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【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第3巻【燃え】

1名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2004/01/23(金) 17:52 ID:eQMLtyuY
このスレは、萌えスレの書き込みから『電波キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』ではない萌えな自作小説の発表の場です。
・ リレー小説でも、万事OK。
・ 萌えだけでなく燃えも期待してまつ。
・ エロ小説は『【18歳未満進入禁止】みんなで作るRagnarok萌えるエロ小説スレ【エロエロ?】』におながいします。
・ 命の危機に遭遇しても良いが、主人公を殺すのはダメでつ

・ 感想は無いよりあった方が良いでつ。ちょっと思った事でも書いてくれると(・∀・)イイ!!
・ 文神を育てるのは読者でつ。建設的な否定を(;´Д`)人オナガイします。

▼リレールール
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・ リレー小説の場合、先に書き込んだ人のストーリーが原則優先なので、それに無理なく話を続かせること
・ イベント発生時には次の人がわかりやすいように
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※ 文神ではない読者各位様は、文神様各位が書きやすい環境を作るようにおながいします。

前スレ【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第2巻【燃え】
http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi?bbs=ROMoe&key=1068803664
2スレルール追記 :2004/01/23(金) 17:53 ID:eQMLtyuY
スレルール
・ 板内共通ルール(http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi?bbs=ROMoesub&key=1063859424&st=2&to=2&nofirst=true)

▼リレー小説ルール追記--------------------------------------------------------------------------------------------
・ 命の危機に遭遇しても良いが、主人公を殺すのはダメでつ
・ リレーごとのローカルルールは、第一話を書いた人が決めてください。
  (たとえば、行数限定リレーなどですね。)
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3更に追加 :2004/01/23(金) 17:55 ID:eQMLtyuY
【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第1巻【燃え】
http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi?bbs=ROMoe&key=1036572446&ls=50
4どこかの166sage :2004/01/23(金) 18:02 ID:eQMLtyuY
初めてのスレ立てなので何か足りない所がありましたらご指導お願いします。
m(__)m
多くの文神様の降臨を祈って。
降臨祈願(-人-)〜†
5名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2004/01/23(金) 20:00 ID:DhnkjXhQ
>>1 スレ立てお疲れ様です。
6名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/01/23(金) 20:12 ID:YwvrgCxU
>どこかの166さん
乙です。
同時にGJ!
とてもほのぼので、かつそれぞれのキャラクターの設定が上手に使われていて
とても楽しく読むことができました。
悪ケミスレにも悪ケミ母SSが投下され、それも良かったのですが
やはり私は自分の魔の身体を受け入れ、楽しいこと好きでかつ
全てを愛する慈愛をもつあなたの悪ケミママが好きです。
7名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/01/24(土) 02:19 ID:4xFnw9Ns
素朴な疑問。

>ランドセルをかるって

これは間違い? それとも方言?
8名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/01/24(土) 02:42 ID:7cknxr.I
どこかの166さんスレ立て&前スレの作品乙でしたー。

下水道リレーも続き書きたいんだけど、どうやって書いてたか忘れちった(´Д`)ヘルプミー
9どこかの166sage :2004/01/24(土) 21:14 ID:TddnJQYk
>7
方言である事に今気づいたやつ(1/20)
うちの田舎では通じていたので素で気づきませんでした(汗)
10えべんは@りれーりれーsage :2004/01/28(水) 02:13 ID:hkZXCUa6
 おぼろげな光が瞬いていた。
汚臭漂う暗闇に瞬くその光は、まるで鬼火のようで、蛍のようで。
光は、忽然と消えては瞬くことを繰り返した。
 その者の感覚は、かつてまだ人間だったころとは比較にならないほど発達していた。
今までは見えなかったものも見えるようになっており、
先ほど弱っている一体の雌性体を発見したのも、この能力によるものだった。
 その者は目標とは違うことに落胆しながら、
とりあえずひらひらとした衣装を纏っていたその雌性体の命を刈りとった。
何の問題もなく、短剣は雌性体の命を呑み込んだ。
 その者は、目標の命を狙っていた。目標の命を、主がどうするのかはわからない。
ただ、主に命じられたから、その者は目標の命を狙っている。
 その者はさきほどから空間を渡っていたが、この階層には目標はいないらしく、
雌性体を発見したときに見えたものは一向に見えてこなかった。
 どうするべきだろうか。
その者は空間を渡ることをひとまず取りやめて、この階層の出口へと向かった。
もしかしたら、この先にいるのかもしれない。
しかし、この階層が目標の拠点だと主は言った。
果たして、自らの判断で動いてもいいものだろうか。
 その時、手に握っていた短剣が獰猛な唸りをあげた。
その者が目をやると、短剣から雌性体の命が抜け出し、漂っていくのが見えた。
短剣は悔しげにその命を睨みつける。
 せっかく、主に喜んでもらえると思ったのに。その者は憤りを感じた。
勝手に抜け出すなんて、なんて傲慢なのだろう。
雌性体の命はふわふわと漂いながら、階層の出口へと消えた。
取り込まれるのを拒むのなら、いっそ、消してやろう。
その者は音もなくそのあとを追った。
 その者が階下へのゲートに入った刹那、
そのゲートから多数の魔物を引き連れた、金髪の男が現れた。
男は思案げに眉をひそめ、誰にともなく独白していた。
「聖騎士に暗殺者か……、なかなかの実力を備えているようだ。
この私が生まれた時代は、剣士とシーフしかいなかった。
カードもコレクターが集めているだけの紙クズだった。
時が経つというのは、早いものだな」
 ぶつぶつとつぶやきながら、男は汚臭漂う暗闇へ溶け込んでいった。

 その者は、多数の雌性体と雄性体の存在を感知した。
強い固体は三体だ。その三体に、その者は意識を集中する。
 三体のうち、二体は身体能力に優れた雄性体で、
一体は理力に優れた雌性体のようだった。
雄性体の一体はその者に比肩しうる力を持っており、
やや劣ってはいるもののもう一体もそれに準じている。
雌性体はその者から離れるように機動していた。
 二体の雄性体の周辺に群がっている、脆弱な個体の群れはどうでもよかった。
さきほどの傲慢な命を宿した雌性体もその中にいたが、その者はすでに興味を失っていた。
 強ければ強いほど、主は喜ぶに違いない。
言いようのない幸福感に満たされながら、
その者は強い雄性体を殲滅する時間と、強い雌性体を追跡し殲滅する時間を考える。
 前者をまず屠るほうが効率が良いとその者は判断した。手に持つ短剣がぐるると唸る。
その者は酷薄な、獰猛に過ぎる笑みを浮かべて、
強い二体の雄性体の居る地点へと足を向けた。
11えべんは@りれーりれーsage :2004/01/28(水) 02:13 ID:hkZXCUa6
「まさかオーラバトラーが来るなんて思ってなかったぜ」
 軽薄そうな印象の鍛冶士は、槍を構えたクルセイダーを頼もしそうに眺めてそう言った。
青いオーラを放つクルセイダーはアサシンと話しをしながら、
しかし油断なく周囲に気をくばり警戒にあたっていた。
話し相手のアサシンも相当の腕前のようで、
先刻、唐突にハイドを解除して襲ってきたスティングは、
彼ら二人によって瞬きの間に処理されていた。
「ああ、これで一安心だな」
 傍らに腰をおろす女性のクルセイダーも、安堵を隠せない様子で顔をほころばせる。
「しかしまぁ、アレだな。えらい大所帯になったもんだ」
 煙草をふかしながら一同を見やるもう一人の鍛冶士は、呆れたような顔をする。
 警戒にあたるアサシンとクルセイダーを除けば、
実に七名──不可蘇生者を含めれば八名の冒険者が、
汚水の流れる暗いパイプにたむろしているのだ。
「あの、すいません……、何もお役にたてなくて……」
 アサシンたちと一緒に行動していたらしい踊り子はすまなそうに頭をさげる。
きれいな衣装は汚水や泥にまみれて見る影もなかった。
「いいっていいって、ほら、目の保養になるか──ごふっ」
「たわけが」
 軽薄そうな鍛冶士の言葉を、女性のクルセイダーが拳で遮った。
煙草を携帯灰皿に押し付けて消しながら笑う、意外に律儀な鍛冶士。
 アサシンとオーラを放つクルセイダー以外の二次職の冒険者は、
わりと陽気に振る舞っていた。
心強い援軍を得て気持ちが大きくなっているのと、
彼らとは反対にぐったりとした一次職の面々を元気づけるためだった。
 ぐったりと死んだように壁に背をあずける、片足のない魔法士と片腕を吊った剣士。
彼らを看護するアコライト。傍目から見ても、その三人は疲弊しきっていた。
 アサシンは己の背後の奇妙な空間を苦笑とともに見やる。
「俺らがいなきゃどうなってんだか」
 成り行きからチームを組んだこのクルセイダーのことを、アサシンは気に入っていた。
どこがいい、というのではない。なんとなくいい奴そうだから。
「まったくのんきなもんだよな。なぁ、そう思わねぇか?」
「お前もな」
 気さくに話しかけるアサシンに、クルセイダーは緊迫した声色でそう答えた。
「あん? こう見えたってすぐに動けるようにはしてるぜ?」
「そういうことではない」
「なんだよ」
「わからんのか」
 フェイスガードをおろすクルセイダーの目は、
昂揚とも、恐怖とも、どちらともいえない色を宿していた。
修練をつみ、冒険者としての限界にまで到達したクルセイダーに緊張を強いる『何か』。
ここに来てアサシンは、こちらに近づいてくる異質な気配に気がついた。
今まで遭遇した魔物とは、まったく質の違う重圧感。
「かぁー……。久しぶりにドジったわけだが」
 唇を噛んでアサシンは唸る。
「のんきなものだな」
「うるせぇ」
 クルセイダーは背後に守る者たちに振り返った。
「どうやら奥から群れが来ているらしい」
 クルセイダーはアサシンに目配せをする。
「ここは私たちが食い止める。今すぐにここから離れるんだ」
 勢いよく立ち上がるのは二人だった。
「俺も!」
「私も!」
 女性のクルセイダーと軽薄そうな鍛冶士はほぼ同時に口を開く。
「戦わせてくれ!」
「そいつはだめだな」
 アサシンはつぶやく。
女性のクルセイダーは憧れを含んだ視線をクルセイダーに向ける。
「足手まといには絶対にならない! だから!」
「それでは誰が彼らを守るのかな?」
 クルセイダーは微笑ましいものを感じながら、後輩に優しく問いかけた。
ぐ、と女性のクルセイダーは言葉につまる。
「君たち二人には彼らを守って欲しいのだ」
 飽くまで紳士的に諭すクルセイダーのあとを、
アサシンがふざけたような口調で引き継いだ。
「そーゆーこと、わかったらさっさと行った行った。
あんまり駄々こねてっと、廃ガス聖騎士がブチ切れちゃうぞ」
「でも、さ、あんまりいっぱい来たら無理だぜ?」
 鍛冶士は不安そうに言う。
「群れだったら一緒に戦って、そんでみんなで逃げれば、そのほうが安全じゃないか?」
「私たち四人は、仮に大丈夫だとしよう。
だが、他の者を守る余裕があると言い切れるかな?」
 ようやく立ち上がる一次職。鍛冶士と女性のクルセイダーは、沈黙した。
12えべんは@りれーりれーsage :2004/01/28(水) 02:14 ID:hkZXCUa6
 女性のクルセイダーは敬礼して、満身創痍の一行を率いて二層目への道を歩き出した。
残されたクルセイダーとアサシンは、一行への道を遮断するように並んで立ちはだかる。
「意外に役者なんだな、あんた」
 アサシンはおもしろい見世物を見たとでもいうように、顔をにやつかせている。
「無闇に不安を煽っても仕方があるまい」
 いくぶん照れたように表情を固くしながらクルセイダーは応じる。
「はっ、真面目なこって」
 アサシンは闇を透かすが、まだ近づいてくる『何か』の姿は見えない。
ただ、途切れることのない異常なまでの重圧感だけ闇から伝わってくる。
「引き返してきたのかね、奴さん」
 さきほど出会った、理解しがたい金髪の男がアサシンの脳裏をよぎる。
「違うな」
 確信めいたクルセイダーの言葉。
「どうしてそう言える?」
「奴も尋常ならざる存在だろうが、しかし魔ではない」
「んー?」
「私は職業柄、この手の手合いと対峙することが多くてな」
 クルセイダーはぶん、と大型の槍を縦に振るう。
続けざまに横に振るい、ぴたりと槍を構えた。
紛れもない達人の域に達した者だけが成せる、一分の隙もない構えだった。
「このたぐいの鬼気を発するのは魔だけだ。それも、上級のな」
 クルセイダーを、山吹色のオーラが包み込む。
『何か』の重圧感は、ほとんど物理的なものになっている。
 クルセイダーの全身が粟立ち、膝がわずかに笑い出す。
クルセイダーは久しく感じたことのない昂揚感に包まれていた。
死線の上で、命のやり取りをしたのはいつ以来だろうか。
「あー、やだやだ。これだから騎士ってのは好かねぇんだ。
こんな状況で喜べるのなんてキチガイかマゾだぜ」
「失敬な」
 げんなりした顔で再び闇を透かすアサシンは、
ジャマハダルを構えながら辟易したように言った。
「おいおい、勘弁してくれよ。厄日か今日は。俺の目どうかしちまったよ」
「なにが見えた?」
「オーガトゥース持った剣士の女。いい眼科知ってたら紹介してくれ」
「安心しろ」
 クルセイダーは限界まで筋肉を撓め、突撃体勢をとった。
アサシンは、まるで骨がなくなったようにだらりと腕をぶら下げて、
奇妙なステップを踏みはじめる。
 光のない闇の中で、それでもなお光るもの。
歓喜か憎悪か、その手に握られた短剣は不気味な唸り声をあげていた。
「私にも同じものが見える」
「あー、やっぱ? 厄日決定だなこれは」
 深淵たる闇を、人型に切り取ったらどうなるか。
その答えは、凄絶な笑みを浮かべてクルセイダーとアサシンに襲いかかった。
13えべんはsage :2004/01/28(水) 02:20 ID:hkZXCUa6
憑かれたっぽい剣士子を使いたくなりまして、
オーラクルセイダーとアサシンコンビにぶつけてみました。
DIO様(仮称)とすれ違わせてしまいましたが大丈夫でしょうか、心配です。

誤字脱字、テメーここおかしいんじゃヴォケ等がありましたら、
遠慮なくご意見していただきたく思います。

そしてどこかの166さん(に)Moeました(*゚д゚)b
方言って気づきませんよね。
14名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/01/29(木) 03:21 ID:6XBZZE8w
聖職者の裏家業ってことで電波受信しまちた。
自分では使いきれる自身ない設定ヲタなのでどなたか神様でもいいので使ってやってくだちい。

(仮)さ迷う魂を鎮める人達の話。

「よう新人、ここに回されてきたからにはそこらへんのモンクとは違うものをこれから背負っていくことになるが、
総ての事に勝つのは心の力だ、忘れるな。
そして挫けるな。

これからお前が従事する仕事について簡単に説明するぞ。
まず心というものは霊糸(れいし)と呼ばれる糸がきめ細やかに織り合わされた布のような物だ。
霊糸は様々な想いを秘めていているんだ、例えば感情や記憶、その中身は様々にある。
心の宿主が死ぬと心は1本1本がほどけて霊糸は更に細かい霊子となり還っていく、
そしてまた何処かで霊糸となりまた心を形作っていく。
こうやって想いは世の中を循環していくんだ。

ただ強い想い程繋がりが強くて霊子に還らないでさ迷う霊糸もいる。
そいつらがまた心の一部に取り込まれればそれは前世の記憶なんかで収まるんだが、
そうなるのはかなり運のいい方だ。
大概は取り込まれずにさ迷いそして他の霊糸と絡みあう、この塊を霊体という。
分りやすく言えば霊糸の集まった“毛玉”みたいなものだな。
これが段々大きくなってくると力を持って現実に干渉してくるようになるんだ。
取り残される強い想いは大概負の感情が強いからどうしても、
霊体は“悪霊”や“怨霊”になる事が多い。

で、俺達の仕事はそいつらを還してやることだ。
分りやすく言えば、“毛玉”をこまかくするような事だとイメージするといい。
まぁ、お前はまだ見習いのアコライトだから当分先の事だろうがな。
んでどんな事をするかだ。
頭でっかちなプリーストは“毛玉”を1本1本ほどいてる奴らだ、1本1本ほどくなんて気の遠くなる話だろ?
奴らの言い分は
「この者達も元は生きていた心の一部、ましてや苦しみから生まれた者ならば
理解し、導いてやらねば真の救いは与えられません。」
だそうだ。確かに奴らの言い分も分らなくはないが、やっぱり厳しいだろ?
俺もそうやって総ての想いを救えたらそれが一番だと思う。
でも現実はそんなに甘くない。
プリースト式にやると時間がかかってしょうがない、だから対処できる数も少ない。
さっきも話したように、絡み合った霊糸はだんだんと大きくなって、人を襲うようになるから
ノロノロやってちゃいけないって訳だ。

だから、一つでも多くの想いが堕ちていく前に助けるのが俺達モンクの心得だ。
簡単に言えば毛玉をハサミでじゃきっといくイメージだな。
おいおい、嫌そうな顔してんじゃねぇぞ、悪霊が悪霊を生み出す悪循環にならないようにするためなんだ、
悪悪言ってるけどちゃんとスジが通ってるだろ?
俺達もプリーストの奴らも人を救いたいっていう気持ちは同じだ、だからお前も今ここにいるんだろ?それに…
それに、プリースト式は想いを1つ1つ受け止めるやり方だが、正直俺には辛くてできない。
だから、あいつらを尊敬してる所もある。
あいつら程上手くなくても“人を救いたい”っていう信念があれば何だってできると信じてる。

だから大切なのは心の力なんだ。な?


そうそう、もう一つ言い忘れてたが、
魂を還す時、プリースト式は葬魂でモンク式は浄霊(じょれい)って言い分けがあるから気をつけろ、
何でこんなことを分けたがるのか、頭でっかちの考えることはやっぱり分らねぇな。

で何か質問は?」
15名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/01/29(木) 03:22 ID:6XBZZE8w
**その他オマケみたくなまたく必要無さげな設定**

・霊体の真の姿は本当に怨念とかの想いが絡み合った姿なので、
直視できません、たいへんよろしくないものです。

・浄霊モンク(仮)になれるのは霊体の見える素質のある人で、
葬魂プリになれるのは霊体の真の姿(?)が見える人です。
だから“毛玉をほどく”ようなことができるのです。

・プリの前で“毛玉”なんて言ったら怒られます(笑
だって、ねえ?

・霊体の真の姿が見えるの上に読心の奇跡があります。
要するに生きている人の心が見えます。
心は織情布(しょくじょうふ)と呼んで(仮設定)模様が綺麗とか目が粗いとか
その他諸々特徴があるみたいです。

・上位の能力程見える物が重た苦しいので能力者本人は口外せず、
あまり知られていません。噂とかその程度の扱いです。
能力の有無は転職試験で秘密裏に選抜されます。


とここまでやりたいだけやって私は逃げます。
何処でもいいので切り取って材料に使ってやってください。
そうすると本人喜びます、狂喜乱舞です。
16三流文士sage :2004/01/30(金) 01:02 ID:Haz0ZElk
『どんな兵器とて、当たらなければどうと言うことはない』
どこぞの将兵が言った言葉だ。
今はその言葉が強烈な皮肉に思える。
切り札が手の内にあるというのに、それを使うことができないのだ。
だが、諦める事なんてできない。
すぐに頭を切り換え、効果的な戦術を考える。
正攻法での攻撃は……あまりにも無謀だ。
法術での足止め……奴は元々魔術師だ、法術が聞くとは思えない。
そうやって考え込んでいると、不意にハンスが俺の顔を覗き込んできた。
「……何だ?」
「いや、考え込んでるマナたんって、薄幸の美少女みたいで萌え〜って思ってたんや」
相も変わらずこの男はすっとぼけたことを抜かしてくれる。
ハンスの存在をあえて無視し、思考を再開させる。
囮……有効かもしれないが、敵もかなりの知能を持っている、成功確率は高いとは言えない。
奇襲……ハンスの速さにもついてくることのできる奴に、ちゃちな奇襲なんて通用しないだろう。
待て、法術の力と今の戦術を組み合わせれば……
「そうだよ……『速度増加』だよ!」
「?」
俺の言葉の意味が分からなかったらしく、大半の人物が首を傾げる。
だが、同僚の2人は分かってくれたようである。
「それがあったね……でも……」
「確かに、屋内で使うなんて非常識だが……今は常識にかまってられる場合じゃないだろ?」
「う、うん……」
紫苑を納得させた後、ハンスと目線を合わせる。
「……やれるな?」
「ってか、やれって意味やろ」
そう言って彼は苦笑した。
「頼んだぞ」
ぽん、とハンスの肩を叩く。
「頼まれた♪」
なぜかハンスは満面の笑みを浮かべながら答えた。
やはり、この男には緊張感という物がないらしい。
「あの……」
話が飲み込めていない様子の服司がおずおずと声を出した。
「あぁ……まぁ、なんや……その……」
ハンスは少し説明しにくそうに頭を掻く。
「……合図したら耳をふさいで伏せろって事や」
「???」
服司の頭の中はさらに混乱しているようだった。
17三流文士sage :2004/01/30(金) 01:04 ID:Haz0ZElk
なんかしばらく書いてないと激しくヘタレに……_| ̄|○
猛省します。
18どこかの166sage :2004/01/30(金) 05:30 ID:Rdf7hUvI
|∀・) 14さんの設定を使ってママプリな話を作ってみる。
|∀・) 14さんちょうどいい設定をありがとう。
|∀・) ……いいかげんに自分で電波送信しろよ…私……

壁|つミ[駄文]

|彡サッ
19どこかの166sage :2004/01/30(金) 05:33 ID:Rdf7hUvI
 アコライトになってお師様について修行の毎日だった僕がそのプリさんに気づいたのは、かぶっていたバフォ帽が珍しかったからでも、その人が美しかった(いや、凄い美人だったんだけど)からでもなかった。
「あのっ!すいませんっ!!」
 何も考えずにそのプリさんに声をかける。
「なぁに?」
 振り向いて微笑むそのプリさんの背後には、人には見えないだろう凄まじい怨念が取り巻いていたのだから。

「こんな事を言うのもなんだと思うのですが、聞いてください!」
 できる限り真顔で一生懸命に説得しないと。
 普通の人には見えない「想い」の糸。
 それが強ければ強いほど操り糸のように人の人生を操る。
 その糸を解いて、人から離してあげて人を「想い」から救うってあげるのが僕の秘密の仕事。まだ未熟だけど。
 まだ修行を始めてまもない僕でも、この人についている「想い」の糸の尋常さには気づかざるをえない。
 こんなに大量の糸が絡まっているなんて……普通なら間違いなく呪われる。いや、憑かれ殺される。
「貴方の後ろに大量の怨念が漂っているんです!今すぐ葬魂か浄霊をして……」
「いいのよ。知っているから」
 あっさりとその人が言った一言に僕は完全に固まった。
「は?…今、なんて……」
「だから、貴方の見えているものを私は分かって憑けているのよ♪」
「どうしてっ!そんなに憑けていたら貴方がその想いに操られて不幸になりますよっ!」
 一生懸命説得する僕にその人は優しく微笑んで理由を話してくれた。
「この想いの正体はね。人間の想いじゃないのよ。魔族達の想いなの」
「魔族??」
 僕は混乱した。
 お師様は人の想いについては説明してくれたが魔族の「想い」なんて教えてくれなかった。
 なにより、魔族って狩る者で人間の敵で殺して神の国に導くものじゃないのだろうか?
 その人は僕の混乱を分かって話を続けた。
「今は、分からなくていいわ。
 貴方が本当にこの糸の意味を知ったのならば、その時こそ解きにきてちょうだい。
 私は、いつまでも待ってあげるから♪」
 その人は軽く僕の頭をなでて軽やかなステップで行ってしまった。

♪回れ回れ世界よ回れ〜
 終わらない舞台は続く〜〜

♪降りる事ができぬ舞台なら〜
 せめて楽しく踊りましょう〜〜

 その人が歌いながら去っていっても、僕は何もできずにその場所に佇んでいた。
20どこかの166sage :2004/01/30(金) 05:39 ID:Rdf7hUvI
「で、お前はそのまま帰ってきたという訳だ……」
 事の一部始終をお師様に話した時、お師様は煙草を投げ捨てて目線をそらした。
「はい……僕は何もできませんでした……本当に良かったんでしょうか……?」
 こういう時のお師様はいつもぶっきらぼうに物事を言う。
 それが、浄霊を行った時にいつもお師様が見せている表情なのを僕は知っている。
「まだ、お前には教えていなかったな。
 生きとし生ける者には全て「想い」がある。
 そのプリいわく魔族にもある。むしろ魔族にとってその「想い」は俺たちよりも大事なんだ。
 何しろ、悪霊の元だからな。そんな負の想いは」
「それじゃあ、あのプリさんはもう憑かれていたんですか?」
「違うな。その分じゃ自分から望んだんだろうよ。
 しかも、そのプリはその『想い』をきっちり管理しているんだろうな。まるでマフラーでも羽織るようにな」
「なんでなんですか?
 そのプリさんはなんでそんな危ない事をしているんですか?」
 お師様は複雑な顔をして一言。
「わかんね〜」


「あいつにもそろそろ教えないといけないのかもしれないな……
 俺らの仕事は人間、しかも生者のエゴの一つでしかないという事に……」
 煙草を吸いながら、アコきゅんの師匠は苦々しそうに呟いています。
「想いが生者を操るのなら、その思いは俺らが悪霊と呼んじゃいるが、生きているのと代わりが無い。
 結局、生者と死者という区分をつけて生者を助けているに過ぎん。
 多分、そのプリは死者を救おうとしているんだろうな……それで取りこまれも操られもしねぇ。
 たいした使い手なもんだ……」
 煙草を投げ捨てて、アコきゅんの師匠は修行場に歩いて行きました。
 アコきゅんの修行を見ないといけないし、彼自身も修行がやりたくなったのですから。
 いつか対峙しないといけない、そのプリとの出会いに備えて。
21どこかの166sage :2004/01/30(金) 05:45 ID:Rdf7hUvI
 つらつらと今回は気楽に作ってみました。
 基本部分を14さんの設定に任せているんで話そのものはちょっと重ためです。

 最近、オリジナルというものより人が作った設定を流用してSSを作っている自分を自覚してちょっと鬱です。
 ああ、はやくオリジナルな電波を受けてSSを作れる人になりたいものです。
 繰り返しになりましが、14さん感謝。こんなSSしかできずにごめん。
 ぶった切るなり、首つらせるなりご自由にやっちゃってください。

【首吊り台】トットトコナイカ(・∀・)つ<・д・)))・・・(ズルズル
22とあるスレの577sage :2004/01/30(金) 14:08 ID:MBgdgVXI
|∀・)

書いてくれる人がいて嬉しい・・・
それでは地上より
1つお話です
いよいよ突撃となりますので
読んでいる皆さんの分身も
このなかにきっと居ます
・・・ということにしておきましょう

しょぼい投稿

彡サッ
23とあるスレの577sage :2004/01/30(金) 14:08 ID:MBgdgVXI
「昔はな、“ツデローへデームベトーン”
って言ったら普通につうじたんじゃぞ?
それからな、ファイヤーピラーっていったら最強の魔法じゃったし
青箱はカラッポじゃったしなあ・・・・」

「・・・」

冒険者だったらしい変なおじさんが
横で昔の話を続けるのを
私たちは我慢してきいていましたが
アチャさんなんかはもう顔中に
「邪魔だおっさんどけ!」という文字が浮かびそうなくらい
キレかかっていました
なぜ私達4人がこのおじさんと一緒に
プロ南の臨公広場で座っているかというと
それは結局、上水道には入れなかったからなのです
先ほど・・・

------------------

「あれ?なんか変ですよ皆さん」

アルケミさんの言葉に
私たちは言葉の通じないノービスさんとの
身振り手振りの会話を一旦切り上げて
上水道の入口を見ると
丁度騎士団の人たちがぞくぞくと
集結していく光景が見えました

「総員、整列!、これより上水道掃討作戦を実行する!
目標は地下4F、敵は強大だ
皆死力を尽くして戦え!、以上」

第一陣と思われる隊長格の騎士の短い号令と共に
騎士の皆さんが突入していきましたが
数秒後いきなり轟音とともに
騎士の数名が吹き飛ばされて地上に転がりました

「隊長!罠です、トラップですうわーーーーー!!」

「馬鹿者!騎士が逃げるな!!」

「司祭がやられました!、担架まわせ!」

「うおおおおおおおお!!!!」

「・・・なむり」

とても侵入する状況でなくなってしまったことを
理解した私たちは
一声残してから、その場をこそこそと離れ
なんとなく南の広場まで来たのでした
とりあえず危機が迫っているということを
皆に伝えようと思って
看板を立てたのですが
かけられる言葉は

「お嬢さんたち一緒にどっかいかない?壁するからさあー」

「ウホッ、いい女!、や ら な い か ?」

といった冷やかしばかりで
まともに話を聞いてくれる人が殆どおらず
ただこのおじさんだけが
話を聞いているのかいないのかわかりませんが
いつのまにか近くでぶつぶつと
呟いているのでした・・・
24とあるスレの577sage :2004/01/30(金) 14:11 ID:MBgdgVXI
「・・・なんかもうダメそうですね・・・」

足元の草をぷちぷち刈り取りながら
暇をつぶすノービスさんを観察して
溜息とともに呟くアルケミさんに
私も同意したいところでしたが
そういうわけにもいきません
浮かびそうになった涙を
喉の奥で飲み込むと
こちらは恥ずかしさを我慢して
精一杯の声をあげるのでした

「どなたか、話を聞いてください!
いま上水道で大変な事が起こっているんです
ネタじゃないんですってばあ!!!」

「・・・それはもしかして十四年前の事件と同じなのかね?
アレは惨かった・・・」

いきなり見当違いの方向から聞こえてきた
おじさんの声に仰天した私は
相手の目の前にすべりこむようにして
聞き耳を立てましたが
当の本人は気にもしないといった様子で
昔話をつづけていました

「そうじゃ、アレはプロンテラの真の危機じゃった・・・」

おじさんの話は
それまでとうって変わって
落ちついた声と、人の心を捕らえるテンポを持った
魅力的な物語にかわっていきました
遠巻きに見ている人たちや
臨時でどこに行こうか相談している人たちも
いつしか聞き耳を立て
過去の襲撃の話を
そしてその時代に生きていた冒険者たちの
それぞれの人生に
自分を重ね合わせて
お話に酔っていきました
終わって欲しくないような
そんな語りが続いた後
最期におじさんは

「・・・今まで話したようなことが
また起ころうとしている
惨いことじゃ、悲しいことじゃ
真の冒険者達が居れば、あるいは災厄をとめられるかもしれないん
じゃがな・・・」

といって涙をながしたのですが
その時はもう
周囲には黒山の人だかりといった感じで
思わずすすり泣く人や
涙を堪えて空を向く人たちも
あちらこちらに見られたのでした

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

「・・・そんなこと許さねえ
ギルメン緊急集合だ!俺たち全員で特攻するぞ!」

「貴様らなんかにまかせてられるか
ワシらもいくぞ、皆かき集めてなあ!」

「私も!」

「僕も!」

「オイラもだよ!」

最初の言葉を切っ掛けとして
周囲に集まった冒険者に
熱気が広まり
皆の心がひとつになっていきます
私は両手を合わせて感動の涙を流しながら
ただただその光景に
見とれていました
そのときアチャさんが私の肩を強く叩いて

「凄いじゃない!貴方、どこであんな話し方覚えたの!?
感動的だったわ・・・古風な話し方だったけどね」

「え?私はなにも・・・さっきのおじさんが・・・」

「おじさん?あんなのさっさと追い払ったわよ
さあ、私たちもいこう!」

周囲の興奮を快く感じながら
私もメイスを持って立ち上がります
一瞬はやくスパノビさんが
ウサギのように駆け出していくのに
皆が雄叫びをあげてついていきます

「祭りだ!、祭りだぞう!」

誰かか叫ぶその声に
冒険者達がおのおのの武器を掲げてこたえ
いつしかおおきなうねりが
プロンテラの大通りを埋め尽くしていきました

「私の子供達よ、がんばるのじゃぞ・・・」

「え?」

私が耳元で
なにかに囁かれたような気がして
振り向いた時には
そこにはだれも居ませんでしたが
ただ、なんとなく
さっきのおじさんが何者だったのか
その時ちょっとだけわかったような気がしたのでした

そう、なんとなく、ほんの少しだけ・・・
25とあるスレの577sage :2004/01/30(金) 14:22 ID:MBgdgVXI
|∀・)

たのしいなっと

彡サッ
26名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/01/30(金) 23:44 ID:nzA9HEoY
>>18
Σ(゚∀゚)Σ(゚∀゚)Σ(゚∀゚)Σ(゚∀゚)

あ、有難うございます、こげなしょぼくれた設定を使っていただき
誠に有難うございます感謝感激雨霰です(平伏し

運命をつなぐ糸なだんて、素晴らしいです、私にはとてもとてもこんな発想できません。
無駄に設定をつらつら考えるのは大好きなんですが、
肝心の物語になると全く浮かばないんですよ、それで今回置き逃げしてみたのですが、
想像以上に(∀`*)
ゴミ設定で終わってしまうものを物語にして下さって
本当に有難うございます。
このSSは永久保存させて頂きます。(土下座
それと、よろしかったらこのSSを自サイトに載せてもいいでしょうか。
1ヶ月に100Hitもしないような極身内サイトで見せびらかしたいのです(*´∀)エヘヘ

もう一つ、人の作品に感化されることがアイディアのパクリ云々ということはないと思います。
私の設定も微妙にWJのブリーチ入ってるようなものですし、一般に理解されるには
まず、一般に受け入れられる部分というものが必要だと思います。
古典という言葉もありますし。
確かに自分だけの、オリジナルを作りたいと思うこともありますが、
良いものを作るためにはまず良いものを知ることが大切だと思います。
といいつつ人の作品に萌えてるだけで何も出来ない_| ̄|○_n。.

と、自己中な電波垂れ流して逃亡します。
だってうれしいんだもん。
首吊り台】)=3 ピュー
27名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/01/31(土) 01:57 ID:cCfR6hMo
つまらない。
なんてつまらないんだ。
どうしてつまらないイベントばっかやるんだ、この癌め
だったら僕がもっと面白いイベントをやってやる


・・・・・・・・・・そして僕は一人の男に閃きを与えた。悪魔の囁きと言ってもいい。
そしてその男は、その閃きを土台にし、自分の欲望を満たすべく、プロンテラを壊滅に追いやった。
なかなかに面白いシナリオになった。
僕は満足だった。

あれから、彼らには14年。僕にとっては1年もたってはいない。
奴がまた動き出した。懲りもせず。


さあ、今度はどんなお話が繰り広げられるのかな?
また傍観することにしよう。
28名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/01/31(土) 20:09 ID:j746enps
燃えなモンクストーリー乗せてもいいですか(´・ω・`)
29モンク1sage :2004/01/31(土) 20:13 ID:j746enps
「くっ・・・いってぇ・・・」
そういいながら敵に見つからない位置で残り少ないSPを使いヒールをする。
「絶対に負けるわけにはいかねぇ・・・絶対にだ!」
決意を新たにしつつ事の顛末を思い出した。

俺はモンクだ。
ただ強くあるため己の肉体を鍛え、自らの限界を模索する力の求道者だった。
もとよりモンスターに家族を殺された天涯孤独の身。幼い頃に修道院に引き取られ、
神に仕えるアコライトとして育てられるが俺はシスター達の優しさに素直になれず、
一人で生きていく為「強さ」を欲した。もとより祈る神もいなかった。また祈る事の無力さを幼いながらに理解した。
自分の力「拳」のみを信じた。修道院を抜け出しプロンテラの奥地にあるモンクの修練場に入門し、日々の修行にあけくれた。
俺は頭巾が好きだった。貧しいながらもシスターたちに初めてもらったモノだ。店で売ってる安物だが俺にはかけがえのない財産だ。
いっぱしのモンクとして開眼したあとただひたすらに稼いだ。日々の生活に必要な分だけ持ち、のこりは修道院に偽名で寄付をしていた。
数年もたってるので俺とはわからんだろう。復讐と稼ぎをかね、また特殊な武器を使わずとも己の肉体を駆使する技で敵を滅する事は
貧しかった俺にとって都合のいい職業だった。
30モンク2sage :2004/01/31(土) 20:14 ID:j746enps
いつものように稼ぎを終え、いつものように修道院に寄付をしにいった

「あら、いつもありがとうございます。是非なかで 紅茶でもいかがですか?」
もうすっかりしわが増えてしまったシスター長が出迎えてくれた。日々の水仕事で手が荒れているのが痛々しい。
「いえ、今日はただ単に立ち寄らせていただいただけです。」
いつもこの瞬間は気恥ずかしいのでこういう言い方をしてしまう。いつもはこれですぐに
帰っていたのだが、今回はなぜかシスター長が執拗に迫ってきた。
「まだお時間ありますか?今日はとてもいい紅茶の葉っぱが手に入りましたの。是非ごちそうさせてくださいな」
特に今日はもう稼ぎにいかないし、何より結構疲れていた。「おいしい紅茶でも飲めば疲れがとれるかな?」と思い、
ご相伴にあがらせてもらうことにした。

相変わらず裕福とは言い難い修道院だが、応接間はそれなりに質素で落ち着いた雰囲気だ。
席を促され座る。
(あれ?シスター長が淹れてくれるんじゃないのか)とふと気づいた。
「しばらくおまちくださいね」年相応なとても穏やかな声で促された。
その間にシスター長と何気ない世間話をしているとドアからノックが聞こえた。

「失礼します」
31モンク3sage :2004/01/31(土) 20:19 ID:j746enps
若い女性の声だ。鈴の音が鳴るとたとえてもいいだろう。それほど美しい声だった。
ドアが開き、はっと驚く。
栗色のきれいなロングヘアー。髪が遊ばないように真ん中あたりでくくってあった。
無駄のないスレンダーな体つきでながいスカートを翻した。どうやらプリーストの様だ。年は俺とそんなにかわらないか。
おもわずじっとみつめてしまった。ドアに向かい丁寧に締めて部屋に振り返った瞬間おもわず目があってしまった。
シスター故に化粧はしないはずなのに彼女はほお紅でもつけたかのように頬が紅潮した。
(あ、あぁあまり女性をじろじろみるのは失礼だな・・・)そう思い目を伏せた。
なにやらぎくしゃくした危なっかしい手つきでワゴンの上にある紅茶ポットからカップに注いでいる。
「紅茶をおもちしまし・・・ぁ・・・ぁ」
固い動作で運んでたせいか、プリーストの足下がぐらついた。
「あ、あぁありが・・?!」そうねぎらいの言葉を言おうとした瞬間。
バシャ、ガシャーン
「だぁぁぁあっっちぃいいー!!」
思いっきり頭から熱湯の紅茶をかぶってしまった。アールグレイの香りが部屋に立ちこめる。
「きゃぁーーど、どうしましょう」
錯乱した状態でとりあえず俺に駆け寄ってくる。
「はやく頭の頭巾をとらないと・・・」と手を伸ばす彼女に
「ーーーッ!」
おもわず彼女の手を払った。
「きゃっ」驚き涙目になりながらこちらをみる彼女
はっ、と気づき「いやこれは大事なものなんだすまない。」
とあわてて弁解する。「あっ・・・」と伏し目がちに目を伏せる彼女。
悪気があったわけでもないのに邪険にしてしまったとやや後悔する。
シスター長が落ち着いた仕草で後かたづけと手当をしてくれた。
彼女はただただ頭をさげ、「ごめんなさい、ごめんなさい」と平謝りしてくれた。
「いやこっちもたいしたことないから」という風になだめる。
ひとしきり落ち着いたらシスター長が彼女の紹介をしてくれた。
「いえ実は先日、プロンテラの大聖堂で修行をしてたプリーストなのですが、修行が満行になったのでこちらに帰ってきまして、
この修道院によくしてくださっているあなたに是非とも紹介しようとしたのですが、いやはやこんなことになろうとは・・・」
シスター長が苦笑しながら紹介してくれた。「ほれ挨拶をしなさい」シスター長が促した
「え、あ、ええとわ、わたしここで育ったものです。わたしにとってはここは家も同然なので、
いつも寄付してくださってる方をひとめみたくて・・・そ、それで・・・えと・・・」
「よろしく、プリーストさん」言いたいことはとてもよく伝わったので言葉を遮りながらも
フォローのつもりで努めて優しい口調を選んで答えた。
「あ、はい!こちらこそよろしくお願いします!!」彼女はとてもうれしそうに笑顔で答えてくれた。
「だけど驚きました・・・」彼女がつぶやく。
「寄付されてた方がこんなに若いかただったなんて・・・」
それを聞いておれはいたずらっぽく「もっとじじいかとおもったかい?」
「い、いいいいえそんなこと・・・ありま・・・せん」
最後のほうは消え入りそうな声で真っ赤になりながらうつむいてしまった。
(からかいがいがある娘さんだな)がらにもなく苦笑してしまった。「ごめんよ、からかったりして。
んじゃ改めて、あなたの淹れた紅茶をいただいてもよろしいですか?」
彼女はとてもうれしそうに元気よく「はいっ!!」と答えてくれた。
32モンク4sage :2004/01/31(土) 20:22 ID:j746enps
それからというもの寄付に幾たびに彼女になかばひっぱられるように紅茶をごちそうになり、
時間があるときは彼女の買い出しの手伝いなどするようになった。
いつも生き死にの間をさまよう仕事なせいか、とても心が安らぐことを少しづつ感じていった。
彼女は初対面のころとは違ってよく表情がころころかわる娘だとわかった。
とても快活な娘なんだろう。孤児たちの遊び相手をするにもとてもよくはしゃいでいた。
その笑顔にいつのまにか惹きかれていった。しかし俺は人との関わり方を知らない男だ。
この気持ちをあえて理解しようとしないまま彼女と接した。

ある日孤児達と遊んでいるところを遠くから眺めていると、シスター長がやってきた。
「どうですかあの娘は?」穏やかな言葉だ。
「ええ、とてもいい娘ですよ。」本心からだった。他意もない。
「あの娘はね、ずっとあなたを夢見てたんですよ。」
「え・・・?」不意打ち気味に自分のことをいわれたのでおもわずとまどう。
「いつも足長おじさんのようにあなたを慕ってました。自分も修道院のために何かしたいと献身的に祈りを捧げてました。」
「・・・・自分はそんなにたいそうなものではありません。」
卑下するわけでもなくこれもまた本心だった。生きるために必死だった。まっとうな生き方とはいえない。
だがせめてお金だけはきれいなものをと稼いできた。汚れた金を寄付する気はなかった。
「さすがシスター長、おもわず懺悔をしてしまいそうですよ」
ごまかすように笑いながら返した。シスター長は聞きながらも
「あなたが出て行った時から人を思いやれる子でしたよ。」
「〜〜〜〜ッッ!!」おもわずはっとする。ばれてないと思う方がおかしいか・・・。
「ばれてましたか・・・もう何年もたって姿形もかわってしまったというのに」
「だてに長生きはしてませんよ。たしかに姿は見違えるように立派になりましたが、心のかわらない部分は同じですよ。」
「ふぅ・・・」まいった。やっぱシスター長にはかなわねぇや。完敗のため息がでた。
「あの娘もあなたとおなじく両親がモンスターに殺害され、天涯孤独の身です。」
「そうですか・・・」ここにいるからにはやはり込み入った生い立ちがあったのだろう。
それを微塵にも感じさせない笑顔に忘れていた。「あの娘だけは俺のような汚れたものではなく幸せに生きてほしい。」
そうつぶやくとまたシスター長は穏やかなまた今までとは違う表情をしていた。
その意図に気づくにはまだまだ自分は幼かった。
33モンク5sage :2004/01/31(土) 20:26 ID:j746enps
事件はまさに突然だった。
いつものように寄付をしに修道院にいってみたら、シスター長があわただしく出迎えた。
「大変ですっ!」
いつも穏やかなシスター長の尋常ならざるあわてよう、すぐに察し落ち着くように促した
「どうしたんです!?なにがありました!」両手をシスター長の肩において落ち着くよう促す。
「あの娘がっあの娘が急に倒れましてっ・・・」
「ーーーーーーッッッ!!!!」あまりの事実に声がでなかった。急いで部屋を案内してもらい二人で駆けつける。
ドアあける。みると息を荒く玉のような汗が噴き出しながらもベットで横たわるあの娘がいた。
いつもの笑顔が見る影もない。「いったいどうしたんですか!?」すぐよこにいるシスター長にくってかかる。
「医者は?ヒールはどうしたんですかっ!!!」いつもの俺とは思えないほど激高していた。
シスター長が落ち着きを取り戻したようにゆっくりと説明する。
「お医者さまによりますとこれは【呪い】だそうです。それもブレスが雀の涙程度のかなり強力な」
「なっ・・・・」おもわず絶句した。「なんでこの娘が呪いを受けなくちゃならないんですかっ!!」
理不尽な事に怒りをあらわにした。「どうやらこの娘は大聖堂時代の修業のとき大聖堂の奥に厳重に封印してあった
黄金のクラウンに魅入られてしまったようです」
「くっ・・・」おもわず歯噛みをしてしまう。「クラウンといえばモロクのピラミッドの奥深くに住まうという
オシリスの怨念が詰まってます。クラウン自体を破壊を試みましたが強力な威力に守られているらしく、
オシリス本体を退魔しないかぎり無理と言われまた。」オシリス・・・伝説級のモンスターだ。いままで相手にしてるような雑魚とは桁が違う。
「しかし、しかしなぜこの娘にっ!ほかにも憑く相手がいるでしょうに!」我ながら理不尽な物言いだが思わず声を荒げて言ってしまった。
「この娘のあまりに清廉な心が献身的に神に捧げる祈りがねらわれてしまったのでしょう・・・」

ドガンッ!

鈍い音ともに漆喰の壁におおきな亀裂が走る。言いようのない怒りと理不尽さに思わず拳をぶつけてしまった。さらにシスター長は絶望的な言葉を発する。
「お医者様の見解によりますともってあと五日・・・うぅっ・・・」シスター長は最後まで言い切れず自らの嗚咽に負けた。五日・・・。
ここからピラミッドまでなんとかギリギリか・・・・。もはや決断は疾かった。

「シスター長。俺にまかせてくれないか・・・。」聡明なシスター長にはその言葉の意味がわかった。「それはあまりにも危険すぎます。
なにかもっと別の手段を、生命を司るイグドラシルの葉を煎じるとか・・・」言葉を遮るように。
「まかせてくれ」力強くそしてきわめて穏やかにそう言った。
「私もできうる限りの看病をします。あなたは生きて帰ってください。あなたは私の息子も同然なのです・・・。あなたに・・・神のご加護をっ・・・」
気丈なまでに耐え忍ぶシスター長のすがたに神々しいものをみるように「俺に祈るべき神はいない、だが・・・なんとなくわかった気がするよ」
そう言い残して修道院を飛び出した。
ありったけの回復薬をもち旅にでた。

難解なトラップをかわし、さまよえる亡者どもを薙ぎ払いながらもオシリスのいると言われている広間になんとか到達し、戦いを挑み今に至る。
34モンク6sage :2004/01/31(土) 20:32 ID:j746enps
「ちっ・・くしょう。つえぇ・・・」取り巻きだけをうまく倒したものの受けたダメージはかなり深刻だった。
思った以上にピラミッドは難関でもう今日で五日目だ。だが負ける訳にはいかない「絶対に負けるわけにはいかねぇ・・・絶対にだ!」
再度気力を奮い起こしオシリスに向かって駆け寄った「速度増加!」自らの身体能力を上げるべく術をかける。
オシリスの打ち下ろし気味の拳を頭上にかすめながらも加速した体を懐のすべりこませる。左足にかかる加重をそのまま腕に伝えるかのように
足・腰・腕へと回転力を描き破壊力を伝達する。基本だがそれゆえに高速度における右ストレートは必殺の一撃だ。
「おおおおおおおおおっっ!」右手にありったけの力を込め打ちはなつ。
「三段掌!!」右ストレートを一瞬時に三発うちこむ技だ。オシリスが苦渋の表情を浮かべながらわずかにひるんだ。その一瞬の隙を逃すほどこの戦いは甘くなかった。
コンマ数秒に気を練る。血反吐をはくほどの修行のたまものである。気の波動をオシリスにまとわせ練りながらも突き上げる
「連打掌!!」気の渦がオシリスを巻き上げ4連打する。
「とどめだぁぁぁぁっっっ!!」限界まで練り上げた気を拳に一点集中させ打ち下ろし気味に打ち放つっ!
「猛龍拳!!」龍の如き気の濁流にのまれながらオシリスは吹っ飛んだ。
「はぁっ・・・はぁっ・・・どうだっ!ざまぁみやがれ!」
渾身のフルコンボだ。これで立てるわけが・・・・・「ーーーーー!!」認めたくない光景だった。
まだオシリスは悠然としている。オシリスの口元に邪悪な亀裂が走る。
「馬鹿なっ俺の渾身の一撃が・・・」動揺が走ったおれの隙を見逃すほどこの戦いは甘くなかった、
そう、自分ではわかっていたはずなのに。すでに目の前にオシリスがいる。
「な・・・」オシリスのボディブローが俺の鳩尾につきささる。
「げぇ・・・はぁっ・・・・」口から吐瀉物と混じって血が噴き出る。
動きが止まった瞬間にオシリスが左足を軸に最短距離の回転と最高速度のスピードで右回し蹴りを放つ。
とっさに左腕でガードしつつ右側に飛んで威力を殺すも蹴り抜けられ思い切り吹っ飛び柱にたたきつけられる。
「く・・・・はぁ・・・」あばらを下二本もってかれたか痛みを止めるために手で押さえながらヒールをかける。
勝負を決したとおもったのかオシリスの下卑た哄笑がピラミッドを埋め尽くす。「ちくしょうっもう回復薬もねぇ・・・ここまでか・・・」
諦めという思いが心を侵し力をうばっていく。祈る神もいない・・・いや、居た。俺には居た。今まで自分の為に拳をふるってきた俺だが
あの人達の為に初めてふるいたい、そう思った。
「しかし万策尽きた。どうすれば・・・」そこで師匠の言葉をおもいだした。
「これは禁術だ。己のすべてを拳に乗せ敵を滅する。これを放てばどんな敵をも滅する事ができるだろう。
誰かを守りたいときに使うべきものだ。おまえにすべてを失う覚悟と大切な人を守るときだけ使用するがいい。
もっとも今のおまえには使いこなせんがな。」
たしかにすべてを失っては元もこもない。こんな技つかう訳がないとと鼻でわ
らっていた。
「だがっ師匠。今ならあなたの教えがよくわかるっ!!」
おそらくこれを放てば極限まで消耗するだろう、へたをすれば死・・・。
「いや、俺は生きて帰る。そう俺は誓った。神にではなく愛する人たちにっ!絶対に負けねぇぇぇ!」
俺の全身を纏う目視できるほどの気の波動を感じたのかオシリスの哄笑が止まる。
モンク独特の呼納法をつかい呼吸をコントロールする。
「いくぜっ!!オシリス!!」闘いの空気が読めぬほどオシリスも愚かなモンスターではない。
ピラミッド中の怨嗟を身に纏い恐ろしいほど負のエネルギーがふくれあがっていた。
「雄雄雄雄雄雄雄雄ッッッ!!!!!」己がもてるすべての気を拳に集中、究極の一撃を見舞うためにっ。
お互いの一撃がぶつかり合う。「阿修羅覇王拳!!」刹那、光と熱のエネルギーが混じりあい、遅れて爆音が鳴り響き、ピラミッドが震えた。

ドオオオオオォォォォォンンッッッ!!!!
35モンク7sage :2004/01/31(土) 20:36 ID:j746enps
気がつくと俺は修道院のベットで寝ていた。すこし動かすと全身の痛みに意識がはっきりしてくる。
「俺は・・・ピラミッドにいたはずでは・・・」訝しげに記憶をたどる。
どう考えてもそこで記憶がとぎれていた。「そうだっオシリスはっ!!」ふと傍らをみる。
あの娘が横のいすで穏やかな寝息を立てながら寝ていた。思考が追いつくまでしばらくかかった。
「そうか・・・助かったのか・・・」安堵に深くベッドに沈む。
後で聞いた話だがオシリスが滅したあと大聖堂にあったクラウンも壊れたそうだ。
その異変に気づいた大聖堂のプリースト達が主がいなくなり清められたピラミッドに駆けつけ、
倒れている俺を救護したそうだ。いつもしている頭巾はもうぼろぼろだった。
が、あの娘の手に不器用ながらも心を込めて修繕した頭巾が握りしめられていた。手の絆創膏が痛々しかった。
じっと見つめているとあの娘も目を覚ました。俺と目があった。初めてあったときは頬を赤らめてたが
今度はそれ以上に上気し、涙し、感動にうちふるえて俺の胸に飛び込んできた。
死ぬかと思った。・・・でも。(この娘に殺されるなら本望だな)とがらにもなく思った。
(大切な人を守るために俺は生きていこう)
そう、新たに我が拳に誓った。 END
36名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/01/31(土) 20:41 ID:j746enps
はじめて投稿して初めて書いたんで変な感じの文ですみません・゜・(ノД`)・゜・
オシリス打倒はβ1からの夢だったんで書いてみました。
結構矛盾でつたない文ですがよろしくお願いします。
37名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/02/01(日) 00:10 ID:5lEjFpVw
GJ!!
十分萌え いや燃えさせていただきますた
守るもののために戦うっていいですなぁ、、
38名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/02/01(日) 00:50 ID:xVRyWh9A
かっこえええーーー
39えべんはsage :2004/02/01(日) 02:17 ID:LMHTo1Pc
「The Ripper」


「ねぇってばー」
 呼びかけと思われる戸惑ったような一人の商人の声。続く言葉は聞こえない。
普段は弾むような声を出す彼女だったが、どういうわけか元気がないようだった。
「ねぇ、ってばっ。聞いてる?」
「なにか?」
 彼女のかたわらの騎士は気のない様子で返事をする。
「あのね」
 不安そうに周囲に視線を泳がせながら、商人は騎士のマントを掴む。
騎士は掴んでいる手をちらと見て確認すると、
それにも特に反応を示さず得物を点検しはじめた。
「挙動不審者、一名」
「だって……。早く転職したいとは言ったけど、ここは──」
「俺としても早く転職して欲しいんだ。ここが最適だ」
 騎士は商人の言葉を、半ばで遮断するように口をはさんだ。
しかし彼女は気が乗らないようで、その目は『帰ろう』と強く訴えていた。
 シーフやアーチャーといった一次職のパーティが、二人の横を通りすぎる。
おそらく同じ目的だろう。転職可能レベル程度の実力があるのなら、
公平分配で経験を積むのにここは適していた。
「早く転職できなくてもいいよ……、
だから、だからね? もう少し安全なところに行かない?」
「ご心配はご無用にございます、姫。
不肖、ワタクシめが全力でお守りいたしますゆえ」
 騎士は冗談めかした口調で、片手を胸に当てて慇懃に頭を垂れた。
彼はこのたぐいの人を喰ったような仕草が、まったく似合わない青年だった。
「信じられないよ」
「そうか?」
 それでも商人は、言葉とは裏腹に小さく笑い、
彼女より背の高い騎士を親しげな目で見上げた。
その時、騎士は消耗品類をチェックしており、彼女の様子には気付かなかった。
「オーケイ、さくさく行こうかね」
 ザックを背負いなおして、彼は足を進める。
「あ、もう! 待ってってば」
 商人は慌ててチェインをカートから取り出した。
よく手入れのされたそれを掲げて、
彼女は先を行く騎士に遅れないように走り出した。
40名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/02/01(日) 02:17 ID:LMHTo1Pc
「とりゃっ」
 気合の入らなそうな掛け声と共に、商人はチェインを叩きつける。
鎖が食い込み、武器に宿っていた氷の魔力が発現する。
本来なら通じない物理攻撃が効力をもたらし、
鎖の先が空気が抜けるような音を生み出した。
透明な布を残してウィスパーは空中に霧散する。
「あら?」
 横で眺めていた騎士が意外そうに言った。
「ちょっと……。その、あら? ってなによ、あらっ、て」
「あ、いや、別に」
 魔法都市ゲフェンの中心部にそびえ立つゲフェンタワー。
そこの地下には広大な空間と闇がぽっかりと広がっている。
ゲフェニアダンジョンと呼ばれるその空間は、
姿写しの魔人が闊歩しているとか、悪夢そのものが実体化しているとか、
ある種おとぎ話の世界のような噂で有名だった。
第一階層と第二階層はずいぶんと解明が進んでいるが、
第三階層とそれに続くであろう第四階層は未だ多くが闇に包まれていた。
商人が連れてこられたのは第三階層で、
第一階層でも一人では危険な彼女にとって、未知の領域だった。
 商人が師匠と仰ぐ鍛冶士に紹介されたウィザードに、
さらに紹介されたのが騎士だった。
つまるところ、たぶんたらい回しにされたのだろう。その時はひどく悲しかった。
 初めて会ったときは、無愛想で気障ったらしい人間だと感じていた。
嫌な奴。それが騎士に対する、彼女の第一印象だった。
師匠の友人のウィザードに、彼女は訊ねた。本当に大丈夫なのかと。
「嫌な奴だったらぶん殴って帰ってきていいから」と、ウィザードは笑いながら言った。
言われてから、いっそすぐにぶん殴ってやろうかと、わりと本気で悩んだ。
 しかし、騎士と行動をともにしているうちに、
ウィザードが太鼓判を押した理由が、なんとなくわかってきた。
 それは出会った日のことだった。
ウィザードに送り出されてから二人を包んだ居たたまれない沈黙に、
やっぱり殴って帰ろうと決めた矢先の出来事だった。
「腹、減ってる?」
 ぼそりと騎士は呟くと、プロンテラの宿屋へ商人を連れて行って、
所持金の乏しかった彼女におごってくれたのだ。
 今考えると、彼女がおごりと思い込んで支払わなかっただけかもしれないが、
その時のアップルパイの味はいまだに鮮明に思い出すことができた。
彼女とこれからパーティを組むことについても、
彼はいろいろと考えていてくれたらしい。
真剣な口調で彼が自らの考えを述べる様子は、まるで理知的な賢者のようだった。
 無愛想に見えたのは、不器用な彼の素顔だったのだ。
彼女はそう納得して、そして、彼の事をいっぺんに気に入ってしまった。
 それからの二ヶ月と十四日間、彼女としては、
騎士とはそれなりに仲良く過ごしてきたと思っていた。
もっとも彼以外の人間とパーティを組んだ経験はないので、
彼女を呼ぶときに時々ファーストネームを使ってくれるようになったこととか、
ファミリーネームで呼ぶときに『さん』付けしなくなったことから、
そう思っているだけだった。
41えべんはsage :2004/02/01(日) 02:19 ID:LMHTo1Pc
「ほれ、ぼーっとしてないで。後ろに二体」
 騎士の声に、商人は機敏に反応した。
「了解っ」
 振り向きざまに、アイスチェインを叩きつける。
危なくなればすぐに助けに入ってくれる騎士の存在は、彼女に力をもたらしてくれた。
 一体を、集中的に攻撃する。
ウィスパーの攻撃はなかなか手痛いものだったが、
騎士に借りているモッキングマフラーの魔力によって、
そこそこ避けることができた。
商人は危なげなく一体目を仕留め、二体目に向き直りチェインを振るう。
順調に打撃を加えていると、彼女は奥の空間から何かが飛来していることに気が付いた。
速い。
「な、なんか来てるよ!」
 それは鼻水のようなものを後方に撒き散らしながら、
キチ○イのごとき奇声をあげ、恐ろしい速度で滑空してくる老婆だった。
強烈な衝撃が商人の心を打ち据えた。
まさか本当に、悪夢そのものが実体化しているなんて。
「オールドミスはこっちだ」
 騎士は得物のツーハンドソードを抜刀しざま、老婆に向けて手をかざした。
道化のような格好をした具象化された思念が、
商人に向かっていた老婆の進行方向を、直角に曲げる。
 騎士は剣を斬撃の寸前の状態で構え、老婆の初撃をやりすごして叩きつけた。
対単体で圧倒的な性能を誇るスキル、オートカウンターだった。
老婆はわし鼻から噴水のように血を噴きだし、
耳を塞いでもなんら効果のない甲高い喚き声をあげる。
「あう……」
 この世の者とは思えない光景。
援護しようとチェインを構えていた商人は、すっかり戦意を失ってしまっていた。
怯むことなく老婆と打ち合う騎士は、まるで戦神オーディンのように彼女には見えた。
しかしわずかに反応速度が及ばないのか、彼は三回ほど老婆の攻撃を受けた。
「吹き飛べ」
 老婆の、騎士の顔面を狙ったとおぼしき攻撃が空を切る。
身を沈めて避けた彼はぼそりと呟き、勢いよく地面を踏みつけ、
身体全体で巻き込むようにして剣を振るった。
形容しがたいひしゃげた音とともに、老婆の顔面がへこんだ。
 老婆は力尽きたのか、剣撃の勢いを殺せないまま、
崖の下の深淵へと高周波を発しながら落下していった。
「ねぇ」
「うん?」
 平然と剣についた血糊を振り払っている彼に、まごころを込めて商人は意見した。
「他のところ行こう? お願いだから」
 商人は少し涙目になっていて、それに気圧されたように騎士は身を引いて言う。
「そ、そうだな……。まさか初っ端にあんなのが来るなんて思わなかったからさ」
「うん……、すっごい怖かった」
 目の端から、涙がこぼれた。騎士は慌てた様子で彼女をなだめる。
「悪かった、悪かったって……。だからほら、泣くなって」
「うん……」
 周囲のささやきと視線が、騎士に突き刺さっていた。
「あついねー」「(・∀・)ニヤニヤ」「まーちゃん泣かせてるよおい、ひでーな」
「やらないか」「なんつーかなんつーか! 俺も混ぜてください!」「中はだめー?」
 騎士は振り返り、叫んだ。
「ああっ! 見世物じゃねぇぞ! 散れ!」
「( ゚д゚)<アラヤダ騎士様逆ギレよ」「これからお楽しみですか(・∀・)?」「やらないか」
「くそっ……」
 まるで牧師のように商人をなだめ、なぐさめながら、騎士は心の底から後悔していた。

 ひどくささやかでくだらない、ただそれだけの話。

 END.
42名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/02/01(日) 18:44 ID:uy33u5pg
>>37-38さん
感謝の極みです・゜・(ノД`)・゜・
43どこかの166sage :2004/02/02(月) 01:22 ID:4ARxOsy2
>14さん改め26さん
|∀・) いや、サイトに乗せるのは構わないけど、それだったらこっちも乗せて見るのはいかが?
|∀・) さすがに、気楽に書きすぎたので、自己完結用のSSですが。
|∀・) しかも戦闘シーン。設定がおかしくても生暖かく見てください。

壁|つミ[追加駄文]

|彡サッ
44どこかの166sage :2004/02/02(月) 01:26 ID:4ARxOsy2
 たとえば、運命の糸というのがあるのなら、
 こうやって劇の幕が上がるのを私は知っている。

 いや、そもそも劇というものは幕の中で長く長く準備をして作られるものだ。
 だとしたら、きっと私がアコきゅんに出会った時から、この茶番の糸は紡がれたのだろう。

 だから過去っていうやつは大嫌いなのだ。
 こっちが気づいたときには全てが終わっている。

「どなた?そんなに殺気を出して?
 教会の追手でも気配を消すわよ。普通?」

「なに、馬鹿な弟子の尻拭いに来た馬鹿な師匠が辻説法に来たまでの事さ。
 あんたの運命の糸。まとめて切らせてもらう」

 かくして、世界という舞台の中、偶然という即興曲が始まる。


 彼の拳をソードメイスで受け流す。
 彼の残像が、消えたと思ったら背中に一撃。さすがモンク。
 喉からせり上がる吐き気と血を我慢してヒールを自分にかける。
「いい攻撃するじゃない。赤ちゃん生めなくなっちゃう」
「ふん。生むのが魔物なら生めぬ方が幸せだろうよ」
「こっちの素性はばれている訳か……」
「そっちこそ、こっちの商売知っているだろ?
 あんたほどの高位の人間だ。何故魔に堕ちた?」
「堕ちた?気づいただけよ。
 人間の傲慢と勝利にねっ!!」
 速度上昇とグロリアをかけるが向こうの速さと不意の攻撃に対処は全部後手に回る。
 ソードメイスの間合い内に入り込んで三段掌から連打・猛竜に繋げられて宙に浮かされてしまう。
「これで終わりだっ!!」
「甘いっ!!」
 宙に浮いた私を地面に叩きつけようと彼も飛んだその時を私は待っていた。
「レックスデビーナっ!」
「!!」
 詠唱で受身すら取れずに地面に叩きつけられる私。それでも止めが刺されないならばヒールで回復できるのが強み。
 彼は何もせずに一度後退して私の動きに身構える。
「……バフォメットを沈めたというのはどうやら噂ではないようだな」
「……残影使いな貴方に実力を認めてもらえて何より」
 懐から取り出したのは枝数本。
「貴様っ!そこまで堕ちたかっ!!」
「論理が矛盾しているじゃない?
 『最初から堕ちた』と判断して私を殺しに来たんでしょ?
 貴方は人として貴方の責務を果たすことね」
 乾いた音を立てて枝を折って私はテレポートで逃げる事にした。
 彼は追いかけてこれない。
 私が枝で出した魔物が彼を襲うだろうし、魔物を残したまま私を追うほど彼は『堕ちて』いないはずだから。
45どこかの166sage :2004/02/02(月) 01:30 ID:4ARxOsy2
「……っ…しかし痛いな…」
 ヒールをかけても出した血まで戻るわけでもない。
 街中の裏路地に潜んで呼吸を整える。
 信念と主義を持つあの手の使い手はアサシンより性質が悪い。私もかつてそうだったのだから。
 必ずこっちに向かって追いかけてくる。
「速度増加!グロリア!レックスエーテルナ!」
 自分に呪文をかけながら彼を待つ。
 足音がする。来たな。
 その方向を向いて、アコきゅんがやって来るのを確認して思わず毒ついた。

 だから現在ってやつは、大嫌いなのだ。
 状況を悪化させるのが大好きなのだから。

「あ、貴方が見えたから……そのっ……上手くいえな……っ!
 どうしたんですかっ!!そんなに血だらけでっ!!!」
(あんたの師匠にやられたのよ)
 と、この清純アコきゅんに言って困らせる事もあるまい。
「何、ちょっとしたトラブルに巻き込まれてね。
 大丈夫。傷なんかはもう自分でヒールしたから」
 にっこりと微笑んで頭をなでてあげる。効果は我が子で実証済み。
「ほら。いったいった。これからデートなのよ」
「その血まみれ衣装でですか?」
「……時代の最先端なのよ。ほら。いったいった」
 アコきゅんは何か怪しそうに私を見ながら裏路地から出て行った。

「こら。あんな清純アコきゅんをこんな裏社会に入れなくてもいいでしょうに」
 裏路地の奥の殺意に向かって吐き捨てる。
 どうせあいつも私を殺るために準備しているんだろう。
「巻き込みたくはないがな。あいつもああいう性格だ。
 だからあんたの背負う運命が気になっているんだろうよ」
「そんなに目立つ?」
「わざと言っているだろう?何を背負っている?」
 ソードメイスを構えたままやつに答えてやる。
「魔族の未来よ」
「今の一言こそ、人として聞き捨てならんな」
「どこがっ!
 人族が魔族に勝利するのはもはや見えているくせにっ!
 魔族を滅ぼした後、神が人を残すと思うかっ!!」
 返ってきた言葉は私を絶句させるに十分だった。
「おもわんよ。
 だから魔族を滅ぼした後に、神すら滅ぼす」
「そこまで人は奢ったかっ!!」
「奢る?それならばまだ救われるさ。
 恐れているのさ。神と魔の力を。だから滅ぼす。
 だが、それは群れとしての人間の力だ。
 貴様はその群れから外れた。
 『人の未来』という運命ではなく『魔族の未来』を選んだ!」
「違う!!
 人と魔と神は共存できるっ!」
 思わず叫んだ後に、とってつけたように呟く。
「その言葉は私の言葉じゃないけどね。
 私はその願いを望んだ馬鹿な男の夢に付き合っているだけ。
 まぁ……あいつの運命重たいから、少し私が背負っているのよ」
「結局……議論は平行線だったな」
「ええ。だから拳で決めましょう」
 こっちの準備は終わった。
 向こうも終わっている。
 向こうの拳が私を打ち下ろすか。
 私のソードメイスが彼を貫くか。
 影が動く。
 私が呪文を詠唱しながらメイスを振り下ろす。

「やめてくださいっ!!」
 私と影の間に入り込もうとする別の声。

 だから未来ってやつは大嫌いなのだ。
 分かったとしても、対処できないから。
46どこかの166sage :2004/02/02(月) 01:32 ID:4ARxOsy2
 私のソードメイスと彼の拳が辛うじて軌道をそらしたその間には、勢いで出て気絶したアコきゅんがいた。
「……やる気がそれたわ。
 アコきゅんの管理なっていないじゃない」
「俺に言うな。俺だってこいつの前でお前の運命を絶つ事なんぞしたくはない」
 互いに殺気が消える。
「一つ教えて。
 貴方がもし運命を絶つ事に後悔してないとするなら、この子が原因でしょ?」
「……」
「私も子持ちだから分かるのよ。だから生きているし運命と戦える」
「……だが、次は無いと思え」
「もちろん。そのときは私の運命を全て見せてあげるわ」
 やつの拳と私のソードメイスが軽くぶつかる。
 戦士としての礼と再戦の誓いの証。
 私は先に裏路地から出て行くことにした。
 後ろで『おきろっ!今夜は飯抜きだっ!俺も食事を抜くっ!!』という罵声が聞こえる。
 肩で笑いをこらえながら彼らの前から消えてあげた。

 だから運命ってやつは大嫌いなのだ。
 こんなにも世界に意外性と物語を紡ぎ出してくれて私を巻き込むのだから。


 かくして、世界の片隅で起こった即興曲は誰に知られること無く幕を下ろす。
 観客たる運命が拍手をしたか罵声を浴びせたのかは誰も知らない。
47どこかの166sage :2004/02/02(月) 01:40 ID:4ARxOsy2
スキルとステータスの考察に使ったHP

殴りっプリ(ママプリ)
 ttp://www3.j-speed.net/~ryhir/ro/index.html
Asura Strike(モンク師匠)
 ttp://members.edogawa.home.ne.jp/kazegumi/asyura/

【18禁スレ】オマエハヨクヤッタ エロニカエロウ(・∀・)つ<・д・)))ナンカボケツヲサラニフカク・・・
48名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/02/02(月) 23:02 ID:wXneQENU
>>39さん
不器用騎士さんと無邪気な商人さん、(・∀・)カワイイ!
恋愛一歩手前の斯様な関係は、ほのぼのしていていいですねえ。
涙浮かべる商人さんの「お願いだから」にキターーーー!

>>43さん並びに26さん
26さんを差し置いての先レス相済みません、
ママプリさん対モンクさんの、互いの信義を賭けての戦いに燃えました。
「俺も食事を抜くっ!!」そんなモンクさんに激萌え。
興味深い設定を上げられた26さんと、
それを素敵な形になさった43さん、GJ!です。
49名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/02/03(火) 10:22 ID:FPelxTeE
激しく(・∀・)イイ!!のですが
レックスエーテルナ自分にかけたら…
キリエの間違い?

