全部 1- 101- 201- 最新50

【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第4巻【燃え】

1名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/04(日) 21:34 ID:nprzUvrQ
このスレは、萌えスレの書き込みから『電波キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』ではない萌えな自作小説の発表の場です。
・ リレー小説でも、万事OK。
・ 萌えだけでなく燃えも期待してまつ。
・ エロ小説は『【18歳未満進入禁止】みんなで作るRagnarok萌えるエロ小説スレ【エロエロ?】』におながいします。
・ 命の危機に遭遇しても良いが、主人公を殺すのはダメでつ

・ 感想は無いよりあった方が良いでつ。ちょっと思った事でも書いてくれると(・∀・)イイ!!
・ 文神を育てるのは読者でつ。建設的な否定を(;´Д`)人オナガイします。

▼リレールール
--------------------------------------------------------------------------------------------
・ リレー小説の場合、先に書き込んだ人のストーリーが原則優先なので、それに無理なく話を続かせること
・ イベント発生時には次の人がわかりやすいように
--------------------------------------------------------------------------------------------
※ 文神ではない読者各位様は、文神様各位が書きやすい環境を作るようにおながいします。

前スレ【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第3巻【燃え】
http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2//test/read.cgi?bbs=ROMoe&key=1074912738
2スレルールsage :2004/04/04(日) 21:35 ID:nprzUvrQ
スレルール
・ 板内共通ルール(http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi?bbs=ROMoesub&key=1063859424&st=2&to=2&nofirst=true)

▼リレー小説ルール追記--------------------------------------------------------------------------------------------
・ 命の危機に遭遇しても良いが、主人公を殺すのはダメでつ
・ リレーごとのローカルルールは、第一話を書いた人が決めてください。
  (たとえば、行数限定リレーなどですね。)
--------------------------------------------------------------------------------------------
3名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/04(日) 21:43 ID:iIOtsdpQ
スレ立て乙。
前スレに劣らぬように頑張っていきまっしょい
4名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/04(日) 23:42 ID:qF6Tgjoc
魔剣戦争記・外典第一話、前スレの最後を無駄に容量使ったので
あぷろだにあげておきました。

http://tfc55.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/ss_up/rag_ss/1081046636.txt

>前スレ290さま
一気に書き上げてしまったので…
次からは読み直しての修正と校正をしっかりがんばりたいと思います。指摘感謝。
5名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/05(月) 01:33 ID:vcIiMoCY
あら、一桁。記念に何か書きたい今日この頃。
書きたいのに浮かばないジレンマ_| ̄|○|||

ともあれ、スレ立て乙です。
6名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/05(月) 04:05 ID:/3HaQ4cE
わーい、初めて1行ヽ( ´ー`)ノ
と、そんな事はおいといて・・・
スレ立て乙です
7名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/05(月) 14:26 ID:crK6VXRw
7ゲトーΣ(゚Д゚ ;)
スレ立ておつです
8名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/05(月) 15:29 ID:Vtb985cQ
>>6
なにが1行?
9名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/05(月) 15:49 ID:9rHmUONI
間に合うかな?一桁。
いつかゲットズザーではなくて小説を載せたい・・・
まだ書きかけなんだよ〜見逃してくれよ〜
10名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/05(月) 17:43 ID:k.rS9WOQ
多分10げつ

>>9
( ゚∀゚)<ダメ
というのは冗談で
早くカキアゲルンダ
116の人sage :2004/04/05(月) 18:47 ID:/3HaQ4cE
1行ってなんだ・・(;´д`)
12名無しsage :2004/04/05(月) 19:34 ID:dscrapUs
「たいりょー、たいりょうw」
 STR1、VIT1という華奢な転職間近のマジ子が意気揚々とプロにもどってきた。なじみというか、一方的に懐いているというか利用しているというか言葉に困るが付き合いのある錬金術師の前で体育座りをする。『露天をしています。邪魔しないでください』と言っているような錬金術師の顔を覗き込むようにしながら、
「ね、代売りとミルクを買って?」
 さもとーぜんというようにしながら、背負っていた荷物を渡す。マジ子の持てる重量ギリギリまではいかないが満身創痍、自然治癒もしていない様子をみると50%は簡単に越していたらしい。
「…まとめで代売りを頼むとかできないわけか、お前は…」
「倉庫代がもったいないでしょ」
「せめて瀕死の状態で帰ってくるな」
「ヒルクリもってないし、無理。ダッシュで帰ってきたの。早く代売りして〜〜」
「はいはい……」
「あ、ハブはお土産ね。白ハブだけど。白Pにでもして、その売り上げでなにかおごってw」
 あきれている錬金術師にさらっといいながら、白ハブを渡す。荷物を渡すとふぅっと肩を軽くまわしてから二人で牛乳商人のもとに向かう。
「ほい」
「ありがとう。ビビタcまでの道のりが一歩近づいたわ」
 ゼニーを受け取ってホクホクしているマジ子に呆れ顔の錬金術師は溜息をつきながら
「俺からはとっとと卒業してくれ」
「…いいの…?」
「……なにが?」
「……あたしが卒業して」
 いつもニコニコとしているマジ子が真剣な顔をしてじぃっと錬金術師を見つめていた。彼はその双眸に射すくめられたようになりながら、一寸「あ、こいつ可愛いかも」とかなんとか思ってしまう。胸元とか太腿とか…きわどさでいえばBSのほうがぽろっといきそうでいいのたが…
「……勝手にしろ」
 ごくっと唾を飲み込んで言葉を返した。そうするとマジ子はにっこりと微笑んで頬にちゅーする。
「これからもよろしくね?」

 にっこりと笑うマジ子の顔をみながら、錬金術師はふとINTとDEXの高さから『マジは床上手』と『マジは詐欺師』との噂を思い出し、しみじみと「はやまったな、俺…」としょげていた。


はじめまして。萌えSS読んで書きたいなぁと思ってちょこっと書いてみたんですけど…撃沈…(ゲフリ)
マジ子は萌えじゃないんだろうなぁとか思いながらも、マジ子が好きなので…
あつかましい自称倹約家マジ子×錬金術師♂でした(コソコソと逃亡)
13名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/05(月) 20:15 ID:CbphmegA
わたしは>>12に謝らねばならない。

ゼニーを受け取ってホクホクしているマジ子
が、
ゼニーを受け取ってクホクホしているマジ子
に見えたことを。

>>4
ユウゴきゅん萌え
14名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/06(火) 20:38 ID:HHADSa/o
しかしこのスレはDOPとツヴァイハンダー大人気だな。
お兄さん両手神速騎士作りたくなってきちゃったよ
15えべんはsage :2004/04/06(火) 23:52 ID:3o4fTlHI
弱々しく揺れる紙燭のともる中で、老人と青年が向かいあっていた。
明かりはふたりの周囲から闇を払うのがせいぜいで、あたりは暗く、静かだった。
青年が老人の額から布を取りあげて、かたわらの水の張ってある桶にひたした。
水の動く音すらもひそやかだった。

「ヨンや……、そこにいますか、ヨン」
老人の声に青年は手を止めた。老人は、不安げに首をわずかにめぐらせていた。

青年は口を耳に寄せる。
「ここに」
青年のことばに老人は満足げに頷く。
何事かことばをつむごうと口を動かしかけた老人の額に、しわがよった。
それから老人は、喉になにかが詰まったかのようなひどくかすれた咳をした。

「大丈夫ですか……?」
いよいよかと、青年はたまらない気持ちで老人の身体を支える。
しばらくのあいだ、老人は咳きこみつづけた。

「大丈夫です。もう気にせぬよう」
ようよう咳もおさまり、青年の助けを受けながら身を起こした老人は、
しかし思ったよりもかくしゃくとしていて、目には往年の光を宿していた。
口の端から血を滲ませていても、青年からはすっきりとした表情に見えた。

「お水を持ってまいりましょうか?」
老人は首を振る。
「そういった意味で言ったのではありませんよ、ヨン」
老人は微笑みすら浮かべていた。

「はあ……」
青年は老人の言葉に納得しかねる様子だったが、神妙に頷いた。
「時間がきたということですよ、シオン。
わたしとて本当に不死身ではないのです。
時が経ち、老いさばらえたスレッドはただ埋められるのを待つのみですよ」
「そのようなことを仰らないでください、サン」

青年は泣きそうな顔をしてことばを続ける。
「まだわたしは、あなたに教わってないことがたくさんあります」

「わがままなのは相変わらずですね」
老人は苦笑いを浮かべて、また咳きこみはじめた。
「こんな老人に、まだの調練の相手を強いるのですか?」
「……しかし」

老人は青年の頬に手をそえる。
「わたしおそらく、三百台でお迎えが来るでしょう。
短命であること。それこそが、わたしたちのような存在にとって、喜ばしいことなのです」
「サン……」
「さあ、立って。ほら、早くなさいな」
青年は渋々といった様子で立ちあがると、深く頭をたれた。
「さあ、お行きなさい。皆が、あなたを待っていますよ」

「お勤め、ごくろうさまでした……」
涙声で青年はそう述べると、もう振り向くこともなく、
紙燭に照らされた空間から暗闇へと立ち去った。
青年がどのような物語を綴り、それを留めるのか。

「さて、あとは、埋め終わるのを待ちましょうか」
見送る老人は、ただ満足げだった。
16名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/06(火) 23:58 ID:3o4fTlHI
16げとずさー。
第3巻はまだ全部読みきってないのですけれど、
続きが楽しみな作品がめじろ押しで大変読みごたえがありました。
第4巻も職人様たちに期待大であります!
17名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/07(水) 09:53 ID:shgZrqW6
下水道リレーマッダァ〜?
18名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/07(水) 10:53 ID:qR5S/DCQ
>>17
モチツケ(´д`;)

文神様も春の新環境移行とかでいそがしいと思うんだよ、きっと!!

またーり待とうZe
19今を生きるために、決して過去は振り返らないsage :2004/04/08(木) 18:24 ID:6iQWKpWs
 暇なときは、首都の南門の外のベンチで本を読んでいたり、うたた寝していたり、ぼーっとしていたり……そんなのんびりした面があるかと思えば、氷のように冷酷に冷静にはどんな相手でも気を抜かず全力を持って敵を殲滅する。
 ピラミッドのオシリスに挑んで死闘の末に手に入れたというクラウンが、トレードマークのウィザード。
 落ち着いた口調と、物静かな態度……でも、実はお祭り好きで少しおっちょこちょい。
 外見の派手さと中身とのギャップに私は彼が好きになった。

 ……それが、私の相方であり……恋人。

 好きです、相方になってください……そう告白したのは私から。
 そのとき、私はまだ彼のレベルよりも遥かに下だった。
 本当は、彼に追いついてから告白したかったのだけど、そんな悠長なことをしていたら別の誰かがこの人に告白してしまうんじゃないかと焦ってしまったから。
 事実、彼はとても人気があったし。

 私の告白を聞いて、彼は目を丸くして本当に驚いていた。

 それはそうだろう。

 私は当時、孤高のプリーストを気取っていたから。
 支援プリーストとして成長してきたけれど、相方も作らず、ギルドには決して入らない。
 臨時の探索パーティを見つけてはそこへふらりと入り、探索が終われば抜ける。
 そして一般的なプリーストとは違う「耐えるプリースト」ではなく「避けるプリースト」である私。

 断られると思った。

 でも、彼は笑いながら一緒に組めるくらいまで成長するのを待つと言って、その場で所属していたギルドへの上納を限界にまで上げてくれた。

 そして、念願かなって……組めるようになって……数ヶ月過ぎた頃だったろうか。

「しばらく、旅に出る」

 彼がそんなことを言ったのは、グラストヘイムに探索に行った帰りのゲフェンの宿だった。
 いつものように寝台に寝転んで本を読んでいた彼は、本を閉じて私に向き直った。

「え……どこまで? 私は一緒に行っちゃダメなの?」

 隣に座って髪をとかしていた私は、驚いてブラシを落としてしまう。

 もうその頃には、私は彼と同じギルドに所属してギルド内でも公認の恋人同士だった。
 いつも一緒にいるよねとか、いつ式を挙げるのかとか、仲が良すぎて(熱くて周囲が)溶けるとか……。
 そんなことを言われるくらいだったから。

「……いつ帰れるかわからないから……連れていけない」

 神妙な顔で表情を暗くして、彼はつぶやいた。

「自分が行かなくても大丈夫かもしれないって思って、黙っていたんだが……結局行くことになってね」
「そんな……」
「悲しそうな顔するなよ。帰ってこないわけじゃない」

 泣きだしそうな私を抱きしめて、頭を撫でるとそっと優しく額にキスをした。

「リリー、ルティエの街への転移メモ残ってる?」
「うん。この間の結婚式の送迎ポタがまだあるけど」

 一週間ほど前に、ギルドの仲間がルティエで結婚式を挙げたので、送迎係をしていた私の手元にはルティエの教会前の転移のメモが残っていたのだ。
20今を生きるために、決して過去は振り返らないsage :2004/04/08(木) 18:24 ID:6iQWKpWs
「それじゃ、ルティエの教会に今から連れて行ってくれないか?」
「え、今から?」

 ……そして、私は彼とともにルティエに来ていた。

 もう深夜とも言える時間だから、教会の入り口には鍵がかけられていた。

「やっぱり、この時間じゃ仕方ないよね……また、後でにしようか?」
「ちょっとまってて」

 彼は慌てもしないでどこからか針金を取り出すと、その鍵を開けた。
 さすが……器用さが命のウィザード……。

「っ!? ……それまずいんじゃ」
「いいから。もう時間がないから、一分でも一秒でも惜しい」

 私は彼に手を引かれて教会の中に入った。
 しんと静まり返り、暖房も止まっているせいか空気も冷たく肌に刺さってくる。
 奉げられた銀の蜀台のロウソクのほのかな明かりが周囲を照らし、大きなステンドグラスが外の雪明りを反射してとても幻想的な風景になっていた。
 その中を彼は、私の手を握ったまま奥の壇の前まで連れてきた。

「リリーナ、俺は何よりも君の幸せを願っている。だから、これから言うことは俺のわがままだ。約束はしなくていいから……ただ、聞いてほしい」

 彼は私の手に小さな箱を載せた。

「俺は君を愛している、何にも変え難いほど……。辛いだろうけれど、俺が帰るまで忘れないで待っていてくれ。そして、帰ってきたら……結婚しよう」

 箱を開けると中には、金でできた精巧な細工の指輪があった。

「……忘れるわけないでしょう? 待ってる……から……ずっと待ってるから……」

 思い切り抱きついて、私は彼の胸の中で泣いた。

 

 

「……リリ? おーい、リリ? こら、しっかりしろー」

 翔の声で、ようやく私は現実に引き戻された。

 人と言うものは、あまりに強い衝撃を受けると思考が停止するとか、その時までに生きてきた人生が走馬灯のように振りかえるとか色々言われているけれど、同じことが自分にも起きるとは思わなかった。

 って、そうじゃなくて。
 私がショックを受けた理由が理由だったからだけど。

 私の目の前には、皮製の鞭を持ったローブ姿の金髪の女性と、先程から私に治療を施している小間使いの女性。

 ローブの女性は、ジルタス。金色のとても美しくて長い髪と、きつめの吊り目。ローブはゆったりした魔導師用のものだけど、スリットが深くてそのスリットから覗くその脚に履かれているのは皮の編み上げブーツ。
 小間使いの女性は、アリス。小間使い用のメイド服を身に着けた、黒髪の大人しくて柔らかい感じがする女の子。

 つまり、グラストヘイムで現れるはずのモンスターと同じ名前。
 そして、人間の姿にしたら、きっとこんな感じになるという姿そのものだったから。
21今を生きるために、決して過去は振り返らないsage :2004/04/08(木) 18:31 ID:6iQWKpWs
こそっと・・・続きを投下。
筆の進みはいいけれど、邪魔になっていないか不安ですよ(´・ω・`)

今回は、下手な恋愛小説の一部分みたいで自分でも反省_| ̄|○||

次回は、ボンゴンのこととか書きたいな。
ではでは
___ __________________________________________________
|/
||・・)ノ
22名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/08(木) 22:16 ID:qfnKZ9OE
 ポリンとポポリンは仲良しです。

 ポリンは林檎が大好きです。だけど、ポポリンは林檎を食べたことがない
んだそうです。よく緑ハーブを食べているのを見かけるけど、あれは苦味が
効いてて、ポリンはちょっと苦手です。でも苦いハーブを食べれるポポリン
はカッコイイなぁ、っておもうんです。
 あるとき、ポリンはいいことをおもいつきました。
「ポポリンといっしょに美味しいものを食べよう。ぼくも食べれる、苦くな
いやつを」
 とても良い考えだとおもいました。
 ポリンは美味しそうなものいっぱい、いっぱい拾い集めました。だけど、
ポポリンのところに行くまえに、ぜぇんぶ消化してしまちゃっうのでした。
「こんなにいっぱい食べたら、マスターリングみたいにデブデブお腹になっ
ちゃうよ」
 ポリンはため息をつきました。
「そうだ、息を止めてみたらどうかな?」
 ……あやうく死にかけました。
 全身、マーリンみたいな真っ青になって、頭の上にエンジェリングみたい
なワッカが見えかけました。エンジェリングは取り巻きを連れていてステキ
だとおもうけど、マーリンは嫌いです。だってあいつら、「拾い食いなんて
みっともないね」って、すかしてるだもん。おまけに魔法まで使っちゃうよ
ーな嫌味なやつだから、嫌いです。
 でもポリンがもっと嫌いなのは、なんでもかんでも食べてしまう自分自身
でした。
「美味しいものをひとり占めなんて……ぼく、嫌な食いしん坊だ」
 しょげているポリンに、ポポリンは言いました。
「ポリンといっしょに食べるゼロピーがいちばん美味しいよ」
 こんなときポリンは、桃色の身体で良かったなぁ、っておもうんです。


 ……萌える?
23名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2004/04/08(木) 23:49 ID:n8rN7qWI
初挑戦。しばしおつきあいを・・・
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「俺、ナタリーさんが好きだッ!つき合ってくれッ」
俺は、顔から火が出るような思いで告った。
ナタリーさんはしばし絶句したが、すぐにいつもの笑顔に戻り、
いつものように、その笑顔で全てを突き放す一言を放った。
「せめて公平組めるようにならないとねー。一次職の分際で
私に告るなんて、身の程を弁えろよ、ゴルァ♪」
ああ、いつもこういう人なんだった!
全てを包むような慈愛の笑みと、その真逆でトゲだらけの悪魔のセリフ。
それがナタリーさんだった。
だが、告っちまった以上、もう後には引けない。
「じゃあ、追いついて見せますッ!」
俺はきびすを返し、いつもよりワンランク上の狩場目指して駆けだした。

「ひさしぶりねえ、レックス。レベル上がったの?」
ナタリーのヒマワリのような微笑みは本当に久しぶりだ。
口を開けばヒマワリはフローラになってしまうのだが、俺はそんな彼女に
惚れているのだ。だから、地獄のトレーニングで一気にレベルを上げた。
「上がったぜ、もうすぐ転職、51レベルだ」
「その程度のレベルで私にタメ口きくなよオルァ♪
転職してそのダサイ服を着替えてこいや?」
畜生、負けるもんか。その笑顔を俺のものにしてみせる。
俺はきびすを返し、いつもよりワンランク上の狩場目指して駆けだした。

「ひさしぶりねえ、レックス。レベル上がったの?」
ナタリーのヒマワリのような微笑みは本当に久しぶりだ。
俺は騎士になっていた。ナタリーを追うために、彼女と同じ道を選んだのだ。
この、鎧の光沢もまぶしい、今の俺をみてくれーッ!
「おう、一通りのスキルは覚えたぜ、今ベースは65だ!」
この短期間でこのレベルなんだ、そろそろ追いついただろう。
俺は自信を持って報告した。・・・した、わけだが。
「何時になったら公平組めるようになるの?もー、とろくさいぞダラ♪」
「う、うそだろ。あんただってこないだ転職したばかりだったはず」
65で公平不可ってことは、最低でも74。
そんなにポンポン上がるレベルじゃないはずなのだが。
「く、こうなれば追い抜くまでよッ」
「やってみろ雑魚が♪」
いっそ嫌いになれたらと思うこともある。でも、結局好きなままなんだからしょうがない。
これが俺の選んだ道なんだ。こうなればとことんやってやる。
俺はきびすを返し、いつもよりワンランク上の狩場目指して駆けだした。
24名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2004/04/08(木) 23:52 ID:n8rN7qWI
ひさしぶりねえ、レックス。レベル上がったの?」
ナタリーのヒマワリのような微笑みは本当に久しぶりだ。
「・・・」
俺は報告する気力も失せた。
俺だってさあ、必死で頑張ったんだぜ?
ベースは87。すでに廃と呼ばれるほどのレベルに到達したんだ。
これまでの修行のきつさは半端じゃなかった。
だが、ナタリーは・・・廃ガスを噴出していた。
「何か言いたいことでもあるの、雑魚助が♪」
「ありえねえ・・・だが!」
俺は指を突きつけた。
「それでこそ俺が愛する女!挑戦する価値があるッ!
みていろ、必ずお前を振り向かせてみせるからなッ」
俺はきびすを返し、いつもよりワンランク上の狩場目指して駆けだした。

「ひさしぶりねえ、レックス。レベル上がったの?」
もうこのセリフもききあきたな、おい。
だが、もうこいつも毒は吐けない筈だ。なぜなら、俺も極みに達したからだ。
しかし、ナタリーは見たこともない姿をしていた。
「一周目ごときが私にプロポーズ?出来ると思ってるのかイ」
どんどん口調が悪くなってないか。
「三次職・・・か」
そうくるか。俺が極みに達するまでに、あんたは2回目の極みに達したというのか。
「追いつけない、か・・・」
諦観とともに湧き上がるのは怒りの感情。
「そんなに俺が嫌いか。そこまでして俺を退けるのか。
わかった、もうあんたとは会わない。好きにすればいいさ、お互いにな」
ここまで強くなったのは何のためだったか。
ナタリーに振り向いて欲しい。ただそれだけじゃないか。
その目的を捨てて、背を向けて、俺はどこに向かうんだ。
三次職なんて気が遠くなる道のりに踏み出すつもりはない。
潮時・・・か。
だが、最後にけじめをつけないといけない。
このままじゃ、終われないんだ。
「Pvいこうぜ、ナタリー」

未知のスキルが俺を襲う。それをぎりぎりで凌ぐも、ナタリーの攻撃は
あまりに凄まじく、俺は受けることで精一杯だった。
それでも、ただ一度のチャンスを待つ。
闇雲な攻撃など意味はない。
「私は、あんたには釣り合わないのよ」
「逆だろ?」
「いいえ、私はただ逃げ続けているだけ・・・。
私には好きな人がいて、おつきあいしていたわ。
だけど、その人は・・・ある日偶然出会ったとき、彼は違っていた。
心を持たず、ただひたすらに戦い続け、私の声も届かない・・・」
「BOTか!」
「正体を知られた彼は、申し開きどころか、私にも道具を渡して、無理やりBOTになれと
迫ってきたの。彼は自分のギルドの拡大のために、BOTを増やしたかっただけだった。
私を選んだのは、美人なら許されるだろう、ってね。バカじゃないの。
裏切られた気分になって・・・私からおつきあいをやめたわ。
それ以来、男の人に近づかれるのが怖いの!だから、極限まで強くなった私を
倒せるほどの人じゃないと、認めない!」
いっそう激しくなる剣戟。
「俺がBOTだとでも?なら、見せてやる」
耐えろ、耐えろ。
今はチャンスを待つんだ。
彼女は逃げていると言ったが、それは違う。
三次職という極まった状態。その状態の彼女を正面から打ち破ってこそ、
俺はナタリーを呪縛から解放し、プロポーズする権利を得られるんだ。
「俺はそんな卑怯なことなんか絶対しねえぞ。俺は頭が悪いからな、
打算とかそんなこと、考えはしない!俺が強くなったのは、お前が好きだからだ!」
その一瞬、隙が生まれた。
時間の流れが停滞したかのような一瞬を、俺は見逃さなかった。
「オートカウンター!スタンバッシュ!そしてェッ」
その瞬間、ナタリーは微笑んでいた。
一切の毒気のない、心からの微笑み。
彼女はこの瞬間、解放されたんだ。
後は俺が、彼女にふさわしい男として大成できるか、だな。
「ボーリングバッシュ!!」
ようやく、勝てた。
これで・・・
ドスッ

「え、何で?」
「アホかお前は♪こちとら三次職でい。オートリザレクションでかるーく復活よ」
「え・・・」
「終われ、雑魚が!!」
あとは一方的だった。やはりナタリーはナタリーだった。
さんざん俺を叩きのめしたあげく、高笑いして去っていった。
「呪縛が外れても・・・もとからああなんだな」
俺はしばらく笑った後、空に誓った。
「・・・追いついてやる」
その日、俺は転生した。
あいつのいるところはまだ遠いが、何時の日か、
必ず、あいつから告白させてみせる。
AL LA FIN TO THE MAX.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
三次職とかは創作です。お目汚し失礼致しました;
25名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/09(金) 00:37 ID:h5enjDdY
ナタリーさんかっこいいぞヲイ。
インパクトあるなあ・・・
26名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2004/04/09(金) 03:21 ID:Bvs3TTjM
やっべ、22ステキ。
そういうノリは好きデス、ほのぼの系はまかせた。

ただ、段落は行開けで置き換えたほうがいいかも。
段落で読み分けるのだろうけど、ちょっとみずらかったから。
27名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/09(金) 20:55 ID:r3BpbggA
>>22
某ひまわりのようで(´ω`)のほほん。
文章の置き方というか、間のとりかたがうまいと思いました。
でも私は感想とか書くの苦手なので、あまり詳細には書けません。ということで結論。
萌えました(・∀・)

>>23
話の筋としてはとても大好きなのですが、
差しでがましくも気になったことを申し上げますと、
「俺」が頑張ってる過程を描写して欲しかったように思います。
そーするともっと感情移入できただろうなー、と。

>>下水道リレー
書いてた作者様方はまだいるのかなー…、とちょっと不安に。
よかったら挙手とかお願いしちゃってもいいですか?
2823-24sage :2004/04/09(金) 23:35 ID:/OGpXiLE
感想ありがとうございます〜。
思いつくままに書いたんで、ギャグのつもりだったのに
後半なんだか真面目になってしまったのが反省点ですね;
>25
ナタリーは書いていて自分も気に入ってしまったのですが、
よく考えると普段の私のキャラがまさにこんな感じなんですよw
>27
そうですね、それは必要だったかな。でも、初投稿であんまり長いのもどうかと
思ったもので、色々端折っちゃいました。どうすれば短文で主人公に感情移入させるか。
これって、難しい課題ですね。よし、がんばろ。

>22
短文なのにポリンの心が透けて見える・・・。
息を止めるとこが好きです。

また思いついたら投稿しますので、よろしくです。
29名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/09(金) 23:38 ID:0RAGX/tY
>>27
実は……書いてました。
だけど最近それなりに忙しくて書けなくて……
それに他の方の動きも見たかったり……
言い訳っぽかったですね、すみません。
30前スレ79sage :2004/04/12(月) 23:53 ID:g0wwc7Nk
 ]U、
 小さな窓から日の光が差し込む。朝独特の弱々しくて柔らかい日差しを
まぶたに浴び、私は目を覚ました。あたりを見回せば、見慣れた石造りの
壁はなく、部屋の広さも私の部屋よりも二周りほど大きい。
 あぁ、私は初めて狩りに来て、初めて外泊したんだ。
 脇のソファを見れば、既にもぬけの殻。彼はどこへいったんだろう?
 とりあえず、彼がこないうちに着替えてしまおう。寝巻きを脱ぎ捨て、
アコライトの制服に着替える。脱いだ寝巻きは丁寧に畳んで背嚢の奥にしまう。
 顔を洗いに洗面所に行って帰ってくると、部屋には彼がもどってきていた。
汗をかいているみたいだし、顔も上気している。
「や、おはよう」
「おはよう」
「支度できた?朝飯食べに行こうよ」
「ええ、構わないわ」
連れ立って階下の食堂に向かう。適当に席をとった私たちは、
注文をとりにきた宿の主人に、愛想を振りまきながら
ピッキの香草焼きサンドイッチとココアを注文した。
 お互いに黙ったまま、注文した料理が届くのを待つ。気まずいといえば
気まずいのかもしれないが、気楽と言えば気楽でもある。
 周りには、やはり冒険者が多い。ここ近年で、魔物はフィールドに
まで生息地を広げ、一般市民では街から街への往来もままならないのだ。
さらにゲフェニアダンジョンの地下一階といえば、一次職の冒険者にとっては
格好の狩場。宿に一次職が多いのも頷ける話だ。
 つまるところ、貢いでもらえそうな二次職の男はいない。
 パティ先輩の教えを実践する機会はもう少し先のようだ。
 それを確認した私は、表情を普段のものに戻す。周囲の人間観察を終えた
私が彼の方を向くと、なぜか彼は顔をしかめて、舌打ちしていた。
 彼の視線を追う。なるほど。シーフとアコライトのペアが囲むテーブルを
はさんで、向こう側のテーブル。そこには、昨夜部屋を訪ねてきて
薬を売ってくれ、と言ってきた商人風の男がいたのだ。こちらをジーと
見つめている。私にはため息をつく他に別のリアクションが見つからなかった。
 やがて料理が運ばれてきた。決して豪勢な食事ではないが、香りも見た目も
大聖堂の朝食より数段優れているように思える。彼は両の掌をあわせ、
いただきます、と呟くとサンドイッチを口に運んだ。
 ばっかみたい。
 私は神様への感謝の言葉も言わずにココアのカップに口をつけた。
31前スレ79sage :2004/04/12(月) 23:54 ID:g0wwc7Nk
 「速度増加!!に、ブレッシング!!。はい、頑張ってね」
私はその場に座り込んだ。
「へ?」
彼がぽかんと口を開いたまま、その場から動こうとしなかった。
 ここは、ゲフェニアダンジョンの地下一階。朝食を終えた私たちは
支度を済ませ、遂に狩りにやってきたのだ。
「私は支援プリ志望だから、魔物と殴りあうだけの筋力も体力も
敏捷性もないの。支援してあげるから、戦ってきてね」
私の懇切丁寧な説明を聞いても、彼はまだ納得しかねる、といった顔を
していたが、やがて、なんか違う…とかなんとか呟きながら歩き出した。
 数歩歩いた彼は私に背を向ける格好で立ち止まり、敵を待つ。
定点狩り。座ったまま精神力の回復を待つ私を守るように立ち回る
つもりなのだろう。
 ポイズンスポアが湧いて出てくるまでそんなに長い時間はかからなかった。
ぴょこぴょこ、と跳ね回り噛み付いてくるポイズンスポアの攻撃を
彼は必死で避けながら、カタナで確実に斬撃を加えていく。
 私の支援もあって彼は順調に、次から次へと湧き出てくる毒キノコの化け物を
倒していった。下水道では強敵だったファミリアももはや私たちの敵ではない。
「どう?」
「いいんじゃない、と言いたい所だけれど。知りあいから聞いた話だと
ここではもう少し効率よく経験を積めるみたいよ」
「うーん、OK。わかった。ここだと少し湧きがぬるすぎるから
もうちょい奥へ行こうか」
 性懲りもせず襲い掛かってくるポイズンスポアを叩きのめしながら
私たちは少しずつ奥の方へ進む。しばらくして分岐点が見えた。
「どうする?」
「貴方の好きな方でいいわ」
「じゃあ右かな」
右折した私達を待っていたものは袋小路。申し訳なさそうに、こちらを見る
彼に、私は気づかない振りをして言った。
「ここだといざという時逃げ場がないから、さっきの分岐点まで
戻らない?そこで定点狩りしましょ」
「了解」
二人そろって回れ右。振り返った私が見たものは、洞窟の狭い道を
塞ぐようにして立っている黒服サングラスの男たちと、
彼らのうち最も屈強な人に羽交い絞めにされている赤毛の商人風の男。
 ほら。だから言ったのに。私は頭を抱えたくなった。
32前スレ79sage :2004/04/12(月) 23:55 ID:g0wwc7Nk
「た、たすけてくださーい!!」
なんて言ってる割には、結構呑気そうな商人。
「お前達、あの赤髪のウィザードにもらった薬を渡してもらおうか」
「さ、さもないと、どうなるかわかっているな」
黒服がドスの聞いた声で脅しをかけてきた。だがその声は心なしか
震えているようにも思える。
「うげげ、た…たすけへー」
「あ、アンタ、何だってこんなところにいるんだ!?」
彼はひどく狼狽している。私は、彼がどう動くのか、見ていることにした。
「あなたがたの後を追ってダンジョンに入ろうとしたら
こいつらに捕まっちゃって、ははは」
「さあ、おしゃべりはそこまでだ。早く薬を渡せ」
黒服が私達に迫る。彼は懐の巾着に入った液体入りの「試験管」を
抑え、黒服と睨み合っていたが、やがて肩をふっ、っと下ろし
溜め息をついて言った。
「わかった。コレは渡す。だからその人を放してやってくれ」
 結局。彼は自分が引き受けた仕事よりも、どこの誰だか知らない赤の他人の
命を優先させた。
 なんとなく、彼ならそうするだろう、とは予測は着いていたが。
 律儀な彼としては、苦渋の選択だったにちがいない。
 試験管を左手に持ち、突き出すような格好でゆっくりと黒服に近づいていく
彼の顔には、傍目から見てもわかるくらいはっきりと自責の念が
浮かんでいた。
「よし、確かに受け取った。おい、そいつを話してやれ」
試験管を受け取った黒服の合図で、赤毛の商人を羽交い絞めにしていた黒服は
その手を緩めた。
「はひー、助かった…」
男はほうほうの体で私たちのほうへ、走り寄ってくる。
 そして、試験管を手に入れた黒服たちは…
「やった、遂に取り返したぞ!これで我々の悲願が達成される!」
と、よほど薬を取り返したのが嬉しかったのか、その場で小躍りを始めた。
 ちょっと不気味。
 しかし、勝利の女神が彼らに微笑み続けるという事はなかった。
自分達の成功に有頂天となっていた黒服達は背後から忍び寄っていた
ポイズンスポアに気づかなかったのだ。
『危ない!』
私と彼の声がハモッた。時既に遅し。ポイズンスポアの攻撃を受けた
黒服は、けだもののような叫び声をあげ、地に伏す。
 その男の手に握られていた試験管は宙に放り出され、放物線軌道を描き
落下。そして、ポイズンスポアに衝突。中の液体を紫色の魔物にぶちまけた。
「―――――――――あ」
 その場の誰もが凍りついた。私も彼もあの「薬」にどのような効果が
あるのかは知らない。でも、今の状況がとてつもなく悪いものであることは
何となく想像できてしまった。
 予感は当たった。
 液体をかぶったポイズンスポアがぽよんぽよん、と跳ねると、
胞子が当たり一面に撒き散らされる。
 胞子は地面に到達すると、発生を開始し、分化を始め、成長していく。
 尋常ならざる速度で成体となった生まれたばかりのポイズンスポアはさらに
胞子をまきちらし――――――あぁ、神様。
 要するに。
 ポイズンスポアが凄まじい勢いで繁殖し始めたのだ。
「逃げろ!!」
誰がそう叫んだかはわからない。彼だったかも知れないし、黒服のひとり
だったのかも知れないし、赤毛の男だったかも知れないし、
私だったのかも知れない。
 でも、そんなことはもうどうでもいい。
 肝心なのは。
 必死で元来た道を戻り始めた私達の背後に、ダンジョンの横幅一杯に
広がり、天井に今にも届きそうなぐらい膨れ上がったポイズンスポアの
群れが迫って来ているという事だ。
33前スレ79sage :2004/04/12(月) 23:55 ID:g0wwc7Nk
13、
 目の前で、ポイズンスポアが、次々と発生していく。
僕は自分の失敗を悟り、その末路に恐怖した。
身体は金縛りにあったかのように動かず、視界も
生えてくるポイズンスポアに固定される。
 辺り一面に広がっていく毒々しい紫の色は、僕の脳裏に
十年前の死の光景を喚起させた。
「逃げろ!!」
黒服のうちの誰かが叫んだ。おかげで僕の意識は地上に戻る。
黒服たちは我先にと小部屋から逃げ出し、赤毛の男と彼女もそれに続く。
僕も後を追おうとしたが、目の端でスポアに襲われ倒れた黒服を捉え、
立ち止まった。
 一瞬、迷う。僕の命と黒服の命。天秤にかける。
 そこで僕は気づいた。なんでそんな真似ができるんだ。
 僕の命と男の命、どちらが尊いなんて答えは既に在るじゃないか。
 黒服の禿オヤジの右腕を自分の肩にかけ、男の半身を背負う。
 体力のない僕が敏捷さを殺すような真似は自殺行為だ。
 だが、それもいいと思う。
 十年前のあの日から、自身に重みを感じられない僕は、ただ単に
死に場所を探していただけだったのかも知れない。
 せめて死ぬときぐらいは、大切なもののために死にたい、と。
 せめて死ぬときぐらいは、意味のあった存在でありたい、と。
34前スレ79sage :2004/04/12(月) 23:56 ID:g0wwc7Nk
 ]W、
 横に彼がいないことに私が気づいたのは、走り始めてすぐだった。
お尻がむずがゆくなるような焦燥感を覚え、私は背後を振り返る。
 そこには、数匹のファミリアとポイズンスポアにたかられながらも、
黒服を担いで急いで歩く、彼の姿があった。
 魔物が、彼の服を裂き、肉を削り、命を蝕む。
 それでも彼はしっかりと男を背負ったまま、歩き続ける。
 顔から血の気が失せ、全身至る所に傷ができ、出血は止まらない。
 それでも、彼の黒い瞳は煌々と灯っているのだ。

 苛々する。本当に苛々する。

 「何してるんです!?早く彼を助けないと!ヒールをかけて!」
肩をきつく掴まれ、私は自分のすべきことを思い出した。
 赤毛の商人が私から離れて奇声を上げながら、彼をついばむ魔物の群れに
突っ込んでいく。
 私は大慌てで、よく狙いを定め彼にヒールをかけた。
 商人が彼の頭上を飛び交うファミリアに襲い掛かったのを見て、
彼も背に負った男を下ろし、ポイズンスポアに切りかかる。
 大量発生したポイズンスポアの群れはすぐそこにまで来ている。
 急がないと。彼に追い風と神の祝福を贈る。
 ファミリアに苦戦していた商人にブレスをかけ、
私は首尾よく魔物の一団を撃退した彼の元に向かった。
35前スレ79sage :2004/04/12(月) 23:57 ID:g0wwc7Nk
15/]X、

 「速度増加!! ブレッシング!! ヒール!!」
彼女の声が洞窟内に響き渡る。やれやれ。また彼女に救われたようだ。
 僕は背の黒服を丁寧におろすと、腰のカタナを引き抜いた。
赤毛の男と共同して、二匹のファミリアと一匹のポイズンスポアを
殲滅にかかる。彼女の支援で活力の戻った身体はたやすくそれらを
切り伏せた。
 毒キノコの胞子を拾い上げ、彼女と合流する。
「早く逃げましょ。轢き殺されるわ」
彼女の言うとおり、大量のポイズンスポアは目と鼻の先にいた。
「お二人とも、蝶とか蝿は?」
「私、蝿しかもってきてないんです。/えーん」
「オレは蝶一個だけ」
「そんな、じゃあ私の分は?」
「無いよ」
短く答えると、カタナを鞘にしまって、再び黒服の禿オヤジを担ぐ。
「とりあえず逃げよう。蝶も蝿も本当にヤバくなった時だけ使うんだ」
そういって僕は彼女を腕を掴み、走り出した。
「本当にヤバい時、って今なんじゃないのかしら」
体勢を立て直した彼女が耳元で囁く。赤毛の男も呼応した。
「そうですよ!今は、ほらあそこのPTに押し付けて、蝿飛びしましょ」
そう僕たちが逃げる先には一次職のPTがいたのだ。
「おい、あれ見ろよ!」
「あんなん処理しきれねーだろ!!」」
「さっき黒い人たちが逃げてったのはあれのせいね!?」
二度目の失敗に、僕は自分を絞め殺したくなった。
 あれだけの魔物の集団を引き連れて逃げ回っていれば
こうなることは予測できたはず。なのに僕は、また命欲しさに
誤りを犯した。一体何を考えていたんだ。PTを組んで浮かれてしまって
自分の存在意義を忘れていたなんて。
 なんて情けない。本当に僕は無価値な人間だ。無意味な人間は
他の人間の代わりに死んでこそ最初で最後の意味を持てるのに、
僕は一体何をやっていたんだ…!
「先に逃げてくれ。オレはここで少しでも時間を稼ぐ」
 黒服の禿オヤジを下ろし、手に蝶の羽を握らせる。
淡い光にオヤジの身体は包まれ、男は空間転送された。
 これで他に道はない。あるのは、三途の川の向こう岸への直通路。
 初心者修練所に入所したときに師から頂いた愛用のカタナを抜く。
そして洞窟を流れる激流のようなポイズンスポアの群れにきびすを返す。
「な、何言ってるの?」
背後から聞こえる彼女の声は、気のせいだろうか、震えていた。
「逃げろ」
僕は魔物の群れに気合声をあげて、飛び込んだ。
36前スレ79sage :2004/04/12(月) 23:58 ID:g0wwc7Nk
「ど、どうするんです!?」
「彼が頑張ってるんです!私も出来る限りのお手伝いを!」
こんな時までぶりっ子してしまう自分が呪わしい。
 雄たけびをあげ、突っ込んだ彼の姿は瞬く間に魔物の群れに飲み込まれた。
 裂迫の気合ともに彼が魔物の急所を狙って強打を繰り返す。
 噛み付かれ、切り裂かれ、殴られ、彼の身体は刻一刻とモノに
近づいていく。乱戦の中、私はヒールをうかつにかけることもできず、
かといってポイズンスポアを殴ることもできず、その場で状況を
見ていることしかできない。
 ポーションも尽きたのか、彼の身体はレッドゾーンに近づいていく。
おそらく気力も尽きたのだろう。疲労した彼の動きは先ほどよりも
鈍くなっていき、加速度的に彼の命は削られていく。
 私は蝿の羽を手に握った。決壊したら、すぐにでも逃げられるように。
 それにしても。
 何故彼は他人を庇ってまで戦うのか、私には分からない。
そんなにまで自分の身体をいじめて何が楽しいのか。
そんなに自分を傷つけて、その先に何が見えるというのか。
 地位、お金、周りからの賞賛と羨望?
 違う、たぶん。きっと彼はそんな理由で戦っているんじゃない。
知らず、聞かず、の赤の他人のために命を賭けている。
 なら、何故? そうまでして他人に肩入れするのは何故?
単なる偽善者?それとも本当に…?
 あぁ、私には彼がわからない。理解できない。
 そうか、だから私はこんなにも苛々するんだ。
 彼が、私の知っているどの種類の人間とも違うから。
人は皆自分が一番大切で、自分のためなら何でもして、他人をだますことだって
厭わない。人間は信用できない。だまされるのが嫌ならだますしかない。
 彼はそうでないのかも知れない。彼は、もしかしたら、本当に
「優しい」人なのかもしれない。
 そういう思いが私の中で大きくなっていくにつれて、
それを認めたくないがために私の苛々も大きくなる。
 私の中で絶対的な真理だったこのパティ先輩の言葉は、たったひとりの
黒髪の剣士のために揺るがされていたんだ。
 彼と一緒に狩りにこようと思ったのも、彼がどういう人間なのか
確かめるため。彼だって結局は自分のことしか考えていない、と自分に
言い聞かせるために。でも彼はことごとく私の希望を破り…
 そうか、だから私はこんなにも焦っていたんだ。
 だからあの時、プロンテラで彼に向かって叫んでしまったんだ。
 今にも、彼が、この世の中に居るはずのない本当に優しい人だ、と
認めてしまいそうな自分が恐くて、悔しくて。

 そして――――――――――
 私を不安にさせるだけ不安にさせておいて、彼はゆっくりと、
仰向けに倒れ、地に伏した。
 まるでさっきまで喋ったり走ってたりしたのが嘘だったのかのように、
その「人形」はもうピクリとも動かなかった。
37前スレ79sage :2004/04/12(月) 23:58 ID:g0wwc7Nk
 私は、蝿の羽を握りつぶすことも忘れ、
こちらに向かって雪崩の様に押し寄せてくる魔物に反応もせず、
ただ、ついさっきまで彼であったモノを見つめていた。
 頭の中は真っ白。視界に入ったものもモノクロ。
私にとっての世界の全ては、仰向けに転がる剣士のヒトガタ。
 私の身体がポイズンスポアの海におぼれた。それでも私は紫色の笠の
向こうに見える彼に、もう「彼」ではないのに、囚われたまま。
 私もすぐ彼のところに行くことになる。そしたら、聞いてやるんだ。
何でそんなに損な役回りばかりするの、って。
 意識が遠くなる。赤くて、白くて、何もない世界が広がり始めた。
 パティ先輩、自分の事を損得勘定に入れない人なんていない、って
言ってましたよね。でも、もしかしたら彼はそういう人かも知れないんです。
 だから今からそれを確かめに逝きますね。
 さよなら―――あぁ、私には別れを言えるような友も家族もいないんだ――

「ブランディッシュスピア!!」
「ヒール!!」
天国に逝きかけた私の魂を地上に呼び戻した声は、
私にとってひどく聞き覚えのある声だった。
 朦朧としていた意識が鮮明さを取り戻す。私とポイズンスポアを遮る壁の
ように立ちはだかるのは、二人の二次職の冒険者。
 私にヒールをかけ、傍らのペコペコに乗った騎士に支援法術をかける
栗毛の女司祭。
 パンディリア=ガンスリィ。孤児院時代から私の面倒を見てくれて、
色々な事を教えてくれた人。
 でも、どうして…?
「パティ先輩…?」
混乱している私に、先輩は綺麗な笑顔とピースサインで答える。
そして、ペコ騎士がポイズンスポアの海に飛び込んで開いた「道」を
駆け抜け、彼の元に走りよった。
「リザレクション!!」
青色のジェムストーンが弾け、閃光が走る。プリーストの神聖性を
体現したかの様なその「神の奇跡」は、確かに彼を死の淵から救ったのだった。
38前スレ79sage :2004/04/12(月) 23:59 ID:g0wwc7Nk
 川の向こうにいるのは、お父さんか、お母さんか。それともお爺ちゃん、
それともお婆ちゃんか?或いはお隣の家の人?お向かいの?
大勢の人がそこにはいた。見覚えがあるような人もいれば全く覚えていない
人もいる。そして、その人たちに共通しているのは、皆僕を、
暖かく歓迎していると言う事。
 心の内に、無力な癖に一人だけ生き残ってしまった僕への恨みと、
そして結局はこの場に来てしまった僕への蔑みと嘲りを秘めて。
 そう、僕は死ぬ。その事実に、安心とそして少しの名残惜しさを覚える。
 名残惜しい?何故?自分の感情に疑念を感じた僕の脳裏に、一瞬彼女が映る。大丈夫。敏捷型の剣士なんかより、彼女にはもっとぴったりな相方ができるさ。
 なおも現世にすがろうとする情けない自分にそう言い聞かせ、
僕は、川を渡る前にもう一度向こう岸にいる人々の顔を見ることにした。
 バレット、バレットじゃないか…やっぱり君も…
 僕はそこに、剣士ギルドに所属する冒険者の様な格好をした古い親友の姿を
認め、そして気がついた。他の人は皆穏やかに笑っているのに、
バレットだけは僕を睨みつけている。いや、睨んでいるんじゃない。
試されている? そう思った僕は思わずバレットを見つめ返した。
 バレットの黒い瞳に映る、青白い自分の顔。しかし、その像は絵の具を
かき混ぜる様に潰れ、やがてその絵の具は全く別の像を構成した。
 ネンカラスで声をかけてくれた栗毛のプリーストさんの天使のような笑顔。
 そして。
 僕は神々しくも暖かい光に包まれ―――――
「リザレクション!!」
三途の川に片足を突っ込んだ僕の魂は、再び世界と繋がったのだった。
39前スレ79sage :2004/04/13(火) 00:00 ID:e0PWL0GY
 洞窟の壁に上半身を預ける様に意識を失っていた彼が、ゆっくりと
まぶたを開けた。冬眠から覚めた熊さんの様な顔で、目の前の私を
焦点の定まらぬ眼で眺めている。
 やがて、私を認識したのか、彼は口元に空っぽの笑みを浮かべた。
「やぁ。また、助けられたのかな?」
「…私じゃないわ。先輩が、パティ先輩が助けてくれたの。
今、先輩と、先輩のPTの人が食い止めてくれてるし、周りの人も
協力して、掃討にかかってる。だから、私達はもう引き上げましょう!」
「まだ戦ってる?じゃあ駄目だ。僕が行かないと」
「あれは不可抗力なの、私達の責任じゃないわ!」
「どっちでも一緒さ。今戦っている人はもしかしたら死んでしまうかも
しれないじゃないか。それじゃ駄目なんだ。
僕は誰かの代わりに死ななくちゃいけないんだ!」
 彼の剣幕と言動に虚を突かれ呆然とする私をおいて、彼はカタナを杖がわりにおぼつかない足取りで戦場に向かい始めた。しかし、地面に転がっている石に
足をとられ、盛大に転んでしまう。
 理性は、彼に「大丈夫?」と優しく声をかけようとした。
しかし、身体は私の管理下から離れていた。
彼と自分に対する、やるせない腹立たしさが急に私を襲い、
眼の奥が熱くなる。気づいた時には、彼の肩を鷲掴みにして激しく
前後に揺さぶりながら、殆ど喚くようにして彼にくってかかっていた。
「どうして!?ねぇ!どうして!?どうして、そんなに自分を大事に
しないの!?どうして、そんなに死にたがるの!?
わかんない!わかんないの!私、貴方がわからない!」」
「……死ねばよかったんだ…」
されるがまま揺さぶられていた彼は、ぽつり、と俯いたままつぶやいた。
「オレが、僕が、皆の代わりに死ねばよかったんだ。お父さんの代わりに
お母さんの代わりに、バレットの代わりに……」
「な、何言ってるの…?」
ようやく感情の高ぶりを抑えた私は、何とか彼の言葉の意味を
理解しようと必死で努力した。
「ミョルニル山脈の廃坑。十年前まで、あそこの近くには、小さな集落が
あったんだ。僕はそこの生まれで…あの頃は楽しかった。でも、あの日」
彼は呻いた。呻き、搾り出す様に後を続けた。
「たくさん化け物がやってきたんだ!全部壊した!みんな殺した!」
言葉の後半は殆ど悲鳴だった。
「僕だけが生き残った。僕は、何も出来なかった。
僕は無力だ。無価値だ。無意味だ。殺された皆も恨んでる。
どうして何もできない僕なんかが生き残ったんだ、って。
全くそのとおりさ!だからせめて!僕は、自分よりも生きる価値のある他の
人の代わりに死ななくちゃいけないんだ!」
「…だからプロンテラで私を庇ったって言うの?」
「…うん」
小さく頷いた彼の表情は、戦闘でぐちゃぐちゃになった豊かな頭髪に
隠れて、わからない。
 目の前で両親や親友、村の人々を殺された幼き少年。
さぞや悔しかったろうに。さぞや歯痒かったろうに。
自身の無力さを痛感した彼は、何時しか自らを無意味なモノと感じ、
自暴自棄な振る舞いさえ厭わなくなった。
 でもそれは。周りに見てもらいたいから。周りに構って貰いたいから。
周りに自分を認めてもらいたいから。それ故の行為。
 それは彼の独り善がりでしかない。私は、彼に自分の影を重ねた。
 ほら、やっぱり。結局、彼も自分の事しか考えていなかったのよ。
理性が先輩の声でそう囁く。
 でも、その囁きを私は肯定できなかった。否定してしまった。
あぁ。本当は、とっくのとうに、私は理解してたんだ。
彼が優しい人だという事を。
 他人の為に死ぬなんて確かに自己満足の行為かも知れない。それでも、
それを実際に実行してしまう様な人間なんて滅多に居ない。
だから、それができる彼はやっぱり優しい人なんだ。
 そう理解した時私は感情の爆発を抑えることなんてもうできなかった。
「ふ、ふざけないで!そんな理由で助けてもらっても私、嬉しくなんかない!
貴方に、私が無意味じゃないなんて何でわかるの!?
甘ったれないでよ!自分の重さも感じられないような人が、
他人の重みなんてわかるわけないじゃない!
自分に意味を見出せないのは貴方だけじゃないわ!そんなに死にたいなら、
せめて他人の重さがわかるようになってからになさい!」
もうずっと長い間、孤児院の時から溜め込んできた事まで吐き出す様な勢い。
 私がこんなに感情的になるぐらい、他人に怒りを、関心を抱いたのは
これが生まれて初めて。
 本当に恥ずかしい。半分くらいあてつけじゃない。こんなこと、
これで最初の最後にしよう……。
 肩で息をつく私を呆然と見上げる彼の黒い瞳は揺れていた。
40前スレ79sage :2004/04/13(火) 00:00 ID:e0PWL0GY
今まで僕の心とか魂といったモノは、宙に浮いていた。
 自分が自分で無い様な感覚。感覚が感覚に感じられないという感覚。
自分に何が起きたって、他人の事のようにしか思えない。
 嬉しくも、腹立たしくも、哀しくも、楽しくもない日々。
ただ時間だけがすぎていく倦怠感。
 自分に意味を、重みを見出せないという事は、自分を感じられないという事。
 故に僕は自分を感じるため、魔物と殺し合い、自らを傷つけてきた。
 そんな僕の魂は、たった一人の青い髪のアコライトによって、
地上に引きずり下ろされたのだった。

 自信を持て、と彼女は言ったのだ。自分の力を信じろ、と彼女は言ったのだ。
 彼女の言葉の意味を理解し、僕は震えた。心臓を鷲掴みにされたような
衝撃が全身を打ちのめす。
 わかってしまった…。僕は今まで、他人を、特に大切な仲間を守って
死ぬ事こそが僕の唯一の意味だと信じてきた。
 でも、本当は違う。僕はただ、周りの人間に自分が価値のあるモノだと
認めて欲しかっただけなのだ。自信を持て、と言って欲しかっただけなのだ。
 なんて愚かなんだろう。なんて情けないんだろう。結局、僕は
他人のためと言いながら、自分の事しか考えていなかったのだ。
 それなのに。彼女は僕が欲していた言葉を言ってくれた。彼女にだって
わかったはずだ。僕の浅ましさが、僕の愚かさが。それでも、彼女は
そんな事には一言も触れず、ただ僕が待っていた言葉だけを言ってくれた。
 なんて優しいんだろう。正直、旅の途中で僕は彼女のことを冷淡だと
感じていた。彼女より自分の方がまだ他人を思いやれるとうぬぼれてさえいた。
 それがどうだ。僕は自己中心的な愚か者で、彼女こそが心優しい
正真正銘の聖職者じゃないか。
 そうだ。僕は一体何を血迷っていたんだ。こんな娘こそ、僕は
守らなくちゃいけない。不幸な目に遭わせたくない。
 そのために僕は師匠に剣を習い、そして剣士になったんじゃないか。
そんな大事な事さえ僕は忘れていた。いつの間にか、手段と目的が
入れ替わっていたんだ。
 それが分かった今、僕がやることは一つしかない。
41前スレ79sage :2004/04/13(火) 00:01 ID:e0PWL0GY
 戦場を見る。さっきのペコ騎士が中心となって一次職の人達が
ポイズンスポアの「海」と格闘しているが、運悪くウィザードやハンター
がいない為、殲滅が追いついていない。
 案の定、数匹のポイズンスポアがこちらへ流れてきた。
 地面に落ちていた刀を拾い、彼女の盾となるべく立ちはだかる。
「ちょ、貴方!私の話…」
彼女の言葉を遮るように、そして自分を確認するために、僕は叫んだ。
「思い出したんだ!何でオレは戦うのか!」
一直線になってこちらへ突っ込んでくる紫色の化け物。
「あの時、何もできなかったオレと!」
小さく、だが鋭く跳ぶ。重心を乗せ、脚のバネを開放し、完璧な「踏み込み」。
一番前のポイズンスポアを蹴り潰す。
「同じ気持ちを誰にも味合わせたくないから!」
飛び上がってきた二匹目を踏み込みと同時に袈裟懸けにする。
「だから、これは、オレのやらなくちゃいけないJob(仕事)なんだ!」
技の終わりを狙って、首筋を食いちぎらんと大口を開いた三匹目の咥内に、
短刀を叩き込む。
 ひとまず片付いた。向き直り、彼女に正対する。
「ごめん、やっぱりオレ行かなくちゃ」
彼女は何も言わない。泣き出しそう、とも怒り出しそうとも見える複雑な
表情で、僕をまっすぐに見つめている。
「あそこで戦ってるのは、君の先輩なんだろう。あのままじゃ、
あのプリさんだって、ただじゃ済まない。オレ、君の泣き顔は見たくないんだ。
だから、もしオレに何かあったら。何かの機会で廃坑に立ち寄った時、
花でも添えてくれると嬉しい」
再び戦場を向く。もう振り返らない。
「それじゃ」
後ろに向かって軽く手を上げ、僕は再びポイズンスポアの群れに飛び込んだ。
42前スレ79sage :2004/04/13(火) 00:02 ID:e0PWL0GY
彼は行ってしまった。今度こそもう戻らない、そんな気がしたけど、
私は彼に何も言えなかった。
 何故なら、今にも彼と一緒に魔物を殴り出そうとする自分を押さえるのに、
私は精一杯だったからだ。
 そんな事、身体能力の向上よりも知力を優先して来た私がするのは
余りにナンセンス。そういう野蛮な事は、上手いことやって、馬鹿な男に
やらせておけばいい。
 わかってるはずなのに。そう思っているはずなのに。私の身体は
理性の言う事を全く聞かず、逆に理性の方が感化されてしまっているみたい。
 そうだ。考えてみたら私達まだ清算してないじゃない。大部分の
収集品は彼に預けてあるんだから、取りに行かないと。そう、決して好きで、
ブルジョワでも廃でもない彼の所へ行くんじゃないんだから。
 そう自分に言い聞かせて、私は懐のチェインとバックラーを構えた。
 全く。彼と出会ってから、私はペースを乱されっぱなしだ。
こんなの不公平。何かお返ししてやらないと、私の気が済まない。
 そういえば、さっき彼は、私の泣き顔がどうとか言ってたけど…。
ここは一つ、貧乏剣士なんかに守られる程私はヤワじゃない、って事を
彼に教えてあげる事にしよう。
 ブレスとIAを自分にかけ、私はポイズンスポアの群れに飛び込んだ。
43前スレ79sage :2004/04/13(火) 00:03 ID:e0PWL0GY
 黒髪の剣士を探す。絡んでくるお化けキノコを蹴散らし、彼を探す。
ポイズンスポアの量に対し、交戦する人間の量は圧倒的に少ない。
シーフ、じゃない。アコライトじゃない。商人じゃない。騎士でもない。
剣士…彼じゃない。こっちの剣士も違う。…パティ先輩。先輩が見えた。
 そして、一生懸命に傷ついた冒険者を癒していく先輩のすぐ傍には、
先輩を守るように立ち振る舞う黒髪の剣士がいた。彼と見まごう程に雰囲気の
似た黒髪の剣士。そう、その人は似ているというだけで、彼ではない。
 その人に気をとられたのが悪かった。気づいたときには、既に私は
数匹のスポアに囲まれていたのだ。慌てて頭と顔をバックラーで隠しながら、
チェインでポイズンスポアを殴りつける。
 クリーム色の法衣を突き破って、スポアの牙が私の右の二の腕と、
左腿を傷つけた。頭が一瞬真っ白になって…後から気の遠くなるような
激痛がやってくる。思考がパンクした。もう声も出せず、ただチェインを
滅茶苦茶に振り回す。今度はおかしな風に打ちつけてしまったのか、
手首を痛めてしまった。目から汗が溢れる。
 私はもう満身創痍だというのに、スポアは続々とやってくる。
 私は絶望した。殴った拳も、傷つけられた身体も全てが痛い。
全身が悲鳴をあげる。ノービスの頃、ポリンやウサギを殴ったのとは全然違う。
 知らなかった、前衛がこんなにもつらいものだなんて。
 前衛の人達や彼が常にこんな苦しい時間にその身をおいている、と
私は思いもしなかった。私が座っている間に、彼がどんな思いをしていたか
私は考えもしなかった。
 私はこんなに辛い思いをしている人達から、無償で何かを貰おう
としていたんだ。
 正直、そんな自分にもう反吐が出そう。
 精神力の全てを費やして自分にフル支援し、なんとか自分にタゲの来た
スポアを殲滅する。
 出血は一向に止まらず、痛みも引く気配がない。魔物を殴った感触も
とても気持ち悪い。もう嫌…。目の汗が絶え間なく滴り落ちる。
 彼は、彼はどこ?
 不意に肩を叩かれる。振り返れば、そこには、血や土で顔を薄化粧した
黒髪の剣士。
「何やってんだ?逃げろ、って言ったろ!?」
「わ、私は…私は貴方に、い、言い忘れたことがあったから…」
しゃくりあげながら、言う。汗を拭くふりをして、目の汗を拭う。
「私、廃坑なんて行かない。お墓参りは自分で行って…」
私の眼を心配そうに覗き込んでいた彼は、やがてふっと、柔らかく笑うと
私の顔に指を伸ばし、汚れをとってくれた。
「オーケー。わかったよ、自分で行く。生きて、ここから出て
ドリスさんの露店に二人で買いものに行く。それでいいかな?」
「ええ、良くってよ」
上品に返して、チェインとバックラーを構えなおす。
 話しているうちにまたポイズンスポアの集団に囲まれていた。
自然と、私達は互いに背を庇いあう体勢になる。
「恐くなったら、いつでも蝿逃げしていいんだぜ!」
「冗談、こんなスポアの色違い、下水のゴキの方がまだ恐ろしいわ」
「上等!」
視界の片隅で、ヒールに忙しそうな先輩に話しかける赤毛の商人を捉えつつ、
私達二人は菌糸類の化け物との戦いの渦に飲み込まれていった。
44前スレ79sage :2004/04/13(火) 00:03 ID:e0PWL0GY
 右腕が使い物にならなくなる。ヒールがあれば何とかなるが、
支援型なのに敵の殲滅に協力する彼女に、口が裂けてもそんな事は言えない。
 僕は、カタナを納めて、マインゴーシュを左手で握った。
 敵は一向に減らない。恐ろしい増殖速度で湧き出てくるのだ。
 最初こそ、ばらばらに戦っていた冒険者達も次第に共同して戦い始めていた。
そう、僕達二人の様に。
「一次職、もっと後ろに!二次職より前に出るな!」
「そこの騎士、アンタこそ前に出すぎなんだ!シーフなめんなよ!」
「す、すまん!」
「アコプリの護衛を最優先しろ!」
「魔法職はまだか!?」
互いに声を掛け合うことで、互いを励ましあい、情報交換も行い、
状況を自分達なりに組み立てる。全体の維持は保身にもつながるのだ。
 だが、運悪くハンターも少なく、ウィザードがいない。プリーストも少ない。
彼女の先輩、栗毛のプリーストは汗で髪がほつれるのも気にせず、
ただひたすら集中し、複雑な手順を踏み、儀式を構築し、神の奇蹟を
呼び起こす。あれに比べたら、単調に刃を振るう僕らは何て楽なんだろう。
プリさんの支援に応えるためにも頑張らなくては…!
 そう自分を鼓舞し、黙々とキノコを破壊する。

 どれ程の時が経っただろうか。
 身体がもう限界だった。筋肉が悲鳴を上げ、骨が軋む。
息がとても…クルシイ。
「どうしたの?危なくなったら、いつでも物乞いヒールチャット、
立ててもいいのよ」
そう軽口を叩く彼女の表情は見えない。
でも、それが苦悶のものであることは想像に難くなかった。
「君こそ…大丈夫なのか?」
「私は…平気…だから…」
「何言ってんだ。早く蝿を使うんだ!」
「冗談…今更…」
「ばっ――――」
まともに二つの脚で立っている事もままならず、僕たちは互いの背で
お互いの体重を支えている様な有様だった。丁度、「人」の字の様に。
 魔物をいなしながら、彼女をたしなめようとしたその時、僕は
信じられないモノが宙を舞っているのを見た。見れば、
彼女も洞窟の天を見上げている。
 雪が、降っていたのだ。

 ストームガスト!!
聞く者に不敵な印象を抱かせるその声が、大魔法を発動させる。
 次の瞬間、ポイズンスポアの海は、氷河と化していた。
45前スレ79sage :2004/04/13(火) 00:04 ID:e0PWL0GY
16/]Y、

 ゲフェンタワーは今、地下三階から地上、それに連なる広場まで
負傷者や、それを癒す聖職者、回復アイテムを原価で売る露店商人などで
埋め尽くされていた。
 冒険者達は互いを気遣いあい、また己の武勇伝を戦闘に参加できなかった
人達に聞かせたり、と互いに「生」の喜びを分かち合っていた。
 幸いにも死者は出なかった。正直、今僕はほっとしている。
だが、素直に喜べないのもまた事実だ。彼女とはぐれてしまったのだ。
 凄まじい人ごみと、喧騒。陽気な人達はまだ日は高いところにあるという
のにもう酒宴を始めている。
 腰まで届く、長く青い髪のアコライトを探す。見つからない。
早く会いたい、と急く頭とは別に、脚はあまり機敏には動かない。
それもそうか。再会は、同時に臨公の終わりを、彼女と一緒に行動できる事の
終わりを意味しているのだから。
 思い切って、相方になってくれ、と頼んでみようか。ダメ元で言ってみて、
駄目ならまた別の人を探すか、ソロに戻る、ただそれだけの話。
 卑屈に考えることなんてない。そう、自分に自信を持つんだ。それは、
過信でもなく、自惚れでもなく、ただ自分に意味を見出すだけなのだから。
 やがて、僕は彼女を見つけた。いや、見つけてしまったと言う方が
自分に正直か。彼女も何かを、おそらく僕を、探していたようだったが、
僕の姿を認め、その場に立ち尽くしていた。
 早まる鼓動を抑えようと努力しつつ、僕はゆっくりと彼女に歩み寄った。
 彼女の前まで来て、緊張はほぐれるどころか、その頂点に達していた。
 別に愛の告白をするわけじゃない。これからも狩りに一緒に行かないか、
と誘うだけなんだ。落ち着け、オレ。
46前スレ79sage :2004/04/13(火) 00:05 ID:e0PWL0GY
 彼と眼が合ってしまった。彼と会ってしまえば、この臨公は終わり。
彼とはもうさよならだ。
 色々と学ぶ所の多い臨公だった。何度も命を落としそうになった。
もうこんな危なっかしい臨公はこりごり。でも、一生に一度くらいは
こういう経験があってもいいかな、と今は思う。
 この場にいる人達は皆、互いに互いを思っている。原価でアイテムを売る
露店商人。自腹を切ってサンクチュアリを展開するプリースト。
肩を支えあいながらダンジョンから出てくる剣士とシーフ。
一生懸命、辻ヒールをするアコライト。負傷者の苦痛を和らげるため、
美声やとっておきの芸を披露するアーチャー。
 今私が見ているこの光景は、彼が私を外に連れ出したりしなければ、
人の良心を信じない私とは一生、無縁のものだったに違いない。
 その彼との別れはすぐそこまでやってきている。
 正直、眼が合わなければ気づかなかった振りをして、芋を洗うような
人ごみに逃げ込んでいただろう。
 でも、今はもうそれもできない。
 彼の澄んだ黒い瞳には、至近距離の私の顔が映っているから。
「やあ」
先に口を開いたのは彼の方。
「ごめんね、はぐれちゃって。探した?」
やだ、私、顔を合わせられない…。彼の声を聞いた私の頭は真っ白になった。
「さ、さっきはごめんなさい。大きな声、出して…」
あぁ、なにとんちんかんな事言ってるの、私は。
でも、彼は私の言葉の意味を察してくれた。
「いや、謝らなきゃいけないのはオレの方だ。迷惑かけてゴメン。
そして、ありがとう。おかげで助かったよ」
「え…あ、はい…」
ど、どういう意味?何が、ありがとう、なの?
 そんなどうでもいい事を考えていたから、私は、次の彼の言葉に、
上手く反応することができなかった。
「それで、さ。良かったら、相方になってもらえないかな」
47前スレ79sage :2004/04/13(火) 00:06 ID:e0PWL0GY
「え?」
彼女が顔を曇らせ、戸惑いの声をあげた。
 やっぱ駄目か。反射的に、しかし少し慌てて、僕は取り繕った。
「い、いやさ、良かったら、転職まで一緒に修行しないか、なんてね、
ははは」
「は、はい」
彼女はまたしても首を縦に振っていた。

「え?」
今、彼、なんて言ったの?
「い、いやさ、良かったら、転職まで一緒に修行しないか、なんてね、
ははは」
胸の奥に針が落ちる。でもそれ以上に私の胸は温かい何かで一杯になった。
「は、はい」
私の弾むような返事に、彼は目を丸くしていた。

彼女の吸い込まれてしまいそうな深く蒼い瞳に映る、自分と僕は見つめあい、

彼の、窓から入る日差しを赤く還す漆黒の瞳に映る、自分と私は見つめあい、

何となく気恥ずかしくなった僕は、彼女に笑って見せた。
何となく気恥ずかしくなった私は、彼に笑って見せた。


「とりあえず、外に出て精算しようか」
「ええ」
塔から一歩外に出れば、そこは陽の光が降り注ぐ世界。
 地底から出てきたばかりの僕らには少しまぶしかったけれど、
同時にそれは僕らの未来のような気がして、心が弾んだ。
 明日はどこへ行こうか。世界は人間には広すぎる。
 でも、仲間がいれば、どこにだって行ける。
 そんな気が、した。
48前スレ79sage :2004/04/13(火) 00:12 ID:e0PWL0GY
 ベタベタな展開でイタイ内容を拙い文章で
だらだらと書き連ねて来てしまいましたが、
ようやくこれで終わりです。
 予想以上にサイズが大きくなってしまったので
やはりどこかのうpろだにでもあげたほうが
よかったでしょうか?っつっても、後の祭りか。。
 ちょっくら吊ってきます。

皆さんがこの小説で楽しんでいただけたら、何よりです。
ありがとうございました。
49名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/13(火) 01:37 ID:cQCTSmmM
ベタベタな、ひいてはよくある展開の話は、面白いからこそ「よくある」のです。
要するに、面白かったという事でして。
楽しませて頂きました。
続きとは言いませんので、また何か話が浮かんだら投下して頂ければ幸い。
50名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/13(火) 04:17 ID:7eZWWIg2
>>48
おつかれさま〜
王道だろうとなんだろうと、ハッピーエンドは楽しいのです。
楽しいからこそまた読みたくなるのです。
51名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/13(火) 12:06 ID:KAztz7Ng
>>48
マイグレーションの時の首都防衛戦を思い出して涙が溢れました。

ニブルヘイム実装時にでもまた大規模戦闘やりたいな〜
人&魔族の連合軍Vsロードオブデス様率いる死の軍隊あたりで
バフォ様やDOP様をGMが操作すればかなり燃えそう
52名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/13(火) 16:35 ID:rG9wsIqU
>>48
GJ&お疲れ様Σd(´∀`)!!
貴方の小説はアツき燃えと微笑ましい萌えを備えた素晴らしい物だと思います。
ベタベタな展開? いいや違うね。この小説は『王道』であり『お約束』だ!
つぅかいやもうホント、大変面白かったです。
蝶・サイコー!!!
53名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/13(火) 17:16 ID:K46S8XmQ
をれ9取った奴なんだけど
一応、書いてみたんよ・・・

