても」

 「アサシンギルドのサブマスター・・・・・・・ですか」

 「蓮は元気か。あの子に馬鹿な事を言ってしまった、もので、な」

 暗殺者の言葉にルーチェが少しだけ笑みのようなものを見せる。

 「いいえ。あれは立派にただ一つの主人のために、影として」

 「・・・・・・・騎士のか。我々と対極する位置のもののな、そしてお前はその騎士に、
  ・・・・・・・・・・・・惚れているというわけか。実に面白い筋書きだが、そこに何故
  私が必要となる?

  配役はもう完璧のような気がするが」

 強い砂をあおる風が二人を阻むように、視界を遮る。
 暗殺者は首元の黒い襟巻きを鼻先まで押し上げると、じっと目を閉じて耳をふさぐ。
 女暗殺者も同じように行動をとりながら、暫くの沈黙が訪れる。

 やがて風がはれると、また二人の姿が露になる。

 「・・・・・・・・・・戦いが始まります。
  ローレライ・ルーファンス及びローランド・ルーファンス、
  この名前覚えていますか?貴方が子供だった頃、貴方がまだ盗賊であった頃。
  貴方に剣を教えた人たちの事を。

  彼らが亡くなった事は、ご存知ですよね?
  だから貴方は、その地位を捨てて」

 「また随分と昔の話を出すものだな。確かにルーファンス夫妻にはお世話になった、
  あの騎士のことも知っている。弟のようなものだ、だがそれがどうした?
  今の私に何の関係がある?

  もう十年以上も前の話だ。あのルティエで何もできなかったことが、
  この地位に意味などなかったということが、
  力だけではどうにもならなかったということが、

  全てが答えだ。それ以上でもなければ、それ以下でもない」

 暗殺者はそう言って、アサシンギルドから目線を背けた。

 「裏切りには死を、されど貴方には死など与えはしない」

 「・・・・・・・・・・だから何だと言う」

 ルーチェは紫の装束から一枚の写真を取り出す。
 そこに写っているのは銀髪の聖職者が二人。
 ただしその位は服事と言われる。
 髪はまだそう長くはなく、顔つきも幼い。
 年上らしい双子のように見える片割れは、銀色に銀髪の眼差し。
 年下らしい双子のように見えるもう一つの片割れは、銀色に青い眼差し。

 そしてそこは雪の街、ルティエ。

 暗殺者は瞬き一つのあとにその写真を奪い取ると、
 今にも泣き出しそうな顔で目線をそむけた。

 「貴方はただ逃げているだけです。
  我々が果たすべきなのは、ただその弔いだけではなく、
  後悔でもなければ、・・・・・・・・・生きる意味を探すためでもなく、
  その命令を果たすだけだとそう教えたのは」

 「私、だ。だがそれは否定しようと言ったはずだ。
  強くなろうとも地位を得ようとも、救えなかった。
  だから、」

 「逃げないでください。・・・・・・・・・蘭」

 花の名前を呼ばれた暗殺者は、酷く狼狽した表情でその眼差しをルーチェへと向けた。

 「・・・・・・償えとでも言うのか、神よ」

 額に手をあてて十字をきる様を見ながら、暗殺者をルーチェは見つめる。
 その眼差しにあるのは懐郷、それか。

 「・・・・ここにあるのは、ただの死に損ないのこの身だけだ。
  生きる意味すら、見つけられなかった、この私に何かできると言うなら、
  ・・・・・・今一度願おう。守るために、騎士ではない神ではないただこの力で、
  この身で、守るために、私は・・・・・・・・・・・もう一度だけ影となろう」

 「おかえりなさい、サブマスター。
  マスターがお待ちです」

 戻ってきた暗殺者を見つめながら、ルーチェが恭しく頭を垂れる。
 そうして死んだはずの暗殺者は、元の巣へと帰還を果たしたのだった。




 きしり、と沈む足音。

 廊下へと背を預けながら、金髪が揺れる。
 前へと表情を隠すように、その眼差しはただ僅かな恐れと焦りと。
 それだけで揺れている。

 あとはただの、

 「・・・・・・貴方に剣を教わった、私は何も知らなかった」

 眼差しが閉ざされる。
 ずるずると崩れ落ちる騎士の姿。

 「失う事の怖さを、失わせる怖さを、守れる事の喜びを、その意義を。
  ・・・・・・・どうしたら、この恩を返せますか」

 廊下へと空虚に響き渡るその問いかけは、答えるものも居ないまま、
 ただ空気に震えを残し消えていく。

 騎士は目を閉ざしたまま、しばらく膝を抱えて座り込んでいたが。

 きしり、沈む足音がもう一度響き渡ると、
 その眼差しには何一つ揺れるものなどなかった。

106ある鍛冶師の話sage :2004/06/30(水) 16:22 ID:B2t8GpgQ
95様>Σ(゚Д゚;)!!
   僧兵にしてみました。幾分ましにはなったのかな。
   蘭と蓮については一応過去においての繋がりがあったり。
   深読みをされてしまうと内心どきどきはらはらです。

この間の合い間を、この速度で書き込んでいいのやら不安ですが。
(´・ω・)ノシ
107名無したん :2004/07/01(木) 04:32 ID:r/E6ZWJ6
おれはホルグレン プロテンラの有名鍛冶師だ
今日もさまざまな冒険者が己の武器防具を精錬してほしいとつめよってくる
おれはその意気込みに答えてやらねばならない・・しかーし!
俺様だって失敗するんだよ!完璧じゃないんだよ!
チッキショー・・・いつかクホグレンとよばれずに
ホルグレンマンセーてよばれたい・・ああ無情
「すみません、武器の精錬お願いできますか」
妄想にふけってる俺を止めたのは胸が小さい女BSだった
「ああ、かしてみな」
「お願いします」
そうBSから武器を受け取る・・・・ん?
何だこの剣は・・・なんかスゲー嫌なオーラでてるんだが
「おい、これ何の武器だ」
「それ魔剣エクシュキューショナーですよ」
「ま、魔剣だぁぁぁぁぁ?!!」
思わずひいてしまった いままで様々な武器を精錬してきたが
魔剣は初めて目にする なるほど嫌なオーラでるわけだ
「ま、まぁ精錬できないわけでもない しかし何に使うんだ?」
材料を確認しながら質問をしてみる
「ギルド攻城戦でつかうんですよ」
「ふむ、最近認められてる正規闘争か」
GvGか、なるほど たしかにこの魔剣は処刑剣とも言われる
エクシュキューショナーだ いい機会だ 少しがんばるか
「それでどこまで精錬するんだ?」
「えと・・+8まで」
「ほいほい+8ね・・・プゥラスハァァチィィ?!!」
「・・はい」
「いやちょとまてあんた 確かに俺の腕は1流だが
 魔剣相手に+8は無謀すぎるぜ すこし考え直したほうが・・」
と助言してるとBSは苦笑いしたまま
「壊れてもかまいません むしろそのほうが・・・」
「ふむ、なにかわけでも?」
すこし気になるから聞いてみるか
「実はうちのマスター、GvGに力を入れるようになって・・・
 ギルドメンバーにも強要しようとしてるんです・・・
 以前はマッタリなギルドだったんですけど・・・
 いつの間にかGvGに取り付かれてしまって・・・」
まぁたしかにGvGで城をとれば名声が上がる 資産もかなりのものができるだろう
しかしギルドメンバーまで巻き込むとは・・・
「それでマスターに頼まれて魔剣を・・・」
「しかし魔剣が壊れるとマスター怒るんじゃねーか?」
「マスターは全財産はたいて魔剣を購入したらしいのです
 だから壊れれば・・また私たちと1からでなせるようなきがして」
ふむ、わからないでもない しかし必ずしもそうなるとも限らない
運悪ければ冒険者をやめるだろうな
「大体事情はわかった、しかし俺は鍛冶師だ お客の声に答えてやらないとな
 ちゃんと精錬するのが俺のやり方だ」
「はい・・・」
「まぁ結局は神様次第だ 少し待っててくれ」
そういうと俺は作業場にはいった 炉の火は十分 オリデオコンの輝きもいい
「ふう・・・」
さぁやるか!!!


「ホルグレンさんおそいなぁ・・」
「すまん、またせたな」
少し時間かかったのは詫びないとな
「それで・・」
「魔剣の精錬だが・・・・+8いったぜ」
「え・・・?」
俺もいくとは思わなかったが できちまったモンは仕方ない
「すまんな、これも仕事なんだ」
「はい・・・」
「・・・・・」
・・・・確かにこのまま渡すのが鍛冶師だ・・・
だが・・・なんだこの感じは・・・
「成功したのは仕方ないですね ありがとうございます」
このまま渡していいのか・・・・
・・ええい!ままよ!!
「ちょっとまった 運があるうちに+9いってみないか?」
鍛冶師の俺が精錬を催促する やってはいけないことなんだがなぁ・・・
「え・・・」
「材料はこっちでもつよ 魔剣相手にここまでできたんだ
 俺の腕を信じろ」
まぁ実際うぬぼれでもなく賭けなんだがな
しかしこのBSは察したのか
「・・・おねがいします」
とにこやかに答えやがった
「OK、まってな」
信じてくれるてるのは俺の腕か?それとも折る腕か?
まぁどっちでもいい
いっちょやったるZE!!
・・
・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・
「(神様、どうか・・」
バタン
「おまたせしたな」
「あ、あの魔剣は?」
「・・・・・・・」
「・・・ ・・・・」
「クホホホホ!!!わるいな運がなくなったのか
 真っ二つにおれちまった!すまん!!」
「・・・・おっちゃいましたか」
残念そうな顔してないな むしろ笑ってやがる
「それはしかたないですね ありがとうございました」
「ああ、すまんね ・・・後はお前さん次第だがんばりな」
外に出て行こうとしてるBSに声をかける
そうするとあいつは笑いながらはしっていきやがった
俺の賭けは成功だな まぁ本当は精錬するとき
加熱のタイミングを少しずらしたんだがな
どのみち魔剣などこの世に必要ないさ
あれでよかったかもな・・・


ホルグレン「てなわけだ諸君!だから精錬失敗してもうらまないでくれ!!」
冒険者「ゆるすわけねぇぇだろぉぉぉおおおおおお!くほぐれんがああああああああ!!」
ホルグレン「うわぁぁぁぁぁ!!」


ホルグレン「(実話なのに・・・ブツブツ・・・・」
108名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/02(金) 01:38 ID:C4..mhlA
ちょっと目を離すと諸作が登場していて、読む側としては楽しみな限りです。

>>99
「…………それでも、だよ」以降の会話が素敵に好きですよ。
ってかお前さん、彼女にフォロー入れて欲しくてわざとすねてないかと。
どちらにしろ幸せそうなのでつつき倒す事に変わりはないがなっ。

>>103-106
感想つけるのは初ですが、いつも拝読させていただいております。
人物も増え不安も煽られ、この先どう展開して行くのか楽しみでなりません。
私的に好きなルード君にも幸あらん事を祈りつつ。

>>107
折る事を期待される辺りがさすがというかなんというかホルグレン。
装備はクホってもひと様の未来は折らないぜって感じですか。
最後まで決まらないところもらしくて良いと思った。
109名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/02(金) 01:40 ID:MBkajH5Y
只今鍛冶師祭中?
110名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/05(月) 03:45 ID:yppo6jMc
 僕はいつも、この露店で物を買う。
 理由はふたつ。
 剣士といってもまだまだ未熟な僕にとって1ゼニーは重要で、そしてここは他の店よりも少し安い。
「ありがとーございました」
 僕の前のお客さんにおつりを渡して、商人の女の子がうれしそうにお辞儀する。これがふたつめ。
 あれは剣士になったその日の事だった。
 看板の値段だけ見ていた僕は、品物を注文してお金を払う段になって初めて店主を見てはっとした。
 僕とそう変わらない年頃。長く伸ばした蜂蜜色の髪。軽く乗せた防塵用ゴーグルがひどくよく似合っていた。
 はいいらっしゃいませー、と微笑まれて、なんというか、一目惚れだった。
 それから彼女が店を出している時は、他の露店では買ってない。
 ――下心、というならそうなのだろうけれど。

 いつものように品物を受け取って、代金を渡す。僅かに触れ合ったてのひらの温度にさえ、僕はどきどきする。
 そしていつものように、何も話しかけられない。
 心の中で深く深くため息をついていたら、ありがとーございました、の代わりに、あの、と呼びとめられた。
「剣士さん、いつも買ってってくれますよね」
「あ、うん」
 顔を覚えてくれていたみたいだ。そんな事で妙に嬉しくなる。
「あの、ちょっといいですか?」
 手招き。なんだろうと思って寄ると、今度は耳を貸して欲しいと言う。
 怪訝に思いながら若干横を向いて屈むと、彼女は内緒話の格好で口を寄せて――。
「常連さんへのお礼です」
 頬に柔らかな感触が触れて、そしてすぐに離れた。
「…うわぁッ!?」
 それが彼女の唇だった事に気がつくまで、たっぷり数秒はかかったんじゃないだろうか。
 顔から火が出るかと思った。見れば彼女も頬を真っ赤にして、ゴーグルを目深に引き下げている。
「他のお店見ないで、いつも真っ直ぐここに来てくれるから…嬉しくて」
 弁解のような言葉を、目を合わせずにぼそぼそと呟いた。
「…み、皆にしてるの?」
 常連さん、という言葉から思い至って、嫉妬が胸を焼く。
 思わず問うと、彼女はぶんぶんと音がしそうな勢いで首を振った。細い、癖の無い髪が肩に流れる。それから恥ずかしそうに、
「――あなただけ…です」
 それは…都合よく受け取ってしまっていいのだろうか。というか他に解釈なんて出来るのだろうか。
「隣、いい?」
「あ。はい」
 頷いた彼女の横に腰を降ろす。深呼吸。剣と同じだ。一歩踏み込む度胸が肝心。僕はありったけの勇気を絞る。
「今日は何時に閉店?」
「え?」
「だから、さ。その後一緒にどこかへ行こうよ」
 僕がそう言うと、彼女はぱっと嬉しそうな笑顔を浮かべて、そそくさと店仕舞いの準備を始めた。
111名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/05(月) 03:46 ID:yppo6jMc
ネタ元は萌えスレ21の302-307辺り。
構成だけ思い付いたのだが、その時は時間がなかったのでこんな頃合に投下です。
お気に召さなければ走って逃げる。
112名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/05(月) 03:47 ID:zHg0JSOQ
>>110
久々に和んだ、GJ
113名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/05(月) 08:01 ID:vMxBhTyo
著しくGJ。やっぱいいなあ、こういうの(*´Д`)
114ホルグレン奮闘記sage :2004/07/05(月) 21:38 ID:GYn1Dr9I
プロンテラ精錬所
ここで今、鍛冶屋と剣の壮絶な戦いが繰り広げられようとしていた。

使い慣れた精錬台を前にして、ホルグレンが唸っている。
「ぬぅ、今回の依頼は・・・これはまたやれやれだな・・・。」
精錬台の上にあるもの、それは魔剣と呼ばれるものだった。
右の台にはオーガトゥース、左にはエクスキューショナー、そして中央にはミステルテイン。
どれも禍々しいオーラを放っており、その上非常に高価な品だ。
普通の鍛冶屋ならこんな依頼は絶対に受けないだろう。
そう、今回の彼に対する依頼は・・・3本の魔剣を+6まで仕上げること。

一通り考えた後、彼は比較的よく見ることができるオーガトゥースから手をつけることにしたらしい。
オーガトゥースの目の前に立ち、愛用の道具を構えて深呼吸をするホルグレン。
そして、
カンカン・・・カンカン・・・カンカン・・・カンカン・・・カンカッ!
「クホホホ・・・」
いつもどおり、ホルグレンの奇妙な声が聞こえると同時に、現れたのは真っ二つになったオーガトゥース。
鋼鉄よりも遥かに硬いと言われているオーガの牙、それから作られた剣をこうも簡単にへし折る・・・どうやらホルグレンのステ振りはSTR特化の模様。
精錬で生計を立てる者としては致命的な気がしなくもない。

失敗を引きずるのは嫌いなのだろう。
そうこうしている間にすぐさま彼は次の獲物・・・もとい精錬対象を選んだようだ。
手にされているのはエクスキューショナー。
静かに目を瞑り、心を落ち着かせようとするホルグレン。
「集中力向上!」
いや、君鍛冶屋だからね。

カンカン・・・カンカン・・・カンカン・・・カンカン・・・

「ふぅ。」
とりあえず安全圏の精錬を終え、軽く息をつく。
額には汗がにじんでおり、どうやらこの男、一応は真面目にやっている。
「とりあえず+4か。既に1本失敗してしまっている・・・おまけにこいつはさっきのやつよりも値が張るらしいな。気合入れて頑張るか。」
よし!と威勢のいい声をあげて剣に向き直る。
その顔は真剣そのもの。
失敗したときに「クホホ」なんて奇声をあげなければ、今のように叩かれたりはしなかったんじゃなかろうか。
が、そんな考えは次の瞬間消し飛ばされる。
「ラウドボイス!」
「アドレナリンラッシュ!」
「オーバートラスト!」
「マキシマイズパワー!」
気合入れすぎ。
しかもいらない方向で。
「さぁ!いくぜ+5!!」
脳内麻薬分泌しまくりで多少興奮した様子で叫び、おもむろに金槌を振り上げる。

カタン
ふとどこかで音がした。
この精錬所内には、今はホルグレンしかいないはず。
普通なら疑問に思うところだろうが、興奮状態のホルグレンには関係なし。
一瞬の躊躇も見せずに、一気に金槌を振り下ろした。

カッ!キィン!!

「クホホー!」
小気味いい音をあげて折れるエクスキューショナー。
刀身は無惨に砕け散り、もはや修復は不可能だろう。
さて、当のへし折った張本人はというと・・・
「ちくしょう・・・ひでぇことしやがる。」
アンタがな。
戦闘補助スキルの使いすぎ・・・まともな思考能力を失っているようだ。
115ホルグレン奮闘記sage :2004/07/05(月) 21:39 ID:GYn1Dr9I
最後に残されたのはミステルテイン。
一部では最強の魔剣とも噂される。
その魔剣にむかって、ホルグレンは血走った目を向ける。
すると

/クスクス

「Σ(´д`;)」
非常事態、ミステルテインから「/クスクス」エモ発生。
ホルグレンの腕前は剣に馬鹿にされる域に達しています。
・・・そんなわけなし。
精錬所内に誰か、おそらくアサシンかローグが紛れ込んでいるのだ。
金品目当てで来たものの面白いものを見つけて見学、といったところだろう。
よくよく考えればわかること。
しかし、そこはもはやバーサク状態のホルグレン。
「こんなことを見せられてあたまにこねぇヤツはいねぇ!!」
思いっきり剣に対して言ってます。
「俺はコケにされると根に持つタイプでな。」
おもむろに置いてあったエクスキューショナーの欠片をつかみ・・・
バキィン!
金槌で粉々に打ち砕く。
「次は貴様だ!」
クホる宣言しちゃいました。

そしていよいよ精錬開始。
「どれ、手合わせ願おうか!」

カンカン・・・カンカン・・・カンカン・・・カンカン・・・
何かに取り付かれたように静かに精錬が進められていく。
ちょっと興奮しているくらいがちょうどいいのかもしれない。
そしてそのまま順調に、
カンカン・・・
+5成功
カンカン・・・
+6成功!?
見事に依頼完遂。
3本中1本とはいえ魔剣の+6完成、依頼主も満足するはず。
ホルグレンも+6完成の喜びに浸っているだろう。
ところが、
「あんまり俺を舐めるなよ、俺はやるといったらやる男だぜ!」
精錬続行決定。
「完全なる止めを刺す!!」
しかも終わりはクホるまで。
「マヌケが・・・・知るがいい・・・・[クホ]の能力は・・まさに![全てをクホる]能力だということを!」
そんな物騒な能力持ってたんですか_| ̄|○

「いくぞ!お前の命もらいうける!!」
カンカン・・・
+7完成。
「このド畜生が!どうだ!どうだ!!どうだ!!! 」
カンカン・・・
+8完成
「とっておきのッッッ!! ダメ押しというヤツだッッ!!」
カンカン・・・
+9完成
恐らく今までに、そして今後も誰もできないであろう偉業達成。
ここでやめておけば、これからは依頼がウハウハに・・・
「クックックッ 最終ラウンドだ!」
もう、好きにしてください・・・。

ピタリ

金槌を振り下ろそうとしたホルグレンの腕が突然停止する。
スキルの効果が切れ、まともな思考が戻ったのか・・・と思いきや。
作業場をでて台所へ。
1本の瓶を手に戻ってくる。

ラベル:バーサクポーション
・・・_| ̄|Σ・∵‘.−=≡○

躊躇うことなく一気飲み。
「最っ高にハイってヤツだ!!」
目がいっちゃってます。
「これより静止時間9秒以内にッ!カタをつけるッ!」
金槌を構えなおし、高らかに宣言する。
「お前の敗因はたった一つのシンプルな理由だ・・・・お前は俺を怒らせた!」
だから怒らせたのは剣じゃないから。
「クックック!!!クホクホクホクホクホクホクホクホクホクホクホクホクホクホクホクホクホ・・・!!!!」
視認できないほどの速度で金槌を振り下ろすホルグレン。
流石の魔剣も刀身がきしみ始める。
「ふはははは。貧弱貧弱ぅ!!!」
ホルグレン大笑い。
自分が[精錬屋]ってこと忘れてますね。
「止めだ!クホォォォア!!!」


カンカン・・・ピロリン!
+10完成

「このホルグレンがぁぁぁぁ!!!??」


116名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/05(月) 21:43 ID:GYn1Dr9I
家で某漫画を読んでいたところ、ちょっと受信してそのまま衝動書きです^^;
ミステルテイン以降のホルグレンの台詞は・・・わかる人にはわかるはずw
わからない人は某無駄無駄でオラオラな漫画の第3部をドゾー。

それでは、スレ汚し失礼しました〜
117名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/06(火) 10:33 ID:8oEwQRlw
鍛冶師祭り(゚∀゚)!
108様>感想ありがとうございます。僕はアルケミは持っていないので、
   いまいちうまく立ち回りができるか不安ですが。何気にルード君
   を好きだという方が多くて不思議です。幸がおおいことを僕も願
   います。

 少し間があきましたが、突貫ですヽ(`Д´)ノ
118ある鍛冶師の話8-1sage :2004/07/06(火) 10:36 ID:8oEwQRlw
 プロンテラの街の西はしにオレンジ色の影を落とす。
 じわじわと翳っていく日の光に目を細めながら、
 ようやく戻ってこれた自室の窓より空を眺める。

 本拠地に戻るなり門の前に居た赤い髪の少女は、
 鍛冶師の横を通り抜けていくなり、銀髪の聖職者へと真っ直ぐに駆けて行った。
 繋いでいた手を外しながら鍛冶師が数歩横へ退けば、
 気が付いたように顔をあげた聖職者がありがとうと言った。
 それに少女もすまなかったと小さく述べたものの、案の定見向きもしないままだった。

 それは、別にいいのだ。

 問題は大事に巻き込まれたようなこの状況である。
 自分の身元に対してばれたことについては、ジェイはあまり気にはしていなかった。
 立場が立場なため少し調べればすぐにわかることではある。
 ただそのことを知っていたあの金髪の聖職者は、
 まるで自分をためすようであった。

 傍らにおいてあるいつものカートは雑多ではあるが常の通りであり、
 使い古した斧や使いかけの傷薬が転がっている。

 「・・・・・・、声、か」

 教会でのやりとりのことを思い出しながら、
 詳しい事を聞かなければならないと考えていた。

 その思考の合い間を見計らうようにして、
 ふいに増えた人の気配にいい加減鍛冶師もなれたらしい振り返りながら、
 暗色紫の目をもつ暗殺者を見返した。

 「・・・・・そうだ声だ」

 「・・・教会は何がしたいんか、俺に説明してもらえませんか、ね」」

 ね、と後押ししながらも今度ばかりは引けそうにもない。

 「・・・・・許可は得ている。言われるまでもなく説明するさ」

 苦笑いのような笑みを浮かべながら、蓮は言った。
 丁度開きっぱなしだった扉を背にしながら、こちらへと視線をよこす。
 その目を見返しながら、ジェイはうすらと愛想笑いを浮かべる。

 「遥か昔、グラストヘイムには一つの王国があった。
  巨人族と呼ばれる者たちが住んでいた、彼らは初めは我々人間達と交友関係に
  あった。

  はじめのうち、我ら人間は巨人族に教えを乞う側であった。
  その内に、何時の間にか小さかった我々人間が、多くの数にまで増えそして新たな技術、
  魔術、ありとあらゆる分野へと足を伸ばしていった。
  巨人族は恐れた。いつか我々よりも優れた文明を手にするのではないかと、
  だから彼らが王は禁忌を犯した。神を我が物にしようとしたのだ。

  ・・・・・・・されどその神は神ではなかった。
  グラストヘイムの王国を邪気が多いつくした、その破壊者はそれだけでは足りなかった。

  巨人族達がもつ人間たちへの恐れを利用し、憎ませたのだ。

  ・・・・・・・そしてある日二つの種族は衝突した」

 「・・・・あくまでもそれは神話の話やないんですか。
  それが事実にしろ、そうでないにしろ、何が関係あるって言うんです?」

 「ここまでは図書館にでも行けば書いてある内容だ、確かにな。
  溢れかえった巨人族の姿を借りた魔物たちが向ったのは、
  首都プロンテラ。それを阻止するためにグラストヘイムの全ての門には、
  封印がほどこされた。

  ただの封印では駄目だ、溢れかえる魔の瘴気を抑えなければならない。

  ・・・・・・・・・・ゲッフェン、アルデバランにある塔はその瘴気をグラストヘイムの外へと流し
  留めるための一種の装置だ。あの中にいる魔物は皆、グラストヘイムから流れた瘴気によっ
  て生まれたもの。

  だがただ塔を置いただけでは駄目だ。今度は塔の魔物が溢れ返る。
  だから、封印をさらにほどこした」

  暗殺者は一呼吸を置くと、鍛冶師の目を覗こうとするように見返す。

 「・・・・・・・・それは時計だ。
  一から十二までにそれぞれ力のあるもの達が生贄となり、
  人であることを犠牲にした代わりに人ではない力を手に入れた。
  彼らの体には一から十二までの数字が振ってある。
  その数字の鍵を全て壊すか、あるはずのない零の数字を割り当てられた鍵が歌えば、
  封印は解く事が可能・・・・・・、というのは知っていたかな、鍛冶師殿」

 「・・・・・・・人、では、ない?」

 「文字通りだ、人ではない。不老不死、あるはずのないそれだ」

 実感がわかないとでも言うように表情をゆがめたジェイを見返しながら、
 蓮は紳士的な笑みを浮かべる。

 「零の鍵は、イリノイスだ。
  正確にはあの一族の者だ。
  零の鍵だけは不老不死の力を手に入れたものではなく、
  転生を繰り返し受け継がれるもの・・・・・・らしい。

  俺もいまいち実感はないが、雪の街ルティエで死んだ彼女の母親の手記を見れば、
  否定することはできないと俺たちは判断した。

  全てがただの物語なのであるか、
  事実であるか信じるか否かはジェイ、君の自由だ。
  ただ現実において、教会にグラストヘイムの再興を願うものたちがいる。
  それは即ち、今の世の崩壊を示す。

  笑えない事に世界の命運がかかってるかもしれない」

 それを笑いながら蓮は言う。

 「・・・・・・・世界を救ってくれないか、鍛冶師殿」

 「・・・・・世界、とか、言われても」

 途方もなく壮大な話に鍛冶師は思わず窓の外を見つめる。
 教会の日の沈んだ事を知らせる鐘が鳴り響く。

 僅かに、僅かに耳鳴りを残しながらその音は遠ざかっていく。

 「俺達はただ守りたいものを守りたいだけなんだ」

 暗殺者は考えておいて欲しいと一言最後に残すと、またその気配を消してしまう。
 一人の残された鍛冶師は、窓の外を見つめながら沈んだ日の光を探していた。
119ある鍛冶師の話8-2sage :2004/07/06(火) 10:37 ID:8oEwQRlw
 プロンテラの北西に位置する騎士団詰め所前で、
 赤い髪の癖毛らしい、毛の先端がはねている鍛冶師が口はしに煙草を揺らしながら、
 ぼんやりと空を見上げていた。彼の胸元にあるのは分厚い聖書を模したエンブレム
 で、リドル×リドルと刻んである。

 謎と謎をかけあわせたというそのギルドは、
 ゲッフェンを中心として活動中の何でも請け負いギルドだ。

 所謂何でも屋である。

 「・・・・・眠ィ・・・」

 大欠伸とともに目端をにじませながら、煙の昇る先を見つめる。
 ゆらゆらりと揺れているその煙は空に届く前に消えていく。

 「・・・・・・そんな、存在だ。私もお前も」

 その凛と氷をはじいたように響く声に赤い髪の鍛冶師が視線を向けると、
 彼の相方である殴りプリと呼ばれる、聖職者でありながら鈍器を振り回して敵を凪ぐ
 その彼女が立っていた。茶色いふわふわとした髪は、ショートに切りそろえられては
 いるが、髪を束ねたりということにはむいていそうにはない。

 「うちは、・・・・・・ティティが何しようと見届けたるからな」

 髪と同じ色の赤い目を見返しながら、聖職者は唇を閉ざす。
 僅かにその脇で握り締められる拳には、ひどく古びた銀の指輪がはめてある。
 左の、薬指。

 「私は、」

 言いかけた台詞よりも早く鍛冶師が立ち上がる。
 平均の女性よりは背の高い聖職者より僅かに目線の高い位置から、
 鍛冶師はただ凡庸とした表情で見返す。
 鼻筋のよく通った整った顔立ちのこの聖職者は、
 彼の、相方だ。

 「見えずとも、見えなくとも、そうやないとしても、誓う。
  うちは、アンタの糧になる。乗り越えて、な?」

 その先に行くんだよと鍛冶師は含める。
 ティーと呼ばれた聖職者は、目の前のギルドを通して知り合ったその相方を見返し
 ながら、肩口のエンブレムに視線を落とす。

 どんな時にも思慮深くあれ。

 ギルドマスターであるアルトという名前の演奏者が踊り子とともに立ち上げたこの
 ギルド、創設はかなり昔の事になるらしいのだが。

 そのエンブレムである聖書に手を伸ばすと、聖職者は鈍い手つきで握りつぶすよう
 に握り締めた。鍛冶師の眉がよる。

 「・・・・関わるな、これ以上。
  私はお前を容赦なく殺すぞ、アーセン・ヒルデハイト。
  ゲッフェンの銀の鍛冶師、その名声を失いたくはあるまい」

 震えるような声で聖職者が鍛冶師の名前を呼んだ。
 アーセンは僅かに目を見開いてから、小さく吐き捨てるように言う。

 「別段怖くなんかあらへんね。名声はまたいつか手にする事ができる、
  せやけど・・・・・・・・アンタは逃せば帰って来ない。
  ティティシア・コールド。四を守護するもの、・・・・・・欲しいものは全部くれてや
  るで?アンタが望むならこの世界を、」

 壊してもいい。
 アーセンの言葉何処までも真摯に囁かれる。

 ティティシアの淡い金色がかった茶色の目が細められる。
 光の加減では猫のように光るその眼差しは今はただ、恐れの色をうつしている。
 驚愕、あるいは。

 「・・・・・、ティティ・・・?
  怖くない。恐れるものは何もない」

 名を呼ばれ響いたアーセンの言葉にティティシアが目を閉ざす。

 「・・・・・・・・アーセ、」

 呼ばれた名前に鍛冶師が優しく笑みを浮かべる。
 大丈夫、小さく繰り返して言いながら聖職者を軽く片手で抱き寄せる。
 小さな鼓動、通じてくる音を聞きながらアーセンは目を閉ざす。

 出会いは何でも屋という名前にひかれて入ったそのギルドで。
 謎という謎の名前のギルドは、その時すでに鍛冶師としては大成していた彼に、
 非日常と言うものを届けてくれる。
 何でも屋、退魔、下水掃除、ハウスキーパー、子守りなどなど。
 その枠は一定はしておらず、入って数日でそれにはまってしまったアーセンの
 ところに訪れた聖職者は、はじめまして、と人のよさそうな笑みで言った。

 はじめの頃は人のいい聖職者、育ちのよさそうな。
 その内にその下にあるものを知った。

 彼女は、人ではない。
 それに気が付いたのは、その人並みはずれた能力と、存在、だ。
 ある日二人で行ったゲッフェンダンジョンの行ける筈のない最下層で、
 間違えて入ってしまった冒険者達を救出している最中、この聖職者は、
 結界をはったのだ。

 何者にも干渉されないその空間を作り上げたティティシアは、
 一歩も動かずに皆に先に行くよう促した。

 あの能力が今の聖職者では扱う事のできない位置にある高等聖魔法と知ったのは、
 本当に瑣末な偶然で。この聖職者と組むようになってから、
 また世界がガラリと変わった。

 ゲッフェンの工房に閉じこもっていれば見えるはずのない空は、
 どこまでも高く。隣で笑いながら声をかける聖職者に何かしらの特別な情が湧い
 たのはただの偶然ではない。

 「・・・・・・・、」

 ティティシアの唱えた小さな名前にアーセンが苦笑いを浮かべる。
 目をあけて、聖職者の顔を見返すと彼女は茶色い目にただとらえどころのない笑
 みを浮かべながら、行こうと言った。

 「・・・・・・・取り戻すんだ。私達のあの場所を」

 「・・・・・望むがままに」

 アーセン・ヒルデハイトは一歩はなれて恭しく頭を垂れる。
 そんなとき鍛冶師である彼は一瞬だけこの聖職者につかえる騎士の気分に、なれ
 るのであった。
120ある鍛冶師の話8-3sage :2004/07/06(火) 10:38 ID:8oEwQRlw
 隣で教会から配給された十字架を床にたたきつける聖職者が居る。
 金髪に冷たい青の眼差しが、悪漢の深い青の目を睨み返す。
 オレンジ色がかった茶色の髪は無造作に伸ばされてはいたが、
 面構えとしては服装さえ正せばどこかの上流階級にも紛れ込めそうであった。

 寸でのところで空間を歪めて路地裏へと引きずり込んだのだったが、
 教会の裏作業をしているこの聖職者は、そのときより言葉を発していない。
 たたきつけている十字架を見ながら、ならず者、ラルフ・クォーツは溜め息混じり
 にシュイ・グランドールの頭をぐしゃぐしゃと撫で回した。

 「・・・・・・あとはただ潰しゃァいいだけだろうが。
  何を迷う、お前が別にそこまで悩む必要もねェだろうがよ」

 頭を撫でられた事に眉を寄せて見上げるシュイを見返しながら、
 ラルフが溜め息を吐く。成人はしているらしいこの聖職者は、
 年端のいかない少年のように真っ直ぐなところがある。
 そのせいで勝手に背負い込むようにしか見えないその行動に、ラルフは毎度の事の
 ように溜め息を吐いた。

 「別に僕は教会を裏切りたい、わけでは」

 「僧兵ふっとばしてその台詞は、説得力がねェな」

 「・・・・・、」

 「あー、育ちのいい坊ちゃんがそんな顔すんなっ」

 まるで子供を宥めるようにしながらラルフが頭を抱える。
 シュイはその様子に少し笑ってみせると、噛み付くような勢いでラルフの唇を奪う。

 「これは駄賃だ、生憎ティーじゃないが、勘弁してもらえるかな」

 「・・・・・・おま、」

 突然の事にラルフの顔が朱に染まる。
 顔立ちだけ見れば体格さえカバーすれば女性に見えるかもしれない。
 優男、そういった風の聖職者は人をくったような笑みを浮かべる。
 表情が幾つもあるこの聖職者を見返しながら、
 悪漢は苦笑する。

 僅かに触れた感触の残る口元を覆いながら、
 常のように返すのだ。

 「だったら、ティアちゃんをさっさと出せ」

 怒ったような口調にシュイが笑う。

 「・・・・・・・お前な、俺はノンケでも食っちまうんだぜ?」

 冗談で言ったつもりではあったが、シュイは綺麗な笑みを浮かべてみせると、
 口はしをニタリと歪ませて。

 「や ら な い か」

 ラルフ・クォーツはこれには呆気に取られたらしい、
 目線を彷徨わせながらどうしようか本気で迷っているようだ。
 シュイはそれを見ながらまた笑う。

 今ばかりは当面の事を忘れて。
 プロンテラの宿の一角では、そのようなやりとりが行われて夜がふけていく。
121ある鍛冶師の話sage :2004/07/06(火) 10:46 ID:8oEwQRlw
110様>なんだかすごく和みました。こういう感じのやりとりなんて可愛らしくて
   素敵です。僕にもそういう相手が欲しいなぁとしみじみ思いました。

114-116様>URYYYY?
     僕は鍛錬運がないのでカンカンはしに行きませんが、
     大笑いしました。ごちそうさまです。

訂正:8-2の『をあけて、聖職者の顔を見返すと彼女は』の下りの聖職者は、
   鍛冶師に変更です。

 なんだか見返しているにも関わらず、ゴメンナサイ。
122名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/06(火) 11:20 ID:bYbncyoM
壁]ノ いつも楽しく読ませていただいてます。
>>110 その元ネタを見て、実行しようとわくわくしながらミルクを買い込み…
    大口では売れなかった敗北者がここにいます(笑
>>114 笑わせていただきました。続編には精錬の魔術師サレーさん登場で是非。
  「アラガムサレー!」「Yes I am!」
>>鍛冶師の人様 相変わらず広がる構成にどきどきです。
 ……でも、低脳な読者そのいちにわかるように、登場人物表とか組織関係とかを
まとめてくれるとすごく嬉しいです。とかぜーたくなことをお願いしてみてイイデスカ?

壁]ミサッ
123110sage :2004/07/08(木) 06:13 ID:f2qh63Lw
レスをくださった方々、ありがとうございます。リアクションを貰えると、やはり大変に嬉しい。
萌えとか和みとか、意識してやろうとすると難しいねぇ。

>>114-115
いやそれ負けたのか。敗れてないだろ大成功だろと突っ込みつつ勢いに笑ったですよ。
なんだかんだでホルグレン、慕われてるNPCだ。

>>117-121
さりげに108でもあります。
自分の持ってない職業の立ち回りは分からないですからね。なかなか表現が…。
>>122さんも言われておりますが、俺も登場人物及び組織をまとめていただけると嬉しいな、と思います。
そしてリツカさんの出番が増えると、もっと嬉しかったりすると思います。我侭ばっかりです。
124名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/08(木) 06:15 ID:f2qh63Lw
「またやられちゃったよー」
 力なく微笑む彼女へ、オレは治癒魔法を施した。みるみる塞がっていく外傷。
「これで大丈夫だな?」
「うん。ありがとう」
 傷が完全に塞がるまで唱呪を続け、オレはそこで一息入れる。彼女が戦闘不能になるのは、実はよくある事だった。
 オレが剣士の頃から、こいつとはパーティを組んでいる。
 敏捷性のあるオレが魔物と切り結び、正確無比の彼女の矢が相手を仕留める。割合理想的な構図だと思う。
 弓使いは体力に乏しいのだから、魔物と直接対峙するべきではない。前衛であるオレに任せておけばいい。
 だというのに数が来ると、彼女は群れを分散させるべく囮を買って出て、結果大怪我を負ったりする。
 今回も御多分に漏れずその例だった。
 オレに群がったボンゴンとムナックの群れを引き受けて、それで打ち倒されてしまったのだ。
「今日はもう終りにしよう。ゆっくり休め」
「…ごめんね。迷惑ばっかりかけて」
 仏頂面を誤解したのか、上目遣いに詫びてくる。
「いや」
 頭を振ってから手を伸べると、それに縋って立ち上がりながら彼女は続けた。
「私が無理しなければ、もっと潜ってられたのに」
 ――こいつは解ってない。
 何故オレが昇格の条件を満たすなり大急ぎでクルセイダーになって、まず第一に治癒魔法を修得したのか、まるで理解していない。
 だからオレの不機嫌の理由をそういう事だと思うのだ。


 観光客も旅人もまばらなフェイヨンだから、部屋はすんなりと取れた。
 無論取ったのは二部屋だが、一先ずは彼女の面倒をみねばなるまい。
 ふらつく体を支えて寝台へ連れていき、再度治癒魔法を施術する。
 身を清めたいかもしれないが、流石にそこまでの面倒見はオレには出来ない。体調が戻ってから自分でやってもらう他はない。
「…ごめんね」
 されるがままに寝台に横たわった彼女がもう一度詫びてきた。その姿がひどく弱弱しく見えて、
「気にするな。オレも悪い」
 惚れた女も守り切れないのだから――とは付け加えられずに思っただけだけれど。
「ううん。君は悪くないよ、全然!」
 しかし自嘲気味の呟きに、彼女はがばっと半身を起こして反論した。
 彼女の必死さが微笑ましくて、オレはその頭をぽんぽんと撫でる。
 オレと彼女は身長差がかなりあって、これはもう癖になってしまった仕草だった。
「早く二次職になれよ」
 資格はとうに得た筈なのに、彼女は弓手のままでいる。
 多分技術を研鑽する意図なのだろうけれど、こだわりを捨てて二次職になってくれさえすれば、耐久力も格段に増す。
 つまり倒れ伏すこいつを見て肝を冷やす回数も減るのだ。そういう意味の発言だったのだが、彼女は俯いて黙りこんでしまった。
 もぞもぞと動いて座り直し、
「…おへそ、見たいの?」
「――は?」
 なんでそうなる。
「だって狩人もダンサーも、服が、さ…。あんまり肌を晒すのはいやだな、って」
 寝台脇に立てかけた愛用の弓の弦を小さく弾きながら呟く。
 オレは脳裏に両職の姿を思い浮かべた。言われてみれば、確かに肌の露出は高い。
「…君だけになら、」
 ちょこんと正座したまま真っ赤になっていく。けれど、オレを見つめる視線は外れない。
「君にだけなら、見せてもいいんだけどな」
 ――思考停止。意識の隙間でくいっと腕を引かれて、オレはされるがまま寝台に腰を下ろす格好になる。
 そして当然の権利のように 彼女はこつんとオレの肩に額を預けた。
「私の事、嫌い?」
「いや」
「じゃあ…好き?」
「ああ」
 驚くほど動悸が早い。けれど気持ちは、不思議なくらい透明だった。
「好きだ。ずっと前から」
「もー。なら早く言ってよぅ」
 すごく勇気が要ったんだぞ。そう尖らせて見せた唇も長くは続かない。
 ふふふー、と嬉しそうに笑み崩れて、オレに抱きついてくる彼女。
 冷たい金属越しではやわらかな温度は伝わらない。いつもは頼もしく思う鎧を、この時ばかりは少し憎む。
「頑張って2.5M、貯めようね」
 囁きに首肯しながら華奢な背中に腕を回す。幸福そうに微笑むその髪を、オレはそっと指で梳いた。
125名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/09(金) 01:01 ID:V3khsliM
>>124
うほ、甘いなぁ。
こーいうの好きかもしらん(´∀`*)

…というか電波受信しちゃったじゃまいか。
よーし、それなりに長編にすべく構想練ってくる。
日曜日までには少し投下できるようにがんがるます(`・ω・´)
126ある鍛冶師の話sage :2004/07/09(金) 14:04 ID:pXnRYcsQ
こんにちわ。
ご要望を頂いたので、必死こいて書いてきました。
尚知り合いのお絵描き氏さんより絵も僅かながら頂戴しましたので、
それなりに見栄えはするといいなぁと。

ttp://page.freett.com/monnnoon/chara.html
127ある鍛冶師の9-1sage :2004/07/09(金) 14:10 ID:pXnRYcsQ
 足元に落ちている何かを踏み潰したら、即座に広がる腐臭。
 淡い赤い髪の聖職者は、小さく眉を寄せた。

 気に入らないわけではない。
 あの赤い髪の騎士の隣に立つのが自分でなくとも、あの銀髪の聖職者であれば
 許す事ができた。あれは別格だ、リツカにとってのイリノイスは幼い頃からの
 絶対であり、それだけの存在。それは共に居る時間をその頃共有していなかっ
 たからこそ、譲らざるをえない位置がある。

 顔をあわせれば口喧嘩ばかりではあった。
 立場上相方としてリツカと組む事が多いものの、
 ただそれだけのことだ。

 あの鍛冶師のように支えてやる事ができるわけではないし、
 自分にあるものといえば魔を退けるための能力唯一。
 それでも隣にあの騎士が立てば、心強いものはそれ以上になかった。
 前へ突き進む背中が何時の間にか英雄と重なるようにすらなったのは、
 どういうわけだろう。

 ゲッフェンで会った鍛冶師を無理矢理にダンジョンに引きずり込んでから、
 コーリアの調子はどうにもおかしかった。

 フェイヨンでのお祓いを頼まれて同行しようとしたリツカを断ったはいいが、
 今の現状としては最悪としか言いようもない。
 あの鍛冶師のようにいざという時のための火力があれば別だが、
 今彼女が使えるのは残り五つの青石分の魔法陣だけ。

 手にしている杖で殴るという選択もあるが、
 それではこちらが根負けしてしまうに違いなかった。

 ピョンピョンと跳ねては追いかけてくる彼らの髪型は一定しているもの、
 その年齢から表情は様々。一時的に身軽になるよう呪文はかけておいたものの、
 このままいつまでも逃げ切れるわけがない。
 皮肉な事にこういう時というほど人に会う事がないのだが。

 「・・・・・っつーぅ、しつこいのは嫌いなんですけどっ」

 振り返ればまだまだ膨れる群れにいい加減腹も立つわけで。

 「キリエ・エルレイソン!」

 神聖魔法の防御壁を咄嗟に唱えれば、鈍い衝撃音とともに見えない壁が現れる。
 一気に速度をあげてコーリアは振り返ると手の内にある青石を一つ地面に叩きつ
 けるように投げてから、小さくサフラギウムと唱える。
 それから地面に青石が落ちるまでの合い間に魔法陣召喚の詠唱をはじめる。

 回転をきかせながら見えない壁にはばまれていた蹴りの一つが、
 僅かにコーリアの鼻先をかすめる。
 徐々に追いついてくる群れに眉を寄せながらも、かすめた蹴りが続いて壁を壊し
 わき腹へとあたる。衝撃は壁が緩ませてはくれたものの、痛いものは痛い。

 痛みに眉を寄せながらコーリアは膝をつきそうになりつつも、
 必死に詠唱を続ける。僅かに頭の中で警告音を知らせるような痛みがはしったそ
 の時、聞きなれた囁きとともに白の天使たちが魔法陣へと降り立つ。

 一気に吹き飛ばされ塵へとかす様子を見ながら、慌てて自身に回復魔法をかける。
 それからまた防御壁を作り少し離れた位置でまた魔法陣をはる。
 そんなやりとりを二回ほど繰り返して、どうにか追いつきそうだった群れは消し
 とばすことができたようだった。

 ふ、っと息をついてから辺りを見回すとなにやら帽子が転がっている。
 拾い上げてみればムナックが頭に乗せている帽子で、コーリアは少しばかり舌を
 出してから笑みを浮かべると、頭の上に軽く乗せてみた。
 視界は悪くなるが、下がっている御札が少なからず魔物からの干渉を阻んでくれ
 るため、一応かぶってみる事にしてみる。

 少しだけ軽い足取りで数歩歩いてから、さっと背中に寒気が走る。
 僅かに鈍い衝突を背にうけると、コーリアはあわてて振り返る。
 と、ゆらりと九つの尻尾を揺らしながら小首をかしげる狐が一匹。

 「・・・・・、こん、にちわ」

 片手をひらりとあげるコーリアに狐は喜んでいるかのような声をひとこえ高く。

 「っ、無理ぃぃぃぃぃぃっ!!」

 踵をかえして駆け出した聖職者の後ろを九尾狐が軽い足取りで追いかける。
 数度軽い衝撃は受けたものの、まだ先ほど張った防御壁のおかげかまだ痛みはな
 い。

 問題はこのあとだ。

 今回のノルマは達成したものの、生憎本拠地へ帰るための青石は残り一つだけ。
 空間を歪める術をとなえるために足を止めるのはいいが、失敗すれば即さような
 ら、だ。

 「・・・・・・敬虔なる神への使徒への扱いとしては、ちょっとこれはないんじゃない
  のかなぁぁぁっ」

 大急ぎで出口へと走りながら、ふいに足元に気配を感じる。
 ぐらりと歪む景色の下方向になにやら紫色の装束が見える。

 ずべし、

 盛大に顔面から倒れた聖職者の斜め左下で黒い髪を一つに高く結わえ、髑髏印の
 バンダナをまいた暗殺者がのろのろと顔をあげた。

 「・・・・・・・おー、スパッツ丸見え」

 「し、死にさらせェェェェ!」

 聞こえた声と共にコーリアが杖をうちおろせば、暗殺者はすばやい動きでそれを
 避けてから追いついた九尾にタックルをくらいまた倒れる。

 「・・・・・・、」

 妙な沈黙が訪れる中、コーリアは自身にまた防御壁を唱えてから呪文を唱える。
 気づいた九尾が目を瞬かせながら、ステップを踏んで飛び掛ってくるのを空気を
 震わせながら、見えない力が阻む。

