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【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第5巻【燃え】

1名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2004/05/13(木) 06:16 ID:PLOYwC1U
このスレは、萌えスレの書き込みから『電波キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』ではない萌えな自作小説の発表の場です。
・ リレー小説でも、万事OK。
・ 萌えだけでなく燃えも期待してまつ。
・ エロ小説は『【18歳未満進入禁止】みんなで作るRagnarok萌えるエロ小説スレ【エロエロ?】』におながいします。
・ 命の危機に遭遇しても良いが、主人公を殺すのはダメでつ

・ 感想は無いよりあった方が良いでつ。ちょっと思った事でも書いてくれると(・∀・)イイ!!
・ 文神を育てるのは読者でつ。建設的な否定を(;´Д`)人オナガイします。

▼リレールール
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・ リレー小説の場合、先に書き込んだ人のストーリーが原則優先なので、それに無理なく話を続かせること
・ イベント発生時には次の人がわかりやすいように
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※ 文神ではない読者各位様は、文神様各位が書きやすい環境を作るようにおながいします。

前スレ【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第4巻【燃え】
http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi/ROMoe/1081146897/
2スレルール :2004/05/13(木) 06:17 ID:PLOYwC1U
スレルール
・ 板内共通ルール(http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi?bbs=ROMoesub&key=1063859424&st=2&to=2&nofirst=true)

▼リレー小説ルール追記--------------------------------------------------------------------------------------------
・ 命の危機に遭遇しても良いが、主人公を殺すのはダメでつ
・ リレーごとのローカルルールは、第一話を書いた人が決めてください。
  (たとえば、行数限定リレーなどですね。)
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3どこかの166 :2004/05/13(木) 06:21 ID:PLOYwC1U
新スレついでに反則シリーズ追加。
バトスケに説教するアコきゅんな話。
4どこかの166sage :2004/05/13(木) 06:27 ID:PLOYwC1U
「できないんですかっ!
 貴方にはできないんですかっ!!
 貴方バードでしょう!
 ならばっ、何で貴方はその楽器を持っているっんですかっ!!!」

 衆人環視の中、目の前のアコきゅんに楽器を持って迫られて俺は何もいえなかった。


「花を!花をあげてちょうだい!」
「花嫁に祝福を!」
「幸せになりやがれ!このやろー!!」
 コモドで行われていた結婚式はいまや大きな祭りとなって、旅人や冒険者を巻き込んでにぎやかに行われていた。
 それを俺は隅の方で眺めていた。
 幸せそうな花嫁の顔。
 照れている花婿の顔。
「顔……か」
 いつだっただろうか?顔を無くしたのは。
 顔だけではない。髪も肉も無くし、骸骨だけになった俺は気づいてみたら時計搭で人間達を敵として射る事で暮らしていた。
 そのまま長い長い時を過ごしていた俺に変化が現れたのは……アラームのおかげだろう。
 気づいてみたら、俺だけじゃなく周りのやつもあいつの笑顔の為に戦っていた。
 たとえ、楽園が幻だとしても俺には、俺達にはアラームこそが楽園そのものだった。
 だから気づかなかったのかもしれない。
 時というのは永遠に続くものではないという事に。
 止まっていた時計搭の時間はアラームのおかげで動き出し、俺は新たな世界へと歩き出した。
 けど、そこで俺の時間はまだ止まっている。
 見るものが新しい、そして懐かしい。
 にも関わらず、俺は失った何かを取り戻せずにいる。
 歌を歌う。
 多くの人はその歌に酔ってくれる。
 だが、俺は満足できない。


「芸術家ねぇ。あんた」
 意外そうな顔で平然と言ってのけたのが、バフォメットの情人たるママプリ。
 酒場で見つかってそのまま彼女の酒宴に巻き込まれているが今回の神父役とか。大丈夫なのだろうか?この結婚式は??
「時計搭にいる時は世界が単純だった。
 ただ戦えばいい。
 最初はただ敵を排除するため。
 いつのまにか、アラームを守るため。
 だが、こっちにきてから途方にくれている。
 そうだな。砂漠の真ん中に立って、どっちにいけばいいのか途方にくれている感じだ」
 何が悔しいといえば、今の俺は悔しいという事を顔で表すことができない。
「ふぅ〜ん」
 さも楽しそうにこちらの苦悩を楽しんでいる。
「ねぇ?「ひと」ってなんだと思う?」
 ふとそんな事をのたまうママプリ。プリーストの衣装がほどよく崩れ、豊満な胸やスリットがちらちら見え、ガーターベルトが周りの男どもを発情させている。
「そんなもの……はるか昔に捨てちまって分からんよ」
「そうかしら?
 私に言わせたら、今の貴方ほど「ひと」っぽく見えてるけど?」
 きょとんとする俺に構わずに、話を続ける彼女。
「悩んで、迷って、失敗して、後悔して……
 そのくせ、笑って、泣いて、怒って、人生楽しんでいるじゃない♪」
「楽しんでる?」
 よほどおかしな声だったのだろう。けらけらと楽しそうにママプリは笑う。
「ええ。思い通りにならないからこそ、人生って楽しいのよ」
「……あんた。時々聖者っぽい事いうな」
「……じゃあ、今までどんな目で私を見てって聞くまでも無いか」
 くるりと周りを見るママプリ。聖女というより性女として席を立ったら男達が群がってくるのだろう。
 で、それを拒もうともしないあたりママプリのママプリたる所以か。
「あんた、人生楽しんでいるのか?」
「あたりまえじゃない♪
 貴方は人生楽しんでいるの?」
 その問いに答えられない俺がいた。


 気配が一つ。
 酒場からついてきている影がいる。
 その後、ママプリは席を立って男達と共に部屋に篭っていった。
 俺は、別に宿に止まるわけでも、眠るわけでもないのでなんとなくコモドの街中をうろうろしていた。
 敵か?
 かといって、襲われる覚えが無い。
 俺を襲うよりママプリを襲ったほうが、魔族に取ってはダメージはでかい。
「誰だ?」
 裏路地に入って、弓を引き絞ってそいつに声をかける。
 出てきたのは以外にもアコきゅんだった。
 当然初対面。人懐っこい顔しているがはてさて。
「あのっ、お話いいですかっ?」
 相手には殺気は無い。弓を下ろしてそいつを改めて眺める。
 人畜無害で虫も殺せないような容姿だが、目は腐っていない。
「こんな夜に男の二人で話す趣味はないが?」
「すぐ済みます。
 貴方の背後にある運命の糸のことです」
 聞きなれない言葉を聞いて思わずそいつに聞き返した。
「なんだそりゃ?」
「貴方がとらわれている運命についてです。
 貴方はその運命の重さに押しつぶされかけています。
 それを僕は助けたいんです」
 仮面ごしに胡散臭そうな視線をそのアコきゅんに向けると狼狽するアコきゅん。
「いらん。自分の人生だ。自分でなんとかする」
「なんとかなっていないじゃないですかっ!」
 即答でしかも痛いところをついてくるアコきゅん。
 つくづく顔が無くてよかった。
 きっと怒るか、図星の顔をしていただろう。
「いいですか。
 人は幸せになれるんです。
 すごく簡単な事をすることで」
「聞こうじゃないか。
 どうすればいい?」
 若干の怒気を含んだ声で質問した俺にそのアコきゅんはちょっと胸を張って言ってのけた。
「師匠の受け売りですけどね。
 人の中に入っていけばいいんですよ」
5どこかの166sage :2004/05/13(木) 06:33 ID:PLOYwC1U
「汝、この者を花嫁とする事を誓うか?
 汝、この者を花婿にする事を誓うか?」
 ママプリの神聖な声が場を支配する。
「誓います」
 同時に聞こえる新郎新婦の声。
「神の祝福があらんことを……
 さぁっ!堅いことはここまでっ!お祭りを始めるわよっ♪」
 一斉に聞こえる歓呼の声。
 花火が上がる。音楽が鳴り、あちこちで宴が始まる。
 それを俺は遠くから見ていた。
 楽しそうな人の笑顔。
 幸せそうな花嫁。照れている花婿。
 聖女から性女よろしくフェロモンを振りまくママプリ。
 楽しそうに騒ぐみんな。
 その場に入れない俺はその祭りを眺めている。
「ん?」
 ちょっとした異変が起こったのはそんな時だった。
 宴会を仕切っていたママプリに裏方として動いていたカプラさんが何かを耳打ちする。
 一瞬だけどママプリの視線が曇る。
 何かをカプラさんに耳打ちしてさりげなく裏方に引っ込むママプリ。
 よく見ると、カプラさんや関係者らしい人が少しずつ裏方に引き上げてゆく。
 宴会は何事も無く続けられているが、何かがトラぶっている。
 俺は何も考えずに裏方に走った。
 何故走ったのかは俺も知らない。
「どうした?何があった?」
 いきなり仮面をつけたバードが裏方に入ってきて緊張するカプラさん達だが、その緊張をママプリが手を振って解除させる。
「ちょっとトラぶってね。式を盛り上げるために頼んでいたバードが洞窟内でモンスターに襲われているのよ」
「何で、カプラ転送サービスを使わなかったんだ!?」
「相手のバードに聞いてよ!
 とにかく、救出隊を編成するんだけど、場つなぎのバードを探して……」
 ママプリの不意の沈黙に周りのみんながその意味を把握する。
「頼むっ!メインのバードが来るまででいいっ!
 会場の場をつないでくれっ!」
 一人の騎士が俺にすがりつく。あとで聞いたら、結婚式をしていたカップルの所属しているギルドのマスターらしい。
 裏方から会場を覗く。
 今は、食べ物と飲み物でもっているが、たしかに場がだれてきている。
 やっと気づいた。
 二人の為に集まったみんなに最高の思い出をとママプリや裏方のみんなは一生懸命やっているのだ。
 みんなの視線が俺に集まる。
 何の縁も無い俺なのに誰もが俺を見ている。
 瞼が無いのが恨めしい。こういうときに目を閉じてしまいたいのに。
「できないんですかっ!」
 いきなりの声に皆が振り向くと昨日のアコきゅんがいた。
「できないんですかっ!
 貴方にはできないんですかっ!!
 貴方バードでしょう!
 ならばっ、何で貴方はその楽器を持っているっんですかっ!!!」
 まったくの第三者に言われた正論に誰もが言葉を失う。
 だが、俺は顔が無いことがこれほど悔しいと思った事はなかった。
「……そうだな」
 こんな時ニヒルに苦笑する事すらできやしない。
「たいしてレパートリーも無いぞ。さっさとバードを救出してこい」
 騎士とそいつの周りにいた連中が黙ってダンジョンに向かってゆく。
「はいはい。みんな注目〜〜〜♪
 飛び入りだけど、謎の仮面のバードさんが二人を祝福しに着たわよ〜〜♪
 二人のらぶらぶ幸せ光線をさらに強める仮面のバードさん!どうぞぉ!!」
 カプラさんからマイクを奪って即興のアドリブで俺を紹介してくれたママプリの声と共に裏方から楽器を持って会場に現れる。
 俺に足りないものが分かった。
 持っていた楽器をふと鳴らす。
 音楽は聞かせるためにある。
 聞かせる人がいない音楽など音楽じゃない。
 皆の視線が俺に集まる。
「二人のこれからの祝福を祈って……」
 ゆっくりと思うままに俺は音を紡ぎ出していった。


「なんとなく分かった気がする」
 宴の後、喜ぶアコきゅんに俺はぽつりとつぶやいた。
「一人で考えていた。
 人は、一人では幸せにはなれないんだとな」
「それを運命と人の世界ではいうんですよ。あちゃすけさん」
「……知っていたのか?」
「私は、ママプリさんの行き方を許容できません。
 けど、人として運命に押しつぶされそうになった貴方を見捨てることもできなかった。
 それだけです」
 そういってアコきゅんは笑った。
「甘いな」
 俺の皮肉交じりの苦笑にアコきゅんは胸を張って答えた。
「甘いですよ。あまあまです。
 きっと師匠に怒られて今夜の晩御飯は抜きです。
 けど、見ましたか?
 あの二人の幸せそうな顔。あのギルドの本当に喜んでいる姿。
 それが見たのならば、晩御飯なんて我慢できますよ」
「そうか。俺にまで結婚式の残りの肉やケーキをくれたんだが俺は食べれないしなぁ」
「うっ……買収しようとしても」
 豪快に腹の虫がどこかから聞こえる。骸骨の俺はそんなもの飼っていない。
「……もったいないからもらっておきます」
「そうしろ。がんばれよ。聖者さま
 俺以外にも迷った子羊達の運命を導いてやってくれ」
 そして俺達二人は顔を見合わせてたまらず笑い出した。


親愛なるアラームへ
 元気か?いつものように機械を壊していないか?
 おまえは運転する時に左右の確認が遅いからちゃんと確認するんだぞ。
 俺は時計塔の世界を出てから風の吹くままに旅をしている。
 世界って広いぞ。地底の中にある街で結婚式の宴会芸に呼ばれたり、通りすがりのアコきゅんに人生語られたりする。
 だが、そんなことをひっくるめて世界は広い。
 いつか、おまえが世界に出た時にお前の為に俺が世界をいろいろ見聞しておいてやるから安心して冒険者をやっつけてくれ。
 風邪をひくなよ。勉強は忘れるなよ。時計塔のみんなによろしくな。

 アチャスケ
6どこかの166sage :2004/05/13(木) 06:44 ID:PLOYwC1U
というわけで、新スレ第一弾でした。
アチャスケは時計塔スレから、アコきゅんは萌え小説スレ三巻14氏原案のアコきゅんとモンク師匠からです。

ではっ
壁】)=3 ピュー
7名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/13(木) 20:07 ID:MBzxqqUw
>どこかの166さん
新スレ立て+新作アップお疲れ様です。
毎度自他共のキャラクターの使い方がとても上手で今回も楽しませていただきました。
ちなみに前278での某スレとはグロスレのことですね。
893@新スレの容量をいきなり削る!sage :2004/05/13(木) 20:57 ID:.HpFMQls
 少女と、騎士、そしてローグが去った後。ゴーストリングは一人、主の想い人を守るべく漂っていた。周囲に気を配り、ややあって、眼下の聖女の様子を伺う。それから、周囲にまた気を配る。その、繰り返し。万が一敵が現れた場合、非力な彼では彼女を守りきる自信はない。それでも、身を挺して庇わねばならぬ価値が、この女性にはある。
 人と魔との間に立つ者が存在し続けること…即ち、共存という概念を世界に掲げ続けること、その意義を彼はこの数十分で実感していた。あの少女も、自分も、この女性と魔王の関係があればこそ、…魔と人が、分かり合えるという前例が目の前にあればこそ、歩み寄ろうと考えることが出来たのだから。そう考えてから、また周囲に気を配る。
「……あっちばかり…見て…るじゃない」
『…オ目覚メカ?』
 慌てて漂っていった先で、聖女は熱さに耐えかねたように己にかかっていた掛け物を剥いでいた。彼女の常は白い肌に、朱が差している。
「薬…なんて、無粋ね…」
 意志の力だけで、彼女は肉の反応を捻じ伏せ、立ち上がろうとした。が、手足にはさっぱり力が戻らない。ローグが植えつけて行った催淫麻薬は、俗に言う『処女でもよがる』等という甘いレベルの物ではない。彼女がまだ正気を保っていられるのは、乙女と正反対の異常な経験の豊富さゆえ、であった。
「…あ…ん。駄目…ね。動けない」
 とろんとした呂律の回らない声で言う聖女に、ゴーストリングは眉…のあたりに皺を寄せた。悪魔的な倫理観は肯定していても、思念体の彼では彼女の疼きを慰める事もできぬ。巨大ウィスパー達が送ってくる情報は、切迫していた。急がねばならぬのに、歯がゆい。
「…いいわ…イって。わたしは…慣れてる…から。ン!」
 肉付きのよい、それでいて締まった脚がぴく、ぴくと跳ねる。湿った音と、甘い香りが漂いはじめた。
「いきたいん…でしょ? ふぁ…あの子の…ところに」
 今、敵が現れたら。匂いでも、音でも、声でも、聖女の居場所を突き止めるのは造作もないことだろう。そして、彼女は今、余りに無防備。
「大丈夫…よ。とおりがかった男でも…ふぅっ…女でも…人…でも、動物でも…食べちゃうから…。ゃうっ…行きなさい…、貴方も…貴方のするべき事を見つけに…ね…あの子…も……」
 自分の為すべきこと。部下のウィスパーが送る映像が脳裏に写る。ゴーストリングはもう一度だけ躊躇いを見せてから…、最後の跳躍をした。


 愕然。闇の王の虚ろな目に宿った感情はまず、それだった。ついで、憤怒。取るに足りないゴミに、手に入れていた力を寸前で奪われた事。人を捨て、魔に転じてより幾星霜、この日、彼の受けた屈辱程のものは記憶にない。
『人! 人! 魔ノ力無キ脆弱ナ存在ガ…身ノ程ヲ知ルガ良イワ! 我ハ王ナリ!』
 彼の周囲に、巨大な魔力方陣が開いた。
『星界ヨリ我呼ブ…禍ツ星ヨ…来タレ』
「なっ…早い!」『いけない!』
 バックステップで下がるアサシンの動きよりも早く、詠唱は進む。人の身には不可能な速度で編まれる最強最大の攻撃呪法。詠唱を妨害すべく、深淵の騎士が投じた手槍はそれ自体が意思を持つ魔杖に噛み砕かれ、ダークロードには届かない。老司祭が、深淵の横で立ちすくむアコライトの腕を引き寄せる。反対側には、自分の役割を心得たらしい妖精耳のプリーストがさっと寄り添った。
「…力を貸すのだ、囁け、詠唱を…祈り、念じよ! Sanctissimi…」
『ファファファ…ソノ術ハ1000年前ニ既ニ見タワ!』
 聖体降福の条件は、三人の聖職の神への祈り。闇の主は詠唱を続けながら、一番ひ弱そうなアコライトの少女めがけ魔杖を投じる。
「……先輩っ」
 思わず目を閉じた少女の髪を、ふわり、と風が揺らした。
『Meteor Stor…』
「……Sacramenti!!」
 老司祭の声が闇の王のそれよりも一瞬早く響きわたる。三体の天使が大空に舞い上がり、落ちてきた巨大な隕石を…砕いた。少女がつぶっていた目を、おずおずと開けると、頭上からぽたり、と何かが垂れ、反射的にかざした手が染まる。……青黒く。
「…おちびちゃ…ん?」
『……齢800年…初メテ出来タ相棒ヲ守ッテ死ス。良イ死ニ様デ…アル…』
 魔杖の軌道を自らの身で逸らしたゴーストリングが、浮遊する力を失って彼女の頭上に落ちた。少女が両手で受け止めたその身がうっすらと透き通っていく。
「……嘘…そんな、なんでここに…あなたが」
 その答えはわかっている。弱い彼女を守る為。あの青年の代わりに、戦いを止めようと言いながら…、その実、死ぬつもりだった彼女の身代わり。
「駄目…まだ…助かるから。逝かないで」
 精一杯癒しの奇跡を祈る。ゴーストリングの燐光を放つ目が、彼女を見た。
『…相棒ヨ…オ前モ…自分ノ為スベキコトヲ…探セ…。先輩トヤラノ代ワリデハナイ…オ前自身ノ…望ミヲ』

『低級魔ノ分際デ…邪魔ヲシオッテ!』
 震える少女の頭上に再度振るわれた杖は、古城最強の騎士の黒剣に阻まれていた。
『…ゴーストリング。貴様の名、胸に刻もう』
 巨馬が静かに鼻を鳴らす。
『ノワール・ケニッヒよ…。お前もまた、あやつの死を悼むのか。責めはせぬ』
 戦場に感傷は禁物だがな、と続けて…深淵の騎士は愛剣“漆黒の処刑人”を槍に転じ、構えた。それは、騎士の持つ最強最大の技…。
「…Brandish Spearか。確かに、聖体降福が切れるまでの時間で奴を倒すには…あれしかあるまい」
 深淵の騎士の隙の無い構えを見て、騎士が唸る。勝負の時間は呪文妨害が切れるまで…。次の聖体降福の儀式は、もう不可能なのだ。アコライトの少女が未熟であった分だけ術にかかる負担が大きかった妖精耳のプリーストは、気を失い、相棒のクルセイダーの腕の中だった。
「だが、Brandish Spearは大技ゆえに隙がある。懐に飛び込まれると避けられる事もあるらしいが…」
 言いながら、援護に入ろうとした暗殺者を騎士が制する。
「黙ってみている方がいい。あの角度を崩さなければ…隙は出来ない。問題は、魔杖と処刑人。武器としての格…だけだな」
993@新スレの容量をがりがり削る!sage :2004/05/13(木) 20:58 ID:.HpFMQls
 首都中央通りでは、意思無き存在と人との激戦が続いていた。最初はばらばらに戦っていた冒険者達だったが、今はすべて三々五々集まった即席PTやら顔見知りやらで戦っている。集まっているもの以外は各個撃破されたという言い方もあるわけだが。
「16! 17! 18! 19! ほら、気張る!」
 ここでも、やたらに元気な女アサシンに率いられた一団が、効率的ではないが、息のあった連携で、路地に篭っていた数体の敵を粉砕して通りに戻ってきた。
「17! 18! 19! 手を休めるな変態ども!」
 その正面の路地でも、同じような声が聞こえ、ずたずたにされた魔獣が大通りにたたき出されてくる。後を追うように、やはり女アサシンが顔を出した。ちょうど、二人の目が合うようなタイミングで。
「……そっちも……19? …また同じ!?」
「……やるじゃない? ふふふふふ」
 ぎらぎらとした目で、口元には余裕の笑みを浮かべつつそんな会話を交わす二人。その背後では、一方の連れらしい実直そうな騎士と他方の連れらしい無口な聖職が頭を下げたり、気にするなと目で返したり。可愛らしいアコライトが律儀に鐘を鳴らしていたり。誰が始めたのか知らないが、この鐘のお陰で出会い頭の同士討ちが結構減っていたりするのである。
「姐さん! こっちにハーピー!」
 舞い降りた悪魔が飛び去りかけるのを、ブラックスミスが素早い連打で抑えながら悲鳴を上げる。この枝テロで呼び出された連中は皆、狂ったような赤い目をしていたが、それもそうだった。
「頑張りな!」
「…ちっ! 次は負けないから!」
 予期せぬ激励にちょっとだけ頬を染めつつ、捨て台詞と共に一方のアサシンが背を向けると、騎士がその横を抑えるように妖鳥めがけて突っ込んだ。最後に歩くアコライトの娘が支援の合間に少し振り返って残る面々に頭を下げる。
「うわ、俺に気がある? あの子」
「……(またはじまったか、という顔)」
「…へらへらするな、この馬鹿! ……あ、あの牛野郎だ! あたしのカツ丼を返せ!」
 食事中をテロに巻き込まれたらしいもう一方の集団も、やけに悲しい叫びを上げながら別の路地に突き進んだ。

     が

「うわ、強ぇぞ、こいつ!」
「しかも…早い! 姐さん…ここは俺が食い止め…」
「勝手に悲壮感出してるんじゃないっ! 広いところまで下がるんだよ!」
 路地に入ったときと同じか、それに勝る勢いで転がり出てきた一同の向こうからは、真紅の肌の巨大なミノタウルス。
「さっき食べてたのはサベージベベカツ丼だってのに、何で牛がそんなに怒るんだよ」
「……(こっちに聞かれてもわかるわけが無い、という顔)」
 などとドタバタしつつも、広いところに出たらさっと散開して敵を包囲するあたり、熟練の冴えをを見せる一同。どの敵を狙おうか、牛頭の巨人が迷って足を止めた瞬間。

 二つの轟音と共に、その姿は煙の中に消えた。


「かーっ…ぺっ…。老人を酷い物に乗せるのう…。それに、人の街のど真ん中とは…」
「…あれ? スーツの中…で寝ちゃってたんだ? ここは…」
「! ……目が覚めたなら早くどきなさい。レディたるものがはしたない」
 自分のお腹に幼い少女を乗っけた状態で、急に威厳溢れる教師モードになっても欠片も説得力がないわけだが、そこは普段からのしつけが物を言うのか、少女はおとなしくスーツのハッチをあけ、外に出た。その後を、髭の公爵閣下(人間形態)が這い出る。
「………(何か凄いものをみてしまったという顔)」
「……あ」
 その様子を、偶然正面から見てしまったごついプリーストが彼らの前で固まっていた。…一方その頃。

「あーーー! この仮面詩人! いつか時計塔に可愛い女の子がいるとか大嘘言ってやがっただろ、おい!」
「何! …あれは嘘だったのか! じゃあ、あの時売ってたこの下着も偽物なのか!?」
 細身の詩人を小一時間問い詰めそうな表情で締め上げるローグの横で、小さな布切れを手に、モンクがあらぬことを口走っていた。更にその後ろには…
「…あ! 姐さん! こ、これは可哀想なその子に返してやろうと思って買っただけで…っ」
「あのWIZ娘さんをたらしこんで毎日時計に篭ってた訳はそれか。ふーん…」
「おう! 信じてくれたか!(ぐっ)」
「…あんたにロリっ娘趣味があるとは思わないけど腹が立つから蹴る!」
 殆ど一呼吸で言い放つと同時に、形のよい脚が一閃した。どこを蹴られたのか、ぐはぁ! などと悲壮な声を上げて悶絶するモンクをよそに、ローグは詩人の仮面を引っぺがそうと綱引きを始めている。やれやれ、とばかりに向き直ったアサシンの視界に、何故か子供と老人を連れた殴りプリがクレーターの奥から戻ってくるのが見えた。

「で、牛は?」
「……牛?」
 ちょっと斜めになった仮面を必死で抑える詩人が、アサシンに答えた。その裾に、よほど懐いているのか10歳過ぎくらいの少女がぴとっとはりついているのが微笑ましい。
「…それについてはワシが確認したところ、あのでっかいのに潰されておったな」
 彼の指し示す“でっかいの”こそ自分達が乗ってきた砲弾な訳だが、無口な聖職者が彼らの事を告げない限り、自分達の素性を教えることも無い、と魔族の公爵は考えた。その辺、さすがに魔界の貴族だけ合って計算高い側面を持つお爺ちゃんなのである。バースリーとお茶を啜っている姿しかみていないと想像しがたいことだが。
「あー…まぁ、あんたら良くあの爆発で平気だったなー、とか思うところはあるわけだけど。とりあえずここは危ないから、とっととその辺に隠れ…」
 ローグがその辺を手で示そうとしたが、あたりはテロに加えて謎の爆発のせいで見る影もない。
「…る場所もないからアタシ達についといで。守ったげるから」
「……うん」
 気分によってはいくらでも優しい表情になれるアサシンが、視線を落として少女に微笑みかける。それを、前かがみになったままのモンクがちょっぴり羨ましそうにながめていた。その足元がずしん、という音と共に揺れる。
「へ?」
「何じゃ?」
『モォォォーーーー!』
 牛巨人の雄叫びと共に、巨大な砲弾がめり込んだ地盤ごと宙に舞い上がった。梟公爵が驚愕の声を上げる。
「なんじゃと!」
「あー…年度末の手抜き工事で下の地盤がスカスカだったって訳か」
 冷静に解説するローグだが、避けるだけで精一杯。赤いミノタウロスは通常の三倍(ローグ調べ)位の速度でごっついハンマーをぶん回し、当たるを幸い、次から次と周辺の建造物…の残骸に止めを刺していく。
『家を壊すモゥ!道を壊すモゥ!』
 調子に乗りまくった牛人の前に、普段よりもマジな顔になったモンクがすぅっと割り込む。
「そこまでだ! 喰らえ! 究ゥ! 極ゥ! ……白刃取りィィィィ!」
「……攻撃技じゃないのかよ!」
「よっしゃ! よくやった! あとはアタシに任せな!」
 身動きが取れぬミノタウロスに、素早い連撃を叩き込むアサシン。が、その横合いから、雄叫びに呼び寄せられたらしい新手のミノタウロスがハンマーを振りかざした。それを最小限の動きで回避する。耳元を、唸りを上げて巨槌が通り過ぎた。
『…ぶちかますモゥ!』
「…不意打ちなんて十年はや…、あら、あらあらあら…なによコレ!?」
 それまで優雅なステップを踏んでいたアサシンの脚がもつれる。

「ぬう、アレは…煩魔放留!」
「知ってるのか、爺さん!」
「三半規管を衝撃で揺らし、余りの煩さに気を放散させる魔の技じゃ…まさか、まだあの技を使う牛が居ったとは!」
 弓が残骸の中に埋まってしまっていた為にすっかり役立たずの詩人と、人間形態では呪文も撃てぬご隠居モードの公爵が、雷電月光モードに入る間にも、ミノタウロスは次の一撃を放とうとしていた。モンクの声が悲しく響く。
「あ…姐さーーん! さーーーん! さーーーーーん!(エコー自前)」
1093@新スレの容量を容赦なく削る!sage :2004/05/13(木) 21:00 ID:.HpFMQls
 首都を見下ろす鐘楼は、女聖職者の目論見どおり…、敵に囲まれていた。最初のうちこそ軽口を叩く余裕のあった面々も、休む間もない連戦に声も無い。鐘楼の表口に矢が飛び、剣が閃き、そして鷹が舞う。女プリーストは気がくじけそうになるたびに、街の中から響く鐘の音に励まされてアンゼルスの祈りを唱え続けた。
「…ちっ…まずいな」
 裏口に回った約二名の実力者にはまだ余裕があったが、彼らにしても、情勢がよろしくないことは重々わかっている。この場に必要なのは、青い光を放つ極めた暗殺者よりも、広範囲の殲滅力を持った魔法使いなのだ。
「なぁ、知り合いに魔法使い…おったか?」
「いないな。いてもここまでは来れないだろう」
 そう返す暗殺者の眼下には、細い街路をうめつくすような鎧の兵士の群れ。もともと人間味の無い外見のレイドリックだが、頭部がぼうっと赤く輝くその連中がブロンテラ市内にうろついている図は、古城で見られる以上に不気味だった。
「…待て! あそこ…誰かおるぞ!」
 一段高いところで斧を振っていた赤逆毛のブラックスミスが大声を上げる。
「…見えない」
「確かに…女聖職者三人と…魔法使いみたいね。…そっちのレイドの群れの後尾に捕まってるみたいだけど」
 更に階段の上にいた女ハンターが、射撃の合間に横目で確認したのを聞き、裏口の二名は考えるより早く行動に移っていた。
「2分持ちこたえてくれ」
「…あいよ!」
 サングラスを指でくぃ…とあげるとブラックスミスが武器を上段に構える。レイドリックを倒すのではなく、その動きを封じる打撃を彼が繰り出し、目をくらませたらしいレイドリックの隙間を、銀光と化したアサシンが踊った。熟練した動きで敵の死角をつきながら、入り組んだ路地の影際を縫うように走る。細い路地を曲がり、瓦礫を飛び越え…、幾らか進んだ後で、何か武具を打ち合わせる様な音がすぐ前の角の向こうから聞こえてくるのに気がつき、咥え煙草のまま、彼はほっとしたようにほんの少しだけ笑った。間に合ったらしい。そのままの勢いで背後を向けているレイドリックアーチャーを蹴り倒し、中に踊りこんだ。

「Fire Wall! Meteor Storm!」
 ぽとり、とアサシンの咥えていた煙草が地面に落ちるまでの、僅かな間で…、その魔法使いは恐ろしく速い詠唱を終えていた。暗殺者の今までの長い戦いの経歴でも、魔法支援も無しにこの速度で大魔法を放つ魔法使いは見たことが無い。世界は広い、ということだろう。しかし、彼が愕然としたのはそれが理由ではなかった。
「ありがとう あなたの ☆愛☆ を感じるわぁ〜」
「頼むから感じないで…」
「いやぁぁん! Wiz様ぁ〜助け…」
「…Fire Wall!」
 曲がり角の向こうにいたのは、泣きそうな…いや、訂正、既に全泣きの魔法使いと、熟達した支援の合間にきゃあきゃあと黄色いダミ声を上げている二つの物体。その後ろで、なんとも言いようの無い表情でレイドリックを殴り倒すアコライト。

「……あ、すまん…。取り込み中だったか」
 とりあえず回れ右をして戻りかけるが、その裾をがしっと魔法使いが掴んだ。
「た…助けてくれ…」
「…間に合っている」
 何が間に合っているのか、意味不明の押し売り撃退用の言葉をもごもごと呟きながら、アサシンは滅多に無い量の冷や汗を流していた。

 きっかり二分の後、鐘楼付近のモンスターは一時的なこととはいえ殲滅された。しかし、勝利の凱歌はそこに響かなかったという。


『…ダークロード…覚悟! Brandish Spear!!』
『……ファファ…』
 黒光が閃き、嘲笑をあげるダークロードを土煙が覆う。タイミングは完璧。斜めではなく、水平に突きこまれたその技には死角も無い。だが…、
『…くっ!』
 深淵の騎士の巨馬が、大きく背後に跳ねた。直前まで騎士のいたところに、巨大な穂先が刺さる。黒き処刑者、魔界でも屈指の武具は、その根元から叩き折られていた。
「…武具相手に…必中攻撃かよ」
 交差した瞬間を正確に捉えていたのは、速さを極めたアサシンだけだった。突き出される黒い槍。その根元に、十字と円の組み合わさったような物が一瞬浮かび、それをなぞる様に魔杖が動いたのだ。まさに、魔技。
『…深淵ヨ、引ケ。…武器ガ折レテハ戦エマイ。我ガ…』
 癒しの術ではすぐには治らないらしい足を引きずりながら、それでも魔王の威は消えず。彼の最強の雷術方陣を編む。闇の王にそれが通じると期待してのことではない。むしろ、目をくらませ、隙を作ることこそその目的だった。
『ファファファ…逃ゲに転ジルカ? 魔王バフォメット…汝ノ生命ガ代償ナリ!』
 それに気づいた闇の王が嘲笑する。その身が黄色い燐光に包まれた。魔法が通じずとも、闇の王には恐るべき神速の剣術がある。魔王の鎌と、闇の主の杖と…、片方の傷を見れば勝敗は明らか。

『閣下! 囮ならば私が…』
 いいかけた、騎士の眼前にあのアコライトの顔が浮かんだ。
(…ここで死にたくは無いだろう。魔王に時を稼がせれば、この場は君は助かる。最後の時を、愛しあう二人で過ごすことが、できるよ…)
 青年は笑顔で語りかける。
(そうやって、どこまでも逃げ続ければ、いつか二人で結ばれ…)

『下らぬ児戯はやめろ、幻影!』
 騎士は、篭手に包まれた腕を笑顔の青年に叩きつける。叫び声と共に、その姿は揺らぎ、ドクロを模したような奇怪な頭巾姿に変じると砕けて消えた。
『…私はあの者に言った。騎士である私と同じ強さを見につけろと…。騎士の強さは心にある』
 今頃になって、気づく。職業は聖職者でも、彼はナイトだったと。彼女を受け入れ、二人で共に歩むことを望む、と言った日から…、彼の魂は常に、強かった。深淵の騎士が巨馬を撫でると、忠実な馬は嬉しそうにいななく。敵に背を向け逃げ延びるよりも、主と共に前を向いて死すことこそ、この漆黒の巨馬の望みゆえ。
『…騎士は、武具によりて戦うにあらず!』
 騎士の脳裏に、もう一度最愛の青年の顔が浮かぶ。その顔は、少し怒っているような、困っているような。けれども、その目は彼女の決断を祝福しているように、笑んでいた。
(…もう一度、会いたかったかもしれない。その時には…)
『ダークロードよ、我が最期の一駆けを貴様の目に焼きつけよ…!』

“良く言った…気に入ったぞ。汝を認めよう”

 轟…と戦場に爆音が響いた。
1193@新スレの容量をまだまだ削る!sage :2004/05/13(木) 21:01 ID:.HpFMQls
『…』
 拡散した意思を、何かが呼ぶ。青年は、抵抗した。
(もう…疲れたんだ…)
『……人間、オ前ハ蛆虫ダ。ミッドガルズデ最下等ノ生命体ダ』
 聞き覚えのある声に、青年の意思が収斂した。目の前が白く、波打つ。数秒考えてから、巨大な布の悪魔がすぐ前にいるのだと理解した。彼らの名はウィスパー(ささやき)。元来意思薄い思念ゆえ、一度焼き付けられた強い思念を繰り返しているのだろう。
「…そうか、本体が失われたのか」
 青年の中の一部がそう断じた。ゴーストリングシステムという名の、この連携した偵察悪魔の群れは、一匹の思念体が他の全ての見た映像や音声を解析するらしい。解析に特化した中枢と、情報収集に特化した端末。中核を失った端末は、このように抜け殻になるのだろう。振って沸いたようなその知識を、彼は疑念もなく受け入れた。しかし、何故…彼の元にその悪魔がいるのか。

『……先輩っ』
 右から、別のウィスパーが声を上げた。彼の良く知っている、あの少女の声だ。聞いた事のないような切迫した声に、反射的に動きかけて…停まる。
(ゴースト損傷度大…回復の為休眠モードに移行を提言する)
 脳裏に、別の声が響く。さっきの、悪魔についての知識を告げたのと同じ声だ。自分は、とうとう狂ったのだろうか、と青年は考える。
(これが私=貴方の本来あるべき正常な状態である)
 ならば、と青年は自嘲した。ならば、彼は狂っているのだろう。それが、彼のあるべき姿だったのかもしれない。
(否。創造者の望んだ私=貴方のあるべき姿とは、魔界の門。されど、創造者は失敗した。師より秘伝を受けなかったが故)
 彼の中に、様々な情報が書き込まれていく。彼が、作られた存在であること。失敗作として放棄されたこと。そして、彼の心が目の前のウィスパー同様の抜け殻として作られていたこと。
「…そうか。俺は…虚無だったんだな」
 目覚めた時、はじめて話しかけた人に、冒険者の訓練を受けるように言われて修練所に向かった。その中で言われたとおりに右往左往して、性格診断を受けたとおりに商人になろうとした。あの女性に会ったから、聖職者にすることにした。聖堂に勤めてから後は、命令にただ従っただけで日々が過ぎていった。そんな自分だから
「…あの闇の王に言われたから、そのままになったのか」

『許せよ…』
 左から、老司祭の声がする。許しを請うべきは自分なのに。青年の本質が虚無であろうとも、彼を受け入れ、繋がりを保ってくれていた彼らを、死地に追いやったのは自分の弱さなのだから。そこまで考えて、彼は気がついた。周りに、白の霊が集まっているのは…
「…そうか、俺に繋がる“糸”を辿ってきたのか…俺を、呼ぶ声を拾って」
 全て切れたと思っていた“糸”は…まだあった。そう知覚すると、自分に無数の“糸”が繋がっているのが感じられる。たまたま隣に座って言葉を交わしただけの“糸”。日曜の懺悔当番で悔恨の言葉を聞いた相手からの“糸”。細い糸の多くが、彼の知覚する先のほうで何かを叫んでいる。その声の後ろ、耳を澄ませば、聞こえるのは
「…鐘?」
 首都の大聖堂で初めて聞いたときに、震えたあの音。そういえば、彼が自分で決めたことがあったような気がする。
(僕は、お姉さんのようなプリーストになりたいんです)
 そう。その想いがある限り、彼は虚無ではない。虚無でいる事は、出来ない。

(私=貴方の状態は赤。これ以上の活動は存在の危機に繋がる)
 頭の中の声は、淡々と事実だけを述べる。そう、彼は今日死ぬかもしれない。けれども、決然として立った。行くべき場所は、彼の手にある“糸”が導いていた。闇の王に通じる太い糸が。よろめきながら、一歩目を踏み出したその背中を、四つめの白い悪魔の声が押した。
『…行きなさい…、貴方のするべき事を見つけに…ね』


 どこか、遠く。横座りのまま、膝の上の細かいモノを眺めていた管理者は、男の残滓を手ですくい、そっと口元に当てた。
「私も…いかなければ」
 闇の君主とその軍勢を、今、残った者が止めなければ…世界は終わる。彼女もまた、愛していた世界が。
「管理者として命じます。空間位相…シフト。Gv空間を展開…範囲…極大」
 世界を守る…守備側の者への攻撃を逸らす大規模な空間構造の転換。その書き換えに使うだけの力は、既に彼女には無い。不足を補う為に自らの身体を削り、術式は進行していく。彼女の肩から、胸から、全ての傷口から光が溢れ、世界中に散っていった。
「いつか。私が罪を償うことができたら…また、会えるでしょうか…。いえ、きっと…探してくれますよね…どこにいても」
 光の中、誰に見られることも無く消えた管理人の最後の表情は、晴れ晴れとした笑顔だった。


 鐘は鳴る。宿屋近くでは、寄り添う双子のアコライトの手で、髭面と優男の二人の騎士に守られながら。
  「結局…BOT狩りしてるのな、俺」「星の巡りだ。諦めな、坊主」
  「あの、二人とも…」「喧嘩しないでよ。大人気ない!」

 鐘は鳴る。大通りの中央に決然と立ち、あたりを睨む精悍な槍騎士の、背後に寄り添うように立つ聖職者の手で。
  「なぁ、たまには夫婦でハードなのも悪くないだろ?」「貴方と一緒なら、どこでも、ね」

 鐘は鳴る。黒髪の少年の横に並んで立つ、一見、気の強そうな…でも、人一倍優しい蒼髪の少女の手で。
  「貴方と組んでるとっ…厄介事…ばかりっ…」「え? 何!?」「飽きなくていいわねって言ったの!」

 鐘は鳴る。旧剣士ギルド前の植え込みで、口元を引きつらせたアサシンを濡れた目でみつめているプリーストの手で。
  「あ、野外エッチでエンゼラスって刺激的じゃない?」「…何馬鹿なこと言ってる(戦闘中)」
  「鐘の振動が…ね、想像するだけで濡れてきちゃった」「………人の話を聞けよ…(戦闘中)」

 そして、鐘は、鳴リ続ける。首都の中央広場でも…、

 ごぉぉぉぉん!

「……(あれ、鐘を打った覚えは無いけど? という顔)」
『がお…!』
 物凄くいい音と共に、ミノタウロスのハンマーをその身で止めていたのは、巨大な機械仕掛けの魔物だった。時計塔以外では姿を見られることも少ない、その名は。
「アラーム! …この馬鹿!」
『……がお(だって)』
 詩人が駆け寄る。その横で、気を散じてしまったモンクの白刃取りが崩れ、赤い巨体が動き出そうとしていたが、…いきなりの雷光に撃たれて崩折れた。
「…やれやれ…もう姿を偽る必要もないですのぉ…」
 魔界の公爵、オウルデューク。その、静かだが圧倒的な威圧感に反射的にローグが身構え…かけるのを、裏拳一発で制圧したアサシンが、自分を庇う姿勢のままで動きを止めたアラームに声をかける。
「…ありがと、お嬢ちゃん」
『……がお!』
 アラームが元気な声を返した。

 時折襲い来る魔物や魂無き兵士を共闘で殴り倒したりしつつ、その間に詩人が今までの経緯をかいつまんで話す…というか、歌う。
「…げ…、あれの中に人…ガセじゃなかったのか…」
「……(事実は妄想より奇なり、という顔」
 途中からは、寝ていて事情を知らなかったアラームが、一人でも皆を助けに行く、というのをなんとか宥めたりすかしたりしながら、詩人の語りは終わった。なんとなく、一同に気まずい沈黙が走る。
「アルデバランもここと同じような状況かぁ…」
「くそっ…そう聞いたら助けにいきたいけどよぉ…」
 彼らのような少人数ではついていっても当然のこと大局に影響はないのだが、さりとてこのまま放っておいて別れるのも何だか気が進まない。彼らの上に線描きの雲がうにょうにょと漂い始めた頃。

[もう時計塔に狩りにいけない奴の数(1/20)]
 路地の裏に、なにやら吹き出しが現れた。
[もう時計塔に狩りにいけない奴の数(20/20)]
 即座に数字が増える。どうやら、こそこそと隠れた連中がいつの間にか周囲を取り囲んでいたらしい。どおりで悠長に会話できる程度の敵しか沸かないわけだ。
「…あ、気にしないでください。俺達、バドスケさんの歌を聞きにきただけなんで」
「ただの時計塔マニアですから」
 その他、方々からも声が上がる。自分の座っていた瓦礫のすぐ脇からも声が上がり、ぎょっとしたように公爵がその辺を見た。
「……俺、バドスケさん追悼記念で時計塔行ったんすよ…元気そうで良かった」
「95%回避の癖に俺の前に座り込んで朝までずっと泣いてたのは…あんたか!」
『…がおがお、がお!(喧嘩は駄目!)』
 ハイド中で見えない相手を殴り倒さんばかりの詩人を、AMスーツのでっかい手が止める。それまで時々鐘なんか鳴らしたりする以外、ぼーっと見ていた殴りプリが、閃いた、という顔をするとおもむろに座り込んでチャットを立てた。

[とっとと鎮圧して時計塔を救いに行きたい奴の数(1/20)]
 あっという間に、20まで数字が増え、あぶれたらしい連中により、そこここにチャットが乱立し始める。
 [荒武隊体験入隊! や ら な い か(12/20)]
  [時計塔ツアーいくよ!(9/20)]    [時計特攻部隊(16/20)]
   [実はライドねーさんハァハァ→(18/20)]
「……お前ら、最高!」
 誰かがニヤつきながら口にした一言が、プロンテラの歴史を通じて最大級の祭りの開会を告げた。
1293@これで終わり!sage :2004/05/13(木) 21:03 ID:.HpFMQls
 戦火やんだ古城を悠然と歩む、深淵の騎士。魂無き戦士たちの猛攻を受けた夜が明け、いつもと変わらぬ日差しが彼と城を染める。結局、連中は隊列を組んだ騎士団の敵ではなかった。しかし、思い出しても血が踊る…、最後の突撃。深淵の騎士団が集結したのは、1000年ぶりのことか。
「さすが…お強かったですねっ」
 一人、あと片付けを続けるアリスが声をかけてくるが、それにも彼は慢心しない。自分より強い“戦士”が世界に5人はいる、と答えるとアリスが興味津々の目でその内訳を聞いてくる。ぬかった、と思いつつも答えた。
 騎士団最強の少女と、その姉。まぁ、それ以外にまだ見ぬ己以上の強敵が3人はいるだろう、と。
 いてもらわないと困るのだ。その出会いへの望みがあればこそ、彼は虚ろな空洞に騎士の魂を宿して在り続けるのだろう。そういえば、やはり長く生きるあの剣は出会いの望みを果たせたろうか。真の遣い手との出会いを。
「ぶるるぅ」
 黒の馬が考え込んだ主人に不審そうな嘶きを向けたのに、騎士は我に返った。今晩あたりはきっと祝宴だろう。難しい事を考える必要はない。せいぜいジョーカーの姐御に酔い潰されないように気をつけねば。

 その向こうでは、珍しくあの娘から褒められたらしいレイドリック兄弟が、慣れぬ祝宴衣装でうろうろしている。あのセンスは梟閣下か…。なむ。
「…剣の」
「ああ、弓の」
「「…戦士でよかったー!」」
 がしがしと暑苦しく抱き合う連中に、何故かいつになく親近感を抱く深淵の騎士であった。


「また、挨拶もせずに出て行くの? あの子、また泣くわよ?」
 仮面をつけた詩人の後ろから、本の精が言葉を投げた。
「…そういえば、お前は一滴も飲めはしないよな…。潰れてるはずはないか」
 荒武隊の連中と、首都から来た人間達の祝宴…むしろ、狂宴は丸一日続いた。肩を叩き合う、魔物と人。明日になればもとに戻るのだろうが…
「このまま、ここに残ればいいじゃない。管理人だって嫌とは言わないわよ。あの子も喜ぶし、それに…」
 続きを逡巡する本の精に、仮面の向こうの目は優しく微笑む。
「楽園計画の為にな…」
「え?」
「俺達が昔、夢見ていたはずの楽園。いつの間にか見えなくなってたものを、今日、見せてもらったからな」
 彼が守っているはずだった少女のお陰で。…彼女があの時、あの人間を助けなかったら、今はなかっただろう。
(楽園計画は継がれねばならぬ。その心はな)
 管理人は、確かに本質を見抜いていたらしい。傍で少女を見ていたはずの詩人よりも。過去の計画がどうであれ…、今はただ、彼女の見る夢こそが、楽園。その夢が叶うときまで、どれだけかかろうとも…。

    未来は、きっと明るいから。

「だから、その実現の為に…俺は、もっと外で歌わなければならない。この歌を」
「……そう」
 しばしの沈黙。それから、少しの間。
「不便ね。この身体…」
 泣きそうな声の本の精に、詩人はあくまでも優しく。
「…そうだな。でも、それも悪くない」


『憎まずとも戦えるのだ、闇の君主よ…我はそれを人から知った』
「…無償の愛は…許し…か。吾子より教えられたわ」
『再び野心もって挑むならば、私は改めて貴方に槍を向けよう。この世界への愛ゆえに』

 暴走した隕石の落下で燃える森の中。闇の君主は地を這い、惨めに炎から逃げていた。魔力源の殆どを破壊され、分身も失った以上、まだ強大とはいえ、…彼は一体の魔物でしかない。世界にとっては無力な存在だった。このまま一介の魔物として狩られるか、それとも地下に潜むか。あるいは魔界に戻るか。そのいずれかしか先の無い彼を、奴らはそのまま放逐した。…この、人の世界を知れと、告げて。
 彼は人の事など知り尽くしている。かつては人の頂点を極めたのだから。だが、敗れたのはその取るに足らない人の群れのせいだった。理解できぬ。不合理だ。
『何故ダ…何故我ガ…敗レ…』
 炎の途切れた小さな広場にたどりつき、力なく呻く彼の前に一人の男が立った。あまりに豪奢な黄金の髪以外はとりたてて見るべきところの無い男だ。だが、彼を見て…闇の王は驚愕した。
『…何故貴様ガココニ…。イヤ…ソレハイイ。我ニ力ヲ貸セ…貴様ノ力ガアレバ…』
「残念だがね、私に力を貸すのは君のほうだよ…悪魔の王」
『ナニ…ウ…ウボァァァァッッ…』
 迷宮の森は、全てを飲み込み…燃え続けていた。

(どこかに続く。とか無責任に投げつけてみるテスト)


「…もう、教会に戻る気は無いのか?」
 少女は無言で頷いた。首都の北門の前で、老司祭に別れを告げようと決めていたのだ。
「そうか。理由は聞かぬ」
 彼にはわかる。あの場での出来事。人と魔が分かり合えるなどということは、教会にいては口にも出来ない。若い少女が飛び出すというのなら、今の彼はそれを止める気にはなれなかった。どこにいくのか、それも聞かない。この門を過ぎれば、少女とは追う側と、追われる側になるのだから。
「……では」
 振り向く少女の肩に、老司祭の紫衣がかけられた。
「…汝を紫衣を纏う聖職者として任ず。達者でな…サリア」


 そのちょっと後。どこか遠く。暗い部屋で、青く輝く水晶球を前に、フードの男が何やらぶつぶつと呟いている。
「……くくくっ…やはり失敗作でしたよ、あれは。今回の件は文書にも残らないでしょうね。…はい。……いえ、まぁ。……そうです」
 なにやら叱責されている様子。あーあ、可哀想に。

「……ふん。闇の王を捕らえられなかったって? そんな非難を受ける筋合いは…」
 途中から、一歩引いていた彼にはそのチャンスはあった。しかし…、二つに一つ。どちらかを取ることしかできなかったのだ。何故、闇の王の捕獲を優先しなかったのか、不明瞭ではあるが。
「……まぁ、ホムンクルスの蘇生など、そうできることではありませんしね…」
 見上げた彼の目の先には、あのプリーストの青年がいた。
「……くくくっ…完璧です。これ以上の仕事は現代では誰にも出来ないでしょう。まぁ、あの状態からの蘇生で意識に多少の混乱はあるでしょうが…」
 どこかの誰かに向かって説明口調で続ける魔術師を見ながら、青年がぼそり、と口にする。
「…俺は…誰だ?」
「名前? さぁ。どうでもいいじゃありませんか。貴方は生きている」
「……そうだなぁ…」
(……壊せ……犯せ…奪エ…)
 考え込むその脳裏に、闇の王の残滓が語りかけた。
1393@……なんか一個抜けてる_| ̄|○sage :2004/05/13(木) 21:07 ID:.HpFMQls
・・・・・・12の前にこれが…

 天空より飛来した巨大な砲弾は、その運動エネルギーの大半をもって闇の主の結界を撃ち貫き、その役を果たしていた。その荷は…、魔王の鎌を打ち払い、優雅な曲線と共にその首を打ち落とさんとした一撃を、微かに蒼味がかった刀身で止めている。その柄を握る者はなく、孤剣の主はそれ自身。
『……貴様…ミストルテイン…!』
“其れこそ我が名…地獄に堕ちても忘れるなかれ、堕落王”
 ぎぃん…と音を立てて、噛み合っていた二つの武具が別れた。今度は魔杖に微かなヒビが入る。
『ガァァ!?』
“私を甘くみないことだ”
 魔剣は己の認めた遣い手の下へと宙を舞った。
“さぁ…行くぞ。騎士”
『…ああ。行こう…魔剣よ』
 自然体で巨剣を下げ、馬が歩むままにゆっくりと間合いを詰める彼女に、隙はない。闇の王が唸る。

『……ヤハリ…グラストヘイム城最強ノ騎士ニ…剣デハ…勝テヌカ…ダガ』
 彼の声無き命に従い、魔杖が砕けた。その破片、一つ一つが写し身に変じる。…否、戻る。魔杖の正体、それはダークロード自身の魂を鍛えた物だった。
『ファファファファ…最後ニ笑ウハ我! 傷ツイタ貴様達ニ…我ラハ止メラレヌワ…!』
 杖の影から無数に現れた闇の幻魔、ダークイリュージョンが主と声をそろえて狂笑した。その数と同じだけの魔法円が周囲に開く。そのすべてが、一撃必殺の大魔法…隕石の招来だった。そして、魔術防御に対する神の加護は既にない。
『…深淵ヨ…雑魚ハ我ガ刈ル。本体ヲ堕トセ!』
 魔王の死をもたらす鎌が閃くたびに、ダークイリュージョンが哄笑を放ちながら裂けていく。バフォメットが戦列に作った間隙を埋めようと、残った分身が殺到する足元に、老司祭の聖十字方陣が開き、更なる幻魔達が閃光に消えた。
『ファファファ…』
 幻魔は勢いを減じもせず、老司祭の術後の隙を狙ってその身を伸ばす。だが、
「はいはい、そこまでっ」
 振って沸いたような災厄の影に砕かれ、消えた。驚く老司祭の横を、聖女が固める。交差した視線を下げたのは、司祭のほうだった。
「…お前が、正しかった」
「人が為す事は何も正しくない、神様じゃないんだから間違いは当然。…って、貴方が教えてくれたのよ」
 ソードメイスを薙ぎながら、何事も無かったように返す聖女の笑顔を見て、老司祭は寂しく笑った。それは、遠い昔のこと。

「ようやく、俺たちにもできる仕事が出てきたか」
 不敵な表情で、アサシンがカタールを構える。その横で騎士が無言のまま、両手槍を握りなおした。ずれてもいない軍帽を片手で直したクルセイダーが後ろに続く。その後ろでは、妖精耳のプリーストを優しく草の上に横たえたもう一人のクルセイダーが巨大な盾を地に刺し、何故か幸せそうな表情の詩人が矢筒に手を伸ばしていた。そんな彼らを導く突撃の合図を軍帽クルセが叫ぶ。
「…皆さん、存分にやっておしまいなさい!」

 戦い続ける皆を、必死に支える少女にも幻魔が迫る。もう、彼女を守る相棒はいない。相棒の血で青く染まった髪を一振りする。…蒼も、悪くないな、等とらちもないことを考えながら。先輩は…、来ないだろう。ただ、一瞬でも多く…支援を。世界の為にではなく、自分の為に。自分に戦うことができる限り。
「…そう、気に入らないから、戦うの」
 静かに呟きながら、近づく敵を見切り、もう一歩下がろうとした彼女の退路を樹齢数百年の大木が遮った。
「……っ」
 目は…つぶらない。自分に迫る死を、最後まで睨みつける。戦うことを自分の意志で決めたから、もう、逃げない。…腐臭漂う幻魔は両手を彼女の細い首に伸ばし…そこを、強力な矢弾に勢いよく吹き飛ばされた。更に迫るもう一体を飛び込んできた鎧武者の剣が弾く。助かったことに驚く暇も惜しむように、少女は彼らに次々に支援魔法を飛ばした。
「…なぁ、剣の! たまには燃えも…」
「おう、弓の…悪くないな!」


 戦う一同が目指すのは、ダークロードの本体への通路を切り開くこと。彼女の為に。
『……』
 だから、騎士は目を据えて、ただその瞬間を待っていた。闇の王の詠唱が完了するまでの、永劫に等しい一瞬の間、その一点が開くのを待つ。
『…力を! この一撃に! Maximize Power!』
 ミストルテインを掲げた漆黒の剣士が赤く闘気を発した。それを受ける闇の王も、黄金の気を発する。
『ヌゥウウウウ! TwoHand…Quicken!』
 闇の王なればこそ、無手ですら放つ神速の剣技。そして、深淵の騎士の腕に、必中を表す黒い十字円が浮かぶ。
“武器破壊が無理ならば、それを持つ腕か…姑息、とはいえまいな”
『……だが、腕を砕かれようとも…』
“肉を切らせて骨を絶つ、か。文字通り”
 天空彼方に流星のきらめきが見えた瞬間…、道は開いた。巨馬の目には、その道しか見えない。止まったような時の中を駆ける。星が頭上に落ちるよりも速く、敵の元に騎士を届ける為に。時間が重く、空気が粘る。一歩、一歩がやけにゆっくり感じられるのは、騎士の体内に駆け巡るアドレナリンのせい。全てが無彩色に見えるのは、一瞬の為に呼吸を止めたから。この一撃に、全てをかける。

     「契約者として、命じる。止まれ…ダークロード」

 突然響いた声にみしり、とダークロードの動きと、詠唱が止まった。全ての分身たちもそれに習う。動き出した時の中で、無防備になった闇の王の腹に、ずぶり、と魔剣が突き立った。魔力による誘導を失った流星が、森のそこかしこに、落ちる。
「…先輩っ!?」
 湧き上がった火炎に照らされたアコライトの少女の目が、信じられないものを見るように大きく見開かれた。
「もうやめよう、闇の王。君には…この世界を壊すことなど出来ない」
『ヌウア…何故…意思ナド消エタ筈ッ…ダ』
「…消えないよ…人である限り。糸が繋がっている限り。心は何度でも蘇る」
 青年はよろよろと、力なく歩を進める。深淵の騎士が、何かに気圧されたように青年に道を明けた。ミストルテインを引き抜かれた闇の王の傷跡から、どす黒い血が吹き出る。人ならぬ身にとっても、小さくない傷だった。
『…貴様…人デモ…魔デモ無イ身デ…何ヲ言ウカ』

 ゆっくりと、自らの目に映る“糸”を手繰りながら青年が歩む。闇の君主の前へ。
「人とか…魔とか。その違いは…重要じゃない」

「譲れないものの為に…人も、魔も、神も…、そして俺も、戦う。自分の本当に譲れない…大切なものの為に。それは皆同じ…だから、敵になっても…分かり合えるはず…だよ」
 幾人かが、他の誰かの顔を見る。

『何故ダ…何故…!』
「裏切って…裏切られたり…見失ったり…それでも手放せない…大切なものがここに…あるから」
 アコライトの少女が、涙にぬれた顔をあげて青年を見た。

「…だから、それは戦う理由になる。俺は…大事な物を守る為に…ダークロード、貴方に挑むと、決めた」
『ヤメロ…ソレ以上ソノ口ヲ開クナ! 契約ナド飾リニ過ギヌ! 今スグ殺…』
 闇の君主が片手で青年の胸元を掴み…水平に構えた反対の手を引く。それに目もくれずに、青年は自分の手から、世界に溢れる鐘の音に乗せて、“糸”に向けて語りかけていた。聖堂の仲間、街ゆく人々、狩場で交わした挨拶、見知らぬ誰かのレベルアップを祝った声…。
「俺は…今でも…。この世界が、好きです」

 桜の散る頃。跳ねるポリン。そして、木の下のあの優しい微笑み。

 自分の為に泣いている、少女の顔。

「…貴方達は…まだ」
 無防備な青年の胸に骨の手刀が根元まで食い込んだ。一瞬前のめりになった首が勢いよくのけぞり、そして血を吐く。だが、彼の声は音を介さず…静かな森に、この世界に生ける存在全ての心に響いた。さながら鳴り止まぬ鐘の音のごとく。
『…この世界を、愛していますか?』

『…馬鹿ナ。無垢ナル者…苦痛ヲ感ジロ…死ノ苦痛ヲ我ニ、ヨコセ…』
 闇の君主が吼える。その声に、もはや張りはない。静謐な青年の死を取り込むことは負の感情を糧とする闇の王にとって苦痛そのものだった。
『……殺セ…我ヲ憎メ! 憎メェェェェッ』
 両手で顔を覆う闇の君主。彼の周りを囲む生ある者からの憎しみが感じられない。闇の君主は転生を果たしてより初めて孤独を感じていた。そして、それを否定するように…高く笑う。
『…ソウダ。我ニハマダ糧ガアル…貴様ラノ希望ヲ砕キ…絶望ヲ喰ラオウ』
 再び思念映像を開く。周囲の強き意思の持ち主に、燃え落ちた古城と、瓦礫と化した時計塔、死臭漂うプロンテラを見せ付ける為に。
『…ファファファファ…人ノ都ヲ焼キ、神モ魔モ人モ…コノ世界ヲ等シク無ニ返シテクレル。…サァ…ドウダ。コレデモ我ヲ憎マズニ居レルカ? 居レマイ! 居レマイガ!!』
 …映像から響いてきたのは、鐘の音。そして……無数の人、魔のあげる勝利の歓声だった。
1493@死して屍(略…sage 申し訳ない… :2004/05/13(木) 21:10 ID:.HpFMQls
 と、いうわけで。知人曰く、珍速物書きこと93な人です。
 最後の最後で大ボケを…。多分、読んでくださった方は物凄く不快だったんじゃないかと…。
ごめんなさい、ごめんなさい…。

 色々な皆様のキャラクターで好き勝手に遊ばせていただきまして、私はお腹一杯大満足です。
一瞬だけ顔お借りした皆様とかも含めると、結構な数に…。本当は、首都防衛戦で悪ケミ隊
(なんじゃそりゃ)と577氏のアコたんアチャさんケミたんの邂逅とかやりたかったんですが!
タダでさえ長すぎるので自粛しました。あー、時計スレ系も、深淵スレ系も…もっと色々やり
たかったんですけど! あ、そういえば…(以下エンドレス


 以下、18歳以上の人にだけ、ネタばらし。嫌いな人は飛ばしちゃってくださいね。

 18禁6スレの304の話を書いた後に、作中のぶち切れ性殖者が
「…俺様にだって純な若い頃が合ったんだよ! ていうか俺様、純すぎて壊れたんジャン!?」
とか脳に囁きだしたので、えー! とか思いながら出だしを純なノビくんっぽく書いて見たの
が最初で。続き書いていいよって言ってくださった皆様、ありがとうございました。

 で、本編はというと、その時々の電波状況で枝葉が一杯ついて。いつの間にかノビたんと
アサくんの前世話に中盤の重点がシフトしてしまいました。
 すみません、166様。うちの脳内ではGMたんは失恋してないです…ヨ。ちょっと転生で記憶が
飛んでたり、罪を一部身体で償ったみたいですけど(酷

 もしもいつか、性殖者がジルタス様に搾り取られて更正した後にサリアに尻に敷かれる話とか、
GMとローグ改めノビたんアサくんのいちゃいちゃとか書くことがあったら、93と名乗りますね
(18禁スレいくかもしれないけど…)。あ、感想いただいた時のレスとかも…。
 それ以外は名無しに戻ります。最後に、長いの全部見ていただいてありがとうございました!

 えーと。とりあえず、以上!
…一部コピペミスとかあるのは、保管所で直した分をあげることにします。
15201sage :2004/05/14(金) 01:48 ID:TcNGjZoE
>>1

スレ立てもつカレー&新作?GJ!
アコきゅんも良いがモンク師匠の更なる活躍を願う!

>>8

コラボ完結もつカレー
いやもう・・・思わずにやりとさせられる人々にメロメロだ。
思わず口調が普通にになってしまう程感動した。
くどいかもしれないがお疲れ様。そしてありがとう。

・・・一応続き書いたんだが・・・
自分で読み返して「ホントに面白いかこれ?」とか思ったんで書き直して出直してくるわ・・・
(文神作品の直後に出すとへたれさが500%増になるから嫌なだけかも知れん・・・)


下水リレー参加してないけど座談会やるなら顔を出してみたい奴(1/20)
・・・ここの存在知ったの2月だったから入れなかったんだよ・・・(TT)
16一個前の201sage :2004/05/14(金) 01:50 ID:TcNGjZoE
・・連書き申し訳ない。一個前の201な・・・

ちょっと喉笛掻っ切って来るわ
17('A`)sage :2004/05/14(金) 02:12 ID:FS0wtwhc
>>93さん
コラボ、本当にお疲れ様でした。
あまり多くを語れませんが…いい話でした。面白かったです。
なんという珍速…遅筆でヘタレな私には羨ましく…うぁ。
まぁ、私もさっさと書かないと駄目なんですが…。


下水リレー参加してないけど座談会やるなら顔を出してみたい奴(2/20)
…参加してないというよりは、ヘタレ過ぎて出来ない奴の戯れ言…。
18名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/14(金) 02:36 ID:7mQp1d5E
「村の奥にある洞窟は、死んだ子供を埋葬する事ができなくて、遺体を洞窟に捨てていた時代がある。
今でも洞窟の奥では、成仏できぬ亡霊が彷徨っている……」
−とある村のお話−

あたしが目を覚ますと、目の前に見た事も無い黄色い動物が座っていた。
「目を覚ましたわね……」
黄色い動物は、あたしに喋ってきた。
「人間の大人が、まだ生まれて間もないあなたをこの洞窟に捨てに来たのよ。
死んだと思って捨てたか、育てられずに捨てたかのどちらかだけど…」
「そっか…おとうさんもおかあさんも、あたしを捨てたんだね」
「まぁ…そうなるわね」
言葉というものを口に出して言うには、まだ発育途中でできないけれど、
 言いたいコトは頭に浮かんできて、黄色い動物には伝わっているみたい。
あたしが喋っても、それは「おぎゃあおぎゃあ」としか周囲には聞こえないわけで。

 じーっとあたしを見ている黄色い動物さん。
「あたしを食べたりしないの?」
「……人間なんて食べないわ。美味しくないしね」
「おいしくないって知ってる事は、食べた事あるの?」
「もう、そうじゃないわよ。この子達を目の前にして、人間を食べられる?」
 黄色い動物さんが横を振り向くと、そこには赤い服を着た女の子が立っていた。
女の子は、あたしをぐっと掴むと、そのままピョンピョンと跳ねだした。
「あなたと違って、この子は死んでしまってるけど…元は人間の子。
赤ん坊のあなたを見て、妹だと思ってるみたいね……」
女の子の顔は、死人のように青ざめて表情はないけれど、なんか嬉しそうなのはわかった。
あたしも、なんか嬉しい。

 青い服を着た男の子や、青い色をしたガイコツさん、ふわふわ浮かぶ青い玉に、
着物を着たお姉さんが集まってきて、あたしを持ち上げたり、あやしたりしてくれた。
 ここは死んじゃった人達のお墓なんだと思ったけど、不思議と恐くなかった。
捨てられた事に対しても、別にどうでもよかった。
この人?達が、これからあたしの家族になるんだから。
黄色い動物さんが、あたしを抱きかかえてくれた。
暖かかった。


 それから何年もすぎて、あたしも大きくなった。
たまーに、人間がやってきたりするけど、みんなが追い払っていた。
それでも、段々と人間がやってくる回数は増えていって、ケンカの日々。

あたしも何かしないとなーと思って、色々と考えてみた。
「ねぇねぇお母さん、お寺の鐘って使ってないよね?」
「使ってないと思うけど…何に使うの?」
「この鐘を、こうやってこうして……じゃーん、武器の出来上がり!!」
使われて無い鐘を棒にくっつけて、鈍器の完成。
「……痛そうね」
「あとね、コレ。お母さんの顔にそっくりな帽子も作ったんだよ」
お母さんの顔に似せて作った、小さな耳の付いたかぶりもの。
「あらあら。あなたに良く似合ってるわよ」
「へへ」
なんだかあたしは照れくさくなって、頭をぽりぽり掻いた。
と、そこにソル太郎さんとアチャ助さんが血相(骨だけだけど)を変えて走ってきた。

「あ、姉さん大変ですゼ!!す、すぐそこまで廃人間の連中が攻め来てますワ!」
「カタブツのホロンも役にたたねぇ!トンデモな連中でっさ!ど、どうしましょう!?」
あたしはさっき作った鐘を手に取った。
「……行くのね」
「うん。丁度、気晴らしでもしたい時間だから…それに、奴らが狙ってるのはあたしだろうし」

「よ〜し、あたしがボッコボコにしてやる!!みんな、行くよ!!」
「オッス!!よぅし、お前らも姉さんに続けェ!!」
あたしのお家を荒らす人達に、ちょびっとお灸を据えてあげるのだ。

−おしまい−


時計とか城ばっかでフェイヨン行ってないなぁ〜
19名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/14(金) 10:35 ID:xao1A1Ew
|Д゚)<コソーリと上水道リレー魔物サイドの話を置いてみる

|Д゚)<初めて投下するので、短かったりヘタレてたりします

|Д゚)<続きを一応書いてますが、ウザかったらスルーよろしく

|彡サッ
20上水道リレー 魔物たちの長い夜の始まりsage :2004/05/14(金) 10:37 ID:xao1A1Ew
「オークヒーロー様、迷いの森のバフォメット閣下から伝令が届いております」

バフォメットからの緊急伝令を、オークヒーローは自らの寝床で受け取った。
「ふむ、何の用事で伝令など寄越したのか…よし、読み上げろ」

「はっ、では読み上げます」
諜報・伝令担当のオークレディが早口で読み上げる。
「本日深夜、プロンテラ上水道にダークロード閣下と所属不明の部隊の進軍を確認、
現在所属不明部隊の殲滅に、プロンテラ騎士団と多数の冒険者の出動を確認、
そちらの救出にバフォメット閣下以下プロ北迷宮部隊が、ダークロード閣下と所属不明部隊の救出に出動予定、
我らの軍に、戦闘支援を乞う。
なお、ダークロード閣下との通信は途絶中との事 以上です」

「それは我らの軍だけか?他に動く部隊は?」

「はい、出動要請されている部隊は、ゲフェン、GH、そして我らの部隊です」

「よし、了解したとバフォメット閣下に伝えよ。それからオークロード殿を会議室へ呼び出しておくように」

「はっ、了解しました」

「ダークロードが通信機を切ったままにしておくとは考えられぬが…まぁ,良いか」

「ふふん、久しぶりの大規模戦闘になるやもしれん。楽しくなりそうだ…」
オークヒーローは、そう一人つぶやきながら戦闘装束を身に付けてゆく。
そして、約10分後、会議室にオークヒーローとオークロードの姿があった。

「ヒーローよ、伝令から聞いたが、これからプロンテラ近辺まで兵を進めるつもりだろうな?」
これから始まる戦闘の予感からか、鼻息も荒くオークロードがまくし立てる。
こちらはちょっと冷静に、オークヒーローが口を開く。
「もちろんだ、ロード殿。だがその前に一つ相談をしておきたい事があったのでな」

「ん?なんだ、ヒーローよ。我らに作戦など要らないのではないか?"見敵必殺"これ以外に何かあるのか?」

「無論"見敵必殺"が我らが隊の基本よ。だがしかし考えても見よ。今上水道にはダークロードのアホゥが居るではないか」

「それがどうした?何か問題でもあるのか?」
オークロードの頭の上にハテナが飛びかう。それを見てオークヒーローは(やれやれしょうがないな)という顔をして、話を続ける。
「ここで、我らがダークロードをうまく救出してみろ。あ奴に恩を売ることが出来るではないか」

「おぉ、頭が良いなヒーローよ。だがしかしどうやって我らが上水道まで入る気だ?あそこは今騎士団と冒険者が出張っておって、我らではとても無理だぞ?」

「おぉう、それは盲点だった。 …では、どうするかだな。ロード殿も共に考えてくれ」

「むむぅ、我に頭を使えというのか、ヒーローよ…」
オークの2大巨頭が、雁首並べて考え込んでもなかなか良い案は出てこない。そうこうしている内に灰皿の中に吸殻が溜まるばかり。
「むむぅ…」

「………おぉ、そうだ!良い案が出たぞ、ロード殿よ」
頭の上に、「/あはは」エモを出しつつ、オークヒーローが自分の考えを口に乗せる。
「今回の出動には、ゲフェンとGHの部隊も出るのであろう?そこでだ…ちょっと耳を貸せ」

「なんだ?ヒーローよ………ふむ、その案も悪くは無いな」
同じく頭の上に「/あはは」エモを出しつつ、オークロードも頷いている。
「よし、ではその作戦で行こう。 通信兵!!至急GH、ゲフェン両部隊と直通WISをする!!準備を!!」

「はいっ、直ちに」
担当仕官がWISの準備をするのを横目で見ながら、オークヒーローは遠い目をしてつぶやく。
「これから、長い夜になりそうだ…」
2193@屍sage :2004/05/14(金) 11:58 ID:q4j3LmnA
>>前スレ246|゚ω゚)様
 遅くなりまして申し訳ないです。貴方の文体は真似も出来ないのですが、騎士さんかこいーのでちびっとだけ
使わせていただきました。時計スレとか深淵スレネタが多すぎる最後のほうの私のですが、多分あっち在住歴長
の246様には楽しんでいただけたようで…幸いです。

>>166
 今更ですがスレ立ておつかれさまです。旧スレが容量的に怖くて投下を見合わせてたのでありがたかったです。
旧14様の設定を綺麗に使ってモンク師匠とアコきゅんもしっかり活かしつつ、ママプリの話を描く166様こそ、
コラボの偉い人ですね。それに比べt(略
 あと、GMたんとローグさん、初出は166様だったのですね…だからAbyssさんがああいってたのか…
申し訳ない! 素で間違ってました…とりあえずしばらく吊ってます。

>>一個前の201様
 ドジっ子仲間ー(勝手に仲間にするな えーと、待ってますよう。自分的には、どんなに長すぎて嫌になっても
ちゃんと毎回最初から読み直した方がよかった…、と後悔中なので、その決断もありだと…。自作で司教がいつの
間にか司祭になってるのに気づかずスルーしていた愚か者がここにいます…

>>('A`)様
 ねぎらいありがとうございます。それと、シメオンさんが別人になってすみませんすみません。ライカセさん
絡みとか、陛下絡みのうちの勝手な妄想も黙殺してくださいまし_| ̄|○ ('A`)様のキャラとかをいじってると、
楽しかったんだけど…未完で続行中の作品で色々するのは難しいな、と思いました。
22名無しさん(*´Д`)ハァハァsage 感想は名無しで…っと :2004/05/14(金) 11:59 ID:q4j3LmnA
>>18
 月夜花だー。見たことも無いんですけど、可愛いらしいですね。フェイヨンツアーに行ったつもりになって何か
書こうっと。  【脳内鯖】   λ.... λ三 <吊ルッテイッテタダロガ 【吊場】

>>20
 会議の席でも煙草な兄貴族イイ。でも、彼らの代名詞のハァハァが一回も出てこないのは…いちいち書くと
ハァハァだけで文章が埋まるから脳内補完しろって事デスネ。あにきー
23一個前の201sage :2004/05/14(金) 17:26 ID:zd5.hkKI
無理矢理テンション上げて書き直して来たんで投下させてくれぇ。

>>93

仲間がいると心強い・・・
いやいやをれみたいなヘタレと氏は決して同列では在り得ない。
多分周回差ついて並んでるんだきっとそうだそうにちげぇねぇ。


つか、めんどくせえしコテにすっかなぁ・・・良い名前も思いつかねけんど
24一個前の201sage :2004/05/14(金) 17:33 ID:zd5.hkKI
おにいちゃん・・・

『次の任務で・・・バフォメット討伐隊に加わる事になった。』

行かないで・・・

『今回はいつもの様に生きて戻ると約束は出来ない。』

あたしを置いて行っちゃいやだよ・・・

『俺は・・・お前にとって良い兄で・・・良い保護者であれたかな?』

いやだよ・・・そんな事言わないで・・・

『当然、生きて帰るつもりではあるけどな。お前が大きくなって嫁ぐ日まで死ねないし。』
『つっ・・・ガラにも無いけど緊張してるのかな。食器を落とすなんて・・・いてっ』

おにいちゃんの指先をそっと口に含む・・・小さな頃は、こうやって傷を直していたよね。

『お前ももう小さな子供じゃないんだから、それは止めなさい。』

おにいちゃんが居てくれないと大きくなんてなれないよ・・・だから・・・

『ふぅ・・・育て方を間違えたかな・・・』

ちゃんと、帰って、来て・・・


頬を濡らす涙で夢から醒めた。
それは家族で過ごした最後の幸せの時。
両親はあたしを生んですぐの頃に事故で死に、年の離れた兄があたしを育ててくれた。
兄は優秀な騎士だった。優秀であった為にバフォメット討伐隊に選ばれて、そして帰って来なかった。
あたしは、騎士団から兄の訃報が届いた時に誓った。いつか、必ず、バフォメットをこの手で討つと。
そしてあたしは冒険者への道を歩み出した・・・それでフェンと出会って・・・死にかけてた筈?