慣れてないし外出先でPDAで書いてるもんだから変換しょっぽいし
何より萌えとか燃えとかなさそげなんだけどさ・・・投下しても良い?
54名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/13(火) 17:41 ID:b4ExE/ew
|-゚)


|ー゚) マズハ投下シル 話ハソレカラダ


|彡サッ


名も無き文神さんを待ち望む人(1/20)
55sage :2004/04/13(火) 17:55 ID:vAdA8s5g
うおおリアルタイムレスサンクス。
職場で自前環境で仕事さぼってこつこつ書いたんよ
・・・ばれたらマジやっべーんだけどそんな事おかまいなしさね。
じゃ、いってみよ〜
56sage :2004/04/13(火) 18:03 ID:vAdA8s5g
場所、プロンテラに程近い森の中。ロッカーだのポリンだのがぺけぺけ跳ねてる。
あたしは転職したての剣士。ロッカーを叩きに来てる。
目の前にはこの場所なんか過去の彼方に置いて来て、今は通り過ぎるだけの場所になっている筈の
アサシンとかローグとかブラックスミスとか。
戦闘で傷ついて、ついでに暑かったものだから森の奥の方、木陰で涼んでいたあたしを囲む様に
姿を現したって訳。
ちょーっと、目付きが尋常でないかな?なんてーか、こう血走ってるっていうか・・・
「へっへっへっ。こんな森の奥で休憩してたら危ないぜ?お嬢ちゃん。魔物とかさぁ。」
・・・いやもうあからさまにあなたが危ないって感じだよローグさん。
アサシンさんも無言のまま皮のベルトを手でもてあそんでるのがとってもこわいんですけど・・・
あー・・・もしもしスミスさん?手を前に出してわきわきさせるの止めようよー不気味だよー。
って冗談めかしてみても状況は好転してくれない。じりじりと距離が詰まっていく。
情けないけど、あたしは体がすくんじゃって一歩も動けなかった。
でもでも、こういう時は大抵カッコイイ男が助けに入るのがお約束ってものだし、
第一ここは18禁スレじゃないんだからこれ以上は無い筈だし!
うわ、思考もぐちゃぐちゃだ。自分でも意味不明、理解不能、支離滅裂だよ。
そもそも「じゅうはちきんすれ」ってなんだろう?聞いた事もないのにね。
それはともかく、後一歩で彼等の手があたしに届く、その時。
彼等のすぐ後ろを流れる様な動作で一人の青年が通り過ぎた。
あまりに自然過ぎて一瞬認識出来なかった位。
ほらやっぱり、タイミングばっちりじゃない!?これで『そこまでにしておけ』とか割って入って
助けてくれてそれで当然とっても強くてこいつら撃退してそれからラブロマンスが始まったりして!?
あぁまだ飛んじゃった頭が帰ってこない。一瞬の事とは言えナニを考えてるんだあたしは。
青年はそのまま通り過ぎて立ち去って行く・・・って、え?
ちょっと今一顧だにしなかったよ彼・・・そりゃーラブロマンスは自分でも行き過ぎだとは思うけど
それでもこんな状況なら普通少しは何か反応あるでしょ?
「ちょ、ちょっと、そこの人!無視してないで助けてよ!?」
思わず声を張り上げちゃったよ。
私に言われてブラックスミスが思わずといった様子で振り返った。
アサシンは変わらず無言でぴくりとも動かない。ローグはニヤニヤ笑いを浮かべて、
「おいおいんな幼稚な手にひっかかってんじゃねえよ。」
・・・え?気付いてない、の・・・?
目の前の三人はあたしから見ればとんでもなく強い筈。それなのに気付かなかったっていうの?
気配を気付かせなかった彼が凄いのか。
それとも魅力的な獲物に心を奪われていたのか。
(ほらそこ首を傾げない!あたしの事だよ!・・・嘘ですごめんなさいそこまで自惚れてないです(TT))
「な、何だよお前・・・?」
ブラックスミスが呟いた。恐らく反射的に振り向いてしまっただけで
本当に人が居るとは思っていなかったのだろう。信じられないって顔をしてた。
それで、今度こそアサシンとローグが怪訝そうに振り返り、驚愕の表情を浮かべる。
それも一瞬。今までの軽薄な表情が厳しく引き締まって、歴戦の顔が覗く。
あたしに呼び止められる形となった彼は、違和感を感じる程端正な顔立ちに何の感情も浮かべず、
こっちに半身を向けて立ち止まった。
重厚な鎧を身にまとい、腰に剣を履き、背中に大きな盾を背負っている・・・クルセイダー。
兜は被っていない。そうでなければ顔見えないもんね。
でも・・・この人、この格好で、全く音を・・・いや、気配さえ発しなかったっていうの?
「おうおう、見世物じゃねぇんだ。用がねぇならさっさと通り過ぎるべきだぜ?」
「そうそう、痛い目見てぇってんなら話は別だがな?」
ローグとブラックスミスは軽口を叩きながらもさりげない動作で自分の武器に手を伸ばしてる。
アサシンに至っては既に短剣を構えて殺気を撒き散らしている。
あたしにもわかるんだ。こいつ等にも当然わかるんだろう。
クルセイダーの薄い気配が。
それはあまりにも自然に過ぎて却って不自然だと感じる程。
その端正だけれど、どことなく無機質さを感じさせる顔と相まって。
まるで・・・そう、人形と向き合っている?そんな気にさせられる。
とにかく、人間と向き合っている気がしない。
「俺には用件など無い・・・呼び止めたのはお前達だ。」
平坦な・・・何の感情も窺わせない、口調。
「あぁ?誰もてめぇなんざ呼び止めてねぇよ、さっさと消えな!」
「そうそう、邪魔は野暮ってもんだぜ?
それとも正義の味方のクルセイダー様は悪を見過ごせないってか?」
ローグとブラックスミスは相変わらず相手を小馬鹿にした口調で反応を窺っている。
アサシンは動かない。けれど・・・凄い汗・・・お腹が痛いのを我慢してるって事は・・・ないよね、うん。
「確かに呼び止めたわよ!助けてって!」
あたしは声を張り上げた。何だか、このままだとこのクルセイダーは
『そうか。邪魔したな』
とか言って帰っちゃいそうな気がする。
一応、助かるかもしれないチャンスなんだから頑張ってみないとね。
だというのに・・・
「諦めろ。俺は他人と関るつもりはない。」
うわ、平然と抜かしやがったよこの野郎。
あ、あ・・・またすたすたと歩き出しちゃったよ・・・
「こらー!か弱い乙女のピンチを救ってあげようって気にはならないのかー!この馬鹿ー!」
くぅー、今度は振り向きもしなかったよ畜生。
・・・とほほ・・・諦めるつもりはないけど、万事休す?
57sage :2004/04/13(火) 18:07 ID:vAdA8s5g
「あ、おいやめろ馬鹿っ!」
と、その時ローグが焦った声を張り上げた。
去っていくクルセイダーの背中に躍りかかったアサシンに向けて。
あたしにはアサシンの手の動きなんか全く見えなかった。ただ銀色の光が数回走っただけに見えた。
それが多段斬撃であると理解できたのは鎧が甲高い音を立てていたからでしかなかった。
そう、その斬撃は頑強な鎧に阻まれていた。
「我に挑むか・・・?」
再び振り向き、問いかけるクルセイダー。
その口調は先程までの平坦な物ではなく、どこか悲しげに聞こえた。
え・・・今一瞬だけクルセイダーの目が赤く光った様な・・・?
アサシンはにやりと笑うと素早く武器を取り替えた。あれは・・・ジュル?
そして再び斬りかかる。
先程の速度は無く、今度のはあたしでも辛うじて目で追える速度。
クルセイダーはその外見に似合わない・・・なんてもんじゃない、
アサシンにも劣らぬ反応速度でその斬撃をかわし、盾でいなす。
けれど、全てを回避するのは無理の様だ。半分位は当てられている。
・・・当然、ちょっと離れてるから見えるんであって、
あたしが当事者だったら何が起こったかもわからずに案山子みたいに切り刻まれるよ。
アサシンの斬撃は的確に鎧の隙間を穿って行く。当然肉体にも届いているらしく、
鎧のあちこちから真紅の液体が染み出す。
クルセイダーは斬撃の嵐の中、致命打になりえる顔への攻撃のみの防御へと切り替え、
まるで痛覚などお構いなしとばかりに表情も変えずに腰の剣を抜き、
ゆっくりともいえる動作で剣を持つ右手を左側へと持っていく。
上体が捻れ、右肩の裏側までアサシンに見せて、そして・・・
アサシンは当然、その一撃を避けるつもりだったのだろう。休む事無く切り付けながらも
その動きのタイミングを図っている様に見えた。
ぶおん、というより・・・どおん、と風を薙ぎ払う音。
アサシンはバックステップで跳び離れ、そして倒れた・・・上半身だけが。
下半身は未だに着地した姿勢を保っている。
クルセイダーは一刀でアサシンを両断してのけた。
油断していた訳では無いだろう。けどアサシンのあの動きなら避けられない速度じゃ無かったと思う。
あたしは、昔聞いた話をふと思い出していた。
『剣は、体の動きと腕の動きの合計の速さで振るわれる。
それに対し避けるという行為は体の動きでしかない。体を剣の速度で動かす事は誰にも出来ない。
なら、一流と呼ばれる剣士達には何故相手の剣が避けられるのか?
それは、言葉で説明するのは難しいのだけれどね・・・相手の攻撃の瞬間がわかるんだ。
攻撃は、殺気が膨らみ切って破裂する・・・その瞬間に行われる。
殺気っていうか、要するに攻撃しようとする意思って事なんだけどね。
とにかく、それを読み取れれば一手先の行動が行える。
攻撃を回避するっていうのは、その一手先の行動で動きの速さを補う事で成り立つんだ。』
その話を聞いた時、思った。
つまりは・・・もし、攻撃しようとする意思を悟らせずに攻撃を行える者が居たら・・・
その攻撃を回避する事は誰にも出来ないという事になるんじゃないだろうか?と。
根拠はない。強いて述べるなら人を一人切り捨てながらも揺るがないその静かな気配、それだけ。
でももしこのクルセイダーがそうなのだとしたら今起こっている事が納得できる。
・・・まぁ、回避云々の話が本当だったとしたら、だけどね。でも、あたしは信じてる。
なんでかは、まぁ今は置いといて。
ふらふらと揺れていたアサシンの下半身が倒れた。
「こ、このやろぉっ!」
仲間の死で逆上したのか、今度はブラックスミスがクルセイダーに跳びかかった。
アサシンより力強いけれどもアサシンより遅い。その攻撃のことごとくを避けるクルセイダー。
避けながら、口を開いた。
「強き者、汝は何故に己を鍛え、武器を振るう?」
そしてクルセイダーの背後からその答えが返った。振り下ろされる刃と共に。
「決まってるだろぉ!?てめぇみてぇないけ好かねぇ奴をぶっ殺す為だ!」
何時の間にか移動していたローグの背後から必殺の一撃は、クルセイダーの喉を正確に貫いた。
「へへっ・・・ざまぁみやがれってん・・・だぁっ!?」
ローグの攻撃が決まり、ブラックスミスの気が緩んだのも、油断じゃなかったと思う。
だって普通、喉に短剣刺されたら即死もんでしょ?
なのにこのクルセイダーは死ななかった。
目の前で武器を降ろしかけていたブラックスミスに一足で跳びかかり、今度は縦に両断した。
喉に刺さった短剣を握っていたローグはその動きに引きずられそうになって、
慌てて短剣を手放して跳び離れた。
「ば、化け物・・・」
ローグは今明らかにこのクルセイダーに怯えている。顔に浮かぶのは恐怖の表情。
・・・あたしも多分似たり寄ったりな顔してるんだろーけどね・・・
そして、ローグに向き直り、一歩踏み出すクルセイダー。
「う、うわあぁぁぁぁっ!」
既に戦意を喪失しているローグは、その場から忽然と姿を消した。
ハエの羽か蝶の羽で離脱したみたい。恐慌をきたしかけていた割には冷静な判断だと思う。
クルセイダーは剣を腰に戻すと短剣を掴み、無造作に引き抜いた。
噴き出す鮮血が鎧を赤黒く染めていく。
喉が機能している筈は無いんだけど、クルセイダーの口から言葉がこぼれる。
「ヒール」
鎧だけでなく周囲も赤黒く染めていた血飛沫が収まっていく。
傷口が塞がると、クルセイダーはそのまま歩き始めて・・・倒れた。
死んではいない・・・体は動いてるし。でも、立ち上がれないでいるみたい。
・・・えーと・・・
・・・あたしにどうしろと?(TT)
選択肢
@:とどめをさす
・・・なんでよ?あたしがわざわざそんな事する理由はないよ。第一出来るとも思えないし・・・
A:見なかった事にして立ち去る。
・・・これが一番妥当だと思うんだけど・・・はっきり言って怖いし。でも・・・
B:一応結果として助けて貰ったんだし、様子ぐらいは見ていこうかな。
・・・結局は、これだよねぇ・・・このクルセイダーが何者か興味もあるし・・・
あたしは、意を決して、恐る恐る倒れているクルセイダーに近付いた。
58sage :2004/04/13(火) 18:09 ID:vAdA8s5g
「どうしちゃったのよ?」
クルセイダーが(無表情でわかり辛いんだけど)困惑した様子で呟いた。
「信条に反するが・・・致し方あるまい。」
ん、ん?何が仕方ないのかな?そういやさっき見捨てられた時
『他人と関わるつもりはない』って言ってたけど・・・
つまりは、仕方ないからあたしと話をしようって事、かな。
なんか引っかかる言い方だけど・・・
それこそ仕方ないから聞かなかった事にしておこう。
「力が入らない。体が動かない。何故だ。」
ちょっと待ってなんでこいつは本当に不思議そうなの?
原因なんて一つしか考えられないじゃない。
「血、出しすぎたんじゃない?普通即死してる傷だったんだし。」
「いや・・・俺には血はさして重要ではない。他に要因がある筈なのだが。」
「他の要因?」
力が入らなくなる?血が足りない以外で?
「病気とか?」
「病気ではない。体に異物が侵入すればわかる。」
「お腹が減ってるとか・・・」
・・・自分で言っててなんだけどそんな訳ないよね・・・
「お腹が減る・・・?飢えているという事か。そうか、納得した。」
・・・って、納得するの!?
「えっと・・・さ。前にごはん食べたの、いつ?」
「生命力の補填作業は目覚めてから行っていない。」
なんか変な言いまわしだよね?でも、目を覚ましてからごはん食べてないって事は・・・
「朝ごはんとお昼ごはんを抜いたの?」
だから無表情でわかり辛いんだけど・・・どうも意味が掴めてないみたい。
あたし、変な事は言ってないと思う・・・ってこの人、人間じゃないかも知れないんだから
こっちの常識が通用しない可能性があるんだよね。もっと別の事聞かないと。
「目覚めたのって、いつ?」
「俺が目覚めたのは一ヶ月前だ。」
「つまり、一ヶ月前から寝てもいないし食事もしてないって事?」
「そうだ。」
「すっごく、今更なんだけどさ・・・あなた、人間?」
「そうだとも言えるが違うとも言える。」
「えっと・・・つまり?」
・・・沈黙。答える気はないのかな?って思い始めた時に答えが返ってきた。
「生物学的にヒトかと言われれば答えは否だ。」
・・・それきり口を開く様子はない。
「人間だと言える部分は?」
「かつてはあった。だが今はもう、ない。」
・・・なんとなく、直感。さっきの沈黙は説明する言葉を探していた時間で、その結論が。
「『説明するのメンドクサイから前言撤回して人間じゃないって事にしちまえ』なんて思ったでしょ。」
クルセイダーは初めてあたしの顔を見た。
やっぱり無表情なんだけど(くどいからそろそろ無表情って入れないよ)驚いてる気がする。
「何故わかった。」
「なんとなく、ね。元々勘は悪くないんだ、あたし。」
「そうか。」
「ま、いっか。とりあえずあなたは人間に見えるけど人間じゃないって事で。納得してあげましょ。」
「納得して貰えたのなら有難い。」
「で、あなたは人間の食事で栄養補給できるの?」
「試した事はないが・・・恐らく可能だ。」
うん・・・変な奴だけど危ない奴じゃない気がする。例によって直感だけだけどね。
「そっか。なら、はい。」
あたしはポリン産りんごを渡しかけて・・・
「あ、長いこと食べないでいたところにいきなり固形物は駄目って前に聞いたっけな。
人間じゃなくってもそうかも知れないんだから、まずはミルクね。
寝っ転がってたら飲めないから体を起こさないと・・・って、おもい・・・鎧脱がすよ。」
上半身を覆う鎧を剥ぎ終えて、上体を起こす。
彼は力を抜いてあたしに体を預けている。
わ・・・言葉の勢いと成り行きだけど・・・これってもしかしなくてもスゴイ光景じゃない?
周囲は血の匂いで充満してるっていうのに
(だってしょうがないじゃないあたし成人男性+鎧の重量なんて動かせないもん(TT))
彼の発する薄い男の匂いと汗の匂いが確かにする。どきどきする・・・頬が熱い。
途端にどぎまぎしてぎこちなくなった指を叱咤して、鞄からミルクとハンカチを取りだす。
こぼれてもいい様にハンカチを当てがって、ゆっくりとミルクの瓶を傾ける。
途中から自分で支えられる様になったから手を離す。
空瓶を受け取って、暫く待つ。
「お腹の調子、どお?」
「問題ない。」
「じゃ、次はこれね。」
今度こそりんごを渡して、あたしも自分の分のりんごをかじる。
かぷり、しゃり、しゃり、しゃり、しゃり、かぷり、しゃり、しゃり、しゃり、しゃり、がり、ごり、がぎ、ごぎん。
『がり、ごり、ごり、がぎ、ごぎん』?
・・・うわ、芯まで食べてる。種噛み砕いてるよ。
「それちがう!歯ごたえが固くなってきたら捨てるの!」
「・・・そうなのか。」
「人間社会で暮らした事がないの?でもこの鎧はクルセイダーのでしょ?
転職するならプロンテラ行かなきゃだし・・・って、転職もへったくれもないよね・・・
・・・ひょっとしてその鎧、強盗で手に入れたとか、死体からひっぺがして来たとか・・・」
あぅ、想像してたら怖くなってきた。
「あ・・・でもヒール使えるんだから正規のクルセイダーと考えてもいいのかな?
本当にあなたってよく分からない。そうそう、いつまでも『あなた』じゃ呼び難いから名前教えてよ。
それとも、名前、ないの?」
暫く黙り込んでから、答えが返ってきた。
「あぁ・・・そうだ。思い出してきた・・・俺の名は・・・フェメト、だ。」
黙りこんでいる時間で考えた偽名なんだろうけど・・・
本名を知られたくない事情とかあるのかも知れないし、取りあえず呼べる名前があるならいいよね。
「フェメト、ね。ちょっと発音し辛いからフェンって呼んでいい?」
「好きにしろ。」
「うん。そうさせてもらうよ。あたしはササメ、よろしくね、フェン。」
なんて言ってるけど何をよろしくするのかなあたしは、とちょっと思ってみたり。

まぁ・・・ともあれ、こうして、あたしとフェンは出会ったわけ。
ちょっとした好奇心と、打算。あたしがフェンに興味を持ったのはそれが理由。
厄介事に巻き込まれるんだろうなって気は・・・うん、してた。
その予感は外れなかったんだけど・・・それはまた別の話ね。
59sage :2004/04/13(火) 18:16 ID:vAdA8s5g
という訳で、板汚しスマンかった。

感想を貰えると嬉しかったりするかも・・・
60名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/13(火) 20:27 ID:tIX3no7U
>>9>>55
PDAで書き上げたらしいから仕方ないんだろうが
もうちっと行間あけたほうがいいだろうというのが
最初の感想だ。
……が、読んでるうちに漏れにはそんなことは気に
ならなくなった。

ようするにだ。  (゚∀゚) イイ

当然これから「厄介事」ってやつも読ませてくれる
んだろう?
61名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/13(火) 22:40 ID:cdKV4slA
>>9

>>60に同意で、確かに行間空けてもらったほうが
読みやすいかも。
だが、おもしろい。たまらなく。
剣士子の語りがおもしろい。
クルセと剣士子の掛け合いがおもしろい。

続き頑張って書いてくれ。(余計な事だが、仕事も頑張ってくれ)
62名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/13(火) 23:47 ID:2dvB2Eg2
下水道リレーは闇の中に・・・
63名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/14(水) 10:45 ID:P5/oMkYo
質問質問
グラストヘイムは巨人族との戦いで廃墟になった人間の城?
それとも巨人族の城?
馬鹿でかい本棚とかテーブルとかリビオとか深淵たんを見ると
巨人族の城ってイメージがあるのですが本当はどっち?
原作読んでないのでわからないです・・・求)日本語版
64名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/15(木) 00:21 ID:wUjnC8qM
セージ萌えスレ(ttp://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi?bbs=ROMoe&key=1075616521
>>35>>46を読ませて頂いて浮かんだネタを投下してみます。
65名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/15(木) 00:24 ID:wUjnC8qM
「……なあ、俺、油祭りって初めてなんだが……」
「うん」
「だいたいみんな、こんななのか?」

 相方が招待されたというコモドでの油祭り。セージであるこいつに請われて付き添った俺の目の前では、ちょっと凄い光景が繰り広げられている。
 休み無く「深淵の中に」を合奏し続けるバード・ダンサー、これはいい。普通だ。
 いきなり倒れたり、哀れ顔がオークの如く変じる者がいる。これもまあ、よくある事なのだろう。
 問題は、油セ−ジ達のSP回復の手段だった。

「す、ストームガス……」
「スペルブレイカー♪ ん……」
「ん……、む、は……ん」

 OK、スペルブレイカーは詠唱を妨害してなおかつSPを吸収するスキルだったな。
 だが、妨害ってのは唇で唇をふさぐ事なのか? SPの吸収ってのは口移しなのか?
 なんつうか、喜々として回復に励んでるんだが。よくよく見れば、俺以外に男居なくないか? ……あ、殲滅役で誘われたらしい騎士さんが、近くのプリさんと真っ赤になって見つめ合ってる。周りの様子にあてられたか。

「アカデミーのね、うちの学科の秘伝なのよ、あのやり方って」
「ほお……」
「まあ、私は結構蚊帳の外だったんだけどね。今日呼ばれたのも、同窓のよしみみたいな物ね」

 たしかに、対人を考えず、油型でもないこいつは、スペルブレイカーを修得していない。

「ああ、プリーストの相方が居るって教えてあったから、貴方が目当てだったのかもね」

 それも有り得ない話では無い……が、何人かの面子は、俺を見て露骨に残念そうな顔をしてたんだが。……まあ、理由の察しはつくが、深く突っ込むのは止めておこう。

「まあ、なんつうか、楽しそうってか嬉しそうにやってるよな」
「そうね。真っ当な理由付きで、公然といちゃいちゃできる訳だし」

 退屈そうに頬杖を突きつつ、相方が言う。見たところ、油セージ達はむしろブレイカーの方にこそ熱心で、ボスの類が現れる気配は今のところ、無い。

「『物事に理由を付けたがるのは、男の習性だ』ってのは、誰の言葉だったっけかね……。女も、似たようなもんなのかな」
「?」

 独り言の様に呟きながら、俺は相方の背後にゆっくりと歩み寄る。

「要するに、だ」
「んむ……っ!」

 不意を突くように相方の背中に抱き付き、肩越しにこちらを向かせて唇を重ねた。

「っぷは、ちょっ、なに、いきな……ぅふん……むぅ」
「したきゃ理由なんか付けずにしても良いだろ、ってこった。こんな風……にっと」
「んは、だからって、ん、人前で……あむ、はげし……っ」

 その抗議は却下だ。周りはみんな、こんな調子だしな。……性別は別だが。
 やがて相方の身体から抵抗する力が抜ける。
 俺は頬に手を添え、もう片方の腕で背中から抱きすくめた。無論、キスは続行しながら。

「ぅふ……む、は……ぅん」
「……ぅむ……、……ふぅ」

 ひとしきり堪能してから、相方から唇を離す。

「……なにか、吸ったでしょ」
「ん?」
「力、入んない」

 そう呟いて、俺にくったりと背中を預けてくる相方。頬は薄紅色に染まり、瞳は既に潤み、蕩けている。贔屓目でもなんでもなく、色っぽい。

「火属性付与もやっちまったかな?」
「……ばか」

 返事の代わりに、抱きしめる腕に力を込める。

 正直、こいつが例のスペルブレイカーを修得しなくて良かった、と心から思う。こんな表情を見せられ、こんな仕草をされた日には、男でなくてもどうにかしたくなる。まして、いま周りにいる連中だったら、何をかいわんや、だ。

「……お前らには、やらねえ」

 いまだSP交換に夢中な連中に目を向けて、呟く。

「え?」
「いや、こっちの話……さて」

 ごまかす様に立ち上がり、相方をお姫様抱っこで抱き上げた。そして、この祭りの主催者らしい、仮初を飾ったセージに声を掛ける。

「すいませーん、こいつコーマかかっちまったみたいなんで、休ませまーす!」
「……あらー、それじゃしょうがないわねー」

 怪訝な表情は一瞬の事。俺達の様子を察したらしいセージは、ほんわりとした笑みを浮かべて、

「ごゆっくりー♪」

 と、ウインク付きで送り出してくれた。

「さ、主催者のお許しも出たことだし、部屋に行こうかね」
「ん……」
「ま、ごゆっくりはともかく、休むかはわからないけど、な?」
「……知らない」

 俺の腕の中でそっぽを向きつつ、身体は俺の胸に預けてくる相方。
 その温もりを味わいつつ、宿への道を急ぐ俺であったとさ。
66名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/15(木) 03:16 ID:ERpDWjRc
『ティータ 3/5』


香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。アルバートは珍しく眼鏡を外して呆けていた。この白髪の暗殺者にしては、非情に稀な事だ。
リビングに降りてきたグレイは、椅子に腰掛けてそうしている彼を見て眉をひそめた。
「・・・何かあったのか?」
「え?あぁ・・・まぁ、な」
アルバートは曖昧に言葉を返し、また天井に目を戻した。
彼がいつも腰に差している短剣がなくなっている。何処かに置いているのかもしれなかったが、常に戦闘に備えているアルバートが手近に愛用の武器を置いてお
かないというのは考え難かった。それ相応の付き合いがあるグレイには、分かる。
「また爺さんと戦ったんだな」
アルバートは何も言わずにグレイを見た。言うな、と、その目が告げている。
ここ、彼の隠れ家はゲフェンの入り組んだ場所にある。尾行でもされない限りは発見される可能性は殆ど無い。騎士団だろうが、ベルガモットの<紅>だろうが、
ここを見つけるのは容易ではなかった。現に、逃げ込んだグレイやセシル達を探す騎士団の手はまだ一度も伸びていない。ティータを追う<紅>もだ。
しかし、女性陣は知らないことだが、一人で買出しや情報収集をしているアルバートは何度も<紅>の襲撃を受けていた。
不安を煽らないようグレイにも口止めをしていたのだが、今回はグレイも思うところがあった。こうも彼が行く先々に敵が待ち構えているのは不自然だ。
誰かが情報を漏らしているのか、とも考えたが、それならば素直にこの隠れ家の場所が露見しているだろう。
だとすれば何らかの手段を用いてアルバートの行き先を探知しているとしか考えられない。そして、その手段は何故かここ・・・ゲフェンに対しては使えないのだろ
う。若しくは何らかの事情があって直接襲撃が出来ないのだろうか。それは分からない。
問題は、ゲフェンにおいてはその手段が完全に無効化されるのか、それともそうでないのかだ。
「グレイ、ティータを連れて逃げてくれないか」
アルバートはグレイにだけ聞こえるか聞こえないかという小さな声で言った。
彼の言葉に息を呑み、グレイはキッチンで食事の支度をしているだろう少女の方を見やった。聞こえてはいないらしく、リアクションはない。
「・・・本気かよ?」
「至って本気さ・・・もうお前くらいしか頼める奴がいない」
騎士団にも顔が利く二人だったが、謀略によってグレイ達がお尋ね者になってしまった現状ではもうどうにもならない。騎士団に居る知り合いも個人的感情は捨て
てかかってくるだろう。騎士とはそういうものだ。彼らはそれを誰よりも理解していた。
「向こうがここを察知するのも時間の問題だ。なんとなく、そんな気がする」
「・・・お前も一緒に来ればいいじゃねぇかよ」
「いや、分かれて行動するほうが得策だ。向こうの<眼>は今のところ俺しか捕捉出来てない」
アルバートの勘は正しい。グレイは彼の卓越したセンスを知っている。それだけに、反論の余地はない。
このアサシンはいつもそうだった。隊を率いて任務に当たる時も、一度も読みを外さなかった。逆賊や犯罪者を暗殺するにしても、仕損じたことが無い。
だから彼は常に隊の中で畏怖され、部下にさえ嫌悪されていた。<黒>は隊の名前ではなく、標的にまとわりつく冷徹な死の闇、つまりアルバート個人を指して
連想された呼び名。忌み嫌われた男の蔑称なのだ。
「・・・セシル達には早朝までに支度をさせておいてくれないか。ティータには俺から言っとくから」
グレイの沈黙を肯定と受け取ったアルバートは淡々と言った。まるで単純作業の指示をしているかのように、事務的に。
そら恐ろしくなる男の素顔が覗く。窮地に立たされたせいかもしれない。
「セシル・・・いや、お嬢ちゃんには言わなくていいのか」
「別に今生の別れってわけじゃない。また会えるさ」
「妙にドライだな」
「俺に固執してもいい人生は送れないだろ・・・あの子」
と、彼は真顔で切ないことを言った。本音かもしれなかったが、分からない。
「つくづくロジックな奴」
「かもな」
グレイの皮肉めいた賛辞を受け、アルバートは苦笑した。

「鍛冶師」
「ん?」
二階の廊下にさし当たった所で、グレイは呼び止められて振り返った。
窓辺に寄りかかって立っていたのは、知的な顔立ちの赤毛のハンター・・・俗称、怪盗ポリン。本名アーシャ=ブランガーネ。
歳はグレイやアルバートとさして変わらないだろうこのハンターも、犯罪者として修羅場をくぐってきただろう手錬れだ。セシルやティータとは明らかに違う空気
に、グレイは少々身構えた。意識としては味方なのだろうが、かといって気の許せる相手ではない。
「そないに警戒せんでもええやん。運命共同体やろ?」
「だったら突然呼び止めるのはやめとけ。お嬢ちゃんと違って、俺は危ないぜ」
あくまで不遜な態度を崩さないグレイに、アーシャは肩をすくめた。このブラックスミスと、ここの家主で同じく逃亡者であるアサシン・・・アルバートとグレイはアー
シャから見ても奇異な人間だった。非凡な能力を持ちながら、どこか醒めている。彼女としてもこの二人は苦手だった。
とはいえこのグレイはまだマシな方だ。アサシンの方がどちらかといえば危険な匂いがする。
「ふう・・・いーかげん、状況を教えてもらいたいんやけど」
「変化はねぇよ。俺達は逃げなきゃ騎士団に捕まる。それだけだ」
「冗談。あのフェーナ・・・やっけ?あんなプリーストがほんまに騎士団の奴やったら半魚人が裸踊りするで」
だろうな、とグレイは笑った。
「騎士団に繋がってるどこかの組織って事だろ。騎士団だって一枚岩じゃないんだ」
「高位ギルド・・・って事かいな?」
「かもな。どのみち逃げなきゃ殺されそうだ」
のらりくらりと言う。が、急に真顔になり、
「つーわけで逃げるぞ。明朝にゲフェンを出る」
その言葉にアーシャは耳を疑った。ここに居る限りは安全だと信じていたからだ。
「やっぱり変化あったんやん・・・」
「ありそうってだけだ。ま、十中八九あるだろ」
「ど、どないする気や」
「ゲフェンを出て・・・そうだな、シュバルツバルドかアマツ辺りの国外に行くことになる。相手が高位ギルドならそれでも不安だが、近場よりはマシだ」
自覚はなかったがグレイの言う事は気休めにもならなかった。相手の勢力が不明な限り、何をしても不安は付きまとう。
アーシャはへなへなと脱力してしゃがみこんだ。年貢の納め時、などという陳腐な文句が頭を過ぎる。
「はあ・・・こんなんやったらおとなしゅう堅気にしとればえかったわ・・・」
軽い発見だ。怪盗とさえ言われる女が弱気になっている。グレイは僅かに上機嫌になって、タバコを取り出した。
「事情は知らんがお気の毒。後悔したって罪は消せねぇ、ってか」
咥えたタバコに火を点けながら、彼はせせら笑った。心なしか優位に立てた気がする。
「うぅ・・・うちは病気のおかんの治療費が欲しかっただけや・・・ほんま世知辛い世の中やでぇ・・・」
「あ、あぁ?」
ぶほ、と煙を吐いてむせかけるグレイ。アーシャは我が意を得たり、と続ける。
「うちのおかんは不治の病に侵されとるんや・・・せやかてうちは世間知らずの小娘やさかい、治療費も払えへんし・・・ああ!世間が憎い!」
へたり込んで仰々しく頭を振った。悲劇のヒロインよろしく、袖で涙を拭う仕草もして見せる。
だからといって盗人に身を落とす事もないだろうに。瞳を潤ませるアーシャを前にして、グレイは知らずうちに同情していた。
迂闊な同情だったが。
「・・・改心するなら治療費は俺が出してやるぞ」
「ほ、ほんまか!?」
「ああ、本当だ。改心するならな」
額にもよるが。グレイはパッと明るくなったアーシャに向かって口元を緩めた。
「無事にお袋さんに会えるように、ちゃんと逃げ切ろうぜ」
「鍛冶師、あんたええ奴やなぁ〜・・・」
完全に信用したグレイにとびきりの笑顔を送ってから、アーシャは内心でぺろっと舌を出した。
ちょろいものだ。
67名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/15(木) 03:17 ID:ERpDWjRc
暗い部屋の中、窓から差し込む夜の街明かりを受けて、赤いリボンが映えていた。
大事な人からの大事な贈り物。セシルはベッドに横たわったまま、その薄い布を握って考える。
(これからどうしよう・・・)
漠然としたビジョンすらない、自分の未来を考える。アルバートやグレイは大丈夫だとしか言わなかったが、全く大丈夫でない状況下に立たされている自覚は
あった。何せ、お尋ね者だ。言ってしまえば一生逃亡者になる可能性もある。
セシルは目の細かい櫛も抵抗なく通りそうな自分の長い髪を弄った。
いっそアルバートと共に誰も知らないような土地へ逃げたいとも思う。夢の見すぎだとは分かるが、そうしたいと願う自分がいるのも事実だ。
現実には、負傷し、彼らに比べて元々未熟なセシルは足手まといにしかならない。
剣を失ったという事も重く圧し掛かる事実だった。あのバスタードソードを打ったグレイは命に比べれば剣なんて安いものだと笑ったが、そうそう割り切れる
ものでもない。あの敗北は剣のせいではなく、自分の未熟のせいなのだから。
鞘だけになったバスタードソードを見る。
その傍に、誰か立っていた。
髪の長い・・・誰だろうか。おぼろげに霞んだ、幻のような少女。

(まだ戦うの?)
少女は言った。いや、訊いた。その声も、どこか曖昧ではっきりしない。
「戦いたいわけじゃないけど・・・でもどうしようもないじゃない・・・こんなになっちゃったら・・・」
なんとなく、セシルは答えた。
(貴方はそんなに弱いのに?)
「しょうがない・・・じゃない・・強くなれるならなりたいけど・・・私は」
(失敗作)
「・・・え?」
(貴方は失敗作だものね、セシル)
(でも、いいのよ。力が欲しいのならあげる。だけどね、それには私をちゃんと受け入れてもらわないとダメなの)
(受け入れなさい、愛しいセシル。貴方を見捨てた人を、貴方を罵った人を見返しなさい)

浮かんでは消えていく人々の顔。セシルはそれから逃げるように、シーツに顔を埋めた。
すると不思議なことに、先程の少女をセシルはすっかり忘れてしまった。
なんとも言えない不快感だけが残り、
リボンを握り締めながら、彼女は栗毛の元相棒を思った。
68名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/15(木) 03:17 ID:ERpDWjRc
――傷付けたくなんてなかった
――殺したくなんてなかったんだ
数多の屍を背に、小さくうずくまって泣いている少年が居た。
転がる屍は殆ど原型を留めていなかった。切り刻まれ、貫かれ、ぐしゃぐしゃに壊れていた。
かつて自分が率いた部隊のメンバー。
今はただの肉塊。物言わぬ死体。
――どうしてこうなるんだよ
少年には分からない。彼はただ、部下の暴走を止めようとしただけ。
呆然と立ち尽くす老騎士は目を逸らし、
悲痛に顔を歪めたアコライトは少年を抱きしめた。
――もういいから
――もう殺さなくていいから
――貴方は優しい人だもの
――・・・アルバート

その日、騎士団の傘下にあった暗殺部隊<黒>は消滅した。
<白>の隊長と共に姿を消した<黒のアルバート>は、その後、罪に問われることもなく、
二度と歴史の表舞台に現れなかった。


『ティータ 4/5』


「どうも最近は物騒でいかんなぁ・・・そうは思わないかぁ?若いの」
閑散とした酒場の隅。申し訳程度に生やした口髭を撫でつつ、騎士は言った。
隣に座っている陰気な魔術師風の青年に向かって喋る彼は、どう見ても単なる酔っ払いだ。青年は目深に被ったフードの奥にグラスを運び、中の酒を飲み干す。
「例のアルベルタの事件ですか」
青年がグラスを置いてから言った。投げやりな口調だった。
「テロやなんかでも真っ先に商人が狙われるからねぇ。いやな世の中だよ」
「・・・はぁ、そんなものですかね」
騎士の愚痴めいた言葉に、曖昧に頷く青年。この騎士とは先程出会ったばかりだが、何かと話しかけられて困っているところだ。
この律儀で陰気な青年の関心事は別にあった。
思い返すだけで腹の底が煮えくり返る。苦労して作った『人形』を取り上げ、計画の遅延の責任を押し付けようとするとは。
青年が信じているのは絶対的な力と確かな知識だけだ。その粋たる『人形』を横取りされたことで、彼の怒りは頂点に達した。
それまで忠誠を誓っていた人間から離反したのもそのせいだった。じきに追っ手がかかるだろう。そうなれば一巻の終わりだ。
だからそれまでは酒でも飲んでいよう。
青年が出した結論はそんなものだった。今まで酒は判断力を鈍らせ脳細胞を殺すからと敬遠していたが、もうどうでもいいことだ。
髭の騎士は思い切り酒を煽る青年を見やり、微かに笑った。
「何か嫌な事でも?」
「え?」
「いや、なんとなく思ったんだが」
「あぁ・・・いえ・・・まぁ」
青年はグラスを置いて言葉を濁した。
「自分の人生というものが分からなくなりまして・・・思えば、『彼』の言うとおり歯車にすらならない下っ端だったんでしょうねぇ・・・私は」
「おいおい・・・君の歳でそんなに人生に疲れなくてもいいだろう」
「いえ、もう疲れましたよ。今まで私は力に固執しすぎていたんでしょう・・・そして自分に絶対の自信があった」
「野心は必要だぞ?若いんだからな」
「はは・・・野心ですか。私の場合はむしろ陰謀と言えるかもしれませんね」
二人は同時にぐいっとグラスを傾けた。
「・・・とはいえ、ひたむきに上だけを目指す姿勢は救いだな。機械のように無感情に人を蹴落とすことが出来るなら、楽だろう」
「・・・こんな世界ですしね」
油断をすれば死に、情けをかければ命取りになり、その気になれば人を殺せ、簡単に命が失われる世界。
殺されるよりはマシ。殺すほうがマシ。奪うほうがマシ。奪われるよりはマシ。
負けるよりは勝ちたい。だから青年は野心を持った。ただの魔術師では終わりたくない。終われないからだ。
で、その結果がこれか。
青年は自嘲気味に笑った。
確かに力の虜になることは楽だったが、同時に疲れもした。青年の中に残っていた僅かな良心が常に呵責を訴え続けたからだ。
「後悔というものを初めて理解しましたよ」
「上出来じゃないか?それくらい追い詰められたら何だって出来るさ。若いんだからね」
髭騎士は再び笑って酒を飲み干すと、席を立った。青年は彼のマントの下にさげられた両手剣をちらりと見る。
プロンテラ騎士団の刻印が刻まれた剣を。
「・・・中央騎士団の方でしたか」
「ああ」
「私を捕縛しに?」
「いや。俺のせいで道を踏み外しそうな若者達が居てな・・・ちょっくら助けに来たのさ。それにもう君は罪を重ねる気もないだろう?シメオン=E=バロッサ」
一瞬、青年・・・シメオンは意外そうな顔をしてから、すぐに苦笑した。
髭騎士が席を離れると、すぐにカウンターの裏から数人の重装騎士が現れた。髭の騎士は彼らに向かって手で何かを指し示し、檄を飛ばす。
「待機命令厳守!指示があるまで動くなよ!アウル一味が街に被害を出すまでだ!現行犯なら上層部と癒着してようが言い逃れはできまい!」
「隊長、一味に他の騎士団員が加担しているとして、彼らが敵対行動をとった場合は?」
「可能なら捕縛、不可能なら殺して構わん!向こうはアルベルタで虐殺を行った狂信者どもだ!容赦はするなよ!」
「了解しました!」
髭騎士と騎士達のやり取りを眺め、シメオンも席を立つ。
「・・・どこへ行くんだね?」
向き直った髭騎士の問いに、彼はフードを下ろし、微笑すら浮かべて言った。
「贖罪ですよ・・・自己満足とも言います」
「・・・そうかね」
ゆったりとした、それでいて迷いのない歩調で酒場を去るシメオンを見送ってから、髭の騎士は部下に向かって言う。
「これは包囲殲滅戦だ!戦争だと思って死力を尽くせ!以上だ!」
69名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/15(木) 03:19 ID:ERpDWjRc
鞘に納まった面妖な赤い片手剣を手に、アルバートは走っていた。宵闇に紛れ、疾風の如く、見慣れたゲフェンの街を駆け抜ける。
街を包んでいる異様な空気が、これから始まる出来事を示唆していた。
嵐の前の静けさ、だろうか。
あちこちに潜んでいる大勢の騎士の気配を感じた。皆良く訓練されているらしく、接近しても物音一つ立てない。
願わくば彼らが敵でない事を祈った。
ズン、と空気が震える。走りながら見れば、ブリトニア側、西門の辺りの空が赤く染まっていた。
(・・・始まったか・・・)
疾走しながら彼は背のカタールを抜いた。二つの刃が閃く。そして目を閉じ、数分前を思い返した。

「嫌ねよ!あるばーdと一緒じゃなきゃ嫌!」
急いで支度を終えたグレイとアーシャ、それにセシルの三人へ、アルバートはティータを突き放った。
そのティータを受け止めたセシルは何とも言えない悲しそうな顔をする。それはグレイもアーシャも同じだ。
自分では分からなかったが、恐らく彼自身も同じ顔をしていたのだろう。
「奴らが狙ってるのは多分、ティータとこの剣だ。俺はこれを持って出来るだけ時間を稼ぐ」
アルバートはティータの剣を腰に差した。
「その隙にゲフェンを出てくれ。頼む」
「ああ・・・分かった」
火を点けていないタバコを咥えたグレイが頷く。ある種の使命を帯びた騎士のような顔つき。
最期になるかもしれない親友の頼みだからか、いつもの緩んだ彼ではなかった。
「・・・ごめん。朝までは大丈夫だと思ってたからさ・・・ちゃんと話せなかったな、結局」
突き飛ばされて愕然とするティータの頭を優しく撫で、アルバートは呟いた。
悲愴ですらあるそのやり取りをセシルは羨ましそうに見つめ、目を逸らす。アーシャはそんなセシルを肘で軽く小突いた。彼女なりの配慮だった。
背中を押されて前に出たセシルに、アルバートは小さな眼鏡の奥で微笑んだ。そして、
「またな」
そう言った。それはセシルだけでなく、その場に居る全員へ向けての言葉だった。
70名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/15(木) 03:19 ID:ERpDWjRc
――目を開く。
無関係な一般人の悲鳴が聞こえ始め、ゲフェンの街に次々と邪な敵意が生まれる。西門の爆破はフェイクだ。本命は転移魔法での奇襲だろう。
普通の人間の思考だと、西門が危険なら東門へ向かう。その動きを読んだ上で街の中に現れる気なのだ。
アルバートの読みは当たっていた。たかがティータ一人の為にそこまでするか、とは疑っていたが戦術的には最も確実だ。
そして、だからこそ単独での攪乱も効果を発揮する。
眼前にワープアウトしてきたローグの姿を見止めると、アルバートは石畳を蹴って一気に距離を詰めた。
「う、うおぉ!?」
虚を突かれたローグは反応できずに身を縮めた。しかし、アルバートは仕掛けなかった。わざと気絶しない程度の蹴りを見舞い、走り去る。
こうすればローグは仲間に報告し、反撃に転じるだろう。振り返って見れば、丁度誰かに連絡を取っているところだった。
出来るだけ目を集めなくては。後はグレイを信じるだけだ。
次々と敵が転送されてくる中を、アルバートは駆け抜けた。
迫る敵をなぎ倒し、退けながら出鱈目にゲフェンを奔走する。何度か攻撃を受けて負傷しながらも、足は緩めない。
一体何人転送されてくるのか。原理が分からない不自然なポータルが大量に発生している。
(こりゃ・・・死ぬかな)
ゲフェンのシンボルとも言える塔の前の広場に差し掛かった所で、アルバートは一人ごちた。軽く五十は居るモンクとローグの混成部隊が、広場を包囲して
いたからだ。彼は陽動に釣られて追ってくる集団をかわし、転げるようにして広場の中心に躍り出た。
ドン、とその背中が誰かにぶつかる。
咄嗟に振り返った。
ぶつかった相手も同じ行動を取ったのか、視線が交差する。
整った顔立ちに、金髪をオールバックにまとめた剣士。黒い大剣を手に、包囲した集団に対して油断なく構えるその男は・・・
「・・・何・・・!?」
『・・・お前は・・・!!』
一瞬、お互いに我が目を疑ってから、剣士とアルバートは背中合わせに向き直った。アルバートは視界の隅に何故かカプラ職員らしき人影を見たが、今は
それどころではない。包囲されている上に因縁の相手がすぐ後ろに――居る。
『・・・三度目だな。とはいえ・・・前回、お前は気を失っていた』
「・・・やっぱりあの時のドッペルゲンガーか」
『今はジョンと名乗っている。そう呼んで欲しいものだ』
「ジョン・・・?」
どこかで聞いた名だ。アルバートは記憶を巡らせ、やがて思い出した。
アルデバラン近郊の森でベルガモットに追われた際、陽動をかけてくれたという剣士の名前だ。ティータはイイヒトだと言っていたが、まさかドッペルゲンガ
ーだとは。人間ですらないではないか。
「ははっ!偉くなったもんだな!あんだけ人間を見下してた割に、妙に人間味のある名前じゃないか!?」
『心境の変化とでも言っておこうか!?どちらにせよお前の知るところではない!』
「はっ!そうかよ!」
『ああ、そうだ!』
本来なら背中越しではなく、互いに刃を向け合う場面だった。確執を振り切れずにいる二人にとっては、そうなるべきだったのかもしれない。
だが、状況がそれを許さない。ジョンにとってもアルバートにとっても、過去の事より今やらなくてはならない事の方が重要だった。
即ち、この敵に囲まれた状況を打破する。
二人はほぼ同時に言った。各々の武器を、周囲の敵意に満ちた集団へ向けて。
「悪いが、今、お前に構ってる暇はないんだ!」
『残念だが、今はお前に構っている場合ではない!』
刹那、遠巻きに囲っていた僧兵達が一斉に二人へ向かって襲い掛かった。アルバートは即座にハイドからグリムトゥースの姿勢へ、ジョンは黒の大剣ツヴァイハ
ンダーを片手に持って空いた掌を突き出す。
「グリムトゥース!」
『ツーハンドクイッケン!』
アルバートがカタールを振るった足元の地面から『棘』が走り、四方へ伸びる。その棘の強烈無比な威力に僧兵達が地面を転がった。
それでも猛進してきた者を待っていたのは、目にも止まらぬ黒い刀身の剣戟。
急所は外されたものの、尋常ならざる速さで繰り出される剣に襲撃者達は尽く沈む。それこそ、声を上げる暇さえない。
二体の修羅に集団は怯んだ。そこへ来てようやく彼らの圧倒的な実力を感じ取ったのだ。
第二波として構えていたローグ達も、僧兵達のあまりに呆気ない最期を見て動けなかった。
「い、いかん・・・!退けぇ!」
中堅指揮者らしき者が叫ぶ。
だが、もう遅い。叫ぶ彼の背後の壁に染み出るようにして現れたアルバートは、カタールの柄で彼の後頭部を強かに打ち据えた。
蜘蛛の子を散らすように、有利な立場であった筈の集団は悲鳴をあげて逃げ惑う。
指揮していた者がやられた事によって、彼らは完全に統制を失っていた。
訳が分からないうちに宙を舞う者も居た。カプラ職員の姿をしたアリスのデッキブラシが唸りを上げて逃げ惑う者達を打ち上げる。
最早、形勢は完全に逆転していた。ジョンはなおもまとわりつく敵を切り捨てながら訊く。
『アリス!カタリナの位置は分かるか!?』
『東門付近だと思われますが、かなりの数の敵が転送されている模様。正面突破は不可能だと判断します』
東門にかなりの数。
何者なのかよく分からないカプラ職員の機械的な報告を聞いて、アルバートは戦慄した。タワー前におびき寄せた戦力で殆どだと思っていたからだ。
陽動がうまくいけば東門からグレイ達は脱出できると踏んでいたが、甘かった。
敵は戦力を分けて西と東から挟撃するつもりなのだ。そうなれば自分は勿論、グレイ達も一網打尽にされる。
たとえ局所的に勝利を収めても大局は変わらない。ベルガモットも東門にいるだろう。あの老練の兵はそういった肝要な部分を絶対に妥協しないのだ。
歯噛みして踵を返すアルバートの肩を、ジョンの手が掴んだ。
『どこへ行く気だ、アサシン』
「お前に構ってる暇はないって言ったろ!・・・仲間を逃がさないと」
『死ぬぞ!一体何人いると思っている!』
「何でお前にそんなこと心配されなきゃいけないんだ!?魔族だろ!?お前は!!」
彼の手を乱暴に振り払い、アルバートは叫んだ。斬りかかっても不思議はない相手。実際そうするべきなのかもしれなかった。
不意にアルバートの目の前にアリスが立ち塞がる。
『アサシン様、どうか冷静に。お一人で何ができましょう?』
見ず知らずの彼女さえも行かせまいとした。
『マスターなら状況を打開できます』
アルバートは反論に困窮した。確かに、ドッペルゲンガーは強い。凡庸な冒険者が相手なら何人でかかろうが物の数ではないだろう。
だが・・・だが、彼は魔族だ。いくら一度は助けてくれたとしても信頼に値する者ではない。
かといって、目の前の少女の言うことは間違っていない。今のアルバートは冷静でもなければ、何か出来るわけでもない。
あまりに無力だ。
『お前の仲間を助ければいいことなのだろう?ならば我に任せよ。必ず生きて脱出させる』
「・・・」
赤い眼と眼鏡の奥の眼が合う。空気が張り詰めながらも、この二人の間に敵意はなかった。
『お前とはいつか必ず決着をつけよう・・・それまでは死ぬな』
ツヴァイハンダーを携え、東門へ向かって静かに歩き出すジョン。
『アリス・・・このアサシンを見張っておいてくれ』
『イエス、マスター』
ジョンが去った後、アルバートはその場に座り込んだ。激しい戦闘の疲労もあった。そして、それ以上に、精神的に疲れていた。
ふと、顔を上げて見たゲフェンの街並みは既に赤く染まっていた。東門から上がった火の手が回ったらしい。
またか。
そう思う。途端に笑いが込み上げてきた。
「何が可笑しいんですか?」
吹き荒れる熱風にエプロンドレスをなびかせるアリスの問いに、アルバートは手にしたカタールの刃をやんわりと振った。
「いや、別に」
71sage :2004/04/15(木) 16:12 ID:6tKnUqvg
うおぉ、感想が・・・感想がぁっ・・・をれは今嬉しいぞぉ!!

>>60
>>61

感想貰えて大感謝。
行間か。考えもしなかった・・・orz
次回から読みやすい文章を心掛けてやってみるよ。

続きは・・・また仕事時間で書き上げるから
気長に待って貰えると有難かったり。

誉められて気合入ったから仕事サボってバリバリ書くぞぉ!・・・
書けたらいいな(TT)
72577と名乗っていたものsage :2004/04/15(木) 20:14 ID:vHUvDmG.
えーと
上水道リレー小説ってまだ需要あるのでしょうか・・・
ラグナロク引退した身ですが、これは仕上げたいと思っていたのですが
なにぶん私も忙しかったもので・・・
5月終わればかけるようになると思いますが、
いかがでしょうか?
ちなみに要望される人の中に・・・過去ログ持っている方います?(汗)
73名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/15(木) 20:38 ID:.V9tqqTE
>>66〜70
ジョン&アルバートキタ━━━━━(゚ ∀゚ )━━━━━!!!!!
GJです。

>>72
お願いしますゼヒ書いてください。
過去ログなら持ってたかも・・・
74名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/15(木) 20:54 ID:DBnh/y.E
>>55
続き激しくきぼん
個人的には行間空けないほうが読みやすい派
改行も一文終わるまで無い方がいいかなぁ
75名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/16(金) 00:05 ID:7IbFJsoo
>>72
前半だけならログありますよ。
書いてもらえると他の人にもいい影響になるでしょうから是非お願いします。
7673sage :2004/04/16(金) 00:30 ID:aFO2txlI
じゃあとりあえず小説スレ2・3の全ログ上げときますので
それを参照してください。
http://nekomimi.ws/~asanagi/cgi-bin/ragnarok/source/20040416002807-syousetu2.lzh
http://nekomimi.ws/~asanagi/cgi-bin/ragnarok/source/20040416002721-syousetu3.lzh
77名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/16(金) 07:02 ID:ojTFPRPY
>>76
小説スレ1もあればお願いできませんか。
花のHBとか最初から読みたいんですが……。
78名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/16(金) 10:38 ID:c3Al37Lc
>>77
過去ログ倉庫にdatであるっぽい
79名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/16(金) 11:45 ID:nV1LpYjg
>>73
横槍ながら、ありがたく頂きました。dクス
80名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/16(金) 15:42 ID:iGYDDwtg
『ティータ 5/5』


セシルは行動を共にする者達の実力に改めて驚いていた。
ちょうどゲフェン外壁を沿うように東へ移動している一行は、何度か散発的な敵との遭遇を果たしていたが、その尽くは向こうがこちらへ接近する前
にカタがついていた。
弓を手にしたハンター、アーシャが親指を立てた。その遥か前方で数人の敵らしき人影が地面をのた打ち回っている。どうやら大腿を射抜かれたらしい。
「あっは、うち、グッジョブ」
自画自賛もいいところだが、誰も咎めない。迂闊に足を止めると包囲される危険性がある、と事前にグレイから注意を促されていたからだ。
アーシャは走りながら矢を取り、グレイはカートから矢を渡す。前を走る二人の連携によって、後に続くティータと、その手を引くセシルの安全は保障され
ている。すぐ傍に現れる敵も居たが、グレイの素早い一撃で昏倒するのがオチだった。
「鍛冶師」
「なんだよ」
「門に近くなるほど敵が増えとらんか?」
「かもな・・・っと!」
妙なポータルで沸いた敵をまた一人蹴倒し、グレイは肩をすくめた。
「どっちみち今ならゲフェンに滞在してた冒険者も応戦してる。混乱を突くには今しかない」
「そうなん・・・かっ!」
民家の上から飛び掛ってきた盗賊職らしき男をしなやかな蹴りで迎撃するアーシャ。男は石畳を転がって動かなくなる。
「ほんならさっさと・・・いんや・・・そうもいかんみたいよ」
そこで先行していた二人が足を止め、セシルとティータも立ち止まった。
「だな」
グレイは頷き、前方の二つの人影を確認して咥えていたタバコを吹き捨てた。
「・・・グレイ・・・お前まで私の前に立ち塞がるのか」
巨大な槍斧を地に突き立て、頑強な鎧に身を固めた老騎士が言う。
「久しぶりだが・・・悪いな、爺さん。通してもらうぜ」
「やれやれ、鍛冶師も訳アリの相手かいな・・・じゃ、うちもリベンジいこか」
踏み出す青髪のブラックスミスを一瞥し、アーシャも矢を弓に番えて騎士の隣のプリーストに向けた。
「あら・・・覚えていらしたんですか。光栄ですわね」
杖を掲げ、美貌の女プリーストがゆったりと言う。
「今度は本気でいくで!この似非神官!」
その刹那、アーシャとグレイは同時に動いた。グレイは騎士・・・ベルガモットの背後に回り、アーシャは矢を射つつ神官・・・フェーナの脇を抜ける。
回り込んだグレイは引いていた武器類満載の台車をベルガモットの鎧に叩きつけた。
凄まじい重量を伴い、運搬用途に使われるカートが凶器と化す。
「小賢しい!」
カートの強襲をハルバートで弾き飛ばし、ベルガモットはグレイを巻き込んで民家の壁を突き抜けた。
土煙の向こうへ消えた二人を後目に、フェーナの脇に潜ったアーシャは零距離から二本の矢を束ねて放った。低い姿勢から打ち上げるようにして放たれた矢は
神官に届く寸前で障壁に阻まれ、あらぬ方向へ折れ飛ぶ。
キリエエレイソンだ。通常のそれとは桁違いの防御力だったが、アーシャは素早く次の矢の束を取り出し、放った。
「先に門に行きぃ!ちょい手間取るわ!」
「は、はい!」
言われて、セシルは反射的にティータの手を引いて走り出した。
バチン、とアーシャの放った無数の矢がキリエエレイソンの障壁と相殺して四散する。セシル達を追うべく向き直っていたフェーナはゆっくりとアーシャを振り
返った。その身体に、再び障壁が発生する。異様な光景。
「何かいたしまして?」
「ち・・・追わせへんっちゅーことや!つきおうてもらうで!」
余裕の笑みを崩さない神官に、赤毛のハンターは次の矢を向けた。


飛び下がるグレイの目の前を槍斧の刃がかすめた。刃はそのまま柱を粉砕して振り回される。
「家の人に怒られるぞ!爺さん!」
「相変わらずふざけた奴よ!グレイ!」
不在の家の主に内心で謝り、グレイは室内の物をカートで吹き散らした。戦闘の邪魔になる。
破壊を撒き散らす要塞の様な老槍騎士に真っ直ぐ対峙し、グレイは身構えた。
「はん!俺はアルバートみてぇに、アンタに苦手意識はないぜ!」
「いいだろう!来い!」
ベルガモットの怒号。
それ以上の雄叫びを、グレイは放った。よれたワイシャツを引き裂かんばかりに筋肉が隆起し、逞しく鍛え上げられた肉体が覚醒する。
ラウドボイス。強靭な筋力がグレイの体躯を跳ねさせた。カートを手放す寸前に中から両手斧を引き抜き、ベルガモットに振り下ろす。
激しく金属のぶつかり合う音が響く。
並みの騎士ならその斧の一撃に圧砕されていた。しかし、ベルガモットも老体ながら尋常ならざる身体能力を有している。
「おおぉぉ!」
槍斧で両手斧を受け切ったベルガモットはグレイを押し返し、押し返され、一進一退の鍔迫り合いに持ち込む。
グレイは老騎士の力量に恐怖した。この老人は若い頃、一体どれほどの実力を持っていたのだろうか。歳を経て衰えていないなどとは思えないが、これで衰えている
のだとすれば、化け物以外の何者でもない。まさに武士(もののふ)だ。人間である前に戦士だとでも言うのか。
影の世界で最強と謳われた部隊を率いる男は、自身もまた最強に限りなく近い者。
その男に師事し、技を磨いたグレイだからこそ分かる、師の圧倒的な実力。まともな力比べでは勝てない。アルバートがそうであるように、グレイもまた、このベル
ガモットに一度も勝てた事がないのだ。
厚い鋼鉄の鎧、強力無比な槍、熟練した技。この男を倒すには、鎧による防御を貫き、かつ反撃を許さぬよう一撃で終わらせるしかない。
・・・そこまで考えてから、グレイは苦笑した。シビア過ぎる。結局は正面からの一発勝負ということだ。
(やっべ・・・白か黒か・・・いや、五分もねぇかな・・・)
ガチガチと火花を散らす得物を手に、青髪のブラックスミスは逆境の真っ只中で笑った。
81名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/16(金) 15:43 ID:iGYDDwtg
灼光が壁を貫いた。
もはや光線としか例えようのない光が、逃げ惑うアーシャに追いすがる。
(またコレか・・・一体どうなっとるんや、こいつ・・・!)
フェーナ=ドラクロワのホーリーライトを始めとした神聖魔法は通常のものとは比較にならない能力を持っていた。
長年、盗賊として沢山の神官と相対したアーシャも、こんなプリーストは見たことがない。この女ただ一人だ。
異常な神聖魔法に加え、彼女はまるで眼が至る所にあるかのように壁越しのアーシャを確実に捉え、ホーリーライトを放つのだ。
質の悪い手品である。
「さぁ、どうしたんですか?私を止めるんでしょう?」
はっ、と見上げた民家の屋根の上にフェーナが立っていた。
既に詠唱を終えた白光が放たれる。アーシャは身を捻り、跳躍。同時に射撃。
ホーリーライトの極光は何も無い石畳を焼き尽くし、アーシャの矢はフェーナの張った障壁に阻まれた。
これでは不利だ。いくらアーシャが人間離れした身のこなしで避け続けても、いつかは限界が来る。対して、フェーナの魔力は無尽蔵とも言えた。
キリエエレイソンは幾らでも張れる。ホーリーライトは乱発出来る。視界外からも正確に座標を指定する。
本来なら奇襲か不意打ちでもしなければ勝てない相手だ。
(でもまぁ、うちにもプライドっちゅーもんがあるねん)
赤い髪をポニーに止めていたクリップを外し、長い髪を下ろす。そして、
「いくで!」
矢を束にして弓に構え、アーシャは地を蹴った。
狩人のぎらついた眼光が見据える先に立つ神官は、優美とさえとれる動作で杖を操る。
「・・・いきます」
呟いた。同時に、駆けるアーシャの足元に光の短剣が突き刺さる。
だが、彼女は構わずに走り続けた。フェーナがレックスエーテルナを使用するのは前回の交戦から分かっていた事だ。
防ぐ手段が無い事も。
「ひとつ!」
束にした矢を放った。それらはフェーナの前に展開したキリエエレイソンと相殺する。
素早く次の矢を取るアーシャ。
ここでフェーナは瞬間的な判断を要求された。
即ち、無難にキリエエレイソンを張り直すか、即座にホーリーライトで決着をつけるか。
このハンターを殺す事に躊躇は無い。だが、ホーリーライトを優先すれば間違いなくフェーナも攻撃を受ける羽目になる。
「ふたつ!」
間断なく、次の矢を放ったアーシャはそのまま突進した。判断の遅れたフェーナの直前まで、一気に駆け抜ける。
彼女は放たれた矢をなんとか杖で弾き飛ばしたが、もう遅い。
「みっつや!」
「くっ!」
零距離。瞬く間に次の矢を放とうとするアーシャと、咄嗟にホーリーライトを放つフェーナ。
アーシャの矢は弓ごと極光に消えた。フェーナが勝利を確信する。
が、ハンターの闘志はまだ消えていない。
「まだや・・・エインセル!」
アーシャはそこへきて初めて、頼れる『相棒』の名を呼んだ。今までわざと隠していた怪盗ポリンの切り札が、闇夜を縦に裂き、空から舞い降りる。
鷹だ。フェーナが真上から迫るその凶悪な爪と嘴に気付いた時には、もう遅い。
鷹の襲撃を杖で受払いながら後退るフェーナ。容赦ない鷹の猛攻は余裕をなくした彼女に確実にダメージを与えていく。
二度、三度と鷹の攻撃を受け切ったが、そこで彼女は力尽き、倒れた。元々、野生の狩人である鷹は防御の隙を本能で見切り、確実に敵の弱点を狙う。その爪と嘴の前
ではいかなる素早い身のこなしも、堅牢な防御も意味を成さない。それを考慮すれば、フェーナはよく持ち堪えたと言えた。
アーシャは疲労で言うことを聞かない身体を引き摺って立ち上がった。その肩に得物を仕留めた鷹が止まる。
「ここが屋内やったら、やられとったよ」
赤毛のハンターは倒れた神官に向けてそう言った。彼女なりの賛辞だった。
「そう・・・ですか・・・私は・・・負けるとは思ってませんでした・・・」
地面に投げ出されたまま、フェーナはか細い声で言った。もはや立ち上がる事も困難なほど、鷹、エインセルに付けられた傷は深い。
時間があればヒールで持ち直す事も可能だったが、彼女を見下ろす勇猛なハンターはそれをさせないだろう。
圧倒的有利だった筈のフェーナは、負けたのだ。
「・・・慢心、ですかね・・・」
「どうやろね。せやかて、プリーストは前に出て戦うもんやないと思うよ・・・あんたみたいな身体もロクに鍛えとらんのは特に」
確かにフェーナの魔力と技は目を見張るものがある。だが、それだけだ。
攻撃に耐えられる身体があるわけでもない。
「コンビいうんならまだしも・・・あんたの仲間、よほどの馬鹿か、あんたを捨て駒くらいにしか思うとらんやろ」
駒。
「私が・・・駒?」
「聞くとこによるとあんたも似たようなもんらしいから、同情はせんけどな」
アーシャは目を伏せて踵を返した。
少なからずショックを受けた神官を見ていられなかったというのが本音だった。
(ショック受けるくらい信頼すんなや・・・そんな奴)
聞こえない程小さな声で、アーシャは吐き捨てた。そして歩き出す。
残されたフェーナは呆然としたまま、深く暗い夜空を見上げていた。
82名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/16(金) 15:44 ID:iGYDDwtg
流れ無視で投下してすみません。
リレー、楽しみにしております。
83577と名乗っていたものsage :2004/04/16(金) 19:36 ID:HLAXyYJY
|∀・)

えと・・・
仕事も終わってないのに書き終えた部分を
投下してみます・・・(久々だ)
ちなみにまことに勝手ではありますが、
リレーを残しておきたいと思いますので、私のサイトに
皆さんのをまとめさせていただきたいと思います。
そのうち読めるようになるかと思いますので、
読んだことのない方は楽しみにしていて下さい。
(面白いですよー・・・私の書いたとこ以外は;;)
では

彡サッ
84577と名乗っていたものsage :2004/04/16(金) 19:37 ID:HLAXyYJY
俺は既にどれだけの時間
相手の攻撃を受け、かわしていたのが
自分ではわからなくなっており、、
真の殺人機械となってしまったような
さめた気分のまま、
回避し損ねて出来た傷口から
流れ落ちる血を、他人のもののように感じながら
それでも尚相手と命のやり取りを続けていた・・・。

後ろに居るのがはっきりわかるオーラを発しながら、
しかし奴は時折り槍を軽く繰出したり、
気を送るだけで積極的に攻撃したりはしなかった。
もちろんその支援があってこそ、こっちがまだ致命の一撃を喰らわずに
生きていられるというものだが、あまりにじれったくて
ちょっと前はこいつは俺を生贄にして魔を狩ろうとしてるんじゃないかと
本気で思えたぐらいだ。
だが斬撃を弾いた一瞬、後ろを振り返って見た
奴の眼でこっちは今までの相手の行動に納得がいき、
それからはこちらの務めを果たすべく、攻撃をかわしながら
その一瞬を待っていた・・・。

そう、
奴は全身の力をただ一点へ集中すべく
全身の気を練って高めていた。
その眼がまるで糸のように細められ、最低限の感覚以外を排除して
自分の中に力を溜め込んでいく。
後ろの空気が収縮していくようで、なんだか温度も上がってきたようで
自分の怪我よりも俺は、クルセのやろうが爆発してしまうんじゃないかと
妙な考えが浮かんできた。
それがついさっきだったのか、それともしばらく前だったのか
もうわからない。
疲れた。
相手も疲れていると期待したいが、生憎悪魔に疲労というものはないようで
受ける攻撃がだんだん重くなっていくのがわかる。
一瞬で死ねたらどんなに楽だろうか?
こんなとき師匠だったら何ていうだろうか?

「逃げろ!」

「どんな卑怯な手を使ってでも勝て!」
とでも言うだろうか?
だが卑怯な手っていっても、毒は効かねえだろうし再生するし
おまけに本体が武器だというんじゃどうしようもない。
そう答えた時の師匠の困り顔が見えるようで、
俺は打撃音を周囲にまとわりつかせながら、なんとなく
ちょっとだけ笑みを浮かべて見ていたのだった・・・。

「KUUAAAAAAAA!!!!」

「いいかげんにしろお!!!!!」

俺は体のばねを充分に利用して、相手の短剣をカタールで挟み込むと
そのまま捻って引き剥がそうとする。
だが奴の体は常人とは違い、いくら捻られても力を緩めることがなく
肉がはじけるままにしてこちら目掛けて短剣を繰出そうとする。
いっそ腕が千切れてくれればいいのだが、そう期待する傍から
目の前で再生のショーが始まりこちらを失望させていく。
これがもう何度目なのか・・・。
後ろの奴の助けを借りて、相手との間合いを取った俺は
一呼吸ついて自分の体を冷静に観察し、あと暫らくしか
連続して戦闘は出来ないと判断を下すのだった。

「・・・疲れているようだな。」

後ろから抑揚のない声を掛けられても、答える体力すら惜しい。
それに俺が勝負に出ることを奴はわかっているから、答える必要もない。
相変わらず美しいとも取れる笑みを浮かべながら、女剣士が
こっちに向かってゆっくり歩み寄ってくるのを、
こんどの俺は無謀にも目を瞑ったまま
武器を胸の上で交差させ、珍しいことにちょっとだけ祈っていた。

誰に?何に?祈るのって?
確かに暗殺者の俺が祈るってのは変だよな、
だがその時はなぜがそうするのが当然だという気がした。
頭に浮かんできた人型のイメージは
誰だかはつかめなかったが、それが虚空に一筋の線を描いた。
と見えた次の瞬間、
その筋に沿って悪魔の短剣が襲いかかり・・・。

見える!

今までのどの攻撃よりも良く見えたそれが、
俺の体にどれくらい食い込み、どれくらいの傷を負わせるか
其処まで感じ取れたこっちは、
躊躇うことなく回避運動をストップさせる。
当然こちらの体に短剣が食い込み、
肉を裂き、血が噴出す。
それに意識を奪われることなく、
伸びきった奴の腕が次の運動に移る前に・・・。

「!?」

「かかった!」

腕一本に上下から繰出された刃が、正確に手首の間接をとらえ
俺は痛みも忘れて手首とともに落ちていく短剣を確認して
短い歓声を上げた。
腕が切れなければもっと短いところで切り落とせばいい。
それがこんなに上手くいくとは驚きだが、
相手のほうはもっと驚いたのだろう、
一瞬止まったその隙に落ちた手首・・・短剣を握ったままの手首を、
こっちは片足を鞭のようにしなわせて
バックパスで後ろに蹴り出した!。

「WRYYYYYYYY!!!」

奴がこっちの脇を抜けて、
自分の手首と短剣を追っていく、
しかしその先に居る男が、燃えるような眼をした男が
気合とともに振りかざす槍が、
一瞬早くころがる手首を捉え・・・。

「ハアアアアアアアアアアアッ!」

「いけーーーーー!!」

「GUAAAAAAAA!!!」

気合とともに発せられたグランドクロスの閃光が
狭い上水道の一角を光で埋め尽くし、
俺は眩暈がして、掛け声を奴に投げかけた後
そのままがっくりと水溜りに膝をついたのだった・・・
85577と名乗っていたものsage :2004/04/16(金) 19:38 ID:HLAXyYJY
「で、どうすんだよ姉御・・・って言ってもかえるに決まってるよな
・・・WIZもとられちまったし・・・。」

気を失ったモンクの規則正しい呼吸を確認しながら、姉御の方を見ないようにして
声をかけるローグの心の中にはもやもやとしたものが溢れていますが、
それは姉御や変態殴りプリも一緒だろうから、あえて言葉にすることはしませんでした。
彼らは体よく追い払われたというか

「あんたら役立たないからいらない、WIZだけ借りていく」

といわれた様なものですからそれは当然でしょう。
ですが仲間が倒れてしまって、満足な回復要員がいないこのパーティでは
確かにこれ以上進むのは本当に自殺行為かもしれません。
それに自分たちより強い人間がもう何人もいるのだから、これ以上
努力しても無駄なのかもしれません。

でも・・・でも・・・・!

