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【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第14巻【燃え】

1 名前:名無しさん(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2007/06/15(金) 17:18:15 ID:0fDIHQ5k
このスレは、萌えスレの書き込みから『電波キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』ではない萌えな自作小説の発表の場です。
・ 共通ルール(ttp://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi/ROMoe/1063859424/2n)
・ リレー小説でも、万事OK。
・ 萌えだけでなく燃えも期待してまつ。
・ エロ等の18禁小説は『【18歳未満進入禁止】みんなで作るRagnarok萌えるエロ小説スレ』におながいします。

▼リレールール
--------------------------------------------------------------------------------------------
・ リレー小説の場合、先に書き込んだ人のストーリーが原則優先なので、それに無理なく話を続かせること
・ イベント発生時には次の人がわかりやすいように
・ 命の危機に遭遇しても良いが、主人公を殺すのはダメでつ
・ リレーごとのローカルルールは、第一話を書いた人が決めてください。
  (たとえば、行数限定リレーなどですね。)
--------------------------------------------------------------------------------------------
※ 文神ではない読者各位様は、文神様各位が書きやすい環境を作るようにおながいします。


前スレ【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第12巻【燃え】
ttp://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi/ROMoe/1136792603/l50

保管庫様
ttp://f38.aaa.livedoor.jp/~charlot/pukiwiki/pukiwiki.php

2 名前:神の人・後編 10.5/13 投稿日:2007/06/15(金) 17:20:20 ID:0fDIHQ5k
要領オーバーしてしまい途切れてしまいました。申し訳ありません。

それでは続きを投下させていただきますね。

3 名前:神の人・後編 11/13 投稿日:2007/06/15(金) 17:21:05 ID:0fDIHQ5k
                     11


 最初にうっと呻いて、次に身を捩じらせて手の甲で目蓋を擦る。目を開ければそこは熊だった。

「そうか……。これは夢だムニャムニャ…」

 再び目を閉じようとして所へ、天井の一部からにゅっと手が伸びて、毛むくじゃらの肉球ハンド
でぺちぺちと叩かれた。叩かれた方はうーうー唸って漸く上体を起こし始める。
 そして目を開けて認識した。ああ、ここは熊の中なのだと。

「熊太郎達……、助けてくれたのか?」

 まだぼんやりとした眼を天井に向けると、其処には五つの毛むくじゃらフェイスが天井を作って
いた。見慣れた顔だ。それも当然、この熊たちは彼女の下僕であった。ルティエ雪原の白熊ビック
フットの熊太郎一号から四号と紅一点の熊子さん。五つの巨体がスクラム組んで寒さと雪片防ぐ即
席のカマクラを作り上げていた。いやこれはむしろ、クマクラ?

「ん……。五号、お前も暖めてくれていたんだな」

 傍らの存在感に目を向けて、ぽんと頭に手を載せたのはふわふわもこもこ小熊の五号。なるほど
これは良い防寒具である。ふと、五号の座っていた辺りを見咎めてみると、その下敷きになる形で
あの女服の侍際が転がっていた。目は閉じられていて意識も無いようで、しかしその頬には赤みが
差しており程よく暖められて居たのが良く判る。命に別状は無いようだ。

「う、あいつが居ない……」

 五号を胸元に抱き上げながら、きょろきょろとクマクラの中を見回す。そう広くない空間だ、目
当てのものが居ない事など直ぐにわかる。
 あの小憎らしい自分相手では本気を出さない嫌で嫌味な背高ノッポ、一体全体何処へ行きおおせ
たか。寝起き眼が不機嫌に吊り上っていく。唇もむーっと幼くへちゃむくれだ。
 するとクマクラの一角に出入り口が開かれた。探していたものの元へと導くかのように。ひっそ
りと出入り口は作られる。
 外は一面の雪景色であった。最初にこの雪原へ降り立ったときの様に、空は美しく雲ひとつ無い
大快晴。さんさんと降り注ぐ陽光が、雪原を鏡に照り返す。
 雪原に視線を戻すと、その先に何かが蹲っていた。
 大きい、けれど雪原に溶け込む目立たない氷の体毛。異常気象を招き寄せて、顔見知りの自分を
襲ったあの銀狼だ。今は力なく雪原に倒れ、牙並ぶ口元からだらしなく舌を垂れさせていた。
 一瞬死んでいるのかと硬くなったが、微弱に腹部が上下しているのを見て弛緩する。生きていて
くれた……。それだけの事なのに頬を涙が伝うのに驚いた。
 そして視線が横に流れる。雪原を、倒れる銀狼に向けて近づくものがあったのだ。
 その姿は巨体だった。彼女の知る憎らしい奴も背丈が高いが、アレはその上を行っている。そし
て、その身体は半分氷に覆われて凍結していた。ばりばりと氷と己の体を砕きながら、その巨体は
前に進んでいる。
 ボロボロと毀れていく氷と肉片。煩わしげに巨人の手が顔を覆う己の顔ごと剥ぎ取った。皮のつ
いた氷を投げ捨てて、そして掌を再び顔に翳すと淡い光が浮かび上がる。癒しの聖光の慈愛溢れる
輝きが、砕けて剥がれた肉体を再生していく。中身がむき出しだった顔にも肉と皮が戻っていく。
そこに探していた顔があった。
 ギギギっと錆付いた音が聞こえた。巨人の表情は今にも昆虫をバラバラにしようとする子供の様
な笑顔に満ちて。一歩一歩、雪原を踏みしめ歩みを進めていく。
 それを見咎めた娘は悲鳴を上げた。言葉にならない叫び声を巨人に向けて浴びせかけた。けれど
も喉が震えない。声は喉から迸らなかった。感情は爆発しているのに、恐怖と静止を必至になって
叫んでいるのに。もどかしさと悔しさが胸の中に溜まって、ぽろほろと瞳から感情の結果が流れ落
ちる。けれども声は出なかった。
 ついに、巨人は銀狼の下へたどり着いた。その丸太の様に膨れ上がった腕が巨獣の首に絡みつき、
がっちりと頭を沸きに挟み込んでしまう。両手を組み合わせて広背筋を膨らませぎりぎりと音が立
つ。頭蓋が、口蓋が、圧迫され軋んで行く破砕音。一番単純で一番危険な技、ヘッドロック。ぼん
やりと、そんな知識が脳裏をよぎる。
 本来は意識を刈り取るだけの技。しかしこれは違う。これはもう意識をなくしている相手に繰り
出している。砕くつもりでかけている。もう直ぐ、砕けて死ぬ。見知った人が死んでしまう。

「あ……ぐっ…ぅ…ぁぁっ……」

 涙は出るのに。止め処なく出ているのに。声だけが出ない。

「やめ…やめろ……、ぉぉ…っぐ…」

 あんなものは見たくないのに。見たくないのに。見せて欲しくないのに。

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!」

 あんな、あいつが悪魔の様に振舞う姿なんて、見たくなんかない。

「やめてぇ…、殺さないで……」


 気が付けば両手から力が抜けていた。

「……………………ちっ……」

 舌打ちを一つして、取り落としてしまった獲物を一瞥する。息の根はまだある微かにある。今に
も止まってしまいそうな灯火だが、そこには確かに命があった。
 忌々しげに掌が伸びて、嫌そうに唇が聖句を紡ぐ。掌に生まれたいやしの力が、銀狼を瀕死から
小康へと立ち直らせていった。
 癒しを唱えながら視線を雪原へと走らせる。仰ぎ見た視線の先では格闘娘が倒れていた。顔中を
涙でくしゃくしゃにしながら、再び熊達に引きずられて熊製のドームの中に連れ戻されていくのが
見える。どうでもいいが面倒見の良い熊たちだ。舎弟はどっちなのだか判りはしない。
 信じられない事に、神罰を迷わず代行するはずの司祭両手は、この小さな小娘の言葉で止まって
しまった。

「……姉め、二代に渡ってまでこの私を苦しめるのか……」

 誰にもわからない呟きがぼそりと毀れた。それもまた青空に抜けて直ぐに消えてなくなる。
 どうしたものかと思案に暮れる。原因を見つけたが駆除できなくなってしまったとなると、何か
それに変わる手柄でも上げなければ組織に示しがつかない。BSにも散々と愚痴と嫌味を言われて
しまうだろう。既にもう小娘に恥をかかされている。上塗りはごめんこうむりたい。

「どうしたものか……、…?」

 ふと、視界の端に何かが移りこむ。吹雪が晴れて遠くまで見渡せる様になった為に、地平の先か
ら此方にかけてくる一団が見て取れた。
 どこかで見た顔だと思えば、アルデバランにて端から叩き落された一団であった。一様に武器を
構えて叫び立てている。何か獲物でも追っているのだろうか?