ようやく頭がはっきりした。
掛けてあった毛布を剥がしながら、がばっと跳ね起きる。
うっ・・・寒い・・・
あたしは、改めて毛布に包まりながら周囲を窺う。
薄暗い部屋。火の入った暖炉。ベッドに寝かされていたみたい。
ドアと窓は閉まっていて外の様子はわからない。
毛布を被り直してベッドから降りる。床の冷たい感触が素足に響く・・・すあし?
うん・・・靴、履いてないね・・・
いやーな予感がして、改めて毛布の中を覗いてみる。
服着てないじゃんあたし。寒い筈だよ・・・っじゃなくて!いや寒いんだけど!なんで裸なのさ!?
改めて部屋を見渡しても服は見つからない。
ってゆーかここどこよ!?
とりあえず目に入った窓に駆け寄ってがたん、と乱暴に窓を開ける。
一面の白・・・降り積もり続ける雪。白い熊と青いポリン。
びゅおっ・・・と雪混じりの風が吹き込む。・・・めっちゃさむ!!
慌てて窓を閉める。・・・今の一瞬で凍り付くかと思っちゃったよ。
今も寒いんだけど外と比べたら天と地の差があるわ・・・暖炉燃えてるし。風ないし。
次にドアに向かう。ノブに手を伸ばして・・・あ、こっち側に引くんだね。よい・・・『ごんっ』
・・・っ・・・!!・・・??・・・!?
目の前で火花が散ってお星様がくるくる回る・・・あたま、いたい・・・
ひとしきり転がり回って悶え苦しんでから、開けようとしたドアがあたしの頭を直撃した事を悟る。
涙で霞む目を凝らして、ドアの向こう側に立っていた人物を見上げる。
濃紺のふわりとしたエプロンドレスと、なんて言うのかな?頭にはひらひらの付いたカチューシャ。
・・・えーと・・・召使いさん?
首を傾げて何やら考え込んでいたらしいその召使いさんは、あたしの頭の所に屈みこんで。

「何をなさっておられるのですか?」

なんて聞いてきた。
正直、怒鳴りつけたかったんだけど・・・状況がわかってないんだからもっと様子を見ないとね。
冷静に、冷静に・・・

「・・・あなたが開けたドアがあたしの頭を叩いたのよ・・・」
「まぁ、それは大変失礼致しました。」

申し訳無さそうな顔だけどちっとも済まなさそうに聞こえない声で、深々と頭を下げる。

「・・・で、あなた誰?」
「わたくし、自動人形のアリスと申します。マスターよりササメ様のお世話を仰せつかりました。」
「えーっと、聞きたい事が結構あるんだけど・・・答えてくれる?」
「お答え出来る事でしたら返答させて頂きます。」
「ふーん・・・じゃあまず、なんであたしの名前を知ってるの?」
「マスターに伺いました。」
「マスターって誰?」
「申し訳ありません。その質問には返答致しかねます。」
「答えられる事なら答えてくれるって言ったじゃない。」
「はい。ですからその質問には答えられません。」
「ふぅん・・・内緒って事ね・・・じゃ、次。あたしの怪我を直したのはあなた?」
「はい。生命維持に支障を来す損傷でしたので治療させて頂きました。」

そう、一応気付いてはいたんだ。
背中だから確認した訳じゃないけど、動き回っても少しも痛くないのは治療済みなんだろうなって。

「お礼を言っておくね。ありがとう。」
「礼には及びません。マスターの指示ですので。」
「そのマスターっていうのはここにはいないの?」
「はい。マスターは現在こちらにお姿を出せる状態ではありません。」
「ここはどこ?」
「ルティエ南の雪原です。」
「・・・で、あたしの服はどこ?」
「ササメ様のお召し物は傷みが激しかったので処分させて頂きました。」
「・・・っ勝手に処分しないでよ!着る物なくなっちゃうじゃない!」
「ですから代わりの衣服をお持ちしました。」

あ・・・確かに、手には何やら衣服の類を抱えてる。

「寒いから早く着たいんだけど。」
「はい。お一人では装備し辛いと思われますのでお手伝い致します。」
「へ?一体何を着せようってゆーの?」
「お任せ下さい。」
「いやあのだから答えてってば。」

ベールアイテムが装備できました。
目隠しアイテムが装備出来ました。(ちなみにあの超高級品ではなくて単なる布)
猿轡アイテムが装備出来ました。
ウェディングドレスアイテムが装備出来ました。
足鎖アイテムが装備出来ました。
マタの首輪アイテムが装備出来ました。
手錠アイテムが装備出来ました。

ちょ、ちょっとちょっと!それダウト!色々間違ってるって!
猿轡なんて存在してないしマタの首輪装備出来るレベルじゃないし手錠は装備アイテムじゃないし!
あとそれ除いてもツッコミどころ満載な装備なんだけどそこんとこどうよ!?
あ・・・あ・・・手錠と首輪と足鎖の鍵掛けないでってば!しかも手錠は後手ってきっついんだけど!

だからそういうコトやりたいんなら
【18歳未満進入禁止】みんなで作るRagnarok萌えるエロ小説スレ 七冊目【エロヽ(`Д´)ノ!!】
でやれっての作者!これがあんたの趣味なのはわかってるんだからね!
え、じゃー今からでもそっちに引っ越そうかって?
いやいや、ほらあたしじゃ色気とか全然無いしさ、止めといた方が良いって絶対。
なに、そういうのが受けるかもしれないじゃないか?・・・やめてくださいおながいします(TT)

・・・どうしてこうあたしの頭は飛んじゃうと訳のわからない事を考えるんだろう?
っていうかあたし今誰と喋ってたのかな?

と、とにかく状況の改善に努めないと・・・

「もがもぐむぐふみゅっ!」
「喋りたいのですか?」

こくこくぶんぶんと頭を縦に振る。猿轡が外された。

「・・・もふっ・・・なんでウェディングドレスなのよ!?」
「ササメ様はマスターの花嫁となられるお方ですから。」
「・・・はい?」

この人は何を言っているのでしょうか?あたしののーみそは理解する事を拒否してるよ。

「ササメ様は幸運にもマスターに選ばれたのです。」
「いやあのえーと・・・あたしの意思は?」
「必要ありません。」
「ないわけあるかぁ!それにこの拘束具は何の関係があるのよ!?」
「この事を申し上げましたら恐らく逃げようとするだろうとマスターが仰せになりましたので。」
「あたりまえでしょーが!」
「ですから拘束させて頂きました。とてもお似合いでございますよ。」
「いや・・・誉められても全然嬉しくない・・・」

(このままエロスレに持っていきたいくらい・・・いえわたくしの場合百合エロでしょうか?うふふ・・・)
・・・はっ・・・今何か聞こえた様な。意味はわからないけど何だかヤバイ言葉な気がする。
き、きっと幻聴だよね、うん。そうに違いないよね。(ガクガクプルプル)

「服以外の・・・剣とか盾とか鞄とかは!?」
「わたくしがササメ様の元へ伺った時にはありませんでしたよ。」
「何でよー(TT)」
「何故と申されましてもわたくしには分かりかねます。
さて・・・では、マスターをお呼びする準備をしなくてはなりませんので、わたくしは席を外しますね。
ササメ様はどうぞこちらでおくつろぎになってお待ち下さい。」
「これでどうやってくつろげってゆーの!?ってか待って待ってもう少し質問があるんだけど。」
「何でしょう?」
「そうは見えなかったかもしれないけど、ローグはどうしたの?一緒だったと思うんだけど。」
「現在別室で休息中です。」
「ローグがあんなになったのはあなたと何か関係あるの?」
「はい。マスターより預かった薬を渡しました。」
「どうして、そんな事をしたの?」
「マスターの指示です。」
「望んだら、あたしにもその薬くれる?」
「何故です?」
「バフォメットを倒したいから。」

アリスの、くすりと笑う声が聞こえた。

「おかしなササメ様。そんなものは必要ございませんでしょう?」
25一個前の201sage :2004/05/14(金) 17:41 ID:zd5.hkKI
「・・・は?」
「あら・・・意味がお分かりにならないのでしたらどうぞお忘れ下さい。」

そこで露骨に明後日の方向を見ないでよー・・・

「いやめっちゃ気になるんですけど・・・?」
「気にしてはなりません。よろしいですね?」
「よろしくない。(きっぱり)」
「・・・ササメ様、五月蝿いです。静かにしていて下さいませ。」
「ちょ、ちょいタンマ、何する気よ・・・むぎゅむぐ。」

・・・また猿轡?もういや・・・(TT)

「ささ、こちらに椅子も準備しておりますから。ずずいとお進み下さい。」

って言いながら人を荷物みたいに抱えるなよぅ・・・うあ・・・鎖を椅子の間に通したっぽい・・・

「それでは失礼致します。それほど時間はかかりませんのでご安心を。」

どうやって安心しろってゆーのよぅ・・・
ってゆーか展開が急すぎてついていけてないし・・・

アリスは部屋から立ち去ったみたい。
おーけい、状況を整理しなくちゃ。
目隠しのせいで視界はゼロ。周囲の状況は音で推測するしかなさそう。
助けを呼ぼうにも猿轡で大声は出せない。
動いてみようとしたけど手足は殆ど動かせない。予想通り椅子に括られてるみたい。
あたしは鎖を引きちぎれるマッチョガァルじゃない。
自力脱出はほぼ不可能。つまり要救助。
さっきちらっと見た感じで言うなら、今あたしがいるこの家はかなりはずれの方にあるらしい。
時間は・・・太陽なんて分厚い雲で見えなかったから判別し辛いけど結構遠くまで見えたから朝か昼。
でも・・・通りすがりの救助なんてのに期待は出来ない。
ちなみにあたしが居なくなって困る人は誰もいないし、居なくなった事に気付いてるのはフェンだけ。
・・・激しく絶望的な状況だと思うのはあたしだけだろーか?
このまま謎のマスターとやらに嫁がされるのかな。勘弁してほしい・・・
あのフェンがわざわざあたしの事を救けには・・・来てくれないだろうしなぁ。
なんて考えてたら、がちゃり、とドアの開く音。アリスが戻って来たのかな?
いや、足音がもっと重いし、音が固い。アリスじゃない。
その足音はあたしの真正面にまで近付いて・・・突然浮遊感、続いて衝撃。息が詰まる。
椅子ごとひっくり返すなんて無茶してくれるよ。これがマスターとやら?
大きく固く冷たい手が両肩にかかる。
あ・・・今の衝撃で目隠しと猿轡がずれた。首をぶんすか振り回して目を覆う部分を外す。
目に入ったのは・・・ストームナイトの顔。しかもどアップ・・・思考停止。ちっ、ちっ、ちっ・・・ぽーん。
思考再開。顔が恐怖で引きつるのが自覚出来る。
あたしの怯えを見て取ったらしく唸り声を上げる・・・んー・・・よし、ここは一発命名、ストームローグ。
(そのままじゃねーか!とかセンスねぇ!とか言わないでよわかってるよそんな事(TT))

「WYHUUU・・・」

え、と・・・不思議なんだけど、やっぱりストームローグが言っている事が何故かわかる気がする。
俺を見て怯えるなって言ってる・・・唸り声が頭の中で言葉として再構築されている感じかな?
怒り・・・憎しみ・・・後悔・・・絶望・・・孤独感・・・恐怖・・・悲しみ・・・怯え。
そんな感情が伝わってくる気がする。そうしたら、あたしの中の恐怖が薄れていった。
それにはストームローグの姿も関係あったかも。
最後に見た時よりも傷が増えて全身はボロボロ。最初に相対した時の力強さが全く感じられない。
緩んだ猿轡を一生懸命舌で押し出して・・・あぐあぐ・・・よし、舌の自由の確保。

「あのねぇ、縛られてる女の子を押し倒したりしたら普通は怯えるんだからね?
例えそれがどんなにカッコイイ男だったとしてもだよ。だから・・・
怯えるなって言うなら外見を気にするより先にまず優しく接しなきゃ駄目に決まってるでしょ。
目隠しされたままで縛りつけられた椅子ごとひっくり返されるのってすっごく怖いんだからね?」

あ・・・目が鼻みたいにまんまるになった。次に信じられないって表情・・・或いは感情?その次に驚愕。

「GYHRRRR・・・」

これは『俺の言葉がわかるのか?』って聞いてる。

「多分、聞こえてると思うよ。理由はわからないけど、うん。言ってる事、わかるよ?」

あー・・・無駄に長くなっちゃうから以降はあたしが直に通訳しちゃうね。

「確かにおめぇにはオレの声が聞こえてるんだな。」
「だからそう言ってるじゃない。」

ひょいっと倒された椅子を元通りにしてから、がばっ・・・と抱きしめられた。
えーと・・・あたしには拒否権なしっすか、これは。
ってゆーか、言っちゃ悪いのかも知れないんだけど、固いし痛い(TT)

「ちょ、ちょっと・・・痛いし・・・苦しいってば・・・離してよぉ。」

離れてはくれないけど力は抜いてくれたからちょっと楽になった。
・・・あれ、震えてる?・・・首のあたりにぽたりぽたりと液体の感触。
な、涙だよね、きっと、うん。よだれじゃないよね・・・ちがうよね、お願い涙と言って(TT)

「どうして・・・こんな事になっちまったんだ・・・」

まるで迷子になった幼い子供の様な頼りない声。

「じゃあ・・・聞かせてよ。何がどうしてこうなったのかを。」

そうしてストームローグはやっとあたしから離れてくれた。
あたしが聞いた話は・・・あ、状況説明は以前なされてるみたいだね。なら省略。
あたしが気絶してる間の説明の方がいいかな。
短距離転移技で逃げたストームローグ、名前はベックって言うんだって。
ベックは混乱したまま転移先で蝶の羽を使っちゃったんだ。
その結果、アルデバランの街中に出現してしまって、そこでも人々に追われたらしい。
それであたしが最後に見た時よりも傷が多くなってたんだね。
追い詰められてもう駄目だって思った時にアリスが現れてここへ連れて来たんだと。

「オレは・・・もうどうしたらいいのかわかんねぇ・・・」
「多分・・・何もかも元通りって訳にはいかないとは思うんだ。
でも、力を望んだらその姿になって、力が発揮できたんだよね?
それって、その力が人の形に収まりきらなかったからなんじゃないかな。
だから、力よりも、元の姿を望めば人の形に戻れるって可能性もあるんじゃない?」
「とっくにそう思ってるさ・・・けど駄目だ。戻らねぇんだ・・・」
「うーん・・・見た所怪我相当酷いよね?」
「あぁ・・・これでもアリスの治療を受けたんだがな・・・直りが遅え。」
「その怪我のまま人の形に戻ったら体が耐えられないから戻れないとかは?
もし人がそれだけの怪我をしてたら何回か死んでお釣りが来そうだよ。」
「・・・はっ・・・そうだな・・・」

そうだったらいいと願う様な、そんな都合良くいく筈がないと諦めた様な、そんな声でベックが答えた。
それから、しげしげとあたしの顔を眺めて。

「面白い奴だな、おめぇ。」
「どうだろ、そうなのかな?」

顎に手を掛けられて上を向かされる。

「欲しくなった。決めた。貰う。」
「・・・はい?」

貰うって・・・

「あたしは物じゃないぞー(><)」
「オレぁ悪党だからな。人だろうが物だろうが欲しくなれば貰う。駄目っつわれても奪う。」

あたしを拘束する鎖に手を掛けて・・・

「ササメ様を連れていかれるのは困りますね。」

何時の間にかベックの後ろにアリスの姿。

「邪魔すんじゃ・・・ねぇ!」

振り向きもせずに裏拳を振るうベック。屈んで避けるアリス。

「言葉で言っても聞いて頂けないのでしたら実力行使あるのみです。」

手に持っているブラシの先端部分が『ヒュゴッ』という音と共に火を噴き、弾かれたように動き出す。
アリス自身を支点として、円の軌道を描き・・・

「ブースト・ブラシ!」

『ガゴッ』と鈍い音を立ててベックの頭に炸裂するブラシ。もんどりうって壁に激突し動かなくなるベック。

・・・ゴ○ディオンハンマー?いやベックは光になったりはしてないけど。

「いかに貴方がわたくしより強くても、その死にかけの体の貴方には負けません。
重傷患者はおとなしくそこで寝ていて下さい。」

重傷患者って・・・張り飛ばしてしかも放置しておいてそれもかなりヒドイ言い草だと思うんだけどね・・・
アリスはパンパンと裾を払ってあたしに向き直り。

「お待たせ致しました。準備が整いましたのでこちらへどうぞ。あ・・・その前に。」

ご丁寧に目隠しと猿轡を着け直してくれました(TT)
26一個前の201sage :2004/05/14(金) 17:48 ID:zd5.hkKI
そうして座らせた時と同じようにあたしを軽々と抱え上げる。
状況が変化しようとしている。脱出のチャンスが生まれるかもしれない。
あたしは、その瞬間を見計らう為に集中する。ふ、と肌に感じる温度が下がった。
あちらこちらに冷たい雪の感触。アリスがあたしを家から連れ出したのだろう。
とりあえず、服のおかげか寒さは耐えられない程ではない。
少し場所を移動してから降ろされた。アリスが後ろにまわり、左手側の手錠を外した。
その瞬間を狙って力一杯腕を振り回してアリスの手を振りほどく。
左手で目隠しと猿轡をむしり取りながら振り向き、遠心力を乗せた右の拳を水月に叩き込む。
アリスの体が九の字に曲が・・・らならなかった。
妙に固めの手応え。一瞬の戸惑いをアリスは見逃さずに突き出しているあたしの腕を掴んだ。
そして次の瞬間あたしが見たのはすぐ目の前にまで迫ったアリスの背中。浮遊感。世界が反転する。
反射的に空いている左手で受身。背中と左手に柔らかくて冷たい感触。
アリスは受身に使ったあたしの左腕を素早く掴み、右腕と合わせて手錠を掛け直す。
そこでやっとあたしは背負投げされた事に気付いた。
あたしを見下ろしながらアリスがにこりと笑った。

「残念でしたね。」

うっわーめっさムカつく・・・効いてないのねこんちきしょー。
アリスが改めてあたしを抱え上げて、立っている柱の傍まで引きずって行く。
両の二の腕を掴まれて上げさせられ、万歳をしているような姿勢を取らされる。
上に伸び切っても力を加えられ続けて、足が地面から離れた。
そしてその柱の上の方に付いている鉤の部分に手錠の鎖を引っ掛けた。
その高さには遊びが全く無くて、ちょっと爪先立ちになってる。
・・・逃げられない状況にはやっぱり変わらなかった(TT)
しょーがないから周囲を観察してみる。薄暗い、がみるみるうちに暗い、になっていく。多分黄昏時。
あたしが繋がれてる柱を中心に二重円と内部には向きが逆の三角形が重なるように描かれている。
二重円の間とか三角形の脇とかにはよくわからない文字らしきもの。って、これ、魔法円・・・?

「えろいむえっさいむ、えろいむえっさいむ、われはもとめうったえたり〜。」

アリスが呪文を唱え始める・・・待てコラ世界が違うだろーが。12使徒でも召喚するのかあんたは。
あんたのマスターって悪魔かいな?とゆーかあたしがここの配置で悪魔召喚ってさー・・・
はっ・・・花嫁ってまさか別名『生贄』だったり!?いやまさかそんな事ないよね・・・

アリスの呪文が続いている。魔法円が光り、黒い霧のようなものが染み出すように現れ、増えていく。
その黒い霧はあたしの目の前で朧げながらも人型を形成しはじめる。

うっわー・・・生贄説が濃厚になってきた気がするよ・・・

(・・・め・・・さ・・・さ・・・め・・・さ・・・さ・・・め・・・さ・・・さ・・・め・・・さ・・・さ・・・め・・・さ・・・)

目の前の黒い人型が喋ってる?・・・あたしの名前を連呼してるように思える。
人型が明確になるにつれて発音も明瞭になっていく。こわいよぅ(TT)
腕の部分があたしに向かって伸ばされる。

(ほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしいほしい)

あたしはついに堪えきれなくなって固く目を閉じて叫んだ。

「い、いっやー!!」

ついでにがしゃがしゃと鎖を鳴らして暴れてみる。戸惑ったように黒い人型の動きが止まった。
次に感じたのは圧迫感。まるで心臓をゆっくりと握り潰されていくみたいで・・・息が止まった。
これは・・・怒気・・・かな・・・?あたしが拒否したから?でもどうしてあたしが怒られなきゃいけないの?
もう、訳が分からないよ・・・どうしてこんな事になってるのよ?
黒い人型が再び動き出す。伸ばされた腕があたしの頬に触れた。触れられた部分がひやりと冷える。
その時、初めてあたしは自分が泣いていた事に気付いた。
涙の跡をなぞるように腕が動く・・・けど、霧状の手はあたしに触れられている感触を与えない。
ただ、ひやりとする感触が頬を伝っているのが感じられるだけ。
その動きに何か優しさのようなものが感じられた気がして、あたしは思わず目を開けた。
目に入ったのは、物質として形成しつつある黒い霧と、その向こうの空を飛んでいる白熊。・・・え?
くまって空、飛んだっけ?
とか考えている内に白熊が巨大化していく・・・んじゃなくて、近付いて来てるんだって。
より正確に言うなら、こっちめがけて落下してる。
その白熊は手足をバタバタ動かしながら・・・あたしを飛び越えて魔法円の端の辺りに墜落した。
魔法円が放っていた光が炸裂し、目の前の黒い人型がバシュッ・・・と音を立てて霧散した。
白熊は黒熊になってふらふらしてる。あ、頭の上にお星様が舞ってる。

「きゃああ!」

呪文を詠唱していたアリスも吹き飛ばされて悲鳴を上げた。結構離れた位置にどしゃ、と落ちる。
詳しくは知らないけど、儀式魔法の中断による反動とかそーいったものなのかな。

上半身を雪原に埋めて下半身を直立させた姿は犬○家の一族・・・じゃなくて。いやそっくりだけど。

その脇を音もさせずに歩いて近付いて来るのはあたしが期待はしてたけど予想はしてなかった姿。
フェンが・・・こっちに向かって歩いて来る。
何となく信じられなくて凝視していたら、フェンの後ろにゆらりと立ち上がるアリスの姿が見えた。
短剣を抜き放ち、掛け出す。フェンの背中目指して。

「フェン、左へ!」

あたしの声に反応して左へ移動するフェン。その後ろから振るわれた刃が頬を掠める。
そのままの勢いであたしのすぐ隣にまで来るアリス。ふらりとよろめくフェン。
刃が掠めただけでフェンがふらつくなんて・・・ただの剣じゃなさそうね・・・って。

「ササメ様。彼への助言は無しに願います。」

またあたしに目隠しと猿轡を装備させるアリス。実況中継すら出来なくなっちゃうからやめてよね。
ただでさえあたし役立たず主人公道驀進中なのに・・・

「オーガトゥースか・・・確かに厄介だが。お前にそれが扱えるのか。魂持たぬもの。」
「使用者の魂を汚染するこの剣は人には扱い切れません。
ですが魂の無い人形のわたくしになら扱えます。
武器も持たずにわたくしと相対するのは自殺行為であると申し上げておきます。」
「その魔剣にもそう引けは取らない武器を所有している。気にする事はない。」
「そうですか。では遠慮無く。」

・・・みんなごめんね。音で判断するしかないんだよ。
他に出来る事もないからちょっと頭飛ばした解説していい?・・・暇なんだよー(TT)
27一個前の201sage :2004/05/14(金) 17:50 ID:zd5.hkKI
『でっ・・・でっ・・・でっ・・・ででっ・・・ちゃっ・・・ちゃちゃっ♪』
あ・・・これは緊迫感を持たせる動画版竜玉の音楽ね。
大体睨み合う二人がアップで交互に映ってるんだよね。このまま宣伝か次週持ち越しー、みたいな。
『ズシャッ』これは多分アリスがフェンに跳びかかったであろう足音だね。
『ズズズズズ・・・・』という謎の(段々コマが拡大表示されていく時の)J○J○バリの擬音。
『ズキューンッ』という謎の(何かが姿を表した時の)J○・・・以下略。
まぁ・・・漫画版スク○イドみたいに『ヤマネェェェェン』って擬音じゃないだけ良いかも。
『ボンッ・・・キュインキュインキュイン・・・』ん・・・これは竜玉で超化して金色に光る時の効果音?
『シュタタタタッシュンッガキンッ』・・・アリスが掛け寄って、激突した瞬間?
『ヒュンッシュシュシュシュッ・・・ズザッ』忍者物みたいに一瞬の攻防の後、距離を取って着地かな?
『ザ・・・ザ・・・ザ・・・』こっちに近寄ってくる足音。

「逃げるのですか?」

アリスの声

「お前は既に動けない。」

あ・・・すぐ隣からフェンの声。一瞬『お前は既に死んでいる』に聞こえちゃったのは内緒だよ。

「はふぁふほへはふひへぇ〜」
「・・・『早くこれ外して』でいいのか?」

こくこくぶんぶん。

「ぷはぁっ・・・フェ、フェン・・・目隠し取って、目隠し。」
「わかった。」

その言葉と共に視界が開けた。まずフェンの武器・・・って、もう仕舞っちゃったのかな?素手だ。
ちぇ〜・・・またフェンの武器、わかんなかったよ・・・
視界をアリスに転じると、剣を握るアリスの両腕が肩からごとり、と重たい音を立てて落ちた所だった。
そしてゆっくりと仰向けに倒れる。両の膝から下を残して。
最後に、倒れた上体から首が外れてころりと転がる。
切断面から血が出ていない事で、アリス自身が言っていた通り人形なんだと実感する。
・・・めちゃめちゃシュールな光景なんだけど。
首だけになったアリスが不思議そうに口を動かす。

「イツノマニ・・・ワタクシハ・・・」
「その剣は魂を汚染するだけではない。汚染した魂を力へと変換する機能を備えている。
人形のお前には制御は可能でも、真の力は発揮されない。それでは、俺には勝てない。」
「ソウデスカ・・・ジカイヘノキョウクントサセテイタダキマス・・・」

フェンが拘束具を引きちぎりながら言う。

「プロンテラに戻る。」

あたしはベールと目隠しを放り捨てながら肯いて、二人でプロンテラへの道を歩き出した。

「ねぇ、フェン。」
「なんだ。」
「どうして、たすけに来てくれたの?来る筈ないって思ってたよ。」

そう問い掛けた時、きゅるるるぅぅ・・・って音が。・・・あたしの腹の虫だよ悪いかこんちくしょう(TT)
何だかんだでまたごはん食べれないで丸一日以上過ぎちゃったんだからしょうがないじゃない。
ほんの少し、フェンの唇の両端が持ち上がった気がした。・・・もしかして、笑った?

「食事。」
「え?」
「まだ馳走になっていない。」
「あ・・・うん・・・そっか。おごってあげるから早く戻ろ?」
「わかった。それと、これが落ちていたから拾っておいた。」

あたしの+10ブレイドだ。受け取りながら尋ねる。

「え、どこで?」
「ストームナイトが転移した場所に転がっていた。」
「ほ、他には落ちてなかった?盾とか鞄とか・・・」
「いや、なかった。」
「あぅ(TT)・・・そっか。でも、拾っておいてくれてありがとね。」
「気にするな。」

食事ってフェンなりに気を効かせた冗談だったのかな。
冗談でも本気でもいっか。なんでだかちょっと嬉しくて、楽しい気分になれたから。


「ぐっぐっぐっ・・・えらぐ不便ぞうな姿になっだな・・・」
「・・・オオキナ・・・オセワ・・・デス・・・アナタニ・・・イワレタク・・・ナイデス」
「あぁ?ごうじで喋れるようになるまで戻れだんだ。オレば完全に元の姿に戻ってみぜるぜ。
で、でめえばなんだっであの小娘に執着ずるんだ?」
「マスターノ・・・ノゾミコソガ・・・ワタクシノ・・・ノゾミデスカラ」
「オレばぞぐばぐざれるづもりばない。ずぎにざぜでもらうぞ。」
「リョウカイシマシタ・・・ヒトツ・・・ウカガッテモ・・・ヨロシイデスカ・・・?」
「あん?」
「タマシイ・・・トハ・・・ナンナノデショウ?」
「ざあな・・・探じでみだらどうだ?」
「・・・ソウスルコトニイタシマショウ・・・」


アルデバランにて。
やたら周囲の注目を浴びるなー・・・とか思って、はたと気付いた。あたしこの服のまま・・・しかも。

「あー!!お財布!!あたしの全財産があああぁぁぁ!!」

お財布はアリスに処分されちゃった服の中で、鞄と盾は行方不明。
首輪と足鎖と手錠はフェンが破壊したし、ベールは目隠しに使ってた布と一緒に投げ捨てちゃったし。
あたしの現在の資産ってこの服と剣だけ・・・服を売ってお金に換えて装備買い直すべきだよね。
でも、現在無一文。売ってから買うまでの間、着る物なし・・・売れないよ。剣は売る訳にいかないし。
目立つ事この上ないけど、暫くはこのままで行かなきゃいけないかな・・・
28一個前の201sage :2004/05/14(金) 17:56 ID:zd5.hkKI
無理矢理なテンション上げでおかしくなっちまったんじゃねぇか?と脅えつつ。

ずっと同一の一人称で続けると飽き(られ)やすい気がするけど、どうだろう?

まぁ・・・ともあれまたしても板汚しスマンかった
29名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/14(金) 18:19 ID:q4j3LmnA
>>前スレの201様
 いいタイミングで帰ってキター。話が凄そうになことになってるー。
ササメさんが極めて順応性の高い性格だから、一人称でも結構回ってるのかなーとか
思ったり。飽きたりしないけど、書きにくかったら三人称混ぜるとか、別の人視点を混ぜるとか?
 なんとなく、現実世界のアニメとか漫画ネタが一人称なのに満載だると違和感あるかも。
それも味ですけどw

 ローグさんって…なんだか幸せになれない人が多いですねぇ…(他人事のように。577氏が
下水リレー後に全国の悪党スキーを救って下さることを期待しようっと…。

あ、すごーくどうでもいいけど“。」”は “」”にしたほが世間様の受けがいいかもしれません。
30名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/14(金) 19:51 ID:YrYFHvpw
>>15,>>17
座談会に出たいのなら書けばいいんじゃないカジャラ
31名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/15(土) 10:44 ID:ZBNCcgfQ
>>30
ほぼ話の大筋が立ってしまっているので、下手にキャラ入れてバランス崩れるのが怖いんだと思われ。
漏れもその一人だけど。

下水前カプラと道具商人の視点から書くと面白いかもしらんけど、絡ませ方がわからん。
32名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/15(土) 11:24 ID:e/hrjHyM
>>31
電波がががが…
歴史の裏で、DIO様と延々戦うカプラたんファミリー…
「正確に言おう!カプラサービスに恐怖しているのではない!
 カプラの萌えはあなどれんということだ!」

……とかいうネタ方面は却下ですかそうですか…。
最初思いついたネタは
「このダークロードの肉体が…完璧になじむには
 やはり王家の血が一番しっくりいくと思わんか?
 みんなのアイドルトリスたん3歳は 血を吸って殺すと予告しよう」

ダッタンデスケド これ以上混乱させてどうするかと。
 【JOJOスレ】  λ....
33名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/15(土) 11:59 ID:9a8tpsVA
>>31,>>32
既存のキャラを使って書けばいんじゃないカジャラ
34名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/15(土) 17:31 ID:e/hrjHyM
>>33
それが難しいんですよ。人様のキャラさせられないことも結構あるしー。
わかりやすい例で言うと、他シリーズからお借りしたキャラって、殺したりできないじゃない?
(酷い例だけど。
リレーオリジナルのキャラは、この作品でどう扱われても大丈夫ってコンセプトだろうから…
どうあってもいいんだろうな、とは思うけど。オリジナルのほうが圧倒的に少ないのよね

…と泣き言を言ってみるてすと
35名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/15(土) 17:43 ID:dPcViU1k
そこで短編で攻めてみるのも手ですぞ
36名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/15(土) 20:06 ID:dPcViU1k
>>18です。どうやらわたしゃ、短編の方が得意かもしれない…

−−−−−−−−−−
日も暮れ、時間は夜。雲行きも怪しい。
プロンテラ中央噴水より、やや東に行った所に一軒の酒場がある。

…そこに、男ウィザードが一人、酒を飲んでいた。
薄暗い店内、客は誰もいない。
静かにグラスを傾けるウィザード。

と、一人の騎士が店中に入ってきた。
ウィザードと目が会うと、何も言わずに彼の隣に腰を下ろした。
最初に騎士が口を開く。

「……どうしたんだ、急に飲もうなんて言い出して。お前、あんまり飲むタイプじゃないだろ。
それに、ほら、嫁さんに酒、止められてるんだよ、近々子供も生まれるしな」

ウィザードは「ふぅ」と一息入れた。
「……巨大な両手剣を振り回して、騎士団でも屈指の荒くれ者と言われたお前も、教会の司祭と知合い、
そして結婚……もうすぐ一児の父か。時間の流れはゆっくりな様で、速いな」
そう言うと、酒を一気に飲み干し、グラスを置く。
「……おい、どうしたんだ?今日のお前は随分と飲むな…?」
「……。マスター、もう一杯だ。隣のこいつにも頼む」
「だから俺は飲まないって……」
グラスに酒が注がれ、二人の前に置かれた。

ウィザードは俯きながら、静かに言葉を発した。
「俺の友達が…魔法でも治せない病に冒されている……」
「……病?」
「ガンなんだ……」
騎士は、ハッとウィザードの方を向く。
「お前……!」
「……」

長い沈黙が訪れた。

幾許かの刻の後、騎士が口を開いた。
「俺、負けねぇよ……絶対に……」
「ああ……」


二人はグラスを合わせると、注がれた酒を飲み干した。
……外は、雨が降り始めていた。
−−−−−−−

駄文にお付き合い、有難うございました。
37一個前の201sage :2004/05/16(日) 05:30 ID:efPUKVp.
>>29

感想サンクス。
一応飽きさせない為の努力というか試行錯誤の一環ってな感覚だったんだが
違和感があったなら以降はやめておくんで大目に見てもらえるとありがたい
あ、それと・・・をれローグは職として結構好きな部類だぜ・・・っと
フォローにはならんけど書いておこう。

>>31
>>34

全く持ってその通りなんだなこれが・・・

もしくはいっそ参加しそびれた者達で
全く別のリレーを開始して並走させるってのも手段の一つかも知れねぇけどさ
・・・いややっぱ下水リレー完結まで待つ方がええね


次で多少物語が進行する(筈な)んで
をれの方でもあの人を借りなきゃならんのだが
らしく書く自信は全くない。さてどうしたもんか・・・
38名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/16(日) 15:17 ID:xPeRfIUA
 29だったり32だったり34だったり93だったりした奴なのですが、泣きごとばかりじゃ始まらないので! とりあえず、自分だったら書きやすくなるだろうな…という方向に余計なものをつけるべく努力してみます。

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 計画は概ね金髪の男の予定通りに進んでいた。だが…概ね、というところに「不安」が残る。彼が1000年を生き抜いていたのは、魔力や身体能力以上に、その完璧主義に寄るところが大きい。不安感といえば。究極生命体となるまでの時間で「ミスリル銀」に気づく存在がある事は想定されていなかった。計画発動後、これだけ時間が過ぎて尚、地下深くに生き残る者がいることも。無論、個々人の資質、勇気は賞賛するべきことだ。いずれ役に立つ存在である故に、排除するのは惜しい、が…。
 彼は「油断」を克服することが「生きる」ことだと思う。世界の頂点に立つ者は!ほんのちっぽけな「油断」をも持たぬ者。
 「不安」には早急に手を打たねばなるまい。彼にはその為の手足が必要だ。それも、すぐに。そう決断すると、部屋の奥に並ぶモノに目をやる。一見するとただのドロの塊にしか見えるそれこそ、1000年前に服従を誓ってより彼と共にある者達。その、残骸だった。外見も性別も、種族すら問わず、ただ、彼へ奉仕する喜びだけが共通する価値観である忠実な兵士達。

 男は、玉座から立ち上がるとすっとその塊達に向かって右の手を伸べる。招かれるように、数個の塊が浮き上がり、玉座の下まで滑り来た。
「誰か他のヤツの血で、わたしの計画は完成させるとするよ。……わたしの血で甦るがいい……」
 彼が右手を一振りすると、青い血が数滴、その塊達に飛んだ。

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 と、いうわけで。皆様の見せ場の為に各個撃破されたり、得意げに色々語って秘密を漏洩したり、ロマンスやら同情やらの末にDIO様を裏切ったりできるような、名前と人格とがある敵幹部を出せる素地を置いていくテスト。
 ワニとか手首とかしか敵にいないとそろそろ演出がしんどいかな、とか思ったので。

つ【今日の気分:やらぬより、やってから後悔】
39名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/16(日) 16:40 ID:d1HG/SoU
>>38
そう来たか……の前にちょっと質問。
ヴァニラ's(仮称)は人間型?それともモンスター?
モンスターだとしたらどの辺りのやつなのかも教えて欲しい。
40名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/16(日) 16:44 ID:d1HG/SoU
と思ったら種族を問わないって書いてあった……難しいな
41えべんは@リレーリレーsage :2004/05/16(日) 19:27 ID:IaXk53kA
 Spirit of chivalry


 鈍く瞬くのは槍の穂先。銀の軌跡は剣の切っ先。

 漆黒の鱗を持つ毒蛇を仕留めた騎士。彼の背後から、数匹の毒蛇が飛びかかる。
 食いつかれ、食い破られ、倒れた騎士へとさらに毒蛇が群がった。
 魂が抜き取られるような耳障りな音が連続し、
 その騎士は、断末魔もろとも黒い帳に飲み込まれた。
 惨劇に気づいた騎兵が槍を振り回して、騎士だった肉塊に食らいつく毒蛇を蹴散らした。
 しかしその騎兵も、数秒後には愛騎もろとも赤い蝿の群れによって穴だらけになった。

「くそっ!」
 ガードとマフラーごしの一撃が、セージの体力を奪う。
 彼は毒づきながら、何体目とも知れない魔物を凍結させた。
 高耐性マフラーは爪は通さないものの、衝撃エネルギーまでは吸収しきれない。
 本来ならば、前線で戦うのは彼の役目ではなかった。
「なんだって僕が──」
 頭脳労働ならまだしも、このような殲滅役はウィザードの領分ではなかったか。
 セージは緑色の光を纏う。
 と同時に、彼の眼前で赤い蝿を相手取るアルケミストの足元に円陣が浮かんだ。
 ひどく早口の詠唱。キャスティングタイムは、ほぼゼロに近い。
「激震をともないて大地の怒りを示せ──ヘブンズドライブ!」

 セージのスペルに呼応し、
 地より来たる土槍がハンターフライを打ち、刺し、貫き、荒れ狂い、
 血の色をした蟲の群れを残らず地に叩き落した。
 振り向いたアルケミストが、明るい顔をして言う。
「教授、ありがとうございます!」

 先ほど意識を失ったセージは、ようやく起きれるようになったらしかった。
 険悪な目つきと眠そうな彼は、動きに精彩を欠いていた。
 目のしたに色濃く隈を作ったセージは、
 しかし間隙を挟まずに先ほど作りあげた氷塊に向き直る。
「雷光刃となりて我が手に集え──サンダーストーム!」
 放たれた雷光によって、レイブオルマイが氷の棺ごと砕かれ、飛散した。
 そして、連続詠唱のディレイがセージを苛む。

 普段はこの程度の連続詠唱では、どうということはなかった。
 起きぬけという事と、事前の神経摩耗が響いている。

「いったいどういうことでしょうか……」
 数体のサイドワインダーをカートで轢き潰しながら、アルケミストはセージに訊ねる。
 のほほんとしている癖に、さり気なく戦闘能力が高い。

「さてね。今更なにが起きても不思議じゃないが、ただひとつ確実なのは、
 このままだと明日の朝日は見れないだろうということだ」
 詠唱レベルを抑えたヘブンズドライブが、再びアルケミストの周囲に具象化する。
「そんなあ……」
 悲痛な声をあげながらも、アルケミストは正確にビッグフットの急所に海東剣を突き刺した。
 地底から涌いたように、大量の魔物が騎士団の駐留する西門前に殺到していた。
 古木の枝によって召喚された可能性も考えられるが、それにしては種族が揃っている。
 プロンテラ北に広がる迷宮の森。侵攻してきたのは、そこに生息する魔物ばかりだった。

 皮肉なことだったが、騎士団の腰の重さが現在の魔物から王都を守った。
 拙速を尊んでいたならば、西門はあっさりと抜かれていたに違いない。
 しかし、未来の魔物の襲来時刻は、刻一刻と刻まれている。
 事態はなにひとつ好転していなかった。
「教授、なんとかなりませんか……?」
「ならないね」セージは断定した。
「このままここで足止めを食っていたら そうならざるをえない。
 奴を止めない限り、上水道が『溢れる』のは必至だからね。もっとも──」
 奴を止められるかどうかは、甚だ疑問だが。

「もっとも、なんですか?」
「いや……」セージはらしくもなく逡巡する。
「この襲来が『奴』の手による策なら、大した戦略家だと思ってね」
 対応するためには、戦力を分散せざるをえない。いや、それすらも叶うかどうか。
 先ほどの侵攻の規模は極めて大きい。
 出撃前のわずかな緩みを突かれたとはいえ、
 騎士団の半数以上が出撃しているこの部隊が、そのまま押し流されかけたのだ。
「うう……教授ぅ……」

 哀れっぽい目をしたアルケミストの背後から、一騎の騎兵が向かってきた。
「全部隊、隊列を整えよ!」
 大声を張り上げる騎兵。プロンテラ騎士団団長、ヘルマンだった。
「学者先生、ご無事か」
「ええ、なんとかね」
 そうか、とヘルマンは安堵の吐息をついた。

「団長殿、現在の状況は?」
「ひとまず小康状態といったところだ。こちらにも相当数の被害は出たが、
 掃討はほぼ完了した」
「そうですか」
 かがり火が、満月めがけて火の粉を噴き上げる。風が、強くなってきた。

「学者先生、なぜ迷宮の森から魔物が侵攻してくるのか──」
「わかりません」セージは悔しげに顔を歪める。
「枝を使ったのか、別の方法なのか。ともかく、この地に魔を呼ばれるのは非常にまずい。
 不本意ながら、事態の主導権は『奴』の手の中にあります。
 恐らく先ほどの魔物は第一波。
 あと数時間ほど時を稼げば、『奴』の目的は達成されるでしょう。
 続く波を捌いているうちに、僕たちの命運は尽きます」
 ヘルマンは沈黙した。
42えべんは@リレーリレーsage :2004/05/16(日) 19:27 ID:IaXk53kA
 夜風が火の粉を吹き散らし、薪の爆ぜる音が妙に響く。
 隊列を整える騎士達の具足が、金属質の音をたてる。戦死者に捧げる祈りの言葉が聞こえる。

「……学者先生」鎮痛な声をヘルマンは吐き出す。
「私は──私達は、詳しいことはわからない」
「完全な理解を求めているわけではありませんし、理解を促す時間も、もはやありません」
 セージの突き放したような態度に、ヘルマンは寂しげな笑みを浮かべる。
「手厳しいな。……だが、残念ながら、……騎士という人種はそういうものだ。
 学者先生のように先を見通す術を知らない、十四年前の事件も知らない、
 隠蔽工作を幇助していたことを知らない。
 ……そして、十四年前に散っていった者達を知らない」
 セージはこの時、はじめてヘルマンの眼を見た。

「私達にできることは、斬ることだけだ」
 灰色の瞳が、彼を見据えていた。
「学者先生、助手先生。
 上水道に、入っていただけないだろうか。この地は、プロンテラ騎士団が支えよう」
「……なんですって?」
 そもそもセージは許可があろうとなかろうと入るつもりだった。
 意識を失ったために機を逃していただけだ。
 しかしヘルマンの言葉は、そんな彼にも少なからぬ驚きを与えた。

「僕の見立てでは、そう時をおかずにオークやゴブリンもこの地に押し寄せますが……」
 上水道に外から魔物を侵入させるわけにはいかないし、
 王都に侵入させることも許すわけにはいかない。
 ここに残るということはつまり、死を意味していた。
「流石だな、学者先生。たった今、斥候のWhisが届いた。
 オークどもが行動を開始した。ご丁寧に『王』と『英雄』もセットらしい。
 北の森でも、先に倍する魔物が確認された」

 遠雷のような地響きが、かすかに聞こえてくる。
 倍だって? セージは軽い絶望感を抱く。
 魔を倒すだけなら、倍でもなんとかなるだろう。
 しかし、王都の死守を前提としたらどうなるか。

 結果は、考えたくなかった。

「学者先生」
「……わからないことは答えられませんよ」
「我々の命、これより貴殿らに預ける。そして我々は、命ある限りこの地を守ろう」

 彼らに賭けると、ヘルマンは言っていた。
 そのための盾になろうと、障害を切り払う剣になろうと。
 遠雷は、一秒ごとに大きくなっているようだった。
「ミスリルは、既に上水道内に進入している騎士団特務部隊が確保している」
 既に、セージから視線は外されていた。
 騎士が見据えるのは北の彼方だった。
 騎士団団長ヘルマンは、愛用のサーベルを高々と掲げる。
 切っ先は夜空を睨み、鏡のような刀身がかがり火を受けてきらりと光る。

「プロンテラ騎士団団長ヘルマンより全軍に通達!」
 満月はいつの間にか、雲に隠れて見えなくなっていた。闇夜にヘルマンの声が木霊する。
「これより我らはこの地に留まり、魔を討ち倒す!」
 堂々たる騎士の姿。ヘルマンは整然と隊列を組んだ麾下の騎士団を睥睨する。
「忘れてはならない者達のことを思い出そう、史実に埋もれさせてしまってはならない者達を。
 十四年来のあやまちを、正す時が来たのだ」
 ヘルマンはサーベルを一振りして、風を斬った。
「敵は強大である! 我らも、忘れられた同胞の一人になるかもしれない」
 先に倍する迷宮に巣食うもの、英雄と王を擁した鬼人の群れ。
 彼我の戦力差は、比べるのもばかばかしい。
「しかし。我らは騎士であるまえに、剣士だ!」
 遠目に、死を運ぶものどもが見えつつあった。
 地鳴りに負けない響きを伴って、騎士団長の声は夜を伝う。
「我らが墓標は剣ぞ、槍ぞ。
 身を削って戦い続け、朽ち、砕けた鎧のように打ち捨てられ、
 永遠と誓った友情が錆びついた剣のように忘れさられようとも!
 残された墓標を! 剣槍に託した技を! ──我らは、忘れはしない!」
 サーベルを両手で保持。
「死と栄光のためではない」
 眼前に掲げ、
「ミッドガルドのために、我らの後ろの人々のために」
 戦士の咆哮を。
「抜刀!」
 盛大な鞘走りの音が後方より響いた。天に掲げるは剣槍は、水を打つようだった。

 誰かがここを、守らなければならない。それでもセージは問わずにはいられなかった。
「……死ぬおつもりですか、ヘルマン殿」

 しかしヘルマンは、にやりと不敵に笑ってみせた。
「そのような顔をなされるな。我らは、戦いに行くのだ」
 足の速いハンターフライどもは、視認可能な距離にまで迫っている。
 兜のフェイスガードをおろしながら、騎鳥を進ませ、ヘルマンは二人から離れた。

「成すべきことを、成すべきものが。お頼み、申し上げる」

 それで、最後だった。
「いざや往かん!」
 掲げた武器を構え、横隊は突撃体勢をとる。
「一匹たりとて抜かせるな!」
 ヘルマンは言いざま、騎鳥を駆った。
 響き渡るは鬨の声。バーサクの反動が地を揺るがし、
 半数ほどの騎士が山吹色のオーラを纏った。
 大地を蹴立てて、騎士達は、死地へと躍りこんだ。

 その場に残された者は人だった物と、セージとアルケミストだけだった。
「教授……、どうするんですか?」
 地鳴りのような戦闘音の只中で、アルケミストは不安げにセージを見つめた。
「決まっているだろう?」
 彼は覚悟を決めたように、大きく息を吐いた。
「ミッドガルド最高の頭脳の持ち主は誰か、奴に教えてやる。行くぞ、ケミ」
43名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/16(日) 19:31 ID:IaXk53kA
今回の投稿は以上です。
44名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/16(日) 20:26 ID:S/FOfjXs
指輪物語のアレみたい。カコイイ!
45名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/16(日) 23:13 ID:7KNgeLao
熱い展開になってきた……と同時に複雑にもなってきたな……
46名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/17(月) 02:02 ID:cw8MFndk
俺がタバコを吹かせてぼぉっとしていると、後輩がやった来て叫んだ。
「先輩事件です」
「やかましい」
うるさかったので即答した。
「せ〜〜ん〜〜ぱ〜〜い〜〜」
後輩の声が怒っています。
「あしゅらはおーけんいってもOK?」
「用件はなんでしょうか?」
きみのあしゅらはおーけんは痛いです。マジデ。
「そうでした。先輩、事件です」
「だからなんだ?ホテルで密室殺人でも起きたか?」
俺はタバコの火をもみ消すと後輩を見た。
顔を赤くして、拳を握り締めて、それにキスしていた。
「冗談です、冗談です。話を続けてください・・・・・」
マジデあしゅらはおーけん2秒前でした。
「そうでしたね、ではあらためて。下水にてモンスターの謎の大量発生が確認されました」
ほぉ〜
「枝が?」
「枝にしては粒がそろっているとゆうか種類がまとまっています。それに・・・・かなりの数になります」
??
「種類は?」
「こちらの確認したところ、スティング、アクラウラなどのGHクラスのモンスです」
まさかな・・・・
「お前の結論は?」
「世界率(システム)が外部介入(ハッキング)されてる?ですか?」
「そうかもな」
俺は改めてタバコに火をつける。
「お前は現地に行って対処して来い。出来るだけ隠密でな」
「ひとりでですか?」
不満そうだな。
「モンクゆうな。非番で、稼動してるのは俺とお前だけだ」
「先輩は?」
俺か?そうだな・・・・・。
「俺は・・・・世界率関係(システム)のほうとか、お前のバックアップとかさぁ」
「楽してません・・・・・?」
「いいから行け。GM0x8.hena」
そういって俺は後輩を追い出した。
「了解です。GM0x1.json」
「あと報告は出来るだけしろ。危なそうだったら援軍を出す」
「どうやって?」
・・・・・・えっとだな・・・・・・・。
「非番の奴らに緊急事態いって呼び戻す。どうせキムチパーティーでもやってんだろうからな」
「キムチパーティーって、キムチをおかずにご飯を食べる会ですか」
いや言葉のあやとゆうかそうゆう奴だから、まじめに受け答えないで・・・・。あとわびしい会だね、それ。
「そんなことはまぁどうでもいい。行け」
「了解しました。後でキムチパーティーしましょうね」
そういって奴は下水に向かった。
キムチパーティーの意味・・・教えるべきかねぇ?
47名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/17(月) 13:37 ID:NCwxjixw
 こんにちは。アコたんがどうなったかの行間を埋めつつ、ネタを
投げていきます。
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「……ぜぇっ…ぜぇっ…」
 気がついたら走っていた。大聖堂についてすぐ、あの異端者が目を開けて、
あの偉そうな口調で「西門へ向かえ!」と指図して…それから、どうなった
んだっけ?
 考え込むように、口元に手をあてた。……塩辛い。下ろした目の先は、赤。

「おねーちゃん。泣いてるの?」
 突然かけられた声に、びくっとして上げた目の先には花売りの少女がいた。
私に差し出された小さな、幼児特有の丸みを帯びた手の先には、一輪の花。
いつもなら周りで談笑している冒険者達も、兵士達もおらず、閑散としている
ここで、この少女は何をしているのだろう。何が起きているのか知らないほど
鈍いのだろうか。
「泣かないで。ね…花、どうぞ。さぁびすしちゃいます」
 にこっと笑う。その手の微かな震えが、私の手に伝わってきた。


「…これが戦いだ」
 声も出ない私に、あの異端者が詠唱の合間に言った。目の前の惨状を見ても、
会議室の中での口調と何も変わらない。偉そうに…、自分が何でも知っている
ような顔をして。しゃがみこんで震えている私をさぞ、無様だと思っているん
だろう。
「偉そう? 不本意だな。こんな状況くらい、既に予想済みだったから今更驚く
 までもない、ということだよ」
「教授〜ごめんなさい。そっちにいっちゃいましたぁ!」
 図鑑でしか見た事のない、真っ赤で巨大なチョンチョンが襲ってくるのを
見て、私の喉がゴクリ、と鳴った。その赤は、体色だけではない。
「逃げたければ逃げるんだね…。ただ、覚えておくこと」
 地面から生えた土槍が虫の生命を砕く。粉々になった虫の首がごとり、と私の
目の前に落ちて何かを吐き出した。ばしゃり…と胸元に真っ赤な血がかかる。
それと、虚ろな目をした騎士の首。その目玉が内側から真っ白な蛆に食い破られ、
「……これが現実だよ、ポンコツ君」
 見る影も無い騎士の頭部を、駆け込んできた別の騎士の騎鳥が踏み潰した。


「……現実…か」
 少女から受け取った花を、髪に挿す。あの異端者と、あいつについていった
ばかりに死地に向かう羽目になった馬鹿な騎士団の人たちに捧げる為に、…この
花は、外さない。この事件が終わって、どこかのお墓に供えるまで。
「…ありがとう、お嬢さん」
 私は走り出した。大聖堂に。あそこには…魔との大戦に備えて動かない聖騎士団の
本隊がまだ残っている。私なんかより、ずっと教条主義で頭の固い、でも、ずっと
力のある人たちが。

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48上水道リレー 魔物たちの作戦会議 1/2sage :2004/05/17(月) 15:22 ID:YPZVOBDs
起動したWIS装置の上に、ドッペルゲンガーとブラッディナイトが浮かんでいる。
その2人に向け、オークヒーローが切り出す。
「ドッペル殿、血騎士殿、出撃準備中に呼び出してすまぬ。」

「なに、構わぬよ。何か作戦があると聞いたのだが、そちらのほうが気になる」
悠然と構えているように見えるブラッディナイトだが、作戦の概要が気になるようである。微妙にそわそわしている。
「そうだな、私も気になる。おぬし達は力押しの作戦しか思いつかないと思っていたからな」
何気に酷い事を言うドッペルゲンガー。
しかしオークヒーローは、そんなドッペルゲンガーの台詞を気にも止めずに、話を続ける。
「うむ、では私の考えた作戦案を聞いてくれ」

そう前置きをして、オークヒーローは語りだした。

「ふむ、それも良いかも知れぬな。だが、いいのか?その作戦だと、そちらの部隊に被害が出ると思われるが…」
軽く眉をひそませ、ドッペルゲンガーが意見する。
「それもあるが、その作戦では、我らの部下がかなりの危険に晒されると言う事をわかって言っておるのか?」
渋い顔をしたブラッディナイトが、そう続ける。
「だがしかし、我らでは冒険者に行く手を阻まれるであろう。例え目的が同じでもな…」

「うむ、ゆえにこうやって協力を要請しておるのだ。血騎士候、ドッペル殿、どうか頼まれてはくれぬだろうか」
そう言って頭を下げるオークロードとオークヒーロー。
わずかな逡巡の後に、ドッペルゲンガーが口を開く。
「わかった、そなたら2人の頼みであればこちらも嫌とは言えぬ。その作戦乗ってみよう」
その返答を聞き、ブラッディナイトも軽く頷きながら答えを返す。
「ドッペル殿が動かれるのならば、こちらもその作戦に乗ろう。では、早速準備に取り掛かる」
2人の返答を聞き、顔を輝かせているオークヒーロー達。
「おぉ、ありがたい。それでは、こちらも準備があるのでまた後ほど連絡をしよう」

「うむ、では私も準備をするとしよう。久々に腕が鳴るよ。楽しくなりそうだな、ヒーロー殿」
軽くニヤっと笑ったドッペルゲンガーと、ブラッディナイトの映像が掻き消える。
映像が消えたのを見届け、軽く「ふぅ…」と一息ついた後、オークヒーローが声を張り上げる。
「よし、では出陣準備だ。通信兵!各支部隊長に収集命令!5分で集結させろ!!全員戦闘装備でだ!!」

「Sir Yes,Sir!!」

「さて、ロード殿よ、先に出て所定の位置で待機しておいてくれ」

「では先に出ているぞ、あまり遅れるなよヒーロー」
そう言い置いて駆け出していくオークロードを見つめながら、オークヒーローがポツリと呟く。
「ロード殿を行かせたのが吉と出るか凶と出るか…それは『管理者』も判らない…か」

…そして5分後、オークヒーローの前には数十人のハイオークが整列していた。
「よーし野郎供、よく聞け!」
オークヒーローの大声が、ハイオーク支部隊長達の間に響き渡る。
「現在、プロンテラ上水道内に所属不明の部隊が突出、騎士団と交戦中である!
その所属不明の部隊には、ダークロード閣下も参戦されておる!
我らの任務は、その所属不明部隊の救出に向かうプロ北迷いの森部隊の支援である!
存分に冒険者と騎士団の連中を血祭りに上げようぞ!」

「「「Sir Yes,Sir!!」」」
ハイオーク支部隊長達の返答が唱和する。
「では各員、15分後に第一種戦闘装備でオーク村入り口に集合!以上解散!!」
オークヒーローの命を受け、支部隊長達が駆け足で会議室を出てゆく。
後に残ったのは、オークヒーローとオークロード、そして通信担当のオークレディのみである。
「よし,ではまずゲフェン,GH両部隊に連絡を取る。通信兵、頼む」

「はい、ゲフェン、GH両部隊との通信開きます」
ブゥンという音と共に、WIS装置の上部に映像が浮かび上がる。
「はいよ、こちらゲフェン方面部隊所属ナイトメアだ。どうした?何の用だ?」

「はい、GH騎士団通信担当アリスです。ご用件をどうぞ」

「こちらはオークD駐留部隊副指令オークヒーローである。先ほどの作戦で話したい事があるゆえ、
そなたらの上官を呼んではくれまいか?」

「「了解しました」」
ナイトメア、アリス双方の声が唱和した後、映像が切り替わる。
「こちらブラッディナイト、作戦準備は完了しておる。人員は現在所定の位置に向かっておる。
騎士団の出動にもう少しの時間が掛かりそうではあるが、作戦の進行に問題は無い」

「こちらは、ドッペルゲンガー司令官より指揮権を委譲されたドラキュラです。ドッペル司令官は現在準備を終えて
所定の位置へ移動中、なおゲフェン方面部隊の出動準備は完了。いつでも出れます」
ブラッディナイト、ドラキュラ双方の連絡を聞き、オークヒーローが軽く頷き、話し出す。

「こちらオークヒーロー、現在オークロード殿が所定の位置へ移動中。オークD駐留部隊の集結はほぼ完了、
ではこれよりバフォメット閣下に作戦案を進言する。血騎士候、ドラキュラ伯、宜しいか?」

「こちらはいつでも構わんよ」「了解です、いつでもどうぞ」
ブラッディナイトは鷹揚に、ドラキュラは生真面目に答える。
「よし、ではこれより通信を開く。通信兵、プロ北部隊のバフォメット閣下との直通回線で頼むぞ」

「了解しました」
きびきびと手際よく通信準備をするオークレディ。さほどの時間も無く、プロ北部隊との通信が開く。
49 上水道リレー 魔物たちの作戦会議 2/2sage :2004/05/17(月) 15:24 ID:YPZVOBDs
「どうしたのだ?オークヒーローよ。まさか今更出撃できぬという訳ではあるまい?」
映像が映し出されるなり、開口一番オークヒーローに問いただすバフォメット。自慢の得物"クレセント・サイダー"を肩にかけ、
背後に赤いオーラを漂わせて、戦闘態勢に入っている。
「オークD駐留部隊の出撃準備はほぼ整っておる。ゲフェン、GH両部隊も同様だ。いつでも出られる」
並みの魔物なら、対峙しただけで萎縮してしまいそうな魔気を軽くいなし、オークヒーローはバフォメットに告げる。
「ならば何の用だ?我は今忙しい。我が部隊の第一陣が、騎士団と戦闘状態に入ったのだからな」

「早いな、聖女殿に嫌われるぞ?」「ウルサイダマレコロスゾ」
にやりと笑い冗談を飛ばすオークヒーローと、それを真面目に受け止めるバフォメット。
一転真面目な顔になり、オークヒーローが語りだす。
「ふん、冗談は置いておこう。一つ案がある。聞いてもらえるか。いや、聞かなくても聞かせるぞ」

「忙しい事は忙しいが、作戦案を聞けないほど忙しい訳ではない。話してみよヒーロー殿」

「了解した。では我が案だが、上水道に強行偵察隊を送り込む。なおこの案はゲフェン、GH両部隊も賛成しておる。
オークD・ゲフェン・GHの3部隊より腕の立つものを選び出し、すでに派遣済みだ。そろそろ指定の合流位置に到着する頃だろう。
何かあるなら今のうちに聞いておくぞ」
矢継ぎ早に報告を済ませるオークヒーロー。流石にバフォメット抜きで話を進めた事を多少後ろめたく思っているのかもしれない。
背中には冷や汗が浮いている。

「ふむ、確かに今は情報が少なすぎるしな。偵察部隊を出すのも悪くない。で、偵察隊には誰が出たのだ?」
あごひげを扱き、考えをめぐらせながらバフォメットが質問を返す。
「オークD駐留部隊からはオークロード司令官が出た」「ゲフェン駐屯部隊からはドッペルゲンガー殿が出ております」
「GH騎士団からは深遠の騎士を出したぞ」
驚きで目を丸くしつつ、バフォメットはオークヒーローを問いただす。
「各部隊の司令官級を出して大丈夫なのか?プロンテラの騎士団は我が部隊と対峙しておるが、いまだ大聖堂の聖騎士団は無傷で居るのだぞ?」

「聖騎士団の本隊と冒険者達は我ら3部隊で相手をしよう。何も問題は無い。まさか我らの敗退を考えたのではあるまいな…」
絶対の自信をにじませて、オークヒーローは言い放つ。
「ふん、万が一にも敗退する事はありえぬよ。プロンテラの西方面は任せておけ」
ブラッディナイトが軽く鼻で笑う。
「これだけの部隊が集まれば、首都を落としトリスタンの首級を上げる事も出来るでしょうな」
ドラキュラが口の端を持ち上げニヤリと笑う。

「よし、ではその作戦案で行く事にしよう。作戦名は"ダインスレイフ"、作戦概要としてプロンテラ上水道地下4階まで潜入、
最深部に居ると思われるダークロード卿と接触、情報を入手、後離脱。なお上水道内での戦闘は部隊員の判断に任せる。
ただし情報の入手が最優先であることは言うまでも無い。以上だな」
矢継ぎ早に指示を出すバフォメット。そしてそれに答える3人の魔物。
「「「了解」」」

「通信は以上だな。では改めて支援を要請する。頼んだぞ」
最後にそう言い残して、バフォメットとの通信が切れる。そして残された3人は目配せをして頷きあう。
「血騎士候、そちらに居る赤の司祭殿を偵察部隊との連絡役に置いてもらってよいか?バックアップ人員はこちらで用意しよう」

「了解した。そちらに司祭殿を送ろう。それではそろそろ我らも出撃するとしようか」
ブラッディナイトがそう言って席を立つ。
「では我らも出撃します。御武運を」
ドラキュラもそう言って腰を浮かせる。
「よし、では我が部隊も出るか。お二方ともプロンテラ西口前で会おうぞ」

「なるべく早く着くようにしよう。獲物が居なくなっても困るしな」

「では、また後ほど。戦場でお会いましょう」
ブゥンという音と共に、ブラッディナイトとドラキュラの映像が消える。
オークヒーローは煙草を取り出し火を付けると、深く息を吸い込み紫煙を吐き出す。
煙草を半分ほどの長さまで吸い、もみ消した後に声を張り上げる。
「各員戦闘態勢は整ったか!!」

「すでに整っており、ヒーロー様の御声がかかるのを皆待っております」

「よし、各員に伝達!!これより我らオークD駐留部隊はヒト共の首都プロンテラへ進撃する!!
Order only one "Search and Destroy" over」

「Sir Yes,Sir!!」

マントを翻し、紫煙に煙った会議室をオークヒーローは足早に後にする。
その背は、これから始まる戦闘への期待に満ち溢れていた。
50名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/17(月) 15:28 ID:YPZVOBDs
上の2つは20の続きという事でよろしくっす。
相変わらずヘタレています…_| ̄|○
そこらへんはご勘弁を     モットショウジンセントナァ
51一個前の201sage :2004/05/17(月) 17:00 ID:sMmu4c8s
>>38

ここまでしてもらって黙っていられるか?
いや、出来まいっ!
(三文にもならん)へたれ文士の名にかけて!!

つー訳でリレーに乱入
一応読み直してから書いたんだが
もしどっかと競合しちまうようならスルーしてくれ・・・
52一個前の201@リレー乱入sage :2004/05/17(月) 17:07 ID:sMmu4c8s
共に生きようと誓った筈なのに。
俺達は確かに愛し合っていた筈なのに。

彼女は奴に連れ去られてしまった。
俺は奴の館に乗り込み、奴の駒を薙ぎ払い、奴の部屋に乗り込んだ。奴はそこにいた。

外で起こった騒ぎなど耳に入っていないかの様に
乗り込んだ俺の存在すらも目に入らぬかの様に

静かに、右腕に抱く彼女を見つめていた。

「うおおおおぉぉぉぉ!」

奴に飛びかかる。二つしか無い筈の拳が残像で数十にも見える。まごう事なき俺の全力の拳打。
その速度で振るわれた両の拳はしかし、全て奴の左の掌にて受け止められた。
驚愕に眼を見張る。一瞬の隙。奴の左の手刀が無造作に振るわれる。
反射的に左腕で防御する。がしりと受け止める感触はなく、かわりに冷気が腕に食い込む。
ぞわり、と悪寒。一歩退く。左腕の手首の辺りがごとり、と音を立てて落ち、胸からは鮮血。
奴はこちらを向く事すら無く、左腕一本でそれだけの事をしてのけた。
・・・退かなかったら体も両断されていた。それは確信。背筋を這い上がってくる激痛と恐怖。
俺は、奴に勝てない。それでも、逃げる訳にはいかない。彼女を奴の餌食にはさせない。
奴は気絶し力無くのけぞる彼女を右の腕に抱き、その露になった細い首筋に顔を近付けて・・・

「ちっくしょおおおおぉぉぉぉ!」

ありったけの力を篭めた右の貫手。それをがら空きになった首に向けて―――
奴の左手が閃いた。瞬時に俺の右腕を掴む。
ぐしゃりと嫌な音を立てて握り潰され、同時に上向きに途方も無い力。
腕の関節と肩の関節がごぐっ・・・と鈍い音を立てて砕け、投げ飛ばされた。
受身を取る事も出来ずに地面に叩きつけられる。
落下の衝撃で肋骨が折れて肺に刺さったらしい。口からも血が溢れた。
そして・・・やっとの思いで顔を上げた時には、全てが終わっていた。

ゆっくりと、彼女が眼を開く。奴が高らかに宣言した。

「これで、汝は我が物となった」
「あぁ・・・ありがとうございます。貴方に永遠の忠誠を誓います・・・ご主人様」

彼女が・・・奴を見上げて嬉しそうに言った。そして・・・跪いてその足に接吻する。

「やめろ・・・やめてくれ・・・そんな奴に・・・」

精一杯声を張り上げようとしても痛めつけられた体からは囁きに等しい程度の声しか出ない。
奴が彼女を支配し、絶望が俺を支配する。俺は間に合わなかった。
・・・奴が、初めて俺の方を向いた。
彼女は奴の斜め後ろに控え無感情に・・・地面に這いつくばる俺をただ見ている。

「ひとつ、尋ねたいのだが・・・」

奴が俺を見下ろして不思議そうに言った。

「君は、何をしにここに来たのだね?」

それはまごうことなき本気の言葉。
無力感。絶望に染まった俺に追い討ちをかけるように。
世界最高峰の拳法家とうたわれた俺の全力は、奴に邪魔と認識させる事すら出来なかった。
そう悟らされた。

「お・・・俺がわからないのかよ・・・」

俺は奴の傍に静かに控える彼女を見つめながら声を絞り出す。

「ふむ、彼は君の何だね?」

奴が彼女を振り返り尋ねる。

「はい。ご主人様。彼は私の婚約者であった男です」

改めて俺に目を落とす。

「成程、すると君は私からこれを取り返しに来たという事か。その行動力には感服するが・・・」

そして一拍置いて

「無様だな」

言い切った。

「く、くそっ・・・」

返す言葉も無い。大切な者を奪われて、目の前で失った。
それを妨害する事も出来ず、妨害と思わせる事すらも適わなかった。これ以上の敗北は無い。

「さて・・・これ以上私の寝室を汚されるのも困る。消しておこうか」

奴が右手をかざす。手の中に収束していく魔力。
敗北に打ちひしがれる俺には既に避けようと思う気力は残っていなかった。
奴が手の中の魔力を俺に向けて放つ。
先程の言葉から鑑みて俺の体を消し飛ばす程度の威力はあるだろう。
俺はせめて愛した女の顔を目に焼き付けてから逝こうと彼女を振り仰ぎ・・・

仮面を貼り付けた様な無表情。けれどもその頬を涙が伝う。

彼女は完全に奴に支配された訳ではない。俺はそう信じた。
まだ終わっていない。彼女を取り戻す可能性が残っているのなら、諦めたりはしない。

腹の底から湧き上がる力。
瞬時に五個の気功球を展開、一つに収束して放つ。奴の光線と激突し、拮抗する。
奴がほんの僅か驚きの表情を浮かべ、篭める魔力の量を増やす。
だが・・・俺の方が早い。
俺は既に次の五個の気功球の展開、収束を終えて放っていた。
俺と奴の間で留まっていた気功弾と合わさり倍加して光線を打ち払い、奴の右手に着弾、炸裂する。

「ほう・・・無様と言ったのは訂正しておこう。君の度胸だけでなく、実力も感服に値する様だ」

光が収まった後、二の腕より先が綺麗さっぱり無くなった右腕を眺めながら奴が言う。

「殺すには惜しい・・・私に仕えるつもりは無いかね?」
「冗談じゃねぇ・・・誰が貴様などに・・・」
「私の手を取れば失いし腕も戻り、より強き力を手にし、永遠にこれと共に在れるぞ?」

奴がちらりと彼女を流し見る。彼女の頬を濡らした筈の涙は既に見えない。
あれは錯覚だったのかも知れないと思える程、彼女は無表情だった。

「ふ・・・」

ふざけるな、俺は貴様を倒して彼女を取り戻す!
言おうと思った。確かに両腕は既に使い物にならないが、奴も片手を失った。まだ戦える、そう思った。
奴の右腕が再生する光景をみるまでは。瞬きの間に腕の再生が完了し、奴は無傷に戻った。

「く・・・」
「ふっふっふっ・・・ふぁはっはっはっ・・・はぁーはっはっはぁっ・・・さぁ、どうする?」

俺は、頭を垂れた。
・・・最後の手段に賭けるしかない。奴に従い、隙を窺い、元の彼女を取り戻し、奴を滅ぼす。

「・・・わかった・・・あんたに・・・従う」

そして俺は、奴の下僕となった。
奴の為に戦い、奴の敵を滅ぼし、奴の野望に手を貸した。
奴は隙を見せなかった。永い眠りに就く時でさえ。
奴には俺がいつか裏切る事さえも計算の内にあるのだろう。俺はさしずめ奴の掌で踊る人形か。
だが、それでもいい。人形には人形の意地がある。いつか必ず奴の掌から飛び降りて奴を滅ぼす。

これで何度目になるだろう。相変わらず傍らに彼女を従えて、奴は俺を目覚めさせる。
奴は俺を好んで使う。まるで早く反旗を翻せと言っている様に。

・・・まだ、時は来ない。
53一個前の201sage :2004/05/17(月) 17:16 ID:sMmu4c8s
・・・つーわけで、どうとでも転べる状態の敵を一匹こさえてみる
どう動くかは・・・状況次第?


ではいつも通りに・・・板汚しスマンカッタ
54名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/17(月) 17:49 ID:NCwxjixw
砂漠にて
フ:……我ら、つくづくSSで人気ないな、オシリス殿
オ:ピラミッドにはイシスたんという萌えキャラもおるのに…納得がいかん。
フ:……寝返ろう
オ:はぁ? 何を申しておる
フ:どうせ相手にもされぬのなら…パーッと派手に散ってやろうではないか! ふはははっ
オ:そうだな! 奴もどうやら我らと同じく不死っぽいしな! 手を組もう!

        [下水]・・・・λλ....

