二人を照らすのは、オレンジ色のささやかな照明だけで、それの光を受けているのはセイレンの背中。 欲望に身を任せている訳じゃない。その言葉通りか、それとも持ち前の理性の防波堤で堰き止められているのか。 軽く、とも、深く、とも言えない唇の愛撫。舌は動かない。 煩わしかった。抑えが利かないなんて、大嘘だ。十分御し切れてるじゃないか。 もっとセイレンの体温を感じたかった。犯されるみたいに無理やりだって、全然構いはしなかった。 それでも、まどろっこしい愛撫は、ハワードが求めるまで続いた。 「ふぅ…は、セイレン…」 「ん…何だ?」 陰で暗くなっていても、その表情は熱っぽかったのがすぐに見分けられた。 「その…さ、物足んないって言うか…」 「えーと…その、深い?方をすれば、いいのか?」 まだよく分かっていないらしい。それもそうだ。恐らくこいつは人間だった頃も、まして生体兵器となってからも、女性経験は一度もあるまい。 頼りない表情にはいつもの心強さがない。そんな表情も、今までハワードは一度も見た事がなかった。 「その顔…俺しか見てないんだよな…」 「ん?」 「あ、いや、こっちの話さ」 自分しか知らないという事に喜びを覚えた。 いつも笑顔か難しい表情しか見せないセイレンには、それ以外の感情が無いのではと思わせる程感情の起伏がない。 それがこうして恥ずかしそうに困っているのだ。どうしたら自分を満足させられるのか。俺の為に、こうした表情を見せているんだ。 「ん…しても、いいか?」 マーガレッタから無理に植え付けられた知識を紐解いていたのだろう。眼には落ち着きがあった。 しかし、絡められた指からは、少しだけ震えが伝わってくる。どうしたらいいか理屈だけでは分かっていても、実際にそれを出来るか自信が無いのだろう。 俺は指を外し脇の下から手を回して、ぎゅうっと互いの身体を密着させる。そして、真正面からセイレンの眼を見詰める。 ゆっくりと、本当にゆっくりとセイレンの唇が落ちていく。急に見詰め合っているのが恥ずかしくなり、眼を瞑ってしまう。息が触れる。鼻にかかっただけで全身にぞくぞくっと快感が走り、それだけで達してしまいそうになる。 (う…そだろ。何で、こんなに…?あぅ…手、頬触るなぁ…) じわじわと、掌の温度が染み込んでくる。むず痒い。触れられた部分から力が抜けていく。言いようも無い脱力感が襲う。だが逆に、このまま全部委ねてしまいたい気持ちもあった。 スーと、粉を被ったようなさらさらした指が顎を伝って首を擦る。以前、剣を振ってるのに何でそんなに綺麗なのか聞いた所、セイレンはこんな事を言ったはずだ。 セニアの頭を撫でる時、ざらついた手ではな…と。開いた口が塞がらなかったのと同時に、情けなくも嫉妬さえ覚えたのを思いだす。 一度、頭を撫でてくれと言った事がある。武器の報酬に、と言って、撫でてくれるまで渡さなかったのだ。セイレンは若干警戒しつつも、セニアを撫でるのと同様の、慈愛に溢れた掌でゆっくりと撫でてくれた。 異様な光景だったに違いない。大の大人の男同士が頭を撫で、撫でられているのだ。アルマに見つかれば、まず騎士団に怪しい噂が立つのは確定事項であっただろう。 それでも撫でてもらったのは、何だろう、セニアに対する意地だったのかも知れない。 こんな風に過去を振り返っていても、流れ着く吐息、指の所作は極上の快楽をハワードに与え、現実への回帰を促していた。 「いくぞ…」 本当に小声で、自分に言い聞かせるようにセイレンが呟く。心臓がドクンと高鳴る。願っていたはずなのに、怖くなる。満たされる事で、また深い欲望を抱く。そしてまた…無限に求め続ける事になってしまうのだ。 それで、セイレンは嫌になったりしないだろうか?深くなる欲望を、疎く感じたりはしないだろうか?セイレンに嫌われる事。それが怖かった。 触れる直前だった。わざとすれ違いに顔を背け、耳と耳がくっ付くまで、腕でセイレンを抱き締めて自分を持ち上げる。 「…怖い、か」 くるんと身体を捻り、ハワードがセイレンに覆い被さるような形に姿勢を変える。背に置かれた手は泣く子をあやすように上下していた。 「ご、ごめんな…自分から言い出したのにさ…」 「いや、私も躊躇っていた部分があった…。止め処なく君を求め過ぎてしまうかも、知れなかったからな」 そう言って、ふぅ〜っと深呼吸をする。胸ごしでも分かる。ドクンドクンと、脈が伝わる。ハワードの身体を揺すっている。 ─もしかして、セイレンも俺と同じ事考えてたのか…? 都合の良い解釈かも知れない。それでも構いはしない。さっきまでセイレンもやる気だったんだ。それに、女は気まぐれな物だって言うだろう。 震えながらも身体を浮かす。微々たる光を反射して、うっすら輝く唇は、誘うように少しだけもぞっと動いた。 「ハワード…」 眉の間に皺を作ってこちらを見詰める瞳は、僅かな威圧感が篭っていた。