全部 1- 101- 201- 301- 最新50

◆みんなで創る小説Ragnarok ♂萌え1冊目◆

1名無しさん :2002/11/07(木) 08:28 ID:IxmHCbDM
このスレは、♂萌えスレの書き込みから『電波キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』ではない、
萌えな自作小説の発表の場です。
・ リレー小説でも、万事OK。
・ 萌えだけでなく燃えも期待してまつ。
・ エロ小説は『◆【18歳未満進入禁止】みんなで創る小説Ragnarok ♂萌エロ 第1巻◆』におながいします。

▼リレールール
--------------------------------------------------------------------------------------------
・ リレー小説の場合、先に書き込んだ人のストーリーが原則優先なので、それに無理なく話を続かせること
・ イベント発生時には次の人がわかりやすいように
・ 主人公は命の危機に遭遇しても良いですが、殺すのはダメでつ
--------------------------------------------------------------------------------------------
※ 文神ではない読者各位様は、文神様各位が書きやすい環境を作るようにおながいします。
2名無しさんsage :2002/11/21(木) 23:28 ID:CoyZRq3w
どのキャラとどのキャラのからみがいいですかね?
現在アサと栗毛アコきゅんで脳内で半分くらい出来上がってるんですが
どうなんでしょう?
3聖職者たる者、こうあって欲しいものだsage :2002/11/22(金) 03:17 ID:rwW0Ynb6
萌えではなく燃えなですが、そのうえ単発モノですが、どうぞ。

     *      *      *      *

 あるところに一人のプリーストがいた。
 職業柄、他人の支援になる能力を持つ者が多い
プリーストの中では彼は異端だと言えるかもしれない。
 メイスの修練を積み、グランドクロスを片手に
アンデッドや悪魔をなぎ払う彼は、さながら聖騎士とでも
言えるほどの攻撃的な能力を備えたプリーストである。
 しかしこのプリースト、性格に少々問題があった。

「あぁ? 神様? 居るに決まってるだろ。
もう、なんつーの? ごっどサマ激ラヴよ」
 信心深いと取れなくもないのだが、まず、
いかんせん口調が粗悪だ。

「ヒールだぁ? 男はポーションでも飲んでろよ」
 そして男女差別も激しい。

「今からマグナス・エクソシズムの詠唱に入る。
てめぇらしっかりサポートしろよ!」
 更に人使いも粗い。

「一人で狩りもできないような強さで、こんな
アンデッドの巣窟に踏み込むんじゃねーよ。邪魔だ。消えろ」
 こんな粗雑な物言いは、とてもプリーストとは
言えないだろう。教会の上層部の人間も、彼を
破門とするかどうか幾度と無く審議したという。


 しかし、彼を破門にするという判決は、
とうとう下ることは無かった。


 なぜなら、彼の周りには自然と人が集まったからだ。


 あるブラックスミスの女性はこう言っていた。
「あいつ見てると神様ってのも気さくな奴なんじゃ
ないかって思えてくるんだよね」

 ある騎士の男はこう言っていた。
「ポーション飲めとか言いながらも、ヤバイ時は
きっちりヒールしてくれるしな」

 あるハンターの女性はこういっていた。
「モンスターが大量発生する予兆があると、
大魔法で皆を守る準備をしてくれてるんだよ。
彼にはそれが解かるらしいし、外れたことも無いしね」

 あるアサシンの男はこう言っていた。
「奴の言う事はもっともな事だ。あの時の俺は
弱かったからな……言い方はプリーストとは思えなかったが」


 そうして今日も、あのプリーストの罵声が響く。
「おらぁ! てめぇの身はてめぇで守れよ!
戦場じゃ誰も助ける余裕なんて無いんだからな!」
 しかし、周りの者は知っている。
 危機に追い込まれたものを見れば、駆け付けて助けてくれることを。
 戦闘が一段落すると、彼が聖域の法術で皆を癒してくれることを。
 口先だけの聖職者よりもよほど聖職者らしい、愛すべき男だということを。
43sage :2002/11/22(金) 03:25 ID:rwW0Ynb6
改行見にくくてゴメン(´・ω・`)
5名無しさんsage :2002/11/22(金) 07:39 ID:.uPBI2mw
はー・・・・グッジャブ( ´∀`)b

どっかにこういう格好いいプリーストの旦那いないかねぇ・・・。
6名無しさんsage :2002/11/22(金) 09:03 ID:CLaV.IuU
彼はいつも危険なダンジョンの中で店を開く。
決して街中やダンジョンの入り口前といった場所では売らない。
彼曰く
「ダンジョン内で回復薬が切れて倒れてしまう方をみると切ない
からなのです。回復薬さえあれば生き残れたはずなのにね」
満面に笑みを浮かべ、穏やかにそう語ったという。
「まー、街中じゃ商売敵多い・・・というのも理由ですが」
照れながらそう付け加えたらしいが。

彼はその穏やかで誠実な性格と、商売のスタイルが人気を呼び
有名人となっていた。

今日も彼の露店の赤POTやニンジンが飛ぶように売れる。
その度に彼はにこやかに
「頑張って下さい! ありがとうございました!!」
とお客に手を振っていた。

でも、彼の店を利用する客は「ある何か」を目的に訪れる客が
殆どであったのを彼自身は知らない。

----

「はぁ、にんじんなくなっちまった・・・」
ため息をつきながら一人のシーフがダンジョン内でへたり込む。
「ニンジン買いに街まで戻るのがめんどくせぇな・・・」
と、何気に首を巡らすと、彼の目に例のBSの露店が飛び込んできた。

そのBSは悠然と座りながら、カートのアイテムの整理をしていた
ところだった。
シーフは目を輝かせ、彼の露店へと歩み寄る。
本当はモンスターに襲われないように、慎重に行くべきだったのだが
砂漠で見つけたオアシスに駆け寄る旅人のように、彼の目には
露店の看板しか見えていなかった。

「すみません。ニンジンを・・・」
露店が数メートルまで近付いたとき、シーフはBSに声をかけた。
BSは彼の声に気付くと彼に向かって満面の笑みを浮かべ・・・・

ザシュ!!

その時事件は起きた。
すっかり油断していたシーフの背後からモンスターが持っていた
武器を振り下ろしたのだ。
天性の敏捷さと感で、なんとか致命傷を食らわないように回避するのが
手一杯だった。
その上彼は度重なる戦闘で疲れ果て、ただ為すすべなく地面に転がる
しかなかった。

モンスターは好機と見るや、素早くとどめの一撃を足元に転がる
シーフに食らわそうと武器を振り上げた。

シーフは何とか動いて生き延びようとするも、腕を上げるだけの
力さえも出ない。彼は自分の最後を覚悟した。
振り下ろされる武器の風切り音がやけに近くで聞こえた感じがした。
彼は諦め、目を瞑った。
7名無しさんsage :2002/11/22(金) 09:11 ID:CLaV.IuU
ギィン!

だが次の瞬間発した音は、彼の肉を切り刻む音ではなく、甲高い
金属音であった。
恐る恐る目を開けてみると、先ほどのBSが仁王立ちで、しかも
片手で持った鈍器のみでモンスターの渾身の一撃を受けていた。

見上げた顔にはちらりとみえた人の良さそうな笑みはなく、代わりに
見る者の背筋を凍らせるような恐ろしい鬼の形相が宿っていた。

BSは胸ポケットから器用に片手だけでタバコを取り出し、火をつけて
ゆっくりと吸い込み、
「手前ぇ・・・俺の客に手を出そうなんざ」
煙と共にゆっくりと深く吐き出し、にやりと悪魔のような笑みを浮かべ
たその時、彼の全身から紅いオーラが湧き上がる。
「100年はえぇんだよ!!」
そう言い放つと同時に、モンスターの持っていた武器を弾き飛ばし
電光石火の速さでモンスターを鈍器で攻撃する。

勝負は一瞬だった。
無様に壁に吹き飛ばされたモンスターは、ゆっくりと灰に変って行く。
それを見届けたBSは、おもむろにタバコを消し、倒れこんだ
シーフの元へ駆け寄った。

「わー! うわさは本当だったんだ!!」
「おお、すっげ〜」

気付けば彼等の周囲にはかなりの人だかりが出来ていた。
そう、彼のお店の常連客ばかりだ。

「いや〜すごい豹変ぷりっすね〜 まさに別人格?」
「言ったとおりだったでしょ?」
「おお、毎日通っただけの事はあったぜ」

などと勝手に盛り上がっている。
一方の当の本人はというと、すっかりいつも通りの笑顔をたたえ
何事もなかったかのように
「皆さん、どうかなさったんですか?」
と、言った。
8名無しさんsage :2002/11/22(金) 09:17 ID:CLaV.IuU
実は2です。
短編だけど読み物を書いたのは2年ぶりくらいかな(´・ω・`)
2で発言した内容のものは、ちょこっと長めな感じですけど
あまりここが流行らないようなら書いてしまおうかと思ってます。

駄文失礼しました。
9名無したん :2002/11/22(金) 10:18 ID:yOBhkFus
>>6-8
狂墨キタ━(゚∀゚)━!!
洩れは製造系でOT取ってないし、煙草吸わないから真似はできないけど激しくカコイイです、ハイ
御馳走様ですたm(_ _)m
10名無しさんsage :2002/11/23(土) 02:10 ID:JTtBLlno
剣士&マジのお話あぷします。
萌えも燃えもしないうえに微妙に長いですが許してくだされ。
11彼らの距離が近づくまで 1/4sage :2002/11/23(土) 02:10 ID:JTtBLlno
「……あ」
また、やってしまった。
マジシャンという職業は、他人とターゲットが被ることなど日常茶飯事だ。
おかげで僕が一日で一番多くいう言葉は「ごめんなさい」だ。
まぁたいがいの人はそれで許してくれるんだけど、たまにそうじゃない奴もいる。
たとえば、今目の前にいる剣士みたいな。
赤い髪をしたその剣士は、明らかに憎悪のこもった目で僕を見ていた。

「てめー横殴りしてんじゃねーよ、このヘッポコ魔術師!!」
……僕って意外とキレやすいんだよね。
「誰が横殴りだって!? あんただって僕が魔法唱えてんの気づいてなかったじゃないか」
だいたい先にモンスターに気づいたのは僕なんだぞ。
「はぁ!? 知るかそんなの。 だいたいオレはマジシャンって奴が気にくわねーんだよ」
「僕だって剣士の顔なんか見たくもないね。敵に突っ込むしか脳のない野蛮人」
「てめー……言いやがったなぁ?」
「先にケンカ売ってきたのはそっちだろ? バカがうつるから向こうに行ってくれよ。話もしたくない」
「オレだってごめんだぜ。モンスターにやられてのたれ死んじまえ!!」
そう言って剣士は去っていった。

……剣士ってのは短気な奴が多いから困る。それにマジシャンへの偏見もあるし。
まぁ、偏見に関しては僕も剣士に悪印象を持ってるから一緒かもしれない。
この二職業が犬猿の仲ってのは本当のことだ。人格の問題かもしれないが、
僕があの剣士と仲良くなるなんてことはまずないだろうな。
それに、二度と会うこともないだろうし。……会いたくもないしね。
12彼らの距離が近づくまで 2/4sage :2002/11/23(土) 02:11 ID:JTtBLlno
って、思ってたのに。
次の日、視線の先に昨日の剣士を見つけてしまった。……最悪だ。
でも今日彼は誰かと一緒にいた。あどけない顔のその少年は、どうやらノービスらしい。
レベル上げでも手伝うんだろうか。意外と面倒見がいいんだな。
「んじゃ、バッタ連れてくるからちょっと待ってろよ」
彼がその場を離れていくと、ノービスがそわそわしだした。
「ぼく一人で倒せるかなぁ……?」
そうつぶやくと、ノービスはロッカーの前まで走っていき、斬りかかった。
バカだ、こいつ。あいつが連れてくるまで待てばいいのに。
腕を試したいのはわかるが、おとなしくポリンでもつついてろよ!!
「うわぁ〜!!」
案の定ボコボコにやられている。僕はとっさに詠唱を始めていた。
「ファイアーボルト!!」
僕の放った火の矢がロッカーを消し炭にした。少しやりすぎたかな……。
ぺたん、とその場にノービスが座り込む。
いまさらながら僕は、彼の髪の色があの剣士と同じ赤だということに気づいた。
「間一髪だったね」
「あ、ありがとうございます……」
「それじゃ、僕はこれで」
「えっ、行っちゃうんですか? お礼がしたいのに」
お礼なんかいらないし、何よりあいつが戻ってきている。鉢合わせになるのはごめんだ。
僕は赤ハーブの束をノービスに投げてよこすと、その場から去ろうとした。
少しだけ後ろを振り向くと、あの剣士がこっちを見ていた。
目が合いそうになり、僕はあわてて背をむけて走り去った。
ノービスが事情でも言ったんだろうか。彼の顔は、驚いているように見えた。
13彼らの距離が近づくまで 3/4sage :2002/11/23(土) 02:12 ID:JTtBLlno
ファイアーボルト!!」
今日の僕は絶好調だ。このダンジョンにいる敵に負ける気がしない。
アクティブもいるけど、うまく身をかわして詠唱の早い魔法でもぶつけてやりゃあいい。
でも、僕はわかってなかった。そんな油断こそが死を招くってことを。
一瞬気を抜いた瞬間に、僕の視界が回転していた。
視線の先は天井。それでやっと僕はモンスターにおさえつけられているのだと気づいた。
あまりの痛みに視界がかすんで、相手が何なのかすらわからない。
「う……ぐ……」
僕はここで死ぬんだろうか。ローブに食い込むモンスターの爪か何かの感触を感じながら、そう思った。
だんだんと、意識が薄れていく。
朦朧とする意識の中で、僕の耳にあの剣士の声が聞こえた。
なんでだろう。こんな時にあんな奴のことを思い出すなんて……
助けに来てくれるなんて思ってるんなら、僕はバカだ……。

「バッシュ!!」
ふいに体の上の重みが消えた。僕の体の上に乗っていた何かが倒されたのだ。
「立てるか? ヘッポコ魔術師」
「あ、あんたは……」
目の前にいたのは、あの日の剣士だった。そいつが、僕に手を差し出してる。
ちょっとしゃくだったがその手を掴み、僕は立ち上がった。
「あんたが僕を助けてくれたのか?」
「……これであいこだろ」
「は?」
「……オレは好きでてめーを助けたんじゃねーよ!! ……ただ、弟が助けられたって聞いてな」
「弟? ああ、あのノービスか」
「ただ借りを返しただけだからな」
そこまで言うと、彼はうつむいて黙ってしまった。
14彼らの距離が近づくまで 4/4sage :2002/11/23(土) 02:13 ID:JTtBLlno
彼はしばらくして、ぽつりと言った。
「……あのさ、オレ…マジシャンってずっと嫌な奴だと思ってて……
 それだけで嫌ってたんだけどさ。でも…考え直したよ」
彼はにっ、と笑って言った。
「てめーはいい奴だ」
……なんてナチュラルに恥ずかしいことが言える奴なんだろう、こいつは。
「……バーカ」
剣士…とくにこいつは大嫌いだったはずなのに、今は不思議と憎くない。
「こっちこそ…見直したよ。どうもありがとう」
こんなダンジョンの中で、男二人が顔を赤くしてうつむいてるって光景はきっと奇妙だろうな。
「おい、行くぞ。ヘッポコ魔術師」
「は?」
「前で壁になってやるって言ってんだよ」
「…それってパーティー組むってことかい?」
「…さーな」
素直に言ってくれりゃいいのに。まあ、あんたらしいけど。
「…簡単に死んだら承知しないからな」
「オレをなめんなよ。てめーみたいなもやしじゃねーんだ」

気がついたら、僕には仲間が一人できていた。
性格も何もかも違う男だけれど……
なんだか誰よりも、彼とは長く一緒にやって行けそうな…そんな気がした。
15名無しさんsage :2002/11/23(土) 02:15 ID:JTtBLlno
以上でおわりでつ。お目汚しスマソ。
なぜか三つ目の一行目のカギカッコが抜けてるけど気にしないでくだちい。
16名無しさんsage :2002/11/23(土) 03:05 ID:J2k8jx6c
>>15さんお疲れ様です。
ほんわかした気分になれました。
17名無しさんsage :2002/11/23(土) 03:17 ID:J2k8jx6c
転職したての栗毛の彼。
同期のアコライトは大勢いたが、彼はとても内向的な性格で
頼まれた事を断るという事がどうしても出来ない。
なので今日も大聖堂の女性用のトイレの掃除を任されてしまった。

掃除はキライではないけど、やはり場所が場所である。
素早く終わらせてしまいたい気持ちで一杯であったが、手抜きを
すれば、即大目玉だ。
しかも生来のおっちょこちょいも手伝って、床に置いたバケツを
倒したり、洗剤をかけすぎたりしてしまう。
掃除の時間はどんどん長くなる一方。
でも、のんびりとやっている訳にはいかないのだ。
何故ならあと30分もすれば、午後のお勤めを終えた女性陣が
この大聖堂へ戻ってくるからだ。

彼は一生懸命きれいにしたり、逆に水や洗剤をぶちまけながら
作業に励んだ。
18名無しさんsage :2002/11/23(土) 03:31 ID:J2k8jx6c
頑張ったかいがあって、何とかほぼ掃除は完了した。
彼は一息ついて、額の汗をぬぐった。
その時、遠くの方から声がかすかに声が聞こえる。
彼は掃除に夢中で気が付いていなかったが、あれから40分近く
経過していたのだ。
徐々に近付く女性の声。どうやら3人みたいだ。

彼は慌てて外に出ようとしたが、思いとどまった。
(今出れば鉢合わせになってしまう)
さて、どうしたものかと周囲を見渡すと、清掃用具を仕舞うロッカーが
目に飛び込む。
彼は手にしたモップやらバケツやらを仕舞いこむと、そのまま自身も
ロッカーに滑り込ませ、静かにロッカーの扉を閉めた。
(このままやり過ごせばいいよね)
ロッカーの中は薄暗いが以外に広く、奥行きがあったので閉塞感は
なかった。
狭いところがニガテな彼であったが、何とか耐えられそうだ。

やがて、声の主達が現れた。
(プリーストが二人、アコライトが一人・・・か)
彼はロッカーのドアの隙間から覗き見た。
19名無しさんsage :2002/11/23(土) 03:51 ID:J2k8jx6c
「今日も疲れましたわ」
プリの一人・・・どうやら一番先輩らしい、が洗面台の鏡に向かい、独り言のように言う。
そうですね、と同意しながら残りの二人も洗面台の方へ歩み寄る。
「聞いて下さいな、今日ですね・・・」
などと雑談モードへ突入し出した。

(困ったよ・・・どうしよう)
半ば泣き出しそうになりながら、彼はじっと息をひそめ続けた。
しかし、雑談の内容が恋愛モードに切り替わったとなると、話は別だった。
「新しく入ってきた男の子達はどう?」
「そうですね〜」
「あ、あの子がかわいいかも」
恋愛に奥手な彼であったが、こういう話には密かに興味があった。
知らず知らずのうちに、ロッカーのドアに耳をはりつけて会話がもっと
よく聞こえるようにと身を動かしていた。

カラン

その時に、ついつい足が何かに当たってしまい、乾いた音が妙に
大きくトイレ内に響いた。
(しまったぁ・・・)
彼はその場で凍り付いて動けなくなってしまった。
自身の心臓の音がやけに耳にさわる。
どきん、どきん、どきん・・・

でも、幸いな事に彼女達は気にしてないようで、そのまま談笑していた。
その様子を恐る恐る確認した彼は、ほっとため息を密かについた。
おちついた所為か、再び彼女達の話題が耳に飛び込んでくる。
「あ!そうそうわたくしですね、思い出したんですけど」
一番先輩と見られるプリーストがぽんと手を叩きながら言う。
「皆さん覚えてらっしゃいます? あの栗毛の新人君」
「あ、せんぱ〜い。もしかしてその子の事狙ってるんですか?
ダメですよぅ、わたしも狙ってるんですからね」
「待って下さい、あの子はわたくしが・・・」

(栗毛の新人?)
彼は活動を再開した脳で、その人物を思い出そうとする。
(!?)
思い出した瞬間、彼は飛び上がっていた。
(それって僕!? 新人で栗毛は僕だけじゃないか!?)

「誰かいるんですか!」
20名無しさんsage :2002/11/23(土) 04:03 ID:J2k8jx6c
その声に我に返る彼。
どうやら無意識のうちに辺りに立てかけていたモップをなぎ倒して
いたらしい。
その盛大な音で、プリーストたちが気付いてしまったようだ。
(しまった! どうしよう)
彼は慌てふためいて隠れ場所を探してみたが、ロッカーの中に
隠れる場所があるはずもない。
「そこに誰かいるの?」
追い討ちをかけるように声がする。
益々パニックになる彼。
(ああ、神様お助けを!)
彼は涙を流しながらロッカーの隅に座り、頭から布を被って
ガクガクと震える。
(布?)
思わず手にした布を彼はじっと目を凝らして見てみた。
よくみれば、それは女性用のアコライトの制服ではないか。
『お前は女みたいな顔してるからよ』
などと言われ、女性用のアコライトの制服を無理やり着せられ
プロンテラの大通りをつれまわされた記憶が蘇る。
あの時は恥ずかしさで泣きたくなっただけだったが、よくよく思い出せば
誰も彼の事を笑ったり指差したりはしていなかった。
(もしかして)
彼は大慌てで着ていた制服を脱ぎ、女性用のアコライトの制服を
着用する。

ガチャ

その時ロッカーのドアが開けられ、同時にまばゆい光が彼の姿を
照らし出した。
21名無しさんsage :2002/11/23(土) 04:15 ID:J2k8jx6c
「ど、どうかしました? こんな場所で」
彼女等は驚いたが、誰も彼を男性だとは気付いていないようだ。
「すみません、ちょっと急に気分が悪くなって」
彼はうわずったつくり声でそう答えた。
「休んでいましたらよくなりましたので、自室に戻って休みます」
そう言いながらふらふらと立ち上がり、心配そうな彼女達の
横をすり抜ける。

いつもはなで肩でひょろっとして色白な自分の体つきを呪ったりしたものだが
この時ばかりは自分の体つきに感謝せずにはいられなかった。
(神様・・・ありがとうございます!)
彼は心の中で神にも感謝するのを忘れない。

だが、彼の幸運はここまでだったようだ。
「お待ちなさい」
その声と共に背後からぐっと肩を掴まれる。
彼の心臓は飛び上がらんばかりになったが、精一杯の冷静さで
「わたくしですか?」
と、うつむきながら答えた。
女性用の制服を着て、うつむきながらしゃべっていれば、よほど注意を
払っていない限り、彼を男性とは見抜けないだろう。
だが、相手が同職となれば話は別だった。

「あなた、何故男性用のシューズを履いてますの?」

この後、3人によって弄ばれてしまうのですが、それはいつかまたの
機会という事で。
22名無しさんsage :2002/11/23(土) 04:20 ID:J2k8jx6c
リアルタイムで書いてみました。なんと1時間掛かってますね(´・ω・`)
前回(ここの6〜7)も半分リアルタイムで書き込みましたけど。
>>9さま、レスいただき感謝です。

駄文失礼しました。
23名無したん :2002/11/23(土) 08:01 ID:Ftkojwjo
(゚д゚;≡;゚д゚) カ・・・カミ コリーン??
24名無しさんsage :2002/11/23(土) 08:58 ID:RhhuUMkg
>>11-14
(・∀・)イイ!!
こういう関係から始まる関係ってものすごくすきでつよ
25213sage :2002/11/23(土) 10:25 ID:bzTsm74M
>15
熱い男の信頼関係がカッコいいです〜。
正反対な性格だからこそ長く付き合える典型的な例かも知れませんね。

>22
キターーーー(゚∀゚)ーーーー!!
如何にして弄ばれたのか激しく気になりまつ。
このアコたんの後日談は何処に行けば見れまつか?
26名無しさんsage :2002/11/23(土) 17:31 ID:WXmTsLDE
>>25
れすありがとうございます。
実はエチィな方で公開する予定だったのですが、漏れのない頭をひねっても
エチィなワードが出てこなかったので、断念してこちらになったのです。
先輩プリが登場しているのはアコキュンを熟練のテクニックでどうにか
してもらうつもりだった・・・の、なごりです。

ところで、単発ばかりで申し訳ないような気もするんですが、リレー
でタプーリな方が宜しいですか?
別に単発でも構わないのなら、今日か明日あたりにでもお目汚しなやつ
を書いてみようかなと思ってますが。
27213sage :2002/11/23(土) 17:50 ID:bzTsm74M
>26
単発でもリレーでも両方とも読みたいと思うのは我が侭でしょうか…。
……私も♀×♀で書いてる身ですが、>26さんの書きたいものを書きたいペースで書いて頂ければ一番良いなぁ、と思います。
1人の読み手としての意見ですが、参考になれば幸いです。
2815sage :2002/11/23(土) 23:52 ID:LMm9gzhc
16、24、25さんレスありがとうございます。
感想もらえることほど嬉しいことはないです。
また駄文あぷするかもしれませんがその時はよろしくお願いします。

3さんのプリ旦那も2さんの黒墨さん&栗毛たんもみんな萌えだー。
ある程度小説がたまったらどこかにまとめるといいかも。

ちなみに、私も単発もリレーもどっちも読みたいです。
萌えのままに書きたいものを書きましょ。
2926sage :2002/11/24(日) 00:22 ID:LnlJhc96
213(>>27)さま、15(>>28)さま、貴重なご意見ありがとうございます。
リレーに関しては、自分ばかりぼこぼこ投稿するのもなにかな〜って
思ったもので。しかし、まだこの板自体の小説系の書き手が不足している
みたいなので、リレーは発展しないのかな・・・とか思ってみたり。

とか言いつつ、百合スレでまた投稿してみたあふぉでした。

書きたいように書く、それが一番ですよね。
3027みなさん良い仕事してますねsage :2002/11/24(日) 19:51 ID:JxPSwCL6
>28
自分の書いた物に感想を頂けるのは、書き手として最大の報酬ですよね〜。
自分はまだまだ稚拙な物しか書けませんが、感想を頂くと『読んだよ〜』と言う事が直接わかるので、次に書く活力になりますね♪


>26
百合スレの方も読ませて頂きました。
そ う き ま し た か (笑)
こちらで感想を述べるのも何ですが、新しい視点からの文章、有難う御座いました!

26さんに触発されて先輩の♀1次職に弄られる♂アコの小説とかを書いて見たいのですが、先輩の♀キャラはどんな職業が良いでしょうか……。
皆様意見があればお願いします〜。

……ってそんなものを♂萌えスレで書いちゃ駄目ですかね…。
3126sage :2002/11/24(日) 21:15 ID:TWdUua62
>>30
意見・感想などは最大の報酬ですね。
漏れもみなさまから活力を頂いているから書けるのです。

百合の方は序盤に「冒険者なりたて」とネタふりしてあったので
結末は分かりやすかったかな、と。つまり、「冒険者は」成り立て
かもしれないけど、決して人生経験が少ないという事ではないと。

先輩キャラについては 同 職 が 萌 え で し ょ う
しっかりと理由を書くと、スレ違いになってしまうので簡潔に述べますと
聖なる職業に身をおきながらの熱い萌え・・・という感じです。
3230幸せ者め〜sage :2002/11/24(日) 22:18 ID:JxPSwCL6
>>26
聖なる職業!
ですが同職だと、♀プリ様×♂アコたんという>>26さんと同じ物になってしまいますが、宜しいでしょうか?
ちょっと弱気な♂キャラでアコたん以外が出てこない自分は駄目っぽいです…。

そうだ! ノ ー ビ s (鯖キャン
33リレーしてみる26sage :2002/11/24(日) 22:23 ID:TWdUua62
「気がついたか?」
ぶっきらぼうな男の声で俺は目を覚ました。
反射的に相手を押さえ込もうとベッドから跳ね起き、素早く相手の背後へ
回り込んで右腕をガッチリと相手の首に巻きつける。
「・・・動くな・・・下手な真似をすればへし折る」
男の耳元に思いっきり冷酷な声で言ってやる。
だが、男は無精ひげの生えた口元を不敵にゆがめ、この俺を軽々と
元いたベッドの上へと叩きつける。
その瞬間、不覚にも俺は全身を襲う激痛に耐え切れず、うめき声を
上げてしまう。

その無様な俺を見て、男は大げさにゲラゲラと笑い
「ははは! その様子なら、怪我の治りも順調なようだな」
「怪我?」
そう言われて思い出した。
俺は任務中だったのだ。
ターゲットの男を追跡して砂漠を渡り、ピラミッドまでやって来たのだった。
俺がアサシンギルドの男から聞いたところによると、ターゲットは
相当なイカレた野郎なようで、酔った勢いで依頼者の夫を殴り殺して
しまったらしい。
・・・ま、それはどうでもいい。
ターゲットが善であろうと悪であろうと、依頼された任務をこなせるのが
一流のアサシンだ。
俺は一流のアサシンだ。今まで任務失敗はない。
だから仕事に困る事もない。
だが今回はどうだ。ターゲットがピラミッドに入ったと聞き、俺も
やつの後を追ってピラミッドに入ったまではいいが、情けないことに
途中で大量のモンスターどもに遭遇し、そのまま倒れた・・・

俺の中に急激に苦々しい思いが湧き起こる。

「どうした?急にしおれて。怪我が痛むか」
そんな様子を見た男が、俺に声をかける。
「お前はピラミッド内で拾った」
一呼吸おいてから、男はゆっくりと口を開いた。

男の話によるとこうだ。
ピラミッドで倒れた俺を担いで、ここまで運んで手当てしたのがこの男らしい。
「何故だ? 何故俺なんかを助ける?」
男の話を一通り聞いた後、俺は男に尋ねた。
すると男は全身を覆っていたボロを外し、
「ご覧のとおり、これでも聖職者でね。例え相手が腐れ外道の暗殺者であっても
見捨てる事はできねぇのさ。神様の愛は偉大だからよ」
胸元にさがる銀の十字架をにぎりしめた。

「ここはどこだ? 俺はどのくらい気を失ってた?」
ふと頭をかすめた疑問を男・・・プリーストにぶつける。
「ここはモロクのちいせえ教会だ。小汚ねえけどよ。で、お前は
2日ほど気を失ってた」
2日・・・
俺はベッドから起き上がり
「俺の荷物はどこだ?」
と、男に尋ねる。
「おいおい、お前どうする気だ? まさか今から仕事にいくつもりかよ?」
苦笑いを浮かべながら男は呆れた、というようなポーズをする。
「荷物はどこだ?」
もう一度だけ俺は言ってやる。
「待て、お前はあと3日は安静にしてなきゃダメだ。お前の荷物は
誰もとったりしねぇから安心しろ」
男は歩み寄り、俺の両肩を押さえ込み、強引に座らせようとする。
「・・・目・・・お前のその目は何言ってもきかねぇガキみてえだな」
俺より背が高い男は、俺の顔を覗き込んでそう言った。
「だが、大人の言う事はきくもんだぞ?」
「ふざけるな!」
「威勢だけはいいな・・・でもな、お前の顔、真っ青なんだがな」
「じゃあ、貴様! 俺に回復の魔法を使え!」
「バカだな、ヒールは生命力を増幅するものなんだよ。怪我を一瞬で治す
もんじゃねぇ・・・そしたら医者が廃業になるだろ?」
「貴様にはもう頼まん!」
そう言って俺はベッドに座り込む。
とにかく悔しかった。
一流の暗殺者の俺が遅れをとっただけではなく、この男が言う事が
全く持って正しいからだ。
正直言えば、立っているのもやっとだ。
満足に武器を振るえる力はない。今出向いても返り討ちにあう可能性もあるし
ターゲットに辿り着く事すら難しいだろう。
だが、俺はアサシンだ。
任務が遂行できないアサシンはゴミだ。死んで当然だ。
だから・・・俺は行かねばならない。
命を落とす事になっても、ここで安穏と過ごしているよりは100倍もマシだ。

「ほらよ」
ドサリという音と共に、俺の荷物がベットの上の俺の横に置かれる。
俺はおぼつかない足取りで立ち上がり、装備を身につける。
ま、聖職者から見れば、暗殺者はやっかいこの上ないやつだ。
勝手に出て行って勝手にくたばってくれりゃ、やつらとしても都合もいいだろう。
俺はそう考えながら装備を整える。
「だが、ひとつ条件がある」
装備を整え終わるまで無言だった男がふいに口を開く。
「俺もついていく・・・これが条件だ」
3430sage :2002/11/25(月) 23:18 ID:LYjWumNY
俺は耳を疑った。
この男が言う意味を瞬時に理解できなかった。
「条件……だと?貴様!俺を馬鹿にしてるのか!」
俺は力の限り怒鳴った。体が本調子でない分、気迫は普段よりも劣るものがあるが、それでも俺は紛いなりにもアサシンだ。
他人を怯えさせる事には充分な力がある……筈だった。
「馬鹿にしたつもりはねぇよ」
だがこいつは微動だにせず、こっちを睨み返してきやがる。
唯でさえ、俺は任務の途中で失敗してそのままおめおめと生き延びている身だ。
アサシンとしてこれ以上の恥辱は無い。
「……聖職者の貴様に…俺の何が分かる!」
俺は男に吐き捨てる様に言った。
だが男は俺に構う事無く、外に出る用意をしている。
「聞いているのか、貴様っ!……っ!」
再び俺は怒鳴った。だが、今度は叫びと同時に体が悲鳴を上げた。
ボロボロの体がバランスを崩し、床に倒れる。
「そら、無茶だと言ったろうが」
男は用意を止めてこっちに近づいてくると、俺の手を肩に廻してひょいと持ち上げる。
「くっ!俺に触るな!!」
俺は男を睨み、その手を解こうとする。
「じたばたするなよ。傷口が開くぞ」
だが、男は暴れる俺に構う事無く先ほどのベッドに腰かけさせた。
……無様だ。
俺はこの上なく悔しく、自分が情けなくなった。
「殺せ!無様な俺を殺せ!!」
俺はこれでもかと喚き散らす。
死にたい。
今すぐに死にたい。
恥辱に塗れた生よりも名誉ある死を、これが俺の信念、最後のプライドだ。
それすらも許されない。
今の俺は自分自身すら自由にできないのだ。
「殺せ殺せと五月蝿いガキだな」
男は睨みつける俺に動じる事なく軽く受け流す。
「貴様に何が分かる……!」
「何も分かりゃはしねぇよ」
さらりと受け流した台詞に俺は間髪いれず、反論する。
「なら、何故……!!」
−−−俺を死なせてくれない−−−
だが、俺が最後まで言い終わる前に、男は襟を付かんで睨んできた。
「ガキが……全てを悟った様な事を言うんじゃねぇよ。」
静かだが力のある男の声。俺はその声と迫力に呑まれていた。
「俺ら聖職者っていうのはな、テメェみたいな自分勝手に死にたがるガキを殴ってでも止めるお仕事なんだよ。」
男は静かに言葉を続ける。
「それにな……折角助けた奴が目の前で死なれたら気分が悪いだろうが?」
3515sage :2002/12/06(金) 13:15 ID:3yYbMGiQ
停滞しとりますな……やっぱ住人さん少ないのかな?
自分はリレー小説を書くのがどうにも苦手なので……。
その代わりといっちゃなんですが、また駄文を書いてきたので
ヒマな人は見たってください。
36師弟というもの 1/4sage :2002/12/06(金) 13:17 ID:3yYbMGiQ
「ししょ〜〜〜〜!!」
他の町とは少し違った雰囲気を持つ町、フェイヨン。
その街角を、まだ幼さを残す金髪のシーフが走っていた。
彼の名はバット。師匠と崇めるアサシンのユウに憧れ、最近勝手に弟子入りしたばかりだ。
「ししょ〜、どこですかぁ〜〜〜!!」
「やかましい」
「いてぇ!!」
彼の頭にふいにチョップが決まる。
「ヒドいっすよ師匠。出会い頭にいきなりこれなんて。ただ呼んでただけじゃないですか〜」
「勝手にはぐれておいて何を言っている」
ユウは冷たく答えた。彼もまだ青年と言っていい歳である。
「だ、だって師匠歩くの早いんですもん」
「知るか」
そう言ってユウは歩き出した。
「うわ!! ま、待ってくださいってばぁ〜」
また置いていかれてはたまらないとばかりに、バットは彼の後を走って追いかけた。

「お!! シンじゃねーか、久しぶりだなぁ〜」
宿屋に入った瞬間、一人の青い髪のプリーストがユウに声をかけてきた。
プリーストといっても、彼の口には煙草が咥えられており、聖職者として正しい姿かどうかは疑問だ。
「師匠、このうさんくさいプリさん誰っすか?」
「うさ……!!」
プリーストが顔を引きつらせる。
「ユウ……お前んとこのガキは躾がなってねーようだな」
「……口をつつしめ、バット」
「はーい」
そう言いながらあまり反省がみられないのは、バットの性格だろうか。
「俺のとこの弟子みたいに、礼儀正しく育てろよな」
プリーストは彼の後ろに控える栗色の髪のアコライトを振り返りながら言った。バットと同じくらいの歳の少年だ。
「……俺はお前のように教育熱心ではないからな」
「あー、そういやお前は昔からそうだっけ」
「……で、結局誰なんすかこの人」
バットが面白くなさそうに言った。
「……性悪プリーストのシンだ。俺の幼馴染でな」
「性悪プリとはなんだこらぁ!!」
シンが声を荒げて叫んだ。プリーストとは思えないほどのガラの悪さだ。
37師弟というもの 2/4sage :2002/12/06(金) 13:18 ID:3yYbMGiQ
シンと別れ、ユウは宿の自分の部屋に入った。
モンスターとの戦いから離れ、唯一精神を休ませることができる場所だ。
「そういえば、師匠」
「……なんだ」
「師匠って任務とか受けたりしないんですか?」
「連絡がくれば受ける時もある」
「今度任務を受けたら、オレも連れてってくださいよ〜」
バットのその一言に、ユウの表情が変わった。
「駄目にきまっているだろう!!」
「……えっ」
ユウが怒鳴ることなど珍しい。初めて怒鳴られたバットは、驚きを隠せなかった。
「俺の仕事は暗殺だ!! 遊びじゃないんだぞ!!」
「そ、そんなことわかってます!! でも、弟子としてオレは師匠の仕事が見たくて……!!」
「俺はお前を弟子にした覚えなどない!!」
「…………!!」
バットは傷ついた表情をして、部屋を飛び出していった。

「あ〜あ、かわいそうに。すげー傷ついてたぜ、アレ」
「……覗きとは趣味が悪いぞ、シン」
「あんな大きな声張り上げてたら嫌でも気になるっつの」
シンが部屋の中に入ってきた。どうやらドアの隙間から見ていたらしい。
「お前ってバカだよな」
「帰れ」
「ほんとにバカだよ、お前。なんで素直になれないのかね〜」
「……なんの話だ」
「本当はわかってるんだろ」
「ハイディング」
「ルアーフ」
隠れようとしたユウの姿を、シンの魔法が浮き上がらせた。
「そうやって自分の気持ちから逃げようとするのがお前の悪い癖だぜ、ユウ。
 このまま逃げてもいいのか? あのバットとかいうガキを失ってもいいのかよ」
「………」
シンの言葉に、ユウはうつむいた。
38師弟というもの 3/4sage :2002/12/06(金) 13:18 ID:3yYbMGiQ
沈黙が続き、やがてユウが口を開いた。
「……俺はあいつをアサシンになどしたくはないんだ」
「……そうだろうな」
「あいつは明るい。そして…優しい。あいつは人殺しなんかには向いていないんだ。
 俺の存在があいつをアサシンへの道へ駆り立てたのだとしたら…俺は神に何度懺悔しても許されない罪人だ。
 人を殺す以上に…あいつを殺しへの道へ引き込んでしまったのが俺は苦しく、つらい」
ぽつりぽつりと自分の本当の気持ちをユウはシンに告げた。
「あいつは、お前を師匠に選んで後悔してないと思うぜ」
「…お前に何がわかる」
「あんな単純なガキの気持ちくらいわかるさ。俺は人を癒すプリーストだぜ?
 心のケアもお手の物ってやつだ。お前は信用しないかもしれないがな」
「…………」
「アサシンを目指すことは、あいつの選んだ道だ。お前がどうこう言うことじゃねぇ。
 あいつの気持ちを束縛する権利なんかお前にはないはずだぜ、ユウ」
「だからといって……!!」
「どうしても止めたいんなら、さっきお前が俺に言った言葉、全部あのガキにぶつけてこい!!
 こんな所でぐずぐずしてる場合かよ。そんなのお前らしくないだろうが!!」
「……そんなこと、お前に言われなくてもわかっている!!」
シンの言葉に弾かれるように、ユウは部屋を飛び出し、夜の街を駆けていった。
「……そうだよ。それでこそお前だろうが」
一人残されたシンは、微笑みながら言った。
39師弟というもの 4/4sage :2002/12/06(金) 13:19 ID:3yYbMGiQ
「昨日は世話になった」
次の日、ユウの隣にはバットの姿があった。
「あのガキはどう答えた?」
「……俺に憧れてアサシンになったのは自分の勝手だと…こればかりは譲れない、と言った。
 俺が思っている以上に、あいつの決意は固かった」
「そうか」
「もう俺はあいつを止めない。あいつが一人前のアサシンになるまで、見守っていこうと思う」
「……お前もそんなことが言えるようになったんだな〜」
ユウの鋭く冷たい瞳の奥には、今までは無かった優しさがうかがえた。
「ししょ〜、行きましょうよ〜」
「ああ、今行く」
バットは昨日あんなことがあったにもかかわらず、元気である。
「じゃあな…縁があったらまた会おう」
「おう、今度会った時にあのガキの成長ぶりを楽しみにさせてもらうぜ」
そう言うと、シンは背を向けた。
「シン!!」
「ん?」
「……ありがとう」
早口でそれだけ言うと、ユウは走り去っていった。
「……あいつも変わったもんだ。これもあのガキの力ってやつか」
いつも無愛想で、誰にもそっけなかったユウ。その彼が、いま自分に礼を言ったのだ。
背をむけて去っていく、おそらく真っ赤であろう彼の顔を想像して、シンは少し笑った。
4015sage :2002/12/06(金) 13:22 ID:3yYbMGiQ
お目汚し失礼いたしました。
これで少しだけでもここが活気づけば本望であります。

名前を付けるのは本当は嫌なのですが、ないとわかりにくすぎて……
そんなわけで、名前が適当すぎても許してやってください。
41名無したんsage :2002/12/06(金) 19:18 ID:sFHkjS8o
>36-39
激しくグッジョ(*´Д`)b
師弟に萌え、不良プリ様の説教に萌え、無愛想なアサシンのありがとうに萌え、
おそらく顔真っ赤であろうアサシンで萌やし尽くされますた。

(゚∀゚*).。oO(リレーの続きも気になるよママン…)
42名無したんsage :2002/12/07(土) 12:31 ID:ZeDCP7gM
>>36-39
|-`).。oO(ルアフされるの分かってるだろうにハイドしちゃうシャイな師匠萌え。)
4315sage :2002/12/12(木) 00:50 ID:L3bWngCA
しばらく来てなかったらレスがついてる……

41さん、42さんレスどうもです。
自分は剣士とマジの犬猿の仲以外にアサシンとプリ様萌えなもので、
その萌えを全面に押し出してみますた。
読んでもらえて感謝です。
44名無しさんsageノビとウィズ :2002/12/21(土) 23:45 ID:ceaAY5jw
一人の男ウィザードが首都を駆けていく。
何故か人通りの多いところを通りながら。
しかし、人を探しているようでもない。わき目も振らず、彼は駆けていく。
そのまま町の門をくぐりぬけて、ようやく彼は立ち止まった。
「ここまで来れば……」
街を振り返りながらそう呟き、彼は目の辺りまで伸びた赤い髪をかき上げた。
しばらく人ごみを見つめ続けていたが、何もない事を確認したらしく、元の方向を向いて歩き出した。
「あー、先輩、遅いじゃないですかっ!」
前方から聞こえた声に、彼は固まった。
声の主は、ボサボサの金髪のノービスである。
「何で貴様がここにいるっ!」
焦ったようにウィザードが叫ぶと、金髪の少年は得意げな表情を浮かべた。
「やだなー、魔法バカの先輩より、俺のほうが足が速いに決まってるじゃないっすか」
「吹き飛べ!」
遠慮ないウィザードの念力によって、ノービスは吹き飛ばされた。
45名無しさんsageいつかの祭のヤツ :2002/12/21(土) 23:47 ID:ceaAY5jw
無言で歩き続けるウィザードの後ろに、ノービスがついて行く。
「先輩ったら、遠慮ないなー」
呑気に呟くノービスの声にも、彼は振り返らなかった。
―どうにか振り切らんと……。
ウィザードが歩く速度を上げるのだが、ノービスもやはり、早足でついてくる。
軽く走れば、やはりノービスも走る。
周囲が珍獣でも見るような目で、二人の無言の追いかけっこを見ているのだが、ウィザードはそれにも気付かない。
ついには全力で走り出したが、ノービスはそれにも平気な顔をしてついてくる。
ウィザードが体力の限界に来て座り込んだところで、ようやく無言の追いかけっこは終わった。
「……っ、どこまで、ついて来るんだ」
息も絶え絶えなウィザードに、対照的に平気な顔をしたノービスが答える。
「そりゃもう、先輩の行く所どこまでも♪」
「バカか貴様は!」
声を荒げて、ウィザードは咳き込んだ。
「もー、体力無いくせに走るからー」
ノービスがそう言いながら座り込み、彼の背中をさすった。
その手をウィザードは力なく振り払う。
ノービスは困ったような顔をして、自らの金髪を乱暴にかき上げた。
「ホント、意地っ張りなんだから」
反論したいのだが声の出せないウィザードに睨まれて、彼は軽く肩を竦めた。
46名無しさんsage勝手に廃ノビですが :2002/12/21(土) 23:48 ID:ceaAY5jw
ウィザードと背中あわせになるように、ノービスは座りなおした。
「あの時だって、先輩が意地張ってたから死にかけてたんじゃない」
独り言のような呟きに、息の整ったウィザードがこたえる。
「意地なんか張ってない。それに、私は貴様の先輩になった覚えも無い」
「えー、何で?」
「貴様の方が強いだろう」
呟く声に、悔しげな感情が宿っているのに気付いて、ノービスは笑いをかみ殺した。
彼らが出会ったのはそれほど前ではない。
魔物を仕留め損ねて窮地に陥っていたウィザードを、(世間では廃と呼ばれる)ノービスが助けたのだった。
大丈夫かと声をかけようとした彼が見たのは、
赤い髪からのぞく、全てを拒絶するようなウィザードの瞳だった。
「てか、相手が強いって思うならば、赤ポ全部渡そうとしたりする?」
「またその話か」
ウィザードは溜息をついた。
助けられたあと、彼は礼を言って、持っていた赤ポーション全てを渡して去ろうとしたのだった。
「助けてもらったんだから、礼としては当然だろう」
「自分の方が体やばくても?」
「当然」
ためらいも無く言い切ったウィザードを振り返り、ノービスは彼の赤い髪を撫でた。
「先輩、やっぱり意地っ張りー」
当然のように、彼はウィザードに殴られた。
47名無しさんsage :2002/12/21(土) 23:49 ID:ceaAY5jw
あの時、ノービスが引き止めなければ、彼はボロボロの体のまま去っていただろう。
どうしても、ウィザードは赤ポーションを受け取らなかった。
それが彼のその時の持ち物の中で、最も価値のあるもののようだった。
ポーション無しでは、どう考えても街に戻る前に死ぬ。
彼の様子から見て、代償も無しにワープポータルやヒールを頼む事も無いだろう。
結局ノービスがウィザードを無理矢理背負って街まで戻ったのだが、
その間、彼は「降ろせ」以外の言葉は何ひとつとして話さなかった。
「あの時、俺は先輩に何かして欲しくて助けたんじゃないんですよ」
殴られた頭を押さえてノービスが呟いた。
「そんなのは分かっている。だが、私は納得行かない」
ウィザードはそう言い、赤い髪をかき上げた。
「助けられても感謝すらしない奴らというのは、どこにでも沢山いる。
別に、助け合いが当然という考えに文句は言わない。
けれど、自分ばかり楽しようとする奴には腹が立つんだ」
赤い髪からのぞく目に、怒りが見えた。
48名無しさんsage :2002/12/21(土) 23:50 ID:ceaAY5jw
ノービスは軽く微笑んで、ウィザードの目を覗き込んだ。
「何だ?」
不思議そうな顔をして、ウィザードが聞いた。
「先輩って呼ぶ人は、自分より力がある人じゃなくって、自分が尊敬する人だと思うんですよ。」
満面の笑みで言うノービスに、ウィザードは首をかしげる。
「俺先輩より強いかもしれないけど、先輩より物知らないし。
それに先輩みたいにはっきりした自分の考えもてないし。
だから、俺ムチャクチャ先輩の事尊敬してるんですよ」
「尊敬してるならついてくるな」
「尊敬してるのと従うのは違いまーす」
ノービスの答えに、ウィザードはがっくりと頭を下げた。
49名無しさんsage :2002/12/21(土) 23:51 ID:ceaAY5jw
確かに、彼はウィザードの生き方を尊敬していた。
しかし、同時に彼の生き方が心配であった。
ウィザードが言う通り、自分第一の人間がこの世には溢れている。
こんな世界では、真面目すぎる生き方が、自分自身を傷つける。
そして、いつか命を落とす原因になる。
―きっとこの人は、俺よりも長生きできないな。
初めて逢ったときに感じた印象は、日増しに強くなるばかりだ。
それだけは避けたかった。
ウィザードが、誰にもその思いを理解されずに、
他人を拒絶する目のまま死ぬような事は、絶対に避けたかった。
50名無しさんsageおしまい :2002/12/21(土) 23:52 ID:ceaAY5jw
「もういい。好きにしろ。けれど私はお前なんか気にせずに進んでいくからな」
顔を伏せたままウィザードが呟く。
「だから手助けもしなくていい、っていうんでしょ?」
「ああ。勿論私もお前の助けなんかしないぞ」
口では冷たい事を言っているが、きっと彼は、
自分が危険な目に遭ったら命をかけてでも守ろうとするだろう。
例え彼のほうが弱っていようとも。
「元より承知です」
その考えを外に出さないようにして、ノービスは答えた。
「じゃあ、さっさとゲフェンまでいくぞ」
「はーい」
体力を回復したウィザードが立ち上がり、ゲフェンに向かって歩き始めた。
その後ろ姿を見ながら、ノービスは願った。

どうか、いつまでもこの背中を追い続けられますように。
51名無したんsage :2002/12/22(日) 13:31 ID:vhb1jCDw
(゚д゚;≡;゚д゚) モ、モレノ デムパ ガ セイブン カ サレテル!!??

なるほど、Wiz様を助けたのは廃ノビだったのですね。
妙に納得ヽ(´ー`)ノ
52名無しさんsage商人とマジとお姉様 :2002/12/25(水) 02:19 ID:KZgKj7pk
人通りの少ない裏路地で、彼は露店を開いていた。
「もーお姉様最高、ステキ! おまけにこれもあげちゃう!」
そう叫んで、商人の青年は自らの懐からポリン人形を取り出した。
「あら坊や、いいの? これだって貴重な収入源でしょ?」
彼の目の前に立っていた修道女がそう言うと、彼は大きく首を横に振った。
頭につけているゴーグルがカチャカチャと音を出す。
「いえいえ、俺から貴女へのクリスマスプレゼント。
それに、お姉様に会えた事を考えりゃ安いモンですよ」
ささ、うけとって、と彼は修道女の手にポリン人形を押し付けた。
「かわいいわ」
「んでしょ、これ苦労したのよ。俺がポリンを見つけては割り、見つけては割り……」
「ああ、これじゃなくて貴方の事よ」
修道女は艶然と微笑むと、彼の頬に口付けした。
しばらく呆気に取られていた青年だが、
事態を理解すると、ガッツポーズで飛び上がった。
「もう、お姉様ってば、そんな分かりきった事言わないでよ!」
彼は頬を大事そうに押さえながら、修道女に向かってウインクした。
彼女も笑ってウインクを返すと、自らの荷物袋にポリン人形を詰め込んだ。
中には大量の空き瓶が詰まっている。
「また買いに来るわ。ところで、今からでもいいから大通りに行ったら?
クリスマスなんだし、結構売れるはずよ」
修道女が立ち上がってそう言うと、商人は首を横に振った。
「俺みたいな美男子が大通りに行ってみなさいよ。
周りのお嬢様方が全部俺のところに来ちゃうじゃない。
他のヤツの商売を邪魔しちゃ悪いでしょ?」
「それもそうね」
真面目な顔をして答えた商人に、修道女は笑って頷いた。
「じゃあ、良いクリスマスを」
「ハイハイ、お姉様もお仕事頑張って!」
修道女の背中に向かって、商人は立ち上がり、大きく手を振った。
その背中が小さくなり、建物の影に隠れて見えなくなったところで、
彼はやっと手を振るのを止めた。
53名無しさんsage :2002/12/25(水) 02:20 ID:KZgKj7pk
商人は少しゴーグルをいじると、大きく溜息をついて、元の石畳に座り込んだ。
恐ろしく冷たかった。
「あ〜……クリスマスなんか嫌いだぁ」
これ言ったの今日だけで何回目だっけ? と彼は首をかしげた。
街中でいちゃつくカップルを見たときに一回。
露店の多い通りで互いのプレゼントを選ぶカップルを見たときに一回。
二人仲良くサンタ帽を被っているカップルを見たときに……もうやめよう。
ともかく、こういう行事のある日ほど、独り者の自分が惨めに思えるのだ。
「さっきのお姉様、とってもステキだったんだけどなぁ」
何しろ修道女、しかもプリーストである。クリスマスは忙しいに決まっていた。
もう一度溜息をつき、彼は足元に転がっていた石を指で弾き飛ばした。
―こんなんだったら、この間のあの子と仲良くしておくんだったな。
「おい、目を開けたまま眠っているのか?」
臨時パーティで一緒だった弓使いの少女を思い出していると、頭上から急に声をかけられた。
顔を上げると、見慣れたマジシャンの衣装に、長めの赤い髪が目に入った。
商人の青年はまた溜息をついた。
「何だお前か」
「いきなり失礼な奴だな」
つまらなさを隠す事無く呟く商人に、マジシャンの青年は顔をしかめた。
54名無しさんsage :2002/12/25(水) 02:20 ID:KZgKj7pk
商人はカートからリンゴを幾つか取り出して袋に詰めると、マジシャンの青年に渡した。
「……毒リンゴ?」
「違えよ、クリスマスプレゼント」
途端に、マジシャンが気味の悪いものでも見たような顔になる。
「何よその顔」
「お前が男にプレゼントって……天変地異の前触れか?」
「そうそう。俺みたいないい男が彼女もなくクリスマスにお店開いてるんだぜ。
どう考えても天変地異の前触れだろーが」
そこまで言うと、彼はゴーグルを外し、手袋を外して、
背中辺りまで伸びた紫の髪を乱暴に掻き毟った。
「つーか路地裏寒い。マジ寒い。ねぇそのマント貸してくんない?」
「誰が貸すか」
遠慮なく言い放ったマジシャンのマントを、商人が掴んだ。
「んじゃあさ、俺も入れて」
「誰がそんなみっともない事するか」
「いいじゃん誰も見てないし」
「そういう問題じゃないだろ。いいから離せ」
「けちだねー」
商人はそう呟くと、マントを軽く引っ張った。
「う、わっ」
バランスを崩したマジシャンが、商人の上に倒れ込むような姿勢になった。
「あら、言葉の割には大胆」
「お前のせいだろっ!」
半ば抱きしめるような形で支えた商人に、マジシャンは怒鳴りつけた。
55名無しさんsage :2002/12/25(水) 02:22 ID:KZgKj7pk
「大体、寒いならば町の中央で店を開けば良いじゃないか」
そう言いながら、マジシャンは商人の横に座り直した。
商人は退屈そうに足元の石を投げた。
「クリスマスにあんなところで店開けるわけ無いじゃん」
「それもそうか。確かに、酷い混み様だったし……」
「あー違う違う」
納得するマジシャンの横で、商人は首を横に振った。
「どこを見ても幸せそうなカップルばかり。
たまに一人で歩いてる美女を見かけたって、恋人の為のプレゼント探しの途中だったりするし」
あんな所で店なんか出来るか、と呟く商人に、マジシャンは溜息をついた。
「阿呆」
「ほっとけ」
商人はそう言うと、カートの中を漁り始めた。
安価な回復アイテムや、消耗品ばかりが残っていた。
「んー、今日はもう売れなそうだな」
いつもだったらこれからが勝負なんだけど、と心の中で呟いて、彼は立ち上がった。
太陽はちょうど傾き始めたところだった。
「あー寒い。お前昼飯食った?」
「いや、まだだけど」
「じゃあ食いに行こう」
そう言って、彼は広げていた商品をカートにしまい込んだ。
56名無しさんsage途中にもうひとつあったけどおしまい :2002/12/25(水) 02:24 ID:KZgKj7pk
マジシャンも立ち上がった。
「いいけど、どこの店も恋人や友人同士で溢れかえってるぞ」
何気ないその言葉に、商人が途端に嫌そうな顔をする。
「それ独り身の奴に対するいじめじゃない?」
「ああ、そうとしか思えない」
マジシャンも頷く。
商人は軽く舌打ちすると、外していたゴーグルを被り直しながら呟いた。
「飯ぐらい楽しい気分で食わせろよー……って、ああ、そっか」
急に彼が手を叩いた。
「お前、一緒に食事する奴探してたのか」
「はぁ?」
思わず間抜けな声を上げてしまったマジシャンをよそに、商人は一人納得する。
「そっか、お前人付き合い悪いと思ってたけど、下手なだけだったんだな。
かまって欲しけりゃ、さっさと言ってくれれば良かったのに」
そう言って、彼はマジシャンの頭を撫でた。
「馬鹿かっ、何一人で勘違いして……」
「照れるなって。ほれ、行くぞ」
嫌がるマジシャンの手を掴み、商人は町の中央へ向かって歩き出した。
商人は手袋をつけていない。
「お前、手袋つけないのか?」
「つけてる間にお前逃げそうなんだもん」
「……逃げないからつけろよ」
見てるこっちが寒い、とマジシャンが呟いた。
商人は笑って、彼の手を離した。
「やっぱりかまって欲しかったんだ」
「黙れ」
57名無しさんsage :2003/01/12(日) 02:45 ID:oWBG/A6Q
52-56の続きを激しくキボン
58名無しさんsage :2003/01/12(日) 15:26 ID:z.Rs1iCc
>57
時期ずれちゃってるから、続きは厳しいのでは…。
もしシリーズ物としての続きって意味だったらゴメソ。
59名無しさんsage :2003/01/18(土) 00:24 ID:gN2oPI9A
そうでつね。
時期ずれちゃってるでつね...。(´・ω・`)

58さん、レスありがとでつ。
60名無しさん :2003/01/22(水) 22:35 ID:Hg.XHH9A
http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi?bbs=ROMoe&key=1036625739
の212-213でちと妄想爆発したので書いてみます。導入が悪かったらすまん。

--------------------------------------
彼はもう何十分も露店の前に座り込んで一本の剣をじっと見つめている。
身に余るような剣を腰にズルズルと引きずる様子は確かに剣士なのだが、
剣士が良くつけているプレートもなく、ヘルムもないその姿はまだ初心者に毛の生えたようなものだ。

剣士がじっと見ているそのカタナはどこぞの武具店で転がってるありふれた剣とは違っていた。
風の妖気を涼やかに放ち、その切れ味は今まででは思いもよらないような迫力を感じさせる。

「ウインドカタナ 400K」

一流の「騎士」と呼ばれる者たちにとってはそう購入は難しくない物かもしれない。
実際街中で「カゼバッソ」とか言われるこれより上級のものだってあるらしいことも聞いたことが有る
しかしかけだし剣士である彼には永遠に手の届きそうにない金額に見えるのだ。
彼は手持ちのアイテム袋の中身をじっと眺める・・・どう考えても1桁、いや2桁違う。

「こんなの買う奴がいるんだよな・・・俺もこんなの持てるようになるのかな」

思わずぼやく剣士はそろぉっと手を伸ばし、ウインドカタナにそっと近づけてみる。
目の前のブラックスミス・・・おそらくこの剣を鍛え上げたものであろう・・・は
おそらく連夜の徹夜の作業が祟ったのだろう、ウトウトと名剣たちの前で舟をこいでいる。
触ってみるなら、そして振ってみるには今しかない。

とうとう剣士はその剣を握ってみた。
いつか、いつかこんな名剣をもって世界中を旅してみたい・・・。
しかしそのとき。ブラックスミスが自らの剣の不信な挙動に気づき目を開けたのである。

「剣士の兄ちゃんよ・・・その剣買うのかどっちなんだよ。盗る気なら、俺にも考えはあるぞ」

目を覚まし、手をジーンズのポケットに入れたまま剣士を睨みつけるブラックスミスは
かけだしの剣士よりずっと逞しく、自らも歴戦の勇者であることを物語っている。
すっかりおびえた剣士の目からボタボタと大粒の涙がこぼれおちた。

「あ・・・あ。あの、あの・・・ぼ、ぼくは・・・かえない・・・です。ご・・・めんなさい」
61とりあえずここまでかく。sage :2003/01/22(水) 23:14 ID:Hg.XHH9A
ブラックスミスはそんな子犬のような剣士の姿を見て手を腕組みし、
眉を八の字にして困って見せた。

「お、おいおいおい・・・大通りのど真ん中でそんなに泣くなよ〜。
商売人がお客泣かせてちゃ、俺が困っちまうだろ?」

そう言っても、剣士はまだヒクヒクとしゃくりあげる。
「しかたないなぁ。これじゃ商売上がったりだぞ」
そういってブラックスミスは店を畳むとグズグズ洟をすすっている剣士を
街の南東へ連れて行く。商人以外はあまり人のとおらない場所だ。

「とりあえず、これでも飲んで落ち着け。」
剣士は渡されたリンゴジュースをゆっくりとずず、と吸い込んだ。
彼らは普段は実にだらしない座り方をするくせにこの剣士に限って
やたら神妙なのがブラックスミスにはほほえましく思えた。

「どーせなんか事情でもあるんだろ?俺に全部話してみな。
どうせぜんっぜん売れねえしとことんまで聞いてやろう。」
ブラックスミスのふぁぁ〜とノビをしながらの問いにコクン、と剣士はうなずき、
ウインドカタナについてどう思ったかを率直に、素直に話す。

剣としての美しさ、人を吸い付ける力、そして自分がいつかこの剣がもてるような
立派な騎士になれるかどうか、とんでもない不安を持っていること。
だからつい買えもしない刀に手を触れてしまったこと。

「ほほぉ〜。たかがウインドカタナ一本でそこまで感動して
びーびー泣く奴がいるとは鍛冶屋冥利につきるねこれは。」
ブラックスミスはオノレの限界を知っている。
自分の作っているウインドカタナは世の中の同業に比べワンランク下の武器に過ぎないこと、
たかがカタナに失敗しやがってと馬鹿にされることもよくある。
そんな騎士どもに比べ、このつたない剣士のなんと真摯なことか。

「なんなら、まけてやるぞ?コイツだってな、お前みたいな奴に
愛してもらうのが一番の幸せだと思う。」
「でも・・・たぶん・・・無理だと思う。俺のアイテム袋こんな石ころしか入ってないし足りないもん」

ごろごろごろ。剣士は戦利品をあけて見せた。
あきびんとか、かえるの水かきだとか、商人の頃を思い出すような安い品々ばかりだった。
こりゃさすがに・・・足りないな。ブラックスミスもそう思った。

しかし、その中にキラキラと緑色に光る石がかなりあるのを見つけた。
「おい、おまえ、今何と戦ってるんだ?」
「ハチ・・・」
「はっはっは!お前いいもの持ってるじゃねえか、幸せ物!」
これはウインドオブヴェルデュール。少々であるがウインドカタナと同じ性質を持つ原石だ。

「鉄鉱石も随分あるな。重くて大変だったろうに」
「落ちたアイテムは全部拾わないとノーマナーだぞ、と地下水道で商人さんが教えてくれました」
「そ〜かぁ。いいアドバイスもらったな。」
「どういうことなんですか??」
きょとんとしている剣士のオデコをぴん!とブラックスミスははじく。

「なにをぼけーっとしてんだよ。喜べ。これだけあれば、お前に作ってやれるからな」
「えっ、何を?」
「お前がずーーーーーーーっと、見てた、剣にきまってるだろが。」

目の前のこのわけのわからない石ころたちがあのウインドカタナになるの?
その過程を想像するだけで剣士には訳がわからないし、夢のようである。
実際にはあと亡者の牙がいるのだが、まぁそのくらいはこいつのために出してやろう。
刀は愛されてこその刀だ。このさい利益などは考えまい。そうブラックスミスは思った。
62(´д`*) :2003/01/23(木) 15:46 ID:CNYnltiE
で、デムパが…デムパのせいでつ……

 抜けるような青空の下、人々は皆明るい表情で行き交うと言うのにこのプロンテラの街のとあるベンチに座り込む転職を目前としたノービスは一人浮かない顔でベンチに座り込んでいた。
「ハァ…」
 小春日和の陽気の中で、彼を暗い表情にさせるのは「転職」の二文字であった。
 彼はまだどの職業に就くのか決めかねていた。

「レン」
 と、そんな彼に声をかけるものがいた。
 レンとよばれたノービスが聞きなれた声に顔を上げると、そこにはやはり見慣れた顔が真新しい魔法士の衣装を纏って立っていた。
「ディー」
 名前を呼ぶと、ディーは陽光を照りかえりたかのような自分の金の髪をぞんざいに書き上げながらレンの隣に座り込む。
「なぁにシケた顔してんだよ?」
 それに対して些か気弱な表情でレンが微笑み返すと、今度はレンの顔を半ば隠すように伸びている栗色の髪をぞんざいに、しかし優しい手つきで掻き揚げる。
「まだ、悩んでるのか?しょうがねえ奴だなあ」
 そんなことを言いながら、ディーの口調は責める物でなく優しいものだった。
「僕は父様のように騎士になる素質もないし、お爺様のように魔導師になる資質も無いし…」
 レンがポツリと呟く。
 ディーはそんなレンの頭を優しく撫でながら
「何も魔導師や騎士だけが仕事じゃねえ、お前にはお前の適職が絶対にあるさ、だからゆっくり探すといいさ」
 と、言葉をかける。
 レンは頭にかかる自分より少し大きな手に、心地よさ層に目を瞑りながら頷く。
「ありがとう、ディー」
 ディーのぶっきらぼうだが、優しさの籠もった言葉にレンの沈んだ心がゆっくり浮上していく。
 そんなときだった。

「あぶねえぞ〜〜!」
「古木の枝が暴走した〜!!」
 と、ざわついた街の中からそんな声が聞こえた。
 古木の枝、それは年を重ねた老木から稀に取れる特殊な枝で、それを使うとモンスターが呼び出されるという。
 その言葉にディーが腰を浮かせる。
「やばそうだ、離れよう」
 促すディーに頷き、レンガ腰を浮かそうとした刹那
 目の前の空間が歪み、そこから凶暴な唸り声とともにグールが姿を現した。
「レン!逃げろ!!」
「……っ!」
 ディーの叫び声がレンの耳に届いたかどうか…
 しかし、レンは恐怖と驚愕に動き出す事が出来ず息を呑むだけだった。

「レン!早く逃げるんだ!!…ファイアーボルト!!」
 ディーはレンをグールから守るため、覚えたばかりの魔法をグールにぶつける。
 だが、最近転職したばかりのレベルの低いディーの魔法では、アンデッドの中でも高位なグールに深い傷を与える事は出来ない。
 ただ衝撃で、数瞬足止めをさせられただけである。

 それでもその隙を突いて、ディーは動けないでいるレンとグールの間に割り込み、自分の体を盾にするようにグールから守るように、レンの体を抱きこむ。
「ディー!」
 漸くそれに気づいたレンは、慌ててレンを引き剥がそうとする。
「危ないよ!!ディー逃げて!!」
「やかましい!逃げるならお前と一緒だ…ぐっ!!」
 レンの叫びに怒鳴り返したディーの肩を、グールの毒牙が抉る。
「ディーーー!!!」
 苦痛に歪むディーの顔を間近に見ながら、レンはそう叫ぶ事しか出来ない己を呪った。
 それにさらに追い討ちをかけるべくグールが手を振り上げる。
63(´д`*) :2003/01/23(木) 15:47 ID:CNYnltiE
もうだめだ!
 そう絶望したとき。

「神の威光を…リカバリー」
 低く通った声が、神聖魔法を唱えた。
 それは違うことなくグールに振りかかり盲目状態に陥れる。
 盲目になったことで、攻撃目標であるディーたちを見失ったグールはうめきながら次の獲物を探そうとする。

「神の裁きを…レックスエーテルナ。……セツ、いまだ」
 低い声はさらに弱体化魔法を唱えると誰かに声をかける。

 レンはその様子をディーの肩越しにかすかに見て取った。
 黒い神官服と、そこに並ぶ高位魔導師のみが待とう魔導衣。
 魔導衣を纏った人物―ウィザードが神官服を纏った男―プリ―ストに促され青く煌く石を捧げ持ち宣言した。
「…ファイアーピラー」

 その瞬間、グールを業火の柱が包み込み断末魔を上げさせる間も与えず灰燼と帰した。

 グールが灰の中に崩れ落ちるのを呆然と見ていたレンだったが、自分を抱きこんだままのディーが上げる苦しそうな声に我に帰った。
「ディー!」
 崩れ落ちそうなディーの体をなんとか支えると、先ほどグールを浄化した二人組みがこちらに駆けて来た。

「大丈夫か?けが人はこちらだけだな?カイン!」
 先に到着したセツと呼ばれていたウィザードが、レンとディーの状態を確認してついで駆けつけたプリ―ストに促す。
 カインと呼ばれたプリ―ストは軽く頷き、半ば意識の無いディーの傷口を聖水で清め、癒しの魔法を唱える。
「ヒール。…一応ブレスもかけとくか」


 カインの手当てが終わる頃にはディーの顔色はだいぶ良くなっていた。
「ありがとうございました」
 ベンチに横たわるディーの枕もとに座り込みレンが礼を述べると、カインとセツはなんでもないという風に首を振る。
「礼はそっちの魔法士に言いな。そいつがお前を守ったんだ」
 聖職者にしては些か乱暴な言葉づかいのカインが―実際態度も柄も悪そうであるが―ニッと笑みながら言う。
 その言葉に、いかにも魔導師といった知的な物腰のセツが頷く。
「彼は自分の手に余るモンスターでも、怯まず闘おうとしていた。立派だよ」
 その言葉に頷きながら、レベルの高い高位魔導師と司祭に褒められるディーに、レンは誇らしさと小さなうらやましさを感じた。

「気をつけて」との言葉を残し、肩を並べて去っていったカインとセツを姿が見えなくなるまで見送ったレンは再びべBB地に腰を下ろしディーの目覚めを待つ。
 安らかな表情で眠りこむ相棒の目覚めを待ちながら、レンは先ほどのことを思い出していた。

 自分を守り傷ついたディーに何もできなかったこと。
 カイン―プリーストの唱えたヒール。
 そして、グールに対する神聖魔法。

 攻撃力を誇るわけでもない、しかし…確実に相棒であるウィザードのサポートをしていたし、ディーを癒した。

   聖職者

 レンの頭に一つの選択肢が浮かんだ。
 モンスターを倒すだけが戦いじゃない。
 もとより闘いを苦手とするレンは直接モンスターと対峙するより、ディーのサポートをする方が自分の性格的にも向いてる様な気がした。

「こういう守り方もあるんだよね…」
 呟いたレンの声には明確な意思が籠もっていた。

 『聖職者になる』

 ディーが目を覚ましたらそう告げよう。
 そして大聖堂に行って神父に会おう。
 レンの表情は、抜けるような青空と同じように晴れ渡っていた。


だ・・・ダメだ・・・・・・
駄文過ぎる(涙)
マジ男×ノビ太(アコライト予定)…頭に浮かんだ萌えと何かが違う(´д`)
こっそり出てきたプリ男×WIZ男のほうが気になってしまったからかもしれない(つд`)
長くてヘボくてスマソ_| ̄|●
64(´д`*) :2003/01/23(木) 15:48 ID:CNYnltiE
もうだめだ!
 そう絶望したとき。

「神の威光を…リカバリー」
 低く通った声が、神聖魔法を唱えた。
 それは違うことなくグールに振りかかり盲目状態に陥れる。
 盲目になったことで、攻撃目標であるディーたちを見失ったグールはうめきながら次の獲物を探そうとする。

「神の裁きを…レックスエーテルナ。……セツ、いまだ」
 低い声はさらに弱体化魔法を唱えると誰かに声をかける。

 レンはその様子をディーの肩越しにかすかに見て取った。
 黒い神官服と、そこに並ぶ高位魔導師のみが待とう魔導衣。
 魔導衣を纏った人物―ウィザードが神官服を纏った男―プリ―ストに促され青く煌く石を捧げ持ち宣言した。
「…ファイアーピラー」

 その瞬間、グールを業火の柱が包み込み断末魔を上げさせる間も与えず灰燼と帰した。

 グールが灰の中に崩れ落ちるのを呆然と見ていたレンだったが、自分を抱きこんだままのディーが上げる苦しそうな声に我に帰った。
「ディー!」
 崩れ落ちそうなディーの体をなんとか支えると、先ほどグールを浄化した二人組みがこちらに駆けて来た。

「大丈夫か?けが人はこちらだけだな?カイン!」
 先に到着したセツと呼ばれていたウィザードが、レンとディーの状態を確認してついで駆けつけたプリ―ストに促す。
 カインと呼ばれたプリ―ストは軽く頷き、半ば意識の無いディーの傷口を聖水で清め、癒しの魔法を唱える。
「ヒール。…一応ブレスもかけとくか」


 カインの手当てが終わる頃にはディーの顔色はだいぶ良くなっていた。
「ありがとうございました」
 ベンチに横たわるディーの枕もとに座り込みレンが礼を述べると、カインとセツはなんでもないという風に首を振る。
「礼はそっちの魔法士に言いな。そいつがお前を守ったんだ」
 聖職者にしては些か乱暴な言葉づかいのカインが―実際態度も柄も悪そうであるが―ニッと笑みながら言う。
 その言葉に、いかにも魔導師といった知的な物腰のセツが頷く。
「彼は自分の手に余るモンスターでも、怯まず闘おうとしていた。立派だよ」
 その言葉に頷きながら、レベルの高い高位魔導師と司祭に褒められるディーに、レンは誇らしさと小さなうらやましさを感じた。

「気をつけて」との言葉を残し、肩を並べて去っていったカインとセツを姿が見えなくなるまで見送ったレンは再びべBB地に腰を下ろしディーの目覚めを待つ。
 安らかな表情で眠りこむ相棒の目覚めを待ちながら、レンは先ほどのことを思い出していた。

 自分を守り傷ついたディーに何もできなかったこと。
 カイン―プリーストの唱えたヒール。
 そして、グールに対する神聖魔法。

 攻撃力を誇るわけでもない、しかし…確実に相棒であるウィザードのサポートをしていたし、ディーを癒した。

   聖職者

 レンの頭に一つの選択肢が浮かんだ。
 モンスターを倒すだけが戦いじゃない。
 もとより闘いを苦手とするレンは直接モンスターと対峙するより、ディーのサポートをする方が自分の性格的にも向いてる様な気がした。

「こういう守り方もあるんだよね…」
 呟いたレンの声には明確な意思が籠もっていた。

 『聖職者になる』

 ディーが目を覚ましたらそう告げよう。
 そして大聖堂に行って神父に会おう。
 レンの表情は、抜けるような青空と同じように晴れ渡っていた。


だ・・・ダメだ・・・・・・
駄文過ぎる(涙)
マジ男×ノビ太(アコライト予定)…頭に浮かんだ萌えと何かが違う(´д`)
こっそり出てきたプリ男×WIZ男のほうが気になってしまったからかもしれない(つд`)
長くてヘボくてスマソ_| ̄|●
65(´д`*) :2003/01/23(木) 15:49 ID:CNYnltiE
むう、UPに失敗(´д`)
同じの二重書き込みスマソ(滝涙)
66名無しさんsage :2003/01/23(木) 17:30 ID:kA6q4ti2
>>62-63
good job >▽<b
成長した男どものかっこよさに書きながら
心揺れたりするのは♂萌えの性っしょ。

60-61と書いて続き書こうとしたら
これから出てこようとする殴りプリとクリアコに
物語を引きずられそうになって
うまくかけないでおる奴もいるこっちゃし(自爆)
67名無しさんsage :2003/01/24(金) 01:23 ID:oK5PI3.I
し、知らないうちに沢山の文神様が!
アリガタヤアリガタヤ。

続き待ってますヨ。
お暇なときには是非……。
68(´д`*) :2003/01/24(金) 02:08 ID:JExyEu2s
>>60-61

そう言っていただけると嬉しいです(感涙)
やはり、ヲトナのみりき(魅力)には惹かれますよね?よね?