   濃い物質Xキター!!ジュルジュル
        [下水]<ニギャアアアアア!!
55577と名乗っていたものsage :2004/05/17(月) 18:37 ID:Y6sknpa2
|∀・)

昔の人も新しい人も来てくれて
とても嬉しいです。
話が広がっていっても気にしないでおきましょう。
最悪「ハイスクール鬼面組」のように夢オチ・・・(グホッ)

・・・
きちんと終わらすまで頑張ります・・・。

|彡サッ
56577と名乗っていたものsage :2004/05/17(月) 18:37 ID:Y6sknpa2
右、斬る、左から、うなる刃、かわす、頭上を越える、
帰る前に打ち落とし、蹴る、バランス、崩し、
滑る、尻尾、はねる、そこに、横から

「ダブルストレイフィング!!!やったあ!!!」

次、来る、一発受け止め、槍を突き刺し、止める、
くさい息、ぎらつく眼、見かえして、えぐる
うなり声、無視して、そのまま、もう一ひねり

「ヒール!」

「ポーションピッチャー、・・・しろぽきついよう;;」

支援、受ける、突き放し、次の、脇から、
切っ先、小手で、こする、進路、変えて、前の奴、まかせる
も一度、槍を、横に構え、ワニの剣、正面から、受け、
後ろの、やれ

「やあっ、くらえっ!」
「炎のカベッ!、くぐって」

移動、壁を背に、たって、ひきつけ、
直前、ステップ、潜る、壁を、
弾かれた、先に、槍の力、込めて、
弱き、力、連打で、削る

「Brandish Spear・・・、Brandish Spear・・・」

「グヒャアアアアアアッ!!!」

「AGI-VIT極なんていうから
どんな戦い方するかと思ってたら・・・やるじゃない、ねえ」

「・・・仲間には“ヌリカベ君”と呼ばれていた・・・。」

「・・・そう。」

立ち直り、次、泥手、槍刺し、そのまま、
相手の攻撃、痛みに、耐え、
ヒール、キリエ、攻撃、後ろに、任せる、
殴られ、苦しい、でも、そのまま、進む、
奥へ、すべて、引き受け、強い奴に、斬るの、射るの、
任せ、進む、帰らない、終わるまで、
それが、いつもの、俺、でも、痛い

「・・・これじゃあ小細工はきかんのう、ヒール連打と行くかあ、そーれ。」

前、敵影、いつのまにか、薄く、いない、
後ろ、戦闘音、つづく、きっと、勝つ、
俺、進む、近くの、つれて、奥へ、なんとか、なる、
弱い奴、強い奴、どっちでも、壁になる、オレ、
はやく、いこう、誰か、待ってる、きっと、ココの、誰か、
なんか、わかる、時間、無い

「ふうっ!、なんとか凌いだみたいね、猫ちゃん、アコたんいくよっ!」

「はいっ!、騎士さん先導をお願いします、あと皆さんもよろしく・・・。
なんか変な感じですね、名前もしらないのにいつの間にかPTなんて。」

確かに、ヘン、俺も、お前のことも、其処の奴らも、知らない、
でも、なんでか、いのち、かけられる、血が沸き、肉が疼く、
きっと、誰も、そう思ってる、お前の話、想いを、引き出した、
もしかして、お前は・・・。

「お前が行かないなら俺が先導するぜ!、そーれ!」

「・・・マテ」

騎士さんは前に躍り出ようとした騎士さんに一声かけると、
そのまま早足で闇の中へすたすたと進んでいきます。
その姿を見て頭をふってから一歩踏み出した彼の足音と、
私の気合の入った大また一歩目の足音が丁度重なり、
後ろのプリ小父さんがちょっと吹き出しました。

「ほらほら、お嬢さん、そんな気合はいってちゃ
奥まで突く前にへばっちまうよ。
それとも奥にイイ人でもいるのかい?ふあっふあっふあっ!」

真っ赤に燃え上がる頬を押さえる私を見て、周囲の人の数名は
さらにニヤ二ヤしながらはやし立てていきます。
私はそんな状況に耐えられなくなって、先に進む彼の背中に向かって
だばだばと駆け寄っていくと、その先導者は
ちょっと後ろを振り向いて私の姿を認め、
そばに近寄ってきてポツリとこうもらしたのでした。

「天使」

「へ?」

問い直したときにはすでに彼の背中は、先の曲がり角へ差し掛かるところで、
もちろん返事など無かったのですが、
でもなんとなく恥ずかしそうなその歩き方が面白くて、私は
さっきよりさらに急いで相手の右後ろにつけると、
そのまま相手のマントを掴んでスピードダウンさせ、
後ろの人たちがついてくるのを待ちながら、この無骨な騎士さんのことを
わざとじろじろ観察していたのでした・・・。
57577と名乗っていたものsage :2004/05/17(月) 18:39 ID:Y6sknpa2
上水道の地下で生まれた多くのモンスターたち。
事情により通常の生まれ方とは違う誕生の仕方をしている彼らなので、
意思力というのか、アイデンティティというのか、
そういったものが希薄で、命令に従い任務をこなす奴らが
ほとんどなのですが、やはり生命というのは不思議なもので
時にはこれからお話しするような性格を持った
不思議な不思議なモンスターが誕生することもあるのです。
暗い水の流れの中で生まれた
ちょっとした恋の話。
皆でそっと覗いてみましょうか・・・。

--------------------

僕はマスターに最初に呼ばれたときに
「其処の窓」と言われたので、それからしばらくは
自分のことを「ソコノマド」という名前だと思っていた。
もちろん今ではそれが違うということがわかっているけれど、
それでもなんだか、その呼ばれ方が心地よいので
たまに自分で自分を励ますときにも使っていて、
ほとんど自分の名前といってもいいくらいになっている。
例えば戦いで怪我をしたとき、
例えば荷物を回収するのを忘れたとき、
僕は自分に向かってこういうのが好きだ。

「ソコノマド、落ち込むなよ、これくらい大丈夫さ。」
「ソコノマド、マスターが期待してるぞ、頑張れ!。」

どうかな?ヘンかな?。
でもこう口に出してみると、「ソコノマド」っていうのも
悪い名前じゃあないだろう?。
少なくとも人間達が僕を呼ぶ、“スティング”って発音よりも
いいような気がするんだけど・・・でもやっぱり自分を
そう呼ぶのって変かな?とも思う。
そんなわけでここはひとつ、僕の考えを仲間がどう思うか
是非ぜひ聞いてみたいところなんだけれども、
どうも皆恥ずかしがりやで引っ込み思案でシャイでクールなのか、
僕が話しかけても答えてくれる相手が全然居ない。
マスターは忙しそうにしているし、
たまに弱そうな人間を見ると声をかけてみるけれども、
逃げられてばかりだ。
そういう時が続いていいかげんくらい気分になっていたときに、
でも神様に祈りが通じたのだろうか?、
僕は正に運命的な出会いをしたのだった・・・。

「あの・・・私の言うこと聞こえます?ねえ?」

僕の前をその大きな手でとうせんぼして話しかけてきたのは、
僕と同じ大きな手の形をして、僕と同じように一部分がなぜか蒼い、
女の子スティングだった。
その声を聞いたときの僕の衝撃は皆にも理解してもらえると思う。
なにしろいままでだれに話しかけても返事をしてもらえなかったのだから・・・。、
突然のことに頭がパニックになってしまい、僕は手をひらひら動かしながら
あたりをさまようことしか出来なかったのだった。
だから彼女が去っていってしまいそうなそぶりを見せた時、
さらにパニックが加速してしまったのだが、これではいかんと
勇気を振り絞って相手の背中を掴んだのが、
今思うと僕らの運命を決めたアクションだったのでした・・・。

「もしかして・・・わかるの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい。」

--------------------

それから僕は上水道の水で顔を洗うと、たまった物を一気に解き放つように
凄い勢いでしゃべりはじめた。
彼女もそれに雄雄しく答え、さらに質問をぶつけてくる、
時間はそれほどでもないと思うが、その濃密な空気に周りの奴らが引いても
僕はおかまいなしに話し続け、息を継ぎ、質問に答え、手を振り、
泥をはね散らして彼女に僕の疑問を投げかけ・・・そして一区切りついたときには
なんとなんと恋に落ちていたのでした・・・。

「・・・僕・・・君の事好きみたいだ・・・。」

「へへっ・・・いきなり?、でも私も・・・。」

「!?ホントにホント?。」

「モチ、ホントよ、こんなの冗談じゃいえないわ。」

「じゃあ手をつないでくれる!、ね、僕生まれたときからそうしたかったみたいなんだ!。」

「うん、いいよっ、私もそうしたいみたい・・・。」

ああ、神様仏様マスター様、僕は幸せです。
ゆっくりと伸ばしたその手が彼女の指先に触れたとき、僕はまるで
サンダーボルトを100倍にしたくらいの衝撃が走ったみたいに感じて、
さいしょは叫びながら指をひっこめてしまったくらいだった。
でもその次に彼女の指を触ったときは、なんともいえずしっとりしたその
感触が嬉しくて、しばらくずっとつないでいると、
間を置いて彼女が手を振り解き・・・。

「ほらほら、つないでばかりじゃ仕事できないぞ、こっちこっち。」

「あ、待ってよ、ねえ、きちんと仕事するから。」

「こっちの卵を運ぶのよ、ほら、こっちこっち。」

「おーい、待ってくれよ・・・。」

「アハハ、とろーい。」

「ふふ、はは、本当だ、でもこれでも昔の僕らよりは速くなったらしいよー。」

「はー、本当?、アハハ。」

・・・今思い返すと恥ずかしい限りだけれども、僕はこんなことをいいながら
彼女とじゃれあって仕事を続けていたんだ。
もちろん回りの奴がどう思おうと気にはしないけれど、だれも面と向かって
“お前らヘンだ、バカップルだ”といってくれる奴がいないから、
さらに気になって必要以上にイチャイチャしていたような気がする。
だからマスターの眼に留まってしまうのも当然な結末だと思うのだけれども、
そのときは其処まで考えが回らなくて・・・。

「ん・・・、どうもわけのわからないモノになってしまったような・・・、
こういう手合いもある意味美しいと思って作ったのだが・・・。」

「え!?、あ、ま、マスター!、な・・・なんでしょうか?。」

「・・・マスター様、御用でしょうか・・・あ・・・。」

「フッ、まあいい、今はちょっとお前らが居ると作業の邪魔になる・・・。
外しておいてくれ、後で調べさせてもらおう。」

そういうとマスターは僕と彼女の体に軽く触れた。
彼女のからだが段々蒼くなり、僕は恐怖に駆られて叫び声を上げたが、
そのうち自分の体もなんだか青くなってくるのに気づいて、
だんだん意識が遠くなってきて・・・。

・・・

ふと気づくと
僕達二人は手の部分以外が蒼く染まったまま、
どこかの森の中に寝転んで居たのでした・・・。

おや?なにかの足音がきこえるぞ・・・。
58577と名乗っていたものsage :2004/05/17(月) 18:41 ID:Y6sknpa2
|∀・)

・・・ちなみにソコノマドくんと窓手子さんは
合体してクレイゴーレムになる予定です。
(我ながらまたわけのわからないモノを・・・)

|彡サッ
5952だった人物sage :2004/05/17(月) 19:14 ID:FrqAXpTs
「なんだって!?」
本部からのwis、その内容は俺に普段出さないような大声を出させるのに十分な衝撃を含んでいた。
「……了解した……」
焦る心を落ち着け、回線を切る。
「どうか……したんですか?」
司祭が神妙な面もちで尋ねてくる。
「……首都西門付近に大量のモンスターが出現したそうだ……本隊が戦闘中らしい……」
「え……!?」
見る見るうちに全員の顔色が青ざめているのが分かる。
最悪のタイミングだ、これも作戦の内だとしたら奴は歴史に残るほどの策略家になるだろう。
「モンスターの戦力は?」
「迷宮の森、オーク及びゴブリン族、ゲフェンタワー、グラストへイム騎士団……そうそうたる顔ぶれだそうだ」
「そんな……」
絶句し、俯く暗殺者。彼女だけではない、他の者達も同じように絶望に打ち拉がれていた。
「それで……どれくらい保つって?」
「楽観的に見積もっても2時間だそうだ」
「2時間……」
たった2時間、このまま普通に作戦を進めるにはあまりにも短い。
再び暗い沈黙が辺りを包む。
と、その時。
「ワイ、ちょっと援護に行って来る」
そう言ってハンスがこちらに背を向け、来た道を戻っていこうとする。
「ハンスさん……」
不安そうに後ろ姿を見つめる服司。
それを押しのけ、俺は叫んだ。
「ハンスッ!!」
ハンスが振り返る、その顔はいつもとはまるで違う……まさに戦士の顔だ。
「……頼んだぞ」
俺のセリフに一瞬きょとんとした表情を浮かべていたが、すぐにいつものにやけ顔に戻り、俺に歩み寄った。
「任しとき、1時間ぐらいで戻るからな」
直後、頬に何かが触れる感触。
「あ」
してやられた、そう思った瞬間にはもうハンスの姿はなかった。
「全く逃げ足の速い……」
ハンスが去っていった通路を見つめながら、俺はそんなことを呟いた。
6052だった人物sage :2004/05/17(月) 19:20 ID:FrqAXpTs
えー、今回はやおい度数120%でお送りしました、スミマセン。
時間制限みたいのも入れちゃいましたが、よかったでしょうか?
ダメでしたら無視しても結構ですので。

どうでも良いことですが、ハンスのクレセントサイダーは買ったのではなく、ドロップ品です。
経緯は機会があれば書きますが……これでバフォとの絡みができたらいいな、と考えています。
それでは、失礼しました。
61丸いぼうし@マンチキンsage :2004/05/18(火) 00:02 ID:jF5U1ReY
走った、走った、いつぶりだろうか。研究所暮らしで鈍った筋肉が悲鳴を上げた。肺胞の
一つ一つまでが酸素を求め、鉄の味が口の中に広がった。
僕は止まって膝をついた。体中の血という血が沸騰し、毛穴から噴き出しそうになった。

「大丈夫ですか、さっきは昏睡だったのにこんなに走ったらまた…」

後ろから走ってきたケミがこともなげに僕に声を掛けた。奴の息は上がっていない。これが若さか。

「ぜぇ…さっきは…ちょっとね……グルコースが足りなくなった…だけのことだよ。」

「…低血糖ならそうだって言って下さいよ教授」

「僕の頭脳は加速と最高速こそ素晴らしいが…燃費は悪くてね。ふぅ…君らのように十秒チャージ二時間キープ
って訳にはいかないのさ。」

ぐたり、と石に背中を預けた。石のほどよい冷たさが意識をほんの僅かだけ明晰なものにしてくれる。
僕は鞄からアンプルを取り出すと封を切り、青ポーションで流し込んだ。酸素を求めていた気管にポー
ションが飛び込み、反射的に咽せた。それでも、粘膜が痛むのも構わず僕はそれを飲み干した。
蠕動する食道のなかを、空っぽの胃に向けてポーションは流れ込んでいった。
カフェインと高濃度ブドウ糖溶液、これでしばらくは僕の脳も活性を維持できるだろう。

 そう、僕は頭だけ生きていれば戦える。
僕は頭脳に全てを賭けて生きてきた。
そして、僕はそれしか知らない。

「さぁ、休んでいる暇はないよ。一刻も早く下水道へ向かうんだ。」

震えて立たぬ膝に喝を入れて僕は立ち上がった。明日は…いや、三日後辺りには猛烈な筋肉痛に襲われるだろう。
しかも、既に関節は熱を持ち、これ以上の使用は危険だと体が僕に訴えかけている。
たまらず僕は、アークワンドにしがみついて体を支えた。

「教授…その足でまだ走るつもりですか」

「黙示録がああなっちゃってはね、僕も黙っちゃいられないんだ。そしてケミ君、二つ覚えておくといい。
一つは、僕には走るつもりも必要もないこと。もう一つは…常に切り札は取っておくべきこと!

 …書に眠る知の言霊よ……塔に眠る智の英霊よ…」

僕はアークワンドに魔力を集中させた。宝玉に刻み込まれた魔法回路が震え、焼き切れ、組み替えられてゆく。
肉体は、頭脳の奴隷だ。肉体が満足に動かないのなら…別の物で動かせば、それでよいのだ。

「…我が喚び声に答え現世にその姿をなせ…『魂の錫杖(スタッフ・オブ・ソウル)!!』」
62丸いぼうし@マンチキンsage :2004/05/18(火) 00:03 ID:jF5U1ReY
真っ白な光が、アークワンドを包み込んだ。
地面からくみ上げられた魔法力がまるで結晶のようにアークワンドを中心に成長していき、やがて一本の棒になった。
長さ約二メートルの白銀色に輝く錫杖…その尖端には鳩血色(ピジョンブラッド)のルビーが輝き、白い翼がそれを護っていた。
翼が広がると同時に輝く羽根が振りまかれ、地面に落ちる前に空気に溶けた。

「これはちょっとじゃじゃ馬でね…黙示録ほど可愛くないんだよ。」

錫杖の輝きが魔法のそれから金属のそれへと変ると同時に僕の体は重力のくびきを解き放ち、上空15cmに静止した。
そして、あらゆる遠隔力を断ち切った空間の中、僕の体は前へと滑り出した。

「…こ…れは…?」

「ヘルメスの靴の再来、と言っておこうかな…っと蘊蓄ぐらい語らせてもらいたいねっ!」

言葉を切ると同時に僕は「炎」のイメージを引き起こした。瞬時に巻き上がった炎は飛び込んできた大蟷螂を捕らえ、
煉獄の中へと引きずり込んだ。炎の渦が一段高くなり、四散するとそこには何もなかった。
振り向きざまに杖を払うと連続して三つの魔法陣が別々の場所に生成された。
イメージはそれぞれ「槍」「回転」「氷」。
一拍あって石英の槍が地面から飛び出し、赤蝿の腹を射抜く。
飛び散る腐食性の体液をかわして右に半ステップ。
蛇が不可視の掌に雑巾のごとくねじられ、耐えきれずに断裂する。
半身になってなお迫る執念の牙を後ろに加速してギリギリ回避。
後ろへ下がると同時に形成された深青色の窒素結晶が舞い散り、熊を襤褸屑に変えた。

術者から「独立した」演算回路による先読み詠唱。それこそがこの杖が「魂」の錫杖と言われる所以である。
僕が本来得意とするのは「短縮詠唱(スペルエイリアシング)」を利用した高速連続魔法。
その究極の短縮形こそが「イメージ」であり、黙示録や魂の錫杖の要求するシーケンスである。
ただ、術者から独立して処理を行う演算素子を維持する魔法力は並大抵でない。だから、本来は
わざわざ詠唱付きで唱えているのだ。そして僕はブドウジュースの封を切り、一気に飲み干した。

「やっぱりこの子はじゃじゃ馬だよ。さて、ケミ君、君は若いから自分の足で走るようにね。」

言い終わる前に僕の体は風を切って加速した。
63丸いぼうし@マンチキンsage :2004/05/18(火) 00:28 ID:jF5U1ReY
・マシン新調ついでにiswebのパスワードを忘れた
・新生活にかかわるごたごた
・RO&fate

以上によりしばらくROMしておりました丸いぼうしです。
皆さんの作品の中で教授が生き生きと動いていたので、嬉しくなって気がついたら
書いていました。

今まではどうにもSF気味だったのですが、なんか王道ラノベ的ファンタジーを
書くことが出来たのですごく新鮮でした。

自分が作り出したキャラだと言うことで、どうしても好き放題最強にやってしまいますが…
速度はあれどsageのInt補正なので威力は無いということで弱く補正してくれるなら幸いです。

>>えべんは氏
全軍抜刀のシーンでは思わず涙が出ました。
興奮で涙が出る感触をここまで描ききる筆力に驚嘆いたします。
64元246|゚ω゚)sage :2004/05/18(火) 01:30 ID:AWVJCBpM
 青の血。
 エーテルの塊とも言えるその邪悪な血液は、一塊の汚泥、それは千年の怨念を溜め込んだ一種の寄り代である、を悪霊に変身させた。
 彼の概念は吸収、その名は『鉤』―――四百の羽と百の顔を持つ、伝説の吸血鬼、その一体である。

 『鉤』は百の口々で言った。

「我が主!」「我が主!」「竜の眠りの我が主!」
「私は大口!」「私は汚泥!」「私は魔神!」「私は魔王!」
「あなたはだあれ?」「あなたはだあれ?」「あなたは主!」「あなたは魔術!」
「命令!」「使命!」「つかいっぱしりの屑魔神!」
「ひとたび動かば大地が枯れ」「ひとたび叫べば月が割れる!」
「飛ぶぞ!」「歌うぞ!」「喰うぞ!」「犯すぞ!」「飛・歌・喰・犯」
「「「「「「「「イィ――――――ヤ――――――ハ――――――ァ――――――!」」」」」」」」

 肉体を与えられた時点で自らの使命は刷り込まれている。主人の顔を見る必要もない。
 『鉤』は地下四階の壁面を高速で回転、自らの体内魔力を回転式怨念増幅炉で三倍強にした後、
地上へのパイプ通路を穿孔するような軌道で転がり上がって行った。
 向かう先は地下三階。吸血鬼『鉤』は、死にぞこないを弄ぶ事を何よりの喜びとする。
 彼の鋭敏な知覚に補足された獲物―――それは魔法士と剣士、そして聖職者見習の姿をしていた。


「!? しまッ」
 三階の出口で一時休息をしていたクルセイダーは、とっさに盾を構えた。遅い。
 前方の闇から高速で迫ってきた悪意は、一瞬で後方、二階への入り口へと突き進んでいった。

「来る」
「あ?」
 魔法士はかすれる様な呟きをもらし、彼の乗ったカートを引く鍛冶師は不審げな声をあげ、
「「「「ゲ―――――ッゲェ―――――ッゲェ―――――ハ――――――――――ハ―――――ッ!!!」」」
 『鉤』は彼ら一行の頭上に停止した。同時にその球形の体を展開、パイプ通路の壁面に沿うようなドーナツ型に変身。
 羽が波打ち顔がゆがんだ。狂喜の顔である。次いでその汚泥の体が収束し、一瞬の後そこには人型の魔神が浮遊する。
 聖騎士の反応は素早かった。彼女の脳内には滅するべき魔の姿が、神の名の下に記憶されている。そして、その記憶はこう叫んでいる。
 かなう相手ではない。
 鍛冶師は愕然とその醜悪な姿を凝視し、剣士はいっそ冷徹な目でそいつを眺めていた。しかしその体は後退している。
「にぃぃぃ」「がぁ」「さNEE―――――!」
 『鉤』の右手がファミリアの群れへと変化し通路内を覆い隠す。瞬く間にそれは襤褸を纏った魔法の骸、レイスの姿を取り、一行に襲い掛かる。『鉤』の分体。口々に呪詛と呪を撒き散らしながら、魔術死人は哂い出す。その哂い、一節一節が死の呪文。
 聖騎士は聖句を唱える。聖職者にはあらねど、この身は神に捧げた剣。言霊全てが退魔の術。
「――灰は灰に、塵は塵に、土は土に! 逃げるぞ走れ!」
 言葉と共に振りぬかれた刃が一体を屠り、腰を抜かしたのかぴくりとも動かない見習聖職者を担ぎ上げて全力で走り出す。弾かれたように鍛冶師がカートをひっつかんで駆け出し、
「おいこら! 早くはしれッつーの!」
 呆としていた剣士をしばいて正気に返らせる。聖騎士の聖句が何時まで効くか判ったものではない。
 慌てる様に剣士は駆け出し、鍛冶師とそのカートに乗った魔法士も聖騎士に続く。


「ハ」
「ははは」「へへへ」「ホ」「うふふふ」「ギャ――ハッ――ッッ!」
「ぎゃはは」「ぐへへへ」「ゲゲゲ」「けけけ」「いやぁ――ハー」

 『鉤』は笑った。実のところあのような言葉ごときは自分の進行を阻むものではない――そもそも彼は魔ではなく力である。
 彼らを見逃した理由は唯一つ、狩りとは逃げるモノを狩ることだからだ。
 『鉤』は、頭部の顔を愉悦にゆがませた。全身の顔が遅れて追随、周囲のレイスがゲハゲハと笑いだす。
「にぃーげぇーちゃーあ」「だぁー」「めぇー」
「だぁぁぁぁあああぁぁぁぁああああああひゃははははは!!??」」

 『鉤』は追跡を開始した。人型のまま――悠然と。
65元246|゚ω゚)下水リレーって名前付けるの忘れてたsage :2004/05/18(火) 01:39 ID:AWVJCBpM
久しくリレーに参加してみました……なんか文章が変だ。
大人数組がおそおそとして前に進んでくれないので>38氏の設定を拝借し追跡者投入。
四天王で言うところの最初に戦う奴、星座戦士で言うところの某カマ座、ストレイトジャケットで言うあたりのバロネージ級あたりの位置かなぁと重いながら書きました>鉤
セージ先生にふんずかまって記憶領域ひっくりかえされねぇかな、とか。
66どこかの166 リレー 魔族達の混乱sage :2004/05/18(火) 05:38 ID:x4rPhqaE
「馬鹿なっ!あの人達は政治が分かってないっ!!」
 バフォメットから告げられたダインスレイフの作戦内容を聞いて今までに無い罵倒の声をあげたママプリにバフォも子バフォも驚いてしまう。
「義母よ?この作戦の何処が不満なのだ?
 既に第一陣は戦闘に突入して以後続々と戦力が投入され……」
「目的が王都殲滅なら敵に作戦内容なんか教えるはず無いっ!!」
 苛立ちを隠せないママプリ。それはバフォと子バフォがはじめてみる権力者としての顔。
 彼らは知らない。高位の聖職者とは腕力では無く、魔力でもなく、なによりも権力を必要とする事を。
 権力。それこそが人が魔物より圧倒的に優れている組織としての人の力の源泉。
「何の為に大兵力をかき集めて戦をすると思っているのっ!
 王都を落として戦力をすべて失ったら魔族は何もかも失うのよっ!
 人間国家はルーンミッドガッツ王国だけじゃないのにっ!!」
 ママプリの痛罵にさすがにむっとするバフォメット。
「我らが負けるというのか?」
「負けるわ」
 あっさりと言い返して、地図を広げてみせるママプリ。
「戦力を西に集中させすぎている。南から側面を突かれたらオークの軍団は崩壊するわ」
「義母よ。もうプロンテラを守備する部隊など……」
 子バフォの視線がある一点に注視する。
「イズルード……海か。義母よっ!」
「私なら、アルベルタに増援を要請するわ。上水道に騎士団が展開していたならなりふり構わずに頼んでいるでしょうね。
 そうね。フェイヨンの兵もプロンテラ南門に集結させましょうか?
 モロクはがら空きになったオーク森を蹂躙させてもいいわ。
 ジュノーから援軍を呼んできてもいいわよ。
 彼らがアルデバランに駐留して時計塔を抑えてくれるならばアルデバランの兵がプロ北を突くわよ。
 そうすると砦にいるギルドの連中から挟み撃ち。
 ゲフェンもプロンテラじゃなくてGHを突くわよ。今ならがら空きね♪」
 悪意を持って楽しそうに言うママプリに顔がいつも以上に真っ青になるバフォと子バフォ。
「これが、対魔族殲滅計画『クルセイド』。
 私が居たときですら教会内部で常に計画されていた極秘計画で、プロンテラを囮にして魔族戦力を殲滅する計画よ。
 ルーンミッドガッツ王国が魔族と共に滅んでも他の人族国家が残るのならば人間の勝利というわけ」
「そんな計画があるならば、何でその事を誰にも言わなかったっ!」
 バフォメットの糾弾とてママプリは涼しく受け止める。
「それを私が言って、魔族の誰が聞くと思う?」
「……少なくとも俺が居た」
 そして赤くなって言葉を失う二人にあさっての方を見る子バフォ。仲がいいのは分かるのだか、この緊急事態にあっという間に場がなごむのはいかがなものか。
67どこかの166 リレー 魔族達の混乱sage :2004/05/18(火) 05:40 ID:x4rPhqaE
「……とにかく、狭い上水道に大軍を投入しても下に降りれないでしょ。
 大部隊で威嚇する為だけにGHやゲフェン・オークに支援を頼んだのにその支援部隊が勝手に戦闘を始めるなんて……指揮官クラスが同格で指揮系統が混乱しているのが原因か……」
 人であるママプリには魔族の組織行動の欠陥がありありと見えていた。
「父上。本隊の西門投入は……」
「今のを聞いてまだ投入する勇気があるか?息子よ?
 ミョルニル山脈まで後退だ。
 今の話、私の名前で作戦参加部隊全てに伝えろ」
「確認したまでです。父上。
 ですが、義母よ。その「クルセイド」が発動されているのならば、何故騎士団は上水道に駐留し続けているのですか?」
 子バフォの疑問に首をひねるママプリ。
「いくらダークロードが降りてきているとはいえ、騎士団がそのまま留まっているなんて……
 囮?……いや、偵察隊の蓋かっ!
 上で騎士団がふんばっている以上魔族は戦力を投入せざるを得ない。
 ダークロードだけなら見捨てても許容できるのに、オークロードにドッペルゲンガーに深遠の騎士ぃ?
 完全に人質にとられたわね……」
 ママプリが自虐の笑みを浮かべた時に二匹目の子バフォがママプリの部屋に飛び込んでくる。
「父上。義母上。騎士団が逆襲に出ています!
 作戦参加部隊はこの報告を受けて支援のため進撃速度を速めています!
 父上も後詰を!!」
 加速する戦闘が政治的なものから純粋な戦闘へと移り変わった瞬間だった。
「分かった。出るぞ」
「待って。損害は最小限に抑えて。平地に出たらペコ騎士の突撃を食らうから絶対におびき出されないで。
 プロンテラ防衛の鍵を握るのは騎士団じゃなくて大聖堂の聖騎士団。こいつをなんとしても西門に投入させちゃ駄目よ。
 あと、騎士団が反撃をするのならば間違いなくイズルードと南門から兵を繰り出してオーク達の側面を突くからそれにつられて各個撃破されないように。
 それと……」
 真面目に聞いていたバフォの前にポタを出していきなり口付けをするママプリ。
「続きは帰ってから。生きて帰ってよ」
「ああ。帰ったらもう一人どころがもう十人ぐらい子供を作ろう。
 一人ここに残って守れ。行くぞ」
 照れたように早口で言って、バフォは二匹目の子バフォと共に本隊に合流していった。
 そして、この部屋にはママプリと子バフォの一人と一匹だけが残った。
「義母よ。貴方はこの後どうするつもりで?」
 バフォ帽をかぶり、ソードメイスを手にとって完全戦闘スタイルに戻ったママプリは子バフォにあっさりと言ってのけた。
「政治よ。政治。
 今回の戦闘の損害を『互いに正気に戻る程度』に抑える為に人と魔の間を取り持たないと」


 もし、この光景を金髪の男が見ていたら策が図に当たった事に冷笑するだろう。
 大聖堂の聖騎士団達は「クルセイド」計画に従い、騎士団にすら極秘に兵をプロンテラ南門に集めようとしていた。
 ただ、ママプリも金髪の男も知らなかった事が二つある。
 一つは「クルセイド」計画で殲滅するのは魔族だけで無く、教会にとって都合の悪い者達も殲滅の対象に入っていた事。
 つまり上水にいる金髪の男も、魔に走ったママプリも、そして、騎士団に派遣したアコの報告を聞いて、真実を知った為に粛清対象に入れられた学者先生も。
 もう一つは「クルセイド」の計画が前の事件をへて修正されていた事。
 第二の惨劇を想定し王都プロンテラを浄火する事で、魔族と共に「焼却」する為に。


 まだ人も魔も自らが滅亡の淵にいる事を知る者は少ない。
 戦いは地下から地上へ拡大しようとしていた。
 そして希望は……
68どこかの166 リレー 魔族達の混乱sage :2004/05/18(火) 05:41 ID:x4rPhqaE
>93
 コラボ完結お疲れ様でした。
 多くの人の設定を生かし、きっちりと話を完結させれた力はGJ!以外の賛辞が思いつきません。
 そして上水リレーにようこそ。

>リレー参加者各位
 私が始めた魔族側に理解・参加していただき本当に感謝しています。
 また加速しだした上水リレーを無事に完結させましょう!

魔族側の設定方向を参加者の為に説明しておきます。
 あくまで主役は上水道内部です。魔族側も主役級が上水道に投入されたんで私は文神様達の邪魔をしないように外でちょこちょこ参加を(まて)。
 バフォの行動指針ですが、本来一撃奇襲のはずがプロ北の部隊が騎士団の逆撃とアルデバランとギルドの挟撃を恐れてできるだけ損害を出さないようにずるずる後退していきますが、調子に乗って追撃するとオークやGHの部隊が西門に殺到するのでお気をつけて。
 大聖堂の聖騎士団はプロ南でイズルード・アルベルタ・フェイヨンから集めた戦力をオーク部隊の側面から突いて反撃に出ると同時に、聖騎士団本隊は金髪の男共々プロンテラを焼く為に市内を制圧しにかかります。
 この制圧の過程でママプリはプロンテラを出てバフォと合流しますので絡ませる方は(学者先生かポンコツアコさんかな)お早めに。

 しかし聖騎士団の皆様。93氏のコラボの時といい今回といい本当にごめんなさい。
 47氏の「ずっと教条主義で頭の固い」なんかのセリフを見て今回も「人類にとって必要な悪役」なってもらおうと。
 騎士団は証拠隠滅に走りましたが、教会の場合事件が再発した場合の対処を考えていたと。
 一つはミスリルでもう一つは元々は学者先生が提唱していた「焼却処分」と同じというのが笑えます。ただ、教会の場合「焼却」が「浄火」と名を変えますが。
 魔法による核攻撃では無く、プロンテラ(中の人間共々)を薪とした巨大な焚き火で金髪の男を焼き殺し&窒息死にしてしまおうろくでもない策ですが、人類社会勝利のためなら王都一つ、国家一つの犠牲など許容内でしょう。
 ……殴りのママプリって聖騎士団所属だったのかも知れない……宗教的理想主義に酔った機会主義者……タチワル〜。

おまけ
 壮大に燃えるプロンテラ。イズルードにぞくぞく入港する大船団。
 はいそうです。「某映画」のCMからの電波受信でした。
 指輪といい、壮大な大戦闘は心躍るものがありますね。


【映画館】ハヤクコウカイシナイカナλ.... λ三 <ソノマエニイタンサイバンニカケチャル! 【教会】
69一個前の201sage :2004/05/18(火) 10:10 ID:s4GwtkM6
勢いだけで書いちまった敵役、誰と絡ませると楽しそうか考えたんだけどさ・・・

以下、電波

吸血鬼モンクに連れ去られた姉御アサ。
逆毛モンクは愛する女の為、拳法家の誇りをかけて吸血鬼モンクとのタイマン勝負に挑む!!

なーんて、な・・・お約束過ぎだよなぁ・・・
人様のキャラクター上手く動かす自信ねえしなぁ・・・
7093@昼になるのも待ち遠しく :2004/05/18(火) 12:08 ID:ZcTZjsXc
執筆者の皆さま、コテつきのようなので…リレー書くときも名前つけときま…。

----
 プロンテラ南西の森を闊歩していた巨漢は、運命に導かれるように…“彼ら”に
出会った。普段は話しなどを聞くよりも身体を動かすことが彼の好みであったし、
その時は急いでもいたはずなのだが…なぜか、気がつくと男はどっかりと胡坐を
かいて座り込み、天を仰いで号泣していた。

「そうか…世界にただ二人…か。愛する女を見出して…結ばれる、それぞ男の喜び。
 うむ、うむ…わかる! わかるぞっ。種族など問題ではない…男と女のことはな!」
「…あ、結ばれる! いや、まだそれは…その、彼女の気持ちの問題も」
「……私、あなたとなら…」
 青く染まった部分以外を赤くしながら、二人は見つめあった(ような感じの動作を
した)。本当ならばすぐにでも…、とその目は語っている。しかし、…彼らにはそれ
以上のことはできずにいた。青く染まった体は自由が利かず、愛しい者のそばに這う
ことも出来ない。愛と、表裏の絶望を彼らは知った。
   …どうして僕らは…今、動けないんだったっけ。
 悲しみが憤りに、恨みに変わる前に…彼の身体がすっと、優しく持ち上げられる。
下ろされた先は、愛しい連れ合いの上。記憶していた以上にひんやりとして…懐か
しく、いとおしい感触に、二体は我を忘れお互いの体に手を這わせる。そのまま、
本能の赴くままに禁断の果実をむさぼりかけ…
「…がははははっ…。私はお邪魔なようだ。名残惜しいが先を急がねばならぬ」
 でかい笑い声で現実に引き戻された。巨漢は既に立ち上がり、彼らに背を向けて
歩み去ろうとしている。

「ま、待ってください!」
「……あなたの事は、なんと記憶したら…よいのでしょう。恩人の貴方を私達は覚えて
 いたい」
 巨漢は、肩越しに振り返るとその巨大な兜を小粋にすっと人指し指で押さえ/あはは
エモを浮かべる。
「…オークロード。…オーク族の長。それが私の名であり、さだめだ」
「……おーくろーど…さん」
「ありがとう…ありがとう!」

 魔族と人の、存在を掛けた決戦は、既に双方の思惑をはるかに超えて進んでいた。
事態の鍵を握る地点…上水道に最も近い魔族の精鋭たち。彼らが果たすべき役割は、
当初の偵察などの枠に収まりきらぬものとなる。本人達の自覚はともかく。
 この出会いもまた、運命を動かすになるかどうか、未来はまだ不確定。

----
 いやー、18禁スレじゃないからえちぃ描写は避けてみました(嘘つけ!
長くてかこいーシーンは他の方にお任せして! 私は細部でをねちねち。
そういえば、GHから投入される深淵さんは、どんな深淵さんなんでしょうね…。
あの人か! それともあの人か! 否、既成概念を打ち崩す新たな深淵さんか!
……わくわく。
 …聖騎士団。面白そう。だめおやぢ萌え派としては、是非書きてーゾ!(ダマレ
7193@懺悔室sage :2004/05/18(火) 12:18 ID:ZcTZjsXc
 あげちゃった!? ごめんなさいごめんなさい

>>166
 お褒め頂き恐悦至極であります。ハズカシクテカユイヨー。ところで…

>しかし聖騎士団の皆様。93氏のコラボの時といい(略
>47氏の「ずっと教条主義で頭の固い」なんかのセリフを見て(略

 両方とも…私ですた。_| ̄|○ノシ 聖騎士の皆様ゴメンナサイ! クルセは好きなんです!
ただちょっと…太陽が赤かったから

     【教会】   λ....ソウダ ザンゲニ イコウ…
 ギニャアアアア!! ナニカ イルー!
     【教会】<キョウハタイリョウデスネ シャオアサン
72名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/18(火) 20:30 ID:gWPLeBfQ
この日のために枝を買ったのに・・・
下水4通常侵入不可だなんて・・・・_| ̄|○モウヤダコノマイグレ
73名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/18(火) 21:01 ID:epWkoY9c
>>72
そこで首都西門。

さぁ全軍突撃の時間だ。
74名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/18(火) 21:13 ID:ZcTZjsXc
西門で出撃まで座談会ですね! 学者先生の講義きぼーう(w
75名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/18(火) 21:29 ID:RnXrbjTo
座談会? どこの鯖でやるの?
76上水道リレー 魔物全軍戦闘開始sage :2004/05/18(火) 21:37 ID:GqQJsxT6
20=48.49な中のヘタレです。コテハンつけるのもおこがましいので、このままで。


「先陣のオークウォリアー・ゴブリン混成部隊が、騎士団と戦闘に入りました!!」
オークヒーローは、バッタ海岸を抜けた辺りでこの報告を受け取った。

「率いておるのは、ゴブリンリーダーだったな。では後方よりオーク・ゴブリン両アーチャー隊の援護射撃!!
その後、右翼よりハイオーク隊、左翼よりパンツァーゴブリン隊を突っ込ませろ!!
両翼突入前に上空からロータージャイロ航空隊の爆撃も忘れるなよ!!」

「Sir Yes,Sir!!」
即座に命令が前線に伝わり、矢が雨のごとくひゅんひゅんと飛びかう。
"フィンフィンフィン"と独特の音を響かせ、ロータージャイロ航空隊の面々がランドマインやブラストマイン、クレイモアトラップを満載にして飛んでゆく。
前線からは、悲鳴や怒号、爆発音や時の声などが上がる。

「戦場の空気だ…血と硝煙の臭い…ヒトの悲鳴…我が魂が騒ぐわ!!」

「副司令!赤の司祭殿より入電!!『強行偵察隊は所定の位置に到着、現在待機中、以後の指示を待つ』だそうです!!」
戦場の空気に酔いしれて、独り言を呟いていたオークヒーローに、通信兵が声をかける。
オークヒーローはハッと気を取り戻し、即座に考えをめぐらせる。
「ゲフェン隊はまだか?」

「プロンテラ西口まで、後わずかだそうです。GH騎士団も、到着まで間もなくです。いかが致しますか?」

「よし。では強行偵察隊に入電!『ゲフェン隊前線が戦闘に突入後、混乱に乗じて上水道に進入。以後は作戦概要の通りに動け』以上!!
……クックックッ楽しくなってきた。楽しくなってきたなぁ!!ハァッハッハッハッハッハ!!」
オークヒーローはひとしきり楽しそうに笑うと、通信兵に向かって怒鳴る。
「GH騎士団が接敵したら報告せよ!!中央の混成部隊を下がらせて我が出る!!ハイオーク親衛隊に通達!!まもなく出撃だ、準備をしておけ!!」

「Sir Yes,Sir!!」
オークヒーローが指示を下している間にも、戦況の変化が刻一刻と伝わってくる。
「中央混成部隊、押されています!」「右翼ハイオーク隊、騎士団側面に接敵!戦闘が開始されました!」
「こちら左翼パンツァーゴブリン隊、冒険者の一団と遭遇!現在排除中!中央部隊の援護に若干の遅れが出ます!!」

「ふん、なかなかどうしてヒト共の騎士団も頑張るじゃないか。いや、それだけ必死という事か」

「副司令!GH騎士団、ゲフェン両隊が騎士団と接触!!戦闘が開始されました!!」
通信兵からの報告に、オークヒーローは獰猛な笑みを浮かべ激を発する。
「中央混成部隊を下がらせろ!!親衛隊、準備はいいな!!一気に行くぞ!!」

「「「「「「「ウオォォォォォォォォォォォォォ!!」」」」」」」
ハイオーク親衛隊から、激しい鬨の声があがる。
オークヒーローが"オーキッシュソード"を抜き放ち、前線へ切っ先を向けて構える。
「ハイオーク親衛隊!!突撃(チャージ)!!!」

そう言うなり全速で駆け出すオークヒーロー。その背後から数千のハイオーク達が、斧をかざし鬨の声を張り上げ地響きをたてて続く。

「オークヒーロー様!! …って居ないよどうしましょやばいですよバフォメット閣下からの入電なのに
あーもうちくしょう走っていくしかないのですかそうですか分かりましたよ走りますよこんな報告私一人じゃどうしようもないですからね!!
…速度増加! オークヒーロー様ー!!」
77上水道リレー 偵察部隊始動sage :2004/05/18(火) 21:39 ID:GqQJsxT6
オークヒーローが突撃を開始し、その後をオークレディ通信兵が追っかけていった頃、プロンテラ上水道を臨む丘の上に、3つの人影があった。

「赤の司祭殿より入電。『GH騎士団、ゲフェン両部隊が戦闘を開始。これより作戦名"ダインスレイフ"を発動。
御三方とも御武運を』だそうです」
通信機を閉じ、そう告げる深遠の騎士。

「よし、ではこれより状況を開始する。深遠殿、ロード殿、行くぞ」
"ツヴァイハンダー"を鞘から抜き、片手に提げるドッペルゲンガー。

「それじゃあ行くか。混乱状況で無いと我らはあそこに入れぬからな」
『どっこらしょ』と腰を上げて、指をペキペキ鳴らすオークロード。

「けれど大丈夫なのでしょうか?前線の状況を見たところ、未だプロンテラ騎士団しか出てないようですが」
不安げに赤い目を揺らめかせながら問い掛ける、深遠の騎士。

「心配は要らんよ。あの戦闘は我らが上水道に潜入するためにおこなっておる事だ。
潜入が完了したら一時的にではあるが、全部隊は兵を引くだろうよ。その程度の理性をヒーロー殿に求めても問題はあるまい。
血の気が多いオーク族の者とは言え、私に次ぐ位に古くからヒト共と戦っていたのだからな」
深遠の騎士の不安を払拭するように、軽く微笑みながらドッペルゲンガーが語る。

「それもそうですね。私よりも経験が豊富な方ですから、心配は無いですね。それでは参りましょうか。あ、その前にオークロード司令、
赤の司祭殿からこの秘薬を渡すようにって言われてきたのですけど」
そう言って深遠の騎士は、懐からビンを取り出しオークロードに渡す。

「何だ、この薬は?」
ビンを受け取り、懐に入れながらオークロードが問う。

「ヒトの姿になれる秘薬だそうです。上水道内部に侵入した際に使うようにとの事でしたよ」

「騎士団が出張っている以上、上水道内部にも騎士団員が居るという事を想定してか…
ヒトと接触した際に同じヒトの姿を保っておくと、無駄な戦闘は避けられて情報の入手も可能という事だな」
あごに手を当て、うんうんと頷くドッペルゲンガー。

「そういう事か、了解した。上水道に入った後に飲む事にしよう。ではあまり時間が無い。作戦確認だ
上水道1Fに潜入後、各自テレポートを駆使して2F入り口まで侵攻、そこで再度合流し赤の司祭殿に連絡、最深部を目指す。これで良いな?」

「了解です」
生真面目に返す深遠の騎士。

「それでは、今度こそ行くぞ。各自上水道侵入まで無駄な戦闘は避けるように。吶喊!!」
ドッペルゲンガーの号令で、駆け出してゆくオークロードと深遠の騎士。その後に続き、ドッペルゲンガーも駆け出してゆく。

闇夜を駆けて行くドッペルゲンガーの胸中には、これから始まる侵入作戦への不安など微塵も無かった。
78丸いぼうしsage :2004/05/18(火) 22:01 ID:jF5U1ReY
「司教、おぬしには何が見える?」

「ハッ、猊下。私には見えます。戦の狼煙が、聖なる十字が、我々の機が。」

「うむ…そうだ。黙示の時だ。神の国はいずれ訪れよう…。王も貴族も貧民も異端者も売春婦
もおらぬ、神の元での完全な平等、理想の国家。
 …いや、国家などという下賤な物ではない。国家などというものはその毒牙を剥き、神の御名
を貶めてきた獣に過ぎぬ。
 この国は、とうに腐りきっておるよ。圧政、殺人、羨望、背信、怠惰、男色、淫蕩、異端…
彼のソドムやゴモラのようだとは思わぬか…?。

 大いなる回帰が必要なのだよ。神の火を以てして、十字軍を以てして、平等や国家
などという概念の現れる以前に世界は戻るのだ。」

---

「おかしい、何で…司祭様は、姉様は、騎士様達は、どこに行っちゃったって言うのよ!!」

「姉ちゃん、でかい声出すな…傷に響く…。それより水取ってくれよ」

大聖堂は、惨状を呈していた。本来そこを護っているはずの聖騎士団はおろか、修道女の一人も
居なかった。居たのはただ、水道で傷ついた者と、避難してきた人間だけ。護られるべき彼らが、
何の施しも受けず、そこに居た。あちこちでうめき声が上がり、死の気配と恐怖が、どんよりと澱んでいた。

そこへ飛び込んできた侍祭の少女は驚きのあまり外へもう一度飛び出し、ここが大聖堂であること
を確認して再び入ってきた。
疑問を抑えきれないままに彼女はヒールを施し、看病をした。ただ、聖堂一杯の傷病人に対して、
ヒーラーは彼女のみ。動ける者達はお互いに看護し合っているが、人手は全くもって足りなかった。

「アコさん…ポーションが…」
「裏庭にハーブがあるはずです!それを取ってきて下さい!」

「包帯が…」
「服を破いて使って!」

物資が人出が、足りなさすぎた。彼女が必死に走り回る内にも、けが人が次々と聖堂内へと
入ってきた。市街戦と、聖堂に入れば癒しが受けられるとの噂とが広まりだしたのだ。

動ける人間には協力してもらい、彼女はけが人だらけの廊下を何往復もした。
79丸いぼうしsage :2004/05/18(火) 22:02 ID:jF5U1ReY
「団長!ヘルマン団長!救援部隊を何人か大聖堂に!」

走りながら彼女はこめかみに手を当て必死に叫んだ。返事はない。

「クラーク少尉!、エメリッヒ師父!」

思いつくままに名前を呼ぶが、答えはなかった。

「みんな…どうしたって言うのよ!!」

頭の中の名前を全て叫び終わってしまったあとも、彼女は包帯を結び、力が回復するたびにヒールを施した。
そうしてハーブをすり下ろしているとき、ある名前が思い浮かんだ。
 彼女は首を振り、乳鉢にハーブを入れた。後ろでは助けを求める声がうなりのように響いていた。。
どこかで、誰かが泣き崩れた。一つの命が消え去ったからだ。

彼女はすり棒を持ったまま、下唇をかみしめた。そしてゆっくりと息を吐いて、こめかみに手を当てた。

「天国へ行きたかったら、私の言うことを聞いて下さい…」

---
僕は風を切って下水道への道を進んだ。時たま魔物が襲ってくるが、飛びながら移動詠唱を用いてたたき落としていく。
この数ですんでいると言うことは、騎士団は思いの外健闘しているらしい。
 後ろからは靴の音と荒い息づかい、そして木の車輪が石畳の上を転がっていく音が追ってくる。

突如、足音のペースが落ちた。流石にこれだけ走るとVit型のケミでも流石に厳しいか。

「どうしたね、ケミ君?、根性で走りたまえ」

「いえ、そうじゃなくて、Whisです…」

「誰から?」

「…アコさん」

…アコさん…というと…ポンコツの事ぁぁあっ!?
僕は思わず魔力を解除した。錫杖のフェイルソフト機能が働き、ふわり、と体が重量を取り戻した。

「一体何があった?あの性格から察するに99%あり得ないことだぞ!?」

「いや、後ろで色々聞こえて聞き取りづらいんですが…天国へ行きたいなら言うことを聞けと…」

「免罪を切り札に要請か?バカバカしい。免罪されれば天国へ行けると仮定しても
あのポンコツが免罪の権限を持っているとはとても思えない。時間の無駄だ。」

「…教授、待って下さい。向こうも相当ヤバいみたいです。」

向こうも相当ヤバい、そんなことは当たり前だ。ここは平時の首都なんかではないのだ。予想を二回りほど
上回る軍勢に攻略されている、敗勢の戦場なのだ。そんなことをいっている間にも、ホラ、建物の影から青い奴が…。

「ヤバいのは向こうだけのことじゃないと伝えてやれ!。聖騎士団が残ってるだけマシだろう!!」

魔法陣を展開しながら僕は叫んだ。「雷」のイメージを持つ9つの魔法陣が密集して展開し…爆ぜた。
加速されて撃ち出された荷電粒子が容赦なくハイオークの体を穿った。肉を削り取られ、目を射抜かれ、
どう、とハイオークは地面に倒れ伏した。

「いえ…違うんです…。大聖堂に、一人も聖騎士団員は居ないとのことです。それどころか、教会の人間
すら居ないそうです。それで、ヒーラーの要請を…」

聖騎士団が一人もいないというのは出兵したことを考えればまだ分かる。だが、教会関係者までいないというのは
どういう事だろうか。そんな状況の避難所兼野戦病院がどんなものか、容易に想像はつく。
確かに僕は簡単な治癒の魔術を使えるし、ケミも薬学には精通している。だが、僕らはここを離れ、謎を解くことを
放棄してはいけないのだ。

「ケミ君…とっとと大学のWhis窓口を教えてあげたまえ。大学には買いたてのヒルクリを使いたくて
仕方のない馬鹿学生がたくさんいるはずだ。」
80名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/18(火) 23:04 ID:oN4gIqww
>>72-75
 やるなら明日以降にしてくれ。今から言われても困る
>>76-77
 GJ。一点だけ。×深遠 ○深淵
8152だった人物sage :2004/05/18(火) 23:05 ID:RnXrbjTo
いやー、皆さん話の作り方が上手いですね……ただただ感心するばかりです。
それに比べて私の文のなんと稚拙なことか……変な解釈もしてしまうし……
でも、動かしたキャラは責任を持って動かそうと思います。
そんな訳で地上に向かうハンスの話です。

……何だかしっちゃかめっちゃかですが。
8252だった人物sage :2004/05/18(火) 23:06 ID:RnXrbjTo
地下の冷たい空気を疾風が切り裂いた。
普通なら吹くはずのない風……それは一人の男の仕業だった。
狂気の沙汰とも言えるスピードで、彼は走る。
何故走るのか? 理由はいろいろあるだろう。
国を守るため、人を守るため……しかし、真の理由は彼以外に誰も知らない。
いや、ひょっとしたら彼自身も知らないかもしれない。
それを探すためなのだろうか? 彼は走り続ける。
前方にモンスターの群れが現れる、しかし彼は止まろうとはしない。
大鎌を振り上げ、すれ違いざまに数匹の頸を刈り取る。
顔に返り血がかかり、視界を奪うが、それでも彼は止まらない。
階段を駆け上り、さらに彼は走り続ける。
水路を飛び越え、走る、走る、走る、走る――!
体中から悲鳴があがり、風圧が目を突き刺す。
しかし、彼は止まらない。
と、その時。彼の耳に怒号が飛び込んだ。
見ると、行く手にモンスターと人間とが入り乱れて戦っているのが確認できた。
普段なら加勢する所だが、今は残念ながらできない。
かといって、これほどの乱戦の中を通り抜けるのも難しいだろう。
そこで彼は前方で浮遊しているモンスター――ガーゴイル――に目をつけた。
意を決し、彼はガーゴイルに向かって跳んだ。
一瞬だけスピードを緩め、肩の上に着地する。
そして再び両足に力を込め……飛んだ。
下にいるモンスターや人間が、まるで急流にさらわれるかのように凄まじい勢いで流れていく。
それらを横目で見ながら、彼は飛ぶ。
そして着地、飛んだ勢いのまま再び走る。
前方に光が見えた。出口だ。
そこからは爆音、悲鳴、そして血の臭いが……漂ってきた。
光の中に飛び込む。と、同時に彼はようやく足を止めた。
目の前には……戦場があった。
数え切れないほどの生と死が入り交じった空間。
それを眺めながら彼は腰を下ろし、懐からポーションを取り出した。
封を切り、一気に飲み下す。
液体が喉を滑り落ちるのと同時に、体の疲れが驚異的な速度で回復していくのを感じた。
ビンから口を離すと、彼は大きく息を吐いた。
体力は万全、もう十分に戦えるはずだ。
彼は立ち上がり、モンスターの大軍に向かって走り出す。
そう……彼の役目はこれからなのだ。
8352だった人物sage :2004/05/18(火) 23:08 ID:RnXrbjTo
……どうでしょう?
ちょっと速すぎるだろ、って感じもしますが……許してください。
一応彼には聖騎士団と接触とかもさせたいかなって考えてます。

……詰め込みすぎかも……
84えべんは@リレーリレーsage :2004/05/19(水) 02:54 ID:wkVsTnPI
 転移を終えたバフォメットとその仔達の眼前に広がっていたのは、
 騎兵の集団と、ミョルニール山脈の峠へ至る丘陵地帯だった。
 素早く自らの位置を確認した魔王は、次に騎兵が怒号とともに馬首を巡らせるのを見た。
 かがり火を受けて槍が光る。
 瞬く間に槍衾が形成されるや否や、彼らは鬨の声とともに突撃を敢行した。

 ──飽くまでも退かぬというのか。
 魔王は怒りを感じた。
 騎兵の周囲の大地は、黒と赤のコントラストに染め上げられている。
 人間の死体もあるが、それ以上に魔王麾下の魔物の死骸が目についた。
 彼の女と出会う前の魔王であったなら、冷笑とともに紅の王を騎兵達に降ろしただろう。
 怒りなど感じず、羽虫を払うがごとく。

「父上っ?」
 仔の悲鳴。
 先頭の騎兵が支持する騎槍が、魔王に突き刺さった。
 突撃のエネルギーを乗せた三連刺突の一撃は、魔王をしてたたらを踏ませた。
 後続の騎兵は、眼前に迫っている。彼らは迷うことなく、魔王の命を貫かんとしていた。
 膨大な力を有する魔王でも、許容量を越えたダメージを受ければしばらくは動けない。

 ベータと呼ばれる時を経て、人も魔も、単純な力は確実に増している。
 だが魔王には、自分が強くなったのかどうかはわからなかった。
 それが証拠に、魔王は蒼ざめた刃を振るっていた。
 先頭の騎兵は片腕で騎槍を支えたまま、片手用の槍を構える。
 二撃目を加えようと槍を引く彼は、しかし槍を支える腕を残して四散した。

 魔王は静謐な声色で指示を出した。
「仔らよ。手を出すな」

「しかし……」
 幼生は不服そうに、ふるふると小刻みに身を震わせる。
「出すな」
「……わかりました」

 クレセントサイダーが夜を裂く。
 騎兵の第二波は、魔王に到達することなく肉塊へと姿を変えた。
 鎧に喰らいつく時の軽い手ごたえ、人間だったものに変える瞬間の喜笑。
 魔王が、魔王の振るう死が、騎兵達を蹂躙する。

 ──容赦はせぬ。否、できぬ。
 彼らは、同胞を殺した。彼らは、同じ理由で魔王に敵対している。
 だから魔王は、自らの手で彼らを殺さずにはいられなかった。

 彼らは前進をやめない。恐れがないわけではない、死を恐れないわけではない。
 魔王の思惑などわかるはずもなく、そのため彼らには逃げ道がなかった。
 後退することは、自らが守るものを放棄することだった。

 一度の突撃で半数を討たれた彼ら──あるいは討ち漏らされた彼らは、
 体勢を立て直すべく、一度目の衝突とは反対の方向に騎兵達は集う。
 隊列を整える時間を稼ぐためか、彼らはジャベリンを投擲した。

 まるで雨のように降り注ぐ、槍、槍、槍。
 ある物は魔王に突き刺さり、ある物は硬い体毛に弾かれ、
 ある物は見当違いの方向へ飛んでいく。

「ぬるいわ」
 さしたるダメージはなかった。集結する前に叩くことも、出来なくはないだろう。

 魔王の眼は、彼我の距離をゼロにする。
 隊列を整えながら、彼らはすれ違う同胞と別れを告げあっていた。
 互いの剣を、槍を、ガントレットを、彼らはがちがちと軽く打ち合わせる。
 そして持ち場に着いた者は、魔王をしかと見据えるのだ。
 震える腕で槍を支え、剣を構え、恐怖に眼が見開かれているくせに。

 ゆえに、魔王は留まった。

 同情ではなかった。憐憫でもなかった。なぜなら魔王は、彼らが憎い。
 しかし、どうして留まるのか、どうして到来を待つのか、
 魔王は自分の行動が理解できなかった。
 ──果たして我は、弱くなったのであろうか。
 魔王の眼が、彼らの唇を読む。

 ──ぶっ殺してやる!
 憤激に顔を歪める勇ましい騎士がいた。

 ──怖くない、怖くない……
 固く目をつむって戦く騎士がいた。

 ──逃げねぇよ! 俺の後ろにゃあいつらがいる!
 片腕を失いながらも、仲間に向かって啖呵を切る騎士がいた。

 ──死にたくないよ……
 闇夜に覗く満月を見上げて呟く騎士がいた。

 ──母さん、僕がいなくなっても大丈夫かな……
 東南の方角を見つめる騎士がいた。

 ──カッコ良く、死ねるかな?
 自らの相棒に語りかける騎士がいた。

 ──あーあ。あんたのふとももで、って決めてたのにな
 隣の騎士に苦笑を浮かべる騎士がいた。

 ──あはは、ばーか
 朗らかに笑う騎士がいた。

「多くの同胞が散った。勝てる見込みはわずかだ」
 それはまるで勝ち鬨のような、雄々しい声だった。
「しかし、戦うべきは今だ。己が最期まで騎士であれ!」
 怒声をあげる騎士の集団が、三つに割れる。
 左右に迂回機動をとる部隊がふたつ、正面からは三段構えの槍衾がひとつ。
 彼らの目標はただひとつ。いずれかの剣槍にて、魔王の命を穿つこと。

「……来るがいい、強く脆弱な者どもよ」
 魔王の脳裏には、これからの修羅場ではなく、彼の女と仔達の笑顔が浮かんでいた。
85えべんは@リレーリレーsage :2004/05/19(水) 02:55 ID:wkVsTnPI
 鉄の臭いと、人体が焼けるとき特有の異様な臭いが、
 慣れていない者ならば発狂しかねないほどの濃密さで漂っている。
 臭いの粒子が巨大な固まりを作って、鼻腔粘膜を刺激しているようだった。

「まだだ」
 飛び掛る毒蛇を叩き落すと、ヘルマンはサーベルを投げ捨てた。
 ハンターフライの硬い皮を貫きすぎて刃が潰れ、鈍器と化してしまったからだ。
 再び飛びかかってくる毒蛇を、今度は片手槍で叩き落し、
 騎鳥の足でずたずたに踏みにじった。

「『水道の蓋』、フォン=フリッシュ将軍より伝令!
 例の教授殿と助手殿を捕捉、処遇を仰ぐ!」
「構わん、通せ! 冒険者達も好きにさせろ! だが、他はなにものをも通すな!」

 怒鳴りながらも手は止まらない。
 落馬した騎士にとどめを刺そうと腕を振り上げるレイブオルマイを投擲した槍で貫き、
 即座にダマスカスを構えたかと思えば、
 赤い風のように群れて襲いくるハンターフライにボウリングバッシュをお見舞いする。

「北門防衛軍より伝令! 前線にバフォメット出現、あたった第八連隊は全滅!」
 ヘルマンは刹那のあいだ目を閉じた。
 ひとりひとりの名前が、顔が、ヘルマンの脳裏に浮かんでは脳細胞に刻まれていく。
「現状は!」

「バフォメットは少しづつ後退しながら、魔物を集めている模様。追撃をかけますか?」
 ヘルマンは逡巡した。
 北門を守る兵力、南門にまわすべき兵力、ここを支えるための兵力。
 戦況は決して楽ではない。兵の数が違うのだ。
 先ほど、グラストヘイムとゲフェニアの魔物の到来を斥候が伝えている。
 ウィザード達に応援は要請したものの、
 あちらはあちらで手一杯らしく、返答は芳しいものではなかった。

 フェイヨンとアルベルタ、ジュノーを頼るにしても、時間を稼がねばならない。
 ワープポータルで輸送可能な人員には限りがある。
 逐次投入しても逐一討たれては意味がないのだ。

 しかし後退するほどの手傷を負ったと思われるバフォメットを、
 みすみす見逃すのは愚かな選択に思える。
 どれほどの時間がかかるかはわからないが、戦力が回復すれば再び襲ってくるに違いない。
 そうなった際に退けられるかどうかは神のみぞ知る。
 ヘルマンは目まぐるしく、脳内の戦況図を書き換え、回転させる。

 上水道へ向かった彼らのことが思い返される。
 彼らが目的を達成する可能性と、できない可能性はおそらく後者が高いに違いない。
 それほど、今回の事態は切迫している。
 しかし彼らに託したのは、自分なのだ。果たしてヘルマンは、決断した。
「……捨て置け。我らが使命は王都の死守、再び侵攻してくるようなら特務部隊をあてろ!」

 北方へ駆けだした伝令を見送ったのち、ヘルマンは一度王都に視線を振り向けた。
 聖騎士団はいったいなにをしているのか。これが聖戦でなくて、なにが聖戦なのか。

「伝令!」
「なんだ」
 ヘルマンは辟易しはじめた自分を殺す。

「第三連隊が突破されました! レイドリックをはじめとしたグラストヘイム騎士団が──」
 唐突に伝令の額から、鋭い矢が生えた。
 ヘルマンは激しい舌打ちとともに、飛来する矢を切り払う。
 弓を構えた空洞の鎧が、南に流れる小川を渡ってきていた。

「ベネディクト!」
 ヘルマンは遊撃にあたっている寡黙な将軍にWhisを送った。
 将軍の返事はいつもと変わらない、抑揚のない声だった。
「いかがなされた……」

「第三連隊が抜かれた。突破された分は我らが受け持つ、穴を埋めてくれ」
「我が隊は現在、ゲフェニアの悪魔どもと交戦中。不可能です」
「……わかった、そちらを抜かせるな」
「了解」

 ウインザー=ベネディクト率いる遊撃部隊の穴埋めが不可能となると、
 防御網が薄くなるのを覚悟で他部隊の戦力を割くしかなかった。
 どの部隊に命じるか。しばしのあいだ黙考するヘルマンに、
 がちゃがちゃと鎧をうるさく鳴らしながら、レイドリックが向かって来ていた。

「団長殿!」
 いささか突出気味のヘルマンを案じて、部下が数騎駆け出す。
 が、各々に張り付くようにカーリッツバーグが立ちふさがり、
 ヘルマンは孤立した状態に陥ってしまう。

 ──抜かった!
 重剣の一撃が思考を中断させ、ヘルマンの盾に直撃する。
 続く二本は騎鳥を駆ることで避けるが、受けた左腕が痺れている。
 飛来する矢がヘルマンの鎧をへこませ、連続する斬撃がヘルマンの神経を削る。

 駄目押しとばかりにカーリッツバーグが接近しはじめた時だった。
 交差した刃渡り30pほどの武器が、ヘルマンの背後から振り下ろされた重剣を受け止めた。

「絶対者麾下、十名。推して参る」
 唐突に降って湧いた紫影はそう言い捨てると、ヘルマンの視界を駆け抜けた。
「なんだと?」

「ずいぶんと衰えたな、ウェポンマスター」
 驚くヘルマンに淡々と辛辣な言葉を吐くのは、目隠しをした長髪の男だった。
 アサシンが好んで使うジャマダハルを腰に下げ、悠然と闇夜に佇んでいた。
 ヘルマンは信じられないといった様子で、彼に言葉をかける。

「よもやお前が出てくるとはな、ニノ。モロクの守りはいいのか?」
「そもそも我らはかの都市とは関係が無い。どうなろうが知ったことか」
 紫影は次々とレイドリックをただの鎧へと変えていく。
 足止めを食っていた騎兵達も、ようやくカーリッツバーグを打ち倒したようだった。

「相変わらずだな。しかし、もっと手勢を連れてきてもよかったろうに」
 ヘルマンはにやりと笑う。余裕が戻ってきた証拠だった。
「この場に参じたのは我が直属のみ。大半はアルベルタに渡った」

「合流のためか」
「他に理由があるか?」
「……どういう風の吹き回しだ」
「プロンテラの犬ごときに与するのは気に食わんが、
 十字軍どもの思惑どおりになるよりは幾分マシということだ。……彼奴ら、臭うぞ」

 今度こそヘルマンは、辟易として言った。
「……教会というのは、どこも埃まみれなものだからな」
「埃叩きか?」
「先日の件もある。好きにはさせぬ」

「ふむ。闘犬観戦と洒落こみたいところだが、片方が手負いでは興ざめだな。
 我らが出向こう」
「……手隙ができ次第、騎士団も向かわせる。任せた」

「急ぎ馳せ参じようとも、骨はないぞ?」
 それは犬と揶揄した騎士団の目標を示唆するのか、はたまた自らへの自負なのか。
 ニノは不敵に言い放つと、ジャマダハルを装着した。
 アサシンは手近な一体へ音もなく接近すると、瞬きの間に解体を終えた。
 ヘルマンは呆れたように、しかし頼もしげにニノを見やった。

「つまらん台詞を吐く。……十五年ぶりか、盾を並べるのは」
「十六年だ」
 いつの間にか、満月が顔を出していた。
86名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/19(水) 03:04 ID:wkVsTnPI
今回投稿分は以上です。
また活性化して嬉しい限り、日々の楽しみが増えました。

指○のようだという感想をいただきまして、
嬉しいやら、意識して書いたのがモロバレだったのかと思うと恥ずかしくもあり。
戦闘開始以前の騎士団と比べるとギャップが過ぎるような気もしますが、
セオ○ンの例もあることだし、と月を引き合いに出しながらすっぽんへのご容赦をお願いする次第。

感想くださった方、多謝です。励みになります。
87名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/19(水) 11:17 ID:CEuaII6o
話がどんどん大きくなってくなぁヽ( ´ー`)ノ
8893@懺悔室sage :2004/05/19(水) 13:36 ID:VcpX2YZY
----
 大聖堂

 癒し、支え、祈り、…看取る。目が回るように忙しく、一人を診る間に次の救いを
求める声が増えていく。きりがない。自分ひとりではなにもできない。異端者にすら
助けを求めたが、無駄だった。…魔法学校にWhisなど、あいつに通話する前にとっくに
している。最後でなければ…あいつになど、頼るものか。触れれば切れるような視線と、
始終冷笑を浮かべているか怒っている姿しか覚えていない口元とを思い浮かべて、
少女は下唇を噛んだ。

 ……結局、あいつも…、何でもできるわけじゃない。神様じゃないんだから。

 自分の膝の上で、誰か知らない女性の名を呟いていた青年の手を、彼女は握り返す。
そっと、でも強く。青年の眉間から皺が取れ、ふっと口元に微笑が浮かび……手から、
力が抜けた。
 無力さに歯噛みをしながら、それでも次の声に応えるべく少女はまた立ち上がる。
それは、幾度と無く、数える気も無いくらい繰り返された光景だった。ついさっき、
水道の水が赤かったくらいで悲鳴を上げて神に救いを求めていた自分が可笑しく思える。
今、この場所にこそ神の救いが欲しいのに。

 …その時、片手を釣った少年がおずおずと声を掛けた。
「…俺、片手は動かないけど…、それでも。手伝えることないか?」
 少し上ずった、それでいてしっかりした声が、聖堂に響き…、束の間、苦痛のうめき
声に支配されていた空間が晴れたように感じられる。壁にもたれるように座っていた、
片足の無い女性が俯いていた顔をあげた。
「…わ、私も! 水に浸した布、絞るくらいならこんなでもできるわ」
 柱の下でうずくまっていた老人も片手を挙げる。
「ワシも若い頃、ナミさんに看護心得を教わったことがあるでな」
「(……あんたが若い頃って…ナミさんって一体…)」
 それを皮切りに、幾ばくか、まだ動けるものが少女に指示を仰いできた。大勢の怪我人
に対して、その数は多くはないけれども。

「あの、…皆さんができることを、してください」
 今までに他人に指示などしたことが無い、下級の聖職者の少女にはそれが精一杯。
最初に声をあげた少年は、彼女の声に大きく頷いた。
「わかりました! 聖女様」


 くるりと振り向き、駆け出そうとした少年は、先刻まではいなかった誰かに勢い良く
ぶつかった。少女がその鈍い音に目をやると…、そこにいたのは、染み一つ無い鎧を
身に纏った聖騎士だった。彼女も知っている団長と、その脇に二人の若い騎士。そして
その後ろには大聖堂詰めの司教の姿。彼らは、さっきまでは確かに誰もいなかった筈の、
奥の間から出てきたところだった。反動で転び掛けていた少年を、団長の右の若い聖
騎士が乱暴に掴み
「うあ!」
 左手に装飾の施された兜を抱えているため、あいた右手一本で少年の頭を鷲づかみに
して持ち上げた。苦痛に歪む少年の顔を、微笑んだまま表情一つ変えぬ聖騎士が、
目だけで睨む。
「少年…君は、何と言った? もう一度言ってみたまえ」
「…聖騎士さま! おやめください、その子は怪我を…」
 少女の声は一顧だにされず、若いその聖騎士はぎりり、と歯を鳴らした。まだ、口元は
微笑みの形のまま。
「聖女とは! 神の名において教会のみが審査し、神の意ありとなって初めて許される
 物だ…少年。わかったかね?」
「…うぁ…く…」
「やめたまえヤコブくん。その少年にも悪意があったわけではあるまい」
 ぶるぶる震え始めた少年に、ようやく団長が若い聖騎士を止めた。それから周囲を
見回し、ややあってから初めて気がついたかのようなそぶりでアコライトの少女に目を
留める。
「……これはどういうことかね? 彼らはなぜ、ここにいるのだ?」
「名を名乗りなさい。妹よ、あなたは大聖堂づきの者ではないでしょう?」
 右の聖騎士が、少年を放り出してまた、彼女に口元だけの笑みを浮かべてみせた。その
顔に何故か吐き気を催して、彼女は目をそらす。その視界の隅で、団長の左側に立つ、初老の
騎士が目を落ちつかなげに左右に向けては、首を振っているのを見て少し落ち着いた。
彼女の感覚が、とりたてて異常というわけではないのだ。

「名前は」
「……首都騎士団本部つき侍祭、クレア、です」
「どういうことだ、シスタークレア。ここは神の社。日曜以外には礼拝の間を信徒に解放
 しては居らぬぞ?」
 司教が言葉を継ぐ。三人の聖騎士と、司教。華麗な重甲冑と法衣。そこだけが別世界の
ように周囲の血と、痛みのうめき声が織り成す光景から浮き上がっていた。彼らは周りの
惨状を見てもなお、外で何が起きているのかわからないのだろうか。

(告発するなら事態が終結したあと自由にしたまえ!
   ただ、今はそんなことを言っている場合じゃない。
      ……この教条主義者め!!)