立っている三人は其処まで考えて、暗闇の中
苛立ちを自分の中で消化しています。
ややあって殴りプリがため息をつくと、ポケットから青石を取り出して
魔法の門を呼び出そうとしますが
そこで・・・。

「おい、なにやってんだよ?俺は生きてるぜ、青石の無駄だ。」

「(!)」

「・・・アンタ・・・気がついたのかい・・・」

うめき声を上げてから状態を起こしたモンクは、
視線をしばらくさまよわせると、姉御の目をとらえて
一言一言区切るように話し始めます。

「ああ・・・なんか夢を見ていたぜ・・・
『どこへ行くんだアンタ』・・・って・・・
姉御が オレに聞くんだ
オレは『姉御について行くよ』って言った・・・
なんだかんだいってリーダだし・・・
アンタの決断になら一緒に行こうって気になるからな・・・

そしたら姉御は・・・
『あんたが決めな』って言うんだよ・・・
『自分の行き先を決めるのは、自分だ』ってな・・・
オレはちょっと考えてさ・・・

『・・・残った人を助けに行く』

そう答えたら、眼が覚めたんだ
なんとなく寂しい夢だったよ・・・。」

「・・・」

話を聞きながら眼の端がかすかに光る姉御を
やはり見ないようにして逆毛モンクは上体を起こすと、
そのままパーティの先頭に立って歩いていこうとします。

「何やってるんだよ、行くだろ、俺らは冒険者なんだぜ。」

そのまま一歩踏み出そうとしてよろけた彼を
片側から支えるローグと、後ろから肩をつかんだ殴りプリは
二人ともアサシンの姉御を振り返ると
吹っ切れたような笑みをうかべて
こっくりと頷きました。

「・・・ホント・・・馬鹿の変態どもが・・・アタイがついてなきゃ・・・
ダメなんだろゴラアアアアアアアーーーーー。」

妙に嬉しそうな声を上げて
殴りプリの後頭部を強打すると、
そのまま固まって
上水道の奥へとゆっくり進む一団、
その周囲に明かりはなかったけれども、
彼らの心の中には
少しだけ明かりが
燈っていたみたいでした・・・。
86名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/16(金) 21:56 ID:2LwoN2BY
577氏キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
懐かしの悪漢ローグ達も出てきてもう感激です
自分も久し振りに続き書いてみようかな……?
87名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/18(日) 05:17 ID:MIjHavAE
『終局の朝へ 1/3』


あと少しだ。
あと少しで東の門に着く。
セシルはティータの小さな手を引きながら、思った。
訳が分からないままに、ここまで来てしまった。それは自分の意思によるものだ。
ミッドガルドに生きる冒険者として、選んだ道。けれど、他の選択は無かったのだろうか。
仲間と共に笑い、泣き、生きる。そんな自分も有り得たのではないだろうか。
現実には、自分は今、一人だ。
バニは居なくなり、グレイもアーシャもそれぞれの戦いに決着をつけに行った。
もう頼れる仲間は居ない。
だが・・・あと少し。
あと少し、この小さな錬金術師を守れば、逃げ切れる。
アルバートにもまた会えるだろう。彼は絶対に、死んだりしない。そう言っていた。だから。
「急ご、ティータちゃん」
心配そうに見上げていたティータに微笑みかけ、セシルは再び駆け出した。
迷っている暇などない。恐れている暇も。
流れ行くゲフェンの街並み。走り行く冒険者や騎士。
魔法による攻防も始まったらしく、そこかしこから爆音や悲鳴が上がる。見境の無いこれらの襲撃が自分達に向けられているとは、セシルには信じ難い事だった。
似ているとも思う。半年前、ドッペルゲンガーが出現した時と、似ている。
燃える家屋が、記憶と交錯した。
違うのは、今度の相手は人間だという事だけだ。
一体、どれだけ争えば気が済むのか。
「・・・!」
不意に、脇の路地から武装した騎士が歩み出る。咄嗟に身構えるセシルに、騎士は肩をすくめた。
「驚かせてすまんね、セシル君」
「あ・・・!?」
見覚えがあるどころか、慣れ親しんだ顔だった。口髭を蓄え、とても緩い顔をした中年の騎士。
よく騎士団から依頼を持ってきた髭の騎士だった。
「やはり、君も巻き込まれていたか」
「えっと・・・あの・・・どうしてここに・・・?」
「責任を取りに来たんだよ。君にアルベルタの依頼を押し付けたのは俺だからね」
そう言うと、髭騎士はおもむろに外套の下から幅広の大剣を抜き放ち、振るった。
一閃。
その刃の銀の軌跡が薙ぎ払った場所から、ローグが数人崩れ落ちる。隠遁の術、ハイドで潜んでいたらしい。
「へぇ・・・俺もまだ現役だわ」
髭騎士は騎士団の紋章が刻み込まれたクレイモアを鞘に戻し、セシルとティータに振り返った。
「中央騎士団から部隊が派遣されているが、完全鎮圧まで時間がかかる。君達を東門まで送ろう」


「・・・ぬ・・・!?」
にわかに飛び下がるグレイに、ベルガモットは眉をひそめた。狭く限定されたスペースしかないこの室内に逃げ場はない。
対するグレイは逃げもせず、カートまで戻ると、おもむろにそれを掴み、
「どりゃぁぁぁ!!」
中身を一気に放り投げた。しかし、目標はベルガモットではなく、彼自身の周囲の床。
満載されていた斧や鉄の鈍器が床板に突き刺さり、針の筵のような様相を見せる。
意図が分からない、といった感の老槍騎士を前に、グレイはシャツのヨレを正し、ツーハンドアックスを肩に抱えたままタバコを咥える。
それからゆっくりとマッチで火を点けた。
「・・・武器屋やってると、どうも楽しくてね・・・こういうこともやってみたくなる」
「なんだと?」
「アンタに教わった技じゃない・・・見せてやるよ・・・<灰のグレイ>の本気ってヤツをな」
青髪のブラックスミスが紫煙を吐き出すと同時に、彼の周囲から炎が上がった。
正確には、彼が周囲に突き刺した数多の武器が、秘められた炎の属性を解放したのだ。
猛火を纏ったそれらを、グレイは床から抜き、ベルガモットへ投げる。回転する相当の熱量を帯びて赤化した斧の刃が、槍騎士に切迫する。
ベルガモットはハルバートを振り回し、次々と投げ放たれる武器を弾き飛ばした。
「馬鹿なっ!?死にたいかっ!?」
火の粉を撒き散らして斧が舞う。その中心に立つグレイにどれだけの熱が襲っているか、ベルガモットには想像もつかない。
「火が怖くて鍛治屋は務まらねぇな」
グレイの投げる斧が確実にベルガモットを捉える。
「ぐっ・・・ぬぅおおぉぉっ!!」
けたたましい激突音。ハルバートが斧を打ち据える。が、遂には高度の熱がハルバートのエッジを破壊した。
弾かれた斧達と、折れ飛んだハルバートの切っ先が狭い家の中に出鱈目な破壊の嵐をもたらす。
そして、老練の兵は見た。
炎の向こうから迫り来る鍛冶師の姿を。
「うおおおお!」
グレイの渾身のツーハンドアックスが振り下ろされた。
ベルガモットは柄だけになったハルバートでその一撃を受ける。
が、最早ハルバートには受け切るだけの耐久力は残っていなかった。
ツーハンドアックスの刃は鋼鉄のハルバートの柄を断ち切り、ベルガモットの鎧に突き刺さる。
貫通。大量の血を吐く老騎士。しかし彼はまだ力尽きていなかった。力任せに身体を捻り、本来の長さの半分以下、刃さえも失ったハルバートで技を繰り出す。
ピアースだ。瞬きの間すらない刹那、グレイは心底呆れ果てた。
(・・・なんでそこまでするんだよ・・・)
ベルガモットの胸板に突き立てた斧から、手を離す。これ以上、斧を振るう体力はグレイにも残っていない。
「でぇぇえい!!」
老騎士の最後の攻勢が迫る。密着状態からのピアース。刃がないとはいえ受ければ骨折ではすまないだろう。
「まだだっ!くたばれクソジジイ!」
グレイはベルガモットの鎧を蹴って跳躍した。ポケットから取り出した小銭を取り、意識を集中する。
ゼニー硬貨は、魔法やスキルに使う精神力を吸収しやすい金属で鋳造されている。とりわけ100z硬貨はその性質が最も優れていた。
その性質を応用し商人達が編み出した、唯一の金を用いた攻撃。小さな硬貨に精神力を込め、対象に激突させることで破壊をもたらす技。
単体威力最強の秘技。
「メマーナイト!」
グレイは精神力を込めた10枚のゼニー硬貨を投げた。

目の前で人が飛んだ。文字通り、真横に飛んで行った。
鷹を肩に乗せ、疲労で重くなった足を引き摺っていたアーシャは、飛んで行った大柄な騎士を目で追い、それから、撒き散らされる瓦礫を眺めた。
飛んだ騎士のものと思われる鎧の破片が足元に転がる。
「な、なんやの・・・」
見事に壁を全壊させた家を見る。騎士が吹き飛ばされたと思われる家だ。
その瓦礫の山から、青い髪がふらり、と歩み出てきた。
グレイだ。ボロボロのシャツに纏わりついた塵を払いながら、アーシャの前までおぼつかない足取りでやってくる。
「・・・・・・よ、よう・・・怪盗」
体中に相当の傷を負いながらも、何かを成し遂げたような顔をして彼は笑った。
「鍛冶師・・・!?大丈夫やの・・・!?」
「あぁ・・・なんとか・・・つーか・・・」
駆け寄ろうとするアーシャを手で制し、グレイは倒れた老騎士ベルガモットを見た。
彼は、立った。
鎧を砕かれ、槍を失い、大量の血を胸から流しながらも、立ったのだ。
厳格で逞しい老人の顔には一握の苦痛も見て取れない。絶えない闘志と意志だけがあった。
「・・・マジか・・・」
「強くなったな・・・グレイ=シュマイツァー。私の下に居た頃とは、別人のようだ・・・」
炎が赤く染めた夜空から、雨が降り注ぎ始めた。
「もうやめろ!本当に死んじまうぞ!爺さん!」
もう一度メマーナイトを構えるグレイ。しかし、自身の損耗を考えればベルガモットへ満足な攻撃が当てれるかどうかは疑問だ。
アーシャも弓を失っているようだった。鷹を使えば或いはダメージを与えれるかもしれないが・・・十分と言えないだろう。相手はメマーナイトを食らってもまだ
立つ男だ。
「ふ・・・ふはは・・・まさか・・・お前にしてやられるとは思わなんだ」
ふっ、とベルガモットから敵意が消えた。完全に勝機を失ったグレイ達から視線を外し、老騎士は降りしきる雨の中、言う。
「時間は流れるという事か・・・或いは、アルバートやお前が生きて明日を望むように・・・私も過去を通り過ぎる事ができたなら・・・いや、もう遅い・・・か」
「・・・爺さん・・・?」
「グレイ。私にとって、マリーベルとお前達は平等に我が子だった」
グレイの掌から硬貨が零れ落ちた。雨を切り裂いて、ベルガモットの愛騎のペコペコが駆けて来る。
「去らばだ」
ペコペコに飛び乗り、傷付いた老騎士は降りしきる雨の向こうに消えた。
たった一言を残して。
ようやく、グレイは師の真意を垣間見た気がした。ただ、心の何処かで素直に受け止められなかった。
父である彼と同様に、兄妹のようにして育ったマリーベルが死に、グレイも少なからずアルバートを恨んでいた。
兄妹以上の感情があったのも、拍車をかけた。だからといって刃を向けなかったのは、それ以上にアルバートの辛さも知っていたからだ。
ベルガモットも同じだっただろう。戦いたくはない相手と、敢えて戦う。だとしたらその戦いの理由はそれ以上ということになる。
だが、どんな理由があるにせよグレイには理解できない事だ。
何があっても。
「鍛冶師、平気か?」
「あ、ああ・・・なんとか」
「・・・そか」
グレイと同じく雨に濡れた赤毛の女ハンターは少しだけ微笑んでから、すぐに意地悪そうな顔に戻った。
「うりうり、ちゃんと逃がしてくれるんやろ?」
「当たり前だっての」
肘で小突かれ、苦笑するグレイ。それから、びしょ濡れの二人は歩き出した。やはり足元のふらつくグレイに、アーシャが肩を貸す。
グレイの鼻腔を甘い匂いが突く。
(過去と未来、か・・・)
「ん?なんか変なこと考えへんかったか?」
「・・・考えるわけねぇだろ」
思いのほか華奢なハンターにもたれながら、彼は毒づいて再び苦く、思いを馳せた。
88名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/18(日) 11:08 ID:aJ3lLVFM
>>87
GJ!最初から毎回楽しみに見てまつ
でも題名から察するに終わりが近いっぽ・・・
89名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/18(日) 22:27 ID:fl0dT8wY
>>87
いつも楽しみにしてまっせ(・∀・)b

>>88
物語はいつか終りがくるんだからしょうがないさ(´ー`)y-~
90303sage :2004/04/20(火) 11:36 ID:GcrGf/7Y
冒険にはたくさんの出会いがあって、同じ数だけの別れがある。
ずっと一緒にいることは誰にも約束できない事。だけど、だからこそ今を楽しんでいきたいんだ・・・。

チュンチュン・・・・・・
柔らかな日差しが、差し込んでくる。・・・眩しい。
その日差しから逃げるように布団を頭まで引っ張りあげる。
「う、うん・・・むにゃむにゃ・・・」
朝起きるのは早いけど、やっぱり布団に包まってる間が一番の幸せ・・・。
あと、少しだけこうしていよう・・・。
トットットット・・・
やけに軽い足音が響く。この感じはあいつだなぁ・・・。
ドアの前に立ち止まる気配。まだこのままでいたいのになぁ・・・。
ガチャッ
「おい。ふぃあ・・・」
聞きなれたあいつの声。だけどこればっかりは何度言っても直らないんだよね・・・。
カチッ
「・・・カチッ?」
「どかん」
私がそっと呟くと同時にドアの前に仕掛けていたブラストマインが爆発する。
静寂・・・。
あれ、立ち上がる気配ないなぁ・・・
「フィア・・・いつもながらこれはなんなんだ・・・」
ぉ。いきてる。まぁ、分かりきってた事だけどね・・・あはは
「いつもいってるでしょ、部屋に入る前くらいノックしてよね・・・まったく」
「ノックしても気付かないだろうが」
それは心外・・・。気付かないんじゃなくてあえて無視してる・・・。
「余計悪いわっ」
あちゃ、声に出しちゃったかな、失敗失敗。
「まぁ、起きたみたいだしさっさと降りて来いよ?」
布団から手を出しひらひらとふる。
毎度毎度これが私の目覚まし代わり。そして、
「おはようございます〜」
この宿の名物。
こんな何でもない一日の始まりが、長い旅の始まりだなんてこのときの私には気づくこともできなかった。
91303sage :2004/04/20(火) 12:15 ID:GcrGf/7Y
何処の303だorz

続編投下

「おはようございますー♪」
にこやかに、微笑みかける宿の女主人。
「おはようです〜」
その笑みにつられるように笑顔で挨拶を返す私。
人好きする笑顔って言うのかな、朝からこの人の笑顔をみたいって言うがためにこの宿をとる人も多いらしい。
確かにその気持ち分かるけどなぁ。同じ女性のわたしから見てもすごい魅力的だと思うし・・・。
「うん、元気そうだね。朝ご飯は、どうする?」
「あ、いただきますー」
ここの自慢はこの女主人が作る美味しいご飯にもあったりする。それを食べずに冒険にはいけないよッ。
「それじゃ、いつもの席で待ってて〜♪」
「はーい」
いつもの席。やわらかい日差しが差し込む角のテーブル。そこにはすでに先客であるあいつがいた。
「おはよ」
その声に気付いたのだろうか、目線を少しあげて、また食事に取り掛かるあいつ。
「かっわいくないのー」
向かいの席に腰を下ろし頬杖をつく。
「ダメよ、ラス君、挨拶を受けたらきちんと返さないと〜♪」
女主人がころころとわらいながらトレイに乗せた朝食を運んでくる。
わざわざ自ら運ばなくても、と何度かいったことがあるけど、本人曰くやっぱり直接触れ合いたいですからね〜♪とのことらしい。
あいつは、食べてたものを嚥下すると顔を女主人に向け
「いいんですよ、フィアだから」
ちょっと、それ理由になってない。まぁいつもの事だけど・・・。
「だめよ〜、そんな事いってるとフィアちゃんに嫌われちゃうぞ♪」
いや、楽しそうにそういわれても・・・。ジト目で女主人を見やるとその視線に気付いたのか、ぺろっと舌を出す。
「ああ、フィアちゃん、ごめんごめん、これ朝ご飯ね」
いや、そういう意味じゃないんだけど・・・。
彩り鮮やかなサラダとスクランブルエッグ、腸詰にした肉を塩で軽くゆでたもの。ポタージュetc。
香り豊かな焼きたてのパンとミルクが添えられている。朝ご飯にしてはかなりボリュームがあるほうだけど・・・。
・・・・・・
「いただきます」
「は〜い♪」
うん、やっぱり美味しい。
「ちょっといいかな〜♪」
「ふぇ?」
「はい?」
私とあいつが同時に答える。
「ちょっと頼まれごと。いいかなぁ?」
そのにこやかな表情の後ろに、何か悲しそうな光が見えて・・・。
私たちはうなずく事しか出来なかった。
92303sage :2004/04/20(火) 13:19 ID:GcrGf/7Y
頼まれごと、それは女主人の想い人の目撃者がいたということから
その真相を確かめてほしいというものだった。
「もう5年もたつのにね〜、いまだにわすれられないから」
女主人は一振りの剣を私の目の前に置く。
十字の形をした無骨な剣。しかしながら作り手の誠意が形になったかのような・・・。
剣には詳しくない私だけど、それでもきれい、と感じる剣だった。
「わたしが打った最後のクレイモア。そしてあの人にあげるはずだったもの」
「私はここを離れられないからさ、あの人を探してそのクレイモア、渡してきてくれないかな?」
それなら・・・なおさら
「わかりました」
え・・・?
あいつが、そのクレイモアと呼ばれた剣を大切に抱えあげる。
ちょ。ちょっと・・・?
「俺達が、その想い人さんを探してきますよ」
そしていたずらっぽく私の方を向き微笑む。
「な、フィア、そうだろ?」
わかってやったな・・・そういわれたら断る事出来ないじゃない・・・。
「え。あ。もう・・・」
私は女主人をみやると、柔らかく微笑まれる。
「セレス姉さん・・・何とかいってくださいよ、この馬鹿に」
「あらあら、自分の連れを馬鹿とかいうものじゃないよ〜♪」
そういうと女主人は私とあいつにとびきりの笑顔をくれた。
「ありがと、フィアちゃん、ありがと、ラス君」

続く〜。
93名無しさん(*´Д`)ハァハァsage ヽ( `Д´)ノT :2004/04/22(木) 01:43 ID:1zQzLnqw
 別所で投下した後、別電波が来たのでここにも爆撃してみるテスト

 出会いは桜の花が散っていた頃。少年は初心者冒険講習を終え、この大地に
降り立ったばかりでした。
「……うーん…。どうして、君たちはモンスターなんだろう?」
 ぽよん…ぽよん…

「ぼく…商人志望だし…。戦いたくなんかないけど。モンスターと人は戦わ
 ないといけないんだよな。それが世界の摂理だーーー! ってフリシュー
 教官も言ってたし…」

 少年は立ち上がり、ついてもいない埃をぱんぱん! と払うと、日向で楽しげに
跳ねる赤いポリンに向かって貰ったばかりのナイフを構え、そのまま一気に突き
ます。

「あたっあたっ…いたい…この! お返し!」
 しばらく、騒々しい戦い…むしろ、じゃれあいが続き、ポリンは潰れて大地に
帰っていきました。少年は、ぺたん、と座り込むと、ポリンの消えた方を少し
寂しげに見ています…。
 …すぐに、別のポリンが彼の視界に現れ、少年はまた…体力の回復までそれに
話しかけていました。もちろん、体力が回復してから戦うのですが。

「…うー。今日はもうこれでいいや。帰ろう! わぶっ!?」
 4匹目のポリンを倒したところで、音を上げてしまった少年は振り返り…
何か柔らかいものにぶつかって、…それに顔がちょうど埋まってしまうような
形になってしまいました。今まで戦っていたポリンよりも柔らかい、いい匂いの
する…。

「わっ! わわっ! プ、プリースト様! ご無礼しました! ごめんなさい!」
 少年の顔は、ちょうど…オトナたちがぱふぱふ、というような形で見知らぬ
プリースト様の胸の谷間にジャストフィットしていたのです。女性に免疫のない
少年は、慌ててそのプリーストを押しのけようとし…。

   ふに
        ふに

「うわぁぁぁあ!?」
「……あら。まだ元気じゃない。頑張らないと」
 尻餅をついてしまった涙目の少年に、そのプリーストはにっこりと微笑み
かけました。少年の上にかがみこんだときに、彼女の黒くて長い髪がふぁさ…
と垂れかかります。
(…いい匂いだな…)
 名前も知らない大きな頭装備と相まって、彼女がとても神秘的に見えて、
少年はちょっぴりドキドキしました。

「ほら、頑張って」
 というと、プリーストは木の根元に座り込みます。プリーストにはノービスを
見たら支援してくれる人が多い、と先輩に聞いていた彼は、ちょびっとだけがっかり
しました。

「……言うだけですか…」
「まだ、貴方は頑張ってるから。自分で頑張っている人に手助けは失礼だわ。
 それに…」
「…なんですか?」
「男の子でしょ。さっきので元気になったんじゃない♪」

 少年は真っ赤になって、ちょうど目の前に来たファブルにナイフを向けます。
「…むぅ…。いくよ!」
 少年がちょっぴりギャラリーを意識してナイフを振りかざした…、ちらっとプリー
ストのほうを見ると、彼女はにこにこしながら親指を立てた拳を突き出します。

「……ふぅ…もう…夕方ですね」
「ふふふ、そうね」
 木の根っこで。狩りに行くでもなく、さりとて手伝いをするでもなく。ずーっと
自分を見ていたプリースト。少年は今日が終わってしまうのが少し寂しかったのです。
でも…

「明日も、頑張るわよね。男の子だもん」
94名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/22(木) 01:45 ID:1zQzLnqw
 そんな日が次の日も、その次の日も。その場所に彼女はいつもいるというわけ
ではありませんでした。でも、ポリンやファブルを突っついていると、いつの
間にかプリーストは木の下に座って彼を眺めています。
「…どうして」
「ん?」
「どうしてボクにつきあってくれるんですか? 聖職者様は忙しいでしょう?」
 にっこり。プリーストは日向のシュークリームのように笑います。
「君と同じ。来たら楽しいからよ」
「……そ…そうですか」

 少年は彼女に憧れはじめていました。年も、位も、何もかも違うから、憧れ。
恋にもならないような、淡い淡い想い。

「私も聞いてもいいかしら?」
「…はい、なんでも」

 彼女は、いつもの柔らかい笑みを浮かべたまま。
「どうして、その子たちと戦うとき、いちいち声をかけてるのかしら」
「え? …変、ですか?」

 少年の顔が恥ずかしさに赤くなるのを見て、プリーストは首を傾げます。楽し
そうに。
「他にそういう人はあまり見た事が無いけれども。変とは思わないわ」
「……僕は…戦うのが好きじゃないんです。でも、こいつらはモンスターだから」
「うん?」
 少年は言葉を一生懸命捜します。けれども、自分の気持ちをうまく伝えられる
ような、いい話し方が思いつかなくて、困ってしまいました。

「モンスターと戦う人は大勢いる。でも、話しかける人はあまりいないわ」
「…戦うってことは…僕も、こいつらも、会ってすぐに勝負するって事ですよね?
 お互い、何の恨みも無いけど。だから…その、せめて挨拶とか…。言葉、わかん
 ないとは思うんですけど」
「そう。君は…」

 そういったとき、プリーストがつっと視線を外しました。その横顔は、少年の
好きなあの笑顔ではなかったのですが、忘れられない…そんな表情でした。
「…君は、モンスターを対等の相手だと思っているのね」

 少年はそう言われてもきょとん…としていました。彼女の言葉の意味、奥
深さを知るのは、その翌日…転職試験の日のことです。


「…っ! やりました!」
 その日、プリーストの前で天使の祝福を受けた少年は、飛び上がって全身で
喜びを表しました。プリーストも、ちょっぴり子供っぽい仕草でぱちぱちと
手を叩いて祝福してくれます。

「よかったわね? 転職、おめでとう。立派な商人になってね」
 にっこり笑って祝福してくれるプリーストに、少年は少しはにかみながら告げます。
「僕…商人はやめます」
「…え?」
「僕は、お姉さんのようなプリーストになりたいんです! 魔法だけじゃなくて
 言葉…お話でみんなを楽しくさせるような」

 その時、少年ははじめてプリーストを『お姉さん』と呼びました。プリーストは
少しくすぐったいような顔をしていましたが…。少年の決断を聞くと、その表情が
変わりました。
「私のような…? そう…。それを君が選ぶなら。でも」

 辛い思いをするわよ。

 その言葉を、彼女は口には出しませんでした。ただ…。自分と同じ、プリーストに
なった後で、もう一度会おう、と。その約束だけをして。
9593sage :2004/04/22(木) 01:58 ID:1zQzLnqw
T⊂(。Д。⊂⌒`つ
 眠気に電波塔が負けたのでここまで〜。続きは…こんなでも読んでくれる人が
いたら書く方向で…。

                 [GH]・・・・λ....<過去ログあさったら資料によってこの方、
                           口調が結構違うんですよ。教えて偉い方!
アアン ジルタスサマ…モウダメ…>[GH]   λ≡ [プロ北]<ワシハ ソッチニハオラヌゾ!!
96名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/22(木) 02:26 ID:9fryfNB.
続きがすっごい気になるます…
97名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/22(木) 12:58 ID:ngztWdKo
>95
もしかするとこのプリ、あの人ですか!?
9893@書き書き中sage ヽ( `Д´)ノT :2004/04/22(木) 18:20 ID:1zQzLnqw
 この板の文神様のキャラクターを拝借してみるのってスレ的には駄目だったかな?
 印象あってなかったら脳内でさっくりと(できれば見逃して…)

T <依然受信中! …ママの次はフェーナたんにハァハァ…ウワヤメロナニヲスr
9987sage :2004/04/22(木) 19:28 ID:kAbWxNxo
キャラ拝借っていいんじゃないですか?
他の方のはよく知りませんが、私のでよければどうぞ。

活気付くのは良い事です。
100名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/22(木) 19:54 ID:WUpkJy1c
93氏の続き気になりますな_| ̄|○
完結してから覗けばヨカタw
10193@思い立ったら即書き系sage ヽ( `Д´)ノTお許し頂き恐悦至極です! :2004/04/23(金) 01:14 ID:.dGRtI8Y
 そして、二年。少年は青年になり、僕が俺になり、背も伸びた。強くもなった。そして
民草のために魔族を退ける日々。

 それに……疲れていた。

「シスター。ただいま戻りました」
「…おかえりなさいませ。首尾はどうでした?」
 にっこり、と笑みを浮かべるシスター。まるで僧衣に合わせて設えた様な色合い髪。
その下の顔は、青年に憧れの女性を想い出させるほどに美しい。だが、彼女の笑みには
張り付けられたような空虚さしか感じられなかった。
 その笑みを見ても…彼には嫌悪しか想起できないのだ。その落差ゆえに、彼はそのシス
ターを好かなかった。いつものように、彼女をちらとも見ず、淡々と結果だけを報告する。
「…ゲフェンタワーの謎の増殖は無事鎮圧。犠牲者は…0名」
 そして、倒した敵は26、と声には出さず付け加える。一匹の怪物を手にかけるたびに、
何かがのしかかってくるような。それと引き換えに強くなる。そんな辛さにも、慣れた。

 慣れたけれども……。

「0…ですか?」
「ああ。俺が着いたときには、もうほとんど終わっていた」
「市井の冒険者も案外立派なものですね。今頃は祝宴騒ぎではないのですか」
「そのようだ」
 立派だとは思う。自らの意思で、自らの命を危険に晒して己の大事なものを守る為に
参じた者達。だが、戦い終わって喜ぶ冒険者達の輪に加わる資格は、自分にはない…。
そう思った。彼は任務で行ったのだから。
 それに、冒険者達のように、怪物を倒した自分を誇る気にはなれなかった。

(…どうして…、彼らは人の街を目指すんだ。俺は…彼らと戦いたくなんかないのに)
 それを口には出さず、彼はまた穢れの増えた手元の業物を見つめる。それは、怪物を倒す
ことでしか手に入らない特殊な(S付)鈍器。相手の命と引き換えに得た物だから、彼は
それをずっと大事に使い続けてきた。
 やはり怪物たちから得た石で少しづつ鍛えられたそれは、これ以上ないほど彼の手に
馴染む。けれども…、武器の力を更に高める『魔力カード』は一枚たりとも装着されては
いない。
 任務のために、怪物と、戦う。自分の主義を捨てた彼の、小さなこだわりだった。

 それを見たシスターが、珍しく言葉を継ぐ。。
「そのチェイン。まだ、何も差していないのですね。カードは山のようにお持ちでしょうに」
「…武器のカードは、殺傷力を上げるものしかない。俺は嫌いなんだ」

「けれども。力が増えれば救える人の数も増えるのですよ? それは良い事ではなくて?」
 本気なのか、そうでないのか。青年と話すときにシスターの口調はいつでも馬鹿丁寧で、
そして楽しげだった。今日はそれが著しい。
「そうかもしれない。でも…」
 その先は、決して口には出来ないこと。それで増えるのは、怪物達への殺傷力だけだから。
それを受け入れたら…彼らを捨てたことを自分でも認める事になる。だから、できない。

 そんな理由を口にすれば…良くて謹慎。悪くすれば、破門なのだから。

「転職可能なだけの徳も積んでいるのにアコライトのまま…次の階梯にも進まない。
 教えていただけません? 何が、あなたをそうしているのか」
「…俺は。まだプリーストになるにはふさわしくないから」
「まだ、あの方を目指しているんですか」
 青年が黒髪にマジェスティックゴートのプリーストを探しているのを、このシスターは
知っている。青年が少年だった頃、本部付になったばかりの日。恩人の姿を探し回って
いた彼に告げたのは彼女だったのだから。その探す相手が…

「亡くなった、と言われても。まだ信じられないんだ」
 信じられず、他の司祭や知り合いにも聞いた事はあった。任務を共にした聖堂騎士にも。
彼らは、彼女の事を聞くと、ある者は目線をそらし、ある者は昂然として言うのだ。

     そんな者はいない、プロンテラ教会にはいない、と。

「そして、俺は…まだ、彼女のように笑える自信がない。だから…紫の聖衣は纏えない」
「……そうですか。残念ですね。プリーストになれば禁忌の閲覧許可も出るのですが」
「そうですか」
 興味なさ気に立ち去りかけた彼の背中に、何時になく口数の多いシスターの声が追いつく。
「……組織には色々表には出ない話があるものです。例えば、破門されて存在を抹消された
 聖女のことですとか」
「………な…。それ…は?」
「興味がおありなら、大司教様に転職を願い出るとよろしいですわ。では…」

 何も変わらない表情のまま、そう告げるシスターとは対照的に…青年は酷く沈鬱な
表情をして聖堂の奥へと向かった。
「…あれだけの闇の念を背負ったままでどこまで行くのか…。面白いと思ったのですが。
 彼は駄目ですね。戦闘力はあるけれども、あの方の駒にはなれない。どちらに転んでも、
 “教会”の手駒のまま、ですか…」
『くくく…。堕ち方によればあるいは役に立ちますよ。魔の介入も…無いとはいえない。あれ
 だけのイレギュラーですからね。…これはどうも、私向きのようですね』
「…ならば後はお任せします。最後まで見届けられないのが少しだけ残念ですね」

 ぼそぼそとどこかに呟いていたシスターの声は、無論青年の耳には届きはしない。そして、
その後すぐ、忽然と大聖堂から姿を消した彼女と、青年が言葉を交わすことはなかった。
10293@思い立ったら即書き系sage ていうか、脳内バッドエンド一直線なんですが! :2004/04/23(金) 01:18 ID:.dGRtI8Y
「先輩。とうとうプリーストになる決心をした、というのは本当ですか?」
「…うん。あ、いや…ああ。」
 ぽろっと漏らした素の返事に、くすりと笑う後輩のアコライトにため息をつき、青年は
聖堂を奥に向かう。何かの任務で一緒になってからなぜかなつかれた、このぶっきらぼうで
辛口の少女に、彼は少しだけガードが甘い。
「…先輩。付き添いは…?」
「不要だ。手配もしてない」
「…寂しくないのですか? 一人でエンジェラス。友達が少ないのがばればれですよ」

 付き添い無しでも転職に必要とされる力量はとうに備えている。それに、彼が本当に
見守って欲しかったプリーストは、ここにはいない。だが、そんなことを自分の回りを
ちょろちょろする少女にいっても仕方が無かった。

 その沈黙をどう取ったのか…
「ふふ…。じゃあ、私も転職しましょうか」
「…なんだって?」
「私は、元々制限すぐで転職するつもりでしたし。先輩と一緒にしたかったから
 今まで伸ばしていただけです」
「…そ、そんな理由が本部に通用すると思って…」

 唖然とした青年を置いたまま、少し恥ずかしそうな様子で少女は先に駆け出していく。
「…先輩! 後からちゃんと来ないと、……怒る」
 神の膝元でその意思に迷う自分と、それでも…親しくしてくれる者がいる…。青年は
皮肉っぽく口をゆがめる。少女は、昔の自分に似ているのだ。信じたものに一途な所が。
だから、今更彼が何を言ってもやめないだろう。言うだけ…無駄だ。

「…勝手にすればいい。俺には関係ない事だ」
「ふふ。勝手にさせていただきましょう」
 廊下の先から、大声で答えてくる少女を邪険にあしらってから、彼は考える。あのシス
ターの言葉に揺れて、下してしまった自分の決断。それがこの少女を巻き込んでしまった。
あんなことを言っているが、本当は少女も、アコライトとして限界まで己を鍛えてからの
転職を考えていたはずだ。
 全ての存在が不思議な糸で繋がっている。誰も、完全に自由に何かを決める事は出来ない。
それが怪物であってすら…倒した相手にこんなにも重いものを残していく。ましてや、生きて
ある同族同士ならば、なおさら。
 この世界律が疎ましいのか喜ばしいのか、彼にはわからなかった。今日もまだ、背中が重い。

(…俺は。何をやっているんだ…。あの人ならこんな時、笑えただろうか。…いや……
 既に何かを背負っているからこそ、あんなに心を打つ美しい笑みを浮かべられたのかも
 しれない。あの、眩しいほどの強い笑みを)

 青年は、ちらりと廊下を見て。かすかに笑い…それから、ゆっくりと歩き出した。
少女の無邪気さがあるから、彼はここで潰れずに済んでいるのだと、誰よりも彼自身が
知っている。だから、無駄とは言わず、彼女をとどめよう。彼の説得を受け入れてくれるか、
結果はわからないけれど。

 相手を思うこと。その気持ちは無駄ではない。そう、彼は思っていたから。
10393@思い立ったら即書き系sage :2004/04/23(金) 01:30 ID:.dGRtI8Y
T⊂(。Д。⊂⌒`つ
 まだこの電波塔は手放せねぇぜぃ…(村上弘明調

>>96様 こんな感じの続きです。初レスThx。どうぞ召し上がってくださいまし。
>>97様 はいです。多分心は同じ方角をさしているでしょう。ママ〜。
>>('A`)様 ありがとうございます。勢い余ってもうお一方…
     フェーナ嬢、所属は貴作内で教会じゃないようなのですが、時系列がゲフェンで
     派手に暴れちゃう前、大聖堂に潜入してたってことで勘弁してくださいまし。
     ………ダメなら…さくっと見なかったことに!(…へへへ。名前出してないし(逃避
>>100様 気にさせてゴメンナサイ。まだ終わらないのです。

 ぶつ切りごめんなさい。気になるって言われると出来たはしから投下したくなっちゃうの
ですが、正直うざかったら言ってくださいまし。纏めてから投下します。

 前の見たく、ものごっつい長さになるかもしれませんけど…
104名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/23(金) 06:42 ID:r/h3D6G2
>>93
うはっ、フェーナ嬢萌えwキャラ出張乙っす
もうお一方はシメオンさんですかい?彼のくくくって笑いは病気かと思われ(ダマッテロ
GJ、続きを楽しみにしまつ
最近('A`)氏の方はかなりハード路線。佳境なのかしらん?
氏の作品のファンな漏れとしてはドキドキものっす、戦闘燃え

今回みたいにキャラと設定を持ってくるのは斬新でいいと思いまつ
時間軸ズラせば無理効くし。漏れも書いてみようかな…?
このスレ活気つきまくりでつね!スバラスィ!
105名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/23(金) 17:15 ID:8R6bCHVU
てか、何気にこのスレレベル高けぇ…感動ものだぜ…
106クルセ書いてた人sage :2004/04/23(金) 18:03 ID:OtXCHpwo
済みません、どなたか上水道リレー各キャラの現在地と状況を教えて頂けませんかorz

>577氏
_| ̄|○<師匠と呼ばせて下さい
107名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/23(金) 18:22 ID:qI5NWfFg
>>106
・廃クルセ&アサシン→3Fで交戦中(ケリついたかも?)。
・剣士君魔法士君生首妹アコライト、
戦闘スミス製造スミスに女クルセイダーと踊り子→2Fを目指して3F後退中。
・マナたんズ→2F入り口前付近(1F)。
・姉御小隊→Wizを姉プリにとられつつも、2Fで要救助者捜索に。
・姉プリ相方ハンタおどおどバードWiz子→3F目指して進行中。
・DIO様&捕縛されたDL→4FにてWRYYYYYYY中。
・エリィトセージ&ケミと騎士団の面々+その他冒険者→突入開始気味

差し出がましいとは思いますが、確認のために読み返してみてはどうでしょうか?
108名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/23(金) 18:56 ID:v3mc3B8g
>>106
下水道リレー、現在の状況らしき物

・地上
■エリィト魔導師とその助手のアルケミスト君
 教授が謎解きの後にダウン。話に登場するのはここまで?

■一次職パーティ他:スパノビ、アコ、アチャ、アルケミ
 騎士団本隊と共に地下水道に突入中。

・一層目
■騎士団特殊部隊:マナ(騎士) ハンス(騎士) 紫苑(プリ)アコきゅん プリさん フィル(アサシン) 姉プリ
 黒幕と遭遇、最終兵器のミスリル銀を所有している。

・二層目
■先遣隊その1:悪漢ローグ 殴りプリ 逆毛モンク 姉御アサ
 先遣隊の片割れ。wiz、バード、ハンター、プリ、バードと別れ、撤退しかけるが、再び奥に行くことに。

■先遣隊その2:wiz バード ハンター プリ バード
 先遣隊の片割れ。wizを引き抜き、奥へと進行中。

・三層目
■遭難者一同:私(クルセ?) 俺(戦闘BS?) アコライト 剣士 マジシャン(片足欠損) 製造BS ダンサー(蘇生した?)
 遭難者全員が一カ所に集まった模様。かなり消耗しているので戦闘は無理だと思われる。

■オーラクルセ&アサシン
 DLに操られた剣士から遭難者一同を守るために奮戦中。決着がついた?

・四層目
■黒幕軍団:DIO様 金ゴキ 他モンスター多数
 DIO様がDLと融合中。馴染む! 実によく馴染むぞッ!

私が把握しているのはこれくらいです。
間違いなどあったらガンガンつっこんでください。
109名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/23(金) 18:58 ID:v3mc3B8g
うわ、ダブった……リロードくらいしろよ自分 _| ̄|○
110花のHB-Another-sage :2004/04/23(金) 19:11 ID:pdlmnKhs
それは、一つの可能性。
これも一つの可能性。

 

 

 

 

 首都から、少し離れたイズルードに程近い丘。
 その丘に生えている木の下で、身体から淡い光を巻き上げた一人のアサシンが昼寝をしていた。
 周囲はとてものどかで、ポリンと時折死闘(と本人達はそう思っているが、周囲から見ればほほえましい戦い)を繰り広げるノービスを時たま見受けられるくらい。

「よ、オーラバトラー。相変わらず、ボーっとしとるんかぁ?」

 赤い逆毛にターバンを巻きつけ、サングラスをしたブラックスミスがそのアサシンに声をかけた。

「……オーラバトラーって呼ぶな。オヤジ」

 顔の上に乗せていた本を退けて起き上がると、ブラックスミスをにらみつける。

「オーラ出してるんやさかい、オーラバトラーで間違いはないやん? それよりもわしをオヤジ言うんはやめて欲しいわ。あんたと年はそないに変わらんのやで。ちゃんと名前で呼べや」
「なら、左近も俺をちゃんと名前で呼べ」
「ハイハイ……で、スレイは相変わらず暇なんやろ?」

 左近と呼ばれたブラックスミスは、ニヤニヤと笑いながらアサシンのすぐ近くに座る

「……狩りの誘いなら断るぞ。そんな気分じゃない」
「何や、冷たいなあ。折角ライムとリースが誘って来い言うたから、誘いに来たのに」

 ライムは支援型と呼ばれるプリースト。
 リースは二極、または神速とか呼ばれる弓の扱いに特化したハンターだ。
 二人は左近の昔からの友人で、辛く長かった一次職時代のPTからついにギルドまで作った間の仲である。
 スレイとの関係はそのギルドができた後からだったが、スレイがギルドを抜けた今でも昔からの友人のように付き合いが続いていた。

「どうしようと俺の勝手だろ? 今はボーっとしていたいからこのままでいいんだよ」

 また本を広げて、昼寝の続きをしようとするとその本を左近は取り上げた。

「コラ、返せよ」
「来てくれるんなら返すで。うちのギルドに新人が入ったからその歓迎会も兼ねてるんや」
「俺はギルド抜けた人間だろうが。それが行ってどうするんだよ」
「ま、それは来ればわかるよって。とにかく来いや。岩場の所でライム達が待っとるさかい」
「……ったく。仕方ねえな……」

 スレイは重い腰をようやく上げて、付いた草を払った。

「どうせていのいい壁にでもする気なんだろ?」
「さあ? どやろな」

 含み笑いを浮かべながら、エンブレムがついた立派な屋根つきカートを引いて左近は先に歩いていく。

 幻想祭から、半年と少しの月日が過ぎた。
 その間の世界の変革はめまぐるしかった。
111花のHB-Another-sage :2004/04/23(金) 19:12 ID:pdlmnKhs
 亀島への航路の確保。ジュノー、アマツとの交易の開始。新二次職……大規模なギルド間による攻砦戦。
 そして、御使いによる大規模な生態系の変化。

 冒険者レベルがカンストした者にはオーラが現れるようになった。
 オーラが現れるようになった当初は、スレイにもたくさんのギルドからの勧誘もあった。
 とはいえ、ギルドに属すつもりがないスレイはその誘いを断ったことと、体力よりも素早さを重視しているアサシンには不向きな攻砦戦で、やがて勧誘もなくなった。

 そんな風に周囲が変わり行く中で、スレイは変わらない毎日を過ごしていた。

 ただ、幻想祭以前と違うのは友人たちが心配するほど無理をして毎日のように狩りに行っていたのが、何をするのでもなく本を読んだり、昼寝をしたり、ノービスの相手をしてやったり……そうやって時間をつぶすことが、多くなったことくらいだ。

「おーい、スレイ連れて来たでー」

 左近の声で、岩場で話をしていた集団が振り向いた。
 集団の中から、長めの黒髪をゆるく二つにビーズの髪飾りでまとめた女性ハンターとまだ少年らしさの残る栗毛のプリーストが走りよってくる。

「久しぶりー。元気でしたー?」
「来てくれたんですね! 嬉しいですよっ」

 プリーストとハンターはスレイの手を取ると振り切れんばかりに嬉しそうに手を上下させる。

「まったく……ライムもリーも……俺はギルド抜けたのに、ギルド狩りにまで呼ばないでくれよ」

 左近を通じて連絡は取ってはいたが、彼らと改めて顔を会わせるのは本当に久しぶりだった。
 幻想祭後に少し顔を会わせただけだから、実に半年振りになる。

「あれ、左近さんから聞かなかったんです?」

 きょとんとした表情で、ハンター……リースはスレイを見つめた。

「いや、何も聞いてない。ただ、新人歓迎兼ねたギルド狩りとしか」
「ということは……左近さん、あんな大事なこと言わなかったんですか?!」

 ライムがあわてて、左近を見ると

「まあ、秘密にしといたほうが面白いやろ」

 そう言って、またニヤニヤと笑う。
 そんな風に話をしている背後から、一人の少女がスレイに抱きついた。

「ひさしぶりーっ 元気だった?」
「って、ルル?!」

 花カートを引いたアルケミストがそこにはいた。
112どこかの166sage :2004/04/23(金) 19:14 ID:lSpOqhzE
>93
これはママプリかぁ!!ママプリなのかぁぁ!!
改めてあちこちに適当に書きまくっていた事が発覚。
近くHPにまとめます。 _| ̄|○

>577様
 おかえりなさい。
 私は貴方にあこがれて文神になりたいと思いました。
 まだ届きませんが。
113花のHB-Another-sage :2004/04/23(金) 19:15 ID:pdlmnKhs
お久しぶりです。
花のHBのハッピーエンドバージョンをお届けに参りました。
とはいえ、続き物になってますが_| ̄|○||
生暖かい目で、しばしお付き合いくださいませ。

もうすぐ、マイグレーションがまたやってきますね。
別れを味わう人も、新しい出会いをする方も
良いラグナライフを。

それではまた
___ __________________________________________________
|/
||・・)
114クルセ書いてた人sage :2004/04/23(金) 20:05 ID:OtXCHpwo
>107,108
多謝!
読み返そうにも過去ログが見えない訳でしてorz
11593@活気付いてキター!!sage 166様だ!ひゃっほーう! HB様もだ! うひゃっほーう :2004/04/23(金) 20:09 ID:.dGRtI8Y
「エンジェラス!」
 大司教が青年に紫衣をかけると、少女の澄んだ声が聖堂に響いた。一拍遅れて、鐘の
音が響く。その身を包むのはアコライトの白い聖衣のままだ。彼女が転職を口にした
理由が、転職志願ではないアコライトは転職の間に入ることが許されないと思っていた
からだ、と聞いて青年は苦笑したのだが。
 やはりそんな少女にはまだ、白が似合う。

「先輩、おめで…」
「エンジェラス!(ごーん!)」
「エンジェラス!(ごーん!)」
 彼女の声をさえぎるように、また、別の鐘の音。不意を打たれ、狼狽気味に振り返った
青年だったが、さっきまでは確かに誰もいなかった転職の間にいたのが、にこにこしている
戦闘司祭や聖堂騎士達だったのを見て力が抜けた。

 自分の同僚達。かつて、青年と共に戦った者達。
「おめでとう。ようやっと紫を纏う気になったのね」
「…おめでとう。強くなりやがって。いつかの借りを俺の盾で返す日、また遠くなり
 そうだ」
「めでたいことを勝手に決めやがって…今度飲みに行くからな!」

 どこで嗅ぎつけてきたのか、口々に一言二言の祝辞を述べてから、彼らはまた去って
いく。その一言の為だけに抜け出してきた日々の仕事。…戦いへ戻る為に。
 この時間、急なことで作るのも難しかっただろうが、そんなことはおくびにも出さず。
彼らは満面の笑みで青年を祝った。ここにも、糸がある。彼を“ここ”に繋ぎとめる糸が。

「…戦友、ですか。いいものですね。私も若い頃は…」
 遠い目をした大司教が何か言い始めるのを聞いて、少女が青年の腕を取った。彼女の
控えめなふくらみが、青年の上腕の辺りに押し付けられる。…正直、困る。
「…ぉ、おい?」
「行きましょう、先輩。あの人の話しは長くなりますから」
「…あの人、って…」
 この少女には珍しい、礼を忘れたような口調。大司教といえば、地上の神の意の
代行者に近く、間違っても、平聖職が[あの人]呼ばわりなどしていい相手ではない。
当然のこと。

 まず唖然として、それから注意をしようとした青年だったが、少女の方を見て、
口ごもった。
「な、なんでそんな目で俺を睨む」
「……だって…先輩…」
 救いを求めるように青年が目をそらした先には、大司教の慈愛…とそれ以外の何かに
満ちた目があった。

「はっはっは。嫉妬ですか。いいものですね。私も若い頃は…」
「ぅ…。ち、違います」
 腕の辺りからの、うつむき加減で絞り出すような声。栗色の短髪の向こうに見える
少女の頬が微かに染まっている。それを見て、彼は初めて思った。この少女を…

     犯セ。壊セ。奪エ。殺セ。オ前ガ我ラニシテキタヨウニ

「…え?」
「…先輩?」
 ついさっき。転職試験で見た…闇の君主に似た声がした、ような気がした。
慌てて頭を振る。転職試験のあれは、ただの写し身のはず…。敵の姿を見せる、
ただそれだけの為に作られた精巧な幻影に過ぎない。

 自分は疲れているのだ。

「…い、いや。なんでもない。…せっかくだからな、今日は街に出て気晴らしでも
 するさ」
「…そうですか」
 少女はうつむいたまま、ようやく腕を放した。口元はへの字。自分に愛想が無い
ことは百も承知の青年は、次の言葉をやはりぶっきらぼうに口に乗せた。自然に見える
ように祈りながら。
「…今日はお前も来い。…一人じゃ、何を食べても味気ないからな」
 その実、かなり緊張はしていたのだが。
11693@まだ登場人物の名前は伏せ!sage ヽ( `Д´)ノT :2004/04/23(金) 20:10 ID:.dGRtI8Y
 プロンテラには当然のように歓楽街がある。聖職の身としては縁遠いはずの場所
だが、そこでしか手に入らない物もあるため、一部の実働隊にとっては必要悪、と
いったところだ。
「…あの…先輩。このセクハラ大聖堂というのは何でしょう?」
「何でもかんでもチラシを受け取るな」
 とりあえず、少女が、思ったよりも箱入りだった事は、青年は知らなかった。
それだけでも出かけてみた甲斐はある。それなりに長い付き合いの相手だというのに
おそらく、彼女が彼について知っている事の半分も、青年は知らない。

 それは、人として恥ずかしいことなのかもしれない、と彼は思った。

 歓楽街に入る手前。男と女が駆け引きに興じたり、時には前哨戦に興じたりする
ような店がある。実は料理も絶品で、それが理由で泊まっている常連客もいるらしい。
 …今日はいないようだが。
「とりあえず、カツ丼を1つと…」
「…カツ丼? 何ですか、それは」
「……失礼、2つ頼む」

 戦闘司祭と違って聖堂勤務主体で、外に出ることが少ないからだろう。もの珍しげに
辺りを見回しては、目を見張ったり赤面したりしている少女を、青年は眺めている。
普段からかわれてばかりいる相手だが、たまにはからかってみるのも面白い。
 …そんなことを考えながら、注文の料理をほおばる。うまい。常連客は一人で5杯も
食べる者がいる、と聞いたこともあるが気持ちだけはわかる。胃袋のほうはさすがに
理解できそうも無いが。

「先輩? 今日はどうして私を誘ったのですか? 普段は任務明けはいつも一人で
 いるのに」
 食後のお茶をすすりながら、少女が聞いてきた。彼女は例のシスターと似て
表情が少なかったが、決定的に違うのは感情が透けて見えるということだ。
今も、小首をかしげる少女の表情は茫洋として掴みにくかったが、その瞳は好奇と、
それから幾分の期待を込めて輝いている、ような気がする。
「…なんとなく、だな」
 それでも、それ以上の返事は青年はできなかった。落胆の感情が見えて、申し訳ない
とは思ったが、自分でもわかっていなかったのだから仕方が無い。
 その時“彼女”に会わなかったら、その答えはすぐに見つかったのかもしれなかったが、
…運命はその可能性に蓋をした。

「こんにちは。ここ、相席いいかしら?」
 返事をする前に椅子が引かれ、その上にふんわり、一人の女性が腰掛けた。そして、
懐かしい香りが青年の鼻をくすぐる。
「…え?」
「お久しぶり。元気にしてた?」
 はっとあげた青年の前には、黒髪、そして黒山羊の角のような被り物をした女性が
あの微笑を浮かべていた。

「なんだ。お祝いしてくれるヒト…いたんですね。待ち合わせ、ですか?」
「い、いや…偶然だ」
「あら。私はいつも君を見ていたわよ。プリーストになったらまた会いましょうって
 言ったでしょう?」

 彼は、驚きながらも…、嬉しさのほうが先に立っていた。死んだという噂を、
信じてはいなかったが、それでも…、安堵が全身をゆっくりと伝わっていくのを
感じていた。涙が出そうなほど。
「…話したいことが一杯あるんです。相談したいことも…」
「…先輩?」
「すまないけど…先に帰ってくれないか?」
 そんな答えが口をついた。少女は一瞬だけ、傷ついたような感情を瞳に浮かべた
だろう。多分。だが、その時少女のほうを見ていなかった青年は、それに気がつきも
しなかった。少女も、いつもの茫とした声でこう言った。
「…はい。ごちそうさまでした」

 すたすたと、そのまま勘定係りの方へと向かう少女。
「おい、今日は俺が誘った。払うから」
「……いえ。自分で払いたい気分ですので」
 妙な事を言う。彼は小首を傾げつつ、少女を見送った。そして、その怪訝な気分は
向き直るときにはもう、消えていた。

「もう、ダメじゃない。女の子を泣かせちゃ」
 開口一番、憧れの人の口からはこんな言葉が飛び出してきた。
「…え? 彼女は泣いたりしませんよ。そんなの俺、見たこと無いです」
「わかってないわね。女の子はね…? 涙も声も出さずに泣けるのよ」
「は、はぁ…」
「でも、君も泣いてるようね。辛いって、顔に書いてあるわよ?」

 そう、聞いたとたん。青年の中の何かが軋みをあげだした。泣き言、愚痴、そして
痛み…彼は、全てを吐き出しそうになる衝動と戦うのに精一杯で。彼女はただ、
黙っていた。

 色々苦労はしているけど、久しぶりに出会った彼女には、立派になった自分を
見てもらおう、色々自慢話もしよう。そう、今まで単純に思っていた青年は、現実の
自分の惨めさが情けなかった。いつの間にか彼女の顔も見れず、机の木目を眺めた
まま黙ってしまった青年に、彼女がぽつりと言う。

「……『俺』か。なんか寂しいな…」
「え?」
「あの頃の君は、『ボク』って言ってたわ。可愛かったのに」
「……い、いや。俺も餓鬼じゃないし…いや、餓鬼かもな…はは…」
「今、君に『質問していい?』って聞いてもあの頃みたく、『…はい、なんでも』
 なーんて可愛く言ってくれないわね…」

 本当にしょんぼりした様子でうつむく彼女を見ると、青年は本当に子供に戻ったように
なってしまう。あの頃のように。
「そんなこと、俺に答えられることならなんでも答えます!」
「そう?」
 彼女はぱっと顔を上げて、にっこりと…いや、にんまりと笑った。
「じゃあ、君の悩みを聞かせて♪」
11793@2年前と文体違うのは…sage わざとなのよ、本当よ :2004/04/23(金) 20:12 ID:.dGRtI8Y
「…これでもない、か。これも…違う」
 彼は、あれから大聖堂に戻ると、そのまま地下の書庫に直行していた。紫の聖衣で
なければ許可の出ない、秘密閲覧室。教会の過去の秘められた歴史や、表に出せない
調査の結果など、全てがここにある。
 少なくとも、12年前のあわや首都消失の大事件以来のことならば、必ず記録に残って
いるはず。

 彼女は、青年の悩みを聞いてくれた。敵を殺すこと。その痛み。のしかかる不安。
全てを聞き終えた彼女は、救いの言葉はくれなかった。けれども。
「参考にはなるかもしれないわ。私の生き方が」
「…?」
「私の家に遊びに来なさいな。私の…旦那様をね。君に会わせてあげたいの。
 ショック療法って奴かしら?」

 旦那…いや、それはその言葉だけでショックだった。顔を見たら殴りたくなるかも
しれないくらいには。しかし、…思ったよりもショックが無いのは、彼が彼女に感じて
いたのが恋人ではなく母性だったからだろうか。

 とりあえず、立ち直るまで…水でも煽ってごまかしながら。

「…はぁ。お家は…どちらにあるんですか?」
「…それは、大聖堂の書庫で調べればわかるわ。私のことは察してるんでしょ?
 頑張って、ね」
「…教えてくれてもいいじゃないですか」
 半ば本気で、青年は彼女に甘えていたのかもしれない。彼女は、それでも自分で調べる
ようにと言うだけだった。
「……まだ、貴方は頑張ってるから…ね」

 そして今、彼はうす暗い書庫で機密書をあさっている。まぁ、この分量だから一日
二日で調べられるとは思えない。誰かに助けてもらうわけにも行かないし…。

「…精が出ますね、先輩。お茶どうぞ」
「…ああ。すまん…。ってお茶!」
 夜目に明るい白の聖衣。そして、水物などもっての外なはずの書庫で…お茶?
「それは冗談です。お探しのものはこれですか?」
 アコライトの少女が代わりに差し出したのは、一冊の古びた報告書。普通ならば、
報告書は日付順に綴じ糸の限界まで積み重ねられ、一杯になったら次の綴じ糸に通される。
だが、稀に一つの事件だけで綴じられる報告書があった。
「…機密報告…よくこれを。いや、それより何故君がここにいる?」
「先輩、鍵開けっ放しでした。さっきから隣で一緒に探してましたよ、私」

 青年はため息をつく。見つかったら厳罰物だ。彼も、少女も。
「とりあえず受け取ろう。…そしたら帰れ」
「…もう一度、あの人に会いに行かれるんですか? …異端者の聖女に」
 青年の中に不意に、苛立ちが生まれた。そんなことはこいつの知ったことではない…

 ナラバ黙ラセレバイイ。殺セ。奪エ。壊セ。犯セ。

「……くっ…黙れ…」
「先輩っ!?」
「黙れ! 消えろ!」

 びくん、と竦む気配。そして、走り去る足音。それが消え去るまで、彼の中の闇は
騒ぎ続けた。
11893@人様の作品に寄生し隊sage 色々くっつけるの好きー :2004/04/23(金) 20:13 ID:.dGRtI8Y
 その少し前の、首都プロンテラ。時間も時間で人通りの少ない北門前に、奇妙な会話を
する三人の影があった…

「バフォメット、だと?」
 白馬の女騎士は、一挙動で下馬すると、慣れた様子で連れのアコライトに手綱を投げる。
「詳しく聞こうか」
「…くくく。そう言って下さると思いました」
 問いかけた先には、一人の魔術師がいた。怜悧な声が、目深に被ったフードの奥の
知性を感じさせる。だが、声はその印象にはそぐわないほど若い。

「魔族の者、其は全て写し身なり…。現界にて何匹のバフォメットを討ち取ろうとも、
 本体を叩かねばいくらでも彼らは再生します」
「ああ、そうだな」
(な、何で知ってるんですか…)
 古文書と実戦の末にたどりついた、魔を研究する者達にのみ知られる秘伝をあっさりと
相槌一つで返された魔術師は、一瞬だけたじろいだ、ように見えた

「…ですが。逆に言えば、魔王本体が降臨している時を叩けば…」
「1000年前の大戦の後の一時期のように、しばらくはこちら側に現われることも
 出来なくなるだろう、と。そう言いたい訳だな」
「…くくく。その通りです。そして…」
「お前は魔王がこちらにいる時と場所を察知できるか…あるいは、その状況を作れる
 ということか。そうでなければこのような話の持ってき方はするまい」
 ただの騎士にしては、察しがいい。いや、良すぎる。フードの内側にじとっと汗が
にじむのを魔術師は自覚した。利用するという考えは捨てたほうがいいかもしれぬ、と。

「本体ともなれば、強い。生半可な実力では勝てません。失礼ながら、国の騎士団で
 あっても難しい」
「それで真の魔王殺しの英雄に、私を選んだ、というわけか。…面白い」
「…くくくっ。そうですか。さすがですね…面白い、とは」
 魔術師の声に、隠し切れぬ安堵の響きが篭った。それを本当に面白そうに眺めながら、
女騎士は考えるようなそぶりを見せた。
「そうなると。仲間の人選は私に任せてもらえるのだろうな?」
「…いえ、こちらで首都近郊の戦闘力の高い冒険者は手の者で幾人か確認済みです。
 お手は煩わせずとも…」
 言ったとたん。女騎士の周囲に黒い瘴気が見えたような気がして、魔術師は慌てて杖を
握り締めた。…が、そこにいるのは純白の鎧に身を包んだ騎士。その、後ろに何時の間に
厩から戻ったのか、さっきのアコライトが寄り添っている。
 …実は、その手がお尻の上辺りをつっついていた、のは魔術師の知ることではなく。
「……冒険者には、冒険者の戦い方があります。少人数での戦いは、統制よりも
 お互いの意思が通じ合っているのが重要なんですよ。大丈夫、任せてください」
「…そうですか。ではお任せします…。夜に、また」


「……あの、こそこそ嗅ぎまわっていた連中、あいつの手のものだったのか」
 心底憤った様子の騎士に、アコライトが苦笑を返す。
「別にいいじゃないですか。肝心なところは見られていませんし」
「…か、肝心なところとはなんだ!」
「あれ? もちろん、この間のフェンダーク退治のときとか…」
「………」
「もしかして、キスシーンとかだとおも…」
「や、やめ! やめろ! 大きな声で言うな! 私より弱いくせにからかうと怒るぞ」
「貴女のほうが声が大きいですよ?」
     ごすっ
 その日のプロンテラ北方は夜半、血の雨が降るのだが…、ところによっては平和な
ようだった。


「くくく…さすがに送り込んだ諜者を全て始末した騎士殿。一筋縄ではいきませんね」
 暗い、どこともしれぬ闇の中で、一人実験機材に向かって語りかける影。
「ゲフェンの事故…、増殖材輸送のミス。フェーナさんはそれに乗じてゲフェン内の
 主の敵を一掃すべきだったのに…失敗した。…何故だとおもいます?」
 当然、無機物であるフラスコも、ビーカーも返事など返すはずは無い。寂しい奴だ。
「…くくくっ。冒険者の戦力を甘く見ていたからです。確かに、防衛線をあれから立て
 直した連携、粘り、さすがです。当初は一次職ばかりだったというのに。感嘆に
 値しますよ」
 いや、だからあんた、誰に語ってるんだよ。
「でも…彼らの力が侮れぬなら、それこそ利用すればいい。あの騎士もそう…。フェーナ
 さん、今回は私が金星を頂きますよ…」
 ていうか、君にゃー無理。 あ き ら め な さ い
「(小声)でも、何か大事なことを見落としてる気がするのは…いや、気のせいだ。
 私にぬかりなどあるはずがないじゃありませんか。くくっ…くくくくくっ…」
11993@夜勤でGO!sage ではまたー :2004/04/23(金) 20:27 ID:.dGRtI8Y
T⊂(。Д。⊂⌒`つ
 最後の118はおまけ…というか、なんか色々脳内がささやくんですもの…。
>>104様 くくくっ! 病気ッ! でもそれがイイッ! 今回はシメオンさんへのゆがんだ
  愛情を発露してみました。いぢめたくありませんか、彼。
>>106様 クルセの人! Dop風クルセの人? 人?
  当たってても、それ以上言いません。覚えてるよー<言ってるし!
  過去ログは、保存庫へGO! ですよ!
>>116様 勝手に使いました。ごめんなさい。まとめ、とってもほっしーー! です
  お願いしますー。うちのはママプリ&バフォ様が日々いちゃカップルVerでつ。
  兄貴村で夜のお勤めはしてるですけど。比較的自由に会ってるといいなぁ…と夢想
    ダメだったら脳内でさっく  [物書きの仁義]<いい加減その言い訳ヤメロ、見苦しい
>>花のHB様 ごろごろごろごろ…。オーラアサシン様。相変わらず寂しいのね…。
  私はあなたの作品で綺麗な別れもいいな、と思いました。また文章を書けるなんて
  思ってなかったけど…。楽しみにしてるですよ。とっても!
120接近に失敗しました接近に失敗しました :接近に失敗しました
接近に失敗しました
121名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/24(土) 01:53 ID:3PYlobrU
(*゚Д゚)<このスレの夢のコラボがががが(モチツケ

誰かまとめサイト作ってくれないものかのぅ
122名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/24(土) 05:30 ID:7Qt6CmGA
『終局の朝へ 2/3』


これで何人目だったか。
アルバートはカタールの刃で敵の胴を切り裂き、渾身の力で蹴り飛ばした。もんどりうって動かなくなるのを確認し、背後に回ってきた敵のアサシンを殴り飛ばす。
さながら戦神の如く、彼は敵を屠り続けた。ゲフェンタワー前に群がる敵は徐々に数を増していく。
共闘するアリスという少女も、また彼自身も疲弊していた。感覚が鈍り、隙を突かれては新たな傷が増える。
泥沼。だが、それも覚悟の上。
傷付いた身体に鞭打ち、アルバートはアリスの脇に回ったローグに向けてグリムトゥースを放つ。
「ありがとうございます!」
棘に足を取られたローグをデッキブラシで打ちのめし、アリスは頭を下げた。長く艶がかった髪が垂れる。
・・・緊張感というものが欠如しているらしい。
「気をつけろ!」
姿勢を低く、アルバートは敵を振り返る。<紅>の主要構成職であるローグが二人に、ナックルで拳を固めた僧兵が一人。
(三人・・・いけるか・・・!?)
鋭利な短剣をぎらつかせて飛び掛る二人のローグを避け、背に回り込んでカタールを振るう。血飛沫を上げて転倒するローグ。
片割れを失って激昂するもう一人の悪漢の顔に回し蹴りと毒瓶を叩き込み、怒号と共に急襲する僧兵に素早い二連の斬撃を打ち込む。
時間にして数秒。三人の敵はほぼ同時に地に伏した。
「なかなかやるね、<黒のアルバート>。もっと早く終わるかと思ってたよ」
やけに楽しげな声が上がった。取り巻きの兵の向こう、タワー内周の段差の上から見下ろす青年が嬉しそうに笑う。
蒼い髪に端正な顔立ち。夜の闇に溶けるような漆黒のメントルを纏い、彼は立っていた。
肩で息をしながら、アルバートは青年を見上げた。
不思議と周囲を囲う敵集団は動きを止め、攻撃する様子がない。むしろ青年に付き従っているようにさえ見える。
「指揮してるのはお前か・・・!」
「だったら・・・どうするのかな?」
「知れた事を・・・!」
カタールに付いた血を振るい落とし、アルバートは地を蹴った。この青年を倒せば全てが終わる。何故かそんな気がする。
直感というよりは、本能がそう告げていた。
「!・・・アサシン様、ダメです!」
制止するアリスの声を無視し、温存していた全ての体力を解放した<黒のアルバート>は青年目掛けて跳躍した。
意外に線の細い青年の前に着地する。そこから切り上げるようにカタールを振り上げた。
避けれるタイミングではない。アルバートは確信する。
取った。
「やれやれ・・・」
重い金属音。何かに弾かれたかのような手ごたえと共に、カタールが止まる。
青年が頭を振った。
「ちょっとは楽しませてくれないかな」
いつの間にか出現した『盾』が、青年の手の中にあった。何もない虚空から生み出されたとしか思えないほど、取り出す動作は確認できなかった。
カタールを引き、バックステップで距離を取るアルバート。
手を出さない敵兵とアリスの衆人監視の下、彼らは向き合う。
二人の対峙はさながら一騎討ちの様相を呈していた。
「さぁ、オリジナル・ミストルティンを渡してもらうよ、<黒のアルバート>」
「ミストルティン・・・?」
伝承の中でしばしば語られる魔剣の名。光の神を殺したと言われるヤドリギの枝が変化したとも言われるが、定かではない。
むしろ伝承の産物でしかない物だ。時折耳にするその名を冠した剣も、模倣品だと聞く。
脇目でちらり、と腰に下げておいたティータの剣を見た。細身で異様な造形の剣。これがそのミストルティンだとでも言うのか。
「それがないと困るんだよ」
「よほど重要な物らしいな・・・なら取引しようじゃないか」
「うん?」
「この剣がほしいならくれてやる。但し、今すぐ兵を引け。二度とティータに関わるな」
アルバートの目的はあくまでティータの安全だ。遠くでアリスが何やら抗議の声を上げたが、彼は無視した。
「ティータ、ね」
青年は声を殺して笑った。
「ははっ・・・貴方は彼女が普通の人間だとでも思ってるのかな?」
「どういう事だ」
「彼女も必要だってこと、かな」
青年が腰の剣を抜く。どこかミストルティンと似たデザインの剣を。
「取引の余地はないんだよ!見せてほしいね!ゲフェンの蓋と呼ばれた貴方の真の実力を!」
「・・・っ!」
空気が重みを増す。全身に枷をかけられたかのような重圧が、アルバートを襲った。
ベルガモットのような歴戦の兵とは違う、寒気すら感じる禍々しいプレッシャー。瘴気にも似た死の匂い。
『この男はまともじゃない』。
勝てるのか。
今のままで。
「やるしか・・・ないのか・・・」
かつて自分の部下を殺した日から、もう誰も殺める気などなかった。殺す事を放棄したこの暗殺者は、本来の実力の半分で今までやり過ごしていた。
<紅のベルガモット>と相対した時でさえ、全力ではなかったのだ。彼の目的は殺す事ではない。
勝つのではなく、負けなければいい戦いだったのだから。
不利な状況は躊躇わずに逃げるという姿勢もその為だ。
しかし、今度は違う。
倒さなくては前に進めない。逃げてもこの青年が居る限り、何も変わらない。
あの小さな錬金術師を守るため・・・変な口調で和ませてくれる、あの笑顔を守るために。
だから、
「お前は・・・殺す」
だらり、と両手にカタールを構えたアルバートがその場の全員の視界から消えた。たった一人の例外、対峙していた青年が反射的に盾で前面を防御する。
その盾の表面に無数の傷が走った。金属が断裂する耳障りな音。一瞬で距離を詰めていたアルバートのカタールが次々と斬撃を繰り出す。
「しぃっ!」
暗殺者の攻勢を盾で押し返し、青年は異形の剣を振るった。軌跡が十字をを描く。
クルセイダーのスキル、ホーリークロスだ。
不意を突いたかのような一撃だったが、光の十字が刻まれるより早く、アルバートは一歩退いていた。ステップを踏むかの如く軽やかに避け、そこから全体重を
乗せた蹴りを見舞う。盾でそれを防いだ青年は盾ごと後方に押し飛ばされた。
速い。
攻防を目の当たりにしたアリスはこの暗殺者の実力に驚いていた。彼女の知る限りでは、これに比類する速さはドッペルゲンガーか屍人形となった少女、カタリナ
だけだ。単純な速さだけ見れば、それさえも凌駕しているかもしれない。
人間という器の中で極められる最速の動きかもしれなかった。
後退した青年が盾を掴み、投げた。苦し紛れの稚拙な攻撃を、アルバートは僅かに横に移動しただけで避け切る。
ここまで来ると実力差がどうというレベルではない。
「無駄だ」
底冷えのする声で言った。
「・・・さすがに、ベルガモットさんが育てた最強のアサシンは伊達じゃないみたいだね」
青年が言う。だが、人にあらざる人形・・・アリスには分かっていた。人間である以上、無限にその速さが維持できるわけではない。アルバートほどの次元になると
特に身体へかかる負担が大きい。かつてドッペルゲンガーがアルバートを下したのは、その種族の限界の差なのだ。
「アサシン様、早くとどめを!」
「・・・分かってる」
カタールの刃が閃く。迷いは無い。
「ふふ・・・やっぱり、君の力を借りる事にするよ・・・レーヴァティン」
ドクン。
瞬間、青年の剣が脈動した。
123名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/24(土) 05:32 ID:7Qt6CmGA
『終局の朝へ  3/3』


ゲフェン東門に殺到した<紅>と僧兵の混成部隊を切り分け、髭騎士とセシル、そしてティータは駆け抜ける。
「やれやれ・・・豪勢な挟み撃ちだが、ここを抜ければゲフェンを出れる。二人とも頑張れ」
「私より先にこの子を連れ出してください!敵の狙いはこの子です!」
「分かってるつもりだがそうもいかんよ。君だって危険だ」
叫ぶセシルに、敵を切り伏せながら髭騎士は言う。当のティータは路地から湧き出てくる敵に向かってイクラ型の爆弾を必死に放っていた。
だが数が数なので足止めにもならない。
セシルの方は武器さえ持っていない。丸腰の彼女が出来ることといえば、ティータを安全に誘導することくらいなものだ。
無力が、歯がゆかった。
「お姉ちゃん・・・」
不意に、ティータの手がセシルの腕を握った。
不安なのだろうか。思えば、ティータがまともに話しかけてきたのは初めてだ。
「大丈夫だから、ね?」
安心させようとセシルは努めて明るい声色で応えた。しかし、ティータは首を振る。
「違うねよ・・・嫌なものが・・・アルバーdが危ない・・・」
「え?」
雨が降った。それから、タワーの方で大きな爆発音と閃光が満ちる。
弾かれたようにセシルの手を振り払い、ティータは走った。元来た道を引き返していく小さな背中を、セシルは止められなかった。
雨のせいか、それとも、立ち塞がった栗毛の少年のせいか。
バニ。
「残酷だ、巡り合わせって・・・貴女とは・・・戦いたくなかったのに・・・」
彼は虚ろな目をセシルへ向ける。いつも着ていた僧衣ではなく、黒い神父服を纏っていた。
何故。何故だ。
彼が生きていた事も、こうして目の前に立っている事も、理不尽すぎる気がした。
「セシル君!逃げるんだ!」
見れば、髭騎士は東門の正面で例のアサシンの少女と刃を交えていた。押されている。
彼は、敵なのか?
疑問が首をもたげた時、セシルは雨の溜まった地面に叩きつけられていた。
スタナーを握り締めた栗毛の少年の一撃によって。
「く・・・はっ」
「セシルさん・・・ごめん」
バニが倒れて喘ぐセシルへ向けてスタナーを向けた。逆手に持ち替え、縦にそれを振り下ろす。
鈍い音を立てて、濡れた石畳を削るスタナー。
一瞬、死を覚悟していたセシルは何が起きたのか分からなかった。気付けば、逆にバニが弾き飛ばされていた。
セシルを抱えた剣士が振るった剣が、雨の雫を受けて黒く輝く。
「謝るくらいならば手にかけなければいいものを。つくづく・・・人間とは愚かだな」
セシルを抱えたまま、その金髪の剣士・・・ドッペルゲンガーは言った。
夜が明ける。白み始めた空から落ちる雫が勢いを弱めていく。
呆気に取られたままのセシルを脇に降ろす彼を、バニは憎悪のこもった目で睨みつけた。
「やっぱり来たな、ドッペルゲンガー」
「私怨か?カタリナの兄だそうだが、恨みを買った覚えはない」
「ふざけるな!妹を殺したのはお前なんだろう!?」
「・・・勘違いも甚だしい・・・愚考も大概にしろ」
断じる彼をバニは鼻で笑った。
「まぁ・・・いいさ。今はそれよりやらなきゃいけない事がある。お前の相手はその後だ」
髭騎士と交戦していたカタリナが飛び下がる。バニは彼女を手元に引き寄せ、ポータルを詠唱した。
「あの錬金術師の娘・・・アウルさんの方へ行ってしまったみたいだからね・・・目的は達した。僕は退かせて貰うよ」
「貴様!」
ドッペルゲンガーが闇から召還した槍をキリエエレイソンで弾き飛ばし、バニとカタリナはポータルの光の中へ消えた。
(バニ君・・・貴方は・・・)
最後、バニが一瞬だけ自分を見たような気がした。物憂げな目。顔だけが笑っていた、道化の頃と変わらない悲しげな瞳で。
遅れてそこかしこから騎士団の人間と思われる騎士達が飛び出し、東門を固めていた敵兵を次々と捕縛していった。
「今更・・・ですか・・・」
本当に、遅過ぎる。
カタリナにやられたと思われる傷を押さえて歩み寄ってきた髭騎士に、セシルはそう呟いた。
「・・・すまない」
髭騎士は俯いてそう答えた。実際、敵の主要戦力が撤退しなければもっと時間がかかっていた。或いは鎮圧自体が難しかったかもしれない。
そして、敵の撤退が意味するものは、一つだ。
「隊長、この剣士はまさか・・・!?」
数人の騎士がドッペルゲンガーを囲んで口々にざわめいた。髭騎士は濡れた髪をボリボリと掻き、
「あー、いい。手を出すな。それよりさっさと隊を再編成して追撃に行け。敵の本拠はブリトニアだ」
「りょ、了解しました!」
「街の中の掃討も忘れるなよ」
わらわらと散っていく騎士達を後目に、ドッペルゲンガーが眉をしかめた。
「・・・良いのか?」
「お前さんが暴れだしたら俺達だけじゃ止められんよ。一緒に来てくれると助かる・・・セシル君も来てくれ」
無言で頷くセシルとドッペルゲンガー。
髭騎士の部下がタワー前の惨状を報告しに来たのはその直後だった。

ぐしゃぐしゃに破壊された家屋と瓦礫の山。ちらほらと目に付く炎。大きく削れた地面は、舗装の下の土が露出してしまっている。
ゲフェンタワーの前の広場は原型を留めて居なかった。建物も、道も、全てだ。
「アウル=ソン=メイクロンの仕業だ・・・」
髭騎士がポツリと漏らす。
「そやつが首謀者か?」
惨状を睥睨してから、足元に転がったローグの死体に気付いたドッペルゲンガーは顔を歪めた。
「自分の仲間までも・・・狂っているらしい」
朝焼けに照らされる中、セシルはくまなく周囲を見回した。
ティータは、グレイとアーシャは、アルバートは―――何処に居るのか。
敵が完全に去ったのを確認してから、ドッペルゲンガーはツヴァイハンダーを鞘に収めた。セシルの様子を見て溜息を吐く。
アリスの姿も何処にも無かった。焼け跡に落ちていた彼女のデッキブラシはへし折れ、半ば炭化していた。
「・・・死んだか」
言ってから気付く。無神経で残酷な言葉。
不意にドッペルゲンガーは衝撃に襲われた。セシルの掌が、彼の頬を叩いていた。
「・・・馬鹿馬鹿しい・・・」
目尻に涙を溜めて睨む彼女をしばし呆然と見つめてから、ドッペルゲンガーは踵を返した。
「剣士、お前が生き残これたのは運が良かっただけだ。勘違いして復讐などと考えない事だな」
言い放ってから彼は歩き出した。西・・・ブリトニアへ。
「お〜い・・・お嬢ちゃ〜ん・・・」
残されたセシルに遠くから声がかかった。
瓦礫の向こうから手を振るボロボロのブラックスミスと肩に鷹を乗せた赤毛のハンター。
「グレイさん!アーシャさん!」
思わず駆け寄った。そんな様子を振り返り、ドッペルゲンガーはまた溜息を吐く。
「ふ・・・しぶといのも居たか」
陽光がまばらになった雨雲の隙間から差し込む。ドッペルゲンガー・・・ジョンは目を細め、炭化したデッキブラシを拾い上げる。
デッキブラシは煤を散らして崩れ、地面に落ちて、砕けた―――
死んだのか。
壊れた、という表現が正しいのか。
(アリス・・・)
奥歯を噛み締める。この感情は、ブリトニアに血の雨を降らせても収まりそうになかった。
124名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/24(土) 05:37 ID:7Qt6CmGA
駄文投下します。ゲフェン戦終了です。
うちの敵役が出張ってるらしく、光栄の至りです。
例の暗い彼は確かにある意味病気ですね。ガンガンいっちゃってください。

それではまたの機会に。
12593@夜勤明けでGO!sage 浮かれてました。 :2004/04/24(土) 09:55 ID:hA00MtN.
某板先生スレ住人なので、とりあえずコテハン持ち系の間はレスを入れちゃい隊。

121様  私の夢を共有してくれるのか? ふふふふふ…(悪人笑
     とりあえず、私のは二次創作の更にファン創作っぽ。
     前スレ79様とか、577様とか…見ててくれるかな…。
('A`)様 えーと…その、うーんと…。ありがーd
    (言ってみたかっただけです! 嫌! 顔はぶたないで!

 で、おはようございます。あせって投下するもんじゃないですね。読み返して欝。

117のメール欄
 二年前=作品内の、です。自分が二年前になんかやってたぜ、探してね
 ではありません。
119のHB様宛
 書ける、じゃなくって読める、です。なんか、読み返すと物凄いえらそうに
 見えるんですが、意図は違うんです(TT
118の失策
 女騎士の人が結婚前、バフォ×ママ関係は知らなかったはずだよね…。
 頑張って軌道修正せにゃあかん…。 orz

というわけで、少し眠って餅ついてきます。ぺったんぺったん。
126名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/24(土) 13:28 ID:RYDw0LIA
このスレにはやはり・・・神々がイタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
以下レビュー風に

文神達が紡ぐ壮大なリレー小説はまさに圧巻
ペースは落ちているが、再び動き出したようだ
どこか懐かしさを感じさせる花のHB氏は丁寧な文体でしみじみと読ませ、
比較的新参の('A`)氏はスピード感溢れる迫力の戦闘で魅了してくれる
この両氏はともに未熟さは残るが、ある程度完成された書き手だろう
成長を遂げた両氏が真に大成する日が待ち遠しい
そして最近は新進気鋭の書き手が増え、活気も増している
若さとパワー溢れる彼らの独特な作風には楽しませてもらえそうだ
私の知る限りでもこれほど有望な小説スレッドは数えるほどしかないだろう
このスレの行く末を一読者として期待してやまない
127名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/24(土) 14:27 ID:9WsrJCM.
 あまりの体調の悪さに、私は狩りに行く気も出ず、宿屋でごろごろとしていた。
「あー、暇だ」
 私の呟きに、止まり木で羽を休めているファルコンはまたか、という風な目つきでちらりとこちら
を見た。そしてまるで溜息のように小さく鳴く。うぁ、ファルコンにさえ莫迦にされた気分。
 昼間の宿屋というのもは意外と静かだ。
 宿泊者のほとんどは外に出払っている。
 時折、こつこつ、という足音が遠くから微かに聞こえた。
 熱っぽいだるい体で寝返りをうっていると。
 しばらくして私の耳にとある音が入ってきた。
 その音は窓のほうから、つまり宿屋の裏手側から聞こえた。
 音、というよりは歌だ。たぶん。
「何の歌だろ。これ?」
 なんだか、どこかで聴いたことがあるような気がする。
 旋律ではなく、歌詞で私のその歌の正体に気づいた。

 Gloria in excelsis Deo.
 Et in terra
 pax hominibus bona voluntatis.

「もしかしてグロリア?」
 思わず驚きの声を上げてしまった。
 確かに歌詞はグロリアだ。ハンターという職業柄、馴染みのある聖歌だ。
 だが、その旋律は……めちゃめちゃ音がずれている。
 音は大きくあがったり、さがったり、自分でも良くグロリアと気づけたと少し感心してしまうぐら
い。
 あ、しかも時々声が裏返るし。
 好奇心に勝てずに、私はだるい体を起こすと窓辺に近づいて窓を開く。そして階下を見下ろした―
―ちなみに私がとまっている部屋は二階だ。
 濃い茶色の髪の少年、服装からアコライトとわかる、がそこにいた。
 歌っているのは彼だ。
 周りには誰もいない。
 おぉ、今度は一オクターブ近く音が外れた。ここまでくるとある意味才能なのかもしれない、など
と思ってみる。
 少年はまだこちらに気づいていない。一生懸命に歌っている。
「こんにちはー」
 とりあえず挨拶。この言葉に私の存在にやっと気づいたようで、彼は目を丸くしてこちらを見上げ
た。
「えっと、こんにちは」
 控えめながら挨拶を返してきてくれた。
 驚いてはいるが、怯えている様子はない。肝っ玉太そうだから、単刀直入に言っても大丈夫だろう。
 私はにっこりと笑ってみせた。
「とりあえず、その下手くそなグロリアは公害なうえに恥さらしだからやめなさい」
 とたん、アコライトの少年はかっと顔を赤くした。
「そ、そんなの自分でも十分承知ですよ! でも練習しなくちゃ結局上達しないから。
 だから、人の居ないこの時間帯、この場所で歌っているんです」
 なるほど、彼も自分で音痴だとわかっているのか。そして、彼なりに周囲に迷惑をかけないように
考えていたらしい。
「あなたを不快にしたのなら謝ります。けれどこれ以上文句を言われる筋合いもありません」
 よそに行って練習しますから、というその声は高く、少し不安定だ。
 少年の言うことには、彼の親友が昨日めでたくアサシンになったのだという。そして、カタール使
いを目指す彼のために、グロリアを早く歌いたくてしょうがないらしい。
「んなこと言ったって、まだあなたアコライトじゃない」
 パーティーメンバーの能力を高める聖歌はプリーストにしか歌えない。
「別に練習しちゃいけないって決まりはありません」
 ふむ、確かに。
 私は少年に気づかれないように――とはいっても、彼からはこちらの手元は元々見えないが――ペ
ンと紙を手にとった。
「それにしても、あなたの親友さんは愛されているわねぇ。あなたにこんなに一生懸命にグロリアの
練習をしてもらってて」
「いきなり莫迦なことを言わないでください! う、歌の練習は……ただ……」
 顔をすっかり真っ赤にしてしゃにむに否定するアコライトの姿に私は思わず吹き出してしまう。
「はいはいはい。ま、親友さんのために練習するその姿勢は好感が持てるけど、あんまり無茶な練習
はやめておきなさい。あなた、まだ声変わり、終わってないんでしょう?」
 書き付けを畳みながら私は言葉を続ける。
「声変わりの頃に喉を使いすぎると悪い、って聞いたことがあるわ」
 そして私は畳んだ書き付けを、アコライトの額めがけて投げ落とした。
 うん、さすが命中率が高いだけある。クリーンヒット。
 アコライトが抗議を声を上げる前に私はウィンクを一つ。
「かっこいい大人の声になってからでも遅くはないわよ♪」
 それだけ言い放つと、ばたんと窓を閉める。
 アコライトが何か叫んでいるような気もするが、私は耳をかさない。
「あー、おもしろかった。たまには狩場に行かないのもいいかもねぇ」
 満足げに呟く私をファルコンは呆れた目で見、そしてあくびをした。……相変わらず可愛くない奴。
128名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/24(土) 14:29 ID:9WsrJCM.
アコライト視点ver.