 「リザレックション!」

 青い光とともに暗殺者が首を振りながら起き上がると、コーリアは立て続けに神
 聖魔法をかけていく。

 「速度増加!ブレッシング!ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、キリエエルレイ
  ソン!ヒール!イムポシティオマヌス!」

 「アー・・・・、ありがとう、つまり倒せってことかな」

 ちら、っとコーリアを見る暗殺者はその頷きを見ると共に、カタールの刃を交差
 させる。

 「・・・・・・さァ、来い!」

 高く跳ねて駆けて来る九尾に向かい、暗殺者は懐へと片手を滑らせる。
 そうして取り出した何かを高く放り投げ、数歩下がり。

 「ほーれ、油あげだぞー」

 ケーン、と九尾はフリスビーをキャッチする犬よろしく、見事油揚げをキャッチ
 する。そのままその場に座り込むと、がじがじと噛み始めては。

 「えっと・・・・・・」

 コーリアは目を瞬かせながら暗殺者を見返す。
 髑髏のバンダナを巻きなおしながら、暗殺者はへらりと笑みを返す。

 「これはこれは麗しの聖職者様、ご無事でなにより」

 「・・・・えーとあれだ、うん。ありがとう、さようなら」

 暗殺者というイメージから外れているためか、この状況にかコーリアは考える事
 すら拒否したようで、つらつらとお礼だけを述べると背中を向けて歩き出そうと
 する。その背中に向って、暗殺者の笑い声が響くので恐る恐る振り返れば、

 「おー、お前女の子か。うち来るかー?」

 九つの尻尾を揺らしながら暗殺者の顔を嘗め回す狐と、緩みっぱなしの笑みの暗
 殺者。

 「・・・・・・・懐くものなの?」

 思わず問い掛けた言葉に、暗殺者が緩んでいる笑みをそのままに視線を向ける。
 いい父親になりそうだなとコーリアは思ってから、目線が遠くなる。

 「さぁ、知らん。咄嗟に投げてみたら懐いたものだからな、それにかわいい」

 ぷらーんと四肢を投げ出して抱かれる狐は、暗殺者の腕から逃げ出すなりコーリ
 アの足元へと鼻先をすりつける。恐る恐るしゃがみながら手を差し出すと、狐は
 小さな舌を伸ばしながら尻尾をぶんぶんと振りまくる。

 「・・・・、うち、くる?」

 そんな事を続けて言ってみれば、狐は当然とばかりにしゃがんだコーリアの肩に
 乗るとずしっと頭の上に前足を乗せる。軽い重さにコーリアが目を細めると、暗
 殺者は小さく噴出した。

128ある鍛冶師の9-2sage :2004/07/09(金) 14:11 ID:pXnRYcsQ
 「私の名前は蘭、花の名前の蘭な」

 「へー・・・うちにはホストみたいな名前のアサシンが居るわよ」

 意気投合というよりは、仕方なく、だろうか。
 フェイヨンの街の端にある最近はやりのカフェというところで抹茶を飲みながら、
 コーリアは向かいの席の花の名前の暗殺者を見返した。

 「ホスト」

 目線遠く苦笑いする蘭に、コーリアは小さく笑う。
 膝の上には丸くなって寝息を立てる九尾が一匹。

 「でもなんとかなるものね、新しい頭用の防具ですって言ったら誰も気にもしない」

 はじめ真顔でそんな事を提案した暗殺者にむかって、アフォアサと言葉を吐いた
 ものの、割りに堂々と嘘をつけば通るものだなとコーリアは感心していた。

 「まぁ、割と、な。お嬢さん名前は?」

 「コーリア、よ」

 短い返答に蘭がふんふんと頷く。

 「何、よ。何か言いたい事でもあるの」

 コーリアが眉を寄せてかえせば、蘭はいやいやと片手を振りながら屈託なく笑み
 を返しさらりと言ってのける。

 「綺麗な名前だな」

 盛大に抹茶を噴出しながら、コーリアが咳き込む。
 視界がグリーンに染まるのを感じながら、蘭はふ、っと遠い目線を浮かべる。

 「ごめん、面白いわね」

 多分本気でそう言ったであろう言葉に対して、コーリアがそう返すと、蘭は乾い
 た笑みを浮かべながら、備え付けのおしぼりで顔をぬぐう。

 「ホストみたいな名前というのは、どんな名前なんだ?」

 「蓮、よ、ハスとかいてレン」

 「・・・・・・あの子も生きていたのか」

 感慨深そうに眉を寄せる蘭に、コーリアが瞬く。

 「知り合いなの?」

 「んー、昔同じ部署に居た。
  私の後輩にあたるんだ、蓮君は。詳しい事は言えないがね、そこでは皆花の名
  前をつけていたのさ」

 「本名じゃないんだ、じゃぁ」

 「いや、それが本名になる。元の名前など覚えていないさ、そういう部署だった
  からね」

 「・・・・ふぅん」

 こくりっと最後のひと口を飲み干すと、蘭は席を立ち上がった。

 「改めて挨拶しようか、赤月華の音速の退魔師コーリア殿。
  アサシンギルドサブマスター、蘭、だ。このたびルティエの雪辱をはらすため、
  ぜひとも協力を申し出たい」

 「・・・・・・音速なんて異名はじめて聞いたわ」

 驚いたように目を開いたあと、照れ笑いを浮かべるコーリアに向い、蘭は笑顔で
 返す。

 「お世辞だ」

 「行きなさい、鈴」

 名前を呼ばれて狐は目を覚ますと、勢いよく蘭の顔面へと向かい火を吹きかける。
 断末魔の悲鳴とともに顔を覆った暗殺者を見ながら、コーリアは大声をあげて笑っ
 た。
129ある鍛冶師の9-3sage :2004/07/09(金) 14:12 ID:pXnRYcsQ
 ひたひたと追いかけてくる足音のイメージ。
 目を閉じればまだ小さかった姿を思い浮かべる事ができる。

 「ろーれ、らい」

 今は居ない名前を呼んでは、目を閉ざす。

 扉の開いた音にふわふわの茶色の髪が揺れる。
 振り返る先に居たのは、赤い髪に黒い瞳の魔導師だ。

 「ティティシア・コールド。ようやく見つけたぞ。
  ・・・・・・・・・いまだに忘れられないようだな、深淵の騎士を」

 突然の訪問者にティティシアが目をあけると、目の前には赤き鼓動という名の魔導
 師がいる。隣に立つ彼女の鍛冶師は、すまなそうに目線を天井に向けながら軽く頭
 を垂れた。

 聖職者の唇が溜め息、一つ。

 「何故ここがわかったかどうかは問うまい。
  吸血鬼の上にお前は鍵の管理者だからな、アルトが教えでもしたんだろう。
  何の用だ?」

 レッド・ビートは口端をつりあげて僅かに牙の端を覗かせると、いやな笑みを浮か
 べた。隣に立つ鍛冶師は魔導師のその様子に眉を寄せ、ティティシアとの合い間に
 その体をずらす。睨みつける鍛冶師を見返しながら、レッドは邪気をひっこめると
 屈託なく笑った。

 「殺しにきた」

 「・・・・ッ」

 鍛冶師が腰元の斧を両手にかまえる。
 ティティシアは溜め息を追加注文してから、冷ややかに茶の目に金色の光がともる。

 「・・・・・・容赦はしないが?」

 レッドはおどけるようにしながら目線をそらす。
 それを合図に鍛冶師が斧を鈍い音をたてさせながら、振り上げる。
 おろした先に居るレッドは、何事かを口の中で唱えると緑色の霧を発生させる。
 ボコボコという音ともに鍛冶師の動きが遅くなると、ティティシアがその体つきか
 らは考えられないほど、鋭い動きで刃のついたメイスでもって追撃を続ける。

 「・・・・・・・・ファイヤァ、ボルトッ!」

 刃先が触れる前に繰り出された火の玉は、メイスの刃先触れた瞬間かき消される。
 通常ならありえない様にレッドが眉を寄せると、ティティシアがニタリと赤い唇を
 つりあげて微笑む。

 「水属性だ」

 「・・・・・・・・・だとしても普通ありえねェだろ・・・、魔術そのものを刃にこめたとしか」

 レッドの眉が寄せられる。

 「・・・・・・・・・・、ティティ?お前何に手を出した?」

 問い掛けた魔導師の言葉は、鍛冶視の斧の刃先で遮られる。
 目の前に霧を振り払った鍛冶師の刃が振り下ろされると、レッドは素早く宙返りを
 しながら鍛冶師とティティシアの後ろの窓際へと跳んで行く。

 出窓の板の上に着地するとレッドは小さく片手をふってから、窓へと体当たりをか
 ます。辺りに響き渡る窓硝子の音と共にレッドはすぐ隣の建物の屋根に降りると、
 瞬く間に屋根伝いに姿を消した。

 室内では淡い金色がかった目の色の聖職者が、レッドの気配が遠ざかると同時に咳
 き込みはじめる。口元に手をあてて咽るティティシアの元に鍛冶師が駆け寄る。
 背中をさすりながら、肩を起こしてやると、その口元は鮮烈な赤に彩られていた。

 「やはり私の能力では限界があるか・・・・」

 「・・・・・、ティティ」

 「気にするな、これでスレイに会えるなら安いものだ」

 ティティシアはそう言って微笑むと、ずっと左手にはめてあるままの指輪に小さく
 口付けを落とす。聖職者が僅かに赤い色がついたことに眉を寄せてその赤い色を指
 でぬぐうと、鍛冶師は赤い瞳を細めながらその指を手に取った。

 「・・・・・・・・アーセン?」

 「・・・・・・・貴方の行く先に神のご加護があるように」

 祈りをささげる鍛冶師にティティシアは、苦笑いを浮かべて天井を見上げた。

 「死ぬ事は怖くないんだ、この長い生に終わりを告げる事が出来れば、
  きっと幸せに違いない。帰ることもできなことはわかっている、それでも、もう
  一度だけアイツに名前を呼んで欲しいんだ、私の名前を。

  スレイ、・・・・・・」

 唇に名前を呼ばせたまま、言葉を発さなくなる聖職者にアーセンが眉を寄せる。
 あわてて覗き込むと、聖職者は静かな寝息を立てながら眠りに落ちたようであった。
 アーセンが溜め息をつきながら聖職者の体を抱き上げると、その手からソードメイ
 スが音を立てて転げ落ちる。

 ふと、鍛冶師が音につられる。

 アーセン・ヒルデハイトと彫られた横にある別の名前に視線を落としながら、
 鍛冶師は愛しき聖職者をそっとベットに寝かせた。
130ある鍛冶師の話sage :2004/07/09(金) 14:18 ID:pXnRYcsQ
話が消え取るし。題名_| ̄|○

122様>まとめてきましたよっ。何かおかしいところ、書き足りないところが
   ありましたら、ご指摘いただければ幸いです。登場人物は多い方なので、
   話の進みものろいですが、お付き合いいただけたら幸いです。

110様>僕には勢いのある笑いのノリがどうしてもできません。羨ましいです。
   リツカの出番は舞台を首都からゲッフェンにうつしたあと、展開する予定
   なのでもうしばらくお待ちください。

それでは暑い日がはじまりますが、ご自愛ください。
131ある鍛冶師の話sage :2004/07/09(金) 14:28 ID:pXnRYcsQ
Σ(゚Д゚;)!!
110様>ごめんなさい思い切り勘違いしてました。
   114様とごっちゃに_| ̄|○
   焦るとろくなことにならないというイイ例です。
   大変失礼な事をしてしまい、すいません。
   和むというか、読んでいて心があったかくなるようなそういう
   のが羨ましいです。読んでいる側の何かを動かせるぐらいの、
   力のある文章でありたいものです。僕はそういうわけで、心が
   癒されました。ごちそうさまです。
13293@NGワード用sage :2004/07/09(金) 15:00 ID:VVv/wQlw
久しぶりに時間があったので保管作業して、終わったからスレリログしたら・・・
仕事増えてる━━━(((⊂⌒~⊃。Д。)⊃

いえ、嬉しいんですけどね。
>>鍛冶師様
 というわけで、保管完了。紹介HPにも鍛冶師さんシリーズのサブメニューから無断直リンク完了。
ダメなら言ってください、即外しますし。
 アブラアゲウマー。
ぷち泣き言。最近、ちょっと読みづらいのです。初期の人が初対面だったから読者が彼等の人間関係構築を
同じ目線で見れていたのに対して、最近の登場人物さんが過去のしがらみや含みの多い人たちだからでしょう。

 回想シーンとか入れてみません?

 あと…文末が 「る。」で三連続以上だとちょっと耳障りかな。私だけかもですが。
133|゜ω゜)sage :2004/07/09(金) 19:20 ID:MTFUv3IY
>110
和むッ実に和むぞオオッッーーー! GJってヤツだッッ

114氏
>ころしてでも うばいとる
しかし ほるぐれんに たたききられた!
ざんねん! わたしのぼうけんは ここでおわってしまった!
終わったらいかんがな。ホルグレン力みすぎ、だがそんなお前がいとおしい。
具体的には鯖折りたいぐらい。

>鍛冶師の人
一言で言うと面白いです。二言で言うとすごく面白いです。
ただ、やはり皆さんが言われているように、人間関係の相関gああーーっと出来ている! 相関関係を表したページが既に出来ているッッ!(板垣風に
あと、誤字……というか、変換していない漢字等が所々にあって個人的には読みにくいときがあります。そこんとこどーなんでしょうかッ、どーなんでしょうかッ!(サッカー解説的に


>93
差し入れ|ω・)っ[更新と執筆に励めるぱぅあ]
保管庫更新お疲れ様です。なんというかこう……壮観でありますな。読むほうとしても感謝千万と言うものです。


ちと筆が進んだので途中まで。『敵は海賊』を読んでインスピレーッション。
しかし構想自体はラグナを始めた当時から出来ていたものだったり。
謹んで投下させていただきます。
134Q/Rsage :2004/07/09(金) 19:24 ID:MTFUv3IY
「ラダート! ラダァーット! 出て来いラダァァト! どこ行ったあの糞ネコ!」
 クアッアの怒声が天意局の一角に響く。当のラダート、ワイルドローズ族ダラーラ種ラダートは王城厨房でコックのテスラに昨晩の飯の文句を言っていった。
「いいかぁーフェンだフェンをだしゃあいーんだーんーっだってぇーのにサベージだとぉ!? おりゃあショックで頭から床に落ちるとこだったぜええテスラよぉー」
「そそ、そんな、こ、こと、い、いわれましても、お、ラ、ラダート、さ、ん、が、お肉のほうが、い、いいって、きのう矢文っでいったんじゃないですかぁ」
 ラダートの髭がピンと伸び、「矢文ぃ? おりゃあそんなもんしらんぞ夢でも見たのかテスラ。きっと夢だぞそれ」
「えええそんなぁぁ」
 石造りの天井を突き破らんばかりのテスラが身体を丸めて小さくなる。ラダートはその隙に下ごしらえ中の切り身を二個胃の中に。今日の昼飯はムニエルにするらしい。
「テスラーおれ塩漬けのほうがいいよ塩漬けにしろよー」
「っだっだめです、三日前から、下ごしらえ、して、た、んですから、さわらないで、って、もうくってるぅぅ」
「喰ってねえよおれじゃねぇよおれじゃ。げっぷ」
 クアッア、天意局から多連結ワープアウト。満足そうにだらけているダラートを
見ると、無言で尻尾を掴んで振り回す。
「ギニャアアやべぇームニエルがおれの周りをまわってるー」
「寝ぼけるな駄ネコ、豚ネコ、人が呼んでるのに出てきもしねえとは何事だ。悠長に摘み食いったあいいご身分だな自分の腹肉でも食ってろ食用ネコ」
「うるさいなぁ。おれは天意局の局員に対する待遇についてお腹を痛めてたんだぜ」
「喰うことしか反応しないくせに何言ってやがる」
「だから食品改善についてこうして意見をだにゃー」
「丸刈りにするぞ残飯でも食ってろ」
 クアッア、ラダートの首筋を掴んで持ち上げる。多連結ワープポータプル起動、ラダートを天意局に放りなげる。「ああっ、まだ喰いきってないのに!」
「手前の喰いもんじゃねぇ容赦なく遠慮しろ! っとああそうだテスラ」
 しくしくと床で愚図っていたテスラが早く返ってくれと言う顔でクアッアを見る。「な、なん、で、ぐすっ、かぁ」
「サベージは照り焼きにしろって言わなかったか? 蒸し焼きなんてあっさり俺は好かん。蒸し器は捨てろ。命令だ」
「ああああの矢文クアッアさんのでで」
 クアッア、多連結ワープ。接続−転位局。ワープアウト。


 * * * *


 ぶふぉお。
 ごぽりと気泡が昇ってゆく。水面を目指すその、なんと幻想的なことか。
 長いため息を吐いた。それだけで海底は鳴動し、眷属たちは沸き立った。
 ――煩わしい。
 はるか遠くの水面を、決して目にすることは出来ぬであろう美しい水面を思った。
 それだけが慰みだった。
 それだけは抱いていたかった。
 ぶふぉお。
 気泡が登って行く。忘れ去られた不毛の地から、光り輝く空へ。


 * * * *


「あーくそ毛並みが乱れちまった。どうしてくれるんだよクアッア」
「いっそ全部逆立てちまえよ。逆毛ギルドから引く手あまただぜ」
「うほーおれ様人気者だなぁ」
 天意局の最奥に位置する局長室へ、クアッアとラダートは早足に向かう。たまたま天意局経路域の近くに屯留していたため、呼び出しを食らっていた。
「あーあー、クアッア・ラインドです」
「ラダート・ダラーラ・ダンドーラ、あー、でございます」
「入れ」観音開きの扉を開けて部屋に入り、執務机の前で止まる。
 天意局・局長は聖職者の衣服を纏ってはいるが、その実聖職者らしい行動はしない。なにか心身の都合があるのだろうとクアッアは推測し、ラダートは聖職者を職業者として信用していないので認識に食い違いが無い。
「さて、クアッア、ラダート両局員。とりあえず君達に良いニュースと悪いニュースがある。月並みだがどちらから先に聞くかね?」
「どっちもききたくねぇなぁ。早く昼飯が喰いたいよ」
「お前は喋るな。あーそのできれば良い方だけを。悪い方は他の誰かに言って下さい」
「では両方とも破棄しよう」
 あっさりと局長は言い放つ。クアッアとラダートは一瞬呆けた後やったぜ帰って寝よういーや食堂だ散歩だとハイタッチをし、
「ちなみに内容は諸君らの給料明細と待遇についてだが。そうか今日から無償で働いてくれるか、それは奉尭」
「局長早く仕事をください、俺達のこの熱く迸る仕事への情熱を向けるために」
「なんだよ俺達の達ってクアッア」
「癪だがくいっぱぐれるのはごめんだ」
「かったりぃなぁー」
 局長は表情を変えずに机に放り出していた羊皮紙二枚に一文を付け加える。脇に控えていた男がそれをクアッアに手渡す。規定外作業者任命書(仮)、指定区域における作業レベル3の非常認定。
「では仕事熱心な親愛なる両名に命令だ――イズルートの海底神殿に穴が開いた。早急に修復して来い」
 クアッアの目の色が変わる。狩人の青い目。「規模は?」
「妄言級」局長は口元を歪めた。「少々手ごわい」
「関係ねぇや、行こうぜクアッア。おれって海が意外と好きなんだ、魚がいるから」
「喰っちゃ寝のお前には最高の場所だな。いっそ住み着いちまえよせいせいする」
「つめてーなぁクアッア、相棒は大切にするもんだぜ」
「詳しいことは」局長が間に入る。「何時ものようにリンドウに聞け。返事は?」
「サー、了解、ヤボール」
「よろしい、行け」
 クアッアとラダート、局長室を出て天意局区域の反対側へ。多連結ワープポータブル起動、接続−バイアラン島。ワープイン。ケイオス経路へ進入。透過ゲート通過、ワープアウト、バイアラン島。


 * * * *


 何者かが問うた。
 曰く、何者か、と。
 答えた。
 曰く、『   』、と。
 何者かは問うた。
 曰く、汝には想いはあるか、と。
 問い返した。
 曰く、想いとはなにか、と。
 何者かは答えた。
 曰く、汝の拠り所である、と。
 呟いた。
 曰く、拠り所とな、と。
 何者かは問うた。
 曰く、左様。その意は多様にして無限である。如何に。汝の想いはあるか、と。
 答えた。
 曰く、在る。水面である、と。
 何者かは肯いた。締めた。
 曰く、叶えよう、と。
 答えなかった。


 * * * *


 海底洞窟入り口では、退避した冒険者達で溢れ返っていた。クアッアは忙しそうに動き回っている剣士ギルド員に指示を出している一際体躯の大きい男の肩を叩く。
「剣士長、天意局だ。状況を」
 振り向きざまに思い切りいやな顔をされるが無視。イズルートに拠点を置く剣士ギルドは、周辺の治安維持も受け持っている。
「状況は」
 再度問う。
「……地下二階までは安全だ。三階はうちの連中が戦闘と救援作業を同時作業中。動ける冒険者と協力して対抗してはいるが如何せんあっちの数が多い。
 大本を潰さんかぎりこっちのジリ貧だ。クソったれが」
 ダラートがクアッアの足元で欠伸をした。クアッアはノーグ・ロードの最奥で山脈と一体化、大陸全てにその末端を延ばしているリンドウへと思念通信。
『穴の位置は?』
『五階海底神殿・祭壇と予測。
 規模の大きさから三体から五体の大型水魔が出現している可能性があります』
『下まで行くのが面倒だ。露払いは出来ないのか』
『職務外の事ですので』
『面倒なだけか』
『行動の最適化と言って下さい、クアッア』
『了解、崩れ落ちろ全自動沸騰器』
『お褒めに預かり誠に光栄です』
 思念通信切断。
 剣士長はじっとクアッアを見る。剣士長とて歴戦の猛者、長年を剣と共に生きた剣士である。
 その剣の人生、冒険者として活躍していた頃、このような事態は何度か経験したことがあった。というより、『天意局』と言う組織が関わるような事に遭遇したと言っていい。そのどれもが奇怪な状況ばかりであった。その自体を通して、天意局に関して、二つわかった事があった。
 彼らは失敗をしない。
 だがいけすかん!
「とっとと行っちまえ、そんでとっとと帰れ」
「むごい言われようだなぁ。もっと温和に行こうぜおっさん」
「お前話聞いてたのか、珍しい。それじゃあ協力感謝、剣士長。いくぞラダート」
「おうよぅ」
 クアッアとラダート、海底洞窟の入り口へ駆け出す。剣士長の方はもう見ていない。剣士長は舌打ちしてギルド員への指示に戻る。


 * * * *


「流星である」
 呟いた。彼は思考を口頭で行う。
「流星が流れ果てるうち、三度願いを唱えれば、その願いは天に届くと言う。
 戯言で在る。しかし戯言と捨てるにはなんとも美しいものである。
 であるからして、かの戯言は真実である」
 海底の石畳、厳かに整然と並び神殿に続く道。上を向いていた。
 海底にいながら空を見ていた。夢想の空。重く圧し掛かる海という魔王を覆う空。
 剣閃のように星が流れた。
「願った。故に汝の願いは叶おう」
 海底が鳴動した。
 彼はもう居なかった。ケイオスという群体の極一部である彼は、なんの予兆も無く世界に還った。
135名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/10(土) 01:05 ID:JeetzABI
元ネタ知らないからかもしれんけど、わかりにくいなあ。
13693@NGワード用sage :2004/07/10(土) 01:58 ID:UCGwDPE.
>>|゜ω゜)氏
 ぱわーありー。あんど、激しく笑いました。女に甘くて失敗するいつもの展開とかっこいい海賊マダー?(AA略
一人称じゃないと、あの自己中な情景描写がないのが残念ですね。

>>135
 元ネタご存じないと…つらいかな? …つらいかも。氏に代わって解説してみるテスト。
 |゜ω゜)氏の言う元ねたは神林長平氏の「敵は海賊」というSFです。毎回言葉の意味を考えさせられるような内容が多く、
とっつきは最近のラノベより重いかもです。
 筋は海賊を退治する専門組織「海賊課」の最狂?トリオのお話で、猫型宇宙人と性格:小市民な人間刑事と妙にプライドの
高い宇宙船搭載人工知能の軽妙な洒落の応酬とかが笑えます。他のメイン脇役もいい味出しているのが多く…マジオススm
137名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/10(土) 08:09 ID:Un3/dvOs
賑やかでいいですね。
私もまた書こうかなぁ。書きたいなぁ。(時間さえあれば…

>>鍛冶師の話さん
リツカが好きです。ゲフェンも好きです。
なので展開的に激!楽しみ!です。頑張って下さい!

>>|゜ω゜)さん
独特な言い回しに笑わせて頂きました。
元ネタもこんな感じなんでしょうか?
よーし、パパ本屋で探しちゃうぞー。


諸作をゆっくり読む時間も欲しいところです。切実に。

元('A`)の戯れ言でした。
138名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/10(土) 13:19 ID:hMjQAlW.
>136
すまね、GMの話だと思ってた。
139名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/10(土) 15:08 ID:EvMpQ9LE
誰とは言わんが再臨キボンヌ
誰とは言わんが、マジデ
140名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/10(土) 18:00 ID:JeetzABI
誰だろう。とりあえず完結して無い連載とか気になるががが
141名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/11(日) 12:45 ID:AuDWAiIU
>140
やる気尽きたんじゃね?>未完結連載
神新作キボンヌ
142名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/11(日) 15:10 ID:Fu9H3sRU
その人なりの執筆速度があるのですよ。私は半年かかった某氏を座して待ってます
143124sage :2004/07/12(月) 00:54 ID:LSUZ6Bg.
>>125
お気に召していただけたようで何より。でも糖度=面白みでないのがムツカシイところです。
投下はまだないようだけれど、楽しみに作品を待っているよ。

>>126-131
…狐かわいいなぁ。油揚げでテイムできんかなぁ。ペット増やしてくれなんかなぁ、重力。
リツカさんはゲフェンまで待ちですか。活躍を楽しみにしております。
そしてまとめページ。お陰様で人物関係が非常に把握しやすくなりました。多謝。
ちなみにドレイク船長の設定がツボだったのは俺だけですか。こちらも登場待ちにござる。

>>132
保管ご苦労様です。長編をまとめて読みたい折りに、とてもお世話になっているですよ。
そちらでつけていただいた保管用の題名と、自分で保存用につけたタイトルが一緒だと何か嬉しい俺。いや私事ですが。

>>133-134
俺も元ネタを知らない人間なので、ちょっと主人公達の想像がしにくかったです。
「ワイルドローズ? モブの話?」とか思っていたら剣士ギルドやら何やら登場して、少々混乱。
人物や組織の描写・説明を増やしていただけると大変ありがたいのですけれど。注文うるさくて申し訳ない。
テンポの良いやり取りは好きなので、完結までを期待させていただきます。
144名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/12(月) 00:55 ID:LSUZ6Bg.
 夜半、彼女はふと目を醒ました。傍らには恋しい男のぬくもり。
 殺したはずの心が、ちくりと痛んだ。
 彼は昔、恋人を亡くしたのだと聞いている。自分の容姿が、その女性に瓜二つだとも。

 ――このひとは、私を見ていない。

 届かない場所へ去ってしまった恋人の、ただの代わりだ。
 でも。
 それでも、いい。
 今このひとに抱かれているのは、誰でもなく自分だから。他の誰でもない、私だから。
 神様へ祈ったように、今はかかさず彼を想う。
 そっと身を起こし、彼の寝顔を覗きこむ。そっと唇を重ね、ぎゅっと胸に頬を寄せて。
 そうして彼女は、優しい眠りに意識を委ねる。

      *              *               *

 職業柄、彼の眠りはひどく浅い。だから彼女が身を起こしたその瞬間に、意識は鮮明に覚醒していた。
 けれど彼は黙ってくちづけを受けて、そして彼女が寝息を立て始めてから、そっと静かにまぶたを開いた。
 物言いの不得手な彼だから、うまく伝える事が出来ない。
 もう彼女と故人を重ねてなどいない事を。
 けれど、

 ――言わなくても、あいつは解ってくれた。

 そう思ってしまうのは卑怯な逃げなのだと、それくらいは彼自身も承知している。
 腕を回して素肌のぬくもりを抱き締めて、やはり彼は逡巡する。
 視線は部屋の片隅。あまり使われない、古ぼけた机に注がれる。
 どんな顔で渡せば、彼女は全てを諒解してくれるだろうか?
 その引き出しには金色の指輪がひとつがい、ちょうど今のふたりのように、寄り添って眠っている。
145名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/12(月) 06:13 ID:CIPRWSrY
冷たい床に、その男は立っていた。
 目の前には巨大な馬に乗った、漆黒の騎士、『深淵の騎士』とよばれるそれが静かに立ちふさがる。
 男は笠の紐をきつく縛ると、赤い色の液体が入ったポーションを飲み干した。
 深淵の騎士は右手を掲げると、音も無く両手にサーベルを持った、骨の騎士が二人、現れた。と、同時に深淵の騎士は後ろに下がる。
 男を試そうというのだろう。彼もまた、背中に背負ったクレイモアを抜いた。
 少しずつ、三つの影が間合いを詰める。
 もう一歩もあれば両者の間合いは無くなるだろうという距離まで近づいた時、男が動いた。
 飛ぶように間合いを急激に詰めた男は、まず右の騎士に斬りかかる。二度、三度、四度・・・。騎士は鎧ごと、中の骨が砕け散るほどにうちのめされた。
 左の騎士は、その緩慢な動きからは考えられないようなすばやさで男に斬りつけてくる。男は振り返りながら上に跳躍すると、その斬撃をかわした。そのまま大きく振りかぶったクレイモアで、骨の騎士を叩き潰すと、男は静かにクレイモアを鞘に収めた。
 静かな空気。その場に動く意志のあるものは、男と深淵の騎士のみ。
 男は、腰にある刀に手をかける。
 村正。遥か東の国の刀工が作ったといわれるその刀は、手にしたものを破滅に導くと言われる曰くつきのものだった。
 深淵の騎士が前に出る。
 男は刀に手をかけたまま、腰溜めの姿勢ですり足で進む。
 瞬間、二つの影が交差した・・・。
1461/2sage :2004/07/13(火) 00:55 ID:ecWdDKns
「なぁ・・・ひとつ聞いてもいいか?」
「ん?なぁに?」
賑やかな披露宴が終わり、そろそろ気をきかせるかとギルドの友人達が場を後にして。
二人きりになったホテルの部屋で、思い出したように新郎−カイ−が新婦−フォウ−に聞いた。
「なんで、俺にプロポーズしたの?」
「ぶっ」
テーブルの上を飾る花を眺めながら、ワイングラスに口をつけていたフォウは
思わずワインを吹き出した。
「よ、よかった〜〜、ドレス着替えてて〜〜」
「おいおい、なにやってんだよ」
苦笑しつつ差し出されたタオルで口元をぬぐって。
「あ〜、テーブルクロス染みになっちゃうかな〜・・・赤じゃなくて白にしとくべきだった?」
「いや、色の問題じゃないんじゃないか?」
「バスルームで洗っといたほうがいいよね、やっぱり」
「まぁ、それは後でもいいじゃない。それよりも・・・」
テーブルを片付けようとしていたフォウの手をとって、カイは自分のほうに向き直らせた。
にっこり。極上の微笑みで。
「なんで、俺にプロポーズしたの?」
「・・・式をあげた今日になって、その質問・・・?」
「式をあげた今日だから、この質問」
にっこり。再び笑ったカイの笑顔に、つーーーーっと。
フォウの背中を、汗が伝った。

こいつ・・・言わそうとしてるなぁ!?

             +  +  +

プロポーズはフォウから。
カイはその日のことをけして忘れないだろう。
いつもどおりの狩りが終わり、いつもどおりギルドの溜まり場に戻ろうというときに
「戻る前に、ちょっといいかな?」とフォウに声をかけられた。
連れていかれたのは街からひとつ外にでた、フィールドのすみっこのすみっこのすみっこ。
こんなところ、道に迷ったルナティックだって通らない。
人通りのない野っ原で、甘い予感などよりも、「なんか怒らすようなことしたか?鉄拳制裁?」などと思ってたのは
カイが墓まで持っていく秘密である。
「えっと・・・つまりだな・・・うーん」と赤くなったり青くなったりのフォウが、えいっと何かを投げたのは
たっぷり3分間はうなった後。
砂に埋まりそうなそれを慌てて拾うカイの背後から「私の隣でタキシード着ない?」とフォウの声。
拾い上げたそれは、きらきらと輝く銀の指輪だった。
「お前は何を着るんだ?」
指輪についた砂を払いながらフォウに背を向けたままのカイの背に、少し震えたフォウの声。
「・・・ドレス・・・かな?」
「なるほど」
拾った銀の指輪をフォウに見えるように、自分の左手の薬指にはめて。
それから、カートに片手をつっこんで、一番奥から小さな箱を取り出す。
これでもかと言うほど目を見開いて、りんごほどにも真っ赤になっているフォウの左手をとると、
箱から取り出したものをゆっくりと薬指にはめてやる。
「お受けいたしましょう」

それが、二人の始まりだった・・・いや、始まりの、はずだった。
だけど翌日からの過ごし方がかわったかというと、今まで同様、
狩りのよきパートナーとしての二人の日々が続いていたわけで・・・。
1472/2sage :2004/07/13(火) 00:55 ID:ecWdDKns
とられた手がじんじんと熱い。
婚約してからだって、手をつないだことなんてあっただろうか。いやあったかもしれないけれど
こんなに長い時間、手をとられるほどの至近距離に二人きりなんてことがあっただろうか。
周りにはいつも仲間がいて、それが当然で。
沸騰しそうなフォウの頭の中に、ぴろん、と浮かんだひとつの質問。

「じゃあ、私も質問っ!」
「ふむ」
「なんで、私のプロポーズを受けてくれたの?」
「・・・・・・・」

そっちから先に、言わせてやる!

しばしの沈黙。
カイの目が、一瞬泳いだ。それを見逃すフォウではない。
つかまれてた手の力が少し緩む。
今度は逆に、フォウがカイの手をとって。
にっこり。極上の笑みを浮かべて。
「なんで、私のプロポーズを受けてくれたの?」
フォウの意図を知り、今度はカイの背中を汗が流れた。


お互いにお互いの手をとったまま、どれくらいにらみ合っていただろう。

「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・くっ」
「・・・・・・ふっ」
「くくくく・・・」
「ふふふ・・・」
「くく・・・はははははは」
「ふふっ・・ふふふふ・・・あははは」
「「あーはっはっは!」」


「「・・・・・・・」」
「「・・・・・・はぁ・・・」」

なにかをごまかすように見つめ合ったまま大笑いすると、二人同時に、軽いため息。

「意地っ張りだな・・・・」
苦笑しながら、カイはフォウの手をとりなおし、片手をその腰にまわしてフォウを優しく抱き寄せた。
「・・・そっちこそ・・・」
フォウは抱き寄せられるままに、カイに体を預け、その胸にそっと頬をよせる。
それまで狩り友だったお互いの体温は、なんだかやけに暖かくて
婚約をしてからも、甘いひと時なんて無縁だったお互いの心臓の音は、なんだかやけに優しくて。


今はまだ照れくさくて、喉の奥にはりついたまま、声にならない気持ちがある。
言いたい。言わせたい。言って欲しい。
でも、お互いにそれを言葉にするには、もう少し時間がいるみたい。


    好きだよ。


フォウの髪に頬をうずめてカイは。
カイの胸に頬を寄せてフォウは。

そっと、心の中で呟いた。
148ある鍛冶師の話sage :2004/07/13(火) 11:25 ID:qVBQrr.c
夏ですよーヽ(`Д´)ノ

93様>リンクありがとうございます。る、の連続には見直して気をつけてみます。
  回想シーンですかぁ・・・、わかりました頑張ってみます。いつも有難うございます。

|゜ω゜)様>僕も元ネタがわからず、100は楽しめませんでした。
    悔しいです。ええと漢字の変換ミスはただの誤字ですが、ごめんなさい。
    銀髪の暗殺者ティアに関しては、わざと平仮名にしてあります。
    あれは元の自分の体ではないために、うまく話せないという事にしてある
    のですが。それだったのかな;読みづらかったのは。

('A`)様>Σ(゚Д゚;)!! ジュノーのユミルの話が怖いぐらい面白くて、
    何気に去勢を張って張り合うつもり満々でした、ごめんなさい。
    貴方に感想をいただける日が来るとは、泣いてしまいそうです。
    また降臨されることを願って天津に参拝行ってきます。

 124様>狐は本当は倒すつもりだったのですが、なんだか書いてる最中僕が、
    その可愛らしさに負けてああいう展開に。
    テイムできるといいですよね、こう後ろから尻尾ふあふあとか耐え切れない
    んですがなにかこう(以下自粛
    ドレイク船長と結婚したいです。ダメでしょうか。
149ある鍛冶師の話10-1sage :2004/07/13(火) 11:31 ID:qVBQrr.c
|゜ω゜)様>すいません。銀髪の暗殺者はこれから投下するものに出てくる
     方でした_| ̄|○ 誤字などはないようにしてるつもりですが、あ
     りましたが指摘して下さると幸いであります、軍曹。

以下本編をどうぞ。

>>>>>>>>>>>>>>>

 雨の止まない日はない。

 そう言いながら英雄は赤い髪の少女にはにかんだ。

 てるてる坊主の話を聞いたのは随分と前だった。
 あの頃はまだ拾われて日も浅く、イリノイスとのやりとりにもまだ慣れてはおらず、
 湿気はこもるばかり、熱さだけがその身に降り注ぎ、やむことのない雨。
 プロンテラにおける雨季は、ゲッフェンほどではなかったものの、
 それでも長いと言えば長い。

 葉の裏にすら雫が小さくついているのを見つけては、
 リツカは溜め息をついたものだった。

 「雨、やむといいな」

 銀髪の聖職者が窓際の椅子にもたれながらそう言った。
 リツカは同じように窓硝子の向こうを見つめると、
 小さく変わらず溜め息をついた。

 「そう、だな。
  とー・・・・・、ジェイのところに行ってくる」

 窓から視線を離してそう言うと、銀色の目と視線が合う。
 ふ、と、心臓がどきりとした。

 黙っていれば精巧な人形のような風貌は、何の感情も浮かばなければ、
 ぞっとするものがある。今はその表情に小さな笑みが。

 「ね、リツカちゃん。もし世界が終わるなら何をする?」

 「世界が終わる?・・・・・神々の黄昏のお話でも読んだのか」

 すぐに本や何かに影響されるこの聖職者は、相変わらず子供のような仕草で笑みを
 浮かべる。小さく、ううん、と首を横に振ると銀色の眼差しはまた窓の外へ。

 「私は、もし世界が終わるなら、皆にさよならしに行きたい」

 「みんな、に?」

 「うん。沢山人に会って、沢山教えてもらったから、お礼しなくちゃいけないし、
  でももしその時間がないのなら、挨拶だけでもしないときっと罰当たりですよ」

 真剣に言いながら頷く聖職者にリツカが苦笑を浮かべる。
 あぁ、こんなにも。

 ぽ、っと火がランプに灯るように胸のうちが温かくなる。
 何気ないことなのだ、その言葉を聞くだけで。

 「だとしても一人で回るんじゃきっと大変だ、義姉さん。
  だから俺がついていくよ、飛び切りのオレンジのペコペコにのせてあげるから」

 「本当?」

 嬉しそうに笑みを浮かべる聖職者にリツカは笑みを深める。
 仕方ないなぁと言いながら、笑みが浮かばずにはいられない。

 「じゃぁ、行ってくる」

 「うん、またあとでね。リツカちゃん」

 椅子に座る聖職者の傍に自分が遠ざかるように背を向けたところで、
 感じなれた暗殺者の気配がする。

 本当にいつも傍にいるのだなとリツカが振り返ると、
 暗殺者はちらとだけ視線を向けると、小さく何か言ったようだった。

 「・・・・?」

 首をかしげるリツカの前で暗殺者は聖職者を抱き上げると、
 なんでもないと少し間をあけて首を振った。

 「・・・・・・蓮?」

 呼ばれた名前に答えずに、かわりに聖職者が手を大きく振る。
 それに笑みを浮かべながら振り返しながらも、
 リツカは聞こえなかった言葉に首をかしげた。


150ある鍛冶師の話10-2sage :2004/07/13(火) 11:32 ID:qVBQrr.c
 城内にある工房を借りていた鍛冶師のところに、定刻通りに来た赤い髪の少女は、
 カートにまとめあげられた荷物を見てから眉を寄せた。

 「・・・・・家出でもするのか?」

 問われて鍛冶師は首を横に振った。

 「少しお暇を。・・・・・なんや話が大きすぎてようわからん。
  俺は一般人やから、戦えるわけでもないし」

 「何の、話だ?」

 心底わからないというリツカの表情を見て、
 ジェイがふいに眉を寄せる。

 「聞いてないんですか」

 「・・・・・?」

 おかしい、と言わんばかりにジェイが口元を覆う。
 教会の事をこの赤い髪の少女は知っているはずだ。
 ではことの進展をしらないというのか。
 そもそも元々知らないのか。

 「いや、なんでも。
  あ、っと」

 「おう」

 「よければ一緒にゲッフェンへ来ませんか。
  シャイレンさんに許可は得てます。
  一人で帰るんは心元なくて、不安なんで」

 鍛冶師の申し出にリツカがきょとりと瞬く。

 「・・・・かまわないが。カプラ転送サービスなら経費で落ちるはずだ」

 「・・・・い」

 「い?」

 見る見るうちに鍛冶師の顔が赤らんでいく。

 「一緒にきてほしいなぁとか、思うわけなんやけど」

 「あ、あ、あぁ、そういうこと、な。あー、了解した」

 思わず照れ交じりになりながらリツカが鼻先を指でかく。
 お互い目線を交わして誤魔化すように笑いあうと、
 ふいに室内に音が鳴り響く。

 窓を震わせるように響く音は、雷だ。

 「・・・・・ッ」

 思わず驚いて鍛冶師が肩を震わせると、
 リツカと言えばびっくりしたように目を開いていて。
 慌てて鍛冶師がその視界の前で片手を軽く振れば、
 リツカが思わずその手を取る。

 「・・・・・・、すごい音だったな」

 「ええ、まだ止みそうにないですね」

 窓の外鍛冶師とリツカが視線を向ける。
 されどまだ、雨は止みそうにはなかった。
151ある鍛冶師の話10-3sage :2004/07/13(火) 11:33 ID:qVBQrr.c
 地面に影が落ちる。
 嫌な音がした。
 恐らく先ほど射抜かれた足に傷がついたのかもしれない。
 この体は自分だけのものではなかった。
 後ろから来る教会の追っ手は恐らくただ上の意見に従うだけの能無しどもだけだ。

 足を引きずるようにして走り続けるだけの気力もない。
 頼りにしている悪漢との連絡はつい数分前に途絶えている。

 この体の持ち主が自分の感情なのかどうか持て余している、
 悪漢への感情は、恐らくは彼のものだ。
 自分にあるのは使命と、ただそれだけのために犠牲をいとわないと言う事。
 けれど、この体の持ち主だけは守りぬく。

 それは、契約だ。

 やまない雨の先にあるのはゲッフェンの街。
 逃げ切ることも難しいわけでもないが、悪漢の事がきになる。

 「・・・・・・・死ねェェェ!」

 振り続ける雨の中身を低くかがめると、後ろから追いついた僧兵の拳がすぐ頭上を
 通り過ぎていく。

 嫌な音がした、また、だ。
 踏み外したわけでもなく動いたのは地面で。
 ゲッフェンを目の前にしながら聞こえたのは声。

 「ヘブンズドライブ!」

 響いた声の先にいるのは、赤い髪の魔導師。

 「・・・・・・れっど、びぃと」

 名を呼ばれるまでもなく赤き鼓動の名前の魔導師は、後ろで地面にへたばる僧兵達
 に追い討ちをかける。

 「ウォーターボールッ!」

 空中に渦を巻きながら水球が現れると、僧兵達にむかい一斉に飛んでいく。
 風をきりながら進む水球に僧兵達が顔を見合わせて、一目散に踵を返す。
 当たれば痛いのだから逃げたくなるのも仕方ない。

 そうして雨の中冷めたような青い目をもつ銀髪の暗殺者を見返しながら、
 レッドは手を差し伸べた。

 「ティア・コールド。・・・・・・・ティティシアのことは残念だった」

 「きに、して、ない」

 言葉をうまく伝える事ができないのは己の体ではないせいだ。
 もどかしいと言わんばかりに眉を寄せる鼻筋のよく通った小奇麗な顔立ちの暗殺者
 に、レッドが苦く笑う。

 「無理に話さなくてもいい。
  面倒だろ、しっかし、・・・・・・・お前、・・・・・いや」

 言葉を途中で閉ざしながら、手を取り立ち上がる暗殺者に肩を貸す。
 閉ざされた言葉を促すようにティアが視線を向けるが、答えず。

 「烏(からす)の奴が起きてきそうだ。
  鐘がなるかもしれねェ。
  そうしたらはじまる」

 「・・・・・・ゆめの、おわり、」

 「夢か、この世が夢と言うのなら。
  あの時を夢というのか。
  だが実際にあった、グラストヘイムに俺達はいた。
  あそこで、・・・・・・・・・」

 「・・・・かえり、たぃ」

 雨が降り注ぐ。
 一歩一歩とゆっくり歩いていく先に、ゲッフェンの門が見える。
 門番は詰め所の中から周囲を見つめているようで、
 あまり警戒心はないようだ。

 「・・・・・それは無理なんだ。
  帰れないさ、もう二度と、失われた場所なんて」

 「・・・・れ、っど」

 「だがもし取り戻せるとしたら、その可能性があれば、
  ・・・・・・だからティティシア・コールドはその可能性にすがった。
  ・・・・アルトも、な」

 「ある、と」

 「話ではリドル×リドルなんつーギルドを立ち上げているらしいが、
  何でも屋なんてただの情報収集のためのねぐらに過ぎねェだろ。
  ただ一つ問題なのが、そこにいる鍛冶師がいるんだが、
  それが銀の鍛冶師だってことだ。

  ・・・・・・・、ジェイ・ヒルデハイト」

 「・・・・・、」

 「・・・・・赤月華の鍛冶師だ。
  ゲッフェンの鍛冶師といえば、お前も知っての通り三人居る。
  金の鍛冶師ジュリア、銀の鍛冶師アーセン、銅の鍛冶師トラン。
  ・・・・・・金は全国行脚、銀はリドルへ、銅はゲッフェン鍛冶師ギルドの現長をやっ
  ている。その三人の兄の下にいるのがジェイ。

  兄弟まして蚊帳の外の連中を巻き込むのはご免だがな」

 そういいながらレッドは空を見上げる。

 「・・・・・やまない雨はない、明けない夜はない。
  スレイがよく言ってたっけか。

  皮肉だよな、世界を守ると言っていた男が今では世界を滅ぼす側として終わりの
  ない生を生きている、いや死んでいると言ったほうが正しいのか。
  深淵の騎士、だなんて生前のアイツが聞いたら喜んだだろうに、なぁ・・・・、

  どうして」

 「れっど、いうな」

 「どうして俺達はここに居るんだろう。
  俺は、俺はただあの場所を守りたかっただけなのに」

 嗚咽をかみ殺すようにして視線を落とした魔導師にティアがきゅうと眉を寄せる。
 目端に滲んだのが雨なのか、涙なのかを自覚する前に、
 ティアは思考を遮断した。


 再びその目が開いたときに見えたのは天井だ。
 自分がベットに寝かされていると気づいたとき、彼女の、彼の悪漢が心底ほっとし
 たような顔をしてこちらを見下げていた。

 「・・・・・・・ティアちゃん、久しぶり」

 泣き出しそうな悪漢は少し幼く見えた。
 ティアがぎこちなく笑うと、レッドの声が飛ぶ。

 「そこ、感動の再会はどうでもいいが、
  大方教会にプロンテラを追われたんだろう。
  ここゲッフェンは来るものは拒まないが選ぶぞ、
  俺のようなヴァンパイアでも受け入れてはくれるがな」

 口端をきゅうとつりあげるとのぞく二本の長い牙は、常はそうならないように心が
 けている。その身でありながら日差しも十字架によっても滅びる事のできないその
 体はすでにもう、吸血鬼その身ですらもない。

 本当に人外なのだ。

 「・・・・・せし、あは、」

 「あぁ、あの子なら宿でお留守番さ。
  怪我とか、させたくねェし」

 「そ、」

 暗殺者が目を閉ざすと、銀色の髪が急速に縮む。
 金色の光へと変わると、体つきは凹凸がなくなり男の体へと変わっていく。
 再び目をあけたときには、冷たい青い眼差しは変わらないまま、シュイ。グランドー
 ルがそこにいた。

 「・・・・っつぁ、やっぱりきっついなー・・・・」

 苦笑いと共に息をつく聖職者を見つめながら悪漢が溜め息をつく。

 「別に世界なんてどうだっていいだろうが、今が楽しけりゃ」

 目線がやめてくれもうとでも言うように歪められているのに、シュイは笑った。

 「アンタの居る世界だから守りたいんだ」

 まだ少し高くも聞こえる声に悪漢、ラルフは眉を寄せる。
 ほんの僅か頬が高揚したようだったが、隠すように顔をそむけた。

 「・・・・・なにより一目惚れだったんだ。
  ティア、綺麗だろう。すごく、まぁ僕もかなりいい線はいってるだろうけど」

 レッドが小さく笑う。

 「・・・・・たまたま逃げ込んだ先が教会。
  そこで会ったのがアコライトのお前。
  そうして二人は、か。ロマンチックというか何と言うか、
  その体じゃお互い顔を合わせる事ももうできねェだろうに」