それでも、止まらない。恋する乙女は盲目だと言うじゃないか。 唇を舌でなぞって濡らす。躊躇いも恐怖も無い。全ては欲望に押しつぶされ、支配されていた。 「ん…」 ─はは…へたれだわ。 ハワードは無意識に頬に口付けていた。マウストゥマウスではないからか、すんなりと舌も口内から這い出てくる。 ベターっと、ナメクジの様に舐め上げる。先程と同じ感覚が全身に染み渡っていく。急に舌や唇を除いて、全身から染み出すように力が抜けていく。 セイレンの腕が動く。指が絡み、なぞられ、擦られる。痺れがハワードの舌を麻痺させる。逃げたいのに、手に力が入らず、為すがままにされる。 「ん…ふぁ、セイ、レン…ん。俺、何か…ぁぁ」 愛撫に応える事すらできない程に、セイレンの熱でドロドロに溶けている。駄目だ。思考が狂う。 ふいにセイレンの唇が眼に入る。まるで赤い飴のように見える。とっても、甘そうに。 悦びに揺さぶられる身体をどうにか支配し、セイレンを真上から見る。唾液が落ちる。唇にかかって、より一層、艶めかしい光を放つ。 理性が身体を支配できていたのも、そこまでだった。ゆっくりには制御できたものの、互いの額がぴったりとくっ付く。視線はぐちゃぐちゃに絡んで、どれだけ引っ張っても千切れそうにない。 「もう…はぁ…あぅぅ」 「…大丈夫か?」 「だ、大丈夫な訳ないだろ…だ、めぇ…唇…くっ、つくっ」 必死に重力に、脱力感に抗うものの、ハワードを嘲笑うかのように、焦らすように近づく。 したい、けど、しちゃったら…。相反する気持ちが混ざり合い、濁流となって思考を掻き混ぜる。ほんの数秒なのに、滅茶苦茶に混乱する。 唇が触れた。弾力はあるものの、徐々に沈んでいく。暖かい。唇の内部が少しだけ触れ合う。ちゅうっと弱く吸うと、セイレンの唾液が滑り込んできた。 あまい。そして、全然足りない。カトリーヌは、いつもこんな感覚なんだろうか…そんな事を浮かべる余裕も、すぐに消し去られる。 セイレンの舌が、前歯に触れる。 歯と唇の間、歯茎の辺りを這う。奥まで舌を突きこんでこないのは、多分、俺が触れるのを待っているんだ。 良く言えば気遣い、悪く言えば意気地なし、と言った所で、俺は前者だと、世界人口10割を相手に叫んでやれる。まぁ、もう少し攻勢に出てもいいんじゃないかとも思うが。 互いの舌が触れ合う。その熱さに驚いて一瞬離してしまったけど、すぐに捕まえる。けれど、それだけでは済まない。セイレンの口内まで一気に貫き、舌の根元から自分の中へ引き込む。 舌の面積が全て重なる。二度三度舐め合い、両方とも名残惜しそうに舌を引き抜く。だらしなく開いた口から雫が落ち、ハワードの眼は涙に濡れる。 「ひぅ…や、まだ…足りない…もっと、セイレン…は、ぁ」 呂律が回らない。舌が熱を持って、膿んでいるような疼きを感じる。食い付くように唇を押し付け、躊躇なしに舌を絡め取る。 ぎこちなく動くセイレンに合わせる余裕が無い。触れれば触れるだけ、身体が熱を欲する。暖かい沼に沈んでいくような感覚がハワードを包む。 「ん、ふぅぁ…じゅぅ……んん、ふぁ……んぅ…?」 互いのものが絡まったまま、急に浮遊感を感じた。セイレンは片手でハワードの身体を支えつつ身を起こし、セイレンのふとももにハワードが座るような形になる。 「ん…起きなく、ても…ちゅぅ…いいのに…」 「んぷ…君に主導権を握られ、ていたら、身が持ちそうにないからな…」 水音に邪魔され途切れ途切れの言葉が、暗い部屋に弱く響く。ハワードの身体は小さく華奢だった。セイレンに乗っている体勢なのだが、それでも目線はセイレンの方が僅かに高かった。 後頭部に手が添えられ、触れるか触れないかの微妙な力加減で髪が撫でられる。熱は無い。与えられるのは温もりと、それに伴う安堵感だけで、より深くセイレンの肢体に沈ませていく。 ハワードの手は寝巻きの襟をきゅっと掴んでいたが、身体を支える役割は果たさぬままだ。 一瞬二人の唇が離れる。が、舌は外気に触れても結び合ったままで、すぐに涎で濁る唇はぺちゃっと音を立て、またお互いの舌を舐め、唾液を味わい、吐息を感じながら互いを弄り始める。 「あむぅ……んく、ちゅぅ…ん…んぐ…ふぅっ」 眼は開かない。開けられない、と言った方が正しいのだろうか。視線を感じる訳ではないのだが、眼を開けると、同時にセイレンも眼を開きそうだったからだ。 もし目線が合ってしまったら、今度こそセイレンにペースを持っていかれる。まるでゴーゴンの眼を見てしまったみたいに、身体が動かなくなってしまうから。 ぞくっと虫唾が走った。 「ん、くぁ…!」 「…首筋が弱点か」 キスに夢中になっていたせいで、髪を撫でていた手が蠢くのに気づかなかった。手は舌程の動きはしていなかった。掌がギューっと押し付けるられる。 焼けるように熱い。