60-61さんの続きもごっつ気になります(・∀・)b
BSと駆け出し剣士君……怪しい(・∀・)というか萌え(´д`*)
69名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/01/24(金) 23:43 ID:QvkHBs.M
街角のウインドカタナを食い入るように見つめているかけだし剣士の
真摯な心に打たれたブラックスミスは彼のために打算抜きで
自分の技術をかける事にしたのだが。

そんな前編 >>60-61
------------------------

剣士は小雪の舞うルティエでブラックスミスをまっている。
別にどこで鍛造しても構わないようなものだが、
「俺だって準備ってものがある。つれてこなきゃならん奴もいるしな!」
そう彼に言われたのだ。

人気のない雪の街に二人っきり・・・
そう、剣士もまた友人のアコライトを連れてここに臨んだのだ。
彼の栗色の髪には剣士と地下水路に挑んだときに手に入れた紫色のリボン。
それを寒さにカクカクと揺らせていた。
「腕のいい、信頼できる奴をつれてこいよ!」
そういわれている。たしかにこのアコライトは剣士にとってはかけがえのない友だが
所詮は駆け出し剣士の相棒。果たして役に立つのかどうか・・・。

不安を抱えた二人の前にブラックスミスが現れた。
「いよう!」
昼間見たときとは違うジャケット・・作業服だろう・・を着て、手には作業用のグローブをはめている。
本気なのだな。剣士はその気合に頭が下がる思いだ。

「よろしくお願いします!」
だが、ブラックスミスはにぱっと歯を出して笑うと剣士の頭越しにアコライトの頭をくしゃくしゃといじった。
「こいつがお前の相棒か〜?なぁかなか可愛らしい子だな♪」
「ぼ・・・僕男ですっ!」
「わかってるって。俺の相棒だって昔はアコライトだったんだから。」

渋いカオをしていたアコライトの顔が興味を帯びる。
「プリーストさまをお連れになられるのですね?」
アコライトは彼一人でこのような友人の儀式に臨む事に大きな不安を持っていた。
もし実力不足でカタナが手に入らないなんてことがあったら僕のせいだ・・・。
でももう不安はない。プリーストは彼には使うことのできない神がかりの幸運を呼ぶ力がある。

だがしかし、ブラックスミスは頬をポリポリと困った顔をしてかく。
「ん〜。そこのアコライト君。君が想像してるような聖人を
あの生臭坊主に期待するときっとがっかりすると思・・ぐぇ。」
そのとき、その頭の上から一人の男が振ってきて肩のうえにのしかかって彼の話しを止めてしまった。

確かにプリーストの服は着ている。がアコライトの想像してたものと彼は余りにも違っていた。
逆立てられた緑の髪には妖しげな剣が刺さっている上に、ブラックスミスと同じサングラスをかけ、
タバコをプカプカくゆらせて彼を押しつぶしている男は想像を越えていた。

「こら、そこの破戒坊主!何遍俺の上にポタするなと言った。降りやがれ!」
「そんな所に座るお前が悪いんだこのヘボ鍛冶屋が〜。今日はうまく行くのかよ?」
プリーストがそういいながらブラックスミスの肩をばんばん力強く叩くと、
その口を左右に引き裂くように横に引っ張って反撃する。
「あれはお前がばててグロリア止めたからしくじったんだろうが。ちったあ聖職者らしく勉強すればどうだ?」
「ひっはま〜(言ったな〜)」
登場するなりいきなりつかみ合いをする相棒で大丈夫なんだろうか・・・
剣士はブラックスミスとプリーストのつかみ合いの喧嘩に大きな不安を覚えた。
二人とも見事な筋肉してるのでこんな男二人に暴れられてはとても止められない。

ところがその間に割って入ったのは非力を絵に描いたような彼の相棒、アコライトだった。
「ブラックスミスさん!プリーストさん!神の御名のもと、敬虔な仕事の前に争っている場合ですかっ!」
目に涙を貯めて懸命に二人を引き剥がそうと努力したが、もとより力ではどうにもならない。
彼の武器は言葉と真摯な思いだ。彼の武器はあっさり通じたようである。

「あ、あ。えーとな。その、悪かった。神の御名なんていわれると俺も腐ってもプリーストだから困っちまうわ。なぁ?」
「そ、そうだな。頼むから泣くのはやめて欲しいかな〜とか。・・俺たち喧嘩するほど仲いいから。なっ。」
「お、おう」

つかみ合う手をすぐに握手に変えるブラックスミス達の豹変には剣士も唖然とするばかりだ。
「お、おまえ、意外と度胸在るんだな」
全く関係なく相棒・・・アコライトを誉めるのみであった。
70長いです、まだあります(スマソsage :2003/01/25(土) 00:27 ID:w8Ucm3Kw
とりあえず一息ついた4人はまず作業の確認を行う。

まずは剣士の持ってきている鉄鉱石を溶鉱炉で製鉄する。
これはまぁ一応ブラックスミスという職業のものならソコソコできるから問題ない。
「できれば鉄を何個か余らせたいところだな。一寸した財産になるし」
このくらい余裕がある。

次にウインドオブヴェルデュールを溶鉱炉で溶かし、ラフウインドを作る。
これは先ほどのように気楽ではない。鍛冶屋仲間でもっとも優れたものでも
確実に成功するとはとても胸を張れない。今日の場合は五分五分、今日の山場だろう。

そこまでいけば少し楽だ。あとはラフウインドと鉄を使い、刀を鋳造する。
とはいえ、やはりこれも五分五分に毛の生えた程度。予断は許さない。

「・・・だからそんなに高かったんだな。」
作業のあまりの遠さに溜息をつく剣士。
「大丈夫。できる!欲しいんだ!と思ってればできるよ。僕頑張るから。」
アコライトが下がり気味の剣士の頭をなでて気を落ちかせようとする。

プリーストは相変わらず不機嫌だ。くわえタバコのままアコライトを物色する。
「むー。俺ちょっと不満だぞ。どぉして俺がいるのにアコライトをつれてくる?ブレスできんのかよ。」
「はい!普段から熱心に勉学しておりますので自信があります。」
アコライトは立ち上がり、神に祈りをささげる。
「ブレス!父なる神よ、このプリースト様にその力を与えたまえ!」
そのときプリーストの周りを天使が飛び回った。その様子にブラックスミスは目を見張った。
「ほほぉ〜。いい相棒持ってるじゃんか剣士よ。これならバッソでもなんとかなりそうだな。」
「・・・ぐ、俺とはレベルが違いすぎる。悔しいがお前の力も借りよう。」

早速プリーストとアコライトの二人の援護の下、作業が始まる。
「ブレス!父なる神よ、このブラックスミス様にその力を与えたまえ!」
「グロリア!聖なる神よ、我らにご加護を!」

飛び回る天使たち、赤く燃える溶鉱炉、鍛造の鈍い音。
そして輝きとともに取り出される鉄。
「きれ〜だなぁ・・・・」
こう言うときにじっと見ていることしかできないのがもどかしい。
せいぜいブラックスミスが作業を行いやすいように、
大量の溶鉱炉とできた鉄を綺麗に整理して数えるくらいだ。

確かにアコライトなぞに戯れにもたせようものなら
フラフラになるほどの鉄鉱石ではあったが、実際に鉄になってみると実に軽く美しい。
ここまでくればなんとなくゴールも理解できる。胸が高鳴ってきた。
それに真剣に仕事に取り組むブラックスミスの逞しい背中にも惹かれるのだ。
そして見掛け以上に器用に動いて鉄を仕上げていくその腕にも・・・

「あ、あちっ!!」
突然・・・鉄を取り出すのに失敗したらしくブラックスミスは悲鳴をあげた。
「・・・あ、あははは。名工だってどじるからな。大丈夫。このくらいでは足りなくならないから」
「本番でしくじるなよ〜ったくっ!」
「お前安心して途中でうとうとしてただろぉっ!」
「お、お二人とも喧嘩しないでください〜。僕が、僕が悪いんですぅっ!」
「アコライトっ!お前が責任しょってどうすんだよっ!」

・・・実に騒々しいことだ。

----
(続きは明日。もう眠くてダメポ・・・)
71名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2003/01/25(土) 13:31 ID:N9pyw/UU
同じ神の元に集い、いかなるときも共に修行に励んできた俺たち兄弟にもついに別れの刻が訪れた。
兄が今宵、新天地へと旅立つのだ。
ギルドメンバー達に次々に別れを惜しまれる自分と全く同じ顔の兄。
その笑みももう、鏡の前でしか見ることはできないのだろう。

「じゃ、左遷先でもがんばれよ」
「左遷言うな!」
「寂しくても泣くなよ」
「お前こそ。俺は人気者だから問題ない。」

こうした掛け合いもこれで最後。
片割れを失ったまま生きていけるほど強くはないが。
一切の感情を胸の奥に押し込んで俺は笑った。

そして彼だけに届く詞を送る。

「長いことありがとな。兄貴みたいな相棒に会えてよかったよ。
 ・・・変人だが。」

「ん・・・俺もまあまあ楽しかったかな」

意地っ張りな俺らの精一杯の気持ちを込めて。

「それじゃまたな。」

「うむ。」

決して振り返ったりはしない。
これは兄との勝負みたいなものだから。
たとえその先に孤独が待ち受けていようとも・・・


実 話 で す 。
♂プリ様方がこんなメルヘンな別れ方をしたと聞き及びまして。
2人だけのwisでの別れ!萌えますた!!
お目汚しスマソ。
72(´д`*) :2003/01/26(日) 09:00 ID:FYTB2pCY
 リーンゴーンリーンゴーン……

 夕闇に染まりつつあるプロンテラに、夕刻を知らせる大聖堂の鐘が鳴り響く。
 家路を急ぐ人並みを掻き分けるように、一人のウィザードが歩いていた。
 彼の目的地は三日前から滞在している旅館だった。
 彼―セツ―の相棒であるプリーストの、年に一度の大聖堂参拝のために3日前に
プロンテラにやってきたのだ。
 しかし、プリーストの相棒―カイン―と違ってウィザードである彼には参拝の義務は無い。
 なので、カインが大聖堂に行っている間セツは次に赴くことになっている、
イズルードダンジョンについての情報収集や装備、道具などの買出しに歩き回っているのだった。
 今日は、下見のためにそのイズルードまで行っていたので帰りが遅くなってしまった。
 手にした荷物を抱えなおしながら、セツは宿絵の道をやや急ぐように歩調を速めた。
「すっかり遅くなってしまったな…」
 宿に到着したセツは、フロントで既にカインが帰っていることを確認して苦笑する。
 既に夕飯の時間なので、遅くなった事に文句を言われるだろう…
 そう思いながら、部屋に向かう。

 ガチャリ
「遅れてしまって済まない」
 セツはドアを開きながら詫びの言葉をかける。
 しかし、部屋にいるはずのカインからは返事がなく、室内も薄暗いままだった。
 セツが室内を見回すと、窓際の椅子に腰を掛けているカインを見つける。
「カイン?」
 声をかけても返事はない。
 ゆっくり近づいてみると、どうもカインは寝ているようだった。
 いつも人を小馬鹿にしたような表情を浮かべているカインであったが、
こうやって眼を伏せているときは、柄の悪そうな雰囲気はなりを潜めてい
かにも聖職者、といった雰囲気があるように見える。
 しかし、人に隙を見せたがらないカインのこんな部分は相棒であるセツ
以外に見ることは出来ないであろう。
 それを知っているセツは、ふ…と笑みながらカインに向けて手を伸ばす。
「カイン、起きろ。食事に行くぞ」
 そう言いながら説はカインの耳を軽く引っ張った。

 耳を引っ張られたカインは、かすかな痛みに眉を顰め目を覚ます。
「セツ…いてえよ」
 耳を引っ張られてことに文句を言うカインはいつものように言葉も柄も悪かった。
 文句を軽く聞き流したセツは、手にしていた荷物をテーブルに置き、
遠出したために少し埃っぽくなってしまったローブを脱ぎ埃を払うために
再びカインのいる窓際に移動した。
「どうせなら、もっと色気のある起こし方してくれよなぁ」
 カインのブーイングに、セツはローブを窓際ではたきながらにべもなく答える。
「ばか者。私の性格を知っていて、そのような要求をする方が愚かだ」
 味も素っ気もない説の答えを、予想していたカインはまゆを顰めた後
ニヤリ、と笑ってとんでもない事を言った。
「お前がどれほど色っぽいか……俺は一番よぉく知ってるんじゃねえか?」
73(´д`*) :2003/01/26(日) 09:00 ID:FYTB2pCY
バサバサバサ!
「うわあ!!」
「おっと、アブねえなあ!」
 カインのとんでもない言葉を聞き動揺したセツは、危うくローブを窓の
下に取り落としそうになり、それを何とか掴んだは良いが今度は自分が落ちそうになった。
 そしてそれを、セツの腰に腕を回し引き寄せる事でカインが救ったのだ。
「おっ…お前がいきなり変な事を言うからだろう!?」
 図らずカインの膝の上に座るような形になってしまったセツは顔を朱に
染めながらセツが反論するが、カインはニヤニヤ笑うだけだった。
「本当のことを言ったまでじゃねえか?なぁ、セツ?」
 降りようともがくセツを解放する訳は無く、両手をセツの体に絡め更に抱き寄せる。
「カ、カイン!は、離せ!」
 更に顔を赤くするセツに、カインはこの上も無く愉しそうに笑う。
「離せって言われておとなしく離すかよ」
 そう言いながら、ジタバタと暴れるセツを押さえつけ唇の端に軽くキスを落す。
「っ!!〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!カイン!!」
 不意打ちにキスされたセツは完熟トマトもかくや、というくらい顔を染める。
 その様子に、声を上げて笑いながらカインが漸くセツを解放する。
「さて、飯を食いに行こうぜ?」
 立ち上がり軽く伸びをしながらカインはセツを顧る。
「お前のせいで食欲減退してしまった」
 何とか平静を取り戻したセツは、はたいたローブを再び羽織ながら憎まれ口を叩く。
 カインはドアに向かいながらそれを聞くとニヤニヤ笑いながら振り返る。
「ちゃんと栄養つけてもらわねえと困るぜ?お前は俺のデザートなんだからよ」
 そう言うと、さっさとドアを開けて外に出て行ってしまう。
 取り残されたセツは、しばらくローブを羽織る途中の体勢のまま固まっていたかと思うと、
我に帰るや相棒の名を叫ぶ。
「カイ〜〜〜〜ン!!!!」

 扉の向こう側からは、愉しげな相棒の笑い声。

 セツが部屋から出てきたのは、もうしばらくかかりそうだった。


ぐはあ(´д`)
マジ男とノビ男の話に脇役で出たプリ男×WIZ男が気になって気になって気になって(エンドレス)
とうとう続きというか、二人をメインにして書いてしまいました(´д`)
萌えるかな〜〜?
と思いながら書いたところ、思いのほかWIZ男君が可愛くなってしまった(´д`*)
食事の後、WIZ男君はプリ男さんの美味しいデザートになったのは言うまでもないですな(´-`)

でも・・・・・つくづく駄文だね(つд`)
7460-61 70-71sage :2003/01/26(日) 15:20 ID:GU8jzfCc
一人降りるとドンドン文字神が降りてきてますねえ・・・Σd(・∀・)イイ!!
「長いだけのヘタレ」にならないようにまとめる努力しますので(;´Д`)

で、私が思うのはね、
「あっちゃ〜、この子達に名前をつけておいてやるんだった!」
ということだったりするのです。名前があると感覚が全然違う。

一応さ、全員の名前はあったりするんだが
それを思いついたのは61を書いた後(汗

職業で最後までとおすのと
今からでも名前にするのとに迷ってるんだけど
みんなは書くとき名前と職業の使い分け、どうかんがえてるんだろっ。
75名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/01/26(日) 21:43 ID:CjXr7uW2
あの…キャラ単品とか、ノーマルって書いちゃ駄目でしょうか?
男性同士も大好きなんだけど、たまに書きたくなって…。

>74
私は職業で通しています。
いい名前が思いつかないので……。
76名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/01/26(日) 22:06 ID:GU8jzfCc
>>75
単品もの見たいです♪ 自分が書くとドンドン人が増えて収拾がつかなくなる・・・。
あと、>>19-21でノーマルは既出。問題無しでしょう。
77名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/01/27(月) 22:22 ID:wYmuPlvk
街角のウインドカタナを食い入るように見つめているかけだし剣士の
真摯な心に打たれたブラックスミスは彼のために打算抜きで
自分の技術をかける事にしたのだが。
そんな前編 >>60-61

雪降るルティエにていよいよ鍛造の儀式?が始まる。
和気藹々!?と進行するブラックスミスとプリーストに
剣士とアコライトの熱い情熱をまぜてますます盛り上がる
そんな中編>>69-70

---
「さんじゅうに、さんじゅうさん、さんじゅうよん、さんじゅうご!よっしそろった♪」
材料を一生懸命数えていた剣士が歓声を上げた。

「50あってできたのは39・・・か。んー。俺鍛冶屋神に嫌われたのかなあ〜」
少しブラックスミスは不服そうである。自分の腕にしてはちょっとできが悪すぎる・・・
が、そんな不安は無理やり聖職二人が吹き飛ばしてしまうのだ。彼らも随分疲れているのに。

「なぁ〜に。悪い運は、チンケな事やってるうちに出しちまうのがいいんだよ!」
「大丈夫ですよ、神は私たちの味方だと信じています。」

微妙に神が違うような気がするのだが、この際気にするまい。
これからの作業はそんなに気軽ではないのだ。
ブラックスミスはウインドオブヴェルデュールを一つ、また一つ溶鉱炉の中に入れて融解していく。
「いつやっても・・・・緊張する。」
「その割には俺がグロリアする前に取り上げまってしくじるよな。」
「・・・・」
返事をしない。作業に真剣なのだ。剣士にはその横顔の余りにもの精悍さに息を呑む。
この人はモンスターだけじゃない、この一つの石とでも戦える人なんだ・・・。
その戦いの相手は今溶鉱炉の中・・・10のウインドオブヴェルデュールが紅く溶けている。

(いくぞ!頼む!)
その合図とともに神への祈りをささげるアコライトとプリースト。
「ブレス!父なる神よ、このブラックスミス様にその力を与えたまえ!」
「グロリア!聖なる神よ、我らにご加護を!」

「うおりゃっ!」
ブラックスミスは勢い良くその紅く燃える塊を引き出す。
そのとき。銀世界に緑色の風が舞うのを剣士は感じた。
そう、彼の目の前には見事な稲妻型の結晶、ラフウインドが現れたのだ。

「やた〜っ!あんたすげえよすげえよ〜」
剣士は首根っこにしがみついてブラックスミスの首筋にほお擦りした。
しかし、その手を引き剥がして体を思い切り振り払った。
「慌てるなアホっ!」
怪力にたまらずごろんと剣士は転がされる。
「まぁったくだぞ。次でしくじっちゃ、すべてが水の泡だ。」
「で、でも僕も緊張しました・・・・。ちょっと休憩させてください。」
「俺も同感。本番の前に一回休ませてくれよ。」
確かにプリーストもアコライトもずっと神に祈りつづけていたせいか消耗が激しい。

「オッケ。ラフウインドが冷えるまで休憩な。・・・剣士。そういえばブドウ持ってたろ?二人に食わせてやれ。」
「ブラックスミスさん、貴方って人は良く俺のカバンの中身全部覚えてますね。」
「商人はな、人のカバンの中身も最大限に生かすよう努力する職業なんだよ!」

本気なのか大嘘なのかわからないが自信たっぷりな言い草である。
78名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/01/27(月) 22:48 ID:wYmuPlvk
休憩の間に鍛冶屋の道具とか材料とかを物色する剣士。要するにひまなのだ。

「これが亡者の歯、かぁ〜。うえっ、きもちわり〜。」

ブドウの皮をプッ!と吐き出しながらプリーストが反論する。

「きもちわり〜!とはなんだ。俺様が浄化してやったんだからグールでもどうってことねえだろっ。」
「さすがプリースト様はちがいます〜。僕にもいつかそのようなことはできるようになるでしょうか。」
キラキラとした目でアコライトが見つめる。

「でも俺と一緒にボカスカ殴ってたんだがな〜。ちったぁ坊主らしい倒し方すりゃいいのに」
ブラックスミスが茶々を入れる。妙にトゲのあるつっこみだ。
でももうプリーストは今回は彼を殴らなかった。
(喋らないと緊張でつぶれそうなのだろう・・・)
なぜならブラックスミスはリンゴジュースを吸いながらそういっているのである。
体力が減ったわけではない。この寒い中緊張でのどまで渇いているのだ。
(ゴツイ体なのに、可愛い奴・・・)
ブリーストは「ふっ、そうだな」と右唇のみで笑った。

さて、と彼はこの日のために下ろしたというオリデオコンの金槌をもって
先ほどの鉄を熱しては叩き、熱しては叩きし始めた。
鉄を追加し、亡者の歯を追加していく間にその鉄の塊は徐々に長い棒となり、
徐々に刀らしい形になっていく。剣士はウロウロウロウロしながら
「もうすぐ完成なんだ〜楽しみだなあ」
「ま、まだまだ・・・最後に刀に命がうまく吹き込まれなければただの鉄くずになってしまう・・・」
金槌を振りながらブラックスミスが答えた。

そう。ここにカタナ作りの最後の難関が残っている。
鍛冶屋神よ、どうか俺のため、そして剣士のため、そして俺達のために祈ってくれる
二人の仲間たちのために、どうかこのカタナに素晴らしい命を・・・

すべての材料が金敷の上で形となった。
(たのむ!)
目で合図を送るブラックスミスにプリーストとアコライトは目を閉じ、最後の祈りをささげる。
「グロリア!聖なる神よ、我らにご加護を!」
「ブレス!父なる神よ、このブラックスミス様にその力を与えたまえ!」
剣士も目を閉じ、祈りをささげた。何もできないけど。
ブラックスミスはウインドカタナに命をささげるべく最後の一振りを風色の塊に投げ入れた。

カツン!

・・・すべてが、終わった。
剣士はゆっくりと強く閉じた目を開ける。
その目の前にはブラックスミスがあの時見た、風の妖気を放つ刀を持って立っていた。

「ほれ、できたから振ってみろ。俺じゃ良くわからんからな」

作った本人は試し切りできないのが残念そうではある。

「振っただけなら普通のカタナみたい・・・」
「そーかそーか、切らないとわかんないか。しょぉがねぇ、ホルグレンのオヤジに挨拶してくっか。」
79名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/01/27(月) 23:41 ID:wYmuPlvk
「うっわぁ〜。剣士君みてみて!水道とは凄くちがうよねえ〜」

アコライトはバイラン島のダンジョンに入ったとたん
チャパチャパと水の中に走っていく。

「綺麗な水にはしゃぐとはガキだなあ〜」

タバコを前歯で弄びながらプリーストが愚痴ったれたが、次の台詞には流石に息を呑んだ。

「これだけ綺麗だと聖水にできるますよ、プリーストさん」
「・・・一寸認識がちがってたようだな」

「さーて。何から行ってみようかな、と。」
獲物を物色していたブラックスミスはとりあえずその辺をフワフワ浮いているプランクトンを指差した。
「ま、とりあえずそれきってみ。」
こいつなら剣士もアコライトも見覚えがある。結構倒すのも面倒で放置していたものだ。

でもこのウインドカタナはちがいすぎた。
サクッ。まるでポリンでも切るかのようにこのモンスターくらいならみじん切りにしてしまう。
「げっ・・・」
切れ味が全然ちがうので驚くしかできない。

「じゃ、こいつと、こいつと・・・こいつも」
ポコ、ボコ、ボコとそこらのカニだのクラゲだのカエルだの頭を殴って注意をひいては
剣士に試し切りさせるブラックスミス。
「よいしょっ!おりゃっ!このっ!」
・・・流石にちょっと強かったが何とか倒せた。彼らのレベルからすれば大健闘である。

その一生懸命な姿を見ていたブラックスミス。一寸戦闘意欲が涌いたらしい。
「さぁて・・・そろそろ俺も殴りたくなってきたんだが。下に行くか〜?」
プリーストのほうに向き直るとプリーストはおうよ!と腕まくりをする。
素手でも俺たちを殴り殺せるんではなかろうか、と剣士は思った。
「海底散歩だな!俺たちじゃカエルじゃ面白くねえもんな。アコライト君ヒールよろしく〜」
「お前はそれでもプリーストかっ!」

海の中にはかけだしの剣士たちには想像もつかない生き物がいっぱいいた。
剣士とアコライトが二人でマリンスピアを叩いているあいだに
ブラックスミスとプリーストは襲い掛かる生き物たちを次々なぎ倒していった。
「アドレナリンラッシュ!偉大なる鍛冶屋神よ!俺たちに神速の武器捌きをくれっ!」
「キリエエルレイスン!聖なる神よ、我らに偉大なる護りを与えたまえ!」

自分たちには想像もつかない速さ、激しさで殴り倒す二人。
もちろん武器一つくらいではまだまだ太刀打ちできない。
でもいつか二人でここにこよう。そう剣士とアコライトは思った。

「ふー、いい運動になったな。おーい、プリースト。そろそろ上がって休むぞっ。」
「おうよ。久しぶりにウインドチェイン振り回したら爽快だったぞ。」

ダンジョンから抜け、緑の芝生の上、4人はしばし体を休める。
「今日はどうもありがとうございました、俺、いつか恩返しします。制作代金も払えてないし」
「ま、そうだな・・・代金はいらねえな。それより」

精精そのカタナの期待を裏切らないように頑張ってくれれば俺はそれでいい。

そう言おうとしたのだがその相手、剣士は相棒と頭を寄せ合い、
いきなりクゥクゥと眠りにつき始めていた。・・・無理もない。
朝から剣をじっと見つめていて、昼間から剣を作り、ダンジョンに入ってる間に
あたりはもうすっかり暗くなりかけている。

風邪をひかないように二人に上から余りもののジャケットを羽織らせる。
俺もちと休むかな。芝の上に寝転がったブラックスミスの顔をプリーストが覗き込む。

「なぁ。正直にいえ。いわんと神の呪いがかかるぞ」
「なんだよぉ、俺だって眠いんだよ」
面倒くさそうにブラックスミスはごろんと寝返りを打って顔をそむける。

「お前、本当はカタナ作るのしくじったろ」
「ばれたか・・・はは。残骸を始末するのはちょっと大変だったよ」
「こいつらはたまたまそういう儀式知らないからいいけど、演技するの大変だったんだぞ。」

ごろん。もう半回転してまたブラックスミスはプリーストの顔を見る。
「だって・・・あいつらの顔見て『失敗しました〜。』なんてお前言えるか?」
「で、あの売り物のウインドカタナ渡しちゃったってか?・・・お前お人よしだなあ。口裏合わせる俺もそうだがな」

ふふ、とブラックスミスは所在なさげな手を頭の後ろに回した。
「俺は単に儲けたくて武器を作ってるんじゃない。武器に対する思いを形に、そしていつか究極の武器を・・」

そういうお前の夢が好きで、俺は付き合ってやってるんだから。
そのときにお前のそばにいるのはやっぱり俺がいいな。

そんな照れくさいこと言うのを保留する代りに
うつらうつらし始めたブラックスミスの耳元にプリーストはお休みのキスをした。

「今日はお疲れさん・・・俺もな。」

----
(とりあえずおわっとく。)
8060-61、69-70、77-79sage :2003/01/27(月) 23:52 ID:wYmuPlvk
とりあえず長すぎ!でも自分的には書きたい放題書けて満足(汗)

1対1のカプリングの好きな人にとっては不服な内容になっちゃったかも。
実際はプリ×BS、剣士×アコがカプールなんですが
これが思いっきりクロスオーバーしちゃってるので、読み取れないかも。
どさくさに紛れてBS×剣士、プリ×アコのからみも混ぜようとしとるし。

それにしてもね、実は当方が当事者になりえたりするわけで、
やっぱ豪快なINTが非常に控え目な殴りプリ(グロリア付き破戒坊主)の相棒、欲しいでつ。
不良そのものの逆毛グラサン希望、当方工事帽グラサンBS両手剣は2
(相棒スレに逝けっ!)

あともう一つ・・・このマジメで純朴で
厨という言葉とは無縁な剣士君の成長をじっくり見届けたい。
といういらぬ創作意欲が・・・
(もういい加減飽きなさい!)
81名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/01/28(火) 21:44 ID:pPMXRTqc
80さま
素敵なものをどうもありがとうございました。
萌え萌えです
BS×剣士に萌えかけてしまった…

あぁ…さっさと殴りアコ、プリにしたいなぁ…(まだ32才)
お疲れ様でした。

>>といういらぬ創作意欲が・・・
是非!!
82名無しさん(*´Д`)ハァハァsage♀商人と♂アサ :2003/02/01(土) 01:36 ID:kcLmTt46
まずい。非常にまずい。
彼女はカートを引きながら、薄暗い洞窟を走り続けた。
「死人にもてたって、嬉しくないっつーの!」
彼女は大声で叫んだ。
彼女の後ろを、ゾンビの群れが追いかけてくる。
―あそこを曲がればっ……!
速度を落とす事無く、彼女はカートと共に岩陰に滑り込んだ。
荷物が落ちないのは、彼女のドケチ根性のなせる業だろう。
しかし、そこで彼女は、自分の考えが浅はかであった事に気付いた。
「何でここにもいるのさっ……」
岩の陰になって見えなかったのだが、そこにも大量のゾンビが待ち構えていた。
死人は生者よりも足が遅い。
だが、これだけの数のゾンビの間をすり抜けて逃げることは、まず不可能であった。
前も後ろも、獲物である愚かな生者を見逃してくれそうに無い。
一瞬、カートを置いて走れば逃げられるかもしれないと考え、すぐに首を振る。
そんな勿体無い事は出来ない。それに、逃げられる保障だって、どこにも無いのだから。
―あぁ、神様仏様癌砲様、何でもいいからこの薄幸の美少女を助けて。
彼女は覚悟を決めてカートを置き、背中に背負った斧を両手に握った。
息を吸い、飛び出すタイミングを見極める。
後ろから亡者の群れが迫ってくるのが分かった。
―しゃあない!
彼女が斧を構え、飛び込もうとしたそのとき。
目の前にいたゾンビの群れが、粉々になって崩れ落ちた。
「年若いお嬢サンを集団で襲うなんて、近頃のゾンビは教育がなってませんネ」
驚く彼女の目に、長い金髪をひとつに束ねた、暗殺者の背が映った。
83名無しさん(*´Д`)ハァハァsageクールなアサ好きな方、申し訳ございません… :2003/02/01(土) 01:37 ID:kcLmTt46
暗殺者は流れるような動きで、彼女の背後に迫るゾンビに近寄った。
彼女が振り向いたときには、そこにはどろどろとした物体が崩れ落ちているだけだった。
緩いウェーブを描く金髪が、彼の動きにあわせて宙を舞う。
優雅な足運びは、まるで艶やかな舞のようである。
ぼんやりと見つめていた商人の少女は、ようやく我に返った。
―……そう、アタシが求めてたのはこういうのよ! これこそ野望達成の第一歩!
今まで死の淵に立っていたとは思えない呑気さで、彼女は一人頷いた。
彼女の野望。それは、どんな大商人にも負けないような店を構えることである。
そこまでは多くの商人が求めるのと同じなのだが。
―ああいう格好いい男を雇って、金持ちを馴染み客にして、リッチな逆ハーを築くのよ……!
目の前の男は、少し喋り方が変わっているが、声から想像すると美形に違いない。
どうにかして懇意になろうと決意を固める彼女の目の前で、暗殺者は次々とゾンビを倒していく。
「ふぅ、ナカナカ根性のある奴ですネ」
彼はそう呟き、最後の一匹の方を見た。
「けれど、ワタシの方がど根性です」
その言葉が終わるときには、すでにゾンビは地に崩れ落ちていた。
「終わりましたヨ」
「あ、はいっ!」
商人は慌てて背中に斧を背負いなおし、暗殺者の方に駆け寄った。
「お怪我はありませんカ?」
「はい、ありがとうござい……」
お礼を言おうとした彼女は、しかし振り向いた暗殺者の顔に言葉を失った。
優雅な金髪の持ち主は、顔にガスマスクをつけていたのだ……。
84名無しさん(*´Д`)ハァハァsageノーマルカプでもない気が :2003/02/01(土) 01:38 ID:kcLmTt46
口を開けたまま呆然としている商人を見て、暗殺者は首をかしげた。
「ドコか、痛みますか?」
「……え、あ、えーと……」
何て言えば良いのか分からない商人をよそに、暗殺者はポン、と手を叩いた。
「アー、ワタシの戦いっぷりに惚れましたネ?」
ああ、美しいとは罪、と叫び、天―といっても洞窟の天井―を仰ぐ暗殺者に、商人は内心頭を抱えた。
―駄目だ、こいつ。
確かに戦い方は惚れ惚れした。
後姿や足運びは優雅だったし、体つきもなかなか良い。髪の毛もサラサラだ。
だが、ガスマスクを被っている暗殺者の、どこに惚れればいいのだろう。
これじゃあ肝心の顔が分からないではないか。
「本当にダイショブですカ?」
そういって覗き込んでくるガスマスクに、彼女は慌てて首を振った。
「大丈夫です、ちょっと驚いてしまって」
「確かに、あの量は異常でしたネ」
いやアンタのガスマスクだよ、と叫びたい気持ちを必死に押さえて、彼女は笑顔で頷いた。
とりあえず、コイツから早く離れなくては。
彼女はカートに駆け寄り、中からニンジンを大量に取り出して袋に詰めた。
「これ、少ないですけど、助けてもらったお礼に」
必死に笑顔を作り、その袋を暗殺者に押し付ける。
「オー、ありがとうございますっ♪」
そんな彼女の様子にも気付かず、暗殺者は嬉しそうに袋を受け取った。
「あの、ここ危なそうだから、私は街に戻りますね」
商人はそう言って、カートを持ち直した。
「出口までお送りしましょうカ?」
そう言って手を差し伸べるガスマスクに、彼女は首を横に激しく振った。
「いえいえっ、そこまでして頂かなくても大丈夫ですっ!」
そう叫び、彼女は出口に向けて全力で駆け出した。
「遠慮しなくても良いんですけどネー……」
残されたガスマスクはそう呟き、ニンジンを抱え、鼻歌を歌いながら洞窟の奥へと向かった。
85名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/02/01(土) 01:38 ID:kcLmTt46
人の少ない、日当たりのいい所に露店を広げながら、少女はぼんやりと考えていた。
あのガスマスクを外したら、どんな顔が現れたのだろう。
もしかしたら、綺麗な顔を隠す為にガスマスクを被っていたのかもしれない。
いや、そんなはずない、と彼女は考え直す。
別に顔を隠す利点はどこにも無い。
それにあの言動がある。さっさと別れて正解だったのだ。
世の中には、もっと格好良くて、まともな男が溢れているに違いないのだから。
自分だってそれなりに可愛いし、もう少し大人になれば、すぐに素敵な男性が集まるだろう。
ただ、ちょっと運が悪くて、いい男と巡りあえないだけだ。
そこまで考えて、彼女は溜息を吐いた。
「どっかに、いい男いないかなぁ……」
「ワタシをお呼びですカ?」
「おうあああぁぁっ!?」
突然目の前に現れたガスマスクに、彼女は悲鳴を上げた。
「な、何でここに!」
焦りながら叫ぶ彼女の目の前で、ガスマスクはうーんとうなり、頭を掻いた。
先程は暗くて気付かなかったが、頭には見事なヒマワリが咲いていた。
ただでさえ高い身長が、更に高くなって、相手を威嚇するようである。
いや、身長よりも外見の方が恐怖を感じさせるのだが。
「先程もらったニンジンを食べようと座り込んだら、ムナックに囲まれてしまいましてネ。
 ちょうどコレを外しかけてた時でして、付け直すのに手間取ってボコボコ殴られてしまったんデスよ。
 あんまりにもヤバイから、慌てて戻って来たんデス」
魔物までワタシの美しい顔に惹かれたんですネと付け加え、彼はガスマスクをこんこんと叩いた。
商人は気付かれないように溜息を吐いた。
―やっぱりこいつ駄目だ。
「という訳で、ニンジン売って下サイ」
そう言って、ガスマスクが目の前に座る。
「お金出してヒールしてもらうほうが安上がりじゃないですか?」
そう聞くと、ガスマスクは悲しげに首を振った。
「ソレが、ワタシが近づくと皆逃げてしまうんですヨ」
そりゃそうだ。
そう思ったが、彼女はそうですかとだけ答えて、ニンジンを袋に詰め始めた。
86名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/02/01(土) 01:39 ID:kcLmTt46
見た目がどうであろうと、客は客である。
大量にニンジンを購入してくれる人は、例えガスマスクでも素敵なお客様だ。
「……はい、ちょうど受け取りました」
ニンジンの代金を数え、商人はガスマスクに営業スマイルでニンジンを渡した。
「ありがとうゴザイマス」
彼はそう答えてニンジンを受け取ると、キョロキョロと辺りを見回した。
「ここで食べててもいいデスカ?」
あまり多くの人に顔を見られたくないのですヨ、と彼は付け加えた。
「どぞ……って洞窟とかではどうしてるんですか?」
「人がいないのを確かめ、壁の方を向いて外すんですヨ」
洞窟で壁に向かって座り込み、ひたすらニンジンを齧る暗殺者。
足元にはガスマスク。
頭に浮かぶ惨めな姿に、商人の中で、暗殺者に対するイメージが音を立てて崩れていった。
―どう考えても、ガスマスクいらないじゃん……。
きっと頭のヒマワリに脳みそを吸われているに違いない、と彼女は思った。
ガスマスクのほうは、さっさと彼女に背を向けて、ニンジンの袋を開けている。
その背中に、彼女は静かに決意を固めた。
「あの……」
「何デスカ?」
振り向いたガスマスクに、商人は勇気を振り絞って言葉を続けた。
「顔、見せてくれませんか?」
ニンジン値引きしますから、と付け加える事も忘れなかった。
隠されていると、余計に見たくなるのが人間の心理だ。これで美形なら儲けものである。
「フム……」
ガスマスクはそう呟き、商人の顔を見た。
暗殺者の目は、ガスマスク越しでよく分からない。
商人が真っ直ぐに見つめ返す。ここで引くわけには行かなかった。
奇妙な沈黙が辺りを支配する。
そよ風が、ガスマスクに寄生するヒマワリの葉を揺らす。
笑わないようにしようとすればするほど、ガスマスクとヒマワリのコンボがつぼにはいる。
とうとう彼女が絶えられなくなり、口を開きかけた時だ。
「モウ、惚れちゃダメですヨ♪」
キャッ、という不気味な呟きとともに、ガスマスクは頬に手を当てた。
―やった……!
彼女は心の中でガッツポーズをとり、無言で頷いた。不気味な呟きは聞かなかったことにした。
暗殺者がガスマスクを外す。
ドキドキと少女が見守る。
「……ふぅ、やはり洞窟の外のほうが気持ちいいデスネ」
軽く溜息を吐いて、暗殺者が商人に笑いかけた。
―お、いい男。
自分で言うだけあって、彼はなかなかの美形であった。
まじまじと見つめる少女に、彼は頬に手を当て、恥ずかしがるような素振りを見せた。
「惚れちゃダメって言ったのに♪」
やはり、キャッ、という呟き付きである。
やっぱりどっか変だ、と商人は思った。
87名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/02/01(土) 01:39 ID:kcLmTt46
人間というのは都合のいい生き物であり、見た目が変わるだけですぐに打ち解けてしまう。
彼女らの場合も例外ではなかった。
「ウーン、美しいお嬢さんに美味しいニンジン。ワタシは幸せ者ですネー」
幸せそのものの表情でカリカリとニンジンを齧りながら、暗殺者が呟いた。
「そうよね、アタシやっぱり美人よね」
彼の言葉に、商人が力強く頷く。
「エエ、あと数年もしたら素敵なレディになりますヨ」
「そうよねそうよね。でもアンタも格好良いわよ」
「そんな分かりきった事、今更言わなくっても良いですヨ」
そう言いながら、彼は金色の前髪を左手でかき上げ、白い歯を見せて笑った。
―爽やか暗殺者ってのもいいわ……。
うっとりとした表情で、彼女は暗殺者を見つめた。
右手に握られた、食べかけのニンジンは見なかったことにした。
「ってアンタ、そんなに格好いいのに何で顔隠すのさ?」
露店の荷物を並べなおしながら、商人がもっともな質問を口に出す。
「そりゃ、哀れなレディがついてきてしまうからに決まってるジャないデスカ」
自信たっぷりに断言する暗殺者に、商人は首をかしげる。
「いいじゃない、女の子にもてるの好きでしょ?」
「エエ好きですよ」
でもね、と付け加えた暗殺者に、商人が顔を上げた。
途端、空気が張り詰めるのを、彼女は感じた。
彼女の目の前にいるのは、あのいかれた爽やか暗殺者ではなかった。
同じ人間ではあるのだが、その目に浮かぶ色がまるで違う。
生きているものに死の恐怖を与える、暗殺者の目。
魅入られたように硬直する商人に向かって、冷たい目の暗殺者は優しく微笑みかけた。
「狩りの邪魔をされるのは、殺したいほど大嫌いデス」
あくまで優しいままの口調が、余計に彼女の背筋を冷たくする。
どれだけふざけた格好をしていようと、目の前の男は暗殺者なのだ。
しかも彼は、生き物を殺す事に快楽を覚えている。
それだけの事実を、今更ながら思い知る。
「……そう」
商人はそれだけ言うと、自らの仕事に戻った。
手が微かに震えている事に、彼女は気付かなかった。
88名無しさん(*´Д`)ハァハァsageおしまい :2003/02/01(土) 01:40 ID:kcLmTt46
「さて、大分回復したし、また狩りに向かいますカ」
元のふざけた表情に戻って、暗殺者が呟く。
ニンジンの詰まった袋の口を縛り、ガスマスクを被りなおすと、彼は立ち上がった。
「お嬢サンは行かないデスカ?」
暗殺者の言葉に、商人は首を横に振った。
「アタシはもうちょっとお店やってる」
「そうデスカ」
ではお先に、と彼が歩き出す。
「……あのさ」
聞き取れるギリギリの大きさの声で、商人が暗殺者の背に声をかける。
「もし、もしも狩りより女の子はべらすほうが楽しくなったら、アタシに言って。
 アタシ、素敵なレディになる頃には首都に大きなお店構えてるはずだから」
自らの決意を固めるように、商人は言葉を続ける。
「そしたらアンタ、うちのお店で働いてよ。
 アンタの顔なら間違いなく沢山の女性客が来る。
 アンタは女の子にモテモテ、アタシは大金持ちでウハウハ。いいと思わない?」
暗殺者が振り返る。
「それに、アタシの店で働けば、いつでも素敵なレディのアタシに会えるのよ」
そう言うと、商人は飛び切りの笑顔を浮かべた。
「……狩りに飽きたら、アナタに会いに行きマショウ」
暗殺者は中世の騎士のようなお辞儀と共に答え、洞窟に続く道を歩き出した。
「待ってるからねっ!」
商人が笑顔のまま、暗殺者を見送った。
耳の奥で、先程の彼の言葉を想いだした。
優しくて、どこか楽しげな声だった。
「あ、でもうちの店の中でガスマスクは被らないでよ!」
大声で叫ぶと、ガスマスクの暗殺者は振り返って大きく手を振った。
同時に、頭のヒマワリがゆらゆらと揺れた。
結局、何故ヒマワリなのかは分からないままだった。
89名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2003/02/01(土) 21:50 ID:BDscQ35w
新作キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!!

アサシン=クールでカコイイ というイメージが崩壊…いい意味で。
変な話し方と、ひまわりがヒットしますた(*´∀`)
90名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/02/02(日) 18:57 ID:nJU2hbzo
>82-88
面白カッタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!

ガスマスクひまわりアサシン……!惚れます。
91逆毛の剣士sage :2003/02/03(月) 00:01 ID:CvMUfa9A
昔、プロンテラにガイアとティナという二人の可愛いカップルがいました。
ガイアは剣士、ティナはアコライト。いつも仲良くとても微笑ましい二人でした。

「オレは強くなる!」
それが誰のためなのか、わかっていないのは本人だけのようでしたが、
ガイアは口癖のようにいつもそう言っていました。
「…うん、ガイアならできるよ」
そう言いながらいつも優しくガイアにヒールをかける姿を、街の人たちはいつも目にしていました。

そんな彼らに転機が訪れたのは二人が背伸びをして、通称兄貴森と呼ばれるところに出かけたときのことでした。

「ぐっ、バッシュ!!」
数えたくないほどの兄貴、オークウォーリアーとゴブリンに囲まれながら、それでもガイアは必死にティナに襲いかかろうとする
ゴブリンに向かって剣を振るう。
ゴブリンがその仮面に隠された目に怒りをたぎらせながら、ガイアに標的を変える。
だが、その間に10を超えるオークたちの攻撃がガイアに叩き付けられた。
「ぐぁっ!」
ウートンメイル越しに鈍い衝撃がいくつも襲いかかり、ガイアは思わず声をもらした。
「ヒ、ヒール!」
ティナは必死になってガイアに癒しをかけるが、それとて限界に達していた。
「…だ、だれか! 助けて」
あまり大きな声とは言いがたいが、ティナなりに精一杯大きな声を出したつもりなのだろう。
だが、戦闘の衝撃音を凌駕できるほど大きな声ではないのは明らかだった。
「……くっ」
もはや、ガイアは半ば意識朦朧としながら、自分に振り下ろされつつあるオークウォーリアーの
斧を他人事のように眺めていた。
(……ティナだけは……守りたい)
それすらかなわぬと思いながら、ガイアは自分の情けなさを恨んだ。
その時だった。

「ボウリングバッシュ!!」
92逆毛の剣士sage :2003/02/03(月) 02:34 ID:CvMUfa9A
あまり大きくはないが、よく通るその声でガイアは意識を取り戻した。
「……あ」
最初に出てきたのは間抜けな一文字だった。
見れば今まで彼をさんざん苦しめていたオークたちの死体が転がっていた。
そして、彼の目の前にはプレート、ヘルムといった頑丈な装備に身を包んだ、騎士の姿があった。
「小僧、大丈夫か」
厳しい表情のまま、騎士はガイアに問い掛けた。
「は、はい」
体が痛むが、出きる限りしっかりとした返事を返すガイア。
だが、大事なことを思い出し、彼は再び平静を失った。
「そうだ、ティナ!」
慌てて周囲を見まわすが、ティナの姿は見当たらない。
「落ち着け、小僧。アコライトの娘ならこいつの上にいる」
騎士の指差す方向には、ペコペコの上で気を失ったティナの姿があった。
「…よかった」
ようやく安堵の表情を浮かべるガイア。だが、騎士は冷淡に言い放った。
「無様だな」
騎士の表情は固い。
「剣士は人を守ってこそ意義がある。そのことをよく考えるんだな」

ガイアは返す言葉がなかった。
「……くそおぉっ!」
ようやく怒りとも悔しさともとれる言葉がでたのは、騎士がティナの手当てをして去った後のことだった。
何が悔しいのか、彼にもわからない。
ティナを守れず、オーク達に完敗し、そして騎士にあきれ果てられ。

彼が、ことさらに強さを求めるようになったのはそれからのことだった。


続きはまた明日。
……眠い。
93雪の街 1/4sage :2003/02/07(金) 02:14 ID:41tFUDXI
「……ここも寂しくなったもんだなぁ」
一年中クリスマスが続くという街、ルティエ。
クリスマスには活気がありすぎるほどだったこの街も、今は人一人見当たらない。
オレも単に露店に置くイグ葉を買いに来ただけで、それ以外の用があるわけじゃないんだが。
誰も居ない街に積もる雪を美しいライトアップが照らす姿は、幻想的だがどこかもの悲しかった。
「なーに感傷的になってんだっつの、オレは」
らしくないな、と苦笑いをし、オレは目的を果たすために歩き出した。
「ん……?」
白い景色に、黒い衣装の男が立っていた。対照的な色彩から、その姿がはっきりと見える。
オレはすぐにそれがアサシンの男だとわかった。
男は何をするでもなく、雪の中で佇んでいた。
「何してんだ、あんた?」
「…………」
男は無言でこちらを向いた。その頬に光るものが一瞬見えた気がして、オレは焦った。
「いや、その、こんな所に来るなんて珍しい奴も居たもんだなって、な?」
「……雪を、見せにきた」
「見せにって……?」
辺りを見回しても、彼以外に人は見当たらない。
「……綺麗なものだな」
オレの問いには答えず、男は空を見上げながら言った。
その瞳はどこか寂しそうで、オレはなぜか彼を放っておけない、と思った。
「お前、なんか事情があるんだろ? オレでよかったら聞くぜ」
オレの言葉に、男は信じられない、と言ったような表情をした。
「会ったばかりの俺に、なぜそんなことをしようとする」
「んー……そうだなぁ」
オレは生来おせっかいなのだ。何でもすぐに首をつっこもうとする、と文句をいつも言われていた。
そのせいで女にフラれることも多数だった。放っておいて欲しい時もあるのよ、とか言われてな。
でもこの性格だけは結局いい大人になった今でも直っていないみたいだ。
「放っておけないのさ。お前みたいに寂しい目をする奴をな」
どう言っていいのかはわからなかったが、オレは彼の問いにそう答えた。
オレの言葉に、彼は溜息を一つついた。しかしその瞳に警戒の色はなかった。
話してくれる気になったのだろう。今のオレの言葉に何を思ったのかはわからないが……。
94雪の街 2/4sage :2003/02/07(金) 02:14 ID:41tFUDXI
彼はぽつりぽつりと、事情を話し始めた。
仲間がいたこと、その仲間も彼と同じアサシンで、二刀流使いだったこと。
カタール使いの彼とは武器こそ違え、いい相棒だったこと。
……そして、その仲間が死んだこと。
彼と別行動をしていた時、モンスターの大発生から一次職の連中を守るために単身突っ込んだらしい。


「モンスターは殲滅したものの……あいつの命は尽きていた。遺体はすでに故郷のモロクに埋葬してある。
 今俺の手に残っているのは遺品の武器だけだ」
そう言って彼は二振りの短剣を取り出した。
「砂漠地帯のモロクに生まれたあいつは……雪を見たことが無かった。俺も同じだ。
 俺は騒がしいのは嫌いだったから、ここが賑わっている時に見に行く気は無かった。
 いつか二人で、誰も居ないこの街で……共に雪を見ようと約束したんだ」
彼の肩が、かたかたと震えだした。
今まで変わらなかった彼の表情が、少しずつ崩れていく。
「今はもう、あいつはいない。だからせめて、この短剣でここにもう一つの墓を作ってやろうと思った。
 あれほど見たがっていた雪を、あいつがいつでも見れるようにな」
そう言って彼は、短剣を握りしめた。
その短剣はモンスターとの戦闘のせいか、ボロボロになっていた。
埋め込まれていたのであろう属性石もひびが入り、欠けている。
「……ん?」
その短剣をじっと見ているうち、なんだかそれに見覚えがあるような気がしてきた。
……もしかして、これは……。
「すまん、ちょっとその短剣見せてくれ」
「……かまわないが」
彼から短剣を受け取ると、オレはすぐに『確認』に入った。
……やっぱり、そうだ。
柄に密かに彫られた名前。それは間違いなくオレのものだった。
「なぁ、せっかく墓作るんだったら、もっと綺麗な短剣のほうがいいよな?」
「あいつの墓だ。あいつの遺品でなければ意味がないぞ」
「問題ない。この短剣を鍛えなおすだけだからな。
 なーに、悪いようにはしない。なにせこいつは、オレの『子供』なんだからな」
……オレのおせっかいの虫が、また騒ぎ出したみたいだ。
95雪の街 3/4sage :2003/02/07(金) 02:15 ID:41tFUDXI
雪を見たがっていた彼の相棒。
勇敢に戦い、命を散らしていった彼の相棒。
その気高い生き様を。
そして、今は亡き友人への彼の悲しいまでの想いを。
それらすべてを、オレはこの壊れた短剣に注ぎ込んだ。
武器に命があるなんて、迷信だと思うかもしれない。
でもオレは今、それを信じていた。
人間の思いがもし分かるなら、きっとオレの『子供』は命を取り戻してくれる。
それを願って、今は磨き続けてきた腕をふるうだけだ。


「…………!!」
オレの持ってきた短剣を見て、彼は言葉を失ったようだった。
短剣は無事命を取り戻した。おそらく、彼の相棒がオレからこの短剣を買っていった時まで。
「……ありがとう……」
そう言って彼は、オレに背中を向けた。その肩は、細かく震えている。
「あいつが死んで……俺は生まれて初めて涙を流した。悲しみなんて感情が俺にもあったのだと、その時気づかされた」
ゆっくりと彼は振り返った。その頬に涙が伝っているのが、今度ははっきりとわかった。
「お前とあいつはよく似ている。そのおせっかいでお人よしなところなんてそっくりだ。
 そしてそれで俺を喜ばせるのがうまい所も、な」
裾で涙を拭くと、彼は蘇った二本の短剣を、雪の大地に突き刺した。
交差して刺された二本の短剣が、雪と共に銀色にきらめく。
オレは彼と共にそれを眺め、ゆっくりと手を合わせた。
96雪の街 4/4sage :2003/02/07(金) 02:16 ID:41tFUDXI
「これからどうするんだ?」
「……わからない」
そう、彼はもう一人なのだ。
共に旅をしてきた仲間を失った経験などオレにはないから、彼の気持ちを完全にわかっているわけではないけれど。
やっぱり彼のことを放ってはおけない、と思った。
「よかったら、オレの仲間になってくれないか?」
「……なっ」
さっき会ったばかりの男にどうしてここまで入れ込むのか、オレにもわからない。
おそらく、オレのおせっかいの虫が彼の相棒と同じように働いてしまっているんだろう。
「なんか、お前みてると危なっかしいんだよ。芯が通ってて強そうに見えるのに、実は弱くて脆そうで。
 ま、平たくいえば放っておけないってわけだ」
「……本当に、そっくりだな」
彼は苦笑しながらそう言った。その表情は呆れ果てた、といった感じだ。
「あいつもそう言って俺を仲間に誘ったんだ」
「へっ……?」
しばらく間が空いた。
「…ぷっ、ははははっ」
次の瞬間、オレは思い切り笑っていた。というか、笑うしかないじゃないか。
性格とかそういうものだけじゃなくて、彼から受ける印象まで同じだなんて。
「で、仲間になってくれるのか?」
「仕方がないだろう。あいつのようなお人よしで強引なバカに誘われて断る理由など無い」
「オレはお前の相棒の代わりにはなれないぞ」
「かまわないさ。あいつはあいつ、お前はお前、だろ?」
「そういうこと! さ、行こうぜ相棒!!」
そう言ってオレは駆け出した。こんな所も彼の相棒に似ていたらどうしよう、などと思いながら。

そしてオレと『相棒』は、雪の街を後にした。
97名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/02/07(金) 02:18 ID:41tFUDXI
お久しぶりです、15です。
割り込んで申し訳ないと思いつつも投下してみますた。
てか読みにくい……正直すまそ。
98名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/02/07(金) 02:22 ID:41tFUDXI
しかも間違いを発見……
3つ目の下から三行目の
「裾で涙を拭くと〜」は間違いで「袖で涙を拭くと〜」です。
重ね重ねすみません。逝ってきまつ。
99名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/02/07(金) 06:51 ID:lKYYMHIw
朝っぱらから萌えまつた
100名無しさん(*´Д`)ハァハァsageアサとマジ :2003/02/15(土) 22:06 ID:G/Mc3vX.
随分と高くなった太陽に、彼は目を細めた。
暗殺者という職の彼にとって、太陽の光ほど邪魔なものはない。
それでも、彼は明るい空が好きだった。
自分や他のものを目で感じられる事が、何よりも落ち着いた。
「だったら、急に背後に出て驚かす必要ないじゃない!」
目の前に立っている、剣士の少女がそう叫んだ。
幼さの抜けきらない顔には、不満と怒りの入り混じった表情が浮かんでいる。
「いや、真面目に訓練してるみたいだから手伝ってやろうと思って」
「だからって、いきなり背後にでてくるなんて、ビックリするじゃないですかぁ……」
悪びれもせず答える彼に、剣士の背後から小さな声の訴えが聞こえた。
彼女の背に隠れるようにして、魔法使いの少女がしゃがみこんでいた。
相当驚いたのか、目には涙を浮かべている。
「あーごめんごめん、そんな驚かすつもりはなかったんだって」
「まったく、こんな可愛い女の子いじめるなんて、おじさん最悪!」
魔法使いを庇うようにして立つ剣士が、手を腰に当ててそう叫ぶ。
暗殺者は顔をしかめた。
「おじさんじゃねえっての。お前と10ちょっとしか歳違わないんだから」
「じゃあおいちゃん?」
「可愛く言えば良いってもんじゃねえぞ」
「お父さーん♪」
にっこり笑って言う剣士に、暗殺者は顔を引きつらせた。
「何歳のときの子だよ……」
「やーね、可愛らしいユーモアじゃない」
それとも心当たりあるの、と聞き返す彼女に、暗殺者は肩を竦めるだけだった。
101名無しさん(*´Д`)ハァハァsage何気に100ゲットしてました… :2003/02/15(土) 22:06 ID:G/Mc3vX.
ふと、彼は顔を上げた。
目の前には、彼女達の所属するギルドが使っている建物がある。
その二階にある一室に目をやるが、そこに動く人間の気配はない。
「あいつどっか出かけた?」
「あ、話逸らした」
剣士の言葉は無視して、彼は魔法使いの少女を見た。
不思議そうな顔の少女が、暗殺者の視線の先を追って、あ、と呟いた。
「えと、先生なら多分、まだ寝てます」
立ち上がってそう答えた彼女に、彼は少し驚いた顔で呟いた。
「めずらし……」
「だよね……」
そう言って剣士の少女も頷いた。
「何か、バレンタインで、すっごい疲れたって言ってました」
魔法使いの言葉に、暗殺者はプッと噴出した。
「どっかのお姉様に食われたんだな」
「えっ……!?」
顔を赤くして絶句する魔法使いをよそに、剣士が話を続ける。
「それはないんじゃない? 昨日もいつも通りの帰りだったし」
「帰って来てからギルドの誰かに、かもしれないぞ」
面白そうにそう呟く暗殺者に、剣士がなるほどと頷く。
慌てて魔法使いの少女がぶんぶんと首を横に振る。
「そういうんじゃないですって!」
「何だ」
途端につまらなそうになった暗殺者を、剣士が軽く睨みつけた。
「何だ、っておじさん何期待してたの……」
「さあね」
彼はそれだけ答えると、ギルドの建物に向かって歩き出した。
「んじゃ俺あいつ起こしてくるから、昼飯の用意よろしく」
当然俺の分も、と付け加える彼の背に、剣士が声をかけた。
「結局昼ご飯たかりに来ただけでしょ!」
「まー気にするな」
そういうと彼は、さっさと建物の中に入ってしまった。
「全く……他の人たち探して来てくれる?」
剣士の問いかけに、魔法使いが頷いて駆け出した。
102名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/02/15(土) 22:07 ID:G/Mc3vX.
先程見上げていた部屋の前に、彼は立っていた。
軽くノックしてみるが、中からは何の反応もない。
本当に寝てるな、と彼はドアノブに手をかけた。
部屋の中は綺麗に片付いていた。
魔法使いのマントや杖は、すぐ手の届きそうな所にまとめて置いてある。
魔術書らしい分厚い本は、順番どおりに本棚の中で並んでいる。
置き場に困ったらしい、寝台の横に小さく積まれたプレゼントだけが、妙に目立って見えた。
中に入り、彼は真っ直ぐに寝台に向けて歩いた。
「ほらセンセ、生徒が起きて真面目に修行してるのに何してんの」
寝台の上にある布団の小山に向かって、彼はそう呼びかけた。
頭まで布団を被っていて、顔は分からないが、うめく声が本人だという事を教える。
「もう昼だっつーの、ほれ起きろ」
そういって布団の山を揺すると、中からくぐもった声が聞こえた。
「あと5時間……」
「単位違うだろ!」
そう叫んで、彼は布団を剥がした。
布団の中にいた青年は、少女達よりは大分年上で、暗殺者より幾らか若かった。
無防備な表情を眩しそうにしかめて、彼は暗殺者を見上げた。
「おはよ」
暗殺者が声をかけると、青年は目を擦った。
「おはよ……ございます」
まだ寝ぼけたままの声でそう答えると、彼は体を小さく丸めた。
「寒い?」
「ちょっと……」
呟いて体を起こした青年に、暗殺者がマントを投げかけた。
それを上から被って、青年は目を擦った。
「ありがとうございます……」
先程の少女達とあまり変わらないあどけなさに、暗殺者は笑いを噛み殺した。
103名無しさん(*´Д`)ハァハァsage逆毛好きなので :2003/02/15(土) 22:08 ID:G/Mc3vX.
彼は寝台に座り込むと、魔法使いの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「あーすごい寝癖」
魔法使いはその手を軽く払って、彼の目を覗き込んだ。
「元からクセ毛なんだって知ってるくせに……。
 そういう自分だって、すごいですよ。真っ直ぐ上に逆立ってる」
「俺はこういう髪型なの」
吐き捨てるように呟いた暗殺者に、魔法使いは小さく笑った。
その表情に、どこか翳りがあるようだった。
「随分疲れてるな」
「あ、別にそんなことないですよ」
笑ってごまかそうとする魔法使いに、暗殺者は肩を竦めた。
「もてる奴は大変だね」
不思議そうな顔をする魔法使いに、彼はプレゼントの山を示した。
魔法使いの笑顔が、微かに困った感じに変わる。
それを、暗殺者は見逃さなかった。
―またコイツ、一人で考え込んでたな。
相手に気付かれないように、暗殺者は溜息をついた。
「僕なんかの何がいいんだろう」
「ウブっぽいとこ?」
すかさず帰ってきた暗殺者の反応に、彼は頭を掻いた。
「それはあまり嬉しくないなぁ」
「そっか?」
彼は力なく笑うだけで、何も答えなかった。
104名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/02/15(土) 22:08 ID:G/Mc3vX.
暗殺者は積み上げられたプレゼントのひとつを手に取った。
綺麗にラッピングされたそれは、開けられた様子がなかった。
「開けねぇの?」
そういって手渡された包みを、魔法使いは困ったような表情で見つめるだけだった。
「お前、それ誰から貰ったの?」
唐突な問いかけに、彼は首をかしげた。
「ええっと、噴水前でたまに見かける商人さんからだけど」
「そんな仲良かったっけ?」
暗殺者の言葉に、彼は首を横に振った。
「何で僕に、ってちょっと困ったんだけど……」
彼はそう呟いて、包みを横に置いた。
「困ったなら受け取らなきゃ良いのに」
暗殺者の言葉に、魔法使いは何も答えなかった。
「別に、相手だってお前を困らせたい訳じゃないだろ」
暗殺者はそう呟いて立ち上がった。
その顔を魔法使いが見上げる。
少しためらったあと、彼は小さく口を開いた。
「受け取るのが困るわけじゃないんですよ」
彼の言葉に、暗殺者が真っ直ぐに見詰め返した。
魔法使いは俯いて、独り言を呟くように呟き続けた。
「相手が何を期待してるんだろう、とか考えちゃうと、どうしていいか分からなくって。
 本当、僕なんかが受け取ってもいいのかなって。
 けど、僕は相手に特別何かをって思えないし……本当、どうなんだろ……」
段々愚痴のようになってくる彼の呟きを、暗殺者は黙って聞き続けていた。
「受け取ることで相手が満足するならそれでいいんです。
 もし、もしそれ以上の事を期待されてて、それに答えられなかったらどうしよう、とか……」
そこまで言うと、彼はふっと顔を上げた。
「すみません、こんなこと聞かせちゃって」
笑顔でそう言った彼の前に、暗殺者はしゃがみこんだ。
そして、先程とは違い、優しい手つきで彼の髪を撫でた。
105名無しさん(*´Д`)ハァハァsageおしまい :2003/02/15(土) 22:08 ID:G/Mc3vX.
不思議そうな顔をする魔法使いに、彼は呟いた。
「お前がそんな事気にする必要はねえよ」
何かを言いたそうな顔をする魔法使いを無視して、彼は言葉を続けた。
「どうしても気になるっていうなら、俺に言え。一緒に考えてやるから」
「そんな、迷惑かけられないし」
慌てて首を振った魔法使いに、暗殺者は優しく笑いかけた。
「一人で抱え込もうとする方がよっぽど迷惑だ」
暗殺者がそう言って、静かに彼の髪から手を離し、その手を頬に当てた。
「少しは人に頼る事も覚えろ」
囁くように呟いて、彼は今度こそ手を離して立ち上がった。
魔法使いは彼の手が触れていたところに手を重ねると、俯いて小さく笑った。
「そんなに親切にすると、甘えますよ?」
試すような口調の魔法使いに、暗殺者は笑って頷く。
「大丈夫、お前はそんな子じゃないとお父さんは信じてるぞー」
「お父さんって……」
「やだね、可愛らしいユーモアだっての」
彼の言葉に、魔法使いは安心した様子で息をつく。
「良かった、遂によそで子供作ってきたのかと……」
「おいこら」
軽く睨みつけた暗殺者に、魔法使いは声をあげて笑った。
「ったく、じゃあ先に下行ってるから」
そういってさっさと部屋を出る暗殺者を見送って、魔法使いは立ち上がった。
着替えようとして、先程寝台に置いた包みに目をやる。
それを元の位置に積みなおすと、彼は優しく微笑んだ。
後で全部開けてみよう、と考えながら。
106馬鹿プリ :2003/02/20(木) 21:45 ID:cxYAhHx.
「あんだとー!」
「てめーのが間違ってんだよこの馬鹿が!」

ここは首都プロンテラの宿屋のとある一室。2人はこの真昼間っからいいあらそいをしていた。
はじめはささいな口論から始まった。ほんとにささいで、くだらないことだった。

      「りんごの食べ方について」

「丸かじりが一番!」と声を荒げて主張するプリーストの聖(VIT特化ーINT型)
「緊急のときならまだしも・・・きちんと剥いて食うべきだ」と、こちらも声を荒げて主張するナイトの剣(STR-VIT型)

「「・・・」」
「あんだとこのー!」
「てめーが間違ってんだよこの馬鹿がー!」 と冒頭に戻るのである。
2人の喧嘩は口論からやがてつかみ合い、つかみ合いからやがて本気へとエスカレートしていった。
今この2人を止められるものは周りには誰一人いない。

しばらく殴り合い(ほぼ本気)をしたあと突然剣が声を張り上げた。
「あーもうあったまきたぜ!・・・ヤってやる。」
「あんだー?殺れるもんならヤってみやがれ!!」
ニヤリ。・・・剣が笑う。
「な、なんだー?プリーストだからって甘くみてんな?馬鹿にすんじゃねー・・・」


「ゴチソウサマ」

          言葉ってコワイネ・・・

ゴメンナサイ=■○=バタリ 栗毛の馬鹿プリに愛をそそぐ毎日です。駄文失礼しました〜。(自己満足カヨ)
107名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/02/22(土) 06:28 ID:N2lQqMRY
>>100-105さん
逆毛アサシンさんに激しく萌えまつた(*´∀`)b

って、漏れレスおせぇよ・・・ 吊ってきまふ
108名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2003/02/23(日) 05:53 ID:qehkEMBQ
>>106
そのあと何が起きたか想像してほくそえんでる馬鹿を一人生み出しました。
えぇ、ここに一名。