 そのレッドの言葉にシュイはまぁねと肩をすくめてから、
 呼吸を整えるように息を深くゆっくり吸ってまたゆっくり吐いて、
 再び目を閉ざす。

 「とりあえず今は寝かせてもらうよ、体が持たない」

 「はは、承知した。難儀な体だな、しっかし」

 少しだけ苦笑したらしいシュイは僅かに口はしと眉をゆがめながら、
 とんと落とされたように寝息をたてはじめる。
 悪漢はほっとしたような溜め息のあと、レッドを見返した。

 「笑うか?ローグの俺が、聖職者に入れ込んでるのに」

 「別に。俺には関係ねェし、好きなんだろ、シュイ君が。
  ならそれでいいじゃねェか、男だろうが女だろうが年齢だろうが、種族だろうがど
  うにだってなるさ」

 「・・・・・・そうか、俺は俺が異常なんじゃねェかと思ってた。
  安心したぜ、ありがとうよ」

 「まぁ、」

 レッドは言葉を続けると、きょとりと瞬くラルフに続ける。

 「ちィっとばかし特殊かもしれねェけど」

 「・・・・・やっぱりか」

 肩と頭を大げさに落とす悪漢を見返しながら、レッドは大笑いをした。

152ある鍛冶師の話sage :2004/07/13(火) 11:41 ID:qVBQrr.c
144様>言わなくても伝わるは大間違いですよね。
   僕はそれで一昨日嫁と喧嘩してきました。素直に言うのは大変だと
   思うのです、すごく。なんだか共感しちゃいました。

145様>かっこEEEEEヽ(`Д´)ノ
   戦闘シーンって名前が出てなくて何かの固有名称例えば、
   田中とか佐藤とか名前じゃなくて、白い外套の男、とかの
   ほうが臨場感がありますよね・・・・。
   (*ノノ)かっこよかったです。

146-147様>自分のプロポーズをした時の(以下自粛
     あぁでもわかるなぁ、こういうの。
     結婚しようがなんだろうが翌日には普通の生活があるわけで、
     特別な事をしたはずなのに変化しない事が不安だったり。
     本当に自分はこの人でいいのか、相手はそれでいいのか。
     でも結局結婚は、公に二人が一緒に居る事を認めてもらうこと
     なのだと僕は解釈しています。
153名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/13(火) 16:53 ID:2QDAaJ6I
>>124さま
 あまーい作品は大好きです。というか、110-124-144と甘祭りキタ━━(゚∀゚)━━ッ!と思ったら同一人物ですかっ。!
貴方は私を萌え殺すおつもりですかそうですか。
倉庫利用ありがとうございます。たまにそういってくださる方がいるとやる気補充。題名…作中の印象的なフレーズを
頂いたり、ひねり出したりで結構苦労しているので、イメージが重なってたら嬉しいです。

>>144さま
 同じ人だったー! 拗ねちゃう女の子はかわいいです。でもいつまでも拗ねてると嫌な子になってしまいます…。
作中の女の子も、いつかは素直にならないとなー、とか。描写とか、ROの二次創作風じゃない感じなので自分の周囲と
何か重なりますよ(遠い目

>>145さま
 台詞抜きの戦闘活劇って、漫画とかでも劇薬ですよね。締まるけど使いどころと描写力が問われる感じ。
かっこいくってうらやましいです。

>>146-147さま
 今度こそ…甘祭りキタ━━(゚∀゚)━━ッ!! もしも124さまと同じ人だったらしらないw
言わせたり、言わされたりも楽しいデスネ。お互い照れップルだと特に…。自作中でも好きって言葉は結構出すのが
気力大変です。書いてる人が照れてどうするかと。

>>鍛冶師さま
 ん。すみません、色々と偉そうに。背景世界が作者の脳内でヒートアップしすぎて、描写が追いつかないと読者が
置いてきぼりになるよ、というのは、拙作を読んだ知人の談です。なんか、自分を見ているようでつい口が出ちゃいました。
今回のは…キャラ紹介のページを読んでない、スレだけの人には、いろいろと分からない気がしますよぅ。
154146-147sage :2004/07/13(火) 19:04 ID:ecWdDKns
レスくださった方、ありがとうございます。

>>152鍛冶師さま
>特別な事をしたはずなのに変化しない事が不安だったり。
そうなのですっ!(なぜか力いっぱい)
そういう感情の機微を書けるようになりたいものです。

>>153さま
私は124様ではありません。はるか昔(3スレくらいで)、ぽろっと短編を
投下したことがあるだけでして(汗
(保管庫では身に余る素敵なタイトルをありがとうございました)
照れップル・・・私も書いてて自分で照れたりしてます(笑
だけど好きなんですよねぇ・・・かわいく読めてたら幸せです。

かっこいい戦闘、壮大な世界観というのが、自分で書くのがどうにも苦手で
そのあたりを皆様の作品で楽しませていただきつつ、
微弱な受信塔により受信した電波を、また忘れた頃に投下させていただくかもしれません(笑
155144sage :2004/07/15(木) 05:33 ID:uOz3JjTA
>>145
笠騎士GJ。クレイモア→村正の持ち替えとかも雰囲気があって好きですよ。
ってかこういう具合にまずこちらを試してください、深淵様。カリツ召喚で回避下げてくるのはずるっこいです。
…ま、タイマンでも勝てねェんだけどな。_| ̄|○

>>146-147
花嫁[名詞] 幸福になり得るすばらしい前途の見込みを背後に持っている女性
良人[名詞] 食事がおわると、食器の後始末を仰せつかる人物          (A・ビアス『悪魔の辞典』より)
幸せそうなカップルはつつきたくなるねぇ。独り者の僻みじゃないっすよ。いやマジで。
特別な事をしたのに何も変わらないのは、特別なのが普通になりつつあるからさ。当たり前が幸せでないと誰が決めた。
とか嘯いてみる。負け犬の遠吠えじゃないっすよ。いやマジで。
ごちそうさまでした。

>>149-151
九尾狐はいいよねぇ。だって尻尾だよ? しかも九本だよ? まだ言ってるのかよ。
設定ページを確認しながら拝読しています。しかしながらそれよりも何よりも、雷で固まるリツカさん萌え。
じっくりと展開していくご様子ですので、こちらも気を長くもって続きをお待ちする次第。さあ、次はまだか?
言動矛盾ですか、そうですか。

>>153
つらつらと書いていたら、すっかり糖分過多にしてしまっている模様です。
6巻目に書いているのを除くと、保管していただいているのは3巻目の「あまやどり」だけで、やっぱり甘味処です。
気持ちが通じるのは判りやすい幸福の形なので、自分的に扱いやすい題材なのだからでしょう。
俺はそういう些細な大事件が好みのようです。
…理論武装してないで、格好いいっぽいのにも手を出さんと。
156名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/15(木) 05:34 ID:uOz3JjTA
 ――神様、僕は最低です。
 聖堂で祈りを捧げ、許しを乞う。自分の心根の醜さに泣き出しそうだった。
 神様の声は届かない。

 僕はいつも、魔術師の少女とパーティを組んでいる。
 彼女と知り合ったのは数週前。一時的なパーティメンバーを探していた時の事だった。
 僕のような法術を極めようとするアコライトは、総じて対魔能力が低い。殴り合いも苦手だし、動作も愚鈍だ。
 けれど癒しや祝福儀礼の数々は仲間を援護するには最適で、だから僕は大抵、その時限りの仲間を募って各地へ腕を磨きに行く。
 その時の集まった仲間の中に彼女が居て、そして妙に呼吸が合った。
 メンバーが解散した後どちらからともなく声をかけて、それからふたりで組むようになったのだ。
 上手くやってきたと思う。僕が魔物の注意を引いて、それを彼女が殲滅する。
 魔物の攻撃をかわし切る技量はないけれど、僕には治癒の聖句がある。いくら手傷を負ってもなんとか処理しきれるのだ。
 けれど。
「ひとり新しいメンバーを加えたいのですけれど、いかがでしょう?」
 開口一番、彼女は言った。新規に誘いたい相手は剣士だという。
 その場ではなんの反対意見も述べられなくて、一先ずは相性を見るという形で三人で組んだ。
 そして、結果は上々だった。
 剣士が――彼が居る事で僕はほぼ支援のみに集中でき、彼自身も剣の上手だから、彼女が魔法を放たねらばならない回数も減少した。
 それでも僕は不満だった。
 嫉妬、だ。
 彼に微笑んで欲しくない。彼と語らって欲しくない。彼の隣に居て欲しくない。
 醜い。ただ少し長く組んでいる相手と言うだけなのに、僕は彼女を独占したがっている。彼女を僕の物だと思っている。
 自分でも嫌になるくらい上手な笑顔の仮面を被り通して、今日は一旦ふたりと別れた。
 真っ直ぐ聖堂に来て祈りを捧げたのだけれど、一向に心は晴れない。
 明日からどうするべきか。ため息をつきながら扉を押し開ける。と、
「あの」
 僕は飛び上がった。声の主が彼女だったから。
 そして言葉をかけてきた張本人が、俯いた僕の視界の真ん中で膝を抱えて座っていたから。
「驚きましたか?」
 こくこくと頷く。まだ咄嗟に言葉が出ない。彼女はぱんぱん、と裾を払って立ち上がり、
「実は、出てくるのを待っていました」
「呼んでくれればよかったのに」
「いえ、熱心なお祈りのようでしたから」
「あ…うん」
 熱心といえば熱心だったけれど。神様、これは罰ですか。
「それで、どうしたの?」
「はい。今日の事でちょっと…」
 いつも淡々と話す彼女にはそぐわない歯切れの悪さ。吸って、吐いて。深呼吸を繰り返してから、
「怒って、いらっしゃいませんか?」
「え?」
 きょとんとした僕の顔を、じっと彼女が見つめてくる。
「私が勝手にひとを誘ったので、怒っているのだと思いました」
「…」
 怒った、というよりそれは嫉妬で、だから事の真相なんて話せない。
「私は、あなたが怪我をするのをあまり見たくありません。その、はらはらします。いつも、傷だらけで」
「それは――」
 言いかけた僕を遮って、彼女は続ける。
「だから、あの人をパーティに誘えば傷を負う事もなくなると。そう思ったんです。でも」
 しょんぼりと視線を路面に落とす。ぎゅうっと愛用の杖を握り締めて、ともすれば泣き出しそうな気配。
「私、あなたを怒らせてしまったでしょうか? 相談もなしに、勝手をして」
「――ううん、全然気にしてない。大丈夫だよ」
 僕がそう言うと、ほうっと安堵のため息をついた。正直を言えば大丈夫じゃなかった。今の台詞を聞くまでは。
 神様、僕はやっぱり最低です。女の子を不安にさせて、なのにそれが嬉しくて仕方なかったりします。
 うん、あの剣士に負ける気はしなくなってきた。
「良かった」
 あなたに嫌われたくはありませんから。
 僕の胸がどきりと高鳴る。付け足された小声の所為で。そっと触れられた手の所為で。
「では、これからもよろしくです」
 握った手を盛大に上下させて彼女は微笑み、僕の鼓動はなかなか落ち着けない。
157名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/15(木) 11:18 ID:bAKdY0YI
>>156
カップルになりきれてない状態でのドキドキ感がいいですね〜!(*´∀`)
この後両思いになれるのかしらん、剣士の彼は絡んでこないのかしらん、
いや、実は剣士は年上の恋人のために修行の最中だったりして
アコライトの背中を押す役割になったりして……と、妄想が広がります。
一話の中に、二人の関係がぎゅっと濃縮されていて素晴らしいです。
短編なのにアコくんの気持ちや二人の背景がわかりやすい……見習いたいです。
ごちそうさまでした。
158名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/15(木) 19:33 ID:VjteLGLc
>>156

この書き方は・・・
GJです、ごちそうさまでした。
159ある鍛冶師の話11-1sage :2004/07/16(金) 02:31 ID:dLmMCiLc
 夏が近いと小さく英雄が言った。
 英雄というのは先のベータと呼ばれる世界大戦の際に首都攻防戦で、
 活躍した騎士である。長い金髪に碧眼という絵から抜け出たようなこの英雄は、
 その大戦が終わった今でも街の英雄であり続けていた。

 彼が立ち上げた民間の冒険者による初のギルド赤月華(せきげつか)は、
 初めて国に認められたギルドであり、このことがきっかけとなって、
 剣士ギルドなどの職業ギルドとは別に個人で立ち上げる事のできる民間ギルド
 (または冒険者ギルド)というものが設立されるようになっていった。

 そして今赤月華の赤い髪の騎士と、ついこの間入ったばかりの鍛冶師は、
 ゲッフェンの地へと旅立っている。

 窓から見える首都の風景はいつもと変わらないらしい。
 だが、遠くに見える大聖堂の十字架を見つけると、英雄はふいに眉を寄せる。

 「・・・・蓮、」

 暗色紫色の彼の影役である暗殺者の名前を呼んだ。
 何気なく呼ばれた名前であるかのようだというのに、
 すぐして窓近くの廊下の壁が歪む。
 見慣れた暗殺装束に恭しく頭を垂れた姿が頭をあげると、
 英雄の名前を呼んだ。

 「何用か、シャイレン」

 名前を呼ばれた英雄は苦笑いとともに蓮を見返した。

 「心配でならんらしい。リツカが単独で赤の人間以外と出かけるのは、
 久しくないことだったからな」

 暫くの瞬きのあと、蓮は目線をふいとそらしてから呆れたように溜め息をつく。

 「あの鍛冶師の事ならば心配はいらないだろうと思う。
 行き先がゲッフェンだしな、少し時間を与えてやったほうがいいんじゃないか」

 「・・・・・それはお前の言い方が悪かったんだろう。
 何が世界を救ってくれ、だ。別に私は勇者でもなければ、英雄でも」

 ないぞという先を遮るように蓮の冷ややかな声が廊下に響き渡る。

 「英雄だろう。シャイレン・ナハトムジーク。ただの騎士ではない、お前は、
 赤月華(せきげつか)のシャイレンなんだ。いい加減認めろ、お前はもう何処にも逃げられ
 やしない。胸を張れ、シャイレン、アンタは俺の、生涯ただ一人の主人なんだ」

 その言い方にますますシャイレンは苦笑いを浮かべる。
 思えば、彼との付き合いは十年以上にもなる。

 赤月華というギルドの当初は、シャイレンの師であるルーファンス夫妻と、
 ゲッフェンの恐れられる吸血鬼でありながら冒険者に身を費やしたレッド・ビート、
 そして今隣に居るこの暗殺者が当初のメンバーであった。

 それから蓮の後輩であるルーチェや、様々な人間が出入りし、
 今の赤の形になった。

 蓮というのは妙な暗殺者で、彼の先輩にあたる蘭という暗殺者が失踪を遂げた際に、
 言われたある言葉からその道を民間ギルドへと進ませた男だ。

 今ですら英雄は英雄である事が些か苦痛でしかなかった。
 堅苦しい肩書きや形式に囚われた世界なんて別に彼の欲しいところではなかった。
 彼が守りたかったのは、ほんの数人の友人の笑顔やその生活であり、
 たまたまその結果がこうして街を救っただけで、

 そう話し始めると常にそれを訂正するのが蓮。

 この蓮の口癖がうつり、シャイレンが顔をあわせるたびに逃げるのがルーチェ。
 二人の暗殺者から説き伏せられる騎士なんていうものは、なかなか見られるものではない。
 天下無敵といわれる英雄にも、苦手なものはあるらしかった。

 あの時と変わらない暗色紫の瞳は、何処か真っ直ぐであり、
 だからこそあの銀髪の聖職者を彼に預けられるのだが。

 「・・・・・・・聞き飽きた」

 一言そう言ってのけると、シャイレンはくるりと背を向けて廊下を歩き出す。
 子供じみた言い様に蓮が眉を寄せる。
 それを振り返りもせずに英雄は笑いながら言うのだ。

 「世話焼係じゃあるまいし、あんまり口煩い暗殺者もどうかと思うんだがな、蓮」

 言われたほうはと言えば、少なくとも思い当たる節はあるわけで。
 ますます眉間に皺を寄せたまま、溜め息と共にその背中を見送るのだった。
160ある鍛冶師の話11-2sage :2004/07/16(金) 02:32 ID:dLmMCiLc
 小さい頃の銀髪の聖職者は、今よりも更に頼りない小さな手の平で、
 今の英雄の頭を撫で回しては小さく微笑んだものだった。
 いい事をすれば精一杯誉め、悪い事をすれば沢山叱る。
 そんな単純な事を子育てでしっかりとしていた彼女の母親は、あの日、ルティエで、幼い
 銀髪の聖職者を庇って死んだ。

 部屋の扉を軽く叩けば、すぐに嬉しそうな名前を呼ぶ声がする。

 イリノイス・ルーファンスは、英雄の恩人であるルーファンス夫妻の忘れ形見である。

 小さな、小さな、少女は何時の間にか英雄と肩を並べ、
 知らぬ間に背負わされた歯車は、まだこの少女には気づかれてはいない。

 「・・・・・、本を読んでいたのかな」

 シャイレンの問いかけにイリノイスは首を縦に振る。

 昨日の夕方に首都を出たジェイという鍛冶師と、彼のもう一人の大切な家族であるリツカ
 は、もう数日すればゲッフェンの方に着く頃であった。
 そのジェイがイリノイスにせがまれて置いていった、鍛冶師のための分厚い本は、この聖
 職者をすぐに夢中にさせてしまったらしい。

 ベットの上に散乱している本達は、すぐにこの後にでも蓮が片付ける事になるのだろうな
 とシャイレンは苦笑する。
 イリノイスは少しだけ首をかしげながらシャイレンを見上げると、
 唇端を思い切りつりあげて笑顔を浮かべた。

 本の続きが気になるのか、シャイレンを部屋にあげた後も尚、
 イリノイスは本のページをパラパラと捲っている。
 ベットの上に座り込む横へと片方膝を沈ませてみれば、
 銀色の眼差しとふいに視線が合う。

 母親に似ているなと頭端で思い、輪郭を辿るのは、自然な事に違いない。

 ルティエで守れなかった大切な者達は、尚も目の前から奪い去られようとしている。

 「・・・シャイレン?」

 不思議そうに傾げられる頬に手を添えて、触れるだけの接吻を交わす。
 ほんの僅かな間のあと、英雄の目線が反らされ慌てたようにベットから離れていく。

 「ほぇ」

 間の抜けたような声にシャイレンが口元を抑えながら笑いかけると、
 それだけでこの聖職者はあどけなく笑みを返してくれる。
 それが守るものの全てであり、この英雄が英雄でたる理由だった。

 「・・・・イリ、そう言えば以前ウェディングドレスを着たいと言っていたな」

 「うん。でもあれってたきしーど、を着る人が居ないと駄目なんだってね」

 「私がタキシードを着るから、ドレス・・・・・着てみないか」

 問いかけにイリノイスの表情がぱぁっと明るくなる。
 ベットから降りて英雄の元へと駆け寄ると、ほんとに?と何度も繰り返し問い掛ける。
 その様を諌めるように軽く抱き上げると、シャイレンは小さく本当だと返した。

 「・・・・楽しみ、だなぁ。
 そうしたら、本当に家族だね、シャイレン」

 「そうだ、な・・・」

 眉を下げながら苦笑いが浮かぶ。
 何処までもただただ変わらないままで、その時のまま。

 イリノイス・ルーファンスの時間は、あのルティエの日のままそう変わってはいない。
 動かぬ時計の針を推し進める影は、まだ当分、来る気配はなかった。


161ある鍛冶師の話11-3sage :2004/07/16(金) 02:33 ID:dLmMCiLc
 雨上がりの空の下を駆け抜けていく姿がある。
 手にしているのは洗濯物籠で、その先に飛んでいるのはシーツだ。
 朝から晴れているこのゲッフェンの空の下で、
 赤い髪の少女リツカはちょっとした捕り物劇をしている。

 ゲッフェンについた日は、朝だというのにむっとした熱気が体を包み、リツカは着いて
 早々から頭を垂れていた。
 出かける数日前から相方である自分を置いていくのかというコーリアの言葉に、リツカ
 は小さくジェイの傍に居てみたいんだと返した。その言葉を聞いて、コーリアは自分の
 淡い赤色の前髪をぐしゃりとやるなり、口端をつりあげて笑った。

 『春がきたのね』

 その言葉に意味がわからず、『もう夏だ』と返したリツカを見て大笑いをしたコーリア
 と、常の通り言い争いの末喧嘩別れをしながら手を振ったのがもう懐かしい。

 聖職者でありながら口の悪いコーリアは、居れば煩いが居なければどこか寂しいものが
 ある。

 結構付き合いが長いからなと苦笑しながら、石畳の床を軽く蹴ると、
 リツカの手はしっかりと空を飛ぶシーツを掴んでいた。



 ゲッフェンにあるという鍛冶師ジェイの工房は長い合い間の留守のせいか、
 少しだけ埃っぽくだがそれでも綺麗に片付けられた殺風景な部屋であった。
 二階にあがれば幾つかの客室とジェイの寝室があり、
 元はここに三人の兄と共に暮らしていたのだと言いながらジェイはリツカに部屋を案内
 した。

 「・・・・・・・、シーツ」

 家事を手伝うなんていうのは、リツカには久しい事である。

 随分と前に赤がまだ小さなギルドであった頃、家事のままならない英雄と同じ英雄の保
 護下にあった義姉のイリノイスは、まるで家事ができず。
 一緒に居る暗殺者と言えばそれはもうプロフェッショナル並の素晴らしい料理の腕の持
 ち主ではあったが、何分暗殺者に庖丁だのなんだとの言うのは近所の評判が悪すぎた。
 ただでさえエプロン姿にサンダルで出かけていくその背中に、
 お前ほんとに暗殺者かよーなどと近所のガキどもから馬鹿にされ、
 深夜に一人ベランダで黄昏ていた蓮の姿が、幼き日のリツカに何かの感情を植え付けた
 のは事実で。

 つまり、彼女がやらなければ他にできるものが居なかったと言う。

 「おおきに」

 無造作に差し出された少し皺だらけのシーツにジェイは小さくお礼を述べる。
 背の高いジェイを見上げながら、リツカがふ、っと息をつく。

 この鍛冶師は心臓に悪い。

 出会いからして非常識な上に、この鍛冶師はリツカを女の子として扱う。
 それがリツカには慣れない上になんだか胸にもやもやとしたものを、浮かばせる。

 「どういたしまして」

 つんけんした態度でリツカが言うと、ジェイは小さくクスクスと笑って、
 赤い頭をゆるりとした手つきで撫で回す。
 リツカが唇を噛みながら目元を赤らめると、ジェイは手を引っ込めて、

 「もうええですよ。そんなん、しなくても」

 「大体、お前、こんな、夫婦でもあるまいしなんなんだ」

 「・・・・・・、嫌ですか」

 問われればリツカが口ごもる。
 最近の鍛冶師は何処か余裕がある。

 ゲッフェンについてきて欲しいと言った時に、無理だと言われれば鍛冶師は今後この少
 女に付きまとうのは止めようと思っていたくらいだったのだが。
 赤い瞳は自分へと向けられ、今ここゲッフェンにある。

 好意はもたれている。
 それだけのことで鍛冶師は少しだけ強くこの少女に強く出れる。

 ルードさん、俺は頑張ってます。
 などと彼の親友の名前を心の中で呼びかけては、鍛冶師は手を小さく握り締める。

 そんな平和なやりとりをしているゲッフェンでは、
 最近通り魔が出没するらしい。

 その通り魔の正体を突き止めるべく赤に来ていた依頼を、
 都合よくシャイレンはジェイとリツカに向けてくれた。
 時間が必要だということは英雄にもわかっているようで。

 「リツカさん」

 「ん、なんだ」

 「お昼はどうしましょうか」

 「食欲はないが食べないとならんだろ。
 素麺にでもするか」

 「了解しました」

 世界を救えと言われながらも、釈然としないまま。
 ゲッフェンの一日は今日も過ぎていく。

 



 ヒタ、という足音がフェイヨンの通りに響き渡る。
 わかってはいる、あの暗殺者だ。

 桜花(オウカ)と名付けられた花の名前の暗殺者は、
 死に掛けていたのを助けて以来、自分を好きだと言っては諦める気配がない。

 「・・・・、桜花、扉ならあいているよ。
 なーに、私は別に気にやしていないからね」

 男装の麗人か、と一瞬迷うようなひどく中性的な声と姿が部屋の中にある。
 フェイヨンに住む聖職者らしいこの人物は、名前をスピカと名乗って居た。

 扉の隙間から少年から青年へとなったばかりのような風貌の暗殺者は、
 室内のスピカの姿を確認するなり居ても立っても居られないらしい、
 両腕を伸ばしてしがみ付くように抱きついてくる。

 「甘えたさんだなー、相変わらず。
 大丈夫、私はまだここに当分居るから」

 「・・・・・・・、アンタまで死んだら、オレは多分我慢できない」

 「確かな繋がりが欲しいのなら、もう身寄りも友人も生死もわからないこの身だ。
 お前にくれてやるぐらいは、なんて事はないのだけれど。
 今は、まだ、駄目だ」

 スピカが制するように微笑する。
 裏表のなさそうな人好きのする笑みは、この得体の知れない聖職者らしいスピカをここ
 弓手の街フェイヨンが彼あるいは彼女を受け入れる最もたる理由であろう。

 「どうして教えてくれないんだ。アンタの抱えてる物、オレはアンタに命を救われた。
 今だからわかる、オレの師匠が言っていた、組織に関わらず守りたい人って言うのが、
 生涯唯一の人って言うのが、オレにはわかる。

 せんせェ、オレはもう十分大人だ。けれどアンタはあの時のまま変わらない、
 アンタは何を隠してる、何に怯えている、せんせェ!」

 「そうだな、その舌っ足らずにせんせェと呼ぶのが直ったら、
 教えてあげようか」

 桜花の顔がぱっと赤面すると、スピカは声もなく笑った。

 「好きだよ、桜花。
 全てが終わったら、何処へとなりとでも行こう。
 約束、だ」

 そっと伸ばされる指は男のものにしては繊細そうで、
 女のものしては少し骨ばっている。
 伸ばされた小指に桜花が小指を恐る恐る絡ますと、スピカは小さく上下に振って、

 「指切りげんまん、嘘ついたらハリセンボン飲ーます。
 指切った」

 そう言ってまだ若い暗殺者の額に唇を押し付ける。
 離れたあとに桜花が子供扱いをするなと怒るのを予測しながら、
 スピカは小さく目を閉ざした。
162ある鍛冶師の話sage :2004/07/16(金) 02:43 ID:dLmMCiLc
153様>合い間に人物の説明のようなものだけでも、付け足してみたのですが。
   これで少しは違うでしょうか(´・ω・)?
   ご指摘有り難く受け取らせて頂いております。
   もし他にまだやりようがあれば、指摘下されば幸いです。
   いつもありがとうございます。

154様>心の機敏、ですか。
   こと細かな感情の揺れ動きだとか、難しいですよね。
   本当に、まだまだ勉強したりなくて泣けそうです。

155様>九尾ー・・・・、油揚げって実装されてましたっけ。
   狐がくっついて回ったら、天津とか観光行ってみたいですな。
   というわけで投げ込んでみました。
   設定片手に読まないと読めないような状況、打破できればよいのですがっ
   元々人数が多いと思われるので、理解しやすい話になるよう、
   頑張っていきたいです。
163名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/16(金) 02:45 ID:dLmMCiLc
156様>アコ君さらっていいですか。
164あるアサシンの物語sage :2004/07/17(土) 22:22 ID:xP3AcTYI
僕は全く覚えていないが、モロクで初めて雪が降った日。その時僕は生まれたそうだ。

僕の家系は代々アサシンの家系として生計を立てており、必然的に僕もアサシンを目指すこととなっていた。僕もそれはわかって
いたし、おかしいとも思っていなかった。

小さい頃から親に、暗殺術や護身術を習ったが、親が親だけに、人と触れ合うなどということは、全くと言っていいほどしたこと
がなかった。別にアサシンになることが嫌ではなかったが、僕は、家系では珍しく暗殺者向きな性格ではないらしかった。僕は、
人と触れ合い、人を助け、いろんな人と冒険がしたかった。

しばらくして、僕は遂にアサシンに転職することができた。試験の結果も優秀で、これなら問題ないだろうとギルド長の太鼓判
までもらうことができた。それは、僕が一人前になったという証でもあった。

ある日のこと、僕は遂に世界を見て回る旅へ出ることを決心した。
「母さん。僕、世界を見て回りたい」
「え......?キリッシュったらなにを急に...どうしたの?」
「僕は、見てみたいんだ!モロクなんて狭い世界だけで終わるなんて嫌だ!家にあった世界地図に書いてあるいろんなところへ
僕も行ってみたいんだ!」
「ちょっと待ちなさい。だって、貴方はまだ16よ?子供じゃない。」
「僕はアサシンの試験もトップクラスで通過した!僕は一人前じゃないか!」
「でも...世界は広いわ...まだ、今の貴方じゃとても適わない敵だって多いのよ?」
「それでも...でも見てみたいんだ。力が及ばないなら、誰かと協力すればいい。そうしてもっともっと強くなればいいじゃない
か!」
「.....どうしても...行きたいのね。じゃあもう私は止めない。去るものは拒まず。我がアサシン家の鉄則よ。母さんもね、
お父さんと知り合ったときも、モロクじゃなかったのよ。あの時私は、18だったわ。調子にのって、グラストヘイムに乗り込んで
そう、あの時、あと少しお父さんが見つけるのが遅かったら、私はレイドリックに殺されていたわね。」........

調子に乗っていた。ミレーネはボロボロになった体を必死に動かしながら逃げ回っていた。後ろからはレイドリックが鎧をきし
ませて迫っていた。

「くっ...!ここまでか...」

内心で調子に乗りすぎていた自分を責めながら、走っていた。しかし、傷ついた体と逃げることで精一杯だったミレーネはいつも
ならば反射的に避けられる城壁の破片に足をとられて、転んでしまった。急いで立ち上がったが、ふと後ろをみると、
レイドリックが、静かに、しかし恐ろしいほどの殺気を漲らせてたたずんでいた。そして、レイドリックが剣を振り上げたその時
ガキンッ!という音と共にレイドリックが崩れ落ちた。何が起こったのか状況が掴めないまま、キョトンとしているミレーネに、
同じアサシンの男が言った。
「自分の力量もわからない奴が一人前面してこんなところに来ているんじゃねぇ!床が汚れるだけだ」
「あ...ご、ごめんなさい!そしてありがとうございます!危ないところを...」
言いかけたその時男が遮り、
「いいから!早く立ちな。出口までは送って行ってやる。」
そういうと男は、ミレーネの手を引っ張り、グラストヘイムの入り口までつれていった。途中、何度かモンスターに襲われたのだが
男は次々となぎ払い、どんどん進んでいく。年はミレーネと同じくらいだが、その力量に、ひたすたに感心した。
「ふん。雑魚が。」
「...おい、お前。名前はなんていうんだ。」
「は、はい!私ですか?...私は、ミレーネ。ミレーネ=セイルーンって言います。」
「ミレーネか。おいミレーネ。こんなところに来たいんだったら、もっと修練を積んでくるんだな。」
どこかで聞いた台詞をぶっきらぼうに言い、足早に進んでいった。
出口までつれてこられて、ここで良いだろうという具合に、ミレーネを軽く押して、男が
「今日は冷めちまった。もう帰ろう。」
またまたどこかで聞いたような台詞を吐き、男が立ち去ろうとしたとき、ミレーネは思い出したように
「あ...あの!お名前はなんていうのでしょうか!」
「俺か?俺は、マキシムだ。マキシム=ラインハルト。」
「マキシムさん...本当にありがとうございました!」
「ふん!いいからいきな!もう俺は助けないからな。」
この後も、ミレーネは、マキシムを探すために、グラストヘイムへ乗り込み、何度も助けてもらい、同時に自分も成長していった

「で、だんだん強くなった私を認めてくれて、お父さんと結婚することになったのよ。だからね、大きく見ると、貴方と同じ
なのかもしれない。私も外の世界を見てみたかった。だから、貴方の考えを否定するつもりはないわ。がんばってきなさい!」
「ありがとう...僕がんばるよ!強くなって、きっと帰ってくるよ!」
「えぇ、えぇ。本当にたくましくなった。私のかわいい子。お父さんにも、ちゃんと言っていくのよ。」
「わかってる。」

「父さん。俺、行くよ。」
父さんは、全てを察しているようだった。何も言わず、ただ眼を瞑り、うなずいた。
「ありがとう。いってきます!」
そして、家を出ようとしたとき
「ちょとまて。お前、武器をもっていないだろう。これをもっていくがいい」
そういって、父さんが、愛用のボロボロのマントにくるんで投げてよこした物。それは、それもまた父さんが愛用していた、トリ
プルクリティカルジュルだった。
「父さん...これは...」
「もっていけ。助けになってくれるはずだ。」
「.....ありがとう!なんだか、父さんが近くで応援してくれてるみたいで、心強いよ!」
そういうと父さんの顔はなんだか少しだけ赤くなったような気がした。
「ふん!さぁ!行け!」
「はい!」
「......キリッシュ。これだけは忘れるな。...」
「自分の力量を知れ。でしょ?わかってる!」
「ふんっ....」
俯いた父さんの口元に少しだけ笑顔が見えた気がした。
165あるアサシンの物語sage :2004/07/17(土) 22:30 ID:xP3AcTYI
初めて書き込んでみました。
序章を勢いで書き上げて見ましたが・・・どうだろ(・ω・)
ミレーネ=ラインハルト:母親。超一流の暗殺者。しかし、性格は明るく、言葉もやわらかい。
鍛え上げられた肉体からは想像できないほど温厚な性格だ。
マキシム=ラインハルト:父親。静かで、冷静沈着。母親を助けるだけあって、相当の腕の持ち主。
静かな中に強い意志をもっており、主人公の目標。
キリッシュ=ラインハルト:主人公。暗殺者なのに、集まることが好きで、仲間を決して見捨てない。
他人と接触することを強く望んでおり、アサシンに転職したことで、世界を旅する夢がより強くなった。
なんて設定にしてみたのですが・・・ダメだしplz
今後の課題とかにしたいです。
166名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/18(日) 01:04 ID:i0tLQWao
>164さん
うん、色々と微笑ましい文章ですね。
ただ、一行目の「生まれた時」について・・・普通、生まれた日のことなんて
覚えてないと思い・・・ますよ?
あと、台詞進行が顕著過ぎるかもしれませんね。
台詞なしで書き進めてみる練習もありじゃないかなぁ・・・なんて。

ダメ出し苦手です。ごめんなさい。orz


>ある鍛冶師の話さん
や、面白すぎるって程面白い話は書けてないですよー。
もし「鍛治師の話」と時期が被ってたら、私のは消えてたかもしれませんね。
皆様の記憶の彼方!ですしね。過去の人です。私。

コッソリ何か書こうかな。(ゴソゴソ
167あるアサシンの物語sage :2004/07/18(日) 07:03 ID:NKwtVwvg
>>166
ありがとうございます!
台詞なしで、ですか〜がんばってみまふ(`・ω・´)
ある鍛冶師の話さんとか、このスレには神が多いので勉強になりますw
168165sage :2004/07/18(日) 09:28 ID:NKwtVwvg
処女作も見ていただくおもいましたのでw
貼り付けまふ。
リアルを元にして漏れの煩悩全快で書き上げたもんでふ
169待っていてくれる人sage :2004/07/18(日) 09:29 ID:NKwtVwvg
遂に来たのだ。俺が消える日。

最後に、貴方と話がしたかった。貴方がいつもいたプロンテラ大通りのはずれ。

行ってみたけどやっぱりいなかった。最近連絡がとれない。彼氏とでもどこかへいっちゃったのかな。

あの人は結婚している。その時から諦めていた恋。

でも、貴方があんなことを言うから...
俺は諦められなくなっちゃった。今、俺の頭には商人からアルケミストになった貴方しか見えない。

ノービスから見つめていた。成長していく貴方は、だけれど性格は変わらなかった。

消える当日。俺は待っていた。ずっと待っていた。ただ座り、静かに眼をつむり待っていた。
暗殺者の俺がこんなことをしていたものだから、住人達のちょっとした噂になっていた。
雨が降り出した。日も陰って来た。でも俺は待ち続けた。一瞬でもいい。貴方のいつもの笑顔が見たかった。

今まで過ごした日々。他愛もないことが思い起こされた。貴方と出会った時。貴方が一度消えてしまったとき。
そして、生まれ変わって戻ってきたとき。生まれ変わっても、性格はずっと同じままだった。
何事もストレートで、偽りや曇りのない笑顔。一度消えた時、それをどんなに待っていたか。

そんなことを思い出しているうちに、夜も更けてきてしまった。
もう、消える時間だ。立ち上がり、立ち去ろうとした時、気配の全くなかった俺の近くに、一つの気配が生まれた。

気配の方向を向くと、彼女が驚いたように立っていた。

「どうしたの?いつもはもう帰ってるはずでしょ?」

俺は何も言えなかった。
プロンテラの静かな静寂が俺たちを包み込んでいた。
時間が止まっているように感じた。
静寂を打ち破ったのは、貴方だった。

「どうして何も言わないの?いつもなら...」

そう言いかける貴方の唇と俺はふさいだ。

「んんっ.....!」

「俺は、今日で消える。最後に、こんな事をして済まなかった。旦那さんと幸せにな...」

貴方は何が起こったのかわかっていないようだった。だが、状況の把握に、そう時間は掛からなかった。

「え.....?どうして?ねぇ、どうしてもっと早く言ってくれなかったのよ!」

「すまない。なかなか言い出すことができなかった。最後まで、君の笑顔が見ていたかったから。」

「そんな...言ってくれれば....私だって」

「言ったらどうしてくれたというんだ!?君には旦那さんもいるんだ!旦那を大切にしてやれよ!俺なんか...」

「旦那とは、別れたよ....半月くらい前かな...」

「え...そんな...今まで一言も...」

「言えるわけないじゃない!アナタの為に別れたなんて...

いきなりお別れだなんて...ひどいよ!」

何も分かっていなかった。分かったつもりでいたのだ。今までの関係で、貴方も幸せだと思っていた。いつも笑顔を絶やさなかった
貴方の、心の奥を読み取ってあげることができなかった。ずっと見ていたのに。

「ごめん...本当にごめん。

今だから言える。ずっと隠してきた気持ち。俺も、君のことが、ずっと好きだった。ずっと見ていた。

君の側にいられることが、幸せだった。君の笑顔を見ているだけで、最高だった。

あり....が..とう...」

最後の最後に気持ちを伝え、貴方の気持ちを知り、もっとはやく言えなかった自分に腹がたったのと、気持ちを知ることができた
うれしさがあわさって、何年も忘れていたモノが眼から流れ落ちた。

「私も好きだったんだよ...一度消えた時も、アナタの周りには沢山女の人がいて、側にいるのがつらくなったから消えたんだよ。

でも忘れられなくて。戻ってきたけれど、やっぱり辛くて...結婚したけれど、やっぱりうまくいかなかった...」

俺は、何もいわず、貴方を抱き寄せた。力いっぱい抱きしめた。貴方から、気持ちのいい香りがして、それを忘れないように、貴方
の感触を忘れないように、きつく抱きしめた。

「戻って来る....ルナが待っていてくれるなら、俺は...絶対に戻って来る。」

「待ってるよ。ずっとずっと、この場所で、私たちが出会ったこの場所で、いつまでも、待ってるから....」

「最後は...最後は笑ってくれよな?君の笑顔が見たいんだ。」

そういうと、貴方はそっと笑顔を見せてくれた。涙交じりの、最高の笑顔だった。月明かりしかない、暗がりの通り。その中でも
貴方の笑顔だけは、輝いて見えた。

俺は静かに、貴方に口付けをした。
貴方が舌を入れてきた。俺も、それを受け入れた。お互いの感覚を覚えておくために。

そして、消えた。
だがもどってくる。プロンテラ大通りのはずれで、いつでも待っていてくれる人がいるのだから。
170上水道リレー設定/短編sage :2004/07/18(日) 17:03 ID:p1smm7P2
 プロンテラ西門、暗く泥の色をした屋根上に長い尾を引く影が一つ。年若いアサシンが夜陰に紛れて
眼下の戦乱を眺める。
 風に乱される髪を手持ち無沙汰に整えながら、あぁまた死んだと倒れる騎士を確認してはおざなりに
十字を切る手つきが奇妙なほど慣れていた。

「すみません。ニノさん」

 言葉と裏腹に悪びれた様子もなく呟やくと、赤い舌が乾いた唇を湿らせる。

「こういう乱戦、苦手なんです」

 口では言うものの、その体へ巻かれたベルトには行動に支障の出ない重量を考慮して幾本もの特化
短剣が挿され、腰には珍しいことに長剣が下げられている。目下の戦乱を駆けるにも十分な装備だったが、
しかし今のアサシンにとってそれは使命ではない。
 さてどうしようか、と一人ごちて振り返る先には今や無人と化したプロンテラ西門通り。常には南
正門通りの混雑を避けたいくつかの露天が並び、カプラ前で談笑する冒険者達や近くの広場で清算を
行うPTの姿が見られるここも、すでに戦場の狂乱に身を縮める如く静まり返っている。

「足枷を確かめて来い、て言われてもねぇ」

 記憶の渋面を反芻して薄く笑うと、困ったように掌で口元を覆った。
 隠された舌に乗せて諳んじる古歌には「聖堂の狼」の一節が混じり、聞く者が聞けばその真意は
知れただろう。古来その喩える所は――炎である。
 戦乱の草原から吹きつける生臭い風が、閉じられた扉の上を吹き抜けてプロンテラの深い夜を渡って
行く。人気のない通りを見下ろしながらも、アサシンは己の職務を思う。
 モロクのギルド長以下を納得させ、あわよくば手誰のアサシンたちをその”本来の”意味で動かせる
確実な根拠をニノは必要としている。教会の動向を探れというのは、参戦を含めて一連の行動を正当化
するための証拠と同時に、取引材料となる手土産を持って帰れということである。
 元来が権力志向の薄いタイプであることが幸いして今の地位にいるが、ニノはその性向もあって
むしろ上から煙たがられる存在だ。実際、今回の参戦とてギルド上層部に根強い静観論者たちの裏を
かく形で行われたものであった。
 今戦闘に参加しているニノ直属の精鋭を除いてアルベルタへ向かった部隊は、あくまでプロンテラ
にある各ギルド上層部及び王国支配階級への「貸し」を名目として準備、編成されており、状況は
いまだ流動的だ。

「とは言っても……どうしようか」

 気構えというには頼りない動作で軽く首を回し、とりあえず市街へ向かって跳ぼうとしたその背後、
複数の気配が殺気を放った。
 独特のホバリング音。乱戦となったプロンテラ西草原の上空を抜けてきたゴブリンライダー達だ。
斥候か特攻か、幸い数は多くない。

「まずはこっちが先決、と」

 薄っぺらい笑顔の中で口角だけを獰猛に跳ね上げ、腰の長剣を抜く。単子葉類の葉にも似た美しい
反りを持つその刃は、鞘走ると同時に冷光を周囲に放った。
 だがアサシンはそれを構えない。
 ぐるりと柄を回して逆手に構えるや両の瞼を落とすと、暗闇の世界でこの世のものならざる視界を開く。
 そのまま長く息を吐けば、魔物の臭気も遠い剣戟もアサシンの中からは消える。あるのはただ己自身と
――天に浮かぶ巨大な蕾だけだ。
 鈍色の空に映えて青白い燐光を纏う花は、血と炎に濁る大気を厭うかのように震えながらその全身を
綻ばせ、蠕動に大気中の水精を騒がせる。花弁は六枚。それぞれの先端は僅かな湾曲を伴って反り、
周囲を睥睨する眼の如き光を宿す突端は手にした刃と同じ鋭さで雲を裂いた。
 ミスティクフローズンから削りだしたかの如き凍てる薔薇が、今や頭上に開いて己を誇る様が
アサシンの閉ざされた瞳にまざまざと映る。
 しかしそれを美しいと思う間もなく、芳香は氷の粒となって術者の鼻奥に忍び込み、己を呼び起こ
した不埒者を罰せんとその神経を侵食し始める。痺れていく感覚はむしろ心地良ささえ伴いながらア
サシンの意識を浚おうと誘惑した。

「――っ」

 強く食いしばった奥歯を解き、もう一度長息を吐いて脳に張り付く氷の鱗を振り払い、叫ぶ。

「氷弾《コールドボルト》!」
171上水道リレー設定/短編sage :2004/07/18(日) 17:04 ID:p1smm7P2
 叫びに空気が震え、蕊の氷柱が果実の如く熟れて落ちた。
 瞼を上げた瞬間、すでに気配から敵位置を把握していたアサシンの脳裏に描かれたと仔細違わぬ
光景が目の前に広がる。氷塊が、その鋭い尖端で先行した一機を貫いている。
 そのまま門にほど近い屋根へ落ちていくゴブリンライダー。さすがに本職の魔術師とは比べるべくも
ないが、蒸気機関への直撃は相手の飛行能力を奪うのに十分な威力を持っている。
 続け様に氷弾を連唱し、市街地へ入っていた三機を纏め落としたあたりで門外から風切音が飛来した。
過たず後続のゴブリンライダー達を機体ごと胴体まで貫く強弓である。高速で連射された矢の射出点に
顔を向けると、弓を構えたハンターと目が合った。弦を離したその右手が親指を上げる。
 答えるように軽く手を振ると、アサシンは息を止め切れなかったライダーの墜落点へと急ぐ。足元が
煩く音を立てるが構ってはいられない。無音の歩行術も今は無意味だ。
 近接戦では不利と長剣を腰に戻してベルトの止め具を外しにかかるが、持って行かれかけた意識を
引きずり戻した後遺症か、短剣を引き抜こうとした指がもつれる。墜落しながらもまだ戦意を失わず、
態勢を立て直したゴブリンが剣を構える気配がアサシンの耳に届いた。
 舌打ち一つ。

 隠身術《クローキング》発動。

 姿がかき消えた場所で爆発が巻き起こる須臾の間、二階の壁伝いに敵背後へ回りこんだその右手には
ようやく対中型のグラディウスが握られている。

「とりあえず一匹」

 喉首を掻っ切られた一体の後ろ、現れたアサシン目掛けて殺到する残り二体との距離を素早く目算し、
ついで左に対人間系の魔法符が付与されたマインゴーシュを抜き放った。鞘から開放された短剣は
喜びに震えて自らを巡る四重の魔法円を展開し、すぐさま光の粒子へと還す。そのまま燐光虫のような
魔力の輝きが右手へ移ると、二種の力を付与されたグラディウスが刀身を微振させた。
 左右に展開したコボルトうち、墜落の衝撃か動きの鈍い右に狙いを定めると一足に間合いを詰める。
 煤に汚れたゴーグルの奥でその目が見開かれると同時、胸を貫かれたコボルトはマスクの中に血を
吐き出して絶命した。
 アサシンの剣に迷いはない。
 最後の一匹が打ち出したマグナムブレイクをかわし、低めた体勢から一気に跳ぶ。先ずは足、倒れこむ
ことさえ許さず後ろに回りこみ、肋骨の隙間から心臓に届く一撃を見舞う。
 ほんの数十秒の攻防の後、残った影は一つきりだ。
 足元に転がる死体を蹴り落として死んだことを確認すると、乾いた布で血を拭った。
 視線を上げれば遠く聖堂の楼が二つ、夜空を背にどこか禍々しいほど威圧的にそびえている。神居ます
天に突き立てられた杭の如き情景である。
 不意に神威に打たれる如く、アサシンが右手を短剣の形に結んだ。額、唇、胸の前で三度十字を切り、
指先に軽く口付けてから胸前に両手を組む。
 言葉は薄い唇から溢れた。

「聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、主よ
 御元へ向かう者らに永久の安息を与え給え」

 朗ずる声へ被るは戦の鯨波。
 援軍か、あるいはすでに背水となった部隊が死地を定めたか。

「地上にて主に剣を捧げたる身は、天上にて聖歌を捧げまつる
 進む道はか細く雲居の彼方にあれど、主の慈悲は杖となりて我らを導く」

 槍の音、剣の音、魔法の詠唱による精霊のざわめき。突進するペコペコの力強い足音。
 悲鳴、苦鳴、うずまく怒号と怨嗟。嵐の床に狼の小麦は実り、死者の運び手は羽ばたきに戦士を鼓舞す。