そして、触れられた部分からビリビリと絶え間無く放たれる電流が体中を這い回る。身体が震え、眼一杯に溜まった涙が一粒、殆ど皮膚に留まる事無くシーツに落ちる。 「ふぁ…やだぁ……セイ、レ…やめぇ…ん、ちゅぷ……」 返事は無い。打って変わりセイレンが攻めに転じ、ハワードを一方的に弄る。 どうにか身体を離そうと腕に力を入れようとするが、不規則にハワードを苛める痺れのせいで殆ど力が入らないばかりか、少しでも力を入れれば、ぎゅうっと抱き寄せられてしまう。 しかし、そこに悪意は介在しない。子供の悪戯のような、相手の反応を愉しむ物だ。 手の動きが、指の動きが変わる。先程までは綺麗に揃えられハワードの首に焼き付けられていただけだったが、今度は柔らかく抓ったり、それを捏ね繰り回したりといった仕草が加わる。 舌は依然絡まったままだ。ハワードの腕は表層意識を無視し、セイレンの身体を引き寄せてすらいた。 ハワードの唇の端から唾液が漏れる。目聡く察し、セイレンはそれを掬おうと舌を伸ばそうとするが、ハワードはそれを良しとしなかった。 「はぅ…駄目だぞ…っ…ちゃん、と、してないと……」 セイレンはいやらしい笑みを浮かべ、わざと唇を離す。 「やめろ、と言ったは誰だったかな…?」 ゆっくりと、首からも暖かみが薄れていく。 「うぅ…意地悪だぁ…」 顔をセイレンの胸に埋める。寝巻きに悲しみではない涙が染み込んでいく。 頭に手が添えられ、撫でられる。たまに頬を触ったりして、その熱に慣れた所で離される。 「うぅ〜…セイレン…後で覚えてろぉ…」 「後で、な。今は?」 言い返せない。僅かな反抗に襟を無為にいじいじと引っ張る。鎖骨が最初に見え、そこからすぐ上に首が見える。 セイレンだって弱いかも、と考えた訳ではなく、ただ単に舌先に暖かさが欲しかっただけだった。 ちゅ、ちゅっと啄ばむように慣らしてから、舌で気管と筋肉の筋の間にある窪みをなぞる。 意識しない内に、顎と首の付け根の境に鼻と舌を埋めていた。ぐりぐりっと鼻を押し付けながら、唇で噛み付く。宛ら、飼い主に構って貰えないペットのようである。 物足りない。首にも頬にも、口内や舌のような熱さがない。 セイレンを見上げる。ん?と惚けたような表情が恨めしい。畜生、精一杯の捨て犬顔をしてやってるってのに。 「…何でそんなに意地悪なんだよぅっ」 理不尽には理不尽で返すしかない。癇癪を起こした子供のように両腕をブンブンと振る。 ふぅっと鼻息をつき、諦めたようにいやらしい笑みが剥がれていく。いつものより、ちょっと熱っぽい優しい笑顔に戻った。 肩から腕を抱きしめられ、お互いの息が分かる距離まで、しかも真正面に抱き寄せられる。 「…どうも君は素直じゃないな」 「セ、セイレンだって、したくないのかよ」 「それは勿論だが…そうだな、あまり肉体関係に関心はないんだ」 そう言って、柔らかく抱きしめられる。今まで一番セイレンの体温を感じられる。不意に眠気に襲われるくらいに、気持ちよかった。 「こういう風にな、抱き合っているだけで十分なんだ」 「謙虚な奴だなぁ…損するぞ?」 「それは捉え方によるさ、私は十分幸せだ」 暗いはずなのに、眩しいくらいの笑顔が向けられているのが分かった。安らぎに満ちているというか、見ているこっちが幸せになるような笑顔だ。 もしかして、こいつはこうやって他人に幸せを分けてるから貧乏くじばっか引いてるんじゃぁ、等と夢想も浮かび上がる。 でも、俺は足りない。そりゃ気持ち良い事には千も同意だが、これは寝る時だとかそういう…落ち着く気持ちよさだ。 俺が欲しいのは、もっとこう熱い、セイレンに包まれるんじゃなくて、溶け込むようなのが欲しいんだ。 「それはまた…無理難題と言わざるをえないな」 そう言いつつ、頭を撫でてくる。全然手を出してくれないセイレンに、ちょっとだけ卑屈になっていじける。 「うー…だったら、その…キ、キスくらいいいだろ?」 意識しない内に、というか不可抗力で胸元から見上げる。どうやら破壊力抜群だったようで、セイレンは視線から逃げ出す。 「…改まってするとなると、恥ずかしいものだな」 「セイレンがやめたんだからな…」 だからお前からしろ、と言葉等無くとも伝わった。チラっとハワードを見る。恨みがましそうにこちらを見詰める眼は、熱っぽく潤んでいた。 両手が犬の伏せのように綺麗に揃えられて、胸元にぴったりとくっ付いている。意識すると触れられている部分が熱くなって、脳まで煮えてきそうになる。 頭をボリボリと掻いて気を紛らわせる。仕方あるまい。 「ひゃ…ぅ」 首へ指を滑らせ、くすぐるように動かす。それだけで白く見えそうな程熱い吐息が漏れる。 「ん…んぅ…セイレン……指、で誤魔化すなぁ…ふぁ」 バレたか、と少し苦笑い。 涙ながらに睨んでくるものの、快楽に耐えてふるふる震えているのが分かって、ちっとも怖くないばかりか、逆に愛しささえ覚える。 