ともあれ43さん大好き。
50名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/02/03(火) 16:25 ID:Yh42M1b.
えっと・・・
>10の強い雄性体はオーラクルセとアサシン?
51えべんはsage :2004/02/03(火) 22:50 ID:XN/m2hJo
>>50さん
自分としてはそのつもりで書きました。
52どこかの166sage :2004/02/05(木) 01:25 ID:S9zUWlyw
>48さん
 感想ありがとうです。そうですか……こんなモンク師弟は萌えなのですか……(・∀・)<何か考えているらしい。
>49さん
 ぐぉ……やっちまいました……ご指摘のとおりここはキリエでした……スマソ_| ̄|O

 これだけじゃあれなので駄文追加して行きますね。
 ネタは前スレ最後の複合反則技の続き、悪ケミたんとアラームたんでつ。

|ω・)つ「はじめてのがっこう」
|彡サッ
53どこかの166sage :2004/02/05(木) 01:36 ID:S9zUWlyw
 火曜日の午前九時。とことこと時計塔にやってくる一人と一匹。
「時計台にキター」(ランドセルを背負って嬉しそう)
「主よ。今日は勉強に来たという事を忘れていないか?」
 時計台にやってきた悪ケミたん&子バフォ。今日は錬金術のお勉強です。
「やほ〜〜〜♪」
 おもいっきり一生懸命に手を振っているのはアラームたん。
 いつもライドワードお姉さんと一人でのお勉強だったので仲間が増えるのが凄く楽しいのです。
 そんな嬉しそうなアラームたんをライドワードお姉さんは隣で嬉しそうに眺めています。
「いらっしゃい。悪ケミたんに子バフォさん。
 私はライドワード。貴方達の先生になります」
「……達?我も学ぶのか?」
 ただの付き添いと思っていた子バフォ。ちょっとショックです。
「貴方もいい機会だからお勉強しなさいとお父様から伝言を承っております。
 あと、プレゼントも」
 ここでライドワードお姉さん。微笑んで子バフォにランドセルがある所を指さしてあげます。
「子バフォ〜おそろい〜〜〜♪」
「おそろいだな。主よ♪」
 嬉しそうにそのあたりをくるくる回る悪ケミたんと子バフォ。アラームたんちょっと羨ましそうです。
「アラーム。貴方にもあるわよ。ランドセル。
 バースリーおばあさんの手作りよ」
 その言葉を聞いてアラームたん。ぱっと顔が明るくなります。
「ほんとっ!嬉しい♪ありがとう!!
 みてみてみてっ!みんなおそろい〜〜〜♪」
 悪ケミたんと子バフォと一緒にランドセルを背負って手を繋いでくるくる回っています。

 でも、この三人勉強となると……

「ぐう……」
「zzz……」
「うとうと……」

「……おきなさいっ!」
 自分の体を閉じて三人の頭に垂直落下。
 ごんっ!(×3)

「いたい〜〜〜><」
「ライドワード殿……それは痛いぞ……」
「ふぇ……TT」

「やれやれ」
 ため息をつくライドワード先生。
 この三人のお勉強。まだまだ始まったばかりです。
54どこかの166sage :2004/02/05(木) 01:38 ID:S9zUWlyw
とりあえずここまで。

気が向いたらつらつらと書く予定なので、あてにせずにお待ちくださいませ。m(__)m
55前スレ342sage :2004/02/05(木) 18:02 ID:nkCREReg
こんばんは、履歴書作製に煮詰るも妄想は迸り、
モンクとセジ子の小小噺を拵えてみました。
短いと、どうもポエム調になって困ります。
56前スレ342sage :2004/02/05(木) 18:03 ID:nkCREReg
 我、是修行僧也。欲を仇とし、唯己が身を鍛ずることのみを正道とす。
 古に倣い新を厭う、是即ち我ら修行僧の理である、されど。

「ねえイーツァ、どうしてここは一度にこんなに魔物が沸くのかな」
「……さあ」
 フェイヨンの魔窟にて、数を以って我等を糧となさんとする魔物共を捌きながらおっとりと問う
傍らの女人に、己は決まりきった答を返す。呑気な口調とは裏腹に絶大なる威を以って魔物を制す、
賢者の女人の手に握られた魔剣は、魔導による炎を宿し、薄暗い窟にて煌々と輝いていた。
 人の縁は解らぬものだ。賢者にしてドロテアと名乗るこの女人との出会いは、偶然、としか
語れぬ。
 隣国シュバルツバルドの首都ジュノーに生まれた彼の女人が、見聞を広めるべく諸国を放浪し、
ある日聖カピトーリナ修道院を訪れた際に、滅した魔物の数と種を師に報ずべく馳せ参じた己と、
偶々出くわしただけのことだ。
 今でも覚えている。報を済ませ聖堂を去らんと重厚な扉に手をかけた己に、理知と好奇に
輝かせた双眸を向けて女人は尋ねた、
「ねえ、どうして貴方の周りには青い球がほわほわ浮いているのかな」
 我らが当然に用いる「気」なる法は、かの隣国には存在せぬらしい。以来、ドロテアは
己の傍らに纏わりつき、絶えず問を投げかけている。その様はまるで母を慕う童女だが、
彼女を突き動かすのは、単なる奇を好む心のみではない。
 賢者の領域は、魔のみにあらず。従って、新物を産み出さんが為に、万物を追う。
 それが、彼女の理であった。故に、
「どうして空は青いのかな」
「……さあ」
「どうしてポリンは物を盗むのかな」
「……さあ」
「どうしてこの人は何時も黙って横殴りをするのかな」
「あちらで話そう」
 万事、この調子である。
 無論、我が道に関する、例えば神学、修行等についてならば答を返すことも適う。
されど、魔導、それに科学といった代物に関しては、己は門外漢に過ぎぬ。実を言えば、
己には答えること適わぬ問のあまりの多さに辟易することも無きにしも非ず。加えて、
新と古、知と力、我らが求道すべきは何れも真逆である。双方が相並ぶことなど出来まい。
だが、
「きゃあああっ!」
「ドロテアッ!」
 背後より突き刺さる絹を劈く悲鳴に、己の顔から血の気がさっと引くのが分かった。
 魔導師よりは幾分増しなれど、さりとて賢者が体術に長けているとも言い難い。
魔剣を取り落とし脇腹を抑え蹲るドロテアに群がる魔物を直ぐ様蹴散らし、黒金の拳に
気を送り、
「猛龍拳ッ!」
 怒号と共に叩き込めば、衝撃に吹き飛ばされた魔物はどうと倒れて地に伏し消える。
この拳は、古より研ぎ澄まされた己の得物だ。何人たりとも、砕く事は出来ぬ。
「ありがとう……やっぱり、東方の武術は優れたものね。ううん、どうにか魔導と組み
合わせられないかなあ」
 魔物を滅して後、柔い身に刻まれた痛ましい傷を癒す最中、才媛は美貌を顰め、
危うく生死の境を彷徨いかけたことも忘れて、諸々の事柄が詰まった頭を捻っていた。
 新には新の、古には古の重みがある。己は教典にはない教えを授かった。そして、
「ねえイーツァ、どうして貴方は私の傍にいてくれるのかな」
「…………」
 己を見上げ無邪気に問われるも、常の如く曖昧に濁すことも出来ず、口を結んだ。

 天衣に囚われた。それだけのことだ。
57前スレ342sage :2004/02/05(木) 18:17 ID:nkCREReg
>前スレ348さん
 遅レス、大変申し訳御座いません。
 他のも御覧になって頂けていたのですか、有り難う御座います!
 物の見事に書く傾向はばらばらですが、楽しんで頂けたなら幸いですとも。

>どこかの166さん
 済みません48は実は私なのですが、…密かに楽しみにしていても宜しいでしょうか…
 此度はおそろいランドセルに萌えさせて頂きました。おそろい!

それでは、お目汚し、大変失礼致しました。
 冥土|  λ......<サアテガンバロウ…
58名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/02/06(金) 16:11 ID:vjiISbQE
|ω).。o(ちょっと見ないでいたらまた素敵なものが。

どこかの166さん有難うございます、感謝感謝です、そして有難く飾らせていただきます。
>48さん、素晴らしいのは166さんのお陰です。私なんかとてもとても。

|)) ソソクサ
59名無しさん(*´Д`)ハァハァsage燃え…になってるといいなぁ :2004/02/08(日) 00:14 ID:TP93KFsA
「随分な体たらくだったな、おい」
「ふざけんな。オレは暗殺者だぞ? 夜行性なんだよ」
 昼時。混み合った店内の一角で、俺と相棒はいつものように悪態を応酬する。
 今日は朝も早くからモロクはスフィンクスダンジョンに飛び一攫千金を求めた。
 だがどうも奴のテンションが上がりきらず、動きが果々しくない。危険を避ける意味で仕方なく、俺達は早々に首都へ帰還したのだ。
「夜光性だぁ? てめぇは暗闇で光んのか?」
「はッ、知恵の足りねぇ聖職者だな」
 言って奴は四つ目の杯を干す。偏食のこの男は、夕にしか固形物を口にしない。
「あの・・・」
 応酬しようとした俺が口を開くより先に、幼い声がそこへ割り込んだ。
 目をやればそこには二人のアコライト。姉妹だろうか。実に良く似た顔立ちをしている。
 どちらも幼い。どう大目に見積もっても、姉の方で十代の半ばだろう。
 妹と思しき方はまだ着慣れない僧衣で、こわごわと姉の背後からこちらを覗いていた。
「お話中すみません。申し訳ないのですが、相席を御願い出来ませんか?」
 口論に熱中して気付かなかったが、見渡せばどうも余所余所しい同卓の者達が増えている。
 捌ききれなくなった店の者が、客の回転効率を上げるべく押し込みを始めたらしい。
 相棒に視線をやると軽く頷く。
「構わんよ、座んな」
 卓上の物を片寄せて座をずらすと、ありがとうございます、と二人の声が綺麗に唱和した。

 自然、口数が少なくなった。こんな子供の前でやり合えるほど、俺の面の皮は厚くない。
 奴もそれは同じのようで、変わらぬ仏頂面で酒だけを呷っている。
 そこへ二人の注文が届いた。健啖家を自負する俺からすれば、こんな量で良く足りるなと思うつつましやかな昼食。
「じゃあ、いただきまーす」
 喜色満面、早速食事を始めようとする妹を、姉が押し留める。
「だめ。ほら、食前のお祈り。教わったでしょう?」
「あ」
 いかにもしまった、という風情で妹が口を押さえ、俺は失笑した。赤くなった妹に、謝罪の意を込めて手を振る。
 姉がぺこりと一礼し、その間に妹はひとつ深呼吸をしてからたどたどしい聖句を紡ぎ始めた。
「――」
 懐かしい響き。かつては欠かさなかったそれを、果たさなくなったのはいつからだったろう。
 忘れていた事すら忘却していた、祈り。
 と、つっかえながらも続いていた言葉が途切れた。妹を見ればもごもごと口の中で前文を繰り返して、必死に思い出そうとしている。
 姉は励ますような視線で見守っているのだが、おそらくそれも妹の頭を真っ白にしている要因だ。
 などと人事のように考えていたら、また妹と目が合った。途端また真っ赤になる彼女。
 ・・・そうか。うっかりしていたが俺はプリーストで、彼女たちから見れば先輩になるのだ。そりゃ緊張もするだろう。
 仕方がない、手助けするか。そう思った時、
「――」
 相棒の口から、低く聖句の続きが流れた。俺は軽く目を見張る。
 簡略された祈りならどこでも行われる風習だが、聖句による儀礼をきちんと知っている人間はあまりいない。
 ぱっと妹が目を輝かせ、姉が相棒に目礼する。それからは最後まで滞りなく儀礼は進んだ。
「良く知ってたな」
「まぁ、な」
 彼女らが食事を始めたのを機に、俺はぼそりと囁いた。いつも通り愛想のない奴の応答。
 ま、こいつにも色々とあったんだろうさ。
 およそ満腹した俺は、手を組み合わせた。久々に祈る。恵みへの感謝では相変わらずない。
「――」
 彼女らの上に幸運を。そして歩む道の安らかならん事を。
 気まぐれな俺が気まぐれな神様に祈るのだから、願い通りになるとは限らない。
 だがこいつは聞き届けられるんじゃないかと、屈託無い二人の笑顔を眺めながら、俺は思った。
60名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/02/08(日) 15:46 ID:g8kPzHBs
>>59
くあー!かっこいい!!
こういうぶっきらぼうだけど小さい子や弱き者に優しい奴ら大好きです。GJGJGJ!
願わくばこの聖職者と暗殺者コンビの狩りのシーンなども読んでみたいですね。
と、俺も祈ってみます|∀゚)人
61どこかの166sage :2004/02/17(火) 02:49 ID:3.1tPNn.
|∀・) 16さんと48(前スレ342)さんリクエストのモンク師匠とアコきゅんものでつ。
|∀・) 萌えかどうかは分からない。

|ω・)つ「アコきゅんはじめてのおしごと」
|彡サッ
62どこかの166sage :2004/02/17(火) 02:54 ID:3.1tPNn.
 この仕事の初仕事はフェイヨンが多いという。
 それは、この村の死者に対する認識とトラブルが多いからだろう。
 あと、この仕事の本質を突いているからなのだろう。

 アコきゅんが師匠から初仕事と張り切って出かけた先で出会ったゾヒーたんは見事なまでに子供に取り付いていた。
 子供はしっかりゾヒーたんになつき、ゾヒーたんも子供になついている。
「ねぇねぇ。一緒にジュースを飲もう♪」
「わらわは死者ゆえ飲めぬのだが……少しだけだぞ」
 めでたしめでたし……
「じゃないじゃないですか!!!」
 アコきゅんの絶叫がフェイヨンにこだまする。
 すすいっと、可愛らしく怒った顔を依頼者たるフェイヨン村長に向けて迫る。
「あれはなんですかっ!」
「だから子供とゾヒーたん」
「そんな生物学的存在説明はいいですっ!!!
 ナ・ン・デッ!子供にゾヒーが取り付いているんですか!!!」
 事態をよく把握していない村長に怒り心頭のアコきゅん。
 アコきゅんの目には、子供とゾヒーたんの頭の上で運命の糸がしっかりとこんがらがっていた。

 村長さんののんき極まりない説明をまとめるとこーなる。
 フェイヨンダンジョンに遊びに来ていた冒険者に子供がじゃれついて「純潔の小太刀」をもらった事。
 子供はそれで遊んでいたら、たまたま枝テロで出たゾヒーにそれを知らずに使ってしまいゾヒーがくっついてしまった事。
 「まぁ、害がないからいいや」と村民みんなが考えたのだけど、修行に来ていたモンク師匠がこの光景を見て「悪い事が起きる」と村長に強引に説得して、アコきゅんを派遣したという事。
 アコきゅんは思いっきりため息をつきながら村長に説明する。
「あのですね。子供ってのは無限の可能性を秘めた存在なんですよ。
 それが、ゾヒーをくっつけた事で運命が歪んでいるじゃないですか!
 このままじゃ、あの子にとっていい事はないですよ」
 教科書どうりの説明をしたアコきゅんに村長はめずらしく反論をしてきた。
「そうじゃろうか?
 本当にあの子にとって不幸な事なのかな?」
「どういう事です?」
 さっきまでのほんわかした口調は変わらないのに、村長の声は妙に重たく聞こえるとアコきゅんは思った。
「あの子の両親はこの間流行病で死んでしまってのぉ……
 それいらいあの子から笑顔が消えてしもうた。
 だが、あの顔を見てみろ。あんなに笑っておる」
 村長は子供とゾヒーたんの方に視線を促す。
「……だからわらわは死人と申しておろうが……」
「え〜っ。だめなのぉ?かくれんぼ?」
「仕方ない。数えるから隠れるがよい」
「うんっ!」
 アコきゅんは言葉が出せない。
 そのアコきゅんに村長は「大人」としてアコきゅんに尋ねた。

「あの子の笑顔を奪うぐらい、運命というは大事なのかのう?」
 と。
63どこかの166sage :2004/02/17(火) 02:57 ID:3.1tPNn.
「で、何もせずに帰ってきた訳だ……」
 モンク師匠の声は厳しい。
 アコきゅんは何も言い返せなかった。
「なぁ、俺達の仕事は何だ?」
 師匠の質問にアコきゅんはよどみなく答えた。
「人を苦しめる運命の糸を断ち切る事です」
「そうだよな。じゃあ、こんがらがった運命の糸がその子とゾヒーたんを不幸にしないと言い切れるのか?」
「……いえ。でもっ!」
 思い切ってアコきゅんは師匠に反論をした。
「不幸になるかもしれません。けど、幸せになるかもしれないんです!!」
 ひっこみ思案なアコきゅんのめずらしい反論に師匠は目をぱちくりさせたあと大声で笑い出した。
「そうだな!未来は誰も分からん。
 合格だよ」
 目をぱちくりしたのは今度はアコきゅんの方だった。
「いいか。覚えておけ。
 世の中は『正しい事』と『間違っている事』で成り立っている訳じゃない。
 それが『正しい』かは所詮人間が決める事だ。
 お前はあの子とゾヒーたんが不幸にならないと判断した。
 俺はそれを尊重するよ」
 師匠はうれしそうに笑いながら目だけは笑っていなかった。
「運命ってのは、関わった人間全てに責任を負わせるんだ。
 それを扱う以上、言った言葉、行った行為には全て責任を持て。
 それが、この業界の最低限の決まりだ」
 やっとアコきゅんにもなんで師匠がこの仕事を作ったのか理解した。
「じゃあ、師匠は最初から……」
「お前自身が言ったろう。『未来は誰も分からん』と。
 悪くなっている可能性だってある。
 その時は、お前の師匠として俺が責任を取るさ」
 あっさり流すには重すぎる言葉。
 けど、それが師匠としての優しさの裏返しである事をアコきゅんはわかり、泣きそうになった。
「ほら。飯作れ。飯。腹減ってんだ」
「師匠……時々思うのですが、僕を炊事係か何かと間違っていませんか?」
 エプロンをつけながらアコきゅんは厨房に向かう。そのときに師匠にぽつりと尋ねる。
「師匠。僕……師匠みたいになれるかな?」
 かえってきた言葉は師匠らしかった。
「お前はお前になればいい。
 心配するな、ここにいるぐらいはお前の失敗ぐらい全部受け持ってやる。
 だから飯。めし」

 アコきゅんは師匠の気遣いにちょっとご飯を大盛りにしようと思いながら、フェイヨンで見た子供とゾヒーたんの事を考えるのでした。
 それも、自分で運命を見つめ、自分で運命に対して結論をつけるという大事な修行であるという事を師匠に教わったから。

 こうしてアコきゅんの初仕事は終わりました。
 アコきゅんがりっぱな使い手になるかどうかは、また別のお話。
64どこかの166sage :2004/02/17(火) 03:04 ID:3.1tPNn.
ちょっと裏話。

この、「何もしない」の他に、「ゾヒーたん説得で成仏」と「問答無用成仏で子供から恨まれる」の三つの終わりを用意したのですがこれにしました。
考えれば考えるほどこの話は重く、そして深い設定だなと思います。
16さん。本当に感謝。
48(前スレ342)さん。萌えにならずごめん……∧||∧
65名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/02/17(火) 09:30 ID:LNUi6cjU
師匠かっこ良かったです、でもごめんなさい、突っ込みます
ゾヒーちゃいます
ゾヒーはウルトラ兄弟の長兄にして宇宙警備隊の隊長です
原語では소희でしてシャオフィー(小姫)です。

ベータ時代実装を待ち望んでいました♪

自分も取り憑かれたい(1/20)
66前スレ342sage :2004/02/17(火) 11:00 ID:/i5sMItM
>どこかの166さん
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
一寸横柄でその癖弟子思いの師匠と、未完成坊やの関係燃え――――!
とんでもない、素敵な御話を読む事適って誠に嬉しゅう御座います。
草冠の方はソヒたんでばっちりですとも!かくれんぼに付き合う古風萌え!
僭越ではありますが、私も「何もしない」という〆が
先への希望を見せることが出来て最も良かったのでは、と思いますよ。
私奴の呟きをお聞き届け下さり、本当に有り難う御座いました。

寧ろ祓われたい(1/20)
67とあるスレの577sage :2004/02/17(火) 14:51 ID:bsSPZ9w.
|∀・)

えーと
ギルマスをモデルにした作品(笑)の
第二弾が上がりましたので
つなぎにどうぞ

|∀・)つ ttp://www.geocities.jp/rumiham/arashikoryoyo.html

彡サッ
68とあるスレの577sage :2004/02/18(水) 10:19 ID:XBpp/qOs
|∀・)

すみません体調を崩していたら
リレーの書き方を忘れてしまってました
なのですこしづつ慣らしで
投稿していきます
では

彡サッ
69とあるスレの577sage :2004/02/18(水) 10:21 ID:XBpp/qOs
「WRYYYYYYEEEEE!!!」

常人が聞いたらそれだけで卒倒しそうなほどの
恐怖と絶望と・・・悲しみに満ちた叫び声をあげながら
魔人と化した剣士が
短剣を振りかざして襲いかかります

「せいっ!」

アサシンの充分に狙いをつけた攻撃が
相手の首もとを狙って繰出されましたが
驚いたことには
その素早い攻撃を
軽く身をよじっただけでかわし
次の瞬間には
アサシンの懐に
女剣士が入り込み・・・

「なっ!・・・嘘だろお!!!」

短剣を間一髪のタイミングで受け止めながら
アサシンは以前師匠に聞いたアドバイスを
こんな時に思い出してしまいます

「いいか・・・一流の暗殺者は、無理だと思ったら逃げることだ
お前はかなり強くなったが、世の中は広い
手合わせして無理だと思ったら、どんなことをしてもいい、逃げろ」

「・・・(なるほどね・・・だが今回は逃げるわけにはいかないんだよなあ・・・)」

受け止めるスピードを上回る
繰出された短剣の手数が
アサシンの体に
引っかき傷をいくつもつけて行きます
致命の一撃が
その合間をぬって繰出されようとした
その時

「バックステップ!」

「波ッ!!!」

まるで打合せをしていたかのように
後ろに飛びのいたアサシンの居た空間を
オーラバトラーの槍が
存分に貫き
そこに踏み込んできていた剣士の腹の真中を
串刺しにしたのでした
しかし、アサシンが歓声をあげようとする前に
聖騎士はその体勢のまま鋭く一言

「注意しろっ!まだだっ!!」

「は?なんだって?・・・うわあああっ!!!」

槍で貫かれたまま
短剣を振りかざして前進する剣士が
二人の前でニヤリと笑みを浮かべます
槍で貫いてしまっている為
クルセはこれ以上の攻撃としては
そのまま叩きつけるくらいしかありませんが
相手の体は重そうに見えないのに
なぜか持ち上がらず
彼は鎧の下で
いやな汗をかきはじめます

「・・・(貫いたのがまずかったか・・・まさかこいつ!?)」

横から繰出される暗殺者の連撃を
片手の短剣であしらいながら
もう片方の手いとしげに騎士に伸ばして
槍をからだ深くに埋め込みながら
じりじりと近寄っていく剣士
美しいとも言えるその姿に
一瞬気をとられそうになったのですが

「馬鹿っ!、はやくなんとかしろっ!」

「くああああああっ!」

全力で槍を引き抜くと
そのタイミングで体をすりよせていく剣士を
槍ではなく鎧を用いた体当たりで
弾きとばそうとする彼
魔人が予想外の攻撃に
少し怯んでその体を両手で抑えた
その隙に

「くおおっ!!」

両手から繰出される
刃の舞いが
彼女の首もとを
深く切り裂き
その存在は苦悶の表情を浮かべると
ネコのようにしなやかに
後ろに跳躍するのでした
そして

「KUAAAA・・・」

「なあ・・・あいつ如何すれば倒せるんだ?魔は得意分野なんだろう、教えてくれよ」

「フン・・・こんなのははじめてだからな・・・さて・・・」

自分達の荒い息遣いを
うっとうしく感じながら
首が半分千切れた剣士が
みるみるうちに再生していくのを
見守る彼ら
その傷が癒えたことを
首を軽く振って確認すると
魔の剣士は
剣先をぺろりと舐めて
じりじりと獲物のほうに
近寄っていくのでした・・・
70名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/02/22(日) 04:15 ID:CmoO06K6
 いつからだろう。オレ達が駄目になったのは。
 同じギルドで知り合ったオレは、いつの間にかオマエに惹かれていた。
 オマエの青い髪が、空を思わせたからかもしれない。
 空の色はオレにとって自由の象徴で、そして決して届かないものの代名詞でもあったから。
 けれど鍛冶師でありながら戦いの得手でもあるオマエの闊達は、笑顔は、オレに分際を忘れさせた。
 鉱物の精錬を幾度もオマエに頼んだのは、そういう事だ。
 鍛鉄に集中するオマエの真剣な横顔を、咥えた煙草の煙に隠して見つめていたものだった。

 ――あなたの為に鍛えました。よければ、使ってください。

 そう言って風精を宿したダマスカスを手渡された時。真っ赤な頬で走り去られた時。オレは空が落ちてきたのだと思った。

「やめておけ。身体に悪いぞ」
「だってあなたも吸ってるじゃない」
「オレはいいんだ」
「なら、私もいい。あなたと一緒がいい」

 ギルドの連中から冷やかされるほど、その後オレ達はいつも一緒に居た。
 だが、いつからだろう。オレ達がかみ合わなくなったのは。
 些細な言葉が棘になり、棘が楔になっていつまでも心に刺さる。オレは勝手にオマエの言動の裏を勘繰り、オマエを傷つけた。
 自分でも愚か極まりないと悟っていながら、オレとオマエを共有する全世界に嫉妬していた。
 それほどに、オマエに惚れていた。オマエを憎んでしまいそうになるほどに。
 だからオレは別れを告げた。ギルドも抜けた。

「やだ、やだよ。ごめんなさい。謝るから、何でもするからっ」
「なら、何もするな。もう――何もしなくていい」

 泣きじゃくるオマエに、オレも泣きだしそうになった。けれどここで流されれば、結局何一つも変わらない。
 オレはオマエを駄目にする。オレに出来る事など、最初から何一つなかったのだ。だから。
 どれだけ詫びても、どれほど月日が過ぎても。きっと消えない傷を残した。そう思った。
 それはオレの甘えだろう。忘れずにいて欲しい。そう願うが故の感傷だ。
「じゃあ、な」
 そしてオレは、オマエの前から姿を消した。


 少し前、ゲフェンの近くでオマエを見かけた。
 錬金術師だろうか。俺の知らない男と一緒に笑んでいた。
 それでいい。オマエは間違えずに歩いた。
 ああ――だが、未練だな。
 オレは今も後生大事に、お前の銘が刻まれた、あの短剣を帯びている。
71名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/02/23(月) 12:33 ID:p6s7PAA6
(奴の体その物からは意思が感じられん…逆に、剣の方からはかなり強力な意思が感じ取れる…
だとすると剣が体を動かしていると考えるのが妥当か?)

間合いまで後5歩

「暗殺者、どうやら剣士本人に幾ら攻撃しても無駄の様だ」

「だったらどうしろって言うんだ?逃げる訳にも行かないだろ」

4歩

「…恐らく奴の本体は武器だ、武器を破壊するぞ」

「魔剣を破壊何て出来るのか?しかもあいつの攻撃を掻い潜らなきゃならないんだぞ」

3歩

「破壊は私が何とかする、暗殺者、お前は奴の腕を切り落とすかどうかして体から遠ざけろ」

「ちっ!無茶を言いやがる、失敗したって知らねぇぞ!」

2歩

「安心しろ、その時はお前も巻き添えを食うだけだ」

1歩

「行くぞ、暗殺者!」
「仕方ねぇ、やってやるぜ!」
「WRYYYYYYEEEEE!!!」
72どこかの166sage :2004/02/27(金) 03:13 ID:xtpyXOG6
|∀・) 複合反則技シリーズ第三段。
|∀・) 577さん。70さん。流れを思いっきりぶったぎってごめんm(_ _)m

|ω・)つ「ママプリVSバドスケ」
|彡サッ
73どこかの166sage :2004/02/27(金) 03:16 ID:xtpyXOG6
「ん?お前は……」
「理由はあとで話す。一発殴るわよ」
 乾いた音と共に、彼がつけていた仮面が宙に舞った。

 火曜日の九時から行われる時計塔の学校。
 アラームたんに会いに行けるから、悪ケミたんも子バフォもうきうきわくわくのはずなのですが……
「アラームたんが楽しくない??」
 子バフォの報告を聞いて眉をしかめるのはバフォ帽をかぶったプリースト。
 悪ケミたんのママプリなのだが、子バフォの報告に思惑が外れてちょっと困惑気味。
「うむ。やはりアチャスケが去った穴は大きいらしい」
「困ったわね……」
 深いスリットから見える黒いガーターベルトなど気にせずに足を組みなおす。
 元々は親馬鹿二人のこり押しで始めた時計塔の学校なのだが、時計塔側としてもメリットが無かった訳ではない。
 直接的には魔族側からのより強力な部隊による時計塔の警護(バフォの嘆願書の魔族側からのお礼という訳)と、人魔のハーフである悪ケミたんとアラームたんの接触というアラームたんの心の成長の機会。
 それが時計塔が進める「地上楽園化計画」に影響を与えるだろうと時計塔管理人は考えているらしい。
「で、そのアラームたんを悲しませた色男は何処に行ったのよ?」
「時計塔結界の強化の為時計塔を去り、今はバードとして世界を旅しているとか」
 そんな会話が行われていたのが、上の修羅場の数日前。
74どこかの166sage :2004/02/27(金) 03:19 ID:xtpyXOG6
 最近、ゲフェンの酒場に流れのバードがやってきて聞いたことも無い曲を弾いていくという。
 仮面で顔を隠したこのバードが奏でる穏やかで清々しい曲は聴く者達の心を癒してゆく。
 静かに酒場の中に流れる音が終わり、拍手の中仮面のバードが酒場から出てゆく。
 ぱちぱちぱちぱち……
 その拍手は人通りの消えた路地裏から聞こえてきた。
「ん?お前は……」
「理由はあとで話す。一発殴るわよ」
 乾いた音と共に、彼がつけていた仮面が宙に舞った。
 仮面が外れ、骸骨の顔が月夜に輝く。
 からんという乾いた音が路地裏に響く、仮面はバドスケの足元で転がった。
 月影で顔が見えないバトスケを殴った女はスリットから見える太ももなど気にせず平然と言い放つ。
「今のは、アラームたんの分」
「アラームを知っている……そのバフォ帽、悪ケミの縁者か?」
「正解。アラームたんが元気がないと、悪ケミたんも元気が無くなるのよ。
 だから親として貴方を殴りにきたの」
「なんか、ずいぶん都合のいい理由だな」
「親ってそんなものよ。
 それよりも、聞きたい。何で時計塔を去った?」
 傲岸不遜に容赦なく核心を突いてくるママプリにたじろぐバドスケ。
「だから、結界の強化ではじき出されたって建前は言わないから、ぐーを作るなっ!」
 殴る動作を止めて先を促すママプリ。軽口の冗談で濁せないと悟ったらしい。
「結界はきっかけに過ぎなかった。
 俺が時計塔を離れた理由は、俺の時が止まっているから。
 永い永い時間をかけてやっと『地上楽園化計画』は次の段階に進んだ。
 その次の時間に死者である俺の時間は無い。それが理由」
「それが理由?貴方だって生きているじゃない!
 ここにいる、私の前にいる貴方はじゃあ、何?」
「お前と俺との決定的な違いって何だか知っているか?
 お前は泣く、笑う、怒る、喜ぶ事ができる。
 俺の顔はこの骸骨だけさ」
 声が自虐的に響いても骸骨はその表情を変える事はできない。
「アラームはこれからも、泣くし、笑うし、怒るし、喜ぶし、戦う。
 楽園のために。彼女にはそれしか教えられていないから。
 悪ケミが通いだして思い知ったよ。己の住む世界の小ささに。
 世界にはこんなにも広いって事をな。
 俺が外に出る事によって、それをアラームに教えたかった」
 唖然とするママプリ。バドスケの言葉は解釈次第では楽園の否定に聞こえなくも無いのから。
「アラームたん。元気ないそうよ」
「あいつも、もう子供じゃない。
 大人になるっていうのは、そういう悲しみを我慢するってことさ」
 バドスケの返事に、ママプリが苦笑して反論を言う。
「親にとって、子供はいつまでも子供よ。
 それにアラームたん悲しんでいる事を喜んだら?」
「喜ぶ?」
「それだけ心配しているって事よ。彼女は。貴方の事を」
 そこまでバドスケを諭してふと寂しそうに、自分自身の罪を漏らす。
「私なんか……
 私なんか悪ケミたんに心配される事すらできないのだから……こんな馬鹿な親になってほしくはないのよ」
 ママプリはまだ悪ケミたんに母である事すら名乗っていない。それは彼女自身の罪と後悔の言葉。
「……悪ケミの分だ。
 一発殴る」
「ええ」
 路地裏に「ぱん!」と小気味いい破裂音が響いた。
75どこかの166sage :2004/02/27(金) 03:22 ID:xtpyXOG6
 次の週の火曜日。
 今日もライドワード先生の授業にもぼんやり気味のアラームたん。
 それを心配そうに見ている悪ケミたんと子バフォ。
 けど、それはアラームたん自身によって破られる。
「聞こえる!」
 がばっと机から飛び起きて、窓の外に駆け寄るアラームたん。
 驚く残り三人の中で次に気づいたのは子バフォ。
「主よ。何か聞こえないか?」
「ほんとだ。なんかいい曲ね」
 窓の外からほのかに聞こえる、澄んだ音色。
 それは時計塔住人にとっては懐かしい音色。
 アラームたんは窓から手を振って必死に大声で叫びます。
「アチャスケさ〜〜〜〜ん!!
 わたしはげんきだよ〜〜〜〜〜〜!!!」

 まるで返事のように、今までの曲とは違ってアラームたんが聞いた事も無い優しくて暖かい曲が流れてきます。
「俺は、アラームの事をずっと見ているよ」
 と語りかけるように。

 アルデバランの街中に流れる聞いた事も無い優しくて暖かい曲を嬉しそうに聞く、バフォ帽をかぶったプリーストがいた。
 その左頬が赤くはれているのだが、気にした様子もなく曲にあわせて踊るように歩いていたという。
76どこかの166sage :2004/02/27(金) 03:37 ID:xtpyXOG6
まずは感謝を。
悪ケミスレの皆様。アラームスレの皆様。
皆様の萌えに深く深く感謝します。m(_ _)m

それにしても、わが身の文才の無さにほとほと呆れるばかり。
文神様への道はとても遠いものです。

アラームスレは配置変更を受けてアチャスケが居なくなった事を前提に話を進めています。
けど、アラームたんがピンチになったらきっと助けに戻ってくるでしょう。
今回、ママプリは悪ケミに「母」として名乗っていない事にしていますが、悪ケミスレでは名乗っている事を前提のレスもあります。
いつか、母娘の名乗りのSSを書けたらいいなと思って現在構想中です。
今まで書いた物をまとめて本にする時の書き下ろしその2にでもできたらいいなと思っています。
え?書き下ろしその1は?
そりゃ、バフォとママプリの初めての……
【断頭台】カミニモナレヌノニソウイウコトヲイウカ(・∀・)つ<・д・)))マ、マテ、ナツマデニハキット・・・・・・
【断頭台】キャー!!!
77名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/02/27(金) 13:10 ID:W6AudQz.
>>76
(。▽。)ノミ○ 166サン、アタラシイアタマヨー

ごちそうさまでした。
アチャスケさんにも相方見つかると良いですね
人のまま神を超えて下さいね♪
78名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/03(水) 01:26 ID:MP09qXLw
短いのを一つ…

首都プロンテラから南に位置する草原

「すぅ…すぅ…」

暖かい午後の日差しを受け居眠りをしている一人の♀プリースト
小さな、鼻にかけるタイプの眼鏡に、矢の刺さった林檎を頭に乗せている
そよ風が彼女の美しい銀髪を撫でる

ざ…ざ…

忍び寄るような足音…木の影に一人の男が立っていた
その男は息を潜め、彼女に近づいていく…
丁度彼女の目の前に迫った、男は『にぃっ』と笑って彼女の鼻の頭を人差し指で
ピンと軽く弾いた

「!?」

何が起こったのか分からない、彼女はとても不思議そうな顔で辺りを見回す
男の顔を認識すると『ほっ』とした表情に戻る

「もう…いじわる…」

安堵の表情から一転、瞳に涙を浮かべ彼女は男を見つめた
男はおもしろ半分でやったつもりなのに、涙目で見られて戸惑っている様子だ

「あ、ごめんごめん。その…つい寝顔を見てたら悪戯したくなっちゃって…その」

半笑いで片手で頭を掻き毟りながら平謝りな男
中途半端な鎧なんかよりよっぽど硬そうな体格をしている、そのクセ彼の後ろにくっついている
カートには可愛いパンダが…
サングラスをかけなおし、彼は口を開いた

「今日は迷宮の森行ってみようか」

「え…あそこは危ないよ…」

「だーいじょうぶだって、ホラ。お前と俺が組めば恐いものなんて無いってこの前も言っただろ?」

「……」

彼女は押しに弱いらしく、『コクッ』と一度頷いた

「さぁー!早く行こうぜ〜」

「あっ…!」

グイッと抱き上げられたかと思うと、彼女は可愛らしいパンダのついたカートに押し込められた

「乱暴にしないで…痛いよ…」

「わりぃわりぃ♪さぁ、飛ばすぜ」

「え…?わ…わ…」

行き交う人々の視線を集めながら二人は目的地である迷宮の森に到着した

「ここからは自分で歩くよ…」

そう言うと彼女はカートから…

「あわわ…」

グラリと体勢を崩し再びカートに尻餅をついてしまった

「あはは、何してんの」

心底楽しそうな男は、彼女をヒョイと抱き上げてカートから出してあげた

「もう…どうしていつもこうなんだろ…」

納得いかない、といった感じで彼女は頬をふくらませている

「まぁそれよりさ、行こうや」

シャツのポケットからタバコを一本取り出し、火をつけずに咥え男は言った

「うん」

二人は森に足を踏み入れた、途中色々なモンスターに襲われるが男は丈夫で力が強かった
彼女は余裕そうな男を心配そうな目で見つつ、身体能力を増幅させる呪文を唱え、傷の治療をした

「ホラな?二人いれば余裕だろ?」

フンと得意げに彼女の方を見ると男は身の丈程もあろう、巨大な斧を片手で軽々と振り上げ
飛び掛ってきた黒い蛇を軽く叩き落した

それから時間が経ち

「そろそろ引き返すか?腹もへってきたし」

「…うん」

彼女も空腹らしく、おなかをかかえ悩ましげな顔で頷いた

ざっざっざっ…

「もうちょっとで出れるなー」

「…おなか…すいた…」

「うぉ…な、泣くな!後で美味しいものおごってやるから、な?」

「…スティックキャンディー…」

「またそれか…まぁいいけど?それで良くもつなぁお前」

「甘くておいしいから…」

「なんだそりゃ」

ガサガサッ

「!?」

「?」

草むらで何かが動いた

「また蛇か?雑魚には用は無いんで…ねぇ!」

そう言うと一気にその場を駆け出す男、カートに揺られる彼女

「今、羊が見えたよ?…」

「アァン?羊ぃ?子バフォじゃないのー?さぁ、出口が見えてきましたよっ…と」

ガッ

「うわわっ!」

ドシャァ

何かにつまずき男は地面を這った

「いってぇー…何だよ全く…」

とりあえずカートとカートの中身(彼女)が無事な事を確認した

「っつ!?」

足元に鋭い痛みが走る、ふと見るとジーンズが破れて…いや、刃物のような物で
斬れていて血が流れ出していた

「Heal…」

いつの間にやらカートから出た彼女は、治療法術を男の足に施していた

「わりぃなぁ、もうちょっとで出口なのに…」

申し訳無さそうに男が言うと彼女は首を横に2、3度振った

「いいの…でもアイツ、どうにかして…」

彼女の視線の先には小さな、鎌を持った羊が立っていた

「やっぱ子バフォか…すぐに終わらせるわ」

しぶしぶ、と言った感じで男は斧を振り上げた
小さな羊の化け物はその一振りに消えた

「うしっ、そんじゃ帰ろう…!?…」

ドスッと、男の背中に何かが突き刺さる

「何ぃ!?」

小さな羊の化け物だった

「ちっ、まだいやがったか」

「…Increase Agility !Blessing!」

彼女の呪文で、男は集中力が高まったそしてとても身軽になった

ズコッ

大斧は小さな羊の化け物を真っ二つに裂いた
しかし、彼らの周りにはまだ複数の気配があった

「嫌ーな予感がしてきたぜぇ…」

男はギリッと火のついていないタバコを噛んだ

「……」

彼女は何か覚悟を決めた様に頷いた

彼らが走ってきた森の奥から

何かが

こちらへ

それは、とても大きな鎌を携えたとてもとても大きな羊の化け物

小さな羊の化け物たちを引きつれ、闇を纏い、鎌からは死臭を撒き散らし、彼らの前に現れた

「うひょー…親玉のおでましかぃ…」

男は煙草に火をともした

「…もぅ…森火事になったらどうするの…聖水かけるよ…?」

彼女は言った

「へっ…堅い事言うなよ、いくぜ?」

男は全身に湧き上がる力を感じ、大きな羊の化け物めがけておもいっきり地面を蹴った

「……無茶…しないで…」

彼女は微笑んだ

「あいょぉー…」

けだるそうに男も笑った

煙草の灰が

緑の禿た地面に落ちた

男 csm:ca101040d104
彼女 csf:4v026170h0b1

(・∀・)スマソ!
79名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/04(木) 23:16 ID:Ieu3ZLGY
>>78
なかなかのいちゃいちゃっぷりですな(・∀・)ニヤニヤ

このスレに触発されて自分も一つ書いてみました。
初めは「ハードボイルドにいくぜ」とか思ってたのですが
出来上がってみるとなんだか陳腐。しかもちょっと冗長かも

拙いものですが、皆さんから感想やご指摘をもらえると
うれしいです。
流れをぶったぎりかもしれませんが、失礼します。
80名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/04(木) 23:17 ID:Ieu3ZLGY
T、
 私は服事、アコライト。プロンテラ大聖堂で司祭になるため修行中の身。
普通、この時期のアコライトは色々な土地を巡り歩き、旅をする。
傷ついた冒険者を癒しの術で救い、転職したばかりの初心者を祝福し、
気の合った仲間達とパーティを組み彼らを支援したり・・・
そうして、司祭に昇格するための様々な経験を積むのだ。
けれど、私はプロンテラから外へは殆ど出たことがない。
モンスターと最後に戦ったのは、転職して間もない頃に
先輩アコライトに誘われて、あの忌々しい、下水道に行った時。
あれ以来、私は化け物と戦うのを止め、プロンテラの街の中で
本を読み、知識を蓄えるだけの毎日を送っている。

1、
僕は剣士。プロンテラ騎士団に入るため、日々修行を積んでいる。
剣士といえば、溢れんばかりの体力と強靭な筋力で敵を叩き潰す、
そんなイメージが皆にはあるのかもしれないが、
僕はそういったイメージからはまるでかけ離れている。
子供の頃から走るのが好きだった僕は、敏捷性に長けているはいるものの
頑丈さや筋力は他の剣士に比べると明らかに劣っている。
それゆえに、僕はPTに入れたことがない。
まあ、少し前まではそういう騎士が殆どだったらしいから
あまり気にしないようにしているが・・・それでも結局自分が一人だと
いうことに変わりはない・・・。
81名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/04(木) 23:17 ID:Ieu3ZLGY
U、
 朝日がステンドガラスから差し込む。
 日は完全に顔を出したようだ。それにもかかわらず大聖堂は薄暗い。
朝の礼拝を終えた服事たちは、食堂の席に着き神への感謝の祈りを済ますと
粗末な朝食をとり始める。はっきり言って、あまり美味しくない。
「ねぇねぇ」
小さな声で、隣の赤い髪の女の子が私に囁く。
「どうかしましたか、リーン?」
「この間、臨時PTでオークダンジョン行ったのよ。
そしたらさー、激湧きで〜、決壊しそうになったの。
もう駄目、って思ったときに銀髪のアサシンさんが
助けてくれたのー。超かっこよかったー。あぁ〜あ、
名前聞いておけばよかったなあ」
 私と違って真っ当に冒険をしている他の服事の娘達は、
街の外にあまり出ない私に、よく旅先での冒険譚を
聞かせてくれる。まあ、結局は、どこそこの誰がかっこいいだの
どの職業と組むのが一番お金も儲かって、早く司祭になれるだの、
と、およそ女性聖職者に憧れを抱く世の男どもには見せられないような
話になるんだけれど。
 そして、話の結びには必ず
「PT組んで狩りにいきなよ、きっといい経験になるから」
といった趣旨の事を言ってくれる。
 その間、私は相手に不快感を与えぬよう適当に相槌をうっておく。
気にかけてくれるのは嬉しいが、正直、ほって置いて欲しい。

 どちらにせよ、遅かれ早かれ私達アコライトは司祭になる。
その司祭に他の冒険者が求めるのは、強力な支援法術であって
間違っても筋力や俊敏性ではない。
 だから・・・
 他のアコライトの子たちが自分の身体を鍛えている間に
私はより一層勉強して、自分の知力を高めようと思った。
確かに、司祭になるための条件を満たすには人一倍の苦労が伴うと思う。
けれど司祭になってしまえばこちらのもの。
司祭の需要はとても大きい。支援法術の扱いに長けた者は特に。
騎士団、アサシンギルド、塔を始めとした冒険者ギルドからの
教会への斡旋依頼は後を絶たない。
 やがて司祭になった私にも教会から出向依頼が来るに違いない。
私は出向届けにサインして、パーティへの加入を承諾するだけでいい。
 そして、出先で男好みの言動をとれば、勘違いした騎士や、
抜け目のないアサシンが貢いでくれる。
 どう取り繕ったって所詮世の中は弱肉強食。
だまされるほうが悪い。だまされるのが嫌なら、騙すしかない。
82名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/04(木) 23:18 ID:Ieu3ZLGY
2、
 まぶたの裏が紅く染まる。朝の日光がカーテンをかけていない
宿屋の窓から差し込んできたのだ。その日差しで、僕は目覚めた。
どうやら今日も天気がいいようだ。ベッドの脇にしいた寝床から
抜け出し、手早く身支度を整える。布団をベッドの上に押し上げ、
カタナを腰に差し、短刀をブーツの内側に仕込む。
食堂にいき、食事をとる。お金がないので粗末なものだが、
数年間にわたった野外生活での食事に比べたら、
比較にならないぐらい美味しい。
さすが、冒険者の味方、旅館ネンカラスといったところか。
 ベーコンエッグを平らげ、トーストをかじり、熱い砂糖なしの
紅茶を胃に流しこみ、一心地ついた僕は今日の予定を考えた。
が、特定のパーティに所属していない僕がやることといったら、
ソロで巨大なエスカルゴ相手に腕を磨くぐらいだ。
 陰鬱な表情でおかわりした紅茶に砂糖を入れる僕とは正反対に、
隣のテーブルでは、剣士、アサシン、魔法使い、司祭、鍛冶屋さん、
という壮壮たる面子のパーティが談笑しながら、豪勢な
朝食をとっていた。
「おう、坊主。どーした、辛気くせー顔して?
 ポリンにでもやられて落ち込んでんのか?」
魔法使いがガハハハと笑いながら、僕の背中を叩き、からかう。
確かに、僕は剣士としては駆け出しで、まだまだ未熟だ。
だけど、同期に剣士試験に合格した奴に勝つ自信はある。
言い返そうと思って…やめた。彼らの装備、物腰を見れば
まだ冒険に関しては素人の僕にも、彼らがいかほどの手練れか
わかる。そんな彼らにとっては、ポリンにやられようと、
カタツムリを狩れようとたいした違いはないに違いない。
黙り込んでしまった僕をさらにからかおうと、
魔法使いが口をあけたとき、
「やめなさいよ。私たちにもこういうときがあったって、
あなた忘れてるんじゃない。そんな風に油断していると
いつか彼に追い抜かれるわよ」
透き通るような声が横合いから入ってきた。顔を上げれば、
そこには、魔法使いを睨み、端正な顔をゆがめた綺麗な女性の
そのパーティの司祭さんがいた。
 栗色の長い髪を後ろで一つに束ねているその女性は、
僕に視線を移すと、天使の様な(僕は天使にあったことがないから
わからないが、きっとこういうものなんだろう)笑顔で
「ねっ?」
と僕に同意を求めてきた。途端。
 頭の中が真っ白になった。血がいっぺんに顔に集まってくる。
しどろもどろになりながら、ええ、まあ、なんて適当に答える。
まっすぐで澄んだ瞳と目が合い、何故か恥ずかしくて
視線をそらし、所在なげに焦点を移動させる。
と。魔法使いや司祭さんと同じテーブルについている
髪をぼうぼうに生やして、すっかり人相のわからなくなった
剣士と視線が交錯した。すぐに剣士は僕から目線をそらした。
なんだ?その思いが僕に多少ながら冷静さを取り戻させた。
と、とにかくここから出よう。魔法使いや司祭さんや、
そのパーティの人たちの無礼にあたらないように、
なんとか挨拶して、僕はほうほうの体でネンカラスから抜け出した。

 僕は広場の方に向かった。通称「臨公広場」。
多くの冒険者がパーティを組むのに集う場所だ。
しかし。
 どこをどう探しても「敏捷な剣士、募集」などという
看板は一つも立っていなかった。
 それもそうか。剣士、騎士は周りからタフさを期待される。
敏捷性が売りの僕がパーティになど入れるはずもなく。
よしんば、自分でパーティメンバー募集の看板を立ててみたところで、
装備もそろっていない上に未熟な僕ではリーダーなど務まらないだろう。
周りの人に迷惑をかけてしまうのがオチだ。
 はなから期待するほうが間違っていたのだ。
 僕は露店商が居並ぶメインストリートのほうへ足を向けた。
そして、明日も、またその次の日も来るであろうその場所を
振り返り、一瞥し、頭を前の方へ向けた。
 脇を仲の良さそうな騎士とハンターのペアがとおる。
 目の前を二人のノービスが追いかけっこしながら通り過ぎる。
 路上に、ギルドのメンバーだろうか、たむろして談笑している。
 僕は、にぎやかで、楽しそうで、幸せそうな、この街から
ひとりだけ置いてけぼりをくらっているような…
そんな気がした。
83名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/04(木) 23:19 ID:Ieu3ZLGY
V、
 今日はとても天気がいい。
 朝食を終えた後、私は暖かい日差しと心地よい風に誘われるように
街へとでかけていた。特に何をするまでもなく、大聖堂から
ぶらぶらと歩き、途中で露店をのぞいたりして(もっとも
私には収入がないから野菜の類も満足に買えないけれど)
噴水広場のあたりまでやってきた。
ベンチに腰掛け、あたりの喧騒を眺めることする。
ここ最近、魔物の数が増えてきたというのに、ここプロンテラに
いる人々は全く減っていない。むしろ世界中から
冒険者がやってきて、より活気が出た感すらある。
 私に話しかけてくる男が数人いたが、装備も顔も貧相だったので、
愛想と丁寧な物言いを忘れずに、きっぱりと断ってやった。
 どこの誰とも知らぬ輩についていくほど、私は浅はかじゃない。
 雲が流れ、日が高くなる。
 どのくらいの間、ベンチに座って人の流れを見てきただろうか。
年がら年中続く「お祭り」騒ぎになんとなく乗り遅れてしまった様な
気分を覚えて。
 こんなことならさっきの男のパーティーにでも
一時的に入れてもらえばよかった、なんていつもの私らしかぬ
事を考えた。きっと、この天気のせいだ。
あまりに天気が良すぎるから、ちょっと遠出したい気分に
かられてしまったのだ。
 しょうがない。大聖堂の自室に戻って勉強しよう。
 そう思って立ち上がった時。
見るからに柄の悪い二人組みの剣士と、彼らに
「インネン」をつけられている露店商人の女の子が
視界に入った。
「よおよお、まーちゃんよお、ちょっと人参12Zenyってのは
高すぎやしねーか?ええ!?」
「そんな…ことないと、思い…ますけど」
「ああ!?よくきこえねーよ?」
怒鳴り声をあげて商人の娘を脅かす太った剣士と、
その脇でへらへら笑うガリガリの剣士。
一方、商人の娘はまだ駆け出しといったところかな。
困惑と恐怖が入り混じったような表情をしている。
私を含め、まわりの人は剣士の怒号を耳にして、
なにごとか、と様子をうかがっていたが、
単にごろつきが絡んでいるだけだと知ると、
そのまま通り過ぎるか、あるいは私のように
傍観者を決め込むかのどちらかだった。
 いや、一人だけ例外がいた。
人ごみをかきわけ、駆け寄ってきた黒い髪の、
少年と青年の間のような年恰好の剣士。
精悍、逞しい、というよりは繊細な印象を受ける横顔。
左腰に、一般の剣士や騎士が使う剣(ソード)とはちょっと
違った少し反り返ったような形状の得物をさげている。
「おい、やめろ」
黒髪の剣士がよく通る声でごろつき剣士に告げた。
「んあ?なんかいったか、あ〜!?」
独特の目つきと身のこなしで、ごろつき剣士は珍入者を
威嚇した。
「やめろ、と言ったんだ、小僧」
黒髪の剣士はまるで動じず、言った。青少年が全く動じなかったことに
腹を立てたのか、ごろつきは余計声を荒立てた。
「てめえも俺と同じくらいの年だろーが、えぇ!?」
「精神的に幼稚だ、と言ったんだ」
どうだろう。妙な騎士道精神を発揮して他人のことに首を突っ込む彼の
方が私には子供に見える。この世の中、強いものが勝ち、
弱いものが損をする。それは当然のことだ。
もっとも、こういう人間の方がカモにしやすいことは確かだけれど。
「そうか、てめえ、かっこつけてかばって、あとでそれをネタに
このねーちゃんとよろしくやるつもりだな。へへっ。
調子に乗るなよ、こいつ!」
言いざま放たれたごろつきの右拳。それを半身引いて、左手で
受け止める剣士。ごろつきの拳をつかんだまま、剣士は
左手をさらに引き、そして前に戻し、ごろつきは前後に揺さぶられ、
次の瞬間。
 ごろつきは盛大に転倒していた。
「こ、っこいつ!」
ニヤニヤと状況を静観していたガリガリのごろつき剣士が
ナイフを黒髪の剣士へと勢いをつけて突き出す。
 黒い髪の剣士が、弾けた。
 横に半歩跳び、ナイフを紙一重でかわす。ごろつきの伸びきった腕の
手首を逆手につかみ、ねじりながら後方へと引っ張る。
それと同時に脚をかけ、体勢を崩したごろつきの後頭部に
剣士のかかと落しが直撃した。

 状況は終わった。ギャラリーは皆足早に立ち去り始めた。
しかし、私はまだ、商人の娘が黒髪の剣士に駆け寄って
涙ぐみながらお礼をいう光景を、ぼんやりと眺めていた。
やがて、商人の娘は自分の露店へと彼の剣士を先導して行く。
どうやら野菜類を購入しているみたい。
露店商と談笑し、品物を物色する彼の横顔は、やっぱり
繊細な造りで、それでいてひたむきな意思を感じさせてくれた。

 テロだ、突如あがった悲鳴とも怒号ともつかぬ大声で
戻ったばかりの平和はあっさりと崩壊した。
 鬨の声、悲鳴、剣戟、金属のかみ合う音、魔法が炸裂する音。
やがて、その音はだんだんと大きくなる。
 いや、大きくなったんじゃない。近づいてきてるんだ…!
そう悟った瞬間、私は全身を襲った恐怖に硬直し、その場に
釘付けになった。そして、図鑑でも見たことのないような醜悪な化け物が
私に向かってものすごい勢いで突進してくる。
でも、私は。その化け物を見ていることしかできなくて。
 私の天地が突然さかさまになった。
 右半身が熱い。熱い。なんで熱いの。熱いんじゃなくて。
 これは。ああ、痛みなんて長らく私は。忘れていた。
 シスター、私はこのまま死ぬんですか。
 お母さん、助けて、見たことも無いお母さん、助けて。
 どうして私を捨てたの?お父さん、お母さん、シスター。
 痛い、痛いよ。お母さん、あなたは私が嫌いだったの?
 痛いよ。お父さん、私は要らない娘なの?
 痛い、痛…
「大丈夫?しっかりして!?」
耳元で女の子の声。思考が混乱し、意識が混濁している。
うっすらと目を開けても、焦点が定まらず、
私の顔を誰かが覗き込んでいることしかわからない。
 そのとき、右半身に心地よい冷たさが広がった。
それとともに、思考も正常になっていく。
「わ、私は?」
「大丈夫、傷は浅いわ。剣士さんがかばってくれたのよ」
庇って…?そうか、あの時私を左から突き飛ばしてくれたんだ。
「そ、その剣士さんは?」
ごろつきに絡まれていた商人の娘の肩を強く握り、尋ねる。
痛そうに顔をしかめながらも、彼女は指をさした。
 黒い髪の剣士は私を襲った化け物と交戦していた。
 そして、商人の娘が言わんとしたことが理解できた。
明らかに、彼は劣勢だった。
確かに彼は敏捷だった。身のこなしにもあまり隙がないように思える。
剣士というよりも、まるでシーフかアサシンの様。
両手で構えた片刃の反り返った剣で巧みに敵の攻撃を受け流し、
華麗な脚裁きで上手く間合いを取っていた。
でも、相手が悪すぎた。敵は、彼よりも早く、彼よりも
巧妙だった。彼は傷を貰うたびにポーションを身体に撒いていたが
もう時間の問題だろう。彼が死ねば、次は…私たちの番だ。
 今度はさっきみたいに混乱しない。潔く死神を待とう。
 気づけば、商人の娘は私の腕を掴み、青白い顔で震えていた。
 私にはその手をそっと握り返してあげることしかできなかった。

 ついに彼は追い詰められた。元々体力はあまりないように
みえる。もう剣を構えることもできず、彼の両腕はだらりと
下がったまま。足元はふらつき、まるで酔っ払い。ひざが震えている。
そんなおぼつかない足元をすくわれ、彼は背中から地面に倒れこんだ。
今にも繰り出されそうな敵の攻撃。
 でも、彼は私のように慌てもせず、叫びもせず、泣きもせず、
まるで露店で買い物をするかのように、ただ普通の顔で目前に迫った
死に相対していた。
  そして、そこで私は自分が何なのか思い出した。

 他人の事に首をつっこむなんて、幼稚な証拠。
 所詮世の中は、弱肉強食。
 弱い者が損をし、強い者が得をする。
 弱いものが死に、強いものが生き残る
 今だってそう。

 なのに。
「ヒール!!」
活力を取り戻した剣士は間一髪敵の会心の一撃を回避した。
後ろにとびすさり、距離をとる。
敵は猛烈な速度で彼に向かい突進して、
彼はつっこんでくる敵を見て、唇の端を歪め、
裁きの天使と、火の玉と、剣と、カタールと戦斧が、
化け物に炸裂した。

 首都プロンテラには国中から有能な冒険者達が集まってくる。
だから、テロが起こったとしても今のように一分とたたずに
鎮圧される。だが、その一分の間に非力な一次職などが
犠牲になることも事実だ。私は幸いにも犠牲者のリストに
自分の名を連ねることは避けることは出来た。
 緊張感から開放された商人の娘はむせび泣き始めてしまった。
私は彼女の肩を抱き、一緒に立ち上がらせた。
 私は視線を、剣を左手に持ったまま腕をだらりと下げ、
路上に立ち尽くす黒い髪の剣士へ向けた。
 そう、私がこうして無事で居られるのは、彼のおかげ…?
 ううん、違う。私が強かったから。私が強いから、生き残った。
 そう、きっとそう。私は、私は、
「貴方に情けをかけられたんじゃない!」
はっ、として口を塞いだが、時既に遅し。

 ほんとに今日はどうかしてる。
 柄にもなく遠出したいなんて思ったり、
 他人の事に首をつっこんだり、
 ほんとに、私、今日はどうかしてる。

 そして、彼は、黒い髪の剣士は、ゆっくりと頭をめぐらせ――
84名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/04(木) 23:20 ID:Ieu3ZLGY
3、
 僕はメインストリートまでやってきた。
狩りにいくための回復剤と食事用に野菜類を買おうと
思ったのだ。噴水広場の程近くに、僕の目指す露店はある。
いつも原価ギリギリの値段で日常品を売っている
とてもリーズナブルなお店だ。
 水色の髪をショートカットにした可愛い商人の娘が店番を
していて、まあ、下心がないといえば嘘になる。
 そのうち常連になって、
「いっつも当店でお買い物してくれてありがとうございます!
よかったら、今度一緒に冒険しませんか?」
なんて展開がないだろうか。い、いや、駄目だ駄目だ。
そうだ、自分から待っていてはだめだ。今度折をみて、思いきって
冒険に誘ってみよう。この際、自分が装備もそろっていないし
タフさもない剣士だということは忘れる。
 そんなことをつらづらと考えながら噴水広場のあたりまで
やってくると、人々がある一点を中心に円を描くかの様に
流れていることに、僕はきづいた。
 そして、聞こえてくるいかにもごろつきといった感じの
怒鳴り声。おそらく、どっかのごろつきが露天商に
いいがかりをつけているのだろう。
 人垣のせいでよく見えないが、この方向は
あの娘の店ではなかろうか?

 それにしても、何故誰も止めに入らないのか。
それどころか皆仲裁にも入らず何事もなかったのように通り過ぎ、
或いは、ただ傍観しているだけ。

 そうか、自分が一番大切という事か。
 自分と関係のないものがどれだけ傷つこうとかまわないと、
 そういうことか、人間め。

 頭に血が昇った。
 思考が白熱する。
 気づいたときには、「おい、やめろ」なんて大声をあげて
飛び出していた。
 見れば。見知った顔に困惑と恐怖が入り混じった表情を
浮かべる商人の娘と、ふたりのごろつき剣士が、
人垣で囲まれた円の中心にいた。
「んあ?なんかいったか、あ〜!?」
太ったほうのごろつきが振り向き、僕を威嚇する。
が、正直今までの出来事に比べれば、全く恐くない。
「やめろ、と言ったんだ、小僧」
努めて冷静に、告げる。
「てめえも俺と同じくらいの年だろーが、えぇ!?」
ごろつきが再び怒鳴り声をあげる。それに怯えるように
首をすくめ、肩を震わせる商人さん。
 他人に迷惑をかけることをなんとも思わないその態度が
何よりも誰よりも、子供だというんだ!
「精神的に幼稚だ、と言ったんだ」
沸騰しそうな全身の血と思考を理性を総動員して必死に冷却する。
「そうか、てめえ、かっこつけてかばって、あとでそれをネタに」
わかっている、右ストレートか。
「このねーちゃんとよろしくやるつもりだな。へへっ。
調子に乗るなよ、こいつ!」
間髪を入れず、繰り出されるごろつきの右拳。愚か。

 勝負は一瞬だった。僕が我にかえった時、二人のごろつきは
地面で伸びていた。また、キレてしまったらしい。
どうしたものか、呆然とその場に立ち尽くしていると、
商人の娘が駆け寄ってきた。
「ど、どうも、ありがとうございました。おかげで助かりました」
ぺこり、と音がしそうな勢いで、彼女は僕にお辞儀をする。
そんな風にかしこまられると逆にこっちが困ってしまうが、
何の礼も言われないまま立ち去られるよりは、全然後味がいい。
「いえいえ、余計なお世話でしたか?」
「そんなこと全然ないですよ。ほんとに助かりました」
「それはよかった。ところで、もしよければ、
野菜や赤ポーションの類を売っていただきたいのですが?」
「ええ、全然Okですよ。お安くしときまっせ」
軽い感じでうけおって、彼女は僕の服のすそを引っ張って
露店へ導いた。必要な分だけの薬を買う。
「助けてもらったからといって、値切りには応じませんからね」
「それは残念」
代金を支払い、そのまましばらく雑談する。
と。
「テロだー!」
怒号が耳に入った。弾かれるように、僕は立ち上がった。
人ごみのむこうで、苛烈な戦闘音が聞こえる。
そして、その音はこちらへ近づいてくる!?
後先考えず僕はブーツの短刀を引き抜きざま、迎撃すべく
「音源」の方向へ走る。
 見えた!
醜悪な化け物が凄まじい速度で、広場のベンチのそばに居た
アコライトに向けて一直線に猪突していく。
青い、いや黒い?鴉の濡れ羽色の蒼い髪の女の子。
彼女はその場に立ち尽くし、化け物を避けようともしない。
 僕は有無を言わさず彼女を突き飛ばした。
続けざまに飛び込んでくる化け物の一撃を右手で構えた短刀で
受け止める。右の手首がきしみ、電撃のような激痛が走る。
手首を傷めたか、しかし今は無視。
 短刀の刃が砕け、その天寿を全うする。
僕は後ろへ飛び退り、間合いを取った。腰の刀の柄に手をかけ、
その体勢を整える。僕を追って間合いに入ってきた化けものに
カタナを抜きざま、斬りつける。
確かな手ごたえ。だが――――
 僕の渾身の一撃はこの化け物にとって致命傷とは程遠いものの
様であった。
 一瞬の自失。それを敵は見逃さなかった。
右肩に凄まじい衝撃。肉がこそぎ落とされたかのようだ。
遅れてわめきたくなるような痛み。無視。
 敵の攻撃をカタナで受け流しつつ、ポーションを患部にかける。
 必死で敵と距離をとる。この数秒に満たないやりとりで
僕は確信した。敵は僕に比べあまりにも強大で、
そして、僕は敵に比べあまりにも非力だった。
 死ぬ、頭の隅でそう思う。全く損な役ばかりしている気がするな。
 綱渡り。一つでもミスを犯せば命はない。集中だ。
 自分で倒す必要はない。救援が来るまで、アコライトの女の子が
逃げるまで時間を稼げればいい。
 そう、僕の身体は戦うためだけのカラクリだ。

 右脇腹に裂傷。無視。
 右足首損傷。無視。
 左腿にきりきず。無し。
 右手くびそんしょうあっか。りゅういしつつ続こう。
 ひだりじょうわんにとうきんれっしょう。むし。
 キンニクヒロウ、セントウゾッコウハフカノウ。ムシ。

 意識が地上に戻ったとき、僕の背中は地についていた。
詰め寄る化け物は死神だ。脳裏に蘇った死の形と、化け物が重なる。
よもや僕の身体は自分のものではなく、僕は指一本動かすことが
できなかった。
 ああ、遂に、僕は、死ぬのか。
「後悔のない人生なんてない」
そんな言葉が頭の片隅で再生された。そうだ。この死は必然。
自分で選んだ道。当然の流れ。一度でいいからパーティーを
組んで冒険をしてみたかったが、もう仕方ない。
これはひとつの帰結だ。うけいれる。人は謙虚であるべきだ。
 ゆっくりと振り下ろされる敵の一撃をぼんやりと眺めながら
僕はそんなことを考えた。
と。
「ヒール!!」
治療法術!?神の奇蹟!?いや、それよりも―――
「ウグワアァッァア」
活力を取り戻した身体をフルに活用して僕は、雄たけびとともに
繰り出された化け物の一撃をすんでのところで回避した。
 そして、アサシンもかくやのバックステップ。おそらく、
こんな動きは一生かかっても再現できないだろう。
そんな、自分でも惚れ惚れとする様な、己の動き。
 視界に入るどこかで見たようなパーティー。こちらへ向かっている。
すぐそこに。
 敵が僕を追撃してきた。が、もう遅い。

 僕の勝ちだ。

 ネンカラスの食堂で見かけたパーティーの総攻撃を受け、
化け物は沈み、立ち上がることは二度となかった。
 僕は生き残った。死ななかった。全身が弛緩し、頭も思考を停止する。
呆然とその場に立ち尽くす僕。ただ、あの時治療法術をかけてくれたのは
誰だろう、とぼんやりと考えながら。
 あれは本当に暖かかった。本当に。仲間が居るというのは、
ああいうことの連続なのだろう。それはとても羨ましい――――

「貴方に情けをかけられたんじゃない!」

 後ろで大きな声がした。ゆっくりと、頭をめぐらせる。
そこにいたのは、商人の娘を抱きかかえながら、肩をこわばらせ、
可愛い顔を歪ませて涙ぐみながらこちらを睨む、
 蒼い髪の服事の女の子だった。
85名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/04(木) 23:20 ID:Ieu3ZLGY
W/4、

噴水は枯れ果て、風は亡く、人々の希望と絶望の入り混じった喧騒の中、
いくさ火が消えきらぬこの街で、

私は、日の光を受け紅く映った漆黒の瞳を見、

僕は、どこまでも吸い込まれそうな蒼い瞳を見、

そして、

私は、彼に出会った。

僕は、彼女に出会った。
86名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/05(金) 16:15 ID:CzmXoCL6
>>79
こういうの、すごく好きです。
読んだ後、彼らの今後の冒険はどうなるんだろう、
熟練の冒険者になるまで、どんなクエストに挑むんだろうなど
勝手に想像をしてしまいましたw
できればまた続き書いてください(´Д`*)
87名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/06(土) 01:46 ID:UZEFiAwg
>>79
世の中を斜に構えて見下しているような女の子に、
自分を過小評価して諦めているような男の子が出会いました。
さて?!