「絶えざる光もてその道行きを照らし給え
 我が祈りを聴き届け給え
 全て勇ましき魂は御元へと還えらん」

 詩句の結びにアサシンの姿はもう一度大気へ紛れ、後には遠く鉄の雨音だけが残された。
172170-171sage :2004/07/18(日) 17:08 ID:p1smm7P2
始めまして、弄筆ながら上水道リレー設定での短編を一つ置かせて頂きます。
173とある溜まり場の風景sage :2004/07/19(月) 00:58 ID:lT1swato
 一通り狩りを終えて溜まり場に戻ってくると、そこには先客が座っていた。
 普段ずっとソロで狩っている、ギルドメンバーのハンターさん。冒険者としてのキャリアはかなり長く、レベルもギルド内では最も高い。
 俺に気付くと、彼女はこちらに視線を向けてきた。あまり話を出来そうもない雰囲気なので、会釈をするにとどめると、彼女も言葉無くそれに応えた。
 ひとまず狩りで消耗した体力や精神力を回復させるため、俺は座って『息吹』を試みた。ちら、と彼女の方を見ると、ここに来たときと同じように視線を宙にさまよわせている。その目は自動人形の呪いもかくやと思える程に虚ろだ。もちろん、他のギルドメンバーとの会話などから、彼女がそんな人では無い事はわかっているけど。
 まあ、疲れているのかも知れないし、無理に会話をしても煩わしい思いをさせてしまいかねない。そう思って、俺は口を開くこともなく調息に努めた。


 私は、ハンターの中でもいわゆる『罠師』とよばれていたタイプ。確殺の為の矢の本数、罠の種類、使用数など、狩りの最中は考える事が多すぎて、溜まり場に戻ってくるとこうしてボーっとしている事が多い。魔法職も同じようなものかも知れないけど、最近は魔物も罠にかかりにくくなっているし、こちらはいちいちお金がかかるしね。
 ボーっとしているつもりでも、今も頭の中で罠の効果的な設置とかをシミュレートしている自分がいる。考え疲れているのに休憩中もそんな調子だなんて、私もたいがいハントホリックだ。
 そんな理由があって、ギルメンのモンク君が戻ってきたときにも、失礼だとは思ったけど目を向けるだけだった。モンク君も察してくれたのか、会釈だけにしてくれて、そのまま回復に努めているみたいだった。
 黙っていても頭を休められそうもないから、とりあえずモンク君に話しかける事にした。さっきは失礼な態度を取っちゃったから、その事も謝らないとね。

「ありがと」
「……え、はい?」
「なんだか、気を遣わせちゃったみたいだから。それと、ごめんね。ろくに挨拶もしないで」
「ああ、いえ、どこか疲れているように見えましたから」

 そう言って、優しい顔をみせてくれるモンク君。

「やっぱり、そう見えたんだ」
「ええ。……なにか事情があるのなら、話してみませんか?」
「君に?」
「敵を殴るのが役目とはいえ、一応聖職者の端くれですからね。話を聞くくらいの事はできますよ」
「別に深刻な事情じゃないんだけどね。……でも、聞いてもらおうかな」


 少し疲れた声で淡々と語られる理由は、素早さにまかせて動き力にまかせて殴る、拳打のコンビネーションを主とする俺とはおよそ対極の戦闘スタイルによるものだった。
 さて、解決する方法となるとどうしたものか。『俺みたいになる』――つまりは、何も深く考えない――と、そういう悩みとは無縁だけど、それはおおよそ彼女のスタイルとはかけ離れている。そうすると次善の策としては、『狩りのとき以外に、深く物事を考えない時間を作る』という事になる。それはさっき彼女自身が失敗していたみたいだけど、やり方にもよるだろう。

「じゃ、こんなのはどうです?」
「……これは?」

 俺が倉庫から取ってきたものを受け取り、彼女は首をかしげた。まあ、いきなり猫耳なんかを渡されても訳が分からないだろうけど。

「要は心の持ち様ですよ。人のままだと考え事をしてしまうんなら、人じゃないものになりきってしまえばどうです?」


 いきなり猫耳をよこして何事かと思っていたら、モンク君は突拍子も無い妙なアイディアを出してきた。
 えーと、つまりコレを着けて猫にでもなりきってみろ、と? それって、端から見て痛くない?
 冗談で笑わせようとしているのか、と思って彼の表情をみると、笑顔ながらもそれなりに真剣。あら、大真面目。そんな彼の顔を見ているうちに、ちょっと笑いがこみ上げてきた。
 うん。少なくともこんなやりとりをしている間は脳内戦闘シミュレートからは解放されていたことだし、ちょっと彼の提案に乗ってみようかな。そう思い、私は被っていたワイズ丸帽子を取った。


 ひとしきり目を丸くして猫耳と俺の顔を見比べていたハンターさん。さすがにちょっと変な提案だったかと前言を撤回しようとしたとき、彼女はクスクス笑い出すと、頭の丸い帽子と俺の渡した猫耳を着け替えた。そして……


 ん、ずっと頭装備は固定だったから、ヘアバンドはちょっと慣れないかな。でも、感触が全然違うのは気持ちを切り替えるのには都合が良いかも知れない。今の私は人じゃない、人じゃない。私は、ただの猫……。ふふっ。
 さて、ちょっと疲れ気味の猫がする事は、と。ああ、ちょうど暖かそうな場所が目の前にあるじゃない。私は手……前脚を付き、四つ脚でひたひたとそこに歩み寄った。


 あ、う、さすがにこういう事態は予想外だった。頭悪いぞ俺。さすが素int1だ俺。
 こういう事態とはどういう事態なのかと言うと、あぐらをかいた俺の脚の上にハンターさんが座り、俺の胸板に頬をすり寄せているのだ。思わぬ接近というか接触に固まってしまっている俺にかまわず、彼女は幸せそうな表情で目を閉じている。
 なんと言うか、仕草だけなら思いっきり猫の様相だな。意外とノリ易い人なのかも知れない。
 相手が猫になりきっているのなら、俺の方もそれに見合った対応をするべきなのだろう。俺は、ぎこちないながらもゆっくりと彼女に手を伸ばした。なに、もしセクハラになるのならPvPで眉間をぶち抜かれた上ブラストマインで吹っ飛ばされてくるまでのことだ。


 モンク君の胸板は、予想通り暖かかった。ヒザの上に座ったときはずいぶん驚いていたみたいだけど、私だって猫耳出されてびっくりさせられたんだから、お互い様。
 あ、彼の手が頭に触れた。そのまま髪を指で梳いてくれてる。もう片方の手、指先が私の首筋に触れ、喉の辺りをくすぐってきた。ちょうど、猫にそうするように。それがとても心地よくて、嬉しい。なりきるのって、結構楽しいかも。頭の中もいい感じにボーっとしてきてるし。
 だから、こんなのでお礼になるかはわからないけど、私は顔を上げて、

「にぃ」

 と一声鳴いて彼の頬に口を寄せ、ちろっと舌先で舐めてあげた。

「……っ」

 今度こそ完全に固まっちゃったモンク君。
 私はそんな彼の胸板に、また頬をすり寄せ、目を閉じた。


 それから数日。
 あの日の出来事がきっかけで、俺はハンターさんと一緒に狩りをする様になっていた。精算を終え、倉庫から帰ってきたハンターさんが俺の隣に腰掛ける。

「お帰りなさい」
「ただいまー。……ね、また休ませてもらっていい?」

 俺が頷くと、彼女は頭装備を自前のうさみみに着け替えて、ヒザの上に乗ってきた。

「お疲れ様でした」
「はーい。じゃ、今日もいっぱい可愛がってね♪」

 ずっと独りで狩りをしてきたハンターさんは、いまや狩り場から離れると、甘えん坊のウサギさんに変身する様になっていましたとさ。

「眠っちゃうかも知れないけど、その時はイタズラしてもいいからね♪」

 ……罠を使わなくても、人を固めるのが相変わらず得意なことに変わりは無いけど、ね。
174名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/19(月) 12:29 ID:7qWjkK.o
>>170-171
エースの人、かしら・・・? 違ったら申し訳ありませんが。
全体としてもセンテンスでみても、単語の繋がりがすごく好きです。
ボルト詠唱の描写などはもう、秀逸としか。
絵では描ききれないような文章、とでも言えばいいのでしょうか。
こんなの書いてみたい。燃えました。

>>173
どうしよう、なんていうかもうGJとしか。
罠師なのも個人的にクリティカルで、
戸惑いながらも手を出すモンク君も、ああああ。
〃〃∩  _, ,_
 ⊂⌒( `Д´) < こんな罠師のハンタ娘たん欲しいよー
  `ヽ_つ ⊂ノ
  ジタバタ
175名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/19(月) 23:25 ID:nnP4L4wc
>>173
うぉあああああΣ
グジョーブ!!

〃〃∩  _, ,_
 ⊂⌒( `Д´) < こんな罠師のハンタ娘たん欲しいよー(2/2)
  `ヽ_つ ⊂ノ
  ジタバタ
176名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/20(火) 00:01 ID:XiWxE6Hc
>>172-173
(・∀・)イイ!!!!

ぉぃぉぃ閉じないでくれよw

〃〃∩  _, ,_
 ⊂⌒( `Д´) < こんな罠師のハンタ娘たん欲しいよー(3/20)
  `ヽ_つ ⊂ノ
  ジタバタ
177172sage :2004/07/20(火) 19:47 ID:NHuEkF/A
>>174
ご高評ありがとうございます。

>エースの人、かしら・・・?

どこかのサイト、あるいは読み落としてしまった小説等の
キャラクターに似ていた、ということでしょうか?
文意が読み取れませんで、申し訳なく。
178ある鍛冶師の話sage :2004/07/20(火) 22:46 ID:BFshZBp2
166様>うーっと、ジュノーのあの人でいいのでしょうか。
   勘違いでしたら申し訳ないです。密かに対抗心燃やしつつ、
   大きな世界観の話をまとめあげられた事に感服しています。
   過去の人なんかじゃないですよヽ(`Д´)ノ
   時折読み返しております(ひっそり

あるアサシン様>誉められちゃった(*ノノ)
        お父さんアサさんがかわいいです、なんだか。
        真っ直ぐなイメージを受ける文章で、なんだか、
        読んだあと少しすがすがしい感じがしました。
        処女作のほうは最後のキスシーンにお茶を吹きました。
        おかげでキーボードがry

        ただ少し全体的に情景描写が甘い感じがします。
        166様と同じく、会話の合い間にもう少しどんな表情をして、
        言葉を言っているのか、どんな仕草をしているか、
        場所は、とかそういうのを頭に浮かべながら書いていくといいかもです。

        ただ僕の場合は登場人物が動き回るのを文に起こしているので、
        全く参考にならないかもしれませんが。
        なんだか偉そうですいません。

172様>〃〃∩   _, ,_
     ⊂⌒( `Д´) < こんな罠師のハンタ娘たん欲しいよー(4/20)
      `ヽ_つ ⊂ノ
    ジタバタ

 下水リレーが降臨なされたので今日はいいことありそうですよヽ(`Д´)ノ
179ある鍛冶師の話12-1sage :2004/07/20(火) 22:48 ID:BFshZBp2
Σ(゚Д゚;)!!
眉毛がずれてますね_| ̄|○

>>>>>>>>>>>>>>>>>>>


 月ひとつ。
 空雲はなく。

 ゲッフェンの噴水広場の通りを通りかかった剣士はふと、空を見上げた。
 今日はたまたま行った臨時で思わぬ収穫があり、その日だけの仲間と共に、
 酒を少し飲んできたところの帰りであった。
 酔いを覚ますつもりで道を進めば、夜風に煽られ見上げる空はいつになく、
 晴れ渡る事素晴らしき。

 風がひんやりと指先から熱を運んでくれば、このまま道端で寝込んで風邪
 をひこうとも別段かまいやしなかった。

 夜に露店をひらく商人も流石にそう居る事もなく、
 数店開いているその露店先で広げたカートの中身を物色しては、
 月を見上げながら宿へと足を急がせる。

 そういえばゲッフェンでは近頃、通り魔が出るらしい。

 そんな話を酒を飲む合い間に聞かされたっけか、と剣士がふと辺りを見回
 した。確かに夜のゲッフェンは魔物の気配の方が色濃い。
 昼間は見上げるゲッフェンの塔ですらも、夜見上げることは剣士と言えど
 も足がすくむ。

 宿へと続く道は裏路地に入るため、夜盗の類も怖いのだが。

 三つ目の角を曲がったところで、目の前に見えるまだ明りのついたままの
 宿にほっと剣士が緊張を解く。
 と、嫌な霧が背後から足元へと流れてくるのを剣士は感じた。

 冷たいと感じたのは、夜のせいか。
 ぞくぞくと背筋を駆け上がる感情に、思わず声がもれそうになる。

 咄嗟に宿に駆け込もうと思ったが、宿には一般客も居る。
 自分は守るために剣士になったつもりであった、それにここでこの正体を
 確かめておかなければ、きっと今日の臨時仲間に次に会った時には笑いの
 ネタにされてしまうかもしれない。

 一歩、足を踏み出して振り返る。

 鼻につくは途方もない血の匂い。
 その匂いのする方へと視線を落とすと、人のような形をしたものがそこに
 ある。それは口元から白い牙を覗かせていて、一目にゲッフェンの塔に幽
 閉されているはずの夜の生き物だと知れた。

 問題はその生き物をこんな風にした正体だ。

 足元がすくむ。
 目線を上にあげれば、そこには夜の闇よりも深い暗色の紫装束。
 手にしているは大きな刃のついたそれだ。

 「・・・・・アサシン・・・・・」

 剣士が職業を口に出した時、暗殺者は口元にべったりと赤をこびり付かせ
 ながら口端をつりあげた。剣士は途端、腰から下に重みを感じる。
 その笑みはどちらかと言えば、凄惨な印象をあたえるものではあったが、
 不思議と無邪気なものをはらむ笑みのようにすら見えた。

 暗殺者は一歩踏み出し、吸血鬼の体を剣士へと投げつけるなり、
 凛とよく響く通る声で言った。

 「手柄にするといい」

 声に目線があう。
 赤い眼差し、銀髪の。
 また笑う口元からは、白い牙が伸びている。

 あぁこの暗殺者は。

 剣士が言いかけた言葉を前に暗殺者は欠伸とともに、夜空を見上げた。

 「・・・・・・おなかすいた」




 ゲッフェンの街に行き交う通り魔の噂は、日を追うごとに加速していた。

 「・・・・・だからよォ、すげー美人なんだって」

 真昼のゲッフェン噴水前の通り道で、露店を開いては情報収集を呼びかけ
 る二人組みがある。一人は燃えるような赤い色の髪と目を持つ騎士姿の少
 女と、もう一人は雪景色を切り取ったような髪と目の持ち主の鍛冶師だ。

 「そうか、わかった、もういい」

 赤い髪の少女が憮然とした態度で片手をひらりと返して、僅かな小銭を興
 奮しているらしい剣士に手渡す。

 情報を追うつもりで協力を街中で呼びかけてみたら、
 やはりこのエンブレムの持つ力は大きいようで。
 中には英雄にサインをなどという言伝もあるほど、情報収集は困難をきたしていた。

 燃えるような赤い髪の少女リツカは、騎士装束に身を包みながらも、
 すでにその視線は明後日を向いている。
 隣でついでに露店を開いている鍛冶師ジェイは、なんだか欠伸をもらして
 いる。

 通り魔は別に人間に害があるわけではないようだった。

 一定しているのは暗殺者であること、赤い目、銀髪。
 どうやら吸血鬼を殺して回っているらしく、それ以外にどうという事もな
 い。だからと言って、このまま帰るのでは問題解決には至らない。

 「ジェイ、帰ろうか」

 リツカの問いにジェイはぼんやりと頷く。
 隣の鍛冶師は戦闘にはまるで向いておらず、長時間の日射で倒れてしまい
 かねない。銀色に光を返すヘルムでどうにか日差しは凌いではいるが、こ
 う暑いとどうしようもないわけで。

 ふらふらと立ち上がりカートへと並べている品を片付けながら、鍛冶師が
 今にも暑さに蕩けそうな笑みで笑う。

 「・・・・・・・、なんなんだ、ジェイ。言いたい事があるなら言え」

 横から広げてあった赤い液体の入った瓶を片付けていると、
 笑顔の鍛冶師の表情が目に入る。
 へへ、などと笑みを浮かべながらなんだか嬉しそうな鍛冶師に、
 リツカは何故だか眉が寄る、照れくさいのだ何故か。

 「・・・愛の逃避行みたいですね」

 鍛冶師の頭もついに熱にやられたらしい。
 常ならそんな事を口が裂けても言いそうにない鍛冶師は、
 至極嬉しそうにそう言ってのけると、リツカの頬に手をあてる。

 「・・・・・ジェイ、待て」

 あくまでも冷静にリツカがその顔を見上げる。
 周囲からはなにやら黄色い声が上がり始めているのを気にもかけず、
 リツカはジェイの額に手をあてる。

 鍛冶師がふいに目を閉じて、

 「っだー!重い、だから無理をするなと!」

 リツカの声があがる。そのまま前のめりに倒れかけた鍛冶師は、
 力なく笑みを浮かべたまま、どうにか体勢を立て直す。

 「・・・・すいません・・・・、でもリツカさん一人じゃ不安やし」

 お前が居る方が不安だと言いかけた言葉を必死に飲み込めば、
 リツカは小さく有難うと言いながら鍛冶師に肩をかす。

 「カートぐらいは持っていけるか?」

 「はぁ、どうにか・・・・・・」

 意識が朦朧としているらしい、足取りもぎこちなくふらふらとしている。
 元はゲッフェンに住んでいたらしいのだが、常に工房に篭りっ放しだった
 のではないかと、リツカが舌打をした。

 足手まといと突き放すのは簡単だというのに、
 地元に詳しいなどと理由をつけて連れまわす自分はどうかしているのかも
 しれない。

 ゲッフェンの空を見上げながら、リツカは溜め息をついた。
180ある鍛冶師の話12-2sage :2004/07/20(火) 22:50 ID:BFshZBp2
 重苦しい鐘の音が鳴り響く。

 夕闇に紛れる姿は一つ。
 騎士の装束のそれだ。

 赤いマントに描かれているエンブレムは赤い月、隣を隠れるようにして走
 る鍛冶師の袖にも赤い月のエンブレムが刺繍されいてる。

 これから夜半にもなろうと言うのに、人通りは減る気配がない。
 まだまだ冒険者達が出入りする時間帯でもあり、そのため露店商がまだ店
 を開いているのだ。軒並み連ねている商人達を横にしながら、
 路地裏へと二人は駆け込んだ。

 通り魔が現れるという時間帯は、夕方から深夜に至るまでの時間で、
 日が昇る頃になるとふつりとその目撃証言は途絶えてしまっていた。

 暗殺者という職業柄日差しが嫌いなどというのはない事ではなかったが、
 こうも見事に時間帯が限定されてしまうと些か不安なものを覚えてしまう。

 空が陰り、コバルトブルーの深海へと空を染めれば街頭の灯りが点り、酒
 場から笑い声が響いてくる。宿へと向う足取りも少なくなれば、ここゲッ
 フェンは魔と人とが交錯するつかの間の異空間となる。

 心なしか夏だと言うのに空気は寒く、
 月明かりも妙に澄み渡って見える。

 リツカの足が路地裏へと向かいかけ、ふっと止まった。

 「・・・・血だ」

 思わずそう口にするしないほどの、ただただ赤い風景画そこに広がってい
 た。手、足と思わしきものは何か強い力で引きちぎられたように無残に転
 がっている。まだ惨劇が行われたのはそう遠くはない時間のようで、転が
 る髪の長い、これは女だ、の、生首が唇を吊り上げてケタケタと笑った。

 「裏切りものに死を」

 視線があった瞬間、リツカの毛が総毛立つ。

 唇から伸びる白い牙は幽閉されているはずの、彼らのものであった。

 女は笑い声をあげていたが、次の瞬間にはその笑みのまま硬直している。
 こと切れたらしい様子にリツカは目をそらす。
 騎士とは言えまだ十年と数年しか生きていない彼女には、
 この光景はまだ少し厳しすぎたようだった。

 「・・・・・・ジェイ、お前はここに居ろ。何かあったらすぐに人を呼んでくれ」

 ジェイは否、と答えようとするものの、
 振り返る少女の赤い眼差しがそれを許さない。
 転がる生首よりもそれに気圧されながら、ジェイは首を縦に振った。

 「・・・・・・、さて」

 路地の曲がり角を覗き込むようにリツカの頭がのぞく。
 転がる生首の先には誰かの爪先があり、そのうえは暗色色の装束。

 暗殺者、ビンゴだ。

 声に出さすそう呟いてから、リツカは傍らの剣を引き寄せる。
 そして向こうが背を向けたと思った瞬間、駆け出した。

 背後を狙うつもりで引き抜いた剣の一撃は、僅かな光と残像を残し空気を
 凪ぐ。ひゅんという音ともに伝わるはずの衝撃はなく、リツカは足を止め
 た。否、止めざるを得なかった。

 すぐ背後に瞬間感じた冷たい気配は、リツカの背中に押し当てられている。
 殺される、すぐにそう感じたものの、振り返ることはできない。

 振り返れば、即、ゲームオーバー。
 そんな事は子供でも分かる展開だった。

 「誰」

 小さく問い掛ける声は夜の月を鳴らしたような通る声で、
 突然感じる言いようのない安堵感に苦笑いした。
 相手は話せる相手だ。

 「・・・、ここ暫く吸血鬼の惨殺死体がゲッフェンの街中に転がると聞いて、
 首都プロンテラより派遣された。ギルド赤月華のリツカと言う。
 何故に吸血鬼を殺す?その理由がわからない、何かの抗争と言うのなら、
 手のつけようのないほどになる前に教えてはもらえないだろうか」

 リツカの言葉に暗殺者はふむ、と頷いた。
 ふいに後ろから動けなくなるほどの冷たい気配は瞬時に消失し、
 代わりにリツカの目の前には一人の暗殺者が小首を傾げて立っている。

 銀髪に赤い目、頭部両脇からは悪魔の羽が生えている。
 防具、なのだろうか、時折羽は羽ばたくように動いては、閉じられる。

 なによりもリツカが言葉を失ったのは、途方もなく見目麗しい顔立ちであっ
 た。朱を塗ったような唇が軽く釣り上げられると、暗殺者は笑った。

 「人間、赤き鼓動に伝えろ。
 黒の烏(カラス)が目覚めた、と」

 「・・・・・・・赤き鼓動?・・・・それでは理由になっていない。何故殺すんだ」

 「・・・挑むのはあちらだ」

 はたして烏という鳥は黒い色だというのが自然ではなかっただろうか。
 黒の、と名乗った暗殺者はチラと目線を下へと落とす。
 焼けたような乾いた指先が暗殺者の足を掴もうとしている。

 それを別の足で踏み潰すなり、暗殺者は背を向けて歩き出す。
 一連の動きは何故かひどく綺麗なものに見えて、リツカはぞっとした。

 これが暗殺者というものだったろうか。

 「・・・どうしたらお前の殺しを止められる・・・・?」

 遠ざかる暗殺者が一枚の絵の様にすら見えた。
 ゲッフェンと、霧と、月と。

 立ち止まる暗殺者はひどく冷えた声で言った。

 「彼奴らが、全て消える時」

 「・・・それでは止めようがない」

 リツカの声に暗殺者は笑ったのかもしれない。
 少しだけ空気を震わせた音が響いた後、暗殺者はこう言った。

 「あるいは、私が死んだ時」

 風が吹いた。
 突風のような風だ。

 瞬時に視界が遮られ、リツカは目元を腕で覆い隠す。
 暗殺者の気配が消えて、鍛冶師が慌てて駆け寄ると、
 リツカは晴れた視界に居ない暗殺者を探しては眉を寄せた。

 「さて、どうしようか、ジェイ」

 問い掛けられた鍛冶師は消えた暗殺者の姿を探すようにしてから、
 頭をゆるく振った。
181ある鍛冶師の話12-3sage :2004/07/20(火) 22:50 ID:BFshZBp2
 ゲッフェンの連なる屋根に月明かりが落ちる頃。
 人影が一つ。手にしている両の大きな刃はあるいは人を殺すためか。

 目が覚めれば世界が違うのはいつもの事だった。
 昼の日差しはその夜の身にはつらく、されどその空の青さに恋焦がれた。
 ローレライと言う名の型破りの聖職者が彼の元を訪れたのは、ただの興味
 半分だったと思われる。

 ルティエに住んでいると言った聖職者はそれに違わない見事な銀髪の持ち
 主で、モロクには降らないその白い空からの花びらを思っては、棺の中で
 彼女達が来るのを待ちわびた。

 彼女達は本当に面白い輩であった。
 ローランドと言うローレライの婚約者だと言う男は、騎士でありながらか
 なりの方向音痴で、彼が迷子になって辿り付いたのが自分の眠るこの暗殺
 者ギルドの最下層なのだから、運がいいのか悪いのか。

 困惑するローランドは棺からのそりと起き上がった彼を見て、
 おはようとにこやかに微笑んだあとさめざめと泣きながら、
 ここ何処ですかとのたまった。

 迷子を外へと連れ出してすぐに帰ったものの、
 その話がどう伝わったのか人のいい暗殺者に会ってみたいなどとぬかして、
 ローレライや他の面々と顔を会わせる事になったのだ。

 赤き鼓動という異名を持つ元吸血鬼の魔導師とは旧知ではあったが、
 こんな面白愉快な連中と付き合っているのは知らず、少しだけ嫉妬した。
 昼歩ける身であればよかったと小さく洩らせば、
 ローレライはじゃぁモロクに来た時はいつも寄るからさと笑いながら話す。
 婚約者が別の男しかも、人外に会いに来ると言うのにローランドと言えば
 酒を片手にどう?などと問い掛けてくる始末で。

 あの頃は本当に良かった。

 まだ世界もそう混沌として居なくて、
 確かにグラストヘイムで失われたものは多かったが、
 それでもこうしてまた巡り合えた友人達と時間を共に出来るのが嬉しい。
 夜月が昇る頃、眠るための棺を開けば吸血鬼である自分のためにとトマト
 ジュースなんかを差し出しては笑う聖職者。
 その横で酒瓶片手に飲めと言わんばかりの騎士。
 欠伸を繰り返しながらよォと片手をあげる魔導師。
 作りかけの薬品を片手に自分に試そうとする錬金術師。
 …、顔ぶれはいつも様々であり、
 それでも彼らと居れば夜はつまらないものではなかった。

 昼間の空の青の高さを直に見ようとしたのは、
 彼らに会いたくてたまらなかったから。

 ルティエの、雪の、冬の終わり。

 彼女達が結婚をして居住がルティエに移ったと聞き、
 暑いモロクから蘭という彼らと仲のいい暗殺者ギルドの仲間を連れて、
 雪の降るかの大地へと向った。
 足跡が雪の上に残るのを不思議そうに見つめる彼を、
 蘭は面白そうに見ていた。

 世界がこんなに白く染まる事を、彼は知らなかった。
 善もなく悪もなくただただ真っ白に染まる事を彼は知らなかった。

 久々の再会に彼女は大喜びをして、
 生まれたばかりの小さな銀髪の赤ん坊に会わせてくれた。
 小さな生き物は自分が触れてしまえば壊れてしまいそうなほどか弱くて、
 触れる事が怖かった。けれど指先を伸ばすと、小さな指が彼の指を捕ら
 えてにまーっと唇をつりあげて笑った。

 嬉しかった、小さなこの生き物が、自分を受け入れてくれた事が、
 人になりたかった訳ではない、ただ相容れる事ができると希望を持って
 守ろうとしたかのグラストヘイムの地が、ああも簡単に崩れ去るのを見
 て希望など捨てていたはずだった。

 だから友として迎えてくれるこのルティエの友人達を、
 黒の烏(カラス)は守ろうとした。
 けれど、叶わなかったと言うただそれだけの事。

 目が覚めれば世界はいつも違っていた。

 人の寿命は短い。
 そして儚い。

 迫り来る魔の瘴気から街を守るために蘭と共に手勢を引いて行けば、
 助けられると思っていた。だと言うのに。

 守る事はまた、出来なかった。
 幼い子供達を連れて逃げ出すはずだった彼女は、
 その小さな子供達が危険に晒された瞬間から変わった。

 『あたしは行かない』

 彼と、共に。
 子供達を守るために。

 そんな彼女を誰が止める事が出来ただろう。

 目が覚めれば世界は違ういつも常に、
 何かが入れ替わり何かを得る代わりに、何かを失う。

 グラストヘイムを守るために同胞を裏切れば、そしてグラストヘイムを
 永久に失い、モロクへと逃げ延び眠る事を選べば友を得て、また失い。

 「・・・・・、この長き生に憐れみを」

 見上げるゲッフェンの夜空は、この暗殺者には無慈悲にその月明かりを
 注いだ。
182ある鍛冶師の話12-4sage :2004/07/20(火) 22:51 ID:BFshZBp2
 リツカが昨夜の事を思い出しては、気にかかるのが赤き鼓動という名の
 事である。
 もしそれが赤月華の同盟ギルドである、碧聖書(グリーンバイブル)の
 マスター、レッド・ビートの事であるならすぐにでも伝えるべきかもし
 れない。

 だが今現在プロンテラには居ないらしいレッドの行き先は、
 何処であるかは知れていない。あの魔導師は常に一定しておらず、
 古くからのギルドの面々でも頭を抱える人物であったりする。

 ゲッフェンの宿で目を覚ましてみればもう昼も過ぎており。
 まだ少し残る冷たい気配の余韻は、同じ暗殺者であっても赤月華の仲間
 のものとは違っていた。もっとも、赤の暗殺者は常に笑みを絶やさない
 人物であり、タイプがまるで違うのかもしれなかったが。

 「・・・夜の生き物」

 吸血鬼の話については、レッドからよく聞かされていた。
 ゲッフェンに住む吸血鬼だったのだと笑いながら話すのは冗談だと思っ
 ていたのだが、そうではないらしい。
 あの暗殺者がそう言ったと言う事は、少なくともあの暗殺者も吸血鬼に
 近い、あるいはそれそのものであるか。

 午後の気だるさに昨夜の事を考えるのは、些か骨が折れた。

 部屋に備えてある時計を見上げてから、僅か暫くの間の後に、
 部屋の外から控えめに扉を叩く音がする。

 「あぁ、ジェイか」

 ゲッフェンにおける少女の相方の名前を呼んでみると、
 暫くして控えめに入っていいですかと許可を求める声がする。
 欠伸一つ浮かべて、シーツをめくり下着にTシャツ一枚といった格好と
 いった自分の姿を見渡す。

 「・・・悪い、もう暫く待ってくれ」

 のろのろとした足取りで椅子にかけてある騎士装束へと袖を通すと、
 最後に一つ欠伸をして。眠気を振り払うように頭を振る。

 「入っていいぞ」

 返答ともに入ってきた鍛冶師は、銀色の髪を束ね損ねたらしい、
 ひどく眠たそうな表情でおはようございますと呟いた。

 「おはようって言う時間ではないがな」

 赤い髪の少女リツカにそう言われて、鍛冶師は苦笑いを浮かべる。

 騎士の装束を着込めば、不思議とそう見えるのだからおかしなものだ。
 少なくともジェイは普段の服装と、仕事着にそう大差はない。
 少女のプライベートの服装は見た事がないが、少なくともスカートだと
 かの類は着そうにはない感じだ。

 「どうかしたか?」

 問われ鍛冶師は我に返る。
 余計な事を考えていたと知れれば、すぐさまこの少女は部屋どころか、
 家を出て行きそうな勢いすらある。

 「いえ、なんでも」

 精一杯の笑顔を咄嗟に浮かべながら、両手をぶんぶんと振ると、
 リツカは何がしたいんだと言わんばかりに眉を盛大に寄せた。


 夕暮れ間近、首都へと飛ばした囁きの返答がようやく返って来ていた。
 碧聖書のギルドマスターは、ゲッフェンに来ているそうだとの赤月華の
 ギルドマスターの返答にリツカとジェイは顔を見合わせて溜め息をつい
 た。

 ゲッフェンに来ているのであれば、
 同じ騒ぎを聞きつけてという事も考えられた。
 だが先方の暗殺者の、知らせてくれという言い様から察するに、
 恐らくレッド・ビートはまだ暗殺者の事は知らないのであろう。

 はたはたとはためている、洗濯物を取り込みながら鍛冶師が室内を振り
 返る。夕暮れ時、空の端からオレンジ色が溶けていく。
 干したままにしていた洗濯物を大慌てで入れこみながら、
 騎士装束のまま紙に何かを書いたり消したりしている少女を眺める。

 夕闇に溶けていく色よりも尚濃い色をしている赤い髪は、
 少女の表情に陰影を落としながら、
 その赤い色を増す。

 ふいに目線が合った。

 「ゲッフェンの塔の守りが、緩んでいるとは考えられないか?」

 唐突な問いかけにジェイが瞬きを繰り返す。

 「いや、な。
 そもそも吸血鬼とかの類というのは、全部ゲッフェンの塔に封じ込めら
 れているはずだろ?だと言うのに、あの暗殺者はどうか知らんが、少な
 くとも街で騒ぎになるほどの出入りがあった。

 普通はありえないだろう・・・・、よっぽどの力を持っているとしても、だ」

 「・・・・・つまり?」

 「ゲッフェンの塔の守りが何らかの理由で緩んでいる、
 だからあの暗殺者はそれを同胞であるレッド・ビートに知らせるために
 ゲッフェンに来ている・・・・・とかそんなところだと、思うんだが。

 俺は頭を使うのは得意分野じゃないんでな、違う可能性もあると思う」

 「ゲッフェンの塔の守りが緩んでいる・・・・・ですか」

 「ああ。十分考えられる事だろう?
 今のところ力の強い吸血鬼の類しか出てないようだが、
 下手すりゃドッペルゲンガーだのなんだのって騒ぎになりかねん。
 早いところレッド・ビートの足取りを掴まねェと、不味いかもしれん」

 眉間に皺を寄せて黙り込むと、リツカはそのまま机の上に突っ伏す。

 「疲れた、少し休む」

 「・・・・・・・・・・歌、」

 ふいにそう口に出してから、ジェイはリツカの反応を伺った。
 けれど赤い髪の少女は、慣れない作業に疲れ果てたようで、
 言葉は耳に届いては居ない様子。よくよく耳を澄ましてみれば、
 静かな寝息が聞こえてきて。

 言えないでいる事への罪悪感か、ジェイは苦笑いを浮かべる。

 「グロリアス、グローリア」

 栄光あれ、そう小さく呟いて鍛冶師は残りの洗濯物を片付け始めた。
183156sage :2004/07/21(水) 06:10 ID:GpTUsba2
>>157
心情背景がわかりやすい、と言っていただけると大変に嬉しく。
それからネタを頂戴いたしました。返せと言われてももう遅ェっす。
…いや、なんつーか、ごめんなさい。

>>158
そこで切られると三点リーダの後にどう続くのか気になって仕方がありません。
なんかおかしな書き方していたかしらん…?

>>159-161,179-182
設定拝見しながらなのは、理解しにくいからではないのです。
こういう背景のキャラクターなのだな、と確認しながら拝読した方が、俺的に楽しいからなのですよ。
誤解を招く言いをして申し訳ないです。
そして物語。事が起きて加速し出しそうな感じですなぁ。
けれどそれよりより洗濯と取り込みの日常風景が好きな俺は異端ですか。そうですか。

>>164,169
俺辺りが余計な事を言っていいのだろうか、と思いつつ。状況と人物背景がわかりにくい部分があるように見えるのです。
ざっと各キャラクターの現実の立ち位置を図にしてみると、描写を入れていきやすいかも。
テーブルについて話すのと、焚き火を囲んでの会話とでは、大分場面の印象が違うですから。
どちらの物語も楽しく書かれていて素敵な雰囲気ですので、今後のアサシンストーリーをお待ちしております。

>>173
甘。甘甘。甘甘甘。
ちょいと天然っぽいモンク君が素敵です。そして悪戯気質っぽいハンターさんも。
あれですか、猫モードとウサギモードでは、また一味違ったりするですか。
そしてどこまでがイタズラの範疇ですか。…何を訊いていますか、俺は。
184名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/21(水) 06:11 ID:GpTUsba2
 右袈裟。半回転するように体を捌いて、俺はその切っ先を回避する。
 彼女の重心はぶれない。足に根でも生えたように磐石として、返しの横薙ぎを繰り出してくる。
 飛び退いてかわす俺を追い、鋭く踏み込んだ片手突き。サーベルの切っ先が喉元に迫る。
 が、俺はそこまでを読んでいた。
 刺突の直前、彼女が軽く肘を引くのと同時に右手――彼女の盾側へと滑り込み、
「ッ!!」
 だんと石畳を鳴らしてさらに踏み込む。音にならない強い呼気。
 体当たりするような勢いで、俺はツーハンドソードを下段からシールドに叩きつけた。
 無論致命傷は狙っていない。この位置から狙える道理もない。
 しかし彼女はご自慢の盾に遮られて、俺の剣の軌道が見えないはずだ。
 俺は俊敏さを売りにする剣士だが、彼女はその売り物において俺の上を行く。
 だが単純膂力では、俺に分があった。そこが狙い目。
「くっ!?」
 案の定、ヒットポイントが読めない彼女は受けをしくじった。
 金属鎧に身を包むには些か華奢すぎる体が、火花を散らす衝撃で大きくよろめく。
 バランスを取ろうと剣を握る手が宙を泳いだ。支える足が数歩ふらつく。

 ――勝機!

 一旦振り抜いた大剣を上段へ。全体重と心気を籠めて、俺は刃を振り下ろす。剣士達に伝授される、渾身の戦技。
 が、彼女の方が早かった。あるいは死に体は誘いだったのか。
 追撃よりも一刹那早く立ち直り、再び磐石の体勢で盾ごと俺にぶち当たる。
 避けれる体になかった俺は、カウンターの形で衝撃を受け――。
 くそ、意識が飛んだ。
 実際気を失ったのは瞬き数度程度の時間だろう。だがそれは戦いの場において、致命的過ぎる時間でもある。
 我に返った時には既に、彼女の刃の切っ先が、俺の喉元にぴたりと突きつけられていた。


「ああッ、くそ!!」
 どっかりと胡坐をかいて負けを認めると、彼女は薄く微笑んだ。39戦39敗。連敗記録を更新中だ、畜生め。
「随分な上達振りだったな。驚いたよ」
 しゃらりとサーベルを鞘に収め、ヘルムを脱いで頭を振る。夕日を受けて、彼女の栗色の髪がふんわりと広がる。
「ちょっとな。組んで技ァ磨いているからな」
 努力を認められれば、嬉しくない事もない。俺も兜を外して汗を拭った。
「そのうち、越えるぜ?」
「楽しみにしている」
 身の守りは己の体術に任せ、腕は只管打ち砕く為に。
 つまりは両手剣を振り回すのが俺のスタイルな訳で、でありながらこうもガードを打ち崩せないと正直腹が立つ。
 勿論俺は剣士で相手は聖堂騎士。年も3つばかりあちらが上で、格の差と経験の差は承知の上なのだが、それでも。
「――約束、忘れんなよ」
「約束?」
 きょとんと彼女は首を傾げる。ふとした瞬間に、その仕草はひどく幼く見える。
「前から言ってんだろ。負けたら、俺と付き合え」
 ぱちくりと数度瞬きをしてから、本気だったのか、と彼女は小さく呟いた。当たり前だ、阿呆。
「なら強くなる事だな、少年」
 座りこんだ俺の前に片膝を突いて、彼女は艶やかに笑う。ああ、やっぱいい女だな、くそ。
 籠手を外したてのひらが、ふっと俺の頬に触れた。軽く汗ばんだ肌。やわらかな感触。
「あまり、女を待たせるなよ?」
 二の句の継げない俺を残して、彼女は修練場から去っていく。剣以外でも、俺は完敗の様子だった。
185名無しさん(*´Д`)ハァハァsage184蛇足分 :2004/07/21(水) 06:13 ID:GpTUsba2
 坊やとお嬢にエンカウントしたのは、宿を出るなりだった。
 坊やはアコライトでお嬢はマジシャン。最近パーティを組むようになった二人連れだ。
 別段俺と年が離れているでもないのだが、どうにもイイトコの出っぽい匂いがして、心中密かにそう呼んでいる。
 で、俺の顔を見るなり、ふたりは繋いでいた手をぱっと離した。悪ぃ悪ぃ、邪魔だったか。
 しっかし進展しねェなぁ、お前ら。揃って顔を真っ赤にして、どう取り繕ったものか必死に考えているに違いない。
 と、坊やが血相を変えた。
「どうしたんです!? 怪我してるじゃないですかっ!?」
 …お人好しめ、気にすんな。女に叩きのめされてきたなど口が裂けても言えやしない。
「名誉の負傷じゃねェ。深くは訊くな」
 はあ、と不審顔をしつつ、治癒術を施してくれる。なんだかんだいっていい奴だ。
「ありがとよ。礼代わりと言っちゃなんだが、これからメシでも食わねェか?」
 どうせこいつらの事だ、あてもなく町を連れ立って歩いて、夕方になったから帰ろうとかそんなところに違いない。
「僕は構いません」
 坊やが応じながら、気遣わしげにお嬢を見やる。
「それなら、私も」
 視線を受けて、彼女もこくりと頷いた。微笑ましいったらありゃしねェ。
「OK、決まりとなりゃあとっとと行こうぜ。美味い店を知ってる」
 ちょいとばかり強引に、俺はふたりの背中を押す。
 三人分のメシ代くらいは懐にある。払いはすませて、俺は中途で抜けてやろう。
 そうすりゃもどかしいこいつらも、少しくらいは前へ進みやがるだろうさ。
186名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/23(金) 03:14 ID:38h.DcIk
「挨拶に来たわ」
 言われて目を上げると、長年の相棒が居た。体術と法術の双方を修める聖職者。その御業に、幾度窮地を救われただろうか。
 俺よりも一回り細い身体でありながら重い鎚を手足のように操り駆ける様は、さながら吟遊詩人の歌う戦乙女のようだった。
 無論支援法術の行使能力だけを見るならば、より優れている人間も居るだろう。
 けれど安心して背中を任せられる女なんて、彼女の他に在る筈もない。
 ああ――だが、とうとうなんだな。
「…お前もか」
 反射的に呟いてから、未練だな、と思った。
「自由にしろよ。皆俺に夢を預けた。叶わないなら、他所へ行くのが当然だ」
 俺はギルドのマスターだった。そう、“だった”。
 王国が築いた砦の主。それを夢見て人を募り、戦いを挑んだ。
 だが、夢は夢にして終わった。その場その場の不運を嘆けば限がない。
 結果としてうちは敗れ続け、幻滅したメンバーはひとりまたひとりと櫛の歯が欠けるように脱退していった。
 戦力が衰えれば勝てる道理は更になくなり、そして人は一層に減った。
 去り際に皆、俺に別れを告げに来た。今の彼女と同じように。
 だが彼女とは、ギルドを設立する前からの付き合いで、その年月の分、余計に胸が痛む。
「餞別も何もやれないが…」
「馬鹿言わないで」
 もう常套句になりつつあった台詞を、彼女が強く遮った。
「少なくとも、あたしはあなたと夢を見た。そのつもりだったわよ」
 ぐいと胸を張ってベンチに腰掛けたままの俺を見下ろす。
「皆ね、勝てないから抜けたわけじゃないのよ。そこんとこ解ってないでしょ、全然」
 つん、と俺の額を指で小突いた。
「勝ち負けにむきになってどんどんあなたが周りを顧みなくなったから、辞めてったのよ。
 言ってたわ。自分が駒か道具みたいな気がする、って」
 真っ直ぐ見つめる視線。
「今のあなたは見てられない。必死になるにも程があるわ」
「――ならどうすればよかった? 仲間を集めた謳い文句を引き下げて、とっとと攻城戦から逃げ出せばよかったのか?
 責任も何も、悉く放り出して?」
 耳が痛い。付き合いの長い彼女にまでそう思われるほど、俺は切羽詰ってたんだな。
 俺にも言い分があった。いや、あった気がしていた。
 今彼女にそれを吐き出そうとすれば、その悉くが弱気めいた愚痴だと判る。
 そんなつまらないものだけ溜め込んで、挙句何の為に砦の主を目指したのか、そんな事すら見失ってしまっている。
「すまなかった」
 俺はただ頭を下げた。多分どこかで、自分でも解っていた。ただ、止まれなかった。
「もう引きとめられるものじゃないのは判ってる。だが詫びだけは言わせてくれ。それから――」
 元気でな。万感の思いで告げかけた俺を、予想外の言葉が遮った。
「どこにも行かないわよ、あたしは」
 思わず見返すと、彼女は当然のように胸を張る。
「だってあなた、あたしがいなきゃ困るでしょ」
 どう返したものか。一瞬返答に詰まったら、
「こ・ま・る・で・しょ?」
 にこやかに両頬を引っ張られた。本気だ。何気に痛い。慌てて首肯すると、よろしい、と手を離してもらえた。
「壊しなさいよ」
 にこやかな朗らかな笑みのまま、彼女は俺に命じる。
「ギルド、ぶっ壊しちゃいなさいよ」

 崩壊を命じる言葉をエンペリムへ告げる。誰に断る必要もない。このギルドの残りは、もう俺達ふたりだけだから。
 目が痛みそうなほど煌いていたその金属は、俺のまじないを受けて砂のように崩れて消えた。夢と同じに。夢のように。
 ため息をひとつだけついて、俺は身体を地面に投げ出す。
 思い切り四肢を伸ばすと、張り詰め思いつめていたものが抜け落ちて、肩の荷が降りた気がした。
 空が青い。天は高い。そういえばこうして無駄に寝転がるのも、随分と久しぶりのような気がする。
「元に戻ったわね。やっと」
 彼女はそんな俺を見て、満足そうに頷いた。
「抱えきれないなら投げ捨てちゃえばいいのよ。文句を言いたい奴には言わせておけばいい。
 あなたの人生なのだもの、最終決定権はあなたにある。そうでしょ?」
 彼女にかかると、世の中はとても簡単だ。そしてそいつは真理でもあるんだろう。
 俺はもう一度伸びをして、それから気になっていた事を尋ねた。
「――結局お前、何をしに来たんだ?」
「最初に言ったわ。挨拶に来た、って」
 寝そべる俺の傍らに、すとんと彼女も腰を下ろす。そっと手が重なった。武器を握り慣れているのにやわらかな、女性の手。
「ふつつかものですが、これからもよろしくお願いします」
 そう言ってから悪戯っぽく、彼女は片目を瞑ってみせる。
「なあ」
「ん?」
「どうして俺が砦を取ろうとしたか、知ってるか?」
「どうして?」
「いいトコ見せたかったんだよ、惚れた女に」
「へぇ。で、誰?」
「ん?」
「惚れた女って、誰?」
「言わないと分からないか?」
「分かるけど、聞きたいな」
 素直に言うのも口惜しい。俺は黙って抱き寄せて、抗わない彼女にキスをした。
187名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/24(土) 04:09 ID:U6Xn6UIo
絶体絶命、ってやつだ。
 ウィザードである男はそう思った。
 グラストヘイム監獄。仲間とやってきたのは良かったが、はぐれてしまったらしい。
 物陰から見ると、そこはモンスター達があふれ返っていた。
 落ち着いて今の状況を考える。まず自分は一人だ。精神力も体力もとりえずは充実している。
 敵は見たところ足の遅いやつらしかいない。周囲に人がいない以上、自分で倒すしかないだろう。
 当然、自分は蝶の羽で退却するという選択肢もある。だが仲間が戦っている以上、それを選択するのは外道に思えた。
 「・・・やるか」
 男は決心すると、物陰から出た。
 「おい、そこの不細工野郎!」
 わざと注意を引くように声を張り上げる。気づいた怪物達は男を追いかけてきた。
 ウィザードが頭でっかちなんて誰が言ったのだろう? 男は自問自答した。
 これほどまでに頭も、体も使わなければならないのに。
 追いかけてくる怪物達との距離を測りながら、男は組み立てられた戦略を実行に移した。
 「クァグマイア!」
 男の力強い言葉とともに、怪物達の足元に泥沼が現れる。これで今までよりもあしらいやすくなった。
 「ファイヤーウォール!」
 さらに男は畳み掛ける。言葉とともに現れた炎の壁に、ぼろぼろの服を着た囚人達が倒れていくのが見えた。
 ここまでは計算通り。男は冷静にカウントする。炎の壁をもう一枚張ると、精神を集中しだした。
 「ストーム・・・ガストッ!」
 炎の壁に阻まれていた残りの怪物達に、身も凍るような吹雪が襲い掛かる。
 ここまでの間、わずか数分。周囲にいた怪物達は全て駆逐されていた。
 「ふぅ・・・。あまり手を煩わせるな・・・」
 男は一息つくと、仲間と合流のために暗く、腐臭漂う監獄を歩くのだった。
188名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/24(土) 14:24 ID:ge45p.HE
>>184
スピーディな手合いの描写がかっこいいですね〜。
クルセ姉さまステキ。そしてがんばれ、剣士くん。

>>186
Gvギルドの崩壊……なにげにリアリティのあるお話ですね〜。
こんな殴りプリ姉さんと親しくなりたい。
189ある鍛冶師の話13-1sage :2004/07/27(火) 20:31 ID:qyKzdlYU
 僅かな軋む音が室内を満たす。
 夜中に目が覚めることは何も珍しい事ではない。
 耳の置くから鳴り響いてくる耳鳴りのような声は、多分きっと、
 昔知っていた誰かの声なのかもしれなかった。