「おや、あれは……」

 雪原をかけている一団の先に、彼らの追う獲物が見えた。それは小さな小さな銀狼の子供達。も
しやアレは、傍らに倒れる銀狼が隠したと言っていた最後の小銀狼達であろうか。
 シーフやローグの一団は大人げもなく、子供達に石を投げ弱らせ集団で追いたてていく。確かに
珍しい神獣の子供達、捕まえてどこかに売りさばこうとでも言うのであろうか……、!?
 そこまでぼんやりと考えていたが、不意に司祭の唇がにぃぃぃぃっと三日月に歪んでいった。
 決断すれば後は早い。ずんずんと大股で雪原を歩みだし、向かってくる小銀狼と盗賊団へと迫っ
ていく。
 よくよく考えれば簡単な話なのだ。原因のまえには元凶がある。くさいものには蓋が必要であり、
諸悪の根源は今正に目の前から近づいてきていた。

4 名前:神の人・後編 12/13 投稿日:2007/06/15(金) 17:22:29 ID:0fDIHQ5k
                     12


 正面から近づいてくる司祭の姿を見咎めて、必至で駆けていた小銀狼達がびくりと震える。だが、
司祭はそんな子供らの脇をすり抜けて後ろの一団へと対峙した。子供達はキャンキャン言いながら
雪原に倒れる親の元へと一目散に賭けていった。

「あんだオメエはぁぁぁあああん?!」
「じゃましてんじゃねぇぞおあぁぁぁっ!?」

 等々、独特の未開言語が立ちふさがった司祭に浴びせかけられた。今は姿が余りにも違うので、
早朝に自分達が襲おうとした相手とは気が付いていないのかもしれない。まあ、そんな事はどうで
もいい些事である。
 ぎゃんぎゃん犬の様に吠え立てる連中へ、指を突きたて一つだけ確認を取ってみた。

「貴様ら、ハティの子等を捕らえて何処かへ売り飛ばしていたな?」
「それがどうしたんじゃこるぁぁぁぁああっ!?」
「まだアジトでかっちょるがそのうちまとめて売り飛ばすんじゃおらぁぁぁぁっ!!」
「つーかどきやがれつーんじゃうんどりゃぁぁぁぁっ?!」

 なるほど。
 なるほどなるほど、と何度も首を上下させて納得の表現を見せる。これで全ての辻褄があった。
子供が居なくなって怒り狂うハティ、それは氷雪を振りまいて人間に復讐を果たそうと企んだ。そ
して、その子供達を誘拐した犯人がこいつら盗賊団だという事だ。つまり――

「つまり、てめえ等全員俺様の仕事を増やしやがったクソ野郎共ってことで良いんだよなぁー!?」

 その時、司祭の正面に居た盗賊団達は、この世で最も恐ろしいものを見てしまい、四十人程も居
た人員を半数に見えるほどに縮み上がらせた。身を寄せ合い、理由は自分でも判らないが後悔する。
とりあえず、生まれた事をでも。
 雪原に、人の形をした修羅が再び光臨した。


 結局、異常気象の原因は子供を取られたハティで間違いはなく、しかしてその元凶たる窃盗団の
壊滅によりもう気象の変異は起こらないものと判断されそれ以上の調査は打ち切られた。
 窃盗団アジトにとらわれていた小銀狼達も一匹たりとも欠けることなく救出され、人と魔物の一
方的な狩猟関係は打ち崩された。今後とも共存すること無く争い合う関係かもしれないが、歪んだ
形にはならないであろう事を切に願う。

「と、まあこんなものだな」
「あーそーかいそーかい、そいつはハッピーエンドだなぁああ!!このやろう!」

 激昂して応接間のテーブルをガンガン叩くのは、冒頭からお馴染みの青髪の鍛冶師、守銭奴BS
である。そして向かい合わせに司祭がソファーに座り、脚を組みながら紅茶の香りを楽しむ。その
姿が余計にBSの怒りに油を注いでいた。

「確かに! 原因を調査してその元凶を断てとは言ったがな。誰が組織の時計塔支部を壊滅させて
来いと言ったんだぁぁぁぁ!!」
「ふん、組織に黙って使い込みに内職に密輸までするダニ共を一掃しただけだろう」
「だからって支部一個丸々はやりすぎだろうが!! お前には加減とか思慮とか采配とか言うもの
はないのか! 超人ハ○クか!? 暴れて元に戻るまでそれっきりなのか!?」

 やかましい奴だ、と言わんばかりに目の前で溜息を長く吐く。ブチブチブチン、と頭の中で何か
太いものが引きちぎれる音が連続する。

「もう報告する事はないから、帰れ」
「っっっっっっっっっっ!!!!! おう、帰るわぁ!! その前にギルドの損失さっぴいたぶん
の報酬でも食らえ!!」

 乱暴に胸元から貨幣の詰まった袋を取り出して司祭に投げつけ、青髪守銭奴がぷりぷり肩を怒ら
せて出口へと向かう。正確に顔面を捉えた豪速のつぶてを、造作も無く片手で受け止めて視線だけ
でその背中を見送った。

「はわっ! あ、すみません、もうお帰りですか? って言うか今日もお怒りモードですか!?」
「ああ!? あー……。よし、脱げ。むしろ色々着ろ。お前の身体で損失補てんだウラー!!!」
「きゃー!! 司祭様の言ったとおりですー! 司祭様? 助けて司祭様ー!?」
「写真と動画で一攫千金じゃーー!! 俺の為に花を売れーー!!! がはははははははは!!」

 ドアの直ぐ外で鳴り響く騒音に、思わず目頭を押さえる事数秒間。
 立ち直ってソファーに深く座り直すと、思い浮かぶのは神罰の手を止めたあの時の瞬間だった。

「我が身…、我が血…、我が命…、か……」

 背もたれに身を預けて、うつろに天井を見上げながら呟く。捧げ切れていないのだと、頭の中の
狂信者が叫んでいた。
 そんな事は判っているよと続けて呟き、ぽーんぽーんと貨幣袋を片手で投げ受ける。

「足りない…、足りない、まだ足りない」

 貨幣袋を胸に押し付けて、開いた手を中空へ――その先の空へ――神の御許へ差し向ける。

「今日も貴方が、遠ざかる……」

 この思い、届くのかさえ、正に神すら知りはすまい。


                                        終わり

5 名前:神の人・後編 13/13 投稿日:2007/06/15(金) 17:25:35 ID:0fDIHQ5k
前回より、だいぶ間が開いてしまいましたが『神の人』後編を貼り付けさせていただきました。
まさか途中で容量が足りなくなるとは…。次はこのようなことがないように気を見計らうことにします。

それではささやかでも楽しんで頂ける事を願って、この辺で失礼いたしますね。

6 名前:名無しさん(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2007/06/15(金) 17:28:28 ID:0fDIHQ5k
失礼、前スレを13にするのを忘れてしまいました。
ここで一応誘導してきますね。申し訳ありません。

前スレ【萌え】みんなで作るRagnarok萌え小説スレ 第13巻【燃え】
ttp://www.ragnarokonlinejpportal.net/bbs2/test/read.cgi/ROMoe/1155280580/l50

7 名前:名無しさん(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2007/06/16(土) 11:26:34 ID:72IU1bZ.
槍の人・神の人前編に続き楽しませていただきました。
次作も楽しみにまっています。

8 名前:名無しさん(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2007/06/17(日) 15:11:06 ID:gX9lwjds
司祭様きれてるきれてる!ナイスじょ〜わんにと〜きん!
雪の中黒光りしてにっこり笑う司祭様がまざまざと脳裏に浮かびますた。(黒光りはしてないか)
自作はなんの人の話になるのか、楽しみにしてますね。

9 名前:百物語1/4 投稿日:2007/07/23(月) 20:50:45 ID:9PpmHOT.
「……またありきたりな話ですみませんが、ゲフェンの宿屋の――」