MyFavaretな栗毛アコきゅんがとうとうプリになりました。
私もハァハァしてきまつ(`・ω・´)ノシ
109名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/02/26(水) 02:43 ID:CVmMeBak
>>106
妄想力啓発SSですな。(*´Д`)ハァハァ…
110名無しさん(*´Д`)ハァハァsageノビとウィズ:単発ひな祭り :2003/02/27(木) 01:32 ID:Sn7ONhJg
ウィザードは困惑していた。
日頃からとことこついてくるノービスを、彼は(廃だが)まだ子供だと思っていた。
いや、本当は彼がノービスを子供だと信じていたかっただけなのかもしれない。
少なくとも、今目の前、それも息がかかるほど近くにいるノービスの目は子供のものではなかった。
そっとノービスに自らの赤い髪を撫でられ、思わず彼は身を竦めた。
それすらも予測していたように、ノービスは微笑み、彼の胸に顔をうずめた。
「……先輩、俺、これ以上我慢できないよ」
呟くような彼の声に、ウィザードは首を振る。
「……駄目だ」
必死の思いで出した声は、思った以上に掠れていた。
ノービスが顔を上げ、ウィザードの目を見つめる。
「何で? 先輩だってやりたいでしょ?」
「それは、そうだが……」
ウィザードの答えに、ノービスが微笑んだ。
「ね、ちょっとだけだから」
彼はそう言うと、ウィザードの腰に手を回した。
「嫌だっ……」
「そんなこといわないで。大丈夫、ためらうのは最初だけだから」
小さな声で呟き、ノービスがウィザードの額に自らの額をコツンとぶつけた。
「俺のこと、好きでしょ?」
からかうような彼の囁きに、ウィザードが目を見開き、逃げるように目を伏せた。
「……お前……そんなに雛あられと菱餅が食いたいか」
「食いたいに決まってるじゃないですかあぁっ……」
至近距離のまま、半泣きになって訴えるノービスに、ウィザードは溜息をついた。
「馬鹿か貴様は」
力の緩んだノービスの手を解き、ウィザードは立ち上がった。
「だって、あんなお菓子俺初めて見たんですよ? しかもムチャクチャ美味そうじゃないですか!」
「だからって、それだけのために50Kも無駄に出来るか!」
ウィザードはそう怒鳴りつけると、腰に下げていた小さな袋を手に取った。
中には菱餅と雛あられがそれぞれ数個ずつ入っている。
「ね、一個でいいんですって!」
「駄目だったら駄目!」
まるで母親のようだ。
ウィザードの言葉に、ノービスはわざとらしく傷ついた表情を作り、嘘泣きを始めた。
「うわーん、先輩のケチ、意地悪、鬼、癌砲……」
そういって背中を丸め、いじけるノービスを冷たく見やり、ウィザードは鼻で笑った。
「ああそうだ、私はケチで意地悪で鬼で癌砲の手先のような男だ。
 そんな最悪な奴だから、貴様一人ここにおいて何か美味いものでも食べてくるさ」
それだけ言い残すと、彼はさっさと歩き出してしまった。
「ってちょと先輩!? それずっこいじゃないですか! 俺も美味いもの食いたいですって!」
本気で置いて行くウィザードに、慌ててノービスが立ち上がった。
ウィザードは足を止めるどころか、振り向く事もせず呟いた。
「ポリンから雛あられでも分けてもらえ」
「先輩、それマジ酷いですって、ね、ちょっと待ってってば!」
当然、そんな言葉に耳を貸す様子もなかった。
111名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2003/02/27(木) 02:41 ID:X5TJY1VM
>>110
GJ(*´Д`)b
112名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2003/02/28(金) 12:26 ID:NPL0o4gk
(*ノノ)oO(ヘンなこと考えた自分は在るべき場所に還ります)
113名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/02/28(金) 14:29 ID:NPL0o4gk
ageてしまった!!吊ってきます;;
114名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2003/02/28(金) 18:51 ID:DxYB5zJY
エロースな展開だと確信していた・・・汚れたものだなモレ('A`)y-~

癌砲ワラタ
115名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/03/02(日) 20:44 ID:92PwzwN.
「……いて……」
「あ?」
背後から聞こえた小さな声に跳ねた黒髪のプリーストが振り返った。
きめ細やかな銀髪を持つ声の主――アサシンはしゃがみ込んで足首を掴んでいた。
「どした?」
来た道を数歩戻って、プリーストはアサシンの顔を覗き込む。
アサシンは気まずそうな顔をして、プリーストを上目使いに見上げた。
「――足挫いた」
「はぁ?」
ぽつり、と告げられた言葉にプリーストが眉を顰める。
「なにしてんだよ、なんかに躓いたんか?」
「……」
言いづらそうにしながら、アサシンは渋々ある方向を指さす。
そこには"ルナティック"と呼ばれるふかふかの白い毛を持った兎のような低級魔物。
プリーストはそれに視線をやってから、アサシンへと視線を戻す。彼は苦い顔をしていた。
「あれがどうした?」
何となく続きが読めて、プリーストはにたりとした笑みを唇に貼り付けた。
分かってるなら言わせなくても、とアサシンが目で訴えるがプリーストはもう一度先を促す。
「どうしたんだってば」
瞳を覗き込んで問いかけると、アサシンは観念したように呟いた。
「……足下に飛び込んできたから、つい……」
避けたら足を挫いた、という言葉は続かずに、プリーストの馬鹿笑いに掻き消された。
アサシンは拗ねたように顔を逸らして、黙り込んだ。
プリーストは大笑いしながら、バシバシとアサシンの肩を叩く。
「お前、ホント馬鹿! アサシンのくせになにしてんだよー!」
「……だって……」
ヒィヒィ言いながら笑っていたプリーストだが、アサシンが口を開いたと同時にピタリと笑いを納めた。
「だって、なに?」
心底楽しそうに唇を吊り上げながら、問いかける。きっとまた、おもしろい言葉が聞けるだろうと。
そんなプリーストの様子に気がついて、アサシンは言葉に詰まった。
けれど自棄になったように、荒々しく言葉を吐いた。
「……踏んじゃったら可哀想だろ……っ!」
「ア、アホがおるー! ぎゃはははははははっ!!」
「わ……笑うなっ」
「お前あれだろ、ノビの時ファブルとプパしか叩けんかっただろ、ポリンとか無理だっただろ!」
「うっ……」
言葉に詰まったのを図星と受け取って、さらに笑い始めたプリースト。
笑われることと恥ずかしさに耐えられなくなって、アサシンはすっと立ち上がった。
「お、足は?」
「……平気」
涙さえ浮かべて笑うプリーストを放ったまま、アサシンは足を引きずって歩いていく。
「バーカ、痛ぇんだろ」
すぐ後ろからプリーストの声が聞こえたかと思うと、突然に浮遊感に襲われた。
目を丸くしているとプリーストのにやついた顔がとても近くに。アサシンはおぶおぶと慌て出す。
「え、あ、な……!?」
両手で抱き上げられている俗に言う"お姫様だっこ"の状態にアサシンは真っ赤になって
プリーストの髪をひっ掴んだ。口を数回ぱくぱくさせてからやっと文句の言葉を並べ出す。
「平気だって言ってるだろ! 下ろせっ!」
「ほらほら強がんな、暴れんな。乱暴なお姫様だなー」
「離せ! 誰がお姫様だよ、オイ!」
髪を引っ張られ、頬を引っぱたかれさすがにカチンと来たところで、プリーストは
足下に寄ってきたルナティックを見つけて、にやりと笑った。
「大人しくしてくれないとコイツ、踏んじゃうぞー。いいのかなー」
「ぎゃあああ! やめろ――――!!」


心優しいアサシンのおかげで踏まれずに済んだルナティックは、恩知らずに。
長い耳を愛らしく揺らして、森の中へ帰っていった。

*-*-*-*
お目汚し失礼しますたっ(脱兎)
116名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/03/02(日) 21:33 ID:teiJRXLg
心優しいアサシン萌え
肩叩きまくるプリ萌え
てか、プリ力強くて羨ましい…
117名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/03/02(日) 22:36 ID:N./tke.w
うう。。。自分もこんなやさしいパートナーに出会えていたらよかったのに;;
118名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2003/03/03(月) 22:31 ID:6CKO6fmw
いいっス!!萌えた・・・。アサ様かわゆい〜ww
でも漏れはアサプリ好き(少数派)
誰か書いて〜
119名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/03/03(月) 23:21 ID:vlnKzGwU
>118
ど、同志ハケーン…!
よっしゃ、パパ電波受信……はできても表現できねぇ……。
120名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/03/04(火) 09:02 ID:qbnoyPtY
>118
自分もアサプリ大好きっす><;;
誰か書いて欲しい・・・・ううう・・・
(描いて挫折した人↑)
121115sage :2003/03/04(火) 12:09 ID:4YdjfIEY
コメントありがとございますΣ(゚ω゚lll)
ほんの少しでも萌え萌えしていただけたなら光栄の至り……。

ええと、わたくしアサプリもいける節操無しなので書いてみました(死) ↓
コンナノデイイノカナ……(汗) またもやお目汚しすることを先にお詫びしつつ……。
122115sage :2003/03/04(火) 12:11 ID:4YdjfIEY
両手に抱えた大荷物に四苦八苦しながら扉を開けると、部屋の中に置かれた
ソファの上に相棒であるアサシンがごろんと寝転がっていた。
彼は、人の物である聖書を広げて不似合いにも見入っていたが、荷物に埋もれた
聖書の持ち主を見つけるとにぱぁ、と笑った。およそ暗殺者らしくない笑みである。
「人の、勝手に読んでんじゃねーよ」
抱えていた荷物をテーブルの上に置き、やっと解放された両手を動かしながら、
聖書を見つめるアサシンに言う。アサシンは聖書を閉じるとテーブルの上に少しばかり乱暴に放った。
「お前がいつも読んでるから、面白れぇのかなと思って」
「つまんねーよ、んなもん」
罰当たりなことを言ってから、プリーストはテーブルに置いた荷物を広げ出す。
食品中心の中身を見て、アサシンがソファに伏したまま腹減ったぁーと呟いた。
プリーストの聖衣の裾を引っ張って、ごはーん、と催促する。
「……たまにはお前作れよ」
「んー。男子厨房に入らず、と」
「俺も男だっての……」
プリーストは溜息をついて、アサシンの額をピンと弾いた。
額をさすりながら、アサシンはまた、にぱぁと笑う。にやぁの方が正しいかもしれない。
「俺が料理できるのはベッドの上でだけだぜ」
「何料理する気……って、馬鹿かお前!」
眉を顰めて呟いてから、彼の"料理"を思い当たり、ふいと顔を逸らした。
朱のさした顔を見られまいと、昼食の材料を抱えて台所へ向かう。
野菜を洗い、ナイフに手を伸ばしたところで、後ろからぎゅうと抱きすくめられた。
「俺が作ってやるよ」
例のにぱぁという笑みを浮かべて、アサシンが耳元で囁く。
慌てて暴れ出し、腕の中から逃れようとするプリーストをしっかりと抱きしめながら。

「――オーダーしたのはお前だぜ、お客さん♪」

以下、暗転――(死)

*-*-*-*
……しまった。どこらへんがプリとアサなのか全然分からない……〜=■○0
123名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/03/04(火) 14:35 ID:t/KxSJAA
>122
料理上手なアサシン……!
しかも食材は罰当たりなプリ……!
ときめきますた。そうか、料理した挙句食ったn(接近に失敗しました)
124名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2003/03/04(火) 16:01 ID:0lpg.0Cs
くはぁ〜(´д`;) たまんねーっス!!w
ありがとうございます すばらしき文書を!!
今晩のおかずにさせてもらいますw
料理して食ってついでにデザー・・(鯖キュン
125120sage :2003/03/04(火) 17:10 ID:qbnoyPtY
>122
神様だ〜><;;
とってもゴチソウさまでした!!
ご飯ねだるアサシン・・・萌えーーーー>w<
126じざべるsage :2003/03/06(木) 14:51 ID:45kNJ/To
友人から教えられたので、前に書いたssを一本。
お目汚しでしたら、正直ゴメンナサイっ!


この空の続く限り
何処にでも行けそうな気がする。

「ぺこー、ごはんだよー。」
私は、宿屋の厩舎に繋いである自分のペコペコに
餌をやりに向かう。
普段、砂漠に住んでいるクセに食べさせてみると
何でも食べる。
ようするに雑食みたい。
旅をする時は私と同じものを食べる。
コンドルの肉とか。
同じ鳥だって知ってたらどんな顔するんだろう。

「あ"っ、あ"っ。」
コイツと一緒に旅を始めて結構なるけれど、
鳴き声は変だと思う。
鳥じゃないでしょう、これって。
空を飛ばないと、泣き声までオカシイのかしら。

飼葉桶に首を突っ込んで、器用に食べている、ぺこ。
私はその間、水の入った桶で体を洗ってやる。
気持ちいいのか、暴れないでいてくれるからラクチンだ。

「あ"っ、あ"っ。」
前にペコペコの名前を考えたのだけれど、
結局決まらなかったので「ぺこ」とそのまま呼んでいる。
でも、どちらにしたって人間の付けた名前だものね。
「ペコペコ」だって。ペコペコは自分が「ペコペコ」って
呼ばれてること知ってるのかしら。

「ぺこー、お前、自分の名前わかってるのー?」
「あ"っ、あ"っ。」

・・・聞いてもしょうがないか。
私は苦笑して、立ち上がる。
私にとって、ペコペコは家族だもの。
名前なんて本当はどうでも良いし。

「ぺこー、今日はちょっと遠くまで行くよー。」
「あ"っ、あ"っ。」

今日も外は晴れていて、良い旅日和だった。
色んな所に行こう。
ぺこと一緒に。

「ぺこー、だいすきだよー。」
「あ"っ、あ"っ。」
127126sage :2003/03/06(木) 14:58 ID:45kNJ/To
う"ぁ"
そういや、萌えが無い・・・。
ペコ萌えってことでいいでしゅか。
(〃▽〃)キャッ
128名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2003/03/06(木) 20:55 ID:CLXmUvnM
ほのぼのしてていいわ〜w(´∀`*)
うちのペコの名前は手羽ちゃんだけどねw
129じざべるsage :2003/03/07(金) 16:16 ID:nABo3glE
もう一つUPしてみます。
これも前に書いたもので微妙な萌えかもしれません・・・。

「アサシンらしくなくもなくもない。」

朝日が昇る頃、私は街に戻ってくる。
宿屋の外で返り血を落としていると
人々が避けて通るけれど、気にしていられない。
私は、アサシン。
闇に抱かれた黒のマリア。
親の顔を知らずに育った私は、幼い頃から
スティールを繰り返していた。
生活する為だ、と自分に言い聞かせて。

私は、街は嫌い。
優しさの匂いとか、家族の笑顔とかがあるから。
だから、町に戻るのは眠る時しかない。

宿屋の中に入り女将に声を掛けると、
「部屋に食事は運んでおきました。」
と小声で行ってそそくさと去っていった。
珍しくない反応だった。
誰よりも人に顔を見られることを嫌う私達ならでは。
通過儀礼というかいつもの事。

罠感知を行なってから、部屋に入る。
「・・・侵入者の形跡も無しっと。」
机の上に置いてある乾いたパンと塩スープに目を遣ると
まだ湯気が立っていたが、手をつけることはしない。
以前、商売敵に毒を盛られていた事があったからだ。
女将には悪いけれど、私は持ち歩いている紅POTを
乾いた喉に流し込むと、ベッドに仰向けに横たわった。
「人助けなんて、するもんじゃないなぁ。」
なんて、一人愚痴を言いながら私は眠りの淵に落ちていった。


「私は、カードキャプター。
誰も、私の前ではカードを
差し出さずには居られないわっ!」
「スティル!」
とは言っても、カードが出ることは稀だった。
ドロップしたアイテムで生計を立てている
私にして見れば、ただの趣味なのだけれど。

「んにぃ〜〜。」
毒キノコに容量良くトドメを刺すと更に洞窟の
奥へと向かう。
「はー、2Mも借金作るんじゃなかったー。」
良く利用している商人から、
マフラーを買ったのがその原因だった。
ただのマフラーではなくて、
ボスキャラのカードが挿さったマフラーだ。
カードは装備品に挿して初めて効果が現れるが、
効果の強いカードが挿さった装備は
法外な値段で取引されている。
まぁ、今回もビタ一文まからないという
商人から無理矢理(苦笑)奪ってきたんだが。
「名前、覚えてるからちゃんと返済してくださいよー。」
そして、アサシンともあろう私が金策で狩りをする
羽目に陥ったのだった。

依頼を受けるのも悪くないのだけれど、
街中では仕事したくなかった。
で、結局こういう洞窟に入るに至る。
今日の狩場はフェイヨンダンジョン。
蝙蝠と毒キノコと死霊の地下都市だ。

「今日こそはレアをゲットしてやるからねっ!」

洞窟は地下2Fの江戸村に近づきつつあった。
江戸村・・・誰が命名したのか知らないけど、そんな通称だった。

「ムナ・・・。」
私の前方で、か細い声が聴こえる。
私は気配を殺し、声のするほうへ近づく。
流石に本当の深夜になると周りに冒険者の姿は見えない。
目を凝らして暗がりを覗き込むと、
そこに一匹のムナックがうずくまっていた。
足元を見ると、一本の矢が刺さっている。
「・・・それで動けないんだ。」
洞窟内には弓を射るモンスターも居て、
その矢尻には毒が塗ってある事が多い。
即効性はないが、確実に動きを鈍くさせる類のものだ。
弱ったムナックは顔色が悪く(?)、息も絶え絶えだった。
「痛むけど、我慢してねっ。」
私はムナックの口に包帯の束を咥えさせて、
垂直に毒矢を抜きさる。
「・・・ピィ。」
良く見ると、涙目になっている。
「なんだか、悪いことをしてる気分になってくるなぁ・・・。」
私は包帯の束を口から外してやり、
更に自分の荷物から解毒の薬草と煮詰めたガラス瓶を取り出した。

「これで良しっと。」
包帯を強めに縛ってやると、呼吸が元に戻り始めている。
「ムナッムナッ。」
回復が早いのか、顔色も元に戻り始めていて元気な声を出している。

ギュッ
不意にムナックが私の体を抱きしめた。
一瞬の事だったので不意を突かれたが、
意識は本来の私に戻りつつあった。
けれど・・・

「ありがとムナー。」
毒気が抜かれた。
「この子、喋れたんだ。」
いつもムナムナ言ってるから、話せないんだと思ってた。
なんか懐かれている気もするけど、
情が移る前に立ち去らなくちゃ。
私は冷酷非情なアサシンだもんねっ。

「じゃ、ね。」
すくっと立ち上がり、更に洞窟の奥に行こうとする私に
ムナックはなんと・・・

「ぴぃ〜〜〜〜〜〜〜。」
と大声を上げるのだった。
「やばーっ。」
さっきも包帯を咥えさせたのは意味があって
(私がそういう趣味なのではなくて)
ムナックの叫び声は仲間を呼ぶのだ。
周囲から、他のムナックの気配がする。
5・・・少なくとも8体は居る。
流石の私も、5体以上同時は無理だ。

私は道具袋から蝿の羽を取り出し、ワープする。
「わーぷっ。」
その後、更に地下4Fまで潜ってモンスターと交戦したけど
結局何も出なかった。
そうして、明け方近くまで戦い続けてようやく
宿についたのがさっきの話だ。

「あの子、大丈夫かな・・・。」
んー、いけないいけない。私が弱くなっちゃうっ。
寝よう、寝よう。
疲れてるからだわ、きっと。

あ、寝る前に一言。
私の職業は、アサシン。
冷徹で非常な暗殺者なんだから!
・・・って、誰に言ってるんだろ。
ま、いっか。

おやすみぃ。


おわり
130じざべるsage :2003/03/07(金) 16:27 ID:Q3wKsomw
誤字まくりでした。
(´Д⊂ モウダメポ

>「スティル!」
「スティール!」ですね。
最初直しといて、台詞を直し忘れてました。(汗

>冷徹で非常な暗殺者なんだから!
非情ですね。

あわわ・・・。
131じざべるsage :2003/03/07(金) 17:29 ID:.9Z6q9WI
今頃気付きました。
スレッド名の「♂」の文字に。

2回くらいイってきます・・・。
申し訳ありません。
132名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/03/08(土) 13:13 ID:2jJVdu2Y
>じざべる様
萌え小説スレでお待ちしてます(*´Д`)
133名無しさん(*´Д`)ハァハァsageプリとハンタとムナ :2003/04/08(火) 12:11 ID:HyTyrwVY
青い空に、雲が流れていく。
丈の短い草原に寝そべり、その男プリーストは空を見上げていた。
爽やかな景色と裏腹に、彼の心は沈んでいた。
「はあ」
「それ、何回目の溜息?」
彼の横に座っていた男ハンターが、退屈そうな顔でそう聞いた。
しかし、一人落ち込んでいるプリーストには届かなかった。
彼の脳裏に浮かぶのは、一人の女剣士。
プリーストよりもいくらか年下の彼女は、彼を慕い、出かけるときにはよく後をついてきていた。
女の子に追われるのは悪い気もしなく、彼も剣士を実の妹のように、いや、それ以上に可愛がった。
いつのまにか、彼女は彼にとって、誰よりも大切な恋人となっていた。
その少女が、先日からずっと機嫌が悪いのだ。
「何でだろう……」
ポツリと漏らした呟きに、今度はハンターが溜息をついた。
「そりゃ、毎日ペットばかり可愛がっていればねぇ……」
そう言って、彼はプリーストの横に座る小さな影を見た。
人間の子供そのものの顔をしたムナックが、やはり人間の子供そのものの仕草で帽子をいじっている。
「他のペットなら、まだ良かったのにね」
「仕方ないだろ!」
プリーストは勢い良く起き上がると、横に座るムナックを抱きしめた。
それに反応して、ムナックも嬉しそうにプリーストに抱きつく。
「ああ……見ろよ、こんなに可愛いんだぞ!」
ねー、とプリーストがムナックに声をかけて首を傾けると、
分かっているのかいないのか、ムナックもニコニコとして同じ方向に首を傾ける。
その様子に、またプリーストの表情が緩む。
「そんな様子じゃ、彼女にも逃げられるに決まってるね」
軽く鼻で笑い、ハンターが呟いた。
「逃げられてないもーん……ちょっと機嫌が悪いだけだもーん……」
そう言いはするが、彼の言葉には力が無かった。
134名無しさん(*´Д`)ハァハァsageここが寂しいのは皆アプロダに行くから…? :2003/04/08(火) 12:13 ID:HyTyrwVY
プリーストはいじけるように背を丸め込み、手頃な枝で地面に落書きを始めた。
「人間の女の子って難しいんだから」
それに比べて、と彼はムナックの顔を見る。
ハンターが馬鹿馬鹿しい、といった表情で首を横に振った。
「お前、ペット溺愛しすぎ」
彼が呟くと、プリーストはムッとした表情で彼を見た。
「お前、さっきからこの子の事ペットペットって軽く言ってるけどなぁ、俺にとっては唯一無二の存在なんだぞ」
そういうと、彼はぽい、と手に持った枝を投げ捨てた。
その枝をムナックが走って拾い、地面をほじくり始めた。
泥が彼女の少し長めの袖を汚す。
「あー、そんな事したらばっちいでしょ」
プリーストが慌ててムナックに走り寄り、手から枝を取って立ち上がらせると、袖を折って上げてやった。
その手首に、小さな腕飾りがついているのをハンターは見た。
「それもお前が買ってやったの?」
ハンターがそう言って目で示すと、プリーストは軽く頷いた。
「そ。人間用だけどサイズがぴったりだし。すごい喜んでくれたんだ」
そう答えている間に、ムナックは腕飾りを外し、ポケットの中にしまった。
「あ、汚さないようにしたの?」
プリーストの問いかけに、彼女はニコニコと笑って頷いた。
「うーん、本当にいい子だねー」
ムナック以外何も見えていないとしか思えないプリーストの様子に、
ハンターは呆れたような表情をして呟いた。
「ロリコン」
「違う!」
思わずプリーストが大声を上げると、ムナックが驚いて小さく体を震わせた。
「あ、ごめんねっ」
プリーストはそう言うと、ムナックに笑いかけ、先程取り上げた枝を彼女に渡した。
ムナックは彼の様子がいつもと同じである事を確かめるように、しばらく真っ直ぐに見つめていたが、
やがて安心したような表情になり、また座り込んで落書きを始めた。
その様子に、プリーストも安心して腰をおろす。
「これじゃあ、あの子じゃなくても愛想尽かすね」
ハンターの言葉に、プリーストが凍りついた。
135名無しさん(*´Д`)ハァハァsageここが寂しいのは皆アプロダに行くから…? :2003/04/08(火) 12:14 ID:HyTyrwVY
彼は立ち上がって大きく伸びをした。
「折角出来た彼女、しかも人間の女の子放ってまでペット可愛がるなんて、人間としてどうかしてるんじゃない?」
「お前、そこまで言う……?」
かなり落ち込んだ表情で、プリーストはハンターを見上げた。
「大体、お前は人の気持ちを考えたりしないわけ?
普通目の前で他の女の子とばかり遊んでたら、相手の機嫌が悪くなることぐらい分かるでしょ」
「……いや、でも可愛いじゃん?」
「その態度が良くない!」
ハンターはプリーストの目の前に指を突きつけた。
「どうせ彼女の前でもそんな事言ってるんでしょ。たまには彼女の意見とか希望とか聞いてあげるべきだね。
ていうかね、彼氏ならば相手の事気遣って当然じゃない」
彼が指を戻すのと同時に、プリーストが頭を抱えた。
どうやら反論する言葉もないらしい。
ムナックは飼い主の様子にも気付かず、一心不乱に地面を掘り続ける。
「全く……よく今までこんな奴に、あの子がついてきたもんだ」
ハンターが溜息混じりに呟くと、プリーストが顔を上げてにらみつけた。
「そう言うお前なんか、彼女すらいないじゃん」
おや、という表情で、ハンターが彼を見た。
プリーストは軽く裾を払って立ち上がった。
「お前、ずげずげと言いたい事ばかり言うじゃんか。もうちょっと、こう……何かないの?
そんなんだから、いつまで経っても彼女が出来ないんだよ。うんそうだ、そうに違いない」
ようやく見つけた反撃の言葉に、彼はうんうんと一人頷く。
ハンターは少し首を傾げて考え込むと、やがて口を開いた。
「確かに彼女はいないけど……似たようななものなら……」
「え、マジ、ちょっと初耳なんですけど!?」
意外な発言に、プリ―ストが大声をあげる。
「でも彼女はいないって……」
そう呟いた後、彼は全ての動きを止めた。
「……まさか、男?」
「違うよ」
残念ながらそっちの趣味は無い、という言葉に、プリーストの表情が和らいだ。
「びびった……でも、彼女じゃないって……?」
「ああ……」
ハンターは小さな声で呟くと、遠い空を見上げた。
136名無しさん(*´Д`)ハァハァsageおしまい :2003/04/08(火) 12:15 ID:HyTyrwVY
つられたようにプリーストも空を見上げ、あ、と声をあげた。
「もしかして、死んだのか……?」
悪い事をした、というような表情で言ったプリーストに、ハンターは首を横に振った。
彼は何も言わずに、左手を自らの口に当てた。
そして、高く口笛を鳴らした。
澄んだ響きが、長く長く辺りの空気を揺らす。彼が口笛を止めても、その余韻は残り続けた。
口笛の音がとうとう消えると、彼は空の一点を真っ直ぐに見つめ、ふっと優しい表情を浮かべた。
「ほら、来た」
「……って、まさか!?」
プリーストが空の彼方を見つめる。しかし、彼の目には何も映らない。
じっと目を凝らしていると、ようやく黒っぽい点のようなものが見えた。
それはゆっくりと大きくなり、はばたく鳥の形になった。
「お前、あの、あれが……?」
焦ってハンターを振り返り、彼はこちらに向かって来る鷹を指差した。
「人の愛しい相棒を、あれとは失礼な」
「いやだって鳥じゃん!」
そう叫ぶ彼の後頭部を、何かが通り過ぎた。
ハンターの愛しい相棒が、大きな翼を広げて、彼らの周りを飛んでいた。
「お帰り、お疲れ様」
ハンターは優しい声でそう囁き、右腕をかるく上げた。
慣れた様子で鷹が腕に止まり、プリーストの方をじっと見つめた。
呆気に取られていたプリーストは、大きく頭を振ると、ハンターの方に向き直った。
「お前、それ俺よりまずいじゃんか!」
「何で?」
ハンターは不思議そうな顔をして、腕に止まる鷹を見つめた。
「こんなに綺麗なのに」
「綺麗だけど、それ人間の形すらしてないじゃない!」
プリーストの言葉を、ハンターは軽く鼻で笑う。
「仕方ないね、俺より綺麗な人間なんてまずいないし。それに、鷹は人間と違って俺を裏切らないよ」
そう言うと、彼は愛しげに相棒の翼に触れた。
鷹もハンターの方を向き、小さく鳴き声をあげた。
プリーストはしばらく口を開けたままぼんやりと彼らを見つめていたが、やがて大きく溜息をついた。
「やっぱり俺、人間の女の子がいい……」
「じゃあ、あの子にそう言っておいで」
その時はムナックは置いて行くんだよ、という言葉に、プリーストは力なく頷いた。
ムナックは相変わらず無邪気に地面を掘り返していた。
137名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/04/12(土) 20:26 ID:0pvepdpQ
ツボハンタキター!!
ナルシスト入っちゃってるところもステキです!
ゴチソウサマデシタ!
138名無しさん(*´Д`)ハァハァsageノビとウィズ:春のルティエ :2003/04/21(月) 18:34 ID:2ZDQB0tI
空から舞い降りる雪に、ノービスは目を細めた。
自分に降り積もる雪も払わずに立ち尽くしていたためか、
その金髪にも、厚めの上着の肩にも雪が積もっている。
見上げる空は、雪と同じで真っ白だ。
人の姿が見当たらない春のルティエを、雪は白く包み込み、静かに抱きしめるようであった。
込み上げて来る穏やかな感情に、彼は知らずに微笑んだ。
この感情を何と言えばいいのだろう。
「寒い」
そう、寒い。体の芯まで冷え切るほどに―って、そうじゃない。
背後から聞こえた不機嫌そうな声に、ノービスは思い切り脱力した。
振り返ると、声と同じく不機嫌そうな表情をしたウィザードが、
震える体を抱きしめるような姿勢で立っていた。
ノービスと同じで、その赤い髪にも、いつもより厚めのマントにも雪が積もっていた。
「……先輩、もうちょっとロマンチックな感想とか無いんですか?」
そう言ってノービスがウィザードの雪を払おうとすると、彼はその手を払いのけた。
「春にもなってこんな寒いところに来て、どうロマンチックな感想が出てくるんだ」
睨み付けられたノービスは、軽く肩を竦めた。
「だって、本当はお花見に行きたかったんだけど、先輩が人の多いところは嫌だなんてワガママ言ったんじゃないですか」
「だからって何でルティエなんだ!」
怒鳴りつけるウィザードに、ノービスは心外というような表情を作る。
「そりゃ、先輩がクリスマスの時期に風邪ひいて行けなかったからに決まってるじゃないですか」
それに花粉も飛んでないし、と付け加えるノービスに、ウィザードが複雑そうな表情を浮かべる。
「それは有り難いんだが……でも、クリスマスにお前一人で来れば良かっただけだろうが!」
「それは駄目です」
さらっと言いのけたノービスに、ウィザードが眉をひそめた。
「体調の悪い時のひとりぼっちって、普通の時のひとりぼっちよりずっとつらいでしょ?」
その言葉に、ウィザードは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに元の仏頂面に戻った。
「馬鹿か貴様は」
そんなものとうに慣れた、とウィザードが吐き捨てるように呟いた。
その言葉に、ノービスの胸が痛む。
「もっと自分の事を大切にしましょうよ」
少し強い口調で彼は言って、ウィザードの手を掴んだ。
「俺が傍にいますから」
そういって、彼は真っ直ぐにウィザードを見つめた。
いつものように馬鹿か貴様は、と言われると思っていたのだが、いつまで経ってもあの怒鳴り声が聞こえない。
それどころか、ウィザードは軽く俯いてしまった。
不思議に思って顔を覗き込もうとするが、彼は逃げるように顔を背けてしまった。
「先輩、顔赤い……もしかして照れてる?」
「馬鹿か貴様は! 寒いからに決まってるだろう」
今度こそ怒鳴られてしまった。
いつもの声に少しだけノービスは安心した。
「えー、ようやく俺の優しさに気付いてもらえたのかと思ったのに」
乱暴に振り払われた手をフラフラと振りながら、彼は残念そうな声でそう呟いた。
その様子に、ウィザードの中で何かが切れた。
彼は腰につけた鞄の中を漁ると、中から蝶の羽を取り出した。
「帰る。もう帰る」
先程よりも更に機嫌の悪そうな表情になったウィザードがそう呟き、羽を天にかざした。
ノービスは慌ててその手を掴むと、ぐいぐいと引きずり出した。
「先輩、ともかくどこかで暖まりましょ、ね?」
「いーやーだ、帰る!」
引きずられながらもなお抵抗するウィザードに、ノービスは小さく溜息をついた。
139名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/04/21(月) 18:36 ID:2ZDQB0tI
無理矢理引きずって連れて来たのは、小さな教会だった。
ほとんど人の姿が見えないこの時期でも、教会の中は明るく、暖かだった。
ノービスはようやくウィザードの手を離し、彼に積もった雪を優しく払い落としてやった。
「何か、懐かしいなぁ……」
「何が?」
不思議そうな顔で聞き返すウィザードに、ノービスは微笑んだ。
「小さい頃、クリスマスには親と一緒にルティエまで来たんですよ」
彼はそう言いながら、窓際に寄った。すぐ近くの椅子にウィザードが腰掛ける。
ノービスは真っ白く染まった外を見つめていた。
「雪自体は見る事があっても、こんなに真っ白くなるのってあまり見ないじゃないですか。
 教会に行ったり、サンタさんの所に行くのも楽しかったけれど、
 雪の中でぼーっと立ってるのが一番楽しかったなぁ」
そう言うと、彼はウィザードの方を振り返った。
「まあ、来るまでがメチャクチャ怖いんですけど」
「白熊か……」
確かに、小さな子供から見れば、サスカッチはその大きさだけで恐怖を与えるに違いない。
納得するウィザードに、ノービスは首を横に振った。
「いや、それよりも芋虫と蜘蛛が怖かったです」
「……歩いて、アルデバランまで行ったのか?」
信じられないといった表情でウィザードが言った。
首都からアルデバランまでの道のりは、かなり鍛えた冒険者であっても、下手をすれば命を落とす。
そんな所を、子供連れで歩くとは。
「今考えれば、かなり無茶だったなとは思うんですけど」
ノービスは平然とした表情である。
「前から来た奴はお袋がタコ殴り、後ろから来た奴は親父がタコ殴り、
 その間に俺って感じだったから、結構安全に歩けましたね。
 いつだったか俺がポリン殴ってたら、
後ろからうじゃうじゃアルギオペが寄ってきた事もありましたけどね……」
あの時は本当に危なかった、と呟くノービスに、ウィザードは溜息をついた。
「何でお前がこんな廃ノービスなのか、分かった気がする……」
「そうですか」
首をかしげるノービスに、ウィザードは無言で頷くだけだった。
「でも、家族で出かけるのが好きな子だったから、とても楽しかったですよ」
クリスマスって本当に楽しい、と言うノービスに、ウィザードは呆れたように肩を竦め
140名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/04/21(月) 18:36 ID:2ZDQB0tI
話し終えたノービスはまた窓の方を向き、ぼんやりと外を眺め続けていた。
「何がそんなに楽しいんだか」
一言も話さずに雪の降る様子を眺める彼に、ウィザードが小さく呟いた。
「先輩、雪見るの好きじゃないんですか?」
振り向いて聞くノービスは、本当に楽しそうな笑顔を浮かべていた。
ウィザードは黙ったままであったが、不意に立ち上がると、ノービスの横に並んで外を見た。
見えるのは白い街と降り積もる雪だけである。
「クリスマスは、いつもベッドの上から雪を見ていた」
無感情な呟きに、ノービスがはっとしたようにウィザードの顔を見た。
「子供の頃からずっと体が弱くて、クリスマスの頃なんていつも熱で寝込んでた。
 楽しく過ごした思い出なんて全く無い」
そう呟くと、ウィザードの中に切ない感情が蘇ってきた。
微熱でぼんやりとしている意識にも、雪の中をはしゃぎまわる同年代の子供の声は届いた。
あの中には自分の弟もいるのだろうかと考えると、眠るに眠れなくなった。
自分より魔力は遥かに低いが、体は丈夫であった弟が、その時ばかりは羨ましかった。
もちろん、普段見下している出来損ないの弟に、そんな事は言えなかったのだが。
外には雪が積もっているというのに、自分だけは室内で白い空を眺めているしかなかった。
あの頃から自分の人嫌いは始まっていたのかもしれない。
感傷的な気分に浸る自分に、ウィザードは泣きたいような笑いたいような、複雑な気持ちになった。
ふと顔を横に向けると、困ったような顔をしたノービスと目が合った。
心の中まで見透かされたような気がして、妙に気恥ずかしくなってしまった。
「私はさっさと帰りたいんだ。ここで待っててやるから、やりたい事があるならさっさとやってこい」
わざと冷たくそう言うと、彼は元の椅子に腰掛けた。
あの頃、自分は大人になるまで生きていられないのではと、本気で考えていた。
ひとりぼっちの部屋で白い空を眺めていると、そんな事はどうでもいいように思えた。
自分は中に入る事が出来ない、楽しげな笑い声から逃げられるのならば、それでも良いと思った。
けれど結局、自分はここまで生きることが出来た。
今考えれば、あの頃の自分がどんなに馬鹿な事を思っていたかがよく分かる。
自分で楽しい事を探そうともせずに、逃げる事ばかり考えていたのだ。
ただ、クリスマスの退屈さに慣れきった体では、今更周りと同じ様に色々な事を楽しむ事なんて出来なくなっていた。
何かの行事の度に大騒ぎする連中を、馬鹿馬鹿しいと思いながら、どこかで羨ましく感じていたのかもしれない。
今更気づいたところで、何もかも、遅すぎるのだ。
自分から遠ざけてしまったものに、どうやって近づけるというのか。
苛立ちを掻き消すように、ウィザードは強く手を握りしめた。
141名無しさん(*´Д`)ハァハァsageおしまい :2003/04/21(月) 18:37 ID:2ZDQB0tI
気がつくと、彼の横にノービスが座っていた。
早くしろと言ったのに、と文句を言おうとして、彼はノービスの顔を見た。
ノービスは困ったような顔のまま、小さく俯いていた。
普段見せないような様子に、ウィザードが眉をひそめる。
「何をしている?」
そう聞くと、ノービスは少しためらった後、意を決したようにがばっと顔を上げた。
「先輩、今年の冬は一緒にここに来ましょう」
「はあ?」
あまりにも唐突な言葉に、ウィザードが間抜けな声を上げる。
しかし、ノービスの目は真剣である。
「冬のルティエは今よりもっと寒いけれど、厚い上着とかマントがあれば大丈夫だし。
 それに、室内は暖かいからさっさと家の中に入ればいいんですよ」
それでも寒かったら俺が抱きしめてあげます、と付け加えたノービスを、ウィザードは軽く睨み付けた。
「お前に抱かれるぐらいだったら凍死してやる」
「抱かれるだなんて先輩過激……って待って、外行かないで下さいよ!」
椅子から立ち上がってすたすたと出口に歩み寄るウィザードの手を、ノービスが慌てて掴む。
「そういう話は興味ない」
「いや、そういう話がしたかったんじゃないですって!」
冷たく言い捨てたウィザードに、ノービスが首を横に振る。
「じゃあ何だ」
振り返ったウィザードの表情が、段々と不機嫌になっていくのがよく分かった。
ノービスはウィザードの手を離すと、乱暴に頭を掻いた。
「だから、俺は皆が楽しそうにしてる時に、先輩の事一人にしない、って言いたいんです」
ウィザードが少しだけ驚いたような顔になる。
「俺、ずっと先輩の後着いてくって決めてますから。
 眠いならば静かにしてますし、具合が悪いならば傍で看病します。
 でもやっぱり、先輩と色んな所に行きたいです」
そこまで一気に言ってしまうと、ノービスは少しだけ口を閉じて、息を整えた。
「だから、自分の事もっと大切にしてよ」
そう言って、彼はウィザードに微笑みかけた。
「もっと俺の事頼っていいし、体弱いのに限界超えて頑張らなくてもいいんです。
 無理する事なんかに慣れないで下さいよ」
慣れないで、という言葉に、ウィザードが小さく息を呑んだ。
慣れる必要なんかどこにも無いのだ。それだけの事だったのだ。
ウィザードはしばらく無言でノービスを見つめていたが、やがて出口の方へ歩き出してしまった。
ノービスが何か言おうとしたが、そのまま口を閉じて俯いた。
ウィザードは無言のまま歩き続けていたが、出口の前で立ち止まると、小さく呟いた。
「今年の冬は、ここに来れるかな……」
ほとんど聞き取れないくらいの声を、しかしノービスはしっかりと聞き取って、はっきりと答えを返した。
「絶対に来ましょう」
そして、ウィザードに向かって駆け出した。
突き飛ばさないぐらいの勢いでウィザードに飛びつくと、彼に向かって満面の笑みを見せた。
「ね、帰る前にスノウノウの所に寄りましょう」
そう言って顔を覗き込んでくるノービスに、ウィザードは呆れたような表情で溜息をついた。
「分かったから手を離せ」
「はーい」
素直な返事を返すと、ノービスは教会を飛び出して雪の中を駆けて行った。
その背中を見送りながら、ウィザードは空を見上げた。
小さい頃から何度も見続けた、寂しい白い空。
それがとても綺麗な物だという事に、彼は初めて気が付いた。
雪を見るのも、悪くない。
142名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2003/04/22(火) 19:24 ID:vlPFse6Y
>>138-141
待ってましたっ!
はぁ、相変わらず素敵な文章で・・・惚れ惚れしちゃいまつ(*´Д`)
143名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/04/27(日) 16:44 ID:7V8qVflI
>>138-141
キタキタキタキタ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━!!!!!!!!!!
う・・・やっべ鼻血  鼻血が

漏れを出血多量で逝かせるつもりですかおまえさまああ!!
あーウィズ様イイ・・・・サイコー
144名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/05/21(水) 10:58 ID:vWiSdEuI
>>138-141
(*´Д`)雪を見るのも悪くない
145名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/06/03(火) 01:02 ID:5DCFfTIo
 プロンテラ近郊は今日も晴天だ。
「お、エル原だ」
 モンスターが落としたアイテムを拾おうとして、アコライトは腰をかがめる。体の動き
にあわせてさらりと視界に入った横髪がうっとおしくて乱暴にかき上げた。
「だぁ〜、髪がうざい!」
 今日だけでも三度めの叫びにアコライトの相方である騎士がやれやれと肩をすくめる。
「そんなに気になるならさっさと切れ」
 ちなみに、騎士の髪は高い位置でひとまとめにできるほど長い。
「何でお前ってそんな長い髪で気にならないわけ? 信じらんねぇ」
 相方の口の悪さには慣れたもので、騎士はやんわりと言葉を返した。
「だから嫌なら切れって」
 いっそこの場で切ってやろうかと、騎士は付け足した。
「嫌だね」
「じゃ、がまんしろ」
 まあ、もう少ししたらアコライトも後ろでくくれるだろう。額がでるくらいまで短く切
りつめていたのを思えば、随分伸びたものだ。
「そういえば、なんでまた髪を伸ばそうと思ったんだ?」
 アコライトは騎士を上目使いで睨んだ。
「何を今更んなこと訊くんだよ」
「そんなに嫌がってるくせに、髪を伸ばし続けているのは何か理由があるんだろう?
 毎回毎回愚痴につきあっているお礼に理由ぐらい訊いても罰は当たらないじゃないか」
 むぅとアコライトは軽く唸ってそっぽを向いた。
「なんかむかつくから教えてやらね」
「つれない奴だな」
 相変わらずの態度に騎士は苦笑いを零す。
「あぁ、もしかしたら俺みたいに願掛けとか? それなら理由を訊くのは悪かったな」
「そんなんじゃない」
「じゃあ、どうして?」
 基本的にあっさりとした性格のくせに、今回に限って騎士はしつこい。
「……」
「……」
 無言の根比べが始まった。
 こういう時に限ってモンスターが現れないのがアコライトには腹立たしい。
146名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/06/03(火) 01:03 ID:5DCFfTIo
「……」
「……」
 たっぷり十分は経ったかと思ったとき、騎士のほうが口を開いた。
「まぁ、そんなに言いたくないならいいが、あまり無理はするなよ。神経質になりすぎる
とそのうち胃に穴が空くぞ」
 ぽんぽんと彼がアコライトの頭をそっと叩く。正直、一年ぐらいしか生まれた日が違わ
ないのに子供扱いされるのは癪だ。しかし、こういう時の騎士は心底自分のことを心配し
ているのもわかっている。だから頭を撫でられるのにアコライトは弱い。
「お前と……髪型を一緒にしたいんだよ」
「?」
「前まで髪色同じだったのに、お前が染めたから」
 今の騎士の髪は炎の色をしている。確かにその色は彼によく似合っている。
――でも、自分と同じ銀のころのほうが良かった。
 お揃いの色、と他人に言われるのが、口では反発していても心の中では嬉しかった。
 露店で赤の染料を見るたびに買おうかどうかも迷った。
「そうか、お前は髪の色は変えれないよな。両親を捜すための大切な手がかかりだから」
「別に……んなわけじゃない。たんに無駄遣いするのが嫌なだけだ」
 教会の司祭の話を丸飲みすれば、アコライトは三歳の時に両親の手で預けられたという。
で、両親はアコライトと同じ銀髪だったというのだ。なにぶん、物心つく前なのでアコラ
イト自身には両親の記憶も預けられたときの記憶もない。
「だから、無理はするなよ」
 そう言って、騎士はまたアコライトの頭を撫でる。
「無理じゃねぇって言ってんだろ!」
「はいはい」
 大声に騎士はどこ吹く風と受け流す。声はのんびりとしたものだが、その瞳の光は鋭い。
いつのまにか、剣の柄に手がかかっている。アコライトも周囲の変化を瞬時に理解した。
小さく舌打ちして、護身用のチェインをしっかりと握る。
 近づいてくるモンスターの気配は三つ、いや四つだ。
「ま、髪を伸ばしてくれるのは嬉しいけど、今回はもう少しヒールを早くしてくれよ」
 さっきは死ぬかと思ったぞ、と付け加えて騎士が前に出る。
「お前を死なせはしねぇよ」
 ちっとはちゃんと避けろよな、とアコライトは速度上昇を騎士にかけてやる。
 直後、戦闘は始まった。
147名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/06/12(木) 22:19 ID:zUn0hwKQ
つ、続いてホスィ(*´д`)ハァハァ
148名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/06/29(日) 05:54 ID:nNsLvC.w
馬鹿だなあ、シズマは
 それは、いつもの兄の言葉だった。
しかたないよ、僕は兄ちゃんみたいに賢くもないし強くもないし…
 そして、いつも通りに、俺はそう答える。
そんなことないさ。お前はきっと強くなる。騎士になりたいんだろう?
 優しく微笑みかける笑顔と、俺の頭におかける、大きい手。
 それが、俺はとても好きだった。
でも、確かに兄ちゃんみたいな騎士になりたいけど…無理だよ僕じゃ
 そういう俺に、兄は困ったように笑う。
馬鹿だなあ。駄目だと思ってちゃ、なれるものもなれないぞ?
うん…
――よし。こうしよう。お前ががんばれるように

シズマ。お前が、騎士になれたら。お祝いに、この武器をやるよ
 それは、兄の愛用の巨大な剣。
 クレイモアよりも大きく、強く、鋭く。
 あらゆる局面で汎用性の高く、そして稀少な名剣だった。
そんな! いいよ、だってそれ――
 そう。それは兄にとって、命の次に――いや、おそらくは命より大切なもの。
 よく話してくれていた。
 伝説の魔剣を探す旅の中で手に入れた、友との絆だと。
そう。だからこそ、お前が本当に強くなったら。その時こそ、お前にやるんだ
 兄は、優しく笑う。
約束だ。男と男の。いいかい、お前は強くなる。僕の弟だからな
――うん、うん
 きっと。
 その時、俺は泣いていたのだろう。
馬鹿だなあ、シズマは。男が泣くんじゃない
 そうやって、兄はいつものように、大きな手で優しく俺を撫でてくれる。
 いつか。
 俺は、この人のように。優しく、強く、立派な騎士になりたいと。
 そう思った。


 ――後に。
 約束は、果たされないこととなる。

 兄の、死によって。


「…まっ」
 まどろみの中、俺は懐かしい夢を見ていた。
「…さまっ」
 はるか追憶の彼方の、果たされることのなかった約束。
「…ろ〜っ」
 あれから何年になるだろうか。何故今更…
「起きろって言ってるのよご主人様ぁあ〜〜っ!!」
「ごぶろぉあっ!?」
 どごすっ!! と、みぞおちににぶい、いやすごい衝撃。
「〜〜〜〜〜〜ッッ!!!!!」
 俺は、悶絶して転げまわる。そりゃそーだ、寝ている時にみぞおちに強烈な一撃。
 確かに目覚めの効果は抜群だ。眠気を吹っ飛ばしてあの世に行くかと思ったほどに、痛い。
「お、お前…あにすんだいきなりっ!!」
「起きないのが悪い。もう朝、つまり朝ごはんの時間」
 目の前に立つ少女は、指をびっ! と立てて、形のいい眉を怒りの形によせつつ、
「というわけで、えさよこせ」
 と、言い放つ。
 ――これがほんとに死体かと、毎度ながら疑いたくなる。
 まあ、ようするに。ムナックである。一般にはペットモンスターと呼ばれる、モンスターのくせに人間に懐き行動を共にする、変り種というやつだ。
「えさ。あたしお腹すいてるのよ、早く」
「……」
 しかし。この態度見てると、本当に俺が「ご主人様」なのか疑わしくなってくるのだが。
「・・・ったく。ほら、ペットフードでいいよな?」
「えー。熊の足の裏が食べたーい」
 …前言撤回。疑わしいどころか、こいつぁ絶対俺をご主人様と思ってないに100z賭けてもいい。
「…ニンジンで我慢しとけ」
 えー、と文句ぶーたれるムナックを尻目に、俺は痛むみぞおちを押さえつつ支度をする。
 まだ朝が白み始めたばかりの早朝なので、時間はたっぷりあるが。
 そう、今日は大切な日だ。俺が、ようやく騎士になれる日。
「――だってのに。いや、だからかな」
 あんな夢を見たのは。
「なーにがでつか?」
 俺の思考を遮り、小さな鳥が頭に乗っかる。
「ぼきにもえさくれでつ。ムナたんばかりえさやるのは不公平臨時でつよ」
「またわけわからんことを…」
 このちいさな鳥、ピッキもまあ、俺のペットモンスター、だろう。
 だろうというのは…まあこいつもまた、俺をご主人様なんて微塵も思ってないということで。
 むしろ戦闘中にいろいろと口出ししたり、あげく「もうぼきの教えることはないね!!」と言い出す始末。
 俺を弟子扱いしてる、困った鳥だ。まあ、それで別段こちらに不利があるわけでもないから放置しているが。
「でも、うかない顔してるね。やっと騎士になれるんだから、もっとしっかりしないと師匠のぼきがハジをかくでつよ」
「それはすみませんね師匠。でも、まだ慣れると決まったわけじゃない。資格を得ただけだ」
「まあ、それでも三角よりはマシでつよ」
 わけわからん。
「そーそー、お師匠様の言うとおりよー。というわけで、あとでパーっと美味しいものでも…」
「ムナたんたちの胃袋は全員そろって宇宙でちか…」
「あー。ひどいアルよお師匠様。これでもあたしはムナックの中では小食のほうなんだから」
 ふたりがわけわからん言い合いをする。
 まあ、これも俺を元気付けようとする、こいつらなりの激励なんだろう。たぶん。
「そうだな。騎士になれたら、知り合いとかも誘ってみんなでパーっとやるか」
「さっすがぼきの弟子、話せるでつ!」
「ご主人様、凛々しい…」
「おまいら現金すぎ…」
 俺は苦笑しつつ、装備を整える。
 やっと。やっと、兄さんとの約束を果たすことが出来る。
 もはや一方通行の約束だけど。
 それでも俺は。
 その遠い日の約束を果たすためだけに、今まで生きてきたんだから。
149名無しさん(*´Д`)ハァハァsageノビとウィズ :2003/06/30(月) 22:15 ID:lECUxT7g
一度吐いた嘘を取り消すのは難しい。
重ねた嘘ともなれば尚更だ。
大きな嘘を崩す時はいつだって、同じぐらいに大きな何かを崩してしまう。
木陰で牛乳を飲み干しながら、ウィザードは視線を横にやった。
いつもならば騒がしいノービスが、ぼんやりとした表情でニンジンを齧っている。
ウィザードが無言で牛乳を差し出すと、ノービスは彼の方を見て、少しだけ笑った。
「いいですよ、俺ニンジン好きですし」
そう言って、彼はまたニンジンを齧り始める。
そんな何気無い行動すらも、どこかよそよそしく見える。
ここのところいつもそうだった。
しつこいぐらいにベタベタくっついてくると思えば、不意に遠い目をして口を閉じたり。
買い物の途中にぼんやりと考え事をしていたり。
それなのに、ウィザードが声をかけると、何事も無かったかのように振舞って見せる。
今までに感じた事の無い不自然さ。
一つ一つ積み重なっていくうちに、ノービスと自分の間に高い壁が出来ていくような気がした。
自分にとって、ノービスの存在などどうでもいいはずなのに、それが不安で仕方が無い。
消える事の無い苛立ちが、彼の中で強まっていった。
150名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/06/30(月) 22:16 ID:lECUxT7g
「おい」
「はい?」
ウィザードに呼ばれて振り向いたノービスは、いつもの笑顔。
ばれていないとでも思っているのだろうか。
思わず舌打ちしたウィザードに、ノービスは焦ったような顔になる。
「え、俺なんか先輩怒らせるような事した?」
ウィザードはその問いかけには答えず、真っ直ぐにノービスを見つめた。
「貴様、私に何を隠している?」
一瞬だけ、ノービスの表情が揺れた。
「別に、何も隠してなんてないですよ!」
すぐに元の表情に戻ってそう言ったノービスの胸元を、ウィザードが掴む。
「……いい加減にしろ」
静かな、深い怒りに満ちた声でウィザードが呟く。
「何かを偽ってまで私についてくる理由が何処にある?
 私から離れたいならば早く失せろ」
止める理由などどこにもない、と吐き捨てると、ノービスが苦しげに顔をしかめた。
「先輩は知らなくても困らない事ですから」
「そういって、いつも貴様は自分の事を言おうとしない」
ウィザードは乱暴にそう言うと、ノービスの胸元から手を離して立ち上がった。
「もうどうでもいい。貴様とは二度と会う事も無いだろうからな」
「え?」
驚いたノービスが聞き返した。
ウィザードは何も答えずに、牛乳の空き瓶と荷物を拾い上げると、そのまま歩き出した。
151名無しさん(*´Д`)ハァハァsage良い子は空き瓶で人を殴ってはいけません :2003/06/30(月) 22:17 ID:lECUxT7g
「……ホント、先輩には敵わないね」
ノービスは小さく呟くと、立ち上がってウィザードに駆け寄った。
手を掴むのだが、乱暴に振り払われてしまう。
「触るな」
「待ってよ、全部言うから!」
その言葉に、ウィザードが振り返る。
「私は知る必要のないことなんだろう?」
ならば聞く必要もない、というウィザードに、ノービスは頭を掻く。
「ったくもー、俺が悪かったですから、待ってくださいよ」
「嫌だ」
今回に限ってはウィザードも本気で怒っているらしい。
そっけない言葉を残して、また歩き出してしまう。
「本当、お願いですから待ってくださいってば!」
「嫌だと言っているだろう!」
無理矢理掴もうとしたノービスを睨んで、ウィザードが怒鳴りつける。
「貴様は人の話というものを聞かな過ぎるんだ!
 そのくせ人の事は意地でも聞き出そうとしやがって。
 自分の話になれば適当に誤魔化して終わりにするくせに」
「そりゃ先輩が簡単に誤魔化されちゃうってだけで、俺ばっかりが悪いんじゃないと思うけど……」
ぼそっと呟いたノービスの頭を、ウィザードが牛乳の空き瓶でぶん殴った。
鈍い音がして、ノービスがうめき声をあげた。
「……って、それいくら先輩が非力でも下手すりゃ死んじゃうじゃないっすか!!」
「一度死ねば少しはましになるだろう」
「ひでぇ……あ、やべ、本気で眩暈してきたよ……」
叩かれた所を押さえながら、ノービスが呟いた。
「え、そんな強かったか……?」
慌ててウィザードが覗き込む。
その途端、ノービスは彼を抱きしめた。
気付いたウィザードが逃れようとするのだが、ノービスのほうが動きが速い。
「貴様っ……」
腕を払おうとしても、相手の腕力には全く敵わない。
「ね、ちゃんと言うから、行かないで下さいよ」
そう言って微笑みかけるノービスに、ウィザードは溜息をつく。
こうやっていつも騙されてしまうのだ。
「……いいか、全部言えよ」
ウィザードの言葉に頷くと、ノービスは少し寂しそうな表情をした。
152名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/06/30(月) 22:18 ID:lECUxT7g
それは自分から望んだ事だった。
けれど、改めてノービスの表情を見てしまうと、それをウィザードは少しだけ後悔した。
もしも自分が気付かなければ。気にしなければ。
何気無い生活を続けていくうちに、忘れてしまえたかもしれないのに。
それでも、彼は本当の事を聞く事を望んだ。
今更戻る事なんて出来なかった。
腕を放せと言うタイミングを逃してしまった事に、ウィザードは微かに顔をしかめた。
お陰で、ノービスの表情がよく分かってしまう。
寂しそうな表情のまま、ノービスがゆっくりと口を開いた。
自然、ウィザードの体が硬くなる。
「……実は俺、牛乳嫌いなんですよ」
途端に、ウィザードの頭の中が真っ白になった。
牛乳、というとあれだ。
さっきまで自分が飲んでいた、栄養たっぷりの白い液体で、お菓子作りにもよく使われる奴で、
チーズやヨーグルトにも加工される奴で。
で、それが嫌いという事は……。
……だから何?
153名無しさん(*´Д`)ハァハァsage空き瓶は大切に :2003/06/30(月) 22:19 ID:lECUxT7g
「………………あ?」
ようやく我に帰ったウィザードが、間抜けな声を返す。
ノービスは淡々と言葉を続けている。
「でも先輩牛乳好きそうだし、今更打ち明けられないよなってずっと悩んでて。
 先輩が牛乳買うたびに、よくあんな物飲めるな、とか思っちゃうわけで。
 あ、アレルギーがあるとかいうんじゃないんですけどね」
真っ白になった頭の中で、ノービスの言葉が木霊する。
彼が話している物は、間違いなくあの牛乳の事である。
つまり。
自分は食べ物の好き嫌いのことでイライラをためていた訳で。
本気で牛乳の事で悩み続けていた訳で。
「……先輩、やっぱり俺の事軽蔑した?」
不安げに聞いてくるノービスの言葉も、ウィザードには届かない。
「……牛乳の事?」
「はい」
「……それだけ?」
ウィザードの言葉に、ノービスが驚いたような表情をする。
「だけって、食べ物の好き嫌いは凄い重要じゃないですか」
それと同時に、ノービスの腕が緩む。
ウィザードはノージスの腕を振り解くと、牛乳の空き瓶でノービスをぶん殴った。
瓶が割れないのが奇跡ともいえそうな勢いだった。
154名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2003/06/30(月) 22:20 ID:lECUxT7g
上手く当たったらしく、ノービスは頭を押さえてその場に座り込んだ。
「……先輩、今本気で殴ったでしょ……?」
涙目になって見上げてくるノービスに、ウィザードは冷たく言い放つ。
「馬鹿か貴様は」
「あー、先輩に殴られたから馬鹿になっちゃったかもしれない……」
そう言ったノービスを、ウィザードは冷たく鼻で笑う。
「安心しろ、これ以上ならないぐらいに馬鹿だっただろうが」
そう言うと、彼は軽く息を吐いた。
「ぐだぐだ悩んでいるかと思えば、食べ物の好き嫌いとは……」
くだらない、とウィザードはもう一度溜息を吐く。
「いや、でも長く付き合っていくには、食べ物の好き嫌いほど重要な物はありませんよ?」
長く付き合っていくつもりなど無い、と怒鳴りつけようとして、ウィザードはある考えを思いついた。
「確かにそうだな」
あっさりとした返答に、ノービスが不思議そうな顔になる。
その顔に、ウィザードが指を突きつける。
「ということで、今日から毎食牛乳付きで決定だ」
「え」
絶句するノービスの前で、ウィザードは一人納得して頷く。
「いつも飲まされてたらそのうち慣れるだろう。
 安心しろ、飲めるようになったら毎食じゃなくて毎日にしてやる」
平然と言い捨てるウィザードの前で、ノービスは未だ硬直したままである。
「よし、早速買いに行くか」
「せ、先輩、マジですか!?」
「大マジだ」
ウィザードはそういうと、牛乳を売っていそうな店を探して歩き出してしまった。
「先輩、お願いですよ、それだけは勘弁して下さいってばぁっ!」
「ならついて来るな」
食べ物の好き嫌いは重要なんだろう、と彼は付け加える。
後に残されたノービスは、しばらく立ち尽くしたあと、大きく溜息をついた。
「やっぱり、言わないほうが良かったかね……」
けれど、言わなければウィザードは一人でどこかへ行ってしまったであろう。
どんなに嘘をついたって、最後にはばれていたに違いない。
本当に自分を信用してくれる人というのは、
どんなに嘘をついたって、ちゃんと本当の事を見つけ出してしまう。
「まぁ、俺の事気にしてくれてるって事だよな……?」
そうに違いない、とノービスは一人頷いて、ずいぶんと先に行ってしまったウィザードの後を追いかけた。
155名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/07/03(木) 01:51 ID:hsp6.IIQ
キタ━━━━ヽ(゚∀゚ )ノ━━━━!!!!
毎回すごく楽しみにしております。真剣に怒るウィズ様と真剣に悩むノービス君(*´д`*)ハァハァ
156名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2003/07/03(木) 13:44 ID:zjJKgMBY
ぷおぁあああああ!!
きたぁーきたぁあああ!!ハフーハフー(大興奮
うはぁーもう駄目だーほんとこのウィズとノビのコンビが・・・!!
最高です!最高!!
157名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2003/07/06(日) 07:21 ID:SbHK.X3g
「ははは……」
口から漏れたのは笑いと血だった。
話には聞いていた。見るのは初めてだった。
深い深い夜の風は冷たく、数え切れない掠り傷を容赦なく撫でる。
モンスターの魔力付与が施されたマントには細い枝が刺さっているらしく、背中に違和感がある。
奴の拳をまともに受けたヘルムは異様な形に曲がっている。視界の邪魔になったので俺はそれを脱ぎ捨てた。
奴の一振りをかろうじて裂けた自分だったが、その巨体が眼前に迫ったかと思えば俺の体はボールのように宙へ。
木の枝を何本も折り、重力で大地へ叩きつけられたこの体。生きて帰れそうにもなかった。
なんとか立ち上がり、奴を睨む。既に勝機を悟ったのか、歩みはゆっくりと、その手には血の色をした斧。
「名高いオークヒーロー……ね。」
ツーハンドソードを下弦に構えた。ハイ・オークの群れを片付けるのに精神力(SP)を使いきってしまった。
それに、いくらツーハンドクイッケンで攻めようも想像を軽く超えてくれるあの腕力の前ではこの両手剣も枝同然だろう。
オートカウンターにかけるしかない。この体で奴の攻撃を避けられる保障なんぞ何処にもないが、それ以外に道は思いつかない。
奥歯を噛み締め、左足を1歩前に。今にも意識が飛びそうだが、どうせ飛ぶのなら一矢報ってやる。
右下へ構えられた愛剣。幾度も鍛え上げられ、モンスターの魔力が込められた愛剣のお陰もあって巷での俺の知名度は鰻上りであった。
実際、他の騎士と手合わせをしても負ける事はなかった。それがまた拍車となってしまった。
「プロンテラで1番の使い手が……このザマじゃ人間に未来はねぇな。」
奴がそのちょっとした木の幹と同程度の太さがあるだろう2本の腕を振り上げると、俺も一気に踏み出した。
158157sage :2003/07/06(日) 07:21 ID:SbHK.X3g
通称でオークの森と呼ばれるこの地は多くの冒険者が訪れる事となる謂わば門だ。
地下にはオークのアンデットが巣窟をなしており、地上では数少なくなったオーク達が冒険者相手に襲い掛かってくる。
プロンテラ騎士団がここを大きく襲撃したのは3ヶ月程前だ。今では残党狩りとして多くの冒険者が志願兵として訪れる。
地下道のアンデット達を見張るためにもやはり多くの志願兵がこの地にやってくる。俺も例外ではなかった。
志願兵としてではなく、騎士団から正式に依頼されてやってきたのだが。
依頼を受けた、という形なので騎士団が指定してきた時間。決まった場所に立っていなくてはならない。
オーク地下道入り口。偶に彷徨い這い上がってくるアンデットを軽く始末してまた暇つぶしを考えるという毎日をここ2ヶ月ほど過ごしていた。
もっぱら、暇つぶしと言えば冒険者との雑談が多かった。
騎士団のバッチと前々からの俺の名前もあり、話し相手には困らなかった。ただ、毎回のように口止めをするのは面倒だったが。
今日も寝ぼけ眼でいつもの場所にやってきた俺は知った顔に会った。確か、騎士団に登録された正式パーティーの1人だったと思った。
「デニスさん!」
思い違いではなかった。俺の偽名(本名を公に発言されると見張りも何もなくなってしまうので口止めしてあるのだ。)を空気一杯に叫んだかと思うと彼は俺の所までよろよろと駆け寄り崩れ落ちては、
「何があった?」
問いかけても、
「うわぁぁぁぁ!!」
唯、冷たい朝霧のかかった森に泣き叫ぶ声が響くばかりであった。
見た目、怪我をしていなかったし本人も歩けるというので二人並んで歩きいつもの場所へ腰を下ろした。
「それで、どうしたんだ?」
バナナを頬張りながら。俺は彼を宥めつつ問いかけた。既に腰を下ろしてから10分は経っているが。
「デニスさぁん……」
「俺はここにいるから、どうしたのか話してくれないか? まぁ、今日は始まったばかりだ。1日かけてゆっくり話をしてくれて構わない。」
バナナの皮を地下へ投げ捨てた。何か大きな物音がしたが無視。
「デニスさぁん……みんな殺されました……」
どうやら暢気にバナナを食っている場合ではないようだ。
「実は……」
「……なるほど。それでおまえが生き残ったのか……」
返事はなかった。無理もない。仲間が1人残らず殺されたのだから。
彼の職業はシーフ。パーティーメンバーでも1番足の速い彼。だからこそ、この悲劇を騎士団に伝えるべく仲間を見捨てて生き延びた。
「おまえはしっかり仕事を果たした。わかるだろ?」
至極当然だ。リーダーの命令で彼は首都まで走った。ひたすら走った。悲劇を伝える為に。
「まぁ、しばらくはゆっくり休め。騎士団の方へ俺からも言っておくよ。」
泣き疲れたのあろう。彼の顔は青褪めていた。
地下からあがってきた冒険者に彼を頼むと、俺は暇つぶしを考える事無くその日の仕事を終えた。
159157sage :2003/07/06(日) 07:22 ID:SbHK.X3g
夜の森はいつ見ても不気味だった。
場所はオークの森。今は志願兵としてこの場にいる。
冷たく刺さるような空気を顔に感じながら、奥へ奥へと足を運ぶ。
オーク・ヒーロー
3ヶ月前に20人を超えるナイトを血祭りに上げたというオークのイカヅチ。
犠牲者の努力もあり、ようやくその死亡が確認されたというが復活したのも確認されてしまったら仕方がない。
たった1人で弔いを達成できるとは簡単ではないだろうが、家から持ち出した師の遺した武具が今の俺にはある。
モンスターの魔力が込められたというマントとツーハンドソード。
ツーハンドソードにいたっては、あのホルグレンさえも舌を巻く業物だ。魔力付与がなくともクレイモアに引けをとらない。
そんなツーハンドソードを抜いた。オークが群れをなす事は本来ならありえないからだ。
視線の先には不健康そうな肌色をしたオーク。ハイ・オークと呼ばれる灰色の肌をもつ種族だ。
「命の代償は命で払ってもらうぜ。」
群れの方角へ叫び、宣戦布告。剣を後ろへやりながら駆けた。
俺の台詞が聞こえたのか、ハイ・オークも呼応するかのよう低い叫び声をあげるとその筋肉質な体でこちらへ向かってくる。
足を止め、剣を大上段に構える、精神を集中させる。
ツーハンドクイッケン。精神力を犠牲に神経を異常発達させる高レベルスキルだ。全身の汗腺から水分が蒸発していくのさえわかる。
俺のがら空きになった腹部を狙ったのだろう、1匹のハイ・オークが巨大な斧が横薙ぎに迫ってくるが斧ごと叩き斬る。
勢いを利用して180度体を回転させると、やはり勢いで体が不安定なハイ・オークがいた。奴の顔がこちらを向いたときには師より頂いた大剣がその胸を貫いた。
「大したことねぇな……残り7匹、纏めて相手してやるぜ?」
突き刺さった剣を横薙ぎで抜き再び振り返る。ハイ・オークにも弔いという感情はあるのだろうか? ただ、その低い叫び声が森の音を支配していた。
160157sage :2003/07/06(日) 07:22 ID:SbHK.X3g
退屈な時間を潰すのはやはり雑談が1番だ。婦女子が相手ならそれに越したことはない。
騎士団の正式パーティーに所属する彼女の名前はミライと名乗っていた。正式パーティーであるからか、毎日この場へやってきては俺と雑談の花を咲かせていた。
彼女の仕事はブラックスミス、鍛冶屋だ。カートに幾つもの武具やアイテムを入れてはパーティーを支援する云わば動く倉庫。
パーティーリーダーも、「一緒に連れて歩くよりはデニスさんがいるここに置いておいた方が安全だ。」等と言い、こうして雑談をするようになって1ヶ月はたった。
「いいよな……おまえは1番安全な場所で暢気にミルク飲みながら待っていればいいんだから……」
帰ってきたパーティーリーダーの台詞も口癖のようだった。
1ヶ月、短いような気もするが色々とあった。
稀にあがってくるアンデットを1撃で葬り死骸を地下へ蹴り捨てると彼女は決まって吐き気に襲われていた。
何を思ったか知らないが、カートから大量の肉や野菜を出したかと思うと鉄板まで出してバーベキューなんかもやった。
3日に1回くらいで、簡単な作りのナイフを見せては、その出来具合を俺に尋ねてきた。
それでも、雑談のほとんどは身の上話だった。
「私、生きてて良かったと思えるようになる為に生きてるんです。」
何度も討論をした。喧嘩にもなった。それでも毎日、彼女は最後に笑顔で帰っていった。信頼のおけるパーティーに囲まれて。
「私、あの人達と一緒にいると、生きてて良かった、と思える気がして。」
最後には笑顔で帰っていった。大切な仲間達に囲まれて。
161157sage :2003/07/06(日) 07:22 ID:SbHK.X3g
ハイ・オークがその巨大な斧を振り下ろしてくる。しかし、狙いが甘すぎる。
当然といえば当然。奴らには俺の姿がぼやけて見えているはずだ。マントに閉じ込められたモンスター「ウィスパー」の力。
やや右前方へ体を運び左下からその手首をもっていってやる。振り上げた剣をそのまま肩口から一気に胴を割る。
「あっけねない。あっけなさすぎるぞ馬鹿やろう。」
全てのハイ・オークが屍となった。軽口を叩いてみたが、精神面は酷く疲れきってしまった。
「…俺のクレイモアを作ってくれるって約束は、おまえらが潰したんだな。」
思わず声が出ていた。どうしてこんな声が出ただろうと思った瞬間には、俺の体は大きく弾き出されていた。
木にぶつかりようやく勢いが止まる。剣はなんとか手の中にあった。直ぐに相手を見据える。
それは大きかった。ハイ・オークと比べると1.5倍くらいであろうか。ハイ・オークでさえも大柄の人間より若干大きいくらいの体を持っているが。
そんな事を思っている間に、体躯に似合わぬ速さでこちらに駆けてくる奴。とっさに精神を集中させオートカウンターの手をとる。
正面から繰り出された突きをなんとか交わした。左前方へ大きく跳び剣を振るったが奴の肌を浅く斬っただけに終わったようだ。
俺の背後にあったその木に奴の斧が突き刺さると硬く引き攣るような音をあげ大地へ崩れていった。薙ぎ抜かれた斧が俺の首を飛ばそうと向かってきたのだ。
前屈みにそれを交わすと剣を振り上る。牽制にしかならないだろうが距離をとりたかった。
結果、俺の剣は空を斬っただけ。次の瞬間には視界が真っ暗になっていた。
162157sage :2003/07/06(日) 07:22 ID:SbHK.X3g
「いつか、デニスさんへクレイモアを作ってプレゼントしますね。」
満面の笑みを浮かべた彼女の金色のロングヘアーはバーベキューのせいか汗だくになっていた。
「ちょっと待ったミライ!どうしてパーティー1の両手剣使いの俺には『その分、鉱石だせ』という癖に……」
彼女の名はミライといった。未来、からそのまま来ているらしい。自分でつけたそうだ。
満面の笑みを変えずにナイトの頭に拳骨1発。可哀想に舌を噛んだ様で悶絶している。
「でも、デニスさんへ武器をあげてもミライが作る武器じゃ1時間も……」
やはり満面の笑みでシーフにも拳骨1発。元々打たれ弱い彼はさらに厳しそうだ。
「やれやれ……デニスさんも大変ですねぇ。」
「何がだ?」
「いや、色々です。」
パーティーリーダーが肉を頬張りながら溜息をついた。
「実はですね。」
思ったよりシーフが早めに復帰すると俺に助言してくれた。
「彼女、デニスさんに惚の……」
今度は復帰する事なさそうだ。カートに無理やり詰め込まれている。
「もう!みんなったらー!」
生まれがどんなに酷かろうと、彼女もまだ若いのだ。それくらい生に満ち溢れていたほうが自然だ。
そして、彼女の気持ちもありがたいのはありがたいのだが、今の俺に恋仲というのは有り得ない物でもあった。
「さて、今日はちょっと人を待たせてるんでね。先に帰るよ。」
言って、食器をミライに預けた。
「人って、誰と待ち合わせですか?」
「まぁ、別にいつでも良いんだが……大聖堂裏だからな。」
大聖堂裏の待ち合わせ。それは「墓参り」を意味する。特に大聖堂裏に葬られた人間は悲劇的な死を迎えてしまった人間が多く、独りでの参拝者が目立つ。
実を言えば半分は嘘だ。大聖堂裏の墓地には用はない。
「……そうですか、気をつけてくださいね。」
「そっちもな。」
後ろめたい気持ちもあったが、俺は早々にその場を離れた。彼女もこれで馬鹿な考えを辞めてくれるだろう。
何気なく口にした久しぶりの煙草は心なしか不味かった。
163157sage :2003/07/06(日) 07:23 ID:SbHK.X3g
「ははは……」
口から漏れたのは笑いと血だった。
話には聞いていた。見るのは初めてだった。
深い深い夜の風は冷たく、数え切れない掠り傷を容赦なく撫でる。
モンスターの魔力付与が施されたマントには細い枝が刺さっているらしく、背中に違和感がある。
奴の拳をまともに受けたヘルムは異様な形に曲がっている。視界の邪魔になったので俺はそれを脱ぎ捨てた。
奴の一振りをかろうじて裂けた自分だったが、その巨体が眼前に迫ったかと思えば俺の体はボールのように宙へ。
木の枝を何本も折り、重力で大地へ叩きつけられたこの体。生きて帰れそうにもなかった。
なんとか立ち上がり、奴を睨む。既に勝機を悟ったのか、歩みはゆっくりと、その手には血の色をした斧。
「名高いオークヒーロー……ね。」
ツーハンドソードを下弦に構えた。ハイ・オークの群れを片付けるのに精神力を使いきってしまった。
それに、いくらツーハンドクイッケンで攻めようも想像を軽く超えてくれるあの腕力の前ではこの両手剣も枝同然だろう。
オートカウンターにかけるしかない。この体で奴の攻撃を避けられる保障なんぞ何処にもないが、それ以外に道は思いつかない。
奥歯を噛み締め、左足を1歩前に。今にも意識が飛びそうだが、どうせ飛ぶのなら一矢報ってやる。
右下へ構えられた愛剣。幾度も鍛え上げられ、モンスターの魔力が込められた愛剣のお陰もあって巷での俺の知名度は鰻上りであった。
実際、他の騎士と手合わせをしても負ける事はなかった。それがまた拍車となってしまった。
「プロンテラで1番の使い手が……このザマじゃ人間に未来はねぇな。」
奴がそのちょっとした木の幹と同程度の太さがあるだろう2本の腕を振り上げると、俺も一気に踏み出した。