手の動きを止め、ハワードの唇に沿わせる。すぐにそれは暖かい肉壁に包まれ、ざらざらした舌で唾液を塗り付けられる。呆けた口から指を引き抜く。糸が伸びたが、それはすぐに切れて唇の端からおとがいへ垂れ下がる。 ハワードの表情は先程とは比べ物にならない位、不安定な物だった。少しでも指を触れれば、崩れてしまいそうな程脆く見えた。 「うぁ…セイ、レン…!」 胸元に置かれた手が滑り、手は首の後ろに、柔らかい二つの乳房は潰れる程強く、胸に押し付けられる。 二人の距離が限りなく近くなる。セイレンの顎の辺りを、蒸れた吐息が濡らしていく。 「もう…はぁ……駄目だよぅ…っ」 ぽろっと零れた雫はとても小さかったけれど、セイレンの理性を溶かすには少しばかり多すぎた。 唇が触れ、舌が絡んだのを確認してから、ハワードの腰と肩を力一杯に抱きしめる。 「ちゅぅ……ふぅ、はぁ…ん…ちゅく…んふ、ぁ」 興奮しすぎたせいなのか、息が持たなかった。深呼吸するのも気が引けるので、少し距離を置いて息を整えようと、舌を離す。 「あ…あぁ、だめ…つば、持ってくなぁ…」 まるで子供みたいで、暴走してしまいそうな程セイレンの支配欲を駆り立てたが何とか抑え、優しく、撫でるように溶け合わせる。 「じゅるる…ん、こく……ふぁぁ……あまい…」 「甘い…か?」 「う…ん、はぁ…まだぁ…せいれん…」 もっともっとと強請るハワードが可愛くて仕方なかった。もう、体面等知ったことか。 肩から手を戻し、三度目の首の愛撫に入る。ピクンと、一瞬だけ舌が硬直するが、すぐに唾液と一緒になって溶ける。 「ん……ちゅぷ…ぷぁっ、ふ…ん……くぅん…」 まだ切なそうな声が聞こえてくる。一体どうしろと言うんだ? ぎゅうっと少し強く首の皮を摘んだ時だった。眼を見開いたかと思うと、とろんと元に戻り、ふにゃ〜っと舌をセイレンに預けたまま崩れる。 「ん…んぁ……それ…やぁ…ひゃぅ…!」 少し痛みがある方が気持ちいいようだ。調子に乗って断続的に続けていると、ハワードが二の腕を抓ってきた。 「も…あ、だめ…だぁ…きちゃ、あぅ…う…からぁ…ふあんっ」 ま、まさか、とセイレンは驚きを露にせざるをえなかった。まだキスと、ちょっとした悪戯のような愛撫をしただけのはず。 変態の面々に囲まれていたお陰で知識だけはあったが、絶頂というのはこんなにも早く来る物だとは知らなかった。マーガレッタは敏感な方でも乳房に愛撫を加えた時に、と言っていたが…。 きゅうっと縋るようにハワードの指が押し込められる。やめる気は、起きなかった。 「あ…く、る…ふぁっ…や…ふ、んぅ…せ、れん…」 「どうした…?」 「ちゃん、と…ふぁ、舌、離さないで…腕、も…くちゅ…抱き締めて、てぇ…」 何かを怖がっているような、快楽では無く怯えに震えているのが分かった。 話は変わるが、女性のオーガニズムは、男性のそれとは比較にならないという。射精感と、陰茎が膣内を擦る事で得られる快感は同程度なのだそうだ。 ハワードも男性の頃─と言っても数時間前だが─に、流石に溜まった物を処理していたと思われる。 だが、それ故に怖いのだろう。なまじ男の弱い─女性に比べ─絶頂感を知っているせいだ。そう考えてしまうと、罪悪感を感じざるをえなくなる。 自然と指遣いも落ち着く。けれど、与えられ続けた快楽に、ハワードは脆く崩れる。 「ふ…ぁ…!」 まるで体重をすっと引き抜かれたような感覚に襲われた直後、自分の中で小さな風船が破裂した。 暗闇がすぅっと消え、中心の焦点から一気に白へ塗りつぶされる。全身に雷が落ちたような、意識を吹き飛ばしそうな痺れが襲う。 痙攣しているのが分かる。舌も動かない。糸の繊維一本で繋がる意識を手繰り寄せ、ギリギリの所で踏みとどまる。 筋肉の振動が治まったと同時に、ふらっと目眩の様な感覚を受け、力が抜けた。 セイレンの腕がそれを支える。少し無理があったが、口付けたままハワードの頭を肩にもたれさせる。 「ん…」 暫く虚ろな眼でどことも無く意識を飛ばしていたハワードが覚醒する。とは言っても、まだぽわ〜んと半分寝ぼけているような感じである。 舌が絡まっているのに気づき、まだ力の入らない腕を震わせて、奥深くへ侵入させる。 意外にもすぐに舌が這い出る。セイレンの横にハワードがいるので、唾液の綱はセイレンの頬に一本の線を引く。 セイレンの肩を枕に気を落ち着かせる。 余韻が残っている。男の頃とはまったく違う。射精感は外に爆発させるような感覚だが、今回のこれは、身体の内で自身の意識を吹き飛ばした。 まるで鐘のような、段々小さくなっていく絶頂感を少し勿体無く思いながら、その傍ら意識をはっきりさせていく。 「何か…凄かった」 「…大丈夫か?」 「段々平気になってきたかな…でもお前、ずっと見てるなんて酷いぞ」 ぷぅ〜っと頬を膨らませて不機嫌を露にする。