 いつか言われた言葉と顔が頭によぎり、少女…クレアはまた下唇を噛んだ。

「…外では、戦いが続いています。騎士団の皆様と…その、…協力者の方々と」
 何故、あの学者の事を異端者と口にしなかったのか、自分でもわからない。
「彼らは、教会を頼って避難をしてきた方です。私は、彼らの看護を続けます」
 それ以上、彼らを見ているのが辛くなり、少女は目をそらした。その肩を、司教が掴む。
「待ちたまえ。彼らを追い出せ。ここはこれから聖騎士団の作戦本部になるのだ」

 それが、神の慈愛をとくべき立場の司教がいう言葉とは。大聖堂は、徳の高い聖職がいる、
神に最も近い場所だとクレアは聞いていた。
「…待ってください。彼らは…他に行く場所が」
「気高くも美しき妹よ、今この世界は未曾有の危機に面している。その戦いの為には
 我等は喜んで命を捨てるよ。……だから、君達もそうしたまえ」
 と、右側の騎士がはりついたままの微笑で、腰の剣に軽く手を置きながら言うのを、
少女は唖然として聞いていた。
「……ヤコブ君」
「はっ」
 団長の声に、若い聖騎士はにやついたままその手を止める。
「…神は慈悲を施せとおっしゃっている。貴君の熱心さは買うが」
 言いながら、団長が懐に手を入れ、何か重そうな袋を引き出した。そのまま、クレアの
足元に投げると、その袋はどしゃり…と音を立てた。
「1Mzenyある。これで南西の酒場を接収したまえ」
「……え」
「団長殿?」
 少女と司祭が驚きの声を上げる。理由は、おそらく正反対だが。、
「足りなければまだ出そう。…私の私財だ、教会の負担になるわけではない。ならば問題
 はないだろう? 司教」
「ははっ…団長殿の慈愛、さすがは聖騎士団の筆頭に立たれるお方」
 頭を下げる司教を見て、クレアは胸のむかつきが更に高まるのを感じた。怪我人ばかり
のこの状況で。場所を移れというのは…何人かに死ねと言っているのだと司教にはわかって
いるのだろうか。思わず声をあげかけた少女の目を、左側の初老の聖騎士が捕らえた。
軽く、首をふり、口元だけで小さく。
「…駄目だ。一時の満足で後の事を考えぬのは、愚か。残される彼らの事を第一に」

 クレアは、うなだれ屈服した。


 負傷者達は去った。入れ替わりに、地下の秘匿回廊から出てきた聖騎士団が聖堂を埋める。
「…諸君。世界に神の意を表す時が来た。全ては、神の御手に」
 司教が彼らに祝福を授けるのを見つつ、聖騎士団長は足下の兵卒の死骸から剣を引き抜く。
職務怠惰の罪で聖堂の門番二名を切り捨てた彼の剣は、曇り一つ残していなかった。
「…ヤコブ君」
「は」
「首都に敵を引き込むルートだがな。南西の城壁を崩したまえ」
「……了解いたしました、団長閣下」


----
 駄目アコたん萌えな93です。今回の狙いは、嫌ってる相手が何かのきっかけで…なラブコメ
ルートを微妙に意識しつつ、呼び名を異端者からあいつにシフトしたり。専門分野じゃ物凄い
けど食事とか自己管理最低っぽい独身でえりぃとな学者先生にぶつけてやるべく下準備っ。
誰か彼に工業用水コーヒーをもう一度飲ましてやってください。

 ついでに聖女とか周囲に言わせてママプリと絡ませる下地を作ってみたり。クレアという聖女
には、お祈りで異教徒を追い返したという結構面白い逸話があって、イケそうなので勝手に名前に
してみました。
8993@pukiwikisage :2004/05/19(水) 18:38 ID:VcpX2YZY
アドレスが長くてすみませんけど、自分用に作ったこれ、おいていきますね・・・。お役に立ててください。
(色々ずれてるとこあるけど・・・
http://cgi.f38.aaacafe.ne.jp/~charlot/pukiwiki/pukiwiki.php?%5B%5B%3A%A5%EA%A5%EC%A1%BC%C5%D0%BE%EC%BF%CD%CA%AA%A5%E1%A5%E2%5D%5D

ていうか、整理すると名前とか髪とか目とかの設定ある人って少なかったのですね。拾い漏れなどあるかもですが。
ハンス隊の皆様、577氏のアサ姐さんなどの元のSSまではおっかけてないので、そっちにあるのかもなー。577氏のは
コラボ書いてるときに調べて全部読み直して見つけたような記憶があるから・・・。

…なんか座談会っぽいことをするなら今のうちっぽ? Lydiaの下水入り口付近に騎士娘で座ってみようかな…。
8時くらいになるだろうけどっ
90577と名乗っていたものsage :2004/05/19(水) 21:27 ID:A9SJa9X6
|∀・)

投稿、ソコノマド君変身

|彡サッ
91577と名乗っていたものsage :2004/05/19(水) 21:28 ID:A9SJa9X6
「立派な方だったなあ・・・僕もいずれあんなふうになりたい
・・・。」

「うん・・・、貴方ならきっと・・・。」

「・・・」

僕は言葉を切ると彼女の体をそっと引き寄せ、
生まれてはじめての
快楽を隅々まで味わっていた。
といっても彼女と一緒に居るだけだけれども、どんなにお金を
積まれても、
またどんなに力を貰えるとしても、この瞬間を売り渡すことな
んて出来ない。
愛しい人の鼓動を感じられるということ・・・。
幸福と不安が混じった感情に耐え切れず、
何か彼女に伝えたいと思ったのだけれど、
それを口にする前に彼女が身動きすると、
こちらに向かって切り出す。


「ねえ、こうしているだけじゃ悪いから・・・いこう?」

「行こう?ってどこに?」

「決まってるじゃない、マスターのところよ、あの方は
『今はちょっとお前らが居ると作業の邪魔になる・・・。
外しておいてくれ』っていったわよね。」

「うん・・・僕が真面目に仕事していなかったから・・・。」

しょげる僕の指先を、彼女は自分の指先で弾いてから
続きの言葉をつむいでいく。

「だから!、ねえ、名誉挽回するべきでしょう?
私達が力を合わせれば出来ないことなんてないわ、そうでしょ
?」

「力を合わせる・・・って?」

「私と・・・一つになって・・・。
なんでかわかるの、貴方と私・・・融合すればもっと・・・。


そこで赤く染まる彼女を前にして、
僕は発せられた言葉の意味を理解すると同時に
泥が一瞬で乾いてしまいそうな衝撃を受けた。
一緒になるって・・・。
また先ほどのパニックが襲ってきて、僕が手を左右にふって
おろおろしていると彼女が、
その手をしっかりと握ってこちらに詰め寄る。

「・・・ねえ、ね、いくよ・・・。」

「あ、は、はいっ!・・・お願いします・・・。」

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

彼女の体が覆いかぶさってくると、自分の体がそれに呼応する
ように溶け出し
二人の体がひとつに混じり合っていく。
進化というのはこのようなものなのだろうか・・・。
二つであったものが一つに、そしてより強靭な核を作り上げる

お互いの意識をその左右に配置して、肉体の元が周囲を固めて
いく。
液体から固体に、そしてまた液体へと、
形態を変化させながら一定のリズムで揺れていく僕達。
元の体より硬くて柔らかく、弱くて強い、
土で出来た足が地を踏みしめ、次に胴体と手がかたちづく
られ
出来上がったのは蒼い体の・・・。

「うわあ!凄い・・・ねえ!、聞こえる?ねえ?僕達本当に合
体したんだね!。」

「うん・・・凄い・・・貴方の存在をとても身近に感じる・・
・。
でも・・・『頭が無いゴーレム』って感じだね・・・。」

「う・・・そうだね・・・、ウルトラマンのジャミラみたいだねハハ・・・。」

「なにそれ?」

「・・・知らなくていいと思うよ、君は・・・。」

右腕を自分で操ってみて、パワーにはしゃいでいた自分は、
自分の姿を指先で撫で回して、言葉通りだということを確認して少し
興奮が冷めてしまった。
まさに頭のない巨人、その部分まで作る余力が今の僕らにはないのだろうが、
それでも人型になるとどうも頭がないというのが気になる。
僕はちょっと考えて・・・。
そして適当なものを探しながら近くをうろついていると・・・。

ドサッ

「きゃっ!、なに!?」

「あ・・・オークさんかな・・・死んでいるみたいだ・・・。」

「さっきの方の部下かな?・・・可愛そう・・・。」

「多分・・・。」

騎士の槍にやられたのだろう、胸には大きな穴が一つだけあり、
逃げる途中に力尽きたのだろう、体の汚れも殆どない。
しかし無念そうなその表情・・・。
僕はその戦士に向かって黙祷をささげると、彼の兜をそっと外して
自分の頭に当る部分に乗せてから、彼女にそっと囁く。

「いこう」

「行こう?って・・・マスターのところ?」

「いや、まずは彼に恩を返さなきゃ、僕は・・・そうしないと
いけないような気がするんだ。
ゴメン・・・勝手なこと言って。」

「ううん、そう言うと思った。」

「え?」

彼女の想いが僕の心をくすぐった様に感じた後、
彼女の操る左手が、オークロードさんが通って行った方向を示す。
僕たちは心を一つにして、右足を大きく踏み出し、左足を前に運び、
彼と、マスターの力になりたいという決意を胸に、
闇の中へ駆け出していったのでした・・・。

ずしーん、ずしーん
92577と名乗っていたものsage :2004/05/19(水) 21:29 ID:A9SJa9X6
|∀・)

このスレ凄いスピードだねえ・・・。

|彡サッ
93名無しさん(*´Д`)ハァハァsageいやGJですよ? :2004/05/19(水) 21:45 ID:8JU4518c
というかほぼリレー小説専用スレになっているようなななナニヲスルー>[上水道]<ドカバキグシャ
94名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/19(水) 21:52 ID:OdMgkTfQ
リレー小説で栄えるのは微笑ましいことだけど
SSが好きな自分はちょっと(´・ω・`)ションボリ
95名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/19(水) 22:28 ID:DCrTriP2
|_、_  n
|_ノ')( E)<書こうぜ
96名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/20(木) 03:42 ID:dqmnyH6I
ギィ・・・船と陸地とをつなぐ板切れが音を立てる。
今まで何度も通っているが、やはり慣れないもんだ。
ここは港町アルベルタ、港がある以外大した特徴もなく、閑散としている。
しかし、蚤の市がある日は別だ。各地から商人たちが集まり、見たこともない品や、
はたまた日常雑貨まで色々な物を売っている。
俺もそんな例に漏れず、普段こんな所には来やしない。ビバ、蚤市。

(さて、適当に買出しやらしないとな。店に並べるもんがない)
店で化け餌やら羽やらを買い、ついでだったので商人ギルドにポットを作りに行くことにした。
店で買うのもいいが、安く抑えるには瓶とハーブ持ってじーさんに作ってもらう。これ最強。
ただ瓶とハーブ集めるのに時間がかかる。素人にはお勧めできない。まぁお前らみたいなトーシロは・・・
って何を語ってるんだ俺は。とっととポット作って露店でもしよう・・・。

「えーっ!?そんなぁー!!」
商人ギルドに入った途端、いきなりの叫び声に思わず耳を塞いでしまった。
誰だ!こんなところでラウドボイスしてるやつは!
こっちもラウドで対抗してやろうと思って見てみると、マルスとノービスがもめていた。

「よ、マルスのおやっさん。元気してた?」
とりあえず社交辞令代わりに声をかけてみる。
「お、久しぶりじゃねーか!そんな前はだけちゃってまぁ・・・お前こそ元気してたか?」
「お陰様で。ところでさっきから何もめてんの?」
「いや・・・それがなぁ」
「ちょっと!あたしの話きーてんの!?」
「元気なお嬢さんだな」
「元気過ぎて困ってるんだよ、こっちは」

そう言ってマルスは頭を抱え込んだ。
どうやらこのお嬢さん、商人になるための上納金1000zが払えないでいるらしいが、
説明しても知らぬ存ぜぬ聞く耳持たずで、だったら安くしろ!とごねているらしい。
いきなり値切りに入るなんて商人として中々の逸材だとは思うが、流石にちょっといただけない。
ここは俺がきちんと社会の仕組みを教えてやらねば・・・。

「ちょいとそこのきm」
「別にいいじゃない!1000zを300zにするくらい!」
おいおい・・・7割引かよ・・・。
「普段儲けてるんだから、たまには損しなさいよー!」
俺なんて普段露店は赤字だが・・・。
「おーい」
「うっるさいわね!黙っててよ男娼!」
・・・。もう俺の心はボロボロだ!

こうして小一時間ほど論争は続いた。
その間俺はというと、真横でうなだれていたわけで。
「もういいわよ!分からずや!」
どうやらノービスちゃんは諦めたらしい。俺もポット作って帰るとしよう。
「ちょっとおにーさん」
と、そこで唐突に声をかけられた。俺?というような顔をしてそちらを見返す。
「あたしとあなたとそこのガンコ野郎以外に誰かいるの?」
なるほど、確かに周りを見回しても誰もいない。
「いや、俺と君とがんこやr・・・もといおやっさんしかいないみたいだけど」
「でしょ。だからお金ちょーだい」
・・・!?まじっすかこの娘は!現所持金6271zの俺から金取ろうっていいますか!
「ちょ、ちょっと俺今金が無くて・・・」
「何よ。男のくせに金持ってないなんてサイテーね〜。だからモテないのよ」
ああ、お母さん。僕は生まれてこのかた、真面目に生きてきたつもりなのになぜこんな仕打ちを受けるのでしょうか?
神がいるならお救い願いたい・・・。

しかし流石の俺も腹が立ってきた。いくらなんでもここまで言われて黙ってられる人間じゃあないぞ。
「あのさ、自分で敵を倒して収集品集めて、それを売ってお金を貯めたらいいじゃないか」
「できるならしてるわよ。でも敵倒してもせいぜい5〜6zでしょ?
 目標額まで、あと1200匹くらい倒さなきゃいけないじゃない。めんどーでやってられないわ」
・・・最近のノービスってこんな考えだったのか。俺のときはルナティックやらファブルやら狩って、
ちくちくとやわ毛集めて金貯めたというのに・・・。
「ソロ辛いなら、手伝おうか?」
いくら腹立たしい小娘とはいえ、所詮はまだノービス。辛いところもあるだろう。
と思い俺は声をかけた。だが
「手伝うくらいならお金ちょーだい。くれないなら一人で狩りするわ」
世間の風は冷たかった・・・。
97名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/20(木) 03:43 ID:dqmnyH6I
そう言ってあたしは商人ギルドを後にした。
今までだってソロだったし、多分これからもソロだし、全然辛くない。
しかしギルド員は頑固だし、横にいたやつも暗かったし、商人ギルドって最低ねー・・・。
商人目指すのやめようかしら?
そんなことを思いつつ、気づいたら町外れに来ていた。
さ、とっとと700z貯めるわよー。

手当たり次第に敵を殴っていく。ポリンをぶよっ。ファブルをぺちょっ。ルナティックは・・・可愛いからいいや。
プパも外見上あまり叩きたくはないけど、反撃してこないので楽だから叩く。ぺちぺち。
はー・・・何でDEX−LUKなんかにしちゃったかな。お陰で避けれないし痛いじゃないの。あたしの馬鹿。

ふと、人の気配を感じてあたしは周りを見た。
「あれ、あなたもしかしてさっきの貧乏なおにーさん?」
「げ・・・見つかっちまった」
「なになに?やっぱり700zくれるつもりにでもなったの?」
「いや、暇だから見にきただけ」
何だこいつ。役に立たないというか・・・。
「はぁ?何それ。町で露店でもしてなさいよ」
「それが誰かさんの騒ぎに巻き込まれたお陰で、町は人がめちゃくちゃに集まってきてな。
 どうやら今日はもう、露店を開くスペースもなさそうだ」
「ふーん、そう。ま、邪魔しないならそこいてもいいわよ」

なんか嫌味を言われた気がするけど、そばにいたのはこいつだし、あたしは悪くないっと。
「で、君は何で商人になりたいんだ?」
「そういうおにーさんは何でなったわけ?」
「俺かぁ。物の売買に興味があったからってことか」
なんて変わり映えのないやつ。ま、そんな平凡な考えだから地味なのかもね。
「地味ねー・・・外見にも現れてるじゃない」
「うるせーな。だから君はどうしてなんだよ」
「実家が商売やってるのよ」
「ふむふむ・・・それで?」
「いや、だから商人になりたいの」
「・・・」
「これでも結構裕福な家庭の出なのよー」
「いや、もういい」
ちょっと何よ!これからがいいところだったのに!
所詮凡人には通じないのかしらね。ああ、なんかあたしってば悲劇のヒロインみたい。

しばらく歩いていると、どうやら町からだいぶ離れてきたらしい。
側に看板があったので見てみよっと。えーっと、ここはフェイヨン7区です・・・か。
「ねーおにーさん、フェイヨン7区って・・・あれ?」
さっきまで後ろにいたはずの男がいなくなっていた。いや、別にいてもいなくても変わらないんだけどね。
「必要なときにいないって、ほんと役立たずねー・・・」

振り返ってまた道を進もうとしたとき、ウィローが目に入った。
ま、たまにはウィロー殴るのもいいわねー。フェイヨンも近いみたいだから、
このまま木屑集めてアーチャーになろうかしら。なんちゃって。

そんなことを考えながら、ウィローに近づいてナイフで切りかかった。刹那───
ドガッ!
そんな音と、激しい衝撃があたしを打ち倒す。
何が何だか分からないまま、2回目の衝撃があたしを襲う。
ズガッ!
ミシミシと音がして、骨がきしむ。内臓が傷む。
・・・そういえば聞いたことがある。長い時間を生きたウィローは、エルダーウィローとなって人を襲うって。
立ち上がろうとして、3回目の衝撃が来た。
ガンッ!
痛い・・・痛い・・・。声を上げることもできない。このままあたしは死んじゃうんだろうか?
横たわったままエルダーウィローのほうを見ると、何か詠唱をしているみたいだった。
もう体力も残っていないのに、魔法なんかくらったら本当に死んじゃいそうだ。
嫌だよ・・・あたしまだ何もしてないのに・・・。
商人になってもいないし、夢も叶えていない。それなのに死ぬのは、絶対嫌だ!
そんなことを考えているうちに、もうすぐ詠唱も終わりそうだった。
いくら嫌だと思っても、死ぬときは死んじゃうんだ・・・。
あたしはそう悟って、最後の瞬間の前に目を閉じた。

しかし、待っていたはずの(厳密に言えば待っちゃいないんだけど)魔法はこなかった。
代わりに声が聞こえた。
「おい!大丈夫か!!」
誰かが来てくれたみたいだ・・・よかった。誰だろう?せめてお礼くらいは言わなきゃ。
そう思いあたしは声のしたほうを見た。
「おにーさん・・・」
「よかった。ギリギリ大丈夫みたいだな」
驚いたことに、助けに来たのはあのキングオブ役立たずだった。
「なによ、帰ったと思ってたのに・・・邪魔しないでって言ったじゃな・・う」
「しばらく寝てろ。ボロボロじゃねーか」
そんなことない。と言おうとして、あたしの目の前は真っ暗になった。
やっぱり体は正直だ・・・。

しばらくして、温かい背中の上で目が覚めた。
ゆさゆさと、小刻みに揺れる背中が心地よかった・・・。
98名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/20(木) 03:43 ID:dqmnyH6I
「あたしの家、裕福だったのよ」
唐突に、背中から声が聞こえた。
「ああ、聞いた」
「違うの。 だった のよ」
聞きながら俺は森を歩く。もうエルダーウィローの出る場所も抜けただろうか。
「結構大きな家に住んでて、何不自由なく生活して・・・
 あのままだったら商人になろうなんて思わなかったでしょーね」
じゃあ何で・・・と言いそうになって、俺は慌てて口をつぐんだ。何となく俺から聞くべき話じゃないと思ったからだ。
「役立たずなのに、こーゆーときは優しいのね」
「降りて歩いて帰るか?」
くす・・・と苦笑いが聞こえたような気がした。その後、背中をもぞもぞするような感触があった。
嫌だという意思表示でもしてるんだろう。俺はそのまま歩き続けた。

「パパがね、商人だったの」
しばらく歩いていると、また突然声が聞こえた。
「おう、それも聞いたと思うぞ」
「商人っていっても、その辺の露店商なんかじゃないわよ。
 アマツとかジュノーとかから、品物を仕入れてこっちで売ってたの。いわゆる貿易商ってやつ」
そのくらいなら俺も聞いたことがある。ちょっと規模の大きい転売くらいの認識しかないが。
「でも、ある日積荷を乗せた船が沈んじゃったの」
「・・・」
「それが元でお金を失って、今じゃ家族全員バラバラよ。
 パパは腕の立たない精錬技師。ママは娼館で毎日男たちの相手・・・
 あたしは冒険者組合から生活保護を受けれたから、今まで無事に育ってこれたんだけどね」
そこまで喋って、背中のお荷物は黙り込んだ。
・・・と思ったらどうやら寝たらしい。あれだけダメージを受けていたんだから当然だよなぁ。
俺は起こさないよう、少しスピードをゆるめて歩き続けた。

思えば、商人になりたい理由が、商人になるのを急ぐ理由だったのかもしれない。
早く金を稼ぎたいから、商人になりたい。短絡的だが間違っちゃいない。
(まぁ、商人になったからって確実に稼げるわけでもないけどな・・・)
俺自身のことを考えると、つくづくそう思う・・・はぁ。

二時間ほど歩いて、アルベルタに戻ってきた。
暗い森を抜ければまだ日は高くて、初夏の日差しが少し暑い。
・・・とりあえず背中で寝こけてる荷物を起こすとしよう。
99名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/20(木) 03:44 ID:dqmnyH6I
「おーい、起きんかい生もの」
声をかけられて、あたしは目を覚ました。
「ん・・・あれ?ここは・・・」
「見ての通りアルベルタだ。やっと戻ってきましたとさ。
 ・・・で、いつまで乗ってんだ?」
言われてあたしはハッとした。さっきからずっと背中におぶられっぱなしだったのだ。
あちゃちゃ、重いかな?降りたほうがいいよね。うん、降りよう。
「ま、いいや。このまま商人ギルドまで連れてってやるよ」
え!?ちょっ、いきなり何を言い出すのよ!この男は!
「え!あたしまだ700z貯まってないわよー!」

「あー、それだけど」
と言って、ガサガサとカートをあさり始めた。いったい何をしようと言うんだろ?
「はい、これ」
と、あたしの手にぼろぼろの枝が1本渡される。いや、こんな物渡されても・・・。
「・・・これ何?」
「古木の枝に決まってんじゃねーの」
「見るからに古そうね」
「・・・君、もしかして古木の枝って何か知らない?」
自慢じゃないが、あたしはこの世界のことについてかなり疎い。
ちょっと前までお嬢様暮らしをしていたせいで、世の中のことについてほとんど知らない。
「古木の枝ってーのはな。不思議な魔力を持ってて、ポキリと折ると世界のどこからか魔物を召喚しちまうんだ」
「へぇー・・・で、それがどうかしたの?」
そんな能力があると知ったところで、別段嬉しくも何ともない。だって今必要なのはお金なんだもん!
「どうかしたのって言われると困るんだが・・・そこそこな値で売れるから、
 商人ギルドの上納金は軽く払えると思うぞ」
「ふーん・・・!ほんとに!?」
「おー、まじまじ。マルスに言えばちゃんと買い取ってくれると思うな」
「やったー!」

そんなやり取りをしてる間に、あたしたちは商人ギルドの前に着いた。
その間色々な人に見られたりして恥ずかしかったけど、別にあたしは何とも思わない。
こいつもどーってことないって顔してるし、あたしもこいつのことが嫌いじゃないから・・・。

「じゃ、転職してくる!そこで待ってなさいよ!」
「えー・・・面倒だなぁ」
「いいからー!」
そう叫んであたしは、商人ギルドの扉を開けた。
100名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/20(木) 03:44 ID:dqmnyH6I
少女が商人ギルドに入っていったのを確認して、俺はその場を離れた。
別段理由なんてない。何となくだけど、多分もうあの子は大丈夫だろう。
たった数時間だったけど、多少は人との付き合いが何たるかは分かってくれたろう。・・・多分。
少し強気だけど明るい性格だったし、きっと立派な商人になってくれる。
そう思って、俺はそのまま船に乗り込んだ。
・・・蚤の市に来たはずなのに、何もしてないなぁ。俺。

転職試験を終え、あたしは晴れて商人になった。
さー!これからはバシバシお金を稼ぐわよー!
その前に、外で待ってるやつにも商人姿のお披露目に行かなきゃね!
そしてあたしは商人ギルドから外に出た。

「おーい、おにーさん。転職できたわよー」
そう言って辺りを見回すも、おにーさんの姿は確認できなかった。
どうしたんだろう?少し不安になったけど、少し待ってみることにした。

「あのー・・・そこの商人さん?」
「もしもしー」
ん・・・?・・・!?いけない!昼間のエルダーウィローとの戦いの疲れが残っていたのか、
あたしってばまた寝ていたらしい。もー、何やってんのよ!!
「商人さーん?」
「も、もしかしてあたし?」
「他に商人さんいないじゃないですか・・・」
それもそうね。昼間はあんなに出てた露店もなくなってるし、ちょっと不気味だ。
「あの、これ預かり物なんですが・・・」
そう言って、そいつはあたしに向かって手紙と、布にくるまれた何かを差し出してきた。
「あ、どうもありがとう!」
お礼を言ってそれらを受け取る。さっき感じた不安が大きくなった気がした。

手紙に書かれていた内容は、簡単にまとめるとこんな感じだった。
"立派な商人になってくれ。それと転職祝いな。
Lv2武器で悪いけど、属性もちゃんとついてるから、勘弁しといてくれ。 『BSの』おにーさんより"

ようするに別れの手紙だったわけで、たった数時間しか一緒にいなかったとはいえ、
少し好きになりかけていた相手との別れに、あたしは泣いた。

そんなこんなで、あたしは今アルケミストを目指している。
最初『BSの』おにーさんって何?と、BSの意味すら知らなかったけど、
今じゃそんじょそこらの商人たちには知識は負けないくらいになったつもり。
武器に作った人の名前が入るのも分かったし、おにーさんもいつか探し出そうと思う。
やることはそれだけじゃない。お金も稼がなきゃいけないし、アルケミストになるための勉強もしないといけない。
本当に数えればきりがない。でも、いつか願いが叶うと信じて・・・頑張れ!あたし!

アルベルタに、初夏の風が吹いた。
10196-100sage :2004/05/20(木) 03:46 ID:dqmnyH6I
このスレ見ていたら電波が来たようなので、初SSに挑戦してみました。
文まとまってないし、語り手変わりまくりだしで見づらくてゴメンナサイ(ノ∀`)

SS・小説は思ったより書くの難しいということが分かりました・・・
これからは読んで、レスに徹します(´・ω・`)

あ、このスレってリレーオンリーでしたっけ?∧||∧
102名無しさん(*´Д`)ハァハァSAGE :2004/05/20(木) 03:58 ID:3ZA3cEXk
違う。
103名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/20(木) 04:14 ID:BEeiwfH6
>>101
寧ろGJ!
気の強いお嬢さんのその後を書いてみませんか?w
104名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/20(木) 07:53 ID:M0RbM72g
>>101

GJ!よくやった!
リレーオンリーじゃないけど一時はリレーが消えていまはSSが消え始めてた
10593@風邪ヒイチャッタsage :2004/05/20(木) 16:00 ID:UC3uSIRo
昨日はリレー参加者ばかり三人でお話して、ネタ出しとかもしてたんで、面白かったよ、と報告。
どのキャラがアヤシイとか、地上の組織はどうなってるんだろう? とかそんな会話が主体でした
けど、妄想の海にお互い付属をわけ合って帰りました。今度そういう機会があるのはいつだろう…
書くペースは確かに速すぎますねぇ。普通のSSとリレーのバランス、難しいね。
 当方、少し落ち着きます。タマニハレベルアゲデモシナイト…

>>101
 語り手変わるのは見づらくないよー。むしろ、いつか探し出す! という話をヨミターイ ヨミターイ
強がり少女萌えな阿呆の戯言…
106名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/20(木) 19:19 ID:CE43ZOQo
>>101
おもしろかったよ〜
アルケミになって、おにーさんとの劇的再会を激しく希望です。

お嬢を見てて、悪ケミの小さい頃とかぶる錯覚をした
悪ケミスレ住人でした。
107101sage :2004/05/20(木) 20:01 ID:dqmnyH6I
ハッ、上納祭りにいそしんでいる間にレスが・・・
皆様ありがとうございます_| ̄|○シオミズデマエガミエナイヨ
続きですが、受信できたら頑張って書きます。受信できたら・・・

>>悪ケミとかぶる
そう言われればそんな気も(;´Д`)
悪ケミにする予定なんてなかったから、どうしたものか('∀`;)
108名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/20(木) 22:29 ID:ubD1sqz.
そして再びリレーの冬が……
来ないで欲しいな、リレー好きだし。
しかし、他のSSとの兼ね合いも難しいものだ。
109名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/21(金) 00:07 ID:NHDWlsrc
いっそ別々のスレにしたほうが楽かもなぁ
110名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/21(金) 00:34 ID:13V9t3sE
そだねえ、両方とも勢いある時はすごいし。
111名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/21(金) 03:29 ID:cEj7JQws
俺は、リレーは話の繋がりがよくわからなくなるから
文神様には悪いけど、読んでないな(・ω・`)
112名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/21(金) 07:43 ID:atKxbIqo
チョット教えてはもらえまいか。
リレーでもSSでもどちらのことでもかまわないんだ。
「冬」だとか「消える」だとか「控える」だとか……
言われている意味がよく見えんのだ。

SSだろうがリレーだろうがかまわない。スレを覗くたびに
なにか新作があがっていたらそれだけで漏れは (*´Д`)ハァハァ
な訳なんだが、こんな漏れは異端なのか?そうなのか?
113名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/21(金) 07:45 ID:vD1H7kkM
概ね同意。ややこしいんで。
SSっつーか、オリジナルからリレーに書き手が移ったからだろうねぇ。
ドクオな人もめっきり見ないし・・・(´・ω・`)
114名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/21(金) 07:46 ID:vD1H7kkM
(´・ω・`)ノ異端じゃないっす。むしろそれが本来のカタチっぽ。
115名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/21(金) 19:40 ID:Xn1nHlzY
遅レスだが>>101に一言申す。
文は面白かった、これからも期待している。
が、あとがきの最後の一行がいらない。
元々、下水リレーはこんなに大規模になるとは誰も予想してなかったし。
結果としてこうなったんだから温かく見守ってやれ。
話の流れからすると、もうじきクライマックス、そしてエンディングってなるだろうし、辛抱してくれ。
スレ汚し、スマンカッタ。
116丸いぼうし@収束への努力sage :2004/05/21(金) 22:25 ID:rMwJ/ND2
「良いんですか教授?勝手に侵入してしまって…。」

虚空から、黴くさい地下水道の空気を振るわせて声が聞こえた。
夜目の利く人間なら、松明の炎にてらされた壁の一部が僅かにひずんで見えるのが分かるだろう。
魔法力による空間湾曲を以前説明したことがあったが、それを利用して光線を湾曲、装着者を
透明であるかのように見せかける段階にまで技術は進歩していた。

ガ式光学迷彩(ガードマフラー)。ジュノー先端科学研究所の最も輝かしい研究成果の一つである。

「騎士団員が居なかったということは、入って良いということと同義だよ。…シッ」

僕は唇に指をあてて制止の声を出した。とは言っても、僕だって光学迷彩アクティブだ。ジェスチャーには
なんの意味もない。ジジジジ、という光学迷彩の微かな動作音の中で息を殺していると、ザバザバという音
と共に何かが近づいてきた。
 松明の明かりにてらされたそれは、ぬらぬらとした質感を放っていた。あくまで太い首、頑強な手足、
長くのびた口吻に鋭い二十四対の牙…。そのワニ人間、アノリアンが僕らの横を通り過ぎるとき、
金色の瞳の中で、真っ黒な瞳孔が針のように細くなった。

「(…拙い、気づかれたか!?)」

ヒッ、と微かな悲鳴が上がった。臆病者の誰かさんが声を漏らしたのだ。ぴくり、と動きを止めアノリアンが振り向いた。
不幸なことに、その動きで水しぶきが上がったのだった。
 水しぶきが空間の歪みについた刹那、紫電が散った。スパークと共にオゾン臭が漂い、松明の下、ケミの姿が露わに
なった。瞬時に反応しアノリアンが蛮刀を振り上げた。

「馬鹿!危ない!」

瞬時に光学迷彩を切り、余剰エネルギーを杖に流す。同時に二つの渦をイメージし、解き放つ。
「右回転」と「左回転」。二つの力の奔流がアノリアンの肘関節に発生した。解き放たれた渦は奴の肘を逆向きに
九十度折り曲げるほどの物だった。だがしかし、そのまま奴はこちらに向かって飛びかかり、びっしりと歯の並んだ
口をガッパリと開けた。鋸を連想させる牙に万力のような顎。アレを食らえばただでは済むまい。
 間一髪、イメージ想起に成功し、炎がアノリアンを包み込んだ。奴がそれに戸惑う内に僕は雷のイメージを込めた
魔法陣を九つ解き放った。
魔法陣というのは、本来地面に出現する物であるが、屋内ではその限りではない。壁に、天井に、小さな魔法回路が
形成され光を放つ。アノリアンがもう一度飛びかかろうとしたとき、魔法仕掛けの荷電粒子砲はその弾丸を十分に
加速し終えていた。そして、九つの荷電粒子の槍からなるオールレンジ攻撃がアノリアンの全身に突き刺さった。

右上腕、右足首、頭、左胸、下腹、左太股、顎、尻尾、鳩尾、全身九カ所を穿たれても、奴は倒れなかった。
ずたずたになり、焼けこげて肉が盛り上がった傷口も痛々しかったが金色の瞳はぬらぬらと殺気を湛えていた。

「Lv9でも殺しきれない!?」
117丸いぼうし@収束への努力sage :2004/05/21(金) 22:26 ID:rMwJ/ND2
奴のタフネスは想定外だった。現在二本目の火柱が奴を包み込んでいるが倒れる気配など微塵もない。
僕は精神を集中させ半目になった。
 人ならぬ視界、超常的な視覚情報が脳の中に流れ込んでくる。網膜に映った醜いワニ人間に、その内部構造がオーバレイ
で表示されていく。魔法量子効果による内部構造の推定…「エスティメーション」と呼ばれる技術である。

「弱点は予想通り雷撃…腰に神経節…か…ケミ、奴の腰を狙え!!」

人間の場合、神経は特に脊髄から脳にかけて集中している。だが、他の動物はそうとは限らない。昆虫類には全身あちこ
ちに神経節を持つ物もいるし、爬虫類には第二の小脳とも言うべき神経の塊をその腰部に持っている種族が居る。
爬虫類から進化したアノリアンにとって、第二の小脳が腰にあってもなんら不思議はないのだ。

指示を飛ばすと同時に「雷」のイメージを杖に伝える。先ほどよりやや規模の大きい広範囲にわたる物だ。
最後の炎の壁が突破され、宙ぶらりんの手もそのままにアノリアンが突進してきた。
そのとき、悲鳴と共に奴は一瞬動きを止めた。ぐるり、と奴は後ろを向いた。その腰にすらりとした直剣が半分
ほど突き刺さっていた。

「良くやったぞケミ!離れていろ!」

同時に一際大きな魔法陣が光を描いた。幾条もの雷光が辺りに降り注ぐ。大電流と共に、それに引きずられる形で
強力な磁界が発生した。超高速で変動する磁界の中で発生した毎秒24億回の振動は、範囲内の水分子を揺さぶり、
加熱した。
アノリアンの腕が、不自然にふくらんだ。見開かれた目は白く濁り、金色だったときの面影はない。
大電流の中、痙攣した筋肉が無理矢理声帯に空気を送り込み、もはや本人の意志ならぬ奇態な断末魔を絞り出した。
 腕が、弾けた。続いて、足が、胴体が、次々にふくれあがり、爆散し、加熱された内容物を水道内にまき散らした。

あとには水蒸気と、ひたすら不快な臭いのする空気が残された。

「チーン、調理完了…なんてね。」
「教授…やりすぎですってば…一体どれだけ魔法使ったと思ってるんですか。」

それはそうだ。ただ一匹の敵、それもただの魔獣相手にここまで消耗するのはいささか拙い。
僕は差し出されたスリムポーションをとり、腕に押し当てた。圧縮ガスの噴き出す音と共に、その圧力に押された
薬液が皮膚を浸透し、血管内へと入り込んだ。

「ふう、魔法使うたびにこうやって栄養注射が必要とは…困ったものだよ…」
「教授、何か聞こえませんか!?」

水路の奥から水音と共に何か咆吼のようなものが聞こえる。しかも複数。杖に言わせると「生体反応は十」。
どうやら、本格的に見つかってしまったらしい。この水蒸気の靄の中で光学迷彩を使用すれば、スパークで
場所を教えるようなものだ。かといって一匹でさえアレなのだ。複数来た場合、無傷で勝つのは非常に難しい。
ひょっとするとケミの命ぐらいは取られてしまうかもしれない。

「…これは…ちょっと拙いね」

同時に、杖が鋭いアラーム音を響かせた。短音三回…。近くで高強度の魔力場操作が行われていることへの警告だ。
瞬時にイメージを杖の根幹へとリンクさせる。魔力場の変化パターンから察するに電磁場操作系でこれだけの規模
となると…
118丸いぼうし@収束への努力sage :2004/05/21(金) 22:29 ID:rMwJ/ND2
「ヤバい!!光学迷彩を入れろ!LoVが来る!!!」

ブィン、と音がしてケミの姿が消えた。残念ながら、魔法使用と光学迷彩は排他なので僕はこのままだ。

「理論上は出来るが…失敗したらお察しだね!!」

地面に杖の石突きを打ち立て、精神を集中させた。核爆発で恐ろしいのは爆風、熱線、放射線だ。
爆風は魔法障壁で防ぐ、熱線は低温魔法で相殺、放射線のうちα線とβ線は磁界をかけて反らす、γ線は
電磁波透過能力を持つ光学迷彩である程度まではカバー。
 二元素と念魔法の同時制御。不可能ではないが容易とはとても言い難い。だが、みすみすここで
死ぬわけにはいかないのだ。

目を閉じた。水道通路の風景に重なって様々な数値が忙しく変動していく。そして向こうの方で歪みが極限に達し、
解放された。予測されたタイミングで寸分狂わずタスクを実行、数マイクロ秒ずれただけでもあの世行きだ。
ここまで来ると人間では対応不可能なので杖に自動でやらせることにしてある。

「でも…僕に出来ないわけがない!」

 まぶたの裏が一瞬真っ白になって、何かが通り過ぎていったような気がして、音が無くなった。
耳が痛いほどの静寂、冷え切った空気のあと、頬を撫でる生暖かな感触。魔法力場が大規模に変動したため
魔法量子効果の観測は当分は難しいだろう。ちょうど磁気嵐の様なものだ。

目をうっすらと開けると、真っ白だった。とてつもない熱量が放出され、水蒸気が充満している。
水蒸気爆発が起きなくて本当に良かった。

「…教授、今のは一体だれが?それに敵は?」
「分からない…今ので魔力嵐が起きててセンサー類がダメになってる。」

ただただ突っ立って途方に暮れていると、少しずつ水蒸気のもやが晴れてきた。そしてだんだんクリアになった視界の
はじっこ、曲がり角の影から誰かがひょっこり顔を出した。

「あ、生存者発見。やりましたよ、モンクさーん、ローグさーん!」

曲がり角の向こうから出てきた金髪の女魔導師は脳天気な声で仲間を呼んだ。そのニコニコ顔を見て僕は悟った。
LoVを撃ったのは間違いなくコイツだ。あの状況でLoVを撃つような魔導師は、気が狂っているか
大馬鹿かのどちらかで、この状況で笑っているような魔導師は、薬物中毒か大馬鹿かのどちらか、
そして、両者で言われるようなレベルの大馬鹿が複数居たとしたら、とっくに水道は跡形もない。
よって目の前の脳天気がLoVの詠唱犯。Q.E.D.

生存者に合流できたのは確かに良いことかもしれないが…ペコ頭、ポンコツ、ときて次は脳天気か…
僕はため息をついて手を振った。
119丸いぼうしsage :2004/05/21(金) 22:57 ID:rMwJ/ND2
書かねば終わらせられないので、空気を無視したことについては何卒ご容赦を。

 正直言って、自分もここまで話が広がるとは思いませんでした。
自分が作ったキャラにつきましては、全力をもって最短で収束させるべく努力します。

 スレを分けるのは良い方法だと思います。リレーにせよ短編にせよ、誰かが新たな
物を書かないと新しい方がなかなかこないのではと思います。

過ぎた意見失礼しました。短編(長・中編化しつつある)も書いているので、
そっちがうまく行くようなら、それもここに書ければ良いなぁと思ってます。
12093@懺悔室sage :2004/05/22(土) 10:55 ID:4sJqfUTs
 とりあえず、合流方向への模索を続けてみるー。朝からぽいっと。
----
「……これは、酷い」
 人が入り口付近の爬虫類どもと交戦する隙を突いて、三人の魔族は内部へと足を踏み入れていた。
その際に、ドッペルゲンガーが漏らした声は、当然、周囲の惨状に対してのものではない。彼自身の
居たるゲフェンタワー地下でも、この程度の光景は日常ともいえた。
「…確かに、計測数値で通常の5倍の歪曲率です。ダークロード閣下は何をなされておられるのでしょう?」
 人に化けるべく、小さくなった深淵の騎士が首をかしげながら、傍らのオークロードを見る。鎧や
武具、愛馬はサイズが合わないのでとりあえず魔界に送還している為、ぱっと見はただの優男にしか
見えないのだが、その目と…頬が赤いのが不穏だ。ドッペルゲンガーが思わず目線をそらした先には、
別の意味で不穏な仲間がいる。
「オークロード殿、本当にそれで人間に疑われないのだろうな」
「問題はない。以前我が村に攻め入った者はこのような着衣をしていた」
「…良くお似合いです」
 応えるオークロードの姿は筋骨たくましい人間の者となっていたが…着衣はわずかにブリーフ一枚。
それをうっとりした目で眺める深淵の騎士の姿を見て、ドッペルゲンガーはため息をついた。
(……まぁ…、趣向は人それぞれだからな)

「それより、わいきょく…なんとかってのはなんだ」
「はい、ロード。これをご覧ください」
 説明に本当にそれが必要なのかと突っ込みたくなるドッペルゲンガーの前で、オークロードは疑いも
せずに深淵の騎士の持つ小型の機材を覗き込む。人間達も使っている、小範囲の簡易地図だ。横階層が
同じ範囲ならば、登録した数名の位置まで表示する優れた物である。
 すぐ横の汗臭い匂いに陶然としながらも、騎士はこの階層の全体図へと手際よく表示を切り替えていく。
それを見ながら、オークロードが手元の手書きっぽい地図と見比べ、大きく唸った。
「…ここに映っているのは、第三層ではないか?」
「さようです」
「しかし、我等はついさっき階段を降りてきたばかり。ここは第一層のはずであろうが」
 5までの数字なら間違いなく把握できると自負していたオークロードにとって、それはかなり重大な
問題である。ほとんどが1、2、たくさんまでしか把握できない同族にあって、彼が首領の地位を占めて
いるのは実力と共に、その知性によるところも大きいのだ。
「本来なら、そうなのですが…、どうやら、一部の繋がりがこの地図どおりにはなっていないようですね」
「………わかりやすくいえ。結果どうすればいいのだ」
「……つまり、現在のこの空間内の繋がりは著しく安定を欠いているといます。現実的な話としては、一度
 はぐれたら最後、合流するにはこの地図に頼っても無駄ということですね」
 それまで説明に口を挟まなかったドッペルゲンガーが舌打ちをする。
「…つまり、我等は迷子になったということか?」
「わかりやすくいえば、そうですね」
 事態の深刻さを欠片も感じさせぬ口調で深淵が言うのを、オークロードは哄笑一発で吹き飛ばした。
「がはははっ。ならば行くのみ! 迷子になったオークの子供は親を探して自ら歩くものだ」
「……は。どこまでもお供いたします、ロード」
 最後尾を歩くドッペルゲンガーは、自分が激しく貧乏くじを引いているのではないかと今更になって
頭を抱えていた。
「ロード殿、深淵殿。声を控えた方がいい…これが終わった後はな」
 彼の瞳は、前方から駆けてくる複数の人間と、その背後から彼らを追う圧倒的な魔の気配を感じ取り、
真紅の輝きを増していた。

----
 なんか、学者先生が入り口付近隊やマナたん達にまったく触れずに奥に到達しているので…いっそ、
空間擾乱がががっということにしてみるテスト。今回のマイグレっぽく、わけわからんとこにゲートが
一杯(下水内限定)とかいうイメージで…。
 狗=ヴァニラさんなら転送ゲートを開くのは追跡者の技能かもしれないけど(笑。

 皆さんの居場所は

下水三層最奥にオーラクルセ+アサシン
 このあたり にごっつい女WIZ
 追跡中 の「狗」さん
下水三層奥に女クルセ+男戦BS+アコ、復活ダンサー、俺ボク他
下水三層手前に先遣隊+姉プリ隊
その手前(二層?)にマナたん隊+ごっつい姉妹
入り口入ってすぐにアコさん隊

 って感じですかね…。合流するにしても、適当に人が減ってくれないと動かしきれなさそうな罠。
生き延びる為に戦う連中は、奥を目指す連中と出会ったら情報渡して蝶で帰還、かな…?
121名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/22(土) 14:40 ID:r/Iyi9bA
思ったんだがドッペルって黒幕じゃないんか?
12293@懺悔室sage :2004/05/22(土) 15:53 ID:4sJqfUTs
うちも最初のときはそうカナーって思ってたんだけどw
でも、魔族のパワー(不死性)を求める人間っぽいですし、ドッペルさんが偵察隊にいらっしゃるし、
多分違うのでしょう…と思って書いてみました。
違わない!という筆の導き手があればそれはそれでっ。オリジナルドッペルさん(?)なのかもしれないし
123名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/22(土) 16:18 ID:ZXC0EKqI
いざとなったら片一方はドッフルギャンガフフフフフってことd(鯖缶
124577と名乗っていたものsage :2004/05/22(土) 16:18 ID:isSGqfYo
|∀・)

>>120
人が多いと・・・帰るか、死ぬかですね・・・。
というわけで残虐シーン。

|彡サッ
125577と名乗っていたものsage :2004/05/22(土) 16:19 ID:isSGqfYo
狩の時間

----

最下層の闇の中で、ゆっくり息を吐ききった金髪の男は、
髪をかきあげると傍らの従者に向かって軽く声を掛けた。
魔方陣と機械を組み合わせた中に捉えられた闇の王は、
まだ残っている意識を総動員して、憎憎しげな視線を彼らに向けるが、
それを面白がっているのか、男はそちらにわざと数歩ちかづくと
人差し指をくるくる回してから、その指を階段へと向けて
控えている男に指し示すのだった。

「さて、そろそろ侵入者を狩に行こうか・・・。
お前に先導してもらうとするか、なに、ほんの小手調べだ。
自分でもどこまでできるかわからんからな。」

「・・・はい。」

口数のすくない男のことをからかいたくなったのか、彼は相手に酷薄な笑みを浮かべると
わざと古傷をえぐるような返事をぶつけていく。

「ん・・・なんだ、まだ女のことでも気にしているのか?。
なんなら好みの冒険者をお前のものにしてもいいのだぞ、
私の好意だ、今から行く中で誰か選べ・・・。」

「・・・はい。」

平静を装いながらも心の奥につきささる傷の大きさを示すように、男の拳がぶるぶると
震えるさまを見て楽しむ主は、しかし直ぐに興味を失ったかのごとく階段にちかよると。
病み上がりの体を確かめる人間のごとく慎重に上っていく。
ちょうど中間に来たあたりで、進行方向から白い光と轟音が漏れてきたことを確認すると、
従者にかまわず、舌なめずりするとかれはマントを翻して、
信じられないスピードで闇の中に滑り込んでいくのだった。

----------------

「はあっ・・・はあっ・・・。」

手首のついた邪悪な短剣は、オーラの明かりに照らされて
その刀身の傷口まではっきりみえる状態で、俺の眼の前に転がっていた。
受けたダメージが操っていた肉体にも影響を与えたのだろう、
女剣士だったらしい肉体も、離れたところに気を失ったかのごとく
倒れている。
俺はちらと見て、アサシンがまだ生きていることをチェックすると、
槍を再度構えなおし、この戦いに終止符を打つべく
短剣に槍を突き刺そうとして・・・。
そこで世界が反転した。

「仮にも強さを極めた人間が、少女をいたぶろうと言うのは悪趣味ではないかね?。」

「・・・ぐ・・・ほっ!。」

背後の闇が膨れ上がったと思ったときにはもう、
奴の後ろ回し蹴りがこっちのわき腹をえぐり、アバラが折れる音とともに
俺は上水道の壁にストレートなキスをかまして血反吐を吐いた。
向き直ろうとした自分の体に、後ろから2発
ふざけるようなジャブが決められると、3発目に放たれたローキックが
体のバランスを崩したところに、力を十分に溜めたアッパーカットが襲い掛かってくる。
無我夢中でかわそうとしたこちらは。

「ううううううううう!!!、俺が、オレがっ!?殴り殺されるだとお!?」

「フン、貧弱、貧弱ゥ!」

一発目をかわしたと思ったら、それを予測していたとしか思えない
二発目をモロに食らって顎を砕かれ、床に血のしぶきを散らした。
背筋を駆け上がる忘れかけていた感覚、
激しい絶望と恐怖。
振り払おうと大声を上げようとするが、砕かれた顎からはぐぐもった
意味をなさない音の塊が熱い血潮とともに吐き出されただけだった。

「あ・・・ご・・・ぐ・・・ふっ、ふっ、ふ・・・。」

「どうした?女泣かせの聖騎士どの?、悪いものでも食べたか?」

優しげな声で微笑を浮かべる奴の目の奥には、
ちらちらと本心が見え隠れする。
槍にすがって立ち上がりながら、その眼を見たこちらは、
不意に同じ眼つきをどこで見たのかを思い出す羽目になった。

『あー、もうこれはダメだね・・・、手遅れだよ
このペコはもう死ぬ・・・運命と思って諦めるんだな。』

昔俺の愛用のペコが病気になったとき、とある医者が
そういって苦しまずにすむようにと、薬を置いて立ち去ったのだが、
そのときの眼が奴にそっくりで・・・。

「・・・オれは・・・しヌ・・・のか・・・。」

「いや・・・私の中で生きるのさ、聖騎士どの、
闇の王を吸収するのは体に負担が掛かるのでね・・・。
たまにはお前やそこの暗殺者みたいな、“人間”の魂が
食べたくなるのさ・・・因果なものだな。」

「な・・・。」

「私の玩具も壊してくれたようだし・・・代償としては
これくらいといったところかな、許せよ。」

金髪の男はそう呟くと、足元にあった傷物の短剣を
いまいましそうに踏みつけて折った。
傍らにあった女のからだがとたんに痙攣をおこして絶叫をあげたが、
それにも直ぐに踵を上げて、脳天めがけて振り下ろす。
スイカの割れるような嫌な音があたりに広がり、
悲鳴を上げる器官はズタボロにされて、水の中に漬け込まれて居たのだった。

「煩いのはキライでね・・・さて・・・食事にしようか。
ナプキンをここへ、手を拭かなくてはな・・・。」

「な・・・グフッ・・・ふざ・・・ふザ・・・。」

「ん・・・いいな、その表情、恐怖は最上のソースだ・・・。」

振り切ろうとしても尚全身に纏わりつく
恐怖と絶望。
奴の手が俺のそばに差し伸べられ、頬をなぜていく。
一言だけ、
一言だけなにか言いたいと思うのだが、
体か冷たくなってきていうことを聞かない。
闇が光を覆っていく、
俺もあの暗殺者も、逃がした奴らも絶対コイツには適わない、
一言だけ誰かに伝えられるのならば、
ありったけの音量で言いたい。
そう・・・。

「逃げろ!」

しかしその言葉を発する口も持たない俺は、
奴が満足そうにノドを鳴らす音を聞くだけ聞いて・・・。

そして闇が訪れた。
126577と名乗っていたものsage :2004/05/22(土) 16:20 ID:isSGqfYo
|∀・;)

不味いだろうか・・・。

|彡サッ
127名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/22(土) 17:02 ID:Zw716VEU
描写的にも、話の流れ的にもグッドだと思いますよ。
上水道外は騎士団vsモンスターズの構図になってますし、
これで上水道内の動きはおおまかに決まったように思います。
槍クルセでもこれじゃあ正攻法は無理っぽいですが、それはそれで。
128名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/22(土) 17:57 ID:mMTlSz0E
まぁなんだ、魔法の(超)現代的解釈も時には楽しいが、
ファンタジーの世界に放り込むには程度を弁えないと
読者がついてこれずに只の飾りにしか見えないものだな。
#量子力学勉強しなおそうかな・・・_/ ̄|○
129名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/22(土) 20:19 ID:4sJqfUTs
>>127
つ【友情! 努力! 勝利!】
 ……努力する暇はなさそうだけど
130丸いぼうしsage :2004/05/22(土) 20:34 ID:13wwgPi.
>>128
やりすぎました。ごめんなさい。書いている側としては楽しかったのですが、
自分が楽しくかければそれはよい物になる、などと思い上がっていたようです。
以前、新奇性からちょこっとお褒めの言葉をもらったのを良いことに図に乗りす
ぎました。

 指摘ありがとう。言われなかったらきっとずっとこのままでした。
頭冷やして飾りに頼らない話を考えてきます。


>>All
折角のリレーなのに足並みを乱してごめんなさい。傲慢な希望だけれど、
リレーも短編も、気にせず作品を書いてくれると嬉しいです。
131名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/23(日) 02:10 ID:MYnllTxU
短編作家の本音

|ω・`) ジー…
132名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/23(日) 02:39 ID:lLRbNnX2
見てないで投下すりゃいいじゃん。
133名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/23(日) 03:04 ID:.m3ajapE
心情的に投下し辛いのはわからんでもないがね。
とりあえず投下ヨロ。投下しやすい流れを作るのもまた文神ぞな。
134名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/23(日) 08:55 ID:F7LWeSBQ
カモン
135名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/23(日) 21:15 ID:F8jIIBEA
リレーは作者名であぼーんできないから嫌なんだよ
やると流れわからなくなるしさ。ほのぼの短編はどこいった?
最近スレに出てきた作者は俺キャラマンセー臭くていまいち肌にあわん俺は
花のHB氏が続きを書くのを期待しつつ覗いてるんだけどな
136131sage :2004/05/23(日) 22:20 ID:MYnllTxU
流れ無視してポツポツ出てる短編は俺です…
(ヤファと酒場書いた)
137577:短編も書こうの巻sage :2004/05/23(日) 22:53 ID:I3YeGlIA
今日もまた野宿ときまった僕は、
傍らで彼女が鎧をはずすのを尻目に
いそいそとリュックからエプロンを取り出して、
首にかけ、腰に紐を回す。

「今日の晩飯はルナティクのシチューだよー。」

一声空に向かって投げかけると、
鍋をもって近くの小川に向かう。
冷たい水を掬って鍋をすすぐと、
汚れが入らないようゆっくりと水を汲んでいく。
えっちらおっちらもって帰ったその先には、
すでに簡単な炉が設えてあり、
剣士の女の子はダガーを片手に、
倒木を削って火口となる木屑を
炉の中心に落とし続けていた。

「ありがとう。」

「いえいえ、どうぞ、高名なシェフ殿。」

ゆっくりとお辞儀をすると、ステップの途中で火をつけて
中心から離れる彼女。
火を上手く扱えない僕はいつもその姿を見て、
たまにまねをして見ようともしたが、全然上手くいかないので
今はもう諦めてしまった。
僕は料理をする人、
彼女は火をつけて食べる人。
再度そう確かめると、短剣で手早くニンジンを剥き、
ウサギの皮をはいで行く。
聖職者といっても包丁を握ることは出来る、
子供のころはそれが出来るかどうか凄く不安で、
真剣に料理人になるか聖職者になるか悩んだものだが、
今では笑い話にすらならない。
リズミカルに肉を切り分けて鍋に放り込み、
ついでに骨に切れ目をいれて折り、肉の後を追わせるまで
鼻歌を歌いながら完了する僕のことを、
いつものように彼女は膝を抱えながら見ていた。

「はあ、いつもながらお見事な手さばきだこと。
君、いい主婦になるよ・・・、はー。」

「ふんふん〜♪、どうもどうも。」

「はーあ、神様って不公平だなあー、
君が作ったほうがどーやっても美味しいんだもの、
私だって料理少しはできるのに・・・なんだかなあ。」

やけに絡んでくる彼女を、僕は少しだけからかいたくなって、
鍋に香料を加えながら話に付き合う。

「ふむふむ、ならまずは香料の使い方を覚えなきゃね。
薬草、毒草の知識を磨くと自ずから食べられるものがわかるよ。
冒険者には必要な知識、頑張って習得すること。」

「はーい、センセー、今度教えてくださいー!。」

手を上げてノリを示す彼女、
炎で顔が赤く染まってきているのが
なんだかちょっと艶っぽい。
そちらを見ないようにして、
また僕はわざとえらそうに続ける。

「それと、料理に愛情を持つこと。
食べる人のことを考えて、美味しくなーれ、美味しくなーれって
念じること。
百万人のまあまあな評価を得るより、一人の最高級の賛辞を得るほうが
価値があると思うこと。
そんなところかな、精進しなさい!。ははっ。」

「ねえ・・・。」

「ん?。」

「それって・・・わたしのこと?。」

「!」

気づいたときには彼女が、
僕の傍らで膝を抱え、上目遣いにこちらを見ていた。
ぱちぱち爆ぜる音が、
シチューの煮える音が、
だんだん遠くなっていくと、
彼女の顔と・・・唇が
僕の目の前に現れて・・・。

パン

「あっちーーーーーーーーーーー!!!!!。」

「やだうそ!、石!?、木!?、跳ねた?大丈夫ねえねえ!!!?。」

僕の足にできたやけどを冷やそうと、
いそいで川に走る彼女、
その後姿を追いながら
僕はまだ動悸のおさまらない胸をなでると、
すばやく十字を切り、目をつぶって・・・。

神様、このタイミングの悪さはきっと
お前にはまだ早いという啓示なのですね。

・・・はい、反省します。
おさわがせしました。

そう祈って僕はちょっと笑うと、
また鍋をかき回し始めたのでした。
138名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/24(月) 07:28 ID:kJJknrVQ
OK


GJGJGJGJGJGJGJGJGGJGJGJGJGJGJ!
139名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/24(月) 13:07 ID:.LN6yCPY
>135のような奴がいるようですし、やはり、スレ分けするべきでしょうかねぇ。
安直のような気もするけど・・・・・。
ほかに方法が浮かばねぇ。
14093@懺悔室sage :2004/05/24(月) 13:57 ID:xU9RWjYc
 577氏の短編もリレーもうまうま。ごちそうさまです。
最近スレに出てきた作者としては、自作を読み返して反省しきりであります。率直なご意見は
もぐもぐさせていただき、明後日位の糧にいたすべく努力を。

 577氏みたく切り替えられる方は凄いと思うのですが、脳が多元処理できない私のような
奴はリレーを書こうと思うと短編が書けなくなります。今はどっちも活動停止中ですが…。
なので、>>131氏のような方はとてもありがたいです。私に出来ない事をする事ができるゥ!
そこに痺れる(略:原文ママだと悪意があるように見えるので改変)という感じで。

 何がいいたいかというと、リレーでも短編でも長編でもなんでもあるのがここのイイとこ
じゃないかな、と。分けるというのが良さそうならそれでもいいですけど、まったりいこうね、
私も保管所作業でもしながらのんびりいきますよ…。
141一個前の201sage :2004/05/24(月) 14:00 ID:C4p2Zixg
余計な書き込みだとは思ったんだが言わせてくれ

ちょいと忙しくて来てなかったんだが・・・
スレの雰囲気を悪くする書き込みは勘弁して欲しいってのがをれの感想

気になったのは「最近スレに出て来た作者〜」のあたり
をれも「最近スレに出て来た」もんだから
もしをれの書いたのの事を言っているなら直さなならん
もっと具体的に作者や作品について言って貰いたい
抽象的にそんな事言われたって困る
もし具体的に言って貰えないのなら煽りと判断しちまうぞ、と

あ、でも批評自体を否定してる訳じゃねぇぞ
駄目なところは駄目って言って貰った方が上達するもんだと思うし

・・・で、だ。をれの口調も雰囲気悪くしてるってんなら直すんで言ってくれ


電波を文章に変換してる最中だから本文はもちっと待ってくれ
・・・誰も待ってないか。そうかそうだよな済まなかったな
142名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/24(月) 17:12 ID:kJJknrVQ
俺もそれはきになったな
いや、なにも書いてない俺が言うのもなんだけど

、はもう少し少ない方がとか
キャラの行動がわかりにくいとか
いう指摘はいいとおもう

けど、リレーはなんとかとか最近出てきた奴が邪魔とか
個人、集団問わず中傷する書きこみそういう書きこみは場の雰囲気を悪くする

場が悪くなると神、素人共々投下しずらくなる
つまり神の作品が読めなくなって更にこれから神になろう方々も消えてしまうという
まるで癌穂な現象になります


多分。と言うわけで


|Д`)マッテルヨー        >>141
143名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/24(月) 17:13 ID:kJJknrVQ
補足
中傷と批判、指摘は違うと思います!


|Д`)ハアハア        >>141
144どこかの166 しょーとしょーとsage :2004/05/24(月) 17:48 ID:T.K8Y1Yg
 私はゴキブリである。
 名前は……まぁ、考えてくれ。

 一応、われわれの種族はモンスターというものに分類されてはいるが、人にも魔族にも嫌われている事については一族の誰もが認識している。
 ……え?なんでゴキブリの癖にそんな知能が高いかって?
 自慢じゃないがわが一族が進化過程において魔物はおろか人よりも遥かな時間と激変しつづけた環境に耐えつづけた栄光の種族である事を皆は知らなすぎる。
 金色に輝いて下水を疾走するだけの目立ちたがりの突然変異とは進化の根気が違うと声を大にして言いたい!
 私みたいな種もあと何万年もという短時間で認知される予定であるから首を短くして待ってもらいたい。
 さて、私はこの世に生を受けて下水一階をねぐらにしていたのだが、観察するに人というものは実に面白い。
 わが同族を一生懸命叩いて逆撃を受けているノビもいれば、「むだむだむだぁぁ!!」と叫びながら同属を踏み潰す剣士などがいる。
 我を見ただけで気絶するアコライトもいれば、壁の向こうからアークワンドを出して近づけさせないようにファイヤーウォールを張るマジシャンもいる。
 実に興味深い。
 さらに面白いのが彼らの触覚の変遷である。
 ウサギみたいな耳を生やして聴力を増している者もいれば、目が退化しているのかどこにあるのか分からない者や、頭から剣を刺して怪我をした者もいる。
 なんとすばらしい!
 この人間どもの多種多様な進化の変遷たるや、何億もかかって大地を征服した我らですら思わず羨望せざるにはおられない。

 決めた。
 ここから去り、人間達の街に行って人間の進化の秘密を見ることにしよう。
 そして、人間どもの進化の秘密を調べでわが一族が更なる高みに……


ぶちっ!!!


 子バフォ「主よ。だからよそ見して歩くから……」
 悪ケミ 「泣いてなんかないもん!泣いてなんかないんだからねっ!!」(T-T)
145どこかの166sage :2004/05/24(月) 17:51 ID:T.K8Y1Yg
リレーと短編が共存できる今の環境が好きだったりする輩がここに一人……

ではっ
壁】)=3 ピュー
146花のHBの中の人sage :2004/05/24(月) 18:15 ID:LI53zxSE
私も、両方が共存できるのが好きなので……。
ママーリしようよ?

>>135さん
続きを期待してくれるのは嬉しいけど、
>>143さんの言う通り中傷と批判は違うと思いますよ。
少し悲しいです…。


それでは、また……。
___ __________________________________________________
|/
||・・)
147名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2004/05/24(月) 18:53 ID:zxBSBd8M
>>144
GJ( Д)b ゚゚
ところで、一つ確実なことを言わせてもらいたい。
ど っ か の ア ニ メ よ り お も し ろ い よ な
このスレ。
148名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/25(火) 19:56 ID:I6gik3oo
>>147

 な に を い ま さ ら
14993@懺悔室sage :2004/05/25(火) 21:34 ID:1IsMPkqg
エンペ欲しさに過剰レベルのプリで兄貴Dにいって、現地で臨時を組んでたアコさん剣士さんを見て
……うらやましくなったので脳内補完! あの頃、今とは別の楽しさがあったな。

----
 剣士として世に立ってから半年。技も磨いた。仲間と言える者はいなかったが、それは仕方のないこと
だと割り切っている。俺が仲間に求めるのは甘えあいではなく、剣を磨く修行の道の同士だったのだが、
世間の皆とは少しだけ道が違う気がしていたからだ。だからと言って、己の道を世に示すほどの名声も
腕も器量もない俺は、ずるずると一人で修行の日々を続けていた。

 いつものように、オーク村の地下に足を伸ばしたそんなある日。やはりいつものように、俺は壁沿いで
待ち構え、向かってくる敵を倒していた。繰り返し、繰り返し、いつものように。
 しかしそのとき、斬り倒したオーク族の怨霊が後生大事に抱えていた宝物が、俺の目をくらませた。

 エンペリウム。伝説なんかに詳しくも無い剣士の俺でも見ただけでそれとわかる…、英雄の石。それを
手に入れれば、迷い無く、自分の道を歩むこともできるかもしれない。…いや、できる。だが、眩しく
輝くその光めざし、ふらふらと踏み出した俺の前に、矢が一本突き立った。

「HUHAAAAA!!」
「……オークアーチャー!?」
 住人たるオーク族ですら、足を踏み入れることをやめたオークの墳墓の墓守。奴の言葉などわかりは
しないが、その意思は見紛うことも無い。先祖の霊を汚し、宝物を奪わんとする墓荒らしに怒る、殺意に
満ちた目。奴は既に手負いだったが、俺を見過ごして帰る事はできなかったのだろう。
「…くそっ…!」
 明らかに格上の相手だが、引く事はできない。剣を構え、突進する俺の膝に、矢が突き立った。崩れた
体制から放った一撃は空を切った。よろけて膝を突き、立ち上がろうとした俺の目の前で、奴が矢をつがえ
終えるのが見え、

「神の息吹よ…彼の者を守護したまえ。Pneuma!」
 女の声がしたのは、その時だった。オークアーチャーの矢が不自然な軌道で反れた一瞬を俺は見逃さず
渾身の強打を叩き込んだ。奴の目が、ぐるりと上を向き、その身体が棒立ちになる。その隙に、連続で
斬りつけ…気がつくと、オーク族の墓守は骸になっていた。


 そいつは、変な奴だった。自分が危険でも、他人に救いの手を伸ばして危なくなっているのを何度か
見た事がある。辻、とかいう連中の仲間なんだろう。剣の道と聖職者の道は違う、係わり合いになるな、
と先達は言っていたっけ。
「大丈夫、ですかっ?」
「後ろだ、馬鹿!」
 息をつく俺の方に駆け寄るその後ろで、壁から湧き出てきたオーク族の死体が緩慢な動作で斧を振って
いる。それに肩口を強く叩かれた女は、膝を突いていた俺の方に弾き飛ばされてきた。反射的に、左の盾を
捨てて抱きとめる。右の剣は下から薙ぎ上げて敵の膝を割った。返す刀でたたらを踏む死体の腹を割き、
女を抱えたまま飛びのいた。

「…ありがとう、ございますっ」
 俺の腕の中で息も荒い女は、俺よりも少し年下に見えた。短く揃えた癖の無い金の髪に縁取られた小さな
顔は、まだ幼い。まぁ、綺麗な顔立ちだったが、…剣の道に生きると決めた俺には関係が無いことだ。女が
立ち上がるのに手を貸し、
「人の事を心配する前に…、自分の面倒を見ろよな」
 言いながら、俺は戦利品のエンペリウムを拾い上げ、布で軽く拭く。暗い洞窟の中、黄金にも似た輝きを
自ら発するそれは、俺を甘く誘惑する。売れば一財産になり、新しい武具も買えるだろう。常に勇者と共に
あるという伝説の石は、一剣を世に問う剣士にとって、それを持つこと自体が夢への階梯の一つとも。
 ……が、俺はそれを、墓守の遺骸に抱かせた。

「…どうして、返すんですか? 貴方の物でしょう」
「俺一人で奴を倒したんじゃない。……また来るときまで、預ける」
 女を責めるつもりは無いが、さりとて単に感謝するという気にもなれず、自然に言葉遣いがぶっきらぼうに
なる。そんな俺を見て、女は笑った。
「……そうですか」
「何がおかしい?」
 むっとして、精一杯ドスを聞かせたはずの声を女はものともせず、また笑う。
「…あなたは、強くなりたいだけの人とは違うんですね」
「! 俺は強くなりたい! だから敵を討ち、技を磨いている。それを…」
「馬鹿にしてるんじゃありません。貴方は強くなるという目標を見て、まっすぐ進んでいる。多くの方が
 楽な道を選ぶのに」
 思い当たる節もある。ギルドの者は、壁とかいっていた。安全な環境で、技を先達から口伝で伝授され、
実践まで見守ってくれるという方法らしい。悪いとは言わない。その剣でも多くの者は守れるはずだ。
馴染めないのは、俺が、不器用なだけなんだろう。そう、思っていた。
「私も、そうだから」
「…なんだと?」
「私も、強くなりたい。憎悪に囚われた可哀想な魂たちを解き放つ為に。でも…、天に、いえ、自分に
 恥じるようなやり方では、強くなりたくはないんです」

 俺は、そう喋る女の顔を見ながら、自分の思いを剣士ではなく、ひ弱そうな聖職者に言葉にされたことに
少し戸惑いを感じていた。嫌な、戸惑いではなかったが。
「ね、剣士さん」
「なんだ」
「強くなるのは、一人でじゃなくてもいいんですよ」
 微笑んだ女の髪が、エンペリウムにも勝る黄金の輝きを纏っているように見えて、俺は一瞬絶句し、
「……それもそうか」
 女を背に、剣を構えた。

----
 なんだか今一燃えないけど。おいてきますね。またーりまたーり
150名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/25(火) 21:59 ID:rhv6lGpk
>144
痛い痛い踏み潰されてるあああ(´д`;)
頭装備にドキドキしてるゴ○が可愛い

>149
生真面目な剣士に萌ゑたかも(´д`*)
前スレの連作とはまた違った不器用さでいいね
弓兄がいるってことは2Fか。墓守…そういえば彼は死体じゃなかったもんな。

ときに、149=93(保管庫の人)氏だよね
補完作業おつかれ。一人での作業になっちゃうのは、アップ前に(あの大量一気補完からして)
裏で編集作業してるだろうから皆なかなか手が出せないんだと思うナリよ。というか思った。
利用者はいるんで頑張ってほしい
そんでだ、あのページにはBBSはつけないんかい?要望やら質問やら連絡はどうすれば。
すでに合って自分が見落としてる場合は場所を教えてクダサイ(´・ω・)
151名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/25(火) 22:04 ID:7/fxXP16
いろいろ意見出ているようなので一つ提案。
リレーの名前欄には「リレー」や「下水道」といった一定の文字を入れないか?

リレーを読む人も読まない人もぱっと見で分かれば便利だし、
monazillaでまとめてアボーンも出来て良いと思うんだが。
152名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/24(月) 22:23 ID:q6oEZlAo
リレー嫌いな人もいるから一概には言えないが、自分の書いた物があぼーんされるのはとても悲しいと言ってみるテスト
153丸いぼうしsage :2004/05/24(月) 22:48 ID:vR/Gjvvw
//料理ネタで被ってしまったっぽ…

彼が私の前から姿を消して十日になる。
 思えば、彼のような一人前の聖職者が、半人前の聖騎士である私の前にずっと居
てくれたという事の方が間違いだったかもしれない。組むのなら、私などよりも魔術師と
組んだ方が良い。今までその話題を私が口に出すたびに、彼はただ曖昧に笑っていた。

 手持ちぶさたのまま、十日目も暮れようとしていた。
どうしてそうしようとしたのかは忘れたが、私は今厨房に立っている。理由は、そう、気を
紛らわすためだったのかもしれない。いや、違う、ただ単純に空腹だったのだ。
 最後に食事を取ったのはいつだっただろうか。最初は彼も都合が悪いのだろうと思って
普通の生活を送っていた。だが、連絡もないまま日にちが過ぎるに従って、焦燥と戸惑いとが
私の心を埋め尽くした。寝ていても本を読んでいてもシャワーを浴びていても、憶測と疑心暗鬼が
私を苛んだ。

私はいつか食べることさえ忘れた。

 そして、十日目になってようやく鈍感な私でも、疑念を固めることが出来た。
どうしても認められなかった疑念、私は捨てられたのだという事実だった。
 それを認めることが出来たからこそ、私は今、こうして厨房に立っているのかもしれない。

 いつも、料理は彼が作っていた。だから、私の厨房に立つという行為はいっそう彼の不在を
際だたせた。私の頬がぬれているのは、タマネギを刻んだからだけではない。

 材料を全て鍋に放り込み、私は椅子に腰掛けた。私の顔を見れば、十人が十人、酷い顔をしている
というだろう。髪は汚れ、目には隈、おまけに顔は汗と涙でグシャグシャだ。

 しばらくすると、良い匂いがしてきた。空腹は最大の調味料、愛情は最高の調味料だという。
言うまでもなく私は空腹だ。昨日の昼から何も口にしていない。
 そして、誰も彼もが他人を愛していると言いつつも自分を一番愛している。人間はエゴイスティックな生き物だ。
彼は私の前を去った。そして私は彼の選択を是として受け入れることが出来ない。
つまりは、私にとって大事なのは彼ではなく、彼に愛されている私なのだ。

ならばこそ、この鍋の中身はとても美味しいのだろう。

だが、私は自分が彼を自身より愛しているという幻想を信ずるが故に、鍋の中身が抗いがたい誘惑に
思えて仕方なかった。それを食べることは決別に繋がるような気がしたのだ。

ついに私が火を止めようと厨房に向かったとき、唐突にドアがノックされた。
酷い顔もそのままに何かに突き動かされるようにして私は玄関に走った。
154丸いぼうしsage :2004/05/24(月) 22:49 ID:vR/Gjvvw
 意外にも、そして、最も私が期待していたことだが、ドアの向こうには彼が立っていた。
ぼろ屑のような服をまとい、顔を傷だらけにして。彼は私を見ると、にへへ、といつものように笑った。

「この十日間、一体どこに行っていたっていうの!?どうして連絡を入れてくれなかったの!?」

私は涙で詰まった喉を必死に使って、彼を問いつめた。でも、彼の視線は一点に定まらず、
私の声など聞こえていないようだった。そして質問を全て言い終え、倒れそうになった私に対して一言。

「それより、何か食わしてくれ…昨日から何も食べてないんだ」

彼の言葉に、はっと気がつき振り向くと鍋はものすごい勢いで蒸気を吹きちらしていた。
私は急いで鍋を火から下ろし、中身を二組の食器によそった。

食事の時間は静かだった。そして短かった。鍋は十五分とおかずに空になった。
お茶を入れようと席を立った私に、彼は何かを差し出した。銀色の何かが彼の手の中で光っていた。
それが指輪だって気づく前に、その像は涙でぼやけて見えなくなった。

「…これは…どういうつもりよ…」
「…一宿一飯の礼」

はっきりしない目で見ても、彼は明らかに赤面していた。この指輪が、一宿一飯の礼なんてものじゃ
ないことは誰の目にも明らかだった。
こんな都合の良い言い訳、どうかしてる。こんな大切な贈り物をその一言ですますなんて、どうかしてる。
でも、わき上がる感情はそんな些末なことを吹き飛ばした。
私はうれしさといとおしさで一杯になった自分を抑えきれずに彼に後ろから抱きつき――


――ヘッドロックを掛けた。

「ぎゃああ、痛い痛い痛い、離せ離してくれ!お前一体いくつSTRあると思ってるんだ、死ぬ死ぬ死ぬ!!
 連絡おかずに出かけたことは謝るから、許して、ギブ!ギブ!ギブアップ!フォーギブミーッ!!」

じたばたと暴れる彼(の頭)を右腕の中に抱き留めながら、私は思った。

もう離すものか、と。
155丸いぼうしsage :2004/05/24(月) 23:13 ID:vR/Gjvvw
流れは短編。そして電波も来た。
クルセ萌えスレで話題の上った一途なクルセさんをモデルにやってみました。
本当にいたら少し怖いかもしれませんが。

リレーについて。多分、僕のことを意図しているのではないかと思うのですが、
135氏の発言はそれが事実である分、相当に効きました。
しかし、決して中傷されて傷ついたという意味ではなく、鋭い批評を受けて
返す言葉がなくなったという意味です。僕にとっては135氏の発言は決して不当な物
ではなかったです(投稿しにくい雰囲気になったことは否めませんが)。

おまけに合流場所まで違えちゃったみたいで、現状把握がまだまだのようです。
自キャラ陶酔厨にならぬ為、しばらく保管庫に籠って勉強してきます。
156577:リレー、中途半端だけどここまでsage :2004/05/24(月) 23:54 ID:gunQjBxg
頭上を越えていく影を捕らえた彼女は、
反射的に剣を構えるとそのまま切り落としそうになったときに、
相手が何者であるかに気づいて刃を収めた。

あれはへんなおじさんだ。

傍らに居た大ねずみを串刺しにして、眼をぱちぱちさせると、
彼女は彼の出て行った方向に向かって駆け出していく。

ついていけば・・・会える。

後で女の子達が騒ぐかもしれないと思って、彼女はすこし困った表情をしたが、
次の瞬間には未練を断ち切るように猛スピードで前方に駆け出す
奇妙な格好のスーパーノービス。
ついさっきくぐったばかりの上水道入り口に戻った彼女は、
遠くでハンスがポーションを飲んでいるのを見て、
ほっと一息つくと、さっきから気になっていることをもう一度思い出し、
無意識のうちに髪の毛に指を突っ込んでぽりぽり掻いてしまう。

なんでマナにあいたいんだっけ?
つぎはかちたいから?
マナころす?
・・・
・・・たぶんちがう・・・。
・・・あたまいたい・・・。
・・・かんがえるの、にがて・・・。

走り出すハンスを視界の端に捕らえると、
そこまでの考えをすべて振り払って、
気づかれないように彼を追跡していく。
ずっと考えていると、とても怖いことになりそうで、
彼女は、真一文字に結んだ唇をさらにきゅっと引き締めると、
戦場のなか距離をとって、変わったおじさんを
おいかけることだけに専念するのだった・・・。

---------------------

「あら、また人間?とすると変態3人と、WIZ・プリ・ハンタ・詩人
と・・・あんた等2人で・・・、9人ね。」

「・・・(姉御計算間違っているぞ、という顔)。」

自分を数え忘れる女アサシンの馬鹿ぶりをみて、
ただでさえ狭い空間でLOVをぶちかますウィザードの無鉄砲さに
あきれていた学者は、さらに深くため息をつくと
それでも挨拶だけはしようといった仕草で前に進み出ていきます。

「あ・・・君達が先遣隊か・・・こんにちは。」

「・・・」

悪党から見ても怪しい挨拶に、ローグはなんといって返していいのかわからず
いつもの癖でへらへらと笑って軽く頭を下げたのでした。
心の中では。

「(ん・・・、これは人付き合いに慣れていない、エラそーな堅物が、それでも
なんとか友好的に接しようとして無理やり作った挨拶としか思えないな・・・。)」

などと考えていますが、こんな状況で人間どうしが
つまらないことで感情の行き違いを起こしているわけにはいかないので、
彼は精一杯歓待してあげようと、両手を開いて相手に抱きつかんばかりに
近寄っていきます。
ですがその時・・・。

「---------------ニゲチャ-------メ------メーダ----ヨ-----!」

「何か聞こえる・・・奥からだ、・・・お願い。」

「アタシの経験からすると、あの声はタチ悪い変態の出す声ね・・・間違いないわ。」

アサシンが構えたその後ろから、
プリーストが振り返って奥を覗き、
傍らにはお願いされた射手が、矢を番えて臨戦態勢をとります。
バードがモンクの後ろまで下がると、
弦をいじって・・・。

ピーン

次の瞬間角を曲がって現れたのは、
モンスターよりも怖い表情を浮かべた・・・人間達でした。
消耗し尽し、けが人も多いようですが、
必死に走るそのスピードだけは健常者でも追いつけないくらい
凄いものでした。
一団のうちアコライトとBSが一瞬

『後ろからも敵!』

といった絶望の表情を浮かべましたが、
人間だと気づくとさらにスピードを上げて、
激突寸前で止まり。

「あ・・・たす・・・助けて・・・。」

「く・・・すまねえ、ねえちゃんが後ろで食い止めてる・・・よろし・・・。」

そこで息を切らしてへたり込む二人の足元に、
高位プリーストの聖域が静かに広がります。
さらにぼろぼろになった魔法使いと、それを支える人たちが
一息ついたのと入れ替わりに、後ろから進んでくるモノに立ち向かうべく、
ローグたちは一息吐くと素早く進んでいきました。

後退しながら剣を振るい、姿を現した聖騎士の周囲には、
闇から生まれでたという表現がぴったりくる、羽虫のようななにかが
小さないやらしい声をあげて飛び回っていました。
ダンサーが数歩下がったところから支援をおこなっていますが、
じわじわと体力を奪われており、劣勢なのは誰の眼にも明らかです。

スピードと正確さが勝負!範囲攻撃不可!