なんかこう、二人の成長する様を見たい気がします。
私の思い描くそれではなく彼らに命を吹き込んだあなた自身の手で。
感謝。
8879sage :2004/03/07(日) 00:14 ID:0.bpnNJI
>>86,87
嬉しい感想を有難うございます。

調子に乗って続きを書いてみましたが、
今週いっぱいまでちょっと野暮用があるので
途中までしかできていない…

半端なところまでですが、一応うpさせていただきます
おめがねにかなうとよいのですが。
89続・80-85 (by 79sage :2004/03/07(日) 00:16 ID:0.bpnNJI
 7、
 暖かな日差しが緑豊かな草原を包み込む。
地面を薙ぐ風は柔らかく、人肌の様だ。
左手に見える、大きな川には川底が見えるほど透明な水が
ゆったりと流れ、日の光を乱反射している。
 心地よいのは、人だけではなくモンスターも一緒なのだろう。
大きなバッタのモンスター、ロッカも気持ち良さそうに歌っている。
 誰もがのんびりとしたくなるような光景、時間。
しかし、プロンテラから西へ街道を歩く僕たちは
なんだかちょっと場にそぐわない緊張状態にあった。

「どう?プロンテラからは殆ど出たことがないって話だったけど」
「ええ、いいところだと思うわ。風もいいし、日当たりも良好。
これで」
そこで彼女は目線を進行方向から少し右のほうへそらし、
「あれさえなければ最高だわ」
視線の先には、様々な職業の冒険者達が例のバッタのモンスター達と
殴り合っている姿があった。次々とバッタが解体されていく様は
のどかな背景とあいまって、とてもシュールだ。
しかし何よりも、ロッカは自ら人を襲ったりしないタイプのモンスターだ。
本来ならば、無理に出す必要のない犠牲。
きっと聖職者である彼女にはそれが堪らないのかもしれない。
「うん、確かに自分からは人を襲ったりしないやつではあるけど、
農作物とかに出る被害の原因らしいし、かわいそうだけど、
しょうがないんじゃないかな?」
僕の返答に彼女は頭をめぐらせ、こちらを向いた。
蒼い大きな瞳は心なしか細くなって、どことなく冷たい感じの表情を
顔に浮かべている。
「やっぱり、貴方変」
む、なんだか意思の疎通に齟齬があったようだ。彼女はそれだけ言うと、
前を向き、少し歩調を早めた。腰まである長く蒼い髪が、
脚の動きに合わせて左右に揺れる。
 それからしばらく二人とも無言のまま歩いた。
 僕個人としてはあまりはしゃぐのは得意ではないため、
こういうのも悪くないかなとは思う。
しかし、彼女がどう思っているかを考えると、やはり話は違ってくる。
 もともと先に誘ったのは僕の方だ。ここはやはり礼儀として
彼女を楽しませてあげなければならない。
 そう思い、何か当たり障りのないことを言おうと口を開いたとき、
「別に気をつかってもらわなくても平気よ。私もあまり
しゃべるのは得意じゃないから」
と、彼女は前を向いたまま、冷めた表情で告げた。
「わかった」
短く返す。
 嗚呼、きまずい。きまずすぎる。
 僕たちはもうバッタ海岸を抜けようとしていた。
90続・80-85 その2sage :2004/03/07(日) 00:19 ID:0.bpnNJI
 6、
 次の日。昨日に勝るとも劣らないくらい良い天気なのに、
僕の心は例の異常重力にひっかかったの如く沈んでいた。
 ネンカラスで朝食を呆然としたままとったあと、
プロンテラの街にでて、ぶらぶらと歩く。

「情けをかけられたんじゃない」
頭の中であの蒼い髪と瞳のアコライトの娘の言葉が反芻される。
 正直、ショックだった。
 確かに、自分がよかれと思ってやったことに他の人から
文句や苦情を言われることは今までに何度となくあった。
だが、こんな風に心に重く響くのは初めての経験だ。
 ああいう言い方をするということは、おそらく彼女はプライドの
高い冒険者なのではないか。そういう人にとって他人に庇われる
というのはとても屈辱的なことなのだろう。
 そう考えると、自分がとてつもない偽善者に思えてくる。
少なくともあの娘はそう思っているだろう。
 でも、あの娘を庇ったことに後悔はしていない。
僕が死んだところでもはや誰も悲しまないだろうし、
僕は皆のために役立てるような人間ではない。
 だが、彼女はそうじゃない。家族、友人、恋人、先生、
彼女がいなくなったら間違いなく彼らはみな悲しむ。
不幸になる人間が増えてしまう。
 ましてや、彼女は神の奇蹟を行使できる服事なのだ。
カタナを振ることしか能がない僕がそのままのうのうと生きるより、
彼女が生き続ける方が、その先より多くの人間が救われただろう。
 この世の人々は皆僕より「有能」だ。
だから、僕にできることといえば、彼らを守ることぐらいしかない。
 そう、例えこの身が朽ち果てた―――――

「あ」
いかにも、思わず口からこぼれ出てしまった、という風なつぶやきに
僕の思考は中断された。虚ろな視線が一箇所に焦点を定め、
ひとりの服事の少女を捉える。我に返り、慌ててあたりを見回せば、
そこは昨日俗に言う「古木の枝」テロで危うく死にかけた
噴水広場のほど近くだった。
 いつのまにか、考え事をしながらこんなところまでやってきてしまった
らしい。それはいいとして。
「や、やあ。こんにちは。こんなところで会うなんて奇遇だね」
問題は目の前の蒼い髪と瞳のアコライトだ。しどろもどろになりながらも
なんとか無難な挨拶をする。
 すると彼女はすこし罰が悪そうに眉をひそめてから、目線を僕と
あわせずに口を開いた。
「こんにちは。でも奇遇というのは少し正確じゃないと思うわ。
おそらく私も貴方もここに来れば、お互いに会えるんじゃないかって
いう予感はあったと思うから」
確かに。だからこそ無意識のうちに僕の足はここに向いていたのだろう。
 そう、僕は、彼女とちゃんと話がしたい、と思っていたのだ。
「うん、君の言うとおりだと思う」
お互いに沈黙。なんとなく気恥ずかしい。顔をあわせられない。
それは先方も同様のようであったが、やがてひそめていた眉を
元に戻し、俯き気味だった顔を上げ、彼女はまっすぐに僕を見た。
 彼女の背は、僕の肩を若干超える程度。
 だが、彼女は上目遣いをしたりせず、まっすぐに僕を見る。
 だから僕も彼女に顔を向け、目と目を正面から合わせた。
「単刀直入にきくわ。何故あの時私を助けたの?」
「別に理由なんてない。ただそうした方がいいと思ったからさ」
鼻を鳴らし、自嘲気味に答える。
「何が望み?」
「別に。特にないよ。ああ、でも正直、大声じゃなくて
感謝の言葉が欲しかったかも」
何となく焦っている感じのするアコライトの問いに、僕は少し
冗談めかして答えた。
「嘘…」
信じられない、と呟く彼女の表情は、あたかもポリンを叩いたら
中から五十本の空き瓶がでてきてしまったノービスのそれの様であった。
「それより、僕も聞きたいことがあるんだけど、いいかな」
僕は、イズルードの澄んだ海を思わせるサファイアブルーの瞳に映った
自分を見つめながら言った。
「な、何?」
一見、冷めた感じに見える彼女の表情は、よく見てみると
意外に変化に富んでいる。今だって、何故だかは分からないけど
動揺しているのに必死でポーカーフェイスを保とうとしているのが
伺える。正直、可愛い。
「僕が昨日君を庇ったのは、余計なお世話だった?」
「ええ」
「そっか。もしかして何かやろうとしてたとか?」
「別に。だから貴方には感謝してるわ、でも」
「僕も君に助けられた。だからおあいこだ、って言いたいのかな?」
「そ、そうよ。何か文句ある?」
「いや、ないさ。ただもし君のプライドを傷つけてしまったのなら
謝ろうと思って」
ごめん、と頭を下げる僕を見て、彼女はなにやらうろたえだした。
 やっぱり誇り高い服事殿だったらしい。そんな娘が頬を紅く染めて
戸惑っているのを見て、僕の心に重くのしかかっていた
何かがゆっくりと薄れていった。最高にいい気分だ。
 よし、問題も解決したし、狩りに行こう。
「あ、それじゃ僕はそろそろ狩りに行くから」
「え、え?」
「良かったら君も一緒に来る?」
と、普段の精神状態なら絶対に言わないことを僕は気分に任せて
口走ってしまった。
 途端に、テンションが天から地の底に落ちる。
自分が何者なのか、を忘れていた自分自身が何よりも歯がゆい。
結果なんて火を見るより明らかだ。この娘は、首を―――
 縦に振っていた。

 ひとまず落ち着け、オレ。
彼女はなんでも、モンスターと戦ったのはアコライトに転職直後、
下水にいったきりだという。そのため準備に手がかかる。
だから出発は明日にしてもらいたい、そう言っていた。
 明日。そう明日。行き先は色々考えた末、ゲフェニアダンジョン
(の一階)ということにした。
 明日。
 遂に、僕はパーティー(二人だけど)を組んで、冒険をする―――
91名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/07(日) 23:01 ID:HN4vRTFc
>>79 続きの感想
なんというか、たまらん(´Д`*)
前回のような大事件こそ起こらないけど、この2人にとっては
「ちょっとした事」がいちいち大事件になるんだな、というか。
実際のROは、ちょっと、もしかしたらかなり荒んでるし、
俺も、もうROをはじめた頃のドキドキを忘れて久しいから。
こういう豊かな世界に惹かれるなぁ・・・
GJ!
92名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/08(月) 00:11 ID:jqc5DkKw
下水道リレーまだぁ〜?
93名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/09(火) 10:50 ID:LL/ZXfKU
>>79
GJ!!明日が待ち遠しいなぁ。待ってるね〜。
94名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/11(木) 13:46 ID:MUGZZSqw
>>79
畜生、萌え転がっちまうぜ!(*´Д`)
9579sage :2004/03/11(木) 19:17 ID:ym8zzcIE
>91
個人的に、世界存亡に関わる危機、より(というか書けない)
「ちょっとした事」を書きたいと思っているので、
そう言ってもらえると非常に嬉しいです。

>92
期待に沿えずスマソ。文神の再降臨までの場つなぎとしてでも
見ていて欲しい。

>93
 どうもありがとうございます。励みになります。
>94
自分で書いていてあまり萌えないキャラばかりだな、
と思っていたのですが、そういわれると嬉しいものです。

今回も中途半端なのですがあまり間が空くのもあれなので
うpさせて頂きます。皆さんに少しでも楽しんでいただければ
何よりです。
96続・89-90 (by79sage :2004/03/11(木) 19:18 ID:ym8zzcIE
[、
 バッタ海岸を抜けた私達は、複雑に入り組んだ丘陵地帯に入った。
地図によれば、ここを北に抜ければ通称クワガタ湖に臨む、あの
険しいミョルニル山脈のふもとに出る。
 もっともゲフェンに向かう私達は、クリーミーやホーネットを
叩きながら順当に西に向かうだけなのだが。
 何度も行き止まりにぶち当たり、その度にもと来た道を引き返し
先に進みながら、ようやく私は、さっきの彼の言葉に感じた疑念の
正体に思い当たった。
「もしかして、貴方、私がロッカを不憫に感じている、って思ったの?」
半歩先を歩いていた彼は、私の唐突な質問に特に驚いた様子もなく、
「違うの?」
なんて聞き返してきた。
 呆れた。もしかして、こいつ、ただのお人好し?
「別に、そんなのじゃないわ。ただ景観にそぐわない殺戮劇だな、
って思っただけだから」
「なんだ。心優しい聖女様だとばかり思ってたよ」
私はフロストダイヴァに勝るとも劣らないぐらいに冷えた視線で彼を
見たが、彼はそ知らぬ顔で前を歩き始めた。

「ねえ」
 クワガタ湖につながる小さな道が右手に見えた頃、
私は彼に声をかけた。
「何?どうかした、聖女様?」
振り返らずに告げられた彼の言葉の最後をまるで相手にせず、
私は彼に問いかけた。
「ゲフェンまで行かなくても、ミョルニル山脈でホルンを狩る、
っていうのも有りなんじゃないかしら?」
 傾けられた彼の首。その顔色がわずかに変化したのを、
私は見逃さなかった。
「えーとね、ほら、最近クワガタの生息数減っちゃったから」
声の調子にあまり変化は感じられない。でも、努めてそうしている、
という風にも考えられる。
「何か、嫌な思い出でもあるの?」
「どうしてそう思うんだ?」
振り向いた彼の眼光が私の心臓を射抜く。たじろいた私が
何も言えずにいると、彼は思い出したかのように表情を和らげて言った。
「実は前に、鉄蝿にひどい目にあってね。それ以来、
ちょっと敬遠しているんだ。ま、ホルン狩るにもGD行くにしても
拠点はゲフェンの方がいいだろう。まずはゲフェンに行こうよ」
「え、ええ」
 今のは正直、恐かった。やっぱり、いくらお人好しの単細胞でも
戦士は戦士ということだろうか。とりあえず、彼の傷口に触れるような
真似は控えたほうがいい、と私は思った。

 魔法都市ゲフェンに着いたのは、その日の夕暮れ間際だった。

 東側の門から街に入った私たちは、ひとまずカプラサービスから
荷物をうけとることにした。私は、先輩の栗毛司祭からもらった
バックラーとチェインを倉庫から引き出し、手早く装備してしまう。
 大量の赤ポーションやら牛乳をバックパックにしまう彼を尻目に、
町の中央にそびえる「塔」を見上げた。
 「塔」。街の内外の人々からそう呼ばれる、ウィザードギルドを
その冠にいただく建築物。これはもともと、魔界につながっていると
専らの噂のゲフェニアダンジョンを封印する目的で立てられたものらしい。
 近年になってダンジョンに通じる扉が開放されたのをきっかけに、
その内に巣食う魔物を討つため鍛冶屋や魔法士以外にも多くの冒険者が、
この街を訪れている。
 太陽が西の稜線に沈みいき、あたりにはもう、すぐそこまで
夜の暗闇がおしよせてきていた。
 その光景は、上手く言葉では言い表せないけど、幻想的だと思う。
 私がぼんやりと街の中央部を眺めていると、オレンジ色に染め上がった
西空を背景にひとりの男がこちらの方へ走りよってくるのが見えた。
 赤い燃え上がるような髪を前で二つに分け、複雑な文様が
刺繍されたローブを纏う男。魔法士、ウィザードだ。
 「やあ、君たち。いい目をしているね」
「何か御用ですか、魔法士様?」
私は、得体の知れないウィザードにとびっきりの笑顔で応えた。
「おお。見た目に違わずしとやかで清楚なアコさんだ。
実はな、お兄さん、君たちにちょっといい話をもってきたんだ」
太陽の残り火を片眼鏡が反射する。顎に無精ひげの残る自称「お兄さん」
のウィザードは、不敵に微笑んだ。
「詐欺や邪法(BOT)の類ならお断りですよ」
倉庫から物資を引き出し、路上での荷造りを終えた彼がゆっくりと言った。
表情は固く、雰囲気も鋭い。そして、沈みゆく太陽の断末魔の日差しを
映した彼の瞳は紅く、深紅に燃えていた。
 「君は…?」

 ウィザードが彼を見て、顔をしかめる。が、すぐに納得したように
頷くと、再び不敵な笑みを顔に浮かべた。
「いやそんな大したことではないよ。ただこの薬をプロンテラの
道具屋のオヤジに届けて欲しいんだ」
「オレ達、しばらくゲフェンに滞在するつもりなんですが、
それでも構わないなら」
全く。このお人好しは。この分だと、彼は一生人から利用され尽くした挙句
裏切られて死んでしまうのではないか。
「ああ、全然構わない。急ぎの用事というわけじゃないからな」
「人助け」が彼の趣味なら、別に私がどうこう口を出す理由はないけれど。
それでも何かひっかかる。だからかどうかはわからないけど
気がついたら、私の口は勝手にしゃべり始めていた。

「はい!魔法士様のお手伝いでしたら、私、一生懸命がんばります!><」
元気に、愛想良く、純真で、そして少し舌足らずに。
 それが、男に何かを貢がせる時の秘訣だ、と栗毛の先輩司祭は、
私に教えてくれた。弱肉強食の世の中で自分の特徴を最大限に生かす事は
当然だ、生物である以上それをしないものは愚かなだけで、
聖職者といえど所詮は人間という生物でしかない。パティ先輩はそうも言った。
 それは、孤児院での生活を余儀なくされ、小さな頃から貧乏くじばかり
引いてきた私にとって、聖書の文句以上に「真理」として私の心の内に
根付いたのだった。
 「いい娘だな、アコさんは。よし、お駄賃にはこれをあげよう」
ウィザードがローブの内からとりだしたものは、天使のヘアバンド。
露店商人と話をつけて換金すればそれなりのお金になる。
 後で二人で分けよう。これでただ働きにはならない。
「わあ〜、可愛い〜>< 魔法士様ありがとうございます!」
 横に居る彼が「/ショック」って顔をしている。複雑。
「どういたしてまして、アコさん。それじゃ、しっかりと頼むよ」
そう言ってウィザードが優雅に一礼したところで、不穏な空気が立ち込めた。
「いたぞ、あそこだ!」
街の中央部のほうからやってくる一団が、こちらを、正確にはウィザードを
指差して大声で叫んだのだ。
「げ、まずっ。それじゃあね、君たち。プロの道具屋のオヤジに
よろしく伝えておいてくれ」
そこまで言ってウィザードは走り去っていった。姿を視線で追いかけたが、
すぐにウィザードは夜の闇に溶け込んで行ってしまった。
 「お前ら、このへんで赤毛のウィザードをみなかったか?」
 やってきたのは、件の一団。五人の男がお揃いのサングラスと
お揃いの黒い背広を着ている。髪型までお揃いだ。どんな髪型かというと
えーと、私たちの創造主と同じというか、話に聞く彷徨う者と同じというか。
「さっきまでそこにいましたけど、どこに行ったかまではちょっと」
可愛らしく言う。黒服の男たちは疑りぶかい目で私を見ていたが、やがて、
「おい、奴を探し出せ」
なんて言いながらそれぞれ街の方へ散っていった。
「なんだか厄介ごとに巻き込まれてしまったようね」
表情を普段のものに戻して、彼に言う。返事なし。なんで?
振り返ってみると、そこには大きく目を見開いたまま硬直している彼がいた。
「どうかした?」
「い、いや…なんか凄い性格違わなかった?」
「さあ?気のせいじゃない。とりあえず、宿を探しましょ」
「そ、そうだね」
 深い夜の闇を照らす魔力の街灯。
 それがぼんやりと照らす出すゲフェンの街並み。
私の横を歩く彼の肩は心なしか沈んで見えた。
97名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/11(木) 20:15 ID:l/8L/dhU
>>79
萌 え ま す た ! ( * ´ Д ` )
冷徹なようでいて実はかわいい部分もあるアコさんがたまらん!
たまに見せる萌え行動ににやにやが止まりません、GJ!
続き楽しみにしてます。
98名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/11(木) 21:33 ID:MUGZZSqw
>>79
剣士キュン(*´Д`)ハァハァ アコタン(*´Д`)ハァハァ
表裏使い分けまくるアコタンも過去訳ありっぽい剣士キュンも今後どうなるかワクワクですよ。
>「/ショック」
激しく吹きました(w

続きが楽しみです!
99花のHBsage :2004/03/12(金) 15:19 ID:PvbIDxAk
「……早く行け!」
「そんな、置いて行くなんて……できないよっ」

 イスフィは、体勢を直して矢筒から矢を取り出して、弓につがえる。
 そして、間髪いれずダブルストレイフィングをダークロードに打ち込んだ。

「このっ……ばかっ!! 逃げろって言って……」

 振り返って、イスフィをたしなめようとしたスレイに隙ができ、彼の横腹にダークロードの一撃が入った。

「スレイ!!」
「……いいから、ルルと一緒に逃げろ! 俺なら気にするな」

 いくら精錬してある防具を着ているとはいえ、ダメージは大きい。
 何よりも、アサシンはダメージを受けることには慣れていない。

「あわわ……うー……プリーストがいれば………」

 他の冒険者は、珍しいことに辺りに見当たらない。
 ルルはギルドエンブレムを握り締めたまま、思わずつぶやいた。

『どうした? 何かあったのか? それともメッセージ誤爆か?』

 ルルがギルドに連絡をしようとしていたことが幸いした。
 エンブレムを通して、ギルドメンバーに声が届いたのだ。

「あ……マスター……」

 だが、相手は不幸なことに、恐らくイスフィが一番会いたくないであろう……ギルドマスター。
 イスフィの元恋人……しかし、今は背に腹はかえられない。

「マスター、今どこ?!」
『南コボルト。深淵と戦うのがなかなか楽しい。青ジェムがかなり必要だが……』
「ちょうど良かった……同じ所……今すぐ来て! ダークロードが出て……イスフィ達が……とにかく大変なのさ!」
『……は? イスフィ? どういうことだ??』
「説明は後でするからさっ、場所は……」

 ルルは、首からかけた冒険者認識票で自分の場所を確認してマスターに伝えた。
 もちろん、横目でイスフィとスレイの様子を見ることも忘れない。

「『最低男』とか『淫徒プリ』とか『下半身直結厨』って呼ばれたくなかったら、ちゃんと来なさいよ」
『おい! もっとよく説明を……』
「……マスター……本当に急いで来てよね。来てくれるって、信じてるからさ!」

 マスターの問いかけに返事もせずに、エンブレムをもう一度胸に付け直す。
 ルルは、カートから白ポーションを持てるだけ取り出した。

「私も、手伝うよ!」
「……なに言ってるんだ?! 巻き込まれたらお前……っ」
「伊達に白ポーション山程積んでないさ。これ使って」

 持っていた白ポーションをいくつかスレイの足元に落とし、そして斧を手にして横に立つ。
100花のHBsage :2004/03/12(金) 15:20 ID:PvbIDxAk
「……うちのギルドマスターが来てくれるって。だから、きっと助けてくれる」

 イスフィに聞こえないように小声でルルはスレイに耳打ちした。

「……ギルマス?」
「ん。撲殺型の破戒プリーストだけど……ねっっ!!」

 勢いを込めてダークロードの足に斧を振り下ろして、その勢いのままメマーナイトを叩き付ける。
 その攻撃は外れることなくダメージを与える。

「アローシャワー!!」

 茂みの中から、斧を持ったコボルトと鈍器を持ったコボルトが飛び出してきて接敵中のスレイたちに襲い掛かってくるが、矢が降り注ぎ、コボルトを一掃する。イスフィがコボルトを射殺したのだ。
 更に矢をつがえて、こちらを狙っていたコボルトアーチャーに狙いを定めて正確に射抜く。
 その姿は、以前のイスフィと違い凛々しくさえ見えた。

 しかし、状況は悪化していた。

 ダメージソースは、スレイのトリプルクリティカルジュル頼み。
 ルルのメマーナイトもBSのスキルの恩恵で外さなかっただけなのでそのダメージは火に油を注ぐようなもの。

「ごめん……もっと弓の腕をあげて置けばよかったね……」

 イスフィの矢はなかなか当たらないので、ダメージソースとしては当てにできない。
 傷を癒すことができるプリーストやアコライトもいない。そのためにこちらのダメージは減ることなく、蓄積されて行く一方。
 そして、周囲の茂みからは休むことなくコボルトが現れる。

「あー、もう……ヘロヘロ……なんで、こんなに硬いのさっ」

 思わず泣きたくなる様な状況に、ルルは悪態をついた。

「……神よ、その大いなる慈悲を持ってかの者たちをを癒したまえ! サンクチュアリ!」
「……神の御加護を! ブレッシング!!」

 重なるように男女の聖なる祈りの声が響く。
 聖なる祝福がスレイに付与され、スレイとルルの背後に聖域のまぶしい光が立ち上がり、傷を瞬く間に癒して行く。

「この声……?! 何で、ここに……」

 祈りの声にイスフィは狼狽した。

 間違いなく、この声はあの人のもの。
 何故、ここに来たのか。
 ルルが呼んだのだろうか。
 それとも……
101花のHBsage :2004/03/12(金) 15:21 ID:PvbIDxAk
 ううん。”男女”の声ということは、今の恋人も一緒にいるということ。


 ……まだ、吹っ切ることができないの、私は。


 イスフィは一瞬、陳腐な希望を見出しそうになった自分に自己嫌悪した。

「速度増加! インポジシオマヌス!」
「アスペルシオ! レックスエーテルナ!!」

 そして、続けざまに支援魔法が飛び、やがて……ダークロードはついに地に伏した。

「ふう……おつかれさん」

 スレイとよく似たプリーストが、粉々に砕けたブルージェムストーンの欠片を手から払い落としながら木陰から現れた。

「マスター、ありがとーっ! 助かったさー」

 武器を手から離して、勢いよくルルはそのプリーストに抱きついた。

「……あんなメッセージ送られたら、来ないわけには行かないだろうが……って、コラ、離れろ邪魔だ」

 憮然とした表情でルルを見る。

「おつかれさま、ルルちゃん。皆さんもおつかれさまです」

 その背後から、女性プリーストが微笑みながら現れて寄り添うように隣に立つ。

 プリーストになったんだな……とイスフィは彼女を見て思った。
 相変わらずきれいな長い銀の髪と、かわいらしくてよく似合う看護帽。

 たぶん、あの人が贈った物なんだろうな……

「デュオ……ありがとう。さすがにプリーストいるのといないのとじゃずいぶん違うから」

 痛みを隠して、にっこりとイスフィは笑みを浮かべた。

「ああ。『『最低男』とか『淫徒プリ』とか『下半身直結厨』って呼ばれたくなかったら、ちゃんと来なさいよ』とこいつに脅迫されただけだから、気にするな」
「ふぃひゃい……ひゃーめーひぇー」

 デュオと呼ばれたプリーストは、ルルの頬をひっぱって伸ばしながら、事も無げに答える。
 ひっぱられているルルはジタバタと慌てて離れようとするが、撲殺型のプリーストの腕力にはルルでもかなわないらしい。

 スレイは先程から黙ったままイスフィとデュオを見つめていた。
 その瞳から、何を考えているのかはうかがいしれない。

 そして……そのスレイに強い視線を送っている者がいた。


 それは、デュオの恋人であるはずの女プリーストだった。
102花のHBの中の人sage :2004/03/12(金) 15:22 ID:PvbIDxAk
待っててくれた人いるのかしら_| ̄|○||
あきれてみんなどこか行った気がする今日この頃。

えらく間をあけて……木陰からこんこん。

長かったですが、次回にてようやく終わりです(ホント)
ほぼラストまで書いてあるから、たぶん数日中には書き込める……かな。

そして、いつの間にか書き始めてから9ヶ月たっちゃいましたね。
各キャラのモデルになった人は、今はどうしているのでしょうか。
もうゲームクリアしてしまったでしょうか。
それとも、まだ元気でやっているでしょうか。

そんな思いを抱きつつ……もうしばし、お付き合い下さい。
___ __________________________________________________
|/
||・・)ノ
103名無したん(*´Д`)ハァハァ :2004/03/12(金) 19:07 ID:9Ic.N8c2
>>102
花のHBさん、キタ━━━(゚∀゚)━━━ !!!!!
待ってたよ。・゚・(ノД`)・゚・。
続き待ってますー
104名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/13(土) 13:00 ID:UVir/Uf2
ぉぉ。花のHBさんキタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!
ここ覗いて初めて見た作品が花のHBさんだったから楽しみに待ってましたよ(´・ω・`)
続き期待してます(*'ω'*)
105名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/13(土) 16:06 ID:vl9gSYzw
なんだかよくわからないけど、花のHBさんがんがれ。楽しみにしてるね〜
106名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/14(日) 12:35 ID:n4u7ZQh.
花のHBさんだ〜・゚・(ノД`)・゚・。
ずっと待ってたよ・・・・
頑張って下さいね!
もう続きが気になって気になって・・・・
107('A`) :2004/03/14(日) 18:07 ID:niwe3yMo
べっとりとした感触だけが体を包んでいた。痛みは、なかった。
「どう・・・して・・・」
その言葉さえも、もしかすると声にはならなかったのかもしれない。
先に、彼女はぬめった液体を吐き出した。視界は霞んでいたが、鮮明な赤が広がった。
仲間達はいない。彼女を置いて逃げてしまった。彼女だけが逃げ遅れた。
容赦ない、人にあらざる者の牙が彼女を切り裂いた。結果が、これだった。
(・・・あ、そっか・・・死ぬんだ・・・)
間違いだったのかもしれない。
プロンテラで知り合った、彼女と同じ新たな冒険者達との、初めての冒険。
深く、暗い、迷宮の門をくぐったことが、或いは間違いだったのかもしれなかった。
心躍る楽しい冒険など・・・夢想に過ぎなかったのだ。
絶望だけが残った。

―――・・・キン

迷宮の中を、一際澄んだ音が響く。血を流し倒れた彼女の側を、何かが駆け抜けた。
それは棘の様な『何か』。遺志を持つかの如く突き進み、闇の奥に潜んでいた者を
引き裂き、蹂躙する。
「・・・ヴァー・・・」
体躯の殆どを腐乱させた亡者は、『棘』に引き裂かれながらも濁った目で一点を見た。
「見てんなよ・・・気持ち悪ぃ」
何もない石壁から染み出るように現れた男は、呟き、苦笑する。それから倒れた少女
に向き直り、場にそぐわない明るい声色で言った。
「ちょーっと待ってなぁ?すぐ済むからさ」
「ぅ・・・ぁ」
「んーん、上等上等」
小さな呟きを肯定の返事と受け取った男は、小さな眼鏡を押し上げて疾走した。
男は手にしていた異形の刃物・・・<カタール>を手放し、腰に下げていた二刀の刃を
抜きざまに一閃させた。


―――岩肌の感触は既になかった。
(・・・なんだろう・・・いいにおい)
目を開けると、男がいた。口元に薄い笑みを浮かべ、彼は椅子の上から少女を見ていた。
「気がついたんだな」
「ここは・・・」
「んー・・・俺の家みたいなとこ」
見れば、質素な部屋だった。男が座る椅子と、簡素な机・・・それ程度しか目に入らなかった。
そこで少女は自分がベッドに寝かされているのだと気付いた。何故か体の感覚が殆どない。
「起きるなよ?知り合いのアコライトは手当てが下手糞なもんでな・・・保障できない」
「・・・生きてるんです、ね・・・」
「ギリギリ・・・ま、喜んでいいと思う」
小さな眼鏡の奥で、男の目が笑った。
「君は・・・ゲフェンタワーに行くには早すぎる。大方遊び半分だったんだろうが・・・」
言いかけて、男はやめた。少女が震えていたからだ。
面倒くさそうに椅子から立ち上がり、銀の頭を掻く。しばし気まずそうに周囲をうかがいな
がら、
「まぁ・・・ゆっくりしていいからさ」
それだけ言って部屋から立ち去った。
108('A`)dame :2004/03/14(日) 18:08 ID:niwe3yMo
「夜中に彼が貴女を抱えてきたときは驚きました」
ベッドに横たわる少女の傷を診ながら、若い女アコライトは微笑んだ。
「助けてもらったのに・・・ちゃんとお礼が出来ない・・・」
「ふふっ・・・彼も新人剣士さんからお金を取ろうとは思いませんよ・・・あ、もう殆ど塞がって
ますね・・・良かった」
そこまで言い、アコライトはまた微笑んだ。
男が「下手糞」と酷評したその手際は実に見事なものだった。
「ありがとう」
「いいんですよ・・・慣れてますから・・・」
多少、何かを含んだ物言いだった。少女は分からなかったが、アコライトの目に一つの感情が
過ぎり、消える。
「えっと・・・あの人は・・・」
「え?あ、アルバートですか?この時間は・・・多分タワーの地下に居ますよ」
「アルバート?」
「ええ、彼・・・アルバートっていうんです」
卓上の花瓶の花を換えながら、アコライトは言った。

アルバートの一日は味気ないものだった。
それこそ、ベッドの上から観察していた少女も驚くほど、部屋に戻らない。
殆どタワーの地下で過ごしている。
部屋に戻った時、傷を負っていた事もあった。その都度、あのアコライトが飛んできては手当
てをし、次の日にはまたタワーへ赴く。
彼の異常な行動の理由を、アコライトに聞いてみたこともあった。
彼女は曖昧に笑い、
「彼は・・・ゲフェンの蓋だから」
そう言った。
少女はアルバートという人間が掴めないで居た。悲しそうに笑うアコライトとの関係も、分か
らなかった。
ただ、毎日アコライトの手によって換えられる花瓶の花だけ、真っ直ぐに咲いていた。


少女は思慮を巡らせていた。最初の夜から数えて七日目。もう体調は戻っていた。
そろそろ発つべきなのかもしれない。
そうは思っていたものの、いざとなると踏ん切りがつかないで居た。
アルバートの部屋で過ごす時間が心地よく・・・一度味わった死の恐怖があまりに濃かったからだ。
「・・・起きてるか?」
「・・・?」
不意に、彼は立っていた。気配は全くなかった。
少女は少々唖然としながら、宵闇に紛れて立つアルバートの顔を眺めた。
「これ・・・置いとく。傷も良くなったみたいだしな」
それは見たこともないような、高価な装備品の数々だった。
「使うか使わないかは君次第だ。もし、冒険者を続けるのが苦痛であるのなら・・・ずっとここに居
ていい。恐怖に打ち勝つのは難しいし、もしかすると君は向いてなかったのかもしれない」
「わ、私・・・」
言いかけて、少女は息を呑んだ。月光に照らされたアルバートの目が揺れる。
「・・・嫌な空気だ」
「・・・え?」
「ちょっとタワーを見てくる」
それだけ告げ、アルバートの姿は闇に解けるように消えた。
「アルバート・・・」
いつの間にか扉の向こうに居たアコライトが呟く。
夜のゲフェンに轟音が響き渡り、炎が巻き起こったのはその直後の事だった。


そうして最後の日は、あっけなく訪れた。
109('A`)sage :2004/03/14(日) 18:11 ID:niwe3yMo
途中までで申し訳ないです。
あんまり長いとアレかなぁと思いまして・・・各所表現などもぶ
った切りました。
お目汚し失礼しました・・・。

(しかもageちゃったし・・・モウダメポ
110名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/14(日) 22:27 ID:n4u7ZQh.
>>107
続きは書かないのかな…?
いいところで終わっちゃってるからつい…
111('A`)sage :2004/03/15(月) 00:22 ID:ERpDWjRc


濃い血の匂いが満ちた。先ほどまでは生きて、笑い、明日を望んでいた冒険者達の断末魔。
馬の形をした禍々しい者達がゲフェンの街を疾駆する。応戦する冒険者達との攻防で、火の手さえ上
がっていた。
その中を、アルバートは闇に紛れて走る。
騎士が吹き飛び、家屋の壁に叩き付けられた。アルバートは足を止め、『それ』を焦燥の目で見る。
(ちっ・・・こんなのまで『上がって』きたのかよ・・・)
『それ』は剣士の姿をしていた。

ウィザードだろうか?誰かが数匹の馬を道連れに爆ぜた。少女はアルバートの部屋の窓からそれを見、
状況を理解した。
「時間の・・・問題だったんです」
アコライトは杖を持っていた。少女が知る限り、彼女が一度も帯びたことのない『武器』。
「ゲフェンタワーはいずれ大きな歪みをもたらします・・・私達が想像もつかない、とても大きな歪みを」
アルバートが『蓋』だと彼女は言っていた。そして、少女はその意味を漠然と理解した。
「彼は抵抗してるんです・・・溢れる大きな『何か』が止められなくても、たとえ自分が命を失っても、
それが・・・誰かのためになると信じて・・・」
アコライトは泣いていた。
「暗殺者だったから・・・命を奪う側だったから・・・だから・・・っ」
ぐしゃぐしゃに、泣いていた。

圧倒的な速度で迫る刃をカタールで受け止め、アルバートは『抵抗』していた。
勝てる相手じゃない。それは、分かっていた。
ビギン、と耳障りな音を立て、カタールの刃が折れる。反射的にその柄を手放さなければ、『それ』の
刃で腕を両断されていたかもしれない。
舌打ちし、飛び下がるアルバートに『それ』は無機質な相貌を向け、
『・・・フロストダイバー』
静かに魔導の力を放った。

贖罪のつもりなのかもしれない。少女はなんとなくそう思った。
自分を助けたのも、或いは。
あの眼鏡の奥の笑みは、そのごまかしなのかもしれない。
よく分からなかった。察するには少女が若過ぎるのかもしれなかった。冒険者としても、人間としても。
目の前のアコライトも同じなのだろう。彼のそんな生き方が、分からず、納得できず、止められない。
少女は身を起こし、アルバートの残していった装備品を身につけた。
頑強な鎧、厚手の手袋、魔力を帯びた剣。そして・・・
(何、これ)
赤い、大きなリボンだった。彼の趣味なのかも知れない。少女は少しだけ微笑み、それからリボンをきつく
、自分の長い髪に結えた。
「・・・私、行くよ」
きょとん、と泣きはらした瞳でアコライトは少女を見た。
「私なんかじゃ足手まといかもしれないけど・・・助けてもらったから」
自覚している。恐ろしい。あの日、迷宮の奥で自分を置いて逃げた仲間達の気持ちがよく、分かる。
(でも・・・何か、違うはずだもの)

『何故抗う?』
「・・・あぁん?」
出血の酷い肩口の傷を押さえながら、アルバートは声の主を見た。若者の姿を借りた、強大な者を。
『何のために戦う?卑小な者よ』
純粋に理解できない、といった感の『それ』がとても可笑しく、アルバートはヒビの入った眼鏡を押し上げ
低く笑った。
「くっく・・・さぁねぇ・・・テメェにゃ理解できないだろうよ」
『よもや他の卑小な存在を守る為とは言うまいな?汝には何の見返りもあるまい』
「見返りだとか・・・言ってる時点で程度が知れらぁ・・・」
本当はアルバート自身、分からないでいた。ただ、自分の過去を清算するためではない筈だった。
そうだとしても、ベクトルが間違っている。
『己が先、と逃げ回るのが汝ら人間よ。その為には他の存在など見捨てよう?』
こいつの言うことももっともだな、とも思う。アルバートもそう思っていた時期があった。
ただ・・・違う。そう、思う。
『汝の足掻きは所詮・・・』
「あぁ・・・うるせえなぁ・・・」
言葉を遮り、彼はよろめきながらも刃を抜き、構える。それが答えだった。
「御託はいいんだよ・・・さっさと来い」

「でえぇぇやぁぁ!!」
少女の振るった剣が、亡者の体を両断する。振り返りざまに背後の馬を斬り払い、渾身の剣技を叩き込む。
赤いリボンが戦火になびく。信じられないほど体が軽い。アコライトがかけてくれる祝福のお陰か。
「アコライトさん、大丈夫?」
「ええ・・・私は平気です。それよりアルバートを早く・・・」
こみ上げるものを抑えながら、アコライトはよろよろと駆け出す。少女も、ためらいがちに続く。
死体が多すぎた。少女もアコライトも、全く免疫のない世界の光景だ。
不意に二人の視界に飛び込むものがあった。
アルバートだ。凄まじい勢いで石畳を跳ね転げ、もんどりうって倒れる。その向こうに、何かが居た。
『ほう・・・』
感嘆とも賞賛ともとれる声だった。『それ』は滑稽そうに首を傾げ、
『これは意外と言うべきか・・・』
(え・・・?人?)
剣士の姿をした『それ』に戸惑い、少女は力を抜く。そこに、隙があった。
「・・・馬鹿!逃げ・・・!」
刹那、『それ』が『移動』した。少女が体験したことのない速度と、威力で、剣が振り下ろされた。
アルバートの叫びが届くより早く、何かが少女の前に立ちふさがり・・・、

アコライトの体が宙を舞った。

「――――ッ!!」
それは名前なのか、もう判別できない叫び、絶叫。
アルバートの伸ばした右手は空を切り、何が起こったのか分からないまま、少女も『それ』の刃に倒れ。
満足げな笑みを浮かべて霧散する『強大な者』。
アルバートの意識も、そこまでだった。


穏やかな風に、赤いリボンが揺れている。青い空の下、はしゃぎまわる子供達を視界の隅にとらえ、
少女は目を細めた。
アルバートはゲフェンから姿を消した。残された少女はその行き先を調べて回ったものの、手がかり
らしいものは何一つ得られなかった。『あれ』を追ったのだろう、と少女は思った。
ふと、長い金色の髪の毛を束ねたリボンに触れる。
そうしてから、気付いた。アルバートにも、アコライトにも、名を告げていない。
アコライトの名前も、聞いていない。
何も、知らなかったのだ。
もう一度リボンに触れた少女の顔に、もう迷いや恐怖は残っていなかった―――
112('A`)sage :2004/03/15(月) 00:26 ID:ERpDWjRc
>>110
続きです。やっぱり所々駄文っぷりが目に付きます。
詰め込みすぎてマトマンネーヨ('A`)になってますね。すいません。
精進します。
113どこかの166sage :2004/03/15(月) 03:19 ID:ntM2UK/w
|∀・) 久しぶりのママプリ話です。
|∀・) 実は百合スレに投下しようとして、あまりにえちくないのでこっちに投下。
|∀・) 百合スレレベル高いです……

壁|つミ[駄文]

|彡サッ
114どこかの166sage :2004/03/15(月) 03:22 ID:ntM2UK/w
 風で舞う桜。
 厳かに響くアンゼルスの鐘の音。
 そして、あの人はこの桜の下で私に向かって微笑んだ。


 春になると桜がぱっと咲く。
 その頃、ノービスだった私はまだこの木が「桜」という事すら知らなかった。
 プロンテラ。私の目にはその多くの人で行き交う町並みは全てが新鮮で興味深かった。
 まーちゃんが露天を列ね、多くの冒険者達が仲間を募集する。
 ありとあらゆる情報が集まり、また発信されてゆくこの世界の首都に相応しい場所にそれはあった。
 誰が呼んだのかは知らないけれど、「ワープポータル」を使える者達が集まって人々の旅立ちを支援する聖職者たちの広場。「ポタ広場」。
 私は何処かに旅発つ事もなくただそこで旅立つ人と送る聖者達を何気に眺めていただけだった。
「何か御用かしら?可愛い冒険者さん♪」
 後ろから声がして、振り向くとヤギの角みたいな帽子をかぶった聖者のお姉さんが微笑んでいた。
「え?よ、用ですかっ!?」
 うろたえる私、用などある訳がない。
 どうも、眺めていたら休んでいたこのお姉さんに用があると思われてしまったらしい。
「い、いえ。まだ冒険者になって初めての街だから色々面白くて……」
「そうなんだ。じゃあ、あなたにとってこの街は最初の一ページね」
 そう言って、彼女はアンゼルスを唱えた。

 風で舞う桜。
 厳かに響くアンゼルスの鐘の音。
 周りのみんなが私と彼女に注目する中、彼女は微笑んで私に告げた。

「ようこそ!プロンテラへ!」

 それが彼女と私の最初の出会いだった。
115どこかの166sage :2004/03/15(月) 03:24 ID:ntM2UK/w
 一生懸命ポリンを叩き、街の近くで経験を積み、転職ができるまでのレベルになった。
 何に成るかは決めていた。
 アコライト。
 あの山羊の帽子をかぶったプリーストさんに憧れたから。
 たった一回だけ出会った人なのに、その記憶は鮮明で忘れられなかった。
 あの人みたいになりたいとおもった。
 ただ、彼女の事を知らなかった私はそれを後悔する事になるのだが。

 誰もが彼女の事を語ろうとしなかった。
 誰もが私に「彼女の事を忘れろ」と言った。
 彼女は何をしたのだろう?
 それすら教えてもらえなかった。

 私は、ただ、
 あの人に憧れていただけだったのに。
 あの人みたいになりたいと思っただけなのに。

 神様教えてください。
 あの人にあごがれるのは罪なのですか?

 長い修行の末、私はプリーストになった。
 あの人と同じ場所に立つ私をあの人はどう思うのだろうか。
 地位が上がる事によって、やっとあの人の事を知る事ができた。
 最初聞いたときに耳を疑った。そして激しく動揺した。
 信じたくなかった。
 彼女が……あの人が、
 教会が隠さなければならない最大のタブーだったなんて。

 バフォメットすら沈めた彼女が、
 そのバフォメットに恋して駆け落ちしたという事実は。
116どこかの166sage :2004/03/15(月) 03:29 ID:ntM2UK/w
 桜を見ているとあの時を思いだす。
 今は、カプラサービスが世界各地を繋ぎ出してからポタ広場からは人は一人、また一人と去っていった。
 あの時の賑わいを知るのは、私と咲き誇る桜のみ。
 そんな事を思いながら、ただ花吹雪を眺めていた。

「何か御用かしら?可愛い冒険者さん♪」
 背後からの声を私は聞き逃す事はできなかった。
 忘れるはずがない。
 忘れられる事などできない!
 振り向いたらいけない。
 振り向いたら、あの人と戦わないといけなくなる。
 私は教会から、あの人を討つ事を命じられたのだから。
 春風が舞い、太ももが見られないように押さえながら私は背後のあの人に話しかける。
「桜が綺麗ですね」
「綺麗に咲いたから見にきたのよ。
 そっか。フリーストになったんだ。おめでとう♪」

「アンゼルス」

 風で舞う桜。
 厳かに響くアンゼルスの鐘の音。

(見てください!私はあなたに憧れて、あなたと同じ道を進んだんですよ!!)

 言いたくて、言ってはいけない言葉が頭をよぎる。
 後ろを向いていてよかった。
 肩が震えるのを必死にこらえるけど嗚咽をかみ殺す事はできなかった。
「どうして……どうしてっ!私の前に現れたんですかっ!
 現れなかったら、綺麗な思い出のままでいてくれたらっ!……」
 あの人を見てはいけない。
 あの人を見てしまったら、私はあの人と戦わないといけなくなるから。
 涙が止まらない。
 うつむいて泣きじゃくる私の背後からあの人はやさしくぎゅっと私を抱きしめた。

「あ……」

「貴方は、貴方の道を進みなさい。
 誰かに憧れるのは構わない。
 けど、いつかは貴方も一人で貴方の道を進まないといけないのよ」

 あの人の顔を背中に感じる。
 あの人の胸を背中に感じる。
 私の涙が抱きしめたあの人の白い手に当る。
 私はそのままただ子供のように泣きじゃくった。
 しばらくしてあの人が離れて姿を消しても私はあの人を見なかった。
 分かったから。
 あの人が、ずっと私の事を影から気にかけてくれた事を。

 あの人が、私に「さよなら」を言ってくれた事に。
117どこかの166sage :2004/03/15(月) 03:30 ID:ntM2UK/w
「おねーちゃん、どうしたの?」
 気が付くと目の前に一人のノビたんがいた。
 きっと、初めてのプロンテラを満喫していて、泣いている私に出くわしたんだろう。
「泣いているの?悪いやつにやられたの?
 おねーちゃんを泣かせた悪いやつなんてわたしがやっつけてあげるわ!」
 子供らしい無邪気さで、安請け合いをしてみせるノビたん。
 その気持ちがとても嬉しくて、涙を拭きながらノビたんの前で微笑んでみせる。
「大丈夫。ちょっと懐かしい人にあっただけだから……
 貴方、この街は初めて?」
「うん♪すごくおっきな街〜」
「そうなんだ。じゃあ、あなたにとってこの街は最初の一ページね」
 そう言って、私はアンゼルスを唱えた。

 風で舞う桜。
 厳かに響くアンゼルスの鐘の音。
 私と彼女しかいないポタ広場の中、私は微笑んで彼女に告げた。

「ようこそ!プロンテラへ!」
118どこかの166sage :2004/03/15(月) 03:52 ID:ntM2UK/w
「その人を知るには、その人の友を知るといい。
 その人がどのような人と友になっているかで、その人の価値が分かる」
 誰の言葉か忘れましたが、まさに人の価値を知る名言だと思います。
 悪ケミたん、アラームたん、Wizぽん等、かの人達の周りの人が魅力的だからこそ彼らの物語は美しいのでしょう。
 そもそもママプリたんは悪ケミスレから生まれたのですが、悪ケミの過去を埋める形で気づいてみたらママプリばかり書いています。
 いつか、「ママはこんな人と出会っていたのよ」とママプリが悪ケミたんと子バフォに語って聞かせる話なんかも書きたいものです。

 ちなみに、今回の話は百合スレ(非18禁)のレギュレーションだけ見て、最初からエチぃ事は考えずに「慕う」という事を頭に入れて書いたつもりです。
 で、投稿前に百合スレを全部見て文神の寸止めの業に大ショック。
 文神様素敵過ぎます。……もっとえちく書けばよかったと大後悔です。
 そうすれば、プリ×プリの百合百合レズと初のママプリ18禁絵を絵神様が書いてくれたかも……

【生贄台】ゼンハンマトモナコトヲイウトオモッタラ、ホンネハソレカイ!(・∀・)つ<・д・)))エガミサマ、コウリンキガン・・・
【断頭台】キャー!!!
119('A`)sage :2004/03/15(月) 18:00 ID:ERpDWjRc
『魔の者の慟哭』

その者は黄昏れた陽の光を浴びながら、木の幹に身を預けていた。
様々な命の息吹を感じる『森』という空間を住処とし、それなりの時間を経て彼は『疑問』を持った。
何故、命は生まれ、死ぬのか。
自らの存在を定義された者を疎ましく思う。彼は『理由』を持たない。
神に弓引く者。若者の姿をした者。命を刈り取る者。
生まれ、生きた命を奪う者。
・・・ガサ。
(・・・ふむ)
彼は幹に背を預けたまま、側の藪を見やった。幼稚な気配を発散させる『侵入者』は、確実に殺意を持
っている。
彼が森に住むようになってから幾度となく経験したことだった。盗賊と呼ばれる類の人間だろう。
・・・ガサガサッ!
藪の影から躍り出る影。ほぼ同時に彼は幹を蹴って跳躍した。
夕暮れに黒の大剣が閃き、侵入者を打ち据える。戦いと呼べる次元の攻防ではなかった。
「うきゃん!」
素っ頓狂な悲鳴を上げ、転がった小さな子供をしばし呆然と見詰め『彼』は立ち尽くしていた。
完全に理解できないでいた。今まで自分に刃を向けたどんな者達よりも、それは弱く、卑小な者。
「・・・いつつ・・・な、なにさ!?さっさと殺せば!?」
小柄で華奢、とても戦いに向くとは思えない身体。あどけない顔立ち。
『彼』は人間の姿をしていたがそれは年齢を表すものではない。よって、彼は理解できなかった。
子供というものを初めて知った瞬間だった。
「・・・?」
そんな彼を訝しげに見る小さな盗賊。彼は動けないでいた。
どうすればいいのか分からない、それこそ怒られた子供のように困窮していた。
いつまでも。

「あんた、文無しなんだ?」
先を歩く小さな盗賊の問いに、彼は頷いた。
「・・・人間の通貨は持ち合わせておらぬ」
これは事実だ。『彼』は立派な大剣を帯びていたが、それは『上司』に賜った貴重なものだ。金にはなら
ない。そもそも、彼は金を得る必要などなかった。
「人間って・・・あんたも人間じゃない。面白いこと言うね」
「・・・そうか?」
「うん。襲ったのに怒ってないし」
「・・・そうだろうか」
分からない。そもそも、何故自分はこの目の前の小さな存在と行動するのか。
純粋な興味だろうか。やはり、分からない。
ただ、「行動を共にさせて欲しい」と申し出たら許された。彼はそれだけで満足した。
初めて体験する感覚だった。
「でも森の中で生活する剣士なんて聞いたことないよ」
「追剥よりは多分に良いと思うが」
「・・・っ〜・・・いたいとこつくね〜」
「む・・・すまない」
「あ、謝る事じゃないってば・・・」
盗賊の少女も内心困惑していた。不思議な空気を纏った金髪の剣士。森の中で見つけた時は、その憂いを帯
びた美貌に惚れ惚れしてしまった。
襲い掛かったのは今晩の夕食がなかったからだ。生存本能は強い。
でなければ、純粋に好意を抱くところだ。ただし、中身が妙なのがネックである。
堅い、というよりは少々無知な感もあった。まだ幼さが強く残る彼女でも、こういった人間が稀有である事は
分かっていた。
(・・・没落貴族・・・とか、そういうのかな・・・?)
まだ帰る家があった頃、母親に聞かされた単語が頭を過ぎる。正確な意味は知らなかったが、ニュアンスでは
間違ってはいないだろう。少女は一人で納得した。
「あんた、名前は?」
「我か?我は・・・」
ビクッ、と彼は立ち止まった。名前?そんなものはない。様々な呼称はつけられていたが、よもやそれを名乗
るわけにもいかない。再び、彼は困窮した。
打開策を模索する。そして膨大な知識から最も適当と思われる言葉を探し、口を開いた。
「・・・ジョンだ」
「・・・じょ、ジョン?」
ぷっ、と吹き出す少女。その理由が分からず、『彼』・・・ジョンは面食らった。
(何が滑稽だったのだ・・・?)
適正な偽名の筈だった。
少女はひときしり腹を抱えて大笑いしてから、澄んだ青い目をジョンに向けて言った。
「私はカタリナ。よろしくね、ジョン」

ジョンのねぐらは壮絶なものだった。カタリナから言わせれば「豚箱」である。
深い森の中に放棄された小屋・・・なのだが、埃だらけでカビなどが繁茂し、とても人間の生活するスペースでは
なかったのだ。無論、カタリナの手によって清掃が施された。
それは奇妙な共同生活だった。
ジョンと同じく一文無しのカタリナだったが、ジョンに空腹を訴えると彼はすぐさま出かけ、戻ってきた時に
は大量の食料を手にしていた。カタリナが出所を聞いても、ジョンは黙って差し出すだけだった。
カタリナもそんなジョンの不思議な部分に惹かれていた。何より、美青年だ。
二人の共同生活は長きに渡った。

「私ね・・・ドレスが欲しかったんだ」
「・・・?」
唐突に語りだしたカタリナの顔を見たジョンは不思議な感覚に囚われた。
寂しげな・・・何かを懐かしむような顔。
「小さい頃の話だよ?まだちゃんと家族が居た時の話」
「今も十分小さいだろう」
「ちゃちゃ入れない・・・もう。ジョンはほんとに気配りがないって言うか聞き下手って言うか・・・」
ぶうっ、と膨れるカタリナ。そのまま小屋の外へ行ってしまった。
(・・・何が悪かったのだ)
ジョンはしばし考えてから、芋の皮むきを続行した。
思えば、カタリナの服装は殆ど襤褸切れと言える粗末なものだ。長いカタリナとの共同生活で多少の知識と経験
を得たジョンも、それが良くないことだと薄々気付いてはいた。
要するに、服が欲しいんだろう。それならそうと言えばいいのだ。
ジョンは芋と格闘しながらうすら笑いを浮かべた。カタリナに似合う服はどんなものだろうか、と考えるだけで
心が踊る。
(・・・はて?)
ふとジョンは我に返った。どうしてこんなに自分は楽しそうなのか。
・・・・やはり、分からなかった。

・・・・分からない。
(何故、向かってくる?)
血塗られたツヴァイハンダー。ジョンはゆっくりとその黒い刃を振るい、血を拭った。
事切れた聖騎士の苦悶の顔が、ジョンに複雑な感情をもたらした。かつて無かった事だ。
何の疑いもなく命を狩った。それが当たり前だと信じていた。
しかし、今のジョンは疑問ばかり抱いていた。
脳裏でカタリナの無邪気な笑顔が揺れては、消えた。

雪が降る頃。
クリスマスという習慣を学習したジョンは勇み足で近くの街まで出かけていった。ささやかながらも、彼には企み
があったのだ。
カタリナには小屋で食事の準備をしてもらっていた。出かける理由は告げていない。その方が戦略的に効果が上が
ると理解していた。これも、共同生活の成果だ。
ジョンは集めた収集品を売って、金に換えた。その金でドレスを買った。
何故か店主に冷やかされ、指輪をオマケしてもらった。ジョンは複雑な面持ちでそれを受け取った。
「彼女に渡してやんな。きっとあんたにベッタリになるぜ」
「む・・・ベッタリか」
「おう、ベッタリだ。保証する」
そういうものか、とジョンは感心した。ベッタリ、という状態がイマイチ理解できなかったが、悪い事ではないの
だろう。カタリナも貴金属の類に憧れていたような気もする。
二つの贈り物を抱え、ジョンは帰路についた。
喜ぶカタリナの様子を想像するだけで足が速まった。いっそ、目立つからと自粛していた魔力も開放し、空間を跳
躍するべきだろうかとも考えた。

そんなジョンを出迎えたのは、カタリナではなく大勢の騎士達だった。
「居たぞ!奴だ!」
「む・・・何だ、お前達は」
「黙れ!この魔族が!」
騎士たちは怒号を交えながら剣を抜く。ジョンは苦虫を噛み潰した様な顔でツヴァイハンダーの柄に手をかけ・・・、
思い当たった。
(・・・小屋に近すぎる?・・・まさか・・・)
ふと、目に入るものがあった。
騎士達の向こう。粉雪の舞う風の向こうで、
―――ジョンとカタリナの小屋が、燃えていた。

『貴様ラァァァァ!』
刹那、圧倒的な魔力がその一帯に満ちた。騎士たちはそれに怯みながらも各々の剣を構え、猛進していく。
ジョンの目が鈍く・・・赤く輝いた。その掌から何人も逃れることの出来ない、全てを凍てつかせる力が生まれる。
ゴウ、と吹雪が吹き荒れた。
屈強の騎士たちは一瞬で氷柱に閉ざされ、悲鳴すら上げる暇もなく黒い刃に砕けた。
剣士の姿をした悪魔がそこに居た。

「・・・ねぇ・・・ジョン?どうして私・・・生まれてきたんだろうね・・・?」
ジョンと呼ばれた『彼』は腕の中で死にゆく小さな盗賊の声を聞いた。
分からなかった。どう答えればいいのか。
か細くなっていくカタリナの呼吸を感じ、ジョンはその存在が始まってから初めての涙を流した。
笑っていて欲しかった。それだけだった。
かつて自分達こそが高潔であり、最も尊いものだと思っていた。しかし、それは違ったのだ。
「・・・ジョンでも泣くんだね・・・」
不器用で機械的な男が涙を流している。カタリナは微笑み、その頬に触れ、
やがてその手は力なく倒れた。
人ならざる男は血に染まったドレスを抱き、肩を震わせて泣いた。いつまでも。
いつまでも―――


冒険者達の前に立ちふさがり、『彼』は剣を抜く。
物欲にまみれた者達。人外の領域へ自ら足を踏み入れ、殺し、奪う者達。
『彼』は許さない。
奪う者が一人残らず消えてなくなるまで、
『彼』は止まらない。
120('A`)sage :2004/03/15(月) 18:02 ID:ERpDWjRc
駄文投下していきます。
萌えなんてどこにあるんだ的な感じですいません。
批判っぽい批評があるとマゾなので喜びます。
では。
121名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2004/03/16(火) 01:41 ID:oNxuXmKQ
> 119 GJすぎるぞコンチキショウ 切ねえ(ノД`)
あなたの作るハッピーエンドも見てみたい
122名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/16(火) 02:23 ID:Rd56J5BQ
 騎士は、大の字になって空を見上げていた。
 森の間から見える空は――とても狭かったけれど――青く澄んでいた。
(……何度目だ? 人間……)
 傍らには有名な大悪魔、バフォメットがたたずんでいる。
「さ〜……数なんて数えてたら、あんたに会いになんぞこねー」
 騎士は戦う力も残ってなかった。ただ、すがすがしいまでの笑顔でバフォメットを見つめている。
「やっぱ強いわ、あんたは……」
 バフォメットはその場に座り込むと、騎士の目を見つめた。
(だが、強くなったな。お主に倒される日も近いかも知れぬ)
 騎士はきょとんと、それこそ珍しいものを見るようにきょとんとした後、大声で笑い出した。
(……褒めたつもりだが……)
「あんたに褒め言葉なんて似合わん!」
 バフォメットは目を細めた。笑っているらしい。
「ははは……。長いなぁ、あんたとの付き合いも」
 騎士は遠くを見るように、過去を語り始めた。


 迷いの森。プロンテラ北に位置するその森は、入ったものを逃がさないような幾重にも包まれた結界に覆われている。
 だが、それは中に居るものすら逃がさない。彼が――騎士がまだ剣士の頃――バフォメットに出会った。
(人間、命が惜しいのなら今すぐ立ち去れ……)
 その言葉に萎縮されたのか、彼は立ちすくんでしまった。
 その数秒後、彼は地に伏せていた。実力の差は言うまでも無かった。
(これに懲りたのならば、この場所には二度と近づくな……)
 バフォメットはそう言い残すと、剣士を置いて立ち去った。


(お主はそれから、何度も我に挑んできたな)
「今でもそうだが、身の程知らずなんだよ、俺は」
 騎士はバフォットを見上げた。
「それに……」
 騎士は言葉をゆっくりと選ぶように頭を巡らせた。
(……なんだ? 遠慮はいらぬ)
 騎士は少し考えていたが、その言葉を口に出した。
「あんた、さびしそうだったからな」
 バフォメットは驚いたようだった。
「こんなとこにずっと……何百年、何千年といるんだろ? なんか……寂しいじゃねぇか」
 沈黙。
「……わりぃ、忘れてくれ。あんたには似合わないや」
(構わぬ)
 再び沈黙。
「戻るわ」
(うむ)
 騎士はカプラ転送の非常用ペンダントを使おうとして、バフォメットへ言葉を投げかけた。
「……また来る」
 バフォメットは言葉を発しなかった。ただ深く頷くと、森の奥へ去っていった。
(人間……か。不思議な生き物だな)
 空は遥か遠く、青く澄んでいて……それはいつも変わらない。
123名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/16(火) 03:06 ID:R7Ol32SE
うわぁー、BOSSネタ良いですね。
>>119,122さん両者様ともにGJですよぅ。
124('A`)sage :2004/03/16(火) 11:36 ID:iGYDDwtg
『道化と赤リボン』

ルーンミッドガッツの首都、プロンテラ。多くの人々が生活するその街でまことしやかに囁かれる噂があった。
夜中に街の各所で魔物が徘徊しているのだ。そしてその数は日を追うごとに加速度的に増えているという。
多くの騎士をジュノー、アマツ、コンロンなどの外国に派遣・拡散させてしまっていたプロンテラ騎士団は困窮
した。今の時点では直接の被害はなかったものの、絶対的に『駒』が不足していた。
このままでは調査すらままならないのだ。

「―――そこで私達にお呼びがかかった、というわけなんですね」
大きな赤いリボンを結わえた金髪の少女は複雑な面持ちで返答を促した。
髭をたくわえた騎士も同じく複雑な顔で頷く。少女は嘆息した。どうにも妙な話だ。
「僕は好きだなぁ・・・こういう胡散臭い事件って」
同じく酒場に呼び出されていたもう一人の冒険者――透き通るような笑みを浮かべた栗毛の僧侶が無邪気に言う。
彼は自分の髪の先をいじりながら、
「どうせ他の冒険者さん達は見向きもしないよ・・・お金にならない仕事だもの。僕はやりたいなぁ」
また、笑った。
嫌な笑顔だ、と少女は内心で毒づいた。どこか引っかかる少年だとも思う。
「ま、まぁ腕が立つと評判の二人にお願いしようかと思ってね・・・バニ君、セシル君、頼むよ」
困り顔の騎士に、リボンの少女剣士・・・セシルは再び嘆息した。
(またこんなこと・・・やってる。駄目だな・・・私)

「それ、癖?」
「え?・・・ぁ」
僧侶、バニの指摘にセシルは顔を赤らめた。思わずまたリボンを触っていた。今日だけで、十二回目だ。
面白そうに彼女の仕草を観察するバニの視線から逃れるように、セシルは周囲を見回す。
バニはいっそう面白そうに目を細め、彼女に習って夜のプロンテラの街に視線を戻した。
事件の調査、及び解決。それが二人に課せられた使命だった。
「楽しいなぁ〜・・・子供の頃に幽霊探ししたのを思い出すよ」
まるで吟遊詩人よろしく大仰な仕草で語りだすバニに目もくれず、セシルは剣の柄に手を置いた。大切な人に貰っ
た、大切な剣。剣だけでなく、身を守る頑強なブレストプレートも、厚手の皮手袋もだ。何度も命を救われた。
・・・あれからどれだけの時間が過ぎただろう?
セシルは自問する。自分は立派だろうか、と。
かつて陽気なアサシンに命を救われ、アコライトが身命を犠牲にして守っただけの価値が今の自分にあるのかと。
ふと視線をバニに戻す。彼は月下に踊っていた。心底楽しげだ。
途端、なんだか無性に惨めになってきた。
なんでこんなことしなきゃいけないのか分からない。お洒落して、人並みの女の子がしたい。そういった点では
セシルは普通の少女だった。
ふっ・・・と空気が変わる。思考の泥沼に陥ったセシルはそれに気付かず、代わりに能天気な若いアコライトが遊戯を
止め、打って変わった真摯な声で叫ぶ。
「セシルさん!下がって!」
「――・・・っ!」
闇夜に何かが躍り出る。セシルは反射的に剣を抜き、身を翻す。そのすぐ脇を小柄な生き物が駆け抜けた。
面妖な仮面。その小さな魔物は鋭く研ぎ澄まされた手斧を抱え、セシルに飛び掛る。
「これ・・・ゴブリンじゃないの!?」
「山の中じゃあるまいし!出てこなければぁっ!」
手斧の一撃を剣で受け流し、セシルは飛び下がった。剣速と素早い身のこなしで華奢な身体と力の弱さをカバーする
セシルの戦い方では分が悪かった。ゴブリンは人間のそれを凌駕しているからだ。
状況を的確に判断したバニは素早く両手で印を結ぶ。闇の中、バニの周囲に仄かな光が満ち、粒子となって彼の足元
に陣を完成させる。詠唱を済ませたバニは掌を広げ『発動』させた。
「ホーリーライト!」
聖なる光がゴブリンの体躯を焼いた。甲高い断末魔を上げてくず折れるゴブリン。
「まだ居るのかっ・・・セシルさん、気をつけて!」
言われ、セシルは気付いた。街のあちこちに生まれた邪な気配に。

「昔は・・・ゴブリンの勢力圏も広かったんだ。代わりに僕ら人間の領域はあまりに小さかった・・・それを広げたのは
βと呼ばれる先駆者達だった。彼らはゴブリンやオークと戦い、時には団結して魔物達を退けた」
バニはセシルが見ている前で、事切れたゴブリンの仮面を元に戻した。そして瞑目し、祈りを捧げて立ち上がる。
「・・・ある一定のところでバランスが取れた。でも、時が変わって・・・僕らの時代になった途端、冒険者達はそういっ
た他者の為の戦いには興味がなくなった・・・より価値のあるものを持ってる魔物、より戦いがいのある強い魔物を求め
て・・・ゴブリンなんか相手にしなくなっちゃったんだ」
そこに道化のバニは居なかった。栗毛の僧侶は悲しそうに目を細め、閉じる。
「いつも戦いは人間のほうから仕掛けるのにね・・・」
呟きはゴブリンの血のにおいに混じり、風に揺れて消えた。
「このままにはしない。ゴブリン達が自発的にプロンテラを攻撃するなんておかしい・・・何が理由があるはずだよ」

不思議な少年だ、とセシルは思う。
日が昇る前にはバニの手によってゴブリン達は一匹残らず葬送されていた。セシルが疲労と睡眠欲に負けて宿に戻っ
てからも、バニは事件の検証をするとだけ告げて行動を別にしている。ただし、態度は昨夜と違ってまた道化のそれ
だったのだが。
不思議な少年だ、とセシルは思う。思いつつ、昼まで寝てしまった自分に少し嫌気がさした。ゴブリンは退けたが、そ
れで終わったとは思えない。頭が重い。気も重い。二重苦だ。
(バニがあんな話するから・・・ヘビーなんだよね・・・バニの言葉って)
ぽりぽり、と寝癖だらけになった自分の頭を掻きセシルはベッドに倒れこみ、遠い日を想った。


その夜もまたゴブリンの襲撃を退けたセシルとバニは深夜のプロンテラを疾走していた。
「ねぇ!バニ君!」
「何〜?」
「あのゴブリン、何なの!?」
走りながら問うセシル。バニは小さくウインクした。
「偵察役なんじゃないかな」
言葉の意図が分からない、といった感のセシル。バニはやはり走りながら説明した。
「昨日の襲撃はかなり大規模だったんだ。聞く限りじゃ今までにない・・・大掛かりな仕掛けだったんだと思う。それが
不発に終わっちゃったから、裏で糸を引いてる奴が僕らのことを調べようとしてる・・・かな?」
最後は疑問形だったものの、バニの表情には自信が感じられた。もしそうなら、追っているゴブリンはセシルとバニの
情報をその『黒幕』に伝えようとしていることになる。
125('A`)sage :2004/03/16(火) 11:37 ID:iGYDDwtg
そして、二人は凍り付いた。
「おや・・・こんな時間に参拝ですか・・・?」
そこはプロンテラ大聖堂だった。一人の神官が穏やかな笑みを浮かべ、祭壇の前に立っている。その手には宝杖が握
られ、もう一歩の手には・・・、
「・・・っ・・・」
セシルはこみ上げる吐き気を押さえ、口元に手を当てた。バニはこみ上げる怒りで歯軋りする。
神官は持っていた――ゴブリンの頭部を。頭部だけが残り、身体は何処かへ消し飛んでしまったのか、見当たらない。
「はて・・・?意味が分かりかねますね。何に怒っているのです・・・神の使いよ」
「貴方が・・・ゴブリンをけしかけたんですか・・・!?」
怒りに肩を震わせるバニを、神官はせせら笑った。
「正確には違いますね。私が使役したのは昨日のゴブリンだけです・・・そう、貴方達が昨日殺したゴブリン達ですよ」
「じゃあ・・・今日のゴブリンは・・・」
「同族が殺されて頭に血が上ったんでしょうね・・・わざわざご苦労なことに、ゴブリン村からおいでになった」
神官はゴブリンの頭を弄んでから投げ捨てた。それが床に着く前に彼の唱えた何らかの魔法で、ゴブリンの頭部は消滅
する。消炭さえ、残らなかった。
「どうやって私を嗅ぎ付けたのは知らないが・・・お陰で貴方達まで・・・黙ってゴブリンを始末していればいいものを」
バニの予測は外れていたのだ。あのゴブリンは偵察役ではなく、仲間の仇を討たんとしたのだ。
目の前の神官を。
「どうしてこんなことをっ!」
今度はセシルが怒りをぶつけた。神官は意に介さず、恍惚とした表情で天井のステンドグラスを仰ぐ。
「・・・汚らわしい魔物を消すのに理由が要りますか?今回のようにゴブリンがプロンテラを襲えば、国王も本腰を入れる
でしょう・・・魔物や異種族を根絶しなければ、人間は生きていけない・・・とね」
「そんなことはないっ!」
バニが声を荒げる。
「魔物だって生きているんだ!それを戦わせて・・・殺して!何になるって言うんだ、貴方は!」
「来るべき聖戦の為に!私はヴァルキリーに会わなくてはならないのです・・・その為には多くの魔物を殺す必要がある・・・
ゲフェンの蓋が開いた今、もはや時間は残されてはいない!私は神の声を聞いた!」
「何様のつもりだよっ!?あなたは!?」
「神の代行者です!貴方もアコライトでしょう!」
「一緒にするなぁぁ!!」
バニが激昂した。腰からメイスを取り、駆け出す。神官は杖を構え、振るった。バニの神聖魔法と神官の防御結界が干渉
し、相殺され、双方の武器が火花を散らす。
純粋な戦闘力だけではバニに分があった。神官は後ずさり、勢いづくバニとの間に障壁を張る。
「キリエエレイソン!」
「・・・っ!」
バニのメイスが光の壁に弾かれた。その間隙を縫い、神官のマイトスタッフがバニの腹部を打ち据える。魔力が満ち、衝
撃に変換されてバニを吹き飛ばした。
「バニ!手伝って!」
光明を見出したセシルが風の魔力が込められたバスタードソードを抜いた。鞘から風が吹き荒れ、セシルのリボンを揺らす。
その意図を読んだバニはセシルに向けて速度向上の魔法を唱えた。加速したセシルは神官が反応するよりもずっと早く、
光の障壁を風の刃で粉砕する。その瞬間、勝敗は決していた。
メイスを低く構えたままバニは呟いた。狼狽する神官に聞こえる程度に、はっきりと。
「それが神の意思だっていうなら・・・僕はそんな神は要らない・・・絶対に」
バニのメイスが静かに神官のみぞおちに叩き込まれた。

道化のバニ。彼は貴族の生まれだった。
裕福な上流階級の世界で過ごしていた彼とその妹のカタリナを悲劇が襲ったのは五年前。
両親が死に、家を追われた彼が路頭でどんな目にあったのか想像に難くない。バニは元の暮らしと、周囲の世界とのギャッ
プを知った。生きとし生けるものは平等などではなかった。世の中には争いが満ちていたのだ。
そして、彼はアコライトになった。
「―――彼も、なかなかアレで苦労した若者なんだよ。今回も彼でなければ出来ないこともあった」
「・・・」
セシルは何も言わないでいた。髭の騎士は酒を飲まずに、グラスの中で回す。今回の事件はあまりに後味が悪い。
「まぁ、バニ君はともかくとして・・・あの神官はどうにも問題になりそうだ。うまくやるがね」
「・・・よろしくお願いします」
「いや、ここのところ色々立て込んでるからね・・・こちらも助かってるよ。またよろしく」
セシルは頷き、ブドウジュースを飲み干してから酒場を後にした。
・・・出たところで面食らった。
頭にオーバーな包帯を巻いたバニが立っていたのだ。彼はやはり道化の笑みを浮かべ、
「いやぁ、なんだかんだで遅れちゃったけど、あの時は助かったよ。カッコよかったなぁ・・・セシルさん。凛々しいっていう
かなんていうか僕もうメロメロだよ〜(はぁと」
「バ、バニ君?会話に脈絡がないんだけど・・・」
「組ませてよ〜お願いだからさ〜・・・あぁ、そうだ!ご飯おごるよ!いいアマツ料理の店知ってるんだ」
「え?えーと・・・?」
脈絡がないどころか結構強引だった。これではまるで子供のデートだ。悪い気もしないのだが。
「ささ、行こう行こう」
栗毛の若者に引かれて歩き出す。
セシルは青空の下、またリボンに触れた。
どうやら本当に癖になってしまったようだった―――
126('A`)sage :2004/03/16(火) 11:45 ID:iGYDDwtg
駄文爆撃、第三弾です。ちょっと長めになってしまいました。
すみません。

>>121さん
ハッピーじゃないのは仕様です。お察しください。
妙にリアリティー?を考えるとやはりこうなってしまうのが常。
でもあまーい恋愛話とかもいいかもですね。結構好きです。
>>123さん
BOSSですね。DOPです。なんか設定から遊離しちゃってるのは
申し訳なく・・・。ゲフェンから開放された野良DOPという感じです。

全体的にもっと書き下げたいところですね・・・これは私のような
ヘタレには難しいですが。
・・・感想、ネガティブレスポンスをお待ちしてます。
127名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/16(火) 19:12 ID:b//8SyMM
>118
女プリさんの心の葛藤が切なく、美しかったです。
しかしママプリさん、教会から敵対されていたのですね…
なるほど、悪ケミさんと一緒に暮らすことができないはずです。
128名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/16(火) 21:28 ID:dg5pFJRY
>>122さん
萌 え た !(*´Д`)ハァハァ
何でも無いようなことに萌えを見出し、且つ掌編でまとめきってしまう藻前様は神。
惚れますた。激しくGJ!

>>('A`)さん
批判的な批評がお好みらしいので感じたことをいくつか。
素人意見なんで、納得できるとこだけ心に留めて残りはあぼーん推奨。
>>108-109,111
ずっと少女視点だったので、終盤何度かアサと視点が入れ替わるところで「?」。
一番盛り上がるところで物語から放り出されたような感じがしますた。
>>109
切ねえ。イイ。
>>124-125
詰め込みすぎなような。後半急ぎすぎというか端折りすぎというか。
短くしたいなら、重要度の低いシーンを削って、大事なところをしっかり描写するのも手。
個人的には短くする必要も無いんじゃないかと思いますけども。
さらに、スレ的にもまだ許される長さじゃないかなぁと、勝手な判断。
全体的な話。
指示語、接続語を使うときは、きちんと前後の関係を踏まえて、それに合ったものを。
表現ももう少し見直してみてもいいかも。この言葉&この順序で問題無いのかと。
スッと入ってこない場所が何箇所かありました。読解力無いだけかもしれませんがorz
とかとか言いつつも毎回楽しませてもらってるので、次回作も頑張ってくださいませ。
長文レス失礼。
129110sage :2004/03/16(火) 21:45 ID:7u.QFOCo
>>126 続きが読めてよかった。ほんとに悲しい話ですねぇ。
読み入っちゃいましたよ〜。ハッピーエンドも見てみたいけど
こういう話も結構好きです。ありがとう
130('A`)sage :2004/03/16(火) 22:32 ID:iGYDDwtg
超ありがたいレスキターーー!!

