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【殺し合いに】バトルROワイアル 十一冊目【終劇を】

[23:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2012/03/31(土) 01:18:10 ID:sB4yvjkI)]
305.甘い薬草(三日目・昼)


 今さらの話になるが。
 BR法という大会が執行されるこの舞台では、志しを同じくする者たちが、一丸となりこの島を訪れる―という訳では決してなく。
 皆が皆、バラバラの思想を持って召喚された、無作為の選抜者である。

 それは国法に背いた違反者への通達であり。
 それは反政府組織に組した者に下された刑罰であり。
 あるいは、それは所属ギルド長の選定による人柱であり。
 あるいは、それはまさしく選抜者当人の志願であり。

 彼もまた、五十の選抜者の内、志願である者の中の一人だった。
 ほとんどの選抜者が、開幕の合図を否応なく突然に受け入れなくてはならない状況に迫られたのに対し、彼らの行動方針は、開幕のはるか以前より定まったものだった。

 一人は、己が快楽の欲求を満たすために。
 二人は、最愛の人を奪われたが故に。一方は顔も知らぬ神に、一方はGMと謳われる者に復讐するために。
 そして、一人―彼は。

 冒険者として。世界を旅するずっと昔から。
 それこそ生まれた時から共に過ごしてきた片割れ―最大のライバルであり、パートナーであり、兄弟であった男と、もう一度会うために。
 この島に足を踏み入れた。


 かつて隣を歩いていた存在。
 きっとお互いに、最も近くにあると思っていた片割れと合いまみえるだけのことが、今となっては遥かに遠い。
 同じ舞台の上に立つとしても、兄と弟の立ち位置は天と地ほどに差があるのだ。

 だからこそ、彼は事前の行動を怠らなかった。
 風の噂を表に聞き、事実起こった立証を裏に取り。知り得る限りの情報を頭に叩き込んだ。

 BR法。
 動員令違反者取締法。各職男女プラス余名、計五十名が執行対象。
 ―選抜は違反者に限らず。各ギルド長の任意による。

 執行の舞台は、ポータルの届かぬ遠き離島。詳細位置は不明。
 ―船による器具の運搬。護送船はイズルードより出航。

 月に一度の開催。執行期限は四日間。
 期限終了までに最後の一人として生き残った場合に限り、選抜者は優勝者として生還を許可される。
 ―優勝者は只一人、現女王イゾルデとの謁見の資格を賜ることになる。

 狙うならば、そこだ。

 兄が、どうして、何のために?
 ―全ては只一人の女性への愛故に。知っている。知っていた。

 悲哀が狂気と化すほどに。惨劇をすら狂喜と化すほどに。
 深く狂おしい情愛を胸に抱いたまま、彼女は兄の手を取ったのだろう。―兄は彼女の手を取ったのだろう。

 兄は、決して彼女の手を拒まない。

 優勝者として、謁見の機会を得る。兄と、兄の―そして、かつての自分の想い人と再び言葉を交わす最大のチャンス。
 だが、それは彼らと同じ狂気に身を浸す事と同じだ。
 叶わぬ望みのために、犠牲を強いる真似を冒してはならないのだ。他者にも、まして自己にも。

 …きっと彼らは、それすら忘れてしまっている。
 だからこそ、同じ道を歩むわけにはいかなかった。

 ならばどうするか?
 その手段を―彼は、既に講じていた。上陸する以前より。


***


 ふわり、ゆらりと宙を漂う。
 真っ直ぐ立っているはずなのに、足元がおぼつかないような不思議な感覚。

 そもそも、視界が晴れない。濃い霧の中のような、いっそ分厚い雲の中にでもいるかのような、一面白の空間。
 …というより。
「ここは、一体…?」
 零れた無意識の言葉。耳に届いて、意識そのものがぼんやりとしているのだとようやく気付いた。

 瞬間。
(あら? あの魔術師の方ではないのですか)
「きゃ!?」
 どこからか聞こえてきた女性の声に、驚いて身を竦ませる。

 きょろきょろと辺りを見回すが、どこまでも続く白いモヤがあるばかり。
 人の気配一つ感じられない。
 だというのに。

(まぁ、いいでしょう。
 どういった顔をされてここを訪れるのか、少し楽しみにしていたのですけれど…本当に、詰めの甘い方のようですね)
 女性の声は変わらずに、どこか遠いところの出来事を傍観するような―良く言えば落ち着いた、悪く言えば呑気な―調子で言葉を紡ぐ。
「あ、あの…一体、貴女は…?」

(今ここで名乗ったとして、あなたが覚えていられるかは分かりませんが…そうですね。
 あなたが、勇気とその力を試されるに値する冒険者であるのならば、いずれ出会うかもしれない者、とだけ言っておきましょうか)

 勿体ぶった言い方をされ、「はぁ…」と曖昧な生返事を零す。
 いまいち要領を得ない。見えない女性の存在も、肉体の五感の鈍いこの空間も。
 そもそも、私は何故ここにいる? 今まで―何処で、何をしていた?