バードはいつもとは違う、ぼそぼそとした声で話し出した。
俺は内心舌打ちする。今日はLVが上がって転生して廃剣士になるはずだった。
何を血迷ったのか今こうしてギルメン全員がニブルの武器屋の棺桶を囲み
100本のロウソクを立てて東の国の肝試しとやらをしている。クソ。

「でね、夜中に目を覚ましたら、部屋中にいるんですよ、ナイトメアが」

道騎士になったら俺はこのギルドを抜ける。こいつらとは長い付き合いだったが
野郎5人のむさい、弱い、貧乏なレーサーギルドにいつまでも居る気はない。
この間勧誘してくれたハイプリさんのギルドに入って俺もゆくゆくは……
と、妄想に耽っているとほどなくバードの話が終わる。

「そんなわけでゲフェの宿屋の奥の部屋は気をつけてくださいね。ふぅっ」

バードはロウソクの火を吹き消した。残りはあと2本。

「次はお前の番だ」

向かいに座るギルマスは暗いせいか、ぞっとするほど冷たい瞳をして俺を促した。
俺は無意識にお守り代わりのナイフに触れる。無機質な柄の感触が俺を落ち着かせた。
さて、何を話そう。もうネタはない。作り話は苦手だ。とすると……

「これは、俺がまだノビで修練場に居た頃の話だ――」

10 名前:百物語2/4 投稿日:2007/07/23(月) 21:00:41 ID:9PpmHOT.
 俺は弱かった。頭も悪いし、剣士としてどうなのかというくらい屁たれてた。
ファブルを殺すのも躊躇い、さんざん落第した。それでもカッコつけて自力で合格したがった。
その日の試験中俺はどこかでナイフを失くした。もうだめだと途方に暮れた。
実家に帰って家業を手伝おうか……などと考えて居たら、いつものアイツが来た。

「また落ちたのか。キミは本当に優しすぎるね」

そういって俺に冷たいミルクと芋を手渡す。いつもどこから調達しているのか。
この赤髪の男は俺とは違い頭もキレ体力もあった。出ようと思えばいつでも出れたはずだ。
気になった俺は実家に帰る前にと理由を訊いてみる事にした。

「ん。ボクの兄はね、腕のいいプリーストだったんだ」

そいつは少し考えてそう切り出した。

「兄は気のいい仲間達と冒険したり、観光したり、楽しい話をたくさんしてくれたんだ。
ボクもいつか兄みたいなプリーストになりたくてここへ来たのさ。
でもね、その頃くらいかな。兄の仲間達が大きな利権を手に入れて、それを取り合って争い出した。
狩りに急いで挨拶もなし、良心を捨てて人を騙したり、時には傷つけたり……
兄はすっかり変わってしまった仲間達に絶望して自殺したんだ」

目を伏せて泣きそうな顔をする。そんな顔見たくない。

「ボクはね、迷ってるんだ。このまま外へ出て、プリーストになって、気の合う仲間に会えたとして
彼らがいつまでも変わらずに居てくれるのか。ボクにはわからない」

11 名前:百物語3/4 投稿日:2007/07/23(月) 21:09:11 ID:9PpmHOT.
 俺は多分、こいつの事が好きだったのかもしれない。男同士だが。
その時確かに思った。こいつには笑っていて欲しいって。

「俺は……俺なら変わらないぞ! だからさ、一緒にここを出て旅しようぜ」

どんなにきつい道だとしても進みたかった。行ける気がした。
だがそいつは嬉しいような困ったような顔で言った。

「ん。ありがとう。でもできれば考える時間が欲しいな。
キミは先に出ててくれないかな? コレを、ボクの代わりに連れて行って」

 そういってアイツは俺に自分のナイフを差し出した。
それはファブルCが三枚刺さったナイフだったが、俺は体力以上にたくさんの勇気を貰った。

 修練場を出た俺は10日程待ってみたがアイツが出てこないのでレオに訊きに行ったんだ。
アイツの名前と特徴を詳しく伝えるとレオは顔を青くしてこう言った。

「そいつなら……2年程前に……修練場の屋上から飛び降りて死んだ……はずだ」

 俺はそれでも不思議と寂しいとか怖いとか思う事は無かった。
このナイフの中にアイツが今も生きてる気がしてたから。
それから一人で修行を積み、騎士になるときにこのナイフに誓ったんだ。

12 名前:百物語4/4 投稿日:2007/07/23(月) 21:23:10 ID:9PpmHOT.
 俺はナイフをかかげ誓いの言葉を口に言おうとする。

「俺は……っ! どんなにカッコ悪くても、金が、なくて、もっ、弱くても!!
な、仲間だけは、絶対……に……」

 その先はこみ上げる嗚咽で言えなかった。
しゃくりあげながらなんとか99本目の火を消した時、ギルマスはいつもの優しい顔をしていた。

「本当はな、俺がここで最後の話をして、その後お前を道連れに連れてくつもりだったんだ」

 優しい口調のギルマス。腕のいいBSで、自分のモノは失敗しても他人の依頼は100%成功させる。
失敗してもカートからこっそり材料を出して成功するまで打ち続ける、貧乏なお人よし。
彼の両腕は肩口から削ぎ落とされ、二度とハンマーは振るえないだろう。
拳聖もバードもプリも、みんな致命傷を負っているのに穏やかな顔をしてる。
俺は今日、死を恐れて真っ先にこいつらを捨てて飛んだ。一番堅いはずの俺が。
そんな俺にこいつらは許しの言葉を与える。

「でも、お前は最初の気持ちを思い出した。俺たちと出会ったあの頃のお前だ」
「お前ならまたやり直せるさ。遅すぎるなんて事はないんだ」
「お前は本当の騎士になれたんだから」
「俺たちの事、忘れないでいてくれるよな?」

俺は薄れていく仲間達を目に焼き付けながら、ナイフの柄を強く掴む。
それは何故か暖かく、力強く俺の手を握り返してきた。

「お……俺っ! お前らを……絶対にっ……」

 言葉は出なかった。しかしそれは伝わったようだった。
にじむ視界の中、彼らは確かに笑って消えていった。

 一週間後、俺は転生し伊豆の町で約2年肌身離さず持っていたナイフを受け取り
しっかりとかかげ再び誓う。
「俺は!どんなにカッコ悪くても!金がなくても!弱くても!!
仲間だけは絶対に守りぬく!」

13 名前:百物語5/4 投稿日:2007/07/23(月) 21:25:22 ID:9PpmHOT.
文法おかしいですね。申し訳ない。
ホラーを書こうと思ったらいつのまにか普通の話になってました。
何かが憑いたのかもしれません。
これで100話目ですね。ふぅっ。

14 名前:名無しさん(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2007/07/25(水) 18:46:19 ID:1/HYMO2Y
つまんね

15 名前:ある少女のレポート 投稿日:2007/08/12(日) 03:36:00 ID:MBViPv6U
初めて書いてみますので駄文ですが勘弁を・・・


生態研究所にはヴァルキリーに祝福された人間と同じ姿のモンスターがいる。
それは、研究によって生まれたものだといわれている。
しかし、人間によって生まれた神の力を模した技術があそこまで力を持つのだろうか・・・
聖なる力やその技量、魔力・・・人間をベースにしたとしては強すぎる。
現に数々の歴戦の転生をした騎士でさえも同じ姿をしたモンスターには力及ばない。
なぜそこまで強い力を得ているのだろうか・・・
そこまで考えたときにふと思いついた、
あくまで想像でしかないが逆ではないかと・・・
「神の力」ではなくヴァルキリーそのものが「人の力」によって生まれたものではないか、
あの神々しさは唯の演出で本質は機械ではないかと、
それならば説明が付く、
唯の「人間の技術」ならば模倣は簡単だ、それは理論でしかないならばその次も作れるはずだ、
奇跡ではなく技術、それが神の正体かもしれない。
私はまだ転生の儀式を受けれない、ならば集めよう知識を!
そして神と対峙し、本当の真実を探してみようと思う・・・