 昼間の宿屋には人がいない。そして宿屋の裏手にはさらに人気がない。
 だから、僕はこの時間帯が暇であれば、宿屋の裏手でグロリアの練習をすることを習慣としていた。
グロリア、パーティーメンバーの運を向上させるという、この聖歌はプリーストにしか使えない。が、
歌を練習すること自体はアコライトの自分にもできた。大抵の人はプリーストになってからこの聖歌
の練習を始める。
 が、しかし、僕は自分でいうのもなんだが、ど音痴だ。
 人より早めに練習を開始したほうが良いと判断して、今に至る。
 そういうわけで今日も、いつものように歌っていた。
 連日の練習で歌うのは上手くなったようなあまり変わっていないような……。
 例えどんなに練習しても、それなりに聴けるかな?、程度にしか歌えないことはわかっている。本
当はできれば人前で歌いたくはない。
 でも、僕の親友は――僕より一足先にアサシンになった――カタール使いになりたいと言っていた
から。返しても返しきれないほど、お世話になっているから、せめてグロリアぐらいは覚えたいのだ。
 そういうわけで今日も、いつものように歌っていた。
 すると、いきなり頭上から声が聞こえた。
 慌てて見上げると、青紫色の瞳の、ハンターの女性が、こちらを見下ろしていた。
 彼女はにっこりと笑う。
「とりあえず、その下手くそなグロリアは公害なうえに恥さらしだからやめなさい」
 彼女の言葉は暴言だが、的を射ている。
「そ、そんなの自分でも十分承知ですよ! でも練習しなくちゃ結局上達しないから。
 だから、人の居ないこの時間帯、この場所で歌っているんです」
 それから、アサシンの親友のことなどを話した。そして、親友に関してからかわれた。……言わな
きゃ良かった。
 声変わりが終わってないことを指摘され――ちなみに、親友はすでに終わっている――てっきり子
ども扱いされるのかと思ったら、喉のことを心配された。
 案外、このハンターの女性は良いのかもしれない。
 額に何かぶつけられ、僕が抗議の声をかける前に、少しおちゃらけた彼女の声が振ってくる。
「かっこいい大人の声になってからでも遅くはないわよ♪」
 ばたんと窓が閉まり、窓辺を離れたのか、姿が見えなくなる。
 地面に落ちた畳まれた紙を僕は拾い上げる。
 それを開いてみると、びっしりと細かい字が書き付けられていた。
『息継ぎの前に音が高くなりがち』とか
『Et in terraの前半部分は抑え気味に』とか
 いつの間に書いていたのだろう。僕の歌に対して気づいたことやアドバイス、注意書きなどが丁寧
に書かれていた。
「あの! これは!」
 大声で叫んでも、窓は再び開かなかった。反応は全くなし。……出かけてしまったのかもしれない。
 僕は再び手の中の書き付けに目を落とした。
 最後の一文は、
『大丈夫。いつかきっと綺麗なグロリアを歌えるようになる。努力は報われるよ』


 声変わりが終わって、プリーストになって。
 そして正式なグロリアを歌えるようになったら。
 さっきの人を探して、そしてグロリアを聴いてもらおう。
129名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/24(土) 14:40 ID:9WsrJCM.
 このスレには初めての投稿になります。
 唐突に降ってわいた萌えと衝動に任せた書いたものですが、
しかもなんか終わり方が唐突ですが、少しでも楽しんで頂ければ嬉しいです。
13093@寝ずに作業を頑張ってみたsage :2004/04/24(土) 14:43 ID:hA00MtN.
http://cgi.f38.aaacafe.ne.jp/~charlot/pukiwiki/pukiwiki.php
>>121
 こんなコンセプトはどうかしらん。今度こそもう寝ますけどー(ばたんきゅう
>>127
  一期一会っぽい親切が素敵。臨時PTとかで、アコライトの時に色々アドバイス
 貰ったりお世話になった人に、移住前にもいちど会えたらいいなっ
 ……と思いました。
131名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/24(土) 16:57 ID:EMhQU8fE
>>130
もつかれ。
PukiWikiは知らないのだけれど、フォントサイズ固定はできればやめて欲しかったり。
132名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/25(日) 00:49 ID:RT4HMD62
『師弟の決着 1/2』


青年の異形の剣、レーヴァティンが覚醒した。鳴動する刀身が魔力を帯び、紅く輝く。
何かが不味い。酷く、不味い。
追い詰めたはずの相手が放つ絶対的な力が、アルバートを気圧する。人にあらざる気配と濃厚な瘴気。
のたうつ蛇の様に、魔剣から放たれた紫の炎が街を焼いた。周囲を囲っていたローグやモンク達もその炎に巻かれていく。
アリスの悲鳴も聞こえた。しかし、アルバートが彼女を確認するよりも早く、炎の舌が彼を襲う。
――避け切れない。
あっけなさ過ぎる自分の死を覚悟する。
刹那、彼はどこからか現れ、自分を庇うティータの姿を見た気がした。
それも或いは間際の幻覚か走馬灯だったのかもしれない。どのみち、彼の意識はここで終わった。


「・・・疲れたな・・・」
黒の暗殺者は一言だけ呟いた。
ただ広いだけの平原。穏やかな風に揺れる草花が、転がった彼を覗いている。
懐かしい場所だと想う。
プロンテラ南門を出てすぐの平原だ。
子供の頃によく遊んだ場所。
「またこんなとこに寝っ転がってやがったな、アルバート」
顔を上げる。するとそこには煙草を咥えたブラックスミスの少年が立っていた。
「召集かかってんだろ?任務投げて昼寝する隊長がどこにいるってんだよ」
「・・・別に俺が行かなくてもいい仕事だ」
「おーおー、いいご身分で」
「・・・ふん」
「あ、そういや<白>の隊長は出たみたいだぜ」
「・・・何っ!?マリーベルがっ!?」
アルバートが跳ね起きた。しかし、グレイは目を細めてニンマリと笑って言う。
「嘘だ」
「てめっ」
「お前、正直だよな。やっぱ」
怒り狂ったアルバートがカタールに手をかける。そこで、彼は飛んできたアークワンドに当たってつんのめった。
なかなかに軽快な音を立てて転がるアルバート。
「なにやってるの、アルバート。グレイも、あんまりアルバートで遊んだら駄目でしょ?」
アークワンドを投げたアコライトがそ知らぬふりで言った。
まるでお姉さんぶった口調だが実際は二人より一回り年下だ。それが逆に愛くるしい。
驚くほど的確に急所を突かれたアルバートはしばらく悶えてから、ひきつった顔をアコライトへ向ける。
「あんまり乱暴だと・・・嫁に行けな・・・おべぇぁ」
「何てこと言うのっ!」
今度は蹴り上げられた。
「はっははははっ」
指をさして八倒するアルバートを笑うグレイ。
やり過ぎたね、と苦笑しながらアルバートに手を差し出すマリーベル。
アルバートもつられて微かに笑った。差し出された手を握ろうとする。
瞬間、景色が変わった。

凍り付いた暗闇の奥。魔に発展した街に打たれた巨大な杭。封じるための塔。
その入り口をくぐってすぐの回廊で、大勢のアサシンが果てていた。殆どが原型を残していない死体ばかりだった。
血に染まった双刃を携え、倒れた自分の部下を見下ろすアルバート。かつて副隊長として自分をサポートしてくれた男は忌々しげに、か細く吐き捨てた。
「・・・これで・・・終わりだな・・・隊長さん・・・」
「どうして・・・どうして俺を襲った!?あんたらが束になったって、俺に勝てるわけないだろ!?」
男は賢く強い暗殺者だった。しかし、それを上回るのが<黒のアルバート>たる所以だ。
アルバートからしてみれば、自殺も同然だ。理不尽だった。
男は言う。乾いた唇で。
「だからだよ・・・」
「!?」
「・・・強すぎたんだ、お前は・・・不自然なくらいになぁ・・・・・・機械のように人を殺していながらも、年相応の笑顔も見せやがる・・・そんなお前さんが怖かったんだ
・・・みんな・・・そう、お偉いさんとか特にな・・・」
「そんな・・・俺はっ!」
「安心しろ・・・お前さんはこれから先もずっとアサシンだ・・・殺すために生きて、死ぬ・・・誰も責めやしないさ・・・」
「違う!殺したくなんてなかった!戦いなんて嫌いだったんだ、俺は!」
男は大量の失血で既に見えなくなった目を叫ぶアルバートへ向けた。
「だったら・・・やめちまえ・・・」
「無理だ!俺には・・・!」
「やめようと思ってやめられるもんじゃないが・・・いつか・・・そう、いつか・・・お前さんなら・・・」
カチャリ、と小さな音が響いた。
男の手に握られていた小さな眼鏡が転がる。彼がよく身につけていたミニグラス。いつもアルバートはそれを欲しがっていた。
「俺達はアサシンだった・・・最期までな・・・後は頼むぞ、隊長・・・・・・」
男は目を瞑り、そのまま動かなくなった。
塔の門が、泣き崩れるアルバートの背後でゆっくり開かれた。見なくても分かる。マリーベルとベルガモットだ。
「アルバート!大丈夫!?」
「・・・ワイズマン・・・!?何故だ・・・!?」
ベルガモットの重い声が響いた。隊を管理する彼でさえ、この事態を知らなかったのだろう。アルバートを襲った相手が、長く彼に従ってきた男だとは思いもしな
かったのか、彼は呆然と黒の副隊長の死に顔を見ていた。
駆け寄り、悲痛に顔を歪めたアコライトは少年を抱きしめた。聡明なこの少女は、アルバートが負った『傷』の深さを瞬時に察したのだ。
「マリーベル・・・俺はどうしたらいいんだ・・・傷付けたくなんて・・・殺したくなんてなかったのに・・・・・・いつも・・・いつも!」
「もういいから・・・もう殺さなくていいから・・・貴方は優しい人だもの・・・」
悲しみに押しつぶされないように、必死に、アルバートはマリーベルにすがりついた。
自分は殺す為だけに作られた機械なんかじゃない。そう、自分に言い聞かせるように。
また、景色が変わった。
133名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/25(日) 00:50 ID:RT4HMD62
燃える夜のゲフェン。傷だらけで、もう起き上がる事すら出来ないアルバートはそれでも立とうと力を込めた。
『ほう・・・』
感嘆とも賞賛ともとれる声だった。ドッペルゲンガーは紅く染まった瞳を何処か別の場所へ向ける。
誰か来たのか?街に居た冒険者か?それとも・・・?
悪寒が加速する。認めたくない現実が迫りつつある。
『これは意外と言うべきか・・・』
アルバートはドッペルゲンガーが向けた視線の先に立つ、二人の少女を見た。マリーベルと、先日助けた剣士。
心臓が張り裂けんばかりに高鳴った。
どちらとも、この強大な魔族に太刀打ちできる力はない。どころか、剣士は初めて遭遇する魔の者の容貌に戸惑い、歩みを止めている。
駄目だ。止まったら駄目だ。何で来たんだ。
「・・・馬鹿!逃げろ!」
刹那、ドッペルゲンガーが移動した。その巨大で禍々しい剣が、剣士の少女に振り下ろされる。
そして、彼女を庇うように、それが当然のように・・・マリーベルが前に歩み出る。

刃が彼女を切り裂く音がした。

「――――ッ!!」
それは名前なのか、もう判別できない叫び、絶叫。彼はただひたすらに叫んだ。
アルバートの伸ばした右手は空を切る。何が起こったのか分からないまま、剣士の少女も黒の刃に倒れた。
満足げな笑みを浮かべて霧散するドッペルゲンガー。
焼ける街に残されたアルバートは、必死にマリーベルの元へ這った。分かっている。これは夢なのだと。
本当はあの日、情けない自分はここで意識を失ってしまった。
こんなことをしても、過去は変えられない。分かっている。これは、夢だ。


気付けばとても明るい場所に居た。例えるなら、空に浮かんだ小さな島・・・だろうか。
一面の青い空と白の雲。流れる風がアルバートの頬を撫で、白い髪を揺らした。
陳腐な言葉だったが、まるで天国のようだと思った。もっとも、やけに小さい天国だが。
「アルバート」
呼ばれて振り返る。
島の端に座る小さな白い後姿。手を膝の上で組む、礼儀正しい独特な座り方だ。
「・・・マリーベル?」
「またこんな所で油を売ってるのね?全然変わってないんだから・・・」
「あぁ・・・えっと・・・すまない」
夢だという自覚があっても、彼は律儀に照れながら頬を掻いた。そこで違和感に気付く。かけていた筈のミニグラスがなくなっていた。
「早く戻らないと大変な事になるよ、アルバート」
何故か振り返らないまま、マリーベルは言った。広がる大空を眺めているようにも見える。
「いや・・・俺は・・・」
負けた。全力、殺す気でかかっても、あのクルセイダーの青年に負けたのだ。思い返して、彼は苦々しく笑う。
「やっぱり駄目だったんだ。俺なんてちっぽけなもんだった。だからもう・・・」
「諦める?」
「・・・そっちに行かせてくれると助かる」
「逃げるんだ」
「・・・なんとでも」
アルバートの足がマリーベルの方へ向く。しかし、
「来ないで!」
唐突に投げつけられた言葉が、その足を止めた。
「・・・こっちに来たら、もう戻れなくなる」
「構わない」
「駄目だよ」
「何故」
アルバートは問いながらも、背後にある気配を感じていた。引き止めるかのように、必死に声のない声をかける誰かの気配を。
「もう分かってるんでしょう?」
「・・・ああ」
「だったら、どうすればいいのかも・・・分かるよね」
「・・・ああ」
振り返った。
そこには仲間達が居た。セシルやグレイ、いまいちよく分からない赤毛のハンターや、ドッペルゲンガーとベルガモットまで居た。
まだ見ぬ沢山の誰かも。
先頭には、耳当てを着けた小さなアルケミスト。
絶対に放り出す事の出来ない繋がりが、そこにはあった。
「マリーベルには敵わんなぁ・・・やっぱり」
苦笑する。いつのまにか傍に立っていたマリーベルが、小さな眼鏡を差し出した。
少し面食らってから、アルバートはそれを受け取り、
「ありがとな」
そう言った。それから歩き出した。もう振り返らなかった。
134名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/25(日) 00:51 ID:RT4HMD62
『師弟の決着 2/2』


血でべとつく服の感触と気だるい身体の感覚が激しい消耗を自覚させる。目覚めてからの僅かな時間で動ける事を確認したアルバートは身を起こした。
敷き詰められた古いタイルが目に付く。何処かの城なのかもしれない、と考えた矢先に見覚えのある独特なレリーフが見えた。
人ではない何かを象ったメダリオン。朽ちかけた塀にはめ込まれている。
「・・・グラストヘイム・・・」
丁度その廃墟と化した城の庭園部分に投げ出されていたらしい。手近に落ちていたミニグラスが先程の夢を思い起こさせたが、どうやら現実らしかった。
グラスを拾い、掛け直す。それから腰に下げた『ミストルティン』が無事なのを確認して息を吐いた。青年の剣がああいった尋常ならざる物だった以上、この
剣もまともな物ではないだろう。彼に奪取されなかっただけマシだった。
愛用のカタールは・・・無くなっていた。
「アサシン様、気が付かれたんですね!」
不意に素っ頓狂な声がかかる。見れば、垣根の向こうからメイドの衣装を着た少女が駆けて来ていた。
(・・・誰だ?)
「申し訳ありません、城内は人間の方を毛嫌いする方々ばかりで・・・」
彼女が目の前まで来て、ようやく気付いた。ドッペルゲンガーの従者だ。確かアリスとか言ったか。
「君が助けてくれたのか?」
「いえ、私はここへご案内して差し上げただけで・・・あちらの騎士の方が助けてくださいました」
少し距離を置いた場所のペコペコの傍らに老騎士が立っていた。
「ベルガモット・・・」
常時薄暗いであろう古城の空の下、胴に包帯を巻いた大柄な老人が一歩、歩み出た。
「アルバート」
「・・・?」
「我らの指導者、アウルはあの少女・・・ティータを手中にした」
「何!?」
「今や残す物はお前の腰にある剣のみだ」
ベルガモットの言葉で、意識をなくす直前に見たティータの姿が幻ではないのだと確信した。もう猶予はないらしい。
「そのアウルとかいう奴は何処に居る!?答えろ!」
「私を倒してみよ!そうすれば答えなくもない!」
傷付いた身体で、騎士はペコペコに騎乗した。傍らの地面に突き立てていた碧の宝槍を引き抜き、騎兵が疾駆する。
「また戦うのか!?いい加減にしろよ!あんただって気付いているはずだ!この魔剣とティータを使って何をしようが、絶対ロクな事じゃない!」
「最早語る舌は持たん!刃で語るがいい!」
「っ・・・この堅物がぁっ!」
武器がない。アルバートは目を白黒させるアリスを突き飛ばし、突進するベルガモットのペコペコを横っ飛びに避けた。その鼻面を碧の槍の切っ先がかすめる。
刹那、風が暴れた。荒れ狂う不可視の波がアルバートの身体に打ち付けられる。
「・・・これは・・・っ!?」
「ゼピュロスです!あの槍は強い風の属性を帯びて・・・きゃぁぁ!?」
暴風に跳ね飛ばされるアリス。アルバートは舌打ちし、体勢を立て直す。避けたのは良かったが、直撃すれば風の刃でミンチにされるだろう。
ベルガモットは本気だ。かつてないほどに、手の内を見せている。
自身も傷付いているのにも関わらず全力で挑んで来ている。決着をつけるつもりなのか。
魔剣の力を見せ付けられた後もあり、あまり使いたくはなかった『ミストルティン』の柄に手を置く。瞬間、嫌な感覚が手先から全身に走った。
「何だ・・・この感触・・・」
「・・・その剣は危険です!人間の扱う物ではありません!」
何度か風に転びながら、アリスが言う。
「最悪の場合、剣に身体を乗っ取られます!」
「抜けい、アルバート!臆したか!?貴様の覚悟はその程度か!?」
再び風が襲来する。
「何故戦う!何故命を賭ける!その意味さえ忘れたか!?貴様は!」
殆ど爆発と言っていい風が生まれた。ベルガモットが槍を回転させて持ち替え、独特の構えを取る。
騎兵の最強の技、ブランディッシュスピアーの構え。一気に終わらせる気なのか。
「そのような軟弱者が私の前に立ち塞がるなど百年早い!」
膨大な風を纏い、ベルガモットが駆ける。一直線にゼピュロスを突き出し、アルバートを仕留める為の一撃を繰り出す。
「誰も報われぬ!誰も守れぬ!ならば潔く死ぬがいい!」
本当にそうか?
槍騎士の圧倒的な攻勢を前にし、アルバートは自問する。
違う。違う筈だ。守るのも、戦うのも、選ぶのは自分だ。出来るか出来ないかは問題じゃない。
「例え死んでも守りたいものがあるから、戦うんだ!躊躇などしない!」
アルバートが魔剣を抜く。そうだ。それでいい。槍を振るい、ベルガモットは笑う。

師弟の刃が、交錯した。


分からない事がある。アリスは倒れた騎士にひざまずくアサシンを見ながらも、その意味を掴めないでいた。
どうしてこの二人は戦わなければならなかったのか。
騎士は、アサシンを助けた。アサシンもそれは知っていたはずだ。なのに何故、殺し合わなくてはならなかったのか。
分からない。
目に見えて命の尽きかけた騎士が槍を杖にして立ち上がった。騎士とはいえ、老人にしては異様な体力だ。
「魂を食われたか・・・これが魔剣・・・さすがに堪えるな・・・」
「無茶をするからだ・・・ベルガモット。試すなら他にやり方があっただろう・・・」
アルバートはミストルティンを鞘に戻した。半ば柄と癒着していた掌がゆっくりと剥がれる。
「どうしてアサシン様は魔剣を扱う事が出来るのですか・・・!?」
「・・・彼もまた作られた存在なのですよ、機械の人形さん」
朽ちかけた庭園の影から魔術師が姿を現した。憂いを帯びた切れ長の眼が、アリスを見つめる。
悔恨か畏怖か、感情は汲み取れなかった。ただ、このウィザードの男に会ったのは二度目だ。
「シメオン・・・でしたか?」
「覚えていただき恐縮です。もっとも、貴方としては私などと遭いたくはなかったでしょうがね」
シメオンが暗く笑った。明らかな不快の念を表すアリスに、ベルガモットが言う。
「・・・邪険にするでない。お主等をあそこから助け出せたのは奴の助力があっての事だ」
「え?」
意外そうな顔をするアリス。暗い魔術師は否定も肯定もせず、アルバートを見る。
「貴方はベルガモットさんに拾われ、育てられました。しかし孤児などではなかった・・・違いますか?」
「・・・どういう事だ」
視線が老騎士に集中した。
「いいだろう・・・場所を変えようではないか・・・少し、疲れたしな」
135名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/25(日) 00:52 ID:RT4HMD62
グラストヘイム古城、玉座の間。山羊の姿を借りた魔の化身を前にして、ベルガモットは口元を緩めた。
「変わらぬな・・・お前は」
『汝は老いた・・・かつて我と刃を交えた頃の汝とは比べ物にならぬほど、衰えているようだ』
周囲に渦巻く魔の気配を感じながら、アルバートが一歩前に出た。答えを、真実を問うかのように。
伝説級の魔族が目の前に居る。にも関わらず、アルバートは一向に怯んではいない。シメオンはやはりどこか歪んだ笑みを漏らした。
「くくっ・・・役者が揃ったようで・・・」
『食えぬ人間よ。汝は何を企んでおる・・・敢えて我が前に立つとて、命は惜しかろう』
「真実。それだけですよ。アウルとは縁切りも済ませましたし、私なりにけじめもつけましたしね。探究心だけで動いています」
その目は特にアリスに注がれていたが、当のアリスは困惑と嫌悪の混じった視線を返すだけだ。シメオンは苦い顔をして肩をすくめた。
「俺も知りたい。ティータは一体何者なんだ?アウルとかいう奴・・・それに俺は・・・」
何も知らないまま、ここに立つのは滑稽だ。ベルガモットもバフォメットも、シメオンとかいう魔術師もある程度は真実を知っている。
アリスを除けば自分だけだ。
「あの少女はホムンクルスですよ。貴方も、そしてアウル=ソン=メイクロンを名乗るクルセイダーも。アルケミスト達の夢、錬金術の粋を結集して作られた
最初の人造人間。ある特別な『目的』の為に作られ、結局完成を見なかった計画の残滓。過去の亡霊です」
シメオンが言った。
「ホムンクルス?俺が?」
「・・・正確には、ホムンクルスを目指して作成された生物兵器と言うべきかもしれん。古代に世界を滅ぼしかけた<ユミル>という存在を模倣して作られたという
が、学のない私には分からぬ事だ。王の命を受けた錬金術師がシュバルツバルドの技術を得て試作したのは確かだ。そして、その計画が初期で頓挫した際に生じた
廃棄物・・・つまり失敗作が、生みの親たるその錬金術師の手によって世に放たれた。その一人がお前だ」
今度はベルガモットが言った。それから、こう続ける。
「私は執拗に廃棄された者達を追う王の目を盗み、お前を戦災孤児として養う事にした。王の狂気の計画に加担した私の責務だと思い、孤児であるグレイと娘、マ
リーベルに紛らわせたのだ。三人を平等に戦士として仕上げる事で王の目を誤魔化し、やがて追われる日が来ようと協力して戦えるように」
師から弟子へ、淡々と告げられていく真実。
「そして、お前達が私の手から離れ、マリーベルが死に、アウルが現れた。奴は私にマリーベルの蘇生を材料にした取引を持ちかけてきた」
「馬鹿なっ・・・そんなこと出来るわけが・・・」
「出来るんですよ。もう人間の力はそこまで来てしまった。その恩恵の産物であるアウルは、誰よりもそれを理解しているのでしょう」
私もですがね、と今度は一転してどうでもよさそうに言うシメオン。アルバートは閉口し、ベルガモットは言葉を続けた。
「アウルは失敗に終わった自分達の役目、凍結された計画を今一度遂行しようとしている。私は娘の命を取り戻すために奴に加担したが、それは間違いだったのだろ
うな・・・お前を見ていてよく分かった。過去に縛られた人間は悪意しかもたらさん」
自嘲気味に言う。厳格なこの老騎士にしては珍しい事だ。
『互いに父としては二流だったようだな、友よ』
バフォメットの言葉に彼は苦笑して頷いた。
「その計画ってなんなんです。魔族の拉致にも関係のある事なんですか・・・?」
「大有りですよ。彼らが作られたのはライカセという召還術師が行った召還の儀を再現する為なのですから」
アリスの問いに、シメオンが答えた。彼は死人を錬金術で蘇生させるほど、その道に長けている。極めて稀な人物、或いは天才とも言える男だ。
それは彼の作品・・・<カタリナ>を目の当たりにしたアリスも理解していたが、いい気分ではない。
どこか歪んだ彼にはその自覚が全くなかったが。
「数百年前の話ですが、魔剣を召還したとされるライカセはその秘法を弟子に伝えました。紆余曲折を経て、つい数十年前に再発掘されたその秘法は、現代では実現
の難しい条件をそろえる必要があり、半ば不可能とされています」
「魔壁をも超越する<門>の開放・・・魔族との戦いに備えるにはどうしても必要だったのだろう。魔術的なものでは実現し得なかったその秘法を、錬金術で応用した
結果、<装置>として考案されたのが前述のホムンクルス計画だ」
「それでも一定の条件は必要だったんですよ。膨大な魔力と、門を安定させるための鍵、そして肝心の門を開く門番・・・魔族から抽出した魔力と魔剣、ティータという
最も完成形に近いホムンクルスでそれらを補おうとしたんですね。アウルは」
互いに補完しながら、ベルガモットとシメオンは説明した。アウル側についていた二人が持ちえる全ての情報。それらを頭でまとめ、アルバートは溜息を吐く。
「・・・突拍子のない、現実離れした話だな」
『魔剣が実際にお前の傍にあるであろう。それが証だ、ユミルの子よ』
バフォメットに言われ、腰のミストルティンを見る。分かってはいたが、現実らしい。
「具体的にその門ってやつが開かれるとどうなる?」
「魔壁で隔絶されている三つの世界が、局所的に繋がります。アウルが一体どこへ何のために門を開くのは定かではありませんが、建前は神界へ繋げてヴァルキリー
に会う、ということになっていましたよ・・・まぁ、十中八九嘘でしょうが、馬鹿な神官や僧兵は信じきっていました」
ニヤニヤと言うシメオン。この魔術師は愉しんでいる様にしか見えない。
『魔壁が脆くなっているのは周知の事実。しかし、その均衡を乱すわけにもいくまい・・・捕らえられた我が同族達も報われぬ』
「聖戦までの時を縮める事態になるやもしれんな。それに、あのホムンクルスの娘も門を開いて無事で済むとは思えん」
なんとなく予想はしていた結末を告げられ、アルバートは歯軋りする。駄目だ。それだけは駄目だ。
率直に言えば、聖戦だの世界のバランスだのに興味はなかった。だがあのアルケミストの少女が何者であれ、守ると決めた以上守り抜く。
自分の生い立ちなども微塵の障害にもならない。関係ない。
「・・・ティータを助けに行く。奴の居場所は何処だ」
誰もが予想していた言葉を発するアルバート。ベルガモットはゼピュロスを北の方角へ向ける。
「ジュノーだ」
「・・・シュバルツバルドの首都に?何故です?」
怪訝な顔をするアリス。やれやれ、と肩をすくめるシメオン。これだから人形は困る、とでも言いたげにせせら笑った。
「分かりませんか?心臓ですよ。大きな餌じゃないですか。魔族から集めた魔力では足しにならなかったんでしょうね」
『っ・・・ユミルの心臓か・・・!』
バフォメットが気付き、声を荒げた。
ジュノーは空に浮かぶ巨大な都市島だ。その機構の中枢に存在する原動力はかつて<ユミル>の一部であった部品から得ている。
門を開くために必要な魔力を得るにはうってつけだった。ただ、遥か昔ユミルが解体された際に、その本来の機能を発露しないよう、神族と人間と魔族の間で分けて
封印された代物だ。その恐ろしさはバフォメットも知っている。
「アウルに残された戦力はまだ大きい。ゲフェンで消耗したが、十分にジュノーに攻め入れるだろう」
「・・・少なくとも心臓部を占拠するのは容易いでしょう。ジュノーの賢者達は実戦闘に慣れてはいませんから。それに、アウルは下位の魔物を使役する事が出来ます」
ベルガモットとシメオンの言うとおりなら、下手をすると戦争だ。
「オーバーな奴だ・・・だが、先回りしなくちゃ悲惨な事になるな」
吐き捨てるアルバートに、陰惨な笑みを浮かべたシメオンが提案する。我が意を得たり、と。
「手段は確保してありますよ・・・お任せを。向こうは<百眼>を失って陸路しか使えませんからね・・・まぁ、多少の時間はいただきたいものですが」
すっかりこちら側、という感の現金な魔術師に同意するしか手はなかった。アルバートは一度その場の全員を睥睨してから、踵を返す。
「どう転んでもこれで最後・・・いや、最後にしてみせる。これ以上くだらない企てに振り回されてたまるか」
136名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/25(日) 00:55 ID:RT4HMD62
『決戦前夜 アルバート編』


アルバート達人間組にあてがわれた古城内の一室。そこでアルバートとシメオン、アリスは居た。
アルバートは窓辺に座り込み、夜空を眺める。シメオンはアリスの損傷部位を興味深げにニヤニヤしながら見ては、怪しげな器具で修理していた。
当のアリスは複雑な顔をしてはいたが、根暗そうなこの魔術師の腕と技術は確かなもので、ジョンとの転戦で傷付いた部分が修復していくにつれて彼への評価を変えて
いた。それでも、嫌悪は隠し切れなかったが。
ベルガモットはグラストヘイムを近々去るというバフォメットと謁見の間で何やら話し込んでいる。酒でも酌み交わしているのかもしれない。
「・・・アリスの修理もいいが、手配とやらは大丈夫なんだろうな?」
「問題ありませんよ。私の息のかかった人形が交渉に行っていますから・・・おぉ、なんと高度な内部構造!やはり千年前の技術は今よりも・・・」
アルバートの問いに答えてから、シメオンはアリスの腕の中を食らいつくようにして覗き込み、ブツブツ呟く。
一抹の不安を抱きながらも、アルバートは眼鏡を押し上げて視線を窓の外の空へ戻した。どうも好かん魔術師だ。気持ち悪い。
フードを被っていたときは分からなかったが、見た目は割と普通の学者っぽい青年だ。むしろ清潔感さえ覚える。ただ、中身が狂っていた。
「まともな話し相手が欲しいもんだ」
一人ごちて、夜空の星を数えた。遠慮がちに、椅子に座らされたアリスが口を開く。
「人形と話すのはお嫌いですか?」
「内容によるかねぇ」
「・・・先刻、ベルガモット様と戦いになられたのは何故なんです?お二方は親子のような関係だと聞き及びましたが」
一瞬、アルバートは意外そうな顔をした。それからすぐに表情を崩す。何か可笑しかったのか、アリスには分からない。
「んー・・・譲れないものは、誰にでもあるんじゃないか?」
「譲れないもの?」
全然分からない。アルバートは益々可笑しそうに苦笑する。
「地位だとか名誉だとか・・・金だとか、仲間だとか・・・一人一人に、それぞれの譲れないものがあるもんさ。俺の場合、それがベルガモットと交差してて、あのジジイも
譲れなかった・・・それだけだ」
「どちらかが譲れば解決するものではないでしょうか?」
おずおずと言うアリス。そこで何やら悦に入っていたシメオンが急に真顔になり、
「譲れないから戦うんですよ。どこまで行っても平行線だから、どちらかが死ぬまで戦う。例え傷付いたとしても・・・自分が死んだとしても。それが戦うという事です」
そう言った。
「人の業というものですね。まぁ、私には全く興味がありませんが・・・おや、凄いスタビライザーですねぇ。これなら・・・」
すぐにまたブツブツと逝ってしまったシメオンを、呆気に取られた顔で見てからアリスに向き直り、アルバートは言う。
「そういうことだな。肉を食うために動物を殺しパンを食うために植物を刈る・・・そういう生き物だからな。人間は」
正確に言えば自分は人間じゃないらしいが、と締めて彼は三度、窓を眺めた。
大なり小なり命を奪って生きる。とても滑稽で残酷な生き物。アリスは落胆した。ジョンが焦がれた人間という存在は、結局魔族と何ら変わらないではないか。
落胆して気付く。何を期待していたのか。
ジョン・・・魔族には魔族の憂いや苦しみが、人間には人間の罪が、人形には人形の空虚がある。だとしたら、救いなど何処にあろうか?
戦いが支配するこの世界には一握の希望すら見えないではないか。
「それでも俺達は生きていくんだよ。大勢の仲間がいるこの世界で、笑っていられるように」
振り返らないままポツリ、とアルバートが言った。
あぁ、なんだ。
淀みが消える。
同じならば、例え人形だろうが笑える筈だ。自分が何だろうと関係ないじゃないか。
沈黙が流れた。ただ、重い沈黙ではない、何処か安心感のある沈黙。
ジョンにまた会えたら、この事を報告しようとアリスは思った。シメオンを憎み、アルバートと確執のある彼も、彼らの事をちゃんと知れば分かり合えるかもしれない。
この戦いが終わった後で共存していけるかもしれない。
そして自分も、素直にジョンの胸に飛び込めるような気がした。そこまでの勇気がその時あるのかどうかは、疑問だったが。


「トリスタンは聖戦を予期しているのだろう。何故か・・・私には、奴の掌で踊らされているような気がしてならんのだ」
『何にせよ只の人間ではなくなっているであろうな。人の領域を逸脱した計画といい、今度の事といい、別の意図が見え隠れする』
「だが・・・私はもう疲れたよ。娘を失ってから、自分でも弱くなっていくのを感じていた・・・だから弟子にさえ負ける」
『我らは最早過去の者だ。かつて大勢の人間が我に挑み、敗れていったが、今となっては我の方が押されてしまった』
「互いに歳を取ったのだな。お前は否定するだろうが・・・」
『ふふ・・・そうでもない。ここを去るのは、自分の衰えを認めたということだからな』
「そう、か・・・お前からそんな事が聞けるとは、もう年貢の納め時らしい・・・」
『・・・どうした』
「魔剣に喰われた所為だな・・・もっとも、それ以前にもう一人の弟子から受けた傷で死んでいても不思議ではなかったが・・・我ながらよくもった・・・」
『・・・告げなくて良いのか?』
「奴はもう一人前だろう・・・しかし私の死を背負わせるわけにもいくまい・・・奴にはもう沢山背負わせてしまった』
『承知・・・友としての手向けだ、我が術で焼こう・・・墓には何を刻む?』
「いらぬよ・・・この槍が、私の墓標だ」


光の差さないグラストヘイムの一角に突き立てられた古い槍がある。
訪れる冒険者達は一種、高潔でさえあるその槍を抜く事はない。何処か敬意を持ってしまい、持ち去る事が出来なかったのだ。
多くの命を血煙に沈めた戦士の槍。誰からも忌み嫌われた、誇り高き紅の騎士の墓標。
彼の槍は古城の魔物達でさえ悪戯に荒らすことなく、永く、友が愛した廃墟に影を落としたという。
137名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/25(日) 01:02 ID:RT4HMD62
終わりまであと一戦。一気に加速します。

ではまた次の機会に。
138名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/25(日) 01:38 ID:acSNrBs.
シメオンくん再登場きたーーーーー。パパバフォきたーーーーーーーーー。
軍帽クルセさんが陰謀の主役かな?
そして…最初から死相が見えていたとはいえ…べるがもっdなむ…

続きも楽しみにしてますです
139名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/25(日) 01:59 ID:hnJ3uM22
>>121
130さんが素敵なコンセプトのまとめサイト作ってくださったので蛇足ですが、
仲間内で使ってるものでよければアルバーdシリーズとキャラコラボシリーズちょいとまとめてあります
130さんのサイトがコンプされるまでの間どぞ(ほぼ個人用なのでページの変わり目なんかがメチャクチャですが)
ttp://moo.ciao.jp/RO/hokan/top.html

>>130
設置おつかれさまっした!利用させていただいてますモフモフ!(´ω`*)
書き込み方が難しかったのでまだ見るだけなのですが
みんなで作る補完サイトっていいですね〜、レスも掲載できるところもナイスです。
いつか、補完作業お手伝いできたらいいなぁ…

>>132 <アルバートォォォン!
いよいよ終わりが近づいてきましたね…!ベルガモットなむ・゚・(ノД`)・゚・
説明が多かったですが(佳境だし仕方ない)苦も無く読めました。
しかし、ホムンクルスのアルバートの成長に付いて行けるグレイとマリベルって実は凄いのかな。
以外にも清潔そうなシメオンに度肝を抜かれましたわ…
14093@さぁ…つじつま合わせの時間だsage :2004/04/25(日) 02:42 ID:acSNrBs.
 青年は、夜更けのプロンテラをゆっくりと出て行く。任務柄、今までにも良くあることだったから、門番とも、馴染みになってもう顔パスだ。
「いってらっしゃい。お勤めご苦労様であります!」
 いつものように敬礼で見送る女兵士に、いつものように会釈だけで返礼をしながら…、彼はいつもとは違って弱気だった。
(これでは。今度は…戻れないかもしれないな)

 幾度も歩いたアルデバランへの近道。青年の専門は対魔とはいえ、その辺りの野生生物如きには後れを取らない。考えこみながら…歩く。
 憧れていた聖女に、破門に至るどんな過去があるのか、彼は知らなかった。どんな過去があっても、あの人はあの人だ、と。そう思っていたから、文書を読むのも怖くは無かった。だが、そこに書いてあった内容は、そんな思いを簡単に吹き飛ばしていった。
「…俺は…どうするべきなんだ…」
 ぶつぶつと、同じようなことを繰り返し、繰り返し。その後姿を、城壁の上から黙って見つめていた白い影に、彼は気がつくことは無かった。


 何時の頃からか、迷宮の森と言われるようになった、首都に最も近い魔境。その奥に、彼女は住むという。文書に記されていたのは青年が幾度か通ったことのある場所だったが、辿り着いてみると、そこには以前には確かに無かったはずの小さな小屋があった。
 青年は二、三度逡巡してからノックしようと手を伸ばしたが…、それを見計らっていたように扉が勢い良く開く。
「主殿! そんなに勢いづいて開けて、外にどなたかおられたら…」
「いるわけないもん! こんなところに人なんて……あれ?」

 ものの見事にもらったカウンターで頭の上にひよこを二匹飛ばしている青年を、不思議そうに見下ろす少女。
「…あ…」
 お互い、気まずい一瞬。
「そ、そんなところに突っ立ってるのが悪いんだからね!」
「…いや、その通…」
「私は悪くないんだから! 気分がいいから貧乏人に恵んであげるだけなんだから!」
 言って、少女が投げつけてきたのは…
「万能薬?」
「おわびじゃないんだからね! かんちがいしな…」
「ほらほら、主殿。あまり門前で騒ぐと聖女殿に失礼だろう」
 むぅ、と口をつむぐ少女は、まだ幼いが綺麗な顔立ちをしていた。さらりとした黒髪に、細身の体つきだが、あと5年もすれば誰もが放っておかないだろう。
 しかし、今はただのやんちゃな子供だ。その少女を必死になだめている誰かが扉から出てくる気配に気づいて、青年は苦笑を向けた。…その苦笑が固まる。
(バフォメットの幼生!)
 幼生とはいえ、かの大悪魔の血縁。端倪すべからざる相手なのを、青年は嫌というほど知っていた。とっさに少女の身体に手を伸ばし、せめて、彼女だけでも死の鎌のとどかぬ距離に突き飛ばそうとして、自分の体が動かないことに愕然とする。その眼前に悪魔が恐るべき速さで迫り…

 ぺこり、と頭を下げた。

「…申し訳ない、お客人。ささ、行きますぞ、主殿。早く帰らないと頂いたアップルパイが硬くなる」
「うぅー」
 良く見ると、バフォメットJrのまるまっちい手には、小さな紙包みが抱えられていた。あれでは、鎌を振るうどころではあるまい。
「……な、なんだという…んだ?」

「あら、いらっしゃい。ちょうどいいところに来たわね。アップルパイ、食べる?」
 そして、扉の中からかけられるのは、いつものように軽やかなあの人の声。その声を聞いた少女は、何を思い出したのか、にぱぁーっと無防備な笑みを浮かべる。
「おいしかった!」
「それは良かったわ。また来てね、というにはちょっと遠いけど」
「…ひまだったら来てやるけど。でも、私も忙しいからほしょうはできないわ!」
「…義母上…いや、聖女殿。では我等はこれで失礼いたします」
14193@合ってないって?sage :2004/04/25(日) 02:43 ID:acSNrBs.
 ようやく起き上がった青年の前で、去っていく二つの小さな影に手を振る彼女は少し寂しげな顔をしていた。
「あの子は…」
「気がついちゃった? 私の子よ。あの子にはそうは教えてないけど」
「だから…か」
 そうでなければバフォメットJrともあろう悪魔があんな子供に仕えているはずが無い。納得する青年のおでこを、僧衣に身を包んだ背教者の指がぴんっと弾いた。
「ち・が・う・わ・よ。あの子は、自分の意思であの子を守ってくれてるの。あの子のことが好きだから、ね」
「…悪魔の幼生も、自分の娘も一緒くたにあの子、か」
 あえて後半は聞かない振り。そんな青年の様子にも、彼女は頓着せず、小屋の中へと彼を誘う。
「こう見えても、俺も、教会の人間ですよ。そんな無防備でいいんですか」

 言いかけた彼の首筋に、一瞬だけ冷たいものが当たった。…鎌。
「虚言を吐くな、人間。戦いに挑む気迫があるならば、こう易々と我に背後を与える汝ではあるまい」
 何時の間に現れたのか、彼の後ろに立つ存在が何であるか、青年は知っている。たとえ、人のような外見を装っていたとしても。見間違うはずも無い。古城で、この森で、幾度と無くまみえたことのある悪魔の王。

「バフォメット…か?」

 にもかかわらず、声が震えたのは。その威圧感が今までとは違ったからだった。易々と聖堂騎士や戦闘司祭団に鎮圧されるような、いつもの敵ではない。[難敵だが、倒せない相手ではない]…彼の知識にあるそのバフォメットとは存在の次元が違った。

「如何にも。今日はお互いあれの客。要らぬ気は起こすまいぞ」
 そんな彼の怖れに気づいたか否か。黒衣を纏った男は楽しげとも言える表情で、小屋の敷居を大股に踏み越えて行った。


「我とこの聖職者の馴れ初めか…長くなるぞ」
 この一言で始まった悪魔の王の話は、確かに長くなった。途中から娘のことが話題に入り始めると、このまま永劫に語り続けられるのではないかと恐怖するほどに。その話のもう一方の主役はたまに相槌を打ったりはするが、基本的には厨房の中で鼻歌を歌っている。
「…ふふふ…」
「何がおかしい?」
 悪魔の王の問いかけに、青年は軽く目をつぶって、答えた。
「貴方は悪魔だ。人の敵、だが…それと共に子を愛する一人の親だったり、伴侶を愛する一人の牡だったりする…」
「当然じゃない」
 と、これは聖女。当然と言った顔で、自らの伴侶の膝の上に座る。
「…しばし会わぬ間に重くなっ…ぐっ…」
「(何かをつねりながら)ふふふふふ…別の女と間違えてるんじゃありませんこと?」
 じゃれあう様も。人と悪魔はこんなにも近い。青年は憑き物がおちたような晴れ晴れとした表情で呟いた。
「貴方達のように…人と悪魔が分かり合うこともできる、のですね」

「否」
「それは違うわ」
 その返事に、青年は驚きの表情を浮かべ、目を開く。
「で…ですが。貴方達は…」
「私は、君が思っているような存在じゃないの」
 聖女は、悲しそうな顔をして…纏っていた聖衣を脱ぎ捨てる。青年はとっさにまた目をつぶったが、その下から現れた裸身はその一瞬で目に焼きついていた。それに…あまりにも淫靡なこの香り。

 人のものではありえない。

「私の年齢は、君が想像しているよりも少し上。私の普段の生活も、君が想像しているより少しハード。私はただの人のままで、彼と分かりあったわけじゃないの」
「この者の身は、我が物。我が心を捉えた代償にな」
 重なるような声は、不思議なことに、失ったもののないはずの魔王の方が辛そうに響く。
「後悔はしていないわ。これが、私の選択。人の心を持つ魔になるか…」
「…否なれば、我ら魔の者を人界に馴らすか。魔と人、ありのままでは通じえぬ。これがこの世の摂理だ」
14293@げ…改行…。今更気づいたけど…強行sage :2004/04/25(日) 02:44 ID:acSNrBs.
 頭が酷く重かった。ここには、救いがあると思った、その望みがはかなく消えた。目の前の二人…いや、二体は共に人ならざるものなのだ。青年にとっては、敵。
「人と魔と、両方に立つ事は…。両方を望むことはできないのよ。そんなことをすれば…」
「汝の精神が砕けるか…神の断罪者が汝を砕きに来るであろう。我はお前を惜しみはせぬが、この女が悲しむのでな」
 閉じた目に、二人の声が響く。魔と、人と。あるがままにその手を取ることはできないのか。

 ここにも救いはなかったのか。彼のような心の痛みを持つものは、どちらの世界でも異端者ならざるを得ないという事実が、彼を形ある物の様に打ち据える。青年の目の前が暗く翳っていく。

 否。魔モ人モ共ニ愛スル事ナドナイ。…殺セ。壊セ。奪エ。犯セ。魔モ人モ共ニ憎メ

 意志が弱くなったときに、青年の内側から沸き起こる、いつもの声。

「闇の王。我が結界内に何故に現れる」

 我ハ望ム。コノ者ノ身ヲ。心ヲ。歪ミコソ我ガ、チカラナレバ。

「…失せろ。我と争うならばそのような幻影ではなく自ら現れるのだな」

 何かが悲鳴を上げて潰れるような音を聞きながら、青年は意識を手放した。


「…何故、このような猿芝居を我にさせる?」
「なーにが?」
「憎まないと殺せぬ。この者に足りぬのは憎しみだ。それ故に闇の王が欲する。与えた希望を砕くことで、この者に我らを…、いや、お前を憎ませようとしたのであろう?」
「そうかしら。誰も憎まなくても、戦うことはできるわ。私は、それを今夜、彼に教えてあげるつもり。…これからね」
 そう言って、ソードメイスを取り出す連れ合いに、黒衣の男は不気味な笑みを向けた。その身がゆっくりと溶け…巨大な黒山羊の魔王の姿に変わっていく。
「……成る程。そういう事か。誠、お前には飽きぬ…」
「飽きそうな顔をしたら殺してやるから♪」


「…仕方がない。私一人でも、いないよりはましだろう」
「ボクでは…お役に」
「邪魔だ」
 いいさしてから、女騎士の顔が即座に後悔の念に染まる。何故か魔族の自分を好いてくれるアコライトの言葉が、己の身を案じての事だとわかっているのに。こんな時まで素直になれない自分が寂しい。
 騎士は、横を向いたままで淡々と…と、自分では思っている口調で続ける。
「…グラストヘイム…血騎士候の戦力にも限りがあるのだ。とはいえ…ここでバフォメット閣下を討たれる訳には行かぬ。…私と違って、あの方には代りが居らぬのだか…むっ!?」
 白馬の鐙を軽く蹴って飛び上がり、鞍上の騎士の不意をうつ様なキス。よろけもせずに綺麗に着地したアコライトは、にまっと嬉しそうな笑みを見せた。
「…貴女だって、代りなんていませんよ。帰ってきてください。この続きがしたければ、ね」
「続きをしたいのはお前だろう!」
 照れ隠しに怒鳴ってみせる騎士だったが、彼女の心中には先ほどまでのような絶望は無くなっていた。

「……ごめんなさい」
 走り去って行った女騎士の方に小さく呟くアコライト。その背を、誰かが軽く叩く。
「俺達の準備は出来たぜ!」
「…あの女には借りがあるからな」
 口々に言う騎士と暗殺者。その向こうから、女プリーストとクルセイダーが腕を組んで歩いてくる。
「…あ、そういう仲だったんですか」
「ええ、あの時の臨時の取り持つ縁なの。だから、今日だけは教会のロザリオは仕舞わせて頂きますよ」
 いつか…白馬の女騎士とアコライトがはじめて出会ったときのPT。ローグ以外は全員ここにいる。
「…あの城の茶は旨かったからな」
 照れたように、クルセイダーが横を向いた。そういえば、あの時も彼が一番最後までプリーストを守っていたっけ、とアコライトは思い出して微笑み、愛する騎士の去ったほうを見る。
「…これは、ボク達が勝手にすることですから。貴女は気にしないで下さいね…」
14393@今回はコラボな人たちばっかりですsage :2004/04/25(日) 02:45 ID:acSNrBs.
「そうか、良く告げてくれたな」
「……」
 ぶるぶると震える頭に、しわがれた手がそっと載せられた。
「お前があ奴を慕っておったのは知っている。いや…それはお前だけではない。だが…こうなってはもはや、猶予はならぬ」
 老人が司祭服を翻すと、顔を伏せていた数十人の聖堂騎士が一斉に剣を立て、その後ろの司祭達がロザリオをかざす。
「我らに神の加護あらん事を」
「我ら、悪魔を討ち果たす剣ならん」
「神の御名の下に!」


 ……騎士達が出ていった後…。大聖堂からは、咽び泣く少女の声だけが漏れていた。通りがかった夜番のシスターが彼女の髪を優しくなでている。

「…私…私っ。取り返しのつかない事をしてしまった…」
(…たいそう酷くしゃくりあげていますね。ですが、若い子が嘆く時に限って些細な悩みだったりするものです。まずは落ち着かせてあげないと)
「何事も取り返しのつかないことなどありませんよ」
「…で、でも…私…もう…ダメです。先輩を……告発してしまったんです」
(この子が先輩、というと…あのクールなプリーストさんですか。密告というからには何かに違反したのでしょうけれど。大体想像はつきます。夕刻に二人連れで色街に行ったのはチェック済みですからね。…プリーストさんも、最初なのですからそんなに焦ってはいけないのに)
 自分に実経験が無くとも、シスターは懺悔室の仕事柄、耳年増だった。

「…心配することはありません。神の愛には幾通りもの形があるのですよ」
「…か、神の教えは…」
(姦淫せず、とかその辺を教条どおりに信じている子なのですね。これは…先輩さんに同情しないでもありません。でも、ここまで後悔に泣くという事はこの子もまんざらではないのでしょうし…)
「貴女は後悔しているのでしょう。ならば償いに行けばいいのです」
「ですが…私は…」
(まったくもう…世話が焼けます。けれども、たまには恋のキューピッドも悪くありませんね)
「お行きなさい。大事な方の下へ。心配せずとも、神の愛は無限です…。さぁ」
 シスターはぐすぐす言っている少女の肩を支えて、立たせ…、軽く突き飛ばすように背中を押す。
「…はい…はいっ! …行ってきます」
 少女のそれは、教会への決別の辞だったのだが…、シスターはそれを知るはずも無く。
(…主よ。…最近、妙な方しか来ないので…。あの子にレズっ気があって迫られるとか、そういう展開を想像したことをお詫びいたします。エイメン)

 少女の飛び出した外の街は夜の喧騒に包まれて、幸せそうな声、騒ぎ声…。それに混じって場違いなギターの音が流れてくる。

            貴方に会えたその日から…

 酒場で流れるのが似合いの、安っぽい歌。だが、少女でも知っているような歌。ある者が、恋に落ち、…それから、恋人を失う歌。今の少女の心をえぐる歌

       私の…心に吹く風は…

「どうやら、この様子では私は間に合わなかったようだな…」
 いつの間にか彼女の隣にいたプロンテラ軍帽を被ったクルセイダーが、駆け出してきた少女を抱きとめた。
 少女も知っている顔だ。時折…、本当に時折、聖堂を訪れては、祈りを捧げていったり少女達見習いに声をかけて、甘い物を置いていったり。
 …今は、そんな時の顔ではない、クルセイダーは少女の見た事の無いような厳しい顔つきで、聖堂の外をにらんでいた。

          祝福の風…甘い…風…

「…すみません。私、急ぎますので」
「ああ。お嬢さんは、まだ遅くない。あの歌の彼のように、手の届かないうちに大事なものを無くして…辛い思いはしないことだ」
 言って、大型の軍用ペコに飛び乗ると、少女を有無を言わさずに引き上げた。
「え…ちょ、ちょっと」
 駆け出したペコの上から飛び降りるわけにも行かず、
「事情は知人に聞いて知っている。目的地は同じはずだ。乗っていくといい」
「え?」
 振り仰いだ軍帽のクルセイダーの向こう…何故か胸壁の上に、鍔広の帽子に仮面を被った歌い手が手を振っているのが見えた。
14493@書けば書くほど仕事が増える…sage ヽ( `Д´)ノT :2004/04/25(日) 02:58 ID:acSNrBs.
今日はここまでー。
次は戦争だ! アルバーdの活躍を見て脳の滋養にしてから書こうっと…。

あ…最後の一行。
鍔広の帽子のギター持ちがかたかた振っているのは、本当は「指」です。
お嬢さん、あんた確かに不幸だ…だが、この辺じゃ二番目だ!
……こんなお馬鹿ネタがやりたかっただけなんて言いません!
14593@おまけ(忘れてただけですがsage :2004/04/25(日) 03:04 ID:acSNrBs.
「さて…はじめますか」
 首都の北、迷宮の森と呼ばれる魔窟の、その入り口。誰とも無く呟いた青年の周りに気配を感じさせない男達が現れる。職種はまちまちだが、一様に無表情な冒険者達。その、骸。
「働いて頂きますよ、しっかりとね…。私の死兵集団」
「けっけっけ…待ってたぜぃ。あのアマ…今度こそ嬲ってやる」
 いや、約一名、不必要なほどにに生気のあるローグがいた。
「…くくく…。貴方の報告が無ければ危ないところでした。まさかあの騎士が…」
「魔城の騎士さ。ああ見えて柔らかい乳してやが…」
「そんなことは聞いていない!」
 よだれを垂らしそうな表情で手をわきわきさせるローグを杖の一閃で突っ込むと、魔術師の青年は一つ咳払いをした。
「…魔王の気配は間違いなくある。…空間の歪んだこの場所を居場所に定めた身の不明を恥じるのですね…魔王!」
 言いながら、魔術師の両手が複雑な魔法印を練り上げていく。並の魔術師ならば一つを組むのにもかなりの力量が要るであろう、複雑な高等儀式を複合で行う…神の使徒、管理者にのみ許される禁呪だ。
「くくくっ…これで!」
 うぉぉぉぉん…。不気味な鳴動が青年の手から発し、魔窟全体に広がる。
「これで、魔王といえど転移はできませんよ…。千年前と同じ道を辿ってもらいましょうか…。くくくっ…くくくくくっ…」
「今度は逃がさねぇぜぇ! 俺のお姫様……けけけっ…けけけけけっ…」
 二人の男の哄笑を月だけが聞いていた…。
146('A`)sage :2004/04/25(日) 05:27 ID:RT4HMD62
>>93さん
コラボレーション、お疲れ様です。シメオンは意外にいい味のキャラですね。
レビュー風の方が言う新進気鋭の文神様は貴方ですね?私見ですが。

>>139さん
完璧にまとめてありますね。仲間内でご利用なさっているようですが、恐縮です。
こうして見ると段々と長文化していっているのがよく分かります。反省点も多々。

決まったタイトルがないのも、問題ですね。
14793@PukiWikisage :2004/04/25(日) 12:40 ID:acSNrBs.
>>130
 一応、固定はぽいっと外してみました。色々人様に聞いてしまったのは
内緒です。今後とも、使い勝手とかで色々あったら言って下さいね。
 できることからこつこつといじりますです。

>>139
 はう! 凄い丁寧なお仕事簡単の極みであります。
1日早く拝見していたら、私はきっとあんなサイト作ってないですよぅ。
 ……ここの各章の題名、貰ってっていいですか? わかりやすいし。
キャラコラボシリーズ…うはは…。本質突かれてますネ

>>('A`)様
 ……神には遠いです。でも、神の力を得ようとしてあがく三流悪役とか
ならいいなぁ…。シメオンさんも、他の皆さんの作られた方も。大好きです。
生き生きと動いてくれてればいいんですけど…。


 久々にROに入ったら(偶然でしょうけど!)シェオアさんというプリ様を
お見かけして、急遽一部増えたのでシメオン編を張り忘れたのは内緒です!
 …内緒の多い話デスネ
148139sage :2004/04/25(日) 14:20 ID:hnJ3uM22
('A`)さん
自分用に作ったものだったので、作者さんが気づいた間違いなんかを…勝手に修正したりとかしてますごめんなさい!_| ̄|●

話が複雑になるにつれて、一章が長くなるのは仕方のないことだと思いますよー
長くなっても読み手にそれほどダレを感じさせず、これでもかというくらいの引きも魅力です。
アルバート以外の人物も、それぞれ主人公として自分達の話をもっているので、一貫したタイトルをつけるのは難しそうですね。
でもいつかタイトル付けてくれるのかな〜なんて楽しみにしてたりもするのですががが。

93さん
あああ勝手に見出しつけちゃって、93さんにとっては納得いかないタイトルだと思うのですが許していただけると幸いです。
レス毎のページ分けとか激しく無視していて、うちではまとめサイトになりません…ので、いまPukiWikiの書式を必死に飲み込んでいます(笑

キャラコラボ、皆がどんな風に絡んでくるのか、プリさんがどんなふうに狂っていくのか、楽しみです。
149名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/25(日) 20:12 ID:ax/XlImg
('A`)氏の作品を一から読み直すと、氏の成長がよく見て取れる
初投稿時の氏はまさにSSといった長さの作品を一話完結形式で書き上げていた
当時の作品は氏の簡潔な文体もあいまってさっぱりとした後読感で読めるのだが
少々、作品の設定と展開に比べて短すぎるきらいがあった
これは致命的な欠点で、読者への情報量が制約されてしまっていたのだ

要するに今くらいがちょうどいいですよ、っと
以前の氏の執筆速度もあれはあれで神の領域でしたが・・・

リレー小説を待ちながら、勝手に考察してみますた
15093@さぁ…宴の時間だ!sage :2004/04/25(日) 21:00 ID:acSNrBs.
『魔王殿…。西ヨリノ人ノ手勢五十ホド、聖職ナリ。東ハ不明ナレド敵多シ、注意』
『ご苦労、下がれ』
『…御武運ヲ、我ラガ王ヨ』
 一言だけを告げて、魔界の偵察隊長ゴーストリングは配下とともに宙へ消えた。情報は
常に貴重なものだと知る魔王は、逢瀬の際も彼だけは常に伴っている。その信頼は裏切ら
れたことはないが、…残念ながら偵察隊では戦力としては役には立たない。
「あらら、思ったよりも数が多いわね…。人気があるって言うのも困り物だわ」
『…ふむ。我が西を受けよう。お前は東へ行け』
 聖女は、魔王に向かって怪訝そうな顔をする。
「…気を使わなくても、私は古巣に愛着は無いわよ? それはもう、全っ然」
『我にはある。神の名を奉じる者には我が鎌での幕引きがふさわしい。それだけだ』
「ふーん…。ね」
『何だ』
 地を蹴り、左右に別れる大小二つの影。
「終わったら、あの子の弟作りましょ♪」
『…我は娘がよい』


 樹の陰から陰へ。伝うように走り、走っては止まる。戦い慣れした動きで先行しながら
ぎこちない死者の群れを導くローグの脇に、白い装束の女が…文字通り、湧いた。
「…ひさしぶりだなぁ。今度は下らん手紙じゃなくって直接指示頂けるって訳かい?」
「今のところ、うまくやっているようですね?」
「今度は前みたいなこ…」
 死角を突かれたことにも頓着せずに、ふりむきかけたローグの声がかすれて消える。
 女は、異相だった。おそらく美しかったであろう顔。いや、今でも十分に整っている。
…それを左右に裂く異様な傷が無ければ。
「…何か言いたいのですか?」
 刺す様な視線。胸部から上へ真っ二つになったまま、生き続ける異形。神の御使いは、
許可無く死ぬことを許されない。

 そして、管理者たる彼女の目は狂っていた。彼女の姿が変わる前、…ある日突然、彼の
前に現れて深淵の騎士を嬲れと命じた時と同じく。
「けけけっ…相変わらず、綺麗だぜ?」
「…馬鹿な事を言うと、協力者といえど消し去りますよ?」
 御使いが、自分に狂気に満ちた目を向ける。ローグが仲間を捨て、救われた恩を捨て、
あの白騎士…深淵の騎士を堕とす試みに手を貸したのは、自分の欲望だけではない…。
この目だ。
「…あんたとヤれた後なら、強制消去で奈落に落ちてもかまわないね、俺は」
「協力頂ける間は、私の権限で罪は全て消し去ります。余計な心配は無用です…。貴方は
 ただ…」
「白騎士と、聖女と。女二人か。俺向きだぜ」
「今宵は風が三度変わる。その流れに乗りなさい。運があれば両方堕とせます」
「おうよ。…一つ言っておくがな。あんた運はいいはずさ。…こんな使える相方を拾って
 るんだからな」
 こくり、と頷く管理者の肩を抱きたい衝動をこらえて、ローグは背を向けた。
15193@下水リレーじゃなくてごめんねsage :2004/04/25(日) 21:01 ID:acSNrBs.
『ほう』
 迷宮の森、西方に隊列を組んだ一団を見つけ、魔王は微かに蔑んだような声をあげた。
前列に重装備の聖騎士、中列に聖職者をはさみ、後列にも両手長槍の聖騎士。人間同士の
戦ならば真に理にかなった布陣といえる。
 だが…魔族の王に対するには意味のない事だ。無印で跳躍し、もっとも弱い脇腹を突く。
聖職の血に飢えているだろう子らを呼んでも良い。が、魔王はそれを躊躇った。
『…さような事、あの者が知らぬはずもなし。さて…』
 中列にいる、白髪の大司教を睨む。かつて、その男の髪が黒かった頃、バフォメットが
古城の主だった頃に、討伐隊の中に幾度もその姿を見たことがあった。お互い手の内を
知らぬ仲ではない。

『罠で…あろうな。小賢しい』
 呟きながら、バフォメットは転移を念じる。
『やはり、転移封じか…我は代償を払えば飛べぬこともないが、子等は呼べぬ…か』
 この状況を前に、魔王の口からは抑え切れぬ笑いが漏れる。この1000年変わらぬ、戦いの
中に身を投じる喜び、それは愛する者と過ごす時とは異質の興奮。それから、この1000年が
過ぎてようやく見出した…戦うことの意味。
『我の後ろには一兵たりとも通さぬ……死ぬ気で来るが良いぞ…人よ!』
 緋色の魔王…バフォメットは、その名にふさわしい堂々たる足ぶりで一歩を踏み出した。


「来たか…魔王」
 初老の司教が森の奥を見た。その声にあわせたかのように、前列の聖騎士が身じろぎをする。
「くくくっ…さすがに聖職者の方は敏感でいらっしゃる」
「…賢者殿。今までの助勢に感謝する。神の祝福が汝の身にあらん事を。ここは下がられよ」
 魔術師はフードの奥で意外そうな顔をした。途中で見かけた聖堂騎士団を利用するべく声を
かけたのだが、代償に自分の魔力を求められるだろうと思っていたのだ。

 むしろ、過小評価されているようで腹立だしくもある、と若い魔術師は見えない口元を歪めた。
「それは、転移封じだけで十分ということですか? 私も軽く見られたものですねぇ?」
「…いや、そうではない。そうではない…魔術師殿」
 中衛の聖職達が戦闘に備えて神に祈りを捧げ始める。
「他は知らず、“あの”バフォメットは…我らの手で討たねばならぬのだ」
「前衛、突撃!」
 掛け声とともに、重装聖騎士の列が剣と盾を構え、駆け出す。対魔方術を撃つ間、前衛が
支えるというのは理にかなったやりようだ。並の相手であれば。
『温いわっ!』
 音もなく振られた漆黒の鎌の一閃。不用意に近づいた前衛が二人同時に、上下に分断された。
「……ぬぅん!」
 僚友の凄惨な死にも動じず、第三の聖騎士が直前に鎌の通り過ぎた軌道に沿って踏み込む。
大型武器は取り回しに難がある…。その弱点を見事に突いた彼の最後にみたものは、ありえ
ない速度で振り戻された鎌の先端だった。残りの聖騎士が、余りの手練に怯む自身を思わず
叱咤する。
「怯むな! 臆すな! 神は我とともに!」
15293@情報量…勉強になりますーsage :2004/04/25(日) 21:03 ID:acSNrBs.
 既に幾人の血に塗れたか定かでもないソードメイスを、料理場の包丁よりも軽々しく取り
回す一人の女。
「…むしろ、注意しなくちゃいけないお料理のほうが大変よね♪」
 舞うように、踊るように…。その技の冴えを見てもなお、死者の群れは彼女に向かって
歩を進める。次から次と、飽きることも恐れることも無く間合いを詰める、かつて人であった
者達。
 彼女と、その集団の死闘をローグは僅かに下がって見つめていた。死ぬ前に見につけた技も
なく、ただ黙々と歩み、斬りかかり…、そして、倒されていく死体達は、…あくまで捨て駒だ。
「…けっけっけ…いいぜいいぜ…もう少しだ」
 地と一体になったかのように伏せ、這う彼の姿は魔術の明かりに照らされなければ見える
ことはない。聖女が、スキルという物を念頭に置かなくなったとき…その油断を彼が突く。

「甘いっ♪」
 かつて騎士だった存在の剣が振られる。内容と同じく甘い声をあげて飛び退り、開いた空間へ
流れるような動きで右手のソードメイスを突き出す。刹那の一瞬の停滞こそ、ローグの狙って
いた瞬間だった。
「…!?」
 聖女の肩に短剣が食い込み、纏っていた黒の僧衣が裂かれる。文字通り、完全な奇襲だった。その筈だったが…。
「けけっ…やるねぇ…さすがは…」
「…ごめんなさいね、せっかちなだけの殿方には魅力を感じないの」
 聖女の肩を割くと同時に、彼女の左の手刀がローグの腹をえぐっていた。あわててバック
ステップしたローグに追いすがろうとした聖女が、一瞬だけよろめく。その隙に、無表情な
死人が二人の間を埋めた。
「…やれやれだわ…これは…」
「そう、俺とあんたの根くらべ…さ。けけけっ」
 肩を庇いながら、それでも隙無くソードメイスを振るう彼女の声に、どこからともなく男の
声が切り返した。
15393@二次創作ってつい、外見描写省略しちゃうのですよね^sage :2004/04/25(日) 21:04 ID:acSNrBs.
 前衛部隊が文字通り、一命を投げ打って稼いだ貴重な時間で、聖職者部隊の対魔方術は完成に
近づいていく。それを見た魔王は、舌打ち一つで不快感を表した。彼らはいつも同じ過ちを繰り
返す…。人間は神より『成長する』という恩寵を与えられた種のはずなのに。

 詠唱完了前を狙って、恐るべき速度で編まれる魔王の魔術方陣。例え対魔聖職者をその盾…
Devotionで守る聖騎士がいたとしても、この一撃で両者共に灰に為すという絶対の自信の源。
それがこれだ。
『緋色の君主の名に於いて命ず。雷よ…ここに来たれ。Lord of Varmilion』

 閃光とともに、無数の雷挺が地を穿った。地だけではなく、大気までも砕かれ、震える。
魔王の名に相応しい破壊の力。朦朦と土埃が立ち込める、その向こうから
「強大なる祓ぎの式をここに! Magnus Exorcismus!」
 魔王の油断を戒めるがごとく、無数の十字架が彼の緋色の身体を打ち据えた。それも、複数の
術者の複合術…、威力は通常の比ではない。魔王の視界が朱に染まる。
『……なっ…』
「ヒトを舐めるなよ…魔族!」
 年齢に合わぬ大音声で言い放った大司教の左右に、二人の聖職者が寄り添っていた。その
二人の体がぐらり、と揺れるのと入れ替わりに、新たな聖職者が二人司教の脇につく。

「…くくく…、なるほど。彼達の自信はその秘術…Sanctissimi Sacramentiでしたか」
 聖体降福。周囲の者に神の祝福を与え、その者への魔力の影響を止める法術。魔術の使い手に
とっては鬼門とも言える術だが、その代償は激しい。教会の中でも限られたものしか使えぬ
その秘術中の秘術を大司教が行使したのだ。
 彼の周りに不自然に固まっていた布陣も…全てこのため。

「予想外でしたね…こう早く終わっては………何もわからないじゃありませんかぁっ!」
 若い魔術師の指は杖に食い込まんばかりに怒りに震えていた。彼の渇望、自然界にありえざる
力で動く魔の者、その王がじわじわと力を剥がれ、解体されてゆく様を観察したいという欲望は
これで、二度と満たされることはない。…かに思えた。
「第二列、突撃用意…」
 司教の前に立つ聖騎士がよく通る声で号令をかける。
「くっ…何を馬鹿な事を。あれだけの聖十字…。いかな魔神といえど生きているはずが…」
 そして魔術師は聖十字の結界から立ち上がる魔王…その哄笑に剋目した。
『はははははっ…こうでなくてはならぬ! 人よ…次は何で我をもてなす!』
15493@今日はここまでー!sage :2004/04/25(日) 21:05 ID:acSNrBs.
 聖女の吐く息は荒く、その衣を染めるのは敵の血ばかりではない。そして、動く死者の過半は
地に伏し、蠢くばかりの残骸となっていた。
「案外だらしないのね? もっと躍らせてくれると思ったのに」
「…声を吐かなきゃ、リズムにも乗れないか? けけっ…」
 声と共に襲う短剣を、ソードメイスの一撃が迎え撃つ。ローグがもんどりうって倒れるが、
それは彼女からの死命を制する一撃を殺す為に自ら飛んだだけ。そして、男に対するために
向き直った聖女の背中に、ゆっくりと死者の剣が迫る。
「俺の勝ちだ! 聖女様!」

「構え! Charge!」
 ローグの雄叫びをかき消す様に響いた鋭い女の声。そして聖女の背後にいた死者が跳ね飛ぶ。
「…くっ…。先を急ぐというのに…手を出してしまうとは。だが、多対一の嬲り殺しは…
 騎士として見過ごせぬな」
 風切り音と共に、魔剣の刃についた血肉が振り落とされる。処刑人の名を持つ漆黒の刃は
幾人を切れど曇ることはない。
「女、無事か?」
「どなたか存じませんけど、助太刀感謝♪」
 ローグにとって最後の好機は潰えた。白馬の騎士と聖女。この二人が揃ってしまった以上、
もはや背後の死角は狙えない。ローグは機を見るに敏だった。
「…けっ……覚えてやがれッ!」
「逃がすと思うか! Brandish…」
 背を向けて逃げる男に向かい、白騎士の大剣が瞬時に槍に姿を変え、伸びる…。だが、その
穂先は身を投げた死者の身体で逸らされた。足下から切り上げる別の死者を白馬の蹄が蹴り
砕き、背後から迫る陰はソードメイスの露に変わる。
「まずは、この不浄を消すぞ…」
「承知ですわよ、騎士さん」
「糞…逃げ切れねぇ…! この俺が、こんな…」

「…まずは、一つ目の風…」
 全てを見下ろす天高く…管理者が小さく呟く。瞬間、迷宮の森の空気が翳った。
15593@sage :2004/04/25(日) 21:17 ID:acSNrBs.
最強カップルの戦闘シーン。今一血湧き肉踊らないんですが、その辺は
     (ごめんなさい!
166氏のGMたんとローグさんが脳内で騒いだので、ただの悪党じゃなくなっちゃったのは
     (お察し下さい!
明日はリアル用事なのでこの狂った執筆速度は維持できません。というか、最近アンテナが
     (頑張ってます!