髪を梳き、頬を撫でてからやっと口を開く。 「ずっと見る?何をだ」 「首撫でてる間…ずっと見てた」 あぁ、と納得する。確かに眼を開いたままだった。 「それが、どうかしたか?」 「うー…だって、あんな顔恥ずかしいからさ…」 あんな顔とは。かわいかったぞ? そう言ってやると、ハワードの表情が凍り、それと対するように顔色は茹蛸になる。 あ、あぅ、と少し狼狽した後、セイレンの首と顎の間接の間に顔を埋める。 「…どうしてそんな恥ずかしい事言えるんだよ…っ」 「恥ずかしいか?私は本心を言ったのだが…」 「うぅ…そんな事言ってるからカトリ達から男扱いされないんだぞ…」 「ふむ。まぁ、今は君がいるからいいさ」 脳髄が沸騰する。頭の上から湯気が立つ。 どうしてこいつは恥ずかしい事を堂々言えるんだ? ずるいぞ。俺だって一杯一杯言いたい事があるのに、全部言えない。 ぐちゃぐちゃと言葉が絡まって動かなくなる。そんな中でたった一言、好き、と囁かれるように聞こえる。 自分の心の中でしか響かない声に反応し、余計に熱が上がる。 きっとそんな事等感知せず、今も涼しい顔で微笑んでいるに違いない。 「このぉ、セイレンばっかりずるいぞっ」 「うわ」 セイレンの肩を掴んで押し倒す。素早く後退し、セイレンの下腹部より下の膨れた部分に触れる。 手が重ねるが、一歩遅かった。スリスリと撫でられ、初めて表情を歪める。 それに見惚れて手の動きが緩慢になってしまっていたのに気づき、両手で注意深く刺激を与える。 膨れたそれは、比較的厚い生地の上からでも、焼けるような熱さを放っていた。自然と、零れる息にも熱が篭る。 「気持ちいいか…?」 「く…あ…ハワ、よせ……くそ」 今までどんな傷を受けても、例え絶命する程の痛みに耐えていた時も、こんな表情は見せなかった。 自らの記憶を掘り起こす。確か、自分の股間にあったそれは、凶器にも見える程そそり立っていた。 それが押さえつけられているのだ。もしかしたら痛いのかもしれない。 自分が見ていたいのは、そんな物じゃない。 「ハ、ハワード…!?」 腰を引くセイレンには構わず、寝巻きのゴムに手を掛けてずり下ろす。 まるでゴム仕掛けのように、突如としてそれはハワードの目の前へ現れる。 開いた口が塞がらない、とはまさにこの事だ。その大きさに眼を見張り、硬直してしまう。 「う…わ…」 セイレンは何も言わず眼を逸らすだけだけだった。ただハワードと同じように、リンゴの如く真っ赤に頬を染めていたに違いない。 震える手が竿に触れる。熱い。指先が火傷してしまいそうだ。それでも、掌を使って包み込む。 亀頭が充血し、痛いほど膨れていた。先程のセイレンの表情も合わせ、それが痛いのかと勘違いする。 「セイレン…痛い、のか?」 「く…そ、離…せ」 実際には柔らかい手の感触が気持ちよくて、何とか耐えていたのだが。 急にじわっと染み込むような感覚が下腹部のそれから感じられ、眼をやる。 泣きそうになりながら、陰茎を頬張ろうと口を開けるハワードがいた。 「ば…よせ、そんな物…」 「で、でも、舐めれば…その、気持ちよくなるんだろ…?」 大丈夫だから、と言って、更に震える唇が近づく。大丈夫じゃないのはハワードではなく私だ。 手でハワードの額を押して離そうとするも、中々力が入らずに、まったく無為の業となっていた。 亀頭に舌が触れる。 先程の感覚は、多分吐息だったのだろう。すぐに消え去っていた。だが、今与えられた快感は、消え去る事なく陰茎を刺激していた。 震えながら、ハワードは徐々に亀頭を飲み込む。舌を亀頭の襞に絡めたり、尿道口から湧く先走りを掬う。 汗で蒸れた、むせ返るような匂いのはずなのだが、吐き気はない。まるで悪い薬でも嗅いでしまったように、頭がクラクラする。 「んく……じゅるる……ちゅぷ……んんぅ……」 「ぐ……は、やめ……」 言葉では抵抗しながらも、セイレンは堕ちつつあった。理性と本能の板ばさみ。本能に流されながら、小さな木片を頼りに浮き沈みを繰り返す。 「ふ…ん……ふぇいえん、ほうは……?」 「しゃ、喋るな……!」 夢中になってセイレンの陰茎を頬張っていたが、時々漏れるかわいい喘ぎ声に自我を取り戻し、セイレンの顔を見上げる。 痛みで歪んでいる訳ではない。さっきの自分と同様に、必死に抵抗しているんだ。 自分でもセイレンを気持ちよくできた事に嬉しくなった。口内に神経を集中させ、側壁や粘液のような唾液で精一杯愛撫する。 「じゅぷ……ふ……ちゅぅぅ……あふ……ん」 「ふ…んぅ、くぁぁ……もう、くぅ……!」 セイレンの身体が震えだす。鼻息も荒くなり、声も溢れる。絶頂が近い事を教えていた。 ハワードも陰茎を竿を含め、全て飲み込む。喉を圧迫し息苦しくなったが、何の事はない。そこからじゅるるっと音を立てて亀頭の先まで一気に吸い上げる。 射精に備え、尿道口の辺りを重点的に攻める。