16 名前:ある少女のレポート2(転生考察) 投稿日:2007/08/14(火) 15:52:01 ID:4ABcZqxE
もし転生が技術なのだとしたら転生とは何なんだろうか・・・
本当に、生まれ変わって強くなるにしてもそれには理論が必要だ。
いろいろな遺跡や資料、伝承を調べてるうちに1つの結論にたどり着いた。
それは私たちが造られたものではないかという結論である。
神が機械なのだとしたら創造主とは何か・・・
想像するに、それはかつてグラストヘイムなどに見られる巨人族ではなかったのだろうか。
巨人族が私たちを創造したとしたら説明が付く。
普通の人間がいろいろなものを満遍なくこなせるように作られているのなら、
転生した人間はそれに特化した能力を与えられた人間
そして生態研究所にいるのは失敗作ではなく兵器として特化された人間なのかもしれない。
転生というシステムを経る事によって
例としてアサシンが摂取できないような毒性を持つ強化薬物もアサシンクロスなら摂取できる。
他にも同様の能力増加は確認されている。
ただ勘違いしないでほしいことは、作られた物だとしても創造主に従う必要性はないということだ。
神が機械ならば創造主が人間ならば生きる権利は誰にもあるはず、
それは同じ人間でも侵してはならない領域なのだから・・・

17 名前:ある少女の日記 投稿日:2007/08/14(火) 16:12:31 ID:4ABcZqxE
この日記を読んでいる人がいたらよく考えてほしい・・・。
もし自分が今死ねないと思い、そして危険を避けたいのならこのまま日記を閉じて元の場所に置いてほしい。
もし危険を伴っても好奇心だけでこの先を読むのもやめたほうがいい。
そして、生態研究所に何かしらの想いがある人は読むべきだと思う・・・


私は、姉に反発して色々な地を巡る旅をした。
反発ついでに姉がウイザードだったからセージに転職したりもした。
セージになってから過去の遺跡、過去の城、現代の町を色々回った。
ある日、姉が行方不明と知らされ姉妹の家へ戻った、
中には姉が私宛に書いて出せなかった手紙やお金、アイテムなどが山のように置いてあった。
しばらく涙が止まらなかった。
数日泣いてから、部屋を片付け始めたときそれを見つけた。
それは、玄関外の石の下に袋に入って埋められていた。
中を読んで驚いた、姉がある研究の被験者としての記録であった。
そのリストには姉の友人の名前もありそのデーターは膨大な量と難しい専門知識の山であった。
セージとして各地を巡っていた私はそれを何とか読み解くことができた。
そして、姉とその友人ががもう人間として助からないことそれによる副産物のことも書かれていた。
そして最後に、私にこのデーターを燃やしてほしいとの一文が姉の字で書かれていた・・・
私は迷った、セージとしてコレは絶対に残さねばならないデーターである。
そして、間接的には姉の最後をつづった書類でもある・・・
そして私は決めた、
このデータだけじゃ足りない、あらゆる情報を集めて記録して公開する。
それが、セージとしてと妹としての私が姉にできる唯一のことだから・・・
データーは完全に暗記をして燃やした、そして色々な書き方を通じてデーターを残した。
旅を続け、さらに多くの知識を手に入れた。
ただ、この情報を送ってくれた姉の事を残しておきたかった。
だからこの日記を残します。
姉とその友人ソリンさんに感謝と謝罪を・・・

ケイロン

18 名前:ブルー&ジェット0/4 投稿日:2007/11/27(火) 23:38:49 ID:OlhyQDOY
『我が名は』とか『〜の人』を書いたものです。
最近すっかり寂れてしまったこのスレに久々に投下してみます。