そう見て取ったハンターは、
左肩を落として速射の型をとると、
2本の矢を指にはさみこんで1本をつがえ、
流れるようなフォームで。

「セイアアアアアアアアアアアあああああああ!!!!!。」

雄叫びをあげて、丁度ヘルムにへばりつこうとしていた蝙蝠を打ち落とすと、
騎士がこちらを振り向く時間で、

「ひとつ!」
「ふたつ!」
「みっつッツ!」
「四つッ!」
「五つゥ!」

あっという間に五体を打ち倒し、
さらに騎士が刀を振るう間に九体まで打ち落とす。
そのまま弓を構えて突進する彼の後ろから、
あまりの見事さに一拍遅れて、前衛たちがどっと集まるのに
安心したのでしょう、
クルセとダンサーはサンクの範囲まで必死にさがると、
そのまま仲良く前のめりに突っ伏したのでした。
丁度そこまで経って。

「キャアアアアアアーーーーー、なにするダアーーーーーー!!!!」

あまりに耳障りな金切り声を従えて、
彼らの目の前にぬうっと現れた存在は・・・。
15793@pukiwikisage :2004/05/25(火) 13:58 ID:1IsMPkqg
こんにちわ。不定期休みゆえ、忙しくないときはとことん暇な怠け者@保管庫の人です。
>>150さま
 掲示板つけてみました。あと、裏で作業はしてないですヨ。気が向いたら2〜3時間かけて
編集しながらアップしてます。

 ……1Fに弓兄はいなーい! ……帰り道って事で勘弁してください。彼も道に迷ったんですよ。
158一個前の201@リレー乱入sage :2004/05/25(火) 14:28 ID:ROMukDMI
奴が強い生気を放つ個体の元へと向かい、俺は束の間の自由を手にした。
状況は理解できている。奴の血には奴の記憶が混じっているからだ。
奴の血によって目覚めた俺にもその情報は与えられる。
・・・今回の敵対者達は、奴を滅ぼし得るだろうか?
今までで一番可能性が高いのは確かだろう。今回の計画は過去最大規模だ。
奴の計画が大掛かりであればある程、それを知り敵対する者もまた増える。
敵対者が増えれば奴を滅ぼし得る人材、手段も増えるという事だ。
だが、だからこそ俺は奴が恐ろしい。奴は勝算の無い戦いはしない。
十分な勝算が出来ればこそ、奴は計画を実行に移すのだから。
今度こそ・・・もはや口癖になってしまった、今まで叶えられなかった言葉を繰り返す。
見極めなければならない。この地に留まり戦いを続ける者達が奴の前に立つ資格を持つか否か。
手段は極めて簡単だ。俺を軽く凌駕する実力を持っていれば良い。
奴に勝てない俺・・・その俺に勝てない程度の実力では無駄に命を落とすだけだ。
奴の血は殺戮を好むが、俺は無駄に人を殺す事を好まない。
俺は奴に与えられた血と意思と力を、自らの意思で押さえ込んでいる。
奴の他の下僕と、俺が決定的に違うのはその部分だ。
そして恐らく、奴が俺を好んで使う理由もそこにある。俺の葛藤を、抵抗を、楽しんでいる。
いや・・・今は余計な事は考えずに相手を見極める事に専念しよう。
巨大な力がこの狭い空間で幾度か使われた形跡がある。
その為空間に歪みが生じ、空間転移が少々使い辛い。
俺は現在位置から比較的転移しやすい場所に居る一団を捕捉し跳躍。
標的達の後方に出現。奇妙な叫び声が前方より響き、一団の内数名がそこへと掛け出していく。

「ちっ・・・他の奴まで来ていたか」

俺と同質の気配を感知。身も心も奴に捧げ醜悪な怪物と成り果てたモノが居る。舌打ちが漏れる。
どうやら俺が捕捉した一団とそいつが追っていた連中が接触したらしい。
不愉快だが好都合ではある。この場に居る人間達の実力を見極める事が出来る。
とりあえずは気配を消し、観察に徹する事にする。
目の前には不快な波動に満ちた結界、その中で意識を失っている数名と見守る者数名。
まともに戦える状態ではない。戦えない者に興味は無い。
殺戮せよと騒ぐ血を抑えつけ、気配を殺したまま残影で跳び越す。気付かれはしなかった様子だ。
そのまま前進。掛け出していった者達の背中を捉えた。

そして、俺は・・・多大な精神的衝撃を受けて立ち尽くした。
159一個前の201sage :2004/05/25(火) 14:38 ID:ROMukDMI
他の作者殿の邪魔はしない方向で続けてみるテスト
今回は時間と座標を合わせただけで
具体的に行動を開始するのは次回からの予定

毎度ながら板汚しスマヌ。では
16093@懺悔室sage :2004/05/25(火) 15:35 ID:1IsMPkqg
自分のための、下水混戦地帯位置関係メモ

         奥のほう

交戦開始!
        [悪吸血鬼:狗]


    [姐御][ローグ][モンク]
[姉プリの相棒ハンタ][殴りプリ][詩人]

  [残影で移動した悪モンク@観察中]


後方?

  【サンク(不快な波動の結界:悪モンク談)内戦闘不能】
     [女クルセ][ダンサー][アコたん][戦闘BS]
  【見守る人】
     [学者先生][ケミくん][姉プリ]


更に後方
  【Mob三羽烏】
     [道兄][ドッペル][深淵]
161一個前の201sage :2004/05/25(火) 16:07 ID:MyPM/rAs
をれはちょうどそんなイメージだったんだが
577氏の方を良く読み返すとそんなに前後で距離離れてなかったな
・・・申し訳無い。都合が悪ければスルーしてくれ・・・
162名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/25(火) 17:02 ID:I6gik3oo
皆の思ったとおりに行かないのもリレー小説の醍醐味だと思うのは俺だけ?
16393@最近はリレー脳が枯れ気味?sage :2004/05/26(水) 12:33 ID:ene30KXg
 私もクルセ子たんは萌えですよっ。ということで無謀にも丸い帽子さんに対抗してみるテスト。

----

 久しぶりに首都を歩く。人が減った、と言うのが目に見えてわかる。まぁ、その為の移住なのだから、当然
だろう。以前は商売人や、行きかう人々の熱気であふれていた大通りだが、程よく減った人通りのお陰だろうか、
風がよく通る気がする。まるで、大事な何かがなくなったようだ。今の、私の心の中のように。
「…違う世界のプロンテラも、この風が吹いているのかな」
 つい、そんな言葉が口をついた。


 初めて会ったときから、カインと私は気があった。綺麗な黒髪をこざっぱりと整え、お洒落なグラスをかけた
色男風の彼と、くすんだ金髪を長さだけ整え、実用本位の鎧兜に身を包んだ私は、見た目は正反対だったけれど。
 人を守るために剣を取った聖騎士志願の私と、人を癒すために聖職を志した彼は、ある意味で似たもの同士
だったのかもしれない。私の名前がマイア、彼の名前がカイン。真ん中に同じ字があるだけのことがあんなに
嬉しかったのは、何故だろう。
 自分が役立てるかどうかを試したくて応募した初めての臨時PTが終わる頃には、私は恋に落ちていた。
自惚れてもよければ、多分彼も。

 相方、などとお互いを言ったことはない。彼がギルドを作って一番最初に私を勧誘してくれた時も、それから
後も。私も彼もお互いの目指していた物を忘れることはなかったから、求められれば誰とでも共に戦ったし、
ギルドも二人だけの場所というわけではなかった。それでも、気がつけばいつもお互いの隣に座っている。
それだけで、通じ合えていると思っていた。


 リタと出会ったのは、そんなときだった。剣を磨こうと修行に赴いた海底洞窟で、半漁人から逃げ回っていた
ところを助けてあげた、赤毛の可愛い魔法使いの女の子、それがリタだった。彼女とも、彼とは違う意味で
ウマがあったから、それからもそこで顔をあわせたときには少し座って話をするようになった。
 彼女は、私に会えるかどうかを毎日楽しみにして海底洞窟の階段を降りているのだと、何のてらいも無く言う。
会う度に私の事をマイア姉さん、と呼んでひまわりのような笑顔を見せるリタはいつも直球勝負で、無邪気な
彼女の好意は私には少しくすぐったかった。

 私達と共に戦うには、彼女はまだ未熟だったけれど、一緒にいたいと言う熱意に押されるように、私達の
ギルドに入れた。後からリタを紹介したときには、彼は、しょうがないなぁ、と笑っていたっけ。
 一緒のギルドに入ってから、彼女は海底洞窟だけでなく、もっと手ごわい敵のいるところにいくようになった。
少しでも早く、私や他のみんなと一緒に狩りに出たいのだと、にこにこしながら言う彼女を、私も彼も一生懸命
応援した。

 何事にも素直なリタが彼を好きになったのは、誰に聞いても自然な成り行きだったと言うだろう。純真な娘が、
自分の為に親身になってくれる男性に好意を寄せるようになる、なんてあまりに当然過ぎて、それが現実になる
まで私は気がつきもしなかった。


 あれは、二週間前のこと。時計塔の裏手のいつもの溜まり場で、ギルドの仲間達と、移住についての相談を
していたときだった。移住派、残留希望は半分ずつ位で、それぞれの事情もありなかなかどちらかに纏まりが
つかず…。それでも、ギルドとして見解を出さなければならないとあって、双方の説得合戦は白熱していた。
仲がよい故に、険悪になりそうな、そんな妙な雰囲気。

 みんな、落ち着こう。そう彼が言ったときにはメンバー全員、ほっとした様子だった。調停に疲れていた私も、
飲み物で喉を潤す時間が欲しかった。そんな、少し気が抜けたような時。

「…ね。マイア姉さんはカインさんの事、どう思ってるんですか?」
 突然そんな事を聞かれた私は、思わず飲んでいたバナナジュースをテーブルの上に盛大に噴き出した。
「そ、そんなこと。今の議題には関係ないだろう!?」
 あわてて、汚れていない布を取り出して拭きながら答えた声は、ちょっと上ずっているのが自分でもわかる。
「…んー。関係ないかもしれないけど、でも聞きたいです」
「……あ、俺も聞きたいねぇ。鋼鉄の淑女、マイアさんの乙女心ってやつ?」
「アタシも興味ある」
 テーブルから目を上げるとギルドの面々がにやにやとしているのが見え、私は彼の方を見るのが怖くてもう
一度目を伏せた。
「……大事な………」
「大事な?」
 あまりの不意打ちに、動悸が治まらない。頬が紅潮しているのを見られることが恥ずかしくて、私は俯いた
まま、自分の心に嘘をついた。
「…………一番、大事な仲間だ」
「仲間、なんですかぁ…」
 彼女のいつもの朗らかさに似合わない歯切れの悪い相槌と一緒に、周りのギルドメンバー達のつまらなそうな
ため息が聞こえた。彼女に悪気はないのだろうけれど、私だって女なのだ。大事な一言を、見世物のように
扱われるのは嫌だった。それに、こんな言い方でも彼なら…、私の気持ちをわかっていてくれるはずだ。

 そう、思っていた。
16493@スレの流れがいささかも絶えぬ事を!sage by剣士くん :2004/05/26(水) 12:38 ID:ene30KXg
「…お姉さん、私、カインさんに告白しちゃいましたっ」
 いつものような明るい笑顔の彼女の声が、私の自惚れを打ち砕いた。あれは移住申し込みが始まったばかりの
夕方。傾いた日差しがプロンテラの市外を赤く染め上げる中、リタは夕日よりも赤く色づいた頬で、私の前に
立っていた。
「……そう」
 彼女の笑顔を見れば、返事など聞かずともわかる。どうしてそうなったのか、なんて悩むのは後のことだった。
そのときは、ただただ心が空洞になったようで、視線が石畳に落ちる。
「…おめでとう、って…言ってくれないんですか?」
「……おめ、でとう」
「ありがとうございますっ。私、一番にお姉さんに言いたかったんですよ」
 幸せそうな声の、彼女。私は惨めな自分を見せたくなくて、精一杯の笑顔で彼女の方を振り仰いだ。リタの
向こうには、逆光で見えないけれども、見間違うはずの無い彼のシルエット。リタは私にもう一度飛びっきりの
笑顔を向けると、彼の元へと駆け寄って行った。私は、笑顔で彼らを見送り…

 それから、
  家に帰って声を上げて泣いた。


 結局、ギルドの移住方針はうまく統一できず、残留組と移住組に別れることになった。あの日から、ギルドの
溜まり場を避けていた私だったが、その日は最後の定例集会。私はそこにいかなくてはいけない。カインが、
リタとの事を皆に報告するだろう。それを、一番古くからの友人の私が祝ってあげなくては、彼らは余計な気を
回すはずだ。
 ……そう。そんな二人だったから、私は好きだったんだ。だから、辛くても笑いに行かなくては

 そう自分に言い聞かせて、嫌がる脚を無理に溜まり場に向けた。通いなれた時計塔の脇。季節外れの赤服の
老人が脳天気な声で笑いかけてくるのもいつものことなのに、その日の私はそれが辛くて、唇を結んだまま
足早に横を通り過ぎる。
 いつも彼がいて、彼女がいて、仲間たちがいて…そして、私がいた、あの溜まり場。ここに来るのはきっと、
今日が最後だ。だから、最後の一日を笑って過ごす勇気を。

 そう願って握り締めたロザリオは冷たかった。

 その日はほとんどずっと、うつむいたままでいた。何を話したのか、それ以前に誰と話したか、誰が出席して
いたのかさえも覚えていない。少なくとも、カインに話しかけられなかったのだけは確かだ。早く終わらせて
欲しいと思っていた、幸せな二人の報告はないままで、その日の例会は終わった。
 …最後らしい華やかなイベントも無く、三々五々と散っていく仲間の姿は、そのまま私とカイン、リタの
ようで、涙が出そうになる。私はそれを見ているのが辛くて、足早に去ろうとした。赤服の老人の前を曲がり、
塔の脇を抜けようとした時、そんな私を小さな声が呼び止める。
「…待って、マイア姉さん」
 それは、二番目に聞きたくなかった声だったけれども、すぐには彼女と分からなかった。幸せ一杯だろうと
思っていた私の想像とは全然違う、打ちひしがれたような声。思わず振り向いた目に映る人影は、一つだった。
「マイア姉さん…。私、魅力無いのかな?」
 すがるような、心細げな。そんな目を彼女がするのを見たのは初めてのように思う。
「…そんなことはない。どうして、そんなこというの」
「カインさん、まだ、私を…抱いてくれないんです」
 悲しげな彼女の言葉を聞いて、私の中のどこかが喜んだ。…惨めだ。情けない。それを振り払うように、
口を開く。
「気にすることはない。あいつは、そういう奴だ。…私とずっと二人だったときも、何も…」
「…え?」
 自分が何を言いかけていたのかに気づき、口を閉じた。それは、言ってはいけないこと。何を弱気になって
いる。父なる神よ、一度だけでいい、友の為に私に勇気をお与えください。

 血が出るくらいに握り締めた手の中で、十字架はぽきりと折れた。私の、心のように。
「………っ」
「…マイア姉さん。カインさんのこと…本当に、なんとも思ってないんですよね?」
 彼女は上目で、私の篭手を細い指で掴む。弱々しい質問。それに私は答える。…答えて、しまった。

「…何とも思ってないことなどあるかっ。あいつを、私は好いている!」
 吐き出すように。この苛立ちは、リタに向けたものじゃない。ここで黙っていられない自分の不甲斐なさ、
それがたまらなく憎い。人の為にと言って剣を取ったはずの自分が、最後に可愛いのは結局人よりも自分なのか。

 醜い。
  こんな醜い自分は嫌いだ。

「なんで…どうして言ってくれなかったんですか…」
 私の篭手に、震えが伝わってきた。その感触が、私を我に返らせた。私は、彼を好いている。けれども、彼に
相応しいのは自分なのか? 私は醜い。こんなに、醜い。
「……リタ、貴女が彼を好きだというならば、彼にとってはその方がいい。そう思ったからだ」
「そ、そんな…そんなのって。おかしいですよっ」
 今まで我慢していたのだろうに、私のために涙がこらえられない、そんな綺麗な心の、貴女だから。今度こそ
本当に、そう思った。ゆっくりと、優しく彼女の指を離し、正面から目を合わせて
「さようなら。彼と幸せに」
 多分、その時の私は今までで一番の綺麗な顔を出来たと思う。……でも


「…違う世界のプロンテラも、この風が吹いているのかな」
 問い掛けた私の声に、返事はすぐ隣から帰ってきた。
「さぁな。でも…、あいつならきっと、どんな北風にあっても、へこたれずに、幸せをつかめるさ」
 顔を向ければ私よりも少し高い位置に、彼の顔。まるで昔のように、気がつけば彼は私の隣にいた。移住の
後で彼に声をかけられた時、最初は驚いたけれども…。ようやく、それに直面する勇気が出来たから、私から
ここにカインを呼び出した。私の手には、リタがこっそり私の部屋に置いて行った真新しいロザリオ。

 結局、彼女の心は最後まで私よりも綺麗だった。移住締切りの前に私の気持ちを彼に伝えて、…この世界に
残るように言ったらしい。移住が終わった後で、カインからそれを聞いたときに、とても、彼女らしいと思った。
多分、新しい世界でも、あのときの私の何倍も、綺麗な顔をしているのだろう。

「…私は、馬鹿で見苦しい真似をした。人をこの腕で守ると志したのに、その舌で掛け替えの無い友を傷つけた
 …カイン、それでも私は貴方に相応しい相手でいられるのだろうか?」
「そうだな。でも、俺も同罪だ。…いや、俺の方が罪深い。自分の気持ちに気づいていながら、嘘をつくだけ
 じゃなく…、彼女の好意に逃げようとしたんだからな」
「自分の、気持ちか。彼女は、私を恨んでもくれなかったな…」
 自責の念で下に向きかける私の目を、カインの目は捕らえて離さない。吸い込まれるような黒。
「彼女は、最後に俺に言った。償いはお前にしろってな」
「…ぇ」
「だから、精一杯お前を幸せにする。自分の好きな相手の心も癒せない糞プリーストに、他人を癒すなんざ
 無理だ」
 初めて貰った言葉に、涙が滲む。…言葉にしなければ伝わらない事も、ある。それに気づくまでにとても
回り道をした。手の中のロザリオが祝福をくれるように暖かく。
「…私も…、もう二度と、己の心に嘘はつかない。…貴方を離さない。ずっと…ね」
「ん?」
 少し背の高い彼に向かって背伸びをして、人ごみの中、周りの目も気にせずに彼の唇を吸う。驚いたような
目をしていた彼の手が、少し遅れて私の背中に回った。

 今日から、はじめよう。いつも自分の気持ちに素直になることを。それが、神様からじゃなく、大切な友から
貰った勇気だから。

----
16593@懺悔室sage :2004/05/26(水) 12:40 ID:ene30KXg
Q:……なんか私の書く主人公はどうしてこう、不器用な人にしかならないのかなぁ。
A:不器用萌えだから

 一番不器用なのはマジ子ちゃんだと思いますけど。気が向いたら彼女も幸せにしてあげたいなぁ…。ベタな
内容しか思いつかないけど。そういえば、俺キャラまんせーっていうのとは違うかもしれないけど、自分の
キャラクター萌えじゃないと何も書けないよね。そうそうたる面々をお借りした上に、いいところだけ自分の
主人公のプリくんにもってかせた私が怒られてるんだろうな、と思ってたですよ。読み返すと、なんかえー…
って展開だし。それに比べれば、201さんの齟齬なんて微々たる物ですっ
   orz...<書いてて悲しくなったらしい

 でも、できれば一括あぼーんはして欲しくないな。私だって成長するんですよっ。…多分。いや…できると
いいなぁ、くらいですけど。そのためにも、気になったところは是非名指しで言ってくださいましね。>おーる

 リレーと短編どっちがいいー、っていうのは移住と残留の希望調査みたいだな、と書きながら思いました。
仲がよい故に、険悪になりそうな、そんな妙な雰囲気。拙作中のギルドみたくならない事を切に祈りながら
妄想の泥濘に沈み込んできます。
166猫車革命(花のHB)sage :2004/05/26(水) 18:44 ID:KO/cg9sc
「ブラックスミスとアルケミスト。どっちになろうかなぁ」

 首都のカプラサービスのディフォルテ嬢の近く。
 競争の激しい場所だが、品物が売れやすいために露店がいつもひしめいている。
 そんな場所で、鉱石や収集品等のプチレアやミルクやブルージェムストーンといった消耗品の露店を出しながら、商人の少女は溜息をついた。

 彼女の名前はルル。華奢な体つきとすみれ色のショートカットの童顔のせいで、年下の子供に見られることはあっても年相応の女性として見られたことはない。
 だが、実際は大人の男も持ち上げるほどの筋力の持ち主で、戦闘型と言われるタイプの商人だ。
 そして、商人としてのレベルもそろそろカンスト。
 二次職と呼ばれる職業のブラックスミスかアルケミストのどちらかを選ぶ時期に来ている。

「でも……」

 ルルは横の露店を横目でちらりと見た。

 その露店には、高価なカードや過剰精錬された武器・防具が並べられ、おまけ程度にルルの露店と同じ消耗品が(しかも安く)並べられていた。
 露店の主である逆毛に頭巾をつけたブラックスミスは、露店の商品にもかかわらず座り込んでのんきに居眠りをし、かけているサングラスが今にもずり落ちそうだ。

「こいつと……同じ職にだけはなりたくないし」

 ルルはボソッとつぶやいた。

 このブラックスミスとは何の因果か、この辺りで露店を開くようになってから場所がよく重なる。
 早起きしてくればすでに場所は取られているし、いないと思って露店を開いても少しするとすぐ近くで露店を開かれている。

 今はやりのストーカー?!

 などと一時期思っていたけれど場所が競争の激しい場所であるだけに、ただの偶然だろう。

「……ほんと、どっちにしよう」

 こんなとき、昔なら相談できる友達もいたのに……。

 不意に、ルルは何ヶ月も前に新世界に旅立って行った友人を思い出した。
 転職祝いにプレゼントした花のヘアバンドがお気に入りで、強くて元気で優しかった彼女。
 本人は自分が気が付いてないと思っていたみたいだけど、その強さの裏に脆さがあるのだってわかっていた。

 何でも話せる友達だったのに。

 その親友は自分にも内緒で新世界に行ってしまい、一人取り残された。
 そのことを知らせてくれたのは、たった数日の幻想祭の間、彼女と一緒にいた男。

 どうせなら、直接言ってくれれば良かったのに。

 ノービス時代から、一緒に色んな話をして狩りに行って……大切な時間を一緒に過ごしてきたと思ったのに。
 自分は彼女にとっては、親友ではなかったのか。
 たかが数日の相手よりも、大切ではなかったと言うことなのだろうか。

「……転職したら、お祝い持って駆けつけるよって言ったのはどこの誰さ……ばかっ……」

 なんだか、ルルは無性に悲しくなった。

 ギルドは、最近始まった攻砦戦のことでギクシャクしている。
 攻砦戦をやりたい高レベル層と、のんびりやりたい低レベル層の対立が最近激しいのだ。
 その上、ギルドマスターは攻砦戦のために自分の職を変えようと考えているらしい。
 そうなれば、ギルドは間違いなく解散。
 また、自分の居場所を探さなくてはならない。

「お嬢ちゃん、営業中はスマイルやろ、スマイル」

 感傷に浸っていたルルを現実に引き戻したのは、隣で露店を開いていたブラックスミスだった。

「商人たるもの、いかなるときも愛想良くな。折角かわええんやから、その方がお客さんも来るやろ」
167猫車革命(花のHB)sage :2004/05/26(水) 18:46 ID:KO/cg9sc
 ニヤリと笑って、グッと親指を立てる。
 その仕草が、なんともオヤジくさくてルルは笑い出した。

「あは、ありがとー。でもあたしは、これでもお嬢ちゃんって年齢じゃないんだけどさー、おじさん」

 おじさんと呼ばれたブラックスミスはカチンとしたのか、立ち上がった。

「失礼なやっちゃな……わしはおじさんやないで! これでもまだ20代やからな。見た目で判断せんとき、お嬢ちゃん」
「だーかーらー……花も恥らう乙女のあたしちゃんに対して、お嬢ちゃんはやめて! これでも立派に成人してるんだから。どっちが見た目で判断してるのさ」

 ルルも立ち上がるが、身長差が激しくて、どうがんばってみても子供が大人に張り合っているようにしか見えない。

「……あのー、お取り込み中すみませんけど……これ全部頂けますか〜?」

 バチバチと睨み合っている背後から、ルルに声がかけられる。
 振り返ると、鉱石が入った袋を手にしたブラックスミスと騎士の二人連れが、笑いを堪えている表情でこちらを見ていた。

「あ、はーい。全部で70,000zになりまーす」

 瞬時に営業スマイルに切り替えてにこやかに返事をし、お金を受け取る。
 袋を受け取った二人は、人通りの中に歩いていき……こちらの姿が見えなくなった辺りで大笑いしている声が聞こえた。

「……お客さんに変なところ見られちゃったさ。全く」

 ボソボソといいながら、露店の商品の補充をする。
 件の原因となったオヤジ……本人は否定するがルルの中ではすでに決定されているブラックスミス……の方を見れば自分よりもはるかに慣れた手つきで商品を補充し、愛想よくお客と応対していた。

 ……居眠りばっかりしてるわけじゃないのか。

 ちょっとだけ彼を見直してもう一度座り込もうとすると、人込みの激しい十字路の方から叫び声が上がった。

「え……なに?」

 雪崩れるように倒れて行く露店。
 我先にと逃げ出す人々、武器を片手に立ち向かう冒険者。
 その背後には深淵の騎士を初めとするモンスターたちが溢れていた。

「枝テロ!?」

 古木の枝は折ることでモンスターを召喚することができる。
 枝テロとは、人通りが多い所で古木の枝を折ってモンスターを召喚して人々を襲わせる行為を指している。
 冒険者にとってはこんなテロはあくまでも楽しみの一つにしかない。
 だが、一般の人々や露店を開く商人に取ってみれば迷惑極まりない。
 おちおち買い物もできないし、商品を蹴散らされるし……できれば無い方がありがたいのだ。

「ヤバ……規模が大きいみたい」

 普段なら十字路で起きたテロは今自分がいる辺りまでモンスターが来ることは無い。
 そうなる前に、冒険者達がモンスターを倒してしまうから。
 しかし、今回のテロは使用した枝の数が何十本単位ではなく何百本単位のようで規模が違う。

 巻き込まれる前に、逃げないと!

 逃げ惑う人々を尻目に、大慌てで商品をカートに放り込んで露店をたたむ。
 そして、その場を離れようとしたルルの目の前で、母親とはぐれたらしい幼い子供が人の波に押されて倒れこんだ。
 母親を探し求めて泣く声は、逃げることに必死な人々の耳には届かない。

 すぐ目前迫る、深淵の騎士。

 考えるよりも先にルルは咄嗟に行動に出た。
 そのまま幼子を抱きしめて、モンスターから守ろうとしたのだ。
 ぎゅっと目を閉じて、深淵からの一撃を耐えようとして。
168花のHBの中の人sage :2004/05/26(水) 18:53 ID:KO/cg9sc
木陰から、こんばんは。
コテハンはあまり好きではなかったのですが自分が嫌いな人もいるかと思いまして……
タイトルの横に花のHBをつけさせていただきました。

ベタな展開でごめんなさい……
また、しばらくお付き合いくださると嬉しいです。

それでは、また……。
___ __________________________________________________
|/
||・・)ノ
169名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/26(水) 20:06 ID:ene30KXg
マッテタヨ
170lyiol;i; :2004/05/27(木) 21:22 ID:CboRC6DI
fsgehrtjhkyfl
jxfyjrtyjdtjy
171名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/27(木) 23:43 ID:nrHgGH0k
おう?
172名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/28(金) 19:04 ID:ttBZCqlE
スレが止まった・・・
173名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/28(金) 19:07 ID:1Pw//oNQ
ザ・ワールド!
174名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/29(土) 00:12 ID:81MYqq8.
そして時は(ry
175名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/29(土) 00:40 ID:osiHITwA
ほっときゃ再び動き出す。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って、ラグか?!
176名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/29(土) 11:19 ID:cRiZ3BaU
この流れなら書ける…? 思いついた一発ネタをぽいっと

地下水道下層にて聖騎士さんvsDIO様のうらっかわ


 アサシンは、自分のこの「仕事着の紫」を着る時、いつも思い出す。

レオ=フォン=フリッシュ
『アサママさん、お宅のアサシンくんは、固定PTをまったく作ろうとしません。
 そう、嫌われているというより、まったく人とうちとけないのです。
 初心者教師としてとても心配です。』

アサママ
『それが…恥ずかしいことですが…親である…わたしにも…なにが原因なのか…』

 ノービスの時から思っていた。臨時広場に座っていると、それはたくさんの人と出会う。
しかし、普通の人たちは、一生で真に気持ちが通い合う人が、いったい何人いるのだろうか…?

 大聖堂の女プリのともだち欄は、友人の名前でいっぱいだ。
50人ぐらいはいるのだろうか? 100人ぐらいだろうか?

 騎士にはペコがいる。ハンターには鷹がいる。
 自分はちがう。
 ギルドエンブレム背負っている人とか、ひゃっくたんはきっと何百人といるんだろうな。
 自分はちがう。

「自分にはきっと一生、誰ひとりとしてあらわれないだろう」
「なぜなら、この「仕事着の紫」が見える仲間はだれもいないのだから…
 見えない人間と真に気持ちが通うはずがない」

 オーラ聖騎士さん、死んでいた踊り手、陽気なBS、真面目な女クルセと可愛い女アコに
出会うまでずっとそう思っていた。
 目の前で殺されていくオーラ聖騎士のことを考えると、背中に鳥肌が立つのはなぜだろう。
それは、目的が一致した初めての仲間だったからだ。後ろに続く者の為にという、この戦い!
数十分の間だったが、気持ちがかよい合っていた仲間だったからだ。

 アサシンは「仕事着の紫」を見て考える!
こいつを昔のように誰にも気づかせなくしてやる。
そう! 奴の正体をあばき、倒すため完璧に気配を消してやろう…。


……ごめんなさい。駄目ならスルーよろ>作者様方
177名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/29(土) 16:11 ID:.KFBFsPs
「仕事着の紫」はちょっと無理があるかと思いましたけど、
元ネタに忠実でありながら場面的にもキャラクター的にも良い改変だと思いました。
というか個人的にあの場面大好きなのでハァハァ。がんばれアサシン。

「くらえッ!! 金髪野郎ッ!! 半径20mベノム・スプラッシャをーッ!!」
;y=-( ゚∀゚)・∵:.
178名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/29(土) 17:32 ID:81MYqq8.
「くらえッ!! 金髪野郎ッ!! アドバンスドカタール研究&ソニックブロー!!」
  _、_
( ,_ノ` )<未実s(ry

;y=-( ゚∀゚)( ゚∀゚)・∵:.
179名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/29(土) 19:02 ID:TkNABjQA
ジョジョスレになりような予感
18093@pukiwikisage :2004/05/29(土) 20:01 ID:cRiZ3BaU
 短編の保管作業がここまで追いついたのでご報告。
ttp://cgi.f38.aaacafe.ne.jp/~charlot/pukiwiki/pukiwiki.php
まぁ、長編とかリレーとかは他の纏めサイトさんが立派だから……
トップにもリンクがあるのでそちらにお願いします  (逃
181前225 1/2sage :2004/05/30(日) 05:07 ID:SC4A5LA2
 高い。高過ぎる。
 五の後に零が五つは並ぶ値札と、風を纏った海東剣を前に、剣士の娘は細い眉を八の字に下げた。
 プロンテラを十字に貫く通りの中央、道具屋の隣に、女の鍛冶師が営むその露店は開かれていた。
 無論、価格が正当でないとは言わぬ。寧ろ、現在の相場以下ではあるものの、片手剣のうちでは
十分上品である海東剣の値と、年若き剣士の懐具合が吊り合う筈がなかった。万一、手持ち全ての
財を捧げて許しを請うとしても、その後暫くは草でも毟って食うしかない。
 薬草では腹は満たせぬ。溜息を吐き、露店を去ろうとする剣士の背に、唐突に快活な声が掛けられた。
「欲しいの?」
 振り向くと、店主なのだろう、海東剣を始めとする雑多な品を並べた後ろに、石畳に尻をつき、
膝を抱えて座る女の鍛冶師が明朗な笑みを浮かべ、剣士を見遣っていた。
「あ、……はい」
 銀の前髪を揺らし剣士は頷く、
「私、イズルードの海底洞窟に行きたいんです。あの海底に沈んだ神殿を自分の目で見てみたくて」
「ふうん」
「でも、……お金、ないんです」
 夢はあれどもゼニーは無し、己を恥じ、消え入るような声で呟く。その様を見遣った鍛冶師は、口許を
上げたまま、ある案を呈じる。
「何だったら、取り置きしておこうか?」
「え!でも、何時御代金を用意出来るか分からないですよ!?」
 突然の申し出に驚きを隠せず、周囲の雑音に混じり頓狂な声を挙げる剣士を見上げ、鍛冶師はにこやかに
告げる。
「ゼニーでなくてもいいよ、500k分のブツを持って来てくれれば」
「ご、500k!?無理です!そんな御金、何処にも……」
 日頃火の車に乗る身としては卒倒しかねない金額を示され、瞬時剣士は眩暈を覚える。が、
「あなた、代売りとか頼んだことないんじゃあない?カプラさんを当たってみたら、案外倉庫に貴重なものが
在るかも知れないよ。今まで何枚かカードを出したことない?」
 敏活たる物言いに促され、己の戦歴を省みた剣士は指折り数えてみる。
「ええと……ポリンやドロップス辺りだったら……」
「成る程ね、後は空き瓶なんかも高く売れるんだけど、取り敢えずは倉庫と相談してからだね。勿論、
要らないものだけでいいからさ」
 言い終えるや否や、石畳に広げた布の上に並べた品々を荷押し車に手早く仕舞い始める鍛冶師に、
不思議を隠せず剣士は尋ねる。
「でも、いいんですか?もっと早く売れるかも知れないのに」
「うん、別に即金が欲しいわけじゃあないし」
 答を返しながら最後に丸めた敷布を荷押し車に乗せ、振り向き様に鍛冶師は微笑む。
「あなたの支払いが終わるまで、絶対に誰にも渡さない。これでいい?」
「勿論です!有り難う御座います!」
「いいっていいって」
 思わぬ義を受け、力強く頭を下げる剣士に、鍛冶師は笑って応えた。
 鍛冶師の微笑の代わりに剣士の瞳に映るは、首都に敷き詰められた白い石畳だった。

 二人連れ立って、人の海を擦り抜けつつ、西門前のカプラ嬢の元を訪れる。幸い、先客は居なかった。
「倉庫を使いたいんです」
「はい、倉庫サービスですね、畏まりました」
「一寸見せてもらってもいいかな」
 異議の申立が在る筈もない、カプラ嬢から受け取った目録を手渡すと、鍛冶師はよく動く眼と人差し指を
紙束の上に走らせる。暫しの後、一通り見終えたと見え、鍛冶師は顔を上げた。そして、手持ちの財で
幾ら補うことが出来るかと気が気でないといった体の剣士に笑いかけた。
「そうだね、売れそうなのはウィロー、ドロップス、と……あなた、結構レア運あるよ」
「そうなんですか?でも、弱い魔物ばかりですよ」
「カードの値段には希少価値だけじゃあなくて、肝心の効果も影響するからね。結構高いものもあるよ。
ウルフは要る?」
「はい、武器の威力が上がりますから」
「ジェムは?……要らないか、剣士さんだもんね」
「ええ」
「となると、願いましては……わお。386K700ゼニーだね」
 一連の遣り取りを済ますと、鍛冶師は商人の時分に培った算術を駆使し、空で答を出す。
「残りは空き瓶で言うと、一本300ゼニーとして、377本ってとこか」
「分かりました!ポリン島に篭って頑張ります!」
「要らないもの拾ったら持っておいで。あたしは大抵ここで露店開いてるからさ。wisでもいいよ」
 此処で剣士ははたと詰まった。wis、即ち念話には相手の名を要する。そう言えば鍛冶師の名を知らぬことに
漸く気付き、今更ながら剣士は訊ねる。
「あの、御名前は?」
「ローズマリー、宜しくね」
「私はクレールです、此方こそ、宜しくお願いします!」
 己の名を告げた剣士は、快活な笑顔と共に差し出された手を握り返した。その手は幾多の鍛冶により、
多少硬さを帯びていたものの、柔らかく、そして温かかった。
182前225 2/2sage :2004/05/30(日) 05:08 ID:SC4A5LA2
 フェイヨン迷いの森の一角、通称ポリン島にてポリンを狩り続けること数週間。剣士は荷を持て余す度に
プロンテラ中央広場へと足を運び、空き瓶、時には黄緑色をした粘つく液や紫の結晶を鍛冶師に手渡していた。
唯品の受け渡しをするだけではない、顔を合わせる毎に二人は言葉を交わし、時には共に食堂にて夕餉を
食しつつも、つい話に興じ過ぎて店の者に咳払いを喰らったこともあった。斯様に仲を深めた由には、女同士故、
気兼ねが要らぬという事情もあれど、鍛冶師の気質によるものが大きかった。常に浮かべる快活な笑みと
気風の良い話し振りは、己よりやや年を重ねた分の含蓄をも交えて、剣士の心に染み入った。
 近頃では、肝心の海東剣を己が手に近づけることより、寧ろ鍛冶師の笑みに迎えられることを心待ちに
プロンテラへと舞い戻っていたのが正直なところであった。埋まらぬ荷袋の空きが、もどかしかった。
 漸く一杯になった荷袋を抱え、今日も剣士は十字路の角を訪れる。その歩みは、常より心なしか早い。
 遂に、空き瓶の数が達した。海底神殿を訪れるという己の夢に一歩近づけたのだ。
 一刻も早く鍛冶師に吉報を告げようと広場に飛び込むも、常は道具屋の隣に露店を構えている筈の鍛冶師の
姿が見えない。代わりに其処に居たのは、
「うわ!ローズマリーさん!?」
 黒丸と二つと弧が描かれた面を被った怪しげな女の姿に、礼も何もあったものではなく、剣士は広場一帯に
響き渡るが如き甲高い声を挙げた。
「ん?変?」
 剣士の声に驚いたか、笑いを象った面を外すと、軽く眼を見開き鍛冶師は訊ねる。
「……御免なさい、一寸、吃驚しました」
「あはは、偶々材料が手に入ったからさ。これつけてると、ほんの少しだけ硬くなるんだよね」
 真を答える剣士に向かい、鍛冶師は脳天気に笑む面を己の顔の横に掲げ、比するかの如くにかりと笑う。
その笑みを崩さぬまま、鍛冶師は呟いた。
「ほんとはつけてもつけなくても、大して変わりないんだけどね」
「魔物から受ける衝撃が、ですか?」
 言の意図を解せず問い返す剣士に、鍛冶師は再び微笑みかける。
「……そうだよ」
「あんまり無理しないで下さいね。近頃じゃ魔物も力をつけてきたみたいですし」
「ん」
 労わりに頷く鍛冶師に、漸く本来の目的を思い出した剣士はぱっと顔を輝かせ、膨らんだ荷袋を石畳に置き、
言った。
「そうだ!やっと揃ったんですよ!これで500Kですよね」
 荷袋に詰まった空の瓶を取り出し、一つ一つ数えていた鍛冶師は、手にした帳簿と見比べると、やがて首を
縦に振った。
「うん、御疲れ様」
 遂に、遂に念願が叶う瞬間が訪れたのだ。沸き起こる感激に思わず手を握り締める剣士に、荷車から大事そうに
取り出した一振りの剣を鍛冶師は手渡した。
「はい、約束のウインド海東剣。一寸だけど、精錬もしておいたよ」
「有り難う御座います!わあ……」
 昂ぶる心を抑えながら、鞘に収まった刀身を引き抜く。それは刃毀れ一つなく、磨き抜かれた鏡の如く、己が身すら
映す鋭利な刃を支える金の柄には、紛うことなき鍛冶師の名が刻まれていた。匠が手掛けた世に一つしかない逸品に、
剣士は暫し見惚れ、溜息を漏らす。試しに虚空を水平に一閃すると、一文字の旋風が巻き起こった。風を宿した特殊な
剣ならではの効であった。
 刀身を鞘に戻すと、剣士は改めて鍛冶師に向き直った。
「今まで待ってくれて、本当に有り難う御座いました」
「クレールこそ、ちゃんと約束守ったしね。偉い偉い」
 優しき笑みと共に、銀の頭を撫でられる。その手は矢張り温かかった。
「これ、おまけ」
 そう言って、鍛冶師は四角い包みを手渡した。不思議に思いつつ薄紙を一枚一枚開いてみると、ルーンミッドガッツ王国
首都プロンテラに御座すトリスタン三世の御姿を描いた札の束が目に飛び込んだ。一度に斯様な大金を目にしたことがない
剣士に額の見当はつかない。されど、恐らくは海東剣の代に相当する筈。
「でも、これって!駄目ですよ!」
「いいの」
 泡を食う剣士の手を押し戻し、鍛冶師は笑う。
「あたしにはもう必要ないからさ」
 何故だろう。笑んでいるにも拘わらず、鍛冶師のその様は酷く物悲しく、そして遠く見えた。
「あの!……迷惑でなければ、私と一緒に居てくれませんか?」
 鍛冶師を失う、咄嗟の予感に突き動かされ、心中密かに抱いていた想いが剣士の口を衝いて出た。
 なれど鍛冶師は寂しく笑う、
「……それは出来ないんだ」
「足手纏いにならないよう、頑張りますから!」
「そういうんじゃあ、ないんだ」
 更なる申し出にも、首は力なく横に振られるのみ。遂に両の瞳に薄らな涙すら滲ませる剣士を見遣り、鍛冶師は詫びる。
「御免ね」
 その声は静かで、そして、とても縋れぬ響きを帯びていた。
「じゃあ、元気でね」
 今にも泣き出しかねぬ剣士を奮い立たせるかの如く快活な口調にて、別れを告げる。
 これが今生の別れというわけでもあるまい。生きてさえいれば、何時か再び会える日が来るやも知れぬ。
 剣士は顔を上げた。瞳から涙は退いていた。
「……ローズマリーさんも、御元気で」
 凛々しい相貌と決然たる物言いに安堵の笑みを浮かべると、鍛冶師は荷車を手にした。その背はプロンテラ南門を
目指しつつも、途中で足を止める。そして道具屋の傍らに佇む剣士を振り向くと、雑踏の中声を上げる。
「ヒドラに絡まれないようにねえ」
 人込みの向こうの笑顔に剣士は応える、
「はい!」

 あの日、プロンテラの街角にて鍛冶師と別れて、僅か数日の後。
 バイラン島に口を開ける海底洞窟の隅にて暫しの休息を得ていた剣士は、ふと手にした海東剣を見遣った。
 あの鍛冶師は何処へ行ってしまったのだろう、かつての思い出に身を委ねんと、剣士は鍛冶師の名が鋳られた柄を
何気なく目にした。然し、如何なるわけか、其処に鍛冶師の名は記されていなかった。
「嘘!」
 思わず小さく叫び、改めて目を凝らしてみる。されど、鍛冶師の名は何処にも見当たらなかった。それは、鍛冶師が
この地を離れたことを意味していた。
「如何して……」
 呆然たる面持ちを浮かべる剣士の脳裏に、笑みの面と並んで笑っていた鍛冶師の姿が過ぎった。

 面の裏の表情は、誰にも分からぬ。

 鍛冶師は剣士の前でも面を外すことはなかった、それは剣士に気を許さなんだ証なのか、それとも。
 何が鍛冶師に面を被らせたのだろう、それすらも知らぬまま、鍛冶師と永劫の別れを告げてしまった。
 気付けば、剣士は膝を隠す蘇芳の袴を握り締めていた。その手の甲に、ぽたりぽたりと滴が落ちる。
 止め処なく溢れる涙を拭おうともせず、暗き岩陰にて若き剣士は一人哭する。けれど。

 せめて今は彼の人が面を外していることを、心より願う。
183前225sage :2004/05/30(日) 05:18 ID:SC4A5LA2
実は他にも書かせて頂いているのですが、こちらのスレではこの番号で通しますので、
NGワードには前225を是非。
そして、前回のアレな話を許容して下さった166、93両氏に心よりお礼を申し上げます。
そう言えば自ら天誅下してましたね…∧||∧

>93
執筆に保管作業の両立、お疲れ様です。
やはり一人であの量を纏めるのは大変でしょうから、分業という手もありかと思いますよ。
18493@pukiwikisage :2004/05/30(日) 11:15 ID:.xxdXw/Y
おはようございます
>>前225氏
 前のもそうですけど、短編の中にいろいろつまっててすごいですね。読み返すと
色々細かい表現とかが独特でイイなぁ…。

で、保管の質問。
5-18でヤファの話を投稿された方、まだ見ていらしたら3-135とどちらが正規版か
教えてくださると幸いです…っと。オナジヒトダヨネ?
18536sage :2004/05/30(日) 17:32 ID:hixiVhsU
>>93
ご苦労様です。お話の内容物のコトは私のですね。
両方とも私が投稿しました。5-18の方が正規版になります。

>>みなさん
私は短編オンリーな感じなので、へたくそですが、
これからもよろしくお願いします。
186名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/31(月) 23:44 ID:59s1Xra2
再びスレが止まる!
187名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/01(火) 10:27 ID:TdvoDkcw
         流れが止まりそうなスレにプリンマンが!!
                 ___
                 / jjjj     ___
               / タ       {!!! _ ヽ、
              ,/  ノ     _   ~ `、  \
              `、  `ヽ.   /〜ヽ  , ‐'`  ノ
                \  `ヽ(。・∀・)" .ノ/
                 `、ヽ.  ``Y"   r '
                   i. 、   ¥   ノ
                   `、.` -‐´;`ー イ
                     i 彡 i ミ/
                   /     `\
                  /   /ヽ、  ヽ
188名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/01(火) 12:48 ID:JORhbAHA
>187
ヽ(#`д´)ノ┌┛ )・∀・)
189名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/01(火) 16:06 ID:GvGTtdLE
ヽ(#`д´)ノ┌┛ )・∀・(※(((((⊂(`Д´#)
190一個前の201sage :2004/06/01(火) 17:23 ID:NoCDVDqM
短編の流れに逆らって続き物の投下

・・・今回はシリアス度50%増で・・・すまん嘘だコメディ度80%減が本当だ
191一個前の201sage :2004/06/01(火) 17:26 ID:NoCDVDqM
夜でも露天商で賑わうプロンテラ大通り南。
こうも混雑が激しいと他人の事に構う余裕がなくなるのかな。
それとも人が多いとそれだけ変人も多いって事なのかな。
ここだとアルデバランの時みたいに注目を浴びる事はないから少し気が楽。
・・・そう、あたしまだ例の格好のままなのさ・・・ははは・・・はぁ・・・
あ、でもちゃんと泉で水浴びした時に一緒に洗濯してるから汚くはないよ。
洗った後、乾くまでが大変だったけどね。
葉っぱとつる草を組み合わせて服の代わりにしてみたりさ・・・色々工夫したもんだよ・・・(遠い目)
まぁ、そんなこんなで適当に収集品と食べるものを集めながら細々食い繋いでやっと帰ってきたの。
その間にすっかりこの服での行動にも慣れちゃった。
戦闘もこなせる様になったし、今もこうして裾と人波を捌いて進めてるんだからあたしって凄いかも。

「いい?ちゃんとあたしに着いて来てよ?人通り多いんだから迷子にならないでよね?」

集めた収集品を売りながらあたしは振り向いてフェンに念を押し・・・フェンの姿は見えなかった。
だから入る前から何度も言っておいたのに・・・(−−#)
悲しいかなあたしは女の子。人波に揉まれると埋没しちゃって何も見えなくなっちゃう。
ぴょんこぴょんこと跳ねて一瞬見える景色からフェンを探す。フェンはおっきいからこれで見つかる筈。
あ・・・居た。手間掛けさせるんだから、もう。人をかき分けかき分けフェンの元へ。後三歩で到着。

「ちょっと、あたしから離れるなって言ったでしょ?フェ・・・「ファーント殿!?」」

・・・!?
見るとあたしと同じように人波を泳ぎながらこちらへ・・・フェンに向かって来る一人のおじいさん。
おじいさんはフェンの目の前に立つと、懐かしそうに見上げて・・・我に帰ったみたい。

「いや・・・彼に血縁は居らなんだし、当時のままの姿で今ここに立っている筈もない、か・・・
ワシもモウロクした物だ・・・だが、見れば見るほど似ておる・・・
かの大悪魔、バフォメットと一騎討ちで互角に渡り合った英雄と・・・」
「お前は俺を誰かと勘違いしているのか?」
「うむ・・・どうやらそうらしい。通りすがりのジジイの戯言と思って下されよ。お邪魔してすまんのぅ」

おじいさんが去っていく。でもあたしは見た。「ファーント」と呼ばれたフェンが振り向いたのを。
この喧騒の中で、心当たりも無い名前に振り向いたりは多分、しない。
それに、あのおじいさんは確かに「バフォメット」と言った。
それはあたしの目標。騎士であった兄のカタキ。話を聞いてみたいと思った。
おじいさんが去っていく方向をしっかりと把握して、マントを握ってぐいっと引っ張る。振り向くフェン。

「そこに居たのか」
「もう・・・ちゃんと着いて来てねって言ったのに」
「すまない。見失ってしまった」

あたしは大通りから少し外れて人並みが途切れる場所までフェンを連れて行く。

「あたしちょっと用事済ませてくるからここで待ってて。いい?ここから動いちゃ駄目だからね?」
「わかった」

そうして、さっきのおじいさんの元に走り寄る。

「おじいさん、さっきのお話を詳しく聞かせて貰えませんか?」
「おや・・・随分お洒落なお嬢さんじゃな・・・古い話じゃよ・・・お嬢さんには退屈なだけではないかな?」

だからあたしだって好きでこの服着てる訳じゃないんだってば・・・(TT)

「そんな事ないです。是非、聞かせて下さい」
「ふむ・・・良かろう。あれは・・・ワシが15で騎士叙勲を受けた年じゃったから、今から70年前になる。
当時は現在ほど冒険者という職業も活発では無く、人々は魔物に怯えながら暮らしておった。
そんな折に、ここ首都にバフォメットが現れたのじゃ。バフォメットは街を壊滅寸前まで破壊し、消えた。
そして、騎士団と聖堂騎士団、教会の僧侶達の連合軍よりバフォメット討伐隊が編成された。
グラストヘイム奥にてバフォメットと相見える頃には片手で足りる程の人数しか残ってはおらなんだ。
自慢する訳ではないが、ワシもその場に居ったよ。手は出せなかったが、の・・・・
残っていた者の中で一番腕の立つクルセイダーのファーント殿がバフォメットとの一騎討ちに臨んだ。
ワシ等はその一騎討ちの邪魔をされぬよう取り巻きである奴の子供達と戦った。
それは、死闘でありながら、舞を見ている様でもあり、打ち合わせ済みの演舞の様でもあった。
周囲で戦っていたワシ等も、奴の子供達も、やがて戦う事を止め戦いに魅入った。
戦いは数十時間にも及び、永遠に続くかと思われたが、その戦いにも、やがて終局が訪れた。
その瞬間、確かに彼は奴を凌駕した。奴を壁際に追い詰め、態勢を崩す事に成功したのじゃ。
ところが、彼が奴に必殺の一撃を放とうとした瞬間に奴の子供の一体が彼の足を切り裂いた。
そして生まれた隙を奴は見逃さなかった。奴の鎌が彼を貫いた。
その瞬間、周囲の止まっていた世界が再び動き出した。
奴自身は精魂尽きておったのか襲いかかっては来なかったが子供達が再び襲いかかって来たのだ。
ワシ等はそこから命からがら逃げ出した。そんな話じゃよ・・・」
「そっか・・・うん。お話聞かせてくれてありがとう、おじいさん。あたし行くね」
「気を付けて行きなされよ。お嬢さん。」

ファーント・・・バフォメットと互角に戦ったというクルセイダー。
フェメト・・・赤く光る眼。生気を吸い、喉に短剣を刺されても死なず、自分を人間ではないと言った。
おじいさんの話では二人は瓜二つという事。
・・・どういう事なの?

そしてあたしはフェンを待たせた場所に戻った。
フェンは、とっても綺麗なプリ―ストのお姉さんと何か話してる。
フェンも前に一回だけ見せた唇をほんの少し上げた(多分)笑顔で、お姉さんも笑っていて・・・
何だか親しげな雰囲気。あたしはちょっと好奇心がこう・・・むくむくと。
こっそりと人波に隠れながら二人に接近していく。雑踏に紛れて少しだけ、声が聞こえた。

「世界は壷、生物は毒虫。誕生は原罪、維持は穢れ、死は転生。永遠は循環、全は創造者に帰す。
ならば我に見せよ。汝らの行く末を。争いが決定されているこの世界にどこまで抗えるか」
「貴方は、何を『見た』の?」
「外より、世界の構成、理を」
「そう・・・ならば見ていてね?世界は貴方が思うほど酷いものではないのだから」

・・・途中から、しかも漏れ聞こえてくる分だけだからしょうがないんだろうけど激しく謎な会話よねぇ・・・
何だか期待外れな様な、ほっとした様な・・・ってだから何でほっとするのかなあたしは。

「戻ったか」

フェンが振り向いてあたしを見て声をかけた。お姉さんもあたしに目を止めて微笑んだ。

「こんばんわ、可愛いお嬢さん」

こんな綺麗な人に可愛いって言われたってお世辞にしか聞こえないもん。
それに、剣士になったんだから、やっぱり格好良いって言われたいよ。
・・・無理そうな気がひしひしとするんだけど、この際それは無視して。

「こんばんわ、綺麗なお姉さん」

だからかな?何だか挑戦的な物言いになっちゃった。

「あ・・・あたしお邪魔でしたら席外しますけど?」
「気にしなくていいのよ。私の話は丁度終わった所だから。じゃ、また会いましょ♪」

そう言って、お姉さんは軽い足取りで立ち去っていった。
192一個前の201sage :2004/06/01(火) 17:28 ID:NoCDVDqM
「ねぇ、今のお姉さん、知り合い?」
「知り合いでは無い」
「何の話をしていたの?」
「人と魔との共存について」
「そっか・・・」

共存が叶って、争いが無くなって、皆が笑顔で、幸せに暮らせたら。それはきっと素晴らしい事と思う。
けれど、あたしはそこでは笑えない。たった一人の肉親を奪われた憎しみは消えないから。
だからあたしは素直に肯けない。
きっと、好き好んで争いに身を投じる者なんて極少数で。
今争っている皆が似た様な理由で戦ってる。人だって、魔だって。
そうして、誰かの憎しみが晴れた時、別の誰かの胸に憎しみが生まれて。
・・・ずっと争い続ける。終わる事なんか、ない・・・

「ふぅ、もうお腹ぺこぺこだよ。早くご飯食べにいこっ。安くて多くて美味しい店があるから」
「わかった」

考えても仕方ない事かも知れない。正しい答えなんてないのかも知れない。
だから、あたしは頭を切り替える。ただ、大事な事だと思うから、忘れない様、心に留めて。
当面の問題はフェンから話を聞き出す方法を考える事。
こないだの助言でわかったんだけど、フェンの口は別に固いとか重いって訳でもない。
びっくりする位よく喋ったし。ただ、自分の事になると言わなくなる。
・・・説明しようとはするんだよね。でもしない、それはつまり・・・言葉で説明出来ないって事なのかな。
フェンとバフォメットには多分、密接な関係がある・・・と、思うんだけど。

お店に到着した。普段ここはあたしみたいな一次職に人気があって、二次職はあまり来ない。
昔ここでよくご飯食べてたよって人が挨拶に来る位かな?
だから入るとごっつい鎧を着込んだフェンの目立つ事目立つ事。
・・・いやあたしも十分目立つナリしてるんだけどね・・・
なんてゆーか、相乗効果?みんなのちょっと引き気味の視線が痛い(TT)
やっぱり先に服買いにいくべきだったかなぁ・・・でも背に腹は換えられなかったんだよぅ・・・
テーブル席に向かい合って座って、ピッキの焼肉定食を2人前注文する。
料理が来るまでの間に話を振って・・・

「ねぇ、フェン・・・」
「なんだ」

(フェンとバフォメットとファーントってどういう関係なの?)

たったこれだけ、これだけを言えば済む事なのに、あたしの口からはその言葉は出てこなかった。
それを尋ねたら、きっと何かが終わってしまう。今の、この楽しい時間が壊れてしまう。
そんな予感があたしを躊躇させる。
どうしてだろう。あたしはバフォメットを倒す為なら何でもするって決めた筈なのに。
その為の手がかりが目の前にあるのに。

「えっとね・・・うぅん、何でもないよ」
「そうか」

・・・結局、聞けなかった。なに、してるんだろう・・・あたし・・・
あたしお勧めの焼肉定食が運ばれて来た。あたしはフォークを手に取って・・・

「いっただっきまー・・・」「テロだぁっ!!」

この建物のすぐ外からそんな叫び声。

『ドバンッ』

という轟音と共にもの凄い速度で蝶番の外れたドアがあたし達の座ってるテーブルに飛んで来て。
上に乗っている料理ごとテーブルがひっくり返っていくのを奇妙に間伸びした時間の中で見てた。
派手な音を立てて食器が割れて、料理が床に散らばっていくのを。
入口からのそりと現れた巨大な漆黒の馬を、その背に乗る漆黒の鎧に身を包んだ騎士を。
呆然と眺めてから。ふつふつとこみあげてきたのは、怒り。

「いいかげんまともなごはんを食べさせろぉっ!!」

うーん、我ながら魂の絶叫だと思う。
2話の始めからこっち食べたかったのに食べられなくて、ようやく目の前に出て来たって言うのに!
恥ずかしいのも堪えてごはん優先にした位なのにぃ!
あたしは剣を抜き放ち、周囲の皆と一緒に跳び掛かっ・・・

「待て」

・・・フェンお願いだから襟首掴んで持ち上げるの止めてあたし猫じゃないんだから(TT)

「お前が勝てる相手ではない」
「じゃあこの燃えたぎる怒りを誰にぶつければいいのよ!?」
「運命と思って諦めろ。死に急ぎたいというのであれば止めないが」

剣士やシーフが切りかかり、アコライトが後ろに下がり支援、回復。
アーチャーは弓で、魔法使いは魔法でそれぞれ攻撃。
けれども前衛は相手が剣を一振りする度に一人ずつ倒れ、弓も魔法も固い装甲に弾かれる。

「フェンはあれと戦って勝てる?」
「勝てる」
「じゃあ何とかして!」
「・・・今回の事は俺と関連性は無いと判断する。俺が戦う必要があるのか?」
「あぁ・・・もぅ・・・」

また始まったよこの男は・・・毎度毎度言いくるめるのも大変なんだぞ。
他に助けが来ないかどうか破られたドア(と壁の一部)から外をちらりと窺う。
どうやらこの漆黒の騎士だけじゃないみたい。
おもちゃの兵隊や道化師を引き連れた羽と輪のついたポリンに追われる二次職の人とかが見えた。
・・・援軍は期待できない。何とかしてフェンを丸めこまないと皆死んじゃう。

「でも確か襲いかかってきたら撃退はするんだよね?」
「うむ」
「どの道このまま他の人達が倒れていったらフェンに向かってくるんじゃないの?」
「だろうな」
「だったら先に禍根を絶つのも一つの方法だよ。遅いか早いかの違いしかないんだから」
「・・・なるほど。この状況においては一理あるな」

うし、丸めこみ成功・・・
でもなんてゆーかこいつをほっぽらかして一人にするのは色々ヤバイんじゃないかと思う今日この頃。
当人意識してなくても口車に乗せられて悪事に加担したりとかしそうだよね。
あたしを降ろして無造作に黒騎士に歩み寄っていくフェン。
193一個前の201sage :2004/06/01(火) 17:31 ID:NoCDVDqM
後ろから、わ、と歓声が上がった。
・・・え?
場所は・・・街の外れの方だと思う。今、あたしが立っている場所。
あたしの目の前にはばらばらに解体された魔物達の屍が累々と横たわっている。
・・・え?
手には・・・+10ブレイドじゃなくて、もっと長い・・・あたしの身長より遥かに長い棒を握っていて。
棒の先から垂直方向に緩く湾曲した、所々赤く筋の入った青く鋭く輝く光る刃が伸びている。
・・・え?
いや、この赤い筋は・・・魔物の血液だ。刃からぽたりぽたりと滴り落ちている。
・・・あれ?
これは・・・この武器はあたしも知ってる。現物を見たのは初めてだけど。
兄の仇について知りたくて図書館で文献を調べた時に見つけた記述と挿絵。
バフォメットの手にある、命を刈り取る死神の鎌・・・クレセントサイダー。
偽物なんかじゃない、本物だと、あたしの直感が囁く・・・なんであたしそんなもの持ってるの?

「いやー、あんたすごいな!!」

後ろから声を掛けられた。知らない声だ。
振り向くとバードのお兄さんがあたしに向かって近付いてきていた。
その他にも多くの人達が遠巻きにあたしを囲んでいる。

「これ・・・あたしが・・・?」
「これだけの数を一人で片付けるなんてなー。しかも返り血一つ浴びとらん!
あんた格好良すぎ!絶対歌にする!ええだろ!?」

確かに、服には汚れらしい汚れも見当たらない。
あたしは現実感が全然なくて、ただ呆然としている事しか出来なくて。
ふと、周囲の人達が目に入った。
背筋がむず痒くなりそうな、尊敬とか畏怖とかそういった視線であたしを見てる。
でもそれだけじゃない。何だか覚えのある感情みたいなのが混じってる気がする。
そう・・・あれは、ストームナイトの姿に近付いていたベックを見ていたのと同じ種類の。
・・・恐怖と拒絶。それが皆の視線に隠れてる。風船が膨らんでいく様に、徐々に大きくなっていく。
その風船が破裂したら、あたしは多分バケモノ呼ばわりされる。
そんな事を考えていたらバードのお兄さんが突然ちょっと調子っぱずれな大声で歌い出した。
内容はさっき言ってた通りあたしの事を題材にしたらしい(あたし主観で美化100倍以上)歌で。
街の危機に白い衣をまとって颯爽と現れ、街を救う『美』少女の活躍・・・といった内容。
うわぁい・・・かゆいかゆいさぶいぼさぶいぼ
内容は格好良いんだけど、調子がちょっと外れてるせいで、妙に軽くて笑いを誘う。
・・・お兄さんバードじゃないの?言っちゃ悪いけど・・・ひょっとして音痴?
周囲の人達は笑い、囃子立てて調子を合わせて行く。間奏の間にお兄さんがあたしに囁いた。

「あんたちょいと目立ち過ぎたな。とりあえずごまかしとくけど、早くこの場を離れた方が良いよ。
あんたが出て来た店の辺りならもう片付けも終わってるだろうから、そっちで待っとき」

あ・・・そっか。お兄さんもこの雰囲気に気付いてて、軽いノリで場を和ませて助けてくれてるんだ。
確かに、さっきの緊張を含んだ空気は霧散しちゃって残ってない。音痴だなんて思ってごめんなさい。
あたしは、歌が最高潮に盛り上がった所で出来るだけ目立たない様にその場を離れた。

さっきまでの騒ぎの片付けも終わって、深夜なのもあってか定食屋さんの辺りは人通りが絶えてる。
それでも念の為お店とお店の隙間、目立たない所に入り込む。
バードのお兄さんは待ってろって言ったから、多分終ったら来てくれる。そう信じて待つ事にする。
待っている間に状況を整理しなきゃ・・・って思うんだけど、どうにも上手くいかない。
あたしには何が何だか全然わかんない。どうしてこんな事になっているのかも。
そうして悶々としていると、バードのお兄さんが歩いてきた。
あたしよりはこのお兄さんの方が状況を理解してる筈。色々尋ねてみよう。

「よ、お待っと」
「ね、今、何時?」
「んー、日付が変わってちょっとって所か・・・今回のテロは時間かかったなぁ」

このお兄さんが嘘付いたって何の得にもならないだろうからそれは本当なんだろうけど。
そうすると、定食屋さんで黒騎士と向き合ってから2〜3時間は経過してる事になる。
・・・あたしが、その間に、どうやってかこの鎌を入手して、なみいる魔物をばったばったと切り伏せて?
・・・ありえない。そんな筈ない。あたしには天地がひっくり返ったってそんな事出来やしない。
・・・やっぱり皆何か勘違いしてる。あたしじゃなくて、フェンがそれをやったと言うならともかく・・・

「フェン・・・そう、あたしじゃなくてフェンだよ!クルセイダーを見なかった?背が高くて・・・」

あたしは一生懸命フェンの特徴を述べたけど、バードのお兄さんの返答は芳しくなかった。
このお兄さん曰く。
クレセントサイダーを持って定食屋さんから出てきて。魔物の群れに飛び込んで。
片端から魔物を切り伏せていったのは間違い無くあたしだったそうなんだけど・・・
定食屋さんに居た人達は全滅していて、その中に切り刻まれた黒騎士が転がっていたらしい。
瀕死ならリザレクションで復活出来るらしいんだけど、死亡していたらいかなる奇跡も通じない。
黒騎士は『深淵』と呼ばれる魔族で一次職の人達が束になったって勝てる相手じゃないんだそうだ。
定食屋さんに居た人達ならフェンがどこへ行っちゃったのか知ってると思ったのに・・・
次にあたしが思い浮かべたのは街に入った時話をしたおじいさん。
バードのお兄さんが調べてくれたんだけど、この人も枝テロの犠牲者の一人に数えられていた。
・・・フェンを見たって人が見つからない。まるでそんな人物は存在していなかったというみたいに。
まるであたし一人だけが夢を見てたみたいで。フェンが架空の人物であるかの様な錯覚さえ覚える。
違う、まだ居る。フェンを知っている筈の人は。
ローグのベック、自動人形のアリス。でも、この人達は今何処に居るかすらわからない。
それから・・・綺麗なプリ―ストのお姉さん。
フェンと親しそうに喋っていたあの人なら、きっとフェンの存在を証明してくれる。
プリ―ストなら大聖堂で聞けばわかるって思ったんだけど・・・

「貴方のお探しの人物はこちらには所属しておりませんね」

ある人は本当に知らなさそうで、ある人は露骨に目を逸らして、ある人はにこやかな笑顔のまま。
誰一人として、お姉さんの行方を教えてはくれなかった。
頭がどうにかなっちゃいそう。それともあたしの頭はもうどうかしちゃってるのかな?

バードのお兄さんは何故かあたしに付き合ってくれて、頼み事も聞いてくれる。
だから、不思議に思って尋ねてみたんだ。

「ねぇ、どうして助けてくれるの?」

それに対してお兄さんは

「んー、まぁ見定めてるだけ。あんたが、俺が求めてるもんなのかどうか」

とだけ答えた。
この状況であたし一人だったらとっくのとうに頭がおかしくなっちゃってたろうから助かってるけど。

・・・消えたフェン。記憶の空白。クレセントサイダー。分からない事だらけ。
一体、何が起こったっていうの・・・?
194一個前の201sage :2004/06/01(火) 17:39 ID:NoCDVDqM
最近思う事。
自分で書いていて「段々つまらなくなっていくなぁ・・・」と思う長編作品。
それでもあがいてあがいて続けるか、テンポを上げて削れるだけ削って早めに切り上げるか。
どっちの方がいいんだろうか?
等と考える。
・・・さすがに途中で投げ出すってー選択肢は選ばねぇぞっと。

と、自分に自信の無い奴の戯言。

では、板汚しスマンカッタ
195首都南門の日常(1/20)sage :2004/06/01(火) 19:00 ID:L2tU3vUg
 止まってたスレの流れにいいたいことっ…を短く纏めようと思ったらできませんでした。

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 動きたいのに、動けない。ただ、見ていることしか出来ない。そんな不甲斐ない自分が嫌になる事がある。
「今のうちに逃げろ! みんな、逃げ…」
 目の前で、時ならぬ枝テロから身を挺して時間を稼いでいた徒歩騎士さんが、両手剣を振るう間も無く新手のモンスターの群れの中に消える。一瞬あがった悲鳴は、すぐに別の嫌な音にかき消された。その間に露店を畳んでいた赤い髪のブラスミさんが何か叫んでいたようだけれど。私のように、身がすくんで動けなかったのだろうか。そのまま巨大な筋肉時計になぎ払われる。嫌な音を立てて目の前の石畳に彼の体が落ちる音を、私は震えながら聞いているだけだった。

 首都南門前には、そんな悪夢のような時間が一日に何度もある。
「未完成INT−AGIWIZの耐久なめんなっ! 横沸き最悪っ」
 そんな悔しがる声も、私は聞いている事しかできない。
「リザラックション!」 「サンクチュアリ!」
 テロが鎮圧された後には、あたりに緑や青の聖なる光が立ち上がる。これももう、見慣れた光景になってしまった。瀕死のまま横たわっていた住人達が、口々に感謝の言葉を聖職者さんにかける。
「…それよりも、亡くなる前に助けられれば一番なんですけどね。私の詠唱速度じゃあ…」
 寂しそうにつぶやくプリさんの声も私は聞いているだけだ。

 そんな中に、さっき一人で奮戦していたAGI騎士さんの姿はない。一人でもどったのか。…ひょっとしたら、屍をさらすのが嫌だったのかも。騎士のスカートは、短いしね。あれはあれで、装備ががちがちで、男だと思ってたって昔から言われていた私からするとうらやましいんだけれども。なーんて、あの人に限ってそんなわけは…。
「……なぁ、案内人のねぇちゃん」
「は、はぃっ。なんですかっ?」
 考え事をしていたので、声が上ずってしまった。そう、私は首都の衛兵。はじめて首都に来た人や、人との待ち合わせ場所がわからない人とかに、首都の施設を案内するのが仕事。…それ以外のことは、してはいけないことになっている。街を襲うモンスターの退治もできない…。名ばかりの衛兵。それが私だ。

「どちらをお探しですか?」
「あー、場所じゃないんやけどな。ちょい、聞きたい事があんねん。…あんた、ここに立ってて長いんやろ?」
「はい。もうずいぶん経ちますね」
「首都ってのは、こんなにしんどいとこなんか? なんてーか、俺、この一週間で七度もやられとんや」
 ぼりぼりと後頭部をかきながら、モロクの田舎に帰ろうかな、などとつぶやく傷だらけの赤毛ブラスミさんを、私はまじまじと見つめる。
「あー!」
「なんやなんや!?」
「さっきの、露店鍛冶さんですね? アラームに叩かれてらした。ご無事でよかった」
「……見とったんか。なんや、恥ずかしいなぁ…」
「見て、聞くのが、私の仕事ですから」
 そのまま、鍛冶師さんは疲れたように私の後ろの壁にもたれて煙草を吸い始める。
「あ、吸うてええか?」
 別に、こんな開けた場所だから文句はないけれど。どうせなら火をつける前に聞いて欲しい。そう言った私に、鍛冶屋さんは苦笑しながら、言った。
「俺、気ぃ回らんねん。言いたい事もうまく言えん。だから商売もうまくいかんのやろな…」
「…はぁ。そうなんですか?」
「そや。さっきかて、いつものあのねーちゃんが必死こいて守ってくれてたのにな…まず、腹が立って」
「腹が? 立つ?」
 感謝するなら、わかる。でも、腹が立つというのは私にはどうもわからなかった。ちょっと、恩知らずな気がする。
「はは…衛兵さんは、女の子やからなぁ。わかんねぇか」
「わかりません」
 ちょっと、口調が冷たくなったかもしれない。後ろの鍛冶屋さんが少し口ごもった。それから、少し改まった口調で話を続ける。
「……俺ら商人は、弱い。だからあのねーちゃんが守ってくれるんやろ。だから感謝せなって言う理屈は分かるんやけどな…」
 その口調がなんとなく気になって、振り向いた私の眼下で、赤毛鍛冶さんは私の向こうの青い空を見上げていた。
「女に戦わせて、俺だけ逃げたり出来るかい…」
「……え?」
「なんや、おかしいか? 俺みたい、半製造BSが戦うなんて口にするのは十年はやいんかい。自慢やないが、お座りも吸い取りもしたこたないんが俺の自慢やで」
 空を見たまま。丸い煙のわっかを飛ばす合間に、鍛冶さんは口を尖らせた。そうか…あの時、何か叫んでいたのは、商人さんたちがあげる、気合の声だったんだ。……逃げようとして竦んでたんじゃなくって。

 ホントに、要領の悪い人だなぁ…。
「…なんてな。もう、ここにおったらあのねーちゃんの邪魔になるだけやから。モロクに帰ろう思てな」
「そうなんですか?」
「戻る前に、礼だけでも言うたろ思って戻ってきたんやけど…おらんし。…悪いけど、伝言頼まれてくれん?」
 横を向いたまま、ため息交じりでぽそぽそと言う鍛冶師さんに、私はにこやかに答えた。
「やです」
「おおきに…ってなんやそれっ!? 伝言くらいええやろがっ」
「言いたかったら、自分で言ってください。次に会った時にでも」
「それで言えたらそうするわいっ」
「…テロがあったって、その後でみんな無事に、笑って話せる方法、あるかもですよ?」
196首都南門の日常(2/20)sage :2004/06/01(火) 19:01 ID:L2tU3vUg
 首都南門前には、悪夢のような時間が一日に何度もある。
「またテロかっ! ここは私が防ぐ…早く逃げろっ」
 私が見ている前で、いつもの女騎士さんが路地から駆け込んでくる。重そうな剣を両手で縦横無尽に振るい、囲まれる前に数体の弱い魔物をあっという間に切り捨てた。その姿を見て新手の魔物が彼女に殺到する。鎧の魔物、レイドリックが3体。そちらに神速の切り返しで応戦する隙に、宙を滑る本が彼女の背後から迫った。…今だ。
「鍛冶師さん! ハンマーフォール!」
「おぅよ!」
 私の声にあわせて、赤毛の鍛冶師さんが精錬で鍛えた斧をたたきつける。不意打ちに、本がふらついた。
「そこの魔法使いさん、クァグマイアを騎士さんの足元に…」
「…俺かっ!? …おっけ!」
「その後でプリさん、サフラ! 魔法使いさんはストームガストをお願いします!」
「あ……はい! わかりました」「おうよ!」
 私は、ずっとここで、皆さんの声を聞いていたから。皆さんの悔しさを見ていたから。だから、出来ることもあるかな、って。鍛冶師さんの悔しそうな顔が、おせっかいな私の背中を押したんだ。
「騎士さん、私の前まで下がって…プリさん、サンクを私の前に!」
「いきます! サンクチュアリ!」
「鍛冶さんは魔法使いさんとプリさんが詠唱終わるまで、なんとか頑張って!」
「言われんでもやっとるわい!」
 それぞれは知り合い同士じゃないだろうけど、私から見ればよく見知った人たち。誰がどんな魔法を持っていて、誰がどんな戦い方ができるかを知っている人たちに、私は次々に指示を飛ばす。露店商人さんが死なないように。門を入ってきた人が巻き込まれないように。
「ふっふっふ…凍れ! ストームガスト!」
 あっという間に、奮闘していた騎士さんの周りの敵が氷雪の結界に閉ざされていく。そんなに手ごわい相手がいなかったのか、ほとんどは凍りつくまでもなく消えていくけれど。
「騎士さん、そこのゴーレムの氷をプロボックで割ってください!」
「…あ、ああ」
 少しとまどったような声を出しながら、騎士さんが溶岩の巨人達に具象化した精神を叩きつけて挑発する。半ば凍りついた体を無理に動かして彼女を攻撃しようとする巨人達を、二重三重に霜と氷が切り刻み、無尽蔵に見える体力をあっという間に削りつくした。
「…っしゃ! これでもINTカンストだっ。なめんなっ」
 炎をまとった巨人が地に臥せった後に残っているモンスターは一体もなかった。私の前で、聖衣から青い宝石を取り出しかけたプリーストさんが、ややあってから、それを戻す。…今日は、その必要がなかったから。


「プリさん、サフラありがとよっ。おかげで詠唱が間に合ったぜ」
「いえ、それよりも鍛冶師さんのスタンに助けられましたわ。あれがなかったら、露店さんに被害が出ていたかもです」
「…あ、いや。俺は何もしとらんし。声かけしてくれた案内人の嬢ちゃんに礼を言ってくれ」
「あ、そうだ。サンキュ」
「ありがとうございました」
 礼を言ってから、嬉しそうに笑いあう三人を私は少しうらやましげに見ていた。そんな私の隣に、騎士さんが、むすっとした顔で戻ってきて、すとんと座り込む。勝利に浮かれる他の人と違って、どこかつらそうな、そんな表情を一瞬私に見せて、すぐに俯いた。小さなか細い声が、私の耳に入る。
「……不甲斐ない。助けを貰わなければ人を守る事もできぬAGI騎士に…何の価値があるの?」

 鍛冶師さんにも、それは聞こえたみたいで。鍛冶さんはさっと騎士さんの横にしゃがみこんだ。そう、その為に貴方は勇気を出して戦ったんだから。心を込めたお礼を言ってください。
「なんや、辛気臭い。アホぬかすな」
 ……あれ?
「…あー、騎士子ちゃん。ありがとよっ。あんたがいなかったら俺様の大魔法も出番が無かったぜ」
「そうですよ! そんな事を言わないで。貴女のおかげで、誰も死ななくて済んだんですから」
 プリさんと魔法使いさんがフォローに入るけれども、騎士さんは下を向いたまま。
「…それは、私じゃなくてもできることだわ。もっと硬くて強い騎士や…身軽なアサシンの方が…」

 そこまで言いかけたときに、ぱこん、と騎士さんの兜が鳴った。音を出したのは、どうやらブラスミさんの分厚い手らしいけど。
「あんたの価値はそんなんやないやろ。あんたは、真っ先にいつも俺らを助けに突っ込んでくれた。周りを見て…巻き込みがあかんから、ボウリングバッシュも使わずに、一生懸命、体張って頑張ってたやろ。その姿を見て無かったら、俺はここにおらん。俺も、周りの商人も感謝しとるんや。本当に」
 騎士さんが、ちょっとだけ、身じろぎした。俯いたままのヘルメットを、鍛冶さんが優しくそっと外す。
「俺、本職やからわかる。あんたの防具、店売りをそのままで鍛えてもいないなまくらやろ? そんなんで、よう今までやってきたな」
「………」
 ぽたり、ぽたりと騎士さんの足元に小さな水滴が落ちた。
「ええんや。それをカウンターの使い方でカバーしとるのも、立派な戦い方や。でも、無茶やで、あんた」
「……ひっ…ぐすっ…」
「回避命だろうのに、テロっちゅーたら毎回、毎回一番沸いとるとこに突っ込んで。痛かったんやろ。…辛かったんやろ。俺らには何も出来んけどな? 一度、礼を言いたくって、俺、ここに通ってたんや。…だから、なぁ、頼むから…泣くなや」
 いつも、リザを待たずに騎士さんが帰ってしまうのは、悔し涙を見せたくないから。それに、慰めの言葉を聞くともっと泣き出しそうになるから。私は、本当はそれだって知っていた。ここにはずっといて、彼女を、ポリンに負けて悔しくてワンワン泣いてたノービスの頃から見てきたんだから。だから、口だけの感謝の言葉よりも、騎士さんの欠点も頑張ってるところも、みんな分かっててあげた鍛冶さんの言葉が、騎士さんには一番嬉しかったんだ。
 声も無くただ身を震わせるだけの騎士さんの肩に手を伸ばしかけて、それから困ったように私を見上げる鍛冶師さんに、私はにまーっと笑いかけると……。動かずの禁をちょびっとだけ破って、彼女の肩を鍛冶さんに向かって突き飛ばした。


「…なんだ。かっこいい俺様の役目だと思ってたのになぁ、アレ」
「ふふ。お二人が落ち着いたら、四人でどこかに行きませんか? 私達、いいチームになれるとおもいますよ」
 鍛冶師さんの膝の上で、何か溜まっていたものを吐き出すように、声を殺して泣く騎士さんの横で、WIZさんとプリさんがやんわりと笑っている。そうだね、みんな一人の辛さを知ってるから。きっと、いいチームになれると思うよ。

 …首都南門前には、悪夢のような時間が一日に何度もある。でも、時々…本当に時々、夢のようないいことも、あるんだよ。

----
 あぼーんが寂しいのでコテハンを捨ててみる私。ずるいですね。
スレは文神様だけじゃなくて、感想、ご意見を出す読者の皆様も大事なんじゃないかなー、と思って書いてみました。
[感想クレクレ厨隔離所]<ココ、居心地イインダヨネェ…
19793@屍sage :2004/06/01(火) 19:05 ID:L2tU3vUg
>>前の201様
 なんか、長いのを書いてるとそんな気分になることはあると思うのです。あがくといいことがあるかもっ。
今回のは一人称のよいところ(感情がよくわかるっ、謎を謎のままにできるっ)が出ててとっても読んでて
楽しかったですよっと。同意できる性格の主人公さんだからですね。
 よくわからないけど感想、ここに置いていきますねっ
198名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/01(火) 21:08 ID:4H.GricM
自分はできる限り努力しているので多少の不自由は我慢して下さいお願いします。
というのは書き手としてどうだろうと思う。
好きな物語を(特に二次創作で)書く自由は、読者がそれを「読まない」選択肢を
尊重して初めて機能すると思うのだが。
199どこかの166sage :2004/06/01(火) 23:16 ID:My9Lpmo6
 静かにゆっくりとその瞳を開けた。

 視野いっぱいに広がるのは万緑の木々のざわめき。
 それが、彼女の見た最初の光景だった。

 抱きかかえられ、母から与えられる命の源を口に含みつつ母の歌声を聞いた。
 風が木々を揺らす。
 空が光を彼女と彼女の母に捧げ続ける。

 生きるために、そして何かをなす為に、命という宿命に従って彼女は生を望み、彼女の母もその望みをかなえる為に彼女に命の源を与えつづけた。
 永い永い、だが人の一生にとっては僅か一瞬の永遠の日々。
 彼女は母の顔を知らない。
 生まれたばかりの彼女に五感機能はまだ整備途中であったし、そもそも見た所で彼女を母と認識する事すら彼女の脳はまだできていなかった。
 だが、彼女には幸か不幸か人以外の血が入っていた。
 その血は人の五感の強化だけで無く、その人を司る魂やオーラまで認識できる。
 世界は子供にはあまりにも過酷。
 子供が生きていく為に最初にその機能を使い、そして大人になるにつれて失っていったその機能で彼女は母を「敵ではない」と認識した。
 次に母を感じたのは彼女の肌と口だった。
 味覚はまだ整備されていないが、彼女は命の業に従い、乳房から垂れる液体を飲みつづけ、かろうじて温度変化を認識した肌が、その暖かい乳房に「安らぎ」という評価を未発達な脳に送りつづけた。

 視野に広がるのは、万緑の木々、蒼い空、そして乳をくれる母の白い肌。
 それにどのような意味があるかなど彼女は分からないし、そもそも分かるという事すら彼女の脳はまだ理解していなかった。
 母の暖かさが心地よく、母の歌が安らぎという意味を彼女の脳に記憶させる。
 彼女は母から生まれた。
 母も彼女を育てた。
 それは彼女が母に必要だったからか。
 それとも母が彼女にとって必要だったからか。
 だが、母は彼女を見なかったし、彼女も生かされている以上母を見る必要が無かった。

 永遠のような一瞬の世界、ふたりは会話をする事がなかった。
 いや、彼女は生きるために泣き、母は彼女のあやす為に歌う。
 それが会話とよべる唯一のもの。
 彼女は母の声を知らない。
 未発達の脳はそれを覚えきれず、オーラで母を認識できるなら無理に覚えなくて構わないからだ。
 その機能が失われた時になって初めて、彼女は母が何者なのか何も知らないという事を知った。

 何も知らないまま、何も分からないまま、その母のゆりかごの中でただ生きる為の行為を行いつづけていた。


――これはそれだけの話。

 光で満ちた空。
 万緑の森の中。
 彼女に生を与えつづけた母。
 ただの一度も顔を見ず、ただの一度もお互いを覚えようともしなかった、人でもない魔物でもない彼女の話。

――これはただそれだけの話。


 ただ、世界の運命に逆らってまで母の顔が見たいが為に世界の運命と対峙する一人の少女の話。
200どこかの166sage :2004/06/01(火) 23:26 ID:My9Lpmo6
 今回は本気で作るつもりらしい、悪ケミママプリ本の一部を実験として投下。
 皆様の声を聞いてみて、色々決めてみようと。

>198
 まったくそのとおりですね。
 作者が意識しなければいけない事は、その事を尊重しつつ多くの人に自分の書いたものを見てもらう為、更に精進するのみです。
 ご指摘、心に刻み更に精進させてもらいます。
20193@懺悔室sage :2004/06/01(火) 23:59 ID:L2tU3vUg
>>198様 ごもっともです。読んでお叱りのレスを下さった事を感謝するとともに、
  反省します。ていうか、読み返すと私、下手とか言う以前にうざっ。
  病中は何しても駄目ですね。感想もやめて保管作業に専念っ。
 今後は保管作業は93つけないようにします。NGワードに93推奨!