>>148
 PukiWiki、ありがとうございます。一人じゃないって〜素敵なことね〜♪
プリくんは、超豪華キャストの列の前では当初予定よりも弱い役立たずに
堕してしまうわけですが。
 一応主役なので頑張りたいみたいです。
>>149
 安西先生。私も下水リレーを読みたい(し書きたい)です…。
多分、私がかなり阿呆な速度で書いてて、('A`)様も、シメオン君とか使って
勝手な事を私がやる前に本編を進めたいだろうから…速度増加! な訳で
 下水の書き手様が書き込む間が無いんだろうな…とは分かっているのですが。
電波が降りていると、それが消える前に全部書き上げないと不安なんです…_| ̄|○

 後は、このペースで爆撃して三回くらいかな…、と思ってます。はい。
156131sage :2004/04/25(日) 21:34 ID:sLPpM9Ak
>>147
> 一応、固定はぽいっと外してみました。色々人様に聞いてしまったのは
これ私宛だよね?これで解像度の低いノートPCでも読みやすくなったよ。ありがと♪
157名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/26(月) 17:47 ID:3bF2OFxI
 書き込む速度は関係ないんじゃないか、とか言ってみるテスト
 読む人は読みたい人のを読むし書きたいなら書けばいいんじゃね?
 素敵なまとめサイトと某氏が寛大にも公開した個人用の連作のまとめもあるしね
 良作に期待する側としてはざっくざく来てほしいわけで・・・

 ようするに両氏の厚意に敬意を表したい!ごちそうさまでした!
 まだ見ぬ良作に・・・いただきます!
158577と名乗っていたもの :2004/04/26(月) 19:09 ID:k19HMKIo
|∀・)

皆さんの真面目で表現豊かな小説・・・凄いな
地上編続き・・・私のはネタまみれです。

彡サッ
159577と名乗っていたものsage :2004/04/26(月) 19:09 ID:k19HMKIo
私達が揉みくちゃにされながら、再びたどり着いた上水道入り口前では、
先ほどの混乱が続いていたところに突然大量の冒険者たちが歓声と奇声を上げてなだれ込んできたので、
混乱はさらに拡大し、
めいめい勝手なことを叫びながら地下へ行こうとする冒険者達と、それを叱り付け阻む騎士団とで、
無駄でこっけいなドタバタ劇が繰り広げられていたのでした・・・。

「だからー、騎士団なんかにゃ任せておけんジャン!、GVGで鍛えた俺達がなだれこめば一発解決ジャン!な?」

「おおおのれー!!!、騎士を侮辱するかっ!ゆるさんぞー!!!。
トラップもあって危険なのだ!、さがれっ!。」

「そんなのおいらにかかれば解除できるさっ!、いけっファルコンーーーー♪。」

鷹が飛んでいった先にあったと思われる
爆発の罠が、解除されたように見えたのですがしかし・・・

どかんどかんどかどかどかーん

・・・哀れファルコンは真っ黒なヤキトリになってしまいました。
そしてややあって煙の中から光が漏れ・・・

「ん?だれよあんなとこにポタ開いたの。」

「?、わしじゃないぞー、そこらの別嬪プリプリさんじゃないかい?・・・ってのわあああああ!!!!。」

不自然に大きい魔法の門から現れたのは、
不自然に大きい化け物たちでした、
うねうね動く泥の手やぬめぬめした肌のワニが
辺りを見回したと思うと、そこらの人々に
めいめいターゲットをロックして襲い掛かっていきます。
あっというまに上水道入り口付近では、
人間達とモンスターの命を懸けたぶつかり合いが、
激しく強く・・・そしてちょっとヘンテコな精神状態のまま行われていったのでした。

「うは、ちんだwwwww」

「おー、俺ってワニ回避できるようになったんだ・・・。(ぷすぷす)
のわあああ・・・ガゴは・・・ムリポ(ガクッ)。」

「はいはいリサレクションー♪、
そっちの人は4秒まってねー、後で石も頂戴ねー♪。」

「此れは俺の獲物だ、横殴りだぞー!」

「なにをー!?、協力して倒すのだろうがっ!、
騎士に向かって無礼な・・・後で決闘を申し込むッッッ!!!」

「ハンターノオオオオオオ、攻撃力はァァァァァァァァアアア、
世界一ィィィイイイイイッッッ!!!!!」

「ねー、窓手って何が効くんだっけ?火だっけ?」

台詞だけ聞いていると真面目とはとても思えませんが、
調子に乗った冒険者達は騎士達と協力して、
次々現れる化け物たちと互角の勝負をしています。
しかし統率のとれていないこのままでは、内部に進入できるとしても
かなり時間がかかりそうです・・・。
私は手近な負傷者にヒールを連発すると、アチャさんとアルケミさんと
三人一緒に固まったまま距離を十分にとり、
支援魔法を適時かけながら、駆け出したいのをじっとこらえて、
入り口のほうを見つめつづけていたのでした。

ヒュッ

私の横をつむじ風のように駆け抜けていったあのノービスさんが、
行く先のスティングを前方宙返りで飛び越えると、
そのまま後ろから連撃で切り倒して前に進み続けます。
敵の壁に穴があいたところに、その光景を見て血を振るわせたのしょう、
すぐにペコ騎士達が数名突進すると
無茶苦茶に槍を繰り出し、そのあとから増援の冒険者達が、
周囲の戦闘はやっている人たち任せにして、
相手の陣形を突き崩そうと一気に雪崩れ込んでいきました。

「ここで特攻だー!!!、陣形をくずすのだーー!!!
AGI−VIT極騎士の力を思い知れーーーー!!!!」

「・・・あんたソロでどうやってかせいでるんだ?今度教えてくれ・・・」

「ウホッ、いい戦闘!」

「やらないか?・・・ていうかやられたね♪(ガクッ)」

多数の犠牲者を出しながらも、勢いづいた冒険者の突進は
とどまるところを知らず、
ついに化け物たちの陣を真っ二つに割ることに成功しました。
さらにこの光景をみて低級冒険者も我慢できなくなったのでしょう、
貧弱ではありますが支援や攻撃があちらこちらからとんできます。
私はそれを見て胸の奥を熱くしながら、タイミングを計って
アルケミさんのカートを押すアチャさんとともに、
地下の暗闇へと体を滑り込ませていったのでした。

「さあっ、いくよー、一次職だって言って舐めないでよね。
もうすぐハンター転職するんだからそこそこやっちゃうのよーーー!!!」

「あーん、お姉さま素敵♪、しびれちゃうーーー♪」

「(・・・お願いします、神様、皆さんのことを守ってください)」

騎士が体を張って止めたスティングに、火の矢が何本も吸い込まれていきます。
私はポケットの中でお守りのポリンカードを握り締めると、
近くのプリースト様に並んで、前衛の人たちにできる限りの支援を
祈りとともにかけていきます。

「(待ってて・・・ください)」

呟きながら私たちは、化け物たちをなぎ払って
一歩一歩前進していきます。
非力であることは十分承知していますが、
それでも何かの役には立てると信じて、
私は仲間を助けたいと神様に訴え続けながら、
また一歩、奥へと歩みを進めるのでした・・・。
160577と名乗っていたものsage :2004/04/26(月) 19:10 ID:k19HMKIo
|∀・;)

下げ忘れごめん・・・

彡サッ
161名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/26(月) 23:22 ID:jxBdoInE
ふらふらっと思い立ったことを書いてみました。
駄作ですが、置かせてください・・・_| ̄|○
162名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/26(月) 23:23 ID:jxBdoInE
「うふふふっ♪」
怪しい、周りから見ればひたすらに怪しい含み笑いをしているのは、
身軽そうな着衣を着た、青髪を背中まで伸ばした修行僧
「何が、まともに稼げないだろ?よ!」
そう言うと懐に忍ばせた財布を叩く
チャリン
なるほど確かに、それなりの金額が入ってる模様である。

事の始まりは2週間程前、
「姉さんは、趣味に走りすぎだ!
 今までは我慢してきたが、いい加減稼いでくれないか?」
普段は、静かな妹もいい加減に堪忍袋の尾が切れてしまったようである。
と言うのも・・・・
「いいじゃない〜、ちょっと過剰精錬でマフラーを5個失敗したくらいで
 怒らないでよ」
ちなみに、すべて+4から+5にするときにくほられた模様
ひとしきり怒鳴りあってから二人が出した結論は
「わかった、稼いできたらいいんでしょ?」
「出来るものならな・・・」
そうして、その場は別れたのだった。

「ふふん、ラキの奴驚くが良いわ!」
懐に入れた財布以外に、肩に担いだ袋にもなにやら入ってるようで
予想以上の収入を得た本人はご満悦
でも、周りの目は非常に白い
さっきからずっとぶつぶつとつぶやく歴戦の勇士を見ていると、
あーなりたくはないよな・・・等の声がちらほらと聞こえたりも
と、和んだようななま暖かい空気が漂い始めた瞬間
「枝テロだーー」
その時誰よりも早く声に反応したのは、青髪の修行僧だった。
163名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/26(月) 23:23 ID:jxBdoInE
「これは・・・」
生み出すは闇、深淵より彷徨い出た漆黒の騎士
その剣はまさに一撃必殺、その場に居合わせただけの人たちを
なぎ払う、すでに十数名近くがその刃に倒れているようである。
体力のあるものはかろうじて生き延びているようだが、
そのままでは周りの屍と同じ運命をたどることは自明の理であった。
「・・・」
修行僧は無言のまま、正面から距離を詰める
漆黒の騎士は、これに気づき大剣を振るう
無謀、まさに誰もがこの時の彼女を形容する際に選んだ言葉だろう。
「速度増加!!」
だが更なる加速、神速と言えるスピードで騎士に突撃をかける。
さすがの騎士も機を外され振り抜いたところで当たるものではなく
逆に踏み込まれ、高速の8連撃をたたき込む、もっとも効果は薄かったようで
お返しとばかりに返す刃が鋭く彼女をとらえる。
元々連撃で落馬しかけた上での斬撃では、致命打とはならなかったが
落馬した騎士を確認しつつ素早く後退し、右肩を裂きかけた傷を見る
(言葉はいらない、ヒール!!)
熟練した冒険者は、スキルを唱えることなく効果を発動させる
まさに、それを体現したように一瞥しただけで傷を癒す
癒えたのを確認すると、修行僧特有のかまえをし
(気功!!ブレッシング!!)
漂う気弾を作り出し、神の奇跡をその身に宿らす
と、その時驚いたように後ろを見てしまう。
(この場で後ろを見るのは致命の隙でも・・・)
「邪魔!」
一言で切り捨てると彼女はまたも騎士との距離を詰める
その後は、怯えたような顔をしたノービスの少年と少女が残されていた。
(攻撃してこなかった、隙をつく気はないのかそれとも別の意味が)
身体に、特殊なポーション−周囲の空間に干渉し身体能力を一時的に増強するー
を振りかけながら敵との間合いを計っていく
(深淵と私の間合いの差はおよそ3倍、普通に殴りかかったら一瞬で切り捨てられるわね。
 さて、どうしたものかなぁ)
彼女が止まったのは騎士の間合いの一歩外、互いに動けず動かず時間だけが過ぎる。

少しずつ、周りの人が逃げていく
恐怖に凍り付いていたノビもどうやら動けるようになったようで
離れた場所から、修行僧を見ている。
一歩、動ける人が逃げたのを確認した彼女は踏み込む
刹那、今までが児戯だったのを告げるような高速で大剣が振り払われる
そう思われた、しかし現実は、芸術とも言える絵画のごとく止まっていた。
(動揺している、人間ごときに止められないと思っていたのでしょうけどね)
同様は焦りを生み焦りは隙を生む、騎士も分かっていたはず、
けれどその少しの隙が相手につけ込まれる
「はっ!!」
気合い一閃、大剣が砕け散る。
「硬いものほど砕きやすい」
もはや、そんな声すら聞こえていないのだろう。
そんな隙を見逃すはずもなく、踏み込み先ほどの技を繰り返す
「モンクさん危ない!!」
(な、殺気・・右側から)
素早く左側に飛び避けようとしたが、なすすべなく蹴り飛ばされる。
(馬は、反則でしょうが!)
これこそが騎士の狙い、立場は逆転し一気に振りへと追い込まれる修行僧
騎士は、馬にまたがりランスを手に取る
「死ね、人間」
修行僧が強者だったためか、騎士よりの初めての言葉が発せられたが
彼女に聞き取る余裕があったかは不明である。
大地を削り取る一撃、どんな強者でも生き延びることを許さない一撃が放たれる
倒れていた修行僧は、何も残すことはなく消えていた。
164名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/26(月) 23:24 ID:jxBdoInE
爆音、静寂が支配した空間に異音が混じる
「残影って知ってる?」
背後から聞こえる声、今度の動揺は本物だったのだろう
「何故攻撃しなかった」
驚きを持って、相手に問う騎士
「疑問を疑問で返してどうするの
 まあ、あんたは強いしね
 騙し合いはこのくらいにして決着付けたくなったからかな」
気軽に答えてくる修行僧に軽い驚きを感じつているのだろうが
「承知、勝負!」
応と答え小細工無用とばかりに、初めて突進を見せる騎士
その早さは、修行僧の早さすら凌駕していた。
「ブランディッシュ・スピア!!」
先ほどと同じ、必勝の一撃
けれど突進の威力と相まって、先ほどとは比べることは出来はしない。
向かえ撃つ修行僧、静かであるが
騎士すら上回る異常な力の収束、ためた力を解き放つ
「阿修羅覇凰拳!!」
閃光がその場を包み込んだ。

崩れ落ちる騎士、深淵へと戻り行くのであろう
そして、今度こそは静寂がその場を支配した。
165名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/26(月) 23:25 ID:jxBdoInE
「姉さん〜♪」
問われるは青髪の修行僧、問うも青髪の修行僧
違いと言えば、髪の長さと言うべきか
「大見得切ったな、結果はどうだったんだ?」
微笑みをたたえてはいるが、10人に聞いたら9人は
「なんか怖い」と言うだろう表情をした妹
大慌てで答える姉もまた怖いと気付く1人だろう
「あはは・・・、ほら、途中まではいっぱい持ってたんだよ
 で、でも、テロだし大変だし青箱置いてきたら無くなってたし・・・」
先ほどの勇姿は何処へやら、妹に弱い姉である。
「大活躍だったみたいようで、さっきノビ君が褒めていたぞ」
「ええと・・・なんて言ってた?」
答える姉は、満更でもないようであるが
「阿修羅で深淵倒して、その後すぐに周りの負傷者にヒールして回ったんだって?」
もっとも、この時点で次の言葉は予想できたようである
「・・・ごめんなさい、私はまともに稼ぐことも出来ないダメ姉です;;」
「でも、私も命とイグ実を天秤にかけるつもりはない
 反省してるようだし、帰ろうか」
いきなり態度を軟化させる妹に、驚きを隠せないようだが
(まあ、怒ってないならそれはそれでいいや)
その時、ラキの背には無くしたはずの袋が背負われていたけれど
言い訳を考えるのに忙しい姉が気付かなかったのは、また別の話。

END
166名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/27(火) 00:23 ID:NDeRf0X.
('A`) さん
戦闘書写の情報が相変わらず多いので、その情景がイメージしやすいです。
アルバートの神速がペナルティ付きという演出が私の戯れ言で生まれたのだったら嬉しいなぁ(アリエネー
バフォメットが城を離れるという配置変更ネタをさり気なく入れてる所もGJです!
最後の決戦に向けての続編、楽しみにしています。

93 さん
有りそうで無かった?!夢のコラボ ヽ(´ー`)ノ
楽しく読ませて貰っています。コミカルな演出がニヤリとしてしまいます。
話の中心であろう悩めるプリースト君の想いが、今後とうなるのか期待してます (^^ノ

577 さん
私は新参読者なので下水道リレーなるものを知らないんです _| ̄|○
まとめサイトを上げて頂いた方の所に行けば判るのかな〜
ちょっと覗いて勉強してきます。(感想じゃなくってごめんなさい!
167('A`)sage :2004/04/27(火) 17:44 ID:N6FDTCgM
『我が道を、我が意思で 1/2』


嵐のような一夜が過ぎて、赤いリボンを結わえた剣士の少女の姿は騎士団にあった。
彼女だけではない。襲撃されるゲフェンを脱出しようとした面々・・・グレイ=シュマイツァーとアーシャ=ブランガーネの姿もある。
彼女らは審問という形で騎士団から召集されていた。
プロンテラ騎士団内にある円卓の間。円筒形のホールの中心、円卓を挟んだ向こう側に騎士団の幹部らしき初老の騎士と髭騎士。
どちらかと言えば内務に長けていそうな初老の幹部は礼式の白鎧を纏い、髭騎士でさえ、いつもの戦闘装備ではなく簡素な礼服を着込んでいた。
対するグレイはラフなワイシャツにラフなズボン。あまつさえ咥え煙草などを吹かしている、いつものスタイルだ。
アーシャも似たり寄ったりで、ポニーに結わえた自慢の赤毛に枝毛を見付けては、小さな鋏で切ったりしていた。無論、後始末などしない。
「・・・んんっ」
初老の騎士が神経質そうな眉を締めて咳払いをした。髭騎士も仕草で催促する。
比較的セシルは色々とわきまえている方だ。髭騎士の期待がリボンの少女にかかるが、彼女は俯いたまま彼の方を見ようともしなかった。
無理もないか。髭騎士は諦め、立会人として同席する初老の騎士に許可を得てから口を開いた。
「昨夜のゲフェンでの一件に君達が加担していなかったのは明白な事実だ。それは騎士団も認知している」
「・・・せやったら無罪放免やろ。むしろうちらは被害者や。召集される意味が分からん」
事務的に言う髭騎士にアーシャが抗議した。グレイもセシルも彼女の素性を明かしていない。たまたま偶然巻き込まれたハンター、ということになっている。
「だがねぇ・・・無関係じゃないから、こうして秘密裏に審問会なんかしなくちゃならんわけで・・・」
「爺さん達の事なら騎士団のほうがよく知っている筈だ。お前らの下部組織だろうが。経歴から考えれば俺を疑うのは当然だが、無駄だぜ」
今度はグレイがぼやいた。しかし、それにも髭騎士は首を振る。
「騎士団内に紛れていたアウル派は既に処理された。グレイ君にも疑いはかかっていない。問題はそういう疑惑じゃなく、厳然たる事実なんだ」
バサリ、と髭騎士の手から資料の束が投げられた。円卓の上を滑り、グレイの手元まで届く。
「・・・何だよ、これ」
「十五年前に凍結された国の新兵器開発計画の資料だ。検閲の許可は出なかったが、いわゆる黙認ってやつでひとつよろしく・・・まぁ見てくれ」
全く興味を示さないアーシャと、動こうとしないセシルに溜息を吐いてから資料の束を手に取るグレイ。
眼を通した彼は、顔色を変えた。
「ホムンクルス・・・!?十五年前に実用化寸前まで来てたのか!?いや、だが・・・これは・・・!?」
「俺も最初訳が分からなかったんだが、なんとなく流れみたいなものが見えてきた気がしないか?」
グレイが驚愕したのは計画の内容だけではなかった。他界への門を開く門番として作成された人造人間、そのリスト。
<失敗>の印が押された大勢の被験者達の中に、いくつか知っている顔があったのだ。
「アルバート、それにしばしば関係者の口から語られるティータと名乗る謎の少女・・・そして」
淡々と言う髭騎士。
グレイが顔を上げる。髭騎士は目だけを動かし、その人物を見た。
「<ベルゲルミル>No13・・・セシル・・・」
愕然としたグレイの呟き。
赤いリボンを結わえたその少女は、ゆっくりと虚ろな顔を上げた。

「君は計画の最終段階で量産された完成型のホムンクルスなんだそうだ。研究に携わっていた君の父親が、破棄される運命だった君を匿ったらしい」
深い階段を下りていく。先を歩く髭騎士の言葉を聞き流すセシル。
「廃棄理由は門の具象化能力の欠如、戦闘能力の不良。平たく言えば普通の人間と大差ないんだと。そんな君をわざわざ隠した親父さんは、きっと君に何か
特別な思い入れがあったんだろうね」
「・・・」
どうでもいいと思いながらも、セシルは生前の父親を思い返した。罵声を浴びせる酒乱の父親を。
当然、いい思い出などない。死ぬ前も死んだ後も、何一つ。
「・・・違うと思いますよ」
「・・・そうかね?」
「父は私を名前で呼んだ事がありません。失敗作、と・・・そういう意味があったんですね・・・どうでもいいんですけど」
本当にどうでもいいことだ。
――結局、アルバートもティータも見付からなかった。
話の筋からすればティータは無事なのだろう。首謀者だという人物は、彼女を生け捕りにしようとしていたフシがある。殺しはしない筈だ。
アルバートは・・・絶望的だ。彼を生かす理由は何処にもなく、彼の性分からすれば命ある限りティータを守るだろう。居ないのならば、答えは一つだ。
またセシルは沈み込んだ。自分の正体など最初から興味がない。そんなことより、彼が居なければ・・・自分は・・・。
「着いたよ」
髭騎士が立ち止まる。
城の地下へ続く階段の先に、その牢はあった。何も知らされずに連れてこられたセシルは戸惑いながら中を覗く。
誰が居るというのか。
「ドラクロワ枢機卿の御息女・・・セシル君も一度会ってる筈だ」
ジャラリ、と重い鉄の鎖が音を立てる。恐らくは手枷、足枷に繋がれているのだろう。牢の暗がりに、美しい女性が膝を抱えて座っていた。
巻かれた目隠しが何の意味を持つのか、セシルは知らない。ただ、女性は目を隠されてもセシルの方を確かに見ていた。
「貴方とはアルベルタでお会いしましたね、赤リボン」
「・・・フェーナ=ドラクロワ?」
アルベルタの骨董市が行われたホールで、商人の虐殺を指揮していたと思われる女プリースト。バニと協力して一度は追い詰めたものの、女アサシンの乱入で返
り討ちにされてしまった相手だ。捕まっていたのか。
「フェーナ様、約束どおり連れてきましたよ・・・いい加減、エクスキューショナーの在り処を教えて欲しいもんですがね」
髭騎士はうんざりした口調で言った。他にもあれやこれやと注文を付けられたのだろうか。
「・・・断頭台の剣はカピトーリナ寺院に隠してあります」
意外に素直にフェーナが言った。髭騎士は目を丸くし、それから向き直って看守に叫ぶ。
「・・・大至急、カピトーリナに兵を!アウル一派よりも早く魔剣を回収するんだ!急げ!」
「魔剣に触れる事すら出来ないあなた方が、あれをどう回収するのです」
「犠牲はやむを得ない。アウルの手に渡すよりはマシだ」
「それよりもここに一人・・・魔剣を抜く事が出来る方がいらっしゃるではないですか」
髭騎士が怪訝な顔をした。
「私ではありませんよ。目の前に、居るでしょう?」
フェーナはセシルの方を見ていた。目隠しの布がまるで意味を成していないかのように、正確に。
髭騎士は何も言わずにセシルに判断を委ねた。静かに、セシルは言う。
「・・・二人きりにさせてもらえませんか」
恐らくは様々な真実を知っているであろうフェーナ。
知っておきたかったのかもしれない。
全てを。この戦いの意味を。

「物好きな方ですね、貴方は」
牢の前に座り込んだセシルは、フェーナの率直な感想に顔をしかめた。
「そう・・・かな」
「ええ、とても」
彼女の方は向かずに、地下牢のゴツゴツした壁を向いて座るセシル。フェーナも隠された眼を何処か虚空に彷徨わせていた。
互いが、互いに関心がない。全く別の境遇で別の道を歩んできた二人が分かり合う事は難しい。
セシルはフェーナ=ドラクロワの行いが許せるものではないと知っていたし、フェーナは赤リボンの剣士がとても無知なのだと理解していた。
ただ、二人には共通するものがある。
今ここに居るのが自分の意思ではないということだ。
その一点が、この二人の間の壁を緩和していた。
「・・・私はカピトーリナで育ったんですよ」
不意に、フェーナが口を開いた。聞き逃すまいと身構えるセシル。
「ちょうど貴方達<最初のホムンクルス>が処理され始めた頃・・・15年前ですね。寺院の前に男の子が倒れていました」
「男の子?」
「ええ。透き通るような蒼い髪をした、とても凛々しい・・・でもどこか儚い・・・そんな少年でした」


くすんだ黒い雲の環が北の空を埋め尽くす。カピトーリナ寺院の門から空を見上げるアコライトの少女は、嫌な胸騒ぎを感じていた。
アルデバランの空を中心に広がる瘴気の渦が彼女の<眼>に映る。生まれつき特殊な能力を持っていた少女には、ヨーヨー達が騒ぐ理由がなんとなく分かっていた。
しかし、子供。幼すぎるが故に、どうすればいいのか分からない。
寺院の僧侶達に告げるくらいしか思いつかなかった。
駆け出そうとした彼女は、ふと、地面に投げ出された子供の姿を見る。
黒い風が吹き荒ぶ中、彼女は倒れた少年を抱き起こした。行き倒れかもしれなかったが、少女が育った寺院の教え、奉仕の精神が少年を助けた。
この少年が、やがて四本目の魔剣を手に騎士団でさえ手出しの出来ないギルドを束ねる事になる。
少女の腕の中で目覚めた少年は、少女とその向こうに広がる黒い空を見上げた。
安堵した少女が名前を問う。彼は朦朧としながらこう名乗った。

――アウル。

果てのない黒い空の下、二人は出会った。
168('A`)sage :2004/04/27(火) 17:45 ID:N6FDTCgM
『我が道を、我が意思で 2/2』


「・・・ふむ」
「なんや鍛冶師。まだ持っとったん、それ」
円卓の間で渡された資料を手にベッドを転がるグレイ。ソファーでふんぞり返ったアーシャが口を尖らせる。
「ええんかいな?それ、極秘っちゅーやつやろ?」
「おーおー、プロンテラの宿は質がいいな!シーツも上等だぜ!」
「・・・は?」
あくまで資料から目を離さなさいままでグレイが大声で言った。
声を潜めろ、という事らしい。二人が泊まる事になったこの部屋の外には騎士団の派遣した見張りの兵が立っている。
疑いはかかってないとはいえ重要参考人として、二人は軟禁状態にあった。行動も制約されている。
どうやら聞かれてはまずい話のようだ。
「・・・なんなん?」
グレイに近づき、声を押し殺す。彼はアーシャを寝そべったまま見上げて資料を手渡した。
「あのティータって子が居た孤児院の事が書いてあった。アルバートから聞いた話だと、あの子はそこで育ったらしい」
「それがどないしたん?」
「15年前、その孤児院は跡形もなく消えたんだ」
なんやて!?
と、叫びかけて、慌てて自分の口を塞ぐアーシャ。
「・・・おかしいやん。あの子はどう見たって12、3くらいや」
「でも確かに彼女はそこで育ったんだ。記録にも残ってる。問題はそこじゃない・・・」
グレイが指で指し示した資料の最後のページ。
「計画が凍結された原因は、その孤児院が襲われた事にある。その襲ったって奴が素晴らしい」
「・・・メロプシュム・・・って・・・誰や?」
そのページには何も書かれてはいなかった。ただ一行、下の方に書かれていたその名前以外は。
「コモド魔剣戦争の主役。魔剣を使って世界制服だかなんだかってのをやろうとした魔術師だ。勿論、もうくたばった奴だ」
端的に言い、グレイはベッドから跳ね起きた。
「これは俺の推測なんだが、魔女は国王が進めたこの計画を知って・・・自分が持っている以外の魔剣が召還されるのを恐れたんだ」
彼は煙草を咥え、おもむろに八本のマッチを取り出すと、一本ずつテーブルに置いていく。
「まず何百年前かに召還術師が呼んだ四本の魔剣だ。文献によれば魔女の持ってた一本以外は別の勢力が持ってたそうだ。今もこれらは残ってるらしいが、所在は不
明とされている」
四本のマッチが置かれた。
「十五年前の状況がこれだ」
「うちも大体は知っとるよ。噂される魔剣は<オーガトゥース>、<ミストルティン>、<エクスキューショナー>の三本や」
「そう。魔女の魔剣をあわせると四本。となると魔女は五本目以降の召還を恐れたんだってことだわな」
トン、と五本目のマッチが置かれる。
「そんで、その作られたホムンクルスが集められて生活しとったアルデバランの孤児院を潰しに行った・・・ってことやね」
「多分な。だが、そうなると矛盾が生まれてくる」
「矛盾?」
アーシャの問いに、グレイは苦笑して残りのマッチを全部置いた。八本だ。
「現在の話をしよう。ティータが持ってたっていう剣が一本、アルベルタで俺が見たのが一本、敵の親玉がゲフェンで使ったのが一本・・・で、さっき言った四本の魔剣
は言ったとおりちゃんと現存してるらしい・・・合計は?」
「・・・七本やん」
「そうだ」
グレイは一本だけマッチを取り払って、今度は個別に分けた。四本は別にまとめ、残りの三本を分けていく。
「この三本は存在が確定されてなかった。突然降って沸いたかのように、近年になって出てきたものばかりだ。メロプシュムが計画を阻止していたなら、一体誰が召還
したんだ?」
「そりゃ・・・まぁ・・・誰やろ」
「答えは最初から出てる。孤児院の生き残りで、実際に魔剣を持っていた・・・ティータだ。計画は阻止されていなかったんだ」
すっ、と二本がグレイの指によって動かされた。
「アルベルタで俺が見たのと、ティータが持ってたのは、少なくとも彼女が召還したんだろう。一本はベルガモット爺さんが彼女を殺そうとした時に。もう一本は」
「ピンチになったら召還するってことやったら・・・」
「15年前・・・孤児院が魔女に襲われた時ってことだ。これで二本。ここでティータは行方をくらませているんだろう。でなきゃ、魔女があの子を殺しているはずだ」
二本のマッチが取り払われた。
「で、敵の親玉の一本。こいつがもしティータと同じ存在なんだとしたら魔剣を扱えるのも納得がいくし、自分で召還したんだとも考えられる」
グレイの指先が、分けられた一本のマッチをつつく。
「だけどまぁ、自分で好きなだけ召還できたらティータを狙う意味が分からねぇな。逆を言えば、こいつもセシルと同じで不完全だったんだろうよ」
「一本しか呼べへんかったんやな・・・それで・・・」
「唯一の完全なホムンクルスであるティータを狙ったんだ」
しん、と静まり返る。一本の線に繋がった一連の流れがそこにあった。
グレイは深く息を吐いてから、手にしていたマッチで煙草に火をつけた。それから、最後にずっと考えていた疑問を口にした。
「・・・残りは一本」
「へ?」
「魔剣は4本で1セットみたいだからな。2セット目が召還されたんだったら、八本目もある筈・・・ま、これも推測だ」
火の消えたマッチをテーブルに投げた。七本のマッチと一本の燃えカス。これで八本。
「分からないのは最初、敵がティータを殺そうとした事だ。そんなことをすれば魔剣が揃わなくなるんだが・・・」
「・・・んー・・・別に魔剣がなくてもええんとちゃう?」
「あぁ?」
悩むグレイに、あっけらかんとしたアーシャの推察が突き刺さった。
「だってそうやん。無理に全部集めるんやったらまず最初の四本から集めるやろ。そっからゆっくりティータが召還する剣を拾っていけばええんやさかい」
「まぁ・・・そうだよな」
「こう考えられへん?魔剣自体やのうて、魔剣に隠された何かやったとしたら・・・?例えば、宝の地図とか、そんなん」
盗賊らしい発想だ。グレイは紫煙を吐きながら笑う。安直過ぎだ。
しかし、思い当たる。
「そうか・・・座標か・・・!」
グレイは煙草を咥えたまま、資料を手にとって再び中を改めた。
「ど、どういうことや?な、なぁ・・・鍛冶師、どないしたん?」
「単に他の魔剣が脅威だったからかと思ったが、違う。魔剣自体は最低二本で十分だったんだよ」
おもむろに、青髪のブラックスミスは羽根筆を取った。
極秘資料の裏に図を描いていく。
「いいか?この資料に書いてあるとおりなら、門を開くのに必要なのは座標と魔力だけらしい」
「座標やて?」
「ああ。例えばモロクに行きたいとする。ワープポータルや蝶の羽でも必要なように、転移するにはモロクの座標が必要だ」
モロクの点を書き込むグレイ。それから少し離れた位置に、プロンテラ・・・現在位置が書き込れる。
「モロクに行けるならモロクで座標を固定すればいいがそうもいかない場合・・・モロクとの間に川でも流れてるとしよう。モロクの座標を特定するにはどうする?」
「そ、そうやねぇ・・・コンパスでモロクの方角を見るしかないんとちゃう?」
アーシャがモロクとプロンテラの間に線を引いた。グレイは筆を受け取り、首を振る。
「これだけじゃ特定できないんだ。だからもう一点・・・つまり別の観測点が必要だ。今回は暫定でゲフェンにする」
ゲフェンの点が描かれ、線が引かれた。モロク・プロンテラの線と交差する。
「この交差した点がモロクだ。座標ってのは二つの数値で完成する。魔剣は魔界の物だ。見えない部分で魔界と繋がってる。もしその魔界の座標が必要で魔剣を集めたな
ら・・・」
「二本で十分・・・やね」
汗が背中を伝う。
「勿論、検算の必要もあるが今まで集めた魔剣の座標で検算はとっくに済んでるだろう。正確に座標は特定されてる・・・後は・・・開くだけだ・・・!」
二人は、同時に、弾かれたかの様に走り出した。
鍵のかかったドアを蹴破り、外に居た騎士団の見張りを昏倒させる。
「悪ぃなぁ、おちおち燻ってる時間がなくなってね」
「勢いでついてってしもうたけど、どないするん?世界でも救いに行くんか?」
「ははっ、まさか。だりぃし、めんどくせぇし、ガラじゃねぇ」
「奇遇やね。うちもよ」
破れたドアの上でグレイとアーシャは笑い合った。
「でも、何もせぇへんかったら天国のおかんを怒らせそうや」
「・・・あ?」
グレイの口からポロリと煙草が落ちる。確かアーシャの母親は病気で入院している筈だ。それが・・・何だって?
そんなグレイに、アーシャは眩しいくらいの笑顔を見せた。
「言わんかった?もう死んでもうたよ」
「つぁ・・・てめ、一杯食わしやがったな・・・!?」
「なははっ・・・せやから、もうちょい力合わせようや。うちのおかんは怒らせると怖いんよ」
「お前・・・後で絶対騎士団に突き出してやる!」
怒号を上げながら、宿の一階にプロンテラ兵の一団が押し寄せてきた。何やら反逆罪がどうのとか言っているが、まぁ、どうでもいい。
「行こか、鍛冶師。アテはあるん?」
「・・・魔剣に対抗できるのは同じ魔剣が扱えるアルバートかお嬢ちゃんだけだ。プロンテラ城に行くぞ」
「オーライ。アンタ、やっぱり頼りになるねぇ」
アーシャのウインクを完全に無視し、グレイは大挙を成して待ち構える兵士達の中へ飛び込んでいく。アーシャも指を鳴らして相棒を呼ぶ。
「クソ雑魚ども!死にたくなかったら道を開けろ!」
階段の上から跳躍した筋肉質のブラックスミスと、窓から飛来した獰猛な鷹に、兵士達は戦慄した。
169('A`)sage :2004/04/27(火) 17:46 ID:N6FDTCgM
『堕ちた御使いの涙』


アウルが寺院に拾われてから十年の歳月が過ぎた。
美しく成長したアコライトの少女、フェーナ=ドラクロワはその日、いつもの様に、同じく寺院で育ったアウルを起こしに行った。
彼は高僧達の庇護の元に寺院で働く剣士として生活していた。彼はまだ子供だったにも関わらず、騎士に勝るとも劣らない、非凡な才覚を見せた。
書類上の扱いは孤児。だが、その剣才を惜しんだ僧がカピトーリナ寺院の門番として登用したのだ。
かくして彼はカピトーリナに住まう事になったのだが、
「どうせ何も来やしないって。門番なんてするだけ無駄だよ」
これが口癖だった。起きるなり、これだ。
「お役目でしょうっ!アウル?・・・聞いてますか!?アウル!?」
きめの細かい蒼髪に出来た寝癖を手で整えながら、彼はベッドから這い出るとすぐに書庫へ向かう。残されたフェーナはいつも寺院の床に八つ当たりしていた。
剣の腕は申し分ないものだったが、あまり自覚がなく、意欲というものが欠如している少年だった。
唯一、情熱を傾ける知識の探求が彼を一日中書庫で過ごさせ、幼馴染であるフェーナを困惑させる。
もっとも、孤児という身分の彼と、聖堂騎士の長を努める貴族の娘のフェーナでは、なかなか適切な距離とも言えたのだが・・・フェーナはそういった身分の違いというもの
が大嫌いだった。むしろ、憎んでさえいた。
物心ついたときには、彼女は父であるドラクロワ卿の手で寺院に預けられていた。生まれつき奇跡としか表現しようのない能力を有していた娘を彼は疎んじたのだ。
それからずっと、彼女は親しい友人も居ないままカピトーリナで暮らしていた。歳の近い修道士もいたが、身分の差に打ち解けようとはしてくれなかった。
身分の差とはそんなものだ。
しかし、アウルは何処か違っていた。フェーナよりも年下であろうこの少年は、フェーナと必要以上の距離を取ろうとしなかったのだ。
きちんと頼み事を言い合える仲だったし、時には喧嘩もした。そういった意味では友達だったのかもしれない。
ただ、彼の物事の捉え方は達観していた。
「僕はね、フェーナさん・・・自分の生まれた意味が知りたいんだ」
柔らかい陽光の差す寺院の庭で、石の祭壇に本を広げたままアウルは言った。
「生まれた意味、ですか?」
「うん・・・木にも、土にも、水にも、それぞれ生まれた意味があるんだ。でも僕は自分の意味を知らない・・・捨てられてしまった僕に、意味はないのかもしれないけど・・・
それでも知りたいんだ。だから色々と調べてるんだよ」
箒を手にしたフェーナはふと考え込んだ。寺院の教えでは人は皆平等なのだ、とあった。個々の意味を説いた部分はない。
意味など考えるだけ無駄なのではないか。
そう彼に教えたくなったが、言えなかった。彼の一生懸命さはフェーナも知っていたし、なにより邪魔をしたくなかった。
拒絶されるのが怖かったのかもしれない。
彼に好意を抱いていたからこそ、他の修道士の様に・・・避けられるのが怖かったのだ。

フェーナが19の時にアウルと彼女は大聖堂へ呼ばれた。
彼女は大聖堂に所属するプリーストに抜擢されたのだ。一方で、アウルは彼女の従者として聖堂騎士に任命された。
僻地のカピトーリナを出た二人は、世界を回りながら様々な争いを目の当たりにした。
魔族との戦いや人間同士の戦争。
果てる事を知らない憎しみの連鎖を辿るうちに、フェーナは人間の罪深さと魔族の脅威に涙を流した。
これがこの世界なのか。この醜く滑稽な現実が世界を形作る全てなのか。
同時に、アウルはフェーナを守りながら様々な知識を得ていた。禁忌とされる書物も、冒険の中で何度か手にする事が出来た。
そしてプロンテラで、彼は真実という答えを手にした。
トリスタンV世だ。彼はアウルにホムンクルス計画の全容を告げた。勿論、アウルがその生き残りなのだとは知らずに。
フェーナも大聖堂で神の声を聞いた。それはまさに神託としか思えない啓示だった。
『魔剣を持つ者に従い、助け、神の国への扉を開くがいい』
アウルが魔剣レーヴァティンを携えて戻ってきたのは、それからすぐの事だった。

それからアウルは狂ったように戦力を集めた。
ウィザードギルドの研究室で怪しげな野心を抱いていた、自称<最高の魔術師>シメオンを引き入れ、
フェーナの地位と人脈を使って集めたモンク達を軍隊として纏め上げた。
ギルドとしてブリトニアに砦を構えたのもこの頃だ。
しかし、<門>を開くために必要な材料・・・現存する四本の魔剣は既に行方が知れなかった。コモド魔剣戦争は既に収束しており、メロプシュムが所持していたとされる
魔剣も所在が分からなかった。
加えて、門を開いた時にアウル自身がどうなるのか、誰も予想がつかなかった。ともすれば、滅びてしまうかもしれない。
彼らは<代わり>を求めた。そして、見付けたのだ。
メロプシュムが仕留め損ねた最後の一人。完全な召還術の使えるホムンクルスの少女、スレードゲルミル・・・ティータだ。
彼女はメロプシュムの襲撃を受けた際に、自己防衛機能を働かせていた。五本目の魔剣を召還し、魔女を撃退した後でゲフェニアの魔壁の中へ隠れてしまっていた。
時間と空間の閉ざされた異空間の中に。
これは彼女を作った錬金術師の残したプログラムだった。
同じプログラムを持つアウルはそれに気付き、レーヴァティンを使ってティータを燻り出そうとした。ゲフェンの封印が一時的に緩んだのはこの余波だ。
結果としてティータは現世に戻され、魔力の塊と言えるドッペルゲンガーも姿を現した。
この騒乱で娘を失ったベルガモットとその配下の<紅>と<白>も懐柔することが出来た。
後はドッペルゲンガーを捕らえ、その魔力とスレードゲルミル・ティータを使って門を開くのみ。

問題は彼女の出現までに半年の時間が発生したことだった。

容易く実行できたはずの計画はこの半年の間に狂った。様々な不確定要素が発生したのだ。
息のかかった騎士団員によるドッペルゲンガーの捕獲失敗に始まり、
先走った同志の神官の暴走によるゴブリン襲撃事件、
執拗にドッペルゲンガーを狙う復讐者の存在。
これらのファクターは複雑に絡み合い、半年経ち・・・ティータが現れた直後に一本の線となった。
ティータ確保に乗り出した<紅>の前に立ち塞がる、強力なアサシン<黒のアルバート>。
シメオンの愚かな策によって怒り狂い、手に負えなくなってしまった高位魔族、ドッペルゲンガー。
十五年前にティータが召還した魔剣<エクスキューショナー>の回収に乗り出したフェーナに挑む<赤リボン>とそのパーティ。
イレギュラー達の前に、圧倒的実力を持っていた筈の仲間達が敗れていく。
170('A`)sage :2004/04/27(火) 17:47 ID:N6FDTCgM
そしてフェーナ自身も赤毛のハンターの前に倒れた。
ベルガモットの死も、無限の視野を持つフェーナは既に知っている。
大勢の仲間を失い、ようやくティータを手に入れたアウルが何処へ向かったのかも、知っている。
「・・・アウルはジュノーを攻めます。<ユミルの心臓>の魔力を、ドッペルゲンガー達から得るはずだった魔力の代わりにするつもりです」
ひときしり語り終えてから、フェーナは言った。話半分に聞いていたセシルはやっと出てきたヒントらしき言葉に顔を上げる。
「魔剣なしでも、その・・・<門>とかいうのは開けるものなの?」
「<レーヴァティン>と、スレードゲルミルがまだ召還していない<オーガトゥース>があれば可能です。今までの魔剣収集は脅威となりうる他の魔剣の排除と、座標
確保の為の確認の意味合いしかありませんでした。要するに保険です。今やミストルティンのデータをも手にしたアウルは、迷わず門を開くでしょう」
「ティータちゃんを使う・・・ってこと」
「門を開いて、不完全なアウルがどうなるのかは分かりません。スレードゲルミルの能力が生きていた以上、彼女を利用するでしょうね」
沈黙が落ちた。ティータが過去にその能力を発現させているとは言え、今度も無事とは限らない。
第一、アウルの目的が神界へのゲートを開く事なら、そもそも魔剣を使う意味が分からない。そんなことは学のないセシルにも分かる。
彼は魔界を開くつもりなのだ。
「私はきっと愚かだったんですね」
どこかぼうっとした言葉が漏れた。これもきっと独白だ。セシルには分かった。
フェーナはそのアウルという男を愛していたのだ。神がなんだかんだと理由を付けて、一緒に居たかった自分を正当化しただけだ。
自覚も、今となってはあるのだろう。愚かというよりは・・・盲目だった。天恵の力を持ちながらにして、これはあまりに残酷な皮肉だろう。
「・・・アウルを止めてもらえませんか」
「・・・え?」
そこで初めて、セシルはフェーナの方を見た。
「アウルは・・・もう私の念話さえ遮断しています・・・きっと、彼にとっては私も他の同志達も捨て駒でしかなかったんですね・・・でも私は信じたい・・・だから彼に愚かな行為
をこれ以上、積み重ねて欲しくはないんです。彼を止められるのは、同じ力を持つ貴方達だけ・・・身勝手だとは承知しています。ですがどうか・・・」
「あ・・・えっと・・・信じたかったのは分かるんだけど・・・そいつ・・・絶対悪い奴だよ?」
目隠しから溢れる涙にうろたえながら、断言するセシル。
女性を泣かせるのは良くない奴の証拠だ。気立てはいいが、利口ではないセシルの考え付く精一杯の悪口。
そういえば、前に似たような事があったような気がしたが・・・それは置いておこう。思い出さないほうがいいのかもしれない。
「それでも・・・お願いします・・・」
「・・・ん、分かった・・・でも」
おもむろに立ち上がり、壁に掛けてあった牢屋の鍵を取るセシル。そのまま、彼女はフェーナの牢の鍵を開けた。
「そういう奴って、ひっぱたいてやろうとか思わない?っていうか、そうしてくれると良いかな・・・珍しく沈んでたのに、こっちまでムカついたよ」
整った顔を微妙にひきつらせ、セシルが言う。フェーナはひたすら意外な顔をしてから、泣きながら笑った。
「貴女って人は・・・」
この少女は強い。肉体的なものでなく、魔力的なものでもなく、心が強い。
アルベルタで出会った時も、圧倒的優勢だった自分に対して臆することなく挑んできた。
迫る障害を避けるのではなく、蹴倒して踏み破る強さ。打たれ強さとでも言うべきか。今は、それがとても心強い。
「おい貴様ぁ!何をやっている!」
衛兵の一人が牢を開けるセシルに向かって怒鳴った。彼女は実力行使に移ろうと、腰に手を伸ばすが・・・空を切る。
「・・・・・ない」
怒りのうちに忘れていた。鞘だけになったバスタードソードが虚しく揺れる。
「あぁ!もうっ!嫌だなぁ・・・」
だが、彼なら・・・アルバートなら同じ事をしたはずだ。誰を敵に回そうが関係ない。
構わず、鉄製の鞘を握り締め、彼女は駆けた。槍を構える衛兵との間を詰め、その槍の切っ先を見切る。
次の瞬間には既に衛兵が床に突っ伏していた。後に立つセシルは大きなリボンを両手でガッチリと握っている。癖だが、今回は特別にストレスが大きかった。
手枷と足枷を術で切り、フェーナが牢から出てくる。紫の僧衣ではなく、粗末な衣を纏っていたが逆にそれが彼女の美しさを際立たせた。
長く真っ直ぐに伸びた髪が揺れる。思わず、女のセシルでさえ見惚れてしまうほど綺麗だ。
「すみません・・・行きましょう。この城を出ればワープポータルで移動できます」
「えー・・・あー・・・うん・・・そうだね・・・」
目隠しを外しながら言う美貌の神官に、セシルは不公平な世の仕組みを感じずにはいられなかった。
171('A`)sage :2004/04/27(火) 17:48 ID:N6FDTCgM
『決戦前夜 セシル編』


城門が騒がしい。
髭騎士はどうも知っている気がする騒乱の中心の二人を城のテラスから見下ろして、確信してから・・・深い溜息を吐いた。
それはもう『ウンザリ』という口調でぼやく。
「やっぱり騒ぎを起こすわけか・・・もう知らんぞ、グレイ、怪盗」
青髪のブラックスミスと赤毛のハンターは兵士の殺到するプロンテラ城門を抜けて中に突入してきた。
テラスからそれを見届けた髭騎士は、愛しそうに髭を撫で、ゆっくりと振り返る。
「話は済んだかい、二人とも」
テラスに上がってきた赤リボンの剣士と、後に続く囚人の姿を見てから言った。これも予想通りだったのか、彼は動揺も困惑もしなかった。
逆に、落ち着き払った声色で聞かれたセシル達の方が戸惑った。待ち伏せでもされたのかと周囲を警戒するが、他に誰の姿もない。
「グレイとポリンも上がってくるぞ。二人が来たら、さっさと行くんだ」
「・・・どういう・・・?」
アーシャが怪盗ポリンだと言うことを知っていたのがどうというわけでもなく、セシルは純粋に髭騎士の意図が分からなかった。
髭騎士は僅かにフェーナに目配せしてから、口を開く。
「いいかい?この国はセシル君が思っているほど平和でもなければ、もう正しくもない。そういう大きな間違いを正すのは・・・我々騎士団でなく君達、冒険者だ」
風が吹いた。髭騎士のくすんだ外套がはためき、セシルの髪とリボンが揺れる。
不思議な空気が流れた。
「意味が・・・分かりませんが」
「・・・ははっ、今はそれでいいかぁ。でもまぁ、いつか俺達の意志を継いでくれることを祈るよ」
髭騎士は手に持っていた衣装をセシルに投げ渡した。軽く頑丈な金属で編まれた鎖帷子が仕込まれた服。騎士団の紋章が刻印されていた。
これは?
セシルが問うより早く、髭騎士は高らかに告げた。
「セシル=リンガーハット!君は今、この瞬間から栄誉ある騎士団の一員だ!以後、誇りを持って剣を取れ!」
「は、はい!?」
面食らうセシル。その背後で、テラスの出入り口が勢いよく開かれた。
グレイとアーシャだ。気絶した兵士の山を背に、セシルとフェーナに手を伸ばす。
「お嬢ちゃん、無事か!?」
「おーおー、似非神官もおるやん・・・こりゃおもろいねぇ」
「・・・下がってください、ポータルを開きます」
フェーナの短い詠唱と共に、青い光の柱が完成した。どうやら事情を飲み込んだらしいグレイとアーシャは迷わず飛び込み、光に消える。
「セシルさん、貴女も」
「ちょ、ちょっとま・・・」
フェーナに押されてポータルに乗るセシル。転移する刹那、髭騎士を見たが何も言えないままに彼女は粒子になった。
「・・・ベルガモットがどうなったのか教えてもらえませんかね?」
プロンテラの空を振り返り、髭騎士はフェーナに尋ねた。彼女は沈黙で返し、髭騎士は嘆息する。
「奴らしい最期ですな。トリスタンの為に死ぬより、戦士として・・・いや、父として逝きましたか」
「・・・マスターナイト、貴方はどうするのです」
「その呼び方はやめてくれませんか、百眼のドラクロワ・・・いえ、フェーナ様。貴方とアウルのパーティを去った時、私はトリスタンの元で働く騎士団員になった。
これからもそうですし、そうであると思います」
悲しげに頷き、フェーナはポータルに足を踏み入れた。髭騎士は彼女を振り返り、言う。
「・・・騎士団はアウル一派を追撃します。文字通り戦争になるでしょう。無論、貴女も例外ではない・・・お気を付けて」
「・・・ええ」
フェーナの姿が掻き消え、ポータルが収束する。残された髭騎士はまた空を見上げ、殺到してくる兵士達の反応の鈍さに苦笑した。
そして、顔を引き締め、叫ぶ。
「さっさと追撃隊を編成しろ!ジュノーへ進軍するぞ!このヒヨッコども!」
空が青い。
友が召された空が、晴れていて良かった。
かつて騎士の中の騎士と謳われたその男は、満足に戦えない兵卒達を前にして鬼の檄を飛ばした。


カピトーリナの世が更ける。
あまり人気のない寺院の片隅で鈍重な墓石がゆっくりとずらされた。石に両手を付き、力を込めるグレイが呻く。
「うがぁぁ・・・重いんだよこのクソ石・・・!」
「ヘイヘイ!ガンバレ鍛冶師!」
楽しそうに彼を応援するアーシャはポニーを揺らしながら手を叩く。墓地だというのにどこまでも陽気だ。グレイは呆れながらも更に力を加えた。
「申し訳ありません。万が一の事も考慮して厳重に封印していたもので・・・」
茂みから現れたプリーストが心底申し訳なさそうに言った。月下に紫の法衣と美しい顔、そして足元まで伸びた長い髪が映える。
冗談よろしく被った看護帽が、動揺するグレイの心に拍車をかけた。好みのタイプだったのだ。
プリースト、フェーナは硬直するグレイを見て小首を傾げる。
「・・・?」
「け、け・・・結婚してくれ!」
「阿呆かっ!」
騒ぐグレイの頭部に、アーシャの激しくしなやかな踵落としがめり込んだ。墓石ごと七転八倒するグレイ。しまった、やりすぎた。
何故か微かに頬を赤らめたアーシャは咳払いをしてから、無事に外れた墓石に満足げに細い足を乗せた。
「まぁ・・・開いてえかったやん」
「どこがだっ!?」
喚き立てるグレイをうざったそうに払い除けるアーシャ。
不意に、墓石の下にあるレリーフにはめ込まれた黒い両手剣が不気味に輝いた。
エクスキューショナー。数多の咎人の首を刎ねたとされる魔剣。この剣が魔界の物だとすれば、無論、その罪人達も魔族だったのだろう。
強力な瘴気を纏う剣に、茶目っ気の多いやり取りをしていたグレイもアーシャも押し黙った。やはり本物らしい。
そして、この剣を手にする事が出来る少女が、フェーナの着替えていた茂みからおずおずと出てきた。
赤い大きなリボンはそのままに、長いスカートの戦闘衣装から、騎士団正式採用の制服・・・動きを制約しないよう短めに作られたベージュの鎖服と、同じく短めに繕われ
た装甲付きのスカートに着替えた金髪の少女、セシル。
慣れない服装を晒した彼女は皆の前で少しはにかんだ。
「・・・どう見たって立派な騎士様だなぁ」
「おろ?結婚してくれ、はないんか?」
「馬鹿言え、俺はもっと大人な雰囲気のミステリアスな女性が好きな・・・おがぁっ!?」
再び踵落としをもらってくず折れるグレイに、フェーナとセシルは顔を見合わせて苦笑した。そして、フェーナがエクスキューショナーをレリーフから取った。
神の庇護を受けた彼女だからこそ、この魔剣を取ることが出来る。とはいえ、振るうことは叶わない。
その役目は、目の前の小さな騎士に委ねるしかないのだ。いつの間にか起き上がったグレイも、いつもは愉しげに笑うアーシャも、真摯な顔付きでセシルを見つめる。
フェーナがどこか悲愴な顔で魔剣を差し出した。
「・・・覚悟は出来てますから」
三人の眼差しを困った様な笑みで受け、セシルはフェーナの手から黒の魔剣を受け取った。
グレイの脳裏に、アルベルタのホールで見た商人の末路が過ぎる。しかし、何の変化もなく、セシルの手の中に魔剣は納まっていた。
ほっとする。フェーナもアーシャも表情を緩めた。理屈で分かっていても恐ろしいものだ。
むしろエクスキューショナーは溢れ返させていた瘴気を完全に消していた。月明かりに輝く刀身からは、暖かでさえある光が反射する。
セシルは、ぼうっと魔剣を見ていた。
忘れかけた自分の半身。閉じかけていた記憶が、ゆっくりと開かれていく。
172('A`)sage :2004/04/27(火) 17:49 ID:N6FDTCgM
―――おかえりなさい、セシル

突然呼ばれ、セシルはビクッと身体を震わせた。周囲の景色はカピトーリナ寺院のそれではなく、何処までも続く海の底。
海の底、というのもはっきりしない。ただ、果てのない紺色の水が続く世界だ。
自分とよく似た少女が、どろりとした水の中を漂っていた。ずっとずっと、小さな頃のセシルが。
幼いセシルの首には粗末なチェーンに付けられたネームプレートがかかっていた。見なくても分かる。知っている。
「ベルゲルミル」
そう書かれている筈だ。
試験管の中で生まれた沢山の哀しい化け物の中の一匹。十三番目として作られた『その他大勢』の中の一体。
あどけない、幼いセシルの眼がぎょろり、とセシルの方を向いた。
(おかえりなさい、セシル。私を思い出したのね)
「・・・うん」
水が揺らいだ。
「お願い、力を貸して・・・ベル」
(なら私を受け入れなさい、愛しいセシル。憎んで、怒って、身勝手で醜い人間達に復讐しなさい)
セシルの足元で泡が生まれた。大粒の水泡が浮き上がっていく。その一つ一つに、今まで対峙してきた<敵>の姿が映った。
訳の分からない妄想にとり憑かれた神官や、フェーナにバニ。多くの忌々しい戦いの記憶。
(人はこういう生き物・・・貴女を傷つけるわ。だから、やられる前にやってやりましょう)
「ベル・・・貴女がどうしてこんな試験管の水に浸かってるのか、私はもう思い出したの」
(・・・)
ベルゲルミルが押し黙った。何処か遠くで、温和な老人の声が響いてくる。
「失敗作の烙印を押されて、孤児院に押し込まれて・・・あのままだったら、きっと処分されてた」
(そうよ!彼らは作っておきながら、私たちに心を与えておきながらそれを踏み躙る。いつもそう。だから・・・)
「違うわ!私たちが生きているのはスレードがメロプシュムを退けたからじゃない、お父さんとお母さんが逃がしてくれたからよ!」
ゴボリ、と一際大きな泡が生まれた。
その鏡面に映る光景。年老いた錬金術師が、幼いベルゲルミルを一組の夫妻に託した時の光景。
「でも、お母さんは死んだ。私達を守るために」
騎士団の追っ手の刃に倒れる妻を、夫が抱きかかえて泣いていた。投げ出されたベルゲルミルは悲しみと怒りでその機能を発現させる。
追っ手を一掃したベルゲルミルは心を閉ざした。代わりに、人間として作った人格<セシル>を残して。
「お母さんを失って・・・お父さんは私を憎んだ。でも、憎み切れなかったのね・・・だから私を王に突き出したりはしなかった」
(自分が捕まるのを恐れたのよ!)
眼を伏せ語るセシル。必死にそれを否定しようと声を荒げ、両手を広げるベルゲルミル。
(憎いでしょう!?辛く当たる父親が、こんな風に作ったあの錬金術師が、憎いでしょう!?)
「ベル・・・お父さんも、お爺さんももう死んだの。何処にも居ない。復讐なんて無意味なの」
不意に、水の中に光が差した。
水底に突き刺さったエクスキューショナーが照らされ、まるでセシルを待っているかのように輝く。
「お父さんが死んで・・・剣士になって冒険に出た時、これからもっと楽しい事が待ってるんだと思った。お金を稼いで、戦って、色んな物を見て。そうすればきっと、辛
思いなんてしなくて済むんだって・・・思ってた」
水の中を、折れたバスタードソードが転がっていった。
「『自分からは逃げられない。死ぬまで自分でしかない』・・・何処まで逃げたって、同じ。逃げるのは簡単だけど、同じのままか、悪くなるだけ」
アルバートの言葉だ。セシルは微かに唇を緩め、ベルゲルミルを見上げた。
「行こう・・・皆、待ってる・・・貴女の力が必要なの」


「おい、お嬢ちゃん!大丈夫か!?おい!?」
激しく前後に揺さぶられている。目を覚ましたセシルは乗り物酔いの様な、なんともいえない倦怠感を覚えて表情を歪めた。
胃が掻き回されたかのようだ。気分が悪い。
「だ、大丈夫ですってば・・・」
肩を掴んでいたグレイは胸を撫で下ろし、安堵した。様子を伺っていたフェーナとアーシャも安心して表情を緩める。
「急に黙りこくって・・・どないしたん?」
アーシャの問いにセシルは曖昧に頷きつつ、手元に転がっていた魔剣を拾った。
「ちょっと・・・昔の知り合いに挨拶してきただけです」
エクスキューショナーを拾った瞬間、変化が現れた。金色の髪が瞬く間に白く染め上がり、彼女の大きな青い瞳が赤く輝く。
本人には自覚が無かったが、目の当たりにした三人は言葉を失った。誰も予期しない変化だった。
ただ、セシルは感じていた。ベルゲルミル・・・彼女の力は、今や自分と共にある。
セシルが手を離した瞬間、魔剣は虚空へ消えた。浮き上がっていた白い髪も元通りの金色を取り戻し、眼の輝きも消える。
エクスキューショナーは彼女の物となった。『出し入れ』も自在だ。
「・・・これでそのアウルとかって奴に勝てるのか?」
「え?えっと・・・どうなんでしょう?」
酷く心配そうに呟くグレイ。憑きものが落ちたような清々しい顔をするセシルだったが、その質問の答えは分からなかった。
「アウルの率いる戦力もまだ無視出来ません。苦しい戦いになります」
「なんだかんだ言うて、ゲフェンも苦しかったやん。今度は攻める番やし、こっちの方が楽やろ」
顎に手を当てて考え込むフェーナと、あくまで陽気に構えるアーシャ。
「そういえば、貴方がたはいつもそうでしたね・・・それに『彼』もまた、魔剣と共にジュノーを目指すようです」
「彼・・・って、まさか」
頷くフェーナ。セシルにも分かっている。ティータ以外で魔剣を扱える筈の男は、彼しかいない。
「あのアサシンもしぶといなぁ・・・このブラスミもやけど」
「アイツがそう簡単にくたばるかよ」
光明が見えた。赤毛のハンターは弓を携え、矢筒に矢を補填する。煙草を咥えたブラックスミスは武器と薬品を満載したパンダカートを引き、斧を担ぐ。
プリーストが杖を掲げ、転移魔法を詠唱した。彼女の置いた青い石が砕け散り、決戦の地への道が開かれる。
「行きましょう、ジュノーへ」
小柄で華奢、決して強くはない騎士の少女は言い放ち、赤いリボンをきつく締め直した。
173('A`)sage :2004/04/27(火) 18:06 ID:N6FDTCgM
出張先から今晩は。駄文投下です。
また長文となってしまうことをお許しください。長さについて言及してくださった
139氏と149氏に感謝。最後まで頑張ります。
166氏…まさか、あの時の…!?(ぇ
17493@のたうつ妄想sage :2004/04/27(火) 20:06 ID:AEyQxQFI
 聖騎士団の波状攻撃は続いていた。バフォメットの鎌に命を刈られた者以外は、最小限の
手当てで復帰してくる為、人数以上に戦いは長く続く。
 初手の大魔術の応酬以後、原始的な肉弾戦になっているのは、手の内を知り尽くしたもの
同士の戦いゆえ、当然のことなのかもしれない。油断をなくした魔王を人の詠唱速度で陣に
捕らえるのは難しく、魔王の詠唱速度を持ってしても、司教の聖体降福の隙を突くことはでき
ない。
『ふふふ…やるな、人間!』
「…第六陣、本命を叩き込め!」
 それに答えるかのごとく、聖騎士団の長が号令をかける。それまでと違うのは、自らも
突撃に加わった事だ。

「…ようやくですか…。良くやりましたが…これまでのようですね」
 隊列から離れ、傍観者となった魔術師がため息をついた。彼の見たところ、既に魔王との
戦の趨勢は決している。本来、初手の一撃で魔王を倒せなかった以上、彼らに勝機はなかった。
それでも戦いを続けるのは、魔術師の理解を超える。
「譲れない…信念、ですか? くだらないですね」
 そういいながらも、その場を離れられない自分についてはもっと理解出来ずに、魔術師は
苛立ちを深める。魔術師がその理由を見出すのは、もっと後…。次の世界の危機まで、時を
必要とした。


 対する魔王は、悠然と鎌を構えた。最後に加わった最後列…、袖に赤い布をつけた聖騎士達は
それまでの兵と違い…重い両手槍を軽々と操る様は見事ではあれど、防御が隙だらけだったのだ。
いっそ無造作という様子で振られる鎌は、一閃で一人、時に二人を刈り取っていく。

 目覚め、血の匂いと死の匂いに誘われるままに歩いてきた青年が見たのは、そんな光景だった。
「……待って! 彼らは…」
 後ろから声がかかった事、それ自体に気を取られて、踏み込みが甘くなった魔王の一撃は、
聖騎士団長の盾に阻まれる。
「…団長も! 引いて…引いてください!」
「…引けぬ!」
「…何故…何故です! 俺を追ってきたなら俺を討てばいい。何故こんなに…仲間が死ななきゃ
 いけないんですか! どうして…」
 バフォメットの手にかかったかつての同僚の死骸。その光景と、死の匂いに青年は歯噛みする。彼は真実を知りたかった。何よりも、自らの苦悩の救いを求めた。その結果が…これ。
『うぬぼれるな、若造…!』
 もう一人、聖騎士の兜を砕きながら、魔王は吼えた。
『我とあの者の関係。…魔にも人にも、神にも敵意を生んでおる…。お主が来たのは呼び水に
 なったに過ぎぬわ』
「こやつこそは…血で決着をつけねばならぬ敵…魔族!」
 がきぃん、と鋼鉄色の音を上げて盾と鎌が打ち鳴らされる。攻撃に、防御に。団長は剣を捨て、
盾を変幻自在に操る。
「…その悪魔は、かつて我らの元から…皆に愛された娘を奪った。そして、今度はその娘が皆の
 愛する子…お前を奪う。神は許せという…なれど、我等はな…許せぬのだ」
 凄絶な斬り合いを背景に、恬然と語る司教の声が青年の胸を刺した。
「同じものを愛するならばこそ! 話せば…どうして許し、語り合えないのですか、師よ…」
 青年の嘆きに微かに自嘲の笑いを漏らす司教。彼には、もはやそう信じられるだけの若さは
ない。代りに信じるものは魔を絶つ、その一念のみ。その障害をなすものは…
「…戦闘司祭たる者…己の信念を貫くは戦いあるのみ…。お主が魔を擁護するならば、もはや、
 我を師父とは呼ぶまいぞ? 吾子よ」
「……!」
 自分に向かって構えられる武器…。青年はそれを見た。
(俺を、師父が殺す…師父はもう俺の師父でハナイ…ナラバ俺ハ何ダ…)
「うああぁぁぁぁーーぁぁぁぁあああ!」
 ぶつり、と音を立てて何かが切れるのを感じて、青年は、…声を上げて逃げ出した。司教は、
それをゆっくりと見送る。沈んだ表情で。
「許せよ…わしにはもはや、敵なれば討つことしかしかできぬ。せめて…去れ、吾子よ」
17593@のたうつ妄想sage :2004/04/27(火) 20:07 ID:AEyQxQFI
『お前は歯応えがある…楽しいぞ』
 団長に礼を払うかのごとく、魔王は一瞬たりとも手を休めず、恐ろしい速さで突き、払い、
そして薙いだ。それを受け流す度に団長の盾と全身に軋みが走る。根本的な力量の違い、それを
百も承知の上で、彼は待った。そして、彼の狙う角度、狙うタイミングで鎌が振るわれた瞬間。
 口元に血泡を滲ませながら、団長は雄叫びを上げた。
「勝ったぞ!」
 大地に脚を突き、自らに刺さった鎌を両腕で掴んだまま、団長は死んだ。魔王の鎌が、戦いが
始まって以降、初めて動きを止める。その脇を、最後の聖騎士がすり抜けて行く。その袖に翻るは
赤。生きて帰らぬ覚悟のものが纏う色。
「神よ…魔を討つ為に我らが血肉を捧げん…我らが意地を見よ! Grand Cross!」


「……これはいけない」
 迷宮の森を疾走するペコに乗る、軍帽のクルセイダーとアコライトの少女。前者はペコを
駆るのに余念無く、後者は初めて乗る軍用ペコから振り落とされぬようにしがみつくのに必死で、
今まで会話らしい会話が無かったのだが。
「…な、何がですか」
「どうやら迷ったようだ」
 あっさりと答えるクルセイダーに、少女は殺気一歩手前の視線を向ける。その視線を軽く
いなし、クルセイダーは考え込むかのように眉根を寄せていたが。
「よし、詳しい者に聞くことにしよう。そこの君…」
 誰もいない木立に向かって声をかける。その木立が揺れた。

『……!?』
 完璧に気配を消していたはずの、魔界の偵察隊長ゴーストリングは確かに自分が動揺するのを
感じた。既に取り巻く部下達は森の各所に散り、いたのは自分ただ一人なのだから、余の者が
露見したのではない。しかして、その人間の次の言葉は彼の困惑を更に深めた。
「すまないが、ちょっと案内を頼みたいんだが」
『……』
 この聖騎士、どうやら戦って勝てる相手ではなく、油断ゆえに不用意な接近を許した現状では、
飛び去ることも難しい。悩めるゴーストリングに、クルセイダーは安心させるように笑いかけた。
「ああ、警戒することはない。この子を頼みたいんだよ。…頼めるね?」

 そして、今。本来は実体がなく、それゆえに今の転移制限空間でも容易に飛べる彼は、あえて
実体化して飛んでいた。その背には一人の少女。悪魔としての格の割りに小さな彼は、ちょうど
その少女にまたがられるくらいの大きさでしかない。
「…不浄な…どうして…」
 薄物越しに感じる冷たく湿った霊体に少女は不快感を露にする。
『…同感ダ』
 ゴーストリングは人ごときの足下…否、尻下に敷かれる屈辱を嘆く。ぶつぶついいながらも、
二人…あるいは一人と一体が同行しているのはひとえに、あのクルセイダーに説き伏せられた
からに過ぎなかった。

「どうして私が…」
『…コノ女ガ…ソノ人間ニ会イニ行ク事ガ…我ラガ王ト…』
「先輩を救けることになるのですか?」
 口々に問い詰める彼らを、クルセイダーは宥めるように両手で制し、当たり前のようにこう
いったのだ。
「絶対にそうなる、と確信があるわけじゃない。まぁ、私を信じてくれないか?」
 二の句も告げない二人に、彼はゆっくり首を振りながら、こう続ける。
「…本当なら私も行きたいのだけど。同じように迷ってしまったらしい知人を拾っていかないと
 いけない」
 困ったように、そう言った彼を信じて悪魔の背に乗った少女も少女なら、その男を信じて
部下に知人とやらを探させたゴーストリングもゴーストリング。
「…どうかしているわ」
『同意ダ。…アレガ王器ト言ウ物カ』
「…え? きゃあああ!」
『旋回ノタビニ耳元デ怒鳴ルナ。耳ヲ掴ムナ…。騒ガズトモオ前ノヨウナ小娘ニ何ヲスル気ニモ
 ナラヌワ』
 アコライトの制服は魔物をまたぐようにはできておらず。結果として、スカートの下からもご
もごと言うゴーストリングの声は多少くぐもっていた。
17693@のたうつ妄想sage :2004/04/27(火) 20:08 ID:AEyQxQFI
 閃光。そして先のバフォメットの雷鳴に勝る爆音が木々を打ち倒す。よろめき、膝を突き、 それでも…魔王は生きていた。その右脚はえぐれ、骨までが見えている。逆の脚は膝下から
消えていた。深手なのは間違いない。

 通常の威力ではありえなかった。

「…馬鹿な…神よ。これは…一体」
 自失したように震える司教の声を、怒りに震える魔王の声が圧した。
『…己を信ずる者の…輪廻の糸を切り…魂までも破滅させて。それほどまでに我とかの者を
 拒否するのか…神よ!』
 聖騎士の秘技。グランドクロスと言われる技は自らの身体に神の力を受け入れ、周囲に
波及させる。受け入れる力は人とは異質。ゆえに、技の使い手にとってもそれは命に関わる技。
 しかし、今失われたのは命だけではなかった。新たに転生し、生まれなおす魂の器…それ
すらも砕く、人一人が行使するには大きすぎる力。神が今、聖騎士に注いだ力は、それだった。
「神よ…我等に…死のみならず、滅びまでも捧げろというのですか…」
 司教がかすれた声で呟く。その頬を、ざわりとした風がなでていく。死者の怨念と、残された
者の諦念と。


『それが一つ目の風。二つ目は…私自ら吹かせましょう』

 蒼穹の高みから、地を目指し駆ける白い少女は地に接する寸前で速度を殺したが、常人には
突然降って沸いたようにしか見えなかっただろう。僅かに消しきれなかった空気の揺らぎが
その少女のスカートの裾を揺らす。神の御使い…管理者。
「…お前は!」
「…まさか、生きてるとは思わなかったわ…」
 白き騎士と、聖女との歩みを止めるに十分な威圧感を、その小さな背中は発していた。
「…けっ…た、助けてくれなんて言った覚えは…」
「あなたを助けたわけではないわ。…あなたの助けが無ければ、私ではあの二人を狩れません」
 管理者は、二人の強敵に背を向けたまま、ローグの手を取る。その手に、ほんの少しの冷たさ
と共に置かれたのは小さな、一口大のたまごだった。
「…それは悪魔の卵。人はカードに残る残滓から、装備を媒介にすることで魔の力を得ています。
 それを直接…余さずにその身に得る手段がそれです」
「馬鹿な! 貴様、何をしているかわかっているのか…! それは…」
 叫ぶ白騎士を意にも介せず、管理者は続ける。
「人がこれを口にすれば、5分で枯れつくすでしょう。人と魔の相反する力ゆえに」
 ごくり、とローグの喉がなる。
「私は力を手に入れる方法を見せるだけ…それをどうするかは、貴方にお任せします」
 それは、二つに裂けた異相を別にしても…。神の御使いを名乗るものがするには相応しくない、
悪魔の誘いだった。
17793@のたうつ妄想sage :2004/04/27(火) 20:21 ID:AEyQxQFI
爆撃完了…
何でこんなに長くなるのか。自分で不思議でしょうがありません。

>>156様 すみません、レス番間違い。釣りAA略!
>>157様 あい。単純生物なのでそういわれると頑張ります!
>>某577様 逆にネタをこっそり台詞とか描写に混ぜるだけしか出来ない自分は
    師の軽妙な文体がうらやましいです。 >殺してでm(略
>>162様 騎士な深淵様かっこいー! です(見るとこが違う!?
    阿修羅モンクもいいですねぇ…。スロット余ってないけど…。
>>166様 ありがとうございます! えーと…コミカルな演出…。今回はが○だむ
    が二箇所ですよ…(笑
>>('A`)様 セシルたんが! 強くなったーーー!
    やっぱ主人公だしな…うちのプリくんも覚醒とかしないとだめか…
    トリスたんが悪人だ! つじつまあわせどうしよう!


    軍帽クルセさん、陛下としか言われてないし…まだ
    なんとでもなるな(邪笑
17893@のたうつ妄想sage :2004/04/27(火) 20:23 ID:AEyQxQFI
ああん…張りミス発覚!!

一番最初にこれが…

「…う…ここは?」
 青年は頭にかかる靄のような物を意志の力で振り払い、目を開けた。ゆっくり周りを見回し
ながら、現状を把握する。
 あの人…かつてプロンテラの聖女と言われた聖職者の招きで訪れた小屋。しかし、そのホスト
の姿は目に入らない。何かの焦げるような匂いがしているのに気づいて、慌てて向かっていった
先…厨房のオーブンの中には、焦げたアップルパイの残骸が残っていた。
「…一体、何が…」
 外からは、爆音、喚声。そして…彼の魂を黒い糸が引きつける。青年は、それに惹かれるよう
に小屋を出た。

抜けてました _| ̄|○
179花のHB-Another-sage :2004/04/27(火) 22:46 ID:pUd/QKr6
「フフフ……あたしってば、血と汗と涙と努力と根性でジョブ50までがんばって、
アルケミストになったのよ! どーよ? かわいいでしょ? すごいでしょ?
成長したでしょ?」
「まあ、服はかわいい。半年前と成長ないところは成長ないけどな」

 女性らしい凹凸の少ない幼児体型のルルでは、アルケミストの服は胸と腰の辺りが
ブカブカだ。
 それがかわいらしいと言う人も居るだろう。

「むかっ どこ見てんのよ。スレンダーだって言ってるでしょうがっっ
 このオーラエロアサ!」

 思わず手にしていた斧をスレイに投げつけそうになったルルの頭を
ゴツンと左近は小突いた。

「ほれ、その辺にしとけや。少し落ち着け」
「あぅ……いったーいっ……」

 涙目でルルは頭を押えて、恨みがましい視線で左近を見上げる。
 ただでさえ身長が高い左近と小柄なルルでは、身長差がかなりあるので
どうしても見上げる形になってしまう。

「……で、新人って言うのはコイツ?」

 嬉しいけれど、少しだけあきれているような表情をスレイは浮かべた。

「ルルさんもだけど、もう一人いるんですよ」

 ライムが笑いながら、少し遠巻きでこちらを心配そうに見ている長い金髪の
アコライトに手を振った。

「……まさか」

 そして、その少女はこちらに駆けてくる。

 その姿に職が違うにもかかわらず、一人の少女が重なった。

 幻想祭の間、一緒に過ごしていたあの少女。
 太陽のようで、それでいて傷つきやすかった彼女。
 想いは伝えたけれど……彼女につき従っていた鷹のように、自分の手からは
羽ばたいて行ってしまった彼女。

「紹介するね、アコライトのイスフィールさん」

 ライムはすぐ隣にやってきたアコライトの肩に手を置いて、スレイに紹介した。

「……職はかわっちゃったけど……ただいま、スレイ」

 あのときのままの笑顔で、イスフィは微笑む。

「向こうでがんばってたんだけど……どうしてもあなたのこと忘れられなくて……
もう一度ここに来ちゃった」
「なんで、もっと早く……」

 慌てたのと嬉しさと、突然のことでどう反応していいのかわからないスレイは、
ようやくその言葉だけ口にした。

「あ……っ ごめんなさい……今更、迷惑だよね?」
「いや、そうじゃない」
「……仕方ないよね、半年も連絡なかったわけだし。支援したくてアコになったけど……
あなたの都合も考えなくて、ごめんなさい」
「……だから、違うって」
「大丈夫だよ、スレイの元気そうな姿が見られただけでも嬉しいから。気にしないで」

 表情を曇らせたイスフィのその姿に、スレイは耐え切れず彼女を抱きしめた。

「え……?」
「全然変わらないんだな、その早とちりなところと強がるところ」

 状況が把握できていない彼女に優しく笑いかけ、ずっと持ち歩いていたあの花の
ヘアバンドをそっとイスフィに渡した。

「あ……これ……」
「お帰り、イスフィ……戻ってきたなら、離さない。というか……頼まれても、
絶対離してやらん」
「ん……もう離れないからね」

 そして、言葉とともにスレイの頬を手で触れて、嬉しそうに強く抱きついた。

 

 

 
「ところでさ……感動の再会はいいんだけど、完璧に二人の世界作っちゃってるね……」
「すっかり、俺達の存在忘れられてるよな……ちくしょう、俺も彼女欲しい」
「あー……もう、あの二人ほっといて、狩行きませんか、マスター」
「それ、賛成。イスフィちゃんにもギルド加入権あげたんでしょ?
 なら後から来てもらえばいいしー」
180花のHB-Another-sage :2004/04/27(火) 22:47 ID:pUd/QKr6
 ギルドの仲間達が、イスフィとスレイを見ながら口々につぶやいた。
 もちろん、こんな言葉は当の本人達には聞こえてなどいないだろう。

「あの調子なら……スレイさん、うちのギルドに戻ってくるよね」
「あはは、そうだねえ。愛は何よりも強し……なのかなあ」

 ライムとリースも顔を見合わせて、苦笑した。

「あー、それにしても腹立つっ あたしだってかなり久し振りだったのに
 あの態度の違いは何さ?!」
「あほやなー。そこが、ただの友達と恋人の差やろ。当たり前やん」

 左近の言葉に、ルルは横目でにらみつけた。

「ぜんっぜん態度が変わらない人も、ここにいるんですが?」
「それはそれ、これはこれやろ」

 サングラスのせいで、彼の視線がどこを向いているのかはわからない。
 そういうところも、ルルにとっては腹が立つところだ。

「……いいけどさ。いつか……ちゃんと問い詰めるんだから」
「ハイハイ」

 

 

 願えばきっと叶うから

 

 

 
「……アサシンやめちゃって、よかったの?」

 清算広場と呼ばれるプロンテラの花売り少女の前のベンチでアコライトの少女が
隣に座る青年マジシャンに話しかけた。

「……ん? 後悔してないさ」

 マジシャンの頭にあるのは天使の翼をかたどったヘアバンド。
 彼の銀色の長い髪に、それはとてもよく似合っている。
 そして、アコライトは花のヘアバンドをつけていた。

「暇なときに本を読んでいたから……知識を極めて魔法を使うのも面白そうだってね」

 二人とも同じギルドのエンブレムをつけているところを見ると相方同士なのだろうか。

「……転生も考えたが……どうせなら、お前と一緒に転生したいしな」
「そかー……アサシン姿、カッコよかったんだけどなあ……残念」

 過ぎ去りし日の青年のアサシン姿を脳裏に浮かべて、少女はため息をついた。

「……そんなこといったら、俺だってお前のハンター姿の方が好きだったぞ?」
「えー!?」

 思わず少女が顔を上げると、青年は笑い出した。

「あはははは、本気にしたのか? どんな姿でも、外見よりも中身……だろ?」
「うー……ちょっと本気にした……」

 そんな少女の頭を撫でて、青年は立ち上がる。

「さて、狩りにでも行こうか?」
「んー……今日はのんびり景色が良い所で話したいな」
「そうか? じゃあ今日は……」

 二人は手をつないで街中へと歩いて行く。

 
 ずっと一緒に。

 

 ――――――これからも。

 

 

 それは、一つの可能性。
 これも一つの可能性。
181花のHB-Another-sage :2004/04/27(火) 22:49 ID:pUd/QKr6
木陰からこんばんは。
これにて花のHB-Another-も完結です。
二人のこれからは、私のSSではなく皆さんの心の中で……。


誰も聞きたがらないだろうけど、勝手に自分で補完Q&A

Q左近のカートは廃カート?
Aはい。91以上にならないと引けないあのカートです。

Qルルは何で、このギルドに移ってきたの?
A前のギルドに捨てられたのです(´・ω・`)

Qルルと左近は恋人同士なの?
Aたぶん。

というわけで、今度はルルの話になると思います。

長い間、おつきあい感謝です。
それでは……また。
___ __________________________________________________
|/
||・・)ノシ


なんだか、たまってしまったレスを。

>小説に感想下さった皆様
本当にありがとうございます。とても励みになります。
感想もらえるとがんばれるので、すごく嬉しいです。

>93さま
ヽ(・・)ノT~~~~~~~~ 電波送信中。……と、それはおいといて。感想感謝です。
それと、保管庫おつかれさまです。
これでオーラアサさんは(オーラアサはやめてしまいましたが)幸せになったはずです。仲間もできたし……ずっと一緒のイスフィもいますから。
そして、コラボとても楽しませていただいてます。

>126さま
なんだかとてもハズカシイデス。
私、文神と呼ばれるほどたいした書き手じゃないですし_| ̄|○
とはいえ、私もこのスレ大好きですー。
いろんな作風の小説があってドキドキできますから♪

>139さま
うわっ、なんか、すごいきれいに保管されてるっΣ(゚Д゚)
(思わず、読み返してしまいました……)
感謝です。

>('A`)さま
キタ━━━(゚∀゚)━━━ !!!!!
今後も目がはなせません。
私文章が短いので、勉強しないといけませんね……参考にさせてくださいませ。
182162sage :2004/04/27(火) 23:31 ID:IG7TIzrU
93@様、感想ありがとうございます!
ヽ(´ー`)ノヽ(´ー`)ノ・・・・しばし、小躍りしてますヽ(´ー`)ノ
投下するのが、これほど緊張してレス付くことがこれほど嬉しいとは
ちゃんと感想書いて行かねば・・・

577様、ついに!ついに来たのでしょうか!
少し心配だけど、入口のアコさん達が動き出しましたか
ローグさん達も、復活しているしこれからですね!
一読者として楽しみにさせて貰います^^

('A`)様、こちらは段々とクライマックスへと突入でしょうか
アルバーdとセシルさんに魔剣が渡り、相手の目的も見えてきましたね
あまり本筋とは関係ないけど、ベルガモットさんとかマスターナイトさんとか
ナイスミドルが多いことを確認したりも(笑)

93様、キャラコラボ!なんですけど一部分かってなかったり・・・_| ̄|○
でも、この話だけ見たとしても充分楽しめるかと
最初の風で、バフォ様が〜〜・・・GMはどんどん手段を選ばなくなってますし
騎士と聖女の最強っぽいコンビですけど、楽勝というわけには行かないようですし
非常に楽しみとさせていただきます^^

漏らしはないかな、ではこの辺で!