>>128さん
わ、痛い所突き。とても助かります。
こういう細かな指摘、意見はとても刺激になりますし、参考としては
最上質だと思います。読んでもらえたんだ、って気持ちになれますし・・・。
ご指摘の通り・・・あと、推奨されてもあぼーんする箇所はゼロです。
テキスト保存して熟考させてもらいますね。ありがとうございましたっ。

>>129さん
萌えてもいないし燃えでもない、つたない文章ですが読んでいただけて
幸いです。こちらこそありがとうございますっ。

このスレで許される長さの限度が分からないので少しショボンな感じです。
詰め込んだものが消化されないと悲しいですね・・・反省です。
131122sage :2004/03/17(水) 00:56 ID:piVG6Wc2
反響が来ているようで、ありがたいことです。
また考え付いたら送りますんで気長にお待ち下さい。

予定は未定ですが_| ̄|○
132('A`)sage :2004/03/17(水) 12:58 ID:IN7C6eHQ
『錬金術師の剣 1/3』


昏い瞳を隠すように男はやや小さめの眼鏡を押し上げた。黒を基調とした動き易い装束、見るものが見れば素性を察せる
二刀の刃を腰に差し、銀髪のその男は酒のグラスを傾けた。
「おや・・・お前が首都に戻っているとはな・・・」
隣に腰掛けた髭の騎士が言う。銀髪の男はグラスを置き、横目で騎士を伺った。
「探し物に行き詰ってね・・・元気そうじゃないか、オッサン」
「最近じゃ同僚をよく失うが、俺はそうそう死なんよ。ふむ、お前が探しものか・・・」
騎士はバーテンからグラスを受け取りつつ、思案し、口を開いた。
「・・・やはりゲフェンが絡んでいるな?」
カラン、とグラスの氷が鳴った。男は無言で肯定の意を表し、視線をグラスに戻す。
「・・・先のタワー解放の際に高位魔族が何体かゲフェンを出たという話・・・眉唾でもなさそうだな」
「俺が探しているのは人型の奴だ。それも、かなり強力のな」
「・・・ドッペルゲンガーか」
グラスの中を覗き、呟いてから騎士はそれを一気に煽った。

『一ヶ月ほど前に出立した追撃隊がアルデバラン近くの森で消息を絶った。
 場所が場所だけにシュバルツバルドの目もあってな・・・冒険者に探索を依頼したんだが・・・
 アコライトのバニという若者だ。新進気鋭の冒険者で腕も立つ。
 興味があるなら同行するといい・・・彼の出発は今日の夕刻だ』

(若者・・・ね)
『目的はあくまで探索、調査だ。危険を感じたら逃げろ』
(もし『奴』なら逃げる暇もないだろうにな・・・)
『深追いするなよ・・・死ぬぞ、アルバート』
(分かってるさ、オッサン・・・でもな・・・俺にも事情があるんだ)
アルバートは眼鏡を押し上げ、歩き出した。バニというアコライトの活動拠点だというプロンテラ南地区を目指す。
裏路地にさしかかった所で、彼は怒声と悲鳴を聞いた。
「離すねよー!」
「うるせえ!ガタガタ抜かすとぶっ殺すぞ!」
女商人のカートに手をかけ、盗賊は強引に引き寄せようとする。それを食い止めまいと、商人の娘はカートにかじりつく。
そんな低次元のやり取りだ。
(ふぅ・・・やれやれ)
ため息交じりに内心でぼやき、アルバートはすぐ側の壁に張り付いた。その姿は次の瞬間には掻き消え、
盗賊風の男の背後の壁に現れる。
「おい、ぶっ殺すってのは穏やかじゃないな?」
「あぁ!?」
不意にかけられた声に振り向く男。しかし、そこには誰の姿もない。代わりに男の首筋に冷たく鋭い感触があった。
「・・・う・・・」
「五秒待つ。消えろ」
「く・・・くそっ」
技量の差を感じ取ったのか、男は抵抗せずに路地の奥へと走り去った。アルバートはダマスカスを鞘に戻し、商人に向き
直る。商人は殆ど涙目でカートにしがみついたままだった。
「お、おい?大丈夫か?」
「大丈夫ねよ・・・ありがて、助かったねよ、大きい感謝ねよ」
「・・・ね、ねよ?」
ぐわん、と世界が歪むのをアルバートははっきりと感じた。何語だろう、これは。
頭痛すら覚えそうになる商人の娘の言葉に彼は苦笑しながら曖昧に頷き注意を促す。
「そ、それならいいんだ。この辺は治安が悪いから、一人で歩いたら駄目だぞ・・・?」
「・・・あ、お菓子があるねよ。沢山あるねよ?んでね、アルデバランに帰るねよ!」
一転、嬉々としてまくし立てる商人の娘。
またアルバートの世界が歪んだ。

厚手の外套に身を包んだその小柄な商人の娘はティータと名乗った。愛らしく、優れた防寒性能を持つ耳当てをしている
ことからも寒い地方から出てきたのだと思わせた。
「んでねー、ティータはお菓子を届けるねよー。それでねー・・・むぐむぐ」
要約するとティータは孤児院の出身らしく、貧しい孤児院の家計を援助するために首都によく露店を開きに来るのだとい
う。その売り上げの一部は子供達の為のお菓子になり、ティータのカート一杯に詰め込まれ、運ばれる。
今はアルデバランに帰る途中なのだという。
ティータの独特の言語と脈絡のない話し方に苦心しながらも、アルバートはようやく大体の事情を理解した。
先程の一件も彼女があまりに無防備・・・というよりは世間知らずの子供にしか見えないがために起こったのだろう。
「いい話じゃないか」
しみじみと頷く。苦労して聞き取ったこともあり、感慨はひとしおである。
「むぐ・・・おかわりー」
カートの上からティータが言った。その手には通算14個目の空のアイスクリームカップが握られている。
勿論、アルバートに催促したものだ。彼は苦い顔をしながらも、隣に控えるアイス商人の女性にゼニーを渡し、アイスを
受け取ってティータにリレーする。
「まいどっ♪」
アイス商人がウインクした。肌寒い季節だというのに15個も売れれば十二分の売り上げだろう。
「・・・何個食う気だよ・・・ったく」
「うまぁー」
カートの上でティータは小躍りした。合わせて耳当てがぴくぴくと上下する。
・・・上下する?
(いや・・・まてまて・・・)
アルバートは目をこすってみたり細めたりしてみたが・・・確かに上下していた。夕闇に揺れる躍動的な耳当て。
(俺・・・疲れてるのか?)
空が徐々に茜色から群青に変わり出し、よく見えない。
日が落ちなければじっくり観察できたものを。アルバートは舌打ちし・・・硬直した。
・・・日が落ちた?
「おぁ・・・しまった・・・」
神がかり的な不可思議と遭遇してすっかり忘れてしまっていた。騎士団から調査を依頼されたアコライトのバニが出発する
のは夕刻だった筈だ。気付けばアイス商人さえ帰ってしまっていた。
中隊が消息を絶った森の正確な位置を知らされているのはバニだけだ。一刻も早く彼を追わなくてはならない。
能天気にアイスを堪能するティータをよそに、アルバートは最寄のカプラサービスの位置を思い出す。
しかし・・・この不可思議商人を置いていってもいいのだろうかとも考える。先程のように悪意ある誰かに襲われる可能性も
十分にある。むしろ日が暮れてからはその危険は高い。どうせ目的地は同じである。それならば・・・。
少し考えてから、アルバートは口を開いた。
133('A`)sage :2004/03/17(水) 12:59 ID:IN7C6eHQ
瞼の裏に焼け付いて離れない光景。
燃える夜のゲフェン。
赤い目の剣士。
黒い剣。
・・・失われる大切な者。結局何も守れなかった。
どうして自分は生きているのだろう?騎士団専属の暗殺者として過去幾度となく命を奪い、自らも死の危険に晒された。
それでも、生きている。無様に生き長らえている。自分には生きる資格などないというのに。
所詮奪う者は奪う者でしかないというのに。
「あるばーd、ついたねよー」
「・・・ん、そうか」
シュバルツバルドとの国境辺りにその森はあった。深く暗い森にはしんしんと雪が降り積もり、独特の空気を漂わせている。
この辺りの地理に明るいティータに道案内を頼んだのは正解だったらしい。
アルバートは眼鏡を押し上げ、自分よりもかなり低い位置にあるティータの頭を撫でた。
「サンキューな」
「命の恩返しねよー」
嬉しそうに雪絨毯の上でざくざく小躍りするティータ。
とはいえ、ここからは遊びではない。バニを探し、『あれ』を・・・もしくはその痕跡探す。どのみちまだ幼いティータを連れて
行くわけにはいかないのだ。
「ここまででいい。蝶の羽を渡すからテレポートを・・・」
不意に空気がぐん、と重くなる。アルバートの取り出した蝶の羽が弾け、砕けた。
(結界・・・!?)
同時に二人の周囲に何かが大量にワープアウトした。十数人のローグと騎士、それに女プリーストとウィザード。
統率の取れた集団だった。瞬時に展開し、アルバートとティータを取り囲む。あっという間に包囲されてしまった。
「その娘を渡してもらおうか」
「・・・どこのどちら様だか知らんが、お断りだ」
集団は危険な空気を纏っていた。殺人を専門とする者特有の剥き出しの殺意を大量に発散させている。
プリーストの言葉を一蹴し、アルバートはティータを伺った。訳も分からず混乱している風に見える。演技とは思えない。
連れて逃げるか・・・彼は腹を決めた。包囲状態からこの数を相手にしての突破は容易ではない。時間を稼ぐ必要があった。
アルバートは気取られぬようゆっくりと背のカタールを抜きつつ、問う。
「何故この子を狙う!」
「言う理由はない。庇い立てすればお前も始末せねばならんぞ・・・<黒のアルバート>」
問いに答えた初老の騎士を見てアルバートは絶句した。
「ベルガモット=スヴェン・・・!?何故あんたが・・・!」
「問答無用!」
巨大な槍斧を振りかぶり、騎士が駆けた。アルバートは舌打ちし、装飾品の力を借りて魔法を放つ。
「サイト!」
夜の闇を切り裂き、眩い光源が現れた。閃光は雪原に反射してその場の全員の目を灼く。
一瞬の間隙を突いてアルバートはカタールは振るった。四方の地面に『棘』が突き進み包囲していたローグ達を襲う。
脱出には十分な牽制だった。しかし槍斧を構えたまま、騎士は『棘』をものともせずに猛進する。
「くそっ!」
「浅はかよ!師を出し抜けると思うてか!」
絶頂期を過ぎた老体とは思えない威力で振り下ろされたハルバートの一撃をカタールの刃が受ける。火花が散り、アルバート
の足元の雪が吹き散る。一撃を受けきってから、アルバートは自分の失敗に気付いた。近すぎる。
槍騎士の妙技。ピアースと呼ばれる多段攻撃が彼を襲う。
「あるばーd!どくねよ!」
唐突にティータが何かを投げ放った。ほぼ密着状態だったアルバートは騎士の胸板を蹴り、飛び下がる。
パリン、と小さな音がした。そして、
「ぐぅぉ!?」
騎士の体が燃え上がる。それだけには留まらず、ティータが周囲にコートの下から取り出した小さな何かをばら撒く。刹那、
雪原の下から異常な速度で生え上がった『植物』が花を開かせた。
「ギィエエエエ!!」「ギョエギョエ!」「ギェヒーーー!!」
それはグロテスクな顔のついた巨大な花となって集団に襲いかかった。
訳も分からず花と格闘する者、ただ逃げ回る者、あっけに取られたまま食われる者。阿鼻叫喚とはこの事だった。
「ええい!小癪な!」
火炎を振り払った騎士は一気にティータに駆け寄る。しかし彼女は再びコートの下から何かを取り出し、地面に植える。
それらは巨大なピンク色のボールになって地面を突き出た。
騎士は進路を塞ぐ面妖なピンクの玉を気合一閃、両断する。
――爆発。
騎士は吹き飛び、雪の地面に倒れて動かなくなった。
アルバートは紅蓮の炎と異形の植物で地獄と化す雪原を唖然として見つめながら思い出していた。
様々な材料から全く新しいものを作り出す術・・・錬金術を学び、極めた者。
アルケミストという者達の話を。
134('A`)sage :2004/03/17(水) 13:02 ID:IN7C6eHQ
駄文爆撃第四弾です。また詰めちゃったので続き物に・・・
ダメポ>('A`)

電波入ってるのは仕様です、お察しください。
ご意見ご感想、ネガティブレスポンスをお待ちしております。
135名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/17(水) 13:44 ID:vJ1CkWOU
なんとなく。
フェイヨン好きだなぁ俺。


「村の奥にある洞窟は、死んだ子供を埋葬する事ができなくて、遺体を洞窟に捨てていた時代がある。
今でも洞窟の奥では、成仏できぬ亡霊が彷徨っている……」


あたしが目を覚ますと、目の前に黄色い動物が座っていた。
「目を覚ましたわね……」
黄色い動物は、あたしに喋ってきた。
「人間の大人が、まだ生まれて間もないあなたをこの洞窟に捨てに来たのよ。
死んだと思って捨てたか、育てられずに捨てたかのどちらかだが…可哀想に」
「そっか…おとうさんもおかあさんも、あたしを捨てたんだね」
「まぁ…そうなるわね」
言葉というものを口に出して言うには、まだ発育途中でできないけれど、
言いたいコトは頭に浮かんできて、黄色い動物さんにはソレが伝わっているみたい。

じーっとあたしを見ている黄色い動物さん。
「あたしを食べたりしないの?」
「…食べないわよ。そもそも、人間なんて食べないわ。美味しくないしね」
「おいしくないって知ってる事は、食べた事あるの?」
「そうじゃないわ。この子達を目の前にして食べられる?」
黄色い動物さんが横を振り向くと、そこには赤い服を着た女の子が立っていた。
女の子は、あたしをぐっと掴むと、そのままピョンピョンと跳ねだした。
「あなたと違って、この子は死んでしまってるけど…元は人間の子。
赤ん坊のあなたを見て、妹だと思ってるみたいね」
女の子の顔は、死人のように青ざめているけど、嬉しそうなのはわかった。
あたしも嬉しい。
「……ここはフェイヨン寺院。死んだ子供達の揺り籠。子供達の霊を守るのが私の役目」
青い服を着た男の子や、青い色をしたガイコツさんに着物を着たお姉さんが集まってきて、
あたしを持ち上げたり、あやしたりしてくれた。


−数年後−
「ねぇねぇお母さん、お寺の鐘って使ってないよね?」
「使ってないと思うけど…何に使うの?」
「この鐘を、こうやってこうして……じゃーん!武器の出来上がり!!」
使われて無い鐘を棒にくっつけて、鈍器の完成。
「……痛そうね」
「あとね、コレ。お母さんの顔にそっくりな帽子も作ったんだよ」
「あらあら。あなたに良く似合ってるわよ」
「へへ」
なんだかあたしは照れくさくなって、頭をぽりぽり掻いた。
と、そこにソル太郎さんとアチャ助さんが血相(骨だけだけど)を変えて走ってきた。
「あ、姉さん大変ですゼ!!す、すぐそこまで人間の連中が攻め来てますワ!」
「カタブツのホロンも役にたたねぇ!トンデモな連中でっさ!ど、どうしましょう!?」
……あたしはさっき作った鐘を手に取った。
「行くのね」
「うん。丁度、気晴らしでもしたいトコだから」

「よ〜し、あたしがボッコボコにしてやる!!みんな、行くよ!!」
「オッス!!よぅし、お前らも姉さんに続けェ!!」
あたしのお家を荒らす、ひどい人達にお灸を据えてあげるのだ。
136名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/17(水) 13:46 ID:vJ1CkWOU
色々と端折ってしまった。
書いてるくせに本人は一度もウォルヤファを見たことがありません orz
137名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/17(水) 18:21 ID:ILTKYIjE
>('A`)氏
続きキタ━━(゚∀゚)━━!!!
毎回楽しみにしてまつ。

一つだけ気になった個所を。揚げ足取りっぽいですが。
「それを食い止めまいと〜」の部分。〜〜まい、というのは打ち消しの助動詞です。
このままだとカート持っていかれてしまいますよ先生(;´д`)ノ
138('A`)sage :2004/03/17(水) 20:31 ID:IN7C6eHQ
ネヨネヨー>ヾ(;∀;)ノシ

あーぁ、カート持っていかれましたねー・・・可哀想(ぇ

>>137さん
ご指摘ありがとうございますっ。
揚げ足取りなんてとんでもないですよ。ありがたいです。
細かいところ見直すとアラが多いですよね・・・反省です。

サイトで目眩むんだ・・・なんて本気にしちゃだめですよ・・・(しないって
戦闘も難しいです・・・。
139('A`)sage :2004/03/18(木) 15:10 ID:MIjHavAE
『錬金術師の剣 2/3』


「ティータ・・・だっけ。なにやったんだ・・・お前」
剥き出しの岩肌に背を預け、出血する脇腹の傷を押さえながらアルバートは尋ねる。
追っ手を振り切り逃げ込んだ小さな洞穴。お世辞にも広いとは言えず、ティータとアルバートはほぼ密着した状態で息を潜めて
いた。
彼の質問に対してぽかーんと口を開けるティータ。アルバートは軽い眩暈を覚えた。
あの集団の素性は大体分かっている。ルーンミッドガッツ正規軍の中でも指折りの精鋭が集められた特殊部隊だ。
アルバート自身、数年前まで所属していた騎士団直属の組織である。
暗殺を主な作戦目的とする<黒>、強行偵察や強襲を得意とする<紅>、それらの支援をする<白>に分類される。
彼は<黒>の実質的なナンバー1だった。その師であるベルガモットは<紅>の隊長である。一筋縄ではいかない。
ティータのイクラ爆弾(正式名称は知らない)でかなりの傷を負ったはずだったが、その程度でどうにかなる相手ではない。
成り行きとはいえ敵に回してしまった。最悪の状況だ。
最大のミスは負傷してしまったことだった。全快の状態なら最低、ティータだけでも逃がすことは出来た。
「て、手当てするねよっ」
外套の下から薬品と思しき瓶を取り出すティータ。アルバートは痛みをこらえて笑う。
「はは・・・出来るのかよ」
「爺ちゃに教えてもらったねよ」
「・・・へぇ」
得意げに言う。その爺さんとやらが錬金術師だったのだろうか・・・アルバートは思考能力が弱っているのを自覚した。
ここならばそう簡単には見つからない筈である。休むべきかもしれない。
「少し寝るわ・・・」
それだけ告げ、彼は目を閉じる。ティータは頷き、ランタンの明かりを頼りに手を動かした。
思えばゲフェンに居たあの頃もこうして手当てされていたような記憶がある。
(随分、心配かけてたんだよな・・・俺って奴は・・・つくづく救い難い・・・)
優しかったアコライトを想い、彼の意識は徐々に眠りの淵に落ちていった。

処置を終えたティータは額の汗を拭った。薬品の瓶を外套の裏のポケットに戻し、一息つく。
「ふぃ〜」
細身とはいえ男のアルバートの体を動かしたりするのは小柄なティータには結構な労働だった。
完全に寝てしまったアルバートの顔を伺う。寝顔は安らかだ。
それだけで苦労の甲斐があったというものだ。彼女はにっこりと笑ってから、コートの下から取り出したリンゴジュースに口を
つけた。
「うまぁ〜」
「・・・ほう・・・今宵はやけに殺気立った人間が多いかと思えば・・・誰か追われているのか」
「誰ねよっ!?」
唐突にかけられた声に、ティータは洞穴の外を振り返る。
そこには剣士風のいでたちをした青年が立っていた。気品すら漂わす端麗な顔立ちに、透き通るような金髪。
彼は冷たさと穏やかさが同居した瞳をティータとアルバートに向けていた。敵意はない。
「・・・その男は・・・」
「ねよ?」
「・・・いや・・・怪我をしているようだな。起こすのも・・・無粋か」
青年の顔に複雑な感情が過ぎる。しばらくアルバートの顔を見つめた後、彼はティータに視線を戻し、
打って変わってさしたる興味もなさそうに訊いた。
「何故追われている?」
「わかんないねよ。あるばーdを連れてきたねよ?したらビョーンて沢山人が来たねよ。んでね、ティータをしまつするっていう
ねよ。したら、あるばーdが守ってくれたねよ」
奇怪な言語の羅列を律儀に最後まで聞き終え、青年は納得した。つまり、身に覚えはないということだ。それで十分だった。
「ティータと言ったか?」
「ねよ」
「我が追っ手を目を逸らす。その隙に結界の外へ出よ」
剣士の青年は背を向け、黒の大剣を抜く。
「待つねよ!ちゃんと自分も名乗るのが礼儀ねよっ」
かなり論点がズレていたが、青年は少しの間を置いてからはっきりと名乗った。
「私は・・・ジョンだ」

「・・・ジョンねぇ・・・世の中には変な奴も居るんだ」
アルバートは少なからず驚いた。実際、例の部隊の気配が森から消えている。ティータの言うジョンという剣士はよほど派手に陽
動をかけたようだ。その剣士の非凡な実力がうかがえる。
「ジョンはイイヒトねよ!」
アルバートの腕に抱えられたティータがにこにこしながら言った。だろうな、と彼は内心呟き、夜が明け始めた森を駆ける。
現実的に考えて、今の状況ではジョンという剣士の生死を案じる余裕はない。
結界の外に出れば『蝶の羽』でテレポート出来る。アルデバランに戻ってしまえばいくらでも逃げる手段はあるのだ。
後のことはそれから考えよう。アルバートは疑問符を打ち消し、足を速めた。
「ぬぇぇぇい!」
怒号。巨大な槍斧が振るわれ、アルバートとティータの眼前の樹を断ち割った。木片と雪が舞う。
その粉塵の向こうに老兵は仁王立ちしていた。アルバートはティータを降ろし、正面から対峙した。
「ベルガモット・・・!」
「アルバートよ、お前、その娘をどうするつもりぞ」
「どうするもこうするも・・・<紅>が総出でこの子を狙う理由は何だ?納得できないな」
「お前が知る必要はない」
「・・・そうかよ。じゃあ・・・勝手にやらせてもらうぜ・・・!」
「うつけ者めが・・・」
雪を蹴り、アルバートはベルガモットの槍斧の間合いまで距離を詰める。その手には既にカタールが握られている。
正面から攻めてアルバートが<紅のベルガモット>に勝てる要素はない。技も経験も力も、彼に比べれば劣る。
それはまだアルバートが彼に師事していた頃から揺るがない、決定的な実力差だ。
(・・・どうする・・・どうすれば・・・)
「お前には何も守れぬ!暗殺者として作られたお前が、何を守るというのだ!」
鋼鉄の槍斧が雪原の大地を深くえぐった。紙一重で避けたアルバートを身をひねり、カタールを一閃させる。
グリムトゥース。『棘』が地を走り、ベルガモットに迫る。凶悪な威力を持つそれらの『棘』を、彼は事も無げに槍斧でなぎ払った。
「そう作った本人がっ!」
「事実であろう!?貴様は・・・貴様はマリーベル一人も守れなかった!」
「!・・・お、俺は・・・」
思わず足を止めたアルバートを槍斧の柄が強かに打ち据えた。後ろのめりに吹き飛び、彼の身体は樹に叩きつけられる。
「そこで大人しく朽ちておれ・・・お前の命までは奪わん」
冷たく吐き捨て、ティータににじり寄るベルガモット。
「悪く思うな。これも役目なのでな・・・」
槍斧の刃が振り上げられる。恐怖にすくむティータにそれを防ぐ術はない。アルバートの脳裏に惨劇が蘇る。
しかし、ティータの華奢な体に槍斧が突き立てられることはなかった。
けたたましい音を立てて半ばからへし折れた槍斧が転がる。それは、ベルガモットもアルバートも、ティータ自身にも予測できない
出来事だった。彼女の意思とは無関係に抜き放たれた剣が異様な気配を放つ。
ティータがそんな剣を隠し持っていた事も気付かなかったアルバートは絶句した。外套の下にも、隠し持つスペースなどなかった筈だ。
「馬鹿なっ!」
狼狽するベルガモット。ティータの持つ異形の剣の切っ先が彼の喉元に向けられる。
ティータの目の色が変わっていた。無感情な赤い眼。人にあらざる者の目だ。
・・・不意に、アルバートは森を覆っていた結界が解けたのを感じた。満身創痍でティータにしがみつき、蝶の羽を握りつぶす。
ベルガモットが我に返った時、既に二人の姿は青白い光の粒子になって消えていた。
「やれやれ、あと少しだったんですけどねぇ・・・思わぬ邪魔が入りましたか・・・それも二つも」
ベルガモットの背後の木陰から、線の細い男ウィザードが姿を現した。目深まで被ったフードで、顔は見えない。
「・・・二つ、とな?」
「ええ、まぁ・・・まさか魔族が人を助けるとは思いませんで・・・くくっ・・・結界を張っていた<白>の隊は全滅しましたよ」
魔術師は陰惨な笑みを浮かべる。さして悔しがってもいないその態度に、ベルガモットは嫌悪感を覚えた。
「何か言いたげですねぇ・・・」
「・・・」
「これで良いのですよ、ベルガモット=スヴェン。あの娘にはまだ利用価値がありそうです・・・」
140('A`)sage :2004/03/18(木) 15:12 ID:MIjHavAE
続きを投下。
なんだか戦ってばっかりですね・・・次はしっとりいきます。

ご意見ご感想、主にネガティブレスポンスをお待ちしております。
141名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/18(木) 17:23 ID:I02PZJsQ
>>('A`)氏
GJ(;゚∀゚)=3フンスフンス
ベルガモットに萌え…いや燃えた!!
もっと彼に出番をくd(うわなにするきさまらやめれー

唯一ツッコむとしたら、
>>紙一重で避けたアルバートを身をひねり、カタールを一閃させる。
>>グリムトゥース。
グリムってハイドしないと使えなかった気がするんですがっ(´∀`;)
142('A`)sage :2004/03/18(木) 20:14 ID:MIjHavAE
>>141さん
ご指摘とご感想、ありがとうございます!

ベルガモットっていうのはシソ科の多年草で、フレーバーティー
なんかの材料になってたりします。
ハッスルするお爺さんとは全く関係がありませんね。や、どうでも
いいんですけど。(なら言わないほうが・・・

グリムトゥースに関しては・・・一瞬でハイドしたんですよ!
ええ、きっと。多分・・・。ミスじゃない・・・です('A`;)ヨクイウヨ

戦闘はノリで書いてるので・・・アサシン経験がない私には難しい
所でもあります。男アサはカッコイイ!ですけどね。
143名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/19(金) 01:19 ID:WGFJhVBs
>>142
お疲れ様、どの話も一つずつ取ればよくできてて楽しめました。
が、同じキャラが出てくる以上読む側は一つの大きな物語を期待してしまいます。
そうして読むと、誰を主役にしたいのか見えてこなくてなんとももどかしく……
大きな構想を持って書き進めてるのかもしれませんが、一旦誰かを主役に据えて
書き切ってしまった方がいいような気もします。
まぁ、読み手の我が侭ですがね。
144名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/19(金) 01:38 ID:XeDuqdvY
タイトルも別物だし、毎回ショートストーリーとして完結してるんだから
SS毎に主人公を変えても全然問題ないと思うけどなぁ。
物語の進行を主軸に据えて多角的な視点で追って行くってのも
こういうSSスレならではの手法で面白いと思う。実際楽しめてるしね。

下水道リレーが大好きだった住民の意見でした。
145('A`)sage :2004/03/19(金) 07:39 ID:xkNcIEXU
ご意見ご感想ありがとうございます!

>>143さん
ご指摘の通り各話にまとまりがないですね。
理由・・・というかこれは私の勝手みたいなものなのですが、
一回ごとにそこでまとまってしまえちゃう話?になってます。
簡単に言うとどこでも終われる感じにわざとしています。
こういった掲示板に出会って私は日が浅いので、どこまで続けていいのやら
よく分からないんです。どかどかーっと書きながら迷ってます。
(単にいつやめろと言われるかビクビクして妙な形になってるというわけです。
主役・・・というか大筋のメインはアルバートとセシルですね。

>>144さん
SSごとに話が完結してるように見えて、実は登場人物が出会った出来事には何か
しろの裏がある・・・とかいう流れで話が進んでいます。(脳内
布石は色々隠してるんですが・・・なんだか災難ばかりですね。(ぇ
メインは上記の通りの二人なんですが、無敵のヒーローじゃありません。
大きい流れに二人だけでは抗えません。そこで沢山仲間が出てくる、という感じ。
むしろ妄想。文章力はありませんが妄想力は発揮してます。(ダメポ
十人十色な話なんですが、これはこれでROっぽいかなぁなんて・・・。

ヴァー('A`;)なにぶん素人なものでまとまりません。激しく駄目っぽいです。
このままやってしまってよいものでしょうか・・・。
ご意見ご感想を切にお待ちしております。乱文、失礼しました。
146('A`)sage :2004/03/19(金) 08:58 ID:xkNcIEXU
『錬金術師の剣 3/3』


「ちゃんとあったねよ!ここで間違いないねよ!どうして!?なんで!?」
ある筈のものがない。
たったそれだけのことで、人のあり方というものは根底から崩れてしまうのなのだろうか。
「分かったから、分かったからもう言うな」
アルバートは何もない空き地を眺めながら・・・泣きじゃくるティータの頭を撫でた。
菓子の詰まったカートは投げ出されたまま、降り積もった雪に悲しく軋んでいた。

「・・・お前の言う場所に孤児院があったのは・・・そうだな、確か十五年前までだったと思う」
青い髪のブラックスミスの青年はアルバートの話を聞き、そう切り出した。
「・・・何?本当なのか、グレイ」
「嘘じゃないぜ。それからそこが取り壊されて、一度も何かが建った事なんてない。ほら、飲めよ」
青年・・・グレイの差し出した珈琲のカップを受け取り、アルバートは暖炉で燃える火をぼんやりと見つめた。
「訳が分からん・・・」
アルデバランに戻ったアルバートとティータはまずティータの孤児院を案じた。
彼女を追う組織の規模を考えれば、真っ先に狙われる危険があったからだ。
最初はティータもようやく帰れる事にご機嫌だった。アルバートも彼女のこれからの事を考えるとどうしても不憫な
思いを抱いたのだが、それを表には出さなかった。
現実には、ティータの案内した場所は何もないただの荒地だったのだが。
アルバートは混乱するティータを連れてアルデバランに住む旧知の鍛冶屋、グレイの店に転がり込んだ。
肝心のティータは疲労もあってか、泣き疲れて奥の部屋で寝てしまっている。
「<紅のベルガモット>が血眼になって狙ってるんだろ?訳が分かんなくて当然さ・・・俺も『あれ』が分からない」
グレイは咥えていた煙草で無造作に置かれたティータの剣を指した。
「あれは普通の剣じゃない。かといって、俺達ブラックスミスが打つような魔力属性を帯びた剣でもない。材質はおろ
か、製作者の銘すら打たれてないんで分からん。お手上げだ」
「へえ・・・武器マニアのグレイが分からない剣なんてあったのか」
「マニアって言うなよ・・・ただ、同じような物を前に文献で見たことがある。ゲフェンのマジシャンギルドだっけか」
「・・・ふむ」
アルバートは思い返していた。異形の剣を手にしたティータの様子は、尋常ではなかった。
もし彼女の追われている理由がその剣にあるとしたら・・・調べてみる必要がある。
「つーか、お前・・・これからどうすんだよ?まさかあの子と一緒に駆け落ちでもするのか?」
「何でそうなる。第一、俺には目的が・・・」
「だったら中途半端に関わるんじゃねぇよ。ベルガモットの爺さんと刃交えてまであの子を守る理由がどこにあるんだ」
あくまで冷静に、グレイは言った。
「こんな事は言いたくないけどな・・・爺さんはお前の親父みたいなもんだろう。あの子か爺さんか、どちらかを取らなき
ゃならない状況になったとして・・・お前、選べるかよ?アルバート」
「グレイ!」
「俺は本気だぜ!だってそうだろう!?マリーベルだってお前についていかなきゃ死ななかった!違うか!?爺さんには
返しきれない借りがあんだろうが、お前は!」
二人の間に緊張が走る。互いに睨みあったまま、しばしの時間が流れ・・・、
カタン、と小さな音がした。
「・・・しまった!」
アルバートは咄嗟に立ち上がり、ティータの寝ている筈の部屋の戸を開ける。
ベッドは空だった。開きっぱなしの窓のカーテンが揺れる。ティータの姿はどこにもない。
(聞かれた・・・くそっ!)
アルバートはティータの外套と剣を抱え、グレイを一瞥してから店を飛び出した。
残されたグレイは煙草の煙をしばし眺めて・・・それから苦い顔で灰皿に煙草をねじり込んだ。

時計塔の下、運河の側にティータは座っていた。アルバートは背後から彼女に外套を羽織らせ、側に腰を下ろす。
奇妙な沈黙の後、口を開いたのはティータだった。
「・・・マリーベルって誰ねよ?」
ひどく沈んだ声色だった。
アルバートは言葉を探し、眼鏡を押し上げてから端的に告げた。
「俺の師匠で・・・親父代わりだった爺さん・・・ティータを襲ったあの騎士・・・ベルガモットの娘だ。半年ほど前に死んだ」
「どうして・・・死んじゃったねよ?」
「ゲフェンで・・・殺された。相手は高位の魔族・・・って、分からないよな。まぁ・・・俺のせいなんだよ」
また、重苦しい沈黙が流れた。
「守れなかったんだ、俺は・・・何一つ。ベルガモットやグレイの言うとおりさ」
それは自嘲そのものだった。ベルガモットやグレイに言われるまでもなく、彼自身何度も自分に浴びせた罵声。
仇であるドッペルゲンガーよりも、無力な自分自身が一番憎かった。逃げ続ける自分が。
暗殺者だった過去を清算する為に膨張を続けるゲフェン地下の魔物を狩り続けた様に、
復讐という使命を自分にかせる事で、事実から、過去から逃げ出していたに過ぎないのだ。それがアルバートの半年だった。
「でも・・・守ってくれたねよ」
はっ、とした。アルバートは顔を上げ、ティータを見た。
アルバートよりずっと目線の低い少女は泣きはらした赤い瞳で笑っていた。強がった、悲しい微笑みだ。
「ティータをちゃんと守ってくれたねよ」
ようやく気付く。本当の意味で誰かの為に戦ったのは・・・生まれて初めてかもしれない。
押し付けられた暗殺者としての生き方ではない、贖罪という建前だけの逃避でもない。彼女を守ったのは、自分の意思だ。
なりゆきや偶然もある。しかし、厳然たる自分の意思である事に違いはない。
それは復讐という逃避よりもずっと価値のあることではないか。
「そうか・・・そう、なんだよな」
「ティータは・・・自分のことが分かんなくなっちゃったけど・・・あるばーdは違うねよ。ちゃんと頑張れるねよ。だから・・・そ
んな悲しい顔しちゃ駄目ねよ」
純粋がゆえの繊細さ。ティータはアルバートが思っていた以上に色々な事に敏感なのだ。
だからこそ、自分の為にアルバートが傷ついたことに耐えられない。
「もういいねよ・・・ティータと居ちゃ駄目ねよ・・・」
耐えられないから、放棄する。生きることも、自分自身も。それは悲しいことだ。
「俺は・・・ティータが追われる理由を知らない。もしかするとベルガモット達が正しいのかもしれない。だけど、守りたい。
どんな理由があったとしても、きっとそれは変わらない・・・俺の意思なんだ」
気付けばアルバートは結論を口にしていた。
或いは、最初から分かっていたことなのかもしれない。
命を奪う悲しみ、奪われた悲しみを知る彼が目の前の死を許容出来るはずなどなかったのだ。
「ティータはどうしたい?」
「・・・ねよ?」
「自分のしたいようにすればいい・・・逃げたって構わないんだ。俺は全力でティータを守るから・・・そう決めたから」
ティータに、というよりも自分自身にアルバートは宣言した。
中途半端に関わるな、とグレイは言っていた。それなら存分に関わってやろうじゃないか。
腹を決めたアルバートに、ティータは目を白黒させてから、おずおずと口を開いた。
「ティータは・・・ティータの事が知りたいねよ。なんでティータが追いかけられるのか・・・何で孤児院がないのか・・・知りたい」
「OK・・・じゃ、決まりだ」
はっきりと自分の意思を述べたティータに、アルバートは不器用なウインクをした。

「行くのか?」
親友、グレイの問いにアルバートは「ああ」とだけ答えた。グレイは暖炉の方を向いたまま、振り返ろうとはしなかった。
「さっきは・・・言い過ぎた。悪かったな」
「いや・・・いいんだ」
紫煙が立ち昇る。グレイは煙草をうまそうに吸い、煙を吐いた。それからようやく、
「今度は、ちゃんと守れよ」
それだけ言った。アルバートは何も言わずに頷き、グレイの店を後にした。
二人にはそれで十分だった。

アルデバランのとある空き地に取り残されたカートがあるという。
朽ちてボロボロになったそのカートは誰にもその中身を見せることがないまま、
もう帰らない誰かを待つように、今もまだ、その場所に残っている―――
147('A`)sage :2004/03/19(金) 09:04 ID:xkNcIEXU
よく分かりませんがここに続き置いときますね。(?

|ω・)つ【駄文】

妄想が暴走しつつあります。危ない危ない。
ご意見ご感想、ネガティブレスポンスをお待ちしております。
148名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/20(土) 23:16 ID:dbxWS/6c
>>145の144氏へのレスの、「無敵のヒーローじゃありません」のくだりにすごく共感。
メインのふたりと行動をともにすることなった(っぽい)バニとティータも素敵です。
もちろんDOP様ことジョンも、ベルガモットの爺さんも、魔術士風の男も。

批評めいたことは苦手なのでネガティブレスポンスではないのですが、
是非ともこのままやってほしいのです。
149('A`)sage :2004/03/21(日) 10:19 ID:niBpT/cE
>>148さん
うわー、嬉しいですねー。勿論、普通の感想も大歓迎ですよ!

ちょっと書きたいことをまとめてみたらdでもない量に・・・。
こんな長いん誰か読むんかなぁ・・・とか思いつつ、ちゃんと書いてます。
ご感想ありがとうございましたっ。頑張ります。
150('A`)sage :2004/03/21(日) 15:56 ID:niBpT/cE
『自動人形の憂鬱 1/3』


グラストヘイム。
かつて神々の居城として存在していたその城は数千年を経て、現在では魔の巣食う廃墟として人々に畏怖されている。
数々の冒険者が挑み散っていったその魔窟の中を進む青年が居た。
黒の大剣を腰に差した金髪の剣士。彼は城内に転がる無数の屍を冷ややかに見やりつつ、溜息をついた。そして呟く。
「掃除くらいしたらどうだ」
『生憎と人形共は出払っておってな・・・人間の戦士も最近力をつけておる。厄介なものだよ』
玉座に肩肘をついて座る老齢の魔族が答えた。山羊の姿を借りたグラストヘイムの主。
「ただ広いだけの廃墟などに住まうからそうなるのだ、バフォメットよ」
『ふふ・・・ゲフェニアの剣には廃墟がよほど肌に合わぬと見える。ここは嫌いか』
闇の向こうの玉座でバフォメットが笑う。馬鹿にした風でもなく、まるで久しく会った旧友に語りかけるかのようだ。
実際には二人に殆ど面識はない。同族である事の仲間意識か、似たような存在であることへの安堵か。
剣士には伺えない事だった。
「我とて好きでゲフェニアを出たわけではない」
剣士・・・ドッペルゲンガーは眉間を押さえ、呻く様に漏らした。
『ほう。相当な目に会うたようだな』
「どこへ行けども人間に狙われるのだ・・・当然であろう」
ドッペルゲンガーの言葉には表面の意味だけではなく色々な意味合いも含まれていたのだが、バフォメットには知る由
もない事だった。ドッペルゲンガーも敢えて説明しようとはしない。説明しても理解されないのだと分かっていた。
バフォメットはしばらくの間を置いてから、本題を切り出した。
『お前を呼んだのは他でもない・・・人間共の間で見られる不穏な動きを伝えておこうと思うてな』
「不穏な動きだと?」
『妙な集団が動きを活発にしておるのだよ。我らの持つ富を得る為でもなく己が武を鍛える為でもなく・・・我らを狩り出
そうとする者達だ。既に何人かの高位魔族が捕われておる』
「捕らわれた・・・?何の為に・・・?」
『それが分からぬから対処できんのだ。或いは、お前を追い立てる者どももその一派やもしれぬな』
ドッペルゲンガーはアルデバラン近郊の森で交戦した騎士の集団を思い出し、歯軋りした。
思い返すだけで憎悪が湧き出てくる。冷淡な魔族としては、あまりない事だ。
『元来我らは共闘する習慣がない。それ故に、このような状況になってもなお危機感を抱く兵はグラストヘイムにはおら
ぬ。よしんば他の高位魔族の協力を得たところで、魔壁が魔界とこの人間界を隔絶する現状では勝ち目が薄い』
「ならば・・・見捨てるか」
『いや、そうは言わぬ。彼奴等はゲフェンに本拠を構えておる・・・行ってはもらえぬか。お前ならば人間とそうそう見分け
がつかぬだろうしな』

要するに密偵になれ、とバフォメットは言ったのだ。同じ立場である仲間に対して、頼んだのだ。頭を下げて。
以前のドッペルゲンガーならば、即座に断っていただろう。しかし彼は断らなかった。
彼はそこでようやく気付き始めていた。人間の少女・・・カタリナとの生活と別れが自分に大きな影響を及ぼした事を。
今の彼は薄々にでもバフォメットという一魔族の心情を察することが出来た。或いは、彼もまた人間に対して特別な思い入
れがあるのかもしれなかった。でなければ同族の仲間を助けるという発想はない。
打算と欲求しかない他の魔族とは何かが違う。グラストヘイムの中を歩き回っていたドッペルゲンガーはそんなことを思っ
た。
目下の問題はゲフェンを探索するにあたり、ドッペルゲンガー一人では街が広すぎるという点だった。
人型の彼が魔力を隠せば感付かれないのは確かだった。それは実践済みだ。しかし、タワーの封印が緩んだ際に負った街
の損害は逆にあのゲフェンという都市を大きくさせていた。復興に合わせての拡張で、とてもではないが彼だけでは回り切
れない広さになっている。元々大きな都市だっただけに、厄介だった。
ふと、思い当たる。今回の件で集団がゲフェンを本拠としているのは偶然だろうか。
魔族を集め何を画策しているにせよ、タワーの封印が緩んだのは人為的な意思が感じられた出来事だ。それこそ出来すぎて
いる。
(一体何をする気なのだ・・・む?)
かつん、と彼のつま先が何かに触れた。また冒険者の屍かとうんざりして見やる。
が、違っていた。一瞬人間の女かと見間違うほど精巧に作られた自動人形だ。紺色のメイドの衣装が焼け焦げ、胴体に大き
な空洞が開いてしまっている。人形は愛らしい目を開いたまま、転がっていた。
「・・・あ」
自分を蹴り飛ばしたドッペルゲンガーに気付き、人形は倒れたまま彼を見上げた。はた、と目が合う。
「な、なんだ・・・こっ・・・壊れたの・・・か?」
彼は思わず後退っていた。生ける者ではありえない光景に面食らっていたのかもしれない。なまじ人間の姿をしているだけ
に、異様だった。これならばまだカーリッツバーグやレイドリックのほうが自然と言える。
「はい!壊れました!」
顔面を引きつらせるドッペルゲンガーに、人形はぱっと花が咲いたような笑顔と無邪気な子供のような返事を返した。
痛覚はないのだろう。彼は多少安堵した。胴体に穴が開く痛みなど、あってはならない。
「そ・・・そうか・・・誰か直せる奴おらんのか?」
「さぁ〜、わかりませぇん。助けを呼ぼうとしても体が動かなくて困ってたんです〜」
ガタ!ガタ!と人形の手足が痙攣した。人間の書物に出てくる怪奇現象よろしく、中途半端に不気味である。
放っておくわけにもいかなかった。少しずつドッペルゲンガーの中で芽生えていた感情が放置を許さない。
それに、人形の目は助けを欲していることを雄弁に語っていた。心なしか潤んで見える。人形なのに。
「わ、わかった・・・我が運ぼう。だからそんな目で見るでない・・・」
「わーい、やったー。助かりましたー」
現金な人形だとか図々しい奴だとか何で我がこんな事を・・・とかドッペルゲンガーは散々口にしたが、人形は全く気にしない
様子で大人しく彼の背に負われた。確かに神経は太いようだった。
「私、アリスです。ご主人様って読んでいいですか?」
「駄目だな。我にはれっきとした名が・・・」
言いかけ、彼はやめた。
以前雪山で追われていた少女の事を思い出したのだ。安否は確認できなかったが、それは一緒に居た『あの男』を信じるしか
ない。一瞬の出会いだったが、妙に気にかかる。不思議な感覚だった。
あの時も気まぐれで力を貸した。自己満足といえばそれまでだったが、これで二度目である。
魔族らしからぬ行動だ。
やはり、自分は変わったのかもしれない。ドッペルゲンガーは遠い日に想いを馳せ、アリスを背負って城内を歩き出した。
「ご主人様〜?れっきとした何なんですか〜?」
「ええい、五月蝿い!私はジョンだ!お前の主人などではない!」
がちゃがちゃとけたたましい音を立てる壊れた人形に向かって怒鳴り、ジョンはほくそ笑む。
やかましい人形だが少しは役に立つだろう。その時の彼はそんな風にしか思っていなかった。
その時は。


その様子を見たグラストヘイム城内の魔物達から後日『ジョン』が笑われたのは言うまでもない。
151('A`)sage :2004/03/21(日) 16:00 ID:niBpT/cE
駄文投下です。
うわっ、また続き物だ・・・とか引かれそうですね・・・。
恐怖に震えます。つまらないとか言われたらやめます、はい。

ご意見ご感想、ネガティブレスポンスをお待ちしております。
152名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/21(日) 21:56 ID:6nZYGQcc
>>('A`)氏
私は文才ないので、キチンとした感想書けませんが
ROに対する熱が冷めてる時に偶然読んだこのスレで
またあの世界を色々と回っていこう、まだROで遊べると
思いました。

DOP萌え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
続き読みたいです(*´д`*)ハァハァ
153名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/21(日) 22:55 ID:z29FQlOQ
>>('A`)様、むしろ('A`)たんと呼ばせてくだs(ボキャ
ジョンキャ─wwヘ√レvv~(゚∀゚≡゚∀゚)─wwヘ√レvv~─!!
ハァハァ、アリスとの絡みが…アファ(´Д`*)
は、鼻血だしてもいいディスカ!!(やめろ腐れ女)
個人的な感想を申しますとジョン様のセリフの印象が随分変わった感じに受け止めました。
これはこれで思春期の少年の感情変化を見ているような気もしてジョン様萌えハァハァ。
ああもう、おねえさんジョンたんって呼んじゃうぞ!!(だからやめろと)

何が言いたいかと言うとGJ(最初に言えと)。
154('A`)sage :2004/03/22(月) 00:10 ID:kAbWxNxo
わ、レスありがとうございます!
レスはやる気の素です。感謝感謝の大感謝です。

>>152さん
文才がないのは私も同じです。妄想とノリで書いちゃってます。(ダメポ
私自身ROに対しての熱はもうそんなにないです。
でもRO自体は変わってません。ログインすればいつでもそこにあります。
こんな稚拙な駄文でも、見えなくなってしまったものに気付ける手助けに
なれば幸いです。続きも頑張ります。ありがとうございましたっ!

>>153さん
mobがPCに出来たら・・・というのがジョンのルーツです。ありがちです
ね。すみません('A`)ダメダネ・・・
アリスとの絡みはGD4Fの情報を見ていて思いつきました。
人型mobの掛け合いは設定が曖昧なだけに難しいところです。
そこは妄想力でカヴァー・・・できるかな(ダメポ
彼らの凸凹なやりとりでほんの少しでも笑ってもらえたら光栄です。

ご意見ご感想、ありがとうございました!
155('A`)sage :2004/03/23(火) 16:02 ID:riZXtUjk
『自動人形の憂鬱 2/3』


『こんなものでしょうな・・・なにせ応急処置ですので無理は禁物ですがの』
髭をたくわえた老紳士は静かに言った。
威厳すら感じさせる立派なマントを羽織ったその魔族は台座に乗せられていたアリスをジョンの前に立たせる。
恐る恐る歩き出したアリスの歩みは見違えるようにしっかりとしたものだった。
「わぁ!直りました!直りましたよご主人様!」
平気だと分かった途端にはしゃぎだすアリスを尻目に、ジョンは老魔族に頭を下げた。
「助かった。オウルバロン、礼を言おう」
『いやいや・・・これ、応急処置だと言うに!動き回るでない!』
古城の中を駆け回るアリスを咎めつつ、彼は皺の寄った顔をほころばせる。
なんと寛容な魔族だろうか。ジョンは感心しながらも彼に問った。
「完全には直らんのか?」
『それは・・・ああ、いや・・・ドッペルゲンガー殿は知らぬのでしたな』
「・・・何のことだ?」
『あの人形は我らが作ったものではありませぬ。私とてどのような原理で動いておるのか完全には分からぬ次第な
のですよ』
オウルバロンは城内を清掃するアリスと同じ姿をした人形を遠い目で見つめる。
何か悟ったような、見透かすような、そんな視線で。
『この城に元々居たものとも言われますがの・・・千年も昔、まだ人間が星を渡る術を持っておった頃に作られたも
のだと聞き及んでおります。今では我ら魔の者を城の主と認め、従っておりますが元は人の手によって作られた
ものなのでしょう』
道理だった。ジョンもオウルバロンも千年を生き、実際に知ってる訳ではない。
しかしアリスが人の形をしている以上、それには理由がある。人の手によって作られたのならば合点がいった。
人間とはそういうものだ。
自らの姿、あり方を基準とし自らの価値観を自然とする、エゴイスティックな生き物だ。
彼らを生んだ神族がそうであるように、彼らもまた自分達の創造物を自らと同じ姿にしたのだろう。
彼女達は掃除を続ける。朽ちて・・・或いは敵対する者刃で破壊され、止まるまで続ける。
千年が過ぎたというのに、まだそれは終わらない。
いや、終わることなどない。本来の城の主が戻ることはないのだから。
彼女達は、棄てられたのだ。
そして彼女達を生んだ人間が、今度は彼女達を破壊しにやってくる。
自らの富の為、使命の為、強さの為?なんでもいい。茶番にもならないことだ。
「・・・不快だな」
ジョンはそう断じた。
『しかし不思議なこともあるものだ。私はあの人形達を長い間見続けて来ましたが、このようなことは初めてです』
「ん?」
『いえね、多くの人形はダメージを受けると機能を停止するのですよ。普通、そうなってしまうと二度と起きるこ
とはありませぬ。しかし、あの人形は・・・』
バロンはまだはしゃぎまわるアリスを見た。ジョンもつられて見やる。
「わはー、体が軽ーい!」
がっちゃがっちゃがっちゃがっちゃ。
「・・・元気に動いているな」
『・・・ですのぅ』
ジョンはしばしの間考えてから、オウルバロンへ向き直った。
「・・・バロン」
『・・・何ですかな?』
「あの人形、少し借りてもよいか?」


魔法都市ゲフェン。土地に秘められた豊富な魔力によって栄えるルーンミドガルツ有数の魔術都市である。
マジシャンギルド、ウィザードギルドもゲフェンにある。魔術師を目指す者には避けて通れぬ街だ。
グラストヘイムから最も近い都市であるということでも知られ、名のある冒険者が古城への足がかりとしても利用する
事で有名である。
・・・という観光用のパンフレットの記述に目を通してから、ジョンは久しくゲフェンの街並みを見回した。
ゲフェンタワーを中心にほぼクレーター状に広がるゲフェンは高低差に富む構造になっている。
ジョンが立っているのはその最も高さのある外周の路地だ。そこからはゲフェン中を一望できた。
(ゲフェニアの真上か・・・改めて帰ると、それなりに感慨深いものだな・・・)
ジョンがゲフェンを出た半年前。
タワーの封印が緩み、ゲフェンの街が燃え、人間のアサシンと刃を交え、
彼の仲間とおぼしきアコライトが予想もつかない行動を取り・・・殺めた。
あのアサシンの憎悪の叫びが、まだ耳に残っている。
その意味を今のジョンは理解していた。彼自身もカタリナを失って思い知ったのだ。
(避けられぬか・・・やはり)
確実にその時は来るだろう。あのアサシンが、ジョンに再び刃を向けるその時が。少なくとも、自分ならば絶対にその
息の根を止めるまで仇を追うだろう。
そして、彼と対峙したとして・・・自分は戦うのだろうか?否、戦えるだろうか?
よしんば彼を返り討ちにしたとて、何が残るだろうか?また遺恨の種をばら撒くのか?
ジョンの脳裏に、森で男と行動をともにしていた少女の顔がまた過ぎる。駄目だ。それは出来ない。
ならどうする・・・?
「ご〜しゅ〜じ〜ん〜さ〜まぁ〜!」
ぶうん、と風を切って何かが飛来した。ジョンは咄嗟に振り向き、受け止める。
ぼふ。衣服の柔らかな感触と奇妙な重み。予想した衝撃よりもずっと軽い。
「・・・アリス?」
ジョンは目を丸くした。腕の中の人形はあの悪趣味なメイド服ではなく、どこか見覚えのあるエプロンドレスを纏ってい
たのだ。宿を取った時までは元の衣装だったのだが・・・。
「その服はどうした」
「オウルバロン様がくれました!私の服は目立ちすぎるそうなので!」
ジョンに抱きついたままアリスはにっこりと笑って言った。というか、叫んだ。
「・・・潟Jプラサービス?・・・ふむ、そういうことか」
腕章の文字を読み上げてから、ジョンは納得した。成る程、人間の作った『会社』という組織の制服だ。
とはいえオウルバロンが何故そんなものを持っているのかは甚だ疑問だったが。
「良い配慮だ。隠密行動というものはそうでなくてはならん」
「ぅわーい!ご主人様に誉められたー!」
実際のところ待ち行くゲフェンの人々は奇声を上げて狂喜するカプラ職員と酷く高慢な態度の剣士の抱擁を怪訝な目で見
ていたのだが、二人がそれに気付くことはない。
「あ!そうだ!ご主人様に頼まれた場所、ちゃんと見て来ましたよ!」
「ほう・・・仕事が早いな。なかなか優秀だ。早速、報告書を見せてもらおう」
「はい!」
ゲフェンに着く前から分担して街の各地区を調査する手筈になっていたのだ。とはいえ、宿を確保して別行動を取ってから
さほど時間は経っていない。意外に使える者なのかもしれない、とジョンは素直に評価した。
ごそごそとせわしなく鞄をあさり、分厚い羊皮紙の束を取り出すアリス。ジョンはそれを受け取り、目を通す。
―――通してから、後悔した。
羊皮紙にはホードがのたくった様な乱筆極まりない文字と、かの有名な抽象画の巨匠が描いたような謎の図形が絶妙なバラ
ンスで共存していたのだ。
率直に言うならば、
「・・・何だコレは?」
理解不能だった。
「地図です!」
「・・・ほう」
ジョンはその出来の悪い絵日記の束を、焼いた。

しゅん、と消沈したアリスを引き連れて歩くジョン。結局日が暮れかけるまでゲフェンの調査は終わらなかった。
夜はさすがに敵の陣中ということもあり、危険だ。目ぼしい成果もないままに初日が終わろうとしている。
(こんなことなら他の者を連れてくるべきだったか・・・今更だがな)
ジョンは内心で呟き、肩を落とした。
茜色に染まった路地に子供達が駆けていく。何か面白いものを見つけたらしく、はしゃぎながら。
何の気なしにジョンは視線を追わせた。その先にはショーウィンドウで飾られた服飾店があった。
「・・・ふむ?」
どうせ宿に帰るだけなのだから、と近寄ってみる。そこでジョンは子供達がはしゃいだ理由を知った。
「これは・・・」
ショーウィンドウの中に飾られた白いドレス。入荷したばかりなのだろう。奥で店の店主が誇らしげに笑っていた。
「わぁ、凄いですねー!」
子供達に混ざってショーウインドウに張り付くアリス。確かに、見事なドレスだった。
細部に渡っての細工は熟達した職人の技を偲ばせる。高価なものだろう。
ただジョンだけはそのドレスを複雑な思いで見つめていた。
古傷が疼く。
しかし、それを表には出さない。出してしまえば・・・何かが崩れるような気がした。
「人形でもやはりそういうものは憧れるか」
だからわざと興味の無い事を口にした。自分をごまかす為だ。それでアリスが答えれば、また「そうか」と適当に頷いて、そこで
流してしまえばいい。そこでこの靄のかかった気持ちも、終わるのだ。
ジョンはアリスの返答を待った。
「よく・・・分かりません」
気が付けば子供達は去り、アリスもジョンに振り返っていた。
夕日に照らされ、憂いを帯びた人形の顔。見透かされた様な不快感を覚え、ジョンは目を逸らした。
「だろうな」
所詮人形は人形だ。人の形をしていても、人と・・・カタリナと同じであるはずが無い。
同じであってはならない。無意識のうちに強くそう思うジョンが居た。
「何で辛そうなお顔をなさるのですか・・・?」
どきり、とした。アリスが初めて自分からジョンに踏み入った瞬間だった。
「・・・お前には分からん」
彼女の視線を振り払うように、ジョンは呻くように呟く。
言ってから気付いた。これでは完全な拒絶だ。すぐに後悔し・・・彼がフォローの言葉を探している内に悲壮な声がかかる。
「私じゃお役に立てませんか?やっぱり、人形だから・・・?」
「違う・・・そういう問題では・・・」
否定のつもりで発した言葉が、墓穴を掘った。
「じゃあ・・・何でですか?」
156('A`)sage :2004/03/23(火) 16:06 ID:riZXtUjk
分からない。
自分でも分からない。どうして『感情』というものに触れる度、うろたえるのか。
薄々気付いてはいたのだ。アリスの中に見え隠れする『感情』に。
何故なのか?それはどうでもいい。問題はアリスがジョンにもたらすなんとも言えない不快感だった。
グラストヘイムで、倒れたアリスを見つけたときもそれに襲われた。
(怖いのか・・・我は・・・)
宿の一室。深夜だというのにジョンの思考は未だにアリスに囚われていた。
ツヴァイハンダーを抱え、うずくまる。
部屋のソファーの上に転がったアリスはもう何時間も微動だにしない。
人形でも夢を見るのだろうか?ジョンはそんな事を思った。
明日、アリスをグラストヘイムへ帰そう。ジョンは密かにそう決めていた。
ゲフェンの探索は困難だったが、一人でも不可能ではない。
そういったことをするにはアリスは向かない。
かかる時間よりもその方が重要な気がした。カタリナの仇と思われる集団も、一人でなんとかするのが筋なのだ。
そこまで考えたとき・・・かすかに空気が動いた。
(・・・思ったよりも早いな・・・)
ジョンは黒の大剣を支えにして立ち上がり、部屋を出た。

夜のゲフェンを望む宿屋の屋根。魔術師と思われるローブの男、そして仮面を被った黒装束の女が向かいの建物の屋根に立ってい
た。なんとも言えない、人間の悪党が好む配置だ。
ジョンは無言でツヴァイハンダーを鞘から抜き放つ。
「くく・・・お一人ですか。奇妙な女が一緒だと聞き及んでおりますが・・・」
男が言う。
「昼間からコソコソと監視していたようだが、汝らが我が同族達を連れ去った者達であろう?」
油断無く黒の大剣を構え、ジョンが問う。男はくぐもった笑い声を上げた。
「くっく!・・・私は末端の魔術師に過ぎませんがね・・・シメオンと申します。以後、お見知りおきを・・・」
「残念だが長い付き合いにはならん。よもやたった二人でこの我を押さえられるとは・・・」
濃厚な魔力が収束する。ゲフェンに入ってから抑制していた魔力をジョンは解放した。
『思うまいな!』
双眸が紅に輝き、宿屋の屋根を瘴気が走る。
「いいでしょう・・・なら・・・試してみますか!?ドッペルゲンガー!」
シメオンの叫びと同時に、ジョンは屋根を蹴って飛翔した。
シメオンの呪文詠唱が始まる。が、ジョンが彼の足場となっている屋根に着地するほうが遥かに早い。
刹那、ファントムマスクの女が動いた。異形の短剣を構え、ジョンの大剣を正面から受け止める。
短剣一本では到底受けきれる一撃ではない。彼女の足元の屋根が激しい音を立てて陥没するも、目にも止まらぬ速さで抜き放った
二本目の短剣がツヴァイハンダーの腹を打ち据える。
(二刀使い!アサシンか・・・!?)
太刀筋の剃れた黒の刃があらぬ場所を裂く。間隙を縫い、女アサシンの繰り出したしなやかな蹴りがジョンを吹き飛ばした。
手錬れというレベルでは説明のつかない動き。華奢な女の力ではない。
宙に放り出されたジョンに、シメオンの放った火炎が襲い掛かる。彼はそれらを大剣で吹き散らし、路地の石畳に着地した。
「さすがに簡単にはいきませんか・・・まぁ、そうでなくては・・・」
シメオンの指が宙に陣を描いた。光芒が溢れ、収束していく。
「足を止めろ・・・行け!」
彼の命を受けて女アサシンが跳んだ。変則的な短剣の切っ先をかいくぐり、ジョンは隙を伺う。
(この女・・・何だ・・・!?)
隙など無い。どころか、避けるのが手一杯だった。今の今までそれほどの腕の人間は見たことが無い。
かといってここで手こずる訳にもいかない。シメオンの術は今も詠唱が続いている。恐らく、相当の威力だろう。
『ちっ・・・!』
ジョンは不意にツヴァイハンダーを地面に突き立てた。一瞬虚を突かれたアサシンはすぐに立て直してジョンへ迫る。
空いた手でジョンは印を結び、開いた闇へ手を差し込む。生まれ出でたのは・・・槍。
耳障りな音が響き、アサシンの頭部が仰け反る。
ジョンの槍の柄が容赦なく確実に直撃していた。仮面が砕け、よろめく。ジョンは槍を持ち直し、その刃をアサシンに突き立て
ようとして―――その手を、止めた。
「まさか・・・そんなはずは・・・」
青い月に照らされる暗殺者の素顔。槍のダメージでさえ何も感じなかったかのように姿勢を持ち直し、短剣を持った両手をだらり
と垂れ下げたその少女は・・・


「・・・カタ・・・リナ・・・」
157('A`)sage :2004/03/23(火) 16:08 ID:riZXtUjk
駄文投下です。

ご意見ご感想、ネガティブレスポンスをお待ちしております。
158名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/23(火) 16:54 ID:MbqMP4yA
>>('A`)さん
はじめの頃と比べると見違えるように読みやすくなりますた。
キャラも魅力的だし、この先の展開も気になる。
結論。イイ。萌えた(*´Д`)
続きがんばってください。
159名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/23(火) 19:55 ID:oyErHLM6
まさか、死霊術っすか!!
それとも…。

('A`)殿
一応、これまではROMってましたが
いてもたってもいられず書きこませていただきました。

もう、引きが何よりも(・∀・)イイ!!
アリスにも萌えたが、何よりもジョンが素晴らしい。

続きも期待しております。
160花のHBsage :2004/03/23(火) 22:21 ID:pdlmnKhs
「ところで……ハンターに転職したんだな。いつ転職したんだ?」

 一気にジョッキを空けてから、ようやくデュオは口を開いた。

 ここは冒険者が集まる酒場。
 5人は、とりあえず街に戻って休憩を取ることにしたのである。
 ワープポータルで一足飛びに首都のプロンテラまで戻り、昼時の食事を取る人々で混んでいるこの酒場に入ったのだ。

「あれ……言わなかったけ? 幻想祭が始まる何日か前に転職したの。ギルド抜けたときだよー」

 知らせたのはルルにだけだったのだが、そんなことはおくびにも出さず素知らぬ顔でイスフィは答えた。

 テーブルの上には、かなりの量の料理と酒が並んでいる。
 肉と極彩色の野菜の盛り合わせに琥珀色のソースがトロリとかかり、熱く焼けた肉の上でプチプチと美味しそうな音を奏でる皿や南国の珍しい果物が並んだ籠、赤い香辛料がたっぷりときいた煮込み料理、遠い天津から取り寄せられた米から作られた酒や、ゲフェン名産のぶどう酒。
 この酒場は首都にあるだけに、食材には困らない。そのために世界中の料理が融合して冒険者の胃を満足させる料理の種類とボリューム、価格になっている。もちろん、冒険者だけではなく一般の人々も来るくらいだから、かなり美味しい。

 もちろん、スレイとイスフィはこの席を辞退しようとしたのだが、ワープポータルを出してくれた女プリーストのシエラに止められて仕方なく同席していた。

「ふーん……? 聞いた覚えはないが……でも、まあ転職おめでとう。しかし、ハンター姿はなかなか……」

 そういいながら、イスフィの肩に手を回そうとしたデュオに剥きかけのリンゴが投げられる。
 反射的に、デュオがそのリンゴを受け止めると、

「おっと、すまん。手が滑ったよ」

 隣りの席に座っているスレイがナイフを持ったまま、申し訳ないと言う顔で詫びた。

 どうして突然スレイがそんな行動を取ったのかわからなくて、イスフィは一瞬面食ったが、恐らく自分を心配して取ってしまった行動なのだろう。

「スレイ……だっけか? ずいぶん豪快な手の滑り方だな」
「だから、謝っているだろう。何か不満でも?」

 投げ返されたリンゴを改めて剥きながら、ふてぶてしくスレイは答える。

「マスター……あんまりそういうことやるとシエラさんに愛想付かされるよ?」

 しれっとした表情で、一番大きな皿の肉料理を頬張りながらのルルの一言に、先程までの自信過剰気味な姿はどこに消えたのか、一転してシエラに必死に謝るデュオの姿はとても滑稽だった。

 イスフィは、軽いため息をついてから微笑む。

「ほんと……愛してるのねえ……」
「まあな。泣き虫で弱いからな……守ってやりたくなるんだよ」

 イスフィがデュオの前で泣いたのは、一度きり。別れ話をされたあの時だけだ。
 それまでも、その後もイスフィはいつも笑っていた。
161花のHBsage :2004/03/23(火) 22:22 ID:pdlmnKhs
 『お前ってさ、太陽みたいにいつも強くて明るくて……元気だよな』

 その言葉が嬉しくて、どんなつらい時も、悲しいときも、たとえ困ったことがあってもデュオには頼らなかった。
 強い自分……明るい自分でいたかったから。

「強いお前と違ってさ、繊細で壊れちまいそうなガラス細工みたいなんだよ」

 真っ赤になって恥ずかしがっているシエラを愛しそうに抱きしめて、デュオは笑いながらそう言った。

 イスフィにとって、その言葉はひどく自分が惨めに感じた。

 シエラの銀色のまるで月の光のような美しい長い髪と、宝石のサファイアのような深く青い瞳。
 日の光など浴びたことがないような白く透き通った肌と美人と形容するのに値する整った顔立ち。
 たしかに、ガラス細工と呼ぶにふさわしい外見をしている。
 それに対して自分は、毎日の狩と鍛錬で日に焼け、モンスターたちとの戦いで傷つき痕が残り、お世辞にもきれいな髪と肌とは言えない。
 もちろん年頃の娘らしく、手入れは欠かさないのだがそれでも限界があるのだ。

 顔は笑っていても、心は傷つく。
 それでも、強い自分でいたかったからそうしていた。
 だからといって、それをわかって欲しいわけじゃないけれど……。

 変だと思わなかったのだろうか。

 私には悲しいことも悩みもないと思っているのだろうか。
 私は、何をされても傷つかないと思っているのだろうか。

 涙を我慢するようにイスフィはテーブルの下で右手を握り締めた。

「……あまり強く握ると弓が持てなくなるぞ」

 ささやきとともに、手の上にそっとスレイの大きな手がかぶさった。

「あ……」

 イスフィの右手はあまりに強く握り締めたせいで、爪がてのひらに突き立てられて血がにじんでいる。

「えと……ちょっとWisきたから……少し外で話してくるねっ」

 咄嗟にスレイの手を払うと、笑顔で席を離れて店の外に出た。
 そのまま、店の裏手に回り、しゃがみ込んだ。
 両足を抱えて、まるでマジシャンが座り込むようにその場に座ると自然と涙が出てきた。

 私は……私は……

 私は……あんな馬鹿な男が好きだったのだろうか。

 悔しさに、イスフィは涙が止まらなかった。
162花のHBsage :2004/03/23(火) 22:23 ID:pdlmnKhs
 しばらく、そうやって泣いていると

「……となり、座ってもいいですか?」

 慌てて涙を拭いて顔を上げると、シエラがそこに立っていた。

「あ……うん……どうぞっ」
「ありがとうございます」

 イスフィが少し移動してずれると、シエラは隣に座り込んだ。

「えと……ごめんなさいね」
「え、何が?」
「デュオのこと……」
「んー……気にしないで」

 気にしないでと言われて、気にしない人間は少ないものなのだがそれ以外にイスフィには言いようがなかった。
 シエラに視線を向けると、彼女はこちらを見つめていた。
 その眼差しは、悲しみと懐かしさが入り混じった複雑なものだった。

「えと、スレイ……じゃない、スレイフォードさんとは恋人同士なんですか?」
「ううん、違う。ちょっと成り行きでお世話になってるだけ」
「そう……」
「ねえ。そんなことを聞くってことは……シエラさん、スレイさんの知り合い?」
「えっ……あ…はい……ちょっと」

 言いにくそうに、シエラは顔を伏せた。

「知り合いなら……シェナって言う人知ってる?」

 途端にシエラの顔色が変わった。
 そしてイスフィは、疑問が確信に変わる。

「シエラさん、もしかして……シェナさん?」
「いえ。違いますよ」
「嘘つかないで。あなた、シェナさんでしょう? おかしいものさっきから」

 つい声を荒げて、イスフィは叫んだ。

「…………私は……シェナだった者です」

 ゆっくりと、シエラは重い口を開いた。

 『元』の自分は、スレイの相方であり恋人だったこと。
 婚約もしていたこと。
 そして。
 結婚式の当日……有りもしない罪でこの世界を司る御使いにより殺されたこと。

「覚えていますか? 御使いによる討伐を。あの討伐の影に冤罪がたくさんあったのです」

 御使いたちが世界を巡り、BOTや世界の理を悪用する者たちを盛大に殺した時期があった。
 それにシエラ、いやシェナは巻き込まれたのだ。
 きちんと調べもせずに、討伐を行った御使いたち。
 それはその後もこの世界の汚点としても記録されている。
 その影に大勢の冤罪による犠牲者がいたことと共に。

「その後しばらく、魂のままで御使いたちと何度も話しました。でも、聞き入れてはもらえませんでした」

 御使いが冤罪を認めては、世界の秩序が乱れるからだという。
 もとより……御使いがその使命を全うしなかった事が原因であるのにもかかわらず……。
163花のHBsage :2004/03/23(火) 22:24 ID:pdlmnKhs
「それでも私はこの世界にもう一度戻りたくて……新しいカラダを得て、ここに戻ってきました」

 外見も年齢も名前も全く違う自分。
 果たして、こんな自分を受け入れてくれるのだろうか?

「戻ってきて一番最初にしたこと。それは……スレイにWisしました。毎日のように。でも……スレイの耳に届くことはありませんでした」

 当時の状況を省みれば、仕方がないことかもしれない。
 この世界の人間は名前さえ知っていれば、Wisという念話手段を普通に持っているのだが、当時はその力が何故か作用しないために話ができなかったのである。

「一人ぼっちで、アコライトになった後もどうしていいかわからなかったときに、デュオに会いました。とても優しくて……」

 そうやって話をするシエラの言葉をイスフィは黙って聞いた。
 シエラに言いたいことは、とてもたくさんある。
 しかし、それを言って相手を傷つけるほどイスフィも子供ではない。
 それゆえに、何も言うことができずにただ黙って聞くしかなかったのだ。

「ねえ……シエラさん、今でもスレイが……好き?」

 何とかつむぎだした言葉がそれだったことにイスフィは自分でも驚いた。

「好きと言えば好き……です。でも、今はデュオを愛しています」
「それは、裏切りなんじゃないの?」
「デュオには昔の私のことは話していませんけど……裏切っているつもりは、無いです」
「デュオに対してじゃない。スレイに対してだよ!」

 そして、再度声を荒げてしまった自分に、またイスフィは驚きながらも言葉を続ける。

「スレイがどれだけあなたを愛していたか……どんなに辛かったか……あなたはわかるの? 突然消えられて理由もわからない……過去にだってしばられてしまう……せめて自分の口から、スレイにその話をしてあげて」
「申し訳ないけれど……それだけはできません」
「どうして?」
「今の幸せが私には一番大切なんです。それを壊してしまうかもしれないことなんてできません」
「それって……自分勝手すぎない……?」
「自分勝手? そうでしょうか。私は理不尽に御使いに殺されたんですよ? これ以上ない悲しみを味わったんですよ? これくらいはいいと思うのですけれど」
「それは、確かに同情する……けどっ……」

 静かな笑みを相変わらず浮かべたまま、シエラはイスフィを見つめる。

「イスフィールさん、どうしてそこまでスレイのことを気にするんですか? 世話になっているとはいえ……そこまで気にすることはないと思いますけれど」
「それは……」

 イスフィも自分の行動に戸惑っていた。
 なぜ、ここまでスレイを心配するのか、自分でもわからなかった。

「まるで、スレイが好きだからあの人の心痛を和らげてあげたいと思っての行動に見えます」
「……そんなことは……」
「まあ、私には関係ないですけれど。さて……この話は、ここだけのことにしてくださいね。そろそろ戻らなくては」

 シエラは、ゆっくりと立ち上がると法衣の裾を正した。

「……約束はできないよ」

 そのシエラを見上げてイスフィは静かに言った。

「そうですか……もっとも、あなたの言葉と私の言葉……周囲がどちらを信用するか、明白ですけどね」

 シエラのその優しい外見が、逆に言葉の冷ややかさを余計に感じさせた。
 確かに、どちらに重きを置くかわかりきっている。
 下手すれば、恋人を取られた女のただの嫉妬から言った言葉だと取られるだろう。
164花のHBsage :2004/03/23(火) 22:25 ID:pdlmnKhs
「では……失礼しますね」

 にっこりと天使のような微笑を浮かべて、シエラは戻っていった。

「……性格最悪……」

 思わずイスフィはつぶやいた。
 確かに、その容姿こそ天使のように華奢でかよわく美しいけれど、その性格は……
 そして、彼女を華奢でかよわいと思っているデュオが少しピエロに思えた。
 その人物の一部分しか見ていないから、本質を見抜けないのだろう。

「……あいつがあんな性格だとはな……」
「!?」

 スレイが、クローキングをといてイスフィのすぐ隣に現れた。

「あ……い、いつからいたんですかっ?!」
「えーと。『成り行きでお世話になってるだけ』の辺りからかな」
「それ……ほとんど全部じゃないですかっ」
「立ち聞きするつもりはなかったんだけど。仕方ないだろ?」

 隣に座りこむとタバコを取り出して、火をつける。

 泣いてるのではないかと心配して、スレイはここに来たのだという。
 しかし、すでに先客(シエラ)がいて咄嗟にハイディング→クローキングしてしまったのだ。

「で。全部聞いてしまったと」
「ところが、実はほとんどショック受けてないんだな。これが」
「……え?」
「んー……まあ、自分でも不思議なんだが。これで肩の荷が下りたような……そんな気分なんだよ」

 そう言ってスレイはゆるく煙を吐き出して、タバコの灰を落とした。

「……今日で最後だな。行ける所には全部行こう。悔いが無いように」
「ん? もちろん、そのつもりですよー」
「あはは、そうだな。さて、ルルが待ってるから行くとするか?」
「はいっ」

 日差しは強く、今日は午後も暑くなりそうだった。
165花のHBsage :2004/03/23(火) 22:26 ID:pdlmnKhs
**********************************************************************

「明日は、またいつもの一日が始まるんだねえ」

 ルルは感慨深く、つぶやいた。
 日もすっかり暮れ、幻想祭ももうすぐ終わり。明日からまた普段の一日が始まるのだ。

「明日になれば、またマーちゃん。このBS姿ともお別れかあ」
「平原胸を隠せるから、商人姿のがいいと思うぞ」
「ムカーッッ スレンダーなのっ。もーうるさいよ、セクハラアサシンっ」
「あは……。もー、いい加減にしなよ二人ともー」

 本日何度目かのケンカ?かわからない会話を繰り返し、ようやくルルは帰って行った。
「またいつもの一日が始まる……か」

 ただ違うのは……新世界に行く者達がこの世界から消えるということだけ。
 ルルには結局最後まで自分が移住することを伝えられなかった。

「ごめんね……ルル……」
「ちゃんと俺から言っておくから……そんな悲しそうな顔するなって」

 ここ数日はスレイの家に戻っても、疲れきっていたためにシャワーを浴びるとすぐに寝てしまうという生活だったのだが、最後の日とあって夕食後に二人は食卓を挟んで座り、別れの杯ではないが、スレイ秘蔵のワインを飲んでいた。

「はい……」
「結局、最後まで敬語抜けなかったなあ……ですます調は最後くらいは勘弁してくれ」
「んー、抜けないんだから、仕方ないじゃないですかー」

 少し酔って赤い顔で、イスフィは笑った。

「ほほう。あの女と話してた時は、俺のこと呼び捨てにしてたのになー?」
「あぅ……あの時はあの時で……気にしないっ」
「あはは、そういう威勢のいいあんたのが良いよ」
「ム……私が大人しくちゃだめだって言うんですか?」
「違う違う、太陽みたいに明るくて元気なほうが、イスフィらしいって言いたかったんだよ」

 その一言に、イスフィは凍りついた。
 デュオがいつも自分に言っていた言葉と、ほぼ同じセリフだったから。

「……私らしいって何?」
「いや……」
「太陽みたいって……私はいつも明るくて元気じゃなくちゃいけないの? 落ち込んだり、泣いたりしちゃいけないの?」

 一気にまくし立てて、わっとイスフィは泣き出した。

「……わるかった。でも、俺は笑顔のあんたが好きだ」
「同情からの言葉なんて要らないっ」
「本気だよ。5日間一緒にいて……これからもずっと一緒にいたいと思った」
166花のHBsage :2004/03/23(火) 22:27 ID:pdlmnKhs
「うそを言わな……っ」

 スレイはイスフィを引き寄せ、そして口付けて言葉をふさいだ。
 イスフィはいきなりのことで困惑する。

「昼間言っただろ? ショック受けてないって。あれは、お前のことが好きになっていたから、もう過去のことになっていたんだな……きっと」
「……最後の最後で……ずるい……」
「お前は……明日にはいない。なら、気持ちを告げられるのは今日しかないだろう?」
「ばかぁっっ」
「馬鹿でいいさ。バカなりに考えたんだからな」

 泣きじゃくるイスフィを抱きしめて、スレイは笑った。
 テーブルの上で、ワインの瓶とグラスが倒れて大変なことになっているのだが、そんなことは今はどうでも良かった。

「もっと早くスレイに会いたかった。そしたら、きっと移住手続きなんてしなかった……私だって……」
「……それ以上は言わないでくれ。あんたのこと離せなくなるから」
「離さなくてもいいから……私も……スレイが好きだから」

 どちらからともなく、二人は口付けを交わした。


「……手続きをされた方は、お早くお進みください!!」

 御使いたちが、新世界への最終ゲートを開けた。
 このゲートが閉まると同時に幻想祭は終了する。
 ゲートが開くのを待っていた人々が、次々とその中に入っていく。
 別の御使いが周囲に人がいなくなったのを確認すると

「もう手続きされた方はいませんね? ゲートを閉じます」

 ゲートを封鎖する手続きに入った。

「まってー!」

 ハンターの少女が、荷物を抱えてその場に走りこんできた。

「……2分の遅刻です」

 懐中時計で時間を確認して、御使いがつぶやいた。
167花のHBsage :2004/03/23(火) 22:27 ID:pdlmnKhs
「……えーと……イスフィールさんですね? 手続きは済んでいますね、最終便ですから、急いで」
「ありがとう。ごめんなさい、遅くなってしまって」

 息を弾ませて、イスフィはゲートの中に入った。

「おや? この手続きの時にあった装備が一つ足りませんが」
「あ……えーと、気にしない方向で! 一つくらいいいでしょ?」
「それは困りますが……」
「ほら、もう時間ですし」

 手元の時計を見せて、イスフィは御使いをしぶしぶながら納得させた。

「まあいいでしょう……では、ゲートを閉じます」

 高らかに、御使いが宣言して……幻想祭は終了した……


『さようなら……あなたのことは一生忘れない。この世界が楽しいものだったと思い出させてくれて本当にありがとう……』


『ただ一度でも……あなたのことを愛せてよかった』


 幻想祭も過ぎ……本来ならばありえないはずなのだが、スレイの手元にはイスフィのものであったはずの花のヘアバンドがあった。
 自分では、絶対に装備しないし価値としても大して高いものでもない。
 しかし、倉庫に入れておくのも忍びなく……スレイは今でも、持ち歩いている。


 たとえ、夢幻のひとときでも彼女がここにいた証なのだから。
168花のHBsage :2004/03/23(火) 22:34 ID:pdlmnKhs
木陰から、やっとこんばんは。

9ヶ月という長い時間おつきあいくださいまして、ありがとうございました。
以上で、花のHB終了とさせていただきます。

ややアンハッピー?エンドですが、当初の予定でもラストは別々の世界で生きる予定でしたので。
とはいえ、実は書いてる途中で蛇足的なハッピーエンドの方のラストがもう少しあったのですが
そっちを……読みたい人いるのだろうか_| ̄|○||

ずっと読んでくださった方ありがとう。
色々と環境が変わっていますが、今後も何かしか書きたいと思います。

それでは、また次のお話で。
___ __________________________________________________
|/
||・・)ノシ
169名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/24(水) 00:37 ID:aCrmU9pI
>>花のHB様
初めのほうから読ませてもらってますが、もう9ヶ月も経つんですか(´・ω・`)
もうね、最高です(*゚∀゚)=3
最後離れ離れになってしまったのはちょっと悲しいですが・゚・(ノ∀`)・゚・。
自分的にはハッピーエンドを期待していました(笑
なので、ハッピーエンドのほうも是非読みたいです。
また次の機会に投下してくれるとありがたいです。

では最後に・・・・9ヶ月分のGJ!!!!!1( ,_ノ`)b
170122sage :2004/03/24(水) 01:33 ID:WVV.OGAs
 女は大きく息を吐くと、ゆっくりと構えた。
 彼女―モンクは、目の前の敵をにらみつける。
 オークロード。西オーク村を統治するオークの親玉である。
 膨れ上がった筋肉から繰り出される一撃は、並みの冒険者なら一撃で沈むほどの威力だ。
 勝負は一瞬。刹那の攻防で決まる。
 互いに距離をとり、じわじわと近づく。
 一歩、二歩・・・・・・。
 三歩目を踏み出そうとした時、動いたのはオークロードだった。
 距離を一気に詰めると、右腕を振り上げ、打ち下ろす。
 ギリギリまでひきつけてからモンクはその一撃を横っ飛びでかわす。彼女がいた場所には大きな穴。
(直撃したら・・・・・・おかずのハンバーグが出来上がるわね)
 真剣勝負には似つかわしくないことを考えながら、彼女はすばやい動きでオークロードのわき腹に拳を叩き込む。
 が、その筋肉の壁に阻まれて、ダメージを与えることが出来ない。
(敵ながら随分と鍛えてる・・・・・・。ま、こんな人間の男はタイプじゃないけどね)
 左腕が伸びてくる前に離脱し、モンクはしばし考える。
(しょーがないわね・・・・・・。いちかばちか、一気に決めるしかなさそう・・・・・・)
 深く息を吸い込むと、丹田から気の流れを感じることに専念し始める。
 ゆっくりと、ゆっくりと気を練りこみ、自らの周囲に放つ。
 が、相手も待ってはくれない。オークロードは今がチャンスとばかりにショルダータックルの体勢で突っ込んできた。
「はぁっ!!!」
 オークロードの体が彼女に当たると思われた瞬間、気を放つ。気は硬い筋肉を貫通し、内部へと衝撃を伝える。
 発頚。オークロードの動きが止まった。
「受けよ・・・・・・わがすべての力を・・・・・・」
 今まで蓄積されていたすべての気を放ち、一点に集中させる。気の本流が一般人にも見えるほど凄まじい。
「阿修羅・・・・・・覇凰拳!!!」


 光が収まった後、倒れているオークロードの姿があった。
「ふぅ・・・・・・倒れてくれた、か」
 息を整えると、モンクは立ち去った。
「しつこい男は、好みじゃないのよ」
 そう一言つぶやいて。
171('A`)sage :2004/03/24(水) 07:23 ID:Yej/BQAY
早起きして頑張ってました。('A`)ネムイー
ご感想のレスありがとうございます!