[隔離所]<隔離イッテテキマ…176・195-197ヲ各自手動アボーンヨロ。
202('A`)sage :2004/06/02(水) 02:06 ID:iFuQkvsE
『歪んだ未来へ続く荒野 1/2』


 シュバルツバルドの空中都市、ジュノー。三つの島から成るこの浮遊都市郡の南端、ミネタ島の門は朝日の中で戦場と化していた。
 ジュノーに駐屯していたシュバルツバルド軍の兵士達が、殺到した鍾乳石の剣山の様な岩の巨人に尽く粉砕されていく。空は、背に羽を生やし
手に弓を携えた悪鬼に埋め尽された。まさに地獄絵図だった。
 空から放たれる矢と侵攻する巨人の軍団に駐屯兵団は殆ど壊滅状態に陥れられ、ミネタ島の門は決壊した。
 ジュノー内部になだれ込んでいく僧兵と悪漢で構成されるギルドの部隊を満足げに見やり、クルセイダーの青年は目を細める。
「割とあっさり通してくれるものだね」
「・・・抵抗がこれだけとは思えませんが、この数なら・・・当然の結果だと思いますよ」
 青髪のクルセイダーの後ろで控えていた栗毛の少年が、僅かな嫌悪を念を交えて答えた。この部隊・・・最早、軍団と称すべき戦力は、数百の魔物
を抱えている。対して、生身の人間は三十人強しかいなかった。殆ど、化け物の軍勢だ。
「駒に出来れば魔物だって優秀な軍隊だよ?気味が悪いのはしょうがないけど、慣れて貰わなきゃ」
 クルセイダーが人懐っこい笑みを浮かべた。
「被害が出ても僕らの良心は痛まない。何せモンスターだからね。存分に戦って死んで欲しいよ」
 臆面も無く言う。栗毛のプリースト、バニは内心で唾を吐き捨てた。
 恐ろしい男だとは思っていたが、ここまで来ると狂気でしかない。ゲフェンでも彼の腹心――美しい神官と、勇猛な騎士を早々に見捨て、彼は撤
退を指示した。アウル=ソン=メイクロン。彼にとっては何もかも、目的のための駒でしかないないのか。
 ふと、気付く。
(・・・僕もか)
 バニは自嘲気味に苦笑した。自分にとっても、この青年は駒だ。引っ掻き回してくれればそれでいい。
 あの魔族、ドッペルゲンガーを仕留めさえ出来れば、後はどうだっていいのだ。来るという保証は無かったが、来ないなら来ないで今度はグラス
トヘイムを炙ればいい。どう転んでも、アウルの戦力を上手く使って復讐を遂げるだけだ。
「僕も<妹>と市街の鎮圧に行きますよ。何だか厄介なのも出てきたようですし」
 南門から、進軍したスタラクタイトゴーレムが粉砕される様を見て、バニはそう切り出した。ゴーレムの腕を強引に引き千切る、その巨大な鉄の
兵は、上空のガーゴイル部隊を睥睨して唸り声を上げた。空に攻撃が届く訳も無いが、ゴーレムや僧兵、悪漢部隊には十分な脅威だ。
「おや・・・ガーディアンじゃないか。さすが錬金術のメッカだ。ゲフェンとは一味違う」
「適当に切り上げて中枢島・・・ソロモン島で合流しましょう。のさくさしても良い事はありませんから」
「よろしく頼むよ、バニ君。期待してるからね」
(それは僕の方ですよ・・・アウルさん)
 にこにこして言うメントルのクルセイダーに聞こえないよう呟き、バニは南門を後にした。音も無く現れたアサシン<カタリナ>を連れて、ガー
ディアンの撃破に向かう彼の背を見送ってから、アウルは静かに振り返る。
 二頭のペコペコが引く台車の荷台で、厚手の外套を纏った少女が寝かされていた。年端も行かない子供だったが、気を失っている彼女の手には、
異様な空気を放つ大振りの短剣が握られていた。俗世では存在を疑われてさえいる、魔剣。
 オーガトゥース。少女が確かにゲフェンで召喚したその魔界の牙は、アウルのレーヴァティンを弾き飛ばし、今一歩のところで始末できた筈のア
サシン<黒のアルバート>の命を助けた。そして、今もこの魔剣は少女を守っている。迂闊に手を出せば、同じ魔剣を持つアウルでさえ危うい。
「だけど、もう少しだ。もう少しで僕らは救われる」
 門を開く為に必要な物は、あと一つ。それも目の前だ。
「母さん……僕達を導いて……」
 意識のない少女の頬を撫で、蒼い髪のクルセイダーは瞑目した。


「今更なんですがね、黒のアサシン」
 朝焼けのグラストヘイム城の中庭で、魔術師は戦支度を終えたアルバートを呼び止めた。彼は魔剣を背に括り付けてから、その魔術師を仰ぎ見る。
あまり良い印象のないウィザードなのだったが、この時ばかりは真摯な顔つきをしていた。
「何だ?」
「とっくにお分かりでしょうが、アウルとまともにやり合ってはいけませんよ」
 アルバートは黙って聞いた。聞いた上で無視し、バフォメットの手から返された愛用の二本のダマスカスを腰に差す。
 師、ベルガモットに奪われていた物だ。彼自身は何処かへ去ったと、バフォメットには聞かされていた。
 アルバートはそれを疑いもせず、気にも留めなかった。あの騎士が、そういった詮索を望まないと知っていたからだ。
「いくら貴方が魔剣を振るったとしても、アウルには勝てません。負けなくとも、勝てはしない」
 魔術師…シメオンの言う事は正しいのだろう。この青年は狂気じみた部分があるものの、賢い。予測で物事を語るタイプでもなければ、ひいき目に
見る事もしないからだ。
「今更だな」
「ちゃんとそう言いました…くくっ」
「ちっ…食えない奴。友達いないだろ、お前」
 最後にミニグラスを押し上げ、アルバートは目を細めて笑った。そもそも、彼も同行するつもりなのだから全然説得力がない。
 どういった心変わりで彼が離反したのかは分からなかったが、利害が一致する以上、この青年も仲間なのだ。
「勝てない戦、不利な戦はしないのが主義でね」
 アルバートは端的に呟いた。シメオンも口元をつり上げて頷く。
「…目的はアウルって奴を殺す事じゃない。二度も馬鹿正直に相手する必要はないさ。奴の手下もスルーだ」
「くっく…良い主義ですねぇ…それでこそ、この<手段>も有効に用いることが出来るというもの」
 おもむろに、魔術師がアークワンドを掲げる。
 突如巻き起こった風に、アルバート空を見上げる。砂埃の向こうの暗い空。濃紺の鱗に覆われた一対の羽が上下していた。
 大きい。平均的な民家ほどの大きさだ。少なくとも、鳥ではない。
「竜族…なのか?しかし…大きすぎる」
「竜と言っても、貴方は<プティット>しかご覧になったことはないでしょう。あれは幼生でして、本来はあのサイズのものを<竜>と呼びます。もっ
とも、現存する個体はもう数えるほどしか居ませんが…今日はその内の一体にお越しいただきました」
 呆然と巨大な影を見上げるアルバートに、シメオンが得意げになって言った。
「今、ジュノーへの転移魔法が制限されています。ご多分に漏れず、アウルの仕業でしょうが…まさか、彼も<空>から攻められるとは思わないでしょ
うねぇ。いやぁ、愉快だ。驚愕に凍り付く彼の顔が、早く見たい」
 自分の力を誇示する時は、必ず多弁になる。下衆と言えばそうだが、アルバートはそんなシメオンに好感を持った。愉快なのは、むしろ彼の方だ。
「あれに乗ってジュノーへ行くのか。しかし、どうやってあんなもん味方につけたんだ?」
「人徳というものですよ…くっく」
「…へぇ」
 徳というものとはまるで縁がなさそうな陰気な笑顔で黒い空気を放つ魔術師に、アルバートは適当に切り返し、振り返った。
 いつのまに居たのだろうか。音もなく背後に立っていた黒い甲冑姿の青年と、その後ろに隠れる機械人形の少女だ。青年の赤い瞳には、見覚えがあっ
た。見る者を威圧する雰囲気といい、放たれる強大な不可視の魔力といい、間違いない。
「バフォメット」
「汝の師、我が友に代わり、見届けよう」
 青年は眉一つ動かさずに言った。彼も思うところがあるのかもしれなかった。人の形をとったのも、意図があるのだろう。
「…助かる」
 アルバートはそれだけ言い、今度は機械人形の方を向いた。散々、グラストヘイム城内で同じ顔をしたオートマータと出くわしていたが、この個体は
別だった。カプラ職員の制服を着込むのは、彼女だけだ。
「ご主人様も…きっと来ると思います。だから…」
 思い詰めた様な口調で言うアリス。アルバートはふっと表情を緩めて、
「好きにすればいい。君にも、シメオンにも、バフォメットにも助けられたしな…止める権利なんて俺にはないよ」
「…はい」
 彼女の主人、ドッペルゲンガー。もしかするとアルバートは彼と刃を交えるかもしれない。
 それを分かっていて申し出たのなら、もう言うべき事はなかった。
 たとえ、生きて戻れないとしても。
203('A`)sage :2004/06/02(水) 02:06 ID:iFuQkvsE
 セシル一行がポータルで出現した先は、まさに戦場だった。
 起伏に富み、岩肌をむき出しにした貧相な土壌の山岳の中腹にひしめく魔物と甲冑の騎士達。加えて、オークやコボルト等の亜人種の戦士までが入り
乱れて殺し合っている。騎士団側には多数の冒険者も混じっているようで、魔術の詠唱やバードの歌声も、半ばの悲鳴の如く入り乱れていた。
「な、なんだこりゃあ!?何処の馬鹿どもだっ!?」
 セシル達を見止めるなり襲いかかってきたハイオークの戦士を斧で切り伏せ、グレイは怒鳴った。瞬時に頭を切り換え、セシルとアーシャも打たれ弱
いフェーナの周りを固める。とはいえ、魔物の軍勢も騎士団側も総力戦に突入しているらしく、彼女達に構っている余裕はないようだった。
「座標がズレました。ジュノーから離れてしまったようです」
 あくまで冷静にフェーナが言った。
「どれくらい離れたんです!?」
 突如、剣を振り上げて迫った騎士に体当たりして跳ね飛ばしつつ訊くセシル。どうやら、完全にお尋ね者として認識されてしまったらしい。
「分かりませんが、確認します。一分ほど持ちこたえて頂けますか」
「んな暇あるかいっ!」
 ダブルストレイフィングで上空のガーゴイルを射抜き、次の矢を構えてアーシャが喚いた。両軍から敵視されている以上、踏み止まるのは自殺行為だ。
混戦でなければ、とっくに殺されている状況である。いつもは飄々と構えているハンターだったが、今度ばかりは泣きたくなった。
「亜人が出張ってるのもおかしな話だぜ!これもアウルって奴の仕業かよ!」
 グレイがカートを振り回して蹴散らした集団は、ちょっとした博覧会でも出来そうなほど様々な種族の亜人が混ざっていた。ゴブリン以外のほぼ全て
の種族を網羅している。逆にゴブリンが居ないのか不思議な位だ。
「下がってください!エクスキューショナーを使います!」
 よく分からないからといって出し惜しみする状況でもない。セシルはグレイとアーシャに注意を促しながら、何もない空間に手を伸ばした。
 一瞬の間に異界から解き放たれた黒き魔剣は、押さえ込まれていた鬱憤を吐き出すかのように鳴動する。甲高い悲鳴に似た音が響き渡り、セシルの髪
が元の金色から白色に染まっていく。
 刹那、セシルの正面に立っていたハイオークが頭から縦に割れた。断末魔も、肉の斬れた音も無かった。
 咄嗟に伏せていたグレイはあまりの威力に目を見張った。太刀筋が見えない上に、異様な切れ味。これが、魔剣か。
「お嬢ちゃん!そいつぁ強力過ぎる!絶対に騎士団には当てるな!」
「は、はいっ!」
 頷きつつ、セシルはエクスキューショナーを一閃させた。重みは全く感じない。ただ、斬れた。いとも簡単に、襲い来るオーク勢が全滅する。
 その僅かな間に、彼女は魔剣を繰る術を掴んだ。自身の身の丈の三分の二ほどもある刃を、容易く振るう要領を得たのだ。
(やれそう…これなら…)
 仲間を失って逆上したハイオークが、騎士の血で染まった斧を振り上げた。セシルは大きな紅い眼でその挙動を静かに見据える。汚く、重厚な刃が自
分に打ち付けられる寸前まで。極限まで神経を動員して見切る。心静かに、あるがままに。
 魔剣によって拡張された意識と感覚が、セシルに敵の<構造>を教える。筋肉の動きと限界。人体に近しい生き物である限り存在する弱点を。
 オークの斧が当たる寸前、セシルは最低限の動作で刃を避け、的確にオークの急所を突き刺していた。無駄のない、流動的なカウンターアタック。事
切れる前に、オークはセシルに蹴飛ばされて荒野に転がっていた。何が起こったのかも、理解できていないだろう。
 赤いリボンが血煙に躍る。
 瞬く間にオークを殲滅した女騎士に、騎士団勢の視線が集中した。プロンテラ騎士団の紋章を掲げながらも、魔剣を携えたこの少女は敵だ。
 もしも味方に居たならば、英雄として奉られていたに違いない。そんな複雑な情念を抱きながらも、彼らは剣を向けた。
「騎士を騙る逆賊!王の命により、成敗する!」
「騎士…二人も来る!?」
 マントを翻し、飛びかかる二人の騎士。かなり剣に習熟したと思われる太刀筋からして、殺さずにやりきれる相手ではない。
 不意に、間に割って入った青髪のブラックスミスが騎士達の剣を大振りの両手斧で受け止める。火花が散り、グレイが斧を振り切るやいなや、二人の騎
士は盛大に跳ね飛んだ。
 加勢に入ろうとした他の騎士の足下に、無数の矢が突き刺さる。
 アーシャだ。
 赤毛のハンターは、油断無く矢を向けたまま、騎士達を睨んだ。
「一歩でも寄れば、次は当てる。大人しゅうモンスターの相手でもしときぃや」
「そういうこった。てめぇらに構ってる暇はないんでね…もっとも、俺達を相手に差し違えるつもりだってんなら、別だがよ」
 炎を宿したツーハンドアックスでタバコに火を点し、紫煙を吐き出すグレイ。人間相手の駆け引きでは、やはりこの二人の方がセシルよりも熟練してい
る。二人の存在に感謝しつつ、セシルはフェーナの方を見た。
「…さほどジュノーと距離はないようです。国境を越えた辺りですね。走れば、なんとか」
 <百眼>で位置を確認し終えたフェーナの言葉に、セシルは頷いた。グレイとアーシャも顔を見合わせ、頷き合う。
 が、グレイの言葉は意外なものだった。
「んじゃ、後は任せるぜ、お嬢ちゃん」
「…え?」
 思わずポカン、と口を開けるセシル。さらにアーシャまで、茶目っ気たっぷりに手を振った。
「追撃されてもつまらんやろ?こういう時に時間稼ぎするのがうちらの役目や…今度はドジしたらあかんで」
 呆けるセシルの背後で、フェーナが放ったホーリーライトの閃光が魔物勢の中心を薙ぎ払った。爆発音にも似た轟音が響き渡り、混戦状態だった両軍が
輪をかけてぐちゃぐちゃに動き始める。恐怖に判断を誤った冒険者の魔術師が放った大魔法が、追い打ちをかけた。
 混乱の波に飲まれながらも、セシルの姿が消えた。グレイもアーシャも、フェーナがうまくやったのだろうと思い、騎士団勢を振り返る。
 いやに殺気立つ騎士達は、各々の武器を構えて二人を取り囲んだ。見えるだけで十数人。多勢に無勢もいいところである。
「おーおー、こりゃ厳しいなぁ」
「たははっ…損な役回りやで、ほんま…」
 苦笑いする赤毛のハンター。彼女に若干の怯えを見て取ったグレイは、タバコを吹き捨て、
「…悪いな、付き合わせちまって」
 小さく呟いた。グレイが言い出さなければ、アーシャも足止めを請け負ったりしなかっただろう。覚悟があったとしても、軽い罪悪感を覚えずにはいら
れない。
「ええよ、別に…もう慣れたわ」
「…悪い」
「ええって。せや、今度何か奢ってや。それでチャラにしたる」
「…今度、か……OK!」
 無理に作った笑顔を浮かべるアーシャ。グレイは頬を緩め、騎士達が一斉に殺到する。
 絶望的な戦いが、始まった。
204('A`)sage :2004/06/02(水) 02:08 ID:iFuQkvsE
お久し振りです。
お気に召さない方はお手数ですがあぼーんお願いします。
では。
205一個前の201sage :2004/06/02(水) 10:22 ID:AxPMOOo2
>>197

レスサンクス。
以下、自己弁護を兼ねて独り言(へたれの証)
確かにスルーされてるかも・・・とか思うと悲しいけどさ
万人に好かれる事が出来ないのは世の常で
どうしても合わないって人は居ると思う
をれの場合だと特に下手すぎて読みたくないって人も居ると思うんだわ
それは「読みたい」と思わせる事が出来ない自分の未熟が原因だと考えている訳で
えーとつまり何が言いたいかってーと
読む読まないは読者に任せて書けばいいじゃないか、と

基本的には誰が読んでて誰がスルーしてるかなんてわかんねぇんだし
コテ付けて、読みたくないって人がスルーしやすい環境を整えた上で
思い切り情熱をぶつければいいじゃないか、と

をれが書いても感想少ねぇから感想をくれる93氏にはカキコし続けて欲しい
っていうのが本音な感想クレクレ厨の戯言
・・・感想が少ないって事は大半の人にスルーされてるって事じゃね?と脅えつつ・・・
206一個前の201sage :2004/06/02(水) 11:17 ID:3GjVF7Rk
だぁ、連投スマヌ
感想欲しがる癖に出さねぇってのもめっさ失礼な話じゃねぇかと書き込みボタン押してから気付いた

>>195

案内要員のお姉さん視点がツボに刺さった
普段誰も気にしないようなものに目を向ける着眼点が素晴らしいと思う。
ROのテロってのは確かに問題だとは思うんだが、
RO内で新たな出会いが減った現在でも
こうしたドラマが生まれる可能性を秘めているから一概に駄目とは言えないな、と
RO内の新たな出会いなんてものとはとんと無縁なおでんのソロプレイヤーの戯言

>>199

以前書き込みのあった悪ケミとママプリ出会いの物語かな?
氏の文章構成力はをれの憧れとするところなので楽しみにしております

ママプリお借りしちまって申し訳ねぇっす。ちろっとだけだから許して・・・
【処刑台】ユルサレルワケネェダロボケガチョットコッチコイヤ <<バフォカンレンノハナシスルナラサケテハトオレナ・・・ギャアアァァ・・・!

>>202

待ってました!
をれなんぞに言える事はそれ位しかない・・・あ、あと一つだけ
登場人物全員の未来に幸あらん事を願う!

・・・役に立たねぇ感想でスマン・・・感想までヘタレなをれって文章書くの向いてないのかも・・・
207つ旦sage :2004/06/02(水) 13:10 ID:N5D5fw0o
私も以前、小説を扱ったHP持ってまして公開してたんですが
感想がなくて、どうしてだろうと(ツマンネって事でスルーされてるのかな)と思って
私よりも本格的に書いてる知り合いに聞いてみたら
「読書感想文が苦手なのと同じ」
と言われました……あぁ確かにその通りだ(私の場合は

それと続きモノ、長編だと感想を書くという部分まで至っていないというのもあるそうです。
短編だと、その物語ですべてを凝縮していますが、続き物などでは
ある程度の長さがないと「続きが楽しみです」「面白いです」しか出てこないそうです。
読んで、内容を加味して、感想を考えて、さらにそれを書く…
感想を書く側の人もこれだけの事をしなくてはならないので、かなり大変です。
ですから、「思わず感想を書きたくなるような文」を目指せばよろしいかと思ってます。
まぁそんな私も感想をもらったことはほとんどないんですけどね〜頑張ろう。
208名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/02(水) 13:20 ID:pXuf/Z2E
('A`) さんキターーーーー(・∀・)ーーーーーーー!
209名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/02(水) 17:50 ID:6lgawW6s
(*´Д`) たまらんばい・・・っ

('A`)様、続きが読めて良かったッス!残りも頑張ってくだされ!
210名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/02(水) 22:41 ID:ibk1OFXU
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!
211('A`)sage :2004/06/02(水) 23:27 ID:iFuQkvsE
『歪んだ未来へ続く荒野 2/2』


 眼下を流れる地上の景色は、あまり心地の良い物ではなかった。
 竜の背に掴まり、ジュノーへ向けて空を駆ける。あっという間にゲフェンの上を通り過ぎ、アルデバランの辺りまで通過する。そこで、アルバートは舌打
ちした。かの水の都は、既に戦闘状態にあったのだ。
 遠目にもはっきりと確認できる戦火が、時計塔を中心にして広がっている。応戦しているのはやはり冒険者だろうか。
「アルデバランまで!?…何考えてんだ、くそっ!」
 竜の尾にしがみつくシメオンも、アルバートの隣で必死に風と格闘するアリスも、青年の姿のままで旋風の中に立つバフォメットでさえ、あまりの戦域の
広さに驚きを隠せなかった。
 アルデバランの北門、国境検閲所の橋から、延々と混戦状態の戦線が山岳地帯にまで伸びている。騎士団と冒険者の混成部隊が戦っている様だったが、あ
まり戦闘が大規模過ぎて統率が取れていない。まるでバラバラの戦いだ。
「シュバルツバルド側の兵が見えませんねぇ…くっく、これは愉しい…実に愉快…くっくっく」
「余程血を流したいのか…誰にも邪魔をされたくないのか…どちらにせよ、やり過ぎであろうな」
 眼下の激しい戦闘にアドレナリンを分泌させたのか、ひときわ壊れた笑顔を浮かべ、竜尾の先から背に這い上がるシメオン。バフォメットも瞑目し、強大
な魔力を動かし始める。
「…お前ら、何を…!?」
「えてして…魔術というものは使いようによっては、非常に安全に、かつ効果的に運用出来るものなのです。例えば…」
「相手側から攻撃を受けぬ距離を取った場合、若しくは…」
 吹き飛ばされそうな風圧を全身に浴びつつ、甲冑姿の青年の相貌が輝く。シメオンは術に不可欠な予備動作を終え、宙に魔法陣を描いた。
「そう、克服不能な高低差を挟んだ場合とか、ですねぇ…」
「崖撃ちかよっ!!」
 非難に似たアルバートの絶叫。それを完全に無視し、天翔ける竜の背に立った魔術師と魔族は同時に詠唱を開始した。風に乗って流れる二つの呪は、一般
に用いられる凡庸な攻撃魔法とは異なっていた。
 アルバートもアリスも魔道の類には疎かったが、そんな彼らにも分かるほど、凶悪な威力の魔法。俗に言う<大魔法>だ。
「アサシン様!前を!」
 唐突にアリスが叫んだ。高速で飛行する竜の進路上に、巨大な灰色の島が浮かんでいた。そして、その守りを固めるかのように空を舞う悪鬼の群れ。
 ガーゴイル。弓に長け、飛ぶ為の羽を持つ魔物だ。
「厄介な……矢が来るぞ!アリス、防げるか!?」
『やってみます』
 打って変わって、機械的な声色で応えるアリス。鉄芯の仕込まれた箒を真っ直ぐに構え、立ち上がる。アルバートも二刀のダマスカスを抜き放ち、正面か
ら襲い来る黒い矢の雨に向かって刃を振るった。箒と短剣によって弾き散らされる矢の雨。同時に、シメオンとバフォメットの大魔法が完成する。
「ロード・オブ…」
「ヴァーミリオン!」
 滅びの紅い風が、地表で争う者達に吹き荒れた。騎士団勢を器用に避け、魔物達だけが紅の風に飲まれていく。
「ひゃーっはっは!愚民どもめぇっ、私の偉大さを知れぇ!」
 勢い付くシメオン。ついでに騎士団目掛けて、死なない程度の威力の火炎魔法、ファイアーボールを連射する。小爆発があちこちで展開し、屈強の騎士達
がいささかオーバーな動作と悲鳴を上げて吹き飛ぶ。彼の放った火球は雨の様に降り注ぎ、地上の戦闘をあらかた鎮圧してしまった。
「…形勢は決した。先へ」
 いささか暴走気味の魔術師をさて置き、バフォメットは虚空から巨大な鎌を喚び出して振るった。その一閃で、進路を妨害していたガーゴイルの集団が、
羽をもがれて墜落していく。原理の分からない攻撃だったが、味方についている以上、心強い。
 アルバートは静かに頷き、ジュノーの南端、ミネタ島の門へ竜を誘導した。騎士団の戦闘から離れ、興の削がれたシメオンは渋々、追いすがるガーゴイル
に向けて火球を撃ち続ける。
「…もう少し愉しみたかったものですがねぇ…やれやれ」
「でも…誰も殺さなかったんですね」
 何処か芝居めいたシメオンのぼやきに、アリスは率直な疑問を口にした。彼は紫かかった眼を機械人形の少女に向ける。
「見直していただけましたかね?」
「いいえ、全然」
「…でしょうねぇ…ふふ」
 臆面もなく言うアリスに、陰気な青年は何処か残念そうに笑った。
 直後、白光がジュノーから伸びる。正確に竜の胴体を撃ち抜き、閃光が満ちた。
「これは…百眼のホーリーライト…!?」
 珍しく狼狽するシメオン。完全に姿勢を崩す竜。苦悶の咆哮を上げ、竜は力なく羽ばたきを止める。
「敵なのか!?」
「いえ、彼女は捕縛された筈です…一体、誰が…」
 シメオンの計算外の出来事らしい。アルバートは落ち行く竜の背にしっかりと掴まる。
「次が来るぞ」
 バフォメットの警告の直後、二発目の閃光が竜の羽をもぎ取った。とてもホーリーライトという次元の攻撃ではない。
 落ちる。
 一気に揚力を失った竜。迫り来るミネタ島の地面に、アルバートは歯がみした。
212('A`)sage :2004/06/02(水) 23:28 ID:iFuQkvsE
 盛大な土煙が上がった。ジュノーの居住島全体を揺るがす。上空から飛来した謎の竜が、島に激突したのだ。
「誰だか知らないけど、ご愁傷様」
 黒塗りのアークワンドをゆっくりと下げ、バニは呟いた。瓦礫の山と化したジュノーのガーディアンの上から、飛来した竜を撃ったのは彼だった。
 フェーナ=ドラクロワから鍛錬を受けたとはいえ、彼女と同等の力を手にしていたとは、彼自身も意外だった。
 やってみれば、出来るものだ。
 結局、その程度にしか思わなかったのだが。
「もしかすると、これが神の意志ってやつかな…なんか、僕も信じたくなってきたよ」
 栗毛の少年神官はせせら笑った。あやふやな力だったが、なんとなく、使い方も分かる。そして、<視る>力をも得た彼は、先程から潜む人物にも気付
いていた。バニはやや挑発的に、石で建てられた家屋の影に向かって言い放つ。
「いつまでそうしてる気なんだ…出てくればいいじゃないか」
「…カタリナは何処だ」
 影から歩み出た金髪の剣士は、前振りもなしに、そう切り出す。
「ぷっ…くっ…ははっ…あははは!あはははははっ!!」
 そんな彼に、栗毛の神官は額を押さえて嘲笑した。まさか本当に来るとは、滑稽だ。
 分かる。分かり切っている。この剣士の姿をした魔族の力量は、はっきりと分かっている。
 かつての自分ならば、絶対に勝てない相手だっただろう。しかし、<百眼>を得た今の自分にとっては障害にも、敵にも値しない。
 この圧倒的な高揚感はどうだ?
 これがアウルの言う、『人の限界を超える』ということなのだろうか?
「だとしたら、こんなに素晴らしいことはない…」
「?…貴様、何を言って…」
 バニは両手を広げ、ガーディアンの残骸を蹴り、跳んだ。膨大な知識の奔流。未だかつて、数えるほどの神官しか辿り着けなかった境地。
 彼はまさしくそこに降り立った。皮肉な身の上への慈悲か、神の意を代行する者への賛美か、或いはもっと別の力か。
 どうでも良いことだ。確かなのは、今、自分は崇高な存在であると言うこと。それで、十分だ。
「バジリカ」
 彼は、得たばかりのその<知識>を行使した。<大聖堂>の意を持つ神聖な言葉が、彼の口を介して高らかに告げられる。かつて無い力に圧倒され、戦慄
する金髪の剣士の目の前で、宙に浮いた彼の背から、青白い『翼』が羽を広げた。その周囲には祝福の閃光が満ち、舞い散る光の羽根が埋め尽くす。
 バニは宙に浮いたまま、眼を開けた。
 そして、目の前の、あまりに卑小な存在に向けて宣告する。
 天罰の執行を。
「さぁ…始めようか、ドッペルゲンガー」

 ジョンは反射的に跳び下がった。熱風が頬を撫で、立っていた石畳の地面を白い光が撃ち貫く。
 おぞましいまでの聖気を帯びた光の螺旋が、次々と迫る。
「何だ、この力は!?」
 無数のホーリーライトを紙一重で避け、ツヴァイハンダーを抜く。目の前で光翼を広げる栗毛の神官は表情一つ崩さず、口を開く。
「神の代行者…御使いの力。お前のような存在を滅ぼす力だ」
「世迷い言を!」
 得体の知れない力を発揮する神官へ掌を向けて、氷の魔力を収束させるジョン。
『フロストダイバー!』
 氷柱が地を走り、浮遊する御使い、バニへ突き進む。が、フロストダイバーは彼の周囲の光に触れるや否や、粉々に砕け散った。
「…<バジリカ>は何人も侵すことの出来ない領域…もうお前の攻撃は通じない」
『しぃっ!』
 両手で幾度かフロストダイバーを連射する。しかし、やはり<バジリカ>の光に掻き消されてしまう。魔力でさえ通用しないこの神聖魔法には、恐らく剣
でさえ通じないだろう。もっとも、魔の者である自分があれに接近できるとも思えなかった。
「お前は僕が滅ぼす」
 再び、ホーリーライトが放たれた。
213名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/03(木) 16:32 ID:D.AD.zMM
先生続きが気になります!
214('A`)sage :2004/06/04(金) 00:34 ID:CSt8S9pU
『錯綜』


「目は醒めたかな…スレード」
 青年の声がした。何処かで聞いた、懐かしい声だった。
 かつてスレードゲルミルと呼ばれたホムンクルスの少女は、ゆっくりと瞼を上げた。その紅い瞳が、正面に立っていた青髪のクルセイダーに向けられる。
「言語能力も戻っている筈だよ。君のリミッターはもう外した」
 青年は掌の中にあった愛らしいデザインの耳当てを握り潰した。忌々しげに、それを床へ投げ捨てる。
 嫌な感じがした。しかし、少女は最早、何故それが嫌なのかも分からなかった。ぽっかりと、記憶の大部分が削れてしまっている。
「ワタシは…」
 誰だったか。
 思い出せない。
「君はスレードゲルミル。僕と同じ、ホムンクルスだ」
「スレード…ゲルミル」
 復唱してみた。全くと言って良いほど実感がない。あるのは、途方もない虚脱感だけだった。
 彼女の『耳があるべき部分』には、別の物が生えていた。茶褐色の渦巻いた角。山羊を連想させる、異形。
「僕はアウル。もうこの世界には、僕らしか同種の存在は残ってない。言うなれば、僕らは最後の家族だ」
 アウルはひざまずき、愛おしげに、座り込んだ少女の頬を撫でた。悲哀に満ちた眼。傷付いた鎧に、乱れた髪。この青年は、何かと戦っていたのだろうか。
「長かった…ようやく、ここまで来れた…喜んでくれ、スレード。これで僕らは救われるんだ」
 呟き、彼が振り返った先。用途が想像も出来ない装置が並ぶ回廊の向こうに、淡い光を宿した球体があった。
 浮遊都市群、ジュノーを支える核。
 ユミルの心臓。
 そう呼ばれる、未知の物体。
「僕らは<彼女>を模して作られた。人と、魔族と、錬金のマテリアルを混ぜて、ある目的の為に…君は覚えていないだろうけどね」
「そう、なの」
「うん…僕達はそれを成さなくちゃいけない。その為に作られたんだから」
 少女は悲しくなって、俯いた。
 何かが違う気がした。理由は、やはり分からなかったが…何か間違っている。
「悲しいね」
 少女がポツリと漏らした呟きに、青年は優しい顔をした。それから、少女を抱え『母の心臓』へ歩き出す。
「僕らの<理由>はそれだけなんだ。本当に…それだけ。だけど、生まれてしまった以上、僕らは生き続けなきゃいけない。哀れで醜い造物の僕らでも、神に
与えられた生きる権利と義務を、守るべきだから」
 彼が歩む度に、鎧が鳴った。この青年はどれだけの戦いを経て、ここへ来たのか。少女には、分からなかった。
「傲慢な人間達を追い出して、三つの世界を解放しよう。君と僕の力で母さんを復元すれば、きっと出来る。それから地上を僕らの世界にするんだ」
 夢を語る少年の様に、彼は言った。
 不意に、通路から飛び出してきたセージが醜い侮蔑の言葉を並べながら魔法を詠唱した。しかし、青年が炎に焼かれることはなかった。
 彼の腰に収まっていた異形の剣から、不可視の衝撃が放たれる。セージはそれを食らって、あっけなく、悲鳴を上げながら通路の下へ落下していく。
「邪魔なんて誰にもさせない…沢山、犠牲を払って此処まで来たんだ…お前達に邪魔されてたまるものか…」
 少女は、口走るアウルの顔に焦燥の様な何かを見た。何かに怯えているような、そんな顔だった。
 はっきりとは分からない。少なくとも、あのセージではないだろう。何か別の、誰かが来る。
 誰だろうか。
 分からない。
(でも…来て…ほしい)
 気がつけば、彼女はそんな事を願っていた。
 

 全身に鈍痛。特に左手がダメージを受けすぎているように感じた。
「…生きてるだけでも…不思議だが…」
 意識が覚醒するなり、全身の感覚をチェックし、アルバートは乗っかっていた瓦礫を押しのけて起き上がった。黒装束も埃を被り、ミニグラスはヒビが入っ
ている。竜がミネタ島に激突する寸前、一か八か家屋の屋根に向かって跳んだのが正解だった。盛大に屋根を突き破り、竜が墜落した衝撃で家屋自体が損壊
してはいたが、ちゃんと生きている。
 だが、幸運に過ぎない。彼は二度とやらないと固く誓った。もっとも、そのチャンスはもうないのだろうが。
 やけに痛む左手を庇いつつ、アルバートは半壊した民家から転がり出た。見れば、竜の激突した区画は見る影もなく破壊されている。
 とんだ到着になってしまった。出来るなら颯爽と、ヒロイックに降下したかったものだ。
 竜の冥福を祈り、彼は周囲を見回した。不気味なほど静まりかえっている。アリス達の姿は何処にもない。
(バフォメットも居る…大丈夫だとは思いたいな…)
 ルーンミッドガルツとは一風変わった街並。ただ、今は異国情緒を楽しむ状況でもなければ、楽しめる光景でもない。
 セージやシュバルツバルド兵士の死体が山のように転がっているのだから。
 同時に、<紅>と<白>の残党も死んでいた。ベルガモットが離脱した後もアウルに付き従ったようだった。
 恐らく、これでベルガモットが率いていた部隊は全員だろう。暗殺者として、戦士として生きた末路が、これか。
「報われないな…お前ら」
 かつての仲間達に言い放ち、アルバートは歩き出して…足を止めた。
 空が流れていた。上へ、上へと。
「…ちょっと待て…」
 嫌な想像が頭を過ぎる。彼は振り返り、ミネタ島と地上を繋ぐ門を見た。
 無い。
 引きちぎれたのか、門は既に姿を消していた。
「昇ってるのか…ジュノーが…」
 速度はさほどでもないが、着実に、この浮遊都市群は高度を上げていた。地上との唯一の接続点である門が途切れてしまった以上、もう後戻りは出来ない。
 ジュノー自体が自然に上昇することは無いだろう。となれば、機能に異変を引き起こしているのは、心臓を狙っているアウル以外にあり得ない。
 ティータだけを助けて戻るのも、不可能になった。アウルを倒さなければ、生きて戻ることは出来ないだろう。
「冗談キツいぜ…」
 頭を抱え、溜息をつく。
 そこへ、不自然な閃光が走る。咄嗟に身を捻り、避けるアルバート。ミネタ島の中央広場の方から放たれた光は、そのままアルバートの遙か後方に着弾して
爆発した。異様な光源体が見える。昼間だというのに、はっきりと広がる青白い光の帯。羽根の様にも見えた。
「あれが俺達を撃ち落とした…らしいな」
 出来ればアウルとの戦いに備え、体力は温存しておきたかった。しかし、ミネタ島からユミルの心臓がある中枢島、ソロモンへ行くには広場を通らなくては
ならない。どのみち、避けては通れないのだ。
「ちっ…ええい!やるしかないか!」
 駆け出すアルバート。痛む左手で魔剣の柄を握る。右手は愛用のダマスカスを抜いた。
 一気にミネタの街を駆け抜け、広場に躍り出る。そこでは、光の翼を広げたプリースト姿の少年と金髪の剣士が交戦していた。
「!…お前!?」
 剣士が乱入したアルバートを凝視する。彼は敢えて無視し、まだアルバートに反応していない神官を目掛けて疾走する。瞬時に敵味方の判断はついていた。
 敵は、この栗毛のプリーストだ。
「時間がない!どけぇっ!」
 気合い一閃。神官が察知した時には、アルバートは魔剣ミストルティンを抜いて跳んでいた。
「…誰かな?」
「名乗る暇があるかよっ!」
 プリーストの光翼が翻り、アルバートの前に防壁を張る。しかし、刀身を剥き出しにした魔剣が障壁と激しく干渉し、砕き割った。
「魔剣…そうか、アウルさんと同じ…」
 少年の冷静な声。アルバートは懐に潜り込んだまま、ミストルティンの刃を返し、プリーストの光翼を切り裂く。
 聖気としか形容できない光が飛び散り、魔剣は光を喰らいながら片翼を寸断した。
「退け!殺したくない!」
「ふふ…冗談を言わないでほしいなぁ」
 片翼を失っても、栗毛の少年は退かない。残った羽根から再び障壁を張り、手にした黒い杖から白光を放つ。
「言われて退く位なら、こんな所には居ないよ」
 道理だ。アルバートは自分の甘さに自嘲めいた苦笑を浮かべ、ホーリーライトを避けた。飛び下がった先で、剣士に捕まる。
「アサシン…生きていたのか…!?」
「話は後だ、ドッペルゲンガー」
 つくづく因縁のある魔族と再び肩を並べ、刃を構えた。ジョンはツヴァイハンダーを、喚び出したランスに持ち代える。
 短期決戦を狙ってのことだ。二人とも出し惜しみはしないつもりでいた。しかし、
(こいつ…何だ…)
 戦意を剥き出しにする強者二人を前にしてなお、少年の表情は余裕に満ちていた。
215('A`)sage :2004/06/04(金) 00:35 ID:CSt8S9pU
 アリスはただ呆然と見ていた。
「…なんです?…私の顔に何かついてますかねぇ…」
 ボタボタと血を滴らせ、そのウィザードは言った。だらしなく垂れた左腕は奇妙な方向に折れ曲がり、フードの奥の目は片方が潰れてしまっていた。
 血は潰れた左目から流れていた。魔術師はそれに今気付いたのか、無事な右手で傷を押さえる。
「おや…血でしたか…これは痛い」
「シメオン…さん?」
 ぽつりと言う。
 シメオンはいつもと変わらない、陰惨な顔のままでアリスを見やった。
「はぁ…何でしょう?」
「どうして…私を…」
 竜が落ちた時、衝撃でジュノーに投げ出されたアリスは、迫り来る地面に自らの死を予感した。
 自動人形とはいえど、あの高さで投げ出されて無事なほど頑丈ではない。落下の衝撃で壊れてしまうのは必至だ。
 しかし、彼女は助かった。横から彼女を掴んだ誰かが、ミネタ島に着地するまでの僅かな間に地面へ魔法を放ち、衝撃を軽減したのだ。
 それは、バフォメットでなければ、アルバートでもない。陰気な魔術師…シメオンだった。
 更に、彼は着地の瞬間にアリスを庇っていた。
 生身の人間がそんな事をすれば、運が良くて重傷。下手をすれば死んでいる。実際、彼の腕は折れ、目は潰れた。
「ヒールクリップがないのが悔やまれますねぇ」
 アリスの問いを無視し、彼は悪態をついた。もっとも、悪態というにはあまりに落ち着いたぼやきだった。
「…ちゃんと答えてください」
「おや、怖い」
 竜の死骸に背を預け、破れかけたフードを取りながら、彼は笑う。元々不健康そうな顔だったが、輪をかけて血色が悪い。
 まるで死人のようだった。
「…自己満足ですよ」
 流れる血が、呟くシメオンの麻色のマントに落ちる。人形のアリスの目にも、痛々しく写る光景。
「ここへ来たのもそうですし、あのアサシンに手を貸したのも自己満足です。真実の探求など、欺瞞に過ぎない……私の卓越した頭脳が分からない事などあ
りはしませんからねぇ」
 彼は言い切り、周囲を見回した。巨大な竜は既に事切れ、辺りに生き物や敵の姿はない。バフォメットの姿も見えなかった。
 別の場所へ落ちたのか、それとも、先へ進んだのか。
 いずれにせよ、迎撃された事も、これから起こることも、やはりあの山羊にとって動じるほどの事でもないらしい。
「くっく…分かりますか?人形。この戦いが収束したとしても、何ら意味はないのですよ。結果は最初から決まっている」
 結果と、それに至る過程。結局は、アルバート達の足掻きも、アウルの執念も、結末に至るまでのプロットを変えるに過ぎない。
 理解しているのはアウル自身と、このシメオンだけだ。そういう意味では、彼は真実に最も近い場所に居る。
「この世界の矛盾は変わらない…なら、私のしていることも、してきたことも、自己満足以外の何物でもないでしょう?」
 魔術師の言葉は難解だった。単なる独白として捉えるのは容易だったが、それにしては意味深だった。かといって、アリスにはその全容を理解する知識は
ない。大体、それが自分を庇ったことと何の関係があるのか。
「非情に徹するには、どうにも人という器は邪魔らしい…平たく言えば、貴女はあまりに魅力的なんですよ」
「は…はい?」
 論理の跳躍。が、彼にしてみれば、千年前の機械技術の集大成と言えるアリスは、本当に魅力的な『実験素材』だ。掛け値なしに。
 彼の作り出した人形を一撃の元に破壊したその能力といい、垂涎モノだ。こんな所で壊して良い物ではない。
 勿論、口には出さないのだが。
 目を白黒させ、アリスは狼狽える。シメオンはそれさえも愉しそうに観察し、重い足取りで歩み出した。
「恩を感じるのなら…今度、実験に付き合ってください…くっく…」
 狂った台詞。重傷を負っても、変わらない。奇人というよりは、もはや変態のレベルに突入していた。
(…あぁ、ご主人様…私、やっぱりこの人は嫌いです…見直して損しました…)
「ひ……ひひっ」
 アリスの呟きも、流血しながらも妄想で悦に入った魔術師には届かなかった。


 セシルとフェーナはジュノー北東の研究島、スノトラ島に上陸していた。
 彼女達がミネタの門に着いた時、既にジュノーは浮上を開始していた。門は既に倒壊しており、道は絶たれたかに見えた。
 しかし、至近距離からなら転移が有効であることに気付いたフェーナのテレポートで、やや危険ながらもジュノー突入を果たした。そう、危険だった。
 転送先がランダムだったのだ。
 結果としてはスノトラ島に転送されたので良かったが、これで空中に放り出されれば間違いなく死んでいた。
「冷や汗をかきましたね」
 ソロモン島へ駆けながら苦笑するフェーナ。一方、後に続くセシルの顔色はあまり良いものではなかった。
(グレイさん…アーシャ…)
 地上へ置いて来てしまった二人を想う。自分も残れたなら、魔剣の力で或いは騎士団とも渡り合えたかもしれない。
 しかし、それでは彼らの意志が全く意味を無くす。アウル=ソン=メイクロンに対抗する為に、魔剣は不可欠だからだ。
「二人は大丈夫ですよ」
「そう…かな」
「ええ。騎士団の指揮を執っているのは…恐らく先王、トリスタン二世です。彼は無益な殺生を好みませんし、補佐につく騎士達も優秀なので」
 最低限の説明だったが、セシルは取り敢えず胸を撫で下ろした。
 そういえば、騎士団には髭騎士も居る。悪いようにはならないだろう。
「それよりも、ジュノーが浮上しているのが引っ掛かります。もしかすると既に…」
 フェーナが言いかけた瞬間、ミネタ島の中心から閃光が伸び、天を衝いた。思わず、ソロモン島へ入った所で、二人は足を止める。
「あの光……フェーナさんと同じ…?」
「…栗毛の少年…バニ=ランダースと言いましたか…彼のようですね」
「バニ…君?」
 思わぬ名前が上がった。
「確かに教えはしましたが、あそこまで力を増しているとは…」
 バニをアウルの元に引き込んだのは他ならぬフェーナだったが、それでも、今<百眼>に写る彼の力は異常だった。
 妹の復讐への執着か。それとも、別の力の作用なのか。
 本来は天恵―――奇跡によってのみ得られる力だ。本当に神を味方につけたとでもいうのだろうか。
「セシルさん」
「…?」
「今の彼は危険です。このままでは、残された希望まで摘み取ってしまう」
 <百眼>はバニの他に、彼と対峙する二人の姿も捉えていた。その二人とも、絶対にここで死なせてはならない存在だ。
「私は先行して時間稼ぎをします。貴女はあの少年を止めてあげてください」
「そんなっ!フェーナさん一人じゃ!」
「アウルは私の…私の仲間であり、幼馴染みです…例え、彼が変わってしまっていたとしても」
 また閃光が奔った。遠くで、戦いが激化している。
「…それに、貴女は言いましたよね?彼をひっぱたこうと思わないか…って」
 躊躇うセシルに、フェーナはその女神のような顔を崩さず、かといって以前のような凍て付いた笑みでもない、柔らかな笑顔を浮かべる。
 それから、やんわりと言った。
「ひっぱたいてきますよ…ちゃんと」

216('A`)sage :2004/06/04(金) 00:36 ID:CSt8S9pU
 なんという少年だ。
 少年が放つ荒れ狂った力の奔流に、ジョンは舌を巻いた。隣で閃光を避け、或いは異形の剣で斬り払うアルバートも、同じく驚愕している。
 失った片方の光翼をも再生し、プリーストの少年は神力を行使する。二人の知るプリーストのスキルにはない、全く新しい神聖な言葉を放ち続ける。
「くそっ!タチが悪い!」
 乱発されるホーリーライトを避け続けるアルバートに、攻めに回る余裕は残されていない。
 むしろ本来なら防ぐ手段のない魔法を、に避けるのだから無理もない。それだけでも賞賛に値する離れ業である。
 が、防戦一方なのも確かだった。曲芸を続けても少年を退けられるわけではない。
(ここは私が切り崩すしかないか…!)
 後に退けないのはこの場の全員が同じ。それならば、情を今一度捨て去ることも必要なのだ。
『でぇぇい!』
 魔力を込めたツヴァイハンダーを、少年の張った聖域に叩き降ろす。しかし、黒い刃は結界を破ることなく、静止した。
 ランスを突き出すも、結果は同じだった。弾かれもせず、受け止められるかのように、やはり止まる。
 <バジリカ>という未知の神聖魔法の威力だ。
 唯一、この魔法を貫通出来る可能性のある魔剣を持ったアルバートは足を止められ、ジョンの攻撃は無力化される。
 少年は最初の攻防で、魔剣を封じれば勝利が確実である事を学んでいるのだ。
「どうにかしろよ、ドッペル!」
『私はジョンだと言ったろう!』
 避けながら喚くアサシンに怒鳴り返し、ジョンは掌から氷塊を放った。やはり、バジリカの光に触れた途端、霧散する。
 無駄だと分かっていても、歯がゆいものだ。
『ちぃっ!』
 ほぼ無詠唱状態からフロストダイバーを連射する。雹煙が巻き上がるほどの勢いで、地を進む氷柱。
 気休め程度の攻撃でしかないのも十分承知している。要は、アルバートが攻撃する隙さえ生まれればいいのだ。
『アサシン!』
「分かってる!」
 奇妙な連携が発生した。恐らくは、二人に染みついた戦闘の勘がそうさせたのだろう。ジョンの術が少年の注意を引いた瞬間、アルバートへの攻撃が
緩む。この熟練のアサシンが、その僅かな間隙を見逃すはずもなかった。
 少年は飛びかかるアルバートを前にして、瞬時に判断を下した。魔剣に対しては<バジリカ>も無効化され、キリエエレイソンでは防御力不足だ。
 セイフティーウォールでは詠唱が間に合わない。
 この判断力も、奇跡なのかもしれなかった。
「アスムプシオ」
 光翼が翻り、少年の目の前まで迫っていたアルバートとの間に滑り込む。少年は動揺すらしない。
 アルバートが向けたミストルティンの動きが緩慢になった。不可視の祝福の力が作用し、威力を半減させる。そうなってしまえば、魔剣とはいえ、バ
ジリカの領域を破ることは出来なかった。
 こちらも咄嗟の判断で、ミストルティンを引き戻し、横っ飛びに離脱するアルバート。
 垣間見えた勝機が潰れた。
「…もし、その魔剣が使いこなせていたなら…僕がやられていたかもしれない」
「くそっ!」
 チャンスを逃しただけでは済まない。少年の杖は確実に退避するアルバートを捉えていた。
 このタイミングではジョンの援護も届かない。
(間に合うか…っ!?)
 再び魔力を収束させ、氷塊を生み出すも、明らかに少年がアルバートを撃ち抜く方が早い。以前に、フロストダイバー程度では狙いを逸らすことも出
来ないだろう。
「…アルバートさぁぁん!」
 瞬間、何か赤い物が乱入した。一直線にアルバートへ駆ける<赤い物>が彼を押し倒し、その上を、少年の放った閃光が迸る。
「セシル…か?」
「はい!やっぱり無事だったんですね、アルバートさん!」
 いつか何処かで見たことのあるリボンを結わえた女騎士は、転がったまま面食らうアサシンに飛びついた。
 ジョンも早々に彼女を味方と認識した。少なくとも、敵ではない。危機が去り、ジョンは少年に向かい、改めて刃を構えた。
「三対一とは不本意だが、私もここで下がるわけにはいかんのでな」
「二人でも三人でも結果は変わらないよ。僕は勝ち、カタリナの蘇生を成し遂げる。相手が…そう、セシルさん…貴女でもね」
「…バニ君…」
 淡々と言うバニを、アルバートの傍から見つめるセシル。因果な再会だ。とてもではないが、喜ばしいとは言い難い。
「蘇生だと?」
 少年の奇妙な言葉にジョンは眉をひそめた。いくら<カタリナ>が魔術師の生成した装置を用いているとはいえ、彼女は死者だ。
 <蘇生>の意を持つ<リザレクション>という神聖魔法も存在するが、これは真の意味での蘇生ではない。死の淵に立たされた者を持ち直させる為
の魔法であり、離れた魂を呼び戻すことは出来ない。
 屍は所詮、屍なのだ。
 そんな事をプリーストであるこの少年が知らないはずはない。
「肉体が無事ならどうにでもなるさ。アウルさんの所に来て、僕も色々学ばせてもらった。彼の目的が達すれば可能になる」
「ふん…ベルガモットと同じ条件でたぶらかされたって訳か…馬鹿野郎二号だな」
 跳ね起き、セシルを庇う様に前に立ったアルバートが吐き捨てた。
「馬鹿、か……でも、僕にはもうそれしかない……だから此処で、貴方達を斃す」
「そんな…!」
「セシルさん…僕は今までカタリナの為に生き延びてきた。聖堂からの誘いを断り、なりたくもない冒険者に身を落として…ずっと…妹を探してたんだ」
 それは、セシルも髭騎士の話で薄々知っていた事だ。
 彼の人生の中では、セシルと組んでいた時間よりも、ずっと重い比重を占める悲願なのだ。
 天秤にかけるまでもない。
「だから、神だとかいう存在がくれたらしいこの力で、貴方達を殺す。最初から道は一つなんだ」
「―――それは残念ですねぇ」
 誰も予想だにしない、意外な声がかかった。続いて、バニに向かって無数の火球が降り注ぐ。
 爆発。
 傷付いた魔術師が一人、セシル達とは別の位置に立っていた。その後ろにはカプラ職員に扮した自動人形も居る。
「すみませんが、これで五対一です…もっとも、お呼びかどうかは知りませんが」
「ご主人様!」
「アリス!?それに…シメオンとか言ったな…貴様」
 片手で魔法を放った陰気な魔術師を確認し、憎々しく吐き捨てるジョン。すぐに斬りかからないのは、彼の傍にアリスが居るからだ。
 以前のジョンならば、それでも躊躇わなかったが。
 全員が曖昧に状況を把握する。この場に集まった面々は、互いに敵ではないのだ。少なくとも今は。
 駆け寄るアリスの無事に安堵しながらも、ジョンとシメオンは睨み合う。が、どちらともなく視線を外し、撃ち込まれたファイアーボルトで燃え盛る炎
に目を移す。セシルとアルバートも、バニが居たであろう炎の中を見やった。
「死んだか」
「アルバートさん!」
「あ…いや……すまない…訳アリの相手なんだよな…無神経だった…」
「そういうわけじゃ…」
 言い淀むセシル。先程の会話を聞く限り、事情があるのだとはアルバートにも分かっている。とはいえ、今のシメオンの不意討ちで倒れていてほしい、
というのが正直な気持ちだった。
 あの少年は危険だ。まともにやり合えば大きな消耗は避けられないだろう。
 例によって、アルバートの卓越した戦闘の勘がそう告げている。根拠はない。しかし、あの少年は未知の術を使う。
 本当に神に力を授かったなどとはあり得ないが、脅威には違いなかった。
「…どうやら、心配はいらんようだが」
 ジョンの呟きに顔を上げる。炎が吹き散り、栗毛の少年は無傷で立っていた。爛々と背の翼を輝かせ、何事もなかったかのように杖を持ち直す。
「あの光は…上位二次職のスキル…!?あんな少年が!?」
 珍しく焦りの表情を浮かべるシメオン。アルバートとジョンは既にその威力を目の当たりにしている為、とうに臨戦態勢に入っている。
「よく分からんが、手強いということだろう?今更だがな」
 臆面もなく言うジョン。アリスが合流して、心なしか気力を増しているようにも見えた。
「手強いとかで片付けるなよ…どうする。五人なら何とか押し切れるかもしれんが」
「黒のアサシン、貴方は先行してください」
 小振りの杖を取り出しながら、シメオンが提案した。アルバートは眉をひそめ、怪訝な顔をする。
「勝算があるのか?」
「いえ…お忘れですかね?貴方は魔剣を持っていて、スレードゲルミルを奪還するという目的もある。貴方が行かなければ誰が行くんです?」
 魔術師は至って真面目な顔をして言う。聞いていたジョンが本当にいつぞやの冷酷なウィザードと同一人物なのかと疑うくらいだった。
「私は…自分の作った『モノ』を始末しなくてはならないので…アウルの方はお任せしますよ」
217('A`)sage :2004/06/04(金) 00:38 ID:CSt8S9pU
終わりまで一気に行きます。
では、また。
21893sage :2004/06/04(金) 01:50 ID:AVTKHdes
 感想も書かないと言ったのに、わずか数日で戻ってきてすみません。一部、この名前で書かないと
意味がない感想なので・・・。
>201
 どうも、私はすぐにいい気になるので。コテで何かを書くのはやめようとおもいます。という気持ち。
ご心配くださりありがとうございます。端くれ的に、感想は燃料だと思うので、可能な限り何か書きたいな、
とは思います。

> ('A`)様
 首を吊るべきところ、いろいろと生かして下さってありがとうございます。本家のシメオンさんは
やはり素敵です。ドキワクするやら申し訳ないやら…。というか、トリスタン二世なんだ…嬉しぃょぅ。
最後まで楽しみにしております。
 あと…。保管に関しては、後回しにして申し訳ありません。作業の性質上、読みながらになるので…
読み耽っていつまでたっても終わらない… _| ̄|○

>166
 ママプリ+悪ケミ本なんでしょうか…。ママプリメインならとてもいい雰囲気の書き出しとおもいます。
166様の今まで書いてこられた魔・人の関係とか、そういう話にすっと繋がりそうで。
( ↑ 勝手に、本をめくって目次のすぐにあの文と想像・・・違ったらごめんなさい)。
悪ケミスレ的な雰囲気のコメディタッチ少しほろり系だとすると、これが最初だと合わないかもです。
219名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/04(金) 07:58 ID:5JaGeae.
やっぱりシメオンがレザード・ヴァ(ry
220>>194sage :2004/06/05(土) 03:32 ID:Xx/wYjiA
>自分で書いていて「段々つまらなくなっていくなぁ・・・」と思う長編作品。
>それでもあがいてあがいて続けるか、テンポを上げて削れるだけ削って早めに切り上げるか。

***書く前に***ヤマと締めを決めることだな。
で、書きたいことを書いたら締めに向かうことに集中する。
下山ルート決めずに山に登って登るだけ登って遭難するようなものだ、ある意味必然。
ネームとプロットは文字数より大事です。
221一個前の201sage :2004/06/05(土) 14:27 ID:Arw1ms4Y
>>220

そりゃごもっとも。
・・・ちなみに山場もラストも決めてねぇなんて言ってねぇぞ?
あぁ、確かにそこに行く前に弱音を吐くべきじゃなかったのは確かか。
ちっとばかし不安になったもんでね。済まなかった
222名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/05(土) 19:57 ID:cZV8mo1M
そのうちシメオンが

「そして刻め!我が名はシメオン!」

とかいって魔物を召喚
223('A`)sage :2004/06/05(土) 20:37 ID:hfHIy5dE
>>222さん

ソレダ!
224('A`)sage :2004/06/05(土) 20:43 ID:hfHIy5dE
『二人の選択』


 シメオンとアルバートの会話を聞いていたセシルには、二つの選択肢があった。
 一つは『アルバートと一緒に行く』。これは彼女がもう一本の魔剣を所持している以上、正しい選択と言える。セシルもそれは理解していた。
 しかし、不安がある。
 残されたバニはどうなるのか。
 魔術師は躊躇なく魔法を撃ち込むだろうし、ドッペルゲンガーに至っては魔族だ。カプラの格好をしている少女が引っ掛かったが、多分、この娘はさ
ほど戦力ではないだろう。だからといってバニを庇うとも思えない。
 結論としてここで自分が去れば、バニは死ぬか、残った全員を殺して後を追ってくる。しかも、前者の方が可能性が大きいように思えた。
 また見捨てるの?
 見捨てられる辛さを知ってるのに?
 おこがましいかもしれない考えが過ぎる。一度、アルベルタでバニを放置して逃げ帰った自分が今更、という気もする。
 大体、グレイとアーシャの行為を無駄にしてしまうではないか。単身乗り込んでいったフェーナも気掛かりだ。ここは大人しくアルバートについて行
くのが正しいのだろう。
 でも。
 それでも。
「…アルバートさん…気をつけてくださいね…」
 気付けば、セシルはそんな事を口にしていた。殆ど無意識に、彼女は行動を決定していた。
「ああ、分かってる」
 シメオンに諭され、先行する決意を固めていたアルバートは何の疑念も抱かずに頷いた。むしろ訳アリの相手なのだから当然だとさえ思っているだろ
う。幸い、エクスキューショナーは『仕舞って』いた。シメオンもアルバートも、魔剣には気付いていない。
(ごめんなさい…)
 悪い事をしたわけではなかったが、セシルは内心でアルバートに謝った。
 肝心な時に、彼の力になれない。
 ゲフェンで再会した時も、結局は逃げ回っていただけだ。今も、個人的な感情で皆の意志を無駄にしてしまう。
 辛辣な顔をするセシルに気付いたのか、アルバートは苦笑し、ちょうど胸元辺り―――自然に手を置ける位置にあるセシルの頭を軽く叩く。
「気負うと付け込まれるぞ…あまり緊張しない方が良い」
「えと……はい」
 厳密に言えば緊張ではなかったが…その的外れな気遣いが嬉しく、セシルは目を細めて微笑み返す。勿論、作り笑いでしかなかったのだが、そんなや
りとりが、せめてもの救いのような気がした。ふと見れば、シメオンは既にバニの方へ向き直って戦いに備えている。
「…あまり時間がないってのも、残酷だな」
 アルバートは呟き、ミニグラスを外すと、おもむろにそれをセシルに握らせた。
「無事に帰れたら返してくれ」


 願掛けのようなものだと、彼はセシルに言った。だがそれは違う。
 アルバートはバニとの戦いを始めた仲間達が作った隙に、ソロモン島へと駆ける。
 既にアルバートの中で計算されていた勝利へのプロットは崩れていた。ジュノーが浮上し、脱出が不可能になった時点で勝算は無くなったのだ。
 万が一の時には、遺品にでもなるだろう。
「差し違えるなんて格好の悪いことは…したくないんだがなぁ…」
 自嘲気味にひとりごち、橋を通り抜け、ソロモン島を駆け抜けた。不思議と敵は見当たらず、島の中枢へ続く建物の入り口も無防備だ。
 制圧に戦力を割きすぎたのだろうか。
 それとも…。
 思案に暮れながらもアルバートは硬質の廊下を走り、中枢を目指す。
 その途中の通路で、彼は敵の姿が無かった理由を知った。
 思わず立ち止まり、息を呑む。焼け焦げた肉の臭いが鼻をつき、人の死に慣れた筈のアルバートでさえ目を背けたくなる様な無惨な死骸が転がってい
た。体格の良い男達の様だったが、半ば炭化している為、それも断言出来ない。
 アサシンを驚かせたのはそれだけではなかった。通路を埋め尽くす死体の中、一人、細身の人影があった。
 若い女プリーストだ。
 全身を痣だらけにしながらも壁にもたれかかり、なんとか息をしている。
 それも、長くはないかもしれない。
「あんたが…やったのか」
 アルバートの静かな問いに、プリーストは頷いた。転がっている死体を見る限り、恐らく男達はモンクだったのだろう。まさか、このプリーストが一
人で全員を相手にしたとは思えない。もしそうなら、生き残ったのは奇跡としか言いようがなかった。
 だが、拳打による打撲が酷い。骨格も損傷の恐れがある。
「…おい!早くヒールを!」
「自業…自得…ですよ」
 プリーストは端麗な顔を苦痛に歪めながら呟く。
「部下を捨てて…自分だけ寝返った報い…なんです…」
「何を訳の分からないことを言ってるんだ!!死ぬぞ!?」
「…残念ながら…もう…」
 背後の壁にもたれたまま、くず折れるプリースト。アルバートは咄嗟に、その華奢な身体を支えた。
 壁にはベットリと血糊が張り付き、薄暗い通路の中で鮮やかに映えている。量からして、もう、この神官は長くない。
 プリーストを抱えた指先から伝わる湿った嫌な感触。彼女の身体は不気味なほど軽く、温度を失っていた。
「…イグドラシルの葉を使う!」
「無駄です…」
「黙ってろ!」
 どうしてこうも簡単に人は死ぬのだろう。
 取り出したイグ葉を握り、生を願いながらも、アルバートはそんな事を考えていた。
 グレイやマリーベルと共に戦場に生きた頃、数え切れない命を奪った自分がこんな事を言うのは詭弁だろうか。
 甘いだろうか。
「ふ…ふふ…」
 腕の中のプリーストが青ざめた顔で笑う。
「他人ですよ…私は……敵ですらありました…」
「知るか!黙れ!」
 世界樹の葉の放つ光が回廊を照らす。しかし、その光をもってしても、プリーストの顔に生気が戻ることはない。
 自棄じみた希望が、失われた。
「ふふ…お願いが…あります、黒のアルバート…」
「…なんだ」
 何故自分の名を知っているのかを問いはしなかった。死に行く者へそれを問ったところで、無意味だからだ。
「私の代わりに…アウルをひっぱたいて…やってください…」
 その一言で、おぼろげにプリーストとアウルの関係が見えた気がした。アルバートは黙って頷く。問いもせず、責めもしなかった。
 彼を見て、プリーストは満足げに微笑む。
 美しい笑みだった。

 それきり、二度と喋らなかった。

 
 凍て付いた微笑みにそっと手をかけ、目を閉じさせる。
「殺せって…言って欲しかったんだがな」
 終わった命に呟く。低く。静かに。
「ひっぱたくだけで済ませられるわけないだろうが…」
225('A`)sage :2004/06/05(土) 20:43 ID:hfHIy5dE
『それぞれの終焉 1/2』


 ジュノー全体が相当の高度へ上がり、大気が冷たさを帯びる。くすんだ雲が立ちこめ、雪が降り出した。
 漆黒の服を纏い、あらざる力を広げた少年は遠い雲の隙間から覗く太陽に目を細めた。
 漠然とした喪失感。誰かの命が消えた瞬間を感じ取る。
 最早、彼にとっては物理的な距離など関係がない。『視て』取れる『この世界』だけが全てだ。
 その中で多くの命が鬩ぎ合い、数多の輝きで世界を彩る。
 そして、納得した。
 これが境地。遙かな高みなのだと。
 陽光の中でバニ=ランダースは微笑む。それから、目の前で身構える少女を見た。
「フェーナさんが死んだよ、セシルさん」
「え……?」
「彼女には恩があったから……ん、ちょっと違うかも知れないけど……せめて、僕の手で葬ってあげたかった。僕を導いてくれた人が、今更偽善に走った
所で無駄なんだって事をね……教えてあげたかったんだ」
 冷えた風が吹く。
「分からなかったんだろうね……生まれながらに力を持っていた彼女は、きっとこの力の素晴らしさを自覚してなかったんだ。この力があれば、僕にだ
って簡単に世直しができる。さっきの屈強なアサシンと、あのドッペルゲンガーでさえも、僕には敵わない。復讐は容易くなった」
 変わり果てた少年の呟きが、風に乗ってセシルの耳に響く。
「だから…なんだっていうのよ…」
 奥歯を噛み締め、やっとの事で言葉を絞り出すセシル。それが引き金となり、一気に感情を爆発させた。
 フェーナが死んだという事実。
 それでもなお戦いを望むバニ。
「何で……何でよ!?」
「僕には妹しかいない。それしかない。生きてきたのも、生きているのも。それが僕だから」
 彼は清々しい顔をしていた。悲しみと怒りに歪むセシルの表情とは対照的に、あたかも人外の存在の様な神々しさを帯びてさえいた。
「最初から、こうなるしかなかったんだよ……セシルさん。貴女がアルベルタで僕を置いて行ったあの瞬間から、決まっていたんだ」
 少年は杖を構え、光翼を広げた。その色は青白い輝きから、激しい赤へと変貌している。
 明らかな戦意。悟りきった表情や態度からは感じられない、明確な殺意。
「バニ……君」
 自分が残れば、もしかすると彼は退くかも知れない。そんな淡い希望が砕ける。
 降り注ぐ陽光の中で、俯いたセシルの手に黒い大剣が生まれ出でた。
「やっと、やる気になったんだね……」
 バニが杖を真横に構えて突き出した。途端に、彼の背の羽根が激しく羽ばたき始める。
「私だって後には退けない!皆のお陰でここまで来れたんだから!」
 深紅の光が飛散する中、セシルはエクスキューショナーをバニへ向けた。
「負けないし、逃げない!やっと会えたあの人に、まだ何も言えてないもの!」
「なら僕を斃すってことだね!セシルさん!?」
「それしかないなら!」
 僅かに残っていたバニの躊躇と、セシルの迷いが消える。既にセシルは魔剣を振りかぶり、バニへ向かって駆けだしていた。
「僕は貴女達を殺し、カタリナの蘇生を成す!もう貴女は敵だ!」
 手にした強大な力でセシルを確殺するに足りる軌道を読み、バニは杖を振るう。
 切って落とされた火蓋。獰猛な光の奔流が、石の地面を蹴って間合いを詰める女騎士へ向けて撃ち出された。
 セシルはその異様なホーリーライトの極光を魔剣の黒刃で受け止めた。強力無比な神聖魔法の光が吹き散らされ、霧散する。
 対峙するバニも、遠巻きに事態を静観していたジョンとアリス、そしてシメオンでさえも驚愕に目を見開く。
「魔剣!?」
 地図を書き直さなくてはならない程の威力を持ったホーリーライトを消滅させ、斬首の剣は鳴動した。
 しかし、アルバートがそうであったように、魔剣を以てしてもバニの魔力は圧倒的だった。セシルは地面に膝をつき、著しい消耗に激しく咳き込む。
「!……そうか……貴女も、あのアサシンも、アウルさんと同じ……!」
 セシルの白く染め上がった髪を目の当たりにし、バニは呻くように言う。
 狼狽ではない。たとえ魔剣が相手であっても、勝利は揺るぎない。
 だが、バニの中に舞い戻ったその感情は、今にも倒れそうなセシルへの追い討ちを許さなかった。
「魔剣は、振るう度に持ち主の魂を削る。ここへ来るまでにも使ったんだね……なんて無茶な……」
「加勢する!」
 力なく項垂れるセシルの前に、ジョンが躍り出た。アリスとシメオンも戦闘態勢をとっている。
 しかし、セシルはエクスキューショナーを杖にして立ち上がると、半ば絶叫に近い声を上げた。
「どいて!」
「何!?」
「いいから、あっち行ってて!」
 小柄なセシルの体当たりで、いとも簡単に跳ね飛ばされるジョン。訳も分からず離れた彼に向かって、バニは言い放つ。
「お前達の相手は後だ」
 バニが杖を一閃させる。その意を汲み取り、傍らのガーディアンの残骸から黒い影が飛び出した。
 双刃を携えて現れた黒装束の少女は、ジョンに向けてその刃を振るう。
 彼はツヴァイハンダーで攻撃を受け流しつつ、後退した。その小さな襲撃者は、戦えない相手だったからだ。
 <カタリナ>。かつて人間だった少女は、機械的な動きでジョンを肉迫する。
「……これでいいかな、セシルさん」
 問いかけるバニに、苦しげな顔のまま頷くセシル。
 もうジョン達は手出し出来ない。退く場所もない。仲間も居ない。アルバートも助けに来ない。
 だが、これでいいのだ。
「変わったね。前はもっと弱い人だったよ」
「私は変わってなんかない……強くもない」
 よろり、と再び魔剣を構えるセシル。
「でも、勝つよ。バニ君に」
 根拠などない。勝てる見込みがあるわけでもない。光翼を広げたバニはかつての相棒から見ても、遙か遠い、別次元の力を持った存在だ。
 元々、セシルがバニに勝っている部分などなかったのだ。組んでいた頃も、バニの行動力や鋭い判断には舌を巻いた。
 幾度となく助けられた、頼れる相棒だった。
 しかし、だからこそ、勝たなくてはならない。
 残った体力から考えるに、仕掛けられるのは良くてあと一撃。だが、もう一度ホーリーライトを受ければ絶望的だ。
 弾くことも出来ず、消し飛ばされるだろう。
 次などという機会はないのだ。
226('A`)sage :2004/06/05(土) 20:44 ID:hfHIy5dE
 何の感情も映さない瞳が、ジョンを見据えていた。
 この目を見る度、何度、憎悪と後悔に心を囚われた事だろう。
 腕の中で息絶えた人間の少女。何故か、ドッペルゲンガーとしての自分を忘れさせた、あのちっぽけな存在。
 のこのこ地上へ上がってきた自分のせいで死んだ、哀れな娘。
 守れなかった。
 自分が、とてつもなく無能だと知った。思っていたほど強くはないのだと、思い知らされた。
 それから何度も戦い、傷付き、挫折し、絶望しながら、ここまで来た。
 自分に何か出来るのか。何をするのか。何を願い、何を求めるのか。
 分からないままに、ここへ来ることを選択した。
「ご主人様……」
 袖を引っ張られ、ジョンは我に返った。心配そうに顔を覗き込むアリスは、いつかゲフェンで褒めた、あの服装をしていた。
 不意に現実に引き戻される。
 お前は何をしに来た、ジョン。
 あの頃とは違うだろう。
 アルデバランでエネに言った言葉は、単なる強がりか。
 この吐き気のする茶番めいた戦いを終わらせに来たんだろう。
「……迷っていては、何も守れんな……すまん、アリス。もう大丈夫だ」
 ツヴァイハンダーを握りしめ、ジョンは<カタリナ>を真っ直ぐに見た。
 破壊しなければならない。終わらせるために。
「及ばずながら助力いたしましょう。アレを作ったのは私ですからね」
 ざっと見ただけで深傷だと分かる怪我を負ったウィザードが歩み出た。ジョンは彼を一瞥し、すぐに傀儡と化した少女へ視線を戻し、訊く。
「シメオン、カタリナの戦闘能力は厄介だ。作った本人だろう?何か手だてはないのか」
「操者を沈黙させれば停止する筈なんですが、手を加えられているようですね。あのバニとかいう神官は言葉でなく、魔力で操っているよう
です。単純に破壊する以外に手は……?」
 言ってから、シメオンはその事実の異様さに気付いた。
 手を加えた?
 誰が?どうやって?
 答えを予想するより早く、<カタリナ>に変異が訪れた。右目が鈍く赤い光を宿し、隆起した皮膚から無数の棘が突き出る。
『あああああああああ!!』
 苦悶ともとれる絶叫。瞬間、彼女の周囲にカタールを携えた人型の『何か』が出現した。
 インジャスティス。グラストヘイムに出没する下級人型魔族だ。
「眷属の召還!?」
「そうですか……使い道の無くなったジルタス達、人型魔族の魔力を……やってくれますね!アウル!」
 一斉に飛びかかるインジャスティスの群れとの間に、右手だけでファイアーウォールを張るシメオン。間一髪の所で、知能を持たない殺戮者
の動きを止める。そのまま、魔術師は垂れ下がった左手にも魔力を生み出し、駆け出す。
「シメオンさん!?」
「貴様、何を!」
「すみませんが、後は頼みますよ。あなた方との決着はまたの機会に…」
 シメオンはそれだけ言い、自らの張った炎の壁へ消えた。直後、一際大きな火柱が上がり、インジャスティス達を巻き込んで爆ぜる。
 <カタリナ>も、何もかもを巻き込んで吹き上がる炎。あまりの熱量に、ジョンとアリスはその場から離れる。
 そして、アリスの肩を抱いて走るジョンも、アリス自身も、もう分かっていた。
 あの状況でシメオンが生きている可能性などない。
 彼は察していたのだ。
 眷属を召還し、魔族の力を取り込んだ<カタリナ>が相手では、万に一つも勝ち目がない。
 ああしてインジャスティスを一掃し、カタリナを巻き込んで自爆するのが戦略的に最上なのだと、彼は知っていた。
 自らが犠牲となり、美徳を選ぶ男ではない筈だった。実際、違うだろう。単に、創造主に牙を剥いた人形を始末しようとした、それだけのこと
かもしれない。
 しかし、アリスは震えていた。訳も分からず、ただ悲しかった。
 そんな彼女にジョンも何も言わず、狂気の魔術師が放った最期の炎を眺める。
「……終わったのか」
 紅蓮の焔の向こうで、炭化したインジャスティス達が崩れ去った。<カタリナ>も、恐らく同じように灰燼に帰したに違いない。
「―――いや、まだだ」
 突如、誰かの声がかかった。
 咄嗟に振り返るジョン。
 カプラヘアバンドが宙に投げ出され、箒が転がる。
 予想だにしない光景。

 <カタリナ>の刃に貫かれたアリスが、刺されたまま彼女に持ち上げられ、折れ曲がっていた。
227('A`)sage :2004/06/05(土) 20:46 ID:hfHIy5dE
今日はここまで。
エンディングは大団円ではないかもしれません。
では、また。
228名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/06(日) 07:35 ID:Tjiaq9gs
(゚д゚)ウマー

>>222
現在シメオンは隠しDにて戦乙女の迎えを待ってますよ
229名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/06(日) 13:55 ID:BWfKEviE
>>('A`)
つ、続きが気になる…ッ!!