此度の話は短編書き捨て。
どこかで見たようなキャラの織り成す快刀乱『魔』。
一時の暇を潰せれば行幸に思います。

それではお目汚し失礼いたしますね。

19 名前:ブルー&ジェット1/4 投稿日:2007/11/27(火) 23:40:01 ID:OlhyQDOY
                   1

 絹を裂くような乙女の悲鳴……。
 等と描いてみれば聞こえはいいが、実際には乾いた雑巾を無理矢理引きちぎる音に近い。現世の
なんと風情の無い事か。まったく、現実こそが正に儚いものであって欲しいものである。
「そんな事を言ってる場合でもないな。ゆこうか、相棒」
「クワーッ! クエックエッ!」
 大型の鳥類の返しの鳴き声と共に、その男は悲鳴の元へと歩みを進めた。
 その井出達はナイト――堅牢な鎧を纏いて颯爽と戦場へ躍り出る騎士である。頭にヘルムとサン
グラス、腰には無骨な大太刀を帯びて、歩む姿は駆け抜ける旋風の如く明朗快活刃の如し。
 その男の左手からは手綱が伸び、傍らの愛馬ならぬ愛羽の嘴へと繋がる。飛ぶ事を忘れ、大地を
駆ける巨大な怪鳥――ペコペコと名付けられた種の一羽であった。
 一人と一匹が連れ立って家屋の立ち並ぶ裏路地から這い出し、今や様々な悲鳴溢れる大通りへと
踏み出した。ルーンミッドガッツの首都プロンテラの南の大通りである。
 そこは正に戦場。死屍累々に遺体横たわる堵殺場と化していた。
「ほらほら、逃げ回れや!」
「踊れ、踊れぇ! 踊れよォォ!!」
「亡霊海賊一家ドレイク、よろしくぅっ!!」
 嬉々として人を切りつけるのは死人の群れ。スカスカと向こうが見える白骨体が、カリブの海賊
よろしくぼろきれの服を纏い頭にバンダナを巻いている。数居る動く骨のスケルトン族の中で、ご
く一部にしか現れない海賊骨。その名もパイレーツスケルトン。カタカタ鳴るぜ。
 南通りの無抵抗な商人達を手にしたカトラスで一方的に切り裂いて、背後に控える三対の強者の
為に文字通りの血路を開いていく。
「ドレイク様ー。粗方片付きやしたぜー、ドレイク様ー?」
「……うむ」
 骨の部下の声に呼ばれて、ずいと身を乗り出したのはやはり骨。コルセア帽を目深に被り、他の
骨達よりも幾分年季の入った浅黒いスカルフェイス。装飾は豪奢だが古ぼけた上着を肩に羽織らせ、
その肩には大きなカラスが一羽停まっている。そして、その足元は生前からなのかは知れぬが、松
葉杖を強引に着けた様な義足に片足が挿げ替えられていた。
 船幽霊の巣窟、沈没船ダンジョンの主――海賊王ドレイク。不死王、悪魔王、暗黒王等に並ぶ、
海の世界を統べる覇者がここに君臨している。
 徐に両手を組んで胸を張り、海賊王は辺りを睥睨し満足そうに頷く。
「世界の海は俺の海。俺の果てしない憧れさ…」
 唐突にポツリと漏らした一言に、肩のカラスがあぎゃぁっ!っと不気味な声で一声鳴いた。その
鳴き声にあわせて、散々暴れまわっていた海賊骨達がわらわらと集まり王の前に整列する。
「世界のお宝掠め取り、金銀財宝眺めての、自由気ままな海底暮らし。けれどもそれが邪魔された。
無粋な奴らに邪魔された。これは許せんことだよなぁ?」
「へい親分!」
 ――船長と呼べ。
 そんな一言と共に応答した骨の一体が、マスケット銃でズガンと額を撃ち抜かればらばらと崩れ
落ちる。ふうっと銃口からくゆる紫煙を吹き飛ばし、王が上着のポケットへと銃をしまう。
「無粋にもこの王を呼び寄せた人間共に、骨身に染みる恐怖を味あわせてやれ」
『『アイアイ、キャプテン!!』』
 この世には、魔物を呼び出す事の出来る魔力の宿った古木の枝というものがある。人は時として
それを一時の娯楽享楽私利私欲に使い、無数の魔物を人の住む世界へと引きずり出す。その大半は
速やかに町の騎士団や冒険者達の自警団などに鎮圧されるのではあるが。
 中には、こんな当たりを引いてしまう事もある。
「まったく、普段表に出ているような影武者共を呼び寄せるならまだしも。本体を引きずり出すと
は運が無いのかどうなのか…。人生は博打だなぁ野郎共?」
『『アイアイ、キャプテン!』』
 ぱさりと上着を翻しつつ、王の右腕が部下に指示を飛ばす。命じるのは無論、虐殺だ。
 立てた親指をゆっくりと地面へ差し向ける。それだけで骨達は喝采を上げて、再び無防備な獲物
へと踊りかかった。
 命を下したものは阿鼻叫喚の渦の中で、積み上げられた死体にどっかりと腰を下ろす。老若男女、
色取り取りな悲鳴の合奏を聞きながら、一人悠然とパイプを取り出し剥き出しの歯の列で咥える。
そうして、また一人視界の端で女が部下に切り掛かられるのを見ながら、涼しげに慣れた手で火を
点けて煙を燻らせた。
 平らげた煙を吐き出すと同時に、切り取られた首がぽーんと宙に舞い足元へと転がって来る。視
線を落とすと目が合った。
「お、親分てぇへんだぁ! 何か突然剣が飛んできてあっしの首が…」
「船長と呼べ」
 ズガン!っとまた銃声が鳴り響き、足元の頭が粉微塵に吹き飛んだ。それは残念な事に瑞々しく
鮮血を滴らせる女の首ではなく、カラカラに乾いてカタカタ動く部下の頭であった。
 視界の端にあったものを正面に持ってくると、そこには確かに今しがた殺されかかった女がヘタ
レており、その前には首を失った骨が頭を探してあわあわと右往左往している。
 そして、空を舞いて放ち手へと戻る円月となりし一振りの刃。弧を描いて飛来したそれを、放ち
手は容易く掴み取り、幼子を送るように手厚く鞘の中へと導き、納める。
 その男は空高く、そして逆光の中に居た。
「安息の町に突如現れた無頼者どもめ、今すぐ悪事を止めて己が領域へと帰るが良い」
「なにぃ!?」
 立ち並ぶ家屋の一つ、その屋根の天辺に立ちて背後に太陽を従えて。両腕を組みながら淡々と語
句を連ねる。人々を襲っていた他の骨達もその存在に気が付き、うちの一体が声を上げるがそれを
気にも留めずに言葉は続く。
「さもなくば、我が剣が汝ら一切を切り伏せるであろう。救いの無い悪者に下される正義の鉄槌。
人、それを『成敗』と言う…」
「おのれぃ、何者だ!!」
 思わず聞き返せずに入られない長台詞。問われたものは組んでいた両手を解いて、腰から下げた
大太刀の柄に手を載せ叫ぶ。
「貴様らに名乗る名前は無い!! ……と、あいつなら言うのであろうが、ここはあえて名乗らせ
てもらおう。トァァァァッ!」
 掛け声も高らかに屋根から飛び立って、急降下と同時…鍔鳴り微かに剣線が走る。降下先に居た
首の無い骨に向け、走る刃がその身を縦に斬り開く。着地を果たした時には白刃は既に鞘の中にあ
り、動かなくなった躯ががらがらと崩れて瓦解した。
「来いっ、ジェェーーーット!」
「クワーッ!」
 舞い降りた騎士が高らかに叫ぶと、地平の果てから嘶きと共に一匹の怪鳥が駆け寄って来る。す
れ違いざまに飛び乗って人鳥一体、武器を各々構える骨達へ向けて駆けながら名乗りを上げた。
「転空神剣、ブルー&ジェット。見参!!」
 サングラスに重厚な鎧の騎士――ブルー、そして跨るは神速誇る地を駆ける鳥――愛騎ジェット。
悲鳴を聞きつけ駆けつけた、少々都合の良い存在である。
 見参っとばかりに怪鳥が嘶きをあげ、その背中で騎士が立膝を突き立ち上がる。そして突進の勢
いから更に跳躍を重ねて加速し、無数に集まった骨たちとすれ違い様に白刃を煌かせた。翻る刃が
一閃二閃、胴や首をなぎ払い地を削りながら騎士が着地するや刀身はまた鞘の中。速さを求めれば
二の次が無いと言われる、鞘中で剣速を加速させて放たれる抜刀術。その目にも留まらぬ刃にて、
瞬く間に四体の骨が崩れ去った。
「闇を操り心を蝕むもの達を、俺は許さん!」
 立ち振る舞いはあくまで身体を開いて力は入れない。半身になって左手が腰の大太刀に添えられ
ている。それだけで周囲に近づきがたい空気の流れを纏わせて、視線は真っ直ぐに海賊の王へと向
けられていた。
 ちなみに乗り捨てられた相棒は、奇声を上げながら手近な骨の一体を突くわ蹴るわの大活躍をし
ていた。すごく遠くの方で。
 生き残りの骨がワラワラと騎士の方に集り、円陣を組んですっぽりと取り囲む。反りの入った短
剣や片手剣を突きつけながら、そうなって喧々轟々に数での優位をかさに吠え立て始めるのは世の
条理だろうか。
「ふざけたまねしてっと、いてこますぞ!」
「やられっぱなしじゃすまさねぇ!」
「むしろこの人数だ、この勝負勝ったも同然!」
 勝ったもどうぜーん!――と揃って叫びながら骨たちが中央の騎士に群がった。不死者同士に相
打ちの概念などなく、闇雲に刃を突き出しあっと言う間に骨と白刃の絡み合う奇妙なオブジェを作
り出す。こんな物の只中に居る者が無事で在る筈が無い。