>>158さん
進歩あるのかなぁ・・・とドキドキしながら最初の頃の文章と比べて見たりしました
が・・・自分じゃあまり分かりませんでした('A`)ダメッポ
全然まだまだな奴ですがほんの少しでも巧くなってたりしたら皆様のお陰かと思い
ます。皆様の意見指摘はとても刺激になります。
ありがとうございます!

>>159さん
ジョンは災難続きですね。やや安直な展開ですが・・・('A`;)ジカクアルノネ
ROMって何でしょうか・・・不勉強です・・・('A`;)ダメダメポ
ご感想ありがとうございます。ジョンも頑張ります(?

>>花のHBさん
長きに渡ってご苦労様でした。あ、あれ?目から汗が・・・
切ないラヴストーリーですね・・・細かな心理描写がもうなんというか・・・さすがの一言
につきます。私のような若輩者にはとても真似出来ません。
次も頑張ってください。影ながら応援させていただきます。

>>170さん
こんな戦闘シーンが私も書けたらなぁ・・・とか思ってしまいました。
スキルに迫力があります・・・凄いです。
モンクを書く人が多いように思われますが、やはり魅力的な職業なんでしょうね。


他の方々の文章を拝見すると触発されますね。
ガンバルゾー('A`)デモコノカオスキ・・・
172('A`)sage :2004/03/24(水) 13:11 ID:Yej/BQAY
「あれ?ジョン、どこか行くの?」
「あぁ・・・いや・・・食料・・・そう、食料を買出しに行くのだ」
「まだ沢山あるじゃない。それに雪だって降り出してるし・・・」
「どうしても食べたいものがあるのだ。うむ。それを手に入れる為にはブリザードも厭わん覚悟だ」
「ふぅ・・・変なジョン。ま、いーんだけどさ・・・」
「うむ。そういうわけだ。料理でも作って待っていてくれ、カタリナ」
「・・・んー、わかった。待ってる」
「うむ。では行ってくる」

「・・・いってらっしゃい」


『自動人形の憂鬱 3/3』


考えるよりも先に体が動いていた。
シメオンの放った雷球が咄嗟にカタリナを庇ったジョンの背中に突き刺さる。
生きた蛇の様に雷が跳ね回り、彼を灼く。それだけには留まらず、衝撃で近くの壁に叩きつけられた。
風の大魔法ユピテルサンダー。
人間ならば、死んでいた。
「ぐ・・・あっ・・・」
「くく・・・私が何の手札もなしに貴方を相手にするとでも思っていたのですかねぇ・・・」
ゆっくりと浮遊して『カタリナ』の後ろに立つシメオン。どこか誇らしげに笑い、目を細める。
「この娘は倒せない。貴方には無理だ。だってそうでしょう?半年の間、ずーっと一緒に居て情が移ってしまったんだから・・・その
間、常に私達の監視があったのにも気付かないほどにねぇ・・・」
「な・・・に・・・!?」
「・・・後は適当に騎士団をけしかけ、この娘を襲わせて・・・割と手間でしたが・・・その分強力なカードに仕上がりました」
「やはり・・・貴・・・様らがぁっ!」
倒れこんだまま、ジョンは掌から氷塊を放った。シメオンの頭を狙ったその一撃でさえ『カタリナ』は顔色一つ変えず素手で叩き落と
す。小さな白い手がピキピキと音を立てて凍てついた。
「お分かりでしょうが、この娘は生きてはいません。だから痛みも無い。意思も、恐怖もね」
シメオンはやけに熱く語った。場にそぐわぬ程、それこそ自説を語る学者のように。
「錬金術にある生命論理を正しく理解し、魔術で応用すればこのようなことも出来るのです。確かに生きてはいないが死んでもいない
。生ける屍といったところでしょうか?」
まるで悪夢だ。よろめきながらも立ち上がり、ジョンは毒づいた。
ユピテルサンダーによって与えられたダメージは大きかった。もう満足に魔力を行使することすらままならない。
「さて・・・どうしますか?この娘に殺されるか、私に殺されるか・・・どちらも結果は同じですが」
「成る程・・・確かに汝は・・・末端の小物・・・だな」
シメオンのフードの奥の目が鋭くなる。笑みが消えた。
「・・・何故です?」
「他者の力を・・・頼るようでは、そこまでの男だ」
ジョンは断言した。何かが外れたシメオンは一転して声を荒げる。
「コレは道具です!私の武器であり盾だ!私の力だ!こんな木偶!」
不意に『カタリナ』の髪を鷲掴みにして怒鳴る。それでもやはり『カタリナ』は無表情のまま、虚空を見つめていた。
(・・・なんということを・・・)
憎しみと悲しみがジョンを支配する。今すぐにでもシメオンを八つ裂きにしたい程の、憎悪。
しかし『カタリナ』はシメオンを守るだろう。彼女を傷付けずにシメオンを倒すのは・・・不可能だ。
なまじ手を加えられて動いているのであろう『カタリナ』の戦闘能力が、厄介なのだ。
「どのみち貴方はコレに抵抗出来ずにここで滅びる!小物呼ばわりした相手の実力を味わってから、ですがね!」
シメオンの指が動く。再び宙に印を描き、足元に光の魔法陣を完成させた。
「行け!奴を八つ裂きにしろ!」
カタリナが命を受けて動く。ジョンはシメオンの始めた詠唱を聞いて戦慄した。
「メテオストームだと・・・!?ゲフェンを焦土にするつもりか!?」
「私を小物呼ばわりした報いです!焼き尽くして差し上げましょう!」
詠唱の光の向こうで、男は狂気の声を上げた。
「屑めが!何人死ぬと思っている!」
「かつてゲフェンを焼いた貴方に、それを言われる道理はありませんね!ドッペルゲンガー!」
勿論『カタリナ』も巻き添えにするつもりなのだろう。どこまでも、外道。ジョンは歯噛みしながらも、迫る『カタリナ』の刃を槍で捌く。
ランスの柄と異形の刃が火花を散らし合う。
『カタリナ』の動きは先ほどよりも鈍くなっていた。痛覚はなくともダメージは蓄積しているのだろう。
第一、肉体の限界を超えた運動がそんなに長く続くものではない。隙はあった。それでも、やはりジョンは『カタリナ』にランスを突き
刺す事が・・・出来ない。
「カタリナ・・・」
時間が無かった。シメオンの術は完成しつつある。
『カタリナ』とゲフェンを天秤にかけても・・・いや、最初からジョンには彼女しか目に入っていなかった。
いっそこのまま、彼女と一緒に消えてしまえるならそれも悪くないのかもしれない。そんな考えさえ生まれた。
シメオンの詠唱が終わる。ジョンは疲弊した『カタリナ』を不意を突く格好で掴む。
心なしか、『カタリナ』の力が緩んだ気がした。
シメオンが狂気じみた呪文を唱え、その力を解放し―――
173('A`)sage :2004/03/24(水) 13:11 ID:Yej/BQAY
バコォン!
「ぶげがぇぁっ!?」
予想した術の衝撃も熱もなく、強烈な打撃音が夜のゲフェンに響き渡る。シメオンは唐突に現れた『カプラ職員』のデッキブラシによって
殴り飛ばされ、石畳の上を転がった。
青い月の下に職員制服のエプロンドレスが躍る。取り回しやすいと見られる木のデッキブラシを肩に担ぎ、颯爽と現れた彼女は・・・
「・・・ア、アリス・・・!?」
『マスター、後退を要請します。魔力を感知した人間が周囲300mに15人、およそ3分でここの包囲を完了します』
夜風に長く蒼い髪を揺らす人形は冷淡な声で告げた。面食らったジョンは動けず・・・いつのまにか起き上がったシメオンが呪文詠唱を始めて
ようやく我に返る。
「じ、自動人形風情が・・・砕けろ!」
アリスの足元の石畳の下から大地が隆起し鋭い岩石が突出する。地の魔法、ヘブンズドライブだ。
彼女は隆起した岩の塊を軽やかに横に跳んで避け、続けざまにシメオンが放った雷撃をデッキブラシで弾き散らす。
『マスター、再度、要求します。後退を』
「・・・しかし!」
『論理的判断を要求します。その人間だった者は既に自我を失っており、保護は不可能です』
淡々と告げ、シメオンの魔法を次々と防いでいくアリス。そこには快活で間抜けな人形は居なかった。
機械、そのもの。それも、戦いのためだけの・・・兵器だ。
「く・・・来い!あの人形を止めろ!」
ジョンの手の中で、シメオンの声を聞いたカタリナが駆け出そうとした。しかしジョンはしっかりと掴み、離さない。
「行かせるものか・・・!」
アリスの言うことは正しい。正しすぎて反論も出来ない。だが、せめて・・・せめて。
『マスター、時間がありません』
「私の前をちょろちょろするなぁぁ!人形がぁぁ!!」
火球を生み出し、アリスへ放るシメオン。アリスは手近な壁を蹴って宙を舞う。驚異的な運動能力だった。
そのまま呆然とするシメオンの直上を通りざまにデッキブラシで一撃する。
「うがぁっ!・・・ぐっ・・・何をしている!早く来い!」
再び、カタリナの身体に力が入る。傷付いたジョンにはその動きをもう止めることが出来なかった。
振り払われ、彼は石畳の上に転がった。掌に握り締めていた何かが、転がる。渡せなかった小さな金属の・・・輪。
『マスター!』
カタリナが闇を裂いて疾駆する。迫るカタリナをアリスは睨み付けた。
『・・・機械でもない、人間でもない、魔族でもない・・・貴女は・・・哀しく不自然な存在です』
アリスの無機質な<眼>にはカタリナの体内に無数に取り付けられた魔術的な装置が<視えた>。偽りの生を演じ、朽ち果てる事を許さぬ装
置が。はっきりと。なんと醜いことか。
『・・・終わらせて差し上げます』
無言で短剣を閃かせるカタリナの脇に潜り込み、彼女はデッキブラシから手を離した。
針に糸を通す様な正確さで手刀が繰り出される。その手はカタリナの血の通わない胴体を貫き、確実に内部機構を破壊した。
ぐらり、と『壊れた』カタリナが崩れ落ちる。アリスは手を引き抜き、シメオンを見た。
彼はまだ魔法を詠唱しようとしていた。虎の子のカタリナを失ってさえ、勝てると思っているのだろうか。
『抵抗は・・・無意味です』
アリスの投擲したデッキブラシがシメオンの身体に直撃した。


どれだけの時間が過ぎたのかジョンには分からなかった。ただ、気だるい。
長い長い悪夢の後ような感覚を噛み締め、彼は上半身を起こそうとした。しかし、優しく押し返され、また倒れこむ。
「寝ててください。今はまだ危険ですから」
気付けばすぐ上にアリスの顔があった。そして、先ほどまでの事が夢でないと知った。
「・・・そう、か」
アリスの膝の上だろうか?今のジョンにはそれもどうでもいいことだった。
星空が見えた。どこか屋外らしい。
「お一人で何処へ行かれたのかと・・・心配しました」
「・・・すまん」
「刺客を一手に引き受けるご主人様も素敵ですが、ムリはダメですよ」
「・・・すまん」
本当に優しく諭すように言うアリスの言葉に、ジョンは謝りながらもまた目を逸らした。
脳裏にカタリナの変わり果てた姿が蘇る。かつて生きることの意味を問った少女は・・・死ぬことも許されず、もう、人間でなくなってしまった。
「・・・カタリナは?」
「破壊しました。そうするしか、彼女を救う術はありませんでした」
今度は半ば機械的に言った。
「でも、きっと修理されます。そうやって直せなくなるまで使われるのが・・・人形の定めだからです」
まるで自分の事のように言う。
「・・・アリス・・・私を恨んでいるのか?」
「いいえ。私はご主人様に仕える事が出来て幸せです。私は作られたときから人形です。それ以上のものを望みませんし、望みたいとも思いま
せん。だから使われ続けることが私にとっての幸せなんです」
まるで決め付けるような言い方だ。ジョンは込み上げる怒りのような何かを感じた。
分かっている。その正体が何なのか。
ジョンにとって、いや、元々アリスは人形らしくない。それでも彼女を人形としてしか見ない自分や、彼女自身に憤りを感じるのだ。
カタリナに惹かれた自分も魔族だったばかりに悲劇を招いた。もしも人間に生まれていたなら・・・などと考えたこともあった。
その時点で、ジョンはもう魔族とは言えなくなっていた。
ジョンとアリスは似ていたのかもしれない。悠久の時を生きて、生きて、生き続ける。時折自分の生について疑問を抱きながらも。
アリスは人形として使用されることに生を見出している。その違いだけだ。受容するだけには違いない。
要はそれを認め今までのように生きていくか、それとも運命に抗うのか・・・どちらを選択するかだ。
「アリス・・・私は彼奴等を追う。外法を用いてまで何をするのかは知らんが・・・カタリナを放っておくことはできん」
またカタリナと対峙するとして、次も生き残れるという保証はどこにもない。どうしてもカタリナと戦うことは出来ないからだ。
それでもそう決めた。無為に生きるよりは、遥かにマシだった。
「ご主人様・・・素敵です」
茶目っ気たっぷりにアリスは笑った。全く、これの・・・どこが人形なのか。
「付いて来いなどとは言えんがな・・・しかし、お前が居ると落ち着く」
泥沼化した思考は、いつのまにか霧散していた。ジョンはアリスの膝の上で金の髪をかき上げ、青の眼を星空へ向ける。
アリスはくすくすと笑い、同じように空を見上げた。
「望まれる限りずっとお側に居ます」
「ほう・・・それは頼もしい限りだ」
「ええ。きっと・・・ずっと」

やかましい人形だが少しは役に立つだろう。グラストヘイムで人形と出会ったあの時の彼は、そんな風にしか思っていなかった。
千年の憂鬱から解放される。自分に残された時間を全て捧げようと人形はあの時誓った。
噛み合わない似た者同士が歩き出した道は、まだ先が遠い―――
174('A`)sage :2004/03/24(水) 13:13 ID:Yej/BQAY
駄文投下です。これでようやく一段落・・・ついてないや。('A`;)
次はセシルですね。

ご意見ご感想、ネガティブレスポンスをお待ちしております。
175名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/24(水) 21:44 ID:2a8ThMac
かっこいいDOPとナイスなアリスがいるのはここですか?
176名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/25(木) 00:07 ID:i6xgFqHI
かなり続きが気になります!('A`)様GJです(*゚∀゚)=3
初めのほうより文がどんどん取っ付きやすくなってる気がします。
とにかく続きが気になって、たまらん(w
177('A`)sage :2004/03/25(木) 11:07 ID:VaDh.APo
続き書いてる途中にレス発見。

>>175さん
ここ・・・でしょうか?ですか・・・ね?('A`;)ジシンナイデス
今回はジョンがちょっとくよくよモードでしたね。

>>176さん
ありがとうございます!誉められた・・・んですよね?('A`;)マタジシンナイ・・・
うーん、自分じゃ良く分からないですね。段々長くなってる気もしますが。

ご意見ご感想ありがとうございました。
178名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/25(木) 11:30 ID:7mWGalCg
Wordに保存しますた('A`)b
179('A`)sage :2004/03/25(木) 13:53 ID:VaDh.APo
>>178さん
私のだったらいくらでも('A`;)オマエノカ?
出来れば一言でもいいので辛口批評かご感想をクダサイ('A`)b
主に辛口を希望デス('A`)b

私は感想クレクレ君なので感想があるとはりきります。頑張ります。
それはもう凄い速度で書きます。ええ。きっと。
だから皆様・・・どうか何でもいいのでご指摘などをよろしくお願いします。
('A`;)ヨユウガナイノハヒミチュ・・・

ご意見ご感想をお待ちしております。
180名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/25(木) 14:14 ID:1nOiq7KY
文神に言うのは申し訳無いけれど、どうにも気になったので。

そんなに感想や辛口指摘ネガティブレスポンスが欲しかったらサイト立ち上げたらいかが?

感想クレクレ厨が一番嫌いなので、どうしてもその部分に腹が立ちます。

そういうあなたの書きこみで、他の文神が降臨しにくいのもあるのですし、それだけは自粛してください。
181('A`)sage :2004/03/25(木) 16:29 ID:VaDh.APo
>>180さん
申し訳ありませんでした。調子に乗ってましたね。
確かに書き込みすぎでしたし、もう自粛します。
皆様本当に申し訳ありませんでした。
182名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/25(木) 18:47 ID:7mWGalCg
>>180
>>そういうあなたの書きこみで、他の文神が降臨しにくいのもあるのですし、

これは何故?
感想求める書き込みが他の文神様方に影響があるとは考えにくいですが。
むしろあなたのそういう書き込みこそ、
場の雰囲気を悪くして降臨しずらくなると自分は思いますよ。この書き込み自体もそうですが。
それに文神様方が、感想が欲しいは当然のことでしょう。
やはり反応というものは気になりますよ。

つまり何が言いたかったかと言うと・・・


ヽ(´ー`)ノマターリいきましょう
183花のHBsage :2004/03/25(木) 20:15 ID:fqrhHVgs
>>182
私は>>180さんの気持ちもわかるかも……
確かに私も感想ほしいですが、感想を強いるようなレスはどうかなとか思っちゃうので
自分の書いた文の反応とかはすごく気になりますけど。・゚・(ノД`)・゚・。

ヽ(´ー`)ノでも、マターリが一番なのですよー
184名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/25(木) 20:16 ID:fqrhHVgs
>>183
ギャァΣ(゚Д゚)
名前の欄は見なかったことに_| ̄|○||
ウワーンバカバカバガハカ。・゚・(ノД`)・゚・。
185名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/25(木) 20:59 ID:CdKqW28c
>>180,183
……(´Д`)
186名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/25(木) 21:07 ID:F6CPlDFw
上がった内容に関してアドバイスは良いですが、文句は言ってはいけません。
各神の成長を手伝いましょう。(板共通ルールより抜粋)

モノを作る人間が他者からの評価を求めるのは別段不思議なことではなく、
好意的な感想だけでなく厳しい意見を求め、自身を高めようとするのも道理かと(文章に限らず)。

('A`)氏の姿勢が>>180さんの考えと相容れないというのは分かりましたが、
多少文が攻撃的過ぎるのでは?いきなりキツイ言い方をしなくとも
ヽ(´ー`)ノマターリいきましょう
187('A`)sage :2004/03/25(木) 23:15 ID:VaDh.APo
>>他の文神が降臨しにくいのもあるのですし

>>183さんが>>180さんに同意しているというのであれば、
やはり私の書き込みが他の文神様方に多少なりとも悪影響を及ぼして
いたのでしょう。弁解の余地はありません。
私は「出来ればお願いします」とレスをしただけで強いた覚えはあり
ませんが、お一人でも不快な思いをされたのならそれも言い訳に過ぎな
ません。
>>186さんの言うように私は感想を通じて学ぶものが大きいと思っていま
した。だからこそ積極的に聞いていきたかったのです。
ただ、その姿勢がここに相応しくないのだということがよく分かりまし
た。私はもう書くのを止めます。

ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
188名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/25(木) 23:59 ID:Go3XBqlA
そしてまた一人、文神となるはずだったものが消えてゆく
189名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/26(金) 00:03 ID:rTZzqTD6
惜しいことをしたな……
190名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/26(金) 01:05 ID:W3tQhs.Q
この話題で流れるのもスレッドとしてはよろしくない事ではあるかと存じますが、
このまま('A`)さんが去ってしまうのはあまりにも悲しい。
匿名掲示板であるかぎり、このようなケースも仕方のないことではあります。
が、読み手としての自分はこの話の続きが読みたいのです。

書き手として('A`)さんの姿勢は至極まっとうなものですし、
文章も始めの頃と比べれば確かに向上しているように感じます。話自体もおもしろい。
180氏・183氏が気障ったく思われるのと同様に、自分もこの話の続きを読みたいと思うのであります。
ご両名様には、どうか寛大な処置をお願いしたい所存であります。

>>('A`)さん
作品自体に関係のない否定的なレス(所謂叩き)がつくことも、
このような掲示板では茶飯事であります故、
気になさらず書いて欲しいところであります。

・・・・・・慣れてもいないカタイ書き方はダメですな。
何が言いたいかってーと、気にすんなー、と声高に言いたい。
どうしても、ってんなら涙飲むけどさ・・・・・・。
191名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/26(金) 01:32 ID:4Zawd8tI
>>('A`)
あなたに問題はない。ひとかけらも。
こういった掲示板に作品を投稿する以上何らかのリアクションを求めての事なのだろうし、ならばそれを表明して何が悪いか。
「お一人でも不快な思いをされたのなら」と言っているけれど、土台人類全てに好かれるなんて不可能な話。
些細な部分に不快を表明した輩よりも、あなたの作品から快を得た人間の方が遥かに多いと思うし、それが大事だと思う。
ここの諸作拝読して俺はすげぇ面白と感じたし、続きを読みたい気持ちでいた。

書き手として批評感想を求める気持ちもものすごく良く判る。
俺も自分が上げたものにレスがつけば小躍りするし、無反応であれば意気消沈する。
意見感想をお待ちしています、と書くのだって、さらに上を目指したい気持ちだったなら当然だろう。
「よかった」「GJ」程度は皆書いてくれても、求めなければ細かい指摘はもらえない事が多いから。

そもそも本当につまらなければ、どれだけ要求したって感想もレスもつきはしないだろう。
レスポンスは返さぬまでも、あなたの作品を楽しんだ人間は多いはず。
もったいねぇよ。不快だなんだとごねてるの、ほぼ一人だぜ? >>183は「気持ちもわかる」っつってるだけ。
少なくとも>>190と俺は、あなたが続けてSSを書いてくれるように祈ってる。
書き込みはしないまでもあなたが去らない事を祈っている人間が、多分モニターの前にもっと居る。
すぐには無理だろうけれど、ほとぼりが冷めたら、気持ちの整理がついたら、また書いてくれないかな。
よろしく頼む。
192183の誤爆者_| ̄|○||sage :2004/03/26(金) 07:37 ID:zY/ujiYM
私は、('A`)さんの作品、すごく楽しみにしてますよ。
ただ、感想がほしいあまりに求めすぎるのはどうかなーと思った180さんの気持ちもわかるなといっただけで。・゚・(ノД`)・゚・。

だから、絶筆するのはやめてください('A`)さん。
続きが気になって、きになって。・゚・(ノД`)・゚・。

なんか、自分もかなり煽りレスになっていたようで、ごめんなさい。
そんなつもりはなかったんです(´・ω・`)
193名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/26(金) 09:29 ID:EgoOMeLs
>>192
だれもおまえさんが悪いとは言ってないんだから。
原因は180のきつい言葉なんだからさ。
ママーリしましょうや
194名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/26(金) 10:06 ID:wU/bvBVM
よーしパパ流れぶった切って投下しちゃうぞー
195名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/26(金) 10:09 ID:wU/bvBVM
 目が合った。ような気がした。いや、おそらく彼女は自分に気がついただろう。弓手はみな目が良い。
 ラッカはばつが悪くなり、もたれていた木からずるるっと体を倒し、聖書を顔に被せた。あたまに、さきほど盗み見ていた彼女の姿が浮かぶ。身振りが大げさで、砂金まじりのマニキュアを載せた指先がきらきらと良く光を跳ね、それが木陰で涼むラッカの瞳を焼いた。何人もの男を相手に楽しげだ。いい気なものだ――
 ここはプロンテラの南。首都から城壁ひとつ隔てたそこは、草も何も伸び放題で、うっかりすると小さな魔物や毒虫をたまに踏みつける。街のものは滅多に近寄らない。いるのは、仲間を求めて集まる冒険者だ。ラッカもその一人だった。
「こんにちは」
 聖書をどけると、その彼女がすぐ傍にいた。服についたネームプレートはスィーンと読めた。
「お一人ですか?」
「そうだけど」
 ラッカは後ろの連中に目をやる。そんなやつ放っておけよと、声に出さないまでも身振りがそう言っている。
「あなたの方は一人じゃないように見えますね」
 彼女はにこにこと害のなさそうな笑みを浮かべて、さあ? と肩をすくめた。
「私が探してるのはプリさんだし」
「なおさら駄目ですよ」
 ラッカは寝転げたままチェインを片手で繰り、頭のすぐ横を跳ねていたポリンを打ち割った。
「殴りプリさんなのね。私は早撃ちタイプの二極だけれど、構わない?」
「構わないって」
 ラッカは面食らって尋ね返す。
「だって俺、殴りプリなんですよ?」
「ええ、ヒールが扱えるのでしょう」
「期待されるほどには、とても」
 ラッカは横を向いた。我ながらそっけないと思う。
 スィーンがその目線を追いかけて、指先を突き出した。長くてなめらかな指。地面にこすりつけたらろうせきのように削れてしなやかな白線が描けそうだ。
「私よく矢尻で指の皮を擦ってしまうの。治してくれる人がいなくちゃ、戦えない」
 が、間近で見るとあちこちが裂け、切れ、ひどいと爪がひび割れている。マニキュアと見えたものは、爪の補強のために塗り固めたものであると知れた。思わずラッカが手を取ってヒールを施す。裂傷が見る間に塞がり、ほんのり朱にそまった新しい皮膚が傷口に生じた。
「ありがとう」
 わきわきと開いたり閉じたりするその手を彼女の胸元につっかえして、ラッカは無愛想に言う。
「それで、どこに行く予定なんですか」
「! 監獄に。――来て、くれるの?」
「・・あんまり役に立ちゃしませんが」
 当たり前だ、そんな無茶な戦い方をする奴一人放り出しておけるものか! 彼女への同情と怒りとで沸騰してしまったラッカは、あやうく怒鳴り散らすところだった言葉を飲み込み、努めて平然と、答えた。
196名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/26(金) 10:10 ID:wU/bvBVM
 古城地下、天井から得体の知れない水滴がぽつぽつと落ちてくる暗いホールに、スィーンは駆け出した。
 たちまちあたりをふらつく死体が1匹、2匹と彼女めがけて鈍く這う。一匹目をダブルストレイフィングであっさり沈めて、ごっそり掴みとった矢束をまとめて弦にかけ、次を撃つ。一本一本器用に打ち出しながら、2匹、3匹。その間も足は止めない。あれだけ上体がぶれて、よくも、と思える精度で撃ち続ける。気づくとラッカは何十歩も離されてしまっていた。
 どうにか追いついたころには、倒しきれなかった骨の囚人でちょっとした人垣ができていた。
「ラッカ、戻って!」
 怒鳴りつけ、爆薬をしゃにむに撒き散らして元来た道を逆走する。その先にも一匹いたが、軽くヒールで挑発してやると、針路をラッカの方に変えた。そのすきに、追い抜きざまスィーンがゼロ距離で射抜き、崩れた。
「無茶苦茶だ!」
 苦労してあまり馴染みのない加護の呪文をかける合間に、ようやくラッカは悲鳴をあげる。
「文句はあとよ、ねえ、加速をちょうだい!」
「一秒半、止まる余裕をくれたらな!」
 スィーンは撃つ手も止めずに360度見渡して、狂ったように笑う。
「あっはははは! 無茶はあなたの方だわ! こんなの、さばける数じゃない」
 そこに突っ込んだのは誰だと怒鳴りたかったが、代わりにありったけのSPをこめてブレッシングを囚人に打ち込む。祝福の天使が囚人の頭上を舞い、動きを抑制させる。
「いったん全部振りきろう。こっちへ!」
197名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/26(金) 10:10 ID:wU/bvBVM
 スィーンはこの上なく楽しそうに小動物獲りの罠を仕掛けてまわっている。仕掛けた先から囚人や、巨大な鼠昆虫を陽動してくるから、片っ端から背骨を踏み砕いたり、チェインで叩き潰したりでラッカには気の休まる時間もない。スィーンの方も、矢をつがえる暇がなければ、角弓の舳先で殴りつけている。
 スィーンは徹底的に見敵必殺を続けていた。おおかたは避けても、命に大事なさそうな攻撃はわざと食らう。食らいながら、右手甲につけた高価なカード刺しのクロスボウで直接撃ちぬく。小ぶりでたいした殺傷力のないボウガンといえど、直接体内にぶち込まれてはひとたまりもない。
 立て続けにヒールを放っていたラッカは、とうとう緊急用の青いハーブをひと房噛み千切った。からからに乾いた喉が癒える。繊維だらけの葉をぷっと吐き出し、ヒールを叫ぶ。痛みのひいた体でスィーンはいっそう軽々とステップを踏み、目の前の敵をなぎ払っていく。
「次ッ!」
 スィーンが別の通路へと走ろうとする、その肩をラッカは鼻先で掴み損ねる。
「スィーン! もうSPがない!」
 聞こえていないのか、スィーンは転ぶように向かいの部屋の中央へ突っ込む。
「――チッ」
 舌打ちひとつ残して、ラッカも走った。
 突っ込みついでにスィーンが力任せに骨の囚人へタックルをかます。盛大な音を立てて骨は砕け、勢いを殺さず数回地面を転げて、綺麗に身を起こした。
 ラッカが遅れて入ってくる。全員の意識がそちらへ行き、殺到する。一瞬そちらに気を取られたスィーンの、ふくらはぎに何者かが歯をつきたてる。
「こ・・のッ!」
 クロスボウでひと撃ちにしとめてもまだ怒りが解けず、ふーふーと荒い息をたてながら、何本も何本も、矢を撃った。
 針ねずみを隅に蹴り飛ばして、改めてスィーンは部屋を見渡した。ラッカに迫る囚人が四匹。痛みで膝ががくがくと震え、しかたなく膝をついて、角弓を引き絞る。
 この数と距離なら、とスィーンは考える。近づかれる前に半数を。張り付かれてからも、体に触れさせる前にもう半数を!
 ダブルストレイフィング、二本の矢を同時につがえて射抜く技で、読み通り半分が沈む。囚人の大振りで単調な攻撃をラッカは難なく避け、後ろから一本ずつ見舞った矢で注意がスィーンに戻る。たて続けに放った矢数本、それで二匹ともしとめてしまうつもりが、外れた。一匹残してしまった。接近を許した囚人の打撃を、無理やりうしろに倒れこんで避ける。二撃目は、床を背に、逃げようもない体勢でとっさに頭をかばって目を閉じ、耐えた。があん、とプレートをつけた胸を叩かれる。三撃目が来る前に、ラッカのチェインが囚人を絡めとった。
「ラッカ、ヒールを!」
「無理だ、青ハーブも尽きた! 一時撤退する!」
「嫌!」
「嫌って」
 腐乱した頭蓋をチェインでねじり切り、なぎ払う。
「死にたいんですか!」
 白ポーションの瓶を道具袋から探りあてると、中身をふくらはぎにぶちまけた。ろくに癒えてもいないが、ともかくも痛みのひいた足を引きずり、スィーンがゆぅらり、身を起こす。
「ふふっ、死ぬ? あはははは、死ぬですって?」
 彼女は腹筋を震わせて笑っていた。そして矢をつがえる。
 ろくに方向も定めず撃つ矢に当たりかけて、ラッカはとっさに身を伏せる。
「こんな奴ら、足さえ治ればなんて事ない!」
 それでも矢は正確に、はるか先をうろつく囚人を穿ち、たちまちのうちに新手を集めはじめた。
「スィーン!? やめろ、もう帰ろう!」
「いやならラッカは座ってて! ちょっとでもSP回復しててよ! 私はやるわ、ひとりででもやる!」
 上気した頬、異常に強い目の光が、まるでなにかに取り付かれたかのよう。こんな状況じゃなければ、色っぽいほどだ。ラッカは底冷えしそうな心を奮い立たせて、青い石を地面に叩きつけた。そして帰還の呪文を、唱える。「ワープ・ポータル」
198名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/26(金) 10:11 ID:wU/bvBVM
「どうして?」
 スィーンはもう怒りを隠そうともしなかった。
「もっと戦えたのに、もっと強くなれたのに!」
 その目の色。どこかで同じものを見た気がして、ラッカはもどかしさを覚える。
「落ち着いてください」
「やあ! はやく戻ってよ!」
「死にに行くようなものですよ!」
「それが何なのよ! あなたさえ無事で、蘇生してくれればまた戦え」
 ぱしゃん。
 自分の髪からぽたぽたとしたたる水を舌にのせて、スィーンはつぶやいた。
「聖水・・」
「目が醒めただろ」
 そっけなくラッカが言うと、スィーンはみるみるうちに瞳を潤ませた。
「ごめんなさい」
 慌てたのはラッカの方だ。
「謝ることはないですけど。意外だな、もっと怒るかと思った」
 黙ってしまったスィーンに、ばつの悪い顔をする。
「あー、なんだ、俺も悪かったよ。スィーンの言うとおり、ヒールさえあれば乗りきれてた。スィーンが悪いわけじゃないのに、こんな、水までかけて」
 スィーンは力なく笑う。義理でラッカを気遣ってるのが見え見えで、ますます申し訳なくなった。
「ええと、スィーン、宿は取ってある? 着替えとか、傷も治さないといけないし」




で、こっからエロにつなげるつもりだったんですが、もう半年ぐらいほったらかし。
続きもうまくまとまらないので見切りつけて投下。
199名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/26(金) 12:51 ID:W7k02VWU
「オー、青年よ、悩んでないで自らの罪を告白し楽になりなサーイ」

 狭くて暗い懺悔室にマジックミラー越しの声が響いた。鏡の前には、マジメという言葉を体現したような
格好の青年が背中を小さく縮めて居心地悪そうに座っていた。
 青年は大きくため息を一つつき、十字を切ると訥々とした口調で話し始めた。

「僕は、ギルドでWizをやってます…。僕は皆の役に立ちたい、皆を助けたい、そう思って詠唱速度を伸ばして
ここまでやってきました。僕と組んでいるとき、プリさんも、騎士さんも、すごく楽しそうにしてくれました。
 でも、一人、どうにも気になる人がいるのです。」

「ソレハ恋の悩みって奴ですカー?」

随分と乙女チックな思考回路を持つ司祭もいたものだ、と青年は思った。青年は申し訳なさそうに
眉毛を眉間のほうに寄せ、もう一つため息をついた。

「いいえ、違います。その人、AgiWizさんはギルドに入っているのにいつもソロでいるんです…。
それでどうにも孤立しているように思えて、僕は声をかけなくちゃ、って思ったんです。
 それで、この前、レベルが上がったとき、僕はAgiWizさんに相談したんです。
『詠唱速度と魔法攻撃力、どっちを上げればもっとみんなの役に立てるかな?』
って、きいたんです。」

「フムフムー、それはもっともな質問ですネー。で、彼女はどう答えましたカー?」

青年はぐっと息を詰め、ゆっくり吐き出してその息に言葉を載せた。青年の声は震えていた。

「AgiWizさんは…『アンタはこれからどう上げたって役に立てるから勝手にすれば良いじゃない』と…」

そこまで言って堰を切ったように青年は早口になり、語気を強めた。言葉には激情が籠り、
青年の両目からはボロボロと涙がこぼれ落ちた。

「そこまで聞いて僕は気づいたんです!僕の存在がAgiWizさんの居場所を削っていたんだと。
 僕がいなければ、AgiWizさんはソロでいることなんかなかった!立派なWizとしてみんなと一緒に楽しく
どこかへ遊びに行けたはずなんだ!それなのに、それなのに…僕はAgiWizさんの気持ちに気づくこと
なく心ない一言を…う…うう…。」

最後は言葉になっていなかった。防音設備の整った懺悔室の中、ただすすり泣きの声だけが続いた。
そして、しばらく経ってすすり泣きがおさまりかけた頃、消え入るような声で青年は言葉を継いだ。

「だから…ギルドを抜けようと思ってます…。そうすれば、AgiWizさんもみんなと仲良くできるはず…」
200名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/26(金) 12:52 ID:W7k02VWU
「…っこぉの…大馬鹿者ぉっ!!」

いきなり浴びせられた罵声に青年はびくっと体を震わせ、反射的に耳を塞いだ。

「耳を塞ぐな馬鹿野郎!よぉく聞け!。誰もアンタがギルドを辞めることなんざ望んじゃいないよ!。
アンタは長い間みんなを支えてきた、それで十分じゃない!?。
 心ない一言ぉ?そんなモンでへこたれるほどアタ…ゲフゲフ…彼女はやわくなんかないよ!。
それにアンタが辞めたら彼女はどうなる?アンタの後を埋められるとでも?それがPT慣れしていない
彼女に一体どれだけのプレッシャーを与えてるかわかってんの?」

まくし立てられる言葉を理解するのに時間がかかっているのだろうか、青年は口を開けたまま考え込んでいた。
そして一つ二つ頷いて一回首をかしげ、鏡の向こうに問いかけた。

「では…僕はどうすれば良いんでしょう…」

「ったーぁ…まだ分からないの!?いつも通りギルドに戻ってギルド狩りでもしてきなさいよ!
アンタの元気がないってきっとギルドのみんなも心配してるよ」

そうか、うん、僕はここにいてもいいのかな、などと小声でぼそぼそやった後、青年は椅子から立ち上がった。
どことなく気が晴れた様子で泣きはらした目にも生き生きとした光が宿っていた。青年はきびきびとした動作で
鏡の向こうに対して一礼すると、出口の方へ駆けだしていった。

「(あれ…そういえば僕はAgiWizさんが女だって司祭さまには言ってなかったと思ったけど…なんで
わかったんだろ…)」

誰もいなくなった懺悔室に押し殺したような笑いが響いた。

「ぷ…くくく…。おつかれさま、AgiWizさん。特に最初のエセ外国人っぽい口調なんかサイコーだったな。
最後まであの調子だと面白かったんだけど…」

マジックミラーの向こう、懺悔聴聞室の壁からそういってぬうっと人影が現れた。机の前に立っていた女は
その人影を確認すると、髪をかき上げ汗をぬぐった。

「全く悪趣味なギルマスね。懺悔聴聞のバイトがあるから…ってアタシを呼び出したのも計算ずくってわけね。
どうせあの子を懺悔させるように計らったのもアンタなんでしょ?」

壁から現れた人影、プリーストは腕組みをするとニヤリと笑った。

「ギルド規約第三条第二項、ギルド内でのもめ事は当事者同士で解決すること、だよ。」
201199sage :2004/03/26(金) 13:02 ID:W7k02VWU
こういう政治的な意図で書いた作品はこのスレにふさわしくないかもしれませんが、
ただ意見を書き連ねるよりは下手でも良いから作品にしたい、と思って書いた次第です。

やめないでね、('A`)さん…
202('A`)sage :2004/03/26(金) 22:14 ID:uFz1fnpk
私が物心ついた時には既に母が居なかった。理由は知らない。
それなりに荒んだ子供時代を過ごしたような気がする。
父は酒に溺れ、毎日のように愚痴を漏らした。よく覚えていない。
興味もなかった。
彼は息を引き取る間際に私を指差してこう言った。
「呪われた子供」と。
意味が、分からなかった。
冒険者に憧れ私は剣士になった。でも別に何かしたかったわけじゃない。
楽しいと思ったから。それだけ。騎士とかクルセイダーとかには興味が無い。
でも私は習ってもいない剣の扱いを知っていた。どうすれば敵を確実に殺せるか、どうすれば状況を打破できるか。
何故か『知っていた』。有頂天になった。才能があると思った。
どんな敵が来ても勝てると思っていた。自分には特別な何かがあって、これから冒険が始まるのだと思った。

とんでもない勘違いだ。


『怪盗と魔剣 1/3』


寒い。セシルが最初に思ったことはそれだった。
毛布の中で丸まり、しばしぼんやりと半覚醒状態のまま呆ける。
(・・・えーっ・・・と・・・アルデバランだっけ)
宿の見慣れない天井を見つめ、ようやくセシルは滞在している街を思い出した。
最近よく組んで仕事をするアコライトの少年、バニの仕事についてきたのだ。いや、正確にはバニがセシルを引っ張って
来たのだ。でなければ極度の寒がりのセシルがアルデバランなどに来たりはしない。
プロンテラで生まれたこのコンビは今やシュバルツバルドまで名が売れていた。今回バニが受けた依頼も、そのネームバ
リューがあってのことだ。
実際のところはセシルが気が乗らなかったので、バニが一人で頑張っている。彼は昨日から雪山に篭っていた。
(だって寒いし・・・)
セシルは呟き、ベッドの上を転がった。

長い金の髪を所々跳ねさせたまま、セシルは宿の食堂の隅のテーブルに座った。
彼女の分の朝食は既にテーブルの上に並んでいる。とはいっても時計の針は昼前を指していたのだが。
「今日は早いねぇ」
カウンターの奥から明るい中年の女性の声が聞こえた。セシルは適当に笑顔で返し、フォークを取る。実の所、宿で生活
し始めてからセシルは昼前に起きたことが無い。元々低血圧だったのに加え、アルデバランの気候が拍車をかける。
要するに昔から彼女は朝が弱い。それも、半端ではない程に。
「おほっ、寒い寒い。プロンテラとは大違いだなぁ」
ばたばたと駆け込んでくる男が居た。麻色の外套と白みがかった頭に積もった雪を振り払いながら、彼はセシルの姿を見
止めると、そそくさと駆け寄る。外套の下、腰に下げた両手剣は久しく使われていないようだった。
首都でも有名な騎士だ。ちょび髭がトレードマークで、酒ばかり飲んでいるくせに騎士団と冒険者のパイプ役をしている
相当の曲者である。噂では昔、特殊部隊とやらに居たらしい。
セシルやバニに仕事を運んでくるお得意様でもあった。
「なんだなんだセシル君・・・その格好は。とても年頃の娘とは思えんねぇ」
「私、剣士ですし」
許可も無く同席する騎士にセシルはしかめっ面で答えた。髭の騎士は苦笑し、女将に酒を注文する。
「どーせ着飾っても戦いじゃ邪魔になるだけですよ」
加速度的に不機嫌さを増し、黙々とフォークを動かすセシル。
タコの形にカットされた腸詰が乱暴に突き刺され、心なしか悲しげだ。
「しかし・・・もう少しこう・・・しとやかさというか・・・ねぇ?」
「うるさいですね。寒いんですから静かにしてください」
ついでに意味不明な事を吐き捨て、彼女は腸詰を頬張った。良い食べっぷりだった。
「それで、何の用なんですか?バニ君ならまだ雪山で頑張ってますよ」
「いや、例の調査はもういいんだ。万事解決・・・というわけじゃないが、他に厄介事が噴出してね。騎士団はてんてこ舞い
なんだよ。ま、俺みたいな飲んだくれには関係ない話なんだが・・・」
騎士は運ばれてきたジョッキを煽った。
「そこで、だ。また仕事を依頼したい」
「どんな?」
「三日後にアルベルタで骨董武器の市があるんだがね、なにせ国宝級の品が集まるんだから警備が必要なんだが・・・さっき
も言ったとおり、今の騎士団にはそっちに割く戦力が無い。君達にその警備をお願いしたいんだが・・・」
セシルの眉がわずかに動いた。そして、
「嫌です」
即答した。
「えぇ?」
「何か隠してるみたいですから」
臆面も無くそう言い、彼女はミルクを一気に飲み干した。
たかが骨董市にプロンテラ中央騎士団が動くというのも妙な話ではあった。たとえそれが国宝級だとかいう品の市であっても、
アルベルタには駐屯のアルベルタ騎士団が存在する。規模こそ小さなものだったが、警備程度はこなせる筈だ。
わざわざ冒険者を雇う必要はない。
「ぬ・・・な、なかなか勘が良くなってきたじゃないかセシル君」
「それはどうも。あ、ごちそうさまでしたー」
ぴくぴくと顔を引きつらせる髭騎士を後目に、セシルは席を立つ。
「ま、待ってくれ!セシル君〜、お願いだよ・・・君の力が必要なんだぁ〜」
「だ、だったらちゃんと話してもらわないと困りますっ!体張るのはこっちなんですか・・・らあ゙ぁぁ」
涙目ですがりつく髭騎士をうざったそうに押し返そうとするセシル。髭がじょりじょりして痛い。
騎士は酒気を帯びた溜息をついてから、不意に、
「ふぅ・・・君は・・・怪盗ポリンという人物を知っているかね?」
「・・・は?」
そんな事を訊いた。
203('A`)sage :2004/03/26(金) 22:15 ID:uFz1fnpk
怪盗ポリン。
大規模な市や国立博物館、果てには個人商店やダンジョンにまで現れて高価なアイテムを盗む盗賊。
今まで一度も素顔を見たものはおらず、騎士団さえもその狡猾で大胆な手口に翻弄されているという。
その正体は高名な冒険者とも言われるが、定かではない。
自称『義賊』だが、騎士団や世間一般では『怪盗』扱いされている人物である。
その怪盗ポリンとやらがアルベルタで行われる市に予告状を出したらしい。
「なんともふざけた泥棒ね」
「・・・僕はお休みナシなんだね・・・」
部屋で淡々と荷造りを続けるセシルを恨めしさ満載の眼差しで見つめるバニ。つい先刻帰ってきたばかりで、まだ彼の頭には
雪が積もっている。戻ってきたときは、もっと悲惨な有様だった。
「バニ君が大変な調査を勝手に引き受けるからでしょう?恨むなら後で合流する筈だったっていうアサシンを恨みなさい」
「ひどいやセシルさん・・・」
「つべこべ言わない。これはチャンスよ。成功報酬だって凄いし、その怪盗なんとかーっていう奴を捕まえたら一気に有名人
の仲間入りできるじゃない。そしたら・・・」
恩人・・・アルバートにも会えるかもしれない。セシルは赤いリボンを髪に結わえ、道具袋を背負った。
立派な冒険者になれば少しでも彼に近づけるような気がしていた。だから、くだらない依頼など受けてはいられない。
「・・・セシルさん、怪盗ポリン、だよ」
バニは複雑な笑みを浮かべた。彼には分かっていた。セシルは誰かの影を引きずっている。そのせいか少々急き過ぎるきらい
がある。
バニ自身もそうだ。彼は未だに生き別れた妹を探している。今回アルデバランの依頼を受けたのも、妹らしき少女の目撃談が
あったからだ。結局何の手がかりもなかったのだがそれはそれでいい。
セシルは自分と同じ匂いがするのだ。過去に縛られ、過去を生きる者の匂い。だからこそバニはセシルに惹かれている。
同類であることの安堵。故に、彼はセシルと共に行動するのだ。
「でも・・・僕らだけでその怪盗を捕まえられるかな・・・騎士団でさえ手に負えない相手なのに」
「なんか助っ人が居るらしいわよ?」
さして重要でもなさそうに、セシルは言う。
「あ、そうなの?」
「その人、アルデバランに住んでるみたいだから後で迎えに行きましょ・・・って・・・ほら、さっさと支度する!」

からん、とドアに取り付けられた鈴が鳴った。セシルとバニは薄暗い店内を見回し、嘆息する。
「はぁ〜・・・こりゃ凄いね」
一見すれば何に使うか分からないような刃物や、人の扱うサイズとは思えない巨大な斧、異様に反れ方をした曲刀など。
二人が見たことの無いような武具が並んでいた。
それらは所狭しと店内に並べられ、鋭い輝きを宿している。よく手入れされているのか、埃一つ付いていない。
二人が呆けているうちに、カウンターの奥から若い男が出てきた。長身で体格も良い健康的な男だったが、よれたワイシャツと
咥えたタバコ、かすかな顎の無精髭が爽やかな印象をぶち壊している。そんな男だ。
「いらっしゃい・・・って、なんだ・・・ガキか。生憎、うちは武器屋でね。オモチャ屋ならルティエ辺りを探しな」
口も悪かった。
「あー、えっと・・・グレイ=シュマイツァーさんですか?」
こめかみの辺りを痙攣させるセシルをなだめつつ、バニがあくまでにこやかに訊く。男は少々面食らったような顔をしてから、
すぐににやけたような、なんとも緩い顔をする。
「あぁ、俺がグレイだけど・・・まさかお前さん達が例の冒険者か?」
口ではそう言いつつも顔には「おいおい勘弁してくれ」と書いてある。正直な男だとは思ったが、好きにはなれそうもない。セシ
ルは内心でそんな評価を下した。バニもほぼ同感だった。
「ち、枯れ木も山の賑わいってヤツかね・・・俺は見ての通り、ブラックスミスだ。戦闘は本職じゃないんで、そこんとこ頼むぜ」
何をどう頼むのか良く分からなかったが、とりあえず頷くバニ。
「僕はアコライトのバニです。で、こっちが相方で剣士のセシルさん」
無言でぎこちない会釈をするセシル。赤いリボンが揺れる。
グレイは彼女の全身を一通り観察してから、紫煙を吐いた。それから彼女にツカツカと歩み寄り、
「へぇ・・・お前さん、面白い剣持ってるじゃないか。誰に貰った?ベルガモット・・・いや、アルバートか」
にたり、と笑う。
「へ?な、なんで・・・」
何で知ってる?セシルの動揺を見透かすかのようにグレイは笑い、それから遠い目をして言った。
「その腰の剣は・・・俺が打った物だからな」
青い髪のブラックスミスは、静かにそう告げた。
204('A`)sage :2004/03/26(金) 22:38 ID:uFz1fnpk
私は幸せ者ですね。皆様のご沢山の意見を読ませていただきました。
その結論として駄文を投下していきます。
未熟過ぎてご期待には添えないかもしれませんが、あそこまで惜しんで
くださった方々に応える為、また書き続けさせていただきます。

・・・というのが半分。もう半分は単に私が書きたいから、です。
私は書き、その感想や意見を貰う事で学ばせていただきたいのです。
そしてより良く、楽しくしていきたいと思います。
それを皆様に読んで頂けるのなら書き手としてそれ以上の喜びはありませ
ん。私の意見はそれに尽きます。
凡庸な私がどこまで出来るかは分かりませんが、努力します。

あと、私は文神ではありません('A`;)マダマダダヨネ・・・

では、また次の機会に('A`)ノシ

*本来ならお一人ごとにレスを返させていただくところですが、
この文にまとめさせて頂きます。申し訳ありませんでした。
205名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/27(土) 00:25 ID:s2mMtzPk
('A`)様復帰…良かった。

ごめんね、ただそれが言いたかっただけ・・お休み。
206名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/27(土) 23:00 ID:R1vGzmC.
('A`)様が復帰なされた最中ではありますが、
別口でDOP関連の話を投下してもよろしいでしょうか?
207名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/27(土) 23:06 ID:qDJciGF2
>>206
よし、許可する。気合い入れて投下しろよ
208Zweihandersage :2004/03/27(土) 23:12 ID:R1vGzmC.
 ゲフェンダンジョン第三階層。
 パーティーを組み、連携を以て戦う者の多い最中、ひとりクレイモアを振るう騎士が居た。
 銀色の長い髪を肩の辺りで二房に括り、乗騎のペコペコを駆って高速の斬撃を繰り出し続けている。
 やがて、己に群がっていた魔物を一通り屠った彼女は、面頬を外してポーションを一息にあおった。年頃相応の魅力的な容貌が露わになり、戦闘時には無心にすら見える厳しい表情がふっと緩む。

「ん、そろそろポットも切れそうね……。あと一戦したら引き上げようかな」

 ポーションを取り出しがてら、ザックの中を覗いて彼女は独りごちる。折良く、新たな魔物たちが数体現れて彼女を標的に定め、向かってきた。
 途端に彼女は表情を消し、面頬を装着し直す。瞬時に精神状態を戦いに切り替えられる、優れた戦闘能力者の証だ。

 遠くから聞こえていた、激しい剣戟や大魔法の炸裂音が徐々に近づいてきている事に気付き、彼女は兜の中で表情を険しくする。
 何か、危険が迫っている。

「バッシュ!」

 引き上げる為に殲滅を急ぐ彼女の視界に、その者達は駆け込んで来た。

「畜生、あと少しだってのに!」
「こだわるな! 遊びのボス狩りで死ぬなんざ、俺は御免だ。あそこの人形に擦りつけて、撤退するぞ!」

 そう怒鳴り合いながら、パーティーらしき一団は彼女の側を駆け抜けていく。その行動をいぶかしむより先に、その場に迫る危険の正体が現れた。

 巨大な両手剣を携えた、微かに背後が透けている金髪の剣士。

 第三階層の主。

 人のかたちを模した、恐怖。

(ドッペルゲンガー……!)

 その金色の瞳が彼女を捕らえ、猛然と踏み込んで来る。標的が変わったのを見届けて先程のパーティーは蝶の羽を握りつぶして消え失せたが、今の彼女にとって問題はもはやそこでは無い。
 瞬時に背筋が粟立った。取り巻きのナイトメアを失ってはいても、自分独りで太刀打ちできるのか。
 考えるより早く、信じ難い速度の斬撃が彼女を襲い、初撃でペコペコの首が飛んだ。悲鳴ひとつ残さずに。彼女の身体が地面に投げ出される。

 ガィンッ!

 愛騎の死を悼む間も無くドッペルゲンガーが繰り出してきた斬撃を、クレイモアで受け止める。

「……っ、」

 その金色の瞳。目の前の敵、すなわち自分を滅ぼす事のみを目的とした者の、無表情。
 彼女の戦闘者としての本能が反応する。面頬を外して投げ捨て、叫ぶ。

「うああああああぁぁぁぁぁっ!!」

 周囲の人間は、戦っているのがドッペルゲンガーである事を知った瞬間に羽で逃げ、魔物は主の意志によるものか、周囲には現れない。観客の居ない決闘場と化した第三階層の一角で、一対一の戦いが始まった。
 ドッペルゲンガーの一撃は確実に彼女の命を削っていく。
 彼女の斬撃が届いても、半透明の相手には満足に効いているのか、判別がし難い。
 それでも、剣を振るい、戦う。
 ザックからハーブをわし掴みにして口に放り込む。ポーションは栓を開けるのももどかしく、瓶を身体に叩きつけて直接被る。
 恐怖の悲鳴を鬨の声にすり替えて、叫びに乗せた剣を打ち込む。

 いつ果てるとも無い、あるいは彼女にとってのみ長く感じられたか、その戦いにも終焉は訪れた。
 ドッペルゲンガーの肩口にクレイモアの斬撃が入り、耐久力の限界に達した刀身が折れた。
 柄を握りしめ膝を屈して見上げる彼女と、その身に刀身を食い込ませたまま立ちつくすドッペルゲンガーの視線が交わる。
 金色の瞳に、一瞬笑みが浮かんだ気がした、と彼女が思う間も無くその身体が霞んで消え失せた。
 がらん、と音をたててクレイモアの刀身とドッペルゲンガーの両手剣が地面に転がる。

「はあっ、はあっ、はぁ……っ」

(か……勝った……の……?)

 激しい戦いによる興奮しながらも奇妙に醒めた意識で思う。疲労で朦朧とした視界に、己の剣の亡骸と、ドッペルゲンガーの両手剣が映る。
 周囲には人も魔物も居ない。戦いの熱が身体から失われ、ポーションで濡れた体の忘れていた不快感を甦らせる。

「いま、何か来たら……。帰らない、と……」

 傷つき、疲労でふらつく身体を無理やりに動かし、
 傍らに転がっていた、敵の残した剣を拾い上げ、
 愛騎と愛剣の亡骸に短い祈りを捧げて。
 彼女はザックから取り出した蝶の羽を握り潰した。

 ゲフェンの宿、自室に戻った彼女の手から両手剣が落ち、ぼんやりとした表情のまま留め金を外された鎧も床に転がった。
 帯と留め具を外した、濡れたままの服が脱げ落ち、彼女独りだけの部屋に肌がさらされる。
 服の内側にまで入り込んでいた、ポーション瓶の破片か幾つか刺さっているのを抜いて浴室に入り、その傷にしみるのも構わず湯に漬かる。

 しばらく無言でたゆたう湯に身を任せるうち、凍り付いていた感情がその温かさに溶けだしてきた。
 自分の命が未だ有る事への安堵。
 自分を「人形」と決めつけ、ドッペルゲンガーを擦りつけた者達への怒り。
 愛騎と愛剣を失った悲しみ。
 戦いの、恐怖。

「……っぅ。ひっ……く」

 それら全てが彼女の中で渦巻き、湯船の中で彼女は声を殺して泣いた。
209Zweihandersage :2004/03/27(土) 23:17 ID:R1vGzmC.
むう、改行位置が……。
ひとまず、ひと区切り完成したところまでです。
駄文と思われるならスルーを。
感想・御意見など頂ければそれを燃料にして続きが書け次第投下させて頂きます。
210名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/27(土) 23:24 ID:qDJciGF2
少なくとも俺よりイイ文だと思う。これからも頑張ってくれ。

ついでに俺も1つ投下しようと思ったが、性描写&グロテスクな表現が含まれていそうなので断念……
211('A`)sage :2004/03/27(土) 23:55 ID:eHuuAK1M
『怪盗と魔剣 2/3』


港町アルベルタ。
プロンテラの南東方に位置する貿易都市。港からは遠くアマツやコンロンなどの外国行きの船を出ており、ルーンミッドガルツ
最大の規模を持つ港町となっている。
近年、近くでシュバルツバルドの沈没船が発見され話題となっていた。とはいえ、現在では魔物の巣窟と化しているせいで挑む
者は少ない。商人ギルドがあるのもこの街だ。
潮を含んだ風を感じ、セシルは目を細めた。アルベルタと聞いてもぱっとしない印象しかなかったが、訪れてみると割と良い雰
囲気だ。ちらほら目に付く豪商の別荘などが無ければ、だが。
夏には涼しげでいい避暑地なのだろう。今は冬だが日差しが強い日だったので、それなりにムードは出ている。
・・・が、
「あ〜あ、湿っぽくて嫌だねぇ。タバコが湿気ちまうし、武器が錆びちまう」
山ほど装備品を満載したパンダカートを引くグレイがぼやいた。この男には感性というものが欠如しているらしい。
先を歩きながら、セシルは溜息をついた。バニはプロンテラ騎士団へ先の依頼の報告書を書きに行っている。
バニが合流するまではこのデリカシーとは完全に無縁そうな男と二人きりなのだ。
「おいおい、坊主が居ないからってしょげるなよ。これから仕事なんだぜ」
やたら重そうなカートを引きずり、グレイが彼女の横に並ぶ。勿論、咥えタバコは欠かしていない。
「・・・別にしょげてなんかいません」
タバコの匂いが苦手なセシルはぶう、と膨れてグレイから一歩離れる。
「へそ曲がりなお嬢ちゃんだなぁ」
彼はにへら、と苦笑した。

「我々としては冒険者に警備を任せるというのも少々心もとないのですがね・・・騎士団の方がどうしても、と言いまして」
市の主催者と名乗る商人は半ば投げやりにそう言い、彼の書斎に通されたセシルとグレイを一瞥した。
セシルは例によって仏頂面、グレイに至っては当然のように欠伸をしている。商人は眉間を押さえた。
「ま、まぁ保険はかけてあります」
「保険・・・ですか」
ぶすっとしたまま尋ねるセシルに、商人は黙って指を鳴らした。途端、書斎の外からゴツい僧兵姿の男達がなだれ込んでくる。
おびただしく隆起した肉体が相当の鍛錬を思わせる。率直に言えば、暑苦しい。
最後に若い女性プリーストが静かに現れた。紫の髪のなんとも美しい女性だ。
「実は傭兵を雇いましてね。高名な僧侶の方ですよ」
「・・・初めまして。フェーナ=ドラクロワと申します」
にこやかに手を差し出すプリースト。セシルはその手をおずおずと握る。グレイは見向きもしなかった。
(なんだろう・・・この人、変な感じが・・・)
微かな眩暈のようなものを覚え、セシルは目を背けた。すぐにそれが失礼にあたると気付く。
しかし、フェーナはさして気にしていない様子で、
「私達は取引会場内の警備を担当させていただきます。あなた方には周辺の警戒をお願いしたいのですが・・・」
そんな事を言った。これは妥当な判断ではない。人数的に、セシルとグレイだけでは周辺を完全にはカバー出来ないからだ。
フェーナ達僧兵が外を固める方が効率的と言える。子供でも分かる理屈だ。
「ああ、いいだろう。それでいく」
答えたのはグレイだった。セシルが異議を唱えるより早く、彼はセシルの背中を押して書斎を出る。
さも満足げに微笑むフェーナと商人の顔が、恨めしい。
「何で私達が外なんですか!」
出るなり、セシルは呑気タバコをふかすグレイに噛み付いた。
「落ち着けって。俺達はあの主催者から見れば外様の外様、要するにお呼び出ない連中ってわけだ。強引に中に割りこんでも体よく
放り出されるのがオチだって」
同じ商人だからか、グレイは大体見当が付いていた。あの商人はどうにも臭い。
「でも!」
なおも食い下がるセシル。グレイから見れば視界の遥か下方で赤いリボンが跳ねているだけだ。愛らしくさえある。
「だから落ち着けよ、お嬢ちゃん。俺達の仕事はあくまで怪盗なんとかって奴の盗みを阻止することだ。あの僧兵達がちゃんと守っ
てくれるなら楽が出来ていいじゃねーか」
と、グレイはセシルの頭にぽん、と手を乗せた。なんともやる気がない。セシルはいよいよ呆れ果てた。
この男には何を言っても無駄らしい。これのどこが助っ人なのだろうか?
(・・・ちゃんと守ってくれるならな・・・)
研ぎ澄まされた刃物を彷彿とさせるグレイの目が、先ほどまで居た書斎を密かに睨んだ。
212('A`)sage :2004/03/27(土) 23:55 ID:eHuuAK1M
胸が苦しい。とても苦しい。はちきれんばかりに苦しい。
セシルは黒のフォーマルスーツの襟をいじりつつ、その下に着ているシャツのボタンを一つ外した。少し楽になる。
主催者の商人に強要された格好だった。男物のスーツしかなかったらしく、セシルまでサイズの合わない服を着せられている。見栄え
の問題なのだろうが、気遣いが欲しい。特にズボンが長く、胸囲が足りていないのが致命的だ。
同様な理由でいつものリボンも着用を拒否されている。長い髪がうざったくてしょうがない。
夜のアルベルタを行く商人の列を見やりながら、セシルはすぐ側に座り込んでいるグレイをつま先で小突いた。
「なんだよ、お嬢ちゃん」
「この骨董武器の市ってそんなに凄いんですか?」
「さぁね。何を出品するのか知らんから、なんとも言えんわな」
グレイは適当に答え、またタバコをふかし始める。むしろ上の空、といった感だった。
実際、会場のホールが開いてから二人はずっとその正門に張り込んでいるが、何も起きていない。無論入っていく商人達もチェックし
ているものの怪しい人物はまだ居なかった。これでは肩透かしだ。退屈もいいところである。
「何も無いに越したことはないんだがねぇ」
セシルの思考を読んだかのようにグレイがぼやく。彼も例によってスーツ姿だ。セシルとは違い、長身に良く似合っている。
そうして見ると、あながち悪い人間にも見えないのが不思議だ。
「あ、そうだ・・・アルバートさんの事、教えてくれませんか?」
不意にそう切り出したセシルに目を丸くしてから、グレイはタバコを地面に押し付けて消した。
それから少しだけ間を置き、
「俺とアルバートが出会ったのは十歳かそこらだったかな・・・同じ部隊に配属された俗に言う・・・戦友・・・なんだろうな」
「部隊?」
「プロンテラ中央騎士団直属の特殊部隊・・・としか言えねーな。お嬢ちゃんが知るには早すぎら」
グレイは言葉を濁したが、セシルには大体分かっていた。アルバートは暗殺者だ。その部隊というのもそういったことを遂行するもの
であろうことは容易に察しがつく。
「同い年だったからかもしれねーけど、気が合ったんだ。俺とアルバート・・・それに・・・マリーベル」
「マリーベル?」
「そういう娘が居たんだよ。アルバートの師匠で部隊の指揮官だったジジイの娘。アルバートにぞっこんだったね、ありゃ」
多少の嫉妬が含まれた言葉だった。それでも楽しそうに話すグレイから当時の彼らの関係が伺えた。
羨ましくもある話だった。アルバートと生活を共にした経験があるセシルとしては、むしろ彼らに嫉妬出来る。
「俺達三人は十二の頃にそれぞれ部隊を任された。異例・・・というか、三人とも天才だったのかもしれねぇな。家族のない俺達が必死
こいて戦う術を身につけたってのは分かるが、それを差し引いても・・・<黒のアルバート>は化け物じみてた」
「黒の・・・アルバート」
「そう、まさにあいつはまさに<黒>の名を冠する暗殺者だ。真っ当な戦闘はともかく一方的な暗殺任務に関しては右出る者はなかった
な・・・ま、そんな生き方に嫌気が差して部隊を辞めたって話だ。詳しい事は知らねーが」
冷たい風が吹く。グレイは新しいタバコに火をつけ、紫煙をくゆらせた。
「今何処に居るのかも分からん。少し前に会ったんだが、行き先は聞いてない」
「そうですか・・・」
「ま、お嬢ちゃんとアイツの間に何があったかは知らんが、あんまり関わらないほうがいい。それ相応の覚悟がなけりゃ・・・な」
そういう奴だから、とグレイは締めくくって語り終えた。
生きている世界が違う。そんな風に言われた気がした。一介の剣士に過ぎないセシルでは、良く分からない次元であることは確かだ。
現にアルバートの生い立ちを聞いてもピンと来ない。背負った影の暗さがはっきりしただけだ。
セシルはそんなことが知りたい訳ではなかった。戦い、傷付きながらも笑うあの彼が、どんな風に考えどんな風に生きていくのか。それ
が知りたいのだ。
このままでは彼との距離は一向に縮まらない気がした。
目の前にいるブラックスミスも、その壁の向こうの人間だ。それが会話の節々から良く分かった。彼らは高みに居る人間だ。高慢な態度
も理不尽に思える判断も、それなりの理由があるのだろう。多少、見直した。
自分もいつかそこへ行けるだろうか?セシルはそんな事を考えた。
それが正しい事なのかそうでないのかは、今の彼女には分からない事だったが。
いつの間にか商人達の列は途切れ、ホールの中からは次々に落札を告げる声が響いてくる。
どうやら取引が始まったらしかった。
「あ〜あ、俺も行きてぇ〜なぁ〜・・・行こっかなぁ〜」
一転して緊張感の無いぼやき声を上げるグレイ。セシルは髪をなびかせながらくすくすと笑った。
「行っていいですよ」
「あ、あれ?怒らねーのか、お嬢ちゃん」
「気になることがあるんでしょう、グレイさん?」
半分は勘のようなものだった。もう半分は信頼に基づいた予測だ。そして、それは当たっていた。
そんなセシルの先ほどまでとのギャップに少々驚きながらも、グレイはにやにやして立ち上がった。
「へっ・・・さすが、アルバートの見込んだ娘だわな・・・わりーけど、ここ頼むわ」
「・・・はい」
ホールに駆けて行くグレイを見送ってから、セシルはバスタードソードの柄に手をかけた。
少し前からホール周辺を巡回していたアルベルタ騎士団の姿が見えない。理由は、分かっている。
恐らくグレイも分かっていて中へ行ったのだろう。何か始まろうとしている。
これも勘だったが、背後で生まれた気配は―――確かだ。
ヒュン、と風を切って何かが飛来する。細い風切り音が高速でセシルに迫った。
(これは・・・)
彼女は振り向きざまに抜刀し、剣に付与された風の力で『細い何か』を弾き飛ばした。へし折れて夜の闇に消える寸前、セシルははっきり
と見た。それは・・・、
(・・・矢!)
すかさず二本目をバスタードソードの刀身で受け止める。軽い火花を散らし、阻まれた矢が地面に落ちた。
二本同時に的を射るスキルだ。細かい名は忘れていたが、襲撃者はアーチャーらしい。ホールから漏れる光だけでは見えない遠距離からの
狙撃だ。夜目の利く弓手相手に、セシル一人では無理がある。襲撃者もそれを見越したらしい。なかなかやり手だ。
ただし、セシル一人ならば、だが。
「バニ君、よろしく!」
襲撃者にとって予想できない伏兵。ホールの屋根に隠れていた栗毛のアコライトがおもむろに立ち上がり、掌をかざす。
「ルアフ!」
ボフ、と漆黒の空に青白い閃光が輝いた。魔法による光が夜の闇を照らす。回避する手段は無い。
セシルは遠方で動く影を見止めると、一気に駆け出した。彼女の得意とするスピードにバニがすかさず唱えた速度上昇の呪文が加わる。
「いっくわよぉぉ!」
風のように加速していくセシル。襲撃者が次の矢を撃つより、早い。下手をすればペコペコに騎乗した騎士よりも速い。
「・・・ちっ、なかなか・・・」
襲撃者は舌打ちし、とんでもない速度で駆け抜ける金髪の少女剣士を真っ向から迎撃した。手にしたクロスボウを盾に、バスタードソード
刃を受ける。風と反則じみた速さで増幅された一撃がクロスボウを直撃した。堪らず、自動弓は分解する。
それは一瞬の攻防だった。返す刃で薙ぎ払うセシル、飛び下がる襲撃者。
魔法でブーストしているセシルを凌駕する動きを見せる襲撃者に、バニは舌を巻いた。セシルには悪かったが、速さはとにかく彼女の腕では
当てることが出来ない相手のようだ。彼はメイスを取り、屋根から跳んだ。
「取った!」
勝利への確信と共にメイスが襲撃者の頭部にめり込む。そう、『めり込む』。
凄まじい弾力にバニが逆に弾き飛ばされた。襲撃者は放り出されたバニを蹴り飛ばし、飛び掛るセシルのスーツを掴んで投げ飛ばす。
どちらもさしたるダメージではないが、立ち回りの巧みさが圧倒的だ。
ピンク色のポリン帽を目深に被り、頑丈に縫われたタイツにスパッツ姿という怪人は指を突き出し、せせら笑った。
「まあまあやるようやけど、まだまだやね。最近噂の赤リボンと道化いうコンビやな?」
声は若い女性の声だった。
バニのメイスはこのポリン帽に受け止められたのだ。ともすれば子供の玩具だが、こんな使い方をするとは。
「女の人!?・・・こいつが・・・!?」
「怪盗ポリン!」
安直な呼び方ではある。恐らくハンターであろう彼女は微かに口元を緩め、
「かかってきぃ、ちょいと遊んだるわ!」
拳を突き出した。
213('A`)sage :2004/03/28(日) 00:02 ID:liUzumJI
今晩は。駄文投下です。
セシルが魅力的に書けません・・・うう、未熟。

>>206さん
とても細かい描写が生きていると思いました。題材がDOPなのも
あってか、私は好きです。駄文ではないと思います。
続きも頑張ってください!