(さ、もう帰りなさい。
 その羽はもう彼にお渡ししたもの。彼がそれをあなたに渡したのなら、それはもうあなたのものなのですから)
「え?」
 言われて初めて、自分の手の中にある『何か』に気付く。

 それは、夜の闇色をした一枚の鳥の羽。
 見覚えのないそれの手触りと、形を視界に認識した途端。ふつりと全ての感覚が遠退いた。


***


 最初に彼女の意識を呼び覚ましたのは、大きな手の感覚だった。

 彼女の首筋を、押さえるように添う力強い指先。
 閉じた瞼の向こうで、誰とも知れぬその手の感覚を―何故だか、怖いとは思わなかった。

 あたたかな手。そう思った。

 覚醒して数秒と経たぬ間に、離れていった指の温度を追うように、ゆっくりと眼を開く。
(Shi―)
 目覚めたばかりで、おぼつかない視界。
 それでも、すぐに彼だと分かる特徴的な頭に、思わず少しだけ笑ってしまう。

 人差し指を口の前に当て、静かにするよう伝えているのだろう彼に、声の変わりにそのまま笑顔を向けて、心の中でつぶやいた。
(おはようございます。♂モンクさん)


 ―兄に言わせれば、この甘さが私の弱点なのでしょうけどね。
 アフロ頭越しに♀騎士の上で輝く日の位置が、ほんの少しだけ頂点に近い位置にあった暫く前。

 ♀騎士の全身を覆うフロストダイバーによる氷壁が、音もなく消失したのを見届けて、♂セージは息を吐いた。
 呆れ混じり、苦笑混じりのため息。
 これは一種の賭けだ。分はあれど、確証はない以上。

 この大会が国法によるものであり、蘇生を許さない国の本気を考えれば、何をしているのかは大よその予想がつく。
 神話として伝えられる伝説の品。前国王トリスタンV世が揮いし、爪角の欠片。

 巨人ユミルの爪角。
 生者と死者を峻別するという力。

 しかし。その峻別の力故に。
 爪角の欠片の影響が、絶対に及ばない地が世界には存在する。

 そこは死者の住まう土地。
 大樹イグドラシルの向こう。死した者の領域であるその地においてのみ、爪角の力は通れず、通さずの不可侵となる。―触れる者の蘇生を断じ、死者を弾く性質故に。

 そして、彼の地には一人の魔女が暮らしている。
 彼女の助力。それが、♂セージが講じた手段の一つだった。

 聖職者が施す神の御業(リザレクション)ではなく。
 イグドラシルの葉でもない蘇生手段。

 ローブの装飾に潜ませて持ち込んだ、一枚のカラスの羽。
 天寿を残した者を、死者の街から帰すという魔女の品。

 多くは望めないと考えていた協力者。にも関わらず、幸運にも巡り合えた仲間たちにさえ打ち明けずにいたそれを、彼はついに誰にも告げることなく手放した。
 ♀騎士に握らせた漆黒の羽が、氷壁と共に何処かへと消え失せたのを確認した後、♂セージは立ち上がった。


<♀騎士>
現在地:E-6
所持品:S1シールド、ツルギ
外 見:csf:4j0i8092 赤みを帯びた黒色の瞳
備 考:殺人に強い忌避感とPTSDを持つが、大分心を強く持てるようになる。刀剣類に抵抗感 笑えるように
状 態:凍結による仮死状態から復活。HP赤→徐々に回復傾向。首輪機能停止。

<♂モンク>
現在地:E-6
所持品:島の秘密を書いた聖書と口紅
外 見:アフロ(アサデフォから落雷により変更)
スキル:金剛不壊 阿修羅覇凰拳 発勁
備 考:ラッパー 諸行無常思考 楽観的 刃物で殺傷
状 態:首輪機能停止。

<♂セージ>
現在地:E-6
所持品:ソードブレイカー
容 姿:マジデフォ黒髪
スキル:ファイアーボルト ファイアーボール ファイアーウォール ナパームビート ソウルストライク フロストダイバー
備 考:FCAS―サマルトリア型 ちょっと風変わり? GMジョーカーの弟疑惑 ♂モンクを殺害?
    島の秘密を書いた聖書と口紅は紛失したわけではない(♂モンクに譲渡の可能性アリ)


<残り8名+1匹+2名>


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