先走りを吸い出す。それすらも欲しくなって、舌の先端をぐりぐりと押し込み、奥の方を舐める。 「ハワード…はなれ……ろ!」 頭の中で閃光がいくつも炸裂する。歯を食い縛っても、拳を握り締めても耐えられようのない快感。身体中の血液が冷める。 唾液をだらしなく垂らしながら、絶頂へ上り詰める。 白濁が、理性の壁を打ち砕いた。 「く……はぁ…!」 「ん……んく」 ハワードの口内を精液が浸食していく。舌を染め、それでも止まらない白濁は零れだし、口腔を満たし始める。 「ハワ……何で離れなかったんだ……くぁっ」 尿道に残る精液も吸出し、漸く口を離す。 息を一度もしていなかったので、精液を飲み込まないように注意しながら深く息をする。 呆けるセイレンの顔を見て満足し、今度は閉じた口を指差す。 「…?」 「ん……こくんっ」 セイレンが石と化す。開いた唇を震わせながら、今見た光景が何なのか認知しようとする。 量が量なので一度では飲み込めず、何度かに分けて飲み干す。 喉元を通る時の熱さが気持ち良くて、調子に乗りすぎたのがいけなかった。 気管にひっかかり、むせ返ってしまう。けれど口元を両手で覆い、口の中に留める。 「ば…は、早く吐き出せ!」 涙を流したまま、ぶんぶんと首を振る。 落ち着くのを待ってから、最後にごくんっと、わざと聞かせるように飲み込んでやる。 ぷぁっと口を開ける。もわっと精液特有のたんぱく質の匂いが鼻を詰まらせるも、決して悪いものではなかった。 「何でそんなもの…」 「だって……勿体無いし」 「勿体無い…?」 「だって、男に戻っちゃったらこんな事してくれないだろ?だから…さ」 寂しそうな表情を見せながら、セイレンの胸に縋る。セイレンは何も言わずに、髪を梳く。 もし華奢だったら、女の様に見えれば、胸が無くても、男のそれがついていても、セイレンは抱き締めてくれるだろうか? そうだとしても、自分には無理だ。セイレンやセニア、トリス・アルマと、俺の武器を頼りにしている奴は多い。そういう物を造っていれば、自然と体躯は筋肉で覆われていく。 個人的な事情で鍛冶業をやめる訳にはいかない。だから、せめてこの時だけでも…。 はぁ〜っと、セイレンが溜息をついた。 「…君の言う通りだ。流石に、男を抱く事はできない」 やっぱり、と分かっていたけれど感情が波立つ。唇を噛んで震える、 突然肩を掴まれビクッとしながらも、それを受け入れ、セイレンの手に任せる。 押し倒すのではなく、寝かせるような緩慢な仕草でハワードの身体をベッドへ沈ませる。 額を額を触れ合わせる。眼を閉じたセイレンは言った。 「だから、君が男に戻っても私を求める事が無くなる位に、君を満たそう」 さっきまで噛み締めていた唇はポカンと開かれて、睫毛を振るわせた瞼も同様に見開かれる。 肩を包んでいた暖かい手はハワードの手に重ねられて、そこから伝わる体温は涙腺の堰を溶かす。 「それでは…駄目か?」 セイレンの眼は、悲しげに薄く開いていた。まるで謝っているように見え、首をオーバー過ぎる程振って否定する。 嘲るような笑いを残してセイレンは自分の身体を浮かし、ハワードの寝巻きの第一ボタンに手を掛ける。 器用に片手でボタンを外しながら、もう一方の手を絡ませる。指同士が互いを揉み解す様は、まるで貪り合う舌のようであった。 全てのボタンを外し終え、一旦手が離れ、両手が襟を掴む。 静かに、ゆっくりと、襟とハワードの肌の間に挟まった親指を滑らせ、柔らかくも弾力性に富むそれに触れ、動きを止める。 「脱がせるぞ?」 「う、うん…」 ぎゅうっと眼を瞑る。涙を抑えているのではなく、恥ずかしさからだ。 「ひゃん…っ」 生地の上から乳房の頂点が刺激される。セイレンが意図的に、乳房を押すように動かしていた。そのせいで生地のザラザラとした感触が、より深くハワードに伝わる。 やがて、乳房が空気に、セイレンの視界に曝される。相変わらずハワードは恥ずかしさから頬を紅潮させながら顔を在らぬ所へ向けていた。 上向きで重力をもろに受ける体勢であるのに、その豊かな胸は形を崩す事無く天を仰ぐ。 「うぅ…そんな見んなよ…」 「あ、いや、すまん…」 どうやら私も男ではあるようだ、と空しく認識させられる。 それにしても、本当に見惚れるようだ。人の身体とは思えぬ程の造形美である。 蜜に誘われた蜂の如く、紅く艶めくそれに口付ける。 「くぅ…ぁ、舌、熱いよぅ…」 唾液を舌で塗りつけ、くりくりと乳首を穿る。たまに強弱をつけて吸い、前歯で引っかくようにしたりもする。 息が持たなくなり口を離した時には、おわん型の乳房から突起が一つ、闇に浮かび上がっていた。 「胸は個人によって感度に差異があるというが、君は感じやすいみたいだな」 「お、お前がするからだっ」 「じゃあ、しないくていいんだな」 「…悪魔ぁ」 くすっと笑いかけてから、右手でおとがいを持ち上げてやる。 