それでは、また次の機会に。
214名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/28(日) 01:26 ID:vbv94LAo
亀レスですが
>花のHBさん 9ヶ月間お疲れ様でした。あなたの文章を読むために
何回スレチェックしたかわからな(ry 個人的にはハッピーエンドヴァージョン
を激しく読んで見たいです(;´Д`) なにはともあれご苦労様でした。

>('A`)さん GJ!(*゚∀゚)=3 戻ってきてくれて・゚・(ノД`)・゚・。
215206sage :2004/03/28(日) 06:05 ID:seoF68VQ
>>210様、('A`)様
 燃料獲得。燃焼、打鍵!
 という訳で続きを投下いたします。寝ずの打鍵で多少ハイになっている点は、ご容赦を。
 では。
216Zweihander_2sage :2004/03/28(日) 06:07 ID:seoF68VQ
 ドッペルゲンガーを倒してから、ひと月。
 彼女は戦いの場をグラストヘイムに移していた。
 拠点としていたゲフェンからはほど近く、道すがら襲ってくるコボルドや龍の幼生は本格的な戦い前の腕ならしには恰好だ。
 古城の入り口前に溜まっていた、おそらく振り切られて捨て置かれたと思われる幼生の群れを屠る彼女の手には、あの日ドッペルゲンガーの残した、巨大な両手剣が握られていた。
 ペコペコには、あれ以来乗っていない。彼女にとって己の乗るべき愛騎は、あの日失われた一羽のみだ。そして、面頬も着けなくなっていた。極限の状況下では、面頬の防御力よりもいちいちそれを外してポーション類を口に運ぶ隙こそが致命的であると、彼女は学んでいた。

 城門前で戦う彼女の側を、パーティーを組んだ者達が数組通り過ぎていく。
 自分達を襲う者は倒していく者もいる。
 彼女が居るのを幸いと、魔物を擦りつけていく者も多い。
 その中に混じった聖職者が祝福と癒しの術を彼女に掛けていく事もあるが、それも申し訳程度。謝罪の言葉は無い。

「……」

 彼女は礼も抗議も口に出さず、黙々と剣を振るう。
 独りで戦える、戦えてしまう彼女は、他人と共に戦った経験が全くと言っていいほどに無かった。それ故か、戦いの場で口をきく事は殆ど無い。そして、沈黙を以て魔物を屠る騎士を「人形」と見なす者は多い。悪循環。
 ひとしきり魔物を殲滅し終えると、物憂げに溜め息をひとつ漏らして彼女は城門をくぐった。


 ぼろ切れを羽織った亡霊が斬り伏せられ、塵と消える。息つく間もなく宝箱に化けた魔物が襲い掛かるが、彼女はその魔物の素早い回避運動をものともせずに巨大な剣での斬撃を的確に浴びせていく。程なくして箱の残骸も階段に転がることとなった。

 もとより迅さと巧みさで剣を操る彼女にとって、ドッペルゲンガーの残した巨大な剣は決して扱い易い得物とは言えなかった。が、己の剣技を一から鍛え直す様な修練を重ね、今となってはかつての愛剣と同様以上に振るえるほどになっていた。
 剣が彼女に合わせたか、彼女が剣に合わせたか。その剣技は今や人剣一体とも言える域にある。

 残骸に混じって転がっていた鉱石を拾いあげた彼女の傍らを、唸りを上げて矢が過ぎる。それを放った魔物を求めて素早く巡らせた彼女の視界に服事の少女が映る。

 ひゅん。

 再び別の方向から放たれた矢が、風の壁に阻まれてあさっての方向に逸れる。服事の少女の術によるものか、と礼を言おうとする間もあらばこそ、

「ごめんなさいっ!」

 転移の術で少女の姿が消えた。己の居た方向から彼女に標的を変えた、亡霊と箱の群れを残して。

(こっちは近接職なんだから、弓手の側に出すべきなのに)

 そう心の中で独りごち、攻撃を避け難い鎧の弓手から倒すべく彼女は床を蹴った。


 ポーション類を大方使い切り、ゲフェンに戻った彼女は広場にベンチに腰掛け、独り何をするでもなく佇んでいた。
 その耳に、ひと月前の恐怖の記憶と結びついた、忘れがたい声が入る。

「よう、今日は何で遊ぶ?」
「ボス狩りはやってられんしな。……おっ」
「あん?」
「こないだの人形がいやがるぜ。害鳥から降りてケイン外したくらいでばれねぇとでも思ってんのかね」
「ああ、ほんとだ。こりゃ、決まったな。……何本ある?」
「暇つぶし用にと思って、30ばかり用意してある」

 彼女に聞こえない様に声をひそめているのだろうが、彼女にはその内容がはっきりと聞こえていた。聴覚が優れていると言うよりは、あの日の記憶がそれだけ深く彼女に刻まれている証か。

 勘付いている事を悟られぬ様、視界の端にそのパーティーを納めた彼女は、その内一人が懐から取り出した物を見て驚愕した。

(古木の枝、それも束……! こんな、町中でっ!)

「んじゃ、いきますかっと」

 ばきっ!

 止める暇すら無い。枝の束を折った男の周囲に魔物の群れが召喚された。
 小物も混じってはいるが、中には強大な力を持つ者も多い。
 剣を引き摺る骸骨の騎士。夢魔。大天使の名を冠する軟体生物。巨大な馬に跨る、黒衣の騎士までもが喚びだされ、無差別にその威を振るう。瞬時に街の広場は悲鳴に包まれた。

「よっしゃ、大当たり!」
「いったん撤退だ。適当に戻ってきてから、レア狙おうぜ」

 楽しげな笑みさえ浮かべて、この状況を創り出した張本人達は蝿の羽で姿を消した。
 他の冒険者たちは、ある者は恐れをなして逃げだし、ある者は果敢に魔物たちに挑みかかった。その者たちにしたところで己の戦いに夢中で、戦う力を持たない露天商や一般市民にまで被害が及んでいる。

(あいつら……! それに、私がここにいたばかりに、関係無い人達までっ!)

 見るからに未熟と見える、真新しい鎧をまとった剣士が、挑み掛かった鎧の魔物に一刀に斬り伏せられる。
 城門前で擦りつけを行った者達が、倒せる魔物のみを相手にしながら離れていく。
 階段で会った服事の少女が、転移で逃げ出す。
 大天使が更に喚び出した魔物の群れに、戦う力の無い者達が引き裂かれる。

 自分の剣技を以てしても、到底殲滅できる規模では無い。だが、逃げ出す事はできない。そのつもりも無い。
 この地獄絵図の責任の一端は自分に有り、何より関係の無い、罪も無い者達が倒れていくのを見逃せなかった。
 ヒトの身勝手さ、醜さを他人よりも多く見てきた彼女。だが。それでも。

 絶望的な魔物達の群れに向かって、彼女は掛け出す。巨大な両手剣を握りしめ、あの日の様に叫びを上げて。

「うああああああぁぁぁぁぁっ!!」
217Zweihander_3sage :2004/03/28(日) 06:07 ID:seoF68VQ
 群がる小物達を、焔の剣技で吹き飛ばす。巨像の魔物を群れに向けて斬りとばし、数体を巨像の重量で押しつぶし、崩壊に巻き込む。素早く動く猫や道化師の魔物を、それ以上の迅さを以て斬り伏せる。
 戦いの中心部で奮戦する彼女。だがもともとポーション類をほとんど切らしていた事もあり、限界は早々に訪れた。
 鎧の弓手が放った矢が肩を貫き、動きの止まったその身を骸骨の騎士が打ち据える。止めとばかりに、黒衣の騎士の剣技が周囲の魔物や冒険者達を巻き込んで彼女を吹き飛ばした。

「あ、ぐ……っ!」

 街の中心にそびえる塔、その外壁に叩き付けられ、ずり落ちた彼女は地に伏した。
 片手に剣を握りしめ、立ち上がろうとして敷石に付いたもう片方の腕には、しかし身体を支えられる程の力が入らない。

(動いて……)

 悠然とすら思える動きで、黒衣の騎士が彼女に迫る。

(私は、まだ……!)

 ずくん。

 黒衣の騎士が振り上げた剣を見上げる彼女の中で、何かが脈動した。

 ずくん。

 振り下ろされた剣を転がってかわし、その勢いで立ち上がる。立てる。

 ずくん。

 危機に瀕した時に発現する内なる狂気とも異質な、正体の解らない力が満ちる。

 ずくんっ!

 まだ、戦える。彼女は剣を構え直し、魔物達に向けて駆けた。

「あああぁぁっ!!」

 ひゅごうっ!

 彼女の耳元で風が鳴る。黒衣の騎士の両腕が瞬時に斬り飛ばされ、剣がその腕ごと落ちた。

「え……?」

 確かに斬ったのは彼女だ。その剣の扱い方も、彼女自身のものだ。
 だが。
 その速度が、段違いに上がっていた。異常な速度で振るわれる、巨大な両手剣。
 鎧の魔物が全てのパーツを両断される。
 骸骨の騎士が、頭蓋と両腕の骨を砕かれる。
 両の翼を斬り落とされ、地に伏した夢魔の首が飛ぶ。
 己の傷を癒す間も、転移を使う間も与えられずに、大天使が粘液の飛沫に変わる。
 残像すら見える程の速度で巨大な剣を振るいながら、その重量に振り回される事も無く、一体一体、あるいは数匹をまとめて、確実に屠っていく。
 己の身に起こった異変に気付きながら、それでも己の意志で剣を操る。己の起こす風鳴りと、魔物達の断末魔を聞きながら。

(私は……)

「ボウリング・バッシュっ!!」

(この迅さを、知っている……!)

 最後のひとかたまりに黒衣の騎士を斬り飛ばして、一気に殲滅する彼女。

 その瞳は、金色に輝いていた。


 町外れに位置し、そのため被害を免れていた、宿。その自室のベッドに腰掛け、彼女は両手剣の血糊を拭っていた。
 町からは喧噪が聞こえ、窓からは、神聖魔法によるものであろう光が断続的に差し込んでくる。首都の大聖堂から、ようやく聖職者達が派遣されてきたのだろう。冒険者等、生命力の強い者にとって死は絶対では無いが、それでも被害は甚大であった。
 しかし、彼女の意識は今、そこには無い。元の色に戻った瞳で、両手剣の刀身を見つめる。

「……ずっと、そこに居たのね……?」

 刀身に映る彼女の貌が、あの日と同じ笑みを浮かべる。その瞳の色は……金色。

「ドッペルゲンガー……」
218名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/28(日) 10:44 ID:CIeHufWI
>>216-217
日曜の朝に面白いものを読ませていただきました
ネタで買い求めたツヴァイハンダー、久々に振るってきたくなりました。
私のにもDOPが宿ってないかなぁ〜(^-^)
これからも頑張ってください
219名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/28(日) 16:33 ID:J.IAj6BE
(1/3)

「ふぅ・・・なかなかいい運動になったな」
 戦闘の汗でずれたサングラスを指先でなおしながら振り向くと、その目の先には
涙目になってへたりこんでいるプリーストがいた。

 炭鉱3F。通路の向こうにいたPTが決壊でも起こしたのか、いきなり沸いた大量のモンスター。
 それらが真っ先にめがけたのは、スミスではなく、プリーストだった。
 一瞬のことで、支援より戦闘に長けたプリーストだったが、囲まれれば範囲攻撃がないことが痛い。
 立ち尽くし痛みにヒールで耐えるプリーストに駆け寄り、カートレボリューションを連打した。
 そして、なんとか殲滅が終わり、静けさが戻った通路だったのだが・・・・・・。

 プリーストの表情にスミスは動揺する。
 待ってくれ、泣くな。嘘だろ、かんべんしてくれ。
「おっと…さすがに、SPがからっけつになっちまったか…」
 独り言のようにつぶやいて、プリーストと目があわないように、わざと斜に座る。
 体力もかなり減ってるが、まぁどういうことはない。
 冒険者としてのレベルが8ほど上のそのプリーストには、いつも「私の癒しをもらおうなんざ10年早い!
回復ぅ?自前でしな!」と言われてた。そのためカートの中に非常用の肉はいつでも積んである。
もっとも、なんだかんだでプリーストと一緒のときに食べることは、ほとんどなくすんできたのだが。
 と、斜め後ろで、ごそっと動く気配がして。
「ヒール!ブレス!マグニフィカート!」
 瞬間、ふっと体が軽くなり、暖かな気配に包まれて、気力が回復していくスピードがあがる。
 振り返ると、またぺたんと地面に座って、スミスに顔を見られないように少し顔をそむけて、
眼鏡の間から慌てたように涙をぬぐっているプリーストがいた。
 困った。どうすりゃいいんだ。まさかこれくらいのことでコイツが泣くなんて、反則じゃないか。
 今までだって少々どころか、コイツひとりでかなり危険なダンジョン行ってたって話もしていたってのに。
 と、それまで静かだった通路の影に、ゆらりとスケルワーカーが浮かび上がる。それはまっすぐに
プリーストの方へと向かい。
「イムポシティオマヌス!」
 自分に攻撃力上昇の魔法を使い、ぽてぽてと炭鉱夫を殴るプリースト。
 先程のアドレナリンラッシュの効果もとうに切れて、もちろん殴りプリであるから炭鉱夫のひとりくらい
どうということはないが、効果中に比べればその殲滅スピードは見劣りはする。
「だいじょぶかぁ?」
 崩れ落ちる炭鉱夫と一緒に、またぺたんと座ったプリーストの背中に、わざとのん気な声をかける。
「へ・・・平気よっ。さっきはちょっと・・・その、そう・・・ちょっと驚いただけで・・・ぜんぜんっ平気っ」
 慌てたようにまた立ち上がると、手を腰にあて、きっとスミスのほうを睨む。
「なっ泣いてなんかないからねっ?いい?ほんとはこれくらい一人でも大丈夫なんだから・・・
1Fからここまでくらい、すぐ歩いて帰ってこれるし・・・っな、なによ・・・」
 よっこらせ、と立ち上がったスミスに、じり、と後ずさる。
 わかってしまった。プリーストの強がり。一人のときはきっと、何度もあちこちに怪我をして
何度もここに通うんだろう。でも今日は。スミスが一緒だったから。
「泣いてない、ね・・・へぇ、じゃあこの頬に伝う跡はなにかなぁ?」
「う、うるさいわねっ、これは・・・」
「おっと」
 頬に触れたスミスの指をはらおうと伸ばされた手を、片手でつかみ、そのまま頬からプリーストの眼鏡に手をのばす。
「な、なに・・・ちょっと・・・」
 プリーストの眼鏡をはずして、自分のポケットにしまうと、スミスはにっ、と笑った。
「この赤く腫れてるまぶたはなんなのかなぁ?」
「ばっ・・・うるさいわねっ、か、返しなさいよ!放せー!」
「やだね、どうせ伊達眼鏡だろ。それに放したら殴るくせに・・・っと『アドレナリンラッシュ!』」
「あったりまえでしょう!・・・え、ちょ・・・なに?」
 片手でプリーストの手を握ったまま、片手のチェインがプリーストの後ろにせまっていたミストを沈めた。
ソードメイスに持ち替えて、続いてくる炭鉱夫を殲滅する。
「ちっ・・・」
 ミストの崩れ際にうちこまれた毒に軽く舌打ちして、緑ハーブを噛みちぎる。
「ちょっと、放せっ・・・ばかスミス!後ろ・・・っ!」
 プリーストの言葉に振り向くと、どこから沸いたか、ミストが2匹向かってきている。
「なんのこれくらい」
 ガシガシとミストにチェインを振り下ろし・・・・・・ほどなくして2体のミストは崩れ落ちた。
220名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/28(日) 16:34 ID:J.IAj6BE
(2/3)

「さーて、肉肉、っと」
 再び静かになった通路で、片手をカートにつっこんだスミスに、プリーストが叫ぶ。
「なにやってんのよ!」
「んー?」
「いい加減、放しなさいよっ!眼鏡も返せ・・・っ」
「殴られるからやーだーねー。お前、けっこう力あるしな」
 カートの中を覗き込んだまま、からかい口調で言ったスミスにプリーストがぐっとつまる。
 そう、彼女は殴りプリだ。なんだかんだで力はあるし、今だってスミスの手をふりほどこうと思えば
それはけして、できないこと、ではないだろう。
 でも、それをしないプリーストの反応を、スミスは少し意地悪く楽しむことにした。
 いつもかけてる伊達眼鏡。それはきっと、この強がりを隠すため。
 そうとわかったら、もう返す気はない。
「な・・・殴らない・・・から」
「えー」
「だっ・・・って・・・」
 お、赤くなった。
「だって?」
 気づかないふりをして聞き返す。
「ひっ、人が見ていくじゃない・・・っ!恥ずかしいから放して・・・」
「大丈夫。自分が思うほど人は他人のこと見てないって。見てても5分後には忘れてらぁ」
「でもっ・・・だって・・・っ」
「だって、なんだよ」
「このままだったら・・・あんたに、ヒールもブレスも・・・したげれなぃ・・・・・・・」
 よっぽど言いたくなかったのか、小声になったその言葉に、スミスはぷっと吹き出した。
 と、その笑いにプリーストは一瞬、はっと顔をあげて、直後スミスから顔をそむけると
「笑うな・・・・・・・・・バカ・・・・・・」
 と呟いた。
「バカはお前だ。泣くなよ」
「泣いてなんか・・・・・んっ」
 また叫ぼうとして開いたプリーストの口に、スミスが花びらをつっこんだ。
「それでもくわえて、ちょっと黙ってろって」
 それでも、って、あんたが今までくわえてた花びらじゃないか、これっ!
 そう思ったが、眼鏡ごしでない自分の顔を、しげしげと見られて、プリーストは二の句が告げなくなった。
「俺、頼りないか?・・・頼りないか、レベルは8つも違うしな」
 なにを言い出すんだろう、そんな顔のプリーストをスミスはまっすぐに見つめた。
「いつもお前、俺を守ることばっか考えてっだろ?でもな、俺だって、やるときゃやるんだぜ?
お前の手ひとつ握ったままでも、こうして、ちゃんと生きてっだろ?」
「う・・・・・・・」
「だからさ、も少し力抜いて、俺を頼ってくれよ」
「・・・・・・・・ごめ・・・・・」
「今さらこんなこと、俺が言うのもなんだけどさ。お前だけががんばるんじゃなくて、
俺だけががんばるんじゃなくて。一緒にやろうぜ?・・・な?」
 スミスの片手が、プリーストの頭をぽふぽふと柔らかくたたく。
 その手の下で、プリーストの頭が小さく頷くのを確認すると、スミスはにっ、といたずらっぽく笑った。
221名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/28(日) 16:35 ID:J.IAj6BE
(3/3)

「ふむ・・・じゃあまず手始めに、このガッチガチに固めた聖職者の帽子をとって、と・・・」
 撫でていた頭の上から、スミスは素早く帽子をとりあげた。
「え、なんでっ!?ちょっと・・・」
「なんでって、決まってんだろー?これよりもかわいいのが・・・んー、確か花のヘアバンドがカートに・・・」
 とりあげた帽子もとっととカートに放り込んで、スミスはさらに奥のほうをさぐっている。
「だからっ、なんでそれが手始めになるのよー!」
「いやぁ、防御力のひとつでも下がれば、お前も俺を頼ってくれるかなぁ・・・なんて・・・あ、あったあった」
「そんなの関係ないよ!わかった!ちゃんと頼るし、だいたい花のヘアバンドなんて私のガラじゃあ・・・」
「はーいストーップ。その花びらもはずすんじゃねーぞ?・・・・・ほら、似合うじゃないか」
 満足そうにスミスがプリーストにかぶせたヘアバンドは・・・・・・・。

 プリーストの頭には、小さな花が、咲いていた。

「あんたっ!花のヘアバンドって・・・これは違うでしょーが!!」
「えー、だって花じゃんかー!装飾用で頭に飾るんだからヘアバンドだろ?」
 脇からでてくる炭鉱夫をなぎ倒しつつソドメを握り追いかけてくるプリーストから逃げながら、
スミスも横のミストを叩く。
『アドレナリンラッシュ!』
『イムポシティオマヌス!』
 敵の沸きにあわせて、二人で息のあったスキルを掛け合いながら、炭鉱のせまい通路を疾走する。
「しかも似合うってなに!?失礼しちゃうわねっ!」
「いや、まじカワイイって・・・あ、小さくて気にいらね?だったらこっちにするか?」
 その言葉に、思わず追いかけていた足を止めて、スミスがカートから出すものを見ると・・・・
それは、大きなヒマワリの花。
「・・・・・・・・・・・」
「俺としては、やっぱ小さいほうがカワイイって思うんだけど、こっちのがいいなら・・・」
「そういう問題じゃなぁーーーい!!」



 それでもその日から。
 スミスの傍らのプリーストの頭には、いつも花が咲いていた。

=end=
222名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/28(日) 16:40 ID:J.IAj6BE
最後の装飾用花のくだりだけ書きたかったのが、へたれな長文に・・・(涙
エロがない男女だと・・・ここへの投下でよかったのかな。

お目汚し失礼。
223Zweihander_4sage :2004/03/29(月) 01:03 ID:N7jk1J3E
『さすがに気付くか。……その通り。我はずっと、このツヴァイハンダーに宿り、お前の行動を見ていた』

”ツヴァイハンダー”。それが、この両手剣の銘らしかった。

「……私の身体が、この剣に馴染むまで待っていた、という事?」

 刀身に映る金眼の彼女、ドッペルゲンガーが虚を突かれた様な表情を浮かべる。

『何故、そう思う?』
「さっきの戦いで一度倒されたあとの剣速、あれは貴方の迅さだった。
 私の身体を使って、外の世界で力を振るおうというの?」
『ふむ、そういう考えもあるか。なるほど、やはりお前は興味深い』

 剣に問いかける彼女の表情が怪訝なものに変わる。対するドッペルゲンガーは苦笑い。
 ふと、その表情と瞳の色が彼女と同じものに戻り、傍らに半透明の人影が現れる。金眼の、彼女の姿。それが、口を開く。

『質問の答えは、否だ。こうして現れる事が出来る以上、お前の身体を乗っ取る理由は無い』
「では、何故?」
『先に言った通り。お前が、興味深いからだ』
「私が……?」

 頷く、金眼。

『お前と戦うまで、我が見た人間の種類は限られていた。
 群れて、戯れに我を滅ぼす者。我の姿を認めた途端に失せる者。恐怖に竦み、我にただ斬られるのみの者。
 だが、お前は違った。恐怖に震え、それでも絶望に任せず、生きんと我に立ち向かい、打ち勝った』
「……」
『故にツヴァイハンダーに宿り、お前と、お前の周囲の人間を観察してきた。
 大多数の者は唾棄すべき精神の持ち主だったがな。そんな人間共を、しかしお前は護る為に戦った』
「その理由を、知りたかったのね。だから、私に力を貸した」
『その通り。一番の興味の対象はお前自身だがな。
 他の者達に苦渋を舐めさせられた事も多かろうに。実に不可解で、理解し難く、それ故に興味深い』
「……饒舌ね。ひと月も剣の中で黙っていたからかしら」

 くすり、と彼女は笑みをもらす。その笑顔が、更に金眼の興味を引く。

『ほう』
「?」
『そんな顔もするのだな。戦いの時の無表情とも、憂いとも違う、良い貌だ』
「え……? あ、なっ……!」

 途端に頬を赤らめる彼女。そんな彼女の照れた表情を、金眼はしげしげと覗き込む。

『ふむ。その表情も初めてだ。ひと月見続けても、まだ知らぬ面があるものだな。実に興味深い』
「あ、貴方だって笑っているじゃない。戦っていたときは無表情で、最後も眼でしか笑ってなかったくせにっ!」
『ふむ? ……なるほど。こういう表情もあるか』

 ツヴァイハンダーを手鏡代わりに己の表情を確認する金眼を見て、彼女は堪えきれなくなったように、声を出して笑い出した。
 きょとんとしながら、金眼は笑う彼女に目を向ける。

「あ、あはははは……! やだ、なんでこんな、バカみたいに、笑ってるんだろ……。 あははは、はは……」

 涙さえ流しながら笑い続ける彼女を見つめる金眼。その貌が、優しげなものに変わっている。
 金眼自身浮かべたことのなかったその表情で、腹を抱えて笑う彼女の背中を見つめ続ける。
 ようやく収まってきた彼女が、指で涙を拭いながら顔を上げた。

「ずっと、会話なんてしてなかったせいかしらね。抑え、効かなくって……。
 ……貴方の知りたい答えは、私にも出すことはできないわ。でも、人間が皆、貴方が言う唾棄すべき者では無い事は、覚えておいて」
『言われるまでも無い。お前を見ているからな』

 金眼の答えに頷く彼女。

「答え……人間の本質、とでも言うべきかしら。
 そんなの、知る事なんて出来ない。私の短い経験でも、貴方の狭かった世界でも、ね」
『……では、魔の者らしく、契約といかぬか?』
「契約?」
『そうだ。我はもっと人間を、お前を見ていたい。そのために、このツヴァイハンダーを携えていて欲しい。
 その見返りとして、我の力はお前のものだ。無論、身体を乗っ取る事は無い。完全に、お前の意志で、だ』

 突然の提案に、しばし考え込む彼女。

「あまり強力な力を持っても、ソロに磨きがかかっちゃうかもね」
『む……だが、物珍しさに寄ってくる者もいるかも知れぬぞ。そこから他人に接する機会も、無いとは言えまい?』

 悪魔の甘い誘い、と言うよりもどこか必死さをにじませる金眼の反論に、彼女はまた、くすりと笑う。

「……いいわ。一緒に、世界を巡りましょう。たとえ、それで答えが出なくても」

 その答えに、金眼が喜びの表情を浮かべたのを、彼女ははっきりと見た。

『うむ。……では、ツヴァイハンダーにお前の血を。数滴で良い』
「……これでいい?」

 切っ先に指で触れ、刀身に血を垂らす彼女。その紅が刀身に紋様を描き、そして消えた。
 金眼の姿も消え、刀身に映る彼女の瞳が金色に変わる。

『契約はなされた。”ツヴァイハンダー・オブ・バーサーカー”、貴方の剣となりて生涯の忠誠を誓おう。……感謝する』
「いきなりかしこまらなくてもいいわよ。……よろしくね、相棒」
『了解した。我が主よ』


 後に大陸にひとつの噂が流れることとなる。

「剣よ!」

 銀色の髪をなびかせ、金色の瞳を輝かせる、巨大な両手剣を携えた一人の女性騎士の噂。

「狂える風の迅さを以て、我に従え!」

 人を助け、人を識る為に世界を巡る、嵐のごとき剣技の持ち主は、今もどこかでツヴァイハンダーを振るっている。

「ツーハンド・クイッケン!!」
224206sage :2004/03/29(月) 01:05 ID:N7jk1J3E
4回に分けてお送りしました「Zweihander」、
これを以てひとまずの完結とさせて頂きます。
それでは。
225名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/29(月) 01:16 ID:o3Bxv71Y
( ゚д゚)……イイ
226名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/29(月) 01:27 ID:7C4y4p.A
ツーハンド━━━━(゚∀゚)━━━━クイックンッ!!

両手騎士作りたくなったじゃないかっ!!
227名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/29(月) 05:27 ID:0dFH2IAY
>>224=>206さん
なんか滅茶苦茶かっこいいっす。
彼女の生き方もかっこよければ、それに応えるDOPも。
いつか彼女のようになりたいと思わせてくれました。

>>226
2HQに魅せられて、両手剣使いになったVit-Str騎士ならここに一人。
OD2Fで喘いでいるようじゃ未だ未だだけどね。

>>221
こちらこちらでなんかこう、可愛くてよいです。
相方いる人が羨ましい…
228('A`)sage :2004/03/29(月) 23:23 ID:l81uxuKw
『怪盗と魔剣 3/3』


邪魔にしかならないネクタイを緩めながら、グレイはホールの中を見回した。オペラでも出来そうな巨大なステージの上で主催者の商人が並んだ
商品の値段を読み上げている。声が嬉々としている所を見ると、マージンだけで結構な稼ぎになっているらしい。
客席一杯に詰め掛けた他の商人達の目の色も尋常ではない。彼らの視線が集中する先に、それはあった。
(あれは・・・剣・・・か?)
異様な空気に包まれた剣が一振り、普通の骨董武器に混じって置かれていた。だが、その剣が発する何かがその存在を際立たせている。他の名品
と思しき商品も、霞んで見えるほどに。
似ている。似過ぎている。一週間ほど前に見た、アルバートの連れが持っていたという剣に。
しかし同じものではない。前に見た『剣』は細身で鋭い印象を受ける赤い片手剣だった。今、ステージの上にあるのは肉厚の黒い両手剣だ。
外観ではなく発するオーラが似ているのだ。数々の刀剣類を見てきたグレイにはそれが分かる。
決定的な違いもあった。件の『剣』にははっきりと感じなかったが、その両手剣からははっきりと感じ取れる。
―――あれは『危険』だ。
誰が持ち込んだ商品なのか分からなかったが、物事の分別がつかない馬鹿が居るらしい。
「では、次の商品の入札を始めます!次は・・・」
主催者の商人がその黒い両手剣へ手を伸ばす。
「・・・いかん!」
我に返り、商人を制止しようと駆け出すグレイの前に屈強の僧兵達が立ち塞がる。その背後には穏やかに微笑む女プリースト・・・フェーナ=ドラクロ
ワの姿があった。
「退け!あれがどういうものか分からないわけじゃないだろう!?」
「ええ、存じております。ですがこれも神の意思・・・もう遅いのです、<灰のグレイ>」
「!?・・・お前は・・・!」
ぐん、と空気が重みを増す。入札が始まったのではなかった。値を吊り上げる声ではなく、悲鳴が満ちる。
ステージの上で異変が始まっていた。主催者の商人・・・否、その手の中の両手剣が黒い波動を生み出す。商人自身も我が身に起こった出来事が理解
出来ていないようだった。
彼の身体は、既に右半分が別の生き物に変わってしまっていた。
肉を剥き出しにした羽根を生やし、腕が異常な長さへと伸びていく。
「う、うわぁ・・・あがああ!!」
ようやく自らの異変に気付いた商人が黒い両手剣を手放した。それを皮切りに、詰め掛けていた数百人の商人達が一斉に逃げ出す。
雪崩の様な混乱に巻き込まれたグレイはフェーナ達と引き離されていく。
人波の向こうで、美貌のプリーストが聖衣を翻すのが見えた。
「あが・・・どっ・・・どうして・・・この私が・・・何故・・・何故だ・・・」
喉を掻き毟り、商人だったモノが呻く。もうほぼ全身が異形に変わってしまった彼はステージの上をのたうち回った。
ステージに上がったフェーナは聖母の様な微笑を彼に向けた。そして優しく・・・淡々と告げた。
「我々にはもう貴方が不要だということです。ごめんなさい・・・不要ついでに実験させていただきました。どうやらその剣は本物みたいですね」
「き、貴様ら・・・この剣も・・・私が援助してやらなければ・・・うがぁぁぁっ」
肉が裂け、骨が砕ける音がした。
「これで<門>を開く鍵が一つ・・・ありがとうございます。大切に使わせていただきますね」
びちゃびちゃと体液を撒き散らすだけの肉塊と化した商人に頭を下げ、フェーナは十字を模した杖をかざす。
ズン、とホールが揺れ、ステージに大穴を残して商人だったモノは跡形も無く消滅した。
「さて・・・皆さん、お願いしますね」
穏やかな笑みを絶やさぬままに、彼女は僧兵達に杖で逃げ惑う商人達を指し示した。
「お一人たりとも逃してはなりません。全ての方々に、教化を」
僧兵達から狂喜の雄叫びが上がった。


ホールから溢れる血の匂いと悲鳴に、セシルとバニ・・・そして怪盗は攻防の手を止めた。
「何だろう・・・この感じ・・・肌にべとつく・・・」
昼間にフェーナ=ドラクロワに感じた感覚に似たものを覚え、セシルは呟く。
僧侶としてそういったあやかしの類に通じるバニはそれを正確に形容する単語を知っていた。
「瘴気だ・・・とても濃い・・・」
「・・・思うとったよりあかん事になっとるみたいやな」
怪盗の呟きに、二人は顔を見合わせる。
「あんたの仕業じゃ・・・?」
「うちにこないな真似出来るかいな・・・名前騙っとる奴がおるらしいちゅうんで来てみただけやねん」
腰に手を当て、怪しい口調で怪盗は胸を張った。
「そないな事よりも、全部うちのせいにされたら堪らんわ!ついてくるならついてきぃ!」
まくし立て、駆け出す彼女に慌てて続くセシルとバニ。
二人の本能が激しく警鐘を鳴らす。今、中に入ってはいけない、と。
229('A`)sage :2004/03/29(月) 23:25 ID:l81uxuKw
エントランスは血の海と化していた。
多くの商人達の死体が転がり、野太い鈍器やフィストで武装したモンク達が立っている。
冗談よろしく頭部をあらぬ方向へ曲げた死体などを見る限り、凄まじい怪力の持ち主ばかりなのだろう。
「・・・こら酷いわ・・・なんやねんこいつら・・・」
ポリンの言葉ももっともだ。セシルもバニも犯人であろう僧兵達を前に、迷いなく武器を抜く。
「バニ君、グレイさんも中に居るはずなの。大丈夫だと思うけど・・・急ぎましょう!」
「何で・・・何でこんなことばかり・・・人間って・・・!!」
モンク達は剥き出しの殺意を発散しながら三人に襲い掛かる。
怒りに駆られたバニのメイスが、僧兵の一人を打ち据えた。無謀とも言える突撃だったが、セシルもそれに続く。バニ一人では危険だ。
「あんたら、こいつら全員相手にするつもりかいな!?無理やで!?」
「じゃあどうしろって言うんですか!」
「栗毛!あんた、頭冷やしい!馬鹿やないやろ!」
筋肉モンクを張り倒しつつ、ポリンは僧兵の群れを掻い潜る。鮮やかな体捌きだ。
「瘴気の元に何かあるのは確かや!突っ切るで!」
ポリンの言うとおりだった。冷静に考えれば僧兵達の数はたった三人で相手出来るものではない。
セシルはバスタードソードに付与された魔力を解放し、刃を振るった。疾風が吹き荒れ、モンク達を吹き飛ばす。
間隙を突いて三人はホールへの階段を駆け上がった。立ち塞がる僧兵を下へ突き落としながら、瘴気の元凶へ急ぐ。
途中の廊下に誰かが居た。しゃがみこみ、倒れた商人の娘を呆然と見つめる青い髪のブラックスミス。
グレイだ。
「グレイさん・・・」
彼が看取ったと思われる商人の娘は、まだ若かった。
「・・・お嬢ちゃんに坊主か・・・そこのハンターは・・・」
事切れた娘の目を閉じさせてフォーマルスーツの上着を被せ、彼は立ち上がる。
「・・・偽者探しに来た義賊や」
ポリンは簡潔に告げた。言葉に多少の感情がこもっていたが、被ったポリン帽で表情まではうかがい知れない。少なくとも奥歯を噛み締
める音がセシルにははっきりと聞こえた。
グレイもそれで大体を察したのか彼女から視線を外し、ネクタイを投げ捨て、ブツブツと呟きながら歩き出す。
「まったく・・・まったく・・・まったく・・・どうしてこうも腹が立つことばかりなんだ・・・」
彼の目の前に武装したモンクが立ちはだかった。それでも全く歩調を緩めず、ブラックスミスは進む。
モンクが腕を振りかぶった。ただし、その腕を振り下ろすことは無い。
「退いてろよ、馬鹿野郎」
おもむろにモンクの頭を掴み、壁に叩きつけるグレイ。武器の製造に欠かせない強い腕力が壁を砕き、僧兵の頭部をめり込ませる。
壁に突き刺さったモンクからパラパラと粉塵が舞った。もはや人間業ではない。
「うわ・・・ごっつぅ・・・」
「せ、戦闘は本業じゃないんじゃ・・・」
「これくらいは戦闘とは言えねぇ。もっと不味い奴が居る・・・逃げるぞ」
不味い奴。セシルだけが思い当たった。僧兵を率いていた美貌の女プリースト、フェーナだ。
グレイ程の男に逃げるという選択を選ばせるだけの何かを持つということなのか。
「主催者は死んだ。騎士団からの依頼は放棄する」
「逃げる!?ここまで来ておいて見なかったことにしろと!?そう言うんですか、貴方は!?」
グレイに食って掛かったのはバニだった。彼の正義感からか、普段は見せない激しい感情を露にしている。
「・・・そうだ・・・死にたいなら先に進めよ・・・俺は行かねぇし、お嬢ちゃん達も行かせねぇ」
その言葉にバニが激昂した。グレイの襟首を掴み、拳を振り上げる。
咄嗟に止めに入ろうとするセシル。しかし、その彼女の眼前で二人は青白い光に包まれる。
空間転移魔法の光だ。何者かによって発動したその術は、二人を何処かへ連れ去ろうとしている。
230('A`)sage :2004/03/29(月) 23:26 ID:l81uxuKw
「・・・ち・・・!」
素早く突き飛ばされたバニだけが逃れ、グレイの身体は淡い光の粒子になって消えた。庇われた事も理解できないまま、床を転がるバニ。
セシルとポリンは既にワープポータルを詠唱した神官を睨んでいた。
「これで一人・・・一番手強い方が片付いてしまったのは幸運でした」
フェーナ=ドラクロワ。微笑を絶やさぬままに、彼女は美しい声で言った。
彼女の口ぶりからグレイが転移した先に何が待っているのか大体見当はつく。ただ、彼の安否を気遣う余裕は、無い。
「あんたが偽の予告状出した阿呆かいな?」
グレイを欠いて焦燥を露にする二人とは対照的に、怪盗だけは態度が大きかった。単に無神経なのか、自信に裏打ちされたものなのか。
そんな彼女にフェーナはやはり笑顔のままで答えた。
「あら、ご本人様ですか・・・申し訳ありませんでした。何せ今は私達の活動を良く思わない方々が多いもので・・・」
「そりゃそうや!こないに人殺してタダで済む思うとんのか!」
「あー、いえ・・・タダで済ますつもりで貴方の名前をお借りしたのですが・・・」
「じゃかしい!うちは人殺しはせんて決めとるんや!濡れ衣でポリシー壊されてたまるかいな!」
「それは申し訳ありません・・・」
動作だけしょんぼりとするフェーナ。しかし、やはり笑ったままだ。
「ですが大丈夫です。死んでしまえばそんなこと気にならなくなりますから、ね?」
笑顔の神官は十字の杖を振るい、呪文を詠唱する。魔法陣が浮かぶのとほぼ同時にセシルとバニは各々の武器を抜いた。
「あんたみたいなプリースト程度でどうにかできる思いーなや!せいぜいホーリーライトが精一杯やろが!」
赤い絨毯を蹴り、怪盗ポリンは丸腰のまま猛然とフェーナに迫る。
「あら、その通りですわ」
にこやかに言ってからフェーナは無造作に杖を彼女に向ける。
刹那、巨光が生み出され、放たれた。
驚異的な熱量を伴った白い光線が絨毯を焼き、床を焼き、ポリンの居た場所に着弾する。
爆発とさえ表現できた。紙一重で回避したポリンの顔が青ざめる。とてもではないが、プリーストの火力ではない。
「な、なんや・・・これ」
「・・・ホーリーライト・・・なのか?」
同じくホーリーライトを扱うバニでさえ、その半分の威力も出せない。たとえ彼がアコライトで、彼女がプリーストであるという差があった
としても有り得ない力だ。
「次、行きますね?」
可愛らしいとさえ思える声と共に、フェーナの詠唱が再開される。
今度はポリンも動かない。回避に専念しなければ蒸発する。六感がそう告げている。
「あは・・・嘘です、ごめんなさいね?」
「・・・な!?」
杖が振るわれた。殆ど無詠唱状態から光芒が煌き、ホーリーライトを警戒していたポリンの足元に無数の光の短剣が突き刺さる。
――レックスエーテルナ。
次の瞬間にはポリンの身体は宙を舞っていた。いともあっさり、倍化されたフェーナの杖による打撃の衝撃で彼女は吹き飛んだ。
「二人目。あと二人ですね」
良くない。非情に良くない。セシルの中の警報機はずっと鳴りっ放しだった。
恐ろしい相手がすぐ目の前に居る。自分とは桁違いの何か、恐ろしいモノ。人間の姿をした何かが、居る。
怖かった。背に嫌な汗が伝い、足が、手が震える。逃げ出したくても足が言うことを聞かない。バニも同じなのか、動かない。
「あら?どうしました?」
フェーナが微笑む。濃厚な死の気配と自分が彼女に殺される情景だけがセシルを襲う。
「恐れることはありませんよ・・・これもひとえにヴァルキリーの導きなのです」
ヴァルキリー。またその単語だ。
かつてセシルとバニが遭遇した事件で、狂ったとしか思えない神官が口にした言葉。
聞きなれない単語だ。
またか。そう思った瞬間、セシルの体の震えは止まった。
馬鹿馬鹿しい。その一言に尽きる。この女プリーストもあの時の神官と同じ、狂信が過ぎて妄想を抱いたクチなのだ。
そうに違いない。
恐れることなど、あるものか。
「・・・バニ君、ポリンさんにヒールをお願い」
「セ、セシルさん・・・」
てっきり自分と同じようにセシルがすくんでいるものだと思っていたバニは彼女の変貌ぶりに驚いた。既に剣を取り、立ち上がった彼女の背中
には微塵の恐怖もない。凛々しささえ感じさせた。
「ヴァルキリーだかなんだかしらないけど、上等!私、偉そうな奴ってすっごい嫌いなのよね!」
「・・・な・・・なんという・・・」
そこへ来て初めてフェーナが笑みを消した。勢い任せに啖呵を切りながら、セシルはポケットから取り出したリボンを束ねた髪に結わう。
「私には目標があるの!会いたい人だって居るんだから!誰だろうが邪魔すると容赦しないわよ!」
赤リボンの剣士が牙を剥く。敷かれた絨毯を吹き飛ばすセシルの風と共に、戦いの火蓋が落ちた。
「・・・あぁ・・・また・・・もうイヤだ・・・今度からあの騎士さんの依頼は断ろうね!セシルさん!」
口ではやけくそ気味な弱音を吐きつつも、バニは速度増加と祝福の呪文を口走った。既に彼はいつもの<道化のバニ>に戻っている。
「邪魔は貴女がたの方です!」
バスタードソードから放出される暴風にひるみつつも、フェーナは再び杖を振るった。あまりの風に狙いが定まらず、驚異的な威力を持つホーリ
ーライトは何も無い廊下の壁を撃ち抜く。
ワンテンポ遅れて、フェーナの胴体に衝撃が走った。一瞬で距離を詰めたセシルの蹴りが聖衣に突き刺さる。
風とバニの支援を受けたセシルの攻撃スピードはプリーストの予想を遥かに超えていた。人間の目には捉えられない速度で繰り出される連撃が次
々と叩き込まれる。その攻撃を半分は杖で防ぎながらも、フェーナの顔に余裕は無かった。
「まさか・・・こんな・・・!」
「私達が居合わせたのが不運よ!グレイさんの分はこれでチャラね!」
気を失ったポリンにヒールをかけながらバニはセシルにウインクした。二人はチームだ。一人で出来なくとも、二人なら出来る。
たとえフェーナが強大な力を有していても所詮は一人なのだ。これは足し算や引き算ではない。
掛け算だ。
「・・・仕方がありませんね」
セシルとバニの連携によって実質的に詠唱時間を封じられ、この上ポリンまでが復活すれば厄介になる。
「あまり使いたくはないのですが・・・『鍵』を持ち帰るために、敢えて使わせていただきます」
(・・・鍵・・・鍵って・・・?)
セシルの脳裏に疑問が過ぎるのと、天井を突き破って何者かが現れたのは、ほぼ同時だった。
231('A`)sage :2004/03/29(月) 23:26 ID:l81uxuKw
『別離』


「間違いないのか?」
黒い雲が月にかかる一瞬の暗闇の中で剣士は訊いた。
眼前に広がる夜の港町を見やり、燈台の上に立つ無機質な少女が答える。
『イエス、マスター』
「案外・・・早かった。思えば、お前にも無理をさせている。あちこち引きずり回してすまない」
『いいえ・・・交戦、開始しました。<彼女>と剣士・・・剣士は無関係な人間のようです』
「ふむ・・・多少面倒だが両方とも相手にしなくてはならんか」
スラリ、と金髪の剣士は黒い両手剣を抜いた。月明かりが戻り、刃が光を反射して鈍く輝く。
『問題ありません、私が露払いをします。マスターは<彼女>を』
「アリス・・・無理はしなくていいからな」
『はい。マスターも』
「ああ・・・任せろ」
金髪の剣士――ジョンという名を手にしたドッペルゲンガーは空間を歪め、跳躍した。

粉塵に混じって躍り出た女アサシンの刃を避け、セシルは飛び下がった。眼前をかすめる一閃が彼女の前髪を僅かに切り取る。
一歩間違えば、死んでいた。
(何・・・こいつ!?)
突如として乱入したアサシンは焦点の定まらない瞳をセシルに向ける。くすんだ金の髪はざばらに短く切り整えられ、幼さの残る顔は凍りついた
かのように微動だにしない。年の頃は近いだろうか。どこかセシルに似ていながらも、全て対照的な少女。
「シメオンさんの玩具もそれなりに使えますわね!」
セシルに蹴られた腹を押さえつつフェーナは引きつった笑いを浮かべた。どこか狂った彼女の笑顔に吐き気を覚えながらも、セシルはアサシンの
二刀をかいくぐる。異様に機械的な動きを繰り返すアサシンは、フェーナを守っているようだった。
「お仲間ってわけ!?これで二対二だとでも言いたいの!?」
あくまで挑発を繰り返すセシルだったが、アサシンの動きはフェーナとは段違いに速く、手強い。ともすればポリンの立ち回りを凌駕している。
活路が見えない。痛手を負ったフェーナは自分の治癒に専念しているが、アサシンを突破しなければ事態は変わらない。むしろ悪化する。
「バニ君、援護を!」
バニのホーリーライトならばアサシンの動きを止める事が出来るかもしれない。そう思い、セシルはバニを見た。
しかし、彼は信じられないものを見たかのように硬直したまま、動かない。うわ言のような何かを呟く。
「・・・あれは・・・まさかそんな・・・でも・・・間違いない・・・」
倒れたポリンの治癒も半ばで放り出し、彼は目を見開いて立ちつくす。もはやセシルなど目に入っていない。
「バニ君!?」
アサシンが動いた。高速で繰り出された奇妙な短剣が、受けに回ったセシルのバスタードソードと火花を散らす。
競り負けると判断したセシルは殆ど無意識に風を放った。膨大な空気が震え、吹き荒れ、アサシンを押し返そうとする。
その最後の抵抗も虚しく風の壁を突き破ったアサシンの刃がバスタードソードの刀身を薙ぎ払った。
嫌な手ごたえと嫌な感触。
ゆっくりと・・・砕け散る金属の破片さえ確認できるかのように、
セシルの剣が、折れた。
甲高い悲鳴を上げ、柄だけになったバスタードソードが床に落ちる。
それが何度もセシルの命を助け、彼女も命を預けた愛剣の最期だった。
風が死んだ。バニの支援魔法も切れ、戦闘力を失ったセシルを容赦なくアサシンの一撃が襲う。
跳ね飛ばされ、壁に叩きつけられた彼女の目の前が赤く染まる。頭をぶつけたらしく、血が流れた。
バニは動かない。彼女の危機だというのに、動かない。
アサシンが短剣を振るう。避けられない。
セシルは死を覚悟した。

アルバートに助けられたときも、同じ情景が見えていたような気がした。
自分を見捨てて去っていく仲間と、直前にまで迫った死と、ただ紅い自分の血と、襲い来る敵と・・・何故自分はここに居るのだろうという疑問と。
こんなことならグレイの言うとおりに逃げておいたほうが良かった。
肝心なときに呆けているバニなんて見捨てれば良かった。
そもそもアルバートが選択を迫った・・・ゲフェンが燃えたあの日に、剣を捨てれば良かった。

本当にそうだろうか。

(どうして貴女はここに居るの?)

分からない。
憧れていた剣士という立場も、憧れていた冒険も、憧れていた未来も、つまらなかった。冷たく暗かった。
簡単に自分も死ぬ世界だった。自分が居るのは、そういう世界だ。
望んで自分から来た世界だ。
平和すぎた子供の頃が、あのプロンテラの街が懐かしい。思えばあの頃が一番楽だったではないか。
出来るなら戻りたい。

(どうして貴女は戦うの?)

分からない。
命の駆け引きなど楽しくはない。それが楽しいというのは異常者か戦闘凶だけだ。
実際、セシルも望んで戦うわけではない。
追い駆けたかったから。ただ、あのアサシンと過ごした時間を、また。

(だから此処に居て、戦うのね?)

そう。それがセシルの意思であり、行動であり、結果が死だとしてもそれは変わらない。
もう選んでしまった。正しい正しくないに関わらず、もう進んでしまった道だから。

金属が激突する音でセシルは我に返った。自分ではない。何処からか現れた金髪の剣士がアサシンの刃を弾き飛ばし、セシルの前に立つ。
見覚えのある顔と黒い剣、そして赤い瞳。
『・・・いつぞやの娘か』
もしもバスタードソードを失っていなければ、セシルは迷わずその男に斬りかかったであろう。
あの優しかったアコライトを斬り殺し、セシル自身をも手にかけた魔族がそこに居た。
ドッペルゲンガー。彼は呆然とするセシルを後目に、女アサシン目掛けて走り出した。意図が分からない。自分のような雑魚は歯牙にもかけないの
だろうか。思考が定まらない。
『カタリナ・・・今日こそはお前を救ってみせる!』
誰とも知れない名前を叫び、彼はアサシンと刃を交える。
「ドッペルゲンガー・・・今日は何ていう日なのでしょう・・・厄日としか言いようがありませんね・・・!」
『あの魔術師ではないのか・・・だが、カタリナは返してもらおう!』
ドッペルゲンガーが大剣を振るった。
しかし、アサシンを庇うように割り込んだ栗毛の少年のメイスによってその刃は弾かれた。
『貴様!』
「やっと・・・やっと見つけたんだ・・・僕の妹・・・」
『・・・妹・・・だと?』
反射的に反撃しようとしたドッペルゲンガーの手が止まった。
「守らなきゃ・・・今度こそ・・・!」
セシルは徐々に暗くなっていく目でアサシンを庇うバニの姿を見た。自分の時は守ってくれなかったくせに、何であんなに一生懸命なのか。
どうにせよ、流血のせいか意識が途切れ途切れになっていた。このままでは助かった命も無駄になる。
這うようにして床の上に転がったポリンの元へ辿り着くと、彼女は蝶の羽を握りつぶした。

バニがどうなろうと、もうどうでも良かったのかもしれない。
あの時にセシルを見捨てた仲間達とバニとが重なって思えたのかもしれない。
或いは・・・傷付き、疲弊して正しい判断が出来なかったのかもしれなかった。
232('A`)sage :2004/03/29(月) 23:30 ID:l81uxuKw
今晩は。駄文投下です。
いつもより長いくせに溜息が出るくらい嫌な文章になってますね。
反省します。(毎回反省してるような・・・

>>206さん
凄いですね・・・もうなんか尊敬します。本当に。
いいものを読ませてもらいました。GJです。

ではまた次の機会に。
233名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/29(月) 07:03 ID:8No8V4n.
>>206 さん
いい感じです〜
ソロAGIナイトの実情がおわかりになっている所からして、そのキャラを
お持ちとお見受けしました!
何度人形扱いされt(ry
よぉ〜し、パパ3ヶ月放置してるスイッチAGIカンストナイト起動しちゃうぞぉ〜 (゜∀゜)
最後に2HQを使う所が特にカッコ良かったです (^^b

>>232 ('A`)さん
毎回続きを楽しみに読ませて貰ってます。
それぞれのキャラがどのように合流、関わって行かせるんだろうかと楽しみにして
ました。今回もまた続きが楽しみです。
伏線もまだまだ残っているので、どう展開していくのか楽しみにしています。
>溜息が〜
読ませて頂いている分には、その時々の情景を浮かべやすい情景が
書かれていると思います。
文法なんかちんぷんかんぷんな私からすれば非常に読み易く、
場面を想像しやすくなり、その世界に入り易くなります。

 一読み手の勝手な独り言ですが、ゲームの中ではスキル使いたい放題ですが、
文章で戦闘を表現した場合、直ぐにスキルを使ってというのは
あんまり燃えないと思うんですヨ。(そんなことないって方、ごめんなさい)
強力なスキルは必殺の技として扱えば際だつんじゃないかなぁーと。
何度か通常戦闘で刃を交わす方がそれっぽく感じます。
今回の('A`)さんの戦闘では、そういったポン出しスキルが無くって
個人的に好みでした (^^ 206さんもピンチの時だけですし GJ〜♪燃えるっ!
 ちょっと制限的な解釈を加えて、2HQであれば、筋力、集中力を多大に
消耗するので体に負担が大きく効果時間も短め、そう何度も一度の戦闘では使用できないとか
するとスキルに一層ありがたみ?が出るかも。
あくまで人が使った場合のイメージですけど。
 感想だけのつもりが、だらだらと長文になってしまい
申し訳ありませんでした。失礼致します。
次回も楽しみにしております♪
234名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/29(月) 09:26 ID:vmCKlE/U
>>('A`)様
ジョン様キャ─wwヘ√レvv~(゚∀゚≡゚∀゚)─wwヘ√レvv~─!!
読んでる途中で、これはジョン様とセシルが共闘(;゚∀゚)=3とか勝手に妄想してたり。

とりあえずバニ君のその後が心配です(´Д`;)
・カタリナさんに後ろからサクっと斬られる
・ジョン様にザクっと斬られr(ry
・フェーナさんの反則HLでやられてしm(ry
・アリスに(ry

がんばれバニ君。・゚・(ノД`)・゚・。
235名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/29(月) 09:27 ID:o3Bxv71Y
ジョンとグレイがかっこ良すぎる。
バスタードが折れるまでもテンポいいし、なによりカッコいい。
本当に続き読めてよかった(つД`)
236名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/29(月) 11:28 ID:jbvagwak
>>怪盗と魔剣
続けてくださって、本当に良かった良かった。
続きを書いてくださいとお願いした以上、きちんと感想を、と思う次第。ただし参考になるかどうかは謎。

まず文章。この部分に問題は殆どないように思います。他の方々も書かれていらっしゃるように、非常にテンポよく読めるのです。
この先文体文調を変えていくとするならば、それは自分の志向に特化していくのでしょうから、外野の口出しは不要でしょうし。
登場人物が多くてもそれぞれきちんと書き分けられているので混乱もありません。
ぶっちゃけ全員魅力的です。私的にはジョン様と紅お爺ちゃんがツボ。
以下敢えて難を呈します。
「一回ごとにそこでまとまってしまえちゃう話」と既に書かれていらっしゃるのにも関わらず、別話に移った際の既存登場人物の描写
が少ないように思います。いや長文になってしまうから、と言われてしまえばそれまでなのですけれど。
例えばバニ君。彼が何故道化と呼ばれるのか、ちょっと薄いように感じたりするのです。
月下でくるくる踊ってるシーンとか、好きなのです。セシル嬢のリボンをいじる癖とかも、あまり出て来ないかな、と。
繰り返し描写される癖や台詞があれば、一際親近感も沸くかと愚考するのですよ。

とまれ一読者として、今後の展開をとても楽しみにしています。
皆が幸せになる結末を祈りつつ、続編をお待ちするのです。


>>Zweihander
実はその3で、DOPに乗っ取られバッドエンドかと一瞬早合点しました。
すげぇいい感じの結末でひと安心。うちの騎士はSTR型だから、HSP+2HQ使ってようやくASPD170とかだけどなッ。
しかしカードが全部、こんなふうな契約だったら騒がしくて楽しそうです。
特に二刀アサとか、大量の仲魔連れ歩きですよ。


>>219-221
なんというか、こののんびりほんわか具合が好きです。
書きたかったと仰っているだけあって、装飾用花のくだりがとてもよい雰囲気。
さりげにメガネタッグなのも実は趣味だったり。
237名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/29(月) 11:29 ID:jbvagwak
「うっわーっ」
 弓を携えた娘が、悲鳴を上げながら走る。
 まるで日ごろの渇きを一時に償おうかとするでもような、猛烈な夕立ち。
 砂は貪欲に雨粒を吸い込むが、人の方はそうもいかない。神も衣服もあっという間にびしょ濡れて、既にさんさんたる有様だ。
 その後ろを、もう一人男が移動していた。
 急くとも見えぬ動きだが、容易く先行する弓手に追随している。盗賊や暗殺者が習い覚える、独特の歩法。
 ふたりは首都からモロクへの途上だった。砂漠に足を踏み入れたその途端、時ならぬこの驟雨に見舞われたのだ。
「うー・・・」
 砂漠にも葉を繁らす生命力の旺盛な木の陰に娘は駆け込み、そしてそこもまたこの雨の防ぎにはならないと悟って頬を膨らませる。
 ほんの数歩遅れて同じ場所に辿り着いた男は、同じく空を見上げてから、黙ってマントを外した。
「こっちだ」
 撥水性のあるそれを腰程度の潅木の上へと広げ、即席の屋根を作る。狭いがないよりはマシの筈だった。
 木々の隙間に娘を先に入らせて、自身は上体だけへを潜らせる。
「駄目だよ。それじゃ、濡れちゃうでしょ?」
 けれどすぐに、弓手の娘が袖を引いた。マントのサイズはそう大きくない。
 彼からすれば窮屈な思いをさせぬようにとの気遣いだったのだが、彼女にしてみればその方が窮屈だったのだろう。
 男が大人しく従うと、へへへー、と娘は微笑んだ。

 雨粒は砂を叩き続ける。夕立は止まない。
 借りの屋根の下は狭くて、自然とふたり、寄り添って座る格好になる。
「・・・」
「・・・」
 走ったばかりのふたりの呼吸。雨の匂いと触れ合う体温。鼓動。
 お互いに言葉を発し辛い、けれど居心地が悪いではない雰囲気。
 ざあざあと雨が降る。
「――雨も、悪いばっかりじゃないよね」
 娘が呟いた。雨音にかき消されるような小声で。
「何か言ったか?」
「え? あ、ううん、ひとりごと」
 ふっと視線を向けた彼から、思わず顔を逸らす。距離が近すぎたのと、赤らんだ頬を隠したいのと。
 けれど彼の態度は常と変わらず平静で、少しだけそれが切ない。
 再び落ちる沈黙の帳。無言を破ったのは、今度は男の方だった。
「俺も、そう思う」
 数度瞬きしてから娘は言葉の意味を悟った。
「・・・意地悪」
 ため息のように言ってから、ことんと頭を肩に預ける。
 ざあざあと雨が降る。
 雨止みを待っているのか。降り続くよう願っているのか。
 それは、どちらとも判らない。
238名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/29(月) 15:16 ID:8npFhssE
 其は、邪悪なり。
 使い手の魂を喰らい生きる、
 魔金属の結晶体なり。
 汝、求めるなかれ。
 汝、欲するなかれ。
 其の先に在るのは、魂の破滅。
 其をその手に携えし担い手、その魂は魔に喰われただ消え逝くのみ。
 されど。
 真に強き魂、真に強き心を示すのなら――
 其は、汝の魂と共に生き、運命を共にせん。
 されば求めよ。
 其の、汝らの運命の名は――


――魔剣戦争記・外典――


/0/

ルーンミッドガッツ王国 ミョルニール山脈

 雷鳴が響く。
 空は漆黒。容易く視認出来るほどの雲の流れは、海神ラーンの怒りに荒れ狂う海原のように渦を巻く。
 いや、それは比喩ではなく、まさしく雷神トールの怒りであろうか。
 時折、漆黒の空を稲妻が引き裂く。
 豪雨が荒れた岩肌を容赦なく叩き付け、地面を砕く。
 その中で。
 一人の精悍な男が、立っていた。
 視線は、遥か遠く。
 彫りの深い貌に刻まれた皺は、歴戦の戦士の顔に苦悩と決意を刻んでいた。
 ぎり、と。
 雷鳴と豪雨の中、その歯を噛む音が、なによりも大きく響く。
「――来るか」
 雷鳴が轟く。
 怒れる天の神トールを連想すらさせるその隆々とした肉体は、その全身に気を漲らせる。
「魔女の遺した遺産――否、遺志を継ぐ者が再び――」
 天が哭く。
「欲するか。滅びをもたらすものと識りつつ――その身に欲するか!!」
 地が咆える。
「逆らえぬか、運命には。よかろう、元々――私は裁定者にして傍観者。その運命に従い――」
 世界が――震えた。
 ミッドガルドにその名を轟かせた伝説の魔剣士は、叫ぶ。
「――見届けようぞ!」
 落雷。

 ――――――――――。

 轟音。


     ◆  ◆


ルーンミッドガッツ王国 衛星都市イズルード

 落雷。

 ――――――――――。

 轟音。

 ドアが勢いよく吹き飛んだ。
 突風は部屋を破り、容赦なく吹き荒れる。
「――へぶっ!!」
 盛大な音を立て、外れたドアが部屋の主――シズマを直撃した。
 そのまま、勢いは止まらず、ベッドから盛大に転げ落ちる。
「ぬ、なんだよこりゃあっ!!」
 がば、とシーツを剥ぎ取り立ち上がる。幸い、横に当たったのでダメージはそれほどでもなくはないが、ま

あ耐えられるレベルだった。
 壊れた扉から、風が吹く。
「んだよ…ちっ、ボロドアが…腐ってんのか」
 文句を言いながら、シズマはドアを持って扉に向かう。
「こりゃ打ち付けてしのぐしかねぇな…っつ、すげぇ風」
 釘と金槌、板切れも抱えながら外に出たシズマは、外の光景を見て――息を呑んだ。
 いや。
 息をするのを、忘れた。
 落雷によって割れた天。
 流れる雲は光の渦のよう。
 砕かれた地面から立ち上る炎はいまだ紫電を纏い、荘厳な光の柱となって世界を照らす。
 ――それも刹那。
 永遠かと思えた一瞬の光景は、雨と風によってその姿を隠され、元の嵐の夜へと戻る。
「――」
 言葉もなかった。
 それはただ雄々しく、そして儚げに。ただ、綺麗だった。
 この一瞬を、果たして世界でどれだけの人間、いや生き物が見たのだろうか。
 シズマは――震えた。立ちすくみ、ただ震えた。
 畏れと――戦慄、そして、裡から沸き出る、静かな予感に。
 そしてそれは、この少年だけでなく。


ルーンミッドガッツ王国 首都プロンテラ

 少女は、雷光を見た。
 騎士団詰め所。その二階、騎士たちに与えられた自室。
 その中でも特に豪勢な部屋に、少女はいた。騎士団長に与えられる部屋である。
「父さま――」
 気配に気づき、彼女の後ろに立つ、壮年の騎士に声をかける。
「ファルカ。外は嵐だ、窓のそばによらない方がいい」
「心配ないわよ。もう嵐の峠は越えたみたいだし」
「そうだといいんだが――」
「そうよ。それに――」
 ファルカは、外をまぶしそうに見る。
「なんだか、いいことありそう」


ルーンミッドガッツ王国 貿易都市アルベルタ

 少女は、雷光を見た。
 有数の大商人である彼女の家は、アルベルタの豪に居を構えている。
 風で、寝室の窓が開く。
「――凄い風。本、どこまで読んだかしら」
 少女――グズルーンは、窓を閉め蝶番をかけ直す。
 寝室で読んでいた本は、深窓の姫君と騎士の恋物語。
 閉じた本の表紙をしばし見て、軽くため息をつく。
「――ううん、これはただのお話だもの。
 私は恋なんてしない。恋をした女性の破滅の物語なんか、たくさんあるもの」
 それは微かな憧憬と諦観の響きを帯びていた。
 グズルーンは、窓の外を見る。
「明日、晴れるかしら」


ルーンミッドガッツ王国 魔法都市ゲフェン

 青年は、闇を見た。
「預言に記された、運命を告げる雷光――」
 足音を響かせ、ゲフェンタワーの階段を彼――アルヴィースは上る。
「開かれる門。繰り返され再現される争い。四つの凶刃。現れる探索者――。
 尤も、すでに磨耗した言い伝え。口伝と写本によって真実の幾許かは消え褪せ、歪んではいる――が」
 窓を見る。眼鏡を指で押さえ、かすかに唇を吊り上げる。
「それが事実であれ真実であれ、今の世界にとっては瑣末事」
 人間界と神界、魔界を隔離する魔壁から響いて来る轟音、凶暴化する野生動物。
 頻繁に起こる地震と津波。そして、魔物たちの活動。
 この程度の事など、それらに比べればただの異変の一端に過ぎない。
 いや、それとも――
「これこそが、予兆、か――。
 ふふ、どうでもいいことだね。在るのなら識る、僕にとっては、ただそれだけ」
 窓から背を向ける。
「魔剣――か。それが運命なら、それもまた一興」
 雷光が、彼を背から照らし、塔の内部に歪な影を浮き上がらせた。


――RAGNAROK ONLINE


 この日。

   ――SIDE STORYS

 ひとつの運命が、始まった。

        ――RECORD OF DEMONIC SWORD WAR  EXTRA SAGA――
239名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/29(月) 15:23 ID:8npFhssE
とりあえず序章。
これから少しずつ書いていくですよ。
よろしければ見てやってくださいなー。
240('A`)sage :2004/03/31(水) 01:53 ID:d94idaUE
『顛末と再会と見えない明日』


栗毛のアコライトは虚ろな目をする妹に縋り付いて泣いた。何故か退いたドッペルゲンガーも、何処かへ消えてしまったセシルも、もう彼にとって
何の意味も成さない。彼女だけ居ればいい。
幼い頃、両親を失って家を追われた。バニはまだ小さかった妹を連れて逃げた。それこそ地の果てまで逃げるつもりでいた。
妹を狙う者は多かったからだ。人身売買を生業とする商人や、盗賊ギルドの人間達の手から守るために、彼は逃げ続けた。
やがて彼女がシーフギルドに連れ去られるまで、ずっと。
悔恨は意味を成さない。それでも、バニは妹を探すために冒険者を志し、自分の正義感からアコライトになった。目的のための手段として。
達観した風なものの見方も、おどけた態度もごまかしの演技に過ぎない。そしてそれも・・・もう必要ない。
「変わってないね・・・カタリナ・・・」
妹は答えない。代わりに穏やかな微笑を取り戻したプリーストがバニに歩み寄った。
「・・・どうして何も言わないんだ」
背中越しに彼は問う。答えを期待したわけではない。半ば、自棄だった。
「この娘は既に死んでいるからですよ・・・哀れなアコライト」
・・・死んでいる?
バニは反芻してからカタリナを見上げた。まるで機械のような顔をした妹を。
実際、似たようなものなのかもしれない。納得させる直感のようなものがった。僧侶の身が恨めしいと感じたのは初めてだった。
「そう・・・そうなんだね・・・はは・・・僕は結局・・・何も出来なかったわけだ・・・ふふ」
道化と呼ばれた少年は肩を震わせ、泣きながら笑った。自分が滑稽でしょうがない、といった風に。
滑稽で、情けない。救いがたい。
「哀れなアコライト。まだ希望はあります。そして復讐を・・・その娘の命を奪った者に」
穏やかな声。ある種残酷な言葉。
秘められた狂気と企みに気付かないまま、バニはプリーストを振り返った。
「その為にも私と共に来てください。貴方にも神の意思を代行してもらいます」


見覚えのある天井があった。
もう長い間忘れていた天井。暇潰しに染みの数も覚えた程、眺めていた天井。
セシルは目を開けたまましばらく天井を見つめていた。それから無意識に上半身を起こす。
「お・・・大丈夫か?」
穏やかな声がかかった。
ベッドの端に座る男は眼鏡の奥で微笑む。
「俺の顔、覚えて・・・ないだろうなぁ・・・多分。黙って置いて行ったからなぁ・・・はは」
一瞬、誰だか分からずに居たセシルに、彼は白い頭を掻きながらどこか照れくさそうに言った。
質素な部屋。机の配置はそのままに、置かれた花瓶に花はなく、代わりに埃が溜まっていた。
どことなくベッドもカビ臭く、長い間放置された窓のカーテンも変色し、窓ガラスは曇っている。
それでもセシルは覚えていた。この部屋の主と、その知人のアコライトの事を。忘れるはずなど無かった。
「・・・あー、やっぱいいや。うん。ここはゲフェンだ。君は怪我をして・・・」
それらの出来事を無かったことにしようとする彼の言葉を遮り、セシルは呟いた。
「・・・髪、伸びたんですね」
眼鏡の男は面食らった顔をした。それからすぐに気まずそうになる。セシルが怒っていると勘違いしたらしい。
「すまない・・・と言っても、許してもらえないかもしれないけど、俺は・・・」
「・・・ごめんなさい」
謝罪の言葉が交錯した。外の陽光が漏れる室内に沈黙が戻る。
「ただ・・・それだけが言いたくて・・・でも私・・・どうしたらいいか分からなかったから・・・」
支離滅裂だという自覚はあった。言葉半ばから嗚咽交じりになりつつも、言い切っておきたかった。
男も黙っていた。
「ずっと・・・探してたんです・・・冒険者で・・・剣士やってたら会えるかもって・・・だから・・・だから・・・っ」
「・・・」
「あの人が庇ってくれなかったら・・・貴方に助けてもらわなかったら・・・・・・でも、その代わりにあの人が・・・」
「・・・もういい」
「そんな価値なんてないっ!私、何も出来てないっ!・・・死ぬのが怖くて・・・逃げ出して・・・いつも、いつも・・・また!」
「・・・もういいっ!」
「死にたくない!でも死んで欲しくもなかったの!見捨てられるのも嫌なのに、見捨てたの!バニ君見捨てた!そんな人間な・・・」
滅茶苦茶に泣き叫ぶセシルの細い身体を、アルバートは抱き寄せていた。
聞きたくも無い懺悔と自嘲の言葉に耐え切れず、目の前の少女の背伸びに罪悪感を覚えたからだ。
正当な手段ではない。それは分かっていた。卑怯ですらある。
「俺も似たようなもんさ・・・だけど、何があっても自分を否定するのは良くない」
アルバート自身にも言える言葉を彼は吐いた。否が応でも胸に突き刺さる言葉だ。少し前の自分が聞けばのたうちまわるだろう言葉だ。
「どんなに醜くても、弱くて・・・どうしようもなくて、辛いことばかりでも・・・自分からは逃げられないんだ。死ぬまで自分でしかないんだ」
それでも吐き続ける。過去の自分へ、今のセシルへ。彼女を辛い道へ引き込んだ彼の義務だから。
「だから死ぬまで自分と付き合って行くしかない。自分なりに、自分と。傷付いてボロボロになっても、また・・・笑えるように、さ・・・」
その為の道を、もう知っているのだから。気付いたのだから。
「アルバート・・・さん・・・」
セシルは突然の出来事に驚きながら彼の言葉を聞いた。互いに歩んだ道は全く違うというのに、セシルはその温もりに安堵した。
もはや遠い存在ではない。その事実も手伝っていたのかもしれない。
「もう許そうな・・・自分をさ。これからの事は、その後で考えればいいんだから」
「・・・はい・・・はい」
セシルの手が、アルバートの装束を強く握る。彼はそれを咎めもせず、静かに彼女の頭を撫でた。
―――ドアの隙間から中を伺っていたティータとグレイはどぎまぎしながら手に汗を握る。
「くぅ〜・・・何やってんだアルバートのやつぁ・・・感動の再会というものはさっさとこう・・・」
予想外にもどかしい展開をなじるグレイ。対照的に、ティータはそんなグレイを完全に無視しつつ、違った意味で悶絶していた。
「ダメダメダメ・・・ダメねよ〜・・・!」
握っていたリンゴジュースの瓶がキシキシと軋む。割れんばかりの勢いだ。
外廊下からそんな二人を見つけた包帯だらけのハンター・・・怪盗ポリンは彼らに冷ややか視線を送りながらも、ちゃっかり覗き込む。
それからくすっ、と口元を緩めた。
「へえ。なんちゅーか・・・ええ感じやね」
室内のアルバートはひとつ咳払いし、セシルをなだめながらも顔だけを彼らに向ける。恥ずかしさと微かな怒りの混じった顔を。
明らかに、バレていた。
241('A`)sage :2004/03/31(水) 01:54 ID:d94idaUE
「はっは、うまい具合にアルバートが見つけてくれなきゃ、今頃死んでたなぁ」
壁にもたれてタバコをくゆらせながらグレイは笑った。その乾いた笑いから、ポータルで飛ばされた先で何があったのか容易に想像がつく。
セシルはシーツに視線を落とし、そんな彼女の肩にアルバートは手を置く。
「君のせいじゃないって。大体、グレイは殺したって死なない」
「・・・よく言う」
少々上擦った声で吐き捨て、グレイはそっぽを向いた。その『そっぽ』ではやたらとティータのリンゴジュースを物欲しげな目で見つめる
怪盗の姿があり、更に視線を反らさなければならない羽目になったのだが。
「礼はそこのティータに言ってくれ。この子が言わなきゃ、アルベルタには行かなかった」
「ねよ?」
自覚の無い本人が、そんなことを言われて不思議な顔をした。
「ありがとう、ティータちゃん」
ベッドの上から微笑みかけるセシル。ティータは照れているような拗ねている様な複雑な表情をしてジュースをすすった。
どちらかと言えば子供であるティータと比べて、髪をおろしたセシルは息を呑むほど大人びている。言い表せない敗北感を味わってしまったの
だろう。保護者として、アルバートは苦笑した。実際はそれほど単純な話ではないのだが彼がそれに気付くことはない。鈍感だからだ。
「そういえば、お前らは何してたんだよ?アルバート」
「・・・ずっとここに。<紅>の連中がよくうろつくようになってからまともに動けないんだ」
グレイの質問にアルバートは眼鏡を押し上げながら答え、カーテンの隙間から外を伺う。
「まるっきり逃亡生活だな」
「俺は慣れてるからいい・・・だが、ティータには窮屈な思いをさせてるかもしれない」
その深刻な呟きにティータは首を横に振る。いい子だな、とセシルは納得した。彼が必死で保護しようとするのも頷ける。
「うちらが来てさらに窮屈になったんとちゃう?アサシンはん」
「アルバートでいいさ。窮屈云々っていうのは否定しないけど、君達だって不味い立場に立たされてるらしい」
バサ、とアルバートが投げた紙束がベッドの上に落ちた。
アルベルタで起こった一件が報じられた紙面には、セシルやグレイ、そして主犯格としてポリンの名が記されている。ホールでの大量虐殺は
事実とは全く異なる形で公表されていた。文面は魔族の関与もほのめかしている。
バニの名前だけがない。死んだのかもしれなかった。
「この騒ぎじゃ怠慢な中央騎士団だって動くだろう。追われるのは同じって事さ・・・君達も、俺達も」
それが表舞台でなのか裏舞台でなのか・・・僅かな差だ。
「うちは慣れっこやけどな・・・っと」
そこで初めて、怪盗はポリン帽を脱ぎ捨てた。赤いポニーの髪が窮屈な帽子から解放されて跳ね上がる。
素顔を晒したのは、その場に居る全員が彼女を通報したりしないと確信したからなのだろう。
「名前汚されていい気分はせんけど、そないに情報を操作出来る相手やったら噛み付けへんしなぁ・・・」
「へぇ、怪盗ポリンの名が泣くぜ」
大仰に両手を広げて嘆くグレイを横目で見つつ、彼女は腰に手を当てる・・・例の独特なポーズを取って名乗った。
「うちはアーシャいうねん。ポリンやなんやってのが本名やったら笑いもんやで」
「はっは・・・そりゃそうだ」
ポニーのハンターは意外に品の良さそうな顔をグレイに向けた。それから肩をすくめ、せせら笑う。
「ま、汗臭い鍛治師にはうちの崇高な趣味がわからへんやろうけどな」
嫌な女だ、とグレイは聞こえないように呟き、突拍子がないながらも微笑ましいやり取りに困惑していたアルバートを見た。
「どうも繋がってるみたいだな?ティータの剣といいプリーストが狙ってた剣といい・・・」
「似た剣があったって話か?」
「ああ。それに、そのプリースト・・・フェーナとかいう奴は俺のことを<灰のグレイ>と呼んだ。その呼び名を知ってるのはベルガモット爺さん
の<紅>部隊か爺さん自身、<白>の部隊・・・それに俺とアルバートだけだろ」
アルバートが<黒>と称されるのと同じく、グレイもまた騎士団の下に存在した支援部隊を率いていた頃の呼び名を持っていた。
それが<灰のグレイ>だ。
しかし<黒>がそうであるように<灰>も既に解体されていた。長であり要であった部隊長を欠いた状態で規律が維持できる筈も無かったからだ。
だから呼び名を知っている者は限られていた。となればフェーナというプリーストも何らかの形でベルガモットに関わっているとしか考えられない
のだ。
「ち・・・一蓮托生ってやつかね・・・俺らは」
「とにかく今は隠れてるしかないさ。ベルガモット達の目的も分からないし・・・あー・・・えーっと・・・セシル、も怪我してる。アーシャさんもな」
セシル、の辺りでどもりながらもアルバートはそう結論付けて話を打ち切った。


アルバートの部屋の花は枯れていた。誰も換えることがなくなって、ずっとそのままだったのだろう。
セシルは皆が寝静まった頃に起き出そうとして、眩暈を感じ、ベッドに押し戻された。怪我もある。疲れもだ。まだ無理らしい。
月明かりに枯れた花が浮かぶ。花瓶が置かれた机のすぐ側に人影があった。相変わらず気配はなく、いつのまにかそこに居た。
ずっと見張っていたわけではないのだろう。彼・・・アルバートは溜息混じりに呟いた。
「無茶するなって」
「・・・ごめんなさい、花を換えようと思って・・・」
また二人きりになれた。口では謝ったがセシルには嬉しかった。
たまには無理も悪くないのかもしれない。
「花?」
アルバートは簡素な机に歩み寄り、花瓶を手に取った。とうの昔に色褪せて乾いた一輪の花が悲しく、揺れている。
時間の経過を象徴した様な花だった。
ゲフェンが燃えてから、もう半年以上経っている。枯れた花はそれを如実に物語っていた。
過去もそうやって風化していくものなのかもしれない。セシルは花瓶を手にとって物思いに耽るアルバートを見ながらそんなことを思った。
風化という表現は適切ではないかもしれない。ただ、少なくともアルバートとまた会えた事によって・・・彼がセシルを拒絶しなかった事で、
セシルは一つのしがらみから解放された。それは確かだった。
アルバートにとってはどうなのか。それはセシルには知る術も無いことだ。
それでも、やがて過去は消えていく。どんなに辛く、今の自分を縛るものだったとしても、やがて、いずれは。
傍目にはつまらない感傷にしか見えないだろう。故人を偲んで浸っているだけにしか見えないだろう。
しかし、セシルにとっては大きな前進だ。その道の先はまだ見えないにせよ、明日は来る。ようやく、明日は来るのだ。
「ん・・・そうだな・・・換えておこうか」
アルバートは枯れた花をゆっくりと花瓶から抜き取る。
ゲフェンが燃えた夜に止まった時間が、動き出す。
ベッドの上からそれを静かに見守り、セシルは目を閉じた―――
242('A`)sage :2004/03/31(水) 02:12 ID:d94idaUE
今晩は。駄文投下です。
セシル編が一区切りを迎えました。
セシルとアルバートがクロスしましたが・・・微恋愛・・・っぽいですね。
相変わらず意味不明的な描写がてんこ盛りでジョンの出番もありません。('A`;)
次はアルバート編、ジョンとクロスする予定です。

>>233さん
必殺技ですか・・・実はあまりゲームの戦闘が好きじゃないです。
バッシュ連打!とか、現実にあったら凄惨な事になりそうですし・・・('A`;)
戦闘場面はあまり得意ではないと思うんですが、お褒めいただいて光栄です。
文法は私もちんぷんかんぷんです。('A`)マテ

>>234さん
ジョンは出番がありませんでした・・・申し訳ありません。(アリスも・・・
そうそう簡単に因縁は終わらないわけです。災難ばっかりです。
どうか長い目で見てやってください・・・。

>>235さん
今時バッソかよ!というツッコミは覚悟の上です・・・。
背伸びしたセシルの象徴みたいな剣でした。
グレイはなんかヒネてる気がしてきました・・・アレ?('A`;)

>>236さん
ご指摘、ありがとうございます!その通りです。
私の悪い癖です・・・毎回妄想を詰め込んだりするとどうしても疎かに
なってしまいます。個性は大事だというのに・・・深く反省です。
直さなきゃ('A`;)

ご意見ご感想、ありがとうございました。それでは、またの機会に。
243名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/31(水) 22:59 ID:s0MFRSxU
>237
ほのぼのとしてて(・∀・)イイネ!!
着かず離れずの距離、みたいなのが
出てて凄くツボでした。よければ続きを。。

>238
壮大ですね、、まだ序章とのことなので
明確な感想を持つにはいたりませんが、
続きを期待しています。ガンガレ!!