板、目汚しスマソ でも、身内に発表できるような環境じゃなかったり(汗
164名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/07/07(月) 20:02 ID:8GS1uLmM
続き期待sage
ガンバレ
165名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/07/10(木) 23:28 ID:/38DvBkY
どのような展開になるのか、激しく期待。
頑張りたまえ。
166名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/07/16(水) 20:14 ID:x6YAjarE
と、あるところに一人の剣士とアサシンがいた。
「PvPにさぁ、むかつく騎士がいてよぉ、人のこと雑魚呼ばわりしてきてさ、まったく腹が立つぜ、お前アサシンだろ?
この騎士殺してくれないか?」と、剣士がアサシンに殺しを依頼するのだった。
「へぇー、どんな騎士だったんだ?そんなにむかつくのか?」
「むかつくなんてもんじゃねぇよ、テロだテロ。有無も言わさず襲い掛かってきてよ。で、倒されたらいきなり『雑魚が』
だぜ?すげえむかつくぜ、そして悔しいぜ、な。頼む、こいつ倒してきてくれよ」
「テロかぁ、そりゃーむかつくなぁ、よしっ。じゃあいっちょその騎士を倒しに行くかぁ」
と、二人はリベンジでPvPに向かうのであった

〜PvPモロク〜

「多分中央の中央にいると思うのだが」
「とりあえず挨拶でもしておくか、襲い掛かってきたら返り討ちにしよう」
「OK]
こんな会話をしながらトコトコと二人は中央に向かった。そこには一人の騎士と他何人かの集団が
いた。
「どうも」アサシンはしゅたっ、と手を上げた。しかし次の瞬間騎士が斬りかかって来た
「死ね」2HQを発動させ一気に勝負を決める気だろうか。
「へっ、お前が噂の騎士だな、そう来ると思ったぜ。勝負だっ!」
騎士の攻撃を避け腹にカタールの一撃を斬り込んだ。
「ちっ、さすがにアサシンには攻撃があたりずらいぜ、それなら」(オートカウンター)
いきなりオートカウンターを使われた為急に攻撃を止める事ができず自分の攻撃がすべてクリティカル
で返って来てアサシンはあっさり死んだ。
「・・・・マジ?」剣士はぼーぜんとしていた。
「お前はさっきの雑魚剣士か、仲間でもつれてきたのか?」
「いえ、違いますよ、これはあいつが勝手にやった事でして・・・」そう弁解する剣士
「なーんだそうだったのか、じゃあ死ね」容赦なくボウリングバッシュを放ち剣士も他界した

〜セーブ地点〜

「おい!お前それでも暗殺者か?簡単に負けるんじゃねえよ!」
「んなこといったって騎士のスキルってアサシンより優れてるんだぜ?オートカウンターとかクリティカル
だしよぉ、木琴あっても避けられないんだよ。やっぱアサシンって弱いんかなぁ」
二人でため息をついた
「いや、そんなこと無いさ」
とうしろから別の声がした。
「あ!アンタはあの有名なレベル97にてボス狩りで有名な伝説のアサシン、クロウ!」
「事情はすべて聞いていたよ。PvPでマナーの悪い騎士がいるんだってな?面白い。そういう奴の鼻っぱし
へし折ってやるのも悪くない」
クロウと言う名のアサシンは自信満々にそういった。
「おお、これは心強い、じゃあ俺たちの仇を取ってくれるか?」
「もちろんだ。任せておけ」
こうして3人は再びPvPに向かうのだった
167名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/07/16(水) 20:14 ID:x6YAjarE
〜PvPモロク〜
「今度はもう挨拶なんかする前に襲い掛かったほうがいいんじゃないのか?」
「そうするか、その騎士の名前なんていうんだ?」
「たしかゴクアとか言ったっけ?」
「そうそう、たしかそんな名前だった」
「ほうほう、ん?あの騎士か?」
中央の建物の前にどっかり構えてる逆毛の騎士がいた
「そうだ!あいつだ!」
「よしわかった、行くぜ!」クロウは有無も言わさずゴクアに襲い掛かった
「ムッ」いきなりの奇襲で準備もしておらず同様するゴクア。次々と攻撃を入れ込むクロウ
「おお!強い、クリアサかぁ、さすがだぜ」
ズバッ!ズバッ!と激しい攻撃で斬り込むクロウ、しかし次の瞬間クロウの足元がピカッ、と光った
ヘッ、そんな攻撃今更効くかってんだよ、こっちはFLEE250の天下のアサシンだぜ、そう考えながらクロウの魂は
天に召されていった。足元の光はファイヤーピラーだった
「え!?クロウが消えた・・・何が起こったんだ?」そう考えてるうちにも自分らの足元がピカッと光
り気が付けばプロンテラ南に三人とも強制送還されていた

〜プロンテラ南(セーブポイント)〜

「おい、何があったんだ?あんな押してたのに急に消えちまって。鯖キャンか?」
もの悔しそうにクロウに尋ねた
「いや、違う。あそこに騎士以外にも人いただろう?あいつらみんなグループでテロなんだ、10人はいたな、あれじゃあ
勝てるわけ無いぜ」
「なにっ、くそ。たしかに10人相手じゃいくらレベル97でも勝てないよなぁ(FPで瞬殺されてたけど)じゃあどうするんだ?」
「アサシンの逆襲だ。知り合いのアサシンやテロ退治に参加するアサシンを集める。とにかく人を集めるぞ」
「集めるって何人くらい集めるんだ?10人か?」
「いや、もう集められるだけ集めよう、数は多いほうがいい」
そうして3人はチャットを立ててアサシンを集めることにした。
(アサシンの意地だ、PvPのテロを退治するぞ)
「俺も参加する!」
「私も参加していいかな?」
「俺もやるぜ、テロなんかぶっ殺してやろうぜ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
こうして人数を集めた、総勢60人であった

「みんなー、今日はよく集まってくれて感謝している、俺たちの敵はモロクの中央にいるパーティだ、
来た奴を片っ端から殺す意地の悪い奴らだ、この戦絶対勝つぞ!」
アサシン達「オー!!」
こうしてアサシン達はPvP控え室に突っ込み記念に写真をとってモロクに特攻したのだった。そして・・・
                    ↓
http://nin.velvet.jp/ul/source/up0193.bmp
168名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/07/16(水) 20:16 ID:x6YAjarE
と、いう訳で実際にあったことをアレンジして話を作ってみた。小説とは呼べないけどね・・・
ちなみにクロウとゴクアという人物は架空の存在であり存在しません
169名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/07/18(金) 02:00 ID:IGqb37T.
返り討ちにされてるー!??
「やっぱアサシンって弱いんかなぁ」
萌えました。萌えキャラ な ら 最強アサシンに栄光あれ
170名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/07/19(土) 00:51 ID:ekOq78mI
「死ぬ、マジで死ぬ」
 そう呟いてプリーストは寝台にばたりと倒れた。
 腕をあげるのも辛いほどの疲労と、襲いくる睡魔にプリーストは必死で耐える。
「教会の奴らは俺をなんだと思っているんだ?」
 思わず零れたのは教会への悪態。
 昨晩のことだ。彼が属す教会から呼び出しがかかった。嫌々ながらも司祭と面会
すると、プリーストとして教会で一週間働けという。
 聖書の文句を唱えることすら滅多にない自分が教会で布教なぞできるかと返すと、
教会の司祭はもっと別の、もっと適した仕事だと言った。
 それは……
 書庫整理
 教会の奥に保存されていたたくさんの本を一度全部外に出し、整理するのだという。
 本の中身の確認や分類は他の者がするから、ただ本を運べばいい、と言われた。
「『力仕事』 あなたにこれほどぴったりの仕事はないでしょう?」
と笑顔で言われた。
 ソロ志向で滅多に教会に近づかない彼だが、教会に属している以上命令には逆らえな
い。
171名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/07/19(土) 00:53 ID:ekOq78mI
 というわけで、一日働いて来たのだが。
「あいつらは本気で俺を殺す気か……」
 だるい体を起こしてプリーストはうなった。
 体力・腕力ともにそこそこの自信はあった。
 しかし、埃っぽい部屋の中で、ただただくそ重く分厚い本を運ぶ仕事は、予想以上に重
労働だった。
 ――独りでグラストヘイムに特攻したほうがよっぽどましだ
と、何度思ったことか。
 もし、この作業から解放されるなら信じてもいない神に祈りの一つでも本気で捧げてい
たかもしれない。
 プリーストはちらりと壁にある時計に目を走らせた。
 夜、とは言ってもまだ宵の口。
 いつもならポタを使って適当な狩り場へと繰り出すのだが。
「明日もあるんだよなぁ……」
 深く深くため息をつく。
 教会の一日は朝早くから始まる。
 日頃、怠惰な生活を送っているせいで早起きはひどく躰に堪える。
「あー、狩りに行きたいのに、マジ限界」
 それでも諦めきれずにプリーストは愛用の属性ソドメを引き寄せた。
 そして柄に彫り込まれている作成者の名前を指先でなぞる。
「会いたいけどマジ限界……」
 この時間に馴染みの酒場に行けばあいつと一緒に狩りに行けるかもしれないが、
「眠ぃー」
 疲労と睡魔は払っても払っても、払えきれない。
 今夜は行ってもあいつには会えない、と無理矢理自分を納得させて。
 プリーストは瞼を閉じた。

                            Gute Nacht.....
172名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/07/20(日) 00:52 ID:V.CXbSgU
>170
はぅ、ヒサビサにプリ話だ…
ドキドキ(期待
173名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2003/07/27(日) 03:28 ID:ivLxyys2
俺たちには両親が居なかったから、幼少時はずっと孤児院で過ごした。
兄弟だと言う事は血液検査で分かってはいたが、余りに似ていない兄と弟。
自分より圧倒的に優れている兄が憎かった。
協会で働いているシスターたちは、皆一様に同じ事を言う。
「あの弟は失敗作ね」
失敗という言葉が、何より嫌いだった。
7歳になった頃からもう、優れた兄への殺意を抱いていた。
誰からも好かれる、完璧な兄。
疎まれて育った、完璧な兄の弟。
そして、俺が兄を憎んでいる事を知っていたのは、当の兄だけだった。
其れでも兄は、何時だって優しかった。

俺が暗殺者になったのは、14歳の頃。
何よりも力がほしくて、無茶な戦い方ばかりしていた。
兄は17歳と言う若さにして魔道師ギルドの要人だった。

俺の最初の仕事は、その、魔道師ギルドの要人の暗殺。
幼い頃から望み続けていた仕事だったと思う。
そう、兄を殺すために今まで必死で生きてきたのだ。
俺が暗殺者になると決めて旅立った日から、もう4年もたっていた。

今、俺が暗殺の標的にしているウィザードは、4年前のあの日から、何一つ変わっていなかった。
いかにも穏やかそうな真紅の瞳も、同じ色の燃える様な赤毛も、何一つ。
それが何よりの、相手が兄であると言う証拠だった。

―怖くは、無かった。何よりこの瞬間こそ、俺が望み続けた時なのだから―

投げナイフを構える。ほんの少しの緊張と、例えようの無い喜び。
不意に兄の口から言葉か漏れた。
「居るんだろ?出て来いよ」聞きなれた、気だるげな兄の声。
内心、俺は相当驚いていた。何故狙われている事に気付いたのか、そればかりが疑問だった。
「随分大きくなったなぁ。あの頃はまだ私より小さかったよな。」柔らかい兄の手が、あやすかのように俺の頭を撫でる。
「なっ・・・・・!!やめろ!!」振り払われた手を軽く抑えながら、兄はそれでも笑う。
「変わらないな。御前は、昔から何一つ変わってないよ。」
一瞬の沈黙。一瞬の筈なのに、やけに長く感じた。
「良いんだ。私は構わないから。」振り返った兄は、どこか寂しそうに笑った。
何の事を言っているのか、直ぐに察しが着く。
「私を殺さないと、御前が殺される。分かってるんだろ?」ごく当たり前の事の様に、さらっと言いのける。
―あぁ、本当は分かっていた。俺はこの人を憎んでなんか居なかった。何時だってこの人は優しかったのに―
カラン、と乾いた音を立ててナイフが落ちる。兄はそれを拾い上げると、力の入らない俺の手に握らせた。
兄の取る行動くらい、容易に予想出来たけれど・・・・。それでもやっぱり俺は、抵抗出来なかった。
命に愛着があった訳じゃない。ただ、これは兄を裏切った俺への、制裁の気がした。
俺の手に温かい手が重ねられて、そのまま刃先は心臓へ。幼い頃から狙っていた場所。
俺の手は、自分でも情けなくなるほど震えていた。
刃先が、兄の心臓の前で止まる。死を目前にしても、それでも兄は笑っていた。本当に幸せそうに、至上の笑みで。

手が、生温い。いや、手についている液体が、生温かった。霞んだ視界に広がる、赤。
コレは、俺が愛した人の瞳の色だな、と、ぼんやり思った。
目の前の赤が揺れて、崩れ落ちる。水音と、手の中にあった物が落ちる感覚。
愛する人の笑顔だけが、やたらにはっきりとしていた。

全て失った。生きる目的も、愛する人も、未来も。
ただ残っているのは、鮮明すぎる笑顔と、罪。
それでも俺は、生きる道を選んだ。生きている限り何時までも続く地獄と戦う覚悟をした。
それが、愛する人の残した罰だと、そう思ったから。俺が死んだ時に、少しでもあの人に近づけるように、と。

      END
174170sage :2003/07/29(火) 00:44 ID:eZZWRCy6
 上限の半月が見えた。
 確か、今日の作業を始めたときには、天窓から明けの明星が見えた。
――何はともあれ
 地獄の書庫整理も今日で終わりだ。
 司祭のねぎらいの言葉など、右耳から入って左耳に抜けていた。
 頭の中にあったのは、これから何をしようか、ということだけだ。
「あー、ともかく明日は昼まで寝るぞ」
 教会の外に出て、プリーストは軽く伸びをした。
 そんな彼に後ろから声がかかる。
「あ、……さん」
「ん?」
 振り返ると教会で修行中のアコライトが分厚い本を抱えて立っていた。
「これどうぞ」
 にこりと彼は笑った。
「司祭様がこの厚さと固さならあなたにちょうどいいだろう、と」
「ちょうどいい?」
 受け取った本をプリーストは見た。古びた革表紙の本だ。中の紙は羊皮紙。
本文は古い言葉で書かれている。すらすらとは読めないが、時間をかければ
読めないことはない。
 適当なページを開き、数行を眺めた後、プリーストは顔を上げた。
「これがいったい何にちょうどよいんだ?」
 解読できたところには特に自分に有用なことは書いてなかった。
「それぐらい重くて固いなら、武器にちょうどいいですよね」
「は?」
「だから武器です。……さんならこれぐらい軽々と振り回せますね。だって
あんなにたくさんの本を一度に運べるんですから!」
 首を軽く傾けながらアコライトは続ける。
「あ、それとももっと重たくて大きいほうが良かったですか? それなら僕
が探しますけど」
 その申し出をプリーストは丁重に断った。顔が少々引きつっていたかもし
れないが、それは不可抗力だ。
――もしかして、新手の嫌がらせか?
 まぁ、確かに、このプリーストにとっては、聖書は神の言葉を周囲に伝え
るものではなく、ダンジョンでまとわりつく蝙蝠をたたき落とすものではあ
るのだが……。
175170sage :2003/07/29(火) 00:46 ID:eZZWRCy6
 教会を後にして夜道を歩く。
――さてとこれをどうしたものか。
 しかたなく引き取った古本を手にプリーストは思案する。
「カプラに預けてきたらよかったなぁ」
 わざわざ引き返すのは面倒くさいと彼は小さく舌打ちした。
 と、そのとき、彼にWISが届いた。
『よぉ……、聞こえるか?』
 声の主は彼の愛用ソドメの制作者。自然とプリーストの口元に笑みが浮か
ぶ。
 暗くなった空を仰いで、プリーストはWISを返した。
『ん、久しぶり』
『そういえば一週間以上会ってなかったな』
『今週いっぱい、俺が酒場に行ってなかったからな』
『あぁ、今から会えるか? 実は製造の支援を頼みたいんだ』
『OK、ちょうど教会からの帰り道だからすぐ行く』
 WISを打ち切ると、プリーストは足を酒場に向けた。
 彼の足取りは先程より軽くなっていた。
176170sage :2003/07/29(火) 00:48 ID:eZZWRCy6
 馴染みの酒場は相変わらずの混雑ぶりだった。
 楽しそうな話し声、笑い声、ときおり怒声が聞こえた。煙草の煙のせいで、
わずかに視界が煙っている。
 人の合間をぬい、プリーストはまっすぐにブラックスミスの元に向かった。
 向こうもこっちに気づいたようだ。
「わざわざすまないな」
「別にかまいやしないさ。俺もここに来るつもりだったし」
と笑って、プリーストは空いた席に座った。
 無造作に机の上に置かれた本を見て、ブラックスミスは言った。
「また珍しいものを持っているな」
「あー、それは押しつけられた。俺、鈍器専門だし」
 明日には倉庫に放り込むさ、とプリーストは付け足す。
「読んでみていいか?」
と訊かれ、
「ご自由に。おもしろいことなんて書いてないぞ」
と返す。
 ブラックスミスの指がぱらぱらと羊皮紙のページをめくった。
「……なんて書いてあるんだこれ? 読めないぞ」
 困り顔のブラックスミスの様子にプリーストは吹き出しずにはいられなか
った。
「あはは。それもしかたがないな。古語だから」
「お前、読めるのか?」
「一応な。普通の言葉を読むようにはいかないけど」
 ひょいと開かれていたページをプリーストはのぞきこむ。
「あぁ、賛美歌だな。これ」
 歌詞を二、三行ほど原語で読み、それから意訳してやると、ブラックスミ
スは感嘆の声を上げた。
「へぇー、ほんとに読めるんだな」
「一応これでもプリーストだからな」
 鈍器片手にどつき倒すのが大好きであっても、それなりの教育は受けてい
る。
「歌ってみてくれよ」
「嫌だね」
「ケチだなぁ」
「俺、音痴だもん」
 グロリアはどうなんだと、ブラックスミスがつっこんでくる。
「製造のときにいつも聞かせてもらってるぞ。あれだけ歌えて音痴なわけな
いだろ」
「あれは血のにじむような努力の結果。人に聞かせることができるようにな
るまで、がんばって練習したんだぜ?」
 血のにじむ、というのは大げさにしてもかなり練習したのは本当だ。もと
もとこのプリーストは歌うのが苦手だったから。
177170sage :2003/07/29(火) 00:49 ID:eZZWRCy6
 一緒に酒と軽い食事を終わらせて、二人は酒場を出た。
「さてと、腹ごしらえもできたし製造するかな」
 今夜は水の力を帯びたソードメイスを作るという。
「長くなりそうだけど大丈夫か? 鉄や鋼鉄もつくらにゃいけないんだ」
 その問いにプリーストは軽く頷く。
「明日は寝坊するって一週間前から決めてる」
 お前らしいとブラックスミスは笑った。
 グロリアのためにと、ブラックスミスから来たPT要請をプリーストは受
ける。
「今夜は寝かせないぞ」
 その冗談に、プリーストは
「バーカ」
と苦笑いしながら言葉を返して、ブラックスミスにブレスとグロリアをかけて
やる。
 夜空にプリーストの歌声と、槌を振るう音が響いた。

Ende
178名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/07/30(水) 01:41 ID:MSCDDYks
Σ
久々に見てみたらレスが増えてる!
しかもBS+プリ(鼻血)も、萌え〜〜〜〜!!!

「今夜は寝かさない」・・・良いですね・・・鼻血でまくりです。
オツカレサマデシタvv
179接近に失敗しました接近に失敗しました :接近に失敗しました
接近に失敗しました
180名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/08/19(火) 19:07 ID:wdW/OxbA
木陰の下、二人のノービスが話していた。
「なぁ、パウロ、何に転職するかもう決めた?」
「うん、決めたよ」
「お〜!なになに?!」
「実はさ…教会に行こうかなぁって思ってるんだ」
「アコライトか〜、お前、優しいし、似合ってるかもなぁ」
「あはは、ありがとう。…マイクは何になるつもりなの?」
「ん〜、俺はシーフかな。一番、性に合ってると思うし、自由奔放に生きていきたいからさ」
「シーフかぁ〜、それじゃ、将来、懺悔しに来ることになったら、僕が聞いてあげるよ。
『汝の行なってきた悪行を全て、お話ください。主は、すべてをお許しになります』って!」
「んだと〜、そんなこと言ってると、本当に行くからな〜!」
「うん!」
「…でも、何になろうと、今までと同じに、ずっと、一緒だからな」
「…うん…ずっと…一緒だね…」

数日後、大聖堂の前

「おーー!やっぱ、似合うじゃん、その服!」
「…へへ、そうかな…」
「俺も、結構、様になってるだろ。ほらほら!」
そう言って、マイクは頭のゴーグルを下げて、パウロの方を向いて、ニカッと笑った。
「っぷ、マイク、なんか変だよ〜」
「なに〜〜〜〜!じゃ、お前もつけてみろよ、ほら」
「えー、僕はいいよぉ」
「そう言わずにつけてみろって」
マイクは嫌がるパウロの顔に無理矢理、ゴーグルを付けてしまう。
「っぷぶ、すっげぇ〜、似合ってるよ、パウロ!その服とゴーグルの組み合わせが何とも言えない!」
「だから、嫌だって言ったのに〜」
そんなお馴染みの会話をして、いっしょに笑っていると。
「ブラザー・パウロ、少し、お話したいことがあるので、私の部屋へ来ていただけますか」
「わかりました、シスター・ヨランダ」
パウロはマイクの方を向いて、小声で言った。
「ごめん、ちょっと、行ってくるね」

ー15分後ー

「遅いな〜、パウロの奴、ちょっと、探してみるか…」
大聖堂の中を歩き回っていると、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
ドアの隙間から、声が漏れている。
マイクはそっと、ドアに忍び寄って、耳を澄ましてみる。
「…しかし、シスター・ヨランダ、彼は…」
「いいえ、ブラザー・パウロ。盗賊と大聖堂で談笑するなど、恥ずべき行為です。あのような下賎な輩とは、縁をお切りなさい」
マイクは頭を殴られた気がした。そんな風に見られていたなんて…
「………」
顔を下げたままのパウロを一瞥して、シスターは言った。
「話はそれでおしまいです」
「……失礼します…」
「…!」
マイクは慌てて、広間に戻った。
……
「おまたせ」
「…おう」
「ごめんね、シスターの話、長くてさ」
そう言って、パウロは笑った。
「気にすんな」
マイクは、こわばる顔を無理矢理、笑顔にして答えた。

その日の冒険の帰り道

「あのさ…、教会の近くで会うのはやめない?」
マイクは胸を針で刺されたような感触を覚えた。
「ん…なんで?」
「その…ほら、堅苦しいでしょ!マイク、そーいうの好きじゃないと思うし…」
「別に俺は気にしてないけど…」
「あは、そっか…」
「……」
「んっと、その…本当は…ほら!僕、いつも教会にいるから、待ち合わせのときぐらい他の場所にいたいなぁって!」
そのつくり笑顔を見ずに、マイクは叫んだ。
「もういい!」
「…え……マイク?」
「あのシスターに言われたからだろ…」
「…え」(…聞いてた?!)
「俺みたいな、盗人と喋ってるのは、恥ずかしいことだって!縁を切れって!」
「マイク…」
「俺、それ聞いたときは、ショックだったけど…でも、お前はそんなことは絶対思ってないって、そう思ってたから、信じてたから、平気だった…」
「待って…マイク…聞いて…」
「うるさい!教会で会いたくないって、お前もそう思ってるからだろ!そうだよ、どうせ、俺は下賎な輩だよ!」
「お願い、マイク…話を聞いてよ」
パウロの目からは、涙がとめどなく、溢れていた。
「いいさ、こっちから、縁を切ってやるよ!絶交だ!」
そう言い放つと、マイクは走り去っていった。
「待って!マイ…っう…」
パウロは胸の辺りを押さえて、その場に膝を突いた。

……


「パウロ、追いかけてこなかったな…こっちから、絶交だって言ったんだ…追いかけてくるわけねーか…」
本当はわかっていた。パウロがそんなことを思っているはずが無いと。
教会で会うと、また、あのシスターがうるさいから、きっと、そんな理由だったのだろう。
頭ではよくわかっていた。でも、一度、喋りだしたら、止まらなかった。
心のどこかに不安があったのかもしれない。もし、パウロが本当に自分から、離れていってしまったら…。そんな不安が。
「あいつ、泣いてたな…」
傷つけてしまった。あいつは、何も言ってないのに。
自分の言葉を思い出すと、自分に腹が立ってくる。
明日、謝らないと…。
そう思って、マイクは眠りについた。

翌朝

走って、大聖堂へ向かう。
扉に近付くと、聖歌が聞こえてきた。
中に入ると、大勢のアコライト、プリーストが集まり、聖歌を斉唱していた。
見ると、中央には、棺があり、その中には馴染みのある顔があった。
「…ウソダロ…」
年老いたプリースト達の会話が耳に入る。
「まだ、幼いのに…」
「心の臓に病を持っていたそうで…」
「この年寄りが代わってやれたら、どんなによかったか…」
「主の導きがあらんことを…」

「…そんな…そんなこと、一言も言わなかったジャンかよぉ…」
目の前が、滲んで、何も見えない。
「ずっと…ずっと、一緒だって…」
目頭が熱くて、息苦しい。
「い、いままでみたいに…ずっと一緒だって、言ったじゃないかよぉぉ…」
昨日のことを思い出す。
「せっかく、せっかく、仲直りしようと思って…謝ろうと思って、来たのに…お前、どこいってんの。
俺、来るの遅すぎじゃん…」
せっかく、ノービスから、転職したら、色んなとこへ二人で行こうって言ってたのに。
「……さすがに、天国までは行けねぇよぉ……」

聖歌だけが、優しく大聖堂に響いていた

end
181名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/08/19(火) 19:11 ID:wdW/OxbA
すみません、1レスに全部、入れちゃいました…
後、コメントも無しに…
ありがちネタですね…
自分は、聖職者と盗賊とか、そういう相容れなさそうな関係に萌えです
お目汚し失礼いたしました
182名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/08/22(金) 21:18 ID:fRyaKFoo
こんなスレがあったとは!

そして181さん、グッジョブです。
マイク君かやぁ〜そ〜やなぁ〜(泣)マジで涙腺緩んだよ・・・。
「……さすがに、天国までは行けねぇよぉ……」ぶわわっ(涙)
この後マイク君は、アコライトを見るたびにパウロを思い出すのだろうか。
たぶんアコとはPT組みたがらないし、組んだら絶対、死ぬ気で助けるだろうな・・。
183名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/08/22(金) 21:32 ID:fRyaKFoo
「さて、困ったわねぇ・・・」
BSはため息をつき、その場に腰を下ろした。
「もう売るものもないし・・どうしたものかしら・・」
プロンテラ市南門。多くの市民や旅人が、日に何千と行き来する
立派な石造りの門の外側は、冒険者たちの集いの場となっている。
この日も、人が絶えることはない。
しかし、BSはひとり、離れた場所に腰を下ろしていた。
「あの、赤ぽありませんか?ミルクでもいいです」
ふと、剣士の少女が声を掛けてきた。ロングスカートはあちこち破けており、
腕や顔にも細かい傷がついている。
「ごめんなさいねぇ・・これだけしかないのよ」
BSは白いポーションを1個、差し出した。
剣士はそのポーションと、彼のしゃべり方に、二重に驚いた。
「お、おかまさん?」
BSは拗ねたように上目遣いで、「ほっといてヨ」と返した。
「ボク、おかまさん初めて見ました!なんだか感激です」
他の人たちとは全く違う反応に、今度はBSが驚いた。
「オカマがどういうモノかわかってるの?」
「うん、女言葉でしゃべる男の人!」
「ほんとはそれだけじゃないのよ。・・まあ私は真性じゃないけどね」
「真性?」
「本当に女になりきる人よ。身も心も、ね」
BSは少し脅すように、怪しい笑みを作った。しかし剣士は動じない。
「それも見てみたいです」あっけらかんと。
「あんた、心臓にインデュアがかかってるんじゃないの?」
184名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/08/22(金) 21:44 ID:fRyaKFoo
「それはともかく、あんたボロボロじゃないの。その辺のアコライト
捕まえてヒールして貰いなさいよ」
BSがやや顔をしかめて言うと、剣士はぺろっと舌を出した。
「いつも甘えてばかりじゃだめだと思って」
「いつも?」
「はい、ボク弱いから・・。いつも負け戻って、そのたびにアコさんたちに
お世話になっているんです」
「パーティに入ったらどうなの?」
BSはパーティ、という言葉にちくりと心を痛めた。
うつむくBSの心を知ってか知らずか、剣士は彼の横に腰掛け、足をのばした。
「ボク、INT型なんです・・・」
彼女は呟くように言った。
「力も弱いし、攻撃しても当たりにくいし、体力もいまいちで」
BSはだまったまま、話の続きを促した。
端正な横顔が、憂いを帯びていることに気づきつつも、剣士は続けた。
「ボク、クルセイダーになりたいんです」
彼女は語った。クルセイダーは騎士でありながら聖職者でもある。
彼らは、アコライトが修得するヒールの魔法などを使うことが出来るのだ。
「辻ヒールがしたいんです、それも、プリにも負けないような強力なやつが」
185名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/08/22(金) 21:53 ID:fRyaKFoo
彼女の姉はアコライトとして期待され、自分はどういう訳か、
父親のわがままで剣士にさせられた。
しかし彼女は、「辻ヒール」にあこがれを抱いていた。
いつしか、街道で辻ヒールをする姉に、嫉妬のようなものを覚えた。
「お姉ちゃんに勝ちたいんだ。だから・・・」
「INTばかり上げているのね」
「弱いからPTにも入れてもらえないんです」
困ったような、寂しげな笑顔だった。
「自分の道を行くって、大変な事よね」
BSは剣士に白いポーションと、一振りのナイフを差し出した。
「え、ボク白ぽ買うお金なんてないですよ」
「いいのよ、あげる。こっちは風ナイフよ、役に立つと思うわ」
「こんな大事なもの・・」
BSはウィンクし、小さく笑った。
「あげるわ。私の代わりに、頑張って欲しいから」
「・・・え」
「私ね、製造系なのよ」
BSの表情が曇った。
186名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/08/22(金) 22:11 ID:fRyaKFoo
「あなたと同じ。非力だし、体力もない。くわえておかまでしょ、
だれも相手にしてくれないのよ」
剣士は、無理やり握らされたナイフをじっと見つめた。
「パーティに入れなきゃ材料も買えない。すると商売も出来ない・・
八方塞がりとはこのことね」
BSが力無く笑うと、剣士の少女はぱっと立ち上がり、ナイフを鞘から抜いた。
美しいカーブを描く刃が、陽光にきらめく。
「このナイフ、すっごくきれい。作った人の心が込められているね」
そう言って剣士は風ナイフを二度、三度と振る。
「BSさん・・」
剣士はずいっとBSに迫った。少したじろくBS。
「な、なあに?」
「ボク、頑張ってレベル上げてくるから!」
「が、頑張りなさいね」
「そしたら、一緒にパーティ組もうよ!弱くても、二人なら何とかなるよ!」
BSは目を丸くした。今まで、こんな事を言う人はいなかったのだ。
「だからその時まで、このナイフ、借りるね!」
「突然元気になったわね」
呆れたようなBSに、剣士はにっこりと笑った。
「BSさんもつらいのに頑張って、こんないい仕事をしているんだもん。
ボクも泣き言言ってる場合じゃないよね!うん、やれる。頑張れるよ!」
剣士は長い髪をぎゅっとくくると、さわやかな顔で、
「行ってきます!」
と、飛び出した。それをみてBSも跳ねるように起きあがると、
彼女の後を追い、走り始めた。
「レベルが追いつくまで、私が壁になってあげるわ!」
「よろしくね、BSさん!」
柔らかな陽光が二人を送り出す。
187名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/08/22(金) 22:18 ID:fRyaKFoo
後日・・・。

迫り来る大量の、黒い物体!
「きゃ〜いや〜〜〜っ!」
「し、しっかりしてよ!男の人なのに」
「ゴキブリはいやぁ〜〜!カンベンしてよ〜〜〜」
「鉄鉱石稼ぎはここが一番いいんだから、頑張ろうよ」
ぶぅい〜〜〜ん
「いいぃ〜〜〜やぁ〜〜〜」
「これじゃどっちが壁だかわかんないよ」
剣士は少しふくれて、ぽつりと言った。
「ちぇ、ちょっとはかっこいいと思ったのになぁ・・」

この後、殴りWIZ、VITシーフ、クリアコを加え、
ある意味最強のパーティとなっていくのだが、
その話は、又別の物語である。

おわり

うう、思うがままに書いてみたけどだめかなぁ・・。
自分の文才を試すにはいいですね、これ。
188183-187sage :2003/08/22(金) 22:46 ID:fRyaKFoo
あ、このスレだと女キャラいたらまずかったですか?
その場合は剣士を男に脳内変換してください(ボクとか言ってますから無問題)w
189名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/08/23(土) 12:46 ID:upx5CepE
>>188
GJ!!
いいパーティーメンバーだ!
俺そういうの好きだ!
190名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/08/23(土) 15:20 ID:bSXCU0k.
>>188
グッジョブ
個人的にオカマのBSさんが激つぼでした
191183-187sage :2003/08/23(土) 22:10 ID:DgAeFJtg
感想サンクス!
オカマのキャラは、実はサモンナイト3やってて・・・w
書いてて楽しいキャラでした。

・・・誰か続き書かない?w

自分的にはやっぱり、男キャラ最萌えはBSらしいです・・。
192名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/09/03(水) 20:57 ID:CML9rxwQ
「おーきゅぅしょち」

「前から、思ってたんだけど、お前って、アコライトの癖にヒール、あんまり、使わないよな」
応急処置を施す僕に剣士である彼、アルは聞いてきた。
「ん〜」
僕は彼の目を見ないで、ぽんぽんとアルの頬の擦り傷に消毒液を浸したガーゼを当てた。
「!ん」
「しみた?」
「ちょっとな。…でさ、なんで、応急処置ばっかすんの?ヒールの方が、早いのにさ」
なぜか真剣な顔つきの彼の方を向いて、その黒い瞳を見つめて聞いてみる。
「アル、応急処置されるの嫌い?ヒールで直して欲しい?」
「いや、嫌だってわけじゃない。ただ、疑問に思っただけさ」
「まぁ、いつも、アルは応急処置で直せるぐらいの怪我しかしてこないし。それに…」
「それに?」
「その…アルに応急処置するの好きだし…」
「え?」
「アルってあんまりベタベタするの好きじゃないでしょ?」
「ん、そうか〜?」
「だって、ボクがくっつくと、すぐ怒るじゃん」
「む〜」
「でも、応急処置で、包帯巻いたり、傷口消毒してるときとかは、アルに触ってられるから…」
「……」
193名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/09/03(水) 21:16 ID:CML9rxwQ
「それに、ヒールじゃないと、直せないような怪我はして欲しくないしね」
「……がんばります…」
そのとき、アルの顔が心なしか、赤くなってるような気がした。
……
「はい!これで終わりだよ」
「……」
「どうしたの?」
「…まだ、終わってない」
「え…どこ?」
「ん」
そう言って、彼は自分の唇をボクのほうに突き出した。
そして、そのまま、何も言わない。
これって、やっぱりあれかな…。
その…キス…しろってことかな…。
「早く、治して欲しいんだけど」
「あの…目、瞑ってて…」
「ん」
彼は目を閉じてくれた。
彼の唇に視線が行ってしまう。
普段、見慣れているはずなのに、なにか、すごくいやらしい感じに見えてしまう。
胸全体が振動してるかのような感覚。
段々と近づいてくる彼の顔。
……
柔らかい…それに、暖かい…むにむにしていて、不思議な感触。
風が吹いて、髪が揺れる。
ゆっくりと触れ合っていた部分を放していく。
彼が目を開けた。
恥ずかしくて、まっすぐ見られない。
194名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/09/03(水) 21:30 ID:CML9rxwQ
「あの…」「え〜と…」
二人で同時に呼びかける。
ゆっくり目線を向けたら、目が合った。
無意識に顔がほころぶ。彼も同じだった。
ガサ
『!』
二人同時に音の方を振り向いた。
そこにいたのは、1人のシーフ。
「あはは…その、覗くつもりは無かったんだけど…出るに出れなくて…」
『あはははははは』
乾いた笑いが辺りに響く。
「え〜と…よかったら、パーティー組みませんか?」
恥ずかしさをごまかしたい一心で茂みから出てきた盗賊に尋ねてみる。
「え!あ〜、いや…ありがたいけど、俺、遠慮しとくわ…」
「…そうですか…」
「じゃ、俺はこれで!」
そう言って、彼は走り出した。
「あ、待って!!」
彼はこちらを振り向いて、叫んだ。
「心配すんなって!!誰にも言わないから!」
そして、彼の姿は見えなくなった。
「珍しいな…」
先ほどのショックから早くも立ち直ったアルがつぶやいた。
「なにが?」
「さっきのヤツ、首に十字架下げてたぞ。シーフのくせに」
「きっと、信心深い盗賊だったんだよ。」
「…そうかもな…」

〜end〜
なにか、dでもない駄文になりました…
すみません

↓素晴らしい職人様降臨希望 …1週間後ぐらいでしょうか…
195名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/09/05(金) 13:31 ID:dtpy4FlM
小説書いた事ないもんだから試しに書いてたら
あまりにも長くなりすぎて貼るのに抵抗が・・・・;;
もう少し短くしたら貼ります・・・。
196名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2003/09/06(土) 00:35 ID:5QVjLU9.
ムホ
期待してますね
(;´Д`)ハァハァ
197こういうのは駄目…?sage :2003/09/09(火) 05:46 ID:q6pzxE2.
砂漠に乾いた風が吹く。

長い長い過去にも

長い長い未来にも

変わらずに、砂漠に乾いた風が吹く。


サリサリと鳴る砂を踏みしめ、マントで体を覆った男が砂漠を進む。
何をする為に、何処に行く為に……
そんな事は疾うに忘れてしまった。
ただ、重い砂に足先を埋めながら前へと進むのみしかしない男。


それは何時しかモロクという街で噂となり、要らぬ尾ひれを付けた噂話となり、何時しか他の街へと知れ渡った。
ある処では、とてつもない力を持った騎士が落ちぶれた姿だと。
ある処では、精神を引き替えにした薬を飲み続けたアサシンの姿だと。
ある処では、罪を犯した聖職者が自分に苦しみを与えている姿だと。
噂はまた噂となり人々の耳へと伝わり、そこから又話が生まれては消えていった。
誰も真実を知らぬ男の噂話はやがて冒険者の間を駆け抜け、
真意を確かめてやろうと面白がる者達も出たが誰も男には会うことが出来ずにまた新たな噂を呼ぶ。

あれは人の姿をした魔物なのだ。

そして噂は恐怖を人々に植え付ける。
誰も真実を知らない男に、誰もが恐怖し、不安を抱く。
そして、噂を『抹消』しろと誰かが囁いた。


それを知らずに男は今も砂漠を歩く。
焼け付く様な日差しと茹だるような気温の中、何かを求めて、何かを探して、その何かを思い出そうとしながら歩く。
サリサリと足下で鳴る砂の音だけを共にして、
それだけが男に囁きかける声として、
何をするわけでもなく、ただ、歩くだけなのだ。
ただ、歩くだけであったのに…

そしてそれは何時の頃か終わりを告げた。
何も見えなかった視線の先に揺らぐ影が現れたのだ。

それは力と自信を兼ね備えた騎士と思わしき者の影であったが、男はそこまで認識できずにいた。
男を見つけた騎士は自分の命を乗せた剣を引き抜いて構え、対峙した。
騎士とて、此処でこうして男と対峙したいが為に生きてきたわけではない。
ただ、国から極秘に受けた命令により男に剣を向けたのだ。
否、騎士には男だと認識できず、その瞳には魔物が映っているかもしれないが―――
198こういうのは駄目…?sage :2003/09/09(火) 05:47 ID:q6pzxE2.
向けた剣が、何かによって光ったとき男の中で始めて感情らしき者が生まれ、小さく唸り声を上げた。
男がその時もった感情は

ただ

   敵が

      来た  ―――  !

と、だけ。

それだけを強く感じ、無意識に昔使っていたであろう短剣を両手に携える。
両手で短剣を扱うような職業と言えば、思い当たるのは『アサシン』のみ。
そして、騎士は一つの噂話を思い出す。
『精神を引き替えにした薬を飲み続けたアサシンの姿』
それが今まさに、目の前にいる魔物の正体なのではないかと騎士は思った。
噂は正しかったのだと。
薬に侵されたアサシンの末路は秘密裏に処理され、そこに誰も存在してなかったかのように死体がうち捨てられる。
それで終わりだ。
幾度もその姿を見て、幾度もその役目を請け負った事も騎士にはあった。
今回もそれと同じだ。変わりない。
そう思っていたのだが、対峙した男の顔が頭から被ったマントの隙間から覗く度、
見える瞳に『物』として対処しようとしていた騎士の手が止まった。
今まで相手にしてきた者達は狂気に満ち、目は赤く色を変え、動く物を見れば襲いかかり、
人としての姿も危ういような『物』達ばかりであったが、目の前にいる男はそれとは全く持って違ったのだ。

覗いた瞳に映ったのは虚無。
剣に落とされた瞳の色は哀しみ。

この男は違う。
騎士は咄嗟に剣を鞘へと収めた。
ただ、そうしなければいけないと本能的に感じ取っただけなのだが…
それが元で自分が殺されるようなことになっても、構わないと騎士は思った。
それが何故なのかは解らないまま、ただ自分を信じた結果がそうであるならばしかたがないと。
が、
剣を収めた途端、目の前の男の手がダラリと垂れ手にしていた短剣を機械的に鞘へと収める。
男は自分の道を妨げ、排除しようとする物だけにしか反応しないのだろう。
またゆっくりと、何処へ行くともなく足を進め始めた。
騎士など初めから居なかったかのように、そこに影すら生まれなかったかのように、騎士の横を擦り抜けて砂漠を進む。
199こういうのは駄目…?sage :2003/09/09(火) 05:48 ID:q6pzxE2.
ただ、ただ、無意識に騎士はその腕を取っていた。
その途端に腰元に伸びた手を押さえ込むように、男の身体を自分の腕の中へと抱き込んだ。

暴れたところで、ろくに食事も戦うことすらも放棄していた身体では
日頃から鍛えている騎士の腕を振り払える事などなく押さえ込まれる。
男には何が起きているかは実際には理解できていないのであろう。
ただ、何故前へと進めないのか。
ただ、自分に触れる温かいものが何であるのか。
それが理解できずに、小さく唸り声を上げては時折祈りを紡ぐように穏やかな声で名前らしき言葉を口にした。
幾度も幾度もそれを繰り返しながら、前へ、前へと進もうと砂を蹴る足。
騎士はそれを押さえながら、小さな金属音を耳にした気がした。
肩口をグッと押さえるように腕を回し直せば又小さな金属音と共に
アサシンには似つかわしくない銀色のロザリオが首元で揺れた。

何故、この男がこんな似つかわしくない物をしているのか。
ロザリオとは本来、教会から洗礼を受けたときに名を刻まれて聖職者が生涯身につける物と聞く。
それが誰かの手に渡った時にはそれはその者の死を意味するのだと
知り合いの聖職者が語っていたのを聞いたことがある。

―――あぁ。

騎士は漠然と男の行動を理解すると、先程の瞳を思い出し一つ息を付いた。
男は消えてしまった人を捜して長い間此処を彷徨っていたに違いない。
そして、死を受け入れきれなかったのであろう。
その時がどういう状況であったかは知らないが、先程から口にされる名前はロザリオに刻まれた名と同じであろう。
200こういうのは駄目…?sage :2003/09/09(火) 05:49 ID:q6pzxE2.
何時、何故、こうなってしまったのか。
それは自分には計り知れないことではあったが男を此処で消し去ってしまうことは騎士には出来なかった。
見えた瞳があまりにも、哀しい色をしていたから。
それを見てしまった騎士にはどうしても、男を殺すことなど出来なくなってしまった。

未だに前へと進もうとする男を宥めるように騎士は抱き締めた。
それしかできない自分の不甲斐なさを感じながら、それしか思い浮かばない自分の思考を僅かに疎ましく思いながら。
ただ、じっと、男が足を止めるまでの間だ騎士はそうしていた。

そして、不意に止まる男の足。

触れる温もりが、動く度に小さくなる金属音が、何処か、何かを思い出させるようで不意に晴れ渡った空を仰いで
……男の瞳から涙が零れた。

騎士は動きを止めた男から片手を離すと腰元に携えた袋から蝶の羽の形をしたアイテムを取り出し、
自分のマントを掴むと男の顔を覆うように腕を回して手にしたアイテムを握りつぶした。
その瞬間風に攫われるように二人の姿は消え、後には風に舞う砂とそれが舞い上がるたびに奏でる唄だけがそこに在った。


----------------------------------------------------
じ、自分的には……(略)
完成は人それぞれって事で、見逃して下さい(脱兎)
201こういうのは駄目…?sage :2003/09/09(火) 05:50 ID:q6pzxE2.
感性だよ……_| ̄|○
202名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/09/09(火) 14:01 ID:lcuXmrNY
いや、ありですよ、あり。GJ!!
203こういうのは駄目…?sage :2003/09/12(金) 01:35 ID:zcqrpyKo
GJをありがとう!!(≧≦)
204名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/04(土) 00:34 ID:sqdmEoIA
| \
   |Д`) ダレモイナイ・・ダブンウpスルナライマノウチ
   |⊂
   |

>>180の続きというか、エピローグというか…デス

バーに1人の少年がたたずんでいた。
見たところ、シーフだろうか。
カウンターに座り、ときどき、「なんで…」だとか「どうして…」だとか、つぶやいた。
まだ、飲酒の許されている年齢には見えないが、店主は黙認した。

涙はもう出ない。目が乾いて、痛い。
涙が出なくなっても、まだ、泣いていたい気分だった。
胸を両手で引き裂いてしまいたい、掻き毟りたい、そんな衝動に駆られる。

「ここ、いいかな?」
すぐ横で声がした。
見上げると、男が立っていた。
細身で、影のような印象を受ける。
口元を覆う布、鋭い眼光。
そして、カウンターに置かれた独特の武器。
カタール。
彼はアサシンだった。

「……」
少年は黙って、うなずいた。
「他の席が、空いていなくてな」
少年が周りを見回すと、確かに、酒場は最高の賑わいを見せていた。
「思い悩んでいる所に、悪いとは思ったがね」
「…!」
少年が目を見開いて、男の方を向く。
「だろう?」
口布のせいで、完全には読み取れないが、男の顔は、微笑をたたえていた。
「………親友を亡くしました…」
「…そうか…」
「でも、俺、死に目にも、会えなかった……。最後にアイツと会ったときは、つまらないケンカで…別れて…」
「友達はどうして?」
「よくわからないけど…心臓の病気だって、他の人は言ってた…」
「…死に目に会えなかったとは?」
「アイツ、優しいやつだから…。心配かけたくなかったんだと思う。でも…そんなのわからない…
一言、言ってくれれば…一緒に戦っていくことだって…なにか治る方法だって見つかったかもしれない!…なのに……」
「……」
「1人で抱え込んで…明日、死ぬかもしれないとか…怖かったんじゃないのかって!…そんなの全然、表に出さないで…
全然、気付かなくて…」
「確かに…そうも考えられる。だが、一つ聞くが、お前、もし、そいつから、病気のことを聞いて
屈託無い笑顔をつくれたか?心から、一緒に、喜び合えたか?」
少年は、顔を歪ませて、下を向く。
「…できなかったかも…。一緒に、笑い合ってるときも、どこかでそのことを考えちまう…きっと」
「これは、しがない1人の男の推測で、確証はない。
でも、そいつはきっとこう思っていたんだと俺は思う。
そいつ、お前の笑顔に陰りを挿させたくなかったんだよ。
病気のことを、話して、二人でいる時間にまで、病の影を忍ばせたくなかった。
そして、そんな瞬間は、病魔の恐怖も忘れられたんじゃないかな。」
「……そうなのかな…」
「それでも、彼はお前に黙っているのは、辛かったと思うぞ。
話せば、きっと、自分を支えてくれる。しかし、同時に、多大な悲壮を背負わせることになる。
そんな親友に話せないのはな。」
「……辛かったんだな…アイツ…本当に…」
「つまりな、そいつは、今、お前にこんなバーで年齢に似合わずに、ヤケ酒なんぞしてほしくないってことだ。
優しいやつだったといったが、今ごろ、怒ってるんじゃないか?うえでお前のことを」

少年は久し振りに笑った。
アサシンのこの男から、暖かなものが少年に流れ込んでくるような気がした。

「そう、その顔だ。」
「…はい」
再び、笑う。思い出したことを確かめるように、少年は笑った。
「じゃ、そろそろ、俺は行く」
「あの……」
「ん?」
「まだ、何も、注文してませんよね?」
言葉どおり、男の前には、なんのグラスも置かれていなかった。
「話に夢中で忘れていたよ」
「1杯位は、いいでしょう?」
「むぅ」
男は再び、椅子に座り、言った。
「マスター!ミルクだ!」
瞬間、少年は吹き出した。

酒場の夜は続く。



こんな感じにしてみました。
前回のままだと、悲しいので…みたいな。
感想いただけると、嬉しいです。

p.s 過疎スレって感じですけど、皆さんの文とか、もっと見てみたいです。
ナンテ…、モットモリアガッタラナァ…
205名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/04(土) 08:59 ID:QFCFf9wI
ヤッベ ヤッベ マジヤッベ
こんな良スレになんで気付かなかったヤッベ

>>204氏GJ!!
おもむろに現れたアサかっこよすぎ!!
というか萌へ!!
うちもそんなアサになりたいですわ!!
いや、最近ギルドでいろいろあって・・・
[愚痴スレ]  λ.......

良スレageしちゃおうかな〜と思いつつ勇気のない漏れ/w/w/w。
206名無したん(;´Д`)ハァハァsage :2003/10/04(土) 10:22 ID:sqdmEoIA
レス感謝です〜
(;´Д`)ハァハァ
正直、レスがつくのは、1週間後くらいかなと覚悟していたので
こんなにはやくレスを頂けて、嬉しい限りです

>ギルドで色々
くじけずにがんばってください〜
207名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/06(月) 12:33 ID:bDM0e1AA
 息を吸って吐いて。もう一度息を吸って。
 そこで叫びそうになって、BSは一度息を止めた。心を落ち着けて喉の奥から声を出す。
「すまん、もう一度言ってくれないか?」
 声に怒気が含まれているのは隠しようがない。
 鍛冶場に立つ騎士は怯えた表情を浮かべ
「ええと……」
と、言葉を濁す。
 騎士の答えが待てずにBSは口を開く。
「俺の耳がちゃんと聞こえたのなら、ファイアクレイモアを作って欲しいと聞こえたんだ
けどな」
 こくこくと騎士は頭を縦に振った。
 金敷の側には騎士が持ってきた材料が置かれている。
 フレイムハートが一個、オリデルコンが十六個、損傷ダイヤが一個。
 オリデルコンの金槌はBSの手の中に。
「俺の記憶に間違いがなきゃぁ、ファイアクレイモアは三本目だよな……」
 金槌を持つ手がふるふると震えている。
 これにも騎士は黙って頷く。
 BSの言葉の通りだ。今日までに既に二本のファイアクレイモアを作ってもらっている。
「何でまたファイアクレイモアが必要になったんだ?」
 BSのほうも理由は察している。けれど彼は騎士の口からちゃんと理由を聞きたいらしい。
しらを切れば、制作を受けつけてもらえない。そして自分にはファイアクレイモアが必要
だ。騎士は観念して白状した。
「あのさ……えっと、昨日+8精錬に挑戦して」
――そこでBSの堪忍袋の緒が切れた。
「てめぇ! またクホりやがったな!」
 勢いよく金槌を騎士に向かって大きく振りかざす。
「その足りない脳みそを精錬してもらえっ。いいや、ここで俺がやってやる!」
「ちょ、ちょっと待て。目がマジ」
「俺はいつも本気だ」
 代金はいらん、常連へのサービスだ。と笑えない冗談が続く。
「だいたいなぁ、これでいったい何本目が! お前が俺の武器をクホったのは」
「えぇと……いち、にぃ」
 律儀に指折り数える始める騎士。
 BSが彼に作った武器はすでに両手の指の数を越えた。そして騎士がクホった属性武器の
数も両手の指の数を越えた。
208名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/06(月) 12:34 ID:bDM0e1AA
「いいか、お前にとっちゃぁ幾らでも替えのあるただの武器かもしれないけどな。俺にと
ちゃあ可愛い自分の子供みたいなもんなんだ。それをほいほいクホられてたまるか!」
「それはわかって……る」
「わかってない!」
 否、わかるはずもない。とBSは怒り狂った心中でつけたす。
「俺がどんな気持ちで鎚を振るっていると思うか? どんなに心を籠めているかわかるの
かっ。騎士のお前にBSの俺の気持ちなんか簡単に知られてたまるか!」
 武器は単に金属を溶かして固めればいいというものではない。材料の特性を見つめ、最
良の状態に整え、そして心を込めて金槌を振るうのだ。BSは武器を作り始めてもうかなり
になるが、一度たりとも初心を忘れたことはない。
 怒濤のようなBSの罵声を騎士は黙して聞いていた。何も言わない、何も答えない。
 ひとしきり言いたいことを言うと、BSは言葉を止めた。それでも騎士は何も言わない。
 ぜいぜいとBSの荒い息だけが鍛冶場で聞こえた。
 BSの呼吸が戻った頃、やっと騎士が口を開いた。
「……俺にだって武器を大切に思う気持ちはわかるよ。あんたよりも劣るかもしれないし、
あんたとは種類が違うかもしれないけど」
 ぐっと騎士は腰のクレイモアの鞘を握った。
「剣は大切な相棒だ。自分と仲間を身を守るために絶対必要なものだから。
 そりゃ、あんたみたいに息子とかは言えないけど……、親友や恋人、とは言えるように
なれると思うんだ。だから」
 もう一度俺の剣を作ってくれ、と騎士は頭を低く下げた。
「俺の恋人だ、って胸を張って言えるぐらい大切にするから。ちゃんと使うから」
 あんたの武器が欲しいんだ、と騎士は言った。
――騎士はBSよりも随分強い。
 BSが行ったこともないところで出かけ、戦果を上げて帰ってくる。土産話の合間に彼は
言う、「今回もあんたの武器に助けられた」と。その言葉を聞くのが嬉しくて、彼の来訪
を待ちわびることも多い。
 ほうと、BSは溜息をついた。
「悪かった。半分八つ当たりだった」
 顔をあげてくれ、と付け足す。
 鍛冶に特化した分、戦闘はからきしダメで。だから騎士に嫉妬したのだ。
 自分が扱うことのできない武器を振るい、仲間のために前に出て戦うことができる騎士
を。
 戦う者にとって強さは重要である。より強い武器を求めるのも間違いではない。
 強さだけで仲間を守れるわけではないが、強さなしに仲間を守ることも難しい。
「作ってやるよ。ちゃんとな。お前の相棒と言われて恥ずかしくないぐらいのものをな」
 顔をほころばせた騎士を前に、BSはファイアクレイモアを作り上げる。
 自分に強さがないなら、せめて誰かの強さの助けになりたい。いつもそう思っていた。
そしてBSになった。
「ほら、できたぞ。調子が悪かったらもってこいよ」
 ちゃんと診てやるから、とBSは金敷をしまう。
「ありがとう。俺の新しい相棒を作ってくれて」
 騎士は何度も何度も礼を言い、そして出て行った。
 おもしろい土産話を持ってくるよと言い残して。
 一人鍛冶場に残って、BSは煙草に火をつける。
「……楽しみに待ってるさ」
 自分の作った剣とともに帰ってくるだろう騎士を。


--終--
209名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/06(月) 12:36 ID:bDM0e1AA
 しまった。クレイモアの材料に鋼鉄を忘れてました_| ̄|○
 書き込んだあとに気づきました……。
210名無したん(;´Д`)ハァハァsage :2003/10/06(月) 20:44 ID:5QVjLU9.
つい、騎士に嫉妬してしまうBS萌へ〜(;´Д`)ハァハァ
やっぱ、BSの小道具に、煙草は似合いますね〜
赤熱した金属をバックにして、煙草を吸う背中に(;´Д`)ハァハァ
211名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/09(木) 21:06 ID:HIFlyOwI
人の喧噪から離れたゲフェンの片隅で、商人は剣士を見つけた。
何をするでもなく、ただぼうっと座っている。
「おい、何してんだ?」
後ろから彼が声をかけると、驚いた剣士の体がはねた。
「へっ? あ、ああお前か」
「なんだと思ったんだよ」
苦笑して隣に腰かける。
カートで剣士の足をひきそうになったが、なんとか持ちこたえた。
「キノコと遊ぶんじゃなかったのか?」
ゲフェンダンジョンで経験を積むと言って
剣士がプロンテラ周辺からいなくなって三日が経っていた。
その間開いていた露店の品物を売り切ったので、
商人は久しぶりに彼の顔でも見ようと会いに来たのだ。
怪我でもしているのかと思ったがその様子はないし、体力も十分に残っていそうだ。
「んー……ちょっと悩んでてさ」
常になくぼんやりとした目で虚空を眺めていたが、不意に商人の方を向いた。
剣士の横顔を見つめていた商人は少々驚いているが、剣士が気にした様子はない。
「お前さあ、どっち?」
「はあ? どっちってなんだよ」
それだけでわかるようなら占い師にでもなった方がいい。
しかし剣士は伝わらなかったことがもどかしいらしく、首を横に振った。
「だから、えーと、……この先何になるのかってことだよ」
首の後ろをかきながら言われて、商人は納得がいった。
ようするに、剣士としての鍛練を積んだ後に開ける道について悩んでいるらしい。
「……俺にアルケミストの格好が似合うと思うか? ていうかあの服は暑そうだ」
「そういう問題かよ」
というか、今の服も十分暑苦しいと剣士は思った。
「研究やらなんやらは性に合わねーよ」
まともな理由を言えば、剣士も理解したらしい。
ふむふむと頷いてから、また自分のことを考え出したようだ。
眉間にしわが寄っている。
212名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/09(木) 21:07 ID:HIFlyOwI
そんな剣士を見て、商人はいきなり立ち上がった。
流石に気づいたらしく見上げてくる剣士の頭をぐしゃぐしゃと撫でてやる。
はらおうとする手が出てこないうちに口を開いた。
「いつか、お前に武器作ってやっから」
それだけ言って手を放すと、いぶかしげな顔でこう言われた。
「……不器用なのに?」
「ここでそれを言うな」
台無しじゃねーか、と呟いて、彼に背を向けて歩き出す。
「どこ、行くんだ?」
商人が振り返る。
「決まってんだろーが。キノコ駆除だ、お前も来い」
確かに魔術師でもない彼らはそれぐらいしかやることはないだろう。
少し俯いた剣士に商人は構わず言いつのる。
「考え込んでてもしかたないだろ。
 体動かすぐらいしか取り柄ないんだから、俺の青ハーブ集めに協力しろよ」
「青ハーブ?」
「おう。青ポと染料用な。欲を言えばアルコールとかもほしい」
「お前の商売用かよ!」
「当然だ」
いっそ偉そうに言い切る商人を見ているうちに、剣士は何だか気が抜けてきた。
確かに、自分に考えるという行為は似合わないだろう。
「わかったよ、つきあってやる」
立ち上がってアイテムの残りを確かめる。
そのせいで、商人が満足そうに笑っていたのを彼は知らない。
「売り上げは山分けなー」
「いや、7:3で俺だろ」
「うっわ、詐欺商人だ!」
「んなこと大声で言うんじゃねえ」
いつものようにかけあいをしながら、彼らはダンジョンに向かっていった。
213名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/09(木) 21:08 ID:HIFlyOwI
コソーリ投下。
短かっ。_| ̄|○
214ほのぼの(*´д`*)sage :2003/10/10(金) 01:28 ID:RnruRjAg
転職への追い込みに、
剣士君と一緒にGD1F行ったのを思い出した…

そんなBS82歳、2回目の秋。

一緒にいた彼も立派な騎士になりましたとも。
215名無したん(;´Д`)ハァハァsage :2003/10/10(金) 19:56 ID:x.zN66vI
イイヨーイイヨー、スゴクイイヨー(;´Д`)ハァハァ

>「売り上げは山分けなー」
>「いや、7:3で俺だろ」
>「うっわ、詐欺商人だ!」
>「んなこと大声で言うんじゃねえ」

何故か、この下りにときめきを感じてしまいました(;´Д`)ハァハァ

この調子で、目指せ、活性化?!
216名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/12(日) 15:40 ID:kP7TMwSo
別に活性化しなくてもいいやと思う奴がここに一人w
ひっそりしててアプロダより使いやすいんだよう。
まあ…寂しすぎる気はしますが_| ̄|○
217名無したん(;´Д`)ハァハァsage :2003/10/12(日) 23:33 ID:MLmZA.R.
あうぅ、でも、それも一理あるかも
そんな、すごい活気にあふれなくてもいいから
もうちょっとだけ、人が増えて欲しいデスネェ
218名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/16(木) 18:27 ID:q8M6BBfE
ぇろスレ105のセージ受キボンを見て、よーしパパ頑張っちゃうぞー、とか思って
書き始めたのに・・・
結局、エロ無しで終わる罠。とゆー訳でこっちに投下。
エロスレ105、スマン・・・

-------------以下、アサ×セージ------------

たんたんたん、と洞窟に響く、連続して叩き込まれる斬撃の音が一瞬止まる。
よし、今。

「ライトニングローダー!」
「ソニックブロウ!」

パチン、と音を立てて、青年の持つ緑色の石が砕け散ると同時。
迸る雷が黒衣の青年の武器へと絡みつく。
雷の加護を受けたそのカタールの八連撃に、槍を持った直立歩行する魚・・・
冒険者達の間では、半漁人と呼ばれているソレは、為す術も無く崩れ落ちた。
暫くの間パチパチと白光を纏い、放電する手元のカタールを呆然と見ていた青年が我に返る。

「だっから・・・・勿体ないから止めろっつってんだろうが!」

青筋を立てて、銀髪の暗殺者の青年が怒鳴り声をあげた。
その意味を解する事はできないのだろうが、小さな貝が怯えた様に逃げていく。
コモドと呼ばれる街の、北の洞窟。二人の青年の声が、わんわんと響く。

「いーじゃないですか、別に。私のお金で買った石ですもん。」

暗殺者の叫び声に顔色一つ変えず。
ひょい、と賢者の青年が肩をすくめる。
いや、暗殺者の青年に比べればまだ年若い。少年と言っても差し支えはないだろう。
口を尖らせて、若干不満そうな顔。
幼さの残る顔立ちと、大きな外套はいまいち似合っていない。

「あのなぁ・・・お前がどれだけソレを研究して、失敗する事がほとんど無いのは知ってるよ。
でもな、勿体ないだろうが!殲滅のスピードを考えるなら俺が殴ってる間にLBでも撃ってるほうがよっぽど早いわ!」

アサシンは、あまり儲からない。
本来なら他国の要人を暗殺したりして生計を立てるのだろうが、ここルーンミドガツ王国は概ね平和だ。
で、仕事の無いアサシンは実質的に冒険者となって生活している。
技術の漏洩や秘密保持の面から言えばあまり褒められた物でも無いが、生活の為には仕方がない、という事でアサシンギルドも黙認している。
・・・が、冒険者と共にモンスターを狩るものの、アサシンの性質的に対多数戦に弱い。
一対一の戦いを重視し、一撃必殺の技術に特化しているがために同時に、多数の者と戦う事は不得手なのだ。
いきおい、回復剤を使いすぎて貧乏になる。
この青年がやたらと貧乏性なのもそれ故かもしれない。

暗殺者の言葉に、賢者の少年がしゅん、とうなだれた。

「だって・・・魔術師の頃から私はあなたの後ろから魔法を撃っているばっかりで・・・私だって、あなたの役に立ちたかったんです・・・」

途切れ途切れに発せられる言葉に、アサシンの青年の顔が少し赤くなった。
気まずそうに掛けるフォローの言葉。

「いや、その・・・すまん、言い過ぎた。つーか、そんな風に思ってたとは思わなくてだな・・・」
「私・・・たまに思うんです。私はあなたが必要で、大切です。でも、あなたにとって私は・・・、って、わっ!?」

言いかけた賢者の青年の肩を、ぐい、とアサシンが引き寄せた。

「俺にとってお前が何だって?」

ちろちろとアサシンの瞳に燻る、炎。
その表情は怒りのそれだ。
顔を近づけられて、怯えた様に賢者の少年が瞳を逸らす。

「俺はお前を必要としてない、なんて寝言言うつもりだったんじゃないだろうな?」

アサシンの怒声は、決して大きな声ではない。
静かな、青い炎の様な。底冷えのする怒りの声。
どん、と押され、賢者の背中が洞窟の壁に押し付けられる。
アサシンの顔が、苦しみに歪む。

「伝わらないもんだな、どれだけ想っても・・・俺は・・・俺は、お前が・・・」

言葉は、ぽふ、と抱きつくぬくもりに遮られた。
え、と見開く瞳に大きく移るのは、砂色の外套。

「えへへ・・・嬉しいです。・・・あなたは、いつも言葉にしてくれませんから。・・・信じていても、不安な時には言葉が欲しいんです・・・」

温かい、小さな身体。自分に抱きつくそれを、強く抱きしめる。
ふ、と気が抜けた様に、アサシンが笑う。勝手に絶望して、苦しんでいた自分が何だかおかしい。


「・・・帰るか、俺らの家に。」
「ヤです。もーちょっとだけ、あなたとこうしていたいですから。」

沸き上がる愛しさに、身を委ねた。
そして思う。ああ、コイツとなら大丈夫だ。どこまでも、翔べる。

END
219名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/16(木) 19:54 ID:3026V4dM
>>218
GJ !!(*´Д`)b
220とあるスレの577sage :2003/10/17(金) 14:18 ID:BJXl6KBk
(「ジャイアンの歌」のリズムで)
「おれはローグさ 悪漢だー 天下御免の男だぜー」
今日も今日とて世界を闊歩する悪漢一人
そう、俺のことさ(ピキーン)
最近ダンジョン直行のポータルが使えなくなって
ポタ広場にも以前のような活気が無くなって
通り過ぎることが多くなってきた
ちょっと寂しいねえ、なんだかなあ

「以前はしっかり歩いていただろ!」って言われるかもしれないがいやー、慣れって恐ろしい
カプラ転送だってそのうち多用するかもしれないな
以前はカプラ利用券があるときしか使おうと思わなかったものだが今はそれ以外廃坑やオークダンジョンに直行する手段が無い
ふうう、神様(禿)も性格悪いぜ・・・

(余談だが俺はカプラ利用券を持っていても正規の料金徴収されて転送先で地団駄ふんで悔しがったことがある・・・あるだろ?)