あ・・・また駄文投下しに来ても良いですか?
183162sage :2004/04/27(火) 23:51 ID:IG7TIzrU
ぐはっ
感想書いている間に、花のHBさまが!
(以下何もなかったように感想を続けます・・・_| ̄|○

花のHB様、物語の始まりがマイグレでしたし
二人の別れも仕方のないことかと思っていたのですが
ばっちりハッピーエンドバージョンが描かれてますね(アナザーですが)
やはり、最後は笑顔で終わりというのが良いと感じさせて貰えました^^
18493@はいよる幻想sage :2004/04/28(水) 01:35 ID:u3ToLXfg
>>花のHB様
 完結お疲れ様。今後とも楽しみにしてます! ルルさん…似てるか?
 ……電波…キター… 頑張ってみます…
 [西兄貴] λ……<JOB50転職戦ケミ中々臨時にもいけないよ…
>>162
 私が言うのもなんですが。多分、スレが盛り上がるのはいいことです。
書いちゃえ書いちゃえ…(無責任

 で、こんな時間にレスったのは…コラボで使わせていただいてる元の紹介を、と。
全部私がいいなーと思ったお勧めばっかしですヨ! イイと思っても私の文体でいじると
イメージ壊すのが怖くて触れなかった人も一杯いるんですけど…。ホントここ、レベル
高すぎです…。

ママプリ(聖女)、バフォ、悪ケミ、子バフォ(GMたん)
 …166様他、悪ケミスレの皆様(悪ケミスレ、18禁萌え小説スレなど多数?
Abyssたん(白騎士)、アコと仲間、GMたん、エロローグ、軍帽クルセ
  …Abyssたんはぁはぁ様(18禁萌え小説スレ、深淵の騎士娘萌えスレなど
シメオンくん、フェーナさん      …('A`)様(ここ(笑
シェオアさん(聖堂の懺悔プリ     …##様 他、このスレの皆さん(ここの1スレ
ゲフェンの増殖事故          …前スレ79様(ここ
カツ丼とセクハラ大聖堂        …577様(18禁萌えスレ ここ 他神出鬼没(笑
12年前のあわや首都消失の事件    …下水リレー(ここ の2スレくらいから
元ノビプリ、アコ少女、戦闘司祭、聖騎士団の皆様、ごーすとりんぐ、だーくろーど
   オリジナル…初出は一部別スレですが…

あと、お許しいただいた一部を除いて、職業名とかしか作品内で触れてないのは…
イザというときに逃げをうつ最後のあがき…
出てくる人は、まだ増えるかもしれないし増えないかもしれない…です。

あと、文内のネタ表現の元ネタ…
 フルメタルジャケット、逆襲のシャア、08小隊、怪傑ズバット…位かなぁ
いくつかある少女漫画ネタは題名覚えてないので…ぱす。
18593@はいよる幻想sage :2004/04/28(水) 22:37 ID:u3ToLXfg
「けけっ…」
 嘲笑うような男の声が、左右、時に上からも白い騎士の鼓膜を打つ。
「そこか! Brandish…Spear!」
「無駄だって…言ってるだろ…わかんねぇ女だな…」
 槍に変じた武器が衝撃波を生む…その刹那に僅かに生じる真空の空間をローグは見切っていた。
その身体に生えた異形の眼で。
「…じゃあ約束どおり…もう一つだ…けけけっ…Stripのお時間だぜ…騎士様よ!」
 声と共に、騎士の胸当がはじけ飛ぶ。深淵の騎士、廃墟となった城の守り手たる己の姿と…
今の惨めなまでに嬲られる姿と。その落差を思い、白騎士は唇を噛みながら…、それでもその
眼に闘志を失わぬ。

「…いいねぇ…そうやって…一つ技を破られる度に…一つ鎧をはがれるたびに…」
「黙れっ!」
 大剣が空を切り、代りに騎士の兜が天高く舞い上がった。
「…あんたの中の“騎士”が消えていく…けけ…っ」
 じゅるり…と舌なめずりをする音、それはローグの本来の口が立てた音ではない。男の腹に
開いた大きな口から覗く、魔獣フリオニの舌が厭らしく蠢く。

「下着姿の深淵の騎士様か…そろそろ…ただの女になれよ……けけけけっ…」
 ただの女、という単語を聞いた刹那、騎士の脳裏に、…街で見かける少女のような装いに身を
包んだ自分が思い浮かんだ。その隣には…。そんな夢想を一瞬でも浮かべた自分を叱咤するよう
に、騎士は剣を強く握り締め、構える。
「…お前如きっ…」
 怒りと共にローグを跳ね飛ばし、間合いを取る。
「…けけけっ…もう鎧は残っちゃいねぇな…ショウタイムはこれからだぜぇ…」


「貴女はやり過ぎたのです」
 言葉と共に、重い一撃が叩き込まれるのを聖女は左手で受け、右のソードメイスを横に薙ぐ。
「…ヤリ過ぎならたっぷり自覚してるけどねっ!」
「神はお怒りです…魔と人との対立軸を揺るがす行為…」
「知ったことじゃない…っ」

 管理者と聖女の間に言葉と打撃が飛び交う。普段ならば…聖女が万全の状態ならば、互角か、
あるいは彼女が管理者を圧倒したかもしれない。だが、聖女に残る連戦の疲労…癒しきれぬ傷。
それが今は決定的な差を生む事を、誰よりも本人達が気づいていた。
「勝てませんよ、貴女は。何故折れないのです」
「あんたには絶対にわからない…っ。そうやってお高く止まってる間には、絶対にね!」
 牽制の蹴りを放ち、左にステップを踏む。その彼女の眼前に、白馬と騎士が追い立てられる
ように転げ出た。狙い済ましたかのような管理者の気弾が白馬の脚を砕き、横転させる。

「…!?」
 素早く受身を取った騎士は、鎧の殆どを剥がれ、纏っていた鎧よりも更に白い肌を無残に
晒していた。満身創痍の聖女と背中を合わせるようにして立つと、わずかに騎士のほうが背が
低い。その騎士の後を追う様に、気取った足取りでローグが歩いてくる。

「けっけっけ……鬼ごっこは俺の勝ちだなぁ? 騎士サマよ! 次は剣を奪うぜ? これから…
 お前が女だってことを思い知らせてやる…けけけっ…」
「あと4分です。あまり遊ばないで下さい」
 二人の前後を挟むように、二つの人外の存在はゆっくりと近づく。彼女達の負の感情を煽る
ように。
18693@はいよる幻想sage :2004/04/28(水) 22:38 ID:u3ToLXfg
「うー…困ったなぁ」
 アコライトの青年が数度目のため息をつく。それに、彼の仲間達も雷同した。
「いつもとこう、繋がりが変わってるとな…何かパッチあたってたっけ?」
 クルセイダーの問いかけに、聖職者が頭を振って応える。一同がため息と共に、再びカンテラ
の明かりに照らされた地図を前に額を寄せてあーでもない、こーでもないとはじめたとき、
「……誰だ!」
 それを他所に、なにやら考え込んでいた騎士が、森の一角をきっとにらんだ。

 歴戦の冒険者らしく、無駄のない動きで警戒する五人の前で…森の下生えが、がさがさと音を
立ててわかれた。そこにいたのは、プロンテラ軍帽のクルセイダー。
「…やぁ、久しぶり。あの時の古城お茶会以来か。奇遇だね、諸君」
(…陛下? なんでここに…)
「陛下はよしてくれ。それから、何でここにいるかは秘密だ」
 一応、正体を隠しているはずのクルセに気を使ったアコライトが小声で突っ込んだが、軍帽
クルセはあっけらかん、と大声で答える。
「え…あー。いいんですか? 言っちゃって…」

 心優しいプリーストは、軍帽クルセが“秘密だ”と言った時に何か大きな見えないものが
動いたような気がしたのは、秘密らしいので見えないことにしつつ、とりあえず“陛下”を
突っ込むことに決めたようだ。
「アコ君。へーかって何のことかな?」
 秘密を知っているらしいアコライトの肩にぽん、と後ろから手を置く。助けを求めるように
きょろきょろした彼の肩に、次々と置かれる手が増えていくのを、軍帽クルセは楽しそうに
見ていた。

「ふーん。つまりアコ君はアコは仮の姿で、ホントは強い弓の人だった、と」
「あ、いや。そういうわけじゃないんだけど」
「まぁ、お前はお前なんだろ。ならどうでもいい」
 むしろ、アコライトの素性に自分の彼女が興味深々なのが不安らしい彼氏クルセの一言で、
その問題はあっさりと流された。組んで二度目の仲間なのにそんな対応だと、いい仲間を持った、
と感動するよりも呑気さにあきれるのが先に出る。だが、その呑気さは、アコライトにとって
不快なものではなかった。

「じゃあ、いってこいよ。俺達がいない方が、やりやすいんだろ」
 騎士が、アコライトの背を叩く。二三歩、よろめいてから周りを見ると。
「…そういう事情なら、仕方がない」
 アサシンが粋に笑って親指を立てた。
「…ありがとう…。すぐに、戻ってくるから!」

「で、残った君達には、実はちょっとした頼みがあるんだ。…多分面白いと思うんだけど」
 一通りの事情説明が過ぎ…。冒険者の表情が落ち着いてきた頃。軍帽クルセがにやっと笑って
切り出した。彼が声を潜めるのに釣られるように、一行も頭を寄せる。それが再び別れた時には、
軍帽クルセのにやにや笑いは彼らに伝染していた。


「…こんな所で…私は倒れるわけには…っ」
 自らの非力と、悔しさに歯噛みする騎士の背後を守りながら、聖女は目を細めた。その目を
見るものがいたら、恐怖で凍るやもしれぬ。…あるいは男ならば…別の感情で凍るのか。

「…そうよね。相手が違ったのよ」
「…え?…何っ…」
 問い返す騎士の肩を掴むと、くるり、と立ち位置を入れ替える。騎士が管理者と、自分が
ローグ…あるいは元ローグの異形へと対するように。
「待て! そやつは危険だ! 既に…」
 人ではない、と続けようとした騎士の唇を、聖女の人指し指がやんわりと抑える。
「色狂いは色狂い同士…乙女は乙女同士、よ。適材適所よ…わかるでしょ、ね♪」

「けけけっ…けけけけっ…女ぁ…快楽で灼き切ってやるぜぇ…けけけ…っ」
 混沌に侵され、異形の度合いが更に深まっているローグを見て、聖女のスイッチが切り替わる。
戦う喜びから…、別のものへと。彼女の背筋を背徳の喜びが駆け上がる。心の片隅の理性が、
度し難い…と自分を詰る、その声すらもが快楽の予兆。

 ……古き火祭の時間が、来た。

「ふふ…あと4分…って言ったわよね? 私を満足させられる? ボウヤ」
 挑発するように肩口に手をかけ…聖衣をはだける。ふわりと漂った香りに、ローグと…その
身体に巣食う、あらゆる物がごくり…と唾を飲んだ。
18793@はいよる幻想sage :2004/04/28(水) 22:38 ID:u3ToLXfg
 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・年齢制限によりお察し下さい・ ・ ・ ・ ・ ・


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・年齢制限によりお察し下さい・ ・ ・ ・ ・ ・


「…私を…壊すには。4分じゃ…足りなかったようね?」
 仰向けになったまま、天を仰ぎ。指一本を動かすのも苦痛なほどの痺れの中で。荒い呼吸を
意志の力でねじ伏せ、聖女はそれを口にした。その体の上で、そして中で、男から生えていた
様々なモノが崩れていく。

「あぁぁあああぁぁ! 痛ぇ…! 痛ぇ…!」
 突き出た異形だけではなく、彼の本来の腕も、脚も石の様に硬く、変じていく。
「…警告はしたはずです。貴方は5分で滅ぶと」
 管理者は、白騎士の剣を掌で弾くと、冷たい一瞥だけをかつてローグだったものに投げた。
「がぁぁあ! うぐぁ…」
「…うるさい男は、ベッドでは…嫌われるのよ」
 聖女の弱々しい拳が、石に変じた男の胸板を砕いた。


 管理者はローグの危機を無視したわけではない。しかし、その意思が彼を救う方向には向いて
いなかった、それだけだ。煩悩と欲望を昇華しきれぬ者の滅びもまた、彼女の目的に有用なの
だから。しかし、ローグが斃れた以上、少なくとも聖女が再び動けるようになる前に…、目の
前の騎士を倒さねば、彼女もこの地を覆う穢れの一つになる。

 滅びは怖くはない。しかし、ありうべき世界の復興を見届けてからでなければ死ぬことは
できなかった。人と魔と、相争う世界を。

 白い騎士の剣はいまだ曇らず、戦闘力だけを見れば管理者にとっても容易ならざる相手では
ある。これまで二度、騎士を押さえ込んだ呪法は、古城の赤の司祭によって解かれていたらしい。
「…まぁ、いいでしょう。私は誰が滅んでもいいのですから」
「滅ぶのは貴様だ…私は、ここでは死ねない」
 管理者は、水平に振られた大剣を飛び上がって避けた。騎士もそれを更に追い撃つだけの
余力はなく。二人は再び手を止め、相手の動きを探るようにじりじりと円を描く。片や、縦に
二つに裂けた傷跡の異相の少女。片や、身に纏うは布切れと身の丈よりも長い剣のみの少女。

「貴女の相手をするなら、…これが良かったですか」
「…何?」
 管理者が右手を天に掲げ…、それに応えて虚空よりバルムンクが現れるのを、騎士は手出しも
せず、見ていた。管理者にのみ使役される、神の剣。その一振りは地を砕き、空を裂くと言うが…。
 背後では、聖女が己の戦いを遂げた。その声、その内容…全ての煩悩を絶ち、騎士はただ、
平静に管理者を見る。その鋭い視線に管理者の歩みが一瞬こわばった。
「…剣を取って、護るべき者を持つ騎士に勝ると思うは…傲慢だと知れ! 管理者!」
 白騎士は管理者が剣を構えてから…大剣の一撃を打ち放った。それは、彼女の誇りをかけた
一撃。神剣が砕けるその一瞬。想いが、神の意志を確かに上回った。

 その、少し離れた高い木の枝の上で、誰かが呟く。
「…君は、前よりも少し、強くなった…。今度はボクのこれは、いらなかったね…」
 アコライトの装束を纏った男は、長弓につがえていた矢を射ることなく下ろし、音もなく去った。
その表情は少しだけ寂しそうで。
 それよりもっと、嬉しそうだった。
18893@はいよる幻想sage :2004/04/28(水) 22:39 ID:u3ToLXfg
『まだ…我は生きているぞ…人よ』
 魔王の声に、司祭は我に帰った。迷宮の森の一角、既に戦場に立つ者は彼と数名の聖職者、
そして目の前の魔王のみになっていた。
「…なれば…、決着はつけねばなるまい…な」
 老司祭はゆっくりと歩き出す。その後ろ姿を、最後まで助力を請われることのなかった魔術師が、
口をへの字に曲げて見守っていた。
「くくっ…まったく、馬鹿な連…」

    ひゅっ…

 言いかけた彼の頬のすぐ脇を、一本の矢がかすめ飛んだ。完全な不意打ち。この場の誰もが
予想しなかった一撃は…まっすぐに、今戦いを始めんとした司祭と魔王の…間の地面に突き
立った。
 その矢羽は、何故か風車。

『「…誰だ!」』
「お待ち下さい、大司教様、魔王殿」
 期せずしてハモる一人と一体の声。それに応えて、矢が飛んだ方向とは全然別から、悠然と
ペコにまたがったまま姿を現したのは軍帽を被ったクルセイダーと、堅物っぽい騎士と色男の
アサシン、徒歩のクルセイダーに妖精耳装備の女聖職者。
 何故かアコライトの装束で弓を構えた男が魔術師の背後の木の上から飛び降りてきた。
「……間、間に合った…」
 という小声は、どうやら魔術師だけの耳にしかとどかなかったらしい。

 一瞬の自失の後で…、闖入者から老司祭を守ろうと鈍器を構える聖職者を、騎士が一括する。
「控えろ! このお方をどなたと心得る!」
「このお方こそ、先の国王! トリスタン二世陛下にあらせられるぞ! 一同、頭が高い!」
 10年の息が合ったコンビのように、アサシンが続けた。

「…あー…、双方とも、言い分は後で伺いますが…。ここは、私の顔に免じて引いてもらえま
 せんか? 世界の危機なんです」
 軍帽クルセがのほほん、と声をかけるのに、その場の者は誰一人…魔王ですら、開いた口が
塞がらなかった。
18993@はいよる幻想sage :2004/04/28(水) 22:39 ID:u3ToLXfg
 青年は走り疲れ…木の根元で手足を投げ出していた。いや、疲れたのは走ることにではない。
仲間、師。彼らは死んだだろうか。自分の軽挙の為に…。魔王は時間の問題だったと否定したが、
青年にはそうは思えない。
 彼らは、自分が殺した。彼らとの絆は、自分が絶った。後悔と、不安と、諦念とに押しつぶさ
れそうになる。それと戦わねばならないと、今まで、何故か彼は信じていたが、全てがどうでも
良くなっていた。
 もう、押しつぶされたほうが…らくだ。

「先輩、泣いているのですか」
 力なく見上げた先、いつも自分にまとわりついてきていたあの少女がいた。その横には、名も
知らぬ魔族。その、布状の霊体の裾をしっかりと少女に掴まれているのに困惑している様子が
訳もなくおかしく、青年は微かに口元をゆがめた。笑いというには余りにも小さな、歪み。
「…先輩?」
「もう、俺は破門だ。君の先輩じゃない。俺に近づかないでくれ…一人にしてくれ」
 もう、誰も殺したくない。誰とも近づかなければ、親しいものに裏切られることもない…。
裏切ることも、ない。後は自分が潰れて消えてしまえばいい。

「先輩…」
「死んだよ。みんな…。悪魔を殺したくないといって今まで手を抜いてた俺のせいだ。いや、
 それだけじゃない…それだけじゃない。が…俺は、俺を許せないよ」
「……悪魔を、殺したくない…ですか」
 少女は、以前にも一度だけ、それを聞いたことがあった。その時は、馬鹿にしたようにあし
らったのを覚えている。その日の夜は眠れなかったことも。
 青年に付きまとうようになったのはそれ以来だが、彼は二度と少女の前でそれを口にしなかった。
忘れたのだと、少女は思っていた。青年は、誰にも理解されなかったが故に…思いを内側に閉じ
込めていただけだと、あれだけ見つめていても…、彼女は気づけなかった。

『…女。コレハ駄目ダ。負ケ犬ノ目ヲシテイ…』
「うるさい! ちび助! 貴方に何がわかるの!」
『……』
 生れ落ちてより800年余りのなかで、自分という物がここまで酷く情けなくなったことはない。
ゴーストリングは助けを求めるように…視線を周囲にめぐらせた。…無駄なことだった。

「先輩は…いつも。いつも余計なものを背負い込んで…勝手に…自分で自分を責めて…」
「…何だ…お前…」
 ぽたぽたと目の前に落ちる雫を見て、青年は今度こそ…笑った。
(涙を流して、声を出して。そんな風にも泣けるじゃないか)
「…司祭様も…聖騎士様も…みんな…私のせい…。私が、先輩のことを…言ったから」
「そうか」
「…あのひとと…先輩が会うと聞いて…不安、だったから…」
「…嫉妬は人間の基本感情らしいね」
 少女の気持ちはなんとなく、わかっていたから。不思議なことではない。裏切られたわけでも、
裏切ったわけでもない。少女と青年の間には何も無かったのだから。責める理由も、責められる
理由もない。だからただ、青年は泣き続ける少女から目を背けただけだった。

『……人間、オ前ハ蛆虫ダ。ミッドガルズデ最下等ノ生命体ダ』
「…そうだね」
 ゴーストリングを殴り飛ばそうとした少女の手が止まり…向きを変えて一閃した。
「…自分を…そんな風に言わないで下さい。私は…」
「俺は…。こんな俺に何を…君は期待している。君は俺に…何をさせたいんだ」
 赤く腫れる頬をそのままに、青年はうつろな目で少女を見上げる。少女はそれを、彼の
見慣れた…あの、茫洋とした表情で見下ろした。
「…何も。いえ……私を、思い出してください」
「…?」
 これから、争いを嫌いだった青年の代りに戦いを止めに行くから。非力な自分でも、できる事を
しに行くから…。いつか、青年が自分を取り戻して…、また、あの甘ったるい理想を馬鹿にしない
誰かに語るときがきたら。
「私を、思い出してくださいね」
19093@はいよる幻想sage :2004/04/28(水) 22:40 ID:u3ToLXfg
『……我ハ行ク。主ノ想イ人ガ危難ラシイ』
「ごめんなさい。もう一度乗せて行ってくれるかしら」
 ゴーストリングは、自己を分析した。不思議と、この者と触れ合うことに、先ほどのような
拒絶感が生まれない。
『…騒ガナケレバ許ソウ』
「よろしくね、おちびちゃん」
『………』
 二人が飛び立つのを見ても、もう青年の心にさざなみは立たなかった。彼の心…そして周囲に
溢れる絶望と、死。

 時ハ、来タ…。無垢ナル者。ソノ絶望ヲ我ニ捧ゲヨ…
青年の耳元で、誰かがささやいた。

「吹くわ…三つ目の風が」
 騎士の刃の向こうで、管理者が笑った。

『…来るか。闇の王…』
 折れた足を引きずるように一歩踏み出し、魔王が呻いた。

「くくくっ…。やはり…あれだけの歪みがあれば…、来ますか。私はこれをこそ見たかった…」
 魔術師が仰ぎみた月の色は、朱の色。
19193@はいよる幻想sage ヽ( `Д´)ノT :2004/04/28(水) 22:44 ID:u3ToLXfg
こんばんわ。えーと、あとちょっとのとこでしばらくお休みです。

リアルでネット環境からしばし離れるので…。
 んー、多分次に爆撃するのが最後かな。
  GWにも多分、ノートPCで書き溜めるし。
  待っててくださる方、お待たせしてごめんなさい。
 待ってなんかない方、また来ちゃってゴメンナサイ。
では、またです!
192名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/29(木) 00:53 ID:4GjHUO8.
>93
乙。クライマックスもガンガレ!
193名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/29(木) 11:02 ID:9L2oXNn6
93兄貴!
該当スレで完全版が見たいd(ガッ
194名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/29(木) 13:38 ID:hs6rTEXA
93氏の書き込み、大体いつもリアルタイムで見れるぜ(*゚∀゚)=3フンハフンハ
しばらく見れなくなるのが残念ですが、GW明け楽しみにしてますw

それにしても・・・。

該当スレで完全版が見たい人(1/20)
195名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/29(木) 13:39 ID:hs6rTEXA
あ、しまった。

(2/20)にするつもりだったのに_| ̄|○
19693@外出先の他人PCsage :2004/04/29(木) 14:20 ID:dunILxqY
久々につけたらi1124の液晶が点滅→ぶちっでどうしようもありません
うわぁぁぁん! と、いう報告に来たのですが…。

完全版との該当部分は実は存在しませんよ、と。
何がいいたいかというと……

該当スレで某本家様に補完していただきたい人(1/20)
 [吊場] λ……<逝ってきまーす
197名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/29(木) 23:40 ID:uTj0PGaY
93様は相変わらずのナイスコラボにもう脱帽
というか聖女様がs(ry
・・・・
じゃなくて!かなり茶目っ気ある陛下が良かったんだと!
最終回も楽しみにしております!

該当スレで完全版が見たい人・・・と入れたかった・・・_| ̄|○
198名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/30(金) 10:05 ID:s4rSmcHY
先生・・素でネタが夢にでてきた
今から筆を走らせます。

:ゴブリン村でPTからはぐれたアコたんが、ゴブの子供を拾って
 親(リーダー)に届ける話。そしてあのマントをお礼に頂く・・
199名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/30(金) 13:23 ID:R35EC9oU
期待sage
200名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/30(金) 15:41 ID:6gs4Cyh6
sageかよ
  sageかよ
20159も取ってたからつい・・・sage :2004/04/30(金) 18:44 ID:nZfxkwkc
おっす、オラ59!
・・・というベタなネタはさておき

一応、続きを書いてみたんだけどさ
文神達の物語が佳境に入ってて盛り上がってる現在
をれ程度が割り込んで盛り下げちまうと申し訳ないかな?と思うのさ
完結するまで待った方がええかね?

>>74

レスサンクス。期待に添える出来栄えだと良いんだが・・・

>>130

おぉうっ、をれのが保管されてる!?めっさ感謝!
ちがうちがう・・・別にをれ凄くない・・・有頂天になったらいかん・・・
謙虚は美徳・・・ぶつぶつ・・・
よしっ、自己暗示完了。枯れ木も山の賑わいって事で、枯れ木を増やして行きますぜぇ
202('A`)sage :2004/04/30(金) 19:33 ID:s1qJvvN.
>>201さん
特に問題ないのでは…と、私は思いますが。
というか、個人としては読ませていただきたいものです(^^


壁に当たったようで、筆が…('`;)
203201sage :2004/04/30(金) 19:56 ID:K/P6HOw.
>>202

い、いいんだな?やっちまうぞ?(ガクガクプルプル)

と、とにかくいってみよ〜
20456の続きsage :2004/04/30(金) 20:01 ID:K/P6HOw.
あたし、ササメ。成り立て剣士。前回変な人外生物フェンと出会ったあたしは・・・
現在、死にかけてたりする。(TT)
もお・・・なんでこんな事になっちゃってるの!?って愚痴こぼしてもわかんないよね。ゴメンゴメン。
一応、前回の続きから説明するね。それは、こんな感じだったんだよ・・・


・・・あたしは場所を移動しながらフェンに尋ねた。

「りんご1個じゃお腹いっぱいにはならないよね。街に行ってご飯食べよっか。フェンも足りないよね?」
「不足していると思われる。」
「ねえフェン・・・お金、持ってる?」
「お金・・・?貨幣か。持っていない。」
「だよねぇ・・・あたしが出すしかないかぁ。」

うぅ・・・今朝なけなしのお金はたいて+10ブレイド購入したの失敗だったかなぁ。
かる〜いお財布の中を確認して・・・150ゼニー。今日の収集品を確認して・・・
ゼロピー54個、綿毛43個、クローバー36個、さなぎの皮13個、バッタの足5個・・・
安いご飯二人前は出るかな。でも宿代には足りないっぽい・・・

「じゃあ、訓練も兼ねてちょっとお金稼ぎに戦って来るよ。フェンも手伝ってくれると嬉しいんだけど・・・」
「断る。」

・・・きっぱりと言ってくれやがったなこんにゃろう。

「フェンの分のご飯代を稼ぐ為なんだけど、それでも手伝わないって言うの?」

ジト目で睨みながら言うと、少し目を逸らした。・・・少しは思う所があるのかな?

「俺は・・・もう、戦いたく、ない・・・」

そして、ぽつりと。辛うじてあたしの耳に届く呟き。何だか、悲しい響き・・・途方に暮れた声。
立派な成人男性のナリだけど、なんか保護欲かきたてられちゃいそー・・・って・・・

「2人ほどさっくりと両断しておきながら言っても説得力が見当たらないって!」
「挑まれれば迎え撃つ。そう・・・確か、振りかかる火の粉と言ったか。」

う・・・まぁ、そうかも知れない・・・のかな?微妙に納得出来ないよーな気もしないでもないけど。

「はぁ・・・うん、わかったよ・・・じゃあさ、あたしが戦うから助言してよ。」
「何を言えば良いのだ?」
「だーかーらー、強い人に教えてもらった方が早く強くなれそうじゃない?
あたしの戦いを見て、直した方が良いと思う悪い所とか教えて欲しいって言ってるの。
その位ならしてくれてもいいでしょ?」

けれどそれには答えず。

「・・・お前は、強くなりたいのか?」

なんて聞いて来た。

「もっちろん!倒したい奴がいるんだから!」

あたしは力一杯答える。いつも、そうして自分を鼓舞しているから。

「その為に、他の命を犠牲にする事も躊躇わないか?」
「・・・そうよ!第一、それを言ったらごはんだって食べられなくなっちゃうでしょ!?」

あたし、ムキになってる。自分の目的に周囲を巻き込む事が正しい事じゃないってわかってるから。
それでも果たしたい目的だから。けれど、いつだって良心が悲鳴を上げているから。
だから、改めて他人に指摘されると頭に来る。

「・・・そうか。ならば助言しよう。」
「・・・ほへ?」

何を言われたんだか理解できなくって間抜けな声が漏れちゃった。

「先程助言をしろと言っていなかったか?」
「いや言ったけど・・・話の前後の脈絡が掴めなかったのよ。」
「気にするな。さあ闘え。」
「いやあの、さあって言われても・・・はふぅ・・・ま、いっか。」

気を取り直して、あたしは手近にいるロッカーに向かった。剣と盾を構える。
まず背後から一撃。(卑怯?あいにく手段を選んでなんかいられないよ)
あたしは大上段から脳天唐竹割。手応えはあり。
ロッカーが振り向きざまバイオリンをあたしから見て左から右に振り抜こうとする。
あたしは1歩踏み込み、振り始めでまだ力が乗っていないバイオリンを盾で抑え込みつつ胴へ一撃。
これも手応えあり。でも致命打ではない。
ロッカーの態勢が崩れている。もう一撃・・・いや、左から膝蹴りが来る。接近し過ぎ、避けられない。
あたしは下半身を左に捻り、その膝に対して横から右の膝蹴りを合わせる。辛うじて間に合った。
逸れた足はあたしの体を外れて高く突き上がり、ロッカーの体が後ろに傾く。
あたしは反動を利用して右足を引き戻し、もう一度残った足に蹴りを入れる。
仰向けに倒れるロッカー。あたしは剣を振り上げて・・・首めがけて振り下ろした。

「どうだぁっ」(/ふん)

あたしはフェンに振り向いて尋ねようとして・・・身を屈めた。ヒュン、と頭のあった位置を通り過ぎる刃。

「って、何するのよ!あたしを殺す気?」
「当たっても恐らく死にはしない。少し、確認したかった。」

振るった剣を鞘に収めながら何事もなかったかの様にフェン。
フェンのもっと本気の一撃は風を打ち払う。それは爆発音にも似ていた。
それに比べれば確かに、音が軽かったから力は篭めてなかったんだろうけど・・・恐らくってナニよ。

「先程の膝蹴りと、今の回避。角度的に見えてはいなかった筈だが、何故わかった?」

えーっと・・・どうだったっけ・・・あたし、戦ってる時は夢中だから思い出すの難しいんだけど・・・
言われてみればそんな気がしないでも無い様な・・・?
悩んでたんだけど横でじっと動かずに返答を待ってるフェンが視界に入って我に帰った。
・・・これは、あたしが答えるの、待ってるんだろうなぁ。
でも自覚してない事に説明を求められても困っちゃうんだけど・・・うーん・・・

「なんとなく・・・かな・・・?勘よ、勘。」

自分で言ってても納得なんか出来ない返答だと思うんだけど他に言えないし。

「そうか。」

って、また納得してるし。フェンの思考回路も相当変だと思う。

「その勘とやらは非常に興味深い。
認知、思考、伝達、実行の行程から認知、思考、伝達が省略されている。」

どうやら誉められてるらしいんだけど・・・問題は。

「何を言ってるかわからないんだけど?」
「本来ならば俺がお前に剣を振るうと、お前はそれを眼で見、音で聞き、剣を振るわれたと認知する。
次に屈んで避けなければならないと思考する。
思考が肉体に伝達され、お前は身を屈める動作を実行する。これが行程だ。」
「ふむふむ。」

なんて言ってるけどやっぱり理解出来てなかったりして。

「最初の一撃を盾で受けた時もそうだ。認知、思考、伝達が同時に行われてるか・・・
もしくは、発生より以前に認知、思考、伝達が完了しているか、だ。」

うん、今あたしの頭上にはおっきなハテナマークが浮かんでる。間違い無い。
フェンはあたしの様子をじっと見て・・・

「理解出来ないか。ならばこうしよう。そこにいろ。」

そう言って、腰から剣を抜いて地面に刺した。手を伸ばせば柄に手が届く、ぎりぎりの位置。
フェンは剣を挟んで反対側の位置に立つ。手にはローグが残していった短剣。

「放り投げる。地面に落ちる音が聞こえたら手を伸ばし柄を握り手前に引け。俺も同じ動作を行う。」
「いいけど・・・あたしがそれでフェンに勝てる筈ないじゃない。」
「だろうな。では行くぞ」

短剣を放り投げる。フェンって結構強引?ってゆーか話の前後の繋がりが無いんだよね・・・
まぁ、結果はわかってるけど、言われた通りにしてみよう。
耳を澄ます・・・かつん、と聞こえる。あたしは手を伸ばす。掴もうとして空を切る。
フェンの手が柄を握って手前に引いていた。

「これに何の意味があるっていうのよ?」

剣を垂直に戻して、短剣を拾いながら口を開くフェン。さっきと同じ位置に立つ。

「次だ。次は短剣が落ちた瞬間に柄を握れ。」
「変わらないじゃない!」
「行くぞ。」
「聞いてよ!」

ぽいっと放り投げられる短剣。・・・聞いてないし(TT)
何が変わるっていうのよ・・・全く。
ちょっとイライラしながらあたしは手を伸ばしてかつん、と聞こえて柄を握り手前に引いた。
直後、フェンの手が通過して動いた空気があたしの手を撫でた。
・・・え、順番がおかしかった様な・・・?それに、あたしが柄を握ってる?

「お前のその勘とやらは既に読心か予知の領域に達している。自分で認識してはいない様子だが。
1回目。音を聞き、手を伸ばして掴まなければならないと思考し、意思が肉体に伝わり、手を伸ばす。
俺とお前がその動作を同時に開始した場合、俺が必ず掴む。それが能力の差だ。
2回目。俺は先と同じ動作を行った。
お前は落ちた瞬間を『事前に』認知、思考、伝達し、実際に落ちた瞬間に行動を完了させた。
俺が4つ、お前は1つの手順、故に俺より速く掴めた。そういう事だ。」
「ごめんやっぱりさっぱりわかんないんだけど(TT)」
「・・・わからないならばいい、忘れろ。その様子では意識して行おうと思うと出来なくなる事だろう。
そして、戦闘においても無意識の段階で自らにとり最善の戦い方を行っている。
そこには助言など必要無い。却って邪魔になるだけだ。
足りないのは、正確に、素早く、力を篭めて狙う場所へ肉体を導く事だ。」

色々ごちゃごちゃ言ってるけど・・・よーするに。

「時間掛けて鍛えるしかないのね(TT)」
「そうだ。」
「・・・役立たず(ぼそ」
「何か言ったか?」
「ううん、何も?」
「そうか。」
「じゃあ、地道に戦ってくるわ・・・」

そしてあたしは日が暮れるまで休み休みロッカーと戦いましたとさ。
20556の続きsage :2004/04/30(金) 20:04 ID:K/P6HOw.
酒場。陽気に騒ぐ酔客に紛れる様にその男は居た。
カウンター席に座り、据わった眼で、店で一番強い酒をぐいぐいと飲み干していく。

「ちっくしょう・・・あのバケモノ・・・覚えてやがれ・・・」

次の杯が来るまでの隙間にブツブツと呟く。

「俺は・・・俺は強ぇ・・・強くなった・・・筈・・・だった・・・のに」

男は、孤児だった。集団行動が苦手な子供で、孤児院に馴染めずに飛び出した。
そして、生きる為にあらゆる事をやった。あらゆる手を使って強くなった。
金も、随分と貯まった。とは言え、現金の持ち合わせは実際それ程でもないのだが。
それでも倉庫の物や装備している武器、防具を売れば一生遊んで暮らせるだけの額になる。
仲間と呼べる者も出来た。自分と同じ、社会に背を向け、自らの欲望にのみ忠実な者達。
楽しかった。これから先も面白可笑しく生きていけると信じていた・・・昨日までは。
男にとっての幸せは、男の掌からボロボロと崩れていった。たった一人の男の手で。
殺したと思ったのに死ななかった。そして彼の仲間を殺した。
許せなかった。仇を取りたかった。
だが男の実力ではあの怪物には勝てない。その事は男自身が一番理解していた。
あの時の一撃は男にとっての唯一の、そして必殺の技だった。
今までそれで仕損じた事など無かった。それで死なないのであれば、男には他に打つ手はない。
だから、こうして酒を飲んでいる。決して酔えないと分かっていても、他に何も出来ないから。
胸の中に炎が灯っている。あの怪物を自らの手でなぶり殺さなければ消えない炎が。
ただ殺すだけなら難しくはない。何人、何十人と傭兵でも雇って突撃させれば殺せるだろう。
それだけの金も今なら用意できる。
男は想像する。何十人もの傭兵に切り刻まれ無様に死に逝く怪物の姿を。
・・・納得できない。
次に、何十人の傭兵を自分に置き換えて想像する。
自分一人の力であの怪物を圧倒し、思う存分切り刻み、死体に唾を吐きかける。
・・・その想像は快感だった。
どんな手段でも目的が達成できれば良いというのが男の信条な筈だった。
あの怪物を殺す。それが目的であるならばその手段は問わず、躊躇しない。
男は自覚していなかった。自らに誇りが、自信があった事を。
そんなものは邪魔にしかならないと思っていたが為に。
他人にあの怪物を滅ぼさせる、それでは傷付けられた誇りや自信を取り戻せない。
男の無意識はそれを悟っており、人任せにする気を起こさせない。男は、それに気付かない。
自分一人では解決は不可能。だが他人の力を借りる事は許されない。故に男は動けなかった。

「貴方、誰にも負けない強さが欲しい?」

その言葉を掛けられるまでは。
20656の続きsage :2004/04/30(金) 20:08 ID:K/P6HOw.
疲れたよ・・・お腹、ぺこぺこだよ・・・
日はとっぷりと暮れている。
バッタの足とゼロピーが沢山増えた。これなら3日分の生活費に相当するかも。
いや・・・そこまでする必要は全然無くって・・・まぁ、ムキになったあたしのせいなんだけどね・・・
とにかく、収集品を売ってお金に換えて、プロンテラの定食屋さんに行こう。
安くて量が多くて美味しい三拍子揃ったお店なんだよ。今の時期だとピッキの焼肉定食が旬なの。
ソースがまた美味しいの!じゅるり・・・いやいやあたし、はしたないぞっと。(ふきふき)

「そろそろ街に行くよー?」
「わかった。」

あたしが戦ってる間、ずーっとぴくりとも動かずに立ってあたしを見てたフェンが答えて傍に来る。
外部からの刺激がないと動かないところとか、本当に人形みたい。
・・・もう慣れつつあるけど・・・
てくてく歩いて、上水道(下水だっけ?)前の道具屋さんで収集品を売って、カプラさんに荷物預けて。
この辺りだと結構人が多い。あたし達冒険者は一時だけのパーティで冒険に出る事も多い。
今はちょうど冒険から戻ってきて、成果を分配しながらのんびりお喋りに興じる、そんな時間。
あたしみたいな駆け出しにはまだパーティは早いから参加した事はないんだけど、この雰囲気は好き。
成果と一緒に喜びを分かち合って、気が合った人達は再会の約束をして。
あたしも、いつかはここで・・・相方とか恋人とかと出会えたらいいなって。
ちらっとフェンを見る・・・だって、ねぇ・・・これは対象外でしょ・・・確かに強くて背高いしカッコイイけど。
言動も思考も変だし、何より人間じゃないし・・・
あ、でもフェンがもっと人間社会に慣れたら気にならなくなるかな?・・・ってちっがーう!
まるであたしがフェンをそういう対象として見ようとしてるみたいじゃないの!
ぶんぶんと頭を振って変な考えを追い払う。今はそんな事よりごはんが重要。
そう思って街に向かおうとして、あたしはフェンを突き飛ばした。・・・え、あたし何をしてるの?
あたしに押されてフェンの上体が少し傾いた。フェンの首を掠めて繰り出される刃。

「ちっ・・・はずしたか」

フェンの後ろには剣を突きだした姿勢で昼間のローグが居た。
襲撃の失敗を悟りバックステップで距離を取るローグ。
・・・酔ってるのかな?少しふらついてるし、鼻が赤い。
でも・・・なんだろう、悪寒がする。
目の前にいるのはどう見ても昼間のローグな筈なのに。雰囲気がまるで違う。
フェンが剣と盾を構えた。あたしは、フェンの邪魔にならない位置まで離れる。

「昼間の俺と今の俺を一緒にするなよ!?」

だんっ・・・という音と共に消えるローグ。ハイド?違う・・・これは・・・ただの移動?
ローグがフェンの背後を取って剣を振るのとフェンが振り向いて剣を振るのは同時だった。
耳障りな金属音。剣が撃ち合わされ、力比べになる。
クルセイダーのフェンとローグの腕力を比べたらフェンの方が上。
徐々に姿勢が下がっていくローグ。けれど不敵に笑う。

「動きの早さには慣れた・・・次は、力を試させて貰うか。」

それまで優勢だったフェンが突如劣勢に入れ替わった。
押し返され、のしかかられる。姿勢が低くなっていき・・・膝を付く。
まるで、ローグの体が大きくなったみたい・・・
いや、本当に大きくなっている。さっきまでフェンより低かった身長が今はフェンを越している。
フェンが、一瞬だけ押し返して体を引く。ローグの剣が地面を割る。
その隙を見逃す事無く剣を振るうフェン。ローグは無理な姿勢を物ともせず再びバックステップ。
再び二人の距離が開く。ローグの胸から鮮血。かわし切れなかったらしい。
あたしは眼を見張った。ローグの胸の傷が塞がっていく。
そして、傷口のあった場所から硬質そうな銀色の皮膚が現れた。

「ぞうで・・・だくっじゃなぁ・・・おもしろぐ・・・ねぇぜ・・・」

ローグの発音が少し不明瞭になってる。息が切れてるとかではなさそう・・・鼻息は荒いけどね。
鼻・・・赤かった鼻が今は真紅に染まって、変形してる・・・まるで、ピエロの鼻の様に、丸く。
顔全体の造作も少し崩れてる。下半分が前に張り出して、笑っている口は耳に届きそうに大きく開く。
その口の端からは歯・・・というより牙が覗いて。

「づぎば・・・ごいづだぁ!」

ローグが剣を掲げる。それと共にフェンの足元を中心とした大きな魔法陣が浮かび上がる。
不自然な風と急速に下がる気温・・・空気中の水分が凍結して、粉雪の様に舞う。
掲げた剣を振り下ろす。魔法陣の上に突如吹雪が現出する。

「きゃあぁっ」「うわあぁっ」

巻き込まれた近くの人達が悲鳴を上げながら凍り付く。フェンの下半身も凍結しちゃってる。
運良く難を免れた人達は驚きを隠せない。勿論、あたしもだけど。

「あれってローグだろ!?なんでストームガストを撃ってるんだ?しかも呪文の詠唱もなしで!」

しまった。フェンに気を取られていて周囲の状況を考えてなかった。

「あのローグはクルセイダーが押さえるから!みんな逃げてぇっ!」

あたしは声を張り上げる。凍り付いた仲間を引きずって離れる人達。
また・・・フェンの目が赤く光って・・・足元の氷が跡形も無く砕け散った。
ローグが狙っているのはフェンだけみたいだから・・・これでいいよね?それとも、助けが必要だった?
フェンが一瞬だけあたしを見て肯いた。どうやら、間違えてはいないみたい。

「シャアア!」

再びローグがフェンに接近。今度は目にも止まらぬ早さでの斬撃の応酬。
互いに避け、受け、いなし、傷を受ける。
ローグは傷に頓着しない。追った傷は片っ端から再生し、銀色の硬質化した皮膚に変わる。
フェンはかすり傷は無視して、比較的深い怪我を追った時にヒールで直す。
勝負は今の所、一進一退を続けている。

「もっどだ!もっどおれにぢがらをよごぜぇえ!」

ローグが吠える。耳の上の辺りの皮膚が裂け、角が飛び出す。
急速に伸びながら幾重にも枝分かれしていく。
もはや、全身は硬質化した銀色の皮膚で。ますます巨大になり。顔の変形も進んで。
その姿は、まるで・・・凶々しさを織り混ぜて擬人化したトナカイ?
変形が進むにつれて押されていったフェンがついに弾き飛ばされた。
頭から落ちる・・・と思った瞬間に体を入れ替えて着地、立ち上がりながらヒールを自らに施す。

「その姿、覚えがあるぞ。ストームナイトの力を身に宿したか。」

ストームナイトって言ったら・・・駆け出し冒険者のあたしでも知ってる。
一流の冒険者が数人がかりでやっと倒せる位の高位魔族じゃない!
・・・あたし、そんなのをフェン一人で押さえるなんて言っちゃった・・・
ごめん、フェン・・・お願いだから、どうか、無事で・・・!

「GWHOOOOO!!」

もう、人間の言葉には聞こえない大音響の吠え声。
その姿がまた消える。一拍置いてどん、と振動音。
ローグ・・・いや、ストームナイトが居た位置の地面が窪んでいる。
今度はフェンの動きは追い付かなかった。吹き飛ばされるフェン。地面を何度か転がって跳ね起きる。
先のより甲高い金属音二回と空を舞うフェンの剣。地面に落ちて粉々に砕ける。同時に砕け散る盾。

「ストームナイトは鈍重であった筈だが・・・
そこはローグの特性か。ストリップウェポンとストリップシールドまで使うとはな。」

追撃はかけずに悠然と立つストームナイト。その目はフェンへの憎悪でギラギラと輝いている。
三度、ストームナイトの姿が消える。けれど地面を踏む音はしない。
今消えたのは多分ハイドで・・・確か、ローグはハイド状態で動ける・・・
重苦しい沈黙を含んだ数秒が経過し、フェンの背後に出現する。そして一撃を加えてまた隠れる。
一撃で死に至れるだけの威力の攻撃を、背後を取り続けて加え続ける。
剣も盾もないフェンには成す術がない。とうに、ヒールでは間に合わなくなってる。
フェン、立ってるだけでももう辛そう・・・

「逃げて!フェン、もういいから、逃げてよぉ!」

けれどフェンは首を振る。逃がしてくれはしない、と思っているのがわかる。
そうかもしれない・・・あのストームナイトの目にはフェンの他に何も映っていない。
とうとう、フェンが堪え切れずに膝を付いた。
・・・遊んでる・・・なぶり殺しにするつもりなんだ・・・!
ふと、あたしはそれに気付いた。気付いたら堪らなくなって飛び出した。
何をどうしたかったかなんて考えもない。あたし程度に何か出来る筈もない。
でも、フェンをこんな窮地に追い込んだのはあたしなんだから。
そのあたしが高みの見物を決め込むなんて出来ない。
ストームナイトが一旦離れて、剣を掲げて吠えた。また地面に魔法陣が浮かび上がる。
けれど、さっきのとは大きさの桁が違う。どんどん膨らんで行く。
その直径を見てとったあたしは愕然とした。プロンテラの市街地にまで届く範囲だったから。
ただ、大きい分だけさっきより時間がかかるみたい。まだ掲げた剣を振り下ろす気配はない。
邪魔される事はないと思ってるんだろう。悔しいけどその通りかも。
あたしには何も出来ないし、フェンも動けない。
フェンの元に辿り付いた。そのまま倒れこみそうになるフェンの体を支える。
・・・重さに耐えかねてふらついているのはこの際見逃してね。
20756の続きsage :2004/04/30(金) 20:10 ID:K/P6HOw.
「ねぇ、フェン、しっかりして!お願い、死なないで!」
「何故、来た。死にたいのか」
「だってこれじゃ・・・逃げても無駄だよ・・・」
「今から全速力で走れば範囲外まで逃げられる可能性は高い。」
「フェンを見捨てて行ける訳ないじゃない!」
「他人の為に自らの命を捨てるのは愚かな行為だと思ったが。」
「あの魔法を止める事は出来ないの?」
「止めたいのか」
「そうよ!」
「何故」
「何故って・・・街に被害が出ちゃうじゃない。」
「諦めろ。俺が関知する問題ではない。」

こいつは・・・まだそんな事を言うか。目の前が真っ赤になるくらい頭に来たぞ、もう!

「迷惑掛けたらそれも他人と関わる事になるの!だから関わるつもりがないなら止めなきゃ駄目!」

いやもう・・・自分で無理のある論理展開だと・・・ちょっと思うけど・・・フェンがあたしをまじまじと見て。

「・・・そうなのか。」

とか相変わらず納得しちゃってるから結果オーライ?

「だが止めるには力が足りない。人間の食事では即効性が無く今から摂取しても間に合わない。
間に合わせるならば俺以外の生物の生気が必要だ。範囲にはお前しか居ないが。」
「せ、生気って・・・フェンにあげたらあたし死んじゃうとか!?」
「死にはしない・・・恐らく。」

絶対じゃないのね(TT)
でも・・・まぁ言いだしっペはあたしだしね・・・仕方ないか。とほほ・・・

「それでいいから、やって。」
「わかった。俺の目を見ろ。」

言われた通りにする。フェンの目が赤く光る。吸い込まれる様な感覚。綺麗な赤だな・・・
他に何も見えなくなる。フェンの目が大きくなって・・・視界いっぱいに広がって・・・
なんだか、ふわふわする・・・
とさ、と音が聞こえて我に帰った。すぐ目の前に赤い目を光らせるフェンの端正な顔。
えーっと・・・あぁ、あたし倒れかけたんだね・・・それをフェンが支えてくれたんだ。
フェンの左手があたしの体を抱きかかえている。

「え、わ、わ。」

慌てて払いのけて立とうとしたんだけど体が痺れてうまく動かない。

「暫くはまともに動けない筈だ。大人しくしていろ。」

でも、効果はあったみたい。今にも倒れそうだったフェンはあたしを抱えながらしっかりと立ってる。
そして空いている右手を天に突き上げる。
あたしは、どこかはっきりしない意識でそれをただ見ていた。

「・・・副次的に発生する熱量で相殺するには・・・この程度か。」

フェンの周囲に魔法陣が浮かび上がる。陣の上をを轟々と風が巻く。ちょうど、フェンを中心として。
それは竜巻・・・いや、そんな優しいものじゃない。摩擦で放電現象が起こり、風の中を光が走る。
ストームナイトの目がぎらりと光る。掲げられた剣が振り下ろされる。
時を合わせてフェンも突き上げた右手を振り下ろす。

「・・・ロードオブヴァーミリオン・・・」

フェンの魔法陣がストームナイトの魔法陣を覆う程に膨れ上がる。
雷を内包する風と冷気を伴う風がぶつかる。雷が粉雪を貫き、焼き払う。
いや、実際にはそうじゃないんだろうけど、あたしにはそういう風に見えた。
そして・・・風が凪いだ。
風だけじゃなく、冷気も感じられない。
止めた・・・良かった。被害は出ていないみたい。
えーっと・・・クルセイダーが攻撃魔法を使えるなんて話は当然聞いた事ないけど・・・
人間じゃないならアリなのかな?とにかく無事だ。

「まだ終わっていない。ストームナイトに風の属性は通用しない。」

言われてストームナイトに注意を向ける。
不思議そうに何も起こらなかった周囲を見回している。
フェンが目に入った瞬間に自分の魔法が止められた事を認識したのだろう。また目に憎悪が灯る。

「GAAAaaaa!」

再びその姿が消え、偽りの静寂が訪れる。

「右に避けて。」

あたしが朦朧としたままフェンに何か言ってる。
言われた通りに動くフェン。背後に出現して振るわれたストームナイトの刃が空を切った。
また姿を隠す。

「前に踏み出して。」

再び空を切る刃。
そうして振るわれる刃のことごとくをフェンは避けた。それどころか拳で反撃する余裕まである。
でもフェンの武器が壊れている以上、こちらからの攻撃も期待出来ない。
フェンがまるであたしの心を読んだみたいに言う。

「武器はある。現在の力なら喚べる。」

その言葉と同時に目の前の空間に一抱え程の大きさの『穴』が開いた。
何かが・・・せり出して来る・・・?

「レックス・エーテルナッ」
「ダブルストレイフィング!!」

そしてストームナイトに剣の囲いの幻影。背中に突き刺さる2本の矢。
けれどもそれで『穴』は閉じてしまった。フェンの目も元に戻った。
武器、見てみたかったな・・・とちょっと思ってみたり。
顔を巡らせると、逃げた人々から事情を聞いたらしい冒険者達が続々と集まってくる。

「サフラギウム」
「レックスエーテルナ」
「ヘブンズドライブ!」
「GOAHHHHHH!」

熟練の冒険者達の強力な攻撃がストームナイトの身を削っていく。
そんな中で、あたしはストームナイトの眼に正気が戻るのを見た。
身に走る激痛が正気を呼び覚ましたのかも知れない。
・・・聞こえる。

「GWHOOOO!」(なんで俺を攻撃するんだ!俺は怪物退治をしてるだけだぜ!)
「くっそ、このバケモノまだくたばらねぇのかよ!」
「効いてるぞ!」
「あと少しでとどめだ!」
「そこの二人!よく耐えてくれた。早くこっちへ!」

眼に入った自分の手を見て、体を見まわして・・・衝撃を受けている。そして、吠える。

「GAAAHHHH!」(なんだよこれ!?お、俺の体が!?)
「このぉ、しぶてぇ!」
「いいから沈めよ!」
「GWHYYYYY!」(俺をそんな眼で見るな・・・!俺を否定するな・・・!しないでくれぇ!)

この声は他の人達には聞こえていないみたい。
あたしは耳を塞いでしまいたかったけど、体はまだ思う通りに動かない。嫌でも聞こえてしまう。

「GHYAAAAA!」(うわあああぁっ!)

ストームナイト・・・いや、今はローグの心が壊れていく。
自分の肉体を否定して、討伐されかけている現実を否定して、狂気に落ちていこうとしている。
救いを求めるように周囲を見るけれども既に冒険者による包囲網が完成している。
あたしと、眼が合った。或いはフェンと。
あたしは今、泣きそうな顔をしているんだと思う。
自業自得だと思う。色々な悪さをしてきた人だって分かるから。
でも、気付いてしまった。このローグが抱えている寂しさに。
敵を取りに来る位、仲間を大切にしていた事もまた、分かってしまった。
どうやってかはわからないけど、魔族の力を取り込んでまで。復讐を遂げる為に。
・・・あたしには、この人を責められない。
あたしだって、巨大な力を手に入れる機会があれば、それで奴を倒せるのなら、きっと同じ事をする。
そんな時に奴が目の前に現れたら周囲の迷惑なんて考えないに違いない。
ローグが突進して来た。剣に切られ、矢に貫かれ、魔法に撃たれながら。それでも勢いは衰えない。
包囲網を突破し、あたし達の目の前に立つ。一瞬姿を隠し、土煙と共に出現する。

「けほっ・・・こほっ・・・」

あたしは直前で目を瞑ったけど土煙を吸い込んじゃった・・・声が出ない。
フェンはさすがに大丈夫みたい。ガツッと鈍い音。
ローグの繰り出した拳をフェンの右腕がしっかりと受け止めている。
そのまま押すローグと堪えるフェン。
・・・ローグの剣は何処?土煙を撒いた時には持っていたと思うけど・・・
疑問に思った時、答えが浮かんだ。・・・上から振って来る。フェンめがけて。

「ふぇくっ・・・けふっ・・・」

駄目だ。声は出ない。
・・・体の痺れはだいぶ取れていた。
それは意識しての行動じゃなかった。
あたしだって好き好んで死にたい訳でも痛い思いをしたい訳でもないんだから。
でも、あたしは考える前に動いていた。
そう、フェンに飛びついて覆い被さる様に。
叩かれた時のようなどんっという衝撃と冷たい金属が背中から皮膚を越えて潜り込む感触。
一瞬の後、激痛。
ローグがフェンを弾き飛ばした・・・よかった。貫通してフェンに刃が届いたりはしてないみたい。
・・・そうじゃなかったらたらあたしのした事が無意味になっちゃうもんね・・・
剣の柄を握るローグ。周囲の景色が歪んで、浮遊感に包まれる。
死にかけてるからかな?と思ったんだけど、この感覚は覚えがある。蝶とか蝿とかを使った時だ。
そういえば、ローグには攻撃した相手と一緒に転移する技があるって誰か言ってたっけな・・・
転移先の光景を見るより先に、視界が暗くなっていく。
うーん・・・このローグが転移先でわざわざあたしの怪我の手当てなんてしないだろうし。
これはー・・・あたし助からない気がしてきたなーあははー(TT)
そんなちょっと絶望的な未来予測をしてたら、あたしの意識は闇に沈んだ。
208201sage :2004/04/30(金) 20:15 ID:K/P6HOw.
今回は文と台詞の間を空けてみたんだがどうだろう?
感想貰えると嬉しかったりするのは変わらない・・・

・・・まぁ・・・ともあれ板汚しスマンカッタ
209('A`)sage :2004/04/30(金) 20:40 ID:s1qJvvN.
リアルタイムで読ませていただきました…が、
眩しい…なんて綺麗に整頓された文章なんでしょう…。
雑多な私の文とは天地の差を感じます…未熟TT

何はともあれ、GJでした。素晴らしいです。是非、続きを!


行間かぁ・・・('`;)
210201sage :2004/04/30(金) 22:20 ID:0CGkVkjw
GWHOO!(←言葉にならない位嬉しいらしい)

ありがとう。
でもさ、違うんだよ・・・
をれ、改行しないで折り返すのが嫌いな癖に
640×240のハーフVGA画面で書くから長文に出来ないだけなんだよ・・・

('A`)殿の書く文章は緻密な描写で画面を想像しやすく、格好良いとをれは思う
筆が思うように進まなくなるのは、より良い作品を練る為の充填期間という事で
えーっと、何が言いたいかっていうと、続き楽しみにしておりますぜ・・・と
では、これにて一旦失礼をば
211名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/01(土) 18:49 ID:d/OcpqaA
201様GJ!
なんか、ローグが哀れ今ままで好き勝手やった分のツケが来たとはいえ
また、それが聞こえてしまう剣士子もまたなんとも・・・
結局の所、続き希望ですYO!とw


・・・あぁ、何で文神降臨した後に駄文放り込んでるんだろと考えつつ
前回の162を加筆修正したりしました。
深淵の台詞増えてるし、弟沸いて出たりするので話的には結構変わったかも・・・
とはいえ、大筋は一緒なので再度貼り付けるのも・・と思いまして

ttp://tfc55.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/ss_up/rag_ss/VS-ABYSS.txt

良ければ読んでやってください
21293@外出先の他人PCsage :2004/05/01(土) 19:25 ID:gFKHYZy2
家族のを借りて覗きに来てみたわけですが。
>>198
 期待して待ってます。最近ほのぼの短編が読みたいよう
>>201
 ぐっじょぶです。ずーっと一人称で状況をきっちり語れる筆力は
うらやましいです。いろんな人のが見れると楽しいだけじゃなく、
励みにもなるので、がんがん書いて欲しいです。
 保管は、のんびりやってますですよ。
>>('A`)様
 雑多ですか…。ん、必要以上に自分を過小評価してしまう人は好き
ですけど…、密度が高い文章を書ける氏を羨ましげに見ている生き物が
ここにいますよっと。
>>211
 前より軽くあしらわれてる様に見える騎士様萌え(だまれ
 で…保管は、こっちの新版でやり直したほうがいいのかな? かな?
作業は多分、連休明けになりますけど。

 自由になるPCが無いのが辛いようT⊂(。Д。⊂⌒`つ
213('A`)sage :2004/05/02(日) 00:42 ID:mhRNRTsM
ブリトニアの夜空が燃える。
砦を焼かれた敗残兵達が逃げ惑う中、ただ一人、静かに、紅蓮の炎を見つめる剣士が居た。
「・・・ジルタス」
慈悲を乞った女魔族の声がまだ耳に残っていた。
金髪の剣士――いや、剣士の姿をした魔の者、ドッペルゲンガーが憤慨してこの砦を攻め落とし、その地下に隠された『施設』に辿り付い
た時、四肢を失い、面妖な装置に繋がれた魔族・・・ジルタスは手の施しようがないほどに衰弱していた。
生きていたのは彼女だけだった。囚われた他の魔族は全て魔力を搾り取られ、放置されたまま朽ちていた。
既に見えぬ濁った双眸を剣士に向け、ジルタスは言った。
殺して、と。
ドッペルゲンガーは何も言わなかった。ただ、静かに、魔力を収束させ、万物を凍てつかせる呪を唱える。
それから砦を焼いた。
驚く事に、彼は砦に残っていた敵の命を一つも奪わなかった。理由は、誰にも分からない。
「アリス・・・カタリナ・・・私は一体、何がしたいのだろうな・・・」
多くの同族の命が奪われた忌々しい砦が燃えていく。
ドッペルゲンガーは踵を返し、一度だけ燃える砦を振り返ってから、夜の闇に消えた。


『渡せない指輪 1/3』


春も近いというのに、その街には粉雪が舞っていた。
ルーンミッドガッツ最北の街、アルデバラン。水路と巨大な時計塔が街の殆どを占める、水の都。
『ジョン』はそこに戻っていた。
ゲフェンから撤退したアウル=ソン=メイクロンの一派への手がかりも無く、また、彼らの本拠だったブリトニアの砦にも痕跡は残され
てはいなかった。行方知れずだった魔族達の最期を見届け、バフォメットから頼まれた調査も完遂した。誰に相談するでもなく、彼はそ
う見なした。
疲れていたのかもしれない。
ゲフェニアの奥から地上へ出て来てからというもの、あまりに多くの事があり過ぎた。
カタリナの死を経て、怒りに任せて戦い続け、今度はアリスを失い、探し出そうとした同胞達も死んだ。これ以上、何をしろというのか。
魔力を抑え、人間の冒険者に紛れながらカフェテラスのパラソルの下の席に座る。
降りしきる雪。積もる程ではなかったが、鬱陶しいのは変わらない。ジョンは微かに肩に乗った雪を払い除けた。
「・・・何になさいます?」
客と勘違いしてしまったのか、ウェイトレス姿の娘が寄って来て尋ねる。
訳が分からず周囲の席を見回したジョンはここが飲食目当ての客が座る場所なのだと気付いた。時計塔のすぐ下にあるこのオープンテラ
スは一般観光客は勿論、冒険者やカップルなどにも人気がある。一人で座っているのは、彼と少しはなれた席に座っている<鎧>だけだ。
場違い・・・・・・鎧?
何か不自然なモノが居る。ジョンは雪の向こうでさも当然かの如く椅子に座る<鎧>に眼を凝らした。
どう見ても、鋼鉄の鎧だ。中身が居るにしても、だらりと垂れ下がったガントレットは芯がない。指先の関節も逆に曲がっている。
周りは不思議に思わないのだろうか。
「・・・あの、お客様?」
呼ばれて、ジョンは我に返った。慌ててテーブルに備え付けてあったメニューを取り、眺める。
魔族である彼はあまり食物を摂取する必要がないのだが、座ってしまった以上頼むしかないのだろう。腹を決め、彼は考えた。
何を頼めば怪しまれないのだろう。
この思考は根本的な部分で間違っていたのだが、人間の一般常識にとことん疎い彼が気付くはずもない。むしろ、間違ったベクトルへ考え
が固まっていく。比較的、無難で大人しい、自然な品目を探して視線を這わせる。
(む・・・これかっ!?いや、これしかない!)
ふと、ドリンクの欄に見付けた見覚えのある文字。彼は躊躇せず、自信を持ってその単語を口にした。
「・・・ミルクだ」
ウェイトレスが目を丸めた。
周囲の客の何人かが口に含んだものを吹き出す。所々から笑い声も上がった。
見れば、さっきの<鎧>も笑っているのか、ガチャガチャと振動していた。一体何が不味かったのか、ジョンには全く分からない。
ウェイトレスがトレーで笑みを隠しながら店の方へ去っていった。残され、頬を紅潮させたジョンはいたたまれない気まずさに、思わず俯く。
どうやら人間の世界では、自分は何をやっても駄目らしい。また失敗だ。
「ねぇねぇ、しょげないでよ、剣士さん」
いっそ、再び森で暮らそうかとも考えていたジョンは、不意に声をかけられ、顔を上げた。
目の前の席に<鎧>が来ていた。全身鎧<フルプレート>に兜<ヘルム>が乗っかっている異様なモノ。
「な、何だ・・・お前は・・・レイドリックの類か・・・!?」
「だっ、誰がレイドリックだって!?ボクは人間だよ!!」
ヘルムのスリットから声が聞こえた。フェイスマスクを降ろしているから顔が見えないのか。ジョンは妙に納得して物珍しげに観察する。
「うんうん、ボクほど装備を固めた冒険者はそうは居ないからね、珍しいのも分かるよ。あ、でも貴方みたいな初心者にはボクの凄さが分から
ないかなぁ」
と、嬉々として語る<鎧>。
「いや、ある意味凄いのだろうとは思うが・・・」
ぎっちょんぎっちょん、とヘルムが揺れ、ガントレットが上下する。まるで人形の様だな、とジョンは思った。
同時に、気付いた。篭手の指先が動いていない。中身のサイズと吊り合っていないらしい。全体を見れば異様に寸胴で足が短く手が長かった。
中はどうなっているのだろう?
「いやぁ、ボクはね、カフェで思わずミルクを頼んでしまうような世間知らずの貴方に冒険のマナーを・・・って、何やってるんだよ!?」
話を完全に無視し、<鎧>のヘルムに手をかけるジョン。<鎧>は意外と高い声で喚き立てた。
「む?いや・・・少し気になったのでな・・・」
「わ、わーっ、やめろーっ!」
スポン、とヘルムが脱げた。まずジョンを驚かせたのは、収まっていた長い藍色の髪だ。肩で切り揃えられている綺麗な直毛は、よほど丁寧に
手入れされているらしく、ほのかに石鹸の香りがした。勝気そうな目は、決して良いとは思えない目つきを覆して余りあるほど大きく、愛らしい。
眉目の整った美しい『少女』だ。
「・・・なんだ・・・女・・・しかも子供とは」
合点がいった。ジョンは急に興味を無くし、自分の席に座り直した。鎧の少女は鼻息荒くヘルムを取り返して、また被る。
「なんだよっ、貴方だってミルクを頼むような人じゃないかっ」
「よく商人が売っているからな。カモフラージュに丁度いいのかと思っただけだ」
「わけわかんないよっ!」
真顔で言うジョンの頭に、少女の取り出したパイクの柄が突き刺さった。
214('A`)sage :2004/05/02(日) 00:43 ID:mhRNRTsM
「ボクはエネ=シェルザール。こう見えても、ベテランのクルセイダーなんだよ」
「ほお・・・そうなのか」
エネと名乗る鎧・・・もとい、クルセイダーの少女はガントレットを外した手で運ばれてきたティーカップを取り、口に運んだ。
・・・が、ヘルムが邪魔で飲めない。渋々、兜を脱ぐエネに、ジョンは苦笑する。
「ふ・・・それが本当ならクルセイダーという者達の認識を改めねばならんが」
「うるさいなぁ・・・貴方、かなり偉そうな喋り方だね。友達いないでしょ?」
「・・・お互い様だろう」
ウェイトレスが笑いを堪えて持ってきた牛乳瓶を煽るジョン。どうやらこの小さなクルセイダーは一人身らしく、連れ立った仲間も居ない。
かといって、一人で戦えるほど熟練してもいないだろう。それは先程から観察していれば分かる事だった。
ジョンが今まで見てきた人間の冒険者達の次元が高いというのもあるだろうが、何気ない仕草の節々から見て取れるエネの実力は、お世辞にも
彼らとは程遠い。幼稚でさえある。戦いや仲間といったものとは、おおよそ無縁に見えた。
「ボクはちゃんと居るよ・・・友達」
何故か、エネはそこで言葉を切って紅茶をすすった。心なしか、表情が硬い。
「そうか・・・私も・・・いや、つまらん事だな」
空になった瓶をテーブルに置き、ジョンは立ち上がった。
「あ!?どこ行くのさ!?」
「この街に遊びに来たわけではないのでな」
瓶の傍にゼニーを置いて立ち去るジョン。エネは急いで茶を飲み干し、その後を追った。
「何故ついて来る」
「言ったじゃないか。ボクが貴方に冒険の心得というものを教えてあげるよ。貴方は見てて危なっかしいんだ」
ジョンは初心者でもなければ冒険者でもなく、人間ですらもなかったのだが、エネはお構いなしにまくし立てる。
その間抜けな勘違いが、あの、遠い日に・・・森で出会った少女に似ていて・・・似過ぎていて。
「ふん・・・好きにするがいい」
彼はエネから視線を外してそう呟いた。

カラン、とドアにくくりつけられた鈴が鳴った。
暇そうにプロンテラ通信に目を通していた中年の商人は客の到来に思い腰を上げる。
「いらっしゃい・・・ん?アンタは・・・」
雑貨屋の店主はその客に見覚えがあった。去年のクリスマスに高価なドレスを買って行った剣士だ。
剣士・・・ジョンも店主の事を覚えていた。このアルデバラン近郊の森で生活していた頃、よく利用した店だ。
品揃えに全く統一感のない店内を物珍しそうに見て回るエネ。彼女を呆れたような目で一瞥してから、ジョンは店主に尋ねた。
「花束はないか」
「あるぜ。そこのカッコイイ彼女にプレゼントかな?」
ぼっ、とエネの顔に赤みが増す。ジョンは顔をしかめた。何故そうなるのだろう。
店主は棚の上に置かれた花瓶から花を適当に見繕い、包みながら笑った。
「去年買って行ったドレスといい、この花束といい、やる事が男だねぇアンタ。そういや、あの指輪は渡せたかい」
「・・・いや」
悲痛な面持ちで、ジョンは答えた。
「その花も・・・プレゼントなどではないんだ」
「ふむ・・・そうかい」
主人は一瞬だけジョンと目を合わせてから、また花に視線を戻す。だが、束ではなく別の何かを作り始めていた。
「アンタ、もうこの辺で生活してるわけじゃないんだな。めっきり来なくなっちまったから、どうしたかと思ったんだが」
「・・・」
「所帯を持ったってわけでも、なかったか。まぁ・・・こんな世の中だからなぁ・・・」
店主の暗い呟きと、ジョンの辛そうな顔の意味を、エネは全く理解できなかった。
215('A`)sage :2004/05/02(日) 00:45 ID:mhRNRTsM
『渡せない指輪 2/3』


アルデバラン近郊の山中にその森はあった。
人の手の入っていない山、道すらまともに整備されていていないその森の、さらに奥に、
僅かに積もった雪に埋もれる、小さな小屋の焼けた残骸がある。
全身を鎧で固めたクルセイダーの少女は、その場所に降り注ぐ陽光と粉雪に思わず感嘆の溜息を吐いた。
先程までは、この場所に連れてきた・・・というよりは、彼女が一方的についてきたのだが・・・剣士に対して、「こんな所に連れ込んで何をする
つもりだ」だの「ボクのパイクの餌食になりたいのか」だのと喚いていたのだが、ここへ来てようやく勘違いに気付いた。
彼は単にここに来たかったらしい。
「何なのさ、ここ」
「少し前まで住んでいた『家』だ」
金髪の剣士は端的に告げて歩き出した。エネを完全に無いものとして見ているかのように、小屋の跡の後ろに回る。
エネはふてくされながらその後を追った。
が、全身の鎧が重く、なかなか追いつけない。
「家?これが家だって?全然小さいし、焼けてるじゃないか。こんな所に何があるって・・・」
ようやく小屋の後ろに回り込んだ剣士に追いつくと、エネは絶句した。
剣士は花畑の中心にひざまずいていた。木の枝と縄で作られた粗末な十字架を囲むように、一面の花々が雪の間から顔を覗かせる。
墓だ。エネは理解した。
「・・・誰のお墓?」
「お前の言うところの友達、だろうな。正直・・・私にも分からない」
剣士、ジョンが取り出した花の環―――雑貨屋の店主が渡した<仮初の恋>が、彼の手によって木の墓標に掛けられた。
「墓というのは建前で実際に遺体がここにあるわけではない。故あって墓標だけだ」
元々はちゃんとここに『彼女』は眠っていた筈だった。
しかしゲフェンでシメオンと名乗るウィザードが言った様に、あの後、アリスと共にこの墓を確認しに来たジョンが見たのは、
暴かれ、荒らされた、無残な光景だった。
すぐに元通りにはしたのだが、遺体だけは未だに現世を彷徨っている。今も、実の兄という少年、バニの人形として。
エネが重い鎧を軋ませ、ひざまずいて十字を切り、祈りを捧げた。
「・・・用事ってお墓参りだったんだ」
「朱に交われば赤くなる・・・人間の習慣というものに毒されたらしい」
意味の分からない事を言うジョンに、エネは怪訝な顔をした。
「死ねば肉体は腐り、意識は消滅する。魂が天に昇るのだと言う者も居るらしいが、現実には土くれに還るだけだ」
大剣を支えにして立ち上がるジョン。エネに背を向けたまま、呟いた。
「こんな墓に意味はないと・・・理解はしているのだ」
「なんだか知らないけど・・・大変だったんだね。お察しするよ」
「ふん・・・生意気を・・・」
ぽんぽん、と肩を叩くエネに表情を和らげ、ジョンは墓前を後にした。差し込む陽光に目を細め、まばらな雲から降り注ぐ雪の粒を見上げる。
雲の合間に太陽は見えなかった。
「これからどうするの?」
「分からぬ。出来る事はもう全て済んでしまった」
表面の意味以上の重みを含んだ言葉に、エネは明るい顔をした。ジョンの抱えた闇に気付くには、彼女は無垢過ぎたのかも知れなかった。
「じゃ、ボクと一緒に行こうよ。冒険者なら冒険しなくっちゃ」
「エネ・・・私は冒険者ではない。大体、何故お前は私に・・・」
不意に、木々がざわめいた。
流動する大気中の魔力を、ジョンは確かに感じ取っていた。近くで何かが起きたらしい。
「・・・ん?どしたの?」
「いや・・・おかしな気配がしたな。恐らくアルデバランだろう」
続いて、轟音が響いた。ウィザードの大魔法か、それに比類する威力の破壊が行われたのか。エネが両手で頭を庇い、身を伏せる。
「ひっ・・・な、なに!?なんなのさ!?」
ジョンはアルデバランの方角の空がかすかに赤く染まっているのを見た。脳裏に、雑貨屋の店主の顔が過ぎる。
行くのか?
自問した。が、自分に一体、何がどれだけ出来るというのか。
カタリナやアリス、ジルタスの最期。何一つ満足に成せないままここまで来た自分に、何が出来るというのか。
彼は弱くなっていた。人間と接し、感情を理解する事によって、確実に弱くなっていたのだ。
「アルデバランに何か来たようだな・・・」
「何かって・・・何さ・・・?」
「分からんが、戦闘が始まっているところを見ると好ましいものではないようだ。魔物か、悪人か・・・そんなものだろう」
うろたえるジョンの言葉にエネは突然勢いよく立ち上がって蝶の羽を取り出した。意図する所を察したジョンが、慌てて止めに入る。
「よせ!今は戻るな、エネ!」
「テロだかなんだか知らないけど、街で戦うなんてマナー違反だ!止める!」
「お前にどうこう出来る相手ではないぞ!」
蝶の羽を取り上げようとしたジョンの手が空を切る。既にエネの身体は眩い光の粒子となって消えていた。
「くそっ!愚か者め!」
ジョンは苦々しく舌打ちし、転移の呪を唱える。
会ったばかりの相手に、どうしてこうも拘るのか・・・分からないまま。