 ゲッフェンのとある鍛冶師の工房二階にて、
 借りている部屋のベットから体を起こすと赤い髪の少女リツカは溜め息をついた。

 まだ日が登るまでには時間が開き過ぎていて、
 差し当たりする事もない。事態の展開を急ぎたくとも、
 今連絡のつかないあの魔術師の事があってはどうにもならない。

 月はまだそう高くなく、
 空気は冷たい。
 ひんやりとした気配にふ、と背筋がぞくっとした。

 窓の外屋根の上、大きな蝙蝠のような影がある。
 月明かりに影になって表情は見えないが、
 それはあきらかに人外の姿であった。

 「・・・・・・・・ッ」

 咄嗟にベット脇に立てかけてある剣を引き寄せる。
 そいつは、その気配に気づくとこちらを振り向いた。
 窓硝子隔てた少し向こうの影は笑ったようだった。

 軽装のままではあったが、ガウン一枚羽織るとそのまま窓を開け放つ。
 大急ぎで履いたのは室内用のスリッパ。
 影はリツカの姿を認めるなり、翼をばさりと広げる。

 屋根すれすれの高さで飛び立つと、一直線に窓の方へ。

 「・・・・・・ッの野郎!」

 鞘から引き抜いた剣の刃で一閃、一陣。
 窓から勢いよく飛び出してすぐ目の前の隣りの屋根へと飛び降りる。
 剣の刃先を急上昇して避けた影は、空中で旋回をするなりそのまま勢いをつけて、
 下降してくる。剣の柄を握る手に嫌な汗をかく。

 きりきりと研ぎ澄まされていく意識は、
 妙に冴えていて。

 「・・・・・・・何をしに来た、お前の狙いはあのアサシンじゃないのか」

 Tシャツの裾から覗く腿へと蝙蝠が視線を落とす。
 濡れたような音と、赤い舌が覗いた。

 瞬時にリツカの頬は真っ赤に染まり、唇を噛み締める。

 「ッ・・・・・、こンの、・・・・・・・」

 意識の暴発。
 噛み締めた唇から声を洩らすと、剣を上段に構えて走り出す。
 次の瞬間世界が反転した。

 「!」

 黒い翼の影と交差する瞬間肩に熱のような衝撃が走る。
 瞬間闇に広がる赤い色に、噛み千切られたのだとリツカが認識すると、
 その体は屋根の上から落ちて行った。

 遠ざかる夜空と、旋回する黒い影がある。

 必死に手を伸ばして何かを掴もうとするが間に合いそうにない、
 ひどくスロモーションに感じる世界の中腕の痛みだけが鮮明で、
 おかしな気分であった。

 鈍い音を響かせながら、幸いな事に工房裏に積み上げられたダンボールの上に落ち
 たらしく息は詰まったものの、そこまでひどい事にはなっていない。
 目の前に積み重なるダンボールの上から慌てて体を起こすと、
 すっと骨ばった手が差し伸べられる。

 「・・・・・・すまない」

 目線を彷徨わせながら手を伸ばせばそこには、
 流石に目を覚ましたらしい鍛冶師が斧を片手に立っている。

 「怪我、してるやないですか」

 声が少し低かった、いつもより。
 響く言葉にびくりとリツカの肩が揺れる。
 本能的に不味い事をしたと思ったのは、何故か。

 「・・・・・・・悪い」

 咄嗟に謝った言葉にリツカ自身が目を瞬かせた。

 「・・・・、ッ」

 鍛冶師が唇を噛んだまま、落ちてくる長い髪を片手でかきあげる。
 目の前の銀色の目が伏せられて、あぁ睫が長いななどとぼんやりとリツカが認識す
 る。

 「ジェイ?」

 思ったより震えた声が出た。

 鍛冶師は起こしたリツカの腕を見ながら、ほっとしたように小さくヒールと呟く。
 両腕をまくりあげた袖を止めているクリップに、呪文を込めたカードが刺してある
 らしい。

 痛みが消え、塞がる傷口だがまだ喪失感と鈍い痺れが残る。

 「・・・・・・ジェイ」

 再度名前を呼ぶと、鍛冶師は答えるように背に庇った。
 目の前にある背中は戦闘向きではない、まだリツカが戦ったほうがマシだと言えた。
 だと言うのに、

 「時間稼ぎぐらいならできます、せやから警備隊に連絡を」

 「何を言ってる!むしろお前のほうが心配だ俺はっ」

 「・・・・ええ格好さして下さいよ、たまには」

 振り返る鍛冶師が知らない人に見えた。
 銀色の眼差しがひどく熱いものに思えて、
 不覚にも、どきりと。

 「っな、っな」

 唇をぱくぱくさせたまま顔を真っ赤に染め上げるリツカに、
 ジェイが柔らかに笑みを浮かべる。

 「ああでも、・・・・その格好大勢に見せるんは嫌かな・・・・・」

 「・・・・・っ馬鹿、もう来てるぞ!」

 黒い影が二人の上に落ちる。
 鋭く伸びた先の尖った・・・・・爪だろうか、
 翼の強い一撃とともに叩きつけられた。
 咄嗟に前に出たリツカに、ジェイが目を開く。

 「オートカウンタァァァァァッ!」

 構えも不十分なままに繰り出した所謂燕返しは、
 弾き飛ばされてしまう。防具もないままにもろに衝撃を食らうが足を踏みしめてそ
 の場に留まろうとする。

 背に居る鍛冶師は、眉を寄せて少女の背中を見つめた。

 「・・・・っ、は、」

 一息分の息を長く細く吐き出すと、息を思い切り吸い込んで止める。
 そうして握り締めた剣の刃先をまた再び宙返りするようにしてターンしてくる影に、
 下から切り上げていく。

 鈍い音共に、剣の刃先が折れた。

 力負けしたのでなかった、剣の刃が持たなかったのだ。
 長い間連れ添ってきた刃が目の前で折れた瞬間、
 受け切れなかった翼の一部が目の前に迫る。
 後ろから引かれた、急激に遠ざかる翼との合い間に体を滑らせてくる影がある。

 白い、シャツの。

 「やめ、」

190ある鍛冶師の話13-2sage :2004/07/27(火) 20:32 ID:qyKzdlYU

 
 小さい頃に誰かに名前を呼ばれて、愛されていた記憶がある。
 家族と呼べる存在が自分にもあった事ぐらいは、何処かに覚えている。

 お母さんと呼べば料理を作る背中が、振り返ってくれたかもしれない。
 お父さんと呼べば剣を振るうその腕を止めて、抱き上げてくれたかもしれない。

 兄と呼べる存在はあっただろうか、姉と呼べる存在は居たのだろうか、
 可愛い妹や、生意気な弟は?
 犬や猫を飼っていただろうか。

 どんな部屋に住んでいただろうか、
 そんな事も思い出せないと言うのに、ただ漠然と、そこには、
 愛されていたと言う実感だけがある。

 それは根拠のない自信だ。

 最後の、あるいは最初の記憶と言えるのは、
 崩れかけた街とそこに佇む幼い自分。
 赤い髪はその頃まだ長かった。

 誰かに庇われていた記憶がある、
 逃げろと言われた気がする。
 けれど自分は逃げるつもりなどなかった、
 守りたかったのだ、それが無理なら、

 一緒に、

 「ジェイッ!!!」

 名前を呼んだ必死に、
 たった一人だけ兄が居た。
 父親も母親も討伐のために家を開けて暫くして、死亡告知が家に届いていた。
 たった一人の兄が、言った。

 『逃げろ、逃げろリツカ』

 首都では騎士団達が必死に攻防を続けていた、
 赤月華(せきげつか)と呼ばれる冒険者たちの集まりも多くの人たちを救っていた。
 けれど、それでも守りきれなかったものがある。

 『お前だけは守ると、約束したんだ、リツカ逃げろ!』

 扉を開け放たれる衝撃、吹き飛ぶ背中、
 白いシャツが真っ赤に染まった。

 走馬灯のような、一瞬の事。

 兄が居た、母が居た、父が居た、友達が居た、
 近所の茶を飲むお婆さんが居た、隣の家には猫のミケが居た、
 沢山あった、大切なもの、

 「・・・・、」

 ふいに頬に涙が伝った。

 「・・・・・・ジェイ?」

 目の前で膝をつく背中はまだ上下している。
 荒々しい息を吐きながらも振り返ると鍛冶師は、
 涙をぽろぽろ零しながら少女のように泣く赤い髪の少女を見つけた。

 「・・・リツ、・・・・・・カさん?」

 普段の印象とは少し違う、ただの少女がそこに居た。

 「っ、・・・・・」

 「・・大丈夫やで?・・・・大丈夫、大丈夫・・・・俺はまだ死んでへん」

 片手で腹部を抑えながら鍛冶師が笑う。
 リツカは折れた剣を持ったまま、鍛冶師を見返す。
 震える指先、怖いと思った。

 「・・・・・何処にも行くな」

 また誰かを失う事が。

 「・・・・・・・・・・、勿論」

 震えるリツカの指先に片手を添えると、ジェイがふっと息を吐く。

 「・・・・・さァ来る・・・で?」

 追撃を続けるように二人の上を飛び続ける影に、
 ジェイが口端を釣り上げる。

 「・・・・、・・・・・・俺は騎士、か?」

 指先に重ねられた熱に、リツカは瞠目する。
 問われた問いかけにジェイの目が細められる。
 血にまみれた指先を腹部から離すと、赤い髪の少女の頬に触れた。

 「それ以外の君なんて知らない」

 目を開いた赤い瞳は、常よりも赤く見えた。

 「・・・・・・・赤月華の風凪ぐ紅蓮の刃、リツカ!いざ参る!」

 折れた刃のまま剣を真っ直ぐに構える。
 ジェイは手を離しながら、眩しそうに見つめる。

 欲しいのはこの騎士だ。

 視界に映る姿を焼き付けるように、鍛冶師は目を開き続けた。




 声を聞きつけて真っ直ぐと急降下して来る黒い影に、
 折れた刃先を真っ直ぐに突き上げる。
 鈍い手ごたえと共に、リツカは眉を寄せる。

 ガリと言う音が首筋に聞こえた。

 「・・・・・リツカさん!」

 そう叫んだ鍛冶師の声にリツカが目を閉ざした。

 首に感じた嫌な痛みは、すぐに遠ざかる。
 今度こそもう駄目だと開いた目線の目の前で、吸血鬼の体が横へと倒れた。
 その体には折れた刃が突き刺さっている。
 と、もう一つ首筋のすぐ後ろに刺さっている短刀がある。

 呆然とするリツカの目の前で、にこやかな笑顔が揺れた。

 「・・・・・・あ・・・・?」

 問い返したリツカの目の前に居るのは、昨年笑顔を広げようキャンペーンで首都な
 どで配られていたスマイルマスクそれである。
 骸骨の印の入ったバンダナを長髪とともに縛り上げた黒のポニーテールは、
 暗殺者の姿をしては居たが、踊るような軽いステップで恭しく頭を垂れた。

 「ハローハロー、ご無事で何よりです。
 こンの、正義の味方のスマイル仮面が現れたからには、
 貴女様には指一本ふれ、させ、マセン!!」

 リツカは眉を寄せて、ジェイを振り返った。
 ジェイはのろのろと立ち上がるとリツカを庇うように、肩を抱き寄せる。

 沈黙が両者に訪れた。

 ピルピルと夜風に紛れて鳥の声が聞こえ、
 腹部を抑えていたジェイが痛みに我に返り、ヒールを繰り返す。
 と、そこで先に言葉を開いたのは暗殺者であった。

 「そんなんじゃ駄目だろう。見せてみな、白ポーションなら沢山持ってる」

 何処から取り出したのか手品のように手を広げてみせると、
 暗殺者はぼろぼろと白ポーションの瓶を落とした。
 慌ててリツカが拾い上げると、暗殺者は一つそれを押し付ける。

 「使いたまえ、君も怪我をしている」

 言われて首筋に手を当てるとうすらと血が滲んでおり、
 それほどの怪我ではないと言いながらも軽く頭を下げながらリツカは受け取った。

 「ジェイ、腹・・・・・」

 受け取った白ぽを半分だけ飲んで、鍛冶師に差し出すと、
 彼は顔を真っ赤に染めて口ごもる。

 「間接キスか、・・・・若いな」

 などと呟いた暗殺者に向って、白ポーションの瓶の蓋をリツカが思い切り投げつけ
 る。手にしていた白ポーションを盛大に音を立ててぶちまけながら、倒れた暗殺者
 にジェイは少しだけすまなそうに視線を伏せた。
191ある鍛冶師の話13-3sage :2004/07/27(火) 20:32 ID:qyKzdlYU
 夜風が吹き込む工房の二階下では、
 取り合えず道の端に黒い影の残骸が花を一輪添えて倒れている。
 花を添えたのは今目の前で鍛冶師の傷に包帯を巻いているスマイル仮面男だ。
 室内に入ったと言うのに仮面を取らない男は、
 鍛冶師の腹を撫でると唐突に呟いた。

 「大きくなったな」

 その言葉に鍛冶師は勢いよく席を立つと、
 後ずさる。巻き終えた包帯の端を抑えながら、盛大に眉を寄せたジェイを見て、
 暗殺者が仮面を取った。

 途端ジェイは銀色の目を見開いて、
 硬直する。

 「・・・・・よー久しぶり。
 覚えているかな、蘭(ラン)だ。
 うちのギルドマスターがモロクのギルドから逃げ出したんでな、
 とっ捕まえに来てるんだ私は」

 片手をひらひらさせながら、残りの包帯を仕舞う相手を見て、
 ジェイがあの時よりも伸びた少し上の目線から、小さく相手の名前を呼ぶ。

 「蘭・・・・?」

 椅子に座ったまま両者を眺めていたリツカは、小首を傾げる。

 「おう、私だ。・・・・・まぁ、運良く生きてたんだが、事情が事情でな。
 色々あって元の鞘に戻ってる。連絡が出来なくてすまなかった」

 「いや・・・・、そんな、久しぶりです」

 声を震わせながら花の名前を名乗った暗殺者に手を伸ばす姿を見て、
 なんとなくリツカは取り残された感を覚えた。

 よくはわからないが二人は旧知の仲らしい、
 よほどの事で会えない時間が長かったのだろう、
 そう判断してリツカは席を立つと瞬きして視線を向けた鍛冶師に言った。

 「俺はもう眠いから、先に寝る、な?」

 「・・・・・あ、はい」

 「怪我、平気・・・・・、だよ、な?」

 「ええ」

 相槌とただそれだけのやり取りに、ふ、と何だか面白くない。
 きゅうと釣り上がったリツカの眉にジェイが瞬く。

 ずかずかと足音を立てて、近寄ってくるのにきょとりとしていれば。

 立ち並んだ二人の鍛冶師の方をぐいと襟を持って引き寄せると、
 僅かに背伸びをしてから唇を掻っ攫う。
 唖然とした鍛冶師の隣りで暗殺者がおおと感嘆の声をあげた。

 「寝る、おやすみ」

 そのまま鍛冶師の答えも聞かずにリツカが行ってしまうと、
 蘭はジェイの事をなにやらニヤニヤしながら見返す。

 「大きくなったな」

 「へ?」

 瞬きしながらジェイが問い返すと、蘭は自分の唇をなぞりながら、
 仮面を腰元に釣り下げた。

 「おやすみなさいのちゅーだろう?ありゃ。
 妬いてくれたんだなー・・・・・」

 その答えに鍛冶師はぶっと盛大に噴出すと、
 慌てて赤い髪の少女の後を追いかけた。





 信じられない事をしたと思っている。
 あれじゃぁまるで子供がお気に入りの玩具を取り上げられた時のような、それだ。
 唇に残る感覚がいやに生々しい、寝ようと目を閉ざしたところで、
 名前を呼ばれて心臓が鳴った。

 「・・・・・・・寝ちゃいましたか」

 咄嗟に引き寄せたシーツの動きを見て、部屋に入り込んで来た鍛冶師が口端を釣り
 上げた。あぁまだ赤い髪の少女は寝付いてはいないらしい。

 先ほどの嫉妬としか形容できない行動を思い出す、
 久方ぶりに死んだと思っていた相手を目の前で見たら、
 確かに一瞬はこの少女の事など忘れていた。

 それが気に入らないからこそ、ああいう真似に出たのなら。

 好かれている、多分、いや、恐らく。

 惚れた相手の嫉妬を喜ばない男は居なかった。

 「・・・・もう寝てしまったンなら、何してもええですよね」

 鍛冶師の声に少女リツカの体が強張る。
 それを笑うように口端をあげたまま、鍛冶師が片手を少女が眠るベットの端に乗せ
 た。キシリと軋む音にびくりとシーツ下で肩が揺れる。

 「キス、とか」

 シーツを上から押さえつけるようにしている片手をそろりと取ると、
 わざとらしく大げさな動作で手の甲に唇を軽く押し付ける。
 鍛冶師の心臓は何処まで許してもらえるだろうか、ただそれだけを案じていた。

 「・・・足りませんか?」

 シーツ下で唇を噛み締めながらリツカが羞恥に打ち震える。
 恭しくされるべき相手は騎士ではなく、姫あるいは守られる側の人間だ。
 守るべき騎士に問いかけながら、鍛冶師が笑う。

 「返答がないなら、肯定と」

 ベットに片膝が乗るとまた軋む音が響き渡る。
 その音にリツカがどうしたらいいかと頭を抱えた。
 覆い被さるような鍛冶師の重さに、リツカはシーツをしっかりと内側から掴む。

 捕まえた手を自分の背に回してから、鍛冶師は少女の隣りに寝転んだ。

 「・・・・・吸血鬼また来たら怖いんで、
 ここお邪魔しますわ」

 適当な理由を言ってから、リツカの背に腕を回して小さくきゅうと抱き締める。
 鍛冶師の言葉にリツカがおずおずと額を鍛冶師の胸に擦りつければ、
 ふ、っと鍛冶師の口元が柔らかく緩み、

 上に気配。

 「いやー若いっていいな、ちょっと感動した」

 上で揺れるポニーテルの端を認めるなり、リツカが体を起こそうとするよりも早く、
 ジェイの手からベット下のスリッパが立て続けに天井に向って四つ投げられる。

 鈍い音を立てて落下する暗殺者を他所に、ジェイは欠伸一つすると何事もなかった
 ようにリツカの肩を抱き寄せた。


192ある鍛冶師の話sage :2004/07/27(火) 20:43 ID:qyKzdlYU
間があきました(´・ω・)
183様>そうでしたか。良かったです。
   ただまぁ把握しにくそうなのは確かなので、どうしたものかなァ

184−185様>強い女の子が大好きです!
      守られてばかりよりは、戦うヒロインの方が心惹かれます。
      聖堂騎士ってことは、クルセでしょうか。
      剣士君の強くなりたいという気持ちがひしひしと伝わりました。

186様>終わりは何かの始まり、ですか。
   (気の)強い女の子が大好きです!
    言葉一つで誰かの背を押せるほど、言葉って重いものですよねぇ。


187様>友人と監獄へ行った時に、ソロでものすごい勢いで焼いていたウィズさんを、
   思い出しました。ウィザードも結構体力勝負ですよ、ねぇ。
193166sage :2004/07/27(火) 22:16 ID:icJF0Mf2
伸びてたから見に来てみれば・・・読みごたえがありそうで・・・ふふ。
停滞してましたから何か投下しようかと企んでましたが、今回は見送ります。

・・・廃れちゃって誰もこのスレ見てない!なんてことはない・・・ですよね?('`;)


>鍛冶師の話様
ジュノーのあの人、であってると思いますよ。
私の文章は他の方々とは趣向の違った内容に傾くので、ここに落としていいものか
どうか疑問なんですけど、また何か書き始めてます。相変わらずヘボですが。
今度は私が張り合わせて貰いましょうか・・・!
・・・嘘です、ごめんなさい。

さて、感想の方をば。
悶え死ぬ程、内容はもどかしいというかなんというかで甘酸っぱいような、
そんな感じでとてもスバラスィデス。私には書けないデス。おみそれしましたorz

あと気になったのは、
『場所』の表現が少ないですね。工房の二階がどんな場所なのか、という部分が
ぽっかり欠落してます。でも指摘するほどの事じゃないかもしれません。

やっぱり人物のやりとりは素晴らしいです。弟子にしt(ry


さて・・・燃え系長編投下の許可を申請します。許可をください。
194名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/28(水) 00:09 ID:DX9olZus
許可する。
195名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/28(水) 01:31 ID:h/Li5SNs
むしろ投下してください、じゃないと吐血しつつ追いかけます(怖)。
196名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/28(水) 02:31 ID:diL1/IYE
ノシ きょかーきょかー
 でも、今回は最初にメインタイトルを決めてくださいね(笑
197どこかの166 リレー 上水道地下一階sage :2004/07/28(水) 09:40 ID:U7Qd6096
「いつも思うのだが、闇と言うのは本来恐れる事など無いと思うのだ」
 人に化けたオークロードは感慨深そうに呟く。
「深い深い闇。これこそが魔族の源だと思うのだが……人と争うのはもしかして闇をどうとらえるかの違いなのかもしれぬ……」
「闇をどうとらえる?」
 名前にまでその闇がついている深淵の騎士が首をかしげる。
「我らには居心地のよいこの闇。
 だが、人は見えぬこの闇は恐怖でしかないのではないのだろうか。
 光を求める人と闇を求める我ら……永遠に争うのは宿命かも知れぬな……」
 感慨深く誰に言うわけでもないオークロードの独り言は誰もいない上水道の壁に響きながら闇に消えていった。
「詩人だな。ロードよ」
「永く生きているとこんな芸もできる。戦だけの頭では無い。
 それより、ドッペルよ。気付いているか?」
「ああ。この闇は我らの闇とは違うな」
 ママプリに罵倒されていたとは露知らず、高位魔族の派遣は確実に魔族の知らない上水道を暴き立てていった。
「闇が……違う?」
「我らを見れば来る筈の下位魔族が誰もいない」
「人に化けているからでは?」
「我らぐらいの魔族になると化けても隠しきれるものが多い。人間ならともかく同属ならばれる」
 深淵の問いにドッペルが説明してみせる所にオークロードが割り込んだ。
「人間どもに駆逐されたとか?」
「それは無いな。人が下位魔族を殲滅する事はできぬ。
 人間の殺傷能力より下位魔族の誕生能力の方が上回っているからな。今は……」
 ロードの問いかけに対する反論にしては、『今は』の言葉が小さくなるほど魔族が追い詰められているのをドッペルは無意識に出してしまう。
「ここは廃墟だな。人も魔族も住めぬ」
 オークロードがあっさりと言ってのける。
「気になっていたのですが……騎士団が上で踏ん張って、かなりの冒険者も上水道に入った筈なのに誰もいませんね……」
「ここの元住人もな」
 言外に魔族も匂わせてドッペルが床を見る。
「死体が無い。人も魔族も。本当にここにダークロード様はいるのですか?」
 深淵が不思議がる。
 上水道にGH戦力が投入されたとバフォメットから報告を受けた時はアノリアン、ガーゴイル、スティング、クランプ等もついていたはずだ。
 彼らの死体すら無い。
「バフォメットの誤報か?」
 ドッペルの疑念にオークロードが否定する。
「それは無いだろう。それならば、我らが攻めた時にプロンテラ城内に騎士団は篭城している。
 長期篭城ならまだしも、篭城して我らの攻撃を弾くだけなら血を流して上水道を守る必要など無いはずだし、我らが長期攻撃等もはやできぬ事は人間どもの方が知っているはずだ」
「待ってください!足音が!人間の足音が聞こえます!!」
198どこかの166 リレーsage :2004/07/28(水) 09:47 ID:U7Qd6096
地下は手を出さないつもりでしたが……魔族サイドにまったく情報が流れていないので、潜入魔族の三人を動かしてみたり。
一応、魔族側が全てを知った時にアルベルタからの船団が援軍としてやってくる予定。
リレー参加者の皆様。がんばれ〜〜〜〜
199('A`)sage :2004/07/28(水) 23:01 ID:y/4rpN5U
 薄汚れたドレスに身を包み、泣いている誰かの姿を、彼はじっと見つめていた。
 とめどなく流れ出るその涙を拭う事も出来ず、
 少年は、身に穴を穿つ様な痛みに耐えながら、
 ただ、見つめていた。

 泣かないで。

 口に出した筈の言葉は形にならず、また、彼の口が動く事もなく、
 言葉をかけることも叶わず。
 薄暗い、何処か―――冷たい場所。牢獄の様でさえある、闇。
 その中で嘆く女性の姿は美しく、何処か神々しささえ感じさせた。たが、それでも、やはり。

 泣かないで欲しい。

 少年はただ、漠然とそう願っていた。
 胸を突く痛み。伝播する悲しみ。意味の分からない感情が、彼女の嘆きを許容しない。

 どうすればいい?どうすれば、貴女は笑ってくれる?

 自問と反芻。やがて少年は嘆きの女性の向こうに光を見る。
 青白い光。
 半透明な球体をしたそれは、まるで―――
 思考を遮り、球体の前で嘆いていた女性が声を上げる。少年へ向けてか、それとも別の誰かへ。

 聞こえない・・・聞こえないよ。

 視界が白ける。やがて終わるビジョンの中で、少年は微かに聞いた。彼女の声を。
 悲愴に満ちた声を。


Ragnarok Online Side Story "Confrontation of fate"


 ゴッ。
 そんな音が響いた。
 あちこちから笑い声が上がり、自分の頭蓋の鳴る音を聞いた少年は意識を現世へ呼び戻される。
 朦朧とする頭を回転させ、自分の状況を思い出し、顔をゆっくりと上げた。
 そこには笑顔があった。但し、微妙にこめかみの辺りをひきつらせた笑顔だ。
「お、は、よ、う、リーゼンラッテ君」
 ルイセ=ブルースカイ。剣術の教師だ。
 教師というにはあまりに幼い容姿をしているせいか、印象も強く、少年ははっきりとその名を思
い出す事が出来た。
 同時に、今が授業中なのだという事も思い出す。
「すみません・・・寝てました」
 十人弱しかいない剣士ギルドの教室内に、また笑いが巻き起こる。
「それは分かっています。どんな夢だったのかなぁ?」
 眼鏡の奥の大きな瞳をすぅっと細めて、愛らしい金髪の教師が問う。
 叱られるわけではないらしい、と楽観した少年はつい正直に口にした。
「女の人の夢で・・・・・・ごえっ」
 刹那、少年は再び机に突っ伏す。
 ルイセの刀の鞘が、後頭部を直撃したからだ。思えば、起こされたのもこんな衝撃だった気がする。
 恐らく、いや、違いない。
「・・・いい度胸だって誉めてあげたいけど、先生ちょっと怒っちゃったぁ〜」
「ぢょっどじゃないぎがじまず・・・」
 ギリギリと後頭が加圧される。
 鈍痛に耐えながら、彼―――ナハト=リーゼンラッテは先程の夢を思い起こしていた。
 毎晩の如く彼を悩ます悪夢を。
(来るな、って・・・彼女はそう言ったんだ・・・でも・・・)
 何処に?

 

『嘆きの夢と少年 1/2』



 ナハト=リーゼンラッテは剣の苦手な剣士だ。
 彼は、同期の剣士達の間に張られたそんなレッテルに違わない少年だ。
 ごく平凡な家の出で、既に他界した両親もごく平凡な人物だった。
 ただ、残された取り得のないナハトにとっては『冒険者』という身分は魅力的で、
 その中でもとりわけ『剣士』という職業は、極めてイージーな試験さえクリアしてしまえばなれてしまう。
 特別な才能を必要とせず、剣さえまとも握れればいい。
 だから彼は剣士になった。その後・・・・・・生計を立てるために冒険をしなくてはならない、というのは念頭
になく、取り敢えず剣士になったのだ。腕が貧弱なのは当然である。
 容姿凡庸中身貧弱。
 それがナハト=リーゼンラッテだ。

 ルーンミッドガッツの首都『プロンテラ』の衛星都市『イズルート』。
 都市というには規模の小さい街だったが、この街は交易と海路に長けた地理にある。故に、規模の割には
活気のある港町だ。錬度の低い冒険者に人気のある『バイラン島』への船も出ている。
 ナハトはこの街を生活の場としていた。とはいっても、小さな宿の部屋を間借りして細々と暮らしている程
度だ。剣の勉強と称して剣士ギルドに通いながら、国の冒険者支援制度に便乗してなんとか糧を得ている。

 三時を回った頃、ナハトはイズルートの橋の前にマント姿で立っていた。
 居眠りの罰として、ルイセの買出しに付き合わされる事になったのだ。
 しかし、彼の関心は別に有った。もとい、最近は『その事』しか考えていない。
 夢。
 美しい女性が、何処か薄暗い場所で泣き続けている夢。
 その夢を見始めるようになってから、もう随分経った。それでも、何か特別な事が起きるわけでもなく、御
伽噺や伝承のような事象が身に降りかかるわけでもない。
(・・・・・・所詮、夢なんだよな)
 真面目に考える方がどうかしているのかもしれなかった。
 ふと、ナハトが顔を上げると、茜色に染まった橋に歩く人影があった。
 精悍な顔立ちに、力強い体つき。逆立った赤毛と鋭い眼が印象的なその少年は、ナハトの前まで来ると眼だ
けを動かして彼を見た。それから、ぶっきらぼうに言う。
「ナハト=リーゼンラッテ・・・テメェもルイセに呼ばれたのか」
(ガルディア・・・ガルディア=ルーベンス・・・)
 自分とは全てが対照的な剣士。その名前を思い出し、ナハトは苦笑した。
「ははっ。僕はとにかくとして、ガルディア・・・何やったんだよ」
「・・・模擬戦で五人遊んでやっただけだ」
 言われて、ナハトは授業中に修練場をアコライトが駆け回っていたのを思い出した。
 暴風雨、戦鬼、逆毛の悪魔。
 同期の剣士からそんな風に呼ばれているガルディアなら、やりかねない。
「・・・そっか。僕は居眠りだけどね」
 とはいえ、ナハトには縁の無い話だ。模擬戦成績が第一位の剣士と、仲良く買出しの手伝いをするだけの事。
「相変わらず覇気のねぇヤツだぜ・・・テメェ、本当に剣士かよ」
「・・・ほっといてくれよ」
 情けなく垂れ下がった黒髪を乱しながら吐き捨てるナハト。
「言われなくても弱ぇヤツに興味はねぇさ」
 くっく、と喉を鳴らすガルディア。
「それとも、テメェが俺を楽しませてくれるってのか」
 ガルディアのブーツが砂利を踏み締める。既に手は腰のカトラスの柄に伸びている。
 頑強な刃を持つ、海賊御用達の剣。それだけではなく、ガルディアは買出しにはおおよそそぐわしくない鎧
と肩当てを着込んでいる。
 対して、ナハトはマントの下に中振りの剣を隠し持っているが、それだけだ。
 勝ち負けというレベルの話ではない。
「冗談言わないでくれ」
 ガルディアの挑発を無視し、踵を返すナハト。ガルディアも興を削がれてか、カトラスから手を離す。
「だからテメェには興味がねぇんだよ・・・腰抜けが」
「なんとでも言えばいいさ・・・」
 ガルディアから視線を外したナハトが再び夢への思考へ沈みかけた時、
「何険悪になってるの、そこの最下位と一位のコンビ」
 長い金髪を揺らしながら、若い女教師がやってきた。
 小さな丸眼鏡と控え目に結ばれた赤のリボン。ナハト達よりもずっと小柄だというにもかかわらず、身長の
半分ほどもある太刀を佩き、鎧ではなく普段着ているスーツ姿のままだ。
「勝手にコンビ扱いすんじゃねぇよ!」
「僕が誰とコンビですって!?」
 同時に非難の声を上げる少年剣士達に微笑みながら、ルイセはそのままプロンテラへの道へ歩いていく。
「足して二で割ったら丁度いいのね。特に、成績とか」
 あっさりと投げられた言葉に、ナハトはがっくりとうなだれた。


「そういえば、先生とこんな風に話すのは・・・初めてですね」
 不意に呟くナハト。白ポーションの値札と睨み合いをしていたルイセは顔を上げ、頬を緩める。
「そう言われてみれば・・・そうだね」
 夕暮れのプロンテラの露店通りの活気に混じり、若い剣士と教師は品定めしていく。
 ガルディアは肉商人との交渉を任され、今はルイセとナハトの二人だけだ。ギルドの教室では毎日顔を会わ
せるが、二人きりというのはこれが初めてだった。
 若い剣士達の間では、ルイセはちょっとしたアイドル視をされている。意識してみれば、ナハトにとっても
成る程、魅力的ではあった。途端、貧弱軟弱と罵られるこの少年にも緊張に似た感覚が訪れる。
 色々と露店を見て回るルイセはご機嫌だ。先を歩く足取りも軽く、楽しげではある。
 教師といっても歳はあまり変わらないのかもしれない。ナハトの知る所ではなかったが、そう見えるのは確
かだ。
(・・・二人きり・・・いや、深読みするのは早計だ・・・でも・・・・・・いや、ガルディアも居るし・・・)
 或いは、邪な考えが浮かぶであろう局面でも、ナハトはただ悩んでいた。
「・・・リーゼンラッテ君?」
「は、はい!?」
「あはは・・・そこの白ポーション買っておいてね」
 いつの間にか露店の一つに狙いを定めたルイセに追いついてしまった。
 自分の間抜けさに苦笑しながら、商人に代金を払い、ポーションを受け取る。
「リーゼンラッテ君っていつもフラフラしてる感じだね。そういうのって良くないよ?冒険者なんだし」
「は、はは・・・気をつけます」
 人差し指を立てて頬を膨らませるルイセ。平謝りするナハト。
 やはり、生徒と教師。

200('A`)sage :2004/07/28(水) 23:02 ID:y/4rpN5U

 そう。何も変わってなどいない。
 買出しが終われば、また夢を見て、明日になり、ギルドへ通って、剣術の勉強をして。
 そうやって、のらりくらりと冒険者になっていくだけの生活に戻る。
 ナハトはそれでいいと思っていた。
 嘆く誰かの夢の事を考えながらも、何も出来ない自分を知っている。
 何も起きない。
 そう思っていた。


 日が落ち、沢山の肉を抱えたガルディアと噴水前で合流してから、ルイセは不意にナハトへ便箋を差し出す。
「何ですか、これ?」
「買出しの仕上げ・・・っていっても、私事なんだけど。騎士団に居る人なら誰でもいいから渡してきてくれない
かな。その後でジュースおごったげる」
「・・・ええ、いいですよ。お安い御用です」
 宛名も何も書かれていない白い便箋を眺めてから、ナハトは軽く頷く。
「騎士団か・・・俺も行っていいかよ」
「駄目。ルーベンス君は血の気多いから。ここで私と待機」
 言われ、ガルディアも閉口する。さすがに騎士団員に喧嘩を売るとは思えなかったが、ルイセの判断は賢明
だろう。ナハトは買った品物をガルディアに渡し、夜の騎士団への道を歩き出した。
 手紙を届けるだけの簡単な用事。
 すぐ、終わる。



 プロンテラで大規模なテロが始まったのは、この数分後の事だった。
 



 プロンテラ城の一角。
 荘厳な空気が漂う廊下を、足早に歩く魔術師が居た。
 厚手のマントを羽織り、動きやすく詠唱動作を妨げないレオタードに身を包んだ女ウィザード。
 まだ少女の面影を残した容姿だったが、その表情は冷淡に固められている。
 歩みも堅く、鋭い。
「エスリナ様!」
 呼び止められ、振り向く。何処か動きのぎこちない女兵士が、重そうに槍を抱えて駆け寄ってくるのを見て、
 エスリナと呼ばれたウィザードはようやく表情を崩した。
「レティシアか・・・しばらくだな」
 エスリナのよく通る声に、兵士は嬉々として敬礼する。
「北伐の成功、おめでとうございます!」
「あぁ・・・無理に堅い言い方をしなくても良い。それに私はヌーベリオス様の従者として同行したまでの事。ね
ぎらいを受ける謂れはないぞ、レティシア」
「あはは!謙虚ですね、エスリナ様!あ、そのカエサルセント公から文です」
 おずおず、と女兵士の差し出した文書を受け取り、礼を述べたエスリナはすぐに眉をひそめる。
「・・・北伐から間もないというのに、あの方はもう次の任務に就いておられるのか・・・」
「はぁ・・・多忙な方なんですねぇ」
「そうだな・・・尊敬するよ、全く・・・」
 文書を片手に溜息を吐く。とはいえ、差し迫った仕事がなくなるわけもないのはエスリナもレティシアも同じだ
った。
「では、エスリナ様!私は門番やってきます!」
「ああ。伝達ご苦労。また今度、食事にでも行こう」
 バタバタと駆けて行くレティシアを片目に、エスリナは文書に目を通す。
「・・・フロウベルグ枢機卿の息女?プロンテラ城に来ているのか」
 護衛。
 文書は端的に意訳するとそんな内容だった。
 プロンテラ軍、エスリナ=カートライル少佐は踵を返すと、そのまま枢機卿の娘が居るという部屋を目指した。


 ナハトは目の前の光景を理解しなかった。
 出来なくはなかった。第一、冒険者という選択をした瞬間から、何度も聞かされ、学んできた。
 知識としては知っていたし、別段、自分に限って有り得ないとも思っていなかった。
 ただ、想像の中と現実での直面は衝撃の桁が一つか二つ違う。
「・・・ぅ・・・・・・ぁ」
 腹にトライデントを生やした商人の娘が倒れ、口を開閉させていた。
 悲鳴や叫びも上げられないのか、涙を流し、口からは血とか細い呼吸を漏らすだけだ。
 夜道に他の人影はない。誰も居ない。
 自分が助けなければ―――死ぬ。
「・・・おい、キミ!しっかりしろ!」
 我に返り、商人を助けに走るナハト。
 彼は判断を誤っていた。
 被害者が居るのならば、必ず加害者も居る。状況からして、まだ近くに。
 駆け出したナハトの傍、路地の闇から影が躍り出る。
 その手には―――三叉の槍。
(!・・・しまっ・・・)
 反応が遅れ、襲撃者の後手に回る。突き出された槍の切っ先が肩をかすめ、未熟な剣士を痛みが襲う。
 咄嗟に逃げ下がり、ナハトは血の滲む肩をかばいながら相手を見た。
 湿った表皮。或いは鱗。
 魚類を思わせる顔は、大きな眼と口があるだけ。口に覗く鋸のような牙が、闇に光る。
「魔物・・・だって!?街中なのに・・・!」
 それも首都に。
 何故?何の為に?
 それを考える暇を、この魔物は与えなかった。
 トライデントを片手にナハト目掛けて突進する魚人間。
 幸運にも、ハエの羽は―――危機を脱するアイテムは、ある。
(でも・・・ここで逃げたら、あの商人の子は・・・・・・)
 痛む自分の肩の傷と、今にも絶えてしまいそうな商人の少女の命。
 突き出されたトライデントを、マントの下から抜いた剣の鞘で受け止めるナハト。
 だが、魔物の力は今までナハトの体験した次元の比ではなかった。押されども、押し返す事が出来ず、その場に倒
れ込む。それでも魔物は力を緩めない。獰猛な三叉の槍を、彼に突き立てるまで。
「畜生・・・何なんだよ・・・何なんだよ!」
 逃げるか、戦うか。
 突然差し迫った選択の時に、訳も分からず、少年は叫び声を上げた。

 
201('A`)sage :2004/07/28(水) 23:06 ID:y/4rpN5U
今晩は。許可いただけましたのでコッソリ投下。
異様に長くなったので半分以上削ってみましたら、今度は短くなってしまいました。
しかもなんか乱文が悪化してる気が・・・ダメダメデスネ。

コソコソと投下してまた勉強させて頂きます。
では、また。
202ある鍛冶師の話sage :2004/07/29(木) 10:49 ID:NtNldx5U
うあ、なんかキターーーーーーーー!

 下水小説キター!神キター!

('A`)様>こんにちわ、青春のほろ苦さを感じていただけたら幸いです(ぇー
    やはり情景描写が登場人物の感情のやり取りが多くなると、ぬけがち。
    ですよねぇ。そうなりがちなところがあるので、もう一度見直してみます。
    誉められちゃった(*ノノ)死ぬほど嬉しかったですありがとうございます。

    張り合って下さいYOというよりも、張り合うほどの能力が僕にあるのか、
    その辺りが不安すぎてもうあれですが。やはりこうやってまた貴方の書かれた
    文章を見るだけで、なんだかぞくぞくとくるものがあります。
    伝記物のようなあるいは、ソノラ○文庫のような文章を書きますよね。
    ただやはり削ったというだけあって、場面と場面のつながり始めはいいのですが、
    魔術師の話からナハト君の話に戻る時に唐突のような。
    あるいは、テロの話に持っていくのなら、
    テロが起こったその一文の直後からその話を書くべきか、
    そのあたりの場面のつながりがちょっと違和感をば。
    偉そうにすいません、大したことないのかもしれません。
    描写もテンポ良くむしろ続きは!続きは!?


    コソコソしないでください。引きずり出しますよヽ(`Д´)ノ

203名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/29(木) 11:42 ID:F94U00VM
>>('A`)氏
おー新作ですね、まってましたよ〜
さてさて、この剣士君がこれからどういう活躍をしてくれるのか
楽しみですね(・∀・)b
204何個か前の201sage :2004/07/29(木) 13:11 ID:GsfY9K5.
祝・赤リボン復活!

最近書けない・・・
主人公をさくっとクルセイダーに転職させて第二部スタート・・・って準備してたんだが
某アニメがまんまその流れだったもんだから使い辛くなってしまった。どうしたものか・・・
('A`)氏の作品の様に本文中に転職を組み込めれば格好良いのだが、そんな技量はないし
と、愚痴っても仕方ないから続き書いてくる
・・・あ、誰も待ってねぇか?なら載せる必要もないな・・・ははは・・・はぁ
205名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/29(木) 14:38 ID:fglnXd0g
なんか('A`)氏新作キテルーーーーー!?

セシルたん復活(・∀・)イイ!!
20693@NGワード用sage :2004/07/29(木) 14:43 ID:lIkH9Pf.
保管の仕事サボって書いてる奴も帰ったら投稿していい?(´・ω・`)
207名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/29(木) 17:30 ID:EzW1/d.I
許可する
208SIDE:A 憂いの騎士(1/2)sage :2004/07/29(木) 20:33 ID:lIkH9Pf.
 93です。お目汚し失礼。前回のコラボに続き、今度の長編でもちょっと変な試みをしようとたくらんでいます。

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 くだらねぇ。つくづく、くだらねぇ。

 自分の周りに煌めく『最強』のオーラを眺めると、俺は汚物のこびり付いた汚い壁に蹴りを入れた。俺の所構わぬ八つ当たりにもすっかり慣れた愛鳥は、俺のほうを見向きもせずに欠伸をしていやがる。

「ブレイドさん、さっきお話したとおり…」
「ああ、わかってる。奴を見つけたら手出し無用…、足を使って取り巻きと引き離せばいいんだろ」
「はい。あとは私たちが始末しますので」
 ストレートの黒髪に化粧気の少ないテスラと言う女プリーストが、清楚そうな外見に不釣合いなほど油断の無い目で、その手に握りこんだ青い魔石にかちゃかちゃと音を立てさせる。この前にゲフェン塔に回った時には確かに、彼女は一個や二個握ってたんじゃあ足りないくらい、恐ろしい速度で呪文を打ち込んでいた。
「レアが出るといいな、旦那」
 けらけらと笑いながら言う優男は、その聖職者の連れの吟遊詩人だ。名前はエルメスという。長い茶髪を後ろでまとめた女のような見かけによらず、恐ろしく打たれ強いそいつの歌声のお陰でテスラはあの異常な高速詠唱が可能になるらしい。
「そんな馴れ馴れしい呼び方はおよしなさい、。…ブレイドさんのお陰でボス狩りが安定します。本当に、感謝していますわ」
「狩りか…、確かにこれは戦いではなく、狩りだな」
「え? 何か…気に触りましたか?」
 …気にいらねぇ。何もかもが。

「……時間だ。二人とも、気張るんだな」
 俺はそれだけ言うと、愛鳥に飛び乗る。二人がそんな俺をじっと見ていたのに気が付いたのは、奴らが角の向こうに消える間際だった。


 愛鳥は苛立った俺の気分を奮い立たせるように、素早くトップスピードに乗った。グラストヘイム地下墳墓の外周を飛ぶように駆け、今日の獲物のダークロードの姿を追い求める。のろくさと這いずる死体は無視。死骸に沸く赤い肉食蝿は、進路にさまよい出てきたのだけ、槍の柄で叩きのめす。
「…ボス狩りかっ! 糞っ」
 まだ駆け出しらしい男の聖職者が、捨て台詞を吐いてテレポートした。気分は分かる。俺もわざわざ関係ない連中を巻き込もうとは思わないが、不用意に近づいてくる連中の事を気遣うほどお人よしでもない。

 ……いつから、そうなったのか。


 外周を巡りきった俺の耳に。数名の悲鳴が聞こえてきた。ここでそんな悲鳴を上げさせる存在と言えば。
「ダークロード…内側に沸きやがったか!」
 俺が指図するよりも早く愛鳥は尾羽を逆立て、ほとんど直角にコーナリングするとカタコンベの内周へと突入した。やはり、そこにいやがる。ペコに乗った俺よりもでかい、まさに聳え立つ糞だ。…そして、その周りにもダークロード本体によく似た姿の取り巻きが数体。判に押したような動きで、一斉に俺のほうへと首を回してきた。ペコがくええっと戦いの雄叫びを上げ、俺は左手の中指を立てて突き出す。それが、レースの始まりだった。俺の生死を賭けた、くだらないレース。

 しばらく引き回すうちにダークロードが呪文の詠唱に足を止めたら、俺は取り巻きだけを引き連れてひた走る。十分に引き離したら、手の中の蝿の羽を握りつぶして跳躍。一匹になった闇の王は、いつものように、さっきの二人が叩きのめすだろう。すっかり定型化した、お決まりのパターンだ。
「HAHA!」
 引き離されたダークロードの嘲笑が聞こえる。奴は俺よりも強い。それは確かだ。戦えば間違いなく敗れるだろう。…戦いを挑みかけておいて一騎打ちもできぬ、へたれた騎士。それが俺だ。笑われても仕方がない。
209SIDE:A 憂いの騎士(2/2)sage :2004/07/29(木) 20:33 ID:lIkH9Pf.
 俺は、いつもの仕事を終えると二人にもう一度合流し、横に沸いて二人の邪魔をしそうな死霊や闇の司祭を屠り、ダークロードの注意を引く。カウンターで薄手を与え、奴の打撃を防御優先の手槍+盾装備と白ポーションで凌ぎつつ、テスラの対魔方陣が奴を打ち倒すまで耐える。……最強の光を身に纏ったとはいえ、素早さだけが売りの両手剣騎士の俺にできることは、それくらいだ。
『ゲハハハハハ…』
 そんな俺を笑いながら、方陣に巻き込まれた死霊が宙に消えていく。雑魚どもが消える中、ダークロードは杖を振る。投げやりに。そして、何度目かの対魔方陣で無限にも見えた奴の耐久力も限界に来たらしい。
「……」
 現界にいるべき魔力を失い、魔界へと戻る闇の魔王と目が合う。奴は、嘲るような、哀れむような…。

 否、心底退屈そうな目で、俺を見ていた。

 がらんがらん、と奴の持っていた杖が転がり、テスラが歓声をあげる。だが、俺は喜べなかった。ダークロードは消え去る瞬間、俺を見て杖を投げ捨てたのだ。施しか。敵たる魔族に。情けなさに反吐が出る。それでも俺は、この世界で騎士であることを手放せない。

    何のために?

 最強になるために、ここまでやってきた。しかし、人として極めた剣で魔族の王に勝てるはずがない事は、剣を磨き始めて早々に、先人の声や、書物などで知ることとなる。…あるいは、伝説級の武具をそろえれば話は違ってくるのかもしれないが。かつて共に剣を磨いたものの多くは、一人で得られる力に見切りをつけて今の俺のようにパーティの道具として生きるか、あるいは人にその剣を向けて人界最強の座を得んとした。俺はまだ…、まだ、騎士になった時の思いを捨て切れていない。騎士の剣は、魔を討つためのものだ。そうだったはずだ。
 最強を欲した。そして、力を得た。そのはずなのに、その力を振るおうとも勝てぬ敵がいる。後ろに護るべき仲間がいるから、敵が強大だから。そんな理由を見出して、全力を振るう前から諦める。それが俺の姿だ。

「骸骨の杖…ですか、売ればそこそこになりますね」
「ダークロードでこれならいいんじゃない? ブレイドの旦那、今日は俺たちついてるぜ」
 魔王が俺たちに倒されて見せるのも、総て茶番だろう。奴等はそもそも死力を尽くしてなどいないのだから。俺たちが『狩り』と称して奴に挑むのを、奴等も遊びで適当にあしらい、土産を添えて送り返す。奴等からすれば、俺たちは所詮遊びに来るコドモ扱いなのだろう。お互い、本気ではない馴れ合い。くだらない…。こんな現実を見るために、俺は最強を目指したわけじゃない。

「……すまんが、疲れた。先に戻ってくれ」
 二人の喜びに水を差しのはわかっていたが、俺の声は暗い。奴等はお互いにちらっと目を合わせると、肩をすくめた。
「おつかれさん、旦那」
「本当に、お疲れ様でした。分配金は後ほどまた、ご連絡いたしますね」
 転送法円に二人が消えるのを見送り、俺は一人じめついた地下墳墓に残った。…もう、総てが飽き飽きだった。せっかくの墓場だ…ここで死ぬのも悪くはない。

     くえぇ?