そんなときプロ南で結構面白そうな立て札を見つけた
「モンクのポタ・・・やらないか?」
そこにはジャケットの胸元をはだけさせて
6つに割れた腹筋がお目見えしている男モンクが居た
モンクのポタ屋なんて珍しいなあ
生来の野次馬根性が俺を刺激する
ちょーっと遠巻きに観察してみるか・・・

30分経過・・・誰もこねえ・・・
60分経過・・・誰もこねえ・・・

・・・

逆毛の筋肉モンクに声を掛けるってのは怖いものなんだろうか
ちかくに「〜ポタ求む」の立て札も立つことはあるんだが・・・
それはタダ転送が好きな乞食どもなのかな?
待つのにも疲れてきたので
声をかけることにする
えーっと、こういう相手への挨拶は・・・

「よお、サカーゲ(wWw)」
瞑想していたらしい(それとも眠っていたのか?)モンクが顔を
上げる・・・結構眉が太いがまあ凛々しい顔の部類に入るだろう
「おお、逆毛の兄弟か、サカーゲ(wWw)」
「ヒマそうだな」
「ああ・・・瞑想していた」
「そうか・・・訓練になるんだろうな」
「うむ・・・ご馳走が出てきた所でお前に起こされた」
「・・・(寝てたんじゃねえか!)」
心の中で強くつっこんだとほぼ同時に
相手が質問をぶつけてきた
「ところでポタなのか?」
あ、そうだった
「モロクまで飛ばして欲しい、ピラ4Fに行くんだ、報酬は青2個でいいか?」ポケットをごそごそやって青石を取り出す
「うむ・・・だが1個で十分だ」
「儲けないじゃないか?いいのか?」
「いいんだ、俺も行くから」
そういうとモンクの兄貴は悪戯っぽい笑みを浮かべて
俺の手の中から1つの青石を取り出した・・・

------------------

「んで、なんで俺と一緒にいるんだ?」
ピラ4Fにたどり着いてすぐにモンスターと戦い始めた俺は
なぜか横でモンクが戦ってるのにつっこんでみた
・・・まあ囲まれると厄介だから有り難いが
いつの間にか仲間のつもりなのか
ブレスに速度増加までかけてくれている
・・・いやそれもありがたいんだけどね
「アフターサービスも万全・・・というか暇だったのさ、気にするな」
っても気になるよな
「援護してもらってばっかりってのも気が引ける、同じ位のレベルなんだろ?タッグ組もうぜ」
こっちから呼びかけなきゃ悪いだろ・・・
モンクはにっこり笑ってからこういった
「そうこなくちゃ」
狙ってたろ・・・

ピラ4Fは「隔離施設」なんていわれることもあるが
俺はこの、一瞬たりとも気が抜けない
周囲の気配を感じなければ危険を免れることが出来ない
ピリピリした雰囲気が好きだ
二人でのタッグは最初のうちは個人個人の戦いだったが
途中から俺が奇襲→スタブ要員で
相手が接敵→三段→連打を繰り返すようになって
1たす1が3になったくらいには殲滅スピードがアップした
なかなかやるじゃん
俺がグールの振り下ろした腕を掻い潜って
モンク兄貴のマミーにスタブを決めた時
こっちのグールにも
連打が決まってグールが崩れ落ちていった・・・
「なかなかやるじゃん!」楽しそうにモンクが言葉を吐く
「・・・お前もな」

しばらくして沸きが一旦おさまったようで
俺はステップを踏みながら体を冷やさないようにして
あたりの気配をうかがう
モンクは目をつぶって
やがて気功を練り始めた
奴の周囲に五つの光の弾が漂う・・・
「綺麗なもんだな」
するとモンクはちょっと驚いたような顔をして
こっちをまじまじと見つめ、そして少し笑った
「そうだな・・・そんなこと考えたことも無かった・・・」
まるではじめて蛍を見る子供のように
気の弾を見るモンク
それはなんとなく厳かな感じで
俺は相手にくるっと背を向けて
なんとなく両手を伸ばしてみたりしてみた

すると向こうのほうで悲鳴が聞こえた!
俺が反応するより先に奴が駆け出す
「おい!どこいくんだよ」
「決まっているだろ?、助けにいくんだよ!」
後ろ姿が遠ざかる
「ふうう・・・単なる背伸びパーティの決壊かなんかだろ?
皆ハエかなんかで逃げるさ・・・」
俺はぶつぶついいながら
パーティ組んだ手前、そこそこ急いで後を追っていった・・・

------------------

しかしそこには思ったより多数のモンスが居た
マミーやグール、イシスが決壊寸前のパーティに波状攻撃をかけるこれじゃ・・・こっちが協力してもまにあわねえ
「逃げろ!!!」俺が叫んだその時
モンクがオーラをまとって激戦の中につっこむ
「おい!!!」
静止する暇もなかったが良く見ると奴は
殆どダメージを受けず、多少スローになった拳で敵を殴りつけながら
出来る限りの相手を引き付けている
パーティメンバーが離脱したのを見て、こっちを振り向き一言
「おい!・・・なにボサッと突っ立ってるんだ?」
ふふふ
俺は出番を感じでわざとゆっくりと歩み寄る
「へいへい・・・やってやるぜ!」
やがて奇襲から短剣の舞がひと通りモンスの間を
舞った時
そこにはもう動かぬ骸だけが横たわっていた・・・

決壊寸前だったパーティにお礼を言われて
俺たち二人は上機嫌で狩場を後にした
「あそこのダンサー結構色っぽかったな・・・ぐっとくるぜ」
「落としてみるかい?、満更でもなさそうな顔してたぜ」
「・・・止めとくよ、今日はヒーロとして居たいからな」
たわいも無いおしゃべりを繰り返しながら
精算を終了させる
「さてと・・・ありがとよ」
「おい」とモンク
「ん?」と俺
「・・・お前のような腕のいいローグに背中を守ってもらうってのもいいもんだな」
ふっ・・・嬉しいこと言ってくれるじゃねえか
「・・・ありがとうよ、最高の褒め言葉だ」
そういって俺はねぐらに向かって歩き出した

------------------

後日、こいつと一緒に昼飯を食っていた時
近くの会話で「やらないか?」の意味を聞いて愕然とした
「お前知っていたか・・・」とモンク
「いや・・・そんな・・・」と俺
道理で客が入ってこないわけだ
・・・俺周囲にどう見られてたんだろうか・・・

そして一瞬の沈黙の後、二人は同時に叫びだす
「俺にはそんな趣味ねー!!!!!」

・・・まあ、こいつはいいモンクだがな
「モンクのつけようが無い」ってね
・・・スマン吊ってくる・・・
221名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/17(金) 14:37 ID:6vouuTnw
>>220
GJ !!(*´Д`)b
男前の二人に萌え〜〜〜
222名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/21(火) 01:57 ID:dN8vScRE
http://www.ragnarokonline.jp/news/oshirase/0206.html
ついに冤罪検挙に対する無罪報告があがったので、ひとつ。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
嵐のように起こった検挙によって突きつけられた冤罪。
何もしていないというのに、彼は漆黒の闇へと突き落とされた。

商家に生まれた彼は、彼の実家に買い物に来る冒険者達を見て、冒険者になろうと家を飛び出した。
木漏れ日の差す森を一歩一歩進み、頑張って初心者の域を脱する頃にひとつの悩みが浮かぶ。
「どの職に進もうか」と。
悩んでた彼は、結局商人の道を選ぶことにする。
商家の生まれである自分の、最大の天職は商人であるからと思ったからである。
その頃はまだまだ子供だったが、月日を経る毎に一歩一歩成長し、立派な冒険者となった。

そして、冒険の過程で新たな夢が見つかる。
「鍛冶師になろう。そして、みんなを喜ばせたい。」

その日からの彼の修練は熾烈を極める。財産の殆どを売却し、全てを自分の修練の為に費やした。
飲まず食わずの日もあった。ボロボロの状態のまま町へと戻った日もあった。
何度昏倒したかわからない。
医者にかかれば、「その体で冒険者を続けるのは無理だ」とも言われた。
でも、彼は諦めなかった。
「ここまできたのだから、もう少しだけ頑張ろう。」

そして、ついに鍛冶師となる日が来る。
嬉しかった。とにかく嬉しかった。
涙が頬を伝い、嬉しいという気持ちが体中にあふれる。

その日から、更にクレイジーな修練をするようになった。
彼の体を心配する声もあった。機械人形とも言われた。
しかし、彼は意にもとめなかった。
今ある自分を成長させる事が何よりも楽しく、何よりも嬉しかった。


しかし、彼の頑張りは裏目に出る。牢獄へと放り込まれ、何一つ出来ない生活を味わうことになる。
そこには同じような人が何人もいた。その人たちも自分と同じく、無罪の罪で投獄された人たちだった。
一日、一日と経つにしたがって、牢獄の中から人気が減っていく。
それとなく聞いてみると、「自害した・・・残念だ」との事だった。
翌週くらいになると、また同じ言葉を聞く。延々それの繰り返し・・・
・・・自分も死にたくなった事もある。でも死ななかった。
「そのうち、日の光を浴びられる時が来る。その日まで頑張ろう。今までだってそうだったじゃないか。」
たったそれだけの言葉を糧にして、一日一日の苦痛に耐え抜いたのだ。

数ヵ月後・・・ついに、漆黒の闇から開放され、太陽の下へと戻ってきた鍛冶師。
久方の太陽の光は眩しく、そして痛かった。
暫く見ない間に、町を行き交う人の顔は変わり、見知った露店はすべて別の物に変わっている。
最早、自分の知っている町ではない。
何とも言えない息苦しさを感じながら門をくぐる。

牢獄から開放された鍛冶師は、太陽の光を浴びながら呟く。。
・・・一生懸命誰かの為に武器を造っても、また同じように漆黒の闇へと送り込まれるのではないか・・・
そんな事を考えていると、目の前に一人の騎士が現れる。

「お久しぶり、今度はクレイモアを作ってほしいんだ。前に作ってもらったブロードソードが限界でね。」

「俺なんかでいいのか?俺は証拠不十分とはいえ犯罪者かもしれないんだぞ?」
相手は立派な装備をそろえた騎士だ。精錬も十二分に行われ、立派な剣を何本も携えている。
そんな騎士に、俺の武器が見合うわけもない。

そう思った矢先に、彼が口を開く。
「幾つも名工と呼ばれる鍛冶師の剣を使ってきたけど・・・アンタのじゃないと合わないんだよ。」

頬に涙が伝う。今まで我慢してきた分の涙が堰を切ったかのようにあふれ出した。

「ほら、とっとと頼むぜ。鈍ってるとは言わさないよ。」

騎士は人ごみの中へと消えていく。
ありがとう。そう言いたかったけど、あえてやめた。


・・・そして、後日。
鍛冶師の元に届いた発注書を見て青ざめる。
「おい、クレイモアにフランベルジェ・・・全部で30本ってなにさっ!一週間じゃ出来ねえっての!!!」

その時には気がつかなかったが、その署名部分にはこう書いてあった。

〜プロンテラ王宮騎士団 騎士団長〜と。
その下には見知った名前があった事は言うまでもないだろう。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
無罪報告があがってたので書いてみた訳で。
読みにくくて申し訳ない。
男の友情っぽくしあげてみますた。
223名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/21(火) 22:30 ID:aeLTLZCw
222>>
GJ!GJ!
思わず涙出そうになりますた(´;ω;`)
224名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/23(木) 16:31 ID:xv/mA48.
222>>
す、すごく切なくていい話です
223様同様、涙がでそうになりました
萌えと感動を有難う(⊃Д`)
225名無しさん(*´Д`)ハァハァsageバードからクルセへの手紙 :2003/10/25(土) 20:58 ID:CR9qdxUA
親愛なる君へ

お元気ですか?
随分と寒くなってきましたね。
この時期に君がよく風邪をひいていたのを思い出し、少しだけ心配してます。
クルセイダーになってからは、昔より丈夫になったのでしょうか?
君の事だから、風邪をひいても無茶な事をしているのではないでしょうか?
僕が君の傍にいた頃は、君はいつも誰かの事を優先させて、自分は後回しでしたし。
人の事を思いながら戦う君の事を、皆大切に思っていると思います。
少なくとも僕はそうでした。
だから、あまり無茶な事はしないで下さいね。
僕は風邪はひいていませんが、乾燥のせいか、手の荒れが酷くて困っています。
喉を痛めて歌えなくなるよりはましかもしれませんが。
こんな事を君の前で言ったら、
「だから手のケアは充分しろと言ったのに」と怒られてしまうかもしれませんね。
それでも、君が心配してくれているんだと思うと、妙に嬉しい気がしてしまいます。
226名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/25(土) 20:59 ID:CR9qdxUA
久々に帰ってきたのに、君に顔も合わせずに、手紙を残していく僕をどうか許してください。
街中を歩き回って、君を捕まえようかとも思ったんですが、
君に会ってしまうと、言いたい事が山のように出てきて、
上手く喋れなくなりそうな気がします。
耳打ちというのも考えたのですが、
旅に出てから一度も君に送っていないというのに、今更過ぎる気がして、
それも止めておきました。
すぐ近くにいるはずなのに、耳打ちを送ろうかと悩むのは、
僕と君の距離を示すみたいに思えて、妙に切ない気分になってしまいました。
こんな風に色々と言い訳みたく書いたけど、
本当のところは、君に会うのが怖いだけなのかも知れない。
別れてから随分と時間も経ったし、君も僕も、あの頃より大人になったはずです。
でも、変わったのは年齢や体つきだけじゃないでしょう。
会わないうちに、きっと僕と君との間は広くなってしまったと思います。
昔みたいに、下らない話をしたり、
ちょっとしたことで笑いあったり出来なくなってるかもしれません。
それでも、僕の中の君は、一緒に過ごしていた頃の君のままなんです。
君が自分の記憶とまるで別人になっているのでは。
そう思うと、君に会うのが怖くなってしまいます。
227名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/25(土) 20:59 ID:CR9qdxUA
君や他の友人達に会わないだけでなく、実家にも顔を出さないつもりです。
バードになる為だけに、家出同然で旅に出た奴など、
今更帰ってきたところで迷惑なだけでしょう。
けれど、皆の事が気にならないわけではありません。
僕の妹はもう剣士になれましたか?
僕が旅に出た頃はまだ小さかったけど、
きっと今は、ずっと大きくなって、君の元で修行しているのでしょうね。
本人は秘密にしていると思いますが、
あいつが剣士になろうと思ったのには、君への憧れがあるんだと思います。
君に剣術を習うと決まった日、
僕の妹は、家中どころか、近所中に報告しに駆け回るぐらいにはしゃいでいましたからね。
僕の弟も、一人前のアーチャーになったのかな。
覚えの良い子だったから、もう旅立った頃の僕よりも強くなっているかもしれませんね。
僕や親に向かって生意気な事ばかり言ってたので、君を困らせていないかとちょっと心配しています。
でも、君の前では良い子のふりをしていたし、大丈夫かな。
夢ばっかり追いかけて、フラフラしている僕よりも、
しっかりした信念を持って生きている君の方が、
あいつらにも頼もしく見えるんでしょうね。
わがままで騒々しい奴らだけど、どうか見捨てないでやってください。
228名無しさん(*´Д`)ハァハァsageおしまい :2003/10/25(土) 21:00 ID:CR9qdxUA
君と別れてから、僕はそれまでと全く違う生活を送ってきました。
そうする事で、君が傍にいない事の不自然さを忘れたかったのです。
旅に出た時に、君との思い出は全部捨てたつもりでした。
実際、毎日が忙しくて、君を思い出す暇なんてありませんでした。
でも、そう簡単にはいかないみたい。
疲れてるのかな。
この頃、君と過ごした日々を思い出す事が増えています。
今までだって、悲しかったり、寂しかったりする時には、よく君の事を思い出していました。
そんな時はいつも、君の事を忘れるまで、何もしないでぼんやりと考え込みます。
そうする事で、いつもの生活に戻る事が出来ました。
こんなに長い間、強く君の事を考える事なんてありませんでした。
本当は、今すぐにでも君に会いたい。
あの頃とは全く違う君でもいいから会いたい。
けれど、そうしたら、きっと僕は旅に出たくなくなる。
君を離したくなくなる。
そうなる事が、一番怖い。
だから、今回は君には会いません。
僕も君も、やらなきゃいけない事がまだ沢山あります。
その全てが終わったら、僕は本当に、君の元に帰る事が出来るようになるでしょう。
その頃には、きっと君は僕の事を忘れているでしょうね。
僕よりも大切な人が傍にいるかもしれません。
でも、それで構わないんです。
君は、君自身と、君の大切な人の為に生きてください。

君が僕を忘れる頃、僕は君の元に帰ります。

誰よりも君の幸せを願う者より


町の出口まで来たバードは、荷物入れから、先程書き上げた手紙の入った封筒をを取り出した。
それをじっと見つめると、不意に声をあげて笑い出した。
「……俺にしちゃ、格好つけすぎだよなぁ」
彼はそう呟くと、手紙の入った封筒を懐にしまって、町の外へ歩き出した。
手紙はそのまま、誰にも読まれる事は無かった。
229名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/25(土) 23:42 ID:ZoLt.pFw
黙って去るなよ!バカ野郎!(ノД`)
230名無しさん(*´Д`)ハァハァsageクルセからバードへの手紙 :2003/10/26(日) 01:47 ID:TK6IhnXQ
親愛なる貴方へ

お元気ですか?
随分寒くなってきましたね。
この時期に貴方がよく手を痛めていたのを思い出し、少しだけ心配しています。
バードになってからは、昔よりよくなりましたか?
貴方の事ですから、手を痛めていても無茶な演奏を続けているのではないでしょうか?
貴方が私の傍にいた頃は、貴方はいつも誰かが楽しい気持ちでいられるようにと笑っていましたし。
人の事を思いながら歌う貴方の事を、皆大切に思っているでしょう。
少なくとも私はそうでした。
だから、あまり無茶な事はしないで下さいね。
私は手は荒れていませんが、寒さのせいか、風邪をひいたらしく、少し辛いです。
手を痛めて武器を握れなくなるよりはましかも知れませんが。
こんな事を貴方の前で言ったら、
「だから体調管理はしっかりしろって言ったのに」と呆れられてしまうかもしれませんね。
それでも、貴方が心配してくれているんだと思うと、何だか嬉しいような気分になってしまいます。
231名無しさん(*´Д`)ハァハァsage225-228の逆パターン :2003/10/26(日) 01:49 ID:TK6IhnXQ
久々に戻ってくると聞いたのに、貴方に顔も合わせず、手紙を置いていく私をどうかお許しください。
貴方の家の前で、帰ってくるのを待っていようかとも思ったのですが、
貴方に会ってしまうと、何から話して良いのか分からなくなって、
上手く喋れなくなりそうな気がします。
耳打ちという方法も考えたのですが、
旅に出た貴方に一度も送っていないのに、今更過ぎる気がして、
それも止める事にしました。
それに、すぐ近くにいるはずなのに、耳打ちを送ろうかと悩む事は、
貴方と私の距離を示すように感じられて、何だか寂しいような気分になってしまいました。
こんな風に色々と弁解するように書きましたが、
本当のところは、貴方に会うのが怖いだけなのかもしれない。
別れてから随分と時間も経ちましたし、貴方も私も、あの頃より成長したはずです。
けれど、変わったのは年齢や体つきだけではないでしょう。
会わないうちに、きっと貴方と私との間は広くなってしまったと思います。
昔みたいに、隣に並んで歩いたり、
向かい合わせで話し合ったり出来なくなっているかもしれません。
それでも、私の中の貴方は、一緒に過ごしていた頃の貴方のままなのです。
貴方が自分の記憶とまるで別人になっていたら。
そう考えると、貴方に会うのが怖くなってしまいます。
232名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/26(日) 01:51 ID:TK6IhnXQ
私や友人達は会えませんが、実家の方には顔を出してあげてくださいね。
バードになる為に、家出同然で旅に出たといっても、
帰ってくれば暖かく迎えてくれるでしょう。
皆、貴方が元気にしているか心配していますよ。
貴方の妹は、この間剣士に転職しました。
貴方が旅に出た頃はまだ小さかったのに、
今では随分と大きくなり、いつかは貴方に勝つとまで言うようになりました。
本人は口に出しませんが、
やはり貴方が旅に出てしまったのが寂しくて仕方が無いようです。
貴方が旅に出た日から、
彼女は毎日のように、剣の特訓という理由をつけて、私のところへ遊びに来るのですから。
貴方の弟も、弓の腕をどんどん上げています。
覚えの良い子ですから、旅立った時の貴方よりも強くなってるかもしれません。
外では生意気な事も言っているそうですが、私の前では年相応の子供らしい表情を見せてくれます。
本当は貴方に甘えたかったんでしょうね。
はっきりとした夢もなく、ただひたすらに前に進むだけの私よりも、
自分のやりたい事の為に生きている貴方の方が、
彼らにも格好良く見えていると思います。
素直になれない子達だとは思いますが、思う存分甘えさせてあげてください。
233名無しさん(*´Д`)ハァハァsageおしまい :2003/10/26(日) 01:52 ID:TK6IhnXQ
貴方と別れてからも、私はそれまでと全く同じ生活を送ってきました。
そうする事で、貴方が傍にいない事が普通だと思えるようになりたかったのです。
貴方が旅立った時に、貴方との思い出は全て捨てたつもりでした。
ですが、そう簡単にはいかないようです。
疲れているのでしょうか。
この頃、貴方と過ごした日々を思い出す事が増えています。
今までも、辛い事や悲しい事があった時には、よく貴方の事を思い出していました。
そういう時はいつも、貴方の事を忘れるまで、何もせずにぼんやりと考え込みます。
そうする事で、いつもの生活に戻る事が出来ました。
これほど長い間、強く貴方の事を考える事なんてありませんでした。
本当は、今すぐにでも貴方に会いたい。
あの頃とは全く違う貴方でもいいから会いたい。
けれど、そうしたら、きっと私は貴方を引き留めてしまう。
貴方と離れたくなくなる。
そうなる事が、一番怖い。
だから、今回は貴方には会いません。
貴方も私も、やらなくてはならない事がまだ沢山あります。
全てが終わったら、私は本当に、貴方の帰りを待つ事が出来るようになるでしょう。
その頃には、きっと貴方は私の事を忘れているでしょうね。
私よりも大事な人が傍にいるかもしれません。
でも、それで構わないのです。
貴方は、貴方自身と、貴方の大切な人のために生きてください。

貴方が私を忘れても、私は貴方の帰りを待ち続けます。

誰よりも貴方の幸せを祈る者より

机の前で考え込むクルセイダーは、引き出しから、先程書き上げた手紙の入った封筒を取り出した。
それをじっと見つめると、困ったような顔で小さく笑った。
「いくら何でも女々しすぎる、か……」
彼はそう呟くと、手紙の入った封筒を懐にしまって、部屋の外へ歩き出した。
手紙はそのまま、誰にも読まれる事は無かった。
234名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/26(日) 21:22 ID:KtoIzhgY
>>225-233
あああ切ねえ……。
おまいら幸せになってください!
いつか帰ってこいよバード…待ってろよクルセ…。
手紙は出さなきゃ伝わらないよお。
つか、書き方が凄く上手いと思いました。
二人の手紙を読み比べると更にいいですね。
235SiteMaster ★sage :2003/10/26(日) 22:54 ID:???
【まず】板のルール、お約束、各スレのテンプレ【読め】
のスレを導入しました。

板のルールや、テンプレの確認などに使用してください。
236名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/27(月) 00:22 ID:FnWqEuAg
>>225-233
こ・・これぞ萌え・゚・(つД`)・゚・
237名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/27(月) 11:34 ID:LoZXMw1M
そいつは、誰もが認める小悪党。

皮肉屋で毒舌家。派手好きで博打好き。舌先三寸と手八丁で金目の物を虎視眈々と狙う。


日頃から、彼はこうのたまう。

「おめぇらがピンチになろうが、俺は知ったこっちゃねぇ。ヤバイと思ったらトンズラさせて貰うぜ。
 大体だなぁ、逃げ道も用意しないで玉砕なんて馬鹿のやることだろ。俺は一人でも生き延びるぜ」
「あぁ? ちっとは貯金しろ? 金は使うためにあるんだろうが。貯めすぎると腐っちまう」
「引き際も知らんガキの喧嘩には付き合ってられん。二人ともルティエに行って頭でも冷やして来い、ボケが」


だが、仲間達からの評判は決して悪くない。

仲間達を率いる騎士は言う。
「何だかんだ言おうと、彼は俺達を見捨てて最終的に逃げたことは一度もない。
 私達が慌てふためいて逃げ道を見失ってても、彼はいつでも一旦逃げる算段を立てて行動してる」

アイテムや金銭を管理している鍛冶商人は言う。
「露店詐欺にあって落ち込んでたとき、俺に無理やりレアアイテムを渡して雲隠れしたのはアイツだ。
 やたら金にあざといくせして、金や物自体には執着がねぇんだよなぁ…。手に入れる過程を楽しんでるっつーか。
 手元にはミルク代すら持ってねぇくせしてよ。アイツに半永久的にミルクをくれてやっても、こっちは黒字なんだが」

攻撃手段の性質上、何かとトラブルを起こしやすいハンターは言う。
「喧嘩してる相手に対して、適当に相槌打って聞いてるフリを絶対にあいつはしない。
 時には、怒りの矛先を自分に向ける真似すら、笑いながら平気でやってのける」


何故かは分からないが、そいつの周囲には人が集まってくる。不思議なことに。


そいつは、誰もが認める小悪党。
今日もまた、世界に眠る金銀財宝を狙ってそいつは駆け回る。

「俺が欲しいのは、死者の牙や遺品じゃねぇんだよ! 箱だ! 箱出しやがれ、ボケ!」
238名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/27(月) 12:04 ID:1/aGWMGA
「あのよぉ、テツ……。俺、惚れちゃったみたいなんだわ」
「ええっ!?」
 テツと呼ばれたシーフは、驚いた拍子に手に持っていたポーションの瓶をがしゃりと地
面に落とした。
 いつもなら「もったいねーだろー!」と嘆きながら地面の残骸に飛びついてくる男は、
今日に限っては老いた飼い犬のように大人しかった。
 でかい図体をちんまりと丸め、しゃがみこんだポーズは見ようによってはまさに犬のよ
うだ。しかもその顔は、ひどく叱られたようにしゅんとしている。
「ほ、惚れたってアニキ! 今度はどこの姐さんですかい? ダンサーっすか、マジシャ
ンっすか、それともバード!?」
「……いや、最後のはあからさまに男だろ。落ちつけテツ」
「あ、そうだ。すいやせんアニキ」
 明るい茶色の後ろ頭に手をやり、素直にぺこりと頭を下げるテツ。
 それに軽く手を振ってやり、ふぅとため息をつく男はローグだった。
 髪は金色だが、生来のものではなく染めているようだ。立派な体格をしているものの、
目はどこか遠くを見ており、そのせいで今はなんとなく頼りない印象を受ける。
 彼の名はゲイル。文句のつけどころのない悪漢だ。
 ……たぶん。
「で、今度は誰に惚れたんですか」
「それがよー、もうすげえんだよ。美人なのは言うでもなし、胸なんかバーンだし、腰な
んかキュッだし」
「ふむふむ」
「でもよー、それだけじゃねえんだ。なんつーのか……、すげえ、いい女なんだよ」
「ちなみに職業は?」
「ウィザード」
「うっわぁ、頭よさそーっすねえ。俺はダメだなー、そういうの。何か近寄りがたくっ
て」
「バカ野郎、テツ! おめえあの人をけなすつもりか!?」
 いきなり立ち上がり、怒りにぷるぷると拳を震わせるゲイルに、テツはあわてて首を左
右に振りまくった。
「ち、違う、違いますってアニキ! ただ、アニキがそーいう頭良さそうな人に惚れるの
が、意外だなーって」
「そうかそうか。おめえも何だかんだ言って俺の内からあふれる知性を感じとってたか」
 うんうんとしたり顔でうなずいてみせるゲイルに、テツは何ともいえない汗を流しなが
ら心の中でこっそり思った。
(いや、誰もアニキが頭いいなんて言ってない……つーかむしろバ)
「でよ、そこで相談なんだが、彼女にどんな風に言えばいいと思う?」
「へ? いつもみたいに体当たりで『好きだー!』って言っちまえばいいんじゃないんで
すかい」
「バッカ野郎、いやむしろバカテツか? いいか、今度の相手はすっげーインテリで、
すっげー繊細っぽいんだぞ? んなことできるかよ、恥ずかしい!」
「恥ずかしいんすか、そーすか……」
 またもテツのこめかみにイヤな汗が流れる。
 酔って酒場で脱いだり暴れたり、街にいるときでさえ立ちションが日常の行為と化して
いるような男に恥じらいという言葉がいまだ残っていたとは。
「でも、今までのやり方が通用しねえとなると、ちっとややこしいっすね」
「そう言うなよー。一緒に考えてくれよー」
「うーん、難しいっすねー」
 大の男がしゃがみこんだまま頭を付きあわせて、うんうんと悩む姿はかなり異様だった。
239名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/27(月) 12:06 ID:1/aGWMGA
 結局、告白にプレゼントを添えればうまくいくだろうというアイデアにたどり着いたの
はすっかり日が傾いたころだった。
「アニキ……頭いてえっす。1年分くらい頭使ったっす」
「ふっふっふ、まだまだ修行が足りねえなテツ。俺なんざ10年分は使ったぜ」
「……さすがはアニキ。おみそれしました」
 後ろ頭に手をやるいつものポーズで頭を下げるテツの前を、ゲイルはふんぞり返って歩
いていく。
 その手には目にも鮮やかな花束が握られている。
 惚れっぽいゲイルだったが、意中の相手に贈り物をするなど初めてのことだったので、
実は内心緊張しまくっていた。
 だが弟分のテツの手前、変におどおどしていてはみっともない。そう思って堂々とした
振りをしていたのだ。
 すると唐突に後ろからテツの声が響いた。
「あーーーー!! アニキぃぃぃぃぃ!!」
「うっわぁ!! すいません無理してましたごめんなさいぃぃ!!」
「そういや、その女の人がどこにいるのか知ってるんですかい、アニキ?」
 街路樹の幹にへばりついたゲイルを、何事も起こってないかのように見上げるテツ。
 ばつが悪そうにテツの視線を受けながら、するすると街路樹から降りたゲイルは、こほ
んとひとつ咳をした。
「バッカ、そんくらい当然だ。俺がなんも考えてねえように見えるか?」
 思わず反射的にうなずこうとしてしまったらしいテツは、妙な角度に首を傾けたまま固
まり、一瞬遅れてふるふると首を左右に振った。
「……おめえ、うなずこうとしたろ」
「そ、そんなことよりアニキ。それなら急がねえと。もうすぐ日も暮れやすぜ」
 こういうときだけ妙に勘のいいゲイルをかわしつつ、あたふたとテツが言う。
 しかしゲイルは自信ありげに低く笑うのだった。
「心配ねえって。あの人はいつもこれくらいの時間にここを通るんだ。だからここで待っ
てりゃ、イヤでも会えるってことさ」
「おおー! アニキすげえっす! 伊達に毎日女のケツ追っかけてねえぜ!」
「……おいおいそれくらいにしとけ。照れるじゃねえか」
 本気で褒められていると思っているゲイルに、心の底から感激しているらしいテツ。
 端から見れば、さぞ笑える光景だっただろう。
240名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/27(月) 12:07 ID:1/aGWMGA
「あっ! アニキ、あれじゃねえですかい!」
「何! あっ、あれだ、あの人だ!」
 すっかり暗くなった夜道の角から、女らしき人影が現れる。
 テツは当てずっぽうでその人を指さしたが、どうやら本当にゲイルの目当ての女性だっ
たようだ。
「よし。テツ、おめえはここで待ってろ。男2人で行って、驚かせるといけねえからな」
「わかりやした。『ハイディング!』」
 言われただけでなく、姿まで隠してみせるテツの配慮に、ゲイルは声に出さずに心の中
で感謝した。
 ゲイルは息を吸い込むと、キッと道の向こうを見据えて歩き出した。
 正面から歩いてくるのは長いブロンドの髪のウィザードだった。
 夜道でもはっきり分かる美貌が、ふと何かに気づいた。
「……何か、ご用?」
 目の前に立つのは大柄なローグ。
「う、ウィザードの、せせせセラフィーナさん、だな」
「そうだけど」
 落ちつきはらったウィザードに対して、ゲイルは見てそれと分かるほど緊張していた。
 舌はろれつが回っていないし、花束を持つ手には汗がしたたるほどににじんでいる。
「私の名前を知っている、あなたはどなたなのかしら?」
「な、名乗るほどのものじゃ、ない」
「へえ……」
 ウィザードの目が細められる。その表情もまた美しく、ゲイルの緊張はピークに達した。
「それじゃあ、私になんのご用?」
「た、たた大した用じゃねえんだ。すぐ終わる」
 ゲイルは後ろ手に持った花束を握る手にぎゅっと力を込めた。
 そして次の瞬間、それを音速を超えそうな勢いで前へと突き出した。
「すっ、すす好きだああぁぁぁぁぁ!!!!!」
 目をつぶり、花束を持った両手を伸ばしに伸ばした格好のまま、流れる時。
 10秒経った。30秒経った。1分。
「……あれ?」
 ゲイルが顔を上げて見ると、目の前には誰もいなかった。
「アニキ〜」
 ハイディングを解いたテツがゲイルのそばへ走ってくる。
「あ、テツ。あの人は?」
「俺もよく見てなかったんですけど、アニキの雄叫びが聞こえた後、俺の横を突っ切って
行ったみたいですぜ」
「へ?」
 わけも分からずその場に立ちつくす2人の耳に、何か大勢の人が走る騒々しい音が聞こ
えてきた。
 盗賊の修行の末、よく聞こえる耳を持った2人はそろって音が聞こえる方を見た。
 美しいウィザードが先頭に立ち、その背後に引き連れた軍勢に高らかに告げる。
「あれです! 夜道に乗じた強盗です!」
「「ええぇぇぇぇぇぇ!?」」
 テツとゲイルが思い思いのポーズで叫ぶ。
 ウィザードの後ろには、プロンテラ警備兵がずらりと居並んでいた。
「王都の治安を乱す者はーーーーー!」
「一人残らず牢屋行きにしてくれるーーーーー!」
「全員、かかれーーーーー!」
「に、逃げろテツ!」
「うわあぁぁん、アニキ待ってーーーーー!!」
 我に返り、全速力で逃げ去る2人の後を、警備兵の重々しい装備の音が追いかける。
 その場に残されたのは喧噪が通り過ぎた後の風と、それに長いブロンドを吹き上げられ
るウィザードだった。
 ふと、その目が見開かれる。
 彼女は何十もの足に踏み散らかされた花束を地面からそっと拾った。
 ぼろぼろになったそれを抱え、すっかり人気のなくなった路地の向こうに目をやるが、
そこに誰の姿もとらえることはできなかった。
ーENDー
241238-240sage :2003/10/27(月) 12:09 ID:1/aGWMGA
あ、ちょっと紛らわしいタイミングだったかも。
237の神とは別者です。すんません。
242名無しさん(;´Д`)ハァハァsage :2003/10/27(月) 17:21 ID:ZCODLXfE
続いてるのかと思ったw

楽しませて、読ませていただきました
243名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2003/10/28(火) 13:31 ID:atQ0PuKA
「ん・・・・・」
いかにも手作りと言った感じの、粗末なベッドの上で彼は目を醒ました。
見慣れた窓から外を眺める。
長く伸ばした黒髪を掻きながら気だるげに身を起こした。
寝すぎたか?
鍛え抜かれた上半身を晒して布団を剥ぐ。
前に垂れる髪をかきあげつついつものようにタオルを肩にさげて外に出た。
人里離れた湖の辺。ここで修行をするようになってもう3年になる。
彼はいつものように木の枝に着ている物をかけて、その無駄な肉のほとんどない体を晒し湖で水浴びを始めた。
最後に人に会ったのはいつだったかと考える。
少なくとも1週間とかではない。
「ま、いっか」
起き抜けのこの水浴びも日課になっている。
冷たい水は眠気を飛ばし、気を引き締めてくれる。

広い水面はすっかり高く昇った太陽の光をうけてきらめいている。
ガサッ
背後の叢が突如音を立てた。
この辺りには危険なモンスターはいない。
そうなると、ここを訪れる酔狂な奴は少ない。
「たしか、この辺りだって・・・きゃっ」
「ん?」
背中越しに振り返って案の定その数少ない人種が来たことを確認した。
「あ、あの、ごめんなさい!」
あわてて逃げようとする後姿。短い若草色の髪をしたノービスが見えた。
「あ〜、」
なにか言おうとしたところで、彼女は一目散に走り去り、すぐにその姿は見えなくなった。
しばらくそのノービスの消えた方を見て、
「ま、いっか」
と、そのまま水浴びを続けた。

濡れた髪をタオルでわしわし拭きながら湖から家へ戻ると、さっきのノービスが扉の前で深呼吸していた。
「・・・・よし」
意を決したのかその手を上げて扉を叩こうとする。
「その家なら留守だよ」
「え?」
彼はタオルを肩にかけて背後から声をかけた。
「あ、あの」
「ん?」
「さっきは、その」
「ああ」
水浴びを覗いてしまったことを言っているらしい
「目の保養にはなったかな?」
ボッと彼女の顔が赤くなる。
その反応を楽しそうに見ながら、彼はタオルを肩からとる。
「あの、ここに洋介神父がいらっしゃると聞いて」
彼は記憶を探り、数日前に届いた手紙を思い出す
「あ、えっと留守って」
「ああ、もうじき帰ってくると思うよ」
そう言いながらズボンのポケットを探る。
なにやらほっとしたような、残念そうな表情をする少女。
「ま、とりあえず・・・」
そういうと見つけた鍵で扉を開ける。
「へ?」
扉を開けたそのまま後ろ、少女のほうを振り返ると
「ようこそアコライトの卵さん」
そう言って、彼洋介神父は新しい道を踏み出そうとする少女に微笑みかけた。

End

たまには既存NPC使ってもいいかなぁとか思ってたら書いてしまいました。
駄文ごめんなさい
244名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/29(水) 00:02 ID:XnfBhcr6
 洋介神父大好きなので萌えました!
駄文なんてとんでもないです。私も目の保養がした(ry
245名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2003/10/29(水) 00:53 ID:gXHV9Sdw
レスありがとうございます><
萌えの範囲が人それぞれで、不安でしたが安心しました。
次もなにか書こうかなぁと画策中ですw
246名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/29(水) 14:16 ID:kaKdRQxY
洋介神父きた〜〜><
めちゃよかったですっ。
NPCって発想もステキです
247243再び :2003/10/30(木) 12:07 ID:40VBtSHw
またやってしまったNPC第2作目〜


篭る熱気と響く金属音。
爆ぜる高温の炎と赤熱化した金属の塊。
一心にそれを叩く姿があった。
賑やかな外の喧騒と隔絶されている空間を静かな緊張感が支配している。
「・・・・」
彼は短くなったタバコを燃え盛る炉に投げ入れ、ズボンから新しいタバコを取り出す。
ソレを、炉から取り出したばかりの金属に近づけ火をつけると、再び咥える。
そして右手に持った鉄槌を振りかぶり、振り下ろす。
彼の後ろには依頼主らしき騎士が固唾を飲んで見守っている。
トドメとばかりに力強く打ち下ろしたハンマー。
しかし、
『キーン』
甲高い音を立てて剣は真っ二つに折れてしまった。
振り下ろした形のまま固まる鍛冶師。
天を見上げて目を覆う騎士。
少し前までの緊張感は既になく、ただただ悲壮感だけが漂っていた。

すっかり肩を落として、入り口から出て行く騎士を見送る。
彼はこのあと酒場に行くか家で酒を煽ることだろう。
仕事中ではあるが自分もキツイのを引っ掛けたい気分だった。
「おいおい、またクホっちまったのか?」
不意に扉を開いて入ってきた人物が開口一番言った。
恨めしげな目でその人物を見やる。
「うるさい。スランプなんだよ。」
そう言って机に突っ伏す鍛冶師。
「おまえのスランプはいったい何年続くんだ?」
「うるさいって言ってんだろうが。だいたいこの間は成功しただろうが」
顔を上げて、前に立つ男を睨む鍛冶師。
「エルウィンとこの婆さんに頼まれた包丁にオリデオコン3個使ったあれか?」
「包丁っつってもありゃあ元々婆さんが使ってた武器用のランク4の奴なんだぞ」
「ランクLv4だろうと3個分なんざ安全圏じゃねぇか。んなので失敗するなら廃業しちまえ」
横を向いて目を逸らす。
「おまえなぁ、もうちょっとまじめに仕事しろよ」
溜息を吐きながら向かいに座る。
「このプロンテラにゃ、おまえしか打てる奴いねえからみんな来るが、世間でなんて言われてるか知ってるか?」
また大きく溜息を吐いてから続ける。
「クホルグレン」
「ぐ・・・」
何も言い返せずホルグレンは顔を背け続ける。
「仮にもギルドからプロンテラを任されたんだろう。このままじゃゲフェンのギルドに召集されちまうぞ」
「そ、それだけは勘弁してくれ・・・」
一人前と認められてギルドからプロンテラの鍛冶場を任されたのがかれこれ10年近く前。
それまで居たゲフェンのブラックスミスギルド。
ギルド本部勤務といえば聞こえはいいが、ゲフェンブラックスミスギルドの鍛冶場には製造場がないのだ。
鍛冶場の熱気と鉄を打つ事がなにより好きな彼にとって、デスクワークはまさしくクビよりきつかった。
あの拷問のような日々を思い出し、一人悶えるホルグレンを友人は冷たい目で眺めている。

「あのぅ」
入り口を押し開いて一人のアコライトが中に入ってきた。
その声に正気に戻ったホルグレンがすぐに立ち上がる。
友人のほうが席を立って場所を譲ると、とことことアコライトはカウンターの前に立った。
「これをあと1つ分精錬していただけないでしょうか」
そう言って机の上に置いたのはよく使い込まれたソードメイスだった。
しかもよく見れば時折赤い燐粉のようなものが噴出している。
「こいつは、ファイアーソードメイスか・・・」
横から友人が物珍しげに覗き込んで呟く。
「そのようだな。随分使い込まれてるし、こいつは作者がまたとんでもない御仁だな」
属性を伴った武器は通常の店先には並ばないため、ひとつひとつがBSによるオーダーメイドの特注品だ。
そのため各武器にはその作者の銘が刻まれている。
当然依頼品のソードメイスにも銘は入っているのだが、それが鍛冶師ならよく知っている名前だった。
「先代のブラックスミスギルドマスターか」
友人が口笛を吹く。
「名匠として名高い先代の品か。」
細部を確認していくホルグレン。
しかし、ある部分を見て表情が変わった。
「おい・・・」
「はい?」
依頼主であるアコライトが何事かと首を傾げる。
「こいつ、星の欠片を2個ともぶちこんであるじゃねぇか・・・」
星の欠片。
これをいれて製造することで製造時の難易度は飛躍的に上がるが、出来上がったものは確実に攻撃した相手の体の

どこかを傷つける。
「しかもこいつ、限界越えて精錬してやがる」
精錬時に刻まれる使用強化金属数の記号は6を示していた。
ソードメイスの武器ランクはLv3。
使用金属は神の金属と言われるオリデオコンだ。
そして、各武器ランクごとに安全に精錬できる値というものが設定されている。
それを超えると一気に成功率が激減するのだ。
失敗すれば二度と武器としての使用は不可能になる。
「これは母が使っていたものなんです。」
「母親?」
「ええ。プリ―ストだったんですけど、以前の襲撃騒ぎの際誤ってデスの剣を受けてしまって・・・」
プロンテラを襲った惨事。
興味本位でアブラカタブラと呼ばれる魔法を使用したセージが引き起こした事件だ。
ロード オブ デスというモンスター中でも最高位に属するモノが召還されてしまいプロンテラは未曾有の大混乱

に陥った。
からくも退治することはできたものの、死傷者数は万の位にまで達した。
「これはその時使っていたものなんです」
そう言って寂しそうに笑った。
「・・・形見・・・か」
「武器のせいとは思いませんけど、もっと武器も防具も強く精錬されていれば助かったんじゃないかと思えて仕方

なくて」
「ッ・・・」
『無理だ』と言いそうになってホルグレンは声を飲み込んだ。
襲撃事件の当時自分はなんとか避難が間に合って助かることができた。
しかし、その以後常連客や友人達の何人かはまったくみなくなってしまった。
「すまん、君のファミリーネームは何かな」
ホルグレンは搾り出すようにそう言った。
「ルゥですが・・・」
ホルグレンは目を閉じて、机の下で拳を強く握り締めた。
見なくなった常連客の一人だった。
それも、襲撃の少し前に盾の6段精錬を失敗してしまった人だ。
身体に力が篭る。
やるせない感情が爆発しないようにするので精一杯だった。
「わかった」
ホルグレンはそう口にして目を開いた。
「Lv3武器の精錬は25000zだ。それにこの武器は既に過剰精錬を施されている。
 成功する確率はかなり低いし、失敗すればこの武器を失うことになる。それでもいいか?」
アコライトの少年は少し目を閉じて間を置くと、
「おねがいします」
と、だけ言った。
「わかった。モノがモノだから少々時間がかかる。家に戻っているか?」
「ここで待たせてください。」
「わかった。リック」
奥から頭にバンダナを巻いた女性のブラックスミスが顔を出す。
「すまん、今日は帰るのは遅くなる。先にガキ共といっしょに飯食っててくれ」
「急ぐものなの?」
少し残念そうに眉根をよせるリック。
「久しぶりに本気にならないといけなくなってな。悪いが一人でやらせてくれ」
「そっか。わかった」
そう言ってカウンターに立つアコライトに微笑みかけて奥に引っ込んだ。
「すまんジェイル、そういうわけなんで後頼む」
「ああ、ここは任しとけおまえはしっかりやれよ」
そして、依頼品のソードメイスを掴むとホルグレンは仕事場に入った。

それから彼は正に鬼気迫る気迫で仕事にかかった。
今まで十数年鍛冶をしてきて、最も集中していた。
ソードメイスの4本の刃を一つ一つ丁寧に、それでいて力強く鍛えていく。
過剰にオリデオコンを叩き込まれた鋼が機嫌を損ねないよう慎重に槌を振るい、限界まで鍛え上げていく。
『もっと武器も防具も強く精錬されていれば助かったんじゃないかと思えて』
あのアコライトの声が思い出される。
そこからは彼はどうやって精錬していったのか覚えていない。
精錬も無事成功した。
アコライトの少年は出来上がったものを見て緊張がきれたのか泣き出してしまった。
ホルグレン自身全精力を使い切ってソファーの背に体を預けて気を失っていた。
少年は落ち着いてから何度もお礼を言って精錬所から家路へ着いた。
少年が抱えるソードメイス。
その精錬度には7の意味を表す記号が記してある。
仕事をやり終えたホルグレンはそのまま家に帰ることもなく、その日は仕事場で眠りつづけた。

後日、在庫整理をしていたリックは首を捻りながら何度も在庫を数えなおしていた。
何度も何度も計算しなおすが、どうしても在庫の数があわなかった。
オリデオコン結晶が1つだけどうしてもみつからなかった。


End


またも長文ごめんなさい。
そして、萌えでもなんでもないような、恨みしか買ってないようなNPC使ってしまい
ごめんなさい><
NPC版3作目は反応次第で考えます(爆
248243 :2003/10/30(木) 12:28 ID:40VBtSHw
改行わすれてたー('';
そしてむちゃくちゃ見づらいですね・・・。
ごめんなさい、しかも下手すぎです・・・
249名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/30(木) 20:18 ID:ABqy7nQ6
ああ…どのNPCよりも愛するホルグレンが!
格好良いです。GJです。もうそれ以上何もいえません。

頑張ってホルグレンに愛される騎士になろう…。
クホらないでねクホらないでね(´・ω・`)
250名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2003/10/31(金) 10:28 ID:qxB8GfjU
>243
ホルグレンへの愛が溢れてて素敵です。
次回作も心待ちにしてます。

クホルグレンってよぶのやめよ・・・(笑)
251名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/31(金) 14:07 ID:vHdMCMFE
 刻々と伝えられるギルド陥落の情報に、プリーストは今日がギルド攻城戦の日であったことに気づいた。
 彼がいるのは薄暗いダンジョンの中だ。闇の生き物がうごめく音が常に聞こえる。
 炎を操る闇の神官に、彼は水の力が込められたソードメイスを全力で叩きつける。ゆらりと宙にとけるように消えた後に残るのは神官の仮面。売れば幾ばくかの金子に換えられるそれを床から拾い上げ、鞄の中に放り込む。
 と、その時、突如現れた毒蛇が彼の背中に飛びかかった。
 が、キィンと甲高い音とともにはじき返された。それでも諦めずに毒蛇はプリーストに向かって飛びかかる。
 彼は武器を素早く持ち替え敵に振り下ろす。
 神の護りが破れる前に、毒蛇の頭蓋は無惨に砕かれる。
 毒蛇との戦いの間も、ギルド攻城の様子は淡々と伝えられていた。
 ほんの少し耳障りだ、と彼は思った。
 そしてほんの少し羨ましい、とも彼は思った。
 さらに自分には縁のないことだとも思った。
 彼が神に祈るのは他人を支援するためではなく、己の力を増幅するため。
 騎士やアサシンのように前で戦うための力を身につけたかわりに、他人を癒す力は極端に低い。
 強くなればなるほど、一人で戦うことが多くなった。
 その事に後悔はない。もともと魔力の素質は低く、適性試験でも剣士やシーフのほうが合っていると出たぐらいだったから。大勢の人の中で生きるのは苦手でもあったから。
 けれど、それでも。
――強さの最終点に着いたときに、隣に誰かがいて欲しいと思うことは
「わがままなのかなぁ……」
 今日は随分感傷的だな、と苦笑しながら彼は銘の消えたアイスソードメイスを握りこんだ。

 共に歩むとを誓った戦友は、もう、いない。

 それでも、勝ち目のない賭に縋って。
 いつか笑いながらこの目の前に立ってくれるのではないかと思って。
「俺は一人で生きることを決めたんだから」
 こんなところで寂しさに潰れてたまるかと、彼は頭を大きく振る。
 そして、新たに出現した敵に向かってソードメイスを薙いだ。

――終――
252名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/31(金) 14:08 ID:vHdMCMFE
 改行に失敗してしまいました_| ̄|○
 読みにくくてすみません。
253名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/10/31(金) 17:22 ID:7E5MVCL2
>251さん
す、すごい…泣けますた(´;ω;`)
殴りプリさんの心境が…。最高です…。
私もプリ作りたくなってk(ry
254251sage :2003/11/02(日) 21:04 ID:IeFBm5vA
>253さん
レスありがとうございます
泣けたと言われてとても嬉しかったです。
ぜひぜひプリライフをっ(マテ
255名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/11/10(月) 08:06 ID:RIKECGjM
 傍らの温もりが消えたのに気づいて、プリーストは微睡みから目を覚ました。
 起こしたか、と身を起こしているアサシンが囁いた。
 ん、とプリーストは軽く身じろぐ。
「もう、行くのか?」
 外はまだしんとしている。夜明けはもう少し先だ。
「ああ」
 答える声はそっけない。
 けだるい余韻に浸りながら、プリーストは呟いた。
「お前って、執着心ないよな」
 微かにアサシンは目を瞬かせた。
「そうか?」
 うん、とプリーストは頭(かぶり)を縦に振る。
「金にも、物にも……」
 大金やレアな装備を手に入れても、一週間手元に残ったことは稀だ。
「人にだって執着しない」
 常にどことなく一線を引いた態度で他人と接しギルドにも滅多に寄りつかない。
 それに加えて、
――俺のところにだって一月に一回顔を出せばいいほうじゃないか。
「執着心がない、ねぇ」
と、アサシンは考えるよう呟き、まさか、と笑った。
「執着心がないわけないだろ。じゃなきゃ、人を殺してまで生きようとは思わない」
「!」
 顔をこわばらせたプリーストにアサシンはゆらりと笑む。
 アサシン――暗殺者――とは言っても、今日日はほとんど冒険者。実際に人を殺す任に
つくのは稀だ。
 だが、稀でしかないという事実。
 そして、彼が幾度となく人を殺したという事実。
「別に人に限ったことじゃぁないさ。そもそも命を奪うことは罪だと俺は思ってる」
 この言葉にプリーストは少なからず動揺した。アサシンの自分以上にプリーストらしい
言い分に。
「人は食べないと生きていけない。モンスターは倒さないと、自分がやられる」
「知ってるさ
 だから人間は程度の差はあれこそ全員咎人(とがびと)だと俺は思う」
 だから、と彼はベッドから降りて旅装を整え始める。
「執着心がなけりゃぁ、とっくにくたばってる。罪の意識に潰されてさ。
 自分以外の何かの命を奪うことを放棄すればすぐに死ねる」
 言いながら器用にアサシン特有の長い布を体に巻き付けていく。
「執着してるものなんて幾らでもある」
と、彼は言う。
「じゃぁ、何に」
 腑に落ちない様子のプリーストを、アサシンはちらりと振り返った。
 その口元にはつかみ所のない不可思議な笑み。
「そうだな、例えば……お前とか」

256名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2003/11/10(月) 21:02 ID:RLnmyWj6
>255
ヽ(*`Д´)ノ<タマニキテミタラコレダカラナ!
萌えすぎて酸欠_| ̄|○ ハァハァ
257名無しだったり(*´Д`)ハァ×2sage :2003/11/11(火) 08:44 ID:aOo.n5Jw
>>255
やっべ萌えた(*´Д`)
こういうの大好きなんですよ! 256どうよう萌えすぎて酸欠(ゲッホゲッホ
258名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/11/12(水) 23:44 ID:M/oAu.9.
時に、流れをぶった切って申し訳ないのですが……。
ここって、どれくらいの分量なら投稿許されるのでしょ……?
こういう所で触発されて書いてみたものの、前編だけで原稿用紙20枚_| ̄|○
しかも見せ場とかまだないし、完結したとしてもありふれた話だし……。
しかも、ほとんどが説明文で、いわゆるオチ無し話です……。

すいません、できたらどなたか、引導か勇気を私にください……。
お願いします。_| ̄|○
259名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2003/11/13(木) 00:01 ID:GGgqR8rQ
>>258
基本的にはどのくらい長くてもいいとは思いますが、あまり長いと投稿制限にひっかかって
投稿するのも大変なので、うちこんでみて長すぎると思ったら某受信塔さんのうぷろだに
分割してあげてもいいんじゃないでしょうか。
ぜひ読みたいです( ;´Д`)ハァハァ
260名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/11/13(木) 00:09 ID:9VQVcWCk
>>259
なるほど、投稿制限はあるでしょうね。失念してました(汗
しかし、風呂から帰ってきてみたら友人からメールが、
そして「これデムパw」という判決が_| ̄|○

この板の方に迷惑かけるわけにもいかないので、
ひとまず封印→修正に走ります。勢いだけで書いたのがまずかった;;
でもまあ、頑張ってみます。

そして「勇気を、ありがとう」ヽ(*`Д´)ノ
261SiteMaster ★sage :2003/11/13(木) 03:58 ID:???
1レス 8192文字、80行入ります。
262名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/11/18(火) 23:03 ID:Fc6euZW.
休憩時間にチマチマと書きだした主人公♂BS相棒♂プリのお話。
ちょこっとずつ投稿してってもいいかな?

あ、いや個人サイトでやれとか言われそうなのですが
_| ̄|●  <石ナゲナイデー
263名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2003/11/18(火) 23:12 ID:KPeQLC2k
>>262
♂BSと♂プリ(・∀・)イイ!!
ぜひぜひщ(゚Д゚щ)カモォォォン!!!
264262sage :2003/11/19(水) 09:00 ID:zWtBmkcc
煤i゚д゚;)イイデスカ?!
では冒頭の部分だけ出勤前にリライトします↓
265262sage :2003/11/19(水) 09:33 ID:zWtBmkcc
虫すだきが遠く遠く消え去っていた。周囲に漂う不穏な空気、夜の匂いが更に五感を鋭くさせ、
同時に恐れを抱かせる。
相棒と二手に分かれての湖の調査は、ここに来てピンチのようだ。
「湖、月明かり、亡霊ね」
俺は軽口を叩く。「まるっきりパターンじゃねえか」

(………、………………、……………………。…、)
首の後ろの毛がチリチリした。頭の中にダイレクトに思念が入ってくるのは感じるが、
言葉になりきれてないんだ。論理とかは置き去りに、ただ洪水のように肋骨の奥あたりを
かきまわしてくる“思念”。勘弁してくれよ。
「くそ!」
うろ覚えの聖句を呟きながら、俺は斧を握る手に力を込めた。
眉をひそめたような──他に表現のしようがない──感触がざざざっと流れ込んでくる。
自分のものとは明らかに異なるバイパスで、発生した感情の波が俺の心を浸そうとする。
こんな時だが、俺は友人のバードの演奏を思い出した。

……力が奪われるような錯覚。息がしづらい、そう思った瞬間から呼吸が苦しくなる。
やばい。魔性の放つ空気の影響か、それともこの状況で一種の自己暗示にかかりやすく
なってるのか?

このままじゃ、と思った瞬間、俺の後方から何かが飛んだのが見えた。

そいつが亡霊にかすめたとたん、内臓が引きゆがむような感じがして吐きそうになる。
「あれか、」
気管支その他を何とかなだめながら俺は言った。「腐っても聖職者ってわけか」
「腐ってねえよヴォケ」
振り返ると、相棒の殴りプリーストがいた。唯一プリの証みたいな、いつも首に
さげている金無垢のロザリオがない。
不気味な感触も気配も消えていた。


            →続くヨー このあと本筋←
266名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2003/11/19(水) 21:16 ID:yLZ38FfA
>>265
猟奇ものですか、ドキドキ*ノノ)(違
久々に来たらなにやら面白そうな続き物が・・・、続き楽しみにしてまつ。
267名無しだったり(*´Д`)ハァ×2sage :2003/11/20(木) 03:16 ID:GDKBVUnE
>>265
♂プリ♂BS・・あぁんもう展開が楽しみすぎですよお前さん(*´Д`)
268243sage :2003/11/25(火) 12:15 ID:MgV6pB9U
「・・・・」
壁に背を預けてボーっと空を眺めている影があった。
目の前あるべき札は半分破れて視界を遮るものはなくなっている。
ペット禁止の札のかかった店の前で中に入った主人を待って10分ほど
経っている。
「あ、ボンゴンだー。カワイイ〜」
不意に聞こえた声の方向へ顔を向ける。
自分と同じくらいの年齢の女の子が数人手を振っている。
それに対して微笑みかけるとまたきゃあきゃあと騒ぐ。
それをみた彼は主人からプレゼントされた背中の剣を抜き、その刀身
を眺めた。
お札が破れたおかげか自分を失うことはなくなり、生前の記憶も僅か
ながら戻っている。
その中にあるのは自分と同じくらいの年頃の少女の顔だった。
彼女を守るために自分も不死化の呪いを受けたはずなのに、今は彼女
がどこにいるかも分からない。
しばらく刀身を眺めていたが1つ溜息を吐いて剣をまた背中に背負い直す。
―カラン
「ありがとうございましたー」
その時店のドアが開いて冒険者らしき風体の女性が出てきた。
視線だけを向けて自分の待ち人ではないこと確認すると、また彼は広場の人
通りへ目を向けた。
「おまたせー。じゃあ、次のお店いこっか」
そして、彼女を待っていたらしい人影に声をかけた。
「はい。ご主人様」
それに対して応える少女の声。
その声にピクリと反応して彼は声の主に顔を向ける。
自分と同じようなお札を帽子につけた少女の横顔に、もう止まってしまった
はずの心臓が跳ねたような気がした。
「あ・・・」
声が出かけてそこで詰まる。
それに気づいた少女が顔を向けてキョトンとした風に彼を見る。
それからニコリと微笑みかけると自分の主人のあとをついていった。
それを呆けて見つめる。
「あれがおまえの言ってた探し物か?」
自分より頭1つ高いプリ―ストの男が横に立った。
「主・・・」
見上げるようにして隣を見る。
そして自嘲するように目を伏せると
「何のことかわかりませんね。それより待ち人を待たせないほうがいいですよ」
そう言って後ろに下がる。
その先には自分の主人を待つ人がいる。
「……」
もう一度だけ彼女の行った先を振り返る。
そして、主人の後について待ち人のもとへ行く。
――きちんと捕まえておかないと。僕のようにならないように・・・
「そういえば主」
「ん?」
呼ばれたプリ―ストが肩越しに振り返る
「そろそろ僕のご飯くれないと鞍替えしちゃいますよ?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――end

長文ごめんなさい〜。
NPC3作目というか、NPCどころか人ですらないですけど、ボンゴンでした><
個人的にはかなり萌えなペットで、その台詞の中に
「僕はムナックを守るために〜」っていうのがきゅんときて、
こんなものを書いてみたりしました。
やっぱり反応次第で4作目検討します。
269名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/11/30(日) 02:22 ID:mmmjwZsA
一人のプリーストが、首都の大通りを歩いていた。
別にたいした目的もなく、道に所狭しと並ぶ露店を冷やかしながら出口へと向かっていく。
今日はどこで狩りをしようか、と考えるその足は軽い。
と、彼は視界の端に見慣れた顔をとらえた。
装備類などは変わっていたが、間違いなく自分の友人、大切な人の一人だった。
しばらく連絡もしておらず元気でいるかと心配だったが、歩いている姿を見てほっとする。
手を上げて、挨拶をしようとした矢先だった。

ふいに目を上げた相手が、表情を険しくして顔を俯かせたのは。

「……え」
口から呆けたようなつぶやきが漏れ、上げかけていた手が所在を無くしてさまよう。
慌てて相手が歩いていった方向を振り返るも、
そこにあるのはただこちらに背中を向けて去っていく相手の姿。
頭痛がした。
先程の表情を思い出し、呆然とその場に立ちつくす。
次々と横を歩いていく無関心な人々、眠りに落ちた商人。
人は沢山いるのに、プリーストは自分が今たった一人である感覚を味わっていた。
いや、人がいたから自分だと気が付かなかったんだ。
――確かに目があった、気がした。
そして、それしきで気が付かないほど薄い仲でもない、はずだ。
きっと狩りに出かける最中で急いでたんだ。
挨拶も、一言のWisもなく?
自分で言い聞かせようとする言い訳を、自分で否定していく。
自分を慰めようとしているのに、その逃げ場を次々と潰しているのはわかっている。
そういえば、最近は全く会っていなかった。
相手にも新しい友人ができたのだろうし、何か自分が嫌われることでもしたんだろうか。
自問は止まることなく、きりがない思考の闇に突き落とされる。
ただの自意識過剰だ、そう言い切れる自信がないのは、あの目を見てしまったからだ。
完全に自分を拒絶した、思い出すだけで胸が重くなるようなあの目。

一生忘れることは出来ないだろう。

あの目に宿された意思を、あの目を見た時のこの胸の痛みを。
大切な友人だった。
だった、とつけるのが心苦しいほどに。
もう友人だと呼ぶことは許されないのだろうか?
何かに耐えるように目を閉じた後、彼はきびすを返して歩き出した。
相手が去っていった方角に背を向けて。
振り返ることはしなかった。

雨は嫌いだ。
そう自分が漏らしたのは、多分先程の相手だった。
それでも、女々しいとはわかっていても、雨を願わずにはいられなかった。
頬を伝うものを隠してくれるのならば、なんでもよかった。

しかし彼の願いは叶うことはなく、
ただ煌々と光を湛えた太陽が異なる場所に立つ二人を照らしていた。
270名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/12/02(火) 02:36 ID:Y9oLZARM
>>268
書いて良いのか迷ってカキコしてませんでしたが…
GJです(*^ー゚)b
NPCシリーズは実は楽しみにしてるので。
今度は是非アサシンギルドのNPCを…(*´Д`)
271名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/12/04(木) 22:10 ID:zLkEVK72
 栗色の髪のアコライトが息をつめて男の腕を見つめている。
「よし、行くぞっ」
 腕の主が確かめるように呟いた。
「はい!」
 元気よく返事をしてアコライトは祈りの形に腕を組む。
 ブレス!! と男に向かって祝福の祈りを捧げた。
 アコライトの後ろからグロリアと、プリーストの奇跡を喚ぶ声。
 男の腕が大きく動いた。鎚が勢いよく金床の上の鋼鉄の山に振り下ろされる。
 それは長いようなほんの一瞬のことだ。
 金属同士がぶつかり合う特有の音がひとしきり響いた後。
――ポキィーン
 気の抜けた音と沈黙。
 がくりと鎚を振るった男、赤毛のブラックスミスは肩を落とした。
「……南無です」
と、製造支援をかってでてくれた通りすがりのプリーストが控えめに言う。
 申し訳ない、とブラックスミスは依頼主のアコライトを見た。
「すまないな、ファイアチェインを失敗しちまって」
「いえいえ、そんなことないです。大丈夫ですから」
 ぶんぶんとアコライトは大きく首を横に振った。
「……ま、あれだ。今更言うのも何だが、今度は別の奴に依頼してくれ」
 そのほうが成功率も高い、とブラックスミスは付け足した。自分の鍛冶の腕前は自
分が一番良く知っている。
「だから、全然大丈夫なんです! だって……!」
と、アコライトはぐっと拳を握って大声で叫んだ。
「あなたのウサ耳姿の写真撮れただけで僕は幸せですっ」
「はぁ?」
 予想外の発言に、ブラックスミスは呆けた声しか出せなかった。
 製造の成功率には運の良さも関わるのでブラックスミスはそれを身につける。
 ウサ耳――正式名称、ウサギのヘアバンド
 Luc+2
 今も彼の頭の上でふわふわと風に揺れている。
「製造の時ぐらいしかウサ耳つけてくれないじゃないですかぁ。似合うのに、可愛い
のに!」
 どういうわけか少し涙目でアコライトはいかにブラックスミスにウサ耳が似合うか
と語りだす。
 周囲の人の群れの視線の痛さを忘れ、ブラックスミスは数秒意識を飛ばした。
 はっ、と意識を戻したブッラクスミスは言い返す。
「阿呆抜かすなっ。誰がこんなもの常時つけられるかっ」
「あー、それは失礼ですよ。クリアサさんとかプリさんとかいつもつけている人が聞
いたら怒られますよ」
「そいつらは好きでつけてるんだろうが。俺はしかたなくつけてるんだよ。好きこの
んでじゃない、そのあたりを理解しろっ」
「えー、どうしてですかぁ。絶対絶対似合うのに。僕の言葉を信じてくれないんです
か」
「だから、似合う似合わないは関係ない。俺の気分の問題だ!」
「それじゃぁ、僕の気分の問題はどうなるんですかっ」
 長くなりそうな言い争いを、人の良いプリーストが苦笑混じりに眺めていたりした。
272名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/12/04(木) 22:12 ID:zLkEVK72
 その数日後。
「――さぁーん!」
 自分の名を呼ぶ声にブラックスミスは振り返った。
 こちらへと駆け寄ってくるのは先日のアコライトだ。どういう訳か栗色の頭の上に
ふわふわと白いウサギの耳が揺れている。
「見てください! 昨日タヌキの耳Getしちゃって……」
 よほど急いで来たのか、息を切らせながら彼は続けた。
「念願のウサ耳を手に入れたんです」
「そうか。それは、おめでとう」
「はい、ありがとうございます」
 満面の笑みによっぽど欲しかったのだろうな、とブラックスミスは思う。アコライ
トにそれは似合っていた。それにあくまで客観的にだが、男の自分から見ても……可
愛いとも思う。
「あの、それで……お願いが」
 手を祈りの形に組んで、アコライトがこちらを見上げてきた。
「いっとくが、武器の依頼は勘弁してくれよ。これ以上お前に損させるのは嫌だか
ら」
「いいえ。今日は違うんです」
 ぶんぶんと首を振ってから、彼は期待に満ちた瞳でブッラクスミスを見上げる。
「僕と一緒にウサ耳姿で写真取らせてください!」
「あ、あのなぁ……」
 どうやって断ろうかとブラックスミスはアコライトの向こうの空を見た。
 先日の言い争いを考えれば、生半可な理由では許してくれそうにない。
 さて、どうしたものか。
「……」
 空は青い。
 何はともあれ、今日も良い天気だ。


 終
273名無しさん(;´Д`)ハァハァsage :2003/12/05(金) 22:53 ID:IlVBmGDg
アアアアアアアア
も、萌え
BSに、ウサ耳が似合うことを熱弁し、さらに、後日、写真までとろうとする
アコ萌え!
さらに、流されっぽいBSイイ!