「君はこっちの方がいいかな」 「あ……んん」 すぐに舌が絡み、ハワードの方からも遠慮なく求めてくる。 唾液は吸わず、わざと隙間を作って水音を響かせる。 右手で胸も愛撫してやると、途端に舌の動きが鈍り、息も荒くなる。硬くなった乳首をこねくり回し、反応を楽しむ 段々と互いの唇が離れ、嬌声がはっきりとしていく。 「や…くぅん……キ、ス、でひない…からぁ」 涙ながらの懇願を無視し、唇を重ねる。 ハワードの口内に唾液を流し込むと、こくんこくんと可愛らしく咽頭を鳴らす。 互いに眼を開けたまま貪り合う。輝く眼がもっともっとと求めているように見え、奥深くへ舌をねじ込み、舌を裏側から抱くように絡ませる。 本格的にハワードの舌が動かなくなった所で、唾液をハワードに預けてから舌を抜く。 「ふぁ…」 「さて、と…」 「ひゃう!?」 太ももを撫でてやると、くすぐったそうに表情を歪める。 やがて手はトランクスに行き着き、セイレンは耐えかねたように苦笑する。 「しょ、しょうがないだろ。ちょっと前まで男だったんだから…」 アヒル口で拗ねたように睨まれるが、愛しさしか湧き上がらないのは、どうしてだろうか。 頭を撫でてやるとすぐに表情が柔らかくなり、猫のように目を細める。 「そう拗ねるな、ちゃんとするから」 「う、うん…」 大人しく従う姿が普段とのギャップでより一層可愛く見える。 緊張を解す為にすぐ下半身には触れず、腹部の辺りをくすぐるように撫でてから、下着へ手を伸ばす。 「ひぁっ」 女性器のある部分に触れる。まず感じたのはぬめりだ。下着にすっかり浸透し切っているどころか、外部へ溢れ出していた。 直接的な刺激を与えるのを避けたつもりだったが、性器にぴったり貼り付いてしまっていて、然程変わりは無かったようである。 「ハワード」 「あ、あんま見るなよ…?」 すんなりと脱げたが、女性器と繋がる糸は中々切れなかった。これが愛液という物だろうか?既に絶頂を迎えているのだ、おかしくはないのだろう。 アイコンタクトをとってから、小指で秘裂をなぞる。力を入れなくても、ただ擦られるだけで気持ちいいようだ。最初は甘い声を漏らしていたものの、今は口を両手で覆って必死に声を出すまいとしている。 「ふ…ん……っ!」 少し力を入れただけで、小指は陰唇に飲み込まれた。 言い表せない感覚だ。ゼリーとは違う。スライムとも言えない。無理やり言うなら頬の内側だろうか。とにかく人体の神秘と言える物だ。 徐々に指が埋もれていき、奥を擦る度にハワードの口から声が零れる。 全体が飲み込まれた所で、刺激しないようにゆっくりと引き抜く。つーっと糸を引き、水飴のように思えた。舐め取ってみると、すっぱさが口に広がった。 「それほど味がするという訳ではないんだな」 指を覆う液を舐めている途中、小指を抱いていた秘裂が眼に入る。 気づかない内にこんな事を口走っていた。 「…ハワード、ここ、舐めてみてもいいか?」 「ふぇ…?え、と」 さっきの愛撫はかなり気持ち良かった。心地よさでは、抱擁やキスには及ばないが。 でも、流石に舌を入れられるのは、という抵抗感がある。それ自体はいいのだが、思わぬ痴態を見せてしまいそうだ。 まぁ何にせよ、こういう結論に落ち着く訳だが。 …セイレンがしたいって言ってくれたんだし…な。 「し、したいなら…いいけど…」 「ん…上手く出来るか分からないが……」 嫌になったらすぐに言うんだぞ、と言ってから、それの目の前に顔を置く。 近くで見ると、淫猥な形をしているのがよく分かる。何をもってそう思うのかは分からないが、とにかく雄を引き付ける何かがそこにあった。 息が噴きかけただけでピクンと足が震える。秘裂全体を覆うように、唇を広げてしゃぶりつく。 こんこんと湧き出る愛液を吸う。いくら吸い出しても奥のほうから溢れてくる。 割れ目に舌を侵入させる。どうやって愛液が出てきたのか分からない程狭く、窮屈だった。中は暖かかく、舌を愛撫するようにうねうねと動いていた。 舌を中ほどまで入れ、汁を掻き出す。聞かせるように音を立てて吸い込み、喉を通す。今度は吸い出さず中を舐めてやり、快感を与える。 「せいれん……ひゃぅ、もっと、もっとしていいからぁ…」 涎を垂らしている事も気にせず、陰部を擦りつけて来る。 一気に舌を突きこみ、根元から舌を回すように動かして膣を押し広げる。唇で膣口を愛撫しながら、溢れる液を飲み干す。 中指を唾液で濡らし、舌と入れ替わりに挿入する。元から熱を持つ舌では感じられなかった温度が指を満たす。 全体が埋まった所で指を中ほどで折り曲げる。 「きゃう…!」 甘美な響きが耳を突付く。 このザラザラとした感覚。何でも女性の性器に中指を入れ、第二間接で折り曲げると指先付近に確認できるそうだ。 まだ快感に慣れていないハワードには、少々刺激が強すぎるように思える。