>('A`;)氏
GJ.
亀ですが、復帰してもらえてほんとにヨカッタ。
これからも面白い話を期待しています(特にジョンの話
244続96 (by79sage :2004/03/31(水) 23:03 ID:s0MFRSxU
 9、
 「はい!魔法士様のお手伝いでしたら、私、一生懸命がんばります!><」
正直に言おう、僕は彼女のこの言葉を聞いたとき「/ショック」ってな
感じだった。
 続けてやってきた黒服にサングラスの禿オヤジの集団に対しても、
彼女はそんな態度を崩さなかった。男好きしそうな笑顔で応え、
少し舌足らずに丁寧な言葉遣い。僕と話していた時には絶対に
見せない表情。この落差は何?
「どうかした?」
 彼女の問いに、僕は我に返った。喉にひっかかていた言葉を
なんとか搾り出す。
「い、いや…なんか凄く性格違わなかった?」
顔だけをこちらに向けた彼女の表情は少し冷めた感じに戻っている。
「さあ?気のせいじゃない。とりあえず、宿を探しましょ」
肩をすくめてそうクールに決めた彼女に、僕は
「そ、そうだね」
と、相槌を打つことしか出来なかった。
 やはり僕は嫌われているのだろうか?
 そんなことを考えながら歩いていたものだから、彼女に、
ウィザードから預かった薬や黒服禿オヤジについて意見を聞かれたとき、
「え、なに?」
なんて間の抜けた返事をしてしまった。
 ため息をつき、歩を早めた夜色の髪のアコライトの華奢な背中を見ながら、
僕は自己嫌悪のループに沈んでいったのだった。

 困ったことに僕たちはゲフェンの冒険者宿の所在地を知らなかった。
もしプロンテラで知り合ったあの商人の娘と塔の前の広場で
出くわさなかったら、僕たちは延々と正八角形をかたどった
この街を彷徨い続けたに違いない。
「剣士さん、アコさん。やっほー、です!」
日はどっぷりと暮れ、あたりは暗い。
帰りを急ぐ人々の織り成す空気が、意味もなく焦燥感を煽った。
そんな暗がりの中でも、商人の娘は元気いっぱいだった。
「あ、こんばんは〜。また会えるなんて思ってもいなかった〜」
彼女が笑顔満開で応える。……まぁ、これについて考えるのは
不毛だから止めておこう。人生諦めが肝心だ。
「こんばんは、商人さん。もしかして宿の場所を知っていたりしませんか?」
「もっちろん。案内して差し上げましょうか?」
「頼めるかな?」
「はい、了解です!ささ、こっちのほうですよ」
先導する商人の娘の後について、夜のゲフェンを歩く。
と、おもむろにこちらを振り向き、後ろ向きに歩き出した商人さんは
意地悪な笑顔で僕らにこう尋ねてきた。
「もしかして、お二人は、ふふ、でーと、ですか?」
「いや、ちが…」
「え〜、違うよ〜><」
笑顔で否定したのは勿論彼女だ。
「俺達、臨公でここに来たんだ。ゲフェニアの地下一階で毒キノコ狩り」
「いいなぁ〜。私も仕入れがなかったら一緒に行くのに…」
「はは、じゃ、次に機会があればよろしく頼むよ」
「はい!」
はにかみながら、親指をたてた拳を突き出してみせる彼女を見て、
僕は心の中でガッツポーズをした。
 横の空気が凍えていたのは、気のせいだと思う。

「はい、つきました。それじゃ、私はここまでです。
仕入れがあるから明日の朝までにプロに戻んなきゃいけないんですよ」
「どうもありがと〜><。助かっちゃった。やさしいね、えーと…」
「ドリス、私の名前はドリス=ガーランド」
「やさしいね、ドリスちゃんは!」
「そんなことないよ〜」
笑顔で向かい合ったまま硬直する二人の女の子。
女の子ってどうしてこんな含みのある話し方をするんだろう…
「ガーランドさん、案内してくれてありがとう」
「お礼なんていいんですよ、剣士さん。そのかわり、買い物するときは
私の露店でしてくださいね」
「OK。ちゃっかりしてるね、意外に」
へへへ、と照れ笑いしたガーランドさんは僕らに別れを告げ、
カートを引いて去っていった。
 僕と彼女は、見えなくなるまでガーランドさんを見送るつもり
だったのだが、当人はどうもカートを引くのにはあまり慣れていなかった
ようだ(PC3)。
 ガーランドさんが稜線の向こうに消えていったのを見届けたときには
既に酒場が活気を帯びる時間帯だった。
 それでも、なんとか一室、宿の部屋を取れたのは僥倖と言えるだろう。
 そう、一室だけ。
245名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/31(水) 23:16 ID:03a.IYUQ
この頃はスレに活気があって嬉しい限りだ。
俺も1つ投下しようと思って書いてみた。
……普通に書こうとしているのにどうして首が飛んだりするんディスカー!
どうすればいいのか教えてくださいダディャーナザーン!!
246名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/03/31(水) 23:38 ID:s0MFRSxU
>245
お前に投稿してもらわないと、俺の身体はボロボロだ!!
247('A`)sage :2004/04/01(木) 00:27 ID:e1N813BY
本当に活気付いてますね。最近は書くより読むほうが多くなtt(ry
また長くなって書き込むのが遅いだk(ry

>>243さん
ジョン好きの方って本当に多いんですね。嬉しい限りです。
えっと・・・アレ・・・?もしかしてジョンだけですか('A`;)オッカシイナァ・・・

他の方々の作品が素晴らしくて焦り気味です。頑張らなきゃなぁ。
248名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/01(木) 00:53 ID:ssYOdi92
>>244
(;゚∀゚)=3フンスフンス!!待ってたよー!!!
黒服サングラスで大量のエージェントスミスを思い浮かべて一人で笑ってしまったorz

>>245
まずは投稿しる。
話はそれから。

>>247('A`)たん
ジョン様ラヴィー─wwヘ√レvv~(゚∀゚≡゚∀゚)─wwヘ√レvv~─!!な私ですが、
('A`)たんも好きです。

腐女子でごめんなさいorz
249名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/01(木) 02:49 ID:mPriyCww
こことにゅ缶小説スレに同時に作品投下ってOKなの
?
250名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/01(木) 12:17 ID:YqYTPMXk
別に言及されてないけど、
マルチポストは避けたほうがベターだろうね。
251今を生きるために、決して過去は振り返らないsage :2004/04/02(金) 00:01 ID:jyskdF/o

 
 ―――――今を生きるために、決して過去は振り返らない

 

 

 

 

「支援プリのソロほど物悲しいものは無いね。というより、支援プリがソロでいていい場所じゃないだろ、どう考えてもここは」
「うるさい。おだまり」

 通算198体目(たぶん)のレイドリックをホーリーライトで浄化すると、私はキリエを自分にかけなおした。

 ここは、グラストヘイム古城にある騎士団と呼ばれる場所だ。
 国王トリスタン三世の勅令の元にグラストヘイム探索が編成されて幾年月。
 少しずつではあるけれど、グラストヘイムの探索は進んでいる。
 凄腕の冒険者が増えてきたこともあって、この場所は今では一攫千金を狙う冒険者の巣窟になっていた。

「大体、プリーストといえば知識と体力が基本のこの世の中で、知識と素早さが命なんて珍プリースト、今時いない絶滅危惧種だろうに」

 この小うるさいヤツは、私のペットのボンゴンの翔。
 プロンテラの十字路でとあるBSが、装備つきなのに破格の捨て値でコイツを売っていたので一人でいるのに飽きてきた私は、ペットに心の癒しを求めて買った。

 ……が。

 捨て値で売っていた理由はすぐにわかった。
 やたらと喋って、うるさいのだ。おまけに毒舌。普通のボンゴンは、無口らしい。らしいと言うのは、不幸なことに他のペットのボンゴンを私はあまり見たことがないからだけど、この翔よりは少なくとも静かだろう。
 おまけに、変に世間のことに精通していて私なんかよりも詳しかったりするし、その鼻持ちならない高飛車な態度と話し方は、私を主人と思っているのか小一時間問い詰めてやりたくなるくらいだ。

 私の名前は、リリーナ。
 親しい人たちは、リリと呼ぶ。そのせいでペットの翔すら、私をそう呼ぶ。

 冒頭のやり取りの通り、私は支援プリーストと呼ばれる種類の聖職者の冒険者だ。
 聖職者ではあるけれど、信仰心など露ほどもなければ神すらいるとは思っていない。
 こんな私が、神聖なる奇跡が使えること自体不思議だと常々思う。

 ボッタクリな高額転送屋は開くし、リザ要請には必ず現金で御礼を要求するし、罰当たりなことこの上ない聖職者だ。
 いや、聖職者としては由緒正しい強欲聖職者かもしれないけど。

 ステータスも今時珍しい知識と素早さを重視。ちなみに、私はウィザードの魔法のクァグマイアがあれば彷徨う者(通称:禿)すら避けるのが自慢だったりする。
 え? 無いとどうなんだって?
 それは……お察し下さい(まあ闇ブレスで何とかなるけど)

 支援プリーストはタイプはともかく、大抵相方と呼ぶ者がいるのが基本だ。
 私には、今は相方はいない。旅に出ていていつ帰って来るかわからない、あるウィザードを待っているから。
 もしかすると、もう帰って来ないかも知れない。そんなことが頭をよぎるけれど、私は彼以外を相方と認めたくないから、ソロであちこちをふらふらしている。
 一人でいるのは結構辛いもので、たとえギルドに入っていても微妙に温度差が生じるものだ。私もギルドに入っているけれど、ソロでいるためになんとなく浮いている気がする。
 それでも邪険にしないでくれるギルドの皆には感謝してるけど。

「私のモットーは避けること。体力型の避けない・当たりまくり・詠唱邪魔されまくりは大嫌いなの」
「でも体力型は囲まれても倒れないし、フェンクリップあれば詠唱も邪魔されないよ?  いまどき避けプリなんて必用ないじゃん」

 ひよんひよん……と、これまたムカムカしている私の神経を逆なでする音を立てて翔は私の周りを回る。
252今を生きるために、決して過去は振り返らないsage :2004/04/02(金) 00:02 ID:jyskdF/o
「ペットの分際で、主人のステータスにまで口出しすな」
「やだなー。主人だからこそ、『アドバイス』してるんだよ、僕は」

 まだ少年らしさが残る顔でにっこりと微笑む。
 う……この顔にだまされちゃダメだ、私よ。
 この顔であのムカツク言動さえなければ、確かに癒されるのに……っ

「そう……そんなにご飯要らないのね。なら、しばらく食事抜きね」
「あー、ひどいなー。そんなことしたら、愛護団体がだまってないぞ。ペットにも権利があるんだぞ」
「ダ マ レ 小 僧。私を主人としたのが運のツキとお思い」

 まだ、翔は何かブツブツと言っているけれど、私は無視することにした。

 そんな風に、掛け合い漫才モドキをしながら歩いていたせいで、いつもよりも奥にきてしまったらしい。大きな水瓶を抱えた彫像のある噴水の跡があるから、たぶんこの辺りは騎士団の中庭の辺りだろう。
 普段なら、騎士団の入り口付近をうろうろしている私にとってはかなり奥に来てしまったことになる。

「……あちゃー……まずいなあ」
「アーチャーは経験的に不味くないよ。そもそもレイドリックアーチャーは、ニューマで攻撃が防げ」
「そうじゃないだろ、このぼけボンゴン」

 全て言い終わる前に、思わず愛用のスタッフ……ちなみに、翔いわく「素晴らしきネタ装備」のトリプルシュルード(素早さと回避力が上がる効果がある雌盗蟲カードの3枚差)……で殴りつけて、周囲を見回す。

「あいたたた……やだなー、ちょっとウィットにとんだ軽い冗談じゃないか。何も本気で殴らなくても」
「当たってもたいして痛くも無いくせにそう痛がらないの。ウィットでもウェットでもジェットでも何でもいいけど、いつもよりも奥に着ちゃったから……」

 翔も周囲を見回して、ようやく真顔になった。

「あー、確かに危ないね。少し早いけど、ワープポータルで帰りますか」
「そうね……今日はこれぐらいで、帰ろうか」

 そして、青ジェムを取り出して、ポタを……

「あ。青ジェムが無い……どこしまったかな」

 ポーチや、法衣のあちこちを探すけれどブルージェムストーンは見つからない。

「無いって……ああ、そういえば。さっきの決壊パーティのリザで使ってた?」

 そういえば。

 思い起こすこと、数十分前。
 深淵の騎士が横に現れたらしいパーティが壊滅しかけていたので、私はリザレクションでプリーストたちを回復させて助けたのである。

「……あれで、全部使っちゃったかも……」
「計画性無さ過ぎですよ、リリ」
「うるさいわね……あ、テレポートで帰ればいいんだ」
「へー、僕を置いて行くんだ。立派な御主人様だね」
「あんたは私について来るんだから、問題ないでしょうが」
「でも、テレポートだと僕にも負担があるから嫌なんだけどー」

 そんなことを話していたから、私は背後に近づく影に気が付かなかった。
 認識して回避するよりも早く、強烈な剣撃を直に食らってしまった。
253今を生きるために、決して過去は振り返らないsage :2004/04/02(金) 00:06 ID:jyskdF/o
「は……し、深淵っ……っ」

 キリエの聖なるバリアのおかげで、何とか生きてはいるけれど、咄嗟に胸と頭を庇った左腕と肋骨は見事に折れ、口に血による鉄の味が広がってくる。
 まだ生きていることに少しだけ神と呼ばれるモノに感謝して、即座にヒールをかけて、強引に傷を治癒して杖を構えなおした。
 1:1なら、まだ何とかなる。とりあえず……隙を見て、逃げよう。
 そんな私の考えを見切っているのか、違うのか。
 深淵は、感情を感じさせない赤い瞳で私をにらみ、その大剣を振り上げカーリッツバーグを召喚した。

「……ヤバ……と、取り巻きまで……逃げるよ、翔!」
「了!」

 いくら、自分が回避には自信があるとはいえ、純粋の戦闘職とは基本の体力も体格も違う。何よりも殲滅速度が私は絶望的に遅い。それはホーリーライトの詠唱速度が遅いからだ。詠唱速度も、体力も切り捨てて素早さを重視して修練してきたせいなのだけど。
 ……今日ほど、それを後悔したことはないかもしれない。

 神様、今まで、不信心な信徒でしたがこれから改めます。
 だから、どうか助けて下さい……。

 思わず祈りをささげながら、私は速度増加を自分にかけなおすと、全速力で狭い通路を走り始めた。
254今を生きるために、決して過去は振り返らないsage :2004/04/02(金) 00:13 ID:jyskdF/o
木陰から、こんばんは。
元花のHBの中の人です。

新しい話を書き始めてみました。
花のHBのハッピーエンドVerも近い内に。

そして、某スレの某530様に許可もらったので(謎)
ネタニシヨウカナトカ・・・・

と・・・それではまたですー。
___ __________________________________________________
|/
||・・)ノシ


>('A`)さま
いつも、楽しみにしています。
復活してくれて本当によかったですよ。・゚・(ノД`)・゚・。
255('A`)sage :2004/04/02(金) 02:02 ID:fjsfM.s.
いいかい、ティータ
お前には沢山の希望と沢山の光が詰まってる
同じ数だけの絶望と、闇も
だからティータ、お前は本当のお前に戻ってはいけないよ
もしもお前に隠された箍が外れてしまったら、
お前はきっと鍵を開けてしまうだろうから
その時までに、お前を止めてくれる誰かが居て、
お前だけを好きになってくれているといいね・・・


『ティータ 1/5』


最悪だな。
白い髪のアサシンはポツリと呟いて苦笑いした。
手にさげていた買い物袋を落とし、彼は愛用の二刀を抜く。金鳴りの音が静かに響いた。
壁に張り付きつつ、周囲の気配をうかがう。気が狂いそうになる静寂を裂いて、彼が背を預けていた壁が砕け散った。
飛び散る破片を浴びながらも、アサシンは突き出た槍斧の切っ先を右の短剣で受け流し、左手の短剣を放る。避け切ってから右の刃も
投げ放った。
粉塵から躍り出た騎士は避けもせずに襲い来る刃を胴の鎧で受ける。まともなダメージは通らなかったものの、騎士の猛攻が一瞬止まった。
「しつこいな!アンタも!」
後退りしながらもアサシンは叫んだ。叫びつつ、背にくくりつけていたカタールを抜く。
嘘のような破壊の嵐を目の当たりにしても、彼の戦意は失われなかった。たとえ勝てない相手だとしても、それは変わらない。絶対に。
「だましだまし逃げ続けるのは苦しかろう。この辺で諦めたらどうだ、アルバート」
年老いた騎士は年齢を感じさせない腕力でハルバートを構え直す。斬りに使うブレード部分を下段に構えた独特のスタイル。
攻めにも受けにも優れた老練の構えだ。師の相変わらずの鋭い戦闘センスにアサシン―――アルバートは舌を巻いた。
どう戦うにしても簡単には終われそうも無い。最悪も最悪。大凶だ。
だからといって答えは変わらない。アンサーはノーだ。
「悪いが、ちゃんと卵買って帰らないとティータに怒られるんでね。最近じゃ人数が増えて、料理担当は殺気立ってるんだ」
「ほう・・・やはり死を選ぶか」
「冗談・・・卵買って帰るって今言っただろ、ベルガモット。もう耄碌が始まったのかよ?」
「抜かせ」
肩をすくめるアルバートへ向けて、騎士の槍斧が突き出された。煉瓦の壁さえ容易く打ち抜く一撃がアルバートの脇下をかすめる。
老騎士、ベルガモットは彼のその回避運動を見越していた。自分が教えた体技なのだから、手に取るように分かる。
裏路地の狭い空間でなければ返す刃でアサシンの胴を両断出来ていた。
ただ、ここは壁にはさまれた狭い空間だった。言わば上空以外に自由なスペースのない、密室に近いシチュエーションである。
アルバートの最も得意とする戦闘領域だ。
一拍の間を置いてアルバートの姿がかき消えた。何も無い空間を槍斧が薙ぐ。
クローキング。既にアサシンはその場から撤退してしまっただろう。ベルガモットは僅かに口元を緩め、槍斧を下げた。
紙一重と言ったところだろうか。こと、追い詰められた時に見せる冴えは特筆すべきものがある。やはり殺すには惜しい弟子だ。
無論、手は抜かないが。
夕餉時までかかってさえ仕留め損ねた事にさして腹も立てないまま、老騎士はアサシンの投げた二刀を拾い上げた。
「だが・・・痕跡を残すとは、未だ未熟ということか」
「貴方ほどの戦士になると、あれほど熟練した弟子に対しても厳しいのですね」
ベルガモットが粉砕して空けた壁の穴から現れた女プリーストが言った。
見れば誰もが口を揃えて聖母と称えるであろう優しい笑みを浮かべた美貌の神官は聖衣にまとわりついた埃を払いながら、ベルガモットの差し出し
たアルバートのダマスカスを受け取る。
「お主の<百眼>を知らぬとはいえ、命取りであることには変わりあるまい。甘いだの厳しいだのと言う次元ではなかろう」
「私とてまだまだ未熟です。紅の長を敵に回してしまった彼らに、同情します」
そうは言いながらも神官――フェーナ=ドラクロワは二本のダマスカスに残された微かな魔力を<視>た。
彼女が持つ先天性の力。眼を介する事でどんな魔力も感知し、把握することが出来る天恵の能力だ。これは神官の特性ではない。
その応用として彼女は地点を記録しなくともポータルの転移先を指定出来た。<百眼のドラクロワ>と畏怖される彼女はその能力で幾度も
逃亡者を迫撃している。過去、彼女自身が動いたわけではないが、かのドッペルゲンガーと灰のグレイも退けていた。
アルバートを追うベルガモットも彼女のサポートを受けている。でなければ、さすがに彼の行く先々で待ち伏せすることは出来ない。
「今は・・・またゲフェン・・・ですね。やはり街自体に魔力が濃くて正確には特定できかねますが・・・大体なら」
「手間か」
「少し」
「ならば良い」
意外な顔をするフェーナ。いつもなら強行する所だ。そこにアルバートが居ようと居まいと、である。
「夕飯だ。何故か卵が食いたくなったのでな」
やけに年老いた口調でベルガモットは言った。

朽ちかけた扉がゆっくりと開く。錆びた金具が耳障りな音を立てた。
「僕に・・・何か用ですか」
部屋の隅。堆積した闇の中に、栗毛の少年は居た。何をするわけでもなくメイスを弄ぶ彼はどこかやつれて見える。
「君はバニ君・・・だったね」
扉を開けた青年はにこやかに問う。青い髪と澄んだ赤い瞳。メントルの下に着込んだメイルと、腰の剣から騎士なのだと思わせる風貌。
それにしては青年は華奢過ぎた。女だと言われてもなんら不思議は無いほどだ。
「少し話がしたいんだ」
青年は手に持っていたカップをバニに差し出した。意外そうな顔をする彼の目の前で、カップの中身は暖かな湯気を上げる。
「ごめん、こんなものしかなくて。モロク産の安い豆だけど、僕のポケットマネーじゃこれくらいしか、ね」
「あぁ・・・いえ、いただきます」
自分より一回りくらい年上だろうか。バニは青年のどこか大人びた顔を見ながらそんなことを考えた。
「君の話はフェーナさんから聞いてるよ。僕はアウル=ソン=メイクロン。アウルでいいから」
「・・・貴方がリーダーですか?」
「ははっ、僕はそんな柄じゃないけど、一応はそうかな。とはいっても、何もしてないけどね」
アウルは目を細めて笑った。フェーナに連れられて何度か彼の姿を見てはいたが、会話を交わすのは初めてだ。誰かにを指示していたようだが。
仲間らしき人物達を束ねているのは間違いなくこのアウルだった。無骨な僧兵を率いるフェーナの上に立っているとは思えない優男だが、フェーナ
自身もその部下からは想像できない統率者だ。この集団は外見や年功とは別の基準で上下関係が成り立っているのかもしれない。
「僕は君の真意が聞きたくてさ。フェーナさんは君を選んだけど、たった一つの要因で物事を決めるのはちょっとね。僕も、君も、少しはお互いを
知らなくちゃいけない」
「妹・・・カタリナの為に。それだけですよ・・・僕は」
バニは疲れた声で返事をした。事実、バニの関心事はもうそれだけになってしまっていた。
アウルが勘ぐるのも無理はないのかもしれない。彼のカタリナへの妄執は異様だ。自覚もあった。たったそれだけのことでそれまでの立場を捨てる
など、普通では有り得ない。
しかし、バニはフェーナと共に行くことを選んだ。それも事実だ。
「それだけじゃ不満ですか・・・アウルさん」
「いや、そうじゃないよ。僕らも大所帯になったから病巣も取り込んでしまっている。だから、君がそうならないように見極めたいだけさ」
正直に物を言う男だ。どこかグレイに似ている気がした。
上等じゃないか。
「へぇ・・・じゃあ聞かせてくださいよ・・・あなた方の事を」
どんな詭弁が並べられるのか、興味がないわけではない。バニは皮肉めいた笑みを浮かべた。
アウルはさして気を悪くした風でもなく、言葉を選んでいるような仕草をした。適当な言い訳を考えている訳でもなさそうだった。
「そうだね・・・最初に言っておきたいのは、僕らは一を救うために九を捨てる・・・そういう考えを支持してるって事かな」
語るに落ちる。論外だ。バニは自分の偏見からそう思った。
「不服そうだね」
「・・・まぁ」
「でも君も、妹を助けたいんだろう?」
あくまで爽やかに言うアウルに、バニは閉口した。
256('A`)sage :2004/04/02(金) 02:03 ID:fjsfM.s.
無数のグロテスクな管が伸びていた。黄土色の金属で鋳造された管は中心となる<あるモノ>から四方にうねっている。
バニは思わず口元に手を当てた。異臭と異様な瘴気が満ちていた。魔力も、だ。
管に埋もれていたのは人型の魔族、ジルタスだった。引き千切られた四肢の代わりに管や有機的な糸を生やしながら、人の形をした魔は口を開閉して
いた。呼吸だ。
まだ、生きているのか。
激しい嘔吐感を覚えた。
「アウルさん・・・これは一体・・・」
「この装置はここ・・・ブリトニアの地下に放置されていたもので、全部で13基ある。原理までは分かってないんだけど、これにかけると純粋な魔力を抽
出できるんだ。人間でやるよりは、こうやって魔族を使ったほうが効率がいいらしいね」
かく言うアウルもその光景が好きでないらしく、直視はしていなかった。二人は鉄の渡り廊下から下の『装置』を見下ろして向き合う。
「ちゃんと数を揃えるのに苦労したよ。沢山仲間を失ってしまったけど、お陰でいい具合に魔力は溜まってる」
「そこまでして・・・あなた方は一体何を・・・」
「聖戦が近い。それは少し魔学をかじった事のある人間なら分かる事だ。ゲフェニアの奥の魔壁から聞こえる音・・・各地で起こる魔の者の覚醒と変異。
僕らに残された時間は少ない・・・もし千年前の聖戦が再び繰り返されたら、今の人間に勝ち目はない」
妄言としか思えないことをアウルは言った。しかしその表情は真剣そのもので、焦燥すら感じさせる。
「千年前の聖戦なんて、御伽噺でしょう・・・」
「そうでもないよ・・・確実にあった。グラストヘイムを見れば分かることさ」
人の世界にありながらも魔窟と化している廃墟の城。バニは足を踏み入れたことは無かったが、単なる迷宮化した遺跡だと認知していた。
「口で言うのは難しいね。でも起こってからじゃ遅い・・・だから僕らは聖戦に備えるべく、行動に移った」
「いまいち・・・話が見えませんが」
たとえ魔力を獲得したとして、もし聖戦とやらが来るとしても・・・事実なら意味は薄い。
『御伽噺』の通りなら、地表を埋めつくほどの魔物が溢れるという。得た魔力を使って攻撃を加えてもさしたる攻撃にはならないだろう。
「人間が行使できる力には限界がある。成長の限界・・・人間と魔族との違いは成長することにあって、最大の利点でもあるんだけど・・・残念ながら人の身
で手に入る力には限界が設定されてる。どんな天才でも、それは超えられない。神族がそう作ったんだからね」
まだ分からない、といった顔をするバニにアウルは苦笑し、
「でもその限界を超える術があるとしたら?その道を神が示したとしたら?・・・だから僕らは『門』を開く。神界に行き、ヴァルキリーに会う為に」
「神界との魔壁を超えるって言うんですか・・・?」
「そう。その為にはこの装置の魔力と、鍵・・・そして鍵を開ける者・・・ユミルの模倣品、ライカセの理論で錬金術によって作られた最初の完全なホムンク
ルス・・・スレードゲルミル。彼女が必要だ。僕らはその為に、戦っている」
257('A`)sage :2004/04/02(金) 02:13 ID:fjsfM.s.
駄文投下です。しばらくはちょっと敵さん達にスポットを当てて行きます。
細かい設定は原作を知らないので分かりませんが・・・目を瞑っていただけると
幸いです。勉強不足。流れ的には『承』に入りました。

>>248さん
私も('A`)は好きです。やる気がなさそうというか、ない感じがたまりません。
話が逸れました。読んでくださってありがとうございます。

>>254さん
お待ちしておりました。やっぱりいい文章をお書きになられますね。
流れがスムーズというか・・・綺麗ですね。
文神様に読んでいただけると報われます。頑張ります。


それではまたの機会に。
258sdsage :2004/04/02(金) 19:11 ID:zMnG0toA
カビ臭く薄暗い部屋で、本を持った青年が言霊を唱えていた。
この陰鬱とした場所に似つかわしくないその声は、
大気を震わせ、清浄な空気を運んでくるかのようだ。
しかる後に安息の天使が訪れ、死者を天に導いていく。

マグヌスエクソシズム。

青年は、生ある魔物には目もくれず詠唱を続ける。
「おまえなぁいい加減働けよ。」
いるんだろ?
詠唱の間をついて青年が一人ごちる。
周りには誰もいない。
フフっと、どこからともなく魅惑的な女の声が聞こえた気がした。
その声に誘われたかのように魔物の群れが闇より生まれ、青年を屠ろうと襲いかかる。
僅かに眉間にしわが寄る。
一人では多すぎる魔物の数だが、青年は動じず一歩も引かない。
少々の傷では詠唱を止めない青年の頬を
一匹の魔物の牙がかすめようとした直前、何かの衝撃で魔物があとずさった。
漆黒の闇から姿を現す影が一つ。

青年にしだれかかるように現れた人影は、
太刀先の見えぬ速度で生ある魔物を屠っていく。
その唇に浮かぶは艶やかな笑み。
紅の色か、返り血か、朱を増す唇に見とれながら青年は詠唱を終えた。
死者の群れはその肉体から解き放たれ、
残ったのは静寂と一組の男女。

「助ける気があるならもう少し早くやってもらいたいのだが?」
銀縁の眼鏡をかけ直しながら黒い法衣に身を包んだ青年がいう。
「レディを呼ぶにはそれなりの手順があるのよ?」
余韻が残っているのか、口の端に笑みを浮かべたままの女は
軽い手首の振りひとつで魔物の体液を刀身から綺麗に吹き飛ばした。
頭には悪魔の羽から作った羽かざりをつけている。
「そもそも何故ついてきているのか判らないのだが。」
一緒に魔物を浄化するわけでもなく、
気がつくといつも側に居る彼女の行動は青年にとっては理解しがたいものだった。
まぁ、初めから彼女の行動が解ったことなど一度とてないのだが。
自身を癒しながら問い掛ける青年に対して女の答えは簡素であった。
「だってアナタが弱いんだもの。」
初めて会ったときから。
言外にそういいおくと女は微笑みながらすっと姿を消した。
思わず舌打ちをするがあえて探し出すことはしない。
他人から見れば恋人同士の喧嘩ととらえられかねないこの関係は
青年にとっては想定外のものだった。
そもそも友人ですらないはずだ。彼は彼女の名前を知らない。


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ん、だからどうしたって感じで申し訳ないですTT
ぼけーっとしてたら↑の絵だけぽややんとでてきてしまひました。
でも小説とか全く書いたことないのでお目汚し失礼しました。(逃げっ
259206sage :2004/04/02(金) 23:21 ID:K4SE0kg2
('A`)様の作品に割り込む形になりますが、ひとつ書き上がりましたので、投下を。
モンクスレも有りますが、SSですのでこちらに。
作風が全然違うかもしれませんが、コレも私です。
260Unbalancesage :2004/04/02(金) 23:22 ID:K4SE0kg2
「うわっ!」

 立ち位置を間違ったせいでファイアーウォールから外れて遅い掛かってきたサスカッチ。いままさにその爪が僕に振り下ろされようかという瞬間、その前に割り込む人影があった。

「はい、あなたの相手はこっちね、くまさん」

 にこやかにそう言うなり、そのお姉さんは凶暴な魔物の爪牙を軽くいなし、頑強な手甲での打撃を加えていく。
 そう、彼女はモンク。僕は半人前のマジシャン。冒険者としての段位も戦い方も全然違う僕たちは、ふとした事から知り合って、このルティエ雪原で戦っている。というか、僕が彼女にファイアーウォールの練習を手伝ってもらっている、というのが正直なところ。

「あいたた……。一発もらっちゃったか。油断大敵、っと」

 未熟な僕の目からすれば圧倒的な強さでサスカッチを倒したお姉さんだったが、少し攻撃を受けたらしい。むき出しの二の腕に手をかざしてヒールで癒しながら、邪魔にならないよう距離を置いていた僕の方に戻ってきた。

「すみません、僕が下手なせいで、また……」
「初めのうちはそんなものよ。ついこの間までフローラだったんでしょ?」


 いまにして思えば、呆れるほどに無謀な背伸びだったのだ。
 ファイアーボルトを覚えてちまちまとフローラを撃っていた様な半人前が、ファイアーウォールを覚えたからといってアルデバランに飛んできたのが4日前の事。時計塔に入ってみればパンクの攻撃に2発と耐えられず、ライドワードに囓られればあっという間に倒された。かといっておもちゃ工場に入ってみたら、ミストケースはともかく、クルーザーの射撃に対して為す術がなかった訳で。
 首都に戻ろうにもポータル代はここまでの転送費とミルク代に消えていた。
 途方に暮れながら時計塔の裏手で傷の手当てをしていた僕に、ヒールと声をかけてくれたのが、このモンクのお姉さんだった。けっこう長い間この街に滞在しているという彼女は、僕の愚痴と弱音混じりな事情を聞いて、協力を申し出てくれたのだ。

「キミは私の目をちゃんと見て話してくれたからね。そういう人って、意外といないんだよ」

 そんな理由で僕を見込んでくれたお姉さん。実は、上着の前を割って露わになっている豊かな胸元に目を向けられなかったから、という本当の理由を話したら、どんな顔をされるだろう。
 怒るかもしれない。でも、なんとなく笑って済ましそうな気がする。そんな、優しいともどこか抜けているともとれる、不思議な雰囲気を彼女は持っていた。


 動きの遅いサスカッチはファイアーウォールの練習台としては適していて、まだまだミスは多いものの、それなりに感覚はつかめてきている感じだ。というか、お姉さんに指摘されるまでここを練習場にする事を考えつかなかった僕は相当にマヌケだ。おもちゃ工場に行くときに通りかかったのに。

「そろそろ休憩にする?」
「あ、はい」

 支援や治癒に限らず、こういった気遣いもお姉さんは欠かさないでくれる。

「それじゃ……はっ!」

 僕が返事をすると、お姉さんは身体に纏う”気”を急激に高めた。武術に関してはさっぱりな僕の眼にも、彼女の纏うエネルギーの迸りが視えるほどだ。そしてさらに浮かぶ”気”の塊が1、2、3……5つ。休憩前の恒例。”あれ”をやる気だ。

「いっくよぉ! 阿修羅、破凰拳っ!!」

 かけ声と共にお姉さんが力の全てを乗せた拳を受けて、サスカッチが消し飛ぶ。そう、消し飛ぶ。それ程の威力。
 ”阿修羅破凰拳”。局地自在転移”残影”と並ぶ、モンクの象徴とも言える奥義だ。代償として暫くの間、術を使う為の精神力を根こそぎ失うが、それに見合った威力を持っている。その特性からか、狩りの最後に景気づけに放っていく人も多い。

 でも、お姉さんの場合はそれだけの理由でないことを僕は知っている。

「さってと、しばらく休まないとね」

 ルティエの街に入り、べンチに腰掛けて、体力・精神力や別の意味での気力の回復につとめる。
 魔法を使う、という事は単純な精神力の消費以上に気力を使う。立ち位置や方向、ボルトの本数などをいちいち考えているから。そういった気力の回復に使う時間の理由を、お姉さんは阿修羅でつくってくれているのだ。まったく、頭が上がらない。

 それにしても、と他にも感心する事がある。それはお姉さんの格好だ。
 モンクの装束は腕がむき出しで、ズボンも膝までしか無い。そんな格好で、この常冬のルティエで平然としているのだ。しっかり着込んでマントまで羽織っている僕の方が寒さで震えることがあるのに。以前その事について聞いたら、

「寒いところ、好きなの」

 とのたまった。なんと言うか、すごい。
 ああ、思い出したらまた寒くなってきた。狩りのときは身体を動かしているから気にならないけど、こうしてじっとしていると、熱がひいてしまう。

「お姉さんの方は、回復しましたか?」
「ん、私の方は大丈夫だけど……。キミはまだなんじゃないの?」
「えっと、でも大体回復しましたし。それに、動いてないと寒くって」
「そっか」
「やっぱり、お姉さんはすごいですね。そんな格好で平気なんだから。鍛え方が違うのかな」

 僕が何気なく漏らしたそんな言葉に、お姉さんの表情が変わった。ちょっと眉をひそめた、不満気な様子でこちらに目を向ける。いけない。弱音を吐きすぎた。

「す、すみません。とにかく行きましょう。ほら、回復ならこれもありますし……」

 その場を流そうと、僕はザックから葡萄ジュースを取り出して一気にあおり、

「……入れて」

 吹いた。

「げほごほ、えほっ!」

 思い切りむせ返る僕。目の前に、立ち上がったお姉さんが来て、僕のマントの胸ぐらを掴む。何だ、殴られるのか、僕?
 混乱と少しの怯えに頭がいっぱいな僕に構わず、お姉さんは……くるりと背を向けて、僕の脚の間に座った。さらに僕のマントをの裾を掴んで、胸元で合わせる。ちょうど二人羽織のような状態だ。えーと、なにか? 「マントの中に入れて」という意味だったのか? なんて言うかいっぱいいっぱいな僕に、背中を預けたままお姉さんは更に言う。

「だっこして」

 オーバーフロー。

 いやいやいやいやちょっと待て待ってくれ待って下さい抱っこですかそうですかそうきますかって言うかなんでいきなりそんな幼児退行してますかお姉さん。
 ルティエの寒風にも冷めず暴走する思考。ほんのちょっと残ったまともに働く部分が自分の頭にフロストダイバーを掛けることを本気で検討し始めようとしたとき、かろうじてお姉さんの声が耳に入った。

「私だって、寒いよ」
「え、っと、だって……あ」

 そう。お姉さんは「寒いところが好き」とは言っていたけど、「寒いのが平気」とは言ってなかった。

「……じゃ、じゃあ、なんで、寒いところが好きなんですか……?」
「あったかいから」

 再び思考が空転しそうになる。

「寒いと、あったかさがよくわかるから。私、あったかいのが大好き。だから、寒いところが好きなの」

 ああ、言われてみると納得できる。ここよりも寒さの穏やかなアルデバランでさえ、朝のベッドの誘惑は抗い難い心地良さだ。
 ……多少ズレてるかな。でも大外れでは無いだろう。

「……なるほど」
「うん。……だから、だっこして。まだちょっと、前が寒いから」

 これ以上密着すると、かつて無いくらいに心臓が早鐘を打っているのバレてしまうかもしれない。でも、僕は言われるままにお姉さんの背中を抱きしめた。鼓動と一緒に、気持ちまで伝わってしまえ、と思いながら。
 ……ええ、そうですよ。惚れてますよ。拾ってもらって、支援してもらって、気遣ってもらって、いつも側にいて。これで好意持たない程、男なんて複雑じゃ無いですよ。

「ん。あったかーい。ありがとね」
「お安いご用です。……僕、強くなりますね。あなたと並んで戦えるように」
「うん。楽しみにしてる。……でも、男の子って、すぐ強くなっちゃうのよね」
「そう……かな?」
「そうだよ。だから……今は、もうちょっとこうしていよう、ね?」
「はい」

 寒風の吹き抜けるルティエのベンチで、
 それでもお互いの温かさを感じながら、
 僕たちはしばし、そのまま座り込んでいた。

 足下で、街に紛れ込んだマーリンがグレープシャーベットになった雪をしゃくしゃく食べていたのは、また別の話。
261名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/03(土) 02:09 ID:nV.ekN/A
>>258
行きずりの関係っぽくて良い…(´д`*)
つ、続きが気になっちゃう(;゚∀゚)=3

>>260
モンクたん萌。
戦闘時とのギャップにまた萌。
私を萌え殺すおつもりか…ッ!!

('A`)さんの連載もあってそんなこんなで、スレを毎日ヲチしちゃってる自分がココに。
そういえば、最近下水道リレーの作者の方々も見かけませんねぇ。
やはり新年度で皆さん忙しいのでしょうか。
参加したくても入っていけるほど文章力もなく、こうなれば自爆覚悟で短編投げ込むか…ッ!!
262●〜*sage :2004/04/03(土) 04:14 ID:I7.7QYyw
プロンテラの中央噴水から見て北東にある一軒家、その薄暗い地下室で女が一人、
怪しげな実験を行なっていた。
女は瓶を取り出し、それを机の上に置いた。
瓶の中にはなにかの臓器であろうか、得体の知れない物体が入っている。
そこに、これまた得体の知れない液体を混ぜ、配合していく…。
女は、ニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべた。
「もう少しよ…もう少しで完成するわ……」

「あのー」
「っ!?」
背後からの人の声に、女は思わず前のめりになった。
その勢いか、腕が瓶に当たり、瓶は床に落ちて虚しく割れた。
「あー!もう、割っちゃったじゃない!!どうしてくれんのよ、あんた!?」
女…アルケミストが、ドアの所にいる声の主に怒鳴る。

「ご、ごめんなさいっ!こ、この代金は弁償しますから!」
そこにはアコライトが立っていた。成り立てなのか、まだ顔は幼かった。
「……まぁいいわ、ところで私になにか用?」
「はい、実はあの人からコレを渡すようにって言われまして……」
アコライトは一通の手紙をアルケミストに渡す。
「あの乳でか女から?なになに……
『エナジーコートってご存知?魔法のバリアを張って敵の攻撃を軽減する防御壁ですけど、
貴女の様な、おつむも胸も足りないお方にエナジーコートの様な効果を持つ物が作れますか? オーホッホッホ byセクシーウィザード』
…ですってぇ!?だー!むかつくあの乳でカ高飛車女っ!」
いきりたつアルケミストに、アコライトはたじろぐ。
このアルケミストと手紙のウィザードは、昔から仲が良くなかった。
その話は後に語られる事もあるだろう。

「アコ!」
「は、はい」
「あの乳でかとどんな関係か解らないけど、こんなモノを持ってきたって事は
私に対する宣戦布告と見なすっ!よって、アンタを助手兼実験台として使わせてもらうわ!」
「な、なんでですか〜〜?!」
「そりゃ……だってアンタ、ヒール使えるし。爆発で怪我しても大丈夫でしょ?」
「あうぅ…私はただ、言付けを持ってきただけなのに……」

二人の実験は、こうして始まった。
-続く?-
263名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/03(土) 04:24 ID:aopO.6ns
('A`)氏は確かにうまいけど、褒めると手を抜くね

句読点が微妙に足りない。戦闘描写、見た目の描写、癖のある口調の会話ばかりが続くから、個々の心情がさっぱり。
だからキャラの違いが分からない。引き立たない。
個性と言っても、せいぜいひとことふたこと、描写に華を添える程度にしか作りこんでないんじゃないか?
悪いけど、ここまで読んでも、どのキャラが特別に優しくて、どのキャラが特別に頑固で、どのキャラが特別に・・っていう、そういうのが掴めなかった。
女性の男性化というか、子供の大人化というか、書き分けのできてない、小奇麗な少女漫画イラストを見てるみたいだ。
どれも同じに見える。
いちおう同じキャラの続きものになってるけど、別の『外見』を用意した他の人に差し替えた短編形式にしても、話の内容変わらなそう。


語尾を変えるとか女言葉にするとか、そんなレベルの話じゃなくて、口語が硬い。ヘタクソ。
テレビとかあんま見ないタイプでしょ。


テンポが良いことは良いが、音合わせ、語呂合わせのためだけに文を長くしすぎる。冗長。
せっかく二次熟語多用、漢文調の断定を駆使した簡潔な文体になってるのに、使う語彙が狭い。
もちろんやたら難解な漢字ばかり使うSSなんてのも論外だが、柔らかい文章が苦手なせいで、余計頭悪く見える。
子供が、意味も分からずにしゃちほこばって敬語を使っているような、そんな背伸びや無理を感じさせる。
居る、とか、何処、とか、漢字に直さなければいいのに、と思ってしまう。読みづらいもの。


話も面白くない。笑わせる部分が欲しい。カッコいい事はカッコいいけどね。


そして煽り耐性無し。
今度はそこまで言うならあなたの文章が読みたいですとか言い出すのかな。
それともまたやめたい・・とかって弱音吐いて優しい励ましのレスを誘い受けするのかな。
ジョンだけですか? とか、他のところも褒めてほしがってるように見えるレスはいかがなものか。
スレの性質上、批判がやりにくい空気だって事くらい、文章書きなら分かるでしょうに。
それが分かったうえで、「そんなことないですよ、上手です」って言ってほしそうにすら見える。
もちろん、悪し様に解釈すると、の話だけどね。


悪い事言わないから、煽りくらい受け流せるようになるまで、SSだけ投下して前後で雑談するのを控えた方がいいと思う。
264名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/03(土) 04:26 ID:aopO.6ns
お。IDがもう少しで青ポーション
265名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/03(土) 10:19 ID:BetUcLvw
煽りはスル−でよろしく
266名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/03(土) 23:14 ID:/clKSUZ6
そんなこんなで文士様一同の創作意欲が萎えてスレが止まる、と・・・
前にもこんな展開あった気が・・・
267今を生きるために、決して過去は振り返らないsage :2004/04/03(土) 23:28 ID:ADn99IJs
「最悪……」

 前門の虎、後門の狼と言ったのは誰だったか。はたまた、四面楚歌と言うべきか。
 逃げれば逃げるほど、雪ダルマ式に敵が増えて行くのは、ここでは当たり前のことらしい。

 気が付けば背後には、深淵の騎士とカーリッツバーグだけではなく……ライドワード、レイドリックやら……間違ってぶつかってしまったアリス(+取り巻きのセージワーム)やら……

 下手に立ち止まったら、恐らく一瞬にしてニヴルヘイムを見そうだ。

「あんたも、アンデットでしょ? あいつら説得できないの?」

 自分でも、馬鹿なことを言っているとは思うけれど翔に聞いてみた。

「あのね……言葉が通じないヤツを説得できると思う?」
「やっぱり無理か」

 ソヒーやムナックやボンゴンは元々は、フェイヨンダンジョンのアンデット。
 フェイヨンダンジョン……そこは、死者の街。昔、大地震があって街ごと地下に沈んだと聞いている。
 突然のことで、死を自覚するよりも早く死んだもの達が多く……そこはアンデットの街になった。
 つまり、本来ならば浄化すべき死者。でも、私はその翔を連れて歩いている。
 信仰に厚い聖職者の連中にはすぐに浄化すべきと諭されたし、聖職者と言うよりは性職者の連中にはそんなに一人寝がさびしいなら慰めてやるぞとアヤシイ誘いを受ける羽目になったけれど。
 もちろん、どちらにも丁重にお断りを入れた。
 別に、浄化のために翔を連れているわけでもないし、そんなアヤシイ目でなど翔を見たりしていない。
 なら別のペットでも良かったじゃないかって? ……まあ、情がうつって別のペットを飼う気がしなくなったというのが真実のところ。

 しばらく走った後、ようやく何も追って来ないことを確認してほっとため息をつく。

「久々に、リリーナさま大ピンチ! だったわ……」

 口調こそ、冗談混じりだけれど、足が全力疾走と恐怖のせいでガクガクしている。
 通路の壁を背もたれにして私は座り込んだ。

「どうやら、撒けたみたいだね。今のところ追ってこないみたい」

 翔が背後を確認してくれる。
 ずり落ちかけてきたミニグラスをきちんとかけなおして、私はポーチからタバコを取り出す。
 ゆっくりと火をつけて深く吸い込む。メンソールの爽やかさとミントの香りが口に広がってようやく助かったのだと心が軽くなった。

「禁煙するって言ってたくせに……三日しかもってないよ?」

 あきれた声で、翔がつぶやいた。

「ほっといて。やっぱりこれがないとだめなのよ」

 身体に悪いから吸うなと相方には止められていたけれど、あの人が旅に出てしまってからまた吸い始めてしまった。もちろん、約束を守ろうと何度も禁煙したけれど、三日しかもたず結局また吸ってしまう。
 結局、身体に悪いから……というよりも、女がタバコを吸う姿が嫌だったのかも。
 ……もしくは、キスした時にタバコの味がするのが彼は嫌だったんじゃないかなとか。彼は、タバコは吸わなかったし。
268今を生きるために、決して過去は振り返らないsage :2004/04/03(土) 23:29 ID:ADn99IJs
「さて……行こうか」

 適当にタバコを揉み消して携帯灰皿に放り込む。
 それから、支援魔法を一通りかけなおして、翔に声をかけた。

「とりあえず、人がいる所に戻ろう。青ジェム譲ってもらって……それで帰ろう」

 笑顔を浮かべるかと思えば、相変わらずあきれた口調が帰ってきた。

「テレポートっていう、手段がすでに消えてるところがさすがだね、リリ」
「あんたが嫌がるからでしょうが。文句ある?」
「いえ、ありません、ご主人さま」

 今度は、注意深くゆっくりと進み、途中何度かレイドやカーリッツの襲撃を受けたけれど、やがて入り口が見えてきた。
 かなり疲れてきていたので、安心感の方が勝って歩を早く進める。

 
 そして、突然の衝撃と暗転。
 翔の叫ぶ声。

 
 気を失いかけた私の目に映ったのは、撒いたはずのあの深淵とカーリッツの姿だった。
 

 

 
 額に水滴が落ちてきて、その冷たさで目が覚めた。
 そこは薄暗い場所で、私は石の様に固い寝台に粗末な毛布のようなものをかけられて寝ていた。
 起き上がろうとした私は胸と左腕に激痛が走り思わずうめいた。
 動く右腕で毛布を退けると、原型はかろうじてとどめる程度に切り裂かれたプリーストの法衣とその下に白い包帯が巻かれているのが確認できた。

「……あ、リリ。気が付いたんだね」

 声の方を向くと、私と同じかそれ以上にボロボロな姿の翔が手錠と足枷をはめられた状態で座っていた。

「翔……あんた、逃げなかったの? と言うか、その姿……それと、ここ……どこ?」
「詳しいことは、後で話すよ……この場所は、よーく見てみて。見覚えない?」

 周囲を何とか見回すと、確かにどこか見覚えがある。
 しかし、見知った場所はもっと古びた感じがする場所だったはず……。

「ここ、監獄?」
「御名答。監獄1Fだね」

 しみじみと翔はつぶやいた。

「とにかく……ヒールかけるからちょっと肩貸して、このままじゃ起き上がれない」
「ああ、なんかスキルが使えないよ。魔除があるみたい」
「なんですって!?」

 叫ぶと同時に激痛が走るけれど、そんなことは今は気にしている場合じゃない。
 よく見ると、翔が身につけていたはずの導師の剣も無く、愛用の杖も見当たらない。

「……寝てなよ、リリ。その内、僕らをここに放り込んだ奴等が来るだろうし」

 翔は優しくそう言って、視線を鉄格子の向こう側に向けた。

 顔だけを動かしてとりあえず周囲を確認してみる。
 見覚えのあるあの監獄ではこの鉄格子はさび付いて本来の役目は果たさず、扉はすでになく荒れ放題の場所だった。
 それが、ここは鉄格子は頑丈な錆防止の塗料がついた黒塗りのものになっていて、扉にも重そうな施錠がかけられている。
 通路も苔生してはいるが、ちゃんと使用されている雰囲気があった。
 何よりも、篝火がちゃんと焚かれていて薄暗いとはいえ、あの廃墟の雰囲気とはまた少し違った。

 そして、翔が言うとおり、遠くから足音がこちらに近づいてきていた。
269今を生きるために、決して過去は振り返らないsage :2004/04/03(土) 23:37 ID:ADn99IJs
ママーリ ママーリ
木陰から、こんばんは、

ウザかったら、ごめんなさいね。
でも、人間、ママーリが基本ですよー。

そして、ヒネてる支援プリとペットというには
人間くさいボンゴンのお話の続き投下。

長い目で見てくださると嬉しいです。

それではまたですー。
___ __________________________________________________
|/
||・・)ノシ
270名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/03(土) 23:37 ID:VY2DN8vc
>今を生きるために、決して過去は振り返らない
GJ!
プリさんがかっこいいですよ、ホント。ボンゴンとの掛け合いもイイ!
こんなカッコイイプリさんを私も書きたい。。。
271続・244(by 79sage :2004/04/03(土) 23:40 ID:VY2DN8vc
10、
 酒場につながったロビーで鍵を受け取った僕らはあてがわれた
部屋の前までやってきた。階下から、宿屋の禿オヤジの
「ちくしょー、あの剣士のヤロー、あんな可愛いアコさんと…」
なんて叫び声が聞こえてくる。勘弁してくれ、ただでさえ気まずいのに…
「気にしてないから」
横で彼女がそう呟くのが聞こえる。そっけないが、彼女なりの気遣い
なのだろう。
「そう言ってもらえると助かるよ」
ノブに鍵を突っ込み、気恥ずかしさも手伝ってやや乱暴に錠を回す。
僕は開けたドアが自然にしまらないように自分の身体でドアを支えた。
「どうぞ」
彼女はきょとんと、大きな夜色の瞳を白黒させていたが、やがて
「あ、ありがと」
と、視線をそらし、肩にかかった髪をかきあげながらうつむき加減に
小さく言って、部屋に入って行った。
 後に続いて僕も部屋に入ろうとしたその矢先。
 脇からやってきたひとりの男が視界に入った。
 職業柄僕は反射的に、背をドアにつけるように体を男に向け、
腰のカタナに手をかけた。
 鯉口を切る。
「やあ、こんにちは」
その商人風の男は軽く手をあげて、おどけたような調子で言った。
 条件反射とはいえ軽率にもカタナに手をかけてしまった自分を
内心恥じながら、それでも警戒の態度を崩さず、僕は男を見据えた。
「何か御用ですか、商人さん?」
 骨董品の値踏みをするかのように僕を眺めていたその男は、
やがて不敵な笑みを口元に浮かべた。
「単刀直入に申しましょう。あなたがたが、カプラ前で
かっこいいウィザード様から預かったあの薬。
あれを私に譲ってください。言い値で買い取りましょう」
「どういうつもりかは知りませんが、あれは預かったものです。
いくら金を積まれようと、渡すことはできません」
「そこをなんとか。ね、剣士さん。お願いしますよ」
「いくら頼まれても無理なものは無理です。第一、あれは
オレだけが預かったものじゃないし」
「商人さんお困りのようですし、私は全然構いませんよ^^」
いつのまにか、開いたドアの隙間から彼女が顔を出していた。
「ほら、アコさんもそういっているじゃないですか」
 なんて事言うんだ。そう思った僕は彼女に視線を向けたが、
蒼い髪のアコライトの少女はにっこりと、わざとらしく
微笑んだだけ。何も言う気が失せた僕は、疲れを感じた。
とっととこの無礼な男を追っ払うことにしよう。
「とにかく。コレは預かっただけのものですから、どうしても欲しかったら
あのウィザードさんと連絡をとってくださいよ。僕らの方は
何とも言いかねますから」
「そんな、殺生な。お金ならいくらでも出しますから!
……そうですか、そうですか。そっちがそのつもりなら
こっちにも考えがありますよ。ここにノーマナーの犬死がいる、って
大騒ぎしてやる!あー、ちょっと、嘘ですよ!ごめんなさいってば、ねえ!」
なおも食い下がる男を抑えて、半ば強引に僕はドアを閉めた。
閉じたドアに背を預けるようにして、体重をかける。
 扉越しに聞こえる、戸を叩く音、叫び声。そして、しばしの静寂。
やがて廊下を走り去る足音が聞こえる。
 肩から力が抜けた。悪い癖だ。なんに対しても構えて事に当たってしまう。
リラックス。しなければ。
「義理堅いのは結構だけれど、あんな胡散臭い代物渡してしまった方が
良かったんじゃないかしら」
戸を閉めた途端、彼女はクールになった。
「確かに、あの魔法士さん、黒服禿オヤジの団体さんに追われてた
みたいだし、鼻持ちならない人ではあったけど」
「けど?」
「悪い人じゃないと思う。信頼は出来ないかもしれないけど、信用は
できる。少なくとも、オレは」
 彼女は肩をすくめた。
「貴方の勘に期待しておくわ。後になって後悔しなければいいけど」
その言葉を聞いて、僕の胸の内には暗雲が立ち込めてきた。
 もし僕の判断が間違っていたら。つまりあの魔法士が実は悪い奴で、
黒服はげ親父の方が法の守り人だったら。
 僕らは何らかの悪事の片棒を担いでしまうことになる。
そうなれば、彼女に迷惑をかけてしまうことは必然だ。
 それだけは、避けなければならない。それだけは、なんとしても。
大体、自分の判断ほど、自分ほど、信じられないものがこの世にあるものか。
ここは彼女の言うとおりにするのが正解だったか……?
 いや、しかし。もう魔法士には報酬としてネコミミのヘアバンドを
もらってしまっている。このままネコババしてしまうわけにはいかない。
 それに、魔法士は決して悪い人間ではない、と感じたのは誰だ?
僕自身だ。確かに自分は信じられない。でも。僕は本当は自分を…

「自分の思うようにしてみたら?」
彼女が呆れた様な顔でそう言った。それは彼女からしてみれば、目の前で深く
悩み始めた僕に対して、ちょっと言ってみた程度のことだったのかもしれない。
 しかし。僕はその一言で救われた様な気がした。
「ああ、そうするよ。ありがとう」
 自分でもわかるくらいに、僕の声は弾んでいた。
「ど、どういたしまして」
急に顔を明るくした僕に彼女は当惑し、そしてなぜか頬を赤らめた。
「オレはソファを使うよ。君はベッドを使って。それと、君には
迷惑をかけないようにする。だからこの薬はオレが預かっておくよ」
 そう言って僕はソファの脇に自分の荷物を置き、軽く整理した。
ソファに身を投げ出し毛布をかぶると、即睡魔が身体を襲ってきた。
 昔の事も、自分の不必要さも、蒼いアコライトも、妙な薬も、
戦っている時とうつらうつらしている時だけは、頭から消えてくれる。
だから、僕はこの眠りにつく瞬間が好きだ。
「そうだ、後で後悔だけはしたくない…」
 混濁した意識の中で自分がそう声に出したことに、
その時の僕は気づくことが出来なかった。
272続・244その2(by79sage :2004/04/03(土) 23:41 ID:VY2DN8vc
 ]T、
 ドアの前から離れようともせず、彼は何やら深く苦悩し始めた。
そんな彼を見て、苛々してしまっている自分に気づいた私は
考え込む剣士をを尻目に荷物の整理を再開した。
 旅は徒歩で行うのだから(まだ貧乏なので空間転送サービスは
使えない)可能な限り軽装にはしてある。それでも、男である彼と
比べると、女である私の方が何かと荷物は多くなってしまうようだ。
 馬鹿な男から貢いでもらうためには、まず清潔でなくてはならない。
そのためにはやはり色々と生理用品の類が多くいるのだ。
(もっとも私は不潔であることに生理的に耐えられないので、
男に貢いでもらう気があろうとなかろうと、結局荷物の多さはあまり
変わらないだろう)
 さて。今日はとても疲れた。身体を拭いたら寝よう。
 タオルを手にとって顔を上げると、彼はまだ扉の前で苦悩していた。
正直、彼には早く寝てもらって、明日の狩りに備えてもらいたい。
たっぷりと稼いできて欲しいのだ。
そうでないと、この正体の分からない苛々の割に合わないのだから。
  第一。彼は何でそんなにも悩むのだろう。私なら、私だけじゃない、
この世の中の誰だって、いくら先に報酬をもらってしまっているとしても、
こんなヤバそうな事に首を突っ込むのは御免だ。
 自分が一番大事。自分のためなら誰だってなんでもする。
 彼だってその例外ではないはずだ。結局行き着くところが一緒なら
割り切ってしまえばいいのに。
 「自分の思うようにしてみたら?」
見かねた私は彼に声をかけた。すると、彼は弾かれたように顔を上げた。
「ああ、そうするよ。ありがとう」
顔には喜色が溢れ、声は弾んでいる。
 こ、こんな事でいちいち感謝するなんて、こ、子供じゃないんだから。
「ど、どういたしまして」
不意を突かれた私はどもってしまった。なんだか、悔しい…
 まあ、何はともあれ彼もあの薬を手放す気に……
「オレはソファを使うよ。君はベッドを使って。それと、君には
迷惑をかけないようにする。だからこの薬はオレが預かっておくよ」
なっていなかった。
 彼は、例外だった。
 苛々する。
 楽しそうに荷物の整理を始めた彼を一瞥して、私は部屋の外に出た。
廊下を歩き、ほどなくして洗面所を見つけた。タオルを湿らせ、
身体を入念に拭く。身体を拭いている間、私はこの苛々がなんなのかを
ずっと考えていた。でも、答えは出ないまま。
 私が部屋に戻ったとき、彼は既に横になって、うとうとしているようだった。
何か小さく寝言を言っている。私は無意識の内にそれに耳を傾けていた。
「そうだ、後で後悔だけはしたくない……」

 私は、自分の苛々が焦燥感であることに気づいた。
273('A`)sage :2004/04/03(土) 23:53 ID:MSrFr7lQ
『ティータ 2/5』


ゲフェン近郊の城塞都市ブリトニアに割拠する冒険者達のギルドの一つにその集団はあった。
プロンテラ城と比べても遜色の無い規模を持つそれらの砦は冒険者達の激しい争奪戦を経て彼らの占拠下にある。ベルガモット=スヴェンは砦の監視塔か
ら遠いゲフェンの街並みを眺めた。聳え立つ魔塔は、遠く離れたこのブリトニアからも望める。
魔界と繋がると言われる古代ゲフェニアの上に建てられた魔法都市。
そこで、彼の娘は死んだ。
老人は重い鎧も強力な槍も今は身につけていなかった。白くなった頭髪をかき上げ、風を見る。
戦略的にも風は重要なファクターだ。こと、火の魔法を繰る相手と対峙する際には用心を怠ってはならない。
陽の落ちた時間の所為か、冷たい風だった。
「早々と予定を切り上げたというのに・・・なんとも滑稽な展開ではないか?アウルよ」
無音で背後に並んだ一団の先頭に向かって、ベルガモットは呟いた。
「僕としても不本意ですよ、ベルガモットさん。まさかシメオンさんが裏切るなんてね・・・だから、今回は僕達も行きます」
「ほう?責任者はともかくとしても、奴一人の為に総力戦でもしたいか」
「いえ・・・狐を狩るのにそこまでは。そろそろ頃合いですから、本気でスレードを迎えに行きます。魔剣は彼女が一本、僕が一本、フェーナさんが一本・・・
あと一本ですからね」
「その一本も彼女を追い詰めればまた召還されるでしょう?もう待つ必要もありませんわ」
アウルの背後でくすくすと笑うフェーナ。
「・・・奴も来ますか」
やたら目つきの鋭い栗毛の少年が言った。
「フェーナさんの報告では、例の彼・・・ドッペルゲンガーも僕らを良く思ってないみたいだからね。来たらついでに彼の捕獲も済ませてしまおうか。君にも
それなりに働いてもらうからね、バニ君」
「分かってますよ・・・アウルさん。僕としても、望むところですから」
同志達の会話を半ば聞き流し、ベルガモットは小さく、誰も気付かないほど小さく忌々しげに言う。
愚かしい。
まだ敵・・・アルバートやドッペルゲンガーは点と点でしかない。まだそれならば戦いようもあるだろう。
因縁めいたその二つの点は互いに食い潰しあうこともあるかもしれない。それをわざわざ繋げようとするアウルの判断は、愚かとしか言えなかった。
何も知らぬ者は杞憂だと笑うだろうか。
アウルが急き過ぎたのか、或いはこれが引き金となるのか。
(何事にも終わりは来る・・・どうするつもりだ、アルバート・・・)

「アウルさんやフェーナさんは自分の大義を持っているけれど・・・僕には理解できない。現実からかけ離れすぎてるんだ。だから、僕は僕の理由で戦うことに
するよ、カタリナ」
戦支度を終わらせたバニは、同じく武装したカタリナの前でそう呟いた。返事はない。当然だった。
アウルから聞かされたカタリナの状態は足りない知識を補って彼なりに理解はしていた。納得は出来てはいないのだが、詮無い事だ。
夜の闇を溶かしたような黒のレオタードを纏った妹の変わり果てた姿を焦点のずれた瞳で悲しげに見つめてから、彼は拳を握り締めた。
「ドッペルゲンガー・・・カタリナは渡さない・・・」
くん、とカタリナの体が反応した。裏切ったというシメオンなる魔術師からフェーナ、そしてバニへと『主』を変えた人形が。
その繰り方もバニは驚異的な吸収力で体得していた。彼自身もフェーナから手ほどきを受けて修練を積んだ。
最早恐れるものは無い。何者も自分を止められはしない。高揚する気持ちを抑え、バニは大きく口元を歪めた。

<眼>をゲフェンにくまなく這わせ、フェーナは月下に杖を掲げた。杖の先端に付けられている装飾が凛、と鳴る。
ダマスカスから感じた僅かな魔力と同質の力の存在を確認し位置を把握する。だが一種、神聖ですらある能力を巧みに駆使しながらも彼女の関心は別にあった。
フェーナ=ドラクロワの信仰心は、今の今まで一度たりとも揺らいだことはない。神託を受けた彼女が家を捨て、大聖堂を出てからも、ただの一度もだ。
アウルの目的は正しいとも思う。だからこそ彼に従った。ベルガモットも同じだ。彼は娘をドッペルゲンガーに殺され、その憎しみを義憤に変えている。
だが・・・何故だろう?
何処かで不穏な空気を感じている。
予知めいていて、漠然とした予感。
シメオンが裏切った事は関係ない。もしかすると大事の前で緊張しているのかもしれない。よく、分からない。
私達は正しい。
フェーナは内心で言い聞かせて瞑目した。そういった言い訳を自分にしている時点で彼女の信仰心は揺らいでいたのだが、彼女がそれに気付くことは無かった。

そう、僕達は正しい。
青い髪を夜風に晒し、今や中央騎士団にさえ匹敵する一団を束ねる青年は静かに微笑んだ。
予定外の要素はある。しかし、ベルガモットの<紅>やフェーナの<白>の戦力を以ってすれば覆る程度でしかない。全て順調だ。
その取るに足らない害虫を今から潰しに行くところでもある。大事で楽しい局面だ。存分に働いてもらおう。
「まぁ、彼らも扱いにくい駒になってきたけどね・・・もう少し使うことにするよ」
『アウル・・・恐ろしいものよ・・・お前という生き物は』
アウル。彼の腰に下げられた禍々しい剣から低い声が漏れる。
「神族も人間も、貴方たち魔族も・・・僕にとっては邂逅への足がかりに過ぎない。あ、これが済んだらグラストヘイムを攻めようか・・・きっと面白いことになる」
『奴が・・・バフォメットが黙ってはおるまい?』
「その時はその時で、彼を滅ぼしてしまえばいいさ。人間と子作りした腑抜け魔族なんかに何が出来るって言うんだい、君は」
アウルは声を殺して笑った。
「レーヴァティン、そうなったら君も満足だろう・・・その前に一仕事してもらうけど、ね」
『・・・いいだろう。大事の前の小事・・・一瞬きの間に全てを終わらせようぞ』
剣は刀身を震わせて鳴動した。歓喜の声だ。アウルも喜びに満ちた目を剣に向けた。そう、それでいい。
歯車は動き出したのだ。
誰にも止められはしない。誰にも、だ。
「全力で抵抗してよね・・・スレード・・・」
その方が、楽しいから。


金髪の剣士は街の明かりを見下ろし、カプラ職員の衣装を纏った人形の声を聞いていた。ゲフェンタワーの上に佇む二人の人にあらざる者は、迫る事態に対して
まるで他人事のように構えている。もしも人間同士の単純な争いであったなら、見向きもしなかっただろう。
「挙兵したのか・・・以前からオーバーな組織だとは思っていたが、此処までくると常軌を逸しているな」
呆れたように剣士は言う。
「数は・・・正確には把握できませんが、百と少し・・・でしょうか」
困惑気味に人形は言った。彼女の『耳』に聞こえるブリトニアの兵の足音は尋常ではない。
「アリス、カタリナは居ると思うか?」
事実の確認ではなく意見を求めた彼に、僅かな喜びを感じながら人形・・・アリスは答えた。
「彼らの目的は分かりませんが、これまでの経緯からご主人様自身も狙われていると思います。だから・・・」
「彼女をぶつけてくるというのか・・・我に」
剣士の姿をした別の何か・・・ドッペルゲンガーは吐き捨てた。もし自分が敵の立場なら同じ事をするだろう。合理的だ。実に妥当だ。
故に、許せなくもある。
彼はまた戦火に晒されるであろうゲフェンの街を再び見下ろした。その何処かに『あの男』もいるだろう。
何故かそんな予感がした。来るべき時が来てしまったということなのか。
覚悟を決めなくてはならない。こちらから攻勢に出た前回でさえ妙な神官に撃退されてしまった。後手に回る今回に至ってはどうなるか分からない。
だからといって逃げるのは論外だが。
「・・・死ぬかもしれんな」
ぽつり、と彼は呟いた。
そんな主の顔を仰ぎ見たアリスは何処か悲しげに彼の手を取る。それも葛藤の末の行動だった。
「助けたいんですよね・・・カタリナさんを」
「・・・アリス」
「だったら頑張りましょう!どこまでもお供いたします!」
自分ではない。自分ではないのだ、彼の見ている相手は。どろどろとした感情がアリスの胸中に堆積してしまっていた。
彼と共にカタリナを探して東奔西走するようになってから、彼女は強く自分の感情を意識するようになっていた。
だが、それもおしまいだ。これっきりにしよう。
(だから死なないでください・・・)
ある決意を秘めたアリスは悲痛な面持ちで呟いた。
274('A`)sage :2004/04/03(土) 23:56 ID:MSrFr7lQ
なんだか壮絶なご意見が飛び出しましたね。
突かれた痛い所は頑張って直して、後はインデュアします。