…と興奮してしまいました
274名無しさん(*´Д`)ハァハァsageハンタプリ :2003/12/17(水) 23:14 ID:Kwz0BGz2
寂しかった空き地の変わりように、ハンターは感嘆の溜息を吐いた。
クリスマスに向けて、町はきらびやかに彩られていた。
大人たちに混ざって、両手いっぱいにキラキラした飾りを抱えた子供達が、町中を走り回っている。
「ねえ見てよ見てよ!」
見知った少年が、ハンターの姿を見つけて、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「すげえだろ、これオレが作ったんだぜー」
「どれどれ」
ハンターが覗き込むと、少年は手に持った星の飾りを自慢げに見せた。
「これな、すっげえ高いツリーのてっぺんに飾ってもらうんだ」
そう言ってにこにこと笑う少年の傍に、同い年位の少女が寄って来る。
「何だ、あたしの方が綺麗に出来てるじゃん」
ほら、と彼女も得意げにハンターに飾りを見せてくる。
「お、なかなか良いじゃん」
ハンターがそう呟くと、少女は自慢げな表情を浮かべた。
「でしょ、だからもっと高いツリーに飾ってもらうの」
そう言って胸を張る少女に、少年が食いかかっていく。
「女のクセに生意気なんだよ!」
「これからは女の時代だって、うちのお姉ちゃん言ってたもん。
アンタこそ、男のクセに生意気なんじゃない!?」
今にも取っ組み合いを始めそうな二人の前で、ハンターは意地悪く笑った。
「ま、二人ともガキのクセに生意気だって事で」
ガキ、という言葉に、むっとした表情で二人が振り向くと、彼はなおも続けた。
「二人がどんなに頑張ったって、俺の作る飾りには敵わないだろ。
それに俺には鷹がいるんだからな。お前らじゃどんなに頑張っても届かない所にだって飾れるんだ。
て事で、一番高いツリーのてっぺんは俺のものだね」
勝ち誇ったようにそう言い放つと、少年が睨み付けてきた。
「てめえ、大人のクセにずりーよ」
「大人だからずるいんですー」
更に文句を言おうとする少年の前で、ハンターはおや、と首を傾げる。
「お前、俺と言い争いしてる暇なんか無いでしょ?
あっちの子はもう次の仕事に入ってるぞー」
「え、うそ!」
少年が振り向くと、先程まで隣にいた少女は、既に新しい飾りを抱えていた。
彼女はハンター達の方を見ると、べーっと舌を出してから、パタパタと足音を立てて去っていった。
「チキショ、オレも負けてられねぇ!」
少年も駆け出して、ふとハンターの方を振り返った。
「大人なんかに負けるもんか!」
少女と同じ様にべーっと舌を出して、彼も去っていった。
「せいぜい頑張るんだねー」
その背中を笑いながら見送ると、ハンターも歩き出した。
275名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/12/17(水) 23:15 ID:Kwz0BGz2
途中まで飾り付けのされた町を見ながら、ハンターはフラフラと歩いた。
辺りを走り回る者は、大人も子供も、とても急がしそうで。
けれど、とても幸せそうな表情をしている。
そんな中、彼はまだ飾り付けのされていない一角を見つけた。
辺りを囲む外壁に沿って、彼はそこへ向かって歩いた。
角を曲がったところで、煙草を吸う男プリーストの姿が見えた。
冷たそうな外壁に寄りかかったまま、ぼんやりと空を眺めている。
「こんな所でタバコ吸ってていいの?」
ハンターがそう声を掛けると、プリーストは少し驚いたような表情で煙草を口から離し、彼の方を見て微笑んだ。
「本当は室内で吸いたいんだけど、飾り付けの邪魔になるからね」
「いや、そうじゃなくて」
そんな暇があるのか、と問い掛けるハンターに、彼はああ、と納得したように呟いた。
「小さい子達が頑張ってくれてるから、僕はやる事ないし」
「ずる休みだね」
そう言って笑ったハンターに、まあね、と返して、プリーストは胸ポケットから煙草を取り出した。
「吸うかい?」
「いや、いいよ」
ハンターはそう断ると、プリーストの横に座り、外壁に寄りかかった。
予想はしていたものの、外壁はかなり冷たかった。
先程まで歩いていた辺りと違って、人の声があまり聞こえないのが、余計に冷たく感じさせていた。
「もっと賑やかな所に行けば良いのに」
彼がそう言うと、プリーストは困ったように顔をしかめた。
「今はね、どこにいっても喫煙者に対する風当たりが強いんだ。
喫煙スペースはどんどん狭くなって、人のいる所じゃ煙草は吸えないと思って良いぐらい」
それに、とプリーストは付け加えた。
「今は、あまり人の楽しそうな姿を見たくないんだ」
何気無く零したその言葉に、ハンターが彼の顔を見上げた。
彼よりも背の高いプリーストが、少し小さく見えた気がした。
276名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/12/17(水) 23:16 ID:Kwz0BGz2
プリーストは煙草を一吸いした後、ちょっと愚痴るよ、と呟いた。
断る理由など、ハンターにはどこにもない。
わざわざ愚痴るよ、なんて断りを入れられなくても、彼はプリーストの愚痴ならば聞くつもりであった。
彼が頷いたのを見ると、プリーストは口を開いた。
「何だろうね……人の幸せを素直に祝えないんだ」
彼はぼんやりと、遠くの方を見ていた。
ハンターは何も言わずに、彼の顔を見つめていた。
「この頃忙しくてね、本を読む暇すら無い位だったんだよ。
でもね、自分が特別不幸だなんて思わない。世の中には、僕なんかよりもっと苦労している人が沢山いる。
今幸せな人だって、必ず苦しかった時があるはずなんだから、妬む事なんかできない。
それは分かってるはずなんだけどね」
そこまで言って、彼は煙草を吸った。
煙を吐くのと同時に、言葉を吐き出す。
「なのにね、今は人の幸せが羨ましくて仕方が無い。
何で自分ばっかりこんな思いしてるんだろう、って思っちゃうんだよね」
まるで言葉から煙が上がるようだと、ハンターは思った。
静かに積み重なっていった苦しさが、煙となって空へ昇っていくようだ。
「……それでも、口からはすらっと祝福の言葉が出てくるんだ。
幸せに、なんて欠片も思ってないのに」
彼はそう言うと、ハンターの方を見て、少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「聖職者失格だなぁ……」
その言葉に、ハンターは優しく微笑んで、首を横に振って見せた。
277名無しさん(*´Д`)ハァハァsageおしまい :2003/12/17(水) 23:17 ID:Kwz0BGz2
ハンターは壁に寄りかかったまま立ち上がった。
「当たり前みたいにやってるけどさ、人の幸せを喜ぶのって、難しいよね」
プリーストは何も答えなかった。
それを気にもせずに、ハンターは言葉を続けた。
「子供の頃は普通に出来たのに、大人になると出来なくなるんだよね。
けど、自分の幸せだけは素直に喜べちゃうんだもん」
そう言うと、ハンターはプリーストの方を見た。
プリーストが彼の方を見ると、彼は悪戯のばれた子供のように笑って囁いた。
「大人って、ずっこいよね」
「……ずっこいよねぇ」
つられたように、プリーストもぎこちなく微笑んだ。
だからさ、とハンターは続ける。
「一緒にずる休みしに行こうよ」
ハンターの不可解な提案に、プリーストが不思議そうな顔になる。
ハンターは視線を空に向けると、軽く首を傾げた。
「クリスマス終わるまでは忙しいだろうから……終わってから年が明けるぐらいまでがいいかな?
ずる休みって言うからには、人に見つからないようにしなきゃいけないでしょ。
となると、人が少ない所が良いよね……」
彼は壁から身体を離すと、プリーストの方に向き直った。
「どこかさ、行きたい所考えといてよ。俺くつろげる所ならどこでも良いからさ」
「ん、良いけど……?」
未だに不思議そうな顔をしているプリーストに、ハンターは微笑みかけた。
「そこで充分ずる休みすれば、しばらくずるいことする気もなくなるんじゃない?」
その呟きに、プリーストはしばし驚いたような顔をしていたが、やがて優しい微笑みに代わった。
「……それじゃあ、まずはクリスマスまで頑張らないとね」
「だね」
プリーストの言葉に、ハンターも頷いた。
プリーストは、胸ポケットから取り出した携帯灰皿に吸殻を入れると、背を預けていた壁から身体を離した。
「さて、何からするかな」
一息吐いてそう呟いた彼に、ハンターが軽く手を打つ。
「そういえば、小さいのがツリーのてっぺんに飾りつけしたがってたんだけど、
あいつ等の背じゃ絶対届かないんだよね」
行ってやってくれないか、というハンターに、プリーストは渋い顔になる。
「この間飾り運んだ時、腰痛めたんだよね……」
大丈夫かな、と小さく呟くプリーストに、ハンターが深刻そうな顔で告げる。
「お願いだから、腰は大事にしてよね」
あまりに真面目な声に、プリーストは軽く吹き出すと、こう呟いた。
「そう思うなら、少しは労わって欲しいな?」
ハンターは笑って言葉を返した。
「自分の欲望が勝らない限り、努力します」
とんでもない言葉に、しかしプリーストは笑って肩を竦めるだけだった。
278名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/12/17(水) 23:56 ID:gM9HX.3s
GJ! いい感じに萌えた(´▽`)b

ただ、読み終わった直後の素人の意見を言わしてもらうと、ハンタとプリが知り合いなのかどうなのかが分かり難かったです;
もしなんか狙いみたいなのがあっての事なら、解説してもらえると嬉しいです
279名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2003/12/19(金) 02:43 ID:7SzzTE2Q
最後でさりげなくラブな2人に萌えです(*´д`*)
280名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/12/23(火) 23:49 ID:lFqVlDTY
>>277
めちゃめちゃ萌えました(*´д`*)アハン
ハンタプリもいいですね。てゆかこの2人がめちゃめちゃイイです。
会話のテンポとかなんとなくゆったりでムードがあって素敵です。
激しくシリーズ化キボン(*´Д`)
2811/3sage :2003/12/24(水) 09:02 ID:Rckee0SQ
不死の暗殺者と呼ばれるものが居た。
彼の通り名はアンデッド。彼は依頼された依頼をほぼ成功していると言われるほど凄腕で
裏社会の人間でも彼を恐れた。そして今日も、彼は依頼された任務を遂行していた。
アンデッドは目を凝らしてあたりを見回していた。
そこは聖堂の付近にある小さな森で、何かが来るのを待っていた。
その森には小道があり、町と聖堂を繋ぐ唯一の道だった。どうやら彼の目標がここを通るようだ。
そこに二人ほど人影が見えた。
一人は男のプリーストで、その後に女性のアコライトが一人ついてきている。
(任務はあの聖堂に居る神父を殺して、居候のアコライトを連れてくる事…)
アンデッドは頭の中で任務を呟いた。
二人の名前は知らないが、彼にとってはどうでも良い。最低限の情報があれば依任務は遂行できると確信していたからだ。
そして射程距離に入ったと感じた瞬間、アンデッドは行動に移した。
プリーストの背後に一瞬で回り込み、アンデッドは持っているダガーで首をはねた。
それにアコライトが吃驚して悲鳴をあげようとしたが、アンデッドが首を掴んで無理矢理悲鳴を抑えた。
そして思い切り腹に拳を叩き込んで首を掴んだ手を離した。すると彼女は崩れ落ちるように倒れた。
任務はこれで80%ぐらいは終わったとアンデッドは思いながら、彼女を抱え込んだ。……しかし
「ミリア…?」
アンデッドはアコライトの顔を覗き込んで驚いてしまった。
2822/3sage :2003/12/24(水) 09:03 ID:Rckee0SQ
10年ぐらい…いやもっと昔だろうか?
その日、俺と幼なじみのミリアが崖の付近で遊んでいた。あの日は風が強かったのが印象に残っている。
そして俺は足場の岩が脆かった所為で崖から落ちた。だが、俺は助けられた。アンデッドと呼ばれる暗殺者に。
アンデッドは俺を後継ぎにするため、俺を崖から助けた事は誰も言わなかった。そのため、誰もが俺を死んだと思っているだろう。
助けられた日から俺は、暗殺者の修行をやらされた。毎日毎日… 時に逃げ出した時もあったが簡単につかまった。
その時、アンデッドはこう言った。
「お前は、もうこの世にいてはいけない死者なのだよ。だからアンデッドとして生きる道しかない。」
その言葉に、何処となくアンデッドが震えているのを覚えている。
それから数年後のある日、アンデッドは重体で帰ってきた。
これは助からないと俺も、アンデッドも悟った。するとアンデッドはこう言った。
「次はお前の番だ」
俺は彼に対して、せめてもの別れの返事としてこう言った。
「あなたの本当の名前を教えて下さい」
この人も俺と同じような事をされてきた人だろうと感じ取っていた。だが、彼は答えなかった。
「私はアンデッドだ…一度死んで蘇ったものさ…」
この人の中で自分の存在が完結しているのを悟った。俺はその時なぜか泣いてしまった。
目の前に死を目前としてる者への敬意か…それともこれから俺がこの人みたいに自分を捨てなければならない為の涙か…
彼が死んだ後、俺は自分が死んだ崖で俺の名前を叫ぶ事に決めた。それで俺は俺を捨てる
俺の名は……


「約束の物だ」
アンデッドはアコライトを抱えて、屋敷に来ていた。
「おお、流石がアンデッド」
その中で一番えらそうな男が嬉しそうに言った。
その男が合図すると、そいつの部下らしき人が彼女を何処かに運ぶみたいだ。
するとアンデッドが口を開いた。
「実は、とある依頼が入った」
えらそうな男は ん? っと返事を返した。
「依頼はお前達を消して欲しいらしい」
そう言うと、彼は二本ダガーを抜いた。えらそうな男は「な、何かの冗談だろ?」っと苦笑いしているが…
「依頼人はバーウェン」
2833/3sage :2003/12/24(水) 09:04 ID:Rckee0SQ
彼女が目を覚ました時、ほとんど終っていた。
アンデッドが彼女を聖堂まで運び 手足を縛っていた縄を解いていた。
彼女は最初は何か起きたか思い出せなかったが、神父が彼に殺された事を思い出した。
「この、人殺し!」
彼女の第一声がアンデッドに浴びせられるがアンデッドには慣れたセリフだった。
「そうだ」
その言葉にミリアはアンデッドを睨みつけた為、二人は目があった。
ふとミリアは彼の目の色に疑問を感じた。
「銀……色?」
ミリアの幼なじみであったとある男の子は同じ銀色の瞳を持った珍しい男だった。
だが、彼は10年以上前に死んでいる。でも何処となく雰囲気が似ていた。  何処となく。
アンデッドは目の色のことを言われたのに気がつき手で目を隠しながら彼女から離れた。
その仕草がミリアにとって、とても怪しく写ってしまった為に確信した。
「あなた…もしかしてバーウェン?」
アンデッドの足は止まった。振り返り彼女を睨み返した。それはまるでその言葉が禁句のように彼女は思えた。
そして彼は決して自分をバーウェンと名乗る気が無いと言う意思が伝わってきた。
だが、それは逆にミリアに俺はバーウェンだよっと言ってる意図とも取れるだろう。
そしてアンデッドはその場を去っていった。


ミリアには悲しそうな瞳でそれを見送るしかなかった。
自分を捨ててしまった幼なじみにどんな言葉をかけてよいのか浮かばなかったからだ。
それも、すでに死んでしまったはずの人なのだから


=END=
284281sage :2003/12/24(水) 09:05 ID:Rckee0SQ
単作が浮かんだので作ってみました

=□○<誤字多かったらすまそ
285名無しさん(*´Д`)ハァハァsageノビとウィズ :2003/12/24(水) 20:47 ID:2pDIvdDM
倒したサンタポリンの残骸を、ノービスは丹念に調べた。
落ちていたキャンディを拾い、それでもまだ調べ続ける。
「……やっぱ、無いなあ」
彼はそう呟くと、大きく溜息をついてその場に腰を下ろした。
今日はもう、10匹以上はサンタポリンを倒しただろうか。
昨日も2桁以上、一昨日だって2桁以上、その前だって随分な数のサンタポリンを倒した。
総計すれば、もの凄い数になっているだろう。
彼は背負っていたリュックを下ろして、中を覗いた。
この数日間で倒したサンタポリンから奪い取ったお菓子で、リュックの中はいっぱいになっていた。
夢のようなそのリュックの中の様子に、しかし彼の表情は暗い。
甘い物が大好きな彼にとって、これは幸せ以外のなんでも無いはずなのだが。
「何でサンタの帽子は落とさないんだよ!」
イライラとした口調で、ノービスはそう叫んだ。
286名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/12/24(水) 20:48 ID:2pDIvdDM
どうしてもサンタの帽子が欲しいという訳ではなかった。
しかし、周りの人間皆が持っていると、やはり気になるもので。
一旦気になると、なかなか忘れられずに、気持ちはどんどん大きくなる一方で。
それこそ修羅のような勢いで、ノービスはサンタポリンを狩りまくったのだが、
サンタの帽子は一つも出ず、お菓子と疲労だけが増えていくのであった。
それと反比例してクリスマスの楽しい気分が減っていくのだが、
必死な本人にそのことに気付く余裕は無い。
今は、サンタの帽子は露店にも結構並んでいるし、買えない値段という訳でもない。
だが、ノービスは大切な人と一緒にいる時間を削ってまで、サンタポリンを狩ってきたのだった。
今更、金を払って買うなどと、彼のプライドが許さなかった。
彼の大切な、誰よりも尊敬するウィザード。
人嫌いで、お祭り騒ぎにも興味のないその人は、サンタの帽子など目もくれないだろう。
彼の事を思い出していると、ノービスは妙に、自分が惨めに思えてきた。
きっと彼なら、今の自分を鼻で笑い飛ばしてくれるに違いない。
287名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/12/24(水) 20:48 ID:2pDIvdDM
先程拾ったキャンディを口に入れると、ノービスは空を見上げた。
キャンディの甘さで、惨めな気分が吹き飛ぶわけではないが、少しだけ、心は軽くなった。
こういう時に、彼は自分の単純さを有り難く思う。
太陽は随分と高い位置まで昇っていた。もうすぐ正午というところだろうか。
そろそろ時間切れだな、とノービスは一人考えた。
今日は、ウィザードと一緒に、ルティエに出かける約束をしたのだ。
――無理矢理、連れて行くことにしたというほうが正しいのかもしれないが。
しばらくサンタポリン狩りで会えなかった分、今日は相手が顔をしかめるぐらいに傍にいようと思っていた。
それが遅刻じゃあ、笑い話にもならない。
リュックを背負い直すと、ノービスは立ち上がって、急ぎ足で約束の場所に向かって歩き出した。
途中でサンタポリンの姿を見かけた時、一瞬足が止まってしまったが、
彼は雑念を振り払うようにしてまた歩き始めた。
お陰で、約束の時間には遅れずに済んだようだ。
辺りを見回してみると、殆どの人間がサンタの帽子を被っている。
相手はサンタの帽子に興味の無さそうな人間だ。見ないふりをしたって平気だろう。
かなりサンタの帽子が気にはなるのだが、ノービスはウィザードの姿を探す事に専念した。
だが、ウィザードの姿はどこにも見当たらない。
早く来過ぎたかな、とノービスが思った時、背後から声が聞こえた。
「こんな所にいたか」
誰よりも聞きたい声。
ウィザードの声。
知らずに、ノービスの顔が嬉しそうになる。
相手が自分を見つけてくれた事に勝手に運命を感じながら、彼は背後を振り返った。
そしてそのまま、笑顔を凍りつかせた。
「……先輩、それ」
どうにかしてノービスがそう呟くと、ウィザードは、ああ、と頭に手をやった。
「たまたま叩いたら、落としたんだ」
彼の頭の上には、サンタの帽子が乗っていた……。
288名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/12/24(水) 20:49 ID:2pDIvdDM
しばらく硬直したままだったノービスは、やがてがっくりと肩を落として、その場に座り込んでしまった。
「そんなに似合わないか?」
ムッとしたような表情で見下ろしながら聞くウィザードに、ノービスは首を振った。
「俺が必死に探してた帽子を……たまたまで拾うなんて……」
ぼそぼそと彼がそう呟くと、ウィザードの表情は呆れた物に変わった。
「帽子一つで、そんなに落ち込むか?」
「落ち込みますよ……」
ノービスの答えを、ウィザードは鼻で笑う。
「馬鹿か貴様は」
「あー良いです、もう馬鹿で結構ですよ……」
文句を言う気力もないらしいノービスはそう呟くと、大きく息を吐いて、がばっと立ち上がった。
「世の中不公平だ! 絶対間違ってる!」
「大声で騒ぐな!」
ウィザードに怒られても、ノービスの主張は止まらない。
「何で俺が頑張っても拾えない物を、先輩は簡単に拾えるんですか!
そんなのおかしいじゃないですかぁっ!」
半ばやけくそになってるノービスの叫びに、ウィザードは驚いたような表情をした。
そして、やれやれと首を横に振った。
「そんな事も分からないのか……」
「え、先輩分かるんですか?」
今度はノービスが驚いたような表情をする。
ウィザードは軽く笑うと、小さな声で呟いた。
「サンタクロースは、良い子にしかプレゼントをくれないんだぞ」
まるで子供に言い聞かせるような言葉に、ノービスは呆気に取られてしまった。
間抜けな表情の彼の前で、ウィザードは意地の悪い微笑みを浮かべて見せた。
289名無しさん(*´Д`)ハァハァsageおしまい :2003/12/24(水) 20:49 ID:2pDIvdDM
ウィザードの微笑みに見惚れていたノービスは、我に返ると顔をしかめた。
「それってつまり、俺が悪い子だからサンタの帽子が拾えないんだって事ですか?」
ウィザードが首を縦に振る。
えー、と不満そうな声を上げて、ノービスが否定する。
「俺凄い良い子だと思いますよ。人の敵は取らないし、詐欺もしないし、先輩には至れり尽くせりだし」
「でも拾い食いはするだろ」
ウィザードの指摘に、ノービスが詰まる。
「で、でもそれは先輩もじゃないですか!」
彼がそう言うと、ウィザードは軽く肩を竦めた。
「私は拾った食べ物は全部売り払っている」
大体、あまり使わないしな、と付け加えたウィザードに、ノービスは今度こそ反論できなくなった。
しばらく黙っていたノービスは、不意に手を打つと、小さく頷いた。
「……よし分かった」
ノービスのようやく放った言葉に、ウィザードは首をかしげた。
「これからルティエいって、サンタさんにあって、それで俺が良い子か悪い子か見極めてもらいましょう!」
「好きにしろ」
つまらなそうにウィザードが呟くと、ノービスは大きく頷いた。
「それじゃ先輩、早速行きましょう」
「ちょっと待て」
今にも駆け出しそうなノービスを、ウィザードが引き止める。
「何です?」
首をかしげたノービスの頭にそっと、サンタの帽子を乗せてやる。
乗せられた帽子にそっと触れると、ノービスはウィザードの顔をまじまじと見つめた。
「私は悪い子にプレゼントをあげない、とは言ってないだろう」
彼はそれだけ言うと、さっさと歩き出してしまった。
「……先輩、素直じゃないんだから」
聞こえないように小さく呟くと、少し離れてしまったウィザードが振り返り、
早く来いという感じに手を動かした。
その顔が少し赤かったのは、ノービスの見間違いだったのだろうか。
彼はにっこりと笑うと、ウィザードの後を追って走り出した。
何となく欲しかっただけのサンタの帽子。
ようやく手に入ったそれは、彼にとって、とても大切な宝物になってしまった。
290名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/12/25(木) 20:44 ID:.SJF7Mxo
キタ─wwヘ√レvv〜(゚∀゚)─wwヘ√レvv〜─ !!

ああ、春の日の約束ですねっ。
ひさびさに最初からこのスレ読み直しちゃいました。
GJでしたっ。
291名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/12/31(水) 05:45 ID:NR.yAcP6
----------1----------


彼女は戦う。
その裏に、砕けた心を抱えて。

彼女は癒す。
その裏に、血を滴らせながら。

彼女は笑う。
その裏に、虚ろな闇を抱えて。

彼女は顔を隠すマスクを付け、街を歩く。
自分が笑顔を浮かべているか、自信がないから。
自分が人を救えるかどうか、確かめられないから。
自分が血の中を歩いている事を、知られたくないから。

彼女には名が無い。
その名に意味を見出せないが故に、その名を消し去った。
その名で生きる事は、彼女の正気を覆すから。
願う者…それが、今の、彼女の、名。


----------2----------

彼女は、聖職者だった。
生者を救い、導く、聖職者だった。
彼女は困っている物に積極的に手を差し伸べ、救い、そして自分が聖職者でいることを喜んだ。

彼女の住んでいる首都に近い小さな村で、癒し手は彼女一人であった。
その仕事は多忙の一言に尽きたが、不満は無く、むしろそれを望んでいた。
人の為に尽くす事は、彼女の喜びだった。
自分の力で人を助けられると言う事は、彼女にとって幸せであったから。

だが、そんな彼女の幸せはあっけなく崩された。
たまたま、本当にたまたま彼女の村の側を怪物の一団が通りすぎたのだ。
一団は村を見つけ、多くの人間がそうであるように好奇心で村に襲いかかった。

村人は自衛の為に戦い、彼女は村を助ける為に人を癒し続けた。
手を擦り切らせ、言う事の聞かなくなった足に鎖を打ち、自分の精神を削りきって癒し続けた。
だが、癒す以外何もできない彼女にできたのは無限の苦しみを村人に与えつづけることだった。
彼女は怪物を倒す力が無く、また訓練もろくにしていない村人も同様である。
村人は彼女の為に傷を受け、彼女の為に戦い、彼女の為に倒れ、彼女の為に立ちあがった。
何度も同じ光景が繰り返され、遂に彼女の精神が限界に達した時、彼女は自分の行為の無意味さに気がついた。
自分の癒しが人を苦しめている、傷を負わせている、その光景に気がついてしまった時…彼女の精神はそれに耐えられなかった。
292名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/12/31(水) 05:50 ID:NR.yAcP6
----------3----------

彼女の中に、声が響く。
それは限界に達した心が鳴らす、崩壊の前奏曲だった。

ワタシノイヤシハ、ヒトヲタスケラレナイ。

無意識の内に、彼女は聖職者の衣を脱ぎ捨てた。
倒れ、事切れた村人が手に持っていた安物の剣を掴む。

ワタシノイヤシガ、ミナヲクルシメル。

手近にいた手負いの怪物に剣を突き刺す。
剣など握った事の無い彼女にとって、その感触は嫌悪を及ぼし…同時に新鮮さをもたらした。

イヤセナイノナラ、コワシテシマエバイイ。

剣を振り、つき立て、怪物を殺す。
目に写る怪物を一匹一匹殺していく。

クルシメルノナラ、ラクニシテシマエバイイ。

彼女は動く物がなくなるまで、足を動かし続けた。
動く物を見つけるたびに、剣を振るい、そして殺していった。

ミンナミンナ、ラクニシテアゲル。

自分にそんな力があるのが驚きで、殺せる事が嬉しかった。
癒しよりも殺す方がよほど人を救える事に、笑みさえ浮かべていた。

ワタシガミンナヲ、タスケテアゲル。

村から大分はずれ、赤く染まった視界に動く物が何も無くなった時、彼女は気がついた。
自分は怪物を殺していたのではなく、逃げ惑う村人達を殺していた事を。

コレデラクニナッタ、ワタシハミナヲタスケラレタ。

そして、彼女は手に持った剣で自分の手首を切り裂いた。
赤い血が傷口から溢れ、地面に染みを作っていく。

ワタシハヨゴレタアカ、ナニモスクエナイアカ。

自分は生きていてはいけないと思った。
人を癒すこの手は血塗られており、もはや人を殺す為の手になっていると気がついた。

スクエナイナラコワシテシマオウ、ワタシヲコワシテシマオウ。

そうして、彼女は倒れた。
剣を手放さず、人形のように動きを止めた。


----------4----------

だが、彼女は生き延びた。
切った傷は思ったより浅く、血はあまり流れずに固まっていた。
意識を取り戻し、立ちあがり、辺りを見まわし、そして…。

笑った。

自分のした事に、自分の招いた結果に対して笑った。
声を上げて笑い、ゼイゼイと息をつき、それでも笑いつづけた。

彼女は空を見上げた。
空は、赤かった。
地面に目を落とした。
草も土も、赤かった。

何もかも、血で染まったような赤色。
自分の眼がおかしい事に気がつき、それでも笑いつづけた。

赤い世界の中で、自分の中の空虚感にも気がついた。
感情がすりつぶされたように小さく、僅かな物になっていた。
悲しくなかった、辛くも無かった、何も感じられず、ただ反復運動のように笑っていても心は何も動かなかった。

彼女は、壊れていた。
心も、体も、何もかもが壊れていた。
壊れていながらも、生きていた。

彼女は血塗られた世界を見渡し、そして手についた傷を見た。
血に染まった世界で癒し手として生きる自分がいる。
その不思議な空虚感に笑いが止まらなかった。
どれくらい笑っていただろう?
赤い世界の中で、自分はどれくらい笑いつづけていただろうか?
彼女は笑える事に気がついた。
そしてまだ生きていることを実感した。
そして決断した、世界が自分を生かすのであれば、壊れたまま生き続けようと。


----------5----------


その後彼女は剣士として放浪し、再び癒しの技を学び、再び人の中に加わった。
街の中で人を癒し、礼に対しては笑顔を浮かべ、自分の壊れを微塵も出さずに過ごす術を見につけてきた。

彼女は思う。
壊れても笑う事はできると。
笑顔を浮かべ人と話す事は簡単であると。

彼女は思う。
果たして自分は本当に笑っているのかと。
こうして人を助けている資格が、この血塗られた手にあるのだろうかと。

彼女は思う。
自分に生きている価値はあるのかと。
壊れた自分はとうの昔に死ぬべきではなかったかと。

そうした全ての疑問を押さえつけ、彼女は今日も街を歩く。
マスクの下で赤い世界を眺めながら。
全てが血の色に染まった世界で、何の為に生きているかもわからないままに。

今の彼女の心の中に、繰り返す音。
守り、戦い、そして癒す。
何故そう聞こえるのか、ただ昔の自分の反復なのではないか。
虚ろな心に、癒したい、守りたいという願いだけがこだまする。

故に彼女は人に名を聞かれると、こう答えるのだ。
「私の名は願う者(Invoker)、です。」と。
自分が真に何を願うか、見つけられぬままに。
293名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/12/31(水) 05:54 ID:NR.yAcP6
訂正4ラスト、下から2行目のソシテをカット。
RPerの集い様に書いてみたキャラ背景です。
でもここまで暗くて壊れたキャラは絡めない罠。
素直に電波子でいれば良かった。_| ̄|○
294名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2003/12/31(水) 07:52 ID:aKBGoks6
>>293
同じ鯖なら絡んで見せましょう。w

それはさておき、何故♂萌えスレに?
295293sage :2004/01/01(木) 03:28 ID:I5r3wYwk
>>294
うああ、間違えました_| ̄|○イマキガツイタヨ・・・
ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ。
296名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/01/08(木) 11:02 ID:/kh0S/cc
 堅い床の上でブラックスミスは寝返りをうった。
 部屋の中の空気は冷たさを増し、夜明けが近いことを伺わせる。
 柔らかいベッドの上で丸まって寝ている相棒のプリーストの姿に、ブラックスミスは口元に
苦笑いを浮かべた。
「こんな時でも相変わらずマイペースな奴」
と呟く。
 ブラックスミスにとって最後の夜が後数刻で明ける。
 あと少しで、ブラックスミスは冒険者ではなくなる。
 相方とは長いつきあいだったなぁ、と彼は独り言ちる(ひとりごちる)。
 初めて会ったときは、自分はブラックスミスだったが相手はまだアコライトだった。もう、
数年前の話だ。
 二人で過ごす最後の夜。
 一人部屋をとった理由は、少しの下心とわずかな希望――結局、それは叶わなかったが。
 互いに恋愛感情めいたものを抱いた時期もあった。
 けれど、結局はいつまでも良い相棒、良い相方のままだった。
 それが却ってよかったのかもしれない、とブラックスミスは思う。肉体的な繋がりは一切持
たなかったが、それ以上に深く精神的に繋がっていると思えるようになったから。
 相手の事を一番知っているのは、理解しているのは、己だと自信を持って言える。
 ブラックスミスは毛布から抜け出て、静かにベッドに近づいた。
 注意をしていたものの、古い床がぎしりと鳴った。
 ん、と軽く身じろぎしてプリーストの瞼がゆっくりと開く。
「……」
 低い声でブラックスミスの名を呟く。ブラックスミスもプリーストの名を呼んだ。
「お前にしちゃ珍しいな。すぐに目を覚ますなんて」
「悪かったな。……なんか寝付きが悪くてずっとうつらうつらしてた」
 あんまり暇だったからあんたの寝返り数えてたんだぞ、とプリーストは付け足す。彼は体を
起こし、ブラックスミスと向かい合うようにベッドに座った。部屋の寒さに体を震わせる。
 プリーストの上半身にふわりと自分が使っていた毛布をかけてやりながら、ブラックスミス
は訊いた。
297名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/01/08(木) 11:03 ID:/kh0S/cc
「なぁ、わがまま言っていいか?」
「俺にできることなら……」
「お前にキスしたい」
 ぱちぱちと数回瞬きした後、プリーストは黙ってブラックスミスを見上げた。ブラックスミ
スが真剣な顔をしていることを確認する。ん、と小さく頷き彼は右手を伸ばしてブラックスミ
スの左手に指を絡めた。
 許容の意を汲み取って、ブラックスミスは顔を近づける。
 プリーストの瞳は深い深い青。それがまっすぐにこちらを見つめている。
「目ぇ閉じろよ」
「嫌だ。あんたを見ていたい」
 そのプリーストの言葉にブラックスミスは苦笑する。しかたがないな、と己は瞼を降ろして
更に顔を近づけた。

 二人の唇が合わさる直前、コンマ数秒以下。
 すとんと、
 まるで静止した振り子の糸が切られ、重りが地面に落ちていくように、すとんと。
 一人の男の存在が消滅した。

 プリーストは目を見開いて、何もない空間を見つめた。
 まっすぐに目をそらすことなく、つい先程まで相方が存在した宙を見つめた。

 愛用のソードメイスからは制作者の名前がすっぽりと消えている。

 結局叶わなかった最初で最後の接吻(くちづけ)。


end
298名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/01/12(月) 04:46 ID:HL7S9cT2
>296-297
GJです。
つい先日、友人のBSが引退したばっかだったので
なんか思い出して泣けてきました(ノД`)
良い作品を読ませて下さってありがとうございました。
299357sage :2004/01/13(火) 21:39 ID:.to1A2RA
>>296-297
うわわ、かなりぐっジョブです(゜ωÅ)感動致しました。
言葉の表現が凄く良いと思いました
300名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2004/01/16(金) 06:24 ID:zANsTaXI
ハァハァ萌へしまたぁぁぁぁぁぁ(・∀・)
ところで某♂萌えあぷろだ見れないのは何故だ・・・
漏れのPCイカレタのか・・・?(´・ω・`)
301名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2004/01/16(金) 08:13 ID:gh0Uibzg
>>300
2ちゃんのレンタル鯖板みればわかるけどトクトクが一昨日から明日の0:00までメンテだから。
302243sage :2004/01/20(火) 16:20 ID:mH27jvS2
彼は『王』だった。
光の射さない街。
かつて繁栄したゲフェニアという都市を守りつづけた王。
そして今も仕事を終え剣を鞘に戻す。
自分の身長はあろうかという長大な両手剣。
無駄な肉の一切みえない均整の取れた肉体と、撫でつけただ
けの金髪が目に付く剣士。
本来姿というモノを持たない彼は昔からこの姿をしていた。
かつて自分の前に立ちはだかった剣士。
名前も忘れた剣士。
いままで出会ったどんな騎士や賞金稼ぎ達より強かった者。
自分を追い詰め、戦いの最高の喜びを知らせた唯一の存在。
この姿は彼なりの最大の敬意だった。
周囲に散らばる人のカタチをしたモノを眺める。
「・・・また違ったか」
そう一人ごちて近くの枯れ木に寄りかかって懐を探る。
以前倒した鍛冶師風の男が大量に持っていたタバコの1箱を取
り出すと、一本口に咥え火も点けずにそのまま固まる。
彼の鋭敏な神経に触れる存在があったからだ。
横目にそちらを見ると震える体で短剣を握る少年と、頭から血
を流し意識を失わせている少女が居た。
妹か幼馴染か、そんなところだろう。
今しがた闘った冒険者の中に親でも居たか。
少年の目には恐怖はあってもそれに勝る闘志もある。
この地を踏む人間は全て殺してきた。
幾多の同朋を殺しつづけてきた人間達と同じように。
『彼』も『少年』も互いに動かない。
彼の配下のナイトメア達が少年に気づいた。
馬の身体から鎌を携えた死神が現れ、少年をその刃に捕らえよ
うと振り上げた。
「やめろ」
その一言。
それだけで、鎌は少年の首を刈る寸前で動きを止める。
鎌から漂う「死」の匂いに少年は気圧されながらも目を閉じる
ことさえしなかった。
その行動に彼の中に何かが起こった。
もし彼に友人がいるのなら、物好きなと評するであろう行動。
「小僧」
タバコの箱を懐に戻しながら言う。
「俺が憎いか?」
その瞬間少年から発する殺気が増した。
まだ荒削りな、しかし懐かしげな殺気。
「強くなりたいか?」
その言葉に我ながらどうかしていると思う。
自分は何を考えている?
何を期待している?
「もしおまえが望むなら、」
(おいおい本気か?)
「その少女を助けたいのならば」
(やれやれ・・・)
「俺が強くしてやる」
少年は明らかに戸惑っているのが見て取れた。
まあ、親の仇に強くしてやると言われればそんなものだろう。
「決めるのならば急ぐことだ。」
半ば少年の選択を予想しながら追い詰めてみる。
「さっさとせんと後ろのチビは手遅れになるぞ?」
我ながら喋りすぎだと感じながらも、それもまたよしと思う。
そこまで言って少年から伝わる感情に変化が出た。
殺気は依然あるがそれを勝るのは恐怖。
しかし、先刻までの目の前の存在へのではなく、彼が言った事に
対しての失うことへの恐怖。
「……あんたに剣を習えば強くなれるのか?」
「ああ」
「……それであんたを殺せるのか?」
その問いに対して初めて彼の顔に表情が表れた。
デキの悪い生徒が最高の答えをしたような、満足からくるの微笑。
その問いに答えず彼は少年へ近づいていった。
少年を通り過ぎ臥せる少女の傍に膝をつく。
少年の見守る中彼は少女を抱き上げた
「ババァ!」
その声に反応して今まで何も無かった空間に箒に跨った魔女「バースリー」
が現れる。
「手段は問わん。”人間として”癒せ」
少女の様子を見ると元々皺の寄ったバースリーの顔に更に皺が
寄る。
「もう手遅れになるのう」
その言葉に少年が息を呑む。
「手段は問わんと言ったぞ」
ふむ、と呟いて一呼吸置くと
「では、失礼ながら主よ。数滴でよいあなたの血を頂けるかな。」
「フン」
そういうと彼は懐から短剣を取り出すとそれで左手の掌を切り裂いた。
それをバースリーの出した小瓶に滴らせる。
「数滴でよいというに」
彼の行動にバースリーから微笑がこぼれる。
「死なすことは許さん。もし死なせれば貴様の魂まで消滅させる」
「ホホホ。それは手を抜けなくなったねぇ」
「傷を癒したら人間どもの首都にでも届けておけ。そうだな教会にでも置
いておけ」
「わざわざ敵対する人間に渡すのかい」
愉快そうに笑いながらバースリーは動かない少女を抱えて飛び去る
それを見送ってから少年を振り返る。
「おい、小僧。ついてこい」
そう言って彼は歩こうとしたが、少年は別方向へ歩を進めた。
彼は眉根を寄せたが、少年は父だったであろう男の身体の前へ立ち
その身体の傍を掘り始めた。
「置いておけ。放っておけばじきに土に返る」
しかし少年は掘ることを止めない。
(まったくもってどうかしている)
彼は自分の考えたことを否定しながらそれに逆らわなかった。
少年を無視して親らしき男を担ぎ上げる。
「っ。なにすんだよ!」
それを無視して呼んだナイトメアの背に男を背負わせ、その後ろを付
いて行く。
少年はわけが分からずその後を追いかけた。
着いた先は旧ゲフェニア遺跡の片隅にある小さな墓地だった。
風雨に晒されることの無い墓石は、埃こそあれど綺麗なものだった。
その墓地の一角、名前の刻まれていない墓地の墓石をどけると作ってから
一度も外に晒されたことのない真新しい墓室が現れた。
そこに彼は少年の父の亡骸を横たえ剣をその中に供える。
かつて彼の姿をした剣士にしたのと同じように。
そしてその墓室を閉じて墓石を上に載せ、少年に対して短剣を投げる。
そうして彼はさっさと墓地を後にする。
それは彼なりの礼儀であり、初めて人間に見せた優しさでもあった。
暫くして赤くなった目を必死に隠して少年が来るまで、彼は最初の場所
でタバコを吹かしていた。
「強くなれるかはおまえ次第だ」
そういうと彼は自分の腰に下げていた愛剣の留め金を外すと少年になげた。
少年は自分にはまだ大きすぎるその大剣を必死で受け止める。
「それはおまえにやる。使いこなせるようになってみろ」
少年は手元の剣を見る。
その確かな重さを確かめる様に握り直すと彼と正面から向かい合う。
まだ遥か高みになる目の前の存在を殺すために、少年は覚悟を決めた。
その視線を心地よく思いながら、彼は忘れていたことを問うた。
「そういえば名前を聞いていなかったな」
そういう彼からは当初のような殺気はない。
しかしそれまでとは違う圧倒的な威圧感があった。
本能的に試されていることを感じ、少年は一瞬気圧されたがすぐに真っ向から
見据えて言った。
「ヒサト」
303243sage :2004/01/20(火) 16:21 ID:mH27jvS2
それから数年間彼はヒサトを鍛え上げ続けた。
ヒサトの食べ物は彼の『仕事』、つまり侵入者の排除により奪った食物の他に
たまに人として外に出た彼とヒサトが街で買った物。
他にはカボチャのモンスターであるジャックが時折ヒサトのために新鮮なカボ
チャを持ってきたり、バースリーがよく分からない野菜や肉を持ってくる事も
あった。
仇と人間に敵対する魔物達ということは分かっていた。
しかしそこには確かな温かみもあった。
剣を教える彼は厳しく死にかけた事も何度かあった。
体調を崩すときもあり、そのたびにバースリーが怪しい薬を持ってきては、彼
が追い返していた。
風呂にも入ったし、ナイトメアに乗って遺跡内を走ったこともあった。

そんな生活も当然終わりは来る。
少年の時期は終わり、成年を迎える日。
その日ヒサトは父の墓石の前に立っていた。
日の射さない暗い墓地で松明の明かりが周りを照らしている。
最小限の荷物と装備。
そしてその背には彼からもらった大剣。
これまで一度として抜かなかった剣だが、その剣のことは聞いていた。
ツヴァイハンダーという銘の名剣ということだった。
彼はそれの重みを確かめて墓地を後にする。
3層ある遺跡の2層との境の入り口に彼は立っていた。
「いくか」
「ああ」
それだけ。
その言葉だけ交わしヒサトは先に行こうとする。
すると彼は背負っていた荷物をその背中に投げつけた。
その行動に不意を突かれて階段に突っ伏しそうになる。
「つっ。いったい何を」
そう言って、投げられた代物を見ると鎧だと分かる。
「餞別だ」
そう言って彼はその姿を本来の半透明な姿に変え、闇の中に溶けていった。
「じゃあな、親父」


数年後、いつものように侵入者の報が彼の所に届いた。
二人組みの冒険者らしき者たちということだった。
一人は金髪の髪の長いプリースト。
そして一人は同じ金髪を短く刈って撫でつけただけの剣士だという。
騎士でもクルセイダーでもなく剣士。
彼は剣を掴むと単身でその二人組みの前へ現れた。
「待ちくたびれたぞ」
「こっちにも事情があってね」
すぐに剣を交えるでもなく互いに剣を収めたまま向かい合う。
「覚悟はきめたんだな」
そう言って一瞬だけ、身近に居たものにしか分からないほどの感情が
よぎる。
「最後に1つだけいいか?」
「なんだ?」
戦士のソレからかつての、彼の知っているヒサトの顔。
「楽しかったぜ。親父」
その言葉に自然と彼の顔から笑みがこぼれる。
「ふっ。馬鹿息子が」
それだけ言って剣を抜く。
ヒサトも剣を、かつて彼から託され今では愛剣といえるほどに馴染んだ剣
を抜く。
二人の同じような姿でまったく同じ両手剣を携えた剣士が向かい合う
「いくぞ!ドッペルゲンガー!」
「来い、人間よ!」


NPC作品4作目でした。
今回は個人的に好きなドッペルゲンガーを使ってみました。
昔から居る最強クラスBOSSですし、私も何度逝かされた事か(ぁ
そんなDOP様の気まぐれを書いて見たいと思ったらこんな長文でだらだらと。
駄文ですが感想ほしいかもです。
304名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/01/22(木) 03:11 ID:wJuaNVvw
>>302-303
父親越えとか、剣士としてのライバルとか、仇とか。
色んな要素が交じり合って辿り着く結論はひとつ! DOPカコイイ!!
私的にはヒサトさんと少女との再会話とかも読んでみたかったりです。
そしてさり気に帰ってきたヒサトさんとGDの他の魔物たちとのやりとりも気になったり。
今から次回作を楽しみにしております。
305名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/02/17(火) 14:54 ID:KzHJB07M
ここはグラストヘイム・・・
その昔、栄華を誇っていた城の跡。
そこには数々の宝があると噂され、今も尚多くの冒険者達がやってくる。
しかし、それを守護するかつての騎士たちの魂が・・・今日も多くの冒険者達を地へ還す。

「……今の気分はどーよ?」

ブラックスミスのラルクが聞いた。

「良いとは言えねぇな」

プリーストのラインがそう答えた。

ヒュン!

ラルクの目の前に矢が飛んでくる。そして

カラン

落ちる。

「……ニューマの効き目は?」
「長くは持たないと思ってくれて構わない」

互いに背を合わせ、声だけで応対する。

「どうする?俺が見える範囲でレイドが3匹、レイドアチャ1匹がいるんだが」
「俺の見える範囲だとレイドが2匹、レイドアチャとジョーカーが1匹だな」

今はニューマで守られているが、ニューマが切れたら最後、モンスターの大群と矢が飛んでくることは必至だ。

「……生存方法は?」
「戦って殲滅する」
「その時の生存確率は?」
「聞く必要があるか?」
「ないな」

ラルクは新しいタバコを咥えた。
妙に美味く感じるそのタバコの味を味わいつつ、ラインに言った。

「一つ案がある」
「ほう、興味深いな。是非聞かせてくれ」
「テレポとハエで逃げる」
「……逃げる、のか」
「ああ。その後合流すればいい」
「それまでに死ぬんじゃないのか?」
「あ?それはまるで俺が一人じゃやっていけるはずがないと言ってるように聞こえるんだが?」
「……分かった、言い方を改めよう。お前、ハエ持って来てないだろ」
「…………………………」
「違うか?」
「…………………………」
「…………………………」

ニューマの光が薄くなっていく。
二人は沈黙したままだ。

「……ライン、お前だけでも逃げろ。このままじゃ全滅がオチだ」
「断ると言ったら?」
「俺ら二人そろってお陀仏だ」
「…………………………」
「もう一度言う。お前だけで
「断る」
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「……なぁラルク」
「……あ?」
「お前と組むようになって……幾ら経つか?」
「二年と……半分かな」
「俺とお前の相性、抜群だったな」
「お前、殴りだしな」
「炭鉱でイビルドルイドに会ったとき、死ぬ思いしたな」
「懐かしいねぇ……」
「……なぁラルク」
「あ?」
「俺はお前以外と組むつもりはない」
「…………………………」
「どんなに優れたブラックスミスでも、お前には敵わない」
「…………………………」
「俺は、そう思ってる」
「……けっ。これが女のセリフだったら最高だったのにな」
「悪かったな」

ニューマがはかない光を残して、消えていく……

「ライン」
「んだ?」
「俺もお前以外と組むつもりはない」
「…………………………」
「どんなに優れたプリーストでも、お前には敵わない」
「…………………………」
「俺は、そう思ってる」
「…………………………」
「……お前と会えてよかった」
「やめろよ、そんな女々しいこというのはよ。それに……」
「それに……?」
「俺とお前との冒険を、ここで終わらせる気はない」
「…………………………」
「お前は?」
「……やっぱ最高だぜ、お前」
「だろっ?」

フッ

ニューマが、切れた。


「グオオオオオオオオオーーーー!!!」


大群のモンスターたちが、二人を挟み撃ちにして突撃してくる。
その姿を間近で見ながら、ラルクは足元にタバコを捨てて残り火を踏み消した。

「さて、運命のお時間だ」
「そうだな」
「頑張ろうぜ、相棒」
「おう」
「そして……」
「これからもよろしくな、相棒」
「……………………」
「だろっ?」

ラルクはニヤッと笑った。
ラインもニヤッと笑った。
なんの恐怖も無い、温かい笑顔だった。

「行くぜ、相棒!」
「おうよ!!」


アドレナリンラッシュ!!


------------------------------------------------------------------------------------------------

こんにちわ。このスレを見た瞬間書きたくなりました。
よくあるパターンで申し訳ない……
精進します。でわ。
306名無しさん(*´Д`)ハァハァsageハンタプリ:コンロン :2004/02/23(月) 02:45 ID:RTrNWPwE
白い雲が、ふわりふわりと風に流されていく。
流され、ちぎれ、また新たな形を作る雲を見上げるようにして、
一人の男ハンターが草地に寝転がっていた。
こうしていると、今彼のいる、このコンロンが空中に浮いているなんて、
まるで感じられない。
少し強い風だけが、空の上にいる事を彼に教えていた。
「いい風だね」
不意に横から聞こえた声に、ハンターは顔だけを動かした。
いつの間にか現れた、共にコンロンまで来た男プリーストが、
気持ち良さそうな表情で微笑んでいた。
その表情に、知らずハンターの顔が緩みそうになる。
慌てて彼は表情を戻して、身体を起こして大きく伸びをした。
腕の辺りがパキパキと鳴った様な気がした。
「気持ち良すぎて、体がなまりそうだけどね」
「闘技場なり祠堂なり行ってくればいいじゃない」
プリーストがそう言うと、ハンターは首を横に振った。
「どうせなら一緒に行きたいし。なのにそっちがずっと変な資料ばっか見てるからさあ」
「いやあ、神仙に関する資料なんて地上じゃ滅多に見られないからねえ……」
プリーストは困ったような顔で頭を掻いてそう呟くと、
ハンターの横に腰を下ろした。
まあいいけど、とハンターは肩をすくめてみせた。
「で、資料とさようならしたって事は、全部見終わったって事?」
彼の問い掛けに、プリーストはあー、とうめいた。
「それが眠くて全然集中出来ないんだよ」
「へえ、珍しいね?」
ハンターがわざとらしく驚いた表情をしてそう呟くと、プリーストが睨み付けてきた。
「昨日、どこかの誰かさんがなかなか眠らせてくれなかったからね」
ハンターは軽く笑うと、ごちそうさまでした、と両手を目の前で合わせた。
307名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/02/23(月) 02:46 ID:RTrNWPwE
空中に浮かぶコンロンは、少し風が強い事以外は、地上と変わらない世界だった。
弓を使う職の彼にしてみれば、風の強さほど厄介な物はない。
だが、それもプリーストの援護のお陰で、戦闘中はさほど気にならずに済んでいる。
もっとも、相手はコンロンに来てから、
神仙に関する資料を読み漁り続けていてまるで構ってくれないのだが。
それの何が面白いのか、彼には全く分からなかったのだが、口には出さずにいた。
しばらく忙しくしていたプリーストに、ようやくのんびり出来る時間が出来たのだ。
好きなようにさせておきたいと彼は思っていた。
思ってはいたのだが、それと身体が納得するかというのは別問題であって。
「お預けだったもの、目の前に出されて我慢しなさいってのが無理なんだよね」
何が、とは言わないが。
「それは僕だって同じ」
プリーストの言葉に、今度こそハンターが驚いた。
「……言ってくれればいつでもOKなのに」
「そうじゃなくて、資料の話……」
プリーストがそう言うと、ハンターは何だ、とつまらなそうに呟いた。
「けど、流石にちょっと疲れたかな」
プリーストはそう呟くと、大きく身体を伸ばしてその場に寝転がった。
「休みに来て疲れてどうするのさ……」
呆れたハンターが呟くと、困ったような笑い声が返ってきた。
308名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/02/23(月) 02:47 ID:RTrNWPwE
プリーストの横に、ハンターももう一度寝転がる。
二人の上を、白い雲はゆっくりと流れ続ける。
「ここも高いけれど、もっと高い所にも雲はあるんだね……」
プリーストの言葉が妙に老けている様に感じられて、ハンターは笑いを噛み殺した。
「あそこまで行ける人っているのかな?」
冗談ぽく彼がそう聞くと、プリーストはさあ、と呟いた。
「神仙になれば行けるんじゃないかな?」
「なるの?」
「ならないよ」
笑いながらの彼の言葉に、ハンターはそっかと返事を返しながら、ひどく安堵していた。
ここに来てから、彼はそれが心配でならなかった。
彼にしてみれば、神仙になるために修行をするなど馬鹿馬鹿しい事この上なかった。
しかし、横にいるプリーストが、困っている人を救う為に、
神仙になると言ったなら、自分はどうするだろう。
表面上は素直に見送るだろうけど、彼が今の彼でなくなるのは嫌だった。
そんな事を考えている彼の横で、急にプリーストが身体を起こした。
気付かれたか、と内心焦った彼だが、プリーストは彼の方を見ようとはしなかった。
「私達は、私達の世界で幸せを見つけなくてはなりません」
聖職者としての声、言葉使いに、ハンターが不意を突かれて体を起こす。
プリーストの表情は、優しい、けれど少し厳しさを滲ませた、
聖職者らしいものになっていた。
「神の教えは、私達の苦しみを和らげるためにあるのです。
 本当の幸せは、私達自身の手で作り上げなくてはなりません」
澄んだ声の内容は、他の聖職者達が言う言葉とまるで変わらない。
けれど、彼の声で、彼の言う言葉が、ハンターは一番好きだった。
特別信心深いわけでもないが、目の前のプリーストが言っている時だけは、
その教えを信じても良いような気がしてしまうのだ。
「救いを求める者は、まず自らの親しい者に救いの手を差し伸べましょう。
 親しい者同士の救いの手。それこそ、何にも勝る神の慈悲となるでしょう」
真っ直ぐに前を見るプリーストの横顔を、ハンターはじっと見つめていた。
それに気付いたのか、プリーストがハンターを見た。
「……まあ、十字架ばっかり見て転んでも面白くないでしょ、って話だね」
一気に俗世的になった話に、ハンターがふきだした。
309名無しさん(*´Д`)ハァハァsageおしまい :2004/02/23(月) 02:47 ID:RTrNWPwE
大きく欠伸をして、プリーストはまた横になった。
「慣れない事はするもんじゃないね。余計に疲れたよ」
普段の表情でそう呟く彼に、ハンターは笑いかけた。
「ここで少し昼寝したらどう?」
折角風も気持ち良いし、と付け加えると、プリーストはうーんと唸った。
「このまま寒くなるまで起きないと風邪ひきそうだからなあ」
「大丈夫、俺が起こすから」
ハンターの言葉に、プリーストが微笑む。
「悪戯しない?」
「夜まで我慢する」
彼の答えに、プリーストが情けない声をあげた。
「今夜も?」
「嫌じゃないでしょ?」
意地悪く笑って言ったハンターに、プリーストは軽く額を押さえた。
「そりゃまあ、そうだけどね……」
「はい決定」
寝転がるプリーストの髪を撫でながら、ハンターが言った。
髪を撫でる手を振り払うでもなく、プリーストはそっと目を閉じて呟いた。
「後で、何か美味しい物でも食べに行こうか」
「そだね」
彼の言葉に答え、ハンターは誰にも聞こえないように息を吐いた。
手に伝わるプリーストの温もりが、妙に嬉しい。
やはり、彼には人間の世界で、出来る事なら自分の傍で、
神の教えを実践する普通の人間であって欲しい。
心の底から、ハンターはそう願った。
310名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/04(日) 19:00 ID:G3B8U5CM
 ルーンミッドガルツ王国の伯爵家の三男として生まれた彼は、北方の同盟国
家シュバルツバルド共和国の男爵家へと婿入りした。三男坊とひとり娘の婚姻
――それはあからさまな政略結婚だったし、当然のごとく愛などというものは
なかった。
 子を成したのも、夫婦としての義務を果たした結果にすぎなかった。男爵は
妻とそっくりな独占欲を示す息子を嫌悪した。

 男爵はなにかと理由をつけては息子と妻に近寄らず、休日のほとんどを庭園
の東屋で読書をして過ごしていた。


 少年との出会いは、そんなある日のことだった。
 その日、男爵はいつものように東屋で本を読んでいたが、穏やかな陽気に誘
われてつい寝入ってしまった。寒気にぶるっと身を震わせて目を覚ますと、外
はどしゃ降りの雨。
「しまったな……」
 と後悔するも遅く、しばらく待てばだれかが気が付いて来てくれるだろうと
男爵は待つことにする――が、待てども待てども、だれもこない。諦めて濡れ
て帰ろうと立ち上がったとき、傘を差して少年がやってきたのだった。
「男爵さま……よかった、ここにいらしたのですね」
 その少年は執事の孫だった。先代から男爵家に仕えている執事にはひとり息
子がいたのだが、先だって妻ともども病死してしまい、のこされた少年は祖父
である執事に引き取られたのだという。
 男爵と少年はひとつの傘に身を寄せて歩く。邸へともどる道すがら、さまざ
まな話題に興じた。明朗快活で知性に溢れた少年と会話を、男爵はこのまま邸
に着かなければよいのに、と惜しむほどに楽しんだ。
 少年はふいに申し訳なさそうな顔をする。ふたりで入るには少年の傘が小さ
すぎて、男爵の肩が濡れているのに気がついたからだった。
「すいません、ぼく、考えが足らなくて……」
 傘をひとつしか持ってこなかった自分を責める少年。男爵は首を横にふる。
「気にするな。大きな傘だったら、こうしておまえを堂々と抱き寄せることが
できなかったからな」
 少年のたおやかな腰を抱き寄せ、男爵は微笑んだ。


 あの雨の日以来、男爵と少年は逢瀬を重ねた。男爵がじつの息子よりも執事
の孫を寵愛していることは衆目にも明らかだった。
 少年の十三の誕生日、男爵は傘を贈った。柄に男爵家の家紋でもある梟をあ
しらった上等な傘だ。
「おまえも大きくなったから、傘もすこし大きくしないとな」
 それはつまり、これからもつづいていく関係を示した言葉――このことが男
爵夫人の耳に入ってしまったのが、悲劇のはじまりだった。


 当時、アルデバランに建設中だった時計塔。正式名称はキナセ・ブルガリノ
時計塔で、その建造は生ける伝説と呼ばれる三人の錬金術師と地上楽園建設推
進委員会略――俗称「地楽委」によって取り仕切られている。
 この大事業には特権階級からも多くの出資がなされており、男爵家も表向き
は出資をしていたが、実際に資金をだしたのはプロンテラの伯爵家だった。異
国の男爵家との婚姻も、地楽委とのパイプを得るための手段だった。
 男爵自身は、この計画になんの意味も浪漫も感じていなかった。


 ――その日、少年が消えた。その翌日、執事が消えた。
 さらに三日後、ふたりの私室で男爵は折れた傘を見つける。それは彼が少年
に贈った傘だった。
 男爵はすぐにそれが妻の仕業だと直感する。問い詰めた男爵に彼女はせせら
笑った。

「錬金術師さまが実験材料をさがしてらしたので、差し上げただけですわ。あ
んな愚図でも偉業のお役に立つんですから、過ぎた光栄というもの――」
 すべての言葉を聞き終わるまえに、男爵は妻を殴り倒していた。張り倒され
た妻が階段を転げ落ちる。妻はぴくりとも動かなかったが、なんの痛痒も感じ
なかった。
 男爵は折れた傘を握りしめ、時計塔へと走った。


 時計塔内部で男爵を待っていたのは、変わり果てた少年だった。
 偉大なる錬金術師がとうとうと説明する。
「階層連動ワープシステムの技術を特定の対象に転用することで、対象Aと対
象Bを融合させることに成功したのだ。この技術によって無機物の硬さと不変
さと、生命体の知性を兼ね備えた究極の番人を創りだしたのだよ、我々は」
 錬金術師の言葉など、男爵の耳には届かなかった。人とも物ともつかない異
形を凝視して、呼吸すら忘れかけていた。
 “それ”は一抱えでは足りないほど大きな時計――ただし、人間の手足がに
ょっきりと生えた時計だった。手足はありえないほどに太く、鳩時計ならば鳩
が飛びだしてくるだろう場所にはひとの顔が――少年の顔があった。
 錬金術師の得意げな声が遠くに聞こえる。
「いやはや、少年の感受性とは素晴らしいものだ。やはり大人、まして老人を
素材にするのとでは完成度が違うな――手足など、薬でいくらでも太くできる
のだしな」
「……意識はあるのか?」
 男爵はようやく声を絞りだす。
「は――?」
「だから、少年の意識は残っているのかと聞いているんだ」
 発火しそうな怒気をどうにか堪える。
 錬金術師は男爵のそんな様子にすら気づかない。あからさまに憮然とした口
調になるのは、自慢を無視されたからだろうか。
「さあ、どうだろうな? 侵入者を攻撃するための理性や判断力は残っている
が、それ以外のことは知らんな。確かめる必要もない」
「――そうか」
 男爵の目は異形を見つめたまま動かない。少年の目もまた男爵を見下ろして
いるが、どこまでも虚ろ――そこに一切の感情も記憶も見いだすことはできな
かった。
 男爵はある決意とともに錬金術師に命じる。
「おい――出資者として命令だ。わたしもこの塔の番人にしろ」
 横柄な言われ方に錬金術師は、ふんと鼻をならす。
「我々としてはべつに構わんのだが、あとで問題にされるのは敵わんでな」
「それなら問題ない。いまさっき妻を殺してきた。わたしは一介の犯罪者だ」
 さらりと告げる口調に真実味をおぼえ、錬金術師は気圧されて黙る。
「――ま、まあいい。どうせ、おまえでふたり目だ」
 錬金術師のちらりと見たさきを目で追って――伯爵はふたたび絶句する。
 そこにもまた異形がいた。置時計に張り付いた顔は、執事の顔だった。
「男爵さまと同様、被験体に志願してくれたのだが、やはり老人は駄目だな。
闘争本能が薄すぎて、もうひとつ使い物にならん」
 錬金術師の言葉は、男爵の耳元を通り過ぎていく。
「そうか……おまえにはすまないことをした」
 目に入れても痛くない孫をこのような形で失った老人の心はいかばかりだっ
たか――男爵は痛心に首を垂れる。
 錬金術師の意識はもう、男爵をどんなふうに改造するかの想像で満たされて
いる。
「ふむ、そうだな――時計塔の動力と連動したものばかりでは、少々心許ない
ところ。男爵さまには時計以外のものと融合していだくとしようか」
「ならば梟にしてくれ」
 それは男爵家の家紋だからではない。握りしめる傘の――少年と初めて言葉
を交わした日の想い出だから。
「梟ね、まあいいだろう」
 動物と人間を融合させるとどうなるのだろうか――未知なる試行に、錬金術
師は胸を躍らせる。
「ああ――それからもうひとつ」
 男爵は少年だった異形を見つめる。
「この……化け物に仮面を付けてやってはもらえないか? ――頼む」
 低頭する男爵に、錬金術師は鷹揚に頷いてみせる。
「ありがとう、感謝する」
 男爵は、少年をこのような姿に変えた錬金術師をいますぐにでも殺したかっ
た。だがそれで少年がもとの姿に戻りはしないことも理解していた。だから男
爵は、自らもまた異形となって少年を監視しつづける道を選んだのだった。
 ――いつか、少年の意識が取り戻されてしまうようなことがあれば、少年が
自らの醜き姿に気がつくまえに命を断ってやれるように、と。


 折れた傘はもう開かない。
 雨が、男爵を責めつづける。いつまでも、いつまでも――。
311名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/04(日) 22:29 ID:ppS.fvcI
わわわ。

時計塔の物語といえばいまはアラームたんが台頭してきているけど…
この新解釈もいいなぁ(*´¬`)
312名無しさん(*´Д`)ハァハァsage萌えスレ>870,872みたらついつい… :2004/04/23(金) 00:02 ID:pyPV1KZo
宿屋の窓の外、洗濯されたウィザードの衣服が、穏やかな春風に揺れている。
そろそろ乾くかなと、その部屋に居たブラックスミスが窓際に寄ると、
遠慮がちな咳が聞こえた。
振り返ると、その服の主と思われるウィザードが寝台の中で小さく体を丸めて、
彼を見つめていた。
「ちょっと窓開けるからな」
ブラックスミスがそう言うと、ウィザードは縮めていた体を更に縮めた。
窓を開けると、優しい春風が部屋の中に吹き込んでくる。
しかし、これほど暖かい日であろうと、濡れた服装のままうろついていれば、
風邪をひいても仕方がないだろう。
昨日の夜中、ぼんやりと露店を開いていたブラックスミスの前に、
顔見知りの彼が、酷く濡れた姿でやってきたのだ。
何気無く掴んだ手の冷たさに、
慌てて宿屋に引きずり込んだものの――断じて変な意味ではない――、
随分長い間濡れたままだったらしく、ウィザードは服を着替えると、
熱を出してそのまま寝込んでしまった。
自分から助けた手前放っておく訳にもいかず、体調が戻るまでは傍にいようと考えながら、
結局濡れた服の洗濯までしてしまった。
干されていた服に手を伸ばし、乾いている事を確かめてから取り込んで窓を閉めると、
布団の中からウィザードが顔を覗かせた。
「あー、寒い、だるい、頭痛い……」
嗄れた声でそう呟くと、彼はまた咳き込んだ。
ブラックスミスは彼にほんの少しだけ心配そうな視線を向けたが、
すぐに目を洗濯物に戻した。
「そりゃあんな格好じゃ風邪ひくに決まってるべ」
お前馬鹿だろ、と付け加えると、ウィザードが睨み付けてきた。
もっとも、熱のせいで潤んだ目ではあまり威厳がないのだが。
「馬鹿じゃねえから風邪ひいたんだよ」
子供のような言い草に、ブラックスミスは意地の悪い笑みを浮かべた。
「夏風邪は馬鹿がひくっていうじゃん?」
「今夏じゃねえよ」
「夏じゃねえのに夏風邪ひくなんて大馬鹿だな」
今度はウィザードも黙ってしまった。
声をあげて笑うブラックスミスに、ウィザードは不機嫌そうな表情で彼に背を向けた。
そして、また遠慮がちに咳をする。
「だから上着貸してやるって言ったのに」
自分の寝台の上に座り込みながら、ブラックスミスはウィザードの服を畳んでいた。
日向に干してあった為、少しいい匂いがする。
「誰がお前の汗臭い服なんか借りるか」
「それで風邪ひくんだからやっぱり馬鹿だよな」
うるせえ、という反論は、咳に隠れて聞き取れなかった。
ブラックスミスは服をウィザードの枕元に置くと、
そのついでと言わんばかりに、彼の額に手を当てた。
その手に、ウィザードがそっと指先で触れた。
力のこもらない指先が、見ていて痛々しい。
「……まだ、熱あるな」
自分の額に反対の手を当てながらそう呟くと、ブラックスミスはよし、と頷いた。
「何か飲み物買ってくるわ」
「別にいい」
「いくねえよ」
ウィザードの言葉をそう切り捨てると、彼はポケットから財布を取り出した。
「いくら俺様が貧乏生活だからって、そんぐらいの金はありますよ」
まだ何か言いたそうな顔をするウィザードに、それより、と付け加える。
「本気で気にしてるんだったらさっさと治せ。大人しいお前なんぞ気味が悪くて仕方ねえ」
心配されているのかけなされているのか判断に困る言葉に、
ウィザードは複雑な表情をして見せたが、すぐに小さく頷いた。
に、っと笑って頷き返すと、ブラックスミスは部屋の外に出た。
後ろ手に扉を閉めると、彼は軽く舌を出した。
「ま、こういうのも嫌いじゃねえけど」
部屋の中には聞こえないように呟くと、彼は駆け出した。
313接近に失敗しました接近に失敗しました :接近に失敗しました
接近に失敗しました
314名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/24(土) 02:19 ID:xm0NPUy.
>>312
GJ!!
BS&Wiz(・∀・)イイ!!
315名無しさん(*´Д`)ハァハァ :2004/04/28(水) 16:50 ID:aa2dXNYI
>306-309
もももも萌えー!
どうしよう、酸欠な上動機息切れ気付けが!!(*´Д`)ハァハァ ハァハァ
ハンタプリもいいなと趣旨変えしそうな勢いですよ
316名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/04/28(水) 16:51 ID:aa2dXNYI
あげちゃったよ・・・
すみません、吊って来ます・・・
317名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/18(火) 23:17 ID:U3/OuiiU
カビ臭い、狭い廊下。太陽の光なんて、微塵も入らない閉鎖的な場所。
壁の所々にある松明が、薄暗いこの閉ざされた迷路の道を、ただ照らしていた。

足音が鳴り響いた。複数だ。
ドスドスという大きな足音と、バタバタと走り回る人の足音、
あとは、ガラガラというカートを引くような音がする。

「ギルマス、集めすぎだって・・・」
ガラガラと大きな音を立てて、一人の男が走っていた。
後ろには、迷宮の魔物が5〜6匹従えられていた。
逃げ回るというよりは、いかにも策有り気な足取りで、
そのうち袋小路に突き当たると、男はクルリと振り返り、カートを強く握り直した。
「おっし、このへんでいいか。」
一瞬で襲い来る魔物の大群の中にするりと潜り込むと、力任せにカートを振り回した。
「オラオラオラオラ!!」
ミノタウロスは、ドーン!と大きな音を立て散り散りに壁に叩き付けられた。
戦力を失ったものはそのまま倒れ、まだ襲い来るものへは、
手にしている大きな斧で容赦なく胴を真っ二つにしてやった。

倒れたミノタウロスの死体から、収集品として売れそうな鼻輪をちぎると、
座ってふぅっと一息ついて、額の汗をシャツ袖でふいた。
「やぁ!ごくろーさん。」
若い男の声がした。
見ると、紫色の髪を靡かせた若干小柄なシーフがいた。
「ギルマス、盗むだけってのはやめてください。」
BSはシーフに真顔で言った。
「俺、全体攻撃っての教えてもらってないし、第一盗むのが本業だし、そもそもか弱い一次しょ」
「ふーん。」
明後日の方向を見ているBSの足元に、矢が数本打ち込まれた。
「ま、狙ってた2HAも盗れたし、帰ろうか。」
「・・・、はい。」
二人は何かを握り締めると、煙のように一瞬にして迷路から姿を消した。

二人が着いた先は、ファロス灯台だった。
波の音と、カモメの鳴き声と、爽やかな風が吹いていた。
「かーっ!やっぱ外はいいねぇー!」
BSは大きく背伸びをして、風を体いっぱいに感じていた。
「そうだねぇ。」
ギルドマスターも笑顔で頷いたあと、すぐに、続けて言った。
「じゃ、ギルドの家に。」
シーフはスタスタと歩き出した。
「・・・・、はい。」
BSも名残惜しそうな顔をしてついていった。

しばらく砂浜を歩くと、遺跡を直したような家が見えた。
庭には、高級そうな魔術師のマントと、なかなか際どいTバックが干してあった。
二人はその家へ向い、ドアを開けると、
一番奥のソファで青い髪をした少年のような魔道師がすやすやと寝ており、
手前のテーブルでは、重力に逆らうような髪型をした大柄なローグの男と、
ほぼ全裸のやけにスタイルのいいダンサーが、なにやら商談中だった。

「リューちゃん、実はね・・・昨日ルーンがデューとこんなことしてたんだけ・・・」
「こっ、この写真は!!」
「そうよ!ルーンの×××××のSSよ!貴重よ!レアよ!!」
「ぬっ!ぬぉぉぉぉマスターったらあんなあどけない顔してこんなポーズで!だが一番大事なところがボケている!」
「安心してリューちゃん!こっちがネガよ!これがあれば何枚でも刷れるわ!しかもお好みのサイズで!」
「ゴォォォここここれはまさしくマスターの×××の××××!!しかも綺麗にマスターだけ!」
「そうよ、リューちゃんのために私頑張ったわ!これを今だけ爆安ギルメン価格の20Mで売ってあげる!」
「素敵だぜエレ姐!今夜から毎日これでマスターのかわいい顔を俺様の×××で××××に汚してやるぜ!」
「良いわ!最高よリューちゃん!よーし今なら+8Mでマスターの生×××もつけちゃうわ!まだ×××よ!」
「やすぅぅぅぅぅぅぅい!!」

「・・・・・。」
シーフはゆっくりと、赤黒く光る"トリプルブラッディクロスボウ"を構えた。
「・・・、マスター冷静に、冷静にね。」
マスターと呼ばれたシーフは、冷静に二人に狙いを定め、
無言でオリデオコンの矢を数十発放った。
向ってくる矢に感づいたダンサーはふわりと跳んで天井にへばりつき、
感づけなかったローグは全てを体で受け止めて、そして倒れた。
「あら、お帰り。ルーン、とファル。」
ダンサーがストンと降りてきて、シーフとBSに言った。
ファルと呼ばれたBSはただいまと言おうとしたが、隣にいたシーフの迫力で声が出なかった。
「エーレーナァァァ!!売るのは自分の体だけにしろ!」
「いやぁ、前から需要があったもんで・・・。」
ホラッと言って、ダンサーはポンと現金束を見せた。
金に触りなれてるファルが、パっと見60Mはあるぞとつぶやいた。
「計算があわねぇぇぇぇぇ!」
「まぁまぁ、若い一番輝いてる頃の写真はとっときたいものじゃない?」
「・・・。」
「それに、この写真なかなか綺麗に撮れてて、自信作なのよね。
 月光に照らされて艶やかに輝く紫色の髪、焦点の合わない虚ろな潤んだ瞳、しかも上目遣いよ!
 そして何よりこの天高く大きくそそり起つ・・・」
「・・・。」
ルーンはもはや怒る気力も叫ぶ気力も無くなっていた。
「・・・、すげぇ会話・・・。」
ファルは顔を真っ赤にしながら、落ち込むルーンの隣で煙草を咥えていた。
318317sage :2004/05/18(火) 23:34 ID:U3/OuiiU
ダァ、伏字だけどやっぱ18禁の方が良かったかも・・?orz
下ネタなんて書くつもりじゃなかったのに。orz

文神様方に触発されて初めて書いてみましたが、
まさかギャグになろうとは・・・orz 感動作連続の中・・。

下ネタのない方向で続き書いてきたいので、
皆様よろしくお願いします。(´・ω・)人
319名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/05/19(水) 00:31 ID:DjwnmWek
>>318
両方かけば無問題っっ!!