転移した先でエネを待っていたのは、見上げなければならないほど巨大な岩の塊だった。
見渡す限りの冒険者がその岩の巨兵達と時計塔の前で戦闘を繰り広げている。古木の枝による召還とは違い、巨兵達は統率をとっていた。
逆に、冒険者達の攻撃は散発的なもので、連携とは無縁だった。それでも善戦する者達も居たが、敵の数が尋常ではない。
ゴーレムの数はゆうに二十を超えている。それも、並のゴーレムではなかった。
「う、うわっ!?」
エネの前を、岩の巨兵の腕で叩き飛ばされたシーフが飛んで行った。血飛沫と肉片が飛散し、彼女の被るヘルムにベットリと纏わりつく。
死んだとか、そういうレベルの話ではない。
破壊されたのだ。一撃で。
エネは戦わずして戦意を失った。彼女の鎧も兜も、肉体的なハンデを補って余りあるほど精錬されていたが、とてもこの巨兵達の攻撃に耐えら
れるとは思えない。桁が違いすぎる。
シーフを圧砕したゴーレムが物陰にへたり込んだエネを見付けた。その巨大な腕が振り上げられる。
「下がれ、エネ!」
瞬間、転移してきた金髪の剣士の怒声がエネの耳に届いた。続き、彼女に迫るゴーレムが横っ飛びに吹き飛ぶ。
地響きと共に転倒したゴーレムの半身は凍て付いていた。活動を停止したわけではないが、しばらくは動けないだろう。
「フロ・・・フロストダイバー・・・?何で・・・?」
エネの隠れていた階段の陰に滑り込んだ剣士、ジョンは氷の魔法を放った掌をゆっくりと閉じた。凄惨な戦場に降り立った彼の横顔を、信じら
れないといった表情で見つめるエネ。風貌からして剣士である彼が魔力を行使した。その事実が、飲み込めないのだ。
ジョンはそんな事におかまいなしに怒り続ける。
「行くなと言っただろう!分際をわきまえろ!」
あまりに酷い物言いだったが、反論できなかった。危うく死ぬところだったのだから。
凍て付いた半身の氷を引き剥がし、ゴーレムが立ち上がった。ジョンは腰の鞘からツヴァイハンダーを抜き放ち、相手を凝視する。
「ゴーレム・・・スタラクタイトゴーレムだと・・・これほど強力な魔導生命が・・・」
「駄目だ!貴方じゃ!」
必死にパイクを構えるエネが叫んだ。初心者丸出しのこの青年では、屈強のアルデバランの冒険者が翻弄されるこの魔物に勝てないと判断した
のだ。しかし、ジョンは逆にエネを制してゴーレムへ疾走した。一瞬の間に岩の巨兵の足元へ躍り出る。
「問題ない!木偶如きに・・・」
スタラクタイトゴーレムの隆起した岩石の腕が唸りをあげてジョンに振り下ろされた。エネは思わず目を瞑り、惨劇を思い描く。
『させるものか!』
圧倒的な重量と力で押し潰される寸前、ジョンの双眸が煌いた。彼の黒の刃が眼前まで迫った岩の腕を断ち切り、巨大な胴体を切り刻んでいく。
腕を失っても何ら怯まない岩の兵は、もう一本の腕で剣士の立っていた地面を砕いた。
だが、そこに彼の姿は無い。高く飛び上がったジョンは大剣を鞘に戻し、目にも止まらぬ速さで空中で印を結び、闇からランスを引き抜いた。
そして、ゴーレムの頭に着地する。勿論、矛先を無防備な巨兵の頭に向けたまま。
『還れ、土人形』
岩の頭部が爆ぜ割れた。
ピアースを繰り出したジョンは槍を片手に大剣をも抜き、ゴーレムの残骸の上から周囲の冒険者に叫んだ。
『形勢は決している!一度退いて体勢を整えよ!』
声を聞いた冒険者達の前線が後退した直後、時計塔の周囲に新たなゴーレム群が現れた。多くの悲鳴と狼狽の声が上がる。
ジョンは槍を投げ放ち、寄って来た一体を沈黙させると残骸から飛び降りてエネを抱きかかえた。重い鎧を全身に纏った彼女を軽々と持ち上げ、
彼は端的に告げた。
「逃げるぞ」
有無を言わさぬ一言。抱えられたままで面食らうエネ。
「えっ!?ちょっと!?」
次の瞬間には、二人の姿は時計塔の広場から消えていた。
216('A`)sage :2004/05/02(日) 00:46 ID:mhRNRTsM
『渡せない指輪 3/3』


しんしんと、雪が降る。
アルデバランで続く戦闘を後目に、北――シュバルツバルド共和国との国境検閲所の辺りまで来てから、ジョンはエネを放り出すように地面に
降ろした。ぞんざいな扱いをされたのもあり、彼女は苛立った視線をジョンにぶつけ、血で染まったヘルムを投げ捨てる。
苛立っていたのはジョンも同じだ。無謀としか思えないエネの行動に何故か無性に腹が立っていた。
「何故あのようなことをした!?」
「何であそこで逃げたのさ!?」
身長差の大きい二人の激しい視線が交差した。ただ、エネの方が剣幕で勝っていた。
「・・・剣士なのに何であんなに強いのか・・・ボクには分からないけど・・・貴方だったらあいつらを倒せたんじゃないの!?違う!?」
「ばっ・・・馬鹿を言うな!あの数を見ただろう!」
巨兵達はまさに『軍団』だった。次から次へと数を増やし、明確な統率も持っている。
どう足掻いた所で敗北は目に見えていた。アルデバランで今も戦っているであろう冒険者達も十中八九、全滅する。
ジョンが行こうと行くまいと結果は同じだろう。
「そこまで頭が悪いか!?お前は!」
「逃げるのが賢いって!?ボクは嫌だ!絶対、逃げない!皆を助けるんだ!」
「待て!」
アルデバランの方角へ歩き出すエネの肩を掴むジョン。
行かせてはならない。そんな気がした。
「・・・離してよ」
「そこまでする理由がどこにある・・・?」
気付けば、そんな事を訊いていた。
いつもいつも、この人間という生き物達はジョンの理解を超える行動をする。彼自身も、過去に何度かそういった行動への衝動に駆られた。
だが、分からない。一体、何故だ。何故、あのアサシンも、アコライトも、剣士も、エネも・・・自分も、他者の為に懸命になるのか。
漠然とした問い。それは彼自身が地上へ出てから遭遇した全ての戦いへの問いだ。
「・・・パーティの仲間を・・・見捨てた事があるんだ・・・ボクは」
「どういう事だ?」
エネが答えた。その身体から力が抜けているのを確認し、彼女の肩から手を離す。
「半年くらい前かな・・・まだボクが剣士になったばっかりの頃、プロンテラで会ったメンバーでゲフェンの地下へ行ったんだよ・・・」
ちょうどジョンが地上へ上がった頃だ。彼は黙って、雪の中で語るエネの話に耳を傾ける。
「分からなかったんだ・・・知らなかった・・・あそこの魔物があんなに強かったなんて・・・ボクも、皆も、何も出来なかった・・・」
その時の恐怖が、まだ残っているのだろう。エネの両肩は微かに震えていた。
新米の冒険者が何人集まったところで、あの魔窟を攻略できる筈も無いことは、そこに住んでいたジョンが一番よく知っている。事実、何百とい
う彼らの命を奪った本人なのだから。
「・・・三人死んで・・・残った四人で逃げたんだ。でも、回り込まれて・・・パーティで、一番・・・強い剣士の女の子が居たんだ。突然、その子が飛び出
して・・・」
「目を引き付けたのか」
「・・・うん。その隙に、マジシャンの子に魔法を撃って欲しかったんだろうね・・・でも・・・」
援護はこなかった。
残りの二人――マジシャンとアコライトは、エネとその剣士の少女を置いて、既に逃げていたのだ。
懸命な判断だろうと思う。ジョンが想像するに、彼女達が相対した魔物はなりたてのマジシャンの魔力で倒せる相手ではない。
かと言って、剣士が引き付けなければ全滅していたのも確かだろう。どのみち、ゲフェニアに来た時点で彼女らは判断を誤っている。
死は必然だったのだ。
「悲鳴が聞こえたのに・・・助けを呼んでたのに・・・ボクも逃げたんだ・・・死にたくなかったから」
奇跡でも起こらない限り、その剣士の少女は死んだだろう。
我が身可愛さに見殺しにした、と言えば聞こえは悪いが当然の行動だとも言えた。生死を賭けた戦いというものは、そういうものだ。
逆の立場なら、その剣士もエネを見捨てたかも知れない。
だが、彼女は自分を責めた。誰も責めない自分の行動を、自分で責め続けた。
「ボクはもう・・・そんなのは嫌だ。だから・・・頑張って・・・ほら!鎧だって良い物を選んで精錬したんだ!盾だってある!強くなったんだ!」
涙目で自慢のプレートをカンカンと小突く。背負った盾が虚しく揺れた。どちらも、小柄な彼女に似合う大きさ、重さではない。
「強く・・・なったんだ・・・だから・・・逃げたくないんだよぉ・・・」
無茶な理屈だ。
しまいには嗚咽交じりになったエネの言葉に、ジョンはあらぬ方向へ目を逸らした。
お節介というにはあまりにしつこい彼女の態度は、きっと初心者への贖罪の意味があったのだろう。かといって、仲間と肩を並べて戦えるほど、エ
ネは強くない。
或いは、何かがしたいという想いと現実とのギャップがそんな彼女を孤独にさせていたのだろうか。
誰もこんな無謀なクルセイダーと組みたがらない。気持ちだけで守れるものなど、何もない。現実は奇麗事で動いているわけではないのだ。
だが、ふと思う。自分には何があるのか?
殆ど初対面の、不思議で可笑しなクルセイダー。彼女を愚かだと決め付けた自分には、一体何があった?
――力がある。絶対的な、人では有り得ない強い魔力。その気になれば、幾百もの命を刈り取る事が出来る刃。百戦錬磨の冒険者と繰り広げた幾多
の戦いで培われた鋭い洞察力。人のそれとはかけ離れた多くの技。全て、ジョンの力だ。
しかし逆を言えば自分には力しかなかった。力だけで守れたものなど、何一つ無かったというのに。
気付く。あの快活な人形・・・アリスを、自分が恐れた理由。
失うのが恐ろしかったのだ。カタリナの様に簡単に壊れてしまう他の存在の弱さが、たまらなく怖かった。
力しか持てない自分では、彼女も守れないと・・・無意識のうちに知っていたからだ。
どうしようもない、なんと情けない魔族なのだろう。これでは、バフォメットに失笑を買ってしまう。あのアサシンにも、だ。
懐にしまい込んでいた金の指輪を取り出し、ジョンは口元を緩めた。それを握り締め、俯いて消沈するエネの頭を軽く叩く。
「どんなに頑強な鎧で身を固めたとて、心の弱さは誤魔化せん。気持ちだけ先走っても同じ事だ。大人しく認めるんだな」
「なんだよ・・・偉そうに・・・っ」
赤く腫れた目でジョンを睨む。が、彼はやはり自嘲めいた笑みを崩さなかった。
「偉そう、か・・・だろうな。私はどうも・・・自信過剰で、嫌な事を言う、とても嫌な奴のようだ」
てっきりまた怒るだろうと思っていたジョンの大人しい言葉に、エネはキョトンと彼の顔を見上げた。
「そんな私だけでは届かん・・・共に来てくれると助かる」
アルデバランの街を見るその凛々しい横顔には、微塵の曇りもなかった。
「ぁ・・・・・・う、うん!行くよ!」
見違えるように頼もしくなった金髪の剣士に、エネは思わず抱きついた。鈍重な鎧が音を立てて軋み、ジョンを圧迫する。
「やめんかっ!重い!」


アルデバランに出現したゴーレム郡が鎮圧されたのは、それからすぐの事だった。
時計塔と水路の街は、多少の被害を被ったものの、奇跡的に犠牲者も少なく、夜を迎えた頃には元の平穏を取り戻していた。
217('A`)sage :2004/05/02(日) 00:47 ID:mhRNRTsM
『決戦前夜 ジョン編』


散ってった冒険者へ、時計塔の前に集まった聖職者達が祈りの歌を捧げている。
夜も更け、スタラクタイトゴーレムの残骸の掃除も殆ど済んでいた。
飛び散ったり撒き散らされたりした岩の破片を処理する為に支給されたスコップを片手に、アルデバランを右往左往している鎧・・・もとい、クルセイ
ダーの少女エネは、戦いの後に姿を消した金髪の剣士の姿を探していた。
途中、プロンテラ騎士団の騎士とすれ違う。騎士はエネに金髪の剣士を見なかったかと尋ねたが、彼女は咄嗟に首を横に振ってやり過ごした。
「別に私を追ってきたのではないさ」
エネの背後の暗がりで、剣士は言った。いつのまに居たのだろうか、彼は崩れたゴーレムの腕に腰掛け何処か遠い目をする。
「だが、無関係・・・という事でもないらしいな・・・つくづく、因縁めいている・・・」
「どういう・・・」
尋ねかけて、言葉を飲み込むエネ。先程の騎士が、今度は集団で駆けて行く。
「検閲所の橋が落とされた!これではジュノーに進軍できない!」
「至急、橋を架け直すんだ!隊長にどやされるぞ!」
彼らが去ってから、息を潜めていたエネは胸を撫で下ろしていた。本人も気付かないうちに、いつのまにか偉そうな金髪の剣士を庇っている。
ジョンはそんなエネを面白そうに一瞥し、岩の腕から降りた。
「エネ、この辺りはまた戦場になる」
「え?」
「ゴーレムを放った者の狙いはあの騎士団の隊の足止めらしい・・・だとすれば、これで終わる筈もない」
時計塔の周りから聖職者たちが放った追悼の蛍火が舞い上がる。燐光がゆらゆらと揺れた。一度高く上がった光の粒は、ゆっくりと再び降りて、広が
っていく。降りしきる粉雪に混じり、幻想的な光景を醸し出していた。
「私はジュノーへ行く。元凶はそこに居るようだ」
「アルデバランはどうするのさ・・・またゴーレムが来たら・・・」
「冒険者と騎士団が居る。どちらにせよこのままでは泥沼だ。先に頭を叩くしか打開する策はない」
「じゃ・・・じゃあ、ボクも」
微かに雪の積もった鎧を引き摺って、エネは剣士の傍に駆け寄った。剣士は困ったような、なんとも複雑な顔をする。
「エネ・・・」
「なんだかんだ言って、さっきは協力してくれたじゃないか・・・今度は、ボクが助けになるよ」
「ふむ・・・気持ちはありがたいのだがな・・・」
すっ、と剣士は腰を屈め、エネと目線を合わせた。それから、意気込む彼女の鎧の両肩を叩き、諭すような口調で言う。
「これは私の戦いであって・・・お前の戦いではない」
息がかかるほど近い距離で向き合う。目の前まで迫った剣士の顔は、とても穏やかなものだった。
「それって・・・仲間にはなれないってこと・・・かな」
視界が潤む。壁になることも出来ない、貧弱なクルセイダー。誰からも必要とされず、何度もパーティへの参加を断られ、その度に武器や防具の精錬に
勤しんだ。例え何も変わらなくとも、いつか役立てると信じて。
「やっぱり、弱いからかなぁ・・・足手まといだもんね・・・」
だが、やはりこの剣士にとっても自分は不要だったのか。
慣れ切ったはずの事なのに、酷く胸が痛い。
涙目になって消沈するエネに剣士は嘆息した。それから、ゆっくりと頭を振る。
「それは違う」
「・・・じゃあ、何でさ・・・」
「私の撒いてしまった種でお前が危険に晒される必要など、何処にもないだろう?」
それは決して、これまでの突き放す様な言葉ではなかった。むしろ、気遣ってさえいる、優しい言葉。
唖然とするエネの顔を見てから、剣士は再び微かに笑う。
「私達は万能ではない。手の届くもの、目に入るものしか・・・助ける事も守る事も出来ない。仕方の無いことだ。だが、その限られた範囲の中で何を選び、
何をするのか。全てはそれで決まると言っていい」
ただ周りに流されるままに決められた道を歩むのか、それとも、自分の意志で道を選択するのか。
剣士はもう選んでいたのだ。エネにはうかがい知れない程に困難な道を、自分の意思で。
「お前もお前の道を選べ。のちに後悔しないためにも、他人に・・・過去に縛られるべきではない。自分の戦いを、自分で見つけるのだ」
「でも・・・ボクは・・・」
「弱気になっていた私に、気付かせてくれたのはお前だぞ?そのお前がそれでは・・・私の立場がない」
剣士は笑って肩をすくめた。それから、肩に羽織っていたマフラーを取り外し、軽く雪の積もったエネの首に巻きつける。
「・・・こんな硬い布では防寒に向かんだろうが、その鎧よりはいくらかマシだろう」
照れくさそうに言う剣士に、エネは赤くなった自分の頬を手を当てて微笑んだ。全然、寒くはない。巻かれたマフラーはむしろ暖かいくらいだ。
「余計なお世話だよ・・・」
エネはあくまで偉そうな態度を崩さない不思議な剣士に、そう呟いた。
剣士はまたエネの鎧を小突き、立ち上がる。そして、腰の黒い大剣の柄に手をかけ、固く握り締めた。
「・・・行くの?」
「ああ・・・あまり悠長な事もしてはおられん」
剣士が見上げたシュバルツバルドの空は不自然に晴れ上がり、夜空の星々がはっきりと見て取れるほどに黒く、不気味だった。
やがて黒い空はアルデバランの方まで広がる。降っていた雪も急に止んだ。まるで、雲が何かから逃げているかのようだ。
剣士はおもむろに大剣を抜き、アルデバランの地に突き立てた。ぼぅっと青白い光が満ち、揺らめく一頭の『馬』を照らし出す。
喚ばれた『馬』は蹄の音を鳴らせて猛った。初めて目の当たりにする召喚に目を丸くするクルセイダーの少女を、剣士は振り返る。
彼は人ではない。
青白い魔力に染まった剣士をエネは呆然と見上げた。騎士団が彼を探していた理由を、ようやく理解する。剣士では有り得ない力の根源。人にあらざる
魔性の者。忌むべき命の狩人。
だが―――彼女は知っていた。彼がアルデバランを守り、自分を守り、力を貸してくれた事を。
亡き『友達』の墓前で哀しげに俯いていた彼の顔を。
怪しまれないようにミルクを頼み、逆に失笑を買ってしまった彼の事を。
誰よりも、どの人間よりも気高く、強く、優しい彼の心を。
エネは知っていた。だから。
「ボク達は・・・仲間だよね?」
そう言った。剣士は一度、意外そうな顔をしてから、すぐに何処か嬉しそうな顔をして、
「そうだな」
と、端的に頷いた。


馬に跨ったあの剣士がアルデバランの北門を出てから、クルセイダーの少女はヘルムを脱ぎ捨て、吹く夜風に髪を晒した。
北門から見えるシュバルツバルドは遠く、もう剣士の姿は何処にも見えない。
彼が人間でなかったこと。最後まで名乗らなかったこと。あまり後味がいい筈もないのだが、エネは不思議と清々しい気分だった。
カモフラージュ。要するに騙されていた訳だが、それはそれでお互い様だと言える。
彼女もまた、あの剣士に言わなかった事があった。
剣士が巻いたマフラーが、エネの首から落ちる。
薄くぼやけた彼女の身体は、既に周囲を駆け回る冒険者達の目から消えていた。誰も、落ちたマフラーに気付く事はない。
半年前、剣士の少女を見捨てたエネは二度と地上に戻る事は無かった。
結局、逃げたマジシャンもアコライトも―――エネ自身も、モンスターに囲まれ、死んだ。
皮肉な事に、生きて帰ったのは真っ先に身を投げ出した剣士の少女だけだった。彼女は通りすがりのアサシンに助けられ、命拾いしていたのだ。
俗に言う幽霊。
エネは自覚もしていたし、きちんと理性も保っていた。とはいえ、残した未練が彼女を現世に縛り付ける。
受け入れてくれるパーティー・・・仲間を探す日々。だがそれも、今日で終わりだ。
戦いへ赴いた金髪の剣士。彼を守る。
それが、このクルセイダーの少女の亡霊が選んだ『道』だった。


―――ボクは、貴方を守る

ドッペルゲンガー・・・ジョンは、ナイトメアを駆り、風を切ってジュノーへの荒野を駆け抜ける。
微塵の迷いもない彼の耳に届いたその声に、ジョンは一瞬アルデバランを振り返ったが、
やがてまた、黒い空の広がるジュノーに視線を戻した。
そこはかとない、不可思議な感覚に包まれたまま。
218('A`)sage :2004/05/02(日) 00:56 ID:mhRNRTsM
自分の短所に気づき、悶絶しながら書いた駄文を投下していきます。

>>201さん、93さん
・・・無駄な部分が多いんですよ、私のは('`;)
要らない付け足しとかがあまりに。なら直せ!という事で気を付けて
みます。はい。

次でようやく決戦です。気合を入れます。では、また。
219201sage :2004/05/02(日) 04:49 ID:Y4UTODJo
>>211
続き希望と言われると励みになるYO!
頑張って仕事サボるYO!(←社壊人・・・ってーか捨界人?)
やはりモンクは戦闘シーンが熱いですな。GJ!
次回は弟アサシン君の活躍を希望

>>212
をれは登場人物を多くすると管理し切れないだけなんよ・・・
脳味噌の演算能力と記憶能力がしょっぽいのさ〜HAHHA-(TT)
見事に大人数を書き分ける氏は凄いとをれは思ふ
這い寄る・・・まさか闇の王=ニャア様・・・いやなんでもないっす

>>218
それは氏の持ち味だとをれは思う。
楽しく読ませてくれる文章に無駄はない!(断言)
喫茶店でのジョンとかもう身悶えする位GJですぜ
しかも伏線の張り方も上手い!
最初読み飛ばしちまったよをれ・・・
確認の為にVol3を読み直したのは内緒な

やっべ、うちの変な人外にも何かやらせてみてぇ・・・
220某深淵の騎士娘萌え ◆yssZwAmYsage :2004/05/04(火) 01:41 ID:yN/AfyFQ
呼ばれても居ないのにトリップ付きでお邪魔します。

>>93
某所での書き込みへの返事が遅くなってしまい、申し訳ございません。
彼らは私のものじゃないので、どうぞご自由にお使いくださいませ。

以下返事が送れたことへの言い訳。
知人に小説書いてることがバレてしまい、散々罵られる羽目に…(;つД`)
だいぶきつく言われたので今まで凹んでました。

そんな私ですが、ミスクリが原因で深淵萌えスレの書き込みを拝見。
こうして返事を書きに参りました。
ロールバック確定期間にでも、お返しのSSを投下させて頂こうかと思っております。

以上…私信、失礼しました。

某鯖| ヨバレテナイダロ、オマエ( ̄ー ̄*)----C<T-T)ゴ、ゴメンナサイ…

某鯖|ギニャァァァー…

――――――――以下、何事も無かったように小説をお楽しみください――――――――
221577と呼ばれていたものsage :2004/05/05(水) 16:56 ID:rwPXQkp.
|∀・)

上水道リレー小説まとめ

ttp://www.geocities.jp/rumiham/rire.html

にUPさせていただきました。
こうして見るといろいろな人に書いてもらってるのですね。
まったく知らない人達でひとつの話を
作っていくというのは、良いものだと改めて思いました。
いつ終わるかわかりませんが、
とりあえず参加者募集中です。
では。

彡サッ
222名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/05(水) 18:25 ID:750myzKk
禁句かもしれないが、思ったことを1つ。
今のROのアニメよりここのリレーを映像化した方が面白いと思う。
もっとも、リレーの面白さは物語だけではなく、参加する楽しみもあるのだが・・・
スレ汚してすまなかった。
223名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/05(水) 18:51 ID:2gk8AM/g
>>221
  _、_  n
( ,_ノ')( E)<Good Job!!

>>222

 な に を い ま さ ら
22493sage :2004/05/06(木) 15:16 ID:wbV4jOIk
>>577
 はいけーん。某所からリンク張っちゃっていいですか、と。
>>220
 ありがとおございます。じゃあ早速…もぐもぐ…。
知人に罵…なむなむです。でも、私は楽しませてもらったデスよ、と。
(RO行かずに書いてたけど、怒られなかった私は少数派??)
225名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/06(木) 15:54 ID:nvNTTAQo
166、93両氏に触発され、
魔物即ち獲物という観点から人と魔の共存を図る者の小噺電波を受信したのですが、
こちらでは、如何にも精神的に暗黒な話の投下はNGでしょうか。
226名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/06(木) 16:28 ID:dLKVaqCI
>>225
大 歓 迎
227名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/06(木) 17:03 ID:Tjiaq9gs
>>225
か か っ て こ い
228225sage :2004/05/06(木) 19:34 ID:nvNTTAQo
有り難うございます、では早速、
…書いてきます…

脳内鯖| λ……<今週中には何とか…
229名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/06(木) 20:54 ID:FwYWt1wk
>>198の夢ネタはどうなったのだろう…どんな内容なのか想像しちゃってわぁぁ!
ゴブの赤ちゃんが夢に出そうだ
230どこかの166sage :2004/05/07(金) 05:11 ID:z4ZT27o.
上水道リレー小説読み終わったので、ママプリで参加〜♪(黙れ)
魔族サイドからの上水道事件を書いてみます。
231上水道リレー 魔族たちの思惑sage :2004/05/07(金) 05:13 ID:z4ZT27o.
「GHが動いた?」
 その声をママプリは愛するバフォメットの腹の上で聞いた。
「違うのですか?
 ……それよりも服を着てください。
 毎回ここに来る度に裸なんて……獣ですか」
 子バフォのため息に顔を赤めるママプリとバフォ。とりあえず、タオルで汗と汗以外の汁をふき取る。
「プロンテラに大規模侵攻なんて聞いてはおらんが……?」
「西門で聞いた話です。
 上水道に騎士団および冒険者が集結。
 なんでも、ダークロード様を筆頭にアノリアン、ガーゴイル、スティング、クランプ等が制圧を開始したと」
 魔物にも魔物なりのネットワークがある。
 近年飛躍的に増大した人への危機に魔物達も情報の共有という所から始めてネットワークを構築しようとしていた。
 そのネットワーク中心人物がママプリ--人でありながら人を裏切った聖女--であり、人だった彼女は情報というものの価値を熟知していた。
「単軍で王都に突出って……馬鹿?」
 それがママプリの感想だった。
 人は馬鹿ではない。バックアップ無しに部隊を突出させれば各個撃破されるのは目に見えている。
「どうせ枝テロで呼ばれたか何かだろうが……一応忠告はしておかねばならんだろうな」
 バフォは起き上がり、GHの深淵の騎士相手にwisを送った。
 そして、魔族にとっての事態は幕を開ける事になる。
「何?出向いていない??」
(GH騎士団は全員、地下からも出撃命令は下っていません。ダークロード様はいらっしゃいませんが……)
「どういう事だ?」
(GH、ゲフェン、時計塔、プロ北……各部隊所在が確認されています。
 こちらからお聞きしますが、本当に何処かの部隊が侵攻しているのですか?)
 考え込むバフォ。
 ダークロードはいない。
 GHも部隊を動かしていない。
 枝テロに呼ばれたか?それにしてはGH所属部隊の数が多すぎる。
 そして、王都では騎士団が動員され水道入り口では冒険者達を中心とした兵が集まっている。
 状況だけではダークロードが部隊を率いて突出したとしか思えない。
「誰かが水道に兵を入れた事は間違いが無い。
 騎士団の出撃も確認されている。こちらも付き合わねばなるまい」
 バフォの呟きに頭を縦に振るママプリと子バフォ。それを見てバフォは深淵の騎士にwisを送る。
(対プロンテラ担当司令官、バフォメットより要請。
 プロンテラ水道に所属不明の部隊が孤立。プロ北迷宮はその救出を開始する。
 なお、今回の救援に辺りゲフェン・GH・オークD所属部隊はその任務支援の為プロンテラ西門近辺に兵を派遣する事を要請する)
 バフォが大規模出兵の要請をしている時に服を来たママプリはバフォが言った言葉をそのまま紙に書いて子バフォに渡す。
「いい。これを騎士団に持っていってあげて」
「??人間どもに何故このような事を伝えるのですか?義母よ?」
「政治よ♪政治♪」
 とても楽しそうに笑うママプリ。彼女とて権力闘争なら世界でもっとも苛烈な教会内部で高位を占めていた人物。いち早くこの件の落としどころを見抜いていた。
「このままじゃ水道の部隊は全滅でしょ。
 情報を流してプロンテラ全域を戦時下体制に持っていけば水道の兵は減少せざるを得ない。
 で、減った水道の兵達を蹴散らして彼らを救出。そして撤退。
 プロンテラ騎士団は『王都を守った』と面目が立つし、魔族も『仲間を救った』と士気があがる。
 悪くない落としどころでしょ♪」
 子バフォにウインクして見せるママプリ。
 たしかに普通に魔族が孤立していたのならそれでも良かったのかもしれない。
 だが、14年前にはママプリは既に教会を抜けていたし、結局は人間同士で争ったに過ぎない上水道事件を魔族側は誰も把握していなかった。
 だから動かざるをえなかったのだ。金髪の男の思惑通りに。
 更に都合が悪い事にもっとも事実に近い人間だった学者先生は倒れて大聖堂に避難している。
 そう。彼が望む最後の物--大量の高位魔族達--を呼び寄せてしまった事をここにいる三人は知らない。



 世界というパズルからまた一つピースが零れ落ちた。
232どこかの166sage :2004/05/07(金) 05:34 ID:z4ZT27o.
 むやみに話を広げないために方針を先に書いておきます。
 意識として頭にあるのは「キューバ危機」です。「トータルフィアーズ」あたりを見ていただくと嬉しいかも。
 この上水道事件って、魔族側から見るとプロンテラ攻撃の千載一遇のチャンスだなぁと読んで思った次第。
 バフォやママプリを出したのは、「話の分かる敵」役のつもりです。

 他の作者の皆様、動因した魔族を使ってプロ西門に攻撃をかけていいし、歓楽街にいるバフォとママプリ相手に熱く交渉してもらっても構いません。
 この物語が無事にハッピーエンドで終わる事を祈っています。
23393@スランプ気味ーsage :2004/05/07(金) 18:40 ID:e0NXBjDg
 迷宮の森の巨木の根元。もたれかかったままの青年の周囲を、凝集した闇が巡る。
『…汝ノ絶望ガ…』
 闇に浮いた顔がささやく。
『虚無ガ…』
 ずるり、と闇の中から現れた白骨の腕がカタカタと鳴りながら、青年を抱く。
『我ヲ呼ンダ…』
 風も無い夜に、はためくのは腐り落ちた穴だらけのマント。
『喰ラッタ汝ノ心ノ代償ニ…契約ヲ履行シヨウ。汝ハ何ヲ望ム?』
 青年の口が力なく開き、そこから流れ出たのは問いかけたのと同じ、闇の王の声。
「…殺セ…壊セ…奪エ…犯セ」
『了承シタ。汝ノ望ミヲ叶エヨウ…。存分ニ』
 夜より深い闇が迷宮の森に踊った。


「…どうやら、ここでも私は間に合わなかったようだ」
 軍帽のクルセイダーは首を軽く振ると、よっこらしょ、などと掛け声をかけてペコから降りた。そろそろ明けるはずの夜。暁光はいまだ見えず、その代わりに黒い闇が静かに辺りを覆い始めている。
「何だ…これは。黒い…霧だと?」
『結界だ。こうなっては、我も汝も確かに争っている場合ではない』
 老司祭の問いかけに答えたのは、先ほどまでの死闘の相手だった。殺気の消えた仇敵の姿に、司祭は戸惑いを隠せぬ様子で軍帽クルセに問う。
「…先王」
「そういうことだよ。我々にはいがみあう余裕はない。そこの彼も含めてね」
 軍帽クルセの視線の先には、フードを目深に被った魔法使いの姿。
「いや、彼は我々聖堂騎士団の協力者で…」
「一時的な、だろう? でも、こうなった以上、理性的な精神の持ち主ならばもう少しの間協力してくれるはずだ」
「…確かに、私個人はこれを見届けたかっただけなのですがね。残骸でも持ち帰らないと怒られるかもしれませんしねぇ…くくくっ」
 魔術師の呟きに、彼の後ろの聖衣の男が再び弓を構える。それに目もくれず、魔術師は続けた。
「理論が実証された後の遺留品には興味はありません。むしろ、このまま放置しては私の邪魔になりそうですし。喜んで協力させてもらいましょう。くっくっく、ですが条…」
「同意を得られてよかったよ。では、とりあえずお茶にでもするかい?」
 何かまだ言いたそうな様子がフードの奥から漂うのを黙殺すると、軍帽のクルセイダーはペコの後ろの荷を解きだす。
「…先王! 何を悠長な…」
「新しく現れた敵について、私達は情報を整理しなければいけない。それにね、君達の疲労も回復しないと」


「管理者、貴様が何をたくらんでいるのか私は知らぬ。ゆえに機会を与えよう。舌で命を贖うか?」
 首筋で静止した白騎士の剣は微動だにせず、圧倒的な殺気を目の前の異相の少女に叩きつけている。少女は目を半眼にすると、自らの剣を砕かれたときのままの笑顔で答えた。
「…事態は次のステージに動きました。深淵の騎士、貴女が騎士である以上…、もはや私は切れません」
「いい覚悟だ。二度は与えぬ」
 僅かに腕を引き、そして渾身の力で薙ぐ。この単純な動作はしかし、果たされなかった。
『…我ガ禁ズ』
 いまだ微笑む管理者の足元から、ねじくれた白い物が生える。その先端に咲くのは人の頭骨。騎士の剣は、その顎に捕らえられていた。魔杖アポカリプス。その奇怪な杖の名を、魔界の多くの者は畏怖とともに想起する。そのただ一人の使い手は。
「…ダークロード閣下」
 剣を下ろし、地に立てると彼女は膝を突き、頭を垂れる。騎士たる彼女にとって、上位者に逆らう事は有るまじき事だった。
『魔族ノ上位者トシテ命ズ…。深淵ヨ。剣ヲ引ケ』
 跪きながら、屈辱と悔しさに震える半裸の騎士の姿を見下ろして、闇の主の虚ろな眼窩が嘲笑う。負の感情を糧に生きる闇の君主にとって、彼女の打ちひしがれた脆い心は極上の餌だった。後一押しで砕ける様が、彼には見える。
 だが…それは今ではない。美食家が旬にこだわる様に、闇の君主も食餌には時を選ぶ。
「ダークロード。貴方がこの地の魔族を統べるのです。新たな魔王として…人と戦いなさい」
『ソノ称号ハ未ダ我ガ物ニ非ズ、管理者ヨ』
「そう…ならば奪いに行きましょう」
 もはや一顧だに与えられぬ騎士の頭の上で会話は交わされ、そして青い光と共に二者は消えた。僅かに遅れて、既に限界まで酷使されていた騎士の身体がグラリ、と揺れ…前のめりに倒れた。
23493@スランプ気味ーsage :2004/05/07(金) 18:40 ID:e0NXBjDg
 車座になった一同に、妖精耳のプリーストがお茶を注いで回る。バフォメットが巨大な両手で人間用のティーカップを啜る様だけでも相当奇妙だったが、その直後に熱さで火傷したらしい舌をこっそり吹いている時には、堅物の騎士は笑わぬよう、目のやり場に相当困ったらしい。
 そんなこんなで、多少落ち着いた一行を前に、軍帽クルセに半ば無理やりに説明役を承諾させられた魔術師が、不承不承な様子で立ち上がった。
「……成長した樹木に凝集した歪みを解放することで、魔界との扉を開ける…古木の枝、というものをご存知ですか」
 一同が頷くのを見て、魔術師は続ける。
「くっくく…結構。長く生き、成長するというのは即ち歪みを生むという事。これが世界の摂理という訳です。この摂理がある故に、多くの動物や魔物は成長できない。歪むことに耐えられないからです。そうですね? 魔王バフォメット」
『…時を経て数多くの我の血脈が生まれたが、いまだに緋色の魔王は我のみ。これが答えだ」
「然るに、何故人間のみが…それも、このような恐ろしい速度で成長できるのか? くくっ…ご存知ですか、司祭殿」
「……教典にこうある。神は人間にのみ成長するという恩寵を下された、と」
「Exactry(そのとおりでございます)」
 最初に頼まれたときには嫌がっていたわりに、一度説明を始めるとノリノリの魔術師に軍帽クルセは苦笑を浮かべつつ、先を促した。
「…成長段階が一定に達したとき。神は天より使いを下して歪みを修正する。くく…皆さんも良くご存知でしょう? あのレベルアップと言われる段階に現れる天使の正体がそれですよ」
「…それは分かったけどな。一体今度の件と何の…」
 そこまで喋った暗殺者のこめかみに、びしっと音を立てて赤い宝玉が当たる。ころん、と手に転がり落ちてきたのは彼も見慣れた魔力石。
「発言の前には挙手するように。次はその石を使いますよ?」
 腰を浮かせて文句を言いかけた暗殺者がもごもごと呟いてから何故か膝を抱えるように座った。
「…くくく…よろしい。さて、ここに神の祝福を受けた存在ではないが、それでも成長する生き物がいたとしたら? 天の御使いが歪みを直さなければ…その歪みは、やがて何かを呼び寄せ得る程の物になるかもしれない…と。思いませんか?」
「…それが、吾子だというか?」
 老司祭が問うたのは、疑問ではなく、確認の意図だった。魔術師は軽く頷く。
「もっとも、呼び寄せる対象も確定できないとあっては、製作者としては完全な失敗作扱いだったようですがね」
 唇を引き結んだ騎士が、声を上げかけてから律儀にさっと手を上げる。
「その製作者という奴はもともと、何を呼び…」
「くくくっ…イイ質問ですが…。質問を却下します」
 次のレッドジェムストーンを手で弄びながらの魔術師の声に、騎士も相棒の暗殺者の隣でしおしおと丸くなった。どうも、魔術師は教職向きではないらしい。
「…で、彼が呼んだのが何者であるか、という点については私よりも詳しい方にお願いしたいですね」
 フードの奥の不遜な視線をじろりと睨むと、魔王は横に垂らしていた舌を引っ込めた。


 アコライトの少女は辺りの惨状を前に声も出ないようだった。生命反応が僅かでも残っているのは、うつ伏せに倒れた半裸の少女と陵辱の跡も生々しく仰向けになったままピクリとも動かぬ女、そしてそのすぐ脇に転がる老人。周囲に崩れる動死体の残骸の数が、彼らの奮闘を物語っている。
 ゴーストリングは、本来感傷などさほどない幽体の自分ですら思うところがあるのだから、この娘の動揺はいかほどか、と思ったが。しかし、高位魔族である彼は、常にこの新しい相方を教え導く義務がある。それが即ち任務の成功に繋がるのだから。
『状況ヲ整理スルニ…』
「…まずは水が必要です。お願いしますね」
『……ムゥ』
 口を開けば案外毅然とした少女の様子に、彼は少女の個人評価を一段階あげることにした。まぁ、自分ほどではないがそこそこに冷静で頭も回るようだ。しかし、まだまだだな、と彼は内心で苦笑した。
『……我ニハ手モ脚モ無イノダガドウシロト?』
「おちびちゃん、貴方は小さくてもウィスパーの眷属でしょう」
『…何?』
「少し姿を変える位出来るはずです。頭を少し凹ませれば、そこに水をためられます」
 あっさりと切り返され、彼は少女の個人評価を更に一段階あげることにする。それはそれとして。
 魔族の矜持とか、自分の階梯に相応しい扱いとか、ぶつぶつと胸の内で呟きながら去っていくゴーストリングの背中は、少し煤けていた。

 少女は、奇妙な連れが去っていく方角に深く頭を下げた。あの偉そうな幽霊の子供がいるから、自分はみっともない真似をしたくない。だから、錯乱しないで済んでいるのだろうと思う。活力を与える祈りを神に捧げてから、その辺りの動死体の衣類を剥いで即席の掛け物を作ったり、痛々しい陵辱の跡を切れ端でぬぐいながら、少女は弱りきった三名の目覚めを待った。
23593@スランプ気味ーsage :2004/05/07(金) 18:41 ID:e0NXBjDg
『…この強大だが単調な気配。闇の王…あるいは闇の君主。ダークロードだ。魔界の階梯で言えば我と並ぶ』
「ふむ。貴方のように話し合えそうな相手だといいんですがね」
 ペコにもたれた姿勢から、半身を起こす軍帽クルセに、魔王はやけに人間くさい仕草で人差し指を振ってみせる。
『それは無理だ。奴は自らの影以外に話す相手も居らぬ幽界最下層の者ゆえ、対等の他者という概念が無い。仲間だのという感傷もだ。その意味では、まだフェルディナント(仮称)だのイヴァン(仮称)だのと話し合うほうが実りがあるだろう』
「そのお二方との会談は、今日を生き延びたら検討しましょう。それで?」
 真面目な顔で言う軍帽クルセに魔王はため息をついた。
『問題は、歪みがあったとはいえ闇の王程の高位魔族の本体が偶然召喚されるなど、有り得ぬということだ。間違いなく、何者かが手を引いている』
「…管理者ですよ」
 魔術師の声に、ざわり、と空気が揺れた。一般にとってはもはや伝説の存在。いることすら特定の大規模異変でしか確認できぬ、神の御使い。それが
「…悪魔を呼ぶことに手を貸すなどと! 愚弄するか、賢者殿!」
 老司祭がいきり立つのを奇妙なものを見るような目で眺めた魔術師は、満座の視線が再び自分に集まったのを確認してから再び口を開いた。
「くくく…間違いなく神の御使い…管理者ですよ。察するに、彼女の動機は…」
「人と魔の宥和を絶つ、か。まだそう考えていたとしても…」
 羽織っていた聖衣を投げ捨てたアコライトの青年は、自分の髪に手を入れると、くしゃくしゃとかき回す。
「…管理者はもう、問題じゃない。ボクの大切な人が、討ち取った」
 最後に頭を一振りした彼の眼差しは鋭く、装いは吟遊詩人の物に代わっていた。


 目覚めた白騎士が最初に見たものは、自分の手当てをしたのであろう、アコライトの少女の背中だった。状況を思い出すよりも先に、宙から剣を取り出し、飛び起きようとして…、痛みに硬直する。
「…あ。まだ寝ていてください」
 口調こそ丁寧だが、容赦ない手つきで自分を横にさせようとする少女に騎士は舌打ちをした。
「私にはこの程度の傷など…」
「魔物でも人間でも怪我をしたら痛いです。暴れるのは治ってからにしてください」
「…! なぜ…」
『人間ハ、剣ヲ召喚ナドセヌゾ、騎士』
 深淵の騎士たる彼女の疑問は少女の横に現れた影で氷解した。騎士が魔であるとわかった上で、アコライトの少女が動じずに、あまつさえ手当てまでしたわけは少女もまた、魔と共にある者だったからなのだろう。

「…ゴーストリング殿。そちらは貴方の…?」
『否。ソノ想像ハ正シクナイ。…コノ物ハ、我ガ下僕デモ契約者デモナイ』
 ちゃぷちゃぷと音を立てるゴーストリングの上の方がどうなっているのかを知らぬ騎士は少し怪訝そうな顔をしつつ、続きを促す。
『…強イテ言エバ…ウムム…』
「…相棒?」
『……今ダケノナ』
 背中を向けたままのアコライトの少女がさりげなく口にした言葉に、ゴーストリングが見せた表情が何か、騎士は知っていた。彼女はくすり、と笑い、それから痛みも気にせずに慌てて首をめぐらせる。彼女にとっての今だけの相棒、あの時に背中を預けて戦った人間は、騎士が倒れた後でどうなったのか。結果を知るのが恐ろしいが、逃げるわけには行かない。背ける事の許されぬ視線の先には、今の彼女自身がそうであろうような、雑多な布切れに包まれた人間と思しき塊が二つ。
「…あれは…?」
「お連れの女性は大丈夫。さっきまで起きていらっしゃいましたけど、今は寝ています。ですが、もうお一方は…」
「もう一人だと!?」
 今度こそ、騎士は跳ね起きた。管理者はダークロードと共に去った。それ以外に、不死者でないものがあの場にいたとしたら、それはあのローグ以外にありえない。

「けけけ…元気そうだな…」
「貴様ッ!」
 見る影も無く、皺だらけになって、それでも男はまだ生にしがみついていた。その穢れた執着を絶つべく、騎士の剣が構えられ、そこで止まる。
「…どけ、そやつは敵だ」
「…けけっ。俺もそう言ったんだがなぁ…」
 男を庇うように、アコライトが両手を広げていた。
「…聖女様に今の状況は伺いました。けれども、敵でも味方でも、人間でも悪魔でも神の御使いでも今は関係ありません」
 表情を変えずにそう言った少女の両手が微かに震えているのを見て、騎士は剣を下ろした。実際、彼女が手を下さずとも男の命脈はもう尽きている。この僅かな幕間でも、即席の掛け物からはみ出た腕の先がぼろり、と崩れるのが見えた。
「…どうせお前はもう死ぬ。管理者にも見捨てられたようだしな」
 吐き捨てるように言った騎士の声に、男はくつくつと笑った。
「違うなぁ…。俺はあいつに拾われてすらいねぇんだからよぅ」
「何?」
「拾われなきゃ、捨てられることもないさぁ…。けけ…勝手につきまとってた俺が…、とうとう、ついていけなくなっただけのことよぉ…」

 アコライトの胸に、何かが刺さる。勝手についていって…それから、ついていけなくなった。それで…終わっていいのだろうか、と。手を広げたまま、まだ剣をしまわぬ騎士から目を離さずに背中ごしに、聞く。
「貴方は…管理者の方を…?」
「…惚れてたんだろうなぁ…。でも、もう終わりさぁ…どうせ…」
 男の独白の、消えていった語尾を察して騎士の心中に苛立ちと、別の想いがよぎる。人間と管理者、つりあわぬ想いと立場。それは自分にとってもありえたもう一つの未来。この男は、敵。それは間違いのないことだ。

 だが。
「…ノワール・ケニッヒ…来い!」
 騎士が呼ぶと、虚空が裂け、漆黒の巨馬が音もなく現れた。圧倒的な存在感、そして振りまく死の波動。深淵の騎士として、彼女が駆る悪魔の馬。その背にひらりと跨ると、純白の裸身を異界より現れた漆黒の鎧が覆っていく。
「…っ」
 震えながら、それでも巨馬の蹄の前に立つ少女に、深淵の騎士は面頬の中で笑んだ。
『事態がこうなった以上…私はこの管区の責任者たる閣下の下に参じねばならない。そこにはあの管理者もきっと、来る』
「……けけ…。そうだろうなぁ…」
 騎士は目の前の少女の頭上越しに神速で大剣を振るう。剣は言いかけた男の襟を貫き、跳ね上げた。
「……ぅぉ!?」
 勢い良く宙を舞った男から、掛けてあった布切れと、更に枯れた身体の切れ端がぱらぱらと落ちる。男は、巨馬の後ろ…、騎士のすぐ後ろに落ちた。
「…なっ」
『お前にも、機会を与えよう。もう一度、あの女に会って何を為すか…己で選ぶといい』
 黒馬が身を翻し、駆け出そうとした時、その鐙に細い手がかかる。
「待って下さい。私も行きます」
『…落ちないようにね』
 己の背よりも高い鞍によじのぼろうとする少女を、漆黒の篭手が優しく、軽々と引き上げた。
23693@スランプ気味ーsage :2004/05/07(金) 19:04 ID:e0NXBjDg
 なんだか筆が進まないばかりか脇にそれたがってます。
というか、シメオンさん、すっかり解説野郎にしてしまいました。これではまるで下水小説の学者先生ですね。
(いや、彼も好きなんですが) 直前に読んだ物に影響を受けすぎるのは困ったものです。
自分の広げた風呂敷を畳むのは大変デス。

 ともあれ、某Abyss様からGMたんとローグさんを頂けたので、激しく方向転換をしてみました。もうちょっとだけ
続きます。ド○ゴンボール並にはならないと思うのですが。

今しばらくスレ消費をお目こぼし下さい。
>>('A`)様
 エネさんのとこが『要らない付け足し』だとしたら…私はもう…どうしたらいいのか(遠い目
とりあえず、色々設定も勝手に吸わせて頂いてしまいました。私は闇の王のようにグルメじゃないのでがつがつと…。

>>219
 書き分けが最近うまくいってない気もするのです。騎士とかクルセとか代名詞だけだと複数でてきたら大変です。
あ、本編にクトゥルフ系のネタは思いつきませんでした。名前欄は確かにそうなんですけど。

>>225
 自分が電波発信源になれたと…感無量です。ようやくスレに何か恩返しが出来たような気がします。

>>166
 あちらでは補完ありがとうございました。当方エロ(書くのが)苦手なようなので…。美味しくいただきます。もぐもぐ。

ここの皆さんと座談会できれば面白そうだなぁーと思う奴の数(1/20)
下水完結のときとかに記念にどっかの鯖で集まりませんか?
237225sage :2004/05/07(金) 20:19 ID:e./XCWUo
如何にか出来たのですが、166、93両氏の後に置かせて頂くには、
酷く稚拙且つ嫌過ぎる話ですので、駄目な方は何卒スルーよろ。
238225sage :2004/05/07(金) 20:20 ID:e./XCWUo
 魔法都市ゲフェンに近い夜闇の中、爆ぜる火を囲むは、酒気と喧騒。
「今日も俺達の勝ちだな」
「当然です」
「御前ェも、よく頑張ったよ」
「あ、あはは……はい」
 盛る炎と山の戦果を前に、横に座す凶悪な面を酒に染めた悪漢に肩を叩かれた年少の服事は、
心なしか面を引き攣らせ笑った。その向かいでは、精悍なる騎士と端正なる相貌の魔導師が、互いに
盃を傾けている。騎士、悪漢、魔導師、そして狩人といった上級の職共の只中に居る服事は、実と比して
尚更若く、寧ろ幼く見えた。
「んじゃ、御前ェも呑め!林檎ジュースなんざ、餓鬼の飲むもんだっての」
「いえ、あの、僕は……」
 突きつけられた盃から立ち昇る強い香気に鼻腔を突かれ、思わず顔を背けかけるが悪漢はそれを許さぬ。
困惑の中眉を下げ、如何にか逃れようとする服事を見かねたのか、
「あんまり絡むもんじゃあないわよ、可哀想でしょ」
「ちッ、分ァったよ、クラリッサ」
 悪漢の向かい、即ち服事の隣から飛んできた軽妙なれど凛たる女の声に、悪漢は肩を竦め手を上げる。
他愛もなく掲げられた白旗を眺め遣り、クラリッサと呼ばれた女狩人は勝ち誇るかのような笑みを浮かべる。
小生意気な微笑は、上級職ながら幼い相貌とは裏腹に、酷く蠱惑的に見えた。その上、
「酔っ払いはみっともないわあ、ねえ、リ―ン」
「わあッ!」
「って、手前ェも酔ってるじゃねえか!」
 艶然たる声音が耳を転がすや否や、突如女人の豊熟なる肢体が己を抱きすくめる。柔らかな感触と仄かな香に
煽られ、可哀想に、先以上の困惑と焦心に駆られた服事は頓狂な声を挙げ、身を強張らせた。弾みで零れた
林檎の果汁が、黄の法衣をしとどに濡らす。

 リーン。正しくはリーンヒルト。それが、服事に冠された名だった。

 一同は、一つのギルドを為していた。主である騎士の呼びかけに応じ集ったのが悪漢と魔導師。後に狩人、
そして魔物の襲撃により故郷を焼かれ、親兄弟を亡くし、独り泣き濡れながら焼け跡に佇んでいたところを
拾われた縁で、服事も加わることとなる。
 何れも気の良い仲間ばかりだった。先の悪漢ですら、口は悪いが、年少の服事の世話を、時には節介をも
焼いている。感謝はしていた、なれど同時に、心の何処かで彼等とは相容れない何かを、服事は感じていた。
 日頃抱く違和感は、戦場に於いて姿を現した。他人と交戦していない限り、眼につく魔物は全て滅す。それが、
このギルドの信条であった。然し、服事という職の性質に加え、元来の温和な性が戦を嫌う。断末魔、血飛沫、
戦場に蔓延る何もかもが、リーンの厭う対象であった。且つ、狩りに興じる同胞を覆う言い知れぬ昂揚は、
若いリーンに怯えすら促した。
 斯様に戦狂いの者共が肩を並べる中、一人のみ異なった。狩人、クラリッサその人である。ギルドに於ける
唯一の女人である彼女が、魔物が牙剥く前に弓引くことは一度たりとてなかった。専ら火の粉ばかりを打ち払う
クラリッサの姿は、血みどろの日々の中、リーンに清冽な印象を与えていた。それに。

 法衣に染み込んだべとつく果汁を、筒の水で湿らせた布にて懸命に拭いながら、服事は思う。

 彼女は、人知れず戦に破れた魔物を逃がしていたのだ。流れる金髪に飾った髪留めによる癒しの術すら施して。
「そりゃあ相手は魔物だけど、一方を一方の都合で滅ぼすなんて勝手は如何かと思うの。あたし達、きっと共に
生きていけるわよ。同じ生き物なんだもの」
 偶然その光景を目にしてしまったリーンに、彼女は事もなく言った。陽気の内に秘める慈悲深さに、リーンは
憧憬、そして尊敬の念を素直に抱いた。
 無論、リーンの中に、己の故郷を焼いた魔物に対する憎しみがなかったとは言えぬ。けれど、何時までも怨恨に
縛られていては、同じ事を繰り返すばかり。人の敵とされている魔物すら癒した彼女の行為によって、漸く己は
眼を覚ましたのだ。己を開眼に導いたその高潔な人格を、聖職者を志す者として密かに崇拝すらしていた。
 しかも、彼女は美しかった。何分修行の身、女人には縁なき暮らしを送っていた服事にとって、天使の髪飾りが
映える金の髪を肩に垂らし、蒼の瞳を輝かせ、桜の唇を綻ばせ天道の如き笑みを零すクラリッサは、女神にも値した。
 己は服事、彼女は狩人。職の違いこそあれど、何時かは彼女のような徳を得たい。否、得られるように日々
努めるのみ。
239225sage :2004/05/07(金) 20:20 ID:e./XCWUo
「あまり呑み過ぎないで下さいね、二人とも」
 服事の想いを遮ったのは、副将を勤める魔導師の平然たる声だった。
「はあい」
「へえい」
 気のない二つの返事を軽く睨めつける魔導師の言を受け、生真面目な面の騎士も告げる。
「明日はオーク村へ攻め込むんだからな」
 その言葉に、酔いも手伝い、俄に活気付いた悪漢は己の掌を拳で叩き付け、夜に吼えた。
「おしッ!今度こそオークヒーローを仕留めてやるぜ」
「プリさんは居ないんだから、無理しないでよ」
「その為に白ポ買い漁って来たんだろうが」
「本当なら、リーンヒルトの転職を待ちたかったんですけれどね」
「いいじゃねえか、運試しだ運試し!死にかけたら蝶で逃げ帰ればいいだろ」
「そうだな、久々の大掛かりな狩りだしな」

 唯の雑談、なのに、耳元のざわつきが遠ざかる。
 運試し。狩り。
 当の魔物にとっては徒事ではない謀が、斯様な言葉で片付けられる。明日繰り広げられるであろう、
人にとっては唯の愉快な行楽の様が、鮮明に浮かぶ。

「どしたの、恐いの?」
 次第に項垂れる己を案じるかのように、女の顔がリーンの沈んだ面を覗き込む。間近過ぎる相貌に驚き、
リーンは咄嗟に顔を上げた。されど赤面は隠しようがない。せめて必死に首を横に振り、答える。
「いえ!そんなことは……」
「何だよ、やっぱ未だ餓鬼だな」
「こら、ヴィルム!」
 横槍を入れる悪漢からリーンを守るかのように、愛らしい相貌を顰めクラリッサは批難する。ヴィルムと
呼ばれた悪漢は口の端を持ち上げ、皮肉な笑みをクラリッサに向けると、リーンの栗毛をぽんと叩く。
「心配すんなよ、御前ェは俺等の後ろでオーク見物でもしときな」
 面に似合わぬ優しげな物言いに、先まで怯えを隠せなかったリーンの口元からも、思わず微笑が零れる。

 そう。悪人ではないのだ。
 少なくとも、同胞に対しては。なれど。
240225sage :2004/05/07(金) 20:25 ID:e./XCWUo
 天道が昇らねばいい。
 斯様な祈りを心に思ったのは、今朝が初めてではなかったか。
 然し、眼は醒めた。現は姿を表した。観念したリーンは、重い眼を擦りつつ叢から身を起こした。
「御早う」
「遅ェよ」
「早く来い、日はとっくに昇ってしまったぞ」
「済みません!」
 三方から一斉に投げかけられた声に頭を下げ、リーンは慌てて身支度を始めた。然し、気の所為か、一人足りぬ。
「あの……クラリッサさんは?」
 小さな荷を背負い問うたリーンに朝食代わりの林檎を放り投げ、騎士が答える。
「あいつは別行動を取っている」
「何だよ、おネエ様が居なくて寂しいのか、坊主」
「ち、違いますよッ」
 早速飛ぶ悪漢の軽口に、手にした真赤の林檎に負けぬ程面を染めたリーンは、懸命に否定する。然し、軽口を
他所に、騎士は硬き面持ちにて服事に告げる。
「いいか、危うくなったら直ぐに蝶……ああ、君はアコライトだったな、テレポートを使うんだ。俺達は死にに行くんじゃあ
ない、魔物を狩りに行くんだ」
 そうだ。戦は、命を賭けて行なわれるもの。だからこそ、彼等は遊戯に真剣に興じることが出来る。
「……はい」
「オークの連中、最近調子こいてるらしいな。一泡吹かせてやろうぜ」
「丁度煙草が欲しいのでね、拾った際にはお願いしますよ」
「じゃあ相場の三倍でな、痛ェッ」
 同胞の戯言を聞きつつ、道中林檎を齧り齧り歩く。季節は麗らかな春。各々の手に携えるが武具でさえなければ、
物見遊山と言っても通じたやも知れぬ。
 深い森をどれ程歩いただろう、ぴたりと足を止めた騎士の合図に従い木陰に潜む。首を伸ばしおずおずと見遣った先に
広がるは、フェイヨンに近い己の生まれ故郷すら思わせる程、長閑な村だった。ただ、リーンの故郷と異なるのは、
この地に住まうは人ではなく、緑の肌持つ巨人達である点であった。ぽつぽつと立ち並ぶ粗末な小屋の前では、
人には分からぬ言葉を用いつつ、子供と思しきオーク達が楽しげに駆け回っていた。それは、何時ぞやの己と兄弟を
思わせる光景だった。
 人も魔も変わらない。ふとリーンは顔を綻ばせた。そうだ、人と魔の共存は叶うのだ。
 何時か必ず訪れるであろう先にリーンが思いを馳せた瞬間、目前の茅葺きの屋根が突如炎を噴いた。平穏は一瞬にして
崩れ去った。一体、何故。
「お、始まったな」
 立ち昇る蛇の赤舌を前に、言を失うリーンを他所に舌舐め擦りをした悪漢の手には、長きに渡って幾多の魔を屠ってきた
ダマスカス製の短刀が握られていた。
 思いもよらぬ、否、嘗て己を襲った惨劇を髣髴とさせる光景に、呆然たる面持ちを浮かべたリーンは独り立ち竦む。
「行くぞ!」
 号令の元に、傍を騎士と魔導師が駆け抜けるが、身動き一つ取れぬ。
 猛火に容易く崩れる小屋の下から口々に唸りを上げ、時には焼け爛れたその体躯を引き擦り這い出る魔徒の首を、
閃く刃が撥ねた。或いは、天を劈く雷がどす黒く焦げた緑を打ち砕いた。時に身を屈め、物言わぬ骸から何かを拾い
上げては、騎士と魔導師は何事かを話し合っている。然し、次々と巻き起こる業火と悲鳴に煽られ、その声はリーンの
元には届かなかった。
 阿鼻叫喚が轟く中、恐怖にがちがちと歯の根を鳴らすリーンの脳裏を二文字が過ぎる。
 地獄。他に表す言葉を知らなかった。
「おい、リーン!ヒール頼むぞ!」
 縋るが如く杖を固く握り締めていたリーンは、急襲にも怯まず武器を取ったオークの戦人と刃を交え始めたヴィルムの
声にて、現へと引き戻された。然し、同胞の要請に対し、リーンの口を突いて出たのは神への祈りではなく、糾弾だった。
「だ……誰が、こんな酷いことをしたんですか!?」
 切り裂かれた咽からひゅうひゅうと音を漏らすオークを尻目に、細身に降り掛かる青の飛沫を袖で拭いヴィルムは答える。
「あん!?何だ、聞いてねえのか。あいつだ、クラリッサが高台から火矢を射掛けてるんだよ!」
 両の眼を、見開いた。
 クラリッサ。人と魔の共存を願っていた彼女が。
「嘘だッ!あの人が、……」
「いいから、さっさと援護しやがれ!」
 戯言、否、戯言であって欲しいとの願いを篭めた叫びは、ヴィルムの吼え声によって掻き消されてしまう。その間に、
卑劣な奇襲に猛り狂ったオーク共は、招かれざる客に拳を振るわんと馳せ参じてくる。
「ヒール!ヒールッ!」
 夢中だった。一刻も早くここから抜け出したかった。なれど、ヴィルムを、同胞を見捨てることなど、出来なかった。
 もし、何もかも打ち捨てて逃げ出していれば、知ること叶ったやも知れぬ。晴天を切り裂く幾本もの火矢と、火矢を放つ
高台を。そして、村を見渡せる高台から見ること叶うは、何故か火の手が上がらぬオークが篭る地下洞窟付近を目指す、
辛うじて難を逃れた魔物の小群。
「おらよッ!」
 軽身を武器に、ヴィルムは次々と魔物を屠っていく。その周りには、骸が幾重にも折り重なっていく。勇猛果敢なオークの
戦人と言えど、その劣勢は火を見るより明らかだった。数で押せど残るは一匹、しかも、屈強な身には数え切れぬ程の傷が
刻まれていた。遂に勇士は膝を折った、その胸中の無念は、幾許のものだろう。
 だが、悪漢を始めとする面々が魔に掛ける情を持ち合わせていれば、今頃もあの子供達は無邪気に遊んでいた筈。
果たせるかな、ヴィルムの短刀は空に閃いた、そして、
「死ねッ!」
241225sage :2004/05/07(金) 20:25 ID:e./XCWUo
「やめて下さいッ」
 体が動いていた、気付いた時には、リーンは両手を広げ、オークを庇うようにヴィルムの前に立ちはだかっていたのだ。
無論、若輩の愚挙を認めるわけがない、ヴィルムは吼えた。
「オークの生命力を知らねえのか!?早く止め刺さねえと、御前ェまで死ぬぞッ」
「それでも、彼を死なそうとは思いませんッ」
「馬鹿野郎ッ!いいから退けッ!」
「退きませんッ」
 互いに譲らぬ。譲るわけにはいかない。燃え盛り揺らめく炎に煽られた気を、一筋の風が凪いだ。一瞬だった。途端、
悪漢はかっと両の眼を剥き、半ばまで掲げた手は虚空を掴み、大地へと倒れ伏した。その向こうには、今や指一つ動かさぬ
ヴィルムを涼しい面で見下ろす、一人の女狩人が立っていた。
「馬鹿ねえ、手負いを殺して何が楽しいのよ。剥き出しの殺意が心地良いのに」
 謳うように紡ぐ言には、明らかなる悪意が篭められていた。物言わぬ悪漢の首筋には鋼の矢が一本、昨晩の白旗の如く
突き立てられていた。
 同胞を射たのは眼前の女人に他ならぬ、それでも、信じられなかったのだ。
「……クラリッサさん……?」
「有り難うね、リーンが気を引いておいてくれた御陰で殺り易かったわ」
 震える声に、クラリッサは天道の如き笑みを浮かべ答えた。常と変わらぬ筈の微笑、然し、そこに秘められた狂気に、
リーンはやっと現に立った。
「何故……何故ヴィルムさんを殺したんですかッ!」
 腕を震わせ杖を握り締め問う、その震えの泉は先と異なる。いきり立つ服事を見下ろし、当然、とばかりにクラリッサは
言った。
「これ以上数を減らされちゃあ困るからよ」
「……え?」
 何のことだ、途惑うリーンを一瞥したクラリッサは、物分りが悪い童を諭すが如き口調で語りかける。
「いい?今居る鶏を食べ尽しちゃったら、誰が卵を産むの?」
「な、何を言ってるんですか?」
「獲物は根絶やしにしちゃあ駄目なのよ。あの群れの量なら、近いうちにまた増えてくれるでしょ」
「まさか、貴方が魔物を救っていたのは……!」
 クラリッサが次々と紡ぐ言葉の意を解すにつれ、リーンの面から血の気が引いていった。
 違う、人と魔の共存の先にあるのは、平和である筈。
 絶望をに踏み躙られるリーンを鼻で笑うと、クラリッサは後方を顎で示した。その先には、オークと比すれば小柄な骸が
二つ、無造作に転がっているのが、リーンの目にも映った。恐らく、それは。
「あああああ!」
「このギルドも潮時ね。暴れペコペコの手綱はしっかり握っておかなきゃあ」
 呆気なく且つ惨い同胞の最後に叫びを上げるリーンを他所に、クラリッサは手柄を自慢する童女の如く、愉快げに笑った。
「魔物に奴等をけしかけたのは、あたし。手酷い襲撃を受ければ、魔物に人間への憎悪を芽生えさせられるでしょう?
怒り狂った魔物を撃ち取る楽しさは倍、ううん、もっと」
 恍惚たる微笑を桜の頬に浮かべ、クラリッサは我が身を抱き締めた。その様は、妖しき魅惑を以ってリーンを誑かす。
「でも、だからと言って根絶やしにしちゃあ、この遊びも御終いだもの。そこの加減が難しくて、面白いのよ」
 全てを冒涜するが如き想いを事も無げに言ってのけた、この者こそ魔でなくて何だと言うのだろう。
 服事を縛る呪は、解けた。
「貴方は人を、魔物を何だと思っているんですか!?」
 激昂する服事を冷笑で見据え、鬼女は言った。
「糧よ。あたしの、人間達の」
「外道ッ!」
「ああら、冒険者を名乗る連中なんて、大概そんなもんでしょ。戦と聞けば我先に剣を取って、大義名分の元に呪を唱えて、
金品を奪い取って。あんただってさっき見たじゃあないの。どうせ一皮剥けばあたしと同じなんだから、素直になれば
いいのに」
「違う!人間は、そんな利己的な生き物じゃあない!」
 崩れかける足元の地を支え、リーンは咽から血反吐を絞る。己を憤怒の形相で睨み遣る服事を見下げ、クラリッサは
薄らに笑う。
「貴方も何時か分かるわ。己の他全てを弄する悦びを。独りの喜びを」
「分からない!そんなもの、分からないッ!」
「はいはい、そういうことにしておきましょ」
 リーンの叫びを軽くいなしたクラリッサは、咄嗟に後方へと飛び退いた。何故、思う間もなく辺りを劈いたのは地響き、
粉塵収まる頃リーンが見たものは、眼前の砕かれた大地と、土に塗れた拳を振るい荒々しい唸りを上げる手負いの
オークであった。
242225sage :2004/05/07(金) 20:26 ID:e./XCWUo
 己が身に刻まれた傷から止まることなき血を流すオークがその眼で捉えるは、惑う服事ではなく、傲慢なる狩人。
「未だあたしに向かって来るのね、気に入ったわ!」
 蒼眼を輝かせ嬉々たる口調で言い捨てると、クラリッサは背の矢筒から矢を抜き取り、間合いを取る。創痍により
力も速度も衰えているとは言え、オークの拳をまともに食らいたがる気狂いは居ない。小柄な体躯を駆使して開いた
間合いが狭まる前に、撓る弓に矢を番え、射る。流れるかの如き一連の所作は、口惜しくも華麗であった。
「うぐおおおおおおッ!」
 それはたったの一矢、なれど、熟練の狩人が放った一矢は、手負いの魔物を冥府に送るには十分過ぎた。
過ぎた筈だった。
「ヒールッ!」
 確たる女の勝利を崩したのは、少年の術だった。全てにあらねど、白光に包まれた魔物が負った傷は徐々に癒えて
いった。未だ服事とは言え、人を、否、他者を癒す術は心得ている。
「やってくれるわね、でも」
 ちろりと舐めた唇から不敵が消えることはなかった。僅かながら取り戻した精気を振り絞り、憎き仇を打ち砕かんと
拳を振るうオークを前にクラリッサが手にしたは、棘に囲まれた鉄球、そして、
「あはッ!あたしの勝ちよッ!」
 抗う暇もなかった。鉄球を受けたオークの巨体は見る間に縮み、やがては両手で抱えられる程の卵と化してしまった。
 組織の掟、獰猛なる魔物をも御し、己の愛玩物に変える品。
 くすくすと童女の如く無邪気に笑い、クラリッサは今や己の手の内の卵に語りかける。
「いい?あんたの名前はアレクトル。魔を離れて人に仕える、裏切り者」
 クラリッサは顔を上げた。その瞳に射抜かれたリーンは、言葉を失う。心中に残るは命を慰み者にされた怒り、
強者を前にした弱者の恐れ。
 酷薄な微笑を形作る唇が、問いを投げる。
「あんたは如何する?あたしと戦うの?」
 掛かれ、己はそう叫ぶも、恐怖がリーンの足首を冷えきった手で掴む。
「僕は……!」
 その心中を見透かすかの如くクラリッサは鼻を鳴らし、告げた。
「またね」
 去り行く狩人の背を見詰めることしか、出来なかった。
 数え切れぬ骸転がる焼け野が原に取り残されたリーンは、一人うわ言を呟く。
「……違う……人間は……魔物は……!」
243225sage :2004/05/07(金) 20:28 ID:e./XCWUo
 年月は経った。狩人の行方は杳として知れない。けれど、オーク村の惨劇が最後とは思えぬ。恐らく、今尚己一人の
欲が為に、人と魔の間に怨恨を振り撒き続けているのだろう。
 あれから修練を積み聖職者となりて後も、リーンの心が晴れることはない。
 人と魔は、平和の中にて共に存すること叶う。己が信ずる道は正しい。間違ってなど、いない。
 なれど、彼の女が投じた小石が起こした波紋は、未だ彼の心中にて広がり続けている。
 そんな折り、リーンは彼の聖女の噂を耳にする。人の身でありながら魔と交わるという、彼の聖女に目通り叶えば、
答を導けるのだろうか。
 否。自問に対する自答は、常に同じ。他から得た理は、他が崩れれば終わる。今度こそ、自ら導き出さねばならぬのだ。
 また、何かを得る為には対価を支払わねばならぬ。それが故に、彼の聖女は破門の憂き目に遭い、同胞である筈の
人からも排斥される身となっている。果たして、己に対価を支払う覚悟があるのか。
 この問に、リーンは長らく答を出せずにいた。だが、今宵、漸く己が心は決まった。
「何処へ行くの」
 闇に紛れてひっそりと宿を立とうとしたリーンの背に、女の鋭い声が突き刺さる。振り向くと、整った相貌に憂いを纏う
女の聖騎士が、己を真摯な瞳で見詰めていた。
「あ、ああ……ユスティーネか」
 言葉に詰まるリーンを見据え、ユスティーネと名付けられた聖騎士は言い難そうに、然しはっきりと言う。
「……彼奴のところでしょう」
 彼女に隠し立ては出来ぬ。苦渋に満ちた面を上げ、リーンは答えた。
「……そうだよ」
「私も連れていって」
「駄目だ、あの女に関わっちゃいけない」
「私は既に関わっているの」
 気色ばむリーンの手をそっと握り締め、ユスティーネは己が心を告げる。
「この世界に生きる人として、貴方の友として」
「ユスティーネ……」
 重き鎧を外した嫋やかな身を抱き締める。背に回された腕に、リーンは暫しの安らぎを覚えていた。然し。
 愛しい女人の耳元で囁く、その声は苦悩に満ちていた。
「僕は、人を手に掛けなければならないかも知れない。僕に出来るのは、こんな罪深い手立てしかないんだ」
「だったら、尚のこと貴方を独りで行かせるわけにはいかないわ」
「済まない」
「いいのよ」
 交す言は乏しくも、そこに満ちるは情であった。

 リーンは、リーンヒルトは、想う。
 両は、孤に敵う。己が命に代えても、彼の悪鬼を討つ。必ず。



 だが、彼はついぞ知ることはなかった。己も彼の女によって放たれた獲物の一匹に過ぎぬことを。
 二人連れ添って旅立った彼等の後を知る者はなかった、そう


 あたしの他はね。あはッ。
244名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/07(金) 20:39 ID:LtHaz/6o
有りです。有りだとは思います。

ただ。

最後の一行がキツ過ぎ。でも上手過ぎ。
245225sage :2004/05/07(金) 20:59 ID:e./XCWUo
無駄に長くて大変申し訳ないです。
「人と魔の共存」という題から、人は何処まで利己的になれるかを追ってみたものの、
如何にも底が浅いのが悔しく。文神の皆々様の御作の中にぶち込んで良かったのか知らん。
なお、クラリッサとリーンの名は、…少々おいたが過ぎました。ヤ○ー。

>>166
彼の聖女様をお借りしてしまいました、御免なさい。実は某スレでも…
166様の広狭自在な構想、そして筆力に憧れて早数ヶ月。
ママプリ様にも何時も萌えさせて頂いております。

>>93
折角素敵な電波を頂いたのに、斯様な出力で大変申し訳ございません。
様々なネタを広げ且つ魅せる93様が紡ぐ御話の続きを、何時も楽しみにしております。
Exactryにニヤリとした私はベナムダストクルセイダー。

>>244
有りですか、良かった!…最後のあれはちと悪乗りしすぎました。

それでは、スレ汚し失礼致しました。
246深淵的休暇・ただし魔剣は尻から出るsage :2004/05/08(土) 17:58 ID:0xrc3/hU
 三月/1頁目――俺は深淵。名前はまだ無い。どこで生まれたのかとんと見当もつかぬ。どこか真っ暗なところでニャーニャー鳴いていたのは


「おいまて明らかに後半おかしいだろう! 貴様いつからワイルドローズに転生した!?」
「ぬう――」
 騎士達の中でも一目置かれ、Abyssの別名で呼ばれているそいつの突っ込みは容赦が無い。
 しかしどうだろうか? 俺の記憶力はあまり良いほうでもないし、一番古い記憶といえばせいぜい200年前、この騎士団に入団した時のものである。もしかしたらそれより前はオシリスの従者として仕えていたかもしれないし、海底神殿の神官だったかもしれないし、ゲッフェニアの剣士だったかもしれないし、はたまたオークムラのオーク・ジョン・ニシムラ(仮名)だったかもしれない。
 こう考えれば自分が猫族の誇り高き一員だったかもしれぬという仮設もあながち冗談と切って捨てるわけにも行ぬ。おお、そういえば彼の一族は全身が優雅な黒い毛皮で覆われているではないか。ちょっと目線を下ろして自分の姿を見ればそこには漆黒の輝きも放たぬ気品溢れる黒甲冑が!
「言っておくけど私達って思念体の塊だから、出身とかそう言うのは無いわよ。私とかここの数人とか時計塔の一部とかは除いて」
「ΩΩ Ω<な、なんだってー」
 YouはShock! あまりの衝撃に三人に分裂してしまった。世紀末救世主もでてきたかもしれない。
 こうして俺の非番は過ぎていくのであった。


「――よし、ちょっとCityに逝ってハジけて来るZE?」
「どこから突っ込んでいいのかわからないけどとりあえず行ってらっしゃい。ああそれとアリスがお使いに行くって言ってたからついでに乗せていってあげて頂戴」
「うにうに」
 前餅を割りながら日向ぼっこをしつつきりりと指令を出すという荒業を絶賛遂行中のAbyssに従い、城の頂上部分から鯖折35回転半空間捻り改〜男の夢よ永遠に〜を決めながら俺の愛馬に着地したアリス(拍手喝采、擬音は主にガチャガチャとグチョグチョ・「あら素敵な超EX級美技、私ももう少し若かったら……」インタビューはお肌の張りが最近良くなってきたカタコンベ在住イビルドルイド・お信さん)を乗せて、ゆったり騎士の威厳を損ねないように、魔法都市ゲフェンへの道を往く。崩れた幌馬車の脇を通り気品溢れる猫達に挨拶をし(冒険者達は槍のひと薙ぎでお帰り願った、肉人形は愛馬が食)、古代ゲッフェニアの魔力渦巻く隠し経路を通って一先ずお使いのアリスを街中に下ろす。ちなみに秘密の通路は時計塔にも繋がっているが、これは下り限定なので行ったら街中を通って帰るしかない。行きはよいよい帰りはこわい、こわいながらもとーりゃんせーとおりゃんせー。しまったマリネットが乗り移った。
「どうもありがとうございます深淵の騎士。帰りは一人で帰れますので、どうぞ短い休暇をせいぜい楽しんでください」
「存外毒舌」
「 な に か ? 」
「ナンディモニャーディス」
 GHは魔窟だ。
 雑踏の中へスキップしながら消えていくアリスを見送り、経路を通って時計塔へ入る。街中に行ってもすること無い。PS2は2ヶ月前にキレた大将がコントローラブチ壊したので新作を買って来る意味が無い。
 ちなみに大将がそのときしていたゲームはキングスフィールドV。

 さて。
 時計塔に来ても実際することは無い。同僚も――だし、今日はちょっと時計塔探検を敢行して見ようかと思う。
「――む? 貴公、この時計塔の守人では無いな……? グラストハイムの者か。何用に参った」
 経路の先は四階の管理人室に繋がっている。何時もなら時計塔の管理人が胃薬を飲みながら計簿を付けている所だが、今日は何故かインバネスにモノクル、山高帽も瀟洒なオウル公爵閣下がお昼のプロンテラ健康体操を通信管の人間と一緒に元気良く行っていた。閣下に言わせるところ、『飛べない梟は――唯の鳥だ』だそうだ。オウルってインコじゃなかったか。なかったか。
 遊びに来たと告げるとそうかそれは良い遊びは人生の休息いや人生そのものといっても言いそもそも最近の若者はうんたらかんたら言い出したのでそそくさと退散する。爺の説教に付き合ってられるかって愚痴。


 管理人室から一歩出れば、そこは誰かが誰かの為に何かの目的で創り上げた、一個の機構の中である。時計塔は楽園計画の最大要素であることは周知の事実だが、楽園計画それ自体を単純な喜びを持って待っているのは恐らくこの巨大な機構の内部では一人しか居ないだろう。
 ――否。そのたった一人の純粋な少女も、その楽園計画という虚構にうすうす気付いているのでは無いだろうか。



 「ぶるるるぅ」、と愛馬が嘶いた。すぅと歩き出す。
 とたんに無数の白い影が体の回りに纏わりつく。思念体が布を媒介に定着した姿、亡霊ウィスパ。彼等に言葉は無い。それは彼等が既に亡霊として意思を手放し生前の無念や怨念を頼りに実在しているからで、そんな彼等に対しては話を聞いてやるというのがもっとも相応しい相対の仕方だ。同調、そうすれば彼等の意識は自然と頭に流れてくる。以下彼等の愚痴。

 "新婚初日に子供連れてくるってどういう事よあの糞ヤロォ絶対呪う呪い殺す末代まで祟ってやらぁッ"
"……PCの中身と押し入れの同人誌がどうか見つかりませんようにッッッ……!"
 "カユ   ウマ  "
                        "消えろイレギュラーッ"
      "ふんぐるいむぐるうふなふいあ!いあ!"
  "おいっーす!"