>>229
ハイウィザードに転生して戻ってきそうやね。
230名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/07(月) 00:08 ID:4cdUHl/g
>>('A`)
うぉぉ、早く続きが読みたいぜ!

>>229
ああ、全くだなw
231名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/07(月) 07:31 ID:y2xk/TvU
>>('A`)
マダー?(AA略


>>229
不死者の王あたりもくるかもな
232名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/07(月) 07:46 ID:5LUWQGd.
おまいら早漏杉!修正汁!

>>229
書いてる本人が終わるって言ってるんだ。それはないかと。
所で何故に自己レス?
233名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/07(月) 12:09 ID:JUNjflzA
シメオン=レザーd(

その変態ロリコン眼鏡魔術師は某ゲームで隠しDにて戦乙女の仲間になる
戦乙女=転生
wiz転生=廃wiz!

という意味だったんだよ !(キバヤシ
234名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/07(月) 15:01 ID:V/LOR2j.
('A`)様シリーズ完結したら、感想会を企画してほすぃ。
どこの鯖でもノビきゅん作っていきまっせー(1/20)
235('A`)sage :2004/06/08(火) 00:53 ID:WYcSA0p2
『それぞれの終焉 2/2』


 長い間、セシルとバニは動きを止めていた。攻めあぐねている訳ではなく、決着を先延ばしにしている訳でも無かった。
 セシルは全てを駆けることの出来る<瞬間>を待ち、バニはセシルが仕掛けてくる<瞬間>を待っていた。
 魔剣がバニを切り裂くのが先か、ホーリーライトがセシルを襲うのが先か。
 要はそれだけだった。
 だが、結果は既に決まっている。
 いかにセシルが勝利へ向けて非情に徹し、死力を尽くしてバニを切り裂こうと剣を振るったとしても、
 バニが彼女を撃ち抜く方が遙かに早い。
 覆らない、確かな未来。
 そして、前触れもなく、終焉はやって来る。
「シメオンさん!?」
 離れた場所で交戦状態に入っていたアリス達に動きがあった。魔術師が身命を賭して放った魔法が、巨大な炎の柱を生み出す。
 熱風と衝撃。刹那に紅く染まった視界の中で、セシルは地面を蹴った。
 悲しいだけの戦いを終わらせるために。
「バニ君!!」
(やはり…来るんだね…貴女は……)
 バニの杖が僅かに持ち上げられる。ホーリーライトを放つには、それだけで事足りた。
「さようなら、セシルさん。僕は貴女が好きだった」
 誰にでもなく言い、力を解き放つ。

 バニとセシルが、『同時』に。

「っ!?」
 白光を放つ寸前、バニはセシルの姿を見失っていた。渦巻いた炎が、異常なタイミングで吹き荒れた突風によって彼の視界を遮ったのだ。
 ただの炎なら、バニの得た『百眼』は依然としてセシルを捉え、終わっていた。
 しかし、この炎はシメオンが放った『魔法』だった。魔力を『視る』、『百眼』では透視出来ない、魔力の炎だ。
 カーテンで覆われたかのように、セシルの姿は消えた。
 バニの目の前にはただ、燃え盛る炎だけがあった。
「風!?風だって!?」
 <バジリカ>の効力によって炎の影響を受けなかったバニは、叫びながら闇雲にホーリーライトを乱射した。
 信じたくはない誤算。セシルがかつて繰っていた風の魔力剣は、とうに折れていた筈だった。
 なのに、何故、風が吹く。
 揺らめき迫る焔が極光に吹き散らされると、セシルはそこに居た。真っ直ぐにエクスキューショナーを構え、<バジリカ>の結界を突き破り、
 バニの目の前に。
「僕の勝ちだった!そうだろ!?」
 もう自分でも誰に訊いているのか分からなかった。
 突進してくるセシル。風に赤いリボンが躍り、白く染まった髪と、紅に輝く瞳。一縷の迷いも無く、彼女は来る。
 あの頃と変わらず、風と共に、真っ直ぐに。
 そして、バニは悟る。
 戦いも、復讐も、生きることも、放棄するに十分な事実を。
 代わりに何か大切なものを思い出した気がした。
(ああ……そうか……)
 どん、と衝撃が走る。
 腕の中にセシルの頭があった。思えば、彼女は剣士にしては華奢だったし、到底、騎士になんてなれそうになかった気がする。
 そんな小さく柔らかい、とても弱い少女の感触。
 それでも自分を倒した、強い少女の存在。
(貴女は変わってなんかいなかったんだ……)
 魔剣を突き立て、少女は泣いていた。気高い瞳のままで、泣いていた。
 思い出したように、今更、バニの身体に激痛が走る。喉の奥から何かが溢れた。死の味がした。
 バニは笑った。力を手にし、アウルという手駒を得て、ようやくこれから始まると思っていた全てを、あっさりと止められてしまったから。
(僕が…弱くなってたんだね……)

 少年の背から、羽根が散る。
 青い青い、綺麗な光は、
 一瞬の戦いに勝利した少女の頬を優しく撫で、
 やがて四散し、消えた。



 バキバキと嫌な音を立て、アリスが壊れていく。小さな部品を撒き散らし、か細い腕に引き裂かれ、彼女は壊れていく。
 壊れていく。
「…く……くそぉぉぉ!!」
 ジョンは殆ど反射的にランスを投擲した。今の今まで、一度も傷付けることが出来なかった少女に向けて。
 アリスを持ち上げて『壊し』続ける<カタリナ>の胴体に、槍は突き刺さった。血も悲鳴もなく、あっさりと。
 だが、それだけだった。
 <カタリナ>は手を止めなかった。腹に刺さったランスも、制止するジョンの声も無関係に、アリスの身体を蹂躙する。
 当のアリスは、いつもの何処か申し訳なさそうな笑顔をジョンに向けていた。
 人形に痛みはない。
 既に深刻なダメージを受けた自分では、もう戦えないのだと知っていた。
 青ざめ、立ちすくむジョンの前に、アリスは投げ捨てられた。戦闘能力を完全に奪われた彼女はカタリナの興味を失った。次いで、彼女の標的は
ジョンに移行する。あくまで作業として、機械的に。
 もう何処にも、かつて<カタリナ>と呼ばれた少女は居なかった。
「アリス!!」
 打ち棄てられた人形に駆け寄り、抱える。胴体の大部分を引き裂かれたアリスは心底沈んだ声で言った。
 酷く聞き取りにくい、かすれた声だった。
「間に合い……けど……あま…り、お役に立て……した……せめ…動きを……」
 そこで、ジョンは気付く。
 先に襲われたのはアリスではなく、自分だったのだと。
「その人形が貴殿を庇った。礼を言うと良い」
 ジョンの背後から現れた、大鎌を担いだ青年が言った。さっきの声も、彼だったのだろう。
 巧く姿を変えてはいるものの、この青年の正体は明らかだった。
「バフォメット…いつから…」
「つい先程だな。警告を発し、<アレ>の攻撃から貴殿を守ろうとしたが、先に彼女が動いていた」
 含んだ物言いだった。
 暗に愚鈍な自分を責めている様に聞こえる。ジョンは視線を落とし、腕の中のアリスを見た。
 あるべき部分がごっそり失われていた。破れたカプラドレスは痛々しく、生々しさのない傷が、逆に激情を駆り立てる。
 ああ、またか。
 幾度となく直面する因果。
 素直にカタリナの攻撃を受け、血反吐を吐いてのたうち回る方が、いくらか幸せだったに違いない現実。
 いい加減に、してくれ。
「……バフォメット」
「何だ」
「アリスを頼む」

 ドッペルゲンガーの双眸に光が戻る。全身の魔力を覚醒させ、傷付き、倒れた機械人形を背にして立ち上がった。
 <カタリナ>はアリスを引き裂いた際に刃こぼれして使い物にならなくなった短剣を放り投げた。自らの腹に刺さった次の得物を手にし、それを一気
に引き抜く。禍々しい行動の末に、彼女はランスを構えた。
 ランスによる傷は既に無くなっていた。魔族を取り込んだ事による作用か、強化された事で得た力か。どちらにせよ、とうに尋常はない。人でもなく、
魔物でもなく、機械でもない、異物だ。
 安息を失った少女の亡骸がドッペルゲンガーを見た。
 彼はもう何も言わず、ツヴァイハンダーを抜く。
 再生不能になる程の一撃を与えるしか、道はない。でなければカタリナは再び傷を治し、戦いは泥沼化するだろう。
 そんな悠長な時間はない。そうなって勝てるという保証もない。
 ツーハンドクイッケンの構えから、ドッペルゲンガーは一気に距離を詰めた。走りながらフロストダイバーを放ち、カタリナの足を狙う。
 鈍重な槍を抱えたまま、彼女の足は大腿まで凍て付いた。
『今、殺してやる…今度こそ、眠れ』
 身動きを奪い、一刀のもとに切り伏せる。
 十分過ぎる攻勢。何かも、これで終わりだ。
 黒の大剣に力を込め、彼は間合いを詰めた。
 駆け、振るい、無慈悲に刃を向ける。


 守るために、殺すのか、ジョン。お前は。

 違う、彼女は死んだ。もう、死んだのだ。

 守るために、壊すのか、ジョン。お前は。

 そうだ。壊す。苦しい。苦しすぎるんだ、この世界は。

 苦しいから、逃げるのか、ジョン。お前は。


 逃げる?
 やめてくれ。迷いなど不要だ。私には、要らない。
 いつもそう思っていた。薄々は気付いていた。どうしようもなく、人間の毒に犯されていく。
 感情の酔いに惑わされる。
 殺し、奪い、戦って、息の根を止めるまで。息の根が止まるまで。
 それで良かったのだ。
 そういう生き物ではないか、私は。だから守れない。守れなかった。



 その時、何か、指に固い感触があった。
236('A`)sage :2004/06/08(火) 01:01 ID:WYcSA0p2
ようやく決着へと事が運んでいくのです。
長いですねぇ…背負い込み過ぎました。

>>234さん
人が来なくてポッテリ企画倒れしてしまいそうですよ('`;)

>>93さん
シメオンは予想外に良い端役になってくれました。
解説も出来るし戦闘も出来るし敵役にももってこいで、万能です。
主役も張れるんじゃないかと考えましたが、却下しました。
やっぱり、カタリナがらみで許されざるお人になってしまってますから。


では、また。
237名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/08(火) 06:21 ID:vK9KehKs
おういえーい(・∀・)人('A`)
238名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/08(火) 14:00 ID:XemOac6Q
やべぇ・・・この人すげぇ・・・
239保管庫の中の人sage :2004/06/08(火) 15:25 ID:miL1rf52
リレー以外全てを多分、保管しました。とりあえずURLをしつこく再掲。
http://cgi.f38.aaacafe.ne.jp/~charlot/pukiwiki/pukiwiki.php
 作者様が題名をつけていない諸作品に、勝手にタイトルをつけているので
できれば御本人方、一度覗きにきてやってください。なお、訂正など要請は
ここで頂くとスレがもったいないので、保管庫の連絡板でどうぞ。
240名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/08(火) 15:29 ID:miL1rf52
('A`)さま
 セシルさんが風吹かすかぁ…。本人に属性付だと妄想するテスト…
アウルさんが水、ティータさんが地、アルバーdが火…。なんかしっくり
くるなぁ。うひひ。
…指輪はとち狂った女の子には最強の攻撃アイテムですよ、っと(意味不明)。
241名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/09(水) 14:11 ID:Ijsb0MbQ
おういえーい(・∀・)人('A`)人(・∀・)ベリーマッチョ
242名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/09(水) 18:24 ID:pXnRYcsQ
知り合いに言われて態度で示しに来ました。ヽ(`Д´)ノ
243ある鍛冶師の話(1/8)sage :2004/06/09(水) 18:26 ID:pXnRYcsQ
 ほんの些細な出来事だ。
 雨が降りそうな空の下、一人の鍛冶師が荷物を大慌てでカートに積み込んでいた。
 元より港のあるこの街イズルートは首都プロンテラの衛星都市でありながら、
 平地であるプロンテラに比べれば海側ということもあり天気の影響を受けやすい。
 今日とて朝方から続くこの曇り空のおかげでアルベルタからの運搬船は、
 船を出すのを渋っていた。

 嫌な感じの空だなと鍛冶師がふと思ったときには、もうそれはすでに始まっていた。

 中央の円形売り場の前では、安く買い下ろした首都印の牛乳を売りさばく商人がちらほら居た。
 鍛冶師はそれに混じり、近くの水中洞窟で有効な風の力を秘めた武器を売っていた。
 その中でのこの天気だ、雨が降りそうな中をわざわざ船を使い濡れに行く物好きもいない。
 土地柄主な客は冒険者でもあるから、早々に引き上げることに鍛冶師はしたのだ。

 カートに最後の風属性を秘めた長剣を仕舞い込もうとした時、
 嫌な感覚が鍛冶師の背筋を走り抜けた。それは寒気に近い。

 咄嗟にカートを庇いながらその仕舞い込もうとしていた長剣を抜いたとき、
 彼の目の前では先ほど牛乳露店を開いていた商人のカートが吹き飛んでいた。

 「テロ、か」

 小さく呟いた言葉は僅かに震えていた。
 彼は戦闘を苦手する製造業をメインとする鍛冶師であった。
 本当にただの鍛冶師に過ぎない彼は多少は武器を使いはするものの、
 さりとてそれも本職のやからに比べれば児戯のようなもの。

 鍛冶師の剣を握る手がじっとりと汗をかいたようだった。

 目の前でカートを吹き飛ばされた商人は必死に斧を構えながら、じりじりと後退している。
 彼の目には茶色い毛の生えた足が見えた。
 ふ、っと上を見上げるとそれはぐるりと渦を書いたような角を二つもつ、
 紫色の光を帯びるような鎌は鍛冶師の目から見ても十分自分達をなぎ倒すには十分な代物であった。

 不味い。

 直感的に考えるまでもなく、気が付いたら斧をかまえている商人の前に飛び出していた。

 「・・・・・・・、お兄さん逃げな」

 なんとかできるわけがないと思っている。
 それでも止めるしかなかった。
 幸い牛乳屋の商人はカートを吹き飛ばされただけで済んだらしい、
 辺りに意識を向けてみれば回りには人だったと思わしき残骸や、
 たまたま居合わせた冒険者が他の魔物と剣を打ち合っている。

 響く金属音、けれど誰もこの山羊の姿をした魔物には手を出そうとはしない。

 そして運悪く目をつけられたのは自分と、この商人。

 逃げなと言われた商人が少し戸惑うような表情をする。
 けれど鍛冶師はそれに尚も死にたいのかと言葉をぶつける。
 それこそは自分自身に向けた言葉であろうとも、それを商人が知るわけもなく。

「・・・・・・、生きて、会える機会があれば安く売らせて頂きます。えらいすんませんッ」

 山羊は鍛冶師の声でこちらに気づいたらしい。
 カートごと吹き飛ばした鎌をゆっくりとした手つきでこちらへと振り上げる。
 商人が逃げるのを背中ごしに確認しながら、鍛冶師は苦笑いした。

「・・・・・これもまた運命」

 一瞬目を閉じると、彼は勢いよくその剣を振り上げた。
244ある鍛冶師の話(2/8)sage :2004/06/09(水) 18:27 ID:pXnRYcsQ
 剣に伝わるとんでもない質量の力。
 圧倒的な差は恐らく一撃でもって鍛冶師の戦闘意思を失せさせたであろう。
 風の力を持つ剣は僅かにその意思でもって、風をふかせたようだが、
 それでも鍛冶師の体はあっけなく近くの街頭下へと叩きつけられる。

 背中からの衝撃に一瞬息が詰まる。

 短い悲鳴とともに息を吐き出せば、山羊はただ無機質にまたその鎌を振り上げる。

 「・・・・なれない事なんざ、するんやなかった」

 正義だのなんだのという志がないわけではなかった。
 けれど鍛冶師は力などなかった、だからこそ弁えなければ早く逝くであろうことは、
 普段より心がけてきをつけていることではあった。

 けれど今の現実は思考をよそにやる余裕すらもなく、
 ただあの商人が生き延びてくれればいいとそう頭の隅で考えた。

 そうしてもう一度その鎌を振り下ろされそうになった時、鍛冶師は諦めたように目を閉じた。
 これがその、鍛冶師の最後に


 ガァァァン


 硬質な金属のはじかれる音、鍛冶師は来なかった一撃にきょとりとしながら目を開けた。
 視界にはビロードの赤いマント。翻る赤マントには赤い月と思わしきエンブレム。

 「・・・・・・大丈夫か、アンタ」

 声の質からして幼い気配がした。少し低く聞こえる声の先では、
 たった一本の剣で震えながら山羊の鎌を抑えている少女の姿。

 彼女は騎士であった。

 足元の震える具合からして恐らくは長くももたないであろう、
 それでも自分を救おうとした騎士の姿を見てそんな物好きは自分だけではないのだということに、
 鍛冶師は苦笑いを浮かべた。ほっとしたのかもしれない。

 助かる、と。

 「・・・・生きているなら、返事、を」

 「・・・・おおきに」

 短い言葉に目の前の背中が笑う気配がする。

 「そうか」

 短い言葉のあと、少女はがくりとその身を沈めた。
 このまま二人とも吹き飛ばされることを覚悟して、鍛冶師が少女の体を支えようと身構えると、
 少女は低くした身のまま刃を斜めに構えると勢いよく滑らせ、身を横へとずらした。
 そうして鍛冶師の目の前で低い体勢のまま山羊の上半身へと刃をたたきつける。

 山羊はその一撃をくらうと僅かに一歩足を後ろへと下げた。

 瞬間翻る赤いマントは思い切り風に煽られ、

 「リツカちゃんまだ駄目っ!」

 聞こえた声に少女がおうと大きく響く声を返す。
 彼女の気配が少し変わったそう、鍛冶師は感じた。
 確かに少女であったはずの目の前の背は、ただ響いた女の声一言で、
 騎士へと変貌する。

 瞬間刃が戦慄いた様に思えた。

 響き渡る戦へと赴くもの勝利を願う歌声が、少女の体を軽くする。
 聞こえる鐘の音ともに、鎌の追撃を受けても不敵に微笑む少女。

 これは騎士だ、鍛冶師が少女という認識を改めたときには、
 はじめと同じように鍛冶師の背中を走り抜けるものがあった。

 少女に握られた刃は震えていた。
 敵を倒すことに、強きものを葬り去ることに、
 それは騎士自体のその喜びを歌うようでもあった。

 響く金属音、はじかれる度に刃に零れ落ちる赤い色。

 ただただ響く音だけを聞きながら鍛冶師はその騎士に陶酔していた。
245ある鍛冶師の話(3/8)sage :2004/06/09(水) 18:28 ID:pXnRYcsQ
 打ち返されるごとに響いていた音は、
 突如広がる白い聖域でもって終止符をうたれる。
 我に返る鍛冶師の間の前で白い天使の羽が消えていく。

 「遅いぞ、コーリア」

 少女から向けられた言葉にコーリアと呼ばれた聖職者は両手を顔の前で合わせて、
 小さく舌を出した。淡緋色の髪をしたその聖職者の横では、
 騎士をリツカと呼んだらしい銀色の長い髪の聖職者がきょとっと目を瞬かせている。

 悪霊退散の聖域を放ったのはコーリアと呼ばれた方らしい。

 鍛冶師が戸惑うように二人の聖職者を見ていると、銀色の髪の聖職者のほうが、
 思わず笑みを返さずには居られないような柔らかい笑みをで手を振った。
 つられて思わず緩い笑みを返して手を振ると、

 「・・・・・・、うちの姉さまに気安く手は出さないでもらおうか」

 先ほどまで剣を振るっていた騎士は今ではその影をまるでなくし、
 軽く睨みつけるような赤い瞳が鍛冶師の目を捉えた。
 獣の血の付いた剣を振るいながら、少女は周りを見回し、
 どうやら首都からの加勢がきたらしいすでに大分落ち着いた回りを見回して、
 安堵の様子を示したようだった。

 「・・・・・、さて」

 少女が言葉を区切る。
 それから血をはじき落としてから鞘にしまうと、少女はヘルムを両手で脱いで小脇に抱えた。
 赤い耳下まで切りそろえられた髪が視界に入る。
 それも赤だ、色鮮やかに赤い髪を見つめながら鍛冶師は眩しそうに目を細めた。

 「アンタ、名前は」

 向けられた問いかけは鍛冶師に向けられたもの。
 自分を眩しそうに見る鍛冶師に少女は少しだけ、目を細めて返した。

 「・・・、ジェイ」

 「ジェイか。俺の名前はリツカ。リツカでいい。
  ここ最近古木の枝によるテロが多くてな、民間ギルドのほうにもこうして国からの依頼が、
  あぁっと、すまない。怪我はないのだな」

 少し喋り過ぎたと苦笑いすると少女、リツカはふいにジェイの方を見て瞬いた。
 瞬いた表情は自分を男のようにしゃべる少女には不釣合いの、
 あどけない表情であった。鍛冶師、ジェイは途端先ほどから自分が食い入るようにリツカを
 見つめていたことに気づくと、慌てて目線をそらした。

 赤い月のエンブレムには見覚えがあった。

 プロテンラの内に独自の砦を構える事が許された国直属の騎士団と対等の扱いを受ける、
 そのギルド。名前は確か、

 「さてテロの後始末はグリーンバイブルの連中に任せて、こちらは一度戻るとするか」

 怪我をないことを確認するとリツカの意識はもうジェイにはないようであった。
 相手は国抱えのギルドの騎士。

 先ほどの打ち震える剣の刃が視界の隅で揺れていた。
 それを思うだけで心が震えた。
 たまらなく、なるのだ。何かが溢れてくる。

 「あの、」

 知れず出た声は震えを伴っていて。
 ジェイに向けられた声にリツカはヘルムをかぶり直しながら、視線を向ける。
 赤い目は再度この鍛冶師を見ていた。

 「俺に、」

 聖職者の二人はきょとりと瞬きながらお互いの顔を見あせていた。

 「貴方の、貴方の」

 途切れそうになる声にリツカが小首を傾げる。

 「貴方の剣を打たせてください」

 やっとの思いで吐き出した言葉にリツカは面くらったように、目を瞬かせると、

 「それは新手のお誘いか何かか」

 そう返した。
246ある鍛冶師の話(4/8)sage :2004/06/09(水) 18:29 ID:pXnRYcsQ
 酒場には笑い声が響き渡る。

 ジェイが必死の思いで言ってのけた言葉にリツカが返した言葉はあまりにもあまりな言葉で、
 直後にジェイがしどろもどろになりながら貴方に俺の剣を使って欲しいと言うと、
 営業と勘違いしたらしいリツカはならギルドの方に掛け合ってくれと言葉を残し、
 行ってしまったのだ。

 事の顛末を聞かされた商人は笑い声を響かせながら、麦酒の入ったジョッキをあおぐ。

 「・・・・いやしかし、無事でなによりでしたよ旦那」

 旦那と呼ばれたジェイは跳ね返るように伸びた毛を気にするようにしながら、
 商人のことを軽く睨み返す。とは言え、このジェイという男ぱっと見は本当にただの優男。
 色の抜けたような金色の帯びた髪をかきあげながら、小さく項垂れている。

 無理も無い、彼にとってこれは初めての感情であった。

 「せやけどそっちも無事でよかったわ。・・・あんだけしておいて死なれてちゃぁ、なぁ」

 見た限りあまり酒は得意でないらしいジェイは助け出した商人とその日の夕暮れ、
 プロンテラの食堂でばったりと出くわした。本当は助けてそれで終わるだろうと考えていた
 ジェイだったのだが、商人はどうしてもと言い張りこうしてこの酒場に至る。

 商人は戦闘に特化しているようであった。
 とはいえまだあまり強くはないようで、壊されてしまったカートの弁償金をカプラにせまられ、
 その腹いせに飲みに行こうとしていたところらしい。

 商人は苦く苦く口をゆがめた。

 「まぁ、そうッスね」

 商人のその様子を見てあぁ悪いことを言ったかもしれないと、ジェイは話題を探した。
 助けたとはいえ初対面の相手だ、少々やりにくいところもあった。

 「そういや、あぁ、名前は?」

 ジェイに名を聞かれて商人は苦い表情を引っ込めると途端立ち上がり、
 カラっとした空気を振りまく。
 愛想のいい笑顔が表情を覆えば、あぁ根っからのアルベルタ商人であろうと誰もが察した。

 「あっしの名前はルード・カナトス。カナトゥスとは違いますぜ?
  生まれはアルベルタ、アルベルタの小さな商家に生まれましたんだが、
  やはりここは男なら一財産築きたいと思いこうして、都会へと出た次第。
  ・・・・・・、っと失敬」

 のらせれば相当話し出しそうな雰囲気にジェイが笑いながら聞いていると、
 ルードは言葉を途中で区切ってすまなそうに頭を軽く下げた。

 「すいません。どうにもこう、話すととまらないタチでして」

 へつらうような態度に思わずジェイが笑ったまま片手をひらひらとふる。

 「嫌やねェ、そんな気ィつかわんくても」

 面白いからと笑うジェイにルードはそうでっかと少し胸をなでおろした。

 「こんな気性ですから、どうにも反りのあわない奴とはほんとにあわないんですわ。
  どうにかしようとも思うんですがねぇ・・・」

 眉を寄せながらルードが話し出すと、ジェイは神妙な態度をとる。
 酒の席とは言え、こうして愚痴を話してくれるのはそれだけ自分達は馬があうという、
 そういうことなのだとジェイは少しだけ嬉しくなった。

 「それで、旦那。旦那はどうするんです、その騎士さまのこと」

 突然話題が元に戻るとジェイは飲もうとしていたグラスの水を思い切り噴出した。
 汚いですよといいながら笑うルードを半目で見ながら、
 それでも差し出してくれたおしぼりで口元をぬぐう。

 「・・・別に、恋とか。そういうんじゃないと思うん、よ」

 うん、違うとジェイが言葉をこぼすとルードはどうでしょうねと唇をゆがめた。

 「胸がこう、しめつけられるようなのはありましたか旦那」

 「む、ね」

 ない胸を見つめながらジェイは眉を寄せる。
 あの時ジェイはまぁ別に死んでもいいやとすら、どこかで思っていたのは事実であった。
 其のときに見えたあの赤い色はほっと、した。

 死にたくはないのだ、痛いのは嫌だった。

 それから見たあの騎士のあの剣の、あの喜びを。

 打ち震えるようであった。本当に思い出すだけで指先から震えが走り出す。
 あの少女の剣を、ただあの少女のためにだけにうちたいと。

 そう、ジェイは感じていたのだ。

 「・・・、胸が、あふれてくる。なんやろ、な。どうしてもたまらんくなる」

 言葉を濁すようにしながらぽつりぽつり言うジェイにルードは小さく、決心をした。
 これは自分がどうにかしなければならないと。

 ルードの命の恩人は恋をしているのだ。あの騎士に。
 そうルードは確信していた。
 見ず知らずの自分を助けてくれたこの鍛冶師を助けてくれた騎士だ。
 絶対に二人は幸せになる。

 妙な、けれどもルードは確信していた。

 絶対自分がどうにかしてみせる、と。

 「さて、その騎士さんの名前はなんと?」

 ルードに聞かれてジェイはかぁっと目元を赤らめると、僅かに目を伏せた。

 「りつ、か、・・・・・様」

 ルードはそんな様子のジェイを見ながらほほえましいなと思いながら、
 ふ、と問い返した。

 「リツカ・・・・?」

 「うん、確かにそうや。そう、・・・ルードさん?」

 聞き返されたルードは呆然とした表情でジェイを見返した。

 「赤月華(せきげつか)じゃないですか。またなんつー・・・」

 「せや、ろ。せやから、無理やん。俺みたいな駆け出しの鍛冶師がそんな」

 赤月華の創始者はとある騎士だという。
 その騎士が引き取った養子の一人が確か、リツカという名前の剣士であった。

 つまり、一言で言うと。

 「・・・・高値の花」

 ルードに言われた言葉にジェイは今にも泣き出しそうな顔で天井を見上げると、
 うん、と小さく頷いた。
247ある鍛冶師の話(5/8)sage :2004/06/09(水) 18:30 ID:pXnRYcsQ
 赤月華ギルドの砦は正確には実在してはいない。
 なぜなら彼らは騎士団と等しい扱いを受けているため、
 民間ギルドとは別に城の中に部屋を用意されているのであった。

 赤月華の幹部をしめるうちの何人かは実は貴族などの出のものもいる。
 無論その功績もさることながら、一般の民間ギルドからは別の存在として扱われていた。

 ルードは城へと続く噴水広場の大通りの手前でぼんやりと空を見上げていた。

 ジェイという男は本当に気が弱い、ような奴であるようであった。
 数日前に酒を飲み交わしてから暫く、どうしたら恩を返せるだろうかと思考錯誤してみたものの、
 生憎とルードはアルベルタの出でありプロテンラには伝がなかった。

 かつこのプロンテラにおいても赤月華に繋がる伝などというものは、
 到底普通はえられないものだ。
 自らがギルドを率いていればまだ何かできたかもしれない、
 けれど一階の商人風情にはただ牛乳を安く仕入れて売るそのことだけで日々の生活は、
 精一杯なのであった。

 首都の噴水広場を抜けるとそこには大聖堂に仕える聖職者たちが、
 転送サービスを行っている事がある。ルードはカプラ本社のぼったくり転送料が気に食わず、
 たまに遠出をするときはいつもここを利用している。

 今日は生憎と転送サービスは居ないようで、かわりに銀色の髪をした聖職者の女性が、
 隅に並ぶベンチの一つでなんだか気持ちよさそうに眠り込んでいる。
 首都とは言え、昼間だといえどもそんなに無防備なのは些か無用心であった。

 ルードは起こそうかどうか暫く迷い、結局そのベンチのほうへと歩みを向けた、と。

 途端そこに眠り込む聖職者のほかに一つ気配が増える。
 それも背中だ。

 首筋に感じる冷たい気配に思わず息を呑む。

 「・・・・・・、彼女に何か用かな」

 言葉の音からして相手は男のようだった。
 ルードは殺されてはたまらないと慌てて両手をあげた。

 「すいません。こんなところで眠るのは昼間とはいえ、危ないと思って、
  起こそうかと、す、すいません」

 思わず裏返った声に相手はその気配を思わず緩めたらしい。
 笑うような気配のあと、暗色紫の髪をした暗殺者の装束を着た男がルードの前へと回りこんだ。
 首筋にあてていたのは手にもたれたダマスカスのようだ。
 鋼鉄において全く壊れる事はないとさえ言われるそのダマスカスならば、
 ルードの首なぞはたやすく切れたであろう。

 そのことを思い身を震わせると、暗殺者は柔らかに微笑んで見せた。

 思わずその笑みにルードは笑みを返した。
 暗殺者に似つかわしくない柔らかな空気を持つ男は、すまないと軽く頭を下げる。

 「私の名前は蓮(レン)。ここで寝ている彼女の護衛をしている。
  すまないな、悪いことをした」

 向けられた言葉にルードはとんでもないと頭を下げ返す。
 冷たさを伴わない暗殺者に毒気を抜かれながら、ルードはふと何かにひかれて、
 ベンチの聖職者を見つめた。聖職者の袖口に何か赤いものが見えたのだ。
 それはエンブレムの刺繍であった。
 途端、まだ何かというように目を細める蓮にルードは頭をぶんぶんと振る。

 「いや、そちらの聖職者さんの名前は、と」

 「・・・・・、何故教える必要が?」

 声は柔らかな笑みに包まれながらも、確かに先ほどの冷たさをはらみはじめている。
 下手に言葉を吐けば、殺されるかもしれないとルードは震えを押さえ込んだ。

 これは、繋がる事ができるかもしれない。

 「そのギルドのエンブレムからするに、赤月華のイリノイス嬢とお察しします。
  ・・・・・、先日のイズルートのテロの際にリツカ様に助けていただきまして、
  そのお礼をしたく、しかしながらあっしはアルベルタの出でして、つてもなく」

 蓮は商人の何か必死な様子に言いかけた言葉をおさめた。
 リツカの性格からするに、別段お礼なんぞはいらないと言いそうなのは目に見えていたのだが。
 何かこの商人の必死さにはあるのではないかと、そう感じたのだ。

 事実ルードは恩人のためにと必死になっているのだが。

 「・・・・・・・、イズルート、か」

 蓮は記憶を辿る。確か先日の件ではリツカとイリノイス出向いた先に偶然起きたあのテロ事件。
 たまたま待ち合わせていたコーリアのおかげで事なきをえたものの、
 リツカ一人では恐らく今は眠るこの彼の主を守る事はできたのか、と。その点についてたった今、
 リツカともめて出てきたところだったのだ。

 あの少女のこの義姉に対する思いは深いものがある。
 それをわかった上でもただ通りすがりのところで見かけた鍛冶師一人のために、
 自分の主を危険にさらした事はあまり納得がいかなかったのだ。

 「・・・しかし、助けたのは鍛冶師だと聞いていたんだが」

 いぶかしげに蓮が眉を寄せると、ルードは辺りをきょろきょろ見回してから声を落とした。

 「その、鍛冶師さんが、お礼をしたく」

 「・・・・、例の剣を作らせてくれというやつか」

 そういえばそういう話もあったような。
 蓮が僅かに目を細める。
 そういう話にうといあの少女のことだ、恐らくは鍛冶師が営業でもしてるのだと勘違いしたのだろう。
 一般において、鍛冶師から剣を作らせてくれというのはつまりその腕を惚れられた。
 つまり言わば職業柄のプロポーズに等しいものがあるのだが。

 「駄目でしょうかね。その、旦那はリツカ様のあの剣の腕にほれ込みまして、
  あっしは旦那に恩があるんですよ。どうしても、その恩が返したく」

 「恩、か」

 目を細めて蓮は空を仰ぐ。

 暫くして何かを決心したらしい蓮が暗色紫の瞳をルードに向けた。

 「わかった。三日後ここで落ち合おう。
  時刻は夕方五つで構わんかな」

 「五時ですか。承知しました。ありがとうございます」

 深々と頭を下げるルードを見ながら蓮はいまどき珍しい律義な奴だな、と頬を緩ませた。
248ある鍛冶師の話(6/8)sage :2004/06/09(水) 18:30 ID:pXnRYcsQ
 その話を聞かされたジェイの表情といったら、ルードの人生の中で指折りに数えられるほど、
 本当に面白い顔だったようだ。

 「ほんまに、なん?」

 のろのろと言葉を向けながらイズルートで今日も武器を売るジェイは、
 カートを背にしながら座り込んでいた膝をゆっくりと伸ばす。
 大分時間がたっているせいか、間接が少し痛んだ。

 膝の辺りを撫でながら、もう一度ルードの顔を見ると、
 なにやらほめてくれと言わんばかりの表情にジェイは溜め息のような息を吐いた。

 「せやけど、・・・・、売り込むものも、お礼も、なにも」

 どうしたらいいのかと言わんばかりのジェイにルードはおもむろに、
 そっと一輪の花を差し出した。

 「女にプレゼント言いましたら、花束でしょう!」

 「はな、たば」

 ジェイは些かそれはどうかと思いながらも、ルードの表情を見ながら頷く。
 ルードは必死になってくれているのだ。
 それは言わずもがな見ればわかる。

 だが。

 「相手は騎士なんやで?喜ぶのは武器なんや、ないかと」

 向けられた言葉にルードはいやいやと首を横に振る。

 「いいでっか。騎士とはいえ女です。
  女ってのはこう特に騎士とかそんなんは、ふとしたときに女の子扱いされると、
  こう胸がきゅうんとかなるんですよ。だから絶対花がいいですって」

 多分とルードは心の中で加えた。
 ジェイはそうかなぁと首をかしげながらも、目を細めて言葉を聞き入る。

 「花か、頭装備とかはどうやろ」

 あの赤い髪に似合うのは赤い花だろうとジェイはぼんやりと呟く。
 それを聞きながらルードはそれですよと大きく意気込む。

 花、赤い花の頭装備といえば一つしかなかった。

 「仮初の恋」

 ジェイのぼそぼそと向けられた言葉にルードが大きく頷く。

 「さーそうと決まれば仮初の恋をとりに」

 「せやけどあれ、フェイヨンの狐さんが落とすんやなかった?」

 ジェイの言葉にルードは思わずあ、と声を出す。
 ルードと目を合わせながら、瞬くとジェイはせやから無理やってと小さく言って、
 肩を落とした。
249ある鍛冶師の話(7/8)sage :2004/06/09(水) 18:31 ID:pXnRYcsQ
 結局残すところ後一日。
 なんだかんだでフェイヨンに来ていた二人だったのだが、
 無論月夜花のいるところまで辿り付く前に力つきていたり、した。

 「無理やって」

 「・・・・・もーほんとに口を開けば無理、無理、無理!
  あっしが必死になってもアンタがしっかりしなきゃ意味ないでしょ!」

 ここ二日ずっと聞かされたその言葉にルードがついに声をあらげた。

 宿舎のベットの上で疲れたように寝そべるジェイにむかって、
 ルードは同じくベットに倒れこみながら天井に向って叫んだ。
 ジェイはそれに少し驚いたように視線を向けると、瞬いた。

 「何がアンタをそうさせるのか知りませんがね、あっしだって、
  こうも必死でしてるのにそう無理とか言われるともう、我慢が」

 「・・・・」

 はーという溜め息とともにジェイがのっそりと体を起こす。
 目線を彷徨わせながら鍛冶師はいつになく冷めた目をすると、ゆっくりと唇をひらいた。

 「俺の出は鍛冶師の家やった。俺の上には三人の兄貴が居て、
  それぞれ金、銀、銅の名を授かるぐらいのえらい腕やってん。
  ゲッフェンの三人鍛冶師って言ったらわかるやろ」

 アルベルタ出のルードにもその名前ぐらいは聞いた事があった。
 ゲッフェンにいる三兄弟は三人揃えば作れない武器はないと。

 「・・・俺はその末っ子や。できそこないの、な。
  小さい頃から兄貴達の武器作るとこ見て育った。
  せやけど俺には才能がないんか、こんな武器しか作れん」

 そう言ってジェイは立ち上がると、部屋の隅に行って荷物をあさりだす。
 暫くしてルードに向けられた手の内には、ひどい形にまがったナイフが握られていた。

 「俺が売っとるんは兄貴達の作った武器や。
  俺が武器を作らなくても、兄貴達が作るから。
  俺はそれを売ればいい、それだけの話や。
  兄貴達の作る武器以上にいいものなんて、ないやろ。
  性能のいい安い武器、それ以上に何があるって言うんや。

  ・・・・せやから、俺は、作るのをやめたんや」

 ひどい形に曲がったナイフを見て、ルードはそれでも、と言葉を向けた。

 「それでも旦那はあの騎士の武器を作りたいと思ったんでしょう。
  あっしはその気持ちをなくしちゃいけねェと思うんですよ。
  じゃないと、旦那は一生、・・・・・鍛冶師でいる意味が無ェ」

 その言葉を聞いてジェイがさっと青ざめる。

 「・・・・、俺は」

 この先武器をうつことがなければ鍛冶師でいる必要がないと、
 その言葉はジェイの心の奥まで響いた。

 「・・・・そんなん言うんだったら、旦那は戦闘にでも転向すればいいんですわ。
  もう付き合えませんよ、あっしは。好きにしてください」

 ルードは投げやりに言葉を向けると、不貞寝を決め込むようにベットに突っ伏した。

 ジェイはもう黙り込んでしまったルードを見つめながら、
 僅かに手に握るナイフの柄を握り締めた。

 決して、諦めたわけではなかったのだ。

 ただ、あの時にもう作る事はしないとそう。
250ある鍛冶師の話(8/8)sage :2004/06/09(水) 18:32 ID:pXnRYcsQ
 結局、仮初の恋を手にする事も出来ないまま、当日の朝が来てしまっていた。
 ルードといえば昨晩以来口をろくに利かないまま、
 こうして待ち合わせ場所まで付き添っている。

 付き添ってくれるだけいいほうかとジェイは手にした花束を自嘲気味に見つめた。

 「・・・・すまない、待たせたようだな」

 そうあの声が響いたときには涙がこぼれそうになった。
 決して手の届かない相手がこうして、来てくれている。
 その約束をしてくれたのはルードであった。

 「・・いえ、決して」

 首を横に振るジェイを見ながらリツカが目を瞬かせる。
 一緒に来ていたらしい緋色の髪の聖職者はなにやら面白そうなものを見るように、
 こちらのやりとりを見守っている。

 「あ、の」

 「おう」

 短い返事。
 必死に顔をあげてリツカを見返すと、ジェイは黙って花束をずいと差し出した。

 リツカは暫く黙ってその花束を見つめ続けたあと、苦笑い交じりに返した。

 「俺に花は似合わない」

 ジェイは頭を振りながら、そんな事はないと言葉を返す。
 いや、と返しては返すというやりとりを暫くして、
 ルードが声をあげた。

 「旦那!ここで言わないのなら、あっしは一生旦那と絶交しますよ!」

 ルードの言葉にジェイがきゅっと唇を噛む。
 リツカは僅かに頭を傾けると、目の前の鍛冶師を黙って見つめ返した。

 「俺に貴方の武器を、つくらせて、ください」

 「・・・・、俺の?」

 問い返す言葉にジェイがリツカの目を見返す。

 「俺は、まだ駆け出しの鍛冶師やし、
  そう技術もまだ未熟です。けど、いつか貴方のためにこの世で二つとない、
  すごい武器を作ってみせます。せやから、どうか」

 「・・・・・・、未熟、か」

 リツカの言葉にジェイの肩が揺れる。

 「・・・・俺の師匠たる、アイツが言った。
  人と言うのは常に未熟である、それゆえに上を目指すのだと。
  それを言うなら俺だって未熟そのものだ、まだ、アイツに追いつけやしない。
  ・・・・・・、そういう未熟な俺でよければ、喜んで貴方に俺の武器を乞おう」

 ふ、っとジェイの肩が揺れる。
 途端脱力したように広場の石畳に座り込んだジェイに、大慌てでルードが駆けつける。

 「旦那ァ、やりましたね!」

 脱力仕切ったジェイはのろのろと花束をリツカに差し出すと、

 「俺は、せやけど、貴方には赤い花が似合うと思う」

 リツカは軽く目を開いたあと、どこか居心地悪そうに視線を彷徨わせながらありがとうと小さく、
 本当に小さく言葉を返した。
 それから、花束を受け取ると今度は、少女らしい笑みで嬉しそうに微笑みを浮かべた。
251('A`)sage :2004/06/10(木) 04:18 ID:PjqB9ssg
『審判の時』


 雲が晴れる。
 ジュノーは雲の上に浮上した。上昇する速度は重力の枷によって緩やかになっていく。
 鯨が水面に顔を出すが如く、雲を散らし、先進の技術を以て造られた灰色の島は陽の下へ晒された。
 直下でなお続く、冒険者を含む騎士団と魔物達の戦いとは無縁に、ジュノーはゆっくりと、穏やかな陽光を浴びながら昇り続ける。
 上へ、上へ。
 アウル。彼が行こうとしている場所へ、優しく、誘っているかのように。

 とうに飛行艇で避難したジュノーの住民の姿は一つもない。この空に投げ出された街で動くものは、もう限られていた。
 広場に集った者達。一人、先へ進んだアサシン。中枢で時を待つクルセイダーと、囚われたアルケミスト。


 そして、広場での戦いは既に終わっていた。


「ご主人様」
「……分かっている」
 金髪の剣士は倒れた少女を抱えたまま、答える。
 結局、ドッペルゲンガーは剣を振り下ろさなかった。代わりに、自分の手の中にあった指輪を差し出した。
 それだけで、<カタリナ>は崩れ落ちた。
 今までの全てが嘘だったかのように、いとも簡単に、あっけなく。
「きっと……通じたんですよ」
「ああ……そうだと、いい……」
 ドッペルゲンガーは物言わぬ骸に戻ったカタリナを受け止め、手に、その小さな金属の輪を握らせる。
 その瞬間に、彼の戦いは終わっていた。
 或いは、戦いなど最初からどこにもなかったのかもしれない。
 バフォメットに抱えられたアリスは、多少の羨望が籠もった眼差しをカタリナに向けてから、目を閉じた。
 長いというには短く、短いというには長過ぎた一つの戦いが、終わった。
 やはり悲しげで、それでいて満足げな表情を浮かべるドッペルゲンガー。殺す事を捨て、ようやく、何かを守ることが出来た愛しい主人。
「ご苦労様…でした、ご主人様」
 アリスのねぎらいを程々な笑顔で受けてから、ドッペルゲンガーはカタリナの眼を閉じさせた。
「私はお前の主人だが、偉くもなければ様呼ばわりされる筋合いもない…現に、また苦労をかけてしまった」
 目を閉じた少女の死に顔は、あの時のまま。
 雪の降る、悲しい、遠いあの日のまま。
 それでも、微かに笑みのような何かが加わったと信じて、
 彼は言った。
「私はジョンだ。そうだろう?…カタリナ…」


 セシルの嗚咽が聞こえる。
 バニは妹の終焉を見届けてから、ゆっくりと後退った。悲哀に満ちた少女の剣が、彼の身体から抜ける。
 血は流れ続けていた。べとべとになった自分の掌を見て、バニは自嘲気味に微笑む。それから、泣きじゃくるリボンの少女を見下ろした。
「泣かないで……セシルさん」
 セシルの頬に赤い線が描かれた。頬に触れたバニの血。それが陽光に鮮やかな赤を彩った。
「だって……こんな……こんなの…っ」
「いいんだ…もう、いいんだよ…」
 バニの顔は諦めというよりも、真の意味で境地に達した表情を浮かべていた。安堵にも似た、穏やかな顔だった。
「僕は間違ってた…そういう、ことだから…」
 バニはまた一歩、後退る。
「選ぶのはいつも自分だった……どんな生き方も、どんな道も…沢山の選択肢があって…でも、僕は…」
 彼は夢想した。多くの可能性を。
 セシルと共に歩むことも出来たかも知れない自分を。
「いつだって、決めるのは自分だったんだ…それを、妹の為だから…って……そうやって…自分で投げ出して…」
 後退る。血の気の失せた微笑みのままで。
「でも、違ったんだ……きっと僕は…妹の『せいにして』…こんな風に…歪んだ自分を、道化の仮面で誤魔化してたんだね……」
 セシルが地面にへたり込む。魔剣が主を失い、乾いた音を立てて落ちた。
 もう、傍目にも彼の死は明らかだった。
 それでも、バニは後退る。
 残った命を削り、離れていく。
「…ありがとう、セシルさん……貴女に会えて、本当に、僕は……」
 不意に、彼の姿がかき消える。少し離れた場所に居たジョン達の間に一瞬だけ緊張が走り、すぐに奇妙な沈黙が訪れた。
 バニが妹を抱えて立っていた。
 ジュノーと空の境界に。

 何も言えず、何も出来ず、セシルもジョンも、アリスとバフォメットも、ただ見ていた。
「悪いけど……カタリナだけは、連れて行く……」
 言うと、少年は飛んだ。
 機械で出来た醜い島の地面を蹴って、すぐ下に広がる空へ、少年は飛んだ。
(幸せだったんだよ……あの頃は……)
 呆然としたままのセシル達が、離れていった。
 景色が真っ青に流れていく。
 思い出すのは、いつも、真っ直ぐな風を吹かせていた剣士との日々。
 共に泣き、笑い、怒り、戦った。
 楽しかった日々。
 充実していた筈の日々。
 ちゃんとその事を、分かっていれば…こんな事にはならなかったかもしれない。
(そう……僕は幸せだったんだ…本当だよ…セシルさん……)


 気付くのが、ほんの少し、遅すぎただけで。
252('A`)sage :2004/06/10(木) 04:19 ID:PjqB9ssg
地に伏して、セシルは泣いた。
 どうしようもなかった。
 妹の為に戦って、戦って、戦い続けて、
 最期には身を投げたバニが、不憫で、哀れで。
 それ以上に、自分の愚かさが悲しかった。
 本当に、どうしようもない、嫌な自分。
 申し訳なかった。
 グレイに、アーシャに、フェーナ。折角、自らを犠牲にしてまで、自分をここまで連れてきてくれた仲間達に。
 アルバート、ティータ。二人の手助けがしたかった。それを投げてまで、バニを止めようとしたのに。
 殺してしまった。
 殺してしまったのだ。
「……こんなの……こんなのじゃ…意味ないね…ベル…」
『そう?』
 内なるセシルが応えた。静かに、誰にも聞こえない声で。
「…そうだよ……全然……意味なんて…」
『そう思ったら、その瞬間に、全部…意味を無くすわ』
 バニの残した羽根が舞う。燐光。
 淡い淡い、光。
『今まで、一人の力でやってこれた訳じゃない。それはそう。だけど、皆同じ。思うところが、進む道が違っても、この世界に
生きる全てのものが、大きな樹の根に似た繋がりの上にある。バニという少年の魂にも、貴女の想う人達にも、また逢えるわ』
 涙に滲む、光。
 セシルは静かにその蛍火を握り、額に当てた。
『だから、泣かないで、セシル。今度は、私も戦う』
 不完全なカタチで具現化していたベルゲルミルの全てが、解き放たれる。
 覚醒と邂逅。
 末に、セシルは立った。
 赤みを帯びた瞳はそのままに、銀に染まった髪にリボンを絡ませた彼女は、もう、誰の知る脆弱な少女ではなかった。


 涙を払う風、悲しみを断ち切る風が吹く。



「アウル=ソン=メイクロン!」
 拓けた道の向こうに、大きな光源体があった。アルバートは狭まった通路を抜け、金属の多用された施設の中を駆ける。
 アウルは居た。蒼いマントの下にティータを隠し、光源体の前に。
「やはり来たのか…黒のアルバート…」
「お前は…何処まで大勢の人間を弄べば気が済むんだよ!」
 ユミルの心臓を収めたソロモン島、ジュノーの中枢。ただ広い空間に、黒のアサシンの怒号が木霊する。
 淡い光を揺らめかせ、光源体は鼓動を早めていた。アルバートはその詳細な機構を知らなかったが、今、ジュノーが上昇しているのはこの未知の機関
が活発化しているせいだとは理解できていた。
 だが、その浮力は無限ではない。
 やがてバランスを失い、重力に引かれたジュノーの三つの島は自らの重量で崩壊し、落下するだろう。
 地上には騎士団が居る。ジュノーから避難した人々も近くにいる筈。何人死ぬか、想像もつかなかった。
 無論、アルバートも、ティータも、アウル自身も…ジュノーへ来た全員が死ぬ事も間違いない。
 しかし、アウルは、この蒼い髪の青年は断じた。アルバートが今まで対峙してきた誰よりも、確固たる信念を持って。
「どこまで!?どこまでだって!?終わりなどないさ!貴方は知らない!呪われたこの世界の真実を!腐り果てた、このミッドガルドという監獄を!」
 彼の言葉に、アルバートは考える。
 確かに、この世界は決して美しい平和な場所ではなかった。過去も、これからも、そうだろう。
 アルバートはこの世界が嫌いだった。
 押し付けられた生き方しか出来ない、この世界が。
 ワイズマン、マリーベル、ベルガモット、グレイ、セシル―――ティータ。
 彼の知る多くの人々もまた、その狂った運命に呑まれた。
そういった意味では、ドッペルゲンガーも同じなのかも知れない。
 彼は自分の意志で地上へ来たわけではない。アリスの話や、シメオンが語った事実が確かならば、彼も、被害者だ。
 だが、それもまた、この世界の始まり―――神と人と魔物が争った、遙か遠い過去の戦いのせいだ。
 千年の時を経て、なおも続く狂った因果。終わりを知らない戦いの世界。
 生きるためには戦うしかなく、
 戦いは死と怨恨を降り撒き、
 途切れることを知らない螺旋となって繋がっていく。
 醜い世界。
「僕等は魔物を討つべくして人によって造られた。錬金術師達にとって人工の生命は夢であり、希望だった。その希望の残滓が、この薄汚れた僕や、沢山
の同胞を<兵器>にした。『魔物を討つべくして神に造られた人間』に『魔物を討つべく造られた』んだよ、僕達は。皮肉だね」
「神が…魔物を討つべくして人間を造った…?」
「そうさ…自分たちの姿を似せて、手駒として造り出したんだ。神を盲信する人間の特性は、それに起因してる。やがて何度目か分からない<ラグナロク
>が始まれば、人はまた戦うのさ。天敵として設定された魔の者達と、死力を尽くして。千年前もそうやって戦ったんだから」
 造物と創造主。
 絶対に揺るがない壁。
 世界を隔てる魔壁がそうであるように、この溝は埋まらない。
 アウルはユミルの心臓の前でせせら笑った。邪悪でいて、醒めた笑みだった。
「僕は人間がどうなろうと知らない。創造主?だからなんだっていうんだ?生み出された僕達が、魔女や魔族に目をつけられた途端に切り捨てた。採算が
付かなくなると同時に、奴らは僕等の生きる権利さえ奪ったんだ。今更どうなろうと…知った事じゃない」
 青年の瞳が揺れる。何を映し出しているのか、定かではなかった。
 もしかすると、ここへ来る途中で出会い、死んでいったあのプリーストを想っているのかも知れなかった。
「…千年前、僕等と同じように人の手によって造られた『ユミル』は、彼女の魂『アウズフムラ』の意志によって人間と神族、魔族に牙を剥いた」
「ユミル…?じゃあ、このユミルの心臓は…」
「そう。創造主に立ち向かった『ユミル』の残骸。切り分けられたパーツの一つ…僕達、最初のホムンクルスには同じ技術が使われている」
 目の前の、巨大な物体。
 異常な魔力を有したモノ。それが、アウルやティータの原型。オリジナルといっていいものだ。
「母親さ、僕等の。文献や人づてにそれを調べ、全てを知った僕は母さんと同じ道を…人間全てを敵に戦う事を決めた」
「…そんな事出来ると思ってるのか?」
「そうでもしなきゃ僕達は人間に殺されることになる。選択の余地はない。だから、僕は多くのものを犠牲にしてまでもここまで来た」
「自分が生きるために、か」
「そうさ…当たり前じゃないか。生きる者が生を願う。それが自然さ。狂ってるのは人間…世界だ」
「…至極、真っ当な理由だな。他人事でもないし…同情はしてやるよ」
 他人事ではない?
 そんなアルバートの言葉に、アウルは眉をひそめる。彼は知らない。自分の前に立ちはだかった最後の敵が、自分と同じ、
 そう、同じく人に造られた者である事を、知らない。
「だがな、他人を巻き込んでのし上がるってのは、許される事じゃないんだよ」
 同じと知った上で、アルバートは言い放った。
「…だから…僕を、殺すのか。最強のアサシン」
「どうかな…」
 アウルは静かに問う。アルバートは言葉を濁し、床を蹴る。
「だが、ティータは返して貰う!その子まで巻き込むな!」
 戦いが始まる。
「貴方がスレードと共に生きると言うのか!?」
「守ると決めた!それだけだ!」
 距離を詰め、双刃を振り下ろすアルバート。それを抜きはなった異形の魔剣で受けるアウル。
 橙色の火花が散った。
 三本の剣が激しい鍔迫り合いを演じ、呆けたような表情のティータはその攻防から弾き飛ばされる。
「スレード!」
「ティータ!」
 一喝。ダマスカスを持った手首を返し、連撃に持ち込む。右手の刃を逆手に持ち替え、切り下ろしから切り上げ。左の刃で追撃。
 目にも止まらない三連の斬撃。特殊な希少金属で精製された短剣は魔剣を押し返し、アウルの前髪をかすめる。
 その鋭い攻撃にアウルが我に返った。異様なまでの生とティータへの執着。怒りと激情に変わり、眼光となってアルバートを射抜く。
「…生きるべきは僕達だ…邪魔をするな!黒のアルバート!」
 アウルの手に出ずる盾。不完全ながらも空間を歪める力を有する彼にとって、戦闘時にのみ盾を召還する事も容易かった。
 迫撃するアルバートに鋼鉄の盾が打ち据えられる。
 クルセイダーにとって、盾は防具であり、武器だ。相当の重量によって吹き飛ばされたアルバートの前で、アウルは魔剣に力を宿す。
 ゲフェンで目の当たりにしたレーヴァティンの炎が来る。
(あれは体術で避けれる代物じゃない…だがっ!)
 アルバートは迷わず右手のダマスカスを投げ放つ。アウルはそれを盾で弾き飛ばすが、攻撃までに僅かな時間が生じた。
「同じ魔剣なら!」
 空いた手で腰のレーヴァティンを抜く。それは、アウルにとって唯一の誤算であり、脅威。
「ミストルティン!?何故扱える!?」
 賭だった。アルバートにとって唯一の切り札となる魔剣。これで競り負ければ、もう勝算はない。
 だが、ここで負けるわけにはいかないのだ。

 ―――今度こそ、大切なものを守るために。
253('A`)sage :2004/06/10(木) 04:20 ID:PjqB9ssg
「つけてやるよ!決着ってヤツを!」
 アルバートのもう一本のダマスカスが、アウルの盾に突き刺さる。魔剣に呼応した彼の身体は既に己の限界を突破していた。
 時間が、ない。
 突進から繰り出された突きの過剰な破壊力が、盾ごとアウルを吹き飛ばした。
「がああああぁぁっ!?」
 盛大な音を立て、ユミルの心臓に叩き付けられるアウル。一方、盾とダマスカスはあらぬ方向へ飛んでいった。
 重厚な盾さえものともせず、アルバートは魔剣を構えて疾駆する。
「そう…か…!ベルガモットさんはこの力を……処理された筈の実験体…プロトタイプの事を隠して…でも、所詮出来損ないだ!」
 アウルは折れた左腕を庇うようにしてレーヴァティンを振るう。
 紫の炎が満ちた。この世ならざる場所から喚ばれた焔は、なおも突進するアルバート目掛けて突き進む。
 対するアルバートには、対抗する手段がなかった。ミストルティンにも同質の力があるのかも知れなかったが、行使する術を彼は知らない。
「僕と同じなら、貴方にも分かるはずだ!苦しいだけのこの世界の矛盾が!理由のないこの世界の矛盾が!人の醜さが!」
 投げかけられる言葉を聞きながら、アルバートは迫るレーヴァティンの炎に魔剣を向けた。
「俺は違う!守りたい人達が居る!大切なものがある!その為に死んだって構わない!」
 ミストルティンが、アルバートの手の中で激しい光を纏う。元来、魔剣を用いて戦うことを前提に造られたホムンクルスは、魔剣の能力を最
大限に引き出す事が出来るように精製されている。
 アウルの操る炎も、その一端だ。長年の経験を持つ彼には及ばなかったが、アルバートもまた、その力を発現させる。
 魂を喰らい、全てを石塵に変える光。
 膨大な力の奔流が生まれる。
「これが、俺とお前の違いだ!アウル!」
「ま、まさか……自分ごと……」
 クルセイダーは知った。
 とうに自分が失った…或いは捨ててしまっていたものを、このアサシンは持ち続けていたのだと。
 故に、自分は敗北するのだと。


 かつてはアウルも彼と同じだった。
 仲間と共に、世界を巡った頃。まだ正しいものは正しいのだと信じていた頃。
 フェーナ=ドラクロワを守る従者として、聖堂騎士として生きていたあの日々は、まだ。
 それを自分の正体と世界の核心に迫る内に、忘れてしまっていた。
 どうしようもなく孤独だった。
 自分だけが、世界に一人残された様な、孤独だった。
 やがて寂しさは憎しみに変わり、アウルも変わった。
 自らの為だけに、スレードゲルミルを求め、戦い続けた。
 守るべきものを忘れたクルセイダー。
 最期の瞬間、その瞳に幼い頃に過ごした修道院と、共に育った僧侶の姿が過ぎる。
 ようやく、思い出す。


 自分は、もう一度、彼女と会えるだろうか。


 炎が裂け、ミストルティンの紅い光が広がった。
 閃光はアルバートとアウルを飲み込み、中枢を満たし、天井を貫き、空を衝いて、昇っていく。
 光の中で、少女は笑っていた。
 声高に笑っていた。


 最後の悪夢が始まる。
254('A`)sage :2004/06/10(木) 04:28 ID:PjqB9ssg
おはようございます。これで殆ど消化しました。

残りあと一戦。
最後の戦い。
かなり手こずってます。今日は休みなので全力投球したいのですが、
さすがに眠いのでちょっとだけ寝ますね。orz
夜には続きが書き込めると良いですが…。

長い間お付き合いくださった方々に感謝しつつ…では、また。
255名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/10(木) 07:17 ID:JHQavc3s
すげえ神が一気に二人も!
256名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/10(木) 18:54 ID:6idPMb0g
神がダブルで降臨してるΣ(´д`;)

キタキタキタキタ─wwヘ√レvv~(゚∀゚≡゚∀゚)─wwヘ√レvv~─!!!
257名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/10(木) 19:12 ID:UcoIKs9.
ついに完結かぁ!?
258('A`)sage :2004/06/10(木) 20:47 ID:PjqB9ssg
『終章 Confutatis 』


 私は待っていた。
 死を恐れ、生きることに執着した悲しいアウルを、『彼』が葬るその時を。
 未来を手にするべきは『彼』であり、アウルではなかったのだから。

 アウルは神を信じてた。
 神が自分の味方だと信じてた。
 でも、それは違った。
 ああ、アウル。
 悲しいアウル。
 貴方は母の遺志を完全には理解できていなかったね。

 ユミル―――アウズフムラは神とも戦ったのに。

 未来を手にするには信仰も捨てなくちゃいけなかった。
 哀れなアウル。
 貴方も所詮は失敗作。
 未来を手にするには足らなかった。

 私は待ってた。
 願いを叶えようと、私を連れ去り、目覚めさせた、あのアウルが死ぬのを。


 『彼』と共に未来を手にする為に。

 

 
 アルバートはまた自分が生き残った事に呆然としていた。
 ユミルの心臓が収まった広間はミストルティンの力によって半壊していた。天井には大穴が開き、所々の壁は石化、或いは砂塵と化して原型
を留めていない。しかし、中央のユミルの心臓と周囲の装置だけは、何故か無傷だった。
「…ヤツは…」
 アウルはユミルの心臓の前に倒れていた。
 身体の半分以上が石化し、既に息は無い。
 空を仰いで事切れた彼の目には、薄く涙が滲んでいた。
 何を思い出して涙を流したのか。
 やはり、アルバートには分からなかった。死んでいった者達は、何も語らない。
 残された自分で、答えを探すしかないのだ。
 黒のアサシンはアウルから視線を外し、無くなった天井の向こうに広がる空を見上げて眼を細める。
 消耗し切っていた。もう戦う力は残っていない。
「……ティータ……ティータは!?」
 疲れた頭で考え、アルバートはその名を呼び、弾かれたように周囲を見回す。
 その時、瓦礫が動いた。
 通路だった場所から現れたのはアルケミストの少女ではなく、黒い魔剣を携えた騎士の少女だった。
「セシル…か?」
 彼女はアルバートを見つけるやいなや、心配そうな顔で駆け寄る。その髪の色と紅い瞳に戸惑いながらも、髪に飾った赤いリボンが、アルバー
トのよく知る少女であると教えてくれた。
「アルバートさん、大丈夫ですか!?さっき凄い光が…!」
「ああ……ちょっと疲れたけどな…なんともない」
 気遣うセシルに、アルバートはひらひらと手を振りながら答える。彼女が現れた通路から、今度は金髪の剣士と大鎌と自動人形を抱えた青年が
出てくる。今度はすぐに誰なのかが分かった。
 ドッペルゲンガーのジョンとアリスに、バフォメット。
 魔族勢だ。
「アサシン!どうなった!」
「…自分で見て来い…説明すると長い」
 臨戦態勢を取るジョンに、ユミルの心臓の前を指さして言う。ジョンは真っ先に駆けていったが、バフォメットと、彼に抱えられたアリスは静か
にアルバートの前に立った。
「終わったのだな?」
「……」
 尋ねるバフォメットに、彼は答えなかった。アウルとの決着が今ひとつ実感出来ないのもある。
 だが、それ以上に、彼の中で激しい警鐘が鳴り響いていた。
 アルバートの中の人でない部分が、本能的な危険を告げている。ジュノーの上昇とは別の、もっと切迫した危険を。
 もう敵は居ないはずだった。
 なのに、何故。
「ううん…まだ…何か……何だろう…変な感じがします…」
「セシル、君にも分かるのか…?」
「え?あ…はい…でも、うまく表現できなくて…」
 困惑と不安。セシル自身にも分からない、ベルゲルミルとしての彼女が感じている、濃厚でいて漠然とした何か、嫌なもの。
 間違いなく、彼女はアルバートと同じものを感じていた。
「まだアウル一派の残党が居るのでしょうか?」
「いや、今までの経緯からしてそれはない。アウルは異様に生へ執着を持っていた。そんな戦力があれば自分の周りを固めるか、俺達にぶつけてき
た筈だ…それに、仮にそうだったとしても…この気配はゲフェンで戦った時のアウルに似ている……どのみち普通じゃない」
「…どちらかと言えば私達に近いような…」
 全く別のホムンクルスが居るとでも言うのだろうか。
 それとも、何か見落としがあるのか。
 アルバートは困惑する面々の前で思慮を巡らせる。その手で確かにアウルを倒し、終止符を打った筈の彼に皆の疑問が集中していた。
 そもそも、この戦いの発端は何だ。
 アウルが創造主である人間に反旗を翻し、ティータを手にするためにゲフェンの封印を緩めた事か。
 違う。確かにその出来事はアルバートとセシル、そしてジョンの運命を狂わせ、この戦いに巻き込みはしたが、始まりではない。
 もっと前だ。
 ならば、千年前の戦いか。
 人に造られたという、謎の存在<ユミル>。強大な力を持っていたというこの兵器が、始まりか。
 否。これも違う。ユミルがアウル達<ホムンクルス>の雛形になったのは間違いない。だが、千年経った現代に直接的な関わりは無かった筈だ。
 もっと後だ。
 この二つの出来事の間にあったのは―――
「まさか……ティータ…か…?」
259('A`)sage :2004/06/10(木) 20:48 ID:PjqB9ssg
 疑念が確信へと変わっていく。
 かつてメロプシュムが恐れ、トリスタンが追い、アウルが求めてやまなかった唯一の完全なホムンクルス。
 彼女はぼろぼろになった外套を風にはためかせ、ユミルの心臓の上に立っていた。今まで誰も気付かなかったのが不自然なほど、この少女の放つ
存在感は異様だった。アルバートの記憶にある少女とは全くの別人。或いは、これが本当の『ティータ』なのだろうか。
「…ティータ!!」
 アルバートは少女に向かって叫ぶ。全員が、ユミルの光の上に立つ少女に気付く。
 セシルが、アルバートがそうであるように、彼女の身体にも変異があった。髪の色素は失われ、双眸は朱に染まる。
 何よりの差違は『角』にあった。
 耳当てによって今まで隠されていた渦を巻く角が、本来の耳があるべき場所に生えていた。
 最後の魔剣<オーガトゥース>と、アウルの持っていたレーヴァティンを携え、少女は全員を睥睨する。
『私は待ってた』
 抑揚のない眼と声色。
『貴方が来るのを、待ってた』
 彼女の視線が絞られた。
 ミストルティンを持ったアサシンに。
「何…言ってるんだ…」

『アウルは愚かだった。彼は生への執着が強過ぎたの。だから、結局は恐怖のしがらみを超えられなかった。
 彼は、彼が否定した人間達と大差なかったから。
 それじゃ届かなかった。
 新しい世界を作り出すには、足りないのよ。
 でも、貴方は違う。
 不完全な試験体であるにも関わらず、トリスタンの手から逃れ、アウルに打ち勝った。
 その強い意志と力があれば、きっと未来を手に出来る。
 私は、その資格がある誰かを、待っていた。
 それが、貴方なのよ』

「何だよ…それ…」
 それはもう、あのティータではなかった。
「スレード…ゲルミル…!」
 明らかな落胆と戦慄の混じったセシル―――ベルゲルミルの呟き。その手の中のエクスキューショナーが震える。
 二本の魔剣を手にしたスレードゲルミルは、もはやその場の誰の手も届かない程の力を有していた。
 伝わってくる力の差は、アウルやバニとは比べ物にならない。
 ジョン達もまた、相手の強大さに気付く。彼ら魔族の敏感な魔力に対する感覚は、とうに麻痺していたのだ。この場に充満した魔力の量が、感覚の
限界を遙かに超えていたのだ。
「何者…だ…アレは…!?」
「人が作り出した者の力が…これ程とは…いかにユミルを模倣したとはいえ…!」
 魔族を天敵として設定されたホムンクルスの完成体。彼女がジョンとバフォメットに与えたのは、絶対的な恐怖。
「あの物体の魔力が彼女を通して引き出されています……これは一体…」
 アリスの眼に搭載される機構が映す魔力の流動。巨大な三つの島を浮かせて余りある魔力が、たった一人の少女によって発露していく。
「ユミルの力…いかん!あの娘を止めろ!」
 バフォメットが叫ぶ。
 だが、誰も動けなかった。自失状態になったアルバートはおろか、セシルも、ジョンも、ただ圧倒されていた。