上段はともかく、シーフがマスターっていいねぇ。
一次職萌えですよ。
320名無しさん(*´Д`)ハァハァsageノビとウィズ :2004/07/13(火) 22:23 ID:Vs0NAIIU
夏の日差しに照らされた石畳から、ゆらゆらと陽炎が立ち昇る。
「ああもう、鬱陶しいなあっ!」
明るい金の髪をしたノービスが、そう叫んで、
汗で額に張り付いた前髪をかき上げた。
顔に浮かぶ汗の玉をハンカチで拭うのだが、
そのハンカチも、汗で大分湿っている。
拭ったところで数分も立たずに汗だくになるのだから、
ノービスの苛立ちは募るばかりだ。
回りを見回しても、明るい顔で、元気良く歩く人の姿は全く見当たらない。
誰もが疲れきった顔に汗を浮かべ、のろのろと歩くか、物陰に佇んでいる。
それから比べれば、ノービスはまだ元気な方なのかもしれない。
足は重くても、口はいつもと同じか、それ以上に動いているのだから。
「お日様のバカヤロー……」
もう何度目か分からない言葉を呟いた時、
彼の後ろで、呆れたような溜息が聞こえた。
「話していれば楽になる訳でもないだろうが」
続いて聞こえた声に、ノービスの顔から、不快感の色がきれいさっぱり消え去った。
「先輩!」
そう言って振り向いたノービスの目の前には、
彼が先輩と慕う、赤い髪のウィザードが佇んでいた。
321名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/13(火) 22:24 ID:Vs0NAIIU
いつもは涼しげな表情をしているウィザードだが、
今日ばかりは流石に暑いらしく、額に汗を浮かべている。
国家に認定されたウィザードの制服である詰襟のシャツも、
胸元まで開かれていて、アンダーシャツが見え隠れしている。
解放された首元を鬱陶しそうに撫でながら、ウィザードは鞄の中を漁った。
「水で良ければあるが」
「下さい下さい!」
先程まで叫んだりうめいたりを繰り返していたとは思えない程に、
ノービスは元気を取り戻していた。
ウィザードは鞄から瓶を取り出すと、
ほんの少しの間それを見つめてから、ノービスに手渡した。
触れてすぐ、ノービスは驚いたような声を上げた。
「うわっ、これ冷たい」
彼の手の中にある瓶は、
まるで長い間、雪の中に埋められていたかのように冷えていた。
外気に触れた瓶の周りに、露が付くほどである。
不思議そうにウィザードを見ると、
彼は首元に手を添えたまま、下らないといった表情で呟いた。
「私の職業を忘れたのか?」
言われて、ようやくノービスは、
水の入った瓶をウィザードが魔法で冷やしたという事に気付いた。
「職権乱用になりません?」
そう聞きつつも、ノービスの顔には笑みが浮かんでいる。
「このぐらいで咎められるものか」
ウィザードはそう答えると、
鞄からもう一本の瓶を取り出して、今度は自身の為にそれを冷やした。
322名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/13(火) 22:25 ID:Vs0NAIIU
ノービスは冷え切った水を一気に半分ぐらい飲むと、
慌ててウィザードに向き直った。
「ごめんなさい、俺まだお礼言ってなかった」
ありがとうございます、と律儀に頭まで下げて言うノービスに、
ウィザードはヒラヒラと手を振る。
「たまたま持っていただけだから気にするな」
そう言って、その手で首の汗を拭う。
「やっぱり、夏は外に出るもんじゃないな……」
苦々しげに呟くウィザードに、ノービスがそういえば、と口を開く。
「外で会うのは久々ですね」
ウィザードは軽く頷く。
「しばらくは研究室篭りだったからな」
「なるほど」
ウィザードの言う研究室とは、
ゲフェンの魔法学校にある、魔法に関する研究用に整備された研究室の事である。
親しい人間であれば、魔術師でなくても入ることは出来る。
だが、流石のノービスも、
ウィザードの研究の邪魔をしてまで一緒にいようとは思わないらしい。
彼が研究室にいる間は、たまに顔を出す程度にしている。
もっとも、会いに行くと物凄く嫌そうな顔をされるのだが。
「しばらくはまた外で?」
「ああ」
ウィザードはそう答えると、微かに顔をしかめて、自らの首筋を軽く掴んだ。
323名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/13(火) 22:26 ID:Vs0NAIIU
先程からずっと、ウィザードが首に手を当てていることが、
ノービスは気になってきた。
「先輩、首どうかしたんですか?」
「別に」
ノービスの問い掛けにそう答えるものの、ウィザードは首から手を離そうとしない。
となると、今度は実力行使である。
ひょい、とノービスがその手を掴んでどかし、首筋を覗き込んだ。
そして、軽く目を見張った。
「馬鹿、痛いだろうが!」
ウィザードがそう怒鳴りつけてノービスの手を振り払うのだが、
彼には聞こえていないらしい。
しばらく呆然としたままのノービスだったが、やがてぼそっと呟いた。
「赤い痕」
途端、ウィザードが表情を凍りつかせる。
ノービスがウィザードの首筋に見つけたのは、小さな赤い痕だった。
ノービスは手をぽんと打って、口を開く。
「そっか、だから研究室にこもりっぱなしだったのか」
「おい……」
ウィザードが何かを言おうとするのだが、ノービスが言葉を続ける方が早かった。
「そんな深い仲の恋人がいるなんて知らなかったなあ……」
彼がそう言うと、ウィザードは目を見開いた。
「だから俺が行くと、嫌そうな顔したんですね」
「お前……」
ウィザードはそう呟くと、僅かに顔を伏せた。
水の入った瓶を持つ手が震えている。
その様子を見ながら、ノービスが次の言葉を口に乗せ掛けた、その時だった。
「虫刺されの痕がどうしてそう見えるんだこの大馬鹿者があっ!」
ウィザードの怒鳴り声と共に、冷たい水がノービスの頭に降り注いだ。
324名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/13(火) 22:27 ID:Vs0NAIIU
腕を組んで立っているウィザードの目の前、
ノービスは照れ笑いを浮かべ、冷や汗を流しながら正座している。
頭から水を浴びたとはいえ、石畳の上は物凄く暑い。
だがここで下手な事を言えば、今度は空き瓶が降ってくるだろう。
「全く……貴様には常識的な考えってものがないのか!」
怒鳴りつけるウィザードに、ノービスはおずおずと右手を上げて発言する。
「いや……ものすごーく常識的な考えだと思ってるんですけど」
「常識に履物脱いで土下座して謝ってこい」
ウィザードはそう吐き捨てると、また首筋に手をかけた。
「暑いし虫には刺されるし馬鹿は湧くし、やはり夏は外に出るもんじゃない」
「えへへ……すんません」
とりあえず常識より先にウィザードに土下座するノービスだった。
ウィザードは彼の方を見ようともせず、
イライラとした表情で首に手を当てている。
「そんなに痒いんなら、痒み止め塗ったらどうですか?」
土下座したままの状態で、ノービスがそっと顔を上げて呟くと、
ウィザードがようやく彼の方を見た。
鋭い視線に睨みつけられ、思わず体が竦むノービスだった。
「いや、いい」
「何でです? アルケミさんとかにお願いすれば、良く効くの作ってもらえますよ」
怯えながらもノービスがそう告げる。
良く効く、という単語のところで、ウィザードが更に険しい表情になった。
このままではもう一度怒鳴り声か。
もう水は無いようだし、濡れる心配はしなくても良いだろう。
いや、この体勢だから、頭踏みつけられたりして。
濡れた頭に冷気の魔法かけてから蹴り付ける、とかのコンボだったら嫌だな。
つうか死んじゃうなそれは。
浮かび上がる恐ろしい未来予想図に、
ノービスはどうにかして打開策を考えないと、と必死になって頭を回転させる。
しかし、ウィザードは怒鳴りつける事無く、深く溜息をついた。
「良く効く奴ほど染みるから嫌なんだよ……」
意外すぎる言葉に、ノービスははい? と聞き返していた。
325名無しさん(*´Д`)ハァハァsageおしまい :2004/07/13(火) 22:28 ID:Vs0NAIIU
土下座から正座に戻すと、ノービスはウィザードの顔を見つめた。
「でも、掻かなければそんなに染みませんよ?」
「もうかなり引っ掻いてる」
しれっとして答えるウィザードに、ノービスは思わず立ち上がる。
「掻いちゃダメっていわれてるじゃないですか!」
「そんな事言っても、痒いものは痒いんだ!」
そりゃそうだ、と思いつつも、ノービスは頭が痛くなるのを認めざるをえなかった。
「だったら尚更痒み止め塗りましょうよー……」
「誰が好き好んで痛い思いなぞしたがるか」
「痛いって言うけど、魔物の攻撃に比べれば全然大した事無いじゃないですか」
ノービスがそう告げるのだが、ウィザードは嫌そうな表情を改めない。
「自分から痛い思いをするのは絶対に嫌だ」
「あのねー……あ、そっか」
ふと、ノービスは何かを思いついたような表情になる。
「つまり、俺が塗ればいいんですね」
いきなりの提案に、ウィザードが首を傾げる。
だから、とノービスは嬉しそうな顔でウィザードに近寄る。
「俺が薬を塗って、先輩に痛い思いをさせてあげればいいんじゃないですか」
「……待て、その発言は何か誤解を招きそうだとは思わないか?」
そう言いながら後退りするウィザードだが、
ノービスは何も聞こうとはせず、にじり寄るのを止めようともしない。
「大丈夫です、そんなに痛くはしませんから」
「そんなにって何だそんなにって!」
「何なら首筋以外にも塗ってあげますよ」
にこやかな微笑みを浮かべながら、ノービスが荷物の中から痒み止めを取り出す。
「いい、いいから、こっちに来るなっ!」
とうとうウィザードはそう叫んで走り出した。
「遠慮しないで下さいよー」
そう言いながらノービスも後を追いかける。
無邪気な笑みを浮かべ、ウィザードを追う姿は、
普段と大差ないといっていいかもしれない。
しかし、日差しの暑さと、ウィザードの必死の形相、
そしてノービスの手に握られた痒み止めだけが、
その場の空気を異様なものにしていた。
326名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/15(木) 22:11 ID:Idnc.1MU
ノビさんとwizさんお元気そうで。
このノビさんは青ノビにはならないのかなー。
327名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/07/23(金) 18:08 ID:MxiG.zrg
この二人はもしや以前の…!
いい萌えをありがごうございました
ごちですー
328ぽぽりん :2004/07/27(火) 11:53 ID:x91ghmqI
彼の名はカイジ。
まだノービスである。
かれはクルセイダーを目指し、モンスターと戦い続けていた。
なんでも、幼い頃、友達だった女の子と
『一緒に強くなって冒険しようね』と約束したからだそうだ。
しかし、カイジはそのあと引っ越してしまい、その子と離ればなれになってしまったのだ。
今頃あの子はどうしてるか、などを考えながらもカイジはがんばっていた。
ある日、いつものようにモンスターと戦っていると・・・。
「あれ?なんか・・・ひとが・・少ない?」
そう、彼は町から離れすぎて砂漠地帯にいるのだった。
「やっば!急いで戻らないと・・・」
慌てて来た道を戻ろうとすると数体のサンドマンが現れた。
「あれは・・・げげっ危険モンスター」
ノービスである彼がかなうわけありません。
逃げようとしたカイジだが、相手に追いつかれ、攻撃されそうになった。
そのとき、一つの影が彼の横を通り、サンドマン達を倒していった。
「え・・?」
みるとそこには、アサシンの人が星の粉をひろっていた。
「あ・・・ありがとうございます危ないところを助けていただいて・・」
カイジがお礼を言うとアサシンは少し振り返り、また前のほうに視線を戻し
「・・・勘違いするな・・助けた訳じゃない」
そう言い、その場を立ち去った。
残されたカイジは立ち去っていくアサシンを見ていた。
「・・・・・・・・か、かっこいい」



ここはシーフギルド。
ノービスだったカイジは今はシーフになっていた。
彼はあの人に会ってから、決めていた。
じぶんもアサシンになり
『あの子』を守り続けると・・・。



彼がアサシンになって間もない頃町でテロが起こった。
「本当に大丈夫なのか?二人で」
薄紫の髪の少女がマジシャンの男に言う。
その様子を見ていたカイジはその少女に近づき、言った。
「二人じゃない、三人だ。」
その少女が『あの子』であるのに気づくのは、それから5分後だった。
329ぽぽりん :2004/07/27(火) 12:01 ID:x91ghmqI
はじめまして、ぽぽりんです
自分的オリキャラ話を書いたんですがどうでしょうか?
あんまりうまく書けんかった。
表現変なところあるかも・・
あって読みにくかったらすみません
330名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/10(火) 02:24 ID:Fdsgd1GE
|A`)投下ヨロ
331名無しさん(*´Д`)ハァハァsageハンタプリ:18禁じゃない…よね? :2004/08/16(月) 01:53 ID:OuWVy2AU
本に関する知識が欠片も無いハンターにも、
そこに積まれているものが子供向けの絵本である事は容易に分かった。
一番上に置かれた絵本を手に取り、ぱらぱらと捲ってみる。
リュックサックを背負った動物の子供達が、可愛らしい笑顔を浮かべて歩いている絵だった。
「『ねえ、おやつにはなにをもってきたの?』」
背後からの声に、ハンターは本を閉じて振り返った。
麦茶の入ったグラスを二つ持って、プリーストが立っていた。
「『クッキーさ。きみは?』」
ハンターが絵本を開き、台詞を読み上げると、プリーストは間髪いれずに返す。
「『わたしはいちごのキャンディ』」
絵本を覗き込むと、確かにその台詞が続いている。
「よく覚えていられるね」
絵本を閉じてハンターがそう呟くと、プリーストははにかむように微笑んで、軽く肩を竦めた。
「今日読んだばっかりだから」
グラスを机に置くと、座りなよ、と目だけで示す。
絵本を元の場所に戻すと、ハンターはプリーストと向かい合うようにして椅子に座った。
「絵本なんか読むんだ」
「いや、読み聞かせ」
「なるほど」
ハンターは麦茶のグラスに口をつけた。
「子供相手の仕事って楽しい?」
「うん」
「俺のお誘い断るぐらい?」
途端に、プリーストが困ったような顔になる。
「ごめん今のナシ」
慌てたハンターに、プリーストはいやいいよ、と首を横に振った。
332名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/16(月) 01:54 ID:OuWVy2AU
そのプリーストの本業は、冒険者ではなかった。
元は孤児や、親が忙しい子供達の面倒を見る仕事についていたのだった。
それが「色々便利だから」という、
ある意味恐ろしく適当な理由で、プリーストの資格を取ったのだ。
「相変わらず忙しいんだね」
「まあね、でも嫌じゃないから」
幸せそうなプリーストの表情に、ハンターが内心で溜息を吐く。
彼の愛情を思う存分堪能できる子供達に妬いたなんて、絶対口には出せない。
「明日はピクニックのお誘いまで貰ってるし」
ハンターの心には気付かず、プリーストは麦茶のグラスを口につけ、
先程ハンターが見ていた絵本を指差した。
「あんなの読んじゃったのがまずいんだけどね」
ハンターが表紙を覗き込む。
みんなでピクニック、なんて題名が付いていれば、
中身を読まなくても、子供達が何をせがんだかなんてすぐに分かる。
「この本、子供達の持ち物?」
そう聞くと、プリーストは頷いて見せた。
「普段は僕が持っていった本を読むんだけど、
 今日はこれが良いって子供の方から持ってきたんだよ。
 で、読み終わってから明日はピクニックに行きたいーって言われてさ」
そりゃ子供にはめられたんじゃなかろうか。
単純だよねえ、と笑うプリーストに、
どっちがだ、と突っ込みたくなるが、どうにかして笑顔を作って見せる。
更に嫉妬心を燃やす自分に、ハンターは微かな眩暈さえ覚えた。
333名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/16(月) 01:55 ID:OuWVy2AU
ふと思い出したように、ハンターは自分の荷物に手を伸ばした。
「じゃあ、これ持ってったら?」
彼が取り出したのは、キャンディの詰まった小さな袋だった。
プリーストはそれを受け取ると、不思議そうに首を傾げて見せた。
「これ、どうしたの?」
悪意の欠片も無い問い掛けなのだが、ハンターは表情を渋いものにする。
「覚えてないんだ」
「え」
必死に記憶を辿り始めるプリーストの手から、キャンディの袋を取り上げる。
「この間二人でルティエに行ったときの奴」
言われてようやく思い出したのか、プリーストはああ、と間の抜けた声を上げる。
「甘い物苦手だから全部あげる、って押し付けたのはそっちじゃない」
ハンターは袋からキャンディを一つ取り出して、包み紙を開いた。
中身は可愛らしいピンク色のキャンディ。
それを口の中に放り込み、残りの入った袋をもう一度プリーストに手渡した。
受け取る時に困ったような笑顔で、ごめんね、なんて呟かれるものだから、
すぐにハンターも表情を和らげてしまう。
「この間、って言っても随分前だよねえ」
よくこんなに残ってたなあ、とプリーストが袋を揺らしながら呟いた。
「もしかして、ちっとも食べてない?」
「いや、結構食ってるよ」
口の中にキャンディを入れたまま、ハンターは話し続けている。
言葉を発する為に唇を動かす度に、口の中に、人工的な苺の味が広がる。
「それあげても、まだ大分倉庫には残ってるから」
袋の中身で大体半分ぐらい、との言葉に、プリーストは小さな呻き声をあげる。
「そんなにあったんだ……」
「うん、まだしばらくはなくならないね」
ハンターがそう言うと、プリーストは軽く考え込むような仕草をしてから、
柔らかい微笑みを浮かべて、じゃあ、と口を開いた。
「それが全部なくなる頃には、また一緒にどこか行こうね」
334名無しさん(*´Д`)ハァハァsageおしまい :2004/08/16(月) 01:57 ID:OuWVy2AU
ハンターは少しの間驚いたような顔をしていたが、
やがて悪戯っ子のような笑みを浮かべて見せた。
「だったらさ、ちょっとは協力してよ」
そう言って、彼は椅子から立ち上がった。
「協力?」
不思議そうに首を傾げるプリーストの横に立つと、
覗き込むような体勢で、顔を両腕に抱え込んだ。
驚いた目がすぐ近くにあるのを見てから、
ハンターは自らの唇をプリーストのそれに重ねた。
微かに開いた唇に、舌でキャンディを押し込んでやる。
唇を離すと、プリーストは、
口の中にあるものを確かめるようにした後、微かに眉をひそめた。
「甘い物は苦手だって言ってるのに……」
「いいじゃん、ひとつぐらい」
「えー……」
それ以前にそういう事じゃないんだけど、と呟きながら、プリーストも立ち上がる。
「協力してもいいけどね」
そう言いながら、プリーストは自分よりも少し背の低いハンターを抱きしめる。
ハンターが抱きしめ返すと、プリーストは少し頬を赤くしながら、唇を重ねてきた。
「……せめて、半分にしてくれない?」
苺味のキャンディをハンターの口に返して、プリーストがそう呟く。
「……了解」
先程より小さくなったキャンディを口の中で転がしながら、
ハンターはプリーストの首に手を回し、背伸びをするようにしてキスをした。
人工的な苺味のキスだが、プリーストが嫌がることは無かった。

――二人の体温で思ったより早くキャンディが溶けてしまったのは、言うまでも無い。
335名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/16(月) 07:34 ID:IJITxDCk
な、な、なんとー!
いきなりの大萌えに朝っぱらからのた打ち回りそうです(*´д`)
この二人大好きなので
336名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/30(月) 00:19 ID:R9xrWdbk
 カプラサービスの空間転送を使ってプロンテラからモロクへ。
 モロクについた直後、ウィザードは強い日差しに思わず目を細めた。そして、日差しから逃げるように急いでテントの下に駆け込む。
 そこは冷たい飲み物や簡単な食事を出すところで、彼は店の主人に香辛料の入った茶を頼むと茶店の奥のテーブルに着いた。
『もしも〜し。いる〜?』
 頭の中に直接響いたのは、知り合いのブラックスミスの声。
『何か用か?』
 運ばれてきた茶のグラスを受け取りながら、ウィザードはwisを返す。
『ん〜、ちょっと渡したいものがあってさ。今から大丈夫?』
『暇だが、俺はプロンテラにはいないぞ』
『別に構わないよ。君のいるところに行くから』
 どこにいるのかと訊かれて、ウィザードはモロクにいることと、今、自分がいる茶店の名を答えた。
 ほどなくして、脳裏ではなく、背後で声が聞こえた。
「あー、いたいた」
 振り返ると、そこに居たのは銀髪のブラックスミス。先程のwisの相手である。
 どうやら、彼もモロクにいたらしい。外で露店か狩りをしていたのか、その髪や服は砂まみれである――茶店の主人が少し迷惑そうにこちらを見ている。
「本題の前に、少し汚れを外で落としてこい」
 ひどい格好だぞ、とウィザードはブラックスミスに言ってやった。
「ん、ありがとう。ちょっと待ってて」
 ブラックスミスは飲み物の注文をして店の外に出た。
 しばらくして――まだ砂埃はついてはいるが――先程よりはまともな格好で彼は帰ってきた。
 ひょいとウィザードの向かいの席に座り、ブラックスミスは荷物の中から包みを出した。「これ、あげようと思ってさ。手、出して」
 ウィザードが片手を出すと、
「両手じゃないと入らないよ」
と、言われる。請われるままにウィザードは両の手を差し出した。
 そして、ブラックスミスは包みの中身をウィザードの手の中に出した。
 両手の上に山ができるほどの大量の指輪。
 それが、包みの中身。
337名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/30(月) 00:21 ID:R9xrWdbk
 あまりの指輪の量に、ウィザードは唖然として呟いた。
「……なんだ、これは」
「指輪。未鑑定状態だけど、指輪だよ」
「それは見たらわかる。いくら真ん中に穴が空いているからといってこれが異国のコインだと、俺が
思うとでも?」
「まさか、そんなことないね。君、俺より物知りだし頭良いから」
 けらけらとブラックスミスは笑う。
「このごろピラ地下に籠もっててさ〜。それでベリッドからたくさん指輪が取れるんだよ」「なるほ
どな。しかし、人に物を渡すときに未鑑定なままというのどうかと思うが」
「しょうがない。じゃ、これもあげる」
 そう言ってブラックスミスが出したのは指輪と同じ数だけの拡大鏡。
 つまり、自分で鑑定しろ、ということらしい。
 ウィザードがはぁと溜息をつく。そして指輪をテーブルの上に降ろして、拡大鏡を一つ、手にとっ
た。
「相変わらずいい加減な奴だな、お前は」
「だって、俺は鑑定スキル持ってないし」
 そういえばそうだったな、とウィザードは今さらながら思い出す。目の前のブラックスミスは商売
時に便利なスキルよりも、戦闘時に使えるスキルを優先してとっていたのだ。
 しばしの間、ウィザードは黙々と指輪を鑑定し、ブラックスミスはそんなウィザードの姿を黙って
眺めていた。
 始めに手にとった指輪は、花の指輪だった。もっともこの事はベリッドが落とした、ということか
ら容易に予測できていたが。
「で、こんな大量の指輪をどうして俺に? これだけの数、全部を俺の指にはめろとでもいうの
か?」
 さすがにそれはいただけないぞと、鑑定を続けながらウィザードは付け足した。
 男の自分に花の指輪が似合うわけがなく、しかもそれを10本の指全部に複数つけるとなると想像し
ただけでぞっとする。
「別にそういうわけじゃないよ。やりたいならやっても良いけど。
 知り合いの女の子にでも配ってあげて。君は女の子の知り合いも多いでしょ?」
 確かにウィザードは顔が広い。しかしブラックスミスに、まったく女性の知り合いがいないという
わけでもない。
「お前が所属しているギルドにも女はいるだろ?」
 ブラックスミスも、ウィザードもそれぞれの別のギルドに入っている。互いのギルドメンバーを全
員知っているわけではないが、幾人かは顔を合わせたことがある。
338名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/30(月) 00:22 ID:R9xrWdbk
「俺のギルドの子、みんな恋人持ちなんだよ〜。指輪なんて彼氏さんからもらってるって」
 今日もギルド会話でのろけられちゃったよ、とブラックスミスは笑う。
「凄く幸せそうでさ、聞いてるこっちも嬉しくなっちゃった」
 羨むのでもなく僻むのでもなく素直に他人の幸せを喜ぶことができるという、このブラックスミス
の気質を、ウィザードは面と向かって口にはしないが評価していた――もし、このブラックスミスに
恋人ができたとしたら、自分はきっと嫉妬してしまう。
「あ、」
 ウィザードは声を上げて、手を止める。
「何? どうしたの」
 ひょいとブラックスミスがウィザードの手元を覗きこんだ。
「銀の指輪だ」
 渡された指輪の最後の一個。それは花を編んでつくられた指輪ではなく、銀製の指輪であった。
「あぁ、マミーが落とした奴を食ってたのかな」
「これは返しておく。さすがにこれは渡す相手がいない」
 銀の指輪は時に、告白や婚約のために使われる。花の指輪のように気安く配れるものではない。
(と、少なくともウィザードは考えている)
「返さなくてよいよ。別に」
 ウィザードが指輪を差し出したが、ブラックスミスは受け取らない。
「全部あげると言ったんだから、全部あげるよ」
「しかし、これは……。
 店売りにすればそこそこの金になるし、さっきも言ったように俺には渡す相手もいない」
 色恋に興味がないわけではないし、それなりの欲もある。ただそれよりも、ウィザードは己の技を
磨くことや、知識を深めることを優先してきた。(そして本人は気づいていないのだが、単に理想が
高すぎるという理由もある)
「なら、自分でつければいいじゃん」
 さっと掌から銀の指輪をとったかと思うかと、ブラックスミスはウィザードの左手をとって指輪を
はめた。
「お、運がいい。ちょうどぴったり」
と、彼は無邪気に笑った。
 それに対して、ウィザードは声を荒げた。
「はめなくていい! 俺には似合わないし、クリップが装備できなくなるから不便だ」
「えー、たまにはおしゃれもいいじゃん。俺みたいに街中と戦闘中で装備変える人って多いよ」
「それとこれとは問題が違う!」
 自分の声が不自然に上ずっていることをウィザード自身も気づいている。鏡を見たくもないが、き
っと頬は赤くなっているだろう。この茶店の中が薄暗くて良かったと、ウィザードは思った。明るか
ったら、鈍いこのブラックスミスとはいえども、自分の変化に気づいてしまうだろうから。
――それもこれも、お前が悪いんだ。
と、ウィザードは心中で悪態をつく。
――よりによって指輪を……
 左手の薬指なんかにはめてたりするものだから。
 ブラックスミスはきょとんとした様子でウィザードを見ている。
 その様子から指輪をはめた指とその意味をまったく考えていないことがわかる。
 それがなぜか、腹立たしかった。
 そして、それでもなぜか、薬指にはめてくれたことが嬉しかった。
 理由はわからない。それが、もどかしい。
 自分の気持ちがわからない。相手の気持ちがわからない。
 だから、ウィザードは小さく舌打ちした。
339名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/08/30(月) 01:09 ID:FzVwZHDQ
>336-338
おおおおお…!
鈍感BSさんとイライラしちゃうウィズさんのコンビ素敵過ぎ。
いや、コンビって言っちゃいけないのかしら。

何だかんだ言ってもきっと指輪外せないんだろうなあ。
340名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/21(火) 02:30 ID:7pPc.RVE
 緑の叢に泉沸くプロンテラ西の野、蒼天を仰いだ切長の眼を、銀の影が遮る。薄い幕を払うべく、憮然たる面持ちにて
苛立たしげに首を横に振るも、影は己を嘲笑うかの如く張り付き、決して離れようとしない。
 ぼやけた世界を眺め遣るに連れ、男の眉間に皺が寄る、やがて、
「鬱陶しいッ!」
「俺ッすか、先生!?」
 唐突なる怒声に弾かれるは、先まで暢気に薄桃色の茸を叩いていた暗殺者、転がり落ちた炎を宿す紅玉をほくそえみながら
懐に仕舞うや否や身に覚えのないことで怒鳴られ、我が身を指差し驚愕も露に問い返す。だが、傍らの暗殺者を横目で睨み、
黒衣を纏った聖職者は唸る。
「今は違う」
「ってことは、いつもはそうなんすか」
「否定はしない」
「うっわ酷ッ」
 師と仰ぐ男の辛辣な物言いを受け、暗殺者はその口調に傷心を滲ませるも、まだ若い面ばかりは到って平然としている。
過日、常に肌身離さなかった己の証、スイートジェントルを手放して後も、真逆の二面を合わせ持つ性のみは失せぬと見える。
 猫を思わせる丸い金眼を瞬き、暗殺者は今にも灰の噴煙を撒き散らしかねぬ勢いの火山に尋ねる。
「で、どしたんすか、急に」
「髪が伸びた」
 低い唸りに応じて見遣れば、成る程、日頃出ていた聖職者の額を覆い、今や鼻にすら届きかねない銀髪に眼が行く。
聖職者とて、何も無精をしているわけではない。首都に居を構える髪結の存在を知らぬではないが、生憎彼女が携わるのは
未だに髪染のみ。そろそろ散髪を覚えても良さそうなものだが、いつになるかは管理者とて預かり知らぬことであろう。
「ああ、確かに長いッすね」
 前髪を摘んで持ち上げれば、聖職者の精悍な相貌が晒される。眉根を寄せたその面を覗き込んだ暗殺者は、口許を捻り上げ、
冗談とも本気ともつかぬ笑みを拵える。
「こうなったら、いっそ伸ばして三つ編みしたところに、テールリボンでも飾ったらどうすか?多分可愛いッすよ」
「本気で言ってるんだろうな」
「まあ半分は」
「どっちだ……!」
 睨む問いに惚けた答えを返せば、弄されていると分かるのだろう、聖職者が苦々しく呟くそこに、
「何なら、俺が切りましょうか?」
「出来るのか?」
「任せて下さいよ、刃物の扱いは慣れたもんすよ」
 思いもよらぬ斬り込みに眼を瞬いた聖職者に、九十という格に支えられた自信に満ちた笑みを以って暗殺者は答える。
当然、暗殺者の手練振りは師である彼も知るところだ。聖職者は頷いた。
「分かった、頼む。だが、……カタールを構えるのはやめろ」
「ちえッ」
 静かに苦渋を押し包んだ通告に、未だ茸の胞子を残す己の得物を素直に収め、暗殺者は肩を竦める。幾多の魔を切り刻んだ
禍々しい得物の替わりに友の名が刻まれた短刀を抜くと、暗殺者は泉の辺にて胡座を掻き座す聖職者の背に立つ。
「あんま動かないで下さいね」
 予め告げると、暗殺者は陽光跳ね返す鋭い短刀を巧みに操り始める。斬る、よりは削ると言った方が正しいか、指に挟み
軽く張った髪の束に刃を当て手前に引くと、銀糸がはらりと舞い落ちる。無論、暗殺者とて本職の髪結いではないが、
元来散切り髪に等しい聖職者の頭を整える程度なら、暗殺を得意とする門外漢の手にも負えそうではあった。
 一言も発さず己に身を任せる聖職者に、無言の作業に飽いたか、ひっきりなしに手を動かしつつも暗殺者は尋ねる。
「前はどうしてたんすか」
「自分で適当に鋏を入れていた」
「失敗しなかったんすか」
「怪我はしなかった」
「……そうすか」
 必要以上に着飾ることを良しとせぬのがこの聖職者の信条とは言え、アマツの落ち武者も斯くやと思しき聖職者の有様を
脳裏に描いた暗殺者は、軽薄極まりない口を噤み、再び黙々と仕事に励み出す。
341名無しさん(*´Д`)ハァハァsage 萌エロ行きでしたらごめんなさい :2004/09/21(火) 02:31 ID:7pPc.RVE
 時折吹く、涼しさを帯びる風が心地良い。天道が頂に掛かる橋を半ば程渡った頃、
「出来たッすよ」
 肩に散らばる銀を払い除けつつ声を掛けるも、微かに首を前に傾けた聖職者は答えを返さない。暗殺者は両の眉を下げ、
今一度呼び掛ける。
「先生?」
 相変わらず返事はない。耳を澄ませば、風に混じった安らかなる寝息らしきものが届く。それを聞くなり、次第に沸き起こる
悪戯ッ気を隠そうともせず、悪童の如く口許を持ち上げた暗殺者は利き手を密かに前に回した。瞼を閉じる聖職者の喉首に、
先まで銀髪を削いでいた刃をひたりと当て、無精の髪の下から現れた耳元で囁く。
「俺に寝首掻かれたらどうするんすか」
「掻くなら掻け」
 響く低音の奇襲を受けたのは、暗殺者の方だった。首筋に掛かった吐息で目を醒ましたか、或いは端から狸寝入りを
決め込んでいたかの何れかだろうが、少なくとも、今にも己の喉を切り裂かんと当てられる刃に気付かぬ筈がない。
 白手袋を叩き返された暗殺者は薄らに笑んだ。
「じゃ、お言葉に甘えて」
 飄然たる物言いで言うなり、折られた黒襟から現れた骨ばった首根に、暗殺者は躊躇うことなく己の牙を突き立てた。
薄い肉を擽るように撫ぜた舌先に、微かな塩気を感じる。当てた歯に軽く力を篭めると、聖職者の体が強張るのが分かる。
もう一つの刃が未だ聖職者の生を握っている今、身動ぎ一つ出来ず耐えているのであろう。肩越しに覗いた聖職者の手は、
太腿を覆う黒衣を握り締め、幾筋もの皺を作っていた。
 頬を朱に染めたまま唇を噛み締めている聖職者の様を思うだけで、暗殺者の理が飛びかける。いっそこのまま、と
思いかけた矢先、
「気は済んだか」
 掠れた声と共に、短刀を握った暗殺者の手首が掴まれ、そっと押し退けられる。我に返る暗殺者を他所に、聖職者は
輝く水面を覗き込んだ。水鏡に映る己は、以前の形を取り戻していた。
「手間を掛けたな、礼を言う」
 重みを捨てた頭を上げ生真面目に告げる聖職者に、短刀を収めた暗殺者は右の掌を差し出す。
 無言の要求など手に取るように分かるのだろう、聖職者は未だ残る朱を隠すかのように殊更に顔を顰め、告げた。
「……駄賃なら、たった今渡した筈だが」
「あれじゃ足んねッす」
 方や暗殺者は当然のように首を横に振る。強かな笑みを被る暗殺者が密かに掲げる法外な値に、聖職者は思わず苦笑を洩らす。
「高い散髪だな」
「そりゃあそッすよ、俺、頑張りましたからね」
 師の嘆きに大きく頷く暗殺者の心中では、今宵、寝台の上にて如何に散髪代を取り立てるか、といった謀が、疾うに
巡らされていたのだった。
342名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/21(火) 12:11 ID:ZIm67P9w
アサシンの床屋さんだ…!
高すぎるお代南無。
343名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/21(火) 23:29 ID:8ZJBJ.zY
貴方の書かれる文章が凄く好みです。
首筋に一束二束銀髪が張り付いている様まで想像してしまいました。
二人とも格好良いですねー。
344名無しさん(*´Д`)ハァハァsageノビとウィズ :2004/09/27(月) 15:02 ID:rOpE.kdQ
どさり、という物音に、ウィザードは目を覚ました。
もし彼の職業が騎士であれば、剣の柄に手をかけるといったところだろうか。
冒険者としての経験が、彼に臨戦態勢を取らせた。
剣技に通じていない彼は、脳内で魔術の構成を描き始めた。
辺りの気配に意識を集中させるが、特に危険は無さそうである。
しかし手練のアサシンなら――と考えて、ウィザードは口元に笑みを浮かべた。
いくら何でも考えすぎだろう。
自分は単なるウィザードであり、そんな者に狙われる様な行いをした覚えはとんと無かった。
では、一体何の音だったのか。
ウィザードは寝台の上で体を起こすと、部屋の中を見回した。
彼が眠っていたのは、小さめだが、清潔感溢れた宿の一室だ。
冒険者向けの宿だから、ごてごてとした装飾は見当たらない。
寝心地のいい寝台があれば問題ないのだから。
実際、その部屋には寝台が二つと、椅子が二つ。
それに机があるだけだった。
だから、宿の備品が音の原因であるという可能性はまずないだろう。
では荷物が落ちた音だろうか、と自分の荷物を目で探すのだが、
それは服と一緒に椅子の上に積まれたままだった。
彼はもう一度、侵入者の可能性を考えて窓に目をやった。
そろそろ秋になろうかという季節なのだが、彼が眠りに着こうとした時間帯は、
窓を閉めて眠ってしまうにはまだ少し暑さが残っていた。
開け放されたままにされたそこからは、人はおろか、猫が入った形跡すらも見当たらない。
となると。
ウィザードは隣の寝台を見た。
そこには、彼の事を先輩と慕ってついてくるノービスが眠っていた。
ただし、体の半分程を寝台からはみ出させた状態で。
345名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/09/27(月) 15:03 ID:rOpE.kdQ
ウィザードが知っている範囲では、ノービスの寝相はそれほど悪くなかった。
だが、今日は相当に疲れていたのだろう。
掛け布団を半ば床に落としかけたノービスの、
片方の手はだらしなく床に垂れ下がっており、その隣には枕が転がっていた。
どうやら、これが音の原因だったらしい。
ウィザードは布団から抜け出すと、寝台から降りた。
初秋といえども、真夜中の温度はそれなりに低いらしい。
目覚めたばかりの体には、夜の空気は少し冷たかった。
それはノービスとて同じはずなのだが、彼に目覚める気配は一向になかった。
床に落ちた枕を拾い上げ、ノービスの寝台の脇に置くと、
ウィザードはノービスの体を寝台に押し戻した。
ウィザードと言えども、れっきとした男、しかも冒険者である。
ノービスの体を寝台に戻す事ぐらい造作なかった。
しかし、そのままの体勢で戻したので、垂れ下がっていた手は宙ぶらりんになっている。
それを布団の中に戻してやろうとして、ウィザードはノービスの手を掴んだ。
「うわ」
思わずウィザードは声を上げた。
きっと枕を落とすよりも随分前から、布団の外に出ていたのだろう。
ノービスの手は、驚く程冷たくなっていたのだ。
346名無しさん(*´Д`)ハァハァsageおしまい :2004/09/27(月) 15:05 ID:rOpE.kdQ
ノービスの手は、ウィザードのものとはまるで違った作りをしていた。
短剣を握りなれているためか、皮は厚く、がっしりしている。
けれど、皮膚自体が荒れているわけではなく、手の甲は滑らかだった。
指はウィザードよりも短めで太いが、骨ばったウィザードの指よりもラインは柔らい。
物珍しさにウィザードがそのラインに指を沿わせると、ノービスが指を絡めてきた。
慌ててウィザードはノービスを見るのだが、彼に目覚めた様子はない。
ウィザードは少し躊躇ったが、やがて、まだひんやりとしたノービスの手を静かに握った。
反対の手で、ノービスの手の甲を撫でてやると、
温度が伝わるのか、ノービスも手を握り返してきた。
段々と温まっていくノービスの手を、ウィザードは両手で包み込んだ。
人の手が温かいというのは、こんなにも心が安らぐものだったのだろうか。
窓から吹き込む夜風で、体は寒いはずだが、
ノービスの手が温まっていくと、不思議とウィザードも温かくなるような気がした。
ノービスの手が充分に温まってしまうと、ウィザードはノービスの手を布団の中に押し込み、
また冷たくなることが無いように窓を閉めておこうと、手から力を抜いた。
すると、手が離れるよりも先にノービスが強い力で握り締めてきた。
「おい……」
短剣を握りなれたノービスの手は、ウィザードよりもかなり握力がある。
痛くは無いのだが、簡単には振りほどけそうに無かった。
ノービスに手を握られたままでは、窓を閉める事はおろか、寝台に戻る事すら出来ない。
しかし、このまま眠れば、
体の丈夫さに自身の無いウィザードが風邪をひくのは想像に難くなかった。
それを避ける方法は、ただ一つ。
「……仕方ないよな」
自分に言い聞かせるように呟くと、ウィザードはノービスの体を少し押しやった。
そして、空いた空間に、自らの体を滑り込ませた。
手を繋いだままの体勢では眠りづらいと思ったのだが、
ノービスの体温で温まった寝台は――ウィザードは認めたくなかったのだが――心地良く、
すぐに眠れそうであった。
脇に置いておいた枕を自らの頭の下に敷くと、ウィザードは目を閉じた。
ノービスの手を握り返してやると、少しだけ、ノービスの手が緩んだような気がした。

寝台に潜り込んだウィザードが、間もなく寝息を立て始めると、
それまで眠っていたはずのノービスが、薄く目を開いて微笑んだ。
彼が静かに体を寄せて、温かい手を握り締めたまま目を閉じた事を、
ウィザードはいつまでも知らない。
347名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/01(金) 02:01 ID:W.1FfN0Y
>>344
おお、続きが。
この2人可愛いですね(*´∀`)
348名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/13(水) 07:55 ID:oex.bpd.
お初にお目にかかります。
こっちには初投稿です。
書きかけの転生ネタを仕上げるべく、ここに投下して自分を追いつめたいと思います。(笑


私たち魔法使いは概して早熟だ。
魔術の行使に不可欠な高度な知識を、魔法使いを志した者は物心つくかつかないかほどの幼い頃から勉強し始める。
15,6才になるころには、自然法則や原理、構成要素など、要するに世界の仕組みの大枠を理解するに至る。
知識は子供を大人にする。
どこまでも広がる海、果てのない大地、変わることなく巡る天体……
そういった神秘と引き替えに得た知識は、魔術を習得するためには絶対に必要だけれど、私たちの幸福な子供時代をどこかへ連れ去ってしまう。
あんなに恐れていた闇すらも、心地よく感じるほどに。
知ることはある意味罪だと思う。
だから人々はこの、知識によって体現される術を「魔」術と呼ぶんだって、勉強をし始めた頃に考えたことがある。
どこまでも広かった世界は窮屈になり、魅惑的な現象には冷めた理由がつけられる。
もちろん勉強したからと言ってすべての人がマジシャンになれるとは限らない。
勉強は難しいし、実際に魔術の行使となると残酷なほど明確にセンスの差が出てきてしまう。
当然、かなりの人が途中で挫折する。
ある程度までなら努力で埋めることが出来るが、センスの差はやはり天性に依るところが大きいから。
そういう人は他の生き方を探すか、研究者として魔術に関わっていくことになる。
他方、ごく稀にではあるが、10才程度でほとんどすべてをマスターしてしまう者もいる。
そういう人は直接マジシャンの上位であるウィザードになる。
もちろん、マジシャンになってからも努力し続けてウィザードになる人もいる。
むしろそういう人が大半だ。
けれど、同じウィザードであっても努力型と才能型の人とでは、魔術の威力や種類の多さに天地の差がある。
そういった希有なウィザードには敬意と畏怖をもって、ハイウィザードという名が冠されるのだ。
いわゆる天才に類されるであろう彼らは、しかし多くの場合生まれつき何らかの障害を抱えていることが多い。
視力を持たない者や、言葉を持たない者など。
それらの失った能力を補うかのように、彼らは誰よりも博学で世界の構造を熟知している。
そういった知識は学んだものと言うよりは、持って生まれてきたもののように、私は感じる。
だから早熟な私たちの間にいながら、彼はなお大人びていて、目立っていたのだろう。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ここ数日街の魔力の流れが少しおかしかったから、何かのきっかけさえあればアレが具現することは予測できた。
管理者からそのような報告も来ていたし、時期的にも人の増え始めるこの季節はその危険性が高まることは分かっていた。
何より、自分自身勘の様なものなのだろうか、アレが起こるのがもう間近であることを肌で感じていた。
だというのに。

「……っ!!」

ギリっと歯を噛みしめる。
ゲフェンの街ごと大魔法で焼き払ってしまいそうな衝動をすんでの所で抑える。
そう、時間は限られているのだ。
苛立つ気持ちを無理矢理そぎ落とし、針の先よりも細い一点に魔力を集めるイメージを造る。
一点に極集させられた魔力の周りが、ゆらり、と陽炎のように揺れる。
それと、同時に縮められたバネを自由にする要領でその魔力を街の全域に飛散し、一気に探索する。
この間1秒足らず。
反応もすぐに見つけた。

シュッ!!

音、ではなく、気配を感じる。
普通の人間には気配はおろか、姿すら感知させないであろうそいつは、街の西側にあり得ない速度で移動していた。
存在を探すために放った魔力のせいで、こちらの位置がばれたのだろう。
それは、確実に僕との距離を取っていく。
方角からしてグラストヘイム城の方だ。
羽織っているフードが雨で濡れるのも気にせず、僕はゲフェンの西門から外に出た。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

目が覚めたとき、部屋の中は薄暗かった。
私の体が刻む時計はとても正確なので、今は朝の6時くらいのはずだ。
ボーっとした頭で計算する。
薄く開いたカーテンが揺れ、雨のにおいと冷たい風を運んでくる。

「ふぁっ……っ〜〜……」

逃げるようにベッドの中でもそもそと体を丸める。
最近目覚めが悪い。
朝の現実はまるで夢の続きのように曖昧で、夢もまた内容を覚えてこそいないが現実のように生々しい。
そのことを友達に話したら「春眠暁を覚えず、ね。」と言われた。
どういう意味?、と聞くと、気が弛んでる証拠、と返されたんだっけ。

「ん〜〜っ!!」

まだ本調子じゃない体に鞭を打ち、洗面所に向かう。
ひんやりとした空気が微睡みを溶かしてゆき、今日が始まる。


私のいるゲフェンは、ルーンミッドガッツ王国とシュバルツバルド共和国との国境地帯に位置している。
街の由来は、この地方に魔法の修行に来た人々が作り上げたって伝えられているけど(from 公式)、そのせいか、とても独特な造りをしている。
街の中央にある不自然にに魔力を帯びている塔は、こもった魔力の影響でねじれてしまった時空の歪みを修繕するためのものだとか、歪みの向こうには太古の時代から脈々と連なるもうひとつの世界、ゲフェニアとかいうものがあるだとか無いだとか……
何はともあれ変な街だと思う。
最近は西の方で発見されたグラストヘイム城遺跡探検のための中継地になっているせいで、妙に厳つい冒険者達や風変わりな研究者達もそこ彼処に屯している。
おかげで本来魔法使いの街が、いっそう不自然さを増している。
魔力には人を引き寄せる効果もある。
感受性は人それぞれだけど、こんな辺鄙な場所に位置しているというのに、日常生活に困らないだけの物資はいつでも買えるし、行商人の行き来も途絶えたことがない。
世界中の魔術研究者やマジシャン、ウィザードへの転職志望の人たちもここのギルドに足を運ぶ。
そんなこんなで、街はそれなりに活気がある。
けれど、今日は雨のせいで人通りがほとんどない。
宿屋の窓から見下ろした道にはぽつぽつと商人がAFK露天をひらいているだけだ。
いつもは神経を逆なでさせられるペコペコの鳴き声も、主である騎士がいない。
こういう日はモンスターが凶暴になっていたり、魔法、特に炎系の威力がふるわない。
音や匂いとか、周りの微妙な変化にも鈍くなるし、足下はぬかるんでいて危ない。
なのでどんなにベテランの冒険者であっても、いや、むしろベテランの冒険者ほど、こういう日外に出ることはしない。
自称超ベテランの私も今日は魔法の実習はお休みだ。
転んだら泥だらけになってしまうし、雨日のゲフェンをぼーっと眺めているのも悪くない。

「ぼーっとじゃない。瞑想、瞑想。これも勉強。」

石造りの街並みが雨で一層映える。
雨に濡れた石道のにおいや雨のトントンという音が、気怠い朝の微睡みに拍車をかける。
窓際で頬杖を突きながら静かな空気に耳を傾ける。
雨、雨、雨……

――パシャパシャッパシャッ!……

「……ッ?」

不意に勢いよく水を撥ねる不規則な音がして、私は現実に戻された。
何事かと思い窓から街を見下ろすと、雨でぼやけた視界に動くものを見つけた。
石造りの街並に溶け込んでしまいそうな灰色のフードを身にまとうその動くものは、呆けていた私の注意を一瞬で引くほどの魔力をその内に秘めていた。

(彼だ……)

私は直感した。
少なくともあれほどの魔力を持った人間はここのところ彼くらいしか知らない。

(何を……)

彼の挙動もまた、私の好奇心を強く刺激した。
まるで何かを追いかけるかのように、時折あたりを見回していたかとおもうと、急にものすごいスピードで街の西門から外に出て行ってしまった。

「ぁ……」

さっきまでの眠気はどこへやら、気がついたときには、私は駆け足で雨の中彼を追いかけていた。
349名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/13(水) 08:02 ID:oex.bpd.
あああああ!!!!!
投稿する場所間違えました(核爆
しかも全部まとめて張ってしまった…
本当にすいませんでしたTT(平謝
(張り直しは無神経過ぎですね。しばらく反省猿。
350名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/13(水) 20:53 ID:69W8sYx2
ん、間違いだったの?
すごーく自然に読んでたよw
351名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/10/14(木) 00:15 ID:INpw9PrE
>>349
主人公が男性ならこのままGo!
352ハロウィン一発ネタsage :2004/10/31(日) 03:52 ID:fOXD9yyY
 戦の疲れを宿の古い椅子に預けつつ、銀髪を短く刈った男の聖職者は、十月の末の愉快に満ちた騒ぎへ硝子越しに触れていた。
窓の外にちらと眼をやれば、街灯に照らされた闇夜の中、深淵の騎士やバースリーといった思い思いの仮装に身を包み、
威嚇の面を象った南瓜の提灯を手に手に首都の中央通りを練り歩く子供たちの姿が見える。その両端には、無骨な武器や
鎧兜に交え、菓子や南瓜などの今宵の祭にちなんだ品々を並べる商人たちが腰を据え、賑わいに陰から手を貸している。
長きに渡る魔物との戦を一時忘れさせる喜びの光景に、聖職者は常に引き締めていた筈の唇を微かに緩めた。
 共に戦を潜り抜けてきた暗殺者に祭見物を申し出られたものの、戦の疲れと二廻りをすれば迎える三十路には勝てぬ。
暗殺者は不承不承といった体で頷き、珍しく己の傍を離れている。外がこれだけ賑わっているのだ、内でまでやかましい歓声を
上げることもあるまい。暫くぶりに得た閑静に聖職者がその身を委ねんとした矢先、
「トリイイック、オア、トリイイイイトッ!」
 乱暴に開けられる戸の音と共に部屋中に響き渡るくぐもった大声に、聖職者は己の読みが甘すぎたことを思い知らされる。
こめかみを押さえ振り向いた先には、目鼻口を持つ橙色を被った得体の知れない男が得意気に立ち、己に空の右の掌を
差し出している。その正体は、巨大な頭の下に巻き付けた白布を見るまでもなく分かりきっている。
「……年を考えろ」
「幾つだろうと、祭は楽しまなきゃ損ッすよ」
 聖職者の苦渋に満ちた言を平然と撥ね退け、脱いだ南瓜の兜の下から現れるは、紛れもないかの暗殺者。恐らく、袖に収めた
カタールを器用に操り、己の頭よりやや大きめの熟れた南瓜を一人懸命に刳り抜いたに違いない。その労を何故乱雑を極めた荷を
整理することに回さぬのだろうと、聖職者は心中頭を抱えるが、どうせ口酸っぱく説いたところで彼奴は聞き届ける男ではない。
 若いとは言え、優に二十は超えている面を驕慢たる笑みに象り、悪魔は理不尽な要求を突きつける。
「お菓子をくれなきゃいたずらするッすよ」
「やってもするだろうが」
「よく分かったッすね」
 わざとらしく目を丸くする様が忌々しい、面を顰めに顰め聖職者は言う。
「どれだけお前と付き合っていると思ってる」
「それは遠回しな交際宣言と受け取っていいんすね」
「いいわけあるかッ!」
 堅物の面を赤に染めての恫喝が効くなら、世話はない。案の定したり顔のまま、暗殺者は厚かましい問いを投げ掛ける。
「で、先生、トリックッすか、トリートッすか?何でもいいッすよ、ひとくちケーキとかスティックキャンディとか」
「持ち合わせがない」
 首を振る聖職者の言は嘘ではない。元来甘味を好まぬ聖職者は、菓子の類は全て倉庫へ仕舞いこんでいた。師と仰ぐ聖職者の
嗜好は、この不埒者とて心得ている。
「ははあ、てことは……」
 南瓜を小脇に抱えた暗殺者は呟き、にいと笑んだ。
「トリック!」
 鋭い叫びが響き渡った瞬間、暗殺者の姿が寒々しい部屋に掻き消えた。
「なッ!どこへ消えた!?」
 一声を上げ椅子を蹴り倒し立ち上がり、血相を変えた聖職者は周囲を見回した。暗殺者が得意とする技の一つ、ハイディング
だろう。聖職者が心得ている術の一つで彼奴を燻り出すことはできる、だが、呪を唱えるその隙を狙われれば、終わりだ。
 彼奴が何を仕掛けてくるかは分からねど、十中八九はろくでもない仕業に決まっている。バネ仕掛けの箱で驚かせる程度ならば
まだいい。彼奴が常日頃から事ある毎に口付けだの何だのを求め、或いは強いてくることを考えれば、一瞬とて油断はならぬ。
 身構えた聖職者は己の息遣いを抑え、微かな気配を探らんとした。手練の暗殺者がそう安々と足跡を残すとも思えぬが、
祭にかこつけてまたも寝台に傾れ込まれるわけには
「ひああああッ!」
 ぞわりと脊髄を走る寒気に、聖職者は十月の祭の夜に相応しい絶叫を上げた。激しく歪めた面の後方から、人差し指を立てた
暗殺者の姿が不意に現れる。聖職者が纏う黒衣の上から、背を縦になぞったのだろう。
 予想外の襲撃とは言え、不覚を取ったにも程がある。憤怒と怖気に息を荒げ肩を上下させつつ振り向く聖職者を、首を軽く
傾げた暗殺者は呆れと共に見詰める。
「シンプルに行ってみたんすけど、先生、背中激弱ッすね」
「お前のことだ、てっきり、その……」
「やらしいいたずら、でも?」
 暗殺者が最早癖と化した口許を持ち上げる仕草をする頃には、落ち着きを取り戻していた。堅物で鳴らした聖職者は、恥を
黒衣に収め、唸る。
「お前ならやりかねん」
「先生がして欲しいんなら、幾らでもしてあげますけどね」
「誰がッ!」
 斬り捨てる面の朱は、果たして怒りか恥のいずれによるものか。聖職者が朱を残す顔を背けると、常に飄然たる笑みを浮かべ
師を揶揄してきた暗殺者の面が、僅かに不快に染まる。
「つか、俺だって年中やらしいことばっかり考えてるわけじゃねッすよ」
 珍しく抗議を漏らす暗殺者をじろりと睨めつけ、聖職者はその清廉なる心根に似合わぬ悪辣な物言いを投げつける。
「色と欲まみれに思えるが」
 途端、暗殺者が被る不愉快な笑みに皹が入った。
「……確かにいつもあんな真似してるし、自業自得ッちゃあそうなんすけど」
 常に吊り上げていた唇を曲げ、暗殺者は濃茶の髪が彩る頭を掻きつつ、呟く。
「そんなもので俺を括ってほしくない」
 半端な敬を篭めた口調を改め俯いた面は、秘かながら明らかなる悔悟を滲ませていた。
 暗殺者が聖職者を師と仰ぎ付き従うは、犯した罪を己の命を以って償わんとしたが故。道化た態度で聖職者を侮り嬲って
いるように見えれども、その根底に流れる並々ならぬ覚悟を聖職者も心得ている筈。
 密かに唇を噛む暗殺者を冷ややかな眼の端で捉えた聖職者は、顔色一つ変えず、告げる。
「冗談だ」
 弾かれたように顔を上げる暗殺者に、平然たる笑みを浮かべた聖職者はなおも言葉を重ねる。
「お前が菓子を寄越さないからだ」
 暫しぽかんと口を開けた暗殺者は、やがて苦渋に満ち満ちた笑みを拵え、遂に神の徒にあるまじき口の利き方を覚えた師を
詰る。
「……ほんとタチ悪いッすよ、先生」
「済まん」
 面を顰める暗殺者の批難を受けつつも、緩む口元を手で隠した聖職者は喉の奥で笑い続ける。

 『トリック・オア・トリート』、揃った幼い声がプロンテラに響く。どうやら、三十路に手招きされているこの堅物も、
年に一度の祭に加われたようだ。
353名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/11/05(金) 01:07 ID:YlQ08oLU
ハフン(*´Д`)
いい感じの萌えをありがとう
三十路過ぎのあたりでまた萌えました(*´Д`)b
GJ!
354NPC物書いてる奴sage :2004/11/05(金) 15:25 ID:R9Rfvg7A
迸るその鎌は鋭く、なんの微塵も無くその命を刈り取った。
目の前には一人の剣士が居て、その傍にはついさっき刈り取ったばかりの
肉体が倒れ臥す。
何も映していないかのような瞳を向け、今しがた消えた命に見向きもせず
振り切った刃を下段から打ち払う。
その一撃を後ろに下がることで辛うじて避け、自らにキリエエレイソンの
魔法をかけた。
咄嗟に回避することが出来たのは日頃の鍛錬の賜物と、純粋な幸運のよる
ものであろう。
しかし、本来近接戦闘に向かない自分にとって、目の前の相手はその得物が
示すままに死神以外の何物でもないだろう。
来ると分かっていても回避不可能な攻撃とはこのような相手こそ恐ろしい。
その長大かつ凶悪な見た目は伊達ではないということ。
事実ほぼ全ての冒険者が知っているであろう事。
本来のこの鎌の持ち主は人では到底太刀打ちできない人外の存在であるバ
フォメットと言われる悪魔であり、その鎌は幾度となく冒険者の血を吸い
その命を散らしてきた曰く付きのものでもある。
神聖魔法の力で多少は命は延びるかもしれないものの、それも焼け石に水
になるであろうことは想像に難くない。
迷う暇もなく第2撃が襲ってくる。
その大きさから2撃目はもう少し遅く来ると踏んでいたため反応は遅れる。
しかし、今しがた唱えた魔法の力によりその魔力の盾を削ったのみで助か
った。
剣士は、弾かれた鎌の反動をうまく殺すことなく、遠心力を乗せて3撃目を放っ
てくるのに対し、回避を試みるものの寸でのところで魔力の盾を削られる。こ
のまま長引けば自分の敗北は目に見えている。
しかし、反撃する隙どころかこのままでは逃げることさえ出来そうに無い。
目の前の剣士を見やると、そこにあるのは暗殺者のように感情の希薄な瞳に映る
敵、つまり自分だけ。
魔法の盾の効力が消えかけているのを見て取ってすぐさま再度詠唱を始める。
しかし、魔法の完成よりも切れるほうが若干早かった。
完成する刹那、剣士はそれまで刃を向けて振るっていた鎌を最短で突いてきた。
「ぐっ・・・」
その予想外の攻撃に回避が間にあわずそのまま弾き飛ばされる。
当然、完成しかけていた魔法は妨害され飛ばされた反動で自分は地面に尻餅を
着く格好になる。
そしてその上に影がおちる。
確認するまでもなく長い髪をたなびかせた剣士が立っていた。
もう決着は着いたと分かっているためだろう、鎌は引きずるようにして片手
に下げている。
そこで改めて見上げた彼はその顔を見て思考がまっしろになった。
相変わらず感情の見えない瞳と血に染まったかのような色の長い赤毛。
返り血のかかった顔は戦場にありながら、まったく血の匂いをさせないような
有体に言えば綺麗だと感じた。
相変わらず感情の出ない顔で剣士は彼を見下ろす。
彼女が一流の戦士なのは分かっている。
だからこそ最後までコトはやり遂げるだろう。
そう分かっているからこそ彼も覚悟を決めて開き直って傍観に徹しようとした。
たとえ聖職者でも自分の死をここまで達観して見られる者はそうは居ないだろう。
しかし、彼女はトドメを刺すわけでもなく相変わらず何を考えているのか分から
ない顔のまま見下ろしている。
怪訝に思って見やるとその表情に少し変化が見えた。
相変わらず顔は表情らしきものは乏しいが、なんとなく不思議なモノを見るような
歳相応なあどけなさのようなものが見えた。
「なぜ怖がらない」
初めて聞いた声はやはり少女のもの。
「いや、怖いよ?」
死を覚悟した者にしては余りに軽い口調で男は答える。
その答えに一層その表情がでてくる。
本当に不思議なモノを見るような。
「他の人間は皆命乞いをした。」
『なぜおまえはしないのだ』と言外に言っているのが分かる。
それに微苦笑を交えて、
「だって君殺すんでしょ?だったらそれもまた一興ってね」
そう言って彼はまた軽く笑う。
「ま、開き直ってるだけだから」
気にせずやっちゃっていいよと続けた。
ますます分からないという顔をする。
二人がよく分からない膠着状態になっているとき、彼女の後ろ、彼から見て死角で動
く者があった。
先ほど彼女に斬り伏せられた者の一人だが辛うじて身を起こすと腰から一本の短剣を
取り出した。
男はこちらに気づかずに無防備な背中を晒している敵にそれを投擲した。
彼女はプリーストに気を取られていたため、その短剣をまともに受けた。
すぐさま掴み直した大鎌を背後の男に振り下ろしソレを今度こそ完全に絶命させる。
「・・・くっ」
しかしそこで彼女のほうも膝を折った。
それを見て彼はすぐに彼女の背に刺さった短剣をヒールの魔法を唱えながら引き抜く。
しかし彼女の顔色はどんどん悪くなり体は震えるように痙攣を繰り返す。
まさかと思い彼は引き抜いた短剣の刃を見やると彼女の血のほかに粘着質な液体が付着
している。
「ちぃっ。毒か!」
数々の奇跡を行うことのできるプリーストにとって唯一太刀打ちできないモノ、それが
毒だ。
自分の弱点が分かっている為、常に彼は緑色のポーションは持ち歩いている。
既知のあらゆる毒を浄化させることのできる薬ではあるが稀に効果を示さない毒もある。
この短剣に塗ってある毒がその種類ではないと決まったわけではないが、おそらく大丈
夫だろう。
瓶の栓を抜き傷口の周りの服を裂くと、半分を滴らせ表面を浄化させる。
そして口に瓶を当てて飲ませようとしたがまだかろうじて意識のある彼女はそれを飲もう
としない。
「飲まないと死んじまうぞ」
毒は時間との勝負だ、いくら傷周りを浄化したとしても内に入った毒は内から清めるしか
ない。
それは即効性にはならないので体力が尽きる前に飲ませなければ手遅れになる。
「ああ、もう。くそ、恨むなよ」
一向に飲もうとしない剣士にプリーストの男は実力行使にでることにした。
残りの解毒剤を自分の口に含むと剣士に口付けたのだ。
その予想外の行動に剣士のほうも抗おうとするが毒が回ってきた体に力は入らず、また窒息
を避けるためにも男から口移しで送られてくる薬液を嚥下するしかなかった。
355NPC物書いてる奴sage :2004/11/05(金) 15:27 ID:R9Rfvg7A
気がつくと彼女はベッドの上に寝ていた。
普段自分が泊まるような安宿の粗末なベッドではなく、天蓋付きのベッドだ。
鎧や身に着けていた旅着は脱がされ、今は肌触りのいい一目で高価と分かる寝間着を着てい
る。
横になったまま周囲を見回すと離れた椅子の上に自分の服が置いてあるのが見える。
鎧や愛用の鎌などは見当たらないところを見ると、隔離されているのだろう。
体がだるい。
外傷はなさそうだが、どうも熱がでているらしい。
ゆっくり身を起こす。
どんな身の状況であれ現状把握はするべきだ。
しかし身を起こし自分がいる部屋の確認をすると思考が停止してしまった。
おおよそ自分が今まで生きてきて見たこともない部屋があった。
いままでの彼女の稼ぎをおおきく上回るであろう調度品の数々が置かれた、一言で言えば
まさしく豪華の一言に尽きた。
自分が今まで眠っていたベッド一つにしても、天蓋から垂れるカーテンはシルクで、その
天蓋を支える柱にも凝った意匠の彫刻が施されさながら王侯貴族御用達の代物といった感じだ。
やはり凝った装飾を施された大鏡に金の飾りをあしらった化粧机、マホガニー製と思しきテー
ブルにはグリフォンの彫刻が彫られ、中央に据えられた石は翡翠だろうか。
天井から下がる照明はガラスの割に光の屈折と輝きがおかしい。
まさか全てダイヤモンドではないかと疑っているところにノックもなく部屋の扉が空いた。
「ああ、気がついたのか」
普段着らしいプリーストの制服を簡易化したような服を着た男が手にティーセットを持って入って
きた。
「毒は抜けてると思うけどしばらくは熱が退かないと思うからまだ寝てたほうがいいよ」
それで彼女は自分の身に起こったことを思い出した。
依頼に沿って殲滅しようとしたパーティーで不覚にも手傷を負い、目の前の男を討ち損ねた
こと。
そしてそのあとの行為も。
ソレを思い出して自分の体温が急激に上がるのを感じた。
別に初めてだったわけではない。
今まで生きるために身体を売ることも幾度かあった。
当然キスを求められることもあった。
だから別に何の事はないはずだ。
「なぜ助けた」
そう、なぜ助けられたのか。
彼は彼女にとって殺害対象であって、彼からしても自分のパーティーを壊滅させて自らを殺そ
うとした、言わば敵なはずだ。
「あのままにしておけば私は死んだはずだ」
そう、死んだはずだった。
依頼に失敗した時点でその覚悟もあった。
だからこそ解毒ポーションを飲まなかったのだ。
「おもしろいこと言うね」
そういって彼は微苦笑のまま扉を閉めて歩いてくる。
身構えようとする彼女を片手で制して傍らの椅子に腰掛けた。
「あのまま死なれたら文句もいえないでしょ」
さも当然とばかりに言って持ってきたティーセットでお茶の準備をする。
「馬鹿な。私はおまえを殺そうとしたのだぞ」
「そうだねぇ。殺されそうになったねぇ」
さも他人事のように言って二人分の紅茶を用意する。
その手付きは慣れたものでまったくよどみがない。
「でもま、生きてるし」
そう言って蒸らすためにポットに蓋をした。
「おまえの仲間も殺した」
「殺したね」
そう言ってポットの蓋を開けて香りを確認して順番にカップにお茶を注ぐ。
「ま、みんな生きてるけどね」
あはは、と笑いながらサイドテーブルに紅茶をセットする。
「な・・、そんなはずが・・・」
「だって俺プリーストだし」
疲れたけどねぇと言いながらお茶を勧めた。
「ついでに君の依頼人もそろそろ泣いてる頃じゃないかな」
「ま、君は依頼されたわけだしタダ働きになったけどこれでおしまいってことで」
「でもほんと、見事な手際だよねぇ。とてもあんな大業物でやったとは思えないよ」
自分がされた側だというのにあっけらかんとして笑う。
「なぜ助けた」
「だって、あのままじゃ毒死だし」
「依頼に失敗した時点で死ぬ覚悟はあった」
「ああ、そのあたりは残ったのが俺だったってことで諦めて」
そう言ってやっぱり微笑する。
「誰であれ怪我してるなら助けるよ」
一口紅茶を含んでその味に満足したのか頷くと
「だって、俺プリーストなんだし助けるのが仕事だからね」
彼は同じ事言ってるな、と言いながらまた笑った。
彼女はそれをみて諦めた様にため息をつくと
「依頼に失敗した以上もう仕事はこないな・・・」
そう言って天蓋を振り仰いだ。
「ん?てことは今はフリーなんだ?」
「ああ、誰かのおかげでな」
そう言ってまたため息を吐く
「なら俺に雇われる気ない?」
「・・・・・・何?」
一瞬何を言っているのか分からずその意味を理解するのに数瞬を要した。
「だから、パーティーメンバーとして君を雇いたいって言ったの」
どうやら聞き間違いではないらしいと理解するとやはりため息が出た。
「私はおまえらを狙ったのだぞ?」
「うん、壊滅させられた。だからその腕が欲しいんだよ」
「・・・馬鹿か?」
酷いなと言いながら覗き込む様に微笑して彼女を見る。
その目を見てまた顔が熱くなるのを自覚する。
居心地わるそうにテーブルに置かれた自分に出された紅茶を手に取るとそのまま口を
つけた。
毒見もしてないなと飲んだ後で気がついたが、どうでもよかった。
「・・・ぬるい」
そう言ってカップを戻す。
「あ、淹れ直すね」
そして新しい葉を出して準備をする。
それを見ながらまた彼女はため息を吐いた。
今度はかすかな微笑をたたえながら。