20 名前:ブルー&ジェット2/4 投稿日:2007/11/27(火) 23:41:21 ID:OlhyQDOY
                   2

「騎士団最速の男に、何をしようって言うんだ」
 本当に只中に居れば、だが。
「あれ、血とか肉とかぜんぜん出てなくね?」
「だれか中の方に頭ある奴いるかー?」
「真っ暗でなんもみえねーっつの」
「あっ、居た居た。上に乗っかってるよ!」
 言葉通りサングラスの騎士は塊となった骨達の上に立っていた。傷一つもなく健在で、今度は時
間を掛けてゆっくりと抜刀していく。
「転空神剣、白骨斬り」
 言うが速いか大太刀が振るわれ、大骨塊を縦に切り裂き一網打尽に吹き飛ばす。だがしかし、今
度は全ての骨が崩れ去るわけではなく、無傷であったものが再び人の形を取り戻して立ち上がる。
 その数五体。再び騎士の周囲を取り囲むが、騎士の口元にはにっと笑みが浮かぶ。周囲を睥睨し、
連ねる言葉にはやはり強い自信が伴った。
「さて、どなたから刀のサビになってもらおうか!」
 こんな言葉を聴かされれば、誰だって頭に血が上る。それがたとえ血も涙もない骨であっても。
五体の躯は激昂し、奇声を上げて中心の獲物へと飛び駆る。
 そこからはもう、流れる華麗な太刀振る舞いの始まりだ。
 最初に飛び掛った一体目を抜刀からの逆袈裟で切り払い、返す刀の振り下ろしで二体目を斬る。
技後直後の隙を狙った三体目は、その繰り出した刃に合わせて切っ先を突き出し頭蓋を貫き後の先
を取る。四体目にはなんと己が愛刀を投げつけて、旋回する刃で胴と首とを泣き別れにして見せた。
 あっと言う間に片付けられた雑魚たちは、一斉に断末魔の叫びを残して霧散する。
「ド、ドドドドドレイク様ぁ!」
「お前ら呪ってやる、呪って……ぎゃぁぁぁっ!」
「また出るからなぁ! 忘れんなよ!!」
「覚えとけよ! えっ! 忘れるって!?」
 しかし、手元が狂ったのか投げた刃は放ち手には戻らず、旋回するも大きく上空へと上って行っ
てしまった。
「はっはぁ!! 丸腰になりやがったぜこのばぁぁぁっかが!!!」
 それを絶好の好機と取って、最後の一体が無手の騎士へと迫る。迫られる側はあくまでも平然、
他の武器を取り出すでもなく両手を組んで待ち受ける。
 そしていよいよ白刃が獲物へと届く。深々と根元まで突き立って骨を断ち、頭頂から股間まで一
直線に刺し貫きその身体を縫いとめてしまった。
 ――上空より木の葉の様に飛来した一振りの太刀によって。
「転空神剣、虎乃刃落とし」
「こ、これが奴の本気かよ!? 本気出すなよ!」
 空高く迷走したと思われた放たれた刃は、持ち手へと迫る敵を追い越して上空で回転を止め、見
計らったように刃を下に向けて落下してきたのだ。
 縫い止められた躯ごと大太刀を引き抜いて、一閃絡まった骨を振り払う。刃より抜けた躯は最早
言葉も無く、ただガラガラと崩れて道端へとぶちまけられた。
 そうしてから視線を差し向けるのは、当然今も煙を楽しむ海賊王。不埒な態度に刃を突きつけ、
ぎらりとサングラスが陽光を弾いた。諸悪の根源ここに見たり、一切容赦するつもりもなく真っ向
から剣気を叩きつける。
 殺意にも似た気迫を叩きつけられた側は、涼しげに受け流してくつくつ肩を震わせて笑っていた。
そして、久しぶりに宝物の地図でも見つけたように嬉しげに語る。
「久しぶりに表に出てみれば、割と使える人間が居るじゃあねぇか。こいつぁ、こっちもエースを
切らないといけねぇやな」
 無手を掲げ挙げてぱちりと指を鳴らす。すると、死体の山に座る船長の背後から、すーっと二組
の影が現れて騎士との間に立ち塞がった。
 片や擦り切れたぼろの着物を身に纏い、腰には無骨な太刀をぶら提げる。身体はやはり白骨で、
肩で風切る剣客風情も諸々に、立ち居振る舞いこれ浪人であると体現する。異国情緒を振りまくそ
の者こそは、上級悪魔に名を連ねる彷徨う者であった。
 もう一方は何処から見ても寒天饅頭、夏に涼しげ半透明。底冷えするよな瘴気を纏い、恨みがま
しい表情でふよふよ空飛ぶ幽霊ポリンのゴーストリングであった。その饅頭が、ごぼごぼと水の中
で喋る様な不鮮明な声で己が主に声を掛ける。
「お呼びにより参上いたしました。あやつめの始末お任せください」
「それがしも久々の強者との相対に胸が震える……。はたして水饅頭殿に倒せる相手かな?」
「ごぼっ、馬鹿にするのか!? っていうか水饅頭って言うな!」
「何、心配しているだけよ。水饅頭愛らしくてよいではないか。ああ、ほれ、あまり先方を待たせ
るものではないぞ」
 水饅頭の言葉に躯の侍も便乗し、やいのやいのと問答が広がる。流石に長く続けるのは非礼に過
ぎるかと浪人が気付き、意識を騎士へと戻させたがなんともノリが軽い。
 待たされるほうは不機嫌そうに、踵を付けたままで脚をタシタシと鳴らしていた。ちなみに、こ
の仕草は不機嫌なウサギが良くやるらしい。
「待たせたなグラサン用心棒。貴様の相手はこのゴーストリング様がじきじきにしてくれよう」
 散々待たせて踏ん反り返るは水饅頭。何処から見ても顔だけだが心持ち上向きで、胸を張って宣
言している。狂おしいほどの雑魚キャラっぽい容姿だが、これでもなかなか倒せないBOSSとし
て有名なのだ。良く逃げるから。
 そんな思いが視線に表れていたのか、無言だった騎士に饅頭がぷりぷりと怒り出す。
「貴様! 貴様もワシの実力に疑いを持っているな! ならばとくと見せてやろう、このワシの華
麗な妖術を」
 ごぼごぼと水の底から語り掛ける様に呪文が紡がれ、ボウッと灯火が点く様に水饅頭の周囲に人
魂が現れる。青白く灯る炎の揺らめきが五つ、ぐるぐると水饅頭の周囲を回る。魂の回転は次第に
速まって行き、残像が繋がり一つとなって円を描く。太古の英霊を呼び出し弾丸と成す魔の技法。
「ソウルストライクだ!」
 回転の中から我先にと弾丸が獲物へと飛び出した。白い弾丸と貸した魂魄は、流星さながらに尾
を引きながら相対する騎士へと向かう。
 狙われたほうは堪ったものではない。飛び掛る無数の弾丸に横っ飛び一発、辛うじてかわして地
面を転がる。片手を突きながら立ち上がると、一直線に水饅頭へと駆け出した。
 無論迎撃にも人魂が飛ばされる。石畳を砕きながら騎士の駆け抜ける軌跡を作る。偉大だったり
邪悪だったりする魂が盛大に無駄遣いされていく。きっと英霊涙目。
「おのれ、ちょこまかとしおって……。ならばこう言うのはどうかな」
 ベールを被った水饅頭の内側からぱらぱらと、小さな布切れが幾つか落ちた。その布切れは地面
にぺたりと張り付くと、その中央が餅の様に膨らみ始め終いには水饅頭よりも大きくなってしまう。
すっかり大きく膨らんだ布切れには、恨めしげな簡素な穴の表情が張り付いていた。ウィスパー―
―ここまで大きな個体は巨大ウィスパーと呼ばれるシーツを被った幽霊の一種だ。
「サモンスレイブ。さあ船幽霊どもよそやつの足を止めるのだ!」
 わらわらとシーツの膨らみ達が騎士に群がる。そのシーツが更に内側から横枝の様に膨らんで、
追い縋る騎士にむけて振りぬいた。フワフワとした見た目に反してその威力はそれなりに高く、身
をかわした騎士の代わりに槍を幾つも立てかけていた露店がばらばらに吹き飛ばされた。
 撒き散らされた槍を避けながら、追い立てられるばかりでは芸がないと刀を振るう。その斬撃は
鋭く速いが、その交々が幽霊達を傷つける事無くすり抜けた。
「馬鹿目が! 我々亡霊は思念体、物理攻撃など効きはせんわ」
 そんな事は百も承知だ。刀を振りぬいた反動を利用して身体を回し、シーツの群れの只中を連続
してすり抜けていく。
 出来る事は逃げるだけ。この世界では属性の無い刀ではこの敵達は断ち斬れない。だが、この世
界には幽霊を傷つける方法がある。それは――
「ジェェーーーーット!!!」
 腹の底から力を入れて、騎士が猛々しく叫ぶ。無論呼ぶのは、己が半身とも言える怪鳥ジェット。
その名の如く飛ぶ様に地を駆けて、地平の果てから土煙を上げ現れる。
 現れ駆け抜ける相棒に、すれ違い様に手綱を掴んで引っかかり、一緒になって飛んでいく。乗る
と言うよりは引きずられる。地面と平行に身体が靡いていた。
 加速の勢いを殺さぬままに、一つになった相棒達は曲線を描いて赤い道を振り返る。靡いていた
騎士は遠心力で勢い良く壁に向かい、両足で壁に垂直に着地、反動を利用して飛び、相棒の背にま
たがった。
 嘶く様に鳴き声を上げて怪鳥が走る。その背の相棒は手綱を引いたまま身を屈めて、片手を地面
すれすれまでに差し伸ばす。そうして、打ち壊された露店から散乱した槍の一つを見定めてから拾
い上げる。