 怪訝そうな鳴き声が、俺を呼び戻した。
「…そうか。お前を巻き添えにするわけにはいかんな」
 騎士叙勲を受けてすぐに俺のものとなった愛鳥。厩舎に胸を躍らせて行ったあの日に、こいつが俺を選んだ。幾度も共に視線をくぐった友を、こんなところで果てさせるわけにも行かない。俺は蝶の羽を手にとってから、……しばし考える。
 今これで戻ったら、先に戻った連中にあれこれ聞かれそうだが、それもうっとおしい。いや、むしろ気恥ずかしい。しばしの逡巡。股下のペコが、問いかけるように俺を見上げてくる。

 苦笑しながら、俺は修道院へ向かうように愛鳥を促した。まだもう少し、戦いの日々に身を置くために。
210名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/29(木) 20:34 ID:lIkH9Pf.
 93です。お久しぶりです。
とあることで、感想だけで長文マズーと思ってしばらく控えていましたが、今回は
大手を振って感想できますね。
>鍛冶師さま
 段々<s>調子に乗</s>強気になるジェイ君がはじめてのお付き合いの中学生の
ようでほほえましく。リツカさん、そのまま押し切られたり…するのかなぁ。
しそうだな…。

>166さま
 下水、久しぶりです。なんとなく、下水脳が停滞気味のひびなのですが、スランプは
一斉に訪れるのでしょうか…。577氏や丸い帽子さんも最近いらっしゃらないですし
(丸帽氏は某鯖監獄で時折お見かけしますが(爆
 低調のときこそ、活力を入れてくださるのは嬉しいです。

萌え反応炉]<サァ ツベコベイワズニ ヒヲイレロ!

>('A`)さま
 メインタイトルの早期設定ありがとうございます。保管が楽にっ。とりあえず
セシルたん? ばんざーい。世界が共通って事はあの人とかの登場も期待!
期待を裏切ったらおしおきですヨ(嘘

>某201さま
 おひさしゅう。スランプは誰にもあり、それを超えられる方は立派だとおもう
今日この頃。時間はかかっても、書きたいときに書きたいものを届けていただくのが
何よりだと思います。ガン(`・ω・´)バレ

>207
 許可、感謝いたしますっ 責任とってくださいねっ
211SIDE:A 戦いへの誘い(1/2)sage :2004/07/29(木) 23:53 ID:lIkH9Pf.
誰の感想もレスも無いうちから再爆撃。つまんないからスルーしている人向けに名乗っておくと、93です。

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 地下墳墓から、カタコンベにあがる階段を上る。その俺の横をすれ違うように一団の冒険者が通り過ぎていった。
「…なんだ?」
 くえぇ?

 俺たちのどちらの声に反応したのか、一人の女ウィザードが俺のほうを見て息を呑む。
「…オーラ騎士様!? 助けて…っ トモダチがっ」
「……」
 彼女が立ち止まる間も、他の連中は一目散にカタコンベを目指していく。どうやらこの娘の連れというわけでもないらしい。この数の連中が全員逃げ出す程の敵など、修道院には…、いや。
「…ダークイリュージョンか」
 こくこくと頷く女に笑み一つ返さず、俺は両手剣を鞘に戻して手槍に持ちかえた。まずは様子見に一当て…。相手の実力の程を見るのが一騎打ちの教科書的な作法だ。…それが通用する相手かどうかはわからんが。
「……助けて、くれるの?」
「助けようと努力はする。助からずとも運だな」
 冷たく言い放った俺の前で、女は杖を持ち直す。無駄な助力…と言いかけて、俺は口を閉ざした。この娘の目に浮かぶ、友を守るための信念は俺よりも強いのだから、俺が何を言う資格もない。空いた左腕で女の腰を掬い上げ、彼女が一つ息を呑む間に自分の前に乗せた。
「行くぞ、手を離すな。…近づくまでは乗せてやる」
 鞍の前の横座りでは居心地は最悪だろうが、下ろす時のことも考えるとその方がいい。
「…ありがとう」
 か細い声には返事をせず、俺はペコを駆った。先からは大魔法と思しき爆音が響く。あの音が途絶えるまでは…、この女の連れにも望みはある。

 レースの再開だ。違うところは、今度の賭け金は俺のではなく、他人の生命だということか。俺が埒もない事を思う間にも、乗騎はさっきと同様に動く死体や闇に魅入られた司祭を振り切って駆ける。すぐ前で女が身を左右によじると、進路上に現れた雑魚が炎の壁に焼かれて落ちた。
「これくらいしか、できないけど…」
「上出来だ」
 気まぐれに褒めるとこんな時だと言うのに女は笑みを浮かべた。

 細い通路が広がるところに、奴はいた。そして、その前にまだかろうじて立っている人影。
「シェール! 無事ね?」
 女の声に、ボロボロの僧衣に身を包んだ男が顔を上げる。
「ナッツ!? 何故戻ったんで… うっ!」
 男が跳び退った直後、彼のいた場所に魔力で呼ばれた隕石が落ちる。天井があろうが、魔法の前には余り意味があるものではない。直撃は避けたとはいえ、シェールと呼ばれた男は破片や衝撃でよろめき、膝を突いた。致命傷を避けえているのは、男の魔力の高さによるのだろう。
 よく見れば、法術で魔族にも薄手を与えているらしい。間合いを取って交戦しながら、二次災害を防ぐべく人通りのないここまで連れ出したのは、近接戦ができない支援プリーストにしてはよくやった、と言える。だが
212SIDE:A 戦いへの誘い(2/2)sage :2004/07/29(木) 23:54 ID:lIkH9Pf.
「…下りろ」
 ひゅん、と槍をひねると束の間の乗客はペコの湧きを滑るように降り、相棒の下へと走った。それを、ダークイリュージョンは手出しせずに見過ごす。…思ったとおりだ。
「…騎士殿。助力感謝」
 聖職者がなんとか連れの肩に縋って立つ。
「援護するわ!」
 その横で、女魔術師が声を上げるのを俺は冷めた目で見た。
「…無用」
「え?」
「俺は、護る戦いはできん。足手まといは不要だ…立ち去れ!」
 俺の声に納得できないのだろう。女が抗議の声を上げかけるのを、連れの聖職者がさえぎる。
「…御武運を。首都でお待ちします。行きますよ、ナッツ」
「でもっ。シェール!?」
 言い掛けた女の声は転送法円の作動する音でかき消され。彼女に続いて跳ぼうとする男は、その前に軽く一礼した。俺と、魔物に。

「…くくく。フェアプレーかよ。餓鬼扱いもここまでされれば流石だな…」
 俺の口元が歪む。さっきの聖職者も気づいていたらしい。この魔物は高魔力の聖職者に魔法を使い、俺に向かっては大剣を構えていた。自らの力をわざわざ制限して、全力を尽くさざるを得ない状況に自らをおいて戦いに挑む理由は…、奴も戦士だからか?
 今は俺にも仲間や、護るべき後衛はいない。強さの極みを得た者として強敵と全力で戦う、その欲望を叩きつけることに制約も言い訳も、出る幕はない。ならば
「甘く見た事を…後悔させてやる!」

  くぇぇ!
 ペコが地を蹴る。刹那、俺の天地が一転した。鞍から投げ出され、受身を取りながら見たのは、ペコの蹄に食らい付くミミック。大敵に気を取られて接近にも気づかなかったのか…迂闊。奴はペコから素早く離れると、一直線に俺に向かってきた。
「雑魚はっ…黙っていろ!」
 大振りの一撃でミミックを寝かせ、の動きを止める。今はコレで十分だ。愛鳥の怪我の程度はわからないが、俺は槍を思い切りよく投げ捨て、大剣を抜き放った。これほどの覚悟の相手に小細工は無用。槍で腕試し等をせずとも…、初撃から全力を叩き込む。俺が立ち上がり構えを取るまで、ダークイリュージョンは、俺を待っていた。
「…TwoHand…Quicken! おぉおぉおおおぉぉぉぉっ!」
 全身に黄金色のオーラを纏い、俺はダークイリュージョンに真っ向から切り込んだ。奴の幅広剣が俺の初撃を打ち払い、返し突きを送ってくる。その一撃よりも早くっ
「一つ!」
 俺はすれ違いざまに防御の薄い足元に一撃を入れると、回り込んで取った魔族の後ろで『返しの構え』を取る。奴が振り向いて狙いの定まらぬ薙ぎを送る、その動きにタイミングを合わせて今度は腕を穿った。
「二つっ!」
『……ぅっ!』
 斬った手ごたえと共に、微かな声が耳に入った。効いている…。俺の剣は、奴に効いている。
「やれるかっ!?」
 その一撃で生まれた隙に、俺は渾身の力を込める。タダでさえ防御の疎かな両手剣を存分に振りかぶり、崩れた体制からの奴の反撃を脇腹で受けながら。一歩、前に踏みしめると、俺は奴の胴に向けて、今までで最高の速度で切り下ろした。脇腹から吹いた俺の血が赤く床を染めるのにも構いはしない。
「……行くぞ。これが俺の…最強だ。受けて倒れろぉっ! ……Bowling Bush!!」

 俺は、振り切った姿勢のままで、考えていた。後先も考えずに全力で戦うのは…久しぶりだと。勝てるかどうかも判らぬ相手に、両手に握った剣で切り込んだ少年の頃。…あの頃は、もっと強さが欲しかった。何のためだっただろう…?
 修道院の古びた外壁がまだ衝撃で軋み、1000年積もった塵芥が浮かれたダンスを舞う。もうもうたる塵の向こうで、壁に叩きつけられた魔族がもう一度立ち上がれば……、奴の勝ちだ。俺は、塵が落ち着きを取り戻すまでの間に、よろめきながら剣を地に突き立てて、なんとか膝を突くのを堪えた。
21393@NGワード用sage :2004/07/29(木) 23:56 ID:lIkH9Pf.
なお、私はAGIオーラ騎士など持っておらず、知り合いもいないので…
もっと強いぞ! とかあったら勉強不足でごめんなさい。私の脳内AGIオーラってことで
勘弁してください。
214丸いぼうしsage :2004/07/30(金) 05:50 ID:KO2f04LE
-魔法論 最終講

「今日で講義は最後だ。気合を入れていこうか。」

壇上の賢者はやけに元気だった。僕はと言うと、ここ最近蒸し暑いのに参ってしまってまるでゾンビか何かの
ようだった。大学への慣れもあってか、どうにも気合が入らない。見回してみれば、初回に比べて
机に突っ伏す人数は増えているし、空席もさらに増えている。

 風呂がそのまま移動してきたような空気の中、退屈な講義は始まった。

「前回は、意思世界を作り出すことの難しさを言ったね。それを解決するのが魔法回路と詠唱だという
事にも触れたはずだ。覚えてるかな?」


いや、ぜんぜん。

「…反応がないな。まぁ、そういうことにして話を進めよう。後で質問を受け付けるが、きちんと話を
聞くことが前提だからね。
 さて、前回僕は完全なイメージが無ければ魔法は使えず、完全なイメージなんてほぼ存在しないと言った。
だが、それは人間の頭の中だけの話だ。もしも外部から何らかの形で刻みつけられた完全なイメージが存在
すれば…それを用いることで我々は意思世界を完璧に構成し、魔法を行使できる。
 つまり、明確な状況の記憶としてのイメージ…これに揺らぎはなく確実なものだから「記録」と言おう。
その「記録」を刻みつけたものが魔法回路と言うことだよ。
魔法陣も、魔法円も、ルーンも、杖も、宝石も…魔法を補助するものは全部が全部、ある種の魔法回路だと
言っても過言ではないね。
 それは天然に刻み込まれることもあれば人為的に刻み込まれることもある。
雷に打たれた石が風の魔力を持つというのは前者の例だし、魔術師達が長い時間を掛けて自らの杖を
作るなんてのは後者の例だ。

さて、僕はさっき魔法回路を列挙したけれど…魔法回路の一にして最も重要なものを
言っていない。…さて、なんだか分かるかな?。」


杖は言った、魔法陣も言った、でも、本は言ってない。だが、果たして本はそれほどまでに重要な魔法回路
なのだろうか。

「それは人間だよ。

 全て魔法回路の根元は頭の中の魔法回路だ。最初にして全能の魔法回路「プライマリ」が、こうやって
講義を聴いている君たちの頭の中には例外なく刻み込まれている。
プライマリのある人間は魔術師と呼ばれるし、無い人間はただの人間だ。
地水火風…あらゆる魔法のマスターとなる記録はプライマリに書きこまれているんだ。

魔術師ギルド入会の儀式の時、大魔導師が君に何らかの行為をしただろう?。
額に手を当てることだったり、念波をぶつけることだったり…方法は色々だけれども、その時に
僕らはプライマリを刻み込まれる。

人間はプライマリがないと基本的に魔法は行使できない。宝剣とかのそれ自体に完全な記録が刻み込まれている
ものならともかくも…一般的な杖なんかで魔法を扱うにはやはりプライマリが必要だ。
215丸いぼうしsage :2004/07/30(金) 05:51 ID:KO2f04LE
 だから、魔術師ギルドに入らないと魔法が使えないわけだ。

先ほども言ったとおり、プライマリはあらゆる魔法のマスターとなる記録だ。
ほぼ例外なくどんな魔法でも、その完全な記録はプライマリに内包されている。
だから、このプライマリの使い方を開拓していくことこそ、新たな魔法を覚えることに他ならない。

 肝心なのはプライマリの使い方だが、人間が何かを想像すると、プライマリはそれに適合した記録を引き出す。
そうすることで完全に意思世界が構築され…そののち魔法子による作用で空間湾曲が起きて魔法発動!
と、こういった筋書きになる。
 その想像を規格化するため生み出された技能が、詠唱だ。
詠唱というのはすなわち自己暗示…。意思世界の構築までを自動化することに他ならない。
長い間魔法学校で叩き込まれることもあって、僕らは特定の文章を唱えれば、容易に何かを想起できる。
そうだな…例えば…

『大気に満つる数多の雷の精霊よ、汝らの力解き放ち、神の矢をもて滅びを与えん…』

と言えば、光の玉がまっすぐにとんでいくイメージがわき上がってくるだろう?
ご存じ、ユピテルサンダーの詠唱だ。残念ながら、僕はこの魔法に対応するプライマリの使い方を知らないから
実際に電磁球を生成することは出来ないけどね。

重要なのは、詠唱は技能であって魔法的現象ではないことだ。
だから、さっきのような長い文句で暗示を掛ける学派もあれば、

『set magnetic-field, create plasma...』

なーんて無機的に暗示を掛けて済ましてしまう学派もある。この辺は習熟度、師などによって本当に
人それぞれだ。本当にこの辺りの暗示を極めた人間なら

『JT』

の二文字で発動させることだって出来てしまうし、それすら必要ない人間だっている。
だから、皆にとってベストという詠唱はない。
ただ、魔法学校で教える文句が悲しいかなデファクトスタンダードになってしまっているけどね。
さぁ、質問あるかな」


手を挙げるものはいない。ある者は興味がないだけだし、ある者は気恥ずかしさから手を挙げられないのだろう。

「ないならよし、と、これで魔法理論についての講義は今回でお終いだ。
意思世界と現実世界の重ね合わせ、それが魔法であり全てだ。詠唱も、魔法回路も、魔法子も、
全てはそれに付随するものに過ぎない。本質は、最高の神秘はやはり世界が重なることにあるのだろうね。

まぁ、付随するものの多すぎる煩雑な理論だと君たちも思ったことだろう。」


 戸惑ったり顔を見合わせたりする僕等を壇上から見回し、賢者は満足そうに口を引き結んで二三回頷いた。
その動作は僕等の意見を認めると言うよりも、自分を認めるという動作に近かった。

「でも、僕もそう思っている。この理論は自然が作ったにしてはあまりに煩雑で、エレガントでない。
エレガントな最適解を求めたい、そう思う者が君たちの中にいたならば、是非、魔法物理学科に来てほしい。

さて…次回からは多分、唐変木の助手が来て演習問題みたいなのをとかせるだろうから各自ノートを
見直しておくこと。」

そう言って賢者は長衣を翻し、どういう魔法か教壇から消えた。それを見送って、学生達がばらばらと席を立
ち、退出し始めたとき、転び出るように教壇の所に走ってきた影があった。
216丸いぼうしsage :2004/07/30(金) 05:52 ID:KO2f04LE
「み、みなさーん、まだ退出しないで下さい、次回までの宿題にするプリントが…ってあ、えー」

紙の束を右手に抱え、右往左往する金髪の青年。僕等と大して年は変わらないはずなのだが、よれた
染みつき白衣のせいか随分と不健康な印象を受けた。
 どうせこの状況だ、退出してしまった人間がいる以上、宿題とやらはもはや拘束力を持たない。
それを悟った要領の良い学生は、哀れな青年の声など聞こえないようにしてがやがやと部屋を出て行く。

「ちょっと、あー、もう、教授、終了時間無視で消えるなんてもう……とにかく今いる人ー、
取りに来て下さいー」

こうして、退出するのが遅れてしまった要領の悪い僕等は宿題を背負い込んでしまったのだった。
安っぽい紙に所々欠けた活字、ひどく出来の悪いプリントを片手に僕は外に出た。
夏至を過ぎた太陽は徹夜明けの目には眩しくて、世界は白くメルトダウンするように暑かった。
手をかざして光線を遮断し、恨めしそうに空を見上げた。
そこには水色の空。

白い壁、白い日差し、白いプリント。
閉塞的な暑さが嫌になったのか、それとも義務からの逃避か、僕は無性に紙ヒコーキを折りたくなった。

--オシマイ


--言い訳

嗚呼、見返すほどにデッドコピー。

やめて後悔するか続けて後悔するかの選択でしたが、設定の記述は妥協しなかったつもりです。
現在はスランプというか、書いては消し、書いては消し、が続いてます。
感想が欲しいという気持ちと、拒絶されることへの恐れ。自己愛と自虐で矛盾だらけの頭、
それでもやっぱり書いてる辺り、結構長続きしてる趣味だなと思うことしきり。

最後に、付き合ってくれた人、本当にありがとう。

--感想

('A`)氏の作品は、構成の上手さもさることながら、登場する人や物の名前が凝っていて
大好きです。「それらしい」名前を付けるっていうのはとても難しいと思うのです。

93氏の作品を読んで、Agi騎士って熱血と最も相性の良い職だな、と思いました。
クールな魔法使いも好きだけれど、食らっても食らってもバカみたいに突っ込む、
そんな熱血野郎も欠くべからざるものですね。

93氏に監獄で目撃されてるってことは…Wiz子のはしたないあんなことやそんなことを一部始終
見られてるってことですか…タハー。
217名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2004/07/30(金) 09:51 ID:t7PtCFiM
初めて感想を書かせていただきますが、
毎日チェックいれておりまする。

月並みの感想しかかけないのをお許し願いますが、
どの作品見ても凄く面白いです。

これからも楽しみに待たせてもらいますよー
218名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/30(金) 13:49 ID:Nr2Y.XyY
漏れは嬉しいよ。また活気が戻ってさ。
219ある鍛冶師の話14-1sage :2004/07/30(金) 21:58 ID:B2t8GpgQ
 雫が一つ、雲より落ちて来た。
 石畳の上に小さな染みを作る。

 ポタ、ポタ、ポタ。

 雨がやがて降り注ぐ、黒い襟を立てた外套を翻し、
 赤い髪の青年がその黒い眼差しを空に注ぐ。

 「・・・・・、やべェ」

 隣に立つ銀色に赤い目の青年は、僅かに口元を手の平で覆い隠すと、
 大慌てで隣りの赤い髪の青年の手を引く。

 ポツリ、ポツリ、ポツリ。

 やがて振り続ける雨音は、小さな流れとなって。
 慌てて駆け込んだ民家の軒先の下、暫しの雨宿り。
 雨の降り注ぐゲッフェンは、霧でもかかったように遠くが霞んでいて、
 少しだけ知らない町に見える。
 青い屋根と屋根の合い間にかかる雨脚に、恨めしげに吸血鬼の二人は空を見上げた。

 「・・・・・雨、止まねェかな早く」

 小さく愚痴を零した赤い髪の青年に、銀色の青年は溜め息を吐く。

 「仕方がない、止むまで待とう」

 降り注ぐ雨の遠い日の、記憶。


 また、ポツリ、ポツリ降って来る空を見上げながら、
 そんな事もあったかなと呟いて、
 やがて強まる空からの水滴に魔導師は外套の前を引き寄せる。

 「もう浴びても平気だしなァ、・・・・・随分と、遠くに来たもんだ」

 目線を細めながら暗い空を見つめる。
 いつか見た空よりも重い空の向こうに、かの懐かしい場所がある。

 つい百年かそれ以上前か、とにかく彼にとってはあまり遠くない昔に、
 彼は彼の友人と共にそこに居た。
 グラストヘイムと言われているその古い王国は、今も尚死者が彷徨う土地である。
 暗い雲の出てくる先にあるのは、その懐かしい地で、
 赤き鼓動と言う名を持っていた吸血鬼は、
 否、元吸血鬼は、

 小さく溜め息と共に雨宿りできそうな屋根を探した。
 キョロキョロと辺りを見回すその上に、何か影が差し出されたのがわかった。
 石畳の大通りに溜まり出した雨の雫で作られた、水鏡の上に赤い色が見える。

 傘、だ。

 「・・・・・ありがとう」

 振り返り見上げると、銀髪に青い目の女が、聖職者の法衣を纏いながら瞬いている。

 「風邪、ひきますよ」

 小さく響く声に、赤き鼓動、レッドビートは苦笑いを浮かべた。

 「生憎とそこらの魔導師よりは、全然丈夫なんだ」

 聖職者は首を横に振ると、でも、と小さく零し。

 「・・・・油断大敵、火がぼうぼうと言います」

 すっと立てられた指がひどく細く見えた。
 思えばそれは籠の中の鳥のように外へ出る事を知らなかったから、
 色だって随分雨の中白く見えたものだった。

 聞こえた声の、大真面目な表情の、
 そんな彼女に、レッドは次の瞬間大笑いを浮かべていた。

 「そんな諺あったっけか」

 問われて聖職者は青い目を瞬かせると、首を横に振る。

 「・・・・いいえ、ありません」

 「・・・・・・、ほう?」

 軽く語尾をあげて問い返すと、聖職者は少し眉を寄せた。

 「姉さまがそう言っていたのです。
  姉さまは嘘をつきませんから、きっと世界のどこかの国で、
  そう言っているに違いありませんわ」

 箱入り娘だなとレッドが笑いを噛み締める。
 そんな国があるなら、きっとでたらめな言葉で溢れかえっているに違いなかった。

 「・・・・さて、お嬢さん。どうせ話すンなら、屋根のあるところにしようか」

 「そう、ですね」

 空を見上げて聖職者が頷く。

 「宿は何処で?」

 「雲の下の猫亭です」

 答えられた言葉にレッドがきょとりと瞬き、そして笑みを緩く。

 「・・・・・・、奇遇だねェ、おんなじだ」

 「あら、本当に。奇遇」

 おっとりと相槌を返す聖職者と顔を見合わせて、声を立てて笑った。

 雨の日の、小さな偶然の出会い。

 「俺の名前はレッド・ビート。アンタは?」

 雨の中傘をさす聖職者は、不思議そうに小首を傾げてから笑みのまま答える。

 「フレイア、フレイア・キャロライン」

 「フレイア、か。いい名前だ、何処かの国の女神の名前だったっけか」

 「そう、なんです?」

 隣りに並んで歩こうと歩み寄ってみれば、レッドはむ、と眉を寄せて、
 溜め息を吐いた。

 ほんの少し、フレイアの方が背が高かったのだ。

 そんな魔導師の小さなプライドに気づく事なく、
 急ぎましょうと小さく零してから、
 強まる雨音を背にフレイアはレッドの手を引く。

 引かれた手のあまりの冷たさにレッドが目を開く。
 振り返るフレイアが小さく笑みのまま、
 赤き鼓動の名前を呼んだ。
220ある鍛冶師の話14-2sage :2004/07/30(金) 21:59 ID:B2t8GpgQ
 傘を片手に戻ってきたパートナーである銀髪の聖職者を迎えながら、
 レッドは小さく苦笑いを浮かべた。
 その傘が赤かった事もあるし、何より、この聖職者はありし日の愛した人に似ていたから。

 ありのままとすら言えてしまう二人の合間には、
 同じ血が流れている。

 もし、ただその名前を、あの彼女の名前を呼べたなら、
 きっとこの魔導師は過去と現実の境目がわからなくなるに違いなかった。

 それほど、似ている、フレイアと、セシア。母と、娘。

 そして目線を交わす、レッドと、セシア。父と、娘。

 「ただいま、レッド・ビート」

 父を名前で呼びつける娘。
 青い眼差しは家族を呼ぶ時のような眼差しではなく、
 どちらかと言えば親密な誰かを呼ぶ時のような。

 「おかえり、セシア」

 名前を呼ばれるとセシアは小さく笑みを綻ばせる。

 傘と一緒に持ってきた古い魔法書を差し出しながら、
 傘立てに傘を差し入れた。

 「雨、随分と強いみたい」

 閉まった扉の向こう側の景色を見るように振り返ると、
 セシアが溜め息混じりに呟いた。

 「今日の夜はヴァンパイアどもは出てこねェだろうな」

 レッドがその言葉を聞いてそう返す。

 「雨が苦手って、不思議」

 「はは、・・・・・・力を維持できなくなるのさ。
  詳しい作用は知らねェが、奴らを狙うなら雨の振る昼下がりが一番いい」

 魔法書を受け取って玄関から書斎へと廊下を歩きながら、振り返りもせずに話す。
 その背中を見つめながら、セシアが小さく名前を呼ぶ。

 レッドの足は止まらない、
 セシアの眉が少しだけ歪められた。

 書斎に入る一歩手前、ガチャリという音と共に、
 ドアノブに手がかけられる。
 振り返りもしないまま、そのまま、
 低い声が空気に消えた。

 「・・・・・・そんな顔すんな」

 びくりとセシアの肩が揺れる。
 レッドは視線を向けないまま、

 「この、長き生の行く先をお前は知らない。
  知らねェでいい、関わるな。
  ・・・・・・ギルドは解散する。お前は赤月華に預けるっから」

 「・・・そう」

 聞き分けのいい子供のような返事を、短く返す。
 言葉を聞きながらレッドが溜め息をつく。

 「さようなら、だ。セシア」

 「・・・・・・・そ、」

 言葉が途切れた事にレッドが目を開いて振り返る。
 廊下を音もなく走り抜けて、少し、背の高い、銀色の頭を肩口に引き寄せる。

 声を押し殺して泣く事を知らない子供みたいに、
 唇を噛み締めて、銀髪の聖職者の頬が涙に濡れた。

 「・・・・・・・わたしっ、・・・・・はぁ、別に、貴方が何処の誰でも、」

 レッドは宥めるように肩に額を沈める銀色に指を通す。
 撫でるようにしてやりながら、
 小さくごめんと。

 謝罪の言葉にセシアの言葉が途切れる。

 レッドは途方に暮れた黒い眼差しを、天井に向ける。

 「・・・・・・、」

 呼ばれた母の名前にセシアはずるいよと小さく呟いた。
221ある鍛冶師の話14-3sage :2004/07/30(金) 21:59 ID:B2t8GpgQ
 雲の下の猫亭と書かれた屋根の下で、
 赤い髪の少女と、銀髪の髪の鍛冶師と、黒い髪を高く一つに結わえ、
 骸骨のバンダナを頭に巻いた暗殺者が三人仲良く並んで空を見上げている。

 振り続けるゲッフェンの雨は、夏の夕立にしては少し長い。

 「ジェイ、・・・・・」

 赤い髪の少女、・・・・騎士リツカに名前を呼ばれて、鍛冶師ジェイは瞬いた。
 そのリツカの視線は二人の合い間へと向けられている。
 突然振り出した雨に必死に手を繋いで走り出した鍛冶師の後を、
 追いかけたのはつい先ほど。

 「・・・嫌ですか」

 問われるとリツカは口ごもりながら、目線を背ける。
 僅かに耳が赤いのは照れている証拠だ。

 その隣りで花の名前の暗殺者、蘭は若いっていいねェと零しながら、
 小さく笑う。

 「うーるーさいぞ、この似非暗殺者」

 リツカのやり切れない気持ちの矛先は、蘭に向いたらしい。
 口端を釣り上げながら暗殺者は冷ややかに目を細めると、
 人差し指をつきつけながらリツカへと詰め寄る。

 平均よりは少し高めではあるものの、
 ジェイや蘭と並べば小さいのには変わりはない。

 そんな状態で詰め寄られれば、
 リツカはぐっと仰け反りながら睨み返す。

 「似非とは何だ、人が助けてやらなければ今ごろお前さん方は、
  夜の彷徨える住人としてだなァ」

 「なんだと!俺が言いたいのはその後の事だっ」

 「あぁはいはい、邪魔して悪かったですね、と」

 ジェイを合い間に挟みながら、二人は言葉を言い争う。
 それを見ながら鍛冶師はほんの少しだけ幸せそうに、笑みを浮かべると、
 空を見上げた。

 まだ雨は止みそうにはない。
 当分はこのまま二人の口喧嘩を聞く事になりそうである。

 まぁ、それも悪くあらへんかなと、小さく鍛冶師が呟いた。

 そんな、夏の雨の日の、ゲッフェン。

222ある鍛冶師の話sage :2004/07/30(金) 22:05 ID:B2t8GpgQ
93様>かっこいいなぁー、読んでいて思わず手に力が入るような立ち回りでした。
  ダークロードがいやに人情味あるのも、個人的には嬉しかったです。
  魔物にもそれなりの意思やポリシーがあると思うのですよね。

  中学生日記ですか、見ていて恥ずかしくなるような感を覚えていただけたら、
  多分きっと成功です。

丸い帽子さま>魔法の設定はややこしそうで、手を触れたくない区域ですが、
      こういう風な考え方で行くと成る程、素質があっても魔法を使えないのは、
      ギルドに入って教えを受けていないからだと納得が行きます。
      精霊だとかの存在がなさそうな世界観なので、あくまでも人主観で考えないと、
      ならないのが難しいですよねとぽつり。
      一部多分、知ったかぶりしちゃってます。ごめんなさい。
223157sage :2004/07/30(金) 22:06 ID:cxD0ge1g
遅い感想レスを・・・。

>>184-185
私の妄想が具現化してる!?Σ
返せなんて言いません。どうぞ発展させってください。
というか、妄想以上です!剣士くんかっこいいー!

PTを組んでるってことはレベルはそう差がないのだろうけど
夕食をおごったりと、アコくんとマジ子さんよりはちょっとお兄さん気分なとこが
背伸びした少年ぽくて素敵でした。


そして読み応えのある長編の数々に嬉しい悲鳴が・・・。

>>鍛冶師の話様
リツカちゃんがかわいくて悶えてしまいました。これからのジェイくんとの関係に超期待です。
ジェイくん・・・やっぱり「自信」は男性を変えるものなのですね。

>>('A`)様
剣士くんのこれからの成長、楽しみにしてます。

>>93
燃え・・・なのですが、騎士さまに萌えてしまいました(ゴメンナサイゴメンナサイ
続き楽しみにしております。
224名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/30(金) 22:10 ID:TOaswW1I
1/4

「ったく、なんだって雨なんか・・・もう〜〜・・・」
買い物帰り、プロンテラの舗装の上を走りながら、誰に言うともなく呟く。
でも、その口元は少し笑っていて。
濡れた舗装の匂いは嫌いじゃない・・・いや、むしろ好きかもしれない。
陽気にほてった舗装が、湿り気を帯びた独特の匂いを立ち上らせる。
走る足取りが軽いのは、好きな雨の匂いのせいだけじゃない。
無造作に紙袋につっこまれた今買ってきたばかりの・・・真新しい星入りのアースソードメイス。
自分が使うのももちろんだけど、これなら戦闘スミスのアイツとも共用できる。
アイツは・・・別に、彼氏じゃあ、ない。うん、今のところは。
お互い、アコと商人の時に出会って、ふとしたことでPTを組んで・・・それ以来の腐れ縁だ。
私は・・・そりゃ、「好きです」なんてガラじゃないから、そんなこと口が裂けても言えないけど
でも、それなりに気持ち伝えてるつもりなんだけど・・・アイツの鈍さはきっとミッドガルド1だと思う。

ふんふんふん♪ と鼻歌まじりに水溜りを蹴って・・・・
「おぉ〜っと、ねぇちゃん待ちな」
ねぇちゃん!?
突然の雨に人通りもまばらになったプロンテラの裏道。どうやら私にかけられた声らしい。
立ち止まって声の方を見ると、一人のローグがなにやらニヤニヤしている。
・・・・・・なんとはなしに嫌な予感。
「なにかしら?」
努めて平静に聞き返した私に、そのローグは嫌な感じの笑顔をはりつけて近づいてきた。
「いやぁ、プリースト様があんまり元気に駆けてくもんだからよぉ・・・
見てみな。跳ねた水が俺の足を濡らしてしまったわけなんだなぁ」
見ると、確かにズボンの裾が濡れている・・・と言っても、このまま雨の中にいれば
遠くない将来、それ以上に濡れることは確実な程度の小さな染み。
でもまぁ・・・とりあえずは私が原因であることは間違いないらしい。
「それはごめんなさい。急いでたものだから。じゃあ・・・・・・!」
謝るだけ謝って、さっさと後にしようと踵をかえした方向に、いつのまにかもう一人ローグが立ちはだかっていた。
「まぁそう慌てなさんな」
やっぱりニヤニヤしながら道を塞ぐ。・・・これは、もしかしてピンチ?
「まさかお偉いプリースト様が、一言だけでとんずらなんてことしねぇよなぁ?
詫びにはそれなりの礼儀ってもんが必要だろう?」
注意深く周りの様子を見るも、こちらの様子に気づいてくれるような通行人は見当たらなかった。
「・・・どういうことかしら?」
「なぁに、ちょっと誠意を見せてほしいだけさね」
ニヤニヤ笑いをそのままに間合いをつめてくるローグに、さてどうするか、と考える。
武器になるもの・・・まっさらの土ソドメを使うのはもったいないなぁ・・・かと言って
買い物だけのつもりでなにも持ってきていない。
でも、こちとら姿はプリーストでもSTR100が自慢の殴りプリ。舐めて貰っちゃ困る・・・けど、
こんなところで大立ち回りもしたくない。
じり、と後ずさるも、背後のローグが動く気配に反射的に肘がでてしまった。
「ぐっ・・・てめぇ・・・」
腹を押さえてにらむローグに、最初に声をかけてきたローグの目つきも変わる。
・・・どうやらまっすぐ帰してはもらえそうにない。
225名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/30(金) 22:11 ID:TOaswW1I
2/4

「・・・・おせぇな」
宿屋の部屋でのんびりと狩りで疲れた体を休めていた俺だったが、
ふと壁にかかった時計にを見て呟いた。
狩りから戻り俺が荷ほどきをしているうちに、あいつはさっさとひとっ風呂浴びて
「ちょっと買い物いってくる〜♪」とスキップしつつ出て行った。
ついさっきまでは、やれ宿屋はまだか、荷物が重いとぶーぶー言ってたくせに
買い物となると俄然元気がでるのが不思議だ。俺には到底真似できない。
宿屋の窓から外を覗く。暗いと思ったら雨が降っている。
「・・・・・ちっ。しょうがねぇ・・・」
俺は脱いでいたシャツをもう一度はおると、宿屋の主人に傘を借りるために部屋を出た。

まったく、どこで油売っていやがる。
と、宿屋から大通りへ出るまでの細い路地にはいると、なにやら揉めているような声が聞こえた。
どうやら、曲がり角の向こうのようだ。男の声に・・・女の声?
いや、まさかな。ふと頭に浮かんだことに苦笑しつつ首を振る。
だが、胸の中で何かが俺に警鐘を鳴らす。自然、急ぎ足になりながら、俺は角を曲がった。
・・・いない?建物の影か?
『・・・・・・・・・・おとなしく・・・・・・・・このっ・・・・』
『・・・んじゃないわよ!・・・・・・・』
『・・・・・・・りやがったな!・・・・・・』
先刻よりはっきり聞こえてきた聞き覚えのありすぎる声に、居場所を探す。どこだ?
胸の奥がなにやらチリチリする。声の調子はまだ余裕が見えた。だが・・・。

俺がその建物の影を覗いて、あの莫迦と二人のローグを確認したのと、
その詠唱とともに3人目のローグが現れたのは同時だった。

『サプライズアタック!』

・・・・・・莫迦ヤロウ・・・・・・。
ピヨってんじゃねぇぇぇぇぇ!!!

どうやらそれまでアイツの平手をたらふくくらってたらしいローグが
片手で赤く腫れた頬を撫でながら、ニヤリと笑った。片手がアイツの法衣に伸びる。
・・・っ!・・・・・・ざけんな・・・!!

「おい!そこで何をしてる!!」
気がついたら飛び出していた。
傘?そんなもの後生大事に持ってられるか!
226名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/30(金) 22:11 ID:TOaswW1I
3/4

「おい!そこで何をしてる!」
ふいの男の声に、悪漢どもはひるんだらしい。
私の法衣の胸元に伸びてきていた手が、寸前でとまる。目配せをしあう三人。
「ちっ・・・どうする?」
「騎士団でも呼ばれたら面倒だ・・・ずらかるぜ!」
「運がよかったな、あばよっ」
所詮はチンピラにすぎなかったのだろう、3人組は声の主の姿を確認するよりも早く
闇に紛れ、文字通りその場から消えていった。

たすか・・・・った・・・・?

足から力が抜けていく。
スタンが解けて、我知らずもたれていた建物の壁に背を預けたまま、ずるずるとしゃがみこみ、
法衣の裾が水溜りにつかるのも気づけないまま、恐怖と動揺と、
それが去った安堵にしばし呆然とする。
「大丈夫か?」
賭けて来た足音は聞き覚えのありすぎる音。
でもまだ覚めやらぬ恐怖のせいか、立ち上がることもできずに、ただ音の方に目を向けた。
ほら、と目の前に差し出されたアイツの手。
その手に右手を預けると、一瞬、くっと握り締められ、直後私はアイツの目の前に立ち上がっていた。
「まったく、なにやってんだよ。いくらお前が殴りだからって、相手を見て・・・・」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜遅いっ!!!」
「ぐぁっ」
とられていた右手を引っこ抜いて握りこぶしにして、思い切りアイツのお腹にストレートを決める。
ばか。ばかばかばかばか。
怖かったんだぞ。すっごく怖かったんだぞ。
好きで喧嘩うったわけないじゃない。私だって女の子なんだから。対人戦なんて嫌いだし。
1対3だったんだからな?少しはいたわりなさいよ。
言いたいことはいくらでもあるのに、まるで喉の奥になにかがつまったみたいで声が出ない。
不覚。目の前で泣くことだけは絶対しない、って思ってたのに・・・。
227名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/30(金) 22:12 ID:TOaswW1I
4/4

「ぐぁっ」
予告なしの腹への衝撃に、俺はうめいた。
コイツは、こともあろうかSTR100の握りこぶしで、俺の腹にストレートを決めやがった。
まぁ、コイツを見つけたときには俺らしくもなく動揺したが、これだけの元気があれば・・・って、おい!
俺の腹に拳を押し当てたままうつむいているコイツの肩が、小刻みに揺れていた。
「・・・・・・・・・・莫迦・・・・」
顔をあげずに小さく呟かれた声は少し震えて、雨の音にかき消されていく。
その声は、いつもの狩りの時には聞いたことがないような、ひどく弱々しい声で・・・
・・・・・・泣いてるのか?
そう思い当たった俺は、なぜだかさっき悪漢どもに襲われかけてたコイツを見つけた時以上に動揺した。
待ってくれ、泣いてる女の扱いなんか知らねぇぞ・・・だいたいコイツはいつも大口開けて笑ってて
移動の時には俺のカートに乗り込んで「はやくーはやくー♪」なんて言って俺に引っ張らせて
そりゃたまには敵に一撃くらわす度にひるがえる法衣のスリットから覗く足に
「目の毒だぜ」なんて悪態つきながら、心臓が飛び上がる思いをしなかったとは言わないが・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
俺の腹に押し当てられたままのコイツの拳。それは俺の手よりふたまわりは小さいもので。
しゃくりあげる度に眼下で上下する肩は、俺のそれよりずっと華奢で。
もう長いこと一緒に狩りをしてきたが、今まで気づかなかったのが不思議なほど
コイツを構成してるパーツはどこもかしこも俺よりも細く小さく華奢なもの。
それに気づいてしまった俺は、なぜかわけもなくイライラした。
あぁ・・・くそっ。
気がついたら俺は、コイツの腕をとって引き寄せて・・・コイツの背に腕をまわしていた。
俺の腕の中にすっぽりとおさまってしまった体が一瞬びくんと固まる。
雨に濡れた長い髪が、シャツをはだけた俺の胸に直接触れてくすぐったい。
こういう時の気の利いた言葉なんぞ、俺が知っているわけもなく・・・
俺はコイツを腕の中におさめたまま、いまだ雨降り続く天を仰いだ。

   *  *  *

突然アイツが私の手をとって引き寄せた。
なに?なになに??
さっきの出来事での恐怖が瞬時にはるか彼方にいってしまう。
驚きで、涙がひっこんでしまった。
アイツがこんなことするなんて初めてで、その意図もわからなくて、だけどもちろん嫌じゃなくて。
だけど、アイツは何も言わない。
それが少し不安で、でもそれがアイツらしいようにも思えて私は口元が笑ってしまいそうなのを
悟られないようにすん、と鼻をすすってみる。
「・・・濡れちゃうよ?」
「とうに俺も濡れてる」
「・・・汚れちゃうかも」
「なに、雨で流れちまうさ」
頭の上から、雨と一緒に降ってくる声はぶっきらぼうで。
なのに、背と腰に回された手は、私を包んでしまうくらい大きくて。
濡れたシャツの上から感じたアイツの胸は、とても広くて。
知ってたけど、こうして実感したのは初めてのこと。
こっそりとアイツの顔を見上げたら・・・あらぬ方を向いて、その頬はちょっぴり朱に染まってた。
「・・・落ち着いたら、帰るぞ」
そう言いながら、私の腰を抱くアイツの腕が、くっと私を抱き寄せたから。
「うん・・・もう少し・・・」
私は今度こそアイツの胸に頬をうずめて、濡れたシャツの背中を握った手に
ほんの少し、力を入れた。

-end−
228('A`)sage :2004/07/31(土) 01:22 ID:pPpeB.EA
「・・・・・・ん?」
 誰かの叫び。そんなものを聞いたような気がして、エスリナは歩みを止めた。
 しんと静まり返った城内には、自分以外の人影はない。いつもは執政官や書記達が慌しく城内を駆け回っ
ている所だったが、公務は既に終わっている時刻だ。
 軍の番兵や騎士団の者は巡回任務に就いているだろうが、まさか叫び声を上げるとも思えない。
(城外・・・?)
 はた、と気付く。
 護衛。考えてみればおかしな話だった。いかに大聖堂の権力者の息女とはいえ、軍の護衛が必要とは思え
ない。ならば、何かしろの理由が存在するのだろう。
 それなりに緊張した、何かが。
「・・・急ぐか」

 

 未だ気付く者の少ない切迫した状況の最中、
 その『状況』に気付いた数少ない者の一人、ナハト=リーゼンラッテは醜い魚人の顔を凝視していた。
 恐怖と焦りで奥歯が鳴る。
 辛うじて自分の命を守る剣の柄に、汗が滲む。
 圧倒的な力に抗う貧弱な膝が笑い始める。
(駄目だ・・・僕には・・・無理だ・・・)
 半ば諦めに似た呟き。
 ナハトに槍を突きつける魚人の口の端が、歪んで吊り上がる。
 こんなことなら、ちゃんと模擬戦も真面目に受けておくべきだった。
 しっかり鍛錬して、せめて並みの剣士くらいになっていれば。
 こんな所で、死ななくて済んだのに。
 あの商人の子も―――
 自らの不甲斐なさに自嘲するナハトの目に、倒れた商人の娘が映る。
(でも・・・僕は・・・・・)
 夢。
 嘆きの夢が、闇夜にフラッシュバックする。
 悲しみに暮れる美しい誰か。涙は枯れ果てる事なく、永劫に続くかのように流れ続ける。
(笑って欲しいって・・・思ったんだ・・・あの人に・・・)
 商人の娘の涙が、見えた。
(・・・だから!)
 瞬間、少年の頭の中で何かが弾けた。
 抵抗から反撃へ。世界が合唱する。
 かつて、平凡な市民でしかなかった父親が、僅かな財産を削って息子に買って与えた剣。
 何の変哲もない中振りのソード。
 ナハトは迷わずその刃を鞘から抜き放ち、魚人の槍を鞘で押さえたまま、渾身の力を振り絞る。
「うああああああぁ!」
 虚を突かれた魚人の胸板を、粗末な刃が剣士の怒号と共に貫いた。
 汚らしい体液が飛び散り、魚人の肉を裂く。
 激情に駆られた少年の顔にも飛散する。それでも、この貧弱な剣士は魚人の息の根を止めるべく立ち上がる。
「グゲ・・・ギョエッ・・・!」
 致命傷を受けた魚人が口を開け、訳の分からない鳴き声を吐き散らした。
 死んでいない。
 まだ、死なない。
 殺さなくては、殺される。
 自分も。
 あの商人も。
 暴力的な衝動に顔を歪め、ナハトは唸り、叫ぶ。
 滅茶苦茶な言葉を発しながら、剣の柄に全霊の力を込め、駆けた。
 魚人ごと、プロンテラ城の水堀へ。
 脆弱な作りの剣が軋んだ。唯一の父からの贈り物。形見とも言える品が、今まさに限界の悲鳴を上げている。
 もう少し、もう少し。
 そして、ナハトはゴールに辿り着いた事を知る。
 地面がなくなり、魔物も、自分も、深い深い水の底へ落ちる。
 そうだ。これでいい。せめて、あの子は助かる。
(なんとか、なった・・・)
 戦いを終えた少年の顔は充足していた。すぐに襲い来る堀の水の冷たさも、魚人の末路も、もう気にならなか
った。
 唯一、商人の娘の安否だけが、気がかりだったが。

 

 『嘆きの夢と少年 2/2』


 居ない。
 何故、居ない。
 絢爛な装飾の施された空の客室を見回しながら、エスリナは憤慨の溜息を吐いた。
 貴族、という人種はこれだから好きにはなれない。
「・・・衛兵」
「は、はっ!」
 客室の外で居眠りをしていた兵士が、足早に駆けてくる。エスリナに張られた方の頬が赤い。
「枢機卿の息女は何処へ行かれた」
「はっ!この城の庭園をご覧になりたいと申されまして・・・」
「・・・よもや、お一人か」
 沈黙が流れた。
 やがて、エスリナは彼女の鋭い肘打ちを食らって昏倒した兵士を後目に、歩き出す。
 どうしたものかと思案に暮れ、すぐに打開策を編み出し、声を張り上げた。
「レティシア!」
『ひゃっ!?エスリナ様!?』
 遠話。俗に"耳打ち"と呼ばれる、遠い相手と話す特殊な会話方法だ。念話とも呼ばれるように、その特性は魔
術に近い。魔術と異なるのは使用者が魔力を有していなくとも習得できる点だ。
 ただ、安易な術ではないので一般には普及していない。しかし、冒険者やプロンテラ軍は多用している。
「城門に居るな!?」
『は、はい・・・何か・・・あったんですか』
「詮索は良い!城内の庭園の何処かに要人がおられる!数名を連れて確保に向かえ!」
 雑音が入らないよう耳を押さえながら、エスリナも走り出す。
「抵抗しても絶対に勝手な行動を許すなよ!それから、念話で騎士団を召集!城下の様子を見てこさせろ!」
『わ、私にそんな権限があるわけないじゃないですかぁっ』
「私の名を出して構わん!こちらもすぐに向かう!」
229('A`)sage :2004/07/31(土) 01:22 ID:pPpeB.EA
 爽やかで、甘い香りがした。
「・・・くっ」
 冷たい水に浸りながら、纏わりつく濡れたマントを無意識に剥がしにかかる。
 それからようやく、剣士の少年は自分が生き残ったのだと理解した。
 喉の奥がべとつき、胃に嫌な水が貯まっているのを感じながら、ナハトはゆっくりと眼を開ける。
 城壁の内側だとはすぐに分かった。落ちた水堀と繋がった城内の水路に流されたらしく、水から上がると、よく
手入れされた芝生の上に出た。散水用の水路だ。
 城の、庭園。
 まだ、生きている。生き残った。
「は、はは・・・は・・・」
 その実感が、彼の全身から力を奪った。
 死にかけたのだから無理もなく、死を覚悟したのだから、嬉しい不意打ち。
 朦朧としたまま四肢を投げ出す。
 青々と茂った芝生が、月明かりに映えていた。これなら、優しく抱きとめてくれるに違いない。
 ここは国王の城だったが、もうそんな事はどうでも良かった。死闘――少なくとも、ナハトにとっては―――を
終えた剣士には、関係の無い、些細な事だ。
 寝転がれば気分が良いに違いない。
 きっとそうだ。
 が、彼が芝生との抱擁を果たす事は無かった。
 寸前で、別の何かに優しくキャッチされる。
 暖かで、柔らかい感触。芝とは似ても似つかないそれは、
「―――え?」
 ふと、倒れかけた姿勢のまま見上げる。
 自分を抱き止めた人物を。
「・・・大丈夫・・・ですか?」
 ほのかに顔を赤らめたその少女は、問いながらナハトの顔を覗き込んではにかんでいた。
 目に入った帽子、ビレタからしてアコライトなのかとも思ったが、違う。
 少女はもっと動きやすい衣装に身を包んでいた。白を基調にしているのはアコライトと同じだったが、修道士の
衣装よりも固く縫われており、頑丈だ。
 ギルドで習った気もしたが、生憎思い出すことは出来なかった。
「・・・すみません・・・ちょっと・・・・・・疲れてて」
「見れば分かります・・・怪我もなさっているようですが・・・」
「大丈夫・・・すぐ離れる・・・から」
 そう言いながらも、ナハトは凍り付いたように少女の顔を凝視していた。
 異性だからとか、抱き合っているのが気まずいからとか、そういう問題ではなく、少女の顔が、
(・・・似てる・・・いや、同じ人・・・なのか?)
 鼓動が早まる。
 その少女は彼の夢の中の女性に似ていた。若干の年齢の違いがあるかもしれなかったが、それでも、あまりに似
過ぎていた。泣いていた、あの女性に。
 混乱が加速する。熱っぽくなった頭で考えるものの、何の答えも出ない。
「君は・・・」
 呻くように発したナハトの問いに、少女は静かに答える。
「私は・・・サリア・・・サリア=フロウベルグといいます。横になってください。すぐ手当てをします」
 