駄文投下です。それではまた。
275どこかの166sage :2004/04/04(日) 00:35 ID:NNj.jJAU
|∀・) 私はイクナイ文神志望者。
|∀・) ちまたでうわさになっているAbyssたんの文神さまにお礼の駄文をこっちに載せちゃうイクナイ文神志望者。
|∀・) ……いや文神さま書かれたのは18禁スレだから今回のお礼、えちぃ描写がなくて……

壁|つミ[Abyssたんの結婚式のその裏でという駄文]

|彡サッ
276どこかの166sage :2004/04/04(日) 00:40 ID:NNj.jJAU
「正義を行えば世界の半分を怒らせる」
                         --遥か昔の書物に書かれた言葉より--


「……つまり、このような事態を感化するべきでは無いと?」
 暗闇の中で響く声。
 姿を見せては社会的にまずい高貴なる方々が自分に関係の無い感じの声で確認を取る。
 彼らの手には一枚の結婚式の招待状の写しが手元に来ているはずである。
「左様。本来先の戦からやっと1000年かけて人はその優位を築いたのだ。
 これから始まる人の世には神も魔もいらぬ。
 やつらはそれを分かってはおらぬのだ!!」
「やっと人は神と同じ力を得る事ができた!
 魔を打ち滅ぼした後次なる神との戦の為に、更なる進化と人間勢力の糾合こそが大事というのに!
 国王をはじめ国政を司る馬鹿達はそれが分かってはおらぬのだ!!」
(あんたらもだろ……それをするのはどうせ俺達みたいな下っ端なんだから……)
 末席に座って参加していた一人のクルセは心の中で呟く。
「だが、表立っては反対はできぬ。
 深遠の騎士、今は--アビス--と名乗っていたあの女は魔から人に変わった。
 同じ人として保護対象にある以上我々にはどうする事もできぬ」
「参加する魔族もペットや変化でもぐり込んでいるから騎士団経由での討伐令も出せぬ」
「ならばどうすればいい!!
 人と魔が融和する?互いに種としての力が衰えるだけだ!
 それでは、いつかかならず帰るであろう神との最終戦争に人は勝てぬ!」
 高位に座している誰かが荒々しく机を叩く。
「手はあります」
 その声は、心中で彼らを軽蔑していたクルセから発せられたものだった。
 その声が持つ意味に皆が気づき、クルセの次の言葉を待つ。
「若輩ながら意見を申し上げるならば、深遠の彼女の件は我々にとっても有益でしょう。
 魔から人に彼女は移った事は我々の行動の趣旨に沿っています。
 深遠の騎士の力が人の力として、次なる人類達に継承されるのは大いに力になるでしょう」
「だが、それでは魔物を狩れと国民を煽って来た我らの立場が……」
「だから、警告は与えましょう。
 幸いかな、今回の騒ぎの現況はポリシーを貫いているらしく、『聖女』と呼ばれていても立つ立場は相変わらず魔のままです」
 誰もが、一人の女の姿を頭に浮かべる。
「彼女を始末しましょう。
 彼女が消える事によって、人と魔の運命の大きな掛け橋を消す事ができます。
 彼女が消えれば、相互不信によって人と魔はまた争うでしょう」
 上座からの声が露骨に皆の意見を代弁していた。
「勝てるのか?バフォメットを沈めた彼女に?」
「戦争は数です。
 指揮を全て一任していただければすぐにでも始めますが?
 次の枢機卿会議も近い事ですし……」
「それ以上言うな。
 全てはお前に任せる」
 椅子から立ち上がる音が聞こえ、立ち去る靴音が暗闇の中で響く中クルセはただ命令受領の言葉を口にしただけだった。
「神の御心のままに……」
277どこかの166sage :2004/04/04(日) 00:43 ID:NNj.jJAU
「おかえりなさい。師匠。会議はどうでした?」
「俺みたいな下っ端が出れるわけ無いだろ。警備で外の見まわり。眠くなってくる」
「じゃあ、寝るという事で晩御飯は無しでいいですね?」
「まて。こら。ごめんなさい。だからデザートのリンゴとお芋のタルトは多めにお願いします」
 ご飯の事を出すととたんに卑屈になる師匠に思わず微笑んでしまうアコきゅん。
 それも、一人の人として自分を見てくれているという師匠の心遣いである事は分かっていたからテーブルに今日の夕食を並べだす。
「あ、そうだ。
 この後俺の連れが来るから」
「なんでそれを出かける前に言ってくれないんですかぁ……ご飯準備しないと……」
「いや、いいよ。こんばんは。アコきゅん。
 この師匠にいじめられていないかい?」
 図ったようなタイミングでドアを開けて入り口にたむろしていたモンク師匠の後頭部のドアで強打しながら一人のクルセイダーが入ってくる。
「お久しぶりです!クルセさん
 師匠は見てのとおりで……」
 たまらず笑い出すアコきゅんの視線の先には後頭部を強打されてうずくまるモンク師匠。
「てめぇ……気配消してまでする冗談じゃないだろ……」
「ふん。修行不足だな。それぐらい避けれんでどうする?」
「やかましい!てめぇみたいな全自動防御兵器じゃないんだよ!」
「はいはい。漫才はそれぐらいにしてください。師匠。スープ冷めちゃいますよ。
 クルセさん。お茶入れますね」
 台所に慌しく戻ってゆくアコきゅんを見送りながら席につく二人。顔も話もアコきゅんがいる前とはまったく違っていた。
「で、何しに来た、極悪クルセ」
「同期のよしみでお前を誘いに」
「断る。お前とかかわってろくな目に会った事はない」
「聖女狩りだ」
 一瞬時間が止まる。更に声は小さく、口調は冷たくなる。
「例の結婚式がらみか?」
「あれだけ大々的にやれば上も動かざるをえん。
 大体前々から邪魔だったんだ。我々の主義から考えればな」
「だが、勝てるのか?」
「だからお前を誘いに来た」
 何も言わずにクルセを殴りつけようとするモンクだが、モンクの手はクルセの手の中にしっかりと収められていた。
「俺はお前のそういう所が大嫌いなんだよ」
「誉め言葉と受け取っておこう。
 数で押す。聖女とバフォとはいえ百人で押せは沈むだろ。多分」
「百人って、どうやって集めるんだ?」
「教会内部からは30人程度だな。
 困ったことに彼女は人望がある。内通者の事を考えると下手に命令もだせん」
「あとは傭兵か?」
「やつらなら金を払い続ける限り主義主張は問わんからな。
 金は武器商人と盗賊ギルドから出させる。身内と合わせて100人は欲しい。
 で、切り札はお前だ。断るか?」
「ここまで聞いて断るほど人でなしでないし、彼女には借りがある」
「おっけい。交渉成立な」
 最も身近で大きい戦争である「魔族狩り」によって武器商人達は巨額の富を得ており、彼女が身を潜めている歓楽街では彼女の人望が歓楽街を支配しているギルドにとって脅威に映っていたからだ。
 後は、集めた兵の編成や歓楽街の封鎖、彼女をどうやって殺すかを話し終えて思わずクルセが苦笑する。
「なんだか砦を攻めているみたいだ」
「何を言っている?実際砦を攻めるようなものさ。
 これだけ準備しても、まだ落とせるか自信がないんだから」
 互いに軽口を叩き合った時にアコきゅんが料理とお茶を食堂から持ってきた。
「何の話をしていたんですか?」
 アコきゅんの問いに二人ハモって答えた。
「砦攻め」
278どこかの166sage :2004/04/04(日) 00:49 ID:NNj.jJAU
 結婚式終了後 イズルード

 集合場所がイズルードに選ばれたのはいくつか理由がある。
 第一にプロンテラに近く、かといって彼女に漏れないように兵を集結する事ができた点が一つ。
 次にアルベルタから呼び寄せた傭兵が到着するのが一つ。
 最後にプロンテラ南の広場からの人だかりで目ただない事が一番大きかった。
「小隊集結!急げぇ!!」
 船着場に響く声。整列する戦士達。
 やる気なさそうに見えながらさりげなく気配を消して歩くアサシンやローグ達。
 船からまーちゃんやブラスミの手によって下ろされる大量の武器・防具・消耗品。
 イズルードの周りにはカゴメの他に鷹が飛び回り、広場でペコに餌をやる騎士達の姿がいつもより遥かに多く見られた。
「街の上役には何ていった?」
 モンクの問いにクルセが軽口を叩く。
「砦攻め。イベントの宿命だな。
 結婚式なんてイベントはどうしても人が大勢集まる日に定めざるを得ない。
 おかげで欺瞞工作すらせずに堂々と集結できるさ」
「砦攻めや守備の傭兵の不足については?
 そこから足がついたりはしないだろうな?」
「砦所持者とは、王様主催の結婚式ゆえ『自重せよ』という勅命をだした。
 砦の所有の推移については内々に決めるようと」
 モンクは唸った。そんな勅命がだせるほどの王ではないし、周りがその勅命を許さない。ならば……
「偽勅か!?大胆な手を使うな……」
「使えるものは何でも使うさ。何しろ王が出るほどのイベントだ。だれもその正当性を疑わん」
「まぁ、いい。
 そろそろ始めるか司令官どの」
 モンクとクルセの周りに指揮官が集まる。
「今回の目的は一人の女プリーストの排除だ。手段は問わない」
「質問いいか?たかが女一人に百人か?大げさじゃないか?」
 アサシンの質問にクルセが冷酷な声で答えた。
「じゃあ、言い直そう。目標はプロンテラの聖女だ。
 確実にバフォメットがついてくる。これ以上の説明はいるか?」
 その名前を聞いて背筋に寒気が走らぬ者等いなかった。
「タイマンでは勝てん。だから数で押し切る。
 前衛2、補助、後裔で四人パーティを作って常に崩さないように。
 パーティ指揮官はギルドマスターに定時連絡をおこたらないように。
 今日のプロンテラは混むぞ」
 無言で頷く指揮官達にクルセはただ一言だけ命じた。
「じゃあ、戦争を始めよう」

 第一陣先頭を任されたパーティ四人がプロ南を降りてゆく。
 後ろに似たような四人パーティがちらほらと。
「ん?……」
 気づいたのはその四人パーティに配属されていたシーフだった。
(本部。こちら先陣、プロ南で誰かが枝祭りか油祭りをやっているぞ!)
(無視しろ)
(無視できるか!ロードオブデスが出てる!!被害者多数!南門に進入できない!!)
 先陣の悲鳴を聞いた瞬間、イズルードにいたクルセは思わす壁に拳を叩きつけた。
「やってくれたな……あのアマ……」
 モンクはこの祭りを企画したのがあのママプリである事をほぼ確信していた。
(第一陣は南門に侵入、この馬鹿騒ぎを止めさせろ!
 第二陣は迂回して西門から侵入しろ!)
 第三陣はワープポータルで直接乗り込ませるっ!)
(だぁぁぁ!!アークエンジェリンぁひゃ…)
(うそぉ!ドラキュラがぁ!メドゥーサが…)
(すげぇ……枝が油か知らないが…ボスが群れてる……)
「ちっ!第一陣はあてにならん!」
(第二陣!第三陣は応答しろ!!)
(こちら第三陣。だめだ。女達が襲ってくる!)
(蹴散らせばいいだろうが!!)
(いや…そっちの意味の襲ってじゃなくて…だから耳元に息を吹きかけるな…ぁ…)
(どうした!第三陣応答しろ!!)
「どうやら、歓楽街の女全員を買収でもしたらしいな。
 『お客としてもてなせ』ならこちらも無下に攻撃できないし、足止めになる」
 モンクの冷静な分析に何か言いかえそうとした時に第二陣からの悲鳴が届く。
(こちら第二陣。やられた。聖女がいっぱいいやがる)
(なんだと!?)
(だから、西門広場にいるプリが全員バフォ帽にソードメイス、ロザリーにマタの首輪持っているんだよ!
 誰が聖女だか分からりゃしない!)
「全員ひっ捕らえろぉ!!」
(どうやって!?ここはその気になれば何処にでも逃げれるんだぞ!
 だぁぁぁ!!ミョルニル山脈に一人向かって、下水に二人入った!
 ゲフェンにも向かって…もっと応援よこせぇ!!)
(おいっ!応答しろっ!どうしたっ!!誰か応答しろっ……)
「だめだ。何処とも繋がらん」
 クルセのうめき声にたまらずモンクは笑い出す。
「何がおかしいっ!」
「これがおかしくて何が笑える?負けだよ。この戦」
「まだ負けていないだろっ!!」
「おちつけ。彼女は枝なり油なり道具なり女しか使っていない。つまり金さ。
 こっちが金で兵を集めたと同じく彼女も金でこれだけの仕掛けをしたというわけだ」
「何処にそんな金があるっていんだっ!!」
「忘れたのか?俺達の経済は何を倒すことによって成り立っている?」
「……」
 冷静になったクルセも気づいた。
 彼女はその気になれば我々より遥かに膨大な金を用意できるという事を。しかも好意的に。
「あと一つ気づいているか?」
「……ぁぁ。待機させていた本陣の連中の声が聞こえん」

「兵を分散して本陣を急襲、各個撃破。兵法の基本よね」
 軽やかな声と共に、二人にとっての魔王が現出した。
279どこかの166sage :2004/04/04(日) 01:02 ID:NNj.jJAU
「……生きてるか?」
「なんとか……」
 クルセは彼女が出てきて剣を抜いたと思ったら背後から飛んできたスポアブーメランに後頭部を一撃海に叩き落された。
 背後にバフォ帽をかぶった騎士がスポアを持って決めポーズしていたから多分間違いないだろう。
 モンクは残影で逃げようとしたが、彼女にレックスディビーナ一発。クルセと同じくスポアにぶっとばされて海に叩き落された。
「おめでたい日だから殺しはしないわ。少しは反省しなさい」
 凛々しく勝ち台詞を吐いて堂々と去っていく彼女の姿を見て二人して思った。
「負けたな……」
「負けだな……」
 よく見ると、待機させてた本陣の連中はみな海に叩き落されていたらしい。あちこちで二人と同じように溺れている。
 何よりも完膚なきまでに、無様に負けた。しばらくは戦う気にもならない。
 なんとか全員岸に這い上がって体を乾かす。
「上にどう報告すりゃいいんだ?」
 頭を抱えるクルセにモンクは投げやりに言い切る。
「しなくていいだろ?どうせあの女の事だ。そこまで手を回している」
 言いきるモンクにたまらず笑い出すクルセ。
「じゃあ、何か?俺達は彼女の手のひらで踊っていたというのか?」
「そりゃもう完膚なきまでに」
「強いな……」
「そりゃそうだろ。彼女一人で彼女が望む世界を支えているんだ。
 彼女に勝つにはその世界を壊すだけの意思がないと勝てんよ」
「モンクよ……
 なんでそれをもっと速く言わんのかぁぁ!!」
「言って止めるたまじゃないだろぉぉ!この性悪クルセぇぇ!!」
 ずぶ濡れで笑いながら殴り合いをするモンクとクルセの二人を、回りの人間は怪訝な視線で見つめて無視することに決めた。


おまけ

ママプリ「なんでこんなに請求書が来ているのよぉぉぉぉ!!!(><)」
バフォ 「……自業自得だろ……」
280どこかの166sage :2004/04/04(日) 01:20 ID:NNj.jJAU
参考文献 まず「 【18歳未満進入禁止】みんなで作るRagnarok萌えるエロ小説スレ 六冊目【エロエロ?(*ノノ)】 」のAbyssたん(*´Д`)ハァハァ 様の作品群をお読みする事をお勧めします。
バフォが文中で使った「スポアブーメラン」は「ラグドット」さんのとこで貼られていたのに一目ぼれしたものです。
私は知らなかったのですが、そのレスにあった発祥の場所も貼っておきます。

「あふぉらいと」
ttp://afolyte.hp.infoseek.co.jp/index.shtml

当初は、Abyssたんの幸せを望まない勢力が送ったクルセをママプリとバフォが止めるというどっちかといえば燃えな話でした。
それがこうなったのは、これを書いている途中で金曜ロードショーを見てしまった事でしょう。
あちこちからネタぱくりまくっています。(ごめんなさい)

最近は小説スレに多くの人が来て嬉しい限り、で、自分の文才の無さにちょっとしょんぼりです。
これからも月2のペースであちこちに駄文を出せたらいいなぁと思っていたり。
ママプリ使ってくれるのなら、できるだけお返し駄文を送りつけますから……

【18禁スレ】ツウカミテナイカモシレンダロ(・∀・)つ<・д・)))ジャアエチィシーンイレルノカ?
【18禁スレ】……
281名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/04(日) 11:03 ID:qF6Tgjoc
RAGNAROK ONLINE SIDE STORYS

――RECORD OF DEMONIC SWORD WAR  EXTRA SAGA――

魔剣戦争記・外典

      ツヴァイハンダー
第一話 双腕駆る巨剣


/0/

 ルーンミッドガッツ王国 衛星都市イズルード
 王都プロンテラの衛星都市であり、別名剣の水上都市≠ニも呼ばれるこの町には、剣士を目指し――騎士を目指す若者たちが多く集まることで有名である。
 この街にはアリーナと呼ばれる闘技場があり、腕に覚えのあるものはそこで開かれる武術大会で戦い、あるいは放たれるモンスターと戦い、腕を示し栄誉を勝ち取る。

 ――が。
「ねむ…」
 青い髪にバンダナを巻きつけた、まだ幼さを残す少年――シズマは、自分にはそんな事は関係ないですとばかり、今日も船着場を見下ろす公園で惰眠を貪っていた。
「陽気はポカポカ、潮風は心地よく。こんな日に無駄に剣をぶんまわして余計な汗をかくのは人として間違っとる…てね」
 ベンチに横になり、あくびを大きく。
 シズマは、すぐに眠りに入り――――

「たわけ。人として間違っとるのは貴様だろうが」
 頭部を蹴り起こされた衝撃で、その眠りをあっさりと邪魔された。
「ってぇ…なにすんだよ、ユウゴ」
「なにすんだ、じゃないわ、たわけ。稽古さぼって昼寝か。そんなんだから同期に抜かれるんだおぬしは」
 仁王立ちしているのは、彼の幼馴染、ユウゴ。整った顔つきをした、黒髪の少年だ。長い髪を後ろで縛り、頭巾を頭に巻いている。
 アマツという異郷出身の彼は、正式には「雄午」と書く。幼いころに船が難破し、イズルードへと流れ着いた彼はそのままこの町にいついているのだ。
「早けりゃいいってもんじゃないだろ。
 そんなことよりさ、ユウゴ。聞いたか? 今日この街に」
「アルベルタより商団が来るというのだろう。ソードマンズギルドではすでに噂にのぼりまくっているわ。
 我ら剣士は元より、騎士ですらお目にかかれない逸品が沢山運ばれてくるというのでな。
 武道大会に乗じて武具の展示即売らしいが。まあ、我ら貧乏人には関係のない事ではあるが――」
「なんだ、耳早いな」
「お前が遅いんだ、たわけ。で。また何か悪巧みでもしておるのか、貴様は」
 腕組みをしつつ、ユウゴは片目で値踏みするようにシズマを見る。シズマは、にっ、とワルガキの笑顔で、
「話早いな、うん。ちょこっと見にいかね?」
 と、海から渡ってくる大きな商船を親指で指差した。


 数刻後。
 二人はあっさりと捕まっていた。

「お前が悪い」
「その台詞そっくり返すぞ、たわけ」

 状況を説明すると、港で船に近づいていた所――衛兵には見つかりはしなかった。
 流石になれたもので、衛兵の巡回ルートや船員の行動パターンをしっかりと予測できていたのは悪餓鬼としてのスキルか。
 だが、
「どちら様ですか?」
 あっさりと。自分たちとそう変わらない歳の女の子がそう声をかけてきた。
 そんな予定外の出来事に直面。戸惑っていると、彼女を探しに来たでっぷりとした男が、彼らを見つけて、あっけなく御用になってしまった――というわけだ。
「なんで俺なんだよ。見つかったのはお前だろ」
「婦女子に名を尋ねられて無視するのは武士にあるまじき行為だろうが、たわけ」
「ちっとは融通利かせろっての…そんなんで人生楽しいか?」
「生憎と貴様のようなたわけが近くにいるので退屈は無縁の人生だ、良くも悪くもな」
「静かにしろ悪餓鬼ども!!」
「「ごめんなさい」」
「よし」
 衛兵の一喝に、声をそろえて謝るふたり。
(どーすんだよ、をい)
(親御殿が迎えにくるのを待つしかなかろう)
(…死ねというのか…嫌だぞ、転職試験場の地下洞窟に一晩放置されるのって!)
(自業自得、因果応報。素直に折檻を受けるか…天の救いを待つしかあるまい、うむ)
(ぬぉ…ちくしょーっ!!)
 今度は聞こえないように小声で会話する二人だったが、内容は聞こえようが聞こえまいがさして変わりのないものだった。


「お嬢様、だからあまり出歩かれると」
「いいじゃないですか、叔父様。ここは街中で、危険はないでしょう?」
 イズルード太守の館。そこの客間で、グズルーンは叔父のディーモッドと話していた。
「しかし、先ほども賊に、襲われる直前で」
「あら、私と歳の変わらないあんな子供の賊なんているのかしら。ほんとに賊なら、あんなにあっさりと捕まったりもしないと思いますわ」
「万が一ということもあるでしょう、あなたに何かあったら、アルベルタにいる兄上に、なんと、お詫びしたらいいか」
 脂ぎった顔に浮かぶ汗をハンカチで拭きながら、ディーモッドは必死に訴える。
「もう。わかりましたわ叔父様。おとなしくしていればいいんですのね」
「ええ、お願いしますよ」
「その代わり、武道大会の件、いい席をお願いしますわね」
「は、そりゃもう。では、私は用事が、ありますので」
 汗を拭きながら、ディーモッドはその太った体をゆらして部屋から出て行った。
「――さて」
 彼が退出したのを確認して、グズルーンは窓を開ける。
「うん、この窓。ちょうどいい位置にありますわね。木の枝も…これならさして危険もなく、降りられそうですわ」
 にっこり、と。極上の笑顔を浮かべ、周囲を確認する。
「用意していた服は――と」
 カバンの中から、衣装を取り出す。こっそりと特注しておいた、王立冒険者育成初心者修練所で配備される冒険用の初心者装備一式、だ。
 絹のドレスを脱いで、初心者服に袖を通す。
 なめした革と厚手の布で作られた服は、動きやすくて丈夫だ。背中に最低限の必需品を入れたリュックをかるい、手袋をはめる。
「――うん、完璧ですわね、我ながら」
 全身を写す鏡の前で、くるりと一回転。長い蒼色がかった髪が流れる。
「ごめんなさいね叔父様。せっかくの機会ですもの、真似事とはいえ冒険してみたい年頃なのです」
 ここにはいない叔父にぺろりと舌をだして謝り、グズルーンは窓に手をかける。
 ふと、思い出したように、先ほど脱いだドレスを手に持った。
「衛兵さんたちをごまかすには、必要ですものね」
 そして、今度こそ窓に手をかけ、外の木に足をかけ、屋敷から降りていった。


「――予定通り、か」
「ええ、その。少しばかり邪魔は入りましたが、概ね」
 闇の中。
 それらは会話をしていた。
 蝋燭の明かりに照らされた人影は三つ。
 幽鬼のような仮面を被った背の高いローブの男、同じ仮面を被った、漆黒の暗殺者、そして姿はわからないが、太った男だ。
「そうか。私の言うとおりに動くがいい。さすれば、君の望みは叶えよう」
「は、はい。是非ともお願いします」
 男は、目の前の男たちに威圧されながらも必死に喋る。
「事が成った暁には、例のもの――頼むぞ。望みの代償としては安すぎるものだろう」
「はい、それは、もう」
「では――行くがいい、<裏切りの風>よ。お前の仕事だ」
「――」
 男の言葉に、暗殺者は無言で頷き、その姿を闇に溶け込ませた。
282名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/04(日) 11:04 ID:qF6Tgjoc
/1/

 ぎい、と扉が開いた。
「――あ、いましたわ」
 少年たちが監禁されている物置にはそぐわない鈴のような声が響いた。
「む」
 シズマは、その声の主に覚えがあった。
「あの時の――」
「こんにちは、賊さん」
「ゾクじゃねぇっ!!」
「うるさいぞ、たわけ」
 ユウゴがシズマを抑える。
「捕まっていると聞いたのですが…思ったより元気そうですわね」
「おかげさまでな…」
「いえ、このたわけの戯言は気になさらずにお願いします。して、何用ですか」
 憮然と黙り込むシズマと、涼しげに聞くユウゴ。
 グズルーンは、彼らに対して言った。
「この街を案内してくださいませんか?」


「こっちが大通り。首都ほどじゃねぇけど商人が露店とか出して結構賑わってる。野菜や肉の市場もあって夕食前は結構なもんだ」
「で、この通りを進んで橋を渡れば、俺達の所属するソードマンズギルドの建物があるのです」
 二人は、グズルーンを連れて街を歩いていた。
 話を聞きだしたところ、彼女はアルベルタの豪商の娘らしい。
 イズルードで行われる武術大会に乗じて、レア武具や芸術品を展示売買するために海を渡ってきた。噂どおりである。
 彼女は冒険話に憧れており、冒険者の真似事でもいいから、冒険をしてみたい。そういうことらしい。
 グズルーンは、二人に色々な質問をしてきた。冒険はしたことあるのか、魔物と戦ったことはあるのか、どこの町にでたか、等だ。
「この男、転職試験で記録を塗り替えたたわけなのですよ。のべ八十六回。足を踏み外しては蟲にたかられて上ってきてはまた落ちるの繰り返し。
 試験官全員が頭を抱えた天才的成績を残した大たわけで、記録はいまだ塗り替えられてはいないのです」
「昔の話いちいち引きずりだすなっての…! お前こそ、無益な殺生は好まぬとかいって蟲を大量に引き連れて試験官を逃げ回させた逸話あるくせに」
「瑣末な事だ。あれしきの蟲で逃げる試験官どのが精進が足りぬだけ、俺はなんら間違っておらぬし貴様とは次元が違う」
「お二人とも、仲よろしいんですね」
「「誰が」」
「ほら、息ぴったり」
 グズルーンの笑顔に、二人は黙る。
「――ほんと、羨ましいですわ。私、ずっと一人で友達がいなかったから――シズマさんたちのような関係、ずっと憧れてたんです」
 ぽつり、と。グズルーンは誰ともなしに話し出す。
「最近は調子よくなってきたけれど――昔は体も弱くて、ずっと家に閉じこもっていたんです。
 だから、私が冒険できるのは…本の中、物語の中だけ。私の世界は、部屋と庭、そして本の中だけの――ちっぽけなものなの」
「――グズルーン殿」
「ごめんなさい。えと、次はどこを案内して…」
「出ようか」
 シズマが、言った。
「ぬ? 貴様、どういう意図――」
「だーかーらさ、街なんか見ようと思えば見れるだろ、お嬢様なんだし。
 だったら、俺たちにしかできない案内しよう、ってこと」
 そう言い、シズマはグズルーンの手を取った。
「外。この街の周囲はそこまで凶暴な動物もいないから。さ、いくぞ」
 グズルーンの顔も見ずに、ずんずんと歩き出す。その姿をユウゴは肩をすくめ、
「やれやれ。すぐに感情移入するのが貴様の悪い癖だぞ――そこがよくもあるのだが、たわけめ」
 その後ろについていった。


 嵐のような数時間だった。
 ポリンを追いかけまわし、
 プパを叩こうとしたら蛹から蝶に孵ってクリーミーに追いかけまわされ。
 壁になって初心者を育成しようとしている人がポリンを溜め込みすぎて倒れ、そのまま雪崩れて来たりもした。
 簡単に作れる、スマイルマスクを「誰が一番最初に作れるか」と競争もした。
 結果は――卑怯にも手を組んだユウゴとグズルーンの奸計によりシズマの一人負けだったり。
 ポリンからどくろや髪の毛、骨などが出てきて三人で腰を人食いポリンかと逃げ出した。
 尤も、ソレは近くで隠れていた冒険者たちの悪戯だったのだが(実はシズマも似たようなことをした過去があったりするが)。
 本当に、それは他愛もない、子供の冒険だった。
 誰もが一度は体験する、大人たちにとっては取るに足らない――しかし、少年たちにとっては本当に無限の冒険。
 そのかけがえのない時間は――夕日の訪れと共に、終わろうとしていた。

「綺麗な夕日――」
 風に流れる髪を押さえ、グズルーンが目を細める。
 イズルードの近くの丘。
 夕焼けに照らされて、草は金色の絨毯のよう。
「本当に、ありがとうございました、シズマさん、ユウゴさん」
「礼などいらぬ。婦女子の頼みを聞くのは、武士として当然の事ゆえに」
 それに、もう友であろう? なら遠慮はいらぬよ、と、ユウゴは付け加える。
「ああ。しっかしほとん疲れた…俺体力ねぇしなあ」
「それ以前に鍛錬不足だ。今日で身に染みただろう、たわけ」
「うっせ。必要以上の運動は体に毒なんだぞ」
 グズルーンにとって、もう二人の罵り合いはこの一日ですっかり慣れた。これが、彼らにとっての親愛の証なのだろう。
「…ひとつ、聞いてもいいですか?」
「ん? なにさ」
「どうして、二人とも――剣士になったんですか?」
「――」
 その問いに、シズマは黙る。先に、ユウゴが口を開いた。
「俺は。アマツの出身だから――この道を選ぶのは、至極当然だった、からかな。
 武士として剣の道に進むのは当たり前だった」
「俺は――」
 シズマも、ゆっくりと後を追うように口を開く。目を閉じて、記憶を探るように。
「兄の、影響かな。旅立って、そして死んだ兄がいて、さ。
 強かった――かどうかは知らない。でも、その背中は頼もしかった。仲間たちと旅に出たのが、その背中が、俺が覚えている兄さんの記憶。
 ある武器を探す旅、だって言ってた。そして、その武器を悪用する奴らをやっつけるんだ、って。
 結局――志半ばで倒れたらしいけど。でも、最後まで後悔もせずに、剣を持って戦い、仲間を守って死んでいった――らしい。
 あまり実感、ないんだけど。ただ、痛烈に憧れてた。
 ただ、それだけ。見ての通り、憧れと現実は追いついてないけどな」
「――ごめんなさい」
「謝るなって。昔の話だし、気にしちゃいない――むしろ、誇りだからな、俺にとって。
 いつか俺も――兄さんのように、誰かを守って戦うような剣士になりたい――死ぬのはごめんだけどさ」
 そう言って、しばし無言。
 夕日が、ゆっくりと沈んでいく。
「私は――」
 グズルーンが、言った。
「私は、二人みたいに…当然と思えるような生き方も、憧れるような誇りも――ない。
 ほんと、ちっぽけでからっぽすね――私って」
「――」
「――」
「なら」
 シズマが、起き上がってグズルーンの方を向く。
「今から作ればいいさ俺たちゃまだ若いんだし、未来なんていくらでもあるさ。
 少なくとも、さ。お前はちっぽけでもからっぽでもないよ。俺たちが保障する。あれだけ楽しそうに走って笑ってできる子が、何もないわきゃねぇだろ。
 今日の冒険が、なによりの証だ」
「うむ、至極同意するぞ。極稀にこのたわけは的を得た発言をする、本日が奇遇にもその時だな」
「――ありがとう」
 その言葉に、グズルーンは笑う。
 振り向いたその笑顔に、心なしか涙が浮かんでいるように見えたのは、気のせいではないだろう。
 無論――悲しみの涙、ではなく。
「――」
 それを見て、シズマは頬が赤くなるのを感じた。
「いや――まあ、その」
 目を逸らす。

 ――否。
 逸らそうと、した。そして、彼女の背後に、「影」を見た。

「あぶ――」
「?」
 動いたのは、どちらが早かったか。
 金属と金属のぶつかり合う音が、草原に響いた。
 そして――吹き出た血が、金色の草原を、夕日以上に、赤く染め上げた。
283名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/04(日) 11:06 ID:qF6Tgjoc
「走れ!!」
 それは、どのような奇跡か。
 刹那、シズマはグズルーンの肩をつかみ、力任せに引っ張り。剣を抜いて、その「影」に突進した。
 本来ならば貫かれていたであろうグズルーンは、草むらに倒れる。怪我はない。
 そう――怪我はないのだから。
 不気味な形状の刃に、右肩の肉をごっそりと持っていかれ、貫かれた右腕が動かないとしても、それはまさに幸運だろう。
「シズ、マ――さん?」
 グズルーンは、その光景を見やり、動かない。
「早くしろ――!!」
 その叫びに答えたのは、ユウゴだった。
 グズルーンの腕を掴み、何のためらいもなく逃げる。
「ま、シズマさんが!!」
「たわけ、奴が心配ならば一刻も早く逃げろ――!! 俺たちがいては逃げられるものも逃げられん!!」
 決死の形相で、駆ける。その表情を見て、グズルーンは自分の考えを恥じた。
 彼は、決してシズマを見捨てたのでもないし――なにより辛いのは、彼自身。
「はい――」
 ふたりは、街へと駆け出した。


「ふ――」
 肩の激痛で考えがまとまらないまま、シズマは体を押す。
 ここで下手に逃げたら、この暗殺者は躊躇いも無く自分を置いて、二人を――いや、彼女を追うだろう。
 それは避けねばならないし、少しでも距離をとれば、その瞬間に自分が殺される。
 暗殺者の動きは、神速。その風のごとき動きで相手を仕留める。
 ――故に。
 密着し、自らの肉で相手の動きを封じている今が、シズマにとって好機。
 その好機は――決して、勝利の好機などではなく、延命の機でしかないのだが。
 そう、シズマは理解していた。
 勝てない。絶対に。
 剣士としてまだ時が浅いシズマに対し、眼前の敵は――暗殺者。暗殺者とは、闇に生き闇に逝くモノが、長い年月をかけて辿り着く境地と言われている。
 今の自分がかなう筈がないのだと、魂が理解していた。
 だが、むざむざと殺されるわけにはいかないのだ。
「ぐ…」
 暗殺者の左腕の武器は、以前肩を貫いたまま。
 残された右手で、首の頚動脈を切り裂こうとするのを、なんとか剣で防いでいた。
 右腕からは、血が容赦なく流れ出て、草むらに血の池を作り出している。
「冗談――」
 このまま、
「じゃねぇ――!!」
 死ぬのは、
「――ごめんだっ…!!」
 頭突き。
 シズマは、暗殺者の脳天に頭突きを食らわしていた。
 鈍い音。暗殺者は、予期しなかった反撃に体勢を崩す。
「鉄板仕込みのバンダナの威力、思い知ったか――!」
 だが。
 それが、シズマに許された最後の反撃だった。
 暗殺者の眼光が、シズマを射抜く。
 その瞬間。
 シズマは、殺された≠ニ理解した。


     ソニックブロー
「――音速の手斬撃=v


 鮮血が、華のように咲き、散った。


/2/

「――生き、てる」
 なんで。と、シズマはつぶやく。
 ベツドに横になっているようだ。
 体は動かない。特に、左腕は感覚すらない。
 誰かが、泣いているようだ。
 声も遠い。意識にもやがかかったように、何もかもがあやふやで――自分が生きていることすら、
 すでに死んだ我が身が見ている夢ではないか、そう思ってしまう。
 記憶の糸をたどる。
 そう、誰かが――死んだと思った俺の前に立ち、あの無数の斬撃の悉くを受けきった。
 たった一本の、剣で。
 大きく巨大な見事な大剣を操り、音速を超える神速で。
 暗殺者は、驚愕していた。初めて口にした声は、ただ一言、ありえない≠ニ。
 なぜ喚ばれたモノが、目的を違うのか、と。あの女を追い殺すのが役目なのに、と。
 暗殺者は、自身の不利を悟り、去った。
 して――俺もやはり、ありえない≠ニ、思ったのだろう。
 そう、ありえるはずがない。
 俺とは似ても似つかない、金色の髪。
 そして、金色に輝く瞳。
 そう、あんたは死んだはずだ――――――――兄さん。


「全く――驚かされるばかりだ」
「そうね、ロックハ。どういうことなの、アレ?」
         ドッペルゲンガー
「考えられるのは――鏡像剣士。アレは本来、鏡像剣士のモノだった…それをあいつが討ち倒し、所有者となったわけだが」
「それは判っている、私たちは共に戦った仲間だったからな」
「ああ。
 だが――鏡像剣士は、魂を喰らい、その身に投影する、というのを聞いたことはないか?」
「まさか――」
「ああ、すでにあの時、あいつの魂が喰われていたのなら――あいつの姿を写して現れる事も、可能性としては」
「馬鹿な! あの時、倒したでしょう?」
「ああ――だが、仮にその魂をまた召喚する者がいたとしたら――鏡像剣士が携え、あいつが振るったあの剣を媒介に」
「聞いたことないぞ、そんなこと!」
「ああ。俺も聞いたことはない――だが仮にそうだとすると、全ての符号が一致する。
 アレが現れ、そして――彼を救った事も、そしてあの剣がまたあそこに戻ったことも」
「まったく、予想を上回ることばかりね――武術大会の見物が、とんだ災難だわ。これも魔女の残した執念ってわけかしら」
「さあな。どっちにしろ――傍観には回れまい。ただの事故以上に――何者かの悪意を感じるからな」




「ぅ――」
 ようやく、シズマの意識は回復した。
 その直後、グズルーンに泣きつかれ、傷が開いて地獄のような苦痛で悲鳴をあげたのだが。
「それだけ大声が出せるのなら大丈夫だな、このくそたわけ」
「くそかよ…ひでぇな」
「くそたわけが気に喰わんなら、大たわけだ。もしくは星三つ入りの超強いたわけだ、このたわけもの。
 生きていたからいいものの――あんなもの相手に自分の力量も省みずに突進するたわけがいるか、国宝級たわけ」
「容赦ねぇのな…安心した。なんか、お前のそれ聞いてると、生きてるって感じがするわ」
「本当…心配したんですよ、シズマさん」
 涙を浮かべたままで、グズルーンが言う。
「心配なぞする必要は無いぞ、グズルーン殿。調子に乗らせるだけだ」
「わりぃ…ほんと、わり。
 で…なんで、俺生きてんの」
 彼は、疑問を口にする。
「こちらが聞きたいわ。何人かいた追っ手を振り切り、どうにか街に辿り着いてすぐにギルドに掛け合い、応援を呼んだが…
 俺たちが再び現場に戻った時には、死に掛けの貴様がいたのみよ。
 貴様が撃退したというわけではないだろうが…むう、摩訶不思議とはこの事よ。
 しかし本気で危なかったのだぞ、出血は酷く、しかも刃にはご丁寧に毒まで塗られていた。
 エメラルハンダス殿がいなければ間違いなく死んでいたぞ」
「エメラ…? 誰だよ、それ」
「貴様の命の恩人だ。正確には、命の恩人の一人、といえばいいか。
 急な事で応援がろくに動けなかったのだが、彼らがいち早く手を貸してくれた。いや、流石は歴戦の冒険者。
 俺も見習いたいものだ、うむ」
「そうか――お礼を言わなきゃな…」

「礼は必要ないぞ、少年」
 ギイ、とドアが開き、数人の男女が入ってきた。
「ロックハ殿」
 ユウゴが、青年の名を呼ぶ。ロックハと呼ばれた精悍な男は、ベッドの前まで歩み寄る。
「あんたたちですか、俺を助けてくれたのは――つ、礼を、言います」
 苦痛に顔をしかめながら、ベットから半身を起こす。
「いい。そのまま寝ていろ。傷は繋がったばかりだ、動くと開くぞ」
「すみません、お言葉に甘えます――」
 再び横になるシズマ。その姿を見て、ロックハは言った。
「なるほど――確かに、似ているな」
「――!! あんた、今なんて――」
「覚えていないか? 君とは10年以上昔に、一度だけ会っているのだが」
「…まさか、兄さん――の」
「そう。かつて、君の兄と私は仲間だった。いや、仲間という意味では今でも彼は友だがな。
 彼に救われた命、君を救う事で少しは恩を返せたのなら、それは喜ばしい事だが」
 懐かしそうに、目を細めるロックハ。
「そう、か――兄さんは、あんたを」
「済まないと思っている。私は、君から兄を奪ってしまった形になったのだから」
「いや――兄さんが守ったのが、あんたなら――間違ってないと、胸を張れる、と思う。
 あんたの事は正直、何も知らないけれど…悪い人じゃないのは、わかる。兄さんが命を掛けて守った友人だから」
「そうか――」
 しばらく、静寂が場を支配する。
「右腕、どうだ」
「――全然。肩からすっぽり無くなったみたいだ…もう、剣は握れないかな、こりゃ」
「だろうな…二度と、剣は持てないだろう」
「正直に言うな、あんた」
「嘘は嫌いだ」
 それから、しばらくたって。
「君たち。彼と、二人にしてくれないか」
 ロックハは、言った。
「え、でも――」
「行こう、グズルーン殿。何もできなかった俺たちがいる道理はない」
「――はい」
 ユウゴたちは、エメラルハンダスたちに引きつられて、部屋を出て行った。
 ややあって。
「――見たのか」
 ロックハが、ぽつりと。言った。
「――ああ」
 それが何を指していたのかは、シズマも判っていた。
 元より。二人の間に共通するのは、それだけなのだから。
「――ということは。あれは、夢じゃなかったんだな――。
 なんで。
 なんで、兄さんが――――」
 意識を失う前に見た姿は、間違いではなかったのか。
「よく、聞いてくれ」
「――」
「――アレは、君の兄に間違いは無い。そして、決定的に間違いだ。
 鏡像戦士、ドッペルゲンガー。人の姿をその身に写す、悪魔。それが…アレの名前だ」
284名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/04(日) 11:07 ID:qF6Tgjoc
「失敗、したですと!?」
 男は、形相を変えて叫ぶ。
「話が違うではないですか! 確実に始末できると…!」
 その男に対し、仮面の男はあくまでも冷静さを崩さない。
「元より、実験なのだ。媒介を用意し、望んだ現象のみを現出させる術のな。
 ただ、殺すのが失敗しただけ。生贄と媒介さえあれば、望んだモノを喚しうることは確認できた。
 残る課題は、いかにして操るかだが――まあ、操る必要はあるまい。虐殺に走らせればいいこと。今回は、たまたまソレが彼に向いただけ」
 そう言って、そばに控える暗殺者を愛しげに見やる。任務に失敗したというのに、彼の目には怒りもなにも存在してはいない。
                                                  チート
 世界そのものを構築する因果式を書き換え、ありえぬ効果、望んだ効果を思いのままに現出させる、禁忌たる異法。
        ア ブラ カ ダブラ                                   クラスチェンジ
 その一端――不可思議の顕現≠ニ呼ばれる魔法の中から、望んだモノを意のままに選出し行使する――魔神置喚≠フ選抜行使。
 それが可能となったのだ。彼の計画、計算は正しかった。これが悦びでなくてなんであろう。
「しかし、生贄のための『枝』もすでに在庫はつきましたぞ!」
「それはそちらの落ち度でしょう。元より生贄には一体あればいい。だが追っ手として無差別使用させたのは、どちらか」
「ぬ、ぬ…」
「まあ宜しい。私は気分がいい。受けた依頼は必ず成功させましょう。
 魔神置換≠ノ必要なのは、生贄となる命。それは別に、枝によって召喚される魔物でなくてもいいのですよ」
「そ、そうです、か――なら」
 男は、安堵に胸を撫で下ろす。そう、自分の野望は達せられるべきなのだから。
 あのような小娘に、奪われてなるものか。
「ええ、ですから」
 刹那。
 男――グズルーンの叔父、ディーモッドの首に、男の手がめり込む。ぎり、と脂肪に守られた首が締め上げられた。
「ガ…な、なに――ヲ」
 さも当然のように、彼は涼しげに言った。

「貴方のせいで枝は在庫切れだ。代わりに貴方が、召喚のための生贄になってください」





 風が、頬を撫でる。
 外に出たシズマは、海が見える公園に来ていた。
 ベンチに腰掛けずに、ただ立っている。
 考えていた。ロックハから聞かされた、旅の目的と結末を。
 ――魔剣。
 全てをそろえた者は世界を手に入れることすらできる力をもたらすという、魔剣の伝説。
 ロックハ達は、その魔剣を求めて旅をする冒険者。
 シズマの兄もまた、彼らの仲間だった。
 彼は魔剣を手に入れることは出来なかったが、冒険の途中でドッペルゲンガーと戦い、その剣を手に入れたという。
 ――巨剣、ツヴァイハンダー。
 そもそも武器は、その強さによって四つに大別される。そしてその最高峰、「レベル4」と一般的に呼ばれる武器は、武器としての強さだけでなく――様々な魔力、特殊な能力をもつものばかりだという。
 曰く、振れば炎や氷を呼ぶ宝剣。
 曰く、持ち主に幸運の加護をもたらす短剣。
 曰く、聖なる力と癒しの術を行使する聖斧。
 曰く、手より放てばどんな物も刺し貫く神槍。
 曰く、使い手に神速を与える東方の名刀。
 曰く、週末の預言が記された闇の書物。
 曰く、世界の祝福を一身に受けた神剣。
 ――その中で。その剣だけは、異質だった。
 強大な魔力と技術で鍛えられたそれらの武器の中において、その剣は愚直なまでに、ただ強い≠セけであった。
 秘めた魔力もなく、特異な能力もなく。ただ、極限までに金属を鍛え上げ、ただ強く、より強く――。
 何の取り得もない、ただ破壊と強度に秀でただけの巨剣。
 その自身の強さだけで、数多の伝説の武具と並ぶまでに至った、その在り方。
 だからこそ、美しいと感じたのだろう。意識を失う直前に見た、あの大剣の輝きが。
 兄も、その剣の在り様に惹かれたのか。魔剣を手にする機会があれど、彼は最後までその巨剣と共に在ったと、ロックハは言った。
 そして、彼らは魔剣を求め旅し、戦い――魔女と出会った。
 魔女、メルプロシュム。
 第四の魔剣の所持者にして、闇の魔法を使い世界を手に入れんとする魔女。
 魔剣戦争、と呼ばれる魔剣を巡る戦いで――兄は、命を落とした。
 世界を、そして友を守るために。
 ただ一本。その巨剣を手に、多くの魔物を打ち倒し――そして、倒れた。
「参った。本当に――すごい人だったんだな、兄さんは」
 右腕を抱える。
「それに引き換え――俺は」
 無様。
 右腕はもう、剣を持つこともできない。神経を斬られ、毒にやられた後遺症だ。
 ロックハ達が間に合わなければ確実に死んでいた。
 いや――あそこで、『兄』が現れなければ。
 ロックハの仮説が真に実ならば。
 あれは、兄ではない。兄の魂を喰らい、その姿を写した、ドッペルゲンガー。
 おそらくは――商団に渡ったツヴァイハンダーに引かれて現れたのではないだろうか、との事である。
 魔剣戦争の後、ツヴァイハンダーは行方が知れなかった。だが、あれほどの剣――とりわけ、彼の兄が愛用した品は、過剰精錬が施されていたので行方を捜すのはそう難しくはないと思われた。
 ロックハたちの捜索により、グズルーンの商団に渡ったことが判明し、彼らはそれを買い取るためにここに来たのだという。
 ――本来の持ち主、その弟であるシズマに渡すために。
 だが――そんなこと、今更何になるというのか。
 シズマの腕は、もう――――
「――糞」
 ぎり、と歯が鳴る。
 無力が、悔しかった。
「――俺は、兄さんみたいになれない――そんなこと、判ってた」
 そう、判っていた。
 自分には、素質が無い。
 剣士としての素質に欠けている事など――最初からわかっていた。
 それでも、憧れた。あの背中に。
 何かを守るために戦い、旅立ったあの面影に、憧れ、走り続けた。
 その結果が。
 街の外に少女を自分の感傷だけで連れ出し、刺客に襲わせ。自分は無様にも手も足も出ず、右腕はもはや死んだも同然。
 一歩間違えば――自分も、友人も、そして彼女も。全てが終わっていた。
 それが悔しい。
 弱い自分が許せない。
 無様に助けられた自分が許せない。
 自分の無力を誤魔化し、自身の矮小さに気付かずにいた自分が許せない。
 何もかもが許せなくて――――
「ぐ…うぶっ、ぅえ…」
 涙が出た。
 悔しくてみっともなくて情けなくて滑稽で哀しくて。
 シズマは、風の中、ただ泣き崩れた。


/3/

 昼間の空に、花火がぱんぱんと鳴る。
 武術大会は、盛況だった。元より、このためにあるような街なのだ。
 アリーナの室内に設けられた武具の展示も盛況。
 観客席は満員。まったくもって大成功と言えよう。
 だが。
 アリーナ席で武舞台を見下ろしているグズルーンの顔は、曇っていた。
 昨日。
 シズマが退院したと聞き、彼を探して公園へと辿り着いた。
 礼は、言っても言い足りない。だが――その光景を見たとき、彼女の足は止まった。
 泣いていた。地面に這いつくばり、嗚咽を漏らし、涙を流して泣く少年に、果たしてどんな声をかけらよう。
 あの暗殺者は、間違いなく自分を狙っていた。そう、自分のせいで――少年は、永遠に剣の道を閉ざされたのだ。
 彼は、少女を守ったことは微塵も後悔してはいないだろう。後悔しているとすれば、それは己の未熟さのみ。
 それが、哀しかった。まだ恨まれれば――どれほど楽だっただろう。
 少年の優しさと真っ直ぐさが、少女にはつらく――その未来を奪ったのが自分だということが、何より許せなかった。
(――強く、なりたい)
 少女は、そう思った。
 自身が強くなることが、守られて逃がされて、その結果ひとつの未来を奪ってしまった自分に出来る、唯一の贖罪であるかのように。
285名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/04(日) 11:08 ID:qF6Tgjoc
 回廊に、影が進む。
  クローキング
 隠身移動≠ニ呼ばれる特殊歩法。暗殺者たちに伝わるそれを以って、彼は進んでいた。
 目的は、前回討ち漏らした標的の少女。
 彼の主は、捨て置けと言っていたが――これは暗殺者としての誇りでもあった。
 主が呼び出した鏡像剣士は、虐殺を開始し、そしてあの少女もその手にかけるだろう。
 それと、自分が始末するのと――結果は変わりはない。主の望む結果には。
 なら、後は自身の暗殺者としての誇りにかけて行動し、すみやかに命を刈り取るのみ。
 彼は、そのまま闇に紛れ、彼女のいる場所へと――


     サ  イ  ト
「――照らし出す幽灯=v

 炎が舞い、暗殺者の動きを回廊に浮かび上がらせた。
「――!?」
 自身の姿が浮き彫りにされた事に、暗殺者は驚愕する。
 とりわけ――それを成したのが、回廊に佇む剣士だということに。
「驚くか、暗殺者。世の中にはな、かようなモノもあるというのを知らぬわけでもあるまい」
 彼は、袖口に止められたクリップを掲げる。
「――炎の魔物の魔力を封じた符か。失念していた」
 暗殺者が、口を開く。無口を由とする彼だが、見られたからには殺す。殺すからには、無口である必要も無い。
「だが剣士よ。いらぬ事さえせねば、まだ生きていられたものを――仇討ちのつもりか」
「かような自滅するたわけなど知った事ではないが――この先には、友となったばかりの少女がいる。それだけだ。
 後は、そうだな――この裡に涌き出た不快感故に。なに、その実、ただの八つ当たりだが――付き合ってもらうぞ」
「――ク。貴様に私が殺せるとでも。彼我の実力の差が見抜けぬほど、怒りに我を失ったか、剣士よ」
 影の中、暗殺者はカタールを構える。
 彼の持つ武器は、裏切り者≠ニ呼ばれる、人を殺すために特化した暗殺暗器。故に、こと相手が人ならば、殺せぬ道理はなし。
「名を聞こうか、暗殺者。性は凪、名は勇午。冥土の土産にその身に刻むがいい」
「よかろう。我が名は<裏切りの牙>。その言葉、そっくりそのまま貴様に返す――!!」
 疾駆する影。
 ユウゴは、静かにその愛刀を正眼に構え、相対した。


 シズマは、剣を落とす。
 やはり駄目。握った所で、重さに耐えられない。振れば容易くその手は剣を落とす。
「――は」
 汗が、石作りの床に染みを作る。
 一時間はたっただろうか。無駄と知ってはいたが、やはりこうも剣が握れないのは、正直こたえる。
「――駄目だよ、それじゃあ」
 不意に、声が石造りの部屋に響いた。
「誰だ――」
「誰とはご挨拶ですね。君の兄と私は友人、なら私と君もまた友人ではないですか」
「あんた――ロックハと一緒にいた」
「ロチト、です。よろしく。
 して。なにやら悩んでるご様子ですね――剣の稽古ですか」
「見たら判るだろう――それより、それじゃ駄目って…」
「ああ、気に触ったなら謝罪しましょう。ただね、無駄が多すぎるし、有効に使えていません」
「有効に…?」
「ええ」
 ロチトは部屋を歩きながら、謳うように喋る。
「何事も、無駄なくすみやかに有効に。使えるものは使い、使えないなら別のところから用意する。これは大事です。
 貴方はどうも意固地になり易い性質の様ですから、心の隅にでも留めておいて下さい。柔軟に、ね」
 懐から酒の入った瓶を取り出し、あおる。
「友に乾杯。そして、友の弟に――この小さな奇跡に、乾杯。
 少年、酒は飲めますか?」
「いや、飲んだことはないけど…」
「それはいけない、酒は百薬の長。心と体を癒すには適度の酒。飲みすぎは毒ですがね、何事も。
 剣も同じ。過ぎた鍛錬は体を壊す、今の君に必要なのは休息ですよ。
 時は有限なれど、夢は無限。時間は夢を裏切らない――大昔の、旅人が残した言葉です」
 彼の言葉は、一見出鱈目のようにも聞こえ――不思議と、シズマの心に静かに浸透する。
「後悔、しているのですか少年」
「え――」
 不意に、ロチトがシズマを見た。
「腕が使えなくなった。剣士としてそれは致命。今の貴方は折れた剣だ。
 そうなった原因を――貴方は恨み、後悔していますか?」
「……」
 シズマは、黙る。
 後悔しているかといえば――
「後悔、してる。そりゃするさ」
「何を」
「自分の弱さ。ただ、それだけが悔やまれてならない――俺がもっと強かったら…こんな事には」
「彼女を守り、その結果君の腕は死んだ。その事じゃなくて?」
「それは――後悔はしてない。あの時はああするしかなかったし、たとえ間違った方法だとしても…グズルーンが無事だった。
 たぶん――別の方法を取って、彼女を死なせてたら、もっと後悔した」
「自分の右腕よりも、彼女の命の方が大事、と」
「まさか」
 シズマは否定した。
「ほう?」
「全く別物だ、そんなの比べて選ぶ方が間違ってる。
 損得なんて関係ない、ただ…あの時はそうするしかなかった、そして俺が弱かったからこうなった、ただそれだけだ。
 だから――俺は、強くなる。
 もう後悔はしたくないから…だから、強くなって見せる」
「ふむ。満点とは言えませんが――まあ元より満点など存在しえぬもの。
 自身の道、その道程と結果がどうであれ、後悔せずに突き進む――なるほど、簡単に見えてなんと難しいものか。
 だが、それでも進む覚悟があるのなら――お行きなさい、少年」
「え?」
「貴方の兄の残した剣。あれはまだ媒介としての力がある。
 再び、召喚されると私は睨んでいます――おそらくは、あの少女の命を刈り取るために」
「な――」
「急ぎなさい、折れてなお、貴方が剣で在り続けんとするのなら。
 そして忘れぬように。刃は砕け身が折れても、魂さえ折れなければ。折れた剣はいくらでも蘇えるという事を――」
 シズマは、その言葉を背に走った。



 観覧席は、動揺に包まれた。
 巨大な剣を引きずり、武舞台に現れた太った男――ディーモッドの姿に。
「叔父様――」
 そして。
 彼の周囲に現れた魔法円。その魔力の発動と共に、彼の肉体が変質し、魔力に喰われ、変換され編み上げられていく様に。
 それはどれくらいの時間か。
 数呼吸の時間にも思えたし、ただ一瞬だったのかもしれない。
 だが、それは確かにこの場所に現れた。

 ――鏡像剣士、ドッペルゲンガー。

 シズマの兄の姿を写した、魔界の剣士である。

 それは一瞬。
 舞台で戦っていた二人の戦士の首が、剣の一閃で胴体と離別するのは、本当に刹那の出来事だった。
 同時に、会場を悲鳴が包む。
 地獄の幕開けにふさわしい、開幕ベルだった。
286名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/04(日) 11:08 ID:qF6Tgjoc
 ユウゴは全身に傷を負っていた。
 暗殺者は、壁や天井を床のように跳躍し、常にユウゴの死角から攻撃する。ゆっくりと、時間をかけてねぶるように。
「――おのれ、嬲るか」
 ユウゴの剣は、いまだ暗殺者の体に触れてはいない。
 元より力量の差は違いに過ぎる。暗殺者の身のこなしは正しく一陣の風。加えて常に闇に死角にへと隠れる。
 高速で繰り出される技は、ユウゴにサイトを使わせる暇も与えずにいた。
「当然。貴様のおかげで、手柄は魔物に譲る事になりそうなのでな。
 私から愉しみを奪うのだ、ならせめて貴様で愉しませてもらうのは当然であろう?」
 声が石に反響する。その声には、明らかに獲物をいたぶる愉悦が含まれていた。
(チ――蛇蝎めが)
 周囲の気配を探りながら、すり足で後退する。
 何処から来るのかわからぬのなら、死角を無くしていけばいい。壁を背にして、前方側面下方頭頂。五方位に意識を裂けば、活路は見出せよう。
 そう、その判断が――
 決定的に、間違いだった。



 あまりに暴力的な、破壊の嵐。
 並み居る人垣を切り分け、彼は一直線に標的に向かう。
 自身を喚び出した者に、支配力などない。だが、喚ばれたからには目的があり、彼はそれを理解していた。
 理解していたからといって従う謂れもないのだが――まずは「それ」さえ済ませてしまえば、もはや何もしこりはない。
 元より我が身は鏡、映し出すもの。ならば望みを映し出され召喚されたのなら、その通りに動くもまた一興。
 そうして、彼は少女にその大剣を向け――

「このぉおおっ!!」
 横合いから、盾による体当たりを喰らい、その体勢を大きく崩した。
「シズマさん…っ!?」
「無事か、グズルーンっ」
 剣の勢いは止まらず、壁を力任せに斬り裂いた――いや、斬り砕いた。
 あと一歩、あと一瞬シズマが遅ければ――グズルーンがそうなっていただろう。
「さて…」
 剣を取り外さないように、柄をロープで縛っている。しかし、打ち合いは絶対にだめだ。
 元より武器が違いすぎるし、力も技も全てが劣っている。
 勝機があるとすれば、打ち合わずに避け、剣を叩き込むのだが――
「あ、こりゃ死んだかもな――」
 改めて対峙して、その剣の美しさと強さに見惚れた。
 そして、それを振るう、眼前の兄≠フ、殺気に満ちた視線に射られ――
(それでも。諦めるわけにゃいかない…)
 後ろにいる、グズルーンの気配を確かめる。
 そう、守るべきものがいるのだ。ここで死んでしまっては守れない。
 それになにより――
(もう、自分の不甲斐無さに後悔したくねえ…負けるとしても、胸張って負けてやる!)
「俺が動いたと同時に逃げろ、グズルーン。残ってたら邪魔だ。いいか、絶対に逃げろ――」
 返事は無い。ただ、躊躇もなく頷いた気配が、頼もしかった。
 グズルーンも判っていた。
 強くなりたいと思った。それは決して、ここで愚直に戦いに参加することではない。
 自分の出来ることを最優先に、最大限に――。
 未来を失ったはずの少年が、目の前で剣を構えて立っている。
 なら、自分は何をすればいいのか。
 あの時はおびえ、ただユウゴに叱られて逃げただけだった。
 今度は、自分の意思で。走ろう。少年の足手まとい、枷にならぬように。そして、自分にできる事を。
「征くぞ、兄さん――いや、ドッペルゲンガー!!」
 少年と少女は、覚悟を決め、走った。


「が――」
 背中の壁から、腕が生えていた。
 ユウゴは瞬間身を捻ったが、わき腹を切り裂かれ、膝を突く。
「いい判断、いい反射。なおの事、先ほどのミスは痛かったな、剣士よ」
 暗殺者は哂う。
 壁にギリギリまで気配を絶ち隠れていた暗殺者は、必殺の間合いを以って凶刃を繰り出した。
 それが避わされたのだ。それは賞賛に値する。
 だが、あくまでも致命傷が避わされただけの話。
 すでに流れ出る血液はユウゴの力を一刻一刻と奪っていく。
 彼の刀は、暗殺者には届かない。
 技量が違いすぎる上に、暗殺者は常にヒットアンドウェイ、間合いの外から一撃離脱を取っていた。
「く――鮟鱇侍が…」
 刀を杖に、膝を突く。脇腹から流れる血は、容赦なくユウゴから意識を奪おうとする。
 もう戦えない、休め。体が訴える。
 だが、この程度の痛み――
 剣士としての生命を絶たれた、あのたわけに比べれば如何程のものか――――!!
 四肢に力を込める。
 消えそうな意識を、舌を噛み千切る事で繋ぎ止める。
 だがそれも、暗殺者にとっては、燃え尽きる寸前の蝋燭のような僅かな抵抗。
 死の瞬間の命の輝きは、それ故に美しくいとおしい。
 それの輝きを刈り取ることこそが、暗殺者にとっと唯一至極の快楽――!
 暗殺者は、愛しささえ覚える少年剣士の命を刈り取るために、跳躍した。


 剣技は神速にして重圧。
 騒ぎに乗じて展示品から拝借した、対悪魔の盾でなければ、既にその身は真っ二つに裂かれていただろう。
 だが防ぐだけで精一杯。盾で身を隠して後退。とても隙を見て剣を繰り出すことなど出来はしない。
 一撃、ニ撃、三撃、四撃、五撃。
 防戦から活を見出すと決めていなければ。いつものように、攻めで押し通すという戦法を取っていれば。
 間違いなく、既にシズマの死という決着がついていただろう。
 だが、この戦いも、ただの延命に過ぎない。
 重すぎる一撃は容赦なく、盾ごしにシズマの体力を削り取っていく。
 六撃、七撃、八撃、九撃、十撃。
 既に盾は傷だらけ。亀裂すら入っている。
 符に秘められた対悪魔の魔力を以ってさえも、この魔剣士の剣は防ぎきれぬのか。
(どうやって戦えばいいんだ、この――!)
 目を凝らす。
 隙はないか、機はまだか。
 亀裂。
 焦る心を力任せに踏みにじり押さえつける。
 焦るな落ち着け。急いては死ぬぞ。あの男も言っていただろう、柔軟に物事を――。
 十一、十二、十三、十四。
 もはや流星。
 金色の光の軌跡がシズマの体力ごと意識すら刈り取らんと流れ、炸裂する。
 十五、二十三、四十六、八十七――。
 なんという速さ。
 神速、いやこれこそまさに真速。
 雨の雫は長い年月をかけ、岩に孔を穿つという。
 ならば。
 これほどの真速、これほどの威力を持って撃ち出される剣戟は、何を以って何に孔を穿つのか。
 答えは、現実を持って導き出された。
 強力な魔力を持つ対悪魔の盾。
 それすらも。
 彼の連撃は、容赦なく打ち砕いた――――
 そして少年は、護りを失った。
287名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/04(日) 11:09 ID:qF6Tgjoc
 死の影が跳躍し、襲い来る。
 避けえない一撃。
 ――それこそが、ユウゴが待っていた一瞬だった。
 身に残された最後の力、たった一振り。
 それだけ。だが、それが最後の賭けにして最大の好機――!
「な」
 暗殺者は、自らの過ちに気付いた。
 その刀身に宿る、魔力。
 多重に編み込まれたその力は、現実すらねじまげ、運命すら踏み従えた予期せぬ一撃≠もたらすという。

 ――その刀の名は、クワドルプルクリティカルカタナ=B

 骸骨戦士の魔力が編み込まれた魔法の符、その数実に四枚。
 彼が異邦の地より漂着し、この地に居つくその前より常に彼の元にあった、先祖代々伝わる守護刀――!
 その一撃は。
 彼我の実力の絶対的差異すら超越し、暗殺者を迎え撃ち――その命を、斬り絶った。


 閃光。
 それは、魔力の奔流。
 魔王クラスの巨大な悪魔の力すらも防ぐその魔力を込めた盾が破壊される。
 その反動は、大魔法に匹敵する反動を生み出したとしても不思議ではない。
 そしてそれは――シズマが待っていた、唯一にして一瞬の好機。
 耐えれない事も、剣戟の隙を突く事も出来ないことはわかっていた。
 常識的な戦法が通じないのなら、その想定を超えた方法で無理矢理隙をこじあける――!
「ぅおおっ!!」
 大地を蹴る。
 左手には、一本の短剣。
  ス ク サ マ ッ ド
 砂漠の守護刀≠ニ呼ばれる、強靭さならばツヴァイハンダーにも劣らぬであろう短剣。
 閃光で目を灼かれたドッペルゲンガーが、シズマの殺気に反応する。
 ツヴァイハンダーを上段に構え、シズマの脳天に振り下ろす。
 だが遅い――!
 それは刹那すら超越した、刹と那の間の一瞬。
 振るわれたスクサマッドは、ドッペルゲンガーの腕の腱を断ち斬った。
 巨剣が舞う。
 返す刃で、力任せに柄を叩く。
 ドッペルゲンガーの腕から、ツヴァイハンダーは解き放たれ――
 シズマは、それを掴んだ。
 重い。
 当然だ。元々シズマの技量では扱える武器ではない。さらに、シズマの右手は剣を扱える腕ではない。
 ならば、命運はすでに尽きた――。
 重さで速度が鈍る。剣の柄から手が離れる。
 それを決して、ドッペルゲンガーは見逃さないだろう。
 剣を奪い返され、そのまま体を両断される――――


     マ グヌ ス ・ エ ク ス シ ズ ム
「――Magnus Exorcisums=v


 聖なる十字架が、大地に浮き上がり――ドッペルゲンガーの身を灼いた。

 観覧席から、ロックハ達の姿と、グズルーンの姿が見える。
 グズルーンは、ロックハ達に助けを求めたのだ。
 シズマだけではあの魔剣士に勝てはしないだろう。
 だが――彼らの力があれば。
 間に合うかどうかの、賭け。
 そして彼らは、賭けに勝った。

「うぉぉおおおお――――――――!!」

 シズマが吼える。
 腕を伸ばし、剣を握り締める。
 手に力が入らないのなら、足を踏みしめる。
 右手でだめなら、左手がある。
            ツヴァイハンダー
 両の手で、シズマは双腕駆る巨剣≠握り締めた。
 一撃。
 耐えて一撃。消耗したシズマの体は、それだけで力尽きるだろう。
 だからどうした。
 どうせ力尽きるのなら――体力だけでなく、精神力、命そのものを燃やして、一撃にかける――!!

 一閃。

 その一撃は、鏡像剣士の胸を斬り裂いた。


/4/

「――――」
 静寂。
 静かな時間が、アリーナを支配していた。
 シズマは膝を突き、地に倒れる。
 それを――ドッペルゲンガーは、
 その腕で支えた。

 ――大きくなったな

 誰も口を開いてはいない。だが、そう、確かに聞こえた気がした。
 ドッペルゲンガーの体は、少しずつ色を失い、質感を失っていく。

 ――お前の剣だ

 ツヴァイハンダーを、握らせる。
 下半身は、既に無い。
 もはや亡霊のように霞んだ体で――それでも、確かな意思を持った瞳で、兄は弟に語りかけた。

 ――強くなれ


 それが、少年の耳に届いたかどうかは判らない。
 すでにシズマの意識は途絶え、兄もまた、空気に溶け込むように消えていった。

 残されたのは、一振りの巨大な剣。
 それに寄りかかるように、少年はただ眠りについた。
288名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/04(日) 11:09 ID:qF6Tgjoc
/5/


 ――それからを語ろう。

 魔物の襲撃で一時期パニックになったイズルードだが、居合わせた冒険者の働きで魔物は退治され、街には平穏が訪れた。
 アリーナで開かれていた武具の展示品の中から数点、行方不明になった品物があるというが、それらは火事場泥棒の仕業だろうと報じられた。
 その一部に、母さんの悪夢≠ニ呼ばれる美術品があった事は、特に大きく新聞に載ることは無かった。

 魔物と驚嘆すべき一騎打ちを果たした少年の事は、語り草にはなったものの、やはり時と共にその話も風化していく。
 廊下で倒れていた少年と、一人分の謎の血痕――死体は回収されていないが明らかに致死量だった――この話もまた然り。
 人々の口に上りつつも、忘れられ――吟遊詩人がたまに耳にし、その英雄譚の一説に書き加えられていくだけの、どこにでもあるお話であった。
 ――で。
 その当事者たちは――

「大人しく療養しておると思ったら、性懲りもなく突っ込むとは思わなかったぞたわけ、猪侍か貴様は、うぐっ」
「うっせぇ、お前こそなんだそのザマは。全身ボロボロで情けないったらあいたたたたた」
 イズルードの療養所で、お互い憎まれ口を叩いていた。
 ヒマなのだろう。やる事がなければ饒舌にもなろうというものだ。
 なにしろ二人とも死ぬ一歩手前。魔法で傷をどうにか治したものの、内部の損傷までは手が回らなかった。
 だから、絶対安静の入院である。
 口を開けば傷口も開くというのに、安静にできないあたり――よほど退屈が苦痛なのか。
「――もう出たころかな、グズルーン」
「だろうな。ふむ、未練か貴様?」
「なんでだよ。イベントも終わったし、彼女は帰るのは当然だろ」
「然り。だが俺は未練だぞ。友として、きちんと見送りはしたかった」
「まあ、な」
 グズルーンは、アルベルタに帰還する。まあ、当然といえば当然だ。
「別に今生の別れ、ってこたないしな――海を挟んだすぐ隣だし、会おうと思えばいつでも会える」
「思えば、な」
「なんだよ」
「気にするなたわけ」
 ――そう、シズマにもユウゴにも、自分たちから会いに行こうとは思えなかった。
 理由はわからない――いや、あるとすれば。

『私、お父様を説得して冒険者になります』

 そう、まっすぐな瞳で言った彼女を見たからか。
「強くなったな、彼女」
「うむ。俺たちも精進せねばすぐに追いつかれ追い抜かれるやもな」
「違いない」
「日々是精進あるのみよ、うむ」
 しばらく、無言。
「いつか、俺たちもこの街を出て――冒険の旅に出る。
 どこかで偶然、ひょっこり会えるだろう」
「そうだな。しかし驚いたぞ、貴様その腕でまだ剣の道を諦めてないとは」
「当たり前。盾は性に合わんってわかったからな、両手剣の道に進む。ならまだどうにかなるだろう」
「前向きだな。諦めるとばかり思っていたが」
「諦めたさ。――逃げるのをな」
「屁理屈が、たわけめ」
「いいんだよ、それで」
「――」
「――」
「疲れた」
「疲れたな」
「寝るか」
「寝よう」

 そして、二人の少年剣士は眠りに落ちた。
 それぞれの道を、進むために。


/6/

「さて、と。言ってくるか」
「うむ、行ってくるがよい。俺はこっちだ」
「アルベルタとプロンテラ、正反対だな」
「うむ。最近アルベルタから故郷への船が通じたという噂でな。十数年ぶりの里帰りという訳だ」

 ニ年が過ぎた。
 その歳月は、少年を青年へと変えるには充分――な年月ではあるはずだが、彼らは変わっているのか変わらないままなのか。
「んじゃ、またな」
「旅立つ同郷の士への手向けがそれだけか、情に薄い男は嫌われるぞ、たわけ」
「言ってろ。どーせどっかでひょっこり会いそうだしな、世界は広いようで狭い」
「違わぬな。で、貴様はどうするつもりだ」
「ロックハ達を探す。魔剣探索の旅には、先駆者に聞くのが一番だろ。…あのおっさんたちが素直に話すとは思えないけど」
「そうか。負けるなよ、シズマ」
「お前もな、ユウゴ」
 そうして、彼らは互いに背を向け、振り返らずに歩き出す。



 ――冒険は、ここから始まったばかり。
289名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/04(日) 11:14 ID:qF6Tgjoc
長すぎて容量喰いまくり…テキストであぷろだにでもあげたほうがヨカッタンデシヨウカorz
290名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/04(日) 12:05 ID://9/4NII
誤変換、脱字、一般的でない方言は滑稽だ。
文語を意識するならら抜き言葉もまた然り。
ただ書くだけでなく、客観的に読み直すことこそ
読ませるものを書けるようになる早道かと。
291名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/04(日) 13:47 ID:JgKkF0CM
・・・そろそろ次スレの季節ですかね
292名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/04(日) 17:29 ID:Gv/MfcW6
もう次スレか……本スレより回転速かったかもしれないな。
ついでといっちゃぁなんだが下水道リレーマダぁ〜?
293名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/04(日) 21:32 ID:nprzUvrQ
新スレ立ててくるねー。
最近文神大量光臨でいいことだ。
294名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/04(日) 21:36 ID:nprzUvrQ
新スレたちまちた

http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2//test/read.cgi?bbs=ROMoe&key=1081146897
295名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/05(月) 00:51 ID:WlV4vGdM
>>294

あと、2ch系ブラウザのためにこっちのアドレスも張ってきますわ。
http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi/ROMoe/1081146897/

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