【アラームたん】時計塔物語 in萌え板【12歳】
[328:名無しさん(*´Д`)ハァハァ(2007/03/18(日) 03:32:25 ID:mPf7djUI)]
いまさら、バレンタイン&ホワイトデーネタのSSですみません。
しかも管理者とバースリーの若い頃をイメージしてます。
管理者とバースリーの話なんて誰が見るだって・・・。
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一人の魔女がいる。
魔女はこの塔を守るために、"人であれば" 悠久とも思える時間を生きてきた。
人であることを止め、魔女であることを始めたその日から、
ずっとずっと長い間、この塔を守り続けきた。
―やがて到来する「楽園」を夢見て。
守り続ける日々は"魔女であれば"そう長い時間でもない。
守り続けることにもなんの不平も不満もない。
―全てはその「楽園」の為なら。
だが、守り続ける日々の中で、ひとつだけ気がかりなことがあった。
「楽園」と同じぐらい、いや、楽園よりも「大切」ななにかを忘れてしまった。
―そんな気がする。
――ずっとずっと思い出せない、魔女となったその日から。
「ほえ?管理者さん、それなーに?」
大切そうにラッピングされた箱を抱えた管理者をあらーむに呼び止められた。
「え? ああ、アラーム、これはね…バースリーへの 贈り物ですよ」
「もしかして??? ホワイトデーですの!?」
贈り物―という単語に興味をそそられたジョーカーが話に割って入った。
「・・・ええ、まぁ、そのようなものです」
「なんでなんでー!バースリー、 管理者にチョコあげないでしょー?」
自分は渡せなかったが、他人の動向に(異様に)詳しいライドワードが混ざった。
「そうですね、貰ってません。最後にもらったのが―、そう、この時計塔が今の状態になる前ですかね・・・」
あまり自分のことを話したがらない管理者がめずらしく言葉を漏らした。
管理者がふと懐かしんで振り返ると、そこに3人が目を輝かせて管理者を見つめていた。
―――しまった。と、管理者が思うより早く―。
「聞かせてーーーーーーーーーーーー!!」
3人の大きな声が木霊した。
やれやれ、とその場から逃げられそうもないことを確信した管理者が語り始めた。
それは時計塔―さらにいえば、それが建設中の頃の話だった。
「さて、どーしたものかなー」
錬金術師用の個室の扉の前で、一人のウィザードの女性がチョコレートケーキを持って立ち尽くしてた。ケーキを乗せた皿を両手でもってしまっている為に扉が開けないせいもある。だが、それ以上に開いたあと、自分がどう振舞えばいいのか考えあぐねていた。
扉の向こうの男性に、チョコレートケーキを渡す、ただそれだけのことなのに、バレンタイン―という名目があるだけで、自分でも恥ずかしいぐらい、意識してしまって仕方ない。
(ええい・・・日頃なんの為に英知学んでいるというのかぁあ、こんなときに役に立たんとわああああ・・・・)
考えるほど恥ずかしくなり、恥ずかしいからこそ冷静さをどうにも失う。
ウィザードは火照る額を扉に(音が立たないように)そっと乗せる。ヒンヤリと詰めたい扉飾りのプレートにはそれを渡したい錬金術師名前が刻印されている。
(そうそう、部屋はここで間違いないのよねー・・・って、えええ!?)
気が付くと名前のプレートは後退し、古めかしい音をたてて、その扉はゆっくりと開きはじめた。気が付けばかすかな魔力の発動を感じる扉にあわて、預けていた額を起こして、ウィザードは扉にむき直す。
開ききった扉の向こう、重厚そうな机から、錬金術師が微笑みながらウィザードを見ていた。
「30分も前から私の部屋でなにをもじもじしてるんですか? どうぞ、気兼ねなくお入りください」
ウィザードは赤みを帯びた顔を伏せて、足早に部屋に入ると、再び古めかしい音を立ててしまる扉がしまった。閉まる扉には向こう側が見えるような、魔法による細工がしてあった。
「いや、用心のために細工していたら、存外面白いものが見・・・いや、失礼。」
本当に失礼なことを言っている―と思いながらも、錬金術師の微笑みは、まるで魔法をかけられたからのように逆らい難く、ウィザードはすべてを許してしまいそうだった。
(きっと、魔法などでなく、非論理的だが―惚れたほうの弱み―というやつだな・・・)
ウィザードは少しでも冷静に判断しようと努めていた。
「で、御用向きはなんでしょうか? それともこんな真夜中にまで、例の"時計塔"に関する、設置予定の魔導回路の設計レポートの回収ですか?ご苦労様です・・・一応、それならここに出来てますが、それも明朝の提出のはずでしたよね?」
悪戯な微笑みがウィザードをさらにむずがゆくさせた。
つかつかと、ウィザードは歩み寄ると、手にしていたケーキを机に置き、なにごともなかったようにレポートを手に取った。
「ううううむ…こんな夜中まで、おおおお仕事、お疲れ様ですすすすすすっす。なにぶん建設計画にち・・・遅延があり、っそsっ早急に、資料が必要でででで・・・」
ウィザードはしどろもどろにアドリブで答える。もとより部屋に来るためのこじ付けでしかないその理由には無理がありすぎて言えば言うほど恥ずかしさが増した。
「おや、おいしそうなケーキですね」
(さっ・・・最初から解って言っているのであろう!!)