 噴水の前で、ガルディア=ルーベンスとルイセ=ブルースカイはただ無言だった。
 最初、ルイセは嬉々として購入した肉を使った料理についてのノウハウを喋り続けていたが、全く興味を示さない
ガルディアに根負けする形で、話を止めていた。
 だが、沈黙は決して気まずさなどから来るものではなく。
(リーゼンラッテ君を一人で行かせたのは・・・失敗だったかもしれない)
 太刀の柄に手を当てたまま、ルイセは内心で呟いた。見れば、ガルディアも既にカトラスを握っている。
「さすが・・・気付いたのね」
 蔓延する血の臭い。鉄を含んだ風。嫌な、空気だ。
「今、気付いた。まぁ、あの腰抜けはどんくせーから死んだかもしれねぇなぁ・・・」
 何処か楽しげな逆毛の少年に横目で気配せしながら、静かに太刀を抜くルイセ。
 最下位成績の問題児と、主席成績の問題児。単なる買出しのはずだったとはいえ、致命的な人選ミスだ。
 教職として、責任を取らなくてはならない。
「・・・彼は私が探すから、貴方はイズルートに戻って」
「はっ!嫌だね・・・こいつぁ、模擬戦なんかよりずっと骨があって楽しそうだからなぁ!」
 人気のない噴水の周辺。
 闇に紛れて動く人の形をした影を睨みつけ、ガルディアは歓喜の笑みを浮かべる。
「女子供はすっこんでろよ、ルイセちゃんよぉ!死んじまうぜぇ!」
 ガルディアがカトラスを構えて前に出る。刹那、道具屋の影から現れた魚人の槍と切り結び、火花を散らす。
「ヒャッホウ!」
 嬌声を上げるガルディアの身体が、魚人の脇に滑り込む。決して速い動きではなかったが、一撃目に魚人が受けた
衝撃は絶大だった。槍を取り落とす寸前に、ガルディアは余裕の動きで魚人の顔をカトラスで叩き割る。
 びしゃり、と赤が弾けた。
「ハッハー!次はどいつだぁ!?ええ!?」
 剣士は闇に蠢く影を睥睨し、乾いた唇を舐める。その目には既に、倒した魚人の姿はない。
 半魚人という俗称の魔物。剣士はおろか、騎士でさえ修練を怠っていれば苦戦する相手だ。
(なんて荒い剣・・・人格にも問題はあるけれど・・・あれなら放っておいても大丈夫そうね)
 次々と魚人を薙ぎ倒すガルディアに肩をすくめ、ルイセはナハトの向かった騎士団の詰め所の方角を振り返った。
 問題は、戦闘狂の少年ではないのだ。
『グゥゥ!』
 低い唸り声で威嚇しながらルイセの前にも魚人が現れる。
 月明かりに映える半魚人は、何とも言えない醜悪さがあった。
「うわ・・・嫌だなぁ・・・」
 ルイセ=ブルースカイは教壇に立つようになってから久しく抜いていなかった刃を僅かに月下に晒した。
 反りが猛々しくも、繊細でしなやかな、鋭い刃。"刀"という東洋形式の剣だ。アマツが起源とされる武器の一つ
だったが、このミッドガルド大陸の剣士にも、ごく希少に出回っている。
 中でもルイセのそれは見事な出来の刀だった。質素な装飾をあしらった鞘も、珍しい布を巻いた柄も、くたびれて
しまってはいたが、逆にその古さがこの刀の非凡を物語る。
 刀は決して頑丈な武器ではない。二度三度と使用するだけで、僅かに刀身が歪む。
 鞘に戻して一晩経てば、大抵は元通りになるが、粗悪な物はそうもいかない。
 故に、使いこなされた古さは刀にとって出来の証明になるのだ。
「・・・ふぅ・・・重いのよ?コレ・・・あんまり使いたくないのに」
 ルイセは刀の柄を握り直し、溜息交じりの愚痴をこぼす。
 彼女は刀を完全には抜かなかった。抜きかけの姿勢のまま、魚人の前に立つ。
「・・・あぁ?・・・何の冗談だよ」
 五匹目の魚人にカトラスを突き立てたガルディアは、ルイセのそんな行動を訝しげに見やった。
 てっきり、あの若い女教師はきゃーきゃーと喚き立てながら闇雲に剣を振り回すのが関の山だろうと思っていたか
らだ。しかし、ルイセは動じないばかりか、不可思議な挙動のまま魚人との距離を詰めていく。
 痺れを切らしたのか、魚人が攻勢に出た。トライデントを振り上げ、力任せにルイセへ打ち下ろしにかかる。人で
は出鱈目な突撃でしかなかったが、魔物の運動能力はそんな稚拙な動きも凶悪にする。
 避けるか、受けるかをしなければならない攻撃だった。
 それでも、ルイセは歩みを止めなかった。ガルディアの目には彼女の華奢な細腕が一瞬だけブレたようにしか映ら
なかったが、彼女と魚人がゆったりとすれ違った後、不意に、
 血煙の風が吹いた。
 トライデントごと両断された半魚人の胴体が転がる。悲鳴すら上げる暇もなく葬られた魔物は、残された下半身を
痙攣させ、やがてそれもおさまって果てた。
 目で追いきれないカウンターアタック。そうとしか思えない一太刀に、殺戮の享楽を楽しんでいたガルディアの脳
が冷える。戦慄を通り越した、恐怖に近い感情が頭角を現す。
(・・・化け物はどっちだか・・・わかりゃしねぇ・・・!)
 ガルディアの見ている限りは、一度も抜かれなかった刀から手を離すルイセ。
 それから、冷えた口調で言った。
「ルーベンス君、リーゼンラッテ君を追いましょう。帰る気が無いなら、それくらいはして頂戴」
 柔らかに吹く夜風の中で、赤いリボンが揺れる。ミニグラスのズレを直す愛らしい仕草が、ガルディアにはこの上
なく、おぞましく見えた。
230('A`)sage :2004/07/31(土) 01:23 ID:pPpeB.EA
 サリアと名乗った少女が、座り込んだナハトの肩の傷に手を当てて何かを呟いていた。
 やがて掌から淡い光が灯り、傷口の周りの腫れと痛みが引いていく。
 が、当のナハトはぽかん、と口を開けて呆けていた。
(ヒールってヤツ・・・かな。多分・・・)
 生まれてこの方、アコライトの世話になった事がない彼にとってはあまり実感の沸かない光景だった。
 とはいえ、見る見るうちに槍で裂かれた酷い傷口が塞がっていく。
(凄いんだな・・・この子)
 急に不甲斐なさに襲われ、ナハトは城壁の合間に覗く夜空を見上げた。同時に、現実にも直面する。
 無断で城に侵入したのだ。ただで済むはずが無い。
 このサリアという少女も高貴な身分なのは違いないだろう。それくらいは、愚鈍なナハトにも安易に想像がついた。
 これから、自分はどうなるのだろう。
「・・・剣士様、ですか?」
「え?」
 手を休めないまま言ったサリアに、急に思考の沼から引きずり出されたナハトは目を白黒させた。
「その・・・鞘が目に付いたので・・・」
「う・・・あ!でも違うんだ!僕は怪しい者じゃなくて・・・その・・・手紙を届けようとして、魔物が・・・」
 混乱が加速した。支離滅裂な言葉の羅列と、滅茶苦茶なジェスチャーで経緯を伝えようと苦心する剣士の少年に、
サリアは静かにヒールの手を降ろすと、穏やかな笑みを浮かべた。
「本当に怪しい方は、肝心の剣を手放したりはしません」
 言われて、ナハトは自分の腰の鞘に目を移す。
 中身が、無かった。
 考えてみれば、魚人と揉み合った際に胸板に突き立てて、そのままだ。
「そ、そうだよね・・・はは」
 クスクスと笑うサリアに、バツの悪そうな苦笑を返すナハト。つくづく、格好のつかない自分が情けなくなる。
 サリアはひときしり笑った後、急に憂いを帯びた表情を浮かべ、尋ねた。
「ところで、剣士様・・・魔物というのは・・・」
「・・・僕にも訳が分からなくて・・・騎士団へ向かってる途中だったんだけど、突然・・・魚の顔をしたヤツだった」
「魚、ですか?」
「うん。顔が魚なんだけど、槍を持ってて・・・体が人間みたいになってて・・・それから・・・」
 ――助かったのが不思議なくらいに、強力な魔物だった。
 喉まで出かかったそんな言葉を飲み込み、ナハトは俯く。そんな事はこの少女に伝えるべきではない気がした。
「一緒に堀に落ちて、何とか切り抜けたんだけど・・・もしかすると街には他にも・・・」
 言いかけて、ナハトはサリアの変化に気付いた。
 この世のものとは思えない美貌を険しく歪め、瞳を周囲に這わせている。
「あの・・・どうかした?」
「・・・そのモンスターは高位水棲系の魔物です」
 魚。
 水棲系。
 言われてみれば、そうだ。
 自分はとんでもないヘマをやらかしたのだと気付き、いよいよ、ナハトは泣きたくなった。
 水の魔物を何処へ落として倒したと言うのだろう?自分は。
 そして、自分は何処へ流れ着いた?
 "泳げる"相手は、もっと早くに此処へ来ただろう。それから、たっぷりと時間をかけて体勢を整えたに違いない。
 そう、たっぷりと。
 サリアが、ナハトが、同時に水路から離れる。今まで襲われなかったのが、不思議だった。
「・・・僕がやるしかない・・・」
 苦々しく吐き捨てる。水を吸って重くなったマントを脱ぎ捨て、ささやかながらも戦闘態勢をとる。
 気休めだ。それでも、商人の娘の代わりにサリアを危険に晒してしまった自分が、やらなくてはならない。
 鞘は武器にならないだろう。他の所持品は水路に落とし、或いは水に濡れて使い物にならない。
 ポケットをまさぐって出てきたのは、ふやけたルイセの手紙だけだった。
「くそ!・・・せめてハエの羽があれば、サリアだけでも逃げれたのに・・・」
「剣士様・・・?」
「ごめん・・・僕のせいだ・・・僕のせいで、君まで・・・」
 度し難い程に愚かな自分を内心で罵るも、申し訳なさだけが込み上げる。
 夢の中の人に似た、美しい少女。
 何の縁か、何の因果か、出会う事が出来た。それなのに、これか。
「いいえ・・・剣士様、それは違います」
 静かに、少女の手が独特の構えを取る。
「これは私の責任です。そして、私だけが逃げる必要など、何処にもありません」
「・・・どういう・・・?」
 サリアの言動に疑問を覚えた刹那、水路の水が跳ね上がった。
 飛び出した半魚人が、トライデントを突き出す。
 生半可な冒険者ならば、いとも容易く葬られる一撃。
 反応の遅れたナハトよりも早く、少女が動く。大の男でさえ素手では戦いにならない魔物を相手に、徒手空拳。
 直後、魚人が空中できりもみした。
 打ち出された少女の拳が、魚人の腹を強かに殴り飛ばしたのだ。
「逃げなければならない相手ではないからです」
 呆気に取られたナハトの前で、もんどり打つ魚人のこめかみに、振り上げられたサリアの踵が落とされた。
 盛大な音を立て、頭部を破砕された魚人が水中へ没する。
 上がる水飛沫。
「Amen...」
 瞑目し、散った魔物の魂に向け、モンクの少女は祈りを捧げた。

 
 


 to be continued  『廻り始めた歯車』
231('A`)sage :2004/07/31(土) 01:59 ID:pPpeB.EA
今晩は。
眠気でのたうちまわってます今日この頃、投下です。
次で序章(のようなもの)が佳境に。
多分、史上最軟弱主人公の逃避行が始まります。


>鍛冶師の話様
ソノラ○文庫・・・不勉強です。調べておきます('`;)
繋がりの違和については・・・明らかなミスです。はい。orz
単にテロの原因についての伏線を張りたかったのが、部分部分が削れて不明瞭
になってしまったという、典型的な添削ミスです。
あ、誉めるも何も、私は貴方の作品のファンですよ?

あと・・・断固としてコソコソさせてもらいましょうぞ!ヽ(`Д´)ノ


>203様、157様
軟弱剣士君が大活躍大成長!という話がメインではないんですが、
よろしければ読んでやってください・・・。

>204
転職・・・難しいですよね。ちゃんと描写するには、ゲーム内の演出があまりに
淡白です。せめて着替えとか、ちゃんとあれば。

前作のアレを転職と呼んでいいのかどうか疑問ですが。
とにかく!頑張ってください。楽しみにしてます。本気で。

>ルイセ=セシル
この辺はちょっと先になりそうです。具体的には三ヶ月くr(ry
それも含めて、基本的には前作の続編のような感じです。


>93
やはりメインタイトルは最初に決めておくべき、なんですよね。猛反省してま
す。その節はお手数をかけました。
あの人・・・というと、やはり彼?でしょう。出ますよ、きっと。(曖昧


>丸い帽子様
私は頭が良くないので、そこまで説得力のある理論が書けません。
うらやましいです。ええ、とっても。ください。その知識。(何を言うか
名前等はキャラ立てしてから語感で付けてるだけなんですが、そう言って
いただけると嬉しいですねー。


では、また。
23293@りあるたいむきたーsage :2004/07/31(土) 02:06 ID:ITrq.nqk
監獄帰りの93です。
アレ? …電波が(゚∀゚)

『アレハ、オマエノコトデハナイトオモウゾ、相棒』
「…そうね、私は高貴な身分とかには縁がないと思う」
「特にそういう描写は無かっただろう。ひょっとしたら…」
「………先輩。冗談はよしてください」

いえ、前のコラボックルのメインヒロインがサリアやったので
…一瞬のどきどきをおすそ分け(笑
233SIDE:A 勝利と重荷と(1/2)sage :2004/07/31(土) 12:16 ID:ITrq.nqk
 お昼ごはん時にこんにちは。おかずにはならないでしょうけど、ご賞味ください。

----

 煙が晴れた時には、巨大な悪魔の姿は消えていた。
「…俺は。勝った、のか?」
 戦い方や職を選べば、ダークイリュージョンを一騎打ちで屠る事は不可能ではない、とは聞いていた。
事実、テスラならば対魔法術と治癒法術を駆使し、五分以上に戦えるだろう。だが、防御の甘い騎士の
自分が勝てる相手とは、思っていなかった。
「まだ、生きろってことか…? 俺に」
 神は信じちゃいないが、どこかで聞いているかもしれない誰かに向かって呟く。それは、誰よりもまず、
自分に聞こえるようにだったのかもしれない。まだ自分の勝利に今ひとつ実感を伴わない俺に、ペコが
頭をすり寄せてきた。その肩に寄りかかるようにして、剣を鞘にしまう。その鋼の摺れる音が、俺を
ようやく現実に引き戻した。
「はは…ははははっ」
 天井を仰いで笑い、幾世代もこびりついたであろう染みに目をやると、一つの真新しいひび割れに
目が留まった。そのまま、ひびに沿って目線を下ろし、短いが激しかった戦いの痕を噛み締めるように
眺め…

「…は?」
 俺の視界に入ったのは、瓦礫と、その下に埋まるように倒れた濃い青の聖職者装束だった。身動き一つ
しないその姿は、倒れている位置からして間違いなく俺の技の余波を受けたのだろう。
「……っ! おい、あんた! しっかりしろ!」
 くぇぇ!

 慌てて駆け寄り、抱えたその身体は羽のように軽く、力なく目を閉じたままの白皙の顔はまるで
人形細工のように整っていた。慌てて篭手の留め具を外し、振り回すようにして脱ぐと、汗でじっとり
した己が手を見て一瞬ためらってから…、おずおずと女…いや、むしろ少女と言ったほうが相応しい
娘の額に当てる。

   …冷たい。

「くそっ」
 歯噛みした俺の前に、ペコが蝶の羽を咥えて差し出してきた。イグ葉があればよかったのだろうが、
俺の荷物にはこれしかない。俺は少女を抱えたまま羽を握りつぶし、その魔力を解放した。
234SIDE:A 勝利と重荷と(2/2)sage :2004/07/31(土) 12:17 ID:ITrq.nqk
『テスラ! テスラはいないかっ!?』
 細い少女の身体を横抱きにしたままで俺は首都の街路に降りたち、周りの視線など気にもせずに
ついさっき別れたばかりの聖職者に念話を飛ばした。本職は対魔とはいえ、高い魔力を駆使して
並以上の治癒法術を扱うテスラがいたならば心強かったが、帰ってきたのは、相手が念話の届く
領域に不在であった時特有の、冷たい反響。
「…くそっ」
 周囲に聖職者姿の奴等は、いる。だが、死の淵の怪我人を預けられるほどの腕かどうかはわからない。
大聖堂に駆け込めば確実だろうか、それとも、テスラが戻るのを待つべきか。
 選べ、俺。今度の賭け金は…、この女の命だ。それは、今日の三度の賭けの中で、一番重いものの
ような気がした。理由は、わからないが。

 その時俺に、横合いから声がかからなければ、一体どうなっていただろう。
「ご無事でしたか、騎士殿」
「騎士様…よかった」
 聖職者の男と、魔法使いの女。確か…名前はシェールとナッツ、と言ったか。先刻助けた二人が、
街路のベンチから手を振っている。煤けたままの服でそこにいたのは俺を待っていたのだろうか。
俺の抱える少女に気が付いて、嬉しそうにしていたナッツの顔が固まり目が大きく開かれる。
そちらには構わず、俺はシェールに自分の腕の中を示した。この男の腕ならば、先ほど見知っている。

「…すまん、この子を頼む」
「この子は? …いえ、話は後で。どこか落ち着けるところに運びましょう。騎士殿は…どちらに
 ご滞在ですか?」
「あ、ああ。俺の宿はアルケミ通り三番地だが…」
「ならば私たちの宿よりも幾分近いですね。そちらへ」
「…わかった」
 シェールに首だけで会釈をすると、俺は少女を横抱きにしたままで街路を早足で進む。なるべく
揺すらないようにすると走るわけにも行かず、ペコに乗せるのも論外だろう。
「あたしは、先に行って水とか準備しておくよ。どこ?」
「すまない。『折れた大木亭』の二階の奥だ」
「了解っ」
 駆け出しかけたナッツの足元に素早き神ヘルモーズの祝福がなされる。振り向きもせずに背中
越しの親指立てで礼を表すのは、そんな気遣いに馴れている証拠だろう。彼等は、いいコンビのようだ。
「あせらずに、騎士殿。できる限りの事をしましょう。…私にも借りがありますからね」
「…貸しのために剣を振るったわけじゃないがな。感謝しておく」
 俺の返事に、聖職者は何か含みのありそうな笑みを返したが、何も口には上げなかった。

----
 いいわけとか皆様の作品への感想は…夕刻にでもっ
23593@NGワード用sage :2004/07/31(土) 14:54 ID:ITrq.nqk
>>鍛冶師さま
 立ち回り、かっこいいというか無駄に形容が多いだけな気がするのですが、褒められると素直に嬉しいです。
ダークロードもダークイリュージョンも、私の脳内ではいい人(?)達なのです。……コラボの時のアレですから。
 つ[80WIZ ♀プリさんと世界を救いたい]

 見ていて恥ずかしくはなりませんが、背中を蹴り飛ばしたくなる私はルードくん派。私の脳内アンテナは
ケミ学校の同級生の女の子(ジュノー出身)を首都案内中にジェイくんがモンク連中に追われてるのを発見し、
助けに走ったはいいが、後でほっぽらかした女の子への埋め合わせに四苦八苦、とか受信しました(ダマレ

>>丸い帽子さま
 画面内をちらっと見かけるくらいですけどね。監獄には最近ギルドで遊びに行ってるので、ご挨拶もできず
もーしわけない。いや、挨拶って言うかしたいのは新作催sdrftgyふじこlp
 AGI騎士にしてみたのは、なんか最近臨時でもハブにされたり、BOT扱いされたりで不遇なAGI騎士さんを、
初めて見た時の憧れを思い出して書きたくなったのです。β2の頃ですが、本当にかっこよかった。拙作のが
かっこいいかというと、私の書く作品の主人公ですからへたれ確定です。丸い帽子さんの主人公がクールガイ
なのと同じようなものだと笑ってお許しください。

 魔法の話は、むかしむかしに全然別のところで設定したのと似ていて嬉しいような感じでした。某TRPG
ルールのハウスルールの後付理屈として、なのですが。結構つきつめてくと
 「神など居ない! あるのはイメージのための媒体たる己の心の中の“神”だけだ」
ってなってしまって、ストーリーのラストが神さまと大喧嘩するシナリオになってしまったのが懐かしいです。
アノコロハ ワカカッタ…タハー

>>217-218さま
 私も同感です。これからも、このスレに光あらん事を。

>>223さま
 萌えられちゃいましたか。へたれ萌え同志はっけーn(ダマレ
楽しみにされると嬉しいのでパパがんばっちゃうぞー。

>>224さま
 緊張の糸が切れて泣いちゃうプリさん萌え。そこでぎゅっ以外何もできないBSさんにも萌え。
覚えてやがれっな古典的チンピラの三馬鹿ローグにも萌え(……アレ? すっごく王道な話で、
書き方もうちと似ている感じ(一人称の人がコロコロ変わって情景切り替えとか)なのに、受ける
イメージが拙作系と全然違うのは、情景描写の巧みな取入方によるところですか…。その技っ
[>ころしても うばいとる

>> ('A`) さま
 コソコソ イクナイ!!
メインタイトル関係のは、ネタ突っ込みなので気にしないでくださいね。あの程度の手間などっ
彼については、 つ[闇の契約書] ココニサインヨロー
出すって言質を取ったからにはわくわくして待ちますとも。あと、>>232は名前がたまたま同じ
だったウレシイナ 以上の意味は皆無です。うちのサリアは多分プリ転職でしょうし…
236('A`)sage :2004/07/31(土) 23:02 ID:pPpeB.EA
>93
名前の重複に関しては、単なるイージーミスです。
スミマセンスミマセンorz
237丸いぼうしsage :2004/07/31(土) 23:15 ID:GKtpVZ02
--がんばれ、異端審問官

年旧った石の壁は厳粛な冷たさを帯びていて、どことなく黴くさい。
厳かで美しい聖堂内と違って、それに付属する事務所は教会が抱える闇を体現したように、
薄暗くて煩雑としている。その一角、オーク材の机の前に緊張した面持ちで女が立っていた。
相対するは髭の司祭。長い髭と長い眉毛に隠された表情は読みとりにくいが、刻まれた皺が
キャリアの深さを物語っている。

「アリシア・プリスコット…貴公を異端審問補佐官に任命する。ついては明日午前八時にここへ
出頭し任務を受けること。よいな。」

そう言って髭の司祭は女の首に銀の十字架を掛けた。ただの十字架でなく、横棒が二本多い
特殊な十字架。教皇十字とも呼ばれるそれは、所持者がただの司祭でなく、教皇直属の強権を持った
人間であることを示している。

「はいっ」

 十字架を受けた女の声の余韻は震えていた。それは緊張からではなくおそらく喜び。
耐えきれない喜びが女の背骨をくすぐって、体を嫌がおうにも震わせる。
女は司祭の隙を見て小さくガッツポーズをした。

薄暗い事務所を退出して外に出ると、女は飛び上がった。

「やった、やった、これで正式な異端審問官の仲間入りよ!。これでもう、お金に困ることはないわ!
重湯と区別の付かないスープや賞味期限切れのコッペパンとは、今日でサヨナラなんだから!」

随分と貧乏な事を言う女、アリシアは、たしかにプリーストとしてはみすぼらしい服装をしていた。
濃紺の法衣にはかぎ裂きがいくつも入り、肘の辺りはすり切れて光っている。
肩口で切りそろえられた真っ赤な髪には艶が少し足りなかった。

「…山村の教会で三男四女の次女として生まれ、食事はいつもジャガイモの取り合い、祈るよりも
長時間の農作業…。プリーストに転職と言っても身内でテキトーに儀式しただけで、やることは
相変わらず家事か農作業…でもそんな悲惨な日常とも今日でお別れ。
アリシア・プリスコット19歳…ついにこの世の春が来たのよっ!!。」

降り注ぐ白い日差しの中、沿道の花壇に植えられた向日葵がその中心を太陽に向けていた。
しかし、大きく開いた向日葵もすごすごと引き下がるくらいにアリシアは幸福に咲き誇っていた。
だから、彼女は周りの人間がどれほど冷ややかな視線でこの有頂天の田舎者を眺めているかなんて
分かるはずもないのだ。

「しかし、本当に素晴らしいわ!いくら十字軍があったからってここまで採用条件が緩くなってるなんて…」

 この数年、教会は新たなビジネスに手を出した。異教徒の教化を口実とした侵略戦争…俗に言う
十字軍である。王国騎士団と聖騎士団の合同作戦である十字軍は、多くの人員を必要とした。
 当然、その戦力として異端審問委員会からもかなりの人間が引き抜かれた。戦闘に特化した彼らは大きな
戦力になったからだ。もちろん、国内に対する締め付けをゆるめるわけにはいかず、補充人事としてとりあ
えず「使える」聖職者が大量に雇われたわけである。
 その人事は杜撰なものだった。何より質より量である。本来、異端審問官はたたき上げのエクソシストの就ける
最高の位であり、人徳はないが血筋は良い人間が出世の腰掛けにする位である。
 が、今回は違う。教会に籍を置き、それなりの力があれば即採用である。だから、田舎のどこの馬の骨で
出来てるか分からない教会の人間でも、補佐官として採用されてしまったのだ。
238丸いぼうしsage :2004/07/31(土) 23:16 ID:GKtpVZ02
「給料は月45万ゼニー…それに調査費、交通費に様々な手当まで付くのよ!
素晴らしい、素晴らしいったらありゃしないわ!これであの憎き弟共に仕送りして自慢できるわ!
『姉さんはこんなに稼いでるのよ』って…ああ、今夜は祝杯よ!!
 普通のパンにハムとサラダまで付けて…ううん…ちゃんと料理屋でコース料理だって頼めるわ!
旅費の残り、全部使っちゃうんだから!ああ、お肉が食べたいー」

 踊りながら繁華街へと消えていくアリシア。
もちろんのこと、審問官にも給料日という概念はあり、その給料とやらは即日支給されるわけではない。
でも、明日からは仕事なのだ。仕事となれば調査費も支給されるだろう…というのがかの無計画プリースト
の考えであった。

--

「で、遅刻の理由は二日酔いかね?アリシア君…」

「うぷ…ごめんなさい、司祭様…しかしですね…ワインは主の血で…うぇ…」

昨日と同じようにオーク材の机の前に立ったアリシア。その顔面は蒼白で脂汗が浮き出ている。
髪はぼさぼさの上に寝癖でカールして枝毛付き、みすぼらしい法衣には机の上に突っ伏して寝たこと
まるわかりの皺がつき、ご丁寧にヨダレの跡までついている。

 昨晩、アリシアは勢いで酒場へと繰り出した。一杯のつもりでワインを飲んだところこれがまた美味しいので
二杯三倍と重ねて、おまけに周りにおごったりしてそのまま酒場で御就寝。代金払って財布はスッカラカン。
ひっくり返して出てくるのは1z銅貨と埃だけ。
 酔った勢いで貞操をフイにしてないあたりまだ最悪ではないが、文句なしの聖職者失格ぶりである。

「まぁいい、遅刻については君の深遠な知識に免じて不問としよう。
 では、任務の説明だ。アリシア君。フェイヨンで現在何が起きているか知っているかね?」

深遠な、の所をゆっくりと強調する髭の司祭。アリシアが今回の採用試験において「神学知識」の項目で
下から二番目の成績だったということは多分、予想の範囲内である。

「う…うー、確か、ダンジョンからアンデッドモンスターがあふれ出してるとか…」

「左様。だが、現在分かっていることはモンスターがあふれていて、それが不死者であると言うだけだ。
量も原因も分かっていない。君にはフェイヨンで先行している審問官と落ち合い、
その件について調査をしてもらいたい。幸いにして君の身体能力は平均以上だ。体を張って突入し、
正確な報告を行いたまえ。」

日頃の農作業において鍬をバトンを振り回すがごとく軽快に扱い、野山を駆けめぐっては野獣を
苛めていたおてんば少女アリシア…彼女の身体能力は新採用者の中で平均以上どころかトップクラスであった。

「は、はい…了解しました…」

「先行する審問官についての資料、その他現状の資料などはこれだ。
九時に南門の前にペコ車を手配してある。その中でじっくり読みたまえ。」

司祭から封筒を渡されても、アリシアは退出しようとはしなかった。


「あ、あの司祭さま…調査費用とかってどうなるんですか」

「うむ、調査費用については君に一旦立て替えてもらうことになる。
領収書を見た後吟味して後からこちらで支給するから安心したまえ。」

真っ青なアリシアの顔から血の気が引いて土気色になる。そう、彼女は一文無し…立て替えようにも
無い袖は振れぬというものだ。目を白黒させつつ、あ、う、等と言語にならぬ声を発するアリシア。
 その様子を見て怪訝そうに首をかしげる髭の司祭。

「あのー、司祭さま」

「何かね、まだ何かあるのかねアリシア君」

「お金…貸して下さい」

--つづく
239丸いぼうしsage :2004/08/01(日) 00:25 ID:Xy3J1P2o
本当に、反応があるというのは嬉しいと思いました。まさに一粒三百行。
全て返事すると本分より長くなっちゃうので省略する無礼をお許し下さい。

 魔法の話は、いつぞやにゅ缶小説スレで見た魔法制御論特別講座の人に影響を
受けること多大です。私のは単語を並べてそれらしく見せているだけなので、
論理的に、と言われると恥ずかしくなってしまいます。

--感想

鍛冶師の話さん:
雨が降ってきたときの心の動きというか、動作が素晴らしいと思いました。
こう言う細かいところで世界のリアリティに差がつくんだなぁ…。
240名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/01(日) 13:19 ID:eH21HuIA
過去に比べるといまいち盛りあがりに欠くな
241名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/01(日) 13:39 ID:Ye.ARLbI
>>240が盛り上げればいいじゃない
242名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/01(日) 16:31 ID:nyFkrVuU
新しい文神様の降臨をわくわくしながら眺めた頃と、
見知った懐かしいお名前に期待して待つ今とでは
テンションが違うのは仕方がないかもしれません。
作者さん同士で感想書きあってる現状が、ROM住人の
冷め具合を表してるとすると・・・寂しいですね。

新たな神降臨期待sage
243SIDE:A 愛の語らい?(1/2)sage :2004/08/01(日) 19:09 ID:nyFkrVuU
懲りずに爆撃。この次で、ようやくやりたいことができそうなやかん。

----

「……納得行きませんよ? あたしは」
 何度目かわからん愚痴を、ナッツは俺にぶつけていた。場所はイズルード市東の小島のベンチ前。
夕刻前の日差しを浴びて気持ちよさそうに居眠りするペコに二人でもたれている様子は、傍から
見たら恋人同士にでも見えるのだろうか。
「俺も同感だがな。治療のプロが言うんじゃしょうがあるまい」
 そう答えながらも、あの聖職者が何かを隠しているのは間違いない、と俺は思っていた。治療の
ためにと称してはいたが、服を脱がすとかその程度の理由なら、俺はともかくあの少女と同性の
ナッツまで追い出すのは腑には落ちない。

 とはいえ、もう一つ確かなのは
「安心しろ。あんたの心配するような理由じゃないさ」
 何かを言い足そうとしていたナッツの口がぱたん、と音を立てるかのように閉まり、一気に顔が
紅潮する。なんというか、わかりやすい娘だ。
「…ななな、なにをあたしが心配って?」
「別に大声で触れて回ったりはしないさ。お前さんが相棒に焼餅を」
「うわぁあああ! ストップ! ストップ!!」
 真っ赤になった顔で目を閉じて、両手をぶんぶん振り回すのを見ていると、こいつが本当に知性と
冷静さが売りの魔法使いなのか疑問に思えるわけだが。

 くえぇ?

 まどろみから覚まされたペコが怪訝そうな声を上げるのを、俺はくちばしを軽く撫でて落ち着かせる。
奴は下品にげっぷを一つするとまた目蓋を閉じた。草食の奴のげっぷはそれほどいやな匂いはしないが、
生暖かいので勘弁してもらいたいところである。
「…あー、その。ごめん」
 ナッツが神妙そうな顔でペコに謝ると、相棒は片目だけ開けてウィンクひとつ。鳥の癖にそつの無い奴だ。
「気にしてない、とさ」
「よかったー」
 そのまま、パタリ、と草の上に仰向けに寝転がると、薄い紅の長髪がふぁっと広がった。
「…あの、騎士さん」
「ブレイドだ」
「え?」
「俺の名前」
 なんとなく、間の抜けた沈黙が流れる。
「…あの、ブレイドさん。その、えーと…やっぱり、ばればれですか?」
「何が」
 俺は意地の悪いほうではないと思うのだが、この女魔法使いは…いじると面白い。
「私が…その…」
「相方にぞっこん惚れまくってるってことならばればr」
「うわぁあああ! やめ、そんな大声でっ」
 勢いよく起き上がり、ふるふる首を振っていやいやをすると、ウィザードの衣装で妙に強調された胸と
ふわふわした髪がそれにあわせて揺れた。こいつが魔法使いの上級試験に通ったのが何故か、つくづく
疑問だ。こんなでも、多分俺よりずっと頭がいいんだろうと思うと思わず天を仰いでしまう。

「…でも」
 の声に目線を戻すと、ナッツは、女プリーストのようにぺたんと正座を崩したような座り方でこっちを
見ていた。プロポーションは悪くないのだが、子供にしか見えないのは…当人の性格と仕草の問題だろう。
「ブレイドさんがお気づきになったって事は…。シェールも、気づいてるって事ですよね…たぶん」
「んあ? まぁ、あんな情熱的な救出劇のあとで思うところが何もないようならどっかおかしいな」
244SIDE:A 愛の語らい?(2/2)sage :2004/08/01(日) 19:11 ID:nyFkrVuU
 悪いな、とどこかで思ってはいても、赤くなったりしおれたり、ころころ変わる様子を見ていると、
からかいたくなるのがとめられないのだから、俺も大概酷い奴ではある。とはいえ
「…でも、さっきも何も言ってくれないし。今までも何もないし。私がいくら好きでも、こんな性格じゃ、
 シェールには愛想をつかされてますよね…」
 俯いてのの字を書き始めるのを見ると、俺の良心もそろそろ自己主張を始めるわけで。
「そうでもないんじゃね?」

「そうですよ、蓼食う虫も好き好きといいますし。私はナッツのことは好きですよ?」
 フォローを入れた俺の語尾に被るように、話題の主の声がした。
「……うわっ」「えええぇっ!?」
 ぎょっとする俺達を面白そうに見ながら、シェールは似合わないサングラスの向こうで
指を一本立てて見せた。
「予想される質問一つ目の答え、あの少女は大丈夫ですよ。もう少し休めば元気になるでしょう。
 ブレイド殿」
「な、なんで俺の名前を…」
「で、予想される質問二つ目の答えですが、騎士殿が名前をナッツに告げたあたりから、ですね。
 私がいたのは」
 そういってうんうん、と頷いてみせるこいつは、…俺が言うのもなんだが、いい性格してやがる。
「…う…シェールぅ…?」
 下唇をかんで、上目遣いで相棒を見上げている魔法使いに、心の中でエールを送ると、お邪魔虫の
俺は立ち去ろうとした。…わけだが。

「…んげ?」
 睡眠モードのペコの奴がしっかりとマントを下敷きにしているうえに、当事者その2が俺の肩を
抑えた。
「愛の語らいは後でも出来ますし。まずはブレイドさんの怪我を治さないと」
「あああ愛のかたかた語らいぃっ!?」
 自分の髪の毛よりも赤くなったナッツが口をパクパクさせているのにちらっと目線を送ると、
シェールは俺に治癒法術を注ぐ。いや、もう粗方治ってるから解放してくれ。

「すまん、悪いが俺はこの甘ったるいムードには付き合いきれん」
「…そうおっしゃるような気はしたんですけどね。それじゃあ…、例のお姫様の様子でも見に行って
 あげたらどうです? そっちはそっちで甘々したらいいじゃないですか」
「そ、そうよ。お見舞いには行かないとね、王子様っ」
 それに続けて、ナッツが懐から何かを投げてくる。これは、リンゴか?
「その背中のは飾りじゃあないんでしょ? へへ…がんばってね」
 ……がんばれとは、両手剣でリンゴを剥くことを…ではないだろうな、やはり。気遣い?には感謝しつつ、
俺は、昨今では倒れてるのを助けたら下心ありということになるのか、と首をひねった。まぁ、可愛らしい
少女ではあったが。

 意図を測りかねていると、二人揃って親指を立てて激励ポーズをとってきた。つくづく本気か冗談か
分からない連中だが、悪意がないのだけはわかりやすい。

 俺はまだ寝ぼけているペコを小突いて起こすと、のほほんとした様子の二人を後に、助けた少女の
様子を見に宿屋へと向かった。

----

 弱音を吐いてから2時間ほどがんがってみましたが、盛り上がるようなのは書けないですね…orz
245240sage :2004/08/02(月) 20:49 ID:HfODcqxY
ROM専の俺には無理だが期待はしてる。
93氏、ある鍛冶氏が俺的に注目株。
両者とも燃えか萌えの二極構図になりそうだが、分からん。
ドクオ氏はまだ何とも言えない。が、前作と比べて見劣りする印象は否めない。
エンジンかかってないのか、手を抜いているのか。丸い帽子氏も同様。
以下は個人的な文神の評価。文神への燃料とも言う。
文章力的には今のところドクオ氏が最下位。他は団子。
丸い帽子氏は理論に光るものを持っている。
93氏は努力姿勢が良い。間違いなく成長している。
ある鍛冶氏は全体的にそつがない。センスもいいように感じる。
ドクオ氏はかなり曲者。文は稚拙で見れたもんじゃないが、構成力がある。
長くなるのでここまでにしとく。
他にROM住人がいるとも思えないが居たら補足ヨロ。
246名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/03(火) 01:12 ID:3Nv/LPHk
一ROM者として。
コテハンの方々の長編はもちろん、それぞれ続きを期待&楽しみにしています。
でも、1〜3レスほどで完結するショートショートを読むのも大好きです。
萌え(燃え)SSと、長編力作が混在するこのスレが大好きです。

あー、何が言いたいかというと、
批評したいんじゃない!読みたいんだ!!(笑

個人的には、ここは作家を育てるスレではなく
(結果的に育つのはもちろんあると思いますが)
胸に秘めとくには大きく育ったやりどころのない萌(燃)え魂を
文章にして投下する場所だと思ってます。
その萌えに共感したいし、新たな燃えを発見したいです。

ということで……文神さまと文神の卵さま達を待っています。

>>他にROM住人がいるとも思えないが
壁||・)ノ イマスヨー
247名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/03(火) 12:57 ID:gNKVMdzE
>>245
> 他にROM住人がいるとも思えないが
いますよ
私の場合は、拙い感想や批評モドキを書いて
場の雰囲気を損ねるのを懸念してROMに徹しています

届かない拍手は作者様方には無意味かもしれないですが
そんな静かな読者もいるって言うコトで…
24893@NGワード用sage :2004/08/03(火) 15:42 ID:AxJweLbU
 泣き言すみませんでした。と、ROM様に書き込みを強要するような流れにしてごめんなさい。
このお詫びとお礼は作品で! と思ったのですが、続きがちょっと実験物なのとお仕事が微忙しいので
即書きが難しく、レスだけで失礼します。

 ROM様、文神様含めてスレの皆様の反応が、私のような駄文書きには何よりの滋養です。
他の文神様も、多分そうじゃないかな…と。
倉庫まとめをしていると、前後の状況によっては良作でも感想がなかったりすることもあるのですが
そういう時に作者さんのパワーが衰えるのが手に取るように分かります。その後の書き込みペースで(笑

 それと、難しい批評とか、感想とかでなくても…、燃えor萌えたところとかを書いてもらえるだけで、
書く側も楽しめるものなのです。多分。なので書き込みたいけど、書き込めないというROMの方には
気がむいたら何か一言でもお願いしたいな、と。これは作者Aとしてじゃなくスレ住人Aとして。
倉庫整理は難しくなるのですが、「遅レスですが…」な感想も纏めてると楽しいです。

 ('A`) さまに某魔術師萌えーとか某鍛冶師さまに某商人(現ケミ)くん萌えーとか言いまくって
(多分)その後の出場予定まで変えさせた脇役萌えな奴が言っても説得力がないかもですが。
249丸いぼうしsage :2004/08/03(火) 22:21 ID:XTaXkuH2
中原に版図を広げるルーンミドガツ王国…。この国が外憂内患、様々な問題を抱えつつも未だ大帝国たり得るのは
統一された度量衡と貨幣制度、神経のように王国各地へ張り巡らされた街道によるところが大きい。
 全ての道はプロンテラに通ず。首都付近では美しい石畳の道が見られ、ペコ車はカタカタと小気味良い
音を立てて走る。だが、逆はどうだろう。首都から離れるに従って、街道とは名ばかりの「草が生えてない空間」
になってくる。
 南方面への道、ソグラト砂漠は草むしりの必要もなく、街道としては非常に安上がりだ。

 夏の太陽は首都以上に容赦なく、赤茶けた大地を穿つ。
 街道は整備などされていない。ただ砂で轍が埋もれぬところが道として使われているだけだ。
段差だらけひび割れだらけ小石だらけ。そんな街道を進むたび、ペコ車はガタガタと不快に揺れる。
 この振動の中、書類を読むというのは自殺行為…ましてやそれが二日酔いの人間にとっては。

「う…うえぷ…先行する審問官は…はぐあ…聖騎士…へふっ
お父様…お母様…どこであろうと労働は大変です…うぷ。」

「お嬢ちゃん、もう少しで着くからそれまで車内で吐くのは我慢してくれよ!」

陽炎に揺れるサボテンと地獄の熱気…その中でペコ車に揺られる時間は、アリシアにはひどく長く感じられた。
書類に落とした視線はぶれ、焦点を合わせようとすれば吐き気が空っぽの胃袋からまた上ってくる。
日よけ帽を被った御者はのんきに鼻歌なんて歌っているが、彼女にとってはそれすら恨めしかった。

「ああ、ここは地獄ね…。酔いつぶれた上に借金なんてするから私は地獄に堕ちたんだ…」

などと逃避しても吐き気と暑さは仮借ない。
書類を読むどころか現実逃避する気力もうせ、茹でられた魚みたいな目になったころ、ペコ車は
大きく軋みを上げて止まった。
 着いた、という御者の声に促されてアリシアは外に出た。
切り立つ崖から見える海…そしてその向こうにはブロッコリーみたいにこんもりとして見える緑の森…
砂漠と海と森の織りなす、自然の芸術だった。日差しは相変わらず強かったが、潮風は頬に心地よい。

「ああ、こうして外の空気を吸えるだけでも多少は良くなる…
…って、ここのどこがフェイヨンなのよーーー!!!」

「おやー、お嬢ちゃんにはいってなかったか?ペコ車で吊り橋は渡れないんだよ。」

確かにこうしてみると、とても頼りなげな吊り橋がながーくながーく、海の向こうに伸びている。
もし脱輪でもしようものなら確実に立ち往生…というか、ペコ車の重量に耐えられるかもアヤシイ吊り橋である。

「それじゃ、お嬢ちゃん!お仕事頑張ってなー!」

呆然と立ちすくむアリシアの横に荷物を放り出して、ペコ車は元来た道を戻っていった。
車輪の音が消え、波の音とクォィクォィ、という野生のペコペコの声だけが残った。

「行くしか…ないのね…」

 アリシアは全財産(負債含む)の入ったずだ袋を背負い、使い込んだ得物…彼女の身長より長い
ロングメイスを背中にくくりつけた。
 そして、

「海の…バカヤロオオオオ!!」

と気合一発、吊り橋に向かってずかずかと歩いていった。
250丸いぼうしsage :2004/08/03(火) 22:23 ID:XTaXkuH2
--
八重九重に重なった木の葉が夏の日差しをそぎ落とし、ひっそりとした密林はいつも通りの暗さを保っていた。
朽ちた木には日を忌み嫌う茸がひょろりと生え、苔はひんやりとそしてじっとりと静寂を守っている。
その静寂を後ろに虫の声鳥の囁き、そして小枝ごと腐葉土を踏みしめる音と獣(と人)の咆吼がこだまする。

「せいっ!」

突きだしたロングメイスの石突きが、熊の胸元を穿った。心臓の真上を打たれた衝撃に
熊の動きが止まる。そのまま握った部分を支点にして半回転、勢いのついた錘が哀れな
野生動物の顎を強烈なアッパーで打ち砕いた。
 熊の巨体は宙に浮き、幾つもの下草をへし折りながら背中から地面に落ちた。

「熊ごときが人間に勝てるわけないでしょってーの!」

明らかに間違った勝利の言葉を吐きながら、アリシアは仰向けに倒れた熊の体をあさった。
熊の足裏をずだ袋に投げ込み、にんまりとする辺り貧乏性も板に付いたものである。

数分前、下着が丸見えになっていることも気にせず、茂みに頭を突っ込んでハーブをむしっていた
アリシアは、なわばりの巡回中だったビッグフットと目があった。
 侵入者を威嚇するビッグフット、それを「熊が私にガンをつけた」と解釈した彼女は
ビッグフットをにらみ返した。アリシアを敵対者として認識したビッグフットは彼女に襲いかかり…
こうして戦いの、いや一方的な熊狩りのゴングが鳴ったのだった。

「この哀れな獣の魂が安らかならんことを…アーメン。
うーん、ちょっと可哀想だったかな…でも、まぁ先に仕掛けてきたのはあっちだし…
貴重な熊の足も手に入ったし、いいよね!。
 それにしても地図が支給されてたのは不幸中の幸いだったわ」

昼なお暗いフェイヨン近郊の密林。木々の葉の隙間からこぼれる日で地図を確認しては、彼女はゆっくりと
道草を食いつつフェイヨンに向かっていった。

首都を立つこと六時間、太陽が傾いてきた午後三時、ようやくアリシアはフェイヨンの見張り台を
その視界に入れた。
 アリシアのずだ袋は随分とふくらみ、法衣のかぎ裂きはその数を増やしていた。
251丸いぼうしsage :2004/08/03(火) 22:32 ID:XTaXkuH2
--

「へっへー、儲かった儲かったー。熊の足って珍味だから結構高く売れるのよねー。」

財布代わりの巾着を振り、その音を確かめながらアリシアは上機嫌だった。

アンデッドがあふれている、という報告は間違いではなかった。しかし、その数はそれほど多くなく、
昨日から発生が止まっているようだった。
 一時は混乱した街も今は落ち着き、山岳都市としての機能を取り戻していた。
石をあまり使わない木と土の家、切妻の屋根には瓦、少し煤けて黄みの入ったような赤(シュ、と地元の人間は言う)
と遠くから聞こえてくるコトとかいう弦楽器の音色。植物の皮か何かで作られた民芸品を売る商人がいる辺り
もう少し落ち着けばここは観光地としてもなかなか良い線を行ってるようにアリシアは思う。
 しかし、彼女は観光に訪れたのではない、仕事、それも初仕事なのだ。

「とりあえず宿の確保も出来たから、私より前に来てる人と落ち合わなくちゃね…。
予定時間も結構過ぎちゃってるし…」

宿を取ろうと思って巾着の紐をゆるめたところ、胸元の教皇十字に目を留めた宿の主人は態度を一変させた。
最初は「貧乏くさい聖職者だな…ペコ小屋にでも泊まってろ」みたいな顔をしていた主人だが、
相手が首都からお出ましの異端審問官様とあっては無碍には出来ない。恭しくもみ手と笑顔を振りまいて
格安で一番良い部屋を提供すると言った。

「全く今日は始まりこそ最悪だったけどなかなか良い日になったわ!」

もしかしたらこの十字架を見せるだけで食事とかもフリーパスなのかもしれない。例えそんな無理が通ら
ないにせよ、本部のツケにすることぐらいは十分に可能だろう。
しかし、本部のツケで豪遊していたことがばれたらただでは済むまい。アリシアは初日から遅刻し、上司に
借金をしている身である。軽率な行動は、出来るだけ控えねばならなかった。