21 名前:ブルー&ジェット3/4 投稿日:2007/11/27(火) 23:42:17 ID:OlhyQDOY
                   3

「槍は、あまり趣味ではないんだがな」
 手綱で首筋を叩かれて、怪鳥が頭を低くして更に加速した。騎士は手に入れた槍を左に構えて、
切っ先を相棒の顔より前に突き出す。扱うと言うよりは据え付けるだけ。そしてそのまま一直線に
敵へと向かう。狙いは先頭、フワフワと浮かぶシーツの幽霊達のその一体だ。
 切っ先が真っ白なシーツに食い込む。その瞬間刀身から火花が散って穂先が紅蓮に加熱された。
 紅の切っ先は先程の刀の様に容易くシーツをすり抜けて、そして確かに零体に傷を刻み付けた。
肉の痛みを忘れた零体に、久方ぶりの激痛を提供し刺し貫く。穂先は次の獲物、次の獲物と貪欲に
求めて、一つの槍でシーツの幽霊を串団子にしてやる。
 零体を貫く奇跡を可能せしめるのは槍に込められた紅蓮の輝き。錬鉄に四大属性を秘めた石を混
ぜ込み、鋳造された火の属性の片手槍だった。打ち壊された露店の幟には『属性パイク各種大安売
り』と書いてある。値段自体は平均以下とは言いがたいとだけ書いておこう。
 安売りどころか無銭で手にした槍を片手で振り回し、団子の数を増やそうと切っ先は残る水饅頭
をも狙い定める。
 そして、迷い無く穿つ。敵の中心、水饅頭の顔しかない胴体を刺し貫いた。
「ぬおおおおっ、このゴーストリング様が……。馬鹿な!」
 二の句を告げさせる暇もなく、幽霊連なる槍を振り回して地面に突き立て縫い付ける。血染めの
石畳を食い破り、穂先どころか貫いた饅頭達ごと地中に捻り込ませてやった。そのままぐりぐりと
槍を捩じって、不浄霊共を無理矢理土に返して行く。
「うおぉぉぉおのれぃ忌々しい人間どもめ。だがワシはこの程度ではくたばりはせぬぞぉぉぉぅ。
あえて言おう、アイシャルリターンと! へぶっ!」
 最後まで煩かった水饅頭が全て地面に埋まったところで槍を手放す。止めとばかりに相棒が砕け
た石畳を根元に蹴りやり、完全に饅頭たちを埋めてしまった。哀れ亡者は土の中、後はもうシクシ
クとすすり泣く声のみとなる。
「いやぁ、やはり水饅頭殿では止められなんだか。見事な手捌き、天晴れ至極であった」
 一仕事終えた背中に涼やかな声が――そして、同時に静かなる太刀の一振りが見舞われた。
 首筋に涼風。肝には寒風。振り返る暇も無いと断じて、腕だけで手にしていた大太刀を背後に回
す。肩越しに突き出した刃が、振り下ろされた太刀に触れるや否や、跨る相棒の腹を踵で強かに蹴
りつける。蹴られたほうは無駄に驚かず、ただ前に突き進み背に乗せた相棒を二の太刀から離れさ
せた。
 三の太刀も振るえぬ距離まで離れると、鞍に手を置き身体を跳ね上げて愛騎を降りる。中空で置
き去りになりながら、身を捻り襲撃者へと相対して地に降り立った。
 それを出迎える襲撃者は、抜き身の刃を肩に乗せくつくつと肩を揺らして笑う和装の白骨だ。
「散々っぱら此方の駒を切り捨てたのだ、一太刀位浴びせても罰は当たらぬと思うがの」
「そいつは、虫が良すぎるぜ!」
 相対する騎士は大太刀を両手で保持し斜め正眼に構える。心中にあるのは苦々しい不意打ちへの
義憤だ。思わず露骨に嫌悪が口元に出る。
「そんな顔をするな。斬れる時に斬るのが我々の鉄則であろう?」
 まるで自分を卑怯者扱いされている様で不愉快だ――目の前の躯は暗にそう語る。真剣の持ち手
の癖に、何を甘い事を言うのかと。
 勝負において卑怯もへったくれもない。そんな事は判っている。気に入らないのは、唯一つ。
「あそこまでの腕を持ちながら、こんな虐殺に加担するとは……腕と刃が泣くな」
「泣く腕など、あった所でとうに骨。成れば後はただ魔性の性に生きるのみ」
 流す涙は尽き果てたと騎士の糾弾を切り伏せる。そして刃の方は、持ち主の肩に乗せられてその
刀身を不気味な紫に輝かせていた。怪しく紫をその明滅させる。
 まるで自ら血油を欲しがるかのように。腹が減って食わせろ食わせろと唱えるように。
「それに、今日も我が相棒は人に飢えている……。どちらも生前より変わらぬ性、貴様に言われた
程度で変わりはせぬよ」
 言って不快を切り払う様に刀を一閃、紫がぱっと散ってまた直ぐに陽炎の様に立ち上る。
「判った……」
 騎士もまた短く言って、斜め正眼にあった刀を小さく振るう。斜めに、横に振った後、静かに鞘
へと収めた。
 その奇怪な行動を怪訝に思い胡乱げな眼を送ると、騎士の方は腰を落とし足を前後に大きく開い
て鞘の口元を掴んで鯉口を切ると言う、いわゆる抜刀術の構えを取る。柄の前に広げて添えられた
右の手が、今にも白刃を抜き放たんと微かに揺れる。
 ははっ、と骨の侍が薄く笑う。構える騎士の意図を理解して、己の剣技を見せるために一歩一歩
生身へと寄っていく。
 歩み寄りながら、自信もまた手にした刀を鞘へと納めて、腰帯に差していたそれを態々外し手に
持った。下半身は歩むまま、上半身は同じ様に己が刃を抜き打つ構え。騎士の誘いに興が乗り、速
さ比べに腕比べ、挑んでやろうと自ら近づく。
「最早互いに問答は無用。後はただ、流るるのみだ」
「剣客は刀で語るもの、か。嫌いではないな、その流れは」
 人が言って骨が応える。
 その間にも待ち構える騎士に、進み行く侍が近づく。気迫は十分、気力は無尽蔵。抜けば音斬る
神速の刃が二つ、今にも弾けんと戦場を進む。
 後一歩、今一歩、徐々に間がなくなって、互いに回避も無くなる必殺の間合へと堕ちて行く。
 間合が、ついに、整った。
 しかし、両者いまだに動かない。互い向かい合わせて機を測る。揺れていた騎士の手も今は止ま
り、ただ只管に静止していた。骨も無論、微動だにせずに、ただ待つ。
 共に思う、この勝負一瞬で付くと。故に容易に動けない。先に動いた方が負けるのか、先に動け
なかった方が負けるのか。それすらも錯綜する見えない鍔迫り合いの中、無数に問答され消え果る。
 そんな折、生々しい屍の山の上でパイプを燻らせていた船長が一人、睨み合いに退屈して紫煙を
吐き出していた。ふと、パイプの中がすっかり燃え尽きている事に気が付いて、パイプをさかさま
にし、ポンと掌で底を打つ。
 燃え尽きた灰が塊のままゆっくりと地に落ちて……――
「「……っ!!!!」」
 ――ジッと灰が地に触れた途端、両者、一寸の狂いも無く同時に動く。
 瞬く間の間に数十合、刃が踊り、翻り、削り合って火花を散らす。吐く息も忘れて続いた剣舞の
果て、抜き放たれた刃が何時の間にか両手で振るわれ、大上段からの一合一閃、がっちりと鍔競り
合ってせめぎ合う。
 ぎりぎりと今までの華麗な剣戟が嘘の様に、互いに奥歯を噛み締めて押す押す押す。引いて蹈鞴
を踏ませようなどと、姑息な真似など思いも付かない。其れほどまでに真剣必至、この競りに己が
全てを賭けている。刃が離れた時こそ、終焉であるとお互いに悟っている。
 ぎりぃっと互いの剣の根が擦れ、競り合う力が逸れ合う。それを機にして両者が再び同時に跳躍
し、後方へと遠く距離を取り、着地と同機全速で前へと飛び出した。
 距離を詰めながら互いにとったのは、きしくも同じく納刀からのすかさずの抜刀術構えだ。もう、
互いの頭には、斬ると事だけが渦巻いている。
 砲弾の様に突き進む、二つの雄姿が今また重なる。
「御印頂戴!!!」
「転空神剣奥義! 華舞太刀!!」
 一瞬の交差が終わった。斬撃の応酬が過ぎた後に、ただ只管の静寂が上から叩きつける様に周囲
を襲う。静けさが身を切り、耳に痛く、じんわりと後ろ髪に広がった。
 ぴきりと音を立てて、騎士の着けていたサングラスが断たれた姿で地に落ちた。静寂の中に、酷
く騒音を振りまいて落着が鳴り響く。
 背中合わせだった両者の片方、骨の侍が抜き放つままにしていた体を動かし、ゆっくりと紫に燃
える己の刀を鞘に納めた。両手を着物の袖に収めて、満足げに空を見上げる。
「フン……、散るには良い空であったか。人の侍よ、その見事な腕、次は黄泉比良坂にて間見えた
折に、また見せてもらおうぞ」
 語った侍が、まず上下に胴を薙がれて身体をずらした。切り上げる形で逆袈裟を斬られ、加えて
交わる様に袈裟懸けにもう一閃入れていた。一瞬の交差で三撃、これぞ奥義の冴えである。
「また、つまらぬ物を斬ったか。ご免っ、ジェェーーーーット!!」
 呟いた騎士は刀をくるりと柄で一回転させて、刀の位置を鞘の側に移しながらもう半回転、切っ
先を鯉口に合わせ流れのままに鞘へと収める。そうして、呼びつけた相棒に飛び乗り残す敵へと駆
け出す。駆けながら、新たなサングラスを懐から取り出して装着するのも忘れない。
 その背後で、崩れた侍が塵となって消え去った。
「やーれやれやれ……、うちの一家はことごとく全滅か。ふがいない事だ、たった一人に、しかも
そちらは無傷と来ている」