男萌えでもなんでもないかもorz
いい性格してるプリにしたかったのに普通のSSになっちゃったよorz
今回NPCでもないし、板違いしたかもorz
356どこかのひと(-_-;)2004/12/1 :2004/12/01(水) 19:39 ID:EEiFiGi.
亀だーーーーーーーー亀の大群だーーーーーーーーー
357名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/12/10(金) 04:12 ID:siH3o.7.
>まさしく豪華の一言に尽きた。
某おにごっこを思い出した
358名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/12/24(金) 05:38 ID:1Yd0wtQ6
 鈍天より白粉舞い落ちる極北の町を包むは祝いと幸せ、それを象るは七色に輝く樅ノ木だった。八方に広がる緑の下に
置かれた、色とりどりの絹紐に結ばれた箱の山には、白の丸い房つきの帽子をかぶった赤の翁気取りのポリンすら
集っている。時は、降誕祭前夜。
 無論、樅ノ木に導かれるはポリンばかりではない。祝いの木の周りは言い得ぬ甘酸っぱさを散らす男女で賑わい、
と言うよりはむしろ割り込む隙もないほどごった返していた。ともすれば喰らう他人の肘鉄に少々顔をしかめながらも
彼らはそれぞれの幸福に浸っていた。中には、ルティエに場を移した婚姻の契りを控えている者もいるのだろう。
 そこから十歩程離れた街角の灯火の下に、樅ノ木の、主に下層の辺りから一切の甘さを差し引いた面構えの男が
立っていた。師走の最中、聖職者を表す黒衣のみでは流石に寒さを防げぬと見え、首元を幽霊の札を備える襟巻きが、
肌蹴た胸を聖なる外套が覆っている。雪色の短い髪の下、ただでさえ険しい目つきは寒気に散々身を刻まれ続けた挙句、
今ではポリン程度の魔物ならば視線を合わせただけで地獄へ送りかねない凄みをも帯びていた。
 まだか。手袋などという高級品など持ち合わせていない彼は、刺すような痺れを感じる素手を擦り合わせつつ、思う。
 彼には連れがいた。一週間ほど前、街中で配られていたちらしに目を通すや、彼奴は否や血相を変えた。突然のことに
戸惑う聖職者にこの日この場所で待ち合わせるよう一方的に告げるが早いが、疾風の如く姿を消した。
 しかし、待ち人は一向に現れない。もしや見落としたのかと、互いを見詰め合う男女勢にしきりに目を凝らす聖職者は、
姿を伴わぬしゃくりしゃくりという音と共に雪の絨毯へ穿たれる足跡を、悟れずにいた。
 待ち惚けと雪がもたらす寒気、ついでに恋人連が醸し出す筆舌に尽くし難い雰囲気に中てられた居心地の悪さが、彼の
苛立ちを頂きへと押し上げた矢先、
「メリー・クリスマース!ホーホーホオオオオウ!」
 妙に抑揚ある大声に直ぐ様振り向いてみれば、いた。ポリンと揃い、むしろ強奪したとおぼしき赤の帽子に白髭に加え、
一抱えもある白い布袋を背負って得意げに胸を張るは、一週間前に別れた連れの暗殺者だった。仰天する前に、毎度のこと
ながら、よく衣装だの小道具だのを揃えたものだと苦渋混じりに感心する聖職者に、かの聖老を装った暗殺者は、偽の白髭の
下から現れた口端をにいと引き上げ、
「久しぶりッす、先生」
「大層な袋だな」
 職の差にも拘らず先生呼ばわりを受けた聖職者は、今や改めることもせず背の袋に目をやり、呟く。
「綿詰めてあるんす」
 道理で重き荷による疲労の色がないわけだと納得しつつ、聖職者ははたと気づいた。
「……ちょっと待て、その格好で町中を歩いてきたのか?」
「いやだなあハイドッすよハイド」
 屈託なく答える暗殺者を胡乱気に眺めるも、表情に乱れはない。ともあれ、暗殺者は喜々として見かけ倒しの袋に手を
突っ込み、
「良い三十路にはプレゼントをあげるッすよ」
「まだ三十路じゃあないッ!……来年までは」
「似たようなもんッす」
 齢を重ねることに気負いはないと言えど、実を上回る年を指摘されて些か色めく聖職者のかじかんだ掌に、緑紙と赤紐に
包まれた箱が乗せられた。笑みに促され、無言の訝しみのうちに紐を解いてみれば、箱に収められていたのは、街灯に煌く
真新しい金の指輪だった。
「これは……」
「苦労したッすよほんと」
 手に取り呟けば、髭と帽子を布袋に無造作に押し込みながらの、やたらに誇らしげな声音が返ってくる。しかし聖職者の
眉間に刻まれた怪訝はたやすく消えぬ、
「まだ法は改められていない筈だが」
「暫くは直らないでしょうねていうか! そんなんじゃねッす」
 世間では当然婚姻を示す品を前に、首を捻りつつ当然の疑問を呈する聖職者に、暗殺者は慌てて気色ばむ。取り立てて疑う
気はないが、暗殺者の日頃の道化た言動からすれば、どうにも認め難いのも確かだった。
 顰めッ面のまま指輪をじっと眺め回してみると、その内側に刻まれた細かな文字列が見えた。一文字ずつ追ってみれば
何のことはない、文字が記すは暗殺者の名前に他ならなかった。途端、漸く暗殺者の謎の疾走に合点が行った。今年は
カプラサービスによってそのような催しが行われるという噂は、流石の朴念仁の耳にも入ったものの、元より彼は祭の類に
夢中になる性質ではない。故に、折角の手掛かりは風と化し、木石の耳を右から左へと駆け抜けたのだった。
 付き合いも長い、暗殺者の飄然に隠された期待は薄々感じ取れる。多少の済まなさを覚えつつも、聖職者は毅然と告げた。
「生憎だが、俺の方は用意していないぞ」
「むしろ指輪集めに必死こいてる先生の方が想像つかないッす」
 苦笑混じりの答えが返るところを見ると、予想はしていたのだろう。しかし、同じことを考えるのが人の性、指輪一つ
手に入れるにも、相当の苦労を強いられたことは問わずとも分かる。聖職者の手助けもなしに、カタールをぶら提げ牛乳を
飲み下しつつ、魔より人の方が明らかに多い狩場を転々とする暗殺者の姿が脳裏を過ぎり、苦渋を滲ませた聖職者は代わりの
案を申し出る。
「要は名前入りならいいのだろう? 昨日手に入れたマーティンカードになら記すが」
「いやせめて先生のSSとかにしましょうよ!? つかそれ、プレゼントじゃなくて単なる処分じゃねッすか!」
 尤もだ。心中密かに頷く聖職者に、暗殺者は馴れ馴れしい笑みを投げ掛ける。
「何ならポーズ指導するッすよ、スティックキャンディをこう下から舐め上げるとか」
「人前でその手の冗談はやめろと何度言ったら分かるんだ!?」
 聖職者を横目で見やりながら舌を突き出し、棒状の何かを舐め上げる仕草をする暗殺者に、渋面を朱に染め激昂するも、
「何のことッすか? スティックキャンディ舐めるだけなのに」
「ぐううッ……!」
 小憎らしいまでに空惚けられ、聖職者は見え透いた挑発に軽々しく乗った己に、年甲斐もなく歯軋りする。だが、
「……解せん」
 未だ舞い散る粉雪の中、相貌を引き締めた聖職者は天に届く樅ノ木を見詰め、一言を洩らす。
「想いを示すために、一々祭に頼らなければならないのか」
「言うと思ったッす」
 やはり、と言わんばかりに暗殺者は肩を竦める。だが、道化た笑みのうちには、多少の物寂しさが滲んでいた。そこに、
先程穿てばたちまち品を失う戯言で師と呼ぶ聖職者を茶化した男の姿はなかった。
359名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/12/24(金) 05:39 ID:1Yd0wtQ6
 これが、よろしくない。聖職者は暫し虚空を睨みつけていたものの、やがて溜息をついた。
 雪に下ろした荷から、まだ売らずにいたサボテンの針を右の指で摘み上げると、左で指輪を支え持った。暗殺者の名が
刻まれた横に震える針先を近づけると、慎重に突き立てた。突然の奇行をまじまじと見つめやる暗殺者を余所に、鋭い針先は
金に曲線を描いていく。
 肩に薄らと積もった雪を払いもせず、顔を上げ一息ついた聖職者は、針を収集品入れに戻した。そして、先の指輪を、
金の目を丸くしたままの暗殺者の手の内へ半ば押し付けるように渡すと、些か気恥ずかしげに告げた。
「間を取った」
 こそばゆさに勝てず聖職者は目線を逸らしたものの、今ごろ暗殺者の目には金の指輪に刻まれた、聖職者のぎこちない
名が映っている筈だった。
「……これでいいか?」
 敢えて素っ気無く問うてみれば、
「十分ッすよ」
 暗殺者は口の端を持ち上げ飄然と、
「……有り難うございます」
 しかし嬉しげな礼が返って来る。
 今宵は神聖にして冒すべからず。己の主義には些か反するが、それで暗殺者の気が晴れるならば致し方ないだろう。否、
先の冗談のような行為は論外にせよ、他人と情を通じるためにこの日があるのならば、案外神の御意志に添っているのやも
知れぬ。微かに綻びかけた聖職者の口許が、強張る。
「……何故左手の薬指に嵌める」
「他のどの指に嵌めろッてんすか?」
「やっぱり求婚か!」
「直んないすかねえオーグナー法典」
「直ってたまるかッ!」
 目的を達すると同時に、これだ。金の指輪を例の指に輝かせ御満悦の表情を見せる暗殺者に、軽い頭痛を覚えつつも、
「一つ言っておく」
 聖職者は厳然たる声音にて言った。
「グローブの方が有り難い。冬は手がかじかむ」
 半端に遠回しな望みを受けた暗殺者は、不敵に笑んだ。
「じゃ、来年までに頑張って溜めときますよ」
「無理はしなくていいぞ」
「無理したくもなるッす」
 心底からと思しき笑みの裏では、何らかの目論見も蠢いているのやも知れぬが、そのときはそのときだ。剥がし次第、
怒鳴り声、ことによっては聖書の角という名の雷を落とせばいい。大して効かぬだろうが。
「俺も、次は何かしら用意する」
「約束ッすよ」
「ああ」
 短くも確かな約束を交わし、彼らは明りが灯され更に輝きを増す樅ノ木を見上げた。鈍色から青味がかった黒色へ移り
変わった天に、緑の頂に飾られた星が煌く。
「綺麗ッすねえ」
「所詮は人の手によるものだが」
 暗殺者が洩らす思いの外無邪気な感嘆に、聖職者は相変わらず憮然たる面持ちのまま答える。しかし暗殺者は傍らの
聖職者を半ば不思議そうに眺めやり、
「何言ってんすか、この町やそれこそクリスマスだって、みんな人が作ったものッすよ。……雪は別ッすけど」
「……そうだったな」
 聖職者は、唸るように頷いた。神に縁なき筈の暗殺者の物言いには、一理があった。生涯を終えるその日まで学びは
尽きぬとは言え、まだまだ修練が足りぬと見える。
 思えば、他人と聖夜を過ごすのは何年ぶりだろうか。
 人の喜びが輝く樅ノ木の元で聖職者が感慨に耽るうち、不意に聖衣を通し、暗殺者の腕の感触が仄かに伝わった。
 振り向けば鼻先が触れ合うまで寄り添った暗殺者は、相変わらず裏が読めぬ笑みを纏い、聖職者に問う。
「こうしてると、どう見えますかねえ俺たち」
「哀れな片割れ共が幸福に満ちた男女を羨ましがりつつ冷やかしに来たとしか思えんが」
「……身も蓋もねえッす」

 神が産まれし前夜は更けていく。雪に託した幸をルーンミッドガッツに届けつつ。
360名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/12/26(日) 00:25 ID:ua7Zu7F2
 自分が莫迦だった、とウィザードは思った。
 彼の舌打ちの理由なんて相手のブラックスミスにはわからないだろう。
 ウィザードがマントの中に隠しているプレゼントボックス。それは手に強い力を込めた
せいで少しだけひしゃげた。
 お互い寂しい一人者同士、という理由にかこつけて、ウィザードは自分の名を入れたプ
レゼントボックスをブラックスミスに渡そうと思っていた。
 寒空の下、野原を駆け回り偽サンタを捜した。そして穴の空いた靴下を手に入れた。数
を揃え、柔らかいリボンと綺麗な柄の包装紙を街の露店で買った。それからルティエに行
って、靴下とプレゼントボックスを交換した。最後に、カプラサービスにプレゼントボッ
クスを包装して貰い、自分の名を記して貰ったのだ。
 考えてみると、結構な手間である。
 それでも、ウィザードはこの目の前の銀髪の彼、ブラックスミスに渡したいと思ったの
だ――ただし、理由はウィザード自身にもよくわからないが。
 だというのに、ブラックスミスは。この男は。
「がんばって30個作って全部開けたんだけどさ。全部ハズレだったよ」
 あっはっはっ、と笑いながら言ったのだ。
「包装したほうが良い物が出るかも、と思ってわざわざ包装したのにだよ。ひどいと思わ
ない?」
ともブラックスミスは言った。
 ウィザードにとっては、それを一つぐらい残して誰かに渡す事を考えなかったのか、と
不思議に思うところである。
 しかし、ブラックスミスが他人にプレゼントボックスを配って回っていても、ウィザー
ドは不機嫌になっていただろう――ウィザード本人は自覚しないだろうが。
 ウィザードが用意したプレゼントボックスの包装はすでにぐしゃぐしゃである。随分ひ
しゃげてしまった。
「……でさ」
「すまん、よく聞こえなかった。何だ?」
 声が硬くなっていることにウィザード自身は気づいてない。表情だって見ただけで不機
嫌とわかる。
 それでもブラックスミスは動じた様子ではない。笑顔だ。
「だからね、君にこれをあげるよ」
 手を出してと言われて、ウィザードは空いた右手を出した。
 掌の上に置かれたのは、真っ赤な色の結晶。
「これは?」
 眉根を寄せて問うたウィザードにブラックスミスは答える。
「ガーネットだよ。プレゼントボックスから出たアイテムの一つ。君は一月生まれだった
でしょ?」
「確かに俺は一月生まれだが……」
 頭上にクエスチョンマークを飛ばしたウィザードに、ブラックスミスは苦笑した。
「一月の誕生石はガーネットなんだよ。だから君にあげたくて」
「武器製造に使ったりできるんじゃないのか?」
「俺は武器を作らないから。作ったとしても鉄くずになるだけだよ」
 少し寂しそうなブラックスミスの表情に目を奪われたのはきっと珍しかったからだ。
 だから貰ってよ、と言われたらウィザードは断れない。
 ありがとう、と小声で感謝の言葉を相手に述べる。
 そして、顔を伏せてブラックスミスの胸に、ひしゃげたプレゼントボックスを押しつけ
た。
「やる。ぐしゃぐしゃにしてすまなかった」
 幾ら親しい仲――とウィザード自身は思っている――とはいえ、酷い有様のプレゼンボ
ックスでは拒絶されるだろうかと不安だった。拒絶されたらどうしようかと、怖かった。
 怖々とウィザードは顔を上げる。
 目の前にブラックスミスの嬉しそうな顔があったことに酷く安堵した。
 酷く、幸せに感じた。
 彼が自分の誕生日を覚えていてくれたから。彼からプレゼントを貰うことができたから。
そして、何より、自分のひしゃげたプレゼントボックスに、ブラックスミスが喜んでくれ
たから。
361名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2004/12/27(月) 01:05 ID:pBC2px/Y
ワオ、良い子にしてたからサンタさんが二つもプレゼント持ってきてくれた(*´¬`)

>358-359
真面目な顔して指輪に名前刻む聖職者想像してニマニマしました。
三十路だろうと大好きです。
三十路だろうと関係なくプレゼントもってくるだろう暗殺者のサンタさんも大好きです。
聖書の角という名の雷が落ちないといいね…。

>360
ブラックスミスさん、しっかり誕生石を箱から出すとは、なかなかの強運の持ち主じゃないですか。
偉そうにしつつも、必死にプレゼントボックス作っただろうウィザードさんが可愛いです。
362名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/01/24(月) 15:45 ID:FAIxtQBw
 たぶん騎士?(未定)→アサのお話デス。(また需要なさそうな。
 ♂萌えのツモリダッタケド、萌え・・・・・・・・・てもらったら嬉しいデス(涙。


 プロンテラの大通りに佇む。
 夕刻の風はすこし肌寒く、けれど自分にはそれほどつらいわけでもない。
 むしろ露店を開いているブラックスミスたちの格好のほうが、見ているだけで寒いほど。

 街灯に軽く背を預けて空を見た。
 茜色と紫と青と藍と。

 ―――どれも、懐かしい色。

 雑踏が遠く潮騒のように遠のいて、あのひとの姿を思い出す。

 青い髪で赤褐色の瞳で紫紺の装束の、あのひと。

 朗らかに笑い、笑いながら短剣を突きたてて肉を抉った。
 綺麗な声で笑い、笑いながら捻りあげた腕の骨を折り砕いた。
 頬に飛んだ血飛沫を、指の腹で拭って、ぺろりと舐めたあの仕草。
 猫の目のような、なにもない虚ろを眺める無感動な眼差し。

 綺麗で綺麗で、残酷な、あのひと、が。
 ・・・アナタが、オレに遺したもの。

 幾つもの傷。魂に刻まれた傷。アナタの名前を刻んだ傷痕。
 そして、言葉。その謎。


 【やっぱオマエは殺さないでおく】


 だれかを愛しては、愛が終わるたびに殺していった。
 殺して、アイを、終わらせた。
 あのひと、は。
 
 ――――そんな刹那い愛しかシらなかった。


 ・・――それなのに、どうしてか、オレのことは殺さなかった。
 なんで?

 オレが、愛されては、いなかった、だけ?


 そう思うたびに。
 胸のなかに風が吹く。冷たい風が通り抜けて、自分ががらんどうになっていく。

 自分で自分の二の腕を掴んで、つよくつよく自分を自分で抱きしめる。


 ―――アイされてると、思ってたのは、オレの方だけ、だった?


 幾つかの夜。
 幾つかの昼。

 数え切れないキス。

 瞬きのように消えた、数え切れない時間。
 終りが、アナタに殺されることだと、分かっていて。



 オレは、それでも。

 綺麗で綺麗で、残酷なアナタ。
 ウソつきで性悪で、悪党なアナタ。
 気紛れで無慈悲で・・・どこまでも自分の欲にだけ忠実な。

 血を吸い乾いた砂色の瞳。
 夕闇にまぎれ消えていった姿。

 ―――アナタしか、いらなかった。


 ツヅキはあるようなないような。
 板汚してゴメンナサイでした。
 でもこの板の一ファンの寝言なので、おおめに見てやってクダサイっ(只今猛省中)
363名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/02/15(火) 00:52 ID:27DvdpXo
バレンタインネタ・ローグとセージ・友情・ギャグ・直接的な単語抜きの下ネタ多発。
駄目そうな人は、363をNGワードにしてください。
364363 2-1sage :2005/02/15(火) 00:54 ID:27DvdpXo
 二月のある日に得た菓子箱の数を条件とするならば、その賢者はのっけから愛の狩人への転職資格を剥奪されたと言っていい。
彼とて何も素手で世の女に戦いを挑んでいるわけではない、女と見紛う芙蓉の相貌、知性溢れる賢者なる職という強力な魔剣を
携えているにも拘わらず、実家はモロクのペコペコ屋の癖にジュノーの出身といった法螺を吹くわ、孔雀の羽でどう繕おうが
滲み出る下心の所為で、まともな女に相手にされた覚えがないのだ。そもそも、

「あーあ、赤いリボンつけたプリたんが上目遣いで恥じらいながら
 『はい、チョコレート♪ あのね、ちょっと失敗しちゃったの。……美味しくなかったら、ごめんね?』
 『そんなことはないよ、……君みたいに甘いね』
 『……そう?』
 『え?』
 愛らしい顔にちらりと覗く妖艶さに戸惑う俺の手をリボンに導いて!
 『確かめてみて?』
 ……何て言われたいよなあ。どうよローグ君」

 「妄想乙」と俗語混じりであしらわれんばかりにうんざり顔の腐れ縁を相手に、始終臆面もなく語るものだから、彼の周りに集まるは
心と体に一物を抱えた女ばかりだった。良い関係を築いたと賢者が一方的に思い込んでいる中、貢いでは去られ貢いでは去られを
繰り返すうちに、他人と比すれば比較的容易に高額な品を得られる折角の運も、全て彼女、むしろ彼等に吸い取られていった。
それでも、賢者は人生にめげることもなく、首都プロンテラの大通りを幸せそうに連れ立って歩く晴れ着姿の男女を、羨望、時に
呪詛を以って見詰めていたのだった。

 一年の内でも、一人身の彼の期待と怨恨が大いに入り乱れる日は決まっていた。クリスマス、ヴァレンタイン。男と女、男と男、
もしかしたら女と女と組み合わせを問わず、あちらこちらで桃色の心が飛び交うこの二日間だけは、白昼夢を定住の地と決めた
さしもの賢者の心も、千地に乱れるらしい。また、賢者の長年の悪友である悪漢も大層口が悪く、相手は玄人ながら先に得た経験を
振り翳し、未だ筆も下ろさぬ賢者を何かにつけて揶揄、或いは痛烈な物言いをしてくる。
 恐らくまたも傷つけられるだろう己の誇りを思った賢者は、遂に最後の手に打って出た。

「どうだい! 僕にだってヴァレンタインにチョコレートをくれる女性がいるんだよ」

 その日、桃色の絹紐で可愛らしく包装された三つの菓子箱を、臨公なる名目から戻った賢者は鼻も高く悪漢に見せつけた。

「マジで!? 中身藁人形じゃねえの」
「失敬にも程があるよローグ君ッ! そんなに言うなら見せてあげるよ」

 半信半疑といった悪漢の目の前で大事を装い包み紙を開けてみれば、確かに三様の女の名が彫られた褐色の甘い板が現れた。
昨晩の苦労など微塵も見せず、ほらみろとばかりに天を衝く鼻を鳴らす賢者に、悪漢は半ば気の毒そうに告げた。

「あのよ、……言いたかねえけど、俺が貰った奴と字体違うぞ。いやあいつ義理だっつってたけどな! 本命はギルメンにやるん
だとよはははほらこんなのただの義理だぞ義理! ……食うか?」

 またも「自演乙」と罵られる筈が、菓子の欠片を差し出されつつ腫れ物を触るように慰められ、却って惨めを味わったのが昨年の二月。


 そんな彼の荷に、見慣れぬ贈り物が入っていたのだ。

「どうした?」

 砂漠の街モロク中央に掘られた涼しげな水辺の近くに座し、狩りで得た戦果を探して突然硬直した賢者を見やり訝しむ悪漢に、

「な、何でもないよッ」

 明らかに上擦った声音を返す。首を傾げつつ再び戦果を並べる悪漢に気取られてはいないかと胸を高鳴らせつつも、賢者は改めて
荷の中にしなやかな片手を差し入れ、指先でそれを探った。すべやかな紙に包まれた薄く四角い箱、蝶の形に結ばれた絹紐、そして
二月十四日。答えは、一つしかない。

「じゃ、売ってくらあ」

 堆く詰まれた戦果を骨張った両腕でひょいと抱え、悪漢は宝石売りへ交渉という名の脅しを掛けるべく、この場を去った。遠ざかる
赤い背を見計らい、賢者は両手を荷へ突っ込むと、どくんどくんと打ち鳴らされる胸を抑え、繊細な絹紐を一息に解いた。恥らいつつ
箱を守る包み紙を破かぬよう、そうっと爪を立て剥がしていく、すると。

「はッはーア! 見たかい逆毛ローグ君! これが実力の差というものだよ!」

 半ば脅し取ったに違いない金貨を抱えぎょっとする悪漢に、意気揚々と賢者が見せつける箱に納められた板には、「ヴィクトリア」なる
女の名がしかと刻まれていたのだ。その名に覚えはないし、大体何時荷に入れたのかなど疑問は山程あるが、本名では照れ臭いものだから
職人に頼み込んでわざと偽りの名を用いたり、術で身を忍んでいたのかもしれない。第一、直接手渡すのではなく、好きな男の荷の中へ
ひっそりと紛れ込ませるなど、奥ゆかしくて中々浪漫があるではないか。

「ふふん、やっと僕の美貌に酔った女性が現れたようだね」

 何せ幼子の時分に母親から貰ったものを除けば、初めて女性から贈られた菓子なのだ。日頃、「もういっそモンスターでもいいよ
ソヒーたぁぁぁぁん!」などと雄叫びを上げつつ特攻した挙句に、あまりの剣幕に恐れをなしたソヒーに自決を謀られる始末のこの男が
天を舞うのは、ある意味当然だった。

「欲しいかい? 上げようか? はい上げた!」

 得意満面、菓子箱を悪漢の手に届かぬ高さへ上げる賢者に、今や口を挟む隙などなかった。だが、箱を掲げ小躍りする賢者を黙って
眺めていた悪漢の頬に一文字の傷を負った面が、次第に怒りに染まっていった。

「……今年こそ黙ってるつもりだったんだが、手前ェの態度がマジ気に食わねえ」
「何とでも言いたまえ負け犬君! 僕の喜びは何人たりとて覆せないよッ」

 押し殺した呟きも、賢者を惑わせるには至らなかった。根拠を伴わぬ強がりではない、実際賢者としてはそのつもりだったのだから。
昨年のように己が拵えたわけでなし、この摩天楼を誰が崩せるというのだろう。
 有頂天の賢者を、無言のまま悪漢は手招いた。そして、賢者が後生大事に抱える菓子に刻まれた名の一部を指で隠したとき、賢者の
面が固まった。

「……嘘」
365363 2-2sage :2005/02/15(火) 00:55 ID:27DvdpXo
 驚愕を洩らした眼前に現れたのは他でもない、この悪漢の名だったのだ。「Victoria」のcを、aの上を隠せば、嫌という程見知ってきた
この男が持つ名になるではないか。

「馬ァァァァ鹿! 去年が滅茶苦茶悲惨だったから俺だってわざわざ職人脅してまで気ィ使ってやったのに、調子乗りやがって! そんなん
だからいつも男に騙されるのがオチなんだよッ」

 秘密を抱えた苦悩と額を踏みつけられる屈辱に、悪漢なりの我慢を重ねていたらしい。矢継ぎ早に浴びせられる罵倒に、がちがち震え出す
賢者の一見澄んだ蒼の瞳が潤み始める。

「あ……ああああああんまりだよォローグ君! ていうか返せ俺の純情ッ!」
「端からねえだろが純情!」

 常軌を逸したサプライズアタックに、とうとう地を表しての涙の訴えも、怒涛の勢いで蹴り飛ばされる。砂にざらつく地に四肢をつき
男泣きに泣く賢者を見下ろし、悪漢は追撃に出る。

「大変だったんだぞ! 並んでんのは女か、……何つうかその、アレな雰囲気の奴ばっかだし、職人の野郎にはああお前もかって眼で
見られるしよ! 違ェよつったって、奴ら聞きゃしねえ」
「いいよわざわざ体張って慰めてくれなくったって! 俺は掘るのも掘られるのも御免だよ!」
「こっちだって願い下げだ! 大体ナニにつくだろうが別のチョコがッ」
「オープンでそう言う下品な物言いはどうかと思うよはっちゃけローグ君! ……ほら凄く視線が痛いんだけど……!」

 漸く恥に染まった賢者の囁きに、気付けば周囲から向けられていた白い眼を感じるにつれ、流石の暴君の口許も自省に歪んだようだ。
決まり悪げに腰を降ろす様を見計らい、賢者はWISと呼ばれる念を送った。これならば、言葉を音に変える日頃の会話と異なり、如何なる
言葉を交わそうが、誰に迷惑を掛けることもあるまい。

『ていうか、見目麗しい僕のは本物のチョコだからね、そこを弁えてほしいな』
『夢見んのも大概にしろ』
『夢じゃあないさ、要はあれをしっかり洗ったところに入れておけば、自然に熱で溶けるわけだからね。セージは中まで甘いのだよローグ君』

 幾度と鍛錬を重ねて会得した技の一つである、片目眼鏡の奥の蕾を微笑の形に華開きつつ言ってのければ、悪漢はそれこそビッグフットの
落し物でも見るかのような目付きを投げる。

『……どこからそんな発想が出てくるんだ?』
『僕の非現実的なまでの美貌をどう演出すればいいのかなと思って』
『非現実的なのはお前の妄想だろ』
『あれは将来の予見だよ』
『それだけ気力があるなら大丈夫だな』

 真顔で宣う賢者に溜息一つ添え、悪漢はさばけた調子の念を寄越した。暫し交信がふっつりと途絶えた中、賢者はふと己の手に握られたままの
菓子箱に思い当たった。中に納められた菓子は、黄砂と陽光の熱で溶け始めていた。
 一連の騒動の発端である箱をじっと見詰めていた賢者は、傍らの悪漢に問い掛ける。

『このまま溶けちゃうのも勿体無いから、食う?』
『甘いのあんま好きじゃねえんだけど、……腹減ってるから貰うわ』

 悪漢の気怠げな返事を受け、賢者は滑り始める褐色の真中から少しずれた辺りに両の親指の腹を掛け、足りぬ力で懸命に折った。そして
左手の欠片を悪漢に寄越し、己は指についた甘い露を舐め取った。

『僕はこっちね』
『いいのか? そっち、小さくね?』

 訝しげな悪漢の指摘通り、悪漢の名だけが綺麗に消え去った欠片を口に運びつつ、賢者は答える。

『この前臨公で知り合ったアルケミのセリィたんから貰ったものだと想像しながら食べるんだよ』
『本人的には、自分のSSでナニ掻かれるぐらいキモいな』
『人の夢に水注さないでくれる!? ああセリィたん……次のクリスマスにはアルベルタの一室を予約しておくよッ』
『逃げろ! 超逃げろ姉ちゃん!』

 容赦ない罵りを受けつつも、舌先で蕩ける菓子は、実に甘かった。これが本当の女性から贈られたものであったなら。届かぬ願いが賢者の
胸を過ぎるが、大方猿にでもやられたのだろう、粗野な悪漢の手が負う傷を見れば、

『有り難う』
「別に」

 胸中にのみ留めていた筈の言葉に、無愛想な答えが返ってきた。明らかに鼓膜を震わせた音に、未だ菓子を手にしたままの賢者の美貌が
凍りついた。

「……ちょっと待って、今の聞こえたわけ?」
「WIS中だったんだから仕方ねえだろ」

 なおも素っ気無さを装い、随分溶けてしまった菓子に噛り付きつつ悪漢は言う。

「まあなんだ、俺の偉大さが分かったんなら、一日五回俺へ向かって平伏せ」
「嫌だよ! 僕の主神はウサ耳プリたんだからねッ」
「それもどうなんだ」

 居丈高極まりないお達しに信念を持って抗う二人の耳に、くすくすと鈴を転がすような笑い声が届いた。両者が咄嗟に眼をやった先には、
服事と剣士の形をした娘がこちらをちらちらと眺めつつ、何やら囁き合っていた。不可思議に囚われ互いを見やった己らの姿を省みて気付いた、
手にしたチョコレートなる菓子、男同士、二月十四日。
 見る間に面を別の意の朱に染めた二人は人目も憚らずモロクに叫ぶ、


「違ェよ!」
「違うよッ!」



※18禁行きでしたら、削除要請を出してきます。
366名無したん(*´Д`)ハァハァsage :2005/03/29(火) 03:25 ID:NJhpQqSU
>>363-365さんゑ

ものすごい×3 遅レスですが。
ギャグがツボにはまりまして、夜中なので声殺してくすくす笑いました。
2人ケンカしつつも仲良いなぁみたいな(*´∀`)ほわー

悪漢の兄さんカッコイイですねぇ。賢者の彼は一生女の子にモテなさそうだけど。
彼らの次回作とかあったら読んでみたいです。
367マジ×アコ(のつもりsage :2005/04/01(金) 05:20 ID:Bdyuo6Y2
|ω・´)つ 一次職同士とかかいてみますた。
|・´)つ えろくないからこっちでいいかと思ったけど、うーみゅ・・。
|´)つ 自分的萌えな「マジ×アコ」でつ(描写ないけど(´・ω・`)
|)つ マジ・・・クリス アコ・・・カシアにてお楽しみください、さい、さい(エコー

僕らはまぐわう。寂しがりやの獣。だから互いに求め合う。
傷すらも舐めあって、そうしないと互いが分からなくなる。ねえ……。
「僕が死んだらどうするの?」
ぎしりと揺れるベッドの上、僕はぽつんとつぶやく。
サイドテーブルから淡いブルーのライトが届く。
「北極に行くさ」
「北極?」
クリスの笑い顔が好きで、僕もつい笑ってオウム返し。
「カシアがくさらないように、北極へ行く。そして一生抱いててあげる」
ふわりと背中にクリスの体重。重なる肌に淡いキスマークが覗く。
一生抱いててもらう自分と、一生抱いててくれる彼と。
「ねえ…」
かすれ声はOKの合図。今ならキスしていいよって。それより先に進んでいいよって。
シーツの感触が肌に気持ちよくて、クリスに抱いててもらってて。
唇が重なる前の、あの濃い空気が好きで。
北極の氷なんか、2人ですぐに溶かせるよ。千の夜キスを繰り返せばいい。
「クリス――。クリスクリスクリスクリス――」
名前が優しい。だから僕は何度も呼ぶ。クリスの名前を。
キスをもらう。その分だけ。
散らしたキスマークは朱の桜。ため息の分だけ愛してる。


――――早くしないと消えちゃいそうで
僕は急いで口付ける。
ピンク色の吐息に彼が笑う。
ねえ、今度は。もう少し激しくてもいいね。


End

|彡サッ
368マジ×アコ(のつもりsage :2005/04/01(金) 23:04 ID:Bdyuo6Y2
・・・SS読みに来て今気づいた。北極ってどこや・・・_| ̄|○
「ルティエ」に脳内変換よろ・・・あふぉだ俺・・・
369363sage :2005/04/11(月) 00:35 ID:YKFJdbpw
セージとローグの友情・時々下ホモネタ混じりのギャグ・男女恋愛要素あり。
NGワードは363です。
370363 1/9sage :2005/04/11(月) 00:37 ID:YKFJdbpw
 古今の男がこぞって追い求める宝は、金、女、騎鳥の三種だと言われている。それら全てが揃う首都に住む男たちは元より、
首都より離れた砂漠の街モロクに生を受けた彼の場合も、多分に漏れぬ。
 金については、信仰心があればこそ悪漢の道を志したのだし、女については、貞淑な法衣には不似合いな生々しい太腿を
僅かに覗かせる聖職者と擦れ違えば、振り向かずにはいられない。最後の騎鳥については、術がなく乗れもしない癖に飼った
ペコペコに流星号なる名を与え、目に入れても痛くないほど可愛がっている。ふとした弾みで嘴によって頬に一文字を刻まれ
ようとも、
 だが、加えて一つ、彼が重きを置いているものがあった。それは幼い時分から共に砂漠に遊んだ、

「やあ待たせて失敬、ローグ君。何分行かないでと取り縋る女性が多くてね、参ってしまうよ」
「嘘付け馬鹿」
「うっわ初っ端からそれ!? 萌エロ108でいいことしたからって調子こいてない!?」

 フェイヨンの洞窟を囲む広場にて、前髪をわざとらしく払い伊達を気取った言を悪漢が暴けば、円に囲まれた男は端正な顔を
醜く歪める。この賢者こそ、悪漢の昔馴染みであり、友であった。赤毛を逆立て如何にもなる強面を装う悪漢とは逆に、男の
身でありながら恐ろしく整った賢者の相貌は、天に花開く芙蓉にも匹敵した。もしも華奢な肢体に女の衣を纏い、紅に彩られた
口許に嫣然たる笑みを浮かべれば、大抵の男は招待を見破ることが出来ぬまま、彼のしなやかな指先に誑かされていただろう。
 だが、たとえビタタとウィスパーの札を同日に手に入れられたとしても、賢者が他の男に抱かれる様は在り得ない。嫉妬に
駆られた悪漢が不埒を働いた男を蹴り倒すからでも、賢者が心を許すは唯一悪漢だからでもない。賢者自身が平たく硬い胸
そのものを嫌っているからだ。彼が至福を覚えるのは二つの膨らみから伝わる柔らかさと温もりのみ。
 だが、たとえこの世界から永久に肉人形が消え去る日が訪れたとしても、賢者が他の女に抱かれる様は在り得ない。何故なら、
目を見張る芙蓉という罠も、賢者が決して手放さぬ妙な嗜好と面の前には形無しだからだ。

「あのさああそこのまーちゃんにヒドラがこうごめん何でもない」

 海底洞窟に出かければ、触手を蠢かすヒドラと悪戦苦闘する若い商人の娘を見るなり真顔でこういうことを呟き、悪漢に
どつかれるなど日常茶飯事、加えて、生来の小心振りが災いして、幼馴染以外の前では決して面を外すことができぬ。故に、
折角臨時の戦で知り合った女性にも先のような振る舞いをする。並みの神経の持ち主ならば当然距離を置く、焦った賢者は
更に気取る、また退く。これの繰り返しなのだ。
 よって、今年こそはこのむさ苦しい状況から抜け出さんと決意するものの、結局女性とは一度も付き合わぬまま、賢者は
二十五年の歳月を過ごしてきた。

「輪ッかアタックの餌食になりたくないなら、人の悪口はそこまでにしておきたまえ! 実はね……っふふふふふ」
「何だってんだよ」

 胡乱がる悪漢を横目で見やりだらしなくほくそ笑む姿には、知性の欠片もない。先の言を撤回すべきかと案ずる悪漢に対し、
賢者の頬と螺子は緩む一方だった。

「どうしようかなああ、言っちゃおうかなあああ」
「キモいとっとと言え」

 日向に当たりくるくると心地良い声を鳴らす巨鳥の喉を撫でつつも放った、苛立ちが頂点に達した悪漢の辛辣な物言いにも
怯むことなく、漸く賢者は人生における最上の笑みを溢し突きつけた、

「遂に彼女が出来たんだよこの僕に!」
「うはwwwww糞つまんねえネタ乙wwwwwwっうぇwww」
「ネタじゃないっての!」

 早速俗語によって罵られ、賢者は憤然と叫ぶ。けれども、悪漢とてそう容易くは動じない。何せこの男とは二十年以上の
付き合いがあるのだ、当然その気質は嫌というほど分かりきっている。どうせ女性の他愛無い言動を百八十度捻じ曲げた
曲解に浮かれているか、賢者の財産を狙った女男にいつものように騙されているだけだろう。
 多少の同情を覚えつつも、まあ暫くはこの祭を楽しむのが先だ。先の賢者とは異なるにやにや笑いを浮かべつつ、悪漢は
昇天を果たした友を揶揄する。

「あのな、辻支援は告白の合図じゃねえんだぞ分かってんのかそこんとこ」
「生憎だけどローグ君、彼女はちゃんと好きですって言ってくれたもんねえ」
「んだと!? ま、どうせまたナニがぶら下がって」
「今度こそ確実にリア女だよ、残念だったねローグ君! 童貞だの直結厨だのキモsage野郎だの、今まで散ッ々馬鹿にして
くれて有り難うッ」
「うぜえよそのテンションってリア女!?」
371363 2/9sage :2005/04/11(月) 00:38 ID:YKFJdbpw
 思いもよらぬ言葉に、さしもの悪漢も人目を忘れ素っ頓狂な声を上げた。賢者の証言が誠ならば、この世の終わりだ。
崩壊だ。倒産だ。何が。……王室が。
 あんぐりと口を開けた悪漢に、それ見たことかとばかりに勝ち誇った賢者は、神の御前にいるごとく手を組み、うっとりと
語り出した。

「名前はリリィちゃん、しかもマジ! ふんどし! とどめに黒い猫耳! いやあ去年の末にアンソニに土下座した甲斐が
あったよ」
「偽者じゃねえか」
「喋り方も可愛いし名前も†で括ってあってさ、女の子らしいだろ?」
「いやそれモロネカm」
「もう連れてきてるんだよ、リリィちゃん」
「聞けよ!」
「はぁぃ☆ 初めまして、ローグさん♪」

 悪漢の言を悉く無視し、締まりのない顔を向けた先には、満面の笑みを童顔に湛えた魔術師の娘が礼をしていた。だが、
その賢者に勝るとも劣らぬ舌足らずな物言いに悪漢が告げるべき言葉を失っているうちに、賢者は馴れ馴れしくも娘の肩を
抱き、

「今日の臨公で知り合ったんだけど、僕がこの自力ゲットしたヒルクリを見せたら、円らな瞳を輝かせちゃってさあ!
それからはもう、僕たちの間に言葉はいらなかったね」
「完璧に財産狙いじゃねえかッ!」
「淑女の前で失礼なことを口にしないでくれたまえ! 僕たちの愛は本物だよ! ねえ、リリィちゃん」
「きゃ、愛だなんて……恥ずかしいです(*ノノ)」

 付いている。間違いなく。
 露な太腿の内を僅かに隠す布の奥にぶら下がる物の存在を確信する悪漢の心中を察することなく、すっかり情人気取りの
賢者は等々と続きを述べる。

「でね、帰り際に話を聞いたら、どうしてもフェイヨンの三階に潜れなくて困ってるらしいんだ。だから、僕が壁を申し出た
んだよ」
「そぅなんですよぉ。ほんとにありがとぅ、セージぉにぃちゃん(*´▽`*)」

 見上げる小柄な娘に媚びた笑みを向けられ、賢者の芙蓉は蕩けるばかり。そう言えば、彼がかねてから妹なる存在に幻想を
抱いていたことを、悪漢は漸く思い出した。

「というわけだから、君も手伝いたまえ。まあ二人っきりでも僕は一向に構わないんだけどね!」

 惚気に惚気た幼馴染に居丈高そして一方的に命じられ、悪漢の頭は瞬時に沸点に達する。何故、胡散臭いこと極まりない女、
十中八九は男のために、己が骨を折らねばならぬのだ。大体、下級の職につく身でありながら黒の猫耳を被っていること自体
怪しいのに。単なる変わった人間なのならば、未だいい。本当に腹に一物を抱えているなら、身包み剥がされるのは賢者自身だ。
既に幾度も騙されているにも拘らず、何故それがわからぬのだ。
 勝手にしろ、そう吐き捨てかけ、悪漢は口を噤んだ。もし、本当にこの魔術師が何か良からぬことを企てているのなら、
友をまんまと餌食にされては、男が廃る。

「いいぜ、付き合ってやるよ」

 不敵に笑んだ悪漢の胸中に固まった決意、即ち、全ての見目良い女の奴隷に成り果てた友の目となる。その先は、嫣然と笑む
魔術師の出方次第だ。

「危ねえから、お前ェは戻ってな」

 情を篭め囁くと、巨鳥は不思議そうに小首を傾げた。その頭を撫で巨鳥の体躯を小さな卵に戻す中、悪漢は思った。
 何れにせよ、むざむざと縄張りを荒らされてなるものか。世に蔓延る中でも特殊な俗語を交えはしゃいで見せる魔術師と、
みっともなく鼻の下を伸ばした孔雀を見据えつつ、悪漢は心中の刃を引き抜いた。
372363 3/9sage :2005/04/11(月) 00:38 ID:YKFJdbpw
 幾ら魔術師とはいえ、流石にフェイヨンの一階で倒れ伏すほど柔ではないらしい。とはいえ、精神を文字通り削り幾枚もの
炎の壁を打ち立てる賢者の後ろにひっそりと佇み、屍共が燃える様を脅えた、少なくともそう見せかけた眼差しで見詰めている。
悪漢はといえば、すっかり英雄気取りの賢者に呆れながら、鬱陶しく纏いつく蝙蝠を薙ぎ払っていた。

「暗いから、足元に気をつけて」

 当然ながら、日の光が差さないフェイヨンの洞窟内は薄暗い。背後からついてくる魔術師に、賢者がそう告げた瞬間、

「きゃあ!」

 黄色い声が上がった。最後尾についていた悪漢が見たものは、魔術師の柔らかな体が賢者の背に抱きつく様だった。
 計算尽くだ。自身の体を張った魔術師の演出に悪漢が恐怖すら覚えた矢先、魔術師はぱっと賢者から離れ、さも慌てたように
胸の前にて手を小刻みに動かすと、並の背の賢者を見上げ詫びを述べた。

「ぁゃゃゃごめんなさぃ;」
「平気だよ」

 優しく紳士的に微笑む一方で賢者は念話を寄越してくる、

『本物! 紛れもない本物だよローグ君ッ』
『一々報告してくんな!』

 初めて女体に触れた興奮に満ち満ちた賢者の言が脳裏に響くなり、悪漢は苛立ちも露に怒鳴り返す。一階を経て、骨が
うろつく二階を進むも一向に夢から覚める気配がない友に、さてどう切り出したものかと悪漢が首を捻ったところ、

「何だ、あれ」

 先頭に立ち坂を下った賢者が、呆然たる呟きを洩らした。息を呑む賢者の後ろから悪漢も覗き込めば、死してなお男女の姿を
保った屍の大群が、人の生気を求めていた。その数、ざっと十四、五。
 緊張の面持ちで、賢者は自らを囮にするため、慎重に歩を進める。その様を見ているしか出来ない悪漢の身がもどかしい。
 間もなく、生気を知った魔の群れは、一斉に人間へと虚ろな目を向けた。一個の塊と化した魔は、怨恨と苦痛に塗れた手を
獲物に向かって伸ばす。その間合は心得ている、頃合を見計らい賢者は高らかに呪を唱えた、

「ファイアーウォールッ」

 途端、彼等の行く手を遮る炎の壁が立ち上った。本当は縦に出した方が長く持つのだが、如何せん敵の数が多く、迂回されては
ひとたまりもない。残る精神を振り絞り、その左右にもう一枚ずつ打ち立てると、細い道は炎によって完全に塞がれた。

「ファイアーボルト!」

 やや舌足らずな声と共に、炎の槍が魔を貫く。だが、大群に対し炎の槍数本ではフレイムハートに水をかけるようなもの、
魔は数を減らすことなく、虚ろな声を上げつつ壁の向こうでもがいている。
 やがて、何人たりとも通さぬ筈の壁から焼け焦げた手が覗いた。

「ごめん、後少しで精神限界なんだッ」

 既に座り、賢者は幾ばくかの回復を試みているが、全快には程遠い。

「支えきれねえぞッ」

 目前に迫る危機に、ダマスカス造りの刃を握り悪漢が叫ぶ、

「ゃだ、怖ぃ……」
「大丈夫だよ、リリィちゃん」

 杖をきゅっと握り脅える魔術師に賢者は微笑みかけると、芙蓉を投げ捨て悪漢を見据えた。

「僕が食い止めるから、念のためリリィちゃんは二階に戻って。リリィちゃんを頼むッ」
「馬鹿言うな! 手前ェも来いッ」
「僕がいなくなったら、誰が壁を立てておくのさ」

 英雄に憧れるばかり気が狂ったかと思しき賢者を怒鳴りつけるも、応える声音は真剣、かつ道理に叶っていた。だが、友を
一人魔物の群れに放り込めるものか。

「だったら俺も残るッ」
「そしたらリリィちゃんがアチャスケに襲われる!」

 今度こそ、悪漢は言葉を失った。幾ら不審極まりないとはいえ、人を見捨てることもできなかった。
 葛藤に押し黙る悪漢に賢者は軽く笑いかけると、

「ちょっと数減らしたら戻るから」
「てめおいッ!」

 悪漢の制止を振り切り、賢者は地に杖を突き立て、次なる呪を唱え始めている。

「……糞ッ」

 歯痒さに身を裂かれる思いで吐き捨てた悪漢は、魔術師の細い手首を掴むと暗い坂を駆け上った。何だかんだで要領がいい
彼のことだ、「ごめん無理だった」などとほざきつつ、直ぐにひょっこりと姿を現すに違いない。そうであって欲しい。
373363 4/9sage :2005/04/11(月) 00:39 ID:YKFJdbpw
「セージぉにぃちゃん、大丈夫でしょぅか……心配ですね(´・ω・`)」

 友の安否を只管案じる中、不意に横から上がる白々しい物言いが、賢者を案じて止まない悪漢の神経を逆撫でする。その
胸倉を掴み上げ、涼しい面を揺るがせてやりたくなるが、考えてみれば、今は魔術師と二人きり、この好機を逃すわけには
いかぬ。
 一先ず、悪漢は怒りを静めた。頬に指先を添え小首を傾げている魔術師を睨みつけ、低く座った声音を突きつける。

「ふざけた喋り方してねえで、そろそろ腹割って話そうぜ」
「え?」
「要はあいつをカモろうってんだろ?」
「ごめんなさぃ、なんのことか、ちょっとゎかんなぃです^^;」
「とぼけんなッ!」

 どこまでも人を馬鹿にした苦笑交じりの返答に、悪漢の雷が落ちる。だが、魔術師は眉一つ動かすことなく、悪漢の怒りに
歪む面を覗き込み、ただ薄らに笑むのみ。
 静寂が圧し掛かる中、先に口を開いたのは、小憎らしく微笑み続ける魔術師だった。

「……てぃうかぁ、ゎたしこういう人嫌ぃですぅ><」
「ざけんな俺だって手前ェみたいな」
「違ぃます」

 怒鳴りかけた悪漢が目にしたのは、幼い相貌に宿った冷え切った微笑だった。

「ぁなたの頭悪ぃぉ友達ですよぉ」

 唐突に浴びせ掛けられた悪意に悪漢が目を見張る中、魔術師はしたり顔でとうとうと述べていく。

「ネコミミーとかフトモモーとかぁ、ぁぁぃぅ人ってぇ、パーツしか目に入ってなぃんですよねー。本当のゎたしなんか
どぅでもよくってぇ、好みの部分が一つでもぁれば『萌えー』、沢山あれば『ハァハァ』ってぃぅんですよぅ。ぉかしくってw」

 くすくすと笑う魔術師に、沸き立つ怒りを懸命に押し殺し悪漢は唸る。

「あいつが一人で戦ってんのは、誰のためだと思ってんだ?」
「頼んでませんが何か?」

 一適たりとて悪びれることなく、魔術師は答える。その相貌には嘲りすら滲み出ていた。

「どうせ自信がなぃから、せめて自分より弱いものを守って勝手な優越感に浸ってるだけでしょぅ? 馬鹿みたぃ♪」
「そういう連中が気に食わないなら、見ない振りすれば済む話だろが。阿呆か」

 並べ立てられる勝手な言い分を斬り捨てる悪漢を見据える冷えた瞳が、不意に笑みを消した。

「じゃあ、ゎたしがセジ子にならなかったから捨てられたのも、見なぃ振りすれば済む話なんですね」

 どういうことだ、問わんとする頃には、魔術師は笑みの面をとうに被り直していた。

「でもゎたしは優しぃから、お金と引き換えにみんなに夢を売ってぁげてるんですv ぁなただって、女を買ったことくらぃ
ぁるでしょ? それと同じじゃなぃですかぁ」

 あまりにもふざけた物言いに、遂に悪漢の怒号が洞窟を裂いた。

「馬鹿言ってんじゃねえよ! あれは売り手も買い手も納得済みだけどな、そっちは最後に買い手だけが悪夢を突きつけ
られんだよ! ふざけやがって、何が夢だッ」
「ぁの人にとっては醒めない夢みたいですよぉ」
「俺が醒ますッ」
「ぁなたに出来るんですかぁ? ぁ、セージぉにぃちゃんこっちこっち!q(▽≦q)♪」

 薄笑いは、多少やつれながらも満面の笑みで手を振る賢者を、正確には、その腕に抱える大量の戦果を見るなり、媚びた
笑みへと切り替わる。
 悪漢越しに無邪気に手を振り返し、魔術師は法衣と背まで伸ばした艶やかな髪をわざとらしく閃かせ、賢者に駆け寄ろうと
する。

「てめ」

 咎める横を胸が悪くなるほど甘ったるい香が擦れ違った瞬間、悪漢の脳裏に女の声が響いた、

『知らなぃ方が幸せなこともぁるんですよぉ、……逆毛野郎』
374363 5/9sage :2005/04/11(月) 00:40 ID:YKFJdbpw
 暫し賢者の生還を喜んだ後、彼らは再び三階を進み始めた。仮初の尊敬を受け有頂天になる賢者と傍らの魔術師を背から
見据え、相変わらず憮然たる悪漢は、不機嫌極まりない念話を投げつけた。

『ぉぃ』
『……何で小文字なのさ』
『やべ、……いいからちょっと聞け』
『やだよ。可憐なリリィちゃんを一人放っている間に、見知らぬ直結厨に絡まれたらどうするんだい』
『お前以上にタチ悪ィのいっかよ! ……あいつ、明らかにお前をカモる気だぞ』

 害がないならば、夢に遊ぶも時にはいいだろう。だが、今の賢者が足を踏み入れているのは、毒の沼だ。肩を掴み引き
戻さねばならない。
 苦渋に満ちた言を告げるも、賢者は振り向かぬ。そして、暫しの沈黙の後、彼は答えた

『……知ってるよ』
「じゃあなんで切らねえんだよッ!」

 気付いたときには遅かった、失策に引き攣った面を、驚きに満ちた四つの目が一様に見詰めていた。

「どぅしたんですかぁ?」
「いやあ何でもないんだよリリィちゃん嫌だねえ春先は変なのが増えて」
「待てよ」

 肩を抱き促す賢者の足を、悪漢の唸りが止めた。やがて振り向いた賢者の芙蓉は、痛ましく歪んでいた。だが、魔術師の
肩に添えた手が離れる気配はない。

「そのまま行く気か?」
「……悪いけど」

 俯き加減で応え、賢者は背を向けかけた。瞬間、悪漢の胸中で何かが膨れ上がった。

「そんなに童貞捨てたいんだったら色街にでも行けよ! あそこにいる女なら、金積めば幾らだって手前の理想を演じて
くれんぞ! そこの紛い物でなくてもな!」
「ヴィットリオ!」

 正体も分からずぶちまけた灼熱に、賢者は責を込め友の名を叫んだ。この騒動の渦中、唇を引き締め情を隠した魔術師を
見やり、賢者は目を伏せ詫びる。

「……ごめんね、リリィちゃん」

 だが魔術師は何一つ応えるでもなく、無言を貫いている。賢者は一つ息をつくと、多少の後悔を篭め、呟く。

「俺じゃあ駄目だったね」
「は!?」

 思いもよらぬ賢者の物言いに、意表を突かれたのは悪漢の方だった。頓狂な声に被せるように、豪奢な羽を捨て賢者は
述べる。

「いや名前とか喋りとか褌とか童顔とか猫耳も勿論いいんだけども! ……臨公解散したときに、リリィちゃんも挨拶した
じゃないか。そのときの目が、滅茶苦茶冷め切ってるように見えてさ。笑顔なのに」

 心なしか、魔術師の唇が僅かに引き攣ったように見えた。

「で、ちょっとその後も暫く様子見てても、口は笑ってるのに、ずっと目だけ笑ってないんだよ」
「ストーカーハケーン」
「それはお前の来世だろ! 何て言うか……この世界自体が嫌いなのかなと思っちゃったんだよね。ほら、好きでもないこと
してても、ささくれ立つだけじゃん! 俺だって、こいつと夫婦生活送れって言われても無理だし」
「送ってたまるかこのアフォが!」
「ちなみに僕は、酔いどれ夫の暴力に耐える可憐な人妻という設定で。唯一の心の支えは、イベントに降臨する白鳥に乗った
GM様を見ること、そしてある日たまたま目と目が合った瞬間始まる甘く切ないラヴロマンスッ!」
「ペノメナ並の神経でほざくな!」

 どうも羽を捨てきれぬ賢者に怒鳴り散らしながらも、悪漢は胸の内に吹き零れた灼熱が徐々に冷え固まっていく様を感じて
いた。そうだ、こういう男だからこそ、ふざけた世迷い言と二十年も付き合っていたのだ。
 陶酔から醒めた賢者は、再び魔術師に向き直り、言う。
375363 6/9sage :2005/04/11(月) 00:40 ID:YKFJdbpw
「……だから、こいつとも一緒に狩りしてるうちに、少しはこの世界も好きになってくれれば、と思ったんだけどね。別に
冒険者じゃなくてもいいんだよ、モロクにいる俺の親だって、いつも張り切ってペコペコの世話してたしさ」
「モロクで、ペコペコ……?」
「ああああしまったあああああ! 親はジュノーの魔導学者ッつってたんだったあッ」
「馬ァ鹿」

 賢者の致命的な失言も耳に入らぬのか、幼い相貌は僅かに色を失いながらも、魔術師は薄らな笑みを取り戻し、なおもふて
ぶてしく抗った。

「……そんなの、結局は『冷血』ってパーツに反応してるだけじゃなぃですかぁ」

 けれど賢者は悪漢と顔を見合わせ、平然と応える。

「そこまで言ったら、限なくない? 可愛いとか妹とか一緒に臨公したとか、全部ひっくるめて気になったんだしさ」
「だよな、俺だって巨乳に弱いし」
「君、絶対人のこと言えないよね」
「手前ェほどじゃねえよ」
「ポポリン、ポリンを笑うって知ってるかなあ知らないよねえローグ君!」

 他愛もない罵り合いの中、暫し唇を噛んでいた魔術師は、不意に自嘲の笑みを洩らした。

「……全部、見透かされてたってことですね。姫失格;」
「そんなんじゃないんだよ、本当に、俺にも何か出来るかなって思っただけで!」

 偽りなき心中を伝えようと苦心する賢者を見やっているうちに、悪漢の口からも苦笑が漏れる。

「こいつも結局はお人好しなんだよな」
「王道ローグ君にだけは言われたくないね!」

 傍らの賢者を見下ろし揶揄すると、むっとした様子で長身の悪漢を見返してくる。だが、飛び交う語調こそ荒いものの、
醜い刺々しさはない。
 やがて、鬱陶しいとばかりにあどけなさを脱ぎ捨てた魔術師は両者を見上げ、にっこりと微笑みかけた。

「悪ぃんですけど、ゎたしはこれで抜けさせてもらぃますねぇ。こんなクォリティ低ぃ人たちとじゃ全然稼げませんしw」
「え、これ……」
「そんな端金でゎたしが満足するとでもぉ思いですかぁ? ほんとはヒルクリ欲しかったのにぃ><」

 大量の死人の髪束を抱え戸惑う賢者に媚びた無情を告げると、魔術師は懐から蝶の羽を取り出した。別れの時が近づいて
いた。

「この後も姫稼業続けんのか?」
「さぁ」
「……ルーンミッドガッツを去るつもりじゃないだろうね?」
「うーん……ぉ察しくださぃv」

 二人の問いにも曖昧な答のみ返し、魔術師は猫の耳の形をした姫の冠を無造作に荷へ仕舞い込んだ。

「俺でよければ、また壁するから」
「大丈夫ですよぉ」

 賢者の申し出に甘ったるい笑みで答えた魔術師が何かを呟いた瞬間、悪漢と賢者の背後に轟音と灼熱が走った。咄嗟に振り
向けば、焼け焦げた円の中央に僅かに残った黒い骨が転がっていた。恐らくはソルジャースケルトンの残骸か。
 不意に放たれた魔法の凄まじい威力に唖然とする二者、特に賢者を見やり、魔術師は不敵に笑んだ。

「今度は私が壁してあげる、セージさん」

 告げるや否や、魔術師は手にした蝶の羽を握り締め、宙に撒いた。舞い散る燐粉が灯りを受け煌く中、魔術師の姿は揺らぎ、
虚空へと溶け込んだ。
376363 7/9sage :2005/04/11(月) 00:40 ID:YKFJdbpw
「……転生済みかよ……」

 常の魔術師では決して出し得ぬ火力に、悪漢は舌を巻いた。最後まで小憎らしかったとは言え、魔術師の今後を胸中で密かに
案じる悪漢に、

「ごめん、黙ってて」

 賢者の神妙な詫びが告げられる。そういう事情ならば端から話せばいいものの、水臭いにも程がある友を、悪漢は軽く
睨みつけた。だが、悪漢が罵る前に、賢者は案外悪びれもせず言葉を重ねる。

「ま、言う必要もないと思ったんだけどね」
「何でだよ」
「だって、お前じゃん」
「何だよそれ」

 判然としない物言いに不機嫌を醸す悪漢を見るなり、賢者の顔が緩む。

「ひょっとして、嫉妬でもしたわけ?」
「頭沸いてんのか?」
「ふふん、残念ながら麗しい僕は麗しい女性にのみ乱れるのさあああああさよならリリィちゃん……」
「諦めろ」

 戯言を睨みつけるも、この厚い芙蓉もそう簡単に動じはしない。直ぐ様いつものように天を鼻で衝くも、次第に鼻先は地へと
向かう。またも苦悩に囚われる賢者に悪漢は諦めを促すが、当の賢者は表情を変え、呟いた。

「でもさ、やっぱり自分の居場所くらいは好きでいたいよね」

 突然の賢者の真面目なる言に、不意を衝かれた悪漢は口を閉ざした。
 暫し黙した後に答える、

「……まあな」
377363 8/9sage :2005/04/11(月) 00:41 ID:YKFJdbpw

 それから、半年以上の月日が流れた。残された賢者と悪漢といえば、相変わらず下らぬことを肴に、罵り罵られの日々を
過ごしている。

「だからね、チラリズムという言葉が示すとおり、安易に露出たからって萌えるとは限らないわけだよ。なあ、そう思わない
かい流星号」
「答えなくていいぞ! じゃあダンサーなんか駄目じゃねえか」
「いやほんと君は分かってない! ダンサーは見事な肢体を惜し気もなく晒す大胆さがだね」

 人多いプロンテラの中央通りを抜け、牛乳売りの娘が佇む通りを人目を憚るべき論議をしながら歩く、巨鳥連れの二人の背に
投げ掛けられたのは、

「セージさん、ローグさん、こんにちはv」

 聞き覚えある媚びた声音に振り向けば、かつて魔術師だった娘が頭に黒い猫を模した人形を乗せ、晴れやかな笑みを湛え
佇んでいた。但し、纏う法衣は逆に慎ましく、なおかつ外套は腰までしかない。この装いを許されるは魔導師でも賢者でもない、

「垂れ猫廃Wiz萌ええええ!」
「だからそれがうざいッつってんのよッ!」
「どつきツッコミ娘万歳ッ!」

 咆哮を上げるなり手にした杖で頬を叩かれようとも、彼は己自身の僕だった。呆れ果てた悪漢の視線を余所に、赤く腫れ
上がった頬を抑えつつ、賢者は安堵を洩らす。

「良かった、まだここにいたんだ」
「はぃv なので、転職済ませたら、まずはセジさんをカモりにきましたv」
「カモられるとも!」
「カモられんな!」

 笑顔で食い潰されようとしている賢者に一応の一喝をかますものの、賢者を見やる高魔導師の笑みにかつての悪意は
感じられない、ということは。

「良かったな」

 そう容易く長年の望みが叶うわけではなかろう。だが、悪漢は、漸く訪れた友の前進を一先ず祝う。華を喜びに満たし
賢者も頷きかけるものの、不意に笑みが消える。

「でも、おまえは……」
「気にすんな」

 己を案じる賢者を軽くあしらうと、悪漢は黙ったまま念話を紡いだ。

『悪ィ、今牛乳屋の辺りにいんだけどよ、来れるか?』
『はい』

 淑やかな声が、悪漢の心に響く。突如黙した悪漢を、不審の目で賢者が眺めて暫くもしないうちに、奇妙な組み合わせである
三者の元に駆け寄ってくる者がいた。その形からすれば、女の暗殺者と見える。
 やがて、やや息を切らせた暗殺者は、悪漢の傍らに控えた。暗殺者という血生臭い職にも拘らず、その娘は気品に溢れて
いた。覚えなき者に賢者が首を捻りかけた瞬間、悪漢は事も無げに言ってのけた。

「俺の彼女」
「初めまして」

 丁寧に頭を下げる暗殺者、何より悪漢の言に、賢者は暫しあんぐりと口を開けた。やがて

「……何だよそれえええええ!」
「いやまあ色々あったんだよ悪ィか!」

 拳をわなわなと震わせる賢者の叫びを、悪漢はそれ以上の声音で掻き消す。
 以前、色街を訪れた悪漢が一夜のみを共にした女の魔導師がいたのだが、彼女を探し色街をうろつくうちに出会ったのが、
この暗殺者だった。暗殺者といっても、出自はプロンテラ城への出入りを許されている高貴な家柄である。だが、父に反逆の
汚名を着せ、彼ら一族を没落に追い込んだ政敵を許すことが出来ず、彼女は暗殺者の道を志した。
 だが、この世を渡るだけならまだしも、より優れた技を、武具を求める際に物を言うのは金だ。故に、彼女は自らの身を
売ってまで日夜復讐を心に刻んでいた。なれど、知らぬとは言え、彼女は討つべき仇の息子に体を与えてしまった。
 元々貞淑を旨としていた彼女が心に負った傷は計り知れず、僅かな金と引き換えに己を投げ出し、生ける人形の如き日々を
過ごしていた彼女は、魔導師を捜し求めていた悪漢と知り合い、時を重ねるごとに引かれあったという次第だ。
 今は悪漢とも話し合った末、過去を認めた上で、改めて一人の冒険者として生きると決めてはいる。しかし、これまで彼女が
味わってきた辛酸を、己が無遠慮に晒して良い訳がない。故に言葉を濁したのだが、この賢者には異性と交友を持つこと自体が
裏切りと映ったらしい。
378363 9/9sage :2005/04/11(月) 00:41 ID:YKFJdbpw
「ずるいずるいずるい! 二人で真の魔法使いになろうと固く誓ったのは嘘だったのかい!?」
「断じて誓ってねえ! ……こんなんなるから言い出せなかったんだよ畜生」

 一部に広がる俗信を持ち出し喚き出す賢者に脱力し、悪漢は赤毛をくしゃくしゃと掻き乱す。方や、眉端を下げ困惑を示す
悪漢を見上げた暗殺者はくすりと笑みを洩らし、

「いつもセージさんのことを心配していたのに」
「言うんじゃねえッ」

 荒げた口調の叱責も、面を逆毛宛ら真っ赤にしては、迫力がない。ますます決まり悪げに頭を掻く悪漢を、賢者はまじまじと
見詰める。

「ローグ君……」

 黙って視線を逸らす悪漢に賢者は真顔で告げる、

「NOT殺戮マシーンなアサ娘ってのもありだね」

 瞬間、杖と膝蹴りが飛んだのは言うまでもない。

「あーあ、漸く俺の肩の荷も降りたな」
「どぅでしょぅかぁ」
「怖いこと言わないでくれたまえリリィちゃん……」

 何はともあれ、伸びをしつつ開放を味わう悪漢の言を聞き咎めた高魔導師の甘く辛い囁きが、賢者を抉る。けれど、高魔導師は
媚を投げ打ち不遜に笑むと、圧し掛かる不安に肩を落とす賢者を見据える。

「改めてお互いを見る時間も必要でしょ。焦らないの」
「……そうだね」

 まだ急いていた己を突きつけられ、賢者は思わず苦笑する。時間は幾らでもある、職と装備以外に目を凝らすこともできるだろう。
 賢者、高魔導師、暗殺者、それに巨鳥を見渡し、悪漢は感慨深げに呟く。

「これで四人と一匹になったってわけか」
「でも、二人は……」

 暗殺者には己の所為で強いていた別離を、高魔導師には突如強いる共同を案じ、賢者は二人を見やるが、

「私は構いません」
「大勢の方が楽しぃですぅ」

 彼女らの答えは、賛だった。晴れやかな相貌に偽りが隠れる余地はない。
 新たなる連れを眺め頷いた悪漢は、傍らの賢者に目をやると、

「まああれだ、どっちかが墓に入るまでは馬鹿やってこうぜ」
「だな」
「墓に入ってからも油断すんなよ」
「それは僕の台詞だよ、ローグ君」

 二人顔を見合わせ固い契りを交わし、悪漢と賢者は不敵に笑んだ。
 プロンテラの天は高く蒼く、新たに旅立つ四人と一匹を祝していた。


 最後に、彼らは巨万の富を手に入れることもなければ、世界を救うこともないだろう。しかし、生きることそのものが冒険で
あるならば、彼らは天に召される日まで、ルーンミッドガッツの冒険者であり続けた。
 故に、蛇足を憂い、その後を綴ることはしない。けれど、彼らがあの日交わした約束を果たしたことは、確かなのだ。
 私に言えるのは、それだけだ。


「ひい爺ちゃんたちのログ、取り敢えずこんな〆でいいのかなあ?」
「いんじゃね?」

 熱溢れるモロクのある家屋の中、若き日の曽祖父母達、そして初代の巨鳥の姿を焼き付けたSSを分厚い書物に貼り付けると、
男の見習は傍らに立ち覗き込むもう一人の見習を見上げた。机に向かい問うた見習は曽祖父母譲りの芙蓉を、問われた見習は
曽祖父譲りの藪睨みを備えている。

 ルーンミッドガッツは続いていく。これまでも、これからも。
379363sage :2005/04/11(月) 00:44 ID:YKFJdbpw
レス、有り難うございました。
男×男でないので申し訳ないのですが、ホモネタもあるため、
こちらに投下させて頂きました。
萌エロは男女の方ですので御注意を。
380名無しさん(*´Д`)ハァハァsageハンタプリ:花見 :2005/04/11(月) 18:48 ID:JFVhRh5U
夜闇の中、風に揺れる桜の木は、まるで仄かに白く光るようだった。
春とはいえ、まだ夜風は大分冷たい。
桜の木の下に敷かれた茣蓙の上、男プリーストは寒そうに法衣の胸元を掻き寄せた。
「そろそろ帰ろうよ」
そう言ってプリーストが横を見れば、
幾本もの酒の空き瓶と共に、一人の青年が目を閉じて寝転がっている。
衣服からみるにハンターではあるが、
その彼の手に握られているのは弓ではなく、やはり酒の空き瓶である。
穏やかな顔には笑みが浮かんでおり、暗い中でも酔っ払っている事が容易に見て取れた。
プリーストの声に、ハンターは閉じていた目を薄く開いた。
「んー、もうちょっとー」
戻ってきた答えに、プリーストはやれやれと肩を竦めた。
帰ろう、という提案に、もうちょっと、と返される。
そのやり取りは、プリーストが覚えているだけで既に三回は繰り返されていた。
最初に声を掛けた時より、風は格段に冷たくなってきていた。
このままでは風邪をひきかねない。
仕方なく、プリーストは実力行使に出ることにした。
「もう待てません」
そう言うと、プリーストは茣蓙の上に立ち上がった。
だが、ハンターに起き上がる気配は無い。
空き瓶を握っているのとは反対の手で、舞い降りてきた花弁を、戯れるようにして掴み取る。
今にも眠りに付きそうなハンターの顔を横目で覗き込みながら、プリーストが口を開く。
「おいてくよ」
「いいよー」
ハンターは表情一つ変えずにそう答えた。
けれど、そう言われたからと一人帰れるようなプリーストではなかった。
「そうもいかないって」
困ったような顔をするプリーストに、やはりハンターは静かに笑うだけだった。
381名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/04/11(月) 18:49 ID:JFVhRh5U
一度掻き合せた法衣の前をまた寛げ、プリーストは内ポケットに手を入れた。
中から取り出したのは、煙草とライター、それに携帯用の灰皿だった。
その辺に捨てれば良いのに、とハンターは言うのだが、プリーストは納得しないのだ。
煙草に火をつけ一服すると、プリーストはひとりごちた。
「明日も仕事なんだけどなあ」
「だからおいてっていいってば」
聞いていないと思っていたハンターが、そう返してきた。
てかさあ、とプリーストは煙草を手に取り、ハンターに向き直る。
「そっちも狩りあるんじゃないの?」
「そうだっけ」
「花見来る前に言ってたじゃない」
教会が運営する図書館で蔵書点検を行っていたプリーストの元に、
ハンターが花見に行こうと誘いに来たのは、確か夕暮れ前だった。
狩りの帰りだというハンターにプリーストが労いの言葉を掛ければ、
ハンターは明日も朝からギルドの仲間と狩りだと笑って言っていた。
「いいよ、すっぽかすから」
「良くないでしょ」
「つまんないのー」
ハンターは拗ねたような態度でそう呟いて顔を背けた。
が、ふと悪戯を思いついたような顔になると、上体を起こしてプリーストを振り返った。
「じゃあさ、おんぶして連れて帰ってよ」
そうしたら帰るから、とハンターが言えば、プリーストは無理だと首を横に振る。
「そんな事したら明日動けないって」
彼は顔をしかめると、そう言いながら腰を押さえた。
プリーストが蔵書点検を行っていた図書館は、かなり規模の小さい物であった。
とはいえ、重たい本を何冊も運んだり、体を屈めて本棚を覗き込んだりすれば、
腰が痛くなるのは必然である。
「そんなにハードなの?」
「ええもう凄い面倒」
それを知ってか知らずか問い掛けてくるハンターにそう返し、
でも、とプリーストは秘密を打ち明ける子供のような顔で微笑んで付け加えた。
「君に会える日を楽しみにしながら、毎日頑張ってるんです」
382名無しさん(*´Д`)ハァハァsageおしまい :2005/04/11(月) 18:50 ID:JFVhRh5U
すると、ハンターはぽかんとした顔をした後、いや、とかえーと、とか呟きながら頭を掻いた。
「俺、もしかして今思いっきり告白された?」
「したした」
あっさりとそう答えれば、ハンターはうわあと呟いて肩を竦めた。
「そんな風に言われたら、ますます帰りたくなくなくなるじゃん」
「ああそっか」
考えてなかった、とプリーストが笑えば、ハンターはやれやれと首を横に振った後、
静かに、その頭をプリーストの肩に乗せた。
「何?」
ハンターの指が、プリーストの法衣の裾を掴んでいた。
「ごめん、前言撤回させて」
顔を伏せたまま、ハンターが囁く。
「おいてかないで」
裾を掴む指に、力が篭った。
プリーストは微かに目を見開いたが、
しかし静かに微笑んで、ハンターの手に自らの手を重ねた。
「おいてかないよ」
そう囁いて、ハンターの手を優しく握り締める。
小さく肩を震わせて、ハンターが笑っていた。
あーあ、という呟きが唇から零れた。
「帰りたくないなぁ」
「うん」
同じように笑いながら、プリーストも頷いた。
「……でも、帰んなきゃね」
「……うん」
そう言いつつも、きっとしばらくは動けない事を、二人は知っている。
383名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/04/12(火) 03:13 ID:FtRwdpt6
>>379
楽しく読ませてもらいましたよ。私の友人は、「名も無き主人公たち」というテーマでSSを書いています。
彼等は友人の作り出した世界の中で小さなドラマを演じながら全体ではその世界を変えていきます。
>378の最後の方を読んで、なんとなくそいつ等のことを思い出してしまいました。GJ!
384名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/05/14(土) 16:22 ID:sErInet6
|д゚) ダレモイナイ

というより、そろそろ一杯だよん表示が出てるから書き込まないだけか?
文神様降臨を祈願しつつ、次スレの天麩羅考えたほうが良いかな。
個人的には本スレと萌エロスレのリンク、アプロダのある集会所と♂萌えSS投稿所のアドレスを追加したいんだがどうよ。
385名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/06/04(土) 13:45:30 ID:WzWpLJ6k
ダレモイラッシャラナイミタイダナア‥

♂萌を投稿したいのだけれど、スレの限界が心配で投稿できない(1/20)

エロにもできそうな話ですが、できたら次のスレに投稿したいです‥。
386名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/06/13(月) 23:38:41 ID:YGD3peeM
新スレ立てました。

◆みんなで創る小説Ragnarok ♂萌え2冊目◆
http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi/ROMoe/1118672802/

てことで>385、思う存分書いてくれ。
387名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/06/19(日) 11:26:28 ID:tKsPjtsY
とりあえずこっちで質問
385のtxt最後の4行めと3行目文字化けしてるみたいなんだけど
なんて書いてあるんでしょう?
うちの環境だと

(//A//)
(//ー//)
って見えるんだけど なんて書いてあるの?
388名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/06/19(日) 12:48:28 ID:Qzl/oZCQ
>>387
それは顔文字ではないのか?
少々やりすぎな気もするが。
389名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/06/19(日) 22:00:22 ID:tKsPjtsY
なるほど顔文字だったのか…
390358sage :2005/06/19(日) 22:59:49 ID:TTGHGKJM
ごめんなさい。
SS不慣れなもので、どうにか上手く感情表現をしたいと思いまして‥。
ちょっとやりすぎでしたかね‥OTZ
391名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/06/19(日) 23:01:54 ID:TTGHGKJM
↑58でなくて85です‥OTZ
392名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/06/28(火) 18:50:28 ID:awctdwSU
コッソリ。
♂萌え板初参入なのですが、質問。

やっぱりカップリングじゃないと萌えには入りませんでしょうか。ただのキャラ愛SSはスレ違い?(・ω・`)

♂wizzzzzVS♂アサスィンのSSを書いてみましたよと
カップリング要素欠片も無い場合だめぽですかね_| ̄|○
393名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/06/28(火) 19:04:37 ID:awctdwSU
誤爆来ましたよコレorz
すみません、逝って来ます
394名無しさん(*´Д`)ハァハァsage :2005/07/05(火) 00:02:53 ID:ZR1KOCy.
新スレ

◆みんなで創る小説Ragnarok ♂萌え2冊目◆
http://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi/ROMoe/1118672802/

全部 最新50
DAT2HTML 0.35e(skin30-2D_2ch) Converted.