中指を真っ直ぐ伸ばし、ゆっくりと出し入れする。 紅い頬を伝う粘液状のそれを舌で掬い、口内で自分の唾液と混ぜて、惚けたようにぽっかりと開く暗がりへ零す。 わざとらしくくちゃくちゃと口を開いたまま舌で味わう。飲み込むにも満たない量だ。 「せいれぇん……」 求められるがままに口付け、可愛らしく震える舌を撫でる。 ハワードの口内は甘い瘴気で満ち、私の理性を窒息させる。背中を叩かれ、ようやく唇が離れる。 そんな私を見て、ハワードは微笑む。 「セイレン、かわいいなぁ」 「…確かに、言われてみるとどうしてお前は、と思えるな」 「へ?……う、あぁ…」 自分の言葉に赤面し、視線を彷徨わせる。 「だ、だって、赤ん坊みたいにちゅうちゅうしてくるからぁ…っ」 さもセイレンのせいだ、と言わんばかりの言い草だ。 まぁ、そんな所もかわいいのだけれど。しかめっ面も、頬を撫でてやればすぐに上機嫌になって甘えてくれる。 いじめてやれば期待通りの反応をしてくれるし、ここまで女性、いや女の子らしい気質を持っていたとは意外という他ない。 「かわいい…か、君がそれで笑ってくれるなら構わないが」 「う〜〜…」 首に腕を回され、絶妙な力加減をもって眼前へと落とされる。 やっぱりセイレンは朴念仁だっ、と言い捨て、強引に唇を奪われる。 強引にされたにしては勢いがなく、のろのろとしている。ただそれで十分なようであり、んふふっと機嫌良く鼻で笑っている。 どうやら私は加虐趣味に目覚めつつある、Sの素質があるのかも知れない。 「や……二本…はぁ…」 ワレメに人差し指を滑り込ませる。片方ずつ違う動きをさせると、卑猥な水音が薄暗い部屋に木霊した。 それを否定するように、口淫は激しさを増す。 「ちゅぅ…んぅ……それしひゃ…ちゅく…ふぅん……らめぇ…!」 拒まれればそれだけしたくなるものだ。 Gスポットを重点的に攻め絶頂を促す。自分では気づいてはいないのか腰はいやらしく蠢き、愛撫をより激しい物にしていた。 中指に弾みをつけて突いた時、膣がきゅうっと締まり、痙攣し始めた。 「せい…れんん……ひゃんとぉ…口、ふはいで……!!」 ぴったりと唇同士をくっつけ、押し付ける。 規則的な収縮運動が続いた後、一段と狭まったのがサインだった。 「ん……く、あ、ふあああああぁぁ!」 絶頂の衝撃をセイレンの口内へ吐き出す。 息が整うのを待ち、唇を離す。 セイレンが着かれ切った様子で、ハワードの隣に転げ落ちる。 「ふぅ…案外疲れるな」 「せいれんはぁ、いじめてただけじゃんかよぅ」 はっきりした声が出せず、セイレンに向かい合うよう身体を横向けるだけで精一杯だった。 セイレンは、はぁ〜っと溜息を虚空へ響かせる。 「…私は初めてなんだ、分かってくれ」 そういえば、そうだったんだ。 「…へへ、初めて同士、かぁ」 そこまで言った所で、セイレンの漢が眼に入る。 疲れたという言葉とは裏腹に、俺のバトルフェイズは始まってすらいないぜ、とでも言っているようだ。 あれが、俺の中に…。舐めたり触ったりしたから分かる。すっごく熱かった。それこそ、風邪の時の熱なんて比べようもない。 それでも引き寄せられるのは、やっぱりセイレンのだからなんだろうか。 「凝視されても困るんだが…」 「うぁ!?す、すまん」 見ているだけで熱にやられてしまいそうだ。 片手を伸ばして触れる。そこからじわじわと不自然な体温が全身に伝わっていく。 「え、と、疲れてるんだよな?」 「ん…まだ大丈夫だ」 なんて馬鹿な奴だ俺は。こいつは押せば引くし、引けば押す、本当にダメな事以外は許容してしまうんだぞ。 せめてもの労いだとか言っていた気がするが、そしたらセイレンばっかりじゃないか、大変な思いをするのは。 起き上がろうとするセイレンの腰に跨る。 「…?」 「俺がして欲しいだけだから…さ」 膝立ちになって男根を花弁に沿わせる。熱が身体の中心を貫き、脳天を焼く。 脚の筋肉が弛緩し、先端が食い込む。 「も、う…いれたいよぅ…っ」 「…痛いだけかも知れないんだぞ」 「へ、いき……このままの方が、やぁ……」 力が抜けていき、それに比例して腰は高度を下げていく。 亀頭が入り込むが、指のようにすんなりとは行かない。意識的に腰を落とすと、肉を掻き分けて侵入してくるそれの巨大さが如実に分かる。 「こんな…おっきぃのに……ふ、ぅ…はいっちゃうよぅ……」 竿に差し掛かった時、圧迫感が生まれた。処女膜。これが、そうなんだ。 怖い。剣を振りかざす騎士も、頭上に灼熱の球体を従える魔術師さえも恐怖等抱いた事はない。剣で斬られるのも、焼かれるのも痛い。けど。 まったく異質の苦痛が襲うのではないか、そう思える。 思えるのに、な。ふふ、矛盾してる。でも、根底にはただ一つしかないんだろうよ。 好きだっていう気持ち、一つだけしかさ。 「せいれん…くぅ……!!」 破瓜の血が、二人を繋ぐ。