22 名前:ブルー&ジェット4/4 投稿日:2007/11/27(火) 23:44:12 ID:OlhyQDOY
                   4

 最後に残った最大の障害が、のんきにパイプを吹かしながらつらつら語る。迫る騎士はまだ遠く、
もう一吹き二吹き位する余裕はありそうだ。しかし、海賊の王は今まで腰掛けていた屍の上から重
そうな腰を上げると、燻らせていたパイプからまだ新しい葉を底を叩いて捨ててしまう。そうして
パイプを大事そうに上着のポケットに仕舞い込みながら、血の色に染まった路地を騎兵が駆けて来
るのを眺めた。アレだけ暴れたと言うのに元気なものだと、浅黒いしゃれこうべに思わせた。
 暴徒の突撃にも似た爆走が、接敵寸前びたりと止まる。
 手綱を片手で引き上げて愛騎を停止させ、空いた手は腰の刀を鍔元を握り締めて、憎さと怒りを
込めた眼差しを海賊王に向けていた。多くの無抵抗な人を部下を使って切り裂いた悪逆として、こ
の騎士には目の前の存在が許せなかった。
 だが――
「だが、あえて問う海賊の王よ。ここで互いに引きはしないか?」
「はっ、ははははははははははははは!!!!」
 返答は爆笑だった。ちょっと待てと言う様に片掌を突き出してカタカタと顎を鳴らす。傲岸不遜
の塊だったあの王が目元を覆って背を反らし、ゲタゲタゲタゲタ壊れた様に笑い声を上げていた。
この世にこれ以上面白いものは無いと、その時の彼の空洞の頭蓋には響き渡っていた。
「はー……。笑った笑った。あれか、こっちもそっちもお互い殺し殺されしたからここら辺で手打
ちにしようじゃありませんかって訳か」
「ああ、そうだ。元より此度の事は此方の側――人の戯れが発端であろう事は用意に想像が付く。
勿論、その戯れの発端者が当に躯と成り得ている事も」
 其処まで分かっているなら行幸行幸。ぱちぱちと二度拍手して、躯の船長が死体の山から腰を上
げた。ぽんぽんと上着越しの尻を叩いて、最後に被っていたコルセア帽のずれを直す。船長たるも
の身だしなみには気をつけなくては部下に示しが付かないのだ。今部下は全滅しているが。
「ただの人間数十人とこの俺の子分共を同等に考えろと? そいつは無理な相談だなぁ。こんな、
大陸のど真ん中に呼びつけておいて、腹立ち紛れまで止められ、あまつさえ子分も幹部も皆殺しと
来た。これに怒髪天しない馬鹿は居ない。ああ、居ないね、船長的に」
 少しだけ愉快そうに、言葉に調子をつけて船長が語る。肩を竦めてやれやれと頭を横に振り、遠
くを見つめる目で騎士の背後に連なる死山血河を眺めた。とてもではないが、釣合うとは思えない。
 だが、それでも騎士はその思いを受けて直、己が心中を語りぶつける。
「其処をまげて、提案したい。双方同族を斬られて憤慨していた。どちらもこれでは足りぬと思っ
ているだろう。其処をまげて、あえて提案したい。どちらの者も不満が残る今であればこそ、ここ
までで手打ちにしていただきたい」
「ふざけるな!!」
 その提案に、返って来たのは激怒であった。
 ふざけて貰っては困る。自分達の世界は自分を残して全て奪われたと言うのに、貴様らの世界は
まだ大半が生き残り遠巻きに此方を窺っているではないか。これでは不公平なのではないか。
 そんな言葉を連ねられ、騎士が騎乗したままで微かにたじろぐ。
 世界の規模が違いすぎるなどと言う事は、目の前の王にとっては話にもならない小事であるらし
い。同じ人数ではなく、見合うだけの対価をよこせと言う。先程も言っていたが同等に考えるなど
出来はしないのだという。
 其れほどまでに部下に価値観を抱いていたとは、正直騎士にとっては意外に見えた。何人か自分
の手で粉々にしていたし。
「俺の家族に手え出しといて、そこ等の雑草幾許かと同質で手打ちにしろとたあな。海の男舐めん
のも大概にしとけや、一世紀も生きていないようなクソガキ共が」
 家族――そうか、と思わず納得した。
 納得したが今度はたじろぎはしなかった。手綱を握る手に力を込めて納刀したまま鞘の鯉口を下
げる。得意の抜き打ちを放ち易くする為に。
「互いに譲れなくなったな」
「初めから、譲り合えるもの等無い。後で元に戻るとは言え、仇は仇だ取らせて貰おう」
「ならば此方も、関係なく散っていった同胞達の仇を討つ」
 家族のカタキを同胞のアダを、それぞれが望む。本来ならば、交わる必要も無かった二つの線が、
今は奇しくも複雑に絡み合っていた。
 正義の味方の様に颯爽と現れた騎士と、悪逆非道を尽くしていた海賊達。一見すると単純な構図
も、今こうして相対していれば複雑極まりない。
 正しき義と書いて正義と読む。打ち倒された家族を思い、住処から引きずり出された事を悪とみ
なして反撃する。例えその後に行過ぎたとしてもこれは悪なのであろうか。
 悪い行いと書いて悪行と読む。無秩序に引き裂かれた人々を見過ごせず、自らの技量によって襲
撃者を撃退する。家族を踏み躙られた者にとってこれは善なのだろうか。
 正義とは生き物なのであろう。牙を持ち爪を尖らせた猛獣なのであろう。そして時に噛み合い、
殺し合い、負けた方を悪と定める。善悪とはそんな二つの名を持つ宿命の獣達なのだろう。
「転空真剣ブルー&ジェット、押して参る」
「キャプテン・ドレイク。受けて立とう」
 ここに在るのもまた獣だ。
 自信の胸に湧いたものを、ただ只管に貫こうとするだけの獣。もしかすると、善悪など区別する
事無く、漠然と暴れたいだけの獣かもしれない。が、其れもまたどうでもいい事と風と共に流れる。
 不意に。正に不意に、愛騎の腹を蹴り騎士が前進を再開した。海賊の王もまた不意の突撃に戸惑
う事無く、ポケットに入れていた銃とは違う銃を腰の後ろから取り出した。無骨で大きな二連筒の
ショットガンを銃身と銃握の丁度境目で中折れさせて、ポケットから取り出したシェルを左右の銃
身に直接収める。用意万端と銃を元に戻すと、駆けて来る騎士は丁度相棒の背の上に片膝をついて
立ち上がったところであった。
 さあ、激突までもう直ぐだ。突進の勢いそのままに跳躍して刀を抜き放ち、手にした銃で文字通
り迎え撃つ。その準備がお互いに整った。斬るが早いか撃つが早いか、後はそれだけ。
 今ここに、誰も望みはしない不軌遭遇最終戦の幕が切って落とされた。
「一つだけ感謝しよう。我々を呼び出した玩具でも町に現れた害虫でもなく、一介の憎悪と憤怒を
ぶつける敵として扱ってくれた事に。其処にだけは一家代表して謝辞を送る」
 待ち構える船長に向けて、騎士は既に愛騎の背から跳躍していた。相対者の口が何事かを紡いで
いたようだが、旋風よりも早く飛ぶこの身には聞こえはしない。返答する必要があるとも思えぬ。
放って置いて自分に繰り出せる最速を繰り出してしまえばいい。気にするまでも無い些末事だ。
 しかし、騎士は叫んでいた。向こうに聞き届けられるかなどは、思考の範疇にすらない。それで
も叫ぶ、腹の底から。
 剣客で在るならば、刀振るう剣士であるならば、この一言は宣言せねばならないだろう。
 音斬る刃に想い乗せ、技振るう度在るべき終局が待つ。
 この一振りに己の旅路を込めて、刹那の戯れを悦に濡らす。
 故に叫ぶ――

「切捨て御免!!!」

 結末、描く事こそ無粋。

                                         未完

23 名前:名無しさん(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2007/11/28(水) 19:53:30 ID:F0shJ0ZU
なんかヒーローものの特撮かアニメのようなノリだなw
しかし結末がないのがもったいない。是非続きを!

24 名前:名無しさん(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2008/02/04(月) 10:25:55 ID:g43IU5gE
sage方が分からないですが、ひっそりと投稿します。

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