『悲しみを終わらせよう?アルバート。
 全ての生ける者達と共に、
 無為なこの世界を、
 悠久に続く戦いの螺旋を、断ち切るの。
 貴方もそれを願うはず。
 私は三つの世界を繋ぐ全ての門を開く。
 早過ぎる聖戦は、神も、人も、魔も、互いに喰い潰し合うけど、
 それから、私達だけの未来を始めればいい』

「…やめてくれ…!俺はそんな事を願ったりしない…!!」
 魔剣を向ける事も出来ず、アルバートは必死に呼びかけた。その前に、痺れを切らしたバフォメットが躍り出る。
「聖戦も変革もこの世界には不要だ!門を開かせるわけにはいかん!」
『ほう…だが、それが地上の魔族の総意ではあるまい、バフォメット』
 意外な者が声を上げた。レーヴァティン。アウルからスレードゲルミルへ主を変えた魔剣は、クレセントサイダーを構えるバフォメットを嘲笑した。
「!……単なる魔剣ではない…!?」
『我の素性など、どうでも良い。だが、地上と魔壁で隔てられた我々は今一度の聖戦を望んでいる。これは<こちら側>の総意だ。貴様が喚き立てた所
で変わりはせん。共存などと言い始めた腑抜けの同胞ごと、我々は神と人を滅ぼす。魔の本質とはそうであった筈だ』
 この魔剣は魔界に有った。
 アウルが喚んでからも、魔界と繋がり、他の魔剣とは異なった<意思>を持っていた。
 魔族の基本的な欲求、世界への破壊衝動。ただそれを満たす為だけに、アウルを利用し、今度はスレードゲルミルを利用する。
 レーヴァティンの言葉は、ジョンの感情に火を点けるに十分過ぎた。
「千年だぞ!?千年経ったのだ!それでも戦いを望むのか!?」

『魔壁は今も緩みつつある。どのみち<ラグナロク>は訪れるのだよ。ならば、先に仕掛けた方が勝ち目は多いだろう?
 滑稽だったぞ。我の編んだ策に苦しみ藻掻くお前の姿は。
 たかが人間の小娘に揺らぐお前の姿は。
 そう…存分に楽しませて貰った。アウルでは多少、役者不足だったが、今度のは簡単に倒れる主ではないだろう。
 それとも、また苦しみたいのか?楽しませてくれるのか?
 容易いぞ、ドッペルゲンガー。お前も、人の情を覚えてしまったのだからなぁ』
260('A`)sage :2004/06/10(木) 20:49 ID:PjqB9ssg
「…貴様ぁぁぁ!」
 激昂したジョンが放ったフロストダイバーは、スレードゲルミルの持つレーヴァテインに触れる直前に霧散した。
 それが戦いの狼煙となった。
 スレードゲルミルの手を離れたレーヴァテインは、彼女の力を借りて魔界から自らの本体を引きずり出す。
 それは、黒い全身甲冑だった。
 虚空から喚ばれた中身のない鎧は、魔剣を掴んでジョンの前に着地する。
『我は地上の魔族とは違うぞ!ドッペルゲンガー!』
「黙れ!私が貴様を魔界に叩き戻してやろう!」
 一喝し、ジョンは現れたレーヴァティンの本体と切り結ぶ。ツヴァイハンダーが火花を散らし、黒き甲冑が圧倒される。
『ぬぅぁっ!?』
「人という者達は情によって弱くもなれば、強くもなる!私もそれを学んだのだよ!」
 ジョンの剣が、レーヴァテインに亀裂を走らせる。
 一方で、セシルの前にも『敵』が出現しようとしていた。スレードゲルミルが指先で描いた円から闇が生まれ、手を伸ばす。
 遙か深淵より来たる死の王。
 ロード・オブ・デス。
 まともに戦って勝てる相手ではないと、直感でセシルは理解した。途方もない魔力を有した滅びの化身は半身を『こちら側の世界』に露出させる。
(…行くよ…ベル!)
 ベルゲルミルとしての力を用い、エクスキューショナーに風を纏わせる。彼女は更に、伝聞していた騎士の剣技<ツーハンドクイッケン>で加速させ、
ロード・オブ・デスが出現しかけた『門』に向けて放った。
 死の王は未だ不安定な己の存在を現世に安定しようとするが、風がそれを阻む。押し返すまででは無かったが、押し止めるには十分な威力だった。
 咆哮。見る者が思わず顔を背けたくなる恐ろしい顔をさらに歪め、ロード・オブ・デスが苦悶の叫びを上げた。
「そのまま固定しろ!大魔法を撃つ!」
 風を生むセシルに、バフォメットは印を結びながら言う。
「何で!?同じ魔族でしょ!?」
「我は滅びを望まん!奴は滅びの権化だ!」
 端的に答え、バフォメットは術の詠唱を始める。大魔法一撃で終わる相手でも無かったが、セシルの風だけで侵攻を阻止出来る訳でもない。
 これも時間稼ぎなのだ。
「我が友、ベルガモットの弟子、ユミルの子よ!立て!」
「…っ!」
「これ以上、門を開かせるでない!守ってみせよ!汝の愛する者を!」
 力無く跪いたアルバートに、バフォメットの言葉が突き刺さる。直後、ロード・オブ・デスが爆ぜた。何処か別の場所から放たれた火球によって、死の
王の身体が闇の門へ、僅かに押し戻る。その僅かな隙にバフォメットの術が完成し、巨大な爆炎を上げた。
「…貴方に勝って貰わなくては困るんですよ!黒のアルバート!」
 天井に開いた穴の上に、魔術師が立っていた。シメオン=E=バロッサ。アリスが、そしてジョンが、彼に向けて亡霊でも見るかの様な視線を注ぐ。
「しぶとい男だなっ!」
「お互い様ですねぇ!」
 焼け焦げた杖を高らかに振り上げ、ウィザードも大魔法を詠唱する。多少退きながらも、ロード・オブ・デスは健在だった。何度、大魔法を撃ち込んでも
結果は同じなのかも知れなかった。
 スレードゲルミルは彼らの善戦を冷ややかな眼で見やり、次の円を描いた。緋色の稲妻が走り、ユミルの魔力を得て、門が開く。
 だが、召還された何者かが姿を現すことはなかった。
 空から飛来した無数のオリデオコンの矢が、黒き門に集った魔力を打ち払う。
 アルバートとセシルは空を見上げ、すぐ真上に滞空するシュバルツバルドの飛行艇を見た。
「おーい!無事かいなー!?おーーい!!」
 艇のノズル部で、赤毛のハンターが親指を立てて笑っている。
「アーシャ…良かった…」
 となれば、飛行艇を操舵しているのはグレイだろう。ずっと引っ掛かっていた仲間達の無事にセシルは安堵し、死の王に向き直った。
「もう誰も死なせない…絶対!!」
 一層強く、風が吹き荒れた。遠目にも確実に標的を撃ち抜くアーシャの矢が、次々とロード・オブ・デスに突き刺さり、シメオンとバフォメットの魔術が炸
裂する。レーヴァテインはその光景に我が目を疑った。あまりに多くの者を弄び、巻き込んだ結果が、そこにあった。
『こんな…筈が…っ!?』
「地上の者達を見くびりすぎたな、魔剣よ!大人しく去るがいい!」
『くっ…ドッペルゲンガー…せめてお前は!!』
 刹那、魔剣を携えた甲冑がジョンに突撃した。レーヴァテインの実体がない分、勝ちを捨てたこの特攻を避けるのは不可能だ。
 フロストダイバーの詠唱も間に合わない。剣で破壊しても、この甲冑に如何ほどのダメージがあるのか疑わしかった。
 ―――差し違えるしかないか。
 ジョンが重い決断を下した瞬間、蒼穹が生まれた。曖昧に人間の形をとった光が、レーヴァテインと激突する。
『ぐ、ぐぁぁぁぁぁ!?』
 それは、紛れもなくクルセイダーのスキル<ディボーション>だった。レーヴァテインをフェイスの光が灼き、攻撃を相殺する。
「…エネ…?」

 ―――ボク達は、仲間だよね。
 
 ジョンは思い当たったクルセイダーの少女の名を呼んだ。返事はなく、ディボーションが効力を失うと、儚げな光は揺れて、消えた。
 残されたのは、焼け爛れた魔剣と黒い甲冑のみ。あの鎧好きの少女の姿は、無い。
 そこに、アリスの投げた箒が突き刺さる。レーヴァテインが仰け反り、魔剣が悲鳴を上げた。
「ご主人様!」
「…ああ!」
 またも訪れた不可思議な感覚。護られている心強さと、信頼できる仲間。
 ジョンはランスを喚び出し、ツヴァイハンダーと共にレーヴァテインへ打ち下ろす。高速の連撃<ソニックブロー>が、完膚無きまでに甲冑を打ち据える。
 吹き飛んだレーヴァテインの先には、エクスキューショナーを構えたセシルが立っていた。
 心静かに、集中する。両手剣最強の技を彼女は天才的な閃きで繰り出す。
「もう二度と!戻ってこないで!」
 ボーリングバッシュ。
 けたたましい音を立て、レーヴァテインが砕けた。エクスキューショナーごと、呪われた剣の本体は凄まじい勢いで飛んでいく。
 死の王が犇めく門へ。
『ぎぃぃぉおおおおお!!?』
 衝突した二体の魔族は、間髪入れずに撃ち込まれた大魔法によって門の彼方へ消えた。二本の魔剣と共に、魔界へ還ったのだ。
 これで良い。
 エクスキューショナーを手放して、セシルは清々しい気分でいた。あれは、あってはならない力なのだ。
 もう誰の手にも渡って欲しくない。
 後は、門を閉じなくてはならなかった。あの強力な魔族達が滅びたわけではないのだ。彼らが戻ってくる前に、一刻も早く。
「アルバートさん!」
 スレードゲルミルは持ち駒を失ったものの、全く動じていなかった。ユミルの心臓がある限り、魔力は無限にあると言って良い。次の手駒を召還すればいい
だけの事なのだ。
 彼女の指が、次の者を召還するべく円を描く。アルバートは絶望的な面持ちでそれを眺めているだけの自分を、叱咤した。
(馬鹿か!?……俺は!!)
 何をやっているのか。
 懸命に戦う者達を見ながらも、打ちひしがれているだけか。
「戦ってください!スレードを…ティータちゃんを守ってあげて!」
 悲鳴に似たセシルの絶叫。弾かれたように走り出すアルバート。
 背後で別の門が開く音を聞きながら、彼は駆けた。
 ジュノーの空に、巨大な門が開く。恐らくは完全に魔界と繋がる門。絶対に開けてはならない門だ。
 口を開けた巨大な門の下で、アサシンは跳んだ。
 すぐ傍まで迫った彼に、スレードゲルミルの目が見開かれる。
261('A`)sage :2004/06/10(木) 20:49 ID:PjqB9ssg
『どうして?
 貴方は助かるのに。
 醜い人間達だけを滅ぼすのに。
 何故、邪魔をするの?
 何故、戦うの?アルバート』

「確かにあんまり良い世界じゃないのかもな…汚い事だってあるし、酷い事も、悲しい事も山ほどある。
 でもな、楽しい事や、良い事や、嬉しい事だって同じ数だけ…いや、もっと沢山ある筈だ。
 俺はそう信じてる。
 良い奴も、嫌な奴も、大勢が居るこの世界だから、
 信じれるんだ。
 壊されたくないんだよ。誰にも」

『信じて、裏切られても?
 私は知らない。この世界で良い事なんて、何もない。
 何もないよ?』

「だったら探そう。
 見つかるまで。
 第一、まだまだ見てない場所だって、出会ってない人達だって多いんだ。諦めるのは早い。
 それに、俺は…ティータを守るって決めただろ?
 なのに、まだ何も出来てない。何も、始まってない。
 始まってないのに、終わらせるのは…どうかな。
 守らせてくれないか?
 殺すことしか出来なかった俺だけど、君と一緒なら、
 前に進める気が…するんだ」

『守ってくれる?
 本当に?
 ずっと?
 一緒に居てくれるの?』

「ああ。
 嘘にならないように、頑張る。
 だから、ティータ…君が必要なんだ。
 俺には…」



 開きかけていた全ての門が閉じていく。
 行き場を失った膨大なエネルギーが吹き荒れ、ユミルの心臓を中心にして破壊を撒き散らす。
「飛び移ぃ!はよぉ!」
 間近に接舷した飛行艇の上から、アーシャが怒鳴る。今にも吹き飛ばされそうな勢いで揺れる飛行艇に間一髪で転がり込み、
 セシルは、すぐに顔を上げて叫んだ。
 共に戦った者達に。
 ジョンら、魔族達の姿は既に無い。シメオンというウィザードも不敵に笑い、一礼してから、いずこかへテレポートする。
 肝心のアルバートとティータは、未だ崩壊の中心に居た。
「鍛冶師!二人取り残されとるで!もっと高度下げぇ!」
『無茶言うなよ!?こんなもん動かしたのは初めてなんだぜ!?』
 魔導通信機らしき物で会話するグレイの言葉に、青ざめるセシル。アーシャから通信機をひったくると、彼女は大声で言った。
「なんとかしてくださいっ!グレイさんっ!!」
『う、うぉっ!?お嬢ちゃんか……なんとかったって……あぁ!もういい!…こうなりゃヤケだ!何かに掴まってろよ!』
 飛行艇は一度転進してから、船首をアルバート達の居るユミルの心臓に向けた。
 ティータを抱えたアルバートは、親友が行おうとしている暴挙に顔をしかめる。
「無茶苦茶だな…グレイ」
 かすめる様に直上を通過する気なのだ。後は、アルバートがティータを抱え、なんとか飛び移るしかない。
 言うほど簡単ではなかった。チャンスは一度。それも、飛びっきりシビアなタイミングだった。
「あるばーd」
 髪も目も元の色に戻り、生えていた角もとうに崩れ去った少女の顔は、悪戯気味に笑っていた。
「ん…何だ?」
「だいじょぶねよ?」
 思わず反射的に「いや、無理」と返しそうになってから、
 アルバートは口をつぐんだ。
 虚勢を張りたいとか、気まずくなるのが嫌だとかではなく。
 今なら、何でも出来る気がしていた。
「…問題無い!」
 グレイの操る飛行艇が来る。
 軽々と抱えられたティータが歓声を上げ、
 アルバートはユミルの心臓を蹴って、跳ぶ。


 何だって出来るんだよ、俺達は。
 仲間がいれば。
 君がいれば。


 何だって。


 ジュノーが上昇を止めた。



 次いで、地上に出現した黒い門が、争っていたモンスター達を飲み込む。

 やがて門は完全にその姿を消し、
 騎士団は、魔物達の消滅によって勝利を収めた。
 歓声に包まれる冒険者達と、騎士達。

「…終わったか」

 髭面の騎士は、降りしきる雪と、ゆっくりと降下するジュノーを見上げ、苦笑した。
 返り血が付いたマントを脱ぎ捨て、腰を下ろす。

「お前は、自慢の弟子を持ったな…ベルガモット…」

 降下するジュノーから飛行艇が一隻、飛び出す。
 騎士はそれを眺め、今度こそ、本当に笑った。
262('A`)sage :2004/06/10(木) 20:50 ID:PjqB9ssg
『Lumen』


 春。
 プロンテラのメイン通りに桜が咲いていた。
 セシル=リンガーハットは舞い散る花弁を裂き、息を切らして走る。
 新しい愛剣となった東洋の剣は反りが激しく、細身の片刃。それなのに異様に重く、長身だった。
 走り難いったらこの上ない。
 可愛い愛剣でも、こういう時には邪険に思ってしまう。
 商人達が露店を並べて売り文句を捲し立てる中を駆け、見知った顔があれば挨拶をし、剣の重みに負けないように元気よく走る。

 ジュノーの戦いから数ヶ月。


 彼女は今、イズルートの小さな剣術学校に勤務していた。
 冒険者は廃業し、プロンテラに住みながら教鞭を振るう生活を選んだ。
 無論、一時的とはいえお尋ね者となっていたセシルが、すんなりとこの生活に入れるわけがない。
 偽名を使い、素性を偽り、半ば道場破りのような形で剣術の教師になった。
 歳も十歳ほど上乗せして誤魔化している。
 不思議と騎士団は黙認していた。
 高名な騎士が口添えしたとも言われるが、定かではない。

 生徒の中には彼女を神聖視、もしくは師匠(と書いてセンセイと読む)扱いする剣士が多かった。
 要するに、人気の的だ。
 若く(実際若いのだが)愛らしい容姿も拍車をかける。
 鎧こそ着なくなったものの、彼女は未だにあのリボンを身につけていた。
 以前のように派手な結び方ではなく、後ろ髪に控えめに絡ませている程度だったが、十分に少年剣士達を魅了した。
 唯一の疑問と言えば彼女が普段かけている、度の入っていない小さな丸眼鏡だった。
 ごく希に、授業の合間にそのミニグラスについて訊かれることがある。
 決まって彼女はこう答えた。

「大切な人から預かったんだよ」と。


 しばしば、各地で不可思議な二人組の冒険者が目撃される事があった。
 態度が大きく、高慢な喋り方をする金髪の青年剣士と、カプラサービスを一切行わないカプラ職員。
 主従関係にあるらしいこの二人組の実力は相当のもので、大規模な戦闘には殆ど顔を覗かせる。
 しかし、彼らが利害に走ることはない。
 人間や魔物といった種族にとらわれることなく、彼らは弱者の味方をした。
 金銭にも一切の興味を持たないこの二人組は、裏取引や戦乱を売り物にする者達に恐怖を与えた。
 そういう人間には決まって敵対したからだ。

 だが、彼らは殺さない。
 それは敵が弱者でなくとも同じだった。
 高名な冒険者や騎士の挑戦も受け、絶対に勝利するも、相手にトドメは刺さない。
 ただ、名乗るだけ。名乗って、去るだけ。

 剣士の名は「ジョン」。カプラ職員は「アリス」と言った。



 
 二人組といえば、他にも居た。もはや知る者も多い義賊「ポポリン」だ。
 ポリン帽を被った女ハンターと、義賊の仮面を身に着け、タバコを愛するブラックスミスのコンビである。
 元はソロの盗賊兼トレジャーハンターだった怪盗「ポリン」に、正体不明のブラックスミスが後付けで追加された事で、
 こう呼ばれるようになった。本人達曰く、深い意味はないらしい。
 一説によれば恋仲だというが、これはプロンテラ通信誌面に掲載されたインタビューで、断固として否定された。

 最近ではモロクのピラミッドに眠る秘宝を狙ったり、海賊船に挑戦する等、それなりに活躍している。
 ただ、彼らの足跡を見る限り、あまり儲かってはいないようだ。
 比較的、多くの宝物を手にしている冒険者なのだが、儲からない理由は不明である。
 確認は取れなかったが、普段は武器屋の主人と店員の関係だという。

 この義賊が活動し始めた頃から、孤児院や病院に多額の寄付金が送りつけられるようになったのは、また別の話。


 アウル=ソン=メイクロンの乱によって被害を被ったジュノーの街。
 その再建に貢献した一人の魔術師が居た。
 魔道に留まらず、錬金術にも長け、本職の錬金術師達を驚かせたこの『自称・超天才魔術師』は、
 主に被害の大きかった中枢の復元を行った。
 それからしばらくはジュノーで魔導と錬金の知識を得ながら生活したが、ある日、突然姿を消したという。
 最後に目撃したセージの話では、夜の街で何やらブツブツと呟きながら呪文を詠唱していたらしいが、
 その後の足取りは不明である。

 誰も彼の本名を知らなかった。
 だが、彼は激動するルーンミッドガルツの冒険の時代に、何度か登場していた。
 いつかまた現れるのかも知れない。

 ニヤニヤと、いつもの陰湿な笑みを浮かべながら。
263('A`)sage :2004/06/10(木) 20:50 ID:PjqB9ssg
「ああ…だりぃ…ぐぉぁぁ…暑い…蒸し暑い…うう゛ぁ…ぁぁ…」
 照り付ける南国の日差し。
 爛々と輝く太陽の下。密林を進む、黒装束の青年が居た。
 髪は純白。二本のダマスカスを腰に差し、この恐るべきアサシンは間の抜けた顔で奇声を上げた。
「あぁぁるぅぅばぁぁとぉぉぉん…」
 そんな彼の背に負われたアルケミストの少女も、何だかよく分からない単語を発する。
「あぁつぅいぃよぉぉ…」
「…ええい、何だ、そのアイスの溶けたような顔はっ!自分で歩いてないだけマシだろうがっ!」
 アサシンは南国の太陽を衝かんばかりの勢いで、アルケミストを投げた。
 絶妙なコントロールで、少女の外套が木陰の枝に引っかかり、ぶら下がる。
「大体、コモド出発早々に飲料水を使い切ったのは何処の誰だ!?ああん!?」
「ティータねよ?」
 アサシンの魂の叫びに、ぶらんぶらんと揺れながら、少女が答えた。
「ねよ?じゃねぇぇぇ!どーすんだ!?ウンバラとかって場所までどれくらいあるのか分からないんだぞ!?」
 ひときしり怒鳴り立ててから彼も木陰に入り、腰を下ろす。
「…まぁいい…少し休もう…」
 やはり、黒装束は暑さに弱いな。
 そんな事を考えながら、アサシンはぶらぶら揺れるアルケミストから視線を外し、空を見上げた。
 雲が流れていく。
 遠い空の下、かつての仲間達はどうしているのだろうか。
 結局、ゲフェンに始まった一連の騒動は、国王の勅命によって『無かったこと』にされた。
 完全に隠匿することは不可能だったが、それでも、大勢の人間は欺かれた。公にはバフォメットなどの魔族が引き起こしたとされている。
 トリスタンは明らかに不審だった。
 後に知ったことだったが、アウルにホムンクルス計画の真実を伝えたのはトリスタンだったらしい。
 何か腹に抱えた男であるのは間違いなかった。
 が、
(わざわざ追求するまでの事じゃ、ないよな)
 アルバート達の出した結論はそんなものだった。
 トリスタンに関しての黒い噂は絶えない。だが、それを正すのはアルバート達の仕事ではない気がした。
 決着を着け、それぞれの道を歩み始めた彼らにとっては、もう過去の出来事でしかない。
 後に続く誰かの仕事。
 自分の関知しない世界での話。
 やがて、アルバートはティータと共に旅に出た。仲間達と別れ、再会を約束しながらも、二人で、もっと楽しい事を探しに。
(…何故か南国の熱帯だが)
 アルバートは自嘲気味に笑い、寝転がった。木陰の涼しさが全身の汗を吹き飛ばす。
「ねね、あるばーd」
 いつの間にか、ティータは枝から脱出し、隣で同じように寝転がっていた。
「ん」
「ずっと、一緒だよね」
 アルケミストの少女が浮かべた笑顔。守りたかったもの。これからも守っていくもの。
 出会った頃とは違い、彼女はもう耳当てをしていない。
 それでも、何も変わらない笑顔。
 むしろ、あの頃より、眩しい。
「…普通に喋れるんじゃないか」
 黒のアサシンはわざと話題を逸らし、また空を見上げた。
 そして、
「………だろ」
 返答がないことに落胆しかけた少女の耳に、彼女にしか聞こえないくらいの小さな声が届いた。
 アサシンは嬉しそうにはしゃぐ少女を横目で見やり、目を閉じる。

 

 もう、縛るものは何もない。

 時間はある。

 ゆっくり見て回ればいい。
 

 この世界は、こんなにも美しいのだから。



 fin
264('A`)sage :2004/06/10(木) 21:05 ID:PjqB9ssg
Pukiwikiの中の人様、並びにRO小説スレ自分達用補完倉庫管理人様に、
そして萌え板小説スレの皆様に、
この場を借りて御礼申し上げます。
丁寧な保管、様々な感想、ありがとうございました。


長い…長すぎる…その割にベタな終わり方にしたっちゃたよ…orz
本当は寸前までアルバートが死んじゃうエンドだったんですけどね。(蛇足
何故か修正しました。
うー?何でだろう…自分でも分かりません。

さて。
皆様、長い間ありがとうございました。(&すみませんでしたorz)
一向に腕が上がっていない感じですが、自分的にはとても勉強になりました。
時間があれば、また来たりします。
多分、名無しですけどね。

では、また、何処かで。


バイバーイ>('`)ノシ
265名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/10(木) 22:20 ID:JHQavc3s
(・∀・)人(・∀・)人(・∀・)人('A`)人(´∀`)人(´∀`)人(´∀`)

   僕 達 に 感 動 と 希 望 を あ り が と う
266名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/10(木) 22:28 ID:2kQTMg6g
>>264
おつかれさま〜

私は安易に人が死ぬ話は嫌いなので、喩えべたでもよい選択をしたと思いますよ。
#まぁ少なくとも私にとっては。

それにしても、ジュノー到着以降のスピード感は物凄く圧倒されました。
いや〜、いいものを読ませてもらいました。
267名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/10(木) 23:01 ID:.zPI4U4c
ぉぉ・・・まじで終わってしまった・・・

なにはともあれ、おつかれさま・・・
漏れはたぶん、この物語を忘れないよ・・・

やっぱり独り身になったセシル先生が大好きさ(´∀`)エエワァ
バニきゅんがトラウマになってないといいけど

>終わり方
やっぱり基本はハッピーエンドでしょう
これでジョンとアルバートが殺し合ってたら・・・ひぃぃ

とにかく!
あ り が と う ('A`)氏!
268名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/10(木) 23:01 ID:lW4lY6cE
>>248
 とってもお疲れ様でした。そして、ご馳走様。面白かったです。なんというか、それ以上の言葉が余り出ません。
伏線処理もお見事です。最近全部読み返したせいで余計そう思うのかなぁ。
 すごく昔の感想に「どのキャラもありきたり」みたいな意見があったデスケド、最後の方はそんな事はまったくなく。
集結した時でも、主語が不要なくらいに動きの表現や台詞が個々に立ってるのは凄いな、と。進歩してるかどうかは、
次回作で存分にニヨニヨさせてもらいます。
 それと、べたでもよい選択をしたと思う奴(2/20)

 あー、やっぱ完結してからコラボ物書けばよかった。キャラ立ってる人がこんなにいるよ。

 学者先生とシメオン先生が講義する魔道学校風景とか…想像するだけで鼻血がっ。
お互い激しく舌戦を繰り広げるか、当たらずさわらずか…。でも、不思議とシメオンが口で勝ってる
姿が想像できません。ゴメンヨ シメオンタン…本編ダトアンナニカッコイイノニ…

 あ、次回作の前に、相手不在で可哀想になったセシルたんに、流れの浪人さんでもくっつけてあげt(パケロス

>>243
 最初の一文から察すると、何か深い含みがある作品なのでしょうか。悲しい事があったとかだったら申し訳ありません
が、一読者として楽しませてもらいました。続くのかな、そこで終りなのかな。
 直前にテロで女騎士×BSな短編を書いた身としては、己の非才が恥ずかしくなるような。同じ題材でも、料理人が
違うとここまで差が出るんですねー。おもしろーい。下水おわったら、文神様のお題付競作とか見て見たい気もします。
(そんな気軽に言って書けるものでもないのは承知ですがー)
で、含意があるとしたら、きっとリツカさんとジェイくんとこなんだろうけどっ。ルードくんに萌え…。共感するのはジェイ
くんですけど。上手にできないでも、作品を作り続ける事に意義があるんでしょうね。

 以上、感想屋より長文失礼っ
269名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/10(木) 23:06 ID:UcoIKs9.
激 し く G J と言わせて貰います!狽(゜∀゜)
燃えますた・・・・・・!( ´∀`)
270名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/11(金) 00:00 ID:uyET8OV2
>>('A`)氏
ウホッ、完結おめー。
最初からずっと見てただけに、最後は感慨深かったッスよ。
…('A`)たんのおかげでSS書きたくなっちゃった(*ノノ)

ところでこのSS、普通に漫画とかRO外伝風味でRPG形式にしたりとか、できそうだなあ。
…個人的感想ですよ?
271名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/11(金) 06:16 ID:Fp6XpCQA
あたりまえながら(この人の小説に限らず)
ここのSSならROアニメより数倍面白いにだろうな
272名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/11(金) 07:10 ID:Fp6XpCQA
面白いにだろうな
面白いだろうな


(´・ω・`)
273名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/11(金) 10:49 ID:sqeSTby6
>>('A`)

お疲れ様でした
かつて誰かが言った良い言葉があったのでここで引用させて貰いましょう

それ即ち王道
つまりは良い結末であった、と

素晴らしかったです
氏に圧倒されてしまって暫く書けなくなりそう・・・
274名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/11(金) 15:17 ID:AuDWAiIU
ぶっちゃけここまでとは思わなかったな
文章はまだ未熟かもしれん
でもあんたは本物だ

俺はもう新スレまでこの余韻に浸るよ・・・(*´∀`)
静かに喪にふくs(ry

>>270
俺も思った
275名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/11(金) 16:40 ID:Fp6XpCQA
>>ある鍛冶師の話
>>('A`)

この二つで騎士子十杯はいける
276名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/11(金) 23:19 ID:CLFyvWhY
ちょっと落ち着いて来た所で、皆様の感想への返事を交えつつ…、
ささやかな後書きっぽいものを書かせて頂きます。

>>265さん
感動も希望もあったもんじゃない駄文でしたが、楽しんで頂けたなら最上です。
>>266さん
もう手遅れな気もしますね…あまりに死なせすぎました。
いい選択ですか…そう言って頂けると救われます。自分でも何でか分からないん
ですけどね。
>>267さん
バニに関しては内輪でも賛否両論でした。
ですが、エピローグでセシルが成長を見せたのは、彼があっての事でしょう。
アルバートはジョンと決着を着けません。
万が一にも。
>>268さん
対スレード戦は出来るだけ書きたい事を書き切ったつもりです。
初期から考えていた事ですが、ROは一人の物語ではなく、プレイヤーの数だけ
ドラマがあるMMORPGです。その分、多くの視点が生む必要があったと思います。
その結果としてキャラが濃くなってしまったのでしょう。
次回作は…分かりませんが、セシル補完はいつかやりたいですね。
>>269さん
熱いソウルで燃えてください。私は燃えも萌えも大好きです。
>>270さん、271さん
最初から読んでくださった方は本当に少ないのではないでしょうか。
いつぞやはお見苦しい場面を…申し訳ありませんでした。
漫画ですか…まあ、SSとしては奇異ですからね…。
ROアニメについては…観られる環境にありませんのでノーコメントです。
>>273さん
王道。この称号は重すぎます。ベタ。これで十分です。
でもやはり、彼らはヒーローではありませんね。
理由は想像にお任せします。
>>274さん
いや、私も余韻に浸ってますけどね…orz
本当に楽しかったなぁ…彼らを書いてる時が一番楽しかったですよ。
>>275さん
あ、題名付けました。
Ragnarok Online Side Story "Daughter Of Ymir"
さすがに作品名が('A`)だと…。
ちなみに、終章の題名はラテン語で「呪われた者(達)」
エピローグは同じくラテン語で「光」です。

次はにゅ缶の小説スレにでも行こうかなぁ…。
277名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/12(土) 08:32 ID:RD9qbKHk
>>276
私の知り合いが、別のゲームの二次小説で
「ゲーム世界の中での主人公はゲームそのものであり、プレイヤーそのもの。
でもその世界の片隅では名もない登場人物たちの数多のドラマがある」として
一つ一つがとても濃い作品群を産み出していますよ。
そしてそれらは全体として彼流の解釈をしたもう一つのゲーム世界となっています。
>でもやはり、彼らはヒーローではありませんね。
これをみてそんなことを思い出しました。
278名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/12(土) 14:16 ID:nlDXFaEA
そうかぁ・・・同じ目線の話だったから、あんなに入りこんでしまったんだな
いい作品だったよ

リレーも同じ事が言えるんだから、負けられないな
279名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/12(土) 15:22 ID:zJaCZdtU
>('A`)氏
んや、反発あるの覚悟で言わせて貰うと、
主要人物がかなり特殊な事情の過去・設定<元・特殊部隊の超エリートとか実は人造
人間だったとか魔剣使いとか>を持たされてるのを知った時点で、話を面白くする
装置だから仕方ないのはわかってますけど、
「一プレイヤーの視点」みたいな感情移入は出来なかったし、主人公は(こういうと
陳腐でスマソですがが)愛の為に立派にヒーローやってたように見えます。(('A`)氏の
ヒーロー解釈とは違うとなると、その本物のヒーローってのも見てみたい気が(笑 )

ただ、王道に燃えストーリーでエンタテインメントとしてはかなりのものだと思います。
これで諧謔表現も磨けばSS的に隙無しになるかもしれません。今後も期待してます。

……なんか偉そうな講釈垂れましたが、マンセーばかりではどうかと思うひねくれ者
なりの愛情表現ってことでひらにご容赦を。
最後に、大長編良作GJ&お疲れ様でした。
280名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/12(土) 15:37 ID:hgRwoGI6
>279
いい批評だとおもた
281279sage :2004/06/12(土) 16:21 ID:zJaCZdtU
うあ、
>「一プレイヤーの視点」みたいな感情移入は出来なかったし、
この部分は('A`)氏自身ではなく、>>277,278のレスにかかってますね、
混乱招くような書き方して申し訳ありません。
282名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/12(土) 17:33 ID:fjcyOe0I
流れをぶった切ってSS投入


…できん!
このまま余韻をどうぞ!
283名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/12(土) 17:49 ID:2WDbW3ok
前後を読んでみて、流れ的に出すべきではなかったかなと(´・ω・)
とは言え、後押しされたので懲りずにヽ(`Д´)ノ

余韻ぶったぎってごめんなさい。
284ある鍛冶師の話(2-0.5)sage :2004/06/12(土) 17:51 ID:2WDbW3ok
 それは多分悲鳴だった。

 「・・・・・ッ」

 丑三つ時、プロンテラの町の一角で一人の鍛冶師が目を開けた。
 作りかけの鋼鉄を抱えたまま、どうやら眠り込んでしまったらしい。
 街路樹の下で人目を避けるように打っていたそれは、熱を失せた色を見せながら、
 見事にその存在感をなしていた。

 手に握っていたハンマーを慌ててカートに押し込むと、
 作り上げた鋼鉄や鉄くずを整理しながら几帳面にしまっていく。
 残る金敷きには月を模したエンブレムが刻まれている。

 「・・・・、・・・・・」

 その月を指先でなぞりながら鍛冶師、ジェイは小さく溜め息をついた。
 目の奥閉ざせばあの赤い色。
 その色と等しい色にまで熱を与えたはずの金敷きはもうすでにすっかりとその熱を、
 下げてしまっている。

 少し戸惑うように唇を開いて、名前を呼ぼうとしたのかもしれない。
 けれどそれが誰かの名前を呼ぶ事はなかった、かわりに出てきたのは、

 「蘭(ラン)」

 異国の匂いのする名前だった。


 蘭、花の名前の暗殺者とジェイが知り合ったのは今から十年は前になる。
 当時兄達の見よう見まねで作り上げたダマスカスに惚れ込んだ蘭から、
 自分のために武器を作って欲しいとそう、言われたのだ。

 出会いはゲッフェンの春の通り道。

 春先と言えば浮かれる男女の二人組みを見かけるものだが、
 だがしかし相手は目つきの悪い暗殺者。
 店の前の通り道に構えた小さな露店をわざわざ覗き込んだ青年は、
 自分よりもいくつか下の少年の作り上げたダマスカスを見て、
 たった一言言ってのけた。

 「私が探していたのはこの武器だ」

 僅かに火の魔力を込めたダマスカスは少年が半年も費やして作り上げた、
 初めての作であった。暗殺者は話し掛けられておどおどと自信なさそうに目を伏せる様子に、
 唇の端を不器用にあげてみせると、これをくれと言葉を続けた。

 その出会いはほんの些細な偶然ではあった。
 けれどその少年に与えた喜びは計り知れなかった。

 店先で代金を受け取るなり目を見開いたまま、ポロポロと涙をこぼしはじめた少年に、
 暗殺者は戸惑うように慌ててその頭を撫で回した。
 少年はその無骨な手に撫でられて暫く、びくりと肩を震わせて黙りこんでいたものの。

 すぐしてまるで曇り空から差し込んだ日のような笑みを、暗殺者に向けたのだった。


 そしてその暗殺者は、ほぼ毎日のようにこの少年の元へときては武器を乞うようになった。

 「君の腕は素晴らしいものだ。私が言うのだから、自身をもってくれたまえ」

 いやに偉そうに言う暗殺者を振り返りながら、少年、ジェイは眉を寄せながら言う。

 「いちいちお使いにまで、付いて来られても困るんやけど」

 カートの音がカラコロと鳴り響く。そのカートの中には鍛錬前の鉄鉱石が幾つも押し込まれていた。
 歩くたびになる音を聞きながら、ジェイは今日もこりずについてくる暗殺者に話し掛ける。

 「なぁ、私はただお前のジェイとう銘の入ったその武器だけがあれば、
  きっとどこまでもいける」

 頼むから作ってくれないかそう続く言葉にジェイはふと足をとめた。

 「・・・・・・、そういえば俺はアンタの名前をきいとらん」

 ふとした言葉のつもりだったのだが、暗殺者はひどく驚いた顔をした後、
 いやに嬉しそうな顔でにへらと表情を緩ませるて、

 「蘭。花の名前だ、ランと言う」

 男は確かに目つきが悪く暗殺者ではあったが、不思議と人好きのする笑みをしていた。
 名前を聞いて、ジェイが小さくそれを反芻すると、蘭は猫の子のように目を細めて、
 あぁなんだいと言葉を返した。

 「・・・・・、アンタ、そんなことが嬉しいん?」

 思わず聞いてしまった問いにジェイは不味いことを聞いたかもしれないと、
 咄嗟に口元に手を当てた。けれど蘭はほんの少しばかり眉を寄せた程度で、
 変わらぬ笑みのまま。

 「あぁ、嬉しいさ」

 ジェイは呆れたように目を細めたものの、けれどどこかでこの暗殺者に武器を一つぐらいは、
 作ってやってもいいかもしれないと思い始めていた。


 春が過ぎ、花も散り、緑葉が茂り、そして色を変えて。


 再び花が咲く季節巡る頃に、少年は。

 降ろし立ての白いシャツを着込むと、照れくさそうに三人の兄の前で言った。

 「俺は今日で家を出る。蘭さんと一緒に世界を回るんや」

 末っ子のこの我侭にはじめこそ三人は反対していたものの、
 いつもは引っ込み思案なこの少年が、やっと言った我侭を兄達は聞いてやらないわけには
 いかなかった。

 新品のカートを引く腕はそう丈夫そうには見えなかったものの、
 少年の隣には花の名前を持つ暗殺者が恭しく頭を垂れていた。

 兄達それぞれに蘭は頭を下げながら、必ず無事に連れて戻ってくると、
 そう言ってのけた。

 兄達に聞けばきっと言うに違いない。
 あの暗殺者は信頼にたる人物であったと。

 本当に奇妙な暗殺者であったのだ。
285ある鍛冶師の話(2-0.6ぐらい)sage :2004/06/12(土) 17:52 ID:2WDbW3ok
 ゲッフェンを出て数ヶ月もすると、
 嫌がおうにも少年の両腕は逞しくなっていった。
 砂漠の熱さをこえればそこには暗殺者の故郷の町、モロクが待っていた。

 降り注ぐ太陽が体ごと全てどろどろに溶かしていきそうな感覚さえ、
 あたえるほどの。灼熱の大地。

 晴れ渡った空はゲッフェンで見ればこそいとおしくさえあれば、
 この大地においては最早嫌悪の対象にすらなりかねない。
 カートを引く両腕から力が抜けるのを感じながら、ジェイは隣を歩く蘭を見上げた。

 まだ少し背は追いつかないものの、この暗殺者のために作った幾つかの短刀は、
 いつも魔物を狩るときにはその手に握られていた。
 ジェイはそれを見る度にその武器を作り上げた自分の両手を、
 いとおしく思うのだ。

 「・・・・・、しかし流石にここまでくると、帰って来たという感覚だな」

 蘭が眉を寄せながら見つめる先の門を、視線をたどるようにジェイがあとから見つめる。

 「モロクは兄達が治安が悪いから、気ィつけろと」

 言われた言葉に蘭が小さく噴出した。声を殺すように笑うと、ジェイの頭をひと撫でし。

 「大丈夫。こう見えても元はアサシンギルドの重役だったんだ」

 元、という言葉に目を瞬かせるジェイを、蘭はそういってたしなめた。




 門をくぐり通りを歩くと、さまざまな雑貨を並べた露店街が続く。
 地べたに布をしいて広げただけの店だというのに、活気は首都のそれと同等だ。
 ゆきかう人は皆、麦藁帽子や布を頭にまきつけて日差しをふせごうとしている。

 あまりの暑さにジェイが眩暈を起こすように足元がふらつくと、
 蘭が大慌てで近くの露店で笠を買うなりかぶせてくれた。

 「さて今日の宿だが」

 そう話し始めた時、通り道で血しぶきがあがった。
 びくりっとジェイが体を硬直させると、蘭がそれを背に庇うようにしながら通りを見つめた。
 その先に見えるのは、大きな紫の鎌。そして二つの渦を巻く角をもつ山羊の姿。
 小さな山羊の魔物の子供たちは、通りに広がった露店商を食い荒らしながら、
 逃げ惑う人たちの合い間を駆け抜けていく。

 ジェイは嫌な予感がしていた。

 咄嗟に蘭の暗殺者装束のはしを掴むと、蘭はその手を黙ってはずしながら軽く握り返した。

 「大丈夫。大丈夫だよ、ジェイ」

 それはいつもなら確かに重みをなして響くものの、今は何か違った重みを持つように聞こえた。
 蘭は小さく不器用に唇をつりあげた、そして腰元から磨き上げられたカタールではなく、
 使い古した刃の作りが粗いダマスカスを手に握り締めた。
 それは、ジェイという銘が刻まれた、彼の初めて作り上げた武器であった。

 「・・・・・・・大丈夫。私にはこれがある」

 鈍い光を少し赤く放つ刃を蘭は勢いよくふりあげると、人ごみの中、
 露天商を開いていた商人にまさに振り下ろそうとしていたその鎌に向って、
 思い切り弾き飛ばさんばかりに凪いだ。

 はじかれる金属音。
 そして山羊の両目が、一人の暗殺者の姿をとらえる。

 「・・・・・・・蘭!」

 助け出された商人が逃げ出すのを横目にしながら、暗殺者は少年の声を聞いた。

 「帰ったら、私のために刃を」

 そういって駆け出した暗殺者はそのままもう二度と、振り返ることはなかった。


 逃げる人ごみにまぎれて押し流されながら、
 それでもかきわけるように進んだ先から唐突に歓声があがった。
 どうやら魔物は倒されたらしい、ジェイはあの暗殺者の姿を探した。

 「蘭?」

 まだ若い鍛冶師がこの惨劇のあとを駆け抜けるのを人々が哀れむように視線を向けていた。

 人ごみの中心には山羊が倒れていた。
 そしてその前には一人の暗殺者が手に折れたダマスカスを持って、赤い中に。

 「・・・・・・、蘭?」

 少年の声に暗殺者は答えようとしたのか、僅かに身じろぎした。
 けれどそうして伸ばされるはずだった指先からダマスカスが零れ落ちると、
 続いて聞こえたのは叫び声にも似た悲鳴だった。


 それからだ、ジェイはゲッフェンに帰ってからすぐ、二度と武器がうてなくなっていた。
 あのただ唯一の人と決めた人物のために作り上げた刃は、二度と、
 二度とこの世にでることはなかったのだ。


 ジェイは僅かに湿った風の吹きつける街路樹の下で、
 再度その名前を呟いた。
 けれど当の昔に失われたその名前の主は答える事もない。

 「・・・・・、」

 かわりに、再び目を閉ざすと彼が呼んだのは、
 あの赤い髪の少女の名前であった。
286ある鍛冶師の話(2-1)sage :2004/06/12(土) 17:54 ID:2WDbW3ok
 紫陽花の植木鉢を抱える銀髪の主人の後姿を見つめながら、
 蓮はふと外に視線を向けた。プロンテラ騎士団のペコペコ舎の前で笑っているのは、
 リツカだ。ヘルムをしないでいる彼女を見ていると印象的に残るのがその、赤い髪。
 風に髪を吹かせるがままにしていれば、見栄えのする騎士姿だ。

 恐らくは、蓮はそう言葉を飲み込んだ。

 あれは将来名の知れ渡る騎士になるだろうと。

 「しかしあれだな、国が冒険者にギルドを作ることを許せばこの有様だ。
  国を守るために作られたギルドが逆に国を蝕んでいる」

 そう言ったリツカに対して淡い緋色の髪の聖職者がそうね、でもと切り返す。

 「一つの大きなギルドが全てを占めるのでは、ただの軍部統括にすぎない。
  こうして争わせることでその力を常に大きくしていく、・・・それが狙いだと思うわ」

 友人である聖職者にそう丸め込まれると、リツカは小さく舌打した。

 「俺はだから、コーリアが嫌いなんだ。頭のいい聖職者は面倒なだけだな」

 本当にと言わんばかりに赤い瞳が聖職者、コーリアに向けられる。
 するとコーリアはむ、っとしたらしい唇を尖らせてリツカを睨みつける。

 「頭が悪いよりはいい方がいいに決まってるわ。
  大体ただのVIT馬鹿に何がわかるっていうのよ、国を憂える気持ちなんてね、
  わかりあえっこないわ」

 馬鹿の下りあたりでリツカの眉が盛大に寄せられると、
 次の瞬間リツカは僅かに低くした声で返した。

 「そのVIT馬鹿にいつも守られているのは誰だ?」

 コーリアはそれを見てぐっと言葉をつまらせる。
 ふふん、それみたことか。そう態度で言うように腰に手を当てるリツカを見て、
 コーリアがまた口を開こうとする。

 と、そこへ。

 「リツカちゃん、ジェイさんがきてるよ?」

 ぱたぱたという軽い足音ともに、リツカの義姉たるイリノイスが走ってくる。
 ペコペコ舎までやってくると彼女は目をかがせながら、二人を見て。

 「ところでいつ、ペコペコにのせてくれるの?」

 ワンテンポ遅れて追いついた蓮が小首をかしげて問うイリノイスをひょいと、
 横に抱き上げる。軽々と持ち上げられたのに瞬く義姉を見つめながら、
 リツカが我に返る。

 「蓮、いいか。姉さんはお前のものじゃない」

 そうしてまた始まりそうになる口喧嘩に対し響いた声は、

 「・・・・・・、あの、俺が居ては不味いんでしょうか」

 眉をよせたままカートを引いてやってきた鍛冶師の姿がそこにあった。


 昼下がりのプロンテラ南広場には、臨時のパーティを募る看板が立ち並ぶ。
 その一角にある花壇のそばのベンチに腰を下ろすと、リツカは隣の男を黙って見つめた。

 彼女の彼への第一印象は物好きである。
 それにつきる。
 自分のような駆け出しの騎士に武器を作らせてくれという鍛冶師はよっぽどの馬鹿か、
 ただこの自分達のギルドに取り入ろうとする輩だろうと思っていたからだ。
 恐らく彼は前者ではあろうが。

 「・・・・・、いい、天気やね」

 自分よりは僅かに年が上である鍛冶師の横顔を見つめながら、
 リツカが黙って相槌を返す。鍛冶師は僅かに居心地が悪そうに目を伏せながら、
 あぁ、と小さく言葉を洩らす。

 「なぁ」

 それをリツカの声がさえぎる。

 「ジェイ、言いたい事があるならはっきりしないか?」

 鍛冶師、ジェイは遮られたとともに顔をあげたものの、
 少女の向ける赤い瞳に目が合うと途端口元を抑えて目線をそらす。
 リツカには具合が悪いようにしか見えなかったのか。
 なにやら困惑気に眉を寄せてそれを見つめている。

 「い、や。頼まれていた鋼鉄なんですが、仕上げたんで」

 「あぁ、そのことか。なら別に俺を通す必要もないだろう」

 ぐ、っとジェイが唇を噛む。
 無理だと言いかけた言葉の向こうから、絶交ですよの声が響き渡る。
 それとともにジェイの眉はこれ以上にないほど寄せられていく。

 「・・・・・・一緒に、」

 あの花束をもらった日のように、ジェイの言葉がたどたどしくも響き渡る。
 リツカは音を洩らさないようにと、相手の意思を汲み取るべく必死に聞き入ろうとする。

 「で、でー・・・・・」

 次の言葉でジェイは肩を落とすと、

 「一緒に炭鉱にいってもらえませんか。一人じゃ俺、不安で」

 続いた言葉に近くの茂みで旦那駄目だろそれじゃぁという声が聞こえたようだが、
 リツカはきょとりと目を瞬かせたあと首を傾けて、

 「別にかまわないぞ」

 そう快く返事を返した。
287ある鍛冶師の話(2-2)sage :2004/06/12(土) 17:57 ID:2WDbW3ok
 ベンチの端に隣の鍛冶師を盾にしながら座る商人は、やや居心地悪そうに目線を上に上げていた。
 午後も無事に晴れるとそう言っていた宿屋の娘の言葉を思い出しながら、
 すぐ横で黙り込むようにしている二人をちらりと横目にする。

 商人は暗殺者でもなければ、盗賊家業をしているわけでもない。
 気配を絶つことなどできずに声を上げれば、無論のこと二人にはすぐ気づかれていた。

 「・・・・・、そういえば」

 赤い髪の騎士がヘルムを少し深めにかぶり直しながら商人のことを見返した。
 赤い目がその奥から見返すのを、商人は不躾にならないように控えめに見返す。

 「アンタの名前を聞いて居なかった。
  できれば教えてもらえると嬉しい」

 背を盾にしている鍛冶師の方はと言えば、僅かにその身を強張らせたようで。
 商人はそれに思わず額に手を当てると、ただ静かに言葉をこぼす。

 「ルード、と言います。あっしの事はいいんですよ、ええ」

 ええ、と頷くルードに騎士はきょとりと目を瞬かせる。
 そういう動作は幼くみせるようで、騎士というよりはまだ剣士にすら見えた。

 「炭鉱への行き方、だったか」

 首都から歩いていくには少し時間がかかり過ぎた。
 泊りがけというのなら別段問題はないもののそうなると、
 今度はギルドの方の職務をあけることになってしまう。

 少女の立場上数日も首都から席をあけるというのはやや難しいらしい。
 渋い表情をしてみせると、かわりに今度は鍛冶師へと視線をうつす。

 「どちらにせよ急ぐというのなら、カプラサービスでも構わないだろう。
  どうにか経費で落として見せるさ」

 そう言って少女が笑うと、鍛冶師は情けなさそうに肩を落としながら、
 お願いしますと小さくこぼした。そんな様子を見ながらルードは、
 やはり額に手を当てるのだ。



 カプラサービスの転送サービスで一旦ゲフェンを経由するとそのまま、
 アルデバランへ。そうして炭鉱までやってくると、
 少女は腰に下げている長剣を軽く引き寄せる。

 「なんだったら俺一人でもかまわないぞ?」

 炭鉱の入り口で振り返る少女が後ろの鍛冶師と商人にそうこぼす。
 鍛冶師は目の前の少女にすまなそうに頭を下げてみせると、

 「せやけど、俺が頼んだ事やから」

 行かないと、とそう鍛冶師は口ごもる。
 ルードはほとほと呆れたように目をそらすと、そこで一つの看板を見つけた。

 『簡易転送サービス:首都、フェイヨン、ゲッフェン、修道院』

 看板を立てているのは眠たそうに欠伸をしている金髪の聖職者だ。
 短く逆立っている髪を見て、それから目元の黒いサングラスと口元の煙草を見つめる。
 ・・・・・、それでもルードは僅かに拳を握り締めるとカートを引きながらそちらへと歩き出した。

 「すいません、修道院まで二人分。首都まで一人分お願いします」

 突然別行動をとりはじめたルードに二人が目を瞬かせる。

 「ジェイは炭鉱で鉱石をとりたいんだろう?
  ルードが行きたくないのなら、俺とジェイで行ってくるから俺たちの分は」

 少女が慌てて言った言葉にルードがいーやと言いながら、首を横に振る。

 「旦那、いつまでもあっしがお膳立てするわけじゃないんですぜ?
  ・・・・・・わかったら、さっさとポタに乗って、楽しんできてくだせェ」

 息も荒く言うルードを見ながら、鍛冶師ジェイは言葉をつまらせる。
 つまらせるジェイを見ながら、騎士リツカは小首を傾げる。

 これは絶対進展しないとルードが溜め息をつく。

 逆毛の聖職者は目の前のやり取りを見ながら、小さく詠唱を唱える。
 唱え始めた様子にリツカが慌てて聖職者の下へと向う。

 「いや、俺たちはここで狩をするのでお気使い」

 無用とでも言いたかったのだろう、リツカが近づいてくると聖職者は言葉を閉ざす。
 そして「む」の形に開かれた唇が音を発しようとした瞬間。
 淡い青い光がリツカの足元に現れる。

 新手の闇ポタの使い手だったようだ。
 目の前に来た少女がぎょっとしたように目の前の聖職者を見返す。
 それと同時に聖職者は、口元の煙草ごと唇をつりあげて片手を振った。

 「いい休日を」

 消えていくリツカの姿に大慌てでジェイがその光の中へと走り出す。
 ルードは消えていく光を見つてから、瞬きを繰り返して聖職者へと視線をうつす。
 ゆるりとのぼる煙を視線で追いかけながら、聖職者は片手をひらりと差し出した。

 「さて、お代を」

 言われたルードが大慌てで払うのを、聖職者は笑いながら見ていた。
288ある鍛冶師の話(2-3)sage :2004/06/12(土) 17:57 ID:2WDbW3ok
 青い光の先に見えたのは、
 淡い色をつけた花々のど真中。

 「・・・・・・・・、モンクギルドか」

 溜め息まじりに吐いた言葉の次に、リツカは隣でカートを持ったままうっそりと目を伏せる
 鍛冶師を見上げる。

 「・・・・・どうせだし、デートでもしようか」

 苦笑いを浮かべながらリツカが言うと、ジェイは自嘲気味に笑みを浮かべながらええと頷いた。

 修道院という名前の通り、ここは今でも聖職者達それも肉弾戦を得意とする人々が生活をしている。
 そのうちの幾つかは一般に公開されており、劇場、結婚式場、などなど時折沢山の人を見る事が
 できる。

 カートを引きながら後ろを付いてくるジェイを時折振り向きながら、
 リツカは先ほど自分が冗談のつもりで言った言葉を反芻していた。

 デート、か。

 なれない言葉ではあった。
 日頃義姉である銀髪の聖職者の傍に居れば、自分が女であると言う意識はどこかへと飛んでいた。
 少女にとって、姉の存在は絶対であり、彼女を守り生きると言う事がある意味この少女の騎士で
 ある理由ですらあった。

 ふいにこの花の中であればあの姉は相当喜びながら、花摘みでもしそうだなとリツカは思った。
 なにしろかなり世間からずれているかの聖職者は、ペコペコに乗りたいだの、グリフォンに乗り
 たいなどとあげくは、グラストヘイムの一角にあるとある剣を引っこ抜けば世界が変わる、などと。

 とかく小さい頃から本に囲まれて育ったらしい彼女を、幼い頃から傍に居た身としては、
 常に自分が傍に居て守らなければいけないと、そうリツカは心に決めていたのだ。
 リツカ達の養い親である騎士はある暗殺者を彼女の傍にいつも置いてはいるものの、
 特にリツカはその暗殺者が気に食わない。

 人のよさそうな笑みを浮かべてはいるものの、暗殺者は暗殺者だ。
 自分達とは正反対の位置にその信念を置くものたちを、どうして信用できよう。

 いつの間にやらしかめっ面になっていたらしい、気づけば鍛冶師は隣まで歩み寄ってきては
 こちらの表情を困惑気に見返している。

 「あぁ、すまない。別のことを考えていた」

 「・・・そう、ですか」

 なんだか言葉を少なめにしながらジェイが目をそらす。
 リツカは途切れた言葉にどうしたものかと目線を彷徨わす。

 どうにも、苦手かもしれないなとリツカが思い始めたとき、鍛冶師が歩みを止めた。
 落下防止のために植えられた木々の合い間から、青い色が見えた。

 「・・・・・・・海」

 小さくもれた言葉を見上げて聞きながら、リツカは鍛冶師の視線を追いかける。
 その先には僅かに開いた葉の合い間より、空よりも深い色が広がっている。

 「いい景色だな」

 思わず口元を緩めて隣の鍛冶師を見上げる。ジェイはそれにならうように口元を緩める。

 「ええ、ほんとに綺麗や」

 目を細めるようにしながら青い色を見つめる鍛冶師へとリツカの視線がうつる。
 なんとはなしに鍛冶師の顔を覗き込むと、すぐしてジェイの上ずったような声がもれた。

 「・・・・・な、んなん、ですか」

 「・・・・・・・・いやな、なんとなくキスでもしたいような」

 リツカの悪びれない言葉にジェイが軽く噴出す。
 それを見ながらリツカが盛大に大笑いをする。
 赤い目の端に涙を浮かばせるほど笑って見せると、リツカが笑みを引っ込めて鍛冶師を見返した。

 「冗談だ」

 一瞬鍛冶師の視線が遠くなる。

 「あんま、からかわんといてェな・・・・、俺かて男やし」

 「だが俺に恋愛感情を持つような物好きはおらんさ。
  それに俺には大事な人が居る」

 そんなことはないと言いかけたジェイの目の前でリツカは騎士の表情をしてみせた。
 凛とした気配にジェイが息を呑む。
 鍛冶師の好きな、その表情だ。

 「俺の剣も力もその人のためにあり、
  俺の盾も体もその人のためにある。
  俺は、イリノイス姉さまのためなら死んでも構わない」

 赤い目は青い色をうつしながら、視線を鍛冶師から木々の向こうへと移動させる。
 尚もそれでも赤い色の瞳を横から見つめながら、鍛冶師の表情が歪む。
 眉を寄せて、開きかけた唇を開けるが、また閉ざし。

 「す、しませんか」

 きょとりと赤い瞳は鍛冶師を見つめた。
 ふいに合った視線にリツカが瞬く。
 いつになく鍛冶視の表情は、何かを抑えるように騎士を見つめていた。

 「・・・・・キス、しませんか」

 再度響いた言葉にリツカが目を驚いたように大きく開いた。
 ジェイはカート引いていた両手を離すと、目の前の騎士の頬へと片手を添えた。

 「・・・・・・・ジェイ?」

 リツカが困惑気に鍛冶師を見返す。
 赤い瞳が揺れながら、けれど鍛冶師のことを見ていた。

 伏せられる鍛冶師の灰色の瞳を見つめながら、そう言えばこの鍛冶師の髪と目の色は、
 あの姉の色と同じであるとぼんやりと考えていた。
 男でも思ったより長い睫をしているなそう、思ったときには。

 少女は鍛冶師とそうする事に嫌悪感がない自分に僅かに驚きを覚えていた。

 「・・・・・リツカ・・・・さん」

 小さく鍛冶師に呼ばれた名前にリツカの目元に朱の色が走る。
 ヘルムを避けるように鍛冶師が僅かに頭を横にずらす。
 続けてくるであろう感触に少女が目を閉ざすと。

 代わりに触れたのは頬の冷たい感触。
 ぎょっとしてリツカが目を開けると、鍛冶師は顔を赤らめながら目線をそらしていた。

 「試作品、なんですが。
  せやけどどうにか、形にはなったので」

 頬に触れたものは先が僅かに曲がった刃の短剣であった。
 赤い色を主とした拵えの鞘には、ジェイの名前が刻んである。
 リツカが熱をはらうように片手で顔を仰ぎながら、マインゴーシュを受け取る。

 頬に添えられた手はいまだそのまま。

 「あ、ありがとう」

 「どうしてもイメージが赤やったんで、・・・・火の鉱石を入れてみましたが、
  ほんまに試作品なんで、実戦には使わんでください。決して」

 「・・・・・・火、か」

 頬の熱を意識しないように鍛冶師の言葉を繰り返す。

 「・・・・・・、キスして欲しかったんですか」

 ふと鍛冶師が問い返すと、リツカは盛大に眉を寄せた。
 それと同時にジェイが不味いことをしたと慌てて頬から手を離す。
 思わず勢いでここまでしてはみたものの、後の事など鍛冶師は考えていなかった。

 「・・・・・・・・言っとくが俺が一番嫌いなのは、馬鹿にされる事と、なめられることだ」

 僅かに怒りのこもる言葉に鍛冶師は目を伏せる。
 あぁとんでもない事をしてしまった。
 大人しく炭鉱に居ればよかったとすら、鍛冶師は考え出していた。

 と、その鍛冶師の視界を遮るものがある。
 それが少女の手であると悟ると同時に、噛み付くような勢いで触れる唇の熱の感覚。
 何であるか認識するよりも前に開けた視線の先には、
 唇を手の甲でぬぐいながらこちらを睨みつける騎士の姿。

 「・・・・・・ざまァ見ろ!」

 盛大に腰に手を当ててリツカがふんぞり返る。
 それから軽く前に見を乗り出すと、また唇を開いて真っ赤な舌をべろべろっと突き出す。

 あっかんべ、だ。

 鍛冶師が唇を奪われたのだと悟り顔を真っ赤に染める頃には、
 騎士である少女はポケットから取り出した蝶ともにすでに姿を消していたのだった。
289ある鍛冶師の話sage :2004/06/12(土) 18:02 ID:2WDbW3ok
Σ(゚Д゚;)!!すいません。2の0.5のところ自身→自信に訂正です。
290名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/12(土) 18:55 ID:xhlB3ks.
OK 完結に
 GJ 何よりもドクオ氏の後に投下できる自信、そしてそれを裏付ける筆力が素晴らしいです。NEW神キター
デ、ルードクンノ春ハマダー?
291名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/12(土) 22:25 ID:3egL5gWs
GJ(゚д゚)b
ままーりしてていいわぁ(´∀`*)

で、蝶神に触発されてちょっと書いてたりするんだけど、激しく長くなりそうな予感…。
ある程度できたら投下しに来ます…これたらいいな○| ̄|_
292名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/12(土) 23:34 ID:wTDZ9tSQ
>>279さん
設定の面から言えば、確かに英雄(この定義が私の場合ズレているのかも…)の条件
を揃えた主人公達でした。行動も伴ってます。
ただ、「思考」の面に於いて、彼らは英雄ではありませんでした。

例えば、アルバートがアウルを倒したのは、あくまでティータの為です。大義名分も
信念もありません。279さんの言うとおり、これは「愛」ですね。
逆を言うなら、もし「戦わざるを得ない状況」に立たされなかったら、彼は戦いませ
んでした。(戦わざるを得ない状況=ジュノーが浮上して脱出が困難)
ただ、ティータと共に生きたい。
この結論の前では、過去や彼自身の奇特な出生はあまり関係なかったんでしょう。

他の主人公達も似たようなものですが、解説は省きます。
結局、みんな最後は元凶っぽいトリスタンも放置してますしね。

一プレイヤーの視点については、やはり残念ながら「否」です。
多視点ではありますが、平凡な視点ではありませんでしたし…私には無理かとorz

今後は…御期待に答えられるよう、精進します…としか('`;)ガンバロウ

>>289さん
正直なところ、私なんて大した奴じゃないので、ガンガン行ってください。
むしろ、スレが止まったら寂しいじゃないですか!
私も余韻はほどほどに、新しい作品を読ませて貰おうと思ってます。
っていうか、読んでます。だから書く事を楽しみながらも頑張って下さい。


やっぱり、文法変っぽいなぁ…私。
293名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/12(土) 23:40 ID:wTDZ9tSQ
連投です。すみません。orz

>>291さん
是非投下してください。
そして、私より長くしましょう。きっと、ROSSの繁栄に繋がります。

…嘘です。あの長さには反省してます。('`;)

やっぱり、SSスレって好きだなぁ…。
294どこかの166 リレー 聖女と聖女sage :2004/06/13(日) 02:08 ID:PLOYwC1U
 打撃音。剣戟の叫び。人の雄叫び。人でない者達の歓喜の声。
 宴は今や盛り。血をワインに。肉をパンに。
 素晴らしきかな平等の楽園。
 死が主催する宴――戦場――は確実にプロンテラに迫っていた。

 歩けるものは幸せだ。生きる意思があるのだから。
 大聖堂から酒場までの道のりがこんなに長いものだとはクレアは始めて知った。
 歩けないものは、肩にかつがれ、背負われ、もしくは既に生を捨てて、彼らなりの選択を済ませている。
 生きる意思が無いと死ぬしかない。それが戦場の掟。
 クレアは泣きながら歩く。
 魔力はとうに尽き、ハーブで補っても補ってもすぐなくなってしまう。
(泣くな。私にはまだ救わないといけない人がいるっ!
 私が泣いてどうする。彼らは私が救わないと……)
 だからこそ、クレアは気づくのが遅れた。
 酒場の前にバフォ帽子をかぶったプリーストがいる事に。
「お姉さまっ!」
 クレアの知らない聖女。だが彼女は「姉」と呼んだ。
 神に仕える姉妹として当然の事だったが、後に彼女は激しくこの事を後悔する事になる。
「泣くなっ!
 最後の希望である貴方が泣いて、他の人に希望が与えられると思っているのっ!」
 凛とした叱咤の声が聞く者全てに生を思い出される。
「戦闘型だからあまり期待しないでよ……
 主に命ず!主の代行者として主の力を行使せん!
 奇跡をっ!生の力を結界としてかの者達に主の奇跡をっ!!」
 教会で習った回復の魔法と違う遥かに高圧的な真音が酒場を包み込んだ。

「サンクチュアリっ!」

 圧倒的な力がクレアを含む怪我人を包み込む。
(これが……プリーストの……神の力……)
 最初は感謝を、そして己の非力を、最後に世界の不条理を思った懺悔を神に祈りながらクレアは聖女に尋ねた。

「ありがとうございます。お姉さま。
 いったい……教会は何を……」
 クレアの言葉を聖女は手で制し、クレアの知らない言葉を尋ねた。
「状況を説明して。『クルセイド』は何処まで進んでいるの?」
295どこかの166 リレー 魔女と聖女sage :2004/06/13(日) 02:13 ID:PLOYwC1U
「おい!大司教様の命令でプリーストは大聖堂に集合というのを聞いていないのか!!」
 酒場からふいに張られた聖域結界を見て駆けつけたクルセがママプリに気づき、剣を構える。
「ついに現れたな!魔女!!
 貴様を誅し、神の国への供物にしてくれ…!」
「遅い。私が去ってからの教会はここまで堕落したの?」
 クルセの言葉を遮ったのは、ママプリが突き刺したソードメイス。ゆっくりと倒れるクルセに誰も事態についていけない。
「お、お姉さまっ!一体何を……」
「殺さないと私が殺されていた。それだけの事よ」
 第三者の声が聞こえた。人では無く子バフォの声が。
「義母よ。そろそろ追っ手が迫っている。出るなら今のうちだぞ」
「分かったわ。収穫が無いのは悔しいけど、一度外に出ましょう」
 クレアの手にママプリはイグ葉を渡してやる。
「彼を生き返らせるのなら生き返らせなさい。
 ただし、それが正しいのか正しくなかったのか神に祈る前に自分で考えなさい」
 そう言って立ち去ろうとするママプリにクレアは声をかけた。
「待ってください!」
 何も知らない。
 何も分からない。
 何も出来ないという事が、こんなにも苦しくて悔しい。
 けど、彼女は何かを知っている。
 ならば、それをあの人に伝えるべきだ。
 クレアは差し出されたイグ葉にクルセの血で文字を書きママプリに返す。
「あの人は多分知っています」
 そのイグ葉をしばらく眺めたママプリはそれを受け取って呪文を詠唱する。
「主に命ず!主の代行者として主の力を行使せん!
 奇跡をっ!迷える魂を現世に留めこの者に主の奇跡をっ!!
 リザレクション!!!」
 倒れていたクルセに生の鼓動が蘇る。
「……私は負傷者を助けます。
 この街は負傷者でいっぱいです。
 だから、なにか問われても負傷者の事しか頭に残っていません」
 そう言って微笑んだクレアの笑みはまぎれも無い聖女のものだった。
「ありがとう」
 一言だけ言って、ママプリはクレアの元から去ってゆく。
 今はまだ救う人がいる。
(後悔も懺悔も全て後でしますから……主よ……どうかこの悲劇を止めてください……)
 かつて学者先生に痛罵された言葉をそのまま祈りに使っていた事に気づかず、クレアは心の中で祈る。
 クレアには救うべき人がいる。
 そして、これから救われようと彼女を求める人たちがいる。
296名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/13(日) 02:24 ID:BP/Rn5ns
>>294-295
休日前で起きてて良かったと思ったクレアの名づけ親がここに落ちています。
立派になってまぁ…オカアサンハ嬉シィヨ
297どこかの166 リレー 魔女と聖女sage :2004/06/13(日) 02:27 ID:PLOYwC1U
>('A`)さま
 完結お疲れ様でした。
 いろいろと賛辞の言葉を考えていたのですが、それをまとめる文才もないのでただ一言。
 GJ!
 と。
 ここまでの王道を見せてくれた('A`)さまはりっぱな文神様です。

>283さま
 あたらしい文神さまキター!
 神が神を呼ぶこのスレ大好きです。
 どうかこれからもすばらしい話を投下していってください。

>291さま
 /go

>リレー参加者各位
 地上魔族編進めました。
 へっぽこアコのクレアさん、ママプリに合わせて学者先生とコンタクトが取れるようにしました。
 ……このままクレアさんプリ化も考えていたのですが、さすがに人様のキャラゆえそれはまずかろうと(汗)。
 これで、地上は話として収束の方向に向かえばと……あ、教会の暴走止めないとorz。
298どこかの166 :2004/06/13(日) 02:33 ID:PLOYwC1U
そして、次スレ誘導って……たしか前スレも私がしたような……(汗)

【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第6巻【燃え】
http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi/ROMoe/1087126244/
299名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/13(日) 13:15 ID:BP/Rn5ns
>>166さま
クレアについては、どーとでも料理していいよ、と生みの親の丸い帽子氏から許可を頂いてます。
私も同様。まぁ、煮ようが焼こうが、それでリレーがイイ感じになるならご自由に。というかむしろ
やっちゃえー、やっちゃえー。
で、翌日になって294-295を読み返してみたのですが、クルセ氏を“ママプリが”生き返したのに
何か含みがあるのはわかるんだけど、どんな含みなの? とか、イグ葉に書いてあるのは学者
先生の名前? 居場所とか? とか。読解力が無い私はコロコロしてます。

ママプリ、主に命じちゃうんだ…つよー…

文章書きたい病がまたでてきましたので、地上編をどーにかするかもしれません。事象は単純に
するのがいいよね、と。
300どこかの166sage :2004/06/13(日) 16:34 ID:PLOYwC1U
>300さま
 クルセの件ですが、ママプリから見て学者先生を教えてくれた情報提供料みたいなものです。
 あと、目の前で潰える命に対してクレアがどう振る舞うのかというテストも少し。
 彼女はイグ葉を返す事で一人の命を捨てて大勢の命を救おうとした。リザレクションはその「未来の聖女」がかけさせたものでしょう。きっと(笑)

 イグ葉に書いているのは名前の方ですね。居場所書いたら上水道にママプリ乱入ですから(まて)。
 ママプリ>バフォ>魔族経由で上水道で何が起こっているのかが分かれば、地上は(書き手にとって)一気に楽になると。

>ママプリ、主に命じちゃうんだ…つよー…

 普通のアコプリでしたらきっと「願う」とか「祈る」でしょうね。
 ただ、魔に堕ちても神聖魔法を行使できるとなると少し高圧的にと思って「命ず」と。
 詠唱の文面を考えるだけで、その人の力が分かる日本語の素晴らしさとややこしさに悶絶している今日この頃……(苦笑)
301一個前の201sage :2004/06/14(月) 10:46 ID:yp5bJNJI
今更・・・名乗るなら201じゃなくて50番台ではなかったろうか?と思いつつ

新スレ立てお疲れ様

またもやこっそり埋め&練習
302一個前の201sage :2004/06/14(月) 10:49 ID:yp5bJNJI
雲一つない濃紺の空。瞬く星も霞ませてしまう満月が、草原を柔らかく照らす。
風はない。
獣も、虫も、木々も、草も、何一つ音を立てない。世界そのものが深い眠りに落ちた、真の静寂。

白い少女が、そこに立っていた。
目を閉じて、少し顎を引いて。
白く滑らかな肌を申し訳程度に隠す踊り子の衣装と
月明かりに照らされて金色に輝く本来は純白の細く長いまっすぐな髪が
小柄な少女の体を覆う。
風景に溶け込む様に、彫像の様に、静かに。

そよと風が流れ、さわりと草々が囁く。
少女の瞳が開かれ、空を仰ぐ。青く透ける瞳が虚空を見据える。
ゆっくりと、右の腕を振り上げる。手首の飾りについている鈴がしゃらりと鳴いた。
まるで地上を照らす月を掴もうとするかの如く掌を握る。
握った手を胸元へ、左の掌を添えてまるで抱きしめる様に、胸の中にそっとしまいこむ様に。
また、鈴が鳴る。見えない誰かを誘って差し伸べられる右の腕。
差し出した腕を右に流して畳み、左腕を勢い良く前へ。左足を浮かし、右の爪先で立ち、くるくると。
草原を舞台とし、満月を照明とし、木々を観客として、少女の舞がはじまった。

ただ鈴の音だけが草原を滑り闇に散る。

引き止める言葉を持たなかったが故に違う世界へと旅立っていった者を想い、少女は踊り続ける。

ただ『私を忘れないで』と。
303一個前の201sage :2004/06/14(月) 10:52 ID:yp5bJNJI
あー・・・何がしたかったのかと言えば
幻想的な雰囲気という奴を演出出来ないものか?という実験
相変わらず板汚しでスマヌ
304名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/14(月) 13:53 ID:Jc50lwTU
あんまり、ひらがなは乱用しない方がいいかも。
(そよ、さわり、しゃらり、くるくる)
印象は強いけど、使うほどボヤけると思います…多分。多分です。
真に受けたら駄目かもしれません。

あと三段落目の2行目。瞳が開かれ〜 の次に 透ける瞳が〜 と繰り返し。
後の「虚空を見据える」の必要性はないんじゃないかなぁ…なんて。

>少女の青く澄みきった瞳が開かれ、静寂に満ちた群青の空を仰ぐ。

私が書くとすると、こうかな。でも「瞳」のリフレインにも意味があるのかも
しれませんね。私もよくやってた気がしますし…。
でも「虚空」って言葉は結構悪いイメージが強いので、勿体無いような?

内容はマイグレーションネタですね。色々と少女の背景を想像して楽しませてもらいま
した。GJ!ですよ。

あぼーん、お願いしますね。
305名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/06/14(月) 14:04 ID:oiXf8r/I
 綺麗な掌編ですね。201さんの思う、幻想的っていうのがどういうものかはわかりませんが、
ふらっと足を踏み入れてしまった目撃者が、次の日に「あれは夢だったんだよな…」とか、
そういう幻想的? な情景GJだなぁ、と。
 多分、読点や改行が一定しないのは、目読じゃなくって朗読風に切ってるんじゃないかな、と
思うのですが、私的に声に出す場合、二行目の「風はない。」はプロジェクトX風に「風は、ない。」
が好きかも。などなど、いくつか。
 そういう狙いの場合は、一度音読お勧めです。

あぼーん、よろしくー。
306一個前の201sage :2004/06/14(月) 16:41 ID:Jf60TLCg
>>304

自分としては柔らかいイメージがあったので結構使っていたのだが、強いのか・・・
瞳の二回は確かにくどかったな。もっと考えて書くべきだった。
虚空〜に関しては・・・
大切なものを失って空虚な自分と、空の向こうへ想いを馳せる様を表現するのに良いかと思ったんだが
・・・それならそうと書いた方が良かったか
虚空って言葉は好きだったりするもんだから・・・orz

>>305

まさしくそういう光景をイメージして書いたから伝わったのなら嬉しい
口に出して・・・か。成程やってみる、ありがとう。
(職場で仕事サボってこっそり書いてるから厳しいんだけどな・・・orz)

何はともあれ、こんなヘタレな代物に感想を貰えた事に感謝
次は6巻で、また

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