山々のくぼみから漏れ出す光が失せ、夕焼け色に漂っていた雲も落ちた頃、遅刻魔エクソシストは
重い腰を上げ待ち合わせ場所に向かって疲れた足を引きずっていった。
252SIDE:A 騎士と少女と(1/2)sage :2004/08/03(火) 22:33 ID:AxJweLbU
いきます
----
 俺は助けた見知らぬ少女を見舞いに、見慣れた自分の部屋の扉の前にいた。自分の部屋だとはいえ、
ノックをするべきかどうか悩む。その俺の逡巡を見透かすようなタイミングで中から声がした。
「鍵はかかっておらぬはずじゃ」
 妙に硬い物言いだが、声は確かに若い少女のものである。俺は一つ咳払いをすると、ドアノブをまわした。
「…入るぞ」
 一応一声かけてから部屋に入ると、真鍮のコップを片手にベッドの上に座る少女と目が合った。
助けた時にも感じたが、若い。というより見た目だけを見れば幼い感じもする。
それでも藍色の聖衣を纏っているからには、子供と言うことはないのだろう。
「……」
「……」
 ぱたん、と音を立てて扉を閉めてからの、妙な間。お互いを値踏みするような…というわけではない。
むしろ、何を話していいか分からない者同士の気まずい沈黙という奴だ。

「…あー、俺はブレイドという。…まぁ、通り名だが。君は…」
「わらわの名は依瑠と申す。……世話になったようで、礼を言う」
 俺は、見かけによらぬ少女の古風な一人称に目をしばたいた。だが、その様子は自然で作った喋り方と
言う感じはしない。
「…いりゅう…。異国の響きだな。その髪と目といい、アマツの出か?」
「……」
 沈黙。少女はただ、目を向けているだけ。俺は、シェールとナッツを連れてこなかった事を激しく
後悔した。女のあしらいなど俺は苦手だと言うのに、今日はどうやら厄日らしい。
「すまん、聞いてはまずいことなら…」
「あ、いや。そうではない。実はの…。わらわは、自分が何処の何者であったのか覚えておらぬのだ」
 固まる俺を他所に、少女…依瑠はコップを両手で挟むようにもつと、勢いよく傾けた。白い喉が
嚥下するたびに、こくり、こくり…と小さな音を立てるのが、俺の鼓膜に遠くから響いてくる。
「…余りじろじろ見るでない。礼に適わぬとは思わぬか?」
 気が付くと、むすっとした風の依瑠が俺を睨んでいた。この後の流れが見えるようで、とても嫌な
予感がする。だが、俺が口を開くより前に、少女はからになったコップを差し出してきた。
「…すまぬが、もう一杯水をいただけぬか? ナイト卿」
「……はいはい。分かりましたよ姫様。…って俺のコップだぞ、これっ!?」
「けちけちするでない」
 けちけちする気はないのだが、中身は昨日のままだとすると水ではなく安物エールなワケだが平気なのだろうか。
自分の無骨なコップに小さな唇の跡が付いているのを見ると後で自分が使うのが気恥ずかしく、俺はこっそり
脳内買い物リストに新しいコップを追加した。水差しから、ぞんざいに半分ほど注ぐと少女に返す。
中身は薄めた上に気の抜けたエールだが、今の飲みっぷりからすればまぁ大丈夫だろう。彼女は、どこか楽しそうに
口をつけた。綺麗な顔立ちだし、こんな風に男を使うことに馴れているのかもしれない。
 姫プリ、という単語が脳裏をよぎる。

「あー、で。これから依瑠姫はどうするんだ?」
「…そうじゃな…。当ては無い。しばらく世話になるぞ」
 嫌味をこめて姫呼ばわりをしたのだが、あっさりと返す少女に堪えた様子は欠片も無く。
「……待て。俺に選択の」
「乙女の肌に傷をつけたのじゃ。それくらい安いものじゃろう?」
 ちろり、とコップ越しに上目遣いで見てくる仕草に、俺は柄にも無くどきりとした。まてまて、相手は
子供だ。落ち着いて対処すればいい。オートカウンターの要領だ。頑張れ、俺。
「……あのな、仮にも“乙女”が男の部屋で夜を過ごすのはまずいだろうに」
 カウンターで口を付いて出た言葉は餓鬼の口喧嘩レベルを超えず、俺は自分のINTの低さに
がっくりした。更に救いが無いのはもう俺のINTに成長の余地がないということ。少女は余裕綽々と
いった風情でコップの中身を飲み干すと、くすりと笑って告げた。
「案ずるな。おぬしが不埒な所業に及んでも、わらわには対処する用意がある」
「…た、対処って…」
 絶句する俺。依瑠はそんな俺に頓着せず、室内をきょろきょろと観察しはじめる。
それはもう、我が物顔に。俺の第六感が全力で警告を上げている。今のうちにガツンと言っておかないと、
突然現れたこの姫プリのお陰で俺の人生は取り返しの付かないものになる、と。臨時パーティや、
街行く人の会話から漏れ聞いた恐るべき逸話の数々が俺の脳裏を走馬灯のように…、いや、落ち着け、俺。
253SIDE:A 騎士と少女と(2/2)sage :2004/08/03(火) 22:34 ID:AxJweLbU
「待て待て待て。俺があんたを巻き込んだのは悪かった。認める」
 きょとん、とした様子の少女に俺は反論の暇を与えぬようにまくし立てた。
「だが、あんたを養えるほど俺には甲斐性が無い。金もないし……それに強くもない。男を捜すなら
 もっと頼りになる奴をだな…」
 そこまで言ったところで、すっと…気配を感じさせぬ動きで立ち上がった少女の指が、俺の唇に
そっと当てられた。その表情は、さっきまでの笑いを含んだものでなく、むしろ悲しげで。
俺は驚きで声が止まる。
「そこまでじゃ。おぬしに甲斐性がないのはわかった。金についてはわらわもさほどではないが
 あてがあるから心配は要らぬ。そして、強さについてじゃが…」
 少し怒ったような顔をそらすと、依瑠は左手で黒髪を肩に流しながら、小さな声で付け足した。
「お主の立会いをわらわは見ておった。ブレイド卿、おぬしは強い。心配せずとも良いぞ」
「…あ、ああ」
 その一言が、俺のどこかを貫く。この例えようの無い敗北感はなんなのだろう。そして、
それ以上に…、どこか喜んでいる自分に、俺は少しだけ驚いていた。
 思えば、俺の“強さ”を認めた奴は、ずいぶん長い間いなかった気がする。
役に立つ、いれば助かる…、その程度の評価が俺には相応しいのだと、そう思っていた。

 小声で、そっと問う。
「…俺は、強いか?」
「ああ。でなければ…」
 僅かに言いよどむ少女の目を捉えようと、俺は依瑠の頬にそっと手を当てた。少し赤いのは、
あんな量でも酔っているのか? それとも。彼女は、俺の手から逃げない。

「でなければ?」
「……わらわがここに居ることもなかったであろ?」
 照れたように微笑む依瑠。俺も、照れを隠すように笑った。ついさっきまで、こんな気分になるとは
思ってもいなかったというのに。不思議だが、不快ではない。
「…一緒に居る間は、働いてもらうぞ?」
「よかろう」
「それから、俺に卿づけは却下」
「む…わかった、ブレイド殿」
「殿も却下」
「……ならば、おぬしもわらわを姫と呼ぶでない」
 ふっと、口元が緩む。気が付くと、俺は声を上げて笑っていた。こんな軽口を叩いて、こんな風に
解きほぐされるまで、俺は自分が張り詰めていたのにも気が付かなかった。
 くすくすと、依瑠もつられた様に笑いだす。幸い、懐には余裕もあるし、この少女一人の宿代くらいは
楽に払える。笑いながら、俺は決めていた。
 影のように俺の心に入り込んできたこの少女に記憶が戻るまで、俺が彼女の剣となることを。

----
み、お騒がせしました
25493@りあるたいむきたーorzsage :2004/08/03(火) 22:43 ID:AxJweLbU
うわわわっ ごめんなさいごめんなさい。
コピペしてる数分で…。
終わってるのかな・・・ぶつぎった?  あー、もう。今日は厄日な日ですね…。
丸い帽子様、すみませんでした


今回でとりあえず第一部完(書き溜めガなくなったので充電に入ります)。
電波は凄まじい速度で降ってますが、キー入力が追いつきそうもなく…。
でも、今回のは書いてる人は楽しかったです。読んでる人も、そうだとうれしいです。
255丸いぼうしsage :2004/08/03(火) 23:16 ID:XTaXkuH2
続く、を入れ忘れただけです。

 教授を書いてると、数学の解法みたいにアイディアが思いつくんですが、
今回はそう言うのはあんまり思いつきません。そのあたり240氏にはお見通し
だったようで、良くも悪くも私は彼に囚われてるんでしょう。

 各所でつまらねぇと話題のROの小説を買いました。
他人のROプレイを録画したビデオを見せられてるような印象を受けました。
25693@NGワード用sage :2004/08/03(火) 23:24 ID:AxJweLbU
某所で神に捧げたので、こちらでもネタ晴らし…。
SIDEA のシリーズは 某深淵の騎士子スレのシリーズと連動してます。
同時進行で細切れ投下してました。片方だけでも楽しんでもらえて、
ネタばれしたら二倍楽しんでもらえたら実験は大成功なのですが…。
とりあえず、騎士子たんスレ↓
ttp://www25.big.or.jp/~wolfy/test/read.cgi?bbs=livero&key=1089828659
257NGワード用に93と書いておくぞよsage :2004/08/04(水) 02:10 ID:Xpi6Tq0Y
つくづく厄日のようじゃの、93どの。
LiveRoは、さきほど移転したばかりじゃ。
騎士子どののスレはこちらになっておる。
http://enif.mmobbs.com/test/read.cgi/livero/1089828659/
258ある鍛冶師の話15-1sage :2004/08/04(水) 18:09 ID:taRZydWc
 雨で濡れた路面の上に、影が落ちる。
 バシャリッと跳ねた水滴の中、暗色紫色の装束が月明かりに浮かぶ。
 街頭に照らし出された暗殺者の姿は、ひどく現実感がないものに見える。
 まるで絵から抜け出てきたような美貌の持ち主だ。

 手にしているカタールからポタポタと落ちる雫は、
 赤い色をなしては水溜りに淡い色をつけていく。

 「・・・・・・、グローリアス、グローリア」

 月明かりに向けて暗殺者が銀色の僅かに湿気にまとわりつく前髪を、
 ぐしゃりと潰しながらかき上げる。

 開かれた赤い眼差しがピンと張った糸のように、見開かれた。
 その顔のすぐ横を銀色の線が通り過ぎる。
 鈍い痛みと共に、暗殺者、烏(カラス)は手にしているカタールを大きく凪いだ。

 風がごうと音を立てて、小柄な影が数歩後ろへと下がる。
 斬り付けると言うよりは威嚇の意味合いで凪いだ風は、
 少し離れた屋根の上に居たその影の人物が居る事を烏に知らせた。

 「うわぁ、・・・・・・びっくり、した」

 金髪に肩まで切りそろえられた髪が夜に眩しい。
 矢を番えて構える姿は、弓手その姿。
 青い色の装束を着る少女は、まだ年は随分と若いように見える。

 目を瞬かせながら、弓手の少女が無邪気に笑う。

 「どうしたの、やらないの、射っちゃうよ」

 笑いながら響く声に烏は眉を寄せる。

 「・・・・・・マミィ」

 記憶の中の何処かにそれと同じ名前の弓手の少女が居た。

 烏は溜め息のように長く息を吐き出すと、
 額に手を当てる。
 何処か、あぁそうだ、

 これもグラストヘイムの生き残りではないか。

 少女の背に広がるゲッフェンの町並みが、瞬時にグラストヘイムのあの頃へと変わる。
 青い装束はあの頃は甲冑を来ていただろうか、
 あぁ変わらない、変わらない当時のまま。

 ふいに二人の合い間を夜風が流れる。
 風で煽られるマミィという名前の弓手の少女の前髪の下には、
 08と書かれた何かの文様らしき刺青があった。

 「・・・・そうか、時計塔の守り手になったのか」

 烏の声に、弓手の少女はそうだよと小さく返す。

 「・・・・それで何の、用?」

 問われマミィは番えた矢をまた一本放つ。
 背に背負う丸い筒に挿してある矢の数はまだ多い。

 迫り来る矢を一瞥し、烏はカタールを一閃させる。
 中央から叩き折られた矢は、石畳の水溜りへと沈む。
 屋根の上の少女を見返して、烏は目線を細めた。

 かつてあったグラストヘイムの光景を思い浮かべるように、
 烏は細めた目線を閉ざしていく。

 「何故、レッドは時計塔の守り手になったのに、
  貴方はならなかったの?見届ける義務があたし達にある」

 そう言いながら目を閉ざした烏の額に目掛けて、
 マミィの放つ銀色の矢が音もなく飛ぶ。

 「関係のない事」

 開かれた赤い眼差しはいつになく濡れたように赤い。
 一歩、マミィが屋根の上で遠のいた。

 ニタ、とつり上げた赤い唇の合い間から白い牙が覗く。
 玲瓏たる表情の、開かれた赤い唇から小さく少女の名前を呼んだ。

 「・・・・、あ、い、やだ」

 マミィの拒絶の言葉に少なくとも烏はおかしな物を見るように、
 その眼差しを向けていた。

 「私に矢を向けると言う事は、敵対するという意思表示とみなす」

 番えていた矢に添えられた指先が震える。
 だって、と言葉を零してマミィは屋根の上で座り込んだ。

 「ジェイン・リーがそう言うんだもの。
  貴方は邪魔だって、あたしは帰るの、帰りたいだけなの」

 少女の姿のまま、駄々をこねるように言葉が夜の闇へと向けられる。
 目の前に立つ暗殺者はまさしく夜の闇の生き物ではあったが、
 聞き届けるつもりもないように手にしていたカタールを月明かりに照らす。

 「どうして?どうして皆、平気なフリをしているの?
  あんなのひどいじゃない、あんなのあんまりだよ!」

 弓手の少女の声が叫ぶように響く。

 「あの時あの場所で、皆幸せだった。
  グラストヘイムに居たあたし達は皆幸せだった!
  あんなに苦しい事沢山あったのに、どうして今も、
  皆苦しまなきゃいけないの!?

  もう百年以上も、ずっと、あたし達は終われないんだよ!」

 声が、悲痛に、石畳からとんと音もなく屋根に舞い降りた暗殺者に響く。

 「耳障り」

 零れた言葉に、弓手の少女は挑む相手を間違えたのを悟った。

 「・・・・・・、お前達が何を望もうと、私は知らない。
  私は友人とその周りが平穏であるよう最善を尽くす、だけ。
  お前は矢を向けた、それだけで理由は十分だ」

 音もなく振り上げられたカタールにマミィが目を閉ざす。

 「・・・・・・キリエ、エルレイソン!!」

 妙に鈍い手応え。そして女の聖職者の声。
 眉を寄せた烏の前に淡い花びらをモチーフにしたエンブレムが、
 颯爽と現れる。

 「うちのギルメンに何してるですかっ!!」

 「ギルメン?」

 突然現れた真っ白い雪化粧をしたような髪の鍛冶師と、
 その後ろに居る紫色の緩いウェーブの聖職者が、
 マミィを庇うように立ちはだかる。

 その三人の胸には同じエンブレムが刻まれていた。

 「・・・・・、居場所があるのか」

 暗殺者に問われ、マミィが小さく頷く。

 「なら、・・・・・何故今更?」

 なくした居場所の代わりに、新しい場所を見つけた少女に烏は尚も問い返す。
 言葉を閉ざしたまま、震える唇を開いた少女だったが、

 「・・・・・・方法が見つかったら、そうしようとするのは、当然。
  そうではなくて、烏」

 答えたのは紫色の髪をした聖職者。
 赤のリボンがよく映えるシルクハットをかぶった聖職者は、
 暗殺者の名前を呼んでからにっこりと柔らかく微笑んだ。

 「ギルド集会の帰りにマミィが突然走り出すんですもの。
  驚きましたわ、ねェギルマス」

 ギルマスと呼ばれた鍛冶師の青年は、
 え、あ、うんとなんだかすっかり蚊帳の外な状況に困惑しているようだ。

 「・・・・・サーティ?」

 烏の声にサーティと呼ばれた聖職者は、
 小さく笑う。

 「・・・・・・・、貴方を殺すのは私です」

 びくりっと肩を揺らして鍛冶師の青年がえぇと声をあげる。

 「ちょっと待って下さい、全然話がみえないですよ」

 人がいいのだろう、そうは言いながらも今度は烏を庇うようにして立つこの青年に、
 烏は小首を傾げながらきょとりと目を瞬かせる。

 言葉と状況に戸惑いながらも、鍛冶師の青年は両手を合わせて咄嗟に口を開いた。

 「・・・・・・え、と、え、と。
  そう言えばお腹が空いてないですかっ、ご飯の時間ですよ!
  ご飯ですよー、ほら貴方も来て、マミィさんもサーティンスさんも行くですよー」

 強引にまとめ上げようとしながら、片手でぐいと烏の手を引く。
 血のしたたるカタールを持ったまま、烏は目を瞬かせてなすがままに付いて行く。

 「・・・・・・・ちょっと、ギルマス、烏は」

 マミィに手を差し出しながら、サーティンスと呼ばれた聖職者は鍛冶師の青年を呼び止めた。
 鍛冶師の青年は足をとめて、振り返る。
 満面の笑顔がその表情を締めているのだが、この妙な重苦しい空気は。

 「いいですかっ、人殺しとかどんな理由があってもやっちゃッメ!」

 子供を叱るような感じで大真面目に、鍛冶師の青年が言う。

 「・・・・・、・・・・・・・、・・・・・・、・・・・・」

 沈黙するサーティンスに、鍛冶師の青年もきゅっと唇を結んだ。

 「・・・・」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・・」

 「・・・・」

 「・・・・・・」

  ・

  ・
  ・


  ・


  ・
  ・


 「・・・・・・、わかりました。そこでゆっくりと説明致します」

 沈黙と言うよりは、必死な鍛冶師の青年の様子に押し負けたらしい。

 「わかればいいですよ!」

 ぱぁっと明るい笑顔を浮かべる、鍛冶師の青年に烏は手を引かれたまま問う。

 「・・・・鍛冶師、名前は」

 「・・・僕ですかー?シーナシープですよ。
  ギルド『純情戦隊 ゲッフェリアン』のギルドマスターですよ」

 暗殺者烏の赤い目が細められた。
 何か妙な事を聞いたような気がしたのだが。

 満面の笑顔のシーナと名乗る鍛冶師に手を引かれながら、
 烏は一先ずは成り行きに任せる事にしたのだった。

259ある鍛冶師の話15-2sage :2004/08/04(水) 18:09 ID:taRZydWc
 ゲッフェンの安くて美味い料理の宿と言えば、
 雲の下の猫亭である。
 噴水広場から塔広場へと北上し、西側に少し進めば見えてくる。
 白い雲の看板に猫が眠たそうに丸くなっている、そこが雲の猫亭だ。

 その一階にある大食堂では、
 淡い花びらをギルドエンブレムにしたギルドのメンバーが集まっている。
 食卓を囲む中に一人だけエンブレムをしていない暗殺者が居る。
 室内の明かりが眩しいのか、笠を深くかぶり目元を伺う事はできないが、
 見えるだけの鼻先から下ですら精巧な彫刻のように整っているのが伺えた。

 「・・・・、ええと、それで君は何処から来たのですか?」

 白い食パンにかじりつきながら、ギルドマスターの雪化粧をしたような髪の鍛冶師が問う。
 問われた暗殺者は、瞬きを笠の下で数回繰り返すと、ゆっくりと言葉にした。

 「モロク」

 「へぇ、モロクですかー。あそこは夏は暑くてとてもじゃないけど僕は行けませんですよ」

 一言返す分の、沢山の言葉の。
 会話が成り立たないようなやりとりに、
 ふあふあとした紫色の髪をした聖職者が、溜め息をつく。

 「マスター、会話になっていません」

 そう告げた聖職者の横では、小さな弓手の金髪の少女が、黙ってシチューを飲み続けている。
 こちらは食べる事に集中しているらしい。
 それから、銀色のヘルムが眩しい蜂蜜を溶かしたような髪色の女騎士が一人、
 プラチナブロンドと言われる月を溶かしたような髪色の女暗殺者が一人、
 淡く色づいた花びらのような髪を切りそろえた男聖職者が一人と。

 そんな大勢の中、ポツリと浮いているのが言葉少ない暗殺者。
 彼だけはこの中で昼の日差しの下、歩いているところを想像する事が出来そうになかった。

 「・・・・・・、うー、ええと紹介するですよ。僕の隣りの彼は、リシュリュー君です」

 そう言われて紹介された聖職者は、髪と同じ色合いの目を瞬かせると、
 唇端を軽くあげる。

 「フェイヨン出身のリシュリューです。リューでかまいませんよ。
  よろしく」

 愛想良く笑う聖職者の横で、それが気に入らないらしい唇を尖らせる女暗殺者。
 少し小柄な暗殺者の頭を撫でながら、リシュリューがはにかむ。

 「これは僕の相方のマチカ。
  人見知りが激しいんだ、すまない」

 軽く両手を合わせて謝る仕草に、紹介された暗殺者、烏は苦笑いをうっすらと浮かべた。

 「えっと、僕はキリア。
  敏捷性を鍛えている騎士です。攻撃する速度なら負けないよ」

 にーっとスプーンを加えたまま唇両端が思い切りあげられる。
 見かけよりは幼いらしい騎士の仕草に、紫色の髪の女聖職者、サーティンスが溜め息をついた。

 「私とマミィの事は言わなくてもわかるわ。
  なにせ、ずーっと昔からの知り合いだもの」

 溜め息とともに吐かれた言葉に鍛冶師の青年、シーナが頷きを返す。

 「じゃぁ、アーセン君が脱退した理由に関係している人ですね」

 「アーセン?」

 烏が聞きなれない言葉に、瞬きを返す。

 「ええと、僕らのギルドには鍛冶師がもう一人居たのですよ。
  僕とは正反対の完全製造型のアーセンっていう名前の鍛冶師君が。
  彼と僕と、リュー君とでこのギルドを立ち上げたのですが、
  ・・・・、数ヶ月ほど前、さようならだけ書置き残して出て行ってしまったのです。

  彼は、・・・・・彼は、何も理由もなく出て行くような人ではないので。
  もし僕に何か出来る事があったら、何かしてあげたいのです。

  君が、何か知っているなら、お礼はちゃんとするです。
  教えてください、どうして彼は・・・・、」

 問われて烏は困惑したように眉を寄せた。
 覚えのない名前だったからだ。
 とは言え今目の前に居る鍛冶師や、他の面々はただその鍛冶師のために動いている。
 なによりも、目の前のシーナと名乗る鍛冶師の悲痛な表情が、
 昔見た誰かに似ている気がしてならなかった。

 かつて、自分にもこうして居場所があり、
 仲間が居たと言う記憶。

 それに突き動かされたのであろうか、烏は笠を少し上げるとシーナを見返した。

 「そのまえに一つ問いたい」

 「はい、なんですか?」

 鍛冶師の青年に問い返されると同時に、烏は盛大に眉を寄せた。

 「・・・・・・、ギルドの名前は純情戦隊なんちゃらじゃなかったのか」

 エンブレム下に刻まれている一片という文字は、天津と言われる国で使われている文字だ。
 シーナは真っ白な髪を片手でぐしゃりと掻き上げながら、
 あーと唇を開いて誤魔化すように目線をそらす。

 「アルベルタ人は、ぼけないといけないんですよ。
  それがアルベルタルールなのです」

 一瞬烏が遠い目をして、鍛冶師の青年を見返す。
 他の面々と言えば、ただなんとも言えない表情で笑みを浮かべている。

 「・・・・・・、そうなのか」

 大真面目に納得した烏を見て、サーティンスとマミィが顔を見合わせて笑った。
260ある鍛冶師の話sage :2004/08/04(水) 18:31 ID:taRZydWc
157さま>最近のジェイはちょっと態度が大きいので、書いていて面白いです。
    自信が人を変えるというのはあながち否定できないものですよね。

('A`) さま>コソコソだなんてやらしい!
      と、突拍子もない事を言ってみました。
      その言葉そっくりそのままお返しします。貴方の書く話が好きです、
      楽しみにしております。ソノラマ文庫というのは、
      かのダンピールの吸血鬼ハンターの話が出ていたりするところです。
      ふ、とそのDの内容を思い出したのですよ。
      そこまで深い意味ではないので、どうかお気になさらず。

93様>管理ご苦労様です。でもなんだか見ていると手を握り締めたくなるのは、
   何故なんでしょうね。実は、先の話の予定にアルケミストの女の子が出てくる予定だったり。
   無論、ルードと絡ませる予定でした。
   だからあながち貴方の受信した電波はウソではないかもしれません。
   ちょっとびっくらしました。
   それと姫と騎士との関係は主従っぽいネタが好きなので、個人的に萌えました(*ノノ)ゴチソウサマ!

丸いぼうし様>教授の授業が受けたいです。
       描写の事、抜けてしまいがちなので、そう言ってもらえると幸いです。

240様>センスがいいとか言われたのは初めてです。
   言葉糧にして、精進したい次第です。

 別に言葉に出さずとも、誰かが呼んでいるという小さなサインだけで、
 とても嬉しいものだったりします。長くなればなるほど、飽きられてしまうんじゃないか、
 そういう恐れを僕は抱いてしまうので、たまーに何かしらの言葉を頂ければ、
 エンジンの燃料になるのではないかなぁと思うのですよ。

261('A`)sage :2004/08/05(木) 00:34 ID:KvLqjkEU
Ragnarok Online Side Story "Confrontation of fate"


 まず母親が死んだ。
 魔物と騎士団の小競り合いに巻き込まれ、額を割られて死んだ。
 呆気なかった。
 父親は涙しながらも息子を育てた。
 田舎の村の片隅で、冒険者向けの雑貨を売り歩き、多くない収入で日々の糧を得た。
 僅かな貯金もあった。彼は、その金で息子に剣を買って与えた。
 父親は、せめて息子には強く生きて欲しいと願っていた。
 息子は、そんな父親を疎ましく思っていた。

 
 ある朝、息子が目を覚まし、リビングに下りると、
 父親が死んでいた。
 過労だった。


 息子はその足で墓を掘りに行った。
 遠く、ゴスペルの聞こえる朝だった。


 吹き飛んだ魚人の起こした水柱が崩れ、
 その飛沫を浴びて月下に立つ少女を、少年はただ呆然と見つめていた。
 奇妙な空気が流れていく。
 ナハトは何も言えず、サリアはそんな彼を振り返ったまま、喋ろうとしない。
 やはり混乱していたナハトは、まとまらないまま列挙する事実を一つ一つ整理しようと試みる。
 魚人の動きは明らかにサリアを狙ったものだった。
 ソードを突き刺した憎い敵、自分ではなく、たまたまそこに居ただけのサリアを。
 これは妙だった。
 或いは、必然なのか。
 そう考えて、サリアの言葉を思い返す。
 自分のせいだ、と彼女は言った。
(最初から・・・サリアを狙ってた・・・?)
 自分や商人の娘は、単に"遭遇してしまった"から襲われただけ。
 目的は最初から――
 だが、決め付けるには早過ぎた。サリアにも同じ事が言えるからだ。たまたまサリアが先に目に付き、襲った
のかも知れない。第一、魔物が狙って誰かを優先的に襲うとは思えない。
(でも、実際に・・・)
 腰の引けたまま、考えるナハト。
 そんなナハトを静かに見つめるサリア。
 何かを期待するかのように、じっと、待っている。
 やがて、躊躇いがちにナハトが口を開く。疑問符を投げかけようと言葉を紡ぐ。
 その寸前、芝の上を進む無数の足音が聞こえ始める。
「?・・・城の兵隊・・・みたいだね。良かった。助けてもらおうよ」
 釈然としなかったが、ナハトは安堵した。少なくとも命の危険は去った。尋問されはするだろうが、すぐに帰れ
る筈だ。何も、やましい事はないのだ。ちゃんと説明すれば、分かってもらえる。
 しかし、再び脱力する少年の前で、モンクの少女はゆっくりと後退る。
 焦っているような、怯えている様な。ナハトには、そんな風に見えた。
「・・・サリア・・・?」
 良くない。何かが、非常に良くない。
 ナハトの中で、再び訪れた筈の安堵が霧散する。
 水路に浮かぶ魚人の屍骸から壊れかけたソードを引き抜き、彼はサリアを庇うように立つ。
 何故そうしたのか、サリアにもナハト自身にも分からなかった。
「剣士様・・・」
「・・・大丈夫。大丈夫だから」
 でも、情けない自分に、何が出来るというのだろう。
 口を突いて出た曖昧な気休めの言葉に、少年は自嘲気味な笑みを浮かべた。
 五、六人の軍帽を被った兵士が殺到する。
 彼らの先頭の小柄な女兵士は、サリアを確認すると、声を上げた。
「サリア=フロウベルグ様ですね!?申し訳ありませんが、指示に従って貰います!」
 兵士達はその間に、ナハトとサリアを遠巻きに包囲する。切っ先の鋭い手槍、パイクを片手に。
「お断りします。カエサルセント公にもそう伝えてください」
 一転し、凛とした口調で返すサリア。しかし、その顔はやはり弱々しく、何処か苦しげでさえある。
「私は公の指示で動いている訳ではありません。エスリナ様から無理にでもお連れしろと厳命されています。どう
か、従ってください」
 堅い口調で答える兵士。言われ、サリアは落胆した声色で呟く。
「・・・カートライル少佐まで、公の手先に成り下がったなんて」
 ぴくり、と女兵士の眉が動く。そのまま、怒り狂ったかのように、携えていた大き目の自動弓をサリアに向ける。
「少佐への侮辱罪で逮捕しましょうか!?話が見えませんね!」
「!・・・よせ!」
 知らない世界の話を黙って聞いていたナハトも、兵士の行動に耐え切れず、サリアと弓の間に割り込む。
「プロンテラ軍は女の子にも弓を向けるのか!?こっちは襲われたんだぞ!」
「そ、そんなこと!・・・サリア様!従っていただけないのなら、この剣士を撃ちますよ!?」
「貴女は・・・!」
 緊張が走り、
 不意に、水路が波立つ。
「・・・!」
 水から跳ね上がる無数の半魚人。ナハトが、女兵士が振り向く。水路から庭園へ這い出した半魚人の群れが、兵士達
に襲い掛かる。魔物の奇襲に応戦する兵士達。次々と這い出てくる半魚人。
 兵士達も善戦するが、及ばないのはナハトの目にも明らかだ。数が多すぎる。
プロンテラ軍はサリアを捕まえようとし、本人はそれを嫌がっている。どっちに転んでも、良くない。
 サリアが、悲しむ。
 それは、駄目だ。理由は分からないが、駄目だ。絶対に。
「行こう、サリア!今しかない!」
 気が付けば、少年はそんな事を口走っていた。
「え?」
「良く分からないけど、捕まりたくないんだろ!?」
 目を白黒させる少女の手を、半壊した剣を構えた少年が取る。
 ヒールを受けた身体は軽い。そればかりか、活力のようなものが湧き上がってくる。
 濡れた薄汚いマントを拾い上げ、少女の手を引きながら、
 少年は、駆け出した。
262('A`)sage :2004/08/05(木) 00:35 ID:KvLqjkEU
 『廻り始める歯車 1/2』



 エスリナ=カートライルがテラスから見下ろした庭園の光景は、彼女に珍しい危機感を覚えさせるに十分だった。
 魚人と兵士達の遭遇戦と、簡素な僧衣を纏った少女の手を引く剣士。手には血に濡れた剣。
 二人に弓を向ける見知った兵士――レティシアはバリスタのトリガーを引けずにいる。
 城内へ走る剣士と少女。レティシアは――やはり撃たない。
(誘拐・・・か!?)
 咄嗟にエスリナの手が動く。洗練された軽い予備動作の後に、慣れ親しんだ風の魔法を口走る。
 ぼぅ、っと足元に光の陣が浮かび上がり、魔力が収束した。
「兵を下がらせろ、レティシア!」
 テラスから怒鳴りつけ、エスリナは詠唱を終えた魔術を解き放つ。
 膨大な量の雷光がエスリナの手を介して具現化する。
「"サンダーストーム"!」
 空を裂き、触れた物を灼き尽くしながら、暴力的な雷撃の舌が伸びる。
 凶悪なまでの熱量を発生させる雷光が水路に及び、軽い爆発音が上がった。
 吹き上がる蒸気。
 濡れた体を感電させた半魚人達が、爆ぜて四散する。
 直接当てれば剣士もろとも消炭に出来たが、それでは兵士達にも被害が出ただろう。
 歯がゆさに舌打ちし、エスリナは城内へ逃げ延びた剣士と少女を追ってテラスを離れる。
 今から追えば何とか先回りは出来る。
 丁度その矢先、庭園で蒸気に巻かれているだろう女兵士から念話が入る。
『・・・エスリナ様、助かりました。ありがとうございます』
「レティシア、無事か?」
『はい・・・ですが・・・』
 いつもはハキハキとした娘の声が、言い淀んで止まる。
「・・・どうした?」
 訊いてはみたものの、予想は出来ていた。
『一人・・・死にました』
「・・・そうか」
 思わず立ち止まりそうになりながらも、エスリナは回廊を走り続けた。
「私の過失だ。お前は気にするな」
『でも・・・』
「今はまずこの状況を打破しなくてはならない。魔物の侵入経路を固めてくれ。私は二人を追う」
 冷静な指示を飛ばす。しかし、内心はこの上なく乱れていた。
 一人、死んだ。
 その事実が、冷たい仮面の下で軋む心に悲鳴を上げさせる。
 自分の責任だ。自分で始末をつけなくてはならない。
 

 我ながら大胆な事をした、とナハトは誇らしげに頬を緩ませる。
 とても笑っていられる状況ではないのだが、無理にでも笑っておかないと――何かが、壊れる気がした。
 城内を縦横無尽に走る廊下を、サリアの手を引いて走り回る。そんな自分が滑稽ですらあった。
 ただ、出口をひたすらに探す。
 城など、一度も入った事がない。頼りは方向感覚だけだ。
「サリア・・・道、分かる?」
「いいえ。プロンテラ城に入ったのは今日が初めてですから」
「・・・そっか・・・弱ったな」
 立ち止まり、曲がり角の向こうを壁に張り付いて伺いながら落胆するナハト。
 意外に城内には人気がなく、不気味な程に静まり返っている。好都合には好都合だったが、逆に不安を掻き立てる。
 まるで――そう、ダンジョンの中の空気に似ている。
 状況のせいだろうかとも思い、考えを打ち消す。しかし、あまりに禍々しい何かを、確実に感じていた。
 サリアが逃げなければならない事情は分からなかったが、何となく納得は出来た。ナハトでさえ、こんな所には一分
一秒でも居たくない。そう感じるのは自分達だけなのだろうか。
「あの・・・剣士様」
「ん・・・何?」
 油断無く周囲を見回しつつ、ナハトは首を傾げる。気付けば、サリアは自分の腕の中で身を強張らせているではない
か。慌て、剣士は亜麻色の髪の少女から飛び下がるように離れ、謝る。
「ご、ごご・・・ごめん!ほ、ほら!僕ってやっぱり前衛だし・・・盾だしね!?だよね!?」
「え、ええと・・・そう・・・なんですか?」
 微かに頬を染めるサリア。ナハトはすぐに気を取り直し、今度は控え目にサリアの前に立った。
 大胆すぎた。慣れない事はするものではない。
 だが、それ以前に、サリアの技量を念頭に置いていなかった。言ってしまえば、僧兵であるこの少女も前衛といえばそ
うであったし、何より、ナハトよりはずっと技量があった。
 ――少年の照れは、それとは全く無関係だったが。
「その・・・まだお名前も聞いてません、から」
「あ・・・」
 はた、と気付く。そういえば、そうだ。
「僕はナハト=リーゼンラッテ・・・しがない・・・剣士、さ」
 剣士、の辺りで言葉が詰まった。サリアは小首を傾げたが、ナハトは何も言わなかった。
 ただ、剣士だと名乗った自分に疑念を抱いていた。
(剣士だって?・・・ロクに戦えもしないくせに・・・)

 闇雲に走っているうちに、二人の顔に疲労の色が現れ始めた頃、光明が見えた。
 エントランスを抜け、城門に出たのだ。
 城下へ続く橋を超えれば、街に出られる。プロンテラは大きな街で、今頃は魔物による騒ぎで人も多いだろう。
 紛れれば逃げるのも容易い。
 後の事は、逃げてから考えればいい。
「・・・急ごう!」
 奇妙な使命感を帯びたまま、ナハトが言った。刹那、外堀に掛けられた吊橋から光芒が煌く。
 バチ、と少年の身体が痙攣した。言い様の無い痛みが走り、全身の力が奪われる。
「剣士様!?」
「か・・・はっ・・・」
 倒れこみそうになりながらも、ナハトはソードを杖に何とか膝をつく。剣は音を立てて刃を軋ませたが、寸での所で
彼の体重を支えた。それでも、激しく咳き込む。胃が掻き回された様な感触がした。
「驚くべき精神力、だな。サリア様の手前、抑えたとはいえ・・・私の術を受けてまだ気を保つとは・・・」
 淡々と語る声があった。澄んだ声色が冷たい印象を与える、女魔術師。
 冒険者のそれとは違い、多少、装飾を施したローブが風にはためく。燃えるような赤い髪に、整った顔に張り付いた
機械的な表情が、いやに目に付く。
「カートライル少佐!」
「剣士、大人しく剣を捨てろ」
 エスリナ=カートライルは抗議の声を上げるサリアを完全に無視し、満身創痍のナハトに告げた。
「ここを何処だと思っている。あんな騒ぎを起こしておいて、逃げられるとでも思ったのか?」
 ウィザードが、猛々しく掌から雷花を生んだ。ナハトは辛うじて上目でそれを見、自分は雷撃を受けたのだと知った。
 "剣では魔法に勝てない"。
 かつてギルドの誰かが口にしていた言葉が脳裏を過ぎる。それでなくても、自分には剣さえまともに扱えないという
のに、相手は魔術師だ。
 何か反論でもしてハッタリを仕掛けようともしたが、代わりに口から出たのは胃液だった。
 咽せ、散々吐瀉物を撒き散らしてから、少年は震える胴体を何とか持ち上げた。
「何とか・・・しなきゃ・・・」
 ――刹那、天の助けとも言える声が、聞こえた。
263('A`)sage :2004/08/05(木) 00:36 ID:KvLqjkEU
 案外、呆気ない。
 エスリナは剣士の少年の挙動を怪訝に思い、宵闇に目を細める。
 剣士は何かを口走っているが、到底、エスリナに脅威となる程の力量を秘めた者には見えない。
 庭園で見た時はハッキリと感じなかったが、若い。若過ぎる。エスリナ自身もそうだが、まだ子供と言って良かった。
 余程の修練を積まなければ、剣には向かないと見える体格も、線の細い顔立ちも、とても要人の誘拐犯とは思えない。
 では、何故彼はここに居て、あの少女を連れ出そうとするのか。
 分からない。
 分からないままに、剣を捨てない少年へ向けて、氷の表情を浮かべたまま、右手を持ち上げる。
 任務だからだ。
 油断して、また死者を出すわけにも行かない。
「最後の警告だ。剣を捨てろ」
 僧衣を来た少女は動かない。恐らく、護衛対象であろうこの少女は、剣士と違ってそれなりの経験を積んでいるように
見える。エスリナは動けば少女も撃つ気でいた。多少、荒くなっても城から出すつもりはない。
 剣士は、不意に顔を上げると、苦しげな顔を緩めて笑って見せた。
 何が可笑しい。
 エスリナが疑問に思うより早く、背後で何かの気配がした。
「・・・!?」
 鍛え抜かれたこの魔術師の少女の五感は、今の今まで何も察知していなかった。突然、気配が生まれたとしか思えない
異様なタイミングで、何かが・・・来た。
 ふわり、と冷え切った夜風が吹く。
 幾度となく、魔物の溢れる戦場を巡ったエスリナでさえも、振り返ってはいけない、見てはならない、何かの存在。
 剣士や僧衣の少女の存在は、何処かへ吹き飛んでしまった。


 ――私の生徒が、お世話になったみたいだね。


 弾かれたように、エスリナは振り返り、手に収束させていた魔力を解き放つ。
「くっ・・・ライトニングボルトォ!!」
 急襲。何処か、おぞましい呟きを漏らした襲撃者へ向け、雷撃をぶちまける。稲妻が迸り、宵闇を裂いて呟きの聞こえた
空間を灼き払う。
 視界の隅で、夜の闇に映える赤い布が見えた気がした。が、その姿は見えない。
 蹴散らしたか、否か。
 術の反動もそのままに、左手で再び印を切り、エスリナは魔術を起動させる。
 彼女は感じ取っていた。いつの間にか背後に忍び寄った者――声からして、恐らく同年代位の女――の、驚異的な技量を。
 振り向きざまのライトニングボルトで片付く相手ではない。
 まして、接近を許してしまったのが致命的だった。並みの相手ならそれでも対処のしようがあったが――
(接近してきた・・・となると術や弓の使えない相手だ・・・だが、仮にそうだとしても、油断は出来ん)
 術者の任意の場所に炎の壁を発生させる『ファイヤーウォール』を詠唱しながら、エスリナは思慮を巡らせた。
 確かなのは、襲撃者はエスリナがこれまで対峙したどんな相手よりも、強いという事だけだ。
 ・・・空気が僅かに流れ、微かに靴音がした。
「そこか!ファイヤーウォール!」
 相手の行動を読み、先手を打って闇夜に火炎の花を咲かせる。
 炎に照らされ、周囲が明るんだ。瞬間、エスリナは自分の致命的なミスに気付く。
「・・・ひっかかったね・・・!」
 火の壁に突っ込んだのは、見えない襲撃者などではなかった。
 濡れたマントを被り、熱を遮断して弱く微笑む、くたびれた剣士の少年。
 先程、彼が何かを口走っていたのは、念話だ。襲撃者とあらかじめ打ち合わせ、陽動を仕掛けたのだ。
「えぇい!小ざかしい!」
 焦燥に顔を歪めたエスリナが次の魔術を詠唱する。低級魔術を小出しにするのを止め、剣士を先に仕留めるべく、強力な
大魔法を。しかし、もう遅い。
「先生!」
 剣士が叫んだ。直後、エスリナの前に何者かが降り立つ。
 上。
 空から。
 金色に光る長髪を振り乱した、何の武装も帯びていないスーツの女が、ウィザードの前に降り立ち、言う。
「リーゼンラッテ君、魔法使いと戦う時はもっと近づかなきゃ駄目。それが出来ないときは、迷わず逃げる。奇襲か何かじゃ
ないと、魔法には勝てっこないもの」
 女が抜き手を放ち、エスリナは咄嗟にそれを受け止める。
 激しい衝撃に、溜まらず吹き飛んだ。華奢な女の何処にそんな力があるのかは分からなかったが、現実として、エスリナ=
カートライル少佐は橋に叩き付けられて転倒し、動かなくなる。
 完全な、敗北だった。
「・・・これ、試験に出るよ。覚えておいてね」
 乱れた髪を風に晒し、ルイセ=ブルースカイは今にも倒れそうな教え子を振り返り、美しい微笑を浮かべる。
 案の定、安堵の中でナハトが崩れ落ちた。
 ルイセが慌てて駆け寄ろうとするも、今しがた昏倒させた筈のウィザードが半身を起こすのを見て、立ち止まる。代わりに、
彼の近くに居た知らないモンクの少女がナハトを抱き起こした。ほっとしつつ、険しい目でウィザードを見下した。
「貴女・・・まだ動けたの」
「・・・いや・・・動かんな・・・抜き手のスタンバッシュなど、初めてだ・・・まさか、騎士だとは・・・」
 赤髪のウィザードの目にこもった明らかな敵意を、ルイセは悠々と青い瞳で見返す。
 二人の女の視線が、交錯した。
 しかし、やがてルイセが歩き出す。エスリナには微塵の興味もないらしい様子で、真っ直ぐに剣士達の方へ歩いていく。
「眼中にないと・・・いうのか・・・」
 去り行く赤いリボンの女を、薄れる意識で見送りながら、エスリナは苦々しく吐き捨て、
 それから、完全に意識を失った。



 
 よく夢を見る。
 誰かが泣いている、嘆いている夢。
 美しい人。
 おぼろげで、はっきりと見えるわけじゃない。
 彼女は僕に「来るな」と言った。
 だけど、僕は知っている。
 あの人は、本当は誰かを待っているんだって事を。
 それが僕なのか、別の誰かなのか、分からないけれど。
 それでも僕は、あの人に、泣いて欲しくないと思った。


 今でも、そう思っている。
 思っているけれど。


 目覚めたのは何度目だろう。
 そう思いながらナハトは目を開けた。遥か、ゆるやかに流れていく夜空が見えた。
 断続的に揺れる、荷台。
 運搬用の台車。起き上がってみれば、ペコペコの手綱を引くルイセの背中が見えた。
「・・・よう」
 同じように台車に乗る逆毛の少年が、起きたナハトに疲れたような声を投げかける。
「・・・ガルディア」
 疎んじていた筈の級友の姿に、心なしか安心する。当のガルディア=ルーベンスは上の空で、ナハトを見ながら、ぼやいた。
「その女が起きたら礼でも言っておけ・・・ピクリともしねぇお前に、ヒールを連発してたんだからよ」
「え?・・・あ」
 そこで、ナハトは腹の辺りに感じた重みの正体を知った。
 サリアが、顔を埋めて眠っていた。
 プロンテラでの出来事が、現実だったのだという事も、知った。
「言われなくても、ね」
「そうかよ・・・」
 やはり、逆毛の少年は上の空だった。思うところがあるのかもしれなかったが、ナハトには分からなかった。
 少なくとも、ガルディアは所々に負傷の跡があった。これもサリアが直したのかもしれなかったが、疲労の度合からも、戦った
のだとは察しがついた。恐らく、それが自分やサリアを襲った魔物と同じ者だという事も、だ。
 ――あの商人の子は助かったのだろうか。
 混乱の冷めない頭で、そんな事を思った。本当なら、もっと大騒ぎになったであろう事を憂慮すべきだったのかもしれない。
 しかし、少年は倒れていた商人の娘を案じた。今更。
 出来るだけ考えないようにしていた。その余裕もなかった。だが、今は違う。
 自分は助かった。事情もよく分からないが、サリアも多分・・・助けれたのだ。でも。
 ・・・でも。
「俺は、今まで戦いが怖いと思った事なんて無かった」
 ポツリ、とガルディアが呟く。
「でもな・・・今夜は、別だ・・・自信なくなっちまった・・・」
 自分よりもずっと強いはずの少年の、弱音に似た言葉に、ナハトはサリアの顔を見ながら、
「・・・なくなる自信があるだけ、マシだよ」
 たまたまルイセが来なければ、殺されていたかもしれないのだ。
 ――強くなりたい。
 それは、ナハトという平凡な少年が、初めて力を欲した瞬間だった。

 
 プロンテラからイズルートへ、景色が流れていく。
264('A`)sage :2004/08/05(木) 00:40 ID:KvLqjkEU
今晩は。コッソリ投下です。
切実に時間が欲しいと思う今日この頃、皆様はいかがお過ごしですか?
私はROも出来ず、仕事に追われる毎日です。もう駄目です。
そんなこんなでも妄想はちゃんと形にするわけですが・・・orz

文章力に関しては、時間の許す限り努力します、としか。
やはりノリと勢いで書いてましたので・・・いかんですね。はい。

では、また。
265名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/06(金) 14:28 ID:kZozb3gg
>>224さま
一言言わせて貰おう
助けに来てくれる彼氏羨ましいぞ〜〜〜
フルブーストStr125プリの魂の叫びでした。
266保管庫"管理人"sage :2004/08/07(土) 13:30 ID:MResQ2vA
 こんにちわ。今日は住人諸兄にわがままをいいに参りました。
タイトルの横のでっかいPukiWikiのアイコン! あれを変えたいのですがががっ!
文章スレでこーゆーこというのも何ですが、画像を住人の方から募集してみたいなー、
とか思ったりしております。

現行のはpng形式で80*80のサイズですが、多少の増減は許容範囲だと思われます。
また、万が一複数いただけた場合はランダム切り替えとかにしてみると楽しいかも。

夢は膨らむばかりでありました…。
267名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/08(日) 20:01 ID:2mDYCO3.
新スレ誘導マダー?(AA略
268名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/10(火) 23:51 ID:FqqhhQcA
新スレ建てた方がいいのかのぅ…。
ちなみに今492KB。
269名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/10(火) 23:52 ID:FqqhhQcA
あ、新スレ建ってるしΣ(´д`;)ゴメンナサーイ

ttp://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi/ROMoe/1092183870/
270名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/14(土) 17:58 ID:JArn7FtA
批評でも感想でもなんでもいいから梅れー
271名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/14(土) 20:16 ID:8YIBudEM
あんまり見かけない、ダンサー&バードとかのSS読んでみたいなと、
リクエストしてみる。

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