ウィザードはそう思いながらも、錬金術師の言い返せずにいた。
この日でないと、この日だからこそ渡したかったもの、いや、渡したかった想いを伝えるために此処に来ているのだから。焦るのは―それを果たしいからで、それが先決だった。
「こ・・こんな夜更けに、しかも職務に従事している者に、て・・・手土産ひとつもっていかない訳にも、ほら、いぃい・・・いかないしな。」
「・・・ああああ、甘いものは、そう、ほら、疲れた体にもよいと、みの=タウロス氏も・・・そうだ、言っていて・・・なんだ、その、がってん頂けましたか?」
「いいいい、いらないならよいのだぞ、多く作りすぎてしまってな・・・それが一番うまく・・・じゃなくて、おすそ分けというか、なんというか、なんだかなぁあ」
ウィザードが矢継ぎ早に言う。
ウィザードの意味不明な話がまだ続きそうだったが間隙を縫うように錬金術師が質問した。
「・・・で、こちらはバレンタインの贈り物、と取ってもよろしいので?」
その言葉の後、『ぼふん』という音ともにウィザードの顔から炎が上がった。
ウィザードは紅潮しきった顔から煙をもくもくと立てながら、ゆっくりと倒れ伏した。
「あらあら、からかい過ぎえしましたか、すみませんw」
倒れ伏して聞こえている様子もないウィザードに錬金術師がやさしい声色で語りかけた。
「・・・って、おーい、大丈夫ですかー?」
ウィザードは翌朝まで目が覚めなかった。
翌朝を錬金術師の部屋で迎え、出て行くところを他人に見られて誤解を受けたことは ―まぁ、別のお話。
―――と、そういうことがありまして、以降、一度も貰ってません」
管理者の思い出話はそこで終わった。
終盤から3人の「鬼」「悪魔」「ひとでなし」という声が止まなかった。
「まぁ、そんなことがありまして、それ以来、ホワイトデーに私が謝罪もこめて、ずっと一方的にでも渡してる訳です、まぁ、ご本人はお忘れになっているようですが・・・」
最後にほんの少しだけ残念そうに言うと、3人はそれで赦し、管理者に先を急がせた。
「――思えば、それが人であった最後のバレンタインでしたね。」
3人からだいぶ遠ざかった後、管理者は立ち止まるとぽつりと一言呟いた。
それから間もなく、バースリーにそのプレゼントは手渡された。
「毎年毎年ご苦労なことだな」
「気にしないでください、私も自立プログラムによる行動ですので。」
バースリーはそれが特別なものということを忘れているようだった。
当たり前のように義理のつもりで皆に分けているものの一つだと思っていた。
「きっとこれは、私にとって、本当はとても嬉しいものなのだろうな?」
「さぁ、私の機械の心では解りかねます」
「・・・きっと私は忘れてしまっていて、・・・きっと「そうだった」のだろう?」
「さぁ、私の機械の心では・・・」
二人だけが通じる言葉で、その会話は成り立っていた。
二人だけの秘密で、二人とも忘れてしまった、なにかについて交わされる言葉。
昔々、一人のウィザードと、一人の錬金術師がいた。
二人は全ての命へ贈られる「楽園」を夢見ていた。
その到来の時までこの時計塔を守るために、その為の悠久に耐えうるために―。
一人は魔女になるために―――愛を、
一人は機械の体を得るために―心を、
二人はそれらを『対価』として支払い、人を捨てた。
それは遠い過去へ置き去りにした、大切な「なにか」。
楽園の扉が開かれた先に、その「なにか」もまた―あることを願って止まない。
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