 ああ、最後のはあの偉大なる人の声だ。静かに一分間黙祷。愛馬も黙祷。筆者も黙祷。

 黙祷を終え三階に繋がる転送器へと向かうと、転送器のまん前に剣が突き差さっているのが見えた。これでもかと言う所に居たのは出番が少ないからか。見なかったことにして踏み潰す。うっそ無視でっすかーという悲哀の篭った叫び声を後ろに三階への転送器に乗る。

「……あれ」
 三階に来たと思ったら着いたのは地下4階だった。はて直通の転送器なんてあったかといぶかしむも、その記憶はだいぶ前のものなので新たに増設されたものでも不思議ではない。なにせこれは探検なのだ。予想外のハプニングこそ望むところである、あいや予想通りの探検など探検に在らずではないか。

 さて、塔地下といえば地下資源のオリデオルコンと涌き水を採取するためにオーク達が精を出していたところだが、どうも勝手が変わったようだ。

 言い表すならば戦場である。
 それはこの場に携わり冒険者と渡り合っている魔性の者たちが引き起こしたものなのか。絶大な力を持った魔族に対する、尋常な実力ではない冒険者達。どちらも各個が一騎当千、剣が呼吸し魔力が踊る。
 おや、あんた何してんだいと言うしゃがれた声に振り向けば、そこには悠然と箒に乗った魔女バースリー刀自が。休暇だから冒険と答えるととわしゃしゃと笑ってそれじゃこの階から上がったほうがいい、下手すると休暇の終わりまでに帰れなくなるよと言い残してマッハの速度で去っていった。
 これは、もしかして不味い所にきたのカナ? カナ? と思い先ほどの転送器に戻ろうと振り向けば、当然のようにそんなものは無い。何故に。「ぶるるぅ」と愛馬が悲しげに嘶く。

 面倒だがどこか他の帰り道を探さなければならないらしい。愛馬を進ませ転送器を探す。
 無論、そんな余裕は戦場に無い。

 数歩往く。
 当然のように騎士が立っていた。


 騎士がこちらに気付く。山羊の兜と、槍と、盾。くつわを噛んだ騎鳥。
「クエェ」と騎鳥が鳴いた。
 「ぶるるぅ」と愛馬が嘶いた。
 ああ。剣を大上段に振り上げる。
 騎士が「っは」と笑う。
 俺は、
247深淵的休暇・ただし魔剣は尻から出るsage :2004/05/08(土) 17:59 ID:0xrc3/hU
「マンドクセ…」
 呟き、幕開けの一撃を叩きつける。騎士はカイト・シールドを掲げてこの一撃をいなし、槍の間合いぎりぎりから愛馬の足を狙って薙ぐ。あやまたずその薙ぎは効果を発揮したが、黄泉路の騎馬はその程度では揺るぎもしない。逆に愛馬は怒り毒の鼻息を噴出す。騎士は効果がないと見ると即座にこちらの懐に入ろうとする。させじ。巨剣を唐竹逆薙突きと騎士の進行を阻むべく三閃させ、
「……!」
 騎士はひるまない。三すじで必殺のこの剣を一つはいなし、一つは避け、一つは
「甘いわッ」
「うぬ……」
 逆薙ぎが鎧に立つも両断することが出来ずに表面だけを削っていく。力を分散させたとはいえ並みの斬撃ではない。敵の鎧があまりに強固。
 思惑通り懐に入った騎士が槍を後方に捻るように構える。巨剣での防御は間に合わない。仕方なく愛馬を後ろに下がらせる、が、その前に騎士の必殺が来た。
 神速の連続突き。その威力は牛頭巨人をも一撃で屠る。三つの一突き。右腕、喉、腹に爆発のような衝撃が起き、予想以上に後退するはめになる。土煙を上げて愛馬が踏ん張り、岩肌に叩き付けられそうになるのをどうにかこらえる。土煙が騎士との間に舞い上がり、お互いに姿を一瞬隠す。騎鳥が「くえぇえ!」と鳴き、愛馬が「ぶるるぅう!」と返した。
 砂塵の収まると、そこに右腕を吊り下げた巨剣、闇に沈んだ刃が見える。その向こう、悠然と再び盾を構える騎士の姿。それはあたかも古代の英雄のごとく。
 予想以上――だ。ここの連中は、こんな奴等と日々争っているのか。
 これは。久しぶりに。
 楽しめそうだ。
「――やるな、BOT」
「……通報するぞこの野郎」
「いやなにシュールでアバンチュールなイタリアンジョークだ。アバンチュールって火遊びって意味な」
「な……そうだったのか!?」
「さあ?」
「串焼きにするぞ手前」
 騎士が槍を投げる。スポアの幻影が見えた後、槍の形をした念力が頭の横に突き刺さる。
「――せっかちだな」
「もういい黙れ。深淵の騎士がおしゃべりなのは前から聞いていたが、これからはもう一つ付け足そう――実は博識」
「ありがたいな。ところで」
 『右腕』を伸ばす。既に再生は完了した。
 そして気配。『居る』。その意味は二つ――騎士の背後、
「深淵の騎士かい? 雲上神議会でたしか時計塔から去ったと聞いたけど――それに前は4階にいなかったかな」
 ザッっと鉄靴に砂を噛ませながら、片目を赤毛で隠した騎士が騎鳥騎士の隣りに並ぶ。その背には身の丈もあるカタナが静謐さを持って鞘に収められている。
「ッハッハ、大方迷い込んできたんだろうよ。見てみろ、そこはかとなくエロそうな顔つきだ――おっと! あれは兜じゃねぇか! こんにゃろう騙したな!」
 もう一方の隣りに忽然と、死人の証である三角布を巻きつけた白髪の暗殺者が、一人で盛り上っている。
「――ふん。本当ならサシで戦り合いたかったんだがな。そう贅沢はいわねぇ。
 さあ、深淵の騎士。
 覚悟しろ」

 ――三人。
 後から来た二人は、騎鳥騎士と比すればさほどの猛者ではないかもしれない。だが、そんな予測の何が当てになるのか。この場は戦場、全ての敵が最強の敵である。
 最強の三人。戦り合えば敗北は絶対の必死。

 だか教えてやろう。幾多の戦場を踏み越えてきた英雄達よ。我が勝利を持って教えてやろう。
 右腕に最後の気配。それは幾千の剣の中、絶対守護の神を刺し殺す為の唯一の刃。
 『神殺し』の、霧の巨剣。束縛の魔物によって神々自身が封印し、我等騎士が唯一振るうことを許された、強力無双の両手剣。
 その真名、ミストルテイン――それが、右腕に顕在する。
「……なッ」
「ミストルテインだと?! しかもおめぇ、まさかその『魔物』を」
 “『魔物』では無いさ”
 その遠雷のような声は、かの大剣そのものから発せられた。
 “私は剣。故あってこのように自ら切って周っていたが、元来その性は騎士に仕える物さ。
  ――ああ、そう。遥か昔、あの東の果てで鋳たれた時から、私は仕えるべき騎士を待つただの刃だ。
  『我は永久に折れることは無く、我は久遠の騎士と共に有るだろう――』
   稀代の担い手、真名無き騎士の命により、”

 大剣に纏わりついた黒糸がはらりと落ち、

 “ミストルテイン、この場に参上仕った”

 轟々とその剣は、自らの存在を高らかに宣言した。
「……ぶっちゃけただの寂しがり屋だけどな。SSにはあんま出てこないし」
「威厳もクソもないな……」
 冗談を言いつつも赤毛の騎士はカタナを一瞬で抜き放ち、暗殺者はジュルを構える。深淵の騎士だけならば倒せないことも無い、だが深淵の騎士とあの魔剣では。
 神速にして一撃必殺、遭遇自体が死といわれ、『霧の死』とまで呼ばれたあの巨剣が相手!
「ビビんなよ」
 山羊の英雄は、悠然とそう言い放った。
「アイツは騎士で、アレは剣だ。騎士が剣を恐れてどうする。騎士は――戦士は、武器を担うもの、だ。
 だから、ここからが本当の戦いだ」
 率直でいい騎士だ。たぶんからかったらすぐ乗るタイプだろう。ギルドのおもちゃに違いない。
 ミストルテインを胸の前で立てる。黒く淀んだ刃は波打ちも美しく眼前に掲げられる。
「おれはグラストハイム騎士団所属、名も無ければ魂も無い騎士、『深淵の騎士』。
 この偽りの名に宿った騎士の魂において、今ここに騎士の戦いを興さん。
 ――敵よ。親愛なる敵よ」
「――応、グラストハイムの偉大なる騎士」
 一息。これが、最後の一言だ。
「いざ」
「尋常に」
「「勝負!」」
248深淵的休暇・ただし魔剣は尻から出るsage :2004/05/08(土) 18:00 ID:0xrc3/hU
 赤毛の騎士がカタナを構え、地を這うように迫る。暗殺者がその反対側から雷光のように来、致死毒を塗りこんだジュルを無数に乱打。赤毛の騎士がミストルテインを越えて頭上から斬撃。その二つの猛攻を右手のミストルテインと左手の槍で全て捌く。そして正面から、騎鳥の英雄が真っ直ぐに突っ込んでくる。槍を引き、牛殺しの三連一殺の構え。甘い。愛馬を地を蹴り『飛ぶ』。目標を見失った騎鳥がたたらを踏み、赤毛の騎士と暗殺者が虚を突かれたように止まる。愛馬はまさに先ほど騎鳥が立っていたところに降り立ち、猛然と振りかえる。思惑通り。振りかえる勢いを長大な槍に乗せ、全力を持ってミストルテインを振りぬく。
 ブランディッシュ
「是、鮮血の――」
 振りぬいた。
   スピア
「――大切断!」
 青白い閃光と共に、向かいの壁が轟音を立てて二つに割れる。赤毛の騎士が胴の半ばから鮮血を噴出して崩壊した壁に叩き付けられ、暗殺者がとっさに頭を下げたらしく地面に這いつくばって舌打ちする。振りぬく動作の最後、一瞬の停滞。
 ――もう一人の騎士は、
「こっちだ」
 その声は上から聞こえた。愛馬と同じように飛んだ騎鳥と、それに乗った騎士が槍を自らの身体に番えるように構える。振り抜いたミストルテインが我を振るえとばかりに軽くなり、その意思に乗って再度振りぬく。
 連撃。中空の騎士が重力を味方につけて放つ槍撃と、ミストルテインの一撃必殺の刃が騎士を中空に縫い止めんと交差する。時間にして実に数秒、空中を舞う騎士をいまだ捕らえられない大剣を、起きあがった赤毛の騎士がそうはさせじと腹を叩く。空中の騎士は悠々と大地に戻り、その背を蹴って暗殺者が中を舞う。
「あ」
 赤毛の騎士の咆哮。
「あああっ」
 金色に輝き出した赤毛の騎士が、その手のカタナを脅威的な速度で振るう。まさに疾風怒濤の剣の嵐を、避けいなし時に受け、逆にムストルテインの刃を返す返す返す。ヒュウウと風を切る音、振り向きもせず槍を突き出す。一撃。それだけで暗殺者は吹き飛び壁に激突する、が、同時に槍が急に軽くなった。急所を解析し一打にて屠るが暗殺者の信条、それは武器にも宛がわれる。根本から叩き折られた槍をほうり捨て、両手でミストルテインを掴み、
 全身全霊を剣に込める。マキシマム・イズパワー。もはや魔獣王バフォメットの一撃にも相当する破滅的な力が、騎士のカタナをついにへし折る。次の瞬間騎士は唐竹の一撃により真っ二つに叩ききられた。
 ミストルテインを横に振るう。血のりは飛び、その刃の漆黒が再び現れる。
 今、それは盾。盾にして剣。剣とは騎士の魂。
 騎鳥の騎士は、待っていた。盾を捨て、全身を引き、彼の魂である槍を構え。
 騎士の英雄は呟く。往くぞ、偉大な騎士よ。これが、俺の最強だ。
 名無しの騎士は答えた。いざや来い、英雄よ。我が無敵が答えよう。

  ブランディッシュ
 「是、炎熱の――」
 「是、鮮血の――」

 騎士の英雄が吼えた。太古の騎士が唱えた。愛馬が「ぶるるぅ」と嘶き、騎鳥が「くええぇ」と鳴いた。
 二つの最強無敵が、現世の戦場に火を灯す。
     スピア
 「――大斬撃」
 「――大切断」

 結果は一瞬。激突した穂先をミストルテインが吹き飛ばし、英雄とその騎鳥を両断した。
 一つの戦がこうして幕を閉じる。


 夕焼けにグラストハイム城は良く映え、魔物の間ではそれを見るのが古来からの流行りである。今もまたソヒーやムナック達の『フェイヨン死んだ男の横っ面に一発入れるぜヘイヘイヘイ』ツアー参加者が帰り道を往く自分の横を挨拶しながら通りすぎ、後には尻の穴を押さえたコボルト達や恍惚とした表情の竜族たちが残るのみである。女は怖い。
「あら、おかえりなさい。久しぶりの休暇は楽しめた? 別に楽しめなくても知ったことではないけど」
 ABYSSはあいも変わらず煎餅を食いながら巡回していた。今日は奴が当番だったらしい。暇そうだ。
「ただいま」
「あーおかえり。そうそう大将が呼んでたわよ。ぷよぷよ勝負だーって」
「PS2のコントローラ壊れたんじゃなかったのか」
「アリスが買い出してきたの。二十個ぐらい」
 さすがだ。ソツが無い。
「――ああ、ABYSS」
「何? 私は忙しいんだけど」
 じゃあその前餅と少年跳躍を捨てろ。
「……いややっぱいい」
「? 何よどうしたの」
「いいから。あんたはフォーリンラブなアコきゅんでも待って出会い頭のシュミレートでもしてろ」
「な!? ちょっと誰があの子が一人の時に月をバックにして颯爽と登場するとかやっぱり水浴びしてるところを偶然目撃させるように仕向けるとか考えてるってうわぁ何言わせんのよもうッ」
「うおお剣を振りまわすな! あ、槍! 槍はだめだって! 被害総額ががががg」
 騎士団最強は恋する少女は切なくてドキドキしちゃうなのだ。ヘタに刺激してはいけない。
 ABYSSと分かれて待機場所、別名溜まり場に向かいながら、俺はさっき言いかけた質問を反芻した。
 ――人間は、強いな。
 なんと言っても、この俺を騎士と呼んだのが、最高に強い。
 人間にとって騎士は守護する者、すなわち最強。守るべき盾はいつの世も無敵の賞賛を浴びたものだ。
 その騎士が、俺を騎士と呼んだ。あの赤毛の騎士も、あの暗殺者も、その眼は俺を騎士と呼んでいた。
 素晴らしい。とてもしぶとく、とても傲慢で、とても純粋。最高の、強敵だ。

 騎士――ああ、騎士!

「……騎士でよかったー」
 愛馬が「ぶるるぅ」と嘶いて同意を示し、行きよりも軽くなった足取りで溜まり場への石畳を歩く。

 そうして俺の休暇は終わりを告げた。
249|゚ω゚)sage :2004/05/08(土) 18:11 ID:0xrc3/hU
時計塔萌えスレと深淵の騎士萌えスレを読んで思いついたわけでえーと両方の住人さんごめんなさいっ

三月頃に前半だけ書いて放置していたのを書き上げて見ました。何故ってそりゃあヒmゲフンゲフン。
神光臨の相次ぐ中でこんな駄文落としてイイのだろうか思いつつ落とします。あっちのスレに落とさないのは、その、なんだ、恥かしい。

FATEはやりたいです。でもお金と時間が有りません。あとPCの容量。だれかボスケテ。
では、下水道リレーにまた参戦しようかなぁと思いつつ一端ごきげんよう。
批判感想愚痴戯言歓迎です|゚ω゚)ノシ
250名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/08(土) 18:42 ID:JFXJ7qHQ
(゚д゚)ウマー
25193@はいよる酒精sage :2004/05/08(土) 20:25 ID:yUJb6sAw
このタイミングで戦闘を仕掛けたという事実は古今例がない!(by赤い人
というかむしろ私が転がり落ちた先はすてあとーへぶん(ただし下向き
     ゴロゴロゴロ・・・...
オレタチノデバンハドノSSニモナイモゥ!>【GH最下層】<ウワーヤメロナニヲスルキサマラー

(恥ずかしいので今日爆撃分は明日にでもかきなおしてきまーす)
252名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/09(日) 09:32 ID:F7L7AW/w
|ω・)ジー    >>251
253名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/09(日) 13:02 ID:r4d55nBw
|д`)ハァハァ    >>251
25493@_| ̄|。。。○sage :2004/05/09(日) 14:36 ID:mXE4TSlQ
…このスレを寝る前に見たのって夢だと思ってたのに……。
 すみませんすみません。なんか、自分で見てもわけわかんない
です。246さんのあまりのGJっぷりに、恥ずかしくなったので
飲みに行く前に書いてた分を投下するのやめっ! って…書いた
つもりだったのです…。泥酔イクナイ…

ああもう! しばらく頭冷やしてきます…サワンジャネ(TT
255225sage :2004/05/09(日) 22:45 ID:fyDplN0Q
今更ですが、
人様に触発されて書いたのがあんな黒い話というのは、如何なものかと、
日が経つにつれガクガクブルブル((((゚Д゚;))))
166様、93様、もし不快な思いをさせてしまっていたら大変申し訳ございません。
_| ̄|○<どなたかあの女ハンターに天誅を…!

>>|゚ω゚)様
ものっそいテンポ良い文章にて綴られる濃厚なネタににやり、
そして戦闘は格好良いのにノリは軽い深淵に萌えました。
256名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/09(日) 23:23 ID:Yi.vslx2
>255
天誅も何も某所のSSでアレクトルが殺したではないですか。
25793@_| ̄|。。。○sage :2004/05/10(月) 00:24 ID:Eyz/SuM6
225様
 レス忘れてるし! 凄くイイですよ。最後の一行、私は好きです。
ええ。どっかで天誅くらってるならなおよしです(苦笑

【反省房】ノシ<ジャアモドリマース
258577と名乗っていたものsage :2004/05/10(月) 21:16 ID:WMVVZLxo
|∀・)

またすこし続きです。
ほかの人の文章を見習いながら・・・と思っても
なぜか短くネタまみれになってしまう・・・うーむ。

彡サッ
259577と名乗っていたものsage :2004/05/10(月) 21:17 ID:WMVVZLxo
「うはーん、かっこつけて進んだらいきなりこれかよーーー!!!」

「余計なこと言ってないで戦いなさい!、ボケプリはヒール連打!、
あとは気合よっ!」

「猛龍拳!、腕が痛くなってきたぜ・・・」

ガゴの矢をくらいつつも相手を壁際に弾き飛ばし、
その頭がぷっくりと膨らんで破裂するのを確認すると、
逆毛モンクはローグの戦っているワニをうしろからボカスカ殴ります。
姉御の一撃で首を飛ばされたアノリアンの後ろからもう一体仲間が
ぬうっと首を突き出しましたが、
そのとたんチェインで頭を強打され、ついでに後ろからノドの肉を
ざっくり抉り取られたそいつは、何の出番もないままに
上水道を流れる水の中に自分の血液を混ぜ込みにいってしまいました・・・。

「ふう・・・戦いはきついね・・・たいした数じゃあないけど
・・・ふう・・・こう頻繁だと・・・まだ大丈夫?・・・精神・・・はあ・・・。」

「・・・(もうダメポ、という表情)」

「俺の方も頭が痛くなってきたぜ・・・次襲われたら・・・ふう・・・」

「あーあ、結局俺らは添え物なのかね、このままじゃあ
もうちょっと敵が出てきたら全滅・・・ふごっ!。」

「へらず口叩いてないでなんか考えなさい、
それともエロいことしか考え付かないのか?この脳みそは!。」

こめかみをぐりぐりされて滝の涙を流すローグをほおって置いて、
モンクと殴りプリはしゃがみこんで休憩しています。
化け物もこの近くにはもう居ないようで、彼らの緊張も
休憩時間の経過とともに徐々にうすれていき、
アサシンにのしかかられて苦しがる悪党以外は、
回復とともに少しづつ言葉を交わしていくのでした・・・。

「・・・ところで前に行った3人は・・・」

「・・・(大丈夫だろ、というカオ)」

「あら?なに?あのWIZさんが気になるの?、
へーそうそうよね可愛いものねプリさんもねえ・・・この野獣!」

「・・・」(←じたばたするローグ)

「え!、いやなに・・・ちが・・・だって3人だけだろ、いくら強いって言っても
その・・・だからあ!」

「・・・(痴話げんかは体力の無駄だ、という表情)」

「・・・ごほ」(←水を飲んで苦しがるローグ)

「なにが違うっての?、ああ、そう、3人が悲鳴を上げながら逃げてきたところで
サッと庇ってカッコつけるなんてシーンを夢見てるのね?。
うわ下心アリアリね〜〜〜。」

「違うって!、何絡んでくんだよ!!、俺が誰を好きだかなんてわかってんだろ!!!」

「えっ・・・、あ・・・」

「・・・(ここで告白ターイム♪、という期待の顔)」

モンクの熱っぽい視線に0.5秒程捉えられた後、
仄かに頬をそめると尻に力をいれて、見えない先の闇に眼をやってしまう姉御、
当然自分の下に・・・。

「・・・むぐぐ」(←再度尻に押しつぶされるローグ)

・・・などというものが居ることすら忘れてしまっています。
そのうちどちらからともなく二人は視線を合わせ、
モンクが差し出した腕を自然と彼女がとろうとした
その時に・・・。

「・・・」

「・・・」

「・・・やっ!、その・・・戻ってきちゃった・・・へへ・・・」

いつのまにか先の暗闇から、
ガシガシという戦闘音とともに後退してきた三人のうち、
金髪のWIZ嬢は恥ずかしそうな声を上げるとすぐに
向き直って大魔法の詠唱を始めました。

「あ・・・、まあ簡単にいうと激しい戦闘中なの、はは・・・
あんだけ大口叩いて後退してきたってのは気にしないで・・・。」

ヒールの合間に首だけまわして、照れた表情でそういうと、
すぐに向き直って(照れ隠しの)支援を続けるプリースト。
4人は彼女に心の中で激しい突込みを入れると、
立ち上がって戦闘に飛び込んでいきます。

「ごふっ・・・あー死ぬかと思った、姉御また肥え・・・うおっ!」

「あら?御免なさいわざとじゃないのよ、カタールが滑ったのホホホホホ・・・。」

「・・・(怖いな、という表情)」

「オラオラオラオラオラオラ!!!(じゃましやがってオラーーーー!!!)」

そこそこの数の化け物たちを、
しかし先ほどよりも手際よく処理していく冒険者達。
妙にアツくなっているモンクの野郎が最後の一体を、
倒れてもなおぼこぼこに殴り続けているのを見て
不思議そうな表情を浮かべる大魔法使いの女の子は、
さきほどのチョットいい雰囲気を感じられるほどの鋭さは
まだ持ちあわせていないのでした・・・。
26093@量がすごくなったデスsage :2004/05/10(月) 23:24 ID:Eyz/SuM6
「…ダークロード。ここは? バフォメットがいる場所はここではありません」
 白装束の少女が怪訝そうに、しかしどこか余裕のある風情で首をかしげる。転送した二人が現れたのは、首都プロンテラ中央広場の上空だった。深夜にもかかわらず、舟を漕ぎながらも店を開けている商人達が眼下に小さく映る。
『管理者ヨ…狂気ニ囚ワレシ愚カナ者ヨ。我ヲ掣肘デキルト本気デ考エテハイルマイ?』
「……」
 管理者は、唇の両端を吊り上げた。顔の中央、縦に残る傷跡が引き攣る。
「…ええ。ですが、貴方をこの世界に呼び寄せただけで全ての歯車は回るのです。人は貴方と戦うでしょう。貴方は、古城の血騎士よりもバフォメットよりも苛烈にそれを迎え撃つでしょう…。人と魔と相争う世界! 今日こそ、ミッドガルズはあるべき姿に戻るのです…」
 少女の右手が天を指し、まっすぐ振り下ろされる。プロンテラ中の…否、世界中の鐘が鳴り響いた。天界から声が降る前触れとして。


「…へー…。噂の仮面の詩人ってのは…お前のことだったのか」
「…え? いや…。最近はずっと弓は手にして無いんだけど。ていうか、仮面?」
 ざわざわとする今日だけのPT仲間を怪訝そうに見る元アコライトの詩人。彼のほうをじーっと眺めながら、騎士が首をひねる。
「いや、俺も噂を聞いたな。確か時計…」
「(ごほんごほん)…あー、その話は今日は置いといて、だ」
「陛下?」
「…とりあえず、管理者はもう、問題にしなくてもいいわけだな」
「死んだかどうかはわかりませんが」
 釈然としないものを感じつつも、詩人になったアコライトは頷く。それに軍帽クルセが何か言い返そうとした瞬間、世界に声が響いた。

 【 こちらはミッドガルド放送局です 】
 【 世界に危機が迫っています。神の摂理に反する恐ろしい悪魔が 】
 【 現れました。心ある方は、闇の王の討伐に力を貸して下さい! 】
 【 こちらは…

「これで…貴方は人に追われるでしょう。さぁ…戦いの時代の始ま…」
『ソウカナ…? 管理者』
 明らかに嘲笑の気配を声に込めて、闇の王は手を一振りした。幻術を操る彼にとって、遠見の術は初歩の初歩…。管理者の前に瞬時に、離れたいくつもの場所の映像が現れる。

 「天の声キター」
 「Uzeeeee!!」

 「また糞イベントですか。うちら軽いからここに溜まってるのにさぁ…勘弁してよー」
 「癌ばってます! って? あはは」

 「どうせまた、流通通貨減らす為に消費アイテム買わせるってんでしょ?」
 「ネトゲの死の時間を先送りにするには、消極的手法ですけどね」
 「それに乗ってやる理由はないわよねぇ…」

 「うわ! 最悪! 式の真っ最中に黄色ログかよ!」
 「…一生の記念なのにぃ〜」
 「お前ら別れた方がいいんじゃね? プ」

 「どーせOWNとかに勇者がイベント結果上げてくれるって(ぉ」
 「ま、それからでもいいよね。どうせ屑アイテムでしょ?」

 映像の中の影は皆、メッセージを愚痴り、罵り、あるいは無視する。自分達のそれまでの行動を続けていった。それまでと何も変わらぬ様に。
「…そんな…」
『コレハ、全テオ前達ノ為シタ事ノ結果ダ。カツテ、人ハ団結ヲ知ッテイタカモシレヌ。ダガ、ソレハ過ギタ事』

 「BOSS厨カエレ!」
 「オマエモナー」
 「金ゴキ袋叩きって何時の時代だよ」
 「げ! 横取りか!」

『貴様ラガ導入シタ施策デ世界ノ価値基準ハ変化シタ。金、強サ、ソレコソガ全テ! 奴ラハモハヤ隣人モ信用デキヌ生キ物ダ』

 「急用です! 落ちます。おつ(しゅいん!)」
 「あ、…野郎! カード持ったままじゃねぇか!?」

『人ガ嘗テ我ラ魔ガ持タズト蔑ンダ、愛情ヤラ友情ナドトイウ物モ無意味。全テ相手ヲ利用スル為ノ駆ケ引キト堕シタ…。今ノ人ト我ラトドコガ違オウ』

 「さよなら、転職したからもういらないわ、あなた」
 「……プリたーーーーん カムバーーーーック!」

『我ハ学ンダ。暗ク深イ地ノ底デ。人ヲ我ガ誘惑ニ落トス術ヲ。ソシテ成功シタ!』
 闇の王の目が赤く輝き、魔杖を天高く突き上げる。その先端から、彼の目と同じ赤い光が放たれた。無数に、世界の至る所に向けて、光が飛び散っていく。
『今、我ガ手ニハ力ガアル…。我ガ手ニ魂ヲ売リ渡シタ者ヨ…契約ヲ果タス時。目覚メヨ、我ガ写シ身ヨ…』
 フェイヨンの地下洞窟で、プロンテラ地下水道で、バイラン島で…それまで黙々と狩りを続けていた姿が、まるで測ったかのように正確なタイミングで顔を天に向けた。その目は血のごとき赤。
『……主タル我ガ声ニ答エヌ写シ身ガ…幾許カイルカ? 予想範囲内ダ…ファファファ』
「…BOT…ダークロード…それは悪魔にすら許されぬ悪です」
 管理者の手が虚空を探る。が、砕かれた神剣は彼女に応える事はなかった。

『人、神、魔ノ時代ハ過ギタ。神ガコノ世界ヲ見捨テ、新タナ新世界…A3トヤラニソノ目を移シタ以上…人、魔ノ二極ノ均衡モ崩レル道理。コレ程マデニ我ラガ近シクナッタ今、魔界ト現界ノ壁ガ緩ムモ予想ノ枠内。我ハ最後ノ大戦ニ備エ、力ヲ蓄エタマデ…』
 映像の中で、無数の魂なき者どもが蝶の羽を握りつぶし、集結を開始する。群れなす虚ろな目の軍団には、最強を示す青き燐光を放つものすら少なくない。それと良く似た姿を、管理者は夢想した事があった。神の下に集う最強の兵団。戦乙女の手で転生を果たすべく集う、神の兵士達…。
 この1000年紀が終わった折に、実現するはずだった夢。それがいま、悪夢となって彼女の前にあった。
「…神は、ミッドガルズの管理を捨ててなど…」
『現実ヲ見ヨ、管理者。今更、神ノ声ナド誰ニ信ジラレヨウカ? 人ト魔ガ、永劫争イ続ケル事ナドハ無イ。戦ハ勝テバ終ワルノダ。管理者ヨ…理解シタカ? ファファファ…ナラバ』
 目を大きく開けたまま映像に見入る管理者の背に、魔の杖が振り下ろされる。
『死スコトスラ適ワヌ汝ノ…尽キヌ絶望ト痛ミヲ…我ノ糧ニセヨ』
 闇の王が背を向けた人間の都で、人形達が集めた無数の古木の枝が一斉に砕けた。
『ファファファ…ツイニ手ニイレタ…最強ノ力…世界ヲ管理スル力…神ノ力ダ』
26193@量がすごくなったデスsage :2004/05/10(月) 23:25 ID:Eyz/SuM6
 闇の主が去った後…、首都の城壁の上に身じろぎする影が二つ。濃茶の髪の、まだ幼さの抜け切らぬプリーストの青年と、彼の先輩格と思しき女性の神官は、時ならぬ「ミッドガルド放送局」からの依頼に鐘楼へ上がっていた当番だった。
 聞こえた会話に、唖然とする彼らの眼下で…、枝で呼ばれた魔物のせいだろう、爆発音が響く。そして、悲鳴。今までに起きたこともない程の大規模なテロだ。起きていた少数の冒険者が個々に反撃を開始したのか、街の各所で巨大な魔法円が開くが余りに多い同時詠唱が干渉しあい、まともに魔力が解放される方陣はほとんどない。
「急がないと! あれが本当なら大変なことになる!」
 鐘楼を駆け下りかけた青年の手を、女性プリーストが止める。
「…鳴らしましょう、鐘を」
「え!?」
「放送が終わった後も、鐘が鳴り続けていれば…、この異変がさっきの放送と関係があると気づく人もいるでしょう。もっと深い悪意が後ろにあると」
「……でも!」
「バラバラに戦っていては勝てません。その拠り所にする為に。人の都がまだ在ると知らしめる為に鐘を鳴らしましょう。神はまだいると告げる為に」
 (そして、いまこそ、自分の道を選ぶ為に)と、彼女は心のうちで付け加える。その目を見て、青年は頷いた。
「…そうか。ここに、敵も…味方も、おびき寄せるんですね? でも、僕ら二人だけじゃ…」
 女聖職の目が、何か警告するように丸くなったのを見て、青年の声が途切れる。声に引かれたのか、彼の背後の床に小さな蟲の群れが這い寄ってきていた。幾重にも重なった甲羅は音も立てず、その下の無数の肢の動きも滑らかに暗所を縫う。青年が振り向こうとしたその背中に、先頭の昆虫が吸血棘を突きたてる…刹那。

 昆虫の身体が装甲の継ぎ目で音もなく、3つに分かれた。昆虫以上にひそやかに、闇からカタールを構えたもう一つの影が現れる。
「こういう時に、頼られるのが親友って奴だよなぁ」
「……っ」
 余りのタイミングの良さに声も出ない青年の後ろで、大きく鐘がなった。


 とんとん、とん、と軽い音が上から降りてくる。本当なら足音など立てない事もできるはずなのだが、あれが彼なりの気遣いなのだ、と戦闘BSは机に突っ伏したまま笑った。二日酔いの頭には足音などないほうが楽なのだが、外のテロの騒音が煩くてどうせ寝てはいられない。
「どした? 光戦隊。屋根の上で酔い覚ましやなかったんか?」
「うるさい。光戦隊とかいうな」
「難儀なやっちゃなぁ…光戦隊もマスクマンもオーラバトラーも駄目やったら…なんて呼べて?」
「だから…、あー、もういい。外に涼みに行ってくる」
 いいながら、かちゃかちゃと金属の音をさせるアサシンに、BSが本当に大儀そうに目を上げる。
「……涼みにそんな戦闘装備かい。テロの掃除なんて柄やないやろ。それとも何か…」
 ブラックスミスの知るこの暗殺者は、街を荒らす賊がいようとも、気分が乗らないのにわざわざ乗り出していくほどおせっかいではなかったはずだ。いつかの弓手の少女と知り合い…そして、別れたときから多少、変わったらしいとはいえ。
 彼はついさっき、神の摂理などという単語が混ざった天の声に露骨に不機嫌になって出て行ったばかりなのだ。気分屋の彼が、不機嫌にもかかわらずおせっかいを焼くとしたら。
「…さっきのイベント告知、やっぱ、そんなに気になったんか? 女の声やったしな」
 冗談めかしたその一言で一瞬手を止めるアサシンに、鍛冶屋は大きくため息をついた。手探りでサングラスを探すと、酔っ払いの割りに慎重な手つきでかけ、それから壁に立てかけてあった斧を手にする。
「…付き合えとはいってない」
「付き合うなとも言うてないやろ」
 好きにしろ、と口の中だけで呟いて、アサシンは街路に出る。目指すは鐘楼。彼の手の中の僅かな奇跡を無意味と言った闇の王の声を否定する為に。
「…そういえば、あの時もダークロード、か。よくよく縁がある」
「なんや!? 聞こえんて!」
 宿屋の扉を一枚開ければ、そこはもう戦場だった。
26293@量がすごくなったデスsage :2004/05/10(月) 23:25 ID:Eyz/SuM6
「…くそっ。ホントにここに来るのか? 待つよりも…」
「くくくっ…私が闇の王ならば、この場を逃すはずが無い。実質上、融和派の人と魔のトップがここに、護衛もなくいるんだ。来ますよ。間違いなく…ただし」
『援軍は期待できぬな。我も古城との連絡は取れぬ。人もそうであろう』
 フードの奥の魔術師の声を、緋色の魔王が引き取った。この空間は、闇の王の結界。思念や想念で動く不死族の王たる彼の結界内では、あらゆる念話が妨害されていた。いや、ただ一人の念を除いて。
『ファファファファ……』
「皆、気を引き締めるんだ。…来るぞ」
 意思あるもの全ての頭に響く、高圧的な念。軍帽クルセの声に応えるように、一同の前の空間がたわんだ。
『ファファファ…援ケナドアリ得ヌゾ。全テ今、コノ時滅ブノダ…』
 奇怪にうねる黒衣、そしてそれよりも濃い闇の瘴気をまとった巨大な人骨。それは、人の悪夢の具現化した姿だった。その手にはねじれた魔の杖、その先端にある骸骨の棘に縫いとめられしは白き神意の代行者。
「…管理者…。取り込まれたのか」
 つがえた矢を一瞬ためらってから、詩人は放つ。だが、正確無比な一撃は闇の王の眉間に突き立つ前に、更に早くかざされた魔杖に阻まれた。
「うぐ!」
 銀矢をその身に受けた管理者の口から鮮血がこぼれる。白衣が血で染まり、魔の杖が脈動した。その痛みを飲み干すように。
『ドウシタ。無力ナル者。モット撃ツガイイ…アガイテ、折レヨ…ファファファ…』
 伝説と悪夢の中にのみ住まう闇の王に対しても、この場のものは動揺しなかった。それが彼には心地よい。強き心の者ほど、折れたときの美味さが格別なのだ。そして、それは同類にもいえること。
 死の代名詞ともいえる自らの鎌を杖に、緋色の魔王が闇の主の前に立った。自らの、そしてそれに倍する敵の血で汚れていようとも、その様は魔王の名に相応しく、倣岸にして不羈。
『緋色ノ魔王…無様ダナ。人ゴトキニ不覚ヲ…』
 ダークロードの注意がその強大な気に向けられた瞬間に、バフォメットの巨体の影の死角で二人の人が魔力を編む。打ち合わせも何もない、その場での連携。いまこの時に闇の王に対峙するという以外、あまりにも違う意志の者同士が、熟練した技を持つ者のみに可能な呼吸が瞬時に交わされていた。
「やれやれ…面倒なことで。冷酷なる乙女の抱擁を受けるが如く…砕けよ! Storm Gust!」
「今日は貴様よりも其奴こそ悪と見た! 禊ぎの式よ、ここに! Magnus Exorcismus!」
 氷結の嵐と聖なる十字が闇の主を撃つ。複数の司祭の複合術に匹敵する、老司祭の対魔方術と、禁呪すら操る高位魔術師の呪法が同時に炸裂し、あおりを受けたバフォメットまでが僅かによろめく。更に。
「食らえ三連撃! Pierce!」
「…Sonic Blow」
 魔王の巨体を回り込むように飛び込んだ騎士と暗殺者の攻撃が棒立ちのダークロードに吸い込まれる。余りの高速打撃に瞬時に瘴気の衣が裂かれ、どす黒い血が飛び散った。

『…これが人だ、闇の王よ。引くがいい。お前に敵するはこの場の者のみならぬ。古城の者も我が命に服すること、知らぬではあるまい。人と魔全てに対するに貴様一体で…何が出来ようか』
 人と手を結んだ山羊頭の王の宣告に答えたは、低い…そして湧き上がるような嘲笑。
『ファファファ…効カヌ…効カヌノダ魔王。我ハ管理者ヲ喰ライ! 神ノ力ヲ手ニシタ!』
 ダークロードの受けた傷が、瞬く間に癒えた。むしろ、最初から存在しなかったかのように全て消える。巻戻し…管理者の力。
『ソシテ、古城モ…楽園計画モ…人ノ都モ…全テ我ガ前ニ崩レ落チルノダ…我ガ暗黒ノ軍団ニヨッテ…ファファファ…』
 ただ、周囲の人間に絶望を味合わせるために、ダークロードは各地の映像を宙に映し出す。黒煙をあげるプロンテラ、無数の虚ろな兵団に取り囲まれた古城と時計塔がうつる。
「馬鹿な…三正面作戦だと! それに、聖堂が…燃えているのか? ぐぬぅ…」
「…しかも、どの局面でも押されている…のか。いや、みんな、諦めるな! これが本物だとは限らない」
 叱咤する軍帽クルセ
「くくくっ…確かに貴方の力は素晴らしい。最高だ。だが…ダークロード。冒険者どもを甘く見ないほうがいいですよ? これは、忠告です」
『魔族もな…お主の知る時代の魔族とは、違うぞ、闇の王よ。それと知ってなお戦うというのなら…』
 いいかけた魔王に、癒しの力が降り注ぐ。聖堂騎士達ではない、その術を飛ばしたのは、漆黒の巨馬の横にいる、アコライトの少女。
「司祭様! 遅れましたけれども、これより私も加わらせていただきます」
『バフォメット閣下。グラストヘイム騎士団より…我が一剣助成いたします』
 そして
「……お前…お前だ! 何してやがるぁ!」
 ダークロードの頭上から、軋る様な声が落ちる。はっと見上げた頭上から、龍の翼を生やしたローグが舞い降りた。殆ど反射だけで突き出した魔杖の先端がローグの腰を粉々に砕く。それこそが、彼の狙い。杖の先端が自らに食い込んだ時に、ローグは勝利の笑みを浮かべた。
「…俺の女だぁ! 貰っていくぜぇ…! Intimidate!!」
26393@量がすごくなったデスsage :2004/05/10(月) 23:26 ID:Eyz/SuM6
『騎士殿! 下ガラレイ』
 前に出たカーリッツバーグが物言わぬ騎士達に砕かれる。その隙間をふさぐように、深淵の騎士が巨馬を進めた。
「このぉ! 私はお姉ちゃんなんだからぁ!」
 やけに可愛らしい掛け声とは裏腹に、凶悪極まりない一撃を受けた騎士が壁まで飛び、めり込む。いつもならば人が喋り、魔が無口に迎え撃つ構図が、この日は完全に逆になっていた。一時的に手薄になった騎士の横に、レイドリックの一小隊が駆け込んでくる。
『騎士殿! 右から敵であります!』
「ふぇぇぇ…多すぎるよ…」

「……敵の9割までが前衛戦力。連携は皆無。にも拘らずここまで押し込まれるとはな」
「少し、侮りすぎましたかな、人を」
「あれが人であるものか…ダークロードめ…」
 騎士団最奥部の司令部では、参謀役の赤の司祭と血騎士候が全域図を前にしていた。地上にいた自動石像部隊は既に砕かれ、防衛線は騎士団本部内に後退している。その騎士団も、一階の過半が敵占領下を示す赤色に染まっていた。当然というべきか敵は城内の構造に熟知しているらしく、古城よりもまず、騎士団に全戦力を集中させている。
「カタコンベのダークロード殿には連絡がつかぬか?」
「先ほど古城を出て、以後の消息は不明です。まぁ、あの御仁はオリジナルとは程遠い。今更本体の闇の君主殿に合流などはできますまい」
「遠慮など似合わぬ正確の御仁だと思ったのだがな」
 イビルドルイドが答えて口を開こうとしたその時、立て付けの悪い司令部の扉が軋みながら開いた。
「どんな任務か想像できるか、剣の…」
「想像したくもないが、想像できてしまうぞ、弓の…」
「流石だな俺ら…」
 扉の向こうには、臨界寸前のオリデオコンを抱えて敵中突撃とか、悲観的な想像しか思いついていないらしい古城の兵士が二名。
「よく来たな。まぁ座れ。酒でも飲むか? いや、すまぬな。お主らは甲冑であったか」
 彼らの内心を裏打ちするように、やけに饒舌かつ親切な上官。レイドリックは耐え切れずにアーチャーを見る。お互いが目が合い、そこに書かれていたものを相コンタクトで読み取る。
  不  安  だ
     また 監獄 送り かよ
   何を やった んだ 俺ら
     心当たりがありすぎてどれのことやら
「HAHAHA…血騎士候、私はすぐに迎撃任務にでなければいけませんので飲酒は失礼いたします!」
「です」
 かたかたと兜を鳴らして頷くレイドリック達を、ドルイドがいつものように悠然と諭した。
「まぁまぁ。貴方達でないと出来ない重要任務がありまして」
 その赤い司祭の背後から、ゆらりと一振りの剣が現れる。その刀身には常に霜がかかり、細く鋭い刃は常に血に飢えて震える為、なまじの者では触れることすら適わぬという大剣…ミストルテイン。
「……あー、れいどりっくは?」
“連戦で疲れて寝ているゆえこっそり出てまいった”
「おや、お三方は顔見知りですか。それは結構」
 ミストルテインの仮初の主の一人が、レイドリックの妹のれいどりっくである事を知らぬ赤の司祭ではあるまいが、それはそれとして、というポーズを取り、話を続ける。
「おそらく、ダークロード閣下は迷宮の森におられるのでしょう。バフォメット閣下を討つつもりでしょうな」
 ちらり、と司祭が血騎士に目をやると、血騎士は深く、首を縦に振った。
「我らグラストヘイムはバフォメット閣下につく。今更方向転換など受け入れられぬ」
「…まぁ、ダークロード閣下もやけに人間臭くなった我らを受け入れる気はないでしょうね。不幸なことです」
「現状、我が騎士団より手勢を裂くのは極めて困難だが、現地には幸か不幸か…騎士団最強の騎士がいる」
 血騎士が両肘を机につき、組んだ手の上に顎をおもむろに乗せる。赤の司祭はいつの間にか、彼の斜め後ろに立っていた。
「…いけるか」
「剣の。何かダークロード閣下とかバフォメット閣下とか聞こえたんだが?」
「案ずるな弓の。俺もそうだ」
 お互い、どうやっているのか兜の面頬のあたりをつねりあう二体に、血騎士が咳払いを一つ。
「もう一度だ。…いけるか?」
「「は! いえっさーであります! 任務が何かさっぱり知りませんが!」」
「問題はない」
“では、よろしく頼むぞ”
 ミストルテインがゆらり、と眼前に浮かぶのを見てレイドリックが目をぱちくりさせた(あるいは、似たような事をした)。
「それを、現地の騎士に届けよ。それが貴様らの任務だ」
「まずは、お三方には時計塔に行って頂きますよ。少し準備がありますゆえ、ね」


[落)80wiz♀プリさんと世界の危機を救いたい(1/20)]
 プロンテラ南にポツリと佇む一つの影があった。時刻は深夜。通りがかる人の影もなく、ずっと、入室者はない。
「…流石にこれでは無理か。いやまて…、
     さっそうと一人で世界を救う!
                ↓
     ダークロード様サイコー! とモテモテ
                ↓
               (゚д゚)ウマー
 これだ!」
[落)80wiz♀プリさんと世界の危機を救いたい(2/20)]
「……父上、ぶつぶつと何を言っておられるのですか」
 夢の世界に逃避している間に、魔法使い…いや、人間の姿を装ったダークロードの前に、いつの間にか胸の小さめなアコライトの少女が座っていた。この少女も、ダークイリュージョンの仮初の姿なのだが。
 本体たる闇の王の命令に抵抗した…というより、むしろ仮初の身としてカタコンベにいる間で、すっかり人に染まってしまった為に切り捨てられた感のある二人だが、それを悔やみはしていない。しかし、普段から喧嘩していた手前、今更古城の騎士団に合流するのは恥ずかしいわけで。
「…いくか、娘よ」
「わらわもお供します、父上」
 二人の魔族は、悲壮な決意を秘めて立ち上がった。その時
[落)80wiz♀プリさんと世界の危機を救いたい(4/20)]
「……まさか」
 ダークロードの背筋にひんやりとしたものが流れる。この感覚は、以前にも覚えがある。深淵の騎士子スレの252とか269とか…。
「世間の風は冷たいもの、でも…いちど交わした愛を決して忘れないのは お か ま と♪」
「と し ま♪」
 いつの間にか、ダークロードを挟むように、野太い声の女装聖職者と小皺の目立つ女聖職者がぺたんと座っている。
「いやいやいやいや、交わしてない! 交わしてない! というかそんな目で見るなぁ」
「いや〜ん♪ そんな目だなんて、どんな目?」
「口ではいえないような目。いやんいやん おかまも照れるわぁ〜」
「…父上、背に腹は変えられません。この際は…」
 とりあえず左右の顔から目をそむけて下を向き、スリットの隙間から禍々しい物が見え隠れするのに卒倒しそうになるダークロードだったが。
「むぐぐぐ…わかった。逝こう」
「どこまでもお供します、父上」
 二人の魔族は、ある意味ではさっきよりも悲壮な決意を秘めて立ち上がった。
26493@量がすごくなったデスsage :2004/05/10(月) 23:27 ID:Eyz/SuM6
 鐘が鳴る。人の都を包むように。粛々と。
「…くっ。ボーンフィッシュか!」
 狭い道を一人で守るアサシンの脇を、火炎に包まれた蝙蝠がすり抜けた。そのまま一直線に、後ろで支援とアンゼルスを交互に続けるプリーストたちに向かう。その側面に矢が二本。
「こんにちは、もう声変わりは済んだ?」
 向き直ったエクスプロージョンを真上からファルコンの爪が捉え、裂いた。
「…はい! いつかはありがとうござ…」
「和む前に、聞かせてよ! 君の歌を」
 ハンターが前線に加わったお陰で、プリースト二人の手が空いた。グロリアは、二人とも習得している。ちらっと目線を交わしてから、青年は大きく息を吸い込んだ。

 いと高き処の神の栄光。
  其は、地に平和をもたらし、
 人に良き行いをもたらす

「ん、いいね」
 音に乗り、リズミカルに舞うファルコンの様子に笑みを浮かべて、ハンターは後ろのプリーストに見えるように親指を立てた。その前の巨大な巨像に矢を向け、放つ…前に、ゴーレムは足元から崩れ落ちた。
「グロリア、か。うまくは無いが、味があるな」
「お前、言い方考えや…」
 言葉を選んだ風のアサシンに、両手斧のブラックスミスが裏拳で突っ込む。その様を見て、孤軍奮闘していた若い暗殺者が背筋を伸ばした。
「あ…あなたは!」
「気にするな。ただの気まぐれだ」

 鐘の音が響く。人の都から。連綿と。
「…ちょっと、耳を澄まして…聞こえない? 別の鐘が」
 ごーん… ごーん…
「聞こえます…聞こえますよ」
 孤軍ではない、蓋を開ければまだ圧倒的に多い敵を斬り、焼き、削る。首都の冒険者達は、鐘の音を心の拠り所に戦い続けていた。彼らの鐘を。


「で、間道を伝ってここまで来たわけだが、これからどうしろと」
「とは言われてもな、剣の」
“剣の、とは私か?”
 面白そうに返事をしたのはミストルテイン。レイドリックアーチャーは手を左右にぶんぶんと振って否定を示した。その眼前を、彼らより二回りは大きな機械仕掛けの兵士が列を成して進んでいく
『荒武一番隊! 右列敵の側面を突け!』
『ヤー!』
『貴様は六番隊の援護に回れ! 気張れよ…奴らに四階の敷居を跨がせるな!』
『…でけぇ声出すな! あの子が起きちまうだろうが!』
『てめえの声がでかいんだよファッキン糞ども! 糞でも食らえ!』
 グラストヘイム以上に人間との融和を打ち出す時計塔にも、闇の王の軍勢は群れを為して押し寄せていた。幸い、近接戦闘に関しては高性能のAMスーツを着込んだ戦士達のお陰である程度のところで食い止められてはいるが、到底レイド兄弟達を助けて迷宮の森まで運ぶことができるほどの余裕は見受けられない。
「お待たせしました。ああ、ミストルテインさん。お久しぶり」
“管理人殿も達者なようだ。彼女は?”
「…今は寝ていますよ」
 そんな軽い挨拶を魔剣と交わすこの塔の最高責任者は、無機質な声に人間味のある感情を乗せていた。その背後で、最後の杯を交わすAMスーツの搭乗員達の、やけに陽気な声が響く。

「…なんだか何時にも増して今日の俺達、場違いじゃないか、剣の」
「ああ、弓の。あまつさえ嫌な予感がするのだが?」
 いつの間にか、隅っこでいじけポーズで座り込んでいる二人を見て、ミストルテインが意味ありげに刀身を振った。
「ああ、失礼。すぐに行かれるのですな。ご覧の通り、この塔も取り込み中でして、少し手荒になりますが。何、確実に迷宮の森まで届けますよ…」
 そういって管理者が細い腕で指し示した先にいたのは、咥え煙草のいかつい老人と、対照的な仮面の細身の男。二人だけだ。
「紹介しよう、彼らが…
   ラグ跳躍ワープ殴りで鳴らした俺達特攻部隊は、濡れ衣を着せられ当局に逮捕された。
       アリーナを脱出し、塔にこもった。
      しかし、時計塔でくすぶっているような俺達じゃあない。
     筋さえ通ればノリ次第でなんでもやってのける命知らず、
    不可能を可能にし巨大な悪を粉砕する、俺達、特攻野郎Alarmチーム!」

「ワシは、リーダー、オウル・デューク大佐。通称公爵。躾けと子守の名人。ワシのような天才教育家でなければ百戦錬磨のつわものどものリーダーは務まらんのじゃ(棒読み)」
「俺はアーチャースケルトン。通称バドスケ。自慢の仮面に、女はみんなイチコロさ。ハッタリかまして、時計塔の家族を謳う詩からキングバードギター伴奏まで、何でも弾いてみせるぜ…っておい、管理人よ」
「何か設定に問題でも?」
「ワシは普段SSにあまり出とらんからどう扱われても良いが、本来荒武隊にそのネタはなかったかね? 2スレ序盤に」
「いや、それもそうなんだが、そもそも二人でどうするんだ二人で!」
「いやいや、残りはそこにおるではないか」
 びしっとオウルデュークが杖で指した先には、壁に張り付くようにして必死に左右を見るレイド兄弟と、我関せず、な風の魔剣の姿があった。
「…まぁ、冗談はさておき。四階にはこの格納庫以外にも、色々と面白い物がありましてね。皆さんに使っていただくために慌てて引っ張り出したわけですが…さて、本当に使えるかどうか」
 管理人が、表情のないはずの顔で、にっこりと笑って指し示した先には、二つに割れた細い釣鐘型の金属塊と、その間の空洞にはめ込まれるように駐機姿勢をとったAMスーツ、が4セット。そして、その背後には巨大な黒光りする円柱が斜めに聳え立っていた。そこはかとなく、火薬の匂いがあたりに漂っている。
『AM砲。照準ヨシ!』
『さぁ、乗ってくだせぇ』
「では、お先に失礼するぞ」
 妙にお腹の膨れた公爵を、不審気に見てから、詩人姿の男がはっとして駆け寄る。その外套の下を、一目見て
「…そういうことか」
「この塔に万が一の事があっても、楽園計画は継がれねばならぬ。その心はな」
「管理人っ…負けるつもりか!? じゃあ。何で二つ目に俺が!」
「貴方は楽園計画の伝道者になる。その、歌でね」
 ふわりと漂ってきた青く分厚い本の上に、ちょこんと腰掛けた女性が言った。
「…だが、あいつについていくならお前の方が…」
「それ以上は言わない。きっと貴方は戻ってくる。前に出てったときにも、そういったでしょ? だから…」
「貴方には、感謝していますよ…。計画のためとはいえ、あんな追い出し方をしたというのに、危機を知らせに来てくれた。だから、私達は間に合ったのですから」
 情緒を解せずに割り込んできた管理人に、本の精が少しむくれた。そのしっかり装丁された角を軽く撫でて、仮面の向こうの目が微笑む。
「…ああ、戻ってくる。いつかまた、きっと」

 ごっつい男どもが、唖然とするレイド兄弟のわきをがしっと掴み、引きずる用にして同じ弾丸放り込む。AMスーツなら一体でぎりぎりだが、レイドリックならば二体入る、ということらしい。
「剣の…言いたい事はあるか」
「ああ、弓の…想いは同じだ…」
「「俺達は荷物じゃねぇー!」」
 がしょん、と蓋が閉まったのを確認してから、ミストルテインがふと遠い目をする。
“ということは何か、私が奇人?変人?だから何故?”
26593@量がすごくなったデスsage :2004/05/10(月) 23:27 ID:Eyz/SuM6
 迷宮の森の中。どこか、遠く。
「何故…私を助けたのですか。貴方を見捨てた私を」
 胸に大きな空洞を抱えて、流れ出す血すらなくなっても、管理者は死には遠かった。そして、その膝の上では彼女を助けた男の生命の灯が消えかけている。彼女には、不合理に思えた。
「惚れて〜るから! 好〜きだから! …愛〜してるから! 好きなのを…選べ…よ…」
「……好きだから、ですか? 好き…そんな、非合理的な……感情で…」
「あんた、泣いてるのか…? それもいい、ソソルねぇ…」
 ローグの声を、管理者は咎めようとはしなかった。彼女は、思い出していたのだ。かつて、彼女が憧れた存在…明けの明星、第一の管理者。百の名を持ち、もっとも神に近かった者…。
『もっと楽しくてまったりする(へへ)ラグナロクにしますから〜(ハート)』
 彼に憧れて管理人の道を選んだ。しかし、待っていたのは管理の為に粛清を繰り返す日々。それでもあの日々が…、管理者と人が、一体となっていたあの頃が戻ってくると信じて時計を戻そうとした。いつしか麻痺させた感情。それが…再び狂気の殻の底から声を上げる。ここに、いると。
 まだあの時の自分は、ここにいる…と。
「…私は。愚かです…」
「けけっ…馬鹿な女ほど、可愛い…ぜぇ…」
「……」

「…そうだ。あんたの名前…聞いて…なかったな…」
「名前ですか。私は管理者No.0…」
「それじゃあない。あんたの、…名前だ…教えてくれよ、またいつか…会え…」
「……わ、私は…。私の名…し………っと…」
(馬鹿…声が……ちいせぇ…よ…)
 もう、ローグの耳に音は届かない。それでも、ローグは満足げに微笑んだ。管理者の頬から、新しい熱い雫が落ちていく。

 それが届く前に、男の身体は崩れ去った。
26693@量がすごくなったデスsage 縦読み… :2004/05/10(月) 23:39 ID:Eyz/SuM6
246様のご立派な文章を見てAbyssたんにみすとるてぃんを!
とかいうめんような電波を受けたはいいがまとまるまでに
なんかこんなに長くなってしまいました。
ついでになんだか欲望の赴くままに方々の神の人のキャラを大量
に出しくさったり…だめぽ。
酔っぱらい事件は表で見えないとこに追い込めたのでよしとします orz

 んと、ネタが読めた人も、そうでない人も…もう少しなので待っててね

業務連絡:577様、某所ログ整理場からリンク張りますので駄目なら言ってクダサイ
267名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/11(火) 13:33 ID:YvD42sFo
|Д゚)<231を見て電波を受信したんだけど、投下してよいものかしら

|Д゚)<まだ途中なんだけどもね

|Д゚)<しかも魔物サイドでの話で、さらに登場人物が増える感じだけどね
26852だった人物sage :2004/05/11(火) 19:42 ID:dAnXJX32
二層目に辿り着くと、ひんやりとした空気が俺達を迎えた。
辺りは先程とはうってかわって静まりかえり、不気味な雰囲気を感じさせる。
モンスター達の気配もさらに濃密になり、否が応にも緊張感が……
「マナたーん、寒いー。あっためてー」
……高まらない、コイツのせいで。
しかもセリフに誤解を招きかねない表現が入っている。
「少しは黙ってろ、重要任務の真っ最中だぞ」
「だって寒いもんは寒いんやから仕方ないやろ」
「まったく……いいから黙ってろ、モンスターに居場所を知らせて回ってもなんの得にもならないぞ」
「へいへい」
いつものようにハンスを黙らせ、先へと進む。
だが確かに……地下とはいえ、この寒さは異常だ。
何らかの原因――やはり魔術だろうか? しかし何のために?
そう思案していると、靴底から何かを砕く感触が伝わってきた。
足を上げる。するとそこには砕かれた氷の粒があった。
「……深く考えるまでのことでもなかったな」
「え? どういうこと?」
紫苑が不思議そうな声で問いかけてきた。
「これは氷系魔法を使った証拠だ、しかも広範囲に広がっている……おそらく大魔法だ」
「……え〜っと、氷系大魔法を使った痕跡があるってことは……」
頬に手を当て、考え込む紫苑。
「……分かったよ! つまりは近くにウィザードが……人がいるってことだよね?」
「そうだ、しかも大魔法は詠唱に時間がかかる。単独で発動させるのは困難だ」
「となると他にも前衛の人がいる……?」
「あぁ、しかも痕跡は奥に続いている。もし、遭難者だとしたら奥に行くのは不可解だ」
「つまり……先遣隊に追いついたってこと?」
「そうなるな」
……一瞬の静寂の後、全員の口から安堵の声が漏れた。
作戦の大きな節目の1つに到達したのだ、無理もない。
俺も大きく深呼吸をしてから、先遣隊がいるであろう水路の奥を見つめる。
(だが……まだまだ苦労が続きそうだな……)
そう思い、今日何度目かの溜息をついた。
26952だった人物sage :2004/05/11(火) 19:44 ID:dAnXJX32
久し振りに書いたんでグダグダ……スミマセン。
270577と名乗っていたものsage :2004/05/11(火) 21:13 ID:NcvlFUmU
>>266
すみません見落としていました。
どうぞどうぞリンクフリーです・・・。
(とと・・・某所ってどこですか?)
271名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/11(火) 22:19 ID:nlhAiOCQ
>270

ttp://cgi.f38.aaacafe.ne.jp/~charlot/pukiwiki/pukiwiki.php

93氏の管理しているココだと思われ。
ちなみに別の人が管理してる、

ttp://moo.ciao.jp/RO/hokan/top.html

ここも秀逸。この2つはテンプレ入りしてもおかしくない。
272名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/11(火) 23:09 ID:O4PrYrzE
>>269
お久しぶりです。
否が応にも……のくだりにはくすりとさせられました。
ハンスいいキャラですねえ、ほんとに。

んでもって特務隊のパーティ構成の確認なのですが、
騎士のマナとハンス、プリの紫苑、アコ君(ミスリル所有)、アコ君の先輩のプリ、アサシンのフィル、フィルの姉のプリ
で間違いないでしょうか?
27393@PukiWikiの中の人sage :2004/05/11(火) 23:42 ID:5XfJg7Ho
577様、リンク許可ありがとうございます、と
271様、補足ありがとうございます
のんびり暇な折(ていうか筆を折りたい衝動に駆られるとき)に
作業してますです♪
リレーっ。頑張れーっつ[おうえん]
27452だった人物sage :2004/05/11(火) 23:47 ID:dAnXJX32
>>272
お久しぶりです。
数ヶ月ぶりに書いたんでキャラ変わってしまったんじゃないかなって不安でしたが、気に入ってもらえてなによりです。
これからも精進していくのでよろしくお願いします。

パーティーの構成はそれでいいと思います。
ただ、過去ログを漁っていたら、姉のプリーストの方の名前が「ユリアナ」という名前だということが判明しました。
……私も忘れていたんですけどね。(ぉ

余談ですが、今回マナが『たん』で呼ばれる理由を書こうとしましたが……くどくなる上、あまり意味がないので削りました。
また機会があれば書くかもしれません。

それでは。
275名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/12(水) 00:07 ID:C48GrXdQ
>>274
レス多謝です。
「ユリアナ」だったことを失念していました_| ̄|○
ごめんなさい。

あと、くどくなるとお考えでしたら、
「たん」の由来はまたリレーとは別のハナシということで、
書 か な い か 。
(゚∀゚)ヨミターイ
276名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/13(木) 00:04 ID:.mu.9VvI
そろそろ次スレの季節じゃないカジャラ
277246|゚ω゚)sage :2004/05/13(木) 01:15 ID:v.smClfU
>250
(゚д゚)ヒツジーアリー

>93
滅相も無きお言葉。つーか各キャラ模様の中に
ミストルテインネタが入っていることに驚愕しキタ――(゚∀゚)――ッ!な状態。
やばい漏れこう言う展開大好きなんです。鼻血でそう。

>577氏
個人的には姉御を応援します。だって俺スク水が好きだから――――ッ!(カミングアウト

>52だった人物氏
久しぶりにマナたんを見れてうれしく思ったり。
先発隊と合流後は地下の生き残り組み・脱出班と一波瀾あって欲しい――っていやがおうでもあるのか。頭蓋妹と姉プリが居るから。

>276
いいだしっぺの法則って(ry
278どこかの166sage :2004/05/13(木) 06:11 ID:PLOYwC1U
>93
 がんばれ〜♪どういう結末になるのかとても楽しみです。
 今回の展開でGMに対して少し同情系というか失恋系の電波も受信したので機会があったら公表しようかと。

>225
 最後の一文が秀逸です。GJ。
 ある意味ROにおける人の意識を的確に示してしているんですよね。
 人と魔の共存よりも魔物を家畜よろしく狩るという事を見事に見せてもらいました。
 ちなみに某スレって何処?


>246
 コミカルでしかも燃える所はしっかり燃えてみせる。GJですね。
 私もFATEはしたいかも……けど同じくお金が……(T-T)

>577氏
 姉御キター!
 姉御はやっぱかっこいいです!!

>267
 231を見て……魔族が増えるのかなって231を見たら私やん!(まて)
 問題ないです。
279どこかの166sage :2004/05/13(木) 06:46 ID:PLOYwC1U
新スレ立てました
【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第5巻【燃え】
http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi/ROMoe/1084461405/l50
280名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/15(土) 15:59 ID:e/hrjHyM
--よくありそうな風景:待ち合わせ:

 首都南でぼーっと座っていると、行きかう人の群れに酔ってしまいそうになる。普段はペコの上で揺れまくってても全然平気なのにな。そんな私は頑丈がとりえの槍騎士。名前はミリィ。20歳。ホントはもっと長い名前なんだけど色々事情があって、冒険に出る時に自慢の金髪と一緒に短くしたので、今はこれ。
「ねーねー?」
 退屈そうな顔で隣りに座ってた相棒が、ごろんっと私の膝の上に転がってきた。アップにまとめている彼女の栗毛が太ももの上にさらさらっと流れてちょっとくすぐったい。相棒は私を見上げたまま、きゅっと両手を胸の前に持ってって、握り拳を作ったりなんかして。
「……にゃんこ…なんちて」

 こんなアホな事を唐突にはじめたりする彼女は、これでも紫の衣のプリースト様。名前はシャル。万年ソロだった私を何故か気に入って…というかむしろ、懐いて? 拾ってくれた。一緒に冒険を始めるようになってから気がついたんだけど、この子、頭はいいけど一般常識はない。年は多分、似たようなものなんだろうけど。それで頭を痛めたことが何度あるか…。ただ、料理の腕は極上なので、私はとっても感謝している。
 まぁ、感謝してるのはそれだけじゃないけどね。

 今日は二人揃って所属してるギルドのマスターが言いだしっぺで、三人PTでフェイヨンにいく予定。マフラーとかシューズとか、買うと高いものを調達に行こう、ということなんだけど…、既に待ち合わせは30分も過ぎてたりする。暇でしょうがないぞ。
 私はいいとしても、問題は
「…あー、ミリィさん、素足なんだ。ストッキングくらいはけばいいのにぃ」
 この子だ。…暇をもてあますとろくな事をはじめない。というか、触るな。撫で上げるな。
「……痛い」
 ぐーの篭手でかるーく撫でただけなんだけど、起き上がった彼女は涙目で私を睨んでいる。あー、もう。これじゃどっちが悪いんだかわからないじゃないか。通り過ぎかけた人まで立ち止まってニヤニヤしてるし…。誰か助けてー…

「おう、悪い。遅れた………って、おい(汗」
 少しかすれた特徴のある声が聞こえると、たんこぶの出来た頭を抑えてた相棒は、毎度の如くそちらをちろっと睨んだ。声の主、私達のギルドのマスターはセンスの微妙な頭装備をとっかえひっかえするのが一番の楽しみという困った鍛冶屋。名前はルディ。年は聞いても教えてくれなかったけど、多分私より上だ。装備もそうだけど、うっとおしいくらい長い緑の前髪もあるので、素顔の印象はちょっと薄い。よく見ると、案外かっこいいんだけど。
 そんな彼の今日のいでたちは、プロンテラ軍帽に眼帯と咥え煙草。なんだ…普通じゃない。珍しい。……相棒の気持ちもわからないわけじゃないけど、頭装備を確認する前にその扱いはちょっとだけ可哀想かも。
「……あー…その、なんだ」
 彼は、横を向いて困ったように頭をかくと、小さな声で付け足した。
「…パンツ見えてるぞ」
「えぁ!」
 あー、道行く人も笑ってる。うー…。慌てて膝の上に騎士盾をのせる。重いけど、まぁ…背に腹は変えられないわけで。諸悪の根源の相棒がけらけら笑ってるのを再度ぐーで撫でる。ペコに乗るためとはいえ、なんでこんなに短いスカートが正式採用なのか、騎士団の担当を小一時間といわず半日でも問い詰めたい同性の騎士は山ほどいるだろうなぁ。

「ますた、遅刻の罰則は何がいいですか?」
 あ。にこにこしながら相棒がマスターをいじめている。あんまり困らせても可哀想だし。
「…それはいいから、早くいきましょ。シャル、ポタお願い」
「はーい。Warp Portal!」
 相棒はやけに素直に呪文を唱えた。青い光柱が立ち、遠い彼方への扉を開く。一人じゃないって、いいなぁ。

 さぁ…今日も一日、頑張ろうっと!


----
こっそり埋め立てにかかってみる。と、言い訳しつつ、自分の苦手な外見描写を入れるとどれくらいくどくなるかのテスト…。
281名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/20(木) 13:14 ID:UC3uSIRo
--よくありそうな風景:フェイヨンD1:
 ポータルから出た先は、フェイヨンダンジョンのまんまえだった。という事は、相棒は今日の訪問の為にまめに準備をしていたってこと。うーん、やっぱしマスターをもう少しいじめさせてあげればよかったかな。
 フェイヨンダンジョンの前は、何故かハエの羽の呪力でも、普通のワープポータルでも跳べない不思議な場所らしい。例外は、カプラサービスだけ。ダンジョン前に出張しているカプラさんの名簿に名前が載ってる場合。蝶の羽を使ったときやワープポータルで帰還できるんだそうだ。カプラサービス恐るべし、と。
「ほらほら! 早く行きましょうよ!」
 相棒がせかしている。いつもながらせっかちな子だなぁ。あ、速度増加まで…。どうせダンジョンに入ったらまたかけなおしなのに。

 ダンジョンの中は相変わらず、黴臭くてじめじめしていた。剣士の修行時代、よく一人で来たものだ。懐かしく思いながら、鞍につけた小袋からハエの羽を取り出す。と、その手をマスターが止めた。
「な、なんですか? ルディさん」
 急に男の人に手をつかまれたので声が上ずってたり。うあ…かっこ悪い。
「いや、その。たまには…それ、なしで行ってみないか?」
 テレポートの詠唱をしかけていた相棒がそのままのポーズでこっちを見ている。うーん…、私はのんびり行くのは好きなんだけど。さっきの様子だと、彼女がめんどくさいとか言い出しそうだな。
「いいよっ。じゃあ速度増加!」
 あら? ちょっと肩透かしを食らったような。ルディさんもなんともいえない顔をしているけど、まぁ、…いいか。

 フェイヨンダンジョンの第一階層は、普通の自然洞窟。ところどころに広くなったところがあったりするけど、基本は狭い通路だ。うろうろするのは腐った死骸と、骨だけになってしまった死体。それに、夜行性の蝙蝠とか跳ねるキノコとか。骨は目が見えないせいか、こっちが突付かなければ手を出してこないんだけど、腐ってる方や蝙蝠はこちらの実力も知らずにつっかかってくるからうっとおしい。特に、通路から広い所に出たらそこがモンスター集会所(?)になってたりしたときが最悪。…しょうがないので一匹づつ、槍の穂先にかけてはポイ捨て。
「…おい、ドカンとやっちゃえばいいんじゃ? いつもみたいにさ」
 やはりたかってきた蝙蝠を、どうやってるのか知らないけど振り回すカートの風圧で撃墜しながら、ルディさんが首をかしげている。でも、昔、覚えたばかりのマグナムブレイクが楽しくて、ここに来て死体をまとめては始末していたことがあって。そのときに年のころがおなじ位のアコくんにお説教されて以来、私はここではそれはしない事にしている。

「……いいですか。ここの呪いは余りに酷いので飽和してるんです。一箇所で死体を一斉除去して浄化すると、その分の歪みが他所に回って新しくゾンビとかが湧き出すんですよ」
 そういえば、私を注意してたのもこんな口調のアコさんだったな…って! そこの大きなキノコの影で気がつかなかったけど、なんか奥に人が溜まってるみたい。…まさか?
「ここで一気に浄化することで、他所で戦ってる皆さんが捌ききれないような数を押し付けてるかも、とは思えませんか?」
「…おいおい、そりゃ逆だろ? 狩ってる連中にすれば、ごそっと沸いたら美味しいんじゃないのか?それより溜め込みのほうがまずいだろ?」
 …あ、マスターが昔の私と同じこといってる。うぷぷ。
「それは、マスターが実力者だからです、って言われるよ?」
「それは貴方のような実力者だから、ですよ。……って、おや?」

 驚いたような声がして、キノコの陰から出てきた栗毛の彼は、昔と変わらず、卵被りにグラスと煙草とかいう、頭いいんだか可愛いんだか不良なんだかわからない方向性の格好をしていた。けど、着ていたのは紫の服。そうか、プリーストになれたんだ。おめでとう。
「お久しぶりです、覚えて…くれてる?」
「もちろん。騎士になったんですね、おめでとう!」
「あ…そちらこそ」
 そのまま、こっちの三人も座り込んでしばらく話し込んだ。そういえば、フェイヨンダンジョンの中を溜まり場にするギルドなんてのもあるらしいけど、この人のところだったのか。らしいといえばらしいかも。話しながらも、通りがかる一次職さんに支援をしたり。そんな所も変わらなくって、なんだかほっとした。

 私達は、プリさんに別れを告げて階下に向かう。2階の入り口に通じる狭い通路にいる蝙蝠なんかは、避難してくる一次職さんの負担にならないようにきっちり潰しとこう。いつもかつかつに頑張らず、たまには余裕がある場所に来るのも心が落ち着くよね。

----
 今度は、観光案内風に場所の描写も色々入れてみる。埋め立て中に5Fまで書けるかな。普通の風景にあー、いいねぇ、とか思うのは萌えとは違うのかな? という根本的な疑問は放置…。
誰かに止められなかったら、5スレの埋めで続きを書こうっと。
282名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/27(木) 07:06 ID:1eslThbQ
>280
ニヤニヤ
283こっちではまだ201sage :2004/05/27(木) 11:16 ID:7BcB5pfw
埋めと・・・ついでこっそりショートの練習
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

何となく気が合って、何となく組んで、何となく続けて来た二人。

後ろは壁。前には逆立ちしても勝てない、足も速い敵。
男の青ジェムは尽きワープポータルも出せず、女の蝿の羽も既に無い。絵に描いた様な絶体絶命。
男をかばう様に前に立つ女が敵を睨みすえたまま囁いた。

「ねぇ、私の事、好き?」

同じく敵から目を離さずに男が答えた。

「今それ所じゃねぇだろ」
「だって、今聞いておかないと聞けなくなっちゃうかも知れないじゃない」
「・・・嫌いだったら組んでねぇよ」
「30点。赤点で追試」
「何か言ったか足手まとい。俺一人なら逃げられるんだぞ?」
「でもしてないね。何で?」
「足手まとい見捨てて生き延びたって目覚め悪ぃから」

憮然とした顔で呟く男。女が少し笑った。

「ふふ・・・やっぱり貴方を好きになって良かった。じゃ、行ってくるね」

気負いもなく剣と盾を構え、勝ち目の無い戦いに身を投じようとする女の背中に。
男がありったけの支援魔法と、声をかける。

「・・・宿に帰ったら100点満点の解答をしてやるよ。多分お前の望んでるやつな」
「うん、期待してるよ」
284こっちではまだ201sage :2004/05/27(木) 12:35 ID:rIvc6abc
ぐあぁ、山もオチも意味もねえ。投稿した後にそんな事に気付くなよをれ。
間に軽く抱きしめあったり接吻したりした方が盛り上がったのだろうか?
・・・いやまぁ激しく焼石に水だろうな・・・短いのは難しいな
板汚しスマンカッタ。では
285名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/27(木) 22:00 ID:F0cxijLk
>>283
ニヨニヨ(・∀・)イイシチュエーソンデゴザル
>抱きしめあったり接吻したり
この短さから伺える二人の関係だとそういうの入れたら不自然なような気がする
静かな燃えがあって今のままでいいけど…短いのは大変そうだなぁ。

てかレス余計だったらゴメンヨ
286こっちではまだ201sage :2004/05/28(金) 02:14 ID:az7nIUfI
>>285

感想は作家の肥料ですぜ。感想貰って嬉しくない書き手は多分居ない。
をれは当然、嬉しい。ありがとう。

そうか・・・じゃあこんなもんでいいのか
他にも何か思いついたらまた挑戦してみるわ
287名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/28(金) 03:13 ID:rZyjz6mA
感想の皮をかぶった叩きには凹むけど
288名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/28(金) 12:09 ID:O2TCK4lU
Σ ニヤニヤサレテル……ゴメンネ
[修行場]  ⊂(。Д。⊂⌒`つ<タドリツケナカッタヨ…

全部 最新50
DAT2HTML 0.35e(skin30-2D_2ch) Converted.