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【あしゅら】♀モンク萌えスレ Restoration【はおーけん】

114 名前:名無しさん(*´Д`)ハァハァ 投稿日:2004/02/29(日) 23:37 ID:9s95kLPs
 黒天におわす神々を白い頭巾の中から見上げ、岩に腰掛けた女は、
土造りの盃を口に持て行き、澄んだ滴を煽る。傍らには、同じく土造りの
所謂徳利が影を成していた。
「矢張り、天津の酒は好いわ」
 そうひとリごちた修行僧の形をしたその女の頬は、ほんのりと朱に
染まっていた。異国の銘酒に酔い、艶然たる微笑を浮かべる女は、
新たなる薬水を盃に注ぎつつ、夜に潜む烏へと問いかける。
「私と遊びたいの?」
「そうだな、それも悪かねえな」
 砂が軋り、ならず者の証である血の衣が闇に浮かぶ。抑えた男の声と
殺気のみが、女を突き刺す。
 糸が張り詰める中、女は操られるかの如く天を仰ぎ、滴に濡れた唇を開いた。
「主よ、宜しいですか?宜しいのですね?くくッ」
「ち、気狂かよ」
 何者かと言葉を交わし咽の奥で笑う女の姿に何処か気味の悪さを感じたか、
舌打ちをした烏は懐に忍ばせた短刀を閃かせ、地を蹴った。
「はッ」
 岩から飛び降りた女はその手より指弾を放つ、されど、日を亡くした今では、
敏捷なる烏に当てられる道理もない。
 案の定、烏はいとも容易く身を翻すと、獰猛なる牙を哀れな獲物に剥いた。
「当たらなきゃ意味ねえんだぜ?」
「同感だわ」
「うぜえな!さっさとケリつけッか!」
 顔色一つ変えず言い放った女に唾棄するや否や、一瞬にして烏の姿が
掻き消えた。
「何処!何処なの!?」
 隙を見せたが最後、己を待つのは死のみ。流石に朱を蒼へと替えた女は、
構えを解かぬまま辺りを見回していた、が、
「バックスタブ!」
「きゃあッ!」
 死角より繰り出された斬撃が、無残にも女を裂いた。鮮やかな血を散らし
悲しげな鳴を上げ、糸が切れた人形は地へと転がった。
「口ほどにもねえな」
 一指も動かすことなく黙したまま横たわる女を嘲り、烏は死肉を啄ばむべく
残された荷へと手を出した。と、
「うふふ」
 女の笑いが闇夜に響く、瞬間、
「うごッ!」
 剥き出しの水月、即ち、胸郭に於ける急所に、拳がめり込んでいた。それも
一撃ではない、烏が味わったのは鋼の三連であった。
「もう終わり?詰まらない」
 崩れ落ちた烏を見下ろし、嘲笑するでなく、心底無念そうに呟いたその背は、
法衣こそ破れていたものの、傷はとうに塞がっており、先の痕は何一つ
見当たらなかった。

 烏は慮するべきであった。女が、己が身を癒す術を心得ていることを。

 意識を失い掠れた息を唯吐き続ける烏の背に腰を下ろし、微かな笑みを
浮かべた女は、岩の上より取った盃に清酒を注ぐ。
「私の主は酒の司のみ……くくく」
 濁りなきそれを再び唇に持て行き、黒天の下、自ら戒を破